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欧州中銀(ECB)はインフレ警戒から 2 度目の利上げ

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欧州中銀(ECB)はインフレ警戒から 2 度目の利上げ
平成 23 年(2011 年)7 月 8 日
NO.2011-21
欧州中銀(ECB)はインフレ警戒から 2 度目の利上げ
【要
旨】
— 欧州中央銀行(ECB)は 7 月 7 日の定例理事会で、政策金利を 25bp 引き上
げ 1.50%とすることを決定した。利上げは金融危機以降初めて実施した 4
月に続いて 2 度目。
— トリシェ総裁は先月、インフレに対する「強い警戒」を表明し事実上の利
上げ予告を行っていたため、今回の利上げは市場の予想通り。
— 今後の金融政策についてトリシェ総裁は言明を避けたが、インフレリスク
を「注視する」として追加利上げの可能性に含みを残した。
— 周縁国のソブリン問題に関しては、ポルトガルの国債について、ECB の資
金供給オペにおける適格担保の最低格付け基準を免除することを決定。
— ギリシャについては、「選択的デフォルト」も認めないと発言しており、
ギリシャ支援を巡り調整は難航する模様。
— ECB は引き続き、物価動向と周縁国情勢を両睨みしながら、慎重に追加利
上げの時期を探ることに。
1. 追加利上げを決定
ECB は 7 月 7 日の定例理事会で政策金利を 25bp 引き上げ、1.50%とするこ
とを決定した(第 1 図)。決定は全会一致で、利上げは金融危機以降初めて実
施した 4 月に続いて 2 度目となる。トリシェ総裁は先月の理事会において、イ
ンフレに対する「強い警戒」を表明し事実上の利上げ予告を行っており、その
後も同様の発言を繰り返していたため、市場は今回の利上げをほぼ完全に織り
込んでいた。
今後の金融政策についてトリシェ総裁は言明を避けたが、現在の ECB の金融
政策スタンスは引き続き緩和的と述べたほか、インフレリスクを「注視する」
考えを示し、追加利上げの可能性には含みを残す形となった。
1
第 1 図:ユーロ圏主要金利の推移
6.0
(%)
政策金利
5.0
4.0
3ヵ月物金利
(EURIBOR)
限界貸出金利
翌日物金利
(EONIA)
3.0
2.0
1.0
中銀預金金利
0.0
05
06
07
08
09
10
(資料)Bloombergより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
11
(年)
2. 足元の物価動向と ECB の見方
ユーロ圏の消費者物価上昇率は、エネルギー価格などの上昇を背景に、6 月
は前年比 2.7%と前月から横ばいとなったものの、ECB が目標とする同 2%未満
を 7 ヵ月連続で超えている(第 2 図)。また、4 日に発表された生産者物価指
数も総合で前年比 6.2%、エネルギー・建設を除くコア指数でも同 4.2%と、依
然として高い伸びが続いている(第 3 図)。先行きに対して ECB は、インフレ
率が向こう数ヵ月は高止まりする公算が大きいとみている。
第 2 図:ユーロ圏消費者物価指数
5.0
第 3 図:生産者物価指数
(前年比寄与度、%)
10
エネルギー
4.0
8
食料品・タバコ
3.0
(前年比、%)
コア
6
コアインフレ率
HICP総合
4
2
2.0
0
1.0
-2
0.0
-4
総合
-6
-1.0
建設・エネルギー
除くコア
-8
-2.0
07
08
09
10
(資料)Eurostatより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
11
-10
07
(年)
08
09
(資料)Eurostatより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2
10
11 (年)
3. 欧州ソブリン問題への対応
今回の記者会見は、今後の金融政策運営と同様に欧州ソブリン問題への対応
に関する発言が注目されおり、記者からの質問も相次いだ。ECB はこの日、ポ
ルトガルの国債について、資金供給オペにおいて受け入れる適格担保の最低格
付け基準を免除することを決定した。ムーディーズが 5 日に、同国の国債を「Ba2
(見通しネガティブ)」と投機的水準に格下げしたことを受けた対応で、格付
け基準の免除はギリシャ、アイルランドに続いて 3 カ国目となる。また、格付
け会社の体制についても最適ではないと発言があった。ポルトガル政府は 2013
年からの市場復帰を目指して財政再建にコミットしたばかりであり、このタイ
ミングでの投機的水準への格下げは早すぎるとの批判は、ポルトガル政府のみ
ならず、欧州委員やドイツの政府高官からも相次いでいる。
一方で、第 2 次救済パッケージに関する議論が進められているギリシャにつ
いて、トリシェ総裁は「デフォルト」、「選択的デフォルト」、「クレジット
イベント」の全てを認めないと発言した。既に格付け会社 S&P は、ギリシャ国
債が自発的なロールオーバーとなった際は「選択的デフォルト」とする可能性
を発表しており、その場合でも ECB が担保として受け入れを続けるか否かが焦
点となっていた。今般のトリシェ総裁の発言はギリシャ国債を“担保として”
認めないことを示唆しており、同国向けの追加支援を巡り欧州当局者間の調整
難航が長期化することが窺える。
4. 市場の反応
為替市場をみると、記者会見前に発表された米国の雇用関連指標が市場予想
を上回ったことや、トリシェ総裁が経済成長は第 2 四半期に減速した旨の発言
を行ったためドル買いが先行した。しかしその後は、ポルトガル国債の格付け
基準撤廃の発表を好感してユーロが買い戻され、1 ユーロ=1.43 ドル台後半で
の推移となった(第 3 図)。欧州周縁国の 10 年物国債利回りの対ドイツスプレ
ッドは、前日まではムーディーズによるポルトガル国債の投機的水準へ格下げ
を受けて拡大していたが、ECB による格付け基準撤廃が伝わると、小幅縮小し
た(第 4 図)。それでも高水準であることに違いはない。
3
第 3 図:ユーロ為替相場
(ドル/ユーロ)
16.0 (%ポイント)
15.0
14.0
13.0
12.0
11.0
10.0
9.0
8.0
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
(円/ユーロ)165
←
1.65
第 4 図:周縁国の対ドイツソブリンスプレッド
1.60
160
ー
ユ
1.55
155
ロ
高
1.50
1.45
150
145
対ドル相場
1.40
140
1.35
135
1.30
130
125
1.25
対円相場(右目盛)
1.20
120
1.15
115
1.10
110
1.05
105
10/1
10/4
10/7
10/10
11/1
11/4
11/7
(資料) Bloombergより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
10/1
(年/月)
10/4
格付け
ギリシャ
CCC↓
アイルランド
ポルトガル
スペイン
Ba2↓
イタリア
BBB-↓
AA↓
A+↓
10/7
10/10
11/1
11/4
(注)格付けは大手3社の中で最も低いもの。矢印はネガティブ見通し。
(資料)Bloombergより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
11/7
(年/月)
5. 今後の ECB のスタンス
トリシェ総裁は次回の利上げのタイミングについての明言は避けた。ユーロ
圏経済を牽引する好調なドイツも先行き減速が見込まれることや、周縁国でソ
ブリン問題と低成長が続くことを考慮すると、先行きは慎重にならざるを得な
い。会見では、現在の ECB の金融政策スタンスは引き続き緩和的と述べたほか、
インフレリスクを注視する考えを示し、追加利上げに含みを残したが、それ以
上の発言はなかった。また、トリシェ総裁は今年 10 月に 8 年の任期を終えて退
任する。ドラギ新総裁の下での運営スタンスは不透明であるが、いずれにせよ
ECB は引き続き、物価動向と周縁国情勢を両睨みしながら、慎重に追加利上げ
の時期を探ることになろう。
(H23.7.8
大幸 雅代
[email protected] )
発行:株式会社 三菱東京 UFJ 銀行 経済調査室
〒100-8388 東京都千代田区丸の内 2-7-1
当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、金融商品の売買や投資など何らかの行動を勧誘するものではありません。ご利用に関
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