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磁場を用いた熱電素子の効率向上に関する実験研究

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磁場を用いた熱電素子の効率向上に関する実験研究
養成技術者の研究・研修成果等
1.養成技術者氏名: 浜辺 誠
2.養成カリキュラム名: 磁場を用いた熱電素子の効率向上に関する実験研究
3.養成カリキュラムの達成状況
養成技術者(浜辺)は実施計画として 4 点の内容を挙げた.
(1)
「熱電素子材料,およびそれを
組み込んだ導入端子の作成」これについてはおよそ計画通りに電気的にも熱的にも精度のよい,導
入端子の作成ができた.
(2)
「低温領域での熱電物性の測定」ここでは,テルル単体,およびテル
ルにアンチモンを添加した試料の熱電物性,および強磁場中でのビスマスの熱電性能の磁場効果を
測定した.テルルはゼーベック効果は高いものの,電気抵抗が高く磁場効果が小さいため,前年度
にビスマスで得られたような磁場効果による性能向上は残念ながら見られなかった.これはアンチ
モン添加によっても改善されず,別の物質の添加が必要であろうとの見解を得た.ビスマスについ
ては縦磁気抵抗効果に関して新しい知見を得た.
(3)
「熱電変換素子の低温領域での応用実験」熱
電変換素子のペルチェ効果を利用した超伝導磁石の効率改善実験を行い,まだ改良の余地はあるも
のの,一定の効率向上が得られた.
(4)
「熱電変換素子の設計と効率の評価」磁場効果を利用した
熱電変換素子の設計を行ったが,P 型材料であるテルルで十分な実験結果が得られなかったため,
N 型材料である Bi のみで設計を行い,磁場効果で性能の向上する素子の実現が可能であろうとの
見解を得た.
4.成果(A4版2枚程度)
LNG(液化天然ガス)を利用した火力発電プラントにおいて,(1)気化器(低温領域)
,(2)加熱給
水器(中温領域)
,(3)ボイラー(高温領域)の,各領域の温度差が発生する部分に熱電素子(熱を
電気エネルギーに直接変換する素子)を配置し電力回収(エクセルギー回収)することにより,火
力プラントの効率を大幅に向上させることができる.しかし,現状のゼーベック効果(温度勾配の
向きに電圧が発生する現象)を用いた熱電素子による発電は変換効率がまだ十分とはいえず,実用
化のためには熱電変換効率の向上が必要である.一方,1960 年代にアメリカの MIT で磁場中のエ
ッチングスハウゼン効果(熱電材料に磁場に垂直に電流を流したときに磁場,電流両方に垂直に温
度勾配が発生する現象)により,従来よりはるかに効率よく 100℃を超える大きな温度差を生み出
すことに成功している.この実験は上の(1)気化器の温度範囲と同じ低温領域である.したがって,
その逆過程で生じるネルンスト効果(磁場中で温度勾配と垂直に電圧が発生する現象)を利用する
ことにより,従来よりも高い熱電変換効率が期待できる.
一方,ペルチェ効果(電流を流すことにより熱が移動する現象)を利用した冷却素子としての熱
電素子は,現在光通信用光源・増幅器の冷却や実験設備の冷却が主たる利用法であるが,新たな利
用法として,ペルチェ効果が流す電流に比例することを利用して,超伝導マグネットなどの大電流
環境下での冷却素子としての利用法が考えられるが,まだ実用には至っていない.
本研究は,省エネルギー技術の一策として,熱電変換素子の磁場効果を利用して,低熱利用を
目的とした熱電発電素子の磁場中での高性能化,実用化を目指すとともに,熱電素子を用いた超
伝導マグネット(磁場発生装置)の運転時の冷却効率向上を実証するというものである.そのた
め,室温以下 77K(-196℃,液体窒素の温度)の温度領域において,磁場を印加した環境下での
熱電素子の特性を測定し,素子の熱電性能が向上するかを実験的に明らかにするとともに,その
結果を用いて,発電素子や超伝導マグネットの一部として低温環境下で利用できる熱電素子の実
用化を目指すというものである.
その結果次のような成果を得た.
1.強磁場中での熱電材料磁場効果の測定;磁場中で性能が向上する熱電材料としてこれまで着
目してきたビスマス(Bi)について ±8 T という比較的強磁場中での多結晶 Bi の熱電性能の測定
を行った.電流方向に垂直に磁場を印加した場合,150 K(-123 ℃)以下では印加磁場を大きく
するとゼーベック係数の符号が逆転したが,150 K 以上ではネルンスト係数は 8T の強磁場まで
印加してもほとんど変わらず,150 K, 8 T で熱電能(単位温度あたりの熱電発電電圧)が 815µV/K
という非常に高い値に達した.また,上述とは異なり,電流方向に平行に磁場を印加した場合の電
気抵抗の変化(縦磁気抵抗効果)を測定したところ,90 K(-183 ℃)では 0→1 T において急峻に抵
抗値が増加し,3 T 付近で極大値をとった後,抵抗値が減少するという形になった.また別の試料
でさらに低温にして測定したところ,極大値を取る磁場が小さい値にシフトするという現象も確認
できた.
これまで 1998 年に GM と MIT のグループが直径がナノメータサイズの Bi ワイヤの縦磁
気抵抗効果について同様に極大値を取る磁場が存在することを報告していたが,
我々の mm サイズ
のバルク材でも,縦磁気抵抗効果に最大値を与える磁場が存在することにより,材料のナノスケー
ル化に伴う現象とは限らないという,Bi の物性研究に対して新しい知見を与える結果がここでは得
られた.
一方前年度,磁場効果に乏しいとの知見を得られたテルル(Te)の磁場効果の向上を目指して,
Te にアンチモンを添加した試料を作成し,熱電特性の磁場効果を測定したが,磁場効果による性能
の変化はほとんど見られなかった.しかしながら,Te は本質的に高い熱電発電電圧をもつ素子であ
り,Bi と組み合わせることが可能な材料であると考えられるが,性能をより向上させるためために,
アンチモン以外の材料添加による電気抵抗率の低下を図ることが要求されるものと考えられる.
2.ビスマスを用いた熱電発電素子の設計;熱電発電素子として磁場中で発電性能が向上するこ
とを確認するための素子構造の設計を,これまで得られた Bi に対する実験結果を利用した計算に
基づいて行った.ここでは低電流で動作する赤色 LED(発光ダイオード)を点灯させ,磁場中で
LED の輝度が増加することにより,発電素子としての性能向上を確認することを眼目とした基本
設計を行った.その結果,片側 100 K(-173 ℃)
,片側 200 K(-73 ℃)で温度差を素子に与え
た場合に,磁場中で LED の点灯が十分に可能であるとの見通しを得た.
3.熱電素子を用いた低温機器の運転効率向上の実証試験;低温領域での熱電素子の利用として,
約 4 K(-269 ℃)の極低温に冷却される超伝導マグネットの運転時の冷却効率向上を図った通称
ペルチェ電流リード の実証試験を,市販の超伝導マグネットを使用して行った.超伝導マグ
ネットは強磁場を発生させるために用いられるが,ここで用いたビスマス・テルル合金(BiTe)
は Bi とは逆に磁場中での熱電特性の変化が小さい,すでに適当な不純物添加により使用される室
温以下の温度領域で高性能な素子が,P 型,N 型両方について存在するという点でこの試験には
適していると判断し,使用した.実際に磁場発生中の室温(27 ℃)から冷却部(-220 ℃)まで
の 30 cm の区間での温度分布を取ったところ,わずか 1.5 mm の厚さの熱電素子(BiTe)部で
90 ℃の温度分担が得られた.
これは室温部から冷却部へ侵入する熱流の 25%以上の熱の低減がで
きたことに等しく,その分だけ冷却装置への負担が減少できたことになる.
5.成果の対外的発表等(平成16年度の成果を対象とする)
(1)論文発表(論文掲載済、または査読済を対象。論文のコピーを添付。
)
・”Application of Peltier-Current-Lead for Reduction of Heat Leakage in Helium-Free-Magnet” , M.
Hamabe, S. Mizutani, A. Sasaki, T. Kasukabe, S. Miwa, T. Yamaguchi, K. Nakamura, S. Yamaguchi,
A. Ninomiya, H. Okumura, and Ching-Shiang Hwang, Transactions of the Materials Research
Society of Japan, vol.30 (2005) 査読済み
・
・
発表件数: 1件
(2)口頭発表(フェロー本人が発表したものを対象。予稿集等のコピーを添付。
)
・強磁場中での多結晶ビスマスの熱電特性;浜辺誠,山本新,高橋英昭,山口作太郎,奥村
晴彦,兎澤逸平,米永一郎,渡辺和雄;秋季応用物理学会学術講演会 (2004 年 9 月,東
北学院大) 3a-ZN-4
・ペルチェ電流リードを利用したヘリウムフリーマグネットにおける熱侵入の低減;浜
辺誠、三輪聖史、佐々木淳、春日部高大、山口貴行、中村圭二、山口作太郎、二ノ宮
晃、石郷岡猛、奥村晴彦、川村邦明、青木五男、後藤修一、浅野克彦、木村誠宏;第
15 回日本 MRS 学術シンポジウム(2004 年 12 月,日本大学)
,E1-O22
・
発表件数: 2件
(3)特許等(出願件数を記載。
)
特許等: 0件
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