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13 吊り下げ式人工産卵床の開発と季節的蝟集現象の利用

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13 吊り下げ式人工産卵床の開発と季節的蝟集現象の利用
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吊り下げ式人工産卵床の開発と季節的蝟集現象の利用
要旨
オオクチバスの雄親魚の産卵床形成を誘導する装置として開発された「人工産卵床」を、従来の直
接水底に設置する「直置き式」から、水面から垂下して設置する「吊り下げ式」へと改良した装置を 4
水域で設置したところ、すべてにおいて産卵床形成が誘導され、岸から沖方向へ伸びる構造物である
網場と取水ポンプ施設に吊り下げ式装置を設置した場合、岸から離れた場所でも産卵床形成が確認さ
れた。また、ブルーギルの物陰への蝟集現象は特定の時季を除いて確認され、この現象を誘導すべく
遮光筏を設置したところ、蝟集現象を再現できる可能性が示された。
1. 研究の目的
一般に、ある生物の生息抑制の効果を高めるには、対象生物の野外での習性や行動を上手に利用す
ることが有効である。本研究課題では、オオクチバスの雄親魚による産卵床形成行動とブルーギルの
物陰への蝟集習性を利用した、新たな生息抑制の手法の開発をめざした。
2. 吊り下げ式人工産卵床の開発
(1) 背景
「人工産卵床」
(産着卵回収装置)は、オオクチバスの雄親魚による産卵床形成を誘導し、産着卵や
孵化仔魚を回収して繁殖努力を無効化する装置で、漁具を用いて雄親も含めて捕獲することも可能で
ある。当初、水底に直接に設置する「直置き式」であったが、導入水域(湖沼・溜池・ダム湖)で産
卵床形成を誘導しない事例が相次いだ。そこで、この状況を打開するため、装置の本体にウキとオモ
リを付けて水面から垂下する「吊り下げ式」装置を提案し、その有効性を検証した。
(2) 設置の試行とその結果
装置の設置・回収、見回り・確認をする協力者を現地で確保できる水域
として、鹿児島県鹿児島市松元ダム貯水池、岡山県鏡野町苫田ダム貯水池、
東京都東村山市狭山公園宅部池、福島県三春町三春ダム貯水池の 4 水域を
A
選定し、2010(平成 22)~2011(平成 23)年度に吊り下げ式装置を設置し
た結果、4 水域すべてで産卵床形成が確認された。ただし、2010 年度は苫
田ダムにおいて台風による大量の流木や大雨による濁りで調査が十分にで
きず、2011 年度は松元ダムにおいて設置時期が遅れ、三春ダムにおいて著
しい水位低下への対応ができず、産卵床形成は確認できなかった。
B
松元ダムでは網場、三春ダムでは網場[写真 A]と取水ポンプ[写真 B]に岸から 10m以上離れて吊
り下げた装置でも、産卵床形成が確認された。このことは、オオクチバスの産卵ペアが、網場など「沖
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出し構造物」に沿って岸から離れて移動し、その先に適地があれば産卵を行うことを示唆する。
吊り下げ式装置は、岸に沿って設置した場合、大規模な水位変動や低い透明度に対応しきれない問
題点があったが、沖出し構造物の利用や、それを模した部品(網場状パーツ)を装置に付け加えるこ
とによって、これらの問題点を克服し、効力を高める可能性が期待できる。
(3) 装置の仕様と製作・設置方法
ア 基本的モデルの仕様と製作、設置の方法
装置の基本モデルは、苗ポットの販売用のプラスチック製トレー(50cm×40cm 程度)を2枚重ねあ
わせて作った正方形(一辺約 50cm)の枠に人工芝を貼りつけたものが本体で、そこに水面から吊り下
げて設置するため、ウキとしてペットボトルを結わえ、オモリとして砂利を入れた野菜・果実用のメ
ッシュバッグを吊るす仕様となる。この製作の手順を、以下 a)~e)に示す。
a)苗ポット用トレー は、ホームセンター等で
C
D
使用済みのものを調達する。トレー2 枚を準備し、
長辺の片方を切断する[写真 C]。 b)2 枚のト
レーの切断した長辺の部分どうしを重ね、重複
部分を全体の輪郭が正方形になるように結束バ
ンドで固定する[写真 D]。 c)底面の大きさに合わせ
E
て人工芝を正方形に切り、ビニールタイで底面に固定
する[写真 E]。 d)メッシュバッグに砂利を適量入れ、
綴じ紐でバッグの口を縛り、重複部分のある本体の対
辺(「前後」)の中央部に吊るす[写真 F]。e)適当な長
さに切ったロープの中央部をペットボトルの口に結わえ、ロープの長さを調節し、
F
両端を本体の「左右」の対辺の両端に結ぶ[写真 F]。
装置の設置位置としては、先述した「沖出し構造物」の利用が有望であるが、水位変動幅が小さい
水域であれば、構造物に直接設置するか、岸沿いに設置するのも有効である。岸沿いに設置する場合、
装置を水底に接しないよう宙に吊るすことができる水深(1m 程度以上)が確保できる程度に岸から離
れ、一方で、岸沿いに遊泳する外来魚から見付けられる程度には岸から近い位置(水域の透明度に応
じて、岸から 0.5~3m程度の距離)に、水面上からロープ等で定位させる方法、水底からコンクリー
トブロック等のアンカーで定位させる方法、岸に沿って張られたガイドロープから吊り下げる方法等
により設置する。
イ 本体材料、底面素材の応用事例
狭山公園では、指定管理者の NPO birth により、プラスチック製トレーの代わ
りにほぼ同サイズの鋼製メッシュパネル(インテリア用品)を用いた仕様[写真
G]が提案された。この場合、パネル自体が重いのでオモリを吊り下げる必要が
なく、装置がさらに簡便化できる。ただし、パネルの価格が高く(1 枚 1000 円程
G
度)
、基本的モデル(材料費 500 円程度)よりも割高になる。
苫田ダムでは、株式会社ウエスコが、装置の底面に敷く素材として、人工芝の他にも、ヤシ樹皮製
- 125 -
のマットと発砲リサイクルガラス製の人工砂利を用いた結果、どれも同程度の割合で産卵床形成が誘
導された。しかし、耐久性と操作性の高さと調達・準備のしやすさの点で、人工芝が最も適している
と考えられる。また、人工芝には黒色マットに緑色の「芝」が植毛されたものと、緑色の芝だけで成
形されマットがないために「底が抜けた」ものがある。卵や孵化仔魚を確実に確認するには前者が適
しているが、繁殖努力を自動的に無効化するには後者が適しているかもしれない。
ウ 設置・回収の時期
装置は、水域の表面水温がオオクチバスの産卵開始温度とされる 15℃に達するまでに設置し、ほぼ
終息する約 28℃を目安とし、産卵が連続して行われないのを確認してから回収する。
なお、オオクチバスは、水温が好適になった時点で多くの個体が一斉に繁殖を開始する場合がある
うえ、小規模な水域では水温上昇が早く 2 回目以降の繁殖活動が確認されないことも想定されるため、
設置に際しては繁殖開始のタイミングを逃さないよう、早めに設置することが望ましい。
エ 見回り・確認の方法
産卵床形成を確認するための見回りは、岸沿いに歩くか、水上からボ
ートで行うことになる。装置は軽量であるため、フロートを掴んで本体
部分を直接水面から上に持ち上げることによって、小型の手こぎボート
を利用していても容易にできる[写真 H]。水温が低いうちは、バスの
仔が装置底面上にある受精卵期および孵化仔魚期は 2 週間程度続くが、
水温が 20℃を越えるようになると、その期間は 1 週間程度に短縮され
H
るため、見回りは 1 週間以上空けずに行うのが望ましい。
装置には、オオクチバス以外にも、ブル
ーギル、ギンブナ、モツゴの産着卵が確認
された。どの魚種の卵も直径 1.5mm 弱だが、
モツゴ類の卵は連続して一列に産み付け
られた部分があることや、透明感が高くや
I
J
I
J
や扁平な形状で基質に貼り付いている[写
真 I]のに対し、残る魚種の卵はどれも不
透明でほぼ完全な球形で、基質に軽く付着
しているように見える(実際には、フナ類
の卵はかなり強く付着している)。フナ類
とオオクチバス、ブルーギルを比較すると、
前者の方が疎らで[写真 J]、後者の方が卵が互いに触れる程度に密集して[写真 I、J]産み付けられ
る傾向がある。また、オオクチバス、ブルーギルでは雄親魚が保護するため、装置の底面に藻類や浮
泥の堆積が少ない傾向があり、離れた所から注意深く雄親魚の有無を確認することで、卵では難しい
オオクチバスとブルーギルとの区別も確実にできる(後者の方が、卵サイズはやや小さい)。
卵と比べて孵化仔魚は目立たないので、まず表面に卵がないか探す。死卵が確認されながら受精卵
がない場合には、孵化仔魚がいる可能性があるため、仔魚が体を小刻みに波打たせる動きを手がかり
にして発見に努めること。特に、装置を水中から引き上げた場合には、仔魚が人工芝の根元に落ちて
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見つけにくいため、十分に注意を払う必要がある。卵や仔魚が発見された場合、装置本体の対角線方
向に小型三枚網を設置して 1 時間程度待つと、雄親魚が捕獲できる可能性がある。卵や仔魚を確認し
た場合、装置を交換したり、その場で洗い流したりして、繁殖を無効化するよう努める。卵や仔魚が
見られない場合も、底面の堆積物や藻類の繁茂を防ぐため、軍手をした手でこすって洗浄するとよい。
3. 季節的蝟集現象とその利用
(1)背景と方法
特定外来魚は、岸から水面上に伸びた樹木や船溜りに係留された船、浮き桟橋などが水中につくる
物陰に蝟集する現象が確認され、特にブルーギルではその傾向が顕著である。こうした蝟集現象の発
生する場所・時季が特定され、またこれを人為的に誘導できれば、効果的な捕獲に応用できる可能性
がある。そこで、鹿児島県姶良市住吉池において、かごしま市民環境会議の高山真由美氏らの協力で
ブルーギルの蝟集現象の季節的変動を調べた。鹿児島市松元ダム貯水池においては、管理事務所の協
力で塩ビパイプの 2m 四方の枠に遮光シートを張った遮光筏を設置し、ブルーギルの蝟集状況を調べた。
(2)結果と考察
L
K
住吉池では、浮桟橋[写真 K]の直下
において 2008 年 8 月から 2012 年 1 月に
かけて観察されたブルーギル蝟集状況を、
月別に段階 0(蝟集なし)から 4(最高密
度[写真 K])の 5 段階で評価した。蝟集現象は、表面水温が 15℃を割
M
り込む 12 月(下旬)から、15℃を超えオオクチバスの繁殖期が始まる
4 月にかけての低水温期、および 30℃を上回る高水温期(8 月)には確
認されず、ブルーギルの繁殖期を含む 5 月から 7 月と、水温が低下する
9 月から 12 月(中旬まで)にかけて顕著だった。秋の水温低下期には
季節が進むほど個体が増え、12 月(中旬まで)に最高密度に達した。
松元ダムでは、2011 年 11 月に網場に遮光筏を設置したところ[写真 M]、期待どおり、約 30 分後に
小型のブルーギル(全長 10cm 前後)が数十個体蝟集するのが確認された。この装置は、吊り下げ式人
工産卵床と同様、網場状パーツを設置することで、湖岸からの設置が可能となることが期待される。
また、特定の範囲へのブルーギルの蝟集効果を利用することで、遮光筏を用いた効果的な捕獲手法を
開発することが可能であると思われる。
中井
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克樹(滋賀県立琵琶湖博物館)
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