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第 1 講 線型代数学の世界への誘い はじめに、線型代数学とはどのよう

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第 1 講 線型代数学の世界への誘い はじめに、線型代数学とはどのよう
第1講
線型代数学の世界への誘い
はじめに、線型代数学とはどのような学問なのかを説明しよう。ま
ず、線型とは、線形、1 次、リニア(linear)と同義で、直線(straight
line)を語源とする1) 。例えば、1 次関数
𝑦 = 𝑎𝑥
は正比例の関係、
𝑥を2倍 ⇒ 𝑦も2倍
であるような関係を式で表したものである(図 1.1)。
[
[CZ
C
C
1
Z
図 1.1: 1 次関数 𝑦 = 𝑎𝑥 のグラフ
𝑓 (𝑥) = 𝑎𝑥 とおくと、
𝑓 (𝛼𝑥) = 𝛼𝑓 (𝑥)
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (∗)
𝑓 (𝑥1 + 𝑥2 ) = 𝑓 (𝑥1 ) + 𝑓 (𝑥2 )
係数 𝑎 は現れない!
という関係を満たす。
例. 時給 700 円とは、1 時間働くと 700 円の給料がもらえることを意
味する。したがって、𝑥 時間働くと 700𝑥 円もらえる。これを 𝑓 (𝑥) =
700𝑥 と書くことにすれば、1 日 8 時間労働を 4 日間続けた場合、総労
働時間は 4 × 8 時間であるから、もらえる給料は 𝑓 (4 × 8) である。一
方、1 日 𝑓 (8) 円の給料を 4 日分もらえるとも考えられるから、結局、
𝑓 (4×8) = 4𝑓 (8)
700 円は現れない!
が成り立つ。また、昨日は 2 時間、今日は 3 時間働いたとすると、2
日間でもらえる給料は 𝑓 (2) + 𝑓 (3) であるが、これは 2 + 3 時間働い
た給料に等しい。
𝑓 (2)+𝑓 (3) = 𝑓 (2+3)
700 円は現れない!
1)
[1] によれば、『けい【形】⃝
1 かたち。すがた。「―式」「外―」「人―(にんぎょ
」⃝
2 かたちづくること。あらわすこと。
「―成」
「―容」
「造―」』であるが、一
方、
『けい【型】⃝
1 土で作った鋳がた。転じて、物の形をかたどったもの。また、
同類から抽象される形式。かた。「模―」「流線―」⃝
2 模範となるもの。「典―」』
である。
「線形代数」と書くことも多いが、ここでは上の「型」の意味から、「線型代
数」を採用する。
う)
2
注. 性質 (∗) を線型性と呼ぶ。この性質は、(原点を通る)1 次関数
の性質を過不足なく抜き出した一般的表現である。ここで、係数 𝑎
や、上の例における 700 円は登場しないことに注意されたい。また、
上の関数 𝑓 は実数の集合 ℝ から ℝ への写像であったが、線型代数学
では、一般的な
ある集合からある集合への線型性をもつ写像
を体系的に扱う。
注. 関数や写像の一般的な定義については付録 A を見よ。
次に、代数学とは、一言で、集合の演算に関する「構造」を調べる、
もしくは、数学的構造を有する集合を調べる学問であるといえる。
例. 実数全体の集合 ℝ と正方行列全体の集合 𝑀 では乗法に関して
「構造」が異なる。
𝑎, 𝑏 ∈ ℝ ⇒ 𝑎𝑏 = 𝑏𝑎;
𝐴, 𝐵 ∈ 𝑀 ⇒ 必ずしも 𝐴𝐵 = 𝐵𝐴 でない
この事実については追々詳しくみるであろう。
上のようの述べたところで、抽象的過ぎてやるべきことが見えて
こないと思う。もう少し具体的に言うと、
連立 1 次方程式、行列、行列式、ベクトル、空間
などを極めて強固に美しく整備した体系が線型代数学である。こう
いったとしても、ピンとこない状況は変わらないかもしれない。線
型代数学は一通り学び、更に応用的側面を経験することによって、
やっと “そういうことだったのか” と思える分野である。とはいって
も、雰囲気だけは先に知っておきたい。そこで本講では、線型代数
学で扱う事項、関連事項、そして線型代数の応用を羅列した。しか
し、項目は体系的に順序立てて構成されているわけではなく、話題
もばらばらである。それだけ線型代数が顔を出す話題は多種多様で、
分野は多岐に渡っているということである。もっと誇張すれば、理
工系に限らず、人文・社会・経済などの分野においても、⃝⃝ 科学
と呼ばれるあらゆる学問領域に線型代数学は直接的、あるいは間接
的に、ときにはアンチテーゼとして関与し、そして基礎固めをして
いる。これが過言ではないことは、線型代数学的経験を積めば積む
ほど実感できるであろう。本講でこれから紹介する話題は、その広
大な線型代数の世界のほんの一部である。
3
§1.1
線型性の例
簡単な線型性の例と線型でない例をみてみよう。まず、横の長さ
𝑥, 縦の長さ 𝑦 の長方形の面積 𝑓 (𝑥, 𝑦) = 𝑥𝑦 は、横の長さ 𝑥 について
線型である(図 1.2)。
[
㬍 α Z
αZ
[
Z
Z Z
Z
図 1.2: 長方形の面積
つまり、
𝑓 (𝛼𝑥, 𝑦) = 𝛼𝑓 (𝑥, 𝑦)
𝑦 を無視すると、𝑓 は 𝑥
𝑓 (𝑥1 + 𝑥2 , 𝑦) = 𝑓 (𝑥1 , 𝑦) + 𝑓 (𝑥2 , 𝑦)
について線型
という関係を満たす。
同様に、縦の長さ 𝑦 についても線型である。
注. 𝑓 は 𝑥 と 𝑦 の双方について線型であるので、双線型(2 重線型、
バイリニア(bilinear))と呼ばれる。
次に “非線型=線型でない” 例を見てみよう。
例. 半径 𝑟 の円の面積 𝑓 (𝑟) は、半径 𝑟 について線型でない(図 1.3)。
実際、
𝑓 (𝑟) = 𝜋𝑟2
⁤
⁤
˜α℥
”
⁤
α⁤
℥
⁤”⁤
図 1.3: 円の面積
𝑓 (𝛼𝑟) ∕= 𝛼𝑓 (𝑟)
𝑓 (𝑟 + 𝑟′ ) ∕= 𝑓 (𝑟) + 𝑓 (𝑟′ )
という関係になっている。
4
§1.2
小学算数(中学入試)の文章題から連立 1 次方程式へ
行列論のはじまりのきっかけとなった連立 1 次方程式についてお
さらいしておこう。
◎ 未知数の個数 1
問 1.1(年れい算) 父は 40 才、子どもは 6 才です。父の年れいが子 線分図を書いて求めた。
どもの年れいの 3 倍になるのは、今から何年後ですか。
問 1.2(平均算) みつしまくんの先月までのテストの平均点は 76 点 面積図を書いて求めた。
でしたが、今月は 2 回とも 100 点だったので、全部の平均点は 84 点
になりました。先月までのテストの回数を求めなさい。
問 1.3(やりとり算) 兄は 1760 円、弟は 920 円持っています。兄が 線分図を書いて求めた。
弟に何円かわたしたので、2 人の金額が等しくなりました。何円わ
たしましたか。
問 1.4(倍数算) A は 4000 円、B は 3600 円持っていました。2 人と 線分図を書いて求めた。
も同じ品物を買ったので、残っている A と B の金額の比は 3:2 にな
りました。2 人が買った品物の値段はいくらですか。
◎ 未知数の個数 2
問 2.1(差集め算) ある駅まで行くのに、毎分 70m の速さで歩くつ 面積図を書いて求めた。
もりでしたが、毎分 100m の速さで走ったので、予定より 3 分早く
着くことができました。駅までは何 km ありますか。
問 2.2(過不足算) みかんを何人かの子どもに分けるのに、1 人 3 個 面積図を書いて求めた。
ずつ分けると 6 個余り、1 人 4 個ずつ分けると 1 個不足します。みか
んは、何個ありますか。
問 2.3(つるかめ算) つるとかめが、あわせて 40 ひきいます。足数 面積図を書いて求めた。
が 88 本のとき、かめは何びきいるでしょうか。
問 2.4(消去算) えん筆 2 本と消しゴム 3 個の代金は 180 円、えん筆 加減法そのものである。
8 本と消しゴム 1 個の代金は 170 円です。えん筆 1 本は何円ですか。
◎ 未知数の個数 3
問 3.1(和差算) A, B, C の 3 つの数の和が 90 で、A は B より 11 線分図を書いて求めた。
大きく、B は C より 25 小さいとき、この 3 つの数をそれぞれ求めな
さい。
問 3.2(分配算) 1000 円を A, B, C の 3 人で分けるのに、A は B の 線分図を書いて求めた。
3 倍より 70 円多く、C は B の 4 倍より 30 円少なくなるように分け
ると、3 人の金額はそれぞれいくらになりますか。
5
問題 1. 以上の各問題を未知数を用いた(連立)1 次方程式として定
式化せよ。
例えば、上で挙げたつるかめ算は、小学生のときは、次のように解
いた。まず、面積図を書いて問題文で主張している状況を表し(図 1.4
(左))、そして、全部かめだと仮定して計算した(図 1.4(右))。
!
図 1.4: つるかめ算用の面積図
注. 問題設定の状況を想像することも苦しいが、解法の意味付けも
難しい。
連立 1 次方程式(中学生)
答. つるの個体数を 𝑥, かめの個体数を 𝑦 とおくと、
{
𝑥 + 𝑦 = 40
2𝑥 + 4𝑦 = 88
という連立 1 次方程式が立つ。これより、加減法、代入法、等置法
などを用いて解く。
解は必ずあると言い切れるか?
問. つるとかめが、あわせて 40 ひきいます。足数が 89 本のとき、か 数値的には答えが出る
が。
めは何びきいるでしょうか。
解があったとしても、加減法、代入法、等置法など、どんな解法で
解こうが、途中で計算ミスをしなければ、正しい答えを得ることが
できる。この事実は考えが及ばないほど当たり前に思えるが、解法
によらず解は一致することの保証はどうしてなされているのであろ
うか。
注. 本節の詳細は、第 3 講, 第 4 講, および §7.2 参照。
6
§1.3
ニュートンの講義から
ニュートン(Newton)の学生だったウィストン(Whiston)が「Arithmaetia universalis」としてニュートンの代数学の講義録を出版した
(1707)。以下はその中に収録してあった問題である。
Sir Isaac Newton,
問. 以下の 𝑘1 ∼ 𝑤3 の 9 個の変量の間に成り立つ関係式を求めよ。
1643.1.4–1727.3.31.
イギリスの偉大な数学
者・物理学者 [2]。
𝑘1 匹の牛は 𝑡1 日で 𝑤1 箇所の牧場の牧草を食べ尽くす。
𝑘2 匹の牛は 𝑡2 日で 𝑤2 箇所の牧場の牧草を食べ尽くす。
𝑘3 匹の牛は 𝑡3 日で 𝑤3 箇所の牧場の牧草を食べ尽くす。
ただし、全ての牧場の餌の収穫高は等しく、毎日成長する牧草の量
は不変であり、また、どの牛も毎日同一量の餌を食べると仮定する。
答. 牧場の最初の餌の量を 𝑥, 毎日成長する牧草の量を 𝑦, 牛が毎日
食べる牧草の量を 𝑧 とおく。このとき、次の連立 1 次方程式が成り
立つ。
William Whiston,
1667.12.9 – 1752.8.22.
イギリスの数学者 [3]。
ニュートンの学生だっ
たが後に後継者と
なった。
𝑤1 𝑥 + 𝑡1 𝑤1 𝑦 − 𝑡1 𝑘1 𝑧 = 0,
𝑤2 𝑥 + 𝑡2 𝑤2 𝑦 − 𝑡2 𝑘2 𝑧 = 0,
𝑤3 𝑥 + 𝑡3 𝑤3 𝑦 − 𝑡3 𝑘3 𝑧 = 0.
もちろん 𝑥 = 𝑦 = 𝑧 = 0 という自明な解は面白くないので、自明
解以外の解があるための条件が必要であり、それは、𝑥, 𝑦, 𝑧 を消去
して
𝑤3 𝑡1 𝑡2 (𝑘1 𝑤2 − 𝑘2 𝑤1 ) + 𝑡3 𝑤3 (𝑤1 𝑡2 𝑘2 − 𝑤2 𝑡1 𝑘1 ) = 𝑘3 𝑡3 𝑤1 𝑤2 (𝑡2 − 𝑡1 )
となる。
注. この条件式は、行列式を用いると
𝑤 𝑡 𝑤 −𝑡 𝑘 1
1
1
1
1
𝑤2 𝑡2 𝑤2 −𝑡2 𝑘2 = 0
𝑤3 𝑡3 𝑤3 −𝑡3 𝑘3 §6.7 参照。
のように、簡明に表現できる。
§1.4
補間多項式
𝑥𝑦 平面上の 2 点 (𝑥1 , 𝑦1 ), (𝑥2 , 𝑦2 ) の 𝑥 座標が異なるとき、
𝑦 = 𝑎0 + 𝑎1 𝑥
という形の直線の中で、これらの 2 点を通るものはただ一つ定まる。
同様に、3 点 (𝑥1 , 𝑦1 ), (𝑥2 , 𝑦2 ), (𝑥3 , 𝑦3 ) の 𝑥 座標が全て異なるとき、
𝑦 = 𝑎0 + 𝑎1 𝑥 + 𝑎2 𝑥2
7
15
15
10
10
5
5
0
0
-5
-5
-10
-10
-15
-15
-2
-1
0
1
2
3
-2
-1
0
1
2
3
図 1.5: 9 個の点を通る 8 次式
という形の曲線の中で、これらの 3 点を通るものはただ一つ定まる。
例. 𝑥 座標が全て異なる 9 個の点を通る 8 次式 𝑦 = 𝑎0 + 𝑎1 𝑥 + 𝑎2 𝑥2 +
⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎8 𝑥8 はただ一つに定まる(図 1.5)。
問. 一般に、𝑛 個の点 (𝑥1 , 𝑦1 ), . . . , (𝑥𝑛 , 𝑦𝑛 ) の 𝑥 座標が全て異なるとき、
𝑦 = 𝑎0 + 𝑎1 𝑥 + 𝑎2 𝑥2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑛−1 𝑥𝑛−1
という形の曲線の中で、これらの 𝑛 点を通るものはちょうど 1 本あ
ることを示せ。
注. ファンデルモンド(Vandermonde)の行列式 を用いて証明で §7.3.1 参照。
きる。
Alexandre-Théophile
§1.5
Vandermonde,
1735.2.28 – 1796.1.1.
フランスのヴァイオリ
ン奏者・化学者 [4]。
15 パズル
15 パズルとは、1 辺 ℎ の正方形の駒 15 個を、1 辺 4ℎ の正方形の
盤上に互いに重ならないように並べ、空いた 1 マスを利用して駒を
上下左右に動かしながら、求められた配置に駒を並べ替るゲームで
ある(図 1.6)。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12
13 14
15
図 1.6: 15 パズル
問. ルール通りに駒を動かして、図 1.6 の配置を、図 1.7 の (a) ある
いは (b) の配置に変えることはできるか?
注. 置換の概念を学ぶと解決できる。
8
§5.9 参照。
(b)
(a)
1
2
3
4
1
2
6
7
5
6
7
8
3
5
8
13
9
10 11 12
4
9
12 14
10 11 15
13 15 14
図 1.7: 15 パズルの配置例
§1.6
囚人のジレンマ (The Prisoner’s Dilemma)
2 人の容疑者 𝐴, 𝐵 が共犯容疑で捕まっている。黙秘か自白かに
よって, 以下のような実刑年数が科せられる。
𝐴∖𝐵
黙秘
自白
黙秘
−1∖ − 1
0∖ − 10
自白
−10∖0
−5∖ − 5
問. 個別に尋問されているとき, 𝐴, 𝐵 はそれぞれどのような行動を
取るべきか。
ただし、以下を仮定しておこう。
仮定 1 各容疑者は、自分に対して最も軽い判決が下されることのみ
関心がある。
仮定 2 各容疑者は、相棒が仮定 1 を満たす人物で、かつ合理的な行
為者であることを知っている。
仮定 3 各容疑者は、相棒がとりそうな行動に関して、仮定 2 以外の
情報は何も得られない。
答. 𝐴 に科せられる実刑年数の行列は、
(
)
−1 −10
0 −5
であり、各行の最小値かつ各列の最大値となる場合が最適戦略であ
る。つまり、自白した方がよい。
とはいうものの、この戦略は、達成可能な最良の結果 “自分は自
白して釈放され、相手は黙秘して 10 年の実刑を受ける” よりも、不
利な結果を招く。これは本当に合理的な戦略の帰結といえるのか。
黙秘支持の意見. 各容疑者は二人とも合理的行為者であることを
知っている。ならば同じ行為 “黙秘・黙秘か自白・自白” をとるはず
である。したがって “黙秘・黙秘” こそが合理的選択である。
9
反論. 相手が黙秘を貫くと知っているならば、自分は自白して釈
放された方がよい。しかし、そのような合理的選択は相手も考える
だろう。すると “自白・自白” になってしまう。二人とも同じ選択な
らば “黙秘・黙秘” の方が刑は軽い。したがって、黙秘を選択する。
こうして、話は元に戻ってしまう。これがジレンマと言われる所以
である。
合理的行為が必ずしも
最良の結果を招くわけ
ではなく、不合理でも成
功する場合はありうる
注. このような研究は、ゲーム理論として知られている。
§1.7
線型計画法の問題
等号を用いた条件式はしばりが強い。現実問題は、不等号でゆる
い条件式として表されることも多い。そのような連立 1 次不等式の
典型的な例として次の線型計画法(Linear Programming)の問
題(LP 問題)が知られている。
問. 日本の米の産地を 1, 2, . . . , 𝑚 と番号付けし、第 𝑖 番の産地で生産
される米の量を 𝑟𝑖 とする。生産された米は全国各地に配られ、各都
道府県(第 1∼第 47 消費地)ごとに 𝑝1 , 𝑝2 , . . . , 𝑝47 ずつ消費される。
第 𝑖 産地から第 𝑗 消費地に輸送される米の量を 𝑥𝑖𝑗 とする(図 1.8)。
コストは単位重量あたり 𝑐𝑖𝑗 円かかる。
T
T
R
R
ZKL
TO
ZOL
RL
TK
R
TO
ZK
ZK
ZKL
ZK
図 1.8: LP 問題
このとき、制約条件
⎧ 47
∑



𝑥𝑖𝑗 ≤ 𝑟𝑖 (𝑖 = 1, 2, . . . , 𝑚)



⎨ 𝑗=1
𝑚
∑

𝑥𝑖𝑗 ≥ 𝑝𝑗 (𝑗 = 1, 2, . . . , 47)





⎩ 𝑖=1
𝑥𝑖𝑗 ≥ 0
(𝑖 = 1, 2, . . . , 𝑚, 𝑗 = 1, 2, . . . , 47)
10
RL
䊶 䊶 䊶
ZL
䊶 䊶 䊶
TK
ZL
䊶 䊶 䊶
R
R
䊶 䊶 䊶
T
T
䊶 䊶 䊶
ᶖ⾌࿾
䊶 䊶 䊶
↥࿾
䊶 䊶 䊶
ᶖ⾌࿾
䊶 䊶 䊶
↥࿾
R
のもとで、総輸送コスト
∑
𝑧=
𝑐𝑖𝑗 𝑥𝑖𝑗
1≤𝑖≤𝑚, 1≤𝑗≤47
を最小にする {𝑥𝑖𝑗 } を求めよ。
答. 状況をものすごく単純化して、𝑚 = 1, 𝑝𝑗 = 𝑥1𝑗 = 0 (𝑗 =
3, 4, . . . , 47) とし、𝑟 = 𝑟1 , 𝑥𝑗 = 𝑥1𝑗 , 𝑐𝑗 = 𝑐1𝑗 (𝑗 = 1, 2) とおく
と、制約条件
𝑥1 + 𝑥2 ≤ 𝑟,
𝑥 𝑗 ≥ 𝑝𝑗
(𝑗 = 1, 2)
のもとで、
𝑧 = 𝑐 1 𝑥1 + 𝑐 2 𝑥2
を最小にする {𝑥𝑗 } を求めよ、という問題になる。もちろん、𝑟 ≥
𝑝1 + 𝑝2 は満たされていなければならない。
消費総量以上に生産す
輸送コストが 0 < 𝑐1 < 𝑐2 であるとする。𝑧 をいろいろ動かしたと ること。
き、直線 𝑧 = 𝑐1 𝑥1 + 𝑐2 𝑥2 は、𝑐𝑗 > 0 (𝑗 = 1, 2) なので傾きが負の平
行な直線群を表す(図 1.9)。𝑧 が一番小さくなるのは、図 1.9 の直
線★のとき、すなわち、𝑥𝑗 = 𝑝𝑗 (𝑗 = 1, 2) のときである。これは考
Z
䃩
T
䃨
\ EZ EZ
R
\
䈏
Ⴧ
ᄢ
R
T
Z
図 1.9: LP 問題の幾何学的解決法。𝑟 > 𝑝1 + 𝑝2 , 𝑐1 < 𝑐2 の場合の図。
えてみたら当たり前で、消費される量だけ、つまり最低限の量だけ
を輸送すればよいということである。
ちなみに、一番コストがかかるのは、図 1.9 の直線☆のとき、す
なわち、𝑥1 = 𝑝1 , 𝑥2 = 𝑟 − 𝑝1 のときで、わざわざ輸送コストの高い
第 2 消費地の方に、あえて消費量 𝑝2 以上の量 𝑟 − 𝑝1 を輸送する場合
である。
問題 2. 𝑐1 > 𝑐2 > 0 の場合の図 1.9 に対応する図を描き、LP 問題を
解決せよ。
11
§1.8
線型微分方程式
図 1.10 のようにばねの先端に質量 𝑚 の物体がとりつけられている。
⁝
⁧‚⁦‛
図 1.10: ばねの振動
床は滑らか(摩擦がない)で、ばねの質量を無視したとき、ばね
の反撥力は変位に比例するというフック(Hooke)の法則(𝑘 はばね
定数)
Robert Hooke
1635.7.18 – 1703.3.3.
広範分野に貢献のある
イギリスの科学者 [5]。
𝐹 = −𝑘𝑢(𝑡)
とニュートンの運動方程式
𝐹 =𝑚
𝑑2 𝑢(𝑡)
𝑑𝑡2
より、
𝑑2 𝑢(𝑡)
𝑚
= −𝑘𝑢(𝑡)
𝑑𝑡2
√
を得る。ここで、𝜔 = 𝑘/𝑚 とおくと、
𝑑2 𝑢(𝑡)
+ 𝜔 2 𝑢(𝑡) = 0
2
𝑑𝑡
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (∘)
となる。
cos 𝜔𝑡 と sin 𝜔𝑡 は (∘) 式を満たす。つまり、解である。更に、
和: cos 𝜔𝑡 + sin 𝜔𝑡
解き方は、基礎解析・2
学期第 3 講参照。
実数倍:𝑎 cos 𝜔𝑡, 𝑏 sin 𝜔𝑡
も (∘) 式の解である。即ち、(∘) 式の解全体の集合は
線型演算=和と実数倍
について閉じている。
§1.9
関数の線型結合
正弦関数は周期 2𝜋 の滑らかな関数であるが、その周期を変えて、
適当に係数をかけて変形した正弦関数を無限に重ね合わせた、つま
り無限個線型結合した関数を考える。例えば、
)
(
∞
4 ∑ sin(2𝑚 − 1)𝑥
4
sin 3𝑥 sin 5𝑥
sin(2𝑚 − 1)𝑥
=
+
+ ⋅⋅⋅ +
+ ⋅⋅⋅
sin 𝑥 +
𝜋 𝑚=1
2𝑚 − 1
𝜋
3
5
2𝑚 − 1
12
N=1
N=2
N=3
N=4
N = 10
N = 100
図 1.11: 第 N 部分和。N = 1, 2, 3, 4, 10, 100
のような無限級数を考える。図 1.11 はこの第 N 部分和である。
実は、無限に和をとると、周期 2𝜋 の方形波(図 1.12)
{
−1 (−𝜋 < 𝑥 < 0)
𝑓 (𝑥) =
1
(0 < 𝑥 < 𝜋)
に収束することが知られている。
f(x)
図 1.12: 方形波
上の無限級数の係数は、
∫
4
1 𝜋
𝑓 (𝑥) sin 𝑛𝑥 𝑑𝑥 =
𝜋 −𝜋
𝑛𝜋
基礎解析・2 学期第 9 講
参照。
(𝑛 = 2𝑚 − 1; 𝑚 = 1, 2, . . .)
より求めている。この方法により決定される無限級数はフーリエ級
数と呼ばれる。
正弦関数をうまく組み合わせれば図 1.12 のような方形波を作り出
せると想像できたであろうか。簡単な関数であっても、その無限個
の線型結合を考えることによって、想像外の関数を生み出すことが
可能なのである。
13
Jean Baptiste Joseph
Fourier,
1768.3.21 – 1830.5.16.
フランスの数学者・政
治家 [6]。
§1.10
コンピュータグラフィックスの原理
コンピュータグラフィックス(Computer Graphics, CG)は、コン
ピュータの中で物体(画像)を作成することである。その物体は回
転したり、変形したり、移動したりし、また、陰影も付いているこ
とが多い。CG の原理は点の移動であり、それは基本的には線型変
換や平行移動である。例えば、図 1.13 のような、円、円弧、楕円、
線分、螺旋の組み合わせによる図形を考える。
図 1.13: 円、円弧、楕円、線分、螺旋の組み合わせによる図形
この図形の各点を行列
(
)
1 2
0 1
により線型変換(ずらし変形)すると、図 1.14 のような図に変換さ
れる。
図 1.14: 図 1.13 の図形のずらし変形。
線型変換は 3 次元の図形に対しても適用可能である。例えば、図 1.15
の図形に対して、行列
14
図 1.15: 原像
⎛
⎞
cos 𝜃 − sin 𝜃 0
⎝ sin 𝜃 cos 𝜃 0⎠
0
0
1
により線型変換(𝑧 軸の周りの回転)すると、図 1.16 の図形になる。
ここで、
(左)は 𝑧 軸の周りに 3 度、
(右)は 𝑧 軸の周りに −3 度回転
図 1.16: (左)𝜃 = 3𝜋/180, (右)𝜃 = −3𝜋/180
させたものである。実は、図 1.16 の図形は立体図のためのステレオ
スコープ図である。(左)を左目で、(右)を右目で見ると、立体的
な図形が見えるはずである。
注. 本節の詳細は、§8.8 参照。
参考文献
[1] 新村出編「広辞苑・第四版」岩波書店(1991)
[2] Newton: The MacTutor History of Mathematics archive
http://turnbull.mcs.st-and.ac.uk/history/Mathematicians/Newton.html
[3] Whiston: The MacTutor History of Mathematics archive
http://turnbull.mcs.st-and.ac.uk/history/Mathematicians/Whiston.html
[4] Vandermonde: The MacTutor History of Mathematics archive
http://turnbull.mcs.st-and.ac.uk/history/Mathematicians/Vandermonde.html
15
[5] Hooke: The MacTutor History of Mathematics archive
http://turnbull.mcs.st-and.ac.uk/history/Mathematicians/Hooke.html
[6] Fourier: The MacTutor History of Mathematics archive
http://turnbull.mcs.st-and.ac.uk/history/Mathematicians/Fourier.html
16
第1講
線型代数学の世界への誘い(続)
本講では、線型代数学の小史と 2 学期の概要を述べた後、今学期
で扱う話題に関するいくつかの例題を紹介する。1 学期・第 1 講に
続いて本講を読めば、線型代数学の世界で扱われる大まかな事柄が
つかめよう。その気持ちでタイトルに(続)をつけた。
§1.1
小史
線型代数学の基礎的な理論の支柱は、
行列の理論
行列式の理論
線型空間から線型空間への線型写像の理論
の 3 つである。最初の 2 つの柱は 1 学期で扱った。行列も行列式も
連立 1 次方程式の解法に端を発している。したがって、
𝑎𝑥 = 𝑏
のような 1 次方程式がより深い起源であるが、このような乗除算が
1 回程度の計算は、数学の始原のところにあるから、線型代数学は
数学の最も古い分野の 1 つである。
2 学期は、第 3 の柱である線型空間論と線型写像の理論を中心に
学ぶ。線型写像は、線型性という性質をもつ写像であり、その原型
は、1 次関数
𝑓 (𝑥) = 𝑎𝑥
である。よって、行列や行列式と同様にその起源は古い。一方で、
線型空間とはある所定の性質を備えた集合である。線型空間の直接
的な起源は 19 世紀であるが、そのきっかけは、16 世紀における複
素数の誕生に遡る。複素数は、虚数単位 𝑖 を用いて、実部 𝑥 と虚部
𝑦 の 2 つの部分からなる
𝑥 + 𝑦𝑖
という複合的な数(complex number)である。この数は 3 次方程式
の解を表現するものとして誕生したが、ルートの中に負数が入って
いたため、負数でさえ当たり前でなかった時代においては、不信感
満載の面妖な数であったに違いない。しかしその後、平面上の回転運
動や拡大縮小、平行移動といった運動を表現するのに有用であるこ
とが発見され、その表現の舞台として複素平面が誕生したことによ
り、複素平面上の複素数が数直線上の実数のように “可視化” され、
その手触り感と共に徐々に容認されていった。ただ(専門家を除け
ば)容認はしても実数ほど安心感を持てなかったのではないだろう
か。それは、受講者の皆さんが初めて複素数に接したときに抱いた
1
その性質をまとめた命
題を線型空間の公理と
呼ぶ。公理の定義は 1 学
期の序文「はじめに」を
参照。
であろう不信感と類似のものであったと想像する。複素数について
は、基礎解析・1 学期・第 9 講で詳しく述べたので参照されたい。
注. 歴史の順番から言えば、複素平面上での虚数が平面運動の表現
に有用であることが発見されて、その後、ガウスにより複素平面上
の線積分が考えられ、複素平面の真の有効活用がなされた。複素数
という用語の命名もガウスによる。
Johann Carl Friedrich
Gauss,
17774.30 – 1855.2.23.
ドイツの数学者 [1]。
複素数が平面運動の表現に有効ならば、虚部が 2 つある “高次” の
複素数
𝑥 + 𝑦𝑖 + 𝑧𝑗
は空間運動の表現に有効ではないかと考えられたが、うまくいかな
かった。
注. うまくいかないとは、複素数のもつ様々な重要な性質(例えば、
可換性)が成り立たない、ということである。実は、虚部が 3 つ以
上のより “高次” の複素数についても同様にうまくいなかい。このこ
とはガウスはすでに確信していたようであるが、後にワイエルシュ
トラスによって正当化された。次に述べる四元数は可換ではない。
しかしその後、虚部が 3 つあるもっと “高次” の複素数
𝑤 + 𝑥𝑖 + 𝑦𝑗 + 𝑧𝑘
が考えられた。ここで、𝑤, 𝑥, 𝑦, 𝑧 は実数で、虚数単位 𝑖, 𝑗, 𝑘 の間には、 Sir William Rowan
2
2
2
𝑖 = 𝑗 = 𝑘 = −1,
𝑖𝑗 = −𝑗𝑖 = 𝑘,
𝑗𝑘 = −𝑘𝑗 = 𝑖,
Hamilton,
𝑘𝑖 = −𝑖𝑘 = 𝑗 1805.8.4 – 1865.9.2.
アイルランドの数学
者 [2]。
という関係を仮定する。ハミルトンは、この数を四元数(クォータニ
オン(quaternion))と名付けた(1853 年 [3])。さらに、ハミルトン
は以下のような命名をした。𝑥𝑦𝑧 座標空間内で原点から点 (𝑥, 𝑦, 𝑧) に
向かう有向線分と数 𝑥𝑖 + 𝑦𝑗 + 𝑧𝑘 を対応させ、動径(radius vector)
に由来するベクトルという語を用いて 𝑥𝑖 + 𝑦𝑗 + 𝑧𝑘 をベクトル部
(vector part)と命名した。また、ベクトル部 𝑥𝑖 + 𝑦𝑗 + 𝑧𝑘 に実数 𝑤
をかけることは、ベクトル部を 𝑤 倍伸縮させることになるので、尺
度(スケール(scale))に由来して 𝑤 をスカラー部(scalar part)と
命名した。
同時期に、平面や普通の空間から、𝑛 次元空間への移行が実現し
た。この移行は数学的には自然であった。なぜなら、2 変数や 3 変
数の場合に成立する諸々の代数学的事象は、任意個数の変数の場合
にも成立するからである。グラスマンは 1844 年にほぼ現在の形に
近い線型空間論についての本「線型延長論—数学の新しい方法(Die
lineare Ausdehnungslehre, ein neuer Zweig der Mathematik)」を
出版したが、哲学的難解さもあり一般にはほとんど理解されなかっ
2
Hermann Gunter
Grassmann,
1809.4.15 – 1877.9.26.
ポーランドの数学
者 [4]。多くの数学の研
究の他に、サンスク
リットの研究でも著名
であった。
た。そこで、1862 年に新版「完全に、かつより厳密な形に叙述され
た延長論(Die Ausdehnungslehre, vollständig und in strenger Form
bearbeitet)」を出版した。これらの 2 冊の本の中で、彼は 𝑛 次元線型
空間を現在の公理的方法に近い思想から構築し、また、線型独立性、
次元の定義、内積、外積などの基本的事柄を全て独力で提出した。
注. 以上の線型代数学小史は [5, 第 0 章], [6, pp.76–87], [7, p.684] を
参考にした。
§1.2
2 学期の講義の流れ
1 学期では、ユークリッド空間内のベクトルや行列、行列式の理
論を学び、その中で、階数(ランク)や置換の概念を学んだ。そし
て、線型変換やその他、線型性に絡んだトピックスを取り上げた。2
学期・前半では、始め 1 学期の話を抽象化した話をするが、結論と
して対応する計算操作は 1 学期の話、つまり行列やベクトルの計算
に戻る、というストーリーを見る。2 学期・後半では、行列を単純
化することを目標にし、単純化された行列を使うことの効能を見る。
最後に、単純化できない場合の次善の策について言及する。
以下、第 2 講以降の構成を概観する。
まず、第 2 講で線型空間の公理という極めて抽象的な考え方を学
ぶ。この考え方は、
『1 学期で学んだベクトルのもつ性質のみを抽出
して、それを「公理」と呼ばれる前提的な命題としてまとめて、今
度は逆にその公理の性質を満たす集合を線型空間と呼び、その集合
の要素をベクトルと呼ぶ』というものである。そして、第 2 講から
第 3 講にかけて、線型空間の構造について学習する。
第 4 講では、1 学期で学んだ平面上の線型変換、あるいは 1 次関数
を一般化して、線型空間から線型空間への線型写像を紹介する。そ
して、第 4 講から第 5 講にかけて、線型写像は実は行列で表現され
ることを証明する。こうして、抽象的な概念に、可触的な行列計算
が対応することがわかる。
第 6 講では、1 学期で学んだ階数(ランク)の復習とその意味を
理解する。
第 7 講では、第 8 講以降の理論の布石となる現象をみる。第 4 講、
第 5 講で、線型写像が行列表現されることがわかったが、この表現
行列は、線型空間の骨組みである「基底」に依存して定まるもので
ある。したがって、その基底を取り替えると、その影響が表現行列
に及ぶ。それが “良い” 影響ならば表現行列も対角行列のような “良
い” 行列になる。
第 8 講では、理工系大学で学ぶ線型代数学の最後のトピックスで
ある「固有値と固有ベクトル」を学ぶ。そして、この固有ベクトル
を用いて、第 7 講で言及した基底の取り替えを実行し、期待された
“良い” 影響を実現する。
3
第 9 講では、対角行列のような “良い” 行列にする「対角化」とそ
の可能性、また、対角化できた場合の応用について紹介する。
そして、最終第 10 講では、更なる対角化の応用を紹介する。最後
に対角化できない場合の次善の策として、ジョルダンの標準形の簡
単な場合を紹介して、その後の線型代数学の展開への布石とする。
また、付録において、本文中で省略した計算などを与え、より深
い理解を望む読者の助けとした。
§1.3
線型性
線型性とは、1 次関数 𝑓 (𝑥) = 𝑎𝑥 が満たすような
𝑓 (𝛼𝑥) = 𝛼𝑓 (𝑥),
𝑓 (𝑥1 + 𝑥2 ) = 𝑓 (𝑥1 ) + 𝑓 (𝑥2 )
という性質である。この 2 つを合わせて、
𝑓 (𝛼𝑥1 + 𝛽𝑥2 ) = 𝛼𝑓 (𝑥1 ) + 𝛽𝑓 (𝑥2 )
としてもよい。ここで、そして以下も、𝛼, 𝛽 は実数とする。
ところで、文字は何でもよいから、
𝐷(𝛼𝑓1 + 𝛽𝑓2 ) = 𝛼𝐷(𝑓1 ) + 𝛽𝐷(𝑓2 )
𝑑
とし、𝑓1 , 𝑓2
𝑑𝑥
を微分可能な関数とすれば、微分操作は線型であることがわかる。
また、例えば、
∫ 𝑏
𝐿(𝑓 ) =
𝑓 (𝑥) 𝑑𝑥
でもよい。そこで、形式的に拡大解釈をして、𝐷 =
𝑎
と定義する。𝑓1 , 𝑓2 を [𝑎, 𝑏] で連続な関数とすれば、
𝐿(𝛼𝑓1 + 𝛽𝑓2 ) = 𝛼𝐿(𝑓1 ) + 𝛽𝐿(𝑓2 )
がわかる。すなわち、積分操作も線型である。
そして、行列 𝐴 とベクトル 𝒙 に対して、
𝑇 (𝒙) = 𝐴𝒙
と定義すると、ベクトル 𝒙1 , 𝒙2 に対して、
𝑇 (𝛼𝒙1 + 𝛽𝒙2 ) = 𝛼𝑇 (𝒙1 ) + 𝛽𝑇 (𝒙2 )
がわかる。
以上の 𝑓 (⋅), 𝐷(⋅), 𝐿(⋅), 𝑇 (⋅) などの関数や操作は、ある集合から集
合への対応であり、一般にはこれを写像と呼ぶ。よって、ここで挙
げた例はどれも線型性をもつ写像、すなわち線型写像の例である。
4
§1.4
同型
1 学期・第 2 講・§2.13 において述べたように、実 2 次元ユークリッ
ド空間 ℝ2 の基本ベクトルの組
( )
( )
1
0
𝒆1 =
, 𝒆2 =
0
1
( )
𝑎0
2
を ℝ の基底といった。つまり、任意のベクトル 𝒗 =
∈ ℝ2 は、
𝑎1
𝒗 = 𝑎0 𝒆1 + 𝑎1 𝒆2
とただ 1 通りに表される。
これと同種な例は他にも沢山ある。例えば、定数関数と 1 次関数
全体の集合
𝑃1 = {𝑓 : ℝ → ℝ; 𝑥 7→ 𝑎0 + 𝑎1 𝑥 (𝑎0 , 𝑎1 ∈ ℝ)}
において、任意の関数 𝑓 ∈ 𝑃1 (𝑓 (𝑥) = 𝑎0 + 𝑎1 𝑥) は、関数の組
𝑒1 (𝑥) = 1,
𝑒2 (𝑥) = 𝑥
を用いて、
𝑓 = 𝑎0 𝑒1 + 𝑎1 𝑒2
(𝑓 (𝑥) = 𝑎0 𝑒1 (𝑥) + 𝑎1 𝑒2 (𝑥))
のようにただ 1 通りに表される。
これより、𝒆1 , 𝒆2 を ℝ2 の基底といったように、𝑒1 , 𝑒2 を 𝑃1 の基底
と呼ぶことにしよう。
基底とは、いわば集合の骨組みである。
𝒙 = 𝑎0 𝒆1 + 𝑎1 𝒆2 ∈ ℝ2
𝑓 = 𝑎0 𝑒1 + 𝑎1 𝑒2 ∈ 𝑃1
のように並べて書くとわかるように、ℝ2 の基底と 𝑃1 の基底は、文字
を似せただけでなく、その骨組みとしての役割も同じであることが
わかる。このことを、ℝ2 と 𝑃1 は “互いに同じもの(同型)” という。
§1.5
線型写像の行列表現
𝑑
とおく。𝑓 ∈ 𝑃1 に対して、𝐷(𝑓 ) =
𝑑𝑥
′
𝑓 と定義すると、𝐷 は 𝑃1 から 𝑃1 への線型写像である。このとき、
𝑓 (𝑥) = 𝑎0 + 𝑎1 𝑥 ならば、𝑓 ′ (𝑥) = 𝑎1 であるから、
§1.3 でみたように、𝐷 =
𝑓 = 𝑎0 𝑒1 + 𝑎1 𝑒2 ⇒ 𝑓 ′ = 𝑎1 𝑒1
となる。これに対応して 𝑃1 と同型な ℝ2 において模倣すると、
𝒙 = 𝑎0 𝒆1 + 𝑎1 𝒆2 ⇒ 𝒙′ = 𝑎1 𝒆1
5
(
となる。行列 𝐴 =
)
0 1
とベクトル 𝒙 ∈ ℝ2 に対して、
0 0
𝑇 (𝒙) = 𝐴𝒙
と定義すると、𝒙′ = 𝑇 (𝒙) が成り立つ。
以上の状況を
𝐷 : 𝑃1 → 𝑃1 ; 𝑓 7→ 𝑓 ′
𝑇 : ℝ2 → ℝ2 ; 𝒙 7→ 𝒙′ = 𝐴𝒙
のように並列に書くと、𝑃1 上での微分操作と ℝ2 上で行列 𝐴 を施す
ことが対応していることがわかる。このことを、微分操作という線
(
)
0 1
型写像 𝐷 は行列 𝐴 =
で表現されたという。
0 0
§1.6
行列の単純化
前節までで、線型性、同型、線型写像の行列表現の 3 つの事柄に
ついて、その “心” を紹介してきた。これらは、今学期・前半の主題
の 1 つである。本節以降では、今学期・後半の目標である行列の単
純化とその効用について、いくつかの例を見ていく。
(
)
−3 10
問. 𝐴 =
の 𝑛 乗 𝐴𝑛 を求めよ。
−3 8
(
答. このままでは大変そうであるが、“奇跡的” に、𝑃 =
)
2 5
と
1 3
いう行列が見つかったら、
(
)
2 0
−1
𝑃 𝐴𝑃 =
0 3
とできる。この行列を 𝐵 とおけば、𝐴 = 𝑃 𝐵𝑃 −1 であるから、
𝐴𝑛 = (𝑃 𝐵𝑃 −1 )(𝑃 𝐵𝑃 −1 ) ⋅ ⋅ ⋅ (𝑃 𝐵𝑃 −1 ) = 𝑃 𝐵 𝑛 𝑃 −1
(
)(
)𝑛 (
)
2 5
2 0
3 −5
=
1 3
0 3
−1 2
(
)(
)(
)
2 5
2𝑛 0
3 −5
=
1 3
0 3𝑛
−1 2
)
(
6 ⋅ 2𝑛 − 5 ⋅ 3𝑛 −10 ⋅ 2𝑛 + 10 ⋅ 3𝑛
=
3 ⋅ 2𝑛 − 3 ⋅ 3𝑛 −5 ⋅ 2𝑛 + 6 ⋅ 3𝑛
となる。行列 𝑃 を見つける作業は奇蹟ではないことが後にわかるで
あろう。
6
§1.7
座標の変換
問. 2 次方程式
𝑥2 − 𝑥𝑦 + 𝑦 2 = 3
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (∘)
はどんな曲線を表すか。
答. 慣れないとすぐにはわからないが、答えは、図 1.1(左)のよう
に、見慣れた楕円を回転させただけの式である。𝑥𝑦 座標系における
⁐

⁐

⁐

⁐

𝑥
ˆ2
𝑦ˆ2
+ √
= 1(右)
( 6)2 ( 2)2
図 1.1: 楕円 𝑥2 − 𝑥𝑦 + 𝑦 2 = 3(左)と楕円 √
式 (∘) は、座標(視点)を変換することにより、𝑥
ˆ𝑦ˆ 座標系において
は標準形
𝑥
ˆ2
𝑦ˆ2
√
√
+
=1
( 6)2 ( 2)2
となる。このような変換の方法(𝑥
ˆ, 𝑦ˆ の見つける方法)を一般化し
て、与えられた 2 次式から、2 次曲線(楕円、双曲線、放物線)や、
2 次曲面(楕円面、放物双曲面、回転放物面)などを「完全に」分
類することができる。
§1.8
明日の運勢は?
問. あなたの運勢の確率が下表のように決まっているとする。
今日の運勢
明日の運勢
確率
良い
良い
悪い
悪い
良い
悪い
良い
悪い
𝑝
1−𝑝
1−𝑞
𝑞
今日の運勢が良いとし、𝑝 = 0.75, 𝑞 = 0.5 としたとき、𝑛 日後の運
勢はどのくらいの確率で良いか。
7
答. 行列 𝐴 とベクトル 𝒙0 をそれぞれ
(
)
(
)
𝑝
1−𝑞
𝑟
𝐴=
, 𝒙0 =
1−𝑝
𝑞
1−𝑟
のように定める。𝒙0 は今日の運勢の確率を表すベクトルで、𝑟 は良
い運勢の確率 (0 ≦ 𝑟 ≦ 1)、1 − 𝑟 は悪い運勢の確率である。これよ
り、明日の運勢の確率を表すベクトルは、
(
)
𝑝𝑟 + (1 − 𝑞)(1 − 𝑟)
𝒙1 = 𝐴𝒙0 =
(1 − 𝑝)𝑟 + 𝑞(1 − 𝑟)
となる。これを続けていくと、𝑛 日後の運勢の確率を表すベクトルは、
𝒙𝑛 = 𝐴𝒙𝑛−1 = 𝐴2 𝒙𝑛−2 = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝐴𝑛 𝒙0
(
と計算される。ここで、§1.6 でみたように “奇跡的” に、𝑃 =
1 1−𝑞
−1 1 − 𝑝
という行列が見つかったら、
(
)
𝑠 0
−1
𝑃 𝐴𝑃 =
= 𝐵 (𝑠 = 𝑝 + 𝑞 − 1)
0 1
となり、
1
𝐴 =
1−𝑠
(
𝑛
1 − 𝑞 + (1 − 𝑝)𝑠𝑛 1 − 𝑞 − (1 − 𝑞)𝑠𝑛
1 − 𝑝 − (1 − 𝑝)𝑠𝑛 1 − 𝑝 + (1 − 𝑞)𝑠𝑛
)
を得る。
( )
1
問題は、𝑝 = 0.75, 𝑞 = 0.5, 𝒙0 =
であるので、
0
1
𝒙𝑛 =
0.75
(
)
0.5 + 0.25𝑠𝑛
,
0.25 − 0.25𝑠𝑛
𝑠 = 0.25,
𝑛 = 1, 2, . . .
となる。したがって、𝑛 日後の運勢は、
2
1
0.5 + 0.25𝑠𝑛
= +
0.75
3 3 ⋅ 4𝑛
の確率で良い。つまり、6 割 6 分以上の確率で良い。
§1.9
主成分分析法
100 人の生徒の英語と数学のテスト結果(共に、100 点満点)、下
図のように、英語の点数は 0 ≤ 𝑥𝑖 ≤ 100, 数学は 60 ≤ 𝑦𝑖 ≤ 80 のよ
うに分布していた。英語のテストは 20 点× 5 問であった。
8
)
scatter plot: 0 <= E <= 100, 60 <= M <= 80
100
90
80
Mathematics
70
60
50
40
30
20
10
0
0
10
20
30
40
50
English
60
70
80
90
100
ここで、単純に合計の平均 𝑧 = (𝑥 + 𝑦)/2 をとると、数学の比重は
英語の 1 問分になってしまう。よって、順位の差が出にくい(下図
(左))。例えば、英語が 20 点で数学が 80 点の人も英語が 40 点で数
学が 60 点の人も同順位である。すなわち、
0.5 ⋅ 20 + 0.5 ⋅ 80 = 50,
0.5 ⋅ 40 + 0.5 ⋅ 60 = 50
である。
projection to eigen direction: 0 <= E <= 100, 60 <= M <= 80
100
90
90
80
80
70
70
60
60
Mathematics
Mathematics
projection to average: 0 <= E <= 100, 60 <= M <= 80
100
50
40
50
40
30
30
20
20
10
10
0
0
0
10
20
30
40
50
English
60
70
80
90
100
0
10
20
30
40
だから、例えば、𝑧 = 𝑥 + 0.2𝑦 とし、重み付き合計点を計算して
やる方が 𝑥, 𝑦 の総合特性値としてはより適切であろう。このとき、
20 + 0.2 ⋅ 80 = 36,
40 + 0.2 ⋅ 60 = 52
である。一般に、𝑧 = 𝑎𝑥 + 𝑏𝑦 とし、𝑥𝑦 平面上の散布図で、分散が
一番大きい方向を 𝑧 方向とするような 𝑎, 𝑏 を見つける方法を主成分
分析法という。
9
50
English
60
70
80
90
100
𝑥, 𝑦 のそれぞれの分散と 𝑥, 𝑦 の共分散をそれぞれ 𝜎𝑥𝑥 , 𝜎𝑦𝑦 , 𝜎𝑥𝑦 とす
る。すなわち、
1∑
=
(𝑥𝑖 −𝑥)2 ,
𝑛 𝑖=1
𝑛
𝜎𝑥𝑥
1∑
=
(𝑦𝑖 −𝑦)2 ,
𝑛 𝑖=1
𝑛
𝜎𝑦𝑦
1∑
=
(𝑥𝑖 −𝑥)(𝑦𝑖 −𝑦)
𝑛 𝑖=1
𝑛
𝜎𝑥𝑦
である。分散共分散行列を 𝑉 とし、𝑧 = 𝑎𝑥 + 𝑏𝑦 としたときの係数
を 𝒂 とする。
(
)
( )
𝜎𝑥𝑥 𝜎𝑥𝑦
𝑎
𝑉 =
, 𝒂=
.
𝜎𝑥𝑦 𝜎𝑦𝑦
𝑏
このとき、𝑧 = 𝑎𝑥 + 𝑏𝑦 の分散 𝜎𝑧𝑧 は 𝜎𝑧𝑧 = 𝑡𝒂𝑉
( 𝒂)と表される。条件
𝛼1
∣𝒂∣2 = 1 のもと、分散 𝜎𝑧𝑧 を最大にする 𝒂 =
が見つかったら、
𝛼2
重み付きの和 𝑧 = 𝛼1 𝑥 + 𝛼2 𝑦 が 𝑥 と 𝑦 の総合特性値として適切であ
ることがわかる。
上図(右)はそのようにして計算した結果の図である。ここで、
𝛼1 = 0.994...,
𝛼2 = 0.107...
である。このとき、例えば、
20𝛼1 + 80𝛼2 = 28.5...,
40𝛼1 + 60𝛼2 = 46.2...
となる。
§1.10
行列の準単純化
(
)
1
5 1
問. 𝐴 =
の 𝑛 乗 𝐴𝑛 を求めよ。
2 −1 7
答. 残念ながら、§1.6 でみたように、与えられた行列 𝐴 に対して、
𝑃 −1 𝐴𝑃 が対角行列になるような行列 𝑃 が見つかるという “奇跡” は
いつもおこるとは限らない。しかし、別の意味で
“奇跡的” に、𝑃 =
(
)
1 −1
という行列が見つかったら、
1
1
(
𝑃
−1
𝐴𝑃 =
)
3 1
0 3
とできる。この行列を 𝐵 とおけば、
)
(
3𝑛 𝑛3𝑛−1
𝑛
𝐵 =
0
3𝑛
であるから、𝐴𝑛 = 𝑃 𝐵 𝑛 𝑃 −1 より、𝐴𝑛 が計算できる。もちろん、こ
の行列 𝑃 を見つける作業も奇蹟ではないことが後にわかる。
10
参考文献
[1] Gauss: The MacTutor History of Mathematics archive
http://turnbull.mcs.st-and.ac.uk/history/Mathematicians/Gauss.html
[2] Hamilton: The MacTutor History of Mathematics archive
http://turnbull.mcs.st-and.ac.uk/history/Mathematicians/Hamilton.html
[3] W. R. Hamilton, “Lectures on quaternions”, Dublin (1853).
[4] Grassmann: The MacTutor History of Mathematics archive
http://turnbull.mcs.st-and.ac.uk/history/Mathematicians/Grassmann.html
[5] 長岡亮介「〈新版〉線型代数学」ブレーン出版(1992)
[6] ブルバキ「数学史」東京図書(1969)
[7] D. E. Smith, “A source book in mathematics”, Dover (1959)
11
第2講
線型空間
本講では線型代数学の舞台である線型空間を導入する。いままで、
『ベクトルとは平行して重なる有向線分を同一視したもの』と定義し
ていたが、本講では、以下で紹介する『線型空間の公理の性質を満 公理の定義は 1 学期の
たす集合の要素をベクトル』と定義するといったスタイルを導入す 序文「はじめに」を参
照。
る。このスタイルの特徴は、ベクトルが何者かを直接与えることを
せずに、公理の性質を満たす集合の要素は全てベクトルと呼ぶ点で
ある。したがって、“行列、数列、関数など” もそれらの集合が公理
の性質を満たせば “ベクトル” と呼ばれる。このようなアプローチに
より、個々の事例にとらわれずに演算の “構造” を理解しようするこ
とは現代数学の基本的態度である。
§2.1
線型空間の公理
集合 𝑉 が次の性質 ((I):(1)∼(4), (II):(1)∼(4)) を満たすとき、
𝑉 を 𝐾 上の線型空間(ベクトル空間(vector space))と呼び、𝑉
の要素をベクトル(vector)、𝐾 の要素をスカラー(scalar)と呼
ぶ。𝐾 が ℂ のときは複素線型空間、𝐾 が ℝ のときは実線型空間と ℂ: 複素数(Complex
numbers)全体の集合
いう。
(I) 任意の 𝒙, 𝒚 ∈ 𝑉 に対して、和 𝒙 + 𝒚 ∈ 𝑉 が定義されている。こ
の演算を加法といい、任意の 𝒙, 𝒚, 𝒛 ∈ 𝑉 に対して、次の 4 つの性質
が成り立つ。
(1) 𝒙 + 𝒚 = 𝒚 + 𝒙(交換法則)
(2) (𝒙 + 𝒚) + 𝒛 = 𝒙 + (𝒚 + 𝒛)(結合法則)
(3) ある 𝒏 ∈ 𝑉 が存在して、任意の 𝒙 ∈ 𝑉 に対して、
𝒙+𝒏=𝒙
が成り立つ。𝒏 を零ベクトルと呼び、通常 0 と表す。
(4) 任意の 𝒙 ∈ 𝑉 に対して、
𝒙 + 𝒙′ = 0
となる 𝒙′ ∈ 𝑉 が存在する。𝒙′ を 𝒙 の逆ベクトルと呼び、通常
−𝒙 と表す。
(II) 任意の 𝒙 ∈ 𝑉 , 及び任意の 𝛼 ∈ 𝐾 に対して、スカラー倍 𝛼𝒙 ∈ 𝑉
が定義されている。この演算をスカラー乗法といい、任意の 𝒙, 𝒚 ∈ 𝑉 ,
及び任意の 𝛼, 𝛽 ∈ 𝐾 に対して、次の 4 つの性質が成り立つ。
(1) 𝛼(𝒙 + 𝒚) = 𝛼𝒙 + 𝛼𝒚
12
ℝ: 実数(Real
numbers)全体の集合
(2) (𝛼 + 𝛽)𝒙 = 𝛼𝒙 + 𝛽𝒙
(3) 𝛼(𝛽𝒙) = (𝛼𝛽)𝒙
(4) 1𝒙 = 𝒙
§2.2
諸注意
注 1. 結合法則より、(I)(2) における括弧は必要なくなる。
注 2. 交換法則 (I)(1) より、(I)(3) や (I)(4) が成り立てば、
𝒙 + 0 = 0 + 𝒙 = 𝒙,
𝒙 + (−𝒙) = (−𝒙) + 𝒙 = 0
がそれぞれ成り立つ。
注 3. 線型空間 𝑉 の任意の要素 𝒙, 𝒚 に対して、減法が次のように定
義される。
𝒙 − 𝒚 = 𝒙 + (−𝒚)
注 4. 零ベクトルは、存在すれば一意である。実際、二つの零ベクト
ル 0, 0′ ∈ 𝑉 が存在したとすると、
0′ = 0′ + 0 = 0
であるから、0′ = 0 である。
注 5. 𝒙 ∈ 𝑉 の逆ベクトル −𝒙 は、存在すれば一意である。実際、任
意の 𝒙 ∈ 𝑉 に対し、二つの逆ベクトル 𝒙′ , 𝒙′′ ∈ 𝑉 が存在したとす
ると、
𝒙′′ = 𝒙′′ + 0 = 𝒙′′ + (𝒙 + 𝒙′ ) = (𝒙′′ + 𝒙) + 𝒙′ = 0 + 𝒙′ = 𝒙′
であるから、𝒙′′ = 𝒙′ である。
注 6. 0𝒙 = 0 が成り立つ。実際、
0𝒙 = 0 は自明でない!
𝒙 = 1𝒙 = (1 + 0)𝒙 = 1𝒙 + 0𝒙 = 𝒙 + 0𝒙
と、零ベクトルの一意存在性から、0𝒙 = 0 が成り立つ。左辺は 𝒙 の
0 倍、右辺は零ベクトルであるので、この両辺は概念的に全く異な
るものである。
注 7. (−1)𝒙 = −𝒙 が成り立つ。実際、
0 = 0𝒙 = (1 + (−1))𝒙 = 1𝒙 + (−1)𝒙 = 𝒙 + (−1)𝒙
と、逆ベクトルの一意存在性から、(−1)𝒙 = −𝒙 が成り立つ。左辺
は 𝒙 の −1 倍、右辺は 𝒙 の逆ベクトルであるので、この両辺は概念
的に全く異なるものである。
13
(−1)𝒙 = −𝒙 は自明で
ない!
問題 1. 𝑉 = ℝ とすると、加法は実数の足し算、スカラー乗法は掛
け算にすぎない。このとき、上の公理に不自然な点はないことを納
得せよ。
問題 2. 加法の記号を ⊕, スカラー乗法の記号を ⊗ として、上の公 和は 𝒙 ⊕ 𝒚, スカラー倍
は 𝛼 ⊗ 𝒙 と表せという
理を書き直してみよ。例えば、(II)(2) は、
ことである。スカラー 𝑎
と 𝑏 の和は 𝑎 + 𝑏, 積は
𝑎 × 𝑏 = 𝑎𝑏 と表す。公理
の加法、スカラー乗法に
も同じ記号を流用して
いる。
(𝛼 + 𝛽) ⊗ 𝒙 = 𝛼 ⊗ 𝒙 ⊕ 𝛽 ⊗ 𝒙
(II)(3) は、
𝛼 ⊗ (𝛽 ⊗ 𝒙) = (𝛼 × 𝛽) ⊗ 𝒙
となる。
問題 3. 加法の記号を ⊕, 減法の記号を ⊖, スカラー乗法の記号を ⊗
として、上の諸注意の中の各式を書き直してみよ。例えば、注 6 は、
0 ⊗ 𝒙 = 0 であり、それは、
𝒙 = 1 ⊗ 𝒙 = (1 + 0) ⊗ 𝒙 = 1 ⊗ 𝒙 ⊕ 0 ⊗ 𝒙 = 𝒙 ⊕ 0 ⊗ 𝒙
からその成立がわかる。
§2.3
線型空間の例 1
ℝ の要素を成分とする 𝑛 次列ベクトル全体を ℝ𝑛 とおく。
⎫
⎧⎛ ⎞
𝑥


1


⎬
⎨⎜ 𝑥 ⎟
2
𝑛
⎜
⎟
ℝ = ⎝ .. ⎠ ; 𝑥1 , 𝑥2 , . . . , 𝑥𝑛 ∈ ℝ .


.


⎩
⎭
𝑥𝑛
集合 ℝ𝑛 において、和とスカラー倍を次のように定義する。
⎞
⎛ ⎞ ⎛
⎞
⎛ ⎞ ⎛ ⎞ ⎛
𝑥1
𝛼𝑥1
𝑦1
𝑥1 + 𝑦 1
𝑥1
⎜ ⎟ ⎜ 2⎟
⎜ 𝑥 2 ⎟ ⎜ 𝑦 2 ⎟ ⎜ 𝑥2 + 𝑦 2 ⎟
⎟
⎜ . ⎟ + ⎜ . ⎟ = ⎜ . ⎟ , 𝛼 ⎜ 𝑥.2 ⎟ = ⎜ 𝛼𝑥
⎝ .. ⎠ ⎝ ... ⎠ .
⎝ .. ⎠ ⎝ .. ⎠ ⎝ .. ⎠
𝑥𝑛
𝑦𝑛
𝑥𝑛 + 𝑦 𝑛
𝑥𝑛
𝛼𝑥𝑛
このとき、集合 ℝ𝑛 が ℝ 上の線型空間をなすことは、線型空間の公
理 (I)(II) の全てをチェックすることによって確認される。ここで、零
⎞
⎛
⎛ ⎞ ⎛ ⎞
−𝑥1
0
𝑥1
.
.
.
ベクトルは ⎝ .. ⎠, ⎝ .. ⎠ の逆ベクトルは ⎝ .. ⎠ である。
−𝑥𝑛
𝑥𝑛
0
注. ℝ𝑛 は 𝑛 次元ユークリッド空間(Euclidean space)と呼ばれる。 1 学期・第 2 講参照。
2 次元ユークリッド空間 ℝ2 の要素は「平面ベクトル」、3 次元ユー
クリッド空間 ℝ3 の要素は「空間ベクトル」に相当する。
14
問題 4. ℝ の要素を成分とする 𝑚×𝑛 型行列全体の集合を ℳ(𝑚, 𝑛; ℝ)
とおく。
⎧⎛
⎫
⎞
⎨ 𝑎11 ⋅ ⋅ ⋅ 𝑎1𝑛
⎬
.
.
⎝
⎠
.
.
ℳ(𝑚, 𝑛; ℝ) =
; 𝑎𝑖𝑗 ∈ ℝ, 1 ≤ 𝑖 ≤ 𝑚, 1 ≤ 𝑗 ≤ 𝑛 .
. ⋅⋅⋅
.
⎩
⎭
𝑎𝑚1 ⋅ ⋅ ⋅ 𝑎𝑚𝑛
集合 ℳ(𝑚, 𝑛; ℝ) は、通常の行列の和とスカラー倍(実数倍)につい
て、ℝ 上の線型空間をなすことを確認せよ。
§2.4
線型空間の例 2
ℝ から ℝ への関数全体のなす集合を ℱ とする。任意の 𝑓, 𝑔 ∈ ℱ と
任意の 𝛼 ∈ ℝ について、和 𝑓 + 𝑔 とスカラー倍 𝛼𝑓 を、任意の 𝑥 ∈ ℝ
に対して、
(𝑓 + 𝑔)(𝑥) = 𝑓 (𝑥) + 𝑔(𝑥),
(𝛼𝑓 )(𝑥) = 𝛼𝑓 (𝑥)
と定義する。このとき、集合 ℱ は ℝ 上の線型空間をなす(これを関
数空間という)。実際、公理 (I)(1)(2) はよいであろう。零ベクトル
としては、恒等的に 0 である関数をとり、関数 𝑓 の逆ベクトルとし
ては、任意の 𝑥 ∈ ℝ に対して、𝑓¯(𝑥) = −𝑓 (𝑥) と定義される関数 𝑓¯ を
とればよい。公理 (II) についても一つ一つ確認していけばよい。公
理より 0𝑓 = 𝑛, (−1)𝑓 = 𝑓¯ を導くことも容易である。
注. 関数 𝑓¯ を −𝑓 と表し、𝑛(𝑥) = 0(𝑥) と表せば、𝑓 − 𝑓 = 0 である。
もちろん、これは関数 𝑓 、すなわち ℱ の要素としてのベクトルと 𝑓
の逆ベクトルの和が零ベクトルに等しいということ、すなわち定義
から、任意の 𝑥 について 𝑓 (𝑥) − 𝑓 (𝑥) = 0(𝑥) が成り立つことを示し
ているのであり、したがって、実数の引き算、例えば 3 − 3 = 0 と
は全く異なる集合上での演算である。しかし、3 − 3 = 0 の計算と
𝑓 − 𝑓 = 0 の計算を混同しても間違いはおこらない。その理由は ℱ
と ℝ が共に「線型空間」をなしているからで、お陰で、集合上の差
異を意識することなく、慣れ親しんだ計算と同様に計算ができるの
である。加えて、記号法のマジックである。
§2.5
線型空間の例 3
実数列全体の集合を 𝒫 とおく。
𝒫 = {{𝑎𝑛 }; 𝑎𝑛 ∈ ℝ, 𝑛 ∈ ℕ} .
任意の {𝑎𝑛 }, {𝑏𝑛 } ∈ 𝒫 と 𝛼 ∈ ℝ に対し、数列の和 {𝑎𝑛 } + {𝑏𝑛 } と数
列のスカラー倍 𝛼{𝑎𝑛 } を、それぞれ
{𝑎𝑛 } + {𝑏𝑛 } = {𝑎𝑛 + 𝑏𝑛 },
𝛼{𝑎𝑛 } = {𝛼𝑎𝑛 }
15
𝑓, 𝑔 ∈ ℱ に対して、𝑓 =
𝑔 とは、任意の 𝑥 ∈ ℝ
に対して、𝑓 (𝑥) = 𝑔(𝑥)
が成り立つことと定義
する。
恒等的に 0 である関数
の特別な記号はないの
で、仮に 𝑛(𝑥) = 0 とで
もしておけばよい。
と定義する。このとき、集合 𝒫 は ℝ 上の線型空間をなす(これを数
列空間という)。
実際、公理 (I)(1) は、
({𝑎𝑛 } + {𝑏𝑛 }) + {𝑐𝑛 } = {𝑎𝑛 + 𝑏𝑛 } + {𝑐𝑛 } = {(𝑎𝑛 + 𝑏𝑛 ) + 𝑐𝑛 }
= {𝑎𝑛 + (𝑏𝑛 + 𝑐𝑛 )} = {𝑎𝑛 } + {𝑏𝑛 + 𝑐𝑛 } = {𝑎𝑛 } + ({𝑏𝑛 } + {𝑐𝑛 })
のようにして、満たされることがわかる。(2) も同様である。公理
(I)(3) は、零ベクトルとして 0 が並んだ数列(そのような記号はな
いので、仮に {𝑧𝑛 } : 𝑧1 = 0, 𝑧2 = 0, . . . とする。)をとればよい。公
理 (I)(4) は、{𝑎𝑛 } の逆ベクトルとして、{𝑎𝑛 } = {−𝑎𝑛 } と定義され
る数列 {𝑎𝑛 } をとればよい。公理 (II) についてはよいであろう。
注. {𝑧𝑛 } = {0}, {𝑎𝑛 } = −{𝑎𝑛 } などと表すと、なおのことわかりや
すい。
§2.6
線型空間の例 4
零ベクトル 0 だけからなる集合を 𝑉 とする。このとき、和とスカ
ラー倍をそれぞれ
0+0=0
𝛼0 = 0
と定義する。ここで 𝛼 ∈ 𝐾 はスカラーである。このとき、𝑉 = {0}
は 𝐾 上の線型空間をなす。
問題 5. “私” だけからなる集合を 𝑉 とする。このとき、和とスカ
ラー倍をそれぞれ
私+私=私
𝛼私 = 私
と定義する。ここで 𝛼 ∈ 𝐾 はスカラーである。このとき、𝑉 = { 私 }
は 𝐾 上の線型空間をなすことを示せ。
注. 以上の例と問題からわかるように、数ベクトル以外に、行列、関
数、数列、そして私もベクトル!と見なすことができる。
§2.7
部分空間
𝐾 上の線型空間 𝑉 の部分集合 𝑊 が、𝑉 と同じ演算によってそれ
自身線型空間をなすならば、𝑊 は 𝑉 の線型部分空間(vector subspace)、もしくは略して部分空間と呼ぶ。𝑊 (∕= ∅) が部分空間をな ∅ は空集合(empty
16
set)、すなわち要素が
一つもない集合を表す
記号。𝑊 ∕= ∅ は 𝑊 は
空集合でないという
こと。
すかどうかの判定は、公理 (I)(II) の全てにわたって調べる必要はな
い。実は、次の 2 つの条件が必要十分である。
(i) 𝒙, 𝒚 ∈ 𝑊 ⇒ 𝒙 + 𝒚 ∈ 𝑊 ;
(ii) 𝒙 ∈ 𝑊, 𝛼 ∈ 𝐾 ⇒ 𝛼𝒙 ∈ 𝑊.
実際、必要性は明らかなので、十分性をチェックすればよい。まず、
𝑊 は 𝑉 の部分集合、かつ和とスカラー倍について閉じていること
から、公理 (I)(1)(2) と (II)(1)∼(4) は成立する。(I)(3)(4) がさしあ
たり不明である。しかし条件 (ii) で、𝛼 = 0 とおけば、0𝒙 = 0 ∈ 𝑊
であることがわかり、また、𝛼 = −1 とおけば、(−1)𝒙 = −𝒙 ∈ 𝑊
であることがわかる。
問題 6. 以下の真偽を判定せよ。
(1) 0 ∕∈ 𝑊 であれば、𝑊 は部分空間をなさない。
(2) 𝒙, 𝒚 ∈ 𝑊 , 𝛼 ∈ 𝐾 に対し、𝒙 − 𝒚 ∈ 𝑊 , かつ 𝛼𝒙 ∈ 𝑊 ならば、
𝑊 は部分空間をなす。
(3) {0} は 𝑉 の部分空間である。
(4) 𝑉 は 𝑉 の部分空間である。
(5) 𝒙, 𝒚 ∈ 𝑊 , 𝛼, 𝛽 ∈ 𝐾 に対し、𝛼𝒙 + 𝛽𝒚 ∈ 𝑊 ならば、𝑊 は部分
空間をなす。
§2.8
部分空間の例 1
例. 実 𝑛 次正方行列全体の集合 ℳ(𝑛; ℝ) = ℳ(𝑛, 𝑛; ℝ) の部分集合の
中で、対称行列全体の集合を 𝒮, 交代行列全体の集合を 𝒜, 上三角行
列全体の集合を 𝒰 とそれぞれ定めると、これらはいずれも ℳ(𝑛; ℝ)
の部分空間である。
問題 7. 上の例を確かめよ。
問. 𝒫 は §2.5 と同じとする。このとき、
𝐺𝜆 = {{𝑎𝑛 } ∈ 𝒫; 𝑎𝑛+1 = 𝜆𝑎𝑛 (𝑛 ∈ ℕ)}
とすると、𝐺𝜆 は 𝒫 の部分空間をなすことを示せ。また、
𝐴𝜆 = {{𝑎𝑛 } ∈ 𝒫; 𝑎𝑛+1 = 𝑎𝑛 + 𝜆 (𝑛 ∈ ℕ)}
は、𝜆 ∕= 0 のとき 𝒫 の部分空間をなさないことを示せ。
答. 𝐺𝜆 ⊂ 𝒫 であり、{𝑎𝑛 }, {𝑏𝑛 } ∈ 𝐺𝜆 に対し、𝑎𝑛+1 + 𝑏𝑛+1 = 𝜆𝑎𝑛 +
𝜆𝑏𝑛 = 𝜆(𝑎𝑛 + 𝑏𝑛 ) より、{𝑎𝑛 } + {𝑏𝑛 } = {𝑎𝑛 + 𝑏𝑛 } ∈ 𝐺𝜆 である。また、
17
0 ∈ 𝑉 だが、0 ∈ 𝑊 で
あるかどうか不明。ま
た、𝒙 ∈ 𝑊 に対して、
−𝒙 ∈ 𝑉 ではあるが、
−𝒙 ∈ 𝑊 かどうか
不明。
𝛼 ∈ ℝ に対し、𝛼𝑎𝑛+1 = 𝛼𝜆𝑎𝑛 = 𝜆(𝛼𝑎𝑛 ) より、𝛼{𝑎𝑛 } = {𝛼𝑎𝑛 } ∈ 𝐺𝜆
である。∴ 𝐺𝜆 は部分空間。
次に、𝐴𝜆 ⊂ 𝒫 であるが、{𝑎𝑛 }, {𝑏𝑛 } ∈ 𝐴𝜆 に対し、𝑎𝑛+1 + 𝑏𝑛+1 =
𝑎𝑛 + 𝜆𝑎𝑛 + 𝑏𝑛 + 𝜆 = 𝑎𝑛 + 𝑏𝑛 + 2𝜆 より、𝜆 ∕= 0 のとき、{𝑎𝑛 } + {𝑏𝑛 } =
{𝑎𝑛 + 𝑏𝑛 } ∕∈ 𝐴𝜆 , 𝜆 = 0 のとき、{𝑎𝑛 } + {𝑏𝑛 } ∈ 𝐴0 である。また、
𝛼 ∈ ℝ に対し、𝛼𝑎𝑛+1 = 𝛼(𝑎𝑛 + 𝜆) = 𝛼𝑎𝑛 + 𝛼𝜆 より、𝜆 ∕= 0 のとき、
𝛼{𝑎𝑛 } = {𝛼𝑎𝑛 } ∕∈ 𝐴𝜆 , 𝜆 = 0 のとき、𝛼{𝑎𝑛 } ∈ 𝐴0 である。よって、
𝐴0 は 𝒫 の部分空間をなし、𝐴𝜆 (𝜆 ∕= 0) は部分空間をなさない。
§2.9
部分空間の例 2
𝑎1 , 𝑎2 , . . . , 𝑎𝑛 を与えられた実定数とし、少なくとも一つは 0 でな
いとする。すなわち、(𝑎1 , 𝑎2 , . . . , 𝑎𝑛 ) ∕= (0, 0, . . . , 0) であるとする。
このとき、ℝ 上の線型空間
⎫
⎧⎛ ⎞
𝑥


1


⎬
⎨
⎜
⎟
𝑥
2
𝑛
⎜
⎟
ℝ = ⎝ .. ⎠ ; 𝑥1 , 𝑥2 , . . . , 𝑥𝑛 ∈ ℝ


.


⎭
⎩
𝑥𝑛
において、
⎧⎛ ⎞
⎫
𝑥


1


⎨⎜ 𝑥 ⎟
⎬
2⎟
𝑛
𝑛
⎜
𝐻𝑐 = ⎝ .. ⎠ ∈ ℝ ; 𝑎1 𝑥1 + 𝑎2 𝑥2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑛 𝑥𝑛 = 𝑐


.


⎩
⎭
𝑥𝑛
とおくと、(𝑐 = 0 のときの)𝐻0𝑛 は部分空間をなすが、𝑐 ∕= 0 のと
⎛ ⎞ ⎛ ⎞
𝑥1
𝑦1
⎜
⎟
⎜
𝑥 2 ⎟ ⎜ 𝑦2 ⎟
𝑛
⎟
き、𝐻𝑐𝑛 は部分空間をなさない。実際、任意の ⎜
⎝ ... ⎠ , ⎝ ... ⎠ ∈ 𝐻𝑐
𝑥𝑛
𝑦𝑛
と 𝛼 ∈ ℝ に対して、
𝑎1 (𝑥1 + 𝑦1 ) + 𝑎2 (𝑥2 + 𝑦2 ) + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑛 (𝑥𝑛 + 𝑦𝑛 ) = 2𝑐
𝑎1 (𝛼𝑥1 ) + 𝑎2 (𝛼𝑥2 ) + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑛 (𝛼𝑥𝑛 ) = 𝛼(𝑎1 𝑥1 + 𝑎2 𝑥2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑛 𝑥𝑛 ) = 𝛼𝑐
であるので、𝐻𝑐𝑛 は 𝑐 = 0 のときのみ和とスカラー倍について閉じる。
注. 𝐻𝑐3 は ℝ3 内で平面をなす。このアナロジーで、𝐻𝑐𝑛 を ℝ𝑛 の超平 アナロジー [analogy] =
面(hyperplane)と呼ぶ。𝐻𝑐2 は平面 ℝ2 内の直線だが、これも特 類推
別な平面とみなす。また、𝐻0𝑛 は原点を通る超平面であり、部分空間
をなす。原点を通らない超平面 𝐻𝑐𝑛 (𝑐 ∕= 0) は、零ベクトルがその要
素に含まれず部分空間にならない。
18
§2.10
部分集合と部分空間
部分集合と部分空間は初学者は混同しがちである。部分集合は全
体集合の一部の集まりに過ぎないが、部分空間は全体空間の構造を
もった部分集合であることに注意しよう。
問題 8. 以下の ℝ 上の線型空間 ℝ3 の部分集合のうち、ℝ3 の部分空
間をなすものを選べ。
⎫
⎫
⎧⎛ ⎞
⎧⎛ ⎞
⎬
⎬
⎨ 𝑥
⎨ 𝑥
⎠
⎠
⎝
⎝
(2) 𝑊2 =
(1) 𝑊1 =
𝑦 ; ∣𝑥∣ ≤ 1, ∣𝑦∣ ≤ 1, ∣𝑧∣ ≤ 1
𝑦 ; 𝑥+𝑦+𝑧 =1
⎭
⎭
⎩ 𝑧
⎩ 𝑧
⎧⎛ ⎞
⎫
⎧⎛ ⎞
⎫
⎨ 𝑥
⎬
⎨ 𝑥
𝑥
𝑦
𝑧⎬
⎝
⎠
⎝
⎠
(3) 𝑊3 =
(4) 𝑊4 =
= =
𝑦 ; 𝑥𝑦𝑧 = 1
𝑦 ;
⎩
⎭
⎩
2
3
4⎭
𝑧
𝑧
⎧⎛ ⎞
⎫
⎧⎛ ⎞
⎫
⎨ 𝑥
⎬
⎨ 𝑥
⎬
2
2
2
⎝
⎠
⎝
⎠
(5) 𝑊5 =
(6) 𝑊6 =
𝑦 ; 𝑥 +𝑦 +𝑧 =1
𝑦 ; 𝑥=𝑦=𝑧
⎩
⎭
⎩
⎭
𝑧
𝑧
⎫
⎫
⎧⎛ ⎞
⎧⎛ ⎞
⎬
⎬
⎨ 𝑥
⎨ 𝑥
(8) 𝑊8 = ⎝𝑦 ⎠ ; 𝑥2 + 𝑦 2 + 𝑧 2 < 1
(7) 𝑊7 = ⎝𝑦 ⎠ ; 𝑥 − 1 = 𝑦 = 𝑧
⎭
⎭
⎩
⎩
𝑧
𝑧
§2.11
線型結合
𝑉 を ℝ 上の線型空間とする。このとき、𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ∈ 𝑉 , 𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑚 ∈
ℝ に対し、
𝜆1 𝒂1 + 𝜆2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆𝑚 𝒂𝑚
を 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 の線型結合(1 次結合(linear combination))と
いう。
例. 関数空間 ℱ の要素 𝒂1 , 𝒂2 , . . .
§2.4 参照。
𝒂𝑘 : 𝑥 7→ sin 𝑘𝑥 (𝑘 = 1, 2, . . .)
に対して、
𝜆1 𝒂1 + 𝜆2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆𝑛 𝒂𝑛
は 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 の線型結合である。ここで、例えば、
{
0
(𝑘 は偶数)
(𝑘 = 1, 2, . . . , 𝑛)
𝜆𝑘 =
4/𝑘𝜋 (𝑘 は奇数)
としたときの 𝑛 = 2N − 1 までの 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 の線型結合が表す関
数を 𝑆N とすると、𝑆N は実質 N 項の和となる。
(
)
4
sin(2N − 1)𝑥
sin 3𝑥 sin 5𝑥
𝑆N (𝑥) =
+
+ ⋅⋅⋅ +
sin 𝑥 +
𝜋
3
5
2N − 1
19
図 2.1 は、𝑆N (𝑥) と周期 2𝜋 の周期関数
{
−1 (−𝜋 < 𝑥 < 0)
𝑓 (𝑥) =
1 (0 < 𝑥 < 𝜋)
f(x)
のグラフを合わせて描いたものである。 N を大きくしていくと、
N=1
N=2
N=3
N=4
N = 10
N = 100
図 2.1: 𝑆N (N = 1, 2, 3, 4, 10, 100) と 𝑓 のグラフ.
𝑆N (𝑥) は 𝑓 (𝑥) に近づいていく様子が見てとれる。実際、N → ∞ の
とき、𝑆N (𝑥) は 𝑓 (𝑥) に収束することがフーリエ級数の理論でわかっ
ている。
1 学期第 1 講 §1.9、ある
いは基礎解析・2 学期第
9 講参照。
§2.12
張られる空間
与えられた 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ∈ 𝑉 に対し、これらの線型結合で表さ
れるベクトル全体の集合を 𝑆 とおく。
𝑆 = {𝜆1 𝒂1 + 𝜆2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆𝑚 𝒂𝑚 ; 𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑚 ∈ ℝ}.
このとき、𝑆 は 𝑉 の部分空間をなす。
実際、𝑆 の任意の要素 𝒙 = 𝜆1 𝑎1 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆𝑚 𝑎𝑚 , 及び 𝒚 = 𝜇1 𝑎1 +
⋅ ⋅ ⋅ + 𝜇𝑚 𝑎𝑚 に対して、𝒙 + 𝒚 = (𝜆1 + 𝜇1 )𝑎1 + ⋅ ⋅ ⋅ + (𝜆𝑚 + 𝜇𝑚 )𝑎𝑚 ∈ 𝑆
であり、また、𝛼 ∈ ℝ に対し、𝛼𝒙 = (𝛼𝜆1 )𝑎1 + ⋅ ⋅ ⋅ + (𝛼𝜆𝑚 )𝑎𝑚 ∈ 𝑆
が成り立つ。
定義. この 𝑆 を 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 で張られる(もしくは、生成される)
空間と呼び、
The set 𝑆 is the span
of subspace generated
by vectors
𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ∈ 𝑉 .
span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ]
20
あるいは、
𝐺(𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ),
{{𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 }},
[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ]
などと表す。
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
1
0
1
例. ℝ3 のベクトル 𝒂1 = ⎝0⎠, 𝒂2 = ⎝−1⎠, 𝒂3 = ⎝−1⎠ に対し、
0
1
1
⎧⎛
⎫
⎞
⎨ 𝜆1 + 𝜆3
⎬
span[𝒂1 , 𝒂2 , 𝒂3 ] = ⎝−𝜆2 − 𝜆3 ⎠ ; 𝜆1 , 𝜆2 , 𝜆3 ∈ ℝ
⎩ 𝜆 +𝜆
⎭
2
3
⎧⎛
⎫
⎞
⎨ 𝜇1
⎬
⎝
⎠
=
−𝜇2 ; 𝜇1 , 𝜇2 ∈ ℝ
⎩
⎭
𝜇2
= span[𝒂1 , 𝒂2 ]
であるので、𝒂1 , 𝒂2 , 𝒂3 で張られる空間は、𝒂1 , 𝒂2 で張られる空間に
等しい。実際、𝒂3 = 𝒂1 + 𝒂2 であるので、𝒂1 , 𝒂2 で張られる空間の
生成に 𝒂3 は寄与しない。
注. span[𝒂1 , 𝒂2 ] は ℝ3 において、𝒂1 と 𝒂2 を含む平面を表す。これが
「𝒂1 , 𝒂2 の 張る 空間」と呼ぶ由来である。
問. 𝑉 を ℝ 上の線型空間とする。𝑉 の要素 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 で張られ
る空間 span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ] に 𝒃 が含まれていれば、
span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 , 𝒃] = span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ]
であることを示せ。
答. 包含関係 span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 , 𝒃] ⊃ span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ] は明らか
であろう。実際、𝒙 ∈ span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ] ならば、
𝒙 = 𝜆1 𝒂1 + 𝜆2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆𝑚 𝒂𝑚 = 𝜆1 𝒂1 + 𝜆2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆𝑚 𝒂𝑚 + 0𝒃
より、𝒙 ∈ span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 , 𝒃] である。
逆に、𝒙 ∈ span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 , 𝒃] ならば、𝒃 ∈ span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ]
より、
𝒃 = 𝜆 1 𝒂1 + 𝜆 2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆 𝑚 𝒂𝑚
と書け、ゆえに、
𝒙 = 𝜇1 𝒂1 +⋅ ⋅ ⋅+𝜇𝑚 𝒂𝑚 +𝜇𝑚+1 𝒃 = (𝜇1 +𝜇𝑚+1 𝜆1 )𝒂1 +⋅ ⋅ ⋅+(𝜇𝑚 +𝜇𝑚+1 𝜆𝑚 )𝒂𝑚
より、𝒙 ∈ span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ] である。よって、逆の包含関係
span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 , 𝒃] ⊂ span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ]
が成り立つ。
∴ span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 , 𝒃] = span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ] である。
21
第3講
線型独立性と基底
線型空間を張るベクトルの組、いわば骨組みについて調べる。そ
して、その骨組みとなるベクトルの個数がいわゆる次元と呼ばれる
ものであることをみる。
§3.1
線型独立性
線型空間 𝑉 の要素 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 について、少なくとも 1 つは残
りの 𝑚 − 1 個の線型結合で表されるとき、𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 は線型従
属(1 次従属(linearly dependent))であるという。そうでない
とき、線型独立(1 次独立(linearly independent))であるとい
う。言い換えると、次の定理になる。
定理. 以下の同値な条件がそれぞれ成り立つ。
(1) 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 が線型従属である。
{
𝜆 1 𝒂1 + 𝜆 2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆 𝑚 𝒂𝑚 = 0
⇔
となる 𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑚 が存在する。
(𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑚 ) ∕= (0, 0, . . . , 0)
(2) 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 が線型独立である。
⇔ 𝜆1 𝒂1 + 𝜆2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆𝑚 𝒂𝑚 = 0 ならば (𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑚 ) = (0, 0, . . . , 0) である。
問題 1. 上の定理が線型従属と線型独立の定義の言い換えになって
いることを確認せよ。
§3.2
ℝ2 における線型独立性
問. ℝ2 において、次のベクトルの組 𝒂, 𝒃 の線型独立性を判定せよ。
(
)
(
)
12
7+𝑘
𝒂=
, 𝒃=
7−𝑘
4
{
12𝛼 + (7 + 𝑘)𝛽 = 0
答. 𝛼𝒂 + 𝛽𝒃 = 0 とおくと、
より、上の式を 4
(7 − 𝑘)𝛼 + 4𝛽 = 0
{
48𝛼 + (28 + 4𝑘)𝛽 = 0
倍、下の式を 7+𝑘 倍すると、
となる。
(49 − 𝑘 2 )𝛼 + (28 + 𝑘)𝛽 = 0
上の式から下の式を引いて、(𝑘 2 − 1)𝛼 = 0 を得る。よって、𝑘 ∕= ±1
ならば 𝛼 = 0 である。これより、𝛽 = 0 を得る。𝑘 = 1 のときは、上
の式も下の式も 3𝛼 + 2𝛽 = 0 となり、𝑘 = −1 のときは、上の式も下
の式も 2𝛼 + 𝛽 = 0 となるので、(𝛼, 𝛽) ∕= (0, 0) である適当な 𝛼, 𝛽 を
用いて、𝛼𝒂 + 𝛽𝒃 = 0 とすることができる。∴ 𝒂, 𝒃 は、𝑘 ∕= ±1 の 実際、例えば、𝑘 = 1 の
ときは、−2𝒂 + 3𝒃 = 0,
とき線型独立、𝑘 = ±1 のとき線型従属である。
𝑘 = −1 のときは、−𝒂+
2𝒃 = 0 である。
22
注. 𝒂, 𝒃 ∈ ℝ2 について、𝛼𝒂 + 𝛽𝒃 = 0 とおく。𝛼 ∕= 0 とすると、
𝛽
𝛼
𝒂 = − 𝒃, 𝛽 ∕= 0 とすると、𝒃 = − 𝒂 であるから、(𝛼, 𝛽) ∕= (0, 0)
𝛼
𝛽
のとき、𝒂, 𝒃 のどちらか一方が他方のスカラー倍で表される。この
とき、𝒂, 𝒃 は線型従属である。したがって、𝒂, 𝒃 が線型独立である
とき、いずれの一方も他方のスカラー倍では表されない。ゆえに、
𝒂, 𝒃 ∈ ℝ2 が線型従属 ⇔ 𝒂, 𝒃 ∈ ℝ2 が同一直線上にある
𝒂, 𝒃 ∈ ℝ2 が線型独立 ⇔ 𝒂, 𝒃 ∈ ℝ2 が同一直線上にない
という幾何学的解釈ができる。
( )
( )
𝑎
𝑏
2
問. ℝ のベクトル 𝒂1 =
, 𝒂2 =
について、𝒂1 , 𝒂2 が線型独
𝑐
𝑑
立であるためには、𝑎𝑑 − 𝑏𝑐 ∕= 0 が必要十分であることを示せ。
{
𝑎𝛼 + 𝑏𝛽 = 0
答. 𝛼𝒂1 + 𝛽𝒂2 = 0 とする。よって、
すなわち、𝛼, 𝛽
𝑐𝛼 + 𝑑𝛽 = 0
(
)( ) ( )
𝑎 𝑏
𝛼
0
についての連立 1 次方程式
=
が成り立つ。
𝑐 𝑑
𝛽
0
(必要性)𝒂1 , 𝒂2 は線型独立であるとする。このとき、𝑎𝑑−𝑏𝑐 = 0 とす
ると、自明解 𝛼 = 𝛽 = 0 以外の解が存在するので矛盾。∴ 𝑎𝑑−𝑏𝑐 ∕= 0.
(
)
𝑎 𝑏
(十分性)𝑎𝑑 − 𝑏𝑐 ∕= 0 とすると、行列
は正則なので逆行列
𝑐 𝑑
( ) ( )
𝛼
0
をもち、
=
. すなわち、𝒂1 , 𝒂2 は線型独立である。
𝛽
0
( )
( )
𝑎
𝑏
問題 2. ℝ のベクトル 𝒂1 =
, 𝒂2 =
について、𝑎𝑑 − 𝑏𝑐 ∕= 0
𝑐
𝑑
( )
( )
1
0
2
であるとき、ℝ の基本ベクトル 𝒆1 =
, 𝒆2 =
を 𝒂1 , 𝒂2 の線
0
1
型結合として表せ。
2
§3.3
ℝ3 における線型独立性
問. ℝ3 において、次のベクトルの組 𝒂, 𝒃, 𝒄 の線型独立性を判定せよ。
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
0
0
𝑘
𝒂 = ⎝1⎠ , 𝒃 = ⎝−1⎠ , 𝒄 = ⎝0⎠
1
1
1
答. 𝛼𝒂 + 𝛽𝒃 + 𝛾𝒄 = 0 とおくと、𝛾𝑘 = 0, 𝛼 = 𝛽, 𝛼 + 𝛽 + 𝛾 = 0 を得
る。よって、𝑘 ∕= 0 のとき、𝛾 = 0, したがって 𝛼 = 𝛽 = 0 を得る。
𝑘 = 0 のとき、𝛾 = −2𝛼, 𝛽 = 𝛼, したがって (𝛼, 𝛽, 𝛾) ∕= (0, 0, 0) であ
る 𝛼, 𝛽, 𝛾 を用いて、𝛼𝒂 + 𝛽𝒃 + 𝛾𝒄 = 0 とすることができる。以上 例えば、𝒂 + 𝒃 − 2𝒄 = 0.
23
より、𝒂, 𝒃, 𝒄 は、𝑘 ∕= 0 のとき線型独立、𝑘 = 0 のとき線型従属であ
る。
注. 𝒂, 𝒃, 𝒄 ∈ ℝ3 について、𝛼𝒂 + 𝛽𝒃 + 𝛾𝒄 = 0 とおく。𝛼 ∕= 0 とする
𝛾
𝛽
と、𝒂 = − 𝒃 − 𝒄, すなわち、𝒂 は 𝒃 と 𝒄 の線型結合で表される。
𝛼
𝛼
言い換えると、𝒂 は 𝒃 と 𝒄 の張る平面内のベクトルである。このと
き、𝒂, 𝒃, 𝒄 は線型従属である。𝛽 ∕= 0, 𝛾 ∕= 0 のときも同様である。そ
うでないとき、線型独立であるのだから、
𝒂, 𝒃, 𝒄 ∈ ℝ3 が線型従属 ⇔ 𝒂, 𝒃, 𝒄 ∈ ℝ3 が同一平面上にある
𝒂, 𝒃, 𝒄 ∈ ℝ3 が線型独立 ⇔ 𝒂, 𝒃, 𝒄 ∈ ℝ3 が同一平面上にない
という幾何学的解釈ができる。
問. ℝ3 において、次のベクトルの組 𝒂, 𝒃, 𝒄 の線型独立性を判定せよ。
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
1
1
5
⎝
⎠
⎝
⎠
⎝
𝒂 = −1 , 𝒃 =
3 , 𝒄 = 3⎠
0
−1
2
⎧
⎨𝛼 + 𝛽 + 5𝛾 = 0
答. 𝛼𝒂 + 𝛽𝒃 + 𝛾𝒄 = 0 とおくと、 −𝛼 + 3𝛽 + 3𝛾 = 0 を得る。第
⎩
−𝛽 + 2𝛾 = 0
3 式より、𝛽 = 2𝛾. 第 2 式に代入して、𝛼 = 9𝛾. さらに第 1 式に代入
して、16𝛾 = 0. ∴ 𝛾 = 0. ∴ 𝛼 = 𝛽 = 0. よって線型独立。
問題 3. 以下の ℝ3 の各組のベクトルについて、線型独立か線型従属
かを判定せよ。
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
0
2
3
1
1
0
⎝
⎠
⎝
⎠
⎝
⎠
⎝
⎠
⎝
⎠
⎝
(1) 𝒂 = 1 , 𝒃 = 1 , 𝒄 = 4
(2) 𝒂 = 1 , 𝒃 = 0 , 𝒄 = 1⎠
0
0
7
0
1
1
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
1
1
0
1
(3) 𝒂 = ⎝0⎠ , 𝒃 = ⎝1⎠ , 𝒄 = ⎝1⎠ , 𝒅 = ⎝1⎠
1
0
1
1
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
1
1
2
(4) 𝒂 = ⎝1⎠ , 𝒃 = ⎝0⎠ , 𝒄 = ⎝3⎠ (𝑘 について場合分けせよ。)
0
𝑘
1
§3.4
ℝ𝑛 における線型独立性
ℝ𝑛 において、𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 の線型独立性を判定するには、
𝜆1 𝒂1 + 𝜆2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆𝑛 𝒂𝑛 = 0
を仮定して、
(𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑛 ) = (0, 0, . . . , 0) か、そうでないか
24
を判定する。言い換えれば、𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 を列ベクトルとする 𝑛 次
正方行列 𝐴 と、𝑛 次列ベクトル 𝝀 = 𝑡 (𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑛 ) を用いると、𝝀
についての連立 1 次方程式 𝐴𝝀 = 0 について、解が自明解 𝝀 = 0 し
かないか、そうでないかを判定することに等しい。
問. 𝑛 次実正方行列 𝐴 の 𝑛 個の列ベクトル 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 が線型従属
であるためには、det 𝐴 = 0 が必要十分であることを示せ。
答. 𝛼1 , 𝛼2 , . . . , 𝛼𝑛 ∈ ℝ に対し、
⎞
𝛼1
𝛼1 𝒂1 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝛼𝑛 𝒂𝑛 = 𝐴 ⎝ ... ⎠ = 0
𝛼𝑛
⎛
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (♦)
とおく。det 𝐴 ∕= 0 ならば、𝐴 は正則で、(𝛼1 , . . . , 𝛼𝑛 の連立 1 次方
程式としてみたときの) (♦) の解は自明解 𝛼1 = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝛼𝑛 = 0 の
み。∴ 𝒂1 , . . . , 𝒂𝑛 は線型独立。det 𝐴 = 0 ならば、(♦) は非自明解
(𝛼1 , . . . , 𝛼𝑛 ) ∕= (0, . . . , 0) をもつ。∴ 𝒂1 , . . . , 𝒂𝑛 は線型従属である。
§3.5
一般の線型空間 𝑉 における線型独立性
問. ℝ 上の線型空間 𝑉 のベクトル 𝒂1 , 𝒂2 が線型独立ならばつねに、
𝑎𝒂1 + 𝑏𝒂2 , 𝑐𝒂1 + 𝑑𝒂2 が線型独立である、ことがいえるのは、𝑎, 𝑏, 𝑐, 𝑑
の間にいかなる条件が成立するときか。
答. 𝑎𝒂1 + 𝑏𝒂2 , 𝑐𝒂1 + 𝑑𝒂2 が線型独立であるためには、
𝛼(𝑎𝒂1 + 𝑏𝒂2 ) + 𝛽(𝑐𝒂1 + 𝑑𝒂2 ) = 0 ⇒ 𝛼 = 𝛽 = 0
がいえなければならず、
{ 𝒂1 , 𝒂2 の線型独立から、それは、𝛼, 𝛽 につ
𝛼𝑎 + 𝛽𝑐 = 0
いての連立 1 次方程式
が自明解 𝛼 = 𝛽 = 0 しかもた
𝛼𝑏 + 𝛽𝑑 = 0
ないことに等しい。したがって、そのための条件は 𝑎𝑑 − 𝑏𝑐 ∕= 0 であ
る。
問. 𝑉 を ℝ 上の線型空間とし、𝒂, 𝒃, 𝒄 ∈ 𝑉 は線型独立であるとする。
このとき、𝒂, 𝒃, 𝒄 のどの 2 つの組も線型独立であることを示せ。ま
た、𝒂 + 𝒃, 𝒃 + 𝒄, 𝒄 + 𝒂 も線型独立であることを示せ。
答. 𝛼, 𝛽, 𝛾 ∈ ℝ とする。𝒂, 𝒃, 𝒄 のある 2 つの組、例えば 𝒂, 𝒃 が線型
従属であったとすると、𝒂 = 𝛼𝒃 とかける。これは 𝒂, 𝒃, 𝒄 の線型独立
性に矛盾である。他の 2 組についても同様である。
次に、
𝛼(𝒂+𝒃)+𝛽(𝒃+𝒄)+𝛾(𝒄+𝒂) = (𝛼 +𝛾)𝒂+(𝛼 +𝛽)𝒃+(𝛽 +𝛾)𝒄 = 0
25
と 𝒂, 𝒃, 𝒄 の線型独立性から、𝛼 + 𝛾 = 𝛼 + 𝛽 = 𝛽 + 𝛾 = 0 である。
よって、𝛼 = 𝛽 = 𝛾 = 0 が成り立つ。∴ 𝒂 + 𝒃, 𝒃 + 𝒄, 𝒄 + 𝒂 も線型独
立である。
問題 4. 𝑉 を ℝ 上の線型空間とし、𝒂, 𝒃, 𝒄 ∈ 𝑉 は線型独立であると
する。このとき、以下の問題を解け。
(1) 𝒂, 𝒂 + 𝒃 + 𝒄, 𝒂 − 𝒃 − 𝒄 は線型従属であることを示せ。
(2) 𝒙 = 𝒂 + 𝒃 − 2𝒄, 𝒚 = 𝒂 − 𝒃 − 𝒄, 𝒛 = 𝒂 + 𝒄 は線型独立であるこ
とを示せ。
(3) 𝒖 = 𝒂 + 𝒃 − 3𝒄, 𝒗 = 𝒂 + 3𝒃 − 𝒄, 𝒘 = 𝒃 + 𝒄 は線型従属である
ことを示せ。
問. 𝑉 を ℝ 上の線型空間とし、𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 ∈ 𝑉 , および任意の
𝑐2 , 𝑐3 , . . . , 𝑐𝑚 ∈ ℝ に対して、
𝒂′1 = 𝒂1 + 𝑐2 𝒂2 + 𝑐3 𝒂3 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑐𝑚 𝒂𝑚
とおく。このとき、𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 が線型独立ならば、𝒂′1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚
も線型独立であることを示せ。
答. 𝑏1 , 𝑏2 , . . . , 𝑏𝑚 ∈ ℝ に対し、
𝑏1 𝒂′1 +𝑏2 𝒂2 +⋅ ⋅ ⋅+𝑏𝑚 𝒂𝑚 = 𝑏1 𝒂1 +(𝑏1 𝑐2 +𝑏2 )𝒂2 +⋅ ⋅ ⋅+(𝑏1 𝑐𝑚 +𝑏𝑚 )𝒂𝑚 = 0
とおく。𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 の線型独立性より、
𝑏1 = 𝑏1 𝑐2 + 𝑏2 = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝑏1 𝑐𝑚 + 𝑏𝑚 = 0
が成り立つ。よって、𝑏1 = 𝑏2 = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝑏𝑚 = 0 がわかる。したがっ
て、𝒂′1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑚 も線型独立である。
問題 5. 𝑉 を ℝ 上の線型空間とする。このとき、𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑘 ∈ 𝑉
が線型独立であるならば、𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑘 ∈ 𝑉 の線型結合による表現
は一意的、すなわち
𝑐1 𝒂1 +𝑐2 𝒂2 +⋅ ⋅ ⋅+𝑐𝑘 𝒂𝑘 = 𝑐′1 𝒂1 +𝑐′2 𝒂2 +⋅ ⋅ ⋅+𝑐′𝑘 𝒂𝑘 ⇒ 𝑐1 = 𝑐′1 , 𝑐2 = 𝑐′2 , ⋅ ⋅ ⋅ , 𝑐𝑘 = 𝑐′𝑘
が成り立つことを示せ。また、逆も成り立つことを示せ。
26
§3.6
線型独立性と階数の関係
ℝ𝑛 の 𝑘 個のベクトル 𝒂1 , . . . , 𝒂𝑘 と 𝑛 次実正則行列 𝑃 について、
𝒂1 , . . . , 𝒂𝑘 が線型独立であることと、𝑃 𝒂1 , . . . , 𝑃 𝒂𝑘 が線型独立であ
ることは同値である。
実際、𝒂1 , . . . , 𝒂𝑘 が線型独立であるとし、
𝜆 1 𝑃 𝒂1 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆 𝑘 𝑃 𝒂𝑘 = 0
とおく。𝑃 でくくり出して、
𝑃 (𝜆1 𝒂1 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆𝑘 𝒂𝑘 ) = 0
となる。これと 𝑃 の正則性から、
𝜆 1 𝒂1 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆 𝑘 𝒂𝑘 = 0
を得る。よって、𝒂1 , . . . , 𝒂𝑘 の線型独立性から、𝜆1 = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝜆𝑘 = 0
を得る。したがって、𝑃 𝒂1 , . . . , 𝑃 𝒂𝑘 は線型独立である。
逆に、𝑃 𝒂1 , . . . , 𝑃 𝒂𝑘 が線型独立であるとし、
𝜆 1 𝒂1 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆 𝑘 𝒂𝑘 = 0
とおく。両辺に 𝑃 をかけて、
𝑃 (𝜆1 𝒂1 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆𝑘 𝒂𝑘 ) = 𝜆1 𝑃 𝒂1 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝜆𝑘 𝑃 𝒂𝑘 = 0
を得る。よって、𝑃 𝒂1 , . . . , 𝑃 𝒂𝑘 の線型独立性から、𝜆1 = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝜆𝑘 = 0
を得る。したがって、𝒂1 , . . . , 𝒂𝑘 は線型独立である。
この例を用いると、次の定理が証明される。
定理. 行列 𝐴 について、
rank 𝐴 = (𝐴 の線型独立な列ベクトルの最大個数)
= (𝐴 の線型独立な行ベクトルの最大個数)
が成り立つ。
問題 6. この定理を示せ。
これより、次の系が導かれる。
系. 𝑛 次正方行列 𝐴 = (𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ) について、
rank 𝐴 = 𝑛 ⇔ 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 は線型独立
が成り立つ。
いままでの知識をまとめると、𝑛 次実正方行列 𝐴 = (𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 )
について、以下の条件は全て同値であることがわかる。
27
(1) 𝐴 は 𝑛 次正則行列である。
(2) rank 𝐴 = 𝑛 である。
(3) 𝐴 の 𝑛 個の列ベクトル 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 は線型独立である。
(4) det 𝐴 ∕= 0 である。
(5) 𝒙 ∈ ℝ𝑛 についての連立 1 次方程式 𝐴𝒙 = 𝒃 が唯一の解をもつ
(𝒃 ∈ ℝ𝑛 )。
(6) 𝒙 ∈ ℝ𝑛 についての連立 1 次方程式 𝐴𝒙 = 0 は自明な解しかも
たない。
(7) 𝐴 は行の基本変形のみで単位行列になる。
§3.7
基底
線型空間 𝑉 の要素 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ∈ 𝑉 について、
(1) span[𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ] = 𝑉
(2) 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 は線型独立である
が成り立つとき、𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 は 𝑉 の基底(basis)をなすといい、
⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩
などと表す。
例えば、ℝ 上の線型空間
⎧⎛ ⎞
⎫
𝑥


1


⎨⎜ 𝑥 ⎟
⎬
2
𝑛
⎜
⎟
ℝ = ⎝ .. ⎠ ; 𝑥1 , 𝑥2 , . . . , 𝑥𝑛 ∈ ℝ


.


⎩
⎭
𝑥𝑛
において、基本ベクトル
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
0
0
1
⎜0⎟
⎜1⎟
⎜0⎟
⎜ ⎟
⎜ ⎟
⎟
𝒆1 = ⎜
⎝ ... ⎠ , 𝒆2 = ⎝ ... ⎠ , . . . , 𝒆𝑛 = ⎝ ... ⎠
1
0
0
⎞
𝑥1
⎜ 𝑥2 ⎟
⎟
は基底を与える。実際、ℝ𝑛 の任意のベクトル 𝒙 = ⎜
⎝ ... ⎠ は、
𝑥𝑛
⎛
(1) 𝒙 = 𝑥1 𝒆1 + 𝑥2 𝒆2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑥𝑛 𝒆𝑛 と表すことができ、
28
(2) 𝑥1 𝒆1 + 𝑥2 𝒆2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑥𝑛 𝒆𝑛 = 0 とおけば、
⎞ ⎛ ⎞
𝑥1
0
⎜ 𝑥2 ⎟ ⎜0⎟
⎜ . ⎟ = ⎜ . ⎟ であるので、𝒆1 , 𝒆2 , . . . , 𝒆𝑛 は線型独立である。
⎝ .. ⎠ ⎝ .. ⎠
0
𝑥𝑛
⎛
基底 ⟨𝒆1 , 𝒆2 , . . . , 𝒆𝑛 ⟩ を ℝ𝑛 の標準基底と呼ぶ。基底はこれ以外に
も無数に構成することができる。
問. ℝ𝑛 において、
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
0
1
1
⎜1⎟
⎜0⎟
⎜1⎟
⎟
⎜ ⎟
⎜ ⎟
𝒂1 = ⎜
⎝ ... ⎠ , 𝒂2 = ⎝ ... ⎠ , . . . , 𝒂𝑛 = ⎝ ... ⎠
1
1
0
は基底を与えることを示せ。
⎛
⎞
𝑥1
⎜ 𝑥2 ⎟
⎟
答. ℝ𝑛 の任意のベクトル 𝒙 = ⎜
⎝ ... ⎠ は、基本ベクトル 𝒆1 , 𝒆2 , . . . , 𝒆𝑛
𝑥𝑛
𝑛
∑
を用いて、𝒙 =
𝑥𝑖 𝒆𝑖 のように表されるが、
𝑖=1
𝒂𝑖 = 1 − 𝒆𝑖 ,
⎛ ⎞
1
⎜1⎟
⎟
1=⎜
⎝ ... ⎠
1
(𝑖 = 1, 2, . . . , 𝑛)
であるので、
𝒙=−
𝑛
∑
𝑥𝑖 𝒂𝑖 +
𝑖=1
𝑛
∑
𝑘=1
𝑥𝑘 1 =
𝑛 ( ∑𝑛
∑
)
𝑥𝑘
− 𝑥𝑖 𝒂𝑖
𝑛−1
𝑘=1
𝑖=1
𝑛
∑
のように 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 の線型結合でも表される。また、
𝑥𝑖 𝒂𝑖 = 0
とおけば、
𝑛
∑
𝑖=1
𝑥𝑖 1 =
𝑛
∑
𝑥𝑖 𝒆𝑖 である。よって、
𝑖=1
𝑛
∑
𝑖=1
𝑥 𝑖 = 𝑥1 = 𝑥2 =
𝑖=1
⋅ ⋅ ⋅ = 𝑥𝑛 を得る。これより、𝑥1 = 𝑥2 = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝑥𝑛 = 0 となり、
𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 は線型独立であることがわかる。よって、⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩
は ℝ𝑛 の基底を与える。
問. ℝ 上の線型空間 ℂ の基底を求めよ。
答. ℂ の要素 𝒙 は、𝛼1 , 𝛼2 ∈ ℝ と 𝒆1 = 1, 𝒆2 = 𝑖 を用いて、𝒙 =
𝛼1 𝒆1 + 𝛼2 𝒆2 と一意に表されるので、⟨𝒆1 , 𝒆2 ⟩ = ⟨1, 𝑖⟩ は ℝ 上の線型
空間 ℂ の基底を与える。
29
問題 7. 次の各問に答えよ。
(1) ℂ 上の線型空間 ℂ の基底を求めよ。
(2) ℝ 上の線型空間 𝑉 において、⟨𝒂, 𝒃⟩ がその基底ならば、⟨𝒂 +
𝒃, 𝒂 − 𝒃⟩ もその基底であることを示せ。
§3.8
次元
問題 7.(2) でみたように、基底の取り方は一意的でない。しかし、
その基底を構成するベクトルの個数は一定である。したがって次の 直観的には正しいと感
じるが、これは証明す
定義が意味をもつ。
べき事項である。しか
し、さしあたって容認さ
の基底を構成するベクトルの個数が 𝑛 個のとき、 れたい。
定義. 線型空間 𝑉
𝑉 は 𝑛 次元(dimension)であるといい、dim 𝑉 = 𝑛 と表す。
注 1. 上でみたように、ℝ 上の線型空間 ℂ は 2 次元、ℂ 上の線型空
間 ℂ は 1 次元である。つまり同じ集合 ℂ であるにもかかわらず次元
が異なっている。これは、線型空間の次元は線型空間を作る集合に
よってではなく、線型空間の構造(演算など)によって定まる量で
あることを示唆している。
注 2. 基底を構成するベクトルの個数が有限個の空間の次元は有限
次元であるという。これに対し、𝑉 の中に線型独立なベクトルがい
くつでも取っていけるとき、𝑉 は無限次元であるという。例えば、𝑥
の実係数多項式全体の集合 𝑃 において、
𝑓0 (𝑥) = 1, 𝑓1 (𝑥) = 𝑥, 𝑓2 (𝑥) = 𝑥2 , . . . , 𝑓𝑛 (𝑥) = 𝑥𝑛 , . . .
は、基底を与え、𝑃 は無限次元である。
問. 線型空間
⎧⎛ ⎞
⎫
⎨ 𝑥
⎬
3
⎝
⎠
𝑊 =
𝑦 ∈ℝ ; 𝑥=𝑦=𝑧
⎩
⎭
𝑧
の基底と次元をそれぞれ求めよ。
⎛ ⎞
1
⎝
答. 𝒂 = 1⎠ とおくと、𝑊 = {𝑡𝒂; 𝑡 ∈ ℝ} と書けるので、𝑊 は基
1
底 ⟨𝒂⟩ の ℝ3 の 1 次元部分空間(直線)である。
30
問題 8. 線型空間
⎧⎛ ⎞
⎫


𝑥


⎨⎜ 1 ⎟
⎬
𝑥2 ⎟
4
⎜
𝐻 = ⎝ ⎠ ∈ ℝ ; 𝑥1 + 𝑥2 + 𝑥3 + 𝑥 4 = 0
𝑥3




⎩ 𝑥
⎭
4
の基底と次元をそれぞれ求めよ。
問. ℝ 上の線型空間 ℂ2 の基底と次元をそれぞれ求めよ。
( )
( )
( )
( )
1
0
𝑖
0
答. 𝒆1 =
, 𝒆2 =
, 𝒆3 =
, 𝒆4 =
とおくと、ℝ 上の
0
1
0
𝑖
( )
𝑧
線型空間 ℂ2 の要素 1 は、ℝ の要素 𝑎, 𝑏, 𝑐, 𝑑 を用いて、
𝑧2
( )
𝑧1
= 𝑎𝒆1 + 𝑏𝒆2 + 𝑐𝒆3 + 𝑑𝒆4
𝑧2
と書けるので、ℂ2 は基底 ⟨𝒆1 , 𝒆2 , 𝒆3 , 𝒆4 ⟩ の 4 次元線型空間である。
問題 9. ℂ 上の線型空間 ℂ2 の基底と次元をそれぞれ求めよ。
31
第4講
線型写像
変数 𝑥 について正比例を表す 1 次関数
𝑓 (𝑥) = 𝑎𝑥
を一般化する。その前に、写像の概念を整理しておこう。
§4.1
写像
集合 𝑋 の各要素に集合 𝑌 の要素が対応しているとき、この対応
関係を 𝑋 から 𝑌 への写像(mapping, map)という。集合 𝑋 から 𝑋 から 𝑌 への写像 𝑓
において、𝑌 ⊂ ℝ の
集合 𝑌 への写像を 𝑓 とするとき、この写像を
𝑓 :𝑋→𝑌
と書く。また、集合 𝑋 の要素 𝑥 に集合 𝑌 の要素 𝑓 (𝑥) が対応するこ
とを
𝑓 : 𝑥 7→ 𝑓 (𝑥)
と書く。上の 2 つを合わせて、
𝑓 : 𝑋 ∋ 𝑥 7→ 𝑓 (𝑥) ∈ 𝑌
とき、𝑓 を 𝑋 で定義さ
れた関数(function)、
または 𝑋 上の関数とい
う。ただし、この呼称
はあまり厳密ではなく、
mapping, map, function は同義であるとす
ることもある。また、𝑓
を、𝑌 ⊂ ℝ のとき実
数値関数、𝑌 ⊂ ℂ のと
き複素数値関数、更に、
𝑌 ⊂ ℝ𝑛 や 𝑌 ⊂ ℂ𝑛 の
とき、ベクトル値関数と
呼ぶこともある。
𝑥 が集合 𝑋 の要素であ
ることを 𝑥 ∈ 𝑋 と表す。
や、
𝑓 : 𝑋 → 𝑌 ; 𝑥 7→ 𝑓 (𝑥)
などと書くこともある。
集合 𝑋 から集合 𝑌 への写像 𝑓 : 𝑋 → 𝑌 において、𝑋 を 𝑓 の定義
域、𝑌 の部分集合 {𝑓 (𝑥); 𝑥 ∈ 𝑋} を 𝑓 の値域と呼び、しばしば 𝑓 (𝑋)
と表す(下図)。
𝑓 (𝑋) = {𝑓 (𝑥) ∈ 𝑌 ; 𝑥 ∈ 𝑋}
f
Y
୯ၞ f(X)
x
f(x)
ቯ⟵ၞ X
32
一般に、𝑓 (𝑋) ⊂ 𝑌 であるが、𝑓 (𝑋) = 𝑌 となるとき、𝑓 は 𝑋
から 𝑌 への上への写像(onto mapping)、あるいは、𝑓 は全射
(surjection)であるという。また、𝑥1 , 𝑥2 ∈ 𝑋 に対し、
𝑥1 ∕= 𝑥2 ⇒ 𝑓 (𝑥1 ) ∕= 𝑓 (𝑥2 )
もしくは(同じことだが)、
𝑓 (𝑥1 ) = 𝑓 (𝑥2 ) ⇒ 𝑥1 = 𝑥2
が成り立つとき、𝑓 は 1 対 1 の写像(one to one mapping)、ある
いは、𝑓 は単射(injection)であるという。特に、𝑓 が全射かつ単射
のとき、𝑓 は 1 対 1 上への写像、あるいは、𝑓 は全単射(bijection)
であるという。
例えば、次の ℝ から ℝ への写像 𝑓1 , 𝑓2 , 𝑓3 , 𝑓4 について、下表のよ
うに分類がなされる。
ℝ から ℝ への写像
𝑓1
𝑓2
𝑓3
𝑓4
3
: 𝑥 7→ 𝑓1 (𝑥) = 𝑥 − 𝑥
: 𝑥 7→ 𝑓2 (𝑥) = arctan 𝑥
: 𝑥 7→ 𝑓3 (𝑥) = sin 𝑥
: 𝑥 7→ 𝑓4 (𝑥) = ∣𝑥∣𝑥
全射
単射
○
×
×
○
×
○
×
○
問題 1. 以下の各問に答えよ。
(A) 上の例を確認せよ。
(B) 同様の例を作成せよ。
(C) 集合 𝑋 から集合 𝑌 への写像 𝑓 : 𝑥 7→ 𝑥2 について、集合を
(1) 𝑋 = 𝑌 = ℝ
(2) 𝑋 = ℝ, 𝑌 = [0, ∞)
(3) 𝑋 = 𝑌 = [0, ∞)
としたとき、各場合について写像 𝑓 は全射であるか、単射であるか
を答えよ。
写像 𝑓 : 𝑋 → 𝑌 ; 𝑥 7→ 𝑦, および写像 𝑔 : 𝑌 → 𝑍; 𝑦 7→ 𝑧 が
与えられ、写像 𝑔 の定義域が写像 𝑓 の値域を含む場合、𝑥 ∈ 𝑋 に
𝑧 = 𝑔(𝑓 (𝑥)) ∈ 𝑍 を対応させる写像を 𝑓 と 𝑔 の合成写像と呼び、𝑔 ∘ 𝑓
と表す。すなわち、
𝑔 ∘ 𝑓 : 𝑋 → 𝑍; 𝑥 7→ 𝑧 = 𝑔(𝑓 (𝑥))
よって、𝑔 ∘ 𝑓 (𝑥) = 𝑔(𝑓 (𝑥)) である(下図)。
33
f
g
x
g(f(x))
f(x)
g ‫ޕ‬f
x
g ‫ޕ‬f(x)
空でない集合 𝑋 から 𝑋 への写像において、特に、その要素をそ
れ自身に対応させる写像を恒等写像(identity mapping)と呼び、
𝑖, 𝑖𝑋 などと表す。すなわち、𝑖 : 𝑋 → 𝑋; 𝑥 7→ 𝑖(𝑥) = 𝑥 である。
写像 𝑓 : 𝑋 → 𝑌 が全単射のとき、
𝑔 ∘ 𝑓 = 𝑖𝑋 ,
𝑓 ∘ 𝑔 = 𝑖𝑌
となるような写像 𝑔 : 𝑌 → 𝑋 が唯一つ存在する。このような写像 𝑔
を 𝑓 の逆写像(inverse mapping)と呼び、𝑓 −1 と表す。
さて、写像 ℎ の定義域が写像 𝐹 = 𝑔 ∘ 𝑓 の値域を含む場合、合成写
像 ℎ ∘ 𝐹 が定義される。合成写像 ℎ ∘ 𝐹 の定義域は 𝐹 の定義域、した
がって 𝑓 の定義域であり、その値域は ℎ の値域に含まれる(下図)。
F = g ‫ޕ‬f
h
x
F(x)
h(F(x))
一方、写像 𝐺 = ℎ ∘ 𝑔 の定義域が写像 𝑓 の値域を含む場合、合成
写像 𝐺 ∘ 𝑓 が定義される。合成写像 𝐺 ∘ 𝑓 の定義域は 𝑓 の定義域であ
り、その値域は 𝐺 の値域、したがって ℎ の値域に含まれる(下図)。
34
G = h ‫ޕ‬g
f
x
G(f(x))
f(x)
結局、合成写像 ℎ ∘ 𝐹 と 𝐺 ∘ 𝑓 の定義域は共に 𝑓 の定義域に等し
く、それぞれの値域は共に ℎ の値域に含まれることがわかった。ま
た、それぞれの値域は等しいことが上の 2 つの図と下図よりわかる。
f
g
h
x
g(f(x))
h(g(f(x)))
f(x)
以上より、ℎ ∘ 𝐹 = 𝐺 ∘ 𝑓 , すなわち、写像の合成についての結合法
則 ℎ ∘ (𝑔 ∘ 𝑓 ) = (ℎ ∘ 𝑔) ∘ 𝑓 がわかった。したがって、3 つの写像の合
成について、
ℎ∘𝑔∘𝑓
という表記が許される。これより、4 つ以上の写像の合成について
も同様な表記が許される。
§4.2
線型写像
𝑉, 𝑊 をそれぞれ ℝ 上の線型空間とする。写像 𝑇 : 𝑉 → 𝑊 が、
(1) 任意の 𝒙, 𝒚 ∈ 𝑉 に対し、
𝑇 (𝒙 + 𝒚) = 𝑇 (𝒙) + 𝑇 (𝒚)
(2) 任意の 𝒙 ∈ 𝑉 , 𝛼 ∈ ℝ に対し、
𝑇 (𝛼𝒙) = 𝛼𝑇 (𝒙)
を満たすとき、𝑇 を線型写像(linear mapping)と呼ぶ。
注. (1)(2) はまとめて、
𝑇 (𝛼𝒙 + 𝛽𝒚) = 𝛼𝑇 (𝒙) + 𝛽𝑇 (𝒚)
35
と表してもよい。
注. 𝑉 = 𝑊 のときは、𝑇 を 𝑉 上の線型変換(1 次変換、linear
transformation)と呼ぶこともある。
例. 実定数 𝑎 に対して、1 次関数
𝑓 : ℝ → ℝ; 𝑥 7→ 𝑓 (𝑥) = 𝑎𝑥
は、ℝ から ℝ への線型写像である。
2 次関数
𝑓 (𝑥) = 𝑎𝑥2
例. 𝑚 × 𝑛 型行列 𝐴 に対して、写像
𝑇 : ℝ𝑛 → ℝ𝑚 ; 𝒙 7→ 𝑇 (𝒙) = 𝐴𝒙
は、ℝ𝑛 から ℝ𝑚 への線型写像である。
は線型写像でない。ま
た、原点を通らない 1 次
関数 (𝑏 ∕= 0)
𝑓 (𝑥) = 𝑎𝑥 + 𝑏
注. この写像 𝑇 を行列 𝑨 の表す線型写像といい、行列を指し示すた
も線型写像でない。
めに、𝑇𝐴 と表すこともある。
例. 高々𝑚 次の多項式 (𝑚 = 0, 1, 2, . . .) で表される実変数関数の全
体の集合の作る線型空間
𝑃𝑚 = {𝑓 : ℝ → ℝ; 𝑥 7→ 𝑎0 + 𝑎1 𝑥 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑚 𝑥𝑚 (𝑎0 , 𝑎1 , . . . , 𝑎𝑚 ∈ ℝ)}
において、写像
𝐷 : 𝑃𝑚 → 𝑃𝑚 ; 𝑓 7→ 𝐷(𝑓 ) = 𝑓 ′
は、𝑃𝑚 上の線型写像である。ただし、
𝑓 (𝑥) = 𝑎0 + 𝑎1 𝑥 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑚 𝑥𝑚
に対し、
𝑓 ′ (𝑥) = 𝑎1 + 2𝑎2 𝑥 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑚𝑎𝑚 𝑥𝑚−1
例. 線型空間 𝑉, 𝑊 において、写像
𝑇 : 𝑉 → 𝑊 ; 𝒙 7→ 𝑇 (𝒙) = 0
は、𝑉 から 𝑊 への線型写像である。
例. 実数列全体の集合の作る線型空間
𝒫 = {{𝑎𝑛 }; 𝑎𝑛 ∈ ℝ, 𝑛 ∈ ℕ}
において、写像
𝑆 : 𝒫 → 𝒫; {𝑎𝑛 } 7→ 𝑆({𝑎𝑛 }) = {𝑎𝑛+1 }
は 𝒫 上の線型写像である。ここで、
{𝑎𝑛 } = {𝑎𝑛 }𝑛=1,2,... = {𝑎1 , 𝑎2 , . . .},
の意味である。
36
{𝑎𝑛+1 } = {𝑎𝑛+1 }𝑛=1,2,... = {𝑎2 , 𝑎3 , . . .}
問題 2. 線型写像 𝑇 : 𝑉 → 𝑊 において、
𝑇 (0) = 0
もちろん、𝑇 (0) の 0 は
𝑉 の零ベクトル、右辺の
0 は 𝑊 の零ベクトルで
ある。
が成り立つことを示せ。
問題 3. 上の各例を確かめよ。
§4.3
列ベクトル空間上の線型写像の行列表現
前節において、列ベクトル空間 ℝ𝑛 から ℝ𝑚 への行列 𝐴 の定める
写像 𝑇 は線型写像であることをみた。実は、この逆も成り立つ。す
なわち、
命題. 与えられた線型写像 𝑇 : ℝ𝑛 → ℝ𝑚 に対し、
𝑇 (𝒙) = 𝐴𝒙 (𝒙 ∈ ℝ𝑛 )
を満たす 𝑚 × 𝑛 型行列 𝐴 が存在する。
証明. ℝ𝑛 の標準基底 ⟨𝒆1 , 𝒆2 , . . . , 𝒆𝑛 ⟩ に対し、
𝑇 (𝒆1 ) = 𝒂1 , 𝑇 (𝒆2 ) = 𝒂2 , . . . , 𝑇 (𝒆𝑛 ) = 𝒂𝑛
とすると、𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 は ℝ𝑚 の要素で、これを並べて 𝑚 × 𝑛 型行
列 𝐴 を作る。
𝐴 = (𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 )
ところで、任意の 𝒙 ∈ ℝ𝑛 は、
⎛ ⎞
𝑥1
⎜ 𝑥2 ⎟
⎟
𝒙=⎜
⎝ ... ⎠ = 𝑥1 𝒆1 + 𝑥2 𝒆2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑥𝑛 𝒆𝑛
𝑥𝑛
と表せるので、𝑇 の線型性から、
𝑇 (𝒙) = 𝑇 (𝑥1 𝒆1 + 𝑥2 𝒆2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑥𝑛 𝒆𝑛 )
= 𝑥1 𝑇 (𝒆1 ) + 𝑥2 𝑇 (𝒆2 ) + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑥𝑛 𝑇 (𝒆𝑛 )
= 𝑥1 𝒂1 + 𝑥2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑥𝑛 𝒂𝑛
⎛ ⎞
𝑥1
⎜ 𝑥2 ⎟
⎟
= (𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ) ⎜
⎝ ... ⎠
𝑥𝑛
= 𝐴𝒙
が成り立つ。
37
このように、列ベクトル空間上の線型写像は行列表現可能である。
より一般の線型空間上の線型写像は行列表現可能だろうか。すなわ
ち、以下のように問題提起しよう。
問題提起. 線型空間 𝑉, 𝑊 において、線型写像 𝑇 : 𝑉 → 𝑊 は行列で
表されるか?
【肯定的解決へのシナリオ】この問題提起は肯定的に解決される。以
下に問題解決への論理的道筋を箇条書きする。
(1) 線型空間同士の構造の一致、すなわち、線型空間として同じ
ようなもの、を定義するために、同型写像の概念を導入する
(§4.4)。
(2) 線型空間の 1 つの基底を定めると、ベクトルが成分表示される
ことをみる(§4.4, §5.2)。
(3) 与えられた線型写像 𝑇 : 𝑉 → 𝑊 を、
𝜑
𝑓
𝜓 −1
𝑉 −→ ℝ𝑛 −→ ℝ𝑚 −→ 𝑊
(𝜑 : 𝑉 → ℝ𝑛 , 𝜓 : 𝑊 → ℝ𝑚 は同型写像)
という写像に分解することにより、合成写像
𝑓 = 𝜓 ∘ 𝑇 ∘ 𝜑−1
がある行列の定める線型写像であることを示す(§5.3)。この
行列が目標とする 𝑇 の表現行列である。
問題 4. 命題の証明を納得せよ。
§4.4
同型写像
本節では「線型空間として同じようなもの」を定義する。𝐾 上の
線型空間 𝑉 , 𝑊 について、𝑉 から 𝑊 への全単射の線型写像 𝑇 が存
在するとき、𝑉 と 𝑊 は線型空間として同型であるといい、𝑽 ≃ 𝑾
と表す。また、𝑇 を同型写像(isomorphism)と呼ぶ。
以下が成立するのをみるのは容易である (問題 5.(2))。
(I) 𝑉 ≃ 𝑉
(II) 𝑉 ≃ 𝑊 ⇒ 𝑊 ≃ 𝑉
(III) 𝑉 ≃ 𝑊, 𝑊 ≃ 𝑈 ⇒ 𝑉 ≃ 𝑈
この性質により、様々な線型空間を互いに同型かそうでないかで分
類できることがわかる。さらに具体的に次の定理が成り立つ。
定理. ℝ 上の 𝑛 次元線型空間 𝑉 は ℝ𝑛 と同型である。
38
実際、𝑉 の基底 ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩ に対して、任意の 𝒙 ∈ 𝑉 は、
𝒙 = 𝑥1 𝒂1 + 𝑥2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑥 𝑛 𝒂𝑛
(𝑥1 , 𝑥2 , . . . , 𝑥𝑛 ∈ ℝ)
と一意的にかける。故に、この 𝑥1 , 𝑥2 , . . . , 𝑥𝑛 を用いて 𝑉 から ℝ𝑛 へ
の写像 𝜑 を
⎛ ⎞
𝑥1
⎜ 𝑥2 ⎟
⎟
𝜑(𝒙) = ⎜
⎝ ... ⎠
𝑥𝑛
と定めると、𝜑 は 𝑉 から ℝ𝑛 への同型写像になる。
注. 成分 𝑥1 , 𝑥2 , . . . , 𝑥𝑛 は基底のとり方によって変わる。この同型写
像を、
基底 ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝒏 ⟩ で定まる同型写像
という。
問題 5. 次の各問に答えよ。
(1) 定理の証明の 𝜑 が同型写像であることを示せ。
(2) 上の (I)(II)(III) を示せ。すなわち、以下を示せばよい。
(I) 𝑉 上の恒等写像は同型写像である。
(II) 𝑇 : 𝑉 → 𝑊 が同型写像ならば、逆写像 𝑇 −1 : 𝑊 → 𝑉 が
存在して、これも同型写像である。
(III) 𝑇 : 𝑉 → 𝑊 と 𝑆 : 𝑊 → 𝑈 が共に同型写像ならば、合成
写像 𝑆 ∘ 𝑇 : 𝑉 → 𝑈 も同型写像である。
(3) 線型空間 𝑉 と 𝑊 の次元が有限で等しいならば、𝑉 ≃ 𝑊 であ
ることを示せ。
注. (3) より、有限次元線型空間の構造は次元のみで決まることがわ
かる。
注. ℝ 上の線型空間 ℂ は 2 次元、ℂ 上の線型空間 ℂ は 1 次元である
ので、集合が同じでも(演算の)構造が異なる。一方、高々1 次の実
係数多項式全体の作る線型空間 𝑃1 (§4.2 の例で 𝑚 = 1 のとき)や、
ℝ3 内の超平面 𝐻03 は 2 次元であるので、ℝ 上の線型空間 ℂ, 𝑃1 , 𝐻03 ,
ℝ2 は全て同型。よって、それぞれ集合は異なるが、構造は一致して
いることがわかる。
39
第5講
線型写像とその行列表現
前講の最後で、有限次元線型空間の構造は次元のみで決まること
がわかった。実は、§3.8 で次元を定義する際、次の事実を証明なし
に述べていた。
定理. 線型空間の基底を構成するベクトルの個数は、基底の選び方
によらず一定である。
本講では、定理の証明を与えた後、§4.3 でみたシナリオを完結さ
せる。
§5.1
次元(再説)
準備. まず、𝑛 次元線型空間 𝑉 の 𝑚 個のベクトル 𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 につ
いて、もし 𝑚 > 𝑛 ならば、これらは線型従属であることを示す。
∵ 𝑉 の基底を ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩ とすると、𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 は、スカラー
𝜆𝑖𝑗 (𝑖 = 1, 2, . . . , 𝑛) を用いて、
𝒃𝑗 =
𝑛
∑
𝜆𝑖𝑗 𝒂𝑖
(𝑗 = 1, 2, . . . , 𝑚)
𝑖=1
∑𝑚
と表される。 𝑗=1 𝜇𝑗 𝒃𝑗 = 0 とおくと、
( 𝑚
)
𝑛
∑
∑
𝜆𝑖𝑗 𝜇𝑗 𝒂𝑖 = 0
𝑖=1
𝑗=1
を得る。∴ 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 は線型独立なので、Λ = (𝜆𝑖𝑗 ) を 𝑛 × 𝑚 型
⎛ ⎞
𝜇1
.. ⎠ を 𝑚 次列ベクトルとおくと、Λ𝝁 = 0 となる。仮
⎝
行列、𝝁 =
.
𝜇𝑚
定より、
(未知数の個数 𝑚) > (方程式の個数 𝑛)
であるので、rank Λ ≤ 𝑛 がわかり、解の自由度は 𝑚 − rank Λ ≥
𝑚 − 𝑛 > 0 である。したがって、自明解 𝝁 = 0 (𝜇1 = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝜇𝑚 = 0)
以外の解が存在する。よって、𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 は線型従属である。□
定理の証明. さて、このことを使って、§4.4 の問題 5.(3) の逆、す
なわち、線型空間 𝑉 と 𝑊 について、𝑉 ≃ 𝑊 ならば 𝑉 と 𝑊 の次
元は等しいことを示そう。𝑉 の基底を ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩, 𝑊 の基底
を ⟨𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 ⟩ とする。𝑉 から 𝑊 への同型写像を 𝑇 とすると、
𝑇 (𝒂1 ), 𝑇 (𝒂2 ), . . . , 𝑇 (𝒂𝑛 ) は線型独立な 𝑛 個の 𝑊 のベクトルである。
∑𝑛
∑𝑛
∵ 𝑖=1 𝜇𝑖 𝑇 (𝒂𝑖 ) = 0 とおく。𝑇 は線型なので 𝑇 ( 𝑖=1 𝜇𝑖 𝒂𝑖 ) =
∑
0. また 𝑇 は単射なので 𝑛𝑖=1 𝜇𝑖 𝒂𝑖 = 0. よって、𝒂1 , . . . , 𝒂𝑛
の線型独立性より、𝜇1 = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝜇𝑛 = 0 となる。□
40
したがって、𝑛 ≤ 𝑚 でなければならない。同型写像 𝑇 −1 についても
同じ考察をすれば、𝑚 ≤ 𝑛. ∴ 𝑚 = 𝑛 が示される。
これより(§4.4 の問題 5.(3) と合わせて)、
「𝑉 ≃ 𝑊 の必要十分条件は dim 𝑉 = dim 𝑊 である」
ことがわかった。
したがって、特に 𝑉 = ℝ𝑛 , 𝑊 = ℝ𝑚 の場合を考えれば、ℝ𝑛 ≃ ℝ𝑚
ならば、𝑛 = 𝑚. この事実と、§4.4 の定理(𝑛 個のベクトルからなる
基底をもつ線型空間と ℝ𝑛 は同型)から、線型空間の基底を構成す
るベクトルの個数は、基底によらず一定であることが示された。だ
から次元の定義が意味をもつのである。
問. 高々𝑚 次の実係数多項式全体の作る線型空間を 𝑃𝑚 , また、(𝑥 − 1)
で割り切れる高々𝑚 次の実係数多項式全体の作る集合を 𝑄𝑚 とおく。
(1) 𝑃𝑚 の次元を求めよ。
(2) 𝑄𝑚 は 𝑃𝑚 の部分空間であることを示せ。
(3) 𝑄𝑚 の次元を求めよ。
答. 線型空間 𝑃𝑚 (𝑚 = 0, 1, 2, . . .) は
𝑃𝑚 = {𝑓 : ℝ → ℝ; 𝑥 7→ 𝑎0 + 𝑎1 𝑥 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑚 𝑥𝑚 (𝑎0 , 𝑎1 , . . . , 𝑎𝑚 ∈ ℝ)}
とかける(§4.2 の例参照)。次元を求めるには基底の 1 つの例を構成
すればよい。
(1) 次の関数を考える。
𝑒1 (𝑥) = 1, 𝑒2 (𝑥) = 𝑥, . . . , 𝑒𝑚+1 (𝑥) = 𝑥𝑚
すると、𝑒1 , 𝑒2 , . . . , 𝑒𝑚+1 ∈ 𝑃𝑚 である。このとき、𝑋 = {𝑒1 , 𝑒2 , . . . , 𝑒𝑚+1 }
が 𝑃𝑚 の基底をなすことを示す。
span[𝑋] = 𝑃𝑚 かつ 𝑋
は線型独立であること
まず、span[𝑋] = 𝑃𝑚 である。実際、高々𝑚 次の実係数多項式 𝑓 ∈
を示せばよい。
𝑃𝑚 は、
𝑓 (𝑥) = 𝑎0 + 𝑎1 𝑥 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑚 𝑥𝑚
とかけるので、𝑓 = 𝑎0 𝑒1 +𝑎1 𝑒2 +⋅ ⋅ ⋅+𝑎𝑚 𝑒𝑚+1 ∈ span[𝑋] である。すな
わち、𝑃𝑚 ⊂ span[𝑋] である。逆に、𝑋 の線型結合は高々𝑚 次の実係
数多項式なので、span[𝑋] ⊂ 𝑃𝑚 である。したがって、span[𝑋] = 𝑃𝑚
がわかった。
次に、𝑋 は線型独立であることを示す。
41
𝑎0 𝑒1 + 𝑎1 𝑒2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑚 𝑒𝑚+1 = 0
右辺の 0 は常に値 0 を
とる関数である。
とおく。このとき、任意の 𝑥 ∈ ℝ に対して、
𝑎0 𝑒1 (𝑥) + 𝑎1 𝑒2 (𝑥) + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑚 𝑒𝑚+1 (𝑥)
= 𝑎0 + 𝑎1 𝑥 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑚 𝑥𝑚 = 0(𝑥) = 0
であるから、𝑥 = 0 を代入して 𝑎0 = 0 を得る。以下、順次この両辺
を 𝑥 で割り、𝑥 = 0 を代入していくと、𝑎1 = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝑎𝑚 = 0 を得る。
よって、𝑋 は線型独立であることがわかった。
以上より、𝑋 は 𝑃𝑚 の基底をなすことが示された。したがって、基
底を構成するベクトルの数は 𝑚 + 1 個なので、dim 𝑃𝑚 = 𝑚 + 1 で
ある。
(2) まず、𝑄𝑚 は 𝑃𝑚 の部分集合である。また、任意の 𝑓, 𝑔 ∈ 𝑄𝑚 は、
𝑓 (𝑥) = (𝑥 − 1)(𝑎0 + 𝑎1 𝑥 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑚−1 𝑥𝑚−1 )
𝑔(𝑥) = (𝑥 − 1)(𝑏0 + 𝑏1 𝑥 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑏𝑚−1 𝑥𝑚−1 )
とかける。このとき、関数 𝑓 + 𝑔 も (𝑥 − 1) で割り切れる高々𝑚 次の
実係数多項式となるので、𝑓 + 𝑔 ∈ 𝑄𝑚 である。また、任意の 𝛼 ∈ ℝ
に対して、𝛼𝑓 ∈ 𝑄𝑚 もわかる。∴ 𝑄𝑚 は 𝑃𝑚 の部分空間である。
(3) 𝑄𝑚 の要素 𝑓 は、
𝑓 (𝑥) = (𝑥 − 1)(𝑎0 + 𝑎1 𝑥 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑚−1 𝑥𝑚−1 )
= 𝑎0 (𝑥 − 1) + 𝑎1 (𝑥 − 1)𝑥 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑚−1 (𝑥 − 1)𝑥𝑚−1
とかける。
𝑏1 (𝑥) = 𝑥 − 1, 𝑏2 (𝑥) = (𝑥 − 1)𝑥, . . . , 𝑏𝑚 (𝑥) = (𝑥 − 1)𝑥𝑚−1
とおくと、
𝑓 = 𝑎0 𝑏1 + 𝑎1 𝑏2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑚−1 𝑏𝑚
とかける。このとき、{𝑏1 , 𝑏2 , . . . , 𝑏𝑚 } が 𝑄𝑚 の基底をなすことは (1)
と同じように示される。よって、dim 𝑄𝑚 = 𝑚 である。
問題 1. 上の答を納得せよ。
§5.2
基底とベクトルの成分表示
§4.4 において、基底で定まる同型写像をみた。基底で定まるのだか
ら、基底を変えると(それがたとえ基底を構成するベクトルの順序を
入れ替えるだけであっても!)それに伴ないベクトルの成分も変わる。
基底を表す記号に ⟨ ⟩ を用いた理由は、単なる集合 { } と区別し、
42
この最右辺の 0 は実数
の零である。
順序も考慮した集合を表すためである。したがって、{𝒂, 𝒃} = {𝒃, 𝒂}
だが、⟨𝒂, 𝒃⟩ ∕= ⟨𝒃, 𝒂⟩ である。
以下、基底を ℰ = ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩ などと表すことにする。
例 1. 3 次元ユークリッド空間 ℝ3 において、
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
1
0
0
⎝
⎠
⎝
⎠
⎝
𝒆1 = 0 , 𝒆2 = 1 , 𝒆3 = 0⎠
0
0
1
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
0
1
1
𝒂1 = ⎝1⎠ , 𝒂2 = ⎝0⎠ , 𝒂3 = ⎝1⎠
1
1
0
とおくと、
ℰ ′ = ⟨𝒆2 , 𝒆3 , 𝒆1 ⟩, ℱ = ⟨𝒂1 , 𝒂2 , 𝒂3 ⟩
⎛ ⎞
𝑥
はいずれも ℝ3 の基底である。𝒙 = ⎝𝑦 ⎠ ∈ ℝ3 はそれぞれの基底を
𝑧
用いて、
ℰ = ⟨𝒆1 , 𝒆2 , 𝒆3 ⟩,
𝒙 = 𝑥𝒆1 + 𝑦𝒆2 + 𝑧𝒆3
𝒙 = 𝑦𝒆2 + 𝑧𝒆3 + 𝑥𝒆1
𝑥−𝑦+𝑧
𝑥+𝑦−𝑧
−𝑥 + 𝑦 + 𝑧
𝒂1 +
𝒂2 +
𝒂3
𝒙=
2
2
2
と表せる。∴ ℰ, ℰ ′ , ℱ のそれぞれに関する 𝒙 の成分表示は、
⎛
⎞
−𝑥 + 𝑦 + 𝑧
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎜
⎟
𝑥
𝑦
⎜ 𝑥 − 2𝑦 + 𝑧 ⎟
⎟
⎝𝑦 ⎠ , ⎝ 𝑧 ⎠ , ⎜
⎜
⎟
2
⎝ 𝑥+𝑦−𝑧 ⎠
𝑥
𝑧
2
となる。
例 2. 2 次正方行列全体のなす空間 ℳ(2; ℝ) において、
(
)
(
)
(
)
(
1 0
0 1
0 0
0
𝒆1 =
, 𝒆2 =
, 𝒆3 =
, 𝒆4 =
0 0
0 0
1 0
0
(
)
(
)
(
)
(
0 1
1 0
1 1
1
𝒂1 =
, 𝒂2 =
, 𝒂3 =
, 𝒂4 =
1 1
1 1
0 1
1
)
0
1
)
1
0
とおくと、
ℰ = ⟨𝒆1 , 𝒆2 , 𝒆3 , 𝒆4 ⟩,
ℰ ′ = ⟨𝒆4 , 𝒆3 , 𝒆1 , 𝒆2 ⟩,
43
ℱ = ⟨𝒂1 , 𝒂2 , 𝒂3 , 𝒂4 ⟩
(
はいずれも ℳ(2; ℝ) の基底である。𝒙 =
𝑥 𝑦
𝑧 𝑤
)
∈ ℳ(2; ℝ) はそ
れぞれの基底を用いて、
𝒙 = 𝑥𝒆1 + 𝑦𝒆2 + 𝑧𝒆3 + 𝑤𝒆4
𝒙 = 𝑤𝒆4 + 𝑧𝒆3 + 𝑥𝒆1 + 𝑦𝒆2
−2𝑥 + 𝑦 + 𝑧 + 𝑤
𝑥 − 2𝑦 + 𝑧 + 𝑤
𝑥 + 𝑦 − 2𝑧 + 𝑤
𝑥 + 𝑦 + 𝑧 − 2𝑤
𝒙=
𝒂1 +
𝒂2 +
𝒂3 +
𝒂4
3
3
3
3
と表せる。∴ ℰ, ℰ ′ , ℱ のそれぞれに関する 𝒙 の成分表示は、
⎛ −2𝑥 + 𝑦 + 𝑧 + 𝑤 ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎜
⎟
3
⎜ 𝑥 − 2𝑦 + 𝑧 + 𝑤 ⎟
𝑤
𝑥
⎜
⎟
⎜𝑦 ⎟
⎜ ⎟
⎟
⎜ ⎟ , ⎜𝑧 ⎟ , ⎜
3
⎜ 𝑥 + 𝑦 − 2𝑧 + 𝑤 ⎟
⎝𝑥⎠
⎝𝑧 ⎠
⎜
⎟
⎜
⎟
𝑦
𝑤
3
⎝
⎠
𝑥 + 𝑦 + 𝑧 − 2𝑤
3
となる。
問題 2. 2 次元ユークリッド空間 ℝ2 において、
( )
( )
( )
( )
1
0
1
−1
𝒆1 =
, 𝒆2 =
, 𝒂1 =
, 𝒂2 =
0
1
1
1
とおくと、
ℰ = ⟨𝒆1 , 𝒆2 ⟩,
ℱ = ⟨𝒂1 , 𝒂2 ⟩
( )
𝑥
はいずれも ℝ の基底である。このとき、𝒙 =
∈ ℝ2 の基底 ℰ, ℱ
𝑦
に関する成分をそれぞれ表示せよ。
2
例. 高々2 次の実係数多項式全体のなす空間 𝑃2 (§4.2 の例、及び §5.1
の問参照)において、
𝑒3 (𝑥) = 𝑥2 ,
𝑒1 (𝑥) = 1,
𝑒2 (𝑥) = 𝑥,
𝑎1 (𝑥) = 1,
𝑎2 (𝑥) = 𝑥 − 1,
𝑎3 (𝑥) = (𝑥 − 1)2
とおくと、
ℰ = ⟨𝑒1 , 𝑒2 , 𝑒3 ⟩,
ℰ ′ = ⟨𝑒2 , 𝑒3 , 𝑒1 ⟩,
ℱ = ⟨𝑎1 , 𝑎2 , 𝑎3 ⟩
はいずれも 𝑃2 の基底である。𝑓 (𝑥) = 𝑎 + 𝑏𝑥 + 𝑐𝑥2 とおくと、𝑓 ∈ 𝑃2
であり、𝑓 (𝑥) はそれぞれの基底を用いて、
𝑓 (𝑥) = 𝑎𝑒1 (𝑥) + 𝑏𝑒2 (𝑥) + 𝑐𝑒3 (𝑥)
𝑓 (𝑥) = 𝑏𝑒2 (𝑥) + 𝑐𝑒3 (𝑥) + 𝑎𝑒1 (𝑥)
𝑓 (𝑥) = (𝑎 + 𝑏 + 𝑐)𝑎1 (𝑥) + (𝑏 + 2𝑐)𝑎2 (𝑥) + 𝑐𝑎3 (𝑥)
44
と表せる。∴ ℰ, ℰ ′ , ℱ のそれぞれに関する 𝑓 の成分表示は、
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛
⎞
𝑎
𝑏
𝑎+𝑏+𝑐
⎝ 𝑏 ⎠ , ⎝ 𝑐 ⎠ , ⎝ 𝑏 + 2𝑐 ⎠
𝑐
𝑎
𝑐
となる。
問題 3. 上の例において、
𝑏1 (𝑥) = 1,
𝑏3 (𝑥) = (𝑥 + 1)2
𝑏2 (𝑥) = 𝑥 + 1,
としたとき、𝑏1 , 𝑏2 , 𝑏3 は 𝑃2 の基底となるか。もしなるなら、それに
関する 𝑓 ∈ 𝑃2 (𝑓 (𝑥) = 𝑎 + 𝑏𝑥 + 𝑐𝑥2 ) の成分を表示せよ。
§5.3
線型写像とその行列表現
いよいよ §4.3 でみたシナリオが完結する。
ℝ 上の線型空間 𝑉, 𝑊 の次元をそれぞれ 𝑛, 𝑚 とし、線型写像 𝑇 :
𝑉 → 𝑊 を考える。𝑉, 𝑊 の基底をそれぞれ
⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩,
⟨𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 ⟩
とする。
𝑇 (𝒂𝑗 ) ∈ 𝑊 (𝑗 = 1, 2, . . . , 𝑛) であるので、スカラー 𝛼𝑖𝑗 ∈ ℝ を用い
て、𝑇 (𝒂𝑗 ) は各 𝑗 について、𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 の線型結合で表される。
𝑇 (𝒂𝑗 ) =
𝑚
∑
𝛼𝑖𝑗 𝒃𝑖
(𝑗 = 1, 2, . . . , 𝑛)
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (♥)
𝑖=1
すなわち、
⎛
⎞
𝛼11 𝛼12 ⋅ ⋅ ⋅ 𝛼1𝑛
⎜ 𝛼21 𝛼22 ⋅ ⋅ ⋅ 𝛼2𝑛 ⎟
(𝑇 (𝒂1 ), 𝑇 (𝒂2 ), . . . , 𝑇 (𝒂𝑛 )) = (𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 ) ⎜
..
.. ⎟
⎝ ...
.
. ⎠
𝛼𝑚1 𝛼𝑚2 ⋅ ⋅ ⋅ 𝛼𝑚𝑛
となる。
任意の 𝒙 ∈ 𝑉 に対し、基底 ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩ についての 𝒙 の成分、
すなわち、
𝒙 = 𝑥1 𝒂1 + 𝑥2 𝒂2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑥 𝑛 𝒂𝑛
となる 𝑥1 , 𝑥2 , . . . , 𝑥𝑛 ∈ ℝ をとり、𝒚 = 𝑇 (𝒙) ∈ 𝑊 に対し、基底
⟨𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 ⟩ についての 𝒚 の成分、すなわち、
𝒚 = 𝑦1 𝒃1 + 𝑦2 𝒃2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑦𝑚 𝒃𝑚 =
𝑚
∑
𝑖=1
45
𝑦𝑖 𝒃𝑖
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (♠)
となる 𝑦1 , 𝑦2 , . . . , 𝑦𝑛 ∈ ℝ をとる。
一方、𝑇 の線型性と上の (♥) から、
( 𝑛
)
∑
𝒚 = 𝑇 (𝒙) = 𝑇
𝑥𝑗 𝒂𝑗
𝑗=1
=
𝑛
∑
𝑥𝑗 𝑇 (𝒂𝑗 ) =
𝑗=1
𝑛
∑
𝑥𝑗
( 𝑚
∑
𝑗=1
)
𝛼𝑖𝑗 𝒃𝑖
=
( 𝑛
𝑚
∑
∑
𝑖=1
𝑖=1
)
𝛼𝑖𝑗 𝑥𝑗
𝒃𝑖
𝑗=1
であるので、𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 の線型独立性から、
𝑦𝑖 =
𝑛
∑
𝛼𝑖𝑗 𝑥𝑗
(𝑖 = 1, 2, . . . , 𝑚)
𝑗=1
すなわち、
⎛ ⎞ ⎛
𝑦1
𝛼11 𝛼12 ⋅ ⋅ ⋅
⎜ 𝑦2 ⎟ ⎜ 𝛼21 𝛼22 ⋅ ⋅ ⋅
⎜ . ⎟=⎜ .
..
⎝ .. ⎠ ⎝ ..
.
𝑦𝑚
𝛼𝑚1 𝛼𝑚2 ⋅ ⋅ ⋅
⎞⎛ ⎞
𝛼1𝑛
𝑥1
⎜
⎟
𝛼2𝑛 ⎟ ⎜ 𝑥2 ⎟
.. ⎠ ⎝ .. ⎟
.
.⎠
𝛼𝑚𝑛
𝑥𝑛
が成り立つ。以上をまとめると、次のようになる。
定理. 𝑉 , 𝑊 をそれぞれ ℝ 上の線型空間とする。線型写像 𝑇 : 𝑉 →
𝑊 (dim 𝑉 = 𝑛, dim 𝑊 = 𝑚) に対し、𝑉, 𝑊 にそれぞれの基底
⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩, ⟨𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 ⟩ を定めると、𝑇 はある行列 𝐴 = (𝛼𝑖𝑗 ) ∈
ℳ(𝑚, 𝑛; ℝ) を用いて表すことができる。ここで、𝐴 = (𝛼𝑖𝑗 ) は、
𝑇 (𝒂𝑗 ) =
𝑚
∑
𝛼𝑖𝑗 𝒃𝑖
(𝑗 = 1, 2, . . . , 𝑛)
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 上の (♥)
𝑖=1
すなわち、
(𝑇 (𝒂1 ), 𝑇 (𝒂2 ), . . . , 𝑇 (𝒂𝑛 )) = (𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 )𝐴 ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 上の (♠)
で定まる行列である。
⎞
𝑥1
⎜ 𝑥2 ⎟
⎟
言い換え 1. 𝒙 ∈ 𝑉 の成分表示 ⎜
⎝ ... ⎠ と 𝒚 = 𝑇 (𝒙) ∈ 𝑊 の成分表示
𝑥𝑛
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
𝑥1
𝑦1
𝑦1
⎜ 𝑥2 ⎟
⎜ 𝑦2 ⎟
⎜ 𝑦2 ⎟
⎜ . ⎟ の間の関係が行列 𝐴 を用いて ⎜ . ⎟ = 𝐴 ⎜ . ⎟ と表される
⎝ .. ⎠
⎝ .. ⎠
⎝ .. ⎠
𝑥𝑛
𝑦𝑚
𝑦𝑚
ということである。
⎛
言い換え 2. 行列 𝐴 の定める ℝ𝑛 から ℝ𝑚 への写像を 𝑓𝐴 とすると、基
底 ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩ で定まる同型写像
𝜑 : 𝑉 → ℝ𝑛
46
と基底 ⟨𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 ⟩ で定まる同型写像
𝜓 : 𝑊 → ℝ𝑚
に対し、𝑇 = 𝜓 −1 ∘ 𝑓𝐴 ∘ 𝜑 となるということである。
𝑉
𝑇
-
𝜑
𝑊
𝜓
?
ℝ𝑛
𝑓𝐴
?
- ℝ𝑚
この同型写像を用いれば、言い換え 1 は、ℝ𝑛 から ℝ𝑚 への写像
𝜓 ∘ 𝑇 ∘ 𝜑−1 が行列 𝐴 で表されるということである。
問題 4. 上の 2 つの言い換えを納得せよ。
§5.4
行列表現の例
微分操作も行列で表現でき、数列の番号シフトも行列で表現でき
ることをみる。
微分操作. 高々2 次の多項式で表される実変数関数の全体の集合が作
る線型空間 𝑃2 において写像 𝐷 を
𝐷 : 𝑃2 → 𝑃2 ; 𝑓 7→ 𝐷(𝑓 ) = 𝑓 ′
と定める(§4.2 の例参照)。𝑃2 において、𝑒1 (𝑥) = 1, 𝑒2 (𝑥) = 𝑥, 𝑒3 (𝑥) =
𝑥2 とおくと、ℰ = ⟨𝑒1 , 𝑒2 , 𝑒3 ⟩ は 𝑃2 の基底となる(§5.2 の例参照)。
したがって、
(𝐷(𝑒1 ), 𝐷(𝑒2 ), 𝐷(𝑒3 )) = (𝑒′1 , 𝑒′2 , 𝑒′3 ) = (0, 𝑒1 , 2𝑒2 ) = (𝑒1 , 𝑒2 , 𝑒3 )𝐴,
⎛
⎞
0 1 0
𝐴 = ⎝0 0 2⎠
0 0 0
∴ 𝑃2 に話を限定すれば、
「微分することは、ℝ3 上の線型写像に他ならない!」
実際、𝑓 (𝑥) = 𝑎 + 𝑏𝑥 + 𝑐𝑥2 に対し、𝐷(𝑓 )(𝑥) = 𝑓 ′ (𝑥) = ˜
𝑎 + ˜𝑏𝑥 + ˜
𝑐𝑥2
とおくと、基底 ℰ についての成分表示は、それぞれ
⎛ ⎞
⎛ ⎞
˜
𝑎
𝑎
𝒙 = ⎝ 𝑏 ⎠ , 𝒚 = ⎝˜𝑏 ⎠
𝑐
˜
𝑐
であり、これらの間に、𝒚 = 𝐴𝒙 という関係が成り立っている。行列
𝐴 の定める線型写像を 𝑇𝐴 (𝒙) = 𝐴𝒙 とおくと、下図のようになる。
47
𝑃2
𝐷
-
𝑃2
𝜑
𝜓
?
ℝ3
𝑇𝐴
?
- ℝ3
ここで、𝜑(𝑓 ) = 𝒙, 𝜓(𝑓 ′ ) = 𝒚 はそれぞれ基底 ℰ の定める同型写像
である。
問題 5. 写像 𝐷 を
𝐷 : 𝑃2 → 𝑃1 ; 𝑓 7→ 𝐷(𝑓 ) = 𝑓 ′
と定めた場合、𝐷 を表す行列を求めよ。ただし、𝑃2 の基底は ℰ =
⟨𝑒1 , 𝑒2 , 𝑒3 ⟩, 𝑃1 の基底は ℱ = ⟨𝑒1 , 𝑒2 ⟩ とする。
数列のシフト. 漸化式 𝑎𝑛+2 = 𝑎𝑛+1 + 𝑎𝑛 (𝑛 = 1, 2, . . .) を満たす実数
列全体の集合は数列の和と実数倍について、ℝ 上の線型空間をなす。
この空間を 𝐹2 とすると、𝐹2 に属する数列は、はじめの 2 項を定め
ることによって決まる。そこで、
𝑎1 = 1, 𝑎2 = 0;
𝑎1 = 0, 𝑎2 = 1
で定まる数列をそれぞれ、
𝒆1 = {1, 0, 1, 1, 2, 3, 5, . . .},
𝒆2 = {0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, . . .}
とすると、ℰ = ⟨𝒆1 , 𝒆2 ⟩ は 𝐹2 の基底を与える(だから 𝐹2 は 2 次元)。
実際、任意の 𝛼, 𝛽 について、𝑎1 = 𝛼, 𝑎2 = 𝛽 ではじまる数列
𝒂 = {𝛼, 𝛽, 𝛼 + 𝛽, 𝛼 + 2𝛽, 2𝛼 + 3𝛽, . . .}
は 𝐹2 の要素であり、𝒆1 , 𝒆2 の線型結合で表される。
𝒂 = 𝛼𝒆1 + 𝛽𝒆2
また、𝒆1 , 𝒆2 は線型独立である。したがって、𝒆1 , 𝒆2 は 𝐹2 の基底と
なる。
さて、𝐹2 において項を一つずらす写像 𝑆 を、𝑆({𝑎𝑛 }) = {𝑎𝑛+1 } と
定めると、{𝑎𝑛+1 } は 𝐹2 に属し、写像 𝑆 は線型写像となる(§4.2 の
例参照)。そして、
(
)
0 1
(𝑆(𝒆1 ), 𝑆(𝒆2 )) = (𝒆2 , 𝒆1 + 𝒆2 ) = (𝒆1 , 𝒆2 )𝐴, 𝐴 =
1 1
48
∴ 𝑆 は基底 ℰ に関して、行列 𝐴 で表現される。
˜ . . .} とおくと、
実際、𝒂 = {𝛼, 𝛽, . . .} に対し、𝒃 = 𝑆(𝒂) = {˜
𝛼, 𝛽,
基底 ℰ についての成分表示は、それぞれ
( )
( )
𝛼
˜
𝛼
𝒙=
, 𝒚= ˜
𝛽
𝛽
であり、これらの間に、𝒚 = 𝐴𝒙 という関係が成り立っている。行列
𝐴 の定める線型写像を 𝑇𝐴 (𝒙) = 𝐴𝒙 とおくと、下図のようになる。
𝐹2
𝑆
-
𝐹2
𝜑
𝜓
?
ℝ2
𝑇𝐴
?
- ℝ2
ここで、𝜑(𝒂) = 𝒙, 𝜓(𝒃) = 𝒚 はそれぞれ基底 ℰ の定める同型写像で
ある。
問題 6. 漸化式 𝑎𝑛+3 = 𝑎𝑛+2 + 𝑎𝑛+1 + 𝑎𝑛 (𝑛 = 1, 2, . . .) を満たす実数
列全体の集合 𝐹3 について上と同様の考察をせよ。
49
第7講
基底の取り替え
§5.3 の定理において、
「線型写像 𝑇 : 𝑉 → 𝑊 (dim 𝑉 = 𝑛, dim 𝑊 = 𝑚) に対
し、𝑉, 𝑊 にそれぞれの基底 ℰ, ℱ を定めると、𝑇 はある
𝑚 × 𝑛 型行列 𝐴 を用いて表すことができる」
ことをみた。すなわち、行列 𝐴 の定める ℝ𝑛 から ℝ𝑚 への写像を 𝑓𝐴
とすると、基底 ℰ で定まる同型写像 𝜑 : 𝑉 → ℝ𝑛 と基底 ℱ で定まる
同型写像 𝜓 : 𝑊 → ℝ𝑚 に対し、𝑇 = 𝜓 −1 ∘ 𝑓𝐴 ∘ 𝜑 となる(下図)。
𝑉
𝑇
-
𝜑
𝑊
𝜓
?
ℝ
𝑛
𝑓𝐴
?
- ℝ𝑚
§4.3 に続いて、第 2 の問題を提起する。これは、次章以降のテー
マとなる固有値・固有ベクトルへの布石である。
問題提起. 𝑉 の基底 ℰ や 𝑊 の基底 ℱ をそれぞれ別の基底に取り替
えると、その影響は 𝑇 を表現する行列 𝐴 にどのように伝わるか?
§7.1
基底の取り替え
𝑉 の基底として
ℰ = ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩,
ℰ ′ = ⟨𝒂′1 , 𝒂′2 , . . . , 𝒂′𝑛 ⟩
をとると、𝒂′1 , 𝒂′2 , . . . , 𝒂′𝑛 は 𝑉 の要素だから基底 ℰ の線型結合で表
される。
𝒂′𝑗
=
𝑛
∑
𝑝𝑖𝑗 𝒂𝑖
(𝑗 = 1, 2, . . . , 𝑛)
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (♥)
𝑖=1
𝑝𝑖𝑗 を (𝑖, 𝑗) 成分とする 𝑛 次正方行列を 𝑃 = (𝑝𝑖𝑗 ) とおくと、(♥) は、
(𝒂′1 , 𝒂′2 , . . . , 𝒂′𝑛 ) = (𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 )𝑃
と表すことができる。この行列 𝑃 を
基底の取り替え 퓔 → 퓔 ′ 行列
と呼ぶことにする。
59
意味付け 1. 𝑉 上の線型変換 𝑓 を
𝑓 (𝒂𝑗 ) = 𝒂′𝑗
(𝑗 = 1, 2, . . . , 𝑛)
と定義すると、
(𝑓 (𝒂1 ), 𝑓 (𝒂2 ), . . . , 𝑓 (𝒂𝑛 )) = (𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 )𝑃
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (♠)
であるので、行列 𝑃 は線型写像 𝑓 : 𝑉 → 𝑉 を基底 ℰ について表現
したものになっている(下図)。
𝑓
𝑉
-
𝑉
𝜑
𝜑
?
𝑇𝑃
ℝ𝑛
?
- ℝ𝑛
実際、任意の 𝒙 ∈ 𝑉 は基底 ℰ の線型結合により、𝒙 =
𝑛
∑
𝑥𝑗 𝒂𝑗 と表
𝑗=1
⎛
⎞
𝑥1
.
されるので、基底 ℰ で定まる同型写像を 𝜑 とすれば、𝜑(𝒙) = ⎝ .. ⎠
𝑥𝑛
である。一方、𝒚 = 𝑓 (𝒙) とすると、(♠) より
( 𝑛
)
( 𝑛
)
( 𝑛
)
𝑛
𝑛
𝑛
∑
∑
∑
∑
∑
∑
𝒚=𝑓
𝑥𝑗 𝒂𝑗 =
𝑥𝑗 𝑓 (𝒂𝑗 ) =
𝑥𝑗
𝑝𝑖𝑗 𝒂𝑖 =
𝑝𝑖𝑗 𝑥𝑗 𝒂𝑖
𝑗=1
𝑗=1
𝑗=1
𝑖=1
よって、𝒚 ∈ 𝑉 を基底 ℰ の線型結合により、𝒚 =
⎛ ⎞
𝑦1
⎝
𝜑(𝒚) = ... ⎠ ,
𝑦𝑛
𝑛
∑
𝑖=1
𝑦𝑖 𝒂𝑖 と表すと、
𝑖=1
𝑦𝑖 =
𝑛
∑
𝑝𝑖𝑗 𝑥𝑗
(𝑖 = 1, 2, . . . , 𝑛)
𝑗=1
を得る。故に 𝜑(𝒚) = 𝑃 𝜑(𝒙) である。よって、
𝑇𝑃 (𝜑(𝒙)) = 𝜑(𝒚) = 𝜑(𝑓 (𝒙))
より、𝑓 = 𝜑−1 ∘ 𝑇𝑃 ∘ 𝜑 がわかる。
意味付け 2. 𝒙 ∈ 𝑉 の基底 ℰ と ℰ ′ に関する成分をそれぞれ
⎛ ′⎞
⎛ ⎞
𝑥1
𝑥1
⎝ ... ⎠ , ⎝ ... ⎠
𝑥′𝑛
𝑥𝑛
とすると、
𝒙=
𝑛
∑
𝑖=1
𝑥𝑖 𝒂𝑖 =
𝑛
∑
𝑥′𝑗 𝒂′𝑗
𝑗=1
60
𝑖=1
であるから、𝒂′𝑗
=
𝑛
∑
𝑝𝑖𝑗 𝒂𝑖 より、
𝑖=1
𝑛
∑
𝑖=1
𝑥𝑖 𝒂𝑖 =
𝑛
∑
𝑥′𝑗
( 𝑛
∑
𝑗=1
)
𝑝𝑖𝑗 𝒂𝑖
=
𝑖=1
を得る。よって、𝑥𝑖 =
𝑛
∑
( 𝑛
𝑛
∑
∑
𝑖=1
)
𝑝𝑖𝑗 𝑥′𝑗
𝒂𝑖
𝑗=1
𝑝𝑖𝑗 𝑥′𝑗 (𝑖 = 1, 2, . . . , 𝑛) となる。すなわち、
𝑗=1
⎞
⎛ ′⎞
𝑥1
𝑥1
⎝ ... ⎠ = 𝑃 ⎝ ... ⎠
𝑥′𝑛
𝑥𝑛
⎛
がわかる。∴ 𝑉 (基底 ℰ ′ )から 𝑉 (基底 ℰ )への恒等写像を 𝑖𝑉 , 基
底 ℰ, ℰ ′ で定まる同型写像をそれぞれ 𝜑, 𝜑′ とすると、写像
𝜑 ∘ 𝑖𝑉 ∘ 𝜑′−1 = 𝜑 ∘ 𝜑′−1
は行列 𝑃 で定まる線型写像 𝑇𝑃 となる(下図)。
𝑖𝑉
𝑉
-
𝑉
𝜑′
𝜑
?
ℝ𝑛
𝑇𝑃
?
- ℝ𝑛
取り替え行列の正則性. 𝑉 の任意の 3 つの基底
ℰ = ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩,
ℰ ′ = ⟨𝒂′1 , 𝒂′2 , . . . , 𝒂′𝑛 ⟩,
ℰ ′′ = ⟨𝒂′′1 , 𝒂′′2 , . . . , 𝒂′′𝑛 ⟩
をとり、取り替え行列は正則であることを確認しておこう。𝑉 の基
底の取り替え ℰ → ℰ ′ 行列を 𝑃 , 𝑉 の基底の取り替え ℰ ′ → ℰ ′′ 行列を
𝑄 とすると、
(𝒂′′1 , 𝒂′′2 , . . . , 𝒂′′𝑛 ) = (𝒂′1 , 𝒂′2 , . . . , 𝒂′𝑛 )𝑄 = (𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 )𝑃 𝑄
である。∴ 基底の取り替え ℰ → ℰ ′′ 行列は 𝑃 𝑄 である。ここで、特に
ℰ ′′ = ℰ とすれば、𝑃 𝑄 は基底の取り替え ℰ → ℰ 行列、すなわち単位
行列である。このとき、𝑃 は(したがって 𝑄 も)正則で、𝑃 −1 = 𝑄
である。
問題 1. 意味付け 1・2 と取り替え行列の正則性を納得せよ。
61
例. 高々2 次の実係数多項式全体を 𝑃2 とする。
𝑒3 (𝑥) = 𝑥2
𝑒1 (𝑥) = 1,
𝑒2 (𝑥) = 𝑥,
𝑓1 (𝑥) = 1,
𝑓2 (𝑥) = 𝑥 − 1,
§5.1 の問と §5.2 の
例を参照。
𝑓3 (𝑥) = (𝑥 − 1)2
とすると、
ℰ = ⟨𝑒1 , 𝑒2 , 𝑒3 ⟩,
ℱ = ⟨𝑓1 , 𝑓2 , 𝑓3 ⟩
はそれぞれ 𝑃2 の基底である。基底の取り替え ℰ → ℱ 行列を 𝑃 とす
ると、以下を得る。
⎛
⎞
1 −1
1
(𝑓1 , 𝑓2 , 𝑓3 ) = (𝑒1 , 𝑒2 , 𝑒3 )𝑃, 𝑃 = ⎝0
1 −2⎠
0
0
1
取り替え行列 𝑷 の意味 1. 𝑃2 上の線型変換 𝑇 を、𝑇 (𝑒𝑗 ) = 𝑓𝑗 (𝑗 =
1, 2, 3) とすると 𝑇 は、ℰ を基底として行列 𝑃 で表される。実際、
𝑇 : 𝑃2 → 𝑃2 ; 𝑎𝑒1 +𝑏𝑒2 +𝑐𝑒3 7→ 𝑎𝑓1 +𝑏𝑓2 +𝑐𝑓3 = (𝑎−𝑏+𝑐)𝑒1 +(𝑏−2𝑐)𝑒2 +𝑐𝑒3
より、
⎞
⎛ ⎞
⎛
𝑎
𝑎−𝑏+𝑐
⎝ 𝑏 − 2𝑐 ⎠ = 𝑃 ⎝ 𝑏 ⎠
𝑐
𝑐
である。
取り替え行列 𝑷 の意味 2. 𝑝(𝑥) = 𝑎 + 𝑏𝑥 + 𝑐𝑥2 とすると、𝑝⎛∈ 𝑃
⎞2 で
𝑎′
ある。このとき、行列 𝑃 は関数 𝑝 の基底 ℱ についての成分 ⎝ 𝑏′ ⎠ を
𝑐′
⎛ ⎞
𝑎
基底 ℰ についての成分 ⎝ 𝑏 ⎠ に写す ℝ3 上の線型写像を表す行列で
𝑐
ある。実際、
𝑎′ + 𝑏′ (𝑥 − 1) + 𝑐′ (𝑥 − 1)2 = (𝑎′ − 𝑏′ + 𝑐′ ) + (𝑏′ − 2𝑐′ )𝑥 + 𝑐′ 𝑥2
より、𝑎 = 𝑎′ − 𝑏′ + 𝑐′ , 𝑏 = 𝑏′ − 2𝑐′ , 𝑐 = 𝑐′ であるから、
⎛ ⎞
⎛ ⎞
𝑎
𝑎′
⎝ 𝑏 ⎠ = 𝑃 ⎝ 𝑏′ ⎠
𝑐′
𝑐
が成り立つ。
62
問題 2. 例において、
𝑔1 (𝑥) = 1,
𝑔3 (𝑥) = (𝑥 + 1)2
𝑔2 (𝑥) = 𝑥 + 1,
とすると、
𝒢 = ⟨𝑔1 , 𝑔2 , 𝑔3 ⟩
は 𝑃2 の基底である。このとき、基底の取り替え ℱ → 𝒢 行列 𝑄, お §5.2 の問題 3 を参
よび基底の取り替え ℰ → 𝒢 行列 𝑅 をそれぞれ求め、𝑅 = 𝑃 𝑄 が成 照。
り立つことを確かめよ。
§7.2
基底の取り替えとその影響
定理. 線型写像 𝑇 : 𝑉 → 𝑊 (dim 𝑉 = 𝑛, dim 𝑊 = 𝑚) において、
𝑉, 𝑊 のそれぞれの基底
ℰ = ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩,
ℱ = ⟨𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 ⟩
に関して 𝑇 を表現する行列を 𝐴, 更に、𝑉, 𝑊 のそれぞれの別の基底
ℰ ′ = ⟨𝒂′1 , 𝒂′2 , . . . , 𝒂′𝑛 ⟩,
ℱ ′ = ⟨𝒃′1 , 𝒃′2 , . . . , 𝒃′𝑚 ⟩
に関して 𝑇 を表現する行列を 𝐵, 基底の取り替え ℰ → ℰ ′ 行列を 𝑃 ,
基底の取り替え ℱ → ℱ ′ 行列を 𝑄 とすると、𝐵 = 𝑄−1 𝐴𝑃 が成り
立つ。
注. 𝐴, 𝐵 は 𝑚 × 𝑛 型行列、𝑃 は 𝑛 次正則行列、𝑄 は 𝑚 次正則行列で
ある。
証明. 仮定より、以下が成り立つ。
(𝑇 (𝒂1 ), 𝑇 (𝒂2 ), . . . , 𝑇 (𝒂𝑛 )) = (𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 )𝐴
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (1)
(𝑇 (𝒂′1 ), 𝑇 (𝒂′2 ), . . . , 𝑇 (𝒂′𝑛 )) = (𝒃′1 , 𝒃′2 , . . . , 𝒃′𝑚 )𝐵 ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅
(𝒂′1 , 𝒂′2 , . . . , 𝒂′𝑛 ) = (𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 )𝑃 ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (3)
(𝒃′1 , 𝒃′2 , . . . , 𝒃′𝑚 ) = (𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 )𝑄
(2)
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (4)
(1)(3) より、
(𝑇 (𝒂′1 ), 𝑇 (𝒂′2 ), . . . , 𝑇 (𝒂′𝑛 )) = (𝑇 (𝒂1 ), 𝑇 (𝒂2 ), . . . , 𝑇 (𝒂𝑛 ))𝑃 = (𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 )𝐴𝑃
(2)(4) より、
(𝑇 (𝒂′1 ), 𝑇 (𝒂′2 ), . . . , 𝑇 (𝒂′𝑛 )) = (𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 )𝑄𝐵
よって、
(𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 )𝐴𝑃 = (𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 )𝑄𝐵
63
が成り立つ。故に、
(𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 )(𝐴𝑃 − 𝑄𝐵) = (0, 0, . . . , 0)
である。ここで、𝒃1 , 𝒃2 , . . . , 𝒃𝑚 は線型独立だから、𝐴𝑃 = 𝑄𝐵. 取り
替え行列の正則性から、𝐵 = 𝑄−1 𝐴𝑃 .
定理の別証明. 以下のような状況を考える。
基底 ℰ で定まる 𝑉 から ℝ𝑛 への同型写像をそれぞれ 𝜑
基底 ℰ ′ で定まる 𝑉 から ℝ𝑛 への同型写像をそれぞれ 𝜑′
基底 ℱ で定まる 𝑊 から ℝ𝑚 への同型写像をそれぞれ 𝜓
基底 ℱ ′ で定まる 𝑊 から ℝ𝑚 への同型写像をそれぞれ 𝜓 ′
とすると、
𝑇 = 𝜓 −1 ∘ 𝑇𝐴 ∘ 𝜑
かつ
𝑇 = 𝜓 ′−1 ∘ 𝑇𝐵 ∘ 𝜑′
である。よって、
𝜓 −1 ∘ 𝑇𝐴 ∘ 𝜑 = 𝜓 ′−1 ∘ 𝑇𝐵 ∘ 𝜑′
である。故に、
𝜓 ′ ∘ 𝜓 −1 ∘ 𝑇𝐴 ∘ 𝜑 ∘ 𝜑′−1 = 𝑇𝐵
である(下図)。
ℝ𝑛
𝑇𝐵
6
- ℝ𝑚
6
𝜑′
𝜓′
𝑉
𝑇
-
𝜑
𝜓
?
ℝ
𝑛
𝑇𝐴
?
- ℝ𝑚
一方、
𝑇𝑃 = 𝜑 ∘ 𝜑′−1 ,
𝑊
𝑇𝑄 = 𝜓 ∘ 𝜓 ′−1
より
𝑇𝑄−1 ∘ 𝑇𝐴 ∘ 𝑇𝑃 = 𝑇𝐵
である(下図)。
64
𝑇𝐵
ℝ𝑛
-
ℝ𝑚
𝑇𝑃
𝑇𝑄
?
𝑇𝐴
ℝ𝑛
?
- ℝ𝑚
よって、𝑇𝑄−1 𝐴𝑃 = 𝑇𝐵 . ∴ 𝐵 = 𝑄−1 𝐴𝑃 .
例. ℳ(2; ℝ) は 4 次元の線型空間であり、
(
)
(
)
(
)
1 0
0 0
0 0
𝐸1 =
, 𝐸2 =
, 𝐸3 =
,
0 0
1 0
0 1
(
𝐸4 =
)
0 1
0 0
とすれば、⟨𝐸1 , 𝐸2 , 𝐸3 , 𝐸4 ⟩ は ℳ(2; ℝ) の 1 つの基底である。実 2 次上
三角行列の全体を 𝒰 とすると、𝒰 は ℳ(2; ℝ) の 3 次元部分空間をな
(
)
1 2
し、⟨𝐸1 , 𝐸3 , 𝐸4 ⟩ はその 1 つの基底を与える。今、行列 𝐴 =
0 3
が定める 𝒰 上の線型変換 𝑇𝐴 (𝑋) = 𝐴𝑋 (𝑋 ∈ 𝒰) を考える。基底
⟨𝐸1 , 𝐸3 , 𝐸4 ⟩ についての 𝑇𝐴 を表現する行列 𝐺 は、
(𝑇𝐴 (𝐸1 ), 𝑇𝐴 (𝐸3 ), 𝑇𝐴 (𝐸4 )) = (𝐸1 , 3𝐸3 + 2𝐸4 , 𝐸4 ) = (𝐸1 , 𝐸3 , 𝐸4 )𝐺
⎛
⎞
1 0 0
より、𝐺 = ⎝0 3 0⎠ である。
0 2 1
注. ところで、
(
)
0 1
𝑈1 =
,
0 1
(
𝑈2 =
)
1 1
,
0 0
(
𝑈3 =
)
1 0
0 1
も 𝒰 の基底をなす。基底 ⟨𝑈1 , 𝑈2 , 𝑈3 ⟩ について 𝑇𝐴 を表現する行列 𝐻
は、
(𝑇𝐴 (𝑈1 ), 𝑇𝐴 (𝑈2 ), 𝑇𝐴 (𝑈3 )) = (3𝑈1 , 𝑈2 , 2𝑈1 + 𝑈3 ) = (𝑈1 , 𝑈2 , 𝑈3 )𝐻
⎛
⎞
3 0 2
より、𝐻 = ⎝0 1 0⎠ である。
0 0 1
また、基底の取り替え ⟨𝐸1 , 𝐸3 , 𝐸4 ⟩ → ⟨𝑈1 , 𝑈2 , 𝑈3 ⟩ 行列 𝑃 は、
(𝑈1 , 𝑈2 , 𝑈3 ) = (𝐸3 + 𝐸4 , 𝐸1 + 𝐸4 , 𝐸1 + 𝐸3 ) = (𝐸1 , 𝐸3 , 𝐸4 )𝑃
⎛
⎞
0 1 1
より、𝑃 = ⎝1 0 1⎠ である。そして、取り替え行列 𝑃 と表現行
1 1 0
列 𝐺, 𝐻 の間には、𝑃 𝐻 = 𝐺𝑃 の関係がある。
65
問題 3. この例を納得せよ。
問題 4. 2 次下三角実行列の全体を ℒ としたとき、以下の各問に答
えよ。
(1) ℒ は ℳ(2; ℝ) の 3 次元部分空間をなすことを示せ。
(2) 下三角行列
(
𝐿1 =
)
1 0
,
0 1
(
𝐿2 =
)
1 0
,
1 0
(
𝐿3 =
)
0 0
1 1
は ℒ の基底をなすことを示せ。また、ℒ の基底の取り替え ⟨𝐸1 , 𝐸2 , 𝐸3 ⟩ →
⟨𝐿1 , 𝐿2 , 𝐿3 ⟩ 行列 𝑃 を求めよ。
(
)
1 0
(3) 行列 𝐴 =
が定める ℒ 上の線型変換 𝑇𝐴 (𝑋) = 𝐴𝑋
−2 3
(𝑋 ∈ ℒ) に対し、基底 ⟨𝐸1 , 𝐸2 , 𝐸3 ⟩ について 𝑇𝐴 を表現する行
列 𝐺, 基底 ⟨𝐿1 , 𝐿2 , 𝐿3 ⟩ について 𝑇𝐴 を表現する行列 𝐻 をそれ
ぞれ求め、𝑃 𝐻 = 𝐺𝑃 が成り立つことを確かめよ。
§7.3
実用的な基底の取り替え
𝑉 = 𝑊 = ℝ𝑛 とし、𝑛 次正方行列 𝐴 の定める ℝ𝑛 上の線型変換
𝑇𝐴 : 𝒙 7→ 𝐴𝒙
を考える。ℝ𝑛 の標準基底 ⟨𝒆1 , 𝒆2 , . . . , 𝒆𝑛 ⟩ について、𝑇𝐴 を表現する
行列は 𝐴 自身である。別の基底 ⟨𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑛 ⟩ について、𝑇𝐴 を表
現する行列は何だろうか?
実は、基底の取替え ⟨𝒆1 , 𝒆2 , . . . , 𝒆𝑛 ⟩ → ⟨𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑛 ⟩ 行列を 𝑃
とすると、
(𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑛 ) = (𝒆1 , 𝒆2 , . . . , 𝒆𝑛 )𝑃
であるから、𝑃 は (𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑛 ) に他ならない!
∴ 𝑇𝐴 を基底 ⟨𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑛 ⟩ について表現する行列を 𝐵 とすると、
𝐵 = 𝑃 −1 𝐴𝑃 となる(下図)。
ℝ𝑛
𝑇𝐵
-
ℝ𝑛
𝑇𝑃
𝑇𝑃
?
ℝ𝑛
𝑇𝐴
?
- ℝ𝑛
66
( )
( )
1
2
例. 𝒑1 =
, 𝒑2 =
とすると、⟨𝒑1 , 𝒑2 ⟩ は ℝ2 の基底となる。行
1
1
(
)
3 −2
列𝐴 =
の定める ℝ2 上の線型変換 𝑇𝐴 を基底 ⟨𝒑1 , 𝒑2 ⟩ につ
1 0
(
)
1 0
いて表現する行列 𝐵 は 𝐵 =
である。𝐵 は対角行列であり、
0 2
その対角成分 1, 2 は、𝐴𝒑1 = 1𝒑1 , 𝐴𝒑2 = 2𝒑2 を満たす。この意味は
次章以降で明らかになる。
注. 一般に、適当な基底について 𝑇𝐴 を表現する行列は必ずしも対角行
( )
( )
1
1
列とはならない。例えば、基底 ⟨𝒒1 , 𝒒2 ⟩, 𝒒1 =
, 𝒒2 =
を考え
2
3
(
)
−4 10
ると、𝑇𝐴 を基底 ⟨𝒒1 , 𝒒2 ⟩ について表現する行列 𝐶 は、𝐶 =
3 7
となる。
問題 5. ℝ2 上の線型変換
( )
(
)
𝑥
𝑦
2
2
𝑇 :ℝ →ℝ ;
7→
𝑦
−6𝑥 + 5𝑦
( )
( )
1
1
に対し、𝒑1 =
, 𝒑2 =
からなる基底について 𝑇 を表現する
2
3
行列を求めよ。
67
第8講
§8.1
固有値と固有ベクトル
行列の単純化と問題提起
次の 3 つの例をみて、本節以降の問題を提起しよう。
例 1. 𝑘 次正方行列 𝐴 の定める線型変換を、基底 ⟨𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑘 ⟩ につ
いて表現する行列を 𝐵 とすると、𝐵 = 𝑃 −1 𝐴𝑃 となる。ここで、𝑃 =
(𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑘 ) は基底の取り替え ⟨𝒆1 , 𝒆2 , . . . , 𝒆𝑘 ⟩ → ⟨𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑘 ⟩
行列である。このとき、𝑛 = 1, 2, . . . に対し、𝐵 𝑛 = 𝑃 −1 𝐴𝑛 𝑃 が成り
立つ。
(
)
(
)
3 −2
1 2
例えば、𝐴 =
と𝑃 =
について、
1
0
1 1
(
𝐵=𝑃
−1
𝐴𝑃 =
)
1 0
0 2
(
𝑛
となる。これより、𝐵 =
(
𝑛
𝑛
𝐴 = 𝑃𝐵 𝑃
−1
=
1 0
0 2𝑛
)
であるから、以下を得る。
2𝑛+1 − 1 2 − 2𝑛+1
2𝑛 − 1
2 − 2𝑛
)
このように、行列 𝐴 から直接 𝐴𝑛 を導くことは手間がかかるが、も
し “良い” 行列 𝑃 を見つけることができれば、行列 𝐴 を行列 𝐵 のよ
うに “単純化” して、𝐴 の巾乗を容易に計算することができる。
例 2. 話をさらに発展させて、行列の指数関数を定義することがで
きる。
𝑓 (𝑥) = 𝑥0 + 𝑥 +
𝑥2 𝑥3
+
+ ⋅ ⋅ ⋅ = 𝑒𝑥
2!
3!
とおき、例 1 の行列 𝐵 を 𝑥 に形式的に代入すると、
(
)
𝐵2 𝐵3
𝑒 0
(𝐸 = 𝐵 0 は単位行列)
𝑓 (𝐵) = 𝐸 +𝐵 +
+
+⋅ ⋅ ⋅ =
0 𝑒2
2!
3!
となる。そこで、𝑓 (𝐵) = 𝑒𝐵 と表すことにすると、𝑃 𝑒𝐵 𝑃 −1 = 𝑒𝐴 が
わかる。よって、
)
(
2𝑒2 − 𝑒 2𝑒 − 2𝑒2
𝐴
𝑒 =
𝑒2 − 𝑒 2𝑒 − 𝑒2
と計算できる!
例 3. 2 次方程式
𝑥2 𝑦 2
+ 2 = 1 (𝑎, 𝑏 > 0)
𝑎2
𝑏
68
が楕円を表す式であることはよく知られているが、2 次方程式
𝑥2 − 𝑥𝑦 + 𝑦 2 = 3
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (∘)
も楕円を表すことは、すぐにはわからない。実は、見慣れた楕円を
回転させただけの式である。𝑥𝑦 座標系における式 (∘) は、座標(視
点)を変換することにより、𝑥
ˆ𝑦ˆ 座標系においては標準的な楕円の式
𝑥
ˆ2
𝑦ˆ2
√
+ √
=1
( 6)2 ( 2)2
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (♥)
を表す。楕円 (∘) は下図(左)、楕円 (♥) は下図(右)。
⁐

⁐

⁐

⁐

(
)
1
2 −1
𝑥
ˆ 軸、𝑦ˆ 軸は次のように求める。式 (∘) は、𝐴 =
と
2
2 −1
おくと、
( )
𝑥
(𝑥, 𝑦)𝐴
= 3 ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (∙)
𝑦
( )
( )
1 −1
1 1
と表すことができる。𝒑1 = √
, 𝒑2 = √
とおき、基
1
2 1
2
底の取替え ⟨𝒆1 , 𝒆2 ⟩ → ⟨𝒑1 , 𝒑2 ⟩ (
行列を
)𝑃 とおくと、𝑃 = (𝒑1 , 𝒑2 ),
1 1 0
𝑃 −1 = 𝑡𝑃 で、𝐵 = 𝑃 −1 𝐴𝑃 =
となる。したがって、平面
2 0 3
( )
𝑥
上の点の座標の基底 ⟨𝒆1 , 𝒆2 ⟩ に関する成分を
, 基底 ⟨𝒑1 , 𝒑2 ⟩ に関
𝑦
( )
( )
( )
𝑥
ˆ
𝑥
𝑥
ˆ
する成分を
とすると、
=𝑃
が成り立つ。よって、式
𝑦ˆ
𝑦
𝑦ˆ
(∙) より、
( )
( )
( )
𝑥
ˆ
𝑥
𝑥
𝑡
(ˆ
𝑥, 𝑦ˆ)𝐵
= (𝑥, 𝑦)𝑃 𝐵 𝑃
= (𝑥, 𝑦)𝐴
=3
𝑦ˆ
𝑦
𝑦
最左辺は、
𝑥
ˆ2 3 2
+ 𝑦ˆ であるから、これより式 (♥) を得る。
2
2
こうして、行列 𝐴 に対し、“良い” 基底 ⟨𝒑1 , 𝒑2 ⟩ を選んで、𝐴 を行
列 𝐵 に “単純化” し、式 (∘) を標準的な形の式 (♥) に変形することが
できた。
69
問題 1. 以上の例を納得せよ。
さて、§4.3, 第 7 講に続いて、第 3 の問題の提起をする。
問題提起. 与えられた線型変換に対し、出来るだけ “良い”基底を選
んで、その変換を表す行列を “単純化”することができるか?
§8.2
固有値と固有ベクトル(定義)
前節の問題提起に答える。
線型空間 𝑉 上の線型変換 𝑇 と、𝑉 の要素 𝒂 (∕= 0) に対し、𝑇 (𝒂) =
𝜆𝒂 となるような実数 𝜆 (もしくは、複素数 𝜆)が存在するとき、こ
の 𝜆 を 𝑇 の固有値(eigen value)、𝒂 を固有値 𝜆 に属する 𝑇 の固
有ベクトル(eigen vector)という。
注. dim 𝑉 = 𝑛 とし、𝑉 の線型独立なベクトル 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 が 𝑇 の
固有ベクトルとなるならば、すなわち、
𝑇 (𝒂1 ) = 𝛼1 𝒂1 , 𝑇 (𝒂2 ) = 𝛼2 𝒂2 , . . . , 𝑇 (𝒂𝑛 ) = 𝛼𝑛 𝒂𝑛
を満たす数 𝛼𝑘 (𝑘 = 1, 2, . . . , 𝑛) が存在するならば、𝑇 は基底 ℰ =
⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩ に関して、対角行列
⎛
𝛼1
⎜
𝛼2
𝐴=⎜
...
⎝
⎞
⎟
⎟
⎠
𝛼𝑛
で表される。
実際、𝑉 の要素 𝒙 = 𝑥1 𝒂1 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑥𝑛 𝒂𝑛 , 基底 ℰ で定まる同型写像
𝜑 に対し、𝜑(𝑇 (𝒙)) = 𝐴𝜑(𝒙) が成り立つ。すなわち、𝐴 の定める ℝ𝑛
上の線型変換を 𝑇𝐴 とすると、𝑇 = 𝜑−1 ∘ 𝑇𝐴 ∘ 𝜑 である。
(
)
3 −2
例 1. 前節の例 1 の行列 𝐴 =
の定める ℝ2 上の線型変換
1
0
( )
( )
1
2
𝑇𝐴 に対し、𝒑1 =
, 𝒑2 =
とおくと、それぞれ固有値 1,
1
1
2 に属する 𝑇𝐴 の固有ベクトルである。実際 𝑇𝐴 (𝒑1 ) = 𝐴𝒑1 = 𝒑1 ,
𝑇𝐴 (𝒑2 ) = 𝐴𝒑2 = 𝒑2 . また、𝑇𝐴 は基底 ⟨𝒑1 , 𝒑2 ⟩ に関して対角行列
(
)
1 0
0 2
で表される。もちろんこれは、前節の例 1 でみた行列 𝐵 に等しい。
70
例 2. 漸化式 𝑎𝑛+2 = 𝑎𝑛+1 + 𝑎𝑛 (𝑛 = 1, 2, . . .) を満たす実数列全体の
作る ℝ 上の線型空間 𝐹2 において、項を一つずらす写像 𝑆 を、
𝑆({𝑎𝑛 }) = {𝑎𝑛+1 }
(
)
0 1
と定めると、𝑆 は基底 ⟨𝒆1 , 𝒆2 ⟩ に関して、行列
で表される。
1 1
ここで、
𝒆1 = {1, 0, 1, 1, 2, 3, 5, . . .},
𝒆2 = {0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, . . .}
である。
基底を替えてみよう。例えば、別の基底 ⟨𝒑1 , 𝒑2 ⟩
{
}
{
}
√
√
√
√
1+ 5 3+ 5
1− 5 3− 5
𝒑1 = 1,
,
, . . . , 𝒑2 = 1,
,
,...
2
2
2
2
1
に関して 𝑆 は対角行列
2
(
)
√
1+ 5
0√
で表される。
0
1− 5
問題 2. 次の各問に答えよ。
√
√
1+ 5 1− 5
,
(1) 上の例 2 において、𝒑1 , 𝒑2 はそれぞれ固有値が
2
2
である写像 𝑆 の固有ベクトルであることを確かめよ。
(2) 線型空間 𝑉 上の線型変換 𝑇 に対し、集合
𝑊𝜆 = {𝒂 ∈ 𝑉 ; 𝑇 (𝒂) = 𝜆𝒂}
は 𝑉 の部分空間をなすことを示せ。これを、𝑇 の 𝜆 に属する
固有空間(eigen space)という。
§8.3
固有値と固有ベクトル(計算法)
前節の例 1 と例 2 でみた固有ベクトル 𝒑1 , 𝒑2 は、今のところ、ど
のようにして見つけたかは述べていない。
𝑛 次元線型空間 𝑉 上の線型変換 𝑇 を、𝑉 の基底 ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩ に
関して表現する行列を 𝐴 とおく。𝑇 の固有値を 𝜆, 𝑇 の 𝜆 に属する
固有ベクトルを 𝒗 とし、基底 ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩ に関する 𝒗 の成分を
𝑥1 , 𝑥2 , . . . , 𝑥𝑛 とすると、
𝑇 (𝒗) = 𝜆𝒗
は、以下のように書き替わる(下図)。
71
𝑉
𝑇
-
𝑉
𝜑
𝜑
?
ℝ𝑛
𝑇𝐴
?
- ℝ𝑛
ここで、𝜑 は 𝑉 の基底 ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩ で定まる同型写像で、𝑇𝐴 は
基底 ⟨𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩ に関する 𝑇 の表現行列 𝐴 で定まる線型写像で
ある。
⎛ ⎞
𝑥1
⎜ 𝑥2 ⎟
⎟
𝑇𝐴 (𝒙) = 𝐴𝒙 = 𝜆𝒙, 𝒙 = ⎜
⎝ ... ⎠
𝑥𝑛
したがって、次の定義が整合的(well-defined)である。
定義. 𝑛 次正方行列 𝐴 と、ある数 𝜆 に対し、𝑛 次列ベクトル 𝒙 につ
いての方程式
𝐴𝒙 = 𝜆𝒙
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (★)
を考える。𝒙 = 0 は 𝜆 が何であっても (★) の解。(★) の 0 でない解 𝒙
が存在するとき、𝜆 を行列 𝐴 の固有値、𝒙 を 𝜆 に属する固有ベクト
ルと呼ぶ。
具体的計算法. 以下の同値関係が成り立つ。
𝜆 が 𝐴 の固有値
⇔ 𝐴𝒙 = 𝜆𝒙 を満たす 0 でない解 𝒙 が存在する
⇔ (𝐴 − 𝜆𝐸)𝒙 = 0 を満たす 0 でない解 𝒙 が存在する
⇔ det(𝐴 − 𝜆𝐸) = 0
まとめると、
定理. 𝐴 の固有値は 𝑥 についての次の 𝑛 次方程式の根である。
det(𝑥𝐸 − 𝐴) = 0
Φ𝐴 (𝑥) = det(𝑥𝐸 − 𝐴) は 𝑥 についての 𝑛 次多項式であり、これを
固有多項式と呼ぶ。また、Φ𝐴 (𝑥) = 0 を固有方程式と呼ぶ。
注. 𝒙 が 𝐴 の固有ベクトルならば、𝑘𝒙 も 𝐴 の固有ベクトルである。
72
⎛
−1
例 1. 実行列 𝐴 = ⎝ 1
1
計算すると、(𝜆 − 2)(𝜆2
⎞
1 −3
2 −3⎠ の固有方程式 det(𝜆𝐸 − 𝐴) = 0 を
0 −1
+ 2𝜆 + 3) = 0 であるので、𝐴 の固有値は
⎛ ⎞
𝑥
𝜆 = 2 のみである。固有値 2 に属する固有ベクトルを 𝒗 = ⎝𝑦 ⎠ と
𝑧
おくと、連立 1 次方程式 (𝐴 − 2𝐸)𝒗 = 0 を解いて、
⎛ ⎞
3
𝒗 = 𝑘 ⎝12⎠ (𝑘 は零でない任意の実数)
1
を得る。
⎛
⎞
−2
2 −3
例 2. 行列 𝐵 = ⎝ 2
1 −6⎠ の固有値と固有ベクトルを求めよ
−1 −2
0
う。𝐵 の固有方程式は、(𝜆 + 3)2 (𝜆 − 5) = 0 であるので、固有値は、
𝜆1 = −3(2 重根)と
⎛𝜆2⎞= 5 である。𝜆1 = −3 に属する固有ベクト
𝑥
ルを求めよう。𝒗 = ⎝𝑦 ⎠ とおき、(𝐴 + 3𝐸)𝒗 = 0 を解いて、
𝑧
⎛ ⎞ ⎛ ⎞
−2
3
⎝
⎠
⎝
𝒗=𝑘
1 +ℎ 0⎠ (𝑘, ℎ は (𝑘, ℎ) ∕= (0, 0) である任意の実数の組)
0
1
⎛ ⎞ ⎛ ⎞
−2
3
を得る。ここで、⎝ 1⎠ と ⎝0⎠ は線型独立なベクトルである。
0
1
問題 3. 次の各問に答えよ。
(1) 例 1 において、複素行列 𝐴 とみたときは、固有値としてさら
√
に −1 ± 2𝑖 も入る。この二つの固有値の属する固有ベクトル
をそれぞれ求めよ。またこのとき、例 1 の 𝑘 は零でない任意の
複素数である。
(2) 例 2 において、𝜆2 = 5 に属する固有ベクトルを求めよ。
注. 𝑛 次方程式 Φ𝐴 (𝑥) = 0 の根は、複素数を考えれば必ず 𝑛 個ある!
一般に 𝑛 次方程式は「重複度を込めて 𝑛 個の複素解を必ずもつ」こ
とが知られている。これは代数学の基本定理
『𝑎𝑖 ∈ ℂ (𝑖 = 0, 1, 2, . . . , 𝑛), 𝑎0 ∕= 0, 𝑛 ≥ 1 とする。この
とき、𝑛 次方程式
𝑎0 𝑧 𝑛 + 𝑎1 𝑧 𝑛−1 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑛−1 𝑧 + 𝑎𝑛 = 0
は複素数の範囲内で少なくとも 1 つの解をもつ。』
73
と因数定理を繰り返し用いることによりわかる。この事実は複素数
の数学的自然さを物語っている。
注. 固有値 𝜆 が固有方程式の 𝑟 重根であるとき、𝑟 を 𝜆 の(代数的)
重複度という。
§8.4
演習
固有方程式の根のありかたは多様であり、また、行列を実行列と
みるか、複素行列とみるかで固有値の存在もかわる。2 次正方行列
の例をみて、また、実際にいくつかの問題を解いてその多様さを実
感しよう。
(
)
5 4
(1) 異なる 2 つの実根. 𝐴 =
の固有値は、𝜆1 = 1, 𝜆2 = 6 の
1 2
( )
1
2 つ。𝜆1 に属する固有ベクトルは、𝒖1 = 𝑘
(𝑘 ∕= 0). 𝜆2 に属
−1
( )
4
する固有ベクトルは、𝒖2 = ℎ
(ℎ ∕= 0).
1
(
問題 4. 行列 𝐴 =
)
1 2
の固有値と固有ベクトルを求めよ。
3 4
(2) 実重根. 以下の 2 つのパターンが考えられる。
(
)
1 0
例 1. 𝐴 =
の固有値は、𝜆 = 1(2 重根)であり、𝜆 = 1 に
0 1
( )
1
属する固有ベクトルとして、2 つの線型独立なベクトル 𝒖1 = 𝑘
0
( )
0
(𝑘 ∕= 0) と 𝒖2 = ℎ
(ℎ ∕= 0) がとれる。
1
(
)
1 1
例 2. 𝐵 =
の固有値は、𝜆 = 1(重複度 2)であり、𝜆 = 1 に
0 1
( )
1
属する固有ベクトルとして、𝒖 = 𝑘
(𝑘 ∕= 0) のみがとれる。
0
(
)
(
)
(
)
1
1 −1
1 2
5 1
問題 5. 行列 𝐴 =
,𝐵=
, および 𝐶 =
9 −5
−2 5
2 −1 7
の固有値と固有ベクトルをそれぞれ求めよ。
(
)
𝑎 𝑏
(3) 共役複素根. 𝐴 =
(𝑏 ∕= 0) の固有値について、𝐴 を実行
−𝑏 𝑎
列とみたときは、固有値は 存在しない が、複素行列とみたときは、
共役な複素固有値 𝜆1 = 𝑎 + 𝑏𝑖, 𝜆2 = 𝑎 − 𝑏𝑖 をもつ。𝜆1 に属する固
74
( )
1
有ベクトルは、𝒖1 = 𝛼
(𝛼 =
∕ 0). 𝜆2 に属する固有ベクトルは、
𝑖
( )
𝑖
𝒖2 = 𝛽
(𝛽 ∕= 0). ただし、𝛼, 𝛽 はそれぞれ零でない複素数で
1
ある。
(
問題 6. 行列 𝐴 =
)
1 −2
の固有値と固有ベクトルを求めよ。
3
2
問題 7. 以下の行列の固有値と固有ベクトルを求めよ(行列はすべ
て複素行列とみなす。ただし、(1) の 𝑎, 𝑏 はいずれも複素数、(9) の
𝜃 は実数)。
⎞
⎛
⎛
⎞
⎛
⎞
⎛
⎞
0 0 0 4
𝑎 𝑏 0
4
0
0
3
0
0
⎜0 0 4 0⎟
⎟
⎝
⎠ (4) ⎝5 4 0⎠
(1) ⎝ 𝑏 𝑎 𝑏⎠ (2) ⎜
⎝0 1 0 0⎠ (3) 0 8 6
0 0 6
3 6 1
0 𝑏 𝑎
1 0 0 0
⎛
⎞
⎛
⎞
⎛
⎞
⎛
⎞
2
1
2
−1
1 0
3
1 2
0 1 0
1
(5) ⎝ 1 −1 0⎠ (6) ⎝−6 −2 6⎠ (7) ⎝1 0 0⎠ (8) ⎝−2 2
1⎠
3
1 2 −2
0
0 0
−2 −1 3
0 0 1
⎛
⎞
(
)
(
)
(
)
cos 𝜃 − sin 𝜃 0
3
4
0
0
1
0
(9) ⎝ sin 𝜃 cos 𝜃 0⎠ (10)
(11)
(12)
4 −3
0 −1
2 −1
0
0
1
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
14 −10
1
0
−2 2
0 0
0 1
(13)
(14)
(15)
(16)
(17)
5 −1
0 −3
−8 8
0 0
0 0
§8.5
基本的性質
𝐴 = (𝑎𝑖𝑗 ) を 𝑛 次正方行列とすると、固有多項式は、
det(𝑥𝐸 − 𝐴) = 𝑥𝑛 + 𝑐1 𝑥𝑛−1 + 𝑐2 𝑥𝑛−2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑐𝑛−1 𝑥 + 𝑐𝑛
となる。実際、
𝑥 − 𝑎11 −𝑎12 ⋅ ⋅ ⋅
−𝑎
1𝑛
−𝑎21 𝑥 − 𝑎22 ⋅ ⋅ ⋅
−𝑎2𝑛 det(𝑥𝐸 − 𝐴) = ..
..
.. ..
.
.
. .
−𝑎𝑛1
−𝑎𝑛2 ⋅ ⋅ ⋅ 𝑥 − 𝑎𝑛𝑛 であるから、𝑥 の最高次 𝑥𝑛 の項は、
(𝑥 − 𝑎11 )(𝑥 − 𝑎22 ) ⋅ ⋅ ⋅ (𝑥 − 𝑎𝑛𝑛 )
より出てくる。𝑥𝑛−1 の項もこれより出てくる。したがって、𝑥𝑛 の係
数は 1 で、𝑥𝑛−1 の係数 𝑐1 は、
𝑐1 = −(𝑎11 + 𝑎22 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑎𝑛𝑛 ) = − trace 𝐴.
75
一方、det(𝑥𝐸 − 𝐴) において、𝑥 = 0 とおけば、
𝑐𝑛 = det(−𝐴) = (−1)𝑛 det 𝐴
である。
問題 8. 次の各問に答えよ。
(
)
𝑎 𝑏
(1) 実 2 次正方行列 𝐴 =
の固有多項式について上述の性
𝑐 𝑑
質を確認せよ。
(2) 𝐴 が複素行列である場合のように、固有方程式の根がすべて固
有値になる場合、
trace 𝐴 = すべての固有値の和
det 𝐴 = すべての固有値の積
であることを示せ。
定義. 正方行列 𝐴, 𝐵 に対し、
𝐵 = 𝑃 −1 𝐴𝑃
となる正則行列 𝑃 が存在するとき、𝐵 は 𝐴 に相似であるという。
問題 9. 𝐵 が 𝐴 に相似なとき、次を示せ。
(1) 𝐴 と 𝐵 の固有値は、重複度を含めて一致する。
(2) trace 𝐴 = trace 𝐵.
(3) det 𝐴 = det 𝐵.
ヒント. (1) 𝐵 が 𝐴 に相似なとき、
det(𝑥𝐸−𝐵) = det(𝑥𝐸−𝑃 −1 𝐴𝑃 ) = det(𝑃 −1 (𝑥𝐸−𝐴)𝑃 ) = det(𝑥𝐸−𝐴)
より、𝐴 と 𝐵 の固有多項式は一致する。
問題 10. 以下を示せ。
(1) 𝐴 と 𝑡𝐴 の固有値は重複度を含めて一致する。
(2) 𝜆 を 𝐴 の固有値とすると、𝐴𝑚 (𝑚 = 1, 2, . . .) の固有値は 𝜆𝑚 で
ある。
(3) 𝜆 を 𝐴 の固有値とすると、𝑘𝐴 (𝑘 ∕= 0) の固有値は 𝑘𝜆 である。
(4) 正則行列 𝐴 の固有値は 0 でない。
(5) 固有値 0 を持つための必要十分条件は det 𝐴 = 0 である。
(6) 𝜆 を正則行列 𝐴 の固有値とすると、𝐴−1 の固有値は 1/𝜆 である。
(7) 上三角行列のすべての固有値は、その対角成分に等しい。(固
有値が重複している場合は、その重複度だけ対角成分に並ぶ。)
76
第9講
対角化とその応用
§9.1
対角化とその可能性
(
)
0 1
2 次実行列
には、固有値が存在しないが、2 次複素行列
−1 0
(
)
0 1
は、固有値 ±𝑖 をもつ。一般に、𝑛 次複素行列は、重複度
−1 0
を含めて 𝑛 個の固有値が存在する。§8.3 で述べたように、これは、𝑛
次固有方程式が 𝑛 個の複素根を必ずもつことに由来する。ところで、
𝑛 次正方行列が 𝑛 個の固有値を持ったとしても、その線型独立な固
⎛
⎞
1 1 1
有ベクトルは 𝑛 個あるとは限らない。例えば、𝑈 = ⎝0 1 1⎠ は固
0 0 1
⎛ ⎞
1
有値 1(重複度 3)と、それに属する固有ベクトル 𝑘 ⎝0⎠ (𝑘 ∕= 0) を
0
もつが、固有ベクトルはこれだけである。あと 2 つ固有ベクトルが
見つかると自然な気がする。理想的には、𝑛 次正方行列には重複度
を含めて 𝑛 個の固有値(これは複素行列ならば存在する)と、𝑛 個
の線型独立な固有ベクトルがほしいところである。しばらくは、こ
の理想に答えることのできる行列について考察しよう。
上の行列 𝑈 はこの理想
𝑛 次正方行列 𝐴 が対角行列と相似であるとき、すなわち、
⎛
⎞
𝜆1
⎜
⎟
𝜆2
⎟
𝑃 −1 𝐴𝑃 = ⎜
..
⎝
⎠
.
𝜆𝑛
に答えることのできる
行列ではないが、この種
の行列を含むあらゆる
行列に対する固有値問
題の最終的ともいうべ
き決着はなされている。
そのためには、“ジョル
ダン(Jordan)の標準
形”や “広義固有空間”
というより深化した概
念を学ぶ必要がある。
となるような数 𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑛 と正則行列 𝑃 が存在するとき、𝐴 は対
角化可能であるという。
(
)
(
)
3 −2
1 2
例. 𝐴 =
に対し、𝑃 =
ととれば、𝑃 −1 𝐴𝑃 = §8.1, 例 1 参照。
1
0
1 1
(
)
(
)
1 0
1 −1
であるので、𝐴 は対角化可能である。ところが、𝐵 =
0 2
9 −5
は、対角化不可能である。以後、対角化可能な “理想的な”行列につ
いて考察しよう。
(
)
(
)
3 1
−2
1
−1
注. 𝐵 は対角化できないが、𝑃 =
に対し、𝑃 𝐵𝑃 =
9 0
0 −2
と “三角化”することはできる。実は、任意の複素行列は、上三角行
列と相似(三角化可能である)ことが知られている。
対角化について一般に以下の事実が知られている。
定理 1. 𝑛 次正方行列 𝐴 が対角化可能
⇔ 𝐴 の線型独立な固有ベクトルが 𝑛 個存在する。
77
定理 2. 行列 𝐴 の相異なる固有値に属する固有ベクトルは、線型独
立である。
定理 2 の系. 𝑛 次正方行列 𝐴 が相異なる 𝑛 個の固有値をもつならば、
𝐴 は対角化可能である。
注. この系において “逆は真ならず”である。
定理 3. 𝑛 次正方行列 𝐴 の固有方程式 Φ𝐴 (𝑥) = 0 が 𝑥 = 𝜆 を 𝑚 重根
にもつとする。このとき、固有値 𝜆 に属する線型独立な固有ベクト
ルは高々𝑚 個である。
定理 1.∼定理 3. をまとめると、次の定理になる。
定理 4. 𝑛 次正方行列 𝐴 が対角化可能であるための必要十分条件は、
「固有方程式 Φ𝐴 (𝑥) = 0 が重複度を込めてのべ 𝑛 個の根をもち、その
相異なる固有値を 𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑠 , それぞれの重複度を 𝑚1 , 𝑚2 , . . . , 𝑚𝑠
とおくとき、各 𝜆𝑖 に属する線型独立な固有ベクトルをちょうど 𝑚𝑖 𝑚1 +𝑚2 +⋅ ⋅ ⋅+𝑚𝑠 = 𝑛
個ずつとることができる」ことである。
注. 定理 4. の状況において、𝜆𝑖 に属する 𝑚𝑖 個の線型独立な固有ベ
(𝑖)
(𝑖)
(𝑖)
クトルを 𝒖1 , 𝒖2 , . . . , 𝒖𝑚𝑖 (𝑖 = 1, 2, . . . , 𝑠) とおき、
(1)
(1)
(2)
(2)
(𝑠)
(𝑠)
(2)
(𝑠)
𝑃 = (𝒖1 , 𝒖2 , . . . , 𝒖(1)
𝑚1 , 𝒖1 , 𝒖2 , . . . , 𝒖𝑚2 , . . . , 𝒖1 , 𝒖2 , . . . , 𝒖𝑚𝑠 )
とすると、𝑃 は正則で、
(1)
(2)
(𝑠)
(2)
(𝑠)
𝐴𝑃 = (𝜆1 𝒖1 , . . . , 𝜆1 𝒖(1)
𝑚1 , 𝜆2 𝒖1 , . . . , 𝜆2 𝒖𝑚2 , . . . , 𝜆𝑠 𝒖1 , . . . , 𝜆𝑠 𝒖𝑚𝑠 )
⎛
⎞
𝜆1 𝐸𝑚1
⎜
⎟
𝜆2 𝐸𝑚2
⎟
=𝑃⎜
..
⎝
⎠
.
𝜆𝑠 𝐸𝑚𝑠
すなわち、
𝑃 −1 𝐴𝑃 = diag[𝜆1 , . . . , 𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑠 , . . . , 𝜆𝑠 ]
| {z } | {z }
| {z }
𝑚1
𝑚2
𝑚𝑠
が成り立つ。
問題 1. 次の行列は対角化可能か。可能ならば対角化せよ。
⎛
⎞
(
)
(
)
(
)
3
1 −2
0 −1
0 1
1 2
(1)
(2)
(3)
(4) ⎝−6 −2
6⎠
1
0
1 0
0 1
−2 −1
3
⎛
⎞
⎛
⎞
⎛
⎞
0 1 1
−2 −2
0
4
2
2
(5) ⎝1 0 1⎠ (6) ⎝ 4
4 −1⎠ (7) ⎝ 1
3
1⎠
1 1 0
2
1
2
−4 −4 −2
⎛
⎞
⎛
⎞
⎛
⎞
0 0 0 1
1 1 −1
−2 −6 −10
⎜0 0 1 0⎟
⎟
(8) ⎝ 1 1
1⎠ (9) ⎝ 1
1
0⎠ (10) ⎜
⎝0 1 0 0⎠
−1 1
1
1
3
6
1 0 0 0
78
§9.2
定理の証明
定理 1 から定理 3 を証明する。
定理 1. の証明. (⇒) 𝑃 −1 𝐴𝑃 = diag[𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑛 ] となる正則行
列 𝑃 が存在する。よって、𝐴𝑃 = 𝑃 diag[𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑛 ]. ここで、
𝑃 = (𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑛 ) とすると、𝐴𝑃 = (𝜆1 𝒑1 , 𝜆2 𝒑2 , . . . , 𝜆𝑛 𝒑𝑛 ). 一方、
𝐴𝑃 = (𝐴𝒑1 , 𝐴𝒑2 , . . . , 𝐴𝒑𝑛 ) より、𝐴𝒑𝑖 = 𝜆𝑖 𝒑𝑖 (𝑖 = 1, 2, . . . , 𝑛). した
がって、𝒑𝑖 は固有値 𝜆𝑖 に属する 𝐴 の固有ベクトル。また、𝑃 は正
則であるから、𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑛 は線型独立。
(⇐) 𝐴𝒑𝑖 = 𝜆𝑖 𝒑𝑖 (𝒑𝑖 ∕= 0, 𝑖 = 1, 2, . . . , 𝑛), 𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑛 は線型独立
とする。𝑃 = (𝒑1 , 𝒑2 , . . . , 𝒑𝑛 ) とおけば、𝑃 は正則。このとき、
𝐴𝑃 = (𝐴𝒑1 , 𝐴𝒑2 , . . . , 𝐴𝒑𝑛 ) = (𝜆1 𝒑1 , 𝜆2 𝒑2 , . . . , 𝜆𝑛 𝒑𝑛 )
= 𝑃 diag[𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑛 ]
である。
定理 2. の証明. 行列 𝐴 の相異なる 𝑚 個の固有値を 𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑚 , そ
れぞれに属する固有ベクトルを 𝒖1 , 𝒖2 , . . . , 𝒖𝑚 とする。数学的帰納
法によって証明する。𝑚 = 1 のときは自明。𝑚 のとき成り立つと仮
定する。𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑚 , 𝜆𝑚+1 を相異なる固有値、𝒖𝑖 を 𝜆𝑖 に属する固
有ベクトル (𝑖 = 1, 2, . . . , 𝑚, 𝑚 + 1) とする。
𝑐1 𝒖1 + 𝑐2 𝒖2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑐𝑚 𝒖𝑚 + 𝑐𝑚+1 𝒖𝑚+1 = 0
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (♥)
とおく。両辺の左から行列 𝐴 をかけると、
𝑐1 𝜆1 𝒖1 + 𝑐2 𝜆2 𝒖2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑐𝑚 𝜆𝑚 𝒖𝑚 + 𝑐𝑚+1 𝜆𝑚+1 𝒖𝑚+1 = 0 ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (♠)
となるので、
(♠) − (♥) × 𝜆𝑚+1 :
𝑐1 (𝜆1 − 𝜆𝑚+1 )𝒖1 + 𝑐2 (𝜆2 − 𝜆𝑚+1 )𝒖2 + ⋅ ⋅ ⋅ + 𝑐𝑚 (𝜆𝑚 − 𝜆𝑚+1 )𝒖𝑚 = 0
となる。
よって、帰納法の仮定より 𝒖1 , 𝒖2 , . . . , 𝒖𝑚 は線型独立だから、
𝑐1 (𝜆1 − 𝜆𝑚+1 ) = 𝑐2 (𝜆2 − 𝜆𝑚+1 ) = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝑐𝑚 (𝜆𝑚 − 𝜆𝑚+1 ) = 0
したがって、𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑚 , 𝜆𝑚+1 は相異なる固有値だから、
𝑐1 = 𝑐2 = ⋅ ⋅ ⋅ = 𝑐𝑚 = 0.
(♥) より、𝑐𝑚+1 𝒖𝑚+1 = 0. ∴ 𝑐𝑚+1 = 0.
79
定理 3. の証明. 𝜆 に属する線型独立な固有ベクトルを 𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑠 と
する。𝒂𝑠+1 , . . . , 𝒂𝑛 を補充して、ℂ𝑛 の基底 ⟨𝒂1 , . . . , 𝒂𝑠 , 𝒂𝑠+1 , . . . , 𝒂𝑛 ⟩
をつくり、𝑃 = (𝒂1 , 𝒂2 , . . . , 𝒂𝑛 ) とおくと、
(
)
𝜆𝐸𝑠 𝐶
−1
𝑃 𝐴𝑃 =
=𝐵
𝑂𝑛−𝑠,𝑠 𝐷
(𝐶 : 𝑠 × (𝑛 − 𝑠) 行列、𝐷 : (𝑛 − 𝑠) × (𝑛 − 𝑠) 行列)
したがって、𝐵 は 𝐴 に相似なので固有多項式は一致する。すなわち
Φ𝐵 (𝑥) = Φ𝐴 (𝑥) である。𝐵 の定義から Φ𝐵 (𝑥) は (𝑥 − 𝜆)𝑠 で割り切れ、
一方、𝜆 は 𝑚 重根で、Φ𝐴 (𝑥) は (𝑥 − 𝜆)𝑚 で割り切れるから、𝑠 ≤ 𝑚
がわかる。
実際、もし 𝑠 > 𝑚 だっ
§9.3
たら、𝜆 は 𝑠 重根(𝑠 >
𝑚)ということになり、
𝑚 重根という仮定に矛
盾する。
対角化の応用
対角化の応用例と対称行列の対角化可能性について考察する。
応用例 1 (行列のべき乗). 𝑛 次正方行列 𝐴 が正則行列 𝑃 を用いて §8.1, 例 1 参照。
対角化可能 𝑃 −1 𝐴𝑃 = diag[𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑛 ] = 𝐵 とする。このとき、
𝑚
𝑚
𝐵 𝑚 = diag[𝜆𝑚
1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑛 ] である。∴ 行列が対角化可能ならば、次
のようにそのべき乗計算は容易である。
𝑚
𝑚
−1
𝐴𝑚 = 𝑃 𝐵 𝑚 𝑃 −1 = 𝑃 diag[𝜆𝑚
1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑛 ]𝑃
(
)
5 4
問題 2. 行列 𝐴 =
の 𝑚 乗を計算せよ。
1 2
応用例 2 (行列の指数関数). 𝑛 次正方行列 𝐴 に対して、行列の指数 §8.1, 例 2 参照。
関数を、
𝑒𝐴 = 𝐸𝑛 + 𝐴 +
1 2 1 3
𝐴 + 𝐴 + ⋅⋅⋅
2!
3!
と定義する。対角行列 𝐵 = diag[𝜆1 , 𝜆2 , . . . , 𝜆𝑛 ] の指数関数は、
𝑒𝐵 = diag[𝑒𝜆1 , 𝑒𝜆2 , . . . , 𝑒𝜆𝑛 ]
のように対角成分がそれぞれ指数関数となる。∴ 行列 𝐴 が対角化可
能で、𝑃 −1 𝐴𝑃 = 𝐵 となったならば、次のように計算することがで
きる。
𝑒𝐴 = 𝑃 𝑒𝐵 𝑃 −1 = 𝑃 diag[𝑒𝜆1 , 𝑒𝜆2 , . . . , 𝑒𝜆𝑛 ]𝑃 −1
(
)
5 4
問題 3. 行列 𝐴 =
の指数関数 𝑒𝐴 を計算せよ。
1 2
80
応用例 3 (連立線型微分方程式). マルサスの法則とは、ある生物の
個体数の増殖率はその時点での個体数に比例するという法則である。
例えば、右表のようなデータが得られている場合に、マルサスの法
則に従うすると、生物種 I, II の個体数は、それぞれ 𝑢′ (𝑡) = 𝑎𝑢(𝑡),
𝑣 ′ (𝑡) = 𝑏𝑣(𝑡) という微分方程式に支配される。
生物種
I
II
2 種の生物が影響しあっている場合は、次のモデル微分方程式が
考えられる。
{
𝑢′ (𝑡) = 𝑎𝑢(𝑡) + 𝑐𝑣(𝑡)
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (♥)
𝑣 ′ (𝑡) = 𝑏𝑣(𝑡) + 𝑑𝑢(𝑡)
(
ここで、𝐴 =
(♥) は、
)
(
)
𝑎 𝑐
𝑢(𝑡)
, 𝒘(𝑡) =
とおくと、連立微分方程式
𝑑 𝑏
𝑣(𝑡)
𝒘′ (𝑡) = 𝐴𝒘(𝑡)
⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ (♠)
という見掛け上単一の微分方程式として表すことができる。
𝐴 は正則行列 𝑃 を用いて対角化可能 𝐵 = 𝑃 −1 𝐴𝑃 = diag[𝛼1 , 𝛼2 ]
であるとする。このとき、𝒘 = 𝑃 𝒛 とおくと、
𝒛 ′ (𝑡) = 𝑃 −1 𝒘′ (𝑡) = 𝑃 −1 𝐴𝒘(𝑡) = 𝑃 −1 𝐴𝑃 𝒛(𝑡) = 𝐵𝒛(𝑡)
𝛼𝑡
よって、微分方程式 𝑧 ′ (𝑡) = 𝛼𝑧(𝑡) の解は 𝑧(𝑡)(= 𝐶𝑒
) であることの
𝐶1
類推(アナロジー)から、𝒛(𝑡) = 𝑒𝐵𝑡 𝑪, 𝑪 =
という形の解を
𝐶2
考えると、𝒘(𝑡) = 𝑃 𝑒𝐵𝑡 𝑪 は (♠) 式の解である。実際、代入すると、
𝒘′ (𝑡) = 𝑃 diag[𝛼1 𝑒𝛼1 𝑡 , 𝛼2 𝑒𝛼2 𝑡 ]𝑪 = 𝑃 𝐵𝑒𝐵𝑡 𝑪 = 𝑃 𝑃 −1 𝐴𝑃 𝒛(𝑡) = 𝐴𝒘(𝑡)
したがって、𝐴 が正則行列 𝑃 を用いて対角化可能であるならば、連
立微分方程式 (♥) の一般解を得る。
)
(
)
(
)
(
𝑢(𝑡)
𝑒𝛼1 𝑡 0
𝐶1 𝑒𝛼1 𝑡
𝒘(𝑡) =
=𝑃
𝑪=𝑃
𝐶2 𝑒𝛼2 𝑡
𝑣(𝑡)
0 𝑒𝛼 2 𝑡
問題 4. 次の連立微分方程式の一般解を求めよ。
{
𝑢′ (𝑡) = 5𝑢(𝑡) + 4𝑣(𝑡)
𝑣 ′ (𝑡) = 𝑢(𝑡) + 2𝑣(𝑡)
81
時刻 𝑡 での個体数
𝑢(𝑡)
𝑣(𝑡)
増殖率
𝑎
𝑏
§9.4
対称行列の対角化と 2 次形式
行列を実対称行列に限定する。
定理 1. 実対称行列の異なる固有値に属する固有ベクトルは互いに直
交する。
実際、実対称行列 𝐴 に対して、
𝐴𝒂 = 𝛼𝒂 (𝒂 ∕= 0),
𝐴𝒃 = 𝛽𝒃 (𝒃 ∕= 0),
𝛼 ∕= 𝛽
とする。このとき、
𝐴𝒂 ⋅ 𝒃 = 𝛼𝒂 ⋅ 𝒃
𝐴𝒂 ⋅ 𝒃 = 𝒂 ⋅ 𝑡𝐴𝒃 = 𝒂 ⋅ 𝐴𝒃 = 𝒂 ⋅ 𝛽𝒃 = 𝛽𝒂 ⋅ 𝒃
であるから、(𝛼 − 𝛽)𝒂 ⋅ 𝒃 = 0 を得る。よって、𝛼 ∕= 𝛽 より、𝒂 ⋅ 𝒃 = 0
となる。
定理 2. 実対称行列は、適当な直交行列によって対角化できる。
𝑃 が直交行列であると
は、𝑃 は実正方行列で、
𝑡
𝑃𝑃 = 𝐸
注. 定理 2 の証明はやや長い。意欲的な読者のために付録 A でその
証明を与える。ただ、2 次実対称行列の場合は、簡単なので以下で が成り立つことである。
すなわち、𝑃 −1 = 𝑡𝑃 .
述べる。
(
)
𝑎 𝑏
2 次の場合の定理 2 の証明. 2 次実対称行列 𝐴 =
の固有方
𝑏 𝑐
程式は 𝑥2 − (𝑎 + 𝑐)𝑥 + 𝑎𝑐 − 𝑏2 = 0 であるから、判別式を考えると、
𝑎 = 𝑐 かつ 𝑏 = 0 のとき、固有値 𝑎(重根)、そうでないとき、異な
る 2 つの実固有値をもつことがわかる。前者の場合、固有ベクトル
は 2 つの基本ベクトルであり、後者の場合、2 つの線型独立な固有
ベクトル 𝒖1 , 𝒖2 をもつ。これらをそれぞれ正規化して、
𝒑1 =
𝒖1
,
∣𝒖1 ∣
𝒑2 =
𝒖2
∣𝒖2 ∣
とし、これより行列 𝑃 = (𝒑1 , 𝒑2 ) を作ると、定理 1 より 𝒑1 と 𝒑2 は
直交する固有ベクトルであることがわかる。よって、𝑃 は直交行列
となり、𝑃 を用いて 𝐴 を対角化することができる。
問題 5. 2 次の直交行列 𝑃 は、
(
)
(
)
cos 𝜃 − sin 𝜃
cos 𝜃 sin 𝜃
,
sin 𝜃 cos 𝜃
sin 𝜃 − cos 𝜃
と表せるものしかないことを示せ。
82
実対称行列の対角化の応用として、2 次曲面(2 次曲線)の分類が
できる。例えば、𝑥2 − 𝑥𝑦 + 3𝑥𝑧 − 2𝑦𝑧 + 5𝑧 2 のような、𝑥, 𝑦, 𝑧 につ
いての 2 次の同次式を 𝑥, 𝑦, 𝑧 の 2 次形式と呼ぶ。
( )
𝑥
𝑥, 𝑦 の 2 次形式 𝑎𝑥2 + 𝑏𝑦 2 + 2𝑐𝑥𝑦 ((𝑎, 𝑏, 𝑐) ∕= (0, 0, 0)) は、𝒙 =
,
𝑦
(
)
(
)( )
𝑎 𝑐
𝑎 𝑐
𝑥
𝐴=
とおくと、𝑡𝒙𝐴𝒙 = (𝑥, 𝑦)
と表される。こ
𝑐 𝑏
𝑐 𝑏
𝑦
れを実対称行列 𝐴 の表す 2 次形式と呼び、𝐴[𝒙] = 𝑡𝒙𝐴𝒙 と表す。
(
)
( )
2 0
𝑥
例. 𝐴 =
,𝒙=
のとき、𝐴[𝒙] = 2𝑥2 − 𝑦 2
0 −1
𝑦
(
)
(
)
( )
1 2
0 1
𝑥
問題 6. 𝐴 =
,𝐵=
,𝒙=
のとき、𝐴[𝒙], 𝐵[𝒙] を
2 3
2 0
𝑦
それぞれ求めよ。
応用例 (2 次曲線の分類). 𝐴 を実対称行列とすると、適当な直交
行列 𝑃 を用いて対角化 𝑃 −1 𝐴𝑃 = diag[𝛼, 𝛽] できる。したがって、
ˆ, 𝐵 = 𝑃 −1 𝐴𝑃 とおけば、𝐴[𝒙] = 𝐵[ˆ
𝒙 = 𝑃𝒙
𝒙], すなわち元の 2 次形
2
2
式は、𝛼ˆ
𝑥 + 𝛽ˆ
𝑦 という形の式に変形できる。𝛼ˆ
𝑥2 + 𝛽ˆ
𝑦2 = 𝑘 は 𝑥
ˆ𝑦ˆ
座標平面における 2 次曲線を表している。
問題 7. 2 次曲線 𝑥2 − 𝑥𝑦 + 𝑦 2 = 3 はある 𝑥
ˆ𝑦ˆ 座標系において楕円
𝑥
ˆ2
𝑦ˆ2
√
+ √
=1
( 6)2 ( 2)2
を表すことを示せ。
問題 8. 2 次曲線 3𝑥2 + 8𝑥𝑦 + 9𝑦 2 = 22 はどんな曲線を表すか。
例. 2 次曲線 𝑥2 + 2𝑦 2 + 2𝑥𝑦
( −
) 4𝑥 + 2𝑦 + 1 = 0 は以下にみるように
( )
( )
𝑥
𝑥′
5
′
楕円を表す。実際、𝒙 =
, 𝒙 = 𝒙 − 𝒙0 =
, 𝒙0 =
,
𝑦
𝑦′
−3
(
)
1 1
𝐴 =
とおくと、与えられた式は 𝐴[𝒙′ ] = 27 とかける。𝐴
1 2
√
{
3± 5
𝛼
=
で、それぞれに属する互いに直交する固
の固有値は
𝛽
2
(
)
(
)
1
𝛽−2
有ベクトルとして、𝒖1 =
, 𝒖2 =
をとることが
𝛼−1
1
(
)
( )
𝒖1 𝒖2
𝑥
ˆ
′
ˆ, 𝑃 =
ˆ =
できる.そこで,𝒙 = 𝑃 𝒙
,
, 𝒙
とする
𝑦ˆ
∣𝒖1 ∣ ∣𝒖2 ∣
と、𝐴[𝒙′ ] = 𝑃 −1 𝐴𝑃 [ˆ
𝒙] = 27. すなわち、𝛼ˆ
𝑥2 + 𝛽ˆ
𝑦 2 = 27 とかける。
𝛼 > 𝛽 > 0 なので、これは、𝑥
ˆ𝑦ˆ 平面において、楕円
(
√
√ )
𝑥
ˆ2 𝑦ˆ2
27
27
+ 2 =1
<𝑏=
𝑎=
2
𝑎
𝑏
𝛼
𝛽
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§8.1, 例 3 参照。
を表す。∴ 𝑥′ 𝑦 ′ 平面で、𝒖1 , 𝒖2 を軸とした楕円を表す。したがって、
(5, −3) を通り、𝒖1 , 𝒖2 で張られた直線をそれぞれ 𝐿1 , 𝐿2 とすると、
与えられた式は、𝑥𝑦 平面で、𝐿1 , 𝐿2 を軸とした楕円を表す。
( )
( )
𝑥0
5
問題 9. 上の例において、𝒙0 =
とおき、𝒙0 =
を導け。
𝑦0
−3
問題 10. 2 次曲線 5𝑥2 − 6𝑥𝑦 + 5𝑦 2 − 4𝑥 − 4𝑦 − 4 = 0 はどんな曲線
を表すか。
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