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原価企画の導入と変更の研究 - 慶應義塾大学学術情報リポジトリ

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原価企画の導入と変更の研究 - 慶應義塾大学学術情報リポジトリ
225
三 田商 学研 究
2003年12月19日
掲載承認
第47巻 第1号
2004年4月
原 価 企 画 の 導 入 と変 更 の 研 究 :
1)
制 度 論 的 パ ー スペ ク テ ィ ブ に 基 づ く概 念 化
吉
〈要
田
栄
介
約 〉
本 稿 の 目 的 は,原
価 企 画 の 導 入 と 変 更 の 経 時 的 ケ ー ス 研 究 に 向 け て,鍵
討 す る こ と で あ る 。 こ の 目 的 の た め に,ま
R.W.,2000.
Conceptualizing
Management
A ccounting
3つ
の鍵 概 念
Research,11,
(制 度,ル
ず は バ ー ン ズ とス ケ イ ペ ン ス
management
ー ル,ル
accounting
pp.3-25)
change:an
概 念 と留 意 点 に つ い て 検
(Burns,
ー テ ィ ン ) に つ い て,拙
門 ・組 織 間 統 合,マ
著
(吉 田 栄 介
(2003) 『持 続 的 競 争 優 位
and
Scapens,2000)
の統合 能 力
(原 価
ル チ ・プ ロ ジ ェ ク ト の 統 合 ) と 設 計 担 当 エ ン ジ ニ ア の 自
律 性 を 中 心 に 概 念 整 理 を お こ な う 。 続 い て,制
(Burns
Scapens,
framework,
の 提 唱 す る制 度 論 的 パ ー ス ペ ク テ ィ ブ に お け る
を も た ら す 原 価 企 画 能 力 』 中 央 経 済 社 ) の 概 念 的 フ レ ー ム ワ ー ク に 基 づ き,3つ
企 画 フ ロ ー の 統 合,部
J. and
institutional
度 化 プ ロ セ ス,管
理 会 計 チ ェ ン ジ の3つ
の分 類 軸
と い う視 点 の 意 義 に つ い て 考 察 す る 。
〈 キ ー ワ ー ド〉
原 価 企 画,原
テ ィ ン,ア
1
価 企 画 能 力,管
理 会 計 チ ェ ン ジ,制
ク シ ョ ン,制 度 化 プ ロ セ ス,概
度 論 的 パ ー ス ペ クテ ィ ブ,制
度,ル
ー ル,ル
ー
念 的 フ レ ー ム ワー ク
は じめ に
近 年,欧
米 を 中 心 に 管 理 会 計 チ ェ ン ジ 研 究 が 盛 ん で あ る 。 管 理 会 計 チ ェ ン ジ 研 究 と は,管
シ ス テ ム ・実 務 が,な
ぜ,ど
の よ う に 普 及,導
入,変
更,拒
否
理会計
(中 止 ) さ れ る の か を 明 ら か に す る
研 究 で あ る。
吉 田
ブ
(2004a) は,文
(astructural
network-theory
献 サ ー ベ イ を 通 じ て,管
perspective),②
perspective),③
理 会 計 チ ェ ン ジ 研 究 を,①
構 造 的パー スペ クティ
ア ク タ ー ・ネ ッ ト ワ ー ク 理 論 の パ ー ス ペ ク テ ィ ブ
制 度 論 的 パ ー スペ ク テ ィ ブ
(an actor-
(an institutional perspective),④
普及
1) 本稿 は,平 成15年 度 慶應 義塾 学事 振興 資金 な らびに文部 科 学省研 究 費補 助金 に よ る研 究成 果 の一部
で あ る。
226
三
論 的パー スペ クティブ
田
商
(adiffusion-of-innovation
パ ー ス ペ ク テ ィ ブ に 基 づ く研 究 は,主
プ ロ セ ス な ど の 特 性 を独 立 変 数,管
の 特 定 化 を 意 図 し て い る 。 第2の
と し て,管
学
研
究
perspective)
の4つ
に 分 類 し た 。 第1の
理 会 計 シ ス テ ム を 取 り巻 く競 争 環 境,組
さ ら に,吉
織構 造 ・
理 会 計 シ ス テ ム ・チ ェ ン ジ を 従 属 変 数 と し た 変 数 間 の 因 果 関 係
ア ク タ ー ・ネ ッ ト ワ ー ク理 論 の パ ー ス ペ ク テ ィ ブ に 基 づ く研 究 は,
エ ス ノ グ ラ フ ィ ー の た め の 体 系 的 理 論 で あ る ア ク タ ー ・ネ ッ トワ ー ク理 論
Callon,1980,1986)
構 造 的
(Latour,1987,1993,1996;
に依 拠 して い る。
田
(2004b) は,第3の
制 度 論 的 パ ー ス ペ ク テ ィ ブ と 第4の
ブ に 基 づ く研 究 に 焦 点 を 当 て た 。 文 献 サ ー ベ イ を 通 じ て,他
理 会 計 研 究 の 蓄 積 は 少 な い が,主
に経 時 的 ケ ー ス研 究
の2つ
普 及 論 的 パ ー スペ クテ ィ
のパ ー スペ クテ ィブ に 比べ て 管
(longitudinal case
study) に と っ て 有 用 で あ
る と主 張 し た 。
本 稿 で は,原
価 企 画 の 導 入 と 変 更 に 関 す る 経 時 的 ケ ー ス 研 究 に と っ て 有 望 と考 え る 制 度 論 的 バ ー
ス ペ ク テ ィ ブ に 基 づ き,経
2
時 的 ケ ー ス研 究 の ため の概 念 的 検 討 を加 え る。
管理 会 計 チ ェ ン ジ研 究 の制 度 論 的パ ー スペ クテ ィブ
ま ず は,Burns
鍵 概 念,(2)
and
Scapens(2000)
制 度 化 プ ロ セ ス,(3)
る 。 次 に,(4)Burns
and
の 提 唱 す る制 度 論 的 パ ー スペ ク テ ィ ブ に お け る
管 理 会 計 チ ェ ン ジ の3つ
Scapens(2000)
の 分 類 軸 に つ い て,そ
(1)3つ
の
の 概 要 を説 明 す
の フ レ ー ム ワ ー ク構 築 に 至 る い くつ か の 研 究 や,こ
の
フ レ ー ム ワ ー ク に 基 づ く研 究 の 貢 献 可 能 性 に つ い て 述 べ る 。
(1) 3つ の 鍵 概 念
Scapens(1994)
は,管
し た 。 以 下,Burns
概 念
(
制 度,ル
ま ず,古
and
ー ル,ル
次 に,ル
Scapens(2000)
の鍵
ー ティ ン) に つ い て説 明 す る。
くつ か の 不 朽,不
変 の 思 考,ア
ク シ ョ ン の 方 法 」 (Hamilton,1932,
p.84) を
度 と は 人 間 の 活 動 に 慣 行 と社 会 的 一 貫 性 を 課 す も の だ と 説 明 し て い る 。
ー ル とル ー テ ィ ン に つ い て 説 明 し よ う (
表1参
テ ー ト メ ン トで あ る の に 対 し て,ル
ル ー ル は,通
の 提 唱 す る 制 度 論 的 パ ー ス ペ ク テ ィ ブ に お け る3つ
典 派 制 度 経 済 学 に お い て 共 通 し て 用 い ら れ る 制 度 の 定 義 と し て,「 集 団 の 慣 行 や 人 々 の
習 慣 に 埋 め 込 ま れ た,い
引 用 し,制
理 会 計 研 究 に お け る制 度 論 的 パ ー スペ ク テ ィブ の概 念 的 ア イ デ ア を提 示
照 )。 ル ー ル は 手 続 き を 形 式 化 し た ス
ー テ ィ ン は 実 際 に 使 わ れ て い る 手 続 き だ と 区 別 さ れ る 。 加 え て,
常 は 不 連 続 な 間 隔 で の み チ ェ ン ジ す る 一 方 で,ル
ー テ ィ ン は,絶
え 間 な く再 生 産 さ れ
る 累 積 的 チ ェ ン ジ ・プ ロ セ ス に お け る 潜 在 性 を 有 し て い る と さ れ る 。 管 理 会 計 の コ ン テ ク ス トに お
い て は,ル
に 対 し て,ル
ー ル は,手
続 きマ ニ ュ ア ル に 書 き記 さ れ る よ うに 公 式 の管 理 会 計 シ ス テ ム を構 成 す る の
ー テ ィ ン は,実
際 に 使 わ れ る会 計 手 続 き で あ る と さ れ る。 両 者 は 密 接 な 関 係 に あ る が,
227
原価企 画 の導 入 と変 更 の研 究
表1
ルー ル とル ー テ ィ ンの相 違
一
ノレー ル
定義
ルー ア ィ ン
実 際 に使 われ てい る手続 き
手 続 き を形 式 化 し た ス テ ー トメ ン ト
絶 え 間 な く再 生 産 さ れ る
一
不 連続 な 間隔 での み
チ ェ ン ジ の タ イ ミン グ
累 積 的 チ ェ ン ジ ・プ ロ セ ス に 潜 在
公 式 の管理会 計 シス テム を構 成
管 理 会 計 の コ ン テ クス ト
実 際 に使 われ る会計 手続 き
出 典 :Burns
図1
and
Scapens(2000,
p.7) の 内 容 を 基 に 作 成 。
制度 化 プ ロセス
制度 の領域
◎◎
◇◇
ル ー テ ィン
b
C
b
ル ール
b
C
C
レ
レ
ル ール
b
レ
レ
一
レ
レ
ルー テ ィ ン
b
C
b
C
時間
C
ア ク シ ョ ンの 領 域
a: コ ー ド化,b:
規 定,
c:再 生 産,d:
制度 化
出 典 :Bums
and Scapens(2000,
混 同 し な い こ とが 重 要 で あ る。 実 際 に使 用 さ れ る管 理 会 計 実 務 が,そ
p.9)
の 手 続 きマ ニ ュ ア ル に 記 載 さ
れ た 管理 会 計 シス テ ム を再 現 す る とは 限 ら な い の で あ る。
(2) 制 度 化 プ ロ セ ス
ま た,Burns
and
ワ ー ク を 修 正 し,管
Scapens(2000)
図1の
Scapens(2000)
Barley
and
Tolbert(1997)
の 制 度 化 プ ロ セ ス の フ レー ム
理 会 計 チ ェ ン ジ 研 究 の た め の フ レ ー ム ワ ー ク を 開 発 し た 。 以 下,Burns
に 基 づ き,制
上 部 に 制 度 の 領 域,下
経 過 と と も に,累
は,
and
度 化 プ ロセ ス を概 説 す る。
部 に は ア ク シ ョ ン の 領 域 が 示 さ れ て い る 。 こ れ ら の 領 域 は,時
積 的 な チ ェ ン ジ ・プ ロ セ ス の 中 で 進 行 す る 。 ル ー ル とル ー テ ィ ン は,こ
領 域 を つ な ぐ様 態 と し て の 役 割 を 担 っ て お り,こ
れ ら2つ
も ま た,累
の2つ
間の
の
積 的 な チ ェ ン ジ ・プ ロ セ ス の
228
三
田
商
学
研
究
中 で進 行 す る。
時 と して,新
しい ル ー ル や ル ー テ ィ ンが,よ
らdの 矢 印参 照 )。 矢 印aと
矢 印bは
り不 連 続 な 方 法 で 導 入,出 現 す る こ と もあ る (aか
同 時 的 な 変 化 を 意 味 し,矢 印cと
矢 印dは
時 間の 経過 に伴 う
変 化 で あ る。
第1の
プ ロセ ス (
矢 印a) は,制 度 的 な 原 理 ・原 則 をル ー ル とル ー テ ィ ンに コー ド化 す る プ ロ セ ス
で あ る。 この プ ロ セ ス は,そ
の 意 義,価 値,パ
ワー の例 示 を通 じて,当
然 だ と考 え られ る組 織 の 前
提 条 件 を もた らす 。
第2の
プ ロセ ス (
矢 印b) は,ル ー ル とル ー テ ィ ン を 規 定 す る プ ロ セ ス で あ る。 こ の 規 定 プ ロ セ
ス は,一 般 的 に は,い か にす べ きか につ い て,反 射 的 な モ ニ タ リン グ と暗 黙 知 の適 用 の 結 果 と して
も た ら さ れ る。 と りわ け,そ
の ル ー ル とル ー テ ィ ン が,現
存 す る意 義 や 価 値 に 挑 戦 し,ア ク タ ー
(
行為 者 ) が そ の プ ロ セ ス に介 在 す る十 分 なパ ワ ー を持 つ 場 合 に は,こ の プ ロ セ ス は 抵 抗 に あ うか
も しれ な い 。
第3の
プ ロセ ス (
矢 印c) は,ル ー テ ィ ン の 再 生 を導 く反 復 行 動 と して起 こ る。 こ う し た再 生 産
は,意 識 的 な もの もあ れ ば,無
第4の
意 識 的 な もの もあ る。
プ ロセ ス (
矢 印d) は,ル ー ル や ルー テ ィ ン の 制 度 化 で あ る。 ル ー ル や ルー テ ィ ン が 物 事
の や り方 を単 純 にす る。 す な わ ち,そ れ が制 度 で あ る。
これ らの 制 度 が,継
続 して い くル ー ルや ル ー テ ィ ンに コー ド化 され,新
し い ルー ル を形 成 して い
く。 こ う し たプ ロ セ ス を繰 り返 す の で あ る。
(3) 管 理 会 計 チ ェ ン ジ の 分 類 軸
さ らに,Burns
and Scapens(2000)
は,管 理 会 計 チ ェ ン ジ ・プ ロ セ ス を分 類 す る3つ の軸 を提 示
し た。
①
公 式 一非 公 式 (formal vs. informal)
公 式 な 管 理 会 計 チ ェ ン ジ は,通 常,新
ル ー ル の導 入 や,パ
ワ ー を もっ た個 人 や 集 団 の ア ク シ ョ ン
を通 じた 意 識 的 な 設 計 に よ っ て 引 き起 こ され る。 一 方 の 非 公 式 な 管 理 会 計 チ ェ ン ジ は,よ
り暗 黙 的
な レベ ル で起 こ る。 例 えば,業 務 条 件 が変 わ る につ れ て,時 間 の 経 過 と と も に新 た な ル ー テ ィ ンが
採 用 され る よ うな 場 合 で あ る。 お そ ら く,既 存 の 管 理 会 計 ル ー テ ィ ン に 埋 め 込 ま れ た 思 考 方 法 の
チ ェ ン ジ を試 み る よ りも,新
しい 管 理 会 計 シ ス テ ムや 技 法 を 導 入 す る よ う な公 式 の 管 理 会 計 チ ェ ン
ジの 方 が容 易 で あ る と思 わ れ るで あ ろ う。 しか しな が ら,公 式 な管 理 会 計 チ ェ ン ジの 成 功 に は,同
時 に 思 考 方 法 の チ ェ ン ジ な どの 非 公 式 な チ ェ ン ジ が伴 な わ な け れ ば な らな い。
管 理 会 計 研 究 者 は,公 式 な管 理 会 計 チ ェ ン ジの よ う な意 図 的 な チ ェ ン ジだ け で な く,意 図せ ざ る
非 公 式 な 管理 会 計 チ ェ ン ジ を も探 索 しな け れ ば な ち な い。
原価企 画 の導 入 と変更 の研 究
②
革新 的一漸進 的
229
(revolutionary vs. evolutionary)
革 新 的 チ ェ ン ジ は,既 存 の ル ー テ ィ ン と制 度 の 根 本 的 な 崩 壊 を もた らす の に対 し て,漸 進 的 チ ェ
ン ジは,既
存 の ル ー テ ィ ン と制 度 の マ イナ ー ・チ ェ ン ジ を も た らす イ ン ク リ メ ン タ ル な もの で あ る。
こ こ で言 う革 新 的 とは,個 々 の 管 理 会 計 技 法 や シ ス テ ム の 革 新 性 で は な く,む し ろ既 存 の 制 度 に対
す る潜 在 的 な影 響 で あ り,通 常,革 新 的 チ ェ ン ジは 潜 在 的 な 困難 性 を伴 う。
ま た,チ ェ ン ジが 意 図 的 な 場 合 と意 図 せ ざ る場 合 に も,重 要 な違 い が あ る。 管 理 会 計 シス テ ム の
意 図 的 な チ ェ ン ジが,ル
い。 一 方,非
ー テ ィ ン と制 度 の 中 に し っか り と根 を下 ろ す 場 合 に は,革 新 的 とは 言 え な
公 式 な プ ロ セ ス にお け る意 図 せ ざ るチ ェ ン ジで あ っ て も,少 な くと も そ の 原理 に お い
て既 存 の制 度 に 挑 戦 し う る場 合 に は,革 新 的 とな り う る。
管 理 会 計 チ ェ ン ジ を制 度 の コン テ ク ス トで 認 識 す る重 要 な ポ イ ン トの ひ とつ と して,制 度 とチ ェ
ン ジ ・プ ロ セ ス の イ ン タ ー ラ ク シ ョ ンの 研 究 が あ る。 実 際 に,意 義 の あ る革 新 的 管 理 会 計 チ ェ ン ジ
が ル ー テ ィ ン や 制 度 に そ れ ほ ど影 響 を与 え な い こ と もあ る し,マ イ ナ ー な管 理 会 計 チ ェ ン ジが よ り
重 要 な影 響 を及 ぼ す こ と も あ る。
③
後退 的一進歩的
(regressive vs. progressive)
第3の 分 類 軸 は,管 理 会 計 チ ェ ン ジ ・プ ロ セ ス に 注 目 し,Tool(1993)
の 分 類 に依 拠 し て い る。
儀 礼 的 な支 配 を強 化 し,そ の た め に 制 度 の チ ェ ン ジ を制 限 す る もの を後 退 的 チ ェ ン ジ,有 用 な行
動 に よ っ て儀 礼 的 な行 動 を置 き換 え る もの を進 歩 的 チ ェ ン ジ と呼 ん だ 。
この 分 類 は,研 究 者 が,研 究 対 象 の 管 理 会 計 ル ー テ ィ ンが 主 と して 儀 礼 的 か ど うか を考 え る概 念
的 な 出発 点 を提 供 す る。 も ち ろ ん,そ
う した研 究 の た め に は,さ
らに 両 者 を区 分 す る基 準 を精 緻 化
す る必 要 が あ る。
加 え て,管 理 会 計 チ ェ ン ジが 組 織 行 動 に 与 え る影 響 を研 究 す る上 で,チ
ェ ン ジ ・プ ロセ ス に お け
るパ ワー の役 割 を認 識 す る こ との重 要 性 も指 摘 され て い る。 そ の パ ワー とは,次
の3つ で あ る。 第
1レ ベ ル の パ ワ ー は,管 理 会 計 シ ス テ ム の よ うな 新 しい組 織 ルー ル を導 入 す る ため に使 わ れ る階 層
的 パ ワー や 強 力 な個 人 的 パ ー ソ ナ リテ ィ のパ ワ ー とい っ た 明 白 な パ ワー,第2レ
ベ ル の パ ワー は,
特 定 の 利 害 グ ル ー プ が好 む,組 織 や 管 理 会 計 ル ー テ ィ ンの儀 礼 を通 じて生 じ るパ ワー の微 妙 な行 使,
第3レ ベ ル の パ ワー は,組 織 メ ンバ ー の 行 動 や 考 え方 を形 成 し,そ れ ゆ え組 織 の 安 定 を もた ら し,
組 織 的 ノ ウハ ウ を ま とめ る,制 度 化 され た ル ー テ ィ ン に埋 め 込 まれ た パ ワー で あ る と され る。
2)
(4)Burns
and
Scapens(2000)
以 上 の よ う に 概 要 を 述 べ たBurns
2)2000年
以 降,増
に つ い て は,吉
の 制 度 論 的 パ ー ス ペ ク テ ィ ブ に 基 づ く研 究 と 貢 献 可 能 性
and
Scapens(2000)
の フ レ ー ム ワ ー ク構 築 に 至 る い くつ か の
加 傾 向 に あ る そ の 他 の 新 制 度 派 理 論 に 基 づ く管 理 会 計 チ ェ ン ジ研 究 の 文 献 サ ー ベ イ
田 (2004a) を参 照 い た だ き た い。
230
三
研 究 や,こ
田
商
学
研
究
の フ レ ー ム ワ ー ク に 基 づ く研 究 が あ る 。 そ れ ら は,既
存の管理会 計 システムが組織 成員
の 利 用 を 通 じ て 再 構 築 さ れ て い くプ ロ セ ス を 記 述 し た ケ ー ス 研 究
et al.,1999;Roberts
and
(Soin, et a1.,2002)
Scapens,1990;Scapens
で あ る 。 残 念 な が ち,こ
and
(Burns and
Roberts,1993)
れ ら の 研 究 で は,制
や,
度,ル
Scapens,2000;Burns
ABCの
ー ル,ル
導 入 ケー ス研 究
ー テ ィ ン,ア
ク
シ ョ ン の チ ェ ン ジ ・プ ロ セ ス を 詳 細 に 記 述 し て い な い 。
し か し な が ら,こ
(
吉 田,2004b)
ま ず は,管
の パ ー ス ペ ク テ ィ ブ に 基 づ く研 究 に は,次
に 挙 げ る貢 献 可 能 性 が 考 え ら れ る
。
理 会 計 チ ェ ン ジ 研 究 に 限 ら ず,管
あ る 。 第1に,国
内 の ケ ー ス 研 究 で は,管
理 会 計 の ケ ー ス 研 究 に お け る2つ
の限界へ の貢献で
理 会 計 シ ス テ ム そ の も の や 企 業 実 務 を 淡 々 と紹 介 す る も
の が 多 い 。 言 い 換 え る と,一
時 点 で の ルー ル とルー テ ィ ン の記 述 に終 始 す る もの が 多 い とい え よ う。
第2に,国
ー ス 研 究 に お い て は,何
内 外 を 問 わ ず,ケ
を ど の よ うに 観 察 す るの か に つ い て の定 型 的
な ノ ウハ ウ に 乏 しい。
こ の2つ
の 限 界 に 対 し て,経
時 的 ケー ス研 究 の た め の ひ とつ の概 念 的 フ レー ム ワー ク を提 供 す
3)
る 。 そ れ は,管 理 会 計 シ ス テ ム ・実 務 が ど の よ う に 採 用,実 施,継
続 また は 中止 へ と至 る の か とい
う チ ェ ン ジ ・プ ロ セ ス を 観 察 す る 際 に,制
度,ル
ー ル,ル
ー テ ィ ン,ア
ク シ ョン に焦 点 を 当 て る も
の であった。
次 に,管
理 会 計 シ ス テ ム ・実 務 を,組
チ ェ ン ジ を 結 果 と し て で は な く,む
Scapens,2000)
織 の ル ー ル と ル ー テ ィ ン と み な す こ と に よ り,管
し ろ プ ロ セ ス と し て 探 索 す る こ と が で き る (Burns
果 ) と,間
and
。 構 造 的 パ ー ス ペ ク テ ィ ブ で は 管 理 会 計 チ ェ ン ジ を 結 果 と み な す 研 究 が 多 い が,管
理 会 計 チ ェ ン ジ ・プ ロ セ ス に お け る 調 整,抵
研 究 者 は,プ
理 会 計
抗 の 本 質 を 理 解 す る こ と が 重 要 で あ る 。 言 い 換 え る と,
ロ セ ス と し て の 管 理 会 計 チ ェ ン ジ が も た らす 直 接 的 効 果
接 的効果
(
従 業 員 の 士 気,組
織 風 土 へ の 影 響 な ど,そ
(チ ェ ン ジ の 目的 に 対 応 す る効
の 他 の 影 響 ) を 注 意 深 く観 察 す る 必 要
が ある。
3
原 価 企 画 能 力 と ル ー ル,ル
ー テ ィ ン,ア
ク シ ョン
以 上 の よ うに概 要 を述 べ た 制 度 論 的 パ ー スペ クテ ィ ブ の3つ の 鍵 概 念 に 依 拠 して,原 価 企 画 能 力
4)
を構 成 す る要 素 につ い て 概 念 整 理 を お こな う。
吉 田 (2003)で は,原 価 企 画 活 動 (
制度 的パ ー スペ クティ ブに おけ るア ク シ ョンの領 域) で は な く,
個 人 ・集 団 ・組 織 レベ ル の 階 層構 造 か ら な る原 価 企 画 能 力 を概 念 整 理 の 上,操 作 化,観
3)
この 点 は,ア
4)
原 価 企 画 能 力 とは,持
(
吉 田,2003) 。
ク ター ・ネ ッ トワー ク理 論,普
察 した 。 そ
及 論 に も共 通 す る 貢 献 可 能 性 で あ ろ う。
続 的 競 争 優 位 を も た ら す 原 価 企 画 活 動 を支 援:
す る組 織 能 力 で あ る と定 義 し た
原 価企 画 の導入 と変 更 の研 究
23ヱ
の 調 査 の 結 果,原 価 企 画 の コア 能 力 の候 補 は,開 発 源 流 で の コ ス トデー タ管 理 と開 発 プ ロ セ ス で の
部 門 ・プ ロ ジ ェ ク ト ・組 織 問 イ ン ター ラ ク シ ョン で あ っ た。 よ り具 体 的 に は,開 発 初 期 段 階 で有 効
な源 流 管 理 ツー ル と し て の コス トテー ブ ル と,部 門 ・プ ロ ジ ェ ク ト ・組 織 間 調 整 お よ び情 報 共 有 で
あ っ た 。 加 え て,企 業 間 の垂 直 的 連 携 の 難 しさ も,調 査 企 業 に 共 通 して 顕 在 化 した傾 向 で あ っ た。
そ の 調 査 で は あ る一 時 点 で の 原 価 企 画 能 力 の測 定 を意 図 して お り,時 間 の 経 過 と と もに進 化 も し
くは退 化 す る ダ イ ナ ミッ クな プ ロ セ ス を観 察 す る こ と は な か っ た 。 一 方,本
稿 は,原 価 企 画 能 力 を
変 革 す るプ ロ セ ス を経 時 的 に観 察 す るた め の 出発 点 と して,概 念 整 理 す る こ とを 目的 と して い る。
こ の 目的 の た め に,吉
田 (2003)の 概 念 的 フ レー ム ワ ー ク に 基 づ き,3つ
の統合 能 力 (
原価企画フ
ー-一の統 合,部 門 ・組 織 間統合,マ ル チ ・プ ロジ ェ ク トの統合 ) と設 計 担 当 エ ン ジニ ア の 自律 性 を 中 心
に,関 連 す る ルー ル,ル ー テ ィ ン,ア
原 価 企 画 の 統 合 能 力 の 第1は,原
ク シ ョン に つ い て 整 理 した もの が 表2で
あ る。
価 企 画 フ ロー の 統 合 で あ る。 計 画 や 目標,方 針 は,原 価 企 画 プ
ロ セ ス を通 じて一 貫 性 を もっ て 統 合 され る必 要 が あ る。 こ の 原 価 企 画 プ ロ セ ス お よび 組 織 階 層 に お
け る縦 串 の 機 能 を果 たす た め に は,次
の よ うな事 項 が 重 要 とな る。 ルー ル と して は,中 長 期 経 営 計
画 か ら落 と し込 まれ た 目標 利 益 と 目標 原価 との 関連 づ け,管 理 会 計 に お い て は 目標 原 価 の算 出 方 法
(
控 除法,折 衷法,積 上 法 ) な ど で あ る。 ルー テ ィ ン と し て は,製
品 コ ン セ プ ト と設 定 目標 の 整 合 性,
設 定 目標 の 開 発 プ ロセ ス を通 じた 首 尾 一 貫 性 な どで あ る。 管 理 会 計 の視 点 か ら は,目 標 原 価 の タ イ
トネ ス,目 標 原 価 細 分 割 付 の 調 整 慣 習,原
価 会 議 な ど を通 じて の 進 捗 管理 な どで あ る。 設 計 担 当 エ
ン ジ ニ ア の 実 際 の ア ク シ ョ ン と して は,品 質,機
能,納 期,原
価 な どの 複 数 の 設 計 目標 の 同 時 達 成
が 要 求 され る。
第2は 組 織 ・部 門 間 の統 合 で あ る。 す な わ ち,関 連 す る組 織,部
き込 み で あ る。 典 型 的 に は,協 力 企 業 との 協 働,ク
門,個 人 の 原価 企 画 活 動 へ の 巻
ロ ス ・フ ァ ン クシ ョナ ル な活 動 と称 され る部 門
聞 の 協 働 と情 報 共 有 に よ る 問 題 解 決 が 重 視 さ れ よ う。 こ の 統 合 が う ま くい か な い と,部 品 や モ
ジ ュー ル の 整 合 性 問 題,設
計 変 更 の 多発 な どの現 象 と して 顕在 化 す る。 ル ー ル と して は,原 価 企 画
対 象 とな る製 品 開発 プ ロ ジ ェ ク トと機 能 部 門 との 調 整 ルー ル や,上 下 流 企 業 との協 働 の 取 り決 め な
ど で あ る。 ル ー テ ィ ン は,上 下 流 企 業 との 協 働 慣 習,異 職 能 部 門 (
購 買,製 造,搬 送,営 業 な ど)へ
の 配 慮 慣 習,設 計 目標 の トレー ドオ フ解 消 の た め の 明 確 な基 準 な どで あ る。 ア ク シ ョン は,協 働 企
業 ・他 部 門 との情 報 共 有,共
通 の 目的 意 識,意
見 の 相 違 ・誤 解,協
働 企 業 ・他 部 門 か らの 意 見 ・情
報 に よ る仕 様 ・設 計 変 更,複 数 設 計 目標 の優 先 順 位 な ど で あ る。
第3は
マ ル チ ・プ ロ ジ ェ ク トの 統 合 で あ る。 こ れ は 製 品 開発 プ ロ ジ ェ ク ト問 の横 串の 機 能 で あ る。
製 品 開発 活 動 は一 般 に は独 立 した シ ン グル ・プ ロ ジ ェ ク トで は な く,関 連 す る マ ル チ ・プ ロ ジ ェ ク
トの ひ とつ と して実 施 さ れ る。 その た め,原 価 企 画 活 動 も他 製 品 との 関 連 に お い て 統 合 的 に 実 施 さ
れ る 必要 が あ る。 ル ー ル と して は,関 連 製 品群 に お け る 当該 製 品 の位 置づ け,部
材や生産 ラインの
共 通 化 ・共 有 化 ル ー ル な どで あ る。 ルー テ ィ ン と して は,製 品 間 の 差 別 化 と共 通 化 に 関 す る慣 習 や
その他
自律 性
ジ ェ ク ト統 合
マ ル チ ・プ ロ
部 門間統 合
組織 ・
フ ロー の 統 合
原価 企画
尾一 貫性
意
分,特
権 の 付 与,後
援)
トッ プ ・サ ポ ー ト (資 源 配
情報
共通 言語 と して の管理 会計
●
組織 的干 渉,時 間的制 約
○
原価 企画 活動 の優 先順位
関連 製 品間 の調整 の仕 組 み
○
共有化方針
●
○
暗黙知
○
○
製 品差別 化 と共通 化 の慣習,
度)
計 状 態,ツ
ールへ の依 存
自律 的創作 活動 (
既 存の設
共通部 品の使用
製 品差 別化 の実 現
複数 設計 目標 の優 先順 位
見 ・情報 に よる仕 様 ・設計
見の相 違 ・誤解
協働企 業 ・他部 門か らの意
共有,共 通 の 目的意 識
変更
○
部 材 ・製 造 ラ イ ン の 共 通 ・
○
価 目
協働企 業 ・他 部 門 との情報
期,原
消 のため の 明確 な基準
製 品差 別化 と共 通化 方針
○
能,納
標の達 成
品 質,機
ア ク シ ョ ン の領 域
設 計 目標 の トレー ドオ フ解
○
○
○
0
○
異職 能部 門 (
購 買,製 造,
○
搬送 営業 な ど)へ の配 慮慣
習
異機i能部 門 との調 整慣 習
○
上下 流企 業 との協働 慣 習
習
進捗 管理
●
○
目標 原価 細分割 付 の調整 慣
目標 原価 の タイ トネ ス
の 整 合 性,首
製 品 コ ン セ プ ト と設 計 目標
●
●
○
ルー アィ ン
一
その他 の
○
○
●
コ ンサ ル タ ン ト
チ ェ ン ジ ・リー ダ ー
原価 企 画事務 局
チ ェ ン ジ ・エ ー ジ ェ ン ト
と制 度 論 的 パ ー ス ペ ク テ ィ ブ に お け る鍵 概 念 の 関 係 フ レー ム ワー ク
○
上 下 流企業 との取 り決め
衷法 )
製 品 開発体 制 の社 内ルー ル
上 法,折
○
法,積
目標 原価 の算 出方法 (
控除
中長期 経営 ・利 益計 画 と目
標 原価 の 関 わ り
ルー ル
原 価 企 画 能 力 (吉 田,2003)
○
●
0
表2
WN
田
国
原価企 画 の導 入 と変更 の研 究
暗 黙知,調
整 の 仕 組 み な ど で あ る。 ア ク シ ョン と して は,製
233
品 間 の 差 別 化 と共 通 化 の実 現 な どで あ
る。
設 計 担 当 エ ン ジニ ア の 自律 性 に つ い て は,ル ー テ ィ ン と して組 織 的 干 渉 や 時 間 的 制 約,ア
クシ ョ
ン と して は,過 去 の 設 計 や 設 計 支 援 ツ ー ル へ の過 度 の 依 存 が な い か とい う 自律 的 創 作 活 動 の あ り様
が 問 わ れ る。
そ の 他 に は,ト
ップ ・マ ネ ジ メ ン トの 支 援 (
資 源配分,特 権 の付 与,後 援 )や,管
らは,全 社 的 プ ロ ジ ェ ク トに お け る原 価 企 画 活 動 の 優 先 順 位 な どが,大
理 会 計 の視 点 か
きな影 響 を与 え る。 ま た,
共 通 言 語 と して の 管 理 会 計 情 報 の役 割 に も注 目 した い。 加 え て,ル ー ル,ル
ー テ ィ ン,ア
クシ ョン
の チ ェ ン ジ ・プ ロセ ス に お け る チ ェ ン ジ ・エー ジ ェ ン トの役 割 を 見 落 と して は な ら な い 。研 究 者 は,
チ ェ ン ジ ・プ ロ セ ス の ど の 段 階 で (when),誰 が (who),何
(what,whom,
(も し くは 誰,ど の 部 門) に 対 し て
where),ど の よ う な (how)役 割 を 担 っ た の か を観 察 す る 必 要 が あ る。 チ ェ ン ジ ・
エ ー ジ ェ ン トと して は,原 価 企 画 事 務 局,コ
ンサ ル タ ン トや そ の他 の チ ェ ン ジ ・リー ダ ー が 挙 げ ら
れ る。
また 表2で
は,各 事 項 に つ い て 黒 丸 と白丸 の 印 をつ け た 。 黒 丸 は,特
の要 素 と考Zら
れ る事 項,白
丸 は,製
品開 発 マ ネ ジ メ ン トに 関 す る事 項 で あ る。 研 究 者 は,製
発 マ ネ ジ メ ン トに お け る管 理 会 計 固 有 の 貢 献,組
も ち ろ ん,表2に
に管 理 会 計 シ ス テ ム ・実 務
品開
織 ・人 ・成 果 へ の 影 響 を観 察 す る必 要 が あ る。
掲 げ た事 項 に よ って,原 価 企 画 ルー ル,ル ー テ ィ ン,ア
ク シ ョン をす べ て 網 羅
して い る わ け で は な い 。例 え ば,「 午 前 中 の 会 議 の 開催 を禁 止 す る」 とい うル ー ル を 設 け て い る企
業 が あれ ば,そ れ は 自律 性 に 関 す るル ー ル とい え よ う。 実 際 の企 業 調 査 の 際 に は,他 に も,各 社 ご
とに 特 徴 的 な ル ー ル,ル ー テ ィ ン,ア
の 間 を点 線 で 区 切 っ た の は,掲
ク シ ョ ン を追 加 す る必 要 が あ る。 また,ル ー ル,ル ー テ ィ ン
げ た 事 項 が例 示 に 過 ぎな い ため で あ る。 但 し,ル ー ル とル ー テ ィ ン
は 明確 に 区別 され るべ きで あ り,研 究 者 は そ の こ とに留 意 す る 必要 が あ る。
4
むす び にか えて
以上 の よ うに,Burns
制 度論 的パ ー スペ ク テ ィブ に 基づ く原価 企 画 チ ェ ン ジ研 究 の展 望
and
Scapens(2000)
の 管 理 会 計 チ ェ ン ジ研 究 に お け る制 度 論 的 パ ー スペ
クテ ィ ブ の鍵 概 念 で あ るル ー ル,ル ー テ ィ ン,ア
ク シ ョ ンに つ い て,原 価 企 画 能 力 に お け る概 念 整
理 をお こ な っ た 。
彼 ら は さ らに,制 度 化 プ ロ セ ス お よび 管 理 会 計 チ ェ ン ジの3つ
の 分 類 軸 を提 示 し,チ ェ ン ジ ・プ
ロ セ ス に お け るパ ワー の役 割 の重 要 性 を主 張 した 。 こ れ らの 点 に つ い て 原 価 企 画 の 経 時 的 ケ ー ス研
究 へ の 適 用 の 意 義 を考 察 す る。
まず,制 度 化 プ ロ セ ス に 沿 っ た経 時 的 観 察 の 意 義 は,あ
る一 時 点 で の 原 価 企 画 シ ス テ ム を観 察 す
るだ け で は,持 続 的 競 争 優 位 の 源 泉 と し て の 原価 企 画 能 力 を把 握 で き な い こ とに 由 来 す る。
234
三
第1に,あ
ず,そ
田
商
学
研
究
る時 点 で の 原 価 企 画 シ ス テ ム の 姿 は,組 織 プ ロ セ ス に お け る交 渉 や 調 整 の 結 果 に過 ぎ
う し た統 合 プ ロセ ス の ダ イナ ミ クス を理 解 す る こ とが 重 要 で あ る。 原 価 企 画 を長期 安 定 的 に
実 施 して い る場 合 に は 一 時 点 の観 察 に よ っ て 多 くの知 見 が 得 られ る で あ ろ う。 しか し なが ら,通 常
は,変 更 プ ロ セ ス に お け る抵 抗,調
整 を経 て,次
の均 衡 点 と して,変 更 後 の 仕 組 み が 存 在 す るに 過
ぎ な い。 均 衡 点 だ と考 え た観 察 時 点 が 変 更 途 中 で あ るか も しれ な い し,多 様 な支 援 ツ ー ル や 管 理 シ
ス テ ム が有 機 的 に結 合 され て機 能 す る 原価 企 画 シ ス テ ム に お い て は,均 衡 点 を見 極 め る こ と も容 易
で は な い。 その た め,チ
ェ ン ジ ・プ ロ セ ス を観 察 す る こ と以 外 に,原 価 企 画 の 統 合 能 力 の 本 質 的 な
理 解 は得 られ な い の か も しれ な い 。
第2に,再
生 産 と制 度 化 の プ ロ セ ス (図1参 照 ) は 経 時 的 変 化 で あ る ため,一
時 点 で の 原価 企 画
の 効 果 を測 定 す る こ とに は一 定 の 限 界 を伴 う。 つ ま り変 化 と影 響 の タ イ ム ・ラ グ の 問題 で あ る。 こ
の 点 につ い て も,経 時 的 な チ ェ ン ジ ・プ ロ セ ス の 観 察 が 有 望 で あ る。
次 に,3つ
の チ ェ ン ジ ・プ ロ セ スの 分 類 軸 に 沿 っ た 経 時 的 観 察 の 意 義 に つ い て考 え る。 公 式 一 非
公 式 の 分 類 軸 か ら は,意 図 的 な変 更 だ け で な く意 図せ ざ る変 更 を観 察 す る 必 要 性 を指 摘 し た。 加 え
て,革 新 的 一漸 進 的,後 退 的 一進 歩 的 の2つ の 分 類 軸 か ら は,原 価 企 画 シ ス テ ム の変 更 に よ る ル ー
テ ィ ン とア ク シ ョンへ の 影 響 の 良 し悪 し と多 寡 に つ い て観 察 す る必 要 性 が示 唆 され る。
続 い て,チ
ェ ン ジ ・プ ロ セ ス に お け る3つ の パ ワー の役 割 の 重 要 性 も指 摘 され た。 チ ェ ン ジ ・プ
ロセ ス に お け るパ ワ ー や 抵 抗 を理 解 せ ず して,制 度 化 プ ロ セ ス や 関 係 者 の ア ク シ ョ ン を理 解 す る こ
とは で きな い 。 原 価 企 画 支 援 ツ ー ル や 管 理 シ ス テ ム も,常 に 関係 者 の 合 理 的 な判 断 に 基づ い て 利 用
され る わ け で は な い 。 研 究 者 が そ の 有 効1生や 影 響 を判 断 す る上 で,チ
ェ ン ジ ・プ ロセ ス に お け るパ
ワ ー の 影 響 を見 落 と して は な らな い。
本 稿 で は,Burns
and
Scapens(2000)
の 管 理 会 計 チ ェ ン ジ研 究 に お け る 制 度 論 的 パ ー ス ペ ク
テ ィ ブ に依 拠 し て,原 価 企 画 チ ェ ン ジ研 究 の 必 要 性 と その 意 義 に つ い て論 じて きた。 そ こ で,持 続
的 競 争 優 位 の 源 泉 と して の 原 価 企 画 能 力研 究 お よ び そ の 他 の 原価 企 画 研 究 に とっ て も,Burns
Scapens(2000)
and
の制 度 論 的 パ ー ス ペ クテ ィ ブ は 有 望 で あ る こ と を主 張 し た。 今 後 は,本 稿 で 整 理
し た3つ の鍵 概 念,制
度 化 プ ロセ ス,原 価 企 画 チ ェ ン ジの 分 類 軸,介 在 す るパ ワー に 留 意 した 経 時
5)
的 ケ ー ス研 究 が 期 待 され る。
参
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