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(7)Dried blood spot (DBS)を 用いる薬物濃度測定
●[特集]医薬品分析(7)Dried blood spot(DBS)を用いる薬物濃度測定 [特集]医薬品分析 (7)Dried blood spot (DBS)を 用いる薬物濃度測定 薬物動態研究部 神田 壮紀 野口 隆典 クを打ち抜く。③内標準物質を含んだメタノールやアセ トニトリルなどでディスクから薬物を抽出する。④抽出 液を必要に応じて適切な溶媒で希釈後、LC-MS/MS(液 体クロマトグラフ-タンデム質量分析計)などの分析機 器で測定する。 DBS用のカード(ろ紙)は、GE Healthcare社など数 社から発売されているが、ろ紙に塗布されている薬剤の 有無や種類によって、ろ紙上での安定性やろ紙からの回 1.はじめに 収率、LC-MS/MS測定時のマトリックスの影響が異な 医薬品の開発では開発薬物やその代謝物の体内濃度と 選択が重要なポイントとなる。 る場合があるので、分析法確立の際には適切なカードの 薬効や毒性との関係を明らかにすることが必須であり、 血漿、血清、全血や尿をはじめとする生体試料中の薬物 や代謝物の濃度を正確に定量する技術が重要である。生 体試料には目的物質の定量を妨害する脂質、タンパク 質、塩などの多様な内因性物質が多量に存在するため、 前処理の成否が信頼性の高い定量法構築のキーポイント となる。生体試料中の前処理法としては、一般的に①除 DBS タンパク、②液液抽出、③固相抽出が用いられるが、近 年ろ紙を用いたDBS(Dried blood spot)法が簡便かつ 有用な手法として欧米を中心に利用が広がりつつある。 DBS法は全血をそのまま使用するため、血漿を分離する 操作が不要となるだけでなく、採血量が少なくて済むた め、試験に必要な動物数を削減できるなど、動物愛護や コスト削減の観点でも優れており、今後、日本国内でも 徐々に利用が進む可能性が高い。すでにDBSの利用が始 まっている欧米では、議論も盛んに行われており、詳細 はEuropean Bioanalysis Forum[EBF]のconference(2009 LC-MS/MS 年 バルセロナ)や workshop(2010年 ブリュッセル)な どの資料をご参照頂きたい。本稿ではDBS法の概略や有 用性と、DBS法を用いて昨年弊社で実施した分析法バリ デーション及びTK測定の結果を紹介する。 図1 DBS 法による血中薬物濃度測定 3.DBSの利点 2.DBSとは DBS法の主な利点を下記する。 動物やヒトの血液をろ紙にスポットして保存・輸送す る方法は40年以上も前から利用されている技術であり、 ・必要採血量が少量のため、動物数削減やサテライト群 が省略可能。 現在でも新生児スクリーニングや遠隔地でのtherapeutic ・小動物から経時採血が可能。 drug monitoring( 例:HIV、B型・C型 肝 炎、 梅 毒 な ど ・幼弱動物を用いた試験の実施が可能。 の各種検査)で利用されている。一方で医薬品開発への ・血漿分離操作(遠心分離、移し替え)が不要。 適用は比較的新しく、血中濃度測定用技術として広く利 ・室温での検体輸送・保存が可能。 用・紹介されるようになったのはここ数年である。DBS ・酵素活性を阻害し薬物変換を回避できる。 法は読んで字のごとく、全血を用いるのが一般的である ・微生物・ウィルスを不活性化できる。 が、血漿や尿、髄液などのマトリックスにも応用できる ことが知られている。 DBS法の手順は極めて簡便である。以下に代表的な手 4.分析法バリデーション 順を紹介する(図1) 。①全血試料(10~20μL)をDBS 用のろ紙にスポットし、室温で2時間以上乾燥させる。 DBS法を用いてラット全血中のバルサルタン(図2) ②ろ紙の全血スポット部から直径3mm又は6mmのディス 濃度測定法を開発した。ラット全血(ヘパリンナトリウ ・31 東レリサーチセンター The TRC News No.114(Nov.2011) ●[特集]医薬品分析(7)Dried blood spot(DBS)を用いる薬物濃度測定 ム処理) にバルサルタン溶液を添加し、 FTA DMPK-Aカー ド®(GE Healthcare)に20μLをスポットして2時間風 乾した。次にスポット部分から直径3mmのディスクを打 ち抜き、内標準物質含有のアセトニトリルで抽出した。 抽出液に0.1%ギ酸を加えて希釈し、LC-MS/MSで測定し た。本分析法について、選択性、直線性、再現性、マトリッ クス効果、カード上の安定性などの確認を行った。 図3 全血中濃度推移(DBS vs. blood/water) 表2 血中濃度- 時間曲線下面積(DBS vs. blood/water) AUC0-24h (ng·h/mL) 図2 バルサルタンの構造式 Sex Animal その結果、定量に影響を及ぼす妨害物質やマトリック ス効果は認められなかった。全血中のバルサルタン濃度 10~10000ng/mLの範囲における直線性は良好であり、 日内再現性は、真度99.5~106.0%、精度1.4~7.3%であっ Male Female た(表1)。また、カードにスポットした全血中のバルサ 01 02 03 04 DBS (A) 14856 20876 30476 14948 Blood/water (B) 14965 19171 31882 14970 (A)/(B) 0.99 1.09 0.96 1.00 ルタンは室温乾燥状態で7日間安定であった。また、ス ポット血液量が10~25μLの範囲内で正確な定量値が得 られることを確認した。 表1 日内再現性(DBS) 6.DBSの課題と期待 以上の結果から、DBS法がTK測定に有効な方法であ ることが確認できた。一方、DBS法ではヘマトクリッ ト値(血液中の血球の割合)の異常が定量値に影響を及 ぼしたり、一部の不安定な化合物には適用できない可能 性があることが知られている。こうした事象への対応や DBSカードからの抽出作業の自動化などが課題として挙 げられる。しかしながら、前述のように、DBS法は良質 なデータの取得、動物愛護、検体輸送・保存などの観点 から極めて利点の多い有用な手法であり、生体試料中の 薬物濃度測定に今後広く活用されるようになることが期 5.DBSを用いたTK測定例 次にラット(Crl:CD(SD) )にバルサルタンを経口 投与(60mg/kg)して経時採血し(採血時点:投与後0.5、 1、2、4、8、24時 間 ) 、DBS法 とBlood/water法( 全 血 を冷水で溶血させた後に固相抽出する方法)の二通りの 待される。 ■神田 壮紀(かんだ そうき) 薬物動態研究部 専門:薬物動態分析 趣味:野球、nano block 方法で前処理後、LC-MS/MSで全血中のバルサルタン 濃度を測定した。DBS法とBlood/water法で得られた結 果について、全血中濃度推移(動物番号01)を図3に、 ■野口 隆典(のぐち たかのり) 薬物動態研究部 雌雄各2個体の血中濃度-時間曲線下面積(AUC)を表 主任研究員 2にそれぞれ比較して示す。いずれの方法でも同等の結 専門:薬物動態分析 果が得られ、前処理に要した時間は、DBS法がBlood/ water法の半分以下であった。 32・東レリサーチセンター The TRC News No.114(Nov.2011) 趣味:旅、産業遺構、子供とテニス