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炭鉱メタンガス削減調査(豪州)

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炭鉱メタンガス削減調査(豪州)
平成 23 年度調査報告書
産炭国石炭開発・利用協力事業
産炭国共同基礎調査
炭鉱メタンガス削減調査(豪州)
平成 24 年 3 月
独立法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
(委託先)
川崎重工業株式会社
まえがき
豪州は、世界第 4 位の石炭生産国であると共に世界最大の石炭輸出国である。また、豪州は我
が国にとって最大の石炭サプライヤーである。
石炭は豪州最大の輸出品目であると共に、一次エネルギー供給量の約 40%を占める重要なエネ
ルギー資源で、価格が安いことから発電用燃料の 80%以上は石炭に依存している。その結果、豪
州のエネルギー利用に起因する一人当たりの CO2 排出量は 2009 年には米国を抜いて世界一とな
った。
豪州の Department of Climate Change and Energy Efficiency(DCCEE)によれば、豪州の
2009 年の GHG(温室効果ガス)排出量は 564.5Mt-CO2e で、炭鉱セクターからの排出が 5.6%
(31.8Mt-CO2e)を占める。炭鉱セクターから排出される GHG の 87%(26.2Mt-CO2e)が石炭
生産に伴って排出されるメタンガスで、1990 年の 17.8Mt-CO2e から比べると、19 年間で約 50%
増加している。近年、採炭条件の深部化、複雑化によりメタンガスの排出量は増加しており、採
掘の安全確保のためにもメタンガスを効果的に回収することが望ましい。
現在、採掘時に発生するメタンガスの中、高濃度のメタンガスは炭鉱メタンガス(CMM:Coal
Mine Methane)として回収され、発電利用あるいはフレア設備で燃焼処理されているが、60%
以上は低濃度の通気メタンガス (VAM:Ventilation Air Methane)として大気中に放散されている。
豪州では、2012 年 7 月 1 日から政府の地球温暖化対策として炭素価格制度(Carbon Pricing
Mechanism、いわゆる炭素税)が導入され、炭鉱会社も課税対象となっていることから、回収し
た CMM を有効に利用することや、VAM を効率的に回収・利用することは、採掘の安全確保や温
室効果ガスの削減だけでなく、炭鉱経営改善の面からも非常に重要である。このため、VAM 排出
源である坑内掘り炭鉱を運営する炭鉱会社に CMM 発電設備や VAM 処理システムの導入を検討
する機運が見られる。
我が国にとっても、石炭は一次エネルギー供給量の 21%(2009 年度)を占める重要なエネル
ギー資源であることから、豪州の石炭開発の障害となる環境対策や安全対策等の課題を克服し、
石炭価格を安定化させることは、我が国のエネルギー安全保障を確保する上で非常に重要である。
本調査は、日豪両国が協力し、炭鉱から排出されるメタンガスの経済的な削減を達成すること
を目的としており、メタンガスの削減方法として有力な VAM 処理システムの、安全規則の厳し
い豪州炭鉱における適用可能性と経済性を検討・評価することを目標としている。
本調査に当たっては、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)をはじめ、諸機関、企
業の協力をいただいた。厚く御礼申し上げます。
平成 24 年 3 月
独立行政法人 新エネルギー産業技術総合開発機構
i
目次
1.はじめに
1.1 調査の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.2 調査の目的と概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
2.豪州の石炭生産量と炭鉱のメタンガス排出量
2.1 石炭生産状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
2.2 メタンガス排出量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
3.豪州主要炭鉱での CMM/VAM 排出/利用状況及び問題点の把握
3.1 VAM の特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
3.2 CMM/VAM の排出量と回収量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
3.3 CMM/VAM 処理の現状と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
17
3.4 VAM 処理上の問題点と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
28
3.5 VAM 処理設備及び運転に係る安全基準 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
4.豪州の炭素価格制度
4.1 炭素価格制度の導入に至った背景と経緯
4.2 炭素価格制度の概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
30
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
4.3 石炭産業に対する炭素価格制度の影響
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
5.1 VAM 処理技術の分類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
37
5.2 各種 VAM 処理技術の概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
38
5.3 各種 VAM 処理技術の比較
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
6.1 システムの概要と性能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
6.2 システムの安全性評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
66
5.VAM 処理技術
6.VAM ガスタービンシステム
7.VAM ガスタービンシステムの経済性評価と市場規模
7.1 VAM ガスタービンシステムの経済性評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
68
7.2 VAM ガスタービンシステムの市場規模 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
69
8.結び ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ii
71
要約
豪州は世界第 4 位の石炭生産国であり、かつ世界最大の石炭輸出国である。豪州にとって、石
炭は最大の輸出品目であるとともに重要なエネルギー資源であり、豪州の経済的繁栄とエネルギ
ー安全保障に多大な貢献をしてきた。
一方で、豪州は人口一人当たりの GHG(温室効果ガス)排出量が世界最大国の一つで、炭鉱セク
ターからの排出量が豪州排出量の 5.3%を占め、その約 90%は採炭に伴って排出されるメタンガ
スである。
豪州においては 2012 年 7 月 1 日から炭素税導入が予定されており、石炭価格の上昇や高ガス
炭鉱の閉山、新規開発炭鉱数の減少等が予想されている。国内石炭需要の 60%以上を豪州に依存
する我が国にとって、豪州の石炭開発の障害となる環境対策や安全対策等の課題を克服し、石炭
価格を安定化させることは、我が国のエネルギー安全保障を確保する上で非常に重要である。
本 FS の調査においては、豪州炭鉱における CMM/VAM の排出状況、及び回収・利用状況を調
査することにより、回収・利用上の問題と課題を明らかにした。また、現在策定作業中の VAM 利
用に関する安全基準に関する情報を収集した。これらの情報に基づいて、我が国で開発された
“VAM 焚きガスタービンを用いた VAM 処理システム”の安全性と経済性を検討・評価し、安全
規則の厳しい豪州炭鉱における適用可能性を検討した。その結果、現状では VAM 処理システム
としては蓄熱燃焼式酸化装置(TFRR)が先行しており、実用化が始まりつつあるが、我が国の
システムも蓄熱燃焼式酸化装置には無い特長を有しており、メンテナンス費を含めたコスト面で
のハードルがクリアできれば 2020 年には 135 台、2030 年には 285 台程度の需要が見込め、坑内
掘り炭鉱排出 VAM 量を 2020 年には 5.0%、2030 年には 8.3%程度削減できる可能性のあること
が判明した。
なお、豪州炭鉱においては、ガス抜きで得られた CMM の処理にフレア設備が多く用いられて
おり、VAM 処理においても設備が比較的簡素で処理コストが安い蓄熱燃焼式酸化装置が好まれ
ている。
しかしながら、
燃焼や酸化による CMM/VAM の処理は GHG を削減することはできても、
GHG 排出量が多い石炭火力発電の置き換えにはならないため、環境面では好ましくない。
VAM ガスタービンシステムは VAM を酸化処理すると同時に発電もできる“環境に優しいシス
テム”であり、豪州炭鉱に導入されることを期待したい。
iii
Summary
Australia is the world’s 4th largest producer of coal and the world’s leading coal exporter. Coal is the
biggest export commodity as well as a principal energy source for Australia, and it has made substantial
contributions to the economic prosperity and energy security of Australia.
On the other hand, Australia’s per capita GHG emissions are among the highest in the world, and the
coal sector is responsible for 5.3% of them. Fugitive methane emissions from coal mining account for
about 90%of emissions from the coal sector.
In Australia, as carbon tax is introduced in July 1, 2012, a coal price increase, closure of gassy coal
mines, and a decrease in the number of newly developed coal mines etc. are expected. Since Japan depends
on Australia for not less than 60% of its domestic coal demand, it is very important to overcome the issues
concerning environmental and safety measures, which are likely to constitute barriers to the coal
development of Australia, and to stabilize the coal price in order to secure the energy security of our
country.
The purpose of this FS is to clarify the problems and issues regarding the recovery and use of
CMM/VAM emissions from the coal mines in Australia, and collect information on the safety standards for
the use of VAM, which is under development at present. Based on this information, the safety and
economic efficiency of the “VAM destruction system using VAM-fueled gas turbine”, developed in Japan
are evaluated, and the applicability of the system to the coal mines in Australia, where strict safety rules are
enforced, is discussed. As a result, it was noted that, though under the present situation the thermal oxidizer
has taken a lead as a VAM destruction technology and is beginning to be put into commercialization, our
system has an advantageous characteristic over the thermal oxidizer, and demand can be expected 135 units
in 2020 and 285 units in 2030 if the cost issue including maintenance cost is addressed successfully. It was
also found that it is possible to reduce VAM emissions from the underground coal mines by around 5.0% in
2020 and 8.3% in 2030 by using our technology.
Meanwhile, coal mines in Australia often apply a gas flare to destroy drained CMM and prefer a thermal
oxidizer for VAM destruction due to a relatively simple and low cost. Though these technologies may
contribute to the reduction of GHG emissions, they are not preferable in terms of their environmental
implications because they can’t be an alternative to coal-fired power generation, which emits a large
amount of GHG.
The VAM Gas Turbine System is an “environmentally friendly” system which can oxidize
VAM and generate electricity as well. Therefore, we would like to expect this system to be
applied for Australian coal mines.
iv
1.はじめに
1.1 調査の背景
豪州は世界第 4 位の石炭生産国であると共に世界最大の石炭輸出国であり、日本は世界最大
の石炭輸入国である(図 1.1 参照)
。
図 1.1 世界の石炭輸出国と輸入国(出所:IEA Coal Information 2010)
2008-09 年(豪州会計年度)における豪州の石炭輸出量は原料炭と一般炭を合わせて 263.4
百万トンで、その内 104.8 百万トン(39.8%)は日本向けである(図 1.2 参照)
。一方、日本
は 2010 年度には 186.64 百万トン(原料炭と一般炭の合計)を輸入しており、その 62.3%は
豪州からである(図 1.3 参照)
。石炭は我が国の一次エネルギー供給量の 21%(2009 年度)
を占める重要なエネルギー資源であることから、豪州の石炭開発の障害となる環境対策や安全
対策等の課題を克服することは、我が国のエネルギーセキュリティを確保する上で非常に重要
である。
図 1.2 豪州炭の輸出先(ACA : Australian Coal Association 公表データより作成)
1
図 1.3 日本の石炭輸入先(2010 年度)
(出所:エネルギー白書 2011)
豪州において石炭は一次エネルギー供給量の約 40%を占め、発電用燃料の 80%以上は安価
な石炭に依存している。その結果、豪州のエネルギー利用に起因する一人当たりの CO2 排出
量は 2009 年に米国を抜いて世界一となっている。
このような状況にあって、豪州政府は 2011 年 7 月に地球温暖化対策の一環として Carbon
Pricing Mechanism:炭素価格制度(いわゆる炭素税)の導入を公表した。炭素価格制度関連
法案は 2011 年 11 月に議会で可決され、
2012 年 7 月 1 日から温室効果ガスの排出が多い約 500
社を対象に、排出量に応じて炭素税が課されることとなった。約 500 社の中には炭鉱企業も入
っており、炭鉱から排出される温室効果ガス(メタンガス)の処理・削減は炭鉱経営にとって
今後大きな課題になると予想される。また、石炭の大部分を豪州からの輸入に頼っている日本
にとっても、炭素価格制度導入により石炭価格が上昇した場合、我が国のエネルギー政策に大
きな影響を及ぼすことが懸念される。
1.2 調査の目的と概要
本調査は、日豪両国が協力して炭鉱から排出されるメタンガスの経済的な削減を達成するこ
とを目的としており、安全規則が厳しい豪州炭鉱において、メタンガスの削減方法として有力
で我が国の独自技術である“VAM 焚きガスタービンを用いた VAM 処理システム”の適用可
能性と経済性を検討・評価することを目標としている。
この目標を達成するため、本調査においては豪州主要炭鉱における CMM/VAM の発生・利
用状況と利用上の課題の調査、及び CMM/VAM 利用・処理システムの設備や運転に係る安全
ガイドラインを調査すると共に、世界で運転中・開発中の VAM 処理システムの性能・稼働状
況等を調査する。
2
2.豪州の石炭生産量と炭鉱のメタンガス排出量
2.1 石炭生産状況
豪州における石炭生産は、ニューサウスウェールズ州(NSW)、クイーンズランド州(QLD)、
ヴィクトリア州(VIC)
、西オーストラリア州(WA)、南オーストラリア州(SA)及びタスマ
ニア州(TAS)の各州で行われているが、操業中の炭鉱は NSW と QLD に集中している(図
2.1 参照)
。
図 2.1 豪州における操業中の炭鉱:2008 年 12 月時点
(出所:Australian Energy Resource Assessment 2010)
豪州の石炭生産量は 1990-91 年の 254 百万トンから 2009-10 年の 538 百万トンまで順調に
増加してきたが、2010-11 年は QLD 州における大洪水の影響を受けて 475 百万トンまで減少
した。豪州炭の 80%以上は NSW と QLD の二つの州で生産されており(図 2.2 参照)
、一般
的な商用炭である Black Coal(瀝青炭及び無煙炭)に限れば、95%以上がこれら二つの州で
生産されている。
3
図 2.2 豪州における州別石炭生産量の推移(出所:Resources and Energy Statistics 2011)
炭鉱数は 2009 年時点で 126 ヶ所、内訳は坑内掘りが 42 ヶ所、露天掘りが 84 ヶ所である。
石炭種別で炭鉱数を分けると、Black Coal を産出する炭鉱数は 119 ヶ所(露天掘り 77 ヶ所、
坑内掘り 42 ヶ所)で、Blown Coal(褐炭)を産出する炭鉱数は 7 カ所(全て露天掘り)であ
る。
2009 年の石炭総生産量 533.8 百万トンは 1990 年の約 2.2 倍で、この間の露天掘り炭鉱の生
産量は 2.3 倍に増加している。今後も石炭生産量は増加を続け、2020 年には 818.5 百万トン
(1990 年比 3.4 倍)
、2030 年には 935.3 百万トン(1990 年比 3.9 倍)に達すると予測されて
おり、坑内掘り炭鉱の生産割合が徐々に増加する見込みである (図 2.3 参照)。
図 2.3 豪州の石炭生産量の推移と今後の予測(出所:Fugitive Emissions Projections 2010)
4
2.2 メタンガス排出量
2009 年に豪州の炭鉱から排出されたメタンガス(採鉱後 CMM 及び廃鉱メタンガスを含む)
は 27.7Mt-CO2e で、これは 2009 年における豪州全体の温室効果ガス排出量:564.5Mt- CO2e
(LULUCF:Land Use, Land-Use Change and Forestry;土地利用、土地利用変化及び林業
分野を除く)の約 5%に相当する(DCCEE:Department of Climate Change and Energy
Efficiency ,2011)
。
1990 年から 2009 年にかけて、露天掘り炭鉱からのメタンガス排出量は 3.4Mt-CO2e から
9.1 Mt-CO2e へと約 2.7 倍に増加しており、露天掘り炭鉱の石炭生産量の増加(約 2.6 倍)と
ほぼ一致している。これに対して、坑内掘り炭鉱からのメタンガス排出量の増加は 14.4
Mt-CO2e から 17.1 Mt-CO2e へと 19%増加しただけで、生産量の増加(約 1.9 倍)に比べて
増加量が非常に低く抑えられている。その結果、1990 年から 2009 年にかけての石炭総生産量
は約 2.2 倍に増加しているが、炭鉱からのメタンガス排出量は 52%の増加に留まっている(図
2.4 参照)
。
図 2.4 炭鉱のメタンガス排出量の推移(出所:DCCEE)
坑内掘り炭鉱からのメタンガス排出量の増加率が低く抑えられているのは、低ガス炭鉱の開
発が進められると共に、CMM の回収と利用、及びフレアリングによる CMM 処理が進んだ結
果であり、これにより坑内掘り石炭生産 1 トン当たりのメタンガス発生量は、1990 年の
0.27t-CO2e から 2009 年には 0.17 t-CO2e へと約 37%減少した(図 2.5 参照)。
今後は坑内掘り炭鉱の生産量が増え、それに伴ってメタンガスの排出量も増加することが予
測されているが(図 2.6 参照)
、高ガス炭鉱(石炭1トン当たりのガス湧出量が 10m3 以上の炭
鉱)が減少することや CMM/VAM 処理技術の進歩により、坑内掘り石炭生産 1 トン当たりの
メタンガス発生量は現状から大きく変化はしないと予測されている(図 2.5 参照)。
5
図 2.5
坑内掘り石炭生産 1 トン当たりのメタンガス排出量の推移と今後の予測(Fugitive
Emissions Projections 2010 のデータより作成)
図 2.6 炭鉱からのメタンガス排出量の推移と今後の予測(出所:Fugitive Emissions
Projections 2010 )
6
3.豪州炭鉱での CMM/VAM 排出/利用状況及び問題点の把握
通気は坑内での健全な作業環境を整えるために地下に送り込まれた空気であり、炭層から
湧出するメタン等の有害物質を無害となるレベルまで薄める役割も果たしている。外から取
り込まれた新鮮な空気は坑内の坑道や採掘場を通り、有害物質(メタン等)を希釈混合して
最終的に VAM として大気中に排出される。地表から坑内へ空気を送り、VAM として地表へ
排出するためには、地表と坑内を連結した坑道(トンネル)を利用する。一般には、坑内と
地表を連結する排気坑道の地上部に設置された扇風機の負圧によって VAM を吸い上げ、新
鮮な空気を別な地表‐坑内連結トンネルによって坑内に取り込む。坑内の作業場では通気内
に含まれるメタン濃度の上限が制限されているため、メタンの湧出量が多い炭鉱では、安全
なレベルまでメタン濃度を薄めるために膨大な量の空気を坑内に送り、排出させる必要があ
る。また、坑内の作業場では通気の最大風速が定められているため、所用通気量を確保する
ためには空気が移動する坑道数を増やすか、坑道の面積を大きくして風速を制御する必要が
ある。
近年、石炭の採掘量が増大する傾向にあるため、メタンを湧出する石炭表面積が増加し、
かつ、メタン包蔵量が多くなる深部への採掘移行も伴い、必要とする通気量は増加する傾向
にある。DCCEE によれば、2009 年の豪州炭鉱セクターからのメタン排出量の 62%が VAM
である。現在、VAM の削減/利用のために様々な技術が研究・開発されているが、VAM の特
性、例えば、メタン濃度の変動や特定物質の存在が VAM 利用や削減に大きな影響を与える。
さらに、VAM に含まれる粉塵、硫化水素、二酸化硫黄やその他の混合物は大気汚染の原因と
もなる。したがって、VAM に含まれるメタン濃度変動以外にも、粉塵量や粉塵のサイズ、粉
塵の鉱物質、その他の含有物に関する調査結果を VAM 削減方法に反映させることは重要で
ある。
VAM の特性に関しては、オーストラリア連邦科学産業研究機構:Commonwealth Scientific
and Industrial Research Organisation(CSIRO)の Dr. Shi Su 等が詳細な調査を行い、論
文にまとめている(Characteristics of coal mine ventilation air flows, Journal of
Environmental Management 86, 2008)
。3.1 項に彼らの調査結果の概要を示す。なお、3.1
項における図表及びデータは、断りが無い限り Dr. Shi Su 等の論文からの引用である。
3.1 VAM の特性
① 調査対象炭鉱の概要と VAM の湿度
調査の対象となった炭鉱は、NSW 州及び QLD 州に所在する4カ所の坑内掘り炭鉱で、
VAM の相対湿度はいずれの炭鉱でも高く、中でも A 炭鉱は完全に飽和した状態にある(表
3.1 参照)
。
表 3.1 調査対象炭鉱の概要と VAM の相対湿度
炭鉱
所在地
深度(m)
炭質
VAMの相対湿度(%)
A
NSW州
550
一級品質原料炭
100
B
QLD州中部
約400
低、中揮発分原料炭
85~100
高品質原料炭、一般炭
74.5~83.5
C
D
QLD州東部(Bowen Basin) データ無し
NSW州(Hunter Valley)
200
高揮発分弱粘結炭、低灰分一般炭
7
73~99.8
② VAM の粉塵量と粉塵粒径
図 3.1 VAM の粉塵量測定結果
8
4炭鉱における粉塵量は概ね 0.4~2.0mg/m3 であるが、岩粉散布等の保守作業によっ
て突発的に粉塵量が 4~5mg/m3 に増加する時がある(図 3.1 参照)
。
また、石炭生産量と粉塵量の相関については、B 炭鉱では明確な正の相関関係が認め
られ、石炭生産量が増減すると粉塵量も増減する。また、C 炭鉱では石炭生産量が多い
場合に粉塵量が多いという傾向が認められる。他方、A 及び D 炭鉱では石炭生産量と粉
塵量の間には明確な相関関係は認められない。
なお、VAM から採取された粉塵の最大粒径は 5μm である。
③ 粉塵の成分
4 炭鉱の VAM から採取された粉塵を SEM/EDS(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散
型 X 線分析装置)で分析した結果によれば、粉塵は石炭粒子と岩石粒子で構成されてお
り、石炭生産中に採取された粉塵サンプルには、生産停止時に採取されたサンプルより
も多くの石炭粒子が含まれている。
また、C 炭鉱から採取された粉塵には硫黄を含んだ石炭粒子が認められたが、他の炭
鉱の粉塵には硫黄を含んだ石炭粒子は認められていない。
④ VAM のガス組成
VAM のガス組成に関しては、CH4、CO、H2S 及び SO2 の各成分濃度を多成分ガス分
析計により測定した。同時に、約 3 か月間に渡り各炭鉱の計測システムから VAM のメ
タン濃度と流量データを1時間毎に採取した。また、各坑内炭鉱が安全確認のために坑
内の異なる地点に設置しているオンラインガスモニタシステムから、VAM 立坑底付近の
メタン濃度データを取得した。
ガスの成分分析の結果によれば、いずれの炭鉱においても H2S 及び SO2 濃度はガス分
析計の最小検知濃度レベル(1ppm)以下である。
CO については、作業員交代時に使用されるディーゼル車の排ガスが原因でごく短時
間検出された場合があるが、基本的にはほとんど検出されていない。
メタン濃度は各炭鉱の条件により、それぞれ異なった挙動を示している。
9
A 炭鉱におけるメタン濃度は、ガスモニターによる計測値(by the gas monitor)の
方が計測システムからの値(from the mine)よりも高いが、計測システムの誤差による
もので、実際は 0.6~0.9%程度であり、石炭生産量との間に相関は認められない(図 3.2
参照)
。
VAM の流量は 170~280m3/s である。この結果、年間排出量は純メタン換算で 3,200
万~7900 万 m3(48 万~118 万 t-CO2e)になる。
図 3.2 A 炭鉱における VAM のメタン濃度と流量の推移
10
B 炭鉱における VAM のメタン濃度は 0.3~1.1%であり、石炭生産量との相関は認め
られない(図 3.3 参照)
。
VAM の流量は、2005 年 3 月 22 日以前は 180~200m3/s であるが、通風量削減のため
No.2 扇風機を停止させた結果、120m3/s に減少している。
通風量削減時の B 炭鉱の年間総排出量は純メタン換算で 1,100 万~4,200 万 m3(16
万~63 万 t-CO2e)になる。
図 3.3
B 炭鉱における VAM のメタン濃度と流量の推移
11
C 炭鉱におけるメタン濃度は 0.05~0.2%で、他の 3 炭鉱と比較して極めて低い(図
3.4 参照)
。これには、C 炭鉱の通気風量が 330~360m3/s と過剰であることが影響して
いる。
C 炭鉱の年間総排出量は純メタン換算で 520 万~3,200 万 m3(8 万~48 万 t-CO2e)
になるが、メタン濃度が低すぎるため現状では適当な処理技術が存在しない。
図 3.4
C 炭鉱における VAM のメタン濃度と流量の推移
12
D 炭鉱におけるメタン濃度は 4 炭鉱の中で最も高く、0.5~1.3%である(図 3.5 参照)。
また、他の 3 炭鉱とは異なり、石炭生産量との相関があり、石炭生産中のメタン濃度が
平均で約 1%であるのに対し、生産停止時には平均で 0.5%にまで低下する。
VAM の流量は 120~240m3/s で、これから計算した年間総排出量は純メタン換算で
1,900 万~9,800 万 m3(28 万~147 万 t-CO2e)になる。
図 3.5
D 炭鉱における VAM のメタン濃度と流量の推移
13
3.2 CMM/VAM の排出量と回収量
DCCEE によれば、2009 年の豪州炭鉱から大気中に排出されたメタンガス量は 27.7 百万
t-CO2e で、その内の 17.1 百万 t-CO2e(61.7%)は坑内掘り炭鉱、9.1 百万 t-CO2e(33.0%)
は露天掘り炭鉱、1.5 百万 t-CO2e(5.3%)は閉山した炭鉱からの排出である(図 3.6 参照)。
図 3.6 豪州炭鉱からのメタン排出量
坑内掘り炭鉱からのメタンガス排出量の約 95%(16.3 百万 t-CO2e)は VAM で、採炭に伴
って排出されるメタンガス(26.2 百万 t-CO2e)の 62%を占める。すなわち、VAM 排出量は
純メタン換算で約 11 億 m3、メタン濃度を 0.5%とすると実流量は約 2,200 億 m3 に達する。
坑内掘り炭鉱から回収される CMM 量のデータは公開されていないが、豪州の炭鉱で発生す
るメタンガスの VAM/CMM 割合は 60/40 程度とされていることから、2009 年の CMM 回収
量は 10.9 百万 t-CO2e、純メタン換算で約 7 億 m3 程度と推測される。
CMM Country Profile(December 2010)によれば、豪州においては 15 ヶ所の炭鉱(坑内
掘り炭鉱:10、閉山炭鉱:5)で 17 の CMM プロジェクトが登録されている(図 3.7 参照)。
プロジェクトの内訳は、フレア処理:3、ガスエンジン発電:9、VAM 排出削減:4 及び商用
パイプラインへの供給:1 で ある。
主要な CMM/VAM プロジェクトを表 3.2 に示す。これらのプロジェクトが計画通りに実施
された場合の総発電容量は 326MW で、発電利用による CMM 排出削減量は約 5 百万 t-CO2e/y
になる。したがって、回収した CMM の 40%程度が発電に利用され、残りはフレア処理ある
いは大気中に放散されているものと推測される。
14
今回の調査で訪問した炭鉱所在地
図 3.7 CMM 利用プロジェクトの所在地
(出所:Methane to Markets Partnership Expo, New
Delhi, India March 2010)
15
表 3.2 主要な CMM/VAM プロジェクト
炭鉱名
(Owner)
Appine
(BHP Billiton, Illawarra)
Tower
(BHP Billiton, Illawarra)
West Cliff
(BHP Billiton, Illawarra)
Moranbah North
(Anglo Coal)
Oaky Creek
(Xstrata)
Tahmoor
(Centennial Coal)
Teralba
(Xstrata)
Glennies Creek
(Integra Coal/Vale)
Grasstree
(Anglo Coal)
United Colliery
(Xstrata)
Blakefield South
(Xstrata)
所在地
対象ガス
NSW
CMM,VAM
NSW
CMM
NSW
CMM,VAM
QLD
GHG削減量
(Mt-CO2e)
運開時期
97
2
1996
54
Caterpillar 3516LE(1MW)
40
MEGTEC(VOCSIDIZER)
Siemens Steam Turbine(6MW)
4
1
6
0.25
2007
CMM
GE Jenbacher 620(3MW)
15
45
1.3
2008
QLD
CMM
GE Jenbacher 320(1MW)
GE Jenbacher 620(3MW)
14
2
20
0.6 *
2006
NSW
CMM
GE Jenbacher 320(1MW)
7
7
0.2 *
2001
NSW
WCMM
GE Jenbacher 320(1MW)
8
8
0.3 *
2004
NSW
CMM
GE Jenbacher 320(1MW)
10
10
0.3 *
2007
QLD
CMM
Cterpllar 3520C(2MW)
フレア(28,000m3/h)
16
32
1.1
2007
NSW
CMM
LMS CC flare(720m3/h)
3
-
0.125
2006
NSW
CMM
VAM
Mandalong
(Centennial Coal)
プロジェクトの概要
発電容量
利用機器(容量)
台数
(MW)
NSW
CMM
VAM
GE Jenbacher 620(3MW)
未定
HOFGAS フレア(3,240m3/h)
Corky's VAM-RAB
フレア
GE Jenbacher 620(3MW)
Corky's VAM-RAB(300m3/s)
合 計
3
未定
3
1
5
9
1
9
32
27
326
WCMM:廃鉱メタンガス
16
0.25
*
4.775
*:推定値
2012
計画中
2010
休止中
計画中
計画中
未定
3.3 CMM/VAM 処理の現状と課題
CMM/VAM 処理の現状と課題を探るため、下記炭鉱に設置されている CMM/VAM 処理設備
の現地調査を実施した。
 Appin 炭鉱(BHP Billiton 社子会社の Illawarra Coal 社保有炭鉱)
-ガスエンジン発電所
-希薄燃焼ガスタービン試験機
 West Cliff 炭鉱(BHP Billiton 社子会社の Illawarra Coal 社保有炭鉱)
-VAM 利用発電所:WestVAMP
 Blakefield South 炭鉱(Xstrata 社子会社の BulgaComplex 社保有炭鉱)
-蓄熱燃焼式酸化装置:VAM-RAB(Corky’s 社製)
-フレア設備:HOFGAS-CFM4c 32000/3350(HOFSTRTTER 社製)
① Appin 炭鉱及び West Cliff 炭鉱
Appin 炭鉱及び West Cliff 炭鉱は NSW の南部炭田に位置する坑内掘り炭鉱で、BHP
Billiton 社の子会社である Illawarra Coal 社により運営されている。
(1) CMM/VAM の排出及び利用状況
Appin 炭鉱及び West Cliff 炭鉱はメタン含有率が比較的高い Bulli 層から採炭し
ているため、採炭開始前に安全確保のためのボーリングによるガス抜きが行われ、現
在も真空ポンプによるガス抜きが継続している。ガス抜きで得られた CMM の全量
(量は不明)が延長約 7km の配管により Illawarra Coal 社内の 3 か所の発電所
(Appin & Tower 発電所、WestVAMP)(図 3.8 参照)の燃料として供給、利用さ
れている。
VAM 排気主扇(Shaft)は、Appin 炭鉱に既設が 2 か所と新設予定が 1 か所、West
Cliff 炭鉱に 1 か所あり、それぞれの排出量とメタン濃度は以下の通りである。
 Appin 炭鉱
#2 Shaft:350m3/s、メタン濃度:0.6~0.9%
#3 Shaft:390m3/s、メタン濃度:0.9~1%
:600m3/s
#6 Shaft(2016 年に完成予定)
 West Cliff 炭鉱
#1 Shaft:360m3/s、メタン濃度:0.8~1.0%
Appin 炭鉱の#2 Shaft は 3.1 項の A 炭鉱に該当し、ガスエンジンの吸気に利用さ
れた実績がある。しかしながら、後述するようにフィルタが頻繁に目詰まりしたため
利用は中止された。#6 Shaft に関しては、MEGTEC 社の蓄熱燃焼式酸化装置
(VOCSIDIZER)を設置して処理することが計画されている。
West Cliff 炭鉱の#1 Shat に関しては、後述するように VOCSIDIZER を用いた発
電所:WestVAMP において、約 70m3/s の VAM が燃料として利用されているが、排
出量の約 20%の利用にとどまっており、全量処理/利用が課題となっている。
17
Appin 発電所
Tower 発電所
18
#3 Shaft
WestVAMP
図 3.8 Illawarra Coal 社における設備配置(出所:Bulli Seam Operations – Environmental Assessment)
(2) CMM/VAM 処理設備の運用状況
 ガスエンジン発電所(Appin 発電所)
Illawarra Coal 社で発生する CMM を処理/利用するため、1995 年に Energy
Developments Ltd.(EDL、本社:Brisbane,QLD)が隣接の Tower 発電所
(41.2MW:Caterpillar 社製 G3516×40 台)と合わせて設置した世界初の CMM
を燃料とするガスエンジン発電所(55.6MW)で、Caterpillar 社製 G3516×54 台
により構成されている(図 3.9 参照)
。
図 3.9 Appin 発電所(2012 年 1 月 23 日撮影)
3
計画における CMM の消費量は 2 つの発電所の合計で年間 226 百万m(Appin:
131 百万m3、Tower:95 百万 m3)
(純メタン換算)である。
EDL 社は燃料となる CMM を Illawarra Coal 社から購入し、発電した電力を地
域の配電業者に売電している。CMM はスクラバー(図 3.10 参照)で除塵して発
電装置に供給される。発電需要が多く、CMM が不足する場合は外部から天然ガス
を購入して CMM に混合する。CMM が余った場合はフレア設備(図 3.11 参照)
で燃焼処理する。
図 3.10 CMM の除塵用スクラバー(2012 年 1 月 23 日撮影)
19
フレア設備
図 3.10 フレア設備(2012 年 1 月 23 日撮影)
なお、Appin 発電所の運用開始当初は VAM をエンジン吸気に利用していたが、
VAM に含まれるカルサイト(炭酸カルシウム)が原因でフィルタ(図 3.11 参照)
が頻繁に目詰まりし、交換費用がかさんで経済的に成立しないため現在は吸入を中
止している。
図 3.11 VAM 採取位置と VAM フィルタ(2012 年 1 月 23 日撮影)
VAM 利用に関する安全処置としては、VAM の採取位置を VAM 排出口から離す
と共に、
VAM のメタン濃度上昇を検知して VAM 吸入ダクトをダンパーで遮断し、
空気を吸入してダクト内をパージするシステムを設置していた(図 3.12 参照)。
20
リュブリケータ
圧縮空気
防護網
ギロチンダンパー
VAM 排出
空気
ピトー管
ファン
ダクト
21
メタン濃度“高”信号で
ギロチンダンパー“閉”
ギロチンダンパー
1.5m の間隙
マンホール
VAM
防護網防護網
防護網
空気取り入れ口
発電所へ
図 3.12 VAM 利用時の安全対策(出所:EDL 社提供)
 希薄燃焼ガスタービン:Carbureted Gas Turbine(CGT)
大量の VAM を燃料として消費することを狙って、EDL 社が米国の Solar
Turbines 社(本社:San Diego, CA)と共同開発を試みたガスタービンで、Appin
発電所の一角に設置されている(図 3.13 及び図 3.14 参照)
。
CMM/空気混合室
再生器(熱交換器)
吸気ダクト
燃焼器
図 3.13 希薄燃焼ガスタービン:CGT(2012 年 1 月 23 日撮影)
図 3.14 CGT の空気/メタン混合室(2012 年 1 月 23 日撮影)
Solar Turbines 社の Centaur 3000R(再生式、出力:2.7MWe)をベースに、VAM
燃焼用に熱交換チューブを内蔵した特殊な燃焼器(詳細は 5.2 項で説明)を採用し
ている。LPG を始動用燃料として運転試験を実施したが、燃焼器内の熱交換チュ
ーブが焼損する不具合を解決できず、開発は中止されている。
22
 VAM 利用発電所:WestVAMP
VAM を燃料とする世界初の発電所であり、2007 年から運用されている。
MEGTEC 社(Depere, Wisconsin)の VOCSIDIZER と Siemens 社の蒸気タービ
ンで構成され、50m×50m の敷地に配置されている(図 3.15 及び図 3.16 参照)
。
敷地面積を小さくするため、蒸気タービンは 3 階建ての建屋内に設置されている。
蒸気タービン建屋
図 3.15 WestVAMP の全景(2012 年 1 月 23 日撮影)
図 3.15
WestVAMP のシステムフロー(出所:US Coal Mine Methane Conference,
Pittsburgh 2008)
23
構成
 MEGTEC 社の VOCSIDIZER(4 基)と Siemens 社の蒸気タービン(6MW)で構成。
 VOCSIDIZER は 2 基ずつの2ユニットで構成。
 VAM 取り入れ口は 1 か所で、各ユニットに VAM 吸入用のブロワを設置。
 ブロワは VAM/CMM の混合器を兼ねる。
 CMM は各ブロワの上流側に注入。
 各ユニットへの CMM 供給はそれぞれ、遮断弁、フィルタを通した後、2 系統に分岐
させて流量制御弁で制御して VAM ダクト内に噴射。
 CMM 噴射部の上流側に濃度調整用の空気吸入ダクトと三方ダンパーを配置(図 3.16
参照)
。
図 3.16 VOCSIDIZER の VAM 取り入れ部(2012 年 1 月 23 日撮影)
性能
 VAM 処理量:70m3/s(総排出量の約 20%)
 発電出力:5MW(通常)@メタン濃度:0.8%、6MW(最大)
VAM/CMM 供給条件
 VAM 供給条件
メタン濃度:0.8~1.0%(通常)
24
濃度変動範囲:0.3~1.3%(BHP の社内規定:1.25%以下、NSW 規定:2%以下)
濃度変動速度:30 分のオーダー(11km 先から引いているため変動は遅いとのこと)
温度:30℃(ほぼ一定)
フィルタは不要
 CMM 供給条件
メタン濃度:50~60%
圧力:150kPa(7km 先のポンプ場吐出時)
70kPa(炭鉱の敷地境界)
30~40kPa(VOCSIDIZER 設備入口)
遮断弁と流量調整弁の間にフィルタ設置(メッシュは粗いとのこと)
運転
 始動時間:1.5 日
 始動時の加熱用電力:300kW(VOCSIDIZER1 基当たり)
 運転時の消費電力:1MW
 上下方向の流路切換え:1 分毎(2 分/サイクル)
 メタン濃度監視:3 か所
VAM 吸入ダクト入口部(1 か所)
:レーザー式
各ブロワの下流側(計 2 か所)赤外線式
3 か所の計測値を常時比較することで濃度計の異常の有無を判断する。
運用
 運用開始は 2007 年
 不具合
・VAM に含まれるカルサイトが原因でポペット弁のシャフトとシート面が損傷し、1
年ごとに交換。→ 単動式から複動式に変更し、交換寿命は 2 年になった。
・VAM に含まれるカルサイトにより蓄熱床が目詰まり。→ 新規に開発したセラミッ
ク製の蓄熱材(図 3.17 参照)採用により交換寿命が延伸(5 年を予想)。
 メンテ内容
・メタン濃度計の校正:1 か月毎
・内部目視検査:1 年毎
・熱電対交換:1 年毎
・ポペット弁の交換:2 年毎
・蓄熱材の交換:5 年毎(予想)
図 3.17 改良型蓄熱材
25
② Blakefield South 炭鉱
Xstrata 社子会社の Bulga Complex 社が運営する炭鉱である。
Sydney の北、
約 140km
の Hunter Valley に位置し、炭素価格制度の適用対象となる高ガス炭鉱である。
VAM 発生量は 550~650m3/s で、メタン濃度は通常 0.4~0.6%である。強制通気を採
用しており、#1 Shaft から空気を送り込み、#2 Shaft から排気する(図 3.18 参照)。
#1 Shaft
#2 Shaft
図 3.18 Ventilation Shaft(出所:Gas & Coal Outburst Seminar, December 2010)
VAM 排出量の削減対策として Corky’s 社(本社:Mayfield, NSW)の蓄熱燃焼式酸化
装置(VAM-RAB)の導入を計画しており、2011 年に Blakefield South で試験を実施し
ている。試験結果については、うまく作動し、MEGTEC 社の VOCSIDIZER よりも背
圧が小さくてブロワ駆動動力が少なくなるとのコメントが得られたが、見学は許可され
なかった。現在は運転を休止しており、2012 年 6 月頃より稼働する予定である。
CMM/VAM 排出量の割合は 2/1 で、メタン濃度は Pre drainage gas:97%、Goaf gas:
50~80%である。回収した CMM は 9MW 発電所(GE Jenbacher 620 ガスエンジン:
3MW×3 台)の燃料として利用し、余剰 CMM はフレア設備(図 3.19 参照)で燃焼処
理されている。
図 3.19 Blakefield South 炭鉱のフレア設備(2012 年 2 月 14 日撮影)
26
フレア設備は HOFSTETTER 社製の HOFGAS-CFM4c 32000/3350 で、設備計画値
は以下の通りである。
・処理ガスのメタン濃度:90%以上
・ガス流量:1,000~10,000m3N/h
・燃焼温度:900~1,200℃
ガスは水封式真空ポンプ(400kW×4台)で吸引しており(図 3.20 参照)、吸入圧力
が-40~-10kPa、吐出圧力が 10~15kPa となるようにバイパス流量制御及び台数制御
を行っている。ガス吸入配管には安全対策としてフレームアレスタ(逆火防止装置)が
取り付けられている。
図 3.20 Blakefield South 炭鉱の真空ポンプ設備(2012 年 2 月 14 日撮影)
現在は Pre drainage gas と Goaf gas を混合処理しており、調査時にはメタン濃度が
94%で処理量は 1,080m3/h であった。今後はガス抽出量が増加し、2 年後には新たに建
設する 32MW ガスエンジン発電所へのガス供給を予定している。
本設備はカーボンクレジット案件に登録されており、昨年度は 600t-CO2e のカーボン
クレジットを獲得している。
なお、Blakefield South 炭鉱には、Drainage gas の処理用に LMS 社製のフレア設備
5 基(総処理量:2,520m3/h)も設置されていたが、既に廃止されている。
27
3.4 VAM 処理上の問題点と課題
① 問題点
VAM を処理する場合、流体特性上、一般的には以下の点が問題となる。
 流量が非常に多い。
 メタン濃度が低く、濃度変動範囲が大きい。
 湿度が非常に高い。
 粉塵含有量が多く、硫黄分を含有した粉塵を含む場合がある。
 H2S あるいは SO2 を含む場合がある。
低濃度メタンガスである VAM の処理は、現在のところ酸化処理しか実用化されてい
ないが、大気圧力の VAM を 1,000℃程度の温度で時間をかけて酸化させる必要があるた
め装置が大型化する。また、熱容量が非常に大きいため、始動・停止に要する時間が非
常に長く、メタン濃度の変化に対する追従性も非常に悪い。
これに対して、川崎重工が開発した VAM 焚きガスタービンは、吸入した VAM を高圧
力に圧縮し触媒燃焼で処理するため装置が小型で、始動・停止に要する時間も短く、メ
タン濃度の変動に対しても高速で追従・制御できるという特長を有している。
しかしながら、ガスタービンの性能を長時間維持するためには吸気を清浄に保つ必要
があり、VAM に多量の粉塵が含まれている場合にはフィルタの交換頻度が高くなる恐れ
がある。また、湿度が高く、かつ吸湿性のカルサイトが含まれている場合にはフィルタ
の目詰まりを加速する可能性が高い。このため、スクラバーによる除塵やミストセパレ
ータによる水分除去を考慮する必要がある。
さらに、VAM ガスタービン及び VAM 浄化装置に使用している触媒は硫黄が存在する
と被毒し、活性が急速に低下するため、H2S あるいは SO2 を含んだ VAM には適用でき
ず、硫黄分を含む粉塵はフィルタ等で除去する必要がある。
なお、当初懸念されていた VAM のメタン濃度変動については、濃度変動幅は大きい
が坑道が長いために変動速度は遅く、30 分のオーダーで変動することが今回の調査で判
明した。この結果、VAM 焚きガスタービンの VAM/CMM 流量制御に使用するメタン濃
度計の応答時間(数秒程度)でも濃度変動に追従して正常に流量制御ができる。
② 課題
前述した VAM の流体特性に起因する問題点については、VAM の性状を事前に調査す
ることで技術的に対処することができるが、設備のコストアップの要因となる。
現在、豪州において CMM は発電利用あるいはフレア処理されているが、電力単価が
安いため処理コストとしてはフレア処理が有利で、炭鉱側もメンテが容易なフレア処理
を好む傾向がある。ただし、フレア処理は温室効果ガスの削減にはなるがエネルギー資
源の浪費であり、温室効果ガス排出量が多い石炭火力発電の代替効果もないため環境政
策上からも好ましくない。このため、近年は発電利用が増加しつつある。
VAM 処理に関しても単純な酸化処理だけでなく発電もでき、かつコストパフォーマン
スが高い処理方法の実用化が期待されている。
28
しかしながら、VAM はエネルギー密度が低いため処理設備が大型化する。また、VAM
を利用して発電するためには CMM による濃度調整が必須であるが、豪州ではガス抜き
ポンプ場が VAM 排気主扇と離れて設置されているケースが多く、この場合は CMM を
ガス抜きポンプ設備から VAM 排気主扇近傍に設置する利用設備まで輸送しなければな
らない。さらに、現在策定中の VAM 処理システムに対する安全基準において厳しい安
全対策が要求された場合には設備のコストアップ要因となる。
したがって、経済性だけで比較すれば VAM を燃料として発電に利用するよりも単純
に酸化処理する方が有利である。
このため、メタンガス削減効果の高い VAM 焚きガスタービンを用いた VAM 処理シス
テムを普及させるためには、システムのコストダウンを図るだけでなく、設置面積が小
さい、始動・停止時間が短い、VAM の濃度変動に対する制御の追従性が高く安全対策が
容易、水が不要といったガスタービンの特長が評価されることが必要である。
3.5 VAM 処理設備及び運転に係る安全基準
VAM 処理システムについては、炭鉱保安対策として厳しい安全対策が導入される見通しで
あり、技術委員会を設けて具体的な審議を行い、炭素価格制度の導入前には大臣に諮問する計
画である。早ければ 2012 年 6 月頃、遅くとも 2012 年中に安全対策が決定されると思われる。
委員会は以下のようなメンバーで構成される見通しである。
 NSW と QLD の州政府(Mine Inspection の関係者)
 CSIRO(Dr. John Carras)
 ACALET(注)(Steve Jones)
(注)ACALET:Australian Coal Association Lean Emission Technologies Ltd.
 BHP Billiton 社(WestVAMP 関係者)
 Anglo Coal 社(Trevor Stay)
 Xstrata 社(Jim Sandford)
安全基準は 100 ページ程度の草案が既に出来上がっているようである。内容については明
らかにされていないが、関係者の話を総合すると、VAM 処理システムは比較的高温なシステ
ムであるため、①ガス突出や通気システムの故障で爆発限界濃度(5~15% CH4)のメタンガ
スがシステム内に供給された場合の爆発防止対策や、②VAM 処理システムが爆発や火焔を生
じた場合の坑内への伝播防止が求められる見通しである。また、主扇運転への影響を排除する
ため、③VAM の取り入れ口を排気主扇出口に直結することは厳禁であり、VAM の全量利用は
困難となる。
さらに、豪州炭鉱協会(ACA)によれば、VAM 処理システム設置場所は国際防爆指針及び
豪州防爆規格に基づいてゾーン区分され、④ゾーン区分に適合する防爆機器の使用が義務付け
られるであろうとのことである。
29
4.豪州の炭素価格制度
4.1 炭素価格制度の導入に至った背景と経緯
豪州は石炭、ウラン及び天然ガスのエネルギー資源に恵まれ、世界有数のエネルギー生産国
であるとともに、エネルギー資源輸出国でもある。Energy in Australia 2011 によれば、
2008-09 年のエネルギー生産量は世界 9 位で、その 68%を輸出に振り分けている。
一方、国内においては、エネルギー生産量の 1/3 程度しか消費しておらず、石炭が一次エネ
ルギー消費量の約 40%を占めている(図 4.1 参照)
。特に、エネルギーの約 30%を消費する発
電においては、燃料の 80%以上を安価な石炭に依存してきた。
図 4.1 一次エネルギー消費構成比率の推移(出所:ABARES, Australian energy statistics)
その結果、人口 2000 万人余の豪州が、2005 年には温室効果ガス排出量では世界 16 位、人
口一人当たりの排出量では先進国最大となった。2005 年における豪州の 1 人当たり排出量は
。
27.5t-CO2e で OECD 加盟国平均の 2 倍以上、世界平均の約 4 倍である(図 4.2 参照)
図 4.2 一人当たり温室効果ガス排出量の比較(データ出所:World Resources Institute)
30
2006-07 年に記録破りの熱波と干ばつを経験した豪州では気候変動対策が政策課題となり、
地球温暖化問題を大きな政策課題の一つとする労働党が 2007 年 11 月の連邦議会選挙で政権を
奪取した。Rudd 首相が率いる労働党が政権与党となった豪州政府は、2007 年 12 月に京都議
定書を批准し、2008 年 3 月に批准国となった。
2008 年 9 月には、政府の委託に基づいて実施された、Garnaut オーストラリア国立大学教
授の気候変動調査最終報告書(The Garnaut Climate Change Review Final Report)が連邦・
州首相に提出された。同報告書は、
“温室効果ガス削減に向けて強力に行動することが豪州の
国益となる”と結論づけている。
豪州の人口増加率は先進国の中でも高く、今後も増加し続けると予想される。また、エネル
ギー資源輸出国として、採掘に多量の温室効果ガス発生を伴う石炭等に対する国際的な輸出増
加要求にも応える責務があり、温室効果ガスの排出量は今後とも増加すると予想される。この
ため、豪州政府は、2009 年 3 月に国内排出量取引制度:Emission Trading Scheme(ETS)
導入を目指した炭素汚染削減制度:Carbon Pollution Reduction Scheme(CPRS)法案の草
案を公表した。同法案は 2009 年 6 月に議会下院を通過したが 8 月に上院で否決され、再度法
案を提出して 11 月に下院を通過したが、12 月に上院で再度否決されて先送りとなった。
2010 年 6 月に Rudd 首相から政権を引き継いだ Gillard 首相は、2010 年 8 月の総選挙前に
は「任期中には炭素税は導入しない」と公言していたが、首相の与党・労働党は上下両院で単
独過半数に達せず、国会運営のため炭素税導入を強く主張していた環境政党の「Australian
Greens(緑の党)
」と連携することとなった。その結果、Gillard 首相は 2011 年 2 月に方針を
転換し、同年 7 月 10 日、温暖化対策の一環として 2012 年 7 月から温室効果ガス排出量の多
い豪州企業に対して税金(いわゆる炭素税)を課す「炭素価格制度」
:Carbon Pricing
Mechanism(CPM)を導入する構想を明らかにした。
炭素価格制度法案は 2011 年 10 月 13 日に下院を通過し、
同年 11 月 10 日に上院で可決され、
2012 年 7 月 1 日から施行される運びとなった。
4.2 炭素価格制度の概要
豪州政府は、炭素価格制度の導入により、温室効果ガス排出量を 2020 年までに 2000 年比
で 5%を無条件で削減、2050 年までに 80%削減することを目標に掲げている。
炭素価格制度は豪州の温室効果ガス排出量の約 60%を直接的にカバーしており、排出量が
多い企業約 500 社が本制度の適用対象となる。
炭素価格制度の概要は以下の通りである。
① 導入時期と導入方法
炭素価格制度は 2012 年 7 月 1 日より開始し、次の 2 ステップで導入される。
 第 1 ステップ:固定価格期間
2012 年 7 月 1 日~2015 年 6 月 30 日
 第 2 ステップ:変動価格期間:排出量取引制度(ETS)への移行
2015 年 7 月 1 日以降
31
② 炭素価格
 固定価格期間
・2012 年 7 月 1 日~2013 年 6 月 30 日:A$23/t-CO2e
・2013 年 7 月 1 日~2014 年 6 月 30 日:A$24.15/t-CO2e
・2014 年 7 月 1 日~2015 年 6 月 30 日:A$25.40/t-CO2e
(上記期間の炭素価格は、豪州中央銀行のインフレ目標の中央値:2.5%/年を考慮し
て、毎年の価格上昇率が実質 2.5%となるように設定されている。すなわち、名目の上
昇率は約 5%/年となる。
)
 変動価格期間
・炭素価格は市場取引により決定される。
・2018 年 6 月 30 日までの 3 年間に対して炭素価格の上・下限を設定。
・初年度の取引下限価格は A$15 で、以降 2.5%/年のインフレ率を考慮して、実質の
年率で 4%ずつ上昇。名目の上昇率は 6.6%/年。
・初年度の取引上限価格は 2014 年 5 月までに決定され、2015-16 年の国際取引予想
価格よりも A$20 高く設定し、以降 2.5%/年のインフレ率を考慮して、実質の年率
で 5%ずつ上昇。名目の上昇率は約 7.6%/年。
③ 対象となる温室効果ガス
 京都議定書に規定される 6 種類の中の 4 種類の温室効果ガスが対象。
・CO2、メタン、亜酸化窒素(N2O)、パーフルオロカーボン(PFC)類が対象。
・六フッ化硫黄(SF6)
、ハイドロフルオロカーボン(HFC)類は対象外。
④ 対象となる(温室効果ガス)排出
 固定エネルギー設備の燃焼に伴う排出。
 ゴミ埋め立て地からの排出。ただし、過去の廃棄物、閉鎖されたゴミ埋め立て地から
の排出は対象外。
 産業プロセスからの排出。
 (化石燃料の生成等に伴う)逸散排出。
(炭鉱メタンガスはこの範疇に入る。ただし、
閉鎖された坑内掘り炭鉱からの排出は対象外。
)
 輸送用燃料(国内における航空、船舶及び鉄道輸送用燃料)の燃焼に伴う排出は対象
外。これら輸送用燃料からの排出には、燃料税あるいは消費税の還付時に炭素価格制
度と等価の“炭素価格”が適用される。ただし、以下の燃料は対象外。
-家庭用及び路上を走る小型商業用車両用燃料。
-バイオマス、バイオ燃料あるいはバイオガス。
-農業、林業及び漁業のオフロード用燃料。
-潤滑剤あるいは溶剤として用いられる燃料。
-路上を走る輸送用重車両の燃料は 2014 年 7 月 1 日より対象となる予定。
-炭鉱のディーゼル発電機用燃料等、輸送目的以外で使用される輸送用燃料(液体及
びガス)は“炭素価格”の適用対象。
32
⑤ 対象となる(温室効果ガス)排出施設
 ゴミ埋め立て地。
 大量のガス消費施設。
 上記以外の施設。
⑥ 対象となる事業者
 温室効果ガス排出量が 25,000t-CO2e/y 以上の施設を運営する事業者。
 温室効果ガス排出量が 10,000t-CO2e/y 以上で、大規模ゴミ埋め立て地(GHG 排出量:
25,000t-CO2e/y 以上)から一定距離内にあるゴミ埋め立て地を運営する事業者。
 天然ガスの供給業者又は小売業者。
 農業、林業は対象外。
⑦ 排出量の制限
 固定価格制度期間(2012 年 7 月 1 日~2015 年 6 月 30 日)
・排出量の制限なし。
 変動価格制度期間(2015 年 7 月 1 日以降)
・気候変動局の助言に基づき、政府が毎年排出量の上限値を設定する。
・2014 年 5 月 31 日までに最初の 5 年間(2015~2019)の上限値が設定される。
・以降、各年度の 6 月 30 日までに翌年度から 5 年間の上限値が設定される。
・上限値の設定には議会の承認が必要で、承認を得られなければ、あらかじめ決めら
れたデフォルト値が適用される。
(2015 年度のデフォルト値は 3 億 8 千万 t-CO2e。
)
⑧ 排出権の割り当てと清算
 固定価格制度期間(2012 年 7 月 1 日~2015 年 6 月 30 日)
・政府は無制限に排出権を発行。
・鉄鋼業等の排出量が多く、国際競争に晒される産業:Emissions-Intensive TradeExposed Industry(EITE)に対しては、政府が一定割合の無用排出枠を割り当て。
・排出権は政府から固定価格で購入。
・海外から調達した排出権を引き当てることは不可。
・Carbon Farming Initiative(CFI)の活動で得られた排出権:Australian Carbon
Credit Unit(ACCU)は、総排出量の 5%まで引き当て可能。
・排出権の翌年以降への持ち越しは不可。
・排出権の不足分を清算できなかった場合の課徴金は固定炭素価格の 130%。
 変動価格制度期間(2015 年 7 月 1 日以降)
・政府は排出量の上限値に等しい排出権を発行。
・EITE に対しては、政府が一定割合の無償排出枠を割り当て。
・排出権は政府から市場取引価格で購入。
・ACCU の利用は無制限。
・海外から調達した排出権は、2020 年度までは総排出量の 50%まで引き当て可能。
33
・総排出量の 5%を上限に、翌年度の排出権の借り入れが可能。
・排出権の翌年以降への持ち越しは無制限。
・排出権の不足分を清算できなかった場合の課徴金は、平均市場取引価格の 200%。
⑨ 支援措置
炭素価格制度の導入による経済への悪影響を避けるため、以下のような支援措置が用
意されている。
 EITE に対する支援(総額 A$92 億)
-利益当たり、又は付加価値当たりの排出量が多い企業に対し、排出量に応じて一定
割合の無償排出枠を割り当て。
-業界平均排出量の 94.5%相当の無償排出枠:鉄鋼業、アルミ精錬業、石灰製造業、
セメント製造業。
-業界平均排出量の 66%相当の無償枠:プラスティック製造業、化学工業、製紙業、
LNG 生産業。
-無償排出枠は毎年 1.3%ずつ削減。
 石炭火力発電業者に対する支援
-Energy Security Fund を通じての援助。
-出力当たりの排出量が多い石炭火力発電業者に対し、総額 A$55 億の援助
(2011-12:A$10 億の現金、2013-14~2016-17:毎年 A$41.705 百万相当の無償排
出枠の割り当て)
。
-出力当たりの排出量が非常に多い石炭火力発電所の閉鎖資金提供(2020 年までに
2,000MW を閉鎖することが目標)。
-出力当たりの排出量が多い石炭火力発電業者に対し、先物市場での排出権購入のた
めの資金貸付。
 炭鉱会社に対する支援
-Coal Sector Jobs Package
・2008-09 又は 2008-09 のいずれかの年度において商用炭生産1トン当たりのガス
排出量が 0.1t-CO2e 以上の炭鉱に対し、今後 6 年間で総額 A$12.57 億(約 1,000
億円)の資金拠出。
・支援資金の支払いは 0.1t-CO2e/t を超える排出ガス量の 80%が対象。
・資金支援は既存の投資が埋没費用になることを防ぐためで、炭鉱の新規開発ある
いは既存炭鉱の生産拡張は対象外。
・対象炭鉱は約 25 カ所(NSW:18 か所、QLD:7 か所)
。
・初年度の応募期間は 2012 年 1 月 12 日~2012 年 2 月 29 日。
-Coal Mining Abatement Technology Support Package
・排出ガス削減技術に対し、今後 5 年間で A$70 百万(約 60 億円)の資金拠出。
・資金援助を受ける側も同額の資金を負担する必要がある。
・資金の拠出対象は以下の通り。
*排出ガス削減技術の研究、開発、パイロットプラント設置、及び削減技術に
34
対する計測、検証作業。
*排出ガス削減技術導入に関連する安全及び規制に関する取り組み。この取り
組みには、排出ガス削減のための新しい技術、設備及びプロセスの開発と設
置に関連した安全要件に関する州政府あるいは地方政府と合同して行う取り
組みも含まれる。
*中小の炭鉱セクター企業が実施する実在あるいは仮想炭鉱からの排出ガス削
減に関する可能性調査及びその他研究。
 鉄鋼業に対する支援
-EITE 産業支援による一定割合の無償排出枠の割り当て。
-排出ガス削減のための製造プロセス更新に対し、4 年間で A$3 億(約 250 億円)の
資金拠出。
-資金支援を受ける企業は製造プロセス更新に同額の支出が必須。
 家庭に対する支援
-炭素価格制度による収入の 50%以上は、減税あるいは補助金支給で家庭支援に充当。
4.3 石炭産業に対する炭素価格制度の影響
豪州政府の試算によれば炭素価格制度の石炭価格への影響は、ガス排出量の少ない炭鉱
では石炭生産量1トン当たり約 A$1.40、逸散ガスの多い高ガス炭鉱においては1トン当た
り A$7.4~A$25 のコスト上昇になるとされている(Carbon Pricing, August 2011)
。
一方、豪州炭鉱協会(ACA)は、豪州の代表的な経済コンサルタント会社の一つである
ACIL Tasman 社に炭素価格制度が炭鉱企業に及ぼす影響を調査させている。
ACIL Tasman 社は、石炭価格が緩やかな上昇を続けるとの仮定の下で、下記の3ケー
スに対して感度解析を実施している(Impact of Carbon Price on Black Coal Mining, 30
September 2011)
。
 シナリオ1:炭素価格制度が無い場合:従来のビジネス環境
 シナリオ2:炭素税が導入され、かつ排出枠の 50%まで国際取引市場で調達した排
出権を充当することが認められた場合。
 シナリオ3:炭素税が導入されたが、排出枠の充当に国際取引市場で調達した排出権
を使用することが認められない場合。
その結果、2012 年 7 月 1 日から施行予定の炭素価格制度に最も近いシナリオ2のケー
スにおいて、2021-22 年度までの 10 年間の累計で、既存炭鉱においては合計 21 ヶ所
(NSW:15 か所、Qld:6 か所)の炭鉱の閉山が早まり、生産量は 135 百万トン(3.6%)
減少、約 A$152 億(3.3%)の利益と約 29,700(5.6%)人の雇用が失われる(表 4.1及
び図 4.3 参照)
。Coal Sector Jobs Package による支援があっても 4 ヶ所の炭鉱の閉山時
期が 1 年遅くなるだけである。
表 4.1 既存炭鉱に対する炭素価格制度の影響(2021/22 年度までの 10 年間の累積)
閉山が早まる炭鉱数
石炭生産量
(百万トン)
利益
(A$百万)
雇用者数(人)
NSW
QLD
合計
シナリオ2
-135
-15,188
-29,729
15
6
21
シナリオ3
-189
-19,770
-38,879
17
7
24
35
シナリオ2
シナリオ3
図 4.3 既存炭鉱に対する炭素価格制度の影響(シナリオ1に対する比率)
また、新規に開発炭鉱に対する影響は、税引き前の利益率 12%達成を条件とした場合、
前述のシナリオ2を前提とすると開発プロジェクト数は 29 カ所から 21 カ所に減少し、
250 百万トン(24.3%)の生産量と約 A$251 億(19.5%)の利益が減少し、約 23,600 人
(27.4%)の雇用が減少する(表 4.2 及び図 4.4 参照)
。
これらの結果から明らかなように、炭素価格制度の影響は既存炭鉱よりも新規開発する
炭鉱の方がはるかに大きい。
表 4.2 新規開発する炭鉱に対する炭素価格制度の影響(2021/22 年度までの 10 年間の累積)
石炭生産量
(百万トン)
利益
(A$百万)
雇用者数(人)
シナリオ2
-250
-25,148
-23,582
シナリオ3
-345
-35,302
-29,402
シナリオ2
シナリオ3
図 4.4 既存炭鉱に対する炭素価格制度の影響(シナリオ1に対する比率)
36
5.VAM 処理技術
5.1 VAM 処理技術の分類
VAM をエネルギー資源として捉えた場合、大気放散はエネルギー資源の浪費であり、地
球温暖化に対しても悪影響を与えている。しかしながら、VAM はエネルギー密度が低く、
既存の技術ではエネルギー資源としての利用が困難であるため、これまではほとんどが大
気放散されてきた。
濃縮を除けば、VAM 処理には高温で酸化させる、あるいは触媒燃焼により比較的低温で
酸化させる、という二つの処理方法がある。しかしながら、地球温暖化防止の面からは VAM
を酸化処理するだけでも効果は得られるが、VAM を単純に酸化処理するだけでなく、エネ
ルギー資源として活用する“環境にやさしい技術”の確立が求められている。
VAM の処理技術には、大きく分けて削減のみを目的としたものと、削減だけでなく燃料
としての利用を目的としたものがある。これまでに研究・開発されてきた VAM 処理技術
を分類した結果を表 5.1 に示す。
一般に VAM のような低濃度のメタン/空気混合気を酸化させるためには、1000℃以上の
温度と長い反応時間が必要になる。このため、VAM を高温酸化で処理するためには、高温
に耐えることができる大きな容積の反応器が必要になる。これに対して、触媒燃焼では
400~500℃程度の比較的低温で、かつ短時間で酸化が可能である。このため、比較的小さ
な容積の反応器で処理することができるが、触媒の寿命が比較的短いため交換頻度が多く
なることや、混合気に触媒の被毒成分(硫黄等)が含まれている場合は使用できない等の
制限があることには注意が必要である。
表 5.1 VAM 処理技術の分類
目的
処理原理
使用機器
開発者(機器名称等)
MEGTEC(VOCSIDIZER)
Biothermica(VAMOX)
高温酸化
削減
蓄熱燃焼式酸化装置:TFRR
(Thermal Flow-Reversal Reactor)
Galf Coast Environmental(VAM RTO)
勝利動力(VAM60-Ⅰ)
Corky's(VAM-RAB)
Dürr Systems(Ecopure RL)
触媒燃焼
触媒燃焼式酸化装置:CFRR
(Catalytic Flow-Reversal Reactor)
ガスエンジン(燃焼用空気として利用)
高温酸化
利用
+
削減
ガスタービン(廃炭との混焼)
希薄燃焼ガスタービン(燃料として利用)
触媒燃焼
濃縮
CANMET(CH4MIN)
Caterpillar(G3516)
三菱重工(MACH-30G)
CSIRO(HCGT:Hybrid Coal- and
VAM-fueled Gas Turbine)
EDL(CGT:Carbureted Gas Turbine)
FlexEnergy(Flex Powerstation)
CSIRO(VAMCAT)
川崎重工(GPB10V)
流動床式濃縮装置(吸着による濃縮)
37
Environmental C&C
5.2 各種 VAM 処理技術の概要
① 蓄熱燃焼式酸化装置:Thermal Flow-Reversal Reactor(TFRR)
各種の工業プロセスから排出される低濃度の揮発性有機化合物:Volatile Organic
Compounds(VOC)を処理するために開発された蓄熱酸化装置:Regenerative Thermal
Oxidizer(RTO)を VAM 処理用に改良した酸化装置である。
本体部分は断熱された燃焼室で、シリカ粒子あるいはセラミック製熱交換体から成る熱交
換床で構成されており、始動時の予熱装置(電気ヒータあるいはガスバーナ)が設けられて
いる。熱交換床の上下に VAM 供給・排出用チャンバが設けられ、燃焼室を通過する VAM
の流れ方向を変更させるための配管がなされている。始動時には電気ヒータあるいはガスバ
ーナにより熱交換床を VAM の酸化(燃焼)温度(1,000℃以上)にまで加熱する。酸化が
始まると流入してくる VAM が持続的に酸化し、下流側の熱交換床を加熱して流出する。下
流側の熱交換床が十分に加熱され、上流側の熱交換床が流入してくる VAM で冷却されると
流れ方向が自動的に切り換えられる(図 5.1 参照)
。流入してくる VAM のメタン濃度が十分
に高ければ、予熱装置による加熱を停止させても酸化反応を継続させることができる。
図 5.1
Thermal Flow-Reversal Reactor の構造(出所:EPA 430-R-03-002, July 2003)
蓄熱燃焼式酸化装置については、以下に示す各社がそれぞれ独自構造の装置を製品化して
いる。
(1) MEGTEC Systems Inc.(製品名:VOCSIDIZER)
(2) Biothermica Technologies Inc.(製品名:VAMOX)
(3) Gulf Coast Environmental Systems, LLC(製品名:VAM RTO)
(4) 勝利油田勝利動力機械集団(勝利動力)有限公司(製品名:VAM60-I)
(5) Corkys Pty Ltd.(製品名:VAM-RAB)
(6) Dürr Systems Inc.(製品名:Ecopure RL)
38
以下に各社の蓄熱燃焼式酸化装置の概要を示す。
(1) MEGTEC 社(製品名:VOCSIDIZER)
MEGTEC 社の VOCSIDIZER は VOC 処理や脱臭用に全世界で 800 基以上の設置実
績がある。
基本構造は図 5.1 に示した TFRR と同じで、セラミック蓄熱床と始動用電気ヒータ、
流路切り換えのためのポペット式の切換え弁 2 基から構成されている(図 5.2 参照)
。始
動は電気ヒータでセラミック蓄熱床を約 1,000℃に加熱することから始まり、VAM の酸
化が始まってセラミック蓄熱床の温度が定常状態に達すると流路切り換え弁(ポペット
弁)を上下させることにより VAM の流れ方向を上下切り換える(図 5.3 参照)
。
図 5.2 VOCSIDIZER の構造
完全燃焼(1,000℃)
図 5.3 VOCSIDIZER の作動原理
39
セラミック蓄熱床内に水あるいは蒸気配管を配置することにより VOCSIDIZER の余
剰熱からの熱回収が可能で、温水、蒸気又は過熱蒸気を製造することができる(図 5.4
参照)
。また、製造した過熱蒸気を利用して発電することもできる。
図 5.4 VOCSIDIZER からの熱回収(出所:2nd Annual M2M Partnership Meeting in
Buenos Aires, 2010)
MEGTEC 社が VOCSIDIZER を VAM 処理に適用したのは、1994 年の英国 British
Coal 社の Thorseby 炭鉱が最初である(図 5.5 参照)。
図 5.5 VOCSIDIZER の VAM 処理適用初号機(出所:UNECE Ad Hoc Group of
Experts on Coal Mine Gas, April 2007)
2001-2002 年には、豪州 BHP Billiton 社の子会社 Illawarra Coal 社の Appin 炭鉱
(NSW)において、小型の VOCSIDIZER を用いて熱回収の試験を行っている。
これらの試験結果に基づいて、2005 年には Illawarra Coal 社の West Cliff 炭鉱に蒸
気タービンと組み合わせた VAM 発電所:WestVAMP の建設に着手した(図 5.6 参照)
。
WestVAMP は VAM を燃料とする世界初の発電所で、2007 年から稼働を開始した。
40
図 5.6
WestVAMP(出所:M2M EXPO in Delhi, March 2010)
MEGTEC 社は米国の炭鉱にも販路を広げるため、2007-2008 年には西バージニア州
にある CONSOL Energy 社の Windsol 炭鉱において VAM の流量やメタン濃度変化を
模擬した条件でフィールド試験を実施している(図 5.7 参照)
。
図 5.7 Windsol 炭鉱の試験設備(出所:2008 U.S. Coal Mine Methane Conference)
MEGTEC 社は、これらの実績に基づいて 2008 年に中国河南省鄭州煤業集団の藁
城炭鉱にも VOCSIDIZER を設置している(図 5.8 参照)。
この設置例では VOCSIDIZER
の余剰熱を利用して温水を製造している。VOCSIDIZER の設置実績を表 5.2 に示す。
41
図 5.8 藁城炭鉱に設置した VOCSIDIZER (出所:The 8th International
Symposium on CBM/CMM and Carbon Trading in China, 2008)
表 5.2 VOCSIDIZER の設置実績
設置先
用途
VAM処理量(m3N/h) メタン濃度(%)
8,000
0.3~0.6
VAM処理デモプラント
国名
設置時期
Thorseby炭鉱、British Coal
英国
1994
Appin炭鉱、BHP Billiton
豪州
2001-2002
6,000
-
West Cliff炭鉱、BHP Billiton
豪州
2005
250,000
0.5~1.25
Windsor炭鉱、CONSOL Energy
米国
2007-2009
50,000
-
熱回収試験機
発電(6MW)
フィールドテスト機
藁城炭鉱、鄭州煤業集団
中国
2008
62,500
0.3~0.7
温水回収
打通炭鉱、松藻煤業集団
中国
2011
375,000
0.2~0.8
温水回収
(2) Biothermica 社(製品名:VAMOX)
Biothermica 社(本社:Montreal, Canada)の VAMOX は、VOC の処理に商品化さ
れた同社の BIOTOX がベースになっている。2 室式の TFRR で、左右に並べて配置され
た二つの蓄熱床を交互に切り替えて運用する(図 5.9 参照)。始動時には、左右の蓄熱床
を繋ぐ酸化室でプロパンガスを燃焼させて蓄熱床を加熱する。
図 5.9 VAMOX の基本構造(出所:2010 U.S. Coal Mine Methane Conference)
42
2008 年に米国の Mine Safety and Health Administration(MSHA)
の認可を受けて、
アラバマ州 Brookwood にある Jim Walter Resources 社の Blue Creek 炭鉱に VAMOX
の初号機を設置し、2009 年から試験を開始している(図 5.10 参照)。設備の VAM 処理
量は 51,000m3/h で、メタン濃度は 0.4~1.2%(平均 0.93%)である。
図 5.10 Blue Creek 炭鉱に設置された VOMAX 初号機(出所:2011 U.S. Coal Mine
Methane Conference)
なお、VAMOX の排熱は加温や温水製造に利用することができる(図 5.11 参照)
。
図 5.11 VAMOX の排熱利用(出所:Technical Seminar on CMM Recovery and
Utilization in Ukraine and UNECE Best Practices Guidance for Effective Methane
Drainage and Use, September 2011)
43
(3) Gulf Coast Environmental 社(GCE、製品名:VAM RTO)
GCE 社(本社:North Willis, TX)の VAM RTO も VOC 処理用の RTO を VAM 用に
改良したもので(図 5.12 参照)
、2 室式の TFRR である。GCE は 2008 年から市場参入
しているが、実際に炭鉱に設置されたとの報告はない。
図 5.12 Gulf Coast Environmental の VAM RTO(出所:13th United States/North
American Mine Ventilation Symposium, 2010)
(4) 勝利動力公司(製品名:VAM60-I)
勝利動力公司(本社:中国山東省)は 2005 年に、VAM 処理能力が 10,000m3/h の
TFRR(図 5.13 参照)の開発に成功している。基本構造は MEGTEC の VOCSIDIZER
と同じである。
図 5.13 処理能力 10,000m3/h の TFRR(出所:勝利動力製品カタログ)
44
同公司は VAM 処理能力を 60,000m3/h に高めた TFRR:VAM60 を商品化し、2009
年に過熱蒸気製造能力を備えた VAM60-Ⅲを陝西彬長鉱業集団の大佛寺炭鉱に設置した
(図 5.14 参照)
。大佛寺炭鉱は同型機を 10 台設置し、最大 8,000kW の蒸気タービン発
電を計画しているが、現時点では発電するまでには至っていない。
図 5.14 大佛寺炭鉱に設置された VAM60-Ⅲ(出所:勝利動力製品カタログ)
蒸気製造能力を備えた VAM60-Ⅱは、2010 年に河南中平能化集団有限公司第 4 炭鉱
に設置している(図 5.15 参照) 。
図 5.15 河南中平能化集団第 4 炭鉱に設置された VAM60-Ⅱ(出所:勝利動力製品カタログ)
45
(5) Corky’s 社(製品名:VAM-RAB)
Corky’s 社の VAM-RAB は、2009 年に Bloomfield 炭鉱において 1/40 スケールのパイ
ロットプラント(図 5.16 参照)の運転に成功している。
図 5.16 VAM-RAB パイロットプラント(出所:Australian Mine Ventilation Conference,
September 2011)
構造は 2 室式の TFRR で、始動時はバーナによる燃焼で加温する。 実スケールの
VAM-RAB は 2010 年に Xstrata 社の Brakefield South 炭鉱に設置されている。関係者
は“VOCSIDIZER よりも圧損が小さく、ブロワ動力が少ない”と評価しているが、現
在は運転を停止しており(停止理由は不明)
、見学も許可されなかった。
また、Centennial Coal 社 は Mandalong 炭鉱において、最大 1,080,000m3/h の VAM
処理を計画しており(図 5.17 参照)
、NSW 州の認可も下りているが、VAM 利用に関す
る安全基準ができていないため計画は中断している。
図 5.17 Mandalong 炭鉱の VAM 処理計画(出所:NSW Low Emissions Coal
Technologies Summit, June 2010)
46
(6) Dürr 社(製品名:Ecopure RL)
Dürr 社(本社:Plymouth, MI)の Ecopure RL は他の TFRR とは異なり、回転式の
RTO である(図 5.18 参照)
。始動時にはバーナ燃焼を利用する。蓄熱床は 12 の部屋に
分割されており、一方の蓄熱室(5 か所)に流入した VAM は上部の燃焼室で完全燃焼
した後、反対側の蓄熱室(5 か所)を通って排出される(図 5.19 参照)。
図 5.18 Ecopure RL の構造(出所:Dürr 製品紹介資料)
図 5.19 Ecopure RL 内のガスの流れ(出所:Dürr 製品紹介資料)
Ecopure RL は流路を反転させるのにポペット弁やダンパーを使用しておらず、工業
用途で実績のあるロータリーバルブを採用しているためダスト等に強いという特長を有
しているが、VAM 処理に適用した実績は未だない。
47
② 触媒燃焼式蓄熱酸化装置:CFRR(Catalytic Flow Reversal Reactor)
カナダ鉱物・エネルギー技術センター:Canada Centre for Mineral and Energy
Technology(CANMET、所在地:Ottawa, Ontario)が CH4MIN の名称で開発を進めて
いる RTO である。基本的な構造は図 5.1 に示した TFRR と同じであるが(図 5.20 左図参
照)
、TFRR が 1,000℃程度の高温で VAM を酸化(燃焼)処理するのに対し、触媒燃焼(酸
化)を採用しているため 600℃程度の低温での VAM 処理が可能である。
図 5.20 CH4MIN の基本構造:左(出所:Catalytic Solutions for Vents, Fugitives and
Incomplete Combustion Emissions, April 2004)と試験機の外観:右(出所:13th
United States/North American Mine Ventilation Symposium, 2010)
なお、CH4MIN については、英国の Sindicatum Carbon Capital 社が CANMET より
2019 年まで有効な全世界(日本を除く)におけるライセンスを取得して製品化を進めてお
り、2008-2009 年に米国で処理量 900m3/h の試験機(図 5.20 右図参照)で性能確認を行っ
た後、中国山西省古交市の西山煤電(集団)有限責任公司の杜儿坪炭鉱中部通気孔に処理量
72,000m3/h の設備を設置して運用するプロジェクトを進めている。本プロジェクトは CDM
登録されており(登録番号:5358)
、2011 年 12 月から運用される計画であったが、2012
年 3 月初めに Sindicatum 社より、設備は現在建設中で 2012 年 9 月までに完成すると発表
があった。
③ ガスエンジン
ガスエンジンによる VAM 処理は、VAM をエンジン吸気として吸入し、シリンダ内で主
燃料と一緒に燃焼させる方法である。下記の 2 社に炭鉱での運転実績がある。
(1) EDL 社(Caterpiller G3516)
(2) 三菱重工株式会社(MACH-30G)
48
(1) EDL 社(Caterpillar G3516)
EDL 社は 1995 年に、BHP Billiton 社の子会社である Illawarra Coal 社の Appin 炭
鉱に Caterpillar 社製ガスエンジン:G3516(1,030kW)を 54 台使用した発電所を開設
した。この発電所においては、ガス抜きで得られたメタンガス(CMM)をガスエンジ
ンの主燃料として運転するとともに、VAM(メタン含有量:0.5~1.0%)をガスエンジ
ンの吸気とすることで VAM に含まれるメタンガスを燃料として利用した(図 5.21 参照)
。
VAM を利用することでプラントの出力は 7~10%増加したが、ガスエンジンの吸気フ
ィルタを頻繁に交換しなければならなかったため、VAM の利用は中止している。
VAM 採取ダクト
図 5.21 Appin 発電所(出所:EPA Coalbed Methane Outreach Program Technical
Options Series, Revised Draft March 2004)
49
(2) 三菱重工(MACH-30G)
三菱重工は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の平成 17 年度国際石
炭利用対策事業(国際協力推進事業)「中国における CMM/VAM 有効利用発電システ
ム導入可能性調査」を実施し、その調査結果に基づいて平成 18 年度クリーン・コール・
テクノロジー実証普及事業(FS)
「CMM/VAM 有効利用発電システム実証普及可能性
調査」を行った。その結果、実施の可能性が認められて、平成 19 年(2007 年)11 月
に中国政府と NEDO との間にて MOU を締結し、CMM/VAM 有効利用発電システムの
実証普及事業が開始となった。本実証普及事業において、三菱重工は中国遼寧省撫順煤
業集団の老虎台炭鉱に同社製のガスエンジン:MACH-30G を用いた発電所を設置した
(図 5.22 参照)
。この発電所においては、メタン濃度 30%以上の CMM を主燃料とし
て使用し、VAM をエンジン吸気として吸入している(図 5.23 参照)。CMM 及び VAM
のメタン濃度がそれぞれ 30%と 0.3%の場合、VAM 利用により CMM の使用料を約 10%
削減できる。本発電所は 2010 年 4 月より商用運転を行っている。
図 5.22 老虎台炭鉱に設置した MACH-30G(出所:三菱重工技報 Vo.48, No.3, 2011)
図 5.23 CMM/VAM 供給系統(出所:日中炭鉱メタンガス研究会、2009 年 8 月、淮南市)
50
④ Hybrid Coal- and VAM-fueled Gas Turbine(HCGT)
HCGT は CSIRO が Australian Coal Association Research Program(ACARP)の支援
を受けて 1999 年から開発を開始したシステムで、その後、New South Wales Sustainable
Energy Development Authority(SEDA)と Liquatech Turbine Company 社(本社:
Brisbane, QLD)の支援を受けて 2002 年に 1.2MW の試験機を完成させている(図 5.24 参
照)
。
本システムはロータリーキルンと外燃式ガスタービンを組み合わせたもので、ロータリー
キルンの中で VAM と廃棄石炭を燃焼させ、ガスタービン(AllisonC-18)の圧縮空気を熱
交換器に通して 900℃まで加熱し、タービンを回転させて発電する(図 5.25)
。必要燃料の
15~80%を VAM で賄うことができる。
図 5.24 1.2MW HCGT 試験機
(出所:New Trends in Coal Mine Methane Recovery and Utilization, 2008)
図 5.25 HCGT のシステムフロー
(出所:New Trends in Coal Mine Methane Recovery and Utilization, 2008)
51
2003 年に 10MW サイズの実用機(図 5.26 参照)を NSW の炭鉱に設置する計画があっ
たが、その後の報告はない。また、本システムの開発者である CSIRO も HCGT のその後
の状況については把握していない。
図 5.26 HCGT の 10MW 実用機(出所:CSIRO FACT sheet-4pp-final)
なお、HCGT の技術はその後、民間企業の EESTech 社(本社:Brisbane, QLD)に譲渡
されている。EESTech 社はガスタービンの代わりに蒸気タービンを用いた 5~30MW の発
電システム(図 5.27 参照)を商品化し、2006 年 10 月に中国遼寧省の阜新煤業集団と 30MW
の HCGT(ロータリーキルンと蒸気タービンの組み合わせ)発電所の建設同意書を取り交
わしているが、その後の状況は不明である。
図 5.27 蒸気タービンを用いた 10MW の HCGT 発電所(出所:EESTech ホームページ)
52
⑤ 希薄燃焼ガスタービン
希薄燃焼ガスタービンを開発あるいは商品化しているのは下記の 4 社である。
 FlexEnergy, LLC(機器名:Flex Powerstation)
 EDL 社(機器名:Carbureted Gas Turbine:CGT)
 CSIRO(機器名:VAMCAT)
 川崎重工株式会社(機器名:GPB10V)
(1) FlexEnergy 社(Flex Powerstation)
FlexEnergy 社(本社:Irvine, CA)の希薄燃焼ガスタービンは、Capstone 社製のマ
イクロタービン:C30(30kW)を改造して、ランドフィルガス(LFG)を燃料とする
触媒燃焼式の Flex-Microturbine として製作したのが始まりで、吸気にランドフィルガ
スを混合して希薄な混合気として吸入・圧縮し、触媒燃焼させる(図 5.28 参照)
。 同
機は Santa Barbara 近郊の廃棄物埋め立て地にて約 3000 時間運転された。
図 5.28 Flex-Microturbine(左上)とシステムフロー(出所:FlexEnergy 製品紹介資料)
引き続いて FlexEnergy 社はシステムの大型化を進めると共に燃焼器の改良を図り、
2008 年には Elliott 社製の 100kW マイクロタービンをベースに、燃焼器を触媒燃焼器
から蓄熱燃焼式燃焼器に変更したシステムでの試験を実施している。
その後、2011 年 1 月には Ingersoll Rand 社のエネルギーシステム事業を買収し、同
社の 250kW マイクロタービン発電装置をベースにして、希薄燃焼ガスタービンを搭載
した発電装置:Flex Powerstation として商品化した。同機の初号機は米国アラバマ州
Fort Benning にある米国陸軍基地に設置され、2011 年 11 月よりランドフィルガスを燃
料として運用されている(図 5.29 参照)
。
53
Flex Powerstation は再生式のガスタービン発電装置で、始動時は電気ヒータで蓄熱燃
焼式燃焼器:Flexidizer を加温し、その後、燃焼温度を 788~1,093℃に維持する(図
5.30 参照)
。定格出力:250kW でのメタン濃度は 1.5%であり、FlexEnergy 社は同機を
ランドフィルガスだけでなく、炭鉱、排水処理、糞尿処理等で発生する低濃度メタンガ
ス利用に適用していく計画である。
図 5.29 Eort Benning 陸軍基地の Flex Powerstation(出所:FlexEnergy 製品紹介資料)
図 5.30 Flex Powerstation のシステムフロー(出所:FlexEnergy 製品紹介資料)
54
(2) EDL 社(CGT)
EDL 社の CGT は、希薄なメタン/空気混合気(定格運転時のメタン濃度:1.6%)を
エンジン吸気として吸い込み、混合気中のメタン成分を燃焼器内で燃焼させ、得られた
高温・高圧の燃焼ガスでタービンを駆動する(図 5.31 参照)
。
図 5.31 CGT のシステムフロー(出所:Use and Elimination of Methane in Coalmine
Ventilation Air, Cummings,D,R DUT Pty Ltd)
CGT は特殊な燃焼器を採用しており、再生器(熱交換器)で約 450℃に加温された混
合気は熱交換チューブを通して燃焼器内に供給され、熱交換チューブの外側で約 1,200℃
で燃焼する。これによって、熱交換チューブ内の混合気は 700~1,000℃に加温され、燃
焼ガスは 850℃に冷却されてタービン部に導入される(図 5.32 参照)
。
図 5.32 CGT の燃焼器(出所:米国特許;US 6,345,495)
55
CGT 試験機は前出の Appin 発電所の一角に設置され(図 5.33 参照)、VAM を模擬す
るために空気と CMM の混合気が吸気として利用され、
始動燃料には LPG が使用された。
試験の結果、燃焼制御が困難で熱交換チューブが損傷する不具合を解決できなかったた
め開発は中止された。
図 5.33 Appin 炭鉱に設置された CGT(出所:Use and Elimination of Methane in
Coalmine Ventilation Air, Cummings,D,R DUT Pty Ltd)
56
(3) CSIRO(VAMCAT)
CSIRO が開発中の VAMCAT の基本構成は EDL 社の CGT とほとんど同じであるが、
始動用に予燃焼器(Pre burner)を備えており、触媒燃焼器を採用している点が異なる
(図 5.34 参照)
。
図 5.34 VAMCAT のシステムフロー(出所:豪州特許;PCT/AU03/01275)
CSIRO は基本コンセプトが成立することを確認するため、計画出力 25kW の試験機
を製作した(図 5.35 参照)
。計画における定格出力時のメタン濃度は 1.0%である。
図 5.35
VAMCAT 試験 機(出所 :International Workshop on Mine Methane
Emission Reduction in China, 2008)
57
試験機は 2011 年に中国安徽省にある淮南鉱業集団有限責任公司の謝一炭鉱に設置さ
れ、同年 12 月にメタン濃度 0.8%で出力 22kW を達成した。試験では始動用燃料に圧
縮天然ガス(CNG)を使用し、始動開始から全負荷運転に到達するまでに約 1 時間を要
した。吸気に VAM を利用する計画であったが、炭鉱の操業事情により VAM が発生し
なかったため、空気に CMM を混合してエンジンに吸入させたとのことである
(CSIRO:Dr. Su Shi からの情報)
。
なお、CSIRO によると、試験機は既に撤収して豪州に持ち帰り、豪州炭鉱での実証
先を模索中で、将来的には 1MW クラスの商用機開発が目標とのことである。
(4) 川崎重工(GPB10V)
「6. VAM ガスタービンシステム」で詳述する。
⑥ 流動床式濃縮装置
Environmental C&C 社(本社:New York, NY)の流動床式 VAM 濃縮装置は同社の流
動床式 VOC 濃縮装置(図 5.36 参照)の技術を応用したものである。
図 5.36 Environmental C&C 社の VOC 濃縮装置(出所:Environmental C&C ホームページ)
濃縮装置は多孔式の吸着トレー列で構成される流動床式の吸着塔と脱着装置から構成さ
れる。VAM は吸着塔の底部から供給され、流動床式の吸着部でメタン成分が吸着剤に吸着
される。メタンを吸着して重くなった吸着剤は吸着塔の底部に落ち、脱着装置に運ばれる。
吸着剤は脱着装置で加温され、メタンを放出する。放出されたメタンはキャリアガスにより
凝縮装置に運ばれ回収される。メタンを放出した吸着剤は吸着塔に戻されて再利用される
(図 5.37 参照)
。
58
図 5.37 流動床式濃縮装置のプロセスフロー(出所:Environmental C&C ホームページ)
流動床式濃縮装置は米国環境保護庁(EPA)の資金援助を受けて、
2001 年に Environmental
C&C 社において種々の吸着剤が試験されたがメタンに適した吸着剤が見つからず、実用化
には至っていない。
5.3 各種 VAM 処理技術の比較
各種 VAM 処理技術を比較した結果を表 5.3 に示す。なお、ガスエンジンは VAM を補助燃料と
して使用するだけで処理量が少ないため対象から除外した。また、CGT、VAMCAT、HCGT 及
び濃縮装置は実用化のレベルに達していないため対象外とした。
表 5.3 各種 VAM 処理技術の比較
VAM処理技術
機器名称
開発者
VAM処理量
(m3/h)
VOCSIDIZER
MEGTEC
250,000 (注1)
0.9 (注2)
97
VAMOX
Biothermica
170,000
0.2~1.2
98
VAM RTO
GCE
85,000
0.25~1.2
95
同上
VOC処理で実績有り
VAM60
勝利動力
60,000
0.25~1.2
97
同上
中国炭鉱で運用中
VAM-RAB
Corky's
90,000
0.35~1.1
99.98
同上
小型機で試験実績有り
Ecopure RL
Dürr
100,000
0.2~1.2
99
同上
VOC処理で実績有り
CH4MIN
CANMET
72,000
0.15~0.8
Flex Powerstation
GPB10V
FlexEnergy
川崎重工
6,000
22,000
メタン濃度範囲 処理効率 発電電力
(%)
(%)
(kW)
5,800
開発状況
豪州炭鉱で運用中
発電無し 米国炭鉱で試験中
95
同上
小型機で試験実績有り
1.5
(注2)
~100
250
米国でLFGで運用中
2.0
(注2)
~100
800
日本で試験中
(注1) 1VAM Cube(VOCSIDIZERを4基使用)当たりの処理量
(注2) 定格発電電力発生に必要なメタン濃度
59
表から明らかなように、VAM 処理に関しては蓄熱燃焼式酸化装置の実用化が進み始めており、
中でも MEGTEC 社の VOCSIDIZER が最も先行している(表 5.2:42 ページ参照)
。Flex
Powerstation も商用運転が始まっているが炭鉱メタンガスでの運転実績はなく、豪州炭鉱向けに
は規模が小さすぎる。
豪州炭鉱に限れば、実用レベルでの運用実績があるのは VOCSIDIZER のみであるが、Corky’s
社の VAM-RAB も NSW 州政府の資金援助を得て炭鉱での開発試験を実施しており、この 2 つの
技術が最も優位な位置にあると考えられる。ただし、VAM-RAB は実用サイズでの長時間運用実
績や発電装置と組み合わせた実績がなく発電もできない。このため、川崎重工の VAM ガスター
ビンシステム(GPB10VOX:VAM ガスタービン発電装置(GPB10V)と VAM 浄化装置を組み
合わせたシステム、詳細は 6.1 項参照)が競合するのは VOCSIDIZER を用いた発電システム(以
下「VOCSIDIZER 発電システム」と称す)である。
VOCSIDIZER 発電システムと GPB10V の長所・短所を表 5.4 に示す。
表 5.4 VAM ガスタービンシステムと VOCSIDIZER 発電システムの長所・短所
長所
VAMガスタービンシステム(GPB10VOX)
・始動時間が短い(約2時間)
・停止、冷却に要する時間が短い(約1日) (注)
・水が不要
・設備設置面積が小さい
・急速なメタン濃度変動に追従できる
・VAMのメタン濃度に制限が無い
・発電電力はVAMメタン濃度に影響されない
・運転にはCMMが必要
・硫黄成分を含むCMM/VAMには適用不可
短所
VOCSIDIZER発電システム
・CMM無しでも運転可能
・VAM含有物に対する制限がない
・始動時間が非常に長い(約1.5日)
・停止、冷却に要する時間が長い(約4日) (注)
・大量の水が必要
・設置面積が非常に大きい
・急速なメタン濃度変動に追従できない
・運転可能なVAMのメタン濃度は0.3~1.2%
・発電電力はVAMメタン濃度により変化する
(注)自然冷却の場合
表から明らかなように、GPB10VOX は VOCSIDIZER 発電システムに比較して多くの長所を
有している。特に、設置面積が小さくて水が不要という特長は設置条件面で有利であり、始動・
停止時間が短く、急速なメタン濃度の変動に追従できることは運用面や緊急時の安全対策に有利
である。また、VAM のような希薄メタンガスの発電利用を主目的に開発されたシステムであるた
め、VAM のメタン濃度が変化した場合でも発電電力は変化しない。ただし、運転に CMM が必要
であることから、VAM 排気主扇とガス抜きポンプ設備が離れている場合には設備設置コストが上
昇する。また、触媒の特性上、硫黄分を含む CMM/VAM が使用できないことは適用可能な炭鉱数
が少なくなる可能性がある。
一方、VOCSIDIZER 発電システムは VAM の酸化処理を主目的に開発されたシステムであるた
め、CMM が無くても運転できるという特長を有している。しかしながら、VAM のメタン濃度が
低下すると発電電力が少なくなるため、一定量の発電電力が必要な場合には CMM を混合してメ
タン濃度を高める必要がある。さらに、発電には大量の水が必要である。また、熱容量が非常に
大きいため始動・停止時間が長く、メタン濃度の急速な変動には追従できない。
60
以上のことから、技術面においては、電力が必要な場合には GPB10VOX が有利で、VAM の酸
化処理を主目的とする場合には VOCSIDIZER 発電システムが有利になる。
経済性に関しては、VAM のメタン濃度が 0.3~0.9%の条件において、VOCSIDIZER システム
の単純投資回収年数は CO2 価格が US$15/t-CO2e(A$V13.875/t-CO2e:2012 年 2 月末 TTM レ
ート換算)の場合には約 8.5~3.5 年とされている(New Trends in Coal Mine Methane Recovery
and Utilization,Richard Mattus, A Workshop in Association with the International Mining
Forum,February 2008)
。これと比較するため、GPB10VOX の単純投資回収年数を計算した。計
算に当たっては、VAM の処理量をできるだけ同じ条件で比較するため、4 台の GPB10VOX をユ
ニット化すると仮定した。
主な計算条件は以下の通りである。
 VAM の供給条件(メタン濃度:0.3%、0.6%及び 0.9%の3ケース、温度:15℃)
 CMM の供給条件(メタン濃度:50%、温度:15℃)
 年間稼働率:97%
 電力単価:A$70/MWh(炭素価格制度の影響を考慮)
 GPB10VOX の発電性能:66 ページの表 6.1 参照
 GPB10VOX の VAM 浄化装置処理量:38,000m3/h(標準仕様)、80,000m3/h 及び
120,000m3/h の3ケース
 CO2 価格:US$15/t-CO2e(A$V13.875/t-CO2e:2012 年 2 月末 TTM レート換算)
計算結果を表 5.5 及び図 5.38 に示す。
表 5.5 VAM ガスタービンシステムと VOCSIDIZER 発電システムの経済性比較
処理技術
台数
GPB10VOX
(38,000m3/h)
4
GPB10VOX
(80,000m3/h)
4
GPB10VOX
(120,000m3/h)
4
VOCSIDIZER
発電システム
1
発電電力 補機動力 処理量(m3/h)(注2) 建設費 運用費 GHG削減量 単純投資回収 敷地サイズ
VAM
メタン濃度(%) (kW) (注1)
(kW)
(万A$) (万A$/y) (万t-CO 2e/y)
年数(年)
(m×m)
CMM
VAM
0.3
0.6
3,200
360
0.9
0.3
0.6
3,200
600
0.9
0.3
0.6
3,200
920
0.9
0.3
900
0.6
3,300
0.9
5,800
1,506
711
1,246
1,425
986
2,142
1,506
1,215
1,246
2,433
986
3,654
1,506
1,695
1,246
3,393
986
5,094
0
1,500
2,130
2,514
2,878
140
176
208
750
1,000
データ無し データ無し
2,250
(注1)VAMメタン濃度が0.3%および0.6%の場合のVOCSIDIZER発電電力は熱出力からの推定値
(注2)純メタン換算流量
61
25
5.8
30
4.8
35
4.2
30
6.3
41
4.6
51
3.6
35
6.9
51
4.5
67
3.3
8
8.5
16
4.5
24
3.5
30×25
30×30
30×30
50×50
図 5.38 単純投資回収年数の比較
図から明らかなように、メタン濃度が 0.6%以上であれば、いずれのシステムも一般的な投資指
針である単純投資回収年数 5 年以下を達成している。
GPB10VOX と VOCSIDIZER 発電システムを比較すると、メタン濃度が 0.6%よりも低い場合
は GPB10VOX の方が回収年数は短く、0.6%よりも高くなると、VAM の酸化処理量が少ない場
合には VOCSIDIZER 発電システムの方が回収年数は短くなる。ただし、GPB10VOX の VAM 酸
化処理量を増加させると VOCSIDIZER 発電システムとの回収年数の差は小さくなり、処理量が
80,000m3/h で回収年数はほぼ同等、120,000m3/h では僅かに短くなる。
一般に、豪州における VAM のメタン濃度の変動幅は 0.3~1.2%で、通常は 0.5~0.8%の範囲
で変動する(EDL 社からの入手情報)
。GPB10VOX の VAM 浄化装置標準仕様品(酸化処理量:
38,000m3/h)は、メタン濃度が 0.5%で最適運転できるように設計されているため、豪州のように
VAM のメタン濃度が高い条件に対しては、酸化処理量を増やすことで経済性を高める必要がある。
62
6.VAM ガスタービンシステム
6.1 システムの概要と性能
川崎重工が開発した VAM ガスタービンシステム(GPB10VOX)は、VAM ガスタービン
発電装置(GPB10V)VAM を酸化処理する VAM 浄化装置を組み合わせたシステムである
(図 6.1 参照)
。
VAM 浄化装置
ガスタービン発電装置
VAM
CMM
(濃度調整用)
抽気バルブ
触媒
燃焼器
VAM
電力変換
装置
CMM
(始動用)
始動用燃
焼器
~
発電機
ブロア
圧縮機
排ガス
タービン
排気
混合器
触媒
反応器
熱交換器
ガスタービン
排ガス
熱交換器
図 6.1 VAM ガスタービンシステム(GPB10VOX)の構成
① VAM ガスタービン発電装置(GPB10V)
GPB10V は VAM ガスタービン(M1A-01V)と発電機を防音エンクロージャで囲い、エ
ンクロージャの屋根に吸気フィルタと VAM/CMM 混合器を配置した形で構成される(図
6.2 参照)
。
図 6.2 VAM ガスタービン発電装置(GPB10V)の構造
63
GPB10V の外形寸法は 7,700(L)×2,980(W)×5,140(H)で、質量は 27,000kg である(図
6.3 参照)
。定格出力(800kW)運転に必要な VAM/CMM 混合気のメタン濃度は約 2%
で、混合気流量は約 22,000m3N/h である。
VAM ガスタービン(M1A-01V)はエンジン本体の中に組み込まれている圧縮機とタ
ービン、触媒燃焼器、始動用燃焼器及び熱交換器から構成されており、減速機を介して
発電機に結合されている(図 6.4 参照)。
エンジン吸気として吸い込まれた VAM/CMM の混合気は圧縮機で圧縮され、熱交換
器を通って触媒反応温度まで加温されて触媒燃焼器に流入する。触媒燃焼器内流入した
混合気は、触媒反応によりメタン成分が酸化されて高温・高圧の燃焼ガスになる。触媒
燃焼器から排出された燃焼ガスが膨張してタービンを回転させ、発電する。タービンか
ら排出された高温のガスは、熱交換器で VAM/CMM 混合気と熱交換して混合気を加温し
た後、発電装置排気ガスとして排出される(図 6.4 の矢印参照)
。
GPB10V 仕様
外形
7,700mm(L)×2,980mm(W)×5,140mm(H)
質量
27,000kg
騒音仕様
85dB(A)以下
設置条件
屋外設置 耐震条件
水平:0.4G/鉛直:0.2G
発電端出力
800kW (@メタン濃度:2.0%、吸気温度:15℃)
電圧/周波数
690V、50/60Hz切替(発電機回転数:1,800min -1)
補機電圧
AC200V
VAM/CMM混合気流量
22,000m3N/h
図 6.3 VAM ガスタービン発電装置(GPB10V)の仕様と寸法
64
図 6.4 VAM ガスタービン(M1A-01V)の構成と VAM/CMM 混合気の流れ
② VAM 浄化装置
発電装置の排気ガス温度は約 370℃で、高いエネルギーを保有している。このエネル
ギーを利用して VAM を酸化処理するのが VAM 浄化装置である。
VAM 浄化装置は排気混合気、触媒反応器及び熱交換器から構成される。ブロワによっ
て供給される VAM は、熱交換器で VAM 浄化装置との熱交換によって予熱される。予熱
された VAM は排気混合器において発電装置排ガスと均一に混合されて触媒反応器に送
られ、ここで触媒反応によって混合気中のメタン成分が酸化される。触媒反応器の排ガ
スは熱交換器を通して大気中に排出される(図 6.1 参照)。
③ GPB10VOX の性能
GPB10VOX 標準仕様の性能を表 6.1 に示す。主な計算条件は以下の通りである。
 VAM の供給条件(メタン濃度:0.5%、温度:15℃)
 CMM の供給条件(メタン濃度:50%、温度:15℃)
 発電装置の CMM/VAM 処理効率:99%
 処理装置用熱交換器の温度効率:75%
 浄化装置の VAM 処理効率:98%
 年間稼働率:97%
GPB10VOX の発電電力は 800kW で、温室効果ガス:GHG 削減量は発電装置単体
の場合に年間で 48,000t-CO2e、浄化装置と組み合わせたシステムの場合には年間で
68,000t-CO2e になる。
65
表 6.1
GPB10VOX(標準仕様)の性能
発電電力(kW)
800
発 補機電力(kW)
電
3
装 CMM/VAM利用量(m N/h)
置 定格運転メタン濃度(%)
温室効果ガス:GHG削減量(t-CO 2e/y)
30
22,000
2.0
48,000
浄 補機動力(kW)
化
3
装 VAM処理量(m N/h)
置 温室効果ガス:GHG削減量(t-CO 2e/y)
20,000
総温室効果ガス:GHG削減量(t-CO 2e/y)
68,000
60
38,000
6.2 VAM ガスタービンシステムの安全性評価
策定作業中の VAM 処理設備及び運転に係る安全基準では、基本的には以下のことを要求さ
れる可能性が高い。
① ガス突出や通気システムの故障で爆発限界濃度(5~15% CH4)のメタンガスがシステ
ム内に供給された場合の爆発防止対策。
② VAM 処理設備が爆発や火焔を生じた場合の坑内への伝播防止。
川崎重工の VAM ガスタービンシステムは、図 6.5 のプロセスフローに示すように、要求事
項①、②を満足している。
要求事項①に対する対策
坑内に設置されたメタンガス濃度検知器からの“ガス濃度高”信号により、CMM 供給ライ
ンの燃料遮断弁を全て閉じてシステムを緊急停止する。同時に、VAM 吸気ダクト入口近傍に
設けた緊急遮断ダンパーを閉じてシステム内への VAM の侵入を防止する。併せて、バイパス
空気ダンパーとエンジンの緊急開放弁を開いてシステム内を空気で掃気する。
また、システム運転時は常時、VAM、CMM 及び混合気のメタン濃度をモニターし、爆発限
界濃度の混合気が形成されることがないよう CMM の流量制御弁の開度上限を VAM と CMM
のメタン濃度で制御する。VAM あるいは CMM のメタン濃度が流量制御弁の制御範囲を超え
ると判断された場合や、混合気濃度が上限値を超えた場合には、直ちにシステムを緊急停止す
る。これによって、システム内に爆発限界濃度の混合気が形成されることを防止する。
要求事項②に対する対策
VAM 吸気ダクトは排気主扇出口に直結せず、システム内に発生した爆発や火焔が坑内に伝
播することを防止する。
システム内で発生した爆発や火焔は、圧力あるいは温度センサーで検知し、直ちにシステム
を緊急停止する。同時に、VAM 吸気ダクト中の緊急遮断ダンパーを閉じ、排気主扇出口との
繋がりを遮断する。
また、CMM 供給ラインには逆火防止装置を設け、システム内に発生した爆発や火焔が坑内
に伝播することを防止する。また、爆発時には VAM 吸気ダクトに設けた避圧ダンパーが爆圧
で開くように設定しており、圧力を開放してシステムの損傷を防止する。
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図 6.5 VAM 処理システムのプロセスフロー
7.VAM ガスタービンシステムの経済性評価と市場規模
7.1 VAM ガスタービンシステムの経済性評価
豪州では 2012 年 7 月 1 日から炭素価格制度が導入されることになっており、当然のことな
がら VAM ガスタービンシステムによる VAM 処理コストは、炭素価格(初年度は A$23/t-CO2e)
以下でなければならず、
処理コストの目標値を A$10~15/t-CO2e としている炭鉱会社もある。
一方、豪州炭鉱会社においては、設備導入の投資基準としての IRR:内部収益率は 20%以上(計
算期間:15 年)が標準とされている(EDL 社からの情報)
。
このため、川崎重工が開発した VAM ガスタービンシステムがこれらの基準を満たすことが
できるかどうかを検討する。検討に当たっては、以下のような条件で、炭素価格をパラメータ
として IRR の計算を行った。
 設備建設及び運用コスト:61 ページの表 5.5 による
 発電電力及び補機電力:61 ページの表 5.5 による
 電力単価:A$70/MWh(Tasman Report の平均値、炭素価格制度の影響を含む)
 VAM のメタン濃度:0.5~0.8%
 電力収入が得られるのは設置2年目から
VAM メタン濃度を 0.65%(豪州炭鉱の平均的な値)一定とし、3ケースの VAM 酸化処理
量に対して IRR を計算した結果を図 7.1 に示す。
IRR が 20%以上となる炭素価格は VAM 酸化処理量が多いほど安くなるが、概ね A$13~14
である。これは、豪州の炭鉱企業が目標としている A$10~15/t-CO2e の範囲内であり、炭素
税(初年度:A$23/t-CO2e)と比べて十分に安い価格で VAM を酸化処理することができる。
図 7.1
GPB10VOX の IRR 評価(VAM のメタン濃度:0.65%)
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VAM 浄化装置の処理量を 80,000m3/h 一定とし、3ケースの VAM メタン濃度に対して IRR
を計算した結果を図 7.2 に示す。
IRR:20%以上を達成できる炭素価格は VAM のメタン濃度が高くなるほど安くなるが、い
ずれのケースにおいても、炭鉱企業の目標とする A$10~15/t-CO2e の炭素価格で IRR が 20%
以上になる。
以上の結果が示すように、VAM ガスタービンシステム(GPB10VOX)は、豪州炭鉱企業が
目標とする A$10~15/t-CO2e の炭素価格範囲内で豪州の投資基準である 20%以上の IRR を達
成できることから、経済的に成立可能なシステムであると評価できる。
図 7.2
GPB10VOX の IRR 評価(VAM 酸化処理量:80,000m3/h)
7.2 VAM 処理システムの市場規模
今後、豪州においては坑内掘り炭鉱が増え、メタンガス排出量が増加すると予想されている
(図 2.3 及び図 2.6 参照)
。このため、以下のような仮定に基づいて「処理システム(VAM 焚
きガスタービン発電装置)」の市場規模及び販売台数の予測を行った(図 7.2 参照)
。
 メタンの排出量 Fugitive Emissions Projections 2010 の予測値(図 2.6)に従う。
 VAM は坑内掘り炭鉱のメタン排出量の 95%を占める(DCCEE データからの推定)。
 VAM/CMM の排出量割合は 60/40 とする(EDL 社からの情報)
。
 CMM 排出量の 40%はガスエンジン発電に利用される。
 ガスエンジン発電利用以外の CMM の 60%が「処理システム」に利用される。
 「処理システム」の市場導入は 2014 年からとする。
 既存フレア設備に利用されている CMM のうち、毎年「処理システム」に 10 台分が置き
換えられる。
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図 7.2 市場規模と販売台数の予測
予測通りに VAM ガスタービンシステムの設置が進んだ場合、2020 年には 135 台、2030 年
には 285 台が豪州炭鉱に設置されることになる。その結果、2020 年には豪州炭鉱で回収され
る CMM の 22.4%(486 万 t-CO2e)、2030 年には 37.4%(1,026 万 t-CO2e)が発電燃料とし
て利用され、VAM に関しては 2020 年の排出量の 5.0%(162 万 t-CO2e)
、2030 年の排出量の
8.3%(342 万 t-CO2e)が発電燃料として利用されることになる(図 7.3 参照)
。また、VAM
浄化装置も併せて設置された場合の VAM 削減量は 2030 年には排出量の約 22%に達する。
図 7.3 CMM/VAM の利用/処理量予測
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8.結び
本調査の結果、豪州炭鉱においては高濃度メタンガスである CMM の回収は進んでいるが発電
への利用は 40%程度で、残りの大部分はコストが安いフレア設備で燃焼処理されていることが判
明した。一方、坑内掘り炭鉱からのメタンガス排出の大部分を占める VAM はほぼ全量が大気中
に放散されており、訪問調査した炭鉱においては、通風主扇風 1 か所当たりの排出量が 350~
600m3/s とういう膨大な量であった。
VAM 処理システムについては、蓄熱燃焼式酸化装置の開発が最も進んでおり、徐々に商品化が
進みつつある。中でも MEGTEC 社の VOCSIDIZER が先行しており、BHP Billiton 社の West
Cliff 炭鉱(NSW)において、2007 年から蒸気タービンと組み合わせた世界初の VAM 焚き発電
所が運用されている。しかしながら、この設備でも VAM 排出量の 20%程度しか処理できず、VAM
処理量を増やすためには設備の増設、あるいは大型化が必要である。
一方、VAM 処理設備に係る安全基準に関しては策定が遅れており、施行は 2012 年 6~12 月頃
となりそうで、VAM 処理設備の導入が始まるのはそれ以降になると考えられる。
本年 7 月 1 日から導入される炭素価格制度については、坑内掘り炭鉱を運営する炭鉱企業の関
心は高く対応策を検討しているようであるが、豪州は電力単価が安いため、炭鉱企業はシステム
が単純で安価なフレア設備による燃焼処理や蓄熱燃焼式酸化装置による酸化処理を好む傾向があ
る。しかしながら、近年の環境保全に対する意識の高まりから炭鉱企業も CMM/VAM の発電利用
を検討し始めており、今後は燃焼や酸化処理だけでなく発電も可能な設備の導入が増えてくるも
のと予想される。
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