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目 次
CONTENTS
2次オリエンテーション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1-1
2次試験制度の概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1-2
1次試験科目との関連
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
1-3
与件分と設問文の構造
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
1-4
解答の完成
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
事例整理シート ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
15
23
2-1
事例整理シートの作成・活用法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
23
2-2
事例整理シートと6つのスキル
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
事例Ⅰの概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3-1
事例Ⅰの出題特性
3-2
事例別の特徴・経営課題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
3-3
課題発見の着眼ポイント
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
39
事例Ⅱの概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
53
4-1
事例Ⅱの出題特性
4-2
事例別の特徴・経営課題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
4-3
課題発見の着眼ポイント
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
事例Ⅲの概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
75
5-1
事例Ⅲの出題特性
5-2
事例別の特徴・経営課題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
77
5-3
課題発見の着眼ポイント
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
83
事例Ⅳの概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
53
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
75
105
6-1
事例Ⅳの出題特性
105
6-2
事例別の特徴・経営課題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
107
6-3
課題発見の着眼ポイント
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
119
設問構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7-1
設問構造総論
7-2
事例Ⅰの設問構造
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
191
7-3
事例Ⅱの設問構造
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
199
7-4
事例Ⅲの設問構造
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
207
7-5
事例Ⅳの設問構造
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
215
記述力養成
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
171
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
171
225
8-1
記述力養成総論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
225
8-2
事例Ⅰの記述力養成
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
255
8-3
事例Ⅱの記述力養成
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
277
8-4
事例Ⅲの記述力養成
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
307
8-5
事例Ⅳの記述力養成
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
333
2 次オリエンテーション
2 次試験の概要
2 次試験制度の概要
主な学習事項
こ
の
テ
2次筆記試験,2次口述試験
ー
マ
の
要
点
ストレート合格を目指して
中小企業診断士は、1次試験(択一)
、2次試験(筆記、口述)に合格した後、実務補習を受
けることにより、登録できる。
1次試験はコンサルタントに必要な知識を要求されるが、2次筆記試験はその知識を有してい
ることを前提に、実際の診断を想定した思考プロセスと応用能力が必要とされる。2 次口述試験
はコミュニケーション能力の確認である
1
2次試験のスキーム
試験内容は、1次試験が択一式であるのに対して、2次筆記試験は論述式となっている
点が大きな違いである。2次筆記試験は、空欄または字数制限のマス目に解答を記述する
ことになるが、診断報告書としての答案を作成する能力が求められる。そして、口述試験
は2次筆記試験合格者に対して、
2次筆記試験の事例にもとづき 10 分程度の個人ごとの面
談によって行われる。口述試験を突破すると2次試験合格には実務補習があり、これを受
けることで中小企業診断士として登録できる。
新制度最初の 2001 年度 第2次試験は、第1次試験が合格率 50%と高い数値であったた
めに、第2次試験の合格率は低い数値となった。しかし、2003 年度以降から合格率は 20%
前後で推移している。
また、合格者数は年々増加しているが、ストレートで合格する受験生は1~2%程度と
考えられる。診断士試験を初めて受験する受験生が 100 人とすると、そのうち1、2人だ
けが登録できる狭き門ということである。2次試験合格率の低さや、前年に1次試験を合
格して2次試験対策に時間をかけることができた受験生がいることを考えると、登録まで
の最大の難関は2次筆記試験である。
1
14 年2次試験共通テキスト
2
1-1
2 次試験制度の概要
1次試験制度との違い
経済産業省の省令では、第2次試験は以下のように定められている。
第2次試験は、中小企業診断士となるのに必要な応用能力を有するかどうかを判定するこ
とを目的とし、中小企業の診断及び助言に関する実務の事例並びに助言に関する能力につい
て、短答式又は論文式による筆記及び口述の方法により行う。
また、
中小企業庁の中小企業政策審議会・ソフトな経営資源に関する小委員会報告書では、
次のように記述されている。
1次試験が「知識を検定する試験」であるのに対し、2次試験は、コンサルタントとして
の実務能力を検定するための「応用能力・思考プロセスを検定する試験」である必要がある。
以上のことから、1次試験はコンサルタントに必要な知識を要求されるが、2次試験はその知
識を有していることを前提に、実際の診断を想定した思考プロセスと応用能力が必要とされる。
つまり、2次試験には、1次試験とは異なる対策が必要であることを改めて認識する必要がある。
<図表1-1-1 試験の趣旨>
試験の種類
試験内容
試験の趣旨
1次試験
択一式
コンサルタントとしての知識を検定
2次試験
論述式
口述式
コンサルタントとしての応用能力・思考プロセスを検定
3
2次筆記試験
[1] 試験科目
2次筆記試験の内容は、試験要綱では次のようになっている。中小企業診断実務の事例
問題で、中小企業の診断および助言に関する実務の事例4題が、
「経営革新・改善」
「新規
事業開発」に関して、以下のテーマから出題される。
・ 事例Ⅰ:
「組織(人事を含む)を中心とした経営戦略に関する事例」
・ 事例Ⅱ:
「マーケティング・流通を中心とした経営戦略に関する事例」
・ 事例Ⅲ:
「生産・技術を中心とした経営戦略に関する事例」
・ 事例Ⅳ:
「財務・会計を中心とした経営戦略に関する事例」
・ 共通:
「その他経営に関する事例」
合格には1次試験と同様に 400 点満点のうち 60%以上の得点が必要で、1科目でも 40%
未満の得点があれば不合格である。
2
[2] 事例テーマ
各科目は次のようなテーマから出題される。
事例Ⅰ:
「組織・人事を中心とした経営戦略に関する事例」
機能別戦略の1つである組織・人事戦略に関する事項を中心に出題される事例である。
組織・人事とは、組織再編や組織改革による組織力の強化、人事施策による労働生産性の
向上等を図る戦略を指す。主として、企業経営理論で学習する経営組織論を、事例企業の
戦略・戦術に応用することが求められる。
事例Ⅱ「マーケティング・流通を中心とした経営戦略に関する事例」
機能別戦略の1つであるマーケティング・流通に関する事項を中心に出題される事例で
ある。主として、企業経営理論で学習するマーケティング論と運営管理で学習する店舗・
販売管理を、事例企業の戦略・戦術に応用することが求められる。
事例Ⅲ「生産・技術を中心とした経営戦略に関する事例」
機能別戦略の1つである生産・技術戦略に関する事項を中心に出題される事例である。
生産・技術戦略とは、生産性や技術の向上、技術の活用等を図る戦略を指す。主として、
運営管理で学習する生産管理を、事例企業の戦略・戦術に応用することが求められる。
事例Ⅳ「財務・ファイナンスを中心とした経営戦略に関する事例」
機能別戦略の1つである財務戦略に関する事項を中心に出題される事例である。財
務戦略とは、資本の適切な調達と運用を図る戦略を指す。主として、財務・会計で学
習する財務戦略の前提である経営分析等、企業財務全般に関わる内容を含めて事例企
業の戦略・戦術に応用することが求められる。
[3] 試験時間
<図表1-1-2 試験時間>
試験時間
分数
配点
9:50~11:10
80 分
100 点
11:40~13:00
80 分
100 点
14:00~15:20
80 分
100 点
15:50~17:10
80 分
100 点
試験科目
中小企業の診断及び助言に関する実務
の事例Ⅰ
中小企業の診断及び助言に関する実務
の事例Ⅱ
中小企業の診断及び助言に関する実務
の事例Ⅲ
中小企業の診断及び助言に関する実務
の事例Ⅳ
3
14 年2次試験共通テキスト
1-1
2 次試験制度の概要
2次筆記試験の時間は前ページの表の通りである。つまり1科目 80 分で答案を作成しな
ければならない。この 80 分という時間は、ほとんどの受験生が「時間が足りなかった」と
言うほど短く感じるようである。2次筆記試験の答案作成には、効率的に時間を配分する技
術も必要となる。
4
2次口述試験
2次筆記試験合格者へは、中小企業の診断および助言に関する能力について、筆記試験問
題と受験生の答案をもとに、個人ごとに約 10 分間の面接試験(3対1)が行われる。
<図表1-1-3 口述試験>
筆記試験で問われた 4 事例からランダムでさまざまな内容についての質問が行われる。基
本的には、2つの事例から2題ずつ(計4題)で 10 分間というケースが多いが、1事例から4
題もしくは4事例から1題ずつといった形式もある。いずれにせよ、受験生は一切の資料等
を参照することはできませんので、事前に全ての事例について、内容まで理解しておくこと
が必要である。
なお、合格率は 99%以上なので、基本的には選抜する試験ではなく、コミュニケーション能
力の確認といった意味合いが強いと言える。
4
2次オリエンテーション
2次試験の概要
1次試験科目との関連
主な学習事項
こ
テ
の
1次2次の関連、戦略策定フロー
ー
マ
の
要
点
2次試験で求められるもの
1次試験はコンサルタントに必要な知識を要求されるが、2次筆記試験はその知識を有してい
ることを前提に、実際の診断を想定した思考プロセスと応用能力が必要とされる。
2次筆記試験は、1次試験科目のうち、企業経営理論、財務会計、運営管理、中小経営・政策
との相関関係が強い。特に、企業経営理論で学習する「経営戦略の流れ」が、2 次試験における
最も基本となるフレームワークである。また、1次試験科目での基本知識、重要キーワードは確
実に理解しておくことは必須である。
思考スキルを第2次試験問題へとつなぐテーマは「戦略立案」である。第2次試験問題は経営
診断報告書であるために、各科目の解答はそれと同じフローで考えて記述する必要がある。
1
2次試験の概要と1次試験科目との関連
2次試験の出題要綱および過去の試験内容から、1次試験科目と2次試験科目の関係を示す
と次の表の通りになる。
<図表1-2-1 1次試験科目と2次試験科目との関係>
2次試験科目
事例Ⅰ
事例Ⅱ
事例Ⅲ
事例Ⅳ
経営戦略論
○
○
○
○
組織論
◎
1次試験科目
企業経営理論
◎
マーケティング論
運営管理
○
生産管理
○
◎
店舗・販売管理
○
○
○
財務・会計
◎
経営情報システム
○
○
○
○
上記の1次試験科目での基本知識、重要キーワードは確実に理解しておくことは必須である。
特に事例Ⅳは、製造業や小売業のオペレーション改善が出題されるため、財務・会計の知識だけ
でなく、組織論、マーケティング論、生産や店舗管理などの幅広い知識を応用することが求めら
れる。
5
14 年2次試験共通テキスト
2
1-2
1次試験科目との関連
戦略フローチャートと2次との関連
1次試験で学習した経営戦略の流れは、次のようになる。これが、2 次試験における最も基本
となるフレームワークである。経営戦略の体系は、
「経営理念」
「ビジョン」
「経営戦略」
「機能
戦略」の関係で示すことができる。
<図表1-2-2 経営戦略策定フローチャート>
経営理念・ビジョン
外部環境
機会(O)
脅威(T)
内部環境
強み(S)
弱み(W)
ドメインの決定
<経営戦略>
製品・市場分野の決定
・・・成長戦略
効果的な資源配分の決定 ・・・ポートフォリオ戦略
優位な競争策の決定
・・・競争戦略
<機能戦略>
報
戦
6
その他戦略
財務戦略
生産戦略
マーケティング戦略
組織・人事戦略
情
略
3
中小企業の戦略フローチャート
2 次試験で出題される企業は中小企業である。1 次試験における戦略論の中心となる大企
業と異なり、中小企業は経営資源が不足しているため、そのポジショニングにあわせた戦略
が必要となる。
2 次試験での事例企業のポジショニングは、単一事業・製品に特化し、コトラーの競争戦
略論におけるニッチャーあるいはチャレンジャーがほとんどである。したがって2次試験に
おける経営戦略の考え方は、
「集中戦略」と「差別化戦略」が基本である。そして地位別に選
択した経営戦略に適合した「機能別戦略」を策定することになる。したがって中小企業の場
合、前ページの経営戦略策定フローチャートは下図のようなものに変換できる。
<図表1-2-3 中小企業の経営戦略策定フローチャート>
経 営 理念 ・ビ ジョ ン
<経 営 戦 略>
製品・市場分野の決定
外部環境
内部環境
機 会 (O )
強 み (S )
脅 威 (T )
弱 み (W )
差 別 化戦 略
集 中 戦略
< 機 能 (事 例 )別 戦略 >
7
その他
財務・ファイナンス戦略
生産・技術戦略
マ ー ケ テ ィ ン グ ・ 流通 戦
組織・人事戦略
情 報 戦略
14 年2次試験共通テキスト
4
1-2
1次試験科目との関連
簡略した戦略フローチャートと1次科目との相関図
1次試験科目のうち、特に、企業経営理論、財務会計、運営管理、中小経営・政策との相関関
係は強い。
<図表1-2-4 簡略した戦略フローチャート>
理念
①経済学
外部
内部
③企業経営理論
ドメイン
戦略
ヒト
モノ
カネ
財務
生産
販売
組織
②財務会計
④運営管理
⑤経営情報
情報
⑥経営法務
法務
中小企業経営・政策
8
⑦中小政策
2次オリエンテーション
2次試験の概要
与件文と設問文の構造
主な学習事項
こ
の
テ
与件文、設問文の構造
ー
マ
の
要
点
2次試験の解答は経営診断報告書
実際の企業診断を行うためには、診断企業への訪問によるヒアリングや現地調査、業界・地域・競
合などの関連資料を入手し、環境分析(内部・外部)を行う。企業ごとに環境が異なるため、課題と
解決策は多数存在する。診断先企業の課題に最も適した解決策の策定に向けて、基本となる経営戦略
や革新手法を活用する。
2次試験では、B5用紙2~3ページ(財務事例では他に財務諸表が添付されている)で、企
業概要や内部・外部環境、問題点や課題などの情報が与えられている。これらの与件文が事例企
業そのものであり、机上で診断ができるようになっている。問題用紙には与件文の次に設問文が掲
載されており、概ね4~5問構成となっている。
1
与件文
2次試験では、B5用紙2~3ページ(財務事例では他に財務諸表が添付されている)で、
企業概要や内部・外部環境、問題点や課題などの情報が与えられている(問題文、事例文など
の名称があるが、講座では与件文と呼ぶ)
。与件文が事例企業そのものであり、机上で診断がで
きるようになっている。
<図表1-3-1 与件文の構造>
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
第1段落 企業概要
第2段落 過去の経緯
第3段落
・
・
・
最終段落 事例企業の課題
B5用紙2~3ページ
9
14 年2次試験共通テキスト
2
1-3
与件文と設問文の構造
設問文
問題用紙には与件文の次に設問文が掲載されており、概ね4~5問構成となっている。設問
文には出題者の意図(題意という)が反映されているが明示性が低い場合が多く、語句の理解
が重要となる。設問文は経営戦略策定フローチャートに基づいて構成されているため、通常は
環境分析⇒経営戦略または機能戦略の順になっている。
したがって事例問題攻略のためには、各設問が経営戦略策定フローチャートのいずれに該当
しているのか、理解していなければならない。
<図表1-3-2 設問文の構造(例)>
第1問
第2問
第3問
第4問
第5問
3
環境分析
経営戦略
資源配分
機能戦略
管理
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
強みと弱み、機会と脅威
ドメインの設定(誰に、何を、どのように)
組織構造、市場構造、生産形態、資産・収益構造
組織戦略、市場戦略(4P)
、生産戦略(QCD)
、財務戦略
人事管理、顧客管理、生産統制、投資決定
切り口とMECE
問題点や課題を見つける上で重要なのが、着眼点の論拠、すなわち「切り口」である。切り口
はMECE(ミッシー:ヌケなくダブりなく)で構成される。これは 1.5 次知識(1 次知識を少し
掘り下げたレベルの知識)あるいは一般常識を元にし、論理的に分析するために活用できる。
切り口は、2次試験の解答を記述する上での活用はもちろん、設問文や与件文の構造化、事例
企業の方向性や問題点の真因、さらには改善策を考える上で有効である。
ミッシーで構成要素を整理するための簡単なコツは、
「反対」を考えることである。反対を
考えることで、大きなモレを見つけることができる。たとえば 2 次試験では、
「外部と内部」
、
「プラス要因とマイナス要因」
、
「ハードとソフト」などが頻出かつ必須の切り口である。
年代や年齢、人口など数字で表現できるものは比較的簡単にミッシーで分解することがで
きる。しかし、数字にできないものは実は難しい。そのコツを整理すると次の 5 種類になる。
1.
対立概念型(賛成⇔反対/質⇔量/外部⇔内部)
反対や表裏を考えて整理する方法である。一番簡単で、ヌケなくダブりのない整理
方法である。
内部
外部
強み
10
弱み
2.
数値線型(短期→中期→長期/低い→高い/少ない→多い)
一つの尺度をいくつかの程度で区切るものである。例に出ているように、
「時間の
長さ」や「物事の大小」
、
「○○未満」
「○○以上△△未満」
「△△以上」といったよ
うなものである。数値化できるものは分類化することが可能なので、非常に単純に
構成要素を分解することができる。
20 才未満
3.
4.
20 才以上
~
30 才未満
30 才以上
~
40 才未満
50 才以上
~
60 才未満
順序型(バリューチェーン/Plan→Do→See)
順次的なプロセスや時系列で考えるものである。
過去
現在
未来
Plan
Do
See
単純分類型(産業分類/地域)
複数の平行な構成要素を並べた分解方法である。
東 海
近 畿
中 国
四 国
関 東
甲 信 越
九 州
沖 縄
東 北
北 陸
北 海 道
5.
40 才以上
~
50 才未満
異視点型(3C/QCD/4P)
複数の異なる視点を組み合わせ、全体で整合性を確保するものである。
自社
競合
顧客
11
60 才
以上
14 年2次試験共通テキスト
4
1-3
与件文と設問文の構造
実際の与件文・設問文の例(平成 18 年度事例Ⅰより)
A社は、資本金 9,000 万円で、年間売上高約 200 億円の中堅商社である。従業員数は 100
名程度であり、その中には、契約社員、派遣社員が含まれている。A社の主たる取扱商品
は化学品であり、一言でいうと「化学品の専門商社」ということができるが、油脂・油剤か
ら合成樹脂、電子材料などのファインケミカル品など幅広い化学製品を扱っている。売上
高営業利益率は2%前後であるが、
近年の景気回復基調の中で、
業績は上向き傾向である。
また、近年、取引先メーカーの海外事業展開によって輸出取扱額も増大すると同時に、海
外市場からの廉価な化学品の調達が求められるようになり輸入取扱額も増えつつある。
1950 年代初頭、中堅化学メーカーの 100%出資の販売子会社として発足したA社は、親
会社の事業拡大とともに、業績を順調に伸ばし、その成長プロセスでは、関係会社間での
合併など企業グループ再編を経て、化学品の専門商社として事業基盤を確立してきた。そ
の後、複数の主要取引先からの出資もあり、現在、親会社の出資比率はおよそ 60%程度に
なっている。取引先別売上高構成では、親会社との取引が全体の 40%程度を占めており、
現段階では売上高に占める依存度は小さくないが、メーカーと商社という事業の違いもあ
って、A社の自律性は保たれているといえる。近年、独自で開拓してきた取引先の占める
割合が年々高まりつつあり、また、取引先メーカーの海外進出に伴って海外取引が拡大し
ていることも、親会社への依存度を縮小することに貢献している。
A社の取締役会は、取締役6名(非常勤取締役を除く)で構成され、そのうち2名は親会
社からの転籍者で、それ以外はA社出身者(プロパー社員)から登用されている。歴代の代
表取締役社長は親会社からの転籍者であり、これまでの平均在任期間は2期4年である。
今後も社長は、基本的に親会社からの転籍者が就任することが予測されるが、現社長就任
時から、役員に占めるプロパー社員の割合は大きくなっている。他方、近年の事業拡大に
あわせて通年採用で 30 歳代の中堅社員を中心に採用しているが、本社・支店ともに上級管
理者の多くは 50 歳代であり、正規社員の平均年齢は 43 歳である。
取締役の人事および大規模投資案件以外、これまでもほとんどの案件に関してA社の取
締役会で意思決定してきた。組織および人事制度などについて、これまでも親会社はほと
んど関与してくることはなく、
A社自らの事業展開に合った体制を構築することができる。
今後の事業拡大を図っていくためにも、制度や体制の整備と独自の人材育成を進めていく
ことが求められている。ただし、給与水準については、親会社の水準を意識しないわけに
はいかないため、業績にかかわらず、親会社よりも多少低く設定されている。もっとも、
A社の給与水準は、同規模・同業他社の水準を上回っており、業績向上に伴って親会社と
の賃金格差も徐々に改善されている。
社長就任1年を経て、現社長は、役員会で議論を重ね、5年後のA社のあるべき姿とし
て、「売上高 400 億円、営業利益率3%」という数値目標を定めた経営ビジョンを掲げた。
わが国の景気が上向く中で既存の取扱商品の販売拡大も期待され、また、成長著しい中国
や東南アジア地域に新たな営業所を開設し営業拠点の整備を進めて、海外市場の拡大と廉
価品の輸入といった輸出入事業の成長を見込んでいる。しかしながら、それだけで、売上
12
倍増という数値目標を達成することは困難である。従来のように、特定顧客の要請に対応
して商品を仕入れて売るといった単純なビジネスモデルでは限界がある。
急速な技術変化にあわせて取引先メーカーの製品群も変化し、求める商品も少なからず
変わってきた。かつて主力商品であった農薬などの国内販売量は大幅に減少し、それにか
わって電子材料などのファインケミカル品や環境化学品の売上高に占める割合が伸張して
おり、この分野の強化が必要である。また、取引先メーカーの技術動向、生産動向をいち
早く察知し、それに必要な原材料の委託製造をコーディネートするといった新しい事業の
展開を推進しているが、現段階でその規模は決して大きくない。さらに、化学業界を取り
巻く経営環境の変化の中で、中堅化学メーカーである親会社でも事業の集中と選択をスロ
ーガンに、事業の絞り込みや営業拠点の整理統合などによって経営の合理化・効率化を進
めつつあり、そうした動きへの対応も、ビジョン実現に向けたA社の重要な戦略要因とな
っている。
メーカーである親会社とは異なる独自のビジネスモデルを構築していくことが、A社の
今後の発展にとって重要であると考えたA社社長は、新しい視点で事業構造や管理体制を
見直すために、中小企業診断士にアドバイスを求めることを決意した。
第1問(配点 30 点)
中堅化学メーカーの子会社であるA社にとって、子会社であることの強みとして、どの
ような点を考えることができるか。また、その弱みとして、どのような点を考えることが
できるか。強みを(a)欄に、弱みを(b)欄に、それぞれ 100 字以内で述べよ。
第2問(配点 30 点)
A社の掲げた「売上高 400 億円、営業利益率3%」という経営ビジョンを実現していく上
での事業展開について次の設問に答えよ。
(設問1)
A社が掲げた売上高 400 億円というビジョンを実現する上で、海外事業展開はきわめ
て重要である。しかし、海外事業展開は緒についたばかりで、現在は、すでに開設して
いる東南アジアと中国華南地域の2拠点に加えて、新たな営業拠点を数カ所開設すると
いった初期段階である。今後、ビジョン実現に向けて事業を拡大していくためには、海
外営業拠点をどのように発展的に活用していくことが考えられるか。100 字以内で述べ
よ。
(設問2)
事業の独立性が高まりつつあるとはいえ、親会社との取引額が 40%を占めるA社にと
って、親会社の動向は無視することのできない重要な要因である。事業の集中と選択を
進めている親会社の動きに対して、A社はどのような事業展開を模索することができる
か。その可能性について、100 字以内で述べよ。
13
14 年2次試験共通テキスト
1-3
与件文と設問文の構造
第3問(配点 30 点)
従来型商社機能に加えて、新しい事業展開を推進していくことは、経営ビジョンの達成
にとっても、また今後継続的に成長を実現していく上でも重要である。それに関連して、
次の設問に答えよ。
(設問1)
下図は、A社の現在の組織図である。
急速に変化する経営環境の中で、A社が新しい事業展開を推進していく上で、現在の
組織には、どのようなデメリットがあるか。100 字以内で述べよ。
A社の組織図
化学品部
機能品部
経営企画
樹 脂 部
環境化学部
社
長
ファインケミカル
海 外 部
総 務 部
東北支店
九州支店
関西支店
中部支店
(設問2)
A社が新しい事業展開を推進していく上で、今後、どのような組織を構築していくこ
とが望ましいか。100 字以内で述べよ。
第4問(配点 10 点)
2004 年6月に成立した改正高年齢者雇用安定法に対応するために、A社では、2006
年4月から再雇用制度を採用した。確かに、少子高齢化の中で、豊かな経験をもつ高
年齢者の活用は、社会的に意味のあることであるし、企業にとっても貴重な経営資源
の活用でもある。しかし、その反面、いくつかのデメリットもある。A社にとって、
再雇用制度がもたらすデメリットについて、100 字以内で述べよ。
14
2 次オリエンテーション
2 次試験の概要
解答の完成
主な学習事項
こ
の
テ
合格答案に求められる4つの視点,書き方の基本
ー
マ
の
要
点
「書き方の基本」をマスターしよう
2次試験に合格するためには、
「読む」
「考える」
「書く」の3つの要素を、適切に行わなければなら
ない。そして、もっとも安定しやすいのは「書く」工程である。
「書く」工程は、練習を積むことによ
って、確実にレベルを高めることができる。
具体的な解答の「書き方の基本」について3点留意する必要がある。1つ目は、解答は、論理的に
書かなければいけないということである。論理的な文章とは、言葉と言葉の対応関係がしっかりとし
た文章のことである。論理的な文章を書くために、まず論理的な文章の構造(ピラミッドストラクチ
ャー)を見ておく必要がある。2つ目は、解答用紙の使い方である。原則は日本語作成の基本にのっ
とった記述である。3つ目は採点者志向の記述をこころがけることである。他者が解答を読み、採点
を行うことを意識した上で、解答の記述には細心の注意を払って欲しい。
1
答案作成時の心構え
最終的に本試験で評価されるのは、提出する「答案」のみである。つまり、出題者に評価され
る合格答案を作成するにはどうすれば良いかを考えなければならない。ここでは、答案用紙を作
成する上での「心構え」について少し触れておく。
1つ目は、答案が「診断報告書」であるという意識が必要である。診断報告書の読み手は中小
企業の経営者(出題者)であり、わかりやすい表現で解答しなければない。
2つ目は、答案用紙は診断報告書としての納品するものであり、丁寧な字で書く必要がある。
答案用紙の字が読みにくければ、説得力のある解答を書いても評価されない可能性もあるので注
意しなければない。
3つ目は、経営者(出題者)とのコミュニケーションを十分に図ることである。与件文の文量
はB5用紙2~3ページ(財務事例では他に財務諸表が添付されている)もあり、少なからず読
み落としも発生する。一方、設問文は1問につき、1~3行程度の文量であり、ここの読み落と
しは致命的となるので注意しなければない。
15
14 年2次試験共通テキスト
2
1-4
解答の完成
合格答案に求められる4つの視点
解答作成に必要なプロセスは、事例企業の方向性(あるべき姿、事例テーマなど)を軸に、設
問間の一貫性を意識し、各設問の題意を正確に捉え、解答の骨子(解答の方向性)を決めていく
ことである。
解答用紙に記述する上では、設問指示に従い、漏れなくダブリなく、論理的で分かりやすい表
現で、解答骨子に肉づけをし、読みやすい丁寧な字で記述しなければならない。
本試験の過去問や「出題の趣旨」
、さらには合格答案を分析すると次の4つ視点が解答すべき内
容として求められていると考えられる。
(1)一貫性
一貫性とは、事例企業の方向性に沿って、各設問の解答が矛盾なく一貫したストーリーとなっ
ているということである。求められる一貫性は、設問全体(第1問から最終問題まで)だけでな
く、設問間(第1問と第2問、設問1と設問2など)でも考える必要がある。
(2)具体性
具体性とは、診断先企業の経営者(出題者)に伝わりやすい具体的な表現ができているかとい
うことである。受講生の経験に基づく表現(与件文に基づかない一般論の記述)や1次試験で学
習した専門用語をそのまま使うのでなく、与件文の表現を上手に活用する必要がある。
(3)総合性
総合性とは、問われている題意に沿って、解答すべき内容を多面的な視点で捉えられているか
ということである。
「強みを2つ」といった設問指示がない場合においても、切り口を意識した上
で、漏れなくダブリのない解答を意識する必要がある。
(4)創造性
創造性とは、与件文の情報や 1.5 次知識を活用した上で、求められている設問に対してどこま
で類推の範囲を広げることができるかということである。単に、与件文をつなぎ合わせただけで
は発見できないことが多く、また、与件文から遠く発想してしまうと単なる独りよがりのアイデ
アになってしまう。与件文の行間に隠されたヒントや 1.5 次知識をフル活用して類推していく必
要がある。
3
解答の書き方
具体的な解答の「書き方の基本」について、次の3点に留意することが必要である。
1つ目は、解答は、論理的に書かなければいけないということである。論理的な文章とは、
言葉と言葉の対応関係がしっかりとした文章のことである。論理的な文章を書くために、まず
論理的な文章の構造(ピラミッドストラクチャー)を見ておく必要がある。
2つ目は、解答用紙の使い方である。原則は日本語作成の基本にのっとった記述である。
16
3つ目は採点者志向の記述をこころがけることである。他者が解答を読み、採点を行うこと
を意識した上で、解答の記述には細心の注意を払って欲しい。
[1]
論理構造とピラミッドストラクチャー
「ピラミッドストラクチャー」とは、事実や観察事項をもとにして、そこから「何がいえるの
か? (So What?)
」という帰納法的思考により構造化を行い、 全体を最上位の概念から事実まで
をツリー構造にまとめあげたものである。解答設計にあたって、基本的な背骨となる文章の流れ
を考え出す行為である。こうして出来たツリー図の最上位が主張にあたり、それを支えるボック
スが論拠、その下は事実情報となる。
ピラミッドストラクチャーは解答作成にはもちろん、提案文書や論説文などを作成するときや、
提示されたそれらの文書を理解・解釈する場合に有効な方法である。それでは実際に主張と論拠
のある次の文章をもとに、ピラミッドストラクチャーによる構造化を確認してみよう。
ボーナスで液晶テレビを買うべきである。理由は次の 3 点である。①液晶テレビは今までより
断然映像がきれいである。立体的にハイビジョン映像を見ることができるからである。②テレビ
は毎日使うものであり、買い得感が高い。家電量販店で購入すれば価格も安いうえに、液晶テレ
ビは薄型であることから、今までよりもスペースをとらない。また、隣のご家族も欲しがってい
るようである。③液晶テレビは見ていても疲れない。大画面で見やすいうえに、ワイド画面が自
然だからである。以上の理由から、ボーナスで液晶テレビを買うべきである。
<図表1-4-1 ピラミッドストラクチャー>
主張
ボーナスで液晶テ
レビを買うべきだ
論拠①
論拠②
論拠③
今までより断然
映像がきれい
毎日使うものなの
でお得感がある
見ていても
疲れない
論拠の理由
論拠の理由
論拠の理由
いままでより
映像が立体
的に見える
ハイビジョン
映像をみる
ことができる
家電量販店
で買えば
安い
隣の家族も
欲しがってい
る
17
薄型で今よ
りもスペース
をとらない
大画面で
とても
見やすい
ワイド画面
の映像が自
然である
14 年2次試験共通テキスト
[2]
1-4
解答の完成
解答用紙の使い方
ここでは、解答用紙の使い方について概略を解説する。もちろん、原則は日本語作成の
基本にのっとった記述である。他者が解答を読み、採点を行うことを意識した上で、解答
の記述には細心の注意を払って欲しい。
<図表1-4-2 解答用紙の使い方>
句読点が行の末尾にくる
場合は、併せて記述する
取
引
先
メ
ー
カ
ー
の
技
術
動
向
や
生
産
動
向
に
対
応
し
た
、
原
材
料
の
委
託
製
造
を
コ
ー
デ
ィ
ネ
ー
ト
す
る
ハ
ブ
拠
点
と
し
て
活
用
す
る
。
ま
た
、
海
外
市
場
に
お
け
る
販
路
開
拓
拠
点
と
し
て
発
展
さ
せ
な
が
ら、
廉
価
品
調
達
拠
点
と
し
て
も
強
化
活
用
を
図
る
。
一文(ワンセンテンス)は
40 字から 60 字以内に収める
「~為。」、「~事。」といった
体言止めは避ける。
制限字数の 10%以上の空欄を
作らない。本来は、制限字数ち
ょうどで記述すべきである。
(他)
A
B
C
ab
・
12
13
.5
%
2,
00
0
18
円
[3]
採点者志向の記述
(1)問われていることにそのまま答えること(オウム返し)
設問で問われていることを、そのまま書き出しの言葉として使うことで、問われていることに
対して答えられるようになる。2次試験でもっとも大きな得点差として表れるのは、
「題意ミス」
である。つまり、問われていることに対して、何らかの理由で答えていない答案が散見される(何
らかの理由とは、
「読み落とし」
「思い込み」などさまざまである)
。当然、問われていることに答
えていなければ、得点は望めないであろう。実は、設問指示を確実に守った答案を書けるように
なるだけで、合格へのボーダーラインに手が届いたと思っても良いくらいである。ただし、これ
が難しい。綺麗な文章は必要ない。設問を読み、書き出しの言葉を決めることで訓練できる。こ
れは解答の型としてフォーム化して使える。
【例】
A社の事業の歴史的展開を踏まえた上で、現在のA社の強みは、どのような点にあると考えら
れるか。A社の強みとそれを形成してきた要因について、100 字以内で述べよ。
【解答フォーム】
強みは、~である。形成要因は、~である。
上記、解答フォームを注視すると、~以外の句読点を含めた文字数で 17 字分ある。つまり、波
線箇所にあたる 83 字を使って、強みと形成要因について内容を説明すれば良い。設問文をもとに
して、解答のフォームを決める練習は、解答を安定させるうえで非常に効果的である。とくに文
字数の多い問題に対して苦手意識のある方は、ぜひ訓練を積んで欲しい。これにより、時間と不
必要な神経を使わずに、採点者から聞かれたことに答えることができる。
また、例えば問題点と解決策が 100 字で問われた場合、問題点で 40 字、解決策で 60 字などま
ず目安の文字数を決める。こうすることで、気が付いたら解決策を書くスペースがなくなってし
まったなどの失敗をしなくなる。
問
題
点
は
、
解
決
策
は
、
19
14 年2次試験共通テキスト
1-4
解答の完成
(2)結論は先に書くこと(結論先出し)
中小企業診断士の2次試験受験生は増加傾向にあり、現実的には採点者が個々の答案をどこま
で時間をかけて読んでいるかはわからない。つまり、採点者が理解しにくい文章は、得点に結び
つきにくい。
「結論」+「具体的な内容」という「基本的構造」を心がけたい。
「具体的内容」は、
「切り口」
「着眼点」などを活用して記述する。ただし、すべての答案で結
論先出しにすることは出来ないだろう。現場対応で、論点を列挙するような書き方にはなるのは
やむを得ない。しかし、少なくとも学習段階では十分に意識をしていただきたい。
【例】
一般消費市場への展開というA社の新規事業開拓の成否について、中小企業診断士として意見
を求められた。この新規事業が「成功すると思う」理由について 100 字以内で述べよ。
下記の2つの答案を見比べて欲しい。まったく同じ内容が書かれているが、どのように感じる
であろうか。答案2がわかりにくい理由を考えてみて欲しい。
(答案1)
理
由
は
、
蓄
積
し
た
強
み
を
活
か
せ
る
か
ら
で
あ
る。
①
航
空
会
社
に
納
品
し
て
い
る
実
績
と
信
頼
を
活
か
し
た
販
売
促
進
や
販
路
開
拓
を
行
っ
て
い
る
、
②
機
動
的
な
生
産
ノ
ウ
ハ
ウ
、
料
理
長
の
ノ
ウ
ハ
ウ
、
休
眠
中
の
第
三
工
場
を
活
用
す
る
こ
と
が
可
能
で
あ
る。
(答案2)
航
空
会
社
に
納
品
し
て
い
る
実
績
と
信
頼
を
活
か
し
た
販
売
促
進
や
販
路
開
拓
を
行
っ
て
お
り
、
機
動
的
な
生
産
ノ
ウ
ハ
ウ
や
料
理
長
の
ノ
ウ
ハ
ウ
や
休
眠
中
の
第
三
工
場
を
活
用
す
る
こ
と
が
可
能
で
あ
り
、
蓄
積
し
た
強
み
を
活
か
せ
る
か
ら
で
あ
る
。
【解答例】
・100 字の間がひとつづきの文章で書かれているため、読み手にストレスがかかる
・結論から記述していないため説得力がうすれている感がある
・論点がいくつあるのかがわからない
・結局何が言いたいのかを最後まで読まないと確信が持てない
読み手の側に立てば、どちらがわかりやすいかは、一目瞭然であろう。解答を書くことに一生
20
懸命になることは良いが、自分本位になってはいけない。解答を書くと同時に、解答を読む目を
養うことが記述力UPの秘訣である。あくまで相手(採点者)本位を意識して欲しい。
以上のとおり、オウム返しと結論先出しが実践できるようになると、解答の型としてはかなり
出来上がっている。このうち、オウム返しは訓練で完成させられると思うが、結論先出しについ
ては、どうしても結論を表現できない(考えつかない)場合もあると思う。その場合は、理由を
並列に書き出してあげる対応で良い。ルールは原則として、場合によってはそれをすぐに変える
こともできる柔軟な対応が、合格答案を書くためのコツである。
(3)わかりやすい視点で書くこと(切り口)
さらに、相手に切り口までわかりやすく伝えられれば評価は高くなる。切り口とは、物事を把
握するときに全体を捉えるための基準のことである。一例として下記のようなものがある。
① 内と外
② 前と後
③ 既存と新規
④ 客数と客単価
⑤ QCD
ただし、
「結論先出し」と同じように、必ず「切り口」で分けて書かなければいけないわけでは
ない。あくまで、物事を把握・整理するための道具に過ぎない。作問者が想定していない「切り
口」で無理に解答を記述すると、かえって採点者に読みにくくなる可能性があるし、書いている
本人も書きにくさを感じるはずである。
【演習】
下記の解答は、平成 19 年・事例Ⅱの第2問「B社が店舗数と店舗面積を増やさずに、売
り上げを拡大するには、どのような方法がB社に適していると考えられるか。100 字以内で
2つ答えよ。
」という問いに対する、2 つの解答例である。
この解答の切り口について考えよ。
解答Ⅰ
客
体
顧
の
や
数
的
客
イ
新
を
に
情
ベ
商
増
は
報
ン
品
加
、
を
ト
紹
さ
①
共
参
介
せ
地
有
加
な
る
元
し
者
ど
プ
業
新
に
を
ロ
者
規
、
告
モ
と
顧
新
知
21
ー
連
客
し
し
シ
携
を
い
来
ョ
し
獲
イ
店
ン
た
得
ベ
頻
を
販
す
ン
度
行
促
る
ト
を
う
活
②
の
上
。
動
過
開
げ
具
で
去
催
る。
14 年2次試験共通テキスト
1-4
解答の完成
解答Ⅱ
客 単 価 を 向 上 さ せ る 商 品 ・ サ ー ビ ス を 提 供 す
る 。 具 体 的 に は 、 ① 顧 客 ニ ー ズ に 沿 っ た コ ー
デ ィ ネ ー ト プ ラ ン の 提 案 を 通 し て 、 買 い 上 げ
商 品 数 を 増 や す ② 接 客 ・ 提 案 サ ー ビ ス や 素 材
加 工 商 品 な ど を 提 供 し 、 客 単 価 を 向 上 さ せ る。
本設問は、
「店舗数と店舗面積を増やさずに、売り上げを拡大する方法」が問われている。設問
文にあるとおり、売上向上のための方法が2つ問われている。
「売上高」は「売上高=客数×客単価」という公式で成り立つが、例えば上記のように、売り
上げを拡大する方法が2つ問われた場合に、
「客数」と「客単価」という視点から、解答の内容を
考えることによって、モレのない「総合的」な解答を作成することができる。さらに、
「客数」
「客
単価」を分解して考えることによって、総合的かつ具体的な答案を記述することができる。
売上高 = 客数×客単価
客数=既存顧客+新規顧客
客単価=購買点数×商品単価
解答Ⅰは客数を高める方法について記述している。さらに、次のように分解して考えている。
①地元業者と連携した販促活動で顧客情報を共有し新規顧客を獲得する(新規顧客の視点)
②過去のイベント参加者に、新しいイベントの開催や新商品紹介などを告知し来店頻度を上げる
(既存顧客の視点)
解答Ⅱは客単価を高める方法について記述している。さらに、次のように分解して考えている。
①顧客ニーズに沿ったコーディネートプランの提案を通して、買い上げ商品数を増やす(購買点
数の視点)
②接客・提案サービスや素材加工商品などを提供し、客単価を向上させる(商品単価の視点)
こうした答案を解答するためには、まずは、上記の切り口で書くことが可能かどうかを判断す
る必要がある。これが切り口の使い方である。
22
事例整理シート
事例整理シートの作成・活用法
主な学習事項
こ
の
テ
事例整理シートの作成法 事例整理シートの活用法
ー
マ
の
要
点
事例整理シートで効率的かつ効果的に学習する
膨大な与件情報を的確に整理し、診断士として正しい思考プロセスを身につけるためには、LEC
独自の事例整理シートを活用した学習が効率的かつ効果的である。過去問などの事例演習の際に活用
することで、合格のためのスキルを高めることができる。
1
事例整理シートの意義と全体像
本講座の第 1 回で学習した戦略立案を一貫的に行えるようにするために、LEC 中小企業診断士
講座はオリジナルのフレームワークである「事例整理シート」を活用している。このフレームワ
ークを活用することにより、事例企業の環境分析や経営戦略から、機能別戦略の立案までに必要
な手順を一枚のシート上で行うことができる。事例整理シートの全体像は次々ページの図のよう
になっている。以下で、事例整理シートの各パートの作成法を解説する。
2
企業概要
事例企業に対し適切な提案をする上で把握しておかなければならない重要な与件情報である。
素直に企業規模、従業員数、業種・業態などの概要を、バイアスをかけずに抽出し、記入する。
通常、企業概要は、与件文冒頭の1パラグラフ目に記載がある。従業員数は事例を解く上で意
味を持つ場合があるので、注意する。必ず記載があるのは、事例企業の業種であり、特別な業界
知識は不要であるが、業種や製品特性、ビジネスモデルの特徴等は、ある程度、イメージしてお
くことは望ましい。
<図表2-1-1 企業概要と事例別特徴の例>
企業概要
事例別の特徴
①化学品の専門商社:油脂・油剤から合成樹脂、ファイ
ンケミカル品など幅広い化学製品
②資本金 9,000 万円、従業員数 100 名程度(契約社員、
派遣社員含)
③年間売上高約 200 億円、売上高営業利益率は2%前
後
(1)5年後の経営ビジョンを実現すること
・売上高 200 億円 → 400 億円(2倍)
・営業利益率 2% → 3%(1.5 倍)
(2)A社が子会社(商社)であること
・親会社(メーカー)との関係をどうするか
(自律性を高めたいが、親会社を無視できない)
(3)商品別・地域別組織が偏在している。
23
13 年2次試験共通テキスト
3
2-1
事例整理シートの作成・活用法
事例別の特徴
事例企業の組織形態、商品構成、生産形態、資産構造等の特徴などを抽出し、記入する。問題
点はW(弱み・問題点)でも抽出するが、重複しても構わない。
(その他のテーマについても同様)
事例Ⅰ:事業構造、組織形態(企業間関係、機能別、事業別等)
、等
事例Ⅱ:市場構造、競合関係、商品構成、チャネル特性、立地特性、等
事例Ⅲ:生産形態(個別受注、連続見込、ロット生産、セル生産、JIT)
、工場立地等
事例Ⅳ:資産構造、資本負債構成、収益構造、事業構造、等
4
経営理念
経営理念は、企業の「指導・指針」の根本である。与件文に明確に記述されていなくとも経営
者の考えは何かについては考えなければならない。なぜなら、経営理念は経営戦略のもう一段階
上位概念であるからである。
5
SWOT分析
内部環境の強みと外部環境の機会を分析し、強みから独自能力、機会から顧客ニーズを設定す
ることができる。さらに、弱みを克服し、脅威を回避するという視点から、経営戦略の方向が見
えてくる。
<図表2-1-2 SWOT分析>
内部環境
強 み
(Strength)
プラス
要因
マイナス
要因
外部環境
機 会
(Opportunity)
②自社の強みを活かす
①機会を読み取る
弱 み
(Weakness)
脅 威
(Threat)
③弱みを克服する
④脅威は回避する。
内部環境分析:事業の方向性・目指すべき企業を導き出すには、事例企業の強みに徹底的に着目
する。どんな学習より、与件文から事例企業の強みを正確に抽出できることを繰
り返し訓練することの方が有効である。
24
外部環境分析:強みを活かせる環境変化が事業機会となる。顧客からの厳しい要望が増えている
とあれば、その厳しい要望に応えられるのであれば、機会である。
また、脅威には、マクロ環境における脅威とミクロ環境における脅威が存在す
る。一般的にはミクロ環境における脅威は強みなどを上手く活用して脅威ではな
いようにする戦略を採用する。一見、脅威と感じる機会もあり、その切り分けは
慎重に見極める必要がある。
6
弱み・問題点の真因遡及
与件文や設問文を把握した後に行うのが、弱み・問題点の深掘り(真因遡及分析)である。そ
れは、事例企業の本質的な問題点を抽出することである。この本質的な問題点は与件文や設問に
は記述されていない。しかし、これを掴まない限り合格答案は書けないと言っても過言ではない。
その本質的な問題点を解決するために、事例企業は事業の方向性を見直したり、進むべき方向性
を標榜したり、しているのである。
この真因遡及分析は、設問だけを注視した学習スタイルでは決して身につくことはない。何度
も何度も、過去問題を事例整理シートで整理し、何度も何度も本質的問題点は何かを考える以外
にないのである。
また、真因を遡及すべきなのは、弱みばかりとは限らない。強みの真因遡及も必要であるし、
機会や脅威も真因遡及することが必要となる。重要なことは、因果関係をしっかりと把握するこ
とである。また、本当にそう言えるのか常に検証することも重要である。
真因遡及(しんいんそきゅう)とは、
「真の原因まで遡って分析する」ことである。多くの場合、
ある問題の裏にはそれを引き起こしている問題がさらに存在することがあり、その根本までさか
のぼって原因を根絶しないと、同じ問題がまた発生してしまう。
< 図表2-1-3
5why による真因遡及>
問題発生点
Why?
真因遡及の実践例としては、トヨタ自動車
直接の原因
Why?
Why?
Why?
Why?
のカイゼン活動である「5why」が有名で
原因
ある。5回続けて why(なぜ)を繰り返すこ
原因
とで、問題発生の真の原因がわかるという。
原因
真因
25
13 年2次試験共通テキスト
2-1
事例整理シートの作成・活用法
<図表2-1-4 SWOT・真因遡及分析と方向性立案の例>
7
方向性の立案
事例のテーマは、基本的に「現状の本質的な問題点を解決し、企業成長を実現する」であり、
「現状の本質的な問題点を解決するために、進むべき方向性を明確にする」である。
では、どのようにそれら方向性を立案するのか。それは事例企業の強みを徹底的に活用するこ
とである。強みを機会に投入することが、戦略立案の基本であり定石である。次の公式が基本と
なる。
「S(強み)×O(機会)=方向性」
立案した方向性が妥当かどうかの検証方法は、事例企業が立案した方向性に進むことで、現状
の本質的な問題点を解決することができ、企業成長を実現することができるかを考えることであ
る。
8
経営課題と具体的解決策の立案
方向性=目指すべき道が明確になれば、あとはそれを実現するために「何が必要か」を考えれ
ばよい。この解決しなければならない経営課題のレベル感はあまり意識しなくてもよい。とにか
く、事業の方向性・目指すべき企業像を実現するために、何が必要かを考えればよい。
また、解決しなければならない経営課題が「何が必要か」の表題とするならば、この具体的解
決策はその表題の具体策となる。事例ではここまで問われていないことも多い。また、与件文か
ら明確に引き出せないことも多い。しかし、きっちりと考え記入することで、知識レベルの向上
が実現できる。
26
LEC 2次試験対策 事例整理シート
企業概要
事例別の特徴
S(強み)
O(機会)
W(弱み・問題点)
T(脅威)
W(弱み・問題点)の真因遡及分析
27
13 年2次試験共通テキスト
2-1
事例整理シートの作成・活用法
経営理念
解決しなければならない経営課題
目指すべき企業・事業の方向性
具体的解決策
事例に必要な知識
総合コメント
28
事例整理シート
事例整理シートと 6 つのスキル
主な学習事項
こ
テ
の
2 次合格のためのスキル
ー
マ
の
要
点
事例整理シートを活用し、2 次合格のためのスキルを高める
2 次合格のための6つのスキルとは、与件を整理・把握するスキル、問題点を深掘りするスキル、方
向性を立案するスキル、解答骨子を考えるスキル、文章に落とすスキル、実現可能性を検証するスキ
ルである。事例整理シートを活用することで、2 次合格のためのスキルを高めることができる。
合格のための 6 つのスキル
1
①
与件を整理・把握するスキル
②
③
問題点を深掘りするスキル
方向性を立案するスキル
④
1次知識
実現可能性を検証するスキル
⑥
解答骨子を考えるスキル
⑤
文章に落とすスキル
スキル1
スキル2
スキル3
スキル4
スキル5
スキル6
2次試験合格スキル
与件文から出題者の意図を読み取る情報収集・分析(読解)スキル
問題点の真因を遡及・深堀りする知識・思考スキル(要1次知識)
企業のあるべき方向性を立案するスキル(要1次知識)
一貫性のある解答骨子をまとめるスキル
上記の考察内容を、誤解なく伝わるように文章化するスキル
実現可能性・実効性・一貫性などを検証するスキル
29
14 年2次試験共通テキスト
2
2-2
事例整理シートと 6 つのスキル
与件を整理・把握するスキル
2次試験の合格答案を作成するスタートは、与件文や設問文を迅速かつ、できるだけ正確に把
握することである。2次試験は1科目80分で中小企業診断士に必要な論理性や一定知識に基づ
いた提案ができるかどうかが問われる試験であり、
「受験者の経験」を問う試験ではないというこ
とである。
経験ではなく論理性や一定知識に基づいた提案力をどのように確認するのであろうか。それは、
1科目80分の試験時間内で同じ条件を提示し、その条件に基づいて提案を記述させる方法が採
用されている。この「条件」が与件文や設問文にあたり、この「条件」を、限られた時間で「正
確」に把握することが試験合格のスタートとなる。
与件文はおおよそ 1300~1600 字の分量(財務事例は少ない)がある。そのため、全ての情報を
正確に掴むことは実際には不可能であり、主要なポイントを間違わず、かつ自分自身の経験でバ
イアスをかけずに把握することが重要となる。
<与件文で把握する「主要ポイント」>
1.企業概要(業種・業態、資本金、売上高、従業員数等)
2.事例企業の現状(売上や利益は減少傾向なのか等)
3.事例企業の強み(特にこれから成長するために活用できるもの)
4.事例企業の外部環境(事例企業が対応できる外部環境はどのようなものか等)
<与件を整理・把握するスキルを高める学習方法>
LEC「事例整理シート」の左側を使って、過去問題や答案練習事例の与件文や設問文を何度
も何度も繰り返し整理して欲しい。最初は時間がかかるかもしれないが、繰り返していくうちに
合格答案を作成するための必要な「与件を整理・把握するスキル」が養われる。
3
問題点を深掘りするスキル
与件文や設問文を把握し、次に行うのが、弱み・問題点の深掘り(真因遡及分析)である。こ
れは、事例企業の本質的な問題点(真因)を抽出することであり、事例企業の方向性を掴み合格
答案を作成する上で最も重要なスキルと言える。
では、もう少し詳細にこのスキルについて確認していきたい。例えば、事例企業の売上高が長
期にわたり減少しているのであれば、
「なぜ、売上高が長期にわたり減少しているのか」を考える。
この「なぜ」を何度も何度も繰り返し行うことで、事例企業の本質的な問題点を明らかにするこ
とができる。そして、明らかにした本質的な問題点を解決するための課題設定に繋がるのであり、
最終的に事例全体が問おうとしている点に到着するのである。逆に言うと、本質的な問題点を明
らかにしなければ、抜本的な改革の提案は難しいのである。
本質的な問題点を明らかにすることで、合格答案に必要な改革コンセプトを導き出すことがで
きる。そして、次の「方向性を立案するスキル」で、本質的な問題点を解決するための方向性を
提案し、事例企業の成長を実現することが可能となるのである。
30
<問題点を深掘りするスキルを身につける学習方法>
LEC「事例整理シート」の左側の下側を使って、過去問題や答案練習事例の与件文で提示さ
れた問題点に対し、
「なぜ」
「なぜ」
「なぜ」を繰り返し思考し、本質的な問題点を考える癖をつけ
ることである。また、普段から現象面の問題点に対し、
「なぜ」を繰り返すことも重要である。
第2次試験を含むビジネスや日常の問題も、解決を図るためにはすぐ目につく原因だけに取り
組む対処療法的な解決ではなく、その問題が再発しないように根本の原因(=真因)まで掘り下
げて考え、その原因を取り除くような問題解決としなければならない。
<図表2-2-1 真因遡及の例>
原因の原因
原 因
生産ラインのトラブル
品質の悪化
結 果
ブランド力の低下
広告費の削減
商品イメージの悪化
口コミが弱い
4
方向性を立案するスキル
事例のテーマは、基本的に「現状の本質的な問題点を解決し、企業成長を実現すること」であ
り、
「現状の本質的な問題点を解決するために、進むべき方向性を明確にすること」である。であ
るならば、
「解決するための課題は何か」
「何をすれば解決できるのか」
「どうすれば企業成長を実
現することができるのか」を考えなければならない。
これが「方向性を立案するスキル」である。
二次試験は、各設問に対し解答を考え論述することであるが、設問間の整合性を保ち、実現性・
効果の高い提案(解答)を行う必要があり、そのためには事例企業の方向性を明確にしなければ
ならない。
問題点のある企業も、現在は顕在化した問題点はない企業も、どちらにしても企業は成長を目
指し経営を行っている。中小企業診断士になるためには、この「方向性を立案するスキル」が必
須であり、各設問だけを考える受験対策では合格への道は険しくなる。
では、どのように方向性を立案するのか。それは事例企業の強みを徹底的に活用することであ
る。強みを機会に投入することが、戦略立案の基本であり定石である。次の公式が基本となる。
「S(強み)×O(機会)=方向性」
立案した方向性が妥当かどうかの検証方法は、事例企業が立案した方向性に進むことで、現状
の本質的な問題点(真因)を解決することができ、企業成長を実現することができるかを考える
31
14 年2次試験共通テキスト
2-2
事例整理シートと 6 つのスキル
ことである。
<方向性を立案するスキルを高める学習方法>
LEC「事例整理シート」の右上の部分を活用し、過去問題や答案練習事例の事例企業の方向
性を掴めるようにして欲しい。事例企業の方向性は、直接的に設問で問われない場合もあるが必
ず考えてイメージできるような習慣づけて欲しい。くれぐれも設問に対応するだけの学習は避け
たい。
5
解答骨子を考えるスキル
6つのスキルのうち、与件を整理・把握するスキル、問題点を深掘りするスキル、方向性を立
案するスキルの3つについては、合格答案を導き出す前提スキルである。その前提スキルをベー
スに各設問の解答を考えていくことになる。方向性に基づき、設問間の関連を考えながら、切り
口を意識し、どのキーワードを盛り込めば設問が要求している解答になるのかを決めていくこと
である。具体的には、立案した方向性の横に、解答に盛り込むべき切り口とキーワードをメモ書
きしながら、方向性←→キーワードを鳥瞰する。それにより、不要な解答や的外れな解答は除去
することができる。
学習方法は、LEC「事例整理シート」の右側を過去問題や答案練習事例を使って、整理する
ことが有効である。
6
文章に落とすスキル
方向性との関連を鳥瞰しながら、解答に落とし込むキーワードはピックアップできた。あ
とは、それを 100 字や 200 字、短い場合は 30 字程度の文章にまとめなければならない。こ
れが「文章に落とすスキル」である。
どのような文章が合格答案になるのであろうか。それは、徹底して「分かりやすい文章」を意
識して書くことである。
7
実現可能性を検証するスキル
「実現可能性を検証するスキル」とは、事例企業に対しあり得ない提案を行わないスキルで
ある。例えば、売上高3億円程度の事例企業に対し、
「M&Aを実行し、自社の弱い事業を強化
する」
「ERPをベースに情報システムを全面再構築する」等である。このスキルは、与件を整
理・把握するスキルを高め、余裕を持って解答をチェックすることができれば、身につくもの
である。
32
14 年合格目標
中小企業診断士試験対策講座
2次ベーシック講座
テ キ ス ト
LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
第1回
複写・頒布を禁じます
オリエンテーション
1次と2次との関連性を過去問等から体感する
【演習問題1】
現状をしっかり掴む!(平成 18 年度第 15 問の抜粋)
創立 50 年を迎えたX社は、従業員 150 人のうちの6割が研究者によって占められてお
り、終身雇用・年功序列の賃金制度を採用していながら自由な雰囲気を持つ企業であり、
中規模の研究開発型企業として一定の評価を得てきた。大株主であるY社はX社により
高い配当を求め、定例の株主総会での議決を経て、新経営者A氏を送り込んで経営改革
を行うよう指示してきた。A氏はY社への高配当を目的とし、着任後半年間で同業他社
の状況を参考にして、マーケティング重視とコスト削減の経営方針を打ち出し、研究開
発部門の研究費を2割削減した。研究者に商品化可能な製品開発を中心とした評価制度
を導入し、業績主義の人事改革プログラムを提案した。新たに若い営業要員を数名採用
し、10 人の取締役会メンバーのうちそれまで2人だった営業部門出身者を4人に、一方、
4人いた研究開発部門出身者を1人とした。この取締役会を中心に、社内の管理システ
ムや業務手続きに関する諸規則を、トップダウンで次々と変更していった。
その結果、わずか1年で研究者の多くはモチベーションを低下させ、優れた人材の3
割程度は退職してライバル企業に移籍してしまった。また研究開発以外の部門も新しい
管理システムの導入により、現場に混乱が生じてしまい、製品の信頼性が低下し、顧客
からの苦情も寄せられるようになってしまった。
<問題>
何故、現場が混乱してしまったのか?
1
LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
複写・頒布を禁じます
【演習問題2】
具体的な解決策を提言する!(平成 23 年度第 32 問を一部改題)
ある地方の山間部の温泉地で旅館を経営しているB社は、当該温泉地を代表する老舗
高級旅館で、高サービス・高価格を特徴としている。その主要な顧客層は比較的裕福な中
高年層であるが、景気の悪化の影響もあり、ここ数年来客数が減少しており、客室稼働率
の低下に悩まされている。このような状況への対策として、同社は顧客満足度の向上に取
り組もうとしていた。
<問題>
物財と比べたときのサービス財の一般的特徴は以下のとおりである。これらの特徴に対
して、B社の経営状況を踏まえてどのような対応をすることができるか。①の例になら
って記述しなさい。
①サービス財の場合、買い手がその生産に関与し成果に影響を及ぼす。
例)料理の特徴・楽しみ方や温泉の効能・利用方法などを顧客に分かりや
すく説明する。
②サービス財は生産と消費を時間的・空間的に分離して行うことができない。
2
LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
複写・頒布を禁じます
③サービス財は物財と比べて品質を標準化することが困難である。
④サービス財は無形であり、利用前にその品質水準を評価することが難しい。
3
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複写・頒布を禁じます
【演習問題3】
現状をしっかり掴み、解決の方向性を導く!
B店は、都心のベッドタウンであるX駅近くに蕎麦屋を出店している。駅周辺はフィ
ットネスジムや趣味の教室などが増えており、平日の買い物客も多い。
最近の外食市場は経済不況やデフレの影響から、低価格を訴求する業態が主流となって
きている一方で、食を楽しむグルメ志向も流行している。特に主婦の間では、くつろぎ
を求めて食事と会話に時間をかける傾向がある。
B店は座敷卓が5卓 20 席、カウンター8席で、他店よりも店舗面積に対する収客力が
少ないが、店内は余裕があるので改装すれば席数を増やすことが可能である。取り扱い
メニューは、蕎麦の他に旬の素材を活かした創作料理、地酒といった単品メニューが中
心である。蕎麦と創作料理が好評で、夜は仕事帰りのサラリーマンで賑わっており、宴
会の予約が入ることもある。
B店の売上は開店当時から順調に伸びてきたが、近所のファミリーレストランが低価
格ランチをはじめてから売上が減少しはじめた。主要顧客であったサラリーマンやOL
が、ファミリーレストランの低価格ランチに流出しているからである。また、昼と夜に
来店客が集中しているため、アイドルタイム(昼と夜の中間の時間帯)は来店客がほと
んどいない。
売上が減少しはじめたことをきっかけに、来店客に対しアンケート調査を実施したと
ころ、味・接客・雰囲気において、ほとんどの来店客は満足しているとの結果が出た。
しかし、サラリーマンやOLを中心に、
「価格がやや高く、以前ほど気軽に行くことが
できなくなった」との声もあった。
B店の社長は支店の出店を希望しているが業績が悪化しており、厳しい状況になって
きている。このため、B社の社長はコンサルタントのあなたに助言を求めてきた。
4
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複写・頒布を禁じます
<問題>
B店の業績回復に向けて、以下の設問に答えよ。
(1)
B蕎麦店の強み・機会と弱み・脅威について、それぞれ1点記述せよ。
強み
機会
弱み
脅威
(2)
(1)で答えた「弱み」や「脅威」に対して、どのような対応をすればよいか。
具体的に答えよ。
(3)
(1)で答えた「強み」を強化する方法や「機会」を活かす方法を考えよ。
(4)
これまでの分析をふまえ、B店の今後の経営戦略について述べよ。
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【演習1の解答】
<解答例1>
トップダウンで社内の管理システムや業務手続きに関する諸規則を変更したからである。
⇒2次攻略のアドバイス
間違いではないが、与件文をそのまま抽出しただけである。これでは「表層的な解
答(=一般論の解答)
」であり、2次試験の解答としては説得力がない。
<解答例2>
従業員の理解を得ることなくトップダウンで実行したためである。具体的には、経営改
革案の作成段階で、同業他社の調査のみで従業員への意識調査はなく、実行段階で、従業
員への改革案の事前説明がなかった。このため、従業員は経営改革の必要性が理解できず、
モラールが低下し、現場が混乱したと考えられる。
⇒2次攻略のポイント
2次試験の解答は、
「1.5 次知識」を踏まえて与件文を上手に活用するとともに、1
次試験で習得した幅広い知識の中で、2次試験で活用できる知識(=1.5 次知識)を
常にアウトプットできるようにする必要がある。
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<MEMO>
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
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【演習2の解答】
①サービス財の場合、買い手がその生産に関与し成果に影響を及ぼす。
⇒解答例
料理の特徴・楽しみ方や温泉の効能・利用方法などを顧客に分かりやすく説明する。
☆1.5 知識の活用(インタラクティブマーケティング)
サービスの質は、コンタクトパーソネル(CP、接客要員)と顧客との間の相互作
用の質に多く影響される。顧客と接点をもつ従業員をコンタクト・パーソネルとい
う。
②サービス財は生産と消費を時間的・空間的に分離して行うことができない。
⇒解答例
御礼状や定期的なDM発送で温泉地ならではの季節イベント等を継続的に案内し、
閑散期の再来訪を促進するとともに、繁忙期においては予約等で対応を図る。
☆1.5 次知識の活用(エクスターナルマーケティング)
企業と顧客との通常のマーケティングのことである。ここではDMを活用したプロ
モーションといえる。
③サービス財は物財と比べて品質を標準化することが困難である。
⇒解答例
従業員研修の徹底により接客技術・知識向上を図るとともに、表彰制度の導入によ
り従業員のモチベーションを高める。
☆1.5 次知識(インターナルマーケティング)
エクスターナルマーケよりも優先されるべきものである。企業と接客要員とのマー
ケティングである。顧客満足度を高めるために、従業員を訓練し意欲の向上と、自ら
がサービス提供者としての自覚を持たせることが必要である。
④サービス財は無形であるため、物財に比べ、利用前にその品質水準を評価すること
が難しい。
⇒解答例
HPを利用し、料理、客室の調度品や寝具、温泉施設などのサービス内容を提供す
るとともに、顧客からのリクエストなどお客様の声を掲載する。
☆1.5 次知識(エクスターナルマーケティング)
企業と顧客との通常のマーケティングのことであり、ここではHPを活用したプロモー
ションといえる。
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
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<MEMO>
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
複写・頒布を禁じます
【演習3の解答】
問題(1)
<強み>
蕎麦と旬の素材を活かした創作料理のノウハウがある。
<機会>
食を楽しむグルメ志向が流行している。
<弱み>
アイドルタイムは来店客がほとんどいない。
<脅威>
低価格ランチの影響で、主要顧客が流出している。
問題(2)
「弱み」や「脅威」に対する対応は、くつろぎを求める主婦達をアイドルタイムに来店
させるために、高めの価格で味の良いメニューを創り提供することである。
問題(3)
「強み」や「機会」を活かす方法は、食を楽しむグルメ志向の人たちに、創作料理のノ
ウハウを活かして蕎麦と旬の素材をセットにしたランチや宴会メニューを提供するこ
とである。
問題(4)
B店の経営戦略は、くつろぎを求める主婦や食を楽しむグルメ志向の人たちに対して、
創作料理のノウハウを活かして創った味の良い料理を高い接客技術で提供することで
ある。店は、ゆったりとしたくつろげる雰囲気にして、ファミリーレストランとは違う
サービスを展開する。
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
第2回
複写・頒布を禁じます
事例整理シート総論
事例整理シートを活用してみる!
【演習①】
平成 18 年事例Ⅰの与件文(後掲)から企業概要と事例別の特徴を掴む
企業概要と事例別の特徴
LEC 2次試験対策 事例整理シート
企業概要
事例別の特徴
☆記述上の注意
■企業概要:事例企業に対し適切な提案をする上で把握しておかなければならない重要な
与件情報である。素直に企業規模、従業員数(従業員構成)、業種・業態などの概要を、
バイアスをかけずに抽出し、記入する。
■事例別の特徴:事例Ⅰでは、事業構造、組織形態(企業間関係、機能別、事業別等)を
抽出し、記入する。問題点はW(弱み・問題点)でも抽出するが、重複しても構わない。
☆本事例で意識して欲しい点
■企業概要:
どういう商売をしているのか?
■事例別の特徴:
A社と取引先の関係性をどのように捉えるか?
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
複写・頒布を禁じます
【演習②】
平成 18 年事例Ⅰの与件文からSWOT、問題の真因、事業の方向性を掴む
SWOT
S(強み)
O(機会)
W(弱み・問題点)
T(脅威)
☆本事例で意識して欲しい点
■SWOT:
強みと機会はしっかりと抽出したい
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
複写・頒布を禁じます
真因遡及分析
W(弱み・問題点)の真因遡及分析
☆本事例で意識して欲しい点
■真因遡及分析:
どこまで掘り下げることができるか?
目指すべき企業・事業の方向性
方向性
☆本事例で意識して欲しい点
■方向性:
事業の方向性と組織・人事の方向性の2つの視点(階層)で考えたい
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
複写・頒布を禁じます
【平成 18 年度事例Ⅰの与件文・設問文】
A社は、資本金 9,000 万円で、年間売上高約 200 億円の中堅商社である。従業員数は 100 名程度
であり、その中には、契約社員、派遣社員が含まれている。A社の主たる取扱商品は化学品であり、
一言でいうと「化学品の専門商社」ということができるが、油脂・油剤から合成樹脂、電子材料など
のファインケミカル品など幅広い化学製品を扱っている。売上高営業利益率は2%前後であるが、
近年の景気回復基調の中で、業績は上向き傾向である。また、近年、取引先メーカーの海外事業展
開によって輸出取扱額も増大すると同時に、海外市場からの廉価な化学品の調達が求められるよう
になり輸入取扱額も増えつつある。
1950 年代初頭、中堅化学メーカーの 100%出資の販売子会社として発足したA社は、親会社の事
業拡大とともに、業績を順調に伸ばし、その成長プロセスでは、関係会社間での合併など企業グル
ープ再編を経て、化学品の専門商社として事業基盤を確立してきた。その後、複数の主要取引先か
らの出資もあり、現在、親会社の出資比率はおよそ 60%程度になっている。取引先別売上高構成
では、親会社との取引が全体の 40%程度を占めており、現段階では売上高に占める依存度は小さ
くないが、メーカーと商社という事業の違いもあって、A社の自律性は保たれているといえる。近
年、独自で開拓してきた取引先の占める割合が年々高まりつつあり、また、取引先メーカーの海外
進出に伴って海外取引が拡大していることも、親会社への依存度を縮小することに貢献している。
A社の取締役会は、取締役6名(非常勤取締役を除く)で構成され、そのうち2名は親会社からの
転籍者で、それ以外はA社出身者(プロパー社員)から登用されている。歴代の代表取締役社長は親
会社からの転籍者であり、これまでの平均在任期間は2期4年である。今後も社長は、基本的に親
会社からの転籍者が就任することが予測されるが、現社長就任時から、役員に占めるプロパー社員
の割合は大きくなっている。他方、近年の事業拡大にあわせて通年採用で 30 歳代の中堅社員を中
心に採用しているが、本社・支店ともに上級管理者の多くは 50 歳代であり、正規社員の平均年齢
は 43 歳である。
取締役の人事および大規模投資案件以外、これまでもほとんどの案件に関してA社の取締役会で
意思決定してきた。組織および人事制度などについて、これまでも親会社はほとんど関与してくる
ことはなく、A社自らの事業展開に合った体制を構築することができる。今後の事業拡大を図って
いくためにも、制度や体制の整備と独自の人材育成を進めていくことが求められている。ただし、
給与水準については、親会社の水準を意識しないわけにはいかないため、業績にかかわらず、親会
社よりも多少低く設定されている。もっとも、A社の給与水準は、同規模・同業他社の水準を上回
っており、業績向上に伴って親会社との賃金格差も徐々に改善されている。
社長就任1年を経て、現社長は、役員会で議論を重ね、5年後のA社のあるべき姿として、「売
上高 400 億円、営業利益率3%」という数値目標を定めた経営ビジョンを掲げた。わが国の景気が
上向く中で既存の取扱商品の販売拡大も期待され、また、成長著しい中国や東南アジア地域に新た
な営業所を開設し営業拠点の整備を進めて、海外市場の拡大と廉価品の輸入といった輸出入事業の
14
LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
複写・頒布を禁じます
成長を見込んでいる。しかしながら、それだけで、売上倍増という数値目標を達成することは困難
である。従来のように、特定顧客の要請に対応して商品を仕入れて売るといった単純なビジネスモ
デルでは限界がある。
急速な技術変化にあわせて取引先メーカーの製品群も変化し、求める商品も少なからず変わって
きた。かつて主力商品であった農薬などの国内販売量は大幅に減少し、それにかわって電子材料な
どのファインケミカル品や環境化学品の売上高に占める割合が伸張しており、この分野の強化が必
要である。また、取引先メーカーの技術動向、生産動向をいち早く察知し、それに必要な原材料の
委託製造をコーディネートするといった新しい事業の展開を推進しているが、現段階でその規模は
決して大きくない。さらに、化学業界を取り巻く経営環境の変化の中で、中堅化学メーカーである
親会社でも事業の集中と選択をスローガンに、事業の絞り込みや営業拠点の整理統合などによって
経営の合理化・効率化を進めつつあり、そうした動きへの対応も、ビジョン実現に向けたA社の重
要な戦略要因となっている。
メーカーである親会社とは異なる独自のビジネスモデルを構築していくことが、A社の今後の発
展にとって重要であると考えたA社社長は、新しい視点で事業構造や管理体制を見直すために、中
小企業診断士にアドバイスを求めることを決意した。
第1問(配点 30 点)
中堅化学メーカーの子会社であるA社にとって、子会社であることの強みとして、どのような点
を考えることができるか。また、その弱みとして、どのような点を考えることができるか。強みを
(a)欄に、弱みを(b)欄に、それぞれ 100 字以内で述べよ。
第2問(配点 30 点)
A社の掲げた「売上高 400 億円、営業利益率3%」という経営ビジョンを実現していく上での事業
展開について次の設問に答えよ。
(設問1)
A社が掲げた売上高 400 億円というビジョンを実現する上で、海外事業展開はきわめて重要で
ある。しかし、海外事業展開は緒についたばかりで、現在は、すでに開設している東南アジアと
中国華南地域の2拠点に加えて、新たな営業拠点を数カ所開設するといった初期段階である。今
後、ビジョン実現に向けて事業を拡大していくためには、海外営業拠点をどのように発展的に活
用していくことが考えられるか。100 字以内で述べよ。
(設問2)
事業の独立性が高まりつつあるとはいえ、親会社との取引額が 40%を占めるA社にとって、
親会社の動向は無視することのできない重要な要因である。事業の集中と選択を進めている親会
社の動きに対して、A社はどのような事業展開を模索することができるか。その可能性について、
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100 字以内で述べよ。
第3問(配点 30 点)
従来型商社機能に加えて、新しい事業展開を推進していくことは、経営ビジョンの達成にとって
も、また今後継続的に成長を実現していく上でも重要である。それに関連して、次の設問に答えよ。
(設問1)
下図は、A社の現在の組織図である。
急速に変化する経営環境の中で、A社が新しい事業展開を推進していく上で、現在の組織には、
どのようなデメリットがあるか。100 字以内で述べよ。
A社の組織図
化学品部
機能品部
経営企画
樹 脂 部
環境化学部
社
長
ファインケミカル
海 外 部
総 務 部
東北支店
九州支店
関西支店
中部支店
(設問2)
A社が新しい事業展開を推進していく上で、今後、どのような組織を構築していくことが望ま
しいか。100 字以内で述べよ。
第4問(配点 10 点)
2004 年6月に成立した改正高年齢者雇用安定法に対応するために、A社では、2006 年4月から
再雇用制度を採用した。確かに、少子高齢化の中で、豊かな経験をもつ高年齢者の活用は、社会的
に意味のあることであるし、企業にとっても貴重な経営資源の活用でもある。しかし、その反面、
いくつかのデメリットもある。A社にとって、再雇用制度がもたらすデメリットについて、100 字
以内で述べよ。
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【MEMO】
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過去問を事例整理シートに落とし込む(H18 事例Ⅰ)
【演習①】解説
1
企業概要と事例別の特徴
LEC 2次試験対策 事例整理シート
企業概要
事例別の特徴
①化学品の専門商社:油脂・油剤から合成樹脂、
ファインケミカル品など幅広い化学製品
②資本金 9,000 万円、従業員数 100 名程度(契
約社員、派遣社員含)
③年間売上高約 200 億円、売上高営業利益率は
2%前後
(1)5年後の経営ビジョンを実現すること
・売上高 200 億円 → 400 億円(2倍)
・営業利益率 2% → 3%(1.5 倍)
(2)A社が子会社(商社)であること
・親会社(メーカー)との関係をどうするか
(自律性を高めたいが、親会社を無視できない)
(3)商品別・地域別組織が偏在している。
<企業概要>
事例企業に対し適切な提案をする上で把握しておかなければならない重要な与件情報で
ある。素直に企業規模、従業員数、業種・業態などの概要を、バイアスをかけずに抽出し、
記入する。
通常、企業概要は、与件文冒頭の1パラグラフ目に記載がある。従業員数は事例を解く
上で意味を持つ場合があるので、注意する。必ず記載があるのは、事例企業の業種であり、
特別な業界知識は不要であるが、業種や製品特性、ビジネスモデルの特徴等は、ある程度、
イメージしておくことが望ましい。
<事例別の特徴>
事例企業の組織形態、商品構成、生産形態、資産構造等の特徴などを抽出し、記入する。
問題点はW(弱み・問題点)でも抽出するが、重複しても構わない。
(その他のテーマにつ
いても同様)
事例Ⅰ:事業構造、組織形態(企業間関係、機能別、事業別等)
、等
事例Ⅱ:市場構造、競合関係、商品構成、チャネル特性、立地特性、等
事例Ⅲ:生産形態(個別受注、連続見込、ロット生産、セル生産、JIT)
、工場立地等
事例Ⅳ:資産構造、資本負債構成、収益構造、事業構造、等
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2
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経営理念*参考
経営理念
5年後のA社のあるべき姿として、「売上高 400 億円、営業利益率3%」という数値目標を定めた経営
ビジョン
<経営理念>
企業の「指導・指針」の根本である。
与件文に明確に記述されていなくとも経営者の考えは何かは考えなければならない。なぜ
なら、経営理念は経営戦略のもう一段階上位概念であるからである。
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【演習②】解説
3
SWOT分析
S(強み)
O(機会)
①中堅化学メーカーの 100%出資の販売子会社
として発足したA社
②親会社との取引が全体の 40%程度を占めて
いる
③独自で開拓してきた取引先の占める割合が
年々高まりつつある
④メーカーと商社という事業の違いもあって、
A社の自律性は保たれている
⑤取締役6名のうち2名は親会社からの転籍
者
⑥歴代の代表取締役は親会社からの転籍者
⑦成長著しい中国や東南アジア地域に新たな
営業所を開設し営業拠点の整備を進めてい
る
①近年の景気回復基調
②近年、独自で開拓してきた取引先の占める割合が
年々高まりつつある
③近年、取引先メーカーの海外進出に伴って海外取
引が拡大
④海外市場から廉価な化学品の調達が求められる
ようになり輸入額も増えつつある
⑤電子材料などのファインケミカル品や環境化学
品の売上高に占める割合が伸張
⑥必要な原材料の委託製造をコーディネートする
といった新しい事業
⑦中堅化学メーカーである親会社で、事業の絞り込
みや営業拠点の整理統合
W(弱み・問題点)
T(脅威)
①中堅化学メーカーの 100%出資の販売子会社
として発足したA社
②親会社との取引が全体の 40%程度を占めて
いる
③本社・支店ともに上級管理者の多くは 50 歳
代であり、正規社員の平均年齢は 43 歳であ
る
④取締役6名のうち2名は親会社からの転籍
者
⑤歴代の代表取締役は親会社からの転籍者
⑥制度や体制について、親会社の影響を無視で
きない
⑦給与水準については、業績にかかわらず、親
会社よりも多少低く設定されている。
⑧特定顧客の要請に対応して商品を仕入れて
売るといった単純なビジネスモデルでは限
界
⑨取引先メーカーの技術動向、生産動向をいち
早く察知する必要
①急速な技術変化にあわせて取引先メーカーの製
品群も変化し、求める商品も少なからず変わって
きた
②主力商品であった農薬などの国内販売量の大幅
な減少
③親会社の事業の集中と選択、事業の絞り込みや営
業拠点の整理統合による経営の合理化・効率化
<内部環境分析>
S(強み)
:事業の方向性・目指すべき企業を導き出すには、事例企業の強みに徹底的に着
目する。与件文から事例企業の強みを正確に抽出できることを繰り返し訓練して欲しい。
W(弱み)
:一見、弱みと感じる強みもあり、その切り分けは慎重に見極める必要がある。
<外部環境分析>
O(機会)
:強みを活かせる環境変化が事業機会となる。顧客からの厳しい要望が増えてい
るとあれば、その厳しい要望に応えられるのであれば機会である。
T(脅威)
:脅威には、マクロ環境における脅威とミクロ環境における脅威が存在する。一
般的にはミクロ環境における脅威は強みなどを上手く活用して脅威ではないようにする
戦略を採用する。一見、脅威と感じる機会もあり、その切り分けは慎重に見極める必要
がある。
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4
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方向性
目指すべき企業・事業の方向性
独自開拓し増えつつある取引先メーカーの技術動向・生産動向をいち早く察知し、
必要な原材料の委託製造をコーディネートし、柔軟に提供していく。
2次試験を考える上で最重要なフレームが、事例企業の事業の方向性・目指すべき企業
である。
「誰に、何を、どのように」というエイベルの3つの軸や具体的なターゲットをO
(機会)から抽出し、具体的な製品事業分野をS(強み)から抽出する。
S×Oの掛け算で事例企業の事業の方向性を立案する。立案した事業の方向性をチェッ
クするには、事例企業の本質的な問題点が解決できるかどうかである。
また、事例企業が標榜している方向性と合致しているかどうかもチェックの視点である。
5
真因遡及分析
W(弱み・問題点)の真因遡及分析
5年後のあるべき姿「売上高 400 億円、営業利益率3%」という経営ビジョンの実現が困難
→歴代社長は親会社からの転籍者(平均在任期間は2期4年)で方針転換の可能性がある
→取締役の人事および大規模投資案件は独自判断ができない
→メーカーである親会社に依存した経営体質である。
制度・給与水準が親会社の影響を無視できない
→独自の制度や体制が整備されていない。
→メーカーである親会社に依存した経営体質である。
目指すべき企業・事業の方向性を立案する次に重要なことが、与件文に記述されている
表層上の弱みや問題点の本質は何かを考えることである。いわゆる弱み・問題点の真因遡
及分析を行うことである。
この本質的な問題点は与件文や設問には記述されていない。しかし、これを掴まない限
り合格答案は書けないと言っても過言ではない。その本質的な問題点を解決するために、
事例企業は事業の方向性を見直したり、進むべき方向性を標榜したりしているのである。
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経営課題*参考
解決しなければならない経営課題
①今後の事業拡大を図っていくためにも、制度や体制の整備と独自の人材育成を進めてい
くことが求められている。
②必要な原材料の委託製造をコーディネートするといった新しい事業の展開の推進
③メーカーである親会社とは異なる独自のビジネスモデルを構築
目指すべき道が明確になれば、あとはそれを実現するために「何が必要か」を考えれば
よい。この解決しなければならない経営課題のレベル感はあまり意識しなくてもよい。と
にかく、事業の方向性・目指すべき企業像を実現するために、何が必要かを考えればよい。
7
具体的解決策*参考
具体的解決策
①海外事業展開を、現地取引先の開拓・コーディネート拠点として活用する。
②親会社の選択と集中の促進を踏まえ、営業拠点の偏りの解消、製造現場のわかる人材の
確保、取引先が求める製品の企画開発を行う。
③取引先の技術動向・生産動向を親会社に伝え、親会社の合理化・効率化に貢献すること
で対等な関係を構築する。
④従来のビジネスモデルに捉われない取引先の技術動向に柔軟で迅速に対応できるような
若手人材の確保育成を推進する。
解決しなければならない経営課題が「何が必要か」の表題とするならば、この具体的解
決策はその表題の具体策となる。事例ではここまで問われていないことも多い。また、与
件文から明確に引き出せないことも多い。しかし、きっちりと考え記入することで、知識
レベルの向上が実現できる。
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
第3回
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事例Ⅰ
事例整理シートを活用してみる!(方向性の立案)
【演習①】
平成 22 年事例Ⅰの与件文(後掲)から企業概要と事例別の特徴を掴む
企業概要と事例別の特徴
LEC 2次試験対策 事例整理シート
企業概要
事例別の特徴
☆記述上の注意
■企業概要:事例企業に対し適切な提案をする上で把握しておかなければならない重要な
与件情報である。素直に企業規模、従業員数(従業員構成)、業種・業態などの概要を、
バイアスをかけずに抽出し、記入する。
■事例別の特徴:事例Ⅰでは、事業構造、組織形態(企業間関係、機能別、事業別等)を
抽出し、記入する。問題点はW(弱み・問題点)でも抽出するが、重複しても構わない。
☆本事例で意識して欲しい点
■企業概要:
どういう商売をしているのか?
■事例別の特徴:
A社と取引先の関係性をどのように捉えるか?
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
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【演習②】
平成 22 年事例Ⅰの与件文からSWOT、問題の真因、事業の方向性を掴む
SWOT
S(強み)
O(機会)
W(弱み・問題点)
T(脅威)
☆本事例で意識して欲しい点
■SWOT:
強みと機会はしっかりと抽出したい
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
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真因遡及分析
W(弱み・問題点)の真因遡及分析
☆本事例で意識して欲しい点
■真因遡及分析:
どこまで掘り下げることができるか?
方向性
目指すべき企業・事業の方向性
☆本事例で意識して欲しい点
■方向性:
事業の方向性と組織・人事の方向性の2つの視点(階層)で考えたい
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
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【平成 22 年事例Ⅰ(与件文)
】
A社は、主に砂糖・油・小麦粉などの食品原材料を取り扱う一次問屋として事業を拡大
してきた。現在、地方都市にある本社を中心に、国内 11 カ所の事業所ネットワークを通し
て、常温で保存できる食品原材料の供給を行っている。A社の資本金は 8,000 万円、近年
の年商はおよそ 170 億円で、経常利益は年によって多少ぶれがあるものの2~3億円と、
ここしばらく増収増益傾向で推移している。A社の売上高に占める割合が最も大きな品目
は砂糖である。砂糖業界に限ると、業界の企業規模は相対的に小さく、取引している二次
問屋が 1,000 軒を超えるA社は国内でトップクラスに位置づけられる。
社員数は 125 人で、
定年を目前にしたあるいは定年延長した社員の割合が高く、40~50 歳代の社員が少ないた
めに、高齢の社員が退職した後、中心となるのは 30 歳代である。
代表取締役のA社社長は、大学卒業後8年の銀行勤務を経てA社に入社した。首都圏の
支店に配属され、東北、甲信越地域を中心に営業を担当した。40 歳の時、父から引き継ぎ
社長に就任した。先代は、すでに相談役に勇退している。
伝統的に砂糖商社の商売は、生産者と売り手の取引を円滑に進めることで手数料を得る
商売で、東京・大阪・名古屋などを拠点に、そこから代理店に対して商品を流通させてい
た。30 年ほど前まで食品原材料商社は、相場が下がれば買い取って、上がれば売るという
タイミングを計ることが重要で、それが一次問屋の役割であり、それさえうまく運んでい
れば商売は安泰であった。しかし、現在ではそうしたビジネス・スタイルは一変している。
従来は、二次・三次問屋のオーナー同士とのつきあいを通じて作られた人的ネットワー
クが重要で、地区ごとに「A社共栄会」といった親睦組織を設けて、年2回の温泉旅行を
実施するなどオーナー同土のつながりを深めていた。A社のこうしたネットワークが磐石
で大規模であったことが、業界で優位性を確保することができた要因の1つであった。し
かし、食品原材料業界も顧客の価格志向が強くなり、ドライな感覚でビジネスをする顧客
が多くなってきた。さらに、配送の頻度や便宜性など先方の細かな要求を充足することが
求められるようになってきた。加えて、砂糖業界での企業間競争も激しくなっている。か
つては、ナショナル・ブランドの大手食品メーカーが大手商社の領域であった。しかし、
近年、大手商社が参入することのなかった中堅規模の食品メーカー市場にも大手商社が参
入するようになってきた。大手商社は物流機能を充実させ、これまで培ってきた二次・三
次問屋とのネットワークを強化すると同時に、末端の顧客まで直接攻めるようになってき
た。A社でも首都圏の大規模市場におよそ 10 億円を投資して、支店と近隣の倉庫を統合し
た「倉庫兼物流センター兼支店」を構えた。
A社はまた、近年、地方の有力店との連携を強化している。というのも、地方の有力店
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
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の経営が厳しさを増し、そうした取引先から救済を求められているからである。後継者問
題で廃業に追い込まれたり、あるいは客のビジネスの進化についていけず機能不足に陥っ
ているなどの問題を抱える有力店の友好的買収である。結果的に、こうした動きによって
物流拠点を革新して効率性を高め、取引先だけでなく地元の末端顧客にとっても利益をも
たらしている。A社が救済のために買収した二次問屋には、トップマネジャーこそA社か
ら転籍させるが、そこで雇用されている従業員は、それまでと同じ条件で雇用することに
している。
こうした経営環境の変化の中にあっても、A社は、長年にわたって伝統的な家族主義的
経営を掲げて年功序列型の給与体系を適用してきた。食品原材料を取り扱う商売に往々に
して見られることであるが、ある程度の商圏さえ持っていれば、あまりあくせくしなくと
もきちんと売り上げがあがってきたからである。しかし、取引先の倒産や転廃業が頻発す
る中で、ある程度新陳代謝を促していかないと存続すら危ういという不安があって、わず
かながらではあるが成果主義的要素を取り入れた。もっとも、月額の生活給部分は年功序
列を守り、ボーナスの部分に成果を反映させるといった程度のものである。
他方、A社のもうひとつの動きは、先代がスタートさせた砂糖の自社加工の強化である。
砂糖や小麦粉の仕入れルートの強みを活かして、事業領域を広げようという考えである。
現社長の代になってからも、増員、さらなる設備の導入など経営資源を投入している。大
手製糖メーカーが年間 100 万本以下では対応しないようなスティックシュガーや粉糖など
の事業で、中小喫茶店チェーンなどをターゲットに 10 万本程度の少量でも対応するといっ
たニッチな市場を狙った事業である。大手メーカーではリスクが高くコスト面でも合わな
いことから、以前は全国に中小加工場が事業展開していたが、衛生基準や品質を確保する
ためにユーザー側が自ら設備や管理を充実させざるを得なかった。そこに、A社がビジネ
スチャンスを見いだして新規事業として取り組んだのである。現在、この新規事業の売り
上げは5%を占めている。
変化が激しく厳しい経営環境の中で、A社は商社である以上、基本的にはどのような商
材でも扱うことを前提にしている。しかし、主力事業として食品原材料供給を中心におく
のは、食品は市場から消えることはないという考えからである。その一方で、A社では売
り上げを伸ばしていくために、食品原材料以外の商材を取り扱っていくことを真剣に検討
し始めているのも事実である。
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
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【演習①】解説
企業概要と事例別の特徴
LEC 2次試験対策 事例整理シート
企業概要
事例別の特徴
業種:食品原材料 1 次問屋(卸売業)
国内拠点:11 ヶ所
資本金:8,000 万円
取引のある二次問屋:1,000 軒
年商:170 億円(経常利益 2~3 億円)
、増収 人事構成:高齢社員が多く、将来 30 歳代が中
増益
心
従業員:125 人
人事制度:年功序列型、一部成果主義的要素
☆解答ポイント
■企業概要:
・業種:取扱商品や商品特性の観点を把握しておくとなお良い。
・年商:利益は黒字化しているのか(収益性)、売上と利益の増減は?(成長性)、従業
員一人当たりの売上高規模は妥当か?(生産性)などを確認し数値面からの経営
課題を意識する必要がある。
・従業員:従業員全体に占める非正規社員(パート、アルバイトなど)の割合や雇用形
態の多様化の程度も意識する必要がある。
■事例別の特徴:
・組織構造:与件文に組織図の明示がない場合、どのような組織形態なのか意識したい。
・組織運営:意思決定の仕組み、権限委譲の程度、社長のリーダーシップなども意識で
きるとなお良い。
・組織文化:与件文には明示されていないが事例Ⅰ攻略のポイントでもあり、しっかり
と掴んで置きたい。「SWOT」の弱みとして記述しても良い。
・人事制度:人事構成は重要なポイントである。
「企業概要」の従業員で記述しても良い。
また、人事制度の問題点は、SWOTの弱みで記述しても良い。
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
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【演習②】解説
SWOT
S(強み)
O(機会)
①国内トップクラスの規模
①顧客からの配送頻度、便宜性などの
細かな要求
②二次・三次問屋との(人的)ネットワーク
②顧客からの原材料加工に伴う衛生・
③砂糖や小麦粉の仕入ルート(代理店)
④常温保存「倉庫兼物流センター兼支店」の保有
品質確保のための設備・管理代替ニ
⑤自社加工に必要な設備や管理ノウハウの保有
ーズ
⑥二次問屋の友好的買収による物流面での革新
③廃業の危機や機能不足に陥っている
地方有力店(二次問屋)からの救済
要請
W(弱み・問題点)
T(脅威)
①差別化できにくい商材
①取引先の倒産や転廃業
②従業員の高齢化と年齢のアンバランス
②取引先の価格志向の強まり
③年功序列中心の給与体系(一部成果主義)
③大手商社の中規模食品メーカー市場
への参入、末端顧客への浸透
④保守的な組織文化
⑤新陳代謝のない組織体制・取引構造(顧客構成)
☆解答ポイント
■SWOT:
・内部環境分析(強みと弱み):
過去の強みが現在の弱みになっている可能性もあり、強みか弱みの両方に記述して
も良い。ただし、今後の事業展開に活用できる強み(=コア・コンピタンス)はしっ
かりと抽出したい。
・外部環境分析(機会と脅威):
内部環境と同様、機会は脅威に、脅威は機会とも捉えることができる。無理にどち
らかに記述するのではなく併記して置くと良い。
事例Ⅰでは機会を見つけ難い場合が多く、一見して脅威と感じても見方を変えるこ
とで機会と捉えることもあるため要注意である。
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
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真因遡及分析
W(弱み・問題点)の真因遡及分析
①取扱商材がコモディティであり、顧客環境・競合環境の変化に対し、従来のビジネスモ
デルでは適合できなくなっている。
②長年の安定経営により、高齢社員を中心に保守的な組織文化が形成され、環境変化に対
応しにくくなっている。
☆解答ポイント
■真因遡及分析
上記の書き方の他、抽出した弱みから「なぜ、なぜ」を繰り返しブレイクダウンするこ
とで「真因」を掴む方法もある。
(例)
従来型のビジネス・スタイルでは適合できない
→顧客ニーズが変化している
→これまでの組織体制、取引構造を変えられない
→高齢社員を中心に保守的な組織文化が形成されている
→競合が激化している
→差別化できにくい商材である
→取扱商材がコモディティである
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
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方向性
目指すべき企業・事業の方向性
①従来の代理店志向型卸売業から顧客志向型卸売業へと事業改革を行う
②企業買収による組織体制の強化や人事システムの適正化を図る
☆解答ポイント
■目指すべき企業・事業の方向性
①事業の方向性:
SWOT分析で抽出した「強み」と「機会」の組み合わせを基本として、事業ドメイン
(だれに、なにを、どのように)の視点で捉えるとイメージしやすい。この事業ドメイン
により、真因遡及分析で抽出された問題点や課題が解決できている必要がある。
本事例では、企業概要で記述した「業種」や取扱商品の特性も意識できていると事業ド
メインがより明確になるはずである。
②組織・人事の方向性:
事業ドメインに連動した組織体制や人事システムの方向性を考えることがポイントであ
る。全社戦略(事業戦略)から組織・人事戦略につながるイメージである。この方向性が
そのまま設問の題意であったり、解答の記述の方向性になることが多い。
本事例では、買収した地方有力店も含めた「A社グループ」の視点で組織体制や人事シ
ステムを見直していくイメージが欲しい。
■事例のテーマ
最後に本事例のテーマを考えてみましょう。事例のテーマ(キャッチフレーズ)は事業
の方向性に近いかもしれません。10~20 字程度で表現できると良いと思います。事例のテ
ーマを意識することで解答全体をストーリー化しやすく、一貫性のある記述となります。
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
第4回
複写・頒布を禁じます
事例Ⅱ
事例整理シートを活用してみる!(方向性の立案)
【演習①】
平成 22 年事例Ⅱの与件文から経営理念、企業概要と事例別の特徴を掴む
経営理念
経営理念
☆記述上の注意
■経営理念:与件文に明示されている場合は必ず抽出し、戦略の方向性のヒントとするこ
と。与件文ではカギカッコで明示されていることが多い。
企業概要と事例別の特徴
企業概要
事例別の特徴
☆記述上の注意
■企業概要:事例企業に対し適切な提案をする上で把握しておかなければならない重要な
与件情報である。素直に企業規模、従業員数(従業員構成)、業種・業態などの概要を、
バイアスをかけずに抽出し、記入する。
■事例別の特徴:事例Ⅱでは、マーケティングミックス(品揃え戦略、プロモーション戦
略、チャネル戦略・店舗設備戦略)の実行の有無、競合企業の戦略を中心に記入すると
良い。問題点はW(弱み・問題点)でも抽出するが、重複しても構わない。
☆本事例で意識して欲しい点
■企業概要:
どのような店舗展開をしているか?
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■事例別の特徴:
ターゲットとしている顧客層は?
どのようなサービスを実施しているか?
【演習②】
平成 22 年事例Ⅱの与件文からSWOT、事業の方向性・事例テーマを掴む
SWOT
S(強み)
O(機会)
W(弱み・問題点)
T(脅威)
☆本事例で意識して欲しい点
■SWOT:
強みと機会はしっかりと抽出したい
本事例では、過去の弱みについても抽出する
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真因遡及分析
W(弱み・問題点)の真因遡及分析
目指すべき企業・事業の方向性
方向性
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【平成 22 年事例Ⅱ(与件文)
】
B社は、地方都市であるI県Y市とその周辺地域に8店舗を展開する食品スーパーマー
ケットである。資本金 3,000 万円、年商は 65 億円である。現在の従業員数はパート、アル
バイトを含めて 250 名である。B社の創業は 1914 年(大正3年)、現社長の曽祖父が乾物屋
を開業し、やがて野菜、鮮魚、精肉など、取扱商品の品揃えを充実させ、食品全般を商う
食品スーパーへと発展した。その後、B社の経営は同族間で代々引き継がれ、1990 年まで
に6店舗を擁する中堅スーパーとなった。
その間、I県全体に大きく展開する地元の大型スーパーや全国規模の大手スーパーなど
との価格競争に巻き込まれ、多店舗展開がコスト増につながるようになり、次第に利益率
の低下を招き、1995 年度には大幅な赤字となってしまった。また、従業員の能力や成果も
十分に評価されず、職場の士気にも影響を及ぼしていた。その熾烈な競争環境にさらされ
ていたその年に、現社長が父親からB社の経営を引き継ぐことになった。
現社長は、早速B社の経営再建に着手し、徹底した組織内部の制度改革や環境の改善、
取引先の見直しなどを行った。まず、同族経営にありがちな肥大化した取締役陣に対して、
身内とのあつれきを覚悟で退任を要求し、経営陣のスリム化を図った。また、パートを含
めた従業員に対しては、その能力を尊重した透明性のある昇給制度を導入し、給与体系も
見直した。さらに、優秀なパート従業員に対しては、正社員への登用制度を作り、社員と
区別なく能力を評価した。
顧客とのトラブル対応については、各売り場責任者と一緒に基本的ガイドラインを作成
し、それに沿って各売り場責任者に顧客対応の意思決定を任せた。また、各売り場に毎月
予算を与え、売り場ごとのイベントを考えてもらうようにした。このことで各売り場に活
気が溢れ、従業員の結束が強くなった。さらに現場の従業員から発信されるつぶやきやア
イデアは積極的に取り入れ、それは、いつでも現社長と直接メールでコミュニケーション
が取れるような関係を構築することで可能となっている。従業員を大切にすることによっ
て、従業員からB社が愛される関係を築いてきた。
さらに、創業当時からの長い付き合いのある仕入先も含めて、今までの人間関係の視点
ではなく顧客視点に立ち、現在の仕入先の精査を行い、その再構築を図った。
曽祖父の代より、100 年近く地元で生かされてきたB社であるからこそ、現社長は「経営
の原点は、地元への感謝から」という経営哲学を持っていた。B社は、まず地元の中高年
女性に注目し、売り場づくり、品揃えを工夫した。さらに、パートを含む従業員も地元の
中高年女性を積極的に採用した。
同時に、現社長は高齢者の単身世帯への宅配サービスを始めたが、ただ単に注文の品を
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
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届けるだけではなく、高齢者の不安、不便さの悩みを解決するために、B社にできること
は何でも引き受け、御用聞きのサービスもするようにした。高齢者の単身世帯への訪問は、
「安否確認」という別の役割を果たすことにもなった。このようなサービスを通じて、B
社はさらに地元に深く根付いていくようになった。
こうした経営努力によって、B社は単年度ごとに少しずつ収支のバランスが改善される
ようになった。現社長が経営を受け継いでから 2005 年までに2店舗を増やし、安定した利
益を確保できるようになった。
さらに、標準化された顧客対応ではなく、 B社だからできる顧客対応を考えた。前社長
の代より既に導入していた、買物 100 円で1ポイント(1ポイントは1円)付与する、
「Bポ
イントカード」の機能を拡大して、顧客との絆づくりを強化した。
現社長はもともとエコ活動に関心を持ち、使用済みペットボトル(廃ペット)やプラスチ
ック容器などを自主回収して、業者への売却益を地元自治体に寄付していた。この売却益
の収支報告は、B社のホームページ上に公開されている。さらに、地元自治体に協力して、
B社の各店舗の入口近くに資源ゴミの集積所を無償で設置し、地元の顧客もこれを利用で
きるようにした。
もともとY市の郊外は畑の多い地域であった。これまで生ゴミは畑や庭に埋めたり、焼
却されることが多かったが、高齢化による農業世帯の減少と都市化の進展により、家庭で
処理できない生ゴミが急に増えてきた。一方、行政コストは削減され、Y市や I県下の多
くの市町村では専用のゴミ袋を有償で市民に購入してもらう方式で、ゴミの回収の有料化
が開始された。
現社長は、生ゴミのリサイクルに着目した。生ゴミを顧客から無料で引き取って堆肥化
し、契約農家に肥料として提供し、有機野菜を生産してもらうという、生産から消費を循
環するシステムを考案した。手始めに旗艦店で生ゴミを処理・堆肥化する機械を購入し、
それを店頭の資源ゴミの集積所の隣に設置した。他の店舗では従業員が生ゴミを受け取り、
回収して旗艦店まで運ぶこととした。堆肥は契約農家に無償で提供され、農家が栽培する
有機野菜を店頭で販売した。
顧客の生ゴミの持ち込みに対して、現社長は新たに「グリーンポイント」という制度を
考案し、そのポイントを地元自治体に還元することにした。生ゴミを回収するごとに、2
ポイント (1ポイントは1円)「グリーンポイント」が発生し、この「グリーンポイント」
はB社の店舗のある地元自治体への寄付となり、緑化事業と公園整備に使われる。
旗艦店での「グリーンポイント」の集計は、顧客が生ゴミを持ち込むときに自分の「B
ポイントカード」を生ゴミ処理機横の「ポイント集計機」に差し込み、処理機の秤に生ゴ
ミを置くとポイントが表示され、生ゴミ投入口が開くようになっている。処理機の置いて
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LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
複写・頒布を禁じます
いない店舗では、
「ポイント集計機」だけ設置され、従業員に渡す時に「ポイント集計機」
にカードを差し込むことになる。ちなみに、生ゴミの処理能力の問題もあり、ゴミの持ち
込みは「Bポイントカード」1枚につき、1日1回に制限している。
現社長は、さらにB社でレジ袋の有料化を行い、顧客から集めたその代金(原価の2円)
も「グリーンポイント」として蓄積し、これも自治体への寄付としている。この「グリー
ンポイント」の寄付報告は、廃ペットと同様に、B社のホームページ上に公開されている。
また、マイバッグを持って、レジ袋を辞退する顧客に対しては、
「Bポイントカード」に
買物のポイント以外に2ポイントを還元している。レジ袋の辞退率は年々増加し、70%を
超えるまでになった。
37
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【演習①】解説
経営理念
経営理念
「経営の原点は、地元への感謝から」という経営哲学
☆解答ポイント
■経営理念:
・今後の戦略の方向性のヒント「地元密着」というキーワードが浮かんできたらO.K!
企業概要と事例別の特徴
企業概要
事例別の特徴
顧客:地元の中高年女性、単身高齢者
品揃え:有機野菜、乾物、鮮魚、精肉など
資本金:3,000 万円
価格:記載なし
年商:65 億円
チャネル:Y市と周辺地域に8店舗、宅配
従業員数:250 名(パート・アルバイト含む) サービス
サービス:御用聞き
創業:1914 年(大正3年)
プロモーション:ホームページ、イベント
店舗数:8店舗(Y市とその周辺地域)
業種:食品スーパー
☆解答ポイント
■企業概要
・創業:現社長は4代目であり、経営再建などのB社の沿革も把握しているとなお良い。
・店舗数:競合他店、地域における規模感も把握して欲しい。
■事例別の特徴
・顧客:事例Ⅱの大きなポイントとなる。与件文には複数のターゲットとなる顧客層が存
在する。また、どのような市場細分化変数を使ってターゲットを絞り込むかでも顧客層の
見え方が変わってくる。
・マーケティングミックス:各要素を把握しているかを確認する。
・競合:地元の大型スーパー、全国規模の大手スーパーの戦略も把握して欲しい。
・その他:与件文から本事例の企業はサービス業の要素もあると捉えた方もいるであろう。
その場合は、サービスマーケティングの3つの切り口(エクスターナル、インターナル、
インタラクティブ)で事例企業の特徴を把握できるとなお良い。
38
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【演習②】解説
S(強み)
O(機会)
①透明性のある人事制度
①不安、不便さの悩みをもつ単身高齢者
②急増する家庭で処理できない生ゴミ
③有償のゴミ袋によるゴミ回収の有料化
②現社長の従業員を大切にする姿勢
③地元との根強い関係性
④顧客との絆作りを強化した「Bポイント
カード」の存在
⑤生産から消費の循環システム(有機野菜)
⑥グリーンポイントによる地域貢献の仕組
み
⑦70%を超えるマイバッグを持参する顧客
W(弱み・問題点)
T(脅威)
*現在の弱み・問題点は記載なし。
①地元の大型スーパーと大手スーパーとの熾
<過去の弱み・問題点>
烈な競争
①1995 年度に大幅な赤字となった。
②職場の士気が低下していた。
☆解答ポイント
■SWOT
・内部環境分析(強みと弱み)
:
本ケースでは現在における弱み・問題点の記載はない。ただし、現社長就任前は大幅
な赤字に転落していたことから、多くの問題点を抱えていたことがわかる。SWOT分
析は現在の状況を把握するためのツールであるが、過去の記述を通して、事例企業の背
景にある企業文化や特徴を伺い知ることが出来るかもしれない。過去のことを記述しな
ければならないわけではないが、それを考えることの意義はある。この演習を通して与
件文が「現在」と「過去」のどちらを指しているのか、時系列を意識して欲しい。
抽出したB社の強みから、コア・コンピタンスは何か、常にしっかりと意識できるよ
うにして欲しい。
・外部環境分析(機会と脅威)
:
B社の強みを活かして、ターゲット顧客のニーズに対応していくことが重要である。
脅威で抽出した競合他社の戦略と真逆の方向がB社が取るべき戦略となる可能性が高い。
39
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真因遡及分析
W(弱み・問題点)の真因遡及分析
<過去の弱み・問題点の真因遡及>
①
同族経営で順調に成長してきたため、環境変化に適応できなかった。
② 人間関係視点の仕入先だったため、価格面や品揃え面に不備があった。
③ 価格競争に巻き込まれ、多店舗展開がコスト増につながり、利益率の低下を招いた。
④ 従業員の能力や成果も十分に評価されていなかった。
☆解答ポイント
■真因遡及分析
本ケースでは演習の意味で過去の弱みの真因遡及を行っている。真因遡及のスキルを高
めるには、与件文を読みながら、常に「それはなぜか」と自問自答する習慣をつけると良
い。過去問では環境の変化によって、ターゲットとマーケティングミックスのミスフィッ
トが生じ始めていることや、機動的な対応をとれていないなど、
「環境変化」を中心として
真因遡及すると発想しやすいケースが多い。
方向性
目指すべき企業・事業の方向性
① ストアロイヤルティ向上による大手スーパーとの価格競争回避の実現
② 顧客の囲い込みによる売上高の維持向上
☆解答ポイント
■目指すべき企業・事業の方向性
SWOT分析で抽出した「強み」と「機会」の組み合わせから、事業ドメイン(だれに、
なにを、どのように)の視点で捉えても良い。また、小売店であればストアコンセプトと
捉えることもできる。
解答例では、
「ストアロイヤルティ」、
「大手との競争回避」
、
「顧客の囲い込み」といった
キーワードから、
「経営理念」も意識した方向性となっている。
■事例テーマ
最後に本事例のテーマを考えてみましょう。
40
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第5回
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事例Ⅲ
事例整理シートを活用してみる!(方向性の立案)
【演習①】
平成 22 年事例Ⅲの与件文(後掲)から企業概要と事例別の特徴を掴む
企業概要と事例別の特徴
企業概要
事例別の特徴
☆記述上の注意
■企業概要:事例企業に対し適切な提案をする上で把握しておかなければならない重要な
与件情報である。素直に企業規模、従業員数(従業員構成)、業種・業態などの概要を、
バイアスをかけずに抽出し、記入する。
■事例別の特徴:事例Ⅲでは、事業戦略、生産形態と生産機能の流れ、工程編成などを把
握することが重要であり、解法の大きなポイントとなる。
☆本事例で意識して欲しい点
■企業概要:
業界内でのC社の役割(ポジション)は?
どのような製品を生産しているのか?
■事例別の特徴:
どのような生産形態をとっているか?
どのような工程があるのか?
41
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【演習②】
H22 年事例Ⅲの与件文からSWOT、問題点の真因、事業の方向性を掴む
SWOT
S(強み)
O(機会)
W(弱み・問題点)
T(脅威)
☆本事例で意識して欲しい点
■SWOT:
強みと機会はしっかりと抽出したい
42
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真因遡及分析
W(弱み・問題点)の真因遡及分析
☆本事例で意識して欲しい点
■真因遡及分析:
どこまで掘り下げることができるか?
方向性
目指すべき企業・事業の方向性
☆本事例で意識して欲しい点
■方向性:
事業の方向性と生産・技術戦略の方向性の2つの視点で考えたい
43
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【平成 22 年事例Ⅲ(与件文)
】
【C社の概要】
C社は資本金 9,000 万円、従業員 125 名、年間売上高約 24 億円で、完成車メーカーを頂
点とする自動車部品業界では2次部品メーカーである。C社の組織には、総務および経理
機能を担当する総務部、金属プレス加工を行う金属プレス部、樹脂成形加工の樹脂成形部、
設備メンテナンスおよび樹脂成形用・金属プレス用金型製作の生産技術部、そして製品品
質の全社的管理を担当する品質保証部がある。製品開発や営業を専任する部門はなく、新
規営業開拓は社長自ら担当し、受注後の開発・設計、日常の受注などの業務は、金属プレ
ス部および樹脂成形部がそれぞれ担当している。
現社長の父親が創業し、家電製品の金属プレス加工部品の生産からC社は出発した。現
社長が生産部門の役員となってから、加工技術の向上を目指したプレス加工技能者の育成、
加工品質向上のためのプレス金型の内製化、そして設備の改良・改善によるコストダウン
を図るなど、社内改革を実施してきた。さらに、ISO9001 の要求事項に従った品質マネジメ
ントシステムを構築して品質保証の標準化を、そして ISO14001 の要求事項に従った環境マ
ネジメントシステムを構築して環境管理の標準化をそれぞれ達成している。このようなC
社の活動は取引先の家電メーカーからも高い信頼を得て、樹脂金型の製作技術を含む樹脂
成形加工技術の供与を受け、家電部品事業は拡大した。
ところが、家電製品の生産が国内から海外に移転し、それに伴って部品も現地調達化さ
れ、C社の受注が激減した時期がある。現社長は、家電業界の海外生産移転を早くから予
測し、将来の事業の方向性を探っていた。ちょうどその時期に、それまで取引していた家
電メーカーの幹部から、自動車部品メーカーX社の紹介を受けた。その際、X社からは、
金属プレス加工および樹脂成形加工の両部門を有していること、それらの金型が内製化さ
れていること、そして生産設備の改良・改善技術を有していることなどが評価された。こ
れをきっかけとして、さらに社内技術力の向上を図り、自動車業界での新規受注を計画し、
時間をかけて自動車部品メーカーにC社を転換させた。現在も家電部品の受注はあるが、
ごくわずかになっている。
家電部品に代わり、現在の主な生産品目は自動車の駆動制御系部品および電子制御系電
子部品に使われる金属プレス加工品と樹脂成形加工品であり、1次部品メーカー2社 (X
社およびY社)から受注、生産、納品している。 X社とY社は異なった国内完成車メーカ
ーの系列にある。X社からは駆動制御系部品を構成する金属プレス加工品と、電子制御系
電子部品の樹脂成形加工品の受注を、そしてY社からは電子制御系電子部品の樹脂成形加
工品と金属プレス加工品の受注を得ている。C社の売り上げの構成は、X社約 40%、Y社
約 30%、その他約 30%(金型受注販売 15%、家電・その他 15%)となっている。
44
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C社の近年の業績は、国内自動車生産台数の停滞、海外工場での部品現地調達化などの
国内完成車メーカーの動向に影響されて、受注量の減少傾向が続いている。また、ハイブ
リッド車、電気自動車の普及によって、金属プレス部品である駆動制御系部品の需要が減
少する恐れもある。
【取引先からの協力要請による事業計画】
現在、取引先である1次部品メーカー2社からそれぞれ新たな生産協力などを迫られて
いる。
1つはY社から生産設備および工程の移管計画である。この移管計画は、Y社と協力し
て生産リードタイムを短縮すること、そしてコストダウンを図ることの2つを目的にした
計画である。これまでC社で樹脂成形加工および金属プレス加工を行い別々に納品し、Y
社で組み立てをしていた電子部品の生産工程を見直し、Y社に代わってC社内で組立工程
までも行えるようにするものである。この組立工程は、これまで「金属プレス部品の前処理」
⇒「樹脂成形部品への装着」⇒「接着」⇒「検査」の4工程で、それぞれ専用設備にオペレータ
ーが付いて行われ、加工工数が多く、しかも高度な技術を要する組立工程である。この移
管計画についての協議では、Y社から以下の内容を提示されている。
①
早期に品質を安定させて量産化ができるように、Y社から生産技術者を派遣し、組立
工程の技術指導を行う。
②
組立後の部品納入単価は、従来のY社での製造原価の 15%削減を見込む。
③
生産移管の目的を達成するために、両社間で生産管理に関する情報を共有する。
この移管計画で最大の問題は、Y社から提示されている厳しい契約単価である。以前か
らこの部品加工時の材料歩留まりが悪いことも指摘されており、現状の生産方法を続ける
だけではC社が十分な利益を確保するのは難しい状況にある。Y社とC社では、この移管
計画を機に、製品設計変更なども含むVE提案を完成車メーカーに対して行うことも検討
している。
もう1つは、X社からの中国進出の要請である。X社はこれまで海外生産を行ってこな
かったが、中国国内での生産拡大を狙う完成車メーカーから中国進出の要請があった。そ
こで生産される部品にC社の加工品が使われ、加えて中国国内では得にくい金型技術が高
く評価され、X社とともに中国進出をしようというものである。すでにC社も中国沿海地
域に工場用地を確保し、X社の駆動制御系製品の組立工場に隣接して、C社が金属プレス
加工工場と金型工場を建設し金属プレス部品をX社の組立工場に供給する計画である。資
金面では金融機関の協力が得られることになり一定のめどが付いているが、さらに具体的
計画立案のためにX社と協議を進めている。
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【演習①】解説
企業概要と事例別の特徴
企業概要
資本金:9,000 万円、従業員 125 名、
年商:年間売上高約 24 億円
業種:自動車部品業界での 2 次部品メーカ
ー
生産品目:
X社向け:駆動制御系部品用金属プレス
加工品、電子制御系電子部品の樹脂成形
加工品
Y社向け:電子制御系電子部品の樹脂成
形加工品、金属プレス加工品
売上構成:X社約 40%、Y社約 30%、
金型受注販売 15%、家電他 15%
組織:総務部、金属プレス部、樹脂成形部、
生産技術部、品質保証部
事例別の特徴
生産形態:受注生産
(1 次部品メーカー2 社から受注、生産、納
品)
Y社:生産設備および工程の移管計画
組立工程:
「金属プレス部品の前処理」⇒
「樹脂成形部品への装着」⇒「接着」⇒
「検査」
それぞれ専用設備にオペレーター、
加工工数が多い、高度な技術が必要
X社:中国進出計画
工場用地:中国沿海地域にX社の駆動制御系
製品の組立工場に隣接
☆解答ポイント
■企業概要:
・業種:完成品メーカー、1次部品メーカーとの取引構造を意識する必要がある。
・生産品目:取引先別の品目、品目別に生産工程の流れなども意識したい。
・売上構成:主要取引先の依存度がどの程度か、特定の取引先に売上が集中していない
かを確認して欲しい。
・組織:生産基本機能(受注→設計→調達→作業→出荷)を踏まえ、C社の事業展開と
マッチしているかを意識して欲しい。
■事例別の特徴:
・生産形態:生産品目別に生産形態をしっかりと捉えて欲しい。
・工程編成:見えにくい場合はフローチャートにすると良い。
46
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【演習②】解説
SWOT
S(強み)
O(機会)
①プレス加工技能者の育成(加工技術向上) ①家電製品生産が海外移転し部品も現地調
達化
②プレス金型の内製化(加工品質向上)
②現在もわずかだが家電部品の受注はある
③設備の改良・改善(コストダウン)
③ハイブリッド車、電気自動車の普及
④QMS(ISO9001)構築で品質保証標準化 ④Y社から生産設備および工程の移管計画
・目的:生産リードタイムの短縮、コストダ
達成、EMS(ISO14001)構築で環境管
ウン
理標準化達成
・Y社から生産技術者派遣、組立工程の技術
⑤時間をかけて自動車部品メーカーに転換
⑥X社の評価ポイント
指導
・移管目的達成のため両社で生産管理情報共
・金属プレス・樹脂成形加工の両部門を有
有
・中国国内では得にくい金型技術が評価
・共同で完成車メーカー向けVE提案検討
⑤X社とともに中国進出する計画
・金属プレス加工工場と金型工場建設、金属
プレス部品をX社組立工場に供給
・資金面:金融機関の協力が得られる
W(弱み・問題点)
T(脅威)
①製品開発・営業を専任する部門がない
①国内完成車メーカーの動向に影響される
②近年の業績は受注量の減少傾向
・国内自動車生産台数の停滞
する
・金型が内製化されている
・生産設備の改良・改善技術を有す
③樹脂成形・金属プレスの加工品を別々に ・海外工場での部品現地調達化
②駆動制御系部品の需要が減少する恐れ
納品
④部品加工時の材料歩留まりが悪い
③Y社からの移管計画
(現状の生産方法で十分な利益確保は困 ・厳しい契約単価(Y社製造原価の 15%削減)
・早期に品質安定化と量産化
難)
☆解答ポイント
■SWOT:
・内部環境分析(強みと弱み):
過去の強みが現在の弱みになっている可能性もあり、強みか弱みの両方に記述して
も良い。ただし、今後の事業展開に活用できる強み(=コア・コンピタンス)はしっ
かりと抽出したい。
・外部環境分析(機会と脅威):
内部環境と同様、機会は脅威に、脅威は機会とも捉えることができる。無理にどち
らかに記述するのではなく併記して置くと良い。
47
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真因遡及分析
W(弱み・問題点)の真因遡及分析
①受注量の減少(駆動制御系部品の需要減少リスク)→新規取引先開拓が必要(⇔営業を
専任する部門が無い)
・国内自動車生産台数の停滞+エコカー普及→工程移管
・海外工場での部品現地調達化→海外進出が必要
②部品加工時の材料歩留まりが悪い→現状の生産方法に非効率な部分がある→部品設計変
更が必要(⇔開発・設計を専任する部門が無い)
・金属板から部品用切抜・型抜の際の無駄が多い→X社用Y社用が混在→共通化の推進
・プラスチックの射出成形等→樹脂充填冷却時の不良・廃材コスト
☆解答ポイント
■真因遡及分析
事例Ⅲの特徴として、与件文に問題点や課題が明示されていることが多い。つまり、い
かに整理するかがポイントと言える。上記のように、抽出した弱みから「なぜ、なぜ」を
繰り返しブレイクダウンすることで「真因」が掴みやすい。
方向性
目指すべき企業・事業の方向性
①X社・Y社他完成車メーカー系列の1次部品メーカーに金型・金属プレス・樹脂成形・
組立を横展開(国内だけでなく海外現地も)
・海外現地の家電メーカーの現地調達
・ハイブリッド車・電気自動車普及に対応した電子部品
②販路開拓の体制強化、開発設計の体制強化(VE提案等)
、組立含む一貫生産体制強化
☆解答ポイント
■目指すべき企業・事業の方向性
SWOT分析で抽出した「強み」と「機会」の組み合わせを基本として、事業ドメイン
(だれに、なにを、どのように)の視点で捉えるとイメージしやすい。本事例では、2
次部品メーカーからどのようなポジションを目指すかという視点でも考えたい。
■事例のテーマ
最後に本事例のテーマを考えてみましょう。
48
LEC 中小企業診断士 2次ベーシック講座テキスト
第6回
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事例Ⅳ
事例整理シートを活用してみる!(方向性の立案)
【演習①】
平成 22 年事例Ⅳの与件文と財務諸表から企業概要と事例別の特徴を掴む
企業概要と事例別の特徴
企業概要
事例別の特徴
☆記述上の注意
■企業概要:事例企業に対し適切な提案をする上で把握しておかなければならない重要な
与件情報である。素直に企業規模、従業員数、業種・業態などの概要を、バイアスをか
けずに抽出し、記入する。特に事例Ⅳでは、業種・業態を意識することが重要である。
■事例別の特徴:B/S・P/Lから定量的情報に着目して勘定科目の変化を把握する。
事例によって、変化の度合いを比率で比べた方が良い場合と、差額で比べた方が良い場
合がある。その際、B/Sであれば、まず流動資産、固定資産、流動負債、純資産など
大枠を把握する。もちろん、棚卸資産などピンポイントで気になる勘定科目があれば記
載しておく。その他、定性的情報に着目して、与件文中で気になった箇所など記載して
も良い。
(例えば、人・物・金の切り口)
☆本事例で意識して欲しい点
■企業概要:
主要取引先との関係はどのように変化するのか?
■事例別の特徴:
定量的情報を中心に、事例企業の大枠をつかむ。
49
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【演習②】
平成 22 年事例Ⅳの与件文からSWOT、事業の方向性・事例テーマを掴む
SWOT
S(強み)
O(機会)
W(弱み・問題点)
T(脅威)
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真因遡及分析
W(弱み・問題点)の真因遡及分析
方向性
目指すべき企業・事業の方向性
51
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複写・頒布を禁じます
【平成 22 年事例Ⅳ(与件文)
】
D社は地方都市に本社をおく、資本金 2.5 億円、総資産約 37 億円、売上高約 48 億円、
従業員 79 人の電子部品のメーカーである。D社はインダクタ(コイル)をはじめとした電子
部品を製造している。工場は本社の近くの工業団地に位置し、本社との密接な連携と、顧
客の要求に対する迅速な対応はD社の強みのひとつでもある。D社は積極的に技術開発と
設備投資を行うことによって、製品の小型化・高性能化と安定した品質を実現し、顧客で
ある大手メーカーからの信頼を得てきた。そのため、受注は安定的で収益も高く、獲得し
た利益を内部留保として、これを設備投資に振り向けて成長してきた。
情報機器を生産している大手メーカーZ社は、D社の主要な顧客であり、Z社向けの部
品Qは、D社の売り上げの多くを占めている。D社では部品Qの長期的な受注増を予想し
ており、現在の生産能力には余裕がある。一方で、価格競争力の観点から平成 20 年度まで
に、遊休資産の売却等全社的に大規模なリストラクチャリングを断行した。
しかしながら、Z社の最終製品の価格下落にともなって、Z社から部品Qの納入価格の
大幅な引き下げを要求されている。D社の取締役会では、この要求にいかに対応すべきか
が議論されているが、売り上げの多くをZ社に依存しているだけに問題は深刻である。し
かし、すでに述べたように大規模なリストラクチャリングを行ったので、さらなる固定費
の削減は望めない状況にある。また、生産技術部からは、現状の設備では大幅な変動費の
削減は困難であるとの報告があった。
平成 21 年度のD社の財務諸表及び同業他社(業界中位)の財務諸表は次のとおりである。
以下の問題に答えよ。なお、計算の結果は小数点第3位を四捨五入せよ。
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貸
借
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対
照
表
(単位:百万円)
D
資
流
産
動
の
資
現
社
同業他社
部
産
金
D
負
1,969
1,341 流
債
動
の
負
社
同業他社
部
債
1,547
1,005
等
701
461
支払手形・買掛金
711
541
受取手形・売掛金
615
429
短 期 借 入 金
615
371
28
その他流動負債
221
93
832
913
有
価
証
券
71
棚
卸
資
産
451
その他流動資産
351 固
定
負
債
131
72
長 期 借 入 金
729
836
1,687
1,517
その他固定負債
103
77
地
359
383
負
2,379
1,918
建物・機械装置
922
557
純 資 産 の 部
金
250
200
523 利 益 準 備 金
62
50
別 途 積 立 金
121
17
繰越利益剰余金
844
673
純 資 産 合 計
1,277
940
負債・純資産合計
3,656
2,858
固
定
資
土
産
その他有形固定資産
7
投資有価証券
399
資
産
合
計
3,656
54 資
2,858
(単位:百万円)
D
減価償却累計額
社
同業他社
468
451
53
債
本
合
計
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損
益
計
算
複写・頒布を禁じます
書
(単位:百万円)
D
売
同業他社
高
4,799
3,675
価
4,116
3,160
売 上 総 利 益
683
515
販売費・一般管理費
443
394
営
益
240
121
営 業 外 収 益
62
44
( 5)
( 3)
88
103
(69)
(61)
売
上
社
上
業
原
利
(うち、受取利息)
営 業 外 費 用
(うち、支払利息)
経
常
利
益
214
62
特
別
利
益
22
18
特
別
損
失
150
45
税引前当期純利益
86
35
法
等
34
14
当 期 純 利 益
52
21
人
税
(単位:人)
D
従
業
員
数
社
同業他社
79
68
54
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<MEMO>
55
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【演習①】解説
企業概要と事例別の特徴
事例別の特徴
企業概要
①資本金 2.5 億円、総資産約 37 億円、売上 (定量面)※同業他社比
高約 48 億円、従業員 79 人の電子部品メ
①売上高
:130%
ーカ
②販売管理費 :112%
②積極的な技術開発と設備投資により、製 ③流動資産
:146%
品の小型化・高性能化と安定した品質を ④固定資産
:111%
⑤流動負債
:153%
実現し、高収益企業となっている
③主要顧客Z社向けの部品Qが売り上げの ⑥純資産
多くを占めている
:135%
(定性面)
①人:工場と本社が連携し、顧客要求に対し
て迅速な対応をする
②人:品質・コスト削減できる生産技術力が
ある
③物:品質面で他社より有利な製品を生産
④物:生産能力に余力がある(稼働率が低い)
設備を保有している
⑤金:内部留保(自己資金)で設備投資して
いる
⑥同業他社(黒字企業)平均と比較する
☆解答ポイント
■企業概要:
・業種:事例Ⅳにおいても製造業、小売業、サービス業、卸売業など業種を意識する。
■事例別の特徴:
・定量面:この段階では大枠を把握すれば良い。
・人:基本的に生産性の論点であるが、人件費であれば収益性の論点となる。
・物:製品品質であれば収益性、設備稼働であれば効率性の論点となる。
・金:資金運用の論点である。
この演習では設問文を掲載していないが、本事例では第4問で問われる。
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【演習②】解説
S(強み)
O(機会)
①工場が本社と密接な連携
①Z社最終製品の価格下落にともなうZ社か
②顧客の要求に対する迅速な対応
ら部品Qの納入価格の大幅引き下げの要求
③積極的に技術開発と設備投資を行うこと
によって、製品の小型化・高性能化と安
定した品質を実現できる生産技術力
④顧客である大手メーカーからの信頼
⑤受注は安定的で収益も高く、獲得した利
益を内部留保として、これを設備投資に
振り向けて成長してきた
⑥価格競争力の観点から、遊休資産の売却
等全社的に大規模なリストラクチャリン
グを断行して固定費を削減した
⑦生産能力に余裕あり、受注増に対応可能
W(弱み・問題点)
T(脅威)
①現状設備は稼働率が低く、生産量が増え ①Z社製品の価格動向に部品納入価格が影響
てもコスト削減効果を得ることが困難
を受ける
②大規模なリストラクチャリングを行った
ので、さらなる固定費の削減は望めない
③内部留保の運用が設備主体であった
④1社依存、1部品依存型の事業構造にな
っており、価格引き下げの要求を請けざ
るを得ない
☆解答ポイント
■SWOT:
・内部環境分析(強みと弱み):
強みか弱みかの判断に迷う場合(本事例では有形固定資産関連)、強み・弱みの両方
に記述して良い。また、抽出した強み・弱みの記述に加えて、数値面からの根拠とし
て経営指標や勘定科目をカッコ書きなどで加えても良い。
・外部環境分析(機会と脅威):
内部環境分析や計算問題に目が行きがちだが、本ケースを通して外部環境分析を行
う重要性を認識して欲しい。機会と脅威の判断は非常に悩ましく重要な論点である。
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真因遡及分析
W(弱み・問題点)の真因遡及分析
①設備投資計画が脆弱で、現状設備は稼働率が低く、コスト低減効果もない
→設備投資することが目的となっていた
→このため、遊休資産も多く保有していた
→品質に自信(競争力)があったため、価格引き下げ要求を想定しておらず、生産量拡大
だけを主眼に設備投資を計画していた
☆解答ポイント
■真因遡及分析
真因遡及分析の内容が、本試験の第1問の経営分析の記述欄の内容とリンクすることを
意識できれば良い。
方向性
目指すべき企業・事業の方向性
①Z社からの要求に応えながら利益を獲得できる体制の確立
Z社からの部品Qの納入価格引き下げ要求に対応しつつ、利益を獲得できる製造原価
の低減方法を検討していく。
☆解答ポイント
■目指すべき企業・事業の方向性
本事例では、設問を割愛しているが、与件文だけからもD社のおおよその方向性をつか
めるようにしたい。
■事例テーマ
最後に本事例のテーマを考えてみましょう。
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