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日本における小型風力発電のポテンシャル~伊豆大島

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日本における小型風力発電のポテンシャル~伊豆大島
日本における小型風力発電のポテンシャル~伊豆大島を例にして~
R09058-9 成田貴騎
指導教員 松村隆
1.研究背景
地球温暖化が諸国の重大なテーマとして議論されて
いるなか、我が国では東日本大地震による福島第一原
発事故以降、原子力発電の使用を見直し、火力発電の
比率が増加している。
火力発電はCO2 が最も多く排出される発電である。
現在ではコスト的に優位性はあるものの、化石燃料枯
渇によるコスト上昇も将来的には大きな問題となりう
る。エネルギー部門はCO2 の直接排出量が一番高い
部門であり(図 1)
、持続可能な社会を形成していくた
めには火力発電による負担を徐々に減らしていき、環
境負荷が低い再生可能エネルギーを取り入れていくこ
とが必須となっ
ている。再生エ
ネルギーの中で
も風力エネルギ
ー採算性が高い
とされているが、
個人での運用に
ついては限定的
な状況に止まっ
ている。
図1日本における部門別 CO2排出量
2.研究目的
本研究では、以上の状況を踏まえ、小型風力発電の
離島におけるポテンシャルを試算する。具体的には、
風況が良好な土地において個人宅で一基の小型風力発
電機を使用した際の発電量とコストパフォーマンスを
試算するとともに、同結果をもとに、日本における小
型風力発電のポテンシャルを論じ、実現性のある事業
を提案する。
3.研究方法
第一に、企業関係者へのヒアリング調査等をもとに
様々ある小型風車のスペックを比較し、本研究で対象
とする風車を選定する。
第二に、一般家庭及び伊豆大島における電気使用料
及び伊豆大島における現在の発電単価を試算する。
第三に、発電量を試算、最後に以上のデータを比較
し、小型風車のポテンシャルについて論じる。
4.小型風力発電機調査
1)現行小型風力発電機
国内での小型風力発電機は近年に入るまでの製造数
は少ない。現在でも世界的にも有名な大企業では小型
風車を製造しておらず、中小企業や小型風車を専門的
に開発しているベンチャー企業がほとんどである。
各社の風車のスペックを表 1 に示す(4)(5)(6)(7)。
表1 小型風車各社の比較
風車名
WL5000
カットイン風速
3m/s
風車名
WP1000-3B
株式会社WINPRO
カットイン風速
1.6m/s
風車名
zephyr9000
ゼファー株式会社
カットイン風速
3m/s
風車名
YG-5000
株式会社ビルメン鹿児島
カットイン風速
1.5m/s
株式会社ウィンドレンズ
全長
13.4m
カットアウト風速
17~20m/s
全長
7.8m
カットアウト風速
m/s
全長
12.2m
カットアウト風速
20m/s
全長
11.8m
カットアウト風速
20m/s
ローター直径 定格出力
定格風速
2.5m
5kW
12m/s
価格
特記事項
400万円
風レンズ効果により風速1.3~1.5倍
ローター直径 定格出力
定格風速
1.8m
1kW
12.5m/s
価格
特記事項
400万円
垂直翼型、微風から発電可能
ローター直径 定格出力
定格風速
5.5m
4.7kW
12m/s
価格
特記事項
600万円
国外で認められる品質の高いメーカー
ローター直径 定格出力
定格風速
4.16m
5kW
価格
特記事項
500万円
微風でも高めの発電効果
今回の試算では発電量、イニシャルコストなどを重
点的に注目した。発電量は定格出力が低い場合は少な
くなってしまうため WINPRO の WP1000-3B は方向
調整のいらない垂直翼型で微風から発電可能という利
点があるが、選定から外した。
定格出力が 5kW の 3 機器は価格面からみて株式会
社ウィンドレンズの WL5000 が一番すぐれており、加
えて特記事項である
風レンズ効果により
風速が 1.3~1.5 倍
になることは、風速
が 3 乗になる風力発
電の計算では、徐々
に発電が止まるカッ
トアウト風速までな
ら発電量がおよそ 3
倍になるので、とて
も効果が高いことが
分かる。
以上より試算機器
はウィンドレンズ社
写真1 WL5000
製の WL5000 を対象とする。
2)ヒアリング調査
WL5000 が現状でどれほど注目されているかを調
べるため、
益田建設イデアホーム草加住宅展示場及び、
越谷レイクタウン住宅展示場にヒアリング調査を行っ
た。ヒアリングの目的は販売者・企画者視点の小型風
力発電、実際の発電量、売れ行きの確認である。
結果として得られた情報は、都内の風況条件では発
電量は約 100Wh/日と一般家庭が一日に消費する電力
と比べるとはるかに低い水準にある。このため興味は
持ってもらえるが発電量の制約のため販売実績はない
とのことで、いかに安定して速い風速の地点を選ぶか
がポイントとなるとのことであった。
5.導入対象地区
1)伊豆大島の概要
面積は 91.06km2、4825 世帯である。離島は全体が
海に面しているため平均風速が速く、伊豆大島も例に
もれず平均風速が速い。2010 年度の平均風速は東京が
2.94m/s、伊豆大島が 7.80m/s であり風力発電のポテ
ンシャルが高いことがわかる。
2)伊豆大島の現状発電能力
伊豆大島における現在の発電方法は内燃力発電、
3400kW 一機 2000kW 四機、1000kW 二機により島内
の電力を賄っている。
6.一般家庭における電力使用量の試算
一般家庭における電力使用量は伊豆大島の管轄で
ある東京電力の平成 22 年ロードカーブ(2)(365 日 1 時
間ごとの負荷曲線)を利用し、民生部門の内 42%が家
庭部門(3)という前提のもと試算した。その際一般家庭
とは民生用のエネルギーを契約戸数で割った数値とし
た。表 2 に月別の計算結果を示す。同表のとおり、年
間約 4600kWh の需要があるとの結果になった。
表 2 一般家庭月別電力使用量
月
2010年4月 2010年5月 2010年6月
電力使用量(kWh) 362.653428 342.429816 374.289584
年間
2010年10月 2010年11月 2010年12月
4664.80034 356.892916 357.570502 392.424999
2010年7月
443.20762
2011年1月
426.28306
2010年8月 2010年9月
463.43431
404.27
2011年2月 2011年3月
384.22767 357.11584
7.風力発電による発電量・考察
伊豆大島における風力発電による発電量を東京湾海
上交通センターのデータベース、伊豆大島・風早崎、
2010 年 4 月から 2011 年 3 月のデータを参照し、算出
した(1)。なお、このデータは 15 分ごとの平均風速を出
したものになる。この試算に当たっての風レンズ効果
は一律して最低でも見込める 1.3 倍と仮定した。
計算式を風車スペックと照らし合わせ以下の条件で
試算を行った(表 3)
。
表 3 試算結果
発電量E=0.5×S×d×v3
v=風速
S=(π ×R2)/4=4.9
カットアウト風速17m/s
R=直径=2.5m
d=空気密度=1.2kg/m3
風レンズ効果1.3倍
定格風速=12m/s
以上の条件で試算したところ年間 13315kWh 発電
できるという結果が出た。
図 2 8/19 の発電量、使用量推移
一日での発電推移について平成 22 年の電力ピーク
であった 8 月 19 日を図 2 で比較した。
図 2 から全体として使用量に比べ発電量が上回って
いることがわかる。一日合計の発電量は 21338Wh、
使用量は 15484Wh であり電力ピーク日でも風況さえ
よければ、合計電力では発電量が大きく上回っている
事となる。しかし、発電量より使用量のほうが上回っ
ている時間が 24 時間中 11 時間もあり、こうした風力
発電の出力不足を他の電源で補う必要がある。
出力不安定の解消方法として蓄電池の利用が考えら
れる。現在発売されている蓄電池は使用用途により容
量と価格は大きく異なり、大型のもので 15000Wh、
700 万円、小型のものだと 1000Wh で 150 万円ほどで
ある。一般家庭では大型のものでも二日間発電状況が
悪い場合は電力が足りなくなってしまうことに加え、
値段としも厳しい条件である。
8.結論
本研究では、風レンズ風車を導入した場合の発電量
の推計を行った。その結果、小型風力発電は適した場
所に設置することで、総電力量としては十分な役割を
果たしうることが確認できた。しかし、風況変化のた
め、単体の電源としては制約があり、その解消策とし
て、風力発電していない時間帯は蓄電池など他電源が
必要になる。
本年 7 月に導入された固定価格買取制度により売電
できれば 1kWh あたり 57.75 円での買い取りがされ、
この例だと単純に使用電力と発電力を比較した場合、
年間 8700kWh 未使用なので 50 万円ほどの利益をあ
げることができ、イニシャルコスト(400 万円)は順
調にいけば 8 年ほどで回収できることになる。
他電源としては、内燃力発電は比較的起動・停止が
容易なため風速予報を参考にしつつ内燃力発電を調整
することで効率的な運用が可能である。
小型風力発電は、どこにでも容易に設置できるため、
風速の高いところでミニウインドファームとして事業
を興すことも可能であり、13315kWh をすべて売電す
ると約 77 万円。6 年目から投資額の 5 分の 1 の利益
が望めることから事業性のポテンシャルを秘めている。
上記に述べたように、小型風力発電は離島のような
安定して風速が高い場所では環境性も優位でコストパ
フォーマンスも確保しうるので、日本での普及の可能
性は大いにあると考える。
参考資料
(1)東京湾海上交通センター 気象データ
http://www6.kaiho.mlit.go.jp/tokyowan/
(2)東京電力平成 22 年ロードカーブ
http://www.meti.go.jp/setsuden/
(3)資源エネルギー庁
http://www.enecho.meti.go.jp/
総合エネルギー統計 2009
エネルギー白書 2011
(4)株式会社ウィンドレンズ http://windlens.com/
(5)株式会社WINPRO
http://www.winpro.co.jp/
(6)ゼファー株式会社
http://www.zephyreco.co.jp/jp/
(7)株式会社ビルメン鹿児島
http://www.tomonokaze.jp/company/
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