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方 法 内 容

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方 法 内 容
<集団的消費者被害救済制度研究会報告書(平成22年9月)等において検討・整理された財産の隠匿・散逸防止策>
○ 現存する方法
集団的消費者被害救済
制度研究会報告書等に
おける位置付け
方 法
内 容
報告書等における指摘
被保全債権や保全すべ
き財産を個別に特定せず
に財産を保全する方法
破産手続の活用
(参考1、2参照)
・債務者・債権者(※)の申立てを受けて裁判所が破産手続の開始
を決定することにより、財産の管理権を管財人に専属させる。
・債務者に破産原因(支払不能・債務超過)が必要〔破産法第15条
第1項、第16条第1項〕
・債権者が申立てをするときは、債権及び破産原因の存在について
疎明しなければならない。〔同法第18条第2項〕
・債権者が申し立てる場合、破産手続に必要な費用を予納する必要
がある。〔同法第22条第1項〕
・破産手続開始の原因の存在を被害者
が早い段階で疎明することは容易でない
と考えられる。
・大規模事件では、予納金が高額になる
ことがある。
(第2回会合ヒアリングより 別紙3参照)
※ 金融機関については、監督官庁(金融庁等)も申立てを行うこと
ができる〔金融機関等の更正手続の特例等に関する法律(金融機
関更生特例法)第490条〕
・金融機関更生特例法については2件の
申立て事例がある。
<会社解散命令>
・以下①②の場合等であって公益を確保するため会社の存立を許
すことができないと認めるときに、裁判所が、法務大臣又は株主、
社員、債権者その他の利害関係人の申立てにより、会社の解散を
命ずる。
①会社の設立が不法な目的に基づいてされた
②業務執行取締役等が、刑罰法令に触れる行為等をし、法務大臣
から書面による警告を受けたにもかかわらず、なお継続的に当該行
為をした
〔会社法第824条〕
・近年において実際に命令が行われた例
は見当たらない。
・裁判所その他の官庁、検察官等は、職
務上会社解散命令の申立て又は法務大
臣による警告をすべき事由があることを
知ったとき、法務大臣にその旨を通知し
なければならないとする制度〔会社法第
826条〕が存在するものの、近年において
このような通知が行われた例はない。
会社解散命令・
管理命令
<管理命令>
・裁判所は、会社解散命令の申立てがあった場合には、法務大臣
若しくは株主、社員、債権者その他の利害関係人の申立てにより又
は職権で、同項の申立てにつき 決定があるまでの間、会社の財産
に関し、管理人による管理を命ずる処分(管理命令)その他の必要
な保全処分を命ずることができ る。〔同法第825条〕
別紙2
集団的消費者被害救済
制度研究会報告書等に
おける位置付け
方法
内 容
私法上の契約の効果とし
て取引を停止する方法
振り込め詐欺救済
法に基づく預金口
座の取引停止措
置
(参考3参照)
金融機関が、捜査機関等(※1)から当該預金口座
等の不正な利用に関する情報の提供があることそ
の他の事情を勘案して犯罪(※2)利用預金口座等
である疑いがあると認めるとき、約款等の規定に基
づき当該口座の利用を停止する〔振り込め詐欺救
済法第3条〕
報告書等における指摘
・預金以外の財産の保全については対応できない。
・実際に行われる情報提供の在り方等によっては、実際
に口座を停止する金融機関等の対応が困難になる可能
性があるのではないか。
※1捜査機関等:警察、弁護士会、金融庁及び消
費生活センター等公的機関並びに弁護士及び認定
司法書士
※2犯罪:詐欺その他の人の財産を害する罪の犯
罪(刑法犯に限られない)
<参考(現行民事訴訟制
度における基本的な保全
制度)>
民事保全法上の
仮差押え
・強制執行をすることができなくなるおそれがあると
き、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずる
おそれがあるとき、被害者の申立てを受けて裁判
所が命令を発出する。〔民事保全法第20条〕
・仮に差し押さえるべき財産を特定する必要がある。
〔同法第21条〕
・申立ての際には、裁判所に対して担保を立てる必
要がある。〔同法第14条〕
・事業者の財産について、被害者が知ることは容易でな
いと考えられる。
・申立てに必要な担保を被害者が負担をすることが容易
でない場合があると考えられる。
集団的消費者被害救済
制度研究会報告書等に
おける位置付け
方法
内 容
報告書等における指摘
<参考(組織的犯罪処罰
法上の保全制度)>
没収保全・追徴保
全
・組織的犯罪処罰法等により没収することができ
る不法財産に当たると思料するに足りる相当な
理由があり、かつ、これを没収するため必要があ
ると認めるとき、検察官等が起訴前・起訴後に請
求して、裁判所が当該財産の処分を禁止する
〔組織的犯罪処罰法第22条、第23条〕
・消費者被害を発生させる行為が、常に組織的犯罪処罰法
の対象となる犯罪に該当するとは限らないのではないか。
・不法財産の価額を追徴すべき場合に当たると
思料するに足りる相当な理由がある場合におい
て、追徴の裁判の執行をすることができなくなる
おそれがあり、又はその執行をするのに著しい
困難を生ずるおそれがあると認めるとき、検察官
が起訴前・起訴後に請求して、裁判所が保全相
当額や目的物を定めて処分を禁止する。〔同法
第42条、第43条〕
<参考(海外の制度)>
資産凍結命令
【米国FTC、SEC
が申し立てる資産
凍結命令】(参考4
参照)
・FTC、SECの申立てを受けた裁判所が差止命
令等における付随的命令の一つとして、相手方
に財産の処分を禁止する命令を行う。
・米国における資産凍結命令は、エクイティ(衡平法)という
英米法特有の我が国には存在しない概念を前提とし、要
件・効果の判断において裁判所が広範な裁量を発揮するこ
とが前提になっており、我が国とは事情が異なるため、わが
国において検討するに当たっては、裁判所の機能と役割自
体からの検討が必要となる。
○ 新たな方法
集団的消費者被害救済制度研究会報告書等における位置付け
民事上の責任追及を容易にするために、行政機関が財産を特定して保全する方法
<参考(裁判所による保全の制度)>
【消費者権利官による財産保全命令の申し立て:消費者権利院法案】
第38条 裁判所は、消費者問題により多数の消費者に生じた損害賠償請求権その他の
金銭債権について、強制執行をすることができなくなるおそれ又は強制執行が著しく困
難となるおそれがあり、かつ、緊急の必要があると認めるときは、消費者権利官の申立
てにより、財産保全命令を発して、当該消費者問題に係る行為を行った者の財産につき、
その処分を禁止することができる。
2 財産保全命令は、保全すべき債権(以下「対象債権」という。)及びその額を定め、特
定の物について発しなければならない。ただし、動産については、目的物を特定しないで
発することができる。
行政処分により金銭納付を命じても徴収が困難となる場合に、財産を特定して保全する
方法
報告書等における指摘
・保全は事業者の経済活動に重大な影響を及ぼす以上、必要最低限に
留める必要があるが、保全の段階では、全体の被害額が分からず、ど
の程度の額の財産を保全すべきかが不明確であると考えられる(過剰
保全のおそれがある。)。
・行政が介入することを正当化する根拠が必要ではないか。(私人が強
制執行をすることができなくなるおそれがあるというだけでは足りないの
ではなく、何らかの形で公益の実現につながるという理由が必要ではな
いか。)
・別途検討を行っている、行政による経済的不利益賦課制度として、金
銭納付を命じる処分が新たに設けられることが前提となる。
<参考(国税徴収における制度)>
【税額確定前の保全差押え:国税徴収法第159条】等
行政による破産手続開始の申立て
・現在行われている被害者(債権者)による申立ての課題(3.参照)を解
決できるものである必要がある。
参考1
破産手続開始の申立て制度について
<原因>
○ 債務者に破産手続開始の原因が必要(破産法第 15 条 1 項、第 16 条 1 項)。
※ 破産手続開始の原因:債務者が法人の場合、支払不能又は債務超過
→支払不能:債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済
期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状
態。支払を停止した場合の推定規定がある。
→債務超過:債務者が、その債務につき、その財産をもって完済する
ことができない状態(債務>資産の状態)
<申立人>
○ 債務者又は債権者(第 18 条 1 項)。
※ 監督官庁(金融庁等)にも申立てを行うことを認める例がある(金融
機関等の更生手続の特例等に関する法律 490 条。詳細は別紙2参照。)。
<疎明事項>
○ 債権者が申立てをするときは、債権及び破産原因の存在について疎明しな
ければならない(第 18 条 2 項)
※ 疎明:ある事実について、裁判官に確信に達した心証ではないが、確かで
あろうとの一応の推定に留まる心証を得させた状態をいう。
※ 疎明にあたって証拠資料の提出は必要であるが、その証拠資料に求めら
れる確からしさのレベルの具体的な基準は存在しない。
※ 債権者が疎明した事項については、債務者に対して審尋を行う。
<予納金>
○ 申立人は、破産手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければな
らない(第 22 条 1 項)。国庫からの仮支弁の制度がある(第 23 条 1 項)。
※ 破産管財人の費用等として必要である。債権者が予納した場合は優先
的に償還される。
<保全管理命令等>
○ 破産手続開始の申立てがあった場合に、財産確保のために特に必要がある
と認められるときは、裁判所は、申立てによりまたは職権で、開始決定が
あるまでの間、債務者から財産の管理処分権を剥奪し、保全管理人に専属
させることを命ずることができる(91 条)。
参考2
金融機関更生特例法における破産手続の特例について
<趣 旨>
金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(金融機関更生特例法)におい
て、金融機関、金融商品取引業者 i、保険会社及び少額短期保険業者(以下、
「金融機関等」という。)に、破産手続開始の原因となる事実(支払不能又は
債務超過)があるときは、破産手続の特例として、監督庁の破産手続開始の申
立て権を認めている(同法第 490 条)。
また、保全処分、保全管理命令の申立権も付与されている(同法第 494 条、
第 495 条)。
同法が、監督庁に破産手続開始の申立て権を特例として認めている趣旨は、
同法の制定時の議論等を踏まえると、主に次のようなものであると考えられる。
すなわち、金融機関等の破たん処理については、その社会的影響の大きさを
考えると、事業の清算解体を図る破産手続よりも、事業の維持更生を図る更生
手続による破たん処理が適当である場合が少なくないが、対象となる金融機関
等を取り巻く社会的・経済的環境によっては、事業を維持継続させていくこと
が適当でない場合もあり得るところである。
監督庁の破産手続開始の申立て権は、上記のようなことを踏まえ、金融機関
等が、実質的には破たんしていても資金の流動性が確保される限り事業を継続
することによって、更に経営状態が悪化し、破たん処理コストや預金者・投資
家等の被害が一層増大することを防止しようとするものである。
すなわち、金融機関等の内実、財務状況等をよく知り得る立場にあって、
預金者・投資家等の保護に責任を負う監督庁に申立て権を認めることによっ
て、早期の破たん処理を可能にし、処理の着手の遅れによる処理コストや預
金者・投資家等の被害増大を防止することとしている。
<申立て事案(2件)>
いずれの事案も、申立てに先立って、金融商品取引法(証券取引法)に基
づく立入検査や行政処分がなされており、その際に得た資料・情報を主に用
いて申立てが行われている。
申立
年月
申立人
被申立人
事案の内容
平成
12 年
3月
金融
監督庁
南証券㈱
平成 12 年3月 関東財務局が実施した立入検
査の際に把握した資料等により、同社が債務超過
であることが判明し、顧客資産の保全を図るとと
もに会社財産の更なる費消を防ぐ観点から破産
申立てを行い、併せて財産の保全処分の申立てを
行った。
また、同社は必要分別信託額に対し実際に信託
している金額が不足し、純財産額が証券取引法に
定める資本の額を下回ることが認められたため、
同社に対して業務の全部停止を命じる行政処分
を行った。
平成
20 年
3月
金融庁
日本ファ
平成 19 年 12 月 店頭デリバティブ取引に係る
ー ス ト 証 顧客から預託を受けた証拠金等区分管理違反及
券㈱
び、自己資本規制比率が 100%を下回る状況とな
ったことから6ヶ月の業務停止を命じるととも
に、業務改善命令(区分管理不足の速やかな解消、
自己資本規制比率の改善等)を発出した。
平成 20 年3月 財産の状況に照らし支払不能
に陥るおそれがある状況等となっていることか
ら、登録を取り消すとともに、顧客資産の保全等
を図る必要があることから破産手続開始の申立
て及び、保全管理命令の申立てを行った。
<参考:平成 16 年破産法改正時の議論>
平成 16 年の破産法改正に際して、法制審議会倒産法部会では、公益的な観点
から一般的な監督官庁による申立権を認める規定を設けるべきとの意見が検討
された。しかし、規制緩和という社会の流れにそぐわないこと、破産手続開始
の申立てが必要となる業種を一義的に明確な概念によって画することが困難で
あるというようなことから、一般的に規定することは見送られた。
i
金融商品取引法第 2 条第 9 項に規定する金融商品取引業者をいう。
振り込め詐欺救済法の制度概要
被害者
犯人の
引き出し
犯人の
引き出し
犯罪に用いられ
た口座
(参考)
・誤って失権された預金者等の事後的な救済に備える
ため、預保納付金の一定割合を留保しておくことと
されている(法第20条第1項)。
(現在、留保割合は、内閣府・財務省令において100%
とされている。)
残高が
1円~999円の口座
残高が
1000円以上の口座
口座の失権
口座の失権
(債権消滅手続)
(債権消滅手続)
・一旦留保した預保納付金についても、上記の事後的
な救済のための支払の「必要がなくなったとき」
(法第20条第2項)には、犯罪被害者等の支援の充
実のために支出することとされている。
・留保しない金額は犯罪被害者等の支援の充実のため
に支出することとされている。
総額約0.5億円
犯罪被害者等の
参考3
(計数は、平成22年11月末現在)
支援の充実のために支出
被害者
総額約43億円
(
主務省令で定めるところによる)
納付
A
%
支払の必要が
なくなったとき
総額約43億円
100
(
現行 0 %))
総額約38億円
申請が
なかった分
留保
しなかった分
申請分は
全額支払
按分支払
100
口座名義人等
の救済のために
留保
申請被害総額 < 口座残高
(
%))
申請被害総額 > 口座残高
預
保
納
付
金
留保
した分
(口座毎)
総額約81億円
(A %(現行
納付
支払手続(返金)
参考4
第7回集団的消費者被害救済制度研究会「資料1-1」より抜粋
米国 FTC による消費者被害救済
2 裁判手続
FTC による連邦裁判所への被害救済の請求を定める法的根拠は、FTC 法13条(b)
と19条である。
(1)差止命令の請求
FTC法13条(a)は、食品、医薬品、化粧品等の分野に限って欺瞞的表示による消費
者被害の継続を阻止するため、行政審判中であっても、FTCが連邦裁判所にpreliminary
injunction(暫定的差止命令)を請求できる権限を付与する。そして同法13条(b) 1は、
FTCが執行する法規の違反が行われ、または行われようとしており、かつ、それを禁止す
ることが公益に合致するとFTCが思料する場合には、FTCは、当該行為を禁止する訴訟を
連邦裁判所に提起することができ、equities(衡平な救済)を衡量し、FTCが最終的に勝
訴するであろうことを考慮に入れて、当該訴訟が公益に合致する旨の相当な証拠を提示し、
かつ、被告に通告した後、temporary restraining order [TRO](緊急停止命令)または暫
定的差止命令が、保証金(bond)の供託なしに、裁判所から付与され、適切な事案では、FTC
はpermanent injunction(終局的差止命令)を請求することができると定める。緊急停止命
令は、被告の資産が散逸し、または証拠が隠滅されるおそれがある場合にFTCにより請求
され、裁判所が暫定的差止命令を許可するか否かを考慮するに必要な期間だけしか継続し
ない 2。
緊急停止または暫定的差止の命令は、発出後20日以内にcomplaint(審判開始決定書)
が提出されない場合には裁判所により取消され、効力を有しないと同条項は定めているが、
終局的差止命令を下す地裁の権限が議会により制限されていない以上、終局的な救済を可
能にするために必要な暫定的救済を命ずる固有の衡平法上の権限(inherent equitable
power)が地裁に付与されているか否かが争点となった。第11巡回区控訴裁判所は、
Porter v. Warner Holding Co.事件(1946年) 3で判示された最高裁のつぎのような制
1
1973年に同条項が追加されたのは、審判開始から排除命令の確定まで数年間を要すこ
ともあるので、反競争的な企業合併の進行を暫定的に差止めて回復し難い競争秩序の侵害
を回避し、および食品、医薬品、化粧品以外の分野における欺瞞的表示による消費者被害
の継続を阻止するためであった。
2 FTC, Counsel for International Consumer Protection の Ms. Hui Ling Goh の2010
年3月25日付けの筆者宛メール。米国の緊急停止命令の有効期間は14 日間である
(Federal Rule of Civil Procedure 65(b)(2) )。日本独禁法70条の13に基づく緊急停止命
令は、排除措置命令が出されるまでの仮りの措置を命じる裁判所の決定である。これまで
公取委が緊急停止命令を申立てた事件は7件(不公正な取引方法事件6件と合併事件1件で
ある。根岸 哲編『注釈独占禁止法』(有斐閣、2009年)731―732頁(鈴木孝之
執筆)、公正取引協会『独占禁止法五十年史』
(平成9年)下巻385頁。
3 328 U.S. 395, 66 S. Ct. 1086, 90 L. Ed. 1332 (1946). 同事件では、緊急価格統制法(1
942年)に違反する値上げを禁止する権限のみを明示的に付与する条項に基づいて、地
裁は、統制法違反の値上げ分の払戻を命じることができるかが争点であった。
定法の解釈原理に依拠して、暫定的差止命令を取消す被告の申立を却下した。
「制定法により禁止されない限り、地裁の固有の衡平法上のすべての権限が当該管轄権
の適切かつ完全な行使に利用される。また本件手続は公益に関係するので、この衡平法
上の権限は、私的利益のみの紛争事件よりも広範で弾力的である。従って、衡平法上の
救済を与え(do equity),各事案の必要に合わせる(mould to the necessities of particular
case) 権限が地裁にある。
」
本判決は、暫定的差止命令と終局的差止命令との性質上の相違に由来する制定法上の明示
的な規定の相違を、裁判所に付与されている固有の衡平法上の権限に基づいて、ないがし
ろにする点で、裁判所による法創造機能という英米法の特色が顕著にみられる。
(2)被害回復の請求
排除措置命令が本来は消費者被害を救済しないという欠陥を是正するため、FTCは、被
審人が無価値な商品・サービスを欺瞞的広告により販売することで消費者から受け取った
金銭を保持することが5条に違反する不公正な行為であると主張し、この5条違反行為の
継続を救済するため、当該金銭の被害者への返還(restitution)を命じた 4。かかる背景下で
1975年に改正されたFTC法19条は、UDPA規定違反による排除措置命令の受命者であ
って、自らの行為がUDPA規定に違反することを知りえた筈である者に対し、FTCは、裁判
所を通じて、消費者被害の回復を請求することができる旨定める。被害回復措置として、
①契約の取消・改定、②金銭・財産の返還、③損害賠償(但し、懲罰的損害賠償は除く)、④
違反事実の周知などが列挙されている。しかし、これらの被害回復を受けるためには、審
判手続を経て審決または同意命令を得た後でなければ、裁判所に請求できないというデメ
リットがある。
これに反して、13条(b)は、差止命令についてしか定めておらず、消費者被害の回復
請求について何ら明示的に規定していない。それにも拘わらず、差止命令に付随して、他
の衡平法上の救済(restitutionとdisgorgement、資産の凍結、管財人の選任など)を申し
立てる権限をもFTCが有することが判例法により確立され、1980年以降、FTCは、審
判手続を経ることなく裁判所に申し立てることができる13条(b)に主として基づいて消
費者被害の回復を請求して来た。欺瞞的行為は移ろいやすく、FTCが調査を完了して審判
を開始しようとする時までに、被疑者が当該行為を放棄することが屡々あり、当該行為が
再発されるであろうという証拠がなければ、被告が中止した違反行為に対し13条(b)
に基づいてFTCは暫定的差止命令を裁判所に請求することができない 5という事情も、この
ようなシフトの一因である 6。
4
5
6
Universal Credit Acceptance Corp. 82 FTC 570 (1973).
FTC v. Evans Prods. Co., 775 F.2d 1084 (9th Cir. 1985)
前掲注 13, FritzGerald 論文 9 頁
(i) restitution(原状回復)
FTC法の違反事案における衡平法上の金銭的救済としてのrestitution 7は、違反行為の被
害者に対し、違反行為がなかったとすれば置かれたであろう地位を回復することを目的と
し、消費者保護の分野では、消費者が支払った金銭の返還を違反者に命じる形をとる。こ
の救済方法は、被害者が比較的に特定し易い詐欺事件で一般に用いられる。欺瞞的広告事
件では被害者の特定および被害金額の算定が容易でないのでrestitutionは効果的ではなく 8、
違反者の不当利得 (ill-gotten profits)を吐き出させるdisgorgementの救済の方が多い。しか
し、すべての被害者が成功裏に特定され、十分賠償されるとは限らないので、restitution
が命じられた事件においても、disgorgementが屡々追加的なkickerとして用いられる 9。
(ii)
disgorgement(違法収益の吐き出し)
disgorgementは、違反者から不当利得(unjust enrichment)を剥奪し、第三者による将来
の違反を抑止しようとする救済制度である
10ので、被害救済が主目的ではない。被害者の
特定および被害金額の算定が容易でない事案では、disgorgementの救済が用いられる
11。
吐き出しの対象となる利益は、違反行為により得られた凡ての利益である。吐き出された
利益は、可能な限り被害者に分配されるが、残額が生じる場合には、国庫に帰属させ
12、
または消費者教育費用に充当されることもある。
FTC が衡平法上の金銭的救済としての被害回復の請求を連邦地裁に請求する場合、提訴
時点で restitution と disgorgement のいずれを請求するかを明言する必要はなく、裁判所
が判断してくれる。
これらの衡平法上の被害回復請求は、common law 上の損害賠償請求とは異なる性質を
有し、差止請求と同時に行われる。
(iii)
資産凍結
FTC 自身は資産凍結を命じることができないので、裁判所に命令を請求しなければなら
ない。資金が海外に逃避した場合には、裁判所は被告に対し米国に資金を返還するように
命じる。命令に違反すれば、法廷侮辱罪で投獄される。資産凍結命令は、相手方が保有す
7
FTC, Policy Statement on Monetary Equitable Remedies in Competition Cases (July
25, 2003, available at http://www.ftc.gov/os/2003/07/disgorgementfrn.htm). その起草者
である John D. Graubert 氏に Covington & Burling 法律事務所でヒアリングした。
8欺瞞的広告の事案でも、restitution が命じられた事例がある。ダイエット用サプルメント
の欺瞞的広告が認定された FTC v. SlimAmerica, Inc. 77 F. Supp. 2d 1263 (S.D. Fla. 1999)
では、裁判所は、被告が提出した資料から、消費者が商品購入のために被告に支払った金
額を算定出来るとして、売上高から、それまでに被告が消費者に返還した金額を差し引い
た金額830万ドルを消費者被害回復のために支払えと命じ、管財人を選任し、資産を凍
結した。
9 Handbook 46-47.
10 前掲注26
11 前掲注28 このほか、個々の消費者の被害額が少額であるが、被害者数が多数にわた
る場合にも、disgorgement が効果的である。
12 FTC v. Gem Merchandising Corp., 87F.3d 466 (11th Cir. 1996)
る不動産、銀行口座、自動車等あらゆる財産に及ぶ。銀行口座の凍結について、FTC は裁
判所から資産凍結命令を受理すると、その謄本を、違反容疑者が事業活動を行っている地
域の銀行等
(違反容疑者が口座を保有している可能性が高い凡ての銀行)
に対し FAX して、
該当する口座からの出金を禁止する。このように違反容疑者が口座を保有する銀行を事前
に特定する必要はない。
1979年、テキサス州の荒地が住宅建設に適していると欺瞞的広告を行って利得を得
たSouthwest Sunsites, Inc.に対しFTCは、行政審判を開始するとともに、被告が購入者に
支払った金銭を19条に基づく救済に充当するのを確保するため当該金銭の保管を命じる
暫定的差止命令を13条(b)に基づいて地裁に請求した。 地裁は同条項が被告の資産凍
結の根拠にならないとFTCの請求を棄却したが、第5巡回控訴裁判所は、広範な衡平法上
の救済を伝統的に行使し得る地裁が、資産の散逸を防止する暫定的な付随的救済を同条項
に基づいて命じる権限を有すると判示した 13。
(iv)
管財人の選任
非営利組織であると偽って、負債を解消しようとする消費者に対し相談業務を行った
AmeriDebt, Inc.等に対してFTCが提訴した裁判所は、その創始者のAndris Pukkeの資産
の散逸を防止するため管財人を選任し、回収された3500万ドルの資金が和解の救済資
金に充当された 14。
(v)
FTC による訴訟と私人のクラス・アクションとの並行的提起と調整
同一の違反行為に対しFTCによる差止命令・原状回復等の請求と私人によるクラス・ア
クションとが並行して申し立てられる場合がある。その場合、FTCは行政目的を実現する
ために衡平法上の被害回復を請求するのであって、消費者のために父権訴訟を行うのでは
ない。私人もFTC法に基づいて提訴することはできないが、FTC法を包摂した州法
15また
はcommon law上の訴因(契約違反もしくは不法行為法に基づく損害賠償請求)に基づいて
提訴できる 16。
FTCによる訴訟と私人のクラス・アクションが並行して提起された場合、①両者の代理
人の間で交渉がもたれたり、②FTCが収集した違反行為の証拠がクラス・アクションで用
いられたり、③FTCが差止命令を請求し、クラス・アクションは被害回復を請求するとい
うように役割を分担することもある。種類の異なる複数の訴訟手続を併合することも可能
である。住宅金融ローンの電話勧誘に応じた消費者を長時間拘束して契約を強要したFirst
FTC v. Southwest Sunsites, Inc., 665 F.2d 711 (5th Cir. 1982).
FTC v. AmeriDebt, Inc., DebtWorks, Inc., Andris Pukke and Pamela Pukke (D. Md,
2006, available at http:// www. ftc.gov/opa/2006/01/ andrispukke.shtm)
15多くの州法は、FTC 法および規則(Rules)を包摂しており、State “Little FTC Act”と俗称
される程であるから、内容的には大差ないと言えよう。See Massachusetts M.G.L. Ch.
93A(Regulation of Business Practices for Consumers Protection), California Business
and Professions Code Sections 17200~17210, cited in Handbook (前掲注30)103, 114.
16紀藤正樹「消費者庁設置に向けた FTC 訪問報告」消費者ニュース No.77, 21 頁(2008.10),
FTC, Ms. Goh の2009年5月26日付けの筆者宛のメール
13
14
Alliance Mortgage Co.に対しFTC、州政府、私人(クラス・アクションおよび個人)が
訴訟を提起していたが、連邦地裁がこれらの訴訟を併合させて和解に導いた 17。
複数の訴訟が同一の違反行為に対し提起され、それぞれの訴訟手続において被害回復措
置が講じられる場合、同一の被害者が複数の被害回復を受けることになり、調整が行われ
ないと、被害額を超える金銭が分配されることが危惧される。しかし多くの事案で、違反
者の資産は散逸・隠蔽されており、被害全額を回復するにはほど遠く、実際の回復額は被
害総額の数%または数十%に過ぎない。消費者が勝訴する場合、裁判所は当該消費者に既
に付与した救済額を控除した額の救済を通常付与する 18。
NJ州裁判所で進行中のクラス・アクションの和解案に対し、FTCは、クラス・メン
バーの適正手続が保障されていないという理由で、介入し異議を申し立てた
19。クラス・
アクションの弊害を是正するため、FTCは、消費者の利益が適切に代表されていな、また
は全く代表されていない事案ではで「法廷の友」として訴訟に参加する。クーポンによる
賠償が消費者の利益を害する場合、または弁護士報酬が過大である場合に、FTCは和解案
に反対するamicus briefを裁判所に提出する。
FTCが連邦裁判所で敗訴しても、消費者団体は同じ違反行為の同じ被告に対し州裁判所
で損害賠償請求する機会を奪われない 20。
破産手続における消費者被害と租税等公的債権および従業員の給与等の債権との優劣関
係
FTCが消費者のために金員は一般的には優先権をもたない。尤も、破産手続の開始前
に判決になっている場合には、獲得した金員は優先的に支払われる。21
FTC v. First Alliance Mortgage Co. (C.D. Cal. March 21, 2002, available at http://
www. ftc.gov/opa/2002/03/famco.shtm) 和解により18,000人の住宅ローンの借手
が6000万ドルの賠償を受けることになっている。
18 前掲注37のメール
17
19
Exquisite Caterers , LLC vs. Popular Leasing USA, Inc. (Docket No. Mon-L-3686-04,
Superior Court of New Jersey, Law Division), Related Court Proceedings: FTC v. IFC
Credit Corp., FTC v. NorVergence, Inc. available at http://www. ftc. gov/opa/ 2008/ 03/
Jersey. shtm.
20前掲注39のメール
21 FTC, Office of General Council, Bruce Freedman の2008年6月5日付けの筆者宛
のメール。前掲注35 紀藤論文23-24頁参照
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