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第3章 上田市情報化の現状と課題

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第3章 上田市情報化の現状と課題
第3章
上田市情報化の現状と課題
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第3章
上田市情報化の現状と課題
3.1 上田市情報化の動向
3.1.1 上田市における情報化への取組
(1)地域情報化の取組
旧上田市を中心とする上田地域における地域情報化への取組は 20 年前にさかのぼり
ます。昭和 61 年 3 月、真に豊かな地域住民生活の実現を目指し、旧上田市、旧丸子町、
旧東部町及び坂城町の 1 市 3 町がテレトピア構想25の地域指定を受けました。その後、
パソコン通信26「猿飛くん」の稼動(昭和 62 年)、マルチメディア情報センター27開設
(平成 7 年)
、ホームページ「上田情報蔵28」開設(平成 7 年)、信州地域デジタルアー
カイブ研究会29発足(平成 8 年)など、国の各種施策と協調する中で、また、地域の情
報通信事業者、関係団体の協力により情報ネットワークや各種の情報化推進施設等の
情報基盤が整備されてきました。
平成 18 年の市町村合併に伴い、新上田市内の全小中学校の情報教育の環境整備と活
用能力の向上を図るため、学校教育の情報化に関する基本方針を決定するとともに、
ネットワーク一元化を実施しました。
上田市ホームページは、市町村合併に合わせ、全面リニューアルするとともに、地
図情報を充実させ、市民の利便性を図ってきました。その後、平成 22 年 3 月には、さ
らに欲しい情報を探しやすく、分かりやすさを目指し、リニューアルを行い、内容の
充実を図っています。また、携帯電話の普及率の増加に合わせ、携帯版上田市ホーム
ページの充実に取り組んでいます。
さらに、平成 23 年 4 月には、突発的な集中豪雨や地震などによる大規模災害時の緊
急情報や安全・安心に関する情報などを配信する、電子メール配信サービスを開始し
ました。
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「テレトピア構想」
旧郵政省の政策。ケーブルテレビ、データ通信等の情報通信メディアを活用して地域の情報化を推進し、地域社会の振興を
図ることを目的とし、指定を受けた地域・団体は財政的支援 、税制の特例措置、補助事業の優先配分等を受けることがで
きる。
「パソコン通信」
ホストコンピュータとパソコンを電話回線で接続し、情報をやり取りするサービス。インターネットが世界中のネットワー
ク接続者同士を結ぶ開かれたネットワークであるのに比べると、パソコン通信は原則として特定の参加者(会員)同士のネ
ットワークで、閉じられたネットワークでのやり取りである。
「マルチメディア情報センター」
上田市の地域情報化拠点施設。主な事業は情報化の推進、マルチメディアの啓発・普及・人材育成、交流の場の提供、地域
文化などの映像等保存・活用・情報発信、デジタル産業の育成、小中学校の情報教育支援等。
「上田情報蔵」
市の各部署で広報や市民グラフなどのために所蔵していた写真をデジタル化及びデータベース化したホームページ。上田地
域データベース 「上田情報蔵」
。
「信州地域デジタルアーカイブ研究会」
市内企業や行政機関、県内企業・教育機関等で構成された団体。文化資産をデジタル情報として保存するなどを目的として
活動している。
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第3章
上田市情報化の現状と課題
(2)行政情報化の取組
旧上田市では昭和 56 年に基幹業務の自庁電算処理を開始し、行政事務効率化に向け
た電算活用の先駆けとなりました。
その後、平成 13 年には国において e-Japan 戦略が策定され、平成 15 年度までに行
政情報化を推進する目標が掲げられたことを受けて、旧上田市でも平成 14 年には住民
基本台帳ネットワーク30の稼動や、庁内LANパソコンの一人 1 台化の完了、個別業務
システムの導入等情報基盤整備を推進してきました。
平成 15 年には、総合行政ネットワーク(LGWAN)31に接続するとともに、庁内
の情報資産の保護や適正処理について総合的、体系的、具体的に取りまとめた情報セ
キュリティポリシー32を策定し、情報管理の強化を図りました。
平成 17 年には、平成 18 年 3 月の市町村合併に向け、業務・システムの最適化も考
慮した電算システム統合基本計画を策定し、システム間連携システム構築や基幹系業
務システム再構築を行い、市町村合併に伴うシステム統合を円滑に実施することがで
きました。
平成 18 年には、電子市役所の実現に向け、庁内全般を把握し部局間の調整や情報化
施策全般を統括するCIO(最高情報責任者)33を設置するとともに、庁内で組織する
情報化推進委員会を組織しました。さらに、地図を使った業務の処理手順を見直し、
全庁的に共有できる統合型GIS34の整備に向けた統合型GIS基本計画を策定しま
した。
平成 19 年には、ICTを活用して事務事業の効率化と行政サービスの充実を図ると
ともに、市民等との協働による地域経営を実現し、地域全体の情報化を推進するため
の指針である上田市情報化基本計画とそのアクションプランを策定しました。
平成 20 年には、業務システムの最適化に向けた基幹系業務システムのオープン化を
完了し、さらに、平成 18 年に策定した統合型GIS基本計画に沿い、平成 20 年から
平成 22 年の 3 カ年で、上田市統合型GISを整備しました。
平成 23 年には、財務会計システムの再構築とともに、平成 24 年 7 月に予定される
住民基本台帳法の一部改正に向けた、住民情報系システムの改修を開始しました。
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「住民基本台帳ネットワーク」
地方公共団体と行政機関で個々の日本国民を特定する情報を共有・利用することを目的として構築され稼働したシステム。
市区町村の住民基本台帳に記録されている国民に 11 桁の住民票コードが割り当てられる。
「総合行政ネットワーク LGWAN」
Local Government Wide Area Network の略。自治体を相互に接続する広域的行政ネットワーク。地方公共団体相互のコミ
ュニケーションの円滑化、情報の共有による情報の高度利用等を図り、各地方公共団体と各省庁及び住民等との間の情報交
換手段確保のための基盤とすることを目的とする。
「情報セキュリティポリシー」
セキュリティ対策基準や個別具体的な実施手順などを明文化した全体の情報セキュリティに関する基本方針のこと。
「CIO(最高情報責任者)」
Chief Information Officer の略。情報システムの全体を統括する責任者。ICTを導入して業務の改革や情報システムの
分析・評価・最適化計画を策定する責任者。各部所間の情報の共有化など、組織内の共同歩調をとるために働く。
「統合型GIS(地理情報システム)」
デジタル化された地図データと、統計データや位置に関する情報を持ったデータを総合的に管理・加工して視覚的に表示す
ることで、高度な分析や迅速な判断を可能にするシステム。
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上田市情報化の現状と課題
3.1.2 情報通信基盤の整備状況
上田地域では、早くから上田ケーブルビジョン(昭和 46 年設立)や丸子テレビ放送(昭
和 51 年設立)により、ケーブルテレビ網が整備され、放送と通信ネットワークの融合35に
伴い、インターネットのブロードバンド化、高速回線サービス、地上放送のデジタル化な
ど、時代の変化に対応して進化してきました。
このように、ケーブルテレビ事業者による情報通信基盤の整備が進み、ブロードバンド
環境の恩恵を受ける市民が増加する一方で、菅平地域などの一部では、採算性の問題から、
民間事業者による光ファイバー網など、高速のインターネット環境の整備が不可能となっ
ていました。
このことから、上田市では、テレビ難視聴地域の解消、高速インターネット環境の充実
による観光、農業等の地域産業においての地域間競争力の強化を図るため、平成 21 年から
平成 22 年にかけ、菅平地域等へケーブルテレビ用の光ケーブル網を整備しました。
現在、ケーブルテレビ網の市域カバー率は、上田ケーブルビジョンが 99.7%、丸子テレ
ビ放送が 99.5%と高く、地域に密着した情報発信局として大きな役割を担っており、市民
の身近な情報源として、地域に深く浸透しています。
ケーブルテレビ網は、利用エリアの拡大に合わせて地域の情報基盤としても有効活用が
図られ、市における行政情報系、教育情報系に関するネットワークも、地域の情報基盤の
特徴を生かしたケーブルテレビ網を活用して構築され、行政の通信手段として有効な成果
を上げています。
そのほか市民の情報通信環境として、有線放送電話と東日本電信電話株式会社(NTT
東日本)によるサービスが行われています。
平成 23 年 12 月末現在、市内の有線放送電話は、行政が運営している真田有線放送、J
A信州うえだが運営している上田有線放送、そして専門農協で運営している川西有線放送
と丸子有線放送があり、全体で約 10,173 世帯が加入しています。
また、武石地域では、有線放送電話からNTTオフトーク通信に移行し、放送業務のみ
を行っています。
有線放送電話は、電話の機能と合わせて地域の身近な情報や災害情報などをお知らせす
る地域密着型の情報通信メディアとして、これまで大きな役割を果たしてきました。イン
ターネットサービスについては、平成 12 年ごろから、ダイアルアップ及びADSLによる
接続も開始しています。
しかし、携帯電話の普及など、近年の情報通信媒体の多様化により、有線放送電話加入
世帯が減少していることから、平成 23 年 3 月に塩田有線放送が廃止しました。NTT東日
本では、アナログ回線による電話のほか、ISDN36(デジタル)回線やADSLを利用し
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「放送と通信ネットワークの融合」
インターネット網のブロードバンド化や放送インフラのデジタル化に伴い、主に通信と放送を連携させたサービスが進展し
たり、通信業界と放送業界の相互参入が進展したりする現象を指す。
「ISDN」
Integrated Services Digital Network の略。電話やFAX、インターネットなどデータ通信を統合して扱うデジタル通信
網。日本ではNTTが「INSネット」の名称でサービスを提供している。
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第3章
上田市情報化の現状と課題
たインターネット接続用回線サービスを市内全域で提供しています。
また、光回線を利用した高速回線サービス(Bフレッツ)の整備が進んでいます。
このように、市全域のほとんどが、ブロードバンド環境とケーブルテレビ網の整備が進
み、ケーブルテレビを利用した行政チャンネル、行政情報と防災情報の提供が可能となり
ました。
今後は、ケーブルテレビ網を活用した行政情報の普及促進を図る必要があります。
上田市公共ネットワーク
― イメージ図 ―
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第3章
上田市情報化の現状と課題
3.1.3 市民等の取組
(1)学校教育における情報化の取組
これまで学校教育の情報推進に向け様々な取組を行ってきましたが、学校での教職
員の情報活用能力の向上、施設・設備の充実やICT関係者以外の「情報検索基礎能
力試験」の受講・受験者の拡大など多くの課題があるため、上田地域全体に情報化時
代に対応できる人材の育成を、大学やNPOとの連携も視野に、今後も継続して推進
していく必要があります。
(2)地域情報の多様な発信と交流のための市民活動の取組
NPOや教育機関で市民活動を支援するサイトの運営や農業と教育の連携活動、地
域SNS等、コミュニティ型のWebサイトによる地域の活性化・デジタルアーカイ
ブ機能を利用した地域文化の伝承などが行われています。
また、地域における「IT利活用」に関して、映像やデジタルアーカイブなどの制
作をはじめとするセミナーを開催している大学などの教育機関や社団法人もあります。
このような取組の中で、デジタル・ディバイドへの対応や地域ニーズの的確な把握、
参加者拡大といった課題があり、あらゆる世代が交流し協働して地域を活性化してい
く必要があります。
(3)協働社会実現に向けた生涯学習支援の取組
NPOでは、学習支援や地域住民の創造活動支援、情報収集講座や自治会役員のた
めのインターネット講座などを実施しています。
また、大学をはじめとする教育機関でもインターネット関連技術に関する各種講座
を開催して生涯学習支援を行っています。
このような取組の中で、人材の育成や受講者の確保、受講後のICT活用の拡大と
いった課題もあり、各種講座の実施、市民協働での活動の拡大、インターネット利用
による行政ホームページなどの活用、新たな受講生の開拓などにより、生涯学習支援
へ取り組んでいく必要があります。
(4)情報通信基盤有効活用に向けた取組
市民の身近な情報源として、ケーブルテレビが重要な役割を担っていますが、混在
した情報の整理や市民ニーズに対応した番組制作などが課題となっています。
また、行政情報の充実、観光情報や交通情報など市民生活に密着した多様な情報発
信、市民参画による番組づくりなどへ取り組んでいく必要があります。
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第3章
上田市情報化の現状と課題
3.2 上田市情報化の課題
上田市情報化の課題を、①市民サービスのための情報化、②行政内部における情報化、
③地域における情報化推進の視点で検討すると、以下のように整理できます。
3.2.1 市民サービスのための情報化
~生活者起点に立った情報化施策の推進~
(1)お待たせしない窓口実現への市民ニーズ
国は、平成 22 年 5 月に策定した「新たな情報通信技術戦略」において、2020 年ま
でに、自宅やオフィス等から行政の申請手続や証明書入手が可能になるワンストッ
プ・サービスの実現に向けた取組を進めています。
上田市では、窓口業務の拡充・集約など組織の見直しとともに、ICTを利用して
窓口に出向くことなく申請や届出手続を行うことのできる電子申請・届出サービスの
導入など、窓口サービスのワンストップ化に向けた取組を行ってきました。
その結果、上田市の県内における「電子申請」の利用率は高く、多くの市民の方に
御利用をいただいています。
しかし、申請・届出業務の多くは、直接窓口に出向き、必要に応じて、更に複数の
窓口を回らなければ完結しない状況となっています。
今後とも、市民サービス向上のためには、効果的な電算化を進めるとともに、窓口
間での業務の流れを見直し、合理化・効率化を継続的に追求していく必要があります。
図表
上田市における電子申請サービスの利用状況
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第3章
上田市情報化の現状と課題
(2)市民の求める情報提供の充実
総務省の「平成 23 年版情報通信白書」によると、平成 22 年度末現在において、国
内のインターネット利用者数は 9,462 万人で、インターネットを重要な情報収集ツー
ルと認識している人が増加し、特に 20 代は 5 年間で 28.8%の増加があったとしていま
す。
また、60.8%の人が、インターネットの趣味・娯楽としての重要性を認識し、新聞を
抜き、テレビに次ぐ地位となっています。
しかし、
「デジタル・ディバイド」は、高齢者、障がい者及び低所得者等を中心に存
在し、さらに、ICTの利用者は、プライバシー保護等ネット利用に不安を感じてい
るなど、ICTの更なる利活用を進めていく上で、「安心・安全の実現」「デジタル・
ディバイド」
「地域における利活用」など課題は依然として存在し、今後とも継続して
対応が必要としています。
さらに、近年の全国的なゲリラ豪雨の発生、東日本大震災など、これまでの想定を
超える社会的問題の発生により、ホームページの防災情報アクセス数が 10 倍以上にな
るなど、市民が迅速な防災情報の提供を求めている状況となっています。
上田市では、旧来の情報発信方法にとらわれず、さまざまな媒体を活用し、
「医療・
保健情報」、
「福祉・家庭情報」
、
「公共施設情報」、
「観光・イベント情報」、
「緊急情報」
など、多くの市民への有効な情報提供の充実を図るため、ホームページのリニューア
ル実施、行政チャンネルの開局、メールの配信を行ってきました。
今後は、さらに、すべての市民への有効な情報提供の充実を図るため、広報、ケー
ブルテレビ、ホームページ及びメール配信システム等のさまざまな媒体を活用した情
報提供の推進を図る必要があります。
図表
上田市ホームページでのメニュー別の訪問割合比較
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第3章
図表
上田市情報化の現状と課題
年代別テレビ、インターネットの情報源としての重要性
図表
趣味・娯楽としての重要性
(出典:総務省
平成 23 年度版情報通信白書)
(3)電子行政サービスへの期待
従来市役所等に出向かなければ行えなかった申請・届出等の行政手続の電子化に対
する期待は高く、申請、入札、図書予約などに係る手続の電子化は、多くの自治体で
実施しています。
総務省の「平成 23 年度版情報通信白書」によると、地方公共団体が扱うオンライン
利用促進対象手続の利用率は平成 21 年度で 36.1%となっており、
毎年上昇しています。
一方、情報化の進展に伴い、コンピュータやネットワーク等を悪用したサイバー犯
罪や、大量の個人情報の漏えいなどが社会問題化しているとともに、ICTを使える
人と使えない人など「影」の部分がクローズアップされてきています。
このことから、セキュリティの強化とともに、情報機器・システム等の操作を簡単
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第3章
上田市情報化の現状と課題
にし、利便性を向上させるなどの施策展開も重要です。
総務省報道資料「平成 21 年度における行政手続オンライン化等の状況」
(出典:総務省
平成 23 年度版情報通信白書)
(4)情報のユニバーサルデザイン37化の実現
近年、人々の価値観や生活スタイルも多様化する中で、インターネットをはじめ情
報通信技術は社会生活、経済活動に必要不可欠なものとして、職場や家庭生活に大き
く影響を及ぼしています。
総務省の「平成 23 年版情報通信白書」によると、平成 22 年末のインターネットの
利用者数は対前年比 54 万人増の 9,462 万人、人口普及率は対前年比 0.2%増の 78.2%
といずれも年々増加しており、インターネットが人々の暮らしに着実に浸透しつつあ
ります。
しかし、インターネットの利用状況には、世代や年収などの属性によって違いが見
られます。特に高齢者や低所得者層での利用率は、前年に比べて伸びてはいるものの、
依然として低い水準にあります
このような状況を踏まえ、上田市のまちづくりの基本理念の一つである「循環と交
流」を実現するためには、市民一人ひとりが多様な情報・知識を入手、共有、発信し、
さまざまな分野で社会参加できる環境整備が求められています。
今後、情報化社会がもたらす「光」と「影」を十分に考慮しながら、年齢、性別、
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「ユニバーサルデザイン」
文化・言語の違い、老若男女といった差異、障害・能力の如何を問わずに利用することができる施設・製品・情報の設計(デ
ザイン)
。原則は、どんな人でも公平に使えること、使う上で自由度が高いこと、使い方が簡単で、すぐに分かること、必
要な情報がすぐに分かること、うっかりミスが危険につながらないこと、身体への負担(弱い力でも使えること)
、接近や
利用するための十分な大きさと空間を確保する、などを満たすこと。
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第3章
上田市情報化の現状と課題
障害の有無、国籍等にかかわらず、多様な人々が安心して生活できるようにするため、
情報のユニバーサルデザイン化の実現に向けた取組が必要です。
(出典:総務省
(出典:総務省
平成 23 年度版情報通信白書)
平成 23 年度版情報通信白書)
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上田市情報化の現状と課題
(5)情報システムにおける防災対策
地方公共団体の多くの業務は、情報システムに依存していることから、災害発生時
において、復旧の長期化や蓄積データの消失などにより業務能力が著しくて低下し、
市民生活に重大な影響を及ぼす危険があるため、日頃から万全な備えが求められてい
ます。
上田市では、災害時の対応として、重要な情報システムのバックアップ対応など業
務継続対応及びホームページ、有線放送及びメール配信システム等による情報提供を
行ってきました。
しかし、平成 23 年 3 月の大震災の発生に伴い、長期にわたってインフラである電力
が不足する事態が発生するなど、広域災害が及ぼすさまざまな影響が現実のものとな
ったことで、官民を問わず防災・災害対策に向けた意識が高まり、業務継続の確保が
重要な課題の一つとなっています。
このことから、上田市では、情報システムへの被災の影響を最小限にとどめ、優先
すべき重要業務の継続・実施を可能とするため、平成 20 年 8 月に総務省が策定した「地
方公共団体におけるICT部門の業務継続計画(BCP38)策定に関するガイドライン」
に基づき、情報システム関係の業務継続計画を策定し、その後、計画に沿った業務継
続対策を段階的に整備することとしています。
3.2.2 行政内部における情報化
~行政経営改革の推進~
(1)庁内システム全体の最適化・効率化
上田市では、汎用コンピュータ39と業務ごとに導入されたクライアント・サーバシス
テム(C/S)の混在による、庁内システム全体の複雑化・肥大化、運用経費の増大
が課題となっていました。
また、システムの導入・再構築時に、業務の見直しや効率化への取組が十分になさ
れていないなどの課題もありました。
そのため、合併に伴う「電算システム統合基本計画」に基づき、汎用コンピュータ
等のレガシーシステム40のオープン化など、業務システムの全体最適化に取り組むとと
もに、業務プロセスの見直しやシステムの評価・検証を行ってきました。
その結果、業務の簡素化、効率化及びシステム導入・運営経費の削減について一定
の効果をあげることができました。
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40
「BCP」
Business Continuity Plan の略。組織における業務継続計画。自然災害等の問題発生時に、最低限の業務を継続する、も
しくは、目標復旧時間内に業務を再開できるようにする目的でつくられる管理策や計画のこと。
「汎用コンピュータ」
基幹業務などに利用される大規模なコンピュータを指す。
「レガシーシステム」
汎用コンピュータやメインフレーム等の古い情報資産のこと。
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第3章
上田市情報化の現状と課題
今後は、クラウドコンピューティング等の新技術の導入も視野に入れながら、個別
業務の最適化のために導入したシステムの業務プロセスの見直しに取り組み、情報シ
ステム全体の最適化をより一層推進し、これまで以上に業務の簡素化・効率化及び業
務コストの削減を図る必要があります。
(2)情報化推進体制の充実強化
庁内システム全体の最適化・効率化を推進するためには、情報システムの開発や導
入、運用、保守及び改修の各場面で検討すべき事項の明確化や実施すべき作業項目の
可視化を行い、改善プロセスの中で培うノウハウを庁内全体で共有していく必要があ
ります。
今後の情報システム運用に当たっては、業務の運用を担当する業務主管課は主体的
に業務改革を推進し、非効率的な業務プロセスを削減・廃止の方向で見直すとともに、
システム運用体制も見直し、各課で類似する運用管理業務の集約化を図り、各業務シ
ステムの運用経費抑制に庁内全体で取り組む必要があります。
(3)行政運営から行政経営への転換
国、地方を通じた厳しい財政状況の中、地方分権一括法の施行や三位一体改革の進
展により、地方自治体は自己決定・自己責任のもとで、地域の特性を生かし分権自立
した「地域経営」への転換が求められています。
上田市では、限られた経営資源を最大限有効に活用し、社会経済情勢の変化に対応
した効率的で効果的かつ透明で公正な市政を推進するため、
「上田市行財政改革大綱」
を策定し、民間の経営理念や経営手法を取り入れ、行政改革を推進することで、従来
の「行政運営」から「行政経営」への転換を図ることとしています。
市民満足度の向上、行政改革を推進するためには、情報化は不可欠であり、電子自
治体の推進やICTを活用したBPR41の推進など、ICTを行政経営の道具として積
極的に利活用することで、さらなる業務プロセスの見直しを推進し、業務の効率化、
省力化、迅速化を図る必要があります。
3.2.3 上田市における地域の情報化
~官民連携による市域全体の情報化推進~
(1)学校教育の情報化と人材育成の強化
情報化の進展に伴い、コンピュータやネットワーク等を悪用したサイバー犯罪や、
大量の個人情報の漏えいなどが社会問題化しているなかで、児童生徒が心豊かな生活
41
「BPR」
Business Process Reengineering の略。顧客満足度の観点から業務プロセスそのものを抜本的に見直し、可視化し、デザ
インしなおすことによって、組織の業務を向上させるための経営手法。限られた資源を有効活用し、組織横断的に全体最適
化を実現するため、ICTの活用が不可欠。
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第3章
上田市情報化の現状と課題
が実現できるよう情報社会に対応した教育が求められています。特に児童生徒がイン
ターネット等を利用し、必要な情報を収集・判断・表現し、情報の発信・伝達をする
ことができる能力を身につけることは、教育上の大きな課題となっています。
また、各教科や総合的な学習の時間など学校教育全体で積極的に情報機器等を活用
していくためには、教員の指導力の向上、指導内容の研究、施設・設備の充実、校内
体制の整備、家庭や地域の協力など多くの課題があり、さらには、ICT化がもたら
す心への影響など、いわゆる「影」の部分へ対応するため情報モラル・ルールの確立
を図ることが必要となっています。
このような状況の中で、上田市教育委員会では、
「上田市教育支援プラン」(平成 21
年 12 月)、
「学校教育の情報化に関する基本方針」(平成 18 年 4 月)及び「基本計画」
(平成 19 年 3 月)に基づき、情報教育担当指導主事の配置、学校ICT支援員の派遣
など推進体制を整備するとともに、研修会の実施、マルチメディア情報センターと連
携した情報の共有化など、総合的に学校教育の情報化に向けた体制を整備してきまし
た。
今後とも、学校教育の情報化に向けて取り組むべき主な施策について体系的に整理
し、計画的・組織的・継続的に推進することとしています。
(2)地域情報化に向けた民間と行政の協働
地域の情報化は、市民生活の利便性・満足度の向上と産業の活性化など、地域づく
り・まちづくりを推進するためには不可欠なものです。
近年の情報技術の急速な発展に柔軟かつ迅速に対応し、効率的に地域情報化を進め
るためには、民間で解決可能な課題は民間が主導的な役割を担い、民間主導ではなか
なか情報化が進まない分野においては行政がその役割を補完して適切な支援を行うな
ど、民間と行政がそれぞれの役割を分担しつつ取り組んでいくことが必要です。
また、市民がICTの活用による便利で豊かな暮らしを実感するためには、一人ひ
とりがICTについて理解を深めるとともに、情報を積極的に利活用できる能力を高
めるため、民間や行政が協働して取り組む必要があります。
(3)情報通信基盤の整備及び利活用
上田市のケーブルテレビ網は、ケーブルテレビ事業者による整備とともに、平成 21
年から平成 22 年に上田市が実施した、菅平地区等への情報通信基盤整備によって、市
域カバー率は 99.7%とほぼ市内全域に普及し、テレビ難視聴地域やブロードバンド・
ゼロ地域の解消等へも活用されています。
平成 23 年 12 月末日現在、上田市全体で 65.1%の世帯がケーブルテレビに加入して
おり、非常に高い値となっています。また、全加入世帯のうち平均 14.3%があわせて
ケーブルインターネットにも加入しています。
ケーブルテレビ網は、利用エリアの拡大に合わせて地域の情報基盤としても有効活
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第3章
上田市情報化の現状と課題
用が図られ、市における行政、教育ネットワークも、ケーブルテレビ網を活用して構
築し、行政の通信手段として有効な成果を上げています。
このように、市全域のほとんどが、ケーブルテレビ網による、ブロードバンド環境
とケーブルテレビを利用した行政チャンネル、行政情報と防災情報の提供が可能とな
りました。
今後は、ケーブルテレビ網を活用した行政情報の普及促進を図る必要があります。
図表
居住地域別ケーブルテレビ及びケーブルインターネット加入率の比較
3.2.4 マルチメディア情報センターの取組と課題
(1)これまでの取組と課題
①
地域に密着した情報化の推進
地域の伝統文化、歴史、産業に関する映像をデジタル化して保存、活用するデジ
タルアーカイブ事業を行い、
「上田らしさ」を情報発信してきました。貴重な文化財
や天然記念物をデジタル記録した「文化財マップ」や「観光マップ」などをひとつ
にまとめた「上田市総合マップ」をはじめ 14 タイトルのコンテンツ42を開発し、デ
42
「コンテンツ」
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第3章
上田市情報化の現状と課題
ジタルミュージアム事業の充実を図り、インターネットを通じて情報発信を行って
います。
また、地域の生きた歴史を記録した市誌や広報についても、行政資料や地域学習
に活用するためデジタル化を進めました。
教育の情報化支援では、市内小中学校間ネットワークの管理を行うほか、小学校
社会科の副読本「わたしたちの上田市」の電子版作成や学校教育におけるICT機
器の活用支援などを行っていますが、小中学校等での活用がまだ十分とは言えず、
教育の情報化に更に取り組む必要があります。
②
マルチメディアの啓発・普及・人材育成
上田萬画大学、デジタルアートグランプリ等を開催し、マルチメディアの普及を
図ってまいりました。中でもデジタルアートグランプリは全国的なコンテストとし
て定着し、市民の中からもデジタル映像などのクリエーターが育っています。
今後は、長期的な視点による人材育成や子どもの多様な個性を引き出す取組を継
続する必要があります。
マルチメディアは、映像や音楽を中心に急速に技術開発が進み、市民生活に深く
浸透しており既に普及の時期は過ぎたといえます。今後は、豊かな社会生活を営む
ための活用に向けた取組が必要となっています。
情報活用に関する初心者・高齢者向けセミナー等は開設以来累計で約 5.5 万人の受
講者があり、市民のICT活用能力の底上げを図ることができました。今後は、地
域企業に対するICT活用支援や障害者の社会参加促進支援など地域情報化支援施
設として担うべき専門的分野を強化し、一般市民向け情報活用セミナーに関しては、
市民団体やボランティアなどの地域情報化支援団体との連携を進める必要がありま
す。
③
デジタルコンテンツ43産業の形成支援等の新産業の育成
新産業の育成については、デジタルアニメーションを中心とした映像産業による
育成に取り組みましたが、大きな成果にはつながりませんでした。しかし、デジタ
ルコンテンツ産業は拡大を続けており、当地域でも更なる新産業の育成に向けて産
学官が連携して取り組む必要があります。
タブレット端末やスマートフォン向けコンテンツ制作に関する専門技術セミナー
等の開催により、関連事業者の関心が高まりつつあります。今後の製造業向けセミ
ナー開催は、受講者である製造業者や個人開発者等のニーズに合わせたテーマに特
化する必要があります。そのためには、受講者ニーズのきめ細かな把握が必要とな
ります。
43
インターネットやケーブルテレビなどの情報サービスにおいて、提供される文書・音声・映像・ゲームソフトなどの個々の
情報のこと。
「デジタルコンテンツ」
デジタルデータで表現された文章、音楽、画像、映像、データベース、またはそれらを組み合わせた情報の集合のこと。
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第3章
④
上田市情報化の現状と課題
交流の場の提供
マルチメディアセンターは平成 7 年の開館以来、パソコン通信局「上田まん中ネ
ット」の運営やインターネットの普及活動により、地域内の若者のネットワーク上
の交流が促進され、大きな役割を果たしました。マルチメディア情報センターの各
支援団体は、支援活動を通じて地域づくり活動の中核団体として成長し活動を続け
ています。今後は各種支援団体、NPO、ボランティア等が連携・横展開を図れる
ような場の提供が必要です。
地域のICT産業振興のための起業支援においては、センター利用者の中からI
CT関連の 7 社が起業しました。今後は、第二世代、第三世代の起業者を発掘する
ため、センター出身企業と起業家の相互交流の場を提供していく必要があります。
(2)情報化の進展に伴う新たな課題
①
情報化社会における「影」の部分の出現
インターネットの急激な普及とともに、コンピュータやネットワーク等を悪用し
たサイバー犯罪、大量の個人情報の漏えい、重要機密情報の流出、インターネット
を使ったフィッシング詐欺44等の犯罪行為及びコンピュータウィルス45の蔓延など、
情報化社会の「影」の部分に対する対策が必要とされています。
そのため、ネットワークセキュリティ、ウィルス対策ソフト46の導入などのセキュ
リティ対策を講じるとともに、情報が氾濫するインターネットから正しい情報を選
択し、活用する能力を高める必要があります。特に次代を担う子どもたちには、情
報モラルの向上と情報活用能力の育成は重要な課題です。
②
情報のグローバル化に伴う地域個性の埋没化
インターネットにより世界中の情報がいながらにして手に入る時代になり、地域
の特色ある情報や取組などの「地域の個性」が発見できにくくなっています。
そこで、地域の特色ある取組を積極的に情報発信し、地域の個性を内外に周知す
る必要があります。
また、地域の貴重な文化遺産や映像をデジタル化して保存するとともに、有効活
用する必要があります。
③
デジタル・ディバイドの顕在化
ICT社会の進展により、情報活用能力の格差が顕在化してきました。パソコン
44
45
46
「フィッシング詐欺」
金融機関などからの正規のメールやWebサイトを装い、暗証番号やクレジットカード番号などを搾取する詐欺。フィッシ
ングの英語表記は「phishing」である。
「コンピュータウィルス」
電子メールやホームページ閲覧などによってコンピュータに侵入する特殊なプログラム。画面表示をでたらめにしたり、無
意味な単語を表示したり、ディスクに保存されているファイルを破壊したりする。
「ウィルス対策ソフト」
コンピュータウィルスの除去やウィルスに感染したファイルを修復し、コンピュータを感染前の状態に回復するソフトウェ
アのこと。
「ワクチンソフト」、
「アンチウイルスソフト」とも呼ばれる。
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第3章
上田市情報化の現状と課題
をはじめ情報端末を操作できる人が普通に入手できる情報を、パソコンの操作がで
きない人は容易に入手できないといった現象です。
今後、ソフト面・ハード面の両面からICT社会の恩恵を各年齢層、各界で享受
するため、デジタル・ディバイド解消のための継続した取組が必要です。
また、ユニバーサルデザイン・アクセシビリティに配慮し、誰もが支障なく社会
参加でき、すべての人が自分の持つ優れた能力を最大限社会で有効活用できる地域
づくりを進める必要があります。
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