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イオンクロマトグラフを用いたクロミウムの定量 - Thermo Fisher Scientific
AR022YS-0056 199809 200705 イオンクロマトグラフを用いたクロミウムの定量 【はじめに】 す。 クロミウムは主に 2 つの酸化状態、すなわち三価Cr(Ⅲ) 塩 重量 と六価Cr(Ⅵ)の状態で存在します。Cr(Ⅲ)は錯体を形成 Cr(Ⅲ) Cr(NO3)3・9H2O 7.695 g せず、水溶液中でクロムイオンCr3+となります。これは酸性 Cr(Ⅵ) Na2CrO4・4H2O 4.494 g 溶液に可溶ですが、アルカリ溶液中では水酸化物として 沈殿します。Cr(Ⅲ)は環境および生体中でも反応が遅い ことが知られています。Cr(Ⅵ)のイオンは主にクロム酸イオ 【分析法 A】 Cr(Ⅲ)および Cr(Ⅵ)の一斉定量分析 ン(CrO42-)、またはジクロム酸イオン(Cr2O72-)として存在し、 溶液のpHにより平衡状態が変わります。酸性溶液中では 1.分析対象 ジクロム酸イオンが多く、塩基性溶液中ではクロム酸イオ クロムイオン(Cr3+)、クロム酸イオン(CrO42-)、ジクロム酸 ンが多くなります。どちらにしてもCr(Ⅵ)は強力な酸化剤 イオン(Cr2O72-) であり、環境および生体中で有害なイオンになります。 様々な組成の試料におけるクロミウムの定量をおこなうた 2.分析法の検討 めの 3 種類の分析方法について述べます。Cr(Ⅲ)および 分析法Aの溶離液の主成分はピリジンジカルボン酸 Cr(Ⅵ)のクロムイオン種の測定が様々な産業分野で必要 (PDCA)です。Cr(Ⅲ)はCr-(PDCA)錯体として分離され とされ、µg/L(ppb)レベルでのクロミウムの迅速分離法であ ますが、Cr(Ⅵ)はPDCAと錯体を作らないため、クロム酸 る分析法 A を開発するに至りました。 イオン(CrO42-)として分離されます。 分析法 A では、呈色試薬を用いたポストカラム反応を利 試料および溶離液のpHは分離効率に大きな影響を与 用して検出します。この方法が最も選択性が良く、感度の えます。図 1 に示したように、pHが 6 以上の場合は 高い方法であり、Cr(Ⅲ)と Cr(Ⅵ)のイオン種が定量できま Cr(PDCA)2―錯体の形成が抑制され、pHが 6 より低い す。250 µL の直接導入法での定量下限値は Cr(Ⅲ)で 場合は、クロム酸イオンがジクロム酸イオンに変化し、ジ 100 µg/L、Cr(Ⅵ)で 1 µg/L です。 クロム酸イオンの高い還元力によりカラムにダメージを与 分析法 B は、産業排水および廃棄物抽出液中の総クロ ミウム量を測定するという必要性から開発された方法で、 える可能性があります。Cr(Ⅲ)とCr(Ⅵ)を同時に分離・検 出するためには、試料のpHを 6.8 に調整します。 標準的な方法で酸化や溶解した試料に適用します。分析 分離後、Cr(Ⅵ)はポストカラム誘導体化により Cr(Ⅵ)- 法 B もポストカラム反応を用いていますが、この方法では ジ フ ェ ニ ル カ ル ボ ヒ ド ラ ジ ド (DPC) 錯 体 に し ま す 。 Cr(Ⅵ)しか測定できません。 Cr(Ⅲ)-(PDCA)錯体と Cr(Ⅵ)-DPC 錯体は可視部 520 分析法 C は、陰イオン交換カラムとサプレッサを組み合 nm で検出します。試料導入量が 250 µL のとき、Cr(Ⅲ) わせた電気伝導度検出器を用いる手法で、クロム酸イオ および Cr(Ⅵ)のそれぞれの定量下限値は 30 µg/L と 0.3 ンに加え、無機陰イオンの同時定量も可能です。Cr(Ⅵ)と µg/L です。図 2 に示すように、Cr(Ⅲ)と Cr(Ⅵ)の溶出時 しての定量下限値は直接注入法で 500 µg/L 以下となりま 間はそれぞれ 3 分と 5 分です。 す。 分析法 A の応用例として、365 nm で検出する方法が あります。Cr(Ⅲ)-PDCA 錯体およびクロム酸イオンは 【1000 mg/L 標準試料の調製方法】 365 nm で吸収があるため、DPC のポストカラム添加の Cr(Ⅲ)とCr(Ⅵ)のクロミウム塩は試薬メーカーより入手で 必要はありません。クロム酸イオンの 365 nm での吸収は きます。Cr(Ⅲ)は、Cr(NO3)3・9H2Oを使用します。標準試 Cr(Ⅵ)-DPC 錯体の 520 nm における吸収ほど大きくな 料溶液は硝酸を用いてわずかに酸性(pH3∼4)にします。 Cr(Ⅵ)の標準試料は、クロム酸またはジクロム酸のナトリ ウムまたはカリウム塩から調製します。この場 いため、感度的には 365 nm で測定する方が劣りますが、 メッキ浴のような高濃度のクロミウムを含む試料に対して この手法は有用です。 合、pH 調整の必要はありません。1000 mg/L 標準試料 溶液を調製するには、下記の重量の塩を超純水 1 L 中に 溶かします。Cr(Ⅲ)標準溶液には濃硝酸を 2 滴添加しま 3.分析条件(分析法A) カラム IonPac CS5A(または CS5) 後に脱気した超純水で全量を 1 Lにします。 IonPac CG5A(または CG5) 溶離液 2 mmol/L PDCA 2 mmol/L Na2HPO4 10 mmol/L NaI 50 mmol/L CH3CO2NH4 2.8 mmol/L LiOH 流量 1.0 mL/min ポストカラム試薬 2 mmol/L DPC 10% メタノール 図 1 IC による Cr(Ⅲ)および Cr(Ⅵ)のピーク高さとサンプル pH の関係 0.45 mol/L H2SO4 ポストカラム流量 0.5 mL/min 混合器具 メンブランリアクタ またはミキシングコイル 検出器 UV/VIS 検出器 測定波長 520 nm 試料導入量 250 µL 4.溶離液およびポストカラム試薬の調製 溶離液のストック溶液: 下記の試薬を脱気した超純水 1 L に溶解してストック用 溶離液とします。PDCA は溶けにくいので、他の試薬を 加える前に加熱するか、超音波洗浄器にかけるとよいで しょう。 20 mmol/L(3.34 g) 2,6-ピリジンジカルボン酸(PDCA) 図 2 分析法 A による Cr(Ⅲ)および Cr(Ⅵ)のクロマトグラム Cr(Ⅲ)はCr3+として、Cr(Ⅵ)はCrO42-として測定 20 mmol/L(5.36 g) Na2HPO4・7H2O 100 mmol/L(15.0 g) NaI 500 mmol/L(38.5 g) CH3CO2NH4 28 mmol/L(1.10 g) LiOH・H2O 5.試料の調製 標準試料および通常の排水試料は、Cr(Ⅲ)の PDCA 錯体を生成するために次の操作が必要です。まず、100 mL のメスフラスコに試料を正確に 10 mL 入れ、ここに溶 溶離液: 離液のストック溶液を 10 mL 加えます。この試料を 1 分 分析に使用する溶離液は、上記のストック溶液を 100 間煮沸します。試料を室温まで冷却した後、超純水で全 mL 秤り、脱気した超純水で 1 L にメスアップして調製し 量が 100 mL になるようにメスアップします。煮沸後の試 ます。 料は Cr(Ⅲ)が存在していれば薄い紫色になります。最後 に、NaOH または HCl を用いて試料の pH を 6.8 に調 ポストカラム試薬: 2 mmol/L(0.5 g) 1,5-ジフェニルカルボヒドラジド(DPC) 整します。 メッキ浴試料などを波長 365 nm で検出する場合は、 10 %(100 mL) HPLC 用メタノール 試料を 1,000 倍または 10,000 倍に希釈する必要があり 0.45 mol/L(25 mL) 光学純度 96 %H2SO4 ます。pH 調整は一般的には必要ありません。メッキ試料 メタノール 100 mLに 0.5 gのDPCを溶解します。H2SO4 せる必要があるため、次の操作をおこないます。100 mL 25 mLを含む脱気した超純水 500 mLにこれを加え、最 のメスフラスコに試料を正確に 10 mL 入れ、ここに氷酢 によっては、PDCA と反応させるために Cr(Ⅲ)を遊離さ 酸を 10 mL 加え、超純水で全量が 100 mL になるよう にメスアップします。この操作の後、混合液を 100 倍また は 1,000 倍に希釈します。 【分析法 B】 Cr(Ⅵ)および総クロミウムの光学的定量分析法 1.分析対象 Cr( Ⅵ ) : ク ロ ム 酸 イ オ ン (CrO42-) 、 ジ ク ロ ム 酸 イ オ ン す。これを 98 %光学純度のH2SO4 50 mLを含む脱気し (Cr2O72-) た超純水 500 mLに加え、最後に脱気した超純水で全 量を 1 Lにします。 2.分析法の検討 分 析 法 B で は、 Cr( Ⅵ )- ジ フ ェ ニ ル カ ル ボヒ ド ラ ジド (DPC)錯体の 520 nmにおける吸光度を測定することに より、Cr(Ⅵ)の光学的定量分析が可能です。溶離液は PDCAとNH4OHの混合溶液です。Cr(Ⅵ)はクロム酸イ オン(CrO42-)として分離されますが、このときPDCAは二 価の陰イオンとして作用し、またNH4OHによってアルカ リ性にします。図 3 に示したようにCr(Ⅵ)がクロム酸イオン として溶出される時間は約 3.5 分です。クロマトグラム中 の 2 分のピークは、高濃度の塩です。 試料および溶離液の pH は分離効率に大きく影響を与 えます。pH が 6 より低い場合はクロム酸イオンがジクロム 酸イオンに変化します。その結果、ジクロム酸イオンの高 い還元力により、カラムにダメージを与える可能性があり ます。 図 3 分析法 B による排水中の総クロミウムの測定 分離後、DPC を用いたポストカラム誘導体化法で Cr(Ⅵ)-DPC 錯体が形成されます。 3.分析条件(分析法B) カラム IonPac CS5A IonPac CG5A 溶離液 10 mmol/L PDCA 148 mmol/L NH4OH 流量 1.0 mL/min ポストカラム試 2 mmol/L DPC 薬 10 % メタノール 0.9 mol/L H2SO4 ポストカラム流 0.5 mL/min 量 混合器具 メンブランリアクタ またはミキシングコイル 検出器 UV/VIS 検出器 測定波長 520 nm 試料導入量 100 µL 4.溶離液およびポストカラム試薬の調製 溶離液: 超純水に 1.67 gの 2,6-ピリジンジカルボン酸(PDCA)と 29 %の試薬特級のNH4OH 10 mLを溶解し、全量を 1 Lにします。 ポストカラム試薬: HPLC 用 メタノール 100 mL に 0.5 gの 1,5-ジフェ ニルカル ボヒドラジ ド(DPC)を 溶解しま 5.試料の調製 遊離の Cr(Ⅵ): 試料は pH を調整した後、直接導入できます。試料およ び調製した標準試料は NaOH を用いて pH7 以上にし ます。 総クロミウム: これらの試料はアルカリ性過硫酸塩処理により酸化しま す。過硫酸塩は有機物および酸化度の低いクロミウムを 完全に酸化します。この方法は ASTM D1687-80(分析 法 C)に記載されており、次のような処理をおこないます。 ・100 mL のメスフラスコに試料をピペットで 25 mL 秤り 取ります。 ・ 50 %NaOHを 1 mLと(NH4)2S2O8を 0.8 g加えます。 よくかき混ぜてか硫酸塩を溶解させます。 ・色が消えるまで、試料を 10 分間ゆっくりと加熱します。 ・試料を冷却し、超純水で 100 mL にメスアップします。 この操作で試料は 4 倍希釈されたことになります。 総クロミウム分析用の試料の調製操作は、試料を完全に 酸化し、同時にクロマトグラフィー分析をおこなうために 塩全量を 2 %以下になるように工夫されています。酸化 性物質を高濃度に含む試料は、過硫酸塩を多く加える 必要があるかもしれません。溶解している塩の量が 2 % を超えるとカラムに対して硫酸イオンが負荷になるため、 試料をさらに希釈する必要があります。 【分析法 C】 Cr(Ⅵ)の電気伝導度検出法による定量分析 1.分析対象 Cl-、SO42-、クロム酸イオン(CrO42-) 2.分析法の検討 分析法 C では、クロム酸イオンを二価の陰イオンとして 分離し、電気伝導度検出器で検出します。この方法では、 試料中の他の陰イオンの定量も可能です。分析法 A と 同様に、IonPac CS5A カラムの官能基として陰イオン交 換基と陽イオン交換基があることを利用して、Cr(Ⅵ)をク ロム酸イオンとして分離します。この方法の主な用途は、 クロムメッキ液中のクロム酸イオンおよび硫酸イオンの同 図 4 分析法 C によるクロムメッキ液の分析 時定量です。 図 4 に示したように、硫酸イオンおよびクロム酸イオンの 溶出時間はそれぞれ 3.5 分および 12 分です。試料導 入量を 15 µL としたときの Cr(Ⅵ)の定量下限値は 500 µg/L です。 3.分析条件(分析法C) カラム IonPac CS5A IonPac CG5A 溶離液 5 mmol/L Na2CO3 1 mmol/L NaHCO3 流量 1.7 mL/min サプレッサ アニオンオートサプレッサ ASRS 検出器 電気伝導度検出器 試料注入量 15 µL 4.溶離液の調製 Na2CO3を 0.53 gとNaHCO3を 0.08 g秤り、超純水に 溶かして全量を 1 Lとします。 5.試料の調製 100 mL のメスフラスコに試料を正確に 100 µL 秤り、これ を全量 100 mL になるように超純水を加え、1,000 倍希釈 液を調製します。 電子署名者 : Jun Kato DN: CN = Jun Kato, C = JP, L = Yodogawa-ku Osaka-city, S = Osaka, O = Nippon Dionex k.k. 理由 : この文書の承認者 場所 : 大阪市淀川区西中島6-3-14 日付 : 2007.08.25 11:49:04 +09'00'