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チームビルディング −直接的アプローチの探求

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チームビルディング −直接的アプローチの探求
日本スポーツ心理学会第29回大会 ミニ・シンポジウム
チームビルディング
−直接的アプローチの探求−
■司会・演者:土屋裕睦 (大阪体育大学)
■演
者
:北森義明 (順天堂大学)
今村律子 (福岡大学)
Key Words:チームビルディング、グループダイナミクス、直接的アプローチ
1.はじめに
1)チームビルディングとは
チームビルディング(Team Bui1ding;以下 TB と略す)とは、行動科学の知識や技法を用いてチーム
の組織カを高め、外部環境への適応力を増すことをねらいとした、一連の介入方略を指す。TB は現在、
組織開発の視点から様々な企業においても実践されており、またスポーツ場面ではフィットネスインス
トラクターを対象とした実践がある。つまり、TB は必ずしも競技スポーツチームだけを対象としてお
らず、様々なフィールドにおいてその広がりを見せている。なお、米国の Journa1 of app1ied sport
psycho1ogy には、1997 年にその特集号が組まれているが、日本スポーツ心理学会がこのテーマを取り
上げるのはこの学会企画ミニ・シンポジウムが初の試みとなる。
2)直接的アプロ一チ
TB は、それを担当する者のメンバーへの関わりが間接的か、直接的かによって、2つのアプローチ
に大別することができる。その異同については後述するが、本稿での議論は、主として競技チームを対
象とした直接的アプローチ、すなわち監督やコーチより TB の依頼を受けた担当者が、チームメンバー
に直接関わり、行動変容を援助するタイプのアプローチに焦点をあてることを予め明記しておく。その
理由の1つには、このアプローチに対する競技現場からの要請は多いものの、スポーツ心理学領域では
未だ体系化されるまでには至っておらず、これまでの知見と課題の整理が急務であることが挙げられる。
さらにこのアプローチでは、スポーツ心理学の担当者自らがチームにコミットすることが求められるこ
とより、グループのダイナミクスを体験的に理解することが求められる。このことは我々の実践家とし
ての資質を高めるのみならず、スポーツ心理学会における社会心理学的、あるいはグループダイナミク
ス的視野を拓くものと期待される。
3)本企画の目的
以上より本シンポジウムの目的は、まず、スポーツ心理学領域で実践されてきた報告を概観し、その
特徴や課題を整理すること。次に教育社会学・グループダイナミクスをバックグランドとする北森義明
氏の TB 実践事例に直接的アプローチの具体的方法を学び、さらに TB 実践場面で直面する様々な問題
について考える。これらの作業を通じてスポーツ心理学領域における TB の特徴を浮き彫りにし、同時
に新たな展開を模索したいと考えている。なお、チームワークの用語や概念、関連する要因については、
丹羽(1976)や徳永(1988)、高田(2000)、阿江(2001)に整理されているので、ここではそれらを踏まえつ
つ、主に TB の具体的な方法や実践での課題、新たな枠組み作りについて、議論を焦点づけたい。
2.スポーツ心理学領域における実践の概観
1)TB の2つの方法
前述のとおり TB のアプローチは、それを実行する者のメンバーへの関わり方によって以下の2つに
大別される。
①間接的アプローチ:これは組織風土へのアプローチといわれ、監督やコーチヘのコンサルテーション
が中心である。ここでは、ワークショップ等を通じて彼らのリーダーシップ機能の向上、あるいはメン
バーとのコミュニケーション・スキルの改善が目指される。メンバー(選手)に直接働きかけなくても、
リーダーである彼らの行動変容を通じて、チームの組織風土の改善ならびにチームワークの向上がもた
らされると考えられている。
②直接的アプローチ:これはメンバー個々への働きかけを重視するアプローチであり、例えば、野外活
動プログラムを通じて問題解決場面を設定したり、集団目標の設定作業を通じて TB を行うといった例
がある。他に集中的グループ体験の要素を取り入れたもの(江幡,1977、土屋・中込,1996、土屋,2001 な
ど)や、フリーディスカッションを主体としたエンカウンターを取り入れる例も散見されるが(例えば岡
沢・谷田,1994 や庄藤,1997)、このアプローチの実践報告は必ずしも多くない。
2)スポーツ心理学領域における TB 実践報告の概観
一般的には間接的アプローチが主流である。PM 理論に関する情報提供を通じて、コーチがより望ま
しいリーダーシップ・スキルを獲得するよう支援したり、あるいは実際のコーチング場面における P 機
能(課題達成機能)と M 機能(集団維持の機能)の発揮状況を確認し、コンサルテーションを行うといった
実践がなされている。
さて、我が国のスポーツ心理学領域における TB の転機は、チームスポーツのメンタルマネジメントに
関する研究班(日本オリンピック委員会スポーツ医・科学研究、班長:猪俣公宏)の活動(1990−)によって
もたらされた。そこではチーム心理診断テスト(SPTT)の開発・実用化等の基礎研究ならびに各種チーム
スポーツヘの心理的サポートの実践研究が推し進められた。例えば、米川ら(1991)が担当したヨットや
岡沢ら(1991)の担当した卓球では、ペア間のチームワーク向上を目的に東大式エゴグラム(TEG)を活用
し、自己理解・ペア理解およびコミュニケーションの活性化を図る試みがなされている。また、鈴木ら
(1993)は実業団リーグでプレーするソフトテニスのペアを対象に、図式投影法や交換ロールシャッハ・
テストを用いてペア間の相互理解を図るトレーニングを実施している。しかし、これら直接的アプロー
チの先駆的実践に続く報告は、その後増えていない。
3)スポーツ心理学領域における TB の特徴
以上を概観すると、我が国における TB の多くが、チームスポーツにおけるメンタルトレーニング(メ
ンタルマネジメント)の文脈の中で実施されてきており、リーダーシップ・スキルおよびコミュニケーシ
ョン・スキルの向上に焦点を当てて行われてきたことが分かる。
また、これまでスポーツ心理学領域での実践では、直接的アプローチよりはむしろ間接的アプローチ
が多く採用されてきた。それは以下の理由によると思われる。スポーツ心理学は応用科学の色彩が強い
ため、実践家を目指す過程で、例えば社会心理学の理論よりはむしろ、臨床心理学やカウンセリング心
理学における対人援助技術の研修を受ける機会が多くなる。そこでは、相談を持ち込んだコーチや監督
をクライエントと捉え、その彼/彼女に対して情報提供やコンサルテーションを行うことが自然な援助形
態であり、担当者自身が直接 TB を企画・実践するといった展開にはなりづらい。すでに概観したとお
り、直接的アプローチによる TB は、いくつか探索的な実践がなされてはいるものの、技法や背景にあ
る理論については未だ整理されていない現状が指摘される。この点で、このアプローチの実践が盛んな
社会学をはじめ組織開発論といった隣接領域の実践に学ぶべきものは多いと言える。
3.TB の実際
1)TB の一般的な流れ
直接的アプローチ、特に場面構成を行い、エクササイズや課題を与えるタイプの TB の実践には、い
くつかの重要な段階が共通して認められる。土屋(2000)をもとにそれらを列挙すると以下の 4 段階とな
る。
①TB 実施に至った経緯:誰からのどのような要請によるか。
②チーム状況のアセスメント:どのような方法によりチーム状況の把握に努めたか。またその際の
見立てはどのようなものであったか。
③具体的なプログラムの内容と実施:アプローチ決定までの経緯とプログラム作成の手順。
④TB の振り返り:実践の振り返り方法およぴ効果の検討、TB 実践の評価指標。
2)教育社会学をバックグランドとした TB の実際
例
ここではある名門社会人野球チームに対する北森義明氏の実践を例に、それぞれの段階における TB
の実際的内容について理解を図ることになる。なお北森氏は、社会人野球チームでの実践(北森,1992)
の他にも、大学駅伝チームや実業団バスケットボールチーム、プロ野球チームでの TB 実践において成
果を挙げていることで知られている。ここでは、ファミリートレーニングの実際に加え、チームメンバ
ーの個人の成長、態度の変化がチームの活性化と生産性の向上につながるプロセスについても示される
ことになる。
4.討議
企画者として討議の視点に据えたいのは TB の技法、理論の2点である。
1)TB の技法
直接アプローチでは、どのような技法が用いられるのか。この問いは、正確には「どのようなチーム
に対して、どのような技法を、どのように適用することが有効か」となる。チームの様々な場面に応じ
た TB の具体的な介入技法やプログラムを整理しながら、あわせて TB に臨む担当者の基本的態度につ
いても明らかにする必要があろう。
2)TB の理論
TB の技法は、それを支える理論によって生まれた。技法の背景にある理論を理解しないで用いられ
た技法は役に立たないばかりか、TB の参加者を傷つける場合(例えぱ集団圧力、他)すらあろう。ここで
いう理論とは以下のことに応える知識・概念のまとまりである。すなわち、
①チームの「問題」はどのように生じるか。
②チームはどのように成長するか、また成長するとはどういうことか。
③TB の依頼者、TB の実践者、TB 参加者(対象者)の、それぞれの役割は何か。
④直接的アプローチによる TB の限界は何か。
言い喚えれば、少なくとも問題の発生機序、TB の到達目標、作業同盟、本アプローチ適用の限界に
ついて応えることができなければ、TB の理論は成り立たない。理論的基盤の乏しいアプローチは、専
門家集団の活動としてはなじまない。スポーツ心理学領域において、直接的アプローチによる TB の実
践が活発化するためには、研修経験やバックグランド、あるいは人生観や競技観(つまり哲学)の相違を
乗り越えて、このアプローチにおける理論統合あるいは折衷による枠組み作りが求められている。
なおここでは抽象的な議論を避けるため、チームに対する心理的サポートを進めている今村律子氏よ
り、現場で直面する間題の具体例を提起していただく。実践の「現地」を踏まえた、より実際的な話題
にそって、上記2つの課題を考えていくことになる。
参考文献
1)阿江美意子:スポーツ集団のための技法.スポーツメンタルトレーニング指導士資格認定講習会テキス
ト,スポーツ心理学会編,109-115,2001.
2)江幡健士:チームスポーツに対する“集中的グループ体験"の効果についての心理学的研究.体育学研
究,22,(1),37-47.1977.
3) 北 森 義 明 : チ ー ム ビ ル デ ィ ン グ 3 , 名 門 社 会 人 野 球 チ ー ム の 場 合 . ト レ ー ニ ン グ ジ ャ ー ナ
ル,92-7:86-90.1992.
4)佐藤雅幸:メンタルマネジメント.スポーツ実践研究会(編)「入門スポーツの心理」,不昧堂出版,1997.
5)高田利武:スポーツにおけるグループダイナミクス.上田雅夫(監修)スポーツ心理学ハンドブッ
ク,179-185.2000.
6)土屋裕睦:スポーツ集団を対象とした構成的グループ・エンカウンター.國分康孝(編集代表)「続・構成
的グループ・エンカウンター」,誠信書房,pp.147-155.2000.
7)土屋裕睦,中込四郎:ソーシャル・サポートの活性化をねらいとしたチームビルディングの試み.スポー
ツ心理学研究,23-1:35-47.1996.
8)米川直樹,他:競技種目別メンタルマネジメントに関する研究,4-1 ヨット.スポーツチームのメンタルマ
ネジメントに関する研究
−第 2 報−,39-47.1992.
(紙面の都合上、一部文献の記載を省賂しましたので当日資料として配布します)
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