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講演録 - 特別区協議会

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講演録 - 特別区協議会
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講演概要
【11 月 15 日 開催】
若年ホームレスに対する取組 ・・・・・・・・・・・・・・・・・1
(NPO 法人 ビッグイシュー基金
佐野 未来 氏
瀬名波 雅子 氏)
【11 月 20 日 開催】
パーソナル・サポート・サービスの具体的取組 ・・・・・・・・・ 35
(東京大学大学院教育学研究科教授
本田 由紀 氏)
(横浜パーソナル・サポート・サービス 鈴木 晶子 氏)
【12 月 14 日 開催】
更生保護の現状と社会福祉の関わり · ・・・・・・・・・・・・・103
(更生保護法人東京実華道場ステップ竜岡 三村 学 氏)
【12 月 21 日 開催】
ユニバーサル就労ってなんだろう ・・・・・・・・・・・・・・・125
(東洋大学ライフデザイン学部准教授
山本 美香 氏)
(社会福祉法人生活クラブ風の村ユニバーサル就労支援室長
平田 智子 氏)
この講演録は、平成 24 年 11 月 15 日、11 月 20 日、12 月 14 日、
12 月 21 日に行われた講演の内容を集録したものです。
11月15日 開催
若年ホームレスに対する取組
(NPO 法人 ビッグイシュー基金
佐野 未来 氏
瀬名波 雅子 氏)
日 時
平成24年11月15日(木)
13:30~16:40
場 所
東京区政会館3階35教室
「若者ホームレスの今」
たり、そういったことから始まったのですが、
NPO法人ビッグイシュー基金
そうした支援を必要とする層が今はすごく広
佐野未来 氏
がってきて、しかも若い方が非常にふえてき
瀬名波雅子氏
ました。中には、お金がなくて、最後はイン
ターネットカフェですぐにお金になる仕事と
いうふうに検索をするとビッグイシューが出
佐野 未来
「ビッグイシュー日本版」という雑誌を東
てきたということで、どういう仕事かも知ら
京都内の街頭でホームレス状態の方々が販売
ずにいらっしゃる方もいるわけですが、よく
しています。これは、有限会社ビッグイシュ
よく話を聞いてみると、すごく精神的に不安
ー日本という団体がつくって発行して、それ
定で自殺願望が強い人、あるいは、しばらく
をホームレスの方々の独占販売とすることで、
御飯を食べていないとか、体調が非常に悪い
彼らの仕事をつくるというものです。私は、
という方が結構いらっしゃるようになりまし
2003年9月の創刊時よりそちらの社員として
た。
そういう人たちはいきなり販売をするとい
働いています。
ビッグイシュー日本は、日本のホームレス
うことは難しいし、たとえ販売に立ったとし
問題の一番大きな原因は仕事がないことだ、
ても続く可能性が非常に低いので、状況や本
仕事をつくればたくさんの人たちが自分の力
人の希望を聞いた上で生活保護につなぎます。
で路上から脱出できるのではないかというシ
私たちも生活保護の同行支援をしていたので
ンプルな考えで始めました。しかし、やれば
すが、今はほかの団体、最近はサポートステ
やるほど本当に多くの問題が複雑に絡み合っ
ーションさんにも若い人の場合は相談に乗っ
ていて、ビッグイシューは一定数売っている
ていただいているので、そういうところにつ
んだけれども、路上から次のステップに移っ
ないで、ビッグイシュー販売ではない形でも
ていけない人たちがたくさんいるということ
う一度頑張っていただくということもしてい
がわかってきました。そこで、4周年目の
ます。
もう一つ、例えば生活保護につながって、
2007年9月にNPO法人ビッグイシュー基金
特に若い方でビッグイシューの販売に意欲が
を立ち上げました。
最初はビッグイシューを販売してもなかな
なくなってきたとか、家に引きこもることが
か次の就労にすすめない方たちを、いろいろ
多くなってきたという人たちに関しては、も
な形で応援する。つまり、相談も受けますし、
うビッグイシューはすっぱりやめて就労活動
いろいろな機関につないだり、就労先を探し
をしてくださいと言います。ただ、そのまま
-1-
にしてしまうと依存症になったり、引きこも
若者ホームレスの増加
ってしまったりする可能性があるので、私た
若いホームレスがふえているということに、
ちの活動に販売者が集まるサロンとか、サッ
カーやダンスなどのクラブ活動もありますの
最初に私たちが気づいたのは2007年でした。
で、そこには参加していただいたり、基金の
ビッグイシューが2003年に立ち上がったころ
スタッフが声をかけて関係団体につなげてい
は、50代から60代の方々がほとんどで、平均
くというようなこともしています。ですから、
年齢も50代半ばぐらいでした。それが2007年
基金の活動も対象者がビッグイシュー販売者
春ぐらいには登録者の半分ぐらいが50歳未満
のみだった5年前に比べると、かなり広がっ
になって、20代、30代、40代の方が急激にふ
てきています。
えてきました。それまでは20代、30代の方が
そして、若者ホームレスの問題も発信して
いらっしゃると、えっ、どうしてビッグイシ
いかなくてはいけません。きょう、「若者ホ
ューに来るのって、私たちも思っていたわけ
ームレス白書」を配布させていただきました
です。先輩販売者が、「お兄ちゃん、まだ若
が、もともと高齢層が多かったホームレスの
いから日雇いの仕事だったら紹介してあげる
人たちが、いきなり若年化してきたというと
から」と言って連れて行って、仕事につなが
き、私たちもどう対応していいかわからない
ったりつながらなかったりしていたわけです
という状況に追い込まれました。まず対象者
が、2007年ぐらいから若い登録希望者が急に
がどういう人たちなのかを知らないと、どう
ふえてからは、スタッフもなれてしまうとい
いう形で支援していけばいいかということも
うか、普通に受け入れられる。それぐらい日
わかりません。そこで、調査をした結果、傾
常的にいらっしゃるようになりました。特に、
向というか、こういう人たちがなりやすいん
東京事務所に関して言うと、すごく影響が大
だということが見えてきたので、白書という
きかったのはリーマンショックでした。2008
形にまとめて社会に発表させていただきまし
年秋にリーマンショックが起こり、その年末
た。
に年越し派遣村などがあって、かなりこの問
今からそこで見えてきたことを簡単に私か
題が取り上げられたことは皆さんご存じだと
ら説明をさせていただいて、その後に瀬名波
思います。その翌年の2009年5月か6月ぐら
から、実際にいらっしゃった人たちのケース
いに波が押し寄せるようにやって来ました。
とか、ビッグイシュー基金でどういうお手伝
これには本当にびっくりして、経験の少ない
いをしたのかということをお話しさせていた
私たちは右往左往しました。2008年にリーマ
だきたいと思います。
ンショックがあって、2009年3月末に雇いど
-2-
めに遭った方が多かったのかなと思うのです
れぐらいならこなせるという自尊心とか自負
が、お話を聞いていると、皆さん少ない賃金
心がすごくありました。ですから、ちょっと
ながら2~3カ月は生活できる貯金をしてい
折れそうになったときに、今まであんなにき
て、ネットカフェとかに泊まりながら就職活
つい仕事ができていたんだから、まだまだ頑
動をしていたけれども見つからず、どうしよ
張れますよね、という話をすればよかったの
うもなくなって路上に出てしまったというこ
ですが、新しくいらっしゃった方にはそうい
とです。
う話ができないのです。成功体験が少ない方
2008年から2010年にかけて、東京事務所に
がほとんどなので、どうやって対応していい
登録された販売者の方の平均年齢が56歳から
のか日々模索する中で、聞き取り調査をして
45歳になりました。全体の平均年齢はまだ45
みました。
歳までは下がっていないのですが、この期間
2008年11月から始めたのですが、最初はビ
だけをとってみると平均年齢が11歳若返った
ッグイシューの販売者として登録された方を
わけです。これがすごくショックだったのと、
中心に何度か聞き取り調査をしました。その
新しくいらっしゃった20代、30代、40代の
後、リーマンショックで仕事をなくしたけれ
方々は、働き盛りなんだけれども、ビッグイ
ども、ビッグイシューに来られない若い人た
シューの販売が長続きしなかったり、精神的
ちにも話を聞こうということで、炊き出しと
に非常に不安定であったりという傾向があり
かそういったところに並んでいる人に声をか
ました。ホームレスとしての自覚が乏しくて、
けてお話も聞かせていただきました。半分が
おれはまだそこまで落ちてないからやればで
ビッグイシューの販売者として登録に来られ
きるとか、今はちょっと休憩中みたいな人が
た方、残りがそうではない方です。全員男性
いたり、あまり人と群れたがらないというか、
で、平均年齢は32.3歳、路上にいた期間は6
自分から情報を取りに行ったりしない人たち
割が1年未満、7割が仕事に関する理由で路
が多いなと思いました。
上に出られています。
そして、ビッグイシューの仕事は一日立ち
調査では、①見かけたことがないけど、ど
続けるので大変なのですが、今までの中高年
ういう生活を送っているのか、②なぜ実家に
の人は、主に建築現場などの厳しいところで
帰らないのか、③どうして働かないのかとい
働いてこられた方々ですから、精神的なつら
うことを聞いてみました。これらは私たちが
さを乗り越えてしまえば肉体的には今までや
最初に思うことでもありますし、あちこちで
ってきた仕事よりも全然楽だと言う人がいた
この話をするときに聞かれる質問でもありま
り、今まで厳しい仕事をやってきたから、こ
す。
-3-
仕事を探さなくてはいけないわけですから、
身なりをきちんとしていないとすぐに仕事を
どういう生活を送っているのか
もらえないということになってしまいます。
まず、どういう生活を送っているのか。主
ですから、食べ物を削ってでもおふろに入る
な寝場所としては、従来の高齢の日雇い労働
とかシャワーを浴びられる場所を探す、服を
の方々は野宿のみの方が非常に多かったので
買う、そういうことにお金をかけるという特
すが、この調査では、野宿だけの方というの
徴がありました。
は少なくて、終夜営業店舗と野宿という人が
あとは、路上で寝るのが怖いというのも、
多くいました。これはインターネットカフェ
今まで私たちが出会わなかった特徴です。ど
とかファーストフード店とか24時間営業レス
こで寝ているのと聞くと、大阪だと釜ヶ崎、
トラン、お金のあるときはそういうところに
東京だと新宿の西口とか中央公園、そういう
行ったり、コーヒー1杯でねばってそこで夜
ところは怖くて近寄らない。どうしているの
を過ごしたりして、それがどうしてもないと
かというと、24時間営業の店に行く余裕があ
きは路上という方です。あとは、そういう店
るときは行きますし、ないときはコンビニで
舗のみを点々としているという方も1割ぐら
立ち読みをして、そこを追い出されたら、ま
いいました。
た次のところに行く。そういうふうに夜は一
晩じゅう歩き回って、昼間に公園のベンチと
そういう人たちに話を聞いてみると、食べ
か人目があるところで寝ているようです。
物より身なりが大事、食べてなくても取りあ
えずおふろには入るとか、ネット、携帯電話
あとは、ホームレスに対して、高齢で働か
は欠かせないとか、今まで私たちが出会って
ない、汚いみたいなスティグマがすごくあり
きた高齢の方とは全く違う状況が見えました。
ます。若い人たちは、そういうイメージをす
携帯電話はぜいたくと言われがちですが、携
ごくお持ちです。自分がそこまで落ちてしま
帯電話がないと仕事が見つからないので絶対
ったと思うのが嫌だから炊き出しには並ばな
に手離さないし、これが最後の命綱という方
いとか、ホームレス支援団体には行かないと
がほとんどです。しかも、仕事は日雇い労働
いう声もありました。
をしている方が多いので、日々雇用されるけ
私たちのところになぜ来るかというと、仕
れども、日々仕事を失うわけです。日々失業
事ができると思っているからです。私たちは
してまた仕事を探さなくちゃいけない、そう
ホームレス支援の団体で、相談窓口でもない
いうことを繰り返しているので、最後の連絡
し、来たらいきなり厳しい仕事をさせられる
先として携帯電話は重要です。そして、日々
ので敷居が高いのではないかとずっと思って
-4-
いたのですが、逆に若い人たちにとってはホ
私は思っています。いろいろな関係が切れる
ームレス支援のところに行くよりも、仕事す
中で、だれも信頼できなくなる。つまり、つ
るために来るほうが敷居が低くて、しかも切
ながる場所が少ない人、相談できる人が少な
実なのだと感じています。
い人がホームレスになりやすいのだと思いま
す。
抑うつ傾向についても聞いてみました。当
然2~3時間聞いただけでは、本当にこの人
なぜ実家に帰らないのか
はどういう人かというのはわからないわけで
すが、通院、投薬をされていた方が50名中4
次は、なぜ実家に帰らないのか。これも50
名いました。それから、抑うつ傾向「あり」
人という少ないサンプル数ではありますが、
というのは、自殺願望があるとか、しょっち
両親がそろっている家庭が25人と半分でした。
ゅう死ぬことを考えているということを何度
養護施設出身者の方が非常に多く12%、親戚
も話の中で口にされる方を「あり」としてい
に育てられたとか、親に育てられていない人
ます。私たちは精神福祉等の専門家ではない
が20%近いということもわかりました。これ
ので、当然診断は下せませんから、逆に「な
は、最初にビッグイシューに来られた方の大
し」となっている人でも、本当に話を専門家
半が養護施設出身者で、家族が生活保護を受
の方に聞いていただくとどうなのかはわから
けていたり、貧困状態にある実家に戻れない
ない数字だと理解してください。それでも全
という方は100%だったので、私たちにとっ
体で50人の中の42%に当たる方々が、かなり
てはやっぱりねという感じの結果でした。
の抑うつ傾向を持っておられたということで
次に学歴を聞いたところ、50人中大学を卒
す。皆さんは現場で日々若い人たちがふえて
業されていた方が2人、中卒の方が11人で、
いることを実感していらっしゃると思います。
高校卒業までいかれている方が21人と多くい
しかし、これがなかなか目につかないために
ました。これは家族がそろっていたとしても
社会問題として認知されないということがす
貧困の状態というか、もともと勉強をすると
ごく危険だなと思っています。本当に見えな
いう環境になかった方が非常に多いなという
いんだけれども根がすごく深くて広いので、
印象を受けています。
支援センターにおられる現場の方もそうです
そして、家を出た理由です。就職の方が17
し、見えている人が声を上げていかないとい
人、家族との関係の悪化12人。親と死別が3
けないと思っています。
人です。派遣労働が6人いますが、派遣労働
一人で過ごすことを好む傾向も確かにあり
の方は、住民票は親の家にあるけれども転々
ます。でも、本当に一人を好む人はいないと
としているので、最初の仕事をきっかけに家
-5-
を出て、それからほとんど帰っていないとい
失ってしまうということです。それから、ニ
うケースが多いと思います。そのほか出稼ぎ
ート、フリーターの果てにと書いてあります
とか、養護施設に入所されていて18歳になっ
が、先ほど言ったように、とりあえずはフリ
たから出なくてはいけなかったという理由が
ーターで働いている、もしくはニートの状態
上がっています。
で家にいる。家族もしばらくはサポートして
家族との関係悪化も、よくよく聞くと仕事
くれますが、そろそろ働いたらなどと言われ
に関連することが多くて、なかなか正社員の
たり、いろいろなことで家族との関係が悪化
職がなくて派遣業とかアルバイトみたいな状
して路上に出てしまう。けんかをして出てい
況で30代を迎えてしまうと、もう30にもなる
ますから、正社員とかに就かない限り、親元
のに何をフラフラしているんだという感じで、
には戻れない。しかし、路上なので正社員の
特に男性が親御さんから厳しく言われます。
職に就くことは非常に難しい。さらに、もと
親御さんからすれば、自分たちの時代は探せ
もとバックグラウンドに経済的困難がある方
ば仕事があったわけですから、この子が正社
が多い。要するに生活保護家庭だと、働き手
員になれないのは本人が努力していないに違
が戻ってくると親御さんの生活保護を切られ
いないと思ってしまう。そこで、本来なら支
るとか減らされる。あるいは、親御さん自体
えてくれるはずの親御さんとも確執が生まれ
がぎりぎりの状態でやっているので、自分が
て、帰れるはずの家を失ってしまうという方
戻ると負担がふえるということで戻れない。
があると思います。
そういうさまざまな理由で、戻れる家族を失
借金の有無については、あるという方が半
っている方が路上に真っ先に出て来られる。
分ぐらいいました。これは、生活費のためと
この辺もどうしていくかということを一緒に
いう方もいますが、ギャンブル14人、アルコ
考えないといけないと思いました。
ール4人と、それらの依存症のために借金を
なぜ働かないのか
抱えてしまったという人が多くいました。借
金なしは32人ですが、これは初対面の人間に
3番目は、なぜ働かないのか。まず、どん
話してくれる内容ですから、もしかしたら借
な仕事をしてきたのかという話を聞くと、こ
金をしている人はもっと多いかもしれないと
れはちょっと意外だったのですが、正社員の
思っています。
経験があるという方が43人で、85%ぐらいい
なぜ実家に帰らないのかということを振り
ました。ただ、聞いてみると、地方で正社員
返ってみますと、まず養護施設出身者の方が
として中卒、高卒の状態で就職したけれども、
非常に多くて、18歳になったら戻れる場所を
賃金が非常に安い。不況になればなるほど労
-6-
働時間だけはふえるけど残業手当は出ない。
いう質問については、していない方が38人い
自分の上司の給料を見ても、条件が悪くなる
ました。先ほど抑うつ傾向の質問で、自殺願
ことはあってもよくなることはない。そうい
望があるとはっきり言った人が42%という数
うような状況の中で、東京に出て派遣社員と
と結構重なるのかなと思うのですが、そもそ
して働いたほうが収入も上がるし、将来がよ
もホームレス状態で住所もない、連絡先もな
くなるのではないか。正社員から転職された
い。そして、この時点では既に携帯電話も失
方は、そういう夢を持って東京に出てこられ
ってしまっている、こんな状況で就職活動を
た方がほとんどでした。ただ、東京に来てみ
したって雇ってくれる人はいないでしょうと
たものの、東京にも仕事がなかった。最初の
いうあきらめの状態になってしまっている人
ころは約束どおり仕事があったのが、週に5
もいます。あとは、何かあれば大丈夫だとは
日の仕事が3日になり2日になり1日になり、
思うんだけど、今は力がわいてこない、その
ついには寮費が払えなくて路上に出ましたと
うちにしようと思っているみたいな方もいま
いう形で、というのはあれなんですけども、
した。
働いておられて、もうちょっといい暮らしを
仕事の内容についても、私たちが初めのこ
求めて東京に来て、結局東京でホームレスに
ろに一緒にやってきたホームレスの方は、右
なるという傾向が見られました。
肩上がりの高度経済成長を経験して、よかっ
転職回数は、5回以上の方が27人と多かっ
たころを知っているというか、語れるストー
た。最初に地方から東京に出てきて正社員と
リーを持っていらっしゃるんですね。今は落
して仕事につく。ただし、どんどん条件は悪
ちぶれているけど、あのころは輝いていた、
くなっていくので、ほかの仕事につく。そこ
あのころ東京タワーを建てたのはおれだとか、
も最初はよかったけど後は悪くなっていくと
僕がいないと新宿の街はつくれなかったとか、
いうことで、仕事を転々としているうちに転
話がかなり大きくなってはいるものの、その
職回数がどんどんふえていく。転職回数がふ
ときは輝いているストーリーを持っているわ
えればふえるほど条件も悪くなっていって、
けです。
最初は3カ月とか半年、1年の期間ごとだっ
ところが、バブル崩壊の後に社会人になっ
たのが、最終的には日雇い労働のような状況
た人たちは、そういう経験を一切持っていな
に落ちていく、これが典型的なパターンです。
い。どこに行っても使い捨てで、おまえがだ
派遣社員経験を聞いたところ、ありという
めなら替わりがいる、そういう経験しかして
方が33人、そのうちの24人が製造派遣の経験
こなかった人たちは、過去の仕事がトラウマ
をお持ちでした。就職活動をしていますかと
になってしまっていることが多いのです。そ
-7-
うすると、そこから抜け出すためには、もと
は、不況で働く場所がどんどん減ってきてい
もとない成功体験を経験してもらうところか
るということと、場所があったとしても自分
らやらなくちゃいけない。これは本当に大変
の自信の源となるスキルとかキャリアを持っ
で、私たちだけではできません。今、若者の
ていない。特にホームレス状態になってしま
ホームレス化を防ぐネットワークを一生懸命
うと、何とか頑張って次にいこうという意欲
つくっているところですが、自信をつけると
も減って、働けない状態に陥っているという
か、そういうことからやっていかなくてはい
ことが言えるかと思います。
それでは、どうしていったらいいのか。こ
けないと思っています。
今は、働きたくても働けない人がすごくふ
れだけ広くて深い問題ですから、ビッグイシ
えています。最初に働きたいと言ってきても、
ュー基金だけですべてを解決することは不可
路上生活が長くなればなるほど、もしくはも
能です。しかし、支援団体同士も意外と自分
う一度就労の機会を得る、肯定的な体験を得
たちの支援領域の枠を出ておらず、特に若者
るという機会がない状態が長ければ長いほど
支援、障害者支援、子どもの支援の分野では、
働く意欲を失っていく。もう自分はどうなっ
その事業の多くは行政からお金をもらって委
てもいいやとか、のたれ死んでもいいやみた
託でやっているので、障害者のことはすごく
いな感じになっていく人を私たちも日々目に
よく知っているけど、ニート、引きこもりの
しますので、働きたいという気持ちを持って
ことは全然わからないとか、若者支援のこと
いる人たちが働ける状況に何とかつなげてい
はベテランだけれども、そこに至るまでの子
きたいと思っていますし、それをどうしたら
どもたちのこととか、ホームレス状態で路上
いいのかと模索をしています。
にいる若者のことはわからない、そういうこ
とがあるというのも話していく中でわかって
見かけたことがないけどというのは、本当
きました。
は見かけたことがないのではなくて、若いホ
ームレスの人たちがまだ見えないのです。も
ですから、まず私たち自身がお互いを知り
しかしたら隣りを歩いている人が若いホーム
合うことが大事です。例えば、私たちからす
レスの人かもしれないという現状が今は広が
れば、若者の就労支援をやっている団体さん
っています。そして、なぜ実家に帰らないの
は、のどから手が出るほど欲しいプログラム
かという問いに対しては、貧困が広がること
をやっているわけです。家族がいないとか、
で、帰れる家を失っている人がふえているの
家がない若者もその就労プログラムを受けら
だということを改めて思います。
れればと思うこともたくさんあるので、そう
いうふうにつながっていけないかというとこ
なぜ働かないのですかということに対して
-8-
ろから、ニートや引きこもりの若者支援、障
害者支援、社会的養護出身者の支援といった、
貧困状態に陥りやすく、若者ホームレスと地
続きではないかと思われる活動の団体の方々
に声をかけ、ネットワーク会議を去年やりま
した。そこでは安心できる住まいや仕事、と
いった最低限の生活と機会を得ることのほか
に、「居場所」や「(家族にかわる)つなが
り」があり、人と一緒に楽しめることができ
たり、「未来への希望を持てること」が、困
難を抱える若者が自分の力で社会に参加し続
けるために重要だということで意見は一致し
ました。現状としてはそこでつながった団体
さんの具体的な動きやプログラムをもう少し
詳しく調べて、どういう連携が可能かという
ようなことを調査している最中です。お手元
の白書は、そのネットワーク会議で話し合わ
れた内容をまとめたものです。こちらはお時
間があるときに目を通していただければと思
います。
それでは、私の話はこれぐらいにして、現
場で当事者の方々と一緒にいろいろな団体に
行ったり相談業務をしているビッグイシュー
基金の瀬名波から実例を通して話をさせてい
ただきたいと思います。
-9-
に使っているのかご自身でも把握していない
瀬名波雅子
私がビッグイシューに入ってから実際に相
ことがよくありました。あとは、孤独を嫌う
談業務や当事者の方たちの話を聞いていく中
というか、寂しがり屋なところがあって、す
で、どのように支援を続けてきたかというこ
ぐにだれかに依存してしまう、近くにいてほ
とを実例を通してお伝えしていきたいと思い
しいと思ってしまうということがハードルに
ます。
なって、なかなか次のステップに進めずにい
ました。
若者ホームレス 個別事例①
この方は、小さいころに家族からの虐待経
まず、個別事例1ですが、この方はIさん、
験がありまして、恵まれた家庭で育っていな
31歳です。ビッグイシューに販売の登録希望
い。ただ、障害者手帳を学齢期に取れて、養
でいらしたときが28歳、3年前のことになり
護学級に通いながら社会に出たという方です。
ます。この方は、関西で非正規のお仕事を
ビッグイシュー基金の取り組みとしては、障
転々とされて、水商売の経験もされているの
害者手帳をお持ちなので、障害者の就労支援
ですが、職を探しに東京に来たときに所持品
団体の紹介から始めました。2009年頃、池袋
をすべて取られてしまって一文なし、荷物も
で炊き出しなどの活動をしている「てのは
なくなって、路上生活になってしまいました。
し」さんというグループが中心となってまと
この方は若いので、ビッグイシューの販売
めた調査で、路上生活者の約3割強に知的障
を長く続けるよりは、早く次のステップに進
害の疑いがあることがわかりました。実感と
んでもらいたいという気持ちがありました。
して納得できる数字ですが、私が見るに、手
ただ、ビッグイシューの販売もすごく頑張る
帳をお持ちの方はすごく少なくて、それは軽
方で、朝早くから夜までずっと辛抱強く販売
度な障害の方もいますし、たまたま大人に至
をされていて、お客様にもとても人気があり
るまでに福祉にかかわることがなくて、障害
ました。その方がビッグイシューをステップ
者手帳を持っていない方が多い。手帳がない
にして、就労につながるときにどういうこと
ことで、障害者としての雇用がされず、仕事
がハードルになったのかというと、ひとつに
に就くハードルが高くなる。それが彼らの就
生活能力が挙げられます。すべてにおいてで
労自立を阻んでいる大きな要因になってしま
はないのですが、特に金銭管理が全くできな
っているケースもあります。
い。この方は愛の手帳を持っており、障害者
Iさんの場合は、幸運にもといいますか、
年金を受け取っているのですが、金銭管理が
障害者手帳をお持ちだったので障害者の支援
全くできずに、受給後すぐ使ってしまう。何
団体につなげようと思いまして、先ほど佐野
-10-
から説明があったようなネットワークをつく
ちの目からすると、軽い障害があるのではな
っていく段階で知り合った団体に相談をさせ
いかと思えるのですが、ぎりぎりの成績では
ていただいて、実際にそのブログラムを利用
あるものの、普通に高校を卒業されている方
できないかということで、動いていました。
です。
現在、彼がどうなっているかというと、都
この方の自立へのハードルは、先ほど申し
内のNPOで、障害者だけではなくて、例え
上げたように、知的障害者の手帳がないとい
ばホームレスの方であったり、性同一性障害
うことです。個別のこだわりが強く、明らか
であったり、ユニークフェースの方であった
にコミュニケーションに問題がある。恐らく
り、一般的に就労が困難だとされている方た
初対面の方はちょっとつき合いにくいなと思
ちの就労のトレーニングをしていて、かつ彼
われるような方です。こちらの方は、生活保
らを雇用しているという団体につなげること
護を受給していますが、就労意欲もすごく高
ができました。今、IさんはそのNPOのプ
い方なので、どうにかつなげられないかとい
ログラムを受けながら就労のトレーニングを
ろいろ調べ、さまざまな団体の見学に行きま
行っています。毎日ビッグイシューの事務所
した。しかし、これは彼のハードルというよ
に来て、すごくうれしそうに報告をしてくれ
りはサポート体制の脆弱さだと思っているの
ています。大きなステップを一足飛びに踏む
ですが、やはり手帳がないと雇用側もそうし
ことは難しくても、目の前に小さなステップ
た人を雇うメリットがないわけで、普通に就
があってそれを確実にクリアしていくことを
職の面接を受けても軒並み落ちてしまうので
喜びとするタイプの方なので、このまま、就
す。もちろん、彼の話の理解力の低さ、コミ
労のトレーニングを続けながら就職につなが
ュニケーションの特徴、これが理由になって
ればいいなと思っています。
いるとは思いますが、手帳がない、つまり、
彼の障害のレベルを証明するものがないこと
若者ホームレス 個別事例②
によって、就労意欲がすごく高いにもかかわ
らず働き口がないというような状態です。
次のケースのYさんは、現在39歳、5年前
の34歳のときにビッグイシューの販売をした
この方に対して、近々、愛の手帳の申請に
いということでいらっしゃいました。こちら
同行する予定です。これは、すごく時間がか
の方も、かなり複雑な家庭に育ったと聞いて
かります。愛の手帳は基本的に18歳未満での
います。地元の高校を卒業しているのですが、
取得を前提としているので、彼のような成年
本人は全然勉強はわからなかったと。成績も
が愛の手帳をとろうとすると、就業時18歳未
すれすれで卒業ができたということで、私た
満での知的レベルを証明するもの、例えば通
-11-
知表であったり、就学時に書いたお手紙とか、
一緒に調べに行かないかということで、彼に
そういったものがあったほうがいいと言われ
繰り返し話をしました。そして、愛の手帳の
ています。彼は、家族とは断絶してしまって
申請に行くことになったわけです。ボーダー
いてそれらを手に入れることができないので、
層の方、手帳は持っていないけれども、はた
手帳取得はハードルは高いだろうと思ってい
から見ると明らかに障害があるだろうと思わ
ます。先ほどの個別事例1のIさんが現在通
れる方の一番難しいところは、障害について
っているNPOへ一緒に同行したところ、Y
どういうふうにお伝えするか、自分が障害を
さんももしかしたらそこで就労のトレーニン
持っていることを認めたがらない方も多くい
グを受けられるかもしれないということにな
らっしゃいますし、そこまで理解が及んでい
りました。これは団体と個人の相性もありま
ない方もいらっしゃいますので、そこが今後
すが、ご本人も積極的に前向きに考えている
もすごく高いハードルになるのではないかと
ようなので、そちらと同時並行で考えていき
思っています。
たいと思っています。
若者ホームレス 個別事例③
若いホームレスの方の特徴として、自己肯
定感が低いという話は今までも繰り返し出て
3ケース目はとてもショッキングなケース
きましたが、彼もその典型のようなところが
でした。24歳で、都内の大学院を卒業した後
ありまして、今まで何度か仕事についたこと
に外資系の保険会社に就職が決まっていた方
はあるけれど、どれも長続きしなかった。あ
です。東日本大震災の被害を受けた地域のご
とは、仕事が理解できないから怒られてしま
出身で、大学院を卒業した後に、いても立っ
う。コミュニケーションの特徴もあって周り
てもいられず自分の故郷に戻った。そして、
の人とうまく関係性が築けない。それで、自
壊滅的な自分の故郷の様子を見て、このまま
分なんか何をやってもどうせうまくいかない
東京で就職をしてしまっていいのだろうか、
とか、次の仕事をしてもきっと失敗してしま
ここにふるさとを持つ人間としてほかにでき
うというようなことを繰り返し言う方でした。
ることがあるんじゃないかということで、正
障害に対しての自己認識もなかったので、
社員で決まっていた就職先の内定を蹴ってし
ここがすごく難しいところだったのですが、
まうんです。そして、実家に住みながらボラ
そういうふうに同じような壁にいつもぶち当
ンティア活動などをしていたのですが、彼も
たってしまうのは、怠け者とかやる気がない
ご両親が離婚していて、ご本人は長男である
とか、そういうことではなくて、もしかした
というプレッシャーもあって、ずっとボラン
ら何らかの障害があるかもしれない、それを
ティアをしているわけにもいかない。多分仕
-12-
た。
事はすぐに見つかるから心配しないでくれと
親に言って東京に来たものの、すぐに仕事は
しかし、結果的に彼は生活保護を受けるこ
見つからず、所持金も尽き、住むところもな
とになり、ゲストハウスに入って就職活動を
くし、路上に出てしまったところで、路上脱
スタートしています。ゲストハウスの方とも、
出ガイドのWeb版をインターネットカフェで
すごく良好な人間関係を築いているようで楽
見て、ビッグイシュー基金に連絡をしてきた
しんでいます。就職活動も幾つか申請を出し
方です。
ていて、今は書類審査待ちですといった報告
何が一番ショックだったかというと、名前
を1~2か月前にもらいました。彼は、こう
を聞けば皆さん全員が知っている大学院を卒
なってしまったのは自分の責任だということ
業して、就職も決まっていた方で、見た目も
と、自分が公共のセーフティネットを使うこ
普通の青年です。そういった方が就職先を自
とに対してすごく後ろめたさを感じていると
分の判断で蹴ったとはいえ、未曾有の震災を
いうことを何度も口にした方でした。
前にそういった決断をした若者に対して、彼
若者ホームレス 個別事例④
が路上に出る前に何もなすすべがなかったの
かということです。彼の場合は、販売がした
個別事例の最後は、32歳の出所者の方です。
いとビッグイシューに来たわけではなくて、
20代の初めに重犯罪を犯して20代のほとんど
どこか泊まるところを知りたい、一泊でも二
を刑務所の中で過ごしています。10代のとき
泊でもいいから落ち着いて考えるために泊ま
には少なからず社会の中で働いた経験がある
るところが欲しい、そういう情報を持ってい
ものの、20代の前半で犯罪を犯してそのまま
ないかということで問い合わせをしてきた方
30歳近くまで刑務所の中で過ごしたため、社
です。こちらは新宿区にあるNPO法人もや
会経験がほとんどない状態で30代を迎えてし
いさんと相談の上、まだ若いので落ち着いて
まいました。生活保護などを受けていたこと
就職活動ができるような環境を整えるのが先
もあるのですが、直前まで働いていた土木系
決だろうということで生活保護を勧めました。
の会社をちょっとしたいざこざの後やめてし
ただ、彼が来たときがちょうど生活保護のバ
まって、その後仕事が見つからずに路上で生
ッシングが高まっていたときで、彼自身も生
活していたところ、ビッグイシューの販売者
活保護に対しての偏見がすごく強くて、まさ
から声をかけられて、こういう仕事があって
か自分がそんな人の税金を使って暮らすよう
すぐお金を稼ぐことができると言われてビッ
な社会のお荷物になるなんて信じられない、
グイシューにいらした方です。
生活保護だけは絶対に嫌だと抵抗を示しまし
これまでビッグイシューの中にも出所され
-13-
た方はいましたが、彼はいかんせん若い、30
生活の問題だったらここ、就職を探すのであ
代前半なので、このままビッグイシューの販
ればここといったように、東京は専門領域に
売をずっと続けていただくよりも、もっとほ
分かれた支援がほとんどです。それに対して
かに支援があるんじゃないか、それは私たち
横浜のパーソナルサポートサービスは、生活、
の団体の中ではなくて、他の団体や行政の支
仕事、そのほか住まいなど個人が抱える問題
援があるのではないかということで、情報の
をワン・ストップで相談に乗って対応してく
収集をかなり行いました。そこでわかったの
ださるので、そちらにつなげることができま
が、この方は満期で出所しているということ。
した。
そして、社会の支援というのは、仮出所の方
ただ、彼は横浜のほうで生活保護を受給し
には保護司がついてくれたりと手厚い支援が
て就職活動を進めていくという段取りになっ
あるのですが、満期出所の方は普通の一社会
ていたのですが、初回の生活保護の受給日以
人として扱うという原則で、支援がほとんど
降、行方をくらましてしまいまして、今はど
ないということでした。ただ、数カ月前に大
こにいらっしゃるのかわからないような状態
阪のミナミで通り魔事件が起きて、それをき
です。彼はビッグイシュー基金の事務所には
っかけに、ハローワークも変わりつつあると
何度もお越しいただいて、スタッフとも顔見
いうことが言われていたのですが、このOさ
知りなので、またふらっとビッグイシューに
んがビッグイシュー基金に来たときには、具
いらっしゃることがあるんじゃないかと思っ
体的にどこにつなげばいいのかがわからなく
ています。そのときにどういった支援ができ
て、かなり右往左往しました。
るか、彼の話を聞きながら考えていきたいと
思います。
結局、どういうふうにビッグイシュー基金
が彼に対応したかというと、生活と仕事、両
以上、代表的な例を紹介させていただきま
面からの支援を行っている横浜のパーソナル
した。この仕事をしていく中で、特に強く感
サポートサービスを紹介しました。横浜とい
じることは、障害を持っている方、障害を持
うのはすごく先駆的な取り組みをしている市
っているのではないかと疑われる方が労働力
だと思っています。というのも、東京の支援
としてどこにも吸収されないのは、すごくも
団体は先ほど縦割りという話が出ましたが、
ったいないなということです。障害がありな
パーソナルサポートがまだできていない。困
がら就職の意欲が高いとか、優しく根気強く
っている方は、生活、住まい、そのほかいろ
仕事を教えていただければ本当にすばらしい
いろな問題を複合的に抱えている方が多い中
パフォーマンスをされる方も多い中で、社会
で、例えば住まいの問題だったらこの団体、
の支援から完全にこぼれ落ちてしまっている
-14-
方たちを労働力として生かせないのは、もっ
ネットワークづくりを進めていきたいと思っ
たいないなと思うわけです。
ています。
あとは、先ほどニートやフリーターの話で
その活動の一環として、今、各団体が行っ
もありましたが、自己責任とか、やる気がな
ているプログラムをほかの支援団体に紹介す
いとか、自分かだめな人間だという意識を完
るためのプログラム集の作成を行っています。
全に内面化してしまっている方が多くて、社
例えば、ビッグイシュー基金について、同じ
会の構造がこれだけ変わっていく中で、彼ら
ような業界であれば名前を知っている方がい
の自己認識や、もしかしたら社会からの見ら
ると思いますが、どういうプログラムをやっ
れ方というのも変わらないまま、やる気がな
ているのか、それはだれが対象でどのくらい
い、もしくは能力がない、そういったふうに
費用がかかるのか、どういう問題点があるの
カテゴライズされてしまって行き場をなくし
かといったような具体的な内容は、意外とほ
てしまっているというのは、すごく社会にと
かの支援団体の方は知らないというケースが
っての不幸なのではないかと感じています。
多いので、そういった個別のプログラムを紹
介しながら、社会的に困難を抱える若者のネ
若者を支えるネットワークづくりを
ットワークを広げていきたいと考えています。
そういった当事者がいる中で、ビッグイシ
そして、そういった支援団体向けのプログラ
ュー基金が今後どういう活動をしていくかで
ム集は、行く行くは困難を抱えている若者た
すけれども、領域別にわかれた支援を横につ
ちが自分で情報を活用するためのハンドブッ
なげたネットワークをつくる。具体的には、
クにしていきたいと思っています。
児童養護施設の退所者支援をしている団体と
そのほかのビッグイシュー基金の取り組み
かサポステを初めとする若者支援をしている
について、配布資料の中にある青いパンフレ
団体、障害者の支援をしているような団体を
ットをもとに説明をさせていただこうと思い
横にさらに深くつなげていきたいと考えてい
ます。
ます。各関連団体とのつながりというのは、
1番の「大丈夫あきらめない」というとこ
「若者ホームレス白書」で関係性ができたと
ろですが、これは当事者への情報提供で、核
思っていますので、他の団体が具体的にどう
になる活動です。配布物は「路上脱出ガイ
いう取り組みをしているのか、それはホーム
ド」です。こちらは路上生活を送られている
レスという切り口だけでなく、もっと広く地
方が路上を脱するために必要な情報をまとめ
続きに問題をとらえる必要があるという思い
た冊子になります。開いていただくと、食べ
から、社会的困難を抱えている若者を支える
るものがないとき、体調が悪いときといった
-15-
ような緊急的なものから仕事を探したいとき、
のハンドブック」という冊子がありまして、
今すぐ仕事をしたいとき、生活保護の申請な
そちらでこの路上脱出ガイドの紹介をしてい
どについて、路上で生活をしている方たちが
ただきました。それが今年の夏のことですが、
みずからこのガイドを持つことによって、自
先月末時点で全国で50通以上の手紙をビッグ
分で窓口に、もしくは支援をしている団体に
イシュー基金にいただきました。自分は今受
行って、こういう支援を自分は受けたいとい
刑中だけれども、ここから出たらきっと路上
う一つのきっかけになればいいなという思い
生活になってしまうんじゃないか、その前に
で作成しています。
情報を収集しておきたい、生活保護の申請の
これは、もともとは2009年の冬につくった
手続方法を知りたいので路上脱出ガイドを送
ものですが、最近は紙媒体だけでなくWebに
ってくれないかというような問い合わせがふ
も掲載をしています。それをインターネット
えていますので、そういうところに支援の需
カフェで見たという問い合わせがふえてきた
要があるのではないかと感じています。
り、これをどこかでもらって、自分の子ども
青いパンフレットに戻って、仕事・就業応
がもう10年以上引きこもっていて、自分たち
援です。これは、ビッグイシュー基金は「ビ
が死んだ後にこの子はホームレスになるんじ
ッグイシュー日本」の販売という仕事はあり
ゃないかと心配されている親御さんから問い
ますけれども、若い方については、今までビ
合わせを受けたりしています。
ッグイシュー基金がつくってきたネットワー
若いホームレスの方のほとんどは路上には
クを生かして、ほかの団体に紹介してそちら
いません。ですから、路上脱出ガイドの配布
でプログラムを受けられないかということを
の仕方はさらに工夫が必要だと考えています。
考えています。路上生活の状態が固定化して
今は路上での配布のほかに、スポーツセンタ
しまうと、そこから脱するのにもすごく時間
ーなどの公共施設とか炊き出しなどが多い教
がかかりますので、なるべく早く路上生活、
会、それから、図書館は無料で入れる場所で、
もしくはネットカフェを転々とするような生
路上生活者、ホームレスの方も、そのまま入
活から脱していただきたい。そのためには、
れて何の気兼ねもなくいられるところなので、
ビッグイシューの販売ではなくて、就労支援
図書館への設置を進めています。
をしているような他団体を紹介するケースが
多いです。
あとは、刑務所からの問い合わせが最近す
ごくふえてきています。刑務所の中にいる方
右側の「生きていてよかった」というとこ
の人権擁護活動をしているNPO法人監獄人
ろにスポーツ・文化活動を応援というところ
権センターが発行している「社会復帰のため
がありますけれども、ホームレスの方は、路
-16-
上に至る前に家族はもとより友人、親戚、い
だったり、能力がないというふうに切り捨て
ろいろな関係を断って希望がない、ホープレ
られてきた方たちが、社会の中でもう一度や
スの状態でホームレスになる方がすごく多い。
り直したいという思いを持って立ち上がるた
ほぼ全員そういう状態で路上に至っています。
めには何が必要なのかということを、これか
そういった方たちがもう一度本当に生きるっ
らも考えていきたいと思います。私たちの力
て楽しいな、自分にも活躍の機会があるんだ
が不足するところも多々あると思いますので、
なということを感じられる場をつくりたいと
皆さんをはじめとしていろいろな支援団体の
思い、ビッグイシュー基金ではスポーツ・文
方と情報の共有であるとかケースの共有をす
化活動に力を入れています。これは若い方に
る機会をたくさん持って、学びながらサポー
限った話ではなくて、ホームレス状態の方、
トする姿勢でいきたいと思っています。今後
あとは自立に困難を抱える方たちの参加を呼
とも、皆さんにはお世話になることもあると
びかけています。具体的な活動は、フットサ
思いますが、よろしくお願いいたします。
ルとかダンス、バンドや路上文学賞といった
(拍手)
ような賞をつくりまして、路上から広く応募
してもらったりしています。
ビッグイシュー自体も有限会社とNPOが
あって、仕事づくりとそれ以外のサポートを
行っていますが、いろいろな問題に対して自
分たちが処方せんを持っていないと感じるこ
とが多いです。それは、先ほどの話にもあっ
たような縦割りのホームレス支援ということ
だけでは解決しないという問題もありますし、
社会自体が大きく速い流れで動いていること
によって、処方せん自体も速いサイクルで変
わっているのではないかという思いを、現場
にいるとひしひしと感じます。今紹介させて
いただいたケースよりももっと若い方が恐ら
く今後はいらっしゃるんじゃないかと思って
いますし、そういう、社会の中でいい経験を
してこなかった方、職場においても使い捨て
-17-
「若者ホームレス」の今
認定NPO法人 ビッグイシュー基金
若者ホームレスの増加
 2007年~ビッグイシューにやってくる若者(40
歳未満)が増え始める
 2008年~10年
平均年齢が56歳から
45歳へ(東京事務所)。
 中高年のホームレスの人たちとの違い
・販売が長続きしない
・ホームレスとしての自覚が乏しい
・一人で過ごすことを好む・・・など
-19-
若者ホームレス50
若者ホームレス
50人聞き取り調査
人聞き取り調査
 2008年11月~2010年5月
 ビッグイシュー販売者
+炊き出し等で声をかけた人
 全員男性
 平均年齢32.3歳
 路上期間は6割が1年未満
 7割が仕事に関する理由で路上へ
若者ホームレス・素朴な疑問
1 見かけたことがないけど?
どのような生活を送っているか?
2 なぜ実家に帰らないの?
どのように育ってきたのか?
3 なぜ働かないの?
どんな仕事をしてきたのか?
-20-
疑問1
見かけたことがないけど?
~どのような生活を送っているか~
どのような生活を送っているか?
-21-
食べものより身なりが大事。
路上で寝るのが怖い。
ネット、携帯電話は欠かせない。
炊き出しに行くと“ホームレス”に
見られるから嫌だ。
どのような生活を送っているか?
-22-
疑問1
疑問1
見かけたことがないけど?
 普通の若者とほとんど変わらないた
め気づかない。
 路上にいるとは限らない。
 路上暮らしに必要な情報や支援に繋
がりにくい。
 孤独を募らせ、うつ的傾向にある。
都会ですれ違う若者が
ホームレスかもしれない。
疑問2
なぜ実家に帰らないの?
~
どのように育ってきたのか~
-23-
どのように育ってきたのか?
どのように育ってきたのか?
-24-
どのように育ってきたのか?
どのように育ってきたのか?
-25-
どのように育ってきたのか?
疑問2
疑問
2
なぜ実家に帰らないの?
 施設で育つ困難
 フリーター/ニートの果てに
 経済的困難
 家族喪失、家族解散、家族放棄
彼らはすでに実家=帰る場所
を喪失している。
-26-
疑問3
なぜ働かないの?
~どんな仕事をしてきたのか~
どのような仕事をしてきたのか?
-27-
どのような仕事をしてきたのか?
労働力ダンピング
正社員(大手自動車会社下請け工場)
期間工
派遣社員(製造業)
日雇い派遣(引っ越し、運送)
飯場
階段から一段ずつ落ちていく感じ
-28-
どのような仕事をしてきたのか?
どのような仕事をしてきたのか?
-29-
疑問3
疑問
3
なぜ働かないの?
 過去の仕事で受けたトラウマ
 物理的に働けない
(住所、身分証、本人確認証、保証人等)
 仕事がない、キャリアがない
 自信と意欲の喪失
働きたくても働けない
若者ホームレス・素朴な疑問
1 見かけたことがないけど?
どのような生活を送っているか?
2 なぜ実家に帰らないの?
どのように育ってきたのか?
3 なぜ働かないの?
どんな仕事をしてきたのか?
-30-
若者ホームレス 個別事例①
Iさん(30代前半)
●路上に至るまで(当時20代後半)
職探しに上京後、荷物をとられ路上へ。
●「自立」へのハードル
生活能力(金銭面・精神面)、障害(手帳あり)
●ビッグイシュー基金の取り組み
障害者の就労支援団体紹介・見学同行、具体的な就
労支援プログラムへつなぐ。
●現在・今後
若者ホームレス 個別事例②
Yさん(30代後半)
●路上に至るまで(当時30代前半)
土木関係の仕事を転々とするも、解雇され路上へ。
●「自立」へのハードル
軽度障害(知的・手帳なし)、コミュニケーション
の特徴、低い自己肯定感
●ビッグイシュー基金の取り組み
障害者の就労支援団体紹介・見学同行、療育手帳申
請予定
●現在・今後
-31-
若者ホームレス 個別事例③
Sさん(20代前半)
●路上に至るまで
2011年都内の大学院卒業。被災地・東北の実家に戻
るも仕事がなく上京。所持金をなくし路上へ。
●「自立」へのハードル
セーフティネット活用へのためらい、家族との関係
●ビッグイシュー基金の取り組み
生活保護受給後、就職活動に取り組むように勧める。
NPO法人もやいを紹介。
●現在・今後
若者ホームレス 個別事例④
Oさん(30代前半)
●路上に至るまで
前科2犯。出所後行き場所がなく路上へ。
●「自立」へのハードル
乏しい社会経験。出所後の情報、就職受入先の不足。
●ビッグイシュー基金の取り組み
生活と仕事両面からの支援を行っている、横浜の支
援団体を紹介。
●現在・今後
-32-
-33-
11月20日 開催
パーソナルサポートサービスの具体的取組
(東京大学大学院教育学研究科教授
本田 由紀 氏)
(横浜パーソナルサポートサービス
鈴木 晶子 氏)
日 時
平成24年11月20日(火)
13:30~16:40
場 所
東京区政会館3階35教室
「パーソナル・サポート・サービスの
いう名前をつけていますが、これは70年代か
背景・効果・課題」
ら80年代にかけての経済の安定成長期に日本
東京大学大学院教育学研究科教授
社会に深く浸透し定着した、日本独特の社会
本田由紀氏
の回り方を概念図として示したものです。
戦後日本型循環モデルの大きな特徴は、家
族と教育と仕事という3つの異なる社会領域
私は、次の5つの内容をこれから順にお話
の間に、非常に太く、かつ一方向的な矢印が
ししていきたいと思います。
1つは、なぜ内閣府がパーソナル・サポー
成立していまして、ある社会領域のアウトプ
ト・サービスというものを実施しようという
ットを次の社会領域のインプットとして注ぎ
ことになったのか、その社会的背景について
込むという感じで、この3つの間に三角形の
お話をして、その上でパーソナル・サポー
循環が成立していたということです。例えば
ト・サービスというモデル事業の特徴をご説
教育と仕事を結ぶ矢印は、新規労働力と書い
明します。次に、パーソナル・サポート・サ
てありますが、新規学卒一括採用というのは
ービスはモデル事業ですので、さまざまな効
日本的な特徴であるという指摘が多々ありま
果の検証のためにデータをとっています。そ
す。新規学卒一括採用というのは、在学して
のデータから、対象層の特徴と、どういう効
いる間に、高校であれ大学であれ、教育機関
果があるかについてお話ししたいと思います。
のさまざまな支援や手助けを得ながら就職活
最後に、全体の締めくくりとして、パーソナ
動をし、年度の切りかえとともに正規の社員、
ル・サポート・サービスという施策の可能性
職員である時期に移行するという、時間的な
と課題について私の考えた範囲でお話しした
すき間が全くないような飛び移り方をします。
いと思います。
時間的なすき間は全くないのですが、学校で
学ぶ内容がその後の仕事で活用されるかとい
PSSが求められる社会的背景
うと、その点での内容的な対応関係は極めて
希薄であるというのが新規学卒一括採用の非
最初に、パーソナル・サポート・サービス
常に大きな特徴だと指摘されています。
が求められる社会的背景に関して、私の個人
としての理解をお話ししたいと思います。私
このような新規学卒一括採用ができ上がっ
が講演や執筆したものの中で、今の日本社会
た背景は、高度経済成長期における求人難と
の現状をまずざっくりと構造的に把握してい
いうことがありました。人手が全く足りない
ただくことを目的として使っている図が2枚
時期がオイルショックまでの高度経済成長期
並んでいます。「戦後日本型循環モデル」と
にはあった。つまり、高い若年労働力需要が
-35-
あったわけです。ですから、この新規学卒一
母親の学歴などによって差がないということ
括採用のルートに乗っていれば、特に男性の
が明らかになっています。子世代を自分たち
場合はかなり正社員になることができました。
親世代よりも一歩先の教育達成や、あるいは
そして、一たん正社員になれば、普通に働い
職業達成をしてくれる存在とみなしていたが
ていれば仕事を失うことはない、また、普通
ゆえに、家族は次世代の教育に対して熱心に
に働いていれば賃金は上がっていくことがほ
費用と意欲を投入してきたということがあっ
ぼ確実に見込める、こういう長期安定雇用と
たわけです。
年功賃金ということがあったわけです。この
このように、それぞれの社会領域が資源を
長期安定雇用や年功賃金もいわゆる日本的雇
次の領域に注ぎ込むような関係が成立してい
用慣行と呼ばれるものの非常に大きな構成要
たわけですが、この循環があったがゆえに、
素であって、このような見込みに基づいて、
政府から教育へ、政府から家族への直接の支
結婚して、子供をつくることができた。つま
出を抑制することができていたというのが戦
り、家族をつくることができていたわけです。
後日本型循環モデルの特徴です。そう言いま
家族をつくれば、だんだん上がっていく賃金
すと、これは効率的でよいモデルのようにお
を主な働き手としての父親が持ち帰って、パ
感じになるかもしれませんが、実は全くそう
ートに出たりしながらも家族の主な支え手で
ではなかったということが非常に重要です。
あった母親が消費行動によって家族生活を豊
このような循環構造が成立した高度経済成
長期の末期からその後の安定成長期にかけて、
かにしていくという役割を担っていた。
母親のもう1つの役割は、父親が持ち帰る
日本社会にはさまざまな社会問題が噴出して
賃金を次世代である子供の教育のための費用
いたわけですが、ほぼそのすべてがこの循環
として熱心に注ぎ込んでいくことです。これ
構造そのものを原因とした社会問題であった
はそうせざるを得なかった事情がありまして、
ということを忘れてはならないと考えていま
日本は政府や自治体が学校教育に支出する費
す。例えば教育と仕事の関係に関しては、勉
用がOECD諸国の中で最低水準です。政府
強していい成績をとって、いい高校や大学に
が税金から学校教育を支える支出を極めて抑
入って、いい会社に入る、そのために勉強す
制しているがゆえに、家族がさまざまな面で
るといった学習動機が教育の世界を支配して
子供の教育費用を負担してきた。
いたがために、一体何のために学ぶのか、学
「教育ママ」という言葉がありますが、
ぶことによって本当に自分が強くなっている
1960年代に行われた社会調査の結果を見ます
のかといったようなことは置き去りにされた
と、日本の母親が教育ママである度合いは、
まま、何とか成績だけは上げておく。つまり、
-36-
が戦後日本型循環モデルだったわけです。
受験競争に勝つことが自己目的化して、受験
競争の激化、低年齢化、そのストレスからく
る登校拒否や校内暴力、落ちこぼれが教育の
戦後日本型循環モデルの破綻(90年代~現
世界に発生してきた。そして、それらを抑止
在)
しようとする管理教育を生むということで、
しかし、この循環モデルはバブル経済の崩
70年代から80年代にかけて日本の教育は問題
壊後に形を変えます。一番大きく変化したの
だらけだという指摘があふれていたわけです。
は仕事の世界です。バブル経済の崩壊後、1
一方、仕事と家族の関係に関しても、公的
つには、団塊の世代が50歳代という大変人件
な支えがほとんどないわけですから、父親の
費が高い年齢層になり、それが企業にとって
賃金に依存するような形で家族は成り立って
大きな負担であったということと、もう1つ
いた。そうなると、父親は、妻と子供を食べ
は、バブル期に団塊ジュニア世代の過剰採用
させるためには会社に何を言われても受け入
をしたこともあって、90年代以降の日本企業
れる、いわゆる会社人間とか社畜であるとか、
は、新規の正社員を採用する余力を失います。
組織に我が身すべてを預けるような働き方が
その結果、非正社員を活用したり、あるいは
80年代に極めて広がっていきました。「過労
正社員の間でも処遇に格差をつけたりするよ
死」という言葉が生まれたのも80年代です。
うな形で切り抜けようとする行動をとったわ
けです。
一方、家族と教育の関係についても、親が
あまりに教育熱心になったがゆえに、その期
そうすると、みんながみんな安定した正社
待に子供がこたえられない場合、親子関係が
員になれるわけではなくなってくる。教育を
阻害されるとか、一番ひどい場合には親が子
終えても安定した仕事につけない層が拡大し
を、子が親を殺害するといったような凄惨な
てくる。あるいは、仕事から得られる賃金に
事件が70年代ごろから多発していました。そ
も非常に格差がつき始めて、それによって、
もそも、一応家族のメンバーであっても、父、
特に男性非正社員の場合などは、家族を形成
母、子が住んでいる社会領域が別々でしたの
するのに十分な収入が得られない結果になり、
で、家族としての本当に親密な時間が形成さ
それが晩婚化や非婚化、あるいは少子化の原
れないままずっと来ていたわけです。このよ
因にもなっています。家族が仮につくれたと
うに、結局、学ぶ意味や働く意味、人と愛し
しても、次世代の子供の教育にどれほどの費
合って生活する意味といったようなものを置
用や意欲を注ぎ込めるかということについて
き去りにしたまま、とにかくこの循環を支え
家族間で差が広がってきています。過剰なほ
る役割を必死で人々が果たしてきたというの
ど教育熱心な家族もあらわれている一方で、
-37-
何もしてやることができない家族も増えてい
ませんが、それにプラスする形で、なぜパー
ます。家族の間の資源の差が大きくなってき
ソナル・サポート・サービスが必要だったか
ていますので、それが直に子供の教育達成の
ということについて、パーソナル・サポー
差にはね返り、それによって得られる仕事に
ト・サービス検討委員会の議論の結果から幾
も影響するというようなことが今どんどん起
つかの資料を持ってきました。
まず、パーソナル・サポート・サービスの
きてきているわけです。
必要性の背景というか、理由づけです。今日、
このぼろぼろになり始めた矢印からこぼれ
落ちるような形で、家族の支えも教育の支え
経済社会環境の変化がさまざまに起きている
も仕事の支えもなく、非常に困窮した状態で
わけですが、競争の激化とか雇用環境の不安
孤独にさまよわなければならない個人が今、
定化、地域や家族の紐帯の弱化、ストレスの
いろいろなところで目に見えるようになって
増大、いじめ、虐待、暴力など、人間関係に
きています。それに対して、自民党政権の末
さまざまにひび割れが見出され、社会的排除
期から民主党になっても、支援を拡充するど
が増大していることが観察されます。
ころか、むしろセーフティーネットを切り下
そうした環境の変化を背景として、多領域
げようとする政策動向すら見られます。例え
にわたる要因が複雑に絡んで生活上の困難に
ば、生活保護の水準を切り下げることについ
直面する者が増加している。単に1領域に整
ての検討が進んでいますが、ただでさえ希薄
理できないような、重層的な困難の中に置か
であったセーフティーネットをもっと奪って
れている人があらわれてきている。重層的な
いこうとするような動向が観察されるわけで
困難のもとで、生活困難者自身が自分の抱え
す。
る問題を正確に認識できないケースも少なく
これが今、私たちが生きている日本社会の
ない。自分の力だけでは必要な支援策を見き
ざっくりした形なわけですが、このような状
わめて、賢くそれらに手を伸ばすということ
況において、孤立して困窮している個人に対
が難しい場合も多い。
して直接に支援を施すことが必要だという認
これまでのさまざまな福祉などの支援体制
識のもとに、パーソナル・サポートという施
においては、対象とか、あるいは制度別にシ
策が考案され、実施に移されたと私自身は理
ステムを構築してきました。それは縦割りと
解しています。
言われたりするわけですが、このように複合
的な困難、絡み合った困難を抱える人に対し
PSSの必要性
ては、仕切られた縦割り的な支援体制では問
題状況の全体を受けとめ切れないという認識
これまでも支援策がなかったわけではあり
-38-
と構想されていました。
がありました。そこから、当事者が今どうい
う現状にあるのかという実態を把握した上で、
次の何枚かのシートは、これはあるモデル
その支援策を当事者のニーズに即してオーダ
事例というものに即して、パーソナル・サポ
ーメードで、その人その人に適したものを調
ート・サービスが一体どういう支援なのかと
整、調達、かつ開拓する。ないものはむしろ
いうことをイメージしていただきやすくする
つくり上げていくといったコーディネートの
ために、検討委員会のほうでつくった資料で
重要性が高まってきている。こういう認識の
す。
もとにパーソナル・サポート・サービスとい
このモデルの例の場合は、無職で住む場所
う新しい支援体制がモデル事業として構想さ
もなく、所持金もないという状態があり、日
れたわけです。
払いの仕事がしたいということが最初の相談
さらにそれを別な形で図にあらわしていま
でした。しかし、それに対してアセスメント
す。パーソナル・サポート・サービスを使わ
を丹念に行った結果、うつ病が疑われる。各
なくても、既存の制度を利用すれば何とかな
種の支援機関に対して失望感が非常に強い。
るという方は、そちらでまず支援を受けてい
その結果、日払いの仕事しかないという思い
ただき、それでは解決できないような方たち
込みになっているというような判断がパーソ
がメーンのパーソナル・サポート・サービス
ナル・サポーターによってなされるわけです。
の対象層になるわけですが、家族関係の問題
まず、一番の基底的な状態であるうつ状態
や精神保健をめぐる問題や社会的な関係をめ
というところから解きほぐしていく必要があ
ぐる問題、経済的な問題などが絡み合って積
るということで、住居の問題を何とか保障し
集合の状態になっている層が最もパーソナ
た上で、心療内科を活用し、服薬によってう
ル・サポート・サービスが該当する層である
つ状態が一たん軽減される。また、弁護士の
と考えられていました。
支援を受けることによって自己破産をするわ
けですが、それによってむしろほっとした様
そして、第1のセーフティーネットである
ところの雇用保険と、最後のセーフティーネ
子が本人の中で観察される結果になりました。
ットである生活保護の間に挟まる第2のセー
その上で次に何をやっていったかというと、
フティーネットとして近年幾つか制度が導入
徐々にパーソナル・サポーターとの信頼関係
され始めているわけですが、その第2のセー
ができていきますので、本人が自分の気持ち
フティーネットをさまざまに活用しながら、
を率直に話してくれるようになってくる。そ
この層に対して支援を提供していこうとする
うすると、日中行ける場所として、ユースプ
のがパーソナル・サポート・サービスである
ラザという居場所的なところにまず行っても
-39-
らって、そこで人と話すことによって、生活
提供しますし、例えば何とか仕事についたと
リズムや気持ちの安定を確保する。ユースプ
か、部屋を構えたとかいうことが得られた後
ラザでできた友人が働き始めたことによって、
もずっと支援を提供していきます。生活保護
自分も働いてみたいという気持ちになったり、
をパーソナル・サポーターが必要であると認
でも、一方不安があったりということがある
識し、勧めてとらせたりすることもあります。
わけです。ユースプラザの次の段階として、
しかし、とらせて終わりということは全くな
サポートステーションを活用し、サポートス
くて、1回生活保護を受けた後も、何とかそ
テーションからの支援を受けることによって、
こから外れることができるような支援、就労
徐々に仕事をしたいという自信が芽生えてい
に向けての支援を引き続きやっていくのがパ
くようになる。次の段階として、今度は訓練
ーソナル・サポート・サービスの特徴です。
次は、パーソナル・サポート・サービスと、
です。
でも、すごく単線的に回復していくわけで
地域にあるほかの支援機関やネットワークに
はなくて、しばらくは燃え尽き状態になった
ついてつくられた理念型です。実際は、いろ
りすることもあります。ですから、行きつ戻
んな地域の団体からパーソナル・サポーター
りつしながら、いろんな社会資源を活用しな
に加わっていただくような形にはなっておら
がら、そのすべてのプロセスにパーソナル・
ず、既存の特定の団体がパーソナル・サポー
サポート・サービスが寄り添うような形で支
ト・サービスを担い、ネットワークをつくる
援を提供していくという、まさにオーダーメ
というほうが大半ですが、後でお話しいただ
ードです。例えばうつ状態からの回復がまず
く鈴木さんのところの横浜が、ほぼこの理念
必要だというプロセスの判断も一方でしなが
型に近いようなやり方をしています。いろん
ら支えて、元気を回復する方向に持っていく
な団体からパーソナル・サポーターが集まり、
というのがパーソナル・サポート・サービス
いわば寄り合い世帯のような形になっている
です。
わけです。そんな形態でできるのかしらと私
次の表は、パーソナル・サポート・サービ
も最初は心配したのですが、それぞれの専門
スと生活保護はどういう違いがあるのかとい
領域を持っている団体が集まってきているこ
うことをあらわしています。生活保護の場合
とによって支援のノウハウが共有され、むし
は、最低限度の生活の維持が生活保護以外で
ろ強靱なというか、可能性のある組織体にな
は無理だという状況が発生してから支援を開
っているのではないかと個人的には考えてい
始します。パーソナル・サポート・サービス
ます。
次の図は、領域ベースで描いているモデル
の場合は、生活保護に至る前段階から支援を
-40-
図になります。つまり、抱えている困難は、
まで支援実績を持っていらっしゃるところが、
福祉面、就労支援面、精神保健面、法律、経
より内閣府の枠組みに合うように、支援を質
済問題といったように重層的な領域があるわ
的に拡充していくような形でモデル事業を実
けですが、それぞれの領域における問題や、
施していただいているというのがこれまでの
それに対する支援を持ち寄って、アシスタン
ところの状況です。
ト・パーソナル・サポーターの上にパーソナ
PSSの5つの理念
ル・サポーター、さらにその上に全体を統括
するような形でチーフ・パーソナル・サポー
このパーソナル・サポート・サービスは5
ターがヒエラルキーをつくるような形で、各
つの理念を掲げています。
パーソナル・サポート・サービスの事業所と
まず第1は、本人と向き合う支援です。重
いうか運営団体が設計されるということがこ
要なことは、思いや訴えをとことん傾聴する
のモデル事業では構想されていました。
ということです。表面的に話しているだけで
チーム体制で、それぞれアシスタント・パ
はなかなか出てこないようなその人の生活史
ーソナル・サポーターやパーソナル・サポー
であるとか、家族や地域などその人の周りの
ターは何らかの領域で訓練を受けてこられた
状況も含む実態をちゃんと把握する。支援す
方、これまでも支援実績がある方たちが、1
る側の都合からの決めつけをするのではなく、
対1だけではなくてチーム体制でケースカン
あくまで本人のペースに合わせながら、支え
ファレンスなどを繰り返しながら、いろんな
て励ましていくということをしています。支
ノウハウを持ち寄りながら支援に当たってい
援の見立てをまさにオーダーメードでつくっ
くというのがこの組織体制としての特徴であ
ているというのが本人と向き合う支援です。
ると言えます。
2つ目に、本人の個別状況に合った支援プ
このような特徴を持つパーソナル・サポー
ランをつくっていくのがパーソナル・サポー
ト・サービスのモデル事業が、第1次から第
ト・サービスの特徴です。例えば個別状況の
3次までを合わせて全国27地域で実施されて
把握ということは先ほども述べました。意向
います。担っている団体は非常にさまざまで
の優先というのは、やはり本人側の自分はこ
す。NPOの場合もあれば、自治体が自らや
うしていきたいという意欲や気持ちを引き出
っている場合もありますし、労福協であると
しながら、それに沿った支援を提供していく。
か社会福祉協議会などが担っている場合もあ
あくまで本人の主体性を尊重することをパー
ります。これはモデル事業ですので、あえて
ソナル・サポート・サービスでは大事にして
そこに限定を設けず、さまざまな地域でこれ
きています。
-41-
次が、課題克服のために一体何が可能であ
たいへん高い人の場合はそこを脱するまでの
るのか、何が活用可能なのかということを考
間かなりの密度で寄り添ったり、ちょっと余
えていく。周囲の環境への働きかけというの
裕ができてきたら少し距離をとりながら、継
は、本人だけに変わってもらうというよりも、
続的に連絡をとり続けるというのがパーソナ
そういうふうに本人を追い込んできた周囲の
ル・サポート・サービスの特徴です。それが
環境そのものに問題が発生したのではないか
継続的な支援ということなのですが、常に状
という考え方のもとに、例えば家族であると
況の確認を一定の頻度でとり続ける。その都
か、地域であるとか、あるいはこれまで関係
度その都度、課題が変化してきたりします。
機関を使ってはみたけれども、そこですごく
あることを乗り越えたら、次はこれが課題に
嫌な思いをしてきたという人も珍しくありま
なるということもありますので、状況の変化
せんので、そういう場合には関係機関に一緒
に合わせて課題に対応していきます。
に行ったり、個別に交渉したりして、この方
信頼関係というのはなかなか構築が難しい
の場合はこのようにしてあげてもらえないか
けれども、一たんできたら非常に貴重なわけ
と依頼するといったようなことまでパーソナ
ですから、それを切らさないようにしていく。
ル・サポート・サービスの機能には入ってく
見守りの支援ということもそれにかかわるこ
るわけです。
とですし、やはりここでも周囲の環境の整備
状況に合わせた支援体制というのは、1対
ということが出てくるわけですが、本人だけ
1が基本ではあるのですが、チームで対応す
を変えようとするのではなく、周りまで含め
る。個別対応するサポーターと対象者の間で
て継続的に見守り続けるということを理念に
そごが発生したりすることもある。そこで関
含んでいるわけです。
4つ目が予防的な支援です。何かが起こっ
係がこじれたまま内閉していかないようにチ
ームで、今どういう支援がどこまで来ていて、
てから、それに対する事後的な手当てとして
相手の方はどういう状況だということを共有
支援をするのではなく、極めて危ういことを
しながら、ディスカッションしながら支援の
あらかじめ防いでおくといった発想のもとで
あり方をつくっていくというのが状況に合わ
支援をしていく。それには、連絡であるとか
せた支援体制というところです。
連携体制、継続性ということにもかかわって
3つ目が継続的な支援ということです。あ
くるわけですが、状況の察知、予測が必要で
るところまで行ったら目的達成で終わりとい
す。例えば1回仕事についてみたんだけれど
うのがこれまでの縦割り的な支援体制の特徴
も、その仕事が「やっぱりだめだ」というふ
だったかもしれませんが、困難度や緊急度が
うになってしまう前に、さまざまなカウンセ
-42-
リングや相談に乗っていくということです。
野に入れている。例えばある地域では、DV
予測された課題をあらかじめ解決しておく。
の被害者の女性に対するシェルターがない地
そのために非常に鋭いアンテナというか、感
域があったりするわけです。でも、パーソナ
受性が要求されるのがパーソナル・サポータ
ル・サポートにはそういう方も駆け込んでき
ーであると言えます。
ます。そうした場合、住居つきの支援を提供
5つ目が、本人だけではなくて、本人を取
していたNPOに対して、DVの女性の方が
り巻く環境を視野に入れて動くのがパーソナ
安心して入ることができるようなシェルター
ル・サポート・サービスの特徴です。本人は
を新しくつくってもらえないかという働きか
もちろん、ほかの社会資源、つまり関係機関
けもしていくとか、例えば緊急時に小口でか
であるとか家族というのが桎梏になっている
なり融通がきく形で使える少額の貸し付けを
場合もかなりの頻度で見受けられるようです。
みずからつくったりとか、そういう意味では、
特に若い人がパーソナル・サポート・サービ
地域や社会的な施策を変えていく方向で働き
スに支援を求めるような場合は、人生の初期
かけるということまで理念としてパーソナ
段階で家族関係に大きな問題を抱えていらっ
ル・サポート・サービスには期待されていた
しゃる方がかなり含まれている。ここは実は、
わけです。
理念としては家族ぐるみで解きほぐしていく、
PSS対象層の状態・特徴
環境を調整していくということが掲げられて
はいるのですが、実際にモデル事業でやって
今こうやって説明していても、これはあま
みるとかなり難しい。こじれてしまった家族
りにも過重なというか、非常に高い理念とい
関係に対してパーソナル・サポートという立
うか、理想というか、大きな期待を持って進
場から介入するのが非常に難しいということ
められた施策だったんだなということを改め
は、次の効果についての検証結果にもあらわ
て実感しているわけですが、このような理念
れてきています。
のもとに始められたのがパーソナル・サポー
もちろん公的な諸資源は活用しますが、埋
ト・サービスです。先ほど申しましたように、
もれてしまっているようなインフォーマルな
モデル事業は一体どういう成果をおさめたの
支援、社会資源を活用することも念頭に置き
か、これはある種の実験ですので、その実験
ながら働きかける。社会資源がその地域にな
がどういう結果に終わったのか、かなり丹念
い場合は、それをつくっていく。例えば自治
に情報がとられています。「パーソナル・サ
体に働きかけるとか、力のある団体にそれを
ポート・サービスの評価手法等に関する調査
依頼するといったような形で、そこまでを視
報告書」がインターネット上で公開されてい
-43-
ますので、詳しくはそちらで確認していただ
事業においては、6,000人近い方全体を詳細
きたいと思います。
に分析することは難しいものですから、各団
この報告書によれば、相談受理は、第2次
体から情報を出していただいて528名をサン
ぶんまでの19自治体におけるパーソナル・サ
プルとして抽出し、かなり詳細な分析を加え
ポート・サービス全体で、平成23年度末時点
るということを検討委員会のほうでやってい
で6,500件ぐらいになっています。6,500件の
ます。それをまとめたものが調査報告書です。
うち5,900件くらいが実際にパーソナル・サ
この分析結果の中で非常にクリアな結果が出
ポートの支援対象になっています。
ているのが、対象者の年齢層別に抱えている
その方が一体どういう問題領域を抱えてい
問題領域がかなり異なることです。これは、
るかという内訳ですが、仕事をめぐる困難・
私が効果検証委員を務めていた島根等でも同
問題を抱えていらっしゃる方が8割を超えて
じような結果が出ているのですが、20歳未満
いるということで、その点でつまずかれてい
の若い層においては家族との関係がこじれて
る方が非常に多い。次いで、衣食住の欠如な
いる。例えば虐待とか、非常に厳しい状況に
ど生活上の問題もかなり高い比率を占めてい
置かれているという場合が多くなっています。
ます。それに次いで多いのがメンタルヘルス
もう1つは、不登校であるとか、それをき
です。うつが典型的だと思いますが、精神面
っかけに引きこもったり、中卒の学歴しかな
での問題につながっているケースが多いこと
い場合もあったり、家族の支えがしっかりし
が明らかになっています。
ていないことが教育面にも反映されています。
どういう問題を抱えているかというのをす
30歳代の特徴としては、メンタルヘルスと
べての対象者に関して記録をつけて把握して
いうことが挙がってきています。島根の場合
いるわけですが、一体幾つの問題領域を抱え
は、30から40という壮年期で、かつパーソナ
ているかというと、1領域にすぎないという
ル・サポート・サービスに来られているよう
方は2割台です。2領域が36.7%、3領域が
な方は、疾病とか障害とか、メンタル以外の
21.7%、このあたりで6割近くを占めていま
点も含む困難のために、壮年であるにもかか
す。4人に3人は2つとか3つとか、あるい
わらず働けない、生活的に困っているという
はもっとたくさんの複合領域の困難を一度に
方が多くなっていることがわかります。
50歳代とか60歳以上の高齢者層になります
抱えているということがこの表にはあらわれ
と問題領域の比重がかなり変わってきまして、
ています。
先ほどのものはモデル事業の対象となった
自分で自分の生活を賄うことができない場合
方たち全体のデータでしたが、今回のモデル
があります。年長の男性の場合、家事能力と
-44-
か生活を運営していくことにまず問題があっ
関係とかメンタルヘルスの問題が大きい。20
たり、あるいはお年寄りの方ですので、いろ
代といっても5名しかここには含まれていな
んな健康問題もかかわっている場合もある。
いのですが、うち2名はいじめ、登校拒否、
糖尿病をはじめ、アルコールをかなり飲んで
ひきこもりというものを経験してきた人たち
いらっしゃる方もいますし、そういう身体の
です。30代、40代は、疾病、障害、あるいは
ほうの病気を抱えている場合が大きくなって
それらが合わさった形での複合的な問題を抱
いるというのが年齢層別の特徴です。
えている場合が多く、50代、60代は、生活と
次は、状況別に抱えている問題領域の数を
就労スキルの面での問題が大きいということ
棒グラフで示したものです。問題領域の数が
で、先ほどの全体的な傾向とある程度重なる
多いほど抱えている困難が強いわけですが、
結果が出ています。
年齢別に見るとU字形をしています。若い人
PSSの効果
あるいは高齢の人ほど絡まり合った困難の中
に置かれている度合いが高いということです。
ここまではパーソナル・サポート・サービ
これは住居の状況ですが、住居がない場合
スにどういう方が来られているかということ
が飛び抜けて問題領域の数が多くなっていま
をメーンにデータをお示ししましたが、ここ
す。さらに、疾病や障害を持たれている場合
から先は、パーソナル・サポート・サービス
は、問題状況が非常に複層的になるというこ
の支援を受けたことによって、これは長くて
とがあります。かなり興味深いのは、就労し
半年ぐらいの結果なのですが、それでも効果
ているかどうかということがあまり問題領域
が出ているのではないかということで検証し
の数にかかわっていない。働いているという
た結果をお示ししたいと思います。
ことが、その人の問題状況が軽いことにはつ
まず、どういう指標を使って効果とみなそ
ながっていないということが右端のグラフか
うとしているかということですが、1つはご
らあらわれています。
本人の主観的な評価です。生活満足感につい
次が、私がデータの分析にかかわった島根
て100点満点でご自身で丸をつけていただく
県のパーソナル・サポート・サービスの23年
形で答えていただいたデータがあります。
度末段階でのデータを分析した結果です。
もう1つは、対象者の客観的な状況が今現
支援開始時の状況に関する分析結果を見る
在どうであるかという14項目に関して、パー
と、やはり年齢層によって問題状況の特徴が
ソナル・サポーターのカウンセリングや当人
異なるということが島根の限られたサンプル
の言葉や状況などから10段階で判断した評価
からも見出されています。20代の場合は人間
シートを内閣府でつくっていますが、それに
-45-
うことです。
対してパーソナル・サポーターに答えてもら
った結果です。今回のモデル事業に関しては
次のグラフは、先ほどの14項目、各10点と
ひとまずこういう形で検証してみました。非
いうものを集計した結果ですが、14掛ける10
常に困難の深い方たちですので、例えば数カ
ですから、満点だと140点になります。それ
月なり1年なり2年なりの支援によって、す
に関してやはり支援開始時と支援後で見たも
ばらしい状態に変わるということは難しいの
のですが、客観的な評価で見ますと、60代以
ではないかと当初から想定されていました。
上の方たちは生活満足度は低かったのですが、
ですから、フルタイムの正社員で、収入が高
支援開始時も割と状況は悪くなく、上がり方
くてというような基準ではない、もっと微細
も非常にくっきりとしています。むしろ低い
な変化も把握できるように、あえて14項目10
のは20代がほかの年齢層に比べてもよくなく、
段階という調査の設計にしてあります。
平行移動的に上がっていますので、結果とし
て相対的に低い状況にある。30代の方たちは、
それらを使って何とか透かし見られるとこ
ろをこれからお示ししたいのですが、まず
疾病や障害というところで重層的な困難を抱
100点満点で答えてもらった生活満足感につ
えていらっしゃるのですが、傾きがほかの年
いて、支援開始時と、このデータを集約する
齢層と比べても大きくないということで、や
直前の段階で聞いた結果の平均値を年齢別に
はりそういう方々の場合は状況の向上が難し
示してみました。そうしますと、支援開始時
いなということが透けて見えます。
は生活満足度の全体平均が25.5%だったもの
今のは14項目を全部単純合計した結果だっ
が、支援後は49.8と倍近く上がっています。
たわけですが、ここからは14の項目別に、支
年齢層別では、やや違いが見られます。例え
援開始時と支援後でどういう変化が見られた
ば50代、60代の方たちは、支援開始時の満足
かを何とか把握しようとしてつくった表です。
度はほかの年齢層と比べてもかなり低いので
見方は、青く塗ってある升は、スコア1を
すが、20代、40代とあまり違いがないところ
超える改善が見られた。つまり、かなり大き
まで近づいてきています。一方、30代の方た
く改善されたというところです。赤いセルは
ちは、もともと結構高かったのですが、上が
改善がほとんど見られていない。同じだった
り方もかなり強い。当然これは年齢だけで議
り、むしろ微減していたり、改善が起こって
論できる話ではなくて、それぞれの年齢層の
いないところが赤いセルです。赤い字で書い
方々がどういう状況にあるかということを含
ているのは、そもそもスコアの絶対値が低く、
めて分析しなければなりませんが、一応年齢
かつ改善もあまり大きくないというところで
層別のそれぞれに関して向上が見られるとい
す。
-46-
青が結構多くなっているのが収入の安定性。
柔軟にとりにくいということが改善されにく
これは生活保護をとられた場合も含まれてい
かったりしている。これもやはりお年寄りの
ますが、30代を除いて、収入の面で改善が見
場合に、仕事に向かっていく志望や意欲とい
られる、あるいは就労に向けた準備という点
う点では改善が見られないということがあり
でも改善が見られる。就労状況という点でも
ます。
次に、それぞれの方々が抱えている問題領
改善が見られていますが、正社員につかれた
方はほとんど含まれていません。アルバイト、
域別に、開始時と支援後でどういう改善が見
パートから始めて、それでも何とか仕事を始
られたかということについて分析した結果を
めることができたということがここにあらわ
まとめますと、困難の複合性が軽い層と比較
れています。絶対値を見ていただければ、10
して、困難の複合性が高い層というのは、開
点満点の10にはほど遠いということがわかっ
始時の満足度や状況項目スコアが悪くなって
ていただけると思います。しかし、改善、前
います。それでも平行移動的にかなり改善が
進は見られたということです。志望の具体性
見られますが、困難の複合性が3以上という
とか意欲であるとか、仕事に向かっていくベ
方々は、特に家族・親族関係の課題、社会的
クトルという点ではパーソナル・サポート・
なつながり、あるいはコミュニケーションと
サービスによって変化が見られています。
いうあたりで改善が見られにくいということ
がわかります。
逆に、赤のところを見ますと、例えば20代
支援項目(モジュール)と書いてあるのは、
という若い人たちで赤がついています。これ
は心身の健康状態。若い人ですのでメンタル
これは先ほどご説明を省きましたが、どうい
な面が大きいのですが、そこはあまり変わっ
う支援を個々のパーソナル・サポート・サー
ていない。あるいは家族・親族関係の課題と
ビスで行ったかということがモジュールとい
いう点では、改善がない。ですから、若い人
う形で、例えばハローワークに行ったとか、
で親子関係がこじれたりしている場合は、パ
医療機関に行ったとかいう形で全部表になっ
ーソナル・サポート・サービスが非常に難し
ています。
以上のように、数字やグラフで把握すると、
い。家族の壁の外ではね返されてしまってい
それなりのもっともらしい結果は出てきたり
るということが見られます。
お年寄りの方の場合は、例えば、ずっと建
しますけれども、やはりパーソナル・サポー
築作業などで働いてこられたような方で、無
ト・サービスがどういう支援なのかというこ
口だったり不器用だったりという方も含まれ
とは、実際にそれの対象になられた方の肉声
ていると思いますが、コミュニケーションを
というか、言葉で書いてくださったものを見
-47-
ル・サポート・センターで聞いてもらって、
ていただくのが一番かもしれません。
少し元気になって、次の1週間に向かってい
対象者の感想より
こうという気持ちになる、パーソナル・サポ
これは対象者の方に実際に書いていただい
ート・センターは自分にとってそういう存在
た結果ですが、例えば、いろんな支援施設で
である。よろしくお願いしますと書かれてい
相談したが、どこでも真剣に話を聞いてもら
ます。とにかく耳を傾けて、信頼関係をつく
えない気がしていつも不安であった。パーソ
る。継続的に寄り添い続けるということが、
ナル・サポート・センターで相談するように
対象者の方にも受けとめていただけているこ
なって、少しだけ気持ちがわかってもらえた
とがわかります。
気がしてうれしいとか、このたびとてもいい
このように、何とかデータを集めながら、
形で再就職を果たすことができた、仕事が決
モデル事業の検証をしているわけですが、改
まって本当にうれしい。心配していますよと
めてまとめますと、やはり対象者の年齢層に
いう連絡をパーソナル・サポーターからもら
よって抱えている困難の特徴がかなり異なっ
ってとてもうれしかったとか、パーソナル・
ている。若年層は家族やメンタルヘルス、壮
サポート・センターのおかげで労働問題が解
年層は疾病や障害、複合困難、高齢層は生活
決したが、生活に関しては悪くなっている。
や就労スキルの問題が大きい。やはりそれぞ
こちらのほうも何とかしてください、よろし
れが別の意味で、当事者の方々にとって克服
くお願いしますという言葉もあります。次も、
しにくい性質を持ち、就労や自立を阻害する
やっと就職が決まって、ほっとしているとい
要因になっている。支援開始時・支援後とい
うお話がありますし、その次は、連絡をもら
うふうに折れ線グラフで示したものからして
い、いつも気にかけてもらっていることをあ
も、あるいは書いてもらった結果からしても、
りがたく感じ、頑張ろうという励みにもなっ
パーソナル・サポート・サービスというのは、
ているということです。一定のインターバル
対象者の方の主観という面から見ても、ある
を置きながらも継続的に連絡するということ
いは客観的に状況の改善という点でもずっと
は、孤立されている方も多いので非常に重要
改善に向かっているということをうかがうこ
性が高いということがわかります。
とができる。特に就労に向けての状況という
一番最後の例は、基金訓練につなげてもら
のは、とりあえず仕事に向けて一歩踏み出す
って感謝している。生活リズムも戻り、とて
とか、訓練を受けてみるとか、そういうこと
も順調にいっているというふうに書かれてい
も含んだ上での就労に向けての改善が観察さ
ます。ためこんだ1週間分の思いをパーソナ
れます。ただし、対人関係、親子関係やコミ
-48-
ュニケーションスキルといったようなものは、
ろうと考えることは無理ですし、望ましいこ
がらっと変えることは難しいということがデ
とでもない。
私なりに頭を絞って考えた結果、一方向的
ータからわかるわけです。
な矢印で循環が自己目的化していたというこ
PSSの可能性と課題
とが戦後日本型循環モデルの問題であり、か
このように、この制度がなければ非常に苦
つ、それはもう成り立たなくなっているとす
しいところに孤立して放置されてきた方が、
れば、家族や教育や仕事の間にお互いに互恵
パーソナル・サポート・サービスによって明
的な関係をどうつくっていくかということが
らかに有効な支援を受けていることは確かで
1つ重要であるとともに、仕事、家族、教育
すが、今は非常にさまざまな面で日本社会は
だけで問題が解決できるような状況ではなく
荒れてきています。そういう状況下で、パー
なっていますので、人々が生命の危機におび
ソナル・サポート・サービスであれば救って
えなくて済むぐらいのセーフティーネットは
くれるとか、何とかしてくれるというふうに、
せめて政府の責任で張ってほしいと思います。
そこに過剰な期待をかけ過ぎてしまっては、
その上で、単にセーフティーネットで受けと
やはり問題だと思います。パーソナル・サポ
めるだけではなくて、そこでもう一回寄り添
ート・サービスというのは、社会問題を可視
い型の個別事情に応じた支援によって、その
化し、浮かび上がらせるというところで貢献
方に可能な範囲でもう一回アクティブになっ
していただけるとしても、そこから浮かび上
ていただく。しかし、既存の制度は縦割りで
がってきた課題をどうするのかというのは、
仕切られています。それをどのように形づく
まさに為政者の問題であったり、既存のさま
っていくかということが、非常に大きな課題
ざまな社会資源というか、これまでも存在し
になっているのだと思います。
ていた各支援制度、その窓口あるいは機関が
こういうことについての政策的な検討は、
どう受けとめていくかという課題だと思いま
例えば厚生労働省の生活支援戦略の一環とし
す。
て議論が進められていますけれども、それが
最後は、蛇足のようなものですが、戦後日
本当に充実したものになっていくかどうかは
本型循環モデルが成立していたころから、学
予断を許さないものになっています。ぜひ皆
ぶ意味や働く意味や家族の意味というものを
さんからもいろいろなご発言やご提言をして
希薄化するような問題を含んでいたわけです。
いただければと思います。
─了─
そして、90年代以降、戦後日本型循環モデル
は破綻を遂げている。それならば、過去に戻
-49-
「横浜パーソナル・サポート・サービス
新成長戦略に基づき、さまざまな生活上の困
「生活・しごと∞わかもの相談室」概要」
難に直面している方に対し、個別的・継続
横浜パーソナル・サポート・サービス
的・包括的に支援を実施する新しいサービス
鈴木晶子氏
のモデル事業となっています。
今は困窮している方が多く、特に生活保護
に対する就労支援、自立支援ということが盛
私は10年ちょっと前、下町にお住まいで、
高校1年生を2~3カ月で中退した後ずっと
んに言われますが、パーソナル・サポートは、
ひきこもっているという、私と同い年の若者
もちろんそれも含みます。当然、仕事を通じ
の家庭訪問をたまたま引き受けたところから、
て社会の中で活躍できる場所があるというの
若者支援を始めて、色々な経過を経て現在の
は大変大きなことですので、大きな1つのイ
パーソナル・サポート・サービスにかかわる
シューではありますが、さまざまな困難に直
ようになりました。最初の家庭訪問がちょう
面し、社会から排除されている方を寄り添い
ど終わるぐらいのときに、横浜市の青少年相
型で支援し、社会に包摂していくことを目指
談センターというところで、ひきこもりの20
すというふうな言い方になります。
代の青年たちのグループを支援しているとい
大きな街でやるにはモデル事業というのは
う話を知りました。当時私は、ひとり暮らし
規模が小さく、横浜も18区あって人口が370
の貧乏学生だったのですが、公的機関でひき
万人いる中で、横浜駅に1カ所設けているだ
こもりの支援をやっているところはほとんど
けです。常勤換算でもスタッフは13名、うち
ない中で、横浜は先進的なことをやっている。
半分ぐらいはまだまだ育成段階の若手ですの
おもしろそうだから、当時住んでいた練馬区
で、そんなに多くの方を支援できるわけでは
から1時間半ぐらいかけて、最低賃金ぐらい
ありません。そこで、横浜では「わかもの」
のアルバイトでしたが、それでもいいかと思
という看板を掲げて、若者を切り口に事業を
って仕事を始めました。以来、都内に住みな
展開しています。
横浜では15の団体からパーソナル・サポー
がら横浜に通うという生活をもう8~9年や
ターが集まって、一般社団法人インクルージ
っています。
ョンネットよこはまというものを設立し、そ
パーソナル・サポート・サービスとは
れにより運営をしています。また、横浜弁護
パーソナル・サポート・サービスについて
士会と神奈川県の司法書士会が公式に活動を
は、先ほど本田先生からご説明がありました
サポートしてくれていて、常に当番の弁護士
ので細かいことは省きますけれども、政府の
さんと司法書士さんを置いていただいていま
-51-
体が実施しています。実際は北九州市ではな
す。
全国のモデル・プロジェクトの実施地域は、
くて福岡市のほうで、生活保護課と調整をし
平成22年度の5地域からスタートして今は26
て、ホームレスの方を寄り添い型で支援する
カ所になっています。私どもの横浜は平成22
という形でやっています。
年から始めた1次地域でありまして、5カ所
最後が沖縄県です。釧路と沖縄は仲がいい
あります。最初のモデル地域になったところ
んです。北の寒い地域と南の暖かい地域、ど
の一つが、生活保護の自立支援で有名な釧路
ちらも大変有効求人倍率が低くて、仕事のな
です。釧路は保護率が大変高い街なので、最
い地域ということで、5地域が集まるときも
初は国からやれと言われて嫌々ながらスター
仲よくお話をされているのですが、もともと
トしたそうですが、それがだんだん街ぐるみ
は労働者福祉協議会のほうでやってきた仕事
になっていって、雇用が少ない中で中間的な
の支援をベースにしています。沖縄県のおも
就労とか、相談とか、ケースワーク以外のい
しろいところは、この事業のためにほとんど
ろんなコンテンツもふやしていって、町の中
支援経験のない方を新規に採用して、それが
で仕事を少しずつつくりながらやっています。
意外とうまく回っているという不思議な地域
実は、1次地域の5カ所は、いずれもここな
です。経験がない方を組織ぐるみでバックア
らやれるだろうということで、国から一本釣
ップして、それが機能してくると若手の人を
りで声がかかったところです。
組み合わせて体制をつくるとか、大変マネジ
メントがうまくなされているなという感じが
2つ目の1次地域は京都府になります。京
します。
都には全国的にも有名なジョブパークという
ところがあります。雇用の事業というのは、
私はもともと、ユースポート横濱という若
国の事業とか都道府県の事業とか市の事業と
い方の就労支援をやっていた団体にいました。
かいろんなものがあるわけですが、オール京
横浜は市民活動が盛んな土地ですので、今パ
都ということで、ハローワークや若者の支援、
ーソナル・サポートを一緒にやっているメン
マザーズの支援といったものを1カ所に集め
バーにも20年ぐらいこの活動をやっていると
たものがジョブパークで、その中にパーソナ
いう人がたくさんいる中、私たちは30代が中
ル・サポート・センターを置く形でスタート
心の、できてせいぜい5~6年の団体でした。
しています。
ただ、間に入ってくださった地域の社会福祉
もう1つの第1次地域は福岡市です。これ
法人の理事長さんが、せっかく新しい事業を
は、北九州でホームレス支援をずっとやって
国で始めようとしているんだから、また高齢
こられた北九州ホームレス支援機構という団
者が対象では意味がない。今、若手で頑張っ
-52-
ているのはあそこのNPOだからということ
なっています。こういう形でやっているとこ
で、私たちの団体を推薦してくださったんで
ろは、全国でもあまりありません。大阪市と
す。でも、内閣府の人が来て話を聞いたとき
福岡市はやはり大きな市ですので、ホームレ
に、何て壮大な話なんだろう。そして、何て
ス支援でも何団体かあるということで、そう
大変そうなんだろうと思って一度お断りをし
いう団体が組んでやっているというところは
ました。ただ、ずっと活動を続けながら、私
ありますが、お話を聞くと役割分担という形
たちの範囲の狭さがとても後ろめたく感じる
のようです。横浜は15団体が寄り合い世帯で
ところがあったので、私も何とかこれをやれ
1カ所の相談室に集まって、みんなでチーム
るようになれたらいいなという想いはあった
としてやるという変わった形態をとっていま
んです。
す。
そして、もう一度説得されたときに、「ほ
かのところだって同じなんだよ」と言われた
横浜パーソナル・サポート・サービスの概
んですね。「ホームレス支援だって、おじさ
要
んたちばっかりやっていて、若い人の就労と
横浜パーソナル・サポート・サービスは、
か応援はできていないから」とか、大体みん
「生活・しごと∞わかもの相談室」として、
な同じようにやり切れないものを持っていて、
主として15歳から39歳までの若者を対象に支
何とかしたいと思っているけど、全部ができ
援をしています。神奈川県の交通の要所、横
るところなんてないと言われました。そこで、
浜駅から徒歩8分のところですが、横浜も地
私たちは若い団体で、あまりNPOの業界の
下街が広いので、雨の日はほとんど濡れずに
ことを知らなかったので、みんなでやればい
来れるぐらいの位置にあります。
いんじゃないと思っちゃったんですね。私、
先ほど言いましたように、横浜は全国でも
一応事業統括なのですが、私の職場は、新卒
珍しくNPOの寄り合い世帯でやっていると
で入った2年目の子が一番下で、まだ23歳で
ころが1つの特徴ですが、もう1つは、若者
す。上は学校の教員を勤め、NPO活動を20
を切り口にやっているというところが大きな
年やったという70代の大ベテランの方がいま
特徴で、重点的なものとして、困難を抱える
すが、20年選手、30年選手であれば感じるよ
生徒が多く在籍する県立田奈高校と連携して
うな寄り合い世帯の大変さというのはさして
「田奈Pass」という取り組みをしていま
考えずに、みんなでやれば何とかなると思い
す。田奈高校は、神奈川でクリエイティブス
ました。そこからいろいろ声をかけていって、
クールと呼んでいる学校です。恐らく東京の
最初は7~8団体でしたが、今は15ぐらいに
チャレンジスクールに該当するようなもので
-53-
はないかと思いますが、チャレンジスクール
少しずつ積み重ねながらやってきました。こ
を訪れたことがないので、どのくらい重なる
れもだんだん評判が広がってきて、施設の職
かはわかりません。田奈高校は全日制で、学
員の勉強会でお話をしてほしいというような
力試験を課していません。校長先生のお話で
リクエストがかなり来るようになってきまし
は、神奈川県内のしにせの課題集中校で、昔
た。
から「ああ、田奈高校ね」と言われるような
3つ目が少年鑑別所との協力です。これも
学校でした。ヤンキー系が多かったのが、ク
ありがたい話なのですが、少年鑑別所の技官
リエイティブスクールという形になって少し
の方々は高い専門性をお持ちです。その専門
層が変わってきてはいるけれども、課題の集
性を地域で還元していこうという方向にだん
中ぐあいは、実はクリエイティブになってか
だんなってきていたところに、パーソナル・
らのほうが大変なぐらいだということです。
サポートを知ってくださって、来ていただく
特に家庭的な背景があるようです。
ようになりました。心理の技官さんの話を聞
もう1つは、児童養護施設等との連携の模
いたところ、少年鑑別所では、地域の方が心
索です。児童養護施設あるいは児童自立支援
理相談とか心理検査をほとんど無料でできる
施設は、措置延長して高校卒業するまではサ
窓口があるということでした。それは18歳ま
ポートできますが、その後どうするんだとい
でだということですが、若者育成支援推進法
う話になってくるわけです。あるいは、就労
の枠組みを使って、39歳まで検査用紙も負担
とか自立の部分は、児童福祉のほうはそんな
しますから協力させてくださいというお申し
に強いところではありませんので、在学中か
出をいただいて、まず横浜でスタートしまし
ら自立支援の部分などをお手伝いしながら、
た。つい何カ月か前、法務省から全国の少年
高校3年生を終わって、学校からも施設から
鑑別所にパーソナル・サポート事業に無料で
も児童相談所からも離れた後のサポートとし
協力するようにという,通知を送っていただ
ての引き継ぎも視野に入れて、連携をし始め
きましたので、今は完全にご協力をいただい
ているところです。
ています。
田奈高校は、県内に幾つかある課題集中校
逆に鑑別所からパーソナル・サポートにつ
の1校であり、横浜市内だからやってみよう
ながるかというと、司法矯正の分野は個人情
ということですが、児童養護施設になると市
報の管理が非常にシビアなところですので、
内にはたくさんあるものですから、1カ所だ
そうそう簡単に新しい事業に引き継げないと
け集中して始めるのではなく、各施設から
いう事情があります。ところが、私どもは弁
「これ、お願いできますか」というケースを
護士がつながっていますので、審判を担当し
-54-
た弁護士からそうしたケースのリファーがあ
ワーカーズ・コレクティブさんは、お母さ
ったりして、割と近いところでやっているの
んたちの集まりですので、優しく育ててくれ
は確かです。
る。それがとてもいいところです。先ほど言
もう1つは、中間的就労なども含めた出口
いましたように、生活習慣ができていない、
支援の強化ということです。結局、働く場が
コミュニケーションがとれない。長期に引き
なければしようがない。ところが、神奈川の
こもっていた方になりますと、人とともにい
有効求人倍率は全国平均以下です。東京まで
るという基本的なところが難しいんですね。
行かないと仕事がない。神奈川から東京まで
私は、相談の中で一番びっくりしたのは、あ
通うようなお仕事をちゃんと見つけられる方
いさつは何のためにするんですかと言われた
はいいのですが、特に若い方の中で就労の経
ことです。後で医療につないでいろいろわか
験が少ないとか就業の能力が低い。あるいは
ったのですが、かなりはっきりとしたアスペ
そもそも仕事に通うという生活習慣、立ち居
ルガー障害の方で、形だけやるということを
振る舞い、コミュニケーションが難しい方が
なかなかしてくれない。じゃあ、ありがたい
多い。そういう方々を私たちが抱え込んでも
と思ったときに「ありがとう」と言うことか
しようがないですから、地域で何とか育てて
らスタートしましょうかということからスタ
もらうということでいろいろとやっています。
ートしてやりましたが、そんな方でもワーカ
ーズ・コレクティブさんは受け入れてくださ
さまざまな構成団体
いまして、何とかかんとかやらせていただい
ています。
その1つの試みが、ワーカーズ・コレクテ
ィブ協会とか労働者協同組合(ワーカーズコ
そのほかの構成団体をみていくと、一般社
ープ)センター事業団などに構成団体に入っ
団法人インクルージョンネットよこはまとい
てもらい、それぞれがお持ちの事業所の中で
うのが、私が今やっているものです。さらに、
少しずつ訓練をしてもらうというものです。
楠の木学園さん、若者支援で特に発達障害等
ワーカーズ・コレクティブというのは、地域
の支援をずっと学校としてやってきていると
の主婦の方々です。一度やめた後に企業に戻
ころです。私がもともと所属していたユース
ることができなかったり、子育て、家事等を
ポート横濱は若者の就労支援、ここはひきこ
しながら働く場がなかったりする中で脈々と
もり系の方の就労支援が強いです。株式会社
事業所を広げ続け、神奈川県内に何と230カ
シェアするココロさんというのも若者支援で、
所もある。そこに受け入れていただいていま
特に就労支援やひきこもりの支援などに強い。
す。
そして、野宿者支援ということで、横浜寿町
-55-
というドヤ街の団体さんがあり、次に女性支
寿の町の中でいろいろな活動取り組んでいま
援ということでDV被害者等が出てきます。
すが、ギャンブルに関してはワンデーポート
そして、在住外国人支援、高齢者などがあり
さんというところのご協力をいただいて、週
ます。
に1回、パーソナル・サポーターが来るなど、
いろいろとサポートしていただいています。
次に、神奈川ソーシャルインクルージョン
推進機構の社会的排除・孤立の解消ですが、
登録者数・相談件数・来所経路
中心は2つで、1つは被差別部落、もう1つ
は精神障害です。被差別部落の方の識字のこ
横浜パーソナル・サポート・サービスの登
とをやっている中で、かなり精神障害の方が
録者数は、10月末で700名弱です。開所は
多いことがわかり、そういう活動に広がって
2010年12月24日でした。とにかく年が明ける
きたということです。ほかに遊悠楽舎の若者
前にはオープンしようということでやったの
支援、こちらはシェアハウスなどもやってい
ですが、その年の私の最後の仕事は、施設の
るひきこもり支援です。その次に、よりよく
入り口に「生活や仕事で緊急にお困りの方は
生きるプロジェクト、就労支援・若者支援と
寿町まで行ってください。連絡先はこの人で
あるのですが、ここは障害者の就労について
す」という紙と地図を大量に置いていくこと
よくご存じの方がやっています。
で、これ以降毎年私の最後の仕事になってい
NPO法人コス援護会というのはちょっと
ます。何とかつながる窓口をということで、
変わっていて、コスはコスプレのコスです。
新聞やネットで紹介されたりして、今、11月
代表はもともとアニメとか漫画が好きで、自
に入って700名を超えました。ちなみに、登
分もコスプレする人だった。でも、コスプレ
録はしない、中には個人情報なんか絶対書き
をやっている子供を見ていると、リストカッ
たくないという方がいらして、未登録の方が
トの女の子がたくさんいたり、家庭的な背景
100名ぐらいいるので、全部で800名ぐらいで
があったり、メンタル的にも生活基盤的にも
す。
かなり不安定な子がいることに気づいて、コ
登録者のほうは、連絡先がわかっています
スプレを通じて居場所をつくるという大変変
ので、キャッチがしやすいところで言います
わった活動をしているところです。
と、半分が今、見守りです。困ったらまたお
さらに、ギャンブル依存への支援というこ
いでとか、仕事も決まったし、最初の何カ月
とで、やはり金銭の管理が難しい中で、アル
か乗り切ったし、しばらくは1人でやってみ
コールの問題とかギャンブルの問題がどうし
ようねと言って、たまに電話をかけたり、は
ても入ってきます。アルコールのほうは、今、
がきを出したり、「どうしてる?」と声をか
-56-
けたりするような状態になっている人が大体
電話の中には、新聞とかテレビで結構取り上
半分ぐらいになっています。ちなみに、音信
げていただいているので、そういうものを見
不通になった方は6ケースあります。
たとか、インターネットで見たとか言って電
次は、月別の相談件数の推移です。だんだ
話をかけてくる人がいます。よくよく聞いて
ん上がっていますが、正直言うとこれ以上は
みると、例えばパニック障害で電車に乗れな
ふえません。キャパの問題があります。パー
いので横浜駅まで行けないとか、かなり移動
ソナル・サポートは、そんなに効率化できる
に制限のある障害をお持ちなので家を出られ
支援ではありません。相談員は朝から晩まで
ないという方、あるいはお金がないという方
相談していますし、実際、パーソナル・サポ
が多い。
ートの業務がどのくらい手間がかかるかを細
お金がないときは、私たちは小口の貸付基
かく集計したところ、本当に皆さんいっぱい
金を持っています。社協さんの貸し付けもあ
いっぱいで、正直、もうちょっと丁寧にやり
りますが、審査の基準もありますし時間もか
たいけど、できなくなってきたというところ
かります。こちらは完全に民間で寄附を募っ
があります。
てやっていますので、とりあえず初乗り料金
登録者を男女別で見ると、男性6割、女性
で乗って横浜駅まで来てくれたら、お金を貸
4割というところです。年代別では、実は若
すからとか、返すのは稼げるようになってか
者を切り口にと言っているんですけれども、
らでいいからということで来ていただくとい
見ていただくと、40代、50代、60代で4分の
うこともあります。また、どうしても本人が
1います。最年長は70代までいらっしゃいま
来られなければ、ファーストコンタクトで訪
すが、4分の3は10代から30代までのいわゆ
問というのがあります。訪問ができると、行
る若者と呼ばれる世代の方々です。
けないけれども、来てくれるんだったら相談
してみようかなという方が出てきます。
その中で10代は7%です。本当はもっと10
代の方たちにサポートしたいと思っているの
もう1つ、支援関係機関からの紹介という
ですが、なかなか10代の子をキャッチするの
のが53%です。もちろんあるのは私どもの構
は大変です。保護課のケースワーカーさんで
成団体からです。例えば、寿でキャッチした
さえ、子供がいるのはキャッチしているけど、
んだけど、パーソナル・サポートのほうを使
一度も会えないというようなことがあります。
ってもらったほうがよさそうだからというこ
開所から今年の9月末までの636名分のデ
とで紹介されたり、ほかにも母子支援施設、
ータで、来所経路を見てみると、自分でいら
児童養護施設、児童相談所からも来ます。労
っしゃったという方は4割です。この訪問・
働関係でハローワークさんからも来ます。サ
-57-
ポートステーション、ジョブカフェ、シニア
次は、横浜パーソナル・サポートの登録者
のところからもいらっしゃいます。あるいは
が抱える問題領域です。これは先ほど本田先
労働相談のところからもいらっしゃいます。
生の話にあった全国分類とそんなに変わるも
もちろん福祉事務所さんから一緒に支援し
のではありません。重複回答ありですが、複
てくださいということでやってくるケースも
合度合いとしては1人2.5ぐらいです。ちな
かなりあります。これに関しては大きく2つ
みに、このデータを公表しているホームペー
あって、1つは発達障害とか軽度の知的障害
ジを見て、「私、フルセットです」という人
などが疑われる生活保護受給者のケースです。
もいます。メンタルヘルスの問題があり、お
ただ、本人の認識がないので、相談された障
仕事を失われて、離婚もされて、生活にも困
害担当のほうが困るんですね。手帳を申請す
って債務も抱えられている。このように5個
る意思を示してくれれば、手帳を申請しても
ぐらいの方がいたりしますけれども、平均す
らって担当がつけられるけれども、そう言っ
ると大体メンタルと仕事とか、メンタルと家
てくれないとこちらはできることがなくて、
族、このあたりが一番多いケースです。
間がなかなか埋まらないのでこちらに来る。
ちなみに、これは全世代でとっているので
もう一つは特に就労の部分に関してご相談し
すが、10代でとると仕事の問題は減りまして、
たいというようなことがあります。ご近所ト
多くなってくるのはやはり家庭問題です。ネ
ラブルとかいろんなことが起こる人なので、
グレクトも含めて虐待とか、そういった問題
就労のほうも心配だから、一緒に見ていただ
が大きくなってきます。もう1つは、そうい
けないかというようなこともあります。他に
った状況の中で学校に行けないということで、
もこちらは弁護士さんもいるので、債務整理
教育関係の問題もあります。複合度合いも高
の部分をお手伝いいただけないか等もありま
くなって、10代のお子さんのほうは3つぐら
す。
いです。大体教育、家庭、これにプラスして
あるいは、弁護士からの紹介があります。
メンタルヘルスの問題だったり、衣食住の問
例えば離婚の慰謝料の件で法律相談に行かれ
題だったりというのが入ってきます。私たち
たお母さんが、実はかなり重いメンタルヘル
は、若者でスタートして、なるべく早い段階
スの問題をお持ちの方だったので、こちらを
で子供たちをサポートしたいと思っています。
ご紹介いただいたり、本当にいろんなところ
しかも、リスクの高い子たちは早い段階で見
からつながってきます。
えているし、子供たちのほうが成人してから
よりも存在は見えやすいはずです。ただ、な
登録者が抱える問題領域
かなかアプローチしづらい存在であるという
-58-
困っているという方に対して、土曜日も私た
ことです。
ちの相談室はあいているので、何とかお仕事
就労支援状況と就労実績
を続けられるようにというような支援もあり
登録者の就労支援状況と就労実績です。全
ます。それから、先ほどお話した弁護士相談
体の46%がこちらでの就労支援を中心にやっ
に行っていたお母さんのようなケースとか、
ています。中には就労の部分はハローワーク
お子さんのことをご相談にいらした稼働年齢
さんとかジョブカフェさんのほうがいいなと
外の方とか、そういった形の方がいろいろ積
か、結構ひきこもり系だったので、サポート
み重なり、48%ぐらいいます。
ステーションのほうが就労支援については得
パーソナル・サポートをやりたくないとい
意分野だなということでやっている方が6%
う自治体の言い分として、生活保護を掘り起
いますから、全体でお仕事の支援が地域の中
こすから、もうお金がないからやめてという
で必要な方というのは52%です。
本音があるわけです。しかし、生活保護受給
逆に、48%が就労支援以外の支援を実施し
者は登録者のうち22%です。この中で、実は
ています。それの最たるものは労働問題です。
受給している方について福祉事務所がご相談
先ほど本田先生のほうからもブラック企業の
にいらしたりというケースもたくさんありま
話がありましたが、一番生活に困るのは賃金
すので、実際は1割半ぐらいです。それでも
未払い、遅配等です。私どもがやったケース
嫌だよと言うかもしれませんが、思っている
では、賃金未払い11カ月で、来月子供が生ま
ほど生活保護ばかり使っているわけではなく
れますという段階で来た人がいました。金が
て、障害年金や雇用保険がちゃんと受給でき
ないと言っている企業からお金を取るのは大
ていなかったり、ほかのいろんな減免の制度
変なことで、いきなりお金も入ってこない、
を使えていなかったり方もいます。そういう
来月子供を産まなきゃいけないというので、
方には生活保護へ行く前の第2のセーフティ
その方は、在職中なのに、賃金を取り返した
ーネットとして機能している面もあると思い
ら戻入しますということで生活保護をかけて
ますので、ぜひやっていただけるといいので
もらいました。あと、パワハラとかセクハラ
はないかと思っています。
それから、私たちは民間委託でやっている
とか、その手のものに関してもいろいろあり
のですが、人口5万人、6万人という地方で
ます。
は委託する民間がないわけです。そうすると、
ほかには、最近若い方でも、親御さんの介
護離職ということが少しずつ話題になってき
市役所直営でやることになります。最も有名
ています。自分しか母親を見る人がいなくて
なのは、滋賀県の野洲市です。もともと多重
-59-
債務の処理などで有名になったところですが、
5時間目に個別相談をやって、放課後は大体
債務がある方は、ほかのあらゆるものを払え
図書館で過ごします。
私が初めて行ったときに、この学校のお子
ていないんです。社会保険も健康保険も年金
も払えていない。市・県民税が払えていない、
さんたちは恐らく生活保護か、それに準じる
水道料金が払えていない、お子さんがいる世
困窮世帯の子たちが3割から4割ぐらいはい
帯だったら給食費が払えていないとか、行政
るだろうと思いました。毎年1学年200人の
でつかめるいろんな滞納があります。その督
中で、お金がなくて修学旅行に行けなくて、
促をするときに、一緒に案内を送るそうです。
学校に残る子が30人ぐらいいる。クラスの中
そうすると、連絡が来るわけです。中には債
にほとんど食べ物を家で食べていないだろう
務が整理できて税金などの滞納分が返ってく
なというお子さんが2~3人いるという状況
るということで、役所としてはプラスの部分
です。その中で、私たちはパーソナル・サポ
もあるそうで、そういうところから力を入れ
ートでサポートしたいなと思って行っている
始めてパーソナル・サポートをやっていると
わけですが、子供たちというのは、相談室を
いうことです。もちろん、なかなか大変な部
設けていても絶対来ないんです。そこで、う
分も出てくると思いますが、そこで払ったも
ちの相談員が学校内を回った結果、ここの学
のが返ってくる部分もありますし、放置して
校で一番オープンに生徒が集まってくるのは
おいて生活保護を受けざるを得ないような状
図書室だと気づいたんですね。司書さんが大
況になるぐらいだったら、早目に手を打つと
変優秀で、行くとスポーツ雑誌やらアイドル
いうのも手ではないかと思います。
雑誌やらギャル雑誌やらが置いてあるわけで
す。そういう雑誌もあまり買えないわけです
「田奈Pass」の事業スキーム
から、ギャル雑誌を見にギャルがちゃんと図
最後に、出張相談「田奈Pass」につい
書室に来るんですね。何となくおしゃれな本
てお話しします。実は、今日も午前中は、も
屋さんのように本が平積みになっていたり、
う一人男性の相談員と2人で田奈高校さんに
子供が関心を持ちそうな雑誌がたくさん置い
行って、個別相談を2時間目、3時間目、4
てあって、あとはオープンにテーブルが置い
時間目と3件ほどやってきました。田奈高校
てあって、そこで子供たちが遊んだりとか、
は私の杉並の自宅から行くと結構早起きしな
雑誌をみんなで一緒に見たりして、喋ってい
くちゃならないので、いつも2限からと思っ
るんですね。司書室は司書さんの仕事部屋で
ているのですが、どうしてもというときは1
もあるわけですが、それを完全に開放して、
限から行きます。図書室で昼休みを過ごして、
お昼休み、クラスであまり居場所のない感じ
-60-
の子たちが、そこにお昼ご飯を食べに来るん
ギターで、私、別に歌もうまくないんですが、
です。そういうところで私たちも一緒にお昼
ボーカルです。そのほかにギターとベースは
ご飯を食べたり、何となく貸し出しカウンタ
生徒、ドラムは先生というバンドで出ました。
ー越しに一緒にしゃべったりとかしながらお
だんだん顔が見えてきて、いろいろ話しかけ
話をしています。
てくれる子もふえてきたかなと思っています。
ある女の子などは、めちゃめちゃ大きな声
もしそういう部署でかかわっていらっしゃる
で、「うち、生活保護で、1回も修学旅行な
方がいたら、子供たちにつながる1つのやり
んか行ったことないから。みんな沖縄に行く
方としてこんなのもあるよということを思い
けど、私、行けないんだけど」とか言って、
出していただいて、よかったら田奈高校まで
私に愚痴を言っているわけです。最初は、彼
見に来ていただければと思います。
氏に振られたという話からスタートしたんで
田奈Pass実績ということですが、交流
すけど、もしそこで「それは私たちの仕事じ
型相談は延べで340件、個別相談は92件。ほ
ゃないよ」と言ったら、それで子供は来なく
かに、生徒さんに対してもありますが、卒業
なります。私はやっていて思うのですが、や
生ですとか、あとは先生から生徒についてご
はり家庭で大事にされていない子というのは、
相談があったりということもあります。継続
どこかで大人とかかわりたい思いがあるんで
相談対応の今年度の実人数は27名です。本当
すね。学校に来て、自分のことを受け入れて
はもっとたくさんの子供たちと話せるといい
くれそうな人がいたら、むしろ寄っていきた
なと思うのですが、今のところは、より大変
いんです。ですから、私も制限せずにいろい
な子たちに集中的にという感じになっていま
ろお話を聞いていくと、彼氏に振られただの、
す。
髪を金髪にしたんだけどうまく染まらなかっ
この話をすると、こんなに手間をかけて子
たのだの、つけまつげがうまくつけられない
供たちとつながっていかなきゃいけないのと
だの、そんな話からだんだん心を開いてくれ
か、お金がかかると言われることもあります
ます。そういう交流の時間から本当にディー
が、考えてみると先行投資だと思うんです。
プな相談になっていったときは、先生たちに
生活保護世帯のお子さんで、正社員で就職し
も報告して、あの子は家庭でかなり大変なよ
た女子生徒がいます。彼女はもともとは正社
うだから、どこかで個別相談に持ち込めると
員で就職する気は全然なくて、何となくフリ
いいなという話をしています。
ーターになるようなイメージでいたのですが、
我ながら仕事なのによくやるなと思ったの
いろいろ相談を続けていって、もう1つは、
は、最近、文化祭に出ました。うちの相方が
横浜市の協力を得ながら社会福祉法人で在学
-61-
中の実習をやらせてもらいまして、それでよ
ウハウを持って自分たちでできるようになれ
ければ、高卒で内定をもらうということにし
ば、もっと安いコストで済みます。3年正社
ました。
員で勤められたら、その後の仕事も全然違い
普通、高校生の就職は9月15日に一斉に解
ます。最初、進路未決定で就職してしまった
禁になるのですが、残念ながらそれで決まっ
子供たちは、その後正社員になることがほと
ていく子たちばかりではありません。生活保
んどありません。それを考えると、10年スパ
護世帯の子たちは離職率も残念ながら高いで
ンで見れば決して高いものではないと思って、
す。これまで職業経験も少ないし、生活経験
ぜひこういうことに取り組んでいただけたら
も少ないし、ミスマッチがあったときに簡単
なと思っています。
にやめてしまうというところもあります。し
最後に、パーソナル・サポートの利用者の
かし、学校とか市とか、私たちの紹介で行っ
手記ということで幾つか事例を紹介していま
たところは、就職してからもサポートできま
す。これは首都圏ならではと思うんですけど、
すし、採ってくれた理事長さんにも、こうい
1例目は地方から逃げてきてしまったケース
う大変な子を引き受けたのだから、何とかし
です。ひきこもっていたんだけど、もういら
てやりたいという想いがあります。彼女は住
れなくなって、都会に流れ着いてきた。これ
所も移して、生活保護から外れて独立をしま
は保護の事例です。2ケース目は、10代の施
した。
設入所中の女性の事例ということで、ここは
じゃあ、一体在学中にその子に対して幾ら
保護を使わずに、児童福祉から何とか自立で
かけただろうか。人件費と、事業所の受け入
きないかということでやっているケースをご
れで2万円お支払いしています。学校では、
紹介していますので、お時間のあるときに見
純粋にこの事業だけで言うと、人件費等を入
ていただければと思います。
れてせいぜい10万とか15万ぐらいです。もち
あまり質問の時間がなくなってしまいまし
ろん、学校もその体制をしくとか、受け入れ
たが、以上で私のお話は終わりにしたいと思
の事業所さんにいろいろやっていただくとか、
います。ご清聴ありがとうございました。
学校の先生が事業所とつながるとかというこ
(拍手)
とをいろいろ考えて、その費用を頭割りでや
ったら、最初の年度は一人頭で言うと50万と
か60万はかかっているかもしれません。でも、
生活保護世帯から抜ければ、1年ぐらいでペ
イしますし、2年目、3年目、学校がそのノ
-62-
<質疑応答>
ースあります。
Q:支援関係機関からの紹介でパーソナル・
一方で、いや、自分は障害なんてというよ
サポートに来られる方が53%あるというお話
うな方がいらっしゃることもあります。そう
がありましたが、福祉事務所経由で、ご本人
いう場合には、実はそういう可能性も含めて、
は認識がないのだけれども、発達障害や軽度
働く場に入ってもらってしまうことが多いで
の知的障害が疑われるという方が来た場合、
す。実際に職場の人から、「だってさ、あそ
パーソナル・サポートではその後、具体的に
こできてないじゃん」「でも、これ手伝って
どういった支援をされて、どういった変化が
もらえば何とかできるし」とか、実際に仕事
生まれたのかとか、就労に結びついたケース
をする中で、いいところ、悪いところを実務
があるのかとか、そのあたりを具体的に教え
に合わせていろいろ言ってもらうと、本人も
ていただけますか。
納得せざるを得ないみたいなところもあって、
A:大きく言うと2つ方法があるかと思いま
ちょっとずつあきらめたり、まあ、できると
す。1つは、やはり仕事の中で相当に難しさ
ころで頑張っていけばいいのかなという気持
があったというケースであれば、丁寧にお話
ちになっていただけたりすることがあると思
をしていく中で、知能検査までつなげていく
います。障害があるというのを受け入れるの
ことができるケースがあります。私どもには、
は、本人にとってとても負担だし、とてもプ
キャリアコンサルタントの資格を持って入っ
ライドが傷つくし、今までもどうして自分は
てきたメンバーもいますので、職業能力の部
こんなにできないんだろうという、たくさん
分を見る検査を興味検査とあわせてやります
の傷つきを持ってきている方々ですので、な
と、結構クリアに結果が出ます。
るべくできている部分もちゃんと見てくれる
場で受けとめられたらいいなと思っています。
知能検査は、最初の年度はこっそり私たち
がやっていたのですが、最近は主に少年鑑別
Q:福祉事務所でサービス指導員をしており
所やってくださいますので、そちらにお願い
ます。一応モデル事業ということですが、国
します。私たちは、その検査の結果をもらっ
の生活支援やケースワーク業務というのも含
て、せっかくここまで来たからケースワーカ
めて、今後の展開はどのようにお考えでしょ
ーさんと一緒に振り返ってみて、場合によっ
うか。このままパーソナル・サポートが行く
ては障害者手帳が取れるかもしれないよ、そ
のか、それとも例えば福祉事務所でより生活
んなに頑張らず、自分の能力への配慮をもら
保護に重点を置くのか。
いながら働ける可能性もあるかもしれないよ
A:私も生活支援戦略のほうで、総合相談セ
というようなことでお話をしていくのが1ケ
ンターの検討に加わらせていただいているの
-63-
ですが、モデル事業としてパーソナル・サポ
サポートの理念、今の対象層を排除せずに、
ートは今年度までということです。今、こう
手前で支援する第2のセーフティーネットと
いう政局ですのでどうなるかはよくわかりま
して機能する部分をやっていくことが重要だ
せんが、一応、自公民3党で合意した社会保
ろうと思っています。実際保護につながった
障と税の一体改革の中で困窮者支援をやりま
方が、福祉事務所さん、生活保護課さんと重
すとは書いてあります。予算はついていませ
なってくる部分については今後もう少し整理
んが、やりますとは書いてあるので、全くや
が必要なのかもしれませんが、福祉事務所の
りませんという話になったら、それはこの間
ケースワーカーさんに対してどの部分はお手
決定したものと話が違うじゃないかというこ
伝いし、どの部分は相談以外のコンテンツを
とになる。ただ、今のモデル事業は、実施主
ふやすことによってカバーしていくのかとい
体が都道府県だったり、政令市に1カ所だっ
うのは、一体的に議論し、一緒にアイデアを
たり、小さな市で1カ所だったり、カバーし
出していけるといいのではないかと思ってい
ている範囲がばらばらです。一番望ましいの
ます。
は単年度事業ではなくて、さっきの話で言う
Q:この事業を行うに当たっての収益モデル
と、この子に高校在学中に30万かけたけれど
というか、内閣府からの予算以外の部分でど
も、生活保護から抜ければ半年か1年でペイ
ういったことを現在、あるいは将来的に収益
するじゃないかというような、長いスパンで
という点でお考えなのか。
安定できるような制度になったらいいと思っ
A:パーソナル・サポートに関しては、相談
ています。
とコーディネートの業務になりますので、基
それに関して、やはり福祉事務所との連携
本的に第2のセーフティーネットとして公的
は欠かせないだろうと思っていますし、私た
に無償でやるべきだろうと思っています。民
ちも福祉事務所さんと連携をさせていただい
間が収益として考えると、利用者さんから受
ていています。ただ、横浜市で1カ所しかあ
益者負担をしていただかなければならないし、
りません。区役所は18区、プラス寿で1フロ
そうなったときに実際に相談に来られない人
アということで、19福祉事務所があるような
が発生します。これは制度のすき間を埋める
ものですから、それに1カ所というのはちょ
ものですので、ここに関しては公共として無
っと単位として大き過ぎるなという感じがし
償で持っていただかなければいけないものだ
ています。もう少し福祉事務所さんと顔の見
と思います。野洲市さんとか京丹後市さんは
える連携がとれつつ、やはり生活保護の手前
市役所直営でやっていますから、直営でやっ
の方々もしっかり支えるようなパーソナル・
てくださってもいいのですが、本来は市役所、
-64-
区役所でやるべきことを民間に委託している
というようなスキームが望ましいだろうと思
います。
もう1つ、先ほど10代の子たちの例でお話
しした職業体験とか、そこからの就労という
コンテンツに関しては、企業が絡んできたり
します。先週か先々週ぐらいに、田奈高校で
やっているものとは違う事業スキームとして、
バイターンという取り組みをニュース番組で
取り上げていただいたのですが、今は新しい
公共のモデル事業として出ているのが、だん
だん地域の方が自分の地域で若い人たちを育
てるというようなまちづくりの一環になって
いって、皆さんの寄附だったりとか、そうい
ったもので賄えるようになってくるといいな
と思います。
パーソナル・サポートはいろいろな側面が
あると思いますが、ある層の相談、コーディ
ネートに関してはやはり無料で提供するとい
うことで、収益モデルというよりは、より効
果的な方法で運営するにはどうしたらいいか
ということを考えるのかなと思っています。
─了─
-65-
パーソナル・サポート・サービスの
背景・効果・課題
本田由紀
(東京大学大学院教育学研究科教授)
1
本報告の目的
1.PSSが必要とされる社会的背景を解説する
2.PSSの特徴を解説する
3.PSSの対象層の状態・特徴を把握する
→支援開始時に把握した属性等の検討
4.PSSの効果を検討する
→支援開始時と一定期間の支援を受けた後
の二時点間における主観的・客観的な評価指
標の変化の検討
5.PSSの可能性と課題を検討する
2
-67-
PSSが求められる社会的背景
3
戦後日本型循環モデル(バブル経済崩壊まで)
政府
自営等
産業政策
非正社員
正社員
・長期安定雇用
・年功賃金
父
新規労働力
賃金
家族
教育
子 教育費・教育意欲
母
・新規学卒一括採用
・高い若年労働力需要
・公的な教育支出の少なさ
・「教育ママ」
4
-68-
戦後日本型循環モデルの破綻(90年代~現在)
政府
何の支えもなく複合
的な課題を抱える
個人の増加
自営等
非正社員
産業政策
個人
周辺的正社員
セーフティネットの
切り下げ
中核的
正社員
離学後に低賃金で
不安定な仕事に就
かざるを得ない層の
拡大
新規労働力
賃金や労働時間など
の条件が劣悪化
賃金
母
母父
教育
教育費・教育意欲
家族
子
教育費・教育意欲の家庭間
格差の拡大
PS
5
PSSの特徴
(「パーソナル・サポート・サービス」について~モデル・プロ
ジェクト開始前段階における考え方の整理~平成22 年8 月
31 日 パーソナル・サポート・サービス検討委員会」より)
6
-69-
7
8
-70-
9
10
-71-
11
12
-72-
13
14
-73-
出典:「パーソナル・サポート・サービス」について(3)~23 年度モデル・プロジェクトの実施を踏まえた
15
中間報告~ 平成24 年8 月1 日 パーソナル・サポート・サービス検討委員会
PSSの5つの理念①
16
-74-
PSSの5つの理念②
17
PSSの5つの理念③
18
-75-
PSSの5つの理念④
19
PSSの5つの理念⑤
20
-76-
PSS対象層の状態・特徴
21
H23年度末時点の実績
22
-77-
全国からの抽出サンプル分析
出典:『パーソナル・サポート・サービスの評価手法等に関する調査報告書』
23
24
-78-
【島根データ分析】
支援開始時の状態①
年齢層別 性別
年齢層別 最終学歴
16
14
14
1
12
12
2
10
10
2
0
8
10
9
4
8
3
2
2
2
2
1
1
1
3
6
13
6
4
2
8
1
2
4
3
3
7
4
3
4
2
0
0
20代
30代
40代
男性
50代
60代以上
20代
女性
中学
30代
高校
40代
50代
短大・専門学校
60代以上
大学・大学院
25
【島根データ分析】
支援開始時の状態②
年齢層別 疾病の有無
年齢層別 障がいの有無
16
16
14
14
12
12
6
10
2
10
10
8
6
4
2
0
8
5
4
4
9
1
4
1
1
20代
6
2
3
4
4
6
9
4
2
3
5
6
4
3
1
0
30代
あり
40代
既往
50代
60代以上
なし
20代
30代
40代
あり
50代
60代以上
なし
26
-79-
【島根データ分析】
支援開始時の状態③
年齢層別 就労状態
16
14
12
なし
10
その他
11
8
7
アルバイト・パート
6
7
4
正社員
1
4
2
2
1
1
1
1
20代
30代
40代
0
契約社員
8
1
1
1
50代
2
60代以上
27
【島根データ分析】
支援開始時の状態④
年齢層による違いが見られる
問題領域
年齢層別 問題領域の数
16
80
(%)
14
70
2
12
60
3
1
1
10
1
1
1
8
4
6
4
2
1
50
2
40
4
30
2
1
1
3
3
5
20
2
5
2
2
30代
40代
10
2
0
20代
1
2
3
4
50代
5
60代以上
6
0
20代
生活
30代
40代
メンタルヘルス
50代
60代以上
家族
28
-80-
【島根データ分析】
支援開始時の状態(まとめ)
• 年齢層により問題状況の特徴が異なる。
• 20代は人間関係・メンタルヘルス(5名中2名
はいじめ・登校拒否・ひきこもりの経験あり)
の問題
• 30代・40代は疾病・障がいおよび複合的な問
題
• 50代・60代は生活・就労スキルの問題
29
PSSの効果
30
-81-
【島根データ分析】
効果検証に用いる指標
• 主観的評価:「生活に対する満足感」を、支援
対象者自身が0~100点のスコアで評価した
結果および対象者の自由記述による感想
• 客観的評価:14項目(具体的には次のシート
を参照)についてPSが対象者の状況を1~1
0点のスコアで評価したもの
31
状況項目の内容
1.住居の継続性(1:定まった住居がない~10:長期継続的に住居が確保されている)
2.収入の安定性(1:収入なし~10:自活できる収入がある)
3.日常生活状況(1:基本条件に大きく欠けている~10:基本条件が十分に整っている)
4.心身の健康状態(1:健康状態が悪く管理もできていない状態~10:健康状態に問題はない)
5.家族・親族関係の課題(1:深刻な課題がある~10:全く課題がない)
6.社会的なつながり(1:社会的な接点がなく、孤立感が大きい~10:社会的な接点があり、孤立
感が小さい)
7.コミュニケーション(1:全くとれない~10:十分にとれる)
8.金銭的な課題(1:解決すべき課題を抱えているがその認識がない~10:課題はない・解決し
ている)
9.就労に向けた準備(1:意欲がなく、準備も全くしていない~10:十分に準備をしてきており現
実性もある)
10.就労のためのスキル(1:一般的なスキルや本人が望む職業に必要なスキルがない~10:一
般的なスキルがあり、本人の望む職業に必要なスキルを習得している
11.就労状況(1:無職状況にあり、求職活動もしていない~10:継続的で安定的な就労)
12.就労上の課題(1:就労環境に大きな課題があるがその認識がない・薄い~10:課題はない・
解決している)
13.志望の具体性(1:具体的な志望する仕事はない・イメージできない~10:志望が明確になっ
ている)
32
14.仕事への意欲(1:働く意欲が持てない~10:積極的な意欲がある)
-82-
【島根データ分析】
PSSの効果:年齢層別①
満足感の変化
(%)
70
60
49.8
50
20代
30代
40
40代
30
50代
25.5
60代以上
20
合計
10
0
支援開始時
支援後
33
【島根データ分析】
PSSの効果:年齢層別②
状況項目スコア合計値の変化
115.0
110.0
105.0
102.7
20代
30代
100.0
40代
95.0
90.0
50代
60代以上
90.5
合計
85.0
80.0
支援開始時
支援後
34
-83-
【島根データ分析】
PSSの効果:年齢層別③
年齢層別 状況項目スコアの変化
※青いセルはスコア1を超える改善が見られた項目、赤いセルは改善が見られない項目。
赤字はスコアが低く、改善も大きくない項目
住居の継続性 収入の安定性 日常生活状況
支援開
支援開
支援開
支援後
支援後
支援後
始時
始時
始時
合計
7.1
7.7
4.8
6.6
7.2
8.0
20代
6.4
7.0
5.8
7.4
7.0
7.8
30代
7.7
8.3
5.5
6.0
8.3
8.7
40代
7.8
8.1
4.1
6.7
7.9
8.7
50代
6.9
7.4
4.0
5.8
6.4
7.1
7.4
5.4
7.9
6.6
7.8
60代以上 6.4
就労に向けた
準備
支援開
支援後
始時
合計
6.0
7.4
20代
5.4
6.8
30代
4.9
7.0
40代
6.8
7.8
50代
5.9
7.2
8.2
60代以上 6.9
心身の健康状
態
支援開
支援後
始時
6.4
7.0
6.8
6.8
6.1
7.0
6.0
6.7
6.0
7.0
7.3
7.3
家族・親族関係
の課題
支援開
支援後
始時
6.5
6.8
6.0
4.8
7.0
7.4
5.6
7.0
6.0
6.3
7.7
7.9
社会的なつな
かり
支援開
支援後
始時
5.8
6.6
6.0
6.8
6.5
6.7
5.8
6.6
5.2
6.4
5.9
6.8
コミュニケーショ
金銭的な課題
ン
支援開
支援開
支援後
支援後
始時
始時
7.3
7.5
6.8
7.6
6.8
7.2
7.8
7.8
7.1
7.4
7.7
8.0
6.6
7.1
6.1
7.1
7.6
7.6
6.6
7.6
8.0
7.9
6.1
7.7
就労のための
就労状況
就労上の課題 志望の具体性 仕事への意欲
スキル
支援開
支援開
支援開
支援開
支援開
支援後
支援後
支援後
支援後
支援後
始時
始時
始時
始時
始時
6.7
7.2
4.7
6.2
8.9
9.5
5.8
6.9
6.8
7.9
4.0
5.8
2.8
5.6
8.8 10.0
5.2
5.4
5.6
6.8
6.4
5.7
5.0
4.7
7.6
8.7
3.4
5.0
5.7
7.7
8.3
8.8
5.6
6.9
9.7 10.0
6.7
7.8
7.0
8.0
6.0
7.1
4.2
6.1
9.1
9.2
5.9
7.6
6.4
7.8
7.2
8.0
5.0
7.3
9.2 10.0
7.4
6.9
8.6
8.6
35
【島根データ分析】
PSSの効果:年齢層別(まとめ)
• 全体として生活満足感は倍増している。
• 50代・60代以上の高年齢者は支援開始時の満
足度は低いが向上の度合いが大きい。
• 全体として状況項目スコアは向上している。
• 20代・30代で状況項目スコアが相対的に低い。
• 就労や収入について総じて明確な改善が見られ
るが、健康状態、家族・親族関係、コミュニケー
ションについては特に若年層と高齢者で向上が
困難な場合がある。30代では疾病や障がいのた
めか、就労スキル・就労状態・収入の安定性の
向上が明確でない。
36
-84-
【島根データ分析】
PSSの効果:問題領域数別
問題領域数別 満足感の変化
問題領域数別 状況項目スコア
合計値の変化
60
50
110.0
105.0
40
1or2
30
100.0
3以上
20
10
3以上
80.0
支援開始時
住居の継続性
支援後
収入の安定性
日常生活状況
支援開始時
心身の健康状
態
家族・親族関係 社会的なつな
の課題
かり
支援後
コミュニケーショ
金銭的な課題
ン
支援開
支援開
支援開
支援開
支援開
支援開
支援開
支援開
支援後
支援後
支援後
支援後
支援後
支援後
支援後
支援後
始時
始時
始時
始時
始時
始時
始時
始時
7.4
8.3
5.1
7.0
7.8
8.7
7.3
7.4
7.6
7.9
5.8
7.1
7.2
7.7
7.1
8.0
6.6
7.0
4.5
6.1
6.4
7.0
5.1
6.4
5.0
5.4
5.9
6.0
7.5
7.3
6.3
7.1
就労に向けた
準備
1or2
3以上
1or2
90.0
85.0
0
1or2
3以上
95.0
就労のための
スキル
就労状況
就労上の課題
志望の具体性
仕事への意欲
支援開
支援開
支援開
支援開
支援開
支援開
支援後
支援後
支援後
支援後
支援後
支援後
始時
始時
始時
始時
始時
始時
6.3
7.7
6.5
7.2
4.5
6.1
9.2
9.6
6.1
7.3
7.2
8.2
5.6
7.0
7.1
7.2
4.8
6.3
8.5
9.4
5.2
6.3
6.2
7.5
37
【島根データ分析】
PSSの効果:問題領域数別(まとめ)
• 困難の複合性が軽い層(問題領域数が1つない
し2つ)と比較して、困難の複合性が高い層(問
題領域数が3つ以上)では、支援開始時の満足
度や状況項目スコアが低いが、いずれの場合も
向上が見られる。
• 困難の複合性の高い層では、特に家族・親族関
係、社会的なつながり、コミュニケーションについ
てスコアが低くかつ向上が難しい場合がある
が、収入や就労に関する事柄は複合性の軽重
に関わりなく向上が見られる。
38
-85-
【島根データ分析】
PSSの効果:支援項目(モジュール)数別
支援項目数別 状況項目スコア
合計値の変化
支援項目数別 満足感の変化
60
120
50
110
40
100
2以下
30
3以上
20
90
2以下
80
3以上
70
10
60
0
支援開始前
支援開始前
支援後
心身の健康状
態
支援開
支援開
支援開
支援開
支援後
支援後
支援後
支援後
始時
始時
始時
始時
2以下
7.4
7.9
5.1
6.8
7.3
8.1
6.8
7.2
3以上
6.3
7.1
4.1
6.1
6.9
7.6
5.4
6.6
住居の継続性
就労に向けた
準備
支援開
支援後
始時
2以下
6.7
8.0
3以上
4.2
6.1
収入の安定性
日常生活状況
家族・親族関係
の課題
支援開
支援後
始時
6.8
7.1
5.8
6.1
社会的なつな
がり
支援開
支援後
始時
6.1
7.0
5.0
5.7
支援後
コミュニケーショ
金銭的な課題
ン
支援開
支援開
支援後
支援後
始時
始時
8.1
8.2
6.9
7.7
5.2
5.9
6.4
7.4
就労のための
就労状況
就労上の課題 志望の具体性 仕事への意欲
スキル
支援開
支援開
支援開
支援開
支援開
支援後
支援後
支援後
支援後
支援後
始時
始時
始時
始時
始時
7.2
7.8
4.8
6.7
9.3
9.6
6.6
7.8
7.4
8.3
5.6
5.8
4.2
4.8
8.0
9.1
3.8
4.7
5.1
6.7
39
【島根データ分析】
PSSの効果:支援項目数別(まとめ)
• 支援項目数が3以上におよんでいるケースは問
題領域数も相対的に多く困難の重層性が高いた
め、支援項目数が少ないケースと比べて満足感
および状況項目スコアが低い。しかし、丹念な支
援によりいずれについても向上が見られる。
• 健康状態や就労上の課題、就労意欲などは丹
念な支援によって改善が見られるが、対人的な
課題や就労のスキル・志望などについては、支
援を一定程度重ねても向上が難しい。
40
-86-
【島根データ分析】
対象者の感想より
•
•
•
•
•
•
•
「これまでいろいろな支援施設で相談をしたが、どこでも真剣に話を聞い
てもらえない気がしていつも不満を感じていた。PSCで相談するようになっ
て少しだけ気持ちを解ってもらえた気がして嬉しい。」
「このたびとてもいい形で再就職を果たすことができた。長く勤められる
仕事がないことにすごく不安と諦めを自分の中で感じていたので、仕事
が決まって本当にうれしい。心配の連絡をもらってとてもうれしかった。」
「PSCのお蔭で抱えていた労働問題は解決したが、生活に関しては父親
が亡くなって以降悪くなる一方である。こちらの方もPSCの支援で何とかし
てほしい。よろしくお願いします。」
「1年以上かかってやっとのことで就職が決まった。体力的にやれるか心
配はあるが、とにかく今はホッとしている。」
「やっと少しずつ状況が変化してきた。自立に向けてこれからもっと頑張
ろうと思っている。連絡をもらいいつも気にかけてもらっていることをあり
がたく感じ、頑張ろうという励みにもなっている。」
「調子のいい日も悪い日もあるけれど、何とか休まず訓練に通ってます。
2月末まで懸命に学んでしっかり知識や技術を身に付け、最終目標であ
る就職に結び付けたいと思っています。」
「基金訓練に繋げてもらえて本当に感謝している。今後の仕事にも生か
していきたいので、来年絶対に資格取得を目指したい。生活リズムも戻
り、今はとても順調にいっている。」
41
【島根データ分析】
(続き)
•
•
•
•
「1週間の間に、楽しいこともあれば落ち込むことも多いです。溜め込んだ
1週間分の思いをPSCで聞いてもらって、少し元気になってまた次の1週間
に向かっていこうという気持ちになる。PSCは今の自分にとってそんな存
在です。これからもよろしくお願いします。」
「あんなに悩んで履歴書づくりをした日々が遠いことのように思われま
す。PSCで相談をして、就職も決まり本当によかったと思っています。常用
雇用の就職に向けてこれからも就職活動は続けていきますのでよろしく
お願いします。」
「パート採用での仕事が決まり、時間も延長してもらって本当に喜んでい
る。ただ、それも長期的に望めるものではなくいつまた半日勤務に戻るか
不安がとても大きい。慣れない仕事だし大変だがそんなことも言ってはい
られないのでがんばろうと思う。色んな人に助けてもらってここまで来れ
た。心配して連絡してもらってとてもありがたい。また何かあったら相談し
たい。」
「退職した会社から約束どおり和解金を受け取ることが出来、ローンの支
払もこれで何とか目途が付きました。」
42
-87-
PSの可能性と課題
43
今回の検証からわかること
• 対象者の年齢層により抱えている困難の特
徴が異なる。若年層は家族やメンタルヘル
ス、壮年層は疾病・障がいや複合困難、高齢
層は生活・就労スキルの問題が大きい。
• そのそれぞれが克服しにくい性質をもち、就
労を阻害する要因となっている。
• PSSは主観的にも客観的にも対象者の状況を
改善する効果をもっている。特に就労に向け
ての状況に改善が見られる。ただし、対人関
係や就労スキルなどは、PSSによってもすぐに
は改善されにくい難しい課題である。
44
-88-
PSSの課題
• 現在の社会状況下でPSSの存在はきわ
めて重要かつ有効だが、PSSだけに問題
解決の負荷をかけてはならない。
• PSSという事業によって可視化されてゆく
諸問題を、社会全体(社会保障、労働市
場、地域など)で受け止め対処してゆく
ような変革が必要。
45
新たな循環モデル
アクティベーション
セーフティネット
NPO
NPO・社会的企業
・社会的企業
政府
ジョブ型正社員
・教育の職業的意義
・リカレント教育
・ワークライフバランス
・同一労働同一賃金
母
家族
教育
・保護者や地域に「開かれた学校」へ
・学校が家族へのケアの窓口に
46
-89-
+
横浜パーソナル・サポート・サービス
「生活・しごと∞わかもの相談室」概要
事業統括・PS 鈴木晶子(臨床心理士)
+
2
パーソナル・サポート・サービスとは
 政府の新成長戦略(平成22年6月18日閣議決定)
に基づき、様々な生活上の困難に直面している方
に対し、個別的・継続的・包括的に支援を実施す
る新しいサービスのモデル事業。
 様々な困難に直面し、社会から排除されている方
を寄り添い型で支援し、社会に包摂していくこと
を目指す。
 横浜では若者を切り口に事業を展開している。
 横浜PSでは15の団体からパーソナル・サポーター
が集まって一般社団法人インクルージョンネット
よこはまを設立し、それにより運営。また、横浜
弁護士会、神奈川県司法書士会から法律家が活動
をサポート
-91-
3
現在のモデル・プロジェクト実施地域
岩手県
釧路市
新潟県
島根県
山口県
福岡市
岡山市
香川県
岐阜県
野洲市
箕面市
豊中市
徳島県
京都府
浜松市
吹田市
大阪市
八尾市・柏原市
野田市
柏市
⾜⽴区
横浜市
相模原市
沖縄県
24年度以降
事業開始予定
+
⻑野県
京丹後市
4
横浜パーソナル・サポート・サービス
•
「生活・しごと∞わかもの相談室」として、15歳から39歳までの
若者を切り口に支援
•
神奈川の交通の要所・横浜駅から徒歩8分
•
重点取り組み
困難を抱える生徒の
多く在籍する高校との
連携“田奈PASS”
– 児童養護施設等
との連携の模索
 少年鑑別所との協力
 中間的就労等も含めた
出口支援の強化
–
-92-
+
5
横浜パーソナル・サポート・サービス
構成団体
◆運営団体
一般社団法人インクルージョンネットよこはま
◆構成団体
NPO法人楠の木学園
NPO法人ユースポート横濱
NPO法人リロード
株式会社シェアするココロ
寿支援者交流会
NPO法人かながわ女のスペースみずら
NPO法人かながわ外国人すまいサポートセンター
社会福祉法人いきいき福祉会
神奈川ソーシャルインクルージョン推進機構
NPO法人遊悠楽舎
株式会社よりよく生きるプロジェクト
NPO法人コス援護会
NPO法人ワーカーズ・コレクティブ協会
労働者協同組合(ワーカーズコープ)センター事業団
NPO法人ワンデーポート
※ 横浜弁護士会/神奈川県司法書士会
+
若者支援
若者就労支援
若者支援
若者支援
野宿者支援
女性支援(DV被害者等)
在住外国人支援
高齢者支援
社会的排除・孤立の解消
若者支援
就労支援・若者支援
若者支援・社会的排除・孤立の解消
働く場づくり・就労支援
働く場づくり
ギャンブル依存支援
法律相談
横浜パーソナル・サポート・サービス
登録者数推移
-93-
+
+
横浜パーソナル・サポート・サービス
月別相談件数推移
8
横浜パーソナル・サポート・サービス
登録者男女別
女性
40%
男性
60%
2010年12月24日の開所から2012年度上半期までの登録者636名分のデータ
-94-
+
9
横浜パーソナル・サポート・サービス
登録者年代別
50代
6%
20-24
14%
40代
14%
35-39
19%
10代
7%
60代以上
4%
25‐29
18%
30-34
18%
2010年12月24日の開所から2012年度上半期までの登録者636名分のデータ
+
10
横浜パーソナル・サポート・サービス
来所経路
巡回相談等の
地域活動
1%
その他
6%
当事者からの直
接連絡・相談
(訪問、電話)
40%
支援関係機関か
らの紹介
53%
2010年12月24日の開所から2012年度上半期までの登録者636名分のデータ
-95-
+
11
横浜パーソナル・サポート・サービス
登録者の抱える問題領域
2%
11名
その他
16%
101名
13%
80名
法律関係
(事業不振・多重…
教育関係
(いじめ・不登校…
33%
213名
家族地域
(DV・虐待)
47%
299名
メンタル
(うつ・発達障が…
9%
60名
健康
(疾患等)
30%
192名
生活関係
(衣食住)
71%
451名
仕事関係
(失業・労働問題)
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
2010年12月24日の開所から2012年度上半期までの登録者636名分のデータ
+
登録者就労支援状況と就労実績
うち 84名が就職
15名が中間的就労へ進む。
就労支援に
ついては他
の就労支援
機関に紹介
6%
(39名)
就労支援以外の
支援を実施
48%
(306名)
就労支援を含む
支援を実施
46%
(291名)
0%
0%
0%
2010年12月24日の開所から2012年度上半期までの登録者636名分のデータ
-96-
補足資料:
登録者就労支援と当初の状況内訳定
当初の状況
義
非就労
就労
来所当初就労しておらず、
就労支援も含めたPS支援が必要
(様々な背景を抱える高等学校
等在籍中の10代の若者を含む)
下記のような状況で就労支援も
含めたPS支援が必要
・低賃金・不安定就労により転
職を希望している。
・離職を控え次の仕事を探した
い
主として下記の理由で就労支援
が不要・不可能。
・稼働年齢外、子どもに関する
支援を求める主婦、学生等であ
不要
るため、就労支援を必要としな
い。
・精神疾患等を持つため、就労
支援の段階でない
就労しているものの、労働問
題、生活問題、メンタルの問題
等就労以外の問題で生活が行き
詰まっているため。
要
就労支援
「生活支援戦略」に関する厚生労働省案に対する意見書(2012.10.10)の概略ペーパー
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-86.html
+
登録者のうち生活保護関係の方
生活保護
受給者
22%
生活保護
非受給者
78%
生活保護へ行く前の
第2のセーフティネットとして機能
-97-
2010年12月24日の開所から
2012年度上半期までの登録者
636名分のデータ
+
出張相談「田奈Pass」の事業スキーム
時間
•
•
•
相談場所
2時間目
個別相談
3時間目
個別相談
4時間目
個別相談
昼休み
図書館(司書室で食
事)
5時間目
個別相談
放課後
図書館(司書室)
•
•
個別相談は進路相談室B
個別相談の際、生徒たちは公欠となる
相談員は原則2名で対応するが、
状況に応じて1名(同時に2カ所で相談
をすることも多い)
相談がない時は、図書館で待機しつ
つ、
交流相談
本の貸し出し、返却業務をマスター
先生!
16:00 担当教師への引き継ぎ
生徒的にはやはり先生のようです。
+
交流型相談と個別相談の関係について
交流型相談
個別相談
相談場所
主に図書館
主に相談室
出会い方
偶然また、生徒の主体性による。 生徒の希望及び、教師の促しによる。
生徒層
教師がノーマークの生徒。
教師が気になっている生徒。
内容
主にグループで、お喋りの中か
ら、相談に発展していくケース
や、お喋りだけで信頼関係構築
で終わるケースも。本の貸し出
し返却業務をして、生徒との接
点を作っている。
高度な個人情報を含む相談や、継続
的な関係性の中から、中退を予防し、
徐々に就労意欲を換気するケース。
教員にわかりづらい見立て的相談等
引き継ぎ
必要な情報のみ引き継ぎ
引き継ぎをする
その後の
動き
必要があれば個別相談でじっく
り話を聞く
必要がなくなれば、図書館でのんび
りとお付き合い
最大の狙いは、交流型相談や、学内行事の参加等により、
個別相談への心理的ハードルが下がること。個別相談に繋がらなくても
「生活・しごと・わかもの相談室」に繋がる可能性を上げること。
-98-
+
田奈PASS実績(2012年度上半期)
校外対応件数
交流型相談 340件
1件
保護者
個別相談件数
11件
卒業生女
2件
卒業生男
6件
教員とのコンサルテーション
保護者
5件
卒業生女
5件
卒業生男
2年生女
0
2年生男
0
1年生女
0
1年生男
0
継続相談対応実人数
27件
18件
3年生男
2年生男
12件
1年生男
+
8名
3年生女
4名
8名
2年生女
10件
5件
0名
3年生男
3件
1年生女
3名
卒業生女
卒業生男
2年生女
19件
1
3年生男
1件
3年生女
4件
3年生女
92件
2名
2年生男
1年生女
1名
1年生男
1名
27名
少し事例のご紹介・・・
パーソナル・サポート利用者の手記(1)

私は約10年間家に引きこもっていました。私のせいで両親が離婚し
母は家を出ました。父は単身赴任していてたまにしか家に戻ってきま
せんでしたが、家に戻ってくる度、引きこもりの私にとても厳しく接
して来ました。

今年の春、そんな父も定年を迎え、赴任先から家に戻ってくることに
なり私はこれ以上この状態で家にいることは出来ないと思い死ぬつも
りで富士の樹海に向かいました。

途中でネットカフェに立ち寄りこれから死ぬと書き込みをしたら「自
分の家に来なさい」とか、「死んだらダメ」だとか沢山の書き込みが
あり、その中に 「わかもの相談室に連絡してみるように」という情報
も書かれていました。こんなにみんなが私の事を心配してくれるとは
思いもしなかったので正直少し驚きま したが、相談室に行ってみよう
という気になり電話をして行くことにしました。
-99-
+
パーソナル・サポート利用者の手記(2)
+

相談室に行くのは最初少し緊張しましたが、みんな良く来たと喜んでくれ、そ
の日から数日間泊まる宿を見つけてくれました。

その後、役所と交渉し生活保護受給のサポートやアルバイト紹介もしてもらい
ました。

仕事をするようになって知り合いもどんどん増え一緒に働いている人たちと出
かけたり飲みにも行ったりと今は外出する機会がとても多くなりました。家に
いた時とは天と地ほどの違いです。今、私は基金訓練を受けています。死にた
いという考えはなくなってきて、むしろ一生懸命大学生が働いている姿を見な
がら今まで私は何をしてきたのだろうと考えたりしています。

これから色々なことを経験しやって行きたいと思っています。そんな私をみて
急に変化しすぎると心が折れるよと助言をしてくれる人もいます。だからこれ
からは少しずつ進んで行きたいと思います。

この相談室を知り来ることができて本当に良かったと思います。いつか今まで
お世話になった方々に恩返しができるよう頑張りたいと思います。
10代施設入所中の女性の事例(1)

彼女は児童養護施設に入所していますが、児童養護施設は入所年齢制限が18歳
のため、高校卒業と同時に退所しなければなりません。
そこで卒業までの1年の間に「仕事」と「住まい」を見つけなければならず、
将来に対する不安ばかりが大きくなり、考えだすと混乱してしまうため、自分
の課題に向き合うことが出来ず、行動に移せない状態でした。
2年生の時に進路指導担当の先生からパーソナル・サポート・サービスを紹介
され、「とりあえず行ってみる」と担任に付き添われ来所されました。

初回は自己紹介や世間話から、パーソナリティを伺いながら、相談時間の最後
に「仕事」と「住まい」を密接した一つの問題として捉えるから難しくなるの
で、それぞれ一つずつ解決できるよう一緒に考えましょうと提案。
一方的な「~しなさい」ではなく、一緒にという言葉に安心感があったのか、
月1~2回の継続相談をすることになり、相談というかしこまった雰囲気ではな
く、日常的な会話を通し、本人の希望や、何に不安を感じ、何を課題と感じて
いるのかを紐解いてきました。
-100-
+
+
10代施設入所中の女性の事例(2)

「仕事」についてのイメージをつかむため、学校の長期休暇を利用して、生
活・仕事∞わかもの相談室の連携団体での職場体験を実施しました。
就労経験のない彼女にとって、体験とはいえ「仕事」をするということへの
ハードルは高く、初回は担当のパーソナル・サポーター(以下PSと略)が同
行。
声はやや小さかったものの事前にPSと練習した挨拶はしっかりと出来ていまし
た。職場体験後に行った本人との面談では、「ありがとう」と声をかけて貰え
ることが嬉しい、最後に「お疲れさま」と職場から送り出されるともっと頑張
ろうと思う、「仕事」はもっと怖いものだと思っていた、と話してくれまし
た。

また、PS、学校、児童相談所、施設関係者の四者による職場体験の振り返りを
行い、そこで出てきた課題を学校生活の中で取り組むもの、施設での日常生活
を通して取り組 むもの、パーソナル・サポート・サービスでの支援を通して
取り組むもの等に整理して、本人にフィードバックし、自己理解を深めるとと
もに、それぞれの環境 で支援できる体制を整えました。
10代施設入所中の女性の事例(3)

しかし、決して明るい材料ばかりではなく、相談を継続していく中で新た
な困難が浮かび上がりました。
当初、PSは彼女が人とのコミュニケーションがあまり上手くないのは、
生育歴が原因と考えていましたが、冗談が通じない、感情の制御が不得
手、直前の出来 事に対する注意が持続しない、一方で特定の話題や出来
事に対し深い関心を示す、といった発達障がいの傾向が垣間見えることが
多く、臨床心理士の資格を持つ PSによる面談を行った結果、障害者手帳
取得の促しをすることになりました。

彼女が18年間感じてきた「生きづらさ」の背景に発達障がいがあった可能
性を指摘し、障害者手帳を取得すると、グループホームへの入居が可能に
なるため、 施設退所後も共同生活を送ることで社会的孤立を防げるとい
うメリットや、自立支援をはじめとする様々な福祉サービスが受けられる
ようになることを伝えまし た。
彼女が18年間の人生を通じて感じてきた、困惑や不安、怒りに耳を傾
け、一緒に泣き、励ましながら、相談の中で培ってきた信頼関係を信じ
て、最後に「検査を受けてみる?」と聞くと「わかりました」というはっ
きりとした言葉が返ってきました。
現在、児童相談所と連携し、障害者手帳の申請をしています。
-101-
+
10代施設入所中の女性の事例(4)

手帳取得後の準備として、現行の制度では高校新卒求人には障がい者枠が存在しないの
で、管轄のハローワークへ高校新卒者の障がい者求人開拓のための積極的な働きかけを行
い、ご理解を頂きました。今後もこういったケースに取り組んで頂けるよう、継続して連
携していく予定です。

また、類似相談が近年増加傾向にあるため、必要に応じて直接企業に理解を深めて頂くた
めの説明や、社員としての雇用にこだわらず、アルバイトでの受け入れ先の開拓も積極的
に行なっていきたいと思います。
ハローワークとの調整の結果、年末から年明けを目処に就職活動を開始する予定です。
就職希望の3年生は夏から就職活動を開始しますが、同級生から遅れているのではなく、
就職のための準備期間をより長く確保できる、と本人も前向きに捉えています。

現在も経過報告という形で相談継続中ですが、来所当初の抱え込んでいる雰囲気は感じら
れず、伏し目がちだった視線がよく合うようになって、担当PS以外のスタッフにも笑顔を
向けてくれるようになっています。
卒業後も「生活・しごと∞わかもの相談室」を、困ったらいつでも来られる場所として
使って頂けるよう、これからもさらなる関係づくりをしていきたいと思います。
-102-
12月14日 開催
更生保護の現状と社会福祉の関わり
(更生保護法人東京実華道場ステップ竜岡 三村 学 氏)
日 時
平成24年12月14日(金)
13:30~16:40
場 所
東京区政会館3階35教室
「更生保護の現状と社会福祉の関わり」
話しする内容は私が勤務するステップ竜岡の
更生保護法人東京実華道場 ステップ竜岡
話として聞いていただきたいと思います。
三村 学 氏
更生保護施設に入所できる人
はじめに
どのような人が更生保護施設に入所してい
現代社会において、罪を犯した人は排除さ
るのか?というのは、資料の4ページ目を参
れるという風習が見受けられます。しかし、
照してください。触法者に限定され、当施設
誰もが望んで失敗している訳ではありません。
に入所する人のほとんどが矯正施設を仮釈放
切羽詰まってやむを得ず犯罪に手を染めてし
で出所した人達で占められています。
まった人、困った時に相談するすべを知らな
更生保護施設で生活できる期間
い人、幼いころから犯罪を強要された人達も
いるのです。偏見、先入観、社会の陰性感情
保護観察に付されている人の場合は、保護
というものが、被保護者の更生意欲の阻害要
観察期間内は在所することが可能です。少年
因となっています。罪を犯した人を社会で受
など保護観察期間が長い人は、2~3年施設
け入れるためには、更生保護のことを理解す
で生活することもあります。しかし、ほとん
る必要があることは言うまでもありません。
どの被保護者が仮釈放で入所するため、在所
少しでも更生保護のことを理解していただけ
期間は刑期満了までが一般的です。仮釈放期
たら幸です。
間を含め、法定限度は6ヶ月と定められてお
り、6ヶ月以内に当施設を退所し、社会復帰
更生保護施設の実情
を果たすことになります。平成22年度、更
更生保護施設は全国に104箇所設置され
生保護施設在所日数の全国平均は78日間で
ていますが、処遇の標準化がなされておらず、
した。とても78日では、社会内に居場所を
各更生保護施設により、受け入れ基準、職員
確保することは困難であり、刑期満了日以降
の意識や対応、配食、規則など大きく異なっ
も延長を希望する人が多く、満期後も継続延
ています。更生保護施設は受託業務であり、
長して退所先確保に向けた支援を行っている
委託費のみの収益で運営している施設がほと
のが現状です。ステップ竜岡では、23年度
んどです。全国の3/4の施設が20人以下
アパートを契約した被保護者の平均在所日数
の小規模施設のため、経済難を訴える施設が
は135日でした。
多いようです。
処遇が標準化されていない以上、本日、お
-103-
更生保護施設に入所する人
刑務所内では称呼番号で呼ばれ、名前のな
被保護者が矯正施設で仮釈放を申請する際、
い環境のため、アイデンティティーや自尊心
が欠落するとも考えられます。
必ず必要になるのが、受け入れ先です。家族
また、トラブルやいじめも多いと聞きます。
との関係が良好な人が更生保護施設に入所し
てくることは少なく、更生保護施設の入所者
逃げ場のない環境のため、人の顔色をうかが
は親族がいない人、何度も受刑を繰り返し、
う力や観察力に長け、過度に周囲の目を気に
親族のサポートを得られなくなった人達で占
する傾向も強くなるようです。
められています。また、親族が高齢のため受
最後に、矯正施設の医療について触れたい
入先として適当でないと判断された人も更生
と思います。公費負担のため制限のある環境
保護施設をやむを得ず希望することもありま
となっており、被保護者は無保険のため、厚
す。初犯者は家族のサポートを得られやすい
労省では無く、法務省が10割負担で医療費
ため、累犯者が更生保護施設を希望する傾向
を捻出しています。財源上どうしても制限が
が多いと言えるかもしれません。
あり、十分な医療を受けられないこともある
ようです。
刑務所の環境を考える
更生保護施設入所者の共通点
それでは、刑務所の環境を少し考えてみた
いと思います。
では、実際に更生保護施設に入所する被保
護者の共通点を考えてみたいと思います。
日本の刑罰は懲役、罰を与えるという考え
方なので、被保護者は厳しい環境に置かれて
圧倒的に多いのは成功体験の乏しい人です。
生活しています。まず隔絶された閉鎖空間で
それ故、ストレス耐性も乏しく、些細なこと
自由のない環境に置かれるため、刑務所を出
であきらめてしまう、気持ちが折れてしまう
所した人は視野が狭く、自己本位になりがち
という傾向が共通してあると感じています。
だと感じています。
次に、受動的で発信力の弱い人です。彼らは
スケジュール管理が徹底され、指示、許可
何か困っていることがあっても他者に助けを
のもとに生活する環境のため、主体性も奪わ
求められず、1人で全てを抱え込んでしまい
れるのではないでしょうか。自発的に行動す
ます。知的障害者や精神障害者にはこの傾向
る必要が無く、言われたことだけやっていれ
が顕著に表れていると言えるでしょう。また、
ば問題無く生活できることに身体が慣らされ、
他罰的で、外部にすべての原因を求める、物
在社会で自己決定を迫られる現実とのギャッ
事を被害的に受けとめる人も多くみられます。
プに戸惑う人も多いように感じます。
社会内に居場所を感じられず、ホームレス歴
-104-
を有する人も被保護者には多い現状から、社
示して雇ってくれる協力企業はありますが、
会生活に馴染めない人達とも言えるでしょう。
建築関係に限定されるため、肉体労働を希望
幼少時から家庭不和の環境で生育した人、
しない被保護者は非開示で就職先を探すしか
自立児童支援施設で生育した人は、親の愛情、
ありません。大手企業など、保証人を求めら
周囲の支え、全うな教育を受ける機会に恵ま
れる就職先も多く、保証人を頼む人がいない
れなかったことが、被保護者に見られる多く
場合は、面接で合格したとしてもあきらめる
の共通した生育歴でもあります。
しかなく、スタートラインに立つことすら許
されないのです。
また、被保護者の中には福祉的支援を要す
る社会的弱者もおり、親から見放される、両
それでは、マイナスをゼロにするにはどの
親の死後、適切な支援を受けられず、受刑を
ように関わっていけばよいのでしょうか。ま
繰り返してしまう人達も含まれているのです。
ず、一人の人間として同じ目線で誠意を持っ
て接し、信頼関係を構築することが何よりも
支援のありかた
重要であると考えています。おざなりな対応
このような被保護者にどのような支援が必
をすると、すぐに見透かされ、被保護者の本
要かを考えたいと思います。まず、被保護者
音は全く聴くことは出来なくなってしまいま
はマイナスからのスタートです。住む場所が
す。一人の人間として真正面から本気になっ
無い、金銭的なゆとりが無い、仕事が無い、
て対峙しないと、信頼関係を構築することは
社会に貢献することもできない状態で社会に
難しいということです。
戻ってくるのですから、物質面では当然マイ
話ができる、安心できる場所を提供するこ
ナスからのスタートであることに間違いあり
とも重要であり、とにかく被保護者の話を聴
ません。また、社会の落ちこぼれと自らを卑
くことに尽きるでしょう。彼らはこれまで数
下し、これから犯罪者として生きていかなく
多くの失敗を重ね、何度も叱られ、多くの人
てはいけないと、悲観的に捉える傾向にある
に見放されてきた経験は多いものの、じっく
ため、精神面でもマイナスからのスタートと
りと話を聞いてもらえる機会に恵まれてこな
言えるでしょう。社会感情、被害者感情があ
かったのです。被保護者の話しに耳を傾け、
るので、刑の執行が終了しても許されないと
聴く姿勢を重要視しているため、時には長時
感じている人は、想像以上に多くいるのです。
間も相談にのることもあります。不満をぶつ
実際に仕事に就くときのことを考えてみた
けられることもありますが、その不満を受け
いと思います。前歴を開示して引き受けてく
止めることも信頼関係の構築には避けられな
れる雇用先はほとんどありません。前歴を開
い過程なのかもしれません。そこで始めて彼
-105-
らが安心できる居場所になっていくのではな
接時、多くの被保護者が社会に出て、自由に
いかと感じています。
なる喜びよりも、社会で生活する事への不安
を感じる気持ちの方が大きいと口にするため、
また、主体性を尊重し、コントロールしよ
うとしないよう心がけています。支援者主導
不安を取り除くよう心がけています。また、
では、本人の意思は明確にならないことが多
会話を通して信頼関係を築くことも大きな目
いからです。こちらが方向付けをして引っ張
的の一つです。どこにゴール設定をするかも
るのでは無く、被保護者とよく話し合い、
大切なことです。ゴールは退所先の確保とな
個々が最終的な自己決定をし、その決定を応
りがちですが、仮釈放期間の長い人や少年に
援していくというスタンスで関わることが重
ついては、やりたいことや興味の把握に努め、
要であると考えています。
ゴールに向けた動機付けを大切にしています。
運転免許の取得や資格取得に興味を示す被保
支援の流れ
護者に対しては、費用や期間を算出し、見込
みがあれば、本人の希望に沿った支援を行い
具体的な支援の流れをお話ししたいと思い
ます。ゴール設定も大切ですが、それ以上に
ます。
目的意識や動機付けがより重要であると言え
まず、身上書が刑務所から東京保護観察所
を通して送られてきます。身上書には生育歴、
るかもしれません。
病歴、犯罪歴、犯罪内容が記載され、場合に
被保護者が当施設に来たとき、まず、何を
よっては裁判資料がついていることもありま
するかというと、身分証明書の取得です。住
す。その資料をもとに引き受けるか施設ごと
所不定の人、無職の人は当然ですが、アパー
の受入基準で判断する訳です。しかし、書面
トで自立した生活を送っていた人も、刑事施
だけでは受入判断に迷うことがありますので、
設に収容されてしまえば、住所の無い状態で
施設面接を実施して、直接本人と会い、受入
社会に戻ってきます。運転免許証を持ってい
の判断を行います。施設面接は受入の可否を
ない人も多く、身分を証明する物が何も無い
目的とするものですが、実際に被保護者との
状態なので、身分証の取得が最初に行われる
会話により、関係性が生まれるため、結果的
手続となるのです。ほとんどの被保護者が当
にほとんどのケースを受け入れることになり
施設に住所を設定し、身分証明書である保険
がちです。
証を取得します。職権消除されている人もい
当施設に入所すると、はじめに規則の説明
るため、戸籍抄本や附表の取り寄せなど、手
を行います。本人の予定や体調に合わせ、入
続が複雑なので、職員が一緒になって行いま
所翌日以降に初回面接を実施します。初回面
す。
-106-
身分証明書を取得した後は、銀行口座の開
当施設では23時に定めていますが、就労自
設、携帯電話の取得、社会生活を送る上で必
立が第一なので、仕事の場合は、門限以降の
要となる準備を進めていき、ようやく就職活
帰寮も認めていて、夜勤で働く被保護者もい
動となっていくのです。
ます。4つ目は、飲酒をしない、また持ち込
就労が決まった後は就労継続に向けた支援
まないことです。飲酒をすると、どうしても
を徹底します。日々何があったか、不満や愚
トラブルになりがちなので、飲酒は禁止して
痴を聞きながら動機づけに配慮します。集団
います。5つ目は、施設の内外に問わず、周
生活なので、どうしてもストレスが溜まりや
囲に迷惑をかけないことです。共同生活なの
すい環境です。ストレスが溜まっている状態
で、被保護者同士がトラブルを起こせば、当
で、さらに職場で何か嫌なことがあると、安
然施設に居づらくなることになりますし、近
易に投げ出してしまうことも少なくないので、
隣住民に迷惑をかけてしまうと施設の運営に
適度に息抜きのできるよう配慮しています。
も影響が出てくるからです。
最初の給料を受け取ったら、ゴールの再設
規則だから守るのではなく、それぞれに理
定を行います。初めて手にした給料、このう
由があることを細かく説明し、協力を要請し
ちの貯蓄目標、退所までの給料の総額といっ
て寮内の規律を維持しています。観察所の長
た具体的な話をしていきます。いよいよ、貯
より委託を受けている以上、規則違反という
蓄が始まり、退所先確保に向けた支援となる
理由で勧告退所させることはできませんし、
のです。
仮釈放を取り消すことも難しいという実情が
施設の規則の概要について少し触れておき
あるからです。
たいと思います。
ステップ竜岡は全国の更生保護施設の中で
就労支援について
は、規則の少ない施設だと思います。絶対に
社会で失敗しないためには何が必要かとい
禁止している約束事は5つしかありません。
うことを考えると、やはり仕事に定着するこ
1つ目は、無断外泊及び無断退所をしないこ
とに尽きると思います。派遣登録とか日雇い
とです。無断外泊を続けると無断退所につな
労働は、当施設では余り推奨していません。
がり、仮釈放が停止されてしまいますので、
具体的にどのような仕事に就くかというと、
本人にとって不利益になるからです。2つ目
サービス業、清掃業、リサイクル業、建築業
は、金銭、携帯の名義、貴重品の貸し借りの
など、土地柄多種多様な仕事に従事していま
禁止です。被保護者同士のトラブルに発展す
す。年齢層は、少年から高齢者と様々で、6
ることが多いからです。3つ目は門限です。
5歳以上の人は清掃業に限定されがちですが、
-107-
福祉機関・医療機関との連携
身体の許す限り頑張っています。施設在所中
は、身体的、精神的、能力的に働くことがで
更生保護施設は住居として認められていま
きない人以外は、何らかの仕事に就いていま
せん。住民票の設定はできますし、保険証も
す。
発行してもらえます。しかし、通過施設と位
置づけられているため、援護の実施機関を所
月払いの仕事では給料を受け取るまでの期
間、所持金が不足してしまうことが多いため、
在区に求めることができないのです。つまり、
金銭的な支援も行っています。当施設入所時
在所中に愛の手帳を取得することが困難な状
の被保護者の所持金は3~4万円が平均で、
況にあるということです。また、心身障害者
10万円以上はごく希です。交通費、食費の
医療費受給者証の再交付も受けられません。
貸与により、安定就労の確保となるため、多
ただ、通過施設だとしても生活保護の相談に
い人は数万円貸すこともありますが、未回収
は乗ってもらえますし、都の心身障害者医療
となることはほとんどありません。
費助成制度の活用もできます。都営交通パス、
貯蓄の話をしたいと思います。仮釈放の遵
タクシー券の発行も可能で、所在区の福祉事
守事項の中には、仕事をすること、貯蓄をす
務所が、非常に理解のある対応をしてくれて
ることと明記され貯蓄が義務付けられていま
いるので、感謝しています。
す。基本的に金銭管理は、本人の自主性に任
知的障害の疑いがあり、手帳を持っていな
せていますが、多くの人が自主的に施設にお
い場合、刑務所に入る前住所地の自治体に相
金を預けています。それは、刑期終了後の延
談するしかありません。しかし、更生保護施
長希望者に対して、当施設にお金を預け入れ
設退所後、前住所地の自治体を再住所地とす
ることを絶対条件にしているからかもしれま
る場合は、相談可能と回答されることが多い
せん。延長を希望する人には、必ず権利義務
ため、在所中の手帳取得は難しく、退所後に
の話をしています。刑期後も法定限度までは
取得するケースが増えています。委託収入は
生活できる権利と併せて、就労自立を果たす
発生しませんが、退所後のフォローアップ支
義務があると、一人ひとりに丁寧に説明して
援として、最後まで関わっています。
います。そのためには、必然的に貯蓄が条件
医療機関との連携についても触れたいと思
となるのです。明確なゴール設定がきていれ
います。入所時に所持金がない人の診療は社
ば、強制しなくとも、自主的に貯蓄に励む真
会福祉法人が運営する無料低額診療事業制度
面目な人は多いということです。
を活用しています。初回に限り、無料診療が
できる制度です。中には、無料で健康診断を
行ってくれる病院も近隣にあります。入院や
-108-
高額な医療費がかかる場合は、やむを得ず、
であり、フォローアップ支援の一環と考えて
所在区の生活福祉課に相談しています。ただ、
います。
医療費に関しては自己負担で治療するよう働
自立の形は多種多様
きかけています。健康保健証を持っていなか
った人も多いので当然かもしれませんが、自
更生保護施設は、永住できる場所ではあり
分の健康に無頓着な人があまりにも多いから
ません。在所期間中に退所先を探して、自立
です。社会生活を営むためには、体が資本で
しなければなりません。更生保護施設でいう
あると健康管理に気を使うよう促しています。
自立は一般的な自立と違い、多種多様で、
個々に合わせた自立があり、社会内で安心し
高齢者について
て定着できる場所を自立先だと考えています。
高齢者に対しても、仕事は必ず就くよう促
そのため、年金が無く、生活がままならない
しています。生活保護で一定の収入が得られ
高齢者や就労自立が困難な精神障害者が生活
るからといって、社会に定着するとは限らな
保護を受給することも、自立の一つの形と言
いからです。無職者の再犯率は有職者よりも
えるのではないでしょうか。
圧倒的に高いのはまぎれもない事実ですが、
更生保護施設の退所先はアパート、親族、
無職者の中には生活保護受給者が多く含まれ
就労先、福祉施設の4つに大別されます。福
ている現実があるからです。当施設で生活し
祉施設には、グループホーム、緊急一時宿泊
ている間は、我々が社会で関われる場所とし
施設、生活保護施設も含まれています。
て機能しますが、退所してしまうと、生活保
更生保護施設ができること
護で一定の収入を得ていても、社会との関わ
りを失ってしまい、孤独を感じる高齢者が多
更生保護施設は何をできるか考えてみたい
いのです。職場は社会と関わる場所としては
と思います。
最適なので、1日数時間でも仕事をすること
まず、社会内で関わりを保てる場所として
を推奨している訳です。
機能することができると言えるでしょう。コ
高齢者に対する今後の支援の在り方ですが、
ミュニケーションは、家族、学校、職場、を
福祉につないだ、生活保護につないだから終
通して学んでいくものですが、家族がいない、
わりというわけではなく、退所した後も継続
学校でいじめられた、職場に馴染めないとい
した関わりを保ち、見守られる機関につなぐ
った経験を経て、コミュニケーションに苦手
ことが何よりも大切となるでしょう。高齢者
意識を持つ被保護者が非常に多く見られます。
に限らず、知的、精神障害者に対しても同様
さらに、家庭内、学校内、職場での関わりが
-109-
最後に、『気付き』の大切さを少しでも理
減るに連れ、頼れる人もどんどん失ってしま
います。困った時に相談する人が誰もいない、
解してもらえたらと思い、18世紀フランス
相談する場所がどこにも無い人たちにとって
の哲学者ルソーの言葉をエミールから引用さ
は、更生保護施設は関われる場所、相談でき
せてもらいました。『気づきがあれば考え方
る場所となり得るのです。
が変わる、考え方が変われば行動が変わる、
次に、更生保護施設は他機関へつなぐ場所
行動が変われば習慣が変わる、習慣が変われ
として機能することができると言えます。福
ば人格が変わる、人格が変われば環境が変わ
祉機関の存在すら知らず、どこに、どのよう
る、環境が変われば運命が変わる、すべての
に相談を持ちかけたらいいか、わからない被
始まりは気づきから』。私の非常に好きな言
保護者も多いのです。その人達に取っては、
葉の一つです。在所中、退所後も、支えてく
更生保護施設は社会への入り口と言えるので
れる人はいる、関われる人はいる、社会に居
はないでしょうか。
場所はある、と少しでも気付いてもらえたら
最後に、被保護者が更生する気持ち、社
という思いを抱いて仕事をしていますので、
会でやりなおしたいと思う気持ちを助長する
最後にこの言葉を載せさせてもらいました。
カンフル剤としての機能です。カンフル剤の
主成分には、『寄り添い』、『関わり』、
福祉につなげた具体例
『支え』、『動機づけ』が含まれています。
関わる上で有効な手法に、肯定的アプローチ
それでは、具体的に福祉につなげた事例を
紹介したいと思います。
が挙げられると思います。些細なことでもい
事例1。年齢48歳。IQ55。両親が他
いので、褒めることです。褒めるにはどうし
界し、姉のサポートを得られず、3回も服役
ても立場が関係するものですが、仲間内でも
することになった人です。平成22年1月2
『すごいじゃん』などの言葉は立場を気にす
1日にステップ押上に帰住。現在では考えら
ることなく気軽に使える言葉の一つです。褒
れませんが、所在区に無理やり頼み、在所中
めることは一人の人間として認めること、尊
に愛の手帳を取得することができたケースで
重することとなり、ひいては、意欲の向上に
す。清掃業で1カ月間稼働しましたが、能力
もつながっていくのです。
的な問題で解雇となり、在所中仕事に就くこ
我々は被保護者の長い人生のうち、ほんの
とはできませんでした。年金を調べた時に、
一瞬しか関わることができません。更生保護
もともと手帳を所持しており、両親が障害者
施設にできることは、僅かしかないのかもし
年金を受給していた事実が判明しました。グ
れません。
ループホーム入所は費用の問題で困難な状態
-110-
でしたが、担当者の理解もあり、支払いを待
至ったケースです。こういった他機関につな
ってもらい、法定限度内でK区にあるグルー
いで色々な方々の支援を得ることが、被保護
プホームに退所することが出来ました。退所
者にとって、更生や定着につながっていくの
と同時に障害者就労支援センターの紹介で仕
ではないでしょうか。
事も決まり、今も同じ職場で働き、社会に定
今後、皆さんのところに、今現在こういう
着しています。今でも週に1回は、施設に連
人がいます、何か力になってくれませんかと、
絡があり、月に1回は必ず遊びに来て近況報
相談を持ちかけることがあるかもしれません。
告をしてくれるので、関係は保たれています。
先入観や偏見は捨て、お話しだけでもぜひ聞
両親が亡くなった時、適切に福祉の支援が得
いていただけたらと思います。最後までご清
られれば、もともと刑務所とは無縁の人だと
聴ありがとうございました。
思います。典型的な累犯障害者と言えるでし
ょう。
事例2 最近の事例で、愛の手帳を取得し
たケースを紹介したいと思います。年齢は3
4歳。IQ66。比較的できることが多く、
発達障害の傾向が強いという印象を持った人
です。中学校を卒業するまでは特殊学級に在
籍していました。両親は離婚して、自立児童
支援施設を転々とする幼少期を送っています。
29歳のときに万引きが始まり、32歳で窃
盗により逮捕され、平成24年2月1日、ス
テップ竜岡に帰住しました。協力雇用主に就
職し、ハローワークや就労先と連携を取りな
がら、就労継続の支援を行い、無事にアパー
ト自立を果たすことができました。退所後に
退所先の自治体に相談を持ちかけ、障害福祉
センター職員、福祉課相談員、臨床心理士、
ハローワーク就労支援担者、作業療法士、当
施設職員でカンファレンスを開催することと
なり、軽度知的障害4度の手帳を取得するに
-111-
大抵は3万円以内で納まります。本人を信じ
(質疑応答)
Q 現在、就労自立を目的とした路上生活
て無条件に貸すということはとても大事なこ
者の施設で働いているのですが、実際に仕事
とで、ほとんどの人が返済しますし、就労定
が決まった場合、給料を受け取るまでの生活
着にも結びついていくのではないかと感じて
費や交通費を施設で貸与することになってい
います。
ますが、自立支援センターでは、雇用主から
就職活動はハローワーク飯田橋内に担当の
雇用証明が出されれば、就労準備貸付金とい
専門官がおりますので、その人に任せきりと
うことで2万8,000円の上限を設けて貸し付
いう状況です。当施設を担当して下さる方が、
けています。初回の給料は5~6万ですし、
被保護者と職種のマッチングをうまくやって
仕事につくまでに約2カ月、実際にいられる
くれるため、就労定着に至るケースが多く、
のが6カ月と考えたときに、そういった就労
信頼できて助かっています。被保護者にもハ
準備貸付は更生施設でも行っているのかどう
ローワークの紹介を優先するよう働きかけて
かということがまず1点。
います。事前に担当官に情報提供することも
それから、以前、実際に企業を訪問して求
ありますし、担当官からこういう感じでした
人をとってきたことがありますが、就労継続
と情報提供もあるので、うまく連携の取れた
に至らない方が結構いて、そういった方に対
チームとして機能していると感じています。
しては専門の職業相談員を設置するべきでは
ないかと思いました。自立支援センターでは
ハローワークの職員が専従でついていますが、
更生施設ではどういう考えを持っていらっし
ゃるかお聞きしたいと思います。
三村 貸付金制度などは特に利用していま
せん。当施設の負担で信頼関係だけで貸して
いるというのが現状です。雇用証明書の発行
も行っていません。雇用証明書を依頼した時
の、雇用主の対応を危惧しているからです。
仮にそのことが、就労に結びつかなければ、
本人たちにとって立ち直れないくらいのダメ
ージになるので、まず、本人の言葉を信じて
貸しています。制限も特に設けていませんが、
-112-
『更生保護の現状と社会
福祉の関わり』
更生保護法人 東京実華道場 ステップ竜岡
補導主任 三村 学
はじめに




現代社会において、罪を犯した人は排除されるとい
う風習が世間では見受けられます。
しかし、誰もが望んで失敗している訳ではありません。
切羽詰まってやむを得ず犯罪に手を染めてしまった
人、困った時に相談するすべを知らない人、幼いこ
ろから犯罪を強要された人達もいるのです。
偏見、先入観、社会の陰性感情というものが、被保
護者の更生意欲の阻害要因となっています。
罪を犯した人を社会で受け入れるためには、更生保
護のことを理解することはとても大切なことです。
-113-
更生保護施設
東京
全国
20施設
104施設
 23区内に15施設
 (更生保護法人101,社
会福祉法人1,NPO法人
 (男子施設14,女子施設
1,社団法人1)
1)
 男子施設90,女子施設7,  多摩地区に5施設
男女施設7
 (男子施設4,女子施設
1)
定員
2,329人 男子成人1,834人 少年314人,女子成人134人,少年47人
※22年度 6,393人
仮釈放者3,479人(54.4%) 刑執行終了者959人(15.0%)
指定更生保護施設

21年度から法務省と厚生労働省が連携し、高齢又
は障害により自立困難で住居もない受刑者に対す
る地域生活定着支援が開始され、出所後直ちに福
祉による支援が困難な者は、更生保護施設におい
て受け入れ、福祉への移行準備及び社会生活に適
応するための指導・助言を行うこととなり、指定され
た57の施設では、福祉の専門職等を有する職員を
配置している。
-114-
更生保護施設の実情
処遇が標準化されていない






収入
職員の意識や対応
食事
規則
受け入れ基準
地域差
委託費
食事付き宿泊費 約2,000円(内、食事費1,230円)
 補導費 142円(一般分)、123円(加算分)
 委託事務費 約3,600円
※都内施設の場合、1人が1泊した時の金額

4,500円×30=135,000円
※1人が1ヶ月生活した時の収入

-115-
職員配置基準




20人以下 4人
20人以上30人以下 5人
30人以上40人以下 6人
10人ごとに1人増員
施設長、補導主任、補導員、調理員、宿直職員
更生保護施設に入所できる人

(1)保護観察に付されている者

(2)懲役、禁錮又は拘留につき、刑の執行を終わり、その執行の免除を
得、又はその執行を停止されている者

(3)懲役又は禁錮につき刑の執行猶予の言い渡しを受け、刑事上の手続
きによる身体の拘束を解かれた者

(4)罰金又は科料の言い渡しを受け、刑事上の手続きによる身体の拘束
を解かれた者

(5)労役場から出場し、又は仮出場を許された者

(6)訴迫を必要としないため公訴を提起しない処分を受け、刑事上の手続
きによる身体の拘束を解かれた者

(7)少年院から退院し、又は仮退院を許された者

(8)婦人補導院から退院し、又は仮退院を許された者

-116-
など
更生保護施設で生活できる期間

保護観察に付されている人
保護観察所長が委託期間を決定する

保護観察に付されていない人
原則6か月を上限とし、保護観察所長が委託期間を決定
する
※平成22年度の全国平均在所日数は78日
更生保護施設に入所する人

受入れ先がない人は仮釈放が申請できず、満期出所と
なってしまいます。家族との関係が良好だったり、誰か
の支援を得られる人が更生保護施設に来ることは少なく、
更生保護施設に入所する人は、誰にも頼ることができな
い人達に限定されています。
受入れ先のない人
 親族がいない人。
 何度も受刑を繰り返して、これ以上親族のサポートを得
られない人。
 親族が高齢のため受入れ先として適当でないと判断さ
れた人。
-117-
刑務所の環境を考える





隔絶された閉鎖空間で自由がない環境。
スケジュール管理が徹底され、指示、許可がないと何も
することができない環境。
称呼番号で呼ばれる環境。
逃げ場のない環境。
医療も公費負担のため制限のある環境。
更生保護施設入所者の共通点






成功体験の乏しい人
ストレス耐性の乏しい人
受動的で発信力の弱い人
他罰的で外部にすべての原因を求める人
社会内に居場所を感じられない人
不遇環境下で生育歴のある人
-118-
どう支援していくか?
◆マイナスからのスタート
 社会でレッテルを貼られる(開示して就職できない現状)
 社会の落ちこぼれ(自尊心の欠落)
 刑の執行が終了しても許されない(被害者感情、社会感情)
◆マイナスをゼロにするには
一人の人間として、同じ目線で誠意を持って接し、信頼関係を構築
する。
 主体性を大切にし、コントロールしようとしない。
 話しのできる、安心感が得られる場所を提供する。

これまで数多くの失敗を重ね、何度も叱られ、そして多くの人に
見放されてきた経験は多いものの、じっくりと話しを聴いてもらえる
機会に恵まれてこなかった。
支援の流れ











刑務所への施設面接
手紙のやりとり
観察所に出頭(保護観察の開始)
※関東近郊、長期受刑者は出迎え、九州、北海道へは航空
券手配
入所(規則の説明)
初回面接(導入面接)
①不安の解消②信頼関係の構築③ゴール設定
身分証取得→銀行口座開設→携帯契約→就労
就労継続支援
ゴールの再設定及び確認
貯蓄
退所先確保に向けた支援
-119-
施設の規則の概要





無断外泊及び無断退所をしない
金銭、携帯の名義、貴重品の貸し借りは禁止
門限(23時)を守る
飲酒しない、また、持ち込まない
周囲(近隣住民・寮内)に迷惑を掛けない
規則だから守るのでは無く、それぞれに理由があること
を説明し、協力を要請する。
観察所の長より委託を受けている以上、規則違反という
理由で退所勧告することはできないのが現状。
就労支援



主にハローワークを利用し、非開示で行っている。
ハローワークでは専門援助第二部門が設置され、就労支援
担当者がいる。
派遣、日雇い労働は推奨していない。
生活設計が立てやすい、安定収入の見込める仕事に就くよう
助言している。(日雇い労働でアパート自立する人は少ない)
給料を受け取るまでの生活費や交通費などは施設で貸与する。
平成23年度
退所者253名の内、アパート自立した人の在所日数
平均123日
ステップ押上116日
ステップ竜岡134日
-120-
貯蓄


給料明細の提出、金銭管理は義務づけられているが、
強制はせず、自主性に任せている。
金銭管理能力が乏しい人に対しては貯蓄訓練を徹底し
ている。
在所期間の延長を求めるひとは、
貯蓄は延長の絶対条件
福祉機関との連携
更生保護施設は住居として認められず、通過施設と位置
づけられているため、援護の実施機関を所在区に求めること
ができない。
通過施設だと・・・
 在所中の愛の手帳取得が困難
 心身障害者医療費受給者証の交付が困難
通過施設でも・・・
 生活保護の相談
 都の心身障害者医療費助成制度
 都営交通パス、タクシー券の発行
-121-
医療機関との連携
所持金がない人の診療について
 社会福祉法人が運営する病院の無料低額診療事業制
度を活用している。
医療券を預けてくれる病院や健康診断を行ってくれる病
院がある。
 医療単給

医療費に関しては、原則自己負担で治療するよう助言し
ている。
高齢者について
◆就労
 生活保護受給中の犯罪が近年目立ってきています。生活保
護費で住居、一定の収入が得られるからといって、地域に定
着するとは限らないのです。
◆高齢者の受入
 生活保護受給者がいると寮内の士気に影響がでるため、受
入人数に配慮し、また、居住スペースを分離するなどの対応
を行っています。
◆今後
 見守られる機関へつなぐ支援
 関わりの継続
-122-
自立の形

多種多様で個々に合わせた自立先(社会内での居場
所)がある。

アパート自立
親族
就労先
福祉施設



更生保護施設ができること



①社会内で関わりを保てる場所
出生→家族→学校→職場
関係性が途切れる度に頼る人を失っていく



②他機関(福祉・医療)へつなぐ場所
社会への架け橋


更生する気持ち、社会でやりなおしたい気持ちを助長す
るカンフル剤でしかない。
-123-
ジャン=ジャック・ルソー

気づきがあれば、考え方が変わる
考え方が変われば、行動が変わる
行動が変われば、習慣が変わる
習慣が変われば、人格が変わる
人格が変われば、環境が変わる
環境が変われば、運命が変わる

全てのはじまりは気づきから





エミール
-124-
12月21日開催
ユニバーサル就労ってなんだろう
(東洋大学ライフデザイン学部准教授
山本 美香 氏)
(社会福祉法人生活クラブ風の村ユニバーサル就労支援室長
平田 智子 氏)
日 時
平成24年12月21日(金)
13:30~16:40
場 所
東京区政会館3階35教室
「ユニバーサル就労とは何か」
場・環境であるということですが、目指すと
東洋大学ライフデザイン学部 准教授
ころは、何らかの問題を抱えて就労した人に
山本美香氏
だけメリットがあるのではなくて、それを受
け入れておられる事業者の方々にとってもメ
リットがある。一方だけが我慢して何か不利
きょうは、私の後で平田さんから具体的な
事例が出てきますので、多分皆さんはそちら
益があってという関係は続かないと思うので、
のほうがご関心が高いのではないかと思いま
ユニバーサルな環境を整えることで受け手の
すが、前座として私のほうからお話をさせて
側にもメリットがあるということが大事では
いただきたいと思います。
ないかと思います。一応理想ということでは
あって、そこに行くまでには実は課題がある
ユニバーサル就労の定義・目的
のですが、それを目指しているとご理解いた
だければと思います。
「ユニバーサル就労」という言葉ですが、
誰が主な対象かということですが、精神的、
だれでも、どんな場合でも、どんなときにで
もというようなことで、非常に普遍性の高い
社会的な理由で就労に困難を抱えている人々
就労のあり方というぐらいにまず認識をして
です。例えば身体的、知的、精神的な障害の
いただければいいかと思います。一般的にだ
ある方々、ひきこもりなどで就労ブランクの
れかを就労支援するというと、すぐ障害者と
ある方々、長時間勤務が難しい人、母子・父
か限定して考えがちですが、そうではなくて、
子家庭の人や家族の介護をしている人、それ
多様な人を対象にした就労のあり方を考える
からホームレスの方々です。
ユニバーサル就労の対象ということで、こ
というふうにお考えください。
れは風の村さんがつくられた資料なのですが、
レジュメにはちょっと定義めいたことを書
いてみたのですがユニバーサル就労とは、何
「働きたいのに働きにくいすべての人(触法
らかの理由で就労に困難を抱えている人々が、
状態の人を除く)」となっております。精神
必要な支援を受けながら、働く場と仲間を得
的な理由で働きにくい。これはひきこもり状
ていくこと、またその仕組みづくりと言えま
態にある人だとかニート、その時点で働く意
す。大事なことは、仕事を得るということだ
欲のない人、コミュニケーションが苦手な人。
けではなくて、そこからその方々が仲間を得
それから身体的な理由で働きにくいというの
るということ、そして生きがいをそこから得
は、妊娠中の人、重度障害者、発達障害者な
ることができるということです。しかも、ユ
どということです。3つ目が社会的な理由で
ニバーサルとはだれにとっても働きやすい
働きにくい、リタイアした高齢者、短時間し
-125-
か能力を発揮できない方々、精神障害者の
して一般就労となっています。ユニバーサル
方々もここにはまるかもしれません。そのほ
就労というのは日常生活自立のちょっと上ぐ
かにも外国人の方とかDV被害者、ホームレ
らいのところの社会参加から含めてここで言
スという方々も全部含まれています。結局こ
う中間的就労、そして一般就労の、上のこの
れはその方々が持っている特性とか特徴とか
あたりまで全部含める形でユニバーサル就労
ストレングス、つまり強さですね。そういっ
ということを概念的にはあらわしています。
たものもすべて含めてとらえていき、それを
ですから、ユニバーサル就労の中にはすべて
アセスメントして、この人にはどんな就労が
賃金が得られるというところまでは到達して
向くのかなということを結びつけていけばよ
いない方々も含まれるということです。就労
いのです。どういう対象者であっても、そこ
準備のための支援と書いてありますが、準備
はユニバーサル就労ということで考えていけ
段階のところを非常に重視するというのもこ
ば就労に結びつけることができるということ
のユニバーサル就労の考え方です。
この辺は多分皆さんのほうがよくご存じだ
が前提となっています。
ユニバーサル就労の目的には、二極化して
と思います。つまり、就労はだれでもぽんと
いる福祉的就労と一般就労をつなぐという意
行くわけではありません。私は学部生を教え
味も1つにはあります。福祉的就労というの
ていますけれども、学部生が18歳から大学へ
は、障害を持たれた方々、ニートの方々もそ
入って4年間にいろいろ職業訓練のようなこ
うかもしれませんが、生活できるだけのお給
とをしたりして、そして22歳で社会に出てい
料が払える仕事があるかという難しさを多分
くわけですけれども、それらが十分ではなか
感じておられると思うんですけれども、福祉
った方々がいきなりぽんと就労へ行きなさい
的就労と言われる部分といわゆる一般的な就
と言われても非常に難しい部分がある。そこ
労、この間をつなぐんだということがユニバ
には生き直しといいますか、育ち直し、育て
ーサル就労の目的でもあります。厚生労働省
直しみたいなところから入っていかないと、
の「生活支援戦略」の中でも、これは「中間
就労という高いレベルのところには結びつか
的就労」という言葉であらわされています。
ない方々もいらっしゃるわけです。そういう
社会保障審議会の生活支援の在り方に関す
意味では就労準備のための支援、よく伴走型
る特別部会で出された図がレジュメの4枚ぐ
支援などと言われますが、その人の自立への
らいめくったところに出ているかと思います。
準備が整ったという段階から就労に結びつけ
これを見ますと、日常生活自立というのはA
ていく、そこを支援しなければいけないとい
DLの自立の上に社会参加、中間的就労、そ
うような考え方に変わってきていると思いま
-126-
される場合、それから業務委託をする場合、
す。
ちょっと戻っていただいて、ユニバーサル
それからコミューターという形があります。
就労の目的です。そういう二極化している福
コミューターというのは、先ほどの図の中で
祉的就労と一般就労をつないでいくというの
中間的就労のちょっと下に社会参加というと
が、先ほどの日常的な自立のちょっと上ぐら
ころがありました。一般就労に行く前、つま
いのところ、社会参加のところから一般就労、
り、本当に賃金がもらえる仕事についていく
この全体がユニバーサル就労というふうに考
ための準備段階のところで、社会参加という
えられます。
意味も含めてコミューターというものを置い
その次には、一人ひとりの状況やニーズに
ていこうということです。コミューターには
合わせた働き方を創出し、提供するというこ
無償コミューターと有償コミューターの2つ
とです。これまで働くということは、ある仕
があります。無償の方はこれから一般就労に
事があったら、オーダーメードでなくてレデ
結びついていく準備段階という位置づけがわ
ィメード的な働き方を求められてきたと思う
かります。有償コミューターは安い労働力と
のですが、現在のいろいろな若者の考え方と
して使われてしまうのではないかということ
か状況とか、障害を持たれた方々ということ
が時々言われてしまいますが、一般就労に結
を考えますと、逆の発想をしてオーダーメー
びつく前の段階として有償で働いておられる
ドな仕事づくりということも一方では必要な
方、それから見習いと言ったらいいんでしょ
のではないかと思います。
うか、そういう方々も含めてユニバーサル就
もう一つは、じゃあ障害を持った人とかD
労というものの中に含まれています。左のほ
Vを受けた人とか、対象者と考えられる人た
うには最低賃金保証の形で働かれる方、そし
ちだけにいい社会かというと、そうではなく
て一番右端のところに一般賃金と書いていま
て、誰もが働きやすい、生きがいのある職場
す。ここで言う無償とか有償とか最低賃金、
をつくりだし、孤立しない社会を創造すると
一般賃金ということについて、図にあらわす
いう目的もあるということです。働く場がな
ときに迷ったのですが、あえて並列的に並べ
いのではなく、働ける場と機会をつくり出し
てみました。
ユニバーサル就労の形態ということで言い
ていくということだと思います。
ますと、対価・形態の3つ目のポツのところ
ユニバーサル就労の形態
で「作業所等で生産したものを仕入れること
次、ユニバーサル就労の形態ということで
で、生産している人の自立を支援することも
すが、ユニバーサル就労というのは直接雇用
ユニバーサル就労の取り組みに含まれます」
-127-
となっています。ですから、そこで働くとい
いう段階があります。
その次に準備ということですが、業務分解、
うことだけを指していないということです。
コミューターとは ということですが、職
業務の洗い出しということをします。つまり
場の中で1人分の仕事でなくてもその人の役
業務分解、業務の洗い出しをしてみることで、
割があったり、その人がいることで職場に何
この仕事をだれかにやっていただくことで自
らかのいい影響があることもあります。これ
分がもっと発展的な仕事ができるんじゃない
もユニバーサル就労の効果の一つと考えてい
か、それから、職場という大きな単位で考え
ます。このような働き方を一般的なボランテ
たときに、この仕事をだれかにやっていただ
ィアと区別し、継続的に通う人という意味で
くことでまた別の事業の展開ができるんじゃ
「コミューター」と呼んでいます。コミュー
ないかと考えていくわけです。
ター制度を利用することで、1人分の仕事が
その次にはマッチング作業の開始です。こ
できなくても会社で働くことができ、自分の
こに「ワークショップを複数回」と書いてあ
ペースで少しずつ着実にステップアップして
りますが、業務内容の説明をしたり、いろい
いくことで、最低賃金を保証する報酬や一般
ろな課題や疑問というのもまたここで出ると
賃金での就労なども目指していくことができ
思うので、さっきの業務分解をもう一度繰り
ます。
返しながら、支援を求めておられる方々にど
実際にはステップアップを目指していくわ
ういった業務を提供できるかということをい
けですが、こういうコミューターという考え
ろいろ話し合いをするということになります。
方は今までありませんでした。何となく一般
それが済みますと今度は団体訪問となりま
就労に結びつかない人は半人前というような
す。具体的にはそのマッチングの詰めという
考え方がありましたが、この中でその存在を
ことですが、活動を見学したり、就労希望者
積極的にとらえているということが、ユニバ
と事業所の方が会ってみるとか、それから実
ーサル就労のユニークな点、意義ある点だと
際にその業務を担当なさった場合、どういう
考えられます。
ふうな業務の内容になって、どんなふうに働
かれるのかというイメージをこの段階でふく
ユニバーサル就労の進め方
ユニバーサル就労の進め方ですが、簡単に
言いますと、まず最初にユニバーサル就労に
らませていくということになります。これが
マッチングの詰めというものです。それから
参加団体を個別訪問していきます。
ついてのいろいろな疑問や課題をワークショ
団体間でのマッチングですが、この場合の
ップの中でみんなで話し合ってみましょうと
マッチングというのは、勉強という意味で使
-128-
っています。ワークショップの参加団体の中
ういうことをやっていて、火曜日にはサーク
で、ユニバーサル就労はどういうところが課
ル活動をやっていますとか、水曜日には通院
題なのかとか、いろいろな問題を含めて連携
同行がありますよとか、それから、もちろん
を図りながら、ワークショップの最終的な形
やっておられるスタッフの方々の所属によっ
を図っていくということになります。
ても違います。介護職、ナース、管理部、厨
最後には、実際に働きたい方と受け入れる
房などの業務もあります。介護職で対利用者
事業所の方との組み合わせになっていきます。
というところがたくさんになっていますが、
事業所が、うちで働いていただきたい、ある
これはこの切り出しをやってくださった職員
いはコミューターとして受け入れたいという
の方が介護職の対利用者、間接業務というの
ときに、その準備の段階としてこういったこ
が多い方だったからです。際には有料老人ホ
とを支援者側と一緒にやっていく必要がある
ームの管理部の方、あるいは厨房の方々に業
ということです。
務分解していただくと、もっとここがふえる
まず、具体的な切り出しの手法ということ
と思います。こういう形で週単位で考えてい
ですけれども、これは実際に小規模多機能施
くと、日単位では譲り渡すところがないよね
設の職員の方に業務分解していただいたもの
というところが、週になると少しまた違って
になります。一番上が日単位、次が週単位で
くるんだろうと思います。
すね。それから次に月単位のものになってい
それから、最後のところが月単位になりま
きます。この色分けは、青が免許や資格が必
す。これはまたデイサービスということなの
要な仕事、赤の部分は人と接する仕事になり
でちょっと違う形にはなりますが、月になり
ます。黄色が体を使う仕事で、緑が事務作業
ますと、1週目、2週目、3週目、4週目と
ということになっております。就労を希望す
いうふうに同じ繰り返しもあると思うんです
る方がたはそれぞれ特性があり、その中で強
けれども、週によっては、3週目にはこうい
みや弱みがある。その特性と業務分解した内
うことをやっているというのが当然あるわけ
容を合わせていくことになります。これが日
で、そういうものも出てきます。そのほかに
単位で業務分解した内容です。
も営業であったり、ボランティア受付であっ
ただ、業務というのは、もちろん1日単位
たり、小口現金管理、利用料金集金、職員採
で動いているものだけではなくて、週で動い
用、苦情・事故対応、季節行事なども出てき
ているというものもあります。これも実際に
ます。月単位の一番下に出ているのが、今後
有料老人ホームの職員の方々にやっていただ
取り組みたい仕事ということになります。現
いたものですけれども、例えば月曜日にはこ
在はなかなかできにくいけれども、ユニバー
-129-
サル就労を取り入れていくことで今後取り組
いうことです。
中間的就労の場の提供等ということで、
みたい仕事の展望が図れるということになり
ます。
「社会保障審議会生活困窮者の生活支援の在
実際に、風の村さんでは、こういうふうな
り方に関する特別部会」の考え方が出ていま
形で業務分解を進めておられます。非常に多
す。それには、直ちに一般就労を目指すこと
岐にわたっておられるので、今、大変な作業
が困難な人に対して、社会的な自立に向けた
をなさっているということです。日単位、週
サポートをする仕組みを組み込んだ中間的就
単位、月単位で見ていけば、いろいろな仕事
労などを提供するということが書いてありま
のやり方を見出して、ユニバーサル就労に適
す。ここの意味は、生き直しとか育ち直しを
したものもあるというふうに考えられるかと
していく、その準備の段階が必要だという考
思います。今回お見せしたのは高齢者施設に
え方が含まれています。
今、生活困窮者、低所得者、住宅を提供す
なりますので、こんな感じで行われていると
いうことです。
る中でどう自立をしていただくか、就労だけ
ではなくて、生活全般を立て直すということ
ユニバーサル就労が持つべき要素
を考えていく中でもこういう考え方をします。
次に、ユニバーサル就労が持つべき要素と
ただ、大きな問題は、ユニバーサル就労も
いうことです。1つは単純労働、嫌な仕事の
含んで、だれがここをやるかというところが
押し付けではないということです。例えばト
難しい。例えば、今日ご参加の皆さんの多く
イレ掃除を一日じゅう、ユニバーサル就労で
は公務員の方々でしょうか、公務員の方々や
やってくださいとか、そういうものとは違う
社協の職員の方が仕事上でやるのはなかなか
よねというのがこのユニバーサル就労が持つ
限界があって、そこの役割分担的なところが
べき要素ということになります。
今後の課題になってくるかと思っています。
それから、その人の個性、特性、ニーズに
次は、これまでの主な議論における現状と
合った働き方であるということ。また、ユニ
課題ということですが、生活保護受給者のう
バーサル就労によって新たに生み出された時
ち、就労可能と考えられる層が急増している。
間・仕事が、組織の発展につながっていくと
生活困窮者のうち一定の者については、公共
いうことを考えていかなければ破綻するだろ
職業安定所(ハローワーク)を利用した求職
うと思います。現実には難しいところもあろ
活動、求職者支援制度、ハローワークと地方
うかとは思いますが、目指していくべき、持
自治体による「福祉から就労」支援事業、福
つべき要素は、こういうふうなものがあると
祉事務所の就労支援員による就労支援プログ
-130-
ラム等の施策により対応している。各地でも、
自立段階)の段階を設けるなどの工夫が必要
生活習慣の確立、社会参加能力の形成、事業
ではないかということです。これは、先ほど
所での就労体験等、一般就労に従事するため
言ったユニバーサル就労の中では、コミュー
の基礎能力の形成を支援する取り組みが独自
ターから最賃、それから一般就労というよう
に行われていると、そういったような現状も
な1つのステップアップということも含まれ
あるわけですけれども、それだけではなかな
てくるだろうと思います。
かうまく適応できない方々がたくさん残され
それから、事業の形式は通所によるものや
ている課題があって、各地でいろいろな取り
合宿によるものなどが考えられるが、どうか
組みが、またNPOとか社会福祉法人とか、
ということですね。
さらに、事業の実施主体について、官と民
そういうところでも取り組まれているという
の役割分担の視点も踏まえ、地方自治体の役
ことがここには書かれています。
割や地域の中の社会福祉法人、NPO法人等
3つ目に、同じく「生活困窮者の生活支援
の民間団体の役割についてどう考えるか。
の在り方に関する特別部会」が出したもので
それから、費用負担の在り方について、本
すが、このようなことが論点として上がって
人負担、事業者負担、公的支援の関係をどう
います。
事業を開始する際には、総合的な相談支援
考えるか。ここのところも、実際にだれがや
センターでのアセスメントやプランの作成な
るのかとか、行政はどういうふうに支援する
どを必要とし、定期的に評価を行いながら支
のか、それから財源はどう担保していくか。
援を進めることが必要ではないか。就労準備
例えば、実際にいろいろなサービスとかを事
のための支援は有期、期限を切るということ
業として成り立っていくものであれば、そこ
で考えてはどうか。
は行政のほうから、国とか市町村、都道府県
それから、支援の在り方については、社会
のほうからお金が出るんでしょうけれども、
参加をする上で必要な生活習慣の形成のため
そこの準備段階のところまで含めてお金がど
の指導・訓練(生活自立段階)、就労の前段
ういう形で出るかというのは、これから私た
階として必要な社会的能力の習得、障害分野
ちがやらなきゃいけないソーシャルアクショ
ではよくソーシャル・スキル・トレーニング
ンの1つだろうと思います。
実は去年、千葉県内の社会福祉法人とか福
(SST)などと言われたりしますけれども、
そういった社会的能力の習得、それから継続
祉作業所に障害者雇用促進法に類する企業意
的な就労経験の場の提供や一般雇用への就職
識調査をやっていただきました。今からご紹
活動に向けた技法や知識の取得の支援(就労
介するのは一部であって、全部だというふう
-131-
千葉県内の社会福祉法人、200人以上を雇
にお考えいただきたくはないんですけれども、
こんな意見があったよということです。ご理
用している社会福祉法人と企業に対してユニ
解ください。
バーサル就労の対象と考えられる人を雇用し
「考え方は共感できるが、就労=自立なの
ているかということでお聞きしたところ、
か」という意見がありました。ここは、自立
「社会的意義はわかるが難しい」が圧倒的に
とは何かということでよく議論されるところ
多いです。既に積極的に取り組んでいるとこ
です。また、これはユニバーサル就労そのも
ろも22.9%あって、今やっていないけど今後
のなんだろうと思います。「就労困難者とい
取り組みたいというのが10.4%、ちょっと下
うのはもはやマイノリティーではない。社会
を省いているので100%にはなっていません。
全体の問題とすべきだ、もう全般的に考えな
結構いけそうと見るのか、いや、難しそうと
きゃいけない話なのだ」という意見がありま
見るか、分かれるところではありますけれど
した。
も、2割ぐらいは既に積極的に取り組んでい
るという結果が出ました。
それから、「現状の課題が多く、実際にユ
ニバーサル就労をやるのは難しい。就労の場
障害者等が職場に入ることに不安があるか
がもともとないとか少ない」という意見があ
ということを聞きました。一番多かったのは、
ります。
仕事中の事故やけがが怖い、2番目には該当
「実現性に疑問がある。イメージがわかず、
する仕事がないということです。それから3
ぴんとこない」という意見がありました。こ
つ目は、通勤途中の事故やけがで、3割近く
れは、ユニバーサル就労があまり知られてい
の人が何か事故やけががあるんじゃないかと
ないので、多分この意見の人が一番多いんじ
いうようなことで職場に入るのは不安だとお
ゃないかなと思います。
考えのようです。それから、何ができるかわ
それから、「利用者の高齢化とともに障害
からないとか、特別扱いによる他への影響と
の重度化で、就労とはかけ離れてきている」
いうのが同率で7.4%あります。該当する仕
ということです。ユニバーサル就労というけ
事がないという回答と、何ができるかわから
ど、就労どころじゃない、介護をどうするん
ない、特別扱いによる他への影響が3割弱ぐ
だ、生活介護の部分をどうするんだというよ
らいあるということになります。
うな話も出ているということです。あまりポ
ここのところはもしかしたら突破できるか
ジティブに考えていない意見ばかり出してい
もしれません。全部の企業さんとか、作業所
るようですが、そういう方も少なくないとい
とか、社会福祉法人がやっていただいけると
うことです。
いうのは、少し時間はかかるかもしれません
-132-
が、少しでもやってみようかなと思えるとこ
個性や特性に応じた作業方法の工夫、そして
ろに、一歩ずつやっていくということが大事
3つ目に明確な後見人や相談者がいることと
なのではないかと思います。
いうような意見もありました。
こういう少なくない人たちが、わからない
これらは、実際には支援者がついたり、あ
からネガティブというふうに思われていると
るいはワークショップの中でその対象となる
いうことを出してみました。これは自由回答
方々の特性を一緒に見出しながらやるという
の意見ですが、1つには、「子供の命を預か
ことがあるので、、この1番とか2番につい
る仕事なので難しい」という意見がありまし
てはその不安な気持ちが解消されていくので
た。全部をユニバーサル就労でやるというよ
はないかと思います。恐らくご心配なのは、
りは、どうしても高度な資格とか専門性がな
やってくださいと言われて、そのまま支援者
いとだめだというような部分、すべてという
も何もなくという状態があったときに、自分
わけではないですけれども、こういうふうな
のところでどうしたらいいのかわからないと
ご意見は相当出てしまうかなというところが
いうことが事業所の方々にあるので、それが
あります。
こういう調査結果の中にも出ていると思いま
す。
それから、「身体的・精神的介護が必要な
「はたらき方の事例」と書いたのですが、
高齢者に対する仕事としては難しい面がある」
と「われわれ資格者であっても常に緊張の連
こういうものがユニバーサル就労の実際なん
続」という意見も出ています。これも自分た
だなと思った一例だけお伝えをしておきたい
ちの仕事というのは非常に専門性が高いとこ
と思います。
ろでやっているので、ユニバーサル就労でや
事例1は、調理場で調理をするAさん、女
っていただく部分はちょっと切り出しは難し
性・30代の方です。軽度知的障害の方で、言
いでしょうねという意図です。これもやはり
われたとおりきっちり仕事をするという特性
業務分解等をやられた上ではないので、ここ
がおありだそうです。そうすると、もうきっ
のところをもしご理解いただけるなら進んで
ちりと食材を刻まれるということがあって、
いく可能性はあるということです。
それから、これは本当にすばらしいなと思っ
では、どんな方法があれば、不安が緩和さ
たんですが、お菓子づくりを任されていらっ
れ、雇用の可能性が見出せるかということで
しゃる。お菓子づくりは絶対に目分量はだめ
すが、本人への指導方法や対応方法の助言が
なので、500グラムなら500グラムできっちり
あると不安は緩和されるという意見が1割強
やらなきゃいけない。それがこのAさんの特
で一番多かったですね。その次が障害者等の
性にすごく合っているということで厨房の一
-133-
人として働いていらっしゃる。実際に働いて
ゃっていましたけれども、そういうこともあ
いるところを見ましたが、本当に一生懸命働
りながら少しずつ進められていけばいいなと
いておられました。目標としては料理の味付
思います。
けができるようになることというふうに支援
その1つの手法がマッチングワークショッ
者の方にお聞きしたのですが、もし調理の味
プです。障がい者に限らず、働きたいのに働
付けができるようになると、朝からずっと厨
きにくさを抱えている人とユニバーサル就労
房に入って就労時間を延ばすことが可能にな
を進めたい団体との出会いの場をつくり、就
るというお話でした。就労時間を延ばせると
労の場を一緒に考えていくワークショップで
給料が上がってきますので、その人の自活、
す。1対1の雇用関係だけでなく、1人分の
就労ということの意味での自立につながって
仕事量を数名で取り組むことのできるような
いくということになります。
団体への業務委託や団体からの仕入れ、イベ
ントの共同開催など、さまざまな形での連携
当事者と雇用者を支援する体制
についても検討したり、一緒に考えていきま
最後に、当事者と雇用者を支援する体制と
す。こういう支援がないと、なかなか事業所
いうことですが、雇用者、事業所の方々が一
の方は雇用を引き受けていくのは難しいと思
番何が心配かというと、その人に実際仕事し
います。
てもらったときに本当にその仕事が合ってい
主催者がいて、当事者支援の団体、福祉事
るのかとか、うまくいかなかったらどうする
務所、それから就労支援機関とか主催者以外
んだろうとか、そういうことが不安なんだろ
にユニバーサル就労をすすめたい事業者など
うと思うんです。実際にこれはお話を聞いた
が、地域の中でちゃんと連携をとっていく、
んですけれども、ユニバーサル就労的な形で
その連携体制がワークショップのイメージと
お仕事をしていただいているという職場の人
いうことになります。ワークショップでそれ
にすると、そうはいってもなかなか全員の職
を行っていくことが必要です。これも当事者
員さんに理解していただくには時間がかかっ
のみならず、雇用する側も支援するというこ
て、中には「あいつの面倒まで見なきゃいけ
とをきちんと考えないと、うまくいかないと
ないのか」というような不満が出る場合があ
いうことはあるかと思います。
るそうです。そこをうまく話をしながらウィ
最後は、ユニバーサル就労の課題です。1
ン・ウィンの関係をつくり上げていく。そこ
つは、コミューターを単なるただ働きにさせ
はきれいごとではいかない部分があるという
ない。将来の展望を持った働きとなれるかと
お話はある特別養護老人ホームの方がおっし
いうことです。コミューターはステップアッ
-134-
題ではないかと私は思っています。
プをもちろん目標としてはあると思うんです
それから、社会的な普及と理解の促進。こ
けれども、第三者的に評価してみると、何だ、
ただ働きさせているんじゃないかというよう
れは、よくわからないのでやっていませんと
な評価もあったりしますので、そこは展望を
いうところがもしかしたら多いのではないか、
持った働きにコミューターというものが位置
特に企業さんはその辺で立ちどまっておられ
づけられるか、これは批判をされる方をどう
るというか、難しさを感じておられるという
論破していけるかということが必要かなと思
のはあるかと思います。支援体制の充実で不
っています。
安感を払拭できるかということが課題として
それから、障害者に向いた仕事と決めつけ
は最後にあるかと思います。
ないということです。切り出した結果、トイ
全部共通はしているのですが、このユニバ
レ掃除だけが残ったのでそこをしてもらいま
ーサル就労の考え方とか中間的就労が今後社
すというだけでは、やはり将来展望を持って
会の中で根づくためには、やはり一歩一歩成
その人が働くことができないし、そのことが
功事例を積み上げていくことが大事ではない
職場の環境、ほかの人もいい環境だというふ
かなと思います。そういう意味では、きょう、
うにはならないと思うんです。ですから、障
風の村さんのお話を聞きながら、まさに現場
害者に向いた仕事ということで決めつけた上
でいらっしゃる、第一線の皆さんが、こうい
での切り出しをしていかないというふうに考
う事例があるからやってみようかというふう
えていきたいと思います。
に思ってくださることで、本当の意味でのユ
それから特別扱いではない形での就労。特
別扱いをすることで職場内での軋轢があるん
ニバーサルになっていくのではないかと考え
ています。
以上で終わりたいと思います。どうもあり
じゃないでしょうか。その人の特性に合った
ものというのでどう就労が提供できるか。こ
がとうございました。(拍手)
れは理論とか理念とかミッションだけではだ
めで、やはり具体的にきちんと話し合いをし
ながら提供するという形を持っていかないと
難しいと思います。あの人はユニバーサル就
労で入っているから特別早く帰っていいんだ
よとか、そういうのではなくて、その人がそ
ういう働きをしているからというふうに見て
もらえるかどうかというのがとても大きな課
-135-
「ユニバーサル就労
す。アセスメントシートに沿って、就労希望
~風の村ユニバーサル就労の現状報告~」
者や同席している支援者から、はたらきづら
生活クラブ風の村
さの理由、出来ること、苦手なこと、本人の
ユニバーサル就労支援室長
通勤範囲など聞き取りをします。そのアセス
平田智子氏
メントをもとに、就労希望者と職場とマッチ
ング、就労希望者と事業所を繋ぎ、実習をし
私の所属は、生活クラブ風の村(以下風の
て受入れ先を決めます。実習で本人、職場い
村)という生協が母体の社会福祉法人です。
ずれかが、合わないと思う場合は、再度、別
事業の中心は、高齢者支援の分野で、特養、
の事業所とマッチングをします。実習でマッ
デイサービス、ショート、訪問介護、サービ
チングが成立したら、ユニバーサル就労を開
ス付き高齢者住宅などです。他に、放課後等
始します。後で詳細を説明しますが、雇用契
児童デイサービス、生活介護といった障害者
約となる場合と、「コミューター」というボ
の施設も6つほどあり、保育園、学童保育な
ランティア的な位置づけで、就労を支援する
どの子育て支援関連、分野横断の相談事業な
場合があります。
どもあります。来年度には児童養護施設と重
UWが開始した後は、継続・キャリアアッ
症心身障害者の通所施設を開設予定です。職
プのための支援が重要なポイントになります。
員は1,200人位、事業所が千葉県内に40カ所
UWの本人と職場の上司の2者の関係では、
位あります。私は事業本部で、企画部とユニ
お互いに言いづらかったりすることでも、内
バーサル就労支援室を兼務で担当しています。
部就労支援部署(風の村の場合は、UW支援
室)と外部の支援団体が、連携して関係性を
ユニバーサル就労システムの全体像
保ちながら継続・キャリアアップのための支
ユニバーサル就労(以下UW)システムの
援をしていきます。UWのはたらき方は、ボ
全体像について、まずご説明をさせていただ
ランティア的に交通費だけ支給する「UW無
きます。UWの入り口としては、マッチング
償コミューター」、交通費プラス時給500円
ワークショップと個別の相談があります。最
相当を支給する「UW有償コミューター」、
近は個別の相談が多くなっています。風の村
それから雇用契約を交わし職員となるけれど、
に直接電話をかけ、ユニバーサル就労という
一般職員より賃金設定が低い「UW最低賃金
ことを聞いたが、私も働きたい、うちの子ど
保障職員」、一般職員と同じ賃金でも何らか
もを働かせたいという形です。
の支援を継続する「UW一般賃金職員」とい
次の段階としては、アセスメントがありま
う4種類の形態です。また風の村は、対人援
-137-
助の仕事が中心で、場合によっては就労希望
ます。風の村全体で、40人から50人ぐらいの
者のニーズに応えられないので、ユニバーサ
方が、UWとしてはたらいていて、全員のケ
ル就労を広げるために中間支援組織をつくっ
ース検討、UWの職員の人事考課表作成、研
ています。千葉県内ではユニバーサル就労ネ
修、情報共有を行っています。障害者就業・
ットワークちば、全国組織としては、ユニバ
生活支援センターからは、毎月2~3名オブ
ーサル志縁社会創造センターの2つの中間支
ザーバーで参加いただき、ケース検討への助
援組織ができています。これがUWシステム
言や問題提起、また、面談の同席などの協力
の全体像です。
も得ています。
少し重複しますが、継続キャリアアップの
アセスメントをおこなった方の状況
支援の仕組みが大切です。現場は、日々の業
務のなかで、UWの人の特性に応えた対応や
今までアセスメントをした方が9月26日現
支援にそう多くの時間をかけられなかったり、
在で95名、マッチング中の人が17名、就労中
本人と現場上司の2者の関係では行き詰まっ
の人が43名、それから完全にもうユニバーサ
たり、その人の働きづらさの背景を調べたり
ル就労という枠から一般就労に移行し特に支
する時間がなかったりします。内部就労支援
援をしていない方が1名います。
部署(UW支援室)が間に入ることで、地域
アセスメントをおこなった方の状況として
の障害者職業センター、通称ナカポツと言わ
は、知的障害、精神障害などのいわゆる障害
れている障害者就業・生活支援センター、ホ
者手帳のある方がいらっしゃる一方で、特に
ームレス支援団体など、UWのそれぞれの人
障害者手帳はなく、社会的理由の方も多くい
に特化した専門的な外部支援団体と繋げるこ
ます。ニート、ひきこもりといわれる就労ブ
とができます。UWの人が継続的に就労する
ランクのある方、生活困窮で軽度の知的障害
ためには、内部就労支援部署の支援が大切で
があると思われる方、本人、親ともに障害の
す。
受容が出来ない方など様々です。また精神障
具体的な風の村の内部就労支援部署(UW
害の方で、週に1回、2時間から始めたいと
支援室)は、事業本部の企画部、総務部、財
いうような方は、障害者手帳があっても法定
務部に所属している9名の職員が、その所属
雇用率に換算される週20時間に満たないの
部署の業務とUW支援室を兼務で担っていま
で、一般企業ではなかなか就労が難しく、風
す。本部は全員で35名位いますので、本部の
の村のUWとして就労している場合もありま
1/4位の職員がUWに携わっています。
す。全体の割合としては、社会的理由の方が
そして、UW支援室会議を毎月1回開催し
多いことがUWの特徴の一つです。
-138-
で、介護補助として、見守り、話し相手など、
43人の方のはたらきかたですが、無償コ
ミューターが3名、有償コミューターが10名
しごとの内容や時間を増やします。最終的に
います。このコミューターの方々は、必ず全
2級ヘルパーの資格をとり、介護職になる職
員、個別支援計画をUW支援室の担当者がつ
員もいます。また、職場で今している業務を
くっています。そして43人の方は、9名の
すべて業務分解することで、様々なしごとの
UW支援室員が必ず担当者となっています。
可能性を見つけて、UW職員ができることを
自分の担当している方で、コミューターがス
増やします。
タートする段階で、担当者が個別支援計画を
そして、ステップアップの個別データを見
つくります。個別支援計画を作ることで、雇
ていただくと、アイウエオとお一人お一人の
用に向けた支援の段階であることを、UW支
データがありますが、ある方は無償コミュー
援室も現場もしっかり意識することが大切で、
ターから始まり、半年後に有償コミューター
長期にわたる低賃金の不利益な労働にならな
になって、またその約半年後から雇用契約と
いように、最長でも3か月ごとに振返りを行
なっています。また、有償コミューターから
い、ステップアップを目指します。まだ雇用
始まる方、雇用から始まる人もいます。です
契約ではないので、コミューター確認書に本
から、どこから始まるというのはその方それ
人同意のサインをいただき、両者合意のもと
ぞれの能力で、実習を何日間かしていただい
で、コミューターを開始します。
て、どの段階がらUWを開始するかを決めま
UW最賃保障職員というのは、雇用契約と
す。全体的な傾向、現状では、多くの方がス
なっても働きづらさへの配慮や支援を必要と
テップアップされUW最賃保障職員になって
して、一般賃金より低いけれど、県の最低賃
います。
金以上は保障している職員です。そしてUW
別紙の千葉県の地図の説明ですが、市町村
最賃保障職員25名については、人事考課表
ごとに色分けをしていて、風の村の40余り
も一般職員と別のUW用の人事考課表を使い、
の事業所の内、UWをしている事業所が記載
その人にあったステップアップの目標があり、
されています。比較的規模の大きい拠点事業
しごとのモチベーションが上がるようにして
所では、UWの方が多くはたらいています。
います。
凡例の通り、コミューター(無償、有償)、
そして、もう一つUWの特徴的なところは、
UW最賃保障職員、UW一般賃金の方がどの
業務の種類の多様なところです。知的障害の
ような仕事をしているかを示していて、県内
ある方で、UWのスタートは作業所で経験し
で40名以上の方が、ざまざまな仕事内容で、
てきた清掃であっても、しごとをしている中
UWのその人それぞれにあった形態ではたら
-139-
して取り組みましょうということが、一般企
いています。
業でも広がり、社会で認識されていくように
ステップアップの状況という視点で、1年
したいです。
間でコミューターの人がどうなったか追跡し
たデータが次の資料です。2011年の4月で7
別紙で地域福祉支援積立金の資料をお配り
名の方がコミューターでした。3名が無償コ
させていただいています。社会福祉法人は非
ミューターで、4名が有償コミューターです。
課税のため、一部の社会福祉法人は内部留保
この7名の方のうち、無償コミューターだっ
が多額にあり、何とかすべきだということが
たAさんは有償コミューターにステップアッ
言われていますし、極端な言い方としては、
プしています。そして、BさんからGさんの
税制優遇されている社会福祉法人は要らない
6名は雇用になっていて、ステップアップ率
との意見もあります。例えば風の村で介護保
としては100%です。スタートをコミュータ
険制度上の事業として、訪問介護、デイサー
ーとしたことで、就労に確実につながってい
ビスなどをしていますが、株式会社でもやっ
ます。当初から雇用以外は受け入れず不採用
ています。でも風の村は社会福祉法人なので、
としていたら、6名の雇用はないことになり
税金が課税されなく、株式会社は課税されま
ます。
す。それは不合理だということで、本来課税
一般的に社会福祉法人の障害者法定雇用率
されるべき金額を私たち風の村は地域福祉支
は一般企業より低いと言われています。風の
援積立金という形で積立金に充てています。
村も2008年は障害者雇用率が0.87でした。風
そして、地域に向けて助成事業をやったり、
の村がユニバーサル就労を始めた最初のころ
内部では震災の支援に使ったり、ユニバーサ
は、コミューターの方が多く、雇用率には反
ル就労の原資にしています。社会福祉法人の
映されず、また、障害者手帳のない方も多い
あり方も問われている昨今ですが、多くの社
ので、雇用率は低かったです。でも、コミュ
会福祉法人が一人でも二人でも働きづらさを
ーターの方がスキルアップして、雇用になる
抱えている人を受け入れることでユニバーサ
方が増え、去年の12月ぐらいで一気に増えて
ル就労が広がり、風の村で取組んでいる地域
います。今、企業の法定雇用率は1.8%で、
福祉支援積立金の考え方、内容もご参考にし
来年4月から2%になります。法定雇用率と
ていただけますと幸いです。
いうのは大切な数字で、障害の方々は法定雇
実際に関西の社会福祉法人でも、地域福祉
用率を守る企業のニーズにも合い就労の場が
支援積立金を制度化してユニバーサル就労を
広がっています。けれども、法定雇用率が達
開始する動きが始まっています。このように
成できたら次はUW率を企業の社会的責任と
広げていくためには何らかの中間支援組織が
-140-
必要で、先ほどの話と重複しますがユニバー
いう考え方やシステムを今後も広げていきた
サル志縁社会創造センターがあります。これ
いと思います。
ここで、NHKの動画がありますので見て
はユニバーサル就労だけのための中間支援組
ください。
織ではありません。ユニバーサルな地域社会
〔動画上映〕
づくりやユニバーサル就労、ユニバーサル農
業、それからNPO、企業の共同事業のコー
私たちは、このような形で日々取り組んで
ディネートなどを方針としていますが、その
います。この考え方、仕組みが広がっていく
中の1つがユニバーサル就労です。
事を願い、ご報告をさせていただきました。
ありがとうございました。(拍手)
ここまでが私たちの法人でやっていること
と全体の流れで、ここから事例をすこしご紹
介して、最後にNHKで取り上げられた動画
がありますので、そちらもご紹介させていた
だきます。
個別事例の紹介
(口頭説明省略)
まとめ
前半の山本先生からのお話でもあったよう
に、私たちは企業側がつくった働き方に合わ
せるのではなくて、平仮名の「はたらく」、
働きたい側の都合に合わせた働き方を提案し
ています。例えば高次脳機能障害ではたらき
づらい方の支援をしていますが、交通事故に
遭ったり、脳梗塞になったり、私たちも明日
そのような状況になるかもしれません。また、
子育て中や親の介護で短時間しか働けなく、
急な休みを取らざる負えない状況など、いろ
いろな形の働きづらさというのは、いつで
も自分たちもそうなる可能性のあることです。
そのように一人一人が考えることでユニバー
サルな地域社会になり、ユニバーサル就労と
-141-
かどうかということが1つ。あと、実際にお
〔質疑応答〕
見えになってアセスをやった結果、そこでお
Q ケースワーカーをしています。東京では
断りをしたような事例は何人ぐらいあって、
中間就労につなげるのは難しいなと思うので
その理由は何かを把握しておられる範囲で教
すが、この方はちょっと一般就労は難しいな
えてください。
と思ったとき、最初の一歩を踏み出すにはど
私ども社会福祉事業団は主としてホームレ
のような見きわめとか、つなげ方があるんで
スの方を対象とした更生施設の運営をやらせ
しょうか。
ていただいているのですが、今の事例で報告
A 東京での繋げ方ですが、まず一つは、先
いただいたのは軽度の知的障害の方を主とし
ほどご説明したユニバーサル志縁社会創造セ
た事例の一部かと思います。生活クラブ風の
ンターで、企業の中でユニバーサル就労支援
村さんのほうでホームレスとして相談にお見
のコーディネーターを養成するために、コー
えになった方の事例がおありになれば教えて
ディネーター養成講座を企画しています。東
いただければと思います。
京でも、社会福祉法人や生協などもともと地
A 最初の対象地域ですが、基本的には、風
域福祉のマインドがある団体で、積極的にU
の村は千葉県内で事業を行っている社会福祉
Wを始めていただくようにお声をかけていま
法人なので、千葉県内です。ただ新聞で取り
す。実際に東京の生協では、配達トラックの
上げられたりすると一気に広がります。さっ
添乗のしごとを生活保護の方がUWとしては
きのNHKテレビの番組は「首都圏ネットワ
たらいています。また、高齢者向けの住宅事
ーク」なので首都圏だけですが、東京とか埼
業をやっている株式会社は、UWのネットワ
玉とか神奈川から問い合わせが来ています。
ークを一緒につくっていますので、具体的に
それに対してはUWネットワークの団体に少
はそういったところで実践が少しづつ進んで
しずつ紹介をして、私たちとしては県外から
いますので、そのような団体に繋げています。
のご相談が来た事をプラスにとらえて、お受
一般就労が難しい方の最初の一歩は、面談
けした以上は、ネットワーク団体につなぐ方
に同席して、しごとを一緒に考え、その人に
向でやっています。
あったしごと内容で、なるべく関係性のある
アセスをしてお断りした事例ですが、基本
団体へ、出来ることを生かすことが最初の一
的にはお断りはしない原則です。理由は、雇
歩だと思います。
用して賃金を払うことを前提とすると不採用
Q 法人の本部が佐倉にありますが、相談に
ということがあると思いますが、無償コミュ
見える方や対象者の地域を限定されているの
ーターとして受入れ、ご本人にはたらきたい
-142-
気持ちがあれば支援するからです。ただ先ほ
という方がUWとして風の村に来ています。
ど説明したように、県外の場合は繋ぎ先がな
本人のモチベーションが上がるように個別支
かったり、県内でも風の村の事業所まで通え
援計画や業務分解が大切になります。皆さま
ない場合は、難しいです。千葉県で物理的に
の事業所に相談に来た人をお一人でも職場と
遠方で通勤できない方をお二人お断りしまし
して受入れてみてはいかがでしょうか。様々
た。
な職場で業務分解が進み、UWの受入れが広
がりユニバーサルな社会になっていくといい
ホームレスの方についてですが、千葉では
市川ガンバの会というホームレス支援の団体
と思います。
があり、UWネットワークちばの会員団体な
Q お話の中にナカポツということで、障害
ので、市川ガンバの会の紹介の方が何人かU
者就業・生活支援センターのお話が出てきま
Wでははたらいています。私の印象としては、
したが、すべて風の村のほうにご相談という
ホームレス支援団体の方は、重い障害などは
よりも、こちらの使い方といいますか、どん
ない方が多く、周りの理解があれば比較的短
な感じで使えるのか教えていただければと思
時間で雇用につながっている方が多いです。
います。
また、そういう方は生活費をきちんと得たい
A 障害者就業・生活支援センターは、障害
という人が多いので、雇用に繋げられるよう
がある方の就労面と生活面の両面からの支援
にコーディネートし、生協のセンターの倉庫
を専門的にしていますので、障害があり、就
業務とか印刷、配達添乗などで仕事していま
労以前に、家庭の問題や生活面の支援が必要
す。
な場合は相談すればご協力いただけます。私
Q ホームレス担当のケースワーカー、生活
たちUW支援室は、就労の支援をしているの
保護のワーカーをやっています。僕は精神障
で、家庭訪問や生活改善までは踏み込まない
害者の作業所にかかわっていますが、作業所
ので、担当地域の障害者就業・生活支援セン
の中の職員になるというのがゴールになって
ターさんと連携して支援すると家庭訪問して
しまうと、ある意味職員に媚びたりとか、同
くださったり、生活の再建、場合によっては
じように自分は能力があると思っているけど
障害者手帳の申請などいろいろしてください
職員として採用されないと気持ちが腐ってい
ます。
って、どうしてもやめていく人が結構いるん
Q 日々の事務作業に追われてしまって、本
ですね。そういった問題は特に起きていない
来ケースワーカーのあるべき部分に手が回ら
のかなと思って質問しました。
ないのが実情だと思います。それはどこの区
A 長く作業所などにいて、そこから出たい
も多かれ少なかれあって、中にはそれで気持
-143-
ち的につぶれてしまう人もいる。今回のよう
一社会福祉法人で受けるより、仕事の内容が
な社会資源を知るということはとても大切な
広がるので、まずはナカポツさんに相談され
のですが、そこの前に越えなきゃいけない壁
ることをお勧めしています。
支援でお願いしたいところは、外部就労支
がいっぱいあるなというのが感想です。
Q 実際に支援されていく中で苦労された点
援団体として、本人を含めた4者の関係を継
とか困られたこととか、壁に当たった点とい
続していただくことです。何か困ったときに
うのは何かありますでしょうか。
相談できる関係を継続していれば、内部就労
A 壁に当たっているといえば、毎日いろい
支援部署としては、安心して職場での支援に
ろな壁に当たっています。現場でどうしても
専念できます。振返り面談などで同席いただ
お荷物的な立場になってしまい、職場での居
き、本人のステップアップをともに伴走して
場所がなかなかできない場合は、むずかしい
いただけると心強いです。稀に、UW開始ま
と感じます。この人がうちの職場に来てくれ
では、熱心にいらして就労開始後は、振返り
て助かっている、来てくれてよかったという
などお声をかけてもほとんど来ていただけな
職場にするには、何を変えたらいいか、壁の
い場合はあります。
中でもがいている感じです。
Q 山本先生にお伺いします。ユニバーサル
Q 今まで福祉のケースワーカーだとか、福
就労が厚生労働省の助成事業として行われて
祉事務所から相談があった人はありますか。
いるというお話でしたが、例えば生活保護の
あった場合には、福祉事務所側にこういう支
受給条件の中にこういったものが組み込まれ
援をしてもらえるともっとユニバーサル就労
ていくとか、あるいは障害者等が支援を受け
をする上でやりやすいのになとか、福祉事務
るのであればこういったプロセスを経てから
所がこういうことをやってから相談しに来な
とか、今後どういうふうにこれがなっていく
いと、うちも手伝うのが大変だなとか、いろ
のか、差し支えない範囲で教えていただけれ
いろあるかと思うんですけど、福祉事務所に
ばと思います。
求めるようなこととかがあれば教えていただ
A ユニバーサル就労は中間的就労の1つな
ければと思います。
ので、これは今後、今言ったような課題を含
A 市町村の福祉課、保護課やサポステなど
みつつも、風の村のほうで展開をしていくと
からも、相談があります。まず障害者手帳が
思うんですけど、中間的就労がこれからどう
ある方はナカポツ(障害者就業・生活支援セ
しても位置づけざるを得ないだろうなと思っ
ンター)に相談しましたかと必ず私たちは聞
ています。社会保障審議会の生活支援の在り
くようにしています。障害者手帳がある方は、
方に関する特別部会のほうでもいろいろ先進
-144-
事例というのを見に行っているみたいです。
そういった中で、先ほど挙げました横浜のイ
ンターナショナルのK2さんとか、そのほか
にも千葉のほうでよく頑張っていらっしゃる
がじゅまるさんとか、風の村さんも載ってい
ますし、それから大阪の豊中のほうの事例も
出ていましたり、いろいろなことで、今、中
間的な就労支援をしないともうたどり着けな
いというか、そこをせざるを得ないだろうと
いう認識はすごくあるのではないかと思いま
す。
ただ、だれがそこをやるか。例えば福祉事
務所では難しいという認識があるので、恐ら
くNPOなどにかなりの期待がかかって中間
的就労ということを応援していくのではない
かなという感じはします。
そこで、先ほども言いましたが、専門職と
してそこにかかわっていくのか、あるいはそ
うではなくて伴走型支援と言われる専門職、
いわゆる伴走ができるような人を養成してい
くのかというところは今ちょっと議論があっ
て、必ずしも資格を持った専門職でなくても
いいのではないかというような考え方が結構
あるような気がします。
-145-
ユニバーサル就労とは何か
東洋大学
山本 美香
ユニバーサル就労の定義
• 何らかの理由で就労に困難をかかえている
人々が、必要な支援を受けながら、はたらく
場と仲間を得ていくこと、またその仕組みづく
り。
• “ユニバーサル”とは、だれにとっても働きや
すい場・環境であるということ。
-147-
誰が主な対象か?
精神的、社会的な理由で就労に困難を抱えている
人々
-身体的・知的・精神的な障害のある人
-ひきこもりなどで、就労ブランクのある人
―長時間勤務が難しい人(母子・父子家庭の人
家族の介護をしている人など)
―ホームレスの人
etc
ユニバーサル就労の対象
(出典:「ユニバーサル就労システムガイドブック」ユニバーサル就労システムづくりワークショップ 生活クラブ風の村(社会福祉法人生活クラブ)
-148-
ユニバーサル就労の目的
• 二極化している福祉的就労と一般就労をつな
ぐ
• 一人ひとりの状況やニーズに合わせたはたら
き方を創出し、提供する
• 誰でもがはたらきやすく、生きがいのある職
場を作りだし、孤立しない社会の創造
• はたらく場がないのではなく、はたらける場と
機会を作り出す
-149-
ユニバーサル就労の形態
(出典:「ユニバーサル就労システムガイドブック」ユニバーサル就労システムづくりワークショップ 生活クラブ風の村(社会福祉法人生活クラブ)
4つの賃金体系
(出典:「ユニバーサル就労システムガイドブック」ユニバーサル就労システムづくりワークショップ 生活クラブ風の村(社会福祉法人生活クラブ)
無償
コミュー
ター
最低賃金
保証
有償
コミュー
ター
一般賃金
-150-
コミューターとは?
(出典:「ユニバーサル就労システムガイドブック」ユニバーサル就労システムづくりワークショップ 生活クラブ風の村(社会福祉法人生活クラブ)
ユニバーサル就労の進め方①
(出典:「ユニバーサル就労システムガイドブック」ユニバーサル就労システムづくりワークショップ 生活クラブ風の村(社会福祉法人生活クラブ)
ワークショップ
準備
ワークショップ
(複数回)
•疑問や課題を出し合う
•業務分解、業務の洗い出し
•マッチング作業の開始
-151-
ユニバーサル就労の進め方②
(出典:「ユニバーサル就労システムガイドブック」ユニバーサル就労システムづくりワークショップ 生活クラブ風の村(社会福祉法人生活クラブ)
団体訪問
ワークショップ
ワークショップ
最終回
• マッチングの詰め
• 参加団体を個別訪問
• 団体間でのマッチング
• マッチング
• 成果の共有
具体的な切り出しの手法~1日単位
高齢者福祉施設の場合
-152-
具体的な切り出しの手法~週単位
高齢者福祉施設の場合
ユニバーサル就労が持つべき要素
単純労働、「嫌な
仕事」の押し付け
ではない
その人の個性、特
性、ニーズに合っ
たはたらきかたで
ある
-153-
ユニバーサル就
労によって新たに
生み出された時
間・仕事が、組織
の発展につながる
社会保障審議会生活困窮者の生活支援の在り方に関する
特別部会(第9回)
平成24 年10 月17 日(水)
社会保障審議会生活困窮者の生活支援の在り方に関する
特別部会(第9回)
平成24 年10 月17 日(水)
-154-
社会保障審議会生活困窮者の生活支援の在り方に関する
特別部会(第9回)
平成24 年10 月17 日(水)
事業者調査の結果(平成23年12月実施)
~千葉県内の社会福祉法人、福祉作業所
(出典:「ユニバーサル就労のすすめ 障害者雇用促進法に類する企業意識調査 株式会社 川原経営総合センター)
考え方は共感できる
が、就労=自立なの
か?
就労困難者というの
はもはやマイノリティ
ではない。社会全体
の問題とすべき。
実現性に疑問があ
る。イメージがわか
ず、ピンとこない。
現状の課題が多く難
しい。就労の場が少
ない。
利用者の高齢化とと
もに障害の重度化
で、就労とはかけ離
れてきている
-155-
事業者調査の結果(平成23年12月実施)
~千葉県内の社会福祉法人、企業(200人以上を雇用)
• 「ユニバーサル就労の対象と考えられる人を
雇用しているか」
1.社会的意義はわかるが難しい 41.7%
2.すでに積極的に取り組んでいる 22.9%
3.今後、取り組みたい
10.4%
• 「障害者等が職場に入ることへの不安は何
か」
1.仕事中の事故やけが
21.5%
2.該当する仕事がない
13.5%
3.通勤途中の事故やけが
8.9%
4.何ができるかわからない
7.4%
特別扱いによる他への影響 7.4%
-156-
• 「障害者等が職場に入ることへの不安は何
か」
自由回答
○子供の命を預かる仕事なので難しい
○身体的・精神的介護が必要な高齢者に対
する仕事としては、難しい面があると思います。
われわれ資格者であっても常に緊張の連続です。
• 「どんな方法があれば、不安が緩和され、雇
用の可能性が見いだせるか」
1.本人への指導方法や対応方法の助言
12.3%
2.障害者等の個性や特性に応じた作業方法
の工夫
9.9%
3.明確な後見人・相談者
6.3%
-157-
はたらきかたの事例
• 事例1:調理場で調理をするAさん(女性・30代)
【軽度知的障害】
特性:言われた通り、きっちりと仕事をする
☆きっちりと食材を刻む
☆お菓子作りも任される
備考:目標は、料理の味付けができるようになること→朝
から厨房に入り、就労時間を延ばすことが可能に!
はたらき方の事例
• 事例2:清掃や介護支援を行うBさん(男性・40代)
【軽度知的障害】
特性:どんな仕事も笑顔で対応する。決められた仕事は
最後まで行う
☆施設の窓ガラスを、毎日、すべて掃除する
☆高齢者の食事介助に際して笑顔で接する
備考:施設の車を洗ってもらうときには、彼自身に選んで
もらう→選択肢があることは仕事のモチベーションをあ
げる
-158-
はたらき方の事例
• 事例3:児童デイケア施設で障害児ケアをするC
さん(女性・50代)
【高次脳機能障害】
特性:元介護福祉士。感情に波がある。月に60時
間の就労
☆介護の専門技術があるため、障害児ケアも可
能である
備考:もとの専門性を活かせる。短時間就労で精
神的不調でも就労が可能となった。
はたらきかたの事例
・事例4:高齢者福祉施設で無償コミューターと
してはたらくDさん(男性・50代)
【うつ病】
特性:元職員。社会復帰の場としての関わっ
ている。高齢者介護および職場そのものに慣
れている。
備考:将来的には短時間労働が可能になる
か?
-159-
はたらき方の事例
• 事例5:高齢者福祉施設で受け付けを担当す
るEさん(女性・20代)
【長期のひきこもり】
子供のころからの引きこもりを克服して、現在
は接客が仕事。
当事者と雇用者を支援する体制
(出典:「ユニバーサル就労システムガイドブック」ユニバーサル就労システムづくりワークショップ 生活クラブ風の村(社会福祉法人生活クラブ)
-160-
当事者と雇用者を支援する体制
当事者と雇用者を支援する体制
~連携づくり
(出典:「ユニバーサル就労システムガイドブック」ユニバーサル就労システムづくりワークショップ 生活クラブ風の村(社会福祉法人生活クラブ)
-161-
課題
• コミューターを単なる「ただばたらき」にさせない
→将来の展望をもった、はたらきとなれるか?
• 「障害者に向いた仕事」と決めつけない
• 「特別扱いではない」形での就労
• 社会的な普及、理解の促進
• 支援体制の充実→不安感を払しょくできるか
-162-
「私は 会社 ではたらいています」
ユニバーサル就労
~風の村のユニバーサル就労の現状報告~
生活クラブ風の村 ユニバーサル就労支援室長
平田 智子
ユニバーサル就労システムの全体像
ユニバーサル就労の進め方
マッチングワークショップ
1 個別相談
電話等による相談受付
2 アセスメント
受け入れまでのステップ
Step.1→2→3→(3+)
→4→5→(5+)→6
3 継続・キャリアアップのための支援
①継続支援 ②連携 ③財源確保について
各段階でのツール・連携
本人
職場
(上司)
外部支
援団体
内部就労
支援部署
「外部支援団体」
対価と形態
①無償コミューター
業務委託・仕入れ
②有償(コミューター/除外申請)
イベント参加、場の提供
③最低賃金保障
④一般賃金
※ボランティア
・ユニバーサル就労ネットワークちば
・障害者就業・生活支援センター
・中核地域生活支援センター
・地域障害者職業センター
・当事者支援団体
・特別支援学校
・ハローワーク
・労働基準監督署
など
ユニバーサル就労を広げていくために
ユニバーサル就労を進める団体を支援するネットワーク・中間支援団体の創設
2
-163-
ユニバーサル就労システムの進め方
継続・キャリアアップのための支援
就労をはじめてからも、1人ひとりに合わせた目標などを設定し、ステップアップを
支援していきます。
就労している本人と職場(上司)の1対1の関係では、どちらかにストレスのかかっ
てしまうことがあるため、人事担当者やユニバーサル就労支援室などの内部就
労支援部署や、外部支援団体と協力しながら、その人の「“会社”ではたらく」を一
緒に支えていきます。
支援体制のイメージ
「外部支援団体」
本 人
・ユニバーサル就労ネットワークちば
・障害者就業・生活支援センター
・中核地域生活支援センター
・地域障害者職業センター
職場(上司)
外部支援団体
・当事者支援団体
・特別支援学校
・ハローワーク
・労働基準監督署
内部就労支援部署
など
3
生活クラブ風の村 ユニバーサル就労の取り組み
*ユニバーサル就労支援室の設置(2010.4~)
・構成(2012.5現在)
生活クラブ風の村事業本部
担当理事
企画部(5名)
総務部(3名)
財務部(1名)
●担当制による個別支援が必要な人についての支援
・Step.1個別相談
→ 事業所とのマッチング(職場実習、ハローワークへの相談)
・就労開始後の継続支援(定期的な面談の実施)
…状況把握、しごと内容・次のステップ目標・報酬設定等の提案や調整
●ユニバーサル就労の方を対象とした人事考課等の検討
●だれもがはたらきやすい職場となるような就業規則の見直し
●毎月1回の「ユニバーサル就労支援室会議」の開催
「ユニバーサル就労支援室会議」
ユニバーサル就労支援室
就職するなら明朗塾
(障害者就業・生活支援センター)
※オブザーバー参加
○各担当別 個別支援が必要な人 全員の状況報告
○事例検討等の実施
○ユニバーサル就労の方を対象とした人事考課等の検討 など
本人や事業所が無理なく就労を継続できるよう外部専門機関とも連携し支援しています
-164-
4
生活クラブ風の村 ユニバーサル就労の現状
アセスメントをおこなった方の状況
2012年9月26日現在
★これまでにアセスメント(Step1職場実習に向けた個別相談)を
おこなった方
95名
このうち、生活クラブ風の村で
◆マッチング中の方
17名
◆就労中の方
43名
◆一般就労へ移行した方
1名
8名
※マッチングワークショップから就労された方
5
生活クラブ風の村 ユニバーサル就労の現状
アセスメントをおこなった方の状況
個別支援の理由
2012年9月26日現在
◆障がい(手帳など取得)
・知的障がい
19名
・精神障がい
・身体障がい
・高次脳機能障がい
・発達障がい
(うち11名UW中、3名マッチング中)
19名
(うち8名UW中、4名マッチング中)
12名
(うち6名UW中、 2名マッチング中)
3名
(うち3名UW中、0名マッチング中)
3名
(うち2名UW中、 1名マッチング中)
※うち障がいを重複されている方7名
◆その他(手帳なし、社会的な理由など)
38名
(うち17名UW中、7名マッチング中)
6
-165-
生活クラブ風の村 ユニバーサル就労の現状
【対価・形態別の人数】
はたらき方
2012年9月26日現在
人数
3
UW無償コミューター
UW有償コミューター
10
(「一部有償コミューター」を含む)
UW最賃保障職員
25
(他事業所で有償コミューターをされている方を含む)
UW一般賃金職員
5
一般就労へ移行
1
合計
44
※現在マッチング中の方(17名)は除きます。
7
生活クラブ風の村 ユニバーサル就労の現状
【しごと内容別の人数・総数43】
2012年9月26日現在
職種/人数
介護
介護補助
のべ人数
うち他職と兼務
2
0
19
6(清掃、事務補助、指導員補助)
指導員補助
3
1(介護補助)
事務
3
0
事務補助
7
2(清掃、介護補助)
調理補助
2
0
清掃
日常業務補助
14
6(介護補助、事務補助、日常業務補助)
1
1(清掃)
8
-166-
生活クラブ風の村 ステップアップの状況
個人
形態 ア イ ウ エ オ カ キ ク ケ コ サ シ ス セ ソ タ チ ツ テ ト ナ ニ ヌ ネ ノ ハ ヒ フ ヘ ホ マ ミ ム メ モ ヤ ユ ヨ ラ リ ル レ ロ ワ
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1
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9
一般就労
~
9
生活クラブ風の村 ステップアップの状況
■ 2011年4月時点のUW内訳
UW無償コミューター
3名
■ 同じ方が
2012年4月には…
A
B
C
A
D
UW有償コミューター
4名
E
F
H
6名
B
C
D
G
UW最賃保障職員
0名
1名
E
F
I
G
J
H
K
I
L
M
11 名
J
K
L
UW一般賃金職員
4名
N
N
O
O
P
Q
P
5名
Q
M
2011年4月~2012年4月期間の
コミューターのステップアップ率
-167-
100
%
10
生活クラブ風の村 雇用率の推移
2008年
12月
2009年
12月
2010年
12月
2011年
12月
2012年
4月
2012年
9月
法定雇用
率
0.87%
0.74%
0.69%
1.87%
2.08%
2.00%
UW率
0.86%
0.99%
1.40%
3.11%
3.27%
3.92%
[UW率の算定根拠]
• 法定雇用率に算定される方(手帳取得者)は通常通り重度カウント
• それ以外は重度カウントせず、時間数により以下のカウントにより算出。
30時間以上
1
30時間未満20時間以上 0.5
20時間未満10時間以上 0.25
10時間未満
0.125
11
ユニバーサル就労システムの進め方
就労に係る費用の財源確保について
(企業内基金の設置、助成金の活用等)
就労を継続していくために必要な費用
本人への報酬
本人への交通費
職場環境を整えるための施設内の整備
勉強会
など
企業内基金の設置
各種助成金の活用
職場の負担軽減
・ユニバーサル就労の費用にあてる
積極的にUWに取り組むことが可能に
・一部を企業内基金とする
など
12
-168-
生活クラブ風の村
地域福祉支援積立金 【目的・財源】
目的
• 生活クラブ風の村が、社会福祉
法人の使命と考えている『地域
福祉への貢献』の実現
財源
• 非課税である社会福祉法人とし
て、本来課税されるべき金額を
地域に還元するため、収支差
額の一部を別建てにして活用
13
生活クラブ風の村
地域福祉支援積立金 【活用例】
次のような事業・活動の資金の一部として活用しています
自法人が行う地域に役立つ事業に
• ユニバーサル就労:コミューターの経費(報酬・交通費等)に活用
• 生活クラブ版地域福祉活動計画
• 風の村さくら冒険基地(プレイパーク)
地域の団体等に向けた助成に
• 生活再生支援センター“アリエッティ基金”への助成(2010年度)
• 公募団体への助成
2011年度(地域の居場所づくり、盲ろう者ガイドヘルパーフォローアップ研修、地域作業所の職業ミシン購
入
入、ブルーベリー農園東屋補修、福祉施設で作られた商品のカタログ製作)
2012年度(8月募集中)
• インフォーマルサービス新規事業の助成
2011年度(地域見守りと生活支援サービス、地域の居場所づくりと生活支援サービス、地域の居場所づくり
と
と片付け・買い物サービス、独居高齢者対象のシアターと食事懇談会)
2012年度(階段昇降機を利用した外出支援、高齢者の自分史出版作業を通した精神障害者就労支援、
高齢者用高齢者等の在宅・施設内生活支援サービス)
東日本大震災で被災された方々の支援に
14
-169-
ユニバーサル就労システムの全体像
ユニバーサル就労の進め方
マッチングワークショップ
1 個別相談
電話等による相談受付
2 アセスメント
受け入れまでのステップ
Step.1→2→3→(3+)
→4→5→(5+)→6
各段階でのツール・連携
本人
職場
(上司)
3 継続・キャリアアップのための支援
外部支
援団体
内部就労
支援部署
①継続支援 ②連携 ③財源確保について
「外部支援団体」
対価と形態
①無償コミューター
業務委託・仕入れ
②有償(コミューター/除外申請)
イベント参加、場の提供
③最低賃金保障
④一般賃金
※ボランティア
・ユニバーサル就労ネットワークちば
・障害者就業・生活支援センター
・中核地域生活支援センター
・地域障害者職業センター
・当事者支援団体
・特別支援学校
・ハローワーク
・労働基準監督署
など
ユニバーサル就労を広げていくために
ユニバーサル就労を進める団体を支援するネットワーク・中間支援団体の創設
15
ユニバーサル志縁社会創造センター
誰ひとりとして孤立しない・させない地域社会づくり
(1)
ユニバーサルな
地域社会
■ 地域づくり事業の起業支援
■ 地域循環型企業資金拠出システム(プロジェクトファイナンス)の普及
■ 地域づくりコーディネーター(仮称)等人材育成事業
■ 志縁をつなぐ文化祭
(2)
ユニバーサル
就労
身体的、精神的、社会的理由によって働きにくさを抱えている人とも一緒に、
誰にとっても働きやすい職場づくり
(3)
ユニバーサル
農業
高齢者、障がい者、都市住民など、さまざまな人による農業の再生、環境活動の推進
(4)社会的企業
の主流化促進と
NPO・企業の協
働の推進
地域の現場に根差した政策づくりや具体的参加の促進
■ ユニバーサル・オフィス・システムの確立と普及
■ ユニバーサル農業の拡大
■ ユニバーサル農業フェスタの定期開催
■ 社会的経済セクターの環境配慮活動事例集の作成・公開
■ ユニバーサル社会を推進するための制度提案
■ NPOと企業・労働組合等との協働事業のコーディネート
(5)東日本大震災復興活動支援
■ 被災地・避難先等のNPO活動支援、被災者支援
-170-
16
ユニバーサル志縁社会創造センター理事一覧
会長
加藤登紀子(鴨川自然王国)
顧問
大熊由紀子(国際医療福祉大学大学院教授)
理事
金子郁容(慶應義塾大学大学院教授)
堂本暁子(前千葉県知事)
広井良典(千葉大学教授)
代表理事
池田 徹(NPO法人地域創造ネットワークちば副代表)
古賀伸明(日本労働組合総連合会会長)
副代表理事 兼間道子(NPO法人NPO事業サポートセンター代表理事)
河田珪子(コミュニティカフェ全国連絡会共同代表)
藤田和芳(株式会社大地を守る会代表取締役)
専務理事
池本修悟(NPO法人NPO事業サポートセンター専務理事)
常務理事
井上肇(生活クラブやまがた顧問)
浦田慶信(株式会社生活科学運営代表取締役)
北山陽一(ゴスペラーズ)
西田京子(宅老所を全国に広める会代表)
林 良樹(鴨川自然王国理事)
平野覚治(NPO法人市民福祉団体全国協議会常務理事)
牧野史子(NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジン理事長)
牧野昌子(NPO法人ちば市民活動・市民事業サポートクラブ代表理事)
水谷雄二(日本労働組合総連合会総合組織局局長)
村上彰一(生活クラブ生協東京専務理事)
山崎唯司(NPO法人NPO事業サポートセンター常務理事)
監事
山本伸司(パルシステム生活協同組合連合会理事長)
※2012年7月現在
事務局長
井上 優(NPO法人宮崎文化本舗副代表)
岩永牧人(NPO法人ユースポート横濱理事長)
上田 正治(社会福祉法人丹後福祉会理事・総施設長)
宇都木法男(NPO法人NPO事業サポートセンター常務理事)
太田秀樹(医療法人アスムス理事長)
小川泰子(社会福祉法人いきいき福祉会専務理事)
河口博行(NPO法人ニッポン・アクティブライフ・クラブ専務理事)
齊藤克子(NPO法人NPO埼玉ネット代表理事)
更谷令治(NPO法人思いやり支援センターくまの理事長)
庄妙子(生活クラブ生協千葉常勤理事)
杉山さかゑ(NPO法人北海道NPOサポートセンター理事長)
高橋 均(労働者福祉中央協議会事務局長)
高橋 公(NPO法人ふるさと回帰支援センター専務理事・事務局長)
中村隆行(NPO法人ひろしまNPOセンター副代表理事)
名越修一(NPO法人NPO推進ネット常務理事・事務局長)
西嶋美那子(障害者雇用アドバイザー)
野沢和弘(毎日新聞論説委員)
芳賀唯史(日本生協連専務理事)
林 諄(株式会社日本医療企画代表取締役)
林 大介(NPO法人日本子どもNPOセンター理事)
マエキタミヤコ(サステナ代表)
松下典子(てらもと輪が家運営委員、地域福祉サポートちた元理事長
村城 正(社会福祉法人協同福祉会理事長)
山根眞知子(NPO法人NPO事業サポートセンター理事)
湯浅 誠(反貧困ネットワーク事務局長)
對馬昭次(税理士)
前原東二(公認会計士)
17
奈良 環(旧NPO法人地域創造ネットワーク・ジャパン事務局長)
ユニバーサル就労 個別の事例
18
-171-
個別の事例1 [30代男性]
はたらきづらさの理由:ひきこもり、就労ブランク
就労開始時期:2010年6月~(UW有償コミューター)
就労形態:UW最賃保障職員 週5回×5時間/日
場所:複合施設の管理部
しごと内容:事務補助、清掃
•
•
•
2010年4月相談受付。「人と関わらない仕事がしたい」。
就労開始当初はUW有償コミューターとしてショートステイで介護補助(居
室の清掃、ベッドメイキング等)を行いながら、職員との挨拶、居室に入る
際の挨拶などの課題を所属長と本人で設定していた。
支援室同席の定期的な面談をしていく中で、2011年5月、本人よりステップ
アップしたいという意向を聞く。
•
仕事の幅を広げていくことを検討し、管理部の事務補助(パソコンへの入
力作業、書類整理等)を業務に加えた。
•
事務作業が得意なことが分かり、所属長・支援室・本人との面談で意向を
確認し、事務補助として2011年8月よりUW最賃保障職員となった。
19
個別の事例2 [30代女性]①
はたらきづらさの理由:就労ブランク(アスペルガー症候群の可能性あり)
就労開始時期:2010年2月~(ボランティアとして通う)
就労形態: UW最賃保障職員 週3回×2時間/日
場所:特別養護老人ホーム
しごと内容:洗濯たたみ→風呂清掃
・ 2010年2月に本人より問合せがあり、支援室が個別相談を受ける。事業
所長との面談をするが、「笑顔、挨拶ができないと難しい」となり、ボラン
ティア(洗濯たたみ)として関わる。
•
グループ団体のボランティアコーディネーターが毎回のボランティアの前
後に振り返りを行う。支援室が窓口となり、コーディネーター、本人から
状況聞き取り。
•
問合せ当初通っていたニート、引きこもり支援団体に通わなくなったと本
人から聞き取る。笑顔、日常会話がスムーズにできるようになる
週2回→週3回のボランティアにも慣れた頃、事業所長がきちんとしごとを
している様子を確認、2010年7月からUW有償コミューターとなる。
•
•
事業所や、コミューター後も関わっていたグループ団体等から、場の空
気を読めない発言等で周りが戸惑っているとの報告があり、外部支援団
体(障害者就業・生活支援センター)に仕事中の本人の様子を見てもらう。
20
-172-
個別の事例2 [30代女性]②
はたらきづらさの理由:就労ブランク(アスペルガー症候群の可能性あり)
就労開始時期:2010年2月~(ボランティアとして通う)
就労形態: UW最賃保障職員 週3回×2時間/日
場所:特別養護老人ホーム
しごと内容:洗濯たたみ→風呂清掃
• 本人のはたらく意志を確認できない状態が続く中、洗濯たたみの業務では他の
職員との調和が困難な状況であると事業所より報告がある。2012年1月あらため
て本人と面談。ステップアップの意志を確認し、障害者就業・生活支援センターに
も関わってもらいながら、しごとを続け、ステップアップしていくことを本人と確認。
• 2月、障害者就業・生活支援センターと打合せ。同事業所内の他UW職員との業
務内容の交換が提案される。→風呂清掃の業務に移行していくことを確認。
• 3月末、施設長より順調との連絡→4月よりUW最賃保障職員として雇用していく
ことを確認。
• 自分から業務内容について(汚い箇所の掃除をどのようにしたらよいか等)職員
に話すこともあり、少しずつはたらくということを意識している様子がうかがえる。
• 6月、さらに就労時間を延ばしたいとの申し出があり、業務分解を所長と調整中。
• 「手が痛い」と本人から訴えがあり、事務補助等、別のしごとを希望される。再度
面談し、障害者就業・生活支援センターで職業適性検査を受ける。
• 事務能力は高いとのことだが、現在、適性検査の結果をもとに業務の調整を検
討中。
21
個別の事例3 [10代男性]
はたらきづらさの理由:若年
(父、兄、弟は療育手帳を取得、母もその傾向がある)
就労開始時期:2011年10月~
就労形態:UW無償コミューター 一部 有償コミューター(週5回×4.5時間/日)
場所:複合施設
しごと内容:清掃
• 市の児童福祉課より問合せがあり、相談員・本人・母と支援室で個別相談を行う。
• 本人はなりたい職業があるが、相談員の口添えや若年ということもあり、複合施
設での清掃を中心とした力仕事を行うこととなる。
• 外部支援団体(障害者就業・生活支援センター)も当該家庭に支援に入っていた
ことがあることが分かり、今後のことを考えて本人の手帳取得も検討したほうが
いいのではないかというアドバイスがあり、市の相談員、障害者就業・生活支援
センター(ナカポツ)との支援者会議を行う予定。
• 遅刻、欠勤があり、生活面の支援も必要、また、本人のモチベーションも下がり気
味で、市、ナカポツ、支援室、上司等のケース会議を開催。
• 市、両親、ナカポツが話し合い、手帳取得の方向で合意、継続的に就労支援する
ことを支援室も含めて確認し、生活面等はナカポツにも引き続き協力いただく。
22
-173-
個別の事例4 [30代男性]
はたらきづらさの理由:知的障がい(手帳有)
就労開始時期:2011年9月~(有償コミューター)
就労形態:UWとしての職員採用 週5回×5.5時間/日
場所:デイサービスセンター
しごと内容:清掃、日常業務補助 (洗濯、食器洗い、窓ガラス拭き、浴室・
玄関・リビングの清掃、洗車、お茶出し、昼食準備など)
•
マッチングワークショップでつながる。
•
事業所としては本人の意向次第で雇用契約することも検討していたが、支援団
体(障害福祉サービス事業所)より、まじめな性格でたとえ嫌だったとしても「はい、
やります」と言ってしまうとのことで、当面有償コミューターとして、午前は障害福
祉サービス事業所、午後は風の村の事業所に通うことにした。
3カ月様子を見て本人の意向を確認し、2011年12月よりUWとしての職員採用と
なる。
•
•
•
•
コミューターという形態をとったことで、支援団体との密な連携をとることができた。
今後も見守り等も含めてさらに時間をのばしていくことを検討。
2012年4月から午前中からの仕事となり、9時から17時までデイサービスにいるが、
実働5.5時間で、後の時間は、長めの昼食休憩等にしている。
今後のリビング見守り業務を視野に、リビングでの食事、おやつ休憩で利用者と 23
関係つくりをしている。
個別の事例5 [50代女性]
はたらきづらさの理由:知的障がい(手帳有)
就労開始時期:2007年11月~
就労形態:UW最賃保障職員 週4回×5時間/日
場所:特別養護老人ホーム
しごと内容:清掃(風呂・脱衣室、ユニットリビングの床)
•
•
•
•
•
リビング床にこびりついた汚れをそぎ落とす仕事、風呂清掃等で、就労開始当初
は、日頃職員が対応しきれない部分をしてくれると頼りにされている様子があり、
事業所からも特に支援室の対応はいらないと言われていた。しかし、人とお話しす
ることがとても好きな方で、仕事中もおしゃべりが絶えなかった。
2011年6月 事業所より、高齢のためなのか性格なのか、仕事をきちんとできてない
様子が見られると所属長から支援室に連絡があり、支援室、外部支援団体(障害
者就業・生活支援センター)、所属長と支援者会議を設ける。
所属長より別の方と交代したほうがいいのではとの提案もあったが、得意なことを
活かす仕事(ゴミの分別やリビングでの食器洗いなど)を検討していくことを確認。
障害者就業・生活支援センターと連携しながら、業務内容を検討し、2012年4月よ
り、ジョブコーチによる約3カ月の再支援中。
風呂清掃→洗車に変更し、当初から頼りにされていたリビング清掃とあわせた業
務を行っており、事業所からも評価される業務となった。
24
-174-
25
個別の事例6 [30代男性]
はたらきづらさの理由:知的障がい・てんかん(手帳有:B2)
就労開始時期:2007年11月~
就労形態:UW最賃保障職員 週5回×4.5時間/日
場所:サービス付き高齢者向け住宅・小規模多機能型居宅介護
しごと内容:介護補助(朝食配膳下膳、小規模多機能泊り居室清掃、リビング見守り)
•
採用が決まった段階で、障害者職業センターで、Bさんを担当をしていた方を招き、
職場会議で勉強会を開催、障がい特性の理解、彼特融の対応方法などを職員全
員で共有する。
•
当初は、注意されると不機嫌になったり支援の仕方を模索したが、障害者職業セ
ンター、高等技術専門校等と面談を繰り返し、上司が対応を学ぶ。
•
朝7時からの勤務で、朝食の配膳下膳から仕事が始まる。その後、小規模多機能
泊りの個室の清掃、ベッドメーキング。彼の為に、わかりやすい個室清掃の手順書
をつくることで、一般採用のパート職員も、初日からスムーズに個室の清掃業務が
でき、それまでは、ワーカーによって差のあった個室清掃が均一化される。
•
認知症の方が外に出るところを見つけたら、職員にかならずすぐに知らせる等の
見守りもできるようになるなど、任せられる仕事が増えて、就労時間が少しづつ長
くなって、週20時間~30時間働いている。
26
-175-
個別の事例7 [20代男性]
はたらきづらさの理由:知的障がい・学習障害(手帳有:B1)
就労開始時期:2007年11月~
就労形態:UW最賃保障職員 週5回×7時間/日
場所:ショートステイ
しごと内容:リビング見守り、ベッドメーキング、移乗等の直接介護
•
約1か月の実習を経て、週5日、一日4時間勤務で、外出の同行補助、レクリエー
ション補助など、まず利用者になれて、話をすることから始めた。リビングでホット
ケーキを焼いたり、簡単な手品を見せたり、元気で、明るい性格で利用者にもか
わいがられた。
•
介護の仕事が面白くずっとやっていきたいとの本人の希望で、法人主催の2級ヘ
ルパー講座を受講する。テキストは本部、現場事業所、障害者就労・生活支援セ
ンター職員で、ルビをつけて、レポート提出は主に現場上司、いないときは本部支
援室担当者が支援した。
•
ショートステイの現場では、職員がトイレ介助、入浴介助等をしていてもDさんが
しっかりリビングで、見守りをしているので、日中の介護事故がすっかりなくなった
との報告があり、Dさんの役割がはっきり見えている。
•
無事2級ヘルパー資格を取得し、介護職として本格的に業務に就き、入浴介助な
27
どの身体介護、早番なども積極的にやるようになり、着実にスキルアップしている。
個別の事例8 [20代男性]
はたらきづらさの理由:知的障がい(手帳有:B1)
就労開始時期:2011年9月~
就労形態:UW最賃保障職員 週5回×6時間/日
場所:ショートステイ
しごと内容:清掃(玄関・風呂・脱衣室、ユニットリビング廊下の床、食堂テーブルイス)
•
マッチングワークショップでつながる。
•
ジョブコーチが約1か月ついて実習をする。途中の中間振返りでは、だれもいない
個室清掃で休んでしまったりしていたが、再度課題を整理し、ジョブコーチ支援を
継続し、職員採用となる。
•
就労後も、ジョブコーチの支援を受けながら、UW支援室と上司、ジョブコーチとの
振返り面談等を繰り返す。当初は、一日5時間勤務だったが、6時間勤務となる。
•
イレギュラーな対応が苦手なため、業務分解した業務内容のカードを首から下げ
て1つ終わるごとにスタッフに報告し、次の業務の支持を受けている。
•
昼食も当初はスタッフルームで一人でとっていたが、最近はリビングで利用者と一
緒にとれるようになった。また、配膳の手伝い等も少しづつできるようになった。
28
-176-
個別の事例9 [50代男性]
はたらきづらさの理由:知的障がい(手帳有:B2)
就労開始時期:2011年11月~
就労形態:UW最賃保障職員 週5回×5時間/日
場所:複合施設厨房
しごと内容:切り込み、配膳、下膳、食器洗い(味付けは週2回のおやつ)
•
新規に主婦が企業したワーカーズコレクティブという就労形態の職場のため、24
時間、365日の厨房業務は、土日のシフトがなかなか埋まらなかった。生活保護で
グループホームに入っているFさんが、土日をいとわずシフトに入れることは、職場
にとってもメリットとなった。
•
以前は、B型就労継続支援で、お弁当製造の業務をしていたので、ほとんどの業
務は、全般的に支障なくこなせた。その頃は生活保護を受けていたが、現在は生
活扶助の現金給付は返上し、医療費扶助のみとなって、今後は完全に生活保護
から外れて、自立することを目指している。
•
知的障害が軽度なので、かえって誤解を招きやすく、以前の一般企業での職場で
は、障がいが理解されずトラブルとなることが多かった。
•
真面目な働きぶりで職場でも信頼を得ているが、スキルアップして時間を延ばすこ
29
とが目標。
個別の事例10 [30代男性]
はたらきづらさの理由:生活困窮・軽度知的障がい(手帳無)
就労開始時期:2012年3月~
就労形態:UW最賃保障職員 週4回×7時間/日
場所:生協配送センター(駐車禁止区域が多い地域)
しごと内容:配達添乗、ピッキング、配達中のトラック内整理、配達前積込み
補助、配達後センターでの片づけ作業など)
•
支援者(ホームレス支援団体)からは極度の人見知りなので、面談でも帽子、マス
ク着用を了解してほしい、生活保護受給日は休むこと、漢字が苦手、腰痛、變頭
痛、精神の通院等の説明があった。
•
配達職員は曜日毎に変わるが、4名の職員がGさんをそれぞれの感性で理解し、
センター長はじめ関わる人全員が支える体制となった。
•
勤務態度はまじめで、職場でも信頼を得て就労後1か月には、添乗することで、配
達時間の短縮という形で職場に成果を与えた。
•
就労2ヶ月目の振返り面談では、帽子、マスクは外して、面談者としっかり目をあ
わせて質問に答えるようになった。
•
職員個人のやり方で各々トラック積込みをしているが、Gさんが4名の中で一番効
率的な積込みの職員がわかり、4名が同じ積込み方となり効率化された。
30
-177-
個別の事例11 [20代女性]
はたらきづらさの理由:広汎性発達障害(自閉症)(療育手帳)
就労開始時期:2012年5月~
就労形態:UW最賃保障職員 週4回×2時間/日
場所:事業本部財務部
しごと内容:介護保険利用者への請求書発送作業、各事業所の経費関連書類作成
•
•
•
今年2月引きこもりがちの生活から脱しようとUWの面談を受ける
面談でチラシ作りが得意との話で、単発でチラシ作りの仕事をする。
就労意欲がわき、改めて実習を経て、週4日一日1時間の有償コミュー
ターとなる。
•
面談の際には、本人からうしろから声をかけられること、肩をたたかれる
など体に触れることはやめてほしい。大きな音、たばこの臭いなどの環境
要因に敏感なことをなどを聞き取り、職場で配慮することを約束する。
•
自閉症であること、上記など苦手なことは、職場全員に情報公開して、職
場で理解してほしいとの希望だったので、事前に部内会議で、部内全員で
情報共有する。
今は週4回一日2時間の雇用となっているが、以前早く仕事に慣れようと
焦り、かえって通えなくなった経験があり、今回は自分のペースで少しづ
31
つ就労時間を延ばし、いずれは自立したいと思っている。
•
個別の事例12 [30代男性]
はたらきづらさの理由:高次脳機能障害(身体1級、精神保健福祉手帳2級)
就労開始時期:2012年7月~
就労形態:UW有償コミューター 週3回×5時間/日
場所:サービス付き高齢者向け住宅・小規模多機能型居宅介護
しごと内容:清掃、昼食の準備・片づけ
•
交通事故の後遺症として身体障害(右下肢麻痺)と高次脳機能障害(注
意・記憶・遂行障害等)があり、特に記憶障害などで就労が困難だった。
•
就労移行訓練を受けていた支援機関にジョブコーチとして関わっていただ
き、やや長めに実習を繰り返し、苦手な部分(記憶力)の課題解決を図る。
•
実習中もまじめに一生懸命取り組んでいるので、利用者からも違和感なく
受け入れられている。
•
仕事を覚えること、利用者に慣れることを目標に有償コミューターとなる。
•
仕事をする上では、支援機関作成の手順書や職場の理解もあり、記憶障
害はさほど大きな問題にはならず、コミューターとして職場の一員として、
はたらいている。
32
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その他のツール
「働く」から「はたらく」へ
~わたしは会社ではたらいています~
より多くの人がその人なりのはたらき方で社会参加できる
ユニバーサルな地域社会づくりをめざしています
34
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発
社 会 福 祉 講 座
講 演 概 要
行:平成25年3月
特別区人事・厚生事務組合
公益財団法人特別区協議会
〒102-0072 千代田区飯田橋3-5-1
東京区政会館4階
TEL 03(5210)9910
FAX 03(5210)9873
石油系溶剤を使用しない
インキを使用しています。
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