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7.松田北断層、松田かなん沢地点の調査結果 7.1 調査目的と調査位置
7.松田北断層、松田かなん沢地点の調査結果 7.1 調査目的と調査位置 松田かなん沢地点では松田北断層の最新活動時期、単位変位量等を明らかにするた め、ピットおよびボーリング調査を行った。松田北断層についてはこれまでに断層露 頭などの直接的な証拠は報告されていないが、山崎・町田(1981)は山麓の扇状地性堆積 物である松田礫層が段丘化していることから、その前面に松田北断層を想定している。 松田北断層は松田町の松田惣領から山北町の東山北駅付近にかけて示されている(宮内 ほか,1996b)。今年度の調査で米軍空中写真を用いて判読を行ったことにより、松田 町かなん沢に山麓の沖積錐(小型の扇状地)を横切る鮮明な低断層崖が発見された。そ こで、ピットとボーリング調査は低断層崖が沖積錐に覆われる箇所で実施した(図7-1) 。 ピット規模は長さ6.2m、深さ3.5mである。ボーリングはMS-1∼MS-6の計6孔を掘削し た。 7.2 ピットおよびボーリングでみられた地層の層序 ピットの壁面では、河南沢によって形成された沖積錐の構成層である砂礫層(B1層) および腐植質シルト層(B2層)が観察された(図7-2、図7-3)。沖積錐の砂礫層は宝永ス コリアとシルト層(A層)に覆われている。ボーリングでは深度6.5∼7.5m付近に腐植質 層を挟む礫層(C層)が、深度12m付近に富士山起源のスコリアY-133に覆われた礫層(E 層)が確認された(図7-4) 。松田地点でみられた地層の層序と年代を表7-1に示す。ピッ トでみられた地層はA、B1層、B2層に区分された。ボーリング調査ではさらに下位の地 層であるB3∼E層がみられた。 ・ピットの地層の記載 A層 A層は上位の耕作土層と下位のスコリア層に細分される。層厚は60cm前後である。耕 作土層は、トレンチ北側で厚く堆積し、南側に向かうにつれ層厚が薄くなる。これは 扇状地の傾斜方向に一致している。耕作土層下部には直径0.5∼5cm程度の亜円礫∼円 礫を含んでいる。下位のスコリア層は、直径0.2∼0.5cm程度の黒色を呈しており、岩 層からF-Ho(富士宝永スコリア:AD1707年)に対比される。スコリア層中には柱状の明褐 色ローム層の充填が見られ、W4.5およびW5.5付近では上部がほぼ水平に切られて、地 すべり状に最大10cm程度変形しているのが確認できる。 B1層 B1層はF-Ho直下にあり、亜円∼亜角の中礫∼細礫からなる礫層を主体とし、砂質シ ルトとの互層をなしている。マトリクスは粘土分を含み、分級が悪い。層厚は1.2m前 後である。この砂礫層は数度南傾斜しており、逆グレーディングしている。砂質シル ト内には一部ではラミナが発達しており、炭化物も散在している。また、上部の礫層 直下には腐植質シルトを狭在する。 B2層 ピットで見られたB2層は暗褐色を呈する腐植質砂質シルトを主体とし、褐色の礫混 じり砂質シルトの互層である。層厚は1.5m程度であるが、ボーリングMS-1、MS-3、MS6孔では薄くなり10cm以下になる。これはB2層上部がB1層に削りこまれているためと考 えられる。礫混じり砂質シルト中には赤褐色のスコリアが点在するが、特定には至ら ない。ピット下部のB2層の年代は2070±70y.B.P.(BC350-300,BC220-AD75)であり、ボ ーリングコア(MS-6孔 )の深度4.5mの腐植質層の年代は2110±40y.B.P.で、両者は対比 できる(図7-4)。 ・ボーリングコアで見られる地層 B3層 B3層は亜円∼亜角の中礫∼細礫からなる礫層を主体とし、砂質シルトとの互層をな している。マトリクスは粘土分を含み、分級が悪い。B3層は断層の南側のボーリング に存在するが、北側のMS-6孔では欠如する。 C層 C層は亜円∼亜角の中礫∼細礫を含む砂質ローム∼砂礫層を主体とし、分級が悪い。 C層も断層の南側のボーリングに存在するが、北側のMS-6孔では欠如する。ボーリング コア(MS-2孔) の深度6.3mの腐植質層の年代は4120±40y.B.P.である。 D層 D層は厚さ5m程度のローム層であり、一部は砂質である。基底から上方約1mに赤色ス コリア(Y-139)、黄色パミス(Y-133)を挟む。上本・上杉(1996)によると、Y-133の下位 のY-130-2、Y-129の14C年代はそれぞれ17620年前、16700年前なので、D層基底の年代 は1.7万年前頃と推定される。 E層 E層は亜円∼亜角の大礫以上の礫層で、酸性火山岩の礫を含むので本流系の礫層と考 えられる。 7.3 松田かなん沢地点の解釈 松田かなん沢地点では松田北断層に対応する地形的に明瞭な低断層崖があり、最近 の断層活動が示唆されている。低断層崖の比高は約3mである。ボーリング調査では、 スコリアY-133を含むローム層(約1.7万年前)に覆われる礫層(E層) はMS-2孔とMS-6孔と の間に約6.5mの高度不連続があり、松田北断層による変位と考えられる。E層の変位は 地形的な低断層崖の高さのおよそ2倍なので2回あるいはそれ以上の断層変位を受けて いると考える。また、断層を挟んで年代値から対比できるB2層(約2000年前)には高度 不連続はないので、この地点における最新活動時期はD層上部以降、B2層(約2000年前) 以前になる。このデータから推定される最新活動時の上下変位量は2∼3m、活動間隔は 2000∼15000年、最新活動は2000年前以前になる。しかし、山崎・町田(1981)によると 松田北断層でHk-TPflが50m以上変位しているので、平均変位速度で1mm/yr以上となる。 今回の調査地点以外に明瞭な断層地形は認められないが、東名高速が走る山麓線など に分岐した断層が隠れている可能性がある。