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電子メールを使った双方向マーケティング サービス:iMi
光統合ネットワーク 特 集 電子メールを使った双方向マーケティング サービス:iMi Interactive Marketing Interface : iMi あらまし iMi (http://www.imi.ne.jp/imi/) は電子メールを使った双方向のマーケティング サービス である。企業のメッセージやアンケートを生活者に電子メールで配信し,返信を企業に伝 える。回答をくれた生活者には謝礼として図書券などに交換できるiMiポイントを贈る。 iMiネットは会員登録制で入会金も会費も無料である。会員は興味ジャンルなどの個 人プロフィールを登録するが,あくまでも匿名の一生活者として参加できる。 1996年9月に開始して以来,1998年6月末現在,生活者会員数は10万人,クライアント 企業数約280,毎月配信されるメール数は約50万通に上っている。 本稿では,まず,iMiの四つの設計思想を「リレーションシップ革命」 「コンテクスト プロバイダ」「Lifeメディア理論」「ワン トゥ ワン マーケティング」の順に説明し,つ ぎにiMiの特長や事例に触れ,最後に「逆マーケット」に向かう将来を展望する。 Abstract Interactive Marketing Interface(iMi)mediates marketing e-mail communications between business and member consumers who are signed up for the service on the Internet and NIFTY SERVE. It receives fees from businesses and pays response incentives to members. The members, who remain strictly anonymous, can specify such preferences as areas of interests, towns to visit, shops to frequent, as well as demographic data so that marketers can sharply focus on whom to communicate with and for what reason. When the system was introduced in September 1996, it was the only one of its kind in the world. By June 1998, it had collected 100,000 members and more than 280 business clients and was sending and receiving half a million e-mails every month. Its design is based on four key concepts; namely, the Relationship Revolution or consumers' rights of control over marketing communications on the Net, being a Context Provider rather than a content provider, Life Media Theory, and One-to-One Marketing. iMi will further evolve toward the Reverse Market, in which the demand side operates stores whose merchandise is information about specific purchases of goods and services that member customers are planning to make. Shoppers from the supply side, for example, marketers, can visit the stores to acquire customers for their products. Prices may be determined according to the customers' lifetime values. This paper points out that One-to-One Marketing essentially calls for a Reverse Market. 372 鎌倉 章(かまくら あきら) 1972年東京大学文学部心理学科卒。 同年富士通入社。以来経営意思決定 支援システム(M D S ),C A L システ ム,FM秘書,NETTOWNコンセプ ト,OASYS Pocket 3,iMiの開発に従 事。ワン・トゥ・ワン・マーケティ ング協議会運営委員。 ネットワークコンテンツ本部コンテ ンツサービス統括部 FUJITSU.49, 5, pp.372-377 (09,1998) 電子メールを使った双方向マーケティングサービス:iMi ○○○○○○○ ま え が き ンターネットは企業と生活者の関係に新しい変化をもた らす。 いつの時代にもマーケティングはその時々に利用でき 従来のマーケティングでは生活者は「ターゲット」と呼 るメディアを利用してきたにすぎない,とは米国の広告 ばれ,一方的に標的にされる存在だった。しかし,電子 代理店DDB Needham社のキース・ラインハート会長が メールは読んだその場ですぐに返信ができる。人の気分 1994年5月にニューヨークで開催されたMedia Options会 を損なうメッセージを送ろうものなら「ターゲット」は発 議の基調講演で広告業界の人々に向けて語ったことであ 信者に苦情メールを送り返す。 る。インターネットが広く普及すれば,マーケティング iMiは方針として「生活者情報主権」を尊重する。企業 がそれを活用するのは必然の流れである。 とのコミュニケーションに関して生活者の側が主導権を マーケティングの目的は常に商品を売ることであるに 握る。そもそも会員制になっており,だれかれの区別な せよ,メディアが変わればマーケティング手法も変わら くDMを送りつけることをやらない。メッセージの興味 ざるをえない。マスメディアが市場シェアとスケール メ ジャンル,受信頻度,また,受信を拒否する企業などを リットを追求するマスマーケティングを助長したよう 生活者が指定し,iMiはその約束を守っている。 に,インターネットやデータベースなどの情報技術は顧 マーケティングをネット上で行う場合,企業はこれま 客シェアとスコープ メリット (注1) を追求するワン トゥ ワ でのように生活者の主権領域に自分の都合最優先で押し ン マーケティングを発展させると考えられる。 かけるわけにはいかなくなる。あたかも個人同士の付き 生活者との対話を前提にしたワン トゥ ワン マーケティ 合いのように,一定の作法に則った相互的な関係を尊重 ングを実践し効果を上げるには,それが従来の一方通行 しなければコミュニケーションは成立しないのである。 のマスマーケティングとは異なる社会的ルールに則って ● コンテクスト プロバイダ いることをよく理解する必要がある。 インターネットで「コンテンツ ビジネス」を成立させ ワン トゥ ワン マーケティングは情報技術とともに発 るのは極めて難しいと言われている。そもそも大学など ○○○○○○○ 展し普及するものであり,21世紀の情報システムの成長 のボランティア的な活動として発達してきたために,こ 市場と言える。 こには無償でコンテンツを提供するカルチャーが確立し 四つの設計思想 ている。 (3) また,エスター・ダイソンは「リリース2.0 」で,「ネッ ● リレーションシップ革命 −生活者情報主権− ト上のコンテンツの量は増える一方であるのに対して, 今我々が目撃しているインターネット革命は,必要な それを享受する人間の注目(アテンション)の量はほぼ一 情報が必要なときにいくらでも手に入るようになる「情報 定である。したがって需要と供給の原理により,供給過 革命」だと一般的には言われている。一方では,MITのマ 剰のコンテンツの価格は下がる一方である」と指摘した。 (1) イケル・シュレージ のように,社会の構成要素の間に存 iMiのビジネスの本質はマーケティング コミュニケー 在する関係に変化をもたらす「リレーションシップ革命」 ションの「コンテクスト プロバイダ」である。 という見方もある。iMiはこの後者の思想によって立つも 「コンテクスト」とは何か。例えば,突然,見ず知らず のである。 の人から電話セールスを受けたとする。相手が正体不明 マルチメディア ブームだった1991年頃,iMiの企画にあ である上に,なぜ自分の電話番号を知っているのか不可 たり重視したのは,ネットワーク社会では個人や企業の 解である。こういうとき,その相手と自分が対話をする (2) すべてが電子メールアドレスを持つという点だった。 「コンテクスト」が欠けている,と言う。 個人は引越しも転職も関係なく一生涯一つの電子メール 「コンテクスト」がないと,価値ある「コンテンツ」も アドレスで通すことができる。企業は顧客と一生涯コミュ 相手に伝わらない。電話セールスが拒否されダイレクト ニケーションを維持し,「ワン トゥ ワン マーケティング」 メールがごみ箱に直行するのはここに原因がある。ジャ の理論に従って生涯価値を追求することが可能になる。 ンクメール しかし企業にとって都合のよい話ばかりではない。イ ほかならない。 (注2) は「コンテクスト」を欠いた電子メールに (注1)特定の一人の顧客のニーズやその背景にある理由などを幅広く知 (注2)ジャンクとは役に立たないがらくたの意味。ジャンクメールと れば知るほど,その顧客に受け入れられる適切な商品やサービス を確実かつ容易に提案できるようになること。 は,郵便受けに勝手に投げ込まれたがらくたのように迷惑な,無 差別に送りつけられたダイレクトメールのこと。同様の電子メー ルについても言う。 FUJITSU.49, 5, (09,1998) 373 電子メールを使った双方向マーケティングサービス:iMi それぞれの自我のモードには対応するメディアがある。 覚醒レベル Warp Work less imagination more reality less effort more productivity パソコンは主に生産性向上ツールとして利用される 「Workメディア」である。少ない努力で高い生産性を実現 することが商品価値である。 Access 「Warpメディア」の原型は物語で,言葉を聴き手が想 誘惑の力 Egress 像力で補って楽しむ点に特徴があった。しかしビデオ 意志の力 ゲームになると,テクノロジーは,画像,音声,動作, Life 没入 less effort more convenience 努力 知性のシミュレーションのリアリティを究めてきた。そ の反面,人間が想像力を働かせる余地を削ってきたとも 言える。 図-1 Lifeメディア理論 Fig.1-Life media theory. テレビは「Lifeメディア」の代表である。生活の中で最 も自我関与が弱く精神的テンションが低いときに利用さ (5) れており ,だからこその大衆性であろう。コンピュータ しかし,同じ「コンテンツ」がiMiの「コンテクスト」の は,利用者との直接的な対話を求める形で自我の関与を 中で配信されると本来のマーケティング効果を実現でき 要求すると,たちまち「Lifeメディア」から外れ,自らの るのだ。 メディアとしての大衆性を弱めることになる。ホームメ (4) ● Lifeメディア理論 ディアを目指したディジタル テクノロジーのほとんどは この点でつまずいている。 メディアの特性を分析し,「Workメディア」「Warpメ ディア」「Lifeメディア」の体系に整理し,「Lifeメディア ネットワーク サービスの中では,日常生活からの離脱 理論」と名付けた(図-1)。 の場を提供するオンラインゲームは「Warpメディア」で 人間の自我は,「Life」「Work」「Warp」という三つの あるが,社会人としての自意識をもって使う電子会議 モードを行き来している。朝目覚めて,オフィスに出掛 室,電子メールなどは「Workメディア」である。 け,帰りに映画館に立ち寄ってから,自宅に戻り休息し iMiの設計にあたっては,人間が努力をして情報に近づ 睡眠をとる,という一日のサイクルの中でも,三つの いて行く方式の情報サービスを「アクセス (Access) 型」, モードの間を移動している。 その逆を「イグレス (Egress) 型」と呼んできた。例えば, 「Work」は社会人としての自我である。オフィスに居 TV・新聞・ラジオは「イグレス型」であるが,図書館は るときがこの典型で,人は,他人の目に映る自分を意識 「アクセス型」である。「アクセス型」は「イグレス型」に し,現実と向かい合い,自己表現をする。努力をして精 比べて利用者人口が比較的少ない。 神的緊張を高めこのモードに入っていく。精神的エネル WWWは使う側に情報探索努力を要求するアクセス型 ギーの消費が大きいので,持続時間は比較的短い。 の「Workメディア」であるが,電子メールは,情報が人 「Warp」は,いわば別人になりきった自我である。劇 間に近づいて来るイグレス型になっており,やや「Lifeメ 場に居るときが典型である。人は,自意識を忘れ,現実 ディア」に近い。 から逃避し,物語の世界に没入し,他者に感情移入す したがって,iMiは電子メールを主とし,WWWは補助 る。物語の魅力に誘惑されてこのモードに引き込まれて 的に活用していくことにした。 いく。精神的エネルギーの消費が大きいので,やはり, ● 「ワン トゥ ワン マーケティング」 持続時間は比較的短い。 ワン トゥ ワン マーケティングでは 両者の中間にあるのが「Life」で,私人に戻った自我で する。顧客マネージャは,1回に一人の顧客と対話し,そ ある。自分の巣に安らぐときがこの典型である。あらゆる れを人数分だけ繰り返し,蓄積した顧客データに基づき ことに対して自我の関与が低下する。「Work」や「Warp」 そのニーズを知識化し学習し,顧客の経済価値を見極 へ移行するきっかけを監視している待機状態とも言え め,個々の顧客から得る利益を最大化するべく,商品や る。精神的エネルギー消費は最小限に落ちるので,持続 サービスなどを一人一人に対応してマスカスタマイズす 時間は最も長くなる。このモード特有の自我関与の低さ る。顧客数が10万でも100万でも,情報技術を駆使して効 こそが,広告を許容する一つの条件ではないかとも考え 率的にこのプロセスを繰り返し実行する。 られる。 経営の関心は,商品のマーケット シェアではなく, 374 (6)-(8) まず顧客を特定 FUJITSU.49, 5, (09,1998) 電子メールを使った双方向マーケティングサービス:iMi 個々の顧客の潜在購買力を自社がどこまで顕在化させて iMi いるか,つまり,顧客シェアの方にある。追加的な利益 が期待できる限り,顧客に関する知識を活用して,値引 iMiセンター インターネット インターネット きや関連販売の努力など追加的な販売原価を投入してい NIFTY SERVE く。顧客を知れば知るほどスコープ メリットが生まれ, 施策は限界効用逓増的に効果を増していく。 将来にわたる利益のキャッシュフローの現在価値とし 電子メールでマーケティング て顧客の生涯価値を評価し,高価値顧客はコストをかけ マーケタ ても維持し,損失をもたらす低価値顧客は失うことをい とわず,中価値顧客は育成に努める。 重要なのは,情報技術の低価格化と高性能化により, ワン トゥ ワン マーケティングはスケールや経済原理の 生活者 100,000名 クライアント企業 280社 1998年6月30日現在 代理店 10社 図-2 iMiとは Fig.2-Interactive marketing interface. 面で,マスを凌駕する可能性が示唆されていることだ。 現に,この原理に立つブライアン・ウルフの「顧客識別 (9) マーケティング」 を実現したICLのプレシジョン リテー リングシステム (10) は欧米の小売り業界に大きな利益改善 をもたらしている。 http://www.imi.ne.jp/ 会員データベース インターネット そもそもマーケティングはその時代に使えるメディア NIFTY Serve を活用してきたに過ぎない。マスメディアによるマス マーケティングも,戦後の商業テレビ放送の普及と連動 入会金・会費無し して発達しただけのことで,メディアより先にマスマー ケティングの思想があったわけではない。 会員登録 インターネット上のサービスの中で電子メールは大衆 一般会員 登録項目 電子メールアドレス 居住地郵便番号/勤務先郵便番号 生年月日 性別 既婚/独身 職業 興味がある街 興味ジャンル(44項目) よく行くコンビニ/スーパー/デパート 電子DM受信頻度 的な普及のポテンシャルが高い。多くの人々に利用され るメディアはマーケティング的利用が真剣に検討される 生活者 ことになる。ただ,このメディアは一方通行のテレビと 匿名の一生活者として参加 図-3 iMiは会員制のサービス Fig.3-iMi membership. は本質的に違うし,双方向とはいえ郵便とも電話とも性 格が異なっており,ワン トゥ ワン マーケティングのよ うな新しい考え方を必然的に要求している。 婚・独身の別,職業 (8分類の選択肢) ,興味がある街 (選択 21世紀のマーケティング メディアはネットワークであ 肢) ,興味ジャンル (44項目から選択) ,よく行くコンビニ・ ○○○○○○○ りパソコンでありデータベースであり,ワン トゥ ワン原 スーパー・デパート (選択肢) ,電子DM受信頻度である。 理の経営とともに発展していくと考えられる。 一般に,メールに返信すれば自分のメールアドレスは iMi のサービスの概要 相手に伝わってしまうが,iMiではすべての受発信にiMi センターが介入し,生活者から企業への返信メールにつ iMiのサービスの内容について説明する(図-2)。 いては,メールアドレスを伏せて本文だけを企業に公開 ● 生活者から見たiMi するので,その点の心配もない。 生活者はiMiネットに会員登録をする。入会金や会費は iMi会員は,企業に対して匿名のままなので,本音の率 無料で,むしろ,企業からのアンケートへの回答を返信 直な意見を誰に遠慮や気兼ねすることなく安心して返信 メールで返すとiMiポイントという報酬が得られる。た できる。企業から生活者の情報主権を無視した不愉快な まったポイントは図書券や商品券などと交換する (図-3) 。 メールが届いた場合は,今後のメールを受信拒否する設 プロモーション目的の単純な電子DMも受け取るが,これ 定もできる。 にはポイントが付かないのが一般的である。 ● 企業から見たiMi 登録する項目は,電子メールアドレスのほかに10項目 プロモーションやマーケット リサーチを担当する企業 ある。居住地や勤務先の郵便番号,生年月日,性別,既 のマーケタから見たiMiの特長について説明する。 FUJITSU.49, 5, (09,1998) 375 電子メールを使った双方向マーケティングサービス:iMi 題名:ジンファンデルをごぞんじですか? ワイン好きの皆さん、 はじめまして。 私、銀座で ★ TOR I FUJ I★ をやっている針井一裕です。 というワインと焼鳥の店 Miでワイ i ンの話題が出るのはこれが初めてとのことで、 ちょっと緊張して ます。 ワインは、 ブドウの種類がカベルネ、 シャルドネ、 ピノノワールなどなど 多彩で、産地もフランス、 カリフォルニア、 イタリア、 スペインなどこれま たいろいろです。 それに、同じ地方でもブドウ園ごとに微妙に風土が違ったり製法に個性があ ったり、 おまけに収穫年による出来不出来まであって、本当に奥が深いんで すよね。 私がこの商売をやっているのも、実は、 そういう「ワイン」を心ゆくまで 楽しみたかったからなんです。だから手が空いてる時は、 お客様と一緒に カウンターでワイン談議に花を咲かせることもしばしばです。(ちゃんと 仕事はしてますよ) 図-5 iMi/club画面 Fig.5-iMi/Club web page. 100 メールを見てくださったあなたも、 よろしければ一度お店を覗いてみてください。 90 ご来店の際に、「iMi(いみ)で見た」と言っていただければ、 とっておきの ☆☆☆ ジンファンデル ☆☆☆ Zinfandel を10% of fで御紹介させていただきます。 TORIFUJI東京都中央区銀座6-7-19千代田TDビルB1(並木通の みゆき通近く) TEL 03-3571-4391 テーブル 37名 カウンター 8名 営業時間 17:30∼23:00 (ラストオーダー 21:30) 定休日は日,祭 レスポンス回収率(%) ワインというと気取った蘊蓄の世界になりがちですが、私の店はその正反対。 気軽にワインが飲める雰囲気がいい、 と言ってくださるお客様ばかりです。 81.8% 80 89.9% 84.7% 86.9% 88.7% 75.1% 70 63.1% 60 50 40 30 29.5% 20 10 0 1 調査期間:98年3月1日 (日)∼3月8日 (日) 調査方法:電子メールによるアンケート サンプル数:1,750通発信 有効回答1,574通(89.9%) 2 3 4 5 6 7 8 アンケート開始後日数 図-4 iMiのDMの例 Fig.4-Sample DM in iMi. 図-6 レスポンスの回収曲線 Fig.6-Response return curve. 【プロフィールによる生活者の絞り込み】 iMiでは興味ジャンルの一致する相手にメッセージを送 【すぐ発信できてすぐレスポンスが来る】 るので,長い文章でも喜んで読んでもらえる(図-4)。 受信した電子メールを読むとき,すでに,人々は返信 特定の流通チャネルや自社営業拠点回りの生活者に対 をする心構えができている。また,郵便と違って切手を 象を絞り込んだ無駄の少ないコミュニケーションも簡単 買う必要もないし投函するために外出する必要もないの に実現できる。 で,レスポンスが簡単にできる。返信を郵便やFAXに依 興味ジャンル,性別,年齢,職業,勤務先の地域など 存する雑誌と比較して,iMiのレスポンス率は200倍高い で入念に対象を絞り込む効果は劇的で,無差別的に新聞 というケースがある。 に折り込まれるチラシ広告5 0 万枚よりも,i M i の電子 iMiの利用はiMi/clubというweb画面から操作する メール1,000通の方が著しく効果が高かったというケース (図-5)。どんなプロフィールの人にどんなメッセージを がある。 発信するのか,企画の内容が確定していれば,発信操作 見込み顧客の発見でも,新聞などに比較して,iMiでは は10分もかからない。 コストが50分の1に改善されたというケースがある。 レスポンスも早くて,典型的なレスポンスの回収曲線 【なかなか見つけにくい要件をそなえた生活者へのアクセス】 は図- 6のとおりで,三日もあれば大部分の回収は終わ プロフィールだけでは判断できない場合,iMiでは,短い り,一週間で収束する。朝アンケートを発信して夕方ま 「お尋ねメール」を発信して求める該当者が名乗り出るのを でに100サンプルを回収する急ぎの要求にも確実に対応で 待つ。例えば,発売して間もない新製品や他社製品のユー きている。 ザを見つけて意見を聴く場合になどに威力を発揮する。 将来はiMi/clubをクライアント企業のマーケタが直接 376 FUJITSU.49, 5, (09,1998) 電子メールを使った双方向マーケティングサービス:iMi 操作することを想定している。 【マーケタの様々な格差の緩和】 功している。しかし,商品一般のマーケットは,通販も 含めて現実世界にすでに十分に発達しており,単純な iMiは,マーケタが地理的に何処に立地していようと ネット展開だけでは既存のマーケット機能を部分的に補 も,オフィスに居ながらにして全国の生活者にダイレク 強する程度に留まるだろう。 トにアクセスできるマーケティングメディアである。 その点「逆マーケット」は経済社会に構造的変化をもた Webのバナー広告 (注3) などと違ってiMiでは広告に使え らす可能性がある。その根拠は二つある。 るチャネル容量が固定しておらず,マーケタに必要なだ 一つは,この方式の店舗は現実世界では実現困難であ けの容量を弾力的に公平に提供することができる。した り,しかも,消費者が王様だと本当に言えるようなユ ○○○○○○○ がって,iMiでのマーケティングの成否は純粋に企画内容 ニークな価値を提供できる可能性があること。 にのみ懸かっていると言える。 二つ目は,これがワン トゥ ワン マーケティングその む す び ものだからである。ビジネスを商品ではなく顧客中心に 再構築するのがワン トゥ ワン経営の本質である。なら 1996年9月にiMiを発表した時点ではインターネット上 ば,マーケットも商品中心から顧客中心の「逆マーケッ のマーケティングと言えばWebが主流であり,広告メッ ト」へとパラダイムシフトしなければならない。 セージだけを扱う電子メールのサービスは世界に類がな iMiは「逆マーケット」の実現を将来課題と考えている。 かった。しかしその後,米国でも日本でも類似のサービ スが次々と出現してきている。 参考文献 情報を展示しているに過ぎないWebの弱点も広く認識 (1) M. Schrage:The Relationship Revolution:Understanding されるようになり,その解決策としてのプッシュ技術に the Essence of the Digital Age.The Merrill Lynch Forum in 期待が集まった一時期もあったが,結局,電子メールの 1997.(http://www.ml.com/woml/forum/) 価値が再認識される形になった。 ショッピング モールは一般に苦戦していると言われて (2) 神田 (監修) :NETTOWNに市場を築け−富士通のメディア 戦略−.東京,ダイヤモンド社,1989. いる。多くは現実世界の店舗のコンセプトそのままに, (3) E. Dyson:Release 2.0:A design for living in the digital age. 客が陳列商品を目当てに店を探して訪問して来るのを当 Broadway Books,1997,320p. (http://www.release2-0.com/ 然のように期待しているふしがある。すなわち客にとっ main.html) て「Workメディア」になってしまっている。 しかし,取引成立に対して強い動機を持ち,かつ,努 (4) 鎌倉ほか:情報リテラシー その現状と将来.FINIPED, 86,東京,pp.5-29(1997). 力も手間も惜しまないのは客よりはむしろ売手の方であ (5) バーワイズ, P. &エーレンバーグ, A. (田中義久他訳) :テレ る。モールは,売手側には「Workメディア」でも構わな ビ視聴の構造 多メディア時代の「受け手」像.東京,法政大 いが,客の方には「Lifeメディア」として設計しなければ 学出版局,1991. ならないのである。 (6) ドン・ペパーズ,マーサ・ロジャース(井関利明監修): iMiで「逆マーケット」と呼ぶ構想がこの原理に基づい ワン・トゥ・ワン・マーケティング.東京,ダイヤモンド社, ている。それは店のような場所ではあるが,陳列されて 1995.(http://www.1to1.com/) いるのは商品ではなくて客である。客は売手が来店する (7) ドン・ペパーズ,マーサ・ロジャース(井関利明監修, のを待っている。客は生身の人間ではなく,その希望を 富士通iMiネット訳):ワン・トゥ・ワン企業戦略.東京, 託されたソフトウェア エージェントだ。車の「逆マー ダイヤモンド社,1997. ケット」には車を買いたい客が並んでおり,車のセールス マンが売り込みにやって来る。 (8) ワン・トゥ・ワン・マーケティング協議会ホームページ (http://1to1.dv.diamond.co.jp/keyword/keyword.html) 書籍やCDなど種類が異常に多い商品は旧来のマーケッ (9) ブライアン・ウルフ (富士通流通ソリューション訳) :顧客 トをモデルにしたデータベース型の店舗がネット上で成 識別マーケティング.東京,ダイヤモンド社,1998. (http:/ /www.bookmasters.com/marktplc/00147.htm) (注3)バナー広告とはWWWの画面の目立つ場所に掲示される広告のこ と。バナーとは本来は横断幕のような旗や,コンピュータ画面の 上端の一定の様式に則った表示領域を指す。 FUJITSU.49, 5, (09,1998) (10) ICL Retail ホームページ(http://www.iclretail.com/ AboutICL/releases/pretail.htm) 377