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今日は 出生前診断 続き 「法律上認められていない中絶」

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今日は 出生前診断 続き 「法律上認められていない中絶」
2013/6/2
今日は
2013年度1学期 臨床哲学講義 2013年7月2日
ケアの臨床哲学 ー障がいとそのケアー (11)障がいと出生前診断・優生思想
浜渦辰二 出生前診断
•  最初に4回にわたって、障がいの問題の全体を概観した。 •  次に6回にわたって、個々の障がいについてお話をした。 •  できるだけ基本的な(医学的、行政法的、教育的)情報をご紹介したう
えで、実際にそれぞれの障がいをもつ人々(当事者)がどのように生き
ているのかを垣間みることができるようなビデオを見てもらった。 •  こういう基本的な情報を知らないままに、障がいについていろいろ議論
しても空回りすることが多いので(例えば、脳死臓器移植の議論)、ま
ずはそういう基本的なことを知ってもらいたかった。 •  これからあと4回で、こういうさまざまな障がいをめぐる問題や、それを
どう考えるべきかといったことについてお話しすることにしたい。 •  これまでに比べると少し抽象的な議論になるが、たえず、これまでご紹
介した具体的な障がいのケースを思い浮かべながら、考えて欲しい。 •  今日は、初めの方で少し触れたこと、「生老病死」のなかの「生(誕生)」
と障がいの関わりの問題である「出生前診断」と、そこから繋がってい
る「優生思想」と呼ばれるものについて考えて行きたい。
新型出生前診断スタートから1ヵ月 441人の妊婦 データで分かった「高齢出産」35歳以上のリスク (「週刊現代」2013年6月1日号より)
•  初回に、「この4月から、新型出生前診断が始まった」ことを、1件の「
社説」と4件の「声」を使って紹介した。簡単に振り返ると…… •  「約20万円かかるが、お母さんの血液を少し採って調べれば、2週間ほ
どでおなかの中の胎児に染色体異常があるかどうか高い精度でわか
るという。 」 •  「新検査法で診る対象はダウン症など三つの先天異常に限られる。先
天異常をもった赤ちゃんが生まれる頻度は4%ほどだ。対象の三つは
あわせて0・7%程度。新検査法で異常が見つからなくても、ほかの先天
異常をもって生まれてくるかもしれない。」 •  「新検査法を受けるか。確定でない結果をどう受け止めるか。特に染
色体異常の可能性がわかったらどうするか。分岐点が次々に現れる。
それも胎児が日々育つ妊娠中のことである。 」 •  ダウン症は、知的障害、先天性心疾患などの障がいを伴うことがあるこ
とも紹介した。
続き
•  産むか、諦めるか •  「正しい情報を得た上で、最終的に妊娠した赤ちゃんを産むか、産まな
いかを判断するのは当事者の夫婦です。医師が、「堕胎は倫理的に良
くないことだ」と言ってはいけないし、その逆も然りです。」
•  「日本の歪んでいるところは、染色体異常を理由にした中絶が法律上
は認められていないのに、産まれた子どもへのサポート体制が未熟な
点です。産んだ後は「自分で選んだのだから自己責任で育てなさい」
となってしまう。もっとサポートする体制を作らなければいけません。」 •  つまり、「決断」とは、「産むか、諦めるか」の「決断」であり
、「産んだら自己責任で育てる」ことになり、「諦めるなら法
律上認められていない中絶を選ぶ」ことになる。 •  えーっ、「法律上認められていない中絶」って何のこと? •  今日は、まず、この話から始めたい。
•  まもなく「決断」を迫られる
•  胎児遺伝子診断の専門家である関沢明彦昭和大学医学部教授が現
状を語る。 •  「4月1日からの1ヵ月で、全国15の医療施設で441人が新型の出生前
検査を受けました。30歳から47歳までの方が受けており、そのうちの90
%以上が35歳以上の高齢妊婦。平均年齢は38・5歳です。」
•  「すでに257人について結果が出ており、染色体異常の可能性が高い
陽性反応が出たのは9人でした。これは全体の3・5%で、アメリカでの
先行研究で示されている2・9%、羊水検査の平均である2・5〜3%という
数字よりも高い。開始直後ということで、検査に関心の高い、ハイリス
クの妊婦が検査を受けたからだと考えられます。検査で陽性反応が出
た妊婦のうち、羊水検査を受けて胎児がダウン症だと確定したのは、
現在のところ2人。どのような道を選ぶのかは分かりませんが、「決断」
を迫られることになります。」
「法律上認められていない中絶」
•  「法律上認められている中絶」もあるの? •  では、「法律上認められている中絶」と「法
律上認められていない中絶」とはどう違
うの? •  そもそも、「中絶を認める法律」って何なの? •  まずは、日本における中絶の実態から確認
しておこう。
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日本の現状
•  平成20年度の人工妊娠中絶件数は242,326件で、
前年度に比べ14,346件(5.6%)減少して いる。「20
歳未満」について各歳でみると、「19歳」8,425件が
最も多く、次いで「18歳」 6,071件となっている。
•  人工妊娠中絶実施率(15~49歳の女子人口千対)は
8.8となっており、年齢階級別にみると、 「20~24歳」
16.3、「25~29歳」13.8となっている。「20歳未満」に
ついて各歳でみると、 「19歳」が13.3、「18歳」が10.
0となっている。
(Dr.北村の「性」の診察室ブログ)
疑問
•  「人工妊娠中絶は、胎児を殺すことなんだか
ら、殺人じゃないの?」
•  「そんなことが堂々と許されているの?」
•  「しかも、減ってきているとはいえ、いまだ年
間20万件以上も行われていて、どうなってい
るの?」
•  「人工妊娠中絶は犯罪ではないの?」
堕胎(法律的には)
•  堕胎は、「堕胎罪」(刑法「第29章 堕胎の
罪」)によって、罪とされている(侵せば犯罪と
なる)
•  それは、「殺人罪」(刑法「第26章 殺人の
罪」とは区別されている
•  ということは、「堕胎」は「殺人」ではない(とい
うことは、「胎児」は「人」ではない)が、それに
準じる犯罪ではある
答え
•  「堕胎」は犯罪だが、「人工妊娠中絶」は犯罪
ではない。
•  「堕胎」も「人工妊娠中絶」も、行為そのものと
しては、「胎児を人為的に流産させること」と
いう点では同じことである。
•  しかし、法律的には、「堕胎」と「人工妊娠中
絶」はまったく異なり、前者は犯罪であるが、
後者は犯罪ではない。
•  どいういうこと?
人工妊娠中絶(法律的には)
•  「堕胎」と「人工妊娠中絶」は、内容としては同
じことなのに
•  人工妊娠中絶は、「母体保護法」の「第3章 母性保護」によって、一定の条件の下に、例
外的に許されている(定められた条件の下に
行う限り、犯罪にはならない)
•  では、その「一定の条件」とは?
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一定の条件とは
•  医師会の指定する医師(母体保護法指定医)によるものであ
ること。
•  本人及び配偶者の同意が必要。
ただし、配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示するこ
とができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなったときは本
人の同意だけで足りる。
•  妊娠22週未満であること(8ヶ月未満(1953)→7ヶ月未満
(1976)→満23週以前(1978)→現在に至る)。
•  中絶の理由
1)妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を
著しく害するおそれがあるもの。
2)暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない
間に姦淫されて妊娠したもの。
しかし、現実は
•  必ずしも、そのような究極の選択(母体を取る
か、胎児を取るか)を迫られるなかで人工妊
娠中絶を選んでいる状況ばかりとは限らない。
•  むしろ、「身体的理由」はわずかで、90%以
上が「経済的理由」によるもの。
•  そもそも、この「母体保護法」というのはどうい
う法律なのか?
•  それが、1996年に改訂されたものとは、どう
いう背景・意味をもっているのか?
•  どういう改訂が行われたのか?
母体保護法(1996)
•  優生保護法は、「優生保護(劣生排除) 」と
「母体保護」という二つの考えからできていた
が、
•  母体保護法では、「優生保護」という考え方
(優生思想)を取り除き、「母体保護」という考
え方のみを残した。
•  それにより、「別表」にあるような疾患に罹っ
ていること(劣生であること)を理由に、不妊
手術や人工妊娠中絶をすることはできなく
なった。
この条件を指定している法律
•  それは、「母体保護法」(1996年改訂)
•  母体保護法とはどういう法律なのだろうか?
•  「人工妊娠中絶」を法律的に許可する「母体保護」とは何なの
か?
•  「母体を保護する」ために、究極的な選択としてやむを得ず「人
工妊娠中絶」をせざるをえないという状況はありうる。
•  そういう状況のなかでやむを得ぬ選択肢として「人工妊娠中
絶」を選ぶ母親(夫婦)とそのための手術をする医師を「堕胎
罪」から免除するために、「人工妊娠中絶」を許可する法律があ
る(それが「身体的理由」で考えられていること)、というのは分
からないでもない。
優生保護法(1948)
•  「母体保護法」は、改訂(1996)の前には、「優生保護法」と呼
ばれていた。
•  「優生保護(優れた命を保護する)」とは何か?
•  「優生保護」の裏にあるのは、実は、「劣生排除(劣った命を
排除する)」であり、それが本音とも言える。
•  「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、
母性の生命健康を保護する」
•  「不良な子孫の出生を防止する」方法
①優生手術(不妊手術)
②母性保護(人工妊娠中絶)
•  しかも、1948年に「優生保護法」が成立したときには、「また
は経済的」という箇所はなく、これは1949年に追加された。
「経済的理由」
•  前述の第一項:「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済
的理由により母体の健康を著しく害するおそれがあるも
の」は、いくらでも拡大解釈を許すものになっている。
•  現に、20歳未満の人工妊娠中絶の場合、ほとんどが、「経
済的に子どもを育てていく状況にない」という「経済的理由」
によるものである。
•  のみならず、胎児に異常や障がい(あるいはその可能性)
が見られた時に中絶をするのも、「障がいをもった子どもが
産まれたら、わが家の経済的状態ではやっていけない」と
いう「経済的理由」まで認める形になっている。
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「胎児条項」
•  医師としては、「障害児が生まれる(可能性が
高い)」というのを「経済的理由」に押し込める
のは、良心の呵責を覚える。
•  そこで、そのような場合には人工妊娠中絶をして
もよいという「胎児条項」を作って欲しいと考えて
いる。
•  しかし、それは、「劣生排除」という考えを実質的
に復活させるものではないか?
•  障害者団体からの反対がある。
•  「人工妊娠中絶は女性の権利だ」という女性団
体と対立することもある。
社会ダーウィニズム
•  ダーウィン『種の起源』は、動植物界における「自然淘汰によ
る適者生存の法則」という考え方を提示した。 •  これを広く人間社会一般に対しても適用しようとする社会ダ
ーウィニズムがまもなく登場。 •  人間社会のなかでも生存競争に適しない弱者は淘汰されて
ゆく運命にあり、競争を勝ち抜く能力をもった優秀な強者の
みが子孫を残すことができる。 •  この見方に立てば、競争に適しない病弱な人間や障害者は
社会のなかで「淘汰」されるべき存在であり、彼らを保護する
ことはそうした法則に逆行することになる。 •  不治の病人や障害者に対しては、生きる権利よりも「死ぬ
権利」こそが与えられるべきである、と説く学説も登場。 •  アドルフ・ホスト『死に対する権利』(1895年) 母体保護法の由来
•  現在の母体保護法は1996年に改訂されたもので、その
前身は1948年に成立した優生保護法だった。 •  しかし、この優生保護法は、戦前の1940年(昭和15年)に
成立した国民優生法(断種法)を改訂したもので、国民優
生法と同様優生学的な色彩が強い法律であり、不良な子
孫の出生の抑制を目的とし、母体の保護はそのための手
段という位置づけがなされていた。 •  優生学的な理由による不妊手術を合法化する断種法は、
1940年までにアメリカ合衆国やカナダ、スイス、北欧諸国、
メキシコなどで相次いで制定されていた。 •  日本の戦前の国民優生法(断種法)は、ナチス・ドイツの
断種法をモデルに作られた。 •  では、その背景にあるのは? 「生きる価値のないいのち」
•  第一次世界大戦終了後、障害者(とくに精神病患者)の安
楽死論を正面から唱える書物が登場。 •  ビンディング/ホッヘ『価値なき生命の抹殺に関する規制
の解除』(1920年) •  安楽死の対象になる「精神的に死んだ状態」 (1)脳の老年性変化、いわゆる脳軟化症(麻痺性痴呆)、脳動脈硬化
性病変、若年性の痴呆過程(早発痴呆) (2)先天性あるいは生後早期に出現する脳疾患(脳の奇形、発育異
常にともなう精神薄弱およびてんかん)
ナチ断種法
•  1933年ナチ断種法(遺伝病の子孫を予防するための法律)が可
決 •  「次世代の健全な社会を実現するため、民族の身体に巣くう劣
等な遺伝子を排除する」 •  具体的には、精神薄弱者、精神分裂病者、躁鬱病者、てんか
ん患者、重症アルコール症者、先天性の盲人および聾唖者、
重度障害者、小人症、痙性麻痺、筋ジストロフィ、などの患者
が断種処置の対象とされた。 •  断種は必ずしも本人や家族の同意を必要としない。→つまり、 「強制断種」 •  ナチ政権下で、この法律により強制断種の犠牲となった人間
の総数は、20〜30万人と推計されている。
障害者安楽死
•  1939年「クナウアー事件」 •  ライプチッヒ大学医学部小児科で生まれたある奇形児の
父親(クナウアー)が、この子の安楽死を嘆願する手紙をヒ
トラーに出した。 •  ヒトラーはこれを受理し、安楽死を命じた。 •  これを機に、ヒトラーは同様の案件に対処するため、専門
家を集めて国家機密のもとで障害児の「安楽死」を実施す
るための委員会を設置した。 •  「遺伝性および先天性重症患児の登録に関する帝国委
員機」 •  すべての医師と助産師は、新生児を含む三歳未満の障害
児を所轄保健所に届け出ることが義務づけられた。 4
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そこでの「障害」の基準
1)白痴および蒙古症(特に盲目または聾を合併している場合) 2)小頭症 3)水頭症 4)すべての奇形、とくに四肢の欠損、重度の頭蓋裂 5)リットル病を含む種々の麻痺 •  さらに、児童のみならず成人の障害者をも対象とする組織
的な安楽死作戦が計画された。 •  当時のドイツ精神医学を代表する錚々たる顔ぶれの医学
者たちが「安楽死」機関の中心メンバーに名を連ねていた。
T4作戦
•  1939ポーランド侵攻 •  ナチス・ドイツによって占領されたポーランド各地の精神病院では、入
院患者の抹殺が開始された(総数1万人近い)。 •  それとほぼ同時期に、成人障害者の安楽死機関は、「精神病院帝国
作業委員会」という名称のもとに活動を開始。 •  判定の基準は、労働能力の有無、診断名(精神分裂病、てんかん、老
年性疾患、梅毒性疾患、精神薄弱、神経疾患の終末状態)、5年以上
の入院期間、犯罪歴の有無、それに人種いかんだった。 •  1940年最初の「試験的な」ガス殺人が実施された。 •  ナチス最初のガス室殺人は、アウシュビッツなどの強制収容所で行わ
れたのではない。 •  それはアウシュビッツに先立つこと2年以上も前に、精神病院において
行われ、しかもその最初の犠牲者は、ユダヤ人ではなく、精神障害
者だった。 「命の選別」
•  「優生保護」の裏にある「劣生排除」
•  先天性異常(染色体異常、遺伝子異常、胎児期環
境の影響、奇形など)は少なくない。およその確率
としては、100人に2~4人と言われている。
•  「優劣」によって産む/産まないを決めているのは
、親の選択?
•  親がそういう選択をせざるをえなくさせているよう
な社会のあり方?
•  いずれにせよ、親は選択ができるが、生まれてく
る子/生まれてこなかった子には選択はできない。
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