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1996(日本語Pdfファイル)
1997.C.4.1.5 環境対応型層状掃気小型2サイクル エンジンの研究開発 (層状掃気小型2サイクルグループ) 和田 実、○沢田俊治、本田 清、小倉信夫、 宮崎 浩、野口祐則、小林武平、宮下智史 1.試験研究の内容 本研究開発は、2サイクルガソリンエンジンの排ガス成分のうち、THC、CO及びPMを低 減し、なおかつ熱効率を向上させ、表1.1-1に示す研究開発目標を達成させるための高給気効 率の層状掃気、及び希薄燃焼の研究を行い、低公害の小型2サイクルエンジンの具現化を図るこ とを目的とする。 1.1 研究開発目標 研究開発目標は表1.1-1に示すように、中間目標値(平成8年度)と最終目標値(平成9年 度)を設定した。なお最終目標値は、1999年施行予定の米国カリフォルニア州排ガス規制に 適合する値とした。 表1.1-1 研究開発目標 排ガス成分 THC g/PS・h(g/kW・h) CO g/PS・h(g/kW・h) NOx g/PS・h(g/kW・h) PM g/PS・h(g/kW・h) 熱効率 % 中間目標値 100 (136) 300 (408) 2 (2.72) 2 (2.72) − 最終目標値 現状に対する低減率 50 (68) 1/6 130 (178) 1/5 2 (2.72) − 0.25 (0.34) 1/20 18 − 1.2 平成8年度試験研究の内容 図1.2-1に示す手順に則り平成6年度より4ヶ年計画で研究開発を実施する。当年度は3年 度目にあたり、以下の研究開発を実施した。 コンセプト検討 研究企画 テストエンジン 設計 実用化 エンジン設計 プロトタイプ エンジン設計 テストエンジン 試験 プロトタイプ エンジン試験 実用化 エンジン試験 希薄燃焼研究 可視化研究 掃気最適化および 層状掃気研究 燃焼、掃気流 シミュレーション 技術開発 要素研究 図1.2-1 研究開発のフロー 実用化試験 1.2.1 層状掃気プロトタイプエンジン試作・試験・評価 (1)平成7年度実施の可視化研究、要素研究の結果、及び層状掃気先行エンジンの試験結果を 織り込み、層状掃気プロトタイプエンジンの試作・試験・評価を実施した。 (2)平成7年度実施の要素研究の結果を織り込み、プロトタイプエンジン搭載用として小型・ 軽量化を図ったCPU制御点火装置の開発を実施した。 1.2.2 掃気流動・燃焼シミュレーション 層状掃気方式の掃気流動の最適化(混合気の吹き抜けの最小化)を図るため、CFD(Computer Fluid Dynamics)による掃気流動の計算検討を実施した。 本年度は、有限体積法による3次元流動解析コードを用いた移動境界モデルによるシリンダ内 の3次元掃気流動解析を実施し、シリンダ内の混合気濃度分布、通常のシニューレ掃気方式との 給気効率の差異等を求め、実機データとの整合性の検討を実施した。 1.2.3 実用化エンジン基本設計 層状掃気プロトタイプエンジンの評価結果をベースとして、層状掃気実用化エンジンのボア・ ストローク比、吸気方式、気化器の配置等の基本構想の検討を実施し、構想図の作成を行った。 2 研究開発の結果と解析 2.1 層状掃気プロトタイプエンジン試作・試験・評価 (1)層状掃気先行エンジンによる排ガス評価 層状掃気プロトタイプエンジンの詳細設計を行うにあたり、平成7年度に製作した層状掃 気先行エンジンによるポートタイミング、掃気ポート通路長、吸気系、点火時期等の変更試 験を実施した。その結果、図2.1-1及び表2.1-1に示すように研究目標を達成する見通 しが得られ、層状掃気プロトタイプエンジン詳細設計へのフィードバックを実施した。 700 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 層状掃気 WOT7000rpm 600 現行エンジン WOT7000rpm 500 400 中間目標値(300g/PS・h) 300 200 最終目標値(130g/PS・h) 100 0 400 500 350 300 400 250 300 200 150 200 中間目標値(100g/PS・h) 100 100 最終目標値(50g/PS・h) 50 0 3.0 0 4 2.5 3 中間及び最終目標値(2g/PS・h) 2.0 1.5 2 1.0 1 0.5 0.0 0 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 A/F 図2.1-1 先行エンジン排ガス性能 表2.1-1 層状掃気先行エンジンによる達成状況(A/F=14) 排ガス g/kW・h 熱効率 最高出力 出力点回転数 CO THC NOx % kW rpm 中間目標値 408 136 2.72 − − − 最終目標値 177 68 2.72 18 1.10 − 層状掃気先行エンジン 55.54 46.87 1.47 21.8 1.15 7000 現行シニューレ掃気エンジン 88.12 206.70 2.43 13.6 1.11 7000 (2)層状掃気プロトタイプエンジン試作・試験・評価 層状掃気先行エンジンの試験結果をベースに、層状掃気プロトタイプエンジンエンジンの 詳細設計・製作を行い、平成8年12月より機関性能の確認、及び排ガス性能の評価を実施 した。層状掃気プロトタイプエンジンエンジンの主要諸元を表2.1-2に、外観写真を図2. 1-2に示す。 試験結果の概要を図2.1-3、図2.1-4、及び表2.1-3に示す。出力点での排ガス・ 熱効率については、中間及び最終目標値を達成できる目処付けが得られているが、最高出力 については冷却ファンによる損失仕事増加により、最終目標値に対して約7%未達となった。 表2.1-2 層状掃気プロトタイプエンジン主要諸元 項目 現行量産エンジン 層状掃気プロトタイプエンジン 排気量 33.6 cc 33.6 cc ボア×ストローク 36×33 mm 36×33 mm 有効圧縮比 7.5 7.5 吸気方式 クランクケースリードバルブ ピストンバルブ 掃気方式 空気先導掃気方式層状掃気 シニューレ掃気方式 点火方式 CPU制御CDI方式 トランジスタ方式 冷却方式 シロッコファンによる強制空冷 シロッコファンによる強制空冷 外観寸法(L×W×H) 167×235×263 mm 165×231×270 mm 重量 3.59 kg 3.21 kg 図2.1-2 層状掃気プロトタイプエンジン外観 140 120 研究目標値(130g/PS・h) 100 80 B B B 60 JH 40 B H J JH JH 150 100 B B J H J H B 50 H J 20 0 0 200 180 250 B B 160 140 J 120 H 層状掃気先行エンジン, A/F=14 100 B 現行エンジン, A/F=14 B B B B 層状掃気試作エンジン, A/F=14 B 200 150 80 60 JH 研究目標値(50g/PS・h) JH 40 JH JH 20 JH JH 100 50 H J 0 0 5 6 J 4 J 3 B 2 H J B B H 1 0 3000 4000 5000 H 研究目標値(2g/PS・h) J B JB H H JB H 6000 7000 エンジン回転数 rpm 4 2 JB H 8000 9000 0 10000 図2.1-3 層状掃気プロトタイプエンジン排ガス 1.20 層状掃気試作エンジン, A/F=14 1.15 層状掃気先行エンジン, A/F=14 研究目標値(1.1kW) 現行エンジン, A/F=14 1.10 1.05 1.00 0.95 0.90 25 研究目標値(18%) 20 15 10 3000 4000 5000 6000 7000 エンジン回転数 rpm 8000 9000 10000 図2.1-4 層状掃気プロトタイプエンジン出力・熱効率 表2.1-3 層状掃気プロトタイプエンジンによる達成状況(A/F=14) CO 408 177 排ガス THC 136 68 g/kW・h NOx 2.72 2.72 層状掃気プロトタイプエンジン(空冷) 65.94 41.47 2.71 20.6 1.04 7000 層状掃気先行エンジン(水冷) 現行シニューレ掃気エンジン(空冷) 55.54 88.12 46.87 206.70 1.47 2.43 21.8 13.6 1.15 1.11 7000 7000 中間目標値(H8年度) 最終目標値(H9年度) 熱効率 最高出力 出力点回転数 % kW rpm − − − 18 1.10 − (3)実装型CPU制御点火装置の開発 平成7年度の要素研究(点火時期制御の研究)の結果を踏まえて、層状掃気プロトタイプ エンジン搭載用としてより一層の小型化を図った、BTDC5°∼35°(誤差±2.5°) で任意点火時期が設定可能なCPU制御点火装置の開発を行った。点火装置の仕様を表2.1 -4に示す。 構成 性能 ソフト 表2.1-4 エンジン進角制御装置仕様 項 目 仕 様 制御ユニット(CPU 回路) 8ビット1チップ CPU: (μPD78018) 定電圧回路 発電コイル: CDI ユニットと一体 三端子レギュレータ: (78L05、制御ユニット内) BTDC 5°∼35° 点火時期制御範囲 ±2.5° 精度 5V、23 mA(TYP) 消費電力 33g 重量 60×11×40(mm) 外観寸法 プログラム容量 1Kバイト マップ容量 4Kバイト(最大 16K まで可) 処理時間 110μsec 点火時期特性(研究目標値)は、始動の容易性、最高出力点でのMBT(Minimum Spark Advance for Best Torque)制御、及び高速での過回転防止を考慮して、平成7年度と同一 の設定としている。 図2.1-5に層状掃気プロトタイプエンジン搭載時の点火時期、2次遮断電圧の試験結果 を示す。点火時期については、設定点火時期に対して十分トレーサビリティのある結果が得 られている。また、2次遮断電圧は7000rpm以上で約10%低下するが、破壊電圧に 対しては十分な余裕度が得られている。 重量・寸法については表2.1-4に示すように、層状掃気実用化エンジンに搭載可能とな る小型化の目処付けが得られた。 40 40 設定点火時期(研究目標値) 35 点火時期 30 30 2次遮断電圧 25 20 20 15 10 10 5 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 0 10000 エンジン回転数 rpm 図2.1-5 エンジン進角制御装置進角・2次電圧特性 2.2 掃気流動・燃焼シミュレーション 層状掃気方式における給気効率向上(混合気の吹き抜け抑制)のためには掃気通路内、及び掃 気ポート開口後の先導空気と混合気の挙動把握が重要であり、本年度は、移動境界モデルによる シリンダ内の3次元掃気流動解析を実施し、シリンダ内の混合気濃度分布、通常のシニューレ掃 気方式との給気効率の差異等を求めた。計算法としては、有限体積法による3次元流動解析コー ドを使用した。 表2.2-1に計算内容概要、図2.2-1に解析モデルの計算格子を、図2.2-2、及び表2. 2-2に境界条件・初期条件を示す。 表2.2-1 計算内容概要 項目 クランク角ステップ 計算期間(クランク角) モデルのメッシュ数 計算時間 0.1∼0.5 deg 720deg(2cycle) 75,000 メッシュ 約 140 hr 初期条件1 シリンダ 初期条件2 マフラ 初期条件5 空気用通路 境界条件2 空気通路 初期条件3 掃気通路 境界条件1 クランクケース リードバルブ 境界条件3 初期条件4 排ガス出口 クランクケース 図2.2-1 解析モデル計算格子 図2.2-2 境界条件・初期条件 表2.2-2 境界条件・初期条件 境界条件 1 境界条件2 境界条件3 初期条件1 初期条件2 初期条件3 初期条件4 初期条件5 層状掃気方式 ATDC20∼ ATDC 270deg : 壁条件 ATDC 270∼ ATDC 20deg : 0.100MPa ATDC20∼ ATDC 270deg : 壁条件 ATDC 270∼ ATDC 20deg : 0.100MPa 0.1Mpa EGR RATE : 1.0 / 圧力 : 0.178Mpa EGR RATE : 1.0 / 圧力 : 0.1MPa EQ. Ratio: 0.5 / 圧力 : 0.126 MPa EQ. Ratio: 2.5 / 圧力 : 0.126 MPa EQ. Ratio: 0.0 / 圧力 : 0.126 MPa シニューレ掃気方式 ATDC20∼ ATDC 270deg : 壁条件 ATDC 270∼ ATDC 20deg : 0.100MPa 壁条件 0.1Mpa EGR RATE : EGR RATE : EQ. Ratio: EQ. Ratio: EQ. Ratio: 1.0 1.0 1.0 1.0 1.0 / / / / / 圧力 圧力 圧力 圧力 圧力 : : : : : 0.178Mpa 0.1MPa 0.126 MPa 0.126 MPa 0.126 MPa 図2.2-3に混合気濃度分布の計算結果を、表2.2-3に掃気効率、給気比、給気効率及び 充填効率の計算結果を、シニューレ掃気方式との対比において示す。 今回の掃気流動計算では、定性的には実機による試験結果と整合性のある結果が得られている が、図2.2-4に示すように、給気効率において約10%の実機データとの差異が生じており、 定量的評価のためにはモデル・境界条件の見直し、改善が必要な結果となった。 層状掃気方式(2 nd cycle) ATDC 140 deg シニューレ方式(2 nd cycle) ATDC 180 deg ATDC 220deg ATDC 140 deg (Minimum Equivalence Ratio 0.0 Maximum ATDC 180 deg ATDC 220deg (Minimum Equivalence Ratio 0.0 Maximum Equivalence Ratio 2.5) Equivalence Ratio 1.0) 図2.2-3 混合気濃度分布の計算結果 表2.2-3 給気比、給気効率及び充填効率の計算結果 掃気方式 掃気効率 給気比 給気効率 層状掃気方式 0.451 0.383 0.828 シニューレ掃気方式 0.451 0.383 0.726 1.00 „ „ 0.95 層状掃気 実験値 „ シニューレ 実験値 „ 層状掃気 計算結果 „ 0.90 シニューレ掃気 計算結果 „ „ 0.85 „ „ 0.80 „ „ 完全混合掃気ライン „ „ 0.75 „ „ „ 0.70 „ „ „ „ 0.65 „ „ 0.60 0.55 0.50 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 給気比 L 図2.2-4 給気比と給気効率(計算値 vs.実験値) 充填効率 0.317 0.278 2.3 層状掃気実用化エンジン基本設計 層状掃気プロトタイプエンジンの評価結果を踏まえて、層状掃気試作エンジンのボア・ストロ ーク比、吸気方式、気化器の配置等の基本構想の検討を実施し、構想図の作成を行った。表2. 3-1に層状掃気実用化エンジンの主要諸元、図2.3-1に層状掃気実用化エンジンの全体構成 を示す。 層状掃気実用化エンジンの主要構成はプロトタイプエンジンとほぼ同様であるが、実用化にあ たって手持ち機器用エンジンとしての小型軽量、生産性、整備性等を考慮した構成としている。 表2.3-1 層状掃気実用化エンジン主要諸元 項目 層状掃気実用化エンジン 層状掃気プロトタイプエンジン 排気量 33.3 cc 33.6 cc ボア×ストローク 37×31 mm 36×33 mm 有効圧縮比 7.5 7.5 吸気方式 ピストンバルブ クランクケースリードバルブ 掃気方式 空気先導掃気方式層状掃気 空気先導掃気方式層状掃気 点火方式 CPU制御CDI方式 CPU制御CDI方式 冷却方式 シロッコファンによる強制空冷 シロッコファンによる強制空冷 外観寸法(L×W×H) 160×230×260 mm 167×235×263 mm 重量 3.20 kg 3.59 kg 図2.3-1 層状掃気実用化エンジン全体構成 3 研究開発の成果 (1)層状掃気プロトタイプエンジンの試作・評価を実施した結果、出力点での排ガス・熱 効率においては最終目標値を達成できる目処付けが得られた。 (2)プロトタイプエンジン搭載用として小型・軽量化を図った実装型 CPU 制御点火装置の開 発を実施した。 (3)3 次元流動解析コードを用いてシリンダ内の 3 次元掃気流動解析を実施し、実機デー タとの整合性の検討を実施した。 (4)層状掃気プロトタイプエンジンの評価結果をベースとして、層状掃気実用化エンジン の基本構想の検討を実施し、構想図作成を行った。 4 まとめ 4.1 平成 8 年度の研究開発 (1)層状掃気先行エンジンによるポートタイミング等の変更試験を実施し、その結果、最終 目標値を達成できる見通しが得られ、層状掃気プロトタイプエンジン詳細設計へのフィ ードバックを実施した。 (2)層状掃気プロトタイプエンジンの試験結果をベースに、層状掃気プロトタイプエンジン の試作・試験・評価を行い、最終目標値を達成できる目処付けを得る事ができた。 (3)移動境界による 3 次元掃気流動解析を実施し、シリンダ内の混合気濃度分布、通常のシ ニューレ掃気方式との差異を求めた。また、実機データとの整合性の検討を行った。 (4)層状掃気プロトタイプエンジンの評価結果を踏まえて、層状掃気実用化エンジンの基本 構想の検討を実施し、構想図作成を行った。 4.2 今後の課題 (1)層状掃気プロトタイプエンジンを用いた実用化要件(耐久性、始動性、過渡特性)の評 価を実施するとともに、層状掃気実用化エンジンの全体構想、及び構想図に基づき、層状 掃気実用化エンジンの設計・製作・評価を実施する。 (2)本年度未実施のPMの排出量測定、低減研究を実施する。 (3)CFDによる計算精度向上をはかり、計算検討結果を層状掃気実用化エンジンの詳細設 計にフィードバックする。 ① シミュレーションによる給気比、給気効率の実機データとの整合性の向上 ② 掃気流動の改良による給気効率向上(混合気吹き抜け低減)のシミュレーションの実 施 ③ 掃気流動シミュレーションデータを用いた燃焼シミュレーションの実施、燃焼室形状、 点火プラグ位置の最適化 ④ シミュレーション結果の実用化エンジン詳細設計への反映 Copyright 1997 Petroleum Energy Center all rights reserved.