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目次 - 東海大学 理学部 数学科
目次 講義の目的 (第1回) 3 1.1 普通教科「情報」に関する科目 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 1.2 「情報と職業」の位置づけ 3 1 情報と情報化の意味 (第2回) 5 2.1 「情報」の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 2.2 背景理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 2.3 情報化社会のメリット,デメリット . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 2.4 ICT 企業の法的グレイゾーンの問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 2.5 「情報通信白書」に見る情報化の動向 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 基本原理,基本技術 (第3,4,5回) 8 3.1 コンピュータの原理と仕組み . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 3.2 プログラム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 3.3 応用プログラムのデータ型・ファイル形式の問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 3.4 通信とネットワークの理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 3.5 暗号 (code, cryptography) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 3.6 符号理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 3.7 身の回りにある ICT . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 情報プロフェッショナル (第6回) 14 4.1 資料 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 4.2 仕事・職種 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 職域の情報化(第7,8回) 16 5.1 社会活動の情報化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 5.2 社内の情報化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 5.3 仕事の情報化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 職域の情報化に際しての注意(第 9 回) 20 6.1 情報通信白書に見る諸危機と対策 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 6.2 ガイドライン例: . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 勤務環境と健康(第 10 回) 22 7.1 労働環境のガイドライン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 7.2 健康問題など . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 7.3 アクセシビリティ,ユニバーサルデザイン (メーカ側からの動き) . . . . . . . . . . . . . . . . 23 社会と雇用情勢の変化(第 11 回) 25 2 3 4 5 6 7 8 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 8.1 労働市場,労働経済 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25 8.2 在宅勤務の浸透 26 8.3 社会情勢の変化とストレス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27 職場教育,生涯教育(第 12 回) 29 9.1 教育の必要性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29 9.2 ICT 活用教育の方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29 9.3 e.Learning とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 9.4 最近の話題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 9 2 1 講義の目的 (第1回) 1.1 普通教科「情報」に関する科目 「情報社会および情報倫理」: 情報化と社会,著作権等の知的所有権,情報モラル,プライバシーなど. 「情報と職業」: 情報化社会の進展と職業,職業倫理を含む職業観と勤労観など. 「コンピュータおよび情報処理」: ハードウェア,ソフトウェア,アルゴリズム,プログラミング,計測・制御 など. 「情報システム」: データベース,情報検索,情報システムの設計と管理など. 「情報通信とネットワーク」: 「マルチメディア表現および技術」: 1.2 「情報と職業」の位置づけ 文部科学省の資料から 2000/06/05 議事録 教育職員養成審議会総会(第40回)議事要旨 5.議事: * 職業指導に関して, 「教職に関する科目」の中に進路相談があるが,進路指導と職業指導はどう異なるの か. 「情報」に関しては職業指導ではなく「情報と職業」とされているように,これは職業選択について の指導にとどまらず情報に関する職業全般についての指導を指すということか.そうであるならば,そ れは「情報と社会」の中で扱われるべき内容ではないか.従来の職業指導のようなニュアンスは残さな い方がいいのではないか. * 普通科目の「情報」については,家庭科と同様に教科横断的な性格をもつ教科であって職業人養成を念 頭においた職業指導は特段必要ないのではないかとの意見もあったが,情報は一般社会における組織体 の運営,マネジメント等と密接に関係し,あらゆる場面において情報に関する業領域が成立してくるこ とを踏まえ,従来型の職業指導ではなく, 「情報と職業」として多少幅広い内容を盛り込む形にしたもの である.一方で「情報と社会」において扱うこととすると,内容が拡散してしまい職業に関する事項を 含めきれないおそれがある.専門教科である「情報」においては専門職業人養成が念頭におかれており, 職業についてある程度まとまった形で扱うべきではないかと検討した結果,「情報と職業」とするのが 適切ではないかということに落ち着いた. * ここにいう職業指導は進路指導と同義ではなく,職業人のための教育を職業指導と呼ぶということであ るなら,実際に教員養成を行うことになる大学にもその意味をしっかり押さえておいて欲しい.学校現 場では教科の中だけでなく全体として進路指導を行うことが定着してきている.教科の中で独立した進 路指導を行うというような誤解が生じれば,学校現場が混乱することになる. * ここで想定されている職業指導は,情報に関する職業,情報プロフェッショナルとはどういうものかを 生徒に理解してもらうことである. * 現状を見ると,専門教科に関しては職業指導が入っており,専門教科,普通教科の両方がある家庭科で は職業指導は入っていない.今回の「情報」に関しても専門教科と情報教科の両方があるが,より多く 受講することになる普通科の学生は,情報プロフェッショナルになる人は少ないと思われるため,職業 3 指導という言葉は似つかわしくない.その一方で,これから情報があらゆる職業について関わってくる ことを考えれば,普通科においても情報と今後の自分の職業との関係についてを考えていくことが必要 であり,結果として「情報と職業」という形に落ち着いたのではないかと思う. * 今の高校生が現実に直面している状況と,従来の職業指導の在り方の間に差があるのが現実.学びから 逃走する姿勢や職業意識の持ちようなど,高校生が従来の職業指導についていっていない.新教科にお いて求められている考え方と従来の職業指導との間には差があるのではないか. * いわゆる広い意味での職業人指導は確かに必要であるが,このことについて職業指導との用語を使うと 大学側等に誤解を招くのではないか. * 職業という言葉について説明が必要ではないか.従来どおりの職業指導が教科に含まれているとの誤解 を招きかねない. △ 確かに,昭和63年の免許法改正により進路相談が「教職に関する科目」として位置づけられて以後, 職業指導の意味合いは変わっている.そのことについては,大学への説明会等で十分に説明していく予 定である. * 職業指導の趣旨についての理解は同じようだが,やはり誤解は多いのではないか. * 教科に関する科目は,通常一定の学問領域を背景に持つものである.職業といった学問領域があるのか. * 日本の学校は教科主義であり,教養等は各教科を深く学ぶことによって身に付けていくという建前であ る.しかし,諸外国では教養等は教科から独立したものとして扱われている例がある.例えば,イギリ スでは教育を担当する官庁の名称は雇用教育省であり,教育は学問領域だけではなく雇用とも結びつけ て考えられている.日本でも,普通科目に職業が組み込まれることは,教科主義に風穴をあける試みに なると考えられる.職業の背景なしに,学問領域だけでやっていくことには限界があるのではないか. @ 職業指導の用語については「福祉」だけではなく,農業,工業,商業,水産等の教科についても職業指導 の用語が使われており,今回の「福祉」の科目についてのみ用語を変えて済むというわけでもない.む しろ今回を機に,他の教科も含めて職業指導の趣旨について説明していきたいと考えている. * 福祉も「福祉と職業」とはできないのか. * そのような意見もあったが,専門科目である福祉について「職業」としたのでは,何をどのように指導 していくのか,方向づけがはっきりしない.それよりは,職業指導がどういうものかをはっきり定義づ けることが大事なポイントである. * 高校生が「情報」を選択したことが企業への就職等においてどこまでのステータスを持つようにする のか. * 普通教科の「情報」は,それでプロフェッショナルになることを目標とはしていない.情報化が進展し ていく社会の中で基本的な生きる技術を拾得することが目標である.一方,専門教科の「情報」は,卒 業時に情報プロフェッショナルとして育て,情報関連技術者として働くようになることが目標である. * 専門教科の「情報」については,実習の中でライセンス指導がある. * 福祉の方について言えば,ウェルフェアマインドを身につけさせることが目標である.福祉関連のどの 職業に就くにしてもそういった部分が大切になる.もう一つの目標が専門教育であり,介護福祉士の受 験資格等が得られるようになるが,現場志向の教育の中で資格を目指すことに一定の意義がある. * 職業指導の意義等については,それぞれ議論,検討を重ねた結果であるようであるが,今後その趣旨に ついて十分説明していって欲しい. (教育助成局教職員課) 4 2 情報と情報化の意味 (第2回) 2.1 「情報」の定義 辞典では; 「広辞苑」: 情報:(i) ある事柄についての知らせ.(ii) 判断を下したり行動を起こしたりするために必要な 種々の媒体を介しての知識 「Oxford」: information: facts or details about something 「情報科学辞典(岩波書店)」: なし 「吉田民人」: それによって生物がパターン (差異) を作り出すパターン.「意味」には歴史性が必須である. (参考書:西垣通 “こころの情報学”, (ちくま新書),1999.) 情報,情報化が社会的な力を持つためには,上記の説明に加えて「共有 (強制) 化された意味」という特質が必 要である.講義では,コンピュータシステム・ネットワークを媒体にして,「コンピュータシステム・ネット ワーク上の記号列」を情報,また, 「コンピュータシステム・ネットワークを導入し,その組織に必要な情報を コンピュータシステム・ネットワーク上に記号列化し共有すること」を (組織の) 情報化ということにする.社 会的に情報化を推進するために掲げられた標語が IT(Information Technology) である.近年はネットワーク 上の情報の重要性が高まってきて,標語も ICT(Information & Communibation Technology) と変わってき た.日本のマスコミはまだ IT と言っているようであるが. 2.2 背景理論 「シャノンの情報符号化定理」: “アルファベット (記号の離散的集合) の文字からなる時系列の発生が独立で かつ分布が一様のとき (無記憶情報源という),一文字当りの長さがいくらでもある量(情報エントロ ピーと呼ばれる)に近くなるような2進数の系列に変換できる” 2.3 情報化社会のメリット,デメリット メリット: (i) 高速,(ii) 大量,(iii) 低価格,(iv) 繰り返しに強い. デメリット: 「格差」以下の問題は ICT を推進する際におきるもので,施策等で十分配慮しなければならない事柄である. 「情報格差 (information gap)」: 地域間で情報が偏在すること.インターネットなどのコンピュータ ネットワークの普及で格差が拡大する傾向にある.例えば,インターネットを使える農家では,市 場情報が得られて儲けの大きい市場へ出荷できるが,そうでない所では仲買業者のいいなりになる. また,独裁政治が第一に取る手段が情報の国家統制である. 「デジタルデバイド (digital divide)」: 個人のレベルでの情報格差.放送等のマルチメディアを含んだ 格差をいったが,現在はむしろコンピュータの利用とインターネットの利用に関する格差の方が ウェイトが大きい.職業活動や日常生活で不利が生じる.例えば,就職活動に必要,職場の情報化, 行政の情報化,派遣的労働に不可欠など. 5 「情報漏洩とプライバシー問題」: 大量,簡便というコンピュータ利用のメリットが作為的または不完全・不 用意な情報の管理による情報の大量流失や漏洩を助長しているという問題を引き起こしている.住所や 電話番号に加えて,個人の趣味や病歴といった絶対に知られてはならない情報が全く関係のない他人に 知られ,回りまわってビジネスに利用され,迷惑だけでなく詐欺・恐喝に利用されることが起きている. さらに,USB メモリ,P2P(Peer to Peer) ファイル交換ソフトによる内部・機密情報の漏洩は重要度に おいて個人の問題を超えており,情報管理の難しさを露呈している. 「著作権問題」: デジタル化された情報の複製は,安価,大量しかも完全にできる.許可されないコピーは著 作権・創造的活動に対する犯罪である.さらに,盗撮動画・違法コピーものの投稿サイト,P2P ソフト による被害はインターネットを通じて無制限かつ国際的規模になっている. 「システム障害規模の拡大」: 情報は大量にもれなく集められる方が,特にコンピュータシステムでは利用面・ コスト・利便性の点で有利であるが,一方で,障害が起きるとそのシステムだけでなく社会活動に重大 な支障を起こす.最近も,証券市場,航空会社,銀行,航空管制,鉄道と被害規模は簡単に数万という 規模になっている.しかも,原因は,多くの場合,些細なエラーや利用規模予測のミスであり,システ ム開発の理論化やバックアップ方法の研究が必要である. 「情報の画一化」:「大きい情報が小さい情報を食う」という情報の特質に加え,狭隘なディスプレイ画面とい う制限による表示情報の少なさから,Web による情報は TV よりも画一的になる恐れがある.検索サ イトの上位数件の情報だけが全てという社会になりかねない. 「コミュニティ形成や情緒育成の阻害」: コンピュータの架空空間にのみ依存していると,自らの活動と五感 による実感や失敗による訓練無しに,形式的な知識だけの所謂「頭でっかち」の人間が増えるというこ とになりかねない.また,仮想世界では,設定で自由に状況が変えられ,更に現実にあり得ない状況も 仮想的に起こせる.これらは創造的活動の人格形成に有害である. 2.4 ICT 企業の法的グレイゾーンの問題 オプトアウト google のサービスのストリートビューという動画がプライバシー侵害に なるという問題がある.google では「オプトアウト」の原則で対応すると言うが何かの対策が必要であろう. 「オプトアウト」(opt out) とは,本来は脱退・辞退を意味するが,一度商品を購入したユーザ等にダイレク トメール広告を事前了承なしに送りつけてよいという規定で,事前了承のある相手だけに送ってよいという規 定は「オプトイン」という.現在はオプトイン規定を適用している.電子メールの場合も法律でオプトインの 規定が適用されることになっている. しかし,ここで問題にしているのは,個人情報保護法の例外に, 「電話帳,カーナビなど第三者への情報提供 を目的とする場合は本人の同意を必要としない.ただし,本人の申出があった場合は第三者への提供を中止で きる」と言う規定があり,これも通称「オプトアウト」といっている. フェアユース google と amazon が書籍の全文検索サービスをしようとしている.これも著作権に関してグ レイゾーンにあり,法律や著作権団体の国による対応が異なるために問題が複雑である.著作権者が不明の古 典等に対し収集者が著作権を主張しようとしたり,さらに,今年になり電子ブックが急速に普及することが予 想され,そのコンテンツになる書籍の著作権といった問題が生じている.これに関しても ICT 企業側は「フェ アユース」(Fair Use) で対応するとしている. 「フェアユースの法理」とはアメリカの著作権法にあるもので,使用に際して幾つかの条件のもとで「公正な 6 利用」(fair use) に当たると判断される場合は,著作権者の許諾なく著作物を利用しても著作権侵害に当たら ないとするもので,更に「報道,教育,研究,調査等」を目的とする場合はフェアユースと認められているが, それ以外は訴訟で争うことになる.裏を返せば,フェアユースを主張すれば許諾なく著作物を利用できるし, 黙っていると著作権が侵されることを意味する.これは上記のオプトアウト同様に日本やヨーロッパの法理に は合わない.実際にヨーロッパで訴訟が起きている. DPI マーケッティング インターネットを流れるパケットは郵便の封筒に相当するヘッダ部と通信文 (データ) 部で構成されている.パケットの通信文本体の情報を調べることを DPI(Deep Packet Inspection) といい,現 在はウイルス,spam メール,P2P パケットの遮断に使われている.この情報を使うマーケティング広告を総 務省主導で解禁しようとしている.ヘッダ部を調べることは shallow packet inspection または SPI(Stateful Packet Inspection) という. ネットショッピングを利用したことのある人は次回から「何々さん今日は.」というメッセージを受け取っ たことがあるであろう.これは cookie という技術で,PC に利用痕跡を残しているからである.これは自分が よく利用する企業ならば気にならない人が多いだろうし,拒否もできる.また,Web 検索サイト画面に広告が ついていてもマスメディアの広告と同じ感覚で受け取ればよい.(ただより高いものは無い).これに対し,利 用情報をスパイしている (利用者が不明) プログラムは Spyware といい,一番多いウイルスである. DPI マーケティング広告は単純に言えば,盗聴に基づくマーケティングである.郵便や電話の通信内容を 使ったマーケティングがあるとしたら郵便や電話の信頼は無くなる.それを郵便・電話の管理官庁である総務 省が推進しようとしているのである.第三者の監視や利用者の了承という注釈がつくがオプトアウトやフェア ユースの現状を考えれば信用できないし,「通信の内容を見ない」ということも既に守られていない.「エシュ ロン (echelon)」は言い訳にならない. 2.5 「情報通信白書」に見る情報化の動向 「情報通信白書」の年次毎のキーワードと特集題から社会や政府の情報化に対する認識の変化を見てみよう. この白書は現在は総務省が発行しているが,2001 年までは郵政省の管轄であった. 平成 9 年 (1997): デジタル放送 平成 10 年: 高度情報化 (サイバービジネス,電子商取引),行政の情報化,防災 平成 11 年:「インターネット」 平成 12 年 (2000): 首相の諮問機関である「IT 戦略会議」が「基本戦略草案」を提出 平成 13 年:「加速する IT 革命」,IT,ブロードバンド 平成 14 年:「IT 活用型社会の胎動」,e-Japan 戦略,“高度情報通信ネットワーク社会形成基本法” 平成 15 年:「日本発の新 IT 社会を目指して」,低成長,高年齢化 平成 16 年:「世界に広がるユビキタスネットワーク社会の構築」 平成 17 年:「u-Japan の胎動」,ICT 平成 18 年:「ユビキタスエコノミー」 平成 22 年:「ICT の利活用による持続的な成長の実現」,グリーン ICT 宿題 1 情報化のメリットを具体例を挙げて調べよ. 7 3 基本原理,基本技術 (第3,4,5回) 3.1 コンピュータの原理と仕組み 3.1.1 ハードウェアの歴史 1854: Boole; “An Investigation of the Laws of Thought” (Boolean algebra) 1895: “Cantor の集合論”,“Russel のパラドックス” に起因して 1910 年代に “数学の危機”,“Hilbert のプ ログラム”,“Gödel のアルゴリズム” を経て 1936: Turing; “On computable numbers, with an application to the Entscheidungs problem”(Universal Turing Machine) 1937: Zuse, Stibitz; ブール代数に基づく,2 進法に基づくコンピュータの特許 1944: Turing 達; Colossus,最初のプログラム内臓式電子計算機 (暗号解読に使用).von Neumann; 万能 チューリングマシンに基づく “プログラム内臓式計算機” を構想 1949: Cambridge 大学で EDSAC( プログラム内臓式計算機) 1952: EDVAC(von Neumann の計算機) 3.1.2 コンピュータの構造 構成部品の面からは (i) 入力装置,(ii) 記憶装置,(iii) 演算装置,(iv) 制御装置,(v) 出力装置,(vi) 通信装置よ り成っていると見ることもできる.(i)–(v) を 5 大要素というが,現在は (iii)(iv) は CPU(Central Processing Unit) にまとめられ,(ii) は内部記憶装置と外部 (補助) 記憶装置に分けられる.CPU 以外の装置も単機能の ものでなく独自の CPU を持っていてシステム全体で高機能・高速の処理を行っている. CPU は PC(Program Counter) ,メモリ,デコーダ,AC(Accumulator: 累算器),複数のレジスターから 構成されている.CPU が実行できる命令はアセンブリ言語に対応している.CPU の性能は 1 度に処理でき るビット数,スイッチング速度,構造 (アーキテクチャ) などできまる.最近の PC で使用されるものでは 64 ビット,2GHz などの数値である. コンピュータは論理素子の素材により第 0 世代はリレー,第 1 世代は真空管,第 2 世代はトランジスター, 第 3 世代が IC(Integrated Circuit) ,第 4 世代が LSI(Large Scale IC) ,第 5 世代が VLSI(Very Large Scale IC) と呼ばれる.現在の CPU は 3cm × 3cm 位のシリコンの基盤に数百万以上の回路が入っていて,配線の 幅がサブミクロン (1/1000 mm 以下)の領域に入っている. 現在の計算機:規模と目的別に,(i) 大型計算機,(ii) スーパーコンピュータ,(iii) ワークステーション,(iv) パーソナルコンピュータ,(v) 組み込みコンピュータなどと分かれている. 宿題 2 スーパーコンピュータについて,モデル,性能,使用目的を重点的に調べよ. 3.2 プログラム プログラム言語の発展を,歴史を追って見てみる. 初め: ノイマン型以前ではパッチボード,以後ではバイナリ言語 (機械語) であったが,それをアルファベッ トに直したシンボリック言語(処理系に因んでアセンブリ言語ともいう)が使用された. 8 1957: FORTRAN(FormulaTranslator); Backus 達が開発.数式から直接プログラムできる特徴があり,科 学技術分野で利用されている.データ型という概念を導入した最初の言語でもあり,これ以後の言語は 高水準言語と呼ばれる.FORTRAN に対し事務処理用に開発されたのが COBOL(1960 年). 1956: N. Chomsky; “Three models for the description of languages” で形式言語と形式文法の概念を導入 した.3つのモデルとは,“語彙 (lexical)”,“文脈自由言語”(CFG: Context Free Grammar) ,“文脈 依存文法”(CSG: Context Sensitive Grammar) で形式言語の基本概念である. 1950 代: LISP; McCarthy が “人工知能” 用の言語として開発.index の誤処理 (side-effect) を防ぐために 関数型プログラミングを特徴にし,複雑なリスト処理に適している.現在でも computer algebra のプ ログラミングに使用されている. 1962: N. Chomsky; “Context-free grammars and pushdown storage”.形式言語とゲーデル・チューリン グのアルゴリズム由来の有限系との関係を解明. 1968: Pascal; Wirth が開発.Dijkstra, Hoare 達の提唱していた “構造型プログラミング” を実現した言語. 構造型プログラミングとは「プログラムの制御構造は ’ 連接’, ’ 反復’, ’ 分岐’ とし,goto 文を避ける」, 「開発の局所化」,「トップダウン戦略」,「プログラムの正当性の数学的証明」の重要性を唱えた. 1973: C; Kernighan, Ritchie が UNIX 記述用に開発.UNIX は “開発環境” という概念を持って開発された OS で,何々環境という考えの初め.ネットワークプログラムなど各種の応用プログラム開発の基盤に なった. 1970 代: Smalltalk; A.Kay 達が Xerox の研究所で GUI システムの記述用に開発.“オブジェクト指向” と いう考えを提唱した.処理対象を’ オブジェクト’ と呼び,’ クラス’ というデータ型から’ インスタンス 化’ により記憶領域を確保する.クラスは,’ フィールド’ という従来のデータ型の他に’ メソッド’ とい う自己処理のプロセスを持っていて, 「自分にできることを知っているデータ型」と言われる.既存のク ラスを拡張して新しいクラスを定義する場合は,元のクラスのフィールドやメソッドを’ 継承’ し,クラ ス全体を階層的に構成できる.オブジェクト指向の考えは,ウィンドウシステムだけでなくデータベー スやマルチメディアの構築にも有効で,さらに,部品化・モジュール化の状況に適している. 将来のプログラミングの主題は,プログラムの内容を代数系の考えで記述しようという “仕様記述言語”,その 考えに沿った “UML(Universal Modeling Language)”,Web をメディアとして世界中のあらゆるドキュメン ト(文書,画像,動画など)をデータベース化するための semantic Web になるであろう.semantic Web で は,単なるパターンマッチングではなく,ドキュメントの内容から判断できる検索機能が期待されている. 宿題 3 上記で説明したプログラム言語によるプログラムの実例をその言語の特徴が表れている例で調べよ. 3.3 応用プログラムのデータ型・ファイル形式の問題 情報処理の実習には表計算プログラムを使用することを推奨する.通常のデータ処理,統計処理,簡易デー タベースの他にも整数論の実験にも適用できる.表計算プログラムを使用することにより,変数の使用,数式 化の重要性,データベースのデータ型の定義,データ選択・検索,ピボット解析など情報処理に必要な概念の 実習ができる. 画像データはファイル形式だけでも 20 種以上あり,利用法によっては処理系でファイル形式を変換しな ければならない.1 ピクセル毎の情報を保存するビットマップ形式 (tiff 型式等) ではピクセルの数に比例 して保存領域が必要なので,他の形式に比べサイズが大きくなる.JPEG は画像情報などを DCT(Discrete 9 CosineTransform :離散フーリエ変換) し,高い周波数部分を切り取ったりしてデータ量を圧縮する.結果と して画像の解像度などが劣化するが,実用度に応じて圧縮度を選べばよい.動画のファイル形式は,静止画ほ ど種類は多くないが互換性がない.国際標準としては MPEG 形式が使われ,DVD,デジタル TV で使われ る.MPEG は JPEG と同じ離散フーリエ変換を用いるが,時間軸を含め 3 次元的に処理される.MPEG の 音声レイヤーがインターネットや iPod などで利用される MP3 規格である. 宿題 4 表計算プログラムの問題. 3.4 通信とネットワークの理論 3.4.1 原理と歴史 1928: Harry Nyquist, 1949: Claude E. Shannon, 染谷勲:標本化理論; 「原信号の限界周波数を f とするとき, 2f の周波数でサンプリングすれば,原信号が復元できる」 1948: Claude E. Shannon; シャノンの第2基本定理 (通信路符号化定理)「離散的情報源のエントロピーが離 散的通信路の容量より小さければ,誤り率を幾らでも小さくできる通信路符号化方法が存在する」(The Mathematical Theory of Communication) 1962: バラン (アメリカ),デービス (イギリス); パケット通信の原理発表 1970 年代: TCP/IP の実装 1990: CERN のティム・バーナード・リー; WWW の提唱 1995 頃: ダイアルアップ接続で一般向けインターネット接続が普及してくる. 3.4.2 インターネットの活用 職場でインターネットを使用する場合は,電子メールと Web 活用を考慮しておく必要がある.インターネッ ト特に Web への参加の形態も,検索サイトを使って情報を利用するという立場から Weblog,NSN,YouTube など参加型の利用法を考慮しておく必要がある. さらに,地域的・家庭環境的に孤立している人々を支援するシステムが普及してくる.特に,在宅医療・介 護の支援として,在宅患者・要介護家庭のモニターと支援,孤老家庭のモニター,地域 SNS は ICT 支援によ る経費節減のみならず,常時相談態勢ができているという安心感は,費用以上の要素がある.この方面では ヨーロッパは実験の段階を終えている.一方で,膨大な利用情報は膨大なビジネス情報でもあり,個人情報保 護の面で色々な配慮が必要である.便利さの影に情報の漏洩・流出に関する管理が一般の人にも厳しく求めら れることになる. 宿題 5 現在のインターネット社会の成り立ちに関して,参加者と通信上の制約から論じよ.例,メールマガ ジン,BBS,掲示板,Weblog ,SNS,セカンドライフ,YouTube,twitter.また,新しいインターネット社 会形式が考えられるか. 3.5 暗号 (code, cryptography) 3.5.1 暗号の使用目的: 1. 情報発信者の確認・認証 (デジタル署名,パスワード) 2. 第3者による情報の傍受・改変の阻止 (暗号文) 10 3. 通信相手による情報の改変の阻止 (割り印,デジタル署名) 4. マジックプロトコル,電話でジャンケンをするには. 3.5.2 暗号の方式 (概略): 1. 情報の秘匿;情報の存在が知られないということは暗号の第一要件である. 2. code ;特殊な人工語を作る.復号には辞書が必要になる.第2次世界大戦中にアメリカ軍が日本軍に 対しナバホ族を使って通信した.日常語に別の意味を持たせる方法も有効. 3. 転置式;後ろから書いたり,斜めに書いたり,中間で折畳んで混ぜる. 4. cipher(cypher) ,換字式;通信文を別の文字に置き換える.その方法をキーと呼ぶ. 歴史: 換字式の始めは,シーザーの「ガリア戦記」の中に,敵に囲まれた砦内のキケロに対し, ”援軍を送る” という文章のアルファベットの各文字を3文字ずつシフトしたものを矢文で送り勝利を得たという記述が最初 であるといわれている.シーザーの方式は1文字でも解読されるとシフト量が分かり全文が解読されてしまう ので,キーワードによりシフト量を変える方式,更に,マトリックスを使用したビジュネル方式 (多表式) など が考案された.計算機のない時代はアルファベットと表で計算していたが,数学的には合同式とアファイン変 換で簡単に実現でき,解読も容易である. 現在は,全文をスクランブルする方式が使われている.これは,通信文を符号化し,乱数を加えたものを暗 号文にする.平文と同じ長さのキーを位置使った暗号は破ることができない.これを one time pad という. さらに最近はキーの有効時間を付加して安全性を高めている. 暗号の解読法: 解読法の基本原理はアラビア文明の時代9世紀に発見されていた.それは,(i) 通常の文章で は利用されるアルファベットに偏りがある.(ii) 文節として使われる文字の使用頻度に偏りがある.(iii) キー の使用法に暗号作成者や文化的背景の偏りがある.などの特徴を発見したからで,現在でも有効な方法である. 3.5.3 暗号の方式 共通鍵方式,秘密鍵方式; 通信する2人が同じ鍵を持つ.平文をその鍵で暗号文を作り,復号は同じ鍵を使 う.秘密鍵方式はこれだけで始めに説明した暗号の役割を全て果たす.問題は鍵の保安と遠隔地にいる相手に 確実に鍵を渡す方法にあり,その経路を特に“安全路 (secured route)” という.秘密鍵方式は至る所使用さ れている.Web(http) では SSL(Secured Socket Layer) や TLS(Transport Layer Security) などがクレジッ トカードや個人情報を送る際に使用される.SSL や TLS を使用する際はプロトコルが“https://” と変わ るので,ネットショッピングなどでこのプロトコルに変わらないようなサイトは危険である.これらの暗号で は乱数キーだけでなく,折畳み法など色々な方式が混ぜて使用されるので,1つの方式が分かっただけでは解 読ができない. 公開鍵方式 (Public Key Method); 秘密鍵方式では,通信相手が不特定多数の場合は,鍵の安全な管理が問題 になる.そのために考えられた方式が公開鍵方式である.この方式の原理は 1974 年にスタンフォード大学の ヘルマン,ディフィー,マークルが共同発表したもので,一方向関数という概念に基づいている.一方向関数 y = f (x) とは,整数の範囲で考えることにして,x から y を計算するのは面倒でないが,y から x を求める際の 計算の原理が良く知れていてもキーになる係数の推測に膨大な時間と費用がかかるというものである.例えば, P = {0, 1, 2, ..., p − 1} に p を法とする計算を考えるとき,0 < g < p で {g, g 2 , g 3 , ..., g p−1 = 1} = P − {0} と 11 なる数を原始根というが,原始根が分かっても,0 < s < p を与えられたときに s = g q となる q(離散対数とい う) は,現在の所,総当り法で計算しなければならない.実際,この g, g 2 , g 3 , . . . という列はプログラムの擬似 乱数の生成に使用されている.ヘルマンたちの提案した方式を改良したのがリベスト,シャミール,アドルマン 達で,素因数分解が現在のところ総当り法でやるしか方法が知られてなくそのために一方向関数として使える という方法を利用した.これは 3 人の頭文字を取って,RSA 方式と呼ばれて使用されている.なお,この方式 ではキーの計算に,素因数分解に加えて“フェルマーの小定理” 「ap−1 ≡ 1 (mod p) (p : prime, 0 < a < p)」 が使用される. 3.5.4 公開鍵方式の暗号; 公開鍵方式の暗号では,公開鍵と秘密鍵の1組の鍵を使う.公開鍵から秘密鍵の計算が一方向関数になって いることから暗号が成り立つ.以下,アリスとボブが通信し,イブが盗聴・解読を試みるとする. 暗号文 (a1) アリスがボブに暗号文を送る場合,アリスはボブの公開鍵で暗号化し通信を送る.公開鍵がボブのもの であることは,ボブ本人または公的な機関から得る. (a2) ボブはアリスの暗号文をボブの秘密鍵で復号できる. (a3) イブはこの暗号文とボブの公開鍵を手に入れても解読ができないが,イブはアリスになりすましてボブ に暗号文を送ることができる. デジタル署名 (b1) アリスは通信文や署名に自分の秘密鍵で暗号化したものをボブに送る. (b2) ボブは保障されたアリスの公開鍵で暗号文か署名を復号する. (b3) この方式では,通信文や署名がアリスのものであることは保障できるが,イブにもアリスの公開鍵で暗 号文の解読ができる. 署名付暗号文 (c1) アリスは自分の秘密鍵で暗号化してデジタル署名する. (c2) アリスは更にその暗号文をボブの公開鍵で2重に暗号化する. (c3) ボブはまず,自分の秘密鍵で復号し,更に,アリスの公開鍵で復号する. イブは2人の公開鍵とアリスの暗号文を手に入れても (a*) により解読も改変もできない.また,アリスにな りすますのは (b*) によりできない. 3.5.5 量子暗号方式; 公開鍵暗号方式は現在使用されている一方向関数の性質が数学的に保障されていない.公開鍵暗号方式の使 用法は全文暗号化というような使用法でなく,秘密鍵交換の secured route に使うなどの方がよい.暗号化速 度が速くて良い一方向関数の発見に代数曲線論が利用されたりしているが,別の方式で最近開発されている例 が量子暗号方式である.ハイゼンベルクの“不確定性原理” では,“量子状態ではその状態に変化を与えるこ となく観測することはできない” ことが証明されている.この原理を利用して光子の状態を信号に利用する 12 と,誰かがその信号を読む (観測) と状態が変わることから盗聴が分かるということで暗号通信に利用できる. 実用にはリレー等の問題があるが,大分実用に近づいている. 3.6 符号理論 通信を伝達ではノイズ混入・信号欠落など必ず伝達ミスが起きる.アナログ通信の場合は,(i) 大声,(ii) ゆっくり,(iii) 繰り返し,(iv) 復唱,(v) 言換え,(vi) 記号化などの工夫がある.デジタル信号の場合はシャ ノンの定理を基にして伝達誤りを減らす工夫をしている.パリティチェックのような基本的なものから,ワー ド間の違いの程度を表すハミング距離という計量を定義して,代数学を利用してハミング距離を確保したリー ド・ソロモン符号など複雑なものがある.符号理論により CD,DVD,地デジ,深宇宙通信が実現できている. 宿題 6 暗号,符号の理論について出来るだけ詳しく調べよ. 3.7 身の回りにある ICT 3.7.1 IC カード: IC(Integrated Circuit) が組み込まれているカード.メモリ機能だけでなく CPU 機能もある.使用方法に は接触型のものと非接触型のものがある.接触型のものは金メッキの端子が IC カードの表面に見える.クレ ジットカードやキャッシュカードに例がある.非接触型のものは RFID(Radio Frequency IDentification) と も呼ばれ,電磁誘導により電力をカードに供給し無線通信で通信する.非接触型にもタッチしないと機構し ないものから数メートル程度まで機能するものもある.Suica や PASMO は前者の例である.行政関係の IC カード利用では,住民基本カード,社会保険 (年金) 証,グリーンカード (税金),健康保険証,運転免許証,パ スポートなどが考えられている.容量から言えば,これらすべてを含め更に診療情報,投薬情報なども格納可 能で,一人の人の生涯の生活情報は 1 つの IC カードに格納可能である. 3.7.2 IC タグ: IC カードと同様に非接触式のマイクロチップであり,バーコードの上位 IC 版とも考えられ,いろいろ な物体に付着してその物体の ID に使うことを目的にしているので,小さく安いほどよい.内容に関しては ISO18000 で検討されている.現在のバーコードのように商業,工場などで使えるが,さらに梱包のままの 内臓品の確認ができ,無人商店も可能である.書籍,DVD などに付けて万引き防止に利用可能である.GPS と一緒にすれば追跡も可能なのでランドセルに付けて小学生の安全確認という使用法も考えられている.IC カード,IC チップとも個人情報を扱うときは十分な注意が必要である. 3.7.3 携帯電話: 日本での携帯電話は 1979 年に発売された“自動車電話サービス” と呼ばれものが始めで,名称の通り“自 動車で運べる無線電話” という代物であった.人が運べるものは 1985 年 NTT の発売した“ショルダーフォ ン” で,これも名称の通り肩に担がなければならない重さであった.重量の殆どは遠距離通信のための装置 と電源で,現在のように基地のアンテナを沢山立てて,電話の電力が少なくても済む方式は 1989 年モトロー ラーが開発した.その形式から“セルラーフォン” と呼ばれていた (英語では現在も cellular-phone という). 現在の携帯電話 (iPhone,,スマートフォン) は PDA より処理能力が高い. 13 4 情報プロフェッショナル (第6回) 4.1 資料 「情報通信白書」(平成 16 年,総務省,2004 年)から (数値は平成 14 年) 1) 産業種別 市場規模 (兆円) 実質 GDP(兆円) 雇用者 (万人) 生産性 (万円/人) 情報通信 116.1 61.1 364 1,677 鉄鋼業 18.4 5.3 25 2,169 電気機械製造業 41.9 21.3 163 1,309 輸送機械製造業 47.5 13.6 96 1,417 建設業 76.8 34.7 496 699 卸売業 65.1 46.5 346 1,344 小売業 38.9 27.6 631 438 運輸業 38.0 23.2 333 696 生産額 (兆円) 実質 GDP(兆円) 雇用者 (万人) 生産性 (万円/人) 15.6 8.7 84.7 1,028 6.7 2.6 26.4 977 情報通信機器製造業 24.5 10.4 35.4 2,937 情報通信サービス業 24.4 13.0 77.4 1,679 情報通信関連建設業 1.4 0.6 7.9 757 研究 14.4 8.9 77.8 1,142 通信業 26.0 16.0 48.4 3,290 放送業 3.1 1.0 6.5 1,584 2) 情報通信産業部門別 情報サービス業 情報コンテンツ制作業 3)下の産業分類より上の分類の「情報サービス業」がコンピュータ・ソフトウェアに関連した統計というこ とになる.雇用者 84.7 万人,生産額 15.6 兆円がそれである. 「産業分類総務省・日本標準産業分類」 H 大分類 中分類 小分類 情報通信業 通信業 郵便・通信 (電話など) 細分類 放送業 情報サービス業 ソフトウェア業 受託開発ソフトウェア業 パッケージソフトウェア業 情報処理・提供サービス業 情報処理サービス業 情報提供サービス業 その他の情報処理・提供サービス業 映像・音声・文字情報製作業(最近はコンテンツ製作業と呼んでいる.) 情報通信サービス業 物品賃貸業 広告・印刷・製本・娯楽 F 製造業 情報通信機械器具製造業 電子部品・デバイス製造業 14 通信機械器具賃貸業 4.2 仕事・職種 ハードウェア系企業 計算機製作,PC アセンブリ,IC 製作,補助記憶装置製作,その他の周辺機器開発・製作,携帯電話の製造 ソフトウェア系企業 1. ソフトウェア開発:OS 開発,システムソフトウェアの開発,応用ソフトウェア開発(受託ソフトウェ ア開発,パッケージソフトウェア開発),各種 API の開発 2. システム構築,メンテナンス請け負い,システムインテグレータ 3. 情報処理・情報提供サービス業,計算センター 4. セキュリティコンサルティング,教育 Internet 関連企業 1. デジタル・コンテンツや Web コンテンツの制作 2. プロバイダ(インターネット接続,メール・ブロッグ等のサービス,サイトリストやニュース等のコン テンツ提供,ネットオークションなど業務の拡大が要求されている) 3. ネットショップ(書籍・DVD 販売,本閲覧,BOD サービス,音楽のネット配信) 4. ポータルサイト(port が語源で,Web の総合案内所.検索エンジン,地図検索エンジンを提供し,利 用者への広告で利益を上げている).プロバイダと兼ねることが多い. 5. SNS ,セカンドライフ,画像掲載サイトなど社会形成の場の提供.広告料で収益 6. サイバーパトロール,反社会的サイトの監視 職種(ソフトウェア製造) 1. プログラマー:OS やコンパイラの開発・デバッグをする職業. 2. システムエンジニア (SE; system engineer) :コンピュータネットワークを導入する顧客の業務の内容 に適切なハードウェアとソフトウェアを,必要ならば他社と組んで調達し,構築・管理する職業.顧客 の業務内容や要求を的確に聞き取る能力が必要である.アップリケーションプログラムの作成もある. 3. フィールドエンジニア (FE; field engineer) :ハードウェアの導入からメンテナンスに関わる職業. 4. デジタル・コンテンツの製作者や Web 関係のプログラム開発者はプログラマーと同じ仕事をするが, メーカの職種とは別の職種区別とした方がよいであろう.ポータルサイトでは,訪問者を増やすために 魅力的な Web 検索機能強化ソフトの開発が注目されている. 5. ネットワークの安全性をモニターする専門職 (サイバーパトロール) もある.その他,基本情報処理技術 者試験を参照されたい. 参考書:黒川利明著,「ソフトウェア入門」,岩波新書,(2004) http://www.jitec.jp/ 情報処理技術者試験センター 宿題 7 情報処理技術者試験にあげられている職種と要求されているスキルを調べよう. 15 5 職域の情報化(第7,8回) 5.1 社会活動の情報化 5.1.1 企業活動の情報化の歴史 1. 商用計算機の第1号は,アメリカで国勢調査の統計処理に使用された. 2. 1960 年代には従来の作業をコンピュータに移して効率化が図られることになる.成功例としては,(i) 富士フィルムのレンズ設計システム,(ii) 銀行のオンラインシステム,(iii) 国鉄の座席予約オンライン システム,(iv)IBM の東京オリンピック時の競技データのオンライン処理システム,(v) 製鉄業での厚 板管理システムなど現在の社会インフラになっているものがこの時代に生まれて実用になった. 3. 1970 年代には,情報システムが企業の経営部門の活動をリードするようになり,SIS(戦略情報システ ム) などの概念が生まれた.必ずしも成功したとはいえないが成功例としては,(vi)American Airline 社:オンライン座席予約管理システム,(vii) 花王対ライオン戦争:小売店に発注端末を設置して自社へ の注文を増やした,(viii) ヤマト運輸などの運送業の委託貨物の追跡システム,(ix) 警備会社などの留 守宅オンラインモニターシステム,更には病院・銀行などの特殊業務オンラインモニターシステムへ発 展,(x) コンビニエンスチエーンストアの POS システムなどがある.1つの業務のシステム化の成功は 他の企業の同種のシステム構築を請け負う SI(System Integrator) という業務を創出することになる. 5.1.2 社会情報化の形態 現在,社会情報化の形態は,情報化の担い手を行政 (G; Government),企業 (B; Business),一般 (C; Citizen, Customer, Consumer) に分類し,情報発信者対受領者の形態で表され,行政の情報化は G2G(電子情報の共 有化等),G2B(電子調達,電子入札等),G2C(申請や証明書発行のワンストップサービス等),企業の情報化 は B2B(EDI; Electronic Data Inter-change,EFT; Electronic FinanceTransfer 等),B2C(消費者との電子 取引や商品のトレーサビリティ等) 等と分類される. G2B 電子申請 (特許の電子申請等),電子入札等.1985 年,DOD(Department of Defense; アメリカ合衆国 国防省) の電子調達システム (CALS; Computer assisted Acquisition and Lifecycle Support) の成功が G2B の始めである.このシステムは兵器の設計・調達・運用・廃棄に亘るライフサイクル管理の情報化に必要な理 論とそれを実現するための規格の標準化を行った.文書の標準化には SGML が使われる.ライフサイクルの 情報管理は商品の”トレーサビリティ”という考えに反映されている. B2B 1980 年代初期に始められた EDI は取引から決済までの情報をコンピュータネットワークにより行うこ とである,このときキーポイントが適用範囲の広域化を考慮した標準化で国際化的取引では標準になっている. 更に,画像情報の電子化,照会のリアルタイム化実現のための応答速度の向上が望まれ,更に国際化が進めら れると多言語化対応などの問題が生まれるであろう. EFI は金融の電子決済で,手形の決済が主であるが電子株取引も含まれるであろう.銀行の合併時の決済の 遅れや,電子株取引についての大事故があった. B2C ネットショッピング,ネットバンキング,デイトレードなどが B2C である.Web を介した状況は今後 も増えると予想されるから,企業戦略の面でも疎かにできない部分である.近年話題になっている第1のビジ 16 ネス戦略が顧客の囲い込みで,代表的な手段がポイントカードと検索サイト対策である.Web の検索サイト に対する現象は“グーグル・アマゾン現象” ともいわれている.第2が商品のトレーサビリティという考え で,CR コードを付けて“生産者の顔が見える”商品,IC タグをつけてレジの省力化と共に消費動向の追跡が 考えられている.プライバシーにまで踏み込む構想もあるようなので,消費者としては注意を要する.第3に “long tail 現象”や on demand で少量超長期の需要が起きているので,今までと違った商品開発の仕方も考え られる. グリーンネットワーク 最近,コンピュータネットワークシステムで世界的レベルで話題になっているのがグ リーンネットワークである.これはスマートグリッド等とも呼ばれ,風力発電,太陽光発電,小水力発電,バ イオマス発電,地熱発電など専門家が言うクズ電力を大電力会社に買わせることを法律で義務つけて,二酸化 炭素の発生を減らそうという政策で,これらの小電力は安定しないので,コンピュータネットワークで安定 させようという構想である.この導入に伴う投資・雇用も新規に発生するから最近の景気・雇用対策にもなる というが,高コストは避けられず,問題は消費者が高価な電力を買うかどうかという問題である.日本では 10% 前後の負担になる試算されているが,ヨーロッパではそろそろ問題になりつつある. 5.2 社内の情報化 次に企業内部での活動の情報化を考えて見よう.情報化は事務部門と生産部門に分けて考えてみよう.将 来,これらは統合されるであろう. OA EDPS という言葉が使われていた時代は事務部門の情報化という考えはなかった.やがて,生産部門に 比べ諸外国に比べ特に劣っているといわれている事務部門の生産性向上を目標に OA(Office Automation) の 掛け声で事務室にもコンピュータが導入されるようになった.IBM がマイクロコンピュータ (マイコン) を パーソナルコンピュータ (PC:Personal Computer) と名づけてフロントエンドに取り入れ,ソフトウェアも事 務処理に適したものがパッケージで販売されるようになって,漸く事務部門でも“電子化” が進められるよう になった.この頃のキーワードとして,“社内のペーパーレス化”,“テレワーク” や“サテライトオフィス” などを要素とした“SOHO: Small Office Home Office” ,“グループウェア” などがある.電子化のメリッ トを受けるには規模の拡大と作業の標準化・規格化が必要で,社内全体で取り組まねばならないという問題が ある.新たに規格化された作業を全社員に強要しなければならない面から,ストレス源にならないよう考慮を 要する. 組織の変化 次に,仕事と組織のあり方が大きく変わった.日本型経営の象徴と見られていたものが膨大な稟 議書と決済の印鑑群である.これに対し,電子化により電子メールによる経営責任者とフロントエンドの直結, グループウェアや電子署名により情報の共有と決済の効率が進められた.組織は階層が薄くなり,更にプロ ジェクトチーム制というようにプロジェクト毎に責任者が変わるという職制のダイナミック化も進んでいる. これには給与の面でも従来の年功序列から職能給・能率給・年俸制という変化も加わっている. 電子文書法 企業内部からの変化に加えて,“e-Japan 構想” “e-Japan-II 構想” という政府 ICT 戦略が定 められ,「電子文書法」により企業の法律該当文書の電子化が進められている.現在は,まだこれらの文書の 電子文書を正本にしても良いという段階であるが,いずれ電子文書を正本とすることを義務付けられるであろ う.これが文書の事務処理に大きな変化をもたらすであろう.更に国際的レベルで EDI に加えてビジネスド キュメントの XML による標準化が進められているから,そのための対策も必要になろう.OpenOffice, MS 17 Office などのオフィスパッケージソフトウェアではベースの XML 化,その規格の ISO 化も進められている. エンドユーザには直接関係ないであろうが,システムの開発担当する人は注意しておく必要があろう. CIM 製造業は,定型化されたものを大量に生産することにあるので,早くから FA(Factory Automation) と いう概念の普及と実践が進められて来た.ロボットだけでロボットを製造している工場も現在は話題にもなら ない.現在は単機能の自動機器の導入だけでなく,それらの管理,製造ラインの管理,さらにそれらの群管理, 工場全体の管理と情報管理が進められており,それは CIM(Computer Integrated Manufacturing) と呼ばれ ISO モデルにまとめられている.FA や CIM は製造効率を上げるだけでなく,工程の標準化による事故の検 出・防止,危険工程の無人化,最近話題になっている団塊の世代の大量退職と 90 年代の不況期の新人の不採 用による熟練技術継承の問題に対して,スキルをロボット化して次世代に伝える,などのメリットがある.古 典芸能や伝承技能の保存にも使われている.CIM のメリットに,コンピュータコントロールにより同じ製造ラ インに異なるモデルを製造できることから従来の少品種大量生産に替わり多品種少量生産 (限定品) にも対応 できることも挙げられている. 一方で,最近はライン上での単一単純作業という従来の製造方式に変わって,一つの製品を完成まで一人で 行う方が達成・満足感による品質の維持と生産性が得られるという製造法も取り入れられるようになって来て いる.その際にコンピュータ支援による中間段階でのテストや工程管理の支援ということも考えられているの で,工場の情報化は止まる所を知らないであろう. Cloud Computing 最近の仕事に関わるコンピュータネットワークの話題は cloud computing で,network computing の発展型であるが,今までもこれと同じようなサービスの提供をしている企業があり新規企業の 謳い文句に乗らないように注意が必要である.サーバを社外の企業にあるものを使うことになるから,安全性 が第一に保障されなければならない.また,公共の通信線を使うから通信速度も社内同様に保障されなければ ならない.本来のネットワークコンピューティングでは端末には高価な PC やパッケージソフトウェアは不要 のはずであるが,そうはなってないようだから二重投資にならないか十分に考える必要がある.UNIX 環境で は X 端末という仕組みがあり,X 端末はメモリと通信機能だけ持っていて,コンピュータの役割を果たして いた.安価な PC が普及して来て価格のメリットが無くなったので,現在は余り見られなくなった.機能は Windows でも動くソフトウェアに受け継がれている.陳腐化戦略をビジネスモデルとして商売をしている現 在の PC 企業に対抗するためにこの機能をもう一度検討すべきであろう. 5.3 仕事の情報化 工場や製造現場に配属されれば,目の前でコンピュータがフルに活躍していることを見るし,場合によって はそのコンピュータのプログラム開発やモニターすることが仕事になるから,情報化をことさらに強調する必 要はない.さらに現場の改善に向けての仕事は専門職域になる.また,情報化社会における企業活動も,企業 戦略とも関係して専門職域になる.したがって,ここで仕事の情報化というのは,管理情報も含めて事務情報 処理の場所で,コンピュータを使わなければならない状況を想定している. 事務処理の情報化 情報化は単に今までの事務処理をパソコンで行うことではない.勿論,パソコンの基本操 作は覚える必要がある.パソコンのオフィスパッケージにあるソフトウェア(ワードプロセッサー,スプレッ ドシート,データベース,プレゼンテーションソフトウェア)のうち,ワードプロセッサーやプレゼンテー ションソフトウェアは学校の「情報」や「情報処理演習」などの「情報リテラシー」教育の訓練で基本的な操作 はマスターできるであろうが,スプレッドシートをマスターするには相当の訓練が必要である.特に,操作の 18 必要性についての理解がなければならない.一方,それを理解することが,情報の流れと処理を理解するとい う情報化の理解の第一歩にもなっていることに注目する必要がある.スプレッドシートに組み込まれている各 種の関数の理解や更にはマクロを自分で作ることは情報処理に関する入門として最適である.組み込み関数は 色々なカテゴリに分かれているが,自分の仕事のカテゴリの関数を理解することから始めればよい.しかし, 学校教育程度では,その必要性を色々な問題で実際に理解させることが難しいという一面もある.高等学校普 通科「情報」では,実習課題を与える際に,単に操作だけでなくその操作の意味を,数学的内容やグラフ表現 の心理学的な背景を含めて,理解させるようなテーマを選ぶ必要があろう.一般学生は数学が苦手という状況 はよく耳にする.そのときのために,処理の内容を言葉で説明し,それを変数により表現するという「数学化 教育」が欠かせない. コンピュータの基本操作がマスターできたら,仕事の情報化のためには SE(System Engineer) と同じ種類 の情報処理に関する概念の理解が必要になる.即ち,その職場の情報の種類と処理の流れの把握を情報化の第 一にしなければならない.その際に情報工学的な手法を取り入れることも考慮しよう.例えば,HIPO のよう に情報の種類,その入出力,必要な処理を図で表してみる「情報の可視化」ということも必要になろう.色々 な情報化に対する認識の違いを超えて自分の担当部署の情報化をまとめる必要もあろう.そのような際の指針 として「初級システムアドミニストレータ」という試験がある.参考書等で仕事の内容を理解しておくことを 進める.このように職場の情報化という作業の概念を理解してもらうために,EUC(End User Computing) という言葉がある.携帯電話は,現在は EUC の対象にはなっていないが,重要な情報化のツールである.特 に,iPhone などスマートフォンといわれる次世代携帯電話は既に,大容量の記憶容量を別にすると,単独で PC での作業を超えるものになっている.さらに,電子ブックと合わせてどのような作業環境に変わるか注目 する必要がある.その際に,高齢者や障碍者への配慮を特に忘れないようにしよう. 情報機密の保護 情報メディアが紙の時代の情報保護は明解であった.情報のある場所が皆の目に曝されてい たし,重要な情報は金庫の中に入っていた.システム課ができたときは,情報のあるコンピュータ室はカード, パスワード,監視カメラつきの扉で守られていた.人体情報認証方式は 007 の映画などでは欠かせないシーン であった.しかし,現在は,(i) PC は基本的にインターネットにつながっている,(ii) USB メモリなど情報 のメディアの所在が曖昧である,(iii) メディアや PC は簡単に持ち出せる,(iv) 情報のあるコンピュータに誰 でも認証なしに近づける,(v) 情報の機密度が分かりにくい,(vi) 自分のコンピュータにある情報の管理責任 や重要度が所有者に分かり難い,(vii) 逆に USB メモリから簡単にウィルスや危険プログラムが社内に入り込 む,(viii) 人の方が ICT の進歩についていけない,など情報のセキュリティホールは至るところにあり,人と 情報源を切り離すことが不可能であり,更にアウトソーシングなど仕事のやり方の変化がこの問題を複雑にし ている. セキュリティポリシー そのために「セキュリティポリシー」という考えが重要視されるようになって来た. セキュリティポリシーは単に組織やメカニズムを確立するだけでなく,その部署所属の人員に加え派遣の人員 を含めて全員に徹底させなければならないという難問がある.組織に属する要員にはその組織に関する情報を 外に漏らしてはいけないという「守秘義務」があるが,電子化された情報の守秘は意識的にしてもらわなけれ ばならない所が難問である. 宿題 8 IT パスポート試験,基本情報技術者試験などの内容を調べよう. 19 6 職域の情報化に際しての注意(第 9 回) 6.1 情報通信白書に見る諸危機と対策 平成 13 年版に登場 「事象」: (i) 不正アクセス (DOS, DDos) ,(ii) コンピュータウィルス,(iii) 違法・有害情報; 「対策」: 認証によるアクセス制限,ウィルスチェックプログラムの導入,暗号化,ウィルスウオール, バックアップ,フィルタリング技術の開発 平成 14 年版 情報セキュリティの節の新設, 「用語」: ハイテク犯罪,セキュリティポリシー,プライバシーポリシー 「事象」: (i) 盗み読み,(ii) 成りすまし,(iii) 不正アクセス,(iv) 改竄,(v) 踏み台,(vi) 不能化攻撃 (DOS, DDoS),(vii) コンピュータウィルス,(viii) ネット詐欺,(ix) 迷惑メール,(x) 不適切コン テンツ 平成 15 年版 「用語」: サイバーセキュリティ 「事象」: (i) ウイルス,(ii) 不正アクセス,(iii) 迷惑メール,(iv) 国外不正接続,(v) ネットカフェの キーロッガ,(vi) 大規模システムの障害(銀行合併時の処理遅れ,航空管制のシステム障害) ,(vii) 個人情報の流出,(viii) ホームページの改変,(ix) インターネット上での誹謗・中傷,(x) ルート ネームサーバへの侵入,(xi)SQL サーバへの侵入,(xii) ワン切り通信による通信阻害 「対策」: セキュリティポリシーに反映,法律,セキュリティ事業 平成 16 年版 「新規事象」: (xiii) 携帯電話インターネットへの攻撃,(xiv) 架空請求トラブル 平成 17 年度 「新規事象」: (xv) フィッシング詐欺 (Phising fraud) ,(xvi) 個人情報保護 平成 18 年版 :職場外作業におけるセキュリティガイドライン 6.2 ガイドライン例: 6.2.1 情報通信事業対象 情報通信事業電気通信事業における情報セキュリティマネジメントガイドライン ISO/IEC 17799:電気通 信に係わる事業者のセキュリティガイドラインで詳細にわたる. 6.2.2 一般企業対象 一般企業内のセキュリティガイドライン情報セキュリティ対策推進会議 セキュリティポリシー設定の要綱 「基本」 ; ・ 情報の取り扱いに関する組織内の規則であること ・ 企業活動に係わる個人 (作業や取引中のデータ) や組織の情報と情報システムの保護を目的として いる. ・ 作業レベルの専門度はシステム保護,組織情報保護,個人作業の情報保護と目的別に異なるが,エ 20 ンドユーザーではセキュリティに関して不信メールの廃棄程度のことしかできない人もいるので, 組織内としての保護設定教育などは管理者の責任になる. ・ 管理体勢を定め,情報の種類ごとに管理責任組織と責任者を明確にすること 「物理的なセキュリティ」; 情報機器の設置場所,保安などの対策 「人的セキュリティ」; 役割,責任,報告義務,セキュリティの重要性の教育,非常勤・臨時職員・外部委託者 への遵守契約等. 例;パスワードの設定・取り扱い事項「技術的セキュリティ」システム開発・導入・管理,通信ログ・ メディア・通信機器の管理,バックアップ,ソフトウェアの導入と制限,ファイアウォール・ウィルス チェックソフトウェア等の導入,アクセス管理,ゾーン分割による通信の振り分け (イントラネット) 「運用」 ; モニターと侵害されたときの対策,危機管理の責任者の設定など 「留意点」; 職員のプライバシー保護とのバランス.ただし,企業によっては企業内に流れるメールや Web 等 へのアクセスのモニターをしていて,罰則に関して公務員の場合は懲戒の対象となり,企業では就業規 則に定めている.違反者や指導に従わないものへの罰則・解雇もありうる. 「法令遵守」,「監査と見直し」,「導入・実施上の注意」; 技術的に難しい問題が情報へのアクセスと管理で, これは使い勝手とも関連してくる. 例えば,(i) ウイルスチェックソフトウェアがリアルタイム監視で作動しているとコンピュータは遅 くなる,(ii) 組織内の全てのパソコンの管理を統一するとエンドユーザーでプリンターの設定をすると きでも管理者を呼ばなければならない,(iii) 全ての情報をホストコンピュータに集めてエンドユーザー のパソコンを単なる端末とすると社内の通信トラフィックに余裕が要る,(iv) 社外からのアクセスに対 してコールバック体制ではブロードバンドの場合は技術的に難しくなる,(v) 更に,省エネ対策のため に休みに電源を落とすと再起動時に時間がかかるなど作業効率が落ちる,(vi) 残業の制限で家へ持ち帰 るといわれてデータの社外持ち出しをどうするかなど. 6.2.3 職場外作業におけるセキュリティガイドライン 「ルール」についての対策; ・ 社内システムへのアクセスに関する管理強化 ・ 原本データの持ち出しの禁止 ・ 私物パソコンのインストールソフトウェアの確認 (特に,ファイル交換ソフトが問題) ・ テレワークの際の通信手段の制限 「人」についての対策; ・ セキュリティポリシー遵守の徹底と教育 ・ 就業規則や委託契約上の機密保持規定や罰則規定の強化 ・ 事故時の即時連絡の徹底 「技術」についての対策; ・ ウイルス対策ソフトウェアと OS パッチ更新の徹底 ・ 管理者パスワードの管理強化 ・ 機密データ送信時の暗号化. ・ 通信回線の社内・社外の分離と社内データのアクセス制限等による安全の確保 宿題 9 セキュリティポリシー,プライバシーポリシーの例を調べよう. 21 7 勤務環境と健康(第 10 回) 7.1 労働環境のガイドライン 厚生労働白書,労働基準法,労働安全衛生法,事務所衛生基準規則,VDT 作業におけるガイドライン,そ の他省令 環境・管理 「物理的環境」 ・ 広さ,形態(個室,大部屋,パーティション) ・ 照明 1. 明るさ(ディスプレイで 500 ルックス以下,書面上 300 ルック以上,周辺での差が少ないこと) 2. 照明方法(照明色,間接照明,直接照明,スタンド等の補助照明) 3. ディスプレイへの映りこみ,ディスプレイグレアの防止 ・ 騒音;40 デシベル以上はうるさい.現在のパソコンで運転音の大きいものはない.印刷機は高速の ものになると運転音が大きいので,別室に分離することが必要. 3 ・ 空気;温度(冷暖房) ,有毒ガス(シックハウス,塗料,接着剤) ,喫煙,浮遊粉塵 0.15mg/m 以下. 「健康管理」 ・ 連続作業時間(単純作業の場合は,連続作業時間が1時間を越えない.次の作業時間まで,10–15 分の休憩,1作業時間中の小休止) ・ 留意点(ディスプレイとドライアイ,視力,レーザポインター,光学センサーマウス) ・ 健康診断(視力,精神衛生,テクノストレス) ・ 教育;VDT 作業に関する労働衛生教育 ソフトウェアと VDT 作業 「ソフトウェア 1」ソフトウェアは,次の要件を満たすものを用いることが望ましい. 1. 目的とする VDT 作業の内容,作業者の技能,能力等に適合したものであること. 2. 作業者の求めに応じて,作業者に対して,適切な説明が与えられるものであること. 3. 作業上の必要性,作業者の技能,好み等に応じて,インターフェース用のソフトウェアの設定が容 易に変更可能なものであること. 4. 操作ミス等によりデータ等が消去された場合に容易に復元可能なものであること. 「ソフトウェア 2」表示容量,表示色数,文字等の大きさ及び形状,背景,文字間隔,行間隔等は,作業の内 容,作業者の技能等に応じて,個別に適切なレベルに調整すること. 「VDT について」フリッカーの防止,表示文字の大きさは1文字の高さが 3mm,40cm 以上の距離が取れる こと (注:10pt = 10 × (2.54/72cm)=3.5mm) 配慮事項等 「高齢者に対する配慮事項等」高年齢の作業者については,照明条件やディスプレイに表示する文字の大きさ 22 等を作業者ごとに見やすいように設定するとともに,過度の負担にならないように作業時間や作業密度 に対する配慮を行うことが望ましい. また,作業の習熟の速度が遅い作業者については,それに合わせて追加の教育,訓練を実施する等に より,配慮を行うことが望ましい. 「障碍等を有する作業者に対する配慮事項」VDT 作業の入力装置であるキーボードとマウスなどが使用しに くい障碍等を有する者には,必要な音声入力装置等を使用できるよにするなどの必要な対策を講じる こと. また,適切な視力矯正によってもディスプレイを読み取ることが困難な者には,拡大ディスプレイ, 弱視者用ディスプレイ等を使用できるようにするなどの必要な対策を講じること. 「在宅ワーカーに対する配慮事項」業務依頼者は,VDT 作業を行う在宅ワーカーの健康確保のため,在宅ワー カーに対して本ガイドラインの内容を提供することが望ましい. 7.2 健康問題など テクノストレス コンピュータや OA 機器との関係が崩れたとき生じる心の病の総称 1. コンピュータや OA 機器使用の不慣れや習熟に対する不安 (ソフトウェア・説明書・マニュアルの側に 問題のあることが多い.職場や近くの人の助言・助けが有効) 2. さらに情報化社会に適応できないのではないかという不安 (例,VTR,デジタル機器) 3. 逆に,コンピュータ無しに生活できないというテクノ依存症 4. コンピュータゲーム依存症 5. VDT 作業に伴う VDT 症候群. 目の症状:ドライアイ,充血,視力低下. 作業姿勢の管理不足から来る 首,肩,腰などが痛くなる身体の症状 6. 心の病:食欲減退,不安感,抑うつ症状 労働形態上の問題; ・ 管理職の負担,残業(月間 80 時間,6 カ月継続の残業は”過労死”のクリティカルライン) ・ 勤労達成感,協調(ワークシェアリング),人権,うつ病,自己管理 ・ 資源節約との兼ね合い 宿題 10 健康に考慮した色々なオフィスのデザインを調べてみよう. 7.3 アクセシビリティ,ユニバーサルデザイン (メーカ側からの動き) アクセシビリティ アクセシビリティ (accessibility) とは,情報やサービス,ソフトウェアなどが,どの程度 広汎な人に利用可能であるかをあらわす語で,ユニバーサルデザイン (universal design) とはロナルド・メイ スが 1985 年に提唱したバリアフリーの拡張概念で「できるだけ多くの人が利用可能であるようなデザインに すること」が基本コンセプトである.特に,高齢者や障碍者などハンディを持つ人にとっての利用しやすさを 表すのに使われることが多いが,情報機器利用に障碍がないようにすることは ICT 推進の基本的な要素であ るばかりでなく,色々な障碍者を支援することは ICT の基本的な研究テーマでもある.ICT の各メーカはこ 23 れらのことを配慮して色々な工夫をしている. 1. ディスプレイの表示文字のフォント・サイズ・表示色を変えられる. 2. マウスに変えてキーボードで操作できるようにする. 3. 視覚障碍者に読み上げソフトの導入と他のソフトの読み上げソフトへの対応. WCAG Web ページに対しては W3C の提唱する規格 WCAG(Web Content Accessibility Guide-line) と JIS 版 (JISX 8341-3) がある.Java Script や Macromedia Flash を使用した視覚中心のものに問題が多い. 画像や音声部に対する代替テキストによる注釈,キーボードにより操作ができること,表示スタイルと文書構 造を分離することなどがあげられている.例えば,XML を使用してあれば使用側で音声に変換するなどがで きる.現状でも HTML は CSS に内容的に頼らないような配慮が望ましい.視覚障害者への点字システムは高 価で,現状では個人で買える価格でない.更に,入力装置にも新しい方式の開発が望まれる. 各メーカではこれらの基準を含めたアクセシビリティへの配慮が見られる.WCAG 対応のホームページを 作るビジネスも存在する. 宿題 11 メーカ各社のアクセシビリティ,ユニバーサルデザインの取り組みを調べよう. 24 8 社会と雇用情勢の変化(第 11 回) 8.1 労働市場,労働経済 (厚生労働白書,高齢社会白書,日銀レポート,新聞) 8.1.1 高齢化問題 データ等 「平均寿命の延び」: 昭和 22 年 (1947 年)50 歳,現在 80 歳以上 「定義と統計」: 人口構成上 14 歳までを“年少者”,15 歳から 65 歳までを“生産年齢者”,65 歳以上の者を “高齢者” といい,高齢者の全人口に占める割合が 7%∼14% の社会を“高齢化社会” ,14%∼21% の社 会を“高齢社会”,21% 超の社会を“超高齢化社会”という. 日本は昭和 45 年に高齢化社会に,平成 6 年に高齢社会になった.2009 年 10 月 1 日の内閣府発表で, 高齢者 2,901 万人,高齢化率 22.7%.現状では平成 22 年に超高齢化社会になっている.高齢化社会は 日本特有の現象ではないが,第2次世界大戦終了の昭和 20 年代のベビーブーマーが突出して多く,一 方で社会の経済発展により少子化になったために人口構成が逆ピラミッド型になり問題が顕著化した. 団塊の世代について 1. 昭和 22 年 (1947) 頃をピークに以後数年→ 定年が 2008 年をピーク 2. 高齢者の高勤労意欲→ 老齢者が働くに適した環境の提供→アクセシビリティ推進, 3. 生涯教育,雇用能力開発のためのキャリア形成支援→ 教育,e-learning の需要 4. 管理職,専門技術者,熟練労働者退職によるスキルの伝承と喪失防止,更に IT バブル (1990 年台) 後 の不況時の新人採用と後継者育成費用の削減による後継者特に管理業務,専門技術者の不足の懸念→ 教 育,ロボットによる円滑な継承と技術移転 高齢者 QOL 改良の ICT 「生活環境」 : バリアフリー促進 「医療・介護需要」: (i) 在宅医療・介護のモニターと支援,(ii) 孤老家庭のモニターと支援,(iii) 技術面支援, (iv) 事務処理 8.1.2 若年労働者問題 問題点 (i) 多様化するライフスタイル,(ii) パラサイトシングル,(iii) クリエイティブなライフスタイルとい う作業労働嫌い,(iv) 第3次産業 (サービス業) 中心の時代,(v) ロストジェネレーション (2006 年 8 月に朝日 新聞がバブル崩壊不況時に正社員になれなかった青年層を指して命名した),(vi) NEET(Not in Education, Employment or Training :若年無業者),(vii) フリーター (15∼34 歳の年齢層にあり,パート・アルバイト (派遣社員等を含む),及び働く意思のある無職の者:417 万人),(viii) マグドナルド的労働,(ix) アパレル業 界的労働,アニメータ的労働,(x) 年長フリーター,(xi) 再チャレンジプロジェクト,(xii) セーフティネット 25 8.1.3 労働形態の変化 非正規雇用問題 非正規雇用の変化非正規社員は,最初は契約社員の方が勤務拘束時間を自由にできる,アウ トソーシングで専門業者に任せた方が効率等の点から良い等から始まったが,労働者派遣法の改定で正社員と 派遣社員が同じラインで同じ仕事をするという事態になっている. 「契約,パート,期間」: 実際に働く先の直接雇用契約があるが,勤務時間が相対的に短い. 「常用雇用型派遣社員」: 派遣会社の正社員で専門・技能労働者に多く見られる.派遣会社と雇用契約を結ぶ が仕事の指揮は委託先の会社にある.委託先の仕事が終了したら次の委託先へ移るのが本来の型式であ るので,長期に亘る場合は正規に雇用しなければならない. 「登録型派遣社員」: 派遣会社に登録しておき,派遣先が見つかった段階で派遣会社と雇用契約を結び,委託 先で委託先の指揮を受けて仕事をする.仕事があっても,毎日,職場も仕事の内容も変わるという環境 で,スキルも向後の保障の獲得もできないことになる. 「請負労働者」: 雇用契約は請負会社と結び,請負会社の指揮を受けて仕事をする.請負会社は専門技能集団 であり,請負会社が請け負ってきた工程の労働を自主的に行うのが本来の姿である.従って,アウト ソーシングにおいても意味がある.発注先の現場へ行く場合でも指揮は請負会社 (雇用先) から受けな ければならないが,最近,派遣社員のように委託先の現場の指揮に従うこと (偽装派遣) が度々あり問題 になっている. 労働人権問題派遣社員の規制に関して,1999 年労働者派遣法の改定で,それまで許されていた 26 専門分野 (財務処理,ファイリング,医療会計処理) から 5 業務 (製造業務,港湾運送業務,建設業務,警備業務,医療 業務) を除き原則自由化されたが,2003 年に製造業務への派遣解禁,その他雇用期間の規制緩和等により従来 請負い業務だった業務へ派遣労働者が入ってくることになる.問題が多く発生したので,現在,見直しが進め られている.非正規雇用社員の増加は,給与の問題だけでなく,労働現場への帰属性,技能育成,労働の尊厳 などの面からでも問題になっている. 8.1.4 その他の問題 (i) 外国人労働者 (現在は専門職,生産ライン,サービス業,今後は介護等),(ii) ワークシェアリング,(iii) サービス残業,(iv) ホワイトカラー・エグゼンプション (white collar exemption) ,(v) 名ばかり管理職,(vi) 2009 年 3 月に突然発生した製造業の大量派遣切り,(vii) 仕事の高度専門化,(viii) 情報機器の未成熟,(ix) 変 化の早さ,(x) 企業内での教育・育成意欲の減退の結果として,スキル不足と中途採用の増加,(xi) 中国への 事務業務のアウトソーシング等の問題が発生している,(xii) 外国人研修生という名称による超低賃金労働. 8.2 在宅勤務の浸透 近年話題になっている労働形態の変化の一つに「在宅・テレワークス SOHO」労働者の増加がある.在宅・ テレワーク・SOHO という形態は 1990 年代初期,第一次職場情報化が言われたときに登場した.現在はイン ターネット・ブロードバンドの普及や少子化による雇用者不足という将来を見越して,2006 年 9 月の首相所 信表明演説で「自宅での仕事を可能にするテレワーク人口の倍増を目指す」と述べている.具体的な数値とし て,2005 年の就業者人口比率で約1割であるのを,2010 年までに2割にしようという目標である. 26 定義と形態 テレワークは「ICT を活用して,場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」を意味し,自宅・サ テライトオフィス・モバイル (移動通信) を利用して,自社・事務所以外での仕事を週8時間以上行っている人 をテレワーカーという.雇用形態は本社の採用であり,働く者にとっては,(i) 通勤に関する疲労がない,(ii) 育児・介護をしながら空いた時間に仕事ができるというワーク・ライフ・バランスの改善が図られ,(iii) 趣味 や自己啓発の時間が持てる,(iv) 企業にとっては確実な雇用者確保,(v) 社会にとっては女性の再就職促進・ 地方の職場確保といずれも利点が考えられる.大手企業では日本 IBM が 1999 年に導入したが,2004 年厚生 労働省が在宅勤務のガイドラインを制定して,一定の条件化で労災保険の対象とする方針を明示してから在宅 勤務を導入する動きが活発化してきた.どの企業も初めは育児・介護を条件にしていたが,条件を設定しない 方向が広まって来ている. 作業内容と導入の得失 在宅での仕事は,主に資料作成など文書作成業務で,仕事の開始と終了を電話かメー ルで上司から仕事の指示を受け,報告を行う.実施者側からは7割以上で生産性が上がったという声があり, 上司の6割もそれを認めているようである.デメリットとして,(i) 仕事とそれ以外の時間の区切りがつき難 く,長時間労働になり易く,健康管理が難しい,(ii) 書類や資料が分散する,更にセキュリティの確保のため にデータが分散されるので,そうなり易い,(iii) 緊急時の仕事の連絡がつき難い,(iv) テレワーク実施分の評 価が難しいというアンケート回答が得られている.データ入力業務等の自社以外のデータを在宅勤務で扱う場 合に重要な注意点がデータのセキュリティの確保で,データ交換の暗号化は勿論,データを分割したりするな どの対策を講じているようである. 社会的影響と注意点 在宅勤務は,在宅女性や地方への雇用創出という期待も持たれている.例えば,国内で は NTT の番号案内は以前からその都市にないこと,更に英語圏では電話での応対業務はインドで行っている こと,本屋のネットショッピングで配送センターが砂漠の中にあるなどは既に知られている事実である.しか し,アウトソーシングとの区別がつき難くなり,「IT 内職」になり易いと言う欠点がある.また,このような 場合は「エージェント」を通して仕事を行うことになり,漢字圏ということでコストに関して中国への発注競 争への対応から,仕事の品質確保のための人材育成・教育が不可欠になる.また,これらに関して「仕事の導 入教育教材や斡旋」と称してしばしば詐欺事件が報じられているから,社会的に注意喚起も必要である. 8.3 社会情勢の変化とストレス 8.3.1 経済的問題 ・ globalization と off-shore (工場の海外流出による資本・雇用・技術の流出,),中国の国家資本主義,ア メリカの資本国家主義(「アメリカに好いことは世界に好いことだ」) ・ リーマン・ショック;サブプライムローンから起きたアメリカの投資型金融 (money 資本主義) の完全 破綻.greed の行き着いた結果 ・ derivative(色々な金融取引を組み合わせて非常な高利益を得る.運用に数理ファイナンス手法が用いら れる), ・ hedge fund( 通常の金融運用のような公募でなく,私的に少数の機関投資家などから大規模な資金を集 めてデリバティブなどのより高利益を上げる投資団体), ・ 投機と世界的金余り (原油,食料等の原材料費高騰), 27 8.3.2 経済政策の背景思想 新自由主義,市場主義,ポスト・モダニズム: 18 世紀の経済学・哲学者アダム・スミスは著書「国富論」の 中で,“(神の) 見えざる手” という言葉で,市場とそこでの競争の原理を重要視する理論を提唱し,近代経済学 の基礎を確立した.この原理はこの時代には有効な経済指導原理であった.しかし,これを敷衍したような現 在の市場と競争原理は,基になっている経済活動のあり方が,アダムスミスの理論の基の経済活動とは全く異 なることに注意しなければならない.即ち,理論の仮定が既に異なるのである. 最近の新自由主義・市場主義は, 「小さな政府」 「規制緩和」 「官から民へ」 「社会といったものはない」 「市場 に代わるものは無い」「構造改革」「自己責任」などのワンワードセンテンスで語られるが,どれも企業の自由 な経済活動がすべてとするために持ち出された理論である.いずれも,手厚い福祉や産業促進政策を行う際の 国家予算の増大を招く「大きな政府」「福祉国家」「国家による再配分」を否定し,ケインズ経済に対立する思 想でもあり,イギリスではサッチャー首相,アメリカではレーガン大統領,日本では小泉首相の時代に基本政 策に取り上げられた.IMF を通じた世界の経済支配もこの延長上にある.さらに市場主義の思想は金融業に も「金融ビッグバン」として持ち込まれ,銀行,証券,保険の業務境界をなくした結果全体として投機に走る ようになったアメリカではさらにネオコン(国家規模でのミーイズム)思想と結びついてブッシュ大統領の時 代に,有り余る投機資金による原油や食料の高騰,イラク侵攻,リーマンショックなどを生んだ.日本の現状 もこの思想の流れの結果である.企業の業績が伸びても,そこで働く者には何の見返りも無いことも実証され た.アメリカではリーマンショックの反省から銀行規制法で銀行の投機を規制することとなった. 現在の経済原則で,べき乗則の一つで 80–20 の法則 (バレートの法則) といわれる,人口の 20% がその国・ 地方の全資産の 80% を独占しているという法則が成立している統計的事実があり,色々な状況でも成立してい ることが検証されている.しかも,それは再生産されている.一方で,それに属していない若者は,近代工業 社会の基本であった製造業という働き場を失い,職業選択が細分化されていて,一見職業選択の自由が広まっ たかのように見える.その現状に適応せざるを得ない若者の職業選択のあり方を若者が好んで行ったかのよう にいい,その結果の成功よりも失敗を個人の努力の不足と個人の責任のように言い張り,社会からの孤立を見 過ごすような新自由主義論者がいることに注意する必要があろう. 「すべては総合的であって,構造というものはない」という標語を掲げるポストモダニズムは専門用語を煌 かせた衒学的手法を用いて,19 世紀以来の近代から現代の発展の基礎となった「主体・自立」 「整合的な体系」 「世界の客体化」という合理的・階層的思想を否定する思想を共通に持つ.結果として現状公認的な言論展開 を得意とし,新自由主義・市場主義を側面から支援している. 現代の先端工業国家 (後期近代国家) に見られる政治動向にも注目する必要がある.これらの国では特に若・ 青年層において,より多く個々人が自己表現に関心を向けるようになり,環境気候変動・動物の権利・反グロー バリズム運動などの単発的運動に興味を示し,政党の主張するパッケージ (マニフェスト) に不信を持つように なる.そして,NGO 活動等に協力するようになる.という傾向が世界的に見られるようになったと分析され ている. 28 9 職場教育,生涯教育(第 12 回) 9.1 教育の必要性 これまで説明してきたように,第1次産業 (資源産業) 中心,第2次産業 (製造業) 中心と変わってきた日本 の産業構造も第3次産業 (サービス業,情報産業) 中心に変わり,更にグローバリゼーションという荒波の元に 世界に伍していくためには従来型の量にのみ依存した産業形態では韓国・中国に負けている.創造的・専門的 な産業創出の必要性がより高まっている. この体勢に対応し,より高いスキルを獲得するには教育と研究が不可欠になる.そのために現在の学校教育 システムの充実・効率化を図ると共に,職場内教育・生涯教育・キャリア形成教育といった現在の学校教育シ ステムでカバーできない部分の教育には新しい教育戦略が必要になるが,ここへ ICT を活用する余地を考え てみよう. 9.2 ICT 活用教育の方法 ICT 活用教育のメリット ICT 活用教育には次のようなメリットが考えられる.これらは一緒にして D & DL 教育と称される. 「Distance」 : 学校教育のように学習者が同じキャンパス,同じ時間に集まらなくても良い.キャンパスの離 れている学生の教育もこの範疇に入る.実距離に関係なく,企業に勤めながら職業教育を受けるという ように,学校という仕組み,場所,時間に自由の効かない人々の教育の問題解決にも利用されている. 「Digital」: 電子化された教材を使用することを意味する.現在は,マルチメディア教材も含まれる.以前は, CAI(computer-aided instruction) と呼ばれ,Web が普及した時点から WBE (web-based education), WBT(web-based teaching) などと呼ばれているものが元祖に当たる.特徴は,(i) いつでも,(ii) 何処 でも,(iii) 自分にあった進度で,(iv) 何度でも繰り返し,(v) 自分の能力に応じた内容で,(vi) 優秀な 教材で,等の理想的な教育システムの特徴が挙げられる. 形態 CAI を利用のされ方から考えると, “教える CAI” と“学ぶ CAI” に分類される.学ぶ CAI には,(i) シミュレーション型,(ii) 検索型,(iii) 思考支援型などがある.広く捕らえると飛行機のパイロットや鉄道乗 務員養成用のシミュレーターや数式処理プログラムなど,この範疇に入るが,コスト,システム,背景理論の 違いが大きすぎるので別の扱いをされる.一般には教える CAI の中でも“コースウェア” を使った教える CAI を意味することが多い. システムと技術 CAI と呼ばれていた時代は,スタンドアロンで,コースウェアの実行プログラムとコース ウェアの作成プログラム (authoring system) が一体のプログラムを使用していた.イリノイ大学の PLATO が良く知られていたが,IBM や NEC でも CAI システムのソフトウェアを販売していた.PLATO などはそ の教材と共に,語学学校などで利用されている.また,システムとして独立のものではなくても自社内社員教 育用の教材を主としたコースウェアを開発していた企業もあった.CAI システムは WBE になって無用になっ た.コースウェアを HTML ドキュメントとして,さらにインタラクティブな部分を Java で,画像教材等はマ クロメディア等により開発すれば,実行はブラウザがしてくれる.WBE になって改良された点は,CAI で最 大の問題である (i) 教材の陳腐化と更新,(ii) 管理,(iii) 教師との意思疎通がインターネットにより簡単にで 29 きるようになったことである.加えて,(iv) 教材の流通という副次的な産物がビジネスを生んだ. しかし,実際にマルチメディアなどを用いてコースウェア教材を開発するとなると非常なコストが掛かる. 頻繁に必要な更新はさらに大変である.運用の面でも遠隔地教育では人件費が掛かるのが現状である.全てを 自動的に行う教育など存在しない.また,アクセシビリティに関して特に視覚障碍者への配慮を欠かすことが できない. 9.3 e.Learning とは ビジネスとしての CAI:(e-Learning) 最近 e-Learning という言葉が情報化白書の中でまで急に取り上げられ るようになったのは,教育方法の改善という教育的な動機からでなく,ビジネスとして大きな市場が考えられ るようになったためである.教育種別のコンテンツを考えて見てみよう. 「初等中等教育」: 学校教育の場ではマルチメディアによる検索型 CAI と「情報科」設置による情報活用教育 が考えられる.補充教育の場ではドリルや塾における自習補助用のコースウェアが考えられる.文部科 学省の「教育の情報化推進施策」で,当面は電子黒板の導入推進が図られるようであるが,その他にも 状況が変わると思われる. 「高等教育」: キャンパスの離れた学生や単位互換大学間の遠隔教育,社会人へのコースウェアなどが考えら れる.遠隔教育では単なる講義だけでなく,遠隔グループウェアを使った質疑応答・討論教育などの積 極的な利用方法も考えられる.更に医学教育のような超高等教育の場合でも,シミュレーション,先端 医療の実習などにも活用できる. 「専門学校等」: 文字通り職業専門科目の繰り返し教育にコースウェアが活用できるであろう.ネットワーク 技術,アップリケーションプログラムの how.to ,エンジンの整備法など,特化された教育に関しては 特化されたコースウェアが用意できるので,流通に耐える教材の開発も可能である. 「職業教育」: 日本の社員教育では従来型の OJT(On JobTraining,現場での実践教育) が重要視されている が,将来は資格とマニュアルが重要視されるようになるであろう.OJT には個人指導,資格取得には遠 隔教育,マニュアル教育にはシステム教育が適している.そのための教材コンテンツが多数開発され商 品化されている. 「Dublin Core」: 流通コンテンツを利用する利点は,(i) 教育内容の標準化,(ii) 人件費を含むメンテナンス コストの削減,(iii) 内容の充実,などが考えられる.コンテンツ流通に関して必要となるのが,コンテ ンツの内容に関する情報で,書籍における図書カードをモデルにした教材データベースのインデックス 情報の標準化をしようという国際的な動きがある.Dublin Core の教育版である DCMI や IEEE 1484 LOM(Learning Object Metadata) は各国が支援している.日本では NICER など.また教育支援のサ イトも増えてきた.ERIC Database, the Educator’s Reference Desk などがある. 9.4 最近の話題 デジタル教科書: 文部科学省では「教育の情報化推進施策」や「拡大教科書普及促進会議」を設けて,デジ タル教科書を推進しようとしている.今まで,先端工業国で黒板を使って授業している国は日本だけだと言わ れていた.アメリカのカリフォルニア州でも州予算が赤字で先生の給料が滞っているにも関わらず,デジタル 教科書の導入を決めている.施策で取り上げられているのは校務周りの情報化,デジタル黒板,拡大教科書の 30 他は「ICT 活用」という抽象的な話ばかりで, 「教育の情報化」の具体的イメージはないようであるが,拡大教 科書の会議議事録中に,教科書をテキストソースの段階からマークアップ言語 (具体的には XML) により作成 し,同じテキストソースから障碍者用の大きな文字の教科書,音声,点字などへの変換という教材のユニバー サルデザインの提唱をされている意見も見受けられる.このように 1 つのソースを変換して色々な形で利用す るという電子化の特徴は「ワンソース,マルチユース」という言葉で表される. ユニバーサルデザインという考えはこれまでの節でも触れてきたように,バリアフリーの単なる言換えでな く,色々な状況に対応できるということであり,外国では言葉や習慣の違いの問題も含んでいる.実際,ヨー ロッパでは言葉の違いの問題が重要な課題である.教科書は単純に翻訳しただけでは児童が使用できるような 教科書はできない. デジタル教科書の問題も職場の情報化・電子化と同様の問題があり,しかも,規模が大きい.使われる資 材も国家規模になるということで,標準化をめぐる争いが予想される.XML による電子テキストも基本にな る DTD の設定という問題がある.かって,教育用コンピュータの OS をめぐる議論の中で,日本語に適した “Tron”という OS を MS が外交圧力で潰したという歴史がある.このようなことの二の舞にならないように 国民の議論と監視が必要であろう. XML によるテキストソースの電子化は上記のように出力形式に依存しないといういうことだけでなく,工 夫によっては教科用の semantic database が生成できて,学習支援システムが構築できるというような発展的 活用があることも触れておこう. なお,従来の視聴覚教材に代わるマルチメディア教材が国の支援を受けて「メディア開発センター」という 機構で開発されている. 電子ブック: 電子ブックを活用する講義に関しては,まだ,一部の大学での試行の段階である.これを使用 すれば,黒板不要,教科書不要,出席調査不要などの講義ができるということである.テキストの作成はそれ ほど難しい点はないが,費用の他,解決すべき色々の問題があるようである. 医師養成教育で手術の実習などにおいて,手元で見れる,表示の大きさを自由に変えられる,メモが入力で きるなど強力なツールになることが期待されている. その他: ・ 大学における FD(faculty development) 活動に関して,e-Learning を活用しようという意見がある. 少なくとも教材を PDF ファイルで公開するようにする様になれば,予習や復習が楽しくなるであろう. ・ e–Learning のみの大学もあるが,広まらないようである.需要が限られるのであろう. 参考書: ・ 情報処理,特集“e-Learning の最前線”,43(4), 2002 ・ 文部科学省のホームページ 宿題 12 インターネット上にある e-Learning 関係の情報を外国の情報を含めて調べてみよう.その際に,利 用分野別に分類せよ. 31