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Contents - 日本発明振興協会
第 557号 平成 23年 10月 15日 (毎 月 1回 15H発 行 ) ¨ 一 一一 一一¨ 一 一 ■ 一 一 ヽニ , 一 ● 一 一 一¨ヽ ■ ■ ヽ ● ヽ ヽ ヽ 一一 日 ヽ ‘ 多 ″ ´ ‘ 〓 ︰ 〓 ヽヽ ヽ ヽ ヽ お■ ヴ ′ ´ ‘ 三 〓 ¨〓 ミ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ,″ ヽ プ ″ ″ ´ ´ ´ 〓 〓 一〓 ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ﹁ ″′ ′ ′ ″ ′ ´ 〓 〓 〓 ミ ヽ ヽ ヽ ヽ′ ′, ′′ ′″ ′ ′ ´ ″´二 〓 〓 ミ ヽ ヽヽ ヽ L〓 ′ ‘ ‘ ′ ′ ′ し ′ ′ ″ ′´´ ´ 〓 〓 ミミ 、 L 暉 ︱′ ′ ′ ‘′′ ′ ′ ノ ′′ ′ ″ ″´´′Ξ 〓 、 ■ ● 1 ′ 7 ‘′ ′ ′ ‘ ′ ろ う ク ′ , Contents 巻 頭 イ ンタ ビュ ー : 自由な発想で取 り組む研究環境 で ‐ 『世界初』を創 り出す技術力を生む ″ (株 )住 田光学ガラス 代表取締役社長 住田 利明 平成 23年 度「交 流 及び 見 学研 修 会 」 : 最先端技術を間近 に し宇宙に夢を馳せた見学会 巻頭インタビュー シリーズ INTERVIEW:イ ノベー シ ョンヘ の (挑 戦〉⑥ (株 )住 田光学ガラ ス 代表取締役社長 住田 禾」明 , (右 ) JSAr 高齢者が ワクワクする姿を追い求め よ り安全な車輪付き乗 り物開発 に挑む 〃 ケイズ技研 代表 稼農公也 THE JAPAN SOCIETY FOR THE ADVANCElvlENT OF INVENT10NS ■ 巻頭インタビュー 自由な発想で取り組む研究環境で 『世界初』を創り出す技術力を生む !! 巻 頭 イ ン タ ビ ュ ー と し て、 (株)住 田 光 学 ガ ラ ス 社長の 住田 利明さんに、当協会の柴 田専務理事が技術開発への取 り組みについて話を聞いた。 (株)住田光学ガラス 代表取締役社長 住 田 利 明 ■インタビュアー: 柴田 治呂〔公益財団法人 日本発明振興協会 専務理事〕 ざまな分野へと展開しています。 うとしていますか。 ─ カメラのレンズには、特殊 住田 当社では、カメラレンズ業 な光学レンズが使われているそう が売上げの半分程度を占めていま ─ 貴社の光学ガラスは、主に ですね? すので、大きな問題です。コンパ どのような分野で使われているの 住田 レンズには「収差」といわ クトカメラを中心に、カメラメー でしょうか? れる焦点のズレがあり、従来は、 カーの生産拠点が中国、韓国、台 住田 カメラ用レンズをはじめ、 複数枚のレンズを組み合わせるこ 湾へと移り、このままでは、日本 光学機器などに広く利用されてい とで、焦点を補正していました。 のカメラ産業自体が無くなってし ます。光学ガラスは、通常のガラ それを1枚のレンズで可能にした まうのではないかと危惧していま スとは成分が全く異なり、高い精 のが非球面レンズです。研磨では す。すでに、今のカメラに要求さ 度と純度が要求されます。原料を 作ることができないため、金型プ れるレンズは、中国で大量生産さ 調合して、屈折率や透過率、耐候 レスによる方法を考案すること れているガラスで十分満たされる 性など、さまざまなスペックの素 で、コストダウンと大量生産を可 レベルになってきており、安い中 材、材料を開発し、ユーザーに提 能にしました。高温のガラスに耐 国製レンズは脅威です。そこで、 供しています。そうした中、ガラ えられない金型の寿命を延ばすた 当社では安く作る、ということを スレンズ事業を柱として長年培っ めに、低温で溶ける加工性の高い 新たな目標と掲げています。これ た微細な加工技術を基盤に新たな ガラス素材の開発に取り組んだこ までは、性能の向上を追求してい 用途開発を進め、ガラス応用製品 とで、初めて実現可能となったわ ましたが、発想を変えて、求めら の光ファイバーや、光ファイバー けです。ところが最近では、高温 れる性能を安く製造することを実 を 加 工 し た 医 療 器 具 な ど、さ ま でもプレスできる金型やガラスの 現するよう努力しています。 性能をカバーするような加工技 ─ 安く作るという点では、ト 術など、周辺技術も急速に進歩し ヨタが得意ですね。かつてエンジ て、よりコストが安い方法が求め ンの自動工作化で日産に水をあけ られるようになってきています。 たように、何か安く作る方策を考 金型プレスで研磨不要の 非球面レンズ開発に成功 時代の要請に応えて 「安く作る」へ発想転換 1枚で画像の歪みや焦点のズレを補正 できる「精密モールド非球面レンズ」。 光学機器の小型化、軽量化、コストダ ウンを実現。 2 発明と生活 No.557 October 2011 えておられますか? 住田 なかなか妙案がなくて困っ ています。プロジェクトチームで ─ 最近では、カメラメーカー も作って集中的に改善するような が生産拠点を海外に移しています ところまでいっていません。社員 が、これにどのように対応されよ はこれまで新しいものを作り続け (株)住田光学ガラス 住 田 利 明 :昭和25年生まれ。 住田 利明(すみた としあき) 同 49 年、 (株)住田光学ガラス 入社。平成5年、副 社長。同21年、代表取締役社長、現在に至る。 ることに慣れていて、急に安く作 タの進歩で、これまでのよ れと言われても、なかなか対応が うにレンズに頼って優れた 難しいのです。しかし、安く作る 画質で画像を取り込むこと ということを、何とか実現したい よりも、加工しやすく、使 と思います。 いやすい画像が求められる ─ 時代とともに、レンズに求 ようになってきています。 められる性能も、変化してきてい るわけですか ・・・。 住田 市場では、安価で使いやす 研究者の自由な発想で 世の中にない新ガラスを創る 住田 すべてがアングラ研究で す。当社では、大学の研究室のよ うに極めて自由度が高い環境で、 研究者自身が、次年度の自分の研 いコンパクトデジタルカメラの需 ─ 主力商品のレンズがカメラ 究テーマを自ら決めています。研 要が大多数になっています。一般 の要求水準を超え、価格競争にな 究者は長くやっているので、自ら 的に、一眼レフカメラのレンズの りつつあるということですが、今 取り組むべきテーマが良く見えて 方が精度が高いと思われがちです 後の展望をどういうところに求め います。部長も課長も研究者とし が、実は、大きいレンズは比較的 ておられるのですか? ては同じで、フラットな組織にし 作りやすく、携帯電話や小型のデ 住田 それは、当社にしかできな ています。すぐに製品化が求めら ジタルカメラに使われる小さいレ い 独 自 の ガ ラ ス 開 発 で す。当 社 れる技術開発というより、むしろ ンズの方が高い精度が求められる は、数十年にわたって新しい機能 必ずしも製品化に直結しないよう のです。さらに、世の中でのカメ 性を持つガラスの開発に取り組ん な研究に、積極的に取り組んでい ラ自体の位置づけが変わり、レン できました。世の中にないものを るのが特長です。直接は製品化さ ズに要求される性能も大きく変化 作り出すことを目標に、いろいろ れなくても、無駄だと思っていた しています。昔は写真を撮ること なガラスの研究を進めていく中か ところから新しい何かが生まれる が目的でしたが、最近は撮った写 ら、研究成果として数多くの新技 ことも多く、そこから派生した技 真をメールで転送したり、パソコ 術が生まれています。研究者が自 術を活かした製品開発というの ンで編集したりと、人に見せる方 由な発想で研究できる環境を整 が、当社の基本パターンの1つと 法が変化しています。コンピュー え、われわれの持つ技術をどうい なっています。 う場面で活かせばいいかを模索し ─ 研究開発の規模について ながら、新しいタネを捲いていま は、糖度計シェア No. 1のアタゴ すが、なかなか実るまでには時間 社では7%としているようです がかかります。 が、どのような目標を設定してい ─ どのような研究開発方針 ますか。 をお持ちですか。たとえば住友3 住田 売上げに対する比率で研究 M は、上司の許可を得ないアング 開発費を決めるようなことはして ラ研究を、15% 程度許すというよ いません。景気に関係なく、一定 うな方針をとっているようです 金額をずっと続けて投資していま が ・・・。 す。研究開発部門の人員は 40 人 独自開発技術による「特殊高機能ガラ ス」。耐熱性や電気的特性をはじめ、蛍 光性、抗菌性、感光性など、さまざまな 特性を実用化。 発明と生活 No.557 October 2011 3 ■ 巻頭インタビュー ほどで、全社の1割以上を占めま ス「ホタロン」の製造に、世界で すから、比較的多いのではないで 初めて成功しています。フッ化物 しょうか。人件費を除けば、おお ガラスの研究段階で生まれまし よそ毎年1.5億円ぐらいを研究 た。さらに、その技術をもとに、 開発費に回しています。ずっと続 より安価で製品化に適したガラス けることに、大きな意味があるわ として開発したのが、第 20 回(平 けです。失敗を繰り返しても、そ 成6年度)発明大賞を受賞した「フ の経験が次の発想を生み、具体的 ツリン酸塩光学ガラス『ガドロン』 な製品に結びついた例が、これま シリーズ」です。こうした外部か でにいくつもありました。そうし ら評価される成果に結びついたこ た技術の蓄積によって、外部から とで、いろいろな種類のガラス開 新しいガラス開発の依頼を受けた 発に取り組むことは、必ずや無駄 通信用光ファイバーを製造するた 時に、短期間で素早く対応できる にならないと確信しています。 めには、大規模な設備を必要とし わけです。 ─ どのように研究開発を管理 されておられますか。節目ごとに ますが、ガラス製のファイバーは 比較的容易な設備で作ることが可 能です。 評価するステージゲート法などを ─ ところで、光ファイバー技 ─ と こ ろ で、ガ ラ ス 製 の 光 適用していますか。 術の開発に取り組んだのは、何が ファイバーは、どのような用途に 住田 特段の研究管理は行ってい きっかけだったのですか。 使われているのでしょうか ・・・。 ません。ただ、テーマの内容と進 住田 ある時、大阪工業技術試験 住田 照明装置や工業用スコープ 捗状況を把握するために、2か月 所の方から、ガラスを繊維状に引 などに利用されています。さらに に1度、社内で研究発表会を実施 き延ばして、中に光を通す素材が 医療分野では、胃カメラや内視鏡 しています。それでもひとり数分 作れないかという提案を受けて、 などにも利用されています。そう 程度の簡単なものです。少人数で それは面白そうだとチャレンジし した技術開発の過程で生まれた新 すから、大企業のような管理法は たのが始まりでした。まだ世の中 しい技術として、ファイバーと蛍 必要ないのです。 に光ファイバーという言葉自体が 光ガラスの技術を組み合わせた ─ そうした研究体制の下で、 知られていない時代で、開発には レーザーファイバーの開発に結び 具体的にどのような製品が生まれ 成功したものの、最初は用途が見 つきました。半導体レーザーの波 ているのですか。 い出せず、キラキラ光る装飾品を 長をファイバーによって変換する 住田 例えば、業界では不可能と 作る程度でした。 ことで、これまでにない白色レー 言われていた蛍石(ホタルイシ) ─ 通信用の光ファイバーなど ザーを作り出すことに成功したの 結晶と同等の性質を持つ光学ガラ には進出しなかったのですか。 です。今後はそれを光源として、 住田 実は、光ファイバーといっ LED 照明よりさらに効率の良い ても通信用の光ファイバーとは全 レーザー照明装置などへと展開し く異なるものなのです。当社の光 ていきたいと考えています。 ファイバーは、光学ガラスを使っ ─ 新たな性能を持つガラスを た二重構造のファイバーで、その 次々と開発し、応用分野を拡げて 中を光が反射しながら進む仕組 いくことで、将来展望が開けるの みです。一方、通信用の光ファイ を待つということですか。 バーは石英が原料で、1本の光を 住田 当社の持っている独自の優 中に閉じこめて伝送する仕組み れた技術と、最先端の製品を素材 で、素材自体が全く違うし、その から最終製品まで作れるという強 用途、目的が異なります。また、 みを活かして、独自の製品開発を 非球面レンズなどのモールド成形に適 した「精密モールド用光学ガラスプリ フォーム材料」。低温度プレス加工を可 能にし、研磨不要のレンズ製造を実現。 4 ガラスのノウハウを活かし 光ファイバー技術を展開 独自光学ガラス技術による「光ファイ バー」。熱や紫外線の影響が少ない照明 システムや、医療用の内視鏡、工業用 スコープなど、最終製品まで一貫生産。 発明と生活 No.557 October 2011 (株)住田光学ガラス 住 田 利 明 これからも目指していきたいと考 ─ 徹底的に素材を追求し、誰 えています。 もやらないことに挑戦し続けるこ 基本的には、新しいもの、変化 とが、世界初の技術を生み出す秘 することが好きで、他の誰もやっ 訣というところですか。 ていない独自なものに常に興味を 住田 何でもまずはやってみるこ 惹かれます。創業者の祖父をはじ とだと思います。考えているだけ め先祖代々、筋金入りの “ へそ曲 では何も生まれませんから、とに 住田 なかなか難しいところで がり ” で、どうやら本能的に人と かく挑戦してみることです。失敗 す。ずっと恵まれた環境で育って 違うことをしたくなる DNA が受 する可能性は高いかもしれません きて、小さいときから決められた け継がれているようです。 が、失敗を繰り返さないと、良い ルールの中で行儀良く育てられて ものは生まれてこないと思いま きた世代には、なかなか理解でき す。失敗だったら次の手を打つこ ないようです。まず与えられた枠 とができますから、失敗を恐れて の中で発想する習慣がついてし ─ ガラスをかなり研究し尽く 何もやらないよりは、どんどん失 まっていて、自由にやっていいと したので、コア技術のガラス以外 敗した方がいいと思います。 言われても困ってしまうようで の新しい分野に挑戦する多角化を ─ 失敗しても怒られない、リ す。そういう世代がこれから経営 進めることを考えないのですか。 スク許容の文化が根付いていると 側になってきたときに、社会全体 住田 まだまだガラスの技術を追 いうことですね。 が活性化していかないのではない 求していきたいと考えています。 住田 失敗して怒られる環境で かと危機感を覚えています。社会 ガラスというのはまだまだ知られ は、開発者は萎縮して何もできな 全体がシステム化されて便利に ていないことが多く、原料の混ぜ くなってしまいますから ・・・。た なった反面、自由度が少なくなっ 方ひとつで、全く違ったガラスが とえ失敗しても、何かしらの経験 ているような気がします。もう少 生まれてくるわけです。特に、光 がプラスになります。それを大き し自由が許される、柔軟性のある を通信などの分野に使うように く評価して、次の成功につながる 社会になっていく必要があるので なってきたのはつい最近のことで と考えるようにしています。利益 はないかと感じています。 すから、まだまだ未知の利用分野 や成功ばかり考えていると、何も ─ 今日は、貴重な時間をあり がたくさんあると考えています。 新しいものが生まれなくなって がとうございました。 今までは世の中で必要とされな しまいます。まだまだ、研究者が かった分野であっても、何か新し 常識にとらわれずに、新しい技術 い素材が必要になった時に、ガラ テーマをいろいろ出してくること スで実現できる分野が必ずあると を期待しています。 考えています。例えば、金属の代 しかし、最近の若い研究者は、 わりとして使えるような割れない 与えられた課題に対しては高い対 ガラスや、加工性の高いガラスが 応能力を発揮するのですが、クリ できることも、十分可能性がある エイティブな発想で、自ら新しい と思います。そうした独自の発想 ものに挑戦する気迫に薄く、危惧 に基づく研究の中から、偶然にも を感じています。教育や社会の風 磁石に反応するガラスというのが 潮の問題も大きいと思います。 生まれました。用途開発や製造コ ─ 昔から日本の企業は、大学 ストなど、まだまだ課題が多く実 の教育にはあまり期待せず、企業 用化には至っていませんが、一般 に入ってから鍛え直すと言われて の人に見せると、こんなこともで きましたが、企業での教育に期待 きるのかと、非常に驚かれます。 したいところですが ・・・。 失敗を恐れないチャレンジが 対応力の高い技術開発を生む <インタビュアー> 柴 田 治 呂 〔公益財団法人 日本発明振興協会 専務理事〕 (株)住田光学ガラス 代表取締役社長 住田 利明 〒 330-8565 埼玉県さいたま市 浦和区針ヶ谷 4-7-25 TEL:048-832-3165 FAX:048-824-0734 URL:http://www.sumita-opt. co.jp 創業:昭和 28 年(1953 年)10 月 従業員数:350 名 事業内容: ・光学機器用光学ガラス及び加工品 ・光ファイバー / ライトガイド / イ メージバンドル / 光源装置 / ファ イバースコープ ・非球面レンズ / 蛍光ガラス ・その他特殊ガラス等の製造販売。 発明と生活 No.557 October 2011 5 平成 23 年度の「交流及び見学研修会」を9月 8日(木)、9日(金)の2日間にわたり実施した。 今年度は、小惑星探査機『はやぶさ』で話題を集 めた宇宙航空研究開発機構(JAXA)を中心に見学 した。一般企業の見学先が先方の都合で急遽変更 となるハプニングにも見舞われたが、宇宙と自然 の雄大さに触れ、有意義な見学研修会となった。 最先端技術を間近にし宇宙に夢を馳せた見学会! 「交流及び見学研修会」第 1 日目 ク ト チ ー ム の 努 力 で 乗 り 越 え て、 さらに 1970 年に打ち上げられた日 は、小惑星「イトカワ」からの帰還 2010 年6月に無事に地球に帰還し 本初の人工衛星「おおすみ」の模型 に成功した小惑星探査機『はやぶさ』 た。展示は、試験用にいくつか作ら など、興味深い展示を見学した。 が話題となっている宇宙航空研究開 れたはやぶさの予備機体を使った実 日本での有人宇宙飛行の可能性は 発機構(JAXA)相模原キャンパスを 物模型で、太陽電池パネルなどを除 ありますか?との質問に、 「技術的 見学。第 2 日目は、富士山の裾野に いて、本物と同様の部品が使われて には十分な実力があると考えていま 広がる湧水池「忍 野八海」や富士山 いるという。展示物を前に、説明員 すが、莫大な費用と何よりも安全を 信仰の総本山である「浅 間神社」を からエネルギー効率の優れたはや 重視するため、なかなか実現が難し 散策。また、富士山に関する資料を ぶさのイオンエンジンの仕組みや、 い」との答えだった。 集めた「山梨県立富士ビジターセン 数々のトラブルをどうやって乗り越 見学を終えた後、月・惑星の研究 ター」を見学した。 えたのか、わかりやすく説明があっ の権威であり、昨年まで同機構の教 た。残念ながら、地球に帰還し回収 授を務めていた藤村参与から、高度 おしのはっかい せんげん 『は や ぶ さ』見 学 されたサンプルカプセルの現物は、 な汚染管理環境下で、はやぶさが持 公募による巡回展示中で見ることが JAXA では、最初に屋外で全長約 できなかったが、参加者は、小惑星 30 メートルの巨大な衛星打ち上げ まで遠く宇宙を旅するはやぶさの勇 用ロケット2基を見学。続いて、 『は 姿を思い描いた。 やぶさ』の展示を見学した。2003 年 そのほか、金星の周回軌道を回り 5 月に打ち上げられ、2005 年 11 月 大気の謎を解明することを目的とし に小惑星「イトカワ」への着陸を敢 た金星探査機「あかつき」の計画や、 行。さまざまなトラブルをプロジェ 現在活躍している日本の人工衛星、 ち帰った貴重な資料を、研究用に分 『はやぶさ』や金星探査衛星などの壮大 なスケールの説明に夢中で聞き入った 公益財団法人 日本発明振興協会の事業活動 中小企業や個人発明家の優れた発明を顕彰する「発明大賞表彰」事業や、豊か な発想力と独創力を育てることを目的とした「こども発明教室」を はじめ、発 明考案を実施するための費用を援助する「発明研究奨励金交付」事業、アイデア、 発明考案、特許出願などについてのご相談にお応えする「無料発明相談」なども 行っています。 一般の方も、是非ご利用ください。 6 発明と生活 No.557 October 2011 平成 23 年度「交流及び見学研修会」 配する世界唯一のキュレーション設 持ち帰ることに成功した喜びと意義 達するという。その高熱からカプセ 備と、現在進められている分析研究 が熱く語られた。 ルを守るために開発したのが、炭素 の成果について説明を聞いた(7頁 山田准教授からは、大気圏に再突 ファイバーによる強化プラスチック 囲み参照) 。隕石や月の石からでは得 入して無事に地球に帰還し、自らの を材料とする「ヒートシールド」で、 ることができない、太陽系誕生当時 手で回収したはやぶさのサンプルカ 実証試験と改良を重ね、見事に帰還 の貴重な情報が保存されている小惑 プセルについて説明があった。直径 を果たすことに成功した。 星から、世界で初めてのサンプルを 約 40 センチの実寸大のカプセルの また、カプセルを真っ直ぐ前を向 模型を手に、再突入時の高温に耐え いて安定飛行させるために用いた られるカプセルの仕組みや技術、開 「ジャイロ効果」と「風見鶏の原理」 大気圏再突入を果たしたカプセルの模型 発秘話が語られた。 の 2 つの技術についても、わかりや カプセルが、秒速 12km で地球の すい解説があった。 大気圏に再突入する際の表面温度 さらに、カプセル回収時の様子 は、カプセルにぶつかる空気の断熱 を、当時の映像や音声を再現しなが 圧縮により、1万℃から2万℃にも ら臨場感たっぷりに紹介し、最前線 (独)宇宙航空研究開発機構 月・惑星探査プログラムグループ 参与 (独)宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 参与 総合研究大学院大学 名誉教授 世界唯一の設備で挑む はやぶさのサンプルキュレーション 藤村 彰夫 小惑星「イトカワ」は、46 臆年前の太陽系が誕 け、数十個の微粒子を採取することに成功しまし 生した頃のままの状態が保存された、化石のよ た。さらに小さい微粒子を採取するため、サンプル うな始原天体で、そこからサンプルを持ち帰る キャッチャーの内部をテフロン製のヘラで掻き取 ことに成功したのは、世界初の快挙です。 り、採取した微粒子を電子顕微鏡で分析しました。 どうしてサンプルを持ち帰ることが重要なの これにより、約 1500 個が岩石質であることが分か かというと、探査機に観測機材を積んで小惑星 りました。分析でわかった鉱物の組み合わせや存 まで運び、データを取得する方法はありますが、 在比率、宇宙物質固有な鉱物の存在から、採取した 重量の制限があり、電力も限られ、運べる機材というのは 微粒子がイトカワ由来であると判断しました。 極めて少ないのです。さらに、打ち上げの衝撃や宇宙環境 現在も粒子を回収、分類して容器に収納保管し、研究者 が非常に過酷であるため、信頼性が高く、丈夫であること に配分する作業を進めていますが、サンプルが極めて小さ が求められます。このため、実は最新の機械を搭載するこ く、高度な汚染管理環境が求められますから、1日 1 個処 とが難しく、10 年くらい前の古い機材しか持っていくこ 理するのが精一杯であり、サンプルの回収には数年を要す とができないのが実情です。 ることが予想されます。 ところが、サンプルを採取して地球に持ち帰ることで、 1月末から約 60 片を初期分析に提供していますが、解 分光装置や電子顕微鏡、質量分析計といった大型の最新分 析が進められた結果、回収された固体サンプルがイトカワ 析装置を使って、さまざまな手法で解析することができ、 由来であること、S 型(石質)小惑星のイトカワが、普通コ ごく微量のサンプルであっても、極めて有効なデータを抽 ンドライトという石質隕石の母天体であることが証明され 出することが可能です。 ました。さらに、イトカワ表面や内部で起きている現象が はやぶさは、小惑星イトカワの地表に2度の着陸を試み 分かるようになってきています。こうして世界で初めての ました。タッチダウンには成功したものの、舞い上がった 成果も発見され始め、 『サイエンス』にも掲載されました。 破片をホーンで採取する目的で発射するはずの弾丸が発射 今後、年内を目標に、サンプルの一部を NASA に提供す されませんでした。しかし、着陸時にはやぶさ自身が舞い る予定で、その後、サンプル粒子に関する情報を広く公開 上げたごく微量の微粒子サンプルが捕獲されていると想定 し、それに基づき世界中の研究者による詳細研究を開始し されました。そのため、高度な汚染管理と微粒子サンプル ます。 を拾い上げ処理する方法を新たに開発しながら、はやぶさ 今回のサンプルは始原天体からの初めてのリターンサン の帰還を待つことになりました。 プルであり、太陽系の起源・進化に対する科学的なブレー 無事に回収され、日本に持ち帰ったサンプルカプセル クスルーを起こす可能性を秘めています。世界に先駆けて を、用意したクリーンチャンバーの中で開封しましたが、 始原天体の物質科学を進めることは、科学的意義は大きい 裸眼ではほぼ何も見えるものがない状態で、愕然としまし と考えています。そして、JAXA のサンプルキュレーショ た。光学顕微鏡で観察しながらマニピュレーターによる微 ンシステムは、少量の微小サンプルをクリーンな環境で分 細な動きで一粒一粒サンプルをピックアップする作業を続 析できる、世界で唯一の設備であると自負しています。 発明と生活 No.557 October 2011 7 平成 23 年度「交流及び見学研修会」 でのこぼれ話などが披露された。そ とする湧水池「忍野八海」を散策。 協会も変化適応が求められていま して、着地したカプセルが発する探 富士山のもたらす湧き水の吸い込ま す。執行部も新たになりましたが、 査用ビーコンを受信する予定時刻ま れそうな透明感に驚きつつ、優美な 古い世代と新しい世代の橋渡しをし で、あと残りわずかの時間がものす 風景に心を癒された。参加者は、冷 ながら、新しい絆を深めていきたい ごく長く感じられたと述べ、最後に たい富士山の雪溶け水に手を浸し、 と思います」と挨拶があった。続い 山田准教授は、 「はやぶさ成功の支 その痺れるような冷たさを体感した。 て粟村名誉会長から挨拶があり、高 えとなったのは、やはり民間企業の 続いて、日本全国約 1300 社の総 “ ものづくり ” の現場だと痛感して 本宮とされる「富士山本宮浅間大社」 康を守り、ますますの発展を目指し います」と、十数年間に及ぶ研究開 を訪れた。浅間神社では、境内にあ ましょう」と乾杯の発声があった。 発での苦労を振り返った。 る大鳥居や樹齢 300 年以上といわ また、新しく賛助会員となった松 れる富士太郎杉の雄大な姿に圧倒さ 岡玄五((有)K&G)さんから挨拶が れた。 あり、 「協会の発明研究奨励金で開 自 然 散 策 橋監事からは、 「体と心と企業の健 最後に「富士山ビジターセンター」 発し、発明大賞(日刊工業新聞社賞)を 2日目は、富士山の伏流水を水源 を訪れ、富士山の生い立ちや自然、 頂いた負圧式スプリンクラーが、今 文化などに関する展示を見学した。 回の震災で大変効果を発揮したとお 客様から高い評価を頂き、他の店舗 交 流 会 でも次々と導入が決定しています」 と、現状報告があった。 水深8 m の忍野八海の湧水口を覗き込む 1 日 目 の 夜 に 行 わ れ た 交 流 会 で 交流会では、近況報告や技術談義 は、原会長から「震災以降、世の中 に花が咲き、参加者相互の交流が図 が大きく変わってきていますが、当 られ、有意義なひと時を過ごした。 発 明 大 賞 表 彰 事 業 優秀な発明考案によって、わが国科学技術の振興、産業の発展、国民生活の向 上、環境問題の解決等に寄与した中小企業または発明研究者を表彰します。中堅・ 中小企業の発明、考案を広く社会に紹介し、発明の振興を図る目的で創設した制 度で長い歴史と権威を誇り、平成 23 年度で第 37 回を迎えました。当協会の主 要事業であり、日刊工業新聞社と共催で推進しています。 ◆ 毎年、7月〜9月に募集しています。優れた発明考案技術を持つ中小企業の皆様は、当 協会の「発明大賞」に是非ご応募ください。 発明研究奨励金交付事業 中小企業や個人発明家の持つ、アイデア段階の技術を評価し、その研究・開発 を進める経費の一部を助成します。発明考案を実用化するための試作・試験等の 資金を援助する制度で、研究開発資金の確保が難しい中小企業にとって、大きな 支えとなっています。 ◆毎年、5月〜7月に募集し、審査委員会による審査を経て、11 月に交付者を決定します。 将来、発明の実用化を目指す技術開発に取り組まれている中小企業の皆様は、当協会の「発 明研究奨励金」に是非ご応募ください。 8 発明と生活 No.557 October 2011 東京都功労者に当協会推薦で表彰される ─ 平成 23 年度東京都功労者表彰 技術振興功労 ─ 東京都は、10 月3日、都庁第一本庁舎5階大会議室において「平成 23 年度東京 都名誉都民顕彰式及び東京都功労者表彰式」を挙行した。 「東京都功労者」では、 地域活動功労、福祉・医療・衛生功労、文化、産業振興功労など 13 の功労につい て 263 名(団体含む)が、石原東京都知事より表彰された。技術開発等の部門であ る『技術振興功労』には7名(大学教授ほか4名、企業からは3名)が選ばれ、当協 会の推薦により東本正夫氏(サンマックス(株)代表取締役)も、その栄に浴した。 東本 正夫 氏 サンマックス(株) 代表取締役 <喜びの声> 内定から表彰式の前日まで、少し 東本正夫氏は、昭和 55 年に三興油圧機器工業(株)を設立、 同 63 年にサンマックス (株) に改称し、環境対応型の水圧機械 や放電照明機器等の企画開発及び製造販売に従事している。 氏が開発した「パラソル式バルーン形投光器」は、工事現 場やコンサート会場、避難場所での照明、あるいは撮影用に 用いられる。 工事現場などの照明には HID*(High Intensity Discharge Lamp)が使われているが、明るさには優れているものの明 暗のコントラストが強すぎて、極度な目の疲労や影による 危険も伴うことから、近年は間接照明的なバルーン投光器 が採用されている。 バルーンを形成する方法として、 「エアーブロー形(気球 式)」と「パラソル形(傘球式)」がある。前者は、ブロワやファ ンによって空気を送り込みながら球を形成する。後者は東 本氏が採用した方法で、傘の骨のようなひご部材を広げる ことによって、手動でバルーンを膨らませることから、騒音 がなく、電力消費も少ない。また、HID は点灯を中断すると 再点灯に5~ 20 分を要するが、瞬時再点灯の機能も備えた。 バルーン、三脚昇降スタンド、メタハラ専用安定器から成る シンプルな構造なので、トラブル要素が少なく、軽量で、安 価である。帆布の取り換えに要する時間は2~3分で、メン テナンスも容易である。総務省災害支援車にも搭載され、全 国 47 都道府県にも配給。騒音が出ないため、都内各所での 地下工事現場等でも活躍している。 恥ずかしい気持ちもあり、家族にも誰にも言わず に、ひとり熱い気持ちでおりました。当日は、会 場で素晴らしい方々と肩を並べている栄誉を実 感しました。1960 年よりものづくりに関わり、 1980 年に起業、今日に至るまで、技術開発一筋 の私のわがままを認めて応援してくれる家族や諸 先輩と周りの人たちに、感謝してやみません。私 は常々、自分の社会的存在は何かと考えるとき、 “技術者” であることを自覚します。その役割は 何かと考えるとき、一般によく科学、技術、技能 と言われますが、これらはそれぞれ別の役割があ ると思います。技術(テクノロジー)は、人類と いえることの一つで、永遠と続いてきたもの。技 術の任務はこれを用いて社会還元すること、すな わち人々の健康で豊かな生活、自然環境を守るべ く努力すること。もし、その過程で過ちがあれば、 即修正、即訂正と、反省する謙虚さが無くてはな らない。このように思いつつ、本分遂行のために 頑張っております。栄誉を賜ったのも、協会の推 薦があったお蔭と感謝しております。 ※「パラソル式バルーン形投光器」は、第 36 回(平 成 22 年度)発明大賞で『考案功労賞』を受賞。 HID*…高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧 ナトリウムランプの総称。光束(Lm)も高輝度蛍 光灯の2倍以上、ハロゲンランプの5倍以上ある。 こ ど も 発 明 教 室 小学校3年生から中学校2年生までを対象に、1年間にわたり、基礎からア イデアによる自由製作まで、“ ものづくり ” のおもしろさ、難しさを体験する 教室です。21 世紀の日本を担うこどもたちの豊かな発想と創造力の育成を目 指しています。協会3大事業の1つとして、昭和 54 年から実施しており、平成 23 年度は 33 回目になります。 <お問い合わせ> ◆開室時間:A グループ 土曜日 14:00 〜 16:30 B グループ 日曜日 9:30 〜 12:00 C グループ 日曜日 13:00 〜 15:30 公益財団法人 日本発明振興協会 東京都渋谷区桜丘町 4-22 電話:03(3464)6991 発明と生活 No.557 October 2011 9 ´ バ わ 力ち 巨 │や 坂道でも転倒しにくい自転車開ヨ た │シ ンクロシステム 「 です。シンクロシス テムを使 った三輪 自転卓やバ イ クは、片側 の車輪か斜面や段差で持 ち上が ると、もう ー 方の市輪が強制的に下に弓 っ張 られ、常 に左右の車輪の接lL,Iが 一対―になるため いで連動 させ ることがポ イン トで した,そ ケイズ か っ,' 手 家 農 横滑 りせず、tr倒 しに くくなるのです.坂 道 1危 Ψ nl年 答 〕 ぎ麟 I籠 場 ;篤 よ 雀 を bttflじ 1鬱=瑾 褒 嘔下 ,断 賓冊燐鯰呻攀 ●々ワ ヾ 次口‐キ │‐ ‐E27で 『 % :こ 1江さ を 整 liliモ :]:「lil ,ム [IFお■鯉[孟 黒 ;: i言 榊 奏菌 場 讐.: り齢 8:粍構2[せ Ettt堤 男 安著 す │:│■ Ⅲ:[FltI「 ⅢⅢ `綺 全 蠅温獄 見ツ 1: た c r客 I │な 筆711i■ 亜ⅢI暉 : 秀 敵:輔∬筆』:li :i[: 爾 1li:I:│:]:ilii』 ‖ :[:l::;:liili11111番 [ でいます I技 術を買い取 つてもらうことにな りました。 ーカ ーに勤めなから ―― のメ メー カーに勤めなか ら開発をお tけ て て ,Prdile一 ― ―― しば ばら らくは、 くは、 その そ 開発をれ ―― ― ― ― t1 し . 公益財団法人 lC)月 号 OCT 2011 No 557 い ―― ・ ; 一―― 一 ―― E mtt ha`‐egsaO■ 部〕 〒 1500031 東京都渋谷区桜丘町 4 22 2 F感 :0304646980ホ ームベージ i htlp:〃 酬 isa oフ 日本発明振興協会 〔 楓 稀lil∬ 号 M、3訊響3般 1職冊rri遷 助↑ ル TEL i03 3464 6991∼ :300"は 料込み)崚 勁会員の場 合は会費の中に購読料を含みます) `F成 23年 10月 15日 発て 定価 i公 ll団 ' H本 F 編集脇力 :(株 )● 1造 F,嗣 1:三 進 発行 益 法人 発明振興協会 代表者 ll 昭ナ 編集 `L