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博士論文審査報告書

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博士論文審査報告書
早稲田大学大学院理工学研究科
博士論文審査報告書
論
文
題
目
Existence theorem for some initial boundary value
problems of nonlinear partial differential equations
arising from hydrodynamics
(流体力学に現れる幾つかの非線形偏微分方程式系の
初期値・境界値問題に対する解の存在について)
申
氏
名
専攻・研究指導
(課程内のみ)
山口
Norikazu
数理科学専攻
請
者
範和
Yamaguchi
偏微分方程式研究
2006 年 2 月
粘性非圧縮流体の運動は流体力学の基礎方程式系である Navier-Stokes の方程式系によって記述され
る。Navier-Stokes 方程式系に対する弱解の一意性、滑らかな解の大域存在は現代数学の中心的な問題の
一つである。後者の問題に関しては初期速度に制限を加えた場合にはその一意存在が知られている。一
方、現実の流れを数学の立場から解明する場合、考察する方程式系が Navier-Stokes 方程式系のみでは不
十分な場合がある。例えば、流体が温度場や電磁場からの影響を受ける場合、あるいは流体が非 Newton
的である場合などはその運動を Navier-Stokes 方程式系のみで説明する事は出来ない。こうした複雑な
現象を数学的に捉えるには Navier-Stokes 方程式系を拡張・修正し、修正された方程式系を調べる必要
がある。当然、適当な修正や拡張により扱う方程式系は複雑さを増すが、現実世界への流体への応用と
して拡張・修正された方程式系に対しても Navier-Stokes 方程式系において得られている事と同程度の
結論を得ておくことは十分に意義のあることと考える。本研究では電磁場との相互作用を考えた磁気流
体方程式系と流体の内部粒子との相互作用を考えたマイクロポーラ流体の問題に関する考察が行われ、
小さい滑らかな時間大域解の存在が研究された。
本論文は全 4 章で構成されている。以下、第 1 章から順に各章の研究概要とその評価を述べる。
第 1 章においては第 2 章以降で利用する関数空間、記号の導入が行われ、更に粘性非圧縮流体の数学解
析において標準的な道具であるベクトル場の Helmholtz 分解、Bogovskiı̆の補題などが紹介されている。
第 2 章では水銀などの流体金属やプラズマの運動を記述する以下の磁気流体方程式系に関する考察が
行われている。

∂v/∂t − ∆v + (v · ∇)v + ∇π + B × curl B = 0,
x ∈ Ω, t > 0,






∂B/∂t + curl curl B − curl(v × B) = 0,
x ∈ Ω, t > 0,


(MHD)
div v = 0, div B = 0,
x ∈ Ω, t > 0,




v = 0, curl B × n = 0, n · B = 0,
x ∈ ∂Ω, t > 0,




v(x, 0) = v 0 , B(x, 0) = B 0 ,
x ∈ Ω.
ここで Ω ⊂ R3 は滑らかな境界 ∂Ω を伴う外部領域、v = (v1 , v2 , v3 ) は速度場、π は圧力、B = (B1 , B2 , B3 )
は磁場を表わす; n は境界 ∂Ω における単位外法線; v 0 , B 0 はそれぞれ速度場と磁場に対して与えられた
初期状態。(MHD) において磁場に対する境界条件は完全導体壁の条件と呼ばれるもので、物理的には障
害物 R3 \ Ω の表面が完全導体からなることを定式化した条件である。完全導体壁条件を伴う問題に対し
ては数学的な研究はあまりされてこなかった。磁場に対する境界条件は本研究の特徴の一つであり、こ
の境界条件の違いは解の構成において、従来よりも強い条件を必要とする。
(MHD) に関する主定理は次で与えられる。
定理 1. (v 0 , B 0 ) ∈ L3σ (Ω) × L3σ (Ω) とする。このとき、次を満たす正数 ² が存在する: もし kv 0 kL3 (Ω) +
kB 0 kL3 (Ω) < ² ならば (MHD) に対し、時間大域的な強解 (v(t), B(t)) ∈ BC([0, ∞); L3σ (Ω) × L3σ (Ω)) が
唯一つ存在する。更に強解 (v(t), B(t)) は t → ∞ において次を満たす。
³ 1 3´
− +
kv(t)kLq (Ω) + kB(t)kLq (Ω) = o t 2 2q , 3 ≤ q ≤ ∞,
³ 1´
k∇v(t)kL3 (Ω) + k∇B(t)kL3 (Ω) = o t− 2 .
ここで L3σ (Ω) は L3 (Ω) の非圧縮部分を表わす。
定理 1 を証明する為に申請者は (MHD) の線形化問題の解析を行った。定理 1 を示す際に重要なこと
は線形化問題の解によって特徴付けられる半群 e−tA , e−tM のみたす減衰評価である。特に Kato (’84)
の Navier-Stokes 方程式系に対する初期値問題の研究からこれらの半群に対する Lp -Lq 評価を得ること
が定理 1 を示す際の鍵となる。Stokes 半群 e−tA については Iwashita (’89) により既に必要な評価が得
1
られていたので、申請者は e−tM の研究を行った。半群 e−tM の性質を調べるために、申請者は次のレ
ゾルベント問題の解析を行った。
λu − ∆u = f ,
x ∈ Ω,
curl u × n = 0, n · u = 0,
x ∈ ∂Ω.
(RP)
ここで λ は複素パラメータ, f は既知の外力場を表わす。|λ| À 1 の場合はレゾルベント評価が知られて
いるので、|λ| が複素平面上の原点に近い場合が問題となる。特にレゾルベントが |λ| → 0 でどのような
漸近挙動を持つかを調べることが重要である。
(RP) に対する解析手段は外部問題を扱う場合の標準的な切り落としの方法に基づくが、境界条件の
違いにより幾つかの困難を伴う。特に以下の問題の一意性が問題となる。
−∆u = 0,
x ∈ Ω,
curl u × n = 0, n · u = 0,
u(x) = O(|x|−1 ),
x ∈ ∂Ω
∇u(x) = O(|x|−2 ).
解の一意性を示す基本的な方法は境界条件が Dirichlet 条件や Neumann 条件と同様に部分積分法に基づ
くものであるが、部分積分法を用いるだけだと u ≡ 0 は結論できない。そこで申請者は領域の幾何的量
である第 1Betti 数を 0 に制限し、von Wahl において得られていた勾配評価 (’92) を利用することで解の
一意性を示した。このような Betti 数に対する制限は従来の Navier-Stokes 方程式系の研究では登場しな
かった新しい部分である。解の一意性を示すことで、(RP) に対する解作用素の |λ| → 0 での漸近展開を
得た。得られた漸近展開を e−tM の Dunford 積分による表現公式へ当てはめる事で次を得た。
定理 2 (局所エネルギー減衰). R0 を BR0 (0) ⊃ R3 \ Ω なる数として一つ固定し、1 < p < ∞ とする。任
p
意の R > R0 , u0 ∈ {Lσ (Ω) | supp u0 ⊂ BR (0)} に対して次が成立する。
3
ke−tM u0 kW 2,p (Ω∩BR (0)) ≤ Cp,R t− 2 ku0 kLp (Ω) ,
t ≥ 1.
定理 2 と全空間における熱核の評価を切り落としの方法により組み合わせ、次の Lp -Lq 評価を得た。
p
定理 3 (Lp -Lq 評価). (i) 1 ≤ p ≤ q ≤ ∞, p 6= ∞, q 6= 1 とする。このとき任意の B ∈ Lσ (Ω) に対し
て次が成立する。
“
”
ke−tM BkLq (Ω) ≤ Cp,q t
− 32
1
− 1q
p
kBkLp (Ω) ,
t > 0.
(ii) 1 < p ≤ q ≤ 3 とする。このとき任意の B ∈ Lpσ (Ω) に対して次が成立する。
k∇e
−tM
BkLq (Ω) ≤ Cp,q t
− 12 − 32
“
1
− 1q
p
”
kBkLp (Ω) ,
t > 0.
(MHD) を積分方程式系へと書き直し、定理 3 と加藤の逐次近似法を改良した縮小写像の原理を用い
る事で積分方程式系の解を構成する。これにより (MHD) に対する時間局所解の存在と、小さな時間大
域解の存在が結論付けられる。また Wiegner (2000) によって開発された方法を応用することにより、よ
り精密な解の時間に関する減衰評価を得る。
第 3 章では以下のマイクロポーラ流体方程式系の初期値・境界値問題に関する考察が行われている。

∂v/∂t − (ν + χ)∆v + (v · ∇)v + ∇π = χ curl w,
x ∈ Ω, t > 0,






∂w/∂t − γ∆w − (α + β)∇ div w + 2χw + (u · ∇)w = χ curl v,
x ∈ Ω, t > 0,


(MPF)
div v = 0,
x ∈ Ω, t > 0,




v = 0, w = 0,
x ∈ ∂Ω, t > 0,




v(x, 0) = v 0 , w(x, 0) = w0 ,
x ∈ Ω.
2
Ω ⊂ R3 は滑らかな境界を伴う有界領域、v, π はそれぞれ速度場と圧力、w = (w1 , w2 , w3 ) は流体中に
含まれる微小粒子の角速度を表わす。ν, χ, γ, α, β は各種の粘性係数であり、熱力学第 2 法則を満たす要
請から min{ν, χ, γ, α + β + γ} > 0 を仮定する。(MPF) は血液や希薄高分子溶液などの微小構造を持
つ流体の運動を記述するモデルの一つであり、1960 年代後半に Eringen によって提唱された。これまで
(MPF) に関しては領域の有界・非有界を問わずに L2 理論による結果しか得られていない。
(MPF) に対する時間大域解を構成する手段は第 2 章で取られた方法と同じである。X p (Ω) = Lpσ (Ω) ×
Lp (Ω), U = (u, w) とおくとき (MPF) の線形部分に対応する作用素は次で与えられる。
"
#
p
−P ∆
−χ curl
u ∈ W 2,p (Ω) ∩ W 1,p
0 (Ω) ∩ Lσ (Ω),
AU =
U,
−χ curl −γ∆ − (α + β)∇ div +2χ
w ∈ W 2,p (Ω) ∩ W 1,p
0 (Ω).
p
ここで P は Helmholtz 分解と対応する Lp (Ω) から Lσ (Ω) への射影を表わす。まずは Stokes 方程式系や
弾性方程式系に対して得られていた評価からの摂動として −A が X p (Ω) 上で解析半群を生成する事を
示した。更に領域の有界性を利用し λ = 0 がレゾルベント集合へ含まれる事を示した。この事実により
e−tA は指数安定性を持つことが結論される。指数安定性評価と補間不等式を組み合わせ、指数減衰を伴
う Lp -Lq 評価を得た。また、Lp -Lq 評価を応用して指数的に減衰する (MPF) に対する時間大域解の存
在が示された。
第 4 章では前章に続き (MPF) を外部領域において扱い、前章同様に解の局所存在および小さな時間
大域解の存在についての研究が行われている。(MPF) の線形化問題は全空間 R3 においても熱方程式と
同一視することが不可能である為、線形化初期値問題の解に関する解析から出発する必要がある。申請
者はベクトル場の Helmholtz 分解を巧みに用い、線形化初期値問題を非圧縮ベクトル場とスカラーポテ
ンシャルの問題に分ける事で解析を容易にしている。回転 curl による相互作用の残る非圧縮ベクトル場
の問題に対しては Fourier 変換を用い、対応する常微分方程式を得る。熱方程式などの場合とは異なり、
対応する常微分方程式の特性根は極めて複雑なものであるが、高周波域と低周波域においてそれぞれ漸
近展開をすることで線形化初期値問題の解に対する Lp -Lq 評価を得ている。また、全空間における −A
のレゾルベント問題に対しても Helmholtz 分解を巧みに用いた解析が行われ、|λ| → 0 での漸近挙動が
調べられた。
全空間の解析に基づき、外部領域の問題が第 2 章と類似の方法により調べられた。最初に外部領域にお
けるレゾルベント問題が調べられ、e−tA の局所エネルギー減衰評価が得られた。局所エネルギー減衰と
全空間において得られた評価を組み合わせる事で e−tA に対し Lp -Lq 評価が得られた。いったん、Lp -Lq
評価が得られれば積分方程式系を解くことは第 2 章、第 3 章と同様の方法による。
こうして第 3 章、第 4 章では Ω を有界領域、外部領域として (MPF) に対し時間大域的に滑らかな解が
構成された。これまで L2 理論でのみで得られていた事実を Lp 理論へと拡張した点が有意義な点である。
以上述べてきたように、申請者は非圧縮流体の数学解析において極めて精緻な研究を行い多くの価値
ある結果を得ている。また、論文の中で展開されてきた理論、技法は独創性に富み、関連分野の今後の
研究に大きく貢献するものと思われる。よって本論文は博士(理学)の学位論文として十分に価値のあ
るものと認める。
2005 年 12 月
審査員
(主査)早稲田大学教授 理学博士(筑波大学) 柴田 良弘
早稲田大学教授 理学博士(早稲田大学)堤 正義
早稲田大学教授 理学博士(東京大学) 山崎 昌男
3
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