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小田 稔 (三井住友建設)
日本MOT学会 第4回年次研究発表会 鉄鋼業の発展の歴史とグローバル化について 平成25年3月23日 小田 安岡 稔 (三井住友建設) 孝司(芝浦工業大学) 1.はじめに 研究の目的 鉄鋼業は、 米国 ・19世紀から20世紀にかけて発展 ・現在では輸入産業 日本 ・第二次大戦後は「鉄は国家なり」 ・質,量共に世界一を確立 基幹産業 ・アジア諸国を中心として、粗鋼の生産量が増加 ・先物取引による世界共通の取引体制確立 →業態が大きく変わる可能性 本論文では、 鉄鋼業の発展の歴史を確認し、 鉄鋼業のグローバル化について考察する。 Agenda 1.はじめに 2.粗鋼生産量の長期推移と歴史 2.1 粗鋼生産量の推移 2.2~5 米国,日本,韓国,中国の動向 2.6 アルセロール・ミッタルの動向 2.7 原材料供給企業の動向 2.8 LMEの鉄鋼先物取引による価格のグローバル化 3.鉄鋼業のグローバル化 ①汎用鋼材価格のグローバル化(中国、インド、LME) ②高品質鋼材の輸出型グローバル化(日本,韓国等) ③生産拠点のグローバル化(アルセロール・ミッタル) 4.まとめ 2.1 粗鋼生産量の長期推移 700000 600000 500000 400000 米国 中国 インド 日本 300000 粗鋼生産量(×1000ton) 200000 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 180000 日本 イギリス ドイツ 2015 米国 ソ連 ロシア 中国 160000 140000 韓国 インド 120000 100000 80000 60000 40000 20000 0 1975 1980 1985 1990 1995 2000 図 粗鋼の生産量の推移 参考文献:[1] WORLD STEEL STATISTICS 2005 2010 2015 年 粗鋼の生産比率(%) 2.1 粗鋼生産量の長期推移 80 70 60 50 40 日本 米国 ソ連 10 中国 韓国 インド 5 5 4 4 4 4 4 4 4 4 2 4 11 11 1 1 2 2 2 3 2 1 3 2 2 2 2 4 3 4 4 1 1 2 2 2 2 22 2 2 2 3 3 4 4 3 5 5 5 2 3 3 3 3 3 3 3 6 6 6 6 7 5 5 3 8 8 8 9 5 10 4 5 5 5 5 5 5 5 5 22 21 20 21 21 23 23 22 22 23 22 21 20 20 18 11 12 13 13 13 36 38 47 44 14 15 16 15 18 20 23 26 31 34 9 8 7 7 7 6 6 7 7 30 20 ロシア 17 17 17 14 15 7 7 6 6 6 6 11 12 12 13 13 13 12 13 10 11 12 11 12 5 5 12 12 11 10 10 9 5 5 8 8 7 7 5 6 15 14 15 16 14 15 15 15 15 14 13 14 14 14 15 14 14 14 14 13 13 12 12 13 12 12 11 11 10 9 9 9 7 8 10 12 12 11 0 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 年 米国 日本 図 各国の粗鋼生産比率 参考文献:[1] WORLD STEEL STATISTICS 中国,インド 粗鋼生産量(百万ton) 2.1 粗鋼生産量の長期推移 120 2008 2009 100 2010 2012年 新日本製鐵と住友金属合併 80 60 40 20 図 鉄鋼メーカー別の粗鋼生産量 参考文献:[2] 経済産業省:http://www.meti.go.jp/statistics/tyo /seidou/result/ichiran/01_tekko.html タタ・ スチール 首鋼集団 江蘇沙鋼 JFE スチール ポスコ 新日本製鐵 武漢鋼鉄 上海宝鋼 集団 河北鋼鉄 集団 アルセロール ・ミッタル 0 2.1 粗鋼生産量の長期推移 粗鋼の利用用途 ・汎用鋼材 ・高品質鋼材(自動車等に利用) 汎用鋼材の生産量が急増 1998年を1とした粗鋼および自動車の生産量成長率 (%) 6 5 4 日本 イギリス ドイツ 米国 ロシア 中国 韓国 インド 世界各国の自動車生産量 3 2 1 0 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 年 図 粗鋼および自動車の生産比率の推移 (1998年を1とする) 参考文献:[1] WORLD STEEL STATISTICS 2.2 米国の動向 1800年以前 1800年代 1890年頃 1910年頃 1950年頃 1960年以降 ほとんどが農業 工業国家へ移行し始める(フォードの自動車多量生産) 工業生産が農業生産を上回る 世界の工業生産 1/3 世界の粗鋼生産高 1/2 不況時 ・設備の大型化失敗 ・技術開発不十分 ・人員削減の効率化 鉄鋼業の衰退 日本が主導 参考文献:[4] American FactFinder. U.S. Census Bureau. 2011年 2.3 日本の動向 1857年 1901年 1934年 1950年頃 釜石で連続操業可能な洋式高炉 国営の官営八幡製作所 政府主導の日本製鐵 過度経済力集中排除法 6社体制 八幡製鐵,富士製鉄,日本鋼管,川崎製鉄,住友金属,神戸製鋼所 高度経済成長と共に大幅に拡大 高炉の大型化、操業技術を中心とした製鉄技術進歩 1990年代 電炉メーカーのローコスト化 →高炉メーカー 高品質鋼材の開発により差別化(世界で優位) 1999年 ゴーン・ショック(系列取引→入札制度) 2002年 2012年 日本鋼管と川崎製鉄→JFEホールディング 新日本製鐵と住友金属→新日鐵住金 参考文献:[5] 鉄は再び成長のシンボルとなるか:http://manabow.com/pioneer/nsc/index.html 規模の拡大 1991年を1とした粗鋼の生産量比率 2.3 日本の動向 2.5 2 粗鋼生産量 建設用 自動車用 産業機械 電気機械 輸出 1.5 ・建設用の汎用鋼材の生産は減少 ・自動車等の高品質鋼材は横ばい ・輸出(高品質鋼材)は増加 1 0.5 0 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 年 図 粗鋼の用途ごとの生産量比率(1991年起点) 高品質鋼材 ・高付加価値志向と研究開発に対する熱心な取り組みと 一貫製造に対するユーザーとの連携 ・ユーザーの要求に合わせた多様な製品造りの開発 参考文献:[2] 経済産業省:http://www.meti.go.jp/statistics/tyo /seidou/result/ichiran/01_tekko.html 2.4 韓国の動向(ポスコ) 1973年 国営の浦項総合製鉄所として設立 日韓基本条約に伴う八幡製鐵、富士製鉄、日本鋼管による技術導入 2005年 韓国企業で初めて東京証券取引所第1部に上場 2004年頃 ローコスト鋼材 高品質鋼材 日本の技術 流出 海外展開も積極的で日本よりもグローバル化が進んでいる。 2.5 中国の動向 700000 600000 500000 400000 300000 粗鋼生産量(×1000ton) 200000 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 180000 日本 イギリス ドイツ 2015 米国 ソ連 ロシア 中国 160000 140000 韓国 インド 120000 100000 80000 60000 40000 20000 0 1975 1980 1985 1990 1995 2000 図 粗鋼の生産量の推移 参考文献:[1] WORLD STEEL STATISTICS 2005 2010 2015 年 2.5 中国の動向 鋼材の使用先 (%) 中国国内で使用 100 14 14 14 7 4 3 79 82 83 81 2000 2001 2002 2003 90 80 16 3 輸入 輸出 7 4 3 3 7 11 13 11 83 86 84 84 86 2004 2005 2006 2007 2008 11 6 4 4 3 6 2 7 92 91 91 2009 2010 2011 ・粗鋼の輸入減少 ・輸入は日本からが多い(高品質鋼材) 技術開発していない 一貫製鉄や専業メーカーなし ・汎用鋼材の輸出増える 70 60 50 40 30 20 10 0 年 100.0 日本 90.0 韓国 EU27 北米 80.0 70.0 1.1 0.7 7.4 60.0 50.0 40.0 30.0 2.2 0.4 2.8 1.5 0.5 4.3 14.9 2.1 0.4 6.3 11.5 13.7 3.0 2.3 8.7 2.4 0.8 8.9 3.3 1.0 7.5 20.2 17.6 0.6 0.9 4.6 1.1 0.9 6.5 0.8 0.7 7.2 24.1 26.8 24.5 100.00 16.5 46.5 45.5 45.6 60.00 50.00 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 図 中国の粗鋼輸入先 参考文献:[6] 中国通関統計 2009 16.50 14.98 5.15 12.11 5.61 15.21 10.00 2010 2011 年 北米 27.64 29.37 21.69 19.65 22.00 ASEAN10 15.80 21.42 20.00 0.00 2001 23.43 18.82 6.74 2000 9.49 12.05 10.45 6.32 6.23 4.96 23.19 22.39 24.91 12.13 7.08 14.61 16.26 18.65 20.20 19.29 20.06 19.55 20.10 12.50 4.98 6.11 2.93 8.91 10.45 24.06 23.67 20.49 21.15 9.34 9.24 16.85 28.7 23.6 EU27 70.00 30.00 39.9 韓国 80.00 40.00 0.0 2000 日本 90.00 20.5 12.2 26.2 22.6 21.2 35.7 24.9 0.6 1.3 7.1 21.3 15.1 20.0 10.0 0.9 0.9 7.4 ASEAN10 中国の輸入先比率 (%) 中国の輸入先比率 (%) 図 中国の粗鋼使用先 3.90 2.95 1.16 3.43 3.64 3.67 1.29 1.20 1.27 1.56 1.80 1.80 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 年 図 中国の粗鋼輸出先 2.6 アルセロール・ミッタルの動向 1940年代 2007年 カラチでスクラップ業 インド 伸鉄丸棒、インドネシア 電炉一貫丸棒生産 カザフスタン 高炉一貫製鉄 その後、ロシア、トリニダード・トバコ、メキシコ、カナダ、ドイツ、 カザフスタン、フランス、アルジェリア、ルーマニア等の 世界各国の鉄鋼会社の買収・再建によって拡大 鉄鉱石の鉱山を持つメキシコの鉄鋼大手買収 原材料メーカー入手により、価格支配強める アルセロール買収 高品質鋼材へ展開 粗鋼の生産量 世界一 全世界で展開するグローバル企業 参考文献:[7] 納富 義宝:「再編進む国際鉄鋼業 -二人の鉄鋼王を通じて-」,ICCS Journal of Modern Chinese Studies,Vol.4(1),2011 [8]Arcelor Mittal:Annual Report 2011 2.8 LMEの鉄鋼先物取引による価格のグローバル化 現物取引→先物取引 2007年10月 ドバイ金融商品取引所(DGCX) 2008年4月 ロンドン金融取引所(LME) 取引活発 2009年3月 上海先物取引所(SFE) 図 鉄鋼ビレットLME承認ブランドの生産国 18カ国53ブランド (2012年1月時点) 図 鉄鋼ビレットLME受渡倉庫のある国 17カ国 (2012年1月時点) ・汎用鋼材の価格グローバル化 ・日本の規準は厳しい。(世界の規格はグローバル化) 参考文献:[10]安岡 孝司:「グローバル化する鉄鋼価格」,戦略的技術経営入門,芝浦工業大学MOT編,芙蓉書房出版,2012 3. 鉄鋼業のグローバル化 年代 1900 ~ 1960 1960 ~ 1990 1990 ~ 2010 【米国】 ・不況時に人員削減,技術開発中止 衰退 【日本】 ・高品質鋼材の輸出型のグローバル化 【韓国】 ・ローコスト→高品質 ・高品質鋼材および汎用鋼 材のグローバル化 【アルセロール・ミッタル】 ・高品質鋼材から汎用鋼材まで 【高品質鋼材】 ・高付加価値(ニッチ)で市場,コストコントロール ・多品種,カスタマイズ ・自国生産の輸出型のグローバル化 【中国】 ・ローコスト・低中品質鋼材→膨大な生産量 ・汎用品の価格のグローバル化 ・生産拠点のグローバル化 【汎用鋼材】 ・LME 鉄鋼先物による世界共通価格 ・低中品質鋼材の多量生産 ・規格品によるグローバル化 図 鉄鋼業の発展とグローバル化 【インド】 ・中国の後発 3. 鉄鋼業のグローバル化 鉄鋼業界のグローバル化 ①汎用鋼材価格のグローバル化(中国、インド、LME) ②高品質鋼材の輸出型グローバル化(日本,韓国等) ③生産拠点のグローバル化(アルセロール・ミッタル) 生 産 量 ①価格のグローバル化 ③生産拠点のグローバル化 ②高品質鋼材の 輸出型のグローバル化 規模の拡大 年 図 グローバル化の進展 4.まとめ 鉄鋼業界は、過去には成長率が高い国の内需の伸びに従って発展し、 世界市場を制覇してきた。 近年、鉄鋼業界でおきているグローバル化を3つに分類した。 ①汎用鋼材価格のグローバル化 ②高品質鋼材の輸出型のグローバル化 ③生産拠点のグローバル化に分類した。 日本メーカーは、家電業界のグローバル化と似たところがあり、 高品質鋼材の輸出型グローバル化を続けているように見受けられる。 汎用鋼材市場と高品質鋼材市場の今後の伸びを比較すると 格差がさらに拡がることが懸念される。