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『日本大辞書』の音象徴語 Sound Symbolic Words Occuring in
『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) 12 号 pp. 1−28(2014. 3) 『日本大辞書』の音象徴語 Sound Symbolic Words Occuring in Nihondaijisho 平 弥悠紀 要 旨 山田美妙の『日本大辞書』において見出し語として立てられた和語の音象徴語(異 なり語数 715 語、延べ語数 1223 語)について調査を行った。本辞書は大槻文彦の 『言海』を不十分なものと考え、編纂されたものであるが、 『言海』が採録しなかっ た語を 410 語も採録する。同一語基のバリエーションも豊富に載せる。『言海』の 音象徴語は一部のタイプに限定されており、上位 5 位までのタイプで、全体の 7 割以上を占めていた。『日本大辞書』でも数値的には上位 5 位までの「ABAB」、 「ARAR」 、「A ッ B リ」、「AB リ」、「AR リ」で全体の 7 割弱を占めているが、第 7 位、8 位には口語的要素の強い A 型の「A − A −」 、「A ン A ン」が続く。語頭の 音は、『言海』では「さ行−か行−た行/は行」と、特にサ行音が多く、また、パ 行音はなく、バ行音も少ないのが特徴的であった。 『日本大辞書』では「か行−さ 行−は行−た行」と、カ行音が特に多く、『言海』にないパ行音も 25 例見られた。 濁音が多く、特にガ行音はカ行音とほぼ同数であるが、カ・ガ行音が多いのは本 辞書が前半に多くのページを割いているという不均質さの表れと見ることもでき る。語末の音は、『言海』では「り−ら−ろ−促音」、『日本大辞書』では「り−撥 音−ら−ろ」で、口語性の強い撥音が第 2 位を占めている点が特徴的である。美 妙が見出し語に「●」(言專用)を付し、口語を積極的に採録しようとした姿勢が 窺える。 キーワード 日本語 『日本大辞書』 『言海』 音象徴語 語基 1 はじめに 言文一致運動で知られる山田美妙(1868〔慶応 4〕∼ 1910〔明治 43〕年)は、大槻 文彦の『言海』 (1884〔明治 17〕年に成稿、1889〔明治 22〕年から 1891〔明治 24〕年 にかけて四分冊で刊行)が出版されたのを見て、近代的な国語辞書の最初のものであ ると認めながらも、不十分であるとし、『日本大辞書』を 1892〔明治 25〕年 7 月から 1893〔明治 26〕年 12 月にかけて、十二分冊で刊行した。 「緒言」の「日本辭書編纂法 私見」に、 「大槻文彦氏ノ言海ガ歐洲ノ辭書ヲ模型トシテココニ始メテ完全ナ形ガ出來 1 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 カケタモノノ、物足ラヌ所ガ多イ。」と述べるとおりである。また、同「私見」に、 「日 本辭書ニ擧ゲタ語ニハ發音、音調、語類、語原、解釋、書典例證ノ六種ヲ備ヘサセル ニ限ル。此日本大辭書ハ悉ク皆コレヲ備ヘル。」とし、 「大槻氏ノ言海ハ此六種ノ内、 音調ヲ看落シテ一言モ言葉ヲソコニ及ボサズ、遺憾ニモ一大欠典ヲ作リ出シタ。」と、 『言 海』には「アクセント表記のないこと、また、類義語の違いの説明に不十分な点があ ること等、『言海』への不満が随処に見られる。そこで、上記の「發音、音調、語類、 語原、解釋、書典例證」を備え、初めて口語体で語釈の書かれた辞書『日本大辞書』 が編纂されるに至った。 『日本大辞書』は『言海』と並んで近代的な意味での国語辞典の最初のものと言われ ているが、 『国語学研究事典』 (佐藤喜代治編、1977 年、明治書院)によると、「短期間 に編集したことによる欠点も多い。 『言海』の説にしいて異論を立てようとしたり、思 いつきの語源説を述べたりしているところもあり、特に後半部分の記述が粗雑である。 …(略)…できあがったものは、歴史的意義を認め得るにすぎない。ただ、そのアク セント表記は、当時の東京語のアクセントを知るために役立つもので、その豊富さ・ 正確さの点で唯一の貴重な資料である。」(「日本大辞書」の項目、pp.792-793.)と、た だアクセント資料としての価値しか認めていないのであるが、本辞書に見られる音象 徴語は豊富で、 『言海』には採録されていない語を数多く収めている。それらは山田美 妙個人の語意識を反映したものと見るべきで、当時の音象徴語の様相の一端を窺い知 るとまでは言えないまでも、少なくとも『言海』を意識して編纂された言語資料として、 どのような音象徴語が採録されているのかを本稿ではまとめたいと考える。 2 『日本大辞書』の見出し語 『言海』の見出し語は、本辞書の巻末の「言海採収語…類別表」によると、 和語(21817 語)、漢語(13546 語)、和漢熟語(2724 語)、外来語(549 語) 、和外熟語(235 語)、 漢外熟語(217 語) 、和漢外熟語(13 語)、外外熟語(2 語)の計 39103 語である。拙稿 (2013)の『言海』の音象徴語の調査によると、全見出し語 39103 語のうち、音象徴語 は延べ語数 325 語(異なり語数では 315 語)で、全見出し語のうちわずか 0.83%であっ た。本稿では、明法堂版復刻『日本大辞書』(1983 年、ノーベル書房)を資料としたが、 全見出し語 53137 語のうち、音象徴語は延べ語数 1223 語(異なり語数では 715 語) 、 全見出し語のうち 2.30%を占め、 『言海』に比べて 3 倍弱の比率である。 『言海』では、 「ひしと、さらさら、つぶつぶ、どろどろ」の 4 語は、擬音語と擬態 語で見出し語を別に立てているが、 『日本大辞書』でも同様である。また、 『日本大辞書』 では、格助詞「と」の付く形、付かない形も別立てし、助詞「と」の付かない形を先 に挙げている。そのため、延べ語数が異なり語数に比べて膨らんでいる。 2 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) カ ○からから (第一上)副。 (一)サハヤカニ高ク笑フ聲ノ形容。呵呵(カ )。―「か らからト打チ笑フ」。 からからと (…)副。 カラカラ。 また、同じ「からから」でも、意味用法の異なる場合も、別に見出し語として立てる。 ラ からから (…)副。 (一)[乾(カ )カラノ傳來]。カラビタ物ナドヲ音カラ形容シ ブ テイフ語。―「からからト乾ク」。 (二)響キノアルモノ(金屬ナド)ガ觸レテ出 ル音ノ形容。―「からから鳴ル」。 見出し語以外にも、音象徴語は見られる。 『言海』でも、見出し語としては立てられ ていないが、語釈の中にいくつかの音象徴語が見られた。 ひしと〔副〕…(略)…緊シク。ツヨク。キツク。ハゲシク。緩ミナク。「腕ヲ−握リ」 心ニ−カケテ…(略)…互ニ、ヒシヒシト、取リ組ミテ」…(略)… (下線は平による。以下同様。) 『言海』 『言海』では、上記の「ひしと」の説明のように、 音象徴語を他の類似の音象徴語によっ て説明している語が多く見られるが、見出し語として立てられていない「ひしひしと」 の形が語義説明の中に出てくる。『日本大辞書』でも同様である。 ●うようよ (第一上)副。{(蠢蠢)} 小サナ物ガ多ク集マリ、ウゴメク體デアル樣ナ ドヲ形容シテ云フ語。=ウジヤウジヤ。=ウザウザ。 ●きしり (第二上)副。 〔きしきしノきし、かちりノり〕。キツカリ當テハマル體ノ形容。 =キツチリ。=キチリ。 「うざうざ」、「きっかり」は見出し語としては立てられていないが、それぞれ、「う ようよ」、 「きしり」の説明の中で用いられている。また、次に挙げるように、 「こくり」 の重複形「こくりこくり」 、「よよ」の 2 回、3 回の重複形も、見出し語としては立てな いが、例文の中には見られる。但し、「よよ」の例文は『言海』と同じ例である。 ●こくり(第二上)副。 コキリ。―「こくりこくりト居子ムリノ首」。 ○よよ(…)感。 〔前ノ轉〕 。 泣ク聲。―「君ニ因リよよよよよよトよよよよト音ヲ ノミゾ泣クよよよよよよト」。 本稿では、語釈の中の音象徴語は用例として扱わず、見出し語として立項されたもの 3 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 のみを扱った。 『言海』では、いくつかの語について見出し語の上に記号を付し、 「標ノ種種」で、 以下のように説明する。 {…………古キ語、或ハ、多ク用ヰヌ語、又ハ、其注ノ標。 + + …………訛語、或ハ、俚語、又ハ、其注ノ標。 一方、『日本大辞書』においても、見出し語の上には記号を付して分類し、サ変動詞 としての用法があるものについても示している。前田(1991)は、 「山田美妙自身の語 意識をそのままに記しているように思われる。」と述べ、 「『日本大辞書』は語彙すべてを、 古語、文語(文専用)、口語(言専用)、一般語(文言両用)と分けていることが注目 される。『言海』の「古語の認定はかなり限定された範囲のもので、文語文に用いうる 可能性のある古語は一般語に入れた可能性がある。」と分析している。今野(2013)では、 『言海』において、「{」が付された見出し項目について『和名類聚抄』が「みなもと」 である可能性が高いと推測しており、見出し語の分類において、同様に「古語」といっ ても『言海』と『日本大辞書』では、 一致しているわけではないが、 『日本大辞書』の「符 號ノ解」では、見出し語の上に付された記号について、以下のように記されている。 ○………………文專用 ●………………言專用 (無印) ………言文兩用 △………………古語、廢語 ▲………………方言、俚語 + + ………………す又ハするヲ加ヘテ動詞ニナルモノ 『日本大辞書』の見出し語から抽出した音象徴語を分類し、【表 1】に示す。 【表 1】音象徴語の分類 ○ 文語(文専用) 31 ● 口語(言専用) 915 無印 一般語(文言両用) 169 △ 古語・廃語 61 ▲ 方言・俗語 48 1224 語 ※「こうこうと」には「△」と「●」の二つが付 されているので、それぞれの語数に算入した。 従って、延べ語数より 1 例多い 1224 語となる。 4 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) 本稿「3『日本大辞書』の音象徴語一覧」に挙げる用例には、これらの符号も合わせ て示したが、『日本大辞書』の音象徴語は圧倒的に「●」の付された語が多い。つまり 美妙が口語として意識していたものが数多く収録されている。「▲」(方言・俗語)は 音象徴語の見出し語のうち 48 例あるが、 「A ッ B リ」に対して「A ッ B ラ」のタイプ の語「ちょっくら、うっすら、そっくら、ふっくら」が 4 例見られるほか、 「ずるずるべっ たり(ARAR + A ッ B リ)、ずんでんごろり(A ン+ A ン+ AR リ)」のように、19 例が「複合型等その他の型」に集中している。 「でれでれ、ぬっぺり」等、いずれも俗 語的な語に「▲」が付されていると考えられる。「△」 (古語・廃語)のうち、 山口(2012) で挙げられている奈良時代の擬音語・擬態語語 65 種類に含まれるものは「こをろこをろ、 さや、さゐさゐ、さゑさゑ、しの、しみみ、しみら、すくすく、そそ、とをを、ふつ」 の 11 語(異なり語数)である。 更に、見出し語の次に「發音」 、 「音調」も示されており、また、 「きしり」のように、 「きしきしノきし、かちりノり」と語の成り立ちを説明している部分、 「うっかり」と「うっ とり」のように、類義の語の違いを説明した部分もあり、個々の語について詳しい情 報を盛り込もうとした工夫を見ることができる。 + + ●うっかり …(略)… ◎うつかりトうつとりトノ相違ヲイヘバ、うつかりハ物ニ引キ入レラレル意味ハ 無ク、之ニ反シテうつとりハ何カ非常ニ心ヲ奪フモノニ逢フ義ヲモツ。―「う つかりシテ居テ相手ヲ迯ガス」。―「うつとりト見トレル」。 しかし、資料が全体を通して均一とは言えない欠点がある。前掲の『国語学研究事典』 が指摘するように、後半部分の記述は粗雑であり、音象徴語についても、詳しく説明 した部分は見られなくなる。山田忠雄(1981)によって〔日本大辞書のページ数配分 のアンバランス〕については「総ページ約一、四〇〇であるのに、五月の項目を終え て既に其の半ばを超える。如何なる事情有りとしても企画の失敗、否無計画を思わざ るを得ない。」と痛烈な批判がなされており、盛り込まれた情報がどれほど信頼できる ものかは疑問である。ちなみに、1399 ページから成る本辞書の 1 ページ当たりの見出 し語の数の平均を示すと、【表 2】のとおりである。 5 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 【表 2】1 ページ当たりの見出し語の数 ページ 見出し語の合計 1 ∼ 100 3175 101 ∼ 200 2878 201 ∼ 300 2692 301 ∼ 400 2827 401 ∼ 500 3296 501 ∼ 600 3379 601 ∼ 700 3194 701 ∼ 800 3801 801 ∼ 900 4078 901 ∼ 1000 4567 1001 ∼ 1100 4396 1101 ∼ 1200 4550 1201 ∼ 1300 4852 1301 ∼ 1399 5452 21441 1 ページ当たりの見出し語の数 30.63 37.98 31696 45.34 計 53137 語 『日本大辞書』の前半と後半では、1 ページ当たり収められた語に約 15 語の開きがあ り、音象徴語についても、一語に割かれる説明等が簡略になっていく。しかしながら、 辞書全体では 1223 語もの音象徴語を立項している点は、注目に値する。 3 『日本大辞書』の音象徴語一覧 本稿においても、拙稿(2013)の『言海』の調査と同様、見出し語として立てられ た語のみを調査の対象としたところ、全見出し語 53137 語のうち、延べ語数 1223 語(異 なり語数では 715 語)の音象徴語を抽出した。そして、これまでの調査と同様に、語 基の形態から、AB 型(ふっつ、ざぶざぶ、にっこり等 2 拍語基で第 2 拍がラ行音以外 の音象徴語)、AR 型(きらり、くるくる、そろりそろり等、2 拍語基で第 2 拍がラ行 音の音象徴語) 、A 型(ふっ、ぱっぱ、りんりん等、1 拍語基の音象徴語)の三つに分 類したものが【表 3】∼【表 5】である。拙稿(2009)において、AR 語基の語の中で も「A リ」語基の語だけが、他とは異なる特徴を有していることを明らかにした。擬 音語としての用法をもつ語は、3 つの型の中で AR 型が最も少なく、全体の約 27.1%で あるにもかかわらず、「A リ」語基の語では、擬音語としての用法をもつ語は 81.0%に も上り、AR 型の擬音語は「A リ」語基の語に集中し、1 拍語基の A 型に近い特徴を有 していることから、その成立において、1 拍語基に「リ」が添加されて成立した可能性 を示唆した。つまり、A 型のバリエーションとして、 「A ッ、A ン、A −、AA、A リ」 と捉えることの可能性を述べた。このように AR 型は、2 拍語基の AB 型と 1 拍語基の A 型の中間に位置するような特徴をもっており、本稿においても音象徴語のタイプの 6 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) 違いによる特徴を探るため、便宜的に AB 型、AR 型、A 型の 3 つに分類する。 なお、 「あたふた、しどろもどろ、ずるずるべったり」等の語基複数からなる語は、 【複 合型等その他の語】として、表には載せていない。なお、表中の の語は『言海』 でも見出し語として立てられている語である。 【表 3】2 拍語基の音象徴語(AB 型,B はラ行音以外)表中の[数字]は用例数を示す 1-2 1 拍語 2 拍語 3 拍語 4 拍語 重複型 k−k ●きくり/●∼と ●きくきく ●こきり/●∼と ●こくり/●∼と k−s k−z k−t k − tj k−p ●こっくり/●∼と ○かっしり/○∼と ●かすかす/●∼と ●きしり/●∼と きしきし/●∼と ●くさくさ/●∼と ●くすり ●くすくす/●∼と ●こさこさ ●こせこせ/●∼と ●こそり/●∼と こそこそ/∼と ●かしゃかしゃ/●∼と ●きしゃきしゃ/●∼と ●くしゃくしゃ/●∼と △けざけざ/△∼と ●こざこざ ●かたり/●∼と ●かたかた/●∼と ●かたんと ●かちり/●∼と ●かちかち/●∼と ●かちん/●∼と ●きちり/●∼と ●きちきち/●∼と ●きちん ●くたくた/●∼と ●くつくつ ●けたけた/●∼と ●こちこち[2]/●∼と ●こつり/●∼と ●こつこつ/●∼と ●こつん/●∼と ●こてこて/●∼と ●ことり ●ことこと/●∼と ●かちゃん/ ●かちゃかちゃ ●∼と ●こちゃこちゃ/ ●∼と/●∼に ●こちょこちょと ○かっぱ/○∼と ●くすりくすり ●こっそり/●∼と ●かったり/●∼と ●かったん/●∼と ●かっちり ●きっちり/●∼と ●こってり ●こっとり ●きっぱり/●∼と ▲こっぺり k−b k−n 6 拍以上の語 かさかさ/∼と ○かっし/○∼と k − sj その他の型 ●かっきり/●∼と ●きっくり/●∼と ●くっきり/●∼と ●きびきび ●こぼこぼ/●∼と ●きなきな ●くねくね/●∼と k−m ●こんもり/●∼と 7 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 k−j ●きやり k −φ kj − t g−k △かやかや/△∼と ●きやきや/●∼と ●くよくよ/∼と ●くいくい/●∼と ●きょときょと/●∼と ●がくがく/●∼と ○がくがくと ●ぎくり/●∼と ●ぐきり/●∼と ごきり/●∼と ●ごくり/●∼と g−s ●ぎくぎく ●ぐきぐき/●∼と ●ごきごき/●∼と ●ごくごく/●∼と がさがさ/∼と ●ぎしり/●∼と ▲ぎしぎし/▲∼と ●ぎすぎす ●ごしごし/●∼と ●ごそり/●∼と ●ごそごそ/●∼と ●がしゃがしゃ/●∼と ●ぐしゃぐしゃ/●∼と ●ごしゃごしゃ/●∼と ぎざぎざ ●ぐぢぐぢ/●∼と ●ぐずぐず/●∼と ●ぎじゃぎじゃ ●ぐじゃぐじゃ/●∼と ●がたり/●∼と ●がたがた/●∼と ●がたんと ●がちり/●∼と ●がちがち/●∼と ●がちん/●∼と ●がつがつ/●∼と ●ぎちり/●∼と ●ぎちぎち/●∼と ●ぐたり/●∼と ●ぐたぐた/●∼と ●ぐちぐち/●∼と ●げたげた/●∼と ●ごった ●ごたごた/●∼と/ ●∼に ●ごちごち/●∼と ●ごつり/●∼と ●ごつごつ/●∼と ●ごてごて/●∼と ●ごとり ●ごとごと/●∼と ●がちゃがちゃ ●ごっちゃ ●ごちゃごちゃ[2]/ ●∼と/●∼に ●ごちょごちょ g − sj g−z g − zj g−t g − tj ●がっきり/●∼と ●がっくり ●がっかり ●ぎっくり/●∼と ●がっしり/●∼と ●ぎっしり/●∼と ●がったり/●∼と ●がったん/●∼と ●がっちり ●ぎっちり/●∼と ●ごっつり g−d ▲ぐでんぐでん /▲∼に g−h g−b g−n g − nj g−m g−j がばと ●がふり/●∼と ●がふがふ/●∼と ●ごほり ●ごほごほ/●∼と ●ごほん ●がばがば/●∼と ●がぶり/●∼と ●がぶがぶ/●∼と ●ぐびり/●∼と ●ぐびぐび ●ごぼごぼ/●∼と ▲ごほんごほん ●げんなり ●ぐにゃぐにゃ/●∼と ●がみがみ/●∼と ●がやがや ●ごやごや/●∼と 8 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) g−w ●がはがは/●∼と ●ごはごは[2]/●∼と ●ぐいぐい/●∼と ●さくり/●∼と ●さくさく/●∼と しっかと ●しくり しくしく ○しけしけ ●しこり ●しこしこ ●すかり/●∼と g −φ s−k △すきと すっくと △すくすく/△∼と ●せかせか/●∼と ●そくり/●∼と ●そくそく/●∼と s−g s−t ●すごすご/●∼と ○したした/●∼と しとしと ●すたすた/●∼と ○しとと ▲すてん/▲∼と ●すとん/●∼と しどろ/∼に s−d s−p ●すぱり ●しっかり ●しっくり ●しっこり/●∼と ●すっかり/●∼と ●すっきりと ●すっくり/●∼と ▲そっくら/▲∼と ●そっくり/●∼と ●しっとり ▲すってん ●すぱすぱ/●∼と s−b ●すぽすぽ/●∼と ●さばさば/●∼と s−n △さぶり △しぼぼ/△∼に しぼしぼ ●すべすべ/●∼と ●すぼすぼ/●∼と そぼそぼ/●∼/ そぼそぼと/●∼と ●しなしな ●さっぱり ●しっぽり/●∼と ●すっぱり/●∼と ●すっぺり/●∼と ●すっぽり/●∼と △しぬに ●しねしね △しのに s−m さめざめ/∼と △しみみ/△∼に △しみら/△∼に △しめら/△∼に しめじめ[2] ●しめじめ ●しんみり s−j △さやに そよ s−w s −φ sj − k sj − b ○さやさや ●すやすや/●∼と そよそよ/∼と ▲さはさは さわさわ/∼と ▲しほしほ しをしを/∼と ●そはそは/●∼と △さゐさゐ △さゑさゑ ●しゃきしゃき/●∼と ●しゃくしゃく/●∼と ●しょぼしょぼ 9 ●しゃっきり ●しょんぼり/ ●∼と 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 z−k ●ざくり/●∼と ●ざくざく/●∼と ●じくり ●じくじく/●∼に ●ずかずか ●づかづか/●∼と ●づきづき/●∼と ●ぜかぜか/●∼と ●ぞきり/●∼と ●ぞきぞき/●∼と ●ぞくぞく/●∼と z−g z−s z−t z−h z−b ●ざぶり ざんぶ ずばと z−m z−j z−w ●じたじた/●∼と ●じとじと ずたずた/●∼/●∼に ●づたづた/●∼に ●ざふざふ/●∼と ●ざぶざぶ/●∼と ●ずっかり/●∼と ●ずっきり ●ぞっくり/●∼と ●ずんぐり ●づっしり/●∼と ●ざんぶり ●ずばずば/●∼と ●ずぶり/●∼と ●ずぶずぶ/●∼と ●づぶづぶ/●∼と ●じめじめ/●∼と ●ぞよぞよ/●∼と ▲ざはざは ●ざわざわ/●∼と ●じわり ●じわじわ zj − k t−k ●てかりと ●じゃかじゃか/●∼と ●じゃくじゃく/●∼と ●じゃきじゃき/●∼と つかつか/∼と ●てかてか/●∼と ●てっきり ●とっくり/●∼と t−z t−t t−d t−b たじたじ △つたつた/△∼に △たどろ。たどろ ●ちびり ●たぶたぶ ●ちびちび/●∼と つぶつぶと ●とぼとぼ/●∼と t−m ●たんまり ●ちんまり/●∼と t−j t−w t −φ ●たよたよ ●つやつや/●∼と △たわに △たわわ/△∼に ○たをたを/○∼と △とをを/△∼に tj − k ●ちょきちょき/●∼と tj − b ●ちょこちょこ/●∼と ●ちょびちょび ●ちょぼちょぼ tj −φ d−k ●ちょい と ●だくだく/∼と ●どきり/●∼と ●どきどき/●∼と ●どくどく/●∼と 10 ●ちょっきり/ ●∼と ▲ちょっくら ●ちょっくり ●ちょんぼり/ ●∼と 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) d−s d−h d−p ●どさり/●∼と ●どさどさ/●∼と ●どふどふ/●∼と d−b ●だんぶ h−k ●でっぷり/●∼と ●どっぷり/●∼と はきと ●だぶだぶ ●でぶでぶ/●∼と ●どぶどぶ/●∼と ●はきはき/●∼と ●ひかひか/●∼と ●ひくひく/●∼と ●ふくり/●∼と ●ふくふく/●∼と ●ほかり h−s だんぶだんぶ ●どんぶり/●∼と ●はっきり/●∼と ●ひっくり/●∼と ▲ふっくら/●∼と ●ふっくり/●∼と ●ほかほか/●∼と ひしと ひそひそ/∼と ●ふさり/●∼と ●ふさふさ/●∼と h−t ●どっさり/●∼と ●ひっそり/●∼と はたと ひた △ふたふた/△∼と ●ふつふつ △ふつと /△∼に ●ふっつり/●∼と △ほったり/△∼と ほとほと/∼と h−n h−j hj − k p−k p−t b−k ●ほんのり/●∼と ●ふやふや/●∼と ●ひょっくりと ●ぱきぱき/●∼と ●ぴかぴか/●∼と ●ぴくぴく/●∼と ●ぷくり/●∼と ●ぷくぷく/●∼と ●ぽかり ●ぽかぽか/●∼と ●ぽかん/●∼と ●ぽこり/●∼と ●ぽこぽこ/●∼と ●ぱちん/●∼と ●びかびか/●∼と ●びくびく/●∼と ●ぶくり/●∼と ●ぶくぶく/●∼と ●ぼかり ●ぼかぼか/●∼と ●ぼこり/●∼と ●ぼこぼこ/●∼と b−s b−t b−j n−k ●ぶつぶつ/∼と ●ぼとぼと/●∼と ●にこり/●∼と ●にこにこ/●∼と △ぬけぬけ/△∼と ●ぱっちり/●∼と ●ぽったり/●∼と ●びっくり/●∼と ●ぶっくり/●∼と ●ばっさり/●∼と ●ぶっつり/●∼と ●ぼんやり/●∼と ●にっこり/●∼と ●のっくり/●∼と n−s n−t n−d n−p n−b n−m ▲ねそねそ/▲∼と ●のさのさ/●∼と ●のそり/●∼と ●のそのそ/●∼と ●にたにた/●∼と のとろ △のどに のどろに △のどのど/△∼と ●のめら n−j ●のびのび/●∼と なみなみ/∼と ●のめのめ/●∼と なよなよ/∼と ●にやにや/●∼と 11 ●のっそり/●∼と ▲ぬっぺり/▲∼と ●のんびり/●∼と 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 nj − k ●にょっきり/ ●∼と m−k むくと m−s m−z ●むくり ●むかむか/●∼と ●むくむく/●∼と ●むっくり ●めっきり みし まざまざ/∼と ●まじり/●∼と ●まじまじ/●∼と むざと むずと m−j j−k j−s j−t ●もやもや[2] ●ゆっくり/●∼と ゆさゆさ/∼と ●ゆったり/●∼と j−b w−d w−n w−j φ− k うかと うかり/∼と ●よたよた/●∼と ●よぼよぼ/●∼と △わだわだ/△∼と ○わなわな/○∼と ●わやわや/●∼と △いかいか うかうか/∼と ●うっかり[2] ●∼と うきうき/∼と φ− g ●あんぐり/●∼と ▲あんごり/∼と ●あっさり/●∼と φ− s いそいそ/∼と ▲うっすら ●うっすり ●うんすうんす φ− z いぢいぢ ●うぢうぢ ●うんざり おぢおぢ/∼と おづおづ ●うじゃうじゃ φ− zj φ− t うつらうつら φ− d φ− n φ− m φ− j φ− w φ−φ 計 21 語/ 22 語 うとうと/∼と ●うっとり/▲∼と おちおち/∼と ▲うだうだ/▲∼と おどおど/∼と うねうね/∼と おめおめ/∼と ●うようよ/●∼と ●うはうは/∼と おいおい/∼と 89 語/ 147 語 224 語/ 425 語 97 語/ 165 語 438 語/ 767 語(異なり語数/延べ語数) 7 語/ 8 語 ※)「さめざめ」「しめじめ」は AB 型のバリエーション「ABA B」として扱う。 第 2 拍が「い」の「おいおい」は A 型と考えることもできるが、ここでは AB 型に入れる。 「なみなみ」、「おづおづ」はそれぞれ、名詞の畳語、動詞の畳語とするべきかもしれないが、後述する『擬音語・ 擬態語の読本』に採録されているため、用例として扱う。 12 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) 【表 4】2 拍語基の音象徴語(AR 型,R はラ行音) 1-2 1 拍語 2 拍語 k−r 4 拍語 3 拍語 ●からり/●∼と 重複型 ○からから からから/∼と ●かりり/●∼と ●かりかり/●∼と きらり きらきら/∼と ●きりり きりきり その他の型 6 拍以上の語 ○かんらかんら ●くらくら/∼と ●くりくり/●∼と ●くるり/●∼と くるくる/∼と ●けろり/●∼と けろけろ/●∼と ●ころり/●∼と ころころ/∼と ●けらけら/●∼と ●こりこり/●∼と kj − r △こをろこをろ ●きょろきょろ/●∼と g−r ●がらり/∼と ●がらがら/●∼と ●がりり/●∼と ●がりがり/●∼と ぎらり ●ぎらぎら/●∼と ●ぎりり ●ぎりぎり ●ぎろぎろ/●∼と ●ぐらぐら/●∼と ●ぐりぐり/●∼と ●ぐるり/●∼と ●ぐるぐる/●∼と ●げらげら/●∼と ●げろげろ/●∼と ●ごりごり/●∼と s−r z−r ●ごろり/●∼と ●ごろごろ/●∼と ●さらり/●∼と さらさら/∼と ●しろり/●∼と ●しろしろ/●∼と ●すらり/●∼と ●すらすら/●∼と ●するり/●∼と ●するする/●∼と ●そろり/●∼と そろそろ/∼と ●ざらり/●∼と ●ざらざら/●∼と ●じろり/●∼と ●じろじろ/●∼と ●じりじり ●づらり/●∼と ●ずるずる/●∼と ●ぞりぞり/●∼と ●ぞろり/●∼と zj − r ●ぞろぞろ/●∼と ●じゃらじゃら ●じゃりじゃり ●じょろじょろ t−r ●たらたら/●∼と △ちらと ●ちらり/●∼と ●ちらちら △ちろり △ちろちろ/△∼と ちりちり/●∼と つらつら ●つるり/●∼と ●つるつる/●∼と ●てらてら/●∼と ●とろり/●∼と ●とろとろ/●∼と tj − r ●ちょろり/●∼と ●ちょろちょろ/●∼と d−r ●だらり/●∼と ●だらだら/●∼と ●どろん ●どろどろ/●∼と ▲でれでれ/▲∼と 13 ●ちりんちりん/●∼と 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 h−r ●はらはら/●∼と ●ひらり/●∼と ひらひら/●∼と ●ひりり/●∼と ●ひりひり/●∼と ●ふらり/●∼と ●ふらふら/●∼と ●へらへら/●∼と ●へろり/●∼と へろへろ/●∼と ほろり/∼と ほろほろ/∼と ほろろ/∼と hj − r ●ひょろり/●∼と ●ひょろひょろ/●∼と p−r ●ぱりぱり/●∼と ●ぴらぴら/●∼と ●ぴりり/●∼と ●ぴりぴり/●∼と ●ぺらぺら/●∼と b−r ●ぺろり/●∼と ●ぺろぺろ/●∼と ●ぽろり/●∼と ●ぽろぽろ/●∼と ●ばらり/●∼と ●ばらばら[2]/●∼と ●ばりばり/●∼と ●びらびら/●∼と ●びりり/●∼と びりびり/●∼と ●ぶらり/●∼と ●ぶらぶら/●∼と ●ぶるぶる/●∼と ●べらべら/●∼と ●べろり/●∼と ●べろべろ[2]/●∼と ●ぼろり/●∼と ●ぼろぼろ[2]/●∼と n−r ●ぬらぬら/●∼と nj − r ●ぬるり/●∼と ●ぬるぬる/●∼と ●のろり/●∼と ●のろのろ/●∼と ●にょろり/●∼と ●にょろにょろ/●∼と m−r ●むらむら/●∼と j−r ゆらり/∼と ゆらゆら/∼と ●ゆるり ゆるゆる/∼と φ− r いらいら/∼と ○いろいろと △うらら ○うらうら うろうろ/∼と △うろうろと ○おろおろ/○∼と 計 1 語/ 1 語 50 語/ 92 語 85 語/ 165 語 0語 139 語/ 262 語(異なり語数/延べ語数) 14 3/4語 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) 【表 5】1 拍語基の音象徴語(A 型) 1-2 1 拍語 2 拍語 4 拍語 3 拍語 重複型 ●かっかっ/●∼と ●かんかん k ○きと きっと ●くっくっ/●∼と ●けんけん/●∼と kj ●こん △●こうこうと ●こんこん ●きゃきゃ/●∼と きゃっと ●きゃん ●きゃんきゃん ●きゅう/●∼と くゎっと kw ●がうがう/●∼と ●がんがん g △ぎと ●ぐうぐう/●∼と ●ごん ●ごうごう/●∼と ごんごん ぎょっと gj s ●ぐっと ○さと ささ さっと ●さっさ ささら ●さあさあ ●さっさっ/●∼と しんと ●すうすう/●∼と ●せっせ/●∼と ●せいせい/●∼と ○そと △そそ ●そっと sj ●しゃんと しゃあしゃあ/●∼[2] ●∼と[2] ●しゃんしゃん z ざざ ●ざっと ●ざあざあ ●じっと ●ぢっと[2] ○ずんと ○ずんど ●ずうずう/●∼と ●ずんずん ●ぜいぜい/●∼と ぞっと ●じゃん zj ●じゃあじゃあ/●∼と じゃんじゃん たうたう t ちん/▲∼と ○つと つっと つんと てん ▲てんてん/●∼と ●とんと ●とんとん/●∼と ○とどろに tj △ちゃと △ちゃちゃと ●ちゃんと ●ちゃんちゃんと ちゃうと ちゃうちゃう/∼と ●ちゅうちゅう/●∼と だうだう d ●でんでん/●∼と どうと どっと ●どうどう ●どんどん/●∼と 15 その他の型 6 拍語 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 はっと h ○ふと ふっと ほほ ひゃうと ●ひょっと hj ●ぱっぱっ/●∼と p ●ぴんぴん ●ばっと b ぼうぼう △ねうねう/△∼と nj ○よよ/よよ j わんわん w φ 計 ●うんうん/●∼と 7 語/ 7 語 39 語/ 46 語 4 語/ 5 語 40 語/ 65 語 0語 0語 90 語/ 123 語(異なり語数/延べ語数) ※)「そぞろ、すずろ」は用例として扱わなかった。 「とどろに」は A 型のバリエーション「AA ロ」として扱う。 「せいせい、ぜいぜい」は、「せーせー、ぜーぜー」と考え、AB 型に入れず、A 型として扱う。 「あ、ああ」は用例として扱わなかった。 【複合型等その他の語】(異なり語数 48 語/延べ語数 71 語) ▲あけらかん/▲∼と ●あたふた/●∼と ▲あっけらかん ●あっぱさっぱ/●∼と ▲うっかりぽん ●うねくね[2] ●かたくさ/●∼と ●がたくさ/●∼と ●かたくり/●∼と ●がたくり/●∼と ●がたぴし/●∼と ▲かっきりこ/▲∼と ●からころ ●からころり ●かんかち/●∼と ●かんから △がんがり/△∼と ▲ぎっちらこ/∼と ▲けろりかん ●こざっぱり ●ごたくさ/●∼と/●∼に ころりんしゃん しどろもどろ/∼に ●じゃらくら ▲しんねこ ▲すってんてれつく ずでんどう/∼と ▲ずるずるべったり ▲ずんでんごろり ●ちぐはぐ ▲ちょきぱき ▲ちょこまこ ●ちらくら ●ちらほら △ちりたり △ちりやたらり ●づきごき/●∼と ●つくねんと ▲づんまりさんまり ●てきぱき/●∼と ▲とんちんかん ●ぬらくら/●∼と ▲のんべんぐらり ばらりづん/∼と ○ひいふっと ▲ひょっくりこ/▲∼と ●ぴんぴら ●ぶつくさ/●∼と 『言海』では同一語基のバリエーションはそれほど多くは見られなかった。AB・ AR・A 型全ての型について、最も多くのバリエーションをもつものは、語基「うか」 と語基「さ」で、それぞれ「うか、うかり、うかうか、うっかり」、 「さ、ささ、さっ、さっ さ」の 4 つの形を載せている。3 つのバリエーションのものは、 「ころり、ころころ、こー ろこーろ」 、「しと、しとしと、しっとり」 、「ざんぶ、ざぶざぶ、ざんぶり」 、「はき、 16 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) はきはき、はっきり」、 「ふつ、ふつふつ、ふっつり」、 「にこり、にこにこ、にっこり」「ち ら、ちらり、ちらちら」であった。辞書という性質ゆえに、 『言海』においては、音象 徴語は基本的な形の語のみを収録している。 『日本大辞書』では、 『言海』に比べて、 バリエーションは豊富で、A 型の語基「さ」については、「さ、ささ、さっ、さっさ、 ささら、さあさあ、さっさっ」の 7 つのバリエーション、AB 型の「かた」は「かたり、 かたん、かたかた、かったり、かったん」の 5 つ、 「がた」も「がたり、がたん、がた がた、がったり、がったん」の 5 つのバリエーションを載せる。4 つの形を載せるもの は、AB 型語基では「かち」、「きち」 、「がた」 、「がち」、「そく」 、「ざぶ」 、「ふく」 、「む く」、「うか」 、A 型語基では「きゃ」 、「ず」 、 「ちゃ」、「ど」であり、同一語基の音象徴 語で 3 つ以上のバリエーションをもつものについて、【表 3】・【表 4】・【表 5】に網掛け で示したが、AR 型には少なく、A 型に比較的多いことが特徴的である。 また、見出し語のうち、 『言海』にはあるが、 『日本大辞書』には載せられていない 語は、「さわざわ・すぶり、たっぷり、たらり、ばさ・むやむや、うざうざ、くゎらり、 ぐゎらり、ぐゎらぐゎら、たらり、よろよろ、あっ」の 13 語にすぎず、『言海』が採 録する 302 語は『日本大辞書』にも採録されている。『言海』はないが、 『日本大辞書』 には採録されている語は、410 語にも上る。 AB 型、AR 型、A 型全ての型の語について、多くの音象徴語が採録され、 「●」(言 專用)が付されている。3 つの型の中では、AB 型と A 型の語バリエーションが豊富で あるが、一般的に A 型には擬音語が多く、口語的要素が強い。これらの点を考えあわ せると、 『日本大辞書』の音象徴語には多くの口語が採録されていると言えるのではな いだろうか。 17 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 4 『日本大辞書』の音象徴語のタイプ 【表 3】∼【表 5】の音象徴語を、更に型別に拍数ごとに分類すると【表 6】 、タイプ ごとに分類すると【表 7】のごとくである。 【表 6】型別に見た音象徴語(表中の用例数は異なり語数) 1 拍語 2 拍語基 1 拍語基 2 拍語 AB 型 21 AR 型 1 A 型 22 7 39 7 61 3 拍語 89 50 その他 計 139 4 拍語 321 85 5 拍語 406 0 0 0 6 拍以上 7 3 10 計 438 139 577 4 40 0 0 90 0 27 9 12 48 143 473 9 22 715 【表 7】タイプ別に見た音象徴語 は『言海』にも見られるタイプ(表中の用例数は異なり語数) 2 拍語基 AB 型 1 拍語基 AR 型 1 拍語 A型 A(7) 2 拍語 AB(21) AR(1) A ッ(16) A ン(12) A −(4) AA(7) 3 拍語 A ッ B(6) AB ラ(3) AB リ(59) AB ロ(3) AB ン(12) A ン B(2) ABB(4) AR ラ(1) AR リ(47) ├ A ラリ(15) ├ A リリ(7) ├ A ルリ(6) └ A ロリ(19) AR ロ(1) AR ン(1) A ッ A(2) AA ラ(1) AA ロ(1) 4 拍語 5 拍語 その他の型 (AR)× 2(85) ABAB(222) (A ン)× 2(17) ├(A ラ)× 2(32) (A −)× 2(19) ABA B(2) A ッ B ラ(4) (A ッ)× 2(4) ├(A リ)× 2(17) 【江】 A ッ B リ(74) ├(A ル)× 2(8) 【江】A ッ B ン(3) ├(A レ)× 2(1) A ン B リ(16) └(A ロ)× 2(27) なし なし 6 拍以上 (A ン B)× 2(2) (AR ン)× 2(1) の語 (AB ラ)× 2(1) (A − R)× 2(1) (AB リ)× 2(1) (A ン R)× 2(1) (AB ロ)× 2(1) (AB ン)× 2(2) (27) なし ( 9) なし (12) ※)山口(2002)の調査によると、【江】は江戸時代に現れるタイプ。ただし、「A ッ A ッ」は鈴 木(1953・1984・2007)によると中世に現れる。 18 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) 【表 8】『言海』『日本大辞書』に多く採録された音象徴語のタイプ 順位 『言海』(315 語) 『日本大辞書』(715 語) 1 ABAB 98 語 31.11% ABAB 222 語 31.05% 2 ARAR 52 16.51 ARAR 85 11.88 3 AッBリ 36 11.43 AッBリ 74 10.39 4 AR リ 24 7.62 AB リ 59 8.29 5 AB 21 6.67 AR リ 47 6.60 6 Aッ 14 4.44 AB 21 2.93 7 AンBリ 8 2.54 A−A− 19 2.67 8 AB リ 7 2.22 AンAン 17 2.39 『言海』では、音象徴語のタイプがかなり限定されていたのに対して、 『日本大辞書』 では『言海』に見られなかったタイプを収録している。表中の は『言海』にも 見られるタイプであるが、それ以外は『言海』には採録されていないタイプである。『言 海』では上位 5 位までのタイプで、全体の 7 割以上(315 例中 231 例)を占めていたが、 『日本大辞書』でもバリエーションは多いものの、数値的には上位 5 位までの語で全体 の 7 割弱(715 例中 487 例)を占めている。 『言海』、 『日本大辞書』ともに、2 拍語基の重複形「ABAB」、 「ARAR」、および「A ッ B リ」タイプの語が上位 3 位で、それぞれの辞書での半数以上を占めている。 『言海』 では A 型の語で上位のものは「A ッ」であったが、 『日本大辞書』では、 「A − A −」「A ン A ン」が上位に入っている。表には挙げていないが、「A ッ」はそれに続く。A 型の 語が『言海』に比べていささか多い。 どの時代にどのようなタイプの語が現れるか、音象徴語の歴史的変遷については、 鈴木〔森田〕 (1953・1984・2007)、山口(2002)により調査がなされている。『言海』 では 5 位の「AB」は奈良時代から見られる古いタイプであるが、『日本大辞書』でも 同数の語を採録している。山口(2002)は前掲の「語型の変遷図」(p. 34 ∼ 35)に、 明治時代以降出現するタイプとして「A ンッ、A −ッ、AA −ッ、AA −ン、AB ッ、 AB −ッ、A ッ B −リ、A ッ B −ン、ABAB ッ、ABB ッ、ABB −ン、ABB −」(2 拍 語基は AB で統一)を挙げるが、 『言海』にも『日本大辞書』にも 1 例も見られなかった。 特に、促音、撥音、引き音節が数か所に挿入、添加された形は、俗的、臨時的なイメー ジを伴うので、辞書の見出し語としては不適切であり、立項されにくいのは当然のこ とと考えられる。『言海』にないタイプとしては、少数ではあるが、江戸時代からの「A ッ B ン、A ッ A ッ」、また語末が撥音の「AB ン・AR ン」が見られる。前述のごとく、4 例の「A ッ B ラ」にはすべて「▲」(方言・俗語)が付されており、また、「A レ A レ」 は「でれでれ」で、いずれも俗語的な語である。また、見出し語として立項されにく い 6 拍以上の語も採録している。 19 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 『言海』において、見出し語の上に付された符号は「{ (古キ語、或ハ、多ク用ヰヌ語、 )であるが、これ 又ハ、其注ノ標。 )、と「‡」 (訛 語、或ハ、俚 語、又ハ、其注ノ標。 らの語が『日本大辞書』ではどのように扱われているのかを【表 9】に示す。 【表 9】『言海』で「{」「‡」の付された語について 型 AB 型 タイプ AB ABB △しみみに AB ラ △しみらに・△しめらに A型 ‡ の付された語 うかと AB リ うかりと AB ロ のとろに ABAB △けざけざと・●こぼこぼと・ ○さやさや・○●したしたと・ しぼしぼと・△すくすくと・ ●すたすたに・△つたつたに・ つぶつぶと[3]・△のどのどと・ △ふたふたと・△わだわだと ABA B ●しめじめと・さわざわ いじいじ・うかうか・●うじうじ・ ●うようよ・●うわうわ・おどおど・ ●きなきな・●こせこせ・●じくじく・ ●しょぼしょぼ・●すたすた・ ●せかせか・●ちょぼちょぼ・ ●とぼとぼ・●のさのさ・●のそのそ・ ●のめのめ・●よぼよぼ・ AッBリ ●あっさり・●うっかり・●うっすり・ ●うっとり・●がっかり・●がっくり・ ●ぎっくり・●ぎっしり・●こってり・ ●しっぽり・●すっぱり・●すっぽり・ ●ちょっくり・●にょっきり AンBリ ●うんざり・●しょんぼり・●ちんまり・ ●ちょんぼり AR ラ AR 型 { の付された語 △さやに・○しとと・△しぬに・ △しのに・△のどに・△ふつに うららに AR リ ●けろりと・●じろりと・●にょろりと ARAR ○うらうら・○おろおろ A − RA − R △こーろこーろに ●きょろきょろ・●じろじろ A ○きと・○さと AA そそ・○よよ[2] ざざ Aッ きっと ぎょっと A−A− △●こーこーと・△にょーにょーと ●うねくね・がたひし・●つくねんと・ ●ぬらくら その他の型 ※)『言海』には見られるが『日本大辞書』には採録されなかった語は「―」で消している。 『言海』の「いじいじ」「うじうじ」「うわうわ」「にょーにょー」は、 『日本大辞書』ではそれぞれ「いぢいぢ」「う ぢうぢ」「うはうは」「ねうねう」と表記されている。 『言海』で「{」、 「 ++ 」の付された語のうち、 『日本大辞書』に採録されなかった語は、 「さわざわ」と「がたひし」であるが、 『日本大辞書』に「▲ざはざは/●ざわざわ」、 「● がたぴし」は見られる。 『言海』で「 ++ 」の付された語は、 『日本大辞書』では「●」 (言專用)或いは無印(言 文兩用)である。特に AB 型の「A ッ B リ・A ン B リ」タイプはすべて「●」が付さ れている。前掲の「語型の変遷図」に奈良時代に見られるタイプとして、 「A、AA、 20 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) AB、AB ラ、AB ロ、ABAB、ABB、ABC」が示されている。筆者は AB 型のうち、 第 2 拍がラ行音のものを AR 型として調査を行っているため、該当するタイプを表中 で示した。 『言海』には「ABC」タイプを除き、奈良時代に見られるタイプは に 全て収録されていた。「{」の付された語については、本辞書でも「ABC」タイプを除 き奈良時代に見られるタイプは全て収録されている。「{」の付された語は「○」 (文專用) と「△」(古語、廢語)に集中する。 5 語頭の音 『日本大辞書』の語頭の音を型別にまとめたものが【表 10】、上位の語を他の資料と 比較したものが【表 11】である。なお、【表 11】は、日向茂男氏監修『擬音語・擬態 語の読本』(1991 年、小学館)と比較するため、濁音、半濁音、拗音を全てまとめた数 値である。 【表 10】語頭の音(AB 型・AR 型・A 型・その他の総計)表中の用例数は異なり語数 計 か 33 き 22 く 16 け 7 こ 32 きゃ 4 きゅ 1 きょ 1 くゎ 1 が 36 ぎ 19 ぐ 20 げ 4 ご 35 ぎゃ ぎゅ ぎょ 1 ぐゎ 117 か行 232 (32.4%) か行 58 (18.4%) さ行 169 66 (23.6%) さ行 92 (29.2%) 73 た行 44 (14.0%) 115 さ 20 し 32 す 27 せ 3 そ 13 しゃ 6 しゅ しょ 2 103 ざ 13 じ 11 ず 21 ぜ 2 ぞ 9 じゃ 9 じゅ じょ 1 た 9 ち 16 つ 11 て 7 と 10 ちゃ 4 ちゅ 1 ちょ15 だ 6 で 4 ど 17 『言海』 た行 100 27 (14.0%) は 6 ひ 12 ふ 15 へ 3 ほ 9 ひゃ ひゅ ひょ 6 51 ぱ 5 ぴ 7 ぷ 2 ぺ 3 ぽ 8 ぴゃ ぴゅ ぴょ 25 は行 109 (15.2%) は行 44 (14.0) ば 6 び 6 ぶ 9 べ 3 ぼ 9 びゃ びゅ びょ 33 な 2 に 5 ぬ 6 ね 1 の 16 にゃ にゅ にょ 4 34 34(4.8%) 21(6.7%) ま 3 み 1 む 8 め 1 も 1 みゃ みゅ みょ や あ 7 い 5 14 14(2.0%) 9(2.9%) ゆ 7 よ 3 10 9(1.3%) 10(3.2%) う 24 え お 7 43 43(6.0%) 33(10.5%) 4 4(0.6%) 4(1.3%) 0 0 わ 4 ら り る れ ろ りゃ りゅ りょ 0 715 ※)「がうがう」は、AB 型とするべきかもしれないが、ここでは「ごーごー」と考えて、語頭音 は「ご」として扱う。同様に、 「たうたう」は「と」、 「だうだう」は「ど」に入れる。「ぢっ」 はの語頭音は「じ」、 「づきづき、づきごき、づっしり、づらり、づんまりさんまり」は「ず」 に入れる。 「ちゃうと、ちゃうちゃう」は「ちょ」に、「ねうねう」は「にょ」に、 「ひゃう」は「ひょ」 に入れる。 21 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 【表 11】語頭に多く用いられる音 1 2 3 4 『擬音語・擬態語の読本』 は行 18% か行 16% さ行 14% た行 6% 『和英語林集成』 (第 3 版) は行 29% さ行 22% か行 17% た行 13% 『言海』 さ行 29% か行 18% た行 14% は行 14% 『日本大辞書』 か行 32% さ行 24% は行 15% た行 14% ※)本稿では、ひらがな表記の「か行」には、濁音を含めている。「は行」には、清音、濁音、 半濁音を含め、区別する場合は、 「ハ行」 (清音)、「バ行」(濁音)、「パ行」(半濁音)とカタ カナ表記する。 語頭の音について見ると、 『言海』では、「さ行(29.2%)−か行(18.4%)−た行/ は行(14.0%)」となっており、特にサ行音が多く、また、パ行音はなく、バ行音も少 ないのが特徴であった。1886〔明治 19〕年に出版された『和英語林集成』(第 3 版)に おいては「は行音」が最も多い。 『日本大辞書』では「か行(32.4%)−さ行(23.6%) −は行(15.2%)−た行(14.0%)」と、「か行音」の多さは他の辞書類に比べて際立っ ている。また、『言海』にないパ行音も 25 例見られた。濁音が多いのが特徴的で、特 にガ行音は清音のカ行音とほぼ同数である。現代語でも、ラ行音は少ないが、 『言海』、 『日 本大辞書』ともに、語頭がラ行音の音象徴語は見られなかった。 現代語については、前述の『擬音語・擬態語の読本』 (1991 年、小学館)に採録され た音象徴語の場合、次のように書かれている。 語頭に立つ音節を見てみよう。『日本国語大辞典』の見出し語の構成比は多い順に、 か行(21%)−さ行(19%)−あ行(16%)−は行(13%) 一方、本書に収録した擬音語・擬態語では、 は行(29%)−か行(24%)−さ行(16%)−た行(13%) の順になっている。は行が断然多くて、あ行(5%)が意外に少ないという結果である。 この数値は、派生する濁音・半濁音を含むものであるが、例えば、は行では濁音・半 濁音が半数を越えるというのが特徴的である。 「擬音語・擬態語を演出する音」p.306 現代音象徴語を採録した『擬音語・擬態語の読本』と比較しても『日本大辞書』には 語頭が「か行音」の音象徴語が多く収録されていると言える。『日本国語大辞典』では、 か行が 21%で最も多いので、国語辞典ではか行の語が本来多いということであるが、 それと比べても『日本大辞書』の場合、か行の多さは群を抜いている。前述のごとく、 本辞書は前半に比べて後半が粗雑で、全体的には不均質な辞書であるという欠点があ るため、前半部分で多くのページを割いたか行の部分の語が多いのであろう。 22 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) 6 語末の音 『日本大辞書』の音象徴語の語末の音について、型別に集計したものが【表 12】 ・【表 13】・【表 14】である。 【表 12】AB 型の語末の音 計 か 17 き 13 く 24 け 2 こ 5 きゃ きゅ きょ 61 が ぎ ぐ げ ご 1 ぎゃ ぎゅ ぎょ 1 さ 8 し 6 す 4 せ 1 そ 6 しゃ6 しゅ しょ 31 ざ 5 じ 6 ず 3 ぜ ぞ じゃ3 じゅ じょ 17 た 18 ち 8 つ 7 て 2 と 9 ちゃ5 ちゅ ちょ2 51 で ど 3 ぢゃ ぢゅ ぢょ 5 くゎ 『言海』 か行 62 (14.2%) か行 22 (12.0%) さ行 48 (11.0%) さ行 26 (14.1%) た行 56 (12.8%) た行 26 (14.1%) は行 39 ( 8.9%) は行 15 ( 8.2%) ぐゎ だ 2 は ひ ふ 2 へ ほ 1 ひゃ ひゅ ひょ 3 ぱ 2 ぴ ぷ ぺ ぽ 1 ぴゃ ぴゅ ぴょ 3 ば 5 び 5 ぶ 12 べ 1 ぼ 10 びゃ びゅ びょ 33 な 3 に ぬ 1 ね 3 の 1 にゃ1 にゅ にょ 9 ま み 3 む め 5 も みゃ みゅ みょ や 12 あ ゆ い 5 う よ 7 え 1 お 3 わ 9 ら 8 り150 る れ ろ 4 りゃ りゅ りょ 6(3.3%) 8 9(2.1%) 7(3.8%) 19 19(4.3%) 14(7.6%) 9 9(2.1%) 6(3.3%) 9 8(1.8%) 6(3.3%) 162 162 (37.0%) 56(30.4%) 促音 0 撥音 17 引き音節 9(2.1%) 0 0 17(3.9%) 0 0 0 0 ※)「さゐさゐ」は「い」に、 「さゑさゑ」は「え」に、 「しほしほ(しをしを)、たをたを、とをを」 は「お」に入れる。 【表 13】AR 型の語末の音 ら 35 (25.2%) り 64 (46.0%) る8 ( 5.8%) れ1 ( 0.7%) 促音 ろ 29 (20.9%) 計 『言海』 137(98.6%) 80(100%) 0 2( 1.4%) 撥音 引き音節 0 23 0 0 0 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 【表 14】A 型の語末の音 計 か き く け こ きゃ1 きゅ きょ げ ご ぎゃ ぎゅ ぎょ くゎ が ぎ ぐ ぐゎ 1 0 『言海』 か行 1 ( 1.2%) か行 0 さ行 5 ( 6.0%) さ行 4 (11.4%) た行 1 ( 1.2%) た行 0 は行 1 ( 1.2%) は行 1 ( 2.9%) さ 2 し す せ 1 そ 1 しゃ しゅ しょ 4 ざ 1 じ ず ぜ ぞ じゃ じゅ じょ 1 た ち つ て と ちゃ1 ちゅ ちょ 1 だ ぢ づ で ど ぢゃ ぢゅ ぢょ 0 は ひ ふ へ ほ 1 ひゃ ひゅ ひょ 1 ぱ ぴ ぷ ぺ ぽ ぴゃ ぴゅ ぴょ 0 ば び ぶ べ ぼ びゃ びゅ びょ 0 な に ぬ ね の にゃ にゅ にょ 0 0 0 ま み む め も みゃ みゅ みょ 0 0 0 よ 1 1 い う え お 0 り る れ ろ 1 や あ ゆ わ ら 1 0 りゃ りゅ りょ 2 1( 1.2%) 0 0 2( 2.4%) 1( 2.9%) 0 0 4( 6.7%) 促音 20 20(24.1%) 14(40.0%) 撥音 29 29(34.9%) 6(17.1%) 引き音節 23 23(27.7%) 8(22.9%) 1 拍語 7 語 ※)A 型の語 90 例中 7 例の 1 拍語は用例数に入れない。 語末の音については、『言海』同様、型によって様相を異にする。AB 型の語末の音 で最も多いのは「リ」で、438 例中 150 例である。AB 語基に添加して「AB リ」となっ たものは 59 例、 「A ッ B リ」タイプの語末が 74 例、 「A ン B リ」の語末が 16 例となっ ており、『言海』と同様であった。 AR 型は、第 2 拍がラ行音の語であるので、現代語のように「ころりっ、ころん」の ような形も可能性としては考えられるが、『言海』には、AR 型の語末が促音、撥音、 引き音節の語は 1 例もなかった。『日本大辞書』では、 「どろん」「ちりんちりん」の 2 例ではあるが撥音の例が見られる。AR 型の場合も、 「リ」が 139 例中 64 例と最も多い。 『言海』では「ラ」も「リ」とほぼ同数を占めていたが、 『日本大辞書』では 35 例と、 それほど多くない。その内訳を見ると、 「AR リ」タイプの語末が 47 例で最も多い。『言 海』の AR 型の語末の「リ」は、ほとんが「AR リ」のタイプに集中していたが、 『日 本大辞書』では、 「A リ A リ」の語末の「リ」も 17 例見られる。また、 『言海』には 1 例も見られなかった、「A リ」語基の「A リリ」も 7 例、「A レ A レ」の「でれでれ」 も 1 例ではあるが収録されている。『言海』では、第 2 拍が「リ」以外の「AR」語基 24 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) に添加する形で派生した「AR リ」のタイプの語に「リ」が集中し、語末の「ラ」 「ロ」 は 2 拍語基の重複した「A ラ A ラ」タイプの語末に集中するという特徴が見られたが、 『日本大辞書』では、 「リ」は「AR リ」のように語基に添加された「リ」以外にも、 「A リ A リ」のように語基末の「リ」もかなり見られるという点が、 『言海』とは異なって いる。 A 型は、『言海』では促音、引き音節、撥音の順になっており、しかもこの 3 つに集 中していた。『日本大辞書』でも、この 3 つに集中しているが、順位は、撥音が 29 例 と最も多く、次いで引き音節、促音の順である。『言海』にはあまり採録されなかった 4 拍語の「A − A −、A ン A ン」も多く採録されていることも影響している。 全ての型の語末の音について、上位の語を他の資料と比較したものが【表 15】である。 【表 15】語末に多く用いられる音(表中の数字は異なり語数) 1 2 3 4 『擬音語・擬態語の読本』 り (18%) 促音 (16%) 撥音 (14%) 『和英語林集成』(第 3 版) り (32%) ら ( 8%) 『言海』 促音 ( 5%) ろ ( 5%) AB 型 り 51 た 12 く 9 や 9 AR 型 り 28 ら 27 ろ 18 A 型 促音14 引き音節 8 撥音 6 る 8 すべての型 り 79(25%) ら 32(10%) ろ 22( 7%) 促音15( 5%) AB 型 り 150 く 24 た 18 か 17 撥音17 『日本大辞書』 AR 型 A 型 り 64 ら 35 ろ 29 る 8 撥音29 引き音節 23 促音20 すべての型 り 214(32.4%) 撥音48( 7.3%) ら 44( 6.7%) ろ 34( 5.2%) ※)「すべての型」には、A 型の 1 拍語 7 例と「複合型等その他の語」48 例は含まない。異なり 語数で全用例数は 715 − 7 − 48 = 660 例である。 現代語の場合、日向(1991)『擬音語・擬態語の読本』では、語末の音は多い順に「り (18%)−っ(16%)−ん(14%) 」であり、 「ら行音や促音・撥音が、擬音語・擬態語 の持つ、音と意味との必然性という特性を演出している大きな要素となっているよう だ。この三つの音節が、擬音語・擬態語の半数の語末を支配していることになる。」(同 書「擬音語・擬態語を演出する音」p.306)と述べている。『日本大辞書』の全ての型を まとめて見ると、多い順に「り(32%)−撥音(7%)−ら(7%)−ろ(5%)」となっ ていて、促音は A 型にしか見られず、20 例(3%)である。音象徴語を収録した『読本』 とは異なり、「リ」が約 3 割の語末を占め、それに次ぐ撥音は比率的には 7%とそれほ ど高くはない。『言海』では、多い順に「り(25%)−ら(10%)−ろ(7%)−促音(5%)」 25 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 となっており、『和英語林集成』(第 3 版)とほぼ同様の様相を示していた。『言海』は 国語辞書であり、音象徴語のみを採録した『読本』とは性質も異なっているがゆえに、 「リ」に次いで、 「ラ」が第 2 位となり、現代音象徴語のみを採録した『読本』とは異なっ ていると、拙稿(2003)で分析した。『日本大辞書』も『言海』 、『和英語林集成』と同 様に、「リ、ラ、ロ」という 3 つのラ行音が語末の上位を占める一方で、音象徴語の語 末の特性を示す「撥音」が第 2 位である点に、『言海』、『和英語林集成』に比べて口語 的性質の強い語を積極的に採録しようとした、美妙の辞書編纂の姿勢を見ることがで きるのではないだろうか。 拙稿(1998)の調査では、室町時代末期の『日葡辞書』においても、当時、語末は「リ」 になるまで語形を拡張しており、同一語基のバリエーションを見出し語として立てる 場合、語末が「リ」になるタイプの派生語までを載せるのが辞書の特徴と言える。『読本』 では、「リ」以外には音象徴語の特性とも言える、促音、撥音の占める割合が大きかっ たが、 『言海』、 『和英語林集成』では、語末が撥音の語は上位ではなかった。促音、撥音、 引き音節といった要素が多くなれば、口語的、俗語的で臨時的な語といったイメージ が強くなり、辞書には採録されにくくなると考えられる。前述の山口(2002)で示さ れた、「A ンッ、A −ッ、AA −ッ、AA −ン、AB ッ、AB −ッ、A ッ B −リ、A ッ B −ン、ABAB ッ、ABB ッ、ABB −ン、ABB −」といった明治時代以降出現するタイ プが、いずれも語末が撥音、促音、引き音節であり、その大半が一語の中にこれらの 要素が 2 つ以上含まれており、辞書の見出し語としては立てられないのも首肯できる。 辞書という性質ゆえに、『日本大辞書』の見出し語にも、『言海』、『和英語林集成』と 同様にこれらの新しいタイプは見られず、語末の「リ」が約 3 割を占めるが、撥音の 語が多く採録されているのが特徴的である。更に、第 3 位の「ラ」についても、奈良 時代から見られる古いタイプの「AB ラ(3 例)/ AR ラ(1 例)」やその重複形「AB ラ AB ラ(1 例)」はごく少数である。また、AR 型の「A ラ A ラ」タイプの語が 32 例 と語末の「ラ」で最も多いタイプであるが、語頭が濁音「ぎらぎら・げらげら・じゃ らじゃら・びらびら・べらべら」 、半濁音の「ぴらぴら・ぺらぺら」等、口語性の強い 語が多いと考えられる。【表 15】には含めていないが、その他の型にも「かんから・じゃ らくら・ちらくら・ちらほら・ぬらくら・ぴんぴら」のように、語末が「テ」の語に は「●」が付されており、口語性が強いと考えられる。美妙個人の言語観によるもの であろうが、音象徴語の見出し語に「●」(言專用)を付して、口語を積極的に採録し ようとした姿勢を窺うことができる。 7 結び 本稿では、『日本大辞書』において見出し語として立てられた和語の音象徴語(異な り語数 715 語、延べ語数 1223 語)について調査を行った。本辞書には『言海』が採録 しなかった語を 426 語も採録する。同一語基のバリエーションも豊富に載せる。 『言海』 26 『日本大辞書』の音象徴語(平 弥悠紀) では採録された音象徴語のタイプは、一部のタイプに限定されており、多い順に、 「ABAB」、「ARAR」、「A ッ B リ」、「AR リ」、「AB」となっており、この上位 5 位まで のタイプで、全体の 7 割以上を占めていた。『日本大辞書』では同一語基のバリエーショ ンを多く載せるが、数値的には上位 5 位までの語「ABAB」、 「ARAR」、 「A ッ B リ」 、 「AB リ」 、「AR リ」で全体の 7 割弱を占めている。第 7 位、8 位には口語的要素の強い A 型 の「A − A −」、「A ン A ン」が続く。 語頭の音としては、『言海』では、「さ行−か行−た行/は行」となっており。特に サ行音が多く、また、パ行音はなく、バ行音も少ないのが特徴であった。1886〔明治 19〕年に出版された『和英語林集成』(第 3 版)においても現代語と同様、ハ行音が最 も多い。『日本大辞書』では「か行−さ行−は行−た行」と、カ行音が特に多く、 『言海』 にないパ行音も 25 例見られた。濁音が多いのが特徴的で、ガ行音は清音のカ行音とほ ぼ同数であり、また、バ行音に半濁音の・パ行音を合わせるとハ行音より多い。ただ、 カ行音が多いのは本辞書が前半に多くのページを割いているという不均質さの表れと 見ることもできる。 『日本大辞書』の語末の音は、 多い順に「り−撥音−ら−ろ」であった。 『言海』では、 多い順に「り−ら−ろ−促音」となっており、 『和英語林集成』(第 3 版)とほぼ同様 の様相を示していた。現代語の場合、 『読本』では「り−促音−撥音」と、 「リ」以外 では促音、撥音が多く、この 3 つの要素が音象徴語の語末の半数を占めているのであ るが、『日本大辞書』でも、口語性の強い撥音が第 2 位である点が特徴的である。美妙 が音象徴語の見出し語に「●」 (言專用)を付して、口語を積極的に採録したことが窺 える。 『日本大辞書』はこれまで、 アクセント資料としての価値しか論じられることがなかっ たが、本稿では『言海』と比較することによって収録された音象徴語の特徴を見た。 今後は他の辞書とも丁寧に比較することで、当時の口語の様相に迫りたいと考える。 参考文献 今野真二(2013)『「言海」と明治の日本語』神奈川:港の人 鈴木〔森田〕雅子(1953) 「語音結合の型より見た擬音語・擬容語―その歴史的推移について―」 『国 語と国文学』345 号,pp.46-61. ―(1984)「擬声語・擬音語・擬態語」,鈴木一彦・林巨樹編集『研究資料日本語 文法④ 修飾句独立句編副詞・連体詞・接続詞・感動詞』明治書院,pp.159-201. ―(2007) 「解説―歴史的変遷とその広がり」 『日本語オノマトペ辞典』、小野正弘編、 東京:小学館、pp.577-648. 日向茂男(1991)『擬音語・擬態語の読本』小学館 平弥悠紀(1994) 「『日葡辞書』と『和英語林集成』に於ける音象徴語」 『同志社国文学』第 40 号, pp.146-158. ―(1998)「中世末期の音象徴語の語基―『日葡辞書』を中心として―」『国語語彙史の研 究 十七』国語語彙史研究会編,和泉書院,pp.169-195. 27 『同志社大学 日本語・日本文化研究』第 12 号 ―(2009)「「A リ」語基の現代音象徴語」 『同志社大学日本語・日本文化研究』第 7 号, pp.1-16. ―(2013)「『言海』の音象徴語」『同志社大学日本語・日本文化研究』第 11 号,pp.1-21. 前田富祺(1991)「近代辞書の古語と文語―『和英語林集成』と『日本大辞書』をめぐって―」, 大友信一博士還暦記念論文集刊行会編『辞書・外国資料による日本語研究』和泉書院,pp.201217. 山口仲美(2002) 『犬は「びよ」と鳴いていた』東京:光文社 ―(2012)「奈良時代の擬音語・擬態語」『明治大学国際日本学研究』4 巻 1 号,pp.151170. 山田忠雄(1981)『近代國語辭書の歩み 上・下』東京:三省堂 【付記】本稿は 2010 年度同志社大学国内研究員として岡山大学大学院社会文化科学研 究科において行った研究成果の一部を補訂したものです。貴重な御助言を賜りました 岡山大学江口泰生教授、京健治准教授に厚く御礼申し上げます。 28