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神の犠牲者にして復讐者?∼俺の知らないところで

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神の犠牲者にして復讐者?∼俺の知らないところで
神の犠牲者にして復讐者?∼俺の知らないところで完結
してるってどうよ?∼
ヤッシッシー
!18禁要素を含みます。本作品は18歳未満の方が閲覧してはいけません!
タテ書き小説ネット[R18指定] Byナイトランタン
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁ノクターンノベルズ﹂﹁ムーンライトノ
ベルズ﹂﹁ミッドナイトノベルズ﹂で掲載中の小説を﹁タテ書き小
説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は当社に無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範囲を超え
る形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致します。小
説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
神の犠牲者にして復讐者?∼俺の知らないところで完結してるっ
てどうよ?∼
︻Nコード︼
N0826CD
︻作者名︼
しんいち
ヤッシッシー
さおとめ
︻あらすじ︼
俺、早乙女真一が気づいた時にはすべて終わっていた⋮⋮何十人
もの転生者が神を怨み、神を殺すために磨かれた技術・経験・知識
をもらい、さらに神殺しの力を与えられて復讐。
神を殺す為に主神ゴッデス︵女神ではない︶に選ばれた最後の犠牲
者が俺だった。
4人の神を殺して復讐を成し遂げた! そんなところから始まる物
1
語。
チートになりすぎな俺は地球に帰還不能。
俺が殺した4人の神が遊ぶために作った﹃イーデスハリス﹄の世界
に転生して暮らしていく・・・だが、そこには目的も何もない。
神を4人も殺してしまったのでレベルは爆上げ。
ありえない数値のステータス。
魔法も技術も製造も思いのまま。
異世界に来てチートもらったんだからハーレム目指してみますか?
という話です
ノクターンで話を書いてますが元々のエロの少なさに﹁なろう﹂に
もエロ抜きで転載してみることにしました。
チート過ぎてバトルはすぐ終わります。
7・2ご指摘がありましたので主神ゴッデスに注釈を入れてみまし
た。
感想などドンドンください。
誤字などの間違いは早めに修正しますので教えてもらえるとありが
たいです。
自分よがり満載な作品なんで批判はお手柔らかにお願いします。
6・27キーワード増やしてみた。
7・2の53話から連載パターン変更。
今まではノクターンからのエロ抜きでの転載でしたが、今後はなろ
うに先に連載してノクターンにエロを増量しての転載ってパターン
に変更します。
1・4あらすじを読みやすくなるように修正しました。
2
プロローグらしいっす︵前書き︶
7・9修正しました。
3
プロローグらしいっす
さおとめしんいち
早乙女真一が我に返ったとき、真っ白な世界にたたずみ目の前には
神の死体が4つ転がっていた。両手を神の白い血で染めて。
﹁なんなんだこりゃ・・・どうしてこうなった﹂
・・・お答えさせていただいてもよろしいでしょうか?・・・
﹁ハハハ・・・俺の頭の中から知らない人の声がするよ。疲れてる
んだな、俺。アハハハ﹂
・・・これは現実。しかも神の世界なので逃避する場所はありませ
んよ?。しかしながらまずはこの4人の神の犠牲となった全ての人
々の無念を晴らしていただき誠にありがとうございました。・・・
﹁神の世界って、いきなり言われてもなぁー﹂
ここで俺の目の前に光り輝く白い着物を着た仙人? という圧倒的
な存在が姿を現した。
︻フォフォフォ、いきなり驚かしてすまんのぉ。ワシの名前はゴッ
デス。主神という存在でこの4人の神の親とも言える存在じゃ。早
乙女君、ワシからもありがとうと礼を言わせて欲しい。君のおかげ
で彼らの願いをかなえることができた。好き勝手に運命を捻じ曲げ
る4人の子供達に罰を与えることができた︼
・・・ゴッデス様、我々には時間が残っていませんのですが。早乙
4
女さんに説明を・・・
︻そうじゃったの、しかし説明は必要ないぞ︼
主神ゴッデスが両手を俺へとかざしたとたん、俺の中で光り輝く彼
らの苦悩・無念・恨み・そして願いの全てを理解した。
俺の中にある幾つもの光が俺の脳に記憶を移して消えていった。
彼らは運命を4人の神に弄ばれて捨てられた人達。
4人の神の管理する世界に隠し作った﹁イーデスハリス﹂に転生さ
せられて魔王・勇者などにさせられて最後は裏切られて殺される。
したくもない戦いに明け暮れて敵も味方もなく殺す技術だけ磨き死
んでいく。1番の犠牲者は3度も転生させられた。3度目の転生に
絶望し自ら命を絶った。
そして輪廻転生の枠から離れた彼の存在によって主神ゴッデスが4
人の神のたちの悪い遊びに気付き、ちょうどその時に転生させられ
ようとしていた俺に無念を抱いて死んだ人々の魂と神を殺す力と技
を植えたのだった。
﹃神殺しの力と技﹄
技っていってもなんてことはない、普通の何十発のパンチだったん
だけどな。
・・・ゴッデス様ありがとうございます。これで何の憂いもなく我
々は仕事に行けます。ではまた・・・
︻うむ。ではまたの︼
俺の中にあった光が全て消えた。
5
﹁これで彼らも成仏できたんですかねぇ﹂
︻彼らには輪廻転生の枠から卒業してもらった。だから本当の意味
で成仏したんじゃよ。しかし彼らの全ての人々は神にはまだなれん
のじゃ。彼らにはまだ怨みは完全には消えていないからの。恨みの
元を殺したとはいえ、人によっては何百年も怨み続けていたんじゃ。
そう簡単に割り切れることじゃないからの︼
﹁彼らの中の恨みの残った人たちはどうなるんですか?﹂
︻﹃監視者﹄になってもらう。監視者とはのぅ、ワシの下で働く神
々を監視してもらうんじゃ。この4人以外にも好き勝手している神
もまだいるみたいだし。神を殺す力と技を授けたからには彼らの無
念を晴らすためにも不届き者の神の監視をしてもらうんじゃよ。神
を監視していれば神の仕事の勉強にもなるしの︼
﹁ところで、俺はこれからどうすればいいんですか?﹂
︻ちょっと待ってくれ調べる・・・︵1分経過︶・・・すまんのう。
君の魂は地球の世界からは切れてしまっておる。じゃから元に戻す
ことはできんのじゃ。残念ながら・・・残された道はこの4人の神
が創った世界﹃イーデスハリス﹄に転生することしかないようなん
じゃ︼
﹁なんでまた、意味がわからないですよ?﹂
︻原因は君自身のレベルにもあるんじゃ。君はまったく望んでない
事とはいえ4人もの神を殺したんじゃからの。神を瞬殺できるレベ
ルに到達してしまったんじゃ。今の君をどの世界に送ってもバラン
スを壊してしまうんじゃよ。管理している神を瞬殺できてしまうん
6
じゃからの︼
﹁なんでイーデスハリスなら大丈夫なんですか?﹂
︻イーデスハリスは管理する神がワシに移動しておることが1つ。
2つ目の理由としては4人の神が好き勝手にしていて世界が崩壊し
かかっておるんじゃ。このままだと50年もしないうちに世界中を
巻き込む戦争を開始して、何十年も続く戦争中に崩壊するじゃろう
な︼
﹁俺に戦争を回避させろってことですか?﹂
︻君というバランスブレイカーが入ることによって戦争が回避され
世界は平和に向かうんじゃよ。君が戦争を回避させるんじゃない、
君は君の好きなように生きてかまわんのじゃ。君を巻き込んだお詫
びとしてワシからのプレゼント﹃天運﹄じゃ。この天運の力がイー
デスハリスを救ってくれるんじゃよ︼
﹁天運が解決するのですか? ますます意味がわからないんですけ
ど﹂
︻そろそろ時間となったようじゃ。君がイーデスハリスで生きて行
くうえでの一般常識・言葉・文字や戦闘や魔法など全て先ほどの﹃
記憶と経験の転移﹄で君の中にもう入っておる。まぁ、詳しくはス
テータスのヘルプ機能で確認するんじゃな︼
﹁ステータス? ヘルプ? ゲームみたいですね﹂
︻ゲームと捉えてくれてもかまわんよ。君が手に入れた力からすれ
ばの。﹃ステータス・オープン﹄で開始じゃ︼
7
﹁は? ・・・﹃ステータス・オープン﹄?﹂
光の洪水に飲み込まれ俺は転生した。
8
テンプレで盗賊さんたちが出てきたっす。
転生した先は草原の中にある大きな岩の上だった。
そして目の前には自分のステータスが開いてる。空中に光る文字が
浮かんでる。
ゴルドル
ステータス ∼シンイチ・サオトメ∼
種族・人族
年齢・15歳
レベル・1206
職業・神に愛されし旅人
所持金・10万9999G
HP・99999
MP・99999
力・9999
防御・9999
敏捷・9999
賢さ・9999
魔力・9999
スタミナ・9999
幸運・9999
スキル﹃武神﹄﹃神の創り手﹄﹃賢者﹄﹃忍者﹄﹃ビーストテイム
マスター﹄﹃ステータス管理﹄
祝福﹃主神の祝福︵天運︶﹄﹃アイテムボックス︵無限収納︶﹄
称号﹃神殺し﹄﹃被害者代表﹄﹃復讐を成し遂げた男﹄
﹁・・・なんでやねん?﹂
9
ツッコミどころが満載過ぎて意味不明で疑問系な関西弁でのツッコ
ミになってしまったよ・・・ん? HPの数値は限界の数値が表示
されてるだけで実際の数字は10億超えてるみたい・・・イミガサ
ッパリワカラナイヨ。これじゃ神を瞬殺ってのも納得だ。
転生モノのテンプレではまず近くの町に向かうんだけど、準備が必
要かも。どこかで整理し準備して、それから町に向かわないと俺が
恐怖の大魔王になってしまうな。こんなステータスを町で表示され
たらパニック間違いなしだし。
ポーン。 ∼スキル[ステータス管理]が発動しました。スキルが
隠蔽されます∼
電子音とともに変な声が聞こえてきたら目の前の数値に変化が現れ
る。
ステータス ∼シンイチ・サオトメ∼
種族・人族
年齢・15歳︵元35歳︶
レベル・6︵1206︶
ゴルドル
職業・旅人︵神に愛されし旅人︶
所持金・10万9999G
HP・150︵99999︶
MP・100︵99999︶
力・30︵9999︶
防御・20︵9999︶
敏捷・25︵9999︶
賢さ・30︵9999︶
魔力・15︵9999︶
10
スタミナ・30︵9999︶
幸運・100︵9999︶
スキル﹃旅人﹄︵﹃武神﹄﹃神の創り手﹄﹃賢者﹄﹃忍者﹄﹃ビー
ストテイムマスター﹄﹃ステータス管理﹄︶
祝福﹃アイテムボックス︵中︶﹄﹃幸運﹄︵﹃主神の祝福︵天運︶﹄
﹃アイテムボックス︵無限収納︶﹄︶
称号﹃旅なれた人間﹄︵﹃神殺し﹄﹃被害者代表﹄﹃復讐を成し遂
げた男﹄︶
﹁スキルと称号まで増えてるのに・・・俺はどこまで旅好きやねん
!﹂
っていうツッコム場所が間違ってるボケまでしてしまったよ。
﹁そもそもステータス管理ってなんだ?﹂
ポーン。 ∼ヘルプ機能がが発動して疑問にお答えいたします∼
∼ステータス管理とは本来であれば変える事などできない御自身の
﹃ステータスカード﹄の数値を変更することです。主神ゴッデスの
祝福により追加されたスキルです∼
ステータスカードってますますゲームっぽいな。
しかし今、こうしている間にも俺が殺した神の何十人もの被害者達
の記憶からどんどんと俺の脳にイーデスハリスでの一般常識・金銭
感覚・文字・言語・MAPなど上書きしていく。
称号の﹃被害者代表﹄で思い出したよ。
宝くじで8億当選
からの
8億を貰
俺は4人の神から被害を受けていないと思っていたけど・・・あっ
たよ被害。
俺の日本での最後の記憶は
11
って銀行から一歩出たら頭上に隕石で死亡
だったな。10年以上
働いていた会社が倒産したが退職金共済制度のおかげ余裕を持って
就職活動する矢先に購入した宝くじ8億の当選。これで世界中を自
由気ままに旅ができる! ・・・って1円も使えなかったな。
旅は大好きだったし世界中を遊びまわりたかったけど、まさか異世
界で夢が叶うなんてな。
フッフッフ、あの4人のクソ共の被害者たちに共通する記憶・・・
絶望の中で希望を見出したとたんの死亡。そして無理矢理転生させ
る。・・・そのほうが殺し合いに積極的になれるってのか? 元の
世界に戻れるって希望を持たせてるってところにも極悪さを感じる・
・・フフフ、もっと苦しませて消滅させれば良かったなとダークモ
ードに突入する思考を複数の気配がさえぎる。
ポーン。 ∼盗賊が現れました。人数は23人です。MAPに表示
します∼
テンプレだな。
第一村人発見前に盗賊かよ。脳内に浮かぶMAPに23個の赤い点
滅。そりゃ盗賊からしたら美味しそうなカモにしか見えんよな。高
級そうな旅の服を着て回りに護衛も連れずに大岩の上でノホホンと
しているお坊ちゃん。
なかなか上手く気配を消して接近してるが、スキル﹃忍者﹄を所持
する俺にはバレバレだったりする。
調子に乗った俺は盗賊が仕掛ける包囲網の罠に向かって、無造作に
自ら飛び込むように歩き出す。
あれ? テンプレだと盗賊から﹁坊主、生きていたくば有り金全部
12
置け。荷物も全部だしな!﹂なんて脅迫されそうなんだけどな。こ
いつらもプロの盗賊って事か? 後ろから素早い男が無言で俺を棍
棒で殴りつける。
ステップでかわすと男の腰についてる4本の投げナイフを次々に投
擲。10メートルほど離れた場所で待機している弓矢を持った4人
の男達の右手首に命中させる。これで遠距離攻撃は潰した。
棍棒を男から取り上げると鳩尾にパンチを入れて無力化に成功。そ
してはじめての魔法を唱える。
﹁アースバインド﹂
23人の盗賊が地面に土のロープによって縛られ仕上げは棍棒で昏
倒させる簡単なお仕事です。ナイフを当てた4人には簡単な止血だ
けしておく。
13
盗賊殲滅しちゃったっす。︵前書き︶
5・31修正しました。
6・8修正しました。
7・9修正しました。
14
盗賊殲滅しちゃったっす。
今の現状に引いてる自分がいる。
かなり手馴れた盗賊集団23人を数十秒で完全無力化するって・・・
ないわぁ。
﹁スリープ﹂
2つめの魔法を使い全員を眠らせて23人の盗賊を並べて拘束。
武器と防具を剥ぎ取りアイテムボックスに入れる。
手馴れてる自分にビックリする。
∼早乙女様の記憶に何十人もの被害者達の記憶と経験が入力された
ために、何千人もの盗賊を討伐した記憶と経験が入力済みです∼
∼盗賊ナンバー14と18のアイテムボックスの中身も移動します
か?∼
便利︵?︶なヘルプ機能だな。盗賊ナンバーってのは俺のスキル﹃
賢者﹄に入っている機能﹃鑑識﹄で盗賊全員の名前やスキルなんか
が表示されてるのだが、ナンバーだけわかれば良いと名前表示を消
してしまったからだ。盗賊の名前なんてどうでもいいよ。2人の盗
賊のアイテムボックスに入っていた食料・所持アイテム・予備の武
器など全てを奪う。
ポーン。 ∼﹃盗賊の簒奪者﹄の称号を得ました∼
ちょっと脱力してしまった。
盗賊の名前並みにどうでもいいや。光魔法﹃罪人の告白﹄をかけ盗
15
賊から住処・仲間の有無などの情報を吐かせる。盗賊の声を聞いた
瞬間から俺の中で爆発的に殺人衝動が膨れ上がる!
﹁ガハッ、これはいったい・・・﹂
∼早乙女様に入力された記憶の中でご家族を盗賊に殺された方が何
人もいます。ですので記憶の中の強烈な恨みが少し残って・・・∼
これでも少しなのかよ。
だが抑えきれなくなった俺は盗賊から奪い取った斧をふるい、寝て
いて土のロープに拘束され懺悔を続ける23人全員の頭をかち割っ
ていく。
平和な日本で過ごし殺人などゲーム以外では無縁な生活を30年以
上送ってきた。相手が盗賊とはいえ自分の手で殺したにもかかわら
ず、罪悪感すら沸いてこない。
俺自身が自分の変化について行けていない。
呆れて呆然とする中で脳内に鳴り響く電子音。
ポーン。 ∼﹃盗賊処刑人﹄の称号を得ました∼
そしてなんの感傷もなく死体となった盗賊からステータスカードを
抜き取る。盗賊討伐証明のためだ。
血の匂いに集まってきていた狼などの獣たち。
しかし俺の存在感に恐れをなし遠巻きにしているだけの状況に変化
が出る。
このイーデスハリスの世界で西方に位置する﹃ウェルヅ大陸﹄。ウ
ェルヅ大陸の西の中央部分にある、今の俺がいる現在地﹃ウェルヅ
16
大草原﹄。そのウェルヅ大草原の覇者で魔獣﹃銀大熊﹄。
銀大熊が体長6mを超える巨体、時速50キロぐらいの猛スピード
で飛び掛ってきたのだった。
左右の爪の連続攻撃をヒラリヒラリをかわして熊の即頭部にパンチ
をぶち込み戦闘終了。
横たわる魔獣﹃銀大熊﹄。
スキル﹃武神﹄の威力が凄まじい。素手でもワンパン。
クマの解体なんてできないから﹃解体収納﹄と魔法で解体してアイ
テムボックスに収納する。
そしてまだ残る盗賊への怒りの感情のままに盗賊の本拠地へテクテ
ク歩いていく。
1時間後には捨てられた開拓村を本拠にしていた盗賊120人ほど
を殲滅し終わる。
盗賊の財産︵遺産?︶と装備品・食料・ステータスカードなどすべ
て奪い、村の倉庫に盗賊の死体を集め神聖魔法﹃聖炎﹄で浄化と焼
却を一度に済ます。
ついでに銀大熊の肉まで焼いて美味しく頂いた・・・逞しくなって
きてるな俺も。しかもスキル﹃神の創り手﹄が料理にも作用してる
とは、意外だったよ。クマ肉がここまで美味いなんてな。ビックリ
だ。
全員で150人近くの盗賊を討伐して俺の中の盗賊へ凶悪な怒りの
力が ∼ありがとう∼ との感謝の言葉とともに薄れていく。
まだ全ての怒りが消え去っていないところが凄いんだけどな。
おなかも膨れたことだし。今日はもう夕方、ここらで落ち着いて色
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々と考えを、あふれる情報を整理したいよ。
今日は朝からハードすぎる。
朝から銀行に行って8億を受け取る。幾つかの口座に分散する手続
きを済ませて、外に出た瞬間に隕石落下で死亡。目を覚ましたとき
には4人の神を殺し終わってた。次に出てきた主神ゴッデスにより
イーデスハリスに転生。転生後は盗賊虐殺してクマ撲殺。最後に盗
賊の本拠殲滅して本拠地乗っ取り。
今北産業で強引にまとめるとこんな感じのEXハードな一日だな。
捨てられた村の中央に建てられていた二つの石造りの家、教会と隣
の元村長の家をスキル﹃神の創り手﹄の魔法﹃解体﹄で材料に戻し
て﹃邸宅建築﹄で邸宅を作り上げる。
新品になった邸宅に入り歩きながら・・・何これ。魔法が超便利す
ぎる。
新邸宅の居間でこれまた新品になった革張りソファーでくつろぎな
がらやっと落ち着いて思考できる。
風化でボロくなってる建物を盗賊達の酷い扱いで臭く汚くなってい
る2つの建物を見て、﹃これはちょっと住めないかな?くっせーし﹄
なんて思った時に脳内で﹃解体﹄という魔法が浮かんでくるのだ。
解体された建材で製造できる建物の設計図と﹃邸宅建築﹄という魔
法がセットで浮かび上がってくるのだ。
﹁建築﹂﹁解体﹂﹁造船﹂﹁料理﹂﹁武器製造﹂﹁防具製造﹂など
の製造にかかわるスキルをマスターし﹁神器作成﹂﹁築城﹂﹁軍艦
18
製造﹂などの上位スキルを完全マスターして得られる﹃神の創り手﹄
というスキル。
・・・これは便利だ。しかも料理が美味いってのが最高。
﹁無手﹂﹁片手剣﹂﹁斧﹂などの攻撃スキルをマスターして﹁二刀
流﹂などの上位スキルを完全マスターして得られる﹁武神﹂という
スキル。
・・・チートすぎるだろ。
﹁隠密﹂﹁気配察知﹂﹁隠蔽﹂﹁魔力察知﹂などのスキルをマスタ
ーして﹁魔眼﹂﹁忍術﹂などの上位スキルを完全マスターして得ら
れる﹃忍者﹄というスキル。
・・・俺の遠い過去に厳重に封印したはずの病気がうずく中二的な
スキルだな。
恐ろしいのは知識だけでなく俺に技を入力した全ての人たちの経験
まで俺の中で生きてるのだ。
19
説明回になってしまったっす。︵前書き︶
7・9修正しました。
20
説明回になってしまったっす。
何十人もの被害者の人たちの知識・経験まで俺の中にコピーされて
生きてる。
だから俺には何の苦労もなくスキルを全部使いこなせてしまうのだ。
さらに魔法を使う﹃賢者﹄。これも凄い最上位スキルだ。火・水・
風・土・生活魔法などの魔法マスターに加え、氷・雷・空間・重力
などの上位魔法マスターと回復・鑑識などの知識を必要とする魔法
をマスターしていないと取得できないスキルだ。
﹁なんか申し訳ないなぁ﹂
∼知識・経験・技・魔法を平和のために役立ててほしいという、彼
らの願いでもあるのです∼
﹁でも、俺はまだ盗賊殲滅してクマを撲殺しただけだし? そうい
やクソ神も4人殺ったな。・・・殺す以外はこの家建てただけか?﹂
∼4人の神と盗賊の殲滅は彼らの願いですから問題ありませんし、
銀大熊の場合は﹁弱肉強食﹂ですね。∼
ゴルドル
このイーデスハリスの世界に通貨・現金は存在しない。
ステータスカードに何Gと記載されてるだけなのだ。
どんな店でも使えるカードで現金いらず古代文明の魔法水晶を使用
して偽造もできない︵俺のステータス管理ですらここの部分は弄れ
なかったりする︶・・・ここは地球よりも進んでるな。
21
何百年も前の転生勇者3人を使い、今はもう消滅した王国が世界制
覇を成し遂げたときに通貨で使用していた金・銀・ミスリルなどの
貴金属を国民から取り上げるように申請した有力貴族などが王族と
手を結び成し遂げた偉業だったりする。
イーデスハリスの世界制覇を成し遂げても4人の神が世界平和を許
すはずもなく、3人の転生勇者達は貴族の権力争いの中でだまされ
て殺し合いをさせられる。
生き残った一人は人に絶望し勇者2人の力も吸収した﹃魔王﹄に生
まれ変わる。統一国家も分裂して崩壊。
転生勇者の魔王はその後5人もの転生されてきた勇者を葬りさり、
魔族による世界制覇まで発展した。
魔王の末路も味方のはずの魔人による後継者争いでの毒殺。
影で暗躍したのはもちろん4人の神だ。自身を含めて8人分もの勇
者の力を所持した魔王をも殺害する毒は神以外に製造できない。
﹁面倒な世界中の通貨を世界統一した後にステータスカード魔力マ
ネーへ移行﹂
この通貨統一のためにこの世界で払った代償は少なかったのに、そ
の後の混乱ではイーデスハリスの四大種族の人族・獣人族・妖精族・
魔人族の人口を半分以下に減らした。
このイーデスハリスの世界はこんな歴史の積み重ねだ。
混乱↓戦争↓統一↓腐敗から混乱へと・・・地球とあまり変らない
ところってのがミソかな。
ただし4人の神の悪意が頻繁に注入されており、一つ一つの期間が
短い。人口が減りすぎると文化が進み人口が増えてくると4人が遊
びまくって人口減少。
22
トイレなども進んでいる。便器は地球のように陶器製の水洗だが、
中身は魔力での完全分配処理が済んでいて廃棄物は一塊になって数
ヶ月後に肥料となり排出される。流す水はリサイクル。これがオマ
ルサイズでもできてるのだ。
こんなことをヘルプ機能と話してるときに、この捨てられた村の名
前と俺が建築した邸宅の名称をヘルプさん︵俺命名︶に聞かれたの
で勝手に﹃早乙女村﹄﹃早乙女邸 本館﹄と名付けてやった。元々
は捨てられた村。勝手に住んでた盗賊は全滅。俺しか住んでないし
ってことで反省も後悔もしていない。
先に風呂に入ってサッパリした。
早乙女邸は地底から温泉水を汲み出しているので、正確には風呂で
はなく温泉完備だったりする。
そろそろ時間だし晩ご飯でも・・・しかしこの早乙女村の早乙女邸
には素敵なキッチンはある。上下水道も完備︵盗賊から奪い取った
魔石をふんだんに使って地下水脈から引きずり出している︶。排水
も魔力でクリーンにしてから排出している。しかしながら・・・
食材がクマしかない
のだ。盗賊たちの持っていた食料は臭かったので死体と一緒に焼却
処分済み。早乙女邸キッチンには大型冷蔵庫まで完備されてるのに、
中身は入ってませんて。
日本人として生まれてきて更なる問題として挙げられるのは・・・
米のない生活を経験したことがない。
23
貰った知識ではこのウェルヅ大陸は中央を南北にウェルヅ山脈がは
しり大陸を東西の国家に分断している。
ウェルヅ大陸西方の国家がシーパラ連合国。
国の北部はウェルヅ大草原。地下水が豊富で地下水脈を容易に掘り
出せる。温泉も数多く存在している。
ウェルヅ大草原の南部に位置するのはウェルヅ大森林。
大森林と大草原を分断している河がシーパラ大河。
ウェルヅ大陸西方中央部分から南に突き出てるのがシーパラ半島。
シーパラ大河の南北の両岸がこのイーデスハリスの米の最大穀倉地
帯だ。
北部のウェルヅ大草原から湧き出る地下水が流れ込み、南部の大森
林を流れる幾筋もの川がシーパラ大河に流れ込む。莫大な水資源が
米の産出を増やし続けている。
大森林の最大の河がヨークル河。ヨークル河とシーパラ大河の重な
る場所にあるのが都市﹃ヨークル﹄。
ヨークルは物流の要の都市だ。ここに米・小麦などの穀物&野菜、
大森林で産出するゴム。獣や魔獣から取れる魔石や魔結晶。などな
どがここに集められシーパラ半島南部の付け根にあるシーパラ連合
国の首都﹃シーパラ﹄へと送り出される。
24
ヒロイン出てないのにゴーレム作っちゃったっす。︵前書き︶
7・9修正しました。
25
ヒロイン出てないのにゴーレム作っちゃったっす。
この早乙女村から馬車で2日、徒歩で6日ほどかかる場所にあるの
が都市ヨークル。
・・・米は今夜は無理だな。
空間魔法による転移で移動も可能だけど、お風呂でくつろいだ後に
移動とか・・・今夜はクマで我慢するしかないな。
鉄製の串に刺して塩を軽く振り、魔道コンロで炙っただけのクマ肉
が極上の料理に変身してしまう・・・銀大熊もレアで良い肉なんだ
けど神の創り手のスキル補正力に脱帽。なんだかんだと2キロ以上
食べてしまった。
アイテムボックス内には時間経過は存在しないので晩飯ついでに2
0キロほど焼いておく。ステーキは皿ごと保存しておく。
主寝室に移動して寝る前にアイテムボックス内の整理・・・銀大熊
の皮・毛皮・骨・爪・牙。
盗賊から奪い取った鉄・ミスリルなどの貴金属・宝石類・魔結晶・・
・これだけあれば執事とメイドのゴーレムができるな。
素材をアイテムボックスから取り出してゴーレム製造スキル魔法を
唱える。
﹃ゴーレム製造﹄
ゴーレムの骨格部分のクマの骨は大量にあったけど、コーティング
26
強化するためのミスリルが少なかったためにゴーレムのサイズは2
体とも150センチほどと小さくなってしまったが、骨の密度を限
界まで上げて強化したり心臓部分の魔結晶はクマから取れた2つを
使い俺の膨大な魔力をあふれるほど注いだのでパワーはある。
魔力の補充は採取した植物や討伐した獣や魔獣から補充する様に作
製する。
ゴーレムは魔獣を倒しても経験地が得られない代わりに魔力が奪え
るので。
もしかしての保険で空気や地中からほんの少しずつだけど集められ
るようにもしてある。
俺が貰った知識の中から執事とメイドの必要な知識と能力・料理や
解体・アイテムボックス︵小︶などのスキル・無手での戦闘術など
スキルをゴーレムの頭脳部分に魔力でインプットして完成。
﹃ゴーレム起動﹄
仕上げの魔法でゴーレム2体を始動させる。
﹁﹁はじめましてご主人様﹂﹂
ビシッとしたお辞儀をするクマのぬいぐるみが2体。
出来上がったのは少し凛々しく仕上げたクマ執事ゴーレムと愛くる
しい感じに仕上げたクマメイドゴーレム。クマのぬいぐるみなゴー
レムをオスメスの2体作ってしまった。
服もなかったしゴーレムが金属まみれってのも何か芸がないようで
負けた︵誰に?︶ような気ががしたので。
しかし戦闘能力は銀大熊をソロで討伐できるようにしてあるので早
乙女村は安全。
村人俺だけでボッチですけど何か?
27
あとは盗賊対策かな?
﹁﹁まずは私達の名前をお願いいたします﹂﹂
クマ執事に﹃セバスチャン﹄。クマメイドに﹃マリア﹄と名付ける。
うん。
執事とメイドの名前は決まってるな。
名前で何も変らないんだけど、なぜか有能な気がする。
理由は説明できないが。
セバスチャンの声はヘルプさんの脳内音声を1オクターブ下げて、
マリアの声は逆に1オクターブ上げている。
2人への命令は早乙女村周辺の探索などの情報収集と食べられるモ
ノを収集すること。
ゴーレムに睡眠は不要。
俺も肉体も精神もレベル上昇の恩恵で1週間は眠らなくても大丈夫
だが。
今夜はそろそろ眠る。
翌朝、目覚めるとマリアが草原で収集してきたハーブティーを飲む。
昨日は水しか飲んでなかったから凄く美味しく感じる。マリアもセ
バスチャンも料理スキルはマスターさせてあるのでスキル補正もか
かってるな。しかしクマの手が少し作業しにくそうだったので肉球
の大きさを小さくして指を長めにしモノをつかみやすいように作り
直す。
肉球でハーブティーのポットとカップを運んできたマリアに少し萌
えたけど。
28
朝食はセバスチャンが作ったスープだ。ジャガイモ・玉葱などの野
菜が村の中の畑に自生していた。
村周辺に地下水からの湧き水が池を数多く作っててそこにはレンコ
ンなんかもあったみたいだ。
肉はセバスチャンが捕獲してきたデカウサギ︵体長1M弱とデカイ
のだが夜行性で草原では見つけにくく超レアもの美味しい肉︶。
鳥も何種類か捕獲してきた中から出汁を上手く出して・・・凄く美
味しい。スキル補正バンザイ。
調味料が塩しかないのに。
それに俺は知らなかったのだが村の中に盗賊の食糧庫があり小麦粉
が1トン近く保存されていたみたい。
殻が混ざってるので魔法で分離させれば白い小麦粉に早代わり。量
は減ってしまうが仕方がない。
本来ならイースト菌などを使わないと軟らかく膨らむパンはできな
いのだが、この料理スキルが凄いのは小麦粉さえあれば菌や熟成、
パンを焼く石窯すらいらない、魔法で極上のパンに生まれ変わるの
だ。食パン・クロワッサン何でもOKだ。料理スキルはんぱねぇっ
す。
この料理スキルがいくつかの王家の宮廷料理人以外には伝承するこ
とができなかった、ほぼ廃れたスキルだったりする。もったいない
にもほどがある。
朝食を済ませる・・・本日の予定﹁何もない﹂
本日どころか俺はイーデスハリスの世界で生きていくってだけで予
定なんて何もない。昨日は激情に駆られて盗賊を全滅したが、別に
29
正義のヒーローを目指してるわけじゃない。
金もそこまで必要に感じてない。このままここに引きこもっていて
も自給自足できそう。
・・・米は欲しいな。ついでに村を捨てた理由も知りたい情報だ。
ヨークルに行って情報収集と米の入手。
転移だと面白くないし・・・うーん、、、
そうだ! ファンタジーの定番﹃空を飛んでみよう﹄
30
ヒロイン出てないのにゴーレム作っちゃったっす。︵後書き︶
ハーレムモノの予定だったのにヒロインが出てこない。ごめんなさ
い。もう少し先になりそうです。
31
狼は緑色でモフモフしてたっす︵前書き︶
6・8修正しました。
7・9修正しました。
32
狼は緑色でモフモフしてたっす
﹃飛翔﹄
早乙女邸から外に出て魔法を唱えると、ふわっと自分の体が浮いて
いく。
このイーデスハリスの世界での魔法というのはイメージと知識の複
合だ。この飛翔魔法も風魔法と重力魔法を複合させて飛ぶ。
時速300kmぐらいは出せるみたいだな。
50mほど上空で停まり周囲を見渡し自分のMAPに情報を入れて
いく。
時速20kmほどで飛翔しながら村周辺MAPを広げていく。
イーデスハリスの世界で1000年以上の歴史の中で数十人の知識
や経験でこの世界のMAPは入ってるが、やはり大雑把で細かくは
入力されてないから仕方がない。
細かく入っている場所も数多くあるが、何百年も前の知識だったり
して地形も変化してるし町や村は増えたり消えたりしている。
国名すら変化してるし。
実際に早乙女村もMAPには入ってなかった。
昨日、転生して初めてこの世界に降り立った場所の大岩も目印のひ
とつとしてMAPに。
最初に討伐した23人の盗賊の死体は消えていた。
狼達が俺が移動するのを待ってたからな。テイクアウトしたんだろ
う。
大岩の横で俺を見て固まってる狼の群れがいる。緑色の﹃グリーン
33
ウルフ﹄たちだな。
草原では凄く見難くて気配を探らないと存在に気付けない。
気配を探ると32頭。
一番大きい︵体長5メートルぐらいありそう︶のが群れのボスかな?
テイマーのスキルで念話したらテイムできそう。
ボスの目の前に瞬時に移動してボスをじーっと見続けると数秒後に
何か御用ですか?
狼の意識が流れ込んできた。
念話を続けて会話してみる。
昨日の盗賊23人は君達が食べたの?
ごめんなさい。ボスが捨てていったのでいらないのかと思い、別
の場所に埋めてあります。少し時間をあけないと不味くて食えない
ので。ボスも食べますか?
別に俺は食べるつもりはなかったから良いよ。ところで君の名前
は?
私の名前はガウリスクといいます。ボスはここで何をしてるので
すか?
ボスはガウリスク、君じゃないのか?
いえいえ。ここの大岩周辺のボスだった﹁シルバード8世﹂を倒
した貴方が昨日からここ大岩周辺のボスですよ
えっ? 俺が? 昨日倒した?
ハイ。銀大熊の﹃暴君・シルバード8世﹄です
あのクマ、暴君だったんだ。しかも貴族みたいな名前持ってるし・・
・。
暴君?
34
ハイ。手下の銀大熊も10頭以上いたのですが半分ぐらいはヤツ
が食べたらしいです。私の群れ以外のグリーンウルフも100頭以
上食べられてますし、近くにあった村にいた人族もヤツがいっぱい
食べてました。最近あの村の人族たちに手下の銀大熊・グリーンウ
ルフを全て狩られて勢いは落ちてきてましたけど、まだ勢力争いし
てる途中でした
あのクマがあの村を廃村に追い込んだ原因か?
盗賊たちも頑張ってたんだな。だからこそあれほどの魔石と魔結晶
を持っていたんだな。
俺がボスなら、できればこれから人を食べないようにして欲しい
んだが
昨日の人族はボスが捨てていったので皆で食べるために埋めまし
たが人族を襲ってまで食べようっていうのはこの群れにはいません
よ。人族はあまり美味しくないですし。人族が大好物っていうウル
フ達はシルバードの群れに入っていましたから、もうすでに村の人
族たちに狩られました。もうすでに周辺にはいません
この先にある村にいた人族は俺が昨日、全滅させたから昨日から
俺が住んでるんだ
全滅って、ボスって人族ですよね? 人族に恨みでもあるんです
か?
なんかガウリスクが生暖かい目で俺を見てる気がするんだが。これ
はキッチリ説明しないとな。
もちろん俺は人族だよ。シンイチ・サオトメって名前もあるよ。
殺したのは理由があるんだよ。あいつら盗賊ってのはシルバードみ
たいなヤツらの集団で人族の中でも食い合いをしてる群れなんだ。
他の人族の群れに迷惑をかけていて盗賊を狩ると御礼までもらえる
35
からだよ。ヤツら盗賊が生きてると迷惑なんで全滅させたんだよ
ああ、なるほど。そういうことでしたか
もうシルバードも盗賊もいないし、なんなら今から村に行ってみ
ないか?
ボスの村なら行ってみたいですね
ガウリスクを連れて早乙女村に戻ろうと思ったが、その前にガウリ
スクにテイム契約はしなかったが懇願されたので子分ってことにし
た。
ポーン。 ∼称号﹃狼王﹄を得ました∼
それからガウリスクの群れ・・・この31頭は群れの狩りなどを行
う行動部隊なんだと。メスや子供などは別の本隊がいるらしい。そ
の本隊にガウリスク以外のウルフを帰してガウリスクを早乙女村に
連れて行く。
村に帰ってガウリスクをセバスチャンとマリア引き合わせると、俺
がシルバードを利用して作ったゴーレムに驚いていた。
セバスチャンを﹃あにさん﹄マリアを﹃あねさん﹄とガウリスクが
呼ぶようになったのは2体よりも俺の下につく時間が少し遅れたの
が理由だそうだ。
本拠地に帰ろうとするガウリスクにお土産でクマの肉︵50kg︶
をあげたら喜んでた。銀大熊は大好物なんだけどシルバードの猛威
で久しぶりのクマ肉だったみたい。
たくさん余ってる︵クマは700kg以上あった︶から、もっとあ
げようとしたけど自分で狩る喜びもほしいからと辞退されてしまっ
た。
36
まぁ、たまには遊びにおいでとガウリスクを本拠地に帰す。
37
狼は緑色でモフモフしてたっす︵後書き︶
盗賊以外の人類が登場してないことに今更気付いた︵笑︶。
38
モフモフ最高っす! そして村のギルドで登録したっす。︵前書
き︶
7・10修正しました。
39
モフモフ最高っす! そして村のギルドで登録したっす。
早乙女村から南にある大岩をさらに南に行くとガウリスクの本拠地
の丘がある。
本拠地の丘からさらに南に人族の住む村があるとガウリスクに教え
てもらった。
俺もガウリスクの本拠地の丘を一度見たかったのでガウリスクに乗
ってガウリスク行動部隊と途中で合流し本拠地に行くことにする。
グリーンウルフって馬より早いかも、モフモフだし。
ガウリスクもボスを乗せて走り回るって凄く楽しい!
と嬉しそうだった。ぜんぜん揺れないしモフモフだし乗り心地が抜
群だったモフモフだし。
ガウリスクは馬より早いとほめたら
﹁馬は遅いけど美味しいよ﹂
と、馬肉の素晴らしさを10分以上も熱く語られた。
本拠の丘にある洞窟に入れて10日ほど熟成させた馬肉が極上らし
い。
去年までは年に何度か馬が食べられたけど、今年は見かけなくて淋
しいと悲しそうだった。
・・・もしかして、ガウリスクがこの辺の馬車などの馬を襲いまく
ってたから早乙女村って廃村になったのか?
本拠の丘は街道から少し外れた場所にあった。
丘の中腹に洞窟があって街道から見えない場所に出入り口が何十個
もあるほど広く逃げやすいし過ごしやすいので何百年以上もの長い
40
間、グリーンウルフの本拠地となってる。
グリーンウルフのスピードを生かして逃げ回れて幾つもある出入り
口からの奇襲も可能で守りやすいのだろう。
中も迷路のように入り組んでいるし通路も大小様々で、あの暴君シ
ルバード軍団からも多大な犠牲を出しながらも守りきったらしい。
本拠には100頭以上のグリーンウルフ達がいた。
ちっちゃい子供のモコモコのモフモフに萌えた。
これから人族のところにいる馬を襲わないようにみんなにお願いし
たら賛成していた。
ガウリスクが大好物だったので犠牲を出しながら襲っていたらしい。
本拠の丘から見て街道と反対側の方向で離れた場所に野生の馬の群
れがいて、そっちの野生の馬の方が美味しいし被害がほとんどなく
狩れるとのことでガウリスク以外が賛成で決定した。
ガウリスクがこだわってたのは
﹁人族の馬の方が硬くて噛み応えがある﹂
ただそれだけでの強硬だった。
1メートル以上の長さがある尻尾をシオシオにさせてうなだれるガ
ウリスクがちょっと笑える。
お土産のクマ肉を渡したらみんなが大喜びだった。
クマは内臓が一番美味しいとの意見も多数あったので、薬の材料に
なる肝臓以外の内臓を提供したら200kg以上になってた。
ガウリスクは馬肉の話をしていたら食べたくなったと、若手のウル
フ達数頭を引き連れ狩りに出かけた。
俺はガウリスクに教えてもらった人族の村の近くまで行動部隊の副
隊長に送ってもらう。
41
副隊長もモフモフしてて乗り心地良かった。
村の名前は﹃ゾリオン﹄ゾリオン村からさらに南に行くとヨークル
に行けるらしい。
とりあえず当初の予定通り、情報収集と米の購入かな。
外からゾリオン村を見ての第一印象は﹃砦﹄
7メートルぐらいの高さの石の壁が村を取り囲んでいる。
村の周りは溜池が何個か作ってあり堀の替わりか?
そしてその周りには立派な水田が取り囲んでいる。
ゾリオン村に入るとき身構えていた・・・テンプレどおり
﹁お前はどこから来たんだ?﹂
とか横柄な態度をとられてケンカになってもめるのかと思ってた・・
・
﹁こちらへステータスカードを近づけて下さい﹂
と、とても愛想良く言われ近づけると、ブォンという音とともにテ
ーブルの上の水晶が青く光って終了。
﹁犯罪履歴はありませんね。失礼しました。ようこそゾリオン村へ﹂
と、あっさり村に入れた。
なぜこんなに愛想がいいのか受付以外の村の門の守護兵に聞いてみ
たら・・・
シーパラという国の正式名称は﹃シーパラ商業都市連合国﹄。王も
いないし貴族もいない。
大商人達が﹃商議会﹄で国家運営してる。
さかんな商業と豊富な農産物、それらを世界中につなげる海運によ
って成り立つ国家。
42
犯罪をしない人はお客様であり歓迎しておもてなしするのが当たり
前。
・・・ただ、今は前村長のバイド様が大怪我でまだリハビリ中なの
で、村の中で少しはピリピリしてる部分があるとのこと。
ここまでの旅の途中で何人かの盗賊を処分したと言ったら、村の中
心にある村役場の隣に冒険者ギルドに行って処理して欲しいと言わ
れた。
盗賊はランクによって賞金が掛けられており、盗賊の持ち物やステ
ータスカードの所持金はもらえるからと教えてもらったので、米を
買う資金のためにも最初に冒険者ギルドに行くことにした。
冒険者ギルドでまずは登録。冒険者ギルドカードをもらう。
冒険者ギルドのカードには本名・種族・年齢・ギルドランクしか表
示されていない。裏側には犯罪歴のみ。とのこと。
登録の時に俺の非常識な数値がバレて問題になるのではないかと心
配していたが、冒険者ギルドはあまりにも問題が多過ぎて﹃本名・
年齢・種族・犯罪歴﹄この4項目以外は見られないように全世界の
冒険者ギルドの魔水晶を交換した。
本人が許可してないのにステータスカードの4項目以外を見るだけ
で犯罪。ギルド職員の立場を利用して他の人に情報を漏らしただけ
で重罪。情報を売った場合は死刑もある。
百年以上も前から問題になってたから何度も通達が出ていたが、そ
んなことお構いなしに情報を売る人間が後を絶たず、冒険者ギルド
の信用失墜問題が浮上。
ギルド内部が腐敗していた為におきた問題だった。
9年前に自浄作用が働いてギルド職員・ギルド幹部・高ランク冒険
者がクーデターを行い、撲滅のためにギルド内部の法を改正して厳
罰化に成功。5年ほど掛けて大粛清したとの話。
43
そんな話を冒険者ギルドカードの発行を待つ合間に職員に教えても
らった。
44
ダークエルフでカイゼル髭ってのは違和感バリバリっす。︵前書
き︶
6・12修正しました。
7・10修正しました。
45
ダークエルフでカイゼル髭ってのは違和感バリバリっす。
村や町など都市の出入り口でも同じ問題を抱えていた為に全世界の
国家と都市も共同で法整備と厳罰化に成功をしている。
門の守護兵も大粛清の対象となった。
今の世界中の門番用の魔水晶では犯罪歴を色で見るだけだ。犯罪歴
なしが青、犯罪歴ありは赤、捕まって更生中が黄色。これだけしか
見れない。出入り口でも手続きがスムーズになったことでも世界中
で評価はあがってる。
これもギルドの受付に教えてもらった。
冒険者ギルドカードを受け取り説明を受ける。
ギルドランクは15歳未満の未成年者は全て﹃G﹄。未成年者でも
それ相応の仕事があるので明確に区別する為のランクGだ。
15歳以上の成人は﹃F﹄から始まりE・D・C・B・A・S・S
Sへとギルドへの貢献度などを検査をして、さらに試験をして上昇
していく。
これらの知識は貰った記憶の中と一致してるので大丈夫。
そういえば、冒険者ギルドへ登録する理由を思い出したので受付さ
んに聞いてみることにする。
﹁この村に来る前に盗賊を退治してきたのですが、ステータスカー
ドの提出はここで良いのですか?﹂
﹁ハイ。ありがとうございます。これから調べますのでこのトレイ
に乗せてください﹂
46
﹁︵小さいトレイだな、148枚全部乗るかな︶・・・わかりまし
た﹂
アイテムボックスからステータスカードをまとめて入れた皮袋を取
り出して、ご希望どおりに148枚をトレイに積み上げてやった。
受付のお姉さんは目を見開いてフリーズしてる。
﹁すみませーん!﹂
・・・へんじがない。ただのしかばn
俺が大きい声を出したので、受付の後ろにいた職員が走ってきた。
﹁何があったんですか?﹂
﹁このトレイに退治した盗賊のステータスカードを乗せてくれと言
われて乗せただけなんですが﹂
﹁こ、こんなにも!! すみません。これからお調べします。少々
お時間を頂きたいので、あちらの階段で2階に上がっていただいて
食堂でお待ちください。作業終了後にお呼びさせていただきます﹂
さすがに昼を回って今の時間は14時。腹が減ってたまらなかった
ので職員の提案に乗っかることにする。
﹁わかりました。では上の食堂で待ってます﹂
食堂で見たのは﹃カレーライス﹄だった。迷うことなくカレーライ
ス大盛り︵1.2kg︶を頼む。
1200Gだった。1グラム1Gか?
ステータスカードで先払い。
カレーをガツガツと一心不乱にむさぼり食う。カレーの味は大きな
寸胴で作ったせいか美味かった。
異世界初の米、しかもカレー。もう二度と食べる事ができないかも
と考えていた。
少しうるっときた。
47
まさかカレーに泣かされる日が来るなんて思ってもいなかった。
職員を待つ、かなり時間がかかるだろう148枚だ。食堂でコーヒ
ーを飲んでマッタリしておく。
16時を過ぎた時間になってようやく職員が俺を呼びにきた。
﹁早乙女様、長らくお待たせしまして申し訳ございませんでした﹂
﹁︵ホントに礼儀正しいなぁこの国の人たち︶いえ、大丈夫ですよ。
ノンビリさせていただきました﹂
﹁では、ご説明しますのでギルドマスター室へきていただけますか
?﹂
﹁ギルドマスター室ってどこですか?﹂
﹁1階にございます。こちらです。今からご案内します﹂
職員に連れられてギルドマスター室に入る。
ギルドマスターは褐色の肌、無造作に後ろに束ねられた長い銀髪、
尖った耳。ダークエルフの﹃ジェントルマン﹄だった。
・・・なぜ﹃ジェントルマン﹄かって?
黒々として立派で上にカールしてる﹃カイゼル髭﹄が・・・
眉毛も黒く太く立派で・・・風貌が﹃ジェントルマン﹄としか表現
できないです。
﹁坊主、ダークエルフが珍しいのか?﹂
﹁あっハイ。生まれて初めて見ました﹂
﹁ま、世界に数千人しかいないからな。珍しいから仕方がないとは
いえしかし、初対面で挨拶もせんうちにジロジロ見るのは無作法だ
から、今後は気をつけた方がいいぞ﹂
﹁すみません。えぇーっと、はじめまして。シンイチ・サオトメと
いいます﹂
48
﹁ワシはアクセル・ビッタート。よろしくな﹂
差し出された手を握る。
﹁まずは座ってくれ。それでは最初は懸賞金などを済ませてしまお
う。金額が金額なんでな﹂
俺が成敗した盗賊は148人。その中の賞金首にかかっていた総額
は1億3000万G︵盗賊のボスに5000万G。幹部が一人10
00万G×8人︶。その他ギルドに依頼があった手配されてた賞金
が合計2500万G。盗賊退治一人にもらえる国からの保証金が1
0万G×148人で1480万G。
合計1億6980万G。
テーブルに乗ってる魔水晶に俺のステータスカードをかざすとブォ
ンという音が鳴り入金される。俺が当選した宝くじの金額には届か
ないが凄まじい金額だった。2日で稼いだ金額だしな。
﹁ありがとう早乙女君。と、まずは御礼を言わせてもらう。君が成
敗した盗賊たちは﹃草原の暴風﹄と異名を持つ盗賊集団でな。ザコ
以外の足取りが掴めず神出鬼没で。草原の暴風が本拠にしているの
は捨てられた開拓村とわかっていたので、先月に討伐隊を出したの
だが・・・ほぼ全滅してしまった。冒険者30人・国の兵士300
人・この町の兵士の精鋭10人と300人以上もいて生き残りが前
村長のバイド様のみだったんだ。ゾリオン村に帰ってきたのは冒険
者が5人ほどいたのだが負った傷が元で皆が数日後に死亡してしま
った﹂
﹁それは凄まじい被害ですね﹂
﹁ああ。バイド様の話では盗賊を発見し襲撃をかけた数分後に横か
ら銀大熊に襲われて掻き回されて、その後盗賊にも反撃をされて立
て直す暇もなかったらしい。あの忌々しい銀大熊め! あの銀色の
49
亡霊さえいなければ・・・﹂
﹁銀色の亡霊?﹂
50
カイゼル髭が情報たくさんくれたっす。︵前書き︶
7・11修正しました。
51
カイゼル髭が情報たくさんくれたっす。
﹁銀色の亡霊とは捨てられた開拓村周辺で猛威を奮っている銀大熊
の付けられたあだ名でな、開拓村が捨てられる原因の一端でもある
し、因縁浅からぬ相手なんだ﹂
シルバードとの因縁のだけでなく、俺の知らないゾリオン村やシー
パラ連合国などの情報も質問してたくさんの説明を聞く。
ゾリオン村を作ったのは﹃ゾリオン・シーズ・ガルディア﹄という
男。
シーパラ連合国の首都シーパラに本店があるガルディア商会の8代
目代表。
シーズという名前はシーパラ連合国の建国において多大な貢献をし
た商人12人に名乗ることを許された名前でシーズを名乗れるのは
代表とその子供のみ。
代表が替わり代表の兄弟となるとシーズの名前ははずされる︵当代
の兄弟は名乗れない。当代と子のみ︶。
次代当主に子が生まれ︵孫が生まれ︶ると当代交代になり名も受け
継がれる。
国家運営は12家の先代・先々代達の最高評議会︵元商人ばかりで
構成されているため通称﹃商議会﹄︶がおこなう︵人数は決まって
ない︶。
最高評議会を監視・サポートするのが商業・冒険者・農業などの各
ギルドの代表や宗教関係者、村や町の代表者の合計150名からな
る評議会。
52
ゾリオンの長男のギル・シーズ・ガルディアは都市ヨークルでガル
ディア商会副代表として修行中。
次男のバイド・シーズ・ガルディアはゾリオン村の村長をしていた
のだが、5年ほど前にゾリオンに三男ヨシュアが産まれたことによ
って運命が大きく変わる。
自分の名を冠した村を作りたかったバイドは父のゾリオンを説得し
て1年前に村長をヨシュアに譲り開拓村を作った。
開拓当初は好調だったが荷馬車が度々襲われるというのを手始めに
開拓村に暗雲がたちこめる。
銀大熊に何度も村を襲撃される。
銀大熊退治に応援を頼もうとした早馬を襲われ連絡が遅れる。
応援を待ちきれずに撤退を決定するも準備中に盗賊に襲われて守備
隊が壊滅。
逃走中に盗賊に銀大熊が襲い掛かり、さらに馬に乗って追いかけて
きた盗賊にグリーンウルフの群れが襲いかかり、何とかゾリオン村
に逃げ帰ってこれたのは一般市民とバイドだけ。
一般市民に死者がなく被害は軽い怪我と資産のみで損害賠償は軽微
なものだったのだが、納得できないのがバイドとゾリオン。
冒険者ギルドに依頼し応援を呼び、盗賊﹃草原の暴風﹄の情報を集
め討伐隊を万全の体制で送ったにもかかわらずまたも壊滅。
銀大熊が襲ってくる時と逃走する時のスピードが通常の銀大熊のレ
ベルとかけ離れていた為についたあだ名が
﹃銀色の亡霊﹄
まとめるとこんな感じだった。
銀大熊軍団VS盗賊﹃草原の暴風﹄VSガウリスク軍団VSバイド
軍・・・凄い四つ巴だな。
だけど、冷静になって考えてみると盗賊﹃草原の暴風﹄は俺が壊滅
させた。
53
銀大熊軍団は俺がシルバード8世を退治して壊滅。
ガウリスク軍団はもはや俺の子分になって人族の馬は襲わないよう
に命令した。
・・・この四つ巴もう終了してる?。
﹁これでもう草原の暴風もおしまいだな。リーダーとサブリーダー、
それに幹部が根こそぎ討伐されたからな。あと盗賊のステータスカ
ードの精査中だが、残りの幹部3人とザコ70名ほどは銀大熊に食
われたらしいからな﹂
﹁︵クマも結構がんばってたんだな︶・・・銀大熊も討伐しちゃっ
たんですけど﹂
﹁・・・はぁ? 銀大熊の討伐証明部位の﹃牙﹄は持ってるか?﹂
俺はギルドマスターにシルバード8世の牙をアイテムボックスから
取り出して渡す。
シルバードの牙は大きすぎてセバスチャンやマリアには使用しなく
て良かった。
﹁この色でこの形の牙は銀大熊で間違いない。それにしてもこの長
さは凄まじいな。念のためにステータスカードをこちらの板に当て
てくれ﹂
応接テーブルに取り付けられた黒い板に俺のステータスカードを当
てる。
ブォンと音が鳴り黒い板に文字が浮かび上がる。
﹁うむ。間違いなく討伐してるな。では、またスマンが少し待って
くれ。あの銀色の亡霊には幾つもの討伐依頼や懸賞金がかけられて
いるのでな﹂
54
俺をギルドマスター室に案内してくれた職員が室外へ出ていく。
﹁計算も時間がかかることだし、これから少し二人っきりで話がし
たい。無論、尋問などではないので君に都合の悪いことは答えなく
ても良い。そして俺は冒険者ギルド職員としてここでの話を秘密に
する義務がある。理解できるかな?﹂
﹁わかりました﹂
﹁では、ずばり聞くがもしかして君は﹃転生者﹄かね?﹂
﹁・・・ハイ﹂
悩んだが正直に答えた。なぜか理由は説明できないが正直に答えた
ほうが良いと思った。
﹁教えてくれてありがとう。このイーデスハリスの世界では転生者
と呼ばれてる人は何十人と数多くいた。彼らは強大な魔力と卓越し
た戦闘力でこの世界を破壊し、高度な文明や文化で生まれ変わるこ
とを1000年以上も前から繰り返してきたのだ﹂
﹁・・・﹂
﹁我らダークエルフも絶滅寸前に救ってもらった種族なんだよ﹂
﹁え?﹂
﹁ダークエルフというのは﹃エルフ﹄と﹃魔族﹄のハーフから産ま
れた種族でな。エルフを含む妖精族・魔族・人族・獣人族などすべ
ての種族から迫害を受けていて、誰もいない場所で逃げ回るか奴隷
にされるか二つに一つだった﹂
﹁・・・﹂
﹁そんな状況を救ったのがダークエルフ﹃ノルシアム・ビッタート﹄
様。ダークエルフの転生者で救世主。ダークエルフにしか使えない
魔術﹃魔装術﹄を編み出した創始者でもあし、ワシの祖父でもある﹂
55
・・・知っている名前が出てきてビックリした。
転生者﹃ノルシアム・ビッタート﹄。俺に記憶と知識と経験をコピ
ーしてくれた一人だ。
56
カイゼル髭が情報たくさんくれたっす。︵後書き︶
まだヒロインが出ない。超難産です。
57
盗賊&クマ退治で大金ゲットっす。︵前書き︶
6・12修正しました。
7・11修正しました。
58
盗賊&クマ退治で大金ゲットっす。
それに﹃魔装術﹄はダークエルフだけの技じゃない。
俺にも使える。
魔装術という技は全身を魔力で硬質化させて身を守り、硬質化した
全身を使って攻撃する無手の格闘術だ。
魔力が膨大にありながら魔法として放出することができないダーク
エルフという種族にはとても使いやすい魔術で、違う種族だと魔力
が魔法として放出されてしまうから魔力を装えないし、装えるほど
の魔力の持ち主で無手での格闘術まで身につけている他の種族はほ
とんどいない。
魔装術を使えるほど膨大な魔力を持つなら魔法使いになる。
ダークエルフは魔族とエルフのハーフとして両方の優れた身体能力
と膨大な魔力を受け継ぐが、エルフの﹃妖精魔力﹄と魔族の﹃暗黒
魔力﹄という相反する魔力のせいで体外に魔法放出しようとすると
打ち消しあって魔法にならずに魔力だけ消費してしまう種族。
他の種族が使えず、使いこなせるダークエルフの中だけで発展した
魔術が﹃魔装術﹄。
﹁ワシはノルシアム様を尊敬してるから、転生者に対して便宜を図
りたいのだ﹂
﹁それはありがたいのですが・・・﹂
﹁わかっておるよ。まずは秘密が優先だ。しかし、皆はこの盗賊退
治と銀大熊退治で口には出さなくても早乙女君が転生者だとうすう
す感じることだと思う。普通の15歳じゃ成しえないことだからな﹂
59
﹁ですよねぇ﹂
﹁転生者を恐れてる人たちも少なからずいる。転生者=魔王な部分
でもあるし、魔王を討伐したのは転生してきた人=勇者な一面も転
生者にはある﹂
これは俺も転生者からの記憶や知識で考えていた。転生者を迫害し
たりして魔王にさせたのもイーデスハリスの人々。奴隷の首輪を使
い利用した転生者を複数使って戦争に使いまわし、挙句に転生者に
反撃されて滅んだ国もいくつもある。
俺も莫大な魔力と戦闘能力を貰ったが、ただでさえお人好しな日本
人。
人の隠した悪意を見分ける能力なんて皆無。
誰かに利用されて戦争させられるなんてゴメンだ。
コピーされて俺の中で生きている記憶と経験で俺を利用しようとす
る権力に反発する気持ちは尋常ではなく消えずに残ってるし、神へ
の恨みもまだ消えてない。
早乙女村の教会を潰したのも見てるだけで少しムカムカしてたから、
完全に解体してしまったのだ。
﹁それで早乙女君に聞きたい事がある。もしかして君は上級回復魔
法の﹃エクストラヒール﹄は使えないのだろうか?﹂
﹁・・・できますよ﹂
﹁やはり神託は君のことだったんだな。では、君に冒険者ギルドか
ら個人指名依頼をしたい。報酬は確約する。また追って連絡するが
ゾリオンのバイド前村長の治療をお願いしたい。ゾリオン様とバイ
ド様に相談する必要があって、すぐには準備できないので治療が終
わるまでこの村で何日かとどまって欲しい﹂
﹁俺のことってどういう・・・﹂
﹁教会で﹃太陽神アマテラス﹄様から、この村の問題を解決できる
60
男が村に向かってくる。彼の助けを借りなさいと昨日教会にいた複
数人に御神託がおりたんだ。怪我の治療のために教会にきていたバ
イド様、付き添っていたゾリオン様と親衛隊の5人、教会で他の患
者を治療していた神父。その瞬間に教会にいた全員に御神託があっ
たんだ。彼にお願いして教会に来てもらい治療してもらえばバイド
様の怪我は回復するだろうと﹂
﹁︵・・・アマテラスって誰だ? 俺が殺した4人の神ではないみ
たいだな︶・・・わかりました。個人指名依頼を受けます﹂
﹁ありがたい。一日最低一回はこの冒険者ギルドに顔を出して欲し
い﹂
﹁わかりました﹂
ゾリオン・シード・ガルディアは今、この村に来ていて神託がおり
てから待って我慢することができずに、今日の早朝から親衛隊の隊
長と二人でヨークルに向かって飛び出してしまったらしい。だから
連絡を取るのに少し時間がかかる。
バイドはこの村にいるんだからチャッチャと済ませば終わるのにな。
バイドの怪我は目と喉に盗賊からの弓攻撃を受けていて右目が失明、
喉も損傷して小さなかすれた声しか出ないので筆談で会話してるそ
うだ。
シーパラ連合国で唯一エクストラヒールを使える枢機卿は現在国外
で船旅の途中らしい。
この村にいる神父は中級の回復魔法﹃ハイヒール﹄しか使えない。
喉は何度もハイヒールをかければ少しずつ治るらしいが、ハイヒー
ルでは失明は治すことは不可能。
権力への反発心から、あまり権力に近寄らずに田舎でノンビリ暮ら
していこうと思っていたが、今のイーデスハリスを管理する神は主
神ゴッデスになってるはず。俺に教会にきて治療して欲しいってこ
とは、俺に何か言い忘れたことでもあるのかもしれない。だからひ
61
とまず権力への反発心は我慢して依頼を引き受けることにした。
ここでドアがノックされて職員が戻ってきた。査定が終わったらし
い。
合計2800万Gだった。ステータスカードに入金してもらう。
俺の所持金は
10万9999G︵ゴッデスにもらった最初の所持金︶+1億69
80万G︵盗賊退治賞金合計額︶−1200G︵カレーライス代金︶
−1000G︵コーヒー2杯代金︶+2800万︵クマ退治合計賞
金︶
=1億9790万7799G。
クマが銀色の亡霊って呼ばれて恐れられていたのに、盗賊たちに比
べると意外と安かったので聞いてみたら・・・クマの毛皮などの素
材は別口での買い取りだった。
セバスチャンやマリアを解体する気は今はないし、残った素材は持
っておきたかったので
﹁クマは重くて回収できなかった、今日見たらもう死体がなかった
ので獣や魔獣たちが食べたんだろう﹂
といっておいた。説明するのも面倒だったから。
62
盗賊&クマ退治で大金ゲットっす。︵後書き︶
チートなハーレム話の予定で18禁にしたのに・・・まだヒロイン
どころか、おんにゃのこの名前すらでてません。ごめんなさい。
どうでもいい追記ですが冒険者ギルド・ゾリオン支部の職員はギル
マス以外に5名います。全員若い女性です。カイゼル髭のくせに︵
?︶ハーレムな職場です。
63
冒険者ギルドで依頼を受けたら村を追い出されたっす。︵前書き
︶
7・11修正しました。
64
冒険者ギルドで依頼を受けたら村を追い出されたっす。
何日かはゾリオン村で待機させられるなら宿に宿泊させてもらおう
と、ギルドマスターに聞いたのだがゾリオン村に宿屋はないらしい。
ゾリオン村に観光で来る人間なんていないし、冒険者は冒険ギルド・
行商人は商業ギルドなどの宿泊施設に格安で宿泊できるから商売に
ならないから初めから宿屋はないと。
その状況に追加して開拓村から撤退してきた一般市民で、他の村や
町に行こうにもコネも金もないって人達が教会や各ギルドの宿泊施
設にいて、宿泊施設だけでは足りなくて臨時の避難施設やテントで
寝泊りしてるので、俺を宿泊させる場所すらない現状。
食糧に関してはガルディア商会が荷馬車を増便してヨークルと往復
してるので豊富にある。むしろ屋台が出てたりして村は活況を帯び
てるそうだ。
﹁簡単にまとめると﹃飯は勝手に食え。泊まるのは場所がないから
村の外にしてね。緊急連絡の可能性もあるから遠くに行かずに最低
でも一日一回はギルドに顔出せよ?﹄ってことですよね?﹂
﹁・・・スマン。こちらのワガママをを押し付けて、君の事を軽く
取り扱ってるのは理解してる。バイド様とゾリオン様に掛け合って
個人指定依頼の成功報酬の金額に色をつけてもらうことぐらいしか
確約できない﹂
﹁今、2億Gほどの金を貰ったばかりでお金は困ってないのですが﹂
﹁確かにそうだな。金ではない何かで君の希望はあるかな?﹂
﹁・・・今はまだ何も思いつきません。明日以降でもよろしいです
か?﹂
﹁ああ、それはかまわない。そして明日以降はお願いする﹂
65
そう言ってギルドマスター・隣にいた女性職員の二人と握手を交わ
し冒険者ギルドをでて買い物。
食料品店に行って100kgほど米と卵などの早乙女邸にない食料
と調味料・カレー粉などを買い込み、雑貨屋で服・下着・手ぬぐい
などを複数購入。
布団もなかなか良さそうなのがあったので何セットか購入。
お釜と飯盒があったのでついでに購入。
40万G以上使った・・・お釜が結構高級品だった。
アイテムボックスに購入したモノを入れて村を出る。
アイテムボックスのスキルを持ってる人は数多くいるのでそれほど
目立ってない。俺の場合は﹃祝福﹄でのアイテムボックスの無限収
納バージョンだからこのイーデスハリスの世界に過去を含めて10
人といない。
正直、まさか村に来て宿泊する場所もなく、まして村から追い出さ
れるとは予想もしてなかった。
よくある異世界転生モノの話で始めは田舎の宿屋に泊まるって設定
を読みながら・・・
﹁お前ら田舎舐めすぎ。そんな田舎の宿屋なんて誰が利用するんだ
よ。人がいないから、人が来ないから田舎なんだよ。有名観光地の
ホテルだってボコボコつぶれるのに、人の動きがほとんどない田舎
の宿屋なんて兼業農家でギリギリ生活できるかどうか? ってレベ
ルだろ。そもそも普段使う人もいない宿屋の機能・設備をどうやっ
て維持するんだ? 金がもったいないどころの騒ぎじゃないだろ﹂
なんて考えてた時期が俺にもありました。
66
そんなんファンタジーだからいいじゃんって考えとけばよかったの
かな。
まさか村の重要人物の治療の依頼を冒険者ギルドからの懇願されて
るのに、村から追い出されるとはなぁ。
予想外すぎて・・・さすがに気分が凹んでくる。
それに今はバイドの治療の為に停滞している開拓村進出計画もバイ
ドが復活すれば進むだろうし、今度は邪魔するクマも盗賊も狼もい
ない。
すぐに開拓村は﹃バイド村﹄になるだろう。
早乙女村も今夜で終了だな。
早乙女邸も解体して建材に戻してアイテムボックスにでも入れてお
くか。
ゾリオン村から見えない場所まで行ってからガウリスクの本拠の丘
付近に転移してみる。
ガウリスクが狩りから帰ってきてたので本拠の丘の地下洞窟に俺も
住んでいいのか聞いたら、ボスだから好きな場所を選んでください
と言われたので、誰も今は使用してないところに決め何部屋かもら
う。
神の創り手のスキル魔法を使い寝室・居間・キッチン・風呂・トイ
レなどを設置する。
寝室の正確な座標をMAPに入力し早乙女村に転移して早乙女邸を
解体して建材に戻して使用していた魔石なども全て回収。
セバスチャンとマリアの二人が昨晩から集めていた食材とかも全部
回収済み。
二人を連れて新居に転移。早乙女邸の引越しは30分ほどできれい
67
サッパリ終了。
MAPからも早乙女邸と早乙女村の表示を消した。
ガウリスク軍団への引越しの挨拶でセバスチャンとマリアを紹介し
てガウリスク軍団の面々に引き合わせる。先に挨拶して顔合わせし
ておかないとな。
意外と長く住むかもしれないし・・・今は早乙女邸︵仮︶だけど。
ガウリスクが﹃あにさん﹄﹃あねさん﹄と呼んでいたためその名前
で定着していた。
土と風の合成魔法﹃洞窟探査﹄を使っておれのMAPをうめておく。
これで迷う心配が消えた。
その後は晩ご飯。今夜はクマのステーキ丼にした。
朝飲んだスープもまだ残ってたので一緒に食べる。
そういえばお釜は必要なかった。桶に米と水を入れて料理スキルの
魔法を使うと﹃ふっくら炊きたて美味しいご飯﹄の出来上がりだっ
た。
スキルや魔法の知識があっても活用しないとな・・・自分のバカさ
加減にへこんだ。
お風呂の後にマリアに軽くマッサージをしてもらって今夜は寝る。
初めは肩だけ揉んでもらったが、物凄く上手だったので全身を軽く
揉みほぐしてもらった。
セバスチャンとマリアには本拠の丘の周辺警戒と食材収集をたのん
でおく。
68
テンプレどおりのバカがいたんでマジ切れしちゃった! テヘペ
ロっす︵前書き︶
6・12修正しました。
7・11修正しました。
69
テンプレどおりのバカがいたんでマジ切れしちゃった! テヘペ
ロっす
翌朝マリアに起こされて目覚めた時は本拠の丘の洞窟内はピリピリ
ムードだった。
大岩付近の暴君シルバード8世を始末。
盗賊﹃草原の暴風﹄も全滅させた後、南に移動してガウリスク軍団
を吸収した俺はガウリスクの本拠の丘に移動してしまった。
今の大岩付近は突如として魔獣の空白地帯となり、縄張り争いは戦
国時代に突入したらしい。
北の草原から新たな銀大熊の軍団︵20頭ぐらいいるらしい︶と、
東のウェルヅ山脈の岩場での覇者﹃炎虎﹄の軍団も進出してきてる
らしい。
ガウリスク達のグリーンウルフは炎虎︵炎を操る虎ではない。黄色
地に炎のような真っ赤な縞模様が特徴の虎︶とは、住んで暮らす場
所がまったく違うので昔から特に争っていない。
炎虎は岩場を敏捷に駆け回り、黄と赤という岩場での保護色のため
草原では超目立つ特徴を持っているので、昔から草原は炎虎の縄張
りにはなってない。
炎虎が今日になって進出してきたのは岩場に少ない水場が欲しいか
らと・・・早朝に炎虎が本拠の丘に挨拶にきた。新しい銀大熊が進
出してきたとの情報を持って。
ということで、新たな銀大熊軍団の到来にガウリスク以外の軍団員
70
はピリピリしている。偵察隊もいくつか出してるようだ。
ガウリスク軍団は本拠の丘の安全があればいい。
丘付近にデカウサギと﹃爆走鳥︵ダチョウみたいに空を飛ばずに地
面を走る鳥︶﹄が豊富にいる。
西の草原は野生の馬がいっぱいいる。
餌には困っていないからガウリスクは大岩付近の覇権争いには参戦
しない方針。
だが、大岩から南にやって来る銀大熊も炎虎も全て食らいつくすと
不敵に笑うガウリスク。
俺がシルバードを倒したときに近くにガウリスク達がいたのは、シ
ルバード軍団が盗賊たちに狩られてボッチになったシルバードをス
トーキングしていたんだと。
いくらシルバードが銀大熊らしからぬスピードを誇っていたとはい
え、グリーンウルフのスピードには足元にも及べない。
30頭以上での交代制でストーキング。
シルバードが餌を捕る前に周辺の狩りをして、俺に襲い掛かったと
きシルバードは3日以上なにも食べてなかった。
だから人族の死体がいっぱいあって計画が失敗したと思ったとガウ
リスクに言われた。
グリーンウルフ達も色々考えてるんだなと感心して聞いていた。
魔獣なんだからもっと単純だと思ってた。
これからウルフは狩りづらいな。モフモフだし。
ゾリオン村に行く前にセバスチャンとマリアに収穫はあったかと確
かめたら、本拠の丘周辺には人の手があまり入っておらず薬草や食
71
用のハーブなどが豊富なんだと。
だから朝ごはんはハーブのお粥にしてもらった。
お粥やハーブティーや香草焼きなどをたくさん作っておいてアイテ
ムボックスに入れておくように2人に指示しておく。簡単なポーシ
ョンなども作れるように2人をアップデート。ついでに初級回復魔
法の﹃ヒール﹄もできるようにしておく。
今日も行動部隊副隊長にゾリオン村付近まで送ってもらう。彼が人
族との微妙な距離の場所を自慢のスピードを生かして哨戒している
担当だった。
依頼どおりにまずは冒険者ギルドに顔をだす。まだゾリオンには連
絡が取れていないようだった。ギルドマスターのアクセル・ビッタ
ート︵受付嬢は﹃ビッタート卿﹄と呼んでた。貴族ではないが見た
目が貴族っぽいので付けられたあだ名だ。カイゼル髭だし・・・こ
れからは俺もそう呼ぼう︶は、村長邸に行ってる。
これでしばらくすることがなくなったと途方にくれていたら、Fラ
ンクの依頼書の中から1枚俺に渡される。
依頼書の内容は﹃教会の手伝い﹄だった。ヒールを使える人とポー
ションを作れる人は大歓迎で報酬アップと書いてあった。
え? 俺が依頼受けるの? 小金は必要ないんだけどとフリーズし
ていたら、受付嬢いわく﹃ビッタート卿のお願い﹄だそうだ。
昨夜、俺と別れた後にビッタート卿はバイドと話し合ったそうだ。
バイドは俺のエクストラヒールの腕を見たいから、俺への教会での
依頼にかこつけて村長邸で厩務員をしている元冒険者の男を目の前
で治して欲しいんだと。
エクストラヒール2回分の料金は払うからと受付嬢にお願いされた。
72
さっさとこの村での依頼を終了させてしまいたい俺は依頼を引き受
けることにする。
この村に移住する為にこの世界に転生したんじゃない。
俺この世界を旅したい。
受付嬢は受付窓口を同僚にまかせて村長邸に駆けていく。
俺は教会に行き依頼受理書を神父に渡して、治療に来ていた人たち
への治療を開始する。
神父には話が通してあったのでスムーズにことは進む。けが人治療
の合間にポーションを作る。
スキル﹃神の創り手﹂が作動してポーションに込める魔力があがっ
てしまいポーションがハイポーションになってしまったのはご愛嬌。
一緒に作業して目の前で見ていた神父の顔が引きつっていたが見な
かったことにする。
治療室でコーヒーを飲んで休憩していたら、治療室のドアがドカン
と吹き飛びそうな勢いで開き、派手なフルプレートアーマーを着た
男が侵入してきた。
﹁貴様が早乙女とかいう冒険者の坊主か? 早く﹃エクストラヒー
ル﹄を見せてみろ﹂
と、後ろに立っていた年寄りを俺の目の前に突き出す。右手は腰の
ロングソードの柄を握ってる。
おかしな動きをしたら切るって感じ?
テンプレの脳筋バカきたーーーー!
って少し笑ってしまった。
﹁貴様、何がおかしい!﹂
﹁こんな明るい部屋だとエクストラヒールで失明を治しても、強烈
73
な光でまた失明しますよ。そんな簡単なことも知らないのですか?
さすが脳筋﹂
﹁貴様っ、平民が騎士を愚弄するのか、死ね!!﹂
叫んで剣を抜き、年寄りを突き飛ばして問答無用と俺に切りかかっ
てきた。
まるでバッチイものをつまんでいるかのようにして、左手の人差し
指と親指で摘まみ騎士の剣の動きをとめる。
﹁そこまでだ!﹂
後ろでニヤニヤしていた、いかにもバカ貴族という風貌の男があわ
てて声をかける。
が、俺は声を無視して左手でつまんだまま右手で剣の根元にチョッ
プして剣をへし折り、右のジャブを騎士のあご先へ。
強烈に脳を揺らされて完全に意識を刈り取られた騎士は土下座する
ように崩れ落ちた。
こいつがバイドか?
しかしバイドは片目を失明中で喉も潰されてかすれた声しか出ない
から筆談で会話していたはずでは?
呆然として声も出ない男を無視してつまんでいた剣をポイっとすて
て、突き飛ばされてころがっていた年寄りを診察台のベットの上に
横たえた。
膝を強打していたのでヒールをかけて治療しているとビッタート卿
が診察室にはいってきたので状況を説明する。
フルプレートアーマーを着た二人は先月の盗賊討伐で全滅した親衛
隊の代わりに、新規に雇われた男達だった。
俺の知らない国の下っ端貴族の次男と三男でゾリオンに流れてきた
74
らしい。
高給につられて来たが娯楽も何も無い田舎。
金儲けのネタを捜してコソコソ動き回っていたところに、﹃エクス
トラヒール﹄を使いこなせるガキがいて、捕まえて上手く利用すれ
ばガルディア商会を乗っ取れる。
なんてバカの考えで厩務員を拉致して先に乗り込んできた。
というのがこの騒動の元だった。
土下座体制で失神している男はかなりの腕前だったらしいが、俺を
相手にして何もすることができずにあっさり無力化されるところを
に待てといわれて待つほど俺
後ろから全て見ていた男が、俺への恐怖のためにチラチラと俺を見
て震えながらペラペラと語る。
敵の仲間
﹁俺は待てといったのに﹂
最後に言われたが・・・
﹁俺に剣を向けてきてる
はバカじゃない。お前は今まで停まるような都合のいい敵しかいな
かったのか? 貴族だからワガママでバカなのか? ワガママで馬
鹿だから貴族なのか? お前はどっちだ?﹂
俺の中にある貴族への反逆心がこの二人が貴族出身の人間と聞いて
から歯止めが利かない。
﹁何だと! たかが平民の無礼者どもが!﹂
大きな声を上げる。さっきまで俺への恐怖で震えてたのに、ビッタ
ート達が入ってきて自分は殺されないと思ったのか、それとも俺が
170センチぐらいしかない華奢な男だからと上から見下ろしてる
ので、何か勘違いしたのかな?
スタスタと歩いて騎士に近寄ると﹃トン﹄と右手の人差し指でフル
75
プレートアーマーを突く。
生かして
やってるんだぞ? いい
﹁何か勘違いしているようだがな、今の戦いでお前が生き残ったん
じゃないぞ?俺がバカ二人を
かげんにしておけよ。信じられないなら今夜の厳重体制の中で拘束
されているお前だけを誰の目にも触れないで殺しに行ってやろうか
?﹂
そういって、もう一度フルプレートアーマーを右手の人差し指で突
く。
すると、ビシッという大きな音とともにアーマーに亀裂がはいって
割れた。
ひいぃと騎士は崩れ落ち、ブブブブ・・・脱糞しやがった。クソッ
びびらせすぎた。ウンコマンに変身するとは予想してなかったぞ。
76
バイド治療後に恐怖体験してるっす。︵前書き︶
7・12修正しました。
77
バイド治療後に恐怖体験してるっす。
きったねー騎士は二人とも身包みはがされて連行されていった。
ウンコマンのせいで汚れた床はビッタート卿が連れてきた親衛隊の
人が掃除をするってことで別の部屋に移動。
移動前に見たのは神父︵50を過ぎた白髪のイケメンナイスミドル︶
が少し涙ぐみながら﹃浄化!﹄﹃浄化!﹄と何度も浄化魔法を唱え
てる姿にちょっとクスっとした。
治療室にウンコマン登場は笑っちゃいけないな。哀れすぎる。
教会の談話室に来てビッタート卿が俺に頭を下げて謝罪する。
﹁早乙女君、申し訳ない﹂
﹁いえいえバカがうろたえる姿を見てすっきりしたから大丈夫です
よ﹂
と、笑顔で答える俺。
ウンコマンも下腹部的にすっきりしただろうしな。
﹁治療室を汚しちゃったんで神父さんに謝っておいてくださいね﹂
お願いも忘れずしておく。
関係の無い神父さんに怨まれたくないし。
そこにシスターに連れられて隻眼の二人が部屋に入ってきた。
一人は先ほどの厩務員のお年寄り。もう一人が筋骨が隆々とした男・
・・彼がバイドか?
バイドは俺の目の前にくると土下座してかすれた声で謝罪する。
まだ治療が終わってないからとバイドを談話室のソファーにすわら
せる。
78
謝罪やら金の話なんかは後でいい。まずは失明治療の準備から。ち
ょうど掃除の終わった神父も手伝いにかけつけてきた。
神父にお願いして談話室の窓を閉めて、明かりを消してもらう。シ
スターに少しだけ離れた場所で薄い布をかぶせたランプを持ってて
もらい、厩務員のおじいさんに魔法をかける。
﹃エクストラヒール﹄
おじいさんの体を光の膜が包み込んでから消える。
当たり前だが成功した。
ゆっくりと目を開けてもらい魔法の成功を確かめてもらう。
おじいさんの場合は何十年も隻眼ですごした為に10日ほどの時間
をかけて少しずつゆっくりと光に慣れてもらうように指示しておく。
四の五の言わせずに早くけりをつけたかったから続けてバイドにも
魔法をかける。バイドの場合はまだ期間が短かったのですぐに大丈
夫。声もリハビリなんて必要ない。流石はエクストラヒール。流石
はファンタジー。
﹁傷は消えても忌々しい思い出までは消えないんだな﹂
左手や肩にあった古傷まで消えたのを見てつぶやいてた。
君を信用できなくて申し訳ない、俺が雇った親衛隊が迷惑をかけた
など何度も土下座するバイドの謝罪を受け入れた。
そんなことどうでもいいし。
後は金の問題。これが厄介だ。何しろ何も決めないまま治療は済ま
せてしまった。相場どおりで言いと俺は言うが、この相場の金額が
なにしろ厄介だった。
ほぼ﹃言い値﹄が通る世界だった。
基準ってモノが世界に無い。それが2回分なんだからな。
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俺は治療魔法で稼ごうなんて思ってなかった。相場が決まってると
思ってたから2回分でOKした。
自分で苦労して魔法を覚えてきていない。
自分もただで貰った能力なのだ。
・・・回数制限の魔法でもないし10億を超えるMPを持つ俺には
自然回復分も魔力を消費していないから・・・
なんてことを考えてた。
∼∼バイド目線∼∼∼
バイド・シード・ガルディア本人も苦悩していた。
顔は涼しげに
﹁いやいや。困りましたね。さて、どうしましょう﹂
って、優しい顔をしているのだが、頭の中はパニック寸前だった。
幼い時からの教育の賜物で上に立つ人間として、顔に出ないように
訓練の成果が出ているだけだった。
安い金額だと同業者に安く見られるし、かといって金に糸目をつけ
ないって訳にもいかない。
資産は限度があるし自分の持ってる資産は開拓村のための資金が大
半なのだ。
さらに追い討ちをかけるのが、この目の前の華奢な若者が自分の持
ってた問題を全て解決してしまってるのだ。
銀色の亡霊の退治・盗賊﹃草原の暴風﹄の討伐・自分の目と喉の治
療・取引相手の貴族の次男と三男を押し付けられて苦労していた問
題。全部が解決してしまった。取引相手にもこれで有利になれる。
零細貴族とはいえ他国で鉱山開発の現場責任者の家族なのだ。
80
相手の貴族側も問題児を押し付けてた負い目がある。
さらに加えて今回の一番の問題は﹃他国の教会内で神父の目の前で
の刃傷沙汰﹄だからもはやかばうことすらできない。
ウンコマンと土下座貴族の実家は最低でも取り潰されるだろう。
教会の建物の中での凶行だから国としても見せしめにされる。
国としても迷惑をかけたからと、今後はガルディア商会を優遇する
しかない。ガルディア商会との結びつきが今まで以上に深くなるの
だ。
これほどの問題をあっさり片付けてるのに誇ることもしないで、俺
に﹃いくらでもいいから早く金額決めてよ。それ貰ったら帰るから﹄
と目で訴えてるのだ。
お金を渡してサヨウナラ。これが一番最悪のパターンだ。これほど
の人間とはもう少し結びつきを強くしたい。父も会いたいと思って
るだろうし父が帰ってくるまでに機嫌をそこねたらおしまい。
地雷がどこに埋まっているのかまったくわからない状況に相手の若
者をじっと見つめる。これは熱い戦い︵商取引︶になりそうだ。
思わずニヤリとしてしまう。どこかに彼を攻略するヒントがあるは
ずだ。
∼∼バイド目線・終了∼∼
早乙女真一は少し引いていた。バイドが熱い目線を送ってくるんで
すけど・・・。
俺って狙われてるの? 超絶に怖いんですけど。
81
バイドの見た目は﹃超・アニキ﹄って感じだし・・・バイド、お前、
もしかしてそっちか?
・・・あ、今ニヤってした。
俺はノーマルなんですけど。女の子が好きだ。
あ、あのシスター可愛いな。結構タイプでスタイルいいし。・・・
現実逃避してみた。
しかし現実に回り込まれてしまった﹃にげられない﹄
82
バイド治療後に恐怖体験してるっす。︵後書き︶
ヒロインはムキムキマッチョ系ではありません。主人公も作者もノ
ーマルです。
か、勘違いしないでよね!
83
貞操の危機回避! 良かったっす!︵前書き︶
6・12修正しました。
7・12修正しました。
84
貞操の危機回避! 良かったっす!
バイドの目線が怖すぎる。
アッーー! な展開は絶対に避けたい。
無理矢理させられるなら村ごと滅ぼす自信ある。
ビビった俺は少し話題を変えてみよう欲しいものが思いついたし謝
らなきゃいけないこともあるし。
﹁金額って決められないならモノではいかがですか?﹂
﹁何か欲しいモノはありますか? ガルディア商会で取り扱ってる
商品であればすぐに手配できるのですが﹂
﹁ミスリル銀と森林モンキーの尻尾はどうです? 取り扱ってます
か?﹂
﹁二つとも取り扱ってますよ。ヨークル支部の倉庫に在庫がありま
す。どれだけ在庫があるのかはっきりしたことはわかりませんが、
どれぐらい必要ですか?﹂
﹁うーーん。森林モンキーの尻尾が100本とミスリルは10キロ
ぐらい欲しいですね﹂
﹁それだと今回の報酬として金額的に少なすぎます。屋敷に帰れば
それぐらいすぐに用意できますし、他に必要なものは無いですか?﹂
﹁うーーん﹂
おれが今回報酬としてもらおうとしたミスリルと森林モンキーの尻
尾はゴーレムの強化アイテムだ。
森林モンキーの尻尾は内骨格をつなぐ筋肉代わりにつかうと、体を
動かすときの魔力消費が半減できてスピードを何倍かに上げても負
担が減る素材だ。
森林モンキーは比較的簡単に狩ることができる大森林に多く存在す
85
る魔獣だ。
森林モンキーの尻尾はゴムのように伸び縮みする。しかもゴムのよ
うに時間劣化がほとんどない。
ただゴムのように加工しようとすると魔力が必要で﹃ちょっと値が
シーサーペント
はる高級なゴム﹄として取り扱われている。
できるなら﹃大海蛇﹄の皮が一番いいのだが、レアすぎてなかなか
市場に出回らないブツすぎる。大海蛇そのものはたまに出回るがほ
とんどが粗悪品だ。
捕獲したときの処理を上手くしないとゴーレム素材では使えなくな
ってしまう。きっちり処理したものでないと消費魔力は逆に上昇し
てしまうのだ。
神の創り手スキルでも粗悪品を極上のものにはできない。
セバスチャンとマリアを簡単に作ったつもりだったが、かなり有能
なので2人をもっと強化しようと考えたからだ。やはりセバスチャ
ンとマリアという名前に命名して正解だった。
﹁うーーん、じゃあ残りはオリハルコンとかの希少鉱石でください。
量は任せます﹂
面倒なので丸投げしてやった。
﹁では、オリハルコンとかは後日受け渡しするとして、ミスリル1
0キロと森林モンキーの尻尾100本はすぐ受け取りますか?﹂
﹁そうですね﹂
﹁では、ちょうどお昼ですし今から村長邸に行きましょう。契約書
の作成もしないといけないですし父に報告などすることがあります
ので﹂
﹁うぇ?﹂
・・・流石にドン引きした。自宅に連れ込まれそうだ。やばい、や
ばすぎるって・・・少しパニックしてきた。
86
女性
の
少しパニってる俺の﹃助けて!﹄目線に気付いたビッタート卿が俺
の後ろから小さな声で囁いてくる。
﹁もしかして何か勘違いしてるようだが、バイド様には
婚約者がいて結婚秒読みだぞ。開拓村の関係で結婚は少し遅れてる
が恋愛結婚だぞ。男色の人ではないぞ?﹂
ホッとした。つーかどっと疲れた。
イーデスハリスの世界に転生してきて一番緊迫した時間だったかも。
貞操の危機ってのは凄く恐ろしい体験だった。二度と味わいたくな
いが。
まぁ、貞操の危機は去ったので安心して村長邸に向かう。ご飯を食
べさせてくれるってさ。
村長邸で俺を出迎えたのは5歳の子供だった。
﹁い、いらっしゃいまちぇ﹂
あ、かんだ。
今のゾリオン村の村長﹃ヨシュア・シード・ガルディア﹄だ。
見た目は女の子みたいだな。クリクリの巻き毛で人形みたいだ。
バイドの子供でも通じるな。
見た目はまったく違って﹃ママに似て良かったね!﹄って言いたく
なるが。
ちなみにバイドは25歳。ここにはいないが長男のギルは28歳。
バイドの下にはミーシアという19歳の長女がいるらしい。他のシ
ーズの名がつく家に嫁ぎ今は妊娠中だとさ。
そんなガルディア家の兄弟情報を教えてくれるのがヨシュア村長の
執事﹃ボーリック﹄さんだ。ゾリオンの部下だったが有能さでヨシ
ュア付きとなり、今はゾリオン村のほとんどが彼が仕切っている。
87
俺にもセバスチャンという優秀な執事がいるからな。
森林モンキーの尻尾とミスリルでの改造が終われば、ワイバーンぐ
らいなら片手で狩れる様になるぞ?
戦闘力なら絶対に負けない。
そんな失礼なことを考えてた。
ボーリックさんの説明を聞きながら、ぞろぞろと皆と一緒に村長の
執務室にむかう。
バイドが屋敷の使用人に森林モンキーの尻尾100本とミスリル1
0キロ、ダマスカス鋼10キロをすぐ持ってくるように指示する。
﹁早乙女様、今この屋敷ですぐに渡せる量はダマスカス鋼10キロ
までですね。後はオリハルコン20キロと日緋色金10キロに追加
でミスリルがあと50キロでいかがですか?﹂
そんなにいらないが早く決定したかったので契約書を交わす。
冒険者ギルドの個人指名依頼の後追い契約なので正式契約書がこれ
になる。
契約書をじっくり全部漏れなく読んで3枚にサインする。1枚を貰
いアイテムボックスにしまう。
使用人が運んできたものも、数を確認して品物も鑑定する。
俺は鑑定よりも上位のスキルで﹃鑑識﹄を使っているので森林モン
キーの尻尾の状態やインゴットの成分表まで表示される。
ミスリルやダマスカス鋼は高品質と表示されてるし、森林モンキー
の尻尾も全て高品質以上のもので、何本か最高品質と表示されるの
もある。
良い物ばかりだったので安心した。
88
凄い武器を貰った! う、うれしいっす。ゾリオンまじで良い人
。︵前書き︶
6・12修正しました。
7・14修正しました。
89
凄い武器を貰った! う、うれしいっす。ゾリオンまじで良い人
。
俺は高品質なアイテムを見てニコニコ顔をしてたみたいだ。
﹁品質は確かめられましたか? 自慢の品々ですのでどうぞ持ち帰
りください﹂
﹁ありがとうございます。高級品でびっくりしま﹂
ピーーーー
話の途中で執務室に掛けられている半透明な板から笛みたいな音が
した。板の上には水晶が乗っている。
ハゲ
すこし粗い画像だがテレビ電話みたいだ。50代のムキムキマッチ
ョな﹃親父﹄の声が聞こえてくる。
﹁バイドにビッタート。朝の話の続きだ。どうなった﹂
﹁父上、もう大丈夫です。完治しました。目もこのとおり!﹂
水晶に顔を近づけるバイド。
ハゲ
﹁おおおお! バイド声も! 目も! 直ったのか! おおお、あ
りがたい!﹂
ムキムキマッチョ親父な親父が興奮している。画面越しでも暑苦し
いな。
﹁ん? もしかして君が早乙女君か? ありがとう! 息子の怪我
を治してくれて、それに盗賊も銀大熊も君が退治してくれたんだっ
てな。まさしく君は﹃救世主﹄だ。﹂
ハゲ
と、マッチョ親父がお辞儀してるだけでも暑苦しい。
﹁父上それだけではありませんぞ﹂
90
と、今日の教会での出来事のあらましをゾリオンに伝えるバイド。
聞いてるうちに頭に青筋が浮かび上がってる。
﹃激おこ﹄って感じのマッチョ。
ハゲだとこういうときわかりやすいな。なんて失礼なことを考えて
た。
﹁いやはや、バカ二人の処分は後にして・・・ボーリック、隣の武
器庫の14番の棚のものを持って来い﹂
﹁はっ!﹂
ボーリックさんはササっとすべるように部屋をでていった。
﹁早乙女君、誠に申し訳ない。隣の武器庫とはワシの趣味のコレク
ション部屋のことなんだ﹂
ボーリックが日本刀をもってきた。思わず鑑識を使って見てしまう。
アマノムラマサ
カタナ﹃天乃村正﹄
刀身に水の薄き衣をまといて邪を断ち切る。光と水属性の性質を持
ち、切れ味が劣化しない。
刀身69センチで全長101センチ。
鞘には﹃再生﹄の魔法がかけられてあり欠けた刀身を直す。
何? この中二病にかかってる武器と名前は・・・。俺の今の肉体
年齢は15歳。中二は卒業してるはずだ。
が、しかし黒い木と黒・白・緋の三色の糸の﹃拵え︵こしらえ︶﹄
が美しい。目が離せない。
食い入るように見つめる俺にゾリオンが語りかける。
﹁気に入っていただけたようですね。この武器はお詫びですのでぜ
ひ受け取っていただきます﹂
﹁こんな高そうなものは流石に無理です﹂
﹁商人にとって武器の値段はあってないようなものです。私の趣味
91
で武器庫に保管されてるだけの武器は幻のようなものです。早乙女
君、君ならこの武器を生かしてくれると思って差し上げます﹂
まいった。美しさに目が離せなかった。ありがたく受け取ることに
する。
カタナは刀として刃を上向きにして腰のベルトに下げ緒で結びつけ
る。だって俺は馬に乗らないし。
刀を抜き取ってみる・・・波紋も美しかった。薄い水の膜のために
刀身はうっすらと青く光ってる。
これは凄まじい。刀を鞘へと戻し頭を下げた。
﹁美しく素晴らしいものを頂きありがとうございます﹂
礼を言って刀を腰から外して下げ緒を結びなおしアイテムボックス
にしまう。
ゾリオンはこれから開拓村の建設準備をするそうだ。
村人も減ってしまったので追加で集めないといけないし、守備隊な
どたくさん集めないとならない。それでも次の討伐隊を送ろうと計
画していて、国軍や都市防衛軍に伝手ができたので時間は掛からな
いだろうと予想してた。むしろ大工や建築スキル持ちを集めるほう
が大変だとこぼしてた。
伝えるのを忘れてたがゾリオンとバイドに開拓村の教会と村長宅を
更地にしてしまったことを謝っておく。
そんなに強烈にぶっ壊したのかと驚いてたが、どうせ村ごと頑丈に
作り変えないとならないから仕方がないと笑ってくれた。
今朝﹃北から銀大熊の新たな軍団が南下して来た﹄と炎虎からの情
92
報をガウリスクから聞いていたので、ゾリオンに新たな敵の情報を
流しておく。
﹁あの周辺の大物だった銀大熊を俺が倒したので、そろそろ違う銀
大熊の集団が来てるかも﹂
ゾリオンもバイドも納得してた。
開拓村の守備隊と遊撃隊を多めに雇う方針だが、さらに数を増やす
ことで対応するみたい。
会話中に長男のギルも挨拶に来た。珍しく華奢な感じでヨシュアに
似ていた。ヨシュアがギルの息子ですと紹介されたら﹃ちっ、パパ
に似てイケメンで良かったな﹄と嫉妬丸出しになりそうなイケメン
だった。
契約の残りの希少金属はガルディア商会のヨークル支部の倉庫に在
庫にあるのでいつでもどうぞだって。
﹁ゾリオン村に送りますか?﹂
と、聞かれたので明日からヨークルに向かう予定だから、ついでに
店に取りに行くと言うと、ヨークルの簡単な地図を書いてくれて店
の場所を教えてもらった。
色々話し込んでて遅くなったが、村長宅の食堂で昼食。
てんぷらだった。天つゆで食べるタイプだ。大根おろしまである。
美味しくておかわりまでしてしまった。
転生して肉体が若返ったせいか、食欲が凄いことになってる。が、
ダイエットは必要ないな。腹筋は割れてるし、引き締まったボクサ
ーと体操選手との中間ぐらいな体になってて素直に嬉しい。
考え方までガキっぽくなってる?
まぁ、気にしないようにしておこう。深く考えたら負けな気がする。
お礼を言って村長宅を後にする。
93
村の外に行こうとしたらビッタート卿に止められ冒険者ギルドに二
人で向かう。
そういえば、教会の手伝いっていう依頼の成功報酬を貰ってなかっ
たな。
色々ありすぎて完全に忘れてた。
報酬を入金してもらい、俺はイーデスハリスの世界で今後、避けて
通れない場所の存在を思い出して今から向かう。
﹃教会の礼拝堂﹄だ。
あの4人の像が奉られてあったりしたら教会ごと破壊してしまうか
もしれないが、今後いつまでも避け続けることはできないと思う。
いざ、参ります。教会のドアを開けて中に入り、礼拝堂の祭壇を見
る。
94
ゴッデスとの再会。でも隣には見知らぬ幼女がいたっす。︵前書
き︶
7・14修正しました。
95
ゴッデスとの再会。でも隣には見知らぬ幼女がいたっす。
祭壇は光り輝いて何も見えない。光が俺を包み込み何も見えなくな
る。
視界が戻ってきたときに目の前に主神ゴッデスと5歳ぐらいの幼女
がいた。
ゴッデスの声が頭の中に響いてくる。
︻久しいの。早乙女君︼
﹁久しぶりって言われましても、まだそう何日も経過してないです
よゴッデス様﹂
︻まずはそこからの説明じゃな。君が4人の神を成敗して転生した
のはワシがイーデスハリスの世界を受け継いでから10年後の世界
なんじゃよ︼
﹁・・・え?﹂
︻まぁ、先に話を聞いてくれ。イーデスハリスを引き継いだ時に君
を転生させたら、たぶんだが世界は崩壊するんじゃよ。世界中に4
人の影響は色濃く残っておったんじゃ、教会にもあの4人の神の誰
かの像もあるしの。それで引き継いでからイーデスハリスの世界で
は10年かけて主神の名のもとの力で大きな歪みを打ち消したんじ
ゃ︼
﹁は、はぁ﹂
︻しかし、神の世界にもいろいろ制限があってのぅ、ワシはあくま
で管理代行。このイーデスハリスの世界を管理する神が必要となる
んじゃ。10年前に産まれた新たなる神、それが彼女﹃太陽神アマ
テラス﹄じゃ︼
︻あまてらすです。よろしくおねがいします︼
﹁元気でいいね﹂
96
︻ありがとうございましゅ︼
﹁あ、かんだ﹂
ちょっと凹んでシュンとするアマテラスに和む。ゴッデスが大丈夫
って感じで優しく頭をポンポンしてる。
︻なにせ10歳だからの、優しくしてやってくれ︼
﹁はい﹂
︻まぁ、そういうわけでの、大きな歪みというのは魔王になりそう
な悪魔の殲滅と浄化とかじゃの。それと4人の神を邪神としてワシ
がアマテラスを使って成敗したことになっておるし。4人の神の名
神託
を使
前すらイーデスハリスの世界から消し去っておいた。ワシの役目は
これでおしまいじゃ。中くらいの歪みはアマテラスが
ったりしてつぶした。わかりやすく説明すると・・・冒険者ギルド
でクーデターを起こして歪みを修正したのもアマテラスの仕事じゃ。
︼
﹁おおお! 凄いなアマテラス様!﹂
︻あたしがした、おしごとだからとうぜんです︼
幼女がちょっとえらそうに踏ん反り返る姿は見てて微笑ましいな。
︻他にもいろんな国の貴族や王族の汚職・不正を摘発して追放させ
たりとか神託は使いこなせるようになってきたんじゃ︼
﹁それはよかったですね﹂
︻そうやって歪みを消したから、君も安心して世界を遊びまわって
良いのじゃよ。それに教会に恐怖を感じてるようじゃったが、あの
4人の痕跡すら残してないからの。教会に祭られてるのは主神ゴッ
デスのワシの像と太陽神アマテラス彼女の像だけなんじゃ︼
﹁世界中の教会を殲滅させないと安心できないのではないかと正直
に言って恐怖を持ってました。俺一人で宗教戦争をするというのは
流石に・・・。後、心配なのは盗賊に対して復讐心とか貴族に対す
る反逆心が尋常とは思えないです。自分が自分でなくなるような恐
97
怖心すら感じます﹂
︻それはワシからはすまないとしか言いようがないんじゃ。あれで
正義のヒーロー
にあこがれる
も10年たって少しは薄れた状態でのぅ、改善していくから心配し
なくて良いし、君の中に眠ってる
子供心にも原因の一端があるんじゃよ。じゃから悪を成敗する! ってもっと気楽に考えてもいいんじゃよ︼
﹁悪を成敗ですか? 流石にそれは恥ずかしいですよ。いくらファ
中二病
じゃったかの? 君も前世で経験しただ
ンタジーの世界とはいえ﹂
︻君がよくいう
ろうが、君の今の年齢がちょうど15歳。正義のヒーローにあこが
れる心がまだ残ってるのが当たり前じゃし、もう大人になったんだ
から恥ずかしいと思う気持ちも当たり前のものじゃ。まぁ、ワシか
らのアドバイスは﹃二度目の人生! 気楽にいこうぜ!﹄じゃな︼
﹁そうですね。もう少し気楽に考えてみます﹂
目の前の光が瞬いてきた。ゴッデス様とアマテラス様の姿が霞んで
くる。
︻そろそろこの世界に君を引きとめるのは終了のようじゃが、先ほ
ど君が貰った日本刀はワシからのプレゼントでもあるんじゃよ。あ
れは邪を断ち切る神の刀じゃ。・・・そういうの好きじゃろ?︼
﹁・・・大好物です﹂
︻じゃあの、気楽に生きろよ、早乙女君︼
︻またあいましょうね、さおとめさん︼
﹁はぁ? また会うって?﹂
ここで俺は意識が教会に戻る。
礼拝堂の一番前の席に座っていた。
98
視界が戻ったことによって礼拝堂の祭壇に祭られている御神体の像
の姿が目に飛び込んでくる。
・・・待てーーい。
神の姿を知ってる俺が、御神体を見た第一印象をひとことで表現す
るとしたらそれだ!
いやね、ゴッデス様はいいんだよ。俺が見た姿を凛々しくしたって
感じだからな、まぁ神様補正も入ってるんだろ。
ただな、アマテラス! お前はダメだ!! ダメダメだ!!!
なんで幼女が﹃ボン・キュッ・ボン﹄のナイスバディになってんだ
? それはイカンだろ。
つーか、御神体の像の下にご丁寧に﹃太陽神アマテラス様﹄って書
いたプレートがなけりゃ、いったい誰の像なのかわからなかったぞ?
あのアマテラスが20歳ぐらいに成長した姿ってのなら理解できる
んだよ。なんとなく似てるしな。
像の姿勢もなんじゃい! アマテラス︵仮?︶の像の姿は、左の膝
を地面につき、右の膝を立てた体制・・・片膝立ちの姿勢で少し斜
め上を見上げてて両手を胸の前で合わせてて・・・何かエロい。
ムチムチプリンさんがこう、ぎゅっとされていてな・・・とにかく
エロいんだよ。
なんでツルペタがムチムチプリンさんになってんだよ。
何で御神体がエロフィギュア化してんだよ!
なんでなんだよ、アマテラスの陰謀か? 見栄でもはったのか?。
︻あ、あたしがつくったんじゃないもん! にんげんがかってに、
かってにつくられただけだもん!! ちがうもん!ドン!!!︼
99
ん?、どこかからアマテラスの声が何かの衝撃とともに脳内に鳴り
響いた。
﹁なんなんだ? 気のせいだよな。気のせい気のせい。ひとやすみ
ひとy﹃バチン﹄ふぎゃ﹂
今度は電気ショックがきた。アマテラスの御神体エロフィギュア化
に動揺して、どこかの小坊主のCM前のセリフを思わず口走ってた
から電気にツッコミ入れられてしまったよ。
教会に入る前とは違う意味で教会に居づらくなって、外に出ること
にした。10万Gほど寄付しておいた。魔水晶にステータスカード
を当てて﹃10万G寄付します﹄声に出して終了って、何か寄付と
して間違ってないか?
ゾリオン村にいる理由は終わったし、明日からはヨークルに向けて
移動する。
ゾリオンとヨークルの間を毎日定期運行してる荷馬車に乗せてもら
えるみたい。運賃はかかるが。
けどガルディア商会が運行している荷馬車はこのカードを見せれば
タダで乗れますって黒いカードを村長邸でバイドにもらった。
シーパラ連合国内ならほとんどの都市に町に村に運行便があるから
自由に使ってくださいって。
旅をするならこれがあれば便利。ただ、荷馬車なんで乗り心地は期
待しないでくださいって言われた。
村長邸を出るときにボーリックさんが座椅子ぐらいの大きさのクッ
ションをくれた。
荷馬車でも岩場でも、これがあれば横になることもできるという優
100
れものらしい。
メチャクチャ便利そうなんでありがたくいただいた。
日の出後に出発して午前・昼・午後の休憩があり、夕方にはヨーク
ルにつくと聞いた。
7時半頃に出発するのでその前に荷馬車倉庫前で受付する。
明日は早起きしないとな。ガウリスク本拠の丘からグリーンウルフ
に送ってもらうと数分でついちゃうから、あまり遅刻の心配はして
ないけど。
明日だけは﹃荷馬車に乗って夕方ヨークルに着く﹄ってことをして
おかないと。飛翔魔法や転移魔法が使えるってことは極力秘密にし
ておかないと面倒で厄介なことに巻き込まれる気がする。
テクテク歩いてゾリオン村を離れたら街道を外れて草原の中に入り
隠れてガウリスクの本拠の丘の早乙女邸に転移する。
101
ヨークルに行こうとしたらオッサンに説教されたっす。︵前書き
︶
7・15修正しました。
102
ヨークルに行こうとしたらオッサンに説教されたっす。
早乙女邸に帰ったらセバスチャンとマリアが迎えれくれた。
晩ご飯までの時間を使って2人を強化する。
ミスリルやダマスカス鋼をふんだんに使い、素材を余すことなく強
化、魔結晶も追加してソフト部分も強化しておく。
2人のアイテムボックスもサイズ中に強化。
・・・満足した。
これでスピード自慢のグリーンウルフよりも早く動けるし、ワイバ
ーンぐらいの下級竜なら生きたまま捕獲することも可能だ。空を飛
んだままじゃ捕獲は難しいけどな。
リニューアルしたセバスチャンとマリアにおにぎりやサンドイッチ
などの軽食も何セットか作ってもらう。
明日以降は食事がどうなるかわからないからな。
できるだけためておく。アイテムボックスに入れておけばいつでも
熱々ホカホカで食べられる。
2人のアイテムボックスは俺の空間魔法での派生スキルだから俺の
アイテムボックスに相互移動が可能だというのをセバスチャンに教
えてもらった。
知識はあったはずだけど・・・。
本拠の丘周辺探索でイチゴ・メロン・スイカなどの果物や茄子・き
ゅうりなどの野菜もあったと報告された。収穫済みなので今後はレ
パートリーがさらに抱負になっていく。
103
アイテムボックスを使った手紙で、これからは2人といつでもどこ
でも連絡もできるので食べたいものがあったら、リクエストしてみ
ることにする。
果物がたくさん手に入ったのでジュースもつくっておいてもらう。
今日の村長宅で昼ごはんをご馳走になった時、ヨシュアが俺の向か
い側のテーブルでジュースを美味しそうにゴクゴク飲んでる姿を見
て、ジュースの存在を思い出したぐらいに忘れてた。
コーラとかカルピスなんかはもう飲めないのかなぁ?
なんて、今後はもう飲めないかもしれないジュースと、このイーデ
スハリスの世界に来てからまだ一滴も飲んでいないお酒のことなん
かを考えながら、晩ご飯を食べて風呂に入りマリアとセバスチャン
にマッサージをしてもらって・・・寝る。
アマテラスが花畑でキャッキャウフフとはしゃいで走り回っている
のを横目で見ながら、デッキチェアに座ってる俺。
横のテーブルのにあるピスタチオをつまみにバーボンをロックで飲
んでる。テーブルの向こうのデッキチェアにはゴッデスが座ってる。
ストレートの芋焼酎をどんぶりでつまみはめざしとししゃもってシ
ブイな。
﹁平和じゃな﹂﹁ですねぇ﹂
なんてゆるい会話しながら酒を飲みながらマッタリ・・・
という夢を見た。
とりあえず﹃なんでやねん!﹄ってツッコミを起きてから忘れない
うちに入れた。
このイーデスハリスの世界に転生してきて、ツッコミが多くなった
104
気がする。俺はボケ側の人間だったはずだ。ツッコミができるパー
トナーを探すのが先決か?
それともせっかく異世界にチートな能力を持って転生してきたから
には男の夢とロマンを追い求めて﹃ハーレム﹄建設に邁進すべきか・
・・悩むな。
ここは真ん中をとってツッコミ役のハーレム要員がベストだな。
会話のツッコミ役にベットでツッコミ・・・
ポーン。 ∼称号﹃オヤジギャグ使い﹄を得ました∼
・・・超いらねぇ。
しまった。これからは脳内でもオヤジギャグは封印しないとオヤジ
ギャグの称号がランクアップするかもしれん。
オヤジギャグマスターとかキングとか帝王なんてイヤすぎる。
朝ごはんはおにぎりとスープにした。
味噌汁ができないんだよな。海産物がゾリオン村にまで入ってきて
ない。
昆布とか鰹節とかの出汁が壊滅状態では流石の料理スキルの恩恵は
減る。出来ないことはないが﹃コク﹄の部分が弱くなる。
今日、ゾリオン村へ送ってくれたのはガウリスクだった。
いつもの行動部隊副隊長は今朝から大岩周辺の偵察に行ったから。
今日のゾリオン村周辺の哨戒をするのがガウリスクだったからだ。
ガウリスクに乗ってゾリオン村にきたんだが、さすがガウリスク軍
団のボス。
いつもの行動部隊副隊長よりも短時間で到着する。早いな、時速1
00キロぐらい出てるんじゃないのか?
105
ガウリスクに聞いたら本気の速さはこんなもんじゃないらしい。
上に乗ってる俺を揺らさないように慎重に走ってるんだって。
これでも。
確かに上に乗ってる時はほとんど揺れないので、副隊長もガウリス
クも凄く乗りやすかった。モフモフだし。
モフモフは正義で間違いない︵断定︶。
モフモフを語ると終わりが見えなくなりそうなんで・・・ゾリオン
村に入り定期便の受付窓口へ。
荷馬車は戦場だった。
定期便出発前の荷物の最終確認作業と明日ヨークルで乗せる荷物の
書類の束の確認作業。
俺は窓口にバイドにもらった黒いカードを見せる。受付のオッサン
は商業ギルドの人間だった。
俺は今、オッサンに朝から説教を受けている。
本来であれば荷馬車に乗る人の移動の場合は前日に予約に来てもら
わないと困るそうだ。
ゾリオンからヨークルまでの移動費用は5000G。
これは午前と午後の休憩のときのお茶とお菓子・お昼の食事までセ
ットに入った料金だから、当日の朝では準備できないから断られる
のが常識らしい。
運ぶ荷物の状況もあるから前日夕方までの予約制。
俺の場合は食事とお茶などは自分で準備できて、幾つかの荷物を俺
のアイテムボックスで運ぶと提案したので、空いた場所に何とか乗
せてもらえた。
106
大きな荷物を3個ほどギルド職員の立会いのもとで俺のアイテムボ
ックスに入れる。書類は御者が受け取ってた。
良かった。
つーか教えろよバイド。俺が生まれて初めて荷馬車で移動するって
言ったのに・・・使い放題のカードより情報をくれよ。
ボーリックさんも何で教えてくれなかったんだ。
とりあえず乗れるようで安心した。
107
ヨークルに行こうとしたらオッサンに説教されたっす。︵後書き
︶
ちなみにゾリオンは﹁予約が必要﹂ってことは知りません。執事か
秘書がやってますし、家の商会の荷馬車便ですから。自分専用の馬
車も持ってます。
ボーリックさんはカードを渡すときに早乙女が﹁馬車に乗ったこと
がない﹂と聞いてクッションを倉庫に取りに行きました。だから話
を途中から聞いてないので説明してあるものだと思ってます。
108
異世界での初めての旅って危険がいっぱいじゃなかったっすか?
︵前書き︶
6・13修正しました。
7・15修正しました。
11・13修正しました。
109
異世界での初めての旅って危険がいっぱいじゃなかったっすか?
いざヨークルへ!
荷馬車といっても屋根もあるし幌馬車タイプで幌は﹃溶解蜘蛛﹄の
糸を使って加工して作られてるんだと。
溶解蜘蛛はウェルヅ大森林にはたくさん居てポピュラーな蜘蛛。
体長50センチぐらいの大きさで臆病な性格の蜘蛛らしい。
人や魔獣の気配を感じるだけで隠れちゃう。その蜘蛛の巣に30セ
ンチぐらいの蜘蛛の大好きなバッタを蜘蛛の巣に引っ掛けておく。
蜘蛛は糸で玉を作ってバッタを閉じ込め、そのときバッタに牙から
溶解液を注入。バッタが溶けたら蜘蛛は中身を吸って、糸玉をポイ
って地面に捨てる。
糸玉は水に濡れると溶けてなくなっちゃうんだけど、糸玉を魔力を
込めた水で溶かすと﹃魔糸溶解液﹄ができあがる。
この魔糸溶解液を布に塗って乾かすと﹃撥水・防水の布﹄になる。
幌馬車の幌はもちろんテント防水シート、防水コートなんでもでき
る。塗って乾かす回数を増やすことで硬さも自由自在。
布に直接だけでなく糸を魔糸溶解液に浸け乾燥させてから布を織り、
布にしてからまた魔糸溶解液に浸けて乾燥させ幌馬車の形に加工し
てから最後の仕上げでまた塗って乾燥すると頑丈で劣化しない幌馬
車の幌になる。
蜘蛛と共存できてるな。
win−winの関係かな? 蜘蛛の糸拾いは子供でもできる作業
なんで冒険者ギルドのGランク指定。
110
大森林での子供の小遣い稼ぎって仕事らしい。
なんて豆知識を荷馬車の御者の人に教えてもらってた。
暇だ。
午前の休憩は9時半から10時の30分だった。昼休憩が12時か
らの1時間で、午後の休憩は15時からの30分。
きっちりではなく大体こんな感じだ。
荷馬車の馬はメッチャでかかった。1トンぐらいありそう。目的は
スピードよりもパワーとスタミナ重視だからな。
荷馬車と聞いていたのでアニメで見たデカイ犬がミルクを載せて運
ぶヤツを想像してたが、ぜんぜんそんな可愛いもんじゃなかった。
わかりやすくいうと西部開拓時代の家代わりになる幌馬車を北海道
ばんえい競馬のばん馬が引っ張ってる。
もしくは2トントラックの荷台を引っ張る世紀末覇者の馬だったな。
今回のゾリオン村から都市ヨークルへ行く荷馬車は3台編成。
御者は4人。
1人は休憩できるようになってる。不定期だが最低でも10日に1
回は冒険者ギルドに依頼を出して街道の安全確保をしてるんだと。
魔獣や盗賊はそんなに出ない。ここは商業の国。商業において流通
経路の安全確保は必須条件。
盗賊が出たってだけで国軍から討伐軍が出る。
バイドの開拓村での悲劇は情報不足で、盗賊だけでなく銀大熊とグ
リーンウルフの襲撃が重なったためだろう。盗賊だけでも200人
近くいたんだし。
テンプレではこういうときは・・・
①強力な魔獣に襲われる︵ドラゴン含む︶。
111
②女の子が盗賊に襲われてる︵魔獣パターンもあり︶。
③盗賊に襲われる。
④貴族にケンカ売られて決闘。
こんなパターンだと思うんだが・・・ものの見事に﹃何もない﹄暇
すぎる。
﹃平和って良いなぁ﹄とつぶやいてみたり、﹃俺、この旅が終わっ
たら結婚するんだ﹄って出発前に御者が言ってるのを聞いてて、フ
ラグたってるから無事には済まないと思ってたけど、ホントになに
もないよ。
昼休憩場所はガルディア商会の荷馬車の専用休憩所が作られてあっ
た。
休憩所の食堂でちょうど﹃これからゾリオン村に向かう荷馬車﹄の
御者グループと一緒になった。
反対の便は荷馬車5台で御者は7人いた。
俺がアイテムボックスからクマステーキを出して食べてたら、物凄
くうらやましそうに見られてた。
クマ肉は処理できないほどあるので11人︵ヨークル便4人+ゾリ
オン便7人︶に振舞う。
おにぎりの具︵香草とやくそうを塩もみして刻んだだけ︶にビック
リしてた。
予想以上に凄く美味しかったらしい。レシピを教えてあげると喜ん
でくれた。
おにぎりの具は万能だからな。
エロゲームに出てくるヒロインで日本刀を持ち歩く風紀委員委員長
の女の子が言ってたから間違いない。
112
昼の休憩場所はゾリオン便・ヨークル便のどちらもこの場所で決ま
ってるらしい。
午前と午後の休憩場所は状況によって場所も時間もかわるんだと。
昼になると荷物満載な獲物が毎日集まってくるんだから、盗賊だっ
たらここを襲撃したほうが早くないか? って皆に聞いたら、過去
にはそういう被害があった。
けど休憩所も魔法で補強&保護されてるし、御者も冒険者ギルドの
Bランク以上とかの高ランク保持者が、移動目的で御者のバイトを
するようなことが多々あるそうだ。
商会のほうも安全で安く雇えるために、喜んで迎えてくれる。
御者も素人ばかりじゃない。
元冒険者が安定のために御者に転職なんて良くある話。
休憩所を襲うよりも休憩所で屋台でも出したほうが楽なんだって。
フラグも立てられないな。
いやー、襲われたいんじゃない。暇なんだよ。暇すぎるんで寝る。
午後の休憩もしないで眠り続けた。
で、ヨークルに到着して入り口での前に起こされた。門の守護兵の
入り口確認の担当者が荷馬車の中まで確認用の魔水晶を持ってきて
くれるのでありがたい。
ヨークルでっけぇ、15万人以上の住む﹃都市﹄だ。
イーデスハリスの世界では住民が1000人以下なら﹃村﹄。1万
人以下が﹃町﹄。10万人以下が﹃街﹄。それ以上は﹃都市﹄だ。
他に首都もあるが。
113
ヨークルの中︵外周部︶にある荷馬車倉庫に直行し、俺が荷馬車に
乗るために預かってた大きな3個の木箱を渡し旅の終了。
外周部の門をくぐりヨークル市街部へ。
ヨークル市街部のMAPは俺のもらった記憶の何にもある。ギル・
シード・ガルディアにも簡単にだが教えてもらった。
時間もそろそろ夕食の時間だし、まずは宿屋の確保だなと歩いてい
たら、屋台で﹃鬼まんじゅう﹄を売ってる店を発見した。
しかも蒸しパンバージョンではなく生地に粘りのある方だ。
日本にいた頃でも10年ぐらい食べた記憶がない。
イモの鬼まんじゅうも紫イモの鬼まんじゅうもあった。
両方とも美味しかったので大興奮で30個ずつの大人買い。
114
ヨークルでの食事は予想を超えてたっす。︵前書き︶
6・13修正しました。
7・16修正しました。
115
ヨークルでの食事は予想を超えてたっす。
鬼まんじゅうを待ちながら店主と世間話。
ついでにおすすめの宿を聞く。
少々高くてもいいので居心地いいと評判の宿。飯も美味しいほうが
いい。
ここの近くには無いらしい。ヨークルの中心にある巨大な時計塔が
ある。
ここからも見える。
そこに行く途中にあるようだ。
ホテルの名前は﹃月と太陽のホテル﹄
ホテルの目の前に商業ギルド・ヨークル支部があるし、ホテルの門
に看板代わりの大きな月と太陽の彫られた大きな石の板があるから
すぐわかる。
出来上がった鬼まんじゅうをアイテムボックスに入れる。
ホテルに歩いて行く。
商業ギルドの場所を聞いたらもらった記憶の場所とかわってなかっ
たので、迷わずについた。
ホテルの受付ではスイートルームしかないって言われたが、1泊2
0万Gで大きな風呂もついてて食事は部屋で2回までは無料。
部屋にあるキッチンで作るのは自由、時間は深夜もOK。
出入りも制限時間なしで自由。
ついでに女も連れ込み自由らしい。
116
とりあえず3泊することにする。カードでお金を払い部屋に入る。
時間も時間だし今日は夕食を食べて風呂に入って寝ることにする。
ガルディア商会のヨークル支部に顔を出すのは明日でいい。
夕食に味噌汁が出た。
ちゃんと出汁が入ってる。味噌汁の具にワカメも入ってる。
これは良く調べないとな、充実する食生活を今後も送るためにも。
ヨークルはシーパラ大河で海と繋がってるから魚介類も入ってくる
のだろう。
いわゆる日本の旅館での夕食みたいなメニューだった。
ご飯・味噌汁・刺身・天ぷら・小さい一人用の鍋・野菜の煮込み・
漬物。最後のデザートはメロンだった。さらに頼んだお酒は﹃骨酒﹄
イーデスハリスの世界では成人は15歳でお酒は自己責任。
夕食を頼みワゴンで運んできたのが定番の旅館メニュー。酒のメニ
ューで骨酒を見たときは流石に笑いを我慢できなかった。
おいおいファンタジー、ここって異世界だよな?
高級ホテルに宿泊しスイートルームで食べる夕食メニューが旅館っ
てのは流石にちょっと引いた。
笑えたけどな。
俺が殺した4人のクソ神どもってギャグセンスはあるみたいだな。
美味しかったのは良かった。明日は食材探しの探検だな。
あとそろそろ防具を見たいな。
117
防御力が人間の範疇を軽く超えてるし、神のレベルのさらに先に行
ってる。素っ裸で古代龍のブレスをくらっても火傷もしない。
とはいえ・・・
イーデスハリスの世界に転生してきてずっと﹃たびびとのふく﹄だ。
ゾリオンの衣料品店で買ったのもデザインが違うだけの﹃たびびと
のふく﹄だ。
流石に飽きたよ。﹃かわのよろい﹄にステップアップしてもいい頃
だと思う。
盗賊を退治してぶんどった装備は素材にした。神の創り手のスキル
を使えば凄い防具が作れるけど自作するのはまだ先にしたい。今は
まだこの世界の冒険を始めたばかりの序盤だから必要に迫られてな
い。
武器はもうしばらくはいいや。
ゾリオンに﹃天乃村正﹄なんて名前のチート武器もらっちゃった。
このカタナが﹃たびびとのふく﹄に壊滅的に似合わないのだ。
たびびとのふくにカタナを装備すると﹃貴族のお坊ちゃまが見慣れ
ない武器を装備してる﹄感が尋常じゃない。
ゾリオンには武器も防具も店が無かった。
金物屋と鍛冶屋はあったが﹃農器具専門﹄だったし。
考えてみれば当たり前だけど。
農民しかいない場所で誰が買うんだ? って話だ。
たまに呼ばれてくる冒険者も予備の武器ぐらい持ってるだろうし、
兵士の場合は武器と防具は支給品だろうな。同じ武器と防具をもっ
てたし、ウンコマンとバカ貴族は派手なフルプレートアーマーだっ
たけど他の親衛隊たちとお揃いだったし、あれも支給品だろう。
118
趣味で武器・防具を集めてるヤツはヨークルに買いに来る。宿屋が
なかったのと同じ理由だろう。
そんなことを考えながら眠りにつく。
朝目覚めて朝食を頼む。夕食が旅館だったから納豆とか干物なんか
を想像していたのに、朝食は﹃フルーツたっぷりのパンケーキ﹄だ
った。
これだと逆に普通っていうのだろうか。
もうすでにこの異世界のパターンが読めない。
食において変化球が多種多彩で受け取るほうが衝撃を受ける。
昨日の鬼まんといい、旅館系夕食といい。
食事を終えてからホテルを出てガルディア商会に行く。俺の泊まっ
た﹃月と太陽のホテル﹄から近いのですぐに到着する。
ガルディア商会にはゾリオンもギルも出勤していたので挨拶。
ゾリオンにはカタナのお礼も忘れずに言っておく。
契約したアイテムの残り分︵ミスリル50キロ・オリハルコン20
キロ・ヒヒイロカネ10キロ︶を裏の倉庫でもらう。
ガルディア商会は鉱石を商品として取り扱ってるし、ゾリオンは武
器ヲタ。防具職人に客や知り合いなども多いだろう。できるだけ腕
がいい店を紹介してほしいと聞いてみる。
フィアルカート防具店にいる﹃ガルパシア・ウルス﹄という名のド
ワーフが有名ではないが腕のいい職人だと教えてくれた。ここから
少し遠い場所にあるが行ってみるなら、ゾリオンが紹介状を書いて
119
もいいよと教えてくれた。
さっそく行ってみることにする。
カランコロンと鳴るカウベルのようなモノがついたドアを開けてフ
ィアルカート防具店に入る。
店は想像よりも大きかった。店の構造は店員のいるカウンターまで
が皮・木・鉄などの防具やベルトが並んでいる。
カウンターの向こうは高級そうな防具や盾が並んでいるところを見
ると、盗難防止でカウンターで仕切っているんだろう。
カウンターにいる店員にゾリオンからもらった紹介状を渡す。
﹁ガルパシアは奥の工房で接客中ですので少々お待ちください﹂
と、言われたので店に並んでる商品を見て回る。
皮の鎧を見る。確かに腕は良いな。主要部分には何枚も皮を重ねて
固定されてるが、体を動かすときに動きを邪魔しないように上手く
遊びを作ってあり、それでいて鎧のシルエットは崩れてなくバラン
スが取れてる。
・・・もうこれでいいんじゃね。
値段も35万Gと結構するが手は手甲まであるし足は足首と足甲ま
でカバーしてある。
後は皮のブーツを併せて購入すれば終わる。
ただ色が黒一色なんで・・・忍者かよって感じだ。
カタナの色合い的にも、背中に背負わないとダメな気がしてくる。
それはそれでいいんだけど、明るい時間に街を散策できなくなりそ
うなファッションだな。
店内を見回すと同じような形をした﹃甲殻鎧﹄を見つけた。
サソリの甲殻みたいで少し暗い緋色の甲殻が主要部分につけて固定
120
してある。
鎧の形は皮の鎧とほぼ一緒であとはおそろいの甲殻ブーツを買えば
全身OKだ。甲殻鎧の方はサイズがちょうど良さそうだし。
値段は55万Gでブーツも足すと60万Gだ。
店員に試着できるか聞いたら、カウンターの中に試着室があるとの
こと。
さっそく鎧・ブーツ・皮のベルトなどを持って試着する。
旅人の服の上から鎧を着ることはできないので、俺に合うサイズの
アンダーシャツとアンダーパンツを持ってきてもらう。
鎧を着るのは簡単だった。
俺のもらった記憶でも一緒だった。
体のいたるところに森林モンキーの尻尾が張り巡らされているので、
鎧を頭から被り左右の腰の紐を引っ張るだけだ。
それを背中で結んで背中の紐を入れる袋に入れて終わり。
手足の部分も一緒。はめて紐を引っ張って固定して紐を袋に入れる。
手足の部分は片手でできるように金具に縛るようになってる。
脱ぐときは紐をもう一度引っ張ると緩むのですぐ脱げる。
ブーツも同じように紐を引っ張るだけでピッタリ装備できる。
試着室から出て鎧を装着した状態で体を動かしたりひねったり飛ん
だり跳ねたりしたが、カチャっと音もしない。甲殻が体を動かした
時に当たらないように上手く加工されてる。
嫌な締め付け感もまったくない。
これは素晴らしい商品だ。購入決定する。
アンダーのシャツとパンツは春秋・冬・夏の3種類を3枚、あわせ
て購入しておく。
腰に帯剣用のベルトをつけてアイテムボックスから取り出したカタ
121
ナを腰に装着。
試着室にある全身鏡を見ながらカタナの鞘が鎧に当たらないように
ベルトを調節する。
俺は少し興奮していた。
鎧を着てカタナを装備してるのだ。
やっとファンタジーの中にいるってことを実感してるのだ。
少し武者震いしてくる。
ふと我に返るとそんな俺を微笑ましそうに見ている3人がいた。
122
ヨークルでの食事は予想を超えてたっす。︵後書き︶
やっと話に女の影が・・・ただし女の子ではありません。
女子と言っていいのは﹁小・中・高の学生﹂のみです。
123
ドワーフは偏屈な人が多い種族だってのはマジだったっす。︵前
書き︶
7・16修正しました。
8・7修正しました。
124
ドワーフは偏屈な人が多い種族だってのはマジだったっす。
やべぇ、感動でちょっとトリップしてた。
しかもニヤニヤしてたと思う、凄く気持ち悪いな、俺。
と、ちょっとあわてる。
﹁お金払います﹂
これしか言えなかった。バツが悪すぎる。
俺を微笑ましく見ていた3人は女性。
一人はフィアルカート店員で40代の女性﹃おかみさん﹄と説明し
たい風貌をしている。是非おかみさんと呼びたい。
あとの二人は冒険者だろうか。
大柄な女性戦士だ。20代中盤ってとこかな?
一人は真っ赤な燃えるような赤髪のショートカットで大きな体と対
照的な優しくて柔らかい笑顔で俺を見てる。瞳の色は黒。
フルプレートアーマーで肩の後ろに1メートル以上の長さで幅が3
0センチほどの細長いホームベース型シールドを左右に二枚ずつの
計4枚ついてる。盾のマントみたいだ。
両手にも直径30センチほどの丸い盾がついてる﹃シールダー﹄だ
ろう。盾で自身と仲間を守り盾で敵を攻撃する。
もう一人は長い茶髪でポニーテールにしてる紺色の瞳の女性だ。少
しタレ目。彼女も優しそうな表情をして微笑ましそうに俺を見てる。
彼女は﹃ランサー﹄だな。2メートルほどの短槍を右手に持ってる。
防具は素早い動き重視なんだろうハーフプレートアーマーだ。
125
それにしてもデカイ。
確かに身長も二人とも確実に180センチを超えてるだろうが、そ
れだけじゃない。
・・・爆乳だ。
二人ともの胸部装甲がありえない角度で盛り上がってるほどだ。
茶髪の方は谷間が凄いことになってる。
けしからん、まったくもってけしからんってレベルの大きさだ。
異世界で爆乳に初エンカウントだ。
爆乳コンビは時々チラッと胸を見て顔を赤らめる子供に、少し意地
悪そうな顔をしてニヤニヤしてみてる。彼女達にしたらかわいいお
子様なんだろう。
レジのカウンターに行って合計金額65万4000Gをカードで支
払う。
アンダーのシャツも足首まであるパンツも1枚3000Gだった。
着替え用のアンダーは袋に入れてもらいアイテムボックスに。今ま
で着ていた旅人の服もアイテムボックスへ。
すると赤髪が話しかけてきた
﹁君は冒険者? アイテムボックスをもってるの?﹂
﹁あ、ハイ。冒険者ギルドに登録してあります。﹂
﹁﹁それなら話g﹂﹂﹃バン!﹄
と二人に同時に言われたときに奥の扉が開いた。
ドワーフがいた。髭がボーボーでムッキムキの全身が赤黒い親父だ。
オッサンではない﹃親父﹄だ。俺はそう呼びたい。
﹁アイリ、ミネルバ、お前達まだいたのか。いくらお前等でも情報
126
は渡せんよ・・・お! お前が早乙女か? ゾリオンの坊主がよろ
しく頼むと紹介状に書いてあったぞ﹂
﹁ゾリオンの坊主?﹂
坊主? 俺の知ってるゾリオンはオッサンだ! ハゲだけど。
この世界にはハゲの方の坊主はいないはずだ。
そっちの宗教はない。存在してない。
ちがう。
﹁ん? あぁ、俺はこう見えても300歳を超えてるんだよ。俺か
らすればお前もゾリオンもみんな坊主だ﹂
と、ガハガハ笑ってる。
﹁と言うと貴方が﹃ガルパシア・ウルス﹄さんですか?﹂
サオトメ
シンイチ
﹁おう、そうだ。ドワーフは家名が前で名前が後ろなんだ。だから
ウルスと呼んでくれ﹂
﹁はじめまして、ドワーフ流に言うなら﹃早乙女・真一﹄です﹂
﹁よろしくな﹂
﹁よろしくお願いします﹂
ウルスと握手をする。ドワーフって身長は150センチぐらいしか
ないけど手はごつくてデカイ。俺の手よりも2回りほどデカイ。
﹁ん? もう防具を買ったのか? でも、さすがだな。俺が隠して
た目玉商品を買ってる﹂
﹁隠してた? けっこう目立つ場所に置いてありましたよ﹂
﹁その甲殻鎧はサソリオオクモの甲殻を使っているから、くすんだ
赤色だ。だから良さそうには見えないし、手にとって見やすいよう
にワザと目立つ場所に置いてあった﹂
﹁・・・﹂
﹁派手な鎧が好きな連中はこのカウンターの中の目立つ場所にある
﹃プラチナアーマー﹄を選ぶ﹂
127
と、ウルスは派手なフルプレートアーマーを指差す。確かにあれは
目立ちたがり屋には最高の防具だろうな。プラチナがピカピカで眩
しい。
﹁ただ、あれは硬すぎて衝撃を分散して逃がせないんだ。ある一定
までの衝撃にはプラチナアーマーの方が優れているが、限界を超え
るとすぐに壊れる。鉱石と甲殻の特性としての違いなんだけどな。
元々柔らかいプラチナ鉱石であるから、合金にして硬度だけを無理
に上げているので、限界が時間経過とともに下がってくるんだ。甲
殻も下がるが下がり方に違いがありすぎる。だからこの店の顧客は
プラチナアーマーは親衛隊とかの儀礼用で、実践では違う防具とか
使ってる﹂
﹁へー、なるほど﹂
﹁あれは金持ちのカモから金を稼ぐ用の防具だ。金額もちょっと高
めに表示してある﹂
とにやりと笑うウルス。
﹁早乙女が買った甲殻鎧はその真逆だな。よその店で買うと100
万G以上するぞ。その甲殻鎧と近くにあった皮鎧の二つは俺の遊び
だ。手間をかけて材料も選んで丁寧に作ってある。売値は半額ぐら
いに抑えてある。わかるヤツにはわかる、見る目がある人への俺か
らのサービスだ﹂
やはり俺の予想通りのこの偏屈さ・・・オヤジじゃない親父だ。ウ
ルスの親父って呼びたい感じだ。
﹁早乙女が装備している武器はカタナか? カタナを使えるのか?﹂
﹁ええ、一通りは﹂
﹁ってことは﹃剣客スキル﹄を持ってるのか? ではカタナを使っ
た動きを見せてくれないか? その鎧は﹃細剣﹄や﹃槍﹄用の鎧だ、
それをカタナ用に調整したい。費用はサービスする﹂
﹁いいですよ﹂
128
ウルスの親父に案内されて奥の扉の工房をさらに奥へと進んだフィ
アルカート防具店の裏庭。
俺の後ろをなぜか二人の女性戦士の冒険者もついてきた。おかみさ
んは店番で残った。
ウルスの親父は裏庭に﹃製造魔法﹄を唱え倒れていた丸太を立てた
り、丸太に錆びた鉄鎧をかぶせたりした。簡単な訓練場ができる。
﹁じゃあ、たのむ﹂
その言葉を合図とし俺は腰を落として5メートルほど先にある丸太
を袈裟懸けに一閃する。居合いだ。直径30センチ以上の丸太が斜
めに切断される。
俺以外の3人は俺の速さに、俺はカタナのあまりの切れ味に驚いた。
﹁早乙女、スマン。俺にはまったく見えない。これでは動きの検証
がまったくできないので、すまないがもっとゆっくり動いてもらえ
ないか?﹂
﹁わかりました﹂
俺はイメージトレーニングのようにゆっくりと体の動きを確認する
ように動く。
相手の攻撃をイメージしてかわしては切り、かわしては突く。
俺がもらった知識と経験では・・・
カタナの防御は﹃かわすこと・よけること﹄
カタナで相手の攻撃を受けるのは最終手段。
129
攻撃できなくなるからだ。
カタナは防具ではなく武器だ。
だから重要なのは足運びにある。無理な体勢にならないこと。
神速をもって敵に迫り攻撃して安全に離脱。離脱も神速。
だから﹃剣客﹄のスキルをマスターすると﹃神脚・カタナ﹄という
称号を得る。
速さが命。足を止めてカタナを振り回すだけなのは初心者。
カタナの刃と刃をぶつけ合うのは道場だけで、実戦ではよけきれな
いと判断した時だけの最終防御になる。
こんな知識と経験が詰まってる俺の体は、滑らかに動くことに終わ
りがない。
﹁早乙女、ありがとう。大体の動きがわかった。俺が想像する以上
に関節の可動域が広い。少し手直しさせてくれ。﹂
いつまでも動きを止めない俺にウルスがストップをかける。
﹁脱いだほうがいいですか?﹂
﹁いや、装備したままの方が良い。実際に動きながらでないと調節
が面倒だ﹂
手・足・腰など﹃防具調整﹄と防具スキル魔法をかけ、俺が動き、
また調節を繰り返しする。
それから最後に甲殻鎧全体に魔糸溶解液で3度ほどコーティングし
て終了だ。
ウルスの親父も満足そうだ。俺も嬉しくてニコニコしている。
﹁﹁あ、あのー﹂﹂
置いてきぼりにされてた二人の女性が声をかけてきた。
130
ドワーフは偏屈な人が多い種族だってのはマジだったっす。︵後
書き︶
鎧の下に着るアンダーは1枚3000Gです。
イメージはヒートテックで物凄く伸びる素材でサイズ調整はいりま
せん。
色は白しかありません。
フルプレートアーマー用は頭にも被る仕様で5000G。
イメージは﹁白いモジ○ジ君﹂です。
131
いろいろと大きい女性は・・・いかがっすか?︵前書き︶
7・17修正しました。
132
いろいろと大きい女性は・・・いかがっすか?
﹁おー、そうだ。早乙女に紹介しよう﹂
そう言ってウルスの親父が両手に花状態で女性を俺の前に連れてき
た。
女性はどちらも180センチを超える長身。
ウルスの親父は150センチぐらいのドワーフ。
これじゃあ、両手に花じゃなくて﹃宇宙人﹄だな。筋骨隆々のムッ
キムキで赤黒い宇宙人だが。
﹁こっちの赤髪の穣ちゃんの名前は﹃アイリ・クリストハーグ﹄﹂
アイリが俺にぺこりと頭を下げる。
﹁見てのとおりの冒険者で職業は﹃シールダー﹄俺のお得意様だな。
そんでもって28歳のいき後れ﹃おいコラ! バン!!﹄だぎゃ﹂
余計な一言を最後に言ってしまい、盾で頭を叩かれたウルスの親父。
けっこういい音がした。
頭をさすってるだけだ。頑丈な親父だな。
﹁ったく、盾でたたくなよ!﹃﹁シールダーは盾で叩くのも仕事だ
! ってあんたが教えたんだろ﹄そういえば、そうだな﹂
ウルスの親父、かんたんに納得するなよ。
いいのか?
﹁そんでもって、こっちの茶髪の穣ちゃんが﹃ミネルバ・アリアー
ノ﹄﹂
ミネルバが俺に頭を下げる。
﹁こっちも冒険者で﹁ランサー﹂だな。で、こっちもいきおk﹃私
もかい! ビシッ!!﹄ごふぉ﹂
133
あ、後頭部にチョップを入れられるウルスの親父。20代後半の女
性に年齢の話は禁句なのに・・・ムチャしやがって・・・。
﹁えーっと、アイリさん、ミネルバさん、はじめまして。シンイチ・
サオトメです。15歳になりました。この国に来て5日目です。3
日ほど前に冒険者登録をしたFランクの新人のです﹂
﹁15でFランクの新人!﹂
アイリとミネルバは絶句してる。
﹁ったく、バカどもが! 相手をランクで見るんじゃないって何度
も言ってるだろ!﹂
と言って二人のお尻を叩く。
﹁冒険者ランクをあげるのは大変だ。だがな世界は広い。冒険者に
なってない強者もたくさんいるっていいつも言ってるだろ!﹂
﹁﹁そうだったね! ゴメンね早乙女君﹂﹂
﹁で、お前も海の果てにある島国に住んでて、洞窟の古代遺跡によ
って飛ばされてきたくちか?﹂
!!!
そういえばビッタート卿に言われたな。
昔から転生者は今ウルスの親父が言ってるような言い訳をして転生
してきたことを隠してるって。
ウルスの親父も300歳超えしてる人だから、そういった言い訳話
を知っててさらにアイリとミネルバに聞かせてるのだろう・・・と、
理解した。
だがな、ウルスの親父よ・・・ウインクはやめろ! 筋骨逞しい親
父のウインクは・・・正直キモい。そういうことが許されるのは女
だけだ。
134
﹁それで早乙女君にお願いがあるんだけど、いいかな?﹂
﹁は?﹂
﹁大森林にあるダンジョン﹃アゼット﹄に私達と一緒に行ってもら
えないだろうか?﹂
﹁ええ?﹂
﹁﹁頼む、このとおりだ﹂﹂
二人が頭を下げる。
﹁ちょっと待ってください。・・・理由を教えてもらえませんか?﹂
﹁わかった。少し焦っていてな。始めから話すよ﹂
サラマンダー
理由はダンジョンの地下10Fに出るボス﹃火蜥蜴﹄がレアドロッ
プするアイテムで﹃サラマンダーの雫﹄と言うのがある。
アイリの母親が先週にいきなり働いていた役所で倒れ診断された病
気が﹃森林黄熱病﹄。
この病気の特効薬が﹃サラマンダーの雫﹄なんだと。
だからどうしてもサラマンダーの雫が欲しいらしい。
先週から高熱が続いているので体力もそんなに余裕が無くて焦って
る。
サラマンダーのレアドロップ品なのでなかなか出てこないから、何
度も倒さなければいけない。
サラマンダーの通常ドロップ品は﹃サラマンダーのかけら﹄
このかけらを100個、新鮮なうちに医者などの調合スキルで調合
するとサラマンダーの雫になるのだ。
サラマンダーの雫は市場にほとんど出回らないし、オークションで
は3000万Gからのスタートで少なくても5000万以上だ。
だから冒険者ギルドで依頼を出そうにも
﹃高額アイテムを独り占めさせろ、はした金ぐらいは払ってやるか
135
ら命がけで戦えよ?﹄
っていう依頼とかわらないから誰も受けてくれる人いない。
6000万以上の金額を積めば依頼も成立するかもしれないが、そ
んな大金は二人の全財産でも足りない。
それでそこそこ腕が立ちアイテムボックスが使えて、依頼金が分割
できる信用のできる人間を捜してるのだ。
﹁・・・まぁ、そう言ってもらえるのはありがたいが、俺って信用
出来る人間か?﹂
﹁悪人はそんなこと言わない﹂
なんて聞いたら3人にツッこまれた。久しぶりにツッコミを入れら
れて少しだけうれしくなった。
﹁それで確認がしたい。君のアイテムボックススキルのランクは?﹂
﹁俺のアイテムボックスは祝福のほうで、ランクは中です﹂
アイリに聞かれたので答える。ステータスカードの祝福の部分を見
せて本物と証明する。
アイテムボックスは空間魔法スキル。魔力の素養があれば誰でも簡
単に手に入れられる魔法スキルだ。
10万Gほど払えば教会で手に入れられる。
アイテムボックス極小の魔法を封入した魔石を聖水の中で砕き飲む
だけ。
俺みたいに極まれに祝福で持ってる人もいる。
アイテムボックスはランクが合って・・・サイズが決まってる。
極小 1メートルの立方体サイズ。10個が10種類
小 5mの立方体サイズ 100個が100種
中 10mの立方体サイズ 500個が500種類
大 20mの立方体サイズ 999個が999種類
136
と言う具合に最大サイズと最大個数の最大種類が決まってる。
例えば・・・アイテムボックス極小のスキルの人はジュースを10
種類10個ずつアイテムボックスに入れられる。
全部の合計したサイズが1mの立方体。
だからジュース入りマグカップ100個なら入るが、ジュース入り
の樽は入らない。
1mの立方体サイズの箱は入れられるが、その後入れられるのは9
種類を10個ずつだ。箱で1種類使用しているからだ。しかも箱が
最大サイズを使ってるので、残りは箱の内側に入れられるサイズの
ものしか入らない。
が、変形はできる。
たとえばミネルバの場合・・・アイテムボックススキルは極小。
彼女は槍使いだ。彼女の槍は長さが5mほどある。普通なら入らな
いが彼女は入れてある。
教会に10万Gほど払い変形の魔法を封入した魔石を聖水で溶かし
て飲むだけ。
飲むときにイメージが必要になる。
失敗すると何度か魔石入り聖水を飲まないといけなくなる。
ミネルバはメイン武器の5mの槍がアイテムボックスに入ってる。
それとアイテムボックスに入ってるのはいま手に持ってる短槍が3
本入ってる。これは投擲や防御などに使ってる。
彼女のアイテムボックスはかなり変則的になっていてメインの長さ
の槍は1本。予備も同じ長さの槍にするともう一本だけになる。二
本しか入れられなくなる。
137
だが短槍にすると同じ槍が4本入るようになるのだ。
教会の司祭に聞いたらアイテムボックスの変形ってそういう魔法だ
と言われた。サイズなどを変形させると個数や種類にかなりの変動
があり、個人差がありすぎて統計できないそうだ。
彼女の場合は6mサイズの槍置き場があるのだろうと。
それが2個2種類。片方を短槍にすると2mだから3本入るんじゃ
ないかと。かといって2個2種類で最大数が4だから短槍だけだと
4本しか入らない。
サラマンダーのかけらは最低でも100個いるのだ。
アイリもアイテムボックス極小を持ってる。
が、100個入れるためには全部使わないといけない。
色違いのビンに入れたりすれば最大100は入れられる。
アイテムボックス全部を使わないと持って帰ってこれない。新鮮さ
が必要な商品だからだ。
アイテムボックスを使わないで2人でダンジョンに行くには危険が
多すぎる。全ての荷物を自分達で持ち歩かないといけなくなるから
だ。
ミネルバのアイテムボックスは変形させたのでもう戻せない。
アイテムボックス以外でかけらは運べない。
サラマンダーはボス部屋に3∼8匹ランダムな場所に現れる。
彼女達にすべてまかないきれない可能性もあるから、一緒に行くよ
うな人は最低限身を守れないと。
サラマンダーに対抗できる戦闘力を持ち調合スキルを使えるような
人間は教会の司祭以上じゃないと無理だ。
138
こういう理由追い詰められていた彼女達は精神的にギリギリの状態
だ。
﹁アイリの母親は私にとってもかけがえのない人なんだ。君の助け
が欲しい﹂
ミネルバが深く頭を下げる。そしてアイリは土下座して頭を擦り付
けて懇願する。
﹁君が望むなら私は君の奴隷になってもいい。母を助けるのを手伝
って欲しい﹂
﹁アイリ、奴隷なるとか・・・あの診察した医者じゃないんだから・
・・早乙女君の迷惑になるよ﹂
ミネルバがたしなめるが、何か怪しいセリフ言ってるなぁ・・・診
察した医者が、奴隷?
・・・おいおいおい何か凄く怪しくないですか?
139
俺が行けば事件解決っす!︵前書き︶
7・17修正しました。
140
俺が行けば事件解決っす!
﹁医者が奴隷ってどういうことですか?﹂
と、俺が問いかける。
﹁どういうことも何も、母さんが倒れたときにたまたま偶然、近く
にお医者様がいてそのお医者様が診察したら﹃森林黄熱病﹄って診
断されて、治療にはサラマンダーの雫が必要って言われてパニック
になって、それで全ての知り合いに聞いて回ったけど、やっぱり誰
もサラマンダーの雫なんて持ってるわけ無くて、そうしたら診察し
てくれたお医者様が﹃私の知り合いに持ってる人がいるから聞いて
くる﹄って言って、一昨日に﹃騎士の栄光って冒険者のチームのリ
ーダーから借金奴隷になるなら先払いでサラマンダーの雫を渡して
もいい﹄って言われて、それを今日までに返事しなくちゃいけなく
てだから急いでてパニックになって土下座して﹃ハイ! ピシ!﹄
ふぎゃ﹃パニックになってないで落ち着きなさい﹄あっ、ごめん﹂
大きな体をして何か、アタフタするアイリさんが可愛かった。
20代後半なのに童顔だからよけいに可愛く見えるのかな?
それでちょっとタレ目で愛くるしい風貌のミネルバさんがツッコミ
役だっていうのは予想外だった。
﹁アイリさん落ち着いてください。俺は仕事を引き受けますから。
でもちょっとだけウルスさんと話をさせてください﹂
そういってウルスの親父の手を引いて二人から離れる。
二人は手を取り合って喜んでる。
﹁﹁良かったぁ﹂﹂
﹁ウルスさん、たぶん俺だけ先入観なしで冷静に全部の話を聞いて
141
たから思うんですが・・・あまりにもおかしくないですか? その
医者、胡散臭すぎる﹂
﹁俺も前から何か引っかかってる気がしてたが・・・確かにお前が
言うように冷静になって話しを聞いてると、凄く胡散臭い医者だな。
﹃たまたま﹄母親の近くにいて﹃たまたま﹄森林黄熱病の症状を知
ってる医者で、﹃たまたま﹄サラマンダーの雫を持ってる冒険者が
知り合いにいて、知り合いの冒険者も﹃たまたま﹄アイリが奴隷に
なるという条件と引き換えに雫を譲ってくれるとか・・・うん、あ
の二人は無いな。そんなことまずないな﹂
﹁ですよね。・・・しかも今日中に返事をしないといけないとか。・
・・ウルスさん、教会に伝手はありませんか?﹂
﹁あるよ。これでも200年以上この都市にすんでるんだ。・・・
早乙女、もしかして真偽官か?﹂
﹁ハイ。真偽官を間に挟ませたほうがウソを全部消せますし・・・
できれば教会の司祭クラスと聖騎士団も手配できるようにお願いし
たいんですけど﹂
﹁それだったら、俺も一緒に教会に行った方がいい。どうせここか
らアイリの家まで行く途中に教会はあるから、医者の応援を頼みた
いから、一緒に教会に行こうと言えばアイリたちも断らんだろ﹂
﹁え? アイリさんたちには言わないんですか?﹂
﹁あの二人にはアイリの母親は大切な人すぎるからな。冷静にはな
れんよ。下手すると診察した医者を殺しかねんよ﹂
﹁みたいですね。できれば冒険者チーム﹃騎士の栄光﹄ってのも確
保したいですね。もしかしたら黒幕なのかも﹂
﹁おう、任せろ。手配できるようにたのんでおく﹂
それで俺達4人はまずは教会へ。
アイリとミネルバに母親の無事を教会でお祈りしようと礼拝堂に誘
う。その間にウルスが教会で全て手配しておく。
142
・教会の司祭︵母親の病状を見るため︶
・真偽官︵ウルスいわく﹃かなりの凄腕先天真偽官﹄らしい。普通
の真偽官は﹃真偽官の才能があるのか﹄を魔法で検査して、膨大な
魔力を使って能力を﹃後天的に真偽魔眼を植えつける﹄と言うのが
真偽官の9割以上だ。ただ真偽魔眼をもって生まれてくる人も50
0万人に1人ぐらいいる。そういう人が﹃先天真偽官﹄っていわれ
る。彼も先天真偽官だ。︶
・教会に居た聖騎士団5人。
の、合計11人でアイリの実家に行く。
教会の司祭にアイリの母親を合わせる。
﹁彼女は病気ではありません。毒に犯されています﹂
真偽官に確認をしてもらい毒の治療。聖騎士団の団員の1人はヨー
クル警備隊の詰め所へ行き応援を呼びに。さらにもう一人の団員は
冒険者ギルド・ヨークル支部へ行きチーム﹃騎士の栄光﹄の捜索準
備に。
アイリの母親の治療はアイリが持ってた毒消しポーションで毒を消
し、司祭のハイヒールで持ち直す。あと2・3日安静にしていれば
回復するだろうという司祭の診断だ。
まずは安心して皆で昼食を食べながら事の究明のための作戦会議へ。
ヨークル警備隊の遊撃チームの10人も応援に来て、総勢20人︵
冒険者ギルドに行った団員はそのままギルドにいるので戻ってない︶
の食事は俺が提供する。
アイリもミネルバも料理はできるが流石に20人もの食事の用意は
すぐにはできない。
アイリの母親はまだ寝ているので食事はできないし、2日ぐらいは
143
お粥にしたほうがいいと司祭が診察で言ってた。
医者がアイリの母親の診察に来てアイリとミネルバ以外は他の部屋
や裏庭に隠れる。
医者が話しているのを隠れている真偽官が見て腹立たしそうに話す。
﹁彼はウソをついています。医者ではありません﹂
・・・医者ですらねぇーのかよ。
まぁ、そりゃそうだわな。もう治療済みのアイリの母を診察して
﹁このままだと今日がヤマでしょう﹂
なんて言ってるもんな。ヤブ医者でも酷すぎる。
それなら遠慮なくと敵を殲滅するプランで行く。
﹁サラマンダーの雫のために奴隷になる﹂
と、作戦通りにアイリに言ってもらい騎士の栄光のメンバーを呼ん
でもらう。
偽医者が呼びに行き、15分ほどでぞろぞろ連れてきた。騎士の栄
光のチーム6人と奴隷契約のため奴隷商の男までいる。用意周到す
ぎるだろ。敵の関係者全員だな。
暴れられても面倒なので敵全員に俺が﹃スリープ﹄の魔法をかける。
司祭が真偽官とヨークル警備隊の立会いのもとに光魔法﹃罪人の告
白﹄を使って尋問開始。事の真相が明らかになった。
144
騒動は解決へ! でも何もしてなかった俺。女の前でカッコイイ
とこ見せたかったっす!︵前書き︶
7・18修正しました。
145
騒動は解決へ! でも何もしてなかった俺。女の前でカッコイイ
とこ見せたかったっす!
全てがチーム騎士の栄光による犯行だった。
騎士の栄光は金持ちのボンボン2人と5人の奴隷による冒険者チー
ム。
前衛が奴隷3人。
中衛がボンボンと奴隷1人。
後衛もボンボンと奴隷1人。
奴隷5人は全て金に物を言わせて集めた借金奴隷。
が、先月に前衛でチームの参謀だった奴隷︵実質的にはチームのま
とめでリーダーだった︶が怪我が元で亡くなった。
怪我は大森林のダンジョン﹃アゼット﹄でのボンボンのワガママに
よる無理な探索だった。
亡くなったのは﹃タンク﹄なので、新たな奴隷を捜していたボンボ
ン達が選んだのはアイリだった。
アイリのシールダーとしての能力とついでに性奴隷にするという欲
望にまみれた計画。
まぁ、気持ちがわからんことも無いな。
アイリのシールダーとしての能力はわからないが、高身長だがスタ
イルはいいし爆乳だし顔も童顔で可愛い系だし爆乳だし。
年が28と言っても俺の場合だと精神年齢は35だから、むしろち
ょうどいい年齢だ。
アイリから﹃奴隷になるから助けて﹄なんて言われた時はドキッと
してしまった。
146
それに俺の場合はもうひとつ理由がある。
俺が日本での元カノの名前が﹃愛梨﹄と同じ名前で、顔やスタイル
は似てもいないが・・・声がとても似てるんだ。
愛梨には世話になった。結婚する予定があった。
倒産して職場を失った俺を支えようとしてた。しかし子供好きな愛
梨を年齢的に待たせるわけにはいかないと、何度も話し合って・・・
結果別れた。愛梨の泣きながら笑顔で﹁バイバイ﹂と言った顔はま
だ俺の記憶の中にある。
そんな理由もあって困ってるアイリを助けたかったし、土下座しな
がら懇願するアイリを見てたら胸が痛くなった。
それでボンボンの計画は・・・アイリの家庭事情を奴隷にストーキ
ングさせて調べた。
母親と二人暮らし
。母親を大事にしている。母親を脅しの道具にすることに。
偽医者は奴隷商のオーナーでボンボンの1人の父親だった。
アイリの母親に偽医者が近づき毒状態に。毒はサラマンダーの爪を
使う。
サラマンダーの爪も通常ドロップアイテム。
これで傷つけられると毒状態が1日続く。毒の抵抗力が弱い人ほど
高熱を発する。
偽医者として定期的に毒を注入し、毒状態を維持して﹃森林黄熱病﹄
と信じ込ませて、アイリを洗脳。
アイリをだまして奴隷契約を結んだあとサラマンダーの雫という毒
消しポーションを飲ませて完了。
もし、アイリがサラマンダーの雫を持ってきたら横取りして毒消し
を与える計画だったらしい。
147
サラマンダーのかけらを100個知り合いから集めてきたときも横
取りする予定だったらしい。
なんて適当でずさんな計画なんだ。
行き当たりばったり過ぎて声もでないよ。
役所の窓口にいるアイリの母親をサラマンダーの爪で刺す?
誰かに見られたらどうすんだよ。
まぁ、これでこのバカどもも終了だな。
ボンボン2人と父親の奴隷商は現行犯逮捕。もう1人のボンボンの
父親も計画を知っていたし役所での犯行に協力していたらしい。
父親は役所の幹部で予算関係の仕事の人間だった。
真偽官も警備隊隊員さんたちも嬉しそうに逮捕に向かうといった。
相当イヤミで嫌なやつなんだと。
あちこちで嫌われてるから逮捕の場面を見たい人たちを集めてから
逮捕に行くって言ってた。
まぁ全財産募集されて自分達が犯罪奴隷にされるってどんな気分だ
ろう、クズがどうなろうがどうでもいいが。
奴隷商にいる奴隷や騎士の栄光のチームにいた奴隷達も調べられる
から、彼ら奴隷が今後どうなるのかまだわからないといってた。
これでこの事件は解決。後は俺達がどうにもできることじゃない。
解散となった。
アイリの母親はまだ安静にしてないといけないので、看病のためア
イリとミネルバの2人をアイリの実家に残る。
真偽官はボンボンのオヤジを逮捕するために警備隊の何人かを引き
連れて出て行った。
148
残りの司祭や聖騎士団のみなさんは警備隊の人とともにボンボンた
ちを連行していった。まだ、魔法が効いてるので大変そうだったが。
今回の事件は俺はほとんど何もしてないな。正義のヒーローどころ
か事件の傍観者でしかないな。
まぁ、事件が解決できたし後はアイリの母親が完治すればこの騒動
は終了だ。
みんなでパーティーはしたいな。
ヨークルを散策するぐらいしかすることがないな。
ん? 防具も新調したことだし冒険者ギルドにいってなんかの依頼
でも受けようかな?
そんなことをウルスの親父と歩きながら話した。
俺が﹁月と太陽のホテル﹂に泊まってると言うとかなり驚いていた。
あそこのホテルは凄く評判がいいしご飯も美味しいけど、商業ギル
ドの紹介がないとシングルじゃなくてスイートルームしか空いてな
いって絶対言うらしい。
これでホテルの受付はボーナスをもらってるんだって。
・・・俺もそのクチだな。
1泊20万のスイートルームだといったら爆笑してた。
20万の金額に合う満足度は間違いないが・・・俺ってカモか、悔
しい・・・と、ちょっと凹んだ。
月に30万も出せば一軒家ぐらいすぐ借りれる。
何なら不動産を扱ってる男を紹介しようか? とウルスの親父に言
われたが、考えておくからまた今度と言っておいた。
149
ギルドで依頼こなしたら監禁されてしまったっす。︵前書き︶
7・18修正しました。
150
ギルドで依頼こなしたら監禁されてしまったっす。
それから店に帰るウルスの親父と別れた。
俺はウルスの親父に冒険者ギルドの場所を聞いて向かってみる。
ビッタート卿が﹃盗賊退治・クマ退治・教会の手伝い・バイドの治
療﹄この4つで昇格ポイントが貯まっているんだと言ってた。
だがギルドランクアップのためには﹃最低依頼成功数﹄と言うのも
必要だって。
FからEにランクアップするには5回の成功数が必要。後1回の依
頼の成功でEになれる。
ここは1回は薬草採取しておかないとな。
冒険者ギルドで依頼を探すが・・・薬草採取はGランクでした。
そりゃそうだよな子供にだってできるしな。
しかももう今日は昼過ぎてるし。
・・・さてどうしようか。
うーうー唸りながら依頼を捜す俺。いいのを見つけた・・・依頼﹃
廃屋の解体﹄
バイト
場所も近いし成功報酬だけでなく時間労働もOKらしい。
これならサクッと終わるんじゃね?ホクホク顔で依頼票を持って受
付へ行く。
受付も・・・あ、この子、寝坊して飯代稼ぎにきやがったな・・・
っと薄く微笑み魔水晶玉へ俺が渡したギルドカードをさらす。ヴォ
ンと鳴り受け付け終了。
151
現場に行ったらでっけぇ屋敷だった・・・ヤバイ、俺が欲しいのは
金じゃない依頼成功数なんだ。
解体の会社の現場監督のところで受付を済ませて解体開始。
今は15時。
サクッと終わらせて夕方は食料・味噌や醤油などの調味料を捜そう!
ぺっぺっと両手に唾を吐き作業開始。
監督に聞いたら解体はあと5日ほどかかる予定だから明日も来てく
れって行ってた。
明日は朝から来いよ坊主って笑ってた。
予定より早く終わればボーナスが出るんだって。
っしゃオラー! と気合を入れて両手につるはしを握り、つるはし
に魔力を込めて壊し始める。
ズガガガガガと人間削岩機が始動した。
建築のスキル魔法﹃解体﹄すればすぐ終わるけど、今日は事件解決
したのに何もしなかったからな。
ストレス発散も人間削岩機のエネルギー源だ。
他の作業員さんたちは朝から仕事してて午後の休憩中だったが、人
間削岩機の爆音に凄く驚いて﹃おくちポカーン﹄状態だ。
オッサンの集団がポカーンして俺を目で追ってる姿を見てちょっと
面白い。
20分ほどの人間削岩機の作業で解体終了。
10分ほどかけて廃材を材料ごとに分類もしておいた。
フッ・・・終わったな。
152
働くって素晴らしい。肉体労働には肉体労働の喜びがある。
と、30分しか働いてないくせに何言ってんだ! って1人でボケ
とツッコミを脳内で済ませてた。
ポカーン状態が続くオッサン連中を置いて作業本部にいる監督に作
業終了の報告だ。
監督も人間削岩機の爆音と俺の作業の早さにおくちポカーン軍団の
一員だった。
監督に依頼終了報告書とボーナス用の用紙にサインをしてもらい俺
はギルドに帰る。
帰るときもまだポカーンしてた。
みんなポカーン大好きだな。目だけで俺の姿を追っている。
ギルドで依頼終了報告したら大騒ぎになった。そりゃそうなるわな。
受付のお姉さん達からすりゃ・・・
・・・あらあの子、こんな時間にギルドに来て必死に仕事探してる
わ。持ってきたのがバイトOKの仕事依頼。時給1000Gの作業
って肉体労働でもハードな方なのにね。大丈夫かなこの子。ま、夕
方まで3時間ぐらいしかないし、ひーひー言って帰ってくるでしょ。
そしたら説教してあげますか! 仕事はそんなに甘くないって・・・
と送り出しただろう15歳の坊主が30分で戻ってきたんだからな。
あと5日はかかるであろう依頼を全部完了させたとの報告書を持っ
て。
報告書の偽造じゃないかと疑った受付にギルドの会議室で尋問を受
け、確認しにいったギルド職員についてきた現場監督に
﹁これからも一緒に働こうぜ!﹂
と必死なスカウトされて断り、受付職員から土下座しそうなほどの
謝罪をされて了承し、ギルドの幹部職員が涙目の受付嬢に説教しよ
153
うとしてたから
﹁俺って、これでギルドランク上がるんだよね?﹂
と話を逸らして・・・って1時間以上も拘束されてしまった。
人間削岩機で発散されたはずのストレスが戻ってきたな。
会議室からでたら受付職員が奥で反省文を書かされているみたいで、
受付に人が溜まっててピリピリしてる中を外に出ようとしたら・・・
バカにケンカ売られた。
﹁おいこら! ボンボンが俺に挨拶もなしにどこにいくんだ! お
い!﹂
俺を突き飛ばそうとしたがスレスレで俺にかわされて転がる筋肉バ
カ。
﹁キターーー!! 完璧なテンプレだ!!﹂
俺の頭の中では少し嬉しかったりする。
冒険者ギルドで脳筋馬鹿に絡まれで暴力沙汰・・うん。間違いなく
テンプレだ。
﹁てめぇ、リーダーに何しやがった! おもてにでろ!﹂
筋肉バカの仲間が殴ってきた。
バギャン。
おおお、問答無用だな。
筋肉バカAのこぶしが粉砕された。俺は身動きひとつしてない。
15人ほどの筋肉バカグループが殴りかかってきて手を粉砕骨折し
俺を投げ飛ばそうとしてる筋肉バカは、真っ赤な顔でフンガー・フ
ンガーといって踊ってる。
お前は怪物王子の部下か?
154
俺は何もしていない。
俺は普段は
﹁イテ! たんすの角に小指ぶつけた! ヒール﹂
って感じだが、自分がまったく意識しなくても戦闘になってしまっ
た瞬間から神を瞬殺できるステータスになってしまうのだ。
もちろん先ほどの人間削岩機みたいに自分から戦闘モードになるこ
とも可能。
結果何もしなくても攻撃してきた相手を粉砕できる。
魔王や古代種のドラゴンですら攻撃力は1万いかないぐらいなのに、
俺は守備力10万を超えて測定不能のレベルだ。
レベルも1206だ。
たぶんだが1207になるためはイーデスハリスの全人類を殺して
もなれない。
神を殺さないことにはもうレベルアップしないだろう。
ギルド職員に連れられてまた会議室に戻るハメに・・・筋肉バカ軍
団は地下室の牢屋直行だな。
まだ、出られそうもないな。
今度は冒険者ギルドのヨークル支部のギルドマスターのお出ましだ。
155
ギルドマスターがケンカ売ってくるんすけど・・・買ってもいい
っすよね?︵前書き︶
7・19修正しました。
156
ギルドマスターがケンカ売ってくるんすけど・・・買ってもいい
っすよね?
﹁いったいお前は何をしたんじゃ!﹂
﹁何もしてねぇーよ! 俺は殴られただけだ!﹂
﹁うそをつけ! 10人も骨折させて!﹂
﹁そんなことは知らん。俺は何一つ動いちゃいないし、おおかた骨
がもろくなってたんだろ﹂
﹁じゃから、聞いておろう! 何をしたんじゃ!﹂
後から入ってきた女性︵ババァ?︶が俺に怒鳴りつけてきた。
ギルドの職員達が入ってきて、事の一部始終を見ていた職員と冒険
者を連れてきた。
それで彼らも証言する。
﹁彼いっさい何もしていない。殴られただけだ﹂
﹁散々人を犯罪者扱いしやがって、俺の犯罪の証拠はどこからでて
くるんだ?﹂
﹁そんなはずない!﹂
と、怒鳴るババァに宣言する。
﹁よし! そこまで言うなら真偽官を連れてきてくれ。俺は全財産
をかけて無罪を証明する。クソババァお前も俺を犯罪者だと言うな
ら、全財産をかけてそれを証明して見せろ﹂
﹁ワシの全財産かけてもいいぞ、お前もせめて半額ぐらいの金額を
かけてもらうぞ! なかったら借金奴隷だがな!﹂
﹁わかった、賭け成立だな。俺はステータスカードに2億G近くあ
る! だったらババァは4億か?﹂
﹁な! ワシはそんなに・・・﹂
157
﹁お前も無罪の人間を犯罪者扱いするんだからな! しかも自分か
ら言い出した俺の全財産の2倍以上の金額をテーブルに置け!﹂
と言って、魔水晶を持ってきてもらい先ほど完了した依頼の報酬を
もらいステータスカードに記載した金額を見せる。ついでに犯罪者
履歴を見せて無罪を証明した。
で、クソババァに向き直って冷静に問いかける。
﹁さぁ、俺の犯罪を証明してくれよ﹂
完全にキレていた。部屋に後から入って来て名前も名乗らない、挨
拶もしない、俺を始めから犯罪者扱い。それで本日2度目の監禁だ。
それにこのババァは俺との会話︵怒鳴りあい?︶中に何度も強烈な
殺気をはなってきてた。
殺気で力ずくで俺を黙らせようとしたんだろう。
やり方がまったくもって気に食わん。
これ以上監禁するつもりならギルドの建物ごと破壊しようと考えて、
今度は俺の方から濃厚で呼吸も苦しくなるような濃密な殺気を放出
する。
あまりの状態に部屋にいた冒険者・ギルド職員は微動だにできなく
なった。
ロックオン状態のババァは息苦しいほどの殺気に滝のような汗が停
まる。
そもそも礼儀も何もない相手だ。相手が無礼なら礼儀はいらん。
﹁無罪の俺を犯罪者に仕立て上げようっていう冒険者ギルドのマス
ター様だ。さぁ、真偽官を呼んで俺に殴りかかってきた筋肉バカに
158
尋問してもらいましょう。さぞかし面白い調書が取れるんでしょう
ね。では真偽官を呼んでください。あ、ついでに早く4億をテーブ
ルに載せてください。賭け事はチップを載せて初めて成立しますか
ら﹂
﹁・・・すまん﹂
﹁すまんだぁ? まぁ、俺が気に食わないならそれでいい。しかし
言いがかりをつけるならそれ相応の覚悟でこいよ、クソババァ﹂
放出していた殺気をかなり抑えると、立っていた職員達が腰を抜か
す。
﹁クソババァ、会話中に何度も俺に殺気を放ちやがって、自分の考
えを押し通すためなら力ずくか? なんなら今すぐここで殺し合い
するか?﹂
﹁・・・﹂
ババァが悔しそうに押し黙ってしまい、何も言えなくなってるので
ギルド幹部に向かって問いかける。
﹁で、ギルドはどうしたいんだ? 俺を犯罪者に仕立て上げて筋肉
バカたちの治療費を請求。俺を牢屋にぶち込むのか?﹂
﹁・・・それはできません﹂
﹁じゃあ、どうするんだ? 冒険者ギルドの無抵抗の人間に殴りか
かって勝手に骨折。殴られたほうは慰謝料払うのか? ギルドのル
ールを教えてくれ﹂
﹁ギルド内での暴力行為は厳禁です。罰金になります。暴力行為を
されて怪我を負った場合は治療費と慰謝料が請求できます。今回の
早乙女様の場合は該当しません。MAXマッスルパーティーのチー
ムの方達も早乙女様に請求する権利は存在しませんので・・・自己
負担となりますね。それで暴力行為をしたものは犯罪として取り扱
われ牢に監禁されます。規定では3日ほどですが﹂
159
あの筋肉バカたちってチームだったんだ。確かに似たようなバカが
そろってた。
﹁じゃあ、質問を替える。俺を監禁して尋問しているこの場の理由
は?﹂
﹁ギルド側からの理由はありませんとしか言えません。なぜ?と問
われた場合は﹃ギルドマスターの独断と偏見によってこの場所で早
乙女様を犯人に仕立て上げる為に﹄としか言えません﹂
このギルド幹部、人の良さそうな風貌をしてるのに中身は敏腕弁護
士だったな。
俺に乗っかってギルドマスターを切りやがった。
普段からムカついてて相当我慢してたんだろう。
さらに俺もそれに乗っかって追い込むことにしよう。
﹁ギルドマスターが俺を犯人に仕立て上げる理由は?﹂
﹁・・・小遣い稼ぎと身内ビイキですかね。MAXマッスルパーテ
ひんしゅく
ィーのリーダーはギルドマスターの親戚です。好き勝手な行動をし
て顰蹙をかってました。何度か高ランクのチームに説教されてるの
を見ましたが、反省はいつもその場だけです。今回のことでも反省
はしないでしょう。必ず逆恨みしてきます﹂
﹁じゃあ俺も徹底的にやるしかないな。まずは今回のギルドマスタ
ーの犯罪未遂行為について冒険者ギルドに抗議する。ギルドからの
謝罪としてギルドマスターの罷免を要求する﹂
﹁ギルドでは被害者の要求と明確なルール違反の行為をする犯罪者
に対して、ギルドルールに従いギルドマスターを拘束します﹂
・・・ギルドマスターが暴れるかと思ってたが、すんなり拘束され
て連れられていった。
160
流石にこれ以上犯罪を重ねる気はなかったようだ。
今までの犯罪だけだったら罰金と首ぐらいだろう。
しかし、逆恨みしそうなタイプに見えたのでマーキングしておく。
これで近くにきたらMAPに表示されるからな。
一度、強烈な殺気を送ってやって縮こまっていたが、ギルド幹部と
の会話中も何度かにらんでたからな。
本気で痛い目を見せても時間がたったら忘れて逆恨みしてそうなタ
イプだな。
161
男の肉食は﹁狼﹂、女の肉食は﹁ライオン﹂っすか?︵前書き︶
18禁用ユーザネームさん、クンカさん、tomatoさん、Xr
eaderさん、こちらの話も修正させていただきました。これで
よろしいでしょうか?
7・19修正しました。
162
男の肉食は﹁狼﹂、女の肉食は﹁ライオン﹂っすか?
・・・はぁ、しばらく冒険者ギルドに顔出さないほうがいいんかな
ぁ・・・冒険者なのに。
なんてことを考えながらホテルに帰る。
ホテルに帰って晩ご飯。
今夜はスキヤキだった。そうきたか・・・てのが感想。何か違う、
何かがおかしい。
夜になって悶々としていることに気付く。
俺、溜まってきてたんだな。・・・イーデスハリスの世界にはどん
なエッチな店があるんだろうな。明日こそはヨークルの中を散策し
たいな。散策でエッチな店を探せるかもなと変態大国の日本人っぽ
いことを考えながら風呂を出て眠りにつく。
朝目覚めたのはドアのノックで目覚めた。
ホテルの店員が来客を告げている。
ほぇ? 誰だろ? 店員が告げた名前はアイリとミネルバとウルス
の親父の3人だった。
さっそくホテルのロビーに行き3人を確認、挨拶をしてから部屋に
招き入れる。
迎えに行くときに店員に朝食を頼んでおいたのでさっそく運ばれて
くる。
食べながら3人と話す。3人とだいぶ馴染めた様で少し嬉しい。
163
﹁早乙女おはよう。今朝2人が尋ねてきてお前の居場所が知りたい
ってことでな、早く来ないとお前が出て行ってるかもしれんから、
すぐに案内してきたんだ。俺もこのホテルのスイートルームの中に
入ってみたかったしな﹂
﹁朝早くからゴメンなさい。ちょっと家に居づらい理由ができちゃ
って・・・それと昨日はありがとう。母さんからも礼を言っておい
てと頼まれたからね。それでこんな時間になっちゃって﹂
アイリの言葉に少し引っかかったので聞いてみる。
﹁家に居づらいってまた何かあったのか?﹂
﹁昨日、カタリナ母さんをドミニアン司祭が治療したからね。もう
ドミニアン司祭が朝から突撃してきちゃってるんです﹂
俺の質問にミネルバが答えるのだが、よく意味がわからなかったの
で説明をしてもらった。
カタリナ母さんと言うのはアイリの母親で﹃カタリナ・クリストハ
ーグ﹄44歳。
カタリナは両親が首都シーパラの教会で教師だった。
14歳のときに両親がヨークルに異動。
その移動中に﹃モルガン・クリストハーグ﹄に助けられ、ベタぼれ
しての猛アタックの末に結婚。16歳でアイリを出産。
モルガンは身長2m以上のオーガみたいな大男だったらしい。
冒険者で﹃タンク﹄。ダンジョン攻略中の怪我が元で死亡。享年3
0歳。
アイリは盾の基本をモルガンに教えてもらった。
ミネルバは両親がモルガンと同じチームだったらしい。
26年前ミネルバが2歳のときにカタリナに預けて商人護衛の指名
依頼任務で突然ワイバーンに襲われて両親がともに死亡。
護衛対象の商人を逃がす為に奮闘したらしい。
それからは﹃カタリナ母さん﹄﹃モルガン父さん﹄に育ててもらっ
た。
164
同い年の2人は仲良く冒険者になってチームを組んでいる。
チーム名は﹃槍と盾﹄
ウルスとは家族ぐるみの知り合い。
モルガンの爺さんの頃からの付き合いらしい。
アイリがタンクでなくてシールダーになったのはウルスの影響。
それでカタリナは10年ほど前まで教会で教師をしていた。
ドミニアン・パルマ司祭はカタリナの教え子の1人で現在40歳。
ドミニアンはカタリナが初恋の相手で、ずっと恋してた。カタリナ
に少しでも近づきたくて教会で神父になった。
ドミニアンは回復魔法の適性が高く、現在メガヒールまで使える有
能な人物。
10年前にカタリナは役所にお願いされて就職。
ここ10年はほとんど会ってなかったみたい。
それが10年ぶりの再会が昨日だ。恋に恋して恋焦がれてた理想の
相手で初恋の人が死ぬ寸前だったんだ。
ドミニアンの恋心が絶賛炎上中らしい。
朝も早くから家に来て甲斐甲斐しく世話する押しかけ女房してる司
祭って感じらしい。
以前からアイリもミネルバもドミニアン司祭を知ってるし、応援も
してるので気を使ってここに来たってのが真相だった。
﹁朝っぱらから盛ってて、仕事はいいのか司祭﹂
盛り過ぎだろ司祭。ストーカー予備軍か?
思わずつぶやいてしまった。
﹁今日は元々休みだから早朝から突撃してきたんだって﹂
165
﹁朝から元気すぎるだろう﹂
﹁だけど・・・上手くいくと私の家名が変わるのかな? アイリ・
パルマ?﹂
﹁2人とも女だろ。年齢的にも﹃結婚﹄して家名が変わるんじゃな
いのか?﹂
グサッって俺にも音が聞こえた。2人にダメージが入ったみたいだ
な。
明らかに凹んでる。痛恨が入ったな。
﹁そりゃそうだ。じゃあ2人とも早乙女に結婚してもらって﹃早乙
女﹄の家に入ればいいじゃん﹂
今朝の朝食のご飯・味噌汁・魚の干物・冷奴を食べ終わって、マッ
タリと番茶を飲んでる俺の頭をポンポンと叩きながら好き勝手なこ
とを言うウルスの親父に即座に反応する女が2人。
﹁﹁いいの?﹂﹂
﹁ないない。知り合ったばっかじゃねーか﹂
ここはがっつかないようにしないとな。断っておく。
﹁・・・ボソッ︵そうね、まだ知り合ったばっかだし、これからゆ
っくり・・・でも私達に時間は︶﹂
﹁・・・ボソッ︵ちっ、なかなか攻略が難しい・・・情報が欲しい
わ。せめて好みのタイプでも︶﹂
2人が小さな声でつぶやいてる事が聞こえてしまうが聞いてないこ
とにする。
﹁ん? まいっか。それにしても家の状況がそんな感じじゃパーテ
ィーなんてできないよな﹂
﹁そうなんだよ早乙女。それも俺が聞きたかったことだ。カタリナ
166
の容態だけでなく家庭事情まで落ち着いてからパーティーしないか
?﹂
﹁﹁パーティー?﹂﹂
アイリとミネルバの大きな声の疑問には俺が答えた。
﹁昨日の騒動が片付いた記念でみんなでパーティーしようぜって提
案したんだよ。でもそこまでこのヨークルにいたいと思わないから、
どうせだったら今夜ここでパーティーしないか?ここの防音設備は
凄いって評判みたいだし﹂
﹁﹁﹁ここでいいのか? いいねぇ﹂﹂﹂
﹁聞いた話では、ここって持ち込みも自由だからな。それは最高だ
ったと言えるパーティーにしよう!﹂
﹁﹁﹁いいねぇ! いいねぇ!﹂﹂﹂
これでこの3人と俺のパーティーが決定した。
﹁ヨークルに長く居たくないって言ってたけど何かあったの?﹂
﹁昨日ギルドマスターにケンカを売られたんだよ﹂
ミネルバの問いかけに俺が答えると3人が食いついてきた。
﹁﹁﹁なにそれ、どういうこと︵だ︶?﹂﹂﹂
俺は昨日3人と別れてからギルドで起こったことを話す。
﹁﹁﹁大至急ギルドに行こう。あのギルマスのババァはトドメを刺
しておかないと﹂﹂﹂
﹁は?﹂
俺の疑問の声がむなしく響いてた。
167
男の肉食は﹁狼﹂、女の肉食は﹁ライオン﹂っすか?︵後書き︶
アイリとミネルバは早乙女に惚れたのではなく、まだ計算が働いて
ます。
ヨークルにふらりと来て高級ホテルのスイートの連泊できる経済力。
顔は悪くない。戦闘力は目で見ることすらできないレベル。
頭は自分達の絶体絶命の窮地をサクッと通りがかりで救える。
宿泊するホテルの話を知るまでは﹁頼りになる可愛い弟﹂。経済力
を知った瞬間に肉食のスイッチONです。ロックオンしてます。
年が年なんでかなり焦ってます。
おや、こんな時間に誰か来たようだ・・・。
168
ギルド騒動のその後っす。︵前書き︶
18禁用ユーザネームさん、クンカさん、tomatoさん、Xr
eaderさん、こちらの話も修正させていただきました。
これでよろしいでしょうか?。
7・22修正しました。
169
ギルド騒動のその後っす。
どうせ冒険者ギルドに行くなら万全の装備で行った方がいいとウル
スの親父に言われて、俺はウルスの親父の店で買った甲殻鎧を装備
して腰にカタナを帯びる。
アイリとミネルバは今日はワンピースを着ていたので・・・良かっ
た。綺麗だった。
しかしあの爆乳はけしからん。
2人共だ! まったくもってけしからん! 意識して目を逸らせる
ようにしてないと、自然に目線が吸い込まれてしまう。
俺は決して巨乳マニアではない。おっぱいは大好きだ。
﹃おっぱいに貴賎はない﹄
名言だと思う。
歴史の教科書に載せて未来永劫称えるべき名言だ。
おっぱいに貴賎はない。まさしくそのとおり。大きいおっぱいにも
小さいおっぱいにも夢はいっぱいおっぱいに詰まっているのだ。
ツルペタもおっぱいだ貴賎は存在しない。
が、ロリはダメだ。除外だ。
・・・ふぅ、何かの衝動に突き動かされてなにか熱く語ってしまっ
た。
とりあえず、アイリとミネルバは防具を装備するために1度家に帰
る。ウルスの親父も憤慨してて装備を整えてから来ると言って出て
170
いった。
俺は紅茶を飲んで待ってた。腰のカタナは無論外した。ソファーに
は座れないしな。
ゆっくり待ってホテルを出る。
ホテルの入り口の門の横にたたずんでいたらみんなが来た。
フル装備だ。
頭装備までしてる。フェイスガードは上に上げてるが、完全装備だ。
ミネルバにいたっては長槍装備だ。ウルスの親父もアイリとほぼ同
じ装備でアイリとは体格差の関係上、盾の形が違う、だがシールダ
ーの完全装備だ。
ウルスの親父が俺に頭装備をくれた。
﹁サービスだ。受け取れ﹂
ラグビーのヘッドギアみたいな装備で額と後頭部には俺の鎧と同じ
甲殻が固定化してある。
﹁じゃあ行くぞ!﹂
ウルスの親父の掛け声とともに冒険者ギルドに向かう。
ウルスの親父・150cm
俺170cm
ミネルバ183cm
アイリ184cm
の、順番でちょうど背の高さ順に並んでいた。
前衛シールダー・中衛カタナ・槍・後衛シールダー
敵のバックアタックも怖くない最強の布陣だな。
おのおの方、討ち入りでござる。
171
冒険者ギルドに到着。外から見てもわかるぐらいに混んでた。
すげーな朝はいつもこんなに混んでるのか?
周囲の人たちは依頼票をまったくみてない。
﹁あのババァのトドメはきっちり・・・﹂
聞こえてくる声はアイリたちと同じようなこと言ってるな。
なにかあったんだろうな。
理由は物凄く簡単で単純なことだった。
クソババァと筋肉バカ軍団は以前も同じような騒ぎを起こしている
のだ。
そのときはBランクのチームの新人相手にからんだ筋肉バカ。
新人とはいえBランクのチームに入れるほどの有望新人。
あっさりと気絶させられて捕まり牢屋に入れられた。
その時もギルドマスターが昨日の様に散々有望新人相手に難癖をつ
けまくった。
筋肉バカの攻撃はまったく当たってない。
当たった攻撃は筋肉バカ軍団を気絶させた新人君のチョップの攻撃
だけ。
だから真偽官の受け答えの質問を都合のいいように変えて暴力を奮
ったのは新人君。やられたのは筋肉バカ軍団と話をすり替えること
に成功。
そして逮捕した職員は首になった。
クビの理由は﹃誤認逮捕﹄ってやつらしい。
新人君に損害賠償を請求しBランクチームには指名依頼以外は受け
させないように、ギルドマスターは毎日受付窓口の横に立って嫌が
172
らせを続けたらしい。
もともと優秀で指名依頼が絶えないBランクチーム。
新人君の賠償金をあっさりと支払い、自分達と同じようにヨークル
の冒険者ギルドを見限った知り合いのチーム多数も引き連れて本拠
を首都シーパラにうつした。
BランクチームはいまやAランクにいるし新人君だった男はもうC
ランクで近々Bになるだろうと言われてる。
それで本拠を移動した人たちもみなランクアップしている。
その彼らが﹃冒険者ギルドのヨークル支部は信用ならない﹄という
のだ。
真実だから反論できない。
他の人間に聞いても皆が同じ事を言うのだ。
ギルド職員としてはたまらない。一番上の人間が自らギルドの信用
を率先して貶めて泥をぬってるのだ。
しかもルールに従って行動した職員は首にされてしまう。これも事
実。
冒険者にとってもたまらない。降りかかる火の粉が払えないのだ。
逃げ続けるしかない。
だからこそのこの騒ぎなんだと。
﹁目を離したら牢屋から逃げるかもしれないから俺も牢屋を見張ら
せろ﹂
﹁個室での取調べは信用ならないから大部屋で大人数の前で取調べ
をして調書をとれ﹂
みんなこんなことを口々に言って集まってくるのだ。冒険者も、非
173
番のギルド職員も。
俺の場合は筋肉バカの攻撃でリーダーのはじめの突き押しだけかわ
して、後は動かずに殴られ続けただけ。
筋肉バカ軍団の攻撃はほぼ全て当たっている、その目撃者数は多数。
俺が殴られているところをみんな見ているのだ。
それでもあのババァの事だから、どんな言い訳をして逃げ出すかわ
からない。
どんな行動をして逃げ出すのかわからない。
だから取調べの立会いを俺にもさせてくれ。じゃないとまた戻って
くるかもしれない。
絶対にここでトドメをさしてヨークルから追放したい。この国から
追放したい。
あの筋肉バカ達も同じだ。ババァが治療を目的に逃走させるかもし
れない。
大混雑の冒険者ギルドの中でギルド職員に何とか話しをする事がで
きた。
ババァは凄くおとなしく取り調べもすんなりしていて、自分の罪も
全部認めてるし、過去の罪も告白している。機密費などのギルドマ
スターがある程度自由にできるお金を、自分の親類に融資していた
り、さらに内部留保の予算も使い込んでるとも告白している。
ババァはひどくおびえてるらしい。
逮捕されるとき暴れると思っていたので思いっきり殺気を放ってい
たからな、俺。
反抗すれば殺してOKなんて考えてました。
しかし、それにしても・・・ババァ好き放題やりすぎ。
174
ババァが3年前にこのヨークルに赴任してから、ババァの親戚は1
00人以上ヨークルにやってきてる。その全員が自宅待機の軟禁中
で監視下に置かれている。
監視しておかないと好き勝手にやってきた連中だから誘拐されて始
末される可能性がある。
現に10人以上の親戚と言っていた人間に連絡がつかない。
逃亡してる可能性はすこしだけある。
殺して外にポイ・・・イーデスハリスの世界では、これでほぼ完全
犯罪なのだ。
人間は生きてるとアイテムボックスには入れられないが死体なら入
れることが可能。
アイテムボックス︵極小︶サイズの人でも人間1人ぐらいなら折り
曲げれば入れられる。
ダンジョンで魔獣との戦いに敗れて亡くなるとステータスカードが
残るが、それは生きてダンジョンに入ってきた人間だけ。
死体で入ってきた場合は残らないのだ。
おびえたババァが何もかも全て告白してるのでヤバイ連中は始末さ
れてるかもしれない。
ババァも今は冒険者ギルドの牢屋にいることで安全だと思ってる。
俺、なんか気が抜けたな。
﹁なんか気が抜けた。これだけの人間がいたんじゃババァも流石に
何もできないだろ﹂
﹁確かに気が抜けたなぁ、俺なんて久しぶりにフル装備して気合入
れてきたのに﹂
﹁だね。気合入れた分だけ・・・ね﹂
﹁ホントだよねぇアイリ。はぁ、気抜けちゃったねぇ﹂
175
ギルド騒動のその後っす。︵後書き︶
その場の思いつきだけで書いていますので、話の中の設定で矛盾し
てる部分はあると思います。
ありましたら教えてください。感想も受け付けています。誤字脱字
も教えてください修正します。
豆腐メンタル以上にもろくて自分にあまい﹃生クリーム﹄メンタル
な作者なので、お手柔らかにお願いします。
176
俺には帰るべき巣ができたんだ、こんな嬉しいことはない! っ
す。︵前書き︶
18禁用ユーザネームさん、クンカさん、tomatoさん、Xr
eaderさん、こちらの話も修正させていただきました。これで
よろしいでしょうか?。
7・22修正しました。
177
俺には帰るべき巣ができたんだ、こんな嬉しいことはない! っ
す。
﹁じゃあさ、これからみんなでパーティーの準備しない?﹂
俺のこの一言が祭りの始まりだったのだろう。
すぐさま﹃お祭り﹄準備委員会を立ち上がる。
準備委員会実行委員の4人は家︵俺は宿泊してるホテル︶に戻り、
フル装備からお祭り実行委員としての作業服︵汚れてもいいってだ
けの服︶に着替えて集合。
楽しむ為に準備は怠らない・・・実行委員の4人の思いはひとつだ。
たくさんの種類を買い込むためにヨークルの食料品市場に行く。食
材・調味料などの売り場を4人で歩き回り買い込んで行く。俺は欲
しかったモノもついでに買っておく。またこれるようにMAPに入
力。
酒も豪快に買った。樽で買った商品もあるしビンでも購入してる。
後は料理。俺はホテルに帰り料理スキルを使い次々作っていく。デ
ザートも忘れずに作っておく。
アイテムボックスでどれほどの量でも保存ができるので作り溜めし
ておく。
ウルスの親父も家に帰る。
おかみさんもご招待ではなく実行委員の1人だ。家で自慢の料理を
作っているので準備が終わり次第、一緒に祭りに合流の予定だ。
アイリとミネルバも家に帰ってジュースや料理を作ったりする。カ
タリナも俺に御礼が言いたいそうなので、少しだけだが来るそうだ。
178
ドミニアン司祭が馬車で送り迎えするんだと。
そのドミニアン司祭が真偽官も連れてきてくれるそうだ。
俺・アイリ・ミネルバ・ウルスの親父・おかみさんがそろったとこ
ろで﹃祭り﹄は始まった。
まず乾杯の前に俺からの提案でみんなの呼び方をかえよう!
相談した結果・・・
俺はアイリをそのまま呼び捨て。アイリは俺のことを﹃しんいち君﹄
と呼ぶことに。
俺はミネルバを﹃ミー﹄。ミネルバは俺を﹃しんちゃん﹄。
ウルスの親父は﹃おやっさん﹄。アイリとミネルバもおやっさんと
呼ぶことに。
ウルスの親父は俺を今までと変わらず﹃早乙女﹄。
ウルスの奥さんでドワーフとクマ獣人のハーフ﹃ガルパシア・ピ二
リー﹄って名前のおかみさんはやはり﹃おかみさん﹄。アイリとミ
ネルバもこれからはおかみさんと呼ぶことになった。
おかみさんは俺を﹃早乙女君﹄。
これに決定した。これが各々が呼びやすくて妥協し決定した名前の
呼び方だった。
こうして打ち解けあいそして俺は﹃転生してきた人間﹄であること
をみんなに告白した。
これまでの全てをみんなに聞いて欲しかった。
会ってからの時間はまだ少しだけど、自分が信頼できると直感で判
断した人には聞いてほしかった。
それに、彼ら4人なら秘密を共有してくれるかもと期待したからだ
179
った。
俺の秘密は俺だけに閉じ込めておくには大きすぎる。
神を4人殺したこと。
神に運命を弄ばれて神を怨む転生した人たち、何十人もの記憶と経
験が俺の中に生きてること。
何十人もの彼らは自分が得た経験や知識を﹃殺す﹄事だけじゃなく
﹃生かす﹄事に使って欲しいことに俺に願い託し、俺の中に全てを
コピーしたこと。元々生きていた地球と言う場所では35歳だった
こと。
そしてこの世界に来て盗賊を銀大熊を退治して大金を稼いだこと。
エクストラヒールを使いゾリオン村の2人を治療しゾリオンに信頼
されてカタナをもらったこと。
全てを離し終えた今ならわかる、
俺誰かに話したかったんだな。仲間がほしかったんだなぁ。
こんな俺だけど、これからもよろしくお願いします。って言って頭
を下げたら4人は俺を抱きしめてくれた。告白してくれて、教えて
くれてありがとうと抱きしめて俺を受け入れてくれた。
﹁早乙女君が15歳だって聞いてたから遠慮して言わなかったけど、
私達は秘密を共有して仲間になった。だから早乙女君にお願いがあ
るの。アイリとミネルバと結婚してもらえないかしら。2人とあな
たが結婚する。私達夫婦が仲を取り持つ。これで私達はみんなでひ
とつの家族になれるのよ!﹂
﹁結婚? 何かいきなり話がぶっ飛んでるような気がするんだけど・
・・﹂
﹁諦めろ。ああなったピニリーはかえられない。まず﹃結論ありき﹄
だ﹂
180
おかみさんのいきなりな提案に俺がストップをかけようとしたが、
逆におやっさんにストップを止められてしまう。
﹁正直、俺にはとても魅力的な話だと思う。俺はこの世界に家族と
呼べる存在がいない。だから帰るという場所がないんだ。俺は旅が
好きだ。いろいろな場所に行って見てみたい、触れてみたい、体験
してみたい。だけど俺には帰る場所がない。帰る場所がない旅はし
たくない。だからこそ今の話はとても嬉しい。・・・だけど、2人
の奥さんをいきなりもらってもいいのか?﹂
﹁早乙女、この世界はお互いが了承すれば結婚相手が何人いたって
いいんだ﹂
﹁﹁私達じゃダメかな?﹂﹂
﹁逆だよ逆。俺でいいのか? 俺でいいなら俺と結婚してください﹂
﹁﹁よろしくお願いします﹂﹂
こうして俺はファミリーができた。
﹁でも結婚ってこんなに簡単に決めていいのかな﹂
﹁いいんだよ。結婚はこの人だ! って決めた人とすればいい。私
もウルスとそうだったんだし。あとは教会に行って神様に報告する
だけ。何も難しくない。一緒に暮らしてから、ダメだと思えば1人
で教会に行って無理でしたって言えばいいだけ﹂
イーデスハリスの世界では意外と結婚と離婚についての感覚が緩い
みたいだな。
恋愛のほんの少し先にあるって感じ。慰謝料とかグチャグチャした
部分もあるみたいだが凄く珍しい話でほぼないらしい。
離婚時の話し合いは教会で真偽官が立ち会うためにウソがない、す
ぐばれるので意味がない。財産などの数字的問題は離婚話し合い時
の真偽官に計算されて終わる。
181
﹁結婚したからには新居がねぇーとなぁ早乙女? 予算はどうする
?﹂
﹁お願いします。予算の前に税金ってどうなるの?﹂
﹁所属するギルドによって税金は違う。冒険者なら家賃に税金は含
まれない。冒険者はギルドで依頼を受け依頼報酬で生活してる。依
頼報酬には何割かの税金がすでに引かれてるんだ。だから依頼達成
ごとに税金は払ってることになるから家賃への税金はない。これは
冒険者が賃貸で部屋や家を借りた時に払う税金だな。宿屋は別だ。
宿屋は料金の中に税金が入ってる﹂
﹁それで商人だと売り上げで税金が変わる。この世界にお金ってモ
ノはない、だから商人の売り上げや仕入れの支払いは商業ギルドが
発行してるカードで行う。売り上げの中から一定の金額を税金とし
て支払う。残った儲けの金額で家賃の税金が決まってくるんだ。商
人が店舗とは別の家を自宅として借りてる場合は同じ税金がかかる。
商人の自宅や店舗の購入の場合は購入時に税金がかかり購入金額に
加算されている。買ってしまえばその後の税金は永久にないな﹂
﹁農業ギルドや漁業ギルドの場合は・・・スマンがよくわからんな。
収入によってかわってくるって話だな﹂
﹁それで家購入の場合はどのギルド所属でも一緒で購入時の金額に
全て含まれている。で、早乙女はどうする?﹂
﹁家を買いたいですね。土地だけでもいい﹂
﹁土地だけでいいってどういうことだ?﹂
﹁建築スキルがあるから、どんな家でも自由自在だ﹂
﹁それはやめたほうがいいな。建築スキルは持ってる人間が少なす
ぎて、この国では希少なスキルなんだ。金持ちがスカウトに来て面
倒なことになるぞ? だから、使うなら内装だけにしておけ。内装
だけの改築スキルを使う人間はこのヨークルでも何人かいるから騒
ぎになりにくい﹂
俺は気楽に考えていたがおやっさんに否定されてしまった。
もっともな話だから反論すら出来ない。
182
﹁じゃあ、そうしましょう。予算は・・・1億ぐらいですね﹂
﹁わかった。商業ギルドにいる知り合いに話をしよう。紹介するよ﹂
﹁色々決まったけど、明日は教会に行って報告ね。明日、ホテルを
引き払ってから店に来てね。一緒に教会に行って﹃私達も家族がで
きました﹄って報告するのよ!﹂
﹁おやっさんとおかみさんも一緒に行くんですか?﹂
﹁早乙女、すまんな。ピニリーは初めての妊娠中に流行り病にかか
って死産になったんだ。それから妊娠できない体になって・・・お
前を息子認定してしまった。スマンが諦めてくれ﹂
﹁へ? 妊娠できない? 大丈夫! できますよ。ほら﹃エクスト
ラヒール﹄﹂
おかみさんが薄く光る膜に包まれて、膜が体に吸い込まれるように
して消えていく。
﹁﹁エクストラヒールって、不妊にもきくの︵か︶?﹂﹂
2人の当然な疑問に俺の中にある知識と経験で答える。
﹁ハイ。大丈夫です。おやっさんとおかみさんは今、いくつですか
? 平均な寿命も教えてください﹂
﹁俺は312歳、ドワーフだからな。あと200年ほどは生きられ
る﹂
﹁私は283歳、ドワーフでもクマ獣人とのハーフだからあと10
0年ほど生きられるわよ﹂
﹁じゃあ、あと50年は妊娠できますね。子供も20人までぐらい
なら大丈夫です﹂
﹁﹁今からでも妊娠できるんだって? 本当なのか?﹂﹂
﹁ちょっと! 掴んで揺らさないでください。大丈夫です。妊娠で
すから絶対とは言えませんが、妊娠・出産はあと50年は可能です。
俺の中にある﹃医者としての知識や経験﹄に基づくものですから間
違いありませんよ。大丈夫です! 妊娠できます!﹂
183
泣きながら崩れ落ちるおかみさん。それを支えるおやっさん。美し
い家族の光景だ。
できれば2人の子供が間に入ってくるのが望ましいと思う。
だから俺は迷うことなくエクストラヒールを使った。不妊に絶大な
効果ありって知識にある。
184
女房が2人できたっす。エッチはこれからっす。︵前書き︶
7万文字を超え29話にして初エロ。お待たせしまして誠にすみま
せん。
しっかし、俺に18禁エロ小説を書く才能があるのか?。
6・13修正しました。
7・24修正しました。
185
女房が2人できたっす。エッチはこれからっす。
﹁明日はみんなで一緒に教会に報告しに行こう。神様に報告と感謝
をしないとな﹂
そういって俺はおかみさんを元気付かせ、これからは待ちに待った
祭りだ。レッツパーリーだ。
乾杯してからまずは﹃きき酒﹄をしてみる。
いっぱい購入した酒を次々と開けていろんな種類の酒を楽しむ。
そこに来客がきた。カタリナとドミニアン司祭と真偽官だ。
カタリナの顔色はかなり良くなってる。流石の通い妻、司祭の献身
的な介護のおかげだろうな。
俺はカタリナに今回の騒動のお礼を受け取る。俺はほとんど何もし
ていない、ドミニアン司祭の治療のおかげですよと、謙遜しドミニ
アン司祭も持ち上げておく。意外とお似合いのカップルに見えるし、
もしかして今後﹃お義父さん﹄なんて呼ばないといけなくなるかも
しれないからな。
カタリナに定番の挨拶を言ってみた。
﹁娘さんを僕にください!﹂
つーか、今まで言いたかった言葉の一つだ。アイリではなく愛梨の
実家に行ってお付き合いの報告はしていたが結婚の挨拶はしたこと
がなかった。
物凄く緊張したがキチンと言えた。
﹁カタリナさん、アイリとミネルバ、2人を僕にください。必ず幸
せにします﹂
186
はじめは意味がわからず困った顔をしていたので、アイリとミネル
バがそろって﹃私達結婚します﹄って言って俺の手を握ってくれた。
そこで理解して了承してくれた。
ドミニアン司祭が少し悔しそうな顔で俺を見ていたので、まじめな
顔で司祭の目を見つめ返してやった。
∼お前も言えよ。頑張れよ∼
と、目線に込めてみたら、ドミニアン司祭は小さくうなづいていた。
アイコンタクト成功か?
今後のドミニアン司祭の頑張りに期待しておく。
真偽官は騒動のその後を教えてくれた。
役所の人間でまだ逮捕されてなかったボンボンの父親だ。
真偽官で逮捕にいける人間全員︵6人いたそうだ︶と、ヨークル警
備隊の人間、役所の上司・同僚・部下などの山ほどの人間が見守る
中の逮捕劇だ。
野次馬もたくさんいて凄かったらしい。
あれだけ普段はネチネチネチネチとイヤミを言いまくって威張って
いた人間が、土下座して許してくださいと鼻水まで垂らしながらお
願いしたそうだ。
そんなことで許されるわけがないが、しかし皆が皆﹃すっとした﹄
と言っていたらしい。
カタリナも見たかったと言ってた。
それでまだ安静にしなくてはいけないカタリナと付き添いのドミニ
アン司祭。仕事の途中でご飯を食べて俺に昨日の続きの話がしたか
っただけの真偽官が帰っていった。
カタリナには新居が決まったら、今度は実家にこちらから挨拶に行
きますと言っておいた。
187
それからはマッタリと5人で会話しながら酒を飲み、笑いながらつ
まみをつつき・・・
おかみさんもアイリもミネルバも料理は普通に美味しかった。
俺の料理は絶賛してもらえたが、料理スキルをマスターしているお
かげだと言っておく。
夕方のいい時間になったのでおやっさんとおかみさんは帰っていっ
た。
おやっさんに﹃がんばれ!﹄って言ってハイポーションを渡してお
く。今夜から子作りに頑張らないといけないからな。10本ほどだ。
おやっさんも﹃お前もな﹄と言ってた。
﹁今夜はどうする? 帰る?﹂
アイリとミーに今夜の予定をとりあえず聞くが、もちろんホンネは
帰したくない。
﹁帰らない。帰りたくない。しんちゃんと一緒にいたい﹂
﹁私も帰りたくない。しんいち君と一緒にいたい。独身最後の夜を
3人で遊ぼうよ!﹂
﹁アイリ、三人で遊ぶってなにをするんだ?﹂
アイリが俺に抱きついてきた。
負けじとミネルバも俺に抱きついてくる。
アイリとミネルバの2人に交互に抱きつかれたり、2人同時に抱き
つかれたり・・・最初は﹃バードキス﹄
鳥がくちばし同士を当てあうように唇と唇が触れ合う。
これも交互にしたり3人でしたり、アイリとミネルバがしてるのを
見てたりしてた。
誰がきっかけかわからないが少しずつフレンチになって舌を絡めあ
188
う。ディープキスとなり唾液の交換会。3人で舌を絡めあう。唾液
が糸となって下に落ちる。お互いの唾液を飲み飲まれ交換会が終わ
る。
俺が﹃3人でお風呂に入ろう﹄と提案したからな。女と風呂に入る
のが大好物なんです。
了承して服を脱ごうとする二人を止める。俺が脱がせたい。
まずはアイリから脱がせてミネルバ。俺は2人に脱がせてもらう。
パンツを脱いだらバチンとへそに当たる。さすが15歳の肉体。
バッキンバッキンだ。これが若さだな。
これは唾液交換会の前の2人に抱きつかれた時から臨戦態勢だった。
それに今は目の前に4つものマウンテンがある。
山頂は年齢的に少し赤黒いが・・・たゆんたゆんしてるのだ。
2人が少し体を動かすだけでフニャリと形を変えるマウンテンが俺
を天国へと誘ってるからな。
だから、すでに先端から我慢汁が糸を引いてる。ダラダラレベル寸
前だ。
﹁ふふふっ、もう、元気ねぇ﹂
﹁ああ、ミーやめてくれ。15歳の体なんだ。ここではやばすぎる﹂
ミネルバが俺の股間を握り﹁ムキッ﹂ってしただけでやばかった。
俺のはハーフコートを着ている。
普段はロングコートを着用している。
うん、ごめん仮性包茎だ。
15歳に戻ったから仮性包茎に戻ったではなく、日本から転生して
きてもここは変わってなかった。
189
15歳のときのビンカン君が復活しただけだった。
神様の意地悪!!
どうせなら・・・なんて思ってたけど・・・これは愛着のある俺の
ものだからな。
暴発してもすぐ復活できる体力自慢の俺の現状だが、ここでの暴発
は流石にな・・・。
まだ、リビングにいてチュッチュしてたからな。ここでの暴発は後
の掃除がイヤ過ぎる。
俺がミネルバの手首を押さえて止めたので﹃大丈夫?﹄と2人が俺
を覗き込んでくる。
マウンテンが凄いことになってるな。
﹁ここじゃマズイから、お風呂に行って綺麗にしよう﹂
両手に花の状態で手を引っ張り風呂に連れて行く。
190
女房が2人できたっす。エッチはこれからっす。︵後書き︶
18禁エロ小説のボーダーラインがわかりません。
どこまで表現できるのだろうか。
191
お風呂でのイチャラブも大好物なんす!︵前書き︶
7・24修正しました。
192
お風呂でのイチャラブも大好物なんす!
お風呂に行って最初は俺の体を洗ってもらう事になった。
・・・ムリでした。
2回も暴発してしまった。ビンカン君復活はヤバイ。
けど、若さゆえの過ちですぐ復活してしまう。
俺が﹃あああっ!﹄と﹃あっ!﹄って大きな声を出してたので面白
がった2人の片方が羽交い絞めして片方がこする。暴発。
ってのを2回もさせられた。
背中にマウンテンが当たり、屈んだ片方の顔面に発射。
﹁クスン・・・もう、おムコにいけない﹂
と崩れ落ちながら言ったら
﹁いやいやいや。明日からもう私達のモノだし。旦那だし﹂
ってミーに冷静に言われた。
異世界じゃこのネタは少しムリがあったな。
ツッコミがあっただけマシか?
悔しかったから・・・
﹁フ、フンだ。勝ったと思わないでよね﹂
とツンデレしといた。2人にニヤニヤされちゃったけど。
いろんな意味で負けたみたいで凄く悔しかった、もちろん2人を洗
うときは反撃しましたよ。
体は15歳のビンカン君でもエロテクと知識と経験は35歳のオッ
サンですからバッチリ。
石鹸︵異世界でも石鹸はあった。ヨークルには︶の泡で全身を懇切
193
丁寧に洗う。頭の先から足の指先までマッサージつき。俺も2人を
2回はイかせないと負けてると思ったので焦らして焦らして・・・。
アイリは乳首が弱点だと思う。
胸のマッサージをしながら中々乳首を触らないように、しかし時々
チョンと触れる。散々焦らして最後に乳首を引っ張りながらギュっ
って強く摘んだら盛大にイった。ビクンビクンしてて可愛い。
2回目はクリトリスをつつきながらまた、乳首を強く摘んだときに
潮を吹いてイった。
横でイスに座って見てるミーがギラギラとした獣の目で俺達を見て
た。
ミーは足だと思う。
上半身を洗っているときはビクビクするぐらいで反応が薄かった。
下半身にいくと一変した。
ミーの引き締まった足に泡をつけたときから凄かった。
触るだけでビクビク。
泡を擦り付けながらマッサージすると大きな声があがる。足首をマ
ッサージしながら足の指の間4つに俺の手の親指以外の指を潜り込
ませるようにしてイった。
﹁んあああああ!﹂
と、大声を上げた。
トドメの2回目はミーを立たせて俺はミーの前に跪いて、両手の親
指を足の内側の付け根のリンパにこすり付けてマッサージしている
とビクンビクンし始めたので、トドメに右手の親指をクリトリスに
擦り付けたときにイった。
﹁んあああ! イヤー、ダメーー﹂
目の前で屈んでいる俺に持たれかかりながら大声を出しておしっこ
194
をジョロジョロと漏らしてた。
とっさに﹃洗浄&浄化﹄と二つの魔法を使って匂いとおしっこの汚
れを落とす。
動けないでいるミーをお姫様抱っこでお風呂に湯船に入れる。お風
呂の淵に頭をのせた。
ミーと俺をイスに座ってモジモジフトモモを擦リあわせていたアイ
リもミーと同様に動けないようだったので、同じようにお姫様抱っ
こで風呂に運ぶ。
俺は横に並ぶ2人の上に身を置き足を伸ばす。両手に花、両肩はお
っぱいの上にある。おっぱいクッション最高だな。フワフワ浮いて
るし。
さすがスイートルーム風呂の湯船だけでキングサイズのベットぐら
いの大きさがあるのだ。
2人は俺の体に抱きついてくる。
このフニャンとたゆんたゆんするおっぱいは最高だ。子供が生まれ
るまではもう俺だけのモノだけどな。
子供が生まれても子供に﹃貸す﹄だけで、すぐに返してもらうけど。
俺のモノなんだから当たり前だ。
﹁もー、しんちゃんヒドイよ。ダメだって言ってたのに﹂
﹁ごめんね。ちょっと調子に乗りすぎたな。おたがいに! 俺もや
めてって言ったけど止めてもらえなかったからな。悪いが仕返しだ﹂
﹁んー、でも私は気持ち良かった。こんなの初めてだった。今まで
の体験は何だったのだろうってぐらいに強烈だった。なんかフワフ
ワしてて浮いていて、頭の中がパーン! って最後は弾けた﹂
アイリがフワフワに溶けた笑顔でさっきの感想を言ってる。
﹁それは凄くわかるよ。フワフワと空を飛んだらこんな感じなのか
と思った。これは強烈。やばいって私、15歳の子にメロメロにさ
195
れちゃった﹂
そういってちょっと顔を蕩けさせてギュッと抱きついてくる。
2人に抱き疲れながら、こういうのもいいなぁと単純に考える俺。
まだ誰も色をつけていないキャンバスに色をつけて自分だけの色を
塗っていくのは楽しいだろう。だけど、暮らしの中で色々な色をつ
けて独自の色彩を放っているキャンバスを自分だけの色に塗りなお
していくのも楽しい。
直接的な言い方だと・・・
性というのをほとんど知らない女の子を自分だけがセックスを教え
るというのも楽しいだろう。
だけど、暮らしの中で色々と性を学び付き合った男にセックスを教
えられ自分なりのセックスを持っている女性。
その女性に新たなセックスを教えて俺のセックスで染め上げていく
のは楽しい。
人それぞれの解釈の違いだろうけど俺には楽しい。
俺は2人から少し離れて向き合い、おっぱいの大きな女性に1度聞
いてみたかったこと・その1を聞いてみる。
﹁話に聞いてはいたんだけど、やっぱりおっぱいってお風呂で浮く
んだね﹂
﹁うん。あっ! そうだよ。おっぱいは水に浮くよ。浮いてると凄
くあっ! 楽なんだ﹂
アイリが時々声を上げる。フワフワ浮いてる二人のおっぱいを下か
ら持ち上げたりタプンタプンと揺らして遊びながら、俺が話をして
いるからだろう。アイリは乳首だけじゃなくおっぱいが弱いみたい
だな。
﹁楽だよねぇ。普段肩こりが酷いしね。そうだ! 新居はお風呂が
196
大きいところがいいな﹂
﹁任せろ。10人以上が足が伸ばせるぐらいの風呂が良い﹂
﹁ん? しんいち君はハーレムを作るの?﹂
アイリがジト目で俺を睨む。
﹁俺も男だからハーレム願望はあるよ。この先どうなっていくのか
わからない、でも、新しく好きな女ができても2人を捨てる気はな
いよ。﹃2人は俺の女﹄これだけは断言できる。独占欲が物凄く強
いだけなのか?﹂
﹁ふふふ。しんちゃんは独占欲は強そうだね。今も私のおっぱいか
ら手を離さないし。しんちゃんは大きいおっぱいが好きなの?﹂
﹁女性のおっぱいが大好きだけど、大きさにこだわったことはない
し、おっぱいの大きさで女性を選んだ経験がないよ。おっぱいは好
きな女性についてるモノだ﹂
197
お風呂でのイチャラブも大好物なんす!︵後書き︶
前戯で1話使ってしまった。これが18禁エロ小説。
198
早撃ちでスンマセン。でも負けないっす。︵前書き︶
7・27修正しました。
199
早撃ちでスンマセン。でも負けないっす。
おっとあぶない、また熱く語りだしてしまいそうだったので話題を
変えた。色々とイーデスハリスの世界でのセックス事情も聞いた。
自分のエロ知識も少し教えることにした。
性的絶頂を﹃イク﹄とか、そもそも性的絶頂って何? とか。さっ
きアイリが股間から噴出していたのは﹃潮﹄って呼ばれてるとか。
この世界にも春を売るお姉さん達はたくさんいる。
日本のような多種多様に! ってほどではないが、獣人の女性だけ
とかエルフのみを集めた店もあるらしい。
あと、こういう高級ホテルには従業員にやフロントで好みの女性を
言えば用意してくれるんだと。
知らなかった。知っていたら昨日は間違いなく用意してもらってた
だろう。
この世界には避妊する為の魔法があるので避妊道具はない。魔法屋
で店に金を支払えば手軽に不妊ができる。事後でもOKなのだし危
険もまったくない。
むしろ教会は妊娠したいのにできないからヴァギナに愛する人の精
液を入れながら、神様にお願いしに行く場所だという話だ。この人
との子供をくださいって。
だから今頃はおやっさんも奮闘中だろう。おかみさんの目がギラつ
いていたからね。
そして女性の大敵﹃生理﹄もない。
妊娠は﹃神の恵み﹄ということらしい。
200
たぶんあの4人の神は自分達が長く楽しめるように、簡単に人族・
亜人などの人数を増やしてコントロールできるようにしていたのだ
ろう。精液は普通に出てたし。卵子の取り扱いが地球と違ってるの
だろう。
ついでにこのイーデスハリスの世界では﹃性病﹄は存在しない。風
俗の店には必ず﹃洗浄と浄化﹄を使える人がいる。客の要望で前か
ら風俗の店には必須で浮気などの匂い消しのためらしい。
アイリもミーも以前付き合っていた男やお酒の席で聞いたと言って
た。
それとこの世界には性技を追求するメイド・イン・ジャパン的な考
えはほとんどなく、2人もいままで男にマッサージをされたことは
あっても、性的なマッサージは今までなかった。
複数人でセックスする乱交は経験したことがあるが、先ほどの前戯
は初体験だったんだと2人は言う。
風呂を出てベットルームに行く。3人とも素っ裸だ。
ベットの上に乗り、まず決めなきゃいけない事を話す。
どちらかと順番にセックスするか、同時に行うのかアイリとミーに
どうするか聞いてみた。
﹁それでどうしよう。2人と別々にするのか? それとも同時にヤ
っちゃう?﹂
﹁私はどっちでもいいよ。しんいち君を独占したいって気持ちもあ
るし。2人同時の場合だとどんなセックスをされちゃうんだろうっ
ていう興味もある﹂
﹁私は3人でセックスしたい。だってさっき、しんちゃんの目の前
でおしっこをさせられて物凄く気持ち良かった分、恥ずかしくて辛
かったし、これ以上されたらどうなってしまうの? って不安があ
るから正直少し怖い。でも、アイリも一緒なら・・・大丈夫、かな
201
?﹂
﹁ミー、不安な気持ちを正直に話してくれてありがとう。それじゃ
あ今日は3人で楽しもう。今後は話し合って決めればいいしね﹂
ベットで俺の2回目の童貞卒業式がおこなわれる。
しかし、それにしてもデカイベットだ。明らかにキングサイズより
大きい。
確かキングサイズってシングルを横に2つ並べた大きさだって聞い
たような気がするが、明らかに一辺が3mぐらいあるんだけど・・・
。
チュッチュとバードキスを繰り返しながら、鼻の頭を相手の鼻の頭
に擦り付ける。相手と目を合わせニヤニヤしてしまう。キスで一番
好きな瞬間だ。バードキスの合間にディープキス。舌を絡めて唾液
交換会第二部スタート。2人のお尻やおっぱいを揉んだりさすった
りしながらのキス。
おれが体制を少し変えようと体を離すとアイリの上にのしかかり抱
き合ってキスを始めるミー。
俺は2人の下半身の方にまわり2人の股間を眺める。28歳だが別
段荒廃してるわけではない、むしろ綺麗なほうだ。名前もだけど白
人系の顔立ちだからな。アンダーヘアーはほとんどないから全部見
えてしまうが外にはビラビラは出てない。膣口から愛液が流れ落ち
ている。顔を近づけてみて少し匂いを嗅いでみた。匂いは少し強い
なと感じる。クリトリスにチュッっとキスして全体をレロンと舐め
てみた。ミーから声が上がる。酸っぱいと感じた、酸味が強い・・・
って美味し○ぼかよ!
女の股間の食レポしてんじゃねーよ!
自分で自分を脳内でツっこんだ。
202
それに味とか匂いとかも俺の今までの経験で日本人しか比較対象が
いない。
ビラビラやアンダーヘアーだってそうだ。
アイリの方も舐めた。アイリの愛液は酸味は少ないが粘度が高くネ
チョーンと糸を引く感じだった。2人に四つん這いの体制になって
もらい2人並べて同時にヴァギナに指をねじ込む。
まずは中指で1本ずつだ。2人とも鍛えてるからだろうが膣圧が凄
い。
アイリのヴァギナの中はプニプニしてる、そして指全体を圧迫して
くる。
ミーのヴァギナの中は反対にザラザラだ小さな粒々が一杯詰まって
いる。ヴァギナの中の締め付けはゆるくピタリと吸い付くようだ、
そして入り口の締め付けがギュンと力強く締め付けてくる。
2人がともに凄い膣圧だ。指一本でこれかよ。
俺の今のビンカン君じゃムリっぽいな。三擦り半もかからないなぁ。
2人に鍛えてもらえば俺のビンカン君も少しは成長する・・・と、
いうことにする。俺のレベルはもう上がらない。け、けど・・・チ
ンコのレベルアップは別のものだと信じたい。
セックス本番での惨敗が目に見えてしまったので、前戯に全力投球
することとした。せっかく見つけた自分の嫁2人に逃げられたくな
いから頑張ってみよう。
2人に挿入している指を1本増やしてみる。
﹁ひあああん﹂
とアイリが喘ぎ声をあげる。
203
さっきまでとは明らかに声がかわってる。
ミーは﹃んんっ﹄と我慢しているようだったので、優しく声をかけ
た。
﹁ミー、ここでは外に音は聞こえないし我慢することないよ。俺は
ミーの喘ぐ声が聞きたい。大好きな人が自分の動きで喘いでいる声
を聞くのは嬉しいことだよ﹂
グジュと音を出して指が吸い込まれていく。二人の声が凄くなって
きた。挿入している指を縦横無尽に動かせて喘ぎ声の変わる場所を
探す。
風呂のの時と今では愛撫での反応が2人は反対になった。
お互いが喘ぐ姿を座って見ていたからかな?
アイリは風呂では遠慮して恥ずかしがって嬌声を上げるのを、喘ぎ
乱れる声を上げるのを我慢していたみたいだったけど、今はほとん
ど遠慮せずに大きな声を出して喘いでいる。
﹁あ、あ、あ、あ、あああああ。そこ、あ、こすっ、あ、ああああ
あ。ダメ! あ、おかし、くぅ、なっちゃ、うあーーーー!﹂
プシュ、プシューーと大量の潮を吹き、イってしまった。ベットに
崩れ落ちるアイリ。
手マンの経験は右手と左手は違うのか。
そんなことを俺は冷静な頭で考えていた。
俺の中にはたくさんの人の記憶と経験が詰まってる。
﹃左利き﹄の人の記憶と経験もあるから、お箸も左手で使えた。だ
から俺はこの世界に転生してから両手利きになったと思ってたが、
流石に﹃手マン﹄の経験はなかったみたいだな。左利きの人は女性
の転生者だし。
ただ、左手も経験値を稼いで急速にレベルアップを重ねてる感じが
する。明らかに手マンを始めた時と今では動きが変わった。スムー
204
ズに動き始めてると実感できる。
俺の脳味噌もデュアルかクアッドかわからないがマルチコア化して
そうだ。こうして冷静に考えてる間にも右手でアイリの股間とベッ
トに魔法をかけて﹃洗浄・浄化・乾燥﹄までしているのだ。
もちろん左手はミーのヴァギナの中をかき回して、手マンのレベル
アップも怠ってない。
アイリの痴態と大声を上げて盛大に潮を吹きながらイク姿を見て少
しは安心したのか、ミーも喘ぐ声に遠慮がなくなってくる。左手の
手マンもさらにレベルアップしていってるからな。ヴァギナからの
音はグチュグチュという音と時々プシュプシュと小さく潮を噴き上
げるのもまじっている。
﹁あ、アイリがぁ、ああっ! あんな、に、潮を、ぉおおおぅ、私
も、ああああっ、もぅ、ダメ、ダ、メなの、また出ちゃあああああ
! ぐひゃぁ、あああ、また出ちゃった﹂
左手の指をジュボッジュボッと出し入れさせながら、右手の人差し
指でクリトリスをプルプルって擦ったらイった。
ミーも今度は潮をピシャ、ビャーーと吹き上げた。かなりの量だ。
もはやセットとなった﹃洗浄・浄化・乾燥﹄を使ってミー自身とミ
ーが汚したベットなどを洗浄していく。
ミーがまだ﹁はふぅ﹂とか﹁んきゅう﹂なんていってトロトロとま
どろんでいるので、アイリを見るとごろんと横になった状態で、期
待した目で俺を見上げていた。
﹁アイリ、もう我慢できない。入れさせて﹂
﹁うん。来て! しんいち君のオチンチンをちょうだい﹂と俺に向
けて両手を広げる。
205
寝転ぶアイリにのしかかっていく。
先ほど乾燥の魔法をアイリの股間にしていたので挿入前に指で確認
したら、ビチャビチャだった。ミーの痴態を見ていたんだろう。
正常位でアイリの膝を胸に押し上げてチンコを手であてがう。
愛液がグチュっと音を立てて出てくる中を挿入していく。まぁ、そ
んなに時間がかかるって大きさじゃない、中学生の時に測ったら1
5cmぐらいだった。太さは5cmぐらいあって亀頭はさらにある
が、所詮仮性包茎チンコだからあまり自信はない。
﹃長さは普通だけど結構太いよ。でもちょっと被ってて可愛い﹄
昔、付き合った女になんて言われたこともあったな。
全部入れるとわかる、アイリは物凄い﹃名器﹄だ。
チンコをヴァギナが握ってるのだ。痛いほど力は強くなくピッタリ
と吸い付くように﹃握ってる﹄。
握ってるとしか表現の仕様がない。きゅっと掴まれてる中を動く前
にアイリに告げておく。
﹁アイリ、アイリの中が気持ちよすぎて我慢できそうもない。満足
させて上げられそうもないよ﹂
﹁んふぅん。そんなこと気にしなくていいのに、もぅ。でもしんい
ち君が気持ち良いって言ってくれるのは凄くうれしいな﹂
と、俺の下から俺の首に抱き付いて甘えてくる。少しずつ出し入れ
すると﹁あ、あ、あ、あ﹂と耳元に可愛い声が聞こえてくる。時間
は1分ちょいだな。持たなかった。我慢できなかったよ。ここまで
の名器だったら、35歳の体にまた戻っても10分も持たないと思
うが。
﹁アイリ、良いよ! もう出る。ああああ﹂
ズンとチンコを突き入れて中で射精する。
206
ビュッビュッと凄い勢いで、アイリの奥に出ている。
﹁しん君のが出てる! あっ、ああっ、いっぱいでてるよぅ。あっ
ああ﹂
俺の呼び方が﹃しん君﹄に変わってた。これからはそう呼んでもら
おう。しん君のほうがより近く感じるから、俺もうれしいし。
はぁ、やっぱりすぐに終わってしまったな。まぁ風呂でシコられて
いる時よりは少しだけ我慢できたような気がするから・・・童貞も
卒業したし、頑張ろう。
207
早撃ちでスンマセン。でも負けないっす。︵後書き︶
うーーんセックス描写が酷いな。下手すぎる。才能ないな。
208
アイリとミーは俺の嫁。っていう新婚前夜の話っす。︵前書き︶
7・27修正しました。
1・18修正しました。
209
アイリとミーは俺の嫁。っていう新婚前夜の話っす。
セックスが終わり隣のミーを見たけど、まだまどろんでる
早すぎだな俺・・・って、ちょっと凹んでしまう。
アイリの中に入っているチンコは精子が放出終わったのにまだ静ま
りそうにない・・・そりゃそうだよ。
だってアイリのヴァギナの中が時々だけど、アイリの呼吸にあわせ
てグニュって動いてるんだよ。
俺のチンコを掴んだままグニュって時々動くんだから小さくなる暇
がない。
﹁アイリ、ゴメン。まだ収まりそうにないから、このまま続くね﹂
返事も聞かずにピストンを始める。レベルが上がってきたかも。ち
ゃんとピストン運動してるよ俺。
﹁あああん、凄いよぉんん、しん君。オチンあ、チンを抜かぁ、ず
に連続だあああ、なんて!﹂
ピストンも少しずつ角度を変えて、手マンで探ったアイリの性感ポ
イントに強弱をつけてこする。
アイリの声もだんだんと熱を帯びてさっきの時とは違って余裕は少
なくなってる。と思う。
﹁ああ! もうセックスしてる! んん、この匂いは!﹂
と2人が重なってる股間を後ろから覗く。
210
ミーが帰還したみたいだな。トリップは終了したのか。
﹁ああ、しんちゃんの精子が! もう凄い一杯出てる! 何、なに、
何回もしてるの! もーー、アイリぃズルイよぅ。﹂
﹁ミぃー、ゴメンねぇええ、しん君がぁあ、しん君が求めてぇええ
え、いい、ああ﹁ゴメン、もうでる。あああ!﹂ああああ、出てる
う。凄くぅうたくさん、でてるううう﹂
会話の途中だったけど我慢できなかったよ。
でも今度は5分ぐらいは頑張れた。
チンコを最奥まで突きこみ精液を放出。
ブッピューーって音がしそうなほど大量にぶちまける。
﹁凄いね。アイリの中から精液が溢れかえってる。何回出したらこ
うなるの﹂
俺の後ろからアイリのヴァギナの中から溢れる精子を覗き込みなが
ら小さな声でつぶやいてる。
俺は精液を出し切ってからアイリから引き抜いた。
ゴポォと音がしそうなほど出てくる精液。
それでも、ふぃーえがったぁ、などと俺は放心している暇はない。
そう﹃嫁はもう1人いる﹄
息子も賛成だと力強く立ち上がったままだ。
﹁ミー、ミーの中にも入れたい。いいよね?﹂
ペタンと座り込んで俺とアイリの繋がった部分を覗き込んでいたミ
ーに問いかけるが、返事を聞く前にミーを押し倒す。
﹁うええ、いいの? まだ大丈夫なの? って、なんで大きくなっ
211
たままなの? ってえええ﹂
ミーの股間も触って確かめるが、ビシャビシャすぎる。
俺とアイリのセックスを隣で見ていたしな。
正常位の体勢はミーも同じだな。
ミーの膝を胸に押し付け爆乳が形を変えるさまを見ながら、手でチ
ンコをミーのヴァギナにあてがい挿入していく。
やはり入り口の締め付けがかなりキツイな。グググっと力を込めて
挿入。
﹁ああ、しんちゃんのが、入ってきたぁ。あぅ、かったーい﹂
ちょっと幼児化してないか?
ミー・・・可愛いからぜんぜんOKだが。
トロンとしたミーにキスをしながら、ゆっくりストロークしていく。
アイリのヴァギナとは具合がかなり違うが、ミーのヴァギナも間違
いなく﹃名器﹄だ。
実際に入れてみてはっきりわかる。
ヴァギナの入り口がギュッと力強くチンコを掴んでくる。
ヴァギナの中はふわっと優しくチンコを包み込んでくるんだけど、
硬くて小さな粒々がザリザリと俺のチンコが動く度にこすり付けて
くる。
アイリのヴァギナは﹃いつまでも入れていたいマンコ﹄という感じ
で、ミーのは﹃いつまでもピストンしていたいマンコ﹄だ。
ミーの中でピストン運動を繰り返しながらミーに言っておく。
すぐにでも暴発しそうだ。
﹁ゴメン。ミーの中も気持ちが良すぎて我慢できそうにないよ﹂
﹁いいよぅ、だしてぇええ、ミーの、ミーのぅう中にもぅああ、ち
212
ょうだい。あああ、しんちゃんのをぉお、ちょうだぁいぃい﹂
﹁ああ、出る! いくぅああああ﹂
ビューとかブピューって勢いよく精液をミーの中に出す。
ミーが俺に下からしがみついてくる。
軽くイったか? それならちょっと嬉しいけどな。
ミーにも3分ぐらいしか持たなかった。
すげぇ早撃ちガンマンになってるな、俺。
アイリとミーの真ん中に入って横になる。
疲れたわけではない、まだビンビンでへそに当たってる。
ミーは愛液はサラサラしてるんだけど、量がとにかく多いなベット
も俺の股間ももちろんミー自身もビッチャビチャになってる。安定
の魔法﹃洗浄・浄化・乾燥﹄のセットで使ってすっきり爽やか。
何かのCMみたいになってるな。
﹁腹減ってきたな﹂
ムクリと起き上がって、つぶやく。
そういえば何時間もエッチなことをしまくってたから、晩ご飯食べ
てなかったな。
ベットからリビングルームに向かって食事することにした。アイテ
ムボックスに入っている酒と食べ物を出して並べる。
素っ裸だけどもう夫婦になるんだからいいだろう。
﹁アイリはエッチの最中は俺を﹃しん君﹄って呼んでたよね? 今
後はしん君って呼んでね。これ決定事項ですんで﹂
﹁うんわかったよ、しん君!﹂
飲みながら食べながらまた色々なことを話す。
213
過去に付き合っていた異性の話。
どういう風に別れたとか、フられた話。
フった話は俺にはないがアイリとミーにはたくさんあるだろう。
それから、過去してきた2人の冒険の話。最高に難しかった依頼の
話とか、逆に楽して大もうけした話。面倒だったけど達成した時は
凄くうれしかった依頼の話などなど。
﹁そういえば、まだ俺って冒険者ギルドでまともに依頼を捜してな
いな﹂
と、つぶやいたらミーとアイリが食いついてきた。
﹁﹁一緒にチーム組もう! それで一緒に依頼を受けようよ!﹂﹂
確かにな。
夫婦が別のチームってのはアリなのかもしれないが、俺の中で﹃な
い﹄な。
214
やりすぎってゴッデスに叱られちゃったっす。︵前書き︶
7・31修正しました。
215
やりすぎってゴッデスに叱られちゃったっす。
﹁チーム名はどうする?﹂
アイリとミーはチームをもう組んでいる﹃槍と盾﹄という2人だけ
のCランクのチームだ。
﹃早乙女遊撃隊﹄
これに決まった。明日、教会に行って結婚するのでアイリもミーも
名前が﹃早乙女﹄に変わる。
だからチーム名も早乙女を入れたい。
入れないといけないって譲らなかった。で、俺が語呂が良くて言っ
た﹃早乙女遊撃隊﹄に決定した。
アイリとミーが冒険者ギルドのランクは2人ともに﹃C﹄だったの
で俺のランクも早く上げようって言われてしまった。俺はまだEラ
ンクだからな。
それからは食べまくり飲みまくり騒ぎまくりエッチしまくり。
フェラチオもしてもらったしパイズリもしてくれた。
アイリはドMだな。
バックでやってる時に尻の肉を掴んで左右に開き
﹁ほら、アイリのお尻の穴まで丸見えだよ﹂
というと、イヤイヤと顔を左右に振りながら
﹁いやぁ、見ちゃダメぇ﹂
と言って手で隠そうとするんだけど愛液は吹き出て体は嬉しそうな
反応を見せる。バックで突いてる最中に手でお尻を叩いたら潮を噴
出して失神した。
216
ミーはどちらもOKなタイプだな。
俺の上で騎乗位になって俺が感じて悶えてる姿を見てるだけでも気
持ち良いといってた。可愛い顔がゆがんでてゾクゾクってするらし
い。
本来は体格差と体重差で俺がミーを持ち上げることはかなり難しい
はずなのに、この世界での俺の非常識っぷりで駅弁ファックで部屋
を歩き回ったら俺にしがみついて、下からガンガン手加減なしに突
き上げられるのも、脳味噌が焼ききれそうなほど気持ちが良いとい
ってた。
Mモードになると幼児化するミーとアイリが可愛すぎて、失神させ
てはチンコを突き入れて無理矢理に起こしてっというのを繰り返し
てた。あの夢見心地の顔と、我に変えって快楽に押し流されていく
顔がたまらなかった。あれはクセになる。
また風呂に行ったときに石鹸遊びでパイズリされて無理矢理搾り出
されたりした。
俺もどちらもOKだな。
攻められるのも攻めるのも気持ち良いんだから大丈夫だ。
これでチンコはレベルアップしまくったはず︵?︶なので射精のコ
ントロールができてきてる。まぁ、20回以上出したし。
明日は結婚で教会に行くので12時を過ぎたころに眠った。
教会に行ったらまたゴッデスやアマテラスに会えるのかなって考え
ながら。
そしたら夢で会った。
︻すまんのぅ、先に会いにこさせてもらったんじゃ。聞きたいこと
も、言いたいこともあっての︼
217
﹁・・・ゴッデス様って忙しくないんですか?﹂
︻まぁ最近はボチボチじゃな。大きな問題は早乙女君が解決してく
れたしの。このイーデスハリスもワシの手をほぼ離れてきてるし。
まぁ、後はアマテラスや他の神々で何とかなりそうじゃし︼
﹁それで俺に聞きたいことってなんですか?﹂
︻まずは結婚おめでとうと言っておくべきじゃの︼
﹁ありがとうございます。・・・って、明日報告に行くのに﹂
︻まぁ、明日はドワーフの夫婦と君の新妻2人に話があるだけじゃ
から、君はステータスカードに﹃妻﹄って欄が増えて、彼女達2人
の名前が入るだけじゃからの︼
﹁ドワーフ夫婦ってガルパシア夫妻ですか?﹂
︻ピニリーは4人の神による被害者だったからの。話は簡単じゃア
夫婦の年齢差
と
妊娠
マテラスが︽そなた達に子を授けよう︾って言うだけで終了じゃ。
の悩みじゃな?︼
それは良いとして、君に聞きたいことは
と子供について
子供はもう
になってしまうんじゃないでしょうか? 今の俺の状
化け物
って思ってますが、彼女達は年齢的に焦っているように思
﹁確かにそれは悩んでました。俺は今、正直に言って
少し先
怪物
います。さらに子供についてですが・・・俺の子供って
とか
況があるので少し怖いです﹂
︻やはりのう、想像通りじゃの。ワシが君に聞くためにここに来た
のはそれが理由じゃな。君の場合、凄まじいレベルのために老化が
かなり遅れそうなんじゃ。はっきりとは言えないが、たぶんあと1
000年は生きられそうじゃな。そしてさらに君の場合、セックス
で相手にも影響を与えると思われることじゃな︼
﹁はぁ? それって﹂
︻待った! もう少し話を聞いて欲しい。早乙女君は種族が人間で
はなく神の方に来てるんじゃ。種族では君以外に存在しない為、君
218
の種族は厳密にいうと﹃早乙女﹄になる。神の中でもより主神のワ
シに近い存在になっておる。じゃからこうして夢で会えるんじゃ。
それで君の新妻たちじゃが・・・肉体的にもう若返ってきておる。
肉体年齢が20歳ぐらいにもうなっておるんじゃ︼
﹁一晩でですか?﹂
︻そうなんじゃ、じゃからこうしてワシがあわてて君に伝えに来て
るんじゃ。流石に一晩であれほどの精液を彼女達にぶっ掛けるとは
ワシも計算外じゃった。さすが﹃元・日本人﹄じゃのぅ︼
﹁なんか、いろいろスミマセン﹂
︻本当に日本人という種族は面白いの。予想をことごとく裏切って、
こちらが想像もしてなかった面白い結果を突きつけてきおる。まぁ
その話は追々じゃな。それで彼女達は君というエネルギー源が存在
する限り若さを保ったまま生き続けることとなってしまう︼
﹁うぇええ? いいんですか?﹂
︻良いも何も、彼女達はもう﹃早乙女に愛されし者﹄って祝福が付
いておるんじゃ。本来じゃったら結婚してからもう少し時間がかか
るはずじゃったんじゃが、まさか新婚前夜でおきる事態とはの。時
間をかけてゆっくりと君達夫婦に伝える予定じゃたがのぅ。まぁ明
日、彼女達には教会に来てもらってアマテラスから伝えてもらう予
定じゃ。それで君の子供についてじゃが、最低でも1年はできない
ようにしてある︼
﹁・・・え? 決定事項なんですか?﹂
︻ああ、スマンが君の精液には今、一切精子は入っておらん。君の
膨大なパワーが子供にあたえる影響力が計算出来てないんじゃ。こ
れが終わらんことには子供は作れないようにしてある。もしかする
と君の子供がイーデスハリスの世界を滅ぼしかねん。計算が終わっ
てワシが君を調整させてもらってから子供ができるって流れになる。
これは君の了承は関係なく﹃決定事項﹄とさせてもらった︼
﹁わかりました。よろしくお願いします﹂
219
︻それも彼女達には明日アマテラスから伝えるこことなる。まぁ個
別になるがの︼
﹁個別?﹂
︻ああ、ワシや他の神には君が以前に考えていたように﹃並列して
考えて行う作業﹄が何の苦労もなく行えるんじゃ。ワシの場合は・・
・こうやって早乙女君と今、会話しながら早乙女君の精子が子供に
与える影響をシミュレーションして、問題解決のために他の神に命
令を下し、マークしておる神たちを監視しておるんじゃよ。我等が
神たちの特異な点じゃな。﹃存在そのものが、たくさん並立してい
る存在﹄ともいうべきかな。君はかなり影響を受けておるから﹃頭
の中で考えること﹄が並立できておるんじゃろう︼
﹁そこにも影響があったんですね。しかし存在すら並立している神
を俺ってどうやって殺したんですか? 神って他にもたくさん存在
してるんですよね?﹂
220
やりすぎってゴッデスに叱られちゃったっす。︵後書き︶
エロが少なくてごめんなさい。
221
ゴッデスと再再会。俺の悩みはゴッデスさんしか相談できないっ
す。︵前書き︶
7・31修正しました。
222
ゴッデスと再再会。俺の悩みはゴッデスさんしか相談できないっ
す。
︻それは・・・君の中に入っている記憶と経験の中でダークエルフ
じゃった﹃ノルシアム・ビッタート﹄が魔装術を編み出したのじゃ
が、魔装術の究極の目的が﹃神を殺すこと﹄というのは君の知識と
経験にもあるじゃろう。そして彼がたどり着いた﹃無手流魔装神殺
拳﹄。これでは目の前の神を殺すことはできるが神の存在そのもの
を消滅させることはできない。それで君にワシから神を殺せる力を
加えたのじゃ。じゃから君が使った技が﹃無手流魔装神殺拳﹄。そ
こにワシが与えた﹃神殺し力﹄が加わって神を殺すことができるよ
うになったんじゃ。﹃早乙女流武神神殺拳﹄とでも言っておこうか
のぅ、それに生まれ変わったんじゃ︼
﹁ちょっと待ってください。いきなり中二病をこじらせた名前にな
ってます。恥ずかしすぎて顔が燃え上がりそうです。勘弁してくだ
さい﹂
︻グヒャッヒャッヒャ。ま、それは冗談じゃがの。そういうわけで
君に伝えたかった話は以上でおしまいじゃな。まだ聞きたいことは
あるかの?︼
﹁そういえば前に教会に言った時にアマテラスの像を見たら、物凄
く本人と違ってギャップが・・・﹂
︻あれはワシも腹を抱えて笑ったのぅ。君は神に近い存在となって
おるためにワシや他の神の本来の姿がが見えるんじゃが、本来であ
れば人間には神は光り輝いて見られないんじゃ。それであの像の製
作者が自分の想像を付け加えて作ったんじゃよ。想像ってよりは﹃
製作者の理想﹄じゃッたがのぅ、ぐっふふふふ︼
﹁ああ、なるほどそれででしたか﹂
223
そういえばあの4人の神も初めて見たときは光でモヤッって感じだ
ったな。1人ずつ殺すたびに白くはっきりしてきたけど。
︻そういえばあの時アマテラスが何かを君に投げつけたそうじゃが、
なにか落ちてなかったかの? もしかしたら君のアイテムボックス
の中に入っておるかもしれん。まぁ、暇な時にも探しておいてくれ︼
﹁何も落ちてなかったから、アイテムボックスの中かもしれません
ね。捜しておきます﹂
︻そろそろ時間じゃの。あ、忘れておったが君も﹃ハーレム﹄は好
きじゃろ?︼
﹁はぁ、男として生れ落ちたんで﹂
︻君の場合はどこまででも増やせるからの。好きなだけ増やして教
会に連れてきておくれ︼
ここで周りが光り輝いたと思ったら・・・目が覚めた。
アイテムボックスの中を捜してみたら﹃アマテラスの目覚まし時計﹄
︵神器︶が入ってた。
文字盤の直径が15cmほどもある。目覚まし時計としてはかなり
の大物だった。
﹁ゴルァ何投げとんじゃい! しかも結構デカイやないかい!!﹂
って関西弁バージョンツッコミを、脳内でアマテラスに入れておい
た。
しかも目覚まし時計が神器かよ。
アイテムボックスから取り出してみる。
なんてことない普通よりデカイ赤い目覚まし時計にしか見えない。
鑑識してみた。
アマテラスの目覚まし時計︵神器︶
所有者 早乙女真一
解説
224
アマテラスが寝坊しない為に神の力を使って製造された赤い目覚ま
し時計。
時間が絶対に狂わないよう神の奇跡が込められている。
文字盤の﹁あまてらす﹂は製造者のサイン。
目覚ましのベルの音は所有者にしか聞こえない。
確かに数字の6の上にひらがなで﹁あまてらす﹂って書いてあるけ
どさぁ。まだ10歳だし見た目5歳児だからか、綺麗な字じゃない
な。
目覚まし時計に神の奇跡を使うなよ・・・封印しとくか。
ベルが聞こえないように目覚ましのスイッチが切れている事を確認
してから、アイテムボックスに片付けた。忘れたころにベルが鳴り
響くフラグはへし折っておかないとな。
素っ裸のまま寝ていたので今も素っ裸のまま、アイテムボックスか
ら取り出したモーニングコーヒーを飲む。いまだ夢の世界にいるア
イリとミーを眺める。嫁の2人ももちろん素っ裸だ。
ゴッデスが夢の中で教えてくれたように、二人とも確かに若返って
るな。昨日と肌のハリとツヤが違ってるな。
ピッチピチになってる。
これって騒ぎにならないか? ってレベルで若返ってる。
ゴッデスは俺といる限りこの状態が永遠に続くって言ってたな。俺
の好みとしては少しハリが失われツヤが消えてしまってきている女
の肌ってのも大好きなんだけどな。・・・俺と付き合う女は全て若
返るのかな?
つまり俺にとって一晩だけの楽しみってか?
いろんな意味で。
女にとっては最高だろうけどな。
225
ドラキュラとかの魔族にならずに永遠に若さが保てるってのは。俺
の精液って﹃女の若返り薬﹄で売れそうだな。どれだけでも出せる
し。出しっぱなしでもいけそう。
俺のHPは10億を越してる。正確な数字は表示できないのでよく
わからないが、HPが10億を越しているって事は自然回復力だけ
で毎秒1万以上だ。MPも同じぐらいある。ちなみにエクストラヒ
ールで回復できる量は5000ほどだ。だから俺は疲れることもな
い。精液を何年も出し続けたとしても涸れることもない。疲れる前
に回復してしまっている。
そんなことを考えてたらアイリもミーもが目覚めた。俺を見てミー
がふっと起き上がる。
﹁お、ミー、起きたな、おはよう﹂
﹁うん、おはようしんちゃん。あ、アイリはまだ寝てるのか、アイ
リって朝が弱いんだよね﹂
﹁確かに弱そうだな。目が開いてるのにまだポケーーーっとしてる
よ﹂
﹁ほらアイリおきて、って何この肌のハリとツヤって私も! え、
凄い! なに、どうなってるの!!!﹂
ミーがビックリして風呂前の大きな鏡のある洗面台に走っていった。
そりゃ気付くわな。もう1人はまだポヤーーってしてるけど。
﹁おひゃようごじゃいましゅ﹂
とアイリが起き上がって頭を下げるが、まだ舌が回ってないな。メ
チャクチャ可愛いから少し眺めてる。
﹁おう、アイリおはよう。目覚めはいかが?﹂
﹁らいじょうふれしゅ、ではきゃおをありゃってきましゅ﹂
っていってフラフラ洗面台に歩いて行った。大丈夫か?
﹁ウソー、すっげぇー、何これ! 体が軽い!! 若返ってる。私
若返ってるよ! あ、ほらアイリも! ほら、顔洗って。どう? 226
目覚めた? ほら見て! 水をはじいてる!!﹂
洗面台ではミーが興奮しておかしくなってた。壊れたな。物凄くう
れしかったんだろう。
﹁もー、ミー、うるしゃい。﹃バシャバシャ﹄ふうう、え? 何こ
れ? ええ! どうして? えええ、何?﹂
アイリも壊れたな。アイリも嬉しかったんだろう。
君達2人は俺といる限りそのままだ。もう年寄ることはなくなった。
っていうのを彼女達に告げるのはアマテラスに任せておく。俺じゃ
上手く説明できないしな。丸投げだな。目覚まし時計分の苦労はし
ていただこう。
227
ゴッデスと再再会。俺の悩みはゴッデスさんしか相談できないっ
す。︵後書き︶
アマテラスはこの作品の﹁幼女﹂と﹁ギャグ﹂で、構成されており
ます。
そこだけは絶対に譲れないんだ!
228
ドミニアンとカタリナの愛の結末。そして俺は幼女とタイマンっ
す?︵前書き︶
6・9修正しました。
8・3修正しました。
229
ドミニアンとカタリナの愛の結末。そして俺は幼女とタイマンっ
す?
若返ったことを不思議がっていた2人に聞かれた。
﹁そりゃあ、俺みたいな美少年の﹃エキス﹄をあれだけ飲んだり、
体中に浴びたりしたらお肌もピチピチになるんじゃないの?﹂
俺にはわからないよアピールとして軽い口調で言って誤魔化してお
く。俺じゃあ説明できんし。
﹁それよりもホテルは今日、出て行くから今日はやることいっぱい
だよ!﹂と焦らせて朝食にする。
部屋に3人分の朝食を頼む。
無論3人とも服は着てる。パーティーは終わりだ。
新居が完成してから今度は新居完成記念パーティーでもすれば良い。
今日の朝食は﹃ステーキのサンドイッチとヨーグルトジュース﹄だ
った。
相変わらずここのホテルの食事のパターンがまったく読めない。
もしかして時間帯によって違うのだろうか?
昨日のパーティーの痕跡を風呂の中まで全て消して部屋を出る。
魔法って超便利だ。
毎日俺が洗浄と浄化と乾燥をかけていたこの部屋は、俺が来たとき
より綺麗になってるよ。
約束どおりフィアルカート防具店・・・通称おやっさんの店に向か
う。
まずは2人におはようの挨拶。
おやっさんは疲れきっていた。確か神様にお願いするのに子種を入
230
れたまま教会でお願いしないといけなかったはず。
ってことは今朝やってるはずだ。
でも・・・もう2人の子供ができるのは決定事項だ。
何も心配は要らない。
主神の決定事項だから間違いなんて存在しない。
と俺は知っているけど、それは言えない。彼らに伝えるのはアマテ
ラスの役目だ。でも、これぐらいは良いよねってことで聞きたいこ
とを聞いた。
﹁なぁ、おやっさんとおかみさん。子供はどっちが欲しい? 男の
子? 女の子?﹂
﹁両方だ。俺が何度でも何度でもがんばる﹂
﹁私も両方欲しい。そして元気な子供であれば・・・﹂
﹁そうか。2人なら大丈夫そうだな。じゃあ、神様にお願いと報告
に行こう﹂
今日はフィアルカート防具店は休みにするそうだ。
教会に行って、その後の新居探しまで手伝ってくれる。
ありがたいなぁ。
不動産関係の人も紹介してくれるし、ホントにありがたい2人だ。
教会に到着したらドミニアン司祭が迎えてくれた。
一緒に神に祈りたいと言ってくれた。
ドミニアン司祭も俺たちに報告したいことがあったから今日は待っ
てた。
ドミニアン司祭もアイリの母親﹃カタリナ・クリストハーグ﹄に昨
日のあれから告白したって。
初めて会ったその瞬間から貴女が好きです。結婚してください。
って告白したら、ドミニアンの事はモルガンと同じぐらいに好き。
231
だけど・・・ってカタリナの苦悩も教えてもらった。
アイリが俺と結婚して﹃アイリ・早乙女﹄になりカタリナが今結婚
して﹃カタリナ・パルマ﹄になったら、カタリナが愛してきた﹃モ
ルガン・クリストハーグ﹄という人物が全て消えてなくなってしま
いそう。
彼を愛し続けた自分までも消えてしまいそうで怖いんだって教えて
くれた。
それでドミニアンが昨夜カタリナと別れて家に帰ってずーっと真剣
に考えた結果、﹃モルガンを愛してるカタリナということを含めた、
カタリナの全てを愛してる﹄ということに気付いたと。
だからカタリナにはクリストハーグの名前を捨てずにいてもらいた
いから、自分が﹃パルマ﹄の名前を捨ててクリストハーグの名前を
受け継ぐ。
婿になると決めたんだそうだ。
さいわいにパルマの実家のパルマ商会は兄が引き継いでいるし、自
分はムコでもかまわないと。
それで今朝、教会に来る前にカタリナに会いに行き、自分の気持ち
を自分の考えを全部話したそうだ。
カタリナは了承してくれた。
私と結婚してくださいって言われたんだと。
すげぇな、このストーカー予備軍。
脇目も振らない一途な愛を実らせやがったよ。通い妻作戦成功だと
は、ビックリした。
232
俺がまったくもって失礼な考えをしてるとは、まったく知らないし
気付いていないドミニアン司祭。
﹁だから君達を待っていたんだ。きっかけをくれた君達と一緒に神
に報告がしたかったんだ﹂
と熱く語ってる。
しかしその熱く語る姿が司祭服に似合ってるし、イケメンだしで少
しムカついてしまった。
さすが俺、人間的にちっちゃい男だ。
まぁ、気を取り直して礼拝堂に向かう。
予定では俺はすぐ終わるらしいし、って気軽になって考えてる。
しかしあのアマテラスの詐欺像はまだ少し笑える。
俺がニヤついたのでアイリとミーに同時に聞かれた。
﹁﹁どうしたの?﹂﹂
﹁これでやっと結婚できるって考えたらニヤついてしまったよ﹂
と優しいウソを付いておく。
まぁ、真実を知ったところでアイリやミーには理解できないし。
二人にはどう頑張ってもアマテラスの真実の姿は見えないって聞い
てるし。
礼拝堂の一番前の席にみんな並んで座り、頭を下げて両手を胸の前
であわせ指を組む。
神に祈り報告する。
目の前に気配があったので目を開けると、真っ白な世界でアマテラ
スがジト目で俺を見てた。
︻お前はいつも凄く失礼だ! 私の像で笑うな!!︼
﹁お! 漢字を使って話せるようになったんだな﹂
233
︻太陽神に対してお前は失礼だ! ・・・ふっ、私はお前に神の力
でお前の男性自身を取り上げることもできるんだぞ!︼
﹁ああん? 新婚早々の俺にそんなことするって? よし、ケンカ
売ってんだろ? いくらでも買ってやるよ。俺の神殺しの力と技を
見せ付けてやんよ﹂
といってシャドーボクシングでシュッシュッとジャブを放つ。無論
本気じゃない。
向こうが脅してきたから、反論しただけ。言葉の掛け合い漫才みた
いなつもりだ。
と、思ってたら相手が予想外の反撃してきた。
アマテラスが目の前で土下座した。
︻ウソです。ごめんなさい。許してください。本気じゃなかったん
です。悪気もなかったんです。ほんのちょっとだけ﹃ヒドイ事を良
い過ぎたかな悪かったな﹄って言ってほしかっただけです。もうし
ません。許してください。まだ生まれてから10年しかたってない
です。まだ生きたいんです︼
流石に酷いことしてるな俺って、と反省させられて近づいていった。
﹁悪い悪い冗談が過ぎたな、そこまで謝らないでいいよ、君もはん
s﹃スキあり!﹄んぎゃ﹂
しゃべってる途中でアマテラスの頭が飛んできた。頭突きだった。
やるじゃねぇーか太陽神。ちょっと鼻血が出たぞ。すぐ治ったけど。
﹁フッフッフ、アマテラスお前は俺をマジにさせた! 本気と書い
てマジと読む方だ。ハッハッハッハ、やってやんよ太陽神﹂
234
ドミニアンとカタリナの愛の結末。そして俺は幼女とタイマンっ
す?︵後書き︶
調子に乗ってアマテラス増量してみた。
反省はするが後悔はない︵キリッ
235
幼女︵神︶のデレ期到来。ここだけの話、意外にチョロかったっ
す。おや、誰か来たようだ・・・。︵前書き︶
8・3修正しました。
236
幼女︵神︶のデレ期到来。ここだけの話、意外にチョロかったっ
す。おや、誰か来たようだ・・・。
指をボキボキ鳴らしながらアマテラスに近づこうと思ったら・・・
︻お前ら2人はガン!﹃ギャピャ﹄何をじゃれあってガン!︻んが︼
おるんじゃ。バカたれどもが!︼
近づく前にゴッデスにグーで殴られた。さすが主神、タンコブでき
た。すぐに治ってしまうけど。
︻だってこいつが! こいつがいつも私をバカにして笑ってるから
!︼
言い訳をするアマテラスにハァーっと右の拳に息をはきながら、ア
マテラスに近づいていくゴッデス。
﹁アマテラス笑っちゃってごめんな。悪気はないんだよ﹂
即座に謝って頭を下げる。俺は大人だからな。反抗せずに非を認め
る。
笑った俺が100%悪いしな。
︻んな! ・・・私もゴメン。意地が悪い事を言ったし頭突きして
しまった。ごめんなさい︼
アマテラスも俺が素直に謝ったのを聞いて、俺が頭を下げるのを見
てはじめはビックリしたが素直になったようだな。
︻まったくお前らは兄妹みたいなもんなんじゃから、もっと仲良く
しないとダメじゃ︼
﹁俺とアマテラスが兄妹だって?﹂
︻あぁ、間違いない。ワシが早乙女君に力を与えて君を生まれ変わ
らせた親とも言える存在じゃな。それで君を10年後に転生させて、
そのあいだにアマテラスという神を生み出したんじゃからの。それ
じゃから2人は兄妹みたいな存在なんじゃよ︼
237
な、なんだってぇえええ!!
そういわれてみればアマテラスとじゃれあってた時は楽しかったな。
それにもう一つ・・・自分の規格外さでイーデスハリスの世界に少
し・・・どころか、結構な疎外感がある俺には、たとえ相手が神と
はいえ兄妹と呼べる存在がいることに、素直に嬉しかった。
アマテラスを見ると・・・
︻えへへへ、兄妹、うふふふ、お兄ちゃん・・・真一お兄ちゃん。
えへへへふふふふふ︼
かなり嬉しそうだったので彼女も気に入ったのだろう。
少し壊れかかってるようなので話題を変える。
ふと気付いたらゴッデスは消えていた。
﹁それでアマテラスはこんなとこで、俺と遊んでても良いのか?﹂
︻仕事はキチンとやってるよ、真一お兄ちゃん。・・・お兄ちゃん
のお嫁さんってことは私のお姉ちゃんだね。お姉ちゃん達も若くな
ったことにすっごく感謝してくれてる。真一お兄ちゃんが心配して
いたように、2人とも年の差をそうとう気にしてたみたいだね︼
﹁え? ・・・ああそうか! 並行する存在って事か。年の差は・・
・反対の立場だったらって考えるとなぁ、気になって仕方がないは
ず。他は? 俺を気持ち悪く思ってないのかな?﹂
︻お兄ちゃんが長生きするって事かな? アイリお姉ちゃんもミー
お姉ちゃんも真一お兄ちゃんにベタ惚れだね。お兄ちゃんと長い時
間愛し合えることに私が感謝されちゃったよ。それと真一お兄ちゃ
んはガルパシア夫妻にも転生者だって告白したよね? その夫婦2
人にもお兄ちゃん・お姉ちゃんの3人が長生きする存在になったっ
て伝えておいたよ。夫婦の2人とも﹃長い付き合いになりそう﹄っ
て笑ってたよ︼
238
﹁確かにおやっさん達とも長い付き合いになりそうだな﹂
︻それと祝福についてなんだけど。お兄ちゃんとの結婚記念って事
でお姉ちゃん2人には2つの祝福を私からプレゼントしちゃうこと
になりました︼
﹁簡単に祝福なんてあげても良いのか?﹂
と心配して聞いたら・・・
︻2つぐらいならまったく問題はないの。それに2人には﹃早乙女
に愛されし者﹄って祝福を真一お兄ちゃんが与えちゃってるし、﹃
10歳ほど若返り、その若さを保つ﹄なんだよ? お兄ちゃんの祝
福の効果って︼
﹁10歳若返ったらふたりとも18歳じゃねーか﹂
︻そういうことになるね。それでアイリお姉ちゃんにはアイテムボ
ックス︵中︶と﹃属性防御﹄︼
﹁属性防御ってなに?﹂
︻属性防御は敵の属性魔法攻撃を反対の属性で打ち消したり、同じ
属性で効果を消したりという属性魔法防御のこと。スキルでの効果
と違うのが、属性を意識しないで無意識に選択して敵の攻撃を最小
限にしてしまう事ができるのが祝福での効果だよ。反発する属性で
多少の攻撃も可能だよ。アイリお姉ちゃんに欲しい力を聞いたら﹃
愛する人を守る力が欲しい﹄って言われたからね、奮発しちゃった。
愛されてるねぇ真一お兄ちゃん︼
﹁流石にちょっと照れるな﹂
︻それでミーお姉ちゃんにもアイテムボックス︵中︶と﹃属性攻撃﹄
をプレゼントした。属性攻撃は防御の攻撃バージョンだね。それを
無意識で使える祝福の効果も大体同じだね。この属性攻撃で敵の攻
撃を受け止めたり、受け流す事もできるよ。ミーお姉ちゃんも喜ん
でた﹃これで愛する人を傷つけようとする敵を打ち破れる﹄って。
239
お姉ちゃん2人への祝福はこんな感じだよ︼
﹁アマテラス、ありがとうな。2人の嫁も喜んでるみたいだし。ホ
ントにありがとう﹂
︻えへへへへ、真一お兄ちゃん、どういたしまして。他の4人とも
そろそろ話しは終わりそうだから、また会いに来てね。私はゴッデ
ス様とは違って教会でしか真一お兄ちゃんとお話はできないみたい
だから。お兄ちゃんから会いにきてくれないと会えないからね。じ
ゃあ真一お兄ちゃん、またね︼
﹁ああ、また必ず会いに来るよ。じゃあまたなアマテラス﹂
こうして俺はヨークルの教会の礼拝堂に戻ってきた。
祈っていた6人もほぼ同じように戻ってきたみたいだな。
ドミニアン司祭だけが、1人で報告に来た理由を言ったら
﹁1人で報告に来ないで! 元気になってから2人で報告にきなさ
い﹂
って、アマテラス様に怒られてしまった・・・と、凹んでた。
思わず少し笑ってしまった。
アイリとミーは自分のステータスカードを見てニマニマしてる。自
分の名前に﹃早乙女﹄ってついてるし、アマテラスからもらった祝
福も嬉しいのだろうな。
240
新居の商談開始っす。︵前書き︶
8・7修正しました。
241
新居の商談開始っす。
教会での報告も終わったことだし、次は新居探しと行きますか!
教会を後にして商業ギルドに行く。
おやっさんには窓口のカウンターに行って人を呼んでもらいに行っ
た。
俺・アイリ・ミー・おかみさんの4人は窓口カウンタ−と逆方向の
商談スペースに行ってテーブルをキープしておく。
商談スペースの半分以上は埋まっててガヤガヤ騒々しかった。こん
な雰囲気の方が話しやすい。
メイドの格好をした店員がやってきて注文を受ける。俺とおかみさ
んはホットコーヒー。アイリとミーはミルクティーを頼む。ここで
は何か注文しないとテーブルキープはできないみたいだな。
それと﹃ミルク﹄
ヨークルでは・・・イーデスハリスの世界では結構な貴重品だ。
シーパラは草原が多くて酪農に適した土地は多いが魔獣の被害も多
く採算が取れない。
首都のシーパラの南部にあるシーパラ半島が魔獣が少なく酪農も盛
んだが、国中で商売できるほどの産出量はまだない。
それを補ってるのが﹃ダンジョンの恵み﹄だ。
ダンジョンではフィールドには出ない﹃ドロップアイテム﹄がある。
ダンジョンの魔獣は解体できない。
死ぬと魔力をダンジョンに吸われて消え、魔石・魔結晶・魔水晶は
242
別としてドロップアイテムだけを残すのだ。
ダンジョンにだけ生息する魔獣で数は物凄く多く存在する﹃ミノタ
ウロス﹄
通称﹃ミルクさん﹄
彼らはオスもメスも通常ドロップアイテムが﹃ミルク﹄
レアドロップアイテムが﹃練乳﹄だ。
ドロップするミルクの量は5リットルぐらいの樽。練乳は30cc
の小瓶。
・・・おれは男だからミノタウロス︵オス︶の練乳とかミルクは遠
慮したいな。メスなら大歓迎だが。
これで需要と供給はまかなえないので貴重品で高級品になってるが、
少しは市場に出てくる。
ヨークルの近くにあるダンジョン﹃アゼット﹄では地下5階よりも
下にしか生息していないが、C・Dランクの冒険者チームの小遣い
稼ぎになる、ミーやアイリもこれで金を稼いでたときもあったよう
だ。値崩れするほど供給できないからだ。
そんなことを4人で話して待っていたら、おやっさんがネコ獣人を
連れてきた。
﹁リーチェ、こいつが家を探している早乙女だ﹂
俺が紹介されたようだったので席を立ち頭を下げた。向こうもぺこ
りと下げる。
﹁それで早乙女、こいつがこのヨークルでの商業ギルド、不動産部
門の部長をしている﹃リーチェル﹄だ。ここの不動産部門のトップ
だな。見た目は﹃ちみっこ﹄バン! ・・・頭を叩くなよ。だけど
凄腕でこのギルドではトップクラスに有能だ﹂
リーチェルが胸をそらして踏ん反り返る。
が、まったく様になってない。ちみっこって言われて怒ってたけど
243
身長が150cmしかないおやっさんより明らかに小さい。
頭に付いてるネコミミを足しても少し負けてる。
﹁不動産のことならこいつに聞いて分からないことはないよ。こん
なちみっこ﹃バン!﹄だけど、ここで150年以上も働いてるババ
ァ﹃ガン!﹄痛ぇーな! 顔をグーで殴るな﹃オッサンも余計なこ
と言うな﹄・・・それもそうだな。ま、こいつに任せれば怖いもの
はない不動産のプロだな﹂
おやっさんはなんで余計な一言を付け加えて紹介するのか?
親しみやすさができるからそれを狙っているんだろう、が・・・た
ぶん無意識だな。
﹁ボクの名前は﹃リーチェル・ハナザワ﹄です。リーチェって呼ん
でね﹂
﹁俺の名前は﹃早乙女・真一﹄ドワーフと一緒で早乙女が家名です。
呼ぶのはお好きなように呼んでください﹂
﹁アイリ・早乙女です。アイリって呼んでください﹂
﹁ミネルバ・早乙女です。ミーってよんでね﹂
ボクっこキターーー! って内心思いながら自己紹介をする。アイ
リたちも自己紹介をして握手していた。
﹁それでは商談にうつりましょうか。早乙女さんの望んでいる物件
のご希望はありますか?﹂
俺は要望を伝える。
予算は税込みで1億まで。
場所はヨークルの外周部で外れの方が良い。
できるだけ広い方が良い。
建物は古くても頑丈が良い。
内装は作り変えるのでどうでも良いし家具もあってもなくてもかま
わない。
244
それに幽霊が住んでようが悪魔が取り付いていようが呪いがかかっ
てようが、こちらで対処できるのでまったくかまわない。
そんなことをリーチェに次々と伝えていく。
俺達の話を熱心聴き時々メモを取りながら思案げな表情をするリー
チェ。
一通りの希望を伝えると、しばらく黙って考えていたリーチェが口
を開く。
﹁ご希望を全てかなえられるような物件はこのヨークルにはありま
せんが、ご希望にかなり近いという物件は1つございます。近いと
いうのは・・・値段が1億を超えます。1億3000万ほどとなり
ます。予算オーバーとなってしまいますので近いと表現しました。
それ以外となると・・・市街地部分にしか今はお売りできる物件は
ございません﹂
と、言われてしまった。
ヨークルの都市はシーパラ大河とヨークル川の中洲にある。
中州は古代に魔法によって石垣の城壁で作られて、いくつかの用水
路を持つ城塞型の都市だ。
お城はすでにないけどね。
城壁に守られた部分が市街地となってる。
市街地の城壁の外側から川までの部分が﹃都市ヨークルの外周部﹄
となっている。この外周部はほとんどが田んぼで、のどかで静かだ。
そして川の堤防部分が倉庫街だ。物流で船を使っているから川の近
くに倉庫があった方が都合が良い。ここの倉庫に物資が集められ、
他の都市や町などに船や荷馬車で送られたり、市街地に向けて運ば
れたりしている。
245
倉庫街から市街地までは用水路の船と駅馬車によって、人や物資の
移動手段が結ばれている。
倉庫街までは普通の馬車で入れるが、市街地までは馬車は進入禁止
だ。
馬糞公害で進入が禁止されている。
市街地までの駅馬車や船の動力は﹃ゴーレム﹄だ。
ゴーレムといっても人型ではなく箱型。
1mの立方体ぐらいの大きさの箱だ。これがタイヤやプロペラを回
す動力だ。しかしこのゴーレムエンジンは燃料となる魔力の効率と
トルクが相反しているし、ブレーキの問題もあって重いものを車で
は運べない。
市街地の中だけの運用となってしまうのだそうだ。
話がそれてしまった。
その外周部の倉庫街に1つ物件があるが金額オーバーしている。1
億3000万Gなら払えるけど・・・建て替えや家具の新調をする
には・・・作るだけならスキルの魔法で簡単だが、作るためには﹃
原材料﹄がいる。
原材料はどこかに買いにいくか、どこかに取りに行くしかない。
今日の今から取りに行くってのは・・・今日のこれから改築して今
日から住む予定の場所だ。
時間的に間に合うのかな?
246
新居を改築しちゃうぜ! ベッドは巨大化したっす。︵前書き︶
6・11タイトル修正しました。
8・7修正しました。
247
新居を改築しちゃうぜ! ベッドは巨大化したっす。
悩んでいることを正直にリーチェに話す。おやっさんがリーチェな
ら口が堅く信用できるから相談してみろって。話しているうちにま
とまって解決することもあるからなと。
改築スキル魔法で内装や家具はすぐ作れる。
だけど内装で使用する量は現物を見ないと計算できない。
俺も開拓村で解体した教会と村長宅が、原材料の固まりにして持っ
てる。それが足りるのか足らないのか分からない。
原材料も精製スキル魔法を使えばオガクズからも木材が作れるし、
鉄くずからでも鉄鉱石ができるけど・・・材料が必ずいる。って正
直に話した。
﹁とりあえず現物を見てみませんか? そこで見てからじゃないと
ここでは何もいえません。別に見るだけならお金は要りませんし﹂
って言われてしまった。
確かにな。
ここでいくら話しても机上の空論だな。家を見に行くことにした。
現場に着いた・・・確かに静かな場所だな。周りは倉庫と田んぼし
かない。
しかも場所も駅馬車の駅ターミナルや用水路の場所からも若干遠い。
堤防側には桟橋も付いてるが・・・そこは狭い。大きな船が停泊で
きる広さはない。
邸内も微妙な広さだろう。
部屋が1階に2つ、2階に3つの2階建てだが、俺達には少し広す
ぎかもしれないほどの広い部屋しかない。狭い部屋で20㎡︵12
畳ぐらい︶以上もある。
248
金持ちの家族が住むには不便な場所で立地条件は悪すぎるだろう。
元々は隠居した金持ちの商人が愛人を囲うためだけに作られ邸宅ら
しい。
だから建物自体は高価な石材がふんだんに使って作ってあるし、魔
法もふんだんに使って劣化しないようにしてある。
金持ちが7年ほど前に亡くなって売りに出されたが売れ残ってる物
件みたいだ。商業ギルドでは持て余していたんだろう。内装がかな
りボロくなってる。掃除もほとんどしてないだろう。
このボロ屋敷が1億3000万Gもするものなのか?
とおやっさんとおかみさんがかなり怒ってる。
﹁ここから先は商業ギルド内では話せない事だったのでここで話さ
せていただきますね﹂
リーチェがここで話し始めた。
この邸宅が1億3000万Gという金額。
これは内装の改築に高級木材などをふんだんに使った金額、大工な
どの職人に払う費用もセットでの金額になってるんだと。・・・改
装費込みのボッタクリ価格だな。
でもそれでは売れずに残る。
まぁ当たり前だな。7年前に手に入れた時は綺麗だった内装も中に
人が住まなくなり、手入れもほぼしていない。
維持費でも金がかかる物件に持て余した商業ギルドは早く売りたく
なってきてる。商業ギルドが手に入れた値段と税金分だけでも回収
できればいいらしい。
だからリーチェの出せる金額は8000万G。これ以上は税金の関
係で安くできないってさ。
金額は・・・8000万なら大丈夫だな。
あと原材料は・・・スキルで計算したらいけそうだな。
249
今のボロくなってる材料と俺の持ってる材料でいける。
カーテンなどの布や壁紙なんかも原材料から精製しなおして、俺の
持ってる原材料を追加すれば何とかなる。後は改築に必要なコーテ
ィングに使う魔糸溶解液が余裕を見て2トンは必要だ。
リーチェに魔糸溶解液が2トン欲しいと言ったら、購入して即金で
支払ってくれるならサービスで今日中にここまで運んでくれるって。
これが決め手になり購入決定。一度、契約書の作成などの手続きで
商業ギルドにみんなで戻る。
契約書を作成して正式に契約。
これで早乙女邸の契約は完了だ。今はまだボロボロだけど後は改築
すればいい。
おやっさんたちには挨拶をしてここで別れる。
﹁早乙女、新居の改築祝いは何がほしい?﹂
﹁早乙女邸の防御のためのゴーレムが作りたいから全身鎧が3つ欲
しい﹂
おやっさんからの質問にマジメに答えたら、明日までに用意しとく
から、明日以降に取りに来いって言われた。
明日の夕方以降にでも取りに行くと時間は決めずにしておく。
明日は冒険者ギルドに行ってアイリとミーのギルドカードの名前変
更手続きと、3人のチーム﹃早乙女遊撃隊﹄の登録に行くからな。
ついでになにか依頼を3人で受けるかもしれないので、時間は遅く
なって明後日になるかもしれないと伝える。
それから早乙女邸に帰り、まずは内装を全て解体。
精製し直して原材料に戻して庭に並べる。
リーチェが商業ギルドで手配して庭に運んでもらった魔糸溶解液も
並べておいてもらう。全部は使わないけど半分以上は必要だしな。
250
俺のアイテムボックスから必要な原材料を追加して、これも庭に並
べる。
アイリとミーと三人で相談して壁紙の色やカーテン色まで、庭に置
いたテーブルのうえにある設計図に決定したことを書き加えていく。
腹が減ってきてたので昼食を3人で食べながら、早乙女邸の構想を
話し合って決めていく。
昼食後は転移魔法で一度ガウリスクの本拠の丘に俺1人で行く。
セバスチャンとマリアを連れ帰るためと、早乙女邸の引越しだ。
本拠の丘にある家具や魔石なんかを回収して元の洞窟に戻しておく
ことも忘れないようにしないとな。
ガウリスクに会いに行ったら
﹁今度はボスの奥さんにも会いたいから連れてきてよ!﹂
って言われた。
﹁また今度な!﹂
と別れる。
連れてくるのは良いがお前らと俺の奥さん2人は会話ができないか
ら、俺の通訳がいるじゃん。
後は早乙女邸に帰ってアイリとミーに俺の執事セバスチャンとメイ
ドのマリアを引き合わせる。
滑らかに動くクマのゴーレムにかなり驚いたようだが、愛くるしい
外見に少し嬉しそうだ。
クマ型に作って正解だったな。
後はスキル魔法﹃改築﹄で終わり。魔法を唱えると原材料が次々と
屋敷に吸い込まれていく。
10分ほどで﹃早乙女邸﹄が完成した。10分も時間がかかったの
251
はコーティング材を木材に塗って乾燥ってのを10回以上繰り返し
たからだ。
早乙女邸の中に入り不具合がないか使い勝手を確かめながら邸内を
まわる。
使い勝手が悪そうな部分はスキル魔法﹃改装﹄を使用する。
風呂のお湯はもちろん地下から汲み上げる温泉だ。
本拠の丘で使用していた魔石も使っているからか、かなりの湯量が
ある。
意外と豊富な湯量だったので温泉は﹃かけ流し﹄になった。
しかも汲み上げた温泉は60℃も温度があったので、途中で水を混
ぜるようにしてある。
風呂を大きく広げる為に隣の1部屋つぶした。
1階にあったもう一つの部屋は客間として使用することにした。
2階の部屋は3人で分けようって言ったら、どうせ寝るのは一緒だ
し部屋は要らないって。
荷物もアイテムボックスが中に広がった為に部屋に置かなくても全
ての荷物が持ち歩けてしまう。
だから1番大きな部屋を3人のベットルームにする。
シングルベッドを横に4つ並べた巨大な大きさのベッドを作ってや
った。
まぁ俺がスキル魔法でくっつけるだけなんだけどさ。
少しヤケになって、少々悪乗りも入ってる。
252
早乙女遊撃隊が結成。クマ2体も入ったっす。︵前書き︶
8・20修正しました。
253
早乙女遊撃隊が結成。クマ2体も入ったっす。
ベッドを作り終え2階の別の部屋へ。
部屋にシングルベッドを2つ置き衣装も置ける大きめのタンスなど
を設置していく。
2つの部屋とも夫婦が宿泊できるように家具をセットしていく。
庭は雑草が伸び放題になっていたので全て土魔法で根っこごと飛び
出させる。
雑草の中には香草として使えるものや、薬草類もあったので仕分け
して庭の一部分に花壇を作り植えていく。残りの雑草は肥料として
魔法で加工し花壇に植える。
花壇の隣には畑も作っておく。
田んぼで作業する農家の人が早乙女邸で忙しげに働くセバスチャン
とマリアを見て、かなり驚いていたので話しかけてみると・・・都
市ヨークルではゴーレムは誰の持ち物か分かるようにネームプレー
トをつけないといけないらしい。
ネームプレートは所属するギルドで発行してもらえるんだと。
それは一刻も早く登録しないと。
それで、今からみんなで冒険者ギルドに行くことになった。
倉庫街の駅馬車の駅まで行って時刻表を見ると、あと30分以上待
たなきゃいけないので、空いてるゴーレム駅馬車をレンタルして冒
険者ギルドまで走ってもらう事にする。
金は掛かるが直接ギルドまで行けるので楽だ。
冒険者ギルドは昨日の喧騒がなくなっていて、もう落ち着きを取り
254
戻しているみたいだった。
ババァは罪を認めている。隠していた罪も全て自供してる。
問題が厄介なのはギルドマスターが罪を犯していたことだ。
それを解決するためには首都シーパラにある冒険者ギルドシーパラ
連合国本部の裁定が必要なのだ。だから今はギルド本部からの人間
がくるまで待つしかないのだ。
まぁ、俺にとっては終わった問題だけどね。はげしくどうでもいい。
ギルドで冒険者ギルドカードを出してセバスチャンとマリアを登録
する。
愛くるしいクマのゴーレムは冒険者ギルド内で物凄く目立ってた。
ネームプレートをもらいセバスチャンたちの首からチェーンでさげ
る。
チェーンは駅馬車内で暇だったので作った。ミスリル銀製の高級品
だったりする。
2人は銀大熊の毛皮で作ってあっるのでミスリル銀だと目立たない
し見にくいからなと、チェーンをヒヒイロカネでコーティングする。
銀色の毛皮の上に緋色が目立つようになったな。
さらに高級品のチェーンになった。セバスチャンたちの愛くるしさ
も倍増。
俺がセバスチャンやマリアの首からさげるチェーンを調整してる間
に、アイリとミーが冒険者ギルドカードの名義変更手続きをおこな
ってる。
チェーンの調整が終わったので俺もチーム結成手続きに窓口に向か
う。
﹃早乙女遊撃隊﹄の結成だ。
メンバーは俺とアイリとミー。ここにゴーレムでセバスチャンとマ
リアも登録される。ゴーレムにギルドランクはない。
・・・まぁ、ロボだから。
255
実力的にはSランクぐらいはありそうだけどな。
手続きも終了して、アイリの実家に行くことになった。新居が決ま
ったので実家に置きっぱなしにしていた荷物を取ってきたいんだと。
2人ともアイテムボックスが広がって全ての服や装備品なども持ち
運べるようになったからな。
アイリの実家に帰って、アイリたちは部屋に。2人を待つ間は俺は
カタリナと話す。
カタリナにクマ2人を引き合わせる。
はじめは滑らかに動くクマゴーレムに驚くが、2人の愛くるしさに
カタリナも頬が緩んでる。
カタリナに新居の報告、地図を紙に書いて場所を説明する。
カタリナは早乙女邸の近くの倉庫に何度か行った事があったみたい
なので、場所の知識があって説明は簡単だった。
家には使用人は誰も置かない。
ゴーレムが屋敷を管理することになると説明しておく。
オスのセバスチャンが執事でマリアがメイドとの説明にビックリし
ていた。
ここまで優秀なゴーレムはヨークルには存在しないって言われて、
ちょっと製作者として誇らしい気持ちになる。
カタリナが言うにはここまで優秀だと外を歩かせてると盗難される
かもしれないと心配していたので、彼らを誘拐するにはAランクの
冒険者チームが20人ぐらいは最低でも必要だと説明しておく。
信じてないようなので、庭でセバスチャンとマリアに無手の技の乱
捕りをさせる。
はじめはゆっくりと動いてもらい、徐々にスピードアップさせる。
途中からアイリとミーも見ていたが、途中からまったく見れなくな
256
ったようで3人とも呆然としていた。開いた口が塞がらなくなった
ようだ。セバスチャンたちに乱捕りをやめさせて説明終了。信じて
もらえたようだ。
ゴーレム製作依頼が殺到するかもと言われたが、俺はゴーレム職人
でもないので自分のため以外に作る気はないって言っといた。
また遊びに来ますと言ってカタリナと別れアイリの実家を後にする。
テクテク5人で歩く。クマがいるので目立つが、もう気にしないよ
うにするしかないとあきらめた。
このヨークルの人たちにもマリアとセバスチャンになれてもらわな
いとな。
そういえばおやっさんに全身鎧をリクエストしたが、ゴーレムを作
るために核になる魔結晶を持ってないな。
持っている魔結晶では質が悪い。
セバスチャンとマリアに入ってる魔結晶はシルバードの持っていた
魔結晶なので、かなりの良質な物だったのだが。
大きくて質の良い魔結晶は売ってないかなぁとアイリとミーに聞い
てみたが・・・
﹁冒険者にとって魔結晶は取ってきて冒険者ギルドに売るものだか
ら、どこに売ってるのかも知らないよ﹂
ミーに言われてしまった。確かにそのとおりだ。
じゃあこれからの予定をきめた!
﹁今日依頼を受けるのはもう時間的にムリだけど、明日受けれて質
の良い魔結晶が取れそうなのをギルドに行って捜そうよ!﹂
257
良さそうな依頼がなかったんでダンジョン行くことになったっす
!︵前書き︶
7・7修正しました。
8・20修正しました。
258
良さそうな依頼がなかったんでダンジョン行くことになったっす
!
冒険者ギルドに戻って掲示板だけじゃなく、壁や柱に貼られている
依頼書を3人で手分けして眺めているが良いのがないな。
俺のギルドランクがE。アイリとミーがC。
3人のチーム﹃早乙女遊撃隊﹄のチームリーダーは俺になってるの
でチームのギルドランクはDとなっている。こういう場合Cランク
のアイリかミーがチームリーダーをしてCランクのチームにするの
に、アイリもミーも2人とも絶対に譲らなかったのだ。
﹁俺が早乙女家の当主だからリーダーは俺以外にはありえない﹂
俺がDランクに上がればCランクのチームになるのだからって言わ
れてちょっと凹んだ。
俺ががんばるしかないな。
ゾリオン村のビッタート卿が言っていたのだが、俺は盗賊殲滅︵1
48人︶とクマ退治でCランクになるまでのギルド貢献ポイントが
溜まってるはずだから、Cランクまでなら無試験でいけるらしい。
なおさら頑張らないといけないな。
依頼よりもダンジョンに行って魔結晶を探したほうが早いかも。
今の俺の目的はランクを上げることではなくて、質の良い魔結晶が
3つ欲しい。だからダンジョンなら亜種で強力な魔獣が時々出るこ
とがあるから、それを狙った方が早いかもってアイリが言い出した。
夜間は夜間しか出現しない強力な魔獣が出る。それを狙って金を稼
いでるチームもいる。
本来、夕方から夜間はDランク以上しかダンジョンに入ることはで
259
きなくなるが、俺はチームランクがDになるので行ける。それなら
今から行こう。
と、話はまとまった。今は普段着だがアイテムボックスの中に防具
も武器も全部が入ってるし、時間も丁度いいので今からでも大丈夫
だ。
そうと決まればさっそく移動開始だ。
冒険者ギルドの更衣室を使いフル装備に着替える。
アイリとミーはヨークルを出てから頭装備を装備するいつものスタ
イルのようだ。
この冒険者ギルドから大森林内部にあるダンジョン﹃アゼット﹄ま
では徒歩だと2時間強ぐらいだ。歩きながら暇なのでいろいろな話
を3人でしながら、道にある屋台で何かを買ってつまみながら、美
味しいものがあれば何十個も買ってアイテムボックスに入れる。
フルーツの乗ったクッキーが美味しかったのでkg単位で購入した。
ダンジョンの名前は発見者が命名することができる。
これがイーデスハリスの世界のルールだ。
それでダンジョン﹃アゼット﹄の名は発見者の名前がつけられてい
る。
自分の名前だけじゃなくて自由に命名できる。他のダンジョン名は
地名が入っていたりする。ダンジョン名は地名か発見者の名前のパ
ターンが多いそうだ。
ダンジョンが発生する条件・理由などはまだ解明されていないが、
地中に埋まる魔結晶に入っている魔力が何かのきっかけで暴走しダ
ンジョンが生まれるのではないか・・・というのが今の研究結果だ
そうだ。
だからダンジョンの1番奥には巨大に成長した魔結晶がある。ダン
260
ジョンの大きさによって大きさや純度や内蔵魔力・魔結晶の色など
に違いはあるが、最奥には必ずある。
そしてその魔結晶がある最奥の部屋の手前にダンジョンの大ボスが
いる・・・まぁ当たり前だな。
大ボスを倒し最奥の部屋に行って魔結晶を外に持ち出すとダンジョ
ンは徐々に消滅していく。
だけど・・・
﹃最奥の部屋の魔結晶を取り出しても、その魔結晶の場所に質が悪
くても大きさは小さくても良いので、替わりの魔結晶を置いておく
とダンジョンは消滅しないでそのまま残る﹄
・・・という神託を受けたチームが実施してみたら、見事ダンジョ
ンの維持に成功した。
じゃあ魔結晶が何度も取れるじゃん! と思うが、替わりに置いた
魔結晶が元々あった大きさの魔結晶に成長するまでは最奥の部屋に
は誰も入れなくなる。魔結晶の成長の速度はよく分かっていない。
魔結晶が成長した後も一度クリアした人間は最奥の魔結晶の部屋に
は2度と入れなくなる。
・・・うーん。あの4人の神が創ったルールっぽいな。ダンジョン
が消えたら作った意味がなくなるから新たに設定したっぽい。
しかし、何もでないな。アゼット迷宮に向かいながら思っていたこ
とだ。
もう早乙女遊撃隊のメンバーは大森林の中に入ってる。
セバスチャンとマリアには大森林の探索を命じたので二人とも今は
大森林のどこかで探索しているだろう。俺達がダンジョンを出た時
261
に合流できるように合流場所を決めておいた。
早乙女邸には出かけてくる時に結界を張っておいたので今は、俺・
アイリ・ミー・クマ2人・おやっさん夫婦・カタリナ・司祭などの
親しいメンツで魔力パターンが登録された以外の人は門にも触れな
いほどの結界が張り巡らされてる。
﹃出かけてます。御用の方はお名前とご用件の書いた紙を、こちら
のポストに入れて置いてください﹄
門にはこう書かれたプレートとポストを設置してきた。
ポストは俺のアイテムボックスの入り口が設置してあるので、俺に
はいつでも確認できるし紙が入った時には俺にだけ聞こえる音が鳴
るように設定してある。
まったく何も敵が出てこないからアイリたちに聞いてみたら、ここ
はダンジョンに向かう唯一の道で冒険者達が数多く時間帯も問わず
に行き来している。だからここの大森林の道には魔獣も出ない。大
森林内の一種のセーフティーゾーンになっているんだって。
確かに言われて冷静に考えてみればそのとおりだな。
さっきから何人もの冒険者がすれ違ってるし、アイリとミーにいた
っては知り合いと何回か挨拶と会話までしてる。俺も何人かと挨拶
と握手をさせてもらったし。
俺がアイリとミーと結婚したと言ったら・・・。
﹁若い男のエキスを吸いすぎるなよ。アイリもミーも若返りすぎだ﹂
2人はなぜか注意を受けてた。
少し笑えたな。アイリもミーも顔を真っ赤にして照れまくっていて
可愛かったし。
アゼット迷宮にたどり着いた。ダンジョン攻略開始だ!
少し胸が踊る。興奮しているのを感じる。
262
﹃これぞ異世界﹄﹃これぞファンタジー﹄って感じだな。
263
はじめてのだんじょん。接待プレイはなしっす。︵前書き︶
6・12修正しました。
7・7修正しました。
8・27修正しました。
264
はじめてのだんじょん。接待プレイはなしっす。
アゼット迷宮に一歩足を踏み入れる。ダンジョン初体験だ。
暗いのでライトの魔法を唱え直径5cmほどの明かりのボールを2
mほど離れたところに飛ばし浮かべる。前後左右に合計4つだ。
ゆっくりと階段を下りていく。
階段の横に何個も並んでいる扉からぞろぞろ人が出てくる。
ダンジョンから帰還する為の部屋が各階にあり、そこの部屋の床に
描かれてる魔法陣の上に乗って﹃帰還する﹄と脳内で唱えればここ
の扉に繋がって戻ってこられるとミーが教えてくれた。
まずは地下1階。
地下1階はグネグネ曲がってはいるが1本道だ。魔獣部屋や宝箱部
屋があるが部屋の扉の前は順番待ちのチームがいくつか並んでる。
魔獣部屋は部屋の魔獣を倒すと魔石とアイテムが必ずドロップする。
地下1階のこの部屋はポーションが必ず出るらしいので低レベル者
たちに大人気だ。
宝箱部屋は部屋の魔獣を倒すと武器や防具が必ず入った宝箱が出る。
どちらの部屋も入ってから部屋の中央に描かれた魔法陣にポップア
ップする魔獣を倒さないとドロップしないし、宝箱も出てこない。
地下1階では宝箱にトラップは仕掛けられていないから大人気なの
だ。
魔結晶の欲しい俺達には今は無縁だな。アイリ・俺・ミーの並びで
歩いていく。
地下1階では部屋のように広くなったところにしか敵の魔獣は出て
265
こないので暇すぎる。
出てきてもアイリが盾で殴って瞬殺してしまうし、1度だけ広間を
出ようとした時にバックアタックをされたが、これもミーが瞬殺し
てしまった。
俺にはすることがなかった。
地下1階にはトラップもないし。
暇だったので﹃迷宮探査﹄と闇・風・土の融合魔法を使ったら、地
下20階までが脳内のMAPに入力されてしまった。
なんで地下20階まで? と疑問に思ったのでアイリとミーに聞い
たら、アゼット迷宮は地下20階以上の場所は魔方陣で飛ばされて
しまうらしい。
地下40階でも同じと言うことで20階毎に魔方陣で飛ばされるタ
イプのダンジョンみたいだ。
アイリとミーは40階のボスを倒し41階に行ったところで行き詰
っているみたいだ。
41階からはゴースト系の敵が多く直接攻撃が効き難い。
だからそこから攻略できずに魔法属性が付与された武器や防具を購
入しようとしていたらしい。
ゴースト系は火と光属性が効果的に効くので捜していたんだと。
アマテラスからもらった祝福でもう2人とも必要ないけどな。
そういえば・・・アゼット迷宮はまだ一度も攻略されていない。
最高到達地点は﹃地下105階﹄までだ。
5人ものSランク保持者がいる20人のチームで、105階のボス
︵アゼット迷宮は5階ごとに必ずボスがいる︶に挑んだが、戦闘が
始まってすぐの敵の一撃が即死の全員攻撃でほぼ全員死亡。
持っていた﹃身代わり石﹄で生き残れた3人は、即座に攻略を諦め
266
逃げることを選択、転送石を使いボス部屋から階段横の帰還部屋に
何とか帰ってこれた。
生き残った3人はほぼ無傷だったが17人は死体しか帰還できなか
った。
最強のチームはそれで完全崩壊。
ダンジョン攻略はそこから進んでいない。
階段にたどり着き地下2階へ行く。
地下1階では結局一度も戦闘させてもらえなかったので、流石に文
句を言った。
﹁俺はダンジョンに散歩しにきたんじゃない!﹂
暇すぎるぞ戦わせてくれって切実に訴えて何とか地下2階では先頭
を歩けるようになった。
だってさぁ、俺がアゼット迷宮にきてからまだ魔獣を見てないんだ
よ。
強くて優秀なのに可愛い嫁2人は確かに自慢なんだけど・・・過保
護はイカン。
2人とも俺との性で若返り、物凄く体調が良くて嬉しい気持ちは分
かるが・・・サクサク倒しすぎで、俺が魔獣を見られないんだよ。
戦いたいよ俺も。
まだこのカタナで魔獣を切ってないんだよ。
地下1階では気配しか見れていない。
でてくる敵はゴブリンらしい・・・このらしいってのが流石に悲し
くて文句を言ってしまった。
俺・ミー・アイリの身長順で進む。
地下2階は﹃オーク﹄が出るらしい。らしいと言うのはまだ戦闘し
ていない。
さっき気配を感じたら向こうも感じたらしく・・・走って逃げてい
った。
267
おいおい、オークちょっと待ったらんかい!
魔獣が逃げだすってなんやねん!
魔獣やったら後先考えずに堂々と突っ込んでこんかい!
って関西弁で流石に叫んだ! 切実なる叫びだ!
その怒りのままにガスガス音を立てて歩いていったら、曲がり角の
隅っこの壁でオークがプギープギー言いながら、持っていた棍棒を
放り捨てて頭を抱えてガクブルしてた。
2mぐらいの大きさのオークがガクブル。
流石にこれを殺す勇気は俺にはない。これを殺したら人でなくなっ
てしまう。
ガクブルするオークを呆然と見下ろす俺に、アイリとミーが﹃ない
わぁ、流石にそれはないわぁ﹄とでも言いたそうな生暖かい半目で
俺を見てる。
2人にこんな目で見られて悲しくなってしまった。
心が折れそうだ。
そのまま何もできずに通り過ぎて歩いていく。
ちょっと悲しくてトボトボと音が鳴りそうな歩き方だった。先ほど
までの怒りは霧散した。
俺って何も悪くないよな・・・あ!
俺自分の魔力や気配を隠蔽してなかったな。自分の致命的なミスに
初めて気が付いた。初ダンジョンではしゃぎ過ぎてたな。
自分を弱々しいレベルまで隠す。完全に消してしまうと気付いても
らえなくなるからな。
人っていうものは、こうして間違えて傷ついて成長していく生き物
だからな! ︵本人はまだ人間のの範囲の中にいると思いこんでる︶
268
しかしそこからと言うもの、次から次へと襲ってくる。
オーク祭りの開催だ。
棍棒で上から殴りかかってきたオークの棍棒を左に上半身を捻って
傾ける動きだけでかわしてから、居合いでオークの棍棒を持った両
手の手首から切り落とす。
さらに体を左に流すように一歩分ほど飛ぶ。
それから一歩前に踏み出してオークの眉間に突きを入れて瞬殺。
そこに俺の左側からオークがハンマーを振りかぶって攻撃してこよ
うとしたので、眉間に刺さる刀を瞬時に引き抜きオークの左側に抜
けるようにして、スキだらけな腹を背骨ごと切る。
ここで俺の右から襲ってきたオークが俺に向かってプギャーと大口
を空けて叫んでいるので、一歩踏み出しクチから後頭部に抜ける突
きをぶち込む。
俺に突進してきたオークを飛び越えながら頭蓋骨をかぶっていた鉄
製の兜ごと叩ききる。
着地した俺を掴もうと腕を伸ばしたオークを、俺は掴まれる前に横
っ飛びでかわしながら右ひざを切り飛ばしオークは転げまわる。
転げまわるオークの上に飛び乗り顔面にカタナで突きを出して殺し、
そのオークを踏み台にして飛び上がり残っていたオークの首を切り
落とす。
すげぇ・・・こうやってオークを切って突いて、オークの装備して
いる汚い鉄製の防具ごと頭蓋骨や背骨を叩ききってるのに、刃こぼ
れ一つなく切れ味もまったく落ちないこの﹃天乃村正﹄ってすげぇ。
と感動していた。感動しながらも襲い掛かるオークの攻撃をかわし
て殺す。敵の攻撃の隙間に踏み込み飛び込んで殺しまくっていた。
オークの通常ドロップアイテムは﹃豚バラ肉﹄
レアドロップアイテムは﹃豚トロ﹄
269
まぁ・・・オークだしな。
俺の後ろからオークが落とした﹃豚バラ肉﹄と﹃豚トロ﹄と魔石を
拾いながらアイリとミーは話してる。
﹁なんか今日はレアドロップが多いなぁ。魔石も質が良いのが多い
し﹂
地下2階以降にはセーフティーゾーンとなってる﹃休憩室﹄がある。
ここが空いていたので休憩をとることにした。
肉が大量に手に入った今夜の晩ご飯は﹃焼肉﹄にした。焼肉のタレ
はないがポン酢があったので大根おろしをつけておろしポン酢でい
ただく。
魔石を使った魔道コンロに鉄板を乗せてジュージュー焼いて食べる。
さきほど捕った豚バラ肉や豚トロも切って焼く。クマ肉も出したし
ウサギ肉も焼く。
こうなってくると焼肉のタレがほしいな。
ヨークルでは魚介類がまだ少ないので製造が難しい。
面倒だから焼肉のタレもレアドロップでいいから、ダンジョンから
出てこないかな? なんてことを考えてた。
270
はじめてのだんじょん②。オーガがデカ過ぎてカタナが届きにく
いっす。︵前書き︶
6・12修正しました。
8・27修正しました。
271
はじめてのだんじょん②。オーガがデカ過ぎてカタナが届きにく
いっす。
食事が終わり30分ほどの仮眠をして、起きてから疲れが残ってい
ないかチェック。
コーヒーを飲んで、土魔法で囲いを作ったトイレ︵おまる︶を済ま
せてからダンジョン攻略に戻る。
MAPで場所が分かってるので苦労もなく階段を見つけ地下3階に
来た。
3階に出てくる敵は﹃オーガ﹄。
いわゆる西洋版の赤鬼さん&青鬼さんだな。
ここはオーガがいるにふさわしく身長が2.5m以上のオーガが飛
んだり跳ねたりできるように天井が高く10mぐらいの高さがあり
そうだ。
3階は通路がない。
部屋が扉で繋がっているタイプのダンジョンだ。オーガ用だな。
ここでまた並び替えが。アイリ、ミー・俺の順番だった。
﹁オーガの攻撃﹂
﹁オーガはアイリを傷つけることができない﹂
﹁ミーの槍攻撃! オーガの頭を粉砕した﹂
﹁オーガは死んだ﹂
﹁俺はドロップアイテムと魔石を拾う﹂
これが10回以上も繰り返させられた。
オーガの通常ドロップアイテムが﹃オーガの角﹄﹃オーガの牙﹄。
この二つは漢方薬のように乾燥させてから削って粉にして、溶かし
272
た鋼と混ぜて鍛えると﹃オーガ鋼﹄となる。
これは﹃酸化しない鋼﹄となり、錆びなくなるので重宝されてる。
このオーガ鋼は鍛冶職人の登竜門的な存在で上手く鍛えればプラチ
ナの硬さと鋼の強靭さと鉄の粘り強さが得られるが、下手だと鉄以
下のゴミとなってしまう。
このオーガ鋼を鍛えて武器や防具にできるようになったら師匠に独
り立ちを許してもらえると言われてる。
オーガ鋼で作られた武器や防具は信頼が高く中堅クラスの冒険者は
このオーガ鋼の武器や防具を、コーティング材などにミスリルを混
ぜたり、盾の表面に魔獣の皮をつけたりして見た目を変えて使って
いる者が多い。アイリとミーもこのオーガ鋼を基礎部分にしている
防具を使っていると言ってた。
オーガのレアドロップは﹃オーガの肝臓﹄。
これはMPハイポーションの材料になる。
だけどこの3つのアイテムがともにドロップ率が悪すぎて、金稼ぎ
の連戦には向いていない。
俺は主神の祝福︵天運︶があるからドロップしまくってるけどな。
オーガは意外なスピードでこちらの攻撃を避けたりするのだ。
攻撃も速いくせに、たまにフェイントまで使ってくるから厄介な敵。
だから、盾職を練習しているメンバーがいる冒険者チーム以外は足
早に去ってクリアーしていく。
前列の盾職が上手く挑発して自分に攻撃が向くようにコントロール
し続けないと、いきなり飛び上がって後列に攻撃してくることもあ
るからだ。
オーガは盾職の練習相手に最適だとも言われてる。
シーパラ連合国内で﹃ヨークルは盾職の名産地﹄と呼ばれているの
は、このダンジョンの浅い階層でオーガがソロで出てくるというの
が理由だろう。
273
まだ経験が浅い盾職の人間が経験を積むのに最適だからだ。
シーパラ連合国内の冒険者の盾職はヨークルに必ず鍛えに来る。
アイリの父親の﹃モルガン・クリストハーグ﹄もその1人だった。
3階に入ってから1度だけバックアタックされてキターーって思っ
ていたら、アイリがスキル﹃挑発﹄で、﹃こっちに来い!﹄と叫び
オーガを誘いオーガは俺を飛び越えて行ってしまった。
俺が少し気落ちして歩いてる時、前方で﹃ギャーー﹄と叫び声が聞
こえたんで、三人でそちらに走って行く。
10匹以上のオーガがすでに死体となっている複数の人間の体を踏
んだり蹴ったりしていた。
俺は走りながら不謹慎なことを考えてた。
﹁おっ! オーガが集団でいるってことは俺にも出番が!﹂
ミーが走りながら大声で叫ぶ。
﹁間に合わないわね。もうすでに死んでる。だけど・・・アゼット
迷宮地下3階でオーガの集団?﹂
﹁亜種がいるかも。しん君も気をつけて!﹂
アイリも走りながら叫んでる。
﹁クソッ、時間がない。奥にデカイ魔力のオーガが4体いる。3体
はオーガナイト。一番デカイのがたぶんオーガナイトロードだ﹂
俺は気配察知と魔力察知で知り得た情報を2人に話し、矢継ぎ早に
早乙女遊撃隊に命令をくだす。
﹁間に合わん! アイリはここから挑発してオーガをこっちに誘導
しろ。ミーはアイリの後ろから各個撃破。俺は引っ掻き回す。アイ
リが拠点確保のために挑発を繰り返せ!﹂
﹁﹁わかった﹂﹂
アイリが足を止めてから、スキル﹃挑発﹄を叫びながら連続使用す
る。
274
﹁このクソヤロウども! どっち向いてんだ! こっちにかかって
こいやぁ!!﹂
あいりの大声とスキル﹃挑発﹄によってオーガが11体、オーガナ
イト3体、ボスのオーガナイトロードが全員がこちらに走って向か
ってくる。
アイリは今まで装備していた小型の丸い盾を左右の腰に戻し、上か
ら手を回して背中にマントのように吊るしてあった細長いホームベ
ース型の盾を両手に一つずつ装備する。
アイリのシールダーとしての本気モードだな。
左右の手に持ってる盾で片手は相手の攻撃を受け流して反対側の盾
で殴る。それを繰り返しながら挑発を続ける。
﹁おらおらおらおら! それでお終いか? どんどん来いやぁ!﹂
ミーもいつもの短槍をアイテムボックスに入れて十文字長槍を取り
出す。
その十文字槍はミーが振るった瞬間に風の刃を飛ばす。オーガの頭
を吹き飛ばした。アイリの後ろでミーの十文字槍が縦横無尽に走り
ぬけ、オーガの頭を破壊していく。
俺は後ろ一歩引いて、引いた瞬間に気配を完全に絶ち、横へ走り抜
ける時に通りすがりで1体のオーガの顔面を切り飛ばす。
オーガ軍団の後ろに回りこんで、一番後ろにいた3m以上もありそ
うで強大なオーガナイトロードの左の膝をカタナの横薙ぎの一撃で
断ち切る。
左足を膝から切り落とされて崩れ落ちるオーガナイトロードの首を
下から切って落とす。
オーガナイトロードの死体を蹴り飛ばし、前を守っているオーガナ
イトの背中にブチ当てる。
前に吹き飛ぶオーガナイト2体、今になって俺の存在に気付いた1
275
体。振り向く1体のオーガナイトの胸の心臓に正確にカタナを突き
入れる。
アイリとミーが正面から敵のオーガ軍団を引き付けている間に俺が
後ろから攻める。
俺がカタナを振るいオーガ軍団を一方的に蹂躙する。
オーガナイトロードを殺してから1分もかからずにオーガ軍団は殲
滅した。
276
はじめてのだんじょん③人を助けるのは難しいって話っす。︵前
書き︶
6・24タイトル修正しました。
277
はじめてのだんじょん③人を助けるのは難しいって話っす。
オーガ軍団のトドメをさしてまわり、ドロップ品を回収していく。
オーガからは魔石と角と牙と肝臓。オーガナイトは魔結晶!おおお、
捜してたものが意外に早く来た。
質は・・・3個ともほどほどってとこだろう。これならゴーレム門
番ぐらいならいける。
オーガナイトのドロップアイテムは﹃オーガの角﹄なんだけど色が
銀色だった。
アイリもミーもこんなの見たこと無いって言ってる。
それでオーガナイトロードは綺麗な白色の魔結晶を2つもドロップ
した。
質もクマ以上で俺が見た再高品質だな。これでゴーレム馬車でも作
っちゃおうかな。凄いのができそう。
ドロップアイテムはオーガの角で一緒なんだがオリハルコン製みた
いに重量感があり、メタリックに金色に輝いてる。
アイリとミーと三人であまりの美しさに見とれてた。
俺達3人を現実に戻したのは声だった。
﹁ぐぅ・・・ぁぁ﹂
か細い声だけどありえない場所から聞こえた。俺たちがここに来た
時にオーガに殺されてた死体の方から聞こえた。
アイリもミーも警戒しながら声の方向に向かう。
死体を動かすと死体が重なった隙間に160cmぐらいのローブを
着た女の子が血を吐いてかなりヤバイ状態だった。
﹃エクストラヒール﹄
躊躇しないで回復魔法をかける。バイドたちに使った時のように、
278
女の子の全身が光の膜に覆われ、それが体内に吸収されるように消
えていく。
すると、白を通り越して土気色の顔色をしていた女の子は、みるみ
るうちに顔の血色が良くなっていく。が、しかし目覚めない。
﹁しんちゃん、大丈夫なの?この女の子、目覚めないよ?﹂
﹁ミー慌てるな。エクストラヒールでは体を治すことはできるが、
流れ出た血は補えないんだ﹂
そういってアイテムボックスからハイポーションを取り出して、女
の子に口移しで飲ませる。
最初はゆっくりとだったが確実に少ずつ飲んでいく。全部飲み終わ
って俺のアイテムボックスからボーリックさんからもらったクッシ
ョンを下に置き、そこの上に女の子を寝させる。そして無意識に彼
女に﹃スリープ﹄をかけて魔法の眠りに強制的に入れる。これで彼
女は半日以上は目覚めないだろう。
俺たちはこれからを相談することにする。
﹁どうしようか?彼女を成り行きで救ってしまったが、彼女の仲間
はあそこで全滅してしまっただろう。俺たちの今回の目的は﹃魔結
晶を3個以上集めること﹄だったから、もうダンジョンにいる意味
はなくなった。彼女を地上まで運ぶことは俺たちには簡単だ。が、
俺は彼女にエクストラヒールを使って治したと言いたくない。なる
べくアイリとミー以外には言いたくない。なぜかは説明できないが
﹃エクストラヒールを使ったことを今は言うな﹄って俺の本能が告
げている﹂
﹁もっと軽症でハイポーション2個で何とか治った。と言うしかな
いわね。しん君もミーもそのつもりで。言葉と情報は合わせておか
ないとボロが出て状況が悪くなる﹂
﹁確かにそうね。目が覚めたら知らない人間が自分の周りにいて仲
間達は死体となってる。・・・誰しもが混乱する状況ね。下手する
279
と怨まれる危険もあるわよ。﹃何でもっと早く助けに来なかったん
だ!﹄ってね﹂
﹁俺もそれが怖い。もしくは﹃死体を生き返らせろ!﹄とかな。俺
の中にある知識と経験が警報をとてもとても大きな音で鳴らしてる
んだ。たぶんだけど・・・こうして助けて逆恨みされた経験が山ほ
どあるのだろう﹂
﹁そうね。こういうことは理解できるようになるまでは時間がかか
ると思う。だから今日は終わりにして帰りましょう。彼女には会わ
ないほうが良いと私も思うわ﹂
アイリもミーも俺の意見に賛同してくれたし、目的も完了したんで
今日のダンジョン攻略は終了とする。
死体からステータスカードを抜き取り、死体はアイテムボックスへ
全部入れる。転がっていた誰のかわからない装備品など全部だ。大
きいライト魔法を飛ばして探ると指が転がっていて指輪がはまって
いたから、それも回収しておく。
なにも残ってないことを確認し地上に戻る前にアイテムボックスか
らセバスチャンとマリアに集合場所に戻るように手紙を出す。
クッションのまま俺が彼女を抱きあげて歩いていく。隣の部屋が地
上への帰還部屋だ。
彼女を抱き上げたままダンジョンを出て、出口から少し離れたとこ
ろにある冒険者ギルドの出張所で彼女をおろす。
彼女を寝かせたまま抱き上げて連れてきた理由﹃彼女にあまり関わ
りたくない﹄ってことを話すと、ギルド職員は﹁え?なんで?﹂っ
て感じだったが、警備を担当していた老練の警備員は元冒険者だっ
たらしくて、俺の話すことを理解してくれた。
警備員の弟も昔、死んだ冒険者の5歳の子供に刺された事があるら
しい。﹁お前がもっと早く行けばお父さんは助かったんだ!﹂って。
280
死体のステータスカードを拾っただけでこれだ。
﹁しかしお前も若いのにそういうトラブルの話をよく知ってるな?﹂
と、感心されてしまった。意外と問題になることが多い話だから、
ベテランだと関わり合いになりたくなくて逃げて捨てていくんだっ
て。
ギルド職員は気を引き締めた顔をして調書を取っていく。
少し青い顔をしながら﹁個人情報は絶対に漏れないようにする﹂っ
て言ってくれた。
俺はアイテムボックスに入れた全員の死体と、あの場所で拾った全
ての装備品やアイテムなどを出張所に並べた。職員は全部調書に書
き込みながら、ギルド所有の﹃アイテムボックスの箱﹄に入れてい
く。
俺も確認しながらサインしていく。それからは状況説明にうつる。
たまたま通りかかったら、叫び声が聞こえたこと。オーガを不意打
ちで全滅させたこと。瀕死ではなくて奇跡的に重症な彼女がいて、
しかしハイポーション2本で治ったこと。
などと、少しウソも交えながら説明していく。ギルドカードにチー
ムで討伐した魔獣は記載されているので説明は楽だった。
それで絶対に俺たちの正体を明かさないようにお願いした。逆恨み
はされたくないから教えないでくださいと説明してくださいってお
願いしておく。ついでに警備員さんの弟の経験談も説明して欲しい
ともお願いしておく。
感謝したければ彼女に俺たちを引き合わせた神に祈って感謝してく
ださい。貴女が神に認められれば俺たちに合えるでしょうって説明
してもらう。面倒なことは真っ平ゴメンです。
最後に調書にサインして終了。後はギルド職員に任す。
281
セバスチャンとマリアとの集合場所に歩きながら・・・
﹃アマテラスにゴッデス。お前らは俺に何をさせたいんだ?﹄なん
て考えている。
282
はじめてのだんじょん③人を助けるのは難しいって話っす。︵後
書き︶
さぁ、どうやってハーレム増員をするか悩んでる。
283
早朝の突然のエロ展開っす。︵前書き︶
7.7修正しました。
284
早朝の突然のエロ展開っす。
セバスチャンとマリア、2人との待ち合わせ場所に着くとちょうど
2人もたどり着いたタイミングだった。
﹁﹁まずはご主人様に報告があります﹂﹂と2人から先に報告を受
ける。
2人ともがお互い別の森林モンキーの群れを追っていたらしい。
俺が早乙女邸の拠点防御用でゴーレムを作ると言っていたので、森
林モンキーのしっぽが必ず必要になるだろうから、それで集めるた
めに群れを狩り巣を殲滅しようとしていた。
流石の2人だな。メチャメチャ気が利く。
両方とも追っていた群れが大きい部類だったらしく、2人で500
匹以上も狩っていた。
2人のアイテムボックスに森林モンキーの死体が山ほど入っている。
森林モンキーは地球のカラスみたいに光り物を集める習性があるら
しく、かなりの量の魔石や魔結晶、宝石なんかもたくさん巣にあっ
たらしい。それを持ち帰るために巣の中を探索して集めていた。
それでアイテムボックスの量を確認していたときに俺から連絡があ
り、セバスチャンもマリアも先に報告に来た。
今の時間︵夜中の1時すぎ︶的にもアイリとミーがかなり疲れてる
みたいだったので、この場所で結界を張りここで夜を明かすことに
した。
待ち合わせをしていた場所は意外と広くスペースがあり、平らな部
分の20㎡ぐらいの場所にミスリルで作った太さ1cm長さ15c
mの棒を突き刺して、認識阻害と隠蔽と防御の結界を作りアイリと
ミーには寝ててもらうことにする。
285
セバスチャンとマリアが見つけた巣はお互いはなれたところにある
が、巣を俺に案内するのは1人ずつでいいので見張りはセバスチャ
ンたちに任せれば良いと、アイリとミーには寝ててもらうことにす
る。アイリもミーもクマたちの非常識な強さを見てるので安心して
寝ることにしたみたいだった。
小腹が空いてるだろうし疲れたときは甘いものがいいだろう、2人
に鬼まんじゅうを1種類2個で計4個渡し、前のパーティーで作っ
た軽いお酒も渡しておく。
寝やすいようにベッドまで作った。早乙女邸の改築で木も布も綿も
意外と素材が余ってる。
これは野営じゃないね。って2人がボソッと言っていたが気にしな
いことにする。
まずはセバスチャンに見張りをしてもらい、マリアが見つけた巣に
向かう。
移動時間がもったいないので超スピードで移動する。数分で巣にた
どり着く洞窟だった。ガウリスクの本拠の丘の洞窟と同じぐらいの
大きさだ。洞窟に入りまず﹃洞窟探査﹄の魔法でMAPに入力。
洞窟の群れは殲滅したはずだが戻ってるヤツラもいるかもしれない
と、気配探査と魔力探査で生体反応を調べたが何も出なかった。
ライトの魔法を俺に2個、マリアにも2個使って巣の中のものを根
こそぎ頂くことにする。
森林モンキーの巣があまりにも広いのでマリアと手分けして捜すこ
とにするため、マリアのアイテムボックスを調べ今までガウリスク
の本拠の丘周辺で集めたアイテムなども、俺のアイテムボックスの
中に移動させる。何がどれだけあるか分からないからな。
森林モンキーは夜間に狩りをして、日中は寝てるか巣穴を掘ってる。
穴を掘ってるときに出てきた鉱石や魔石や魔結晶。狩りをする時に
286
落ちてる貴金属なんかも巣に持ち帰る。大森林で倒れてる冒険者の
武器や防具なんかも拾い集めてくるのだ。
いちいち調べてからアイテムボックスに入れるのが面倒だし、時間
がもったいないので全て入れていき検証は後日にする。
1時間半ぐらいかかった。巣が広すぎだな。すぐに結界まで戻る。
アイリとミーは寝ていた。装備を外してパジャマのような服を着て
いた。
マリアとセバスチャンを交代させて、次はセバスチャンの見つけた
巣へ移動する。
こちらもデカイ巣だ・・・。マリアと同じようにまずはセバスチャ
ンのアイテムボックスの中を俺のアイテムボックス中に移動して整
理。洞窟探査でMAP入力。
ライトの魔法を使い手分けして洞窟内を徹底的に調べて根こそぎ奪
っていく。
ここの巣は広すぎだな。ここも1時間以上かかった。
結界に戻り俺も寝ることにする。俺も装備を外しパジャマとして使
っている服に着替えてアイリとミーの真ん中に潜り込んで眠ること
にした。2人の寝顔を交互に眺めて・・・2人とも童顔だな。18
歳の肉体に戻ってるみたいだけど、15歳ぐらいにしか見えないな。
なんてことを考えながら眠りに付く。
セバスチャン達にはここの周辺の探索を命じた。なんかいろんな植
物やらありそうだしな。
朝になって目覚めた。気持ちの良い目覚めだ。何しろ俺の朝立ちの
287
チンコを2人の嫁が両側からペロペロしていたんだからな。
﹁くんくんくん、あ∼、しん君の匂いがするよ。なんか安心するな﹂
﹁アイリ、凄くよく分かるよ。しんちゃんのオチンチンの匂いを嗅
いでるだけで心が安らいで暖かい気持ちになるんだ。こんな気持ち
になったのは初めてだよ﹂
﹁へぇ∼、ミーって男の匂いって臭くて嫌いだって言ってなかった
?﹂
﹁うん。実際に今でも大嫌いだよ。でもしんちゃんの精液の匂いを
嗅いだ瞬間に私の中の何かが変化したの。しんちゃんの精液は凄く
臭かった。だけどお風呂で初めて顔にしんちゃんの臭い精液を頭か
ら浴びた時に、しんちゃんに教えてもらった﹁性的絶頂﹂となった
のよ﹂
﹁私は男の匂いが元々好きだったし、しん君の匂いも好みのタイプ
だった。しん君の精液は確かに凄く臭いよね?。でも私はそこが良
いの。何ていうのか・・・私の子宮がしん君の匂いを求めてるのよ﹂
会話の間は話をしていないほうが、俺のチンコをチュッチュとキス
したりペロペロ舐めたり、ジュボッジュボッと激しいフェラで吸い
上げたりするので、そろそろ俺も限界だったから声をかける。
﹁アイリおはよう、ミーもおはよう。俺のチンコと精液が臭くて悪
いね。それじゃあ、朝からいっぱい飲んでもらおうか?あああっイ
ク!ミー、凄く臭いけど全部飲めよ?凄く臭いけど、こぼすなよ?﹂
そういって俺は上半身だけを起こして、ちょうどフェラしていたミ
ーの頭を押さえつけて精液を大量に注ぎ込む。
いきなりビュー、ビューと注ぎ込まれる精液に少し涙目になりなが
らも、絶対に零さないようにと頬を膨らませて口に溜めて少しずつ
味わいながら飲んでいくミー。
﹁あ、しん君おはよう。いいなぁミー、私も欲しいよ。しん君の精
液。ねぇ私にもちょうだい﹂
アイリも上半身を起こして、俺の顔にチュッチュとキスの雨を降ら
せる。
288
﹁ああ、良いぞ。アイリ。ミー、俺の精液は凄く臭いけど残さず飲
めよ?﹂
俺はミーから射精の終わったチンコを引き抜いて立ち上がり、アイ
リの目の前にチンコを見せつける。
﹁アイリ、俺の精液が欲しいんだったらチンコにお願いしろよ﹂
﹁ハイ。私が大好きなしん君の精液をください。オチンチンから出
してください・・・もう、ダメ﹂
とチンコに向かって頭を下げるアイリ。そして我慢できずにチンコ
をジュボジュボ音を立てて咥える。
﹁しんちゃんの匂いが好きなの。しんちゃんの臭い匂いでたまらな
くなるの。匂いだけでも気持ちが良い・・・﹂
口内に出された精液を飲み終わったミーが、そういって俺の尻肉を
左右に広ろげアナルの匂いを嗅ぎだす。そのままミーは俺のアナル
をピチャピチャと舐め始め、最後に舌をアナルに突きこんで来た。
﹁ああぁ、ミー、気持ち良い・・・イクぞ、アイリ。飲めよ?﹂
俺はこの刺激には流石に我慢できず、アイリの頭を押さえつけて口
内に放出する。
アイリは俺の腰にしがみつき、喉の奥に放出される精液をゴクゴク
飲みこんでいく。
一滴も零さないように、全てを飲み干そうと離すものかと腰を掴む。
そのままアイリは絶頂を迎えたみたいだ。やっぱりドMみたいだな。
喉奥にあたる精液の苦しさでエクスタシーを感じたのだろう。ビシ
ャーっと潮を吹いてる。
ミーも俺のアナルに舌を捻じ込みながら、我慢できずにマンコを擦
っていたらしくプシュ、シャーーと潮を吹いてイった。
ここの結界は完全防御だ。認識阻害と隠蔽で結界内の全ては見えな
いし匂いも結界の外には出ない。魔力も完全に隠蔽されてる。
それでなんとなくここは避けようっていう感覚を本能に訴える認識
阻害がかかっているので、まっすぐ飛んできたバッタすらこの結果
289
意を避けて通っていくのだ。
290
も、もちろん朝からエッチもやるっす。︵前書き︶
6・16修正しました
291
も、もちろん朝からエッチもやるっす。
朝一からのフェラで完全に目覚めた俺たちはまずは朝食。
どうせ誰にも見られてねぇーし、ってことで素っ裸のまま食ってる。
ベッドの上の惨状はいつもの魔法で跡形も残っていない。
ベッドを俺のアイテムボックスに片付けて、今日の予定は・・・先
におやっさんのところでゴーレム創りだな。
下着を着けてアンダーシャツとアンダーパンツを着る。装備を付け
ようとしている時にアイリとミーを見た。
2人も装備を着けるためにアンダーシャツとアンダーパンツの姿な
んだが・・・エロいな。ピッチピチのアンダーが2人の爆乳とスタ
イルの良い全身にくっついている。
爆乳はたゆんたゆんとゆっくり揺れて俺を誘う。・・・別に急いで
ないし、我慢は体に毒になる。
2人にアンダーシャツとアンダーパンツは着たまま下着だけを脱い
でもらう。俺の股間がフル勃起しているので2人とも欲望に濡れた
目で俺を見てる。俺の勃起している股間を見ながら素直に指示に従
う。
下に2つのクッションをおき、2人を四つん這いにして並んでもら
う。1mほど後ろから眺める・・・最高の眺めだな。2人のアンダ
ーパンツを脱がせて、また1mほど離れて交互に眺める。
2人ともビッチャビチャに濡れて太陽の光を浴びてキラキラ光って
いる。
近づいて交互に股間の匂いを嗅いでから舐める。初めて舐めたとき
と味も匂いも愛液の粘度も変わってる。若返ったからかな?。ピチ
292
ャピチャと大きな音をワザとたてて舐める。ミーには先ほどのお返
しにアナルも舐める。
﹁ひゃぁ、そこ、お尻ぃいいぃ、でもぉ尻がぁあ、きもちいぃいい
いぃのぉ﹂
とミーがお声を出す。アイリも﹁私も舐めてください﹂って懇願し
てきたので、遠慮なくベロベロ。
﹁しん、君がぁあああ、お尻をぉおぉ、なめ、あああ、てくれ、ひ
ゃぅ、てるのぅおおおお﹂
舐めるのをやめて、アンダーパンツを脱ぎバックから交互に犯す。
パンパンと尻に腰を叩きつけていく。
四つん這いのアイリの上に乗りおっぱいをもみくちゃに揉む。
もちろん腰はパンパンと止まらないし、アイリも鍛えてるので俺が
四つん這いの上に乗ったぐらいじゃつぶれない。ビクンビクンと体
をガクガク揺らしてる。
2人とも爆乳で乳首もそれなりに大きい。その乳首がアンダーシャ
ツを突き破ろうと硬く大きく勃起している。その乳首を強くつまん
で地面に向かって手を伸ばすように強く引っ張った時にイった。
﹁あああああぁ、ダメぇええ、イっちゃううううぅ﹂
股間では大量のおしっこを吹き出しながら大声で叫び、クッション
に崩れ落ちていくアイリ。失神したみたいだな。俺は即座に魔法を
使い痕跡を消してしまう。
休む間もなくミーの後ろに回り後ろからぶち込む。腰を引っ張りあ
げて無理矢理立たせ﹃立ちバック﹄の体勢にする。2人ともに背が
高く足の長いので、足を大きく開いてもらってる。
ガスンガスンと腰を打ち込み脇の下から手を前に回しておっぱいを
揉みまくり、ミーに振り向かせてキスしながら囁く。
﹁ほら、アイリも気持ちよすぎておしっこ漏らしたよ?ミーも気持
ちよかったら遠慮しなくて良い。俺が綺麗にしてあげるから。声も
293
我慢しなくて良いよ。ここも外には音がまったく漏れないから﹂
何度も何度もビクンビクンと痙攣していたミーだったが口を離して
叫んだ。
﹁んぐぅ、もうだめぇえ、イってるから、もう何度もぉ、イってる
からぁあああっ、ダメなのぉ出ちゃう、でちゃうのおおお﹂
崩れ落ちそうになるミーの体を、後ろから抱えていても腰は止まら
なかった。
ガンガン突いてそのまま中に射精した。子宮に飛び込んでくる精液
を感じて、ミーもおしっこを漏らしながら失神した。
ミーをクッションに寝させると俺の股間もミーの股間もクッション
も地面も全て魔法で綺麗にする。
なんか欲望が止まらなかったなぁ・・・それと﹃洗浄・浄化・乾燥﹄
の魔法が速くなったな・・・慣れてきているんか?。
クッションを縦に並べて中央で俺が胡坐をかき、左右のフトモモに
アイリとミーの頭を乗せて変形の膝枕をした。
2人の頭を優しく撫で付ける。2人とも穏やかで満足そうな顔で寝
ている。可愛くて良い笑顔だな。
俺の中で溜まっていた欲望が霧散して心が穏やかになっていく。
早い話、勃起していたチンコが収まった。
20分ぐらいまどろんでいた2人が起き上がり、エッチな時間は終
了する。
セバスチャンとマリアは結界の外で待機中にハイポーションやMP
ポーションを作ってた。
後片付けをして最後に結界に使っていたミスリル棒を抜き撤収。ま
ずは大森林の道までみんなで走りぬける。道に出るとクマを前後に
して俺たちは3人並んで話しながら5人で歩いていく。
294
この大森林の道は幅が5mぐらいあって馬車がすれ違える様になっ
てる。
ヨークルの道路もメインとなる道はこのぐらいの幅がある。馬車の
幅は2mぐらいかな。自分がこれから作るゴーレム馬車のことを考
えていた。ほかの馬車のサイズを考えると・・・日本の2t車サイ
ズのキャンピングカーぐらいならできそうだな。
それでアイリやミーにも意見を聞きながら歩いておやっさんの店﹃
フィアルカート防具店﹄に向かう。
295
ゴーレム連続製作しちゃうっす。
おやっさんの店に行き朝の挨拶を済ませて、おやっさんたちにセバ
スチャンとマリアを紹介する。
300年以上生きてきて色々と経験してきたおやっさんも、滑らか
にお辞儀をして敬語で挨拶するクマ2体に驚愕していた。おやっさ
んの店で185cmぐらいの全身鎧を3体もらう。
﹁3体だって言ったからまぁ、金額的にオーガ鋼の全身鎧だな。早
乙女の着ている防具と防御力を比べると、全身鎧の分だけこっちの
方がかなり防御力が高いかな。まぁお前の鎧とは用途がまったく違
うしな﹂
﹁俺の場合は攻撃を避けるのが前提のカタナですからね﹂
﹁それで、俺の作った鎧もこんな風に動くようにできるのか?﹂
﹁内骨格型のセバスチャンたちとは動きは変わりますね。鎧の硬さ
を利用したタイプにしては滑らかな動きになると思います﹂
リビングアーマーだと中身が魔力になっててエネルギー効率が悪く
なるから、森林モンキーの尻尾を加工しながら鎧に詰めていく。こ
っちの方がより少ない魔力で素早く動けるしパワーは段違いになる
のだ。
必要となる部品を床に並べてスキル魔法﹃ゴーレム製造﹄を唱え、
先にハード部分を作る。忘れずに鎧の表面をミスリルでコーティン
グしておく。
オーガナイトからドロップした魔結晶に魔力と知識や経験などを封
入していく。
騎士や剣士の知識や経験が必要だからな。
スキルも入れる、こちらはサブで使う魔結晶だから質は低くても良
い。魔法も別の魔結晶に入れていく。ヒールやショックなどの簡易
296
魔法だ。魔結晶の質が低いから数で勝負となってしまう。鎧ゴーレ
ムたちに必要なのは攻撃力じゃなくて拠点防御力だからな。
作業を終えて﹃ゴーレム起動﹄と唱えると、3体の鎧が立ち上がる。
外骨格のタイプだから滑らかな動きやスピードはクマに負けるが、
パワーと頑丈さは鎧の方が上だな。
三人の鎧に動きに不具合がないか動いて確かめさせる。さすがおや
っさんの全身鎧だな、不具合はまったくなさそうだ。
鎧に名前をつける﹃ユーロンド1・2・3号﹄だ。西洋=ユーロを
ひねっただけで名付けた。いつものことだが安易な俺。
3体にメイン武器を作る。
1号にはアイリが背中に持ってるような細長いホームベース型の盾
を腰の左右に装備させシールダーにする。
・・・アイリの持っている盾は2種類ある。直径30cmほどの丸
い盾。これは取っ手のついてる普通の盾で片手ずつに持って装備で
きるし、手首の外側にも取り付けることができる。腰にも付けられ
るし膝の外側に装備もできる万能タイプ。
もう一つが背中にマントのように付けることができる細長いホーム
ベース型の盾。長さ110cm幅30cmで取っ手がトンファーの
持ち手の棒のようになっていて、棒を手で掴みクルクル回せるのだ。
使い方はまるっきりトンファーだろう。防御と攻撃が一体になって
る。そのトンファータイプを1号の腰の両方に付けて装備させた。
2号は双鞭だ。ショートソードぐらいの長さの棒を2本を左右の腰
に装備する。
3号は昆。槍よりも棒術の方が手加減できて殺傷能力が下げられそ
うな気がしたから。
武器や防具は俺が作った。神の創り手スキルでサクッと作る。作っ
297
た武器や防具を見ておやっさんが・・・﹁さすが神の祝福を受けた
転生者だな。俺ももっともっと頑張れる余地はたくさんあるってこ
とだな﹂と気合を入れていた。俺の場合はチートだから。
武器や防具に見合ったスキルをユーロンたちに追加していく。鎧の
色は艶消しのシルバー。
ここからは・・・ゴーレム馬車だな。
知性はほとんどいらない簡単な会話だけで大丈夫だ。パワーはそこ
そこでいいな。エンジンになるゴーレムを小型化して、4輪全てに
付けて・・・
・・・うーーん、なんか考えるのが面倒になってきて大きさは2t
車サイズ。タイヤと運転席の位置は4t車。・・・変な形のキャン
ピングカーを作ってやった。
運転は今のところ俺しかできないが普通に地球の車だ。丸いハンド
ルがあってアクセルとブレーキの足ふみ式ペダル。そこまで飛ばす
ことを考えてないため、変速ギヤはつけなかった。
左右に大型バックミラーを付けて後ろは遠見の魔法を込めた魔石を
使ってバックモニターを作って付けた。ウインカーやライト類は全
部スペースはあけてあるが取り付けていない。
普通の馬車の御者台が高く、自分の座ってる高さが低いと前が見難
くなりそうだったので運転席のポジションを上げた。タイヤのサイ
ズを上げたのは雨の日の未舗装道路がぬかるんで動けなくなりそう
だったから。運転席の下の部分が空いたのでトイレを設置した
。助手席部分は階段になってて後ろのキャビンスペースに行ける。
後ろのキャビンスペースは数種類の設定をできるようにする。
シートタイプでは地球の飛行機のファーストクラスのシートっぽい
ヤツを4台置けるようにした。シートを取り外してマットを引けば
ベッドになる。
ベンチ型のシートも設置できるようにした。ベンチシート1列とフ
298
ァースト仕様2台とかのハーフにもできるようにしてある。
車は自立走行もできるようにした。魔石をあちこちに設置して死角
もなくした。車自体にMAP機能を入れたので目的地を設定すれば
後は勝手に走っていく。
シャワーは付けるのをやめた。家に転移魔法で帰った方が手っ取り
早い。
じゃあなぜ車?・・・作りたかったからとしか言いようがないな。
ひとまず完成したのでおやっさんたちと別れ、冒険者ギルドに行く
ことにする。
ユーロンド3体とゴーレム馬車をギルドで登録するためだ。ゴーレ
ム馬車には登録はいらないらしいが、俺の作ったゴーレム馬車は自
分で動けるから登録しておいた方が良さそう。
車に乗って冒険者ギルドへ。俺が運転席。アイリとミーはファース
ト仕様。残りのゴーレムたちは空いた床に座ってる。
ダンパーとサスペンションを風魔法で制御してあるし、車体のプラ
ットフォームからキャビン部分も魔力で浮いてる。運転席やその他
のシートもジョイント部分が若干浮いてるので細かい振動はまった
くなかった。
みんながいるキャビンスペースの壁は小さな窓もないが、中から外
は見えるようにしてある。外からは窓もないから何も見えない・・・
日本のAVみたいな設定にした。
見られるのはイヤだし、でも景色は楽しみたい!という、俺のワガ
ママ仕様にしてある。
ここまで作りこんだので﹃自重﹄という言葉は・・・捨てた。
299
馬車置き場のスペースに車を入れる。
車のドアは助手席部分の階段をおりたところに設置してある。ドア
はバスみたいなスイング式にした。こうやってみるとキャンピング
カーとかトラックでなくて﹃キャンピングバス﹄だな。登録する名
前もキャンピングバスにしよう。
300
冒険者ギルドのランクがCに!。でも俺、何もしてないっす。︵
前書き︶
7・7修正しました。
301
冒険者ギルドのランクがCに!。でも俺、何もしてないっす。
冒険者ギルドで登録してネームプレートを4枚もらう。さっそくユ
ーロンドたち胸に取り付ける。
俺のギルドカードにも登録される。
セバスチャンとマリアが森林モンキーを討伐したのに、俺のカード
に森林モンキーが討伐数として記載されているのでついでに窓口の
人に聞いてみた。
﹁ゴーレムが魔獣を討伐すると所有者にカウントされます﹂って言
われてしまった。
最近は大森林で森林モンキーが大幅に増えていてEランクの討伐が
入ってる。10匹で依頼達成。セバスチャンが狩った森林モンキー
は267匹マリアは311匹の合計578匹。
Eランクの俺がEランクの依頼を10回達成で100匹。これで俺
はDランク昇格決定。
俺がDランクになると、この場合20匹倒して依頼達成。Dランク
がEランク相当の魔獣の場合20回依頼達成しなければいけない。
これが20×20で400匹でCランクに昇格決定。
森林モンキーの討伐部位は﹃牙﹄。牙を左右で1000個を窓口に
提出。セバスチャンたちから森林モンキーの死体の解体を魔法でし
てから俺のアイテムボックスに入れてるので、すぐ取り出して渡せ
るんだけど。
今日から俺もはれてCランクの冒険者となりました!。・・・なん
か釈然としない。
アイリとミーは超ニコニコ笑顔だ。
早乙女遊撃隊も俺のCランクへの昇格でCランクのチームになった
からね。
302
討伐依頼達成の賞金もEランクの時の達成が1匹3万G×100で
300万G。Dの時が1匹1万×400で400万Gの合計700
万G。
あと、素材も俺が魔法で完璧に処理した為に品質がよく、毛皮や肉・
残りの歯・爪・骨なんかも1匹分で1万Gで引き取ってくれるとい
うので、100匹分は残して478匹分引き取ってもらう。
流石にここでは出せないのでギルドの会議室で職員が確認しなから
引き渡す。
ここの会議室で初めてまともな会話してるかも。ここには良い思い
出がないなぁ、俺。
職員が鑑定しても﹃最高品質﹄ばかりだったのでサービスしてくれ
て合計500万Gで引き取ってくれた。職員はそりゃ嬉しいだろう。
儲けが増えるんだからな。
それで全部の合計が1200万G。・・・クマ優秀すぎるよ。
一晩でこれかよ。しかも・・・俺がまったく指示してない森林モン
キーを俺が必要になるだろうと自主的に判断して狩りにいってコレ
かよ。
しかも森林モンキーの尻尾が5万G以上で引き取ってもらえるから、
本来ならもっと稼げているはず。
なんか俺いらないコなのか?って悲しい気分になった。
まぁ、セバスチャンとマリアだし・・・俺が作って、俺が強化して
るんだし当たり前だな。
そういうことにしておこう。
それにCランクまで到達してしまったので、がんばろう!っていう
心意気?ってのが消え去ってしまった。
ギルドを出て、とりあえず家に帰る事にする。冒険者ギルドからで
303
早乙女邸にキャンピングバスで10分チョイだったな。まぁ信号な
いけどスピードも時速10kmぐらいしか出てない。
早乙女邸に到着したが・・・キャンピングバスが入らねぇ。
幅はOKなんだけど道に対して直角に曲がる為には・・・広げた方
が早いって。
広げるついでに門も塀も作り変えることにした。まずは出かける時
にした結界の解除。
アイリとミーには家で食事を作ってもらうことにする。キャンピン
グバスは道に止めておくと邪魔だから、俺のアイテムボックスに入
れておく。
クマは畑に直行。畑の後にアイリたちの料理を手伝いに行ってもら
う。
クマたちは大森林でいろんな野菜を見つけたらしく、畑に植える為
に苗まで持ってきてくれて・・・ってアイテムボックスって苗は入
れれるのか?。
久しぶりにステータスオープンさせて、ヘルプさんの音声をオンに
設定する。
オヤジギャグの称号をもらった時にあのポーンと頭の中に響く音が、
けっこう癇に障るんでヘルプさんと一緒に音声をオフにしてたんだ
よな。
ヘルプさんによると植物はOKだった。知らんかった。聞きたい事
が終わったんでまたヘルプさんはオフにさせてもらった。ゴメンね
ヘルプさん。
ついでに称号を見てみたら物凄く増えてた。なんだよ﹃おっぱい星
人﹄ってそんな称号入れるなよ!。でも数多くある称号の中で﹃お
っぱい﹄ってひらがなに即座に反応するのがおっぱい星人のゆえん
なのだろうな。実際大好きだし・・・。悲しい気持ちになったので
目の前に広がるステータス表示をそっと閉じた。
304
気を改めて門と塀の製作に。
門は今までつけられていたのは鉄製のこじゃれた雰囲気のある門だ
った。
こんどのは両縁に石材で直径2m高さ4mの円柱を立てる・・・こ
こで俺の持つ石材が底をついた・・・やベーな。塀もキャンピング
バス用のガレージも石材で作る予定だったんですけど。
とりあえず門は鉄製の簡単なヤツでつくり、塀は今までのような鉄
製の柵で作っておく。それで結界だけを敷地内に張り巡らす。ユー
ロンドたちに交代で①門の前②家の前③敷地内周回の3つを30分
ぐらいの不定期でローテーションで警戒してもらう。パターンが固
定化しないように注意しておく。
屋敷に戻るとアイリとミーの手料理ができていた。石材についてみ
んなに相談しないと。
305
三つ巴の戦争に介入してやった。モフモフを守るためっす。
アイリとミーの作ってくれた昼食を食べながら、石材が足りないこ
とをみんなに話した。
流石にアイリもミーも石材の取り扱う商会に知り合いはいない。2
人とも誰かが勝手に採掘できるような岩場も知らない。
セバスチャンもマリアも自分達が探索した旧早乙女村周辺・ガウリ
スクの本拠の丘周辺・大森林の中では良い石材が採掘できそうな場
所はなかったと報告してきた。
良い石材が採掘できる岩場は安全なところは間違いなくどこかの商
会が国に金を払って買い取ってるだろうし、もしくは安全じゃない
場所は自力で戦力を使ってで安全な採掘をしているのだろう。
知り合いがいない石材の商会にはあまり行きたくないな。ボられそ
うな気がする。
今現在のヨークルでの石材の相場なんてメンバーの誰も知らない。
俺の知識にある石材の相場の金額はいつのかわからない﹃昔﹄の相
場の平均金額だ。
俺の知識にある金額と店で売ってる金額やギルドで買い取る金額に
違いが色々あったのでヘルプさんに聞いたら、鑑識などで表示され
る金額は俺の知識の中にある金額の平均金額なんだって。
悩んでいたらセバスチャンから提案が出た。
﹁ガウリスクに炎虎を紹介していただきましょう﹂って。
セバスチャンが考えたのは・・・良い石材は場所は分からないが岩
場にあるだろう。岩場で余り人の手が入っていない危険な場所には
炎虎がいる。というより炎虎がいるから危険で人の手が入っていな
い。その炎虎にはガウリスクの知り合いがいる・・・という理由だ
った。
306
なるほどな。さすがセバスチャン。見た目は愛くるしいクマだが、
ホントによく気が利き頭が回る執事だな。
アイリとミーに予定を聞いたら午後からは少し昼寝がしたい。その
後は街に買出しに行くといってたので自由時間にすることにする。
ユーロンドたちは早乙女邸の警備を継続。セバスチャンとマリアは
庭に行って畑を広げる作業をするそうだ。
俺は1人でガウリスクの本拠の丘に行くことにする。
せっかくキャンピングバスを作ったけど今回は使わないで転移する
ことにする。
本拠の丘に転移したがほとんどのグリーンウルフは出払っていた。
そこで、残っていたグリーンウルフに話を聞くと・・・2日ほど前
に大岩周辺で新たな銀大熊の集団が発見された。
俺がシルバード8世を倒した後に大岩周辺にやってきたのは銀大熊
の若い集団20頭ほど。それをガウリスクは数の暴力で8頭ほど狩
ったみたいだ。炎虎も7頭ほど狩ってるので残りは5頭。
しかし、大岩周辺にやってきたのは北の草原で勢力争いに敗れて逃
げてきた銀大熊の集団20頭だった。
それで北の草原の勢力争いに勝利した銀大熊が自分の直属の部下5
0頭を引き連れて勢力拡大をしにきたのだろう。北の草原のボスと
部下50頭は生き残った銀大熊5頭を吸収し合計56頭で大岩周辺
の勢力拡大に向けて動き出した。
ガウリスクは炎虎と連絡を取って共同戦線をはることに決定。ガウ
リスクは自身の軍団から70頭ほどを出し、炎虎はもともと単独行
動が多くて群れない魔獣だが今回は60頭ほどが安定した水場確保
のために参加してくれるらしい。
いつも群れで行動する習性はないが、何かことが起きれば協力する
のが炎虎の特徴なんだって。
307
今朝から大岩周辺で・・・銀大熊56頭VSガウリスク軍団70頭
&炎虎60頭の戦争状態になっているらしい。ここの本拠の丘に残
ってるのは怪我したウルフと子供だけらしい。戦争に行った以外は
周辺を警戒する任務についてるそうだ。
凄いことになってんな。
魔獣の戦争かよ。って若干引いてる俺がいる。だけどガウリスクに
は仲良くさせてもらってるし、炎虎とは石材関係で仲良くしたい。
グリーンウルフとの関係を見るに仲良くできそうだしな。
怪我してるウルフ3頭に﹃メガヒール﹄を使ったら完治した。完治
したから本拠の丘周辺警戒の任務につくと出て行ってしまった。
情報をくれた小さいグリーンウルフが﹁ボスも手伝ってください。
銀大熊を撃退してください。お願いします﹂って何度もお願いされ
てしまった。
フッ、この小さくて可愛い緑のモフモフを守るためなら俺頑張っち
ゃうよ。モフモフは正義だし。
銀大熊はモフモフしてないからな。セバスチャンとアイリはできる
だけ柔らかく加工したけど。
戦争はもう始まってるし、時間ももったいないので飛翔魔法の猛ス
ピードで大岩に特攻。
上空から気配察知と魔力察知で状況をまずは確認。グリーンウルフ
と炎虎がスピードで銀大熊の集団をかく乱しているみたいだな。状
況確認の後は戦闘状態に入る前に戦闘方針を決めておく。
﹃なるべく銀大熊を殺さずに出来る限り話し合い﹄これだな。
銀大熊を瞬殺するのは簡単だけど、この北の草原の覇者の軍団を全
滅させるとせっかく平穏になった北の草原までも混乱状態に戻るし、
308
大岩周辺を含んだ戦国時代に突入するだろう。
ガウリスク軍団は勢力拡大に興味ないし、炎虎は水場の確保さえ出
来ればいいのだからな。
だから銀大熊軍団はこのまま北に帰ってもらうのが一番都合が良い・
・・俺の都合だけど。
方針も決定したので激戦区に飛び降りる。ドガン!とワザと轟音を
立てて地上におりた。
俺は今﹃隠蔽﹄は使っていない・・・さらに﹃威圧﹄を使っている。
神すら瞬殺可能な超莫大な魔力と超強大な存在感がダダ漏れ状態だ。
戦争が停まる。銀大熊もグリーンウルフも炎虎もビタッと張り付い
たかのようにまったく動けなくなる。
動かないではなく動けない。体が本能が動くことを拒否してるかの
ように動けない。吼えることも鳴くこともできない。俺が銀大熊の
ボスらしき一番大きなクマに話しかける。
﹁おいクマ、お前の名前はなんだ﹂
﹁・・・﹂
ん?怖すぎて声も出ないのか。威圧を消した。
﹁グゥァー、・・わ、私の名前はアキューブ16世です﹂
﹁では、アキューブに聞く。ここのボスだったシルバードを殺して
ここのボスになった俺を差し置いてお前はここで何をしているんだ
?﹂
﹁いえ、そのぅ・・・﹂言いよどむボスに業を煮やした若い銀大熊
が吼える。
﹁ボス、何してるんですか!こんなちびっこいヤツ殺っちゃいまし
ょう!﹂
誰がちびっこだ。お前らがデカすぎなだけだ。ったく、弱いクマほ
どよく吼えるな。ボスのアキューブはいまだに目を合わせてくれな
いのに。なんて考えてるとさっきの吼えたクマが躍りかかって来た。
﹁やっちまえ﹂﹁おう﹂
309
うん。それってヤラれるフラグだよ。
飛び掛る3頭のクマの攻撃を右へ左へヒラヒラかわして、手が届く
範囲にきた頭蓋骨にデコピンを打ち込む。3発だな。ちゃんと手加
減してある。フラフラにはなるが気絶もしていない。気絶だと自分
とのレベル差も理解できずに何度も飛び掛ってくる可能性があるか
らな。いかに相手に手加減された攻撃を喰らって自分がフラフラし
てるのか理解しないとな。
﹁ああ、もう!ちょっとお前ら全員正座!﹂
とムカついた俺がデカイ声で叫ぶとクマもグリーンウルフも炎虎も
全員がおすわりした。
ザッって音がして周りだけじゃなくこの戦争をしていた全員がおす
わりしてる。デコピンされたクマ3頭もフラフラしながらもおすわ
りしてる。
クマに言ったつもりだったんだけど、ちょっとシュールな絵で笑っ
ちゃいそうになった。
﹁ったく、お前はおれに戦争を吹っかけてるんだよな、アキューブ﹂
﹁いえっ、そんなつもりは滅相もございません﹂
﹁じゃあアキューブは何しにここに来たんだ。お前の縄張りはもっ
と北の草原だろうが?﹂
﹁逃げ出したヤツラの成敗に・・・﹂
﹁それはもう終わった話だろ。戦争の話をしてるんだろうが﹂
﹁それは・・・﹂
﹁ハッキリ話せ!﹂
﹁は、ハイ。実は逃げ出したヤツラが言うには、ここ大岩周辺はシ
ルバード8世が死んでからボスがいない。だから自分達は先に先発
してきたんだと。自分達がボスになってここの縄張りをアキューブ
に差し出そうとしたって言われて・・・﹂
﹁言われて?﹂
310
﹁俺も着たの草原の大ボスになってちょっと調子に乗ってたという
か、縄張り増やしちゃおう!って決定してしまったんです﹂
﹁で、どうする?俺と戦争する?いや違うな。俺に虐殺されとく?﹂
といって軽くシャドーボクシングをする。はじめはシュッシュッと
風を切り裂く音だけだったが、次第にパンパンと音速の壁を越えた
鞭のような音をたてる。無論、音速超えのパンチは魔獣たちには見
えない。
﹁ムリです。ごめんなさい。勘弁してください。・・・コレで許し
てください﹂
アキューブははじめはプルプル顔を左右に振っていたが、最後には
腹を上にした﹃完全服従﹄のポーズになった。
全部のクマが真似して完全服従のポーズをしてきた。コレで戦争終
了だな。
311
とうちゃん、ぼくのなまえは﹁るびの﹂だよー。っす?
戦争を終了させただけでなく銀大熊も炎虎も俺を﹃ボス﹄と呼び、
俺の傘下に入ることが決定してしまった。
これで俺は﹃ウェルヅ大草原の覇者﹄になってしまった。・・・ま
た称号が増えたんだろうな。
とりあえず・・・
﹁なるべく人族を襲うな。見たら逃げろ。調子に乗って追っかけて
きたら倒してもOK。・・・だけど骨一つ残さず食べろ﹂﹁人の飼
ってる生き物もなるべく食べるな﹂などを俺からの決定事項として
伝える。
それで﹁開拓村周辺﹂﹁ゾリオン村周辺﹂﹁大岩周辺﹂とそれを繋
ぐ街道は人族の行き来が今後増えると予想されるので、﹃俺の縄張
り﹄として相互不干渉の空白地帯にする。
まぁ、人族に見つからないように狩りするぐらいならOKだけど。
﹁文句があるならかかって来い。種族ごと絶滅させてやるから、そ
れを覚悟してこいよ﹂と宣言した。
フッフッフ、力にまかせてゴリ押ししてやった。反省はするが後悔
はない。個別の争いはともかく、これで戦争はなくなるだろう。
クマも狼も虎もこれで俺の子分になった。ふふっ、モフモフを守る
ためとはいえ﹃どうしてこうなった﹄だな。
今回の戦争では死んだやつはいなくて怪我が数頭だけだったので、
俺が全部治してやったら﹁さすがボス﹂って言われた。
今日ここに来た目的が石材集めだったので戦争はこれで終わりと、
312
グリーンウルフ・銀大熊・炎虎の全部の軍団を自分達の本拠に帰す。
俺は岩場に用があったので炎虎のリーダーを呼び止めた。
炎虎は個人主義のヤツラばかりだけど揉め事などが起きた時は、最
年長者がリーダーとなってまとめるみたい。そのまとめ役のリーダ
ー﹃ニャックス﹄。100年以上を生きてるらしい。
色々な種類の石材が欲しかったので﹁できるだけ大きくて、いろん
な色をした岩の塊がゴロゴロしてる場所を知らないか?﹂と聞いた
ら、しばらくニャックスが考えて俺の質問に答える。
﹁うーん・・・そういえば昨日、奥の岩山で大きな音がして見に行
ったら山が崩れてて。そこになら大きな岩がゴロゴロしてますよ﹂
そこでいいや場所を教えてよと頼むと、ちょっと説明がわかりづら
い・・・ここから目印になるのがない。ニャックスが﹁説明できな
いから乗せて近くまで行きますよ﹂って送ってくれることになった。
炎虎もモフモフしてるから、その提案は大変ありがたい。
炎虎はグリーンウルフとまったく違う走り方をしてピョーンピョー
ンと飛ぶように走る。1歩で20mぐらい飛んでないか?ってぐら
いに飛んでる。
ニャックスに﹁凄いな。1歩で20m以上飛んでないか?﹂って聞
いたら怒られた。ガウリスクの時と同じパターンだった。これでも
上に乗るボスを揺らさないように凄く気を使って走って飛んでるん
だと。本気ならもっと早く走れるしこの何倍も飛べるってさ。
まさかの天丼だった。予想すらしてなかったな。
1時間ほどニャックスが走ったら目的地に着いた。
岩場でもかなりの奥のほうで山岳地帯に入ってきてるな。ニャック
スの巣になってる洞穴を通り過ぎてしまった。ニャックスに﹁ここ
まで送ってくれてありがとう﹂と御礼を言って別れる。
ニャックスに別れ際に﹁また今度は遊びにでもきてくださいね。妻
と子を紹介します﹂と言われた。
313
自分の巣の横をわざわざ通ってくれたのでMAPに登録しといた。
いつでも遊びに行ける。
さぁ、石材集めだ!と自分に気合を入れて集めだす。転がってる石
をガンガンアイテムボックスに突っ込んでいく。砂も入れていく。
これはこれで使い道がある。だから泥も乾燥させてから入れていく。
銅鉱石や鉄鉱石もある。土の中で育った魔石や魔結晶なんかもあっ
た。銀やプラチナ・ダイヤモンドまである。カットしたら小粒だけ
ど俺の場合カットいらないしな・・・すっげぇ、ここすっげぇ。
﹁山岳地帯の宝石箱やぁ﹂なんて、どこかの食レポの帝王みたいな
事をことを調子に乗って口走りながらも、ガンガンと岩や鉱石なん
かを入れていく。
岩だけにガンガン・・・これでまたオヤジギャグのレベルが上がっ
たな。
1個アイテムボックスに入らないやつがあった。直径40cmほど
の卵っぽい形をしている。
手に持って鑑識してみる。卵っぽいじゃなくて卵だった。
?・・・聖獣って何?・・・は?かえるって何が?って固まっ
聖獣﹃白虎﹄の卵。もうじき卵から孵る。
え
てるうちに卵が孵った。
白虎﹁・・・︵名無し︶﹂
種族 聖獣﹁白帝﹂
年齢 0歳
性別 オス
所属 早乙女真一
西方をつかさどると言われる聖獣。西方大陸の魔獣を統べる白帝で
314
もある。四獣の一柱。
生まれたてのホヤホヤ。名前はまだない。
体長30cmほどの白い虎が﹁ガプゥー﹂とあくびしている。かわ
いいなコイツ。モフモフだしな。
・・・現実逃避はやめて﹁おい!ちょっと待て、こんなん送り込ん
だのはゴッデスかゴルァ﹂
なんて大声で叫んでしまった。
おいおいおいおい。うん。いわゆるこれが﹃パニック﹄ってやつだ
な。
パニックになりながら冷静に考える自分がいる。並列思考だったか
?。出口の見えない思考の海に落ちていく俺を救った声がある。
﹁とうちゃん?とぅーちゃーん﹂叫んで俺の顔面に飛びついて全身
でガシッとしがみついてきた。
うん。生まれたてのホヤホヤなのに、間違いなくサラサラのモフモ
フだった。
とモフモフに満足してる場合ではない。俺の顔面にしがみついてる
白い虎を引き放し話を聞いてみる。
﹁お前はなんなんだ?名前はないのか﹂
﹁うん。なまえはとうちゃんがつけてよ﹂
﹁俺がとうちゃんなのか・・・わかった名前がないと不便だからな。
じゃあ・・・﹃るびの﹄。お前は今日から﹃るびの﹄だ﹂
もちろんアルビノから名付けた。だって白虎っていってもまだ真っ
白い毛玉なんだもん。
﹁るびの、るびの、るびの。うん。おぼえたよ。ぼくのなまえは、
るびの!﹂
315
ハーレム増員する前に子供が出来てしまったっす。
うん。これは可愛い。可愛すぎる。コイツは俺の子だ。俺が育てる・
・・ってコイツ何を食べるんだ?。
わかんないからヘルプさんをオンにして聞いてみたけど﹁聖獣に関
するデータが存在しませんのでお答えできません﹂なんて言われて
しまった。ヘルプさん怒ってんのか?。本人に聞いてみる。
﹁なぁ、るびの。お前は何を食べるんだ?﹂
﹁みるく!﹂
それは俺には出ねぇな。嫁さん2人もいるけどまだ不可能だ。悩ん
でいると・・・
﹁ねぇとうちゃん、おなかすいたよ﹂
これはイカン。そういえばアゼット迷宮には通称﹁ミルクさん﹂が
いたような・・・
ダンジョン行って狩りまくっちゃいましょう。
るびのが俺の後頭部にしがみつくように、るびのの頭が俺の頭の上
に乗っかるように、おやっさんからもらったヘッドギアを改造する。
これならるびのも前が見える。俺と同じ方向が見えるな。きつくな
らない様に皮で固定する。
﹁たかーい。とうちゃん。たかいよー﹂と、るびのも楽しそうだ。
転移魔法でアゼット迷宮の地下3階へいく。るびのが転送魔法で驚
いてアワアワ言ってる。ホントにるびのは可愛いなぁ︵すでに親バ
カ?バカ親?︶。
頭を極力揺らさないように気をつけながら、ミルクさんへ俺まっし
ぐらだな。
うん。今ならガウリスクとニャックスが言ってた事がわかる。
316
上に乗ってるのを揺らさないように気を使って走るとスピードが出
せない。ってあれマジだな。
邪魔なオーガをサクッと狩ると﹁すげー、とうちゃんすげぇー﹂と、
るびのが嬉しそうだったのでなによりだ。アゼット迷宮地下4階に
下りていく。
4階の魔獣は﹃モウギュー﹄だった。牛だな。デカ過ぎだけど。1
トンは確実に超えてるだろあれ。
しかも真っ直ぐ俺に突進してくる。
ヒラリとかわして側頭部にサクッとカタナを差す。俺には簡単なお
仕事だったけど。
頭上で﹁すっげぇーとうちゃん!﹂と毎回、いつでも褒めてくれる
ので・・・嬉しい。俺って褒めて伸びるタイプだからな。
モウギューの通常ドロップアイテムは﹃牛ロース﹄だ。そのまんま
だな。レアが﹃牛ヒレ﹄だった。
月と太陽のホテルで食べたスキヤキはこの肉だったのかも。美味し
かったから大丈夫なんだけどな。魔獣の肉だったらそんなに高級品
じゃないのかな?。ヒレもロースも1頭からのドロップが10kg
ぐらいあるし。
サクサク殺していく。ドロップも魔石も忘れず拾っていく。
次はボス部屋しかない地下5階だ。たしか﹃サイラス﹄って言うの
が出てくるってきいた。
アイリとミーの話を総合すると地球の﹁シロサイ﹂って感じだけど、
コイツは明らかに違う。
白と黒のマーブル模様だもんな。コイツはぜったいに亜種だろう。
ムチャクチャでかいし。地球のインド象ぐらいあるぞ。象より短足
だけどな。
ボス部屋に出る亜種は﹃希少魔獣﹄って言われてて、何倍もの強さ
らしい。そういえばそろそろ夕方だしな。夕方や夜間は亜種とか希
317
少魔獣が出やすいんだろう。俺の天運も関係してるのか?。
そんなことを考えてると、サイラス︵希少魔獣︶が、﹁ガフォー﹂
と叫びながら角を正面に来るように顔を少し下げて突撃してきた。
頭上で﹁ウオーーー、でっけぇーキターー!﹂と、るびのが叫んで
るが気にしない。
俺はカタナを右手1本でもち、左手でサイラスの角を受け止める。
もちろん微動だにしないしサイラスが弾け飛ぶこともない。すべて
の衝撃を受け止めて吸収したのだ。
それでサイラスの角を掴んだまま、左にちょいと流して右手のカタ
ナでサイラスの眉間からカタナの根元まで右手1本でスッと突き刺
す。それだけの長さを差し込んでも音もしないし抵抗すら感じない。
サイラスが消え去りドロップ品が残る。
サイラスの魔結晶は3つ。しかも今までのどの魔結晶よりも一回り
以上は確実にデカイ。今までのはクズレベルの魔結晶は地球の単三
電池ぐらいの大きさの六角柱。シルバードとオーガ亜種が単一電池
ぐらいの六角柱。このサイラスのはトイレットペーパーの芯ぐらい
の太さで長さが少し短いぐらいある。感動するのは後にして、ドロ
ップ品は﹃槍﹄だった。思わず鑑識して調べる。
槍 ﹃サイラス︵希少魔獣︶の槍﹄
所有者 早乙女真一
サイラス︵希少魔獣︶の角から作られた片鎌槍。抜群の貫通力を持
つ。
使用者の防御力と突進力を底上げする。他の効果と重複できる。
希少魔獣をあらわすマーブル模様となっている。
これはミーに渡そう。気に入ってくれるとありがたいのだけど、十
文字槍と片鎌槍では少し使い勝手が違うからな。まぁ、家に戻って
から渡そう。アイテムボックスにしまう。
318
頭上で﹁とうちゃんすっげぇー、あのデカイヤツのとっしんをとめ
た!すっげー、またイッパツだったし。オレのとうちゃんスゲー!
!﹂今まで静かだったのに・・・フリーズしてたのが再起動したみ
たいだな。俺の頭を行動部からガッシリ捕まえて大騒ぎしてる。
さぁ、ミルクさん︵ミノタウロス︶の待ってる︵待ってはいない︶
アゼット迷宮地下6階だ。
まず1頭のミルクさんを狩ったら待望のミルクがドロップしたので
皿に入れて、るびのに飲ませてみる。
﹁うめぇー。とうちゃんコレおいしーよ!﹂
ドロップするミルクは5リットルのミルク︵樽入り︶なので皿に口
つけてチューチュー吸われるとすぐになくなる。追加で入れる。す
ぐなくなるって面倒くさくなってきたので、ミルクの入った樽を魔
法で平べったい桶に作り変えた。
チューチュー飲んでるので、るびのはそのまま飲ませておいて、俺
は次から次へとミルクさんを狩っていく。何頭狩ったのか記憶にな
いが、在庫としてミルク50個と練乳15個も集めたので、今日は
もう大丈夫だろう。途中で2個分継ぎ足して、さらにミルクを飲ん
で満腹になって、るびのは桶の横でコテンと寝てしまった。桶は3
点セット魔法で浄化しアイテムボックスに入れておく。
るびのもミルクで全身がべッチャべチャになってたので、浄化して
またオレの後頭部にセットして、転移魔法で岩場に戻る。もう少し
石材が欲しい。
また岩場ではガンガンとアイテムボックスに入れて、めぼしい石材
は取り尽くしたので自宅に帰る。
るびのは頭上でスピ−スピーと鼻息をたてて熟睡中だ。ときどきム
ニャムニャ言ってて可愛い。
319
息子と2人で帰宅。自宅には話したことないお客様が待機中っす
。︵前書き︶
6・13クラリーナの身長の設定を間違えていたので修正しました。
6・24修正しました
320
息子と2人で帰宅。自宅には話したことないお客様が待機中っす
。
もう夜8時を過ぎていて外は真っ暗なので、自宅の庭に転移して帰
宅した。
歩いていくとセバスチャンたちが拡張した畑が目立ってる。
畝が多く綺麗に作られていてけっこう本格的にやってるな。まぁ、
やれって命令してないのに俺の食生活の充実のために先回りして処
理してくれる優秀な執事とメイドが俺にはついてるからな・・・と、
考えてると早乙女邸内の周回警備に当たっていたユーロンド2号が
俺に報告をする。
﹁失礼します。つい先ほど来客がありました﹂
ユーロンドの声は俺の記憶と知識にある騎士の人の声にしてある。
声のキーを三人とも少しずつ変えてあるので3人は同じ声ではない。
こんな時間に来客?誰だろう。まぁ、会えばわかるか。家の中に入
る。
﹁ご主人様、おかえりなさいませ﹂マリアが俺を出迎えてくれた。
マリアとセバスチャン、ゴーレムたちはみんな俺の魔力パターンと
気配が察知できるので、俺が庭の畑をウロウロ観察していたのも知
っているだろう。
﹁ただいまマリア。畑を見させてもらったよ。綺麗にできてるなぁ、
ありがとうな﹂
﹁お褒め頂きありがとうございます。つい先ほどご来客がございま
してリビングの方にご案内させていただきました﹂
早乙女邸は土足ではない。玄関で靴を脱ぎ裸足で生活出来るように
魔石をふんだんに使い床暖房にした。アイリもミーは戸惑っていた
が、俺はこちらの﹃自宅内土足生活﹄に全く慣れないのでワガママ
を押し通させてもらった。お客にも手間はかかるがこの家のルール
321
とさせてもらってる。
﹁こんな時間に誰なんだろう?﹂
﹁私のデータベースに入っていない御方でした。・・・ところで、
ご主人様の頭の後ろに引っ付いてる生物はなんですか?﹂
﹁コレは今日行ってきた岩場で拾った卵から孵ったんだ。こんなん
でも白虎の聖獣らしい。名前は﹃るびの﹄って俺が命名したんだ・・
・俺が育てていくって決めたからな。今日からは俺の子供だ。マリ
ア、これから宜しく頼むよ﹂
﹁了解いたしました。・・・他のゴーレムにも報告させていただき
ました﹂
俺が作ったゴーレム同士は離れていてもお互いに会話ができるらし
い。そんな設定してないんだけどなぁ、俺。
マリアと話しながら玄関に設置してあるイスに座り片方ずつブーツ
を脱いで、もはや定番の3点セット魔法﹃洗浄・浄化・乾燥﹄をブ
ーツと俺の足にかけていく。この3点セット魔法は俺のゴーレムに
はみんな入力してある。メチャクチャ便利で使える魔法だし。
アイリとミーにも使えるように2人に箱を渡した。箱は40cmほ
どの立方体の木枠の箱だ。それに両足を土足で入れて上部につけて
ある魔石に魔力を込めると3点セット魔法が箱内にかかり、ブーツ
も足も綺麗にサラサラになる。2人にも使えないと自宅内土足厳禁
生活には不便だからな。
居間に歩いていってアイリとミーにただいまと挨拶する。2人が俺
に駆け寄ってきて小さな声で話しかけてくるので俺も小さな声で返
す。
﹁しん君、おかえりなさい。お客さんが来てるよ、あのダンジョン
で助けた女の子﹂
﹁ええっ?。なんで自宅まで知ってるの?冒険者ギルドの職員でも
322
知らないのに﹂
﹁しんちゃん、おかえり。何か教会でアマテラス様に聞いてここに
来たんだってさ﹂
﹁はぁ?アマテラス様だって?・・・まずは本人から話を聞かない
と﹂
3人でソファーの前に立つ女の子の前に立つ。
シンイチ
サオトメ
﹁出かけておりましたので遅くなり申し訳ございません。私がこの
家の主人の真一・早乙女です。早乙女とお呼びください。確かに私
たち3人が貴方を保護させていただきましたが・・・どういったご
用件でしょうか?﹂
うーん。やっぱり直接会って文句言いにきたのかな?。恐る恐る話
しかけた。
しかし、何でアマテラスも彼女に伝えたんだ?。
この子は160cmぐらいで可愛いなぁ。
凄い上質なローブを着てるな。魔法使いなのかな?。
と、とめどもない並列思考の海に入りかける。並列思考にストップ
をかけたのもその女の子だ。
﹁助けていただき誠にありがとうございます。早乙女様には2重の
意味で私を救っていただきました﹂
女の子が俺に土下座をして感謝をしてきた。
﹁2じゅうのいみ?﹂俺は混乱してオウム返しになってしまった。
詳しく説明してもらう。
女の子の名前は﹃クラリーナ・バスカトル﹄18歳。
バスカトル家は先祖代々聖騎士団に所属している貧乏騎士らしい。
昨年クラリーナの母親が病気になり、その薬代のために父親は借金
をして何とか母は助かった・・・が、細々とした生活にその借金が
トドメをさす。
父親は生活の基盤を取り戻す為に直属の上司の司祭に、借金の整理
のために前借りして給料で分割で支払えないか相談にいった。
323
﹁君だけにそういった優遇するこは出来ない。みんな苦しい生活を
してるんだ。だけど君の家族のために俺が知り合いを紹介しよう﹂
と司祭に言われて紹介された商人が悪徳商人。
﹁利息がぜんぜん足りないから借金が増えてるけど返す気はないの
か?﹂
と、1年ほどで借金がほとんど返し終わったころを見計らって商人
が職場に怒鳴りこんできた。
契約書は年率1割の利息でサインして契約し、返済したはずなのに
商人の持ってる契約書には年率7割の利息になってる。念のために
と言って一緒にサインしてくれた上司の司祭が持ってる契約書も7
割の年率になっている。
父親が半年かけて払った金額も0が一桁消されてて・・・と、まぁ
詐欺られてる話。
上司の司祭ももちろんグル。
司祭が絡んでるから7割の利子なんておかしいと思う同僚も何もい
えないし・・・それで借金のかたとしてクラリーナを商人の息子の
嫁に差し出せと、来週の結婚が決まっていたそうだ。
そこで今回の事件。
クラリーナは冒険者としてと登録もしていなかったが、結婚相手が
商人の次男で冒険者でランクはEとほとんど初心者同然だった。
クラリーナは魔法に才能があり訓練をしてなくても風系の簡単な魔
法が使えた。
それに代々聖騎士の家系で回復魔法はハイヒールまで練習させられ
て使えるようになっていたので、結婚相手に無理矢理連れ出され冒
険者ギルドに登録。
結婚相手の男のチームに所属させられた。チームには上司の息子ま
で入っていた。
2人とも金を持ってるし、それなりに上等なローブを着せられてチ
ームの回復要員にさせられる。
324
チームの回復要員とはいってもほとんど奴隷状態の素人。で、昨日
は結婚相手のチームの盾職の人の訓練に連れまわされていた。
限界以上に回復魔法を使いフラフラになって帰ろうとしていた時に、
目の前の盾職の男が吹っ飛んできて倒れてから記憶が全くない。倒
れてから何度か敵に踏まれたような感じがしたぐらいの記憶だ。
それでクラリーナは冒険者ギルドで目を覚ましてから冒険者ギルド
職員に尋問される。
Fランクの人間がなぜこんな時間まで狩りを続けていたのか?。
君の所属するチームはEランクで夜間のダンジョンは禁止されてい
るのになぜルールを破ったのか?など、真偽官まで呼ばれて尋問さ
れた。
そこで誘拐同然に連れられてきたことが証明された。
チームは全員死体で戻ってきてるために関係者の家族全員を呼び出
して、今回の首謀者は結婚相手の男と上司の息子によるものと断定
された結果を家族に伝えられた。
上司と商人は他の子供の親に攻めたてられて、クラリーナとクラリ
ーナの親になすりつけようとするが。もちろん失敗する。
それでお互いに擦り付け合い・・・挙句にすべての悪行の暴露合戦
に移行。
クラリーナの場合は上司の息子が発端。クラリーナの美貌に惚れて
上司に相談し結婚をしたいと父親に打診したが、クラリーナは上司
の息子と何度かデートはしたが息子の非常識さに嫌気が差して父親
に相談。
父親は他にも結婚話がきていたので、のらりくらりと上司の息子と
会わさないようにしていた。
上司と上司の息子は怒り商人に相談して毒薬を手に入れて、父親が
仕事の日に上司がクラリーナの家に行って母親に毒を飲ませた。倒
れる母親に動転したクラリーナは上司が進める医者に見せて・・・
325
アイリのパターンと一緒だな。
この手の陰謀話って流行ってるのか?。
クラリーナはギリギリ寸前で助かったけど、被害者はクラリーナだ
けじゃあなかった。
上司には息子が2人いてクラリーナのときは次男の方。長男も結婚
しているのだけど今回のように借金のかたに取られてきた嫁で、そ
れに商人の長男も同じパターンで結婚していた。
上司の長男の嫁と商人の長男の嫁の2人は商人・商人の長男・商人
の次男・上司・上司の長男・上司の次男の6人達の﹃奴隷同然で性
的な慰み者﹂と働かされていたのだ。
すべての悪事が今回の事件の最後の暴露合戦で真偽官の目の前で出
てきたので誤魔化すことも出来なくなり全員が逮捕された。
教会の聖騎士団を束ねる立場の人間が、立場を利用して犯罪に加担
し部下の娘を陵辱していたんだから、今回の事件は教会の信用問題
に発展してる。
商業ギルドでも商業ギルドに登録している商人が司祭と組んで証文
書偽造をしており、今は連絡を受けた商業ギルド職員が真偽官とと
もに悪徳商人の自宅を家宅捜索している真っ最中。
今は教会と商業ギルドが大騒動になってるらしい。
今回の騒動の関係者の上司の司祭&息子2人と商人&息子2人と医
者の7人は見せしめのために死刑は確実だろうってアイリとミーが
言ってる。そのうち2人はもう死んでるけどな。
・・・もうこのヨークルって都市はなんなん。クソみたいな詐欺師
ばっかり。詐欺師もさぁ、もうちょい捻ろうよ。
326
クラリーナは事件の騒動が勃発しまくっている最中に開放された。
冒険者ギルド職員に助けてくれた恩人の話が聞きたかったが、個人
情報はトラブルの元になるので一切教えてもらえなかった。
﹁助けてもらって本当にありがたく思い、感謝したいと真摯に思う
ならば太陽神アマテラス様なら聞き入れてくれますよ﹂
なんてことをギルド職員に聞いていたので、教会に行ってお祈りを
捧げていたらアマテラス様から神託がくだりここの場所を教えてい
ただいたそうだ。
俺はこんな話を半分ぐらいは晩ご飯を食べながら聞いていた。
セバスチャンが準備してくれたし、クラリーナにも許可はもらって
る。
今は晩ご飯も食べ終わり緑茶をみんなですすってる。
口を開いたのはアイリだった。
﹁それで・・・しん君の後頭部に捕まってる、その白い生き物は何
?﹂
327
るびのを皆に紹介した。いいだろそれ、俺のモフモフっす。︵前
書き︶
6・14修正しました。
6・24修正しました。
328
るびのを皆に紹介した。いいだろそれ、俺のモフモフっす。
そりゃ気になるだろう。
自宅に帰ってきた旦那が後頭部に、見たこともない白い生き物が引
っ付いてるんだからな。
お客と会話してる時もスピースピーと寝息を立てて熟睡してるし、
時々ムニャムニャ言って旦那の頭をペシペシ叩いてるからな。
﹁こいつの名前は﹃るびの﹄。俺が命名した。今日行ってきた岩場
で卵を拾ってそれが孵ったんだ。俺に懐いてるし可愛いから俺が育
てると決心して名前をつけた。るびのはこれでも聖獣で白虎だ。ま
ぁ、アイリもミーも2人ともよろしくな﹂
そういって俺の後頭部に掴っているるびのをおろす。頭のヘッドギ
アをアイテムボックスに入れて片付ける。
るびのはやっと起きたようだな。まだフラフラしてて危なっかしい
ので、ソファーに座る俺の両膝の間にお座りをさせて、俺が両手で
ささえる。
﹁とうちゃん、おはよう﹂
﹁るびの、おはよう﹂
﹁﹁﹁この子は話せるの?﹂﹂﹂
アイリ・ミーと、ついでにクラリーナまで驚愕して大声をあげてる。
﹁みんなも言葉がわかるんだな、安心したよ。しゃべれるも何も、
魔獣はたいてい話せるぞ?。グリーンウルフとも銀大熊とも炎虎と
もしゃべったぞ俺。・・・でも、ダンジョンの魔獣とはしゃべった
ことないな﹂
﹁﹁﹁・・・﹂﹂﹂
あまりの事にフリーズしてしまった3人。
大きい声で三人が俺に質問してきたので、るびのが後ろをチラチラ
329
見つつ質問してくる。
﹁とうちゃん、このひとたちだれ?﹂
るびのをくるっと回転させて1人1人にるびのの顔を向けながら紹
介していく。
﹁るびのに紹介しないとな。この人とこの人は俺の奥さんで、お前
の母さんだ。よろしくな﹂
﹁よろしくぅ﹂とペコリと頭を下げるるびな。
﹁こっちが﹃アイリ母さん﹄だ。よろしくな﹂
﹁アイリかあさん、アイリかあさん・・・うんおぼえた。アイリか
あさん。よろしくね﹂
また、ペコリと頭を下げるるびのにつられてアイリも頭を下げて、
ヨロシクってなんか片言な返事だった。
﹁こっちは﹃ミー母さん﹄だ。よろしくな﹂
﹁ミーかあさん、ミーかあさん・・・ミーかあさんも、おぼえたよ。
よろしくね、ミーかあさん﹂
ミーにも頭を下げるるびの。一緒に頭を下げるミー。ここで限界だ
ったみたいだな2人とも。
﹁﹁キャー、可愛いぃー!!﹂﹂
るびのを嫁2人に取り上げられた。るびのは二人に抱き上げられて
目を白黒してる。
﹁あー、フワフワしてるー。気持ちいいよ﹂
﹁ちょっと、ミー、私にも抱かせてよ。あー、ホントフワッフワだ
ねぇ﹂
2人でるびのを取り合いながら、ギュッと抱きしめて頬ずりしてる
2人。モフモフしてるだろ、それ。俺のモフモフなんだぜ。
それと・・・るびの、お前のおなかや背中に今くっついてるマウン
テン4つも俺のものなんだぜ。お乳は今はまだ出ないけどな。
﹁おいおい、可愛いのはわかるがるびのがビックリしてるだろ。今
日から2人とも母さんだから大事に扱えよ﹂
﹁﹁あ、ゴメンね。るびの﹂﹂
330
俺が声をかけてようやく少し落ち着いたようだ。2人でハモってる
びのに謝ってる。
﹁ねぇとうちゃん、はらへったよ﹂と、るびのが言ってきたので桶
にミルクを入れて床に置く。
るびのを床におろしてもらいミルクを飲ませる。チューチュー、ん
ぐんぐって凄い勢いで飲んでる。横にしゃがんで幸せそうな顔をし
て、るびのを眺める嫁2人。ときおり指先で頭をナデナデしてる。
ここで落ち着いたのでクラリーナに向き直り問いかける俺。
﹁身内でドタバタ失礼しました。クラリーナさんは・・・あの、今
日は時間も時間なんで、どうします?家に帰るなら家までお送りし
ますよ?﹂
﹁いえ・・・私はもう家には帰れません。・・・昨日ダンジョンで、
なくしてしまったんです私。穢れてしまったんです﹂
小さな声でだがハッキリとクラリーナが言った。
これはヤバイな。しかも俺にはどうにもできないやつだな。あのダ
ンジョンで死んだバカ次男2人が・・・死ぬ前にえらいことやらか
してるな。死ねばいいのにって、もう死んでたな。
流石に俺には慰めることすらできない。
というより、男代表として土下座したい気分にすらなってくるが、
﹁あー﹂とか﹁うー﹂としか上手く言葉が出てこない。
アイリとミーがクラリーナの両サイドに座り声をかけている。真ん
中に座るクラリーナを慰めるように抱きしめている。
こういう女の会話は聞いてはいけないような気がしたので3人に声
をかけてお風呂に入りに行く。
逃亡しかないな。
るびのを小脇に抱えて風呂に行く。るびのはミルクをもう飲み終わ
331
っている・・・早すぎるな。桶は洗浄してアイテムボックスに入れ
た。
﹁とうちゃん、フロってなんだ?﹂
﹁フロってのはな、気持ちがいいところでな・・・入ってみればわ
かるよ﹂
るびのゴメン。俺、今の精神状態で上手く説明できない。入ってみ
ないとな。
大きくスペースをとった洗面所で鎧を外す。アンダーシャツとアン
ダーパンツを脱いでいく。
そういえば俺、お客さんがいたから着替えもしないで飯食ってたな。
鎧とアンダーの上下を魔法の3点セットで浄化してからアイテムボ
ックスに入れる。
フロでまずは体を洗う。るびのが先だな。石鹸を使いたっぷりの泡
でるびのを洗う。
﹁とうちゃんやめてよー、なんかコレくさいよー﹂
﹁あー、とうちゃんのいってたように・・・なんかきもちいーねー﹂
意外とうるさいな。ネコだからか?でもコレ聖獣だろ?疑問は尽き
ないな。マッサージをしながらの洗浄で途中からは気持ち良さそう
に目を細めてた。
今度は俺の番。るびのを遊ばせて、俺は自分でゴシゴシ洗う。
元々魔法で綺麗なんだけど、お風呂好きな日本人には気分の問題だ
な。
﹁とうちゃんスゲーよ。あしがすべってはしれないー。あはははは
は﹂
なぜか俺が洗い流した泡でゴロンゴロン転がりながら笑いが止まら
∼∼。声が出ちゃうなやっぱり。
ないるびのを回収し風呂に入る。
あ
るびのが中身のミルクをを飲んでしまって、空になった樽をアイテ
332
ムボックスから取り出して、魔法で改良してフロに浮かべる。
お湯を入れてるびのも入れて魔力で浮力を自動に調整出来るように
する。うん、これで一緒に入ってる気分になるし、桶の中でるびの
が暴れてもひっくり返らないようにした。
﹁ふえぇー、フロってきもちいいんだね﹂
るびのもかなり気に入ったみたいだな。あごを桶の縁に乗っけてト
ロけた声を出す。
お風呂のドアがガラッとあいた。女が3人裸で入ってきた。嫁2人
はわかる。
何でお前もいるんだクラリーナ。なぜお前は裸なんだ。
333
新たなる嫁・・・できたっすか?
おくちポカーンになった。いや、お風呂だからクラリーナが裸でも
かまわないだろう。
ん?逆にお風呂なのに裸じゃないほうがヘンなのか?。
イカンな最近、パニックになると並列思考の大波が来て海にさらわ
れる。
﹁んー。きもちいいねぇ。アイリかあさん、ミーかあさん、フロき
もちいいよー﹂
るびのの呑気な声が俺を救ってくれる。
﹁あー、そのなんだ。そんなとこにみんな立ってないで風呂に入っ
たらどうだ?気持ち良いぞ﹂
裸の3人の女が動きだし、手桶を使ってかけ湯をしてフロに入って
きた。
﹁とうちゃん、なんかねむくなってきたよぅ﹂
﹁お、おう。そうか。ちょっと待って﹂
るびのが入っている桶の中の湯を魔法で乾燥させてから寝させる。
だけど、俺の目の前に浮いてる桶は動かせない。俺の股間は通常、
ロングコートのフルフェイス仕様だが、今は通常ではなくなってし
まった。バッキバキだ。フルフェイスは脱いでハーフコートな状態。
・・・普段は仮性包茎で皮を完全に被っているんだけど今は勃起し
て半剥け。直接言うとこうなる。
桶をどかすと恐ろしい。というか3人の女の裸まで丸見えになって
しまう。俺のチンコは歓喜で先走る涙を流し始めてしまう。
﹁クラリーナさんって親にここにいるって言ってきたのか?﹂
変化球から攻めてみる。
﹁直接ハッキリ言ってません。﹃アマテラス様のご神託﹄があって
334
そこに行くって伝言をしてきました﹂
﹁そんなんでいいのか?こんな時間まで﹂
﹁大丈夫です。というより、今は私も親も両方ともが顔を合わせた
くないんです。父も母も内心はホッとしていると思います﹂
うーん、確かにそうだよな。
原因とかそこにいたった過程とか理由も含めてほとんど﹃両親﹄が
迂闊過ぎるからな。
結果としては娘はクソ共に傷物にされてるし。
自分達が原因の借金は消えても娘の体の傷も心の傷ももう消えない。
残った結果の最悪な部分は娘に押し付けただけだ。
たとえエクストラヒールでも﹃処女膜﹄は戻らないし。精神的苦痛
は・・・。
確かに親の立場はまったくないし、顔は合わせづらいわな。クラリ
ーナも親を攻めたくないからここに出てきてるんだろう。
これはかなり根が深そうで時間がかかりそう。話が長くなりそうだ
から風呂からみんな上がって寝室に移動することにした。バッキバ
キの息子はもう諦めてた。ムリっす。アホですね。クラリーナの傷
をえぐってるかも知れないのに。パジャマに着替えて寝室に行く。
着替え中はクラリーナさんに申し訳なくて彼女を見ることが出来な
かった。
るびのは乾燥させてから、るびの専用にベビーベッドを作ってやっ
た。すやすや寝てるので自分たちのベッドの横にベビーベッドごと
置く。
マリアが紅茶を入れてくれる。紅茶を入れる手つきがベテランレベ
ルのメイドのクマっていいな。
クラリーナがここに来るまでの詳しい状況を細かく教えてくれた。
冒険者ギルドでの話し合いのあとに、呼ばれて別の会議室に両親と
335
向かった。教会側との話し合いだ。
会議室に入ると中には聖騎士団団長と副団長の4人が来ていた。ク
ラリーナも面識がある人たちだ。
団長を含む5人が私の顔を見るなり、席から立ち上がって土下座し
た。5人全員がフルプレートアーマーを着ているので、ガチャガチ
ャうるさくてビックリしたが5人が頭を床に擦り付ける。
﹁君の被害を未然に防ぐことが出来なくて誠に申し訳ない﹂
団長が4人の副団長が﹃私﹄に頭を下げてくれた。それを私の父親
が止める。
﹁団長殿、そんな、団長殿が土下座を﹁言っておくが、俺はお前に
は謝ってないぞ。俺たち5人がここにきた理由は﹃被害者のお嬢さ
ん﹄に謝罪する事と、﹃加害者のお前に処分を言い渡す﹄ためにき
たんだからな?。今のお前は﹃加害者の人間﹄なんだからな?立場
を理解できてないのかお前は?﹂え?私が加害者?え?﹂
ここではじめて今まで土下座していた5人が顔を上げる。
﹁お前は救いようがないな。お前やお前の妻がが今回の事件の被害
者だったのは﹃娘を差し出す前﹄までなんだぞ?それぐらいのこと
もわからないのか?。じゃあ、逆に聞いてやる。今回の事件のお前
の被害はなんだ?お前のどこに被害があるんだ言ってみろ﹂
﹁・・・﹂何もいえなくなって黙るしかない父親の姿を見て泣いて
しまった。
﹁すまないなお嬢さん。ここまでコイツがバカだとは・・・﹂
﹁でも!でも私も苦しんで!﹁だったらなぜ俺に相談しなかった。
俺に話す機会は全くなかったとは言わせんぞ?。少なくても10日
に3・4回は顔を合わせてるんだからな。なんで俺や副団長に相談
しなかったんだ?﹂それは・・・団長に迷惑が﹁団員の家族を守る
ためなら、迷惑なんて誰が思うんだ。いいか?俺たちは聖騎士団だ。
誰かを守りたいから聖騎士団じゃないのか?。お前は娘1人守るこ
とが出来ないのに﹃何の騎士﹄なんだ?。お前は聖騎士としての立
場のために娘に苦しみを押し付けたのか?﹂・・・﹂
336
ここで母親が泣きだして嗚咽する。
﹁いいか?お前ら夫婦は娘にすべての犠牲を押し付けて逃げた﹃加
害者﹄なんだよ。お前達は娘になんと言ったんだ?全部を娘に背負
わせて自分達だけ逃げる時に、お前らは娘になんて言ったんだ?こ
こにいるお嬢さんは誰の娘なんだ?﹂
父親もここで泣き崩れた。
﹁逃げるなよお前。今回の事件は﹃たまたま偶然にお前の娘を助け
てくれた特殊な冒険者のチームの人たちが救ってくれた奇跡の出来
事﹄なんだぞ?お前達夫婦が解決したんじゃないぞ?。俺たち聖騎
士団もお嬢さんに対して﹃加害者﹄なんだぞ?。教会だって今回の
事件はお嬢さんへの﹃加害者﹄なんだぞ?﹂
﹁あ、教会・・・神様に御礼を言わなきゃ﹂
﹁おい!二人でついて行け。くそっ﹂
私がフラッと立ち上がると団長が副団長の2人に指示し着いてきて
くれた。
会議室を出てギルド職員の顔を見たら、どうしても今回私を助けて
くれた人に御礼が言いたいと聞いた。
こんな話だった。これはしばらく会いたくないなお互いに。団長さ
んこんなに熱い人なんだね。でも団長さんすげぇな。俺だったら確
実に父親殴ってるぞ。あまりにバカすぎて。
どこかでテニススクールでも開いてそうな熱さだ。
﹁それでなんでお風呂に3人で入ってきたの?﹂
﹁それは私が汚らわしいから早乙女さんが逃げたんじゃないかって﹂
﹁それはない。何か男として聞いてたら土下座して男代表として謝
らなきゃいけないんじゃないかって。そんな気分になってきて・・・
お風呂に逃げましたゴメンなさい男でゴメンなさい生まれてきてゴ
メンなさい﹂
337
﹁﹁ちょっとまってまって﹂﹂
アイリとミーがコメツキバッタのように頭を下げて謝りはじめた俺
を流石にとめる。
﹁え?なんで・・・なんで私に早乙女さんが謝るんですか?﹂
﹁いやぁ、何か今回の原因って全部﹃男の身勝手な行動で女が苦渋
を舐めさせられる﹄だよね?。そういう話を聞いてるだけで、なん
か無性に謝りたくなるって言うのか・・・そんな感じ?﹂
﹁疑問で逆に聞かれても・・・﹂
﹁ホントにゴメンね。だからクラリーナさんが悪いことは全くない
よ・・・でも、なんで風呂に裸で来たの?﹂
﹁それはね、私がクラリーナさんをさそったのよ。しん君は女が、
クラリーナさんが汚らわしいから逃げる人間じゃないよ﹂
﹁そうだね。しんちゃんの場合は・・・クラリーナさんが酷い経験
で男を嫌いになってるかもしれない。それなのにクラリーナさんを
邪な目で見てしまいそうな自分に﹃汚らわしい﹄って思ってるよ﹂
﹁ミー、すげぇー。さすが俺の嫁。・・・思ってたよ。自分が汚い
って思ったよ。お風呂でクラリーナさんの裸を見て綺麗だなって興
奮して勃起している自分が汚い男だなって思ってたよ﹂
﹁早乙女さんは汚くなんてありません。私は・・・あの、嬉しいで
す。私の裸が綺麗だって言ってもらって凄く嬉しいです﹂
﹁いや、間違いなくクラリーナさんは綺麗です。全く問題ありませ
ん﹂
やばいな、もう・・・でもさぁ、このパターンって・・・逃げ道な
くない?。
﹁私を綺麗だって言ってくれる、早乙女さんにお願いがありますど
うか私を抱いてください﹂
ですよねぇ。そうきますよねぇ。でもさぁ、俺って祝福とかのカラ
ミがあって、そう簡単には女を抱けないんですけど。
悩んでる。超悩んでる俺。でも悩むことでクラリーナさんがまた傷
338
つく・・・
﹁﹁何を悩んでるの?﹂﹂
嫁の二人が聞いてきたので正直に答える。
﹁クラリーナさんには何の問題もないけど、俺の方が簡単じゃない
んだって。祝福があるんだから。2人にもわかるだろ?﹂
﹁﹁あ!﹂﹂
そう、ふたりの祝福の解説に書いてあるんだよ。
﹃10歳ほど若返り、その若さを永遠に保つ﹄って書いてあんだよ。
クラリーナが今18歳って見た目は﹃日本人なら18歳﹄だな。俺
が抱いたら8歳か?。しかもず∼∼っと8歳なのか?。
﹁なんだかんだの問題が俺には多過ぎて可愛いから綺麗だからって
抱けないよ。結婚するならまだしも・・・﹁します!私、早乙女さ
んと結婚したいです!﹂・・・は?﹂
339
3人目の嫁が出来ました。う、うれしいっす!。
うーん。そうだ!。いつも俺に丸投げしてくる神様2人に、こうい
う困ったことは逆に丸投げして返さないとな。あちこちの揉め事に
俺をぶち込んで解決させてるんだからな・・・
︻フォフォフォ、遅れてしまったのう。調べるのに手間はかかった
が大丈夫じゃッたよ。彼女は若返ったりせんよ。・・・ちょっと影
響があるだけじゃ︼
流石に寝てる状態ではなく、今はゴッデスの声が頭に響いてるだけ
の状態なんで脳内で問いかける。
∼ゴッデス様、俺の場合はその﹃ちょっと﹄が問題なんですけど∼
︻まぁ、君が女とのセックスで与える祝福は千差万別なんじゃ。そ
れじゃから女に与える影響は人それぞれの個別になるんじゃ。もと
もと、神が与える祝福にはそういう﹃個別﹄な部分が含まれておる
んじゃ。・・・それで君が与える祝福を調べた結果は﹃女の子を最
適な状態に若返り︵成長︶をさせ永遠に保つ﹄こうなったんじゃ。
じゃから、彼女の場合は成長を残していた部分があるから、君が彼
女に祝福を与えると成長する。まぁ、わかりやすく簡単にサクッと
言うと﹃おっぱいが少し大きくなる﹄じゃな。彼女のおっぱいは成
長する余地があるんじゃ︼
・・・フッ、個別で若返りと成長・・・そうなるとまた難しい問題
だな。個別で祝福の肉体への影響に差があるのか。
︻それと彼女の場合はもう一つ成長を残しておる部分があっての、
そちらの方で計算するのに手間がかかっておったんじゃ︼
∼手間がかかったって厄介な問題なんですか?∼
︻彼女は魔法適正がかなり高くてのぅ・・・正真正銘の﹃天才型﹄
じゃからの。死ぬまで成長し続ける本物の﹃魔法の申し子﹄なんじ
340
ゃ。じゃから君とのセックスによる成長の加速度合いの計算に時間
がかかってしまったんじゃ︼
∼もしかして彼女も﹃賢者﹄クラスになれるんですか?∼
︻今すぐというのは彼女ではムリじゃな。賢者は膨大な知識と知識
に伴う経験が必要なスキルじゃからの。今はムリじゃが将来は可能
じゃ。今すぐじゃと・・・君が彼女に与える祝福からの数値を計算
すると﹃シーパラ連合国内で1番最高の魔女﹄ぐらいがせいぜいじ
ゃな︼
∼ちょっと待った。一晩でそれなの?∼
︻君が妻2人としたセックスの量を計算すると、彼女の潜在する力
がそれぐらい開放されるのが妥当じゃろうな。それとも、早乙女君
は妻が1人増えるとセックスの量は減るのかな?︼
∼いえ、ムリです。恥ずかしながら、むしろ倍増する自信があった
りします∼
︻やはりのぅ、まぁそれも計算通りなんじゃがな。そういうわけで
ワシはそろそろ消えるよ。じゃあまたの︼
∼待ってください!るびのって俺が飼っててもいいんですか?∼
︻あれは聖獣の白虎で、君の魔力を吸収して生まれたんじゃから、
もう君にしか飼えないんじゃよ。責任は君にあるしの。本来であれ
ば、あの卵はあの場所の地中深くで少しずつ周りから魔力を吸収し
て成長していくんじゃ。期間はあと500年はかかっていたじゃろ
う︼
∼でも、先日巨大な音があってあの場所の岩山が崩れたってニャッ
クスが言っていたんだけど∼
︻君が離れてしまったんで卵が捜していたんじゃろ。で、地中から
飛び出したと。さらに君が触って手に持ったことにより君の莫大な
魔力と知識が流れ込んで成長し卵が孵ったんじゃな。君の知識も君
が直接触ってしまった為に聖獣に入ってしまったんじゃな。もとも
と聖獣は討伐された時に自分の中にある魔力の塊を遠い地中に転移
させるんじゃ。そこで1000年の時間をかけてゆっくり魔力を周
341
りの知識を吸い上げ復活するんじゃよ︼
∼じゃあ、るびのは今から500年ほど前に討伐されてしまうよう
な邪悪な生き物なのに・・・聖獣なんですか?∼
︻討伐する側が邪悪な場合がほとんどじゃな聖獣の場合。聖獣は本
来は人に害悪を向けない生物じゃ。人が聖獣の落とすものを得よう
と﹃人が聖獣に害悪を向ける﹄ことしかないんじゃ。白虎が討伐さ
れた500年前も何度も討伐部隊を送って白虎の眷属を殺しまくり、
怒り狂った白虎によってここの地にあった﹃ウェルヅ帝国﹄は滅び
たんじゃ。それでシーパラに住んでいた商人たちが他の国にいた﹃
転生者﹄を2人雇って討伐してもらったのがこの国の始まりじゃ。・
・・君も気をつけた方がいいぞ。聖獣は宝の山だと思っておる人々
もいるからの︼
∼うちのるびのに何かしようとしてくるヤツラは皆殺しで行きます
んで問題ないです∼
︻まぁ、・・・過保護もほどほどにな。それじゃあ、またの︼
言いたいこと言うだけ言ってゴッデスは消えた。
目の前にはとつぜん黙って虚空を見つめる俺を心配そうに見つめる
3人がいた。
﹁大丈夫なんですか早乙女さん。・・・やっぱり私なんかじゃ﹂
﹁クラリーナさんに聞きたいことがあります﹂
なんかドンドンと暗くなっていくクラリーナを見ていて心配になっ
た。俺、彼女のことが好きなんだな。
だからプロポーズすることにした。
﹁クラリーナ・バスカトル。あなたと結婚したい。君が欲しい。ク
ラリーナ・早乙女になってもらえませんか?﹂
と聞きながら右手をさしだした。OKなら握手してもらおうと思っ
て。
クラリーナはソファーをおりて俺の前に来て片膝立ちで座り、俺の
右手を包み込むようにして両手で握り、俺の右手にキスしてから宣
342
言した。
﹁クラリーナ・バスカトルは結婚して今よりクラリーナ・早乙女と
なり、夫の早乙女真一様に永遠の愛と命を捧げることを誓います﹂
﹁ありがとう。・・・でも愛を俺にくれるのはいいけど、命は粗末
にしないように!これは絶対の決定事項。それに、愛想をつかして
出て行くのも自由だから﹂
﹁は、はぁ﹂
なんか俺の言ったことに納得してなかったけど説得して無理矢理に
納得してもらった。
寝室のベッドにみんなで裸になって移動する。
今までは寝室のソファーで会話していた。この主寝室ってこの早乙
女邸内でリビングの次に広くて、調子の乗って作った巨大なベッド
があってもまだ、半分以上余ってるから仕方なくソファーセットも
おいてある。はじめは畳を10枚ぐらい並べて冬はコタツでもしよ
うかと思ったが、アイリもミーもコタツや畳の存在すら知らなかっ
たので諦めた。そりゃ家の中では靴を脱いで生活するって習慣すら
ないからな。
まずは名前の呼び方から変えてもらう。夫婦になったんだし・・・
前夜だけど。
俺が﹁クラリーナ﹂と呼び捨てにするのはすぐ決まったけど、クラ
リーナが俺を呼ぶ呼び方が時間がかかったが﹃しん様﹄に決定。
・・・なんか一子相伝の殺人拳の正統後継者の胸に傷をつけて許婚
を誘拐しそうな名前だな。まぁいいけど。
クラリーナを横にさせて、俺も隣で横になり抱き寄せる。少しビク
ッとするがクラリーナも俺にしがみついてくる。
﹁記憶を、私の中にある嫌な記憶を消したいの。しん様に消して欲
しいのです﹂
343
そんな嬉しいいことを言うクラリーナの、顔の前にかかるブロンド
の髪を両手で左右に分けて両耳にかけ、額にゆっくりと優しくキス
をする。チュッっとワザと音をたてる。
クラリーナはブロンドの長髪だ。瞳の色はグリーン。会話して興奮
すると青になる。いまは青色です。
感情でクルクルと色を変える瞳も美しい。その瞳を閉じて唇を突き
出してくる。可愛い。
クラリーナの期待にこたえる。まずは唇に優しくキスをした。
左手でクラリーナのうなじを優しく包み込むとクラリーナから声が
漏れる。
﹁あ、あふぁ﹂
うなじを触れられたのが気持ち良かったみたいだな。
﹁クラリーナ、うなじを触られて気持ち良かったかな?﹂
﹁ハイ。優しくしん様に触れていただいただけで、体と頭がフワフ
ワして・・・気持ちいいんです﹂
﹁いいよ。俺はクラリーナが気持ちよくなるようにしてるんだから。
遠慮しなくていい。気持ちが良ければ大きな声を上げてもいいよ﹂
﹁は、はい。あっ、ああ﹂
俺が話をしながらもクラリーナの体を指先で優しくなでる。頬も顎
も唇もなでる。顔が終わると首に。
﹁ふぁああああ!﹂
クラリーナから大きな声が上がった。クラリーナは首が感じやすい
みたいだな。
首から肩に回り、そして胸に行こうとしたら隠されてしまった。
﹁イヤぁ、胸は小さすぎるから恥ずかしいんです。ゴメンなさい﹂
と、俺に抱きついてきた。クラリーナ、おっぱいは尊いものであっ
て大きさに貴賎はないってことを知ってもらう必要があるな。
しかし・・・恥じらいながら隠す行為っていうのも捨てがたい。
344
・・・ちなみにるびののベビーベッドには完全防音処置済だったり
する。
345
繋がった。嫁とつながった。キターーー!でも発射はまだっす。
思ってることを全部、クラリーナにぶちまけてみた。
おっぱいは神聖にして尊いものであり、おっぱいの大きさで貴賎の
差をつけるものではない。一切ない。だからこそ自分が愛する相手
に与えればいい。だがしかし、それを隠して見せないようにすると
いう行為も、それはそれで俺は欲情してしまう。俺の中にあるドS
の部分を鷲掴みにしてくる。だからどっちも捨てがたい。
そんなことを前戯中に熱弁してやった。しかし、手は止まっていな
い。胸をガードする手が緩んだのをきっかけにして攻撃を開始して
いる。熱弁してても手は止まっていない。熱弁の合間合間にキスも
してる。ディープなフレンチキスだ。
﹁プファ、ハァぁあああん。気持ちいいのぉ、しん様にぃ、触られ
て、んぐっレロン﹂
胸のガードが緩んできてるとはいえ、まだまだガードが邪魔で充分
に攻め切れなかったから下半身を攻めることにした。まずはフトモ
モからだな。手のひらと指先でさわさわと撫でさすっていく。
﹁レロレロんぐぅ、プハァ、いい、いいの。足も胸も気持ちいの、
あぁああはぁん、凄い、気持ちいい、こんな、こんなに気持ちいい
なんてぇ、ああぁあああ﹂
クラリーナのアンダーヘアーは髪の毛の色よりも薄いブロンド。少
し生えてて色がわかるぐらいでほとんど生えてないのと一緒だな。
俺は真っ黒でボーボーなのに。
俺が足を触って気持ちよかったのだろう。フトモモが緩んで股が開
いてる。俺は手をピタリとあてがった。
ひゃうぅんって声が聞こえたが気にせず攻める。
・・・これ大丈夫か?。これじゃあピッタリ閉じた貝だぞ?。アイ
346
リとミーもヒダがほぼ出てなくて綺麗な股間だったけど・・・でも、
濡れてるんだよね。ダラダラたれてる。
ガバッと体勢を変えて直接見て触って舐めて確認することにした。
クンニだな。
横になって気持ち良さそうにハァハァしているクラリーナを、少し
強引だがまんぐり返しの体勢にした。
﹁はぁはぁ、え?なに?えええ、ウソ、どうして?。ひあぁあん。
そんなとこ、なめちゃぁあん、ダメぇええ﹂
パニックになってるクラリーナのマンコを間近で見る。匂いはほと
んどない。舐めてみた。れろ∼んってマンコ全体を上から下まで舐
めた。ほとんど処女って聞いてたのにマンコの綺麗さ・匂いのなさ・
味のなさに驚く。
・・・ああ、そういえば今日ここに来る前に教会に行って神託をも
らったって言ってたな。その前にシスターに洗浄と浄化をしてもら
ったんだろう。自分の結婚予定の相手とはいえ強姦したヤツラの汁
が入っていただろうからな。チームの人間全員にダンジョン内での
休憩室で休憩中にセックスさせられたって言ってたからな。
クラリーナの愛液は匂いも味もほとんどないけど粘度が高い。かな
りの粘度だ。日本で使ったことがあるローションみたいにネチョー
ンと糸を引いている。顔中べったりの愛液まみれなので、俺の顔か
らクラリーナの股間まで天然ローションの糸で繋がってる。
ふと気になって横を向いたら、アイリとミーが俺とクラリーナの痴
態を見て、ハァハァいいながら股間をまさぐってオナニーしていた。
俺の勃起してるチンコをチラチラと見てる。ずっとオアズケ状態だ
からな。気にしないことにしよう。
クラリーナの股間に視線を戻す。
クラリーナの股間を左右に広げてみた。メチャクチャ綺麗なピンク
色だった。傷も一切ない。当たり前だな、瀕死のクラリーナを救う
為にエクストラヒールを使ったからな。
347
クソ男どもにつけられたであろう傷も消え去ってるはずだ。
心の傷は俺が癒すって宣言するかのようにクラリーナのマンコチュ
ッとキスを何度もする。クラリーナがキスするたびにビクンビクン
してて可愛い。
クラリーナの顔を見るとフニャけた顔をして、目が合ったらもっと
舐めてくださいって懇願された。
﹁しん様ぁ∼、キスだけじゃなくてぇもっとぉ、もっと舐めてぇく
ださいぃいいいい、ああぁああん。ジュボジュボしちゃ、ジュボジ
ュボがぁあああ、いいぃのぉおお。ダメェええぇええええ、おおぅ
おお、ぅううぅ﹂
直接マンコに口をつけてヴァギナに舌を突き入れ、ズボズボ音をた
てて舌ピストンをしたら大声で叫び始め、ビクビクビクと体を痙攣
させてイったみたいだな。ぐたぁってなってしまった。
俺が全身に浴びたクラリーナの愛液とクラリーナ自身も魔法3点セ
ットで浄化して綺麗にする。
まんぐり返しの状態から横に寝させてからクラリーナの股間をまさ
ぐる。
すぐに愛液が溢れはじめるとビクビクしていたクラリーナが我にか
えった。
﹁クラリーナ大丈夫?怖い?﹂
﹁いえ、その、大丈夫・・・です。きゃあああ﹂
まだ少しチンコに恐怖心がありそうだから、クラリーナにも直接見
て・触って・味わってもらう。
クラリーナを持ち上げて俺の上に・・・シックスナインの体勢にし
た。
﹁クラリーナ、俺のオチンチンをよく見て!自由に触って!出来れ
ばでいいけど、クラリーナにも舐めてほしい﹂
﹁は、はい。凄い硬い・・・こうですか?﹁イタ!﹂ご、ゴメンな
さい﹁もっと優しく握って!﹂は、はい。こうですか?﹁あああ、
348
気持ちいい。もう少し強くああ、そう、クラリーナ力加減がちょう
ど良い。上手だよ﹂ありがとうございます﹂
俺のチンコの真ん中ぐらいを強く握りゴシゴシ動かしてきたので大
きな声をあげた。痛みはないが強引な動きはダメだ。すると優しく
握り動かし始めた。クラリーナは経験がほぼないから﹃褒めて伸ば
す﹄でいこう。少し気持ち良いって演技をする。
﹃セックスでの演技は女の専売特許じゃない﹄
これは俺が日本でエッチをしてる時からの持論だ。男も演技をして
いる。俺はそうしてきた。
女の演技とは全く方向性が違うがな。
自分が気持ちよくなるために演技をしてきた。女性に気分よくなっ
てもらい﹃もっと気持ちよくさせてあげよう﹄って気分にさせるた
めに演技をしてきた。この演技をする・しないで後の影響が違いす
ぎる。
﹃好きな男をヒィヒィ言わせてよがらせたい﹄ってSな気持ちが、
ほとんどの女性は少しは持ってるからな。絶対ではないが。
そういうことで俺は演技をしながら、クラリーナに気分良く俺のチ
ンコを攻めてもらう。舐めてってお願いしたらすんなり舐めてくれ
る。俺がピチャピチャ音を出すと気持ちいって声にして言うと、喜
んでピチャピチャと大きな音をたてて舐めてくれる。
クラリーナはのみこみが早いな。途中からは演技はいらなくなった。
普通に気持ち良い。
演技がいらなくなったので俺もクラリーナを攻めることにする。
クラリーナのヴァギナは﹃狭い﹄。指を入れてみたが1本は大丈夫。
2本だとけっこうきつい感じがする。これでは俺のチンコはきつす
ぎる。でもガンバル。指2本で丁寧にほぐす。何度かイっても時間
をかけてほぐす。
﹁もっぉおお、もうらめぇなんれしゅ、こわれそうれしゅ、あたま
349
のにゃかが、こわれそうにゃんれしゅああ、ああああ、あああはい
ってぇええ、はいってぇえましゅうう﹂
もう頭が快楽で焼き切れてるな。幼児化してハッキリ話せなくなっ
てる。
かなりほぐれた。気持ち良過ぎて締りがなくなってきてる。これな
らいけそうだ。
今度は時間をおかずにシックスナインの体勢から素早く正常位の体
勢になり、俺のチンコをクラリーノのヴァギナに挿入する。いけた。
全部入れれた。セックスできた。
もちろんピストンどころかストロークもしない。動いていない。俺
のチンコの形をクラリーナのヴァギナに教え込む。
﹁しん様ぁ∼、セックスぅ。しん様とセックスできたぁ∼ぁあああ
ああああ﹂
クラリーナが俺の首筋にギューってしがみついてきた。下からしが
みついてきたので、そのままクラリーナを抱き上げて対面座位の体
勢に変える。
﹁ごめんな。時間がかかって。俺のが入ってるのがわかるか?繋が
ってるぞ?俺たちは繋がってる﹂
﹃入ってるのがぁわかるぅ。スン。しん様のオチンチンがぁ、入っ
てるのぉー。硬いのがぁ、私の中にぃい。はいっているのぉおぁ、
わあぁあああああ﹂
クラリーナが泣いてしまった。この涙でクラリーナにあった辛い気
持ちが減ったらうれしいな。
ここでミーとアイリも抱きついてきた。
2人ともクラリーナの頭を撫でながら良かったねぇなんて言ってる。
350
繋がった。嫁とつながった。キターーー!でも発射はまだっす。
︵後書き︶
話数が増えてもエロは少なすぎるなってことでエロ増量中。
エロ描写も下手なんであまり意味はないが。
351
3人の嫁が肉食獣の目で俺を見てるっす。
俺は嫁3人と抱き合ってキスをみんなでしながら、ゆっくりとチン
コをストロークし始めた。ピストンではなくストロークって感じ少
しずつ動かす。このまま放出した方がいいな。
クラリーナの感情の中には﹁無理矢理セックスさせられて実家にす
ら帰りにくくなり両親の顔を見るのも辛い﹂っていうセックスに対
する嫌悪感が今はまだあると思うから、今日ところは俺からは激し
くしない方がいい。クラリーナが自分で好きに動ける体位の方がい
いだろう。そういう意味でも今の対面座位にして正解だったな。
だからピストンもクラリーナが今は自分で動いてしている。俺は彼
女の左右のワキ腹を両手でで支えてサポートに徹している。
﹁んふぅんふぅ、あああ気持ちい、しん様とのセックスはぁあ、ん
ふぅ、凄くいいんですぅ、ううんあぁあああああ﹂
﹁でしょう?だから私が言ったよね?しん君とセックスすると世界
が変わるって!そういったよね?﹂
アイリがそういいながら自分の巨大なおっぱいをクラリーナと俺に
押し付けてくる。手はクラリーナのうなじをサワサワとなででる。
クラリーナのブロンドの髪に埋もれる耳にキスをする。
﹁だよねぇ。私も世界観が変わった。しんちゃんに抱かれて愛をた
くさんもらって世界が変わった。しんちゃんだけでいいの。私の男
はしんちゃんだけがいればいいの﹂
クラリーナの右耳に言葉を囁いている。ミーの右手はクラリーナの
おっぱいを優しくもみもみしてる。
﹁わかりましたぁ、私もわかりましたぁああ。私もぉしん様のお嫁
さんになれてぇええぇ、幸せですぅ。アイリさんと、ミーさんのぉ、
言葉をしんじて、しんじてぇえええ良かったあああああああ、あぁ
あぁでてるぅ。しん様のが私の中にでてるぅ﹂
352
クラリーナがドンドンとピストンの速度を上げる。俺が速度を落と
すブレーキになってる感じだ。抱き付いて気持ちよくて絶頂に向か
って一直線だった。最後に大声を上げてイった。俺もクラリーナの
中に今まで我慢していた精液を放出した。我慢してたので大量だっ
た。ブピュッブピュッと変な音を立てながらチンコとヴァギナの隙
間から出てくる。
精液の放出が終わったのでクラリーナから離れるとドバドバ俺の精
液が流れ出す。どこまで出てるんだ俺。綺麗にしようと右手をかざ
しいつもの3点セット魔法を唱える寸前でアイリとミーの両方に止
められた。
﹁ストーップ!しん君、魔法で洗浄する時は聞いて欲しいよ﹂
﹁そうだよねー。しんちゃんはすぐ洗浄しちゃうから、せっかくの
しんちゃんの精液がもったいないよ﹂
﹁だよねミー。しん君は女心をわかってないよ﹂
﹁ホントホント。愛する男の精液はとても貴重で美味しいものだか
ら・・・ほら、しん君見てごらん?﹂
クラリーナが上半身だけおきてハァハァしてたのに、股間を流れ出
る俺から中に出された精液を右手で掬い取って眺めてた。
﹁あああ、気持ちよかったぁ。ああ、しん様の精液がいっぱいでし
あわせぇ∼。ああ、しん様の匂いが、いっぱいで最高。あはぁ、あ
ん。レロンあああ、おいしい、あああ﹂
舐め始めた。ピチャピチャ舐めて指先まで吸ってる。手になくなる
とまた股間から救いとって舐めてる。クラリーナの顔は弛緩してフ
ニャフニャだが、完全にトリップしてるのか回りの俺たちの存在す
ら忘れて一心不乱に股間にある俺の精液を指で掬い取って舐めてい
る。
・・・凄くエロいです。
﹁ほら見た?しん君はすぐ洗浄してたからこんなエッチなシーンを
見逃していたんだよ?﹂
﹁ソウデスネ。ゴメンナサイ﹂
353
﹁それで、その・・・すぐに洗浄して欲しいのは・・・おしっこを
漏らしちゃった時だけで﹂
﹁それは賛成。そうだね。それ以外は私たちに聞いてから洗浄して
くださいね﹂
﹁ミーさん、おしっこ漏らしたってどういうことですか?おねしょ
?﹂
﹁クラリーナ、ちがうよ。しんちゃんとセックスしてると気持ちよ
すぎて・・・あまりに気持ちよくて、おしっこ漏らしちゃうときが
あるの﹂
クラリーナが復活して話に加わってきた。ミーの返答に興奮して生
唾飲んでる。
﹁そそ、そんなに凄いんですか?。んごきゅ。しん様のセックスっ
て・・・﹂
﹁凄い経験だよ!もうね、気持ちよすぎてね。頭の中に雷が落ちた
みたいになってズバーンって真っ白になるの。そこで失神しておし
っこがジョボジョボジョボって流れ出ちゃうの!でもね、全身の力
が全く入らないから私今おしっこ漏らしてる!ってわかっているの
にね、とめられないの。こんなおしっこを漏らしてるところなんて
ね、しん君に見られたくないのに、でもぜんぜんとめられないの。
さらにね、見られてるって、私がジョボジョボとおしっこ漏らして
る所をしん君に見られてるって、思うとそれも気持ちが良いの!そ
れでまた﹃ハイ、まった。ストップ!パン!!﹄ふぎゃん﹂
なぜかアイリが大興奮して説明しながら、かるいパニック状態にな
って止まらなくなってた。
ミーのストップがかからなかったらどこまで行くのか・・・ちょっ
と見たかったな。
﹁そ、そ、んなになんですか。・・・んごきゅ。私のいただいた快
感なんてまだまだなんですね・・・﹂
﹁そうよぅ、しんちゃんとのセックスで得られる快感の入り口に立
った・・・クラリーナの場合はそれぐらいかな?先はまだまだ長い
354
わよ。私とアイリもまだ﹃快感の一番奥﹄まで行ってないし﹂
・・・こらこら、何か話の方向性がかわってきてるな。なんか嫁3
人が肉食獣の目で俺を見てるんですけど・・・。
俺も嫁に対しては肉食だから問題ないけどな!。プニプニでふにゃ
ふにゃしてるプルプルの肉のクッションに自ら飛び込んでいく。
あ、よく見たらクラリーナのおっぱいが少し大きくなってる。
大きくって言ってもAカップがBカップなんだけどな。アイリやミ
ーから見たら小さな1歩だがクラリーナからすれば、その1歩は星
にも飛べるだろう1歩だ。
355
さて、異世界転生して9日目。朝から外は雨っす。
翌日は朝から、このイーデスハリスの世界にきてから初めての﹃雨﹄
だった。
昨晩はやりまくったな。クラリーナもセックスへの恐怖心とかはな
くなってそうだった。
何の遠慮もなくクラリーナが俺のアナルを舐めだした時はちょっと
感動すらしてしまった。俺もお返しにクラリーナのアナルの中まで
舐めた。ビクビクして潮を吹くようになった。
クラリーナの1番好きな体位は﹃駅弁﹄だった。
ダンジョンでの経験で粗末に扱わないように気を使っていたが、ク
ラリーナ自身がもっと激しくしてくださいって懇願するので、駅弁
で下からガンガン突き上げてやったら何度もイった。クラリーナの
ご希望通りにイってもイってもやめずにガンガン突き上げたら俺に
おしっこを噴出しながら失神した。
クラリーナはドMだな。アイリ以上の素質を感じる。ドMとしての
だけど。
アイリは言葉で攻められるのが大好きなドMだから羞恥プレイが大
好き。
クラリーナは愛する人の欲望をぶつけられ攻められるのが大好き。
ミーは強引にさせられてる感が好きなタイプだな。
Mにも種類があるなぁ。
全身に俺の精液をぶっかけられるのも良いらしい。なんか俺のにお
いに包まれてる!って匂いだけで軽くイクらしい。それにはアイリ
もミーも頷いてた。
356
何度か俺がいつものセット魔法﹃洗浄・浄化・乾燥﹄を使っていた
ら、クラリーナも覚えて何回かの練習で使えるようになっていた。・
・・さすが魔法の申し子。
今覚えた魔法がすぐに使いこなせるようになった自分にクラリーナ
自身が驚いていた。
全部正直に話をした。
俺が転生してきた﹃転生者﹄だってことも。
それで俺は主神ゴッデスから祝福をもらってることも。
今までのことも話した。
自分が魔法の適性があるのはうすうす感じていたが、そこまでの能
力があるなんて思ってもみなかったクラリーナは驚愕してる。
だけど﹃賢者にまでなれる素質がある﹄って主神ゴッデスがいって
たよ!って教えたら、コブシをにぎって頑張りますって気合入れて
た。うん、可愛い。
そのついでに昨日のダンジョンでの出来事を思い出して、サイラス
の希少魔獣を倒して手にいれた﹃サイラス︵希少魔獣︶の槍﹄を渡
す。ミーに片鎌槍だけどいいのか?聞いたけど、こっちも使えるか
ら大丈夫だ。そろそろ新しい槍が欲しかったから買うかどうしよう
か悩んでいたって言ってた。
その槍はミーにあげる。ミーにあげるために持って帰ってきたもの
だから。所有者も﹃ミネルバ・早乙女﹄にもうかわってるよと教え
てあげた。
ミーが嬉しそうに寝室の中で感触を確かめるように振ってる。
ミーが凄く嬉しそうなのであげた俺も嬉しい。ただ、寝室で槍を振
るうのは危険だからやめた方がいい。旦那の前で素っ裸で槍を振り
回すのもやめた方がいいと思う。明日になってから庭で振り回した
357
ほうがよくないか?って冷静に言ってやったら慌ててアイテムボッ
クスに片付けていた。
ミーのアタフタする姿に萌える。
それで今日は朝から雨だったのでミーがしょぼんとしてる。
朝食を食べ終わったら嫁3人にはるびのと遊んでてもらい、昨日の
制作途中でやめてたガレージと門と塀を一気に作る。石材も大量に
持って帰ってきた。うん。100トン以上は持ってきてる。
雨の中の作業も終わった。門番ゴーレムのユーロンド3体の雨の中
での不具合がないかチェックしたが何も問題なかった。セバスチャ
ンとマリアは増水する河に入って作業までしてもらってから確認し
たが何一つ問題なかった。さすが俺の﹃神の創り手﹄スキルによっ
て創られたゴーレムだな。
ガレージから邸内に入れるように玄関の下駄箱を撤去して扉を作っ
た。
早乙女邸の正門とガレージの門は石製にした。
正門のドアは砂を限界まで重力魔法で固めた石で作った両開きのド
アだ。表面はミスリルで薄くコーティングしてある。正門は中から
外が見えるように柵のような形になってるが重さはドア1枚が5ト
ンある。このドアの下にはタイヤもコロも何もついていない。
10cmほどの溝に入ってるだけだ。溝は固定化の魔法で床石が固
めてある。水が抜けるように床石を組んで作ったので雨でも大丈夫。
門を動かすときは手動だ。
俺・嫁3人・俺と同じ魔力パターンをもつ俺が作ったゴーレムの4
人と5対のゴーレムが持つ時だけ重力軽減魔法がかかり重さが50
0グラムほどになるように設置された魔石が使ってある。
運ぶのは面倒だが防犯対策や敵に攻められた時は﹃重さ﹄というの
は、それだけで防御力が高いし防犯にも最適だ。
358
ガレージのドアはスライド式だ。これも俺たち以外には2トン以上
の重さになっている。ドアの取っ手に魔石がつけてあり重量が魔法
で軽くなった時だけコロが動くように設定した。
今日はあいにくの雨だけど、雨の中のキャンピングバスの性能を確
かめてみたかったので、キャンピングバスで移動することにした。
今日の行き先は教会・おやっさんの店・冒険者ギルド・クラリーナ
の実家だな。
アマテラスへの結婚の報告のために教会は先にだな。
おやっさんの店はクラリーナの防具を買いに行く。クラリーナが着
てる服はまだしもローブは新調する。持ってたローブは死んだ商人
の次男が買ってくれたものだから早く着替えたいんだそうだ。確か
にそりゃそうだ。
冒険者ギルドはるびのの登録・・・テイムする魔獣は冒険者ギルド
の首輪をしないといけないようだ。アイリとミーに今朝の食事中に
教えてもらった。魔力パターンを登録して飼い主の冒険者ギルドカ
ードに登録。首輪はただ証明する為だけのもので魔法で固定される
らしい。別に呪いとかそういった類ではなく、大きさが変化する魔
獣をテイムしてる冒険者も多数いるので、そういう魔獣でも大丈夫
なように首輪の長さは自由自在になってる。固定するのは外れない
ように、切れないようにするためだ。
聖獣って登録の時にバレるだろうから気にしないようにするしかな
い。うちの一家に手を出そうとするバカタレは殺してもいいって嫁
の前で言ったら、るびのをモフモフしながら間違いないなって意見
が一致した。
クラリーナの実家は実家にある荷物が欲しいことと、家族に私は早
乙女家の人間になったと決別宣言したいんだそうだ。だから教会の
あとでなら時間はいつでも良いそうだ。
結婚の挨拶をしたほうがいいんじゃないかと聞いたが、それは必要
359
ないってクラリーナに断られてしまった。私はバスカトルの家に捨
てられたし、私もバスカトルの家を捨てる。
ステータスカードを見せて・・・
﹁私のステータスカードからも﹃バスカトル﹄の名前はもう消した
から、貴方達の記憶からも私の存在を消して欲しい。その後で貴方
達は貴方達だけで幸せになってね。私は早乙女の嫁にさせてもらっ
て、もうすでに幸せです﹂って宣言したいって、俺に抱きつきなが
らクラリーナは泣いた。
俺はギュって力強く抱きしめて泣きじゃくるクラリーナの背中を撫
でさすることしか出来なかった。
ったく、俺の可愛い嫁を泣かすなよ﹃バカ親父﹄。
さて、そろそろ出発しましょう!。
360
アマテラスのデレがヤバイ状態になってる気がするんだが・・・
っす。
まずはガレージに俺のアイテムボックスに入っているキャンピング
バスを出す。
キャンピングバスに乗り俺は運転席へ。ファーストクラス仕様のイ
スを3個取り出してキャビンスペースには嫁3人が乗ってもらう。
俺は運転席でるびのは俺の後頭部に掴ってる。ヘッドギアの特等席
だ。
﹁うぉおおお、とうちゃん、すっげぇーたっかいよー﹂
俺の頭の上が騒がしい。ペシペシ頭も叩かれてる。
俺がキャンピングバスを出発させてガレージを出るとセバスチャン
がガレージのドアを閉めてくれる。
正門も俺が出て行くとユーロンド3号が門のドアを閉めてくれる。
今日はゴーレム達は留守番だ。セバスチャンとマリアは畑の雨での
様子を見ていてもらい、ユーロンド達は早乙女邸の防衛が任務だ。
雨の中のキャンピングバスは何も問題がなく運転できるし、走行に
も何も問題なかった。タイヤも俺が想定していたよりも滑らずにし
っかりグリップしていたので走りやすい・・・時速10kmだけど
な。キャンピングバスの中にあるゴーレム頭脳によって急な飛び出
しとかにも安全だ。
まずは予定通り教会へ。
アマテラスへの結婚の報告だな。クラリーナが凄く嬉しそうだ。ア
マテラス様のおかげで最愛の人と結婚できて最高に幸せ!というこ
とだそうだ。
礼拝堂に向かい、最前列のシートにみんなで座りお祈りのポーズで
目をつぶりアマテラスに会いに行く。
361
︻キターー!真一お兄ちゃんがキターー!︼
ここにもテンションMAXな御方がいた。アマテラスが飛びついて
抱きしめてきた。
そのネタどっから仕入れてるんだ?。
﹁アマテラス、おはよう。3人目の嫁が出来たんでさっそく報告つ
いでに会いにきたぞ﹂
︻お兄ちゃんが会いに来てくれたって・・・うふふふうふふふ︼
ちょっとデレ過ぎてないか?。ちょっと怖いんですけど。
︻それとありがとうねお兄ちゃん。教会のごみ掃除までしてもらっ
て。あのクズどもは全部死刑で確定したから。クラリーナお姉ちゃ
んのお父さんも上司の司祭も聖騎士団での﹃事務方の人間﹄だから
チェックが行き届いてなかったみたい。クラリーナお姉ちゃんのお
父さんは厩番に転勤だね、たぶん一生。クラリーナお姉ちゃんの弟
さんはコネでの入団は取り消された。一般人に混じって入団テスト
を受けるしかないね︼
﹁クラリーナに弟がいたのか?﹂
︻うん。弟さんも事件の原因の1人ともいえるね。弟をコネで入団
させたい為に父親は上司にクラリーナとの結婚をキッパリ断らずに
良い返事をもらおうとのらりくらりとズルズル引っ張って、事件を
大きな問題へと発展させたんだからね。弟には全く責任がないんだ
けどね︼
﹁ホントのバカ親父かよ﹂
︻そう、だから今回の事件はクラリーナお姉ちゃんの父親は﹃間違
いなく加害者﹄なの。避けることが出来たのに自ら事件を大きくし
て、娘に全てを押し付けたんだからね。本来ならクビで当然なんだ
けど先祖代々からの長年にわたる聖騎士団への貢献を考慮されて馬
の世話係への降格で落ち着いたの。あと、弟にも問題はないよ。弟
は肉体的に強く逞しくて、今回の事件で精神的にも逞しく成長した。
将来は聖騎士団団長も狙える逸材だからね︼
﹁なるほどねぇ、それで俺はアマテラスに聞きたいことがあるんだ
362
けど﹂
︻うん。クラリーナお姉ちゃんのことだよね?。私もゴッデス様か
ら聞いてるよ。魔法の申し子って凄いよね?。それでクラリーナお
姉ちゃんへの祝福も2つにしました!︼
﹁おお!、パチパチパチ﹂
アマテラスがノリノリだったので、俺ものってみた。
︻まずは定番のアイテムボックスです。クラリーナお姉ちゃんの場
合は魔法適性が強いのでサイズは﹃大﹄となります︼
﹁すげぇ、さすが魔法の申し子!﹂
︻だよね!だよね!。そしてそして、もう1つが﹃聖女﹄です!。
これは私が光・風・回復の魔法を司る神様ですのでこの祝福にしま
した。クラリーナお姉ちゃんの場合、この3つの魔法の適性がずば
抜けているので簡単に適応できました。これでクラリーナお姉ちゃ
んは光・風・回復の3つの魔法の全てが使えるようになります︼
﹁は?ぜんぶ?エクストラヒールとかもできんの?﹂
︻はい。全部です。それが﹃聖女﹄ですから。クラリーナお姉ちゃ
んの場合はこの聖女の祝福を得たことによって、その他の魔法の適
応力まで底上げされてるので賢者も近くなりましたね︼
﹁クラリーナはホントにすごいなぁ。アマテラスもありがとうな﹂
︻いえいえどういたしまして。真一お兄ちゃんもすごいね。クラリ
ーナお姉ちゃんもアイリお姉ちゃんもミーお姉ちゃんも、全員が真
一お兄ちゃんにベタ惚れでメロメロのトロトロになってるよ。セッ
クスの虜にもなってるね。﹃濃厚なセックスがもたらすセックスの
虜﹄だったね。・・・お兄ちゃんヤリスギ。ドン!︼
﹁モウシワケナイデス﹂なんかガスッって腹にヘッドバットされた。
衝撃よりも胸が痛いです。
︻クラリーナお姉ちゃんにも1000年以上も若さを保ちながら続
く存在になったんだって説明したらすっごく感謝されちゃった︼
﹁アマテラスありがとうな。お前は自慢の妹だよ﹂といって頭を撫
でてあげる。
363
︻えへへへ、お兄ちゃんに喜んでもらえたぁ・・・ウフフフフ︼
アマテラスの頭をポンポンと叩いて先を促す。
﹁それで、まだ話があったか?﹂
︻は!。それとこれはゴッデス様からの伝言なんだけど、聖獣は神
に近い生物なの。お兄ちゃんに似た存在なの。だから白虎は卵のう
ちからお兄ちゃんに魔力をもらうために近づいてきたの。他の聖獣
も同じように近づいてくるかもしれない︼
﹁俺と俺の家族に害をなさないならいいんだけど﹂
︻それはないから。だけど聖獣にとってはお兄ちゃんは信頼できる
相談相手でもあるから、出来るだけ相談ぐらいは聞いてあげて︼
﹁ムチャなお願いじゃなければいいけど。・・・って、聖獣が自分
で解決できない悩みなんて、そうとう厄介な問題じゃないのか?。
ゴッデスにアマテラス、お前らまた俺に厄介ごとを押し付けようと
してないか?﹂
︻ギクッ。・・・ピュィーヒューフー︼
﹁自分でギクッって言うやつを初めてみたよ。それにその、吹けな
い口笛を吹いて誤魔化そうとするネタはどっからひろってきたんだ
?﹂
︻なななんでもないです。ハイ。ではそろそろ私は帰ります。じゃ
あお兄ちゃんまたね︼
・・・最後は早口でまくし立てて逃げやがった。アノヤロウ。
俺は礼拝堂に返ってきたが嫁3人は熱心に祈りを捧げてる。アマテ
ラスとかなり話し込んでるみたいだな。
﹁とうちゃーん、あそぼうよー﹂
暇な俺は頭に捕まっているるびのを床におろして遊び始める。1m
ぐらいの棒に1mぐらいの紐をつけて紐の先にボンボン付けて・・・
特製のネコじゃらしをつくった。
るびのの目の前でヒラヒラさせる。ウズウズして飛び掛る。
364
﹁んー、とうちゃん、なにこれ?・・・︵ウズウズ︶・・・とう!。
あ、こいつめ!とりゃー!うぷっ!くそ!そりゃー!﹂
たまに紐の先端にあるボンボンに顔面を攻撃されてひっくり返って
るるびの。
可愛いなるびのは。見てるだけで癒されるよ。・・・気付いたら俺
と遊ぶるびのの回りをうちの嫁3人とシスターが取り囲んでた。
嫁も帰ってきたので遊ぶのを取りやめて教会から移動する。最後に
寄付金40万Gを払った。
次の移動場所はおやっさんの店だ。
店に横付けして先に嫁たちに入ってもらい、俺も降りてからキャン
ピングバスをアイテムボックスに入れる。駐車場がいらないから便
利だな。
店の中にいるおやっさんとおかみさんに紹介する。
﹁おはよう、おやっさん。今日来たのは俺の新しい嫁のクラリーナ
の防具を探しにきたんだ﹂
﹁はじめまして。今日早乙女さんと結婚させていただいた﹃クラリ
ーナ・早乙女﹄ですクラリーナってお呼びください。よろしくおね
がいします﹂
﹁おう、おはよう。早乙女も趣味が変わったのか?今度の嫁はおっ
ぱいがずいぶんちっちゃ﹃ガン!﹄いぎゃ﹂
おかみさんに頭をグーで殴られてうずくまるおやっさん。
﹁何であんたはいちいち余計なことを言うの?﹁ピニリー、頭をグ
ーで殴るなよ!いってぇーな﹂あんたがいけないんでしょうが!女
の子の容姿に余計なことを﹃ガスン﹄﹁いぎゃん﹂言うからでしょ
うーが!クラリーナちゃん、ごめんね﹂
﹁いえ、大丈夫です。こんな私でも最高の旦那様に選んでいただけ
たので、もう幸せがいっぱい過ぎて気にもならなくなってます﹂
確かにおやっさんの余計な言葉にも全く動じた様子がないな。強く
なったなクラリーナ。
365
﹁それで防具の事なんだけど、クラリーナに見合う防具ってないか
な?﹂
﹁クラリーナは魔道士なんだろ?それならピニリーの出番だな﹂
今、初めて知ったのだけど・・・おかみさんはローブ系の防具の職
人なんだって。しかもかなりの天才肌でイメージを大事にするから、
完全に個別の生産になってしまうんだとか。オーダーメイドのオー
トクチュールか。
﹁うーん、うちに今あるアイテムとかだとクラリーナちゃんのイメ
ージに合わないんだよねぇ﹂
おかみさんは考え込んでしまった。
366
アイリとクラリーナの防具を新調。ミーは新しい槍・・・俺は?
ないっす。
ここイーデスハリスの世界では魔法使いのローブは毛皮のマントに
頭に被る部分がついてるヤツ。魔道士のローブは毛皮製のロングコ
ートに帽子。国や人によっては逆のパターンもある。
今のクラリーナは俺が森林モンキーの毛皮で適当に作った毛皮のコ
ートを着てるので、おやっさんはクラリーナのことを﹃魔道士﹄と
言ってるが、昨日までは魔法使いのローブを着ていた。
もう着たくないってクラリーナが言ってるので俺が朝に適当に作っ
ただけの﹃たびびとのふく﹄の毛皮版だな。
おかみさんのイメージってのがよくわからないので、俺のアイテム
ボックスに入ってるアイテムを何個か見せていく。シルバードの毛
皮を見せた時に、おかみさんに取り上げられた。
﹁これは下地で決定ね。ほら、もっと見せて!﹂
興奮するおかみさんがちょっと怖くて、逆らわないでその後も見せ
ていく。
﹁こ、これは何?﹂
声がかけられたのはオーガナイトの銀色に輝く角を見せた時だった。
﹁この形はオーガの角か?何で銀色なんだ?もしかして亜種か?﹂
おやっさんが大興奮してた。
﹁うん。オーガナイトって亜種を狩った時のドロップ品。オーガナ
イトロードの角もあるよ﹂
金色のオーガの角の方も取り出した。
﹁これよ!イメージにピッタリだわ!クラリーナちゃん、ちょっと
こっちにいらっしゃい。最高の魔道士ローブを作るわよ!﹂
おかみさんはそういって銀色の銀大熊の毛皮と金色のオーガの角を
持ってクラリーナを工房にドナドナしていった。
367
おやっさんも興奮して銀のオーガの角を見つめて、俺に聞いてきた。
﹁早乙女、この銀の角と金の角は両方ともたぶんオーガの亜種の﹃
レアドロップ品﹄だ。この国で初めて出た品だろう。俺も200年
以上も防具を作り続けてきて話には聞いたことがあるが初めて見る
代物だ﹂
﹁おやっさん、この銀の角を使ってアイリの防具を作るって出来ま
すか?﹂
﹁俺が使って作ってもいいのか?ってオリハルコンも使っていいの
か?ありがたい。それなら最高の防具でお返しさせてもらおう﹂
オリハルコンの5kgほどの塊も一緒に渡す。アイリもおやっさん
にドナドナされてしまったので、俺とミーは店の裏庭に移動する。
俺がおやっさんに頼まれてカタナを練習した場所で、サイラスの槍
を振るう練習をするミーを眺める。
﹁ミーかあさん、かっこいいねぇ﹂
るびのも見とれてた。俺とるびのは屋根の下の部分にいたが、ミー
は雨の中でもかまわずに練習していたのでビチャビチャだった。練
習に満足して笑顔で戻ってきたミーにいつもの魔法3点セットでサ
ッパリしてもらい店に戻ると、おやっさん・アイリ・おかみさん・
クラリーナの全員が戻っていた。
﹁ミネルバ、お前の使っていた槍はチラッとだけ見たが凄かったな。
まぁそれで、まずはアイリを見てくれ﹂
アイリを見てるがあまり替わったようには見えない。
﹁見た目の変化はないぞ。けど中身は全くの別もんだな。今までの
アイリの防具はミスリルでコーティングや補強はしてあるが基本的
にはオーガ鋼だ。今回のは元のオーガ鋼が違う。鋼にオーガの角を
乾燥させた粉末を混ぜて鍛えるとオーガ鋼だけど、今回のはオーガ
ナイトの銀の角で作った。こうすると強度も粘度も硬度も全部がレ
ベルアップした。だから正確には﹃オーガナイト鋼﹄って言った方
がいいな。これに早乙女からもらったオリハルコンを使って補強と
コーティングをしたから、防御力は今までの2倍ぐらいで、重量バ
368
ランスは変えてないから重さは今までと一緒だ。形も今までの形が
使いやすいってアイリが言ってたので同じ形にした。と、こんなと
ころだ﹂
﹁次は私の出番だね。クラリーナのコートなんだけど全身は銀大熊
の毛皮の毛を除いた皮で作られてる。だから全体の下地の色は茶褐
色。その皮のコートの上にベストを着ているように、もう一枚の銀
大熊の毛皮を張り合わせ、こっちは毛をのこしたよ。袖の部分も一
緒だけど袖はオリハルコンを薄く使っているのでかなりの防御力が
あるね。皮を張り合わせたつなぎの部分とコートの裏地のコーティ
ングにオーガの金色の角の粉末をふんだんに使わせてもらったよ。
これでこのコートはアイリが前に来ていた鎧ぐらいの防御力がある
よ。魔道士だったら帽子は必須!だから、帽子は今まで来ていた森
林モンキーの毛皮の品質が思ってた以上に良かったからこんな形に
してみたよ﹂
ヘッドギアでもないし・・・飛行帽だなこれ。可愛くて似合ってる
から別にいいんだけど・・・暑くないのかこれ。暑けりゃぬぎゃい
いか。
これは魔道士には見えないな。軍人の冬季山岳部隊か﹃マタギ﹄っ
ぽいぞ。銀の毛皮のベストの部分があるから。もしくは初期のころ
の空軍パイロット冬仕様って感じだな・・・飛行帽だし。
それでも似合ってて可愛いのが意味わからんな。さすがはおかみさ
んだな。
アイリの鎧も裏地の皮の部分に、今回の鎧では銀大熊の皮を使った
みたいで耐久性も上昇してるらしい。
防具の金額を聞いたら、金は要らないから今回使ったアイテムの残
りが欲しいって言われたので、喜んで提供させてもらった。オーガ
ナイトの銀の角ももう1本渡す。あともう1本残ってるし、おやっ
さんなら有効に使ってくれるだろう。
それで次の目的地の前に店の隣にあるおやっさんの家で昼ごはんを
369
ご馳走になった。
昼ごはん中の会話で、ここ数日の冒険者ギルド・役所・教会・商業
ギルドなどの不祥事発覚の連発する騒動でヨークルの住民の不満が
爆発寸前らしい。
それで住民代表の複数の人間に真偽官を加えて問題のあった各ギル
ド・教会・役所の抜き打ち検査が決まった。関係する部署だけでな
くあちこちの場所を不定期で行うそうだ。
それでおやっさんもおかみさんも代表者の1人に入っていて、これ
から何ヶ月も不定期での抜き打ち検査のために、好きなように防具
が作れないとストレスがかなり溜まっていた。
だけど今日は大好きな防具を思う存分作らせてもらって、ストレス
は発散できたしレアなアイテムまでもらったのでこれから楽しみだ
と目を輝かせて語る夫婦。
根っからの職人で似たもの夫婦だな。
﹁とうちゃん、にくがたべたいよ﹂
ミルクをゴクゴク飲んでるるびのが言ってるが、まだ歯が生えかけ
ぐらいだったので却下した。
﹁もうちょっと歯が伸びたらなー﹂
﹁わかったー﹂
次はるびのの登録しに冒険者ギルドだ。
370
クラリーナ騒動のラスト。冒険者ギルドもラストにして欲しいっ
す。
最近は毎日のように顔を出してる冒険者ギルド・・・依頼も受けな
いで登録ばっかりだけどな。
もちろん登録の窓口の女性と仲良くしたいって理由はまったくない。
今日は朝からかなりの量の雨が降ってるんで、冒険者ギルドは職員
以外は誰もいなかった。
クラリーナも俺のチーム﹃早乙女遊撃隊﹄の所属になるから変更手
続きがある。
るびのに付けられる首輪は色が選べたので赤にした。
るびのとクラリーナの登録はすぐに終わり・・・って言ってもるび
のの登録は時間がかかった。
受付の女性が﹁聖獣ですって?﹂と大声を上げてしまい。上司の幹
部職員に連行・・・ドナドナされてしまった。これはかなり長時間
になる説教だろう。たまたま職員以外は誰もいなかったから良かっ
たようなものの、冒険者の個人情報を大声で叫んでるからな。聖獣
をめぐってのトラブルに発展する可能性はかなり高いだろう。また
も信用が下がるところだったな。
謝罪する幹部職員に怒りをぶつけた。
・・・俺はヨークルの冒険者ギルドへの信用・信頼度はもはやこれ
以上は下がらない。0だからな。
ああ、やっぱり想像通りだなってぐらいにしか感じていない。
ゴーレムや魔獣の登録が義務じゃなかったらここまで来てない。
それにこのギルドで俺の秘密が守られているなんて少しも信じてい
ない。その覚悟でここに来てる。
371
個人情報を保護する気があるのになぜ自分達の処罰がヌルいんだ?。
説教されて終わりなら、自浄能力なんて全くないに等しい。
ルールを守ろう!冒険者がルールを破れば厳罰処分。でも職員がや
ぶったらゴメンね。説教はしとくから許してね・・・これがお前ら
のルールか?。
俺はオマエラの不祥事の犠牲者でケツ拭いまでさせられた。なのに、
その感謝すべき人物に対してすらこの所業なんだろ?。何でここに
来るとムカつく思いばっかりしなきゃならねーんだ?。
そろそろ俺もキレてもいいよな?。
俺はいつまで我慢させられないといけないんだ?。
全職員が無言になって俺の話を聞いていた。
何年か前にギルドでクーデターがおきて個人情報を守るって事で信
頼を取り戻そうとしたんじゃないのか?。その思いを末端のすべて
の職員まで徹底できないならクーデターまでした思いは霧散するぞ
?。お前らギルド職員に足りないものは﹃教育﹄だな。ルールを守
って信頼を取り戻そうっていう思いを伝え続けていく教育が決定的
に足りない。
そこまで言ってからギルドを後にする。
正直言ってここのギルドは俺にとって居心地が悪すぎる。
マジでムカつくことばかりの場所だ。
冒険者ギルドを後にしてキャンピングバスでクラリーナの実家にい
く。
迎えてくれたのはクラリーナの弟だった。みんなでぞろぞろ入って
いき、とりあえず挨拶をする。冒険者ギルドでのトラブルで俺の気
分も凹んでる。サッサと終わらせたいってのがホンネだったりする。
﹁姉ちゃんさぁ、家に帰ってこないのか?﹂
﹁帰る?貴方達には初めて言いますが、もう私は今日すでに結婚い
372
たしました。この早乙女真一さんと。だから私は私を捨てた。この
﹃バスカトルの家名﹄をもう捨てたの。ほら見て﹂
クラリーナは自分のステータスカードを両親と弟に見せる。クラリ
ーナ・早乙女となってる。
﹁今日は私の結婚を報告しにきたんじゃないの。宣言するために、
このバスカトル家に来た。私を捨てた家でも・・・私をこんな素敵
な旦那様に巡り合わせてくれた事にだけは感謝してます。私はもう
早乙女の嫁になって凄く幸せです。貴方達も貴方達で幸せになって
くださいね。以上、これが私の宣言﹂
笑顔で言い切った。がんばったなクラリーナ。俺たちは席を立つ。
もうここには何もすることはないから。
﹁﹁クラリーナ本当にすまなかった﹂﹂
﹁自己満足のために謝られても困りますので、押し付けの謝罪は一
切いりません﹂
両親の謝罪をはねつけるクラリーナ。
﹁娘を幸せにしてください。お願いします﹂
﹁私はもう幸せです!その言葉はもっと前の不幸な時に聞きたかっ
た!しあわせの絶頂にいる私には不要です。私が愛する旦那様に貴
方たちの自己満足を押し付けないでください!!!﹂
母親の言葉に最後は怒ってクラリーナは絶叫じていた。
流石に抱きしめて止めた。震えてるクラリーナをこれ以上苦しめな
いためにも早く帰ったほうがいい。
﹁さぁクラリーナ家に帰ろう。服を持ってこなくてもいいぞ。今か
ら買いに行こう﹂
﹁はい。ありがとうございます。でも少しは家に持っていきたい荷
物もありますので﹂
と言って俺の手をグイグイ引っ張る。うん。この輝くような笑顔が
俺は大好きだな。
嫁3人とクラリーナの部屋に行き荷物を何点かアイテムボックスに
入れて終わりの簡単引越しだな。
373
部屋を出ると弟君が廊下にいて俺らを待ってた。
﹁早乙女さん、姉さんを救ってくれてありがとうございます。姉さ
んのあんなに輝いてる笑顔は久しぶりに見ました。早乙女さんのお
かげで姉さんが笑えるようになりました。本当にありがとうござい
ます﹂
﹁おう、わかった。君の感謝の言葉は受け入れるよ。それにもう俺
の嫁だからな。嫁の笑顔を守る為にこれから俺もがんばるよ﹂
﹁ありがとうございます。それと姉ちゃん。姉ちゃんを守れなくて
ゴメンな﹂
﹁あんたも謝らなくていい。私を守れなくて悔しかった気持ちをも
ってあんたは騎士団に入り、騎士団で誰かを守ることで悔しかった
気持ちを晴らしなさい﹂
﹁わかったよ。ねえちゃん﹂
﹁それと、お父さんとお母さんをお願いね。あの2人は苦しくて辛
くて、さらに私を犠牲にして逃げてしまったことで壊れてると思う。
あんたが守りなさい﹂
﹁わかったよ。それとありがとうねえちゃん。俺はこのまま聖騎士
団で何が出来るのか?俺が聖騎士団でいいのか?入ってもいいのか
?って色々悩んでたけど吹っ切れたよ。ホントにありがとう﹂
うん。これで弟君も精神的にも強く逞しくなるだろう・・・って弟
君って14歳だよな。今の俺より年下のはずなのに・・・身長がア
イリとほとんどかわらんぞ?180以上は確実にあるぞ?。
外に出たら夕日でヨークルはオレンジ色に輝いていた。さぁ帰ろう
家に。その前にクラリーナの生活用品と服をいっぱい買わないとな。
374
クラリーナ騒動のラスト。冒険者ギルドもラストにして欲しいっ
す。︵後書き︶
時代劇でよく見るパターン︵女の子が借金のカタに売られる。ヒー
ローが無事救出。女の子がうちに帰って終了︶の変化球が書いてみ
たくてクラリーナを使いました。
見るたびに﹁それって問題解決してないよね?何かあるとその親は
何度でも子供を売るよね?﹂って思ってみてました。
俺も作品で書いた様にこの問題は解決って根本的に出来ないと思っ
ています。だからこんなラストになりました。
375
買い物中に接近してきた新たなる敵の影!主人公と3人の嫁は、
この後いったいどうなってしまうのだろうか!っす。
﹁おー!とうちゃん。すっごい、オレンジでキレイになってる!﹂
るびのも大興奮だな。俺もるびのが騒がしくなかったら、もっと長
時間見とれてたと思う。それだけの風景だった。
気になっていることがある。移動しようとすると自然にアイリ・俺・
クラリーナ・ミーの順番になってる。
チーム﹃早乙女遊撃隊﹄のフォーメンションの練習なのか?ってぐ
らい自然にこの形となってる。いいんだけれど、なんか身長の関係
でアイリとミーが俺とクラリーナの護衛みたいになってるって言っ
たら嫁が3人とも笑ってた。そんなことを話しながらも雨はすでに
やんでるので、歩いて買い物に行く。
まずはクラリーナの服からだな。ついでにアイリとミーにも一緒に
買うように言って衣料品店に行く。俺は男性服を見て回る。嫁3人
はキャッキャしながら服を選んでる。ふふふっ嫁たちが楽しそうで
何よりだ。
下着と替えの服、触り心地のいいクッションとかも売っていたので、
ついでに購入してしまう。
寝室のソファーに色合いが合いそうだったので数種類の大きさのク
ッションを買う。
アイリ・ミーも俺と同じようで下着を数品買っていた。2人は家か
ら服や生活用品を持ってきてるし。以前も買いに来てたから。
クラリーナはそんな訳にはいかない。
防具はコートなので中に着る服が必要になるし、普段着もパジャマ
だって必要だ。靴も今のおかみさんがサービスしてくれた冒険者用
のブーツしかない。全部買うので時間がかかる。みんなで手伝って
忘れ物のないように何度か確認しながら購入していく。俺もクラリ
376
ーナに似合いそうなエメラルドグリーンのワンピース︵クラリーナ
の瞳の色に近かった︶を選んで渡した。
そういえば俺って生地さえあればいつでも作れるじゃん!ってこと
で生地も糸も何種類も大量に購入していく。だって、3人の嫁のエ
ロチャイナ服とかナース服とかセーラーでもいけるんだぜ?。スク
水でもどんとこいだ。そりゃ男なら買うっしょ?。
勢いだけで100万G以上使ってしまった。生地だけで半分以上だ
し。反省も後悔もない。
歯ブラシとか色々必要だから雑貨屋にも行く。櫛や髪留めなんかも
必要になる。クラリーナは腰まで届きそうな長い髪の毛だから。リ
ボンやカチューシャ、かんざしみたいなのも買ってた。
そういえばみんな﹃時計﹄って持ってないよね?どうやって時間が
わかるの?ってきいたら・・・ギルドカードやステータスカードに
表示されてた。
知らんかったよ俺。俺は時間を脳内にMAPと一緒に表示させてる
んで知らなかったよ。
俺が寝室にどこかの神様に投げられた赤い目覚まし時計を置いたと
きに不思議な顔で俺を見てるから何でだろうと疑問に思っていたし、
どこの店にもどこのギルドにも置いてもいなかったし壁に取り付け
てもなかった。みんな時間を知りたいときは毎回外に出てヨークル
の中心にある時計塔を見てるのかと思ってたよ。
雑貨屋の後は以前も行った食料品市場の方にみんなで行くことにし
た。
様々な食材を買って次々にアイテムボックスに詰めていく。
ただ周囲に雑多な人が増えた為にめんどくさそうな視線を送ってく
るヤツラが大胆に近寄ってきた。俺も最近はもう自重しないで好き
なことを好きなだけ作って、ヨークルの中をうろついていたからな。
377
見たこともないゴーレム馬車に乗って、ゴーレムとは思えないほど
滑らかに動くクマのゴーレムを連れて歩いてるんだからな。可愛い
嫁も増えてるし。変なヤツラも増えてくるだろう。
もちろん俺の気配探知と魔力探知から逃れられるはずもなくすぐに
わかる。何度か交代して見張ってるのまでわかってる。全ての人間
には魔力パターンがマーキングされているので、俺のMAPに彼ら
の動きはわかっている。どこで待ち合わせてどこで立ち止まりなど
も、全部わかってる。
俺がじーーっと近づく男を見てると俺に接触をしてきた。
﹁早乙女真一って名前のガキだな?﹂
﹁もう調べてから来てるのに・・・いちいち聞かないでくれますか
?。答える必要もないですし﹂
﹁肝が据わったガキだな。まぁいい、ちょっと話がしたいと依頼人
がおっしゃってるんでついて来いよ﹂
﹁いやですね。子供の時に習わなかったんですか?知らないオッサ
ンに付いて行くと変態の慰み者にされるって。もう嫁もいますし、
オッサンには興味もないんで﹂
﹁本当にいい度胸したガキだな。ただ、変な動きをしたら俺の仲間
が黙ってないぞ?﹂
﹁仲間って、あそことそっちの建物の屋上で見てるオッサンですか
?それと俺の後ろのあちらから近づいてくる10人のオッサンです
か?俺の嫁の背後の3人のオッサンも仲間なんですよね?・・・つ
まり、お前らは俺と俺の家族に害をなそうとする・・・俺に﹃戦争﹄
仕掛けてきてるんだな?﹂
ここで俺は大声を出す。
﹁アントローグ商会は俺に戦争を仕掛けてきた!と認識してもいい
んだよな?クソジジィ﹂
俺に近づいてきていた10人・四方の背後に回っていた3人・上か
ら監視していた2人を革紐でグルグル巻きにした状態で瞬時に目の
378
前に転がる。
賢者ともなれば魔法の呪文の詠唱も必要ないし手をかざしたりも必
要ない。声を出す必要ない。
俺も今まではなんとなくの雰囲気でやってただけだ。
人ごみの中でカタナを振り回さない。そういう敵の油断を逆に利用
させてもらった。
人海戦術で女を人質にすれば何とでもなると思ってたんだろう・・・
安全な場所での人と人との駆け引きならともかく、戦いに関しては
コイツらはド素人だな。
俺は魔法で即座に対応する。戦争だったら何も遠慮は要らない﹃や
られる前にヤレ﹄。
﹁な!﹂
目の前のオッサンを逃げられないように手で掴んで捕まえておく。
走っていた複数の人間が消えた!って思ったら、いきなり15人も
の人間が革紐グルグルで転がってるんだから市場はパニックだ。
﹁え?、なになに?。は?﹂
嫁3人もキョトンとしてる。
﹁テキがきたー、グルグルにー、つかまったー、きゃははは!﹂
るびのは頭の上で歌ってる。何か音程が独特すぎてちょっとホンワ
カしてしまう。だけどちゃんと敵と認識してるようでよかった。
﹁さぁ、あそこの路上でゴーレム馬車に乗りこちらの様子を窺って
る、アントローグ商会の執事と幹部に話を聞きましょう!。おら!
クソジジィ、お前が案内しろよ。・・・おっと?もしかしてオッサ
ン、お前は逃げられると思ってるのか?﹂
オッサンの手を握る趣味はないので、オッサンの手を引っ張ってケ
ツに蹴りをいれた。
3mほど転がったオッサンは立ち上がって走り出そうとしたら、目
の前にの俺にぶつかって尻餅をついたまま恐怖で驚愕してる。
﹁それとオッサンの仲間の15人を縛っている紐・・・あれは俺が
魔法で封印したから誰にも外せないぞ?。オッサンもあそこで仲間
379
になって転がっとくか?。あの15人の誰でもいいしな﹃案内する
だけの人間﹄なんて﹂
15人のオッサン達が俺が俺がと口紐の隙間から自己アピールして
る。俺は15人をさらに紐で縛りズリズリと引っ張ってゴーレム馬
車の方に嫁3人を連れて歩いていく。
魚釣りの仕掛けのように1本の紐に15人が縛られているので少し
面白かった。
石ゴカイが15もついてる。モゾモゾ動いてるし。キスの投げ釣り
?。カレイもいけるか?。
くだらないことを考えてちょっと微笑んでしまいながら、ゴーレム
馬車に歩いていく。
﹁ずーるずる!それっ!ずーるずる!そいさっ!ずーるずる!﹂
頭上のるびのの歌も絶好調だ。合間の掛け声が日本人っぽいのは俺
の知識からだろう。
全く重さを感じさせずに15人を引きずって歩く俺に、恐怖でガク
ガクしながらも後ろからついてくるオッサン。
﹁クソジジィ!案内する気はねぇーのか?前を歩け!前を!!﹂
俺が命令するとガクガクしながら馬車まで走るオッサン。
ゴーレム馬車は動いていない。戦争状態に突入して魔法を使った時
についでにゴーレム馬車の動力を伝えるためのシャフトを粉砕して
おいた。馬車のドアは封印したので、出て逃げ出すことも出来ない。
馬車の窓から見えるのは中のフルプレートアーマーを着た護衛がド
アに体当たりを繰り返しているところだな。封印したのでドアを触
ることも出来ないから壊して脱出することもできない。
うん。威張って接触してきた割にはこいつらは滑稽だ。
380
悪党どもは浄化だぁ∼!いえ、冗談っす。ムリっす。
なんか必死になってドアに体当たりを繰り返すフルプレートーアー
マーのヤツラを見ていたら、ちょっとだけ可哀想になってきた。許
す気は全くないけどな。
封印を解除してやるとフルプレートアーマーを着た護衛のオッサン
が転がり落ちてくる。無様だな。後ろにいっぱいいるギャラリーに
も聞こえるように笑ってやった。ギャラリーの人たちも笑ってる。
﹁何だ貴様ら!なんのようだ!﹂
﹁何でって、あんた達の後ろに隠れてるメガネ君が俺を呼んだから
でしょうが!なぁ、オッサン﹂
俺を呼びに着たおっさんがクビをブンブン上下に振ってる。後ろの
ギャラリーにも聞こえるように全部が大声で会話をしている。実際、
5mぐらい離れているから大きな声じゃないと会話できない。俺は
耳が良過ぎて護衛の影に隠れてコソコソ話してる声メガネと幹部の
声まで聞こえてるが。
﹁それで俺の嫁を人質にしようとしてまで、アントローグ商会の執
事さんと幹部さんはどんな話を俺としたいんですか?﹂
﹁そんなヤツラは知らん!見たこともない!﹂
﹁こんな事言ってますけど?﹂
﹁ふ、ふざけるな!お前が俺を雇ったんだろうが!女共々さらって
来いって!なぁ早乙女さんこれは事実だから真偽官を呼んで証言し
てもいい﹂
﹁くそっ!こうなったら、みんなやってしまえ!﹂﹁ハッ﹂
4人の護衛が動いた。3人が俺に切りかかる。1人はクラリーナの
ほうに駆け出した。
3人のロングソードは俺に当たったところで止まる。1人は俺の右
手を横から切りつけてる。1人は俺の腹の真ん中に突きを入れてる。
381
もう1人は俺の足を切りつけている。意外と護衛のみんなが慣れて
いるようだな。無駄な動きがなく、俺への攻撃もかなり鋭かった。
俺は切れないし刺さらないけど。
俺は今、旅人の服を装備しているので腰のベルトには短剣しか差し
ていない。服が切れた。
今日は朝からフル装備をしていたが衣料品店でクラリーナが試着を
する時に、ついでにみんなで装備を外していたから。
﹁ぎゃひゃぁ∼﹂
って叫び声がして後ろを見ると、驚愕で目を見開いて俺を見つめる
嫁3人と・・・クラリーナを捕まえようとして伸ばした指先が、ア
イリに間に入られてアイリのアイテムボックスから瞬時に取り出し
た盾で曲がってはいけない角度で曲げさせられている。
手を伸ばした先にアイリの盾が割り込んできて指が正面衝突して骨
折。
こうしている間にも俺は護衛3人に何度も切られたり突かれたりし
ているが、全く気にする様子もなく全ての攻撃を受けてる。
ギャラリー達が呼んだ警備兵が来るまで攻撃は続いた。
服はボロボロになって護衛の猛攻をうかがわせるが、傷ついていな
い動くこともない。嫁3人が呆然と俺を見ていた。警備隊と一緒に
近くの警備隊詰め所に向かう。
俺がオッサンに声をかけられた時に隣にいて、一部始終を目撃して
いたオバちゃんも目撃者代表として自ら名乗り出て一緒に行ってく
れた。
﹁俺たちは何も関係ない﹂﹁化け物が近づいてきたから切りかかっ
ただけ﹂﹁こんな盗賊みたいなヤツラに依頼?俺たちは関係ない﹂
﹁うちの商会は被害者だ!お前達警備兵を訴えるぞ!﹂﹁用がない
から帰らせろ!俺たちは無関係だ!﹂
なんてことを繰り返し何度も逃げようとするが、ここまでの大騒ぎ
でそれはムリって思っていたら、警備隊の責任者が来てニヤリと笑
いながらメガネと幹部に最後通牒を突きつける。
382
﹁今まではそれで逃げられたのかもしれないが、今回は現行犯だか
らな。もうお前等アントローグ商会は終わりだよ。真偽官が来てか
らお前たちの尋問開始だぞ!。今までみたいに言い逃れられるなん
て甘い考えは捨てた方がいい。ここにお前らの仲間はいないし、も
うすでにお前らの本拠地も警備隊が取り囲んで今頃は中に突入して
いるよ。もう逃げ道なんてないよお前等全員﹂
そういって警備隊の責任者が俺の方を向いて俺に頭を下げた。
﹁早乙女さん、申し訳ない。こいつらアントローグ商会は何人も君
達のように才能のある若者を誘拐して奴隷にしていたんだ。中々し
っぽが掴めずに時間がかかっていましたが、明日にでも一斉に抜き
打ちで本拠に突入しての捜査ができるぐらいに証拠が集まってきて
たので踏み込む予定で動いていたのですが・・・結局手遅れになっ
てしまいました。明日の突入準備のために今日は人を集めるのに時
間がかかってしまい対応が遅れてしまいました。申し訳ないです﹂
ここで警備員と同じ鎧を着ている3人が廊下を引き摺られて地下の
牢屋へと続く階段を下りていったので、ビックリしていると責任者
が教えてくれた。
﹁彼らはこのヨークル警備隊に所属しながらアントローグ商会に雇
われてる人間です。あの市場の警備の所属なのであそこでいつも誘
拐をする手助けをしていたのです。騒ぎになったら彼らが駆けつけ
て結局さらわれる。まったく酷い話ですよ。彼らがフラフラしてい
たのは魔法を使った尋問の影響ですね。・・・おい!次はこいつら
だ!尋問室に連れて行け!﹂
責任者が指示してアントローグ商会のメガネと幹部が連れて行かれ
る。
﹁早乙女さんと奥様方、そして証人の方もこちらの応接室にお越し
ください﹂
俺・嫁3人・オバちゃんの5人は別の方向にある応接室に通される。
警備隊の詰め所の応接室だから豪華ではないが落ち着いた雰囲気の
部屋で証人のオバちゃんがホッとしていた。ソファーに座ると紅茶・
383
コーヒー・お茶の注文を聞かれたので俺はお茶を選び・・・ずずず
っとすする。応接室にも警備隊の人はいたが俺たちの座るソファー
と出入り口のドアの真ん中に立って、ドア側を向いているので威圧
感はほとんど感じない。
30分ぐらい待ってるとドアが開いて真偽官と司祭が入ってきた。
アイリの母親のカタリナ・クリストハーグを助けに行った時のイケ
メンナイスミドルコンビだった。
ドミニアン司祭とローグ真偽官だ。
ホテルでの騒動解決パーティーでも俺が何度も﹁真偽官さん﹂と呼
んで、名前で呼ばなかったら怒ってたけど理由を言ったら大笑いし
た人物だ。
﹁俺には﹃ローグランド・ペスカトーレ﹄という立派な名前がある
!真偽官は俺の職業だ。名前じゃない!・・・は?﹃ローグランド
真偽官さん﹄って名前が長くて呼びづらいって?アッハッハッハ!
じゃあ﹃ローグ﹄って呼べ﹂
って俺の肩をバシバシ叩くイケメンだ。その真偽官さんが俺に声を
かけてくる。
﹁おぅ、早乙女。また厄介ごとに巻き込まれてるな!アッハッハッ
ハ﹂
笑い方まで爽やかイケメン系のナイスミドルでちょっとムカつく。
﹁俺が厄介ごとに巻き込まれるのは神様のせいです。俺に厄介ごと
を押し付けて解決させようと企んでいるんです﹂
どこかで︻ギクッ︼って声が聞こえたがもう気にしていない。
アマテラス、声に出して﹃ギクッ﹄って言うネタはどこから拾って
きてるんだ?。
みんなが笑ってた。ドミニアン司祭まで笑ってるのには少しムカつ
いた。
お前・・・司祭だろ。お前が敬愛する神を俺が笑いものにしてるん
だぞ?怒れよ。
384
騒動は終了しキャンピングバスの目途も立った。そろそろ旅っす
か?
早乙女邸にもアントローグ商会の人間がゴーレムに再三警告された
にもかかわらず2人が侵入して、うちのゴーレムのユーロンドによ
って捕獲されていた。
近所の農家の爺ちゃん婆ちゃん、近所の倉庫の警備員、通行人など
の多数の人間が警告されてる時から見てる中での行動なので、言い
訳すら聞かれず倉庫の警備員達に引き取られていった。その報告が
届いてるとローグ真偽官が教えてくれた。
俺もマリアからのアイテムボックスメールで話は知ってる。まさか
相手がアントローグ商会の人間だったとは知らなかった。
だいたい、うちの家の隣の倉庫がアントローグ商会なんだぞ?。し
かも店はおやっさんの店の近くにあるし。だから俺を誘拐しに来た
ヤツラが集まる場所でどこの商会の連中かすぐに俺はわかったんだ
し。
しかも家に侵入したヤツラを引き摺っていった人間の1人がアント
ローグ商会の倉庫の人間だし。バカ正直に警備隊に引き渡したのか
?。
ローグ真偽官がいうには・・・倉庫の警備員が逮捕はされないがア
ントローグ商会の崩壊で職を失ってしまった。だけど尋問で﹃犯罪
歴のないただの良い人﹄ってのがわかったので知り合いに職を頼ん
であげるらしい。紹介状もつけてやるって笑いながら言ってた。
調書作成はすぐに終わってドミニアン司祭が話しかけに来る。結婚
報告だった。
﹁カタリナの状態がもう完治したので、昨日やっと結婚が出来たよ
早乙女君。ところでそちらの女性は・・・﹂
﹁ああ、紹介します。今日新しく妻になったクラリーナ・早乙女で
385
す﹂
ドミニアン司祭の視線に気付きクラリーナを紹介する。クラリーナ
にもドミニアン司祭を紹介した.
﹁クラリーナ、この人がアイリの母親のカタリナ・クリストハーグ
さんと結婚したドミニアン司祭だ。ドミニアン司祭はクリストハー
グ家に入ってくれた・・・つまり婿になってくれたんだ。だから昨
日から﹃ドミニアン・クリストハーグ司祭﹄だな。﹂
クラリーナが立ち上がって挨拶してる。司祭と聞いていてもクラリ
ーナには変化はなかった。事件の影響はかなり薄くなったかな?。
握手もしっかりできてるしな。握手したままドミニアン司祭はクラ
リーナに頭を下げる。
﹁君がクラリーナさんか。昨日のことは自分も聞いてる。事件をぶ
り返すようで悪いのだが、教会関係者の司祭という立場として謝罪
させてほしい。誠に申し訳ない。君が笑顔で早乙女君といるだけで
ありがたく思う。早乙女君ありがとう﹂
﹁昨日の事件はクラリーナさんの強い希望もあって﹃公開事件﹄と
して取り扱われてる。教会内部でみんなで反省して私のような犠牲
者を今後作らないようにして欲しいと強く希望したからだ。慰み者
とされてきた2人の長男の嫁も公開事件と希望されたので決定した。
だから今後もクラリーナさんと会った教会関係者の人間は謝罪をし
てくると思われるが・・・押し付けがましくなってないかな?。邪
魔ならそう通達するのだが・・・﹂
﹁邪魔ではないですが、謝罪は今ドミニアン司祭様からいただきま
したのでもういりません﹂
﹁了解した。関係者全員に今後は謝罪は必要ないと通達しておきま
す。それと早乙女君にも教会で傷つけてしまった女の子を救って、
さらに笑顔まで取り戻してくれてありがとう﹂
﹁いえ、もう俺の大事な嫁ですから。3人の嫁の笑顔の為にがんば
りますよ﹂
イケメンは謝罪までイケメンって言うのが悔しい。まぁ俺の僻みは
386
おいといて。ローグ真偽官にもクラリーナを紹介しておく。
それで今回の事件は俺にとってはおしまい。
もともとアントローグ商会の内定調査の担当していたチーム責任者
がこのローグ真偽官とドミニアン司祭の2人だった。サポートして
いたのが警備隊の責任者の人。カタリナの事件の時に2人は教会で
突入時の相談をしていた時だったので二人は一緒にいたのだった。
だからアントローグ商会の内情はほとんど理解してるし、犯罪の告
白させる魔法も即時に使用。2人ともが明日早朝の大捕りものの準
備の為に家で英気を養ってる・・・自宅待機だったから連絡の一報
を受けて即座に突入を決意。
すべてのチームを動かしてアントローグ商会の全施設を強行突入さ
せた。
警備隊の責任者も監視していた人間の報告を受けて変な動きをさせ
ないように内通者を確保してから俺のところに来たのだった。
警備隊の責任者といいローグ真偽官といいドミニアン司祭といい、
イケメンで優秀なこの3人は行動も早いな。3人とも部下からの信
頼度も凄いカリスマ性を感じてしまう。突発的な騒動でも対応力が
凄い。
だからこそ、この3人に任せて俺はもう終わり。
頭の上のるびのは警備隊での真剣な話し合いの空気を読んで黙って
いたがそのまま寝てしまっていた。今も寝てる。
警備隊の皆に御礼を言われて警備隊詰め所を出る。証人になってく
れたオバちゃんは警備隊の隊員に付き添われて帰っていった。もう
夜だし何があるかわからないからな。
さぁ、俺たちも家に帰りましょう。俺たちにも警備隊の人が送って
くれると言っていたが断った。
夜のキャンピングバスの走行も試してみたかったから。
387
安全の為に前照灯代わりにライトの魔法を使う。迷惑をかけないよ
うに調節して前を明るく照らす。
うん。調節が上手くいった。キャンピングバスを発進させる。
見通しの良い場所までは時速10kmぐらいで走り、田んぼの畦道
のように見通しのいい場所は40kmぐらいにスピードを上げてみ
たがなにも問題がなかった。実験終了だな。
まだ雨の影響で水が残る未舗装の泥道をタイヤはしっかりグリップ
してブレーキも問題なかった。
このキャンピングバスを作るにあたって一番苦労したのが﹃タイヤ﹄
だったりする。
何しろイーデスハリスの世界で舗装された道って言うのは﹃石畳﹄
だ。これが雨に濡れてゴムのタイヤがグリップできるのか?が心配
のタネだった。
それに森林モンキーの尻尾はゴムよりも丈夫で劣化もなく頑丈でと、
いいとこ尽くしのゴムだがタイヤには使用できない。
摩擦係数が致命的なほど低い。
だからこそゴーレムや防具など絶えず動かすような場所では最高の
材料だけどタイヤは不可能だった。
タイヤはゴム製でしか作れなかったので心配のタネだった。
雨の泥道では大きいブロックパターンにして水捌けをよくして泥道
を爆走するモトクロスぐらいしか俺に知識がなかった。
ゴムは硬度をかえると摩擦係数もかわる。森林モンキーの尻尾は魔
力を入れて加工するが魔力量を増やすと摩擦係数がさらに減ってし
まう。魔力を減らし過ぎると加工できない。
諦めてゴム製のタイヤにして実験のように走行していたのだ。
これでキャンピングバスは旅に使う目途がたったな。
せっかく買った家のセキュリティも万全になったことだし。まずは
嫁に聞いてみないとな。
388
今頃になって嫁に手作りの結婚指輪を作って渡したっす。
早乙女邸の前に帰ってくると門をユーロンド1・2号が開けてくれ
る。キャンピングバスが邸内に入ったら門を閉じてくれる。その間
の邸内警戒任務は3号とセバスチャンが担当。
マリアはガレージの扉係だ。
ガレージにキャンピングバスを入れて停車すると、扉を開けてアイ
リとミーとクラリーナが出て行く。俺はキャンピングバスを出てか
らバスのタイヤをチェックしたが問題ないな。
キャンピングバスを﹃洗浄・浄化・乾燥﹄の3点セット魔法で浄化
してからアイテムボックスにキャンピングバスごと入れて片付ける。
マリアに先にご飯にするから準備しといてと命じておく。セバスチ
ャンが晩ご飯を作っておいてあるので、後はマリアに並べてもらう
だけだ。
アイリとミーはクラリーナに3点セット魔法を全身にかけてもらい、
クラリーナは3点セット魔法を自分自身で行ってる。3人はブーツ
を脱ぎながらおしゃべりしてる。
﹁やっぱり魔法は便利だねぇ、アイリも私も使えないからクラリー
ナがうらやましいよ﹂
﹁だね。箱があるけど靴用だからね。この浄化された感覚はやみつ
きになるよね﹂
﹁でも、アイリさんもミーさんも私には出来ないことが簡単に出来
ますから。私もお2人がうらやましいです。今日もアイリさんに救
っていただきましたし﹂
﹁あれは﹃シールダー﹄としてのアイリの仕事だよ。ねー、アイリ
?﹂
﹁もちろん、私の仕事だよ。チーム﹃早乙女遊撃隊﹄のシールダー
なんだから。・・・ねぇ、しん君。今日の護衛に攻撃されたときに
389
どんな技を使ったの?魔法?﹂
後からセバスチャンとともに玄関に入ってきて全身を3点セット魔
法で浄化し終わった俺にアイリが聞いてきた。
﹁は?俺は何もしてないよ﹂
﹁え?しんちゃんは剣で切りまくられてたじゃん。どういうこと?﹂
ん∼∼、説明が難しいけど。俺ってこのイーデスハリスに来る前に
神を4人殺してステータスがありえないことになってると言ってお
いたのに理解されてなかったかな?。
仕方がないので剣を作ってミーに指先を切って本物であることを証
明してもらい切れた指先をヒールで治す。危険だから3人には玄関
から離れてもらい、そしてセバスチャンに全力で切ったり突いたり
してもらう。服は切れるのに一切切れない肌に驚愕する嫁3人。
セバスチャンに剣を返してもらいアイテムボックスに入れる。その
後に魔法で服を治しながらみんなのところに歩いていく。
﹁な?。俺を傷つけることのできるのは神ぐらいだよって言ったじ
ゃん。傷付いてもすぐ治っちゃうけどね。・・・だから今日のアイ
リの判断は正しかった。俺ではなくクラリーナを守りに行ったから
ね。俺は傷付かないんだから大丈夫だよ。今後も同じような時があ
ったら、またアイリにはクラリーナやミーを守って欲しい。チーム
﹃早乙女遊撃隊﹄のシールダーとして﹂
﹁・・・しん君はあれぐらい簡単に避けれると思ってたから・・・﹂
﹁私も。当たる訳ない簡単によけると思ってたのに、思いっきり当
たってるし切られてるしでも傷もしてないしで・・・脳味噌が停止
してた﹂
﹁あの攻撃を避けたら俺を攻撃していた3人は必ず君達の方に行っ
てたよ。あいつらはそういう訓練をされた攻撃だった。だから避け
ずにガードもせずに受けた。始めに1人はクラリーナのほうに行っ
て動揺を誘おうとしてたんだよ。実際動揺したしね。アイリが動い
てくれたから助かったよ﹂
﹁あー、確かにしんちゃんの攻撃をしていた3人は私たちのほうを
390
見てたね﹂
﹁うん。そういうことだよ。どう、こんな化け物嫌いになった?﹂
﹁﹁ぜんぜん。むしろカッコ良過ぎて少し濡れた﹂﹂
﹁大丈夫です。しん様は神様なんですからカッコ良くて当然なんで
す﹂
何か変な考えの人がいるんで頭の上のるびのをおろしてクラリーナ
に渡す。
﹁俺は神じゃないよ。るびのは神様の仲間だって聞いてるけどな﹂
頭装備のヘッドギアを3点セット魔法でキレイにしてからアイテム
ボックスに入れる。
﹁うふぁ?。ん?クラリーナかあさん?あれ?ここどこ?﹂
るびのも起きたようだし、ダイニングに移動して晩ご飯にする。る
びのは起きたばっかりなのにミルクを2本も飲み欲した。この小さ
な体のどこに入っていってるんだろう。
ご飯を食べ終わってリビングにみんなで移動。食器などはマリアが
魔法でキレイにして片付けしてくれる。セバスチャンには風呂の準
備をしてもらう。準備って言ったって掛け流しの温泉だから確認だ
けだ。
マリアがお茶を入れてくれたので食後ののマッタリ空間だな。
﹁なぁクラリーナって何の武器を使ってたんだ?杖?ワンド?﹂
﹁私は教会で杖術の訓練を一通り受けましたので杖ですね﹂
﹁今持ってる?﹂
﹁今はありません。ダンジョンでなくしました﹂
じゃあ俺が作る!ってことでさっそく今まで使っていたのがどんな
ものかを聞き、今から作る杖のリクエストなどの注文を聞く。
長さが120cmぐらいで太さは3cm。木製に金属でコーティン
グしてあったやつを使っていたそうだ。両側の先端は尖っていた方
が使いやすい。あまり重くないものが良い。デザインは俺の好みで
391
作って欲しいそうだ。
木製っていっても俺は特別な木なんて持ってないし、元の材料をど
うしたもんかな?って悩んで・・・ふとお茶を継ぎ足して入れてく
れるマリアを見て・・・銀大熊の骨ってまだ余ってたな。と閃いた。
銀大熊の大きな骨を重力魔法を使って限界まで圧縮してから魔力も
限界まで込めて、両端にクズ魔結晶を取り付けてオリハルコンでコ
ーティングする。
クラリーナに杖術の型をしてもらい色々と振り回して、杖の重量バ
ランスをクラリーナの好みに仕上げていく。
最後に両端を尖らせて魔結晶をバラの花と枝で絡み付いてるような
装飾ををほどこし、杖全体にバラの蔓や葉が絡み付いてるような彫
りを入れて滑り止めにした。魔糸溶解液で5回ほど先端以外をコー
ティングする。1つの魔結晶に俺の持つ杖術のスキルを込めて、も
う1つの魔結晶に魔法防御力アップを込めておく。
杖が完成したので、ほいよ。って感じに仕上がった杖をクラリーナ
に渡すと、目に涙を溜めて・・・
﹁一生涯の宝物として大事に使います﹂
なんていってるので俺は怒った。これは消耗品だ。
﹁これは武器でもあるしクラリーナを守るため防具にもなるように
俺が作ったんだぞ?。いいか、これは消耗品だからな?。そう簡単
には壊れないが、たとえ壊れてもいつでも作り直してやるから自分
を守るために使え﹂
そしたらアイリとミーがうらやましそうにクラリーナの杖を見てた
ので3人に結婚指輪をプレゼントすることにした。
俺の分もつくって4人で通常も使えるようにシンプルなオリハルコ
ン製の指輪だ。
俺のは普通の指輪だが嫁3人の指輪には俺が防御力アップの魔法を
込めたので、今日みたいに普段着でいる時に不意打ちされても怪我
392
で済むようにしておく。
クラリーナは二つの防御力アップの相乗効果で安心だな。防具もお
かみさん特製にしたんで銀大熊の攻撃でも安心だ。
作り終えて3人の嫁にそれぞれの左手の薬指にはめてあげる。指に
入れてから最終調整してピッタリのサイズにしておく。
3人になぜ左手の薬指なの?って聞かれたので、俺が生まれ育った
日本ではこういう習慣なんだって教えたら嬉しそうに自分の指には
まってる指輪を眺めていた。
指輪には俺の愛を込めといたよって言ったら抱きつかれてキスされ
た。
風呂にみんなで入りに行くことにする。エロい時間の始まりだ。
るびのは食後に俺の膝の上で寝始めたので、寝室のベビーベッドに
マリアに運んで貰って寝かせた。
393
風呂にエアーマットを設置した。誰がなんと言おうが男のロマン
っす。
みんなで会話をしながら更衣室で素っ裸になってかけ湯をして風呂
に入る。
クラリーナは相変わらず体を隠そうとしてる。だけど俺の前でする
と逆効果だ。股間に血液が集中していくのがわかる。
﹁クラリーナはまたそうやって恥ずかしがって。よく俺のことをし
ってるな。おかげで勃起し過ぎてチンコが痛くなってくるよ﹂
そういって俺は立ち上がり完全勃起したチンコをクラリーナの目の
前に突き出す。
﹁え、そんな、ワザとじゃ・・・でも、痛いって・・・んごきゅ・・
・チュ。あああ、しん様の味がしますぅー、あぁああ、もう、我慢
が、いただきますぅ﹂
クラリーナはエロスイッチが入るまでは恥ずかしがり屋の女の子だ
が、スイッチが入ったとたんに女豹になる。見た目は可愛い系で中
身はエロい肉食獣って・・・最高です。
スイッチは俺のチンコの放つ匂いかな?。
俺のフトモモを抱き寄せるように両手で掴み、俺を見上げながらチ
ンコに吸い付いてきて銜える。
小さい口を大きく広げてグボッグボッっと下品な音をワザと大きく
響かせてストロークさせている。かなり喉の奥に入ってると思うの
だが、俺を涙目で見上げていても喉の奥に入れるのをやめようとす
る素振りもない。時々苦しそうに動きを止めて鼻で呼吸をしている
が口は離さない。下から俺の顔を見上げて・・・ちょうだい、精液
を喉の奥にちょうだいって目で訴えかけてくる。
これはたまらんなと考えていたら左右から攻撃を喰らう。
﹁しん君、妻は1人だけじゃないよ。うふふふレロン。美味しい﹂
アイリが俺の左手に爆乳を押し当てて左耳に囁きながらベロベロと
394
俺の耳を舐める。左手で俺の金玉を包み込むようにして力を入れな
いように優しく揉んでる。
ミーは無言で俺の右乳首をチュパチュパ吸って左手で俺のアナルを
ツンツンと指先で刺激してくる。
気持ちよすぎだ、最高だな俺。
右手でミーのおっぱいの形が変わりそうなほどグニグニと揉んでい
く。アイリが空いてる右手で自分の股間を俺の左手に押し付けてく
る。
﹁ねぇ、しん君触って。ああ、嬉しいぃあああぁあ﹂
﹁ああぁ、みんな最高だよ。最高のみんなの顔にぶっかけたい!ほ
らみんな座って!。それで顔を寄せて。うん、そう。じゃあイクよ
!口を大きく開けて!出すよ!あああああイク!﹂
3人の顔を並べさせて大量の精液をビュービューとぶっかける。
キレイな顔が俺の精液で汚されていく感じが良いのだが、好き好ん
でやりたいとは思わないけど。
日本にいたときも顔射なんてしたことも興味もなかったが・・・ぶ
っかけられてる嫁たちが嬉しいからもっとちょうだい!顔にかけて
!体にもかけて!ってリクエストされてるので。
味も匂いも最高で意識が消えそうなほど気持ちがいいと言ってた。
俺の精液を全身に浴びて嫁は3人仲良くトリップしてしまった。俺
置いてけぼり。
だけどこんな最高の嫁たちをもっと喜ばせたかったし、俺も3人に
喜ばせて欲しいのでエアーマットを作ることにする。やっぱり、風
呂場にこれは絶対に必要でしょう!︵大嘘︶。
やっぱりここは森林モンキーの尻尾を直径10cmぐらいで長さ1.
5mぐらいの円柱の風船のように中に空気を入れて膨らます。素材
の厚みは0.1mm以下にしてかなり薄くなるように調整した。こ
れは失敗だな。クッションが柔らか過ぎて体重をかけるとフニャン
395
と横にも縦にも広がってしまう。・・・空気圧を変えて調整してみ
るか?。やってみたら2気圧だと逆に硬く感じる。これはベッドの
マットレスになりそうだな。大きさは直径が30cm長さが2m以
上になってしまった。
うん、これはこれで別の使い道があるだろう。
1.6気圧ぐらいがベストだなエアーマットとしては。大きさは直
径20cm長さは1.8mの円柱になった。
それを長さが2.4mにして作り直し10本繋げると長さ2.4m
の正方形のエアーマットが出来た。
さらに直径30cm長さ2.7mの2気圧円柱マットを4本作って
四方を取り囲むようしてくっつける。長さが3mの正方形のエアー
マットになった。安全の為に裏面にゴムマットを貼り付けて完成だ
!。
いずれエアーマットを作って風呂でソープ遊びがしたいと思って空
けておいたスペースにエアーマットを置く。四隅を石材でつくり、
エアーマットが移動しないようにした。
﹁しんちゃん、それになに?﹂
トリップしていた嫁たちはお互いに浴びた精液を舐めあってキレイ
になって、マットでポワンポワンと跳ねて遊ぶ俺を不思議に思い聞
いてくる。
﹁中に空気が入ってる﹃エアーマット﹄だよ。風呂で遊ぶために俺
が今作ったんだ。ほら、みんなも遠慮しないで中に入って!﹂
﹁これはポワンポワンしてますね﹂
﹁ふわふわで、ちょっと怖いですね、アイリさん。﹃ドーン!﹄わ
ぶっ。ちょっとミーさん!﹂
﹁おっと、大丈夫クラリーナ?﹂
ゆっくり入るアイリにビクビクと慎重に入ってくるクラリーナ。ミ
ーはピョンと真ん中に飛んで入ってきた。ミーがお尻を落とした円
396
柱と同じ円柱に足が乗っていたクラリーナは反動でアイリの胸に飛
び込んだ。アイリがクラリーナをしっかりキャッチして巨大な天然
クッションに顔をうずめている。
だけどこれは危険なので叱っておかないと。
﹁ミー、これは飛び込んで入ったら危ないよ。今もアイリが飛んだ
クラリーナをキャッチしてくれたから良かったけど、違う方向に飛
んでいたら大怪我してたかもしれないよ﹂
﹁確かにそうだね。もう飛び込まないことにする。ごめんね、クラ
リーナ﹂
アイリに抱きしめられて動けなくなっていたクラリーナは今度はミ
ーに背中から抱きしめられてうごけなくなってしまった。
﹁ねぇしん君これでどうやって遊ぶの?﹂
俺はアイテムボックスから石鹸を取り出して魔法で泡を作って大量
にマットの上に噴出させた。
目を白黒させている3人にも泡をいっぱいかける。
﹁これはこうやって泡で遊ぶために作ったんだ。エッチな遊びをね。
ほら、アイリもミーもクラリーナにエッチなマッサージしてあげて﹂
﹁え、え?何?私ですか?ウソ!。あひゃ、ああん、ダメぇええ、
みんなで、あぁああぁ、イイィ、すごっ、いいい﹂
クラリーナの体をみんなで触って揉んで撫で回す。俺は魔法のお湯
でクラリーナのおっぱいについてる泡を流して、キレイなピンク色
で硬く小さく尖ってるクラリーナの右の乳首に吸い付く。
もう1つの乳首はアイリが吸い付いてる。
ミーはクラリーナを逃がさないように下から抱え込むようにしてク
ラリーナの両手を掴んで動かないようにしてる。
﹁やだぁー、ダメなのにぃ、でも、気持ち良いのぉがああああ、と
ま、ああん、らなぁいんです。ゆび!いいんです、もっとぉおお、
もっと、ほしいぃいんですぅ﹂
俺の右手をクラリーナのヴァギナに入れて指でクラリーナの気持ち
い部分を擦り付ける。
397
アイリは乳首から離れてクラリーナの足をマッサージ。両手で丁寧
にクラリーナの足を片方ずつマッサージ。クラリーナのヴァギナが
意外と早くほぐれたのでアイリに離れてもらい素早くクラリーナに
挿入する。もう我慢の必要もない。
アイリは俺の横に来て俺のキスしてくる。俺もアイリの舌に舌をか
らめて応戦。キスしてるとアイリの声がいきなりかわったので見て
みるとアイリの乳首を下からクラリーナが吸っていた。
しかしクラリーナの攻撃もここまで。
﹁んぐっ、ああああっ、もう!もうイきます。ダメ、ああああああ
ああ﹂
潮をプシューと噴出してクラリーナが果てた。
クラリーナを少し離して横に寝させる。
アイリとミーの2人はその間に上下逆になってた。アイリを押さえ
込むようにミーが上からキスしてる。
398
今夜もお風呂で乱痴気騒ぎ。嫁が3人だと大変だ!と思ってたけ
ど俺の性欲が・・・負けてない!っす。
俺はミーの後ろに素早く回りこんで、すでにビシャビシャのマンコ
に挿入した。
俺が腰を落としてミーのフトモモの上に乗るような感じでミーの腰
を強引に前後に動かしてガンガンとミーのヴァギナを俺のチンコに
叩きつける。
アイリとミーのシックスナイン中に俺が割り込んだ形になったので、
アイリの目の前にはミーのヴァギナに突き刺さって出入りするチン
コ。
﹁ああ、エッチぃ光景だねぇ。ミーの愛液が私の顔中にかかるし、
しん君のタマタマが、プラプラ・・いただきます﹂
﹁では、私はお尻をいただきます﹂
アイリが下から俺の金タマに吸い付いてくる。
いつのまにか復活していたクラリーナが俺のアナルを舐めてくる。
ミーのヴァギナは相変わらずの締め付けだ。入り口が強烈に閉まっ
てくる。愛液の量も凄い。
アイリは金タマを一つずつ吸って口の中で転がしたり両方吸ったり、
吸う力も強弱があって凄い。
クラリーナは俺のアナルをペロペロと舐めたりチュッチュッと吸い
付いたり、俺のアナルに舌をズボズボ捻じ込んでくる。
こんな激しい3点責めに俺が長時間耐えられるはずもない。しかし
イっても腰の動きは止めずに手でガンガン動かし続けた
﹁すげぇ、3人とも凄いぞ!!イクぞ!あああぅううぅ﹂バンバン
バンバン・・・
﹁しんちゃんダメぇー、もうイってるから、ダメ、出ちゃうから、
ダメーーー﹂
399
ミーもジョバジョバと音をたてて潮を大量発射した。下と後ろにい
るアイリとクラリーナが驚くほどの量だ。顔面にジャバジャバ飛ん
できてるし。
﹁ハァハァ、ほら、アイリが銜えて。そう、あああ﹂
ミーのヴァギナから抜いたチンコをアイリの前に突き出すと、その
まま下から銜えてくる。
アイリの口をマンコのようにしてズボズボ動かした。5・6回ぐら
いのピストンでで今度はアイリの喉の奥にドクドクと発射する。
でも俺のセックスは終わらない。
今度は俺が下になりアイリを俺の上に跨らせる。膝を下につけない
ウンチングスタイル。
﹁アイリ、ほら上から俺にキスしてアイリの涎を俺に流し込んで!﹂
アイリが前かがみになってキスしてくる。舌をからめて喘ぐ。
アイリのヴァギナを俺のチンコで突き上げる。何回かピストンして
下から手を伸ばしてアイリのお尻を肉を左右に掴んで広げ、アイリ
の腰の動きを強引に止める。
﹁ミーとクラリーナ、アイリの後ろから股間をよく見て!俺とセッ
クスして繋がってるところを見て!﹂
ウンチングスタイルで俺の上に跨ってさらにお尻を左右に広げられ
ている。アナルまで全開だ。
﹁うわぁ、凄いことになってるねぇアイリ。気持ちいの?お尻の穴
まで丸見えよ。﹂
﹁す、すっごいです。しん様のオチンチンがズッポリ入ってます。
しん様?アイリさんがもっと欲しいって言ってますよ。しん様のオ
チンチンをズボズボしてくださいってお汁を出してますよ。ゆっく
りズボズボしてるとエロいですね﹂
﹁ダメー、見ちゃ、見ちゃダメなの!イヤ。あああん、下からぁ、
400
突き上げぇええ、られるのがすっごいの!いいのぉおお!﹂
クラリーナもミーもアイリが恥ずかしい言葉で攻めされるのが大好
きだと知っているので遠慮しないで実況アナウンスしてくる。
ミーがアイリのお尻を持って固定してくれたので、俺はアイリの弱
点の乳首を攻めだす。チンコはゆっくりとジューボッジューボッと
動かし続けてる。
両手の指先でアイリの2つの乳首をこねくりまわす。
﹁ああ!すごいです。アイリさんのお尻の穴がヒクヒクしてきまし
た﹂
﹁これはアイリのアナルがさわって欲しくて舐めてほしくてヒクつ
いてるのよ﹂
そういってミーとクラリーナはアイリのアナルをツンツンしたりベ
ロベロ舐めたり交互に攻撃してる。
﹁らぁめぇええ、いいのぉ、もーりゃめなんんん、あはぁーん。イ
イのぉ、あああ!ゆびぃ!あああああでるぅううう、ダメーーー﹂
どちらかがアイリのアナルに指を入れた瞬間に絶叫して下になって
る俺におしっこをジャージャーと音をたてて漏らした。
﹁しん君ゴメンなさい。あひゃん。我慢できなかった。それに今は
腰が抜けて動けないの。重くてゴメンね﹂
クラリーナがアイリのアナルに指を入れてたみたいだな。クラリー
ナが3点セット魔法をかけようと指を抜いた時にビクンと反応して
いた。
大丈夫だよってアイリに言って、アイリを片手で抱えて軽々と立ち
上がる。もちろん繋がったままだ。
アイリを駅弁スタイルで持ち上げたまま、俺の腰を引いてチンコを
抜く。アイリをそのままマットの縁に後頭部を乗せて横にさせた。
アイリの体を洗浄していくがマンコの中はダメって拒否された。
その後もやりまくりだった。
アワアワで遊びまくったりした。俺も全身を3人で撫で回されたり
401
して喘ぎまくった。
作ってよかったなエアーマット。
お風呂を出て寝室に移動する。
るびのが寝眠るベビーベッドは改造した。魔石を四隅にはめ込み魔
力を流すとベビーベッド全体が防音結界になるようにした。
こちらの音は全く聞こえないがるびのの音は外には聞こえる優れも
のだ。
みんなでベッドの上に寝転んで会話していたが・・・そういえばみ
んなに聞きたいことがあったのを思い出した。
﹁そういえば、みんなに聞きたいことがあったんだけど・・・みん
なは﹃旅﹄についてどう思ってる?﹂
402
嫁の3人とこれからの旅の相談をしたっす。
﹁旅?依頼で隣町のゾリオン村や首都のシーパラは行った事があっ
たわね﹂
﹁アイリ、ヨークル川の先にある鉱山の町﹃グレンビーズ﹄にも行
ったよ﹂
﹁そうそう、あの辛気臭い町ね。鉱山って言っても鉄と銅しか出て
ないしね。鉱山での労働者は犯罪者ばかりだし。あれは犯罪者を閉
じ込めておくための牢屋替わりの町よね﹂
﹁私は旅というのは首都シーパラに船で行ったことしかありません。
小さな時のボンヤリとした薄い記憶しかありませんので、ヨークル
以外は行ったことないって感じです﹂
﹁俺はこのイーデスハリスの世界に転生してきて1番始めに思った
ことは﹃見たこともない世界を旅して回りたい﹄だな。俺さぁ、こ
こにくる前にいた世界でも旅が好きだったんだ。俺が作ったゴーレ
ム馬車みたいな﹃車﹄ってヤツに乗って移動できる旅が好きなんだ﹂
﹁それはここに行きたいから旅をする。じゃなくて旅がしたいから
行きたい場所を探してるってこと?﹂
﹁ああ、アイリ。今の俺はそんな感じだな。そもそも俺はこの世界
のどこに何があるのかも知らないしな。今の現時点で目的地もない
よ。この世界に何か目的があって来たんでもないし。俺は旅がした
いんだから場所はどこでもいいよってな感じだ。だからみんなに聞
きたいのは﹃どこか行きたい場所はある?﹄と、3人の意見が聞き
たい!だな﹂
ここで考え込む3人の嫁。
﹁どこそこに行きたい!じゃなくてもいいよ。目的は何でもいい。
403
見たい風景だとか食べたいものでも﹂
﹁では、私は﹃海が見たい﹄ですね。小さい時の記憶しかなくても
海に日が沈んでいく景色を、宿泊した場所から見ていたことはまだ
頭にありますんで。同じ場所からじゃなくてもいいので今見たい景
色は﹃海に沈みゆく夕陽﹄ですね﹂
﹁ほうほう。クラリーナは﹃海の夕陽がみたい﹄だね。私は逆だな。
山小屋から外にでてから見た朝日だね。私の父さんと母さんが亡く
なって帰ってこれなくなって、何ヶ月も塞ぎ込んでた私を見かねた
カタリナ母さんとモルガン父さんが連れて行ってくれた山で、アイ
リと2人で早起きして見た朝日は永遠に忘れないよ。私はあの時に
生まれ変わったんだ﹂
﹁ミーはその話が大好きだよね。あの朝日は私の記憶にもあるよ。
キレイだった。でももうあの場所に行けないんだよね﹂
﹁は?何で?﹂
﹁実はカタリナ母さんもよく知らない場所なんだ。旅慣れてたのは
モルガン父さんだから、全部の準備をモルガン父さんがしてて、カ
タリナ母さんの覚えてるのは﹃途中まで船で行った。到着までに何
日もかかったけど、何日かかったかまで覚えていない﹄ぐらいだも
ん。一緒に連れて行ってくれたはずのカタリナ母さんが、当時3歳
ぐらいの私たちとほとんどかわらない記憶しかないんだもん﹂
﹁そうだよね。私もはじめ聞いたときは我が母ながらに笑っちゃっ
たわよ﹂
﹁船で行く町ってことで、ここから船で行く鉱山の町グレンビーズ
までの護衛依頼をワザワザ受けてまでアイリと見に行ったのに・・・
宿泊所の小屋は物凄くオッサン臭いし、朝日は角度的に見えなかっ
たしで最悪の経験だったよ。私の中の美しい思い出が汚された気分
にさせられる記憶を思い出してしまうから、それ以来オッサンの匂
いも男の匂いもダメになったんだし﹂
﹁今言われてみればそうだね。あの日以来﹃オッサン臭い﹄﹃男の
臭いがする﹄っていつも言ってたもんね。男嫌いになったのかと思
404
って話を聞いたら、好きになった男とセックスできなくて悩んでる
って言われてビックリしたわよ。だけど一緒にセックスs﹁あーア
イリ、いいからその話は﹂あ、ああそうね﹂
アイリの話をあわてて止めるミーが可愛かったので少し微笑んでし
まった。
﹁ミーが山の朝日。クラリーナが海の夕陽。ってことだな。アイリ
は?﹂
﹁んー、私は今のところコレ!ってものがないわね。しん君と一緒
かな。旅してみたら行きたいところが出来るかもしれないから今は
保留で﹂
﹁うん、了解。まぁ今すぐ決めるって話でもないし。アイリだけじ
ゃなくてミーもクラリーナも後に追加してくれてもかまわないよ。
俺たちには永遠って言ってもいいぐらいの時間があるし﹂
﹁わかった。どこか生きたいところが出来たら言うね。でもそうな
ると・・・私の行きたい場所の山って情報が少な過ぎてサッパリわ
からないよね。だからひとまず保留ってことで今回は海にしない?﹂
﹁ミーいいねぇ。私も久しぶりに海に行きたいな。海だと美味しい
食べ物が多いからね﹂
﹁私の行きたいところが目的地でいいんですか?。でも、嬉しいで
す﹂
﹁そうだな俺も久しぶりに魚介系のバーベキューとかしたいし。そ
れなら、まずは首都シーパラに決定しよう!﹂
﹁﹁﹁おおお。パチパチパチ﹂﹂﹂
3人も拍手をして納得してくれたみたいだな。
シーパラまで行けば美味しいものもたくさん集まってきてそうだし
心が躍ってくるな。
﹁でも、そうなると移動は馬車?船?。しん君はどうする?﹂
﹁それについて聞きたいことがあるんだけど、俺の﹃転移魔法﹄を
使えばみんなで、ここの早乙女邸にいつでも好きな時に帰ってこれ
405
てしまう。なんだったら日中は馬車で移動して夜はここに帰ってき
て寝る。ッてことも可能なんだ﹂
﹁物凄く便利なんですけど、そこまでいったら旅の楽しみも半減し
ちゃいそうですね﹂
﹁そうなんだよな。クラリーナの言ってる通り便利なんだけど何か
違うって俺も思ってる﹂
﹁でも、女性にとって旅の大敵は﹃トイレ﹄と﹃風呂﹄と﹃着替え﹄
だからね。今までの旅で散々苦労させられたわよ﹂
﹁そうねぇ。その3つがトラブルの元だった。風呂は我慢できても、
トイレはムリだし。移動の休憩中にトイレに行こうとすると覗きに
来た馬鹿が何人もいて、アイリと2人で何人半殺しにしたことやら﹂
﹁ああ、女性の旅の辛さはトイレにあるって言っても言い過ぎにな
らないぐらいにトラブルが多いって、俺がもらった記憶と知識の中
にもあるよ。だから俺はキャンピングバスの中にトイレを設置した
んだし﹂
﹁なるほどですね。私は旅をしてないので知らない情報でしたね。
馬車の中にトイレがあるって不思議に思っていたのですが、旅で使
うためのトイレだったんですね。なるほど納得です﹂
﹁私も不思議に思ってたよ。町を走るゴーレム馬車になんでトイレ
があるんだろうなって。でも、アイテムボックスに全部入っている
んだからメチャクチャ便利よね。スペースがあればダンジョンでも
つかえるし﹂
ダンジョンでキャンピングバス・・・シュールだな。滑稽の方か?。
じゃあ、明日からはその準備をしようってことでここで寝る。ベッ
ドでのエッチはなし。
406
10日目の朝は天気が良い。先行きもこんな晴れやかだといいん
ですが・・・フラグたったっすか?
翌10日目の朝。
今日は午後から買いだしに行く事にした。キャンピングバスでの旅
で必要なものだけでなく早乙女邸の食の充実のためでもある。
午前中は早乙女邸の地下にあるワインセラーの改造だ。巨大なワイ
ンセラーがあるが、正直ほとんど必要ない。少しは使っているのだ
がここまでの大きさは必要なかったのでデッドスペースになってい
た。
それで思い出したのが寝室で俺があげた槍を振り回していたミーの
姿と、翌朝からの雨を見て庭で槍の練習が出来なくてショボーンと
しているミーの姿をあわせて思い出したのだった。
地下練習場でも作りますかね。
まずはワインセラーを改造していく。階段沿いの1/4もあれば充
分なので細長いL字型の部屋にする。片方の壁には棚を並べて反対
側の壁には樽が入れれるような棚を奥から移動してきた。残った棚
や魔石は素材にする。
ワインセラーはこれで終わり。温度管理用に棚ごとに温度を変えて
設定温度を扉に表示する。
残りのワインセラーの部分だけでは地下練習場にするには狭いので
掘り下げて広げていく。
掘り出した土は重力魔法で固めてから壁や天井を補強していく。ワ
インセラーと地下訓練場では温度設定が違うので、ワインセラーを
壁で囲うのも忘れず行う。深さが10m近く変わるために階段部分
を延長。出入り口がキッチン横にしかなかったのを、ガレージから
も出入りできるように階段と扉を設置した。
407
・・・防空壕みたいになったな。防空壕としても使えるけど。
俺のサポートとして作業してくれていたセバスチャンに嫁全員を呼
んできてもらう。
階段の一番下の壁の部分をさらに掘り進みシャワールームを作り終
わったころにみんなが来た。
﹁しんちゃん、すごいのつくったねのね。これなら私が槍を振り回
したり出来る広さがあるよっと!そりゃ!は!﹂
そういってミーは俺達から離れて本当に槍を振り回し始めた。目標
代わりにオーガ鋼の鎧を丸太につけて設置した。
﹁今から簡単な鎧ゴーレムを作るから練習相手にしていいよ﹂
﹁それなら私たちも練習したいから何体か作って。しん君以外での
クラリーナを入れたフォーメーションの練習にするから﹂
﹁わかりましたアイリさん。ミーさんも一緒にお願いします﹂
﹁はいよー!﹂
三人がシャワールームに行ってフル装備に着換えをしている間に俺
はサクサクとゴーレムを作っていく。
鉄は森林モンキーの巣から回収したのは山ほどあるし。オーガの角
や牙もたくさんある。
オーガ鋼ならユーロンド達と同型でいいな。
森林モンキーの尻尾や魔結晶など、ゴーレム作製に必要なモノをア
イテムボックスからだして、スキル魔法でササッと作り上げる。
鎧型のゴーレムを5体にした。
武器は盾職型を1体。槍も1体。ロングソード型1体。杖1体。ハ
ンマー型1体にした。何の武器を持たせるか悩んだが、わからない
のでこの5体が使用者人口が多そうだと思い選んだ。
魔獣タイプも製造する。
狼型が2体。クマ型2体。オーガ型2体にした。魔獣も実物と同じ
動きをするように設定。
鎧型は俺の知識と経験が入ってるので実力は師匠クラスになってし
408
まった。弱いゴーレムを強く動かせることはできないが、強いんだ
ったら手加減させて後で反省会でも出来るようにすればいい。
フル装備に着替えてきて出てきた嫁が3人ともにアングリしていた。
みんなに俺が今作ったゴーレムの説明する。
﹁まずはこのゴーレムたちは全部、オーガ鋼で作ってミスリルコー
ティングしてある。鎧型は早乙女邸をガードしているユーロンド達
とほぼ同タイプ、戦闘技術だけならって限定的なんだけど。君達み
んなに技術指導できるだけの技と経験が詰まってるから、俺がいな
いチーム同士の戦いだと間違いなく君達よりも強く作ってある﹂
﹁へ?しんちゃんが作ったのは練習用のダミーじゃないの?﹂
﹁ダミーなら動かす必要ないしね。動くんだったら強い相手のほう
が練習には最適だと思う。それに鎧ゴーレムの杖型には全種類の攻
撃初級魔法が使えるようにした。今後の戦いで魔法を使ってくる敵
もでてくると想定できるし﹂
﹁かなり本格的なんですね。もしかして私のためなんですか?﹂
﹁うん。今後のチーム﹃早乙女遊撃隊﹄はクラリーナが実戦でどこ
まで魔法を使いこなせるかによってみんなの攻撃力や防御力が変わ
ってくるからね。クラリーナが実戦で戸惑って動けなくなったりし
ないようにトレーニングしてもらおうと思ってつくった﹂
﹁そうですねぇ、私とミーは10年以上も戦ってきたけどクラリー
ナは戦い始めたところだからね。そうと決まれば練習あるのみ!﹂
午前中をすべて戦いの練習にすることにした嫁3人。
俺は設置タイプのダミーをいくつか作って、魔獣型ゴーレムと戦い
ながらゴーレムの動きを調整しいていく。
嫁たち3人は練習の最後に、魔獣型と模擬戦をして今日の訓練は終
了。
セバスチャンが作ってくれた昼食を食べながら練習での反省会。
409
それで出てきた問題点が﹃クラリーナが魔法を撃つのに慣れていな
いので命中力が低過ぎる﹄。
解決策を考えてると、アイリから提案があった。
﹁こういう時は実戦あるのみよ。今だったらまだ森林モンキーの討
伐依頼が残っていると思うから・・・森林モンキーで練習すればい
いよ﹂
﹁おぉー!、依頼も達成できるしクラリーナのギルドランクも上げ
れるね!アイリ、良い考えだよ﹂
﹁森林モンキー討伐でギルドランク昇格ポイントをDランクに上が
れるぐらいに溜めるにはFランクのクラリーナの場合・・・Eラン
ク相当の依頼だと討伐数半分依頼達成回数も半分で済むから5匹×
5回でEランクになる。Dランクに上がるには10匹×10回で1
00匹。Dになるために必要な森林モンキー討伐数は125匹以上
か?。先にギルドに行って依頼の確認が必要になるけどな﹂
俺がギルドで説明されたことをクラリーナように再計算してみた。
﹁しん君、クラリーナがギルドランクアップに必要なポイントはそ
うなんだけど、EからDに上がるには昇級試験となる依頼を受けな
る必要があるの。私達のときはゾリオン村への荷馬車護衛任務だっ
た。だけど知り合いの話でも昇級試験はみんな護衛任務を受けてる
人がほとんどだから、荷馬車の護衛依頼は昇級試験を兼ねてる事が
ほとんどだし、護衛依頼を選べば昇級試験になると思うよ﹂
﹁そうなんですか。まずは森林モンキー125匹討伐して荷馬車の
護衛任務ですか・・・私の知らない世界の話ばかりで少し戸惑いま
すが、私も早乙女家の嫁として皆さんに負けないようにがんばりま
す﹂
小さくガッツポーズをして気合を入れるクラリーナの姿にみんなで
ホンワカ気分になる。可愛いなぁ。
そうと決まれば午後からは買出しじゃなくて大森林に行って森林モ
ンキー狩りだな。
410
先に冒険者ギルドに行って森林モンキー討伐依頼がまだあるのか確
認しておく必要もあるな。
他に大森林で出来る面白そうな依頼や、素材が集められそうな依頼
も捜してみる。
はぁ、結局俺は冒険者なんだからギルドに何度も行かないといけな
いんだよなぁ。
ちょっと憂鬱になってきたんだけど。ヨークルの冒険者ギルドでろ
くなことがなかったからな。
411
新ギルドマスターとの話し合いっす。
鎧ゴーレムと魔獣ゴーレムは訓練で傷付いていたので、修理して邸
内にそれぞれ配置して停止させておく。敷地内にいるユーロンドた
ちが交戦状態になった時だけ応援に行けるように設定。そこまで高
性能には作ってないし戦闘能力に特化したゴーレムなので訓練の時
と戦闘戦力の補充ぐらいにしか使えない。魔結晶の質が悪いので魔
力も長時間持たない。
今日は大森林に行く予定だから帯剣はしていないが防具は装備して
いつものようにキャンピングバスを使い俺の運転で冒険者ギルドに
向かう。
今日はセバスチャンとマリアも同行する。
また大森林の中では別行動をしてもらって素材集めをしてもらう予
定だったからだ。
るびのは俺の頭の定位置だけど、もうすでにるびのが大きくなりは
じめてる。
はじめは頭に乗ってて後頭部に掴まっていたのだが、今日はもうす
でに俺の肩の上にるびのの後ろ足が乗ってる・・・首の後ろに乗っ
て座ってる・・・これは肩車?状態になってる。
歯もほとんど生えてきてるので今日の昼食は柔らかい爆走鳥の肉を
小さめにちぎって与えている。
まだミルクもがぶ飲みしているが・・・こいつすっげぇ食って飲ん
でるな。
真っ白だった体毛は黒の縞模様が出てきてホワイトタイガーっぽく
なった。
毎回頭に乗せる時は革紐の長さを調整していたが今日は革紐じゃな
くてベルトにした。
412
・・・るびのを頭に乗せての移動も今日で最後かな。明日以降は一
緒に歩いていこう。
キャンピングバスの中にるびの用の席をつくらないとな・・・こん
な考えをしてる間に冒険者ギルドに到着する。馬車置き場にキャン
ピングバスを入れて停車。セバスチャンをキャンピングバスの見張
りとして置いて中に入る。
俺がギルドの中に入っていくと・・・あれ?昨日までの受付の人が
違う。
とまどう俺の前に冒険者ギルドの幹部がきた。
﹁早乙女様、少しだけ時間をいただきたいのですが﹂
﹁え?あー、俺は話すことはもうないんだけど﹂
﹁あ、実は今日から冒険者ギルドヨークル支部のギルドマスターが
新しく就任してきましてご迷惑をおかけした早乙女様に謝罪がした
いと﹂
﹁ああ、そういうことね。じゃあ今から会うよ。俺も忙しいからな
るべく手短にお願いするよ﹂
俺はるびのをマリアに預けて、みんなには依頼書を見ててもらう。
﹁こちらのギルドマスター室でお願いします﹂
・・・そういえばヨークルの冒険者ギルドマスター室は今日が初め
てだな。
﹁君が早乙女真一君か。この度は冒険者ギルドの汚れた部分を押し
付けてしまった。誠に申し訳ない。それと汚れた部分を炙り出して
くれてありがとう﹂
﹁ハイ。わかりました。謝罪と感謝を俺は受け入れますんで、もう
これ以上の謝罪も感謝もいりません・・・えーっと、貴方のお名前
は?﹂
今度のギルドマスターは50代の騎士みたいな風貌をしている。鎧
は着用していないが逞しく鍛え抜かれたゴツイ体格をしている。身
長は175ぐらいだろうが、横幅は俺の倍はありそう。二の腕はク
413
ラリーナのウエストぐらいの太さがありそう。金髪の金色部分が減
った白髪のオールバック。ハゲではない。顔はイケメンではなくゴ
ツク逞しい顔だな。
それで、頭を下げるギルドマスターに話を促すために質問しようと
したら・・・名前がわからなかった。
﹁ああ、早乙女君すまない。まずは名前だな。私の名前は﹃ラザニ
ード・ヴェイケルシュタット﹄だ。ラザニードと呼んでほしい﹂
﹁早乙女真一です。早乙女と呼んでください。それで謝罪と感謝は
了解したのですがラザニードさんからの話とは?﹂
ラザニードさんと握手をするが、やはり俺は日本人だな。よほど親
しい人間以外から苗字で呼ばれたほうがしっくりする。
﹁まぁ、立ち話もなんだしまずは座ってくれ﹂
俺が座ると幹部職員が飲むのはコーヒーか紅茶かを聞かれたのでコ
ーヒーと答えると奥の給湯室からコーヒーを入れてきてくれた。ギ
ルドマスター室に入ってすぐにコーヒーの良い匂いがして気になっ
てたから良かった。
﹁早乙女君と話がしたいって言うより、当事者の君が疑問に思うで
あろうこと・・・結果報告だよ﹂
﹁なるほど。確かにそれは気にはなっていましたね﹂
﹁まずは順番に。君を殴った﹃MAXマッスルパーティー﹄のチー
ムのリーダー以外のメンバーは全員全財産没収でギルド資格の停止
処分になる。ランクは﹃H﹄として固定。他のギルドの資格も停止
となる。Hランクで期間は最短で3ヶ月。この間は決まった仕事し
か請けられない。仕事は用水路の掃除とかだな。仕事をしてポイン
トを溜めないことには期限は永遠に延びていく。早い話﹃牢屋に入
らない強制労働者﹄だな、賃金は最低限しかないし。自分の金は没
収されて1Gもないから仕事しないと生きていけない。養ってくれ
る人間がいればいいけど・・・買い物すらできなくなるからな。し
かも彼らの場合は借金も背負うことになる﹂
﹁へ?借金ですか︸
414
﹁ああ、犯罪に対する罰金だけでなく、君を殴って骨折などの治療
費が彼らには国からの借金ということになる。この治療費がバカみ
たいに高くてな。通常の3倍だ。だから彼らにはそれぞれ100万
G以上の借金になる﹂
﹁ボッタクリですね﹂
﹁当たり前の話ではあるんだけどね。教会側としては犯罪者の治療
なんてしたくないって名目のボッタクリ価格になってるよ。だから
2/3は教会が持っていく。通常の倍の金額で教会が儲けになって
るし。1/3は国だ。これらは利子も含めてあるからな。こうでも
しないと犯罪者の治療なんて好き好んで誰もしない﹂
﹁国は何もしないで1/3ですか?﹂
﹁犯罪者の治療費は後納しかないからな・・・利子だ。教会には倍
の治療費を国が即支払って肩代わりしているから﹂
﹁ああ、それで﹃利子﹄ですか。結構エグイ話ですね﹂
﹁今回の事件の場合は全財産没収の時点で国庫に損はないが、普段
の事件では治療費回収前に死んでる場合が多いし﹂
﹁なるほど、そういうわけなんですね。それで・・・﹂
﹁MAXマッスルパーティーのリーダーなどを含む前ギルドマスタ
ーの親戚116人はもう完全に犯罪者集団だった。犯罪を繰り返し
ていたために全員が全財産没収と犯罪者奴隷の首輪をつけられて若
い女は身売りされる。それ以外は全員鉱山の町に送られる。犯罪の
数によって期限はまちまちだが・・・まぁ出てこれないだろうな。
首輪がある限り逃げることどころか逆らうことすら出来なくなる。
体力のあるやつほどキツイ仕事に回されるし、期限が来るまで最低
限の食事と最低限の睡眠、それ以外は強制労働だ﹂
﹁それって緩やかな死ってことですか?こっちもエグイですね﹂
﹁イヤなら犯罪するなって被害者の怒りが法律の基になっているよ﹂
﹁わかりやすいですね。それで前ギルドマスターはどうなりますか
?﹂
﹁無論、死刑だ。彼女の名前は﹁あ!名前はおっしゃらなくても結
415
構です﹂・・・そうだな。知っても仕方ないな。・・・それで明日
の朝に時計塔の下の広場で執行される。ギロチンの公開処刑に決定
した。立場を利用しての犯罪ばかり。あまりにも悪質過ぎるんで見
せしめと、我ら冒険者ギルド職員への戒めのための公開処刑を国と
冒険者ギルドの話し合いで決定した。死刑はすぐに決まっていたん
だが、ギロチンの公開処刑執行に国から意見が入ってな。その後の
話し合いで決定された。その決定命令書をもって俺がここのギルド
マスターに就任したんだ﹂
﹁そうだったんですね。わかりました﹂
﹁それともう一つ君に御礼を言わないと。昨日君が受付で問題を起
こした職員とここの全ギルド職員に説教をしたコイツ﹃ケンジ・ミ
ールハイト﹄から聞いた。本当にありがとう。緩んでた空気が一変
したとケンジに聞いてるよ﹂
そういって自分の横に座るいつもの幹部職員に指を差す。
﹁今回は前任のギルドマスターの責任とはいえ、ここのヨークル支
部全体がルールに対する認識が甘過ぎる。とケンジからの意見書が
首都シーパラにあるシーパラ連合国ギルド本部に届いていて、俺が
就任早々に動けるようにギルド職員指導員も引き連れてきたからな。
まだ今日は職員を会議室に1人ずつ呼んで面接している最中なんだ。
あまりにも緩んでた人間は再指導になる。受付は緩み過ぎていたん
で今日から再教育に入る﹂
﹁早乙女様には何度も嫌な思いをさせてしまって誠に申し訳ござい
ません。しかし再指導専門教育者のラザニード様がギルドマスター
に就任されたんですから、今後は全くかわってくると思います。早
乙女様、今後ともよろしくお願いします﹂
﹁ラザニードさんって再指導の専門家なんですか?﹂
﹁ああ、俺とゾリオン支部でギルドマスターをしているアクセル・
ビッタートは9年前の冒険者ギルドのクーデターの主要メンバーな
んだ。それで今は2人とも正義感を買われて指導員になってるんだ
よ﹂
416
そうだったんだ。どうりでゾリオン村は職員から警備の人間にいた
るまで教育が行き届いてるんだな。バカ貴族がいたけど。ヨークル
と比べると教育レベルが高いと思っていた。
﹁ゾリオン村は開拓村の失敗と討伐部隊の敗走で、ギルド職員のモ
ラルまでが低下しているとゾリオン氏からの相談された冒険者ギル
ドが、再教育のためにアクセルを派遣しているんだよ﹂
﹁どうりで。ゾリオン村のレベルの高さが理解できました。ビッタ
ート卿も教育者だったんですね﹂
﹁あいつは女性職員の指導・教育は俺以上だよ。ゾリオン村は女性
職員しかいなかったんでアクセルが選ばれてる。それでアクセルの
ゾリオン村ギルド職員の再教育も終わったと終了報告があってあい
つは来月は本部に戻ることが決定している。一昨日の終了報告を俺
も聞いていてな君の事は少し聞いている﹂
﹁そうなっちゃいますよね。盗賊退治とかクマ退治とか色々やっち
ゃってますからね﹂
﹁まぁ、悲観しないでくれ。そこでのギルド本部の会議の決定事項
がもう一つあって、それも君に関係があるから聞いて欲しい﹂
417
またも大金もらっちゃったっす。
﹁冒険者ギルド本部の会議で決定されたことで俺に関係することが
あるんですか?﹂
﹁謝罪とお詫びの方で。一昨日の早朝の会議で早乙女君の冒険者ギ
ルドへの貢献度と謝罪の意味も含めて4億Gが冒険者ギルドから君
へ支払われることに決定した﹂
﹁はぁ?なんで?4億Gも?﹂
﹁簡単な話にすると早乙女君が前ギルドマスターと会議室での会話
中に賭けをしたとケンジの報告書にもあったんだが・・・あってる
よな?﹂
﹁ああ、あれですか。あれは売り言葉に買い言葉でしょ?﹂
﹁それはそうなんだが、君は賭けに勝ったんだから迷惑をかけ続け
たギルドが早乙女君へ支払おうってことが決定したんだ﹂
﹁・・・良いんですか?そんなんで?﹂
﹁ああ、間違いなく君のおかげで冒険者ギルドは前進することにな
るよ。ギルドマスターの権限が今まで意外と強かったおかげで地方
で好き勝手にやっていたバカな連中が、今回の事件ですべて明るみ
になって、これから徹底的に絞り上げられるだろうからな。もうす
でに4つほどの町や村のギルドマスターは拘束されている。指導員
も向かっている最中だよ。それのお礼も含んであるんだから今回は
できれば受け取って欲しい﹂
ここで受け取る受け取らないは時間の無駄と判断して素直に受け取
ることにする。
﹁わかりました。受け取らさせていただきます﹂
﹁話が早くて助かるよ。・・・そういえは今日は忙しいって話だっ
たな。ではさっそく入金手続きに入るが・・・入金はどっちにする
?﹂
418
そういえば早乙女遊撃隊というチームを結成するって時にアイリと
ミーから言われてたな。
﹁今回は金額が多いんで全額をチームの方にお願いします﹂
﹁ではギルドカードをこちらの魔水晶に当ててくれ﹂
今回の入金はチームに入るのでいつものステータスカードではなく、
冒険者ギルドカードをアイテムボックスから取り出して魔水晶に当
てるとピピって音がして入金された。
ギルドカードにチーム早乙女遊撃隊所持金が表示できるようになっ
た。表示される金額を確認して金額表示を消しておく。
﹁確認できたかな?。これで君のチームの人間・・・いや違うな。
君はゴーレムも所持してるという話だな。これでチームのゴーレム
も使えるようになったはずだよ﹂
﹁え?ゴーレムも買い物できるんですか?﹂
﹁早乙女君は知らなかったのか。ゴーレムの持つネームプレートも
このギルドカードと同じだから、チームに所属したゴーレムはネー
ムプレートを使って買い物が可能だよ。だからネームプレートの盗
難には気をつけた方がいいよ﹂
﹁わかりました気をつけます﹂
﹁ギルドからの君への報告は以上だ。時間を取らせてしまい申し訳
ない。ついでだから何か言いたいことや聞きたいことってあるかな
?﹂
﹁それじゃあ、ケンジさんに。職員への説教は裏でやってほしいで
すね。冒険者の前でやられるのはちょっと・・・不愉快な気分にな
りますんで﹂
﹁それは気がつかなくてすみませんでした﹂
﹁俺も承知した。今後の教育するさいの指導要綱に入れておくよ。
貴重な意見をありがとう﹂
﹁俺の言いたいことは今のところそれだけです。聞きたいことは今
はありません﹂
最後にラザニードさんとケンジさんの2人と握手をして終了した。
419
ギルドマスター室を出て、みんなのところに足早に行く。みんなが
心配していたが、ざっと簡単に説明すると納得してくれた。ギルド
カードをみんなが更新して入金額に驚いていた。マリアからるびの
を受け取ると、見張りをマリアとセバスチャンに交代してもらいセ
バスチャンのネームプレートも更新しておく。
みんなで更新しまくっていたらすでにチームのお金として入ってい
るので更新をいちいちしなくても大丈夫ですとギルド職員がこっそ
り教えてくれた。
嫁達に森林モンキーの依頼があったか聞いたら、まだまだ森林モン
キーの数が多くてしばらく討伐依頼は続くってさ。
それでチーム早乙女遊撃隊に指名依頼が入ってるから、俺の意見が
聞きたいとミーに言われたのでギルド職員に詳しい話を聞きに行く。
﹁では最初から話をさせていただきます。まずは今回の指名依頼相
手はゾリオン・シーズ・ガルディアです。依頼内容は開拓村への村
民の先発隊の護衛依頼と、それにともなう物資の輸送依頼だです﹂
﹁報酬は?俺こういう相場も知らないんだけど・・・﹂
﹁依頼達成報酬金額は要相談となっております。一度ガルディア商
会のヨークル支部にて話がしたいと
いうことなのでそちらで対応をお願いしますが、こういう指名依頼
に早乙女さんは慣れておられない様なので参考までですが、こうい
う指名の護衛依頼の場合は1人1日100万から500万Gが相場
になっております。あまりに安い金額や高額な金額で契約してしま
うと混乱とトラブルの元になりますので気をつけてください﹂
﹁なるほど勉強になります。金額はみんなで話し合って決めさせて
もらいます﹂
﹁アイリさんやミネルバさんは護衛依頼の経験も豊富なのでガルデ
ィア商会での話に参加された方が良いと私は思います﹂
﹁わかりました﹂
420
﹁仕事の内容ですがヨークルからゾリオン村に、ゾリオン村から開
拓村への荷馬車での移動ですね。開拓村の警備隊はすでに先発して
ゾリオン村に今日出発したと聞いております。それでゾリオンにい
る開拓村から逃れてきた人たちと、今回の募集で集まった村民の移
動の護衛依頼ですね。その移動時の物資の輸送も頼みたいって依頼
になってます﹂
﹁うーん、ランク的には大丈夫なのかな?﹂
﹁私もそれが心配。クラリーナはまだFランクだし。クラリーナが
参加した場合って昇級試験依頼になるの﹂
今まで黙って話を聞いていたアイリが疑問をぶつけてきた。
﹁ヨークルからゾリオン村へはDランク相当。ゾリオン村から開拓
村へはCランク相当となっております。クラリーナさんが参加され
ますとのCランクまでの昇級試験も兼ねることが出来ます﹂
クラリーナがCランクになる為に必要な森林モンキー討伐数は・・・
525匹か?・・・今夜中にいっとくか。どうせ森林モンキーは活
動時間は夕方以降だし、今からガルディア商会に行って話を聞いて
きますかね。
今からガルディア商会にみんなで行くと言うと契約にはギルド職員
も同行して、その場で契約書を発行してくれるらしい。
どうせここから近いしってことで、みんなで歩いていく。
これは美味しい依頼かも。あそこの魔獣は俺の部下だし。いるとし
たら盗賊の生き残りぐらいだろ。
421
ゾリオンとの話し合い・・・それは流石に予想してなかったっす
。︵前書き︶
6・19修正しました。
7・21修正しました。
422
ゾリオンとの話し合い・・・それは流石に予想してなかったっす
。
到着するとゾリオン本人が出迎えてくれた。
応接室で話し合いの開始。まずは俺の嫁から紹介しないとな。
﹁早乙女君久しぶりだな。わざわざ店まで呼んですまない。この男
は俺の執事をしている﹃ウィンダムス﹄だ。以後よろしく頼む。そ
れでそちらのお嬢さん方は・・・﹂
﹁ゾリオンさんお久しぶりです。まずは俺も冒険者のチーム﹃早乙
女遊撃隊﹄を作りましたので紹介します。まずこちらが﹃アイリ・
早乙女﹄俺の妻です。アイリはCランクの冒険者です。そしてこち
らが﹃ミネルバ・早乙女﹄彼女も俺の妻で冒険者ギルドランクもC
です。最後にこちらも俺の妻の﹃クラリーナ・早乙女﹄彼女はまだ
冒険者ランクはFですが、まだなりたてですので。ついでにこっち
のクマは﹃セバスチャン﹄。俺の執事ゴーレムです。こっちのクマ
は﹃マリア﹄メイドゴーレムです。2体は俺の自作です。ゴーレム
まで全員がチーム﹃早乙女遊撃隊﹄です。・・・ああ、頭の上にい
る魔獣はるびのです。彼もチームのメンバーです﹂
俺が1人ずつ紹介していって嫁たちがお辞儀をするとゾリオンとウ
ィンダムスもお辞儀を返しているが・・・絶句しているみたいだっ
た。
そりゃそうか。俺が1人で来ると思ってたのにぞろぞろと嫁を連れ
てきてるしゴーレムまでいるし。
﹁すみません。ゾリオンさんからの依頼内容ではチームでの参加も
可能だったはずですが?﹂
﹁・・・ああ、すまない早乙女君。君がチームを作ったとは聞いて
423
いたんだがな。チームでの参加も大歓迎だ。それでは依頼内容はギ
ルドで聞いてきたってことで話を進めたいのだが﹂
﹁ええ、簡単には聞いてます。話を続けてください﹂
﹁まずはこのヨークルからの移動になるが君達を乗せるための荷馬
車の分の荷物をキミのアイテムボックスで運んでもらいたい﹂
﹁俺たちは荷馬車がなくても大丈夫です。馬車も持ってますから。
あと運ぶのは荷馬車1台分でいいんですか?。妻たちは結婚の祝福
をアマテラス様からいただきまして、みんな俺と一緒のアイテムボ
ックスの中です。クラリーナに至っては大のサイズをいただいてま
すんで2・30台分は運べますよ﹂
結婚したことで神様から祝福がたまに貰えたりすることがあるのは
今でも常識なはず。
﹁なんだって? ちょ、ちょっと待ってくれ。サイズが予想以上だ
! 少し計算しなおしたい﹂
ゾリオンとウィンダムスさんが事務室の方に走っていった。俺たち
はギルド職員さんとコーヒーをすすりながら暇をつぶす。
﹁なんかすっごい慌ててたね。クックック、ちょっと笑っちゃった﹂
ミーが失礼なことを言って笑ってるが仕方がないだろうな。アイテ
ムボックスの中というのは最大で10m×10m×10mの100
0㎥の物資を運ぶことが出来る。重さはまったく関係ない。
クラリーナに至っては大のサイズだから20m×20m×20mの
8000㎥だ。
俺は本当は無限だがステータスカードで書いてあるのが中なので中
といってる。
アイリ・ミー・俺・クラリーナで最大11000㎥もの物資が運べ
てしまう。
荷馬車は最大サイズでも高さ3m幅も3m長さは6mだから54㎥。
単純計算で200台以上もの物資が俺たちだと馬車1台で1回で運
べる。
424
これがアイテムボックス持ちが優遇される理由だし、ひとたび戦争
になると敵からも味方からも誘拐されたり暗殺対象となる。
ゾリオンたちが帰ってくるまではかなりの時間がかかった。1時間
半以上は待たされた。
マリアが2回も紅茶を入れてくれた。あまりに美味しく入れた紅茶
だったのか、ギルド職員が紅茶の入れ方をマリアに真剣に教わって
て少し和んだ。
クマに紅茶の入れ方を学ぶ40代女性ってのはシュール過ぎる。
﹁とうちゃん、そろそろ晩ご飯だよ。腹へって来たよー﹂
おお、成長したな我が息子よ。会話に漢字が入ってるぞ。
﹁るびのの言うように、そろそろ私もおなかが空いてきましたね﹂
クラリーナもるびのに賛成してるし、ここでなんか食おうかなって
みんなで話していたらゾリオンが部屋に戻ってきた。
﹁お待たせして申し訳ない。今、会議室の方に食事を取り寄せるこ
とにしたんでお詫び代わりに皆で召し上がっていただきたい。ギル
ド職員さん分もありますから遠慮なさらずに。ギルドには食事もし
ていくって、今さっき人を走らせて連絡させていただきました﹂
﹁ありがとうございます。では、皆さんいただきに参りましょう﹂
ギルド職員さんの嬉しそうな声でみんなが立ち上がって動き出す。
ゾリオンさんが立ち上がる俺に聞いてきた。
﹁早乙女君、申し訳ないがるびの君の食事が何がいいのかわからな
くて相談したいんだが﹂
﹁るびのの分は俺が持ってるんで大丈夫です。何もいりませんよ﹂
﹁早乙女君、本当にすまないな。職人ギルドとの調整でもう少し時
間が欲しい。食事が終わるころには計算も調整のための話し合いも
終わる予定だからゆったり食事でもしててくれ﹂
﹁わかりました﹂
425
会議室に行ってビックリした。
食事を取り寄せたって聞いてたので美味しい弁当だと思っていたが・
・・やるなゾリオン、職人ごと持ってきやがった。流石にこれは意
表を突かれたな。
目の前で並んでるネタを目の前で天ぷらにして揚げてくれる・・・
超VIP待遇だった。
これには流石に今まで美味しいものが食べられると思っていて、少
しだけはしゃいでいただろうギルド職員さんまで絶句してた。
野菜・キノコ・肉・魚介などの山盛りのネタをみんなで食いまくっ
た。
るびのは俺の席の隣の席におすわりで座ってマリアが世話してくれ
てる。
マリアがちぎった肉をおいしそうに食べてて・・・なんで1回の食
事で肉1kgとミルク5ℓをがぶ飲みしてるんだ?成長するのが早
いはずだな。
俺たちが食べてる天ぷらには興味も示さなかったので助かった。欲
しいって言われても流石に天ぷらはまだ無理だしな。
食事が済んでみんなでお茶をすすってると、ゾリオンが会議室に入
ってきた。ウィンダムスさんともう1人、知らない人間も入ってき
た。・・・いや、正確には人族でない。ドワーフだ。
426
ゾリオンからの指名依頼の話っす。
ドワーフが部屋に入ってきてすぐに話を始める。
﹁私は職人ギルド、ヨークル支部のギルドマスターをしている﹃ア
ルベスタ・キグナス﹄です。ドワーフですのでキグナスが名前のほ
うです。キグナスと呼んでください﹂
そう言って俺たち全員に自分のステータスカードを1人ずつに見せ
てくれた。
﹁では、さっそくですまないが本題に入らせてもらう。君達のステ
ータスカードを自己紹介代わりに見せて欲しい。それでチーム﹃早
乙女遊撃隊﹄の皆さんには自分の名前とチーム名、それで祝福のア
イテムボックスが本当にあるのかを表示して見せていただきたい。
冒険者ギルドの職員さんは職業を表示してください﹂
ああ、なるほど確認ですか。俺たちがステータスカードを出してキ
グナスさんに1人ずつ見せて確認していく。
﹁間違いなく全員分のステータスカードの確認させていただきまし
た。ご協力ありがとうございます。それで日程のほうは・・・﹂
﹁キグナスさん、それはまだ俺たちは聞いてないんですが﹂
﹁早乙女君、キグナスさん、申し訳ないがこれから説明させて欲し
い。早乙女君にお願いしたい日程がこれで決まった。明日・明後日
は準備をさせてもらいたいので、3日後の朝7時からの4日間の契
約をさせていただきたい﹂
﹁4日間もですか?﹂
﹁ヨークルからゾリオンへの移動で1日。ゾリオンから開拓村で1
日。開拓村からゾリオンで1日。再びゾリオンから開拓村へ1日の
計4日間でお願いしたい。運ぶ物資の量はここヨークルから開拓村
まで2m×2m×2mの大きさの箱を1人125個の計500個の
427
量をお願いしたい﹂
﹁運ぶ荷物って箱なんですか?﹂
﹁木箱に入ってる石材や金属が主な荷物だ。木箱に使用する木材も
運んで欲しい材料なんだ﹂
﹁わかりました。どうぞ話を続けてください﹂
﹁ああ、そして再びゾリオンに戻ってきてもらいゾリオンから開拓
村に同じ量の物資を運んで欲しい。次も木箱で石材と金属が主な荷
物となる﹂
﹁護衛の依頼ってどうなるんですか?﹂
ミーが疑問をゾリオンにぶつけてきた。そうなんだよ。俺たちチー
ム﹃早乙女遊撃隊﹄の今回の目的は、クラリーナの冒険者ギルドラ
ンクを上げるために受ける依頼なんだからな。金の問題でない。
﹁それはもう一つの依頼という形になる。護衛対象はヨークルから
石材と木材の金属加工の職人が合計100人移動となるので開拓村
まで護衛してもらいたい。護衛とはいえ早乙女君たちは自分の馬車
で移動できるので、移動の際は最後尾を走ってもらいたい。荷馬車
で1台10人と護衛が2人これが10台の移動だ。君たち以外の護
衛も先ほど連絡が取れて全員参加可能との返事を貰った﹂
﹁他の護衛って会ったこともないんですけど﹂
﹁ああ、3日後の当日の朝にみんなで顔合わせをしていただく。早
乙女君たち以外の護衛は全員が元国軍の人で、彼らは開拓村の防衛
軍としてそのまま雇われることになる。身元はハッキリしているし、
真偽官を入れた面接を全員としているので犯罪を犯しそうなヤツは
いないと断言できるので、奥様方もご安心していただきたい。そし
てゾリオンから2回目の開拓村への便には、今はゾリオンに避難し
ているが前に開拓村にいた職人系の住民の家族が合計100人の移
動だ。これにもゾリオンから護衛が荷馬車に同行するのでまた後ろ
から馬車で護衛していただきたい﹂
﹁それで今回の依頼の報酬はどうなりますか?﹂
﹁こちらでも計算して確認はしているがギルド職員の方にも確認し
428
て欲しい。まずは輸送と護衛の2つの依頼で1人1日500万G×
2で1000万G。チーム4人で4000万G。それを4日で1億
6000万Gとなる。依頼成功のボーナスとして一人1000万G。
全部合計で2億Gでいかがですか?﹂
俺はこの金額が妥当の範囲かわからなかったのでギルド職員さんの
顔を見る。嫁たちもゾリオンさんたちもみんなでギルド職員さんの
顔を見る。全員にいきなり注目されて少し顔を赤らめたギルド職員
さんが大きな声で答えた。
﹁金額はかなり多いですが運ぶ物資の量と拘束される時間を考える
と妥当な範囲に入っていると冒険者ギルド側は判断します。それで
早乙女さんはどうなさいますか?﹂
﹁すみません、チームで確認の話がしたいので少し時間をいただけ
ますか?﹂
そういって俺は嫁たちを連れて一度会議室をでる。
﹁しん君どうするの?。私は賛成したい。これは仕事としては美味
しい仕事の部類だと思う﹂
﹁アイリの言ってることは私もわかるよ。私も依頼を受けるべきだ
と思う。クラリーナの昇格試験がこれなら簡単だよ。移動も自分達
の馬車が使えるし、他の護衛の身元もしっかりしてるから中でのト
ラブルはほとんどないと思う﹂
﹁私は冒険者になり立てで仕事もまだ理解できていませんが。しん
様の意見に従います﹂
﹁ああ、俺もこの依頼は美味しいと始めから思ってるよ。以前るび
のを紹介した時に話したと思うけど、俺は銀大熊・グリーンウルフ・
炎虎の魔獣と会話したことがあるって言ったけど覚えてる?﹂
﹁﹁﹁覚えてる﹂﹂﹂
﹁それを簡単に説明すると・・・今回の目的地の開拓村が廃村にな
った理由の1つで銀大熊の﹃シルバード8世﹄というのが開拓村周
辺の魔獣の暴君の大ボスとして君臨していてね。俺がこの世界に転
生してきた場所の大岩で俺が襲われたんで退治したのがきっかけな
429
んだ﹂
﹁﹁﹁魔獣に名前があるんですか?﹂﹂﹂
﹁ああ、あるんだよ。俺もはじめは凄く驚いたよ。それで次の日に
その大岩に行ったらグリーンウルフのリーダーの﹃ガウリスク﹄か
ら昨日から貴方がここのボスになりましたって慕われてね。それか
らグリーンウルフの本拠地がある丘の洞窟に仮住まいさせてもらっ
たりと仲良くさせてもらってるんだ﹂
﹁﹁﹁・・・﹂﹂﹂
﹁それで次はクマの大ボスが死んだことによって北の草原でボス争
いが起こってね。それを勝ち抜いてきた﹃アキューブ16世﹄って
いう銀大熊が50頭以上の銀大熊を引き連れて縄張りを広げるため
に攻撃を仕掛けてきた。それに抵抗してグリーンウルフの軍団とウ
ルフと仲がいい炎虎の軍団が合同して銀大熊軍団とのあいだで戦争
になったんだ﹂
﹁﹁﹁・・・﹂﹂﹂流石に真剣に話を聞いてくれてるみたいだな。
﹁俺が石材を取りに行った時に、グリーンウルフにお願いされて戦
争に介入して戦争を力ずくでやめさせたんだ。その時に銀大熊と炎
虎も俺の傘下に入って、俺が大草原の魔獣の大ボスに就任すること
になった。せっかく大ボスになったから、もう人族は狙わないよう
に命令し、追いかけられても逃げるように言ってある。それでも追
っかけてくるようだったら退治して食べちゃっても良いよって許可
もしてある﹂
﹁じゃあ、大草原で魔獣に襲われることがこれからもうなくなるん
じゃないですか?﹂
﹁ああ、クラリーナが今言ったように大草原で﹃魔獣から襲われる
こと﹄は今後はなくなるよ。だから今回の護衛任務でも襲われる可
能性があるのは盗賊だけだ。しかも廃村になった開拓村を本拠地に
していた盗賊集団﹃草原の暴風﹄は俺が148名を退治したんでほ
ぼ全滅している。これを考えると俺たちは自分の馬車に乗って移動
するだけで大金とクラリーナのギルドランク昇格試験がセットでも
430
らえる美味しい仕事だと思う。だから俺はこの依頼を受けようと考
えてるが、みんなは賛成してくれる?﹂
﹁私はしん様の意見に従います。賛成です﹂
﹁私ももちろん賛成よ。もともと美味しいと思ってたからね。アイ
リは?﹂
﹁私も賛成。思ってる以上に美味しい仕事だったみたいね﹂
﹁よし!。じゃあ、この依頼を受けて今夜はこれから森林モンキー
狩りだな。目標はクラリーナが525匹以上狩ることだ﹂
会議室に入り依頼を受けると伝えると依頼書の作成に入る。ギルド
職員が作成した依頼書3枚を全員で確認して全員でサインして俺が
1枚ゾリオンが1枚冒険者ギルドの1枚をそれぞれ持って今日は解
散。
俺たちは夜の暗くなった大森林に行く。
431
森林モンキーのレクイエムっす。︵前書き︶
6・19修正しました︵2回目︶。
6・20修正しました。
432
森林モンキーのレクイエムっす。
大森林に入りセバスチャンとマリアにそれぞれ単独行動させて大森
林の探索を命じた。
俺は時間を稼ぐために気配探査と魔力探査の網を大きく広げる。
﹁アイリ、ミー、森林モンキーのトドメはクラリーナがするんだか
ら殺さないように。クラリーナが慣れるまではできるだけ致命傷で
動けなくなるレベルで。森林モンキー以外は狩ってくれていい。俺
もそうする﹂
﹁﹁わかったわ﹂﹂
﹁クラリーナは落ち着いてくれ。魔法は﹃ここにこう当てる﹄って
脳内のイメージが1番大事なことだ。慣れないうちは外れても気に
するな。どんどん打ち込めば良い。魔力が切れそうになったら俺が
補充するから辛くなったら言ってくれ。絶対に我慢するなよ?﹂
﹁わかりました﹂
﹁よし。ではこっちだ。森林モンキーらしき群れが20匹ほどの反
応がある﹂
今までは大森林のダンジョン﹃アゼット﹄までの街道で話していた
が森林に足を踏み入れる。ライトの魔法を前後左右に4つ放って足
元と魔獣を誘う。誘蛾灯みたいなものだな。
フォーメーションは俺が先頭で遊撃する。アイリはクラリーナの横
に立ち壁になる。ミーも最後尾で遊撃するスタイルにした。俺とミ
ーはスピードと手数で勝負するタイプだしな。
3分ほど歩くと・・・。
﹁来た!。こっちだ20mほどだ。みんなも魔力と気配を探る練習
をしておいてくれ﹂
﹁はい。あ!何かきた!わかる!はやい﹂
クラリーナが感じたようだな。俺もカタナを抜いて迎撃体制に入っ
433
た。
﹁こっちにこい!このサルやろー!﹂
アイリも感じたようだな。クラリーナの前に出て、挑発を連発して
森林モンキーを自分に誘導する。
俺が群れの右斜め後ろに回りこんで逆に群れを追い立てる。
最初にカタナで足を切ったら死んでしまったので、カタナは納刀し
た。これはいかん、手加減が難し過ぎる。
それからは素手で相手の攻撃をいなしてたまに軽くパンチを入れて
手加減の調整をしていく。
群れの左斜め後ろかに回り込んだミーも同じように調節を失敗して
3匹ほど殺してしまった。それからは槍を短槍に持ちかえて石突で
相手をさばいていた。
アイリも同じだった。盾をトンファーのようにして敵の攻撃をいな
して反対の盾で殴ったら死んでしまったのだ。それからは防御オン
リーで相手に挑発を入れて攻撃をいなすの繰り返しだった。
俺はクラリーナに風魔法の﹃空弾﹄の指導をしながら森林モンキー
の攻撃を素手で裁く。
﹁ちがう、クラリーナもっと空気の弾を圧縮して半分以上に小さく﹂
﹁そう!それぐらいだ。今度はその弾丸を螺旋回転運動をさせて目
標に捻り込め!﹂
﹁よしそれでいい。今度は目標を正確に貫くイメージで!森林モン
キーの眉間を狙え!うん。そうだ!﹂
と、クラリーナに空弾の指導をしてガンガン撃たせる。
10匹ほどクラリーナが殺したところで森林モンキー5匹は逃げ出
した。
﹁いやー、ゴメンゴメン。1匹殺しちゃったよ。まさか足を切り落
としたら死ぬとは﹂
﹁しんちゃん、私も一緒だよ。まさか槍の一突きで死ぬとは。3匹
も殺しちゃった。まだこのサイラスの槍の手加減ができないよ﹂
434
﹁私もオーガナイト鋼の盾が威力があり過ぎて死んじゃうから手加
減できないわ。攻撃するのはやめておくね﹂
﹁皆さんありがとうございます。おかげで私も10匹ほど倒せまし
た。でも・・・森林モンキーが逃げちゃったんですけど、逃がして
しまって良かったんですか?﹂
﹁ああ、大丈夫よ。あいつらは仲間を捜してまた襲い掛かってくる
から。今度はこの森林モンキーの血の臭いをかいで次から次へと魔
獣が集まってくるわよ﹂
﹁アイリ、そう脅さないの。しんちゃん、悪いけど3mほどの昆を
作ってくれない?手加減が厳し過ぎるし、森林の中で振り回すには
長過ぎ﹂
ほいよーと返事をして簡単に作る。ミーの意見を聞きながら調整し
ていく。如意棒みたいだなこれ両端は石突みたいに丸くしたし。
みんなにアイテムボックスからジュースを出して渡す。ん、甘くて
美味しい。
森林モンキーではない反応が俺の探査に引っかかった。
﹁森林モンキーではない反応が来た。こっちの方向だ。森林モンキ
ーの血の臭いに釣られてやってきたな。反応は1匹だけだから俺が
相手をする。アイリとミーはクラリーナの防御。その後すぐに逃げ
た森林モンキーが仲間を連れてやってくる。連戦になるぞ!。森林
モンキーはこっちの方向からだ。全員迎撃開始﹂
﹁﹁﹁はい﹂﹂﹂
俺の掛け声とともに魔獣が暗闇から飛び出してきた。サソリオオク
モだ!。これは美味しい相手だった。俺の鎧の原材料だからな。こ
れで壊れても簡単に補修が出来る。俺はカタナを抜くと弾丸のよう
にサソリオオクモの真正面に飛び出してサソリオオクモ甲殻の隙間
から脳にカタナを突き入れてえぐる。
別に甲殻ごとでも刺してえぐることは出来るが・・・気分の問題か
435
な。キレイな甲殻も欲しかったし。
反応すらさせずに殺してすぐ魔法で解体してからアイテムボックス
に入れる。
﹁よし。間に合ったな。来たぞ森林モンキーだ。反応は50匹以上
だ。今度も逃げた敵は追わなくていい﹂
俺は森林モンキーの群れの正面へ躍り出て正面から突破して後ろに
回りこむ。
捕まえては投げる。森林モンキーの爪攻撃を交わして腹にパンチ。
噛み付き攻撃をかわして膝に蹴りで膝を砕く。アイリとミーも同じ
ようにさばいていく。2人は防御をメインにして鉄壁の守りだ。2
人の壁の間からクラリーナが魔法で森林モンキーを討伐していく。
今度はクラリーナが魔法での攻撃に慣れてきて短時間で50以上倒
し森林モンキーは3匹ほど逃げ出した。
﹁さて、今度は逃げ出した森林モンキーが本拠の巣に帰っただろう。
逃げたやつが動かなくなるまでに森林モンキーの素材を回収だな﹂
俺は自分達がいる今の場所で散乱する森林モンキーの死体を解体し
て回収する。みんなに冷えたイチゴやメロンを渡して食べて休憩。
森林モンキーの巣にみんなをつれて転移して200匹ほどを狩る。
それをもう2度繰り返して600匹以上を狩った。もちろん巣の中
にある森林モンキーが集めた素材も完全に回収する。クラリーナの
討伐数が530匹を超えたために終了しておく。
以前に大森林で泊まった広場でセバスチャンとマリアの2人と待ち
合わせをして集合してから家に帰ることにする。
るびのは大森林に着く前から俺の上でスヤスヤ寝てる。るびのを起
こさないように体をスムーズに、滑らかに動かせながら敵の攻撃を
すべて見切っての狩りは楽しかった。
436
広場からヨークルの門に程近い場所の道に転移してキャンピングバ
スを取り出し家路につく。
俺もみんなも装備を外してパジャマに着替えた。
熟睡中のるびのはマリアが抱いていてくれてる。
今日はヨークルの外へは門から出て行ったので門から帰ったほうが
いいかな?っていう用心の行動だったりするが・・・いまさら自重
か?って気分にもなる。
ここの門番は馬車の中に入ってきてステータスカードのチェックを
してくるので、ちょっとウザイが安全のためだとあきらめている。
ヨークルの中のほうが悪党多くないか?って気分になるしな。
流石の門番さんもキャンピングバスの中で今日はマットの上に布団
が敷いてあるし、みんなパジャマで寝転んでるし、には驚いていた
けど。
家に到着するころにはみんな熟睡中だった。キャンピングバスの洗
浄をセバスチャンに任せる。
マリアには寝室にるびのを運んでもらう。俺は嫁に3点セット魔法
でキレイにして寝室に1人ずつお姫様抱っこで運んでいく。
みんなを寝室に運び終えてから、居間でセバスチャンとマリアの報
告を受ける。
マリアがホットコーヒーをいれてくれた。
マリアもセバスチャンも両方ともサソリオオクモを退治していた。
セバスチャンは3匹。マリアは1匹。
俺のアイテムボックスに解体して移し替える。
セバスチャンが大森林の中で﹃乾燥したヘチマ﹄を回収してきてく
れた。スポンジ代わりだな。
マリアは小川と池を見つけて中をもぐった結果、何かの遺跡らしき
物を見つけたのだが、まだ詳しくは調べていないと報告してきた。
発見した場所をMAPに入力しておく。池には大きいサーモンがい
437
て10尾ほど捕まえてきてくれてた。さすがマリアだ。
セバスチャンは森林モンキーが大量発生している原因を調べてた訳
ではなかったが、森林モンキーが大好物の木の実が大量になってい
る場所の魔力反応が異常な場所があったので掘って調べたら、大き
な魔結晶を5つと、小さいが純度が高い魔水晶20個ほど掘り出し
てきてくれた。
たぶん地中の魔水晶が相互に干渉しあって魔力が暴走。そして近く
の木や地中に埋まってる魔結晶を大きく成長させてしまったのだろ
う。
原因を取り除いたので森林モンキーの大量発生は時間とともに減少
していくだろう。
大きな魔結晶はシルバードより少し小さいぐらいだったのでこれは
使いやすいな。
魔水晶は魔獣の中から出てくるモノより地中から掘り出されるモノ
の方が多い。
地中の中で魔力の塊が石に反応すると出来る。
時間と手間と魔力を一定量を長時間、必要とするが人工的に作り出
すことも可能だ。
間違って食べてしまった魔獣は魔力が暴走して砕け散る。極まれに
体内に取り込むことに成功した魔獣は強力な魔獣に変身する。
魔水晶そのものは魔力は持たない。
魔水晶は周囲から少量ずつ魔力を集めてきて、それをある一定の方
向に放出する。
その先に植物や魔結晶があると異常な成長を遂げてしまう。
セバスチャンが畑に埋めたいといったので1つ渡した。
1つぐらいならそこまでのパワーはなく、板状に加工すれば魔力の
飛ぶ方向が安定させれるのでコントロールしやすくなる。
438
この魔水晶の特性を利用して加工すれば・・・電話が出来そうだ。
番号はないので、グループ会話が可能なトランシーバーだけどな。
439
嫁と息子にイジメられてホバーボードを作った。自重と常識は置
いておくっす。
さっそく試してみた。魔水晶を細長い棒状にして俺の魔力パターン
と念話のスキルを封入する。
それをマリアとセバスチャンに持たせてマリアは家の外に。俺は大
岩まで転移して使用してみた。あっさり出来た。これでアイテムボ
ックスメールが必要なくなったな。
また早乙女邸の居間に戻って量産する。1つ作るのに魔水晶の大き
さは1/5で充分だった。ゴーレムの全部に内蔵させた。
俺の分は腕輪にした。嫁の分はネックレスタイプにしておく。
これで今夜も終了だ。おやすみなさいって寝る・・・そういえば今
夜はエッチなしかぁ、なんて考えながら。
あけて転生11日目の朝。
朝の天気が良くて庭に出て驚く。明らかに昨日より畑に植えてある
野菜や果物たちが成長してる。
昨日作ったアイテムは﹃念輪﹄って名前に。
ネーミングセンスを俺に求めるな!って宣言したような名前だな。
ネーミングセンスは絶望的でもデザイン気に入ったみたいだな。嫁
3人に渡して使用方法を教える。
慣れないうちは戸惑っていたが、3人とも物覚えが速いな。
すぐに覚えて俺抜きで嫁3人で念輪で会話してる。俺はグループ会
話から外させてしまった。
・・・イジメいくない。
るびのには念輪は付けていない。
子供にこういうのを持たせるとヤバイ気がするっていう立派な理由
440
がある。
俺は腕輪を左手にはめる。時計が着いてるみたいでついつい見てし
まうのが習慣病だろう。
右手だと違和感ありまくりで結局左手にはめるという推移があった。
嫁3人は朝食後はまた地下訓練場に行ってる。訓練場で昨日の実践
の中で気になった部分がいくつかあって師匠ゴーレム達と動きを検
証するんだと。
﹁え?俺は訓練場に行ったらダメなの?﹂
﹁しん君がいたら頼っちゃいそうで訓練にならないからね。だから
訓練は私たちだけの訓練です﹂
﹁だよねー。いまさら、しんちゃんは訓練いらないしねぇ﹂
﹁しん様は神様ですから訓練なんて必要ありません。私たちが少し
でも強くなってしん様に迷惑をかけないためにする訓練ですので﹂
と、追い出されてしまった。ヤバイ俺、ちょっと泣きそう。
モフモフに癒しを求めようとるびののところに行った。
﹁マリアねーさん、こう?﹂
﹁るびの、違いますよ。後の攻撃を繋いでいくためには、ここでは
いったん相手の攻撃をかわして後ろに回りこむんです﹂
るびのと遊ぼうとしたら既にマリアを先生にして魔獣ゴーレムたち
を相手に裏庭で狩りの練習をしていた。るびのは俺がセバスチャン
とマリアを作ったんだから君のにーさんとねーさんだよと教えたら
マリアねーさん。セバスにーさんと呼ぶようになった。
﹁る、るびの。とうちゃんと遊ばないか?﹂
﹁今、狩りの練習で忙しいからまた今度ね﹂
あっさりフラれた。子供はこうやって巣立っていくんだな・・・も
はや涙目になってきた。
セバスチャンは朝食後に買出しに行かせてしまったし・・・そろそ
441
ろ米が補充したかったしな。
午後は冒険者ギルドに行って昨日の森林モンキーをクラリーナに討
伐証明させてランクアップさせないとって仕事があるけど・・・今
が超ヒマ。
何か作るかな・・・こういうときは一切自重せずに趣味全開で何か
を作り上げたい。
そういえばここってファンタジーだよな?。
地球じゃ無理でも、ここなら・・・アレが作れそうな気がする。・・
・アレとは何か?。
有名なハリウッド映画の3部作で車で未来に行ったときにスケボー
持って来たよな?あの、浮くヤツ。
男のロマンが炸裂し始める。
今の俺なら簡単に出来ねぇか?。重力魔法を入れて風魔法で方向を。
そこまで高く上がらなくて良い。2mぐらい浮けばいいな。キック
ボードタイプじゃなくて、板と靴をスノボのように固定式にして。
それだったら足の動きで方向変換も・・・。
作った!やった。さすが﹃神の創り手﹄スキル。これ専用のブーツ
まで作ってるのが俺の狂気だな。
ブーツを履き板の上に乗る。板のジョイント部分にブーツをはめて
乗ってみる。
ブーツを微妙に動かせて浮いてみた。体重移動が失敗してグルンっ
て回転して顔面から落ちた。
でも俺まったく痛くない!そりゃそうだな。元々ステータスおかし
いしな。
さらに今は興奮し過ぎてアドレナリンがドッパドパだ。
﹁アッハッハ、こいつぅ、テコズラセヤガッテ﹂
もはや危ない人だな俺。わかってる。でも楽しくてたまらない。何
度も何度も転がって落ちて引きずられて・・・でもこの天元突破ス
テータスは習得が早い。10分後には自由自在だった。
442
﹁イー・・・ヤッフォー!!俺、飛んでる!飛んでるぜーぃ!﹂
別に飛翔魔法を使えばいつでも飛べるんだけどな。でも、こういう
ときは叫ばずにはいられない。
だって、男の子だもん︵デマ︶。
﹁アハハハハハハ・・・﹂
笑いながら屋敷の裏庭から飛び出す。シーパラ大河の上だ。水の上
でホバリングさせてみるがまったく問題ない。水しぶきが凄いだけ
だ。
最高スピードを試す。バシューと水面近くを飛ぶ飛行機の後ろみた
いな水しぶきを上げながら水上2mほどを加速していく。
﹁おおおー!すっげぇ!魔法バンザーーイ!﹂
周囲の船などからの視線も一切気にしないで飛び回っている時速1
00kmぐらいは出そうだな。
そのまま突っ走り人目が無くなったところで自宅のガレージに転移
した。
最後だけ自重した。流石にそのまま戻ってきたら騒ぎになりそうだ
からな。
あー、楽しかった。久しぶりに脳味噌のタガが外れそうになるほど
笑ってはしゃいだよ。ストレスやらいろんなものが吹っ飛んだな。
常識も。
セバスチャンは買出し中だし、久しぶりに俺が昼ご飯を作ろう。
昨日マリアが獲ってきてくれたサーモンでカルパッチョを作る。こ
れも昨日セバスチャンが採ってきてくれた木の実の中にオリーブが
あったので。
生姜が食材にあったのでメイン料理は豚バラ肉の生姜焼き。
料理をしているとるびなが走って、飛んで俺の後頭部に掴まる。
﹁とうちゃん、何あれ?ビューンって。すっげーっし!川の上をボ
ーって﹂
﹁おー、とうちゃんはすっごいぞー。マリア、アイテムボックスか
443
らスープをだして温めておいてくれ﹂
﹁はい﹂
マリアがテキパキ動いて先回りをして準備していくので料理がはか
どる。
セバスチャンが帰ってきたので片づけを任せて、俺は念輪でみんな
を呼ぶ。
﹁アイリ、ミー、クラリーナ。昼食を作ったぞ。そろそろ食べにお
いで﹂
﹁ハーイってしんちゃんが今日は作ったの?﹂
﹁え?しん様って料理も出来るんですか?﹂
﹁出来るも何もマリアやセバスチャンが持ってるスキルって、もと
もとはしん君のだよ?しん君の料理は・・・すっごいのよ。女とし
ての自信がぁ∼、とかねもう何もかもがぶっ飛んでく美味しさよ﹂
﹁・・・んごきゅ。それは楽しみです﹂
ダイニングテーブルに嫁3人が走ってきた。
﹁ほーら、飢えた魔獣のようにお食べ、子猫ちゃんたち﹂
って誰も俺の変なセリフにツッコミを入れてくれない。マジで飢え
た魔獣のようにガツガツ食べてる。
テーブルの真ん中におかわり用に作っておいた肉が大皿に積まれて
いたのにすぐになくなる。
俺も食べてたのに気付くと嫁3人の目線による無言の﹃お前が何食
っとんねん。はよ次焼けや﹄というプレッシャーに負けて焼き続け
た。
444
嫁と息子にイジメられてホバーボードを作った。自重と常識は置
いておくっす。︵後書き︶
間違いの指摘、大変ありがたいです。皆さんの協力のおかげで良い
作品に仕上がっていけるように今後も頑張ります。
話の設定でおかしな部分がありましたら教えてください。考え直し
ます。
感想とかも受け付けておりますので気軽にお書きください。
以前も書きましたが、壊れやすくて自分に甘い﹁生クリーム﹂メン
タルの作者なので、お手柔らかにお願いします。
445
クラリーナの冒険者ギルドランクがあがったっす。
肉焼き地獄から開放され食後の紅茶を飲んでる。
昨日ゾリオンに夕食をご馳走になったけど﹃天プら﹄だった。ゾリ
オン村でバイドの治療後にご馳走になったのも﹃天ぷら﹄だったな。
ということを考えていたのだった。あのときのほうが今日の嫁より
怖かったな。
・・・現実逃避だな。
嫁たちに﹁またご飯作ってね﹂って頼まれたけど、﹁そのうちな﹂
としか言わなかった。
お願いしてきた時の笑顔が少し怖かった。
怖かったからイヤとは言ってない。というより﹃言えなかった﹄が
正解だな。何かトラウマ出来そうだしな。
午後からはキャンピングバスにみんなを乗せて市街地へ。先にアイ
リとミーを食料品市場に連れて行く。セバスチャンを護衛につけた。
一度ここで襲われているしな。セバスちゃんには念輪を使って個別
で警戒しておくように伝える。
クラリーナ、マリア、るびのを連れて冒険者ギルドに行く。キャン
ピングバスの中でもるびのは自分で立ってキャビンスペースの方に
いる。今日の朝食からるびのはミルクじゃなくて水になった。
もうミルクじゃなくていいと自分から言ってきた。
食べてる肉も森林モンキーの肉をガブガブ食えるようになっている。
もうあきらかに日本で見た柴犬より大きくなってきてるしな。歯も
ほぼ生えそろってきてると思う。森林モンキーの肉の塊2kgを与
えたら、るびのにもおかわりされてビビった。
冒険者ギルドの馬車置き場にキャンピングバスを止めてギルドの中
446
に入っていく。今日はキャンピングバスは俺のアイテムボックスに
入れる。この後は冒険者ギルドから歩いて食料品市場に行く予定だ
からな。
アイリとミーはワインセラーの存在を昨日知って今日は酒を買い捲
るそうだ。
俺も冒険者ギルドと食料品市場までの間にある酒屋で酒を買ってい
くつもりだ。
ギルドでの手続きは時間がかかる。
量が尋常じゃないし。俺も通った道だしな。今日は初めから量が多
いといってあるので、最初から会議室で話をすることになった。
今回の森林モンキー討伐はFランクからEランクに上がるための討
伐数が5匹を5回達成で計25匹。
EからDへは10匹を10回達成で計100匹。DからCへは20
匹を20回達成なので計400匹。トータル525匹分の討伐達成
証明で左右の牙だから1050本の牙をまずはじめにギルド職員に
クラリーナが渡す。森林モンキーの死体は魔法で解体してあるので
牙はアイテムボックスから取り出すだけなので簡単。ギルド職員は
1本ずつ確認しないといけないので大変だが鑑定スキルを持つ複数
のギルド職員が手分けしての流れ作業をしている。
鑑定している間に俺たちは金の話を進めておく。
森林モンキーの討伐依頼の達成賞金はFランク時で1匹5万G×2
5匹で計125万G。Eランクの時は1匹3万G×100匹で合計
300万G。Dランク時は1匹1万G×400匹の合計400万G。
﹁本来なら試験を受けていないクラリーナはEランクのままの賞金
になるはずじゃないの?﹂
と、当然の疑問をぶつけてみた。
﹁そのままだといつまでも昇格しない人が増えてしまう為の措置で
す。ランクは変わりませんが、依頼達成ポイントと依頼成功ポイン
447
トでランクは変わらなくても取り扱いが変わってしまうんです。で
すので、お金を溜めたい方はダンジョンで稼いでますね﹂
と説明してくれた。そりゃそうだな。いつまでもEにいたほうが簡
単に稼げるし、ギルドが冒険者に支払う金額が変わってくる事だか
らな。
素材の買取は300匹分にする。今回は尻尾も300匹分売ること
にした。森林モンキーの尻尾もそんなにいっぱいいらないしな
森林モンキーの素材買取は1匹分で前回は1万Gだったが今回は尻
尾も入れたので6万G×300匹で1800万Gだが、今回も素材
の状態が凄くよかったので100万Gを上乗せしてくれたので合計
1900万G。
賞金と素材買取金額の全合計が125万G+300万G+400万
G+1900万G=2725万Gになった。
これをクラリーナの個人資産の方のステータスカードの方に入金さ
せた。アイリもミーも個人資産は1000万G以上あるって聞いて
るし、チームの資産は4億ある。俺の個人資産は1億ほどは残って
るのでこれ以上いらないし。クラリーナだけがお金をほとんど持っ
ていない状態だった。
万が一のためにと言っていたのだが、なかなかクラリーナが納得し
てくれなかったのでアイリとミーにも話をして説得してもらった。
クラリーナに納得してもらう方が時間がかかった気がする。
普段使うのはチームの資産で買い物すればいいから、これは非常事
態のときまでとっておいてほしいともお願いした。
これでクラリーナの冒険者ギルドランクがEになった。護衛依頼で
ヨークルからゾリオン村まででDランクに。開拓村まで行けばクラ
リーナもCまで昇格してみんな一緒のCランクになれる。
明後日からの依頼はもう契約してあるし冒険者ギルドにはもう用が
ないのでギルドを出て食料品市場までの道を歩く。
448
るびのはあっちこっちと走り回っているがマリアがついているので
他人に迷惑をかけないように見張ってくれてる。
歩いている時に﹃うなぎ屋﹄を発見した。タレのうなぎ屋だ。団扇
でパタパタして炭火で焼いてる。狂喜乱舞して持ち帰りのうな丼を
10個買う。タレも売っていたので1升ビンぐらいの大きさのを5
本買った。
日本と違ってうなぎは高級品ではなかった。残念ながら﹃山椒﹄は
売ってなかったが食料品市場で普通に売ってるとうなぎ屋の大将が
売ってる店の場所まで教えてくれた。
これだからよく知ってる町の中でも、町の散策はやめられないな。
新しい発見が突然やってくる。
酒屋を発見して樽ごと購入していく。もちろん何種類ものビンも買
っていく。俺が何種類も大量に購入するので店の親父が秘蔵の酒を
樽ごと売ってくれた。50年物のウィスキーらしい。少しだけ試飲
させてもらったが、まろやかで凄く美味しかった。さすがに値が張
ったが美味しかったので別に気にしない。
衣料品店でまた素材を購入する。
素材の元売の商会の場所をを教えてもらったのでMAPに入力して
おく。紹介状まで書いてくれた。素材を大量購入し過ぎて迷惑だっ
たのかもしれないな。
念輪で会話してアイリたちと合流する。セバスチャンと個別念輪で
会話したが不審な人間はいなかったようだ。
449
大草原でるびのが狩り本番っす。︵前書き︶
7・7修正しました。
450
大草原でるびのが狩り本番っす。
食料品市場にあると教えてもらった店で山椒を買う。
そこは様々な調味料が並べられていてオリーブオイル・七味やカレ
ー粉も豊富にあったので買っておいた。ゾリオン村で買ったカレー
粉は少量だったので助かった。
ゾリオン村よりもヨークルの方が金額が安いのは助かるな。ゾリオ
ン村へは荷馬車しかないからどうしても物の値段は高くなるもんな。
買い物ツアーも終了して今日は家に帰る事にする。
食料品市場を出てからキャンピングバスをアイテムボックスから取
り出して皆で乗り込み早乙女邸で帰る。
自宅に帰ってから嫁3人がカレーが作りたいと言ってるので今夜の
メニューはカレーに決定してる。
セバスチャンが料理のサポートしてくれてるので俺はいらないな。
時間が中途半端に余った。
裏庭で魔獣ゴーレムを相手に狩りの練習をするるびのを眺めていた
ら、るびのに言われた。
﹁ねぇ、とうちゃん。オレ・・・本番の狩りがやってみたい﹂
るびのの実力のほどをマリアに聞いてみる。
﹁大草原にいる草食魔獣のデカウサギ、もしくは爆走鳥ぐらいなら
何とかなると思います﹂
﹁デカウサギって大きさが1mぐらいあって、るびのの倍ぐらいの
大きさがあるし、爆走鳥は俺よりでかいんだけど・・・いいの?﹂
﹁大丈夫です。2種類とも大きいですが力はありませんし、スピー
ドだけですので。力もスピードも今のるびのの方が上回ってます﹂
うーん。るびのの狩りの先生でデカウサギと爆走鳥の両方とも狩っ
451
てるマリアの言葉だし・・・大丈夫そうだな。
﹁時間的に今は16時ですので、あと1時間後ぐらいの方が2種類
とも狩りはしやすいですね。爆走鳥はそれぐらいの時間に巣に戻り
ますし、デカウサギは巣から出てきて食事に行く時間ですので﹂
それもそうだな。念輪で嫁たちにグループ会話。
﹁なぁみんな、料理で忙しいところに悪いけどるびのが狩りをして
みたいって言ってるんだ。マリアに聞いたら大草原の草食動物なら
大丈夫らしいんで、今からるびのの狩りの練習に行ってきてもいい
かな?﹂
﹁あー、アイリだけど今私以外は手が離せないから、私が返事をす
るね。カレーはもっと煮込みたいから19時過ぎぐらいだと食べる
のにちょうどいい時間になるわよ﹂
﹁了解。じゃあ、日が沈んでから帰ってくるね﹂
﹁﹁﹁はーい﹂﹂﹂
俺は鎧やカタナを装備して大草原にマリアとるびのを連れて転移す
る。
大岩付近なら草食動物達が増えているだろう、俺が空白地帯に設定
したからな。
るびのの狩りを指導するなんてことは流石に俺の知識や経験にもな
いのでマリアに任す。
マリアにはシルバードの魔結晶をゴーレムのメイン脳としてあるの
で、銀大熊の経験が全部ではないがほとんど残っている。それがあ
ったのでるびのの狩りの教育係をマリアに任せてる。
俺のなかにある知識や経験はは魔獣の狩り方と魔獣の習性、魔獣の
弱点ぐらいしかないからな。
だからここは全部マリアに任せることにして、俺も自分で狩りをす
ることにした。。
この大岩付近に草食動物が増え過ぎてもよくないしな。
452
草原の中にところどころ生えている野菜・果物・香草・薬草・毒草
なんかを回収しながら狩り。
爆走鳥・・・見た目はダチョウだな・・・は、水草なんかを好んで
食べている。大草原は地下からの湧き水が豊富であっちこっちに大
小様々な池が点在している。
俺は気配と魔力を探査魔法で探り、魔法を使って狩りをしていく。
﹃石弾﹄﹃空弾﹄﹃水弾﹄なんかを使って次々仕留めていく。
ガウリスクの軍団で行動部隊の隊長をしているグリーンウルフが自
分のチームを引き連れて俺に挨拶に来た。
偵察とこの大岩付近の狩りでの任務で近くまで来ていたらしい。マ
リアに念輪で連絡を取りるびのを連れてきてもらって挨拶の練習を
させる。
﹁こんにちわ。はじめまして。ボクの名前はるびの・早乙女です。
白虎です。よろしくお願いします﹂
うん。るびのの挨拶は上出来だな。白虎と聞いて隊長やグリーンウ
ルフたちは伏せの体勢になり平伏した。
﹁は、白帝様ですか。初めてお目にかかります。わたくし、白虎様
の眷属のグリーンウルフです。名は﹃バリスク﹄といいます。以後
よろしくお願いします﹂
﹁とうちゃん・・・みんな、どうしたの?﹂
俺に聞かれてもな。バリスクに詳しい話をしてもらわないとな。
﹁バリスク、いったいどうしたんだ?眷属?意味がわからないから
教えてくれ﹂
﹁は、はい。自分もそれほど詳しくはないんですが父や爺から教え
てもらったことがあります。この西方大陸の魔獣の覇者が白虎様。
またの名を﹃白帝﹄様です。大草原に住むグリーンウルフ・銀大熊
は白帝様の眷属からの子孫になります。他にも大森林には大黒豹や
森林タイガーも眷属の子孫です。ウェルヅ大陸の山脈地帯に住む炎
虎もそうですね。ウェルヅ大陸北方の山岳地帯の魔獣の覇者﹃グリ
453
フォン﹄も眷属です。他にもいると思いますが自分にはわかりませ
ん﹂
おいおいおいおい、すげぇなるびのは。るびのは理解できてないみ
たいだけど。
﹁あっそ。とうちゃん、俺デカウサギ1匹狩ったよ。ばくそーちょ
ーは1匹は狩れたけど2匹は失敗しちゃった。だから続きに行って
もいいかな?﹂
﹁おう、いいぞ。マリアたのむ﹂﹁はっ﹂
るびのは俺のいいぞの声と同時にビューンとはしっていってしまっ
た。マリアには警護と狩りのサポートを頼む。
﹁バリスク、後でるびのを連れてガウリスクの本拠の丘に挨拶に行
くって伝えておいてくれ。るびの自身がまだ自分が白帝だって理解
してないから、眷族としてじゃなくて俺の部下として出迎えてくれ
ってお願いしてほしいと俺からの命令だ﹂
﹁あ、ハイ。了解しました。伝えておきます。では皆も行くぞ﹂
グリーンウルフ達が超スピードで走りさっていく。
俺もるびのも別々に時間の許す限り狩りを続けた。
俺って明日もヒマなんだよな。ダンジョンでも行こうかな。
そんなことを考えながらも空弾を打ち込んでデカウサギの延髄を破
壊し素材に解体してアイテムボックスに入れる。
18時をまわって暗くなってきたのでマリアに念輪で連絡。俺が転
移してるびのとマリアを連れてガウリスクの本拠の丘の洞窟にまた
転移する。
454
明日の相談してるっす。
本拠の丘の洞窟内の元早乙女邸に直接転移したのでガウリスクにす
ぐに会いるびのに挨拶をさせた。
﹁こんばんわ。はじめまして。ボクの名前はるびの・早乙女です。
白虎です。これからよろしくお願いします﹂
﹁おお、貴方がるびの様ですか。私の名前はガウリスクです。ここ
のグリーンウルフのリーダーをしています。早乙女様の部下でもあ
ります﹂
﹁とうちゃん、部下って何?リーダーって何?﹂
﹁リーダーってのは群れの中で1番偉いやつだな。で、俺の部下っ
てのは俺の子分だな。だから・・・群れで1番偉いのがリーダーで
俺はその上のボスってことだ﹂
﹁おー、さすがとうちゃん。すっげぇ﹂
﹁ぬははは﹂
両手を腰にして胸をそらし高笑いする俺。・・・悪役みたいだな。
しかも口だけは達者なのに、すぐヤラレル系のボスっぽいザコ。
﹁わざわざの挨拶、ありがとうございます。白虎様のことは銀大熊
と炎虎にも知らせを送っておきますので﹂
﹁気を使わせて悪いな、ガウリスク。銀大熊と情報のやりとりは出
来るようになったのか?﹂
﹁はい。あれから何度か使者をお互いに送りあっております。平和
になりました﹂
﹁そうか。まぁ仲良くな。緊急連絡用にこれを渡しておくよ﹂
念輪をガウリスク用に作る。首輪型でもいいのか聞いたら、是非に
もって喜んでいた。そういえば初めて会った時も従魔としてテイム
契約して欲しいって懇願されたな。子分ってことで落ち着かせたけ
ど。
455
念輪で会話の練習をしていると最初はテイマースキルの念話でガウ
リスクと話をしていたのも思い出したな。ボスとリーダーは何で念
話でずーっと会話してるんですか?ってバリスクに話しかけられて
驚愕した記憶があるよ。
魔獣と普通に会話できるなんて、さすがに俺のもらった記憶や経験
にもなかったからな。
とりあえず人族とトラブルになった時の緊急連絡用ってことでガウ
リスクに装備させた。外れないように締め付けないように魔法で装
備させる。
ガウリスク達の戦争を助けて欲しいって、俺に言ってた子供のグリ
ーンウルフにお礼を言われたので、お礼代わりってことでモフモフ
させてもらった。これであと10年は戦える。
やっぱりモフモフは正義だな。
用事が済んだのでガウリスク達に別れを言って早乙女邸の玄関に転
移する。
玄関で自分を3点セット魔法でキレイにして、るびのはマリアが魔
法でキレイにする。
居間の方に歩いていきながら声をかける。
﹁ただいまー、今帰ったよ﹂
﹁しんちゃん、るびの、おかえり。どうだったるびの、狩りは出来
た?﹂
﹁ミーかあさん、ただいま。頑張ったよ俺。デカウサギ4匹とばく
そーちょー2匹。何匹か失敗しちゃったけど、マリアねーさんが教
えてくれたから狩りができた。楽しかったよ。また狩りしたい﹂
﹁しん君、るびの、おかえりなさい。るびのは狩りに目覚めちゃっ
たみたいね﹂
456
﹁しん様、るびの、おかえりさいませ。明日も空いてますし、また
どこかへ狩りにでも行きますか?﹂
﹁あー、そのことなんだけど、明日のことで聞きたいことがあるか
ら食事中にでも話をしよう。俺は着替えてくるから、今から食事の
準備をたのむよ﹂
そういって1階の使っていない部屋に行って着替える。
晩ご飯を食べながら皆の意見を聞く。
﹁明日は一日空いてる訳なんだけど、俺たちでダンジョン﹃アゼッ
ト﹄に行かないか?﹂
﹁るびのにはダンジョンはまだ早いです﹂
﹁マリア、俺たちがダンジョンを攻略中は、るびの・セバスチャン・
マリアの3人で大森林で狩りをしていて欲しい。日中の大森林で2
人のサポートがあれば今のるびのならいけると思う﹂
﹁はい、わかりました。それならば可能です﹂
﹁え?セバスにーさんいいの?。やったぁ、俺も大森林デビューだ
ぁ!﹂
ダイニングテーブルにるびの専用のイスを作ったのでそこでお座り
して肉を食べるるびの。
肉は今日、自分で仕留めたデカウサギ。なのだが、噛み応えがない
って文句を言うので焼いて出してやったら美味しそうにガツガツ食
いだした。焼いた肉を美味しそうに食べる聖獣ってのは・・・いい
のか?。
マリアは給仕で忙しそうだったので、後はセバスチャンにるびのの
世話を任す。
﹁よし、るびのの方は大丈夫だな。俺が明日ダンジョンに行こうっ
て言い出した訳はクラリーナが心配で﹂
﹁私がですか?﹂
﹁ああ。クラリーナが大怪我をしたのも、クズどもに最悪な体験を
させられたのも・・・あそこのダンジョン﹃アゼット﹄での事だか
457
らな。トラウマとかなければいいんだが・・・トラウマがあるなら
あるで早めに知っておかないと。早めに皆でダンジョンに行って確
認しておこうと考えていたんだ﹂
﹁んー。なるほどね。そういう訳だったんだ。それなら理解できる
ね。しんちゃんの言う通り早めに知っておいた方がクラリーナの為
にもなるしね﹂
﹁そういうことか。確かに強烈な体験でトラウマを持ってる冒険者
もいるからね。知り合いにも馬車に乗れないって男がいるよ﹂
﹁アイリさん、その男の人は馬が怖いんですか?﹂
﹁正確にいうと馬も馬車そのものも大丈夫なのよ。馬車に乗って移
動するってのがダメなのよ。彼が始めて乗った荷馬車がワインバー
ンに襲撃されてね。荷馬車が引っくり返って彼は荷物の下敷きにな
って助かった。だけど荷馬車の重い荷物の下敷きのまま、まったく
身動きできない状態で丸一日。次の便の荷馬車が通るまで放置され
てたのよ。怪我はしてなかったけど閉じ込められて身動きすら出来
なかった経験が彼の中に今でも残ってて動いてる馬車に乗れないの・
・・しらふでは﹂
﹁は?しらふでは乗れないって?アイリ、どういうことなんだ?﹂
﹁冒険者として馬車にのれないのでは仕事に困る!って。それで彼
が考え付いたのが・・・馬車に揺られるのがイヤなんだから、それ
以上に自分がベロベロに酔っ払ってりゃいいじゃん!。・・・まぁ、
そういうやつなのよ。でもそれで乗れるようになったから良かった
というべきかな﹂
アイリへの質問にミーが答えてくれた。でもミーの明るい話し声で
クラリーナの表情が和らいだ気がするから俺も砕けた声を返す。
﹁いいのかそんなんで﹂
﹁うん。大丈夫。彼は普段酒を飲まなくなった代わりに、荷馬車で
の移動中は飲みっぱなしだけどね﹂
﹁そうだねアイリ。・・・でもトラウマがなければいいけど、もし
あっても彼みたいに考えれば対応できることもあるし。クラリーナ
458
の場合は最悪ダンジョンに行かなければいいじゃん﹂
﹁まぁ、俺も今のミーの意見を考えて、クラリーナとみんなを明日
のダンジョンに誘ってるんだ﹂
﹁は、はい。では、みなさん明日はよろしくお願いします﹂
﹁じゃあ決定だな﹂
俺のこの言葉を合図に食事が終わってる俺たちはリビングへと移動
する。
459
夫婦の会話?作戦会議?っす。
リビングに移動してみんなでマッタリ紅茶を飲みながら話を続ける。
リビングにもるびの専用のソファーを作った。
日に日に大きくなるるびののために1m×1mの大きいソファーに
したがこのままだと何日持つかってレベルだな。既に柴犬サイズよ
り大きくなってる気がする。
﹁明日は予定が決まったな。マリア、るびのは大森林内では何時ま
での狩りが可能なんだ?﹂
﹁るびのの場合ですと、夕方からの大森林は少し不安があります。
16時位までが妥当な時間です﹂
﹁るびのは夕方からは不安なの?﹂
﹁はい、ミネルバ様。るびのはまだ集団戦の練習はしておりません。
大森林は夕方以降は集団で襲う魔獣が増えてきます。ですのでいき
なり本番というのは避けた方がよろしいかと﹂
﹁マリア説明ありがとう。ということだから、16時までがアゼッ
ト迷宮をアタックできる時間にしよう﹂
﹁それぐらいがいいかもね。クラリーナがトラウマがなかったとい
うのが最低条件なんだけどね﹂
﹁アイリさん、気を使っていただきありがとうございます﹂
﹁クラリーナも今からそんなに硬くならないでよ。で、しんちゃん
お昼とかはどうする?皆で食べる?﹂
﹁それは俺も悩んでるよ。俺の転移魔法があるからここでだって食
べる事もできるからな﹂
﹁それは流石に気がぬけちゃいそう﹂
﹁でもミー、それはクラリーナの様子次第ってことにしない?ここ
460
に帰ってきたら気も休まるだろうからね。慣れるまでは長時間緊張
しっぱなしっていう事態は避けた方がいいと思う﹂
﹁そうだな。俺もアイリの意見で賛成する。別に固く考えないで状
況見て臨機応変ってことにしよう。無理は禁物だ。クラリーナも絶
対に無理とかするなよ。苦しいなら苦しいって言ってくれればいい。
我慢は必要ない。ここにいる皆は家族なんだからな?。言わなくて
もダメそうならこっちで判断するからな?﹂
﹁ありがとうございます。肝に銘じておきます﹂
真剣に話を聞くクラリーナになぜかみんなでホッコリしてしまった。
俺はここで話題を変える。
﹁もう一つ聞きたいことがあるんだけど・・・あさって以降の依頼
についての話なんだけど。アイリとミーに経験者として意見が聞き
たい。こういう場合って宿泊はどうなるの?ゾリオン村って宿泊施
設がいっぱいで以前、泊まるところがなくて村から追い出されたん
だけど﹂
﹁ええ?ホントですか?ミーさん、そんなことってあるんですか?﹂
﹁流石にそれは考えてなかったよ。私たちが護衛任務で行った時は
ゾリオン村の宿泊施設に泊まったよね?﹂
﹁今、ミーが言ったように私たちが仕事で行ったときは冒険者ギル
ドの宿泊施設に泊まりました。使えないなんて思ってもみなかった
ですね﹂
﹁俺もすっかり忘れていて、今話をしてる時に思い出して、それを
考えると気になって仕方がなかったんだ﹂
﹁しん君、どうしてゾリオン村の宿泊施設はいっぱいだったんです
か?﹂
﹁俺が見たのは8日ほど前で開拓村から避難してきてる人でゾリオ
ン村のすべての宿泊施設が埋まってて、それでも足りなくて教会と
かゾリオン村の中でテントを張って過ごしてる人までいたよ。俺は
旅人だったら村の外で泊まってねって遠まわしに言われたよ﹂
461
﹁それは、ちょっと考えてもいませんでしたね。その情報はもう少
し早く聞きたかったです﹂
﹁アイリ、今更そんな事言っても。それでしんちゃんどうするの?
改善されてるって可能性はない?﹂
﹁まったくないだろうな。今回の場合は﹃さらに職人などの人間が
100人以上増えてる﹄って事だしな。一緒に行く職人が100人
いるんだぜ?﹂
﹁これは無理ね。まだ開拓村への移住は出来てないだろうし﹂
﹁てゆーか、開拓村に移住出来るようにするために今回の職人と物
資の移動の依頼なんだって﹂
﹁そうだなミー。今回は俺たちはキャンピングバスの中に宿泊する
ってことにして、家に帰ってこないか?旅の雰囲気は今回はなしで
もいいだろ。セバスチャンとマリアにキャンピングバスの見張りを
してもらえばいい﹂
﹁しん様の言うとおりですね。今回は旅ではないと私も思います﹂
﹁そうね。こういう場合に考えられるのは村長宅に止まってくださ
いっていうパターンかな?。少しでもしん君に貸しを作っておきた
いと、商人が考えそうな手ではあるね﹂
﹁私もアイリと一緒の意見だな。ガルディア商会は私たちとのつな
がりを深くしたいって思ってると考えれるね﹂
﹁俺もアイリとミーの意見に賛成。何も言わなかったのはゾリオン
がやり手の商人なんだからだろう。商人と仲良くするってのはいい
けど、どこかの誰かの専属になるつもりは今のところないよ﹂
﹁なるほど。勉強になりますです﹂
﹁開拓村の状況も似たような感じだろうな。だから依頼中は毎晩帰
ってきたほうがいいと思う。
﹁﹁﹁そうですね﹂﹂﹂
これで依頼中は毎晩早乙女邸に帰ってきて、そのまま寝ることに決
まった。
462
さぁ、そろそろ風呂にでも行きますか?ってことで風呂には嫁たち
に先に移動してもらった。
るびののベビーベッドを解体して、るびの用のベッドをつくる。
ベッドではなく巨大なクッションにした。2m×2mで厚みは30
cmぐらいの巨大なクッションを作った。寝室のレイアウトも変え
る。
少し長方形な部屋の真ん中にソファーセットを置く。今まで部屋の
半分ぐらいを使った10人ぐらい座れそうなものはやめた。
俺たち4人が座れればいいからソロで座り心地のいいファーストク
ラス仕様のソファーを4つ置き、真ん中にテーブルをセットした。
俺たちの超巨大なベッド。真ん中にソファーセット。反対側に1m
ほどの仕切りを置いて、るびの専用クッションの配置にした。
るびののクッションには四隅に魔石を仕込む。無音ベビーベッドと
同じ仕様にした。
るびのは毎晩朝までぐっすり寝ててもらわないと。セックス中に邪
魔されても困るし。
寝室の準備が出来たので熟睡中のるびのを寝室のクッションに運ぶ。
グリーンウルフの子供もモフモフで良かったが、るびののモフモフ
は最高級だな。両手で抱いて運びながら思わず自分のホッペをモフ
モフにすりすりしてしまった。モフモフはヤバイ。魔性の魅力が詰
まってる。
るびのを運び終わって俺も風呂に移動する。
昨日はセックスしないで寝たので、更衣室で服を脱いでる段階でギ
ンギンだ。
463
嫁3人にやりまくりっす。
﹁おまたせー﹂
と、いって風呂のドアを開ける。今日はもう既に開き直っている。
ヘソまで反りくり返ってギンギンのチンコを隠すことなく、むしろ
見せびらかすように悠々と歩いていく。そのままかけ湯をして湯船
につかる。
今まで俺のバッキバキのチンコに目が釘付けになっていて、会話が
途中で止まっていた嫁たちが再起動を果たしたようだ。
﹁し、しんちゃん!体洗ってあげるよ﹂
ミーがそういうと三人で俺を担いでエアーマットまで連れて行く。
俺はアイテムボックスから石鹸を取り出してマット全体を泡だらけ
にする。風と水の魔法を混合して石鹸にふりかける要領だ。クラリ
ーナに教えるとすぐに出来るようになった。
クラリーナがマットの上で正座して座っていたのでその上に俺が頭
を乗せる。
それをきっかけにして3人が俺の体をマッサージしながら洗い出し
た。
クラリーナは俺の髪の毛を丁寧に洗ってくれる。頭皮を優しくマッ
サージしながらの洗髪に気持ち良過ぎて考えることをやめ目を瞑っ
た。頭が終わると顔も洗ってくれる。
アイリとミーは前に俺がお願いしたこともあるおっぱいを使って全
身を洗う。
俺の左側にいるのがアイリ、右側にはミーがいる。
誰の、どちらの手とかもう既にどうでもいい。最高の気持ちよさだ。
チンコの竿を誰かがしごき亀頭の部分を撫で回されて、金タマを優
しくマッサージされながらトドメにアナルをほじられた4点攻めを
464
されたら、5分と持たずに精液を発射した。
しかも俺が精液を発射しているのに4本の手は止まることなく動き
続ける。
気持ちよすぎて意識が少しの間飛んだ。精液もジャージャー出てた。
途中からはおしっこが出ていと思う。流石に大声を出して喘ぎ最後
は絶叫していた・・・最高の嫁たちだ。
クラリーナが3点セット魔法で俺を浄化してくれて天国は終わった。
1人ずつ交代で全員が天国に行く。嫁3人も絶叫しながらおしっこ
をもらしていた。
今日はこのまま寝室に移動してからセックスする。
ただ移動するだけなんてつまらないことはしないで俺が寝室のベッ
ドまで1人ずつ運ぶことにした。セックスしながらの移動だ。
まずはミーから運ぶ。バックで挿入してからミーの足を抱え込むよ
うにして持ち上げる。子供をおしっこさせるような体勢で運ぶ。
﹁ああああ、すっごぉおおお。あひん、もおお、だめ。ダメになり
ゅうぅう。ああんあんあああ。ぁごんごぉんしちゃ、らめぇえでち
ゃう。でちゃうあああ、でてる。もうりゃめ。りゃめなのにぃいい
のぉ﹂
階段で何度かジャンプして突き上げてやったら潮を吹きまくってい
た。寝室に辿り着いてそのままベッドにおろしてバックのまま突き
あ
あ
あ
ん。りゃあめぇてぇ。でも、りゃめちゃら
、ああんあああぁぁ・・・﹂
あ
まくり、精液を放出しても突きまくった。
﹁あ
めぇあ
これで失神した。ヴァギナの中以外は3点セット魔法で浄化してミ
ーをベッドに横にさせて寝かせる。
布団をかけておけば風邪を引くこともないだろう。ミーにスリープ
の魔法と念のために保温の魔法もかけた・・・次はクラリーナだな。
465
クラリーナの脇の下から持ち上げてそのままヴァギナに俺のチンコ
をぶち込む。クラリーナが俺に抱きつく。俺はクラリーナのお尻を
両手で掴み広げる。そこでアイリに話しかけた。
﹁アイリ、ほらクラリーナのマンコに俺のチンコは入ってる?﹂
﹁はい。しん君の太いオチンチンが根元までズッポリとクラリーナ
のマンコの中に入ってますね。嬉しそうにマンコから涎をいっぱい
垂らしています。お尻の穴もヒクヒクさせてて喜んでいますね﹂
﹁あ、アイリさん。言わないでぇ。言わないでぇくだ、あん、さい。
みないでぇええ、ダメぇええです﹂
アイリは羞恥系が好きだが見る方はどうなのかと思って聞いてみた
が上手くクラリーナの羞恥心を煽ってくる。
﹁じゃあ、行ってくるよアイリ。そこでオナニーしててもいいよ﹂
返事も聞かずに言うだけ言って更衣室を出た。クラリーナは激しい
のが好きだからガンガンと下から突き上げる。下から突き上げるだ
けでなく。時々足を止めてクラリーナを上下に激しく動かす。キス
も激しくむさぼるような感じだ。
おぉん﹂
ぁ、お
お
﹁はぁ、はげしいにょが、んああん、はげしいにょぎゃ、しゅきな
お
んりぇしゅ、ああん。んぷああれろれろんぷひゃ。あ
お
小さく潮を吹きまくって廊下はビチャビチャになってるが俺が通っ
た後に優秀な執事とメイドが魔法で処理してくれるので何も問題が
ない。先ほどのミーの分はもうなかったしな。
ベッドに着いてからは正常位で上から叩きつけるようにしてクラリ
ーナを快感の海に叩き込む。
﹁あん、あんあ、んあんあああ。ぁああぁん。しゅきぃにゃんれし
ゅ。しんしゃまのしぇっくしゅがぁ、ああんああん。しゅきぃいい
いいい﹂
最後に絶叫して大量の潮を吹いて失神した。クラリーナの中に精液
を流し込んでいく。
クラリーナにも3点セット魔法で浄化してスリープと保温の魔法を
466
かけて布団をかけて寝させる。
アイリにはすぐには挿入しないで、まずは俺の前に跪かせてから俺
の精液まみれのチンコを舐めさせてキレイにさせた。
アイリに更衣室の壁に手をつかせて俺はアイリの後ろにまわる。ア
イリに俺のチンコを掴んで自分で入れさせた。身長差から自分から
足を開いて股の間から手を伸ばし少しがに股にならないと入れられ
ないから羞恥が好きなアイリにはたまらないのだろう。しかも俺は
まったく動かないから自分で動くしかない。
﹁え?じ、自分で入れるんですか?あ、はい。わかりました。ああ、
ああんぁはん。入れました。全部入ってます。ええ?あ、では動き
ます。あん、あ、あ、あん﹂
羞恥で恥ずかしくて頬を染めてるんじゃないな。羞恥で興奮して嬉
しくて顔が赤く染まってるんだなアイリの場合。しばらくアイリ自
身に自由に動かしていたがアイリの腰を掴んで止める。
﹁じゃあアイリ、そろそろ寝室に行くぞ﹂
そういって俺はアイリの尻をぺチンと軽く叩き、後ろからチンコを
挿したままアイリは少し前かがみでお尻を突き出してヨチヨチ歩い
ていく。膝がガクガクしている。余程気持ちが良いんだろう。
アイリは体を少し動かすだけでヴァギナの中はグチョグチョと蠢く
のだ。これは俺がたまらなかった。
﹁ハァハァハァ、ああん気持ち良いぃああぁ﹂
﹁アイリ出るぞ!ああああ﹂
﹁あああ、出てるしん君のあああ、ああん、しん君の精液ぃ、でて
るああああ、イクっ﹂
アイリも俺の凄い勢いで噴出する精液を子宮の奥にまで叩き込まれ
てそのままイったみたいだった。
﹁じゃあアイリそのまま頑張れ﹂
そのまま俺の精液と自分の愛液を大量にをダラダラ垂らしながら寝
室まで歩いていく。
467
もうダメと言ってアイリはベッドに倒れこんだ。
ベッドに突っ伏してる格好のままアイリにフトモモを閉じさせて、
お尻だけ少し上げさせた体勢で後ろから挿入する。チンコをガシガ
シ叩きつける。
アイリがイってもやめない。潮を吹いてもやめない。
俺が精液を噴出し終わるまでピストンはやめなかった。
﹁しん君、ダメあああん、もうダメだってあっあっあっあああ﹂
﹁イってるからぁ。あんあんあん、イイっ﹂
んあ
あん、ああぁぉお
お
お
おぉおお
おぉ・・・
﹁りゃめぇー、りゃめなの、やめちゃりゃめぇ、もっとぉおおおお
あ
ぉ。もっとにゃのぉおおお﹂
﹁あ
﹂
アイリはそのまま失神してしまったので3点セット魔法でキレイに
してから、アイリにもスリープと保温の魔法をかける。
俺はもう一度風呂に入りに行く。体を魔法できれいにしてのんびり
と温泉につかり風呂から上がる。
パジャマに着替え居間に行くとマリアがハーブティーを入れてくれ
た。
ゆっくりハーブティーを飲んでるとセバスチャンが明日の予定を聞
いてくる。
﹁ご主人様、明日は何時頃に起きられますか?﹂
﹁んー、明日は7時でいいよ。そこまで急がなくてもいいから﹂
﹁何かやっておくべきことはありますか?﹂
﹁悪いけど風呂の掃除を頼む。それと今日大草原に行ってこれ採っ
てきたから﹂
そういって今日の草原での狩り中に採取した薬草などを渡していく。
﹁薬草はポーションに。毒草は毒消しポーションと毒薬で半分こで。
後は野菜と果物と香草は畑や花壇に植えてもいいよ。畑を広げるの
も自由で・・・セバスチャンにまかすよ﹂
468
﹁了解いたしました﹂
﹁じゃあ、後は片付けておいて。俺もそろそろ寝させてもらうよ﹂
﹁﹁おやすみなさいませ﹂﹂
寝室に転移してベッドで寝る嫁たちの隙間に入り込む。では俺も寝
ます。おやすみなさい。
469
嫁3人にやりまくりっす。︵後書き︶
21万文字を超えて54万PV。ユニーク5万人超え。
皆様ありがとうございます。
それにひきかえ・・・文章とエロ描写がヘタクソでごめんなさい。
470
アゼット迷宮アタック2回目っす。
あけて転生12日目の朝。天気は快晴とまではいかないが程よく良
い。
セバスチャンの作ってくれた朝食を食べてから今日もキャンピング
バスに乗って出発する。
大森林の街道の途中でるびの・セバスチャン・マリアを降ろして残
りの人数でアゼット迷宮をアタックする。
皆でアゼット迷宮の入り口から入って階段を降りていく。数段おり
て停まって確認。
﹁クラリーナ、息苦しいとかはなさそうだな﹂
﹁はい、今のところはまったく問題ないです﹂
﹁うん。顔色も大丈夫ね。じゃあ、しんちゃんフォーメーションは
どうする?﹂
﹁アイリが先頭でクラリーナを挟んで後ろがミーだな。俺はクラリ
ーナの隣で魔法の教師役をするよ。地下3階までは3人だけのつも
りで戦ってくれ。それとクラリーナ、前に来たときに休憩したのは
どこだった?﹂
﹁休憩したのは地下3階の休憩室です﹂
﹁それじゃあ地下3階に長時間も篭ってたのね。Eランク程度のチ
ームがすることじゃないよ﹂
﹁まぁまぁ、アイリ怒るなよ。怒る相手は自滅して死んでる。クラ
リーナは被害者だし。これからまずは地下3階を目指す。オーガを
実際に目の前で見てクラリーナが戦えるかどうかだな。次はクラリ
ーナが休憩した部屋に行く。そこに入ってもトラウマの症状が出な
ければもう問題ないだろう﹂
俺は話しながらライトの魔法を前後左右に4つ放つ。地下1階まで
降りたら俺の言葉でスタート。
471
﹁さぁ、新生・早乙女遊撃隊のダンジョンアタックの開始だ﹂
クラリーナがいるのでダンジョンの地下へと続く階段脇にある転送
部屋は使わずに始めから攻略する。
アイリとミーがいるので転送部屋から地下41階までは好きにいけ
るが今回も転送部屋は使わなかった。
地下1階は一本道で出てくる魔獣はゴブリン。
アイリに頼んで何回かクラリーナにも戦ってもらったが何の問題も
ない様なのでサクサク進んでいった。
俺もクラリーナの様子をみていたが顔色にも変化はない。ダンジョ
ンってことで若干緊張気味ではあったが、それだけ。ダンジョンに
対するトラウマ、ダンジョンの魔獣に対するトラウマもなさそうだ
な。
地下2階のオーク。ここではクラリーナに風魔法﹃エアーシールド﹄
を使わせてオークの動きを止めさせるサポート役の練習をしてもら
う。
空気の盾で敵の攻撃を弾かせる。1回失敗してアイリが吹っ飛ばさ
れてしまったのだけれど、そんなことで怒るような人間はこの家族
にはいない。
﹁ああぁ、アイリさん。ゴメンなさい﹂
﹁あはは、気にしないで。私もシールダーとしてまだまだだね。あ
っはっはっは﹂
大笑いしていた。その後の2回目の失敗の時には自分にぶつかって
きた空気の盾を受け流してオークにブチ当ててたので、思わず拍手
してしまった。
地下2階ではオークの亜種が出た。オークロードだ。オーク15頭
ほど率いて組織的な動きをしている。
クラリーナには﹃エアーハンマー﹄を使わせてオークの足や腰など
472
を狙って体勢を崩す練習相手になってもらった。
俺とミーはオーク軍団に左右から突撃した。俺が敵の軍団の後ろに
回りこむような動きをワザと見せると、オーク軍団が俺を後ろに行
かせまいと対応して軍団を動かした時にできる隙に、突撃したミー
のサイラスの槍が一撃でオークロードの頭を粉砕する。あっけない
な、結局1分もかからなく全滅させた。
オークのドロップアイテムの魔石・豚バラ肉・豚トロを拾っている
時にオークロードのドロップアイテムがあった。
なにこれ、骨製の鞘に収まってる包丁?みたいだったので鑑識をか
けて調べた。
オークロードナイフ︵包丁︶
所有者 早乙女真一
オークロードの骨を加工した包丁。料理素材は切れても使用者の手
は絶対に切れない。
骨の加工品であるので金属ではないために錆びない。
鞘には切れ味を最高の状態で維持する魔法がかけられている
うん。そのまま包丁だったよ。超いらねぇ。俺の手はオリハルコン
の包丁でも切れない。俺の料理スキルは包丁いらない。オークロー
ドを討伐したミーに包丁の説明をしながら渡した。
ミーもアイリも自分の包丁を持ってるみたいだったので、必然的に
包丁を持っていないクラリーナに所有者が変更される。クラリーナ
は少し嬉しそうにアイテムボックスに入れた。
その包丁のやりとりで緊張の状態が少し緩む。
オークロードの魔結晶はクズの魔結晶よりはマシだけど質はあまり
よくないのが2個だった。亜種とはいえ所詮はオークって所だな。
さ、次は問題の地下3階だ。
473
オーガを相手にしてもクラリーノは特別な反応はしなかった。流石
にデカイので緊張している。クラリーナは俺が付きっ切りで魔法の
訓練をさせた。
4属性の初期攻撃魔法を練習させていく。風魔法の﹃空弾﹄水魔法
の﹃水弾﹄土魔法の﹃石弾﹄火魔法の﹃炎弾﹄木魔法はオーガには
威力が低過ぎて意味がないので今じゃなくて後でいい。
オーガは頑丈なので1発では中々死なないので動く的だ。
すぐに使えるようになるのが魔法の申し子だな。
命中力も威力も1発ごとに上がる。俺がタマを螺旋回転運動をさせ
ると貫通力が上がると教えたので、通常の魔法のタマの威力ではな
い貫通力がある。
地下3階の休憩室までにはクラリーナは4属性の初期攻撃魔法はマ
スターしていた。
大きい方の休憩室が空いていたので中にみんなで入る。クラリーナ
の様子は緊張が解けてホッとしている。自分でも、もしかしたらと
悩んでいただろう。何も心配することはなかったな。
全員入ってからミーが話かけてきた。
﹁ねぇしんちゃん。私たちって、つけまわされてる?﹂
﹁ああ、アイリも気付いていただろ?﹂
﹁あー、やっぱりねぇ・・・迷賊でしょうね。人数がわからなかっ
たから結構デカイ迷賊かもしれない﹂
﹁デカイ賊かもな、人数は今のところ32名。ここは大きい方の休
憩室で10m×10m以上あるからな。小さい方の休憩室はあいつ
らの仲間が入って隠れている。今あいつらは全員でこの部屋の外に
いるよ。鍵を開けて見張り以外は全員入ってくる気だろう﹂
﹁休憩室の鍵を開けて進入してくるんですか?﹂
﹁でしょうね。休憩室の鍵ってそんなに高度な鍵はつかわれていな
い。鍵がかかっていたら通常なら別の部屋に行きますから﹂
474
﹁ああ、アイリ。その冒険者心理を使ってこの部屋に誘導したんだ
ろうな。休憩室のドアを確保すれば逃げ道はないからな﹂
﹁手馴れた連中ね。それでしんちゃんはどうする?﹂
﹁こんなクソみたいな連中は皆殺しだな。死体だけは帰る前に上の
冒険者ギルドの出張所に届けりゃいいだろ。・・・そもそも俺の嫁
に手を出そうと考えただけでもムカつくのに、それを実行するクソ
共なんかは万死に値する﹂
﹁盗賊は退治すると懸賞金がもらえるし、装備もアイテムボックス
の中身も退治した人のものになるからね﹂
﹁ミーの言う通りね。それでしん君、鍵ってまだ開いてないの?﹂
﹁もう開いてるよ。可愛い女が3人もいるんで仲間を全員呼んでる
んだろう。皆殺しになるのに・・・お、そろったみたいだな。来る
ぞ。迷賊総勢46名さまのご来場だ﹂
﹁おーっと、お前等動くなよ!もう逃げ道はないからな!﹂
迷賊のリーダーらしき人間が叫んだ。
﹁おいおい、もっと早く入って来いよお前ら。時間かかりすぎて待
ちくたびれたぞノロマ﹂
﹁クソガキが!お前には用はないんだよ!しね!﹂
迷賊のリーダーの横にいたオッサンが手に持つ弓矢を射た瞬間に俺
は部屋の外に全員を連れて転移した。
迷賊が部屋の外に見張りも置かずに全員入室したのを待って転移し
た。
狩るのはお前らじゃない。
俺たちチーム早乙女遊撃隊の迷賊狩りの始まりだ。
部屋の外から部屋の扉を俺の魔法で封印して出入りを出来ない様に
して嫁と最終確認。
﹁アイリとミーは自分達の防御を最優先で。攻撃するのに遠慮は要
らない。ヤツラ弓兵が意外と多いんでそこは注意だな。矢には麻痺
475
毒があると考えていたほうがいいな。クラリーナは魔法でドンドン
打ち込め。本日の魔法レッスンパートⅡだ。魔力は今から俺が補充
する﹂
そういって俺はクラリーナの額に手を置き魔力を譲渡した。MPを
完全回復させる。
﹁クラリーナたちはドアの前で自分達のスペースを守ってるだけで
移動はしなくてもいいよ。ドアは俺が封印結界を施すから俺以外に
は開錠できなくなる。だからドアを死守しようとかは考えなくても
いい。俺の封印結界は転送石が使えなくなる強力な結界だから、も
うどこにも逃げる事はできない。捕まえようとか罪を自白させよう
とかも必要ない全滅させるだけだな﹂
﹁﹁﹁了解﹂﹂﹂
ドアの封印を解きドアを開けると部屋の中央付近でもめてる迷賊。
俺が﹃エアーハンマー﹄で全員を部屋の奥へと吹き飛ばす。
﹁クラリーナ、今のも﹃エアーハンマー﹄なんだけど、通常の5倍
ほどの魔力を込めて、大きさを広げた感じだな。こういう使い道も
魔法にはあるんだ。覚えておいてくれ﹂
﹁わかりました﹂
ドアに封印結界をかけて狩りを開始する。
せっかくなんで俺はクラリーナに魔法のレクチャー。突撃してくる
迷賊の攻撃をさばきながら。俺に向かって飛んでくる矢は俺のアイ
テムボックスにすべて回収する。
迷賊達が弓矢や炎弾や水弾を放ってきたので﹃エアーカーテン﹄を
使って矢を空中でストップさせた。
﹁クラリーナ今のが﹃エアーカーテン﹄だ。空中を飛んでくる魔法
や弓矢をストップさせる事ができる。空中に風の大きな盾を展開す
るイメージだな﹂
また弓矢が飛んできたので今度はクラリーナがエアーカーテンを使
476
ったが威力が足りず、速度が落ちただけだったので、俺が追加でエ
アーカーテンをかけてカバーした。
﹁今のクラリーナは魔法に込める魔力が少な過ぎたな。今の倍ぐら
いの魔力を込めないと防御力が足りなくなる。エアーカーテンは魔
法の炎弾・水弾・空弾は大丈夫だけど石弾や弓矢には少し不足する
ので注意だな。それにエアーカーテンにはそんなに厚みはいらない。
厚さは1cmぐらいでいい。今の魔力で1cmぐらいに圧縮すれば
ちょうどいい防御力になるよ。後は慣れだな﹂
﹁はい!。頑張ります﹂
いい返事だ。今度は迷賊からファイヤーボールが飛んできたので俺
がウォーターシールドで打ち消す。
﹁今の魔法が﹃ウォーターシールド﹄エアーシールドの水魔法版で
火を打ち消し魔法を消滅させた。込める魔力は一緒だからもうクラ
リーナにも使いこなせるはずだな。ファイヤーシールドもストーン
シールドも全て同じ魔力でいいから簡単。やってみればいい﹂
﹁はい!わかりました﹂
クラリーナが嬉しそうに返事をしてドンドン魔法を打ち込んでいく。
実に楽しそうだ。
﹁アイリ、ミー。クラリーナの防御を頼む。俺はそろそろ突入して
終わらせてくるよ﹂
クラリーナの前にアイリとミーが展開するのを確認してから、俺は
素手のまま突入して行く。
﹁くそっ。なぜだ!なんで転送石が使えないんだ!﹂
馬鹿共が騒いでるが返事もしない俺。転送石は封印結界の中では使
用して砕くことが出来ない。もう迷賊は20人ほどしか残っていな
い。俺は迷賊の集団から3mほど離れたところから近づかないで挑
発。
﹁こんなガキに攻撃すこともできないのでちゅか?﹂
﹁ボクちゃんたちは隅っこで震えてるだけなんでちゅか?﹂
477
完全に馬鹿にして挑発を繰り返す俺。後ろで嫁たちが笑ってる。
﹁くそったれ!死ね!﹂
と叫んで突撃してきた5人は俺の左右のジャブを顔面に喰らい、脳
漿を撒き散らして即死。俺の手が届かない場所から逃げようとした
連中はクラリーナの魔法の的だ。ビビッてる連中では森林モンキー
のスピードにも届かないほど鈍いから、クラリーナの魔法があたっ
て動けなくなる。
これで10人ぐらいになった。
﹁お、俺たちを誰だと思ってるんだ!後で痛い目を見るのはお前だ
ぞ!﹂
﹁クソ共とじゃれ合うつもりはないんで。会話する気もないから。
ほーら、ボクちゃんたち。攻めてこないならこっちから攻撃しちゃ
うぞー﹂
そういって俺は倒れて死んでいる迷賊の武器や防具を拾って次々へ
と投げつける。
﹁ゆ、許してくれ。こんなことするつもりはなかったんだ﹂
言い訳は聞く気もない。会話するつもりは始めからない。退治する
だけだ。持って帰るのは死体でいい。
鑑識で確認したときにこいつら全員がアゼット迷宮の盗賊って職業
欄にかいてある。チーム名が﹃アゼットの帝王﹄だってさ。ここに
いるので全員だ。
こいつらが今までに殺した人数は全員で200名を超えている、
ウンコと会話する趣味はない。こいつらの情報が欲しいわけじゃな
い。俺や俺の家族の情報を一切与えるつもりもない。言葉で挑発し
てるだけだ。
それから1分ほどでアゼットの帝王と言う名前の迷賊は消滅した。
478
盗賊って殺してすぐには終わらないんだよね。迷賊も一緒っす。
休憩室に転がる死体から46人のステータスカードを抜き取る。
死体からアイテムボックスの中身も俺のアイテムボックスの中に移
動させておく。装備も何もかもを回収し終わってから死体もアイテ
ムボックスに入れる。
部屋の中を3点セット魔法で血の臭いまで浄化した。
やはり俺の中には盗賊を生かしておけないと言う強い信念みたいな
ものがある。
俺のもらった記憶と経験が盗賊が存在している、生きている、それ
だけで許さないのだろう。
盗賊への強烈な殺戮衝動が盗賊討伐のたびに少しずつ減っていくの
がハッキリとわかる。
ゴッデスは俺にまだまだ復讐者を続けさせたいのか・・・この復讐
の先に俺には何が残っているのだろうか。そんなことを考えて休憩
室の中を浄化する。盗賊たちの怨念まで浄化しておく。
怨念がおんねんな・・・やっべぇ。またオヤジギャグを・・・クソ。
そろそろ昼食の時間だが、その前に最後の確認が二つを終わらせて
おく。
まずはクラリーナがオーガに襲われて死に掛かった場所。
行ったらオーガが1匹出てきたが冷静にクラリーナが魔法で退治し
てた。問題ないな。
最後はクラリーナが休憩して強姦された場所の小さい休憩室。よし。
こっちも何もない大丈夫。
これならトラウマはないって考えてもいいな。
﹁クラリーナも大丈夫みたいだし、昼休憩にしよう!﹂
479
﹁もうミーったら。でもさぁしん君、るびの達はどうする?﹂
﹁おお、そうだな。今から確認する﹂
セバスチャンに念輪のグループ会話で話しかけた。
﹁セバスチャン、そっちはどんな具合だ﹂
﹁はい、ご主人様。今昼食を食べ終わって休憩中です。るびのの狩
りの方も順調ですね。森林カマキリを5匹狩ることが出来ました。
サソリオオクモは1度失敗して逃げられてますが、午後からのアタ
ックでいけると思います。午後からは以前マリアが行った大きな池
に行ってみる予定です﹂
﹁わかった。それならまたヒマを見つけてサーモンなどの魚を探し
てくれ。では引き続いて頼むよ﹂
﹁了解しました﹂
念輪を切って嫁たちに話しかける。
﹁るびのはもう食事が終わってるみたいだったな。クラリーナ、食
事はここでしようと思うが本当に大丈夫か?﹂
﹁はい。心配ありがとうございます。我慢もしていませんのでここ
でかまいません﹂
﹁うん。これなら大丈夫だな。トラウマがないようでひとまず安心。
じゃあ、ご飯にしてから休憩だ﹂
俺がアイテムボックスからテーブルとイスを取り出して昼食。
今日の昼食は昨日発見して購入した﹃うな丼﹄だ。みんながお代わ
りした。
﹁ウナギってどこで取れるんだ?出来れば自分でうな丼を作りたい
んだけど﹂
﹁しん様が作ってくれるんですか?でも、このヨークルでウナギは
どこにでもいますよ﹂
﹁は?どこにでも?﹂
﹁うん。そうだよ。大草原の中の池にもいるし、大森林の河にも池
にもいるよ。ヨークル川にもいるしシーパラ大河にもいる﹂
﹁マジか!。じゃあ、セバスチャンに頼もう﹂
480
念輪でセバスチャンにウナギを大量に頼んでおいた。これで安心だ
な。
食後は緑茶でノンビリとした。マリアの入れてくれている緑茶だか
ら癒し効果がハンパない。
休憩を終えて午後のダンジョンアタック開始。
もうトラウマを気にすることもないので、今日は時間の許す限り行
けるところまで行こうということになった。
地下4階は﹃モウギュー﹄突進しか脳のない牛肉だ。もはや素材で
しかない。
アイリがモウギューの突進を弾き飛ばしたのを見て我慢できなくな
ってアドバイスをする。
﹁アイリ、違う。弾き飛ばすんじゃない。受け流すのでもない。相
手の突進力の全てを﹃吸収﹄するんだ。全部自分の力として吸収す
るイメージを持って!。今のアイリならサイラスの突進でも吸収で
きるよ﹂
そういって実際にアイリの目の前でモウギューの突進を吸収して見
せてあげた。
アイリも目の前で俺がお手本をしたのが良かったのか、5回ほど試
行錯誤を繰り返したら出来るようになった。音は吸収は出来ていな
かったが、モウギューの突進力と攻撃力は完全に吸収できるように
なった。
さすが俺の嫁。
牛ロースも牛ヒレもそんなに要らないのでアイリが出来るようにな
れば牛肉くんには用がないので地下5階に行く。
地下5階はボス部屋。サイラスだ。
今回は普通のサイラスだったのでアイリの練習相手になってもらう。
1度目は失敗して弾き飛ばしてしまった。2度目は受け流してしま
481
う。
﹁まだ、上半身の力が入りすぎだ。もっと自然体で﹂
﹁おしいけど、まだダメ。今度は柔らかくし過ぎてる。もっと力も
魔力も全身にバランスよく吸収していくんだ﹂
こっちに向かってきたので俺がもう一度手本を見せる。
﹁・・・あ!。そうか、なるほどわかったよ﹂
﹁もう大丈夫だな。ほらアイリ挑発して!﹂
﹁この短足ヤロー!こっちにこい!!﹂
アイリの挑発でサイラスがアイリに突進して行く。今度は完璧にで
きた。音まで吸収してる。
サイラスも今度はぐるっと回ってからアイリに突進したがまた音も
しないで吸収された。
﹁よし。もう完璧だな。ミー、もういいぞ﹂
俺の許可の声でミーがアイリの後ろから、アイリを踏み台にして飛
び上がりサイラスの脳天に槍を振り下ろす。一発で終わったな。
サイラスのドロップアイテムはサイラスの角を含む全身の皮だった。
魔石が2個と魔結晶が1個。
魔結晶は先ほどとったオークロードより少しマシかな?ってレベル
の質だった。
サイラスの全身の皮を見てアイリとミーが大興奮している。
﹁しんちゃん!凄いって!サイラスの通常ドロップは角。レアが皮
なんだけど、皮って普通は一部分だけなんだよ。全身の皮で角まで
って言うのは超レア!﹂
﹁サイラスの全身の皮なんて10年に1回ぐらいしか出てないんだ
よ。前に出たときは私とミーが冒険者になって、すぐまもなくだっ
たから13年ぐらい前だよ!凄い!はじめてみた﹂
﹁お、おう﹂
俺とクラリーナは逆に物事を知らなさ過ぎて、アイリとミーの超ハ
イテンションについていけずに2人で黙ってしまった。夫の俺です
ら返事するのが精一杯。
482
アイテムボックスに入れてからアイリとミーに質問した。
﹁サイラスの皮と角の使い道って何?﹂
﹁武器でも防具でもどっちもいけるね。私の前に使っていた十文字
槍も自分で狩ったサイラスの角を使ってるしね﹂
﹁しん君、クラリーナ。いきなり変なテンションになってゴメンね。
私たちも練習がてらに10匹ぐらいサイラスを狩ったけど角2本と、
ごく一部の皮でおなかの部分だったから槍を作るために角一本と皮
は加工費のためにおやっさんに売ったしね。﹂
﹁なるほどな。そういうことなら興奮するのもわかるな。でもいき
なり2人が豹変したから驚いたよ﹂
﹁私もビックリしました。私にはアイリさんの衝撃を吸収する技術
の方が凄いと思いました。教えてるしん様も凄いです﹂
﹁あの吸収するのはシールダーの上級になると出来るようになるん
だよ。アイリの後ろから見てて、もうすぐにも出来そうなのになん
で練習しないんだ?って疑問に思ってたからね。いい機会だったか
ら今日、教えてみた。モウギューとサイラスって凄く良い練習相手
がいるし。本当にヨークルはアゼット迷宮のおかげで盾職の練習に
は最適な場所だな﹂
﹁私もこれでシールダーの上級までこれた﹂
﹁良いなーアイリ。私も早く槍の上級に行きたい!﹂
﹁はぁ?何言ってるの?ミーはもう槍の上級以上になってるよ。ア
マテラス様から﹃属性攻撃﹄の祝福をいただいたんだよな?アレっ
、うそ!﹂
て上級レベルの技じゃないよ?マスタークラスのスキルなんだけど﹂
﹁え
﹁そんなことで自分の嫁はだまさないだろ。あのスキルを無意識に
出来るようになるのが槍のマスタークラスの条件の一つなんだけど﹂
﹁でも私、使えない技もいっぱい・・・﹂
﹁まぁ、焦る必要ないさ。俺たちには﹃時間はたっぷりある﹄だか
らな﹂
﹁そうですね。皆さんでゆっくり成長していきましょう﹂
483
クラリーナが上手くまとめたところで地下6階に行く。
アゼット迷宮地下6階は﹃ミノタウロス﹄ミルクさんだな。
ミルクさんは連戦になる1・2匹で出てくるがノンビリしてると次
が来るのだ。
といっても規格外な俺がいるし、アイリもミーもここで苦戦する冒
険者じゃない。
おかげで苦戦もしないでミルクと練乳狩り。俺といると練乳が多い
ってアイリとミーが興奮してる。クラリーナも練乳が好きみたいな
ので喜んでる。
この地下6階の休憩室に行き午後の休憩をする。休憩の時に今取っ
たばかりの牛乳と練乳と塩を使って練乳シャーベットをみんなに作
ってあげた。
凄く美味しかったらしい。大絶賛で1リットル程も作ったのにすぐ
に無くなってしまった。
流石にこれはオヤツだし食べ過ぎると腹の調子が悪くなるしって何
とか納得してもらった。
﹁もっと作って!次回のオヤツの時に食べるから﹂
ってミーが言ってるので説得開始。
﹁いまの1リットルの練乳シャーベットを作るのにミルクは1リッ
トルだけど練乳は300cc必要。ミルクさんのレア1個で30c
cしか入ってない、だからレア10個分使ってるんだけど・・・練
乳の残りの量を考えるとあと2リットルほどの練乳シャーベットし
か作れないよ﹂
﹁﹁﹁練乳狩るべし﹂﹂﹂
説得は失敗だったようだ。むしろ炎上させてる。
﹁え?なに?ちょ、ま﹂
3人の嫁が突然叫んで立ち上がり午後の休憩は打ち切られた。俺が
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テーブルなどを片付けてる間に嫁たちは狩りに行ってしまう。片づ
けが終わり休憩室から出ると嫁の叫び声が聞こえる。
﹁牛のくせにノロノロしやがって!さっさとこい!﹂
アイリの凄まじい叫びと挑発がこの空間以上に響き渡り、次から次
へとミルクさんが襲ってくる。
涎を撒き散らして興奮して巨大なハンマーを振り回すミルクさん。
でもそれ以上に嫁が怖いです。狂ったように次々襲い掛かるミルク
さんを超笑顔で狩り続ける嫁が怖かったので見ないことにした。
俺は何も見ていない。俺は何も見ていない。
俺は落ちてるミルクと練乳を拾い続ける。拾うのに邪魔なミルクさ
んだけ狩った。
30分ほど狩り続けてようやく一息つきながら散乱するドロップ品
を4人で回収して行く。
その後も狩りまくった。俺だけでも100以上狩ったな。練乳は5
0以上は手に入ったので1人1リットル分の練乳シャーベットを作
って渡した。
これで何とか落ち着きを取り戻してくれた。いつでもここにこれる
から今日はこれでおしまい。
地上に戻る前にマリアと念輪で連絡を取る。
俺たちは地上に戻ってから迷賊のことで時間がかかると思うのでる
びのたちに待ち合わせ場所で待っててもらうように指示しておく。
待ち合わせ場所は以前も休憩した広場だ。
結界用のミスリル棒はマリアのアイテムボックスに転送した。
転送部屋に行き地上に戻る。
485
とんこつラーメンがイーデスハリスの世界にもあるらしいっす。
地上に戻り冒険者ギルドのアゼット迷宮出張所に顔を出して説明し
ようとしたが凄く混んでるので諦めた。冒険者ギルドのヨークル支
部の方に行ったほうが職員の人数が多いのでここよりも早そうだ。
食いしん坊の息子を待たせてるしな。ここで待ってたらさらに時間
がかかる。
嫁たちを連れて大森林の中に入って行く。しばらく歩いてから待ち
合わせ場所に転移した。
セバスチャンに念輪で話しかけたら、待ち合わせ時間までまだ時間
があったので近くで狩りをしていたみたいだった。確かにあと20
分ほどあるから、そのまま継続させた。俺たちが待てばいいし。
﹁しん様、ギルドで迷賊の報告はしないのですか?﹂
﹁アレだけ混んでたら何時間もかかりそうだから後でヨークルの方
に行こうよ。ついでに明日からヨークルを離れるんだから、たまに
はみんなで外食でもしないか?﹂
﹁それなら良い所があるよ!﹂
﹁アイリ、あそこに行くのも久しぶりね﹂
﹁うーん。るびのも連れて行きたいから従魔OKのところがいいん
だけど﹂
﹁しんちゃん、大丈夫だよ。あそこなら別料金はとられるけど、個
室を借りれば魔獣でもゴーレムでもOKだから﹂
﹁個室で美味しいところって﹃とんこつラーメン﹄ですか?﹂
﹁とんこつラーメンがイーデスハリスにあるのか?﹂
大絶叫してしまった。流石にこれは看過出来ない。
嫁3人がドン引きしてるがオマエラモサッキヤッタジャナイカ。練
乳で。だけど男は謝らないといけないんだなこんなときは。女は見
486
過ごせっていうのに。
﹁す、すまん。興奮してしまった。俺の転生する前は大好きな食べ
物だったからな﹂
﹁あ、そういうことですか。それなら納得です。しん様がおっしゃ
るように﹃とんこつラーメン﹄は転生者がこの世界に伝えました。
その最初の場所が今話してる﹃とんこつラーメン﹄です﹂
﹁そうなのよ。そこの店って100年ぐらい前は冒険者が使うよう
な宿屋でね。料理の上手な主人が経営していたの。そこに宿泊して
いた転生者が大森林の南側でたくさん生息しているオークの骨を使
ってとんこつラーメンを作ったのよ。それで、その味を気に入った
主人が転生者にレシピを聞いたの。それから主人が人生をかけて作
りあげたのが今のとんこつラーメンの味なの﹂
﹁そこで宿屋の食堂のメニューに載せたら、店は宿屋なのに皆泊ま
りに来ないでとんこつラーメンしか食べにこないから、宿他をやめ
て上の部屋は個室になった。そういう店だから従魔もOKになって
るの。だから心配要らないよ、しんちゃん﹂
﹁それは間違いないな。うん、今日絶対に行こう。るびのが食べら
れそうなメニューはなさそうだけど﹂
﹁るびのが食べられそうなメニュー、それはないかなぁ。チャーシ
ューのチャーハンはあるけど﹂
﹁チャーハン!チャーシュー!﹂
やべぇ、俺泣きそうだよ。目がウルウルしてきた。俺の知らない転
生者さんどこのどなたかは知りませんが、ありがとうございます。
天を見上げて空に祈る。
もう二度と食べられないと思ってた。レシピがないから俺には作れ
ない・・・でも、食べられそうだ。カレーの時と同じで食べたら泣
くかもしれんな。
﹁何か完全に意識が飛んじゃったね。私たちの愛しの旦那様は﹂
﹁もうミーったら、急に変なこと言って。・・・でも、しん君の故
郷の味なのかしら﹂
487
﹁どうなんでしょうか。でも、故郷の味でもう食べられない。と、
思ってたらまた食べられそう。なんてことがあったら私も意識が飛
んじゃうかも﹂
﹁へ?ちなみにクラリーナの故郷の味って?ヨークルって食が充実
し過ぎてて﹃コレが名物﹄ってのはないよね﹂
﹁うーん。今ミーさんに聞かれて思いついたのは昨日のお昼に食べ
た﹃豚バラ肉の生姜焼き﹄っていうのと、先ほど食べた﹃練乳シャ
ーベット﹄ですかね。両方ともしん様の手作りですけど﹂
﹁﹁アレはヤバイ﹂﹂
そこにるびの達が帰ってきた。俺もトリップから帰ってきた。
﹁﹁ご主人様お待たせしました﹂﹂
﹁とうちゃん、ただいま。最後にサソリオオクモ狩れたよ。2匹い
けた。ゴブリンってヤツも10匹ぐらい狩れたよ﹂
﹁おお、凄いなるびの。よく頑張ったな﹂
と、頭をなでてやった。えへへへと喜んでいる。
それからまた門の手前まで転移して道に出てキャンピングバスに乗
る。時間がもったいないし冒険者ギルドに直行する。
到着して馬車置き場にキャンピングバスを乗り入れ、みんなを降ろ
してからキャンピングバスをアイテムボックスに入れる。とんこつ
ラーメンはこの冒険者ギルドから程近い場所にあるらしいので、ギ
ルドの用事が済んでからはここから歩きだ。
中に入り受付に話しかける。
﹁アゼット迷宮の迷賊を討伐したので確認をしてください﹂
﹁ええ!。少々お持ちください﹂
と言われたので待つと、ギルドの幹部職員のケンジが来て、また会
議室に行くことになった。
﹁早乙女様、アゼット迷宮の迷賊は冒険者ギルドでは存在が確認さ
れていませんので、いちよう規則ですので早乙女様のギルドカード
488
も一緒に確認させてください。お願いします﹂
ケンジに言われたので迷賊の46枚のステータスカードと俺のギル
ドカードも渡す。
﹁あ、そういえば死体も持ってきたけど、どうすればいいですか?﹂
﹁素材買取の取り扱いになりますけどよろしいですか?﹂
﹁素材になっちゃうんですか?人の死体が﹂
﹁合法的な死体ですからね。従魔のリビングデッドの改良などに使
われたりしますね﹂
46もの死体を俺はアイテムボックスから取り出して渡していく。
破片なんかも全部渡す。あってもいらないしな。結構ボロかったの
で1体平均10万Gでの買い取りになった。460万Gゲット。
先にギルドカードに入金してもらう。
迷賊としては確認されていないが全員が指名手配をされてる犯罪者
の集団である。それの指名手配犯の殺害賞金の確認だけで時間がか
かる。
合計1200万G。迷賊の討伐賞金が1人5万G×46人で計23
0万G。
今回迷賊退治の総額は1890万Gだった。盗賊と比べると1/1
0だけど仕方がない。
残りの1430万Gをギルドカードに入金してもらう。
それで疑問に思っていたことをケンジに直接聞いてみることにした。
﹁ケンジさん、盗賊って普通に買い物とか不可能だから所持金って
ほとんど所持してないですよね?。実際、以前退治した﹃草原の暴
風﹄って盗賊も148人もいて所持金の総額は100万もなかった
です。でもなんでこいつら迷賊は46人で5000万G以上の金を
所持しているんですか?。ステータスカードを回収している時に軽
く計算しただけなんで詳しくはわかりませんが﹂
﹁それにこいつらって男はいらんみたいなことを言ってましたんで
女は奴隷として売ってたりしませんか?その場合って﹃迷賊と繋が
489
っている人間がこのヨークルにいる﹄ってことじゃないですか?﹂
﹁殺す時の最後の言葉も自分達のバックに偉い人間がいるようなこ
とを匂わせていたので。これって、ただの迷賊退治だけで終わらな
いと思うんですけど・・・いかがですか?﹂
﹁それで最後に、退治した迷賊の所持金って俺がもらえるんですよ
ね?﹂
これらの俺の疑問には流石のケンジも処理できずにフリーズした。
一緒にいたギルド職員までもが固まってる。
固まられると俺は帰れなくなるのでパンパンと手を叩いてみんなを
正気に戻す。
﹁すみません。俺も俺の家族も腹が減ってるし、明日からの依頼は
朝が早いので早く終わらせて帰らせてください﹂
﹁は!。申し訳ございません。あまりの情報で意識が飛んでしまい
ました。早乙女様には情報の提供までありがとうございます。盗賊
の所持金につきましては後日になってしまいますので、今日はもう
お帰りになっていただいてもかまいません。ありがとうございまし
た﹂
これで帰れるな。皆のところに戻り冒険者ギルドを出てとんこつラ
ーメンを目指す。
490
とんこつラーメン伝説ってマジっすか?。
とんこつラーメンにとうとうやってきた。個室を借りて皆で移動し
て注文。4人でとんこつラーメンとチャーハンのセットを頼む。
るびのは爆走鳥の肉2kg・クマ肉2kgを選ばせたら全部って言
われたので全部軽く炙ってあげたら、ガツガツ食ってる、お代わり
しそうな勢いだ、セバスチャンの報告では昼もクマ肉5kgほど食
ってるみたいだ。この体のどこに入っていってるのか疑問だ。
今は柴犬を超えてボーダーコリーほどの大きさになってるし、この
肉は成長力に変換されているんだろうと想像?推定?妄想?してい
る。
お代わりついでに、もっと歯ごたえが欲しいとリクエストされてし
まったので森林モンキーの肉を骨付きのままで渡したらバリバリ食
ってる。まぁ魔獣の頂点の﹃聖獣﹄だからな。骨ごと食っても問題
ないだろう。葉っぱも食べたいって言ってたので薬草をあげたらモ
シャモシャ食べた。
何でもよく食うなぁ。
ヨークルではラーメンが超高級品だった。1杯1万Gもする。チャ
ーハンも同じ1杯1万Gだった。
何でこんなに高いのかアイリたちに聞いた。うな丼が1杯300G
なのに。
ちょうど注文した人数分のとんこつラーメンとチャーハンを店員が
運んできたので食べながら話す。
﹁なぁ、聞きたいことがあるんだけど・・・なんでとんこつラーメ
ンがこんなに高級品なの?特別な材料でも使ってるのかな?。日本
と値段が違い過ぎて違和感がハンパないんだけど。他には絶対に真
491
似されたくないから、秘伝の材料から秘伝のレシピでもつかってい
るのかな?﹂
﹁この店は昔から、とんこつラーメンもチャーハンもチャーシュー
もレシピを聞けば誰にでも教えてくれるよ。とんこつラーメンの材
料も聞いた話では出汁で使う昆布の安定的な入手に少し手間がかか
るだけ。後はオークの骨と爆走鳥の骨と野菜を数種類煮込めば出来
るって聞いた事があるわね。なんでこんなに高級品かって言うと、
いくつかの伝説があるの﹂
﹁伝説って?﹂
﹁そうなんです。今アイリさんがおっしゃったように﹃とんこつラ
ーメン﹄には幾つかの伝説があります。100年以上も前の話なん
で、私も聞いただけなんですが伝説ではこの店に1万人以上が行列
を作って並んだ。というのがあります。当時はとんこつラーメン1
杯600G、チャーハン1杯500G、セットで1000Gの値段
で販売されていたと聞きました﹂
﹁それで騒動になって、この店に苦情を言いにきたこのヨークルの
役所の人や飲食店関係の人が500人以上も列を作ったという2つ
めの伝説﹂
﹁そりゃそうよね。今クラリーナとアイリが説明したように、大行
列で宿屋の中はパニックになって外ではケンカ騒ぎが連発してたと
いう話だからね﹂
﹁その騒ぎの中で寝不足の主人がラーメンもチャーハンも1杯10
0万Gにするってブチギレして大混乱に拍車がかかったの。それを
聞いた常連客の千人以上の冒険者が怒って役所と商業ギルドに怒鳴
り込みに行った。大騒ぎの中で協議されて決まった値段がこの金額
ってわけ。そうよねクラリーナ?﹂
﹁はい。何しろとんこつラーメンとチャーハンのレシピをもらって
作った人がどんなに頑張っても、ここの店に届かなかったという話
ですからね。それが騒動に油を注いで炎上って話です。値段を決め
る時も当時の﹃商業ギルドマスター﹄﹃冒険者ギルドマスター﹄﹁
492
ヨークルの都市長官﹄達が協議を重ねて決まったとの伝説がありま
す﹂
・・・なんだよそれ。騒動どころじゃねぇーし。もはや暴動になっ
てるじゃん。たかがラーメンで・・・いや、もしその当時に俺がい
たら役所か商業ギルドを魔法で燃やしたかも知れんな。食関連の恨
みは尋常じゃないからな﹃日本人﹄は。
みんなが食べ終わったので料金を払い店を出る。
味は確かに評判どおりの美味しさだった。チャーシューは1本1万
Gで販売されていたので5本購入した。ホクホク顔になってしまっ
た。これをつまみに飲む酒もたまらないしな。
キャンピングバスに皆で乗り込んで帰宅。
キャンピングバスの清掃をセバスチャンに頼む。3点セット魔法で
皆をキレイに浄化してからリビングで雑談。
るびのはもう既にかなり眠かったらしいので自分から寝室の巨大ク
ッションに眠りに行った。
マリアが俺と嫁に紅茶を出した後にるびのの無音クッションに魔力
を込めに行った。
﹁ねぇねぇ、しんちゃん。明日の移動中に私もあのゴーレム馬車を
運転してみたいんだけど。馬車は操車したことあるけどゴーレム馬
車って操車したことないからね﹂
﹁それなら私も運転してみたい。私もゴーレム馬車は操車したこと
ないから﹂
﹁私は馬車に乗ったこともほとんど経験がないのですが、こんな私
にもできますでしょうか?。出来るのであればしてみたいです﹂
ミーの提案にアイリとクラリーナも乗っかってきた。
﹁それは俺も教えようと思っていたから助かるな。みんなだったら
すぐに運転できるよ﹂
493
﹁でも手綱も馬もないから何をどうしたらいいのか・・・心配ね﹂
﹁アイリ、簡単だから少し慣れるだけで心配しないでも大丈夫だよ。
ヨークルの中はちょっと危険だけどね。郊外に出れば教えるよ。簡
単だからクラリーナも大丈夫﹂
﹁ヨークルの中は危険って、どういうことなんでしょうか?﹂
﹁外周部はまだ大丈夫なんだけど、市街地の方は人も歩いてるから
ね。運転に慣れないうちは人の動きが読みにくくて難しいんだよ。
運転に慣れても子供とかは特に行動が突然で危ないし﹂
﹁ああ、そういうことなんだね。でも、明日がちょっと楽しみにな
ってきたな。退屈でつらい馬車の旅が楽しみって懐かしいよ﹂
﹁ミーの思ってることが私も理解できるな。馬車の御者も移動での
小遣い稼ぎで何回もやった事があるけど、とにかく退屈だし、眠い
し、凄くガタガタ動くしで辛いの﹂
﹁そんなに馬車の御者って退屈なんですか?私には経験がないので
理解できないのですが﹂
﹁運転に慣れるとヒマになるのは俺のキャンピングバスでも一緒だ
ぞ?まぁ市街地以外なら居眠りしてもキャンピングバス自体が自動
で運転してくれるように作ったけど﹂
﹁へぇー、あのゴーレム馬車はそんなことができるんだね﹂
夜も更けてきたので風呂に入りに行くことにした。
494
酔っ払って幼児化する嫁って・・・大変良いですねっす。
風呂の隣の更衣室で服を脱いでる時に思い出したことがある。
温泉・美女と来て何かが足りない・・・そうワカメ酒だ!。
でも家の嫁は3人いるけどワカメがねぇーし。アイリとミーはほぼ
ツルッツルだし、クラリーナはアンダーヘアーが少しあるけど、ほ
とんど産毛だな。
俺は嫁3人に話しかけた。
﹁そういえばイーデスハリスの世界に来る前に俺がいた日本って国
では、地域に違いはあるけど温泉でお酒を飲む風習があって、俺は
今日は飲もうかと思ってるんだけど・・・皆はどうする?﹂
﹁﹁﹁飲む﹂﹂﹂
即答だった。クラリーナまでもが。
﹁えっ、クラリーナってお酒好きなの?﹂
﹁ハイ。アイリさん。お酒は大好きです。ここ最近はまったく飲ん
でなかったんですけど﹂
﹁へー、意外ね。話し方もまだ固いし﹃そういうことはいけません
!﹄って怒られるかと思った﹂
﹁私ってミーさんの中ではどんな堅物なんですか。話し方が固いの
は今更、直せませんが、私はお酒が大好きですよ﹂
∼って声が出てしまうのは日本人の
皆で話しながらかけ湯をして湯船につかる。
毎回、湯船につかるたびにあ
サガだろう︵ウソ︶。
前にるびののために作った﹃絶対に転覆しない桶﹄をアイテムボッ
クスから取り出して湯船に浮かべる。
495
桶の上に酒とつまみを数種類並べて﹃呑んだくれパーティー﹄は始
まった。
温泉で飲むにあたってグラスの中の液体の温度が固定される魔法を
封入した魔石付きのグラスを皆に作って上げたら、3人とも大喜び
していた。
俺は麦焼酎をロックで。つまみはさっき買ってきたチャーシューだ。
アイリはワインを飲んでいる。つまみは生ハムだった。
クラリーナとミーはブランデーのロック。俺がロックグラスサイズ
の氷の玉を魔法で作ってあげた。ついでにクラリーナに魔法のレッ
スン。すぐに使えるようになるのでホントに優秀過ぎる生徒だな。
ミーのつまみはアイリと一緒に生ハムを食べていた。クラリーナの
つまみはナッツ。
俺はこの世界にきてから酔っ払うことは不可能になっている。
気分が良いぐらいを残して回復してしまうのだ。
だからといって酒の味がわからなくなったのではないからありがた
いけど・・・少しつまらなくなったなぁとは思うが。
嫁の場合は俺とセックスするようになってから、回復力が以前より
凄く上がった気がするって聞いてはいたが、酒に対しての回復力は
そこまでの効果はないようだ。
まぁ簡単に今の状況を説明すると・・・酔っ払いの嫁3人が俺に甘
えまくってきてる。
フニャフニャのトロけまくった笑顔で抱き付いてきている。
3人で抱きつきにくいからって理由でマットの上に俺は担いで連れ
てかれた。男として生きてきた中で自分が、お姫様抱っこをされる
という記憶はなかったから凄く恥ずかしかった。
﹁ねぇー、しんきゅん、ちゅっちゅしてぇ、アイリのぉー、乳首を
496
ぉ、ちゅっちゅしてぇ。えへへ、もー、しんきゅんはぁ、きゃわい
いにゃー﹂
アイリが俺に乳首を吸えと懇願してくるので、俺が吸いはじめると
ぎゅっと頭を抱え込まれる。
﹁あはーん、ミーわぁ、ミーわぁ、しんちゃんと、すりゅエッチが
しゅきぃいい。らめぇ。クリャリーニャ、らめぇ、あなるがぁああ
あ﹂
﹁あー、ミーしゃんずっこいでしゅ。また、しんしゃまとエッチし
てるぅんでしゅ。今度はぁ、わらしの番だったはずでしゅ。そんあ
ときはぁ、えい!でしゅ﹂
俺の上に跨りウンチングスタイルの騎乗位で腰を振ってよがるミー
のアナルにクラリーナが指を突っ込みグリグリしている。
しかもミーのアナルは俺のほうに向いてるのでクラリーナの指が2
本も根元までブッスリ入ってる所まで丸見えに見えてる。
うん。どうしてこうなったんだ?。気持ちいいから良いんだけどな
ぁ。
もちろんワカメ酒もしてある。ユラユラするものはなくてもこれも
男のロマンの一つだから。
俺も3回もさせられた。・・・アレをやってから嫁がおかしくなっ
た気がするな。お酒と精液のチャンポンってキクのかな?。
幼児化する3人が可愛いから何も問題ない。
それから何度目かのセックスの後は嫁が皆、寝始めてしまったので
3点セット魔法できれいにしてから寝室まで1人ずつ運んだ。寝室
のベッドに横にさせてから、今日も保温の魔法を全員にかけておく。
俺はまた居間のソファーにくつろぎながら酒の続きをする。
セバスチャン達から今日の報告を聞いておく。
﹁セバスチャン、るびのの大森林での狩りはどうだった?﹂
497
﹁はい。マリアと交代しながら見てましたが、夕方までの大森林で
したら何も問題ないですね。るびのの場合は問題があるとすればア
イテムボックスと解体魔法ですね。﹂
﹁私マリアからの報告も一つ。今日の狩りでは私どもは離れた場所
から警護しておりましたが、何も問題がなかったですね。今日は朝
一番でゴブリンで対集団戦の練習をさせましたが、飲み込みも早く
て問題ないですね。このスピードの成長ですと明後日以降でしたら
大森林の夜間でも可能になります﹂
﹁夜間はまだ無理があるだろう。今日もすぐに寝ちゃうし﹂
﹁夜間の狩りが可能というだけです。るびのの場合は、まだ睡眠欲
まで強い子供ですから﹂
﹁ああ、マリア。なるほどな。ありがとう。それなら明日以降も俺
たちはキャンピングバスで移動して、るびの・セバスチャン・マリ
アは大森林での狩りを続行だな。俺が朝と夕方にここからいつもの
待ち合わせ場所まで送り迎えをするよ﹂
﹁﹁了解いたしました﹂﹂
﹁明日以降もまた影ながら、るびのの警護を頼む﹂
﹁﹁お任せください﹂﹂
﹁2人に任すよ。・・・それでセバスチャン、魚とウナギはどうだ
った?﹂
﹁魚はマリアと交代で何種類か集めておきました。ウナギは量が大
量です。私とマリアのアイテムボックスでご確認ください﹂
2人のアイテムボックスを確認したら凄いことになってるな。モロ
コとかワカサギみたいな小魚は魔法で氷漬けになって壷に入ってる。
ウナギも既に蒲焼状態でも大量に入ってるし、さばいただけのもい
っぱいある。川エビとかがたくさんいて餌が豊富なんだろうな。
全部ありがたく俺のアイテムボックスに入れておく。ウナギや川魚
はもう大丈夫だからこれ以上はいらないとセバスチャンとマリアに
言っておく。
498
それに大森林の南方面にはオークがたくさんいるみたいなんで明日
以降はるびのの練習相手はオーク狩りでやらせようと提案しておい
た。豚骨も欲しいし。
後の問題はるびのの狩りでの獲物をどうするかだな。
考えるのも面倒くさくなって、るびのの腕輪を作った。魔水晶と魔
結晶をつけた豪華な感じになってしまったが・・・魔結晶には﹃解
体﹄﹃アイテムボックス︵中︶﹄の魔法を封入し、魔水晶には念話
機能も持たせた優れものだな。
るびのも俺が思ってる以上のスピードで成長してるし、念輪で無意
味に話しかけてきたりはしないだろう。意外と空気読めるしな。
これで準備は大丈夫だな。明日は5時半に起こすようにお願いして
俺も寝ることにする。
499
転生13日目。今日は朝から大忙しだ!っす。
イーデスハリスの世界に転生して13日目の朝がきた。
今日は早起きだ。7時前には外周部の倉庫街にあるガルディア商会
の倉庫に集合になっている。
5時半に起こしてくれと頼んであるが、朝はたいていマリアがコー
ヒーを入れてくれるのでその美味しそうな香りで目覚めてしまう。
今日も目覚めはマリアのコーヒーの香り。
﹁おはようございます、ご主人様。そろそろ時間でございます﹂
﹁ああ、マリアおはよう﹂
俺がベッドから動きだすと嫁たちも目覚め始める。俺は寝室の洗面
台に行って顔を洗う。寝室のソファーに来ると皆が起き上がってき
ていた。
﹁しんちゃん、マリア、おはよう。私は今朝は紅茶でお願いね﹂
﹁承知しました。ミネルバ奥様﹂
﹁しん様、ミーさん、マリアさんおはようございます。マリアさん、
私は今日はハーブティーをお願いします﹂
注文をマリアに言ってからクラリーナが俺と入れ替わりに洗面台に
いく。
﹁承知しました。クラリーナ奥様﹂
﹁ミー、クラリーナ2人ともおはよう。で、アイリは相変わらずか
?﹂
朝の弱いアイリは起き上がってソファーに座っているのだが、まだ
目覚めきっていない。ポワーンとした顔でユラユラ揺れてる。
﹁みなしゃん、おひゃよー・・・﹂
ククク。ユラユラ揺れてて目覚めきれないアイリは可愛い。
500
今日は朝が早いんでまだ90%ぐらい寝てるな。
だが、このままだと時間がかかるのでミーに任す。付き合い長くて
手馴れてるからな。
﹁ミー、アイリを頼むよ﹂
﹁はいはーい。ほら、アイリ、顔を洗いに行くよ﹂
ミーに連れられてアイリも洗面台に行った。入れ替わりに洗面台か
ら戻ってきたクラリーナがマリアの入れてくれたハーブティーを飲
んでる。
﹁クラリーナに話があるんだ。予定通り今日からゾリオンの依頼が
始まる。その依頼の中で物資の運搬がある。契約では1人125個
で合計500個の荷物を運ぶことになってるが、クラリーナには2
00を運んでもらって、俺たちが残りを1人100ずつにして欲し
い﹂
﹁え?。どういうことですか?﹂
﹁俺のアイテムボックスはクラリーナも知ってるように無限だ。だ
けどステータスカードでは無限サイズではなくサイズは中にしてあ
る。アイテムボックス︵中︶だと2m×2m×2mの箱を125個
で満タンになる計算だから、箱以外のものが入らなくなるはずなん
だよ。でもゾリオンがわざわざこの数字を出してきたのは、俺たち
の能力を探ってるんだと思う。本当の限界はもっと先にあるんだろ
うと思ってるから、この数字を出してきたんだと思うよ。たぶん木
の箱のサイズも2m以上にしてあるやつがいくつか混ぜてあるはず
だ﹂
﹁・・・﹂
﹁だけどクラリーナはアイテムボックス︵大︶だから200個でも
余裕だ。それで全員100個にすればゾリオンの探りも外せるし、
運ぶ数も問題ない。それでも契約だのなんだの言ってくるならガル
ディア商会とケンカになっても良いし、その結果違約金が発生して
もかまわないしな。それに俺にそう言って断られることもゾリオン
は計算済みだろう。アイリとミーは実際にサイズは中だからな。と
501
いうことでクラリーナが200個運んでくれ﹂
﹁わかりました﹂
途中から話を聞いていたアイリとミーも納得してくれた。朝食はキ
ャンピングバスの中でも食べられるしあとでいいからまず俺は着替
える。今日はもう防具を装備しないとな。アイリたちにも着替える
ように言っておく。俺が着替えた終わった時にるびのが起きてきた
ので、るびのに今日の予定を伝える。
﹁るびの、とうちゃんたちは仕事で今から馬車の旅だ。るびのには
退屈だろう。だからるびのはマリア・セバスチャンと一緒に、昨日
行った大森林にまた今日も行って狩りをしてくるってのはどうだ?。
送り迎えはとうちゃんが魔法でしてあげるからな﹂
﹁うん。やったー!。馬車の中って退屈だもん。オレは狩りに行き
たい!﹂
﹁よーし。それなら今から行くぞ!﹂
﹁おー!﹂
るびの・マリア・セバスチャンを連れて大森林のいつもの集合場所
に転移する。
るびのに昨日寝る前に作った腕輪をプレゼントして装備させる。
念輪の使い方を簡単に教えて後はマリアとセバスチャンに頼む。
寝室に転移で戻るとアイリたちが後片付けまで済ませてあった。
施錠を確認してキャンピングバスにみんなで乗り込む。ガレージな
どの施錠はユーロンド達に任せて出発する。これから長い旅の始ま
りだな。少し嬉しくなってきた。
ガルディア商会の倉庫に行くと、ゾリオンと長男のギルまでいた。
握手をしながら挨拶をする。
﹁ゾリオンさん、ギルさん、おはようございます。今日からよろし
くお願いします。あ、もう依頼主なんですから様で呼んだほうがよ
502
ろしかったですね?失礼いたしました﹂
﹁おはよう、早乙女君。ずいぶんと早く来てくれたんだな。・・・
話し方は敬語も様付けもなしで。今までどおりでかまわんよ。ワシ
の次男の窮地を救ってくれた救世主って君の立場は変わらんからな﹂
﹁早乙女さん、おはよう。そうだよね。父の言うとおり君が弟の救
世主というのは間違いないよ。だから話し方なんか気にしないでく
れ﹂
﹁わかりました。ありがとうございます。それで早く来たのは理由
がありまして。運ぶ荷物のことなんですけど全部で500個運ぶの
は大丈夫なんですが、今ここにある荷物を見る限りでもサイズがか
なり様々ですよね?。それで1人125個っていうのは不安がある
んで、クラリーナだけ200個でそれ以外は100個ずつで計50
0個という形にして欲しいのですが、彼女はアイテムボックス︵大︶
なので、それでお願いします﹂
﹁早乙女君、荷物がどんな形であれ運んでもらえればワシはかまわ
んよ。金属の塊はサイズの調整が出来るが、石はちょっと無理があ
ってね。こちらとしても頼んでおきながら申し訳ない﹂
﹁大丈夫です。早乙女さんに心配させて申し訳なかったですね。で
は時間もないことですし荷物の方を先にお願いします﹂
俺達が1人ずつ分かれて荷物を1つずつ確認してサインを毎回しな
がらアイテムボックスに入れて行く。
荷物を入れ終わってから、そういえばゾリオンにもう一つ言いたい
ことがあったのを思い出した。
宿の問題だ。話をしたらゾリオン村の村長宅で泊まってもらうつも
りだったが、と残念がっていたが了承してくれた。
その後で今回一緒に行く職人さんたちのグループのリーダーを紹介
してくれた。挨拶して握手。
護衛チームの人たちとも挨拶させてもらう。
荷馬車1台に護衛が2人、護衛が荷馬車の御者を交代でする。
503
予定では荷馬車10台で職人100人と護衛20人と俺たちだと聞
いていたが、荷馬車9台も追加になっていた。この9台には職人さ
んたちの荷物が3台と食料品などが5台、あと1台は食堂などで働
く人たちが10人だった。その荷馬車にも護衛が2人ずつ乗るので
護衛は合計36人+俺たち家族。
職人を運ぶ荷馬車と荷馬車の間に追加された荷馬車が入る。
俺のキャンピングバスを含めると20台の荷馬車船団になってる。
職人さんたちから荷物はたくさん載せれるようになったし、自分達
のスペースも広くなったとお礼を言われた。
開拓村の荷馬車船団が出発する。
最後に走リ出した俺のキャンピングバスが出て予定通り朝の7時半
にヨークルを出発した。
504
敵の出てこない護衛依頼・・・大金あざーっす。︵前書き︶
6・26修正しました
505
敵の出てこない護衛依頼・・・大金あざーっす。
都市ヨークルはシーパラ大河を北に、ヨークル川を南に面した中州
にある。
2本の川の合流地点。
1000年以上前にこのヨークルの重要性を2人の魔道士兄弟が見
抜き、ここにあった中州を魔法で石の城塞都市を作り上げた。シー
パラ大河とヨークル川に橋を架け水路と陸路の重要交流地点とした。
魔法で作り上げられた城塞都市﹃ヨークル﹄という名前は作った兄
弟の家名が都市の名前となった。
2人の魔道士兄弟の兄﹃アリザウム・ヨークル﹄。弟の名前が﹃ビ
リザウム・ヨークル﹄。
都市の中心にあった城は500年前の聖獣白虎の襲撃で一瞬で消滅
している。
城塞の堅固な守りをたのみにし、ここの都市ヨークルから何度も大
草原に住む白虎へと討伐部隊を送り込んで逆鱗に触れ、怒り狂った
白虎が城にこもる5万人の兵士・30万人以上の住民ごと一撃の魔
法で消滅させたらしい。
だから1000年以上前に作られた城塞で白虎襲撃後には城壁・運
河・用水路、そして2本の大きな橋しか残らなかった。
ヨークルの南北にある2本の川には橋が架けてある。
幅は10mもあり長さはヨークル川の方は600mほどあり、シー
パラ大河の方は1kmを超える。
橋を架けたのは魔道士兄弟。
2人の兄弟魔道士の名前は橋の名前として残っている。
シーパラ大河の長い橋の名前が﹃アリザウム大橋﹄兄の名前。
506
ヨークル川の方が﹃ビリザウム陸橋﹄弟の名前。
名前が似てるので﹃アリーおおはし﹄と﹃ビリーりっきょう﹄と区
別して、昔からあるあだ名で呼ばれている。名前を言わずに﹃おお
はし﹄と﹃りっきょう﹄と呼び分ける人がほとんどだけど。
そのアリザウム大橋を渡ってゾリオン村へと続く街道を走る荷馬車
船団の最後尾でキャンピングバス。
橋を渡ってのどかな街道に入ってからアイリとミーとクラリーナの
嫁3人にキャンピングバスの操縦を教えた。
はじめは前方の荷馬車に接近し過ぎてキャンピングバスにピピッと
いう警告音を鳴らさせ自動ブレーキをかけさせたり、逆に離れ過ぎ
てピーと警告音を鳴らさせて自動アクセルを発動させたりしていた
が・・・この嫁3人はすぐに慣れて問題なく運転できるようになっ
てる。
学習能力高過ぎるな。俺の場合はチートだから参考にならんし。
朝食のサンドイッチは食べ終わって・・・すんごいヒマ。
運転は嫁3人が交代でしてくれてる。運転が馬を操縦するんじゃな
くて自分で操縦するという感覚が物凄く楽しいらしい。
午前中の休憩時間に3人の嫁はキャンピングバスの駐車の練習も済
ませたし、馬車の駐車場からの発車も俺の横で見ていたので大丈夫
だな。
時間は10時半、セバスチャンと念輪で連絡をとるとオークの群れ
を殲滅し終わったところらしい。
ビックリしたので会いに行くことにした。嫁に話をして大森林に転
移する。セバスチャンのいる場所を魔法で探りさらに転移。
セバスチャンとマリアの周りに30頭ほどのオークが転がってる。
その横でマリアに叱られてシュンとしているるびのの姿がある。
﹁とうちゃん、オレもオーク3匹狩ったよ!。でもね、それからオ
507
ークに追いかけられてセバスにーさんとマリアねーさんに助けても
らったんだ﹂
﹁るびの、オークは群れる魔獣だから、目の前の獲物だけじゃなく
て周りへの注意も必要だぞ?。マリアに聞いてなかったのか?﹂
﹁ゴメンなさい。聞いてました﹂
﹁じゃあ、なんでこんな無茶をしたんだ?﹂
﹁オレのスピードなら大丈夫!って思った。でも血の臭いでオーク
が集まってきて﹂
﹁そう、周囲に注意するってのは距離だけじゃなくて風向きにも注
意は必要だ。そこを計算できなかったのが、今回のるびのの落ち度
だな﹂
﹁とうちゃん、ゴメンなさい﹂
﹁俺に謝るんじゃなくて、セバスチャンとマリアに謝りなさい。そ
れで助けてもらったお礼として、感謝の言葉も言いなさい﹂
﹁セバスにーさん、マリアねーさん、ゴメンなさい。それと助けて
くれてありがとう﹂
﹁﹁はい、良く言えました﹂﹂
﹁よし。じゃあ、マリアとるびのでオークの解体と回収をしてきな
さい﹂
﹁﹁はい﹂﹂
るびのとマリアが手分けしてオークの回収をする。俺はセバスチャ
ンに話しかける。
﹁セバスチャン、ここの周りにはオークがたくさんいて幾つもの群
れがある。るびのの対集団戦・集団への狩りと勉強することはたく
さんあるな﹂
﹁はい、ご主人様。そう考えたのでここを選びました﹂
﹁失敗して経験して学べることはたくさんある。さすがだなセバス
チャン﹂
﹁お褒めの言葉、ありがとうございます﹂
﹁それで話なんだけど、いつもの待ち合わせ場所はここから結構離
508
れていて移動の時間が無駄になるな。これからここでるびのが学べ
るのは明日までぐらいかな?﹂
﹁はい、その予定でございます。明後日は大森林のもっと東側での
狩りをする予定です﹂
﹁東側って言うと森林の山岳地帯か。ってことは明後日の狙いは大
鹿魔獣か?﹂
﹁はい。明後日ぐらいになれば森林の山岳地帯での狩りも可能だと
思います﹂
﹁わかった。じゃあ今日明日はここを集合場所にしよう。明後日は・
・・どこか目印になる集合場所はあるか?﹂
﹁あります。MAPをご覧ください﹂
俺は普段は脳内で縮小表示されているMAPを目の前に大きく展開
した。すると大森林の山岳地帯に赤く点滅する所がある。
﹁点滅させてるところか?﹂
﹁はい。この辺に巨大な石がありまして、隣に小さな池が2つあり
ます。ここなら遠くからも確認できますし、目印にしやすいと考え
られます﹂
﹁わかった。今から飛行魔法で行って確認してくる。じゃあ、これ
からもるびのを頼む﹂
﹁はっ、承知しました﹂
右の前足で﹁解体﹂と解体魔法をかけて、左の前足で﹁回収﹂とア
イテムボックスに収納しているるびのに近づいて話しかける。
﹁るびの、今セバスチャンと話し合って今日の集合場所をここに決
めた。だから夕方に俺がここに迎えに来るよ。それまでるびのはマ
リアとセバスチャンの言うことをしっかり聞いて勉強して狩りを頑
張れよ﹂
﹁うん!。とうちゃん、がんばるよ。もう失敗しないようにする﹂
﹁失敗はしてもいいんだよ。ただ、同じ失敗を繰り返さなければい
い。それだけだ。わかったな?﹂
﹁うん!。わかった﹂
509
それじゃあなと手を振って俺は飛翔魔法で飛び上がりセバスチャン
に教えてもらった場所まで飛んで行く。遠くからでもすぐにわかっ
た。
地上に出てる分だけで、高さが15m以上もある超巨大な石だ。隣
に小さな池も2つある。
これはわかりやすいのでMAPにマーキングしておく。名前も﹃大
森林大石﹄と勝手に命名した。
これでもうすることが無くなったので転移してキャンピングバスへ
と帰る事にした。
510
ヒマな護衛依頼だと移動中の車内はピンク色になってきませんか
?・・・っす。
転移してキャンピングバスに戻ってきたのはいいが、することがな
いのはかわりがないな。
もうすぐお昼休憩だしエッチも出来ない。
ヒマだからってホバーボードで遊びまくるってこともここでは無理
だしな。
そもそも護衛任務中なんだし。
運転席では嫁が3人でキャッキャと楽しそうに遊んでる。キャンピ
ングバスの運転が楽しそうで何よりだ。
そういえば、キャンピングバスの運転を真っ先にマスターしたのは
クラリーナだった。アイリとミーは荷馬車の操車をしていた分、な
れるのに時間がかかったみたいだな。それでも地球で俺が免許を取
得するのにかかった時間を考えると圧倒的な差があるんだけどな・・
・ぐすん。
こんなことを考えていたら、前にゾリオン村からヨークルに来る時
に使った昼の休憩場所に到着した。
荷馬車が20台にもなると壮観だな。開拓村荷馬車船団以外にも1
0台ぐらい止まってる。
前回ここにきたときは全部で7台の荷馬車だったので閑散としてい
たけど、今日はビッシリだな。
キャンピングバスを駐車するのに嫁3人がまた練習したので、それ
から合計9回も駐車練習に付き合わされてしまった。
昼食のメニューはカレーだった。
511
魔獣のミンチハンバーグも乗ってるので﹃ハンバーグカレー﹄だな。
職人100人+開拓村の食堂で働く人達10人+護衛36人+俺た
ち夫婦4人の合計150名。
この人数が食べられる建物はここにはないので、今回はみんなで屋
根だけのテントが張ってあるのでそこで食べる。
前回に来たときに食堂だった場所は今は臨時のキッチンになってカ
レーを出している。
もともと調理済みでアイテムボックスから出すだけだ。
開拓村荷馬車船団以外の人達は俺達の食事と昼休憩所設営のために
ゾリオン村から出発して来ていた人達だった。
彼らはこの後、半分はゾリオン村に先行し午後の休憩場所の確保と
ドリンク提供の為の準備。
残りの半分はここの後片付けをした後でゾリオン村に帰ってくる。
流石にこの人数の移動は食事だけでも大変だからな。
本来だったらあるはずの大量の資材がないだけマシか。
俺達夫婦が運んでいる資材は荷馬車100台分をはるかに越えてい
る。
食事後はすぐに出発。まぁ駐車練習で20分以上使ってるしな。
午後からのキャンピングバスの運転は俺がした。ヒマすぎるからな。
嫁達がうつらうつらと眠そうに船を漕いでいたので、﹃幻影﹄の魔
法を唱え一度運転を自動運転にする。
ファーストクラス仕様のシート4つを取り外して俺のアイテムボッ
クスに入れて片付け、かわりにマットを置いて布団を敷く。
﹁どうせこの中はどこからも見えないし、このまま装備も外して寝
ててもいいよ。あ、でもアンダーシャツとアンダーパンツは脱がな
いでね。これでも護衛任務中だし﹂
﹁でも、それだとしん君だけ働かせてることになっちゃうから﹂
512
﹁そんなこと気にしないでいいよ。後で俺も少し寝させてもらうか
ら﹂
﹁それよりも、今、運転席に誰もいないんですが他の馬車の人達が
驚いてさわぎになるのでは?﹂
﹁﹃幻影﹄の魔法を使ったからねクラリーナ。他の馬車からは元々
見難かった俺が運転している姿しか見えないよ﹂
キャンピングバスの中はもともと外からは見難いような加工処理を
したガラスがついてる。
しかもガラスがついてるのは運転席だけで、それ以外はドアにもつ
いてない。
外からは運転席以外はまったく見えないようになってる。でも中か
らは魔法で見られるようにしてある。
日本のアダルトビデオ仕様となってるから。
﹁それならしんちゃんの提案に甘えて昼寝しちゃう。さぁさぁ、ア
イリもクラリーナも!﹂
そういってミーが防具を脱いでアンダーだけの姿になって布団にゴ
ロンと転がる。アイリとクラリーナも装備を脱ぎ始めた。俺は声を
かけて運転席に戻る。
﹁じゃあ1時間ぐらいで交代だな。後でで起こしに来るよ。敵襲が
あっても起こすからな﹂
﹁﹁﹁はーい﹂﹂﹂
運転席に戻って俺も装備を脱ぐ。どうせ幻影で見えないしな。他の
荷馬車の人達も御者以外は寝てるだろう。
それにしても・・・嫁3人のアンダーのみの姿は破壊力があり過ぎ
る。
たゆんたゆんの爆乳コンビと、華奢で力強く抱きしめたら砕けちゃ
いそうなちっぱい。
アンダーの上下以外は着てない3人だったな。
513
﹁アンダーだけの姿はエロくてそそる﹂
と、以前に俺がアイリとミーアンダーのみの姿に大興奮していたこ
とをアイリとミーが知っているのはわかるが、クラリーナも二人に
聞いて下着を着けていないな。乳首の部分がツンとしてた。
このイーデスハリスの世界の鎧の下などに着るアンダーは薄くてピ
ッチピチだ。鎧が体をこすらないように体に張り付いてるし、魔力
で丈夫に作られていて凄くよく伸びるので・・・今の俺の股間のよ
うにテントを張るのではなく体に張り付いて伸びる・・・完全フル
勃起だ。俺のチンコの形がハッキリクッキリだ。
自分の姿に笑ってしまいそうになる。何してんだ俺・・・。
でも、俺の中にあった眠気は吹っ飛んだな。
そういえば俺ってしたことないな・・・男のロマン﹃車の運転中に
フェラされる﹄︵大変危険です。良い子も良い子じゃなくても絶対
にマネしてはいけません。︶。
アホの子なのでこんなことを考えてると、フル勃起が収まらなくな
るって事を思い出したのは交代時間になる前に20分ほどで休憩時
間を終わらせた3人が、運転席に上がってきてからだった。
﹁しん君ありがとう!。おかげですっきり目覚め・・・﹂
﹁しんちゃーん、ありがとう!今度は私が・・・﹂
﹁しん様、おかげさまでよく眠ることができまし・・・﹂
皆に見られて気付かれてしまった。3人の視線が俺の完全フル勃起
中の股間に釘付けになってしまった。
しかも、3人ともまだアンダー姿だし。
﹁ゴメン。さっきみんなのアンダー姿を見ちゃったから収まらない
んだ﹂
﹁﹁・・・﹂﹂
﹁・・・んごきゅ﹂
514
クラリーナの生唾を飲む音だけが運転席に響き渡る。
515
ヒマな護衛依頼だと移動中の車内はピンク色になってきませんか
?・・・っす。︵後書き︶
なろうでエロ抜きでアップしてみました。
タイトルは∼なろうばーじょん∼とサブだけの変更です。
まだ全編ではないのですが徐々に増やしていくつもりです。
その影響でノクターンの方の更新速度が落ちてしまいますがご容赦
ください。
516
キャンピングバス内で桃色空間出没中っす。
それまでのヒマすぎて退屈なキャンピングバスの旅が素敵でエッチ
なピンク空間に早がわりした。
﹁じゃあ、運転は交代制。エッチも交代制で。午後の休憩まで後1
時間半ぐらいあるから。休憩後はまたその後で﹃じゃんけん﹄しま
しょう﹂
・・・イーデスハリスの世界にもじゃんけんがあるんだ。今まで知
らんかった。
ミー・アイリ・クラリーナの順番に決まった。
またもやミーにお姫様抱っこをされて布団まで連れて行かれ横にさ
せられた。
﹁ん?1人ずつってこと?﹂
﹁そうよ。午後の休憩までそんなに時間はないし1人20分ぐらい
かな。だからセックスも前戯もなし﹂
﹁うぇ?前戯もなしなら何をするの?﹂
﹁もちろん、しんちゃんの溜まってる精液を味わうだけよ。しんち
ゃんは何もしなくていいの﹂
そう言われて俺はミーにアンダーシャツもアンダーパンツも脱がさ
れる。ミーは着たままだ。
素っ裸になった俺の右横に抱きついてくる。左手で俺の頭を爆乳に
抱き寄せる。
右手はグチュグチュと俺のチンコをしごいている。先走りでグチョ
グチョだからな。
﹁しんちゃんって初めて会った時から私のおっぱいばかり見てたで
517
しょ?﹂
﹁・・・﹂
返事は出来ない。爆乳に顔面が埋まってるからね。頷くことしかで
きなかった。
﹁ホントにおっぱいが好きねぇ。私のもアイリのもクラリーナのも﹂
﹁・・・︵頷く俺︶﹂
﹁はら、しんちゃん腰がガクガク動いてきたけど、気持ち良いの?﹂
俺の頭から手が離されたのでやっと話すことが出来るようになった
けど、今度は快感で言葉がうまく出てこない状況になってしまった。
﹁は、ぁい。気持ちい、いいで、す。ああぅぁあ﹂
﹁はぁはぁ、メチャクチャ可愛いわぁ。しんちゃんが快感で蕩けて
る顔が最高。これだけでいけるわね。アイリが言ってた事が良くわ
かるわぁ。さぁ、たくさん搾り出してあげるね﹂
ミーはそう言って俺の下半身の方に移動して俺の両足首を両手で掴
み上に持ち上げ・・・ちんぐり返しにさせられてしまった。
﹁そんな、ミー、恥ずかしぃあああああ﹂
話てる途中でミーにアナルからチンコの先までレロ∼∼ンと嘗め回
される。
﹁何だってぇ?何を言ってるのかなぁわかんなぁーい﹂
﹁ちょっと、ま、ああ、イヤ、だぁああって、いっ、ああああ、ヤ
バイっいぃてぇ、出る、でちゃ、ちょま﹂
﹁ほらぁ、今出ちゃうと、自分にかかっちゃうわよ。ほらほら、我
慢しないと﹂
ミーはそういってもチンコをしごく右手は休めないし、金タマもペ
ロペロ言葉の合間に舐めてるし、左手はアナルをグリグリ穿ってる。
この攻撃では我慢も限界だった。
﹁ヤバイ、出るってぇ、ぁああああああ﹂
俺がビクビクビクと痙攣し精液を放出する寸前に、ミーは俺に覆い
かぶさって俺のチンコを咥えてきた。
危なかったよ。自分でセルフ顔射するかと思った。
518
ミーは俺のチンコを咥え放出している精液をゴクゴク飲みながら、
俺の窮屈な体勢を元の横に寝ている状態に戻してくれた。
ミーは自分の口の中に出された精液を飲み終わっても、なかなかち
んこから口を離してくれなかった。
亀頭の先の尿道口に唇をつけて、右手で竿をしごいて尿道に残って
いる精液をチューチュー吸いだす。左手は金タマを優しく揉んでさ
らに吸い出そうとしている。
﹁ミー、終了の時間になったわよ。ほら交代の時間よ﹂
アイリが交代でくるまでにもう1回抜かれてしまった。
ミーに抱きしめられておっぱいに顔をうずめてるだけでバッキバキ
になってしまうのに、あの柔らかなおっぱいでパイズリされたら・・
・我慢なんて必要ないし。
アイリには赤ん坊のように甘えさせられた
横向きに赤ちゃんのように抱きかかえられて、俺の頭を左手で抱き
かかえられて胸に押し付けられてる。アイリの右手は俺のチンコを
優しくしごいている。
ミーとも同じ体勢になってた気がするが、甘さが大幅に違ってる。
アイリはその体勢の俺の耳元に小さな声で優しく囁いてくる。
アイリの乳首を咥えてる俺には返事も出来ないし、アイリも俺の返
事を聞きたいとは思えなかった。
﹁ああぁ、最高だわ。こうやってしん君に甘えさせてるだけで、私
の母性が爆発して全身に広がって行くよ。ほら、しん君もっと甘え
てぇ﹂
﹁しん君のオチンチンがカチカチになってるわよ﹂
﹁私が優しぃーく優しぃーく扱いてあげるね。どう、しん君。気持
ち良いの?﹂
﹁しん君のオチンチンは恥ずかしがり屋さんのホーケーだから、私
が外に出してあげるね﹂
519
﹁こうムキってすると気持ち良いんでしょ?フフッ、今しん君がビ
クッてしたわね。やっぱり気持ちよくてたまらないんでしょ。﹂
﹁あらあら、ホーケー君にはこれでも気持ちが良いんだよね?。ほ
らどうなの?またムキってしたわよ﹂
﹁何回も何回も私の手でホーケーをむいたりかぶせたり。フフフ、
ほら、ゴシゴシしてあげる﹂
﹁ああぁ、しん君が私の手でビクビクしてるだけで私もイっちゃい
そう﹂
﹁いいわよ。気持ち良かったらいつでも出して。私が全部のんであ
げるからね﹂
こんなことを時間いっぱい甘∼く囁かれた。
俺には赤ちゃんプレイに興味もなかったが・・・2回も放出してし
まった。
毎回こういうのは遠慮したいのだが、たまにならいいかも。
次のクラリーナはこれまたタイプが違う。
たゆんたゆんはないがちっぱいもおっぱい。
このちっぱいを恥ずかしそうに隠そうとする行為が俺を興奮させる。
俺が大股を開いて布団の上で座っている所にクラリーナがおっぱい
を隠しながら近づいてきて、俺の股の間に正座して俺のチンコを咥
えてきた。
クラリーナは話すときも俺のチンコに話しかけてるようで、ほとん
ど口を離そうとしないぐらいに舐めまくってる。
﹁私はぁ、しん様に喉の奥までオチンチンを突っ込まれてるだけで
気持ちがいいんです﹂
﹁苦しくて辛いのに、喉の奥にまで入ってきてるオチンチンから、
精液がドバーって出てくるとそれだけで潮を吹いてイっちゃうんで
す。苦しくて涙が出てくるのに、最高に気持ちよくて幸せになるん
520
です﹂
うん、わかったけど・・・俺のチンコに告白されてもな。
まぁ、愛する嫁のリクエストには、出来るだけ応えるのが旦那の仕
事だしな。
俺のチンコに告白が終わって咥えてるクラリーナの頭を掴み、強引
に上下させる。
グポッグポッと音をさせて上下させた後に、グググッとチンコの根
元まで押し込むとそのままクラリーナはビクビクビクって痙攣した。
流石にびっくりしてクラリーナの口からチンコを引き抜いて抱き起
こす。
﹁あはぁー、ゴメンなさい、またイっちゃいました。最高に気持ち
が良いんですぅ﹂
そのとろけきったクラリーナの顔に欲情してしまい、またクラリー
ナに咥えさせて頭を強引に上下させる。
クラリーナのリクエストに応えて今度は喉の奥に精液を放出する。
本当に潮を吹いてイった。
アンダーパンツからプシュシューと吹き出てきて焦った。
時間がまだあったのでもう1回したら今度も大量に潮を吹いてイっ
てしまった。
俺の休憩時間はこれで終わり。装備をつけて運転席に戻る。今まで
運転していたミーと交代して皆に装備をつけて待機しておくように
言っておく。
もう20分ぐらいで午後の休憩場所に到着する。それまでにはクラ
リーナも復活して着替える時間ぐらいはあるだろう。
521
キャンピングバス内で桃色空間出没中っす。︵後書き︶
少しパターンを替えてみました。
まぁ、このパターンには需要はなさそうですが・・・。
需要があればまた考えます。
でも、そろそろハーレムも増強しないとなぁ。
522
ノホホン馬車の旅が一転・・・暗雲が立ち込めてきてるっす。
午後の休憩は午前の休憩と一緒で路上で馬車を止めての休憩だった。
流石に20台以上の荷馬車を停車させて休憩できる場所は早々ない。
こっちの休憩場所ではハーブティーが出されている。
ゾリオン村ではハーブティーの方が用意がしやすいからね。大草原
の中にある村だけあってハーブなんてそこらじゅうで自生してるし、
ゾリオン村からヨークルに送る荷物の半分はハーブになる。
ゾリオン村の特産になるのかな?。周りは田んぼと草原しかないけ
ど。
休憩所となる屋根だけのテントの下で、ノホホンとハーブティーを
飲みハーブ入りのクッキーをかじってた俺が突然、立ち上がって大
声で叫ぶ。
﹁アイリ、ミー、クラリーナ迎撃体勢をとれ!。ワイバーンが襲っ
て来るぞ!。ヤツラ、上空から荷馬車の馬を狙いをつけてこっちに
飛んできてる。もうすぐこっちに来る。3人は職人さんたちの命が
最優先だ!防御を!俺は迎え撃って退治する。ワイバーンの数は3。
こっちの方角から来るぞ!!﹂
﹁﹁﹁はい﹂﹂﹂
やべぇ、時間がない。上空は警戒してなかったぞ。トカゲのクソッ
タレが。
俺はテントから猛烈な勢いで走り出す。同じテントで休憩していた
護衛の人達が慌てて装備をアイテムボックスから取り出してる。他
のテントの人達はポカーン状態で固まってる。
523
荷馬車の馬たちはワイバーンの気配を感じたのだろう、少しパニッ
クになって騒がしい。
何かにおびえて騒ぐ馬達の様子に驚愕し右往左往している馬の世話
人たち。
クソっ、間に合わん。
俺は馬を狙って急降下してきたワイバーンに向けて、走りながら槍
を投げつける。
迷賊たちの遺品の槍だな。
槍の質が悪いので普通この程度の武器ではワイバーンには刺さるど
ころか傷つけることすら難しいのだが、俺が魔力をまとわせて本気
で投げつけた槍はワイバーンの頭を吹き飛ばした。ワイバーンはそ
のまま地面に落下して転がっていく。
絶命だな。
﹁よっしゃ!﹂
あと2頭。
そのまま俺は馬の前を通り過ぎてワイバーンに向かって走り出す。
アイテムボックスから﹃天乃村正﹄を取り出してカタナの鞘はアイ
テムボックスに入れる。
﹁ちょっと飛べるからって調子に乗るな!トカゲやろー!こっちに
こい!﹂
強烈な挑発をワイバーンに叩き付けた。まぁ俺も飛翔魔法で飛んで
退治は可能だし、魔法で退治した方が簡単なんだけど、この大人数
の目の前ではやめておく。
持ってるカードの中身をさらすのは今のタイミングではないからな。
524
ワイバーンが俺に向かって急降下突撃をしてきた。﹃激おこ﹄って
感じだ。
俺のほうにファイヤーブレスを放ってきた。俺はカタナを横薙ぎに
一閃して炎をかき消す。
﹃天乃村正﹄は水と光の属性を持つ破邪のカタナだ。
高々ワイバーン程度のブレスはこの程度で消滅させられる。
﹃天駆﹄スキル魔法を発動させてワイバーンの後ろに回りこんで、
さらに空を駆け上がる。
天駆スキル魔法は﹃剣客﹄スキルをマスターすると得られるスキル
魔法。10歩まで空中を駆け回ることが出来るようになる。
自分の放ったブレスを瞬時にかき消され慌てて離れようと首を回し
た先には俺のカタナが待っている。
﹁ま、しょせんトカゲ脳だな。わかりやすすぎ﹂
ワイバーンの頭にカタナを突き入れ瞬殺する。俺は突き刺したカタ
ナを抜き取る時に、殺したワイバーンの体を足場にしてもう一度天
駆を発動する。
絶命して墜落して行く仲間に近寄ることも出来ずに10mぐらい離
れた空中でホバリングして絶叫する生き残ったワイバーン。
﹁グギャーーーーー﹂
﹁あー、うっせぇ。ほい、ラスト!﹂
生き残ったワイバーンの真正面から飛び込んで口の中にカタナを突
き刺してワイバーンの脳を破壊させて戦闘終了。
ここまでの戦闘は目にも留まらぬスピードでおこなったので、荷馬
車の列から300mほど離れて戦っていた俺の動きは誰にも見えて
いないだろう。
馬の世話人以外は停車中の荷馬車の列の反対側。
525
全長が8mほどで少し小型の3頭のワイバーンの死体を、そのまま
アイテムボックスに入れて片付けてから、みんなのいるところに戻
る。
退治したワイバーンの3つの死体をみんなの前に並べるとみんなが
フリーズしてた。
固まってるのでまたアイテムボックスに片付ける。
護衛任務中の退治した獲物は退治したチームに所有権がある。うち
のチーム早乙女遊撃隊の所有物って事だ。
みんながフリーズしてるのは当たり前だったりする。
荷馬車での移動においてのワイバーン襲撃は﹃いかにして退治する﹄
ではなく、﹃いかにして被害を最小限に抑えるか﹄が護衛の腕の見
せ所だったりする。
ワイバーンは人はほぼ狙わない。人を運ぶ馬の方が獲物として美味
しいから。
人間みたいな小さな生き物をわざわざ狙わなくても、より大きな生
物や魔獣のほうが腹も膨れるだろうし獲物は大草原にはたくさんい
る。人間は獲物とすら思われていない。
だから、馬の犠牲を最小限に抑えて移動に支障が出ないようにさせ
るのが護衛の仕事になるのだけど・・・俺が1分もかけずに全滅さ
せたからな。
ワイバーンはウェルヅ大陸の中央を南北に走るウェルヅ山脈の生物。
ここのウェルヅ大草原に来るのは獲物を探してやってくる。山脈の
近くの岩場には炎虎がいるがあまり襲わない。
逆襲されて逆に食われる時の方が多かったりするからだ。炎虎の方
526
が美味しい餌がふってきたって感覚だろう。
ほとんどは草原の西の方に群れで暮らしてる野性の馬の集団を襲う
のだが、群れを捜してる空腹のワイバーンに荷馬車が運悪く見つか
ってしまうと襲われる。
ワイバーンを狩るのは優秀な冒険者のチームが複数の集まって作っ
た討伐隊の仕事であって、護衛の仕事は荷物と人員と馬を出来る限
り守ることとなってる。
ウェルヅ大草原にはもっと野生の馬が草原中にたくさんいたのだが、
馬が大好きなグリーンウルフとワイバーン、それに馬車などに使用
するために捕獲する人間に狩られて大草原の東側にはほとんど存在
しなくなってしまった。
突然のワイバーン襲撃で動揺していた馬をなだめるために、休憩時
間を延ばして落ち着かせていた。
・・・馬って俺が近づいたら怯えるかと思っていたけど・・・俺が
近づくとペコリと頭を下げるんだよ。
馬にとって天災としかいえないワイバーン襲撃から俺が守ったとこ
ろを見ていたからな。
自分達の守護者ってのがわかるんだろう。馬は群れの生き物だから
な。1トンぐらいあってデカ過ぎるけど結構可愛かったりする。つ
ぶらな瞳ってやつが良い。
俺にとってウザかったのは何人かの人間の方だった。
職人の人達は豪快な人が多くて俺にお礼を行って笑ってる人達しか
いなかったし、護衛の人達もほとんどは守ってくれてありがとうっ
て、素直にお礼を言って感謝してくる人達ばかりだ。
けど・・・何人かは俺にお礼を言ってはいるが、ワイバーンを瞬殺
527
する俺に敵意をぶつけてくる人間はいないが・・・明らかに怯えて
逃げて行く人間が何人かいた。
俺の中の記憶と経験が警報を鳴らしている。
自分の腕に多少の自信があったのだろうが、そんな自分の自信はワ
イバーン襲撃で木っ端微塵に砕け散った。立場上、逃げて隠れるこ
とも出来ずに怯えて震えていたのだろう。
そんな自分の情けない姿にさせた恐怖のワイバーンを3頭も俺が傷
一つ負わずに瞬殺してるのだからな。
ワイバーンの一撃で葬った死体を目の前に並べられたんだから恐怖
も倍増だろう。疑う余地もない。
化け物を見る目で俺を見て、勝手に怯えて勝手に恐怖してる。
こういう人間を体を張って守って、こういう人間に迫害されてきた
転生者の記憶や経験が、何十人分も入ってる俺には彼らへの怒りが
わいてきてしまってる。
護衛隊の副隊長がその1人なのだった。
副隊長のグループ6人ほどが、そんな目で俺を見てる。
俺には恐怖で怯えた目線で見るくせに、俺の嫁には欲望で染まる薄
汚い目で全身を嘗め回してる。
要注意人物だな。
こういうカスがいつも問題を起こして転生者を精神的に迫害し追い
込んできたのだ。
群れることでしか行動できない無能者の集団が集団の暴力を使って。
ゾリオンには護衛隊は真偽官の面接を受けさせてから選んだ人員し
528
かいないって聞いてはいたが、これは面倒くさいことになりそう。
馬達も落ち着いたので午後の休憩は終了。
ゾリオン村に向けて荷馬車船団は走り出した。俺は自分のキャンピ
ングバスに戻って嫁たちと協議を開始する。
あの護衛隊の副隊長のグループには先に対策を立てておかないとな。
529
ゾリオン村到着までに家族会議をしてるっす。
荷馬車船団の最後尾につけて午後の休憩場所を出発してから20分
ほどがたち、俺はキャンピングバスの運転を自動操縦に任せて、運
転席に取り付けてあるガラスに幻影の魔法をかける。
毎回魔法をかけるのも面倒に思ったので、運転席の上部の屋根に魔
石を取り付けて幻影の魔法を封入し、魔力を込めるだけで誰でも幻
影魔法がかかるようにしておく。
アイリ達もキャンピングバスに戻ってきてからトイレを済ませて待
っててくれたみたいだった。
俺も先にトイレを済ませてから俺の分のシートに腰を降ろして作戦
会議に入る。
午後の休憩時間までのピンクな空気は既にない。
休憩後の出発前に布団やマットは片付けてファーストクラス仕様の
シートが4つ並べられている。
﹁ねぇ、しんちゃん。作戦会議がしたいって・・・あいつらのこと
?﹂
﹁ああ、あの薄汚い目で俺たちを見ていたヤツラのことで話をした
方がいいとおもってな﹂
﹁護衛隊の副隊長でしたっけ・・・気持ち悪い目で私たちを見てた
わね。クラリーナを見て舌なめずりしてたわよ﹂
﹁アイリさん、あの目は物凄く気持ち悪かったです。ダンジョンで
死んだ元結婚予定の人のチームの人達みたいでした﹂
﹁あの性欲以外はザコチームの?。ウフッ、ザコっぽさがにじみ出
てるからかな?﹂
530
﹁おいおい、ミーおちょくり過ぎ﹂
﹁でもさぁ、しんちゃん。あーゆータイプのザコって絶対に深夜に
襲ってくるもん。ワンパターン過ぎて相手にするのも疲れる。隷属
の首輪とか持ってきそうな陰湿な人間﹂
﹁あるある。そんな感じだね。・・・なんでこう、性犯罪にしか脳
味噌を使えない人間がいるんだろうね﹂
﹁脳味噌の変わりに精液でも詰まってるんじゃねぇーのか?。俺を
見たとたんに逃げるのに・・・どう、企らんでるんだろう。ワイバ
ーンで実力差は見てるのに﹂
﹁深夜に忍び込んで隷属の首輪をしん君に使えば完璧だ!ワイバー
ンを瞬殺出来る奴隷は手にはいるし、女も3人も手にはいる。凄い
馬車にも乗ってるから財産もたくさんあるだろう。ワイバーンの死
体も質が良かったから高く売れそうだし、全部ただで俺らがいただ
くぜ!ガッハッハ。ぐらいに考えてるんじゃないかな?﹂
﹁ブハッハッハ、アイリー、笑わせないでよ。そもそもワイバーン
が3頭もいて空中からでも近づくことさえ出来なかったのに、どう
やってしんちゃんに近づけるのよ﹂
﹁そーねぇ、今までのパターンだと・・・﹃今日は助けていただき
ありがとうございます。コレは私が持ってる秘蔵の酒です。お礼代
わりに皆様でお飲みください﹄ってシビレ薬入りの酒を渡してきそ
うね﹂
﹁そこまでいったら逆に見たくなっちまうな。あいつらがどういう
罠を張ってくるんだろうな﹂
﹁今日は家に帰らずにゾリオン村の郊外でキャンピングバスに泊ま
っちゃおうか?﹂
﹁私はミーの意見に賛成。あんな脳味噌精液チームが慌てふためい
て狼狽する場面が見たい﹂
﹁俺も賛成する。俺の嫁を欲望で狂った目で見てるだけで満足して
いればいいものを、実行に移すようなカスは死ねばいい。それと、
俺の中にある転生者の経験と知識が言ってるんだ。あんな欲望にま
531
みれた人間に迫害を受けてきた転生後の人生だったんだって。ヤツ
ラを殺せって俺に言ってくるんだよ。逆に俺は殺さなくてアイツら
を罠にはめて腹の底から笑ってやりたい﹂
﹁私も賛成します。それと・・・みなさん、私の為に怒ってくれて
ありがとうございます﹂
確かにクラリーナのために怒ってる部分は、俺にもアイリにもミー
にもあると思う。
お昼の休憩時間に歩いてる時、護衛隊の隊長と会って話をしている
と、ヤツラが欲望にまみれた目でクラリーナを見ていたのだ。
クラリーナはそれに気付きほんの一瞬だけ怯えた表情をした。
その表情を俺もアイリもミーも確実に見ている。
クラリーナのトラウマをなくすためにもヤツラには出来るだけ滑稽
に、無様をさらしてもらうためにしていた会議だ。
クラリーナも必要以上に茶化して話す3人の会話で気付いたのだろ
う。
昼食後の俺との行為で求めてきた情欲も怯えの裏返しかもな。過去
を忘れようと、過去を乗り越えようとクラリーナは戦っているんだ
ろう。
馬鹿をバカにして遊ぶためには念入りな準備が必要。あらゆる状況
に完全に対応できないとな。
3人には俺の祝福﹃早乙女に愛されし者﹄があるので隷属の首輪は
完全無効化される。無理矢理に取り付けられても何の変化も起きな
いし隷属の首輪が壊れることもない。
隷属の首輪に対してはうちのチームの対策は必要ないな。後で連れ
てくる予定のセバスチャンとマリアはゴーレムで隷属の首輪は無意
味だし、俺は祝福・主神の祝福︵天運︶でこれまた無効化されてし
532
まう。
隷属系の魔法やアイテムを無効化できる俺と嫁の祝福って言うのは
ありがたい。
チートバンザイだな。
自分の欲望に忠実なヤツラが俺を隷属させたらイーデスハリスの世
界の均衡が崩壊するので、そのための処置だろうとは想像できるけ
どな。
俺からの祝福﹃早乙女に愛されし者﹄で隷属化を無効にするという
のは・・・もう俺に洗脳されてるってことなのかな?。
会議は活況をもって踊りだす。馬鹿をはめてバカ笑いするために!。
とりあえず俺は17時をまわったので予定通りの待ち合わせ場所に
るびの・セバスチャン・マリアを迎えに行く。
そのまま早乙女邸に3人を送りるびのの世話をマリアに任せて、俺
とセバスチャンはキャンピングバスに戻る。
馬鹿が起こしうる、いろんなパターンに対して会議は白熱したが・・
・全部無駄になってしまった。
俺たちチーム早乙女遊撃隊が想像していたよりも、もっと欲望に忠
実でもっともっとバカだった。
ゾリオン村に到着して俺は村長宅に向かうようにと呼び出しが門ま
で来ていた。
迎えに来たのは冒険者ギルドのゾリオン支部のギルドマスターであ
るアクセル・ビッタート。
ビッタート卿と再会の握手を交わす。
バイドが待っているって言うので、俺はセバスチャンを嫁たちの護
衛としておいていくことにする。
セバスチャンには護衛隊副隊長の話はしてあるので護衛警戒レベル
533
は上げておくように指示してある。
全員で連れ立って歩く。
村に入って最初に感じたのは・・・ゾリオン村は今、開拓村への移
動で活況を帯びている。
大量の物資と人員が次々とこの村に送られてきているからだ。
最大障害の盗賊たち&銀大熊が全滅して荷馬車に連続的に襲撃をし
ていたグリーンウルフたちは姿も見せない。
開拓村に先遣隊と物資の移動が始まってるが、まったく被害がない
状況で推移している。
まぁ溢れ変える村内の活況に住民達があちこちに屋台を出してちょ
っとしたお祭り騒ぎになっていた。
数日前に俺がゾリオン村からヨークルに向けて出発したときは、村
の活況にはどこか薄く暗い影が残っていたんだけど、元気に走り回
るバイドの姿によって暗い影は一掃されたみたいだな。
嫁をビッタート卿に紹介して挨拶をさせた。
﹁初めまして。私はゾリオン村の冒険者ギルドマスターをしていま
す﹃アクセル・ビッタート﹄です。早乙女君やギルド職員には﹃ビ
ッタート卿﹄なんてあだ名で呼ばれています。奥様方もご自由にお
呼びください﹂
﹁初めまして。アイリ早乙女です。Cランクの冒険者です。アイリ
とお呼びください﹂
﹁初めまして。ミネルバ・早乙女です。私もCランクの冒険者です。
ミネルバとお呼びください﹂
﹁初めまして。クラリーナ・早乙女です。私は冒険者に成り立てで
ランクはEになりました。私のことはクラリーナとお呼びください﹂
﹁初めまして、早乙女真一様によって製造された執事ゴーレムのセ
バスチャンでございます。以後お見知りおきを。セバスチャンとお
534
気軽にお呼びください﹂
流石のビッタート卿もビシッとした完璧な挨拶をしてお辞儀するク
マのゴーレムに驚愕していた。
﹁じゃあ、俺はバイド前村長に呼ばれているんで今から行ってくる
よ。みんなはどうする?﹂
﹁私達は屋台を回ってくるよ。ビッタート卿のお勧めってあります
か?﹂
﹁それならアイリさん、今のゾリオン村で流行っている﹃おにぎり﹄
がいいですよ。手軽に食べられるようにお米を三角に握ってあるの
で﹃おにぎり﹂というんだと言われてますね。お米の中にいろんな
具が入ってます。金額も1個200Gから800Gぐらいで種類が
たくさんあって美味しいのでお勧めです。私が気に入ってるのは﹃
香草と薬草の塩もみ﹄と﹃デカウサギ肉の香草焼き﹄がお勧めです﹂
・・・おにぎり流行ってるんかよ。
御者さんたちも絶賛していたけど。確かに気軽で食べやすいし中の
具は千差万別で屋台として特徴を出しやすいからな。
これは、おにぎりスキーの俺もちょっと嬉しい。
ここに俺を呼び出ししてるのに待ちきれなかったバイドが自分の執
事と親衛隊10名の面々を連れてやってきた。
全員で挨拶のし直しだった。バイドが連れてきた執事と親衛隊の隊
長とも挨拶をして握手を全員で交わす。
ここに悪巧みの相談を終えた護衛隊副隊長のグループ全7人がやっ
てきたのだった。
﹁早乙女君、先ほどは助けていただいてありがとう。これは俺の地
元にある秘蔵の酒でね。君に進呈したい。お礼として受け取って欲
しい﹂
535
って、副隊長がニヤニヤして言ってきた。馬鹿が炸裂してるな。
﹃鑑定の魔眼﹄を先天的に持っているビッタート卿を目の前に、麻
酔薬と毒薬が混入された酒を俺に渡してきたのだ。
馬鹿やろう。馬鹿を笑い者にするすべての計画が台無しになった瞬
間だ。俺たちが思ってる以上に馬鹿だったな。
536
ウゼーやつらは完全排除。バイド村とおにぎりがスタートしたっ
す。
﹁・・・お前は今、なんと言った?お礼?進呈?。この毒とシビレ
薬が入った酒をか?﹂
ビッタート卿のただならぬ気配に半径5mほどの周囲が完全に沈黙
した。
馬鹿だけがわめく。
﹁お前は誰だ?たかが亜人風情が俺に口を利くな!﹂
﹁ワシか?ワシは﹃アクセル・ビッタート﹄。ここの冒険者ギルド
のギルドマスターをしておる。9年前の冒険者ギルドクーデターの
中心メンバーの1人だ。本部に問い合わせればわかるよ﹂
﹁な・・・﹂
この副隊長がビッタート卿を亜人と馬鹿にした瞬間にバイドの親衛
隊が周囲を取り囲んだ。
ここゾリオン村にも亜人はたくさんいるし、獣人も普通に暮らして
いる。こんな発言をこんなに人が多い中でしていると住民の手によ
って下手すると虐殺される可能性まである。
亜人や獣人は迫害の経験が必ずある。
シーパラ連合国にいると数は少ないが必ず迫害を受けた経験がある。
迫害を起こす人間はごく一部の特権階級を勝手に持っている他国か
ら流れた人間に多い。
500年前の怒り狂った白虎の猛威で特権階級の消滅したシーパラ
連合国には数は少ないが少しはいる。
親衛隊の面々も少しキレてる様子だ。
怒りの顔をあらわにしてる親衛隊の隊員もいるし、殺気があふれ出
している親衛隊の隊員もいる。
ただならぬ空気にバイドが言葉を繋いでく。
537
﹁では、私も自己紹介させてもらおうか。私の名前は﹃バイド・シ
ーズ・ガルディア﹄。ここゾリオン村で以前は村長をしていて、今
は開拓村運営の総責任者でもある。アクセルは俺の小さい時からの
格闘技の家庭教師をしてくれてた恩師だ。早乙女君は俺の大怪我を
治していただいた人物でね。彼は私の救世主だ・・・それで、お前
の方こそ誰だ?。俺と開拓村の救世主の早乙女君に毒とシビレ薬の
入った酒を渡そうとしているお前は誰なんだ?。ここにいて身元不
明の知らない人間はお前だけなんだぞ?﹂
周囲にいた住民の人族・亜人・獣人も怒ってる人がビッシリと取り
囲み壁を作っているので、いまさら副隊長が逃げ出そうとしても、
もう逃げ出す隙間はない。
﹁そんな、これに毒とか・・・証拠はあるのか?この亜人が勝手に
言ってるだけだろう!﹂
﹁証拠?じゃあ、住民の皆さんここに真偽官と教会の神父様を呼ん
できてくれ。これからここで裁判をする。鑑定の魔眼をアクセルが
持っているのはここの住民なら誰でも知ってい事実だが、この無知
なヤカラは知らないらしい﹂
馬鹿は何でこうも言ってはいけないことを言ってはいけない場面で
大声で叫ぶのだろうか?。周囲の住民からも殺気が溢れてきてるの
に。何人かの住民が教会に走っていった。
バイドもこれでキレたな。もう許す気は一切ないようだな。
そこからは真偽官と神父の立会いの裁判。
毒とシビレ薬が入っている酒があるので副隊長のグループ7人は殺
人未遂の現行犯での逮捕となった。
毒の量があまりに多かったためだったりする。
俺がワイバーンを瞬殺してるのでいつもの10倍以上の量を混ぜた
ようだ。
538
うん。そう。﹃いつもの10倍﹄。
こいつらこんなことばかりやって他国を追い出されてシーパラに流
れてきてた人間だった。
入国審査が甘過ぎるんじゃないのか?。
ビッタート卿に聞いたら入国審査も人がやってる。
賄賂で儲けてるやつもいるって言われてしまった。確かにな。
こいつらは現行犯なんでそのまま隷属の首輪によってすべての犯罪
を洗いざらい吐かされる。
俺たちはここで終わりだ。後は神父さんと村に派遣されている真偽
官の仕事だ。
神父さんとはウンコマン騒動以来だ。
﹁早乙女君、久しぶりだね。君が以前、目の前でハイポーションを
作ってくれたことが忘れられなくてね。私もヒマを見つけては練習
して、昨日ぐらいから安定して作れるようになったよ。アレは魔力
の込めるタイミングが重要なんだね、ありがとう。君のおかげで私
も薬師としてのレベルが上がったように思う﹂
神父さんにお礼を言われてしまった。
今更アレは俺が魔力の調整を失敗しただけって言い出せなくなった
が、神父さんの腕が上がったんなら良かったことにしよう。
堅い握手をして神父さんと別れる。
バイドが村長宅で晩ご飯でもと誘われたが、今日は嫁たちが﹃おに
ぎり﹄を味わいたいって言ってるので、断らさせてもらった。
そうしたらバイドもたまには俺も外の屋台で食べます。最近話題の
おにぎりで村が盛り上がってるのをバイドも体感しているから食べ
歩きたいと言ってきたので一緒に食べることになった。
俺に話がしたいんだろうな。
539
皆であちこちの屋台のおにぎりを食べる。
各店が趣向を凝らして作ってるのでコレは新しい名物になってると
バイドも喜んでいた。
﹁早乙女さん、申し訳ないです。今回は慌てていたとはいえ碌でも
ない人間を雇っていたようです。前回の親衛隊の時のように、また
早乙女さんに未然に防いでもらいました﹂
﹁気にしないでいいですよ。もともとあいつらを罠にハメて遊ぼう
としてたんですから﹂
﹁﹁え?﹂﹂
バイドとビッタート卿が驚きの声を上げたので俺たちが会議してい
た内容を話して聞かせると2人とも爆笑していた。
﹁それはそれでワシも見たかったな。済まないが君たちの楽しみを
減らしてしまったようだな﹂
﹁まぁ、それは気にしないでください。所詮遊びですから。それよ
りも心配なことが・・・明日以降の護衛が減ってしまうのでは?﹂
﹁それはこっちで賄えると思う。昨日からグリーンウルフの討伐隊
をヨークルからベテランの信用できるチームを呼んで街道沿いの草
原を派遣しているんだが、どのグリーンウルフもほとんど見つから
ないし、見つけても即座に逃げられていると、まったく成果が出て
ない状態でね。冒険者ギルドでも困っていたんだ。彼らのチームは
ベテランで長い付き合いだし、リーダーから来月にまた子供が生ま
れるんで、そろそろ定職が欲しいとさっき相談されてね。彼らなら
ワシからそのままバイド様に紹介できるよ﹂
﹁本当か!アクセル。それはありがたいな。して、その彼らチーム
で定職を探しているのは何人だ?﹂
﹁10人全員です。バイド様が開拓村で雇いたいなら警備隊でも親
衛隊でもどちらでもOKでしょう。家族も呼びたいと言ってくると
思われるので、家族の住居を提供できればすぐにでも雇えますよ﹂
﹁それなら今から彼らと話がしたい。今すぐ会えないか?﹂
540
﹁冒険者ギルドの宿泊所にいますのですぐに合えますよ﹂
2人は俺たち夫婦に別れを告げて明日の準備の為に彼らに会いに行
くようだ。
碌でもない人間を排除できて、信頼できる人間を雇えるならスカウ
ト交渉は早い方がいいからな。
俺達はまだ食欲があったし、余ってもアイテムボックスに保存がき
くから次々とおにぎりを買って食べていく。ビッタート卿のお薦め
はどちらも美味しかった。
さらに﹃香草と薬草の塩もみ﹄の具を入れてる屋台は俺が教えた御
者さんたちが売っていた。御者は続けながら11人で交代で稼いで
いるそうだ。
ここゾリオン村の名物にしたいと周りの人間におにぎりのコツを教
えまくったそうだ。
俺が教えたように﹃具材は何でもいい。個性が生きるのがおにぎり﹄
って言葉を合言葉にして村中で切磋琢磨してる状態になってた。
この話を聞いて嬉しくなった俺が色々なパターンを教える。
炊き込みご飯・カレー・天ぷら・ウナギの蒲焼、など御者さんたち
に教えて行く。
周りにはたくさんの人達が集まってみんなで意見の交換会と試食会
が急遽始まる。おにぎりをゾリオン村の名物にしようと皆が真剣に
話し合ってる。
その中のゾリオン村住民の酒屋の店主が酒を提供してくれたので試
食研究会が急遽酒盛りになってしまった。飲めや歌えやの大騒ぎだ。
皆が笑顔で笑って騒いで真剣に議論して討論して・・・でもケンカ
は起きない。
嫁3人も真剣に試食研究会に参加している。
541
﹃女の子としての意見なんですけど・・・甘くてデザートみたいな
おにぎりがあったら面白いのに﹄
クラリーナの意見でさらに議論は白熱していく。
途中でバイドとビッタート卿が冒険者10人を連れて戻ってきた。
雇うのに成功したと喜んでいる。
冒険者10人のベテランのチームはアイリとミーの知り合いだった。
俺も初めてアゼット迷宮に行ったときに街道で会って挨拶と握手を
させてもらってる。
アイリもミーも彼らなら安心だと太鼓判を押してる。
おやっさんに紹介してもらった人達で何度も一緒に依頼を受けたこ
とがあるし、慣れないうちは色々と相談に乗ってもらった恩人だそ
うだ。
バイドも信頼できるベテランを開拓村の護衛隊に雇うことが出来た。
ビッタート卿も先行きに少し不安を抱えている信頼できるベテラン
に就職を斡旋できて喜んでいる。
バイドも村長宅から酒とつまみを提供してくれた。宴の開幕の挨拶
を俺がすることになった。
﹁では、ゾリオン村の新名物﹃おにぎり﹄の誕生と新生﹃バイド村﹄
の発展を祈ってカンパイ!!﹂
ここから開拓村はバイド村として動き出した。ゾリオン村の名物﹃
おにぎり﹄もスタートした。
542
騒動の後始末。そして護衛依頼二日目の朝。っす
もともと飲めや歌えやの大騒ぎの中にバイドが燃料となる酒やつま
みを投入したので、もはや村中での祭りになってる。
俺も焼きおにぎりのしょうゆ味と味噌味の2種類を鉄板で焼いて出
したら大好評になってしまった。
俺の料理には﹃神の創り手﹄スキル補正が入ってるからな。
目の前に無言で小さなおにぎりをガツガツ食べてる集団はちょっと
どころではなく恐怖だったりする。
バイドが話しかけてきたことで開放された。
﹁早乙女さん、今回の事件でお話ししたいことがあります。逮捕さ
れた7人を徹底的に調査している最中なので、まだ結論が出た訳で
はないのですが・・・彼ら7人をこの護衛隊に送り込んできた人間
には、背後に我々に悪意を持ったグループの存在が浮かび上がって
きました﹂
﹁グループだって?。複数の人間がからんでるどこかの商会の犯行
なんですか?﹂
﹁いえ、幾つかの商会がグループを組み、自分たちが活動しやすい
ようにバイド村を乗っ取ろうとしていたと考えられます。他国に本
拠がある商会が中心になっているようで、まだ実態はつかめていま
せんが・・・今日逮捕された7人はその国から送り込まれてきてま
す。彼ら7人の前には・・・盗賊集団﹃草原の暴風﹄も送り込まれ
ていた集団でした﹂
﹁え、なんですって?ってことは相当大きいグループってことです
か?﹂
﹁ハイ。今はそう考えて捜査にあたっています。彼らの雇ったスパ
イがこのゾリオン村にも幾つか入っていると考えています。いまの
543
祭りの状況を利用させてもらって不審な動きをする人間がいないか
調査中です﹂
﹁うーん、大きい組織なら7人は消されたりしないのかな・・・教
会の守りは大丈夫ですか?﹂
﹁教会には太陽神アマテラス様の聖なる結界の守りがありますし、
信頼できる親衛隊が周囲を警戒してますので村長宅以上の守備力で
すので心配要りません。それと、逮捕された護衛隊の副隊長ですが
﹃魅了﹄の魔法の使い手で敵グループの幹部だったようですね。そ
れで自分が組織した草原の暴風が壊滅したので自ら乗り込んできた
ようです﹂
﹁ああぁ、それでですか。気持ち悪い目線でうちの嫁たちをジロジ
ロ見てたんですね﹂
﹁副隊長はそう告白しています。何度も早乙女さん達に魅了を使用
して失敗したと﹂
﹁嫁は俺にベタ惚れだから魅了なんてかかりっこないし、俺は嫁に
そんな目で見てるヤツでムカついていたからなぁ。魅了魔法は怒り
で解除されますしね﹂
﹁今回は偶然とはいえ絶好のタイミングでしたね。魅了が一切効か
ない鑑定の魔眼もちのアクセルがいて、そのアクセルに対しての暴
言で私も恥ずかしながらキレてしまいまして、その後の魅了魔法が
一切効かない状態になってますからね。良いタイミングです﹂
﹁おかげで俺の楽しみは消えちゃいましたけどね。でも調子に乗っ
ていた馬鹿が追い詰められていくさまは見ていて楽しかったです﹂
﹁私も特等席で見させてもらえましたので、私にとってもそういう
意味でも良いタイミングでした。ありがとうございます。それと、
今回の事件のおかげで信頼できる部下を得ることもできました﹂
﹁じゃあ、そろそろ話も終わりみたいですし俺たち夫婦はここで帰
らさせていただきますね。それでお土産を渡しますよ﹃スリープ﹄﹂
俺の斜め後ろにいた中年女性がドサッと倒れる。
﹁早乙女さん、いったい何を・・・﹂
544
﹁彼女はいま、バイドさんがおっしゃっていた﹃スパイ﹄ですよ。
見覚えないですか?﹂
﹁え?。なんで村長宅で勤務中のメイドがこんなところに・・・彼
女がスパイなんですか?﹂
﹁間違いないでしょうね。怪しい動きでバイドさんをマークしてま
したよ。それとあっちに﹂
そういいながら俺が指差した方向でちょっとした騒ぎになってた。
人が突然に倒れたからだ。
﹁アイツもスパイで間違いないでしょう。彼女と一緒にバイドさん
を付回してました﹂
バイドに指示されて親衛隊が倒れた男を連れてくる。
﹁彼はうちの庭師の・・・﹂
﹁彼女がゾリオン村で住んでいた家にはこのスパイ行為の指示を出
した人物がいると思いますので大至急手配した方がいいですよ。で
は、俺は馬車に帰りますんで後はおまかせしますね﹂
﹁わかりました。ご協力ありがとうございます。明日の出発前にで
も挨拶に伺いますので今夜はお休みください﹂
バイドは先ほど雇ったばかりの元冒険者チームと親衛隊を率いてメ
イドの借りていた部屋に向かっていった。元冒険者チームのリーダ
ーは素早い動きで先行して行く。
アレじゃ逃げられなさそうだと安心して俺はキャンピングバスに戻
ることにした。
大量の馬と荷馬車はゾリオン村の中には入れないのでバイド村への
物資や人員の荷馬車用に、ゾリオン村の少し離れた場所の平らなが
所に作られた荷馬車駐車場と厩舎が特別に設置されていて、しばら
くは護衛を臨時で雇って夜間の警備をしている。
臨時荷馬車駐車場に俺のキャンピングバスは停めてあるのでそこま
545
で歩いて帰った。
今夜は何があるのかわからない状態なので、このままキャンピング
バスで寝ることにした。
1度風呂にだけは入りたかったので全員で転移して風呂だけ入って
きた。
キャンピングバスの周囲警戒はセバスチャンに頼む。
明日のモーニングコーヒーのポットをマリアから受け取りアイテム
ボックスに入れて、キャンピングバス内にまた転移して今夜は寝る。
転生14日目の朝。天気はあまり良いとはいえなさそう。うす曇。
転生してきて2週間か。
イーデスハリスの世界に週間とか曜日って言うものはない。しかし
14日目って言うと2週間という感覚がまだ日本人としての残って
いる感覚なんだろう。
今朝はセバスチャンの念輪連絡で目覚めた。
バイドと親衛隊数人と見られる魔力パターンがゾリオン村の門をで
て、こちらに向かって歩いてきてるのだそうだ。
俺は手早く嫁を起こして、自分は防具を着て出迎えに車外に出る。
アンダーシャツとアンダーパンツは来たままだったから、俺の着替
えは早くできるが嫁たちはパジャマに着替えていたので少し時間が
かかる。
俺はトイレを済ませてから外に出てテーブルとイスを設置してコー
ヒーを飲む。
バイドたちと会話しているとるびのを大森林に送る時間が遅くなる
と思ったので、念輪でマリアに今日の予定変更を指示しておく。
﹁早乙女さん、おはようございます。昨日はいろいろありがとうご
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ざいました。おかげ様でゾリオン村に入り込んでいた全てのスパイ
を一掃することが出来ました﹂
﹁おはようございます、バイドさん。俺は何にもしてないよ。ただ
横にいただけ﹂
﹁ふふっ、それでしたら横にいてもらうだけで我々にはとてつもな
くありがたい救世主様になりますね﹂
﹁まぁそういう偶然もたまにはあるだろうね。俺は神様に愛されて
るみたいだし。次も上手く行くとは限らないけど。ソッポ向かれた
ら死んでるし。それでこんなに朝早くに俺に会いにきたのは、こん
な気まぐれな神様の話をするためですか?﹂
﹁いえいえ、今日は昨日の結果をお伝えにきました。昨日捕まえた
スパイは全員こちらで監禁させてます﹂
﹁へー、思い切ったことしますね。彼らの犯罪って何だろう?どう
やって逮捕するのかな?。なんて考えていたので・・・まぁ、綺麗
事だけで相手をしなきゃいけないなんて決まりもないですしね﹂
﹁はい。もちろんです。彼らスパイと7人の護衛隊の人間はすべて
同じ入国審査官によってこの国に入国してきていますので、逮捕は
入国審査官の拘束後になりますね。法律は守っていませんがスパイ
にも隷属の首輪を使って自白させてます。スパイの親玉がメイドの
借りてる部屋にいまして面白い事実も出てきてます﹂
﹁・・・面白い事実ですか?﹂
﹁早乙女さんが木っ端微塵に崩壊させた﹃アントローグ商会﹄もヤ
ツラのグループの一員でした。父には昨晩連絡しまして、アントロ
ーグ商会の捜査を担当していたローグランド真偽官とドミニアン司
祭に今日会って話しをするそうです﹂
ほー、あのイケメン有能コンビが動き出すならもう大丈夫そうだね。
﹁それで話は終わりですか?出来れば捜査中の話は事件が解決して
から聞きたいですね﹂
﹁それもそうですね、失礼しました。・・・それともう一つ。昨日
7人が逮捕されて10人の元冒険者のチームを雇うことになりまし
547
たので、今日は荷馬車を急遽もう1台増やすことになりました。バ
イド村から戻ってきた連絡便が先発隊の不満として﹃早く風呂が欲
しい﹄というのがあり、風呂を作るための職人がゾリオン村から同
行します。それで元冒険者チームの3人と風呂製作の職人が、皆さ
んの食事のお世話をする先発隊と一緒に今朝早くに出発しました。
ですので増えた、同行といっても、もうすでに出発しています。こ
れが伝えたかったことですね﹂
そういってバイド最後にもう一度お礼をいって握手をして帰ってい
った。
嫁たちも起きてきたので皆でモーニングコーヒーを飲む。
朝食は嫁たちのリクエストで昨日俺がたくさん焼いた焼きおにぎり
だ。コーヒーに焼きおにぎりは合わないと思うんだが、みんな無言
で食べてるので何も言わないことにした。
まだ荷馬車船団が出発するには時間があったのでセバスチャンを連
れて早乙女邸に転移。
るびの・セバスチャン・マリアを大森林に送る。
俺がキャンピングバスに戻ると出発間際だった。
キャンピングバスの運転は嫁たちに任せて、俺はキャビンスペース
のファーストクラス仕様のシートに座りコーヒーを飲んで少しまど
ろむ。
キャンピングバスはゆっくりと動きだし、バイド村へ出発した。
548
岩場に行って石回収︵2回目︶今度は聖獣はいなかったっす。
キャンピングバス内でノンビリすごす。コーヒーのお代わりを自分
で入れて外を眺める。
壁一面に外の景色が映し出されている。
うん。なにもない。
ただ起伏のあるだだっ広い草原がどこまで続いてんのこれ?ってぐ
らいに広がっている。
ただボンヤリ風景を眺めてコーヒーをすすっていたらガウリスクか
ら念輪がきた。
﹁ボス、おはようございます。ボスって今、大草原に来てますか?﹂
﹁おう、ガウリスクおはよう。大草原の街道を走ってる馬車の中に
いるぞ。なんかあったのか?﹂
﹁ボスの気配を感じたので連絡しただけで、連絡事項はありません。
何人かの人族がやってきましたが、こっちが逃げたら帰っていきま
した﹂
﹁そうか、わかった。ありがとうな俺の命令を守ってくれて﹂
﹁グリーンウルフにとってボスの命令は絶対ですので。でも人によ
る被害が無くなったことで、こちらにとっても都合が良かったで﹂
﹁まぁ今後も引き続き頼む。炎虎や銀大熊の方は何かあるか?﹂
﹁炎虎の﹃ニャックス﹄と銀大熊の﹃アキューブ16世﹄が、自分
たちも眷属の末裔として白帝様に挨拶がしたいと言ってました﹂
﹁るびのか、・・・るびのは今、大森林での狩りに夢中になってて、
楽しくてたまらないって感じだ。だからアキューブたちに挨拶する
にはもう少し時間がかかるって伝えておいてくれ。ニャックスには・
・・俺が今から会いに行って、直接話をしてくるよ﹂
﹁わかりました﹂
549
ガウリスクとの念輪を切った。そういえば岩場で石の補充がしたか
った。
早乙女邸の大改造・・・石製の門・塀・ガレージ・地下訓練場・地
下訓練場の階段×2で半分近くを消費してしまったから、そろそろ
補充がしたかった。
バイド村への街道の道に開いてる穴や転がってる石を避ける遊びで
盛り上がってる嫁3人に、岩場に石を拾いに行ってくると告げる。
何か合ったら念輪で連絡してねと言い残して、ニャックスの巣の近
くの上空に転移する。
巣の上空から気配を探るとニャックスがいたので巣に入る前に話し
かける。
﹁おーい、ニャックス!いるんだろー?﹂
﹁あ!、ボスいらっしゃい。・・・えっと、白帝様は?﹂
﹁ニャックス悪いな。それを謝っておかないとな。今、うちのるび
のは大森林での狩りに夢中になってて、挨拶に来るぐらい落ち着き
そうな雰囲気じゃないんだ。だからもう少し時間がかかりそうなん
だよ。しばらく待っててくれないか﹂
﹁わかりました。そういうことなら仕方ないですね。しばらく待ち
ます﹂
﹁スマンな。ニャックスも経験があると思うけど狩りが楽しくて楽
しくてたまらないって興奮中なんだ﹂
﹁それならよくわかります。ところでボス、今日はどんな用件で岩
場にこられたんですか?﹂
﹁ああ、また良い岩場を知らないかと聞こうと思ってな。以前の場
所はほとんど掘りつくしちゃったからな。良さそうな岩場は知らな
いか?﹂
﹁それでしたら、ここより北に真っ直ぐ行けばいくらでもあります
550
よ。前の場所よりは石の大きさは小さくなりますが、それでよけれ
ば数は北の方が多いです﹂
﹁そうか!。ニャックスありがとうな。いやぁ、今日はニャックス
が巣にいてくれて助かったよ﹂
﹁昨日狩りが成功したんで今日は腹がいっぱいで休みです。そうい
えばボスも人族ですし、こんなとこって要りますか?﹂
そういって巣に戻ったニャックスが持って来てくれたのは全長3m
ぐらいある大鹿魔獣だった。
﹁私たち炎虎は内臓と肉しかいらないんですが、人族は皮とか角を
欲しがるって聞きましたんで。もう内臓は食べちゃいましたけど、
小さい獲物なんですが残りでよければどうぞ﹂
﹁コレはありがたくいただくよ。今解体する﹂
解体魔法をかけて肉を全部返して皮・角・骨までもらった。
ニャックスに別れを告げて飛翔魔法で飛び上がり北を目指す。
良さそうな場所を見つけたので降りようとすると近くに大鹿魔獣が
いたので魔法でサクッと狩る。
ニャックスにもらった大鹿魔獣とほとんど変わらない大きさだった。
解体してアイテムボックスに放り込む。
そこからは時間の許す限り石を掘り出し、岩をくりぬきって具合に
集めて行く。
飛翔魔法で何度も飛び回ってドンドンと回収して行く。大鹿魔獣は
石回収の合間に5頭ほど狩った。
ミスリルなどの塊もあったので探査の魔法で地中からも合計100
kg以上は掘り出した。
宝石系は前回の場所の方が多かったが、鉄・銅・金・銀・ミスリル・
プラチナなんかの鉱石系はこっちの方が多かった。大量にあったの
で全部総ざらいで持って行く。
この前以上の300トンぐらいあればしばらく大丈夫だろうと岩場
551
を後にキャンピングバスへ転移する。
まずはトイレを済ませて運転席の方に階段を登っていって声をかけ
る。
﹁ただいまー。今帰ったよ﹂
﹁しん君お帰りなさい。ほら、ちょうど良かったよ。あそこで午前
の休憩をとるみたいよ﹂
アイリが指指す方向を見ると荷馬車がたくさん駐車できるような平
らな場所があって、そこにみんな荷馬車を停めて休憩テントに入っ
ていってた。
運転しているクラリーナが指示された駐車場所にキャンピングバス
を停める。
﹁クラリーナお疲れ様。さぁ、みんな休憩に行こう﹂
ミーの声を合図にキャンピングバスを降りて自分たちの休憩スペー
スに入っていく。
屋根だけのテントの下でクッションの上に座り、のんびりハーブテ
ィーを飲む。
荷馬車に乗ってた護衛の人たちは凝り固まった体をほぐし準備運動
を軽くしてから御者の交代にいった。
今まで馬に水や岩塩を与えていた御者役の護衛の人達が代わりに休
憩をしにきてハーブティーを飲みだした。
草原を渡る風が心地良い。草の青臭い風が気分を落ち着かせていく。
護衛隊の隊長が俺のところに来て俺の向かい側の空いてる場所に座
り護衛の話をしてくる。
﹁やぁ、早乙女君休憩中に仕事の話で済まないがいいかな?﹂
﹁はい、どうぞ﹂
﹁では・・・ここから先が、魔獣の警戒区域に入る。主な魔獣はグ
リーンウルフと銀大熊だな。で、これは早乙女君へのお願いなんだ
552
が、早乙女君には上空の警戒を頼みたい。我々は地上の銀大熊とグ
リーンウルフには対処も退治も可能だが、ワイバーンは君たちで無
いと不可能だし、我々には警戒する上空を眺めていても発見できな
いんだ。君達の探知能力に期待することしかできない﹂
﹁大丈夫ですよ。任せてください﹂
﹁あともう一つ。コレは不確定な情報なんだが大草原に﹃草原の暴
風﹄の生き残りがいるという噂があるんだ。君が退治したのが14
8名で確認が取れなかったのが30名近くいたんだ。幹部3人の死
亡確認も出来ていない。大草原から逃亡したって噂もあるし、魔獣
に骨まで食われたという噂もあって不確定情報なんだ。バイド様か
らは不確定だから君に言わなくてもいいと言われているが、護衛任
務につく上で必要な情報だと俺は判断し君に伝えさせてもらった。
盗賊が馬車を襲う場合は後ろから襲うパターンが多いから、君には
ワイバーンと盗賊襲撃の警戒をお願いしたい﹂
﹁わかりました。お気遣いありがとうございます。知ってると知ら
ないでは警戒の仕方が変わりますから、ありがたい情報をいただき
ました。盗賊もワイバーンも退治で良いんですよね?捕獲だと逃す
恐れがありますので﹂
﹁退治でお願いしたい。生きたまま捕獲しても今の我々では運ぶ手
段がない﹂
﹁わかりました。では遠慮なく退治させていただきます﹂
﹁では、こちらからの話は以上だ。早乙女君、ついでに何か聞きた
い事や疑問とかはありますか?﹂
﹁いえ、今のところは大丈夫です。気になるのは・・・生き残りの
盗賊が一発逆転を狙う場合って、休憩所とかにしませんか?待って
れば必ず獲物がきますし。それにあいつらって気配を消すのが上手
かったですよ。警戒レベルは上げておいた方がいいと思います﹂
﹁うーん・・・それは確かにな。わかった。昼と午後の休憩所への
先発隊に周囲の警戒レベルを上げておくように指示してみるよ。こ
れは良い意見をもらったな。では先発隊が出発する前に話しに行っ
553
てくる。早乙女君達は時間までゆっくりしててくれ、じゃあよろし
く頼む﹂
そういって隊長が立ち上がったので、俺も立ち上がりガッチリと握
手を交わす。
そうかぁ、全滅しただろうけどもしかしたら生き残りがいるかもし
れないってビッタート卿も言ってたような・・・。
シルバードも、もうちょい頑張って盗賊狩っとけよ。
554
護衛依頼2日目の午前。アイリとの話っす。︵前書き︶
7・7修正しました。
555
護衛依頼2日目の午前。アイリとの話っす。
午前の休憩を終えてから動き出すバイド村荷馬車船団。最後尾を走
るキャンピングバス。
護衛隊の隊長と話したように警戒レベルは少し上がってる。全体的
の荷馬車船団の速度を少しだけ上げたようだ。
午前の休憩まで俺は、まったく運転してなかった。
だから今は俺が運転している。
ミーとクラリーナは下のキャビンスペースで寛いでいる。
運転席にアイリが登ってきた。
先ほどまでキャビンスペースで白熱したじゃんけんで順番の最初を
勝ち取ったようだ。
運転席でイスを置くスペースはなくて狭いから、午前の休憩後に出
発してからはじめは全員ここにいたのだが立ちっぱなしになってし
まうので、じゃんけんで20分ごとの交代で1人ずつにしたのだっ
た。
運転席の両サイドにはクッション付きのバーが出ており、軽く腰掛
けれるようにはしてあるが長時間はきついだろう。
﹁お、最初はアイリが勝ったのか﹂
﹁うん。おまたせ。じゃあ、しん君予定通り私が先に運転するよ﹂
﹁おう、頼む﹂
俺は運転席から立ち上がってアイリと交代した。
﹁じゃあ、10分交代ね。それで、しん君・・・このイーデスハリ
スの世界はどうかな?楽しんでる?﹂
﹁楽しいかどうかって聞かれたら、間違いなく楽しいな。何しろ何
の取り柄もなかった自分が、武器は何でも使いこなせて、魔法で何
でも出来るようになってるんだからね。魔法なんてまったく存在し
556
ない世界から来てるのに﹂
﹁しん君のいた世界って魔法はなかったの?・・・日本って言って
たっけ?﹂
﹁日本だけでなくて俺が元住んでいた世界には魔法はなくて科学っ
て学問が進化してたな﹂
﹁科学?学問?﹂
﹁そうだよ、科学っていう名前の学問。膨大な計算式によって成り
立っていて、計算すると誰でもわかるように証明するっていう学問
だよ。たとえばこのイーデスハリスの世界にも昼と夜がある。何で
昼と夜に分けられてるかわかる?﹂
﹁お日様が昇って昼間。お日様が沈んで夜﹂
﹁うん、そうだな。でも夜の星を見てると普通の星はお月様のよう
に動いている、でも動いていない星があるのは知ってる?﹂
﹁北極星?﹂
﹁その通り、じゃあ何で北極星は動かないのに太陽や月は動いてる
の?﹂
﹁魔法?神様の力?私にはわからないわね﹂
﹁そうだな。俺が住んでいた元の世界でも科学という学問が発展す
る前は同じように考えられていたよ。でも、元の世界には魔法なん
てないしね。物事には決まった法則によって成り立っているという
ことを証明する計算式が科学という名前の学問。﹃なんで、コレは
こういう風になるの?﹄って疑問が科学という学問のスタートだ。
魔法!魔力!というのがないからね。気が遠くなるような膨大な実
験を重ねて計算を証明するんだよ﹂
﹁うーん。凄いのね。難しすぎてよくわからない﹂
﹁ああ、俺も同じ。凄いのはその計算式が合ってるって証明した先
人達であって俺じゃないから﹂
﹁そうなんだね。さっきの話に戻るけど、何で動かない星があるの
?﹂
﹁それを証明するにはまず、根本的な考えが間違ってるんだ。空に
557
浮かぶ星は実はみんな動いてない。動いてるのは俺たちのほうなん
だ﹂
﹁え?どういうことなの?﹂
﹁アイリは俺たちは平らな地面の上になっていると思う?丸い地面
の上に立ってると思う?﹂
﹁平らな地面に・・・﹂
﹁うん。見た目は一瞬そう思うけど、そこも間違っている。ここか
ら草原が見えるだろう?ここは見晴らしがいいからね。地面の形は
草でわからないけど遠くの地平線を見てごらん。遠くの地平線の形
は丸くなっていないか?。アイリは海を見たことがあるんだよな?
今と同じように地平線は丸くなかったか?﹂
﹁そうね!丸かったわね﹂
﹁そう、俺たちは平らな板の上にある地面のうえに立ってるんじゃ
なくて、月や太陽と同じような球体の上に立っているんだよ。それ
も自分が平らな地面と錯覚するほどの大きい球体﹂
俺は魔法でアイリの目の前に球体の氷の塊を浮かべた。
﹁こういう球体をこうやって回転させると、軸が出来てるよな?﹂
これも魔法で軸の部分に鉄の棒を突き刺す。
﹁球体は回っていても軸の部分は回転しているだけで軸の方向は動
かない。動かない軸の方向にあるのが﹃北極星﹄なんだよ。そうや
って﹃空の星は動いていない。動いて回ってるのが自分たち﹄とい
うのを証明するのが科学って学問なんだ﹂
﹁なんか、自分の中で決まっていた物事が全部否定された気分にな
るわね﹂
﹁そうだよ。否定することが出来ない残酷な事実のみの積み重ねで
科学は成り立つから、結果は残酷になってしまうこともある。科学
を否定するのも科学で証明しないといけないからね﹂
﹁そうなんだねぇ。ありがとう。色々教えてくれて。そろそろ交代
時間ね﹂
﹁ああ、俺が運転するよ。アイリはどうなんだ?俺と結婚して不満
558
とかはないか?﹂
﹁今のところコレっていう不満はないわね。あ!1個ある。セック
スで失神させられて朝起きたらそのまま裸っていうのはちょっと恥
ずかしい﹂
﹁だって俺、みんなのパジャマ持ってないからな。着替えさせられ
ないよ﹂
﹁それなら、しん君が私たち全員の分のパジャマを作ってよ。しん
君が自分好みのモノで構わないわよ。エッチなパジャマでも大歓迎﹂
﹁それは楽しそうだな。よし、今度はそうするよ﹂
﹁それと私たちの普段着もついでに作ってよ。しん君の好みの服が
わからないって私もミーもクラリーナも悩みのタネなんだよ﹂
﹁皆悩んでたの?﹂
﹁それは愛する人の好みのタイプでいたいっていう女心。どんな服
を着た私たちの姿が見たいっていうのが、しん君の場合はまったく
わからなかったから皆で悩んでいたのよ。どんな服を着ても嬉しそ
うにニコニコ見てるし﹂
﹁それは申し訳なかったな。この世界にどんな服があるのか知らな
かったからね。俺は﹃この人はこの格好が一番似合うからこの格好
じゃないとダメ﹄ってのが昔からまったくないんだ。むしろ好きな
女の色んな表情やいろんな格好を見てみたいと思ってるよ﹂
﹁わかった。私たちも頑張って色んな服を探してくるから、しん君
も私たちにこの世界にない服を着させて﹂
﹁それも楽しそうだな。わかった。考えておくよ﹂
そういってアイリは下のキャビンスペースに降りていった。そろそ
ろ交代の時間のようだ。
しかし・・・嫁からコスプレの許可をもらっちゃいました。
夢が広がるな。何からいこうか?。
559
護衛依頼2日目の午前。今度はクラリーナとの話っす。︵前書き
︶
1・27修正しました。
560
護衛依頼2日目の午前。今度はクラリーナとの話っす。
次に運転席に上がってきたのはクラリーナだった。
﹁おおぅ! 白熱したじゃんけんに終止符を打ったのはクラリーナ
か﹂
﹁はい。しん様。私がミーさんにトドメを刺したんです﹂
﹁何度も﹃あいこでしょ﹄って声が聞こえてて白熱してるのがわか
ったよ﹂
﹁チョキでした。私のチョキが勝負の明暗を分けたんです!﹂
そんなに力を込めてチョキをしなくても・・・手がプルプルしてる
ぞ?
﹁ただの順番を決めたじゃんけんに勝っただけだよ。意外とクラリ
ーナは負けず嫌いなんだな﹂
﹁しん様に対してだけだと思います。・・・ミーさんとお互い必死
になってじゃんけんしてました。何か必死になりすぎてて恥ずかし
いですね﹂
そういって少し顔を赤らめるクラリーナが可愛い。
﹁ふふっ、クラリーナは何か俺に不満とかはないのか?﹂
﹁私がしん様に不満ですか? ないですね﹂
﹁即答かよ。妻に不満がないってのは夫としては喜ばしいことだけ
どな。まぁ、これを機会に俺に聞いてみたいことでもいいよ﹂
﹁聞きたいこと・・・それなら、ありました。しん様は私に不満は
ないですか? 私は・・・しん様に﹃結婚してください﹄ってお願
561
いした時、私の頭で考えていたことの半分以上は打算でした。しん
様はダンジョンで死んだ元結婚予定の人達と違って優しそうだった
し、お金もたくさん持ってそうだったし・・・あのときの私には帰
る場所がなくて、両親からも捨てられて・・・見ず知らずの私を善
意だけで助けてくれたしん様に逃げ込んだんです﹂
﹁うーん。俺は結婚っていろんな形があると思ってる。大恋愛して
長い時間をかけて恋と愛を育んだ結婚だけが夫婦の形って決まって
る訳でもないしなぁ。結婚しておしまいって物語じゃないんだから、
結婚後に愛を育んでも良いと思うよ。それに俺だってクラリーナの
ことを肉欲で見てる部分があったよ。クラリーナと結婚したらこの
体は俺のものだ! って考えてたからな。・・・俺の方が酷くない
か? エロ魔人じゃねぇーか﹂
﹁うふふふ。大丈夫ですよ。私にも不思議だったんですけど、しん
様にお風呂で少しエッチな目で見られて凄く嬉しかったんです。嫌
悪感がまったくありませんでした。逆にしん様が私から目をそらさ
れて、アイリさんやミーさんを見てるしん様を見ると﹃スタイル良
くてうらやましい﹄って悔しい気持ちと﹃やっぱり私じゃ・・・﹄
っていう悲しい気持ちになりました﹂
﹁そりゃそうだろう。結婚したばかりの2人の嫁が裸で左右にいて、
正面のクラリーナの裸ばかりジロジロ見てたら頭がおかしいって﹂
﹁私もホントに不思議な感覚だったんです。お風呂で興奮されてる
しん様の男性自身を見て﹃私の裸で欲情できるこの人なら結婚でき
るかも!﹄って事しか考えられなかったんですから。だから・・・
私は打算と肉欲にまみれたエロ魔人ですね﹂
﹁似たもの夫婦ってことか﹂
﹁はい。おんなじです。そういえば・・・ダンジョンでしん様に助
け出された後、教会に行ってシスターに事情を話して、私の中を洗
浄と浄化をしていただいたのです。洗浄してくれた時に言われたの
562
ですが・・・普通は複数の人達に何十回も無理やり強姦されている
のに、ここまで綺麗な状態のを見たことがないって、そうシスター
に言われたんです。しん様なら理由がわかりますか?﹂
﹁ああ、そういえばクラリーナには事情を全部話してなかったな。
今から全部説明するよ﹂
﹁え? 事実と違うのですか?﹂
﹁事実っていうか、隠してたことがある。クラリーナを救出に行っ
たとき俺たちは君達のチームは全員死んでると思っていたんだ。全
部の死体を確認していたわけじゃなかったけどね。俺たちが到着し
たときはオーガ11体、オーガナイト3体、オーガナイトロード1
体の計15体に君たちーチームの人間はオーガ集団が踏みまくって
いたんだよ。それでオーガをすべて殺してからオーガのドロップア
イテムを拾っていたら、クラリーナが声を出してそれで君がまだ生
きてるってことに気付いたぐらいなんだ﹂
﹁・・・え?﹂
﹁その時の君の状態は・・・骨折30箇所以上の複数、内臓破裂が
4箇所あって・・・まぁホントの死ぬ寸前だな。クラリーナから声
が出たのも不思議なぐらいで、あと10秒ほっておけば間違いなく
死んでる。それでとっさに﹃エクストラヒール﹄を使って怪我を完
全復活させたんだ。でも流れ出た血は戻らないから、ハイポーショ
ンを君に俺が口移しで2本飲ませた。俺がエクストラヒールを使え
るってことは公表したくなかったから﹃ハイポーション2本で助け
た﹄って報告したんだよ。実際に最後にハイポーション2本を使っ
て君を助けているんだから、たとえ真偽官の目でも見抜くことは出
来ない﹃ウソではない真実﹄だからね﹂
﹁・・・そんなことがあったんですね﹂
﹁ああ、今まで隠しててゴメンな。クラリーナに伝えるのを忘れて
いたよ﹂
﹁私が今、生きてるのは正真正銘、しん様のおかげなんですね﹂
563
﹁そこまでたいしたことじゃないよ。君の命をアマテラス様が救お
うとなされて俺をあの場所に送り込んだんだろうな﹂
﹁でも私はシスターに﹃綺麗ですよ。どこも傷付いてませんよ﹄っ
て言われて嬉しかったです。あ、ちょっと時間が過ぎちゃいました
がそろそろ私が運転する番ですよ﹂
﹁うん。わかった頼むよ﹂
クラリーナとキャンピングバスの運転をかわる。
﹁しかし、何十回も強姦されていたとわなヵ・・・ひっでぇーヤツ
ラだな﹂
﹁アイリさんとミーさんに聞いたんですけど、女の子が大人になる
ときって凄く痛かったって・・・私は強姦されてるのに、全然痛く
ありませんでした。・・・あの人達、しん様のように大きくなかっ
たんです。半分もなくて、長さも太さもこれぐらいでした﹂
クラリーナが人差し指を立てた。
﹁うそ! それはそれは・・・﹂
﹁ですので、しん様と初めてのときにしん様に指を入れられてビク
ってしたのは、思い出してしまったんです。ダンジョンでチームの
人達が私の中に入れてすぐに出して、交代してすぐにまた・・・っ
てことを思い出しちゃったんです﹂
﹁たしかにクラリーナは狭くて指一本でもきつかったしな﹂
﹁凄く早かったのは覚えてます。ガクガクって動いたと思ったらビ
クビクって出して、すぐに交代してまたガクガクって・・・彼らに
出されて穢れてしまったんだと自覚しました。今はしん様に綺麗に
していただきましたので穢れも消えました﹂
﹁いやぁー、俺の方が汚いかもよ。エロ魔人だし﹂
﹁私もエロ魔人なんでまったく問題ないですよ。私は親に捨てられ
564
てしん様の元に逃げ込んだんですけど・・・今はその幸運をとても
嬉しいと考えてます。両親と弟の前で宣言したように幸せいっぱい
ですね。毎日幸せが増えていってます﹂
﹁そうだな、俺達にはこれから永遠って時間がある。これからも幸
せをたくさん増やそうな?﹂
そういって運転するクラリーナの横顔に俺がチュッとキスをした。
﹁しん様。今、また幸せが増えました﹂
2人でキャッキャウフフをしているとミーが上に上ってきて声をか
ける。
﹁はいはーい、お邪魔虫が来ましたよ。クラリーナ、じゃんけんで
勝ったのは順番だけで時間の延長はございません﹂
﹁あ、ミーさんゴメンなさい。替わりますね﹂
慌ててクラリーナがキャビンスペースに降りていった。
恥ずかしかったみたいだな。
空いた運転席にミーが座る。
565
護衛依頼2日目の午前。最後はミーとの話っす。︵前書き︶
1・27修正しました。
566
護衛依頼2日目の午前。最後はミーとの話っす。
﹁うふふっ、お邪魔して悪かったかしらねぇ∼﹂
﹁こらこらミー、何言ってんだよ。新婚ホヤホヤで新妻を邪魔者扱
いする旦那はいないって﹂
そういってミーの耳にチュッとキスをした。えへへっと喜ぶミー。
チョロ・・・
﹁なんか言った?﹂
﹁イエ、ナニモイッテマセン﹂
﹁んもー、なんで急にカタコトになるのよ。・・・まぁいいや。だ
けどクラリーナもしんちゃんとの結婚は打算だとはね﹂
﹁も?﹂
﹁そうだよ﹃も﹄だよ。私﹃も﹄アイリ﹃も﹄しんちゃんには打算
で近づいた部分は間違いなくあるよ。知り合いで冒険者の男がつい
最近結婚したんだけど、私達と同い年の男なんだけど奥さんが17
歳なの﹂
﹁ロリコンか﹂
﹁そうかもねぇ・・・でもそいつがさぁ、私とアイリに奥さんを紹
介するときに﹃やっぱ、女は若いのに限る。会うやつ会うやつに若
返ったな! なんて言われるよ。あっはっは。アイリとミネルバも
若い男と結婚すれば少しは若返れるかもな!﹄って暴言を言ったの
よ。流石にムカついて殴ろうと思ったら﹃女に向かって何てこと言
うの!﹄って奥さんにボッコボコにされてたけど、それでもそいつ
は嬉しそうに殴られてるの﹂
﹁ロリコンのドMか? もはや手遅れだ。医者に見離されるレベル
567
だな﹂
﹁ま、そいつの特殊な性癖はどうでもいいんだけど。やっぱり私も
アイリも悔しくてね。そんな最中にカタリナ母さんの騒動が起きて、
しんちゃんがサクッって解決してくれてホッとしたら、目の前の恩
人が私好みの童顔な男がいたの﹂
﹁お、おれ?﹂
﹁そう。すごく若いのにおやっさんの店の裏庭訓練場で見た戦闘力
は凄まじいし、サクッて簡単に私達の問題を解決しちゃうぐらい頭
もいいし、騙されたとはいえ1泊20万Gもするスイートルームに
3泊も出来ちゃうような経済力もあるしって、そりゃもう必死よ必
死。おかみさんにも助けられてしんちゃんを確保できたときはマジ
で涙でそうなほど嬉しかったわよ﹂
﹁確保って・・・﹂
﹁そう、必死だったからね。後でアイリにも聞いたけど同じ事考え
てたって。目の前の若い男を逃がしてなるものか! って考えてた
みたいよ。若くて魅力的な男を大人の女性のテクニックでメロメロ
にして、私も若返ってあの男に自慢してやるって計算してたのよ。
ここまでは﹂
﹁ここまで?﹂
﹁新婚前夜に3人でお風呂にはいって、しんちゃんのマッサージを
受けて快感で天国にいかされてしまうまでは、色々計算して頭の中
で微笑んでたよ。あのマッサージで私の中にあった計算とか何もか
もがドロドロにとかされて逆にメロメロにさせられちゃった。だけ
ど今でもなんだけどしんちゃんにメロメロになっている自分が愛お
しいほどに誇らしくて、たまらなく嬉しいの。ドンドン好きになっ
てるの﹂
﹁お、おう﹂
﹁あ、そろそろ運転かわって!﹂
﹁お、おう・・・時間過ぎてたようだな、ありがとう、嬉しいよ。
568
でも、それならミーとアイリに若い男を作れっていった冒険者に自
慢しにいったほうがいいんじゃない?﹂
﹁それはもう、終わってるのよ﹂
﹁・・・え? いつ?﹂
﹁初めてしんちゃんとアゼット迷宮に行ったときに歩いていったよ
ね?。 その時に﹁若い男のエキスを吸い過ぎで若返り過ぎてる﹂
って言ってた男がいたでしょ?﹂
﹁ええっ? あぁ・・・いたな。言った後で後ろにいた大きな獣人
女性に蹴られてた人だよな?﹂
﹁そうそう、アレが自慢してた奥さんなんだ﹂
﹁あれが? ミーとアイリの同い年って28だよな? 40ぐらい
いってる先輩冒険者さんだと思ってたよ﹂
﹁そうなのよ。結婚当初は若返ってるなんて言ってたけど、どんど
ん老けていってるように思うんだよね。奥さんは狼の獣人で彼女達
は夜が激しいっていう噂だし、獣人って150年以上生きるのに・・
・どうなっちゃうのかな?﹂
﹁どうなっちゃうもなにも、本人が選んだ道だしな。﹃ガンバレ﹄
って応援するしか出来ないな・・・奥さんに﹂
﹁ぶはは、しんちゃん! 急に変なこと言わないでよ、もぅー﹂
﹁なんなら本でも買ってあげれば? ﹃簡単にマミーになる方法﹄
とか﹃ゾンビの楽しい生き方﹄とか?﹂
﹁死ぬ前提じゃん!﹂
﹁違うって﹃死んでもガンバレ!﹄ってこと﹂
﹁あははは、酷過ぎるけど、面白くて笑える﹂
﹁もしくは奥さんに﹃いやぁ、旦那が若いとピチピチでたまりませ
ん。やっぱ男は若いのに限る﹄っていったほうが生き残れる可能性
がある。いや・・・その道しか残ってないかもな﹂
﹁しんちゃん! マジメな顔で運転しながらへんなこと言わないで
569
よ﹂
﹁ウナギとか山芋なんかを差し入れするしかないな・・・奥さんに﹂
﹁もぅー、しんちゃんに言わせると早死にしか残ってないよ﹂
﹁仕方がない・・・俺は元日本人だから。日本で28歳で17歳の
嫁さんをもらったっていうと﹃死ねばいいのに﹄とか﹃ロリコンは
滅べ﹄って間違いなく言われるよ。親しい人からは目を見てハッキ
リ言われるよ﹃よう、ロリコン。捕まる様な事だけは今後も絶対に
するなよ。親友からの真剣で真面目な忠告だ﹄って絶対言われるよ﹂
﹁じゃあ、しんちゃんも一緒じゃん! ていうか、しんちゃんのほ
うが年の差はあるよ。しんちゃん元35歳でしょ? クラリーナは
18歳よ!﹂
﹁フッフッフ、年の差が問題なんじゃない﹃相手が17歳﹄ここに
問題があるんだよ、フッフッフ﹂
﹁どういうこと?﹂
﹁日本では女は16歳から結婚は出来る。でも世間の認識として1
8歳以下は子供って括られてる。この18歳以下ってのが重要なポ
イントなんだよ︵ウソ︶﹂
﹁何で真面目な顔で語って、ウソって自分でも言ってるのよ﹂
﹁まぁ、ここは聞け。﹃18歳以下は子供﹄だから、男が50過ぎ
て18歳の奥さんをもらうと﹃若い女が好き﹄って世間の認識にな
るんだよ。﹃男の年齢が25以上で、なおかつ18歳以下の女に興
味がある﹄これがロリコンと呼ばれる原因になるんだよ︵大嘘︶。
世間一般が﹃ロリコン﹄という定義に当てはめるのはな﹂
﹁なんで、しんちゃんは時々クソ真面目な顔でよく意味がわからな
いことを熱く語ってるのよ。しかもまた自分で︵大嘘︶とか言って
るし﹂
﹁しん君ってこういうことは真面目な顔して語るよね。﹃おっぱい
に貴賎はない﹄ってことも熱く語ってたし﹂
﹁私はしん様の真剣な顔は大好きです。横顔もカッコ良いです﹂
570
﹁いやクラリーナ、真剣な顔がカッコイイのは認めるけど、言って
ることがほとんど理解できないのが問題なのよ﹂
﹁ミー、凄くわかるよ。クラリーナが言う様にカッコイイのもわか
るの。でも言ってることがわからないのよ。何でしん君はこんなこ
とで熱く語っているのか、理由もサッパリわからないことが問題な
のよ﹂
・・・ん? 気付いたらアイリとクラリーナまで運転席に来ていた。
﹁あれ?﹂
﹁アレじゃないよ。そろそろ昼の休憩する場所に到着しそうだよ!
ほら、しんちゃん。あそこ﹂
おっと、また我を忘れて熱くなって語ってしまったな。
昼の休憩場所が見えてきた。
昨日の昼食はハンバーグカレーだったけど、今日のお昼ご飯は何だ
ろう。
571
俺とマリアによる、るびのの成長観察っす。︵前書き︶
1・17修正しました。
572
俺とマリアによる、るびのの成長観察っす。
お昼の休憩場所に到着する。
ここはかなりの広さがあるので荷馬車が30台以上停まっているの
に、まだまだ余裕がある。
将来的にはここに建物を建てて、定期輸送の荷馬車用の休憩場所に
したいのだろう。
荷馬車駐車場で指示された場所に停車する。
指示してくれた人がそのまま俺達夫婦を休憩場所の屋根だけテント
まで案内してくれた。
まぁ俺達のキャンピングバスが最後尾なんだから、彼もこのまま休
憩になるんだろう。
昨日はハンバーグカレーだったから今日はカツカレーかな?
って思っていたら、今日はハンバーグ丼だった。
思わず﹃そっちかよ﹄ってツッコミを入れそうになったが何とか我
慢できた。
どうしてここの国のメニューって変化球が多いんだろう。
ハンバーグの上に乗ってる大根おろしとソースが想像以上に美味し
かったので余計に悔しく感じてしまう。
食後はハーブティーを飲んでマッタリして休憩。
今回の護衛任務中に毎回のようにハーブティーが出てくるが毎回味
が違う。
ハーブティーが入っているポットごとに味が違っているようだった。
まぁ、毎回同じだったらいくら美味しくても飽きるし、ハーブの種
類なんて数え切れないほど周りの草原に生えてる。
573
今飲んでるハーブティーの味はあまり美味しくなかった。俺には甘
い系のハーブティーは合わないな。
アイリ・ミー・クラリーナと毎回、回し飲みをしているが・・・今
回はミーのハーブティーが1番俺の好きな味だった。
護衛の人が慌しく交替している。
今まで休憩していた護衛が馬の世話を引継ぎに行って、今まで世話
していた護衛は今から食事休憩だ。
午後の休憩場所へ先発隊が出発していく。
俺は近くに座っていた職人さんたちと話をしていた。
今回の職人さんたちは合計100人の職人さんたちだけど、そのう
ち90人が石材の職人さんたちだった。
前回の開拓村の失敗は銀大熊に木製の門と塀の建築中の部分を破壊
されての失敗だったので、今回はまずはじめに石材の職人を集めて
門と塀を高さ4m以上にして石材で作って強化する。
今までの塀の場所よりも外側に作って大幅に村の面積を広げる計画。
その後で村の住民の家屋と村の外に田んぼや畑を作っていくんだそ
うだ。
その石材が俺達夫婦でたったの2回で運んでしまうので、今回は皆
が20日ほどの契約で一気に作り上げるつもりらしい。
門や塀は10日ほどで出来る予定だが、そのまま石材の職人さんた
ちは10日ほどかけて建築予定の住宅の基礎部分を石で作るから2
0日の契約になったって笑ってた。
ゾリオン村に避難中の職人さんたちや新たに雇われた大工さんたち
が、明後日に俺達が護衛してまたバイド村の住宅建築で働くことに
なってるようだ。
住民は20日後をめどに続々集まってくるが収穫が出来るようにな
574
るまでは食事などは住民も職人もみんなが配給制になる。
そんなことを色々教えてもらっていた。
知らないことを知るってことは怖いことではあるけど物凄く面白い。
職人さんが続々出発していって、俺達も順番が来たのでキャンピン
グバスを発進させる。
食後のテントなどの全ての後片付けは先発隊の後片付け班が担当だ。
午後の休憩後はキャンピングバスの運転を嫁達に任せて昼寝をする
ことにした。
今朝はバイドの早朝訪問で変な中途半端な時間に起こされちゃった
からな。
ファーストクラス仕様のシートを倒して、まどろみの中におちてい
く。
30分ほどの仮眠でかなりスッキリできた。
嫁達とキャンピングバスの運転を替わって、今度は俺が運転手の番
だ。
嫁達は昼寝をしにキャビンスペースに降りていった。
ヒマだったのでマリアに念輪でるびのの状況を確認する。
﹁マリア、今は大丈夫か?﹂
﹁はい。ご主人様。今は・・・るびのはお昼寝中ですね。相変わら
ず寝言でムニャムニャ言ってます﹂
﹁フフフッ、その姿は想像できるな。それで狩りの成長具合とかは
どうだ?﹂
﹁さすがは聖獣って言ったところでしょうか。オークの10頭以上
の群れも、もはや相手になりませんね。ワイバーンが相手でも狩る
ことは不可能ですが逃げることは容易です。ジャンプ力はご主人様
575
がおっしゃられた炎虎ほどではありませんが10mぐらいは飛べる
ようになってますね﹂
﹁るびのの対集団戦はマリアから見て、もはや教えることはないっ
てレベルになってるってことか?﹂
﹁はい。後は岩場での狩りの訓練と、ワイバーンなどの空を飛ぶ相
手の訓練が終われば、もはやこの大陸では敵がいなくなりますね。
魔獣が全部エサになりますので﹂
﹁そうだよなぁ、大きくなるペースが異常だもんな。毎食5kg以
上は肉や骨を食ってるしな﹂
﹁今のるびのの体重は25kgぐらいになってますので、今後は早
乙女邸内で過ごすことが困難になってくると思います﹂
﹁そうだなぁ、早乙女邸の裏庭にガレージみたいな、るびのの部屋
を作った方がいいな。うん、るびのとも相談しておかないとな。検
討しておくよ。ありがとう。そのほかは?﹂
﹁ご主人様が使われる﹃剣客﹄のマスタースキル﹃天駆﹄と似たよ
うな事がるびのにも出来るみたいですね。明らかに空中を足場にし
て飛び跳ねて狩りをおこなっています﹂
﹁マジでか!﹂
﹁はい。るびのに直接聞いた限りでは、今は2・3歩が限度みたい
ですけど・・・私の予想ではこれは将来は空を走りまわれるように
なるのではないかと﹂
﹁うーん、マリアがそう予想するなら、そうなりそうだな。ちょっ
と白虎の情報が足りなさ過ぎるようだ。前回の白虎を討伐した転生
者って俺の記憶の中にいない人なんだよな。もう少し情報があれば
るびのの将来設計も考えやすいのになぁ。まぁ引き続き観察してお
いてくれ﹂
﹁了解しました。お任せください﹂
﹁じゃあ、何かあったら念輪で連絡を頼む﹂
﹁了解しました﹂
576
これで念輪を切った。
しかし、るびのは空を駆け回れるようになるのか・・・さすが聖獣。
さすが俺の息子︵バカ親︶。
るびのの外部屋も作らないとな。大きさはガレージぐらいあったほ
うがいいだろうと思う。
ガウリスクぐらいの大きさなら外部屋でも大丈夫だけど、キャンピ
ングバスぐらいになったらどうしよう。流石に一緒には暮らせない
なぁ。
今朝にはゴールデンレトリバーぐらいの大きさになってたし。
大きさも含めてるびのがどこまで成長するのか情報が全然ない状態
での育児はキツイ。
お風呂も今はマリアが世話係としてるびのを毎日入れてるけど、外
部屋になったらどうしようか。
ガレージサイズの外部屋に温泉でもひくか?
でもアイツ風呂で寝てしまいそうだしなぁ・・・。
それなら地下訓練場の師匠ゴーレム達に世話でもさせるか?
でもあいつら戦闘専門で世話は出来ないし。
いっそのことるびのの世話専門のメイドゴーレムでも作るか?
・・・いくらなんでも過保護にし過ぎって嫁達に説教されそうだ。
そんなことを考えていたら、アイリが運転交替をしにきた。
休憩が終わってたらしい。
577
そういえばこの世界に来て、まだ釣りしてないなって話っす。︵
前書き︶
7・7修正しました。
1・17修正しました。
578
そういえばこの世界に来て、まだ釣りしてないなって話っす。
キャビンスペースに降りて自分のファーストクラス仕様のシートに
座る。
俺の場合・・・このシートって誰が決めた訳でもないのになぜか座
る場所もシートも﹃自分の場所﹄﹃自分のシート﹄ってなぜか専用
になってる。
どこでも自由なんだけどなぜか俺の場合決まった場所に座ってしま
う。
そこに嫁が座っていると﹃あ、俺の場所・・・﹄なんて思ってしま
うのが自分でも意味がわからない。
嫁も俺がいつも同じ場所の同じシートに座っているので、自然と嫁
達も決まった場所に座るようになってしまった。
アイテムボックスからコーヒーポットを出してマグカップに注ぎコ
ーヒーをすする。
コーヒーの匂いでミーとクラリーナも目を覚ました。
﹁しんちゃん、私にもコーヒーちょうだい・・・あ、アイリにも持
って行ってあげるから2杯お願い﹂
﹁私にもください。ありがとうございます﹂
アイテムボックスからマグカップを3つ取り出してコーヒーをそれ
ぞれ注いで渡す。
ミーは自分とアイリの分にミルクを少しだけ入れて2つもって運転
席の方にあがっていった。
クラリーナはカップの半分ミルクを入れてる。
579
クラリーナを連れてアゼット迷宮アタックをしたときにミルクさん
を狩りまくったおかげで、早乙女家のミルク事情は改善された。
1人100リットル以上持ってるのだ。
セバスチャンやマリアにいたっては200リットル以上は持ってる。
練乳の為に嫁が大興奮で狩りまくったからな。
アイリとミーは俺と一緒でブラックでコーヒーを飲んでいたが、ミ
ルクが豊富に使えるようになった今は少しミルクを入れてコーヒー
を飲むようになった。
クラリーナはコーヒーじゃなくてカフェオレになってる。
ミーはそのままアイリと2人で運転をするようだ。
日本にいたときはグアテマラのコーヒーを好んで飲んでいたが、イ
ーデスハリスの世界に来てこだわらなくなった・・・表現が違うな。
こだわれなくなった。
全部がブレンドされていて﹃コーヒー﹄となっているので全部が混
ざってる状態だ。
袋ごとに味が違うし、モノによっては使用したコーヒー豆の分量ご
とに味が変わってくる。
これはこれで良いんだけど今までの環境との違いに中々ついていけ
てないな。
午前中に護衛隊の隊長から盗賊﹃草原の暴風﹄の生き残りの話を聞
いたのでフラグが立ってるのかと警戒レベルは上げてあるが・・・
なにもない。
平和でいいことなんだけどなぁ。
以前のゾリオン村からヨークルまでの荷馬車の旅のときと違って何
もないって訳ではないしな。
ワイバーンには襲撃されてるし。
沈黙したマッタリ空間の終了はクラリーナの質問だった。
580
﹁しん様は海って見たことはありますか?﹂
﹁何種類もの海を見たよ。漁港・砂浜・岩場。俺は魚釣りが好きだ
ったから、そのために色んな場所に行ったよ﹂
﹁へー、そうなんですか﹂
﹁季節・時期・潮の流れ・時間帯・天候・エサ・仕掛け。条件がか
わると釣れる魚も変わってくるからね。でも俺は﹃この魚を釣るた
めに﹄って狙った魚を釣るよりも、五目釣りのように﹃なんか釣れ
る﹄ってぐらいに曖昧な釣りの方が好きだったな﹂
﹁そうなんですね。でも何で狙って釣りをしないんですか?﹂
﹁狙った魚で満足できるサイズの魚を釣るためにしなきゃいけない
情報収集が面倒くさかった。しかも自然が相手だから、偶然とか幸
運だけで自分以上の成果を見せ付けられるって事が多々あるからね。
だけど﹃狙っていた魚が釣れなくても楽しい﹄って事が分かってか
らは、釣りの楽しみ方がガラリと変わったのは今でも覚えてるよ﹂
﹁そんなにかわったのですか?﹂
﹁釣れなくても﹃何もしていない自分﹄っていうのを楽しむように
なったんだ。仕事をしていると自分が機械の歯車になったと思うと
きがある。自分は誰か他の歯車をいくつか回している。自分も幾つ
かの歯車によって回らされてる。自分が回ってるのが楽しいときは
いいけど、機械だから周りに迷惑をかけることになるから回りたく
なくても回らなきゃいけない。そういった労働で溜め込んだ鬱憤を
何も釣れない釣りで晴らしてたんだ﹂
﹁何も釣れなくても鬱憤が晴らせるのですか?﹂
﹁考え方を根本的に変えたら晴らせるようになった。無意味で無駄
なことで貴重な時間の贅沢な使い方をしてるって思ったら劇的に変
わったよ。1日は24時間。これは国王だろうが乞食だろうが全員
一緒。寿命に個別の差はあるけど時間には変化はない・・・まぁ、
俺達には寿命って言葉がなくなっちゃったけどね。金では時間を売
り買い出来ないからね。このイーデスハリスの世界では魔法がある
581
から多少は変わってくるけど、元いた世界では皆一緒だった。そん
な貴重な時間を釣れない釣りの為に無駄に使ってるんだ、物凄く贅
沢な遊びだよ。しかもワザワザ遠くまで出かけて移動時間も無駄。
エサとか仕掛けとかを買ってるお金も無駄。この無駄遣いをする遊
びを知ったら労働の鬱憤なんて吹っ飛ぶよ﹂
﹁考え方が変わると物事の捉え方が大幅に変化するってことですか
?﹂
﹁そういうことになるな。それでも小さくてもいいから少しは釣り
たいから五目釣りって逃げ道も用意してる。小さくても良ければ簡
単に釣ることが可能な逃げ道だよ﹂
﹁ワザワザ逃げ道まで用意してることがしん様っぽいですね﹂
﹁くくっ、確かに俺らしい遊びだし、俺らしい言い訳だよ。面倒く
さいから逃げたって思う部分もあるしね。それにほとんどの女性は
魚釣りを嫌う。釣れる様な場所はトイレがないからな。男同士だと
関係なく野グソでも平気だけど、女性はそうはいかないからなぁ、
デートで釣りに1度行くと次からは断られる﹂
﹁確かに女性の場合は困ってしまいますね。では釣りは男性の友人
と?﹂
﹁そうだな。会社の同僚と何人かで年に何回かあちこち行ってたよ。
でも1年に1回ぐらいは自分だけで行ってた﹂
﹁しん様だけでですか?﹂
﹁うん、俺だけで釣りに行っていた。自分だけだと誰にも気を使わ
ないで、移動も好きな時に休憩して好きな時に寝て。誰にも気を使
わないで行動する。釣りに行く場所だって好き勝手に変えてた。こ
れも俺の鬱憤を晴らす方法だったからなぁ﹂
﹁じゃあ、私達はいつも一緒にくっついてるけど、邪魔になったり
しないの?﹂
アイリが運転席から降りてきて俺に質問をぶつけてきた。
582
アイリが降りてきたので変わりにクラリーナが運転席にのぼってい
った。
﹁邪魔に思ったことはまだないな。1人の時間が欲しいなら正直に
そういってるよ﹂
﹁そう、それなら良かった﹂
﹁みんなも時間が欲しかったら言ってくれよ?﹂
俺が大きな声でみんなに言うと、運転席の方からもわかったと声が
聞こえてきた。
﹁アイリが降りてきたってことは、そろそろ午後の休憩場所か?﹂
﹁うん・・・もうそろそろね。でも、キャンピングバスの運転席で
今まで運転しながら考えていたことがあるんだけど・・・しん君の
話だと銀大熊やグリーンウルフ、炎虎なんかの魔獣はこの街道の人
族を襲わせないようにした。後、襲撃がありそうなのはワイバーン
と盗賊・・・どちらも私達が警戒しなきゃいけない相手・・・ちょ
っと理不尽﹂
﹁まぁそういうなよアイリ。信頼できる人間で警戒しているって思
えばいいよ﹂
﹁それは確かにそうよね。護衛隊も少しレベルが低そう﹂
﹁ああ、アイリたちの知り合いの元冒険者のチームがBランクで、
護衛隊隊長のチームがCランク、それ以外は全部Dランクの人達だ
な。クラリーナと一緒で昇格試験絡みなら納得できるんだけど、彼
らはこのままバイド村に護衛として雇われる。元冒険者チームの面
々と隊長のチームのメンバーは苦労しそうだな﹂
﹁でしょうね・・・護衛隊隊長は荷馬車の護衛のベテランって感じ
がするわね﹂
﹁ああ、上手く荷馬車船団をコントロールしてると思う。国軍の軍
隊での移動経験が豊富なんだろうな。午前の休憩から昼食までは荷
583
馬車のスピードを上げて予定時間よりも早く到着してた。逆に昼食
後の移動はスピードを落としていた。到着時間を変えることで盗賊
襲撃をかわそうという意図だろう。俺達みたいに念輪で情報を集め
てない限りは有効な手段だと思うよ﹂
﹁しん君は盗賊から襲撃されるならどこだと思う?﹂
﹁ここの休憩場所ではないだろう・・・移動中もない。バイド村の
夜明け前に狙うよ・・・俺ならね。気も緩みそうな時間帯だからな。
盗賊の幹部が3人と手下が30人ぐらいだろ? 夜明け前の薄明か
りに炎とともに攻めないと反撃されて全滅がオチだな。失敗しても
挽回出来る余裕は今のヤツラにはないから、一発逆転狙いで全力で
攻めてくるだろう。今夜成功すれば大量の資材が手に入るだろうし﹂
﹁そういうことなら、今夜は早く寝るパターンでいくの?﹂
﹁いや、俺だけで今夜はバイド村周辺を探索してみるよ。夜なら飛
翔魔法で盗賊を捜して皆殺しを狙っていける。アイリたちはマリア
と組んでバイド村の防御にあたってくれ・・・睡眠は交替で頼む﹂
﹁了解。盗賊が増えてる可能性は?﹂
﹁それは充分に考えられる・・・今夜で全滅させておしまいにさせ
るけど。この村周辺に盗賊はいらないからな。ここは俺の縄張りだ。
魔獣にも了承させた。盗賊は皆殺しでいく﹂
﹁盗賊を捕まえて情報を吐かせなくてもいいの?﹂
﹁それは俺が依頼された仕事じゃないし・・・それに情報はゾリオ
ン村で捕らえたスパイの親玉と元護衛隊副隊長の方があるだろう。
今更末端の情報が増えても何の意味もないから、盗賊の死体をビッ
タート卿に届けておしまいだ﹂
そこでキャンピングバスが停車。
案内についていき午後の休憩場所に向かう。
584
午後の休憩中と、その後の話し合いっす。︵前書き︶
6・30サブタイトル修正しました。
6・30修正しました。
1・27修正しました。
585
午後の休憩中と、その後の話し合いっす。
午後の休憩中にはハーブティーとパンケーキが出た。
数種類のフルーツが乗っていて冷たくて美味しかった。
屋根だけテントの下でクッションに座って嫁達と雑談していたとこ
ろに、護衛隊の隊長が来て話は中断する。
﹁だから、練乳シャーベットに凍らせたイチゴとかメロンとかを砕
いて入れるだけで味が変わって美味しいんだって﹂
﹁しん君が言ってることはわかるんだけど、でもせっかくの練乳シ
ャーベットの味が台無しにならない?﹂
﹁アイリ、凍らせたフルーツがちょっとだけとけてくると、また違
う食感と味が混ざってだな・・・﹂
﹁話が盛り上がってる所に割り込んですまない﹂
﹁あぁ、隊長。別に雑談してるだけなんで大丈夫です。それで、何
の御用ですか?﹂
﹁いや、確認したい事があって・・・君達の探査力を見込んで聞き
たいんだけど・・・﹃魔獣の反応がまったくなくないか?﹄って、
護衛隊のみんなの意見なんだ。君達にはどう感じてる?﹂
﹁俺達の探査にも引っかかってないですよ。俺が1日でここら辺の
ボスだった銀大熊と人族の盗賊集団﹃草原の暴風﹄148名を全滅
させたから、人族を恐れて避けるようになったんじゃないですか?﹂
﹁う∼ん、全然冗談に聞こえないな・・・ありうるかもしれん。今
日から同行してくれてるベテランの元冒険者のチームの皆さんも、
今君が言った事と同じような事をおっしゃっていたんだ﹂
﹁やっぱそうなりますかね﹂
﹁ああ、﹃その地域の魔獣のトップ集団を人間のチームが全滅させ
586
ると、その地域の魔獣は1年ぐらいは人間を恐れるような行動をす
ることがある﹄って言われたんだ。ゾリオン村の冒険者ギルドマス
ターからも似たようなことがあるってきいてる。バイド様も今がチ
ャンスっておっしゃってるしな﹂
﹁神様がせっかくチャンスをくれたんですからね。生かして良い村
をサクサクって作っちゃいましょう﹂
﹁確かに君の言うとおりだな。それと、我々がここに到着する前に
先発隊が準備をしている時、不審な影をいくつか感じたと報告があ
ったんだ﹂
﹁それで、俺達がここに来たときに皆がちょっとピリピリしてたん
ですね﹂
﹁護衛隊の人間が周囲を警戒して回ってみたが、なにも不審なこと
は引っかからなかったが情報は君に入れておこうと思ってな﹂
﹁ありがとうございます。やっぱり情報のあるなしでは対応が変わ
りますから助かります﹂
﹁君達・・・いや、君がヨークルまでもを含めたここの地域の最大
戦力になるから。何しろソロでワイバーン3匹を無傷で狩ることが
出来るのは、今のこの国には5人もいない﹂
﹁まぁそうなっちゃいますね。魔獣は出ない、盗賊の生き残りらし
き影があった。それで隊長さん達の見立ては?﹂
﹁我々護衛隊とベテラン冒険者さん達の意見は一致してる。君の意
見も聞きたいから聞かせて欲しい﹂
﹁ああ、たぶん一緒ですね。﹃明日の早朝がヤツラ盗賊の生き残り
のラストチャンス﹄ってことですよね?﹂
﹁ああ、一緒の考えになる・・・﹂
﹁それで、俺が聞きたいことがあるんですけどいいですか?﹂
﹁バイド村での防御の話かな?﹂
﹁そうです。我々のチーム早乙女遊撃隊は荷馬車の護衛の依頼と物
587
資の輸送依頼については了承して契約をおこなってます。が、バイ
ド村の防衛は契約内容にありません。防衛に関して参加を拒否する
って意味ではないのですが、指揮権はどうなりますか? いくら最
大戦力といっても契約もしていない事に命を賭けることは出来ませ
んので。正直言ったら﹃俺達は逃げても何の問題も発生しない﹄で
すね。それに冒険者ギルドに所属している我々はギルドからの要請
がない町や村の防衛線への参加は強制できないはずです﹂
﹁それは間違いない。バイド村にはまだ冒険者ギルドの支部もない
から参加をお願いするしかない。受けてはもらえるかな?﹂
﹁防衛は荷馬車で門の代わりをするんですよね? 破れた塀の部分
に俺達が持ってきた資材を使うんですよね?﹂
﹁その予定だ。今日の夕方で日が沈む前には最低限の防衛陣地を築
いておきたい﹂
﹁わかりました・・・それなら参加はOKです。でも見張り任務は
そちらでお願いします﹂
﹁それも何も問題ない﹂
﹁それならバイド村に到着後から明日の4時まで我々のチームの指
揮権は俺にください﹂
﹁というと?﹂
﹁申し訳ないのですが俺には襲ってくるかもしれない盗賊をノンビ
リ待ってられません。おれは単独でバイド村周辺を一晩中﹃盗賊狩
り﹄をさせてもらいます。4時までには狩れるだけ狩って村に戻り
ます﹂
﹁・・・﹂
﹁俺の中にあるものが盗賊の存在を許してくれないんですよ。家族
を殺された恨みを晴らせって俺にお願いしてくるんですよ﹂
そういって俺は少し殺気を出して隊長にニヤリと怖い笑顔をみせる。
こう言っておけば隊長は勘違いするだろう﹃家族を盗賊に殺されて
588
恨みが残ってるんだ﹄と。
そこが俺の狙いだったりする。
こう言っておけば一晩中盗賊を狩りまくっても文句を言われないし、
むしろ同情してもらえる。
俺には4人の神の犠牲となった人々の復讐者としての仕事が残って
いるみたいだしな。
わかったと隊長も認めてくれた。
時間になったので続きの話はバイド村に到着してからということに
なり隊長は出発していった。
テントの中に誰もいなくなってから、俺達も時間になったので出発
する。
キャンピングバスに乗り込み俺の運転で出発させる。
これからのバイド村まではスピードを上げて行くつもりらしい。
今までの荷馬車の移動で一番速いペースだな。
運転を自動運転に任せて俺はまた会議の為にキャビンスペースへ降
りていく。
会議中のドリンクはクラリーナのリクエストでホットミルクになっ
ていた。
﹁しんちゃん、上手く隊長との話をまとめたわね。アレなら私達は
独自で動いても文句は言われなくなるわね﹂
﹁ああ、それが狙いだったからな。隊長の指揮権から上手く外れる
ことが出来た。俺達は﹃遊撃隊﹄だからスピードが命だ。盗賊を待
って防衛には向いてないよ。自分達のための最低限の防御はするけ
ど・・・拠点防衛ならゴーレムにでもさせたほうがいい﹂
﹁え? ユーロンドたちを連れてくるのですか?﹂
﹁流石にクラリーナそれはないよ。バイド村の防衛よりも早乙女邸
589
の防衛の方が大事だ。早乙女邸は俺の特別製の結界が門と塀に施し
てあるし、それにユーロンド達がセットだから絶対安全だけど・・・
るびのがいる以上は、早乙女邸の戦力は割きたくない。まぁ、たか
が盗賊程度なんだ、俺が全滅させておくよ﹂
﹁じゃあ、会議でこれから話すことって何?﹂
﹁まずは状況の再確認だな。今夜の深夜以降、明日の明け方に盗賊
が攻めてくると予想される。敵の盗賊の戦力は30以上。追加され
る敵の戦力は不明。それで、ここからは俺の予想なんだけど・・・
ヤツラは20人ぐらいのチームで行動してると思われる節がある﹂
﹁どういうこと?﹂
﹁アイリ、まず話を聞いてくれ﹂
﹁ゴメンね、わかったわ﹂
﹁俺は盗賊の暴風の148名を討伐したんだけど・・・ああ、今ち
ょうど見えたな。あそこに見える大岩で盗賊の23人のチームをま
ず全滅させたんだ。その時の彼らの動きは23人での動きにかなり
手馴れてる印象があったし、俺を罠に追い込んで狩りをするチーム
のような動きだった。あのチームは23人でいつも行動していたん
だろう。それに比べて草原の暴風の本拠を襲撃したときはいくら俺
が不意をついたとはいえ防衛にならずにグチャグチャの動きだった
んだ。だからヤツラは﹃チームごとの戦力﹄﹃攻撃専門で罠にハメ
て動く攻撃タイプ﹄だと思う﹂
﹁あー、なるほどね。それならしん君の言ってることがわかるよ。
それと・・・ちょっと話を変えて確認したいことがあるんだけどい
いかな?﹂
﹁ん? なんか気になる事でもあったか?﹂
﹁んふーん。アイリのことだからあの大岩のことが聞きたいんじゃ
ないの? 私も気になってるから聞きたいんだけど﹂
﹁さすがねミー、当たりだよ。しん君に聞きたいのは、以前しん君
に教えてもらった﹃このイーデスハリスの世界に1番はじめに転生
590
してきた場所の大岩﹄ってあの大岩の事のなの?﹂
﹁私もそれは聞きたいです。しん様にとって記念になる場所ですか
ら﹂
﹁記念? あぁ、そういえばそうなるな。おれがこの世界に来て1
番はじめに降り立った場所はあそこの大岩だよ﹂
俺が指を刺す大岩を皆で眺める。
岩まで1kmぐらいは離れているが遮る物が何もない草原なのでハ
ッキリ見える。
ん?
岩の陰に銀大熊がいた・・・なんでアキューブがここにいるんだ?
﹁あそこに銀大熊のアキューブ16世がいるんだけど・・・皆はわ
かるか?﹂
﹁﹁﹁え? うそ! どこに?﹂﹂﹂
﹁ゴメンちょっとオ・ハ・ナ・シしてくるよ。あのヤロー﹂
俺はキャンピングバスの後ろのハッチバックタイプのドアを上に開
けて、目にも留まららぬスピードでアキューブに向けて走っていっ
た。
591
バイド村に到着までの家族会議と到着後の会議っす。︵前書き︶
1・18修正しました。
592
バイド村に到着までの家族会議と到着後の会議っす。
俺が凄い勢いで走ってきてしかもちょっと怒ってるのが野生の防衛
本能でわかったアキューブは焦ってた。
無論、始めからしていた完全服従の腹見せポーズは崩さない。
﹁ボス、ちょっと、ちょっとだけで良いんで話を聞いてください﹂
﹁・・・遺言か? ならば早く言え。俺に命を賭けてチャレンジし
た2頭目の銀大熊として未来永劫語りついでやるからな。辞世の句
でも聞いてやるぞ﹂
﹁じせーのくってなんですか? ・・・って違います。そうじゃな
いんです。今日の昼にガウリスクやニャックス達と今後の話し合い
のために本拠の丘の近くで会ったんです。そしたらボスからもらっ
たって首輪は自慢されるし、白帝様は綺麗でしたとか言われるしニ
ャックスもボスに大鹿魔獣を献上したって自慢するし・・・﹂
﹁それで、俺を殺りにきたと?﹂
﹁無理です、ありえないです、自慢されて悔しくて少しボスと話が
したかっただけです﹂
﹁はなし?﹂
﹁ハイ、話がしたかっただけです。私にも念輪っていただけないか
と思いまして﹂
﹁念輪が欲しくてここで待ってたのか?﹂
﹁ハイ。ここからこっそり見ていればボスになら発見してもらえる
と思って隠れて見てました。それと白虎様の話はニャックスから聞
いたんですが、狩りに夢中になっててしばらくは会えないと。それ
ならなおさら念輪があれば・・・﹂
﹁そうだな俺も明後日までは仕事なんだよ。だからるびのと会わせ
てあげられるのはそれ以降になるんだよなぁ・・・確かに念輪があ
593
れば会わせやすいな。よしアキューブに念輪を渡しておくよ。ニャ
ックスは明日でいいか。まぁ、そこにお座りをしろ﹂
そういってお座りをさせたアキューブの首に念輪機能付きの首輪を
つけた。
嬉しそうにオレと念輪での会話練習をした。
﹁よし、これでいいな。それとついでにアキューブに聞きたいんだ
が・・・あっちにある人間の村の周りで少し離れた場所からコソコ
ソしてる人間の集団はいないか?﹂
﹁10日ほど前からいました。2日ぐらい前に100匹ぐらいに増
えましてね。仲間が3頭ほど怪我させられましたんで、報復でヤツ
ラの住処に攻め込んで30匹ぐらいに怪我させました。ボスの命令
でも報復で怪我までなら大丈夫だったはずですが・・・マズかった
ですか?﹂
﹁お前達が逃げてるのに追いかけてきて怪我までさせられたんだろ
? 報復で怪我までならぜんぜんOKだ。ヤツラの住処ってどこに
あった?﹂
﹁こっちの方角にこんな形の池があるんですよ﹂
そういって地面に起用に絵を書いてくれたんだけど・・・三日月の
ようなブーメランのような形をしていた。
﹁ここは熱い池で年中モクモクしてます。それに臭いんで魔獣は近
寄らないんですよ。それでもここで住みたくないってだけで攻撃し
てる間ぐらいは我慢できるんですけど﹂
﹁モクモク? 温泉か?﹂
﹁温泉っていうのが何かわからないんですけど。あそこの池の中は
熱くて入れませんね。寒い時期は暖かくて入ってると気持ち良いん
ですけど﹂
594
﹁わかった・・・間違いなく温泉だ。その池にヤツラの住処がある
んだな?﹂
﹁はい。そこにあった空き地に木の家が建ってまして、そこの木の
家があいつらの住処です﹂
﹁方角を教えてくれ﹂
﹁ハイ、まずボスが今から向かう人間の村がこっちですよね? そ
れでモクモクの池がこっちの方向です﹂
﹁そのモクモクって村から見えるのか? ・・・いや、方角ぐらい
はわかるのか?﹂
﹁流石にここからではモクモクは見えませんが、村の場所からは見
えますよ﹂
﹁ありがとうアキューブ。おかげで助かったよ。あいつらを探す手
間が省けたよ﹂
﹁ボスってあいつらを捜していたんですか?﹂
﹁あぁ、あいつらを見つけて殺してくれって頼まれてるんだよ。だ
からアキューブたちが怪我だけで済ませてくれたのがメチャクチャ
ありがたい﹂
﹁それなら良かったです。それでは俺はそろそろ帰ります﹂
﹁じゃあ、今度はるびのを連れて会いに行くよ﹂
﹁わかりました﹂
﹁それともう一つ聞きたい事があるんだけどいいか?﹂
﹁どうぞ﹂
﹁るびの・・・白虎ってどこまで大きくなるんだ? アキューブは
しらないか?﹂
﹁ん∼∼、聞いている話では・・・ガウリスクより一回り小さくて
ニャックスよりも少し小さいぐらいですね﹂
﹁てことは尻尾まで込みで4mは確定か。早乙女邸内では生活でき
ないな。でも小さいのに白帝なんだな﹂
﹁ええ、それは白帝様は炎と雷をまとって2つの魔法を自由に操り、
595
天空を駆ける西方大陸の覇者の聖獣様ですからね。言い伝えでは白
帝様の体の頑丈さを眷属の銀大熊に与えたと言われています・・・
グリーンウルフには草原を駆ける速さを、炎虎には飛び回るジャン
プ力を、グリフォンには空を翔る力を与えたといわれています﹂
﹁すげぇな、るびの・・・わかった、ありがとう。今度はるびのと
一緒に会おうな﹂
﹁よろしくお願いします﹂
そういってアキューブと別れて、俺は猛スピードでキャンピングバ
スを追いかける。
後ろに追いついてキャンピングバスの後部バンパーの右側にヒョイ
っと飛び乗り左側の壁に魔力を流す。
左側の壁が浮き上がり上に向かってハッチバックタイプのドアのよ
うに開く。
俺がキャンピングバスの取っ手に掴まって中に入り取っ手の部分に
魔力を流すと開ききっていなかったドアが再び閉まって元の壁にな
った。
﹁ただいま。アキューブのヤツが俺と話がしたいだけだったよ﹂
﹁お帰りなさい、しん様。こんなところにドアがあったんですね﹂
﹁ああ、緊急用でここに作っておいたんだ。反対側のそこの壁も同
じように開くぞ。俺達夫婦と俺の作ったゴーレム達とるびのの魔力
にしか反応しない封印がしてあるのはどのドアも一緒だ。今俺が持
った取っ手の部分に自分の魔力を流し込むと開く仕掛けになってい
るよ﹂
﹁おかえり、しん君。今はミーが運転をしてるよ﹂
﹁そうか・・・ミー、運転は自動運転に任せて降りてきてくれ! 会議の続きをしよう!﹂
俺が大きな声を出すとわかったーと声が聞こえてミーが降りてきた。
596
﹁じゃあ、みんな座って会議をはじめよう﹂
そう言った時に嫁達に・・・どうせ自分専用のシートになったのだ
から、自分にピッタリ会わせて欲しいとお願いされた。
それは確かにな!
って事で一人ずつの体型に合わせて完全にカスタム化をした。
枕のサイズやカップホルダーの位置までフルカスタム。
俺の分のシートも改造した。
﹁じゃあ、会議の続きをしよう。どこまで話したっけ?﹂
﹁敵の盗賊がチームで動いてくるって所だったよ。そこまでは私達
は理解したよ﹂
﹁ミー、ありがとう。それで心配していたことがあったんだ。俺が
急いで盗賊を狩りまわってもチームでバラバラに行動されて広範囲
に広がっていた場合、時間内では討ち漏らす危険性があったんだ﹂
﹁なるほど、しん君が言いたかったのはそういうことね。でも・・・
そんな時はどうやって退治するの?﹂
﹁ああ、アイリそれはもう解決しそうだ。アキューブがヤツラが本
拠としている場所を教えてくれた﹂
﹁アキューブって銀大熊がワザワザ教えに来てくれたんですか?﹂
﹁いやぁクラリーナ、アキューブが俺に話がしたかったって会いに
来たのは一緒なんだけど・・・念輪が欲しくて待っていたそうだ。
ガウリスクってグリーンウルフに念輪は渡してあるから、それを自
慢されて悔しかったらしい﹂
﹁魔獣って・・・なんか私が想像していたのとかなり違っていたわ
ね﹂
﹁アイリ、私も同じ事考えてた。何かこれから討伐し難くなりそう﹂
﹁ミーさんもですか? 私も同じですね﹂
﹁俺も同じだ。銀大熊・グリーンウルフ・炎虎。彼らとは仲良くし
597
過ぎてもう狩れないな。今後冒険者ギルドから命令が出ても断りそ
うだよ﹂
﹁﹁﹁そうだね﹂﹂﹂
﹁それで解決したって言うのは今夜の晩ご飯の後に俺は単独でヤツ
ラの本拠に殴りこむ。その時間ならヤツラは明日の朝のバイド村襲
撃の準備の為に早寝をしているだろう・・・俺が直接行って皆殺し
にしてくるよ。今度は1人も逃すつもりはない。後は時間いっぱい
までバイド村周辺を空から探索する。周辺警戒をしているヤツラも
皆殺しだ﹂
﹁わかりました。それで私達は何をしていたらいいのですか?﹂
﹁まぁ、あの護衛隊隊長の俺達の使い方を予想すると・・・本部防
衛のための最終防衛ラインだな。仮設の本部は俺たちが持っていく
資材で取り囲んで中には職人さん。出入り口には自分達。出入り口
の少し前に俺達のチームをキャンピングバスごと置くだろうと、想
像できるなだろうよクラリーナ﹂
﹁そこでキャンピングバス内で待機して待っていればいいの?﹂
﹁いや、ミー、待機も必要ないよ。普通に寝ててくれて構わないが、
アンダーだけは脱がないでくれ。キャンピングバスの出入り口には
マリアを立たせておく。何かあったらマリアが念輪で知らせてくれ
るから、安心していてもいいよ﹂
﹁何か、またしん君だけに働かせているようで申し訳ないわね﹂
﹁アイリ気にするな。俺がいない間のバイド村の防衛戦での最終ラ
インはアイリになるんだ。それは頼む。クラリーナもミーも攻撃よ
りも防衛優先で頼むよ﹂
﹁﹁﹁﹁わかった﹂﹂﹂
﹁これで話は終わりだな。そろそろバイド村に到着しそうだ。俺が
運転してくるよ﹂
運転席にあがって行く。
598
バイド村に到着・・・これで護衛依頼の半分は終わったな。
キャンピングバスが入ると、村の内開きの門が閉じられる。
先発隊の後片付けチームがもう少ししたら来るから、その後で門の
内側に資材を置いてくれと言われたのでアイリがキャンピングバス
から降りてアイテムボックスから資材を並べにいった。
俺たちはキャンピングバスを動かしてバイド村の中央付近に停車す
る。
俺は塀が破れた場所に資材を置きに行き、クラリーナとミーは俺が
更地にした元教会と元村長宅に設置されている大量の屋根だけテン
トと急いで作った温泉施設の周りに資材を積み重ねて行く。
ここが本部になるようだな。
俺たち夫婦が資材を置き終わると護衛隊の隊長に呼ばれて会議に出
席することになった。
﹁会議に呼び出してすまない。この資材のおかげでバイド村とここ
の本部の防衛力は増しただろう。それで君の馬車は今のままの場所
に停めてもらって、君達にはそこで最終防衛ラインになってもらい
たい﹂
﹁了解です。それと明日の朝4時までに俺は戻ってきますが、俺が
バイド村の外で退治した盗賊はうちのチームの討伐ってことで良い
んですよね?﹂
﹁それは当然だな。間違いない。むしろ、出来るだけ多く退治して
いただきたい﹂
﹁それと4時前に戻ってきますが、退治した盗賊のステータスカー
ドなんかの確認ってここの本部で良いんですか? ここに隊長さん
は必ずいますか?﹂
﹁私は仮眠だけしてるのでいつでも起こしてくれて構わない。ここ
には護衛隊の人間が必ずいる﹂
﹁了解です。俺の聞きたかったことは以上ですね﹂
599
﹁それでは君達には先に風呂をお願いしたい。女性がいるのは君達
だけなんで時間は30分でお願いする。その後は食事の準備が出来
ていると思うんで、あちらに行ってもらえば匂いでわかるね﹂
﹁確かに・・・カレーの匂いがここまできますね。わかりました。
ではまた今度は盗賊全滅の報告に来ますよ﹂
﹁よろしく頼む﹂
握手で俺の参加する部分の会議は完了。
後は防衛ラインとか見回り任務の割り振りとかで俺たちには関係な
いだろうから、隊長さんに言って風呂に行くことにした。
流石に30分で、しかも外に声が筒抜け状態ではエッチなことも出
来ない。
4人でノンビリ入るヒマもなく風呂を出て晩ご飯のカレーを食べて
キャンピングバスに戻った。
俺はるびのたちを迎えに大森林に転移する。
待ち合わせ場所で食後の休憩をしていたるびのたちを連れて早乙女
邸に転移。
るびのの世話をセバスチャンに任せて俺はマリアを連れてキャンピ
ングバスに転移して戻ってきた。
これからは俺がソロで行う盗賊狩りの時間だ。
600
バイド村に到着までの家族会議と到着後の会議っす。︵後書き︶
これで100話・・・想像以上に話は進んでいないしハーレムも増
えてない。
601
盗賊皆殺し作戦開始っていうソロでの狩りの話っす。︵前書き︶
1・27修正しました。
602
盗賊皆殺し作戦開始っていうソロでの狩りの話っす。
キャンピングバスに戻ってシートとマットを交換しようとしたら、
今日はこのままシートで寝ると言われてしまった。
まぁ、盗賊全滅させるまでの時間は仮眠でってことらしい。
サイズをそれぞれにフルカスタムしたので充分に眠ることが出来る
だろう。
マリアには警戒レベルを最大で指示した。
護衛隊ですら敵認識で少しは警戒させる。
元々キャンピングバスの荷馬車とはかけ離れた外観に護衛隊も職人
もはじめは興味津々だったが、ワイバーンを瞬殺してからは近づく
者さえいなくなった。
真っ黒でメタリックに光を反射して輝くボディが少し威圧感を出し
ているのかも知れない。
でも・・・無遠慮にジロジロとあちこち眺められても困るので、少
し遠巻きに眺められている今の方がセキュリティは安心できる。
俺はバイド村の正門まで歩いて行く。
門には護衛隊とバイド村に先行できていた警備隊のチームが見張り
をしていた。
正門の手前に石材が詰まった資材の木箱が2mの高さで2段4mに
積まれて、横に4つ並べられている・・・計8個の資材の木箱。
その手前に1段で横に4個。合計で12個並んでいる。
その資材の木箱を半円状に取り囲むように荷馬車が並べられている。
荷馬車は鉄板で補強されていてその上に泥が分厚く塗ってある。
603
火の魔法や火矢への対策は日本の戦国時代の資料で見たままだな。
荷馬車の手前に篝火で明るくなっている詰め所に行って挨拶をする。
﹁すみませーん・・・ここのリーダーさんってどなたですか?﹂
﹁私がここの防衛任務のリーダーだが・・・あぁ、君が早乙女君だ
ったな。先ほどの会議でお会いしたね・・・これから出かけるのか
な?﹂
﹁ハイ、皆さんが守っていてくれるので俺は外で盗賊皆殺しをして
きますよ﹂
﹁君に無理をさせているようで申し訳ない。我々はほぼ全員が以前
は国軍に所属していたので拠点を守る訓練と犯人を逮捕する訓練し
か受けておらん人間ばかりなんだ。若い君に無理をさせてしまうが
よろしく頼む﹂
﹁いえいえ、大丈夫です。それで、出て行くときも帰ってくる時も
声をお掛けします﹂
﹁了解した﹂
﹁それとこれぐらいの高さなら飛び越えれますので、門の開け閉め
は必要ありません。それでは俺は盗賊狩りに行って、攻めてきます﹂
﹁それも了解した。ではまた元気で無事に帰ってきてくれ﹂
そういって握手をして俺は資材の箱を飛び越えて外に出る。
ふわりと飛び越えながら上から門の防衛の全貌を観察。
資材の箱の上に高さ1.2mぐらい厚さは5cm以上もある鉄板が
並べられていた・・・あそこから弓兵が応戦するんだろう。
鉄板・門・資材の箱と門の隙間にも泥が大量に盛られていた。
ここの防御力はかなり高そうだ。
これなら俺が全滅させた盗賊ごときレベルなら1時間以上は持つだ
ろう。
俺は安心して外を歩いて行く。
604
バイド村に到着してか資材の箱を破れた塀の内側に並べているとき
にまだ明るかったので、何箇所から盗賊が住処にしている温泉の方
角は確認済みだ。
門の上に光り輝く篝火から見難い位置につくと、自分の気配を完全
消して魔力も漏れないように完全隠蔽する。
そこから飛翔魔法で上空200mぐらいに飛び上がって周囲の気配
と魔力を探査魔法で探る。
半径3kmぐらいを探ると色々と反応がある。
敵の本拠を完全に沈黙させた方が安全だけど・・・盗賊は5人ほど
のチームで周囲を警戒している。
3チームが分散して警戒網を敷いている。
盗賊が集まってる住処を攻めるのは、これを沈黙させてからだな。
上空から無音で近づいてスリープ魔法で沈黙させる。
崩れ落ちる時も木魔法で草を使って、周囲には音はさせない。
その後に延髄にナイフを刺してえぐる。
死体は浄化魔法で綺麗にしてからアイテムボックスに収納。
まったく音もさせずにこれを3回繰り返して周囲警戒チームを全滅
させた。
そのまま、また上空へと飛翔魔法で浮かび上がり上空から探査。
人はもうバイド村と盗賊の住処だけだ。
周囲にはデカウサギと昆虫しか反応はない。
盗賊の本拠の上空からスリープ魔法をかける。
盗賊の反応を見ていると5人スリープにかからなかったみたいだ。
アイテムや防具でレジストしたんだろう。
だけど元々熟睡中だったんだろう起きている反応はなく騒ぎにはな
605
っていない。
見張りは全部スリープ魔法で熟睡中だ。
面倒だったのでスリープが効かなかった5人に雷魔法の﹃ショック﹄
を使った。
ん? 1人だけこれもレジストした!
もう1人だけだし、そのまま音も気にしないでレジストした人に会
いに行く。
逆にここまで魔法抵抗力が高い人間にはぜひともお会いしたい。
建物の中に入っていく。
鍵は開錠スキル魔法で開ける。
魔法抵抗力の高い人がいるのは奥の部屋だった。
人じゃないし、盗賊でもなかった。
どこかからさらわれて来たのだろう・・・奥の部屋には隷属の首輪
をはめられてブルブル震えるエルフがいた。
エルフの周りにも7人ほどの獣人や人間の女が隷属の首輪をつけら
れた上で鎖に繋がれている。
エルフからすれば驚愕だったのだろう。
番人が目の前で崩れ落ちているんだからな。
エルフの女性と抱き合って寝ている獣人はゾリオン村で見た覚えが
ある。
誘拐されてここに連れてこられたとしか考えられないな。
とりあえず安心してもらうために声をかける。
﹁寝てるのは俺の魔法だから彼らが目覚めるのは半日後だ。だから
声を出して大丈夫だよ・・・って言っても、これがあったら返事も
出来ないね。失礼﹂
606
そういって俺は邪魔な番人を放り投げてエルフの首についてる隷属
の首輪を解除して外す。
話しかけながら足につけてある鎖も、足かせも手かせも全部解除し
た。
その他の女性の首輪も手かせも足かせも全部解除。
﹁人族はこんなことばかりしてゴメンね。君達を全員助けるから大
人しくしててね﹂
﹁あ、はい﹂
﹁それとこれは内緒にして欲しいんだけどこれから君達を絶対安全
な場所に送ってあげる﹂
﹁・・・え?﹂
﹁彼がゾリオン村にある冒険者ギルドのギルドマスター﹃アクセル・
ビッタート﹄さんだ﹂
話しながら隷属の首輪をした奴隷8人を連れてゾリオン村の冒険者
ギルドのギルドマスター室に転移した。
ついでにビッタート卿に紹介する。
驚愕して固まっているエルフをしばらく放置してビッタート卿に話
しかける。
﹁ビッタート卿、夜に申し訳ないが緊急事態だから勘弁してくれ。
ビッタート卿を信頼して話すが、今、俺は盗賊﹃草原の暴風﹄の生
き残りを殲滅するために働いている﹂
﹁緊急事態と秘密を要するってことは理解した。話を続けてくれ﹂
﹁助かるよ、ありがとう﹂
ビッタート卿が俺とエルフに隣の給湯室から紅茶を入れてきてくれ
た。
607
﹁草原の暴風の住処を発見して全滅させようとスリープ魔法とショ
ック魔法を使ったんだけど、彼女の魔法抵抗が強くて眠らせること
も気を失わせることも出来なかった。彼女達を全部助けるためにこ
こに連れて来るために転移魔法を使用した・・・ビッタート卿にお
聞きしたいのは、彼女達で知ってる人はいないか?﹂
﹁あぁ、ここにいる彼女達は全員ここのゾリオン村から消えた人達
だ。失踪届けが出てる人達ばかりだな﹂
﹁それでは後は任せてもいいな?。 彼女達は隷属の首輪によって
盗賊の奴隷にさせられていたんだ。体は俺が今から全てを治す﹂
そういって全員にエクストラヒールをかける。
ビッタート卿には彼女達から外した隷属の首輪や手かせ足かせを渡
す。
﹁これで大丈夫だろう。後は心のケアをビッタート卿に頼みたい﹂
﹁わかった・・・でも、早乙女君・・・何でワシなんだ?﹂
﹁悪いが考える時間がなくて・・・今度ヨークルの冒険者ギルドマ
スターに就任したラザニードさんがいるだろ? 前に話したときに
ビッタートは女性の教育が上手いって褒めてたのをとっさに思い出
して・・・ここしかなかったんだ。ビッタート卿ならこんな時間で
もここにいると思った﹂
﹁ふふふっラザニードか、了解したよ。彼女達は俺が責任を持って
両親の元に返すよ﹂
﹁それと、魔法と俺のことは内密に。彼女達だが俺が明日の夕方こ
こに帰ってくる・・・その後、独自で帰宅したって形にして欲しい
んだが・・・全部上手くいくように頼めるかな?﹂
﹁秘密を守るためにはそうするしかないと思う。盗賊はどうする?﹂
﹁皆殺しの方が俺には都合がいいから、これから殺してくるよ。そ
れにあいつら数が増えてたぞ?﹂
﹁あぁ、今日に昼間の尋問で数を増やしたという情報が、君のおか
608
げで逮捕できた元護衛隊副隊長とスパイの親玉の両方から出た。明
日君に伝えようとしてたところだ。彼らの情報だと盗賊の生き残り
が28名と幹部が3人。追加されたのが70名と幹部が5名。リー
ダーには副隊長自身がなる予定だったみたいだと聞いてる﹂
﹁合計106名か・・・それぐらいいたな。俺の用事は盗賊退治だ
からな、これから全滅させてくる。それと・・・君にお願いしたい
のは﹃秘密は内密に﹄ってことで﹂
エルフにちょっとおちゃらけて言った。
するとエルフは自分の左手の小指に口付けながら行った。
﹁わかりました。私の命の恩人の秘密を生涯において守ります。﹃
精霊の誓いにかけて﹄﹂
﹁精霊の誓いにかけてか・・・早乙女君の秘密を守るために精霊と
の誓いを賭けるというエルフ流の誓いの言葉だな。左手の小指には
精霊と契約する指って意味が含まれてるんだよ﹂
﹁ありがとう。ビッタート卿にも深夜の突然の訪問で失礼しました。
ではまた明日﹂
そういって俺は2人に手を振り転移魔法で盗賊の住処に戻る。
住処には91名の盗賊。
30人ほどはアキューブの襲撃でかなりの大怪我を抱えていた。
・・・やるなアキューブ。
40頭の銀大熊にこんな身を守る場所もないところで襲撃されたら・
・・全滅しなかっただけでもマシか・・・いや、違うな。
アキューブが殺さない様に手加減して報復をしてくれたんだろう。
素手で盗賊たちを殺して行く。
熟睡する盗賊の頭を左手で掴み、右手の人差し指で延髄に突き刺し
609
てえぐって殺す。
盗賊は魔法での睡眠状態だから抵抗すら出来ない。
死ぬ間際にビクビクビクと体を痙攣させるだけだ。
まるで魚をしめるように殺していく。
・・・俺の顔は薄っすらと笑っている。
気持ちが良い訳でもなく俺自身は少し気味が悪いぐらいで何も感じ
ていないが・・・俺の中の復讐者の達成感が俺を笑顔にさせている。
自分の中にある破壊衝動を少しずつこうして消化? 昇華? して
いってる・・・先は長そうだ。
この盗賊の住処にある全てのモノを俺のアイテムボックスに入れる。
ライトの魔法で明るくしてからしらみつぶしだ。
死体も売れるんだから装備を外してアイテムボックスの中身も全部
をアイテムボックスに入れていく。
所詮は﹃資材﹄だな。
これでここには用は無くなった。
いつもの魔法3点セットで全ての小屋と外にあったテントまで浄化
して痕跡まで消した。
テントや寝袋までアイテムボックスに入れて完了。
また上空に飛翔魔法で飛び上がって探査魔法で確認するが、半径5
km以内はバイド村以外に人の反応はなかった。
どうせ時間は余ってるしこのまま地上に降りて歩いてバイド村まで、
狩りをしながら採取をしながら帰ることにする。
今まで俺はほとんど狩らなかった昆虫と珍しい植物を中心にする。
これだけの量の大草原だからか森林と同じように、ここに住む昆虫
610
はデカイ。
バッタは30cm以上はあるし、カマキリなんで1mぐらいある。
トンボもこんな時間は飛んではいないが1m以上あるし・・・
盗賊を殺した時と同じように昆虫を素手で狩っていく。
自分の右手人差し指に残る盗賊を殺していく感覚を忘れるかのよう
にして昆虫を狩る。
アイリとミーにバッタの後ろ足を炙ってから食べると以外に美味し
いって聞いていたので・・・試してみた。
うん、普通に美味しくて意外だった。
神の創り手スキル補正がなくても美味しいと言えるだろう。
日本で昆虫を食った記憶はないしな。
俺にとっては昆虫は魚のエサだった。
イーデスハリスの世界の昆虫は軒並みデカイから、ゴカイとかもデ
カイのか?
釣りも大変かもしれないな。
俺の知識の中にあるミミズなんて砂漠に住んでる﹃サンドウォーム﹄
で10m以上あるからな。
とても魚のエサじゃねぇ・・・むしろ俺がエサか?
時間が午前3時になったのでバイド村に帰る。
帰る前にもう一度上空まで行って探査魔法で確認したが何の反応も
出なかった。
約束どおりに声をかける。
﹁すみませーん。早乙女ですけどぉー、盗賊は全滅させたのでぇー、
帰ってきましたぁー!﹂
611
大きな声で叫んだのでバイド村の正門付近は騒然となってしまった。
・・・ゴメンなさい。
深夜に騒がせて申し訳ない。
ちょっと浮かれていたのかな。
迷惑をかけるつもりはなかったんだけど・・・もういろいろな意味
で、遅いな。
声をかけたので門を飛び越えてバイド村に入る。
612
盗賊討伐して報告。これで生き残りの盗賊騒動は終了かな?っす
。︵前書き︶
1・27修正しました。
613
盗賊討伐して報告。これで生き残りの盗賊騒動は終了かな?っす
。
護衛隊正門の防衛チームのリーダーがフワリと外から飛んできた俺
に走りよってくる。
﹁ただいまです。元気に帰ってきてくれってリクエストだったんで、
少し大きな声で帰ってきた報告をしたんですけど・・・すみません。
ちょっと声が大き過ぎたみたいですね。失礼しました﹂
﹁今、盗賊を全滅させたって聞こえたんだが﹂
﹁ハイ。盗賊の生き残りと新たに加わっていた盗賊106人を皆殺
しにしてきましたよ﹂
﹁あ、ああ。そうか。流石だな。ありがとう﹂
﹁では俺は本部に報告しに行ってきます。周辺には盗賊はいないの
で、攻めてくることはないと思いますが・・・引き続きの正門防衛
と見張りをよろしくお願いします﹂
﹁了解だ。本部への報告をお願いする・・・ほら、おまえら! 盗
賊はいなくなっても防衛と見張りは終わったわけじゃないぞ! で
も、緊急の事案は消えたから今から隊を分けて交代で休憩にする・・
・﹂
俺への挨拶の後に気が緩みかけた警備隊の面々に発破をかけて気合
を入れなおすリーダーの大声を後に俺は本部へと歩いていく。
キャンピングバスのドアが開いて中から、アイリ・ミー・クラリー
ナの3人の嫁が防具をつけて出てきた。
﹁みんな、ただいま。盗賊は全滅させたけどまだ本部への報告が残
っているから後で話そう。もうパジャマに着替えても問題ないよ﹂
﹁しんちゃん、お疲れさん。じゃあ私達は中で着替えて待ってるよ﹂
614
﹁しん君、お疲れ様。何か飲み物を用意しておくよ。なにがいい?﹂
﹁じゃあ、コーヒーで﹂
﹁わかった。じゃ、後でね﹂
﹁しん様、お疲れ様でした。私も中で着替えて待ってます﹂
最後にクラリーナがキャンピングバスの中に入っていき、俺が魔力
を流してドアを外から閉じる。
﹁マリア、警戒レベルは今の時点をもって通常時に戻していい。で
は引き続きのキャンピングバスの外からの護衛を頼むよ﹂
﹁お任せください、ご主人様。では、いってらっしゃいませ﹂
俺の指示でマリアからあふれ出ていた殺気が消える。
それを確認してから本部に向かう。
本部詰め所に入っていくと隊長が出迎えてくれた。
﹁今、戻りました。先ほど大声を上げたように盗賊は全滅させまし
た。生き残りは周辺にいない事も確認してきました﹂
﹁ありがとう。盗賊のステータスカードと君のギルドカードの討伐
欄を確認させてもらいたい﹂
﹁わかりました﹂
俺はアイテムボックスから自分のギルドカードを取り出して今夜の
盗賊の討伐部分を表示させて隊長に渡す。
横で見ているほかの護衛隊メンバーに盗賊のステータスカード10
6枚を渡して確認してもらう。
﹁うん、ギルドカードの討伐の確認させてもらった。ありがとう。
カードをお返しする﹂
﹁これで全部って証明する術がないので、出来れば防御レベルを落
615
として引き続き警戒任務をお願いしたいのですが﹂
﹁ああ、それは先ほど指示させてもらった。まだ私達の防衛の仕事
は終わってないからな﹂
俺と会話しながらも盗賊のステータスカードを確認する隊長と隊員
の人達。
全部の確認が終わって、カードを返された。
﹁全てのカードをこの目で確認させてもらった。早乙女君ありがと
う﹂
最後に隊長と握手をする。
﹁では、そろそろ俺は休憩させていただきます。門とかに積み上げ
た資材の木箱の移動はどうしますか?﹂
﹁それはこちらの職人さん達に確認してあって、アイテムボックス
の小サイズを持ってる人達が手分けして、明日・・・もう今日だな。
朝の7時までにはこちらで責任を持って移動させておくから、君達
は7時まではゆっくりしてもらいたい。出発はいつもの7時半。ま
た予定通り最後尾から護衛をしていただく﹂
﹁はい。わかりました。ではまた明日の朝に﹂
そういって俺は本部を後にした。もうここには用はないからな。
キャンピングバスに乗り込むと嫁3人が抱きついてきた。
﹁うぷっ、ただいま。ちょっと待った。俺も着替えたいよ﹂
ごめんごめんと謝って離れて行く3人。
なぜかちょっと残念に感じてしまうな。
まずは全身に3点セット魔法で防具も何もかもをまた浄化する。
616
俺は装備を外しながら皆に話しかける。
﹁まずは報告だな。俺が発見して討伐した盗賊は幹部が8人と98
人の盗賊。合計106人だ﹂
﹁30人弱って言ってませんでしたっけ?﹂
﹁ああアイリ、生き残りが28人と幹部が3人。新たに加わったの
が70人と幹部が5人の合計106人だ﹂
﹁そ、そんなことまでわかるんですか?﹂
﹁クラリーナの疑問はもっともだ。まずは話を聞いてくれ。この盗
賊の住処に盗賊によってさらわれてきて隷属の首輪によって奴隷に
させられていた女性が8人いたんだ﹂
﹁8人も?﹂
﹁ああ、それで1人や2人ならともかく8人も面倒見切れないんで、
転移魔法で送ってきたんだゾリオン村の冒険者ギルドのギルドマス
ター室に﹂
﹁ゾリオン村に言ってきたの?﹂
﹁とりあえず・・・はじめから順を追って説明したほうがいいね。
俺は飛翔魔法で盗賊の住処に近づくと、住処周辺を5人のチームが
3組が警戒任務についてたんで、魔法で眠らせて殺してアイテムボ
ックスに入れるって事を3回した﹂
﹁・・・﹂
﹁それで盗賊の住処に上空から近づいてスリープを使って眠らせた。
レジストしたのが5人。効かなかった人間にショックの魔法を使っ
たら、それもレジストした人間がいたんだ﹂
﹁しん様の魔法を2回もレジストしたんですか? ・・・ゴメンな
さい﹂
クラリーナがいきなり大きい声を上げたのでビックリし一瞬固まっ
てしまう。
気を取り直して・・・パジャマに着替え終終わったので、アイリか
617
らコーヒーが入ったマグカップをを受け取って自分のシートに腰掛
けてまた話し出した。
﹁それで・・・俺もビックリしてどんな人間の盗賊なんだ? って
見に行ってみたら、盗賊でも人間でもなかったんだ。さっきもいっ
たように奴隷にされていたエルフ女性だった﹂
﹁ああ、エルフかぁ、それなら納得。あの種族って精霊と契約する
精霊魔法を使うから魔法抵抗力が人間の比じゃないって聞いたこと
あるよ﹂
﹁あぁ俺も初めて目の当たりにした。経験や知識はあったんだけど
な。それで・・・相手が女性だけに、攻撃して気を失わせるって事
をするわけにもいかないし、あれこれ悩んだ挙句に困ってビッター
ト卿のところに転移したんだよ。彼なら鑑定の魔眼もちで俺の転生
者って秘密も知ってる上で彼女達を持ち前の正義感で保護してくれ
ると思ったんだ。そこで・・・ビッタート卿から護衛隊の元副隊長
とスパイの親玉からの情報で盗賊の情報を教えてもらったんだよ。
合計106人の盗賊がいるって﹂
﹁その情報で盗賊は全滅させたって言えるのかぁ、なるほどね﹂
﹁そうだよ。それにエルフの女性も﹃精霊の誓いにかけて﹄俺の秘
密を守ってくれるってさ﹂
﹁それなら絶対に安心ね。精霊の誓いってエルフの種族の誓いだか
ら命よりも重い誓いってことだわ。誰にも秘密をばらさないって先
祖と子孫に誓うってこと﹂
﹁う∼∼ん・・・俺が思ってる以上に重い誓いの言葉だったんだな。
知識として知ってはいたんだ。そういえば、ビッタート卿も関心し
てたな。今のアイリの言葉で再認識したよ。それで・・・女性8人
をビッタート卿に預けてから、また盗賊の住処に戻って眠らせてい
た91人を確認して殺したんだ。先に退治していた15人を合わせ
て106人は全滅させたから、これで盗賊退治は終了だ・・・終わ
ってから周辺の探索もしてきたけど、もうこのバイド村周辺には盗
618
賊はいない﹂
﹁なんか、やっと終わったなーって思うわね。まだ仕事は残ってる
けど﹂
﹁そうですねアイリさん。ホッとして眠くなってきましたよ﹂
﹁俺もそろそろ眠らさせてもらうよ。3時間以上は眠ることが出来
る。じゃあ、おやすみなさい﹂
マグカップのコーヒーを飲み干して眠る。
るびのたちを大森林の東側の岩場に明日の朝に送り予定だから、マ
リアに6時半に起こしてと念輪で頼み本格的に寝る事にした。
619
平和な時間に突如起こった三つ巴? っす︵前書き︶
1・25修正しました。
620
平和な時間に突如起こった三つ巴? っす
翌朝、転生15日目の朝。
6時半にマリアの念輪コールで起きた。
天気は上々。
朝のさわやかな空気がキャンピングバス内の空気を清々しくしてい
る。
マリアを連れて早乙女邸内に転移。セバスチャンとるびのとマリア
を連れて大森林大石に転移した。
るびのはこれから朝食を狩りしてから食べるそうだ。
これもセバスチャンからの訓練みたい。
空腹時の狩りの練習なんだと。
バカ親から過保護に育てられているのに兄弟に逞しく鍛えられて育
っている。
俺はマリアとセバスちゃんのアイテムボックスを整理して、たまっ
てるものは俺のアイテムボックスに入れてスッキリさせる。
るびのの教育と世話は2人に任せているので、バカ親は邪魔しない
ようにキャンピングバスに戻る。
バイド村は大忙しだった。
昨日の緊急防衛陣地の為に使った資材の箱を門を開けて予定された
場所に並べ替えている。
そういえば今回の護衛依頼で3日目にして初めて朝食をもらった。
そういえば2日とも断っていたからな。
おにぎり2個と野菜のたっぷり入ったスープ。
621
スープの匂いが美味そうだったので俺・アイリ・ミー・クラリーナ
の夫婦4人で屋根だけテントの下で食べた。
おにぎりは塩のみだったけどスープに合ってて美味しかった。
今日から護衛隊隊長改めバイド村警備隊の隊長さんが俺達のいるテ
ントに来て、一緒に朝食をとりながら話しかけてきた。
﹁早乙女君おはよう。君達が今日一緒に移動しての護衛する馬車は
10台だ・・・この荷馬車には荷物は載っていない。御者の護衛隊
の人間が合計20人、それと食事の準備などのコックが2人だけ乗
るだけだ﹂
﹁は? 空っぽなんですか?﹂
﹁あぁ、そうだ。このバイド村からゾリオン村に運ぶ品物は何もな
い。護衛の人間と荷馬車と馬をゾリオン村に戻したいんだ﹂
﹁なるほど。そういう意味でしたか。わかりました﹂
﹁じゃあ、そういうことで本日もよろしく頼む﹂
隊長さんは話しながら朝食を掻っ込み、慌しく出て行ってしまった。
ホントに忙しそうだな。
俺達夫婦も出発時間になったのでキャンピングバスに乗り込みバイ
ド村を出て行く。
運転は嫁達に任せて俺は出発してすぐにニャックスの住処の上空に
に転移する。
巣の前に降り立ち声をかける。
﹁おーい、ニャックス、いるか?﹂
﹁・・・あ、ボス。何か御用ですか?﹂
﹁ああ、ニャックスにも念輪を渡しておこうと思ってな﹂
﹁それはそれは・・・ワザワザありがとうございます﹂
622
ニャックスに首輪タイプの念輪を魔法で装備させる。
ニャックスの念輪の練習の為にパーティー回線でガウリスクとアキ
ューブに回線を開く。
﹁おはよう! ガウリスクとアキューブ、聞こえているか?﹂
﹁こちらアキューブ聞こえます﹂
﹁あっ、アキューブもボスから念輪もらったの?﹂
﹁フッフッフッフ、ガウリスク。俺だニャックスだ! 俺も今もら
ったぞ。フッフッフ、自慢しやがって、こんにゃろ﹂
﹁おう、ガウリスク。俺もアキューブから昨日聞いたぞ! あんま
りこんな事で自慢すんなよ﹂
﹁あぁー、アキューブてめぇボスにチクったのかよ﹂
﹁へへーんだ。バーカバーカ﹂
﹁ガウリスク、いい気味クックック﹂
﹁ニャックスもひでぇ﹂
﹁ケンカしない! お前らガキかよ﹂
まぁ、ケンカもほどほどになって言って俺は念輪回線を切ってキャ
ンピングバスに転移で戻る。
平和で良い事なんだけど、ガキのケンカみたいでちょっと疲れた。
シートではアイリが寝ていた。ミーとクラリーナが運転席で小さな
声で笑って話をしてた。
俺はアイテムボックスからマリアが作ってくれていた﹃おつまみセ
ット﹄のポテトチップス&フライドポテト&ハッシュ・ド・ポテト
の芋の三種盛りを取り出してムシャムシャ食べながらコーヒーを飲
んでいる。
平和でヒマな時間だな。
623
隣を見るとアイリが起きてジーっとこっちを見ていたんで、アイリ
にも芋の三種盛りをアイテムボックスから取り出して渡す。
クラリーナとミーにも芋の三種盛りを大きめの深皿に乗せて持って
行ってあげる。
たまにはジャンクなおやつもいいだろう。
流石に芋ばかりは飽きたので、ワカサギの甘露煮にした。
コーヒーとは合わんな、これは。
隣からまた熱い視線を感じたので無言でアイテムボックスからトレ
イごと取り出してアイリに渡す。
運転席の2人にも渡しに行った。
ファンタジックな美女3人にワカサギの甘露煮が好評だったので今
度はイナゴの佃煮・・・デカくて無理だな。
30cm以上の佃煮なんてイヤ過ぎる。
いくら美味しくてもビジュアル的にキツイな。
﹁ねぁしん君。この甘い小魚って何? しん君の故郷の料理?﹂
﹁そうだよ。俺が前にいた世界の日本って国に昔からある料理だな。
小魚をみりんと砂糖としょうゆで煮出した料理だな。日本では﹃保
存食﹄になると思う。前にヨークルで酒屋に行ったときにみりんを
発見してマリアに作らせた﹂
﹁保存食?﹂
﹁イーデスハリスの世界にはアイテムボックスがあって永久にその
まま保存が可能なんだけど、こんなの前の世界にはなかったからな。
食べ物はなるべく保存が出来るようにっていう知恵と創意工夫の結
晶が保存食だろう。しかもなるべく美味しくってのが日本人のこだ
わる所だな﹂
﹁甘くて美味しい、しかも歯ごたえもちょうどいい﹂
﹁そうだな。美味しいからこそ素晴らしい。だな﹂
﹁またなにか新たな材料を見つけて、しん君の故郷の料理を作った
ら食べさせてね﹂
624
アイリはそういって今まで食べていたものをアイテムボックスに皿
ごと入れて運転席に上がっていった。
俺も食べていた物を片付けてシートを倒して横になってウトウトと
まどろむ。
午前の休憩場所に到着して起こされた。
ふぁーあ、と欠伸をして体を伸ばしながらキャンピングバスを降り
る。
人数が少ないからかわからないが午前中の休憩のドリンクは紅茶だ
った。何の花かよくわからないが砂糖漬けの花が浮かべてあって香
りも良くて美味しかった。
お茶請けがなかったので俺が御者さんとコックさんの分まで全員に
ポテトチップスを配ってあげた。
昼食休憩までの道中は本格的に寝てしまった。
625
ミーが見たかった風景の場所がわかったっす。︵前書き︶
7・1修正しました。
1・25修正しました。
626
ミーが見たかった風景の場所がわかったっす。
﹁しんちゃん。お昼ごはんだよ! ほら起きて!﹂
ミーに揺り動かされるまで熟睡していた。
・・・この世界に転生してから始めて熟睡したのかもしれない。
しかも昼寝で。
﹁いやぁーぁあふぃー、熟睡しちゃったなぁー﹂
と、欠伸と伸びをしながらキャンピングバスを降りる。
昼食の場所ではゾリオン村から向かってきた荷馬車の人達と合流し
てご飯を食べる。
今日の昼食は爆走鳥の香草焼きとサラダ・スープという感じの料理
で外で食べてる感がない。
テーブルの上に大きなカゴがおいてあり、好きなだけパンが食べれ
るというガッツリなメニューだった。
爆走鳥も一切れが300gぐらいある。
ゾリオン村からこれからバイド村に行く人達に俺が盗賊を全滅させ
たので安心して行ってこいと、俺達と一緒に来たコックさんが声を
かけてたので俺はみんなからお礼を言われた。
今日は風がほとんどなく天気も良過ぎるので少し暑い。
なので食後はキャンピングバスで寛ぐことにした。嫁の3人は午後
は俺が運転するので昼寝をしている。
みんなの昼寝の邪魔をしないように俺は運転席で休憩していた。
空の荷馬車軍団が動き始めて俺もキャンピングバスを発車させて最
後尾について行く。
627
午前中は寝てばかりいたので流石にもう眠気はない。
街道をひたすら南下してゾリオン村を目指す。
街道はガッタガタってほどではないが未舗装なので平らな訳ではな
い。
俺が盗賊を倒してガウリスクの背に乗り、初めてガウリスクの本拠
の丘に移動をしたときは大小様々な石が転がっていたはずだったが
今はほどんどない。
昨日通った時よりもさらに綺麗になってるな。
転がっている石も資材になるから拾って運んでいるのだろう。
ミーが運転席に上がってきた。
先ほどまで聞こえたじゃんけんに勝利したみたいだな。
﹁お、今日の勝者はミーなんだ﹂
﹁うん。リベンジ成功! 今回はクラリーナが最初に脱落してアイ
リとの熱戦は私が制した﹂
﹁ミーに聞きたい事があるんだけど、いいかな?﹂
﹁私で答えれることなら。何でも聞いて!﹂
﹁ミーのことじゃないんだけど・・・この街道のこと﹂
﹁私の事じゃなかったかぁ・・・この街道がどうかした?﹂
﹁この道って転がってる石以外はすごく整備された道なんだけど、
いったい誰が作ったのかな?﹂
﹁道を作ったのは誰かは知らないけど、ヨークルが出来た1000
年前ぐらいに作られたって話だけど・・・作った人より壊した事の
方が有名だからね﹂
﹁もしかして・・・るびのがこれも破壊したの?﹂
﹁そう。伝説では怒り狂った白帝の走り抜けた後は雷雲が巨大な雷
を幾つも落とし、豪雨の中でも消えない炎が三日三晩燃えて消えな
かった。伝説ではここにも人がたくさん住んでたんだけど、全部滅
ぼされちゃったんだ﹂
628
﹁るびのって怒ると怖いんだな。あんなにモフモフで可愛いのに﹂
﹁そうだよね。白虎って聞いても伝説の聖獣とはまったく一致しな
いよね﹂
﹁ああ、アキューブに聞いたんだけど、成長すると大きさは尻尾ま
で含めると4m以上になるんだと﹂
﹁ホント? じゃあ、私も乗せてもらえるかな?﹂
﹁ミーは、るびのに乗ってみたいの? でも、俺達が乗るまでには
もう少しかかるだろう。でも今朝見たらもう尻尾まで含めると1m
はあるから・・・そんなにはかからないかも﹂
﹁ウソ! もうそんなになってるの? ・・・やっぱり聖獣って凄
いんだね。るびのはよく食べるしね﹂
﹁5kg以上の肉を毎食食べてるもんなぁ。体重も、もう30kg
ぐらいはありそうだった﹂
﹁デカっ! ちょっと会うのが楽しみになってきたよ。そうだ! しんちゃん、今夜は家に帰って寝ようよ﹂
﹁るびのは・・・たくさん食べてたくさん寝てるしな。そうだな今
夜ぐらいは久しぶりに自宅で寝るか?。おーい、下のの皆もいいよ
な?﹂
﹁いいよー! うちのお風呂に入りたい﹂
﹁私もうちのお風呂に入って、自分達のベッドで寝たいですね﹂
﹁アイリとクラリーナも賛成だし、今夜はお家でエッチ三昧だ!﹂
﹁﹁おー!﹂﹂
ミーが下に降りていきながらの掛け声に下のキャビンスペースから
威勢が聞こえる・・・まぁいいか。俺も楽しみになってきたし。
午後の休憩場所が見えてきたときにアイリが運転席に上がってきた。
﹁アイリ、今来たばかりだけどもう到着しちゃうよ﹂
﹁大丈夫です。休憩の後も私から始まるんで今は余り時間ですから﹂
629
﹁ちゃっかりしてるな。でも、昨日ミーに勝ってはしゃいでたクラ
リーナが最下位か?﹂
﹁ふふふっ、今日は一発で負けましたけどね。だって・・・じゃん
けんが始まる前から手の形がチョキなんですから﹂
﹁ぶはははっ、流石にそれはないよ。わかりやすすぎ﹂
﹁よほど昨日の勝利がうれしかったんでしょうね﹂
﹁5歳児かよ・・・うかれすぎだな﹂
﹁ですね。あっ、こっちに停めてくれって指示してますよ﹂
﹁おう。でもこんなにスペース空いてるんだから、どこでも一緒な
んだけどなぁ﹂
﹁まぁまぁ、うちは馬がいないのでどこでもいいんですけど、普通
は馬の世話はまとめてやった方がいいですから﹂
キャンピングバスを指示された場所に停車して下に降りて行く。
下ではクラリーナが凹んでた。
﹁どうした、クラリーナ。顔が暗いぞ?﹂
﹁だって、じゃんけんも負けるし。しん様にも笑われちゃったし・・
・﹂
ドアを開けて休憩場所のテントにみんなで歩いて行く。
﹁まぁ、次は気をつければいいさ。アイリも親切に教えてくれたん
だから﹂
﹁明日は私、頑張ります!﹂
﹁え? 明日はないだろ? 明日は今まででやってない順番、①ク
ラリーナ②ミー③アイリじゃないのか? なぁミー、そうだよな?﹂
﹁うん。そうだよ。明日はもう順番決まってるからじゃんけんしな
いよ﹂
﹁それはそれで何か悔しいですね﹂
630
﹁ホント、クラリーナは負けず嫌いになってるなぁ。まぁ今回の依
頼は明日で終わりだけど、俺達の旅はまだ始まってもいないから、
あせらなくていいってのんびりいこう﹂
そういって俺はクッションの上に腰を下ろす。
コック係が俺達のテーブルに冷えたフルーツ︵イチゴとメロン︶と
ハーブティーのポットを人数分置いてくれる。
自分の前に置かれたポットからマグカップにハーブティーを入れて
一口飲む。
今日のは当たりかな。
俺の好みの味だった。
また皆で一口ずつ回し飲みをした。
うん・・・今回のは癖の強いのはなかったな、皆飲みやすい味だっ
た。
今日はかなり暑い日だけど、ホットハーブティーと半分凍ってるフ
ルーツが相性も良くて美味しかった。
今日の護衛隊の人達は明日も俺達と一緒にバイド村に行くみたいだ。
そのままバイド村の警備隊になって定住をする予定。
家族はヨークルまで来ているが、バイド村の状況がもう少し落ち着
いてから呼びに戻るって言ってた。
護衛隊の皆さんは1人を除いてみんな首都シーパラで首都防衛軍の
メンバーだった。
1人はウェルヅ大陸の南方の港町﹃シグチス﹄で警備隊で働いてい
たが、奥さんがゾリオン村の出身でガルディア商会のシグチス支部
で働いていて、今回のバイド村警備隊募集の高給と条件の良さに移
住を決めたそうだ。
631
シグチスは港町でも漁業はそれほど発展していない。
メインの産業はシーパラ連合国の南方で大量に栽培されている綿花
の集積地として発展した12万人ほどが住む都市らしい。
シグチスは歓楽街としても発展していてカジノとかがあって警備隊
は給料安いのに深夜まで事件やケンカが耐えなくてかなりの重労働
なんだって。
でも、夜勤明けに背後の山から登る朝日と、海に沈んで行く夕陽は
一見の価値が絶対にあるから、一度は見た方が良いってしきりに薦
められてしまった。
朝日の話があったのでミーとアイリが食いついた。
背後の山っていっても、山頂の山小屋まで子供でも歩いて登れる程
度の小さい山。山頂の山小屋には宿泊場所もあって、小屋の外に出
て見る朝日は絶景らしい。
あたり一面の綿花の畑が黄金色に輝いていて例えようもない美しい
光景だと胸を張っている。
アイリもミーも大興奮だった。
昔見た永遠に忘れる事が出来ない風景・・・しかし2度と見ること
が出来ないとまで思っていた光景がシグチスの背後の山の山頂にあ
る山小屋で間違いないそうだ。
﹁そういえば、母さんが父さんはシグチス出身だって言ってた。港
町だから考えから抜けてたよ﹂
﹁そうね・・・確かにモルガン父さんはシグチス出身だって聞いた
ことある。行きたいのが山小屋で港町ってことで・・・考えもしな
かったよ﹂
アイリとミーは若干凹んでる。
632
﹁私も海に沈み行く夕陽が見たいです﹂
クラリーナはまだ見ぬ風景に心を躍らせていた。
俺は知らない話をしてもらってるので、俺はニコニコして聞いてい
た。
知らない場所の知らない話は面白い。
シグチスかぁ・・・いつか行くことが出来るかな。
アイリとミーの反応を見ると首都シーパラのあとはシグチスに決定
だな。
馬達の元気が有り余ってるから、ここからはスピードを上げてゾリ
オン村に早めに着こうって事になった。
休憩も若干早めに切り上げて出発する。
俺達もキャンピングバスに乗り込んで出発する。
俺がガウリスクの本拠の丘を見ているとアイリが運転席に登ってく
る。
633
クラリーナを泣かせてしまったっす。︵前書き︶
この話から今までと投稿パターンを変えます。
今までは﹃ノクターン﹄からエロ抜きで﹃なろう﹄に転載ってパタ
ーンでしたが、これからは﹃なろう﹄からエロ入れでノクターンに
転載って形になります。
・・・この話にはエロが入ってなくて申し訳ございません。
1・25修正しました。
634
クラリーナを泣かせてしまったっす。
﹁しん君、何ボーっとしてたの?﹂
﹁あぁ、あそこに結構大きな丘が見えるだろ? アレがグリーンウ
ルフの本拠地になってるんだ﹂
﹁あんなところに100頭以上もグリーンウルフがいるの?﹂
﹁あの丘は地下に大小の空洞が洞窟で繋がっていて、洞窟の出入り
口はここからは見えないけど何十個もあるんだ。だからスピードが
命のグリーンウルフにとって敵からの攻撃を逃げるのも反撃するの
も都合がいい場所なんだって、ガウリスクから聞いたよ。それに前
はもっと住んでいたんだって。洞窟もたくさん余っていたから俺も
あそこに仮住まいできたんだし﹂
﹁そういえば、しん君は何日かあそこに住んでたって言っていたわ
ね。うふふっ・・・洞窟内の住み心地はどうだった?﹂
﹁洞窟内は温度が一定で風も時間帯によって違う方向から入ってく
るし、結構住み心地は良かったよ。俺は転移魔法があるから良いん
だけど・・・アイリたちが住むとしたら、かなりの困難かも。洞窟
内は中が迷路状になってて広過ぎるから。俺は魔法で探査してMA
Pを作ったけど3層の階層があるし・・・アレは﹃グリーンウルフ
ダンジョン﹄って言ってもいいよ・・・グリーンウルフダンジョン
ってカッコイイな。これからはそう呼ぼう!﹂
﹁うふっ。しん君、子供みたいになってるわよ。でもアレだけ大き
な丘の下に洞窟が3層もの迷路状態で広がっているなら確かにダン
ジョンって言えるわね。私も見てみたいかも﹂
﹁そうだな。るびのを連れて魔獣達に挨拶回りをするときは皆も一
緒に行こうか?﹂
﹁いいわね。私も魔獣と一度お話してみたい﹂
635
﹁グリーンウルフはるびのよりは劣るけどモフモフでさわり心地は
最高だよ。洞窟の中に子供のグリーンウルフがいるんだけど、緑色
でモコモコしててさわり心地もモフモフでたまらないな。﹃リアル
に動くぬいぐるみ﹄って感じだった﹂
﹁モフモフかぁ、しん君が前に﹃モフモフは正義﹄って熱く語って
いて、なに言ってるんだろうこの人って思っていたけど、るびのを
見て触った瞬間に理解できたよ。アレはヤバイ。凄い魔力がある﹂
﹁だよな。﹃モフモフは正義﹄って感覚は実際に見て触ってみない
とわからないんだ。しかも自分の何かを狂わせる魔力を持っている
し・・・人によっては数日触れないという鬱憤が溜まるだけで禁断
症状まで出ると言われている﹂
﹁怖いわね・・・病気? 麻薬?﹂
﹁確かに怖い病気でもあるし、麻薬よりもはるかに恐ろしいよ・・・
﹃モフモフさえあれば他には何もいらない﹄って猛者が、俺が前に
住んでいた日本にはたくさんいた・・・老若男女問わずに﹂
﹁ホントに怖いわね・・・でも、るびのを触って以来、私にも理解
できてしまうのも怖いわ。しん君の熱く語ることって今までほとん
ど理解できなかったけど、これは理解できるってのも、ちょっと怖
いな﹂
﹁なんだよそれは。・・・そういえばアイリに聞いてなかったこと
があるんだけど・・・自分が若返った感想は?﹂
﹁そうね。率直に行って﹃うれしい﹄これは間違いない事だわ。私
も冒険者とはいえ女ですもの。ただこのまま若さを保ったまま10
00年生きるって、アマテラス様に最初言われた時はちょっとビッ
クリしたけど・・・それだけね。愛する男と永遠とも呼べる時間を、
若さを保ったまま過ごせるっていうのは、女にとって・・・いえ、
女として生まれてきて願いが叶ったと言ってもいいわね﹂
﹁ふーん・・・なるほどねぇ。女心は俺にはわからないことだから、
一度機会があれば聞いてみたいと思ってたんだ。ありがとうな﹂
636
﹁ありがとうってお礼が言いたいのは、私とミーとクラリーナのほ
うよ。ミーも昨日、しん君に言っていたように、私達は打算をもっ
てしん君に近づいて結婚をもぎ取ったんだけど・・・今、考えると
その時の自分に﹃良くやった﹄って褒めてあげたくなるほど、今の
私は幸せよ。もしあの時﹃年齢差が・・・﹄とか考えて少しでも躊
躇してたら、こんなに幸せになれなかったかもしれないんだもの﹂
﹁俺もきっかけはアイリもミーもクラリーナも色欲なんだけど、綺
麗な嫁3人ももらって幸せだよ﹂
﹁うふふっ、しん君ありがとう! ・・・ちゅ﹂
アイリが俺のホッペにキスしてきた。・・・やはりイチャラブは甘
くていいな。
﹁でも、しん君もよく私達を信頼して秘密をたくさん話してくれた
わね。あれだけの秘密になると他人に話すことに躊躇するんじゃな
い?﹂
﹁ああ、俺も不思議なんだけど・・・アイリとミーそれにおやっさ
んとおかみさん、この人達なら秘密を話しても大丈夫っていう自分
の直感に従ったんだよ・・・あのときぐらいから俺はこの世界では
直感も利用して生きようって思った。俺にはこの世界で知らないこ
とが多過ぎる・・・でも﹃主神の祝福︵天運︶﹄っていう祝福もあ
るし、悪いことにはならないだろうって、上手く説明できない妙な
自信もあった。でも・・・今、考えると直感にしたがって良かった
と思ってるよ﹂
﹁もー、しん君ったら﹂
アイリが俺の頭を抱きしめてくるが、残念ながらオーガナイト鋼の
フルプレートアーマーをアイリは装備しているので固い感触しかな
い。
柔らかなマウンテンの感触はまったくない。
637
﹁アイリさーん、運転中のイチャイチャはたいへん危険なのでご遠
慮くださーい﹂
クラリーナが時間になったので運転席に登ってきて声をかけてきた。
アイリは残念そうに俺から離れて下のキャビンスペースに降りてい
った。
クラリーナが俺にマグカップを渡してくれる。
﹁はい、しん様アイスコーヒーです。どうぞ﹂
﹁おお、クラリーナありがとう。今日は暑いからアイスコーヒーの
ほうが美味しいな﹂
グビグビってマグカップのアイスコーヒーを、半分ほどを一気に飲
んだ。
うん美味しい。
すぐにクラリーナがマグカップに継ぎ足してくれる。
﹁そういえば、クラリーナはゾリオン村に帰ってから冒険者ギルド
にギルドカード更新に行くとCランクになるんだけど、良かったな。
これで俺たちな全員Cランクだよ﹂
﹁実感がまったくないですね。しん様とお会いして結婚が決まって
からまだ数日しかたってないんですし、私が奴隷のように冒険者登
録してからも10日もしてません。でも・・・今は毎日が楽しいで
すね。冒険者になって経験も全然足りなくて、まだまだ一人前って
レベルじゃないんですけど・・・やっぱり楽しいです﹂
﹁それなら、俺もうれしいよ。なんか無理矢理に冒険者にさせてる
んじゃないかって心配してたんだ﹂
﹁それはないですね。楽しいのは﹃魔法﹄ですかね。以前に教会で
司祭様に﹃君には魔法の才能を感じる﹄って言っていただいた時も
638
うれしかったんですけど、しん様に﹃クラリーナは魔法の申し子だ﹄
って言われた時は天にも昇る様なうれしさだったんです﹂
﹁実際にクラリーナは魔法の申し子だよ、間違いなく。俺の中にあ
る知識と経験も同じように感じてる﹂
﹁初めてダンジョンに来た時はこき使われて失敗しては責められて、
他人の失敗まで﹃お前のせいだ﹄って責められて、冒険って辛いん
だと思ってましたけど・・・早乙女遊撃隊に入れてもらってからは、
まったく逆で私が失敗しても、アイリさんもミーさんも笑って許し
てくれるし、しん様もアドバイスをしてくれてフォローまでしてく
れるし・・・楽しいんです﹂
﹁・・・﹂
﹁自分が皆さんに魔法でほんの少しでも貢献出来てるって思うと楽
しくてうれしいんです。・・・居場所がなかった私が・・・必要っ
て・・・うれしいんです﹂
うーん・・・泣かせてしまったな。
俺は左手に持っていたマグカップをカップホルダーに置いて自分の
左側のバーに腰掛けるクラリーナの頭を、ポンポンと優しく叩きな
がら優しく声をかける。
﹁俺の愛するクラリーナの嬉し泣きなら大歓迎だよ。間違いなく俺
にはクラリーナが必要な存在だ。早乙女一家にもクラリーナは必要
な存在だ。チーム早乙女遊撃隊にもクラリーナは冒険者として必要
な存在だよ﹂
うぇーんって声をあげて泣いてしまった。
時々しゃくりあげるようにエグエグいってる。
ちょっと泣きたい感情が溜まっていたんだろう・・・クラリーナは
まだ18歳だ。
思春期の女の子は時々そんな感情が自分で制御できなくなるときが
639
あるって、昔に付き合っていた女性に言われた事がある。
話を聞いていたアイリとミーも運転席に上がって来てクラリーナを
抱きしめて慰めている。
そのまま4人で雑談していたが・・・クラリーナが俺と2人っきり
になれる自分の時間が短くなったことに気付いたのはゾリオン村に
到着する寸前だった。
640
さらにさらに大金ゲットしちゃいました・・・どうすんのこれ?
っす。︵前書き︶
7・7修正しました。
1・25修正しました。
641
さらにさらに大金ゲットしちゃいました・・・どうすんのこれ?
っす。
ゾリオン村に行く前に念輪でセバスチャンに連絡を取ると、出来れ
ば今日は大森林の東側の岩場で夜明かしがしたいと・・・深夜の狩
りと眠る時の注意事項など訓練したいことがたくさんあるので、こ
こで今夜は夜通し訓練がしたいと言われてしまった。
嫁達3人が今夜は会えると思っていたるびのに合えなくなって、淋
しそうな顔をしていたが・・・了承した。
るびのの教育はセバスチャンとマリアに全部任せてあるからな。
今夜のキャンピングバスの護衛はなしにして封印だけ施しておくこ
とにする。
キャンピングバスはゾリオン村に到着した。
以前と同じように村の外の仮で作られた物資集積場の、さらに端の
指示された場所にキャンピングバスを停める。
キャンピングバスを停車させて降りると、この停車場所まで誘導し
てくれた人が物資仮設集積場にあるテントでバイドが待っているの
で顔を出して欲しいと言われた。
俺たちは会話しながら仮設の集積場本部テントに歩いて行く。
﹁まぁ、泣きたいだけ泣いたんだからスッキリしただろ? クラリ
ーナ、そんなに凹むなよ﹂
﹁確かにスッキリしたんですけど・・・悔しいです﹂
﹁ゴメンねクラリーナ。悪気はなったんだけどね。クラリーナの泣
き声を聞いていたらジッと我慢が出来なかったのよ﹂
﹁そうよねアイリ。私達も我慢はしたんだけどね。クラリーナの泣
き声を聞いてると我慢できなかったの。泣き止んだころには、もう
642
ゾリオン村に近かったし・・・まいっかってね﹂
﹁まいっか、じゃないです。ミーさんもヒドイです﹂
﹁そんなに拗ねるなよクラリーナ。明日は1番手なんだろ? ちょ
っと時間を長くしてあげるからな?﹂
﹁ホントですか! やった﹂
はしゃぐクラリーナを微笑ましい目で見てしまった。アイリとミー
も同じような目でクラリーナを見てる。
仮設本部に到着したんで声をかけた。
﹁すみませーん。早乙女ですけどバイドさんはどちらにいらっしゃ
いますか?﹂
﹁こちらです。いまご案内をさせていただきます﹂
ガルディア商会の人間が来て、俺たちを案内してくれるので後ろに
ついて歩いていく。
物資の量が凄いことになっている。
だけど木箱のサイズが俺たちの運んだ大きさじゃない。
俺たちが運んだのは2m×2m×2mの木箱だったが、これは1m
×1m×1mの木箱のサイズしかない。
案内された先にバイドがいたので声をかける。
﹁バイドさん、ただいま戻りました。それで話っていうのは・・・
この木箱のサイズですか?﹂
﹁これはチーム早乙女遊撃隊のみなさん、おかえりなさい。と・・・
まずはお礼からだな。盗賊を106人も討伐してくれてありがとう。
これで安心してバイド村の立ち上げに邁進して行くことが出来るよ
うになった・・・本当にありがとう﹂
﹁いえ、別に俺にも事情はありますし。盗賊がいるのがわかってて
643
待ってられなかっただけですよ﹂
﹁そうでしたか。早乙女さんにも事情はありますからね。それと・・
・いま早乙女さんがおっしゃったように木箱のサイズの変更でお話
させていただきますが、今は時間はよろしいですか?﹂
﹁ええ、いいですよ。お話ください﹂
﹁まずはサイズ変更の理由から・・・ここまで運んできた物資で、
大きさが1m超のサイズの物資がなくて1m×1m×1mのサイズ
で充分だったんです。それに私どものガルディア商会がうちの職員
も含めて手配できたアイテムボックス持ちの人間は小サイズ持ちが
100人が限度でした。それで運ぶ物資のサイズを変更してここま
でピストン輸送したんですが・・・そこで早乙女さん達にお願いし
たいのはサイズと数量の変更です﹂
﹁あ、はい。数はどれほどになりますか?﹂
﹁前回とアイテムボックス内で使うスペースは同じです。つまり2
m×2m×2mのサイズに1m×1m×1mのサイズの箱は8個入
りますので、8倍の数をお願いしたいんです。ですので早乙女さん
とアイリさんとミネルバさんには800個の木箱。クラリーナさん
には1600個の木箱をお願いします﹂
﹁凄い数になりましたね・・・運ぶ量の変更はわかりました、大丈
夫です。でも・・・朝の何時に集合すればいいんですか?﹂
﹁出来ればこれから、皆さんのアイテムボックスに入れて欲しいと
お願いしたいのですが﹂
﹁だから時間を聞いたんですね。確かに早朝のドタバタしてる時間
に慌しくアイテムボックスに入れるよりも、今のほうが余裕があり
ますね。では今から入れちゃいましょう﹂
そういってみんなで手分けして1個ずつ確認をしてサインしてから
アイテムボックスに入れる。
俺とアイリとミーは1時間程度で終わったがクラリーナは1600
644
個だ。
2時間以上もかかってしまった。
時間的に太陽も沈んで周囲は篝火だけが瞬く。
ここのあたり一面にあった物資が無くなったので壮観だな。
仕事も終わったし時間が時間なんで空腹を抱えて、俺たちはゾリオ
ン村の門から中に入って行った。
ゾリオン村のおにぎりブームはさらに凄くなってる。
屋台が溢れていて、その周りにたくさんの人達が蠢いている。
今日もお祭りですか? って聞きたくなりそうな喧騒がゾリオン村
を覆ってる。
俺は昨夜のことも話がしたいし、クラリーナのギルドカードの事も
あったので、冒険者ギルドのゾリオン支部に行く。
おなかも空いてる時間なんで途中で見かけた、美味しそうなおにぎ
りは全部購入することにした。
俺がこの前作った焼きおにぎりも色々工夫されて売っている。
葉っぱで包んであるものや、味噌に木の実などが入ってて田楽みた
いになってるおにぎりまである。
こうやって食べながら移動できるのもおにぎりの良さだな。
おにぎりに合うスープとかも屋台で売ってるので自分のカップを渡
して入れてもらう。
こうやって創意工夫を皆ですればドンドンおにぎり文化は広がって
行くだろう。
冒険者ギルドに到着して俺が中に入っていくと、職員がビッタート
卿が呼んでるのでギルドマスター室に顔を出して欲しいと言われた。
職員に案内してもらいギルドマスター室の中に入る。
645
﹁呼び出してスマンな。君には話があるからな。済まないがこの話
はワシと早乙女君のチームとの内密な話になるので、君は席をはず
してくれ﹂
職員が出て行ってから俺は部屋に沈黙の封印を使う。
これで外には一切聞こえなくなる。
俺がやっていることを理解したビッタート卿は俺が魔法をかけてる
間に俺たち全員にコーヒーを入れてくれた。
﹁では、話をしよう。彼女達にも説明はしてあるんだよな?﹂
﹁ええ、妻達には全て話してありますので大丈夫です﹂
﹁わかった。それで、君が助けてくれた8人の女性はここ冒険者ギ
ルドのの隣にあるワシの屋敷にかくまっている。彼女たちは環境の
変化に驚いているが、全員がワシも何度か話をしたことがある女性
なんで、今は安心してすごしているよ﹂
﹁ありがとうございます。女性達のケアはビッタート卿にお願いす
るしか俺には出来ません。それとも何か支援した方がいいですかね
?﹂
﹁それはこちらで全部処理できるから、君は秘密だけ守ってくれれ
ばいいよ﹂
﹁秘密に関してはこちらもお互い様なんで、口が裂けても他言はし
ませんよ﹂
﹁そういえばそうだな。あと、彼女達も誘拐されて恐怖な体験をし
ているが、確認したところまだ性的な虐待は受ける前だったのは幸
いだったよ。たぶんだが・・・彼女達をさらって自分達のリーダー
になるはずだった副隊長に献上しようとしていたんだろうな・・・
不幸中の幸いだったよ﹂
﹁それは良かったですね。彼女達の話はこれで終わりですか?﹂
﹁ああ、ありがとうな早乙女君。後はこちらで処理できる問題だ。
盗賊たちのステータスカードの確認をしたいので職員を呼んでも良
646
いかね?﹂
﹁はい・・・これでOKです﹂
俺が封印を解除したのでビッタート卿は職員を呼んできた。
106枚の盗賊のステータスカードを渡し、ビッタート卿とギルド
職員さんが確認する作業に入ったので俺たち夫婦は冒険者ギルドの
2階の食堂に行くことにした。
冒険者ギルドの食堂もおにぎりに侵食されているようだ。
持ち帰り用の容器に弁当が売られていた。
塩おにぎり3個とウナギの蒲焼の半身が入って500Gで売られて
いた。
容器を返せば50G戻ってくる・・・という、エコな商売をしてい
た。
食堂のオバちゃんに話を聞いたら、量が多くて安いのでEランクや
Fランクの初心者を中心に結構売れてるみたいだ。
ウナギもおにぎりも歩きながらでも食べられるように工夫したって
自慢してた。
流石に今日はドリンクを朝から飲みまくっているので、何も飲まず
に雑談しているとギルド職員が呼びにきたのでギルドマスター室に
戻る。
今回は盗賊に指名手配もかかる前での討伐だったので全く金額も気
にしてなかったが、ビッタート卿に1時間以上も時間がかかった理
由を聞いた。
﹁遅くなってすまないな。確認したいことがあって時間が遅くなっ
てしまった﹂
647
﹁盗賊討伐って言っても今回は指名手配にかかる前でもあるんで、
規定の金額で1人10万Gだけの106人で1060万Gだけでな
んじゃないんですか? どうしてこんなに時間がかかったんでしょ
うか?﹂
﹁ああ、バイド様から話があってな。早乙女君がここに来る前の夕
方に今回も君に大変世話になったお礼もかねて盗賊の討伐に謝礼を
上乗せしたいと言われていてね。それの金額の確認もしていたので
遅くなってしまった。それで今回の金額は全部合わせて﹃4億10
?﹂
60万G﹄だ﹂
﹁・・・え
﹁これには・・・君に手助けしてもらった全てが含まれているんだ
﹃ワイバーン3頭の討伐﹄﹃護衛隊副隊長の反乱計画の崩壊﹄﹃ス
パイの確保﹄﹃スパイを指示していた人間の確保﹄﹃盗賊の討伐×
2﹄。などなど他の全部をあわせてチーム早乙女遊撃隊に1人1億
Gが追加された。これはバイド様の独断でなくゾリオン様や次期当
主のギル様も了承済みだ。後は君達に受け取ってもらうだけだよ﹂
流石に家族全員で絶句してしまう。
でもこういうときに遠慮したりするとかえって増額する可能性があ
るので・・・面倒なので受け取ることにした。
ギルドカードに入金してもらって・・・チーム早乙女遊撃隊の所有
金額が総額8億G以上になってしまったな。
もはや金は・・・それにしても現金じゃなくて良かったな。
金貨何千枚って渡されても、邪魔になるしな。
ステータスカードとギルドカードの魔力マネーさまさまだ。
クラリーナはCランクになったギルドカードを見てニヤニヤと顔が
ほころんでる。
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護衛依頼はまだ途中だがこういうときは途中でも、早くランクを上
げたがってる冒険者ギルド側は依頼の途中でも確認さえ取れていれ
ばランクアップに応じてくれるって聞いていた。
話は全部終わったのでキャンピングバスに戻ることにする。
時間ももう夜の10時だ。
キャンピングバスに乗り込んでから厳重に魔法で封印をかける。
嫁を連れて早乙女邸に転移魔法で帰還した。
649
コスプレ三昧と翌日の護衛依頼最終日。バイドと話してたら遅れ
そうになっちゃったっす。︵前書き︶
1・23修正しました。
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コスプレ三昧と翌日の護衛依頼最終日。バイドと話してたら遅れ
そうになっちゃったっす。
早乙女邸に帰ってきて・・・まずは風呂かな。
こういうときに、かけ流しの温泉は楽でいいな。
沸かす手間はない・・・魔法があれば適温ですぐに出せるけどね。
確認で湯船に入ってるお湯に浄化魔法で殺菌。
設置してあるマットや洗い場も全部キレイに浄化する。
まさしく魔法バンザイだ。
更衣室に戻ると嫁たちが装備を外す前に、自分も含めて俺が全員に
いつもの3点セット魔法で防具もアンダーまで全部を浄化する。
更衣室にはカラーボックスみたいな棚にカゴが10個ほど置いてあ
り着替えを置けるようになっているが・・・今は全員がアイテムボ
ックスで自分の服を管理してるし、洗濯も3点セット魔法の連発で
いつもいつでも清潔なので、この家には洗濯するための場所すらな
い。
まぁ、カゴや更衣室は・・・客が来る可能性もあるし。
俺の周りには美しい嫁が3人も装備を脱ぎながら、美しい肢体をあ
らわにしてる・・・たゆんたゆんがポヨンポヨンしていて俺のチン
コは我慢できるはずもなく、バッキバキに勃起している。
アンダーパンツを脱ぐ時はちょっと苦労した。
バチンとヘソに当たって音をたてているので﹃んごきゅ﹄って生唾
を飲む音が聞こえた。
ここは一応謝っておかないとな。
651
﹁ごめんな。今日昨日と2日もエッチをしてなかったのでムチャク
チャ溜まってる﹂
﹁あ、謝るのはこっちのほうよ。愛する旦那様が困ってるのに・・・
﹂
﹁そうねミー。私たちが何とかしないとね・・・﹂
﹁んごきゅ・・・そ、そうです困ったときに家族は支えあわないと・
・・﹂
嫁3人は素早くアンダーを脱いで裸になると、吸い込まれるかのよ
うに俺の前に跪いて3人が並ぶ。
まず最初はミーが俺のチンコを咥える。
ズブズブズブと無理矢理にくわえ込んでいき、そのまま根元まで喉
の奥に入れていく。
グボッグボッと卑猥な音を更衣室に響かせて10回ほどストローク
させてから離れる。
次のクラリーナも同じように10回ほど動かせてからアイリに変わ
る。
﹁ああ、気持ちいい・・・でもなんで、みんなすぐやめちゃうの?﹂
﹁それは、お風呂に入ってからね。しん君﹂
﹁そういえば、まだここ更衣室だったな﹂
﹁そうよ、しんちゃん。お楽しみは後でね﹂
﹁しん様、そろそろお風呂にまいりましょう﹂
クラリーナに手を引かれて風呂に入っていくと、先回りしたミーが
俺にかけ湯をしてくれる。
至れり尽くせりってこのことだな。
﹁うむ。よきにはからえ﹂
652
とか、殿様気分で言ってみたりしたが・・・3人の嫁がスルーして
∼∼﹄と声が出てしまうのは日本人として
しまったのでちょっと淋しくなった。
湯船につかる時は﹃あ
∼∼﹄っ
DNAに刷り込まれている習性なんだろう︵ウソ︶・・・我慢でき
ないしな。
﹁うふふっ。しん様がお風呂に入るときに必ずいう﹃あ
て声を聞くと、小さい時におばあちゃんと一緒にお風呂に入ったこ
とを必ず思い出してしまいます﹂
∼∼﹄って言ってるわね﹂
﹁そういえば、ヨークルにある公衆浴場に入りに行くときはお年寄
りはみんなしん君みたいに﹃あ
ボケ老人の定番ボケ﹃良子さん、晩飯はまだじゃったかいの∼﹄っ
て言いたくなってしまったが、これは何とか我慢して飲み込んだ。
こういうボケが成立するのは相手もネタを知っていないと波乱を呼
んでしまったりするからな。
﹁はいはい。俺は肉体年齢15歳のお年寄りですよ。みんなー、こ
のお年寄りのチンコが欲しいんだったら立ち上がってお尻をこっち
に向けてー﹂
3人とも立ち上がりお尻をこちらに向ける。
女性特有の香りが鼻腔をくすぐる。1番積極的になってたのはクラ
リーナだった。
自分の尻肉を両手で左右に広げてマンコが見えやすくして懇願する。
﹁しん様、お願いします。もう我慢が出来ないんです。しん様のオ
チンチンを早く入れてください﹂
653
可愛い嫁にこんなことを懇願されて断るのはホモか不能者だな。
俺はどちらでもないので食い入るように熱心に眺めてしまった。
トロトロと愛液がくぱぁと広がるクラリーナのマンコから零れ落ち
ている。
俺は我慢しないで立ち上がってクラリーナの背後に。
チンコを手に持ってクラリーナの愛液を擦り付けなじませていく。
グボッとかグチュとか卑猥な音が響く。
ちょこっとヴァギナに入れたりして感触を味わう。
﹁ああ、あん早く。早くください﹂
﹁よし。じゃあ、欲望に積極的になったクラリーナにはご褒美をあ
げないとな! っと﹂
この俺の一言で今日の流れは変わってしまった。
ズブズブズブとクラリーナの中に音を立てながらチンコを挿入する。
相変わらずの狭さで気持ちがいい。
自分は動かずにクラリーナの腰を掴み前後に動かす。
グチュグチュチャポチャポと浴室内に響く音も気持ちがいい。
﹁あっあっあっあぁ、しん様のオチンチンがぁ、奥まで、きてます﹂
﹁では、私も欲望に積極的になりますね﹂
アイリが俺の後ろに回り、俺の背生に大きなって固く勃起した乳首
を擦りつけてきた。
後ろから俺のアナルを指先でコリコリとほじったり、金タマのマッ
サージをしてきたり・・・気持ちがいい。
ミーは前に回りクラリーナの乳首とクリトリスを一方的に攻める。
654
﹁しんちゃんが積極的になれって言うからね、クラリーナには悪い
けど私の欲望の為に強制的にイかせるね﹂
﹁うそ! ミーさんダメああああ、ダメ! クリがぁ、ちっくびも
ぅ、あふぁあん。あっあっあああ﹂
ミーの攻撃でクラリーナが強烈な快感でビクビクと体を震わす。
そのビクビクした動きがダイレクトにヴァギナを締めたり緩めたり
の運動をしてくるので、まるで手でチンコを握りこんでいるかのよ
うに不規則に動いている。
あまりの快感で俺はもう言葉も出ない。
ただクラリーナの腰を前後に動かしてチンコをクラリーナの奥へ叩
きつける。
俺も快感で脳が焼き切れそうだ。
何も考えられなくなった脳味噌にアイリが直接語りかけてくるかの
ように俺の耳をピチャピチャ舐めながら語りかけてくる。
﹁あはぁ、ぴちゃ、れろ、あああ、しん君。出してもいいよ。レロ
レロぴちゅ。うふふふっ、我慢なんていらないわよ。しん君は後は
出すだけよっと﹂
最後の言葉と同時に俺のアナルにアイリの指が入ってきて縦横無尽
に動き回る。
俺も快感の限界を突破して強制的に搾り出されたかのように、クラ
リーナのヴァギナの最奥に叩きつけてから精液を放出する。
クラリーナは連続でイキまくって既に目の前にいるミーの腰にすが
り付いてるだけになってる。
俺の顔を見ながらミーがうれしそうに話しかけてキスしてくる。
655
﹁あああ、しんちゃんが快感でトロけてる顔が可愛くてたまらない。
ハァハァ。ちゅっ、はぁ、美味しい﹂
﹁ほらほら、ミー、しん君のオチンチンはまだ大きくなったままよ
! 旦那様に満足してもらうのは妻の務めですからね!﹂
﹁そ、そうね。早乙女家の妻ですものね。じゃあ、湯船は危ないか
ら2人ともマットまで運んじゃいましょう﹂
後ろからアイリに抱きかかえられてマットまで運ばれてしまう。
ミーの腰に縋り付いていたクラリーナはミーに軽々運ばれている。
2人ともマットの縁に頭を乗っけて横になる。
マットの中の空気は常に一定の温度になるように設定してあるので
暖かくて気持ちいい。
地球だったら雑菌の巣になりそうなんだけど、この世界では魔法で
簡単に殺菌できるのでムチャクチャ楽でいい。
順番を決めるじゃんけんが終わりアイリが俺にウンチングスタイル
で跨って自分で挿入する。
﹁ああ、あああ、しん君のが入って、あはぁ、気持ちいい、あああ、
最高﹂
﹁なぁ、ミー。アイリって何気にじゃんけん強いな﹂
﹁そうなのよ。私が弱いって訳じゃないのに。アイリには5回に1
回ぐらいしか勝てないのよ﹂
﹁25年以上の付き合いがあって・・・それでも、じゃんけんで挑
んで行くミーの方がすごいよ﹂
アイリと俺の繋がっているところが見える。アイリが俺にお尻を向
けてウンチングスタイルで跨っている。アイリの尻肉を掴んでアイ
リの腰の動きを強制的に止める。
656
﹁アイリって俺に自分のアナルを見て欲しいから、この体位が好き
なんだよな? ほら、もっと前かがみになって俺に見えやすいよう
に自分でお尻を突き出して!﹂
﹁そんな、でも、ちがっ、ああ、でも。気持ち良いの﹂
﹁しんちゃん、ちょっと違うよ。アイリはね、アナルに指を入れら
れて、自分が快感でよがる姿をしんちゃんに見てもらいたいのよ・・
・しんちゃん、アイリのお尻を広げて?﹂
ミーの指示通りアイリのお尻の肉を限界まで左右に広げる。俺に見
せ付けるようにミーがアイリのアナルに指をちょっとずつ動かして
入れていく。
﹁ミー、いやぁ、ダメしん君あああ見ないで。気持っち良いぃい。
指ぃ抜かないで。しん君に見られて気持ちがぁああん良いの。﹂
﹁ほら、しんちゃん下から突き上げて! アイリのマンコがが下か
ら突き上げて欲しいって、涎をダラダラたらしてるよ。アイリもは
ら、しんちゃんにお願いしないとね﹂
﹁くだっさい。しん君のオチンんんチンを突きぃ、突き上げてくっ
ださい。ああああっ、さいこぅ﹂
アイリが掴まりやすいように俺は横になって膝立ちの姿勢になって
る。アイリは腰を浮かせた状態で目の前の俺の膝にしがみついてい
る。俺がチンコを突き上げ始めるとクラリーナが復活して乱入して
きた。
﹁フッフッフッフ・・・アイリさんに仕返しです。ってお尻は埋ま
ってますね。アイリさん、ミーさんの指は気持ちがいいですか? しん様にアナルに指がズボズボされてるところを見てもらって気持
ちが良いですか?﹂
﹁う、うん、気持ちが良い。しん君にぃぁあああ、見られてええ、
657
気持ちがぁあいいのおおお、ちくびぃい、乳首もぉおおおぅ良いい
いの! あああ、あ、お﹂
クラリーナはアイリが話している途中から乳首を攻撃しはじめた。
弱点の乳首までいじられてアイリはもはや何を言っているのか自分
でもよくわからなくなってきてる。
アイリのヴァギナがグニュグニュと締め付けてくる。
我慢することもなくそのままアイリのヴァギナの奥まで突き上げて
から精液を放出させた。
アイリが崩れ落ちるとミーがアイリを横にずらすように動かして横
にさせる。
待ちきれなかったのだろう・・・ミーが抱きついてきた。そのまま
俺の上でウンチングスタイルで跨ると自分で挿入する。
﹁ミー、そんなに慌てなくても俺はここから逃げたりしないよ﹂
﹁そうじゃない。しんちゃんのオチンチンが早く欲しかったの。あ
ああ、いい!ずっと我慢してたの。あんあんあん、もう我慢が出来
ないの﹂
俺はクラリーナがミーの後ろに回ったのを確認してから、下からミ
ーの腰に手を回し自分勝手に動いていたミーを動けないように固定
した。
﹁ええ? なんで? もっとちょうだい! え? 何、うそっダメ、
あああん、舐めちゃ、ダメぇええ﹂
﹁ミーさんにも仕返しです。しん様がミーさんの動きを固定したの
で舐め放題ですね。いただきます。ちゅ﹂
クラリーナがミーのアナルをビチャビチャと舐め始めた。音が浴室
658
内に響くのでかなり大きな音をワザと出してる。
クラリーナはミーのアナルを舐めながら俺の金タマまでマッサージ
してくる。
気持ちがいい。
ミーのヴァギナの入り口の締まりが相変わらず強烈だ。俺がゆっく
りチンコを突き入れていくとブボボボと卑猥な音がする。
ヴァギナの中はこれも変わらずに小さな粒々がザリザリと俺のチン
コに快感をもたらしてくれる。
﹁ミーさんのマンコからエッチな音が響いてますね。ブブブブって
エッチな音がしてますよ﹂
﹁言わないで、ああああ、でも気持ちいいぃいい、ああんダメなの
ぉ聞かないで、あっああっ、しんちゃん急にぃ、激しくぅぁあああ﹂
ミーが話してる途中だったが、俺はもう我慢する気もなくチンコを
激しくピストン運動させる。
そして何も言わずにそのまま出した。
マットの上に落ちたみんなの出した残骸はクラリーナが魔法でキレ
イにした。
ほとんどが俺が何度も出した精液なんだけどな。
クラリーナが正座していたので俺が頭を乗っけると、そのまま自分
のアイテムボックスから石鹸を取り出して魔法で泡を出して俺の髪
の毛を洗ってくれる。
頭皮を優しくマッサージしてくれるので物凄く気持ちがいい。
頭が洗い終わると顔のマッサージつきの洗顔。
俺は何もしないで目を閉じて快感にニヤけている。
全身はアイリが洗ってくれた。
659
ミーも途中参戦してアイリの反対側から洗ってくれる。
仮性包茎の皮で隠れてる部分も、金タマの裏やアナルの中まで全部
残すところもなく洗ってくれるので何度も放出してる。
俺の精液の巨烈な匂いが浴室中に漂ってるが誰も気にしてなかった。
このマッサージつきの全身洗いはやみつきになりそうだ・・・イヤ、
もうやみつきになってるな全員。
順番は俺・クラリーナ・アイリ・ミーで全員が快感でおしっこを漏
らしながらの全身洗い。
おしっこを漏らしても即座に魔法でキレイにされるのだから押し寄
せて止まらない快感の波に翻弄されてる。
そのまま皆でもう一度湯船につかる。風呂は俺がキレイにした。
浴室を出て更衣室で着替える前にアイリにリクエストされた。
﹁しん君が一昨日約束してくれたパジャマを全員分作って!﹂
﹁そういえばそんな話をキャンピングバスでアイリとしてたなぁ。
いいよ。どんなのがいい?﹂
﹁私はバスローブみたいなガウンがいい﹂
﹁私は柔らかいのであれば何でもいいです﹂
﹁私も柔らかいのがいいな。色はしんちゃんが決めてね﹂
バスローブかぁ・・・材料は綿でいいだろう。タオルのように織り
上げればフワフワに柔らかく出来るだろうな。
女性用だし色は薄いピンクだな。俺のは薄いブルーでいいだろう。
アイテムボックスから素材の綿の生地を出すが、﹃神の創り手﹄ス
キル魔法を使って素材から精製しなおして極上のバスローブを作る
ことにする。
サイズは0.1mmぐらいまで全員にピッタリ合わせてカスタマイ
660
ズさせる。
クラリーナはちっぱいなので心配ないが、アイリもミーも爆乳なの
で肩やおっぱいに負担がかからないように、おっぱいの重さを分散
させて支えれるようにした。
それぞれに着替え分も合わせて3枚ずつ渡した。
スキル魔法は超絶便利だな。
素材があればいちいち道具をそろえなくても魔力で作り上げること
が出来る。
しかも時間もかからない、一瞬で終わってしまう。
本来ならいくらスキルをマスターしてスキル魔法で作れるといって
も、よほどに慣れてイメージ出来ないと魔力だけが消費されてしま
うのだが・・・神の創り手スキルマスターになると、全てが脳内で
正確にイメージされて出来上がる。
膨大な魔力を必要とする素材からの精製しなおしでも、俺の場合は
あふれ出る魔力回復量にすら満たない些細な量になってる。
できあがったガウンをさっそく着て喜んでる3人。
裸にガウンって言うのはエロさよりもセクシーに感じるな。
そのまま皆で寝室に移動してファッションショーみたいになってし
まった。
普通のパジャマも作ってあげた。
冬に暖かそうな全身モコモコなタイプ。
シルク素材をアイテムボックスから取り出して全員に総シルクのパ
ジャマも作ってあげた。
これは俺の趣味だな。
かなり薄く作ったので乳首のボッチがいやらしく見える。
661
サイズ的にはシルクのキャミソール。
これがエロくて我慢できなくなって皆に襲い掛かった。
コスプレ祭りになってしまった。
セーラー服・ブレザー・ナース・チャイナ・・・思いつくままに全
員分を作って着てもらって我慢できなくなって襲い掛かってしまう
ループが続いていく。
意外と一番興奮したのが最後に作った法被姿だったりする。
ねじり鉢巻とねじりふんどしのエロさに大興奮して3人とも失神す
るまで駅弁で担いでワッショイしてしまった。
バカ丸出しだ・・・でも、反省はするが後悔はない。
嫁3人全員を失神させるワッショイの後に、どこかの世紀末に大人
気だった覇王のように天を仰ぎながらコブシを突き上げてしまった。
嫁がそのまま寝てしまったので散乱するコスプレ衣装は俺のアイテ
ムボックスに3点セット魔法で浄化してから入れていく。
最初に作ったバスローブのガウンを全員に着せて、ついでに俺も含
めた全員の全身も3点セット魔法での浄化もして・・・今日は寝る。
翌朝6時、爽やかな朝。
転生して16日目。
天気はちょっと曇があるが晴天。
今日も暑くなりそうだ。
起きてから顔を洗い嫁3人を起こす。俺の後にクラリーナが洗面台
662
に行くいつものパターンだな。
俺も含めて全員が俺が昨日作ったフワフワ手触りのガウンを着てい
る。
護衛依頼の最終日。
寝室のソファーに腰を下ろしてコーヒーを飲む。
朝食は今日はサンドイッチにした。
﹁みんな、おはよう﹂
﹁しん様、おはようございます。では洗面台に行ってきます﹂
﹁ほいよー﹂
﹁しんちゃんおはよう。私にもコーヒーちょうだい﹂
﹁ミー、ほいよー。朝食はサンドイッチでいいか?﹂
﹁ありがと﹂
﹁しんきゅん、おふぁよぅー﹂
クラリーナが戻ってくるまではアイリの寝起きのフワフワしてると
ころをミーと一緒に観察して笑ってた。
俺がアイテムボックスからサンドイッチを出してアイリに匂いをか
がせると、ふらふら∼っとサンドイッチの方に移動しようとするの
だ。
クラリーナが戻ってきたので、クラリーナにもサンドイッチを渡し
た。
クラリーナは俺からサンドイッチを受け取ると、自分のアイテムボ
ックスからホットミルクを出して朝食にしている。
ミーはサンドイッチを使ってふらふらしているアイリを洗面台まで
誘導していった。
その愛くるしさでクラリーナと一緒に笑ってしまった。
サンドイッチを食べ終えると着替えることにする。
663
そんなに時間の余裕はないからな。
アイリとミーも洗面台から戻ってきて着替えながらサンドイッチを
パクつきコーヒーを飲んでいる。
着換えが終わったらキャンピングバスに全員を連れて転移する。
まだ集合時間までは時間があるのでその間にマリアに念輪で連絡し
て話をした。
﹁マリアおはよう。るびのの訓練の状態はどうだ?﹂
﹁おはようございます、ご主人様。るびのは朝食のための早朝の狩
りを終えてこれから捕った獲物が朝食になります﹂
﹁ほうほう、順調だな。そういえばワイバーンなんかの対空中戦の
訓練ってどうなったんだ?﹂
﹁それも先ほど既に終わりました。ワイバーンは食事のために住ん
でいる山岳地帯から、早朝にエサを探しに出発します。それをるび
のに早朝の狩りでの注意事項として教えてから狩りを行わせました﹂
﹁おー、それでそれで?﹂
﹁るびのが大鹿魔獣を狩って解体魔法を使おうとしたところにワイ
バーンが上空から急降下攻撃を仕掛けてきましたが、るびのは慌て
ることもなくジャンプして避けて空中で反転してワイバーンに攻撃、
数m吹き飛ばしたらワイバーンは逃げていきました﹂
﹁すごいな。やっぱり空中を走り回れるっていうのは数倍の攻撃力
があるな。白虎は炎と雷を自由自在に操る存在なんだから、ワイバ
ーンのファイヤーブレスも効かないだろうしな﹂
﹁はい。ご主人様のおっしゃるとおりでした。るびのが空中で反転
した時にワイバーンにファイヤーブレスを吐かれましたが、るびの
はそれを吸い込んで無効化。その後でのタックルによる攻撃でした﹂
﹁吸い込んで無効化したのか?﹂
﹁ハイ。るびのに確認しましたが魔力としては不味かったと言って
ます﹂
664
﹁すげぇな。さすが聖獣。さすが俺の息子。これから俺達は仕事だ
けど、るびのの教育と世話はマリアとセバスチャンに任せた。よろ
しくな﹂
﹁了解しました。お任せくださいご主人様。いってらっしゃいませ﹂
マリアとの念輪の会話はここで終了。
るびのはマジで凄いな・・・聖獣もチートなんだな。
そろそろ集合時間になるので全員で仮設の物資集積場の本部に出向
く。
本部のテントの下にはバイドがいたので挨拶をすると挨拶と右手を
差し出されたので握手を交わす。
﹁バイドさん、おはようございます。本日もよろしくお願いします﹂
﹁チーム早乙女遊撃隊の皆様、おはようございます。こちらこそよ
ろしくお願いします﹂
﹁それとバイドさんには昨日は大金もいただいてしまって、ありが
とうございます﹂
﹁いえいえ、早乙女さん達にお世話になった事柄を考えると少々足
りないような気がしますが、アクセルにあの金額以上はたぶん遠慮
して引き取らないって怒られまして・・・父と兄と私とアクセルの
4人で協議しまして結局あの金額の落ち着きました。是非ご自由に
お使いください﹂
﹁はぁ、何しろ金額が金額なんで・・・みんなで有効活用させてい
ただきますね﹂
﹁それと資材などのご用命は我がガルディア商会にご連絡を﹂
﹁さすが商売人ですね。用が出来たらうかがわせていただきますね﹂
﹁これを言わないと兄貴に怒られるんで﹂
﹁それでは今日の護衛の状況を説明させていただきますね。まずは
665
護衛対象の職人は全員で120人。また10人ずつで荷馬車に乗る
形になりますので合計12台の荷馬車です。次に職人の荷物の荷馬
車が5台。食糧などの物資が荷馬車4台。最後にバイド村で働くコ
ックや給仕などが20人荷馬車2台です。合計23台の荷馬車それ
ぞれに護衛兼御者が2人ずつ。46人と早乙女さんたちが4人で護
衛は合計50人です。全ての人数は190人となってます﹂
﹁総勢190人、俺のも合わせると24台の荷馬車軍団か・・・凄
い数を集めましたね﹂
﹁そのほかにも、皆さんの食事や休憩場所の準備をするための先発
隊が10台の荷馬車を率いてもう出発しました﹂
﹁今回のバイド村建設の為に計画されているバイド村へ送る荷馬車
では最大数になってますね。早乙女さんのチームのご協力があって
こそ出来ることですね。不安材料は全部排除していただきましたの
で・・・今回は前回の失敗も踏まえて先に防御の塀と門を作ってか
ら、村を仕上げて行くつもりです。後は・・・バイド村を立派な村
にするだけです﹂
﹁そうですね・・・頑張ってください﹂
﹁今回は護衛の人間も職人も全て186人は自分と真偽官の立会い
の下で昨日までに面接し終えましたから、今回は自信を持って安全
な人達なんでよろしくお願いしますっていえます﹂
﹁やっぱ前回は慌ててたんですか?﹂
﹁はい、そこをあの副隊長のチームにやられました。昔から付き合
いのある商会の人間に引き合わされたのですから、信用してました
が・・・まさかそれの信用を狙って利用されるとは・・・信頼する
人間を魅了の魔法でたらし込んで付け入られるとは想像もしてなか
ったです﹂
﹁商人同士ってどこか﹃信用﹄﹃信頼﹄を大事にしてますしね。信
頼した相手からの紹介って形で利用されるとキツイですね﹂
﹁全く面目ないです。今回は安心してもらって大丈夫ですので護衛
666
をよろしくお願いします﹂
﹁じゃあ、そろそろ自分達も出発する順番が近づいてきましたので、
ではまた会いましょう﹂
バイドと別れてキャンピングバスに全員で戻る。戻ったらすぐに出
発だった。
危なかったな・・・バイドと話をしすぎてたみたいだ。
ノンビリとした草原の中の街道が、もはや見慣れた風景となってき
てるな。
運転は午前中は私達に任せてって、嫁3人に奪われてしまって俺は
することがない。
流石に旅行ではなく護衛任務中なので朝っぱらから酒は飲めないし
なぁ・・・ヒマだ。
667
俺の昔話。このときから俺は壊れてるっすね。︵前書き︶
11・20修正しました。
668
俺の昔話。このときから俺は壊れてるっすね。
クラリーナが運転席から降りてきた。
自分のシートを俺の横の位置に移動させて近づいてきた。
﹁今日は私が1番手です!﹂
﹁良かったなクラリーナ・・・でも昨日はじゃんけんで勝ってない
から悔しいって言って凹んでなかったっけ?﹂
﹁それは悔しいです! けど、ミーさんにアイリさんはじゃんけん
が昔から強かったって聞いて・・・リベンジは難しいかもって、ま
たちょっと凹んでます﹂
﹁そこまでクラリーナが負けず嫌いだったのは知らなかった一面だ
な﹂
﹁私も自分でビックリしてます。こんなに負けず嫌いだなんて、し
ん様と結婚して初めて気付きました。たかが順番を決めるだけのに、
ホントに自分でも知らない一面でしたね﹂
﹁まぁ、いいことだろう。今まで﹃貴女はお姉ちゃんなんだから我
慢しなさい﹄って言われて育ってきたんじゃないのか? 自分の発
言や感情をどこかで押さえつけられていなかったか?﹂
﹁は、はい。いつも親に言われていました。なんで、しん様はわか
るんですか?﹂
﹁俺には妹がいたんだけど、俺もいっつも小さい時は言われていた
んだ。﹃あなたは男の子なんだから我慢しなしさい﹄﹃お兄ちゃん
なんだからそんなことぐらいで怒らないで我慢しろ﹄こればっかり
だったよ。妹はウソ泣きばっかりで俺は毎回親に殴られていたよ﹂
﹁俺が10歳ぐらいの時にマジでブチ切れて妹を本気でぶん殴って、
後で親父にボッコボコにされても一切謝らなかった経験があるよ。
669
マジ切れした原因も聞かない親を殺すつもりで深夜に寝てる親父を
金属の棒でボッコボコにして警察が沙汰になって、初めて俺がマジ
切れした原因を大人に聞いてもらえて、うれしくて泣いた記憶があ
る﹂
﹁原因って何だったんですか?﹂
﹁学校って場所に勉強に行ってる俺がいない隙に、毎日俺のおやつ
を横取りして妹が食ってたっていうくだらない理由。でも俺が妹を
問い詰めるとウソ泣きして逃げるってのを10日ほど続いて我慢が
限界になってブチ切れた。妹は泣いて逃げると俺はいつも母親に怒
られて、仕事から帰ってきた親父に殴られてうやむやに出来るって
知ってるからな。最後の日に俺は親父に殴られた後・・・俺は絶叫
して泣こうが喚こうが親父に殴られて気絶するまで妹をぶん殴った。
母親は妹を病院に治療に連れて行った。俺は親父に理由を聞かれて
るのに、俺が何を言っても﹃言い訳するな﹄って殴られる。これの
繰り返しで失神するまで親父にボッコボコにされた﹂
﹁失神から覚めると家族が血まみれの俺を居間に放置して寝室で寝
てるんだよ。俺に苦しみを与え続ける家族なんてもう要らない。今
から全員殺すってそのまま庭に置いてあった金属棒で親父や家族を
叩き続けたよ。誰かが何か言っても﹃言い訳するな!﹄って怒鳴り
ながらな﹂
﹁・・・そ、それでどうなったんですか?﹂
﹁俺にもその後はよくわからないよ。親父に殴られて血まみれの中
で親父を血まみれにしてた。警察がきて取り押さえられて、そのま
ま病院に家族全員が連れていかれたよ。近所中で大騒動になったら
しい。そりゃそうだろう10歳児が血まみれで﹃殺してやる﹄﹃言
い訳すんな﹄って絶叫して大騒ぎしてるんだから。近所の人が警察
呼ばなかったら間違いなく全員殺すまでやってたよ﹂
﹁退院したら即引越し。両親と妹には後で謝られたけど声すら聞き
たくなかったから返事もしなかった。それからは母方のじぃちゃん
670
とばぁちゃんに預けられて田舎で育った。そこから俺にとって親は
俺が20歳になるまでの間、金だけ送ってくる存在になったよ。何
度か父からも母からも妹からも手紙がきたけど1文字も読まずにす
ぐに燃やしたし、じぃちゃんばぁちゃんに電話で苦情を言ってもら
ったよ﹃いまさら家族ヅラして手紙なんか書くな。これ以上苦しめ
たいのか? お前達3人は一切あの子の話も声も聞かなかったのに
今更なんのようだ?﹄って・・・あぁ、電話って言うのは前の世界
にあった念輪みたいなヤツだな﹂
﹁私の家は代々続く聖騎士の家でした。望まない長女と、望まれて
生まれてきた長男。私は女の子でしたんで殴られるってことは一切
ありませんでしたが、望まない長女は弟の為に・家の為に﹃我慢し
なさい﹄ってことはいつも言われてましたね。聖騎士の家の為に﹃
弟の為に貴女は犠牲になりなさい﹄これが絶対のルールだったと思
います。だから、簡単に捨てられたのでは? って理解できちゃう
自分がいるんですよね﹂
﹁ホントに・・・家族って何なんだろうな﹂
﹁ですね。なんで家族なのに話も聞かないんですかね﹂
﹁俺にもわからんな。俺も話をまったく聞いてもらえなかった方だ
ったからな。俺は両親には叱られた記憶はまったくないよ。いつも
感情交じりに﹃怒られた﹄だな。じぃちゃんばぁちゃんは俺の話を
何でも面白そうに聞いてくれた。感情で怒られたことはなく、いつ
も理由があるから﹃叱られた﹄だな。俺はじぃちゃんとばぁちゃん
がいなかったら人間として育てられてなかったと思う。扱いがペッ
ト以下だっただろうから・・・ここの世界では魔獣ですら話が出来
るのになぁ。でもクラリーナの話を聞いて、俺も昔を思い出して同
情していた部分は間違いなくあるよ。クラリーナも家族に捨てられ
て行く場所がないんだろうって分かっていた﹂
﹁ふふふっ、仲間ですね﹂
﹁ああ、クラリーナは仲間だし家族だし妻だし愛する女でもあるよ﹂
671
﹁もー、妻を口説いても何もできないですよー﹂
クラリーナが抱きついてくるが昨日のアイリと一緒だ。
防具の上から抱き疲れても柔らかさがない。
クラリーナはシルバードの毛皮のコートだから固くはないが・・・
銀大熊の毛皮なんで、いくらおかみさん特製のコートでもごわごわ
だ。
だけどイチャイチャするのは大好きだ。
このピンクな空間は最高だな。﹃ぬはははは﹄って気持ち悪い笑い
方をしてしまう。
イチャイチャ空間は運転席のわざとらしい咳払いで終了した。
俺はアイテムボックスからコーヒーポットを出して自分のマグカッ
プに入れる。
﹁クラリーナはコーヒー飲む?﹂
﹁ハイ。また半分だけください﹂
半分はミルクをいれてカフェオレにして渡した。
ついでに昨日の芋の3種盛りも渡しておく。
﹁ありがとうございます﹂
クラリーナもモグモグ芋を食べ始める。
ハムスターとかリスとかの小動物みたいに小さな口で食べてるクラ
リーナは愛らしさ満点だな。
・・・しかしよくあんな小さな口で俺の・・・おっとこれ以上はヤ
バイな。
672
頭の中までピンク色になりそうだったんで話題を変えた。
﹁そういえばクラリーナって教会で魔法習ってたんだよな? ここ
までの魔法の才能でよく大騒ぎにならなかったな?﹂
﹁大騒ぎになりかけましたね。私が習っていた司祭様は私に魔法の
才能があるって言ってくれて、首都シーパラで教会のシスターにな
る訓練を受け、15年も修行すれば間違いなくこの国最高の﹃聖女﹄
になれるっておっしゃってくれて、私の両親にシスターにさせよう
って説得しにきてくれたんですが・・・父が﹃この子は嫁にいかせ
ますのでシスターなんかには絶対にさせません﹄って何度も断って
ました。シスターになったら都合のいい道具が減るとでも思ったん
ですかね﹂
﹁司祭様って凄いな。ちゃんと見てくれていたのに・・・息子に対
する嫉妬かな?﹂
﹁弟にも回復魔法の才能はあったんですけどね。私はそれ以来・・・
いっさい魔法の勉強はさせてもらえませんでした。修行すれば聖女
にもなれたって司祭様に言われた! っていう言葉だけが、嫁入り
道具になっちゃいました﹂
﹁だから、中途半端になっていたんだな。・・・でもクラリーナは
もう既に﹃聖女﹄になってるしな﹂
﹁ですね。これでも15年の修行だと言われたんですけどね。聖女
の力を全然まったく使いこなせていないんですけど﹂
﹁その使いこなすための修行が15年なんだろうね。俺と一緒に練
習するからそんなにかからないけどな﹂
﹁うふっ、楽しみですねぇ。またダンジョンに行きたくなってきま
すね﹂
﹁そうだな、この護衛依頼が終わってから首都シーパラに旅行に行
く前に1度は行こうな﹂
﹁はい、楽しみです。しん様にまたたくさん魔法を教えてもらいま
673
す﹂
そんなことを話していたら、もう午前中の休憩場所が見えてきた。
1時間以上もクラリーナと話をしていたな。
﹁クラリーナと1時間以上も話をしていたけど・・・時間は大丈夫
なのか?﹂
﹁大丈夫です。昨日の短くなった時間を足してくれました。アイリ
さんもミーさんも了承してくれてます。休憩の後はアイリさんとミ
ーさんが1時間ずつになってます﹂
﹁俺の知らない間に時間割が決まってたんだな﹂
﹁午後からは全員でお話がしたいってミーさんが言ってました﹂
﹁ん? ・・・でも今日は午後からは俺の運転の予定だったよな?
運転席を改造した方がいいな﹂
﹁ハイ、よろしくお願いします﹂
﹁はーい。到着!﹂
ミーとアイリがキャンピングバスを停車させてから、運転席から降
りてきた。
俺とクラリーナもマグカップと芋の3種盛りをアイテムボックスに
入れて片付けてから、立ち上がってキャンピングバスを降りる。
休憩場所の屋根だけテントに案内されてついていく。
今日は外の方が気持ち良いかもしれないな。
風があって心地良い。
ハーブティーとハーブクッキーをかじる。
クッキーも毎回味が違っていて皆で品評会みたいになってる。
溢れ変えるほどあるハーブで適当に作ってるように感じるが・・・
味の好みの差はあれど、美味いからな。
674
どのハーブがどの味なのかどうでもよく感じてしまう。
屋根だけテントの下でクッションの上に座り、心地良い風を感じて
バスケットの中に山盛りに入っているクッキーを時々かじってボー
っと過ぎていく時間は早く終わってしまうな。
俺達の周りにいて一緒にクッキー品評会をしていた護衛の人達も時
間がきたので慌てて動き出す。
休憩も終了だ。
675
ミーとの会話。家族って結婚ってという話っす。︵前書き︶
7・3修正しました。
1・25修正しました。
676
ミーとの会話。家族って結婚ってという話っす。
休憩が終わりキャンピングバスに戻って午前の休憩場所を出発する。
ミーが俺の横にシートを移動させる。
魔法で浮かせた状態で床とは接触してないから、シートの横に付け
てあるレバーを引くと座ったままでも簡単に移動できるようにして
ある。
はじめはみんな慣れなかったが、一度慣れるとすぐに使いこなして
いるな。
今まで休憩でホットのハーブティーを飲んでいたので凍ったイチゴ
を入れたジュースを飲む。
ミーにマグカップに入れて渡し、もちろん運転席にいるアイリとク
ラリーナにももっていく。
﹁さっきの休憩前の話を聞いてて思ったけど、しんちゃんは平和な
国にいたって言ってたけど結構濃い少年時代だったんだね﹂
﹁確かに濃い少年時代だな。まぁ。俺の場合は助け出してくれたじ
ぃちゃんとばぁちゃんがいたから。しかも俺を両親や父親の実家か
ら全力で守ってくれたし。じぃちゃんばぁちゃんの2人が暗闇に沈
む俺の心を光の中へ救い出してくれたよ﹂
﹁今、あの世界に未練はないか? って聞かれて心残りなのは、じ
ぃちゃんとばぁちゃんの墓を守っていけなかったことだ。両親の記
憶はほとんど消えてるし妹の顔もまったく記憶にないよ。じいちゃ
んばぁちゃんの家だけど、自分の母親の写真が一枚もないってぐら
いに徹底的に排除されてたからな。俺の為に﹂
﹁近所のじぃちゃんばぁちゃんも良い人ばかりで、周りに子供がい
677
なかった分遊んでくれるのもお年寄りばっかりだったなぁ。でも遊
びって言っても、お年寄りの話を聞いてばかりだった。話は凄く新
鮮で面白くて、楽しいからニコニコ聞いてるとまたたくさん話をし
てくれて・・・俺が話すことも一生懸命聞いてくれて・・・凄くう
れしかった﹂
﹁学校っていう世界に出て自分の世界が広くなって、家が異常な場
所だって気付いても逃げ出せないし帰る場所がここっていうのが苦
痛になって・・・結果、俺自身も含めて全部ぶっ壊れていたんだろ
う﹂
﹁私は両親に会えなくなったのが2歳だった。でもモルガン父さん
もカタリナ母さんも、隣にはいつもアイリがいた。それを3歳の時
に気付かせてくれたのが、あの山の朝日なんだ。それまで真っ暗で
自分だけしかいないって思ってた世界に光が差し込んだ瞬間。あの
瞬間から私の目の前の世界には色が戻った﹂
﹁色が戻ったってどういうこと?﹂
﹁自分が泣き叫んでも両親が帰ってこないって分かってからは、自
分の目の前の色が全部消えた。白黒の世界。後でアイリが言ってた
のが生きてる人間には見えなかったって。でも、あの朝日が昇って
光が周りを照らして、眼下に広がる畑に光が差し黄金色に輝き出し
て・・・光って色って素晴らしいって思った。そして後ろでいつも
微笑んでくれたモルガン父さんとカタリナ母さんがいて、隣にはい
つもアイリがいて・・・その日から娘になれた。私の父さんと母さ
んは2人ずついる﹂
∼∼﹄って言うの
﹁それは俺と似てるな。俺もじぃちゃんばぁちゃんに育ててもらっ
たしな﹂
﹁でもしんちゃんがお風呂に入る時に必ず﹃あ
は周りにいたお年寄りの影響かな?﹂
﹁それは否定できないな。かなりの影響があるだろう。実際・・・
678
じぃちゃんばぁちゃんの田舎って公衆浴場で温泉があって、しょっ
ちゅう入りに行ってたからなぁ﹂
﹁もしかして、しんちゃんの温泉好きってそこからきてる?﹂
﹁ああ。間違いなくそこからきてるよ。温泉ってだけで心が躍る感
覚があるし﹂
﹁うふふふ。しんちゃん、子供みたいな顔になってるよ﹂
﹁まぁ、20歳を超えてから温泉って年に1回の帰郷のときぐらい
で、後は女と一緒に旅行に行ったぐらいだからなぁ﹂
﹁彼女と帰郷はしなかったの? これが俺の彼女って紹介しなかっ
たの?﹂
﹁あそこは俺にとってはかけがえのない場所でも、他人からすれば
何もない田舎だからな。店すらないんだぜ? 学校に行くのも山越
えて毎日通ってたんだから。周りに何でもあった都会の人間は半日
だって生活できないよ。だからじぃちゃんばぁちゃんには誰も紹介
できなかったな。2年ほど前に流行り病で村のみんなが死んじゃっ
たから、あそこの村落は閉鎖されてしまった。俺を育ててくれたみ
んなに﹃これが俺の嫁です﹄って言えなくなったのはショックだっ
た﹂
﹁今なら3人も紹介できるのにね﹂
﹁あぁ、あっちの世界では結婚は1人しか出来なかったから、3人
もの嫁を連れて帰ったら・・・笑われるな﹃お前、頭は大丈夫か?﹄
﹃早乙女んとこの坊主が女ほしさにおかしくなった﹄って言われる
のがオチだな﹂
﹁あははは、それじゃあ、しんちゃんにとって今は異常事態?﹂
﹁今の状況をあっちの世界でしていたら確実に異常だし、信じるこ
とすらしてもらえないな。逆に友人がこんな状況なんですって俺に
どんなに説明してもウソにしか思わないよ﹂
﹁そんなに信じられないことなの?﹂
﹁法律上許されてる国じゃなかったから、厳密にいえば﹃信じられ
679
ない﹄じゃなくて﹃法律上許されない﹄ということ。俺が始めにア
イリとミーと同時に結婚できるのか、おやっさんに聞いたのもそれ
が理由﹂
﹁法律で結婚が定められてるの?﹂
﹁確か﹃重婚の禁止﹄って定められてたはず。俺も法律家じゃない
から上手に説明できないけど。この法律で複数の人間との結婚が禁
じられてた。前の世界では国ごとに法律が違っていて複数の異性と
結婚が認められる国と、道義的には認められないけど法律では違反
にはなりませんって国の3種類があったような気がする。元にいた
世界では結婚観に宗教とかが絡んでくるから複雑な問題だった。俺
がいた日本って国も150年位前には甲斐性のある男なら女は何人
でもOKって国だったし﹂
﹁へぇ、いろいろあるのね。この世界にきてすぐに3人も嫁が出来
た事について、しんちゃんはどう思ってるの?﹂
﹁俺でいいのか? ってのがホンネだな。この世界にきてからは簡
単に大金が稼げちゃうようになったけど、元いた世界ではそこまで
稼げるような男じゃなかったから結婚できなかったんだ。最低限の
経済力がない事には結婚生活がジリ貧になっちゃうからね﹂
﹁でもそれなら夫婦で稼げばいいんじゃないの?﹂
﹁それがなかなか難しくてね。女性が稼ぐには仕事が限られるから、
どうしても男が稼がないとって世界だった﹂
﹁そうよねぇ。私もアイリもしんちゃんの経済力を見て﹃今だ! チャンスだ!!﹄って思ってたから、否定できない話よね﹂
﹁アイリとミーも28歳だったんだよな? 前の世界でも女性は2
8から30までが一番結婚について焦る時期だって聞いたな﹂
﹁ううう、しんちゃん、耳が痛いよー﹂
﹁終わった話だから大丈夫だよ。2人とももう俺の嫁だし。今が幸
せならいいんじゃないの?﹂
﹁うん、そうなんだけどね。焦ってたのは事実だからなぁ﹂
680
そんな話をしていたら運転席からアイリが降りてきてミーの時間は
終了になっちゃった。
681
うな丼・肝吸い・お新香・・・黄金の3点セットが良いねっす。
︵前書き︶
1・25修正しました。
682
うな丼・肝吸い・お新香・・・黄金の3点セットが良いねっす。
アイリがクラリーナとミーのシートを移動させてから、自分のシー
トを俺のシートの隣に移動してきた。
﹁しん君、私も朝からしん君の子供の時の話を聞いてて思ったんだ
けど、私も小さい時に父さんが亡くなって片親に育ててもらったか
ら、自分では結構不幸な家の出身だと思ってたけど・・・まさか早
乙女一家の中では自分が一番家庭に恵まれてるとは思ってもなかっ
た﹂
﹁両親がそろっているから幸福。片方だから不幸ってことはないし
な。クラリーナの家庭事情・ミーの家庭事情・俺の家庭事情・・・
見事に皆バラバラだけど、俺の場合はここに転移してくるまでの3
5年間で10歳から33歳までの23年も親は存在していたから不
幸とは自分では思ってないよ。俺を生んだ両親は10歳の時に俺が
殺したって考えてるから﹂
﹁しん君が殺した? ご両親は死んでるの?﹂
﹁生きてるのか死んでるのかすら知らない。知りたいと思わないし、
今となっちゃ顔も思い出せないから、あの家族とはこれ以上関わり
たくない。俺が10歳の時にじぃちゃんとばぁちゃんにお願いして
2人の子供にしてもらったから・・・じぃちゃんばぁちゃんも望ん
でたんで本当の養子になったんだ。早乙女真一がその時生まれた。
それで名前が変わる前の自分も含めて﹃あの一家全員俺が殺した﹄
って考えてる﹂
﹁あの家族から俺の学校に届いた手紙の数だけで20通以上あった
んだぜ? クラリーナがご両親に言ったことと同じ﹃自分が許され
たいと逃げる為の自己満足﹄それだけの為に学校にまで手紙を書い
683
てきやがって。じぃちゃん家に届いて俺が見てない手紙なんで山ほ
どあったんじゃないかな。俺が早乙女家の人間になってあの家族は
滅びたってのが俺の考えだよ﹂
﹁しん君の早乙女って名前には色々な事が含まれてるんだね﹂
﹁ああ、そうなるな。でもアイリももう早乙女家の一員なんだけど﹂
﹁もちろんそれは分かってて言ってるわよ。今でもステータスカー
ドや冒険者ギルドカードに表示される﹃アイリ・早乙女﹄って文字
を見るだけで心が踊るほどうれしいわ﹂
﹁喜んでもらえて何よりだな。そういえば・・・アイリに聞きたか
ったことを今思い出したんだけどいいかな?﹂
﹁いいわよ﹂
﹁アイリの父さんのモルガンさんは冒険者で﹃タンク﹄だったんだ
よな?﹂
﹁うん。2m以上もある大男で今でも実家に父さんが使っていた盾
があるけど、私でもとり回しが出来ないほど巨大なタワーシールド。
横幅が1m以上もあるし長さも1.5m以上、重さも30kg以上
もある﹂
﹁あの実家の居間の壁につけてあった巨大なシールドって実用品だ
ったの?﹂
﹁そうアレが父さんの使っていたシールド﹂
﹁アレはデカ過ぎだな。さすがタンクって感じのシールドだ﹂
﹁あの巨大な盾を軽々と振り回して家の庭で練習している父さんが
格好良くて憧れてたわ﹂
﹁それが俺が聞きたかったことなんだ。何でタンクをしていたモル
ガンさんに憧れて盾の使い方まで習ってるのにアイリは﹃タンク﹄
じゃなくて﹃シールダー﹄になったんだ?﹂
﹁女性のタンクの致命的な欠点があって﹃体重が足りない﹄から、
684
私には練習しても無理だったんだ。それを父さんの師匠でもあった
おやっさんに相談したら﹃アイリにはタンクとしての才能は残念だ
けどそれほどない。でもシールダーには向いてるから練習してみな
いか?﹄ってハッキリ言われちゃった﹂
﹁確かにタンクを目指す女性ならではの悩みだな。狼獣人のように
2mを越す身長だったり特殊人族の龍人みたいな体の頑丈さがない
とタンクとして必要な体重と筋肉量が足りないもんな﹂
﹁タンクは敵の攻撃を防いで耐えて、盾で敵を押さえ込むのが仕事。
シールダーは敵の攻撃をさばいて味方を守り、盾で殴って敵に攻撃
するのが仕事。おやっさんにいつも言われてたわね。受け流して弾
き飛ばして味方に敵の攻撃が当たらないようにするのがシールダー
の仕事なんだって﹂
﹁おやっさんはシールダーなんだよな?﹂
﹁うん、私のシールダー職の師匠。私以外にもシールダーとしての
弟子が100人以上はいるんじゃないかな? おやっさんが育てた
防具職人の数よりも多いっていつもぼやいてた。あの特殊な盾の持
ち手はおやっさんの師匠の父親で、﹃シールダー職の異端児﹄って
言われてる人が考案した正当な持ち手だっておやっさんが自慢して
た﹂
かすかべ
きょういち
﹁あぁ、そっちは俺が知ってる人。俺の記憶と経験の中にある転生
者の1人﹃春日部・侠市﹄さん。ドワーフの転生者で防具職人。ド
ワーフに転生して、ドワーフの為に戦って、ドワーフに利用され尽
して、最後は迫害されて絶望の中でドワーフに殺された人・・・自
分の運命に絶望して神を呪っていても、それでもドワーフを怨んで
いない立派な人だよ﹂
﹁私もおやっさんから聞いた伝説で知ってる。素晴らしい偉大な人
﹃偉人﹄だって。転生者って聞いてたけど・・・しん君の中に残っ
てる人だったんだね﹂
685
﹁そう。アイリに確認してよかったよ。おやっさんがあの持ち手を
使ってるシールダーで防具職人。俺の記憶と知識にある人に繋がり
があるんじゃないかって、ずーっと引っかかってたんだ。解決でき
て良かったよ﹂
﹁しん君の中の人も喜んでるんじゃないの?﹂
﹁俺のもらった知識と記憶と経験には無念が残っているだけで、喜
ぶとかの﹃感情﹄はないよ。盗賊に怨みのある人達の無念を盗賊を
この手で殺すことで晴らすと昇華していくだけ。ゾリオン村でから
まれたバカ貴族の2人の実家が崩壊するって聞いても昇華したから、
貴族や王族なんかにも無念が大量に残ってそうだ﹂
﹁そうなんだ・・・便利なことだけじゃないんだね。でもしん君に
無念を晴らしてもらって昇華してるんだから喜んでるって言えるん
じゃないの?﹂
﹁そう考えれば・・・確かにそうだな。うん。アイリありがとうな。
俺の不安な気持ちが少し晴れたよ﹂
﹁不安だったの?﹂
﹁不安にもなるよ。動けないように拘束したり魔法で眠らせてる盗
賊を問答無用で虐殺してるんだからな。迷賊討伐の時にアイリも見
ただろ? あんな風に笑いながら全員虐殺してるんだからな。いく
ら相手が盗賊や迷賊で全員が殺人犯の犯罪者集団だからって、魚を
さばくような気軽さで殺してまわれる人間だなんて自分自身で思っ
てもいなかった。魚は食べるために殺してる、俺が家族を自分の中
で殺したのは自分が生き残っていく為だし﹂
﹁それだけの恨みや無念なんだから﹃喜んでる﹄でいいんじゃない
? 盗賊や迷賊が退治されるのは﹃自業自得﹄だから﹂
﹁アイリ、ホントにありがとうな。俺の中で溜まっているモヤモヤ
が晴れて楽になったよ﹂
﹁うふっ。それが妻の務めですからね﹂
﹁ああ、俺はいい奥さんをもらって幸せだよ﹂
686
アイリがまた抱きついてきてイチャラブ空間が出来上がった・・・
ん
。しんちゃん。お昼の休憩場所が見えてきたよー
が、運転席から降りてきたミーのわざとらしい咳払いで終了するお
、ん
約束だった。
﹁ん
!﹂
今日の昼ご飯は何だろうな。
ガルディア家名物︵?︶の天ぷら弁当あたりがくるかもな。
運転していたクラリーナがキャンピングバスを指示された停車場所
に停めてから降りてきたので、みんなでキャンピングバスを降りて
案内された昼食場所に向かう。
歩いている時の香りで昼食がわかってしまった。
今日はうな丼だ。
蒲焼の良い匂いが食欲をそそり涎が出そうになってくる。
ウナギの蒲焼も転生者が作ってこの世界の人間に教えて広めた食事・
・・俺の知らない人だけどホントに感謝したい。
しかもこの国はウナギがどこにでもいて安く大量に出回っているの
も、日本人だった俺には物凄くうれしい事実だ。
日本ではまだウナギの養殖は実験段階で気軽に食べられるってシロ
モノじゃなくなってたしな。
天然モノのウナギが美味しくいただけるってのは・・・最高だろう。
そんなことを考えながら無言でうな丼を食べる。
付け合せのお新香も美味しいし、肝吸いってのも最高だ。
アイテムボックスから出した山椒をかけて、嫁達にもリクエストさ
れたのでかけてやった。
687
この山椒の香りも美味しい。
食後は今日の昼の休憩場所は風が強かったのでキャンピングバスに
戻ることにする。
ついでに運転席の周りを少し広げて嫁達が全員ここで座ることが出
来るように改造する。
運転席の床を少しだけ広げて・・・後ろにあった壁を斜めにしてそ
こを座れるようにした。
窓ガラスを増やして天井もガラスにして、運転席の後ろの部分は﹃
展望席﹄みたいに改造した。
688
護衛依頼と輸送依頼の終了。これで今夜はパーティーだー! っ
す。︵前書き︶
1・20修正しました。
689
護衛依頼と輸送依頼の終了。これで今夜はパーティーだー! っ
す。
展望席の改造が終わって一息つくヒマもなく出発になってしまった。
午後からは俺の運転。
キャンピングバスを順調に走らせる。
今日で護衛依頼は終わりだがヨークルに帰るまでは、そのまま旅に
なるが・・・旅と言っても今度は俺のキャンピングバスだけだから
休憩は必要ない。
明日はバイド村を少し早めに出て昼にはゾリオン村に到着。
ゾリオン村では昼食と冒険者ギルドに終了報告を済ませて、夜まで
にはヨークルに帰る予定だ。
るびのには明日も岩場に送って今度はワイバーン討伐でもやっても
らおうかな。
展望席では嫁が全員寝て昼寝中。
俺はセバスチャンとの念輪回線を開き脳内で話しかける。
﹁セバスチャン聞こえてるか?﹂
﹁ハイ、聞こえていますご主人様。どういった御用でしょうか﹂
﹁るびのってワイバーンはもう狩れそうか?﹂
﹁ハイ、もう大丈夫ですね。もしかして明日の予定ですか?﹂
﹁ああ、そうだ。明日は俺たちは昼までにゾリオン村に行き夜まで
にはヨークルに帰ろうと思ってる﹂
﹁それでは今日は夕方に岩場に戻ってくるワイバーンの対集団戦の
訓練をします。それで明日はるびのは完全な自由時間っていうのは
いかがですか?﹂
﹁おぉ! それはいいな。るびのも好き勝手に駆け回りたいと思っ
てる頃だろうし。ワイバーン集団戦で訓練が終われば、この大陸に
690
るびのを殺せる魔獣は存在しなくなるだろう﹂
﹁はい、ご主人様のおっしゃるとおりですね。午後からのワイバー
ン集団戦が最終訓練での試験となります﹂
﹁おう、よろしく頼む。それで何か面白いものは発見できた?﹂
﹁今はるびのとマリアが待ち合わせ場所から少し離れたところにあ
る大きな池の中で、潜水と水中でのエサの捕獲の訓練を行っている
最中なので、その後でなら何かあるかもしれませんが・・・今のと
ころは緊急連絡をするほどのことはありません。ご主人様の知識に
あった﹃えんどう豆﹄と﹃ソラマメ﹄は大量に自生している場所を
発見しましたので、両方とも100kg以上は採取しておきました﹂
﹁ありがとう。さすがセバスチャンだな﹂
﹁お褒めいただきありがとうございます﹂
﹁じゃあまた、るびのの教育と世話を頼む﹂
﹁了解しました。お任せください﹂
セバスチャンとの念輪を切った。
るびのはもう訓練の卒業か・・・早過ぎるな。
ここまで早いとるびのは俺たち早乙女一家から離れて独り立ちさせ
たほうがいいのかな。
それから嫁達が起きてきて皆で雑談しながらバイド村までの護衛依
頼を終了させた。
だって、なーーんもないからな。
ただ運転しながら雑談してただけだ。
護衛っていっても何も出てこないから後ろからついていっただけだ
し。
今日は荷物の数が多いので晩ご飯は遅くなりそうだから、みんなで
キャンピングバスの中でおにぎりを食べておく。
691
バイド村に到着してからの方が大変だったかもしれん。
運んだ荷物の数をチェックして指示された場所に資材の箱を降ろす。
これが800個。
クラリーナにいたっては倍の1600個もあるので時間も倍かかる。
俺とアイリとミーは2時間弱で済んだけどクラリーナは3時間半は
かかってた。
俺は途中でキャンピングバスに戻ってから、転移でるびのたちを迎
えに行って早乙女邸まで送ってた。
これで依頼されて契約した仕事が全部完了したのでバイド村の中央
本部まで出向き完了報告をした。
警備隊の隊長に護衛依頼完了報告書と物資輸送依頼の完了報告書を
サインしてもらい、渡された書類は俺のアイテムボックスに入れる。
最後は何日か一緒に仕事した警備隊の人達と握手で別れる。
後は明日の出発前に挨拶しにきて完了だな。
晩ご飯は自宅に帰ってからノンビリ食おうと皆にはキャンピングバ
スで話をしてあるので、キャンピングバスに戻って早乙女邸に転移
する。
久しぶりにるびのに再会した嫁達はるびのが最後に見たときの倍ぐ
らいになってるので、あまりの成長の早さに驚愕していたが、るび
のも久しぶりの再会に嫁達に甘えまくるので・・・モフモフに癒さ
れる嫁達。
モフモフは正義だからな。
俺が知ってる史上最高のモフモフパワーを持つるびのの前では人間
の考えなんて些細な存在だ。
今日は依頼達成で久しぶりに酒を飲むことに俺の中で決めていたの
692
で、家の裏庭で焼肉パーティーにした。
準備を嫁とマリアに任せて、材料・鉄板・網・魔道コンロ・テーブ
ル・イスなどを渡す。
俺はこの時間を使って、裏庭にるびのの為の外部屋を作る。
日に日に大きくなっていく、るびのの為に作るので屋根と柱と壁が
あって頑丈にした方がいいな。
2階の天井をそのまま裏庭に広げる。
構造の強度的に川に面した方向だけをひらいて両側は壁で囲む。
高さが7mほどで横幅と奥行きが10mほどの立方体にして、川に
面した一面が出入りしやすいように空けてある。
結界をはり中の温度が一定になるように、外からは認識阻害の魔法
がかかって家族以外は見えにくくなる様に幾つかの魔石を設置する。
寝室にあるクッションを持ってきて今までは2m×2mだったが、
るびのの今後の成長する大きさを考えて5m×5mの超特大のクッ
ションを作った。
﹁ここがるびのだけの部屋だ。今日からはここで寝るんだぞ?﹂
﹁おおぅ∼、こんなにデッカイ部屋がオレの部屋か。とうちゃんあ
りがとう﹂
﹁おう、まぁ大切に使えよ。・・・壊すなよ﹂
﹁うん、気をつけるよ。クッションもでっけぇなー﹂
﹁るびのはご飯はどうするんだ? 晩ご飯は食べたんだろ?﹂
﹁食べたんだけど、とうちゃん、足りないからもっと食べたい﹂
﹁よし、今からみんなで一緒に食べよう。眠くなったらここに帰っ
てきて寝るんだぞ?﹂
﹁やった! 大丈夫だよ、もうオレは1人でも寝れるよ。明日は大
森林で自由に遊べるんだよね?﹂
﹁セバスチャンから卒業試験で合格をもらったのか?﹂
693
﹁うん! 夕方の最終訓練でワイバーンを5頭狩って合格をもらっ
たよ﹂
﹁じゃあ、明日は自由に遊んでいいぞ。明後日は皆で大草原に住む
魔獣の本拠地めぐりだけどな﹂
﹁セバスにーさんから聞いてる・・・ねぇとうちゃん、けんぞくっ
て何?﹂
﹁眷属か・・・部下かな。るびのが生まれ変わる前の部下ってこと
だよ﹂
﹁へぇ∼、なるほどね。あ、もう準備が出来たってかあさん達が呼
んでるよ。とうちゃん早く行こう﹂
るびのに後ろからグイグイ押される。
力も強くなったな。
皆そろったのでパーティーの開始だ。
開始の音頭は俺になった。
﹁ではみなさん、依頼達成と、るびのの最終試験合格を祝してカン
パイ!!﹂
﹁﹁﹁カンパーーイ!﹂﹂﹂
俺は今回のセバスチャンの採取してきたソラマメを料理スキル魔法
で塩茹でさせてつまみとして出す。
100kg以上も採取してきてもらったので大量に作っておく。
えんどう豆はウグイス餡にしてウグイスアンパンを作ってあげたら
大喜びしてた。
甘いモノ大好きのクラリーナにせがまれて、こっちもスキル魔法で
大量に作って渡す。
焼肉は前と同じように大根おろしとポン酢で食べる。
694
るびのは焼いた肉だけガツガツ食べたら、20分もしないうちに自
分の部屋に戻っていった。
俺たちは腹一杯になるまで食いまくってから居間に移動する。
バーベキューの焼き担当はセバスチャンがしてくれてたので、余っ
た食材は全部焼いてもらい後片付けも全部任せた。
後片付けの後は風呂掃除をお願いした。
食後のマッタリタイム。
でも酒を持ち歩いていたので、そのまま飲んでる。
マリアがスモークサーモンを作ってつまみに出してくれたので、追
加でストック分を作ってもらう。
﹁そういえば、しんちゃんが食事が始まる前のカンパイの時に言っ
てた﹃るびのの最終試験合格﹄ってなんのこと?﹂
﹁あぁ、皆には説明してなかったな。明日の予定なんだが・・・明
日中にこのヨークルに帰ってくる予定にした﹂
﹁は? ・・・しん君、どういうこと?﹂
﹁順番に説明すると・・・明日の早朝の7時にキャンピングバスで
バイド村を出発。俺たちのキャンピングバスは荷馬車の倍のスピー
ドで走ることが余裕で出来る。馬じゃないから休憩なんか、もちろ
んのこと必要ない。昼前にはゾリオン村に到着するだろう。ゾリオ
ン村の冒険者ギルドで終了報告を完了させてゾリオン村で昼食。そ
の後はヨークルに一直線で帰宅する予定だ﹂
﹁あぁ、なるほど。そうですね。キャンピングバスはゴーレムです
から休まなくて平気でしたね。自分達だけなら休憩なんてキャンピ
ングバス内でするだけですし、スピードも出せるならしん様の予定
通り明日中にはヨークルに戻ってこられると計算できますね﹂
﹁そういうことだクラリーナ。それで明日は一日使って戻ることに
695
したんだけど、るびのをどうしようかセバスチャンに相談したら・・
・今日の夕方に大森林の岩場に戻ってくるワイバーンの集団に戦闘
を仕掛けて、ワイバーンの集団を相手にして狩ることができるよう
なら、もうこれ以上の訓練は必要ないって結論になったんだ﹂
﹁ワイバーンの集団相手に狩りをするの?﹂
﹁さっきるびのに確認したら5頭狩ることに成功して、最終試験に
合格がもらえたって言ってたよ。マリア、間違いじゃないよな?﹂
﹁はい、ご主人様。るびのから報告がありましたように、10頭以
上のワイバーンの集団に戦闘を仕掛けて5頭ほど狩りをおこない、
残りはワザと逃がす訓練を完璧に成功させました。これでこの大陸
にはるびのを殺すことが出来る魔獣は存在しなくなりました。ウェ
ルヅ大陸北方の山岳地帯の覇者﹃グリフォン﹄なら、るびのを傷つ
けることが出来ますが、グリフォンが飛ぶ以上のスピードで空中を
駆け回ることが出来るるびのにはグリフォンでは勝ち目がありませ
ん﹂
﹁しん君、るびのってそんなに凄いの?﹂
﹁あぁアイリ、るびのは凄いよ。この大陸で今現在でソロの戦闘力
で考えると・・・最強は俺。次はこのセバスチャンとマリア、その
次がるびのって順番だな。なぁミー、今この国には冒険者ギルドで
SSランクの人間っていないんだったよな?﹂
﹁そう。この国に今はSSランクの冒険者はいないよ﹂
﹁それなら間違いなく、今現在のこの国で4番目に強い存在はるび
のになるよ。しかもるびのはこれからもっと成長するから、後何日
かすればセバスチャンたちよりも強くなりそうだな。マリアの計算
でセバスチャンとマリアの現時点の能力で何日後に、るびのに抜か
れて、何日後に2人がかりでもキツくなると予想できる?﹂
﹁私の計算では3日後に私は抜かれますね。10日後ではセバスチ
ャンと2人がかりでも敵わなくなると予想できます﹂
﹁うそ! るびのってそんなに凄いの?﹂
696
﹁ミーも言っていた様に、流石は伝説の聖獣﹃白虎﹄またの名を﹃
白帝﹄。流石は俺の息子ってところだな。俺の魔力を吸い上げてこ
の世に生まれ変わった聖獣だからな。普通の聖獣よりも成長が早い
んじゃないの?﹂
﹁そんなことを、しん君に気軽に疑問形で聞かれてもねぇ。・・・
これが伝説の聖獣﹃白虎﹄ってことは実感できるわね﹂
﹁それで、るびのは最終試験合格ってことで明日は大森林で一日中
自由な時間って事にしたんだ。マリアとセバスチャンも護衛につけ
ない、完全に自由な時間だ。マリアとセバスチャンには大森林での
食材探しを一日してもらうことにした﹂
﹁そういうことだったんだね。やっと納得できたよ。寝に行くとき
のるびのがうれしそうだったから﹂
﹁そうだなミー。それも楽しみだし、今日は昨日の夜間訓練からの
疲れもあるから、るびのは早く寝にいったんだろう。俺たちも明日
は6時起きだ。今夜は早めに寝ておこう﹂
こうしてみんなで風呂に入りリフレッシュして寝ることになった。
697
バイド村からゾリオン村へ移動の開始。天気は雨になっちゃった
っす。︵前書き︶
1・20修正しました。
698
バイド村からゾリオン村へ移動の開始。天気は雨になっちゃった
っす。
転生17日目の朝。今日はマリアのモーニングコーヒーの香りで目
覚める。
今日の天気はあまりよくなさそうだ。雨が降ってきそうだな。
﹁マリアおはよう﹂
﹁おはようございますご主人様。ただいま5時55分です﹂
﹁顔を洗ってくるから俺はコーヒーを頼む。朝食は昨日のスモーク
サーモンのサンドイッチだな﹂
﹁承知しました。・・・ミネルバ奥様、クラリーナ奥様おはようご
ざいます﹂
﹁しんちゃん、マリアおはよう。私は今日の朝はカフェオレで。朝
食はしんちゃんと同じでいいよ。アイリの分もお願いね﹂
﹁承知しました﹂
﹁マリアさんおはようございます。私も同じサンドイッチをくださ
い。ドリンクはミルクティーで﹂
﹁承知しました。・・・アイリ奥様おはようございます﹂
﹁クラリーナおはよう。洗面所空けたよ。ミーとアイリもおはよう﹂
﹁しん様おはようございます。では行ってきます﹂
﹁しんきゅん、おふぁーよーーぅ。みんにゃもおふぁーよぅ﹂
俺はそのまま防具へ着替え始める。
うん・・・いつもの光景だな。
俺がおきて洗面台に行って顔を洗う。
その間にクラリーナとミーが起きてきて朝の挨拶。
俺が戻ってくる頃にアイリがノロノロ起き上がってくる。
クラリーナは俺の後に洗面台へ。
699
もはや見慣れた光景だ。
アイリの朝の弱さは凄いな・・・3歳児ぐらいになってる。
顔を洗うとスッキリ目覚めてくれるんだけどな。
着替えながら朝食を済ませる。
少なくなったコーヒーポットをいくつか補充しておく。
セバスチャンとマリアを連れてるびのの外部屋へ。
るびのもセバスチャンに30分ほど前に起こされていて今は朝食中
だった。
以前大量に狩ったオークを骨ごと食ってた。
﹁おはよう、るびの・・・ん? るびの、昨日狩ったワイバーンは
食べないのか?﹂
﹁あ、とうちゃんおはよう。ワイバーンって昨日の晩ご飯で食べた
けどクソ不味いよ。噛み応えがあるだけで、ぜんぜん美味しくない
よ。セバスにーさんに色々調理してもらったけど全部不味かったよ﹂
﹁セバスチャン、どういうことだ?﹂
﹁ご主人様。アレは食材って言うより防具や武器などの﹃素材﹄っ
て言った方がよろしいかと思います。頑丈なだけあって肉が堅くて、
食材にはなりませんね。ちなみに生肉がこれです﹂
実際に目の前に差し出されたワイバーンの生肉を触って感触を確か
めてみるのだが・・・確かにこれは素材だ。
それ以外に言いようがない感触。
トラックのタイヤ並みの堅さだ。
生肉ってより、かなり頑丈でワイヤー入りゴムだな。
そういえば俺が狩ったワイバーン3頭も解体すらしないで、そのま
700
まアイテムボックスに入れっぱなしになってる。
完璧に存在すら忘れてたなぁ・・・哀れなワイバーンだ。
そういえばニャックスもワイバーンは内臓しか食べないって言って
いたのを思い出した。
﹁んそういえばニャックスがワイバーンは内臓以外は不味いから食
べないって言ってたな﹂
﹁内臓ですか? それは・・・考えてませんでした。了解です。今
日の夕方までにワイバーンの内臓の調理方法を考えておきます﹂
﹁分かった。マリアも考えておいてくれ﹂
﹁承知しました。では、そろそろ時間となりましたので﹂
﹁おう、そうだな。じゃあ先にアイテムボックスを整理しよう﹂
セバスチャン・マリア・るびのの3人のアイテムボックスの中を整
理しておく。
ワイバーンは内臓だけ残して俺のアイテムボックスに移動した。
アイテムボックス整理しながら、どこに行きたいか聞いておく。
﹁るびのは今日はどこに行きたい?﹂
﹁オークが美味しいから、もっと狩っておきたい﹂
﹁じゃあ、大森林の南側の集合ポイントだな。マリアとセバスチャ
ンも一緒で良いか?﹂
﹁﹁構いません﹂﹂
アイテムボックス整理が終わったので3人をオークの巣があった場
所で待ち合わせ場所にしていたところに送る。
﹁セバスチャン、マリア、何かあったら必ず連絡をくれ。るびのも
何ああったらまずはセバスチャンたちに相談だ、わかったな?﹂
701
﹁﹁承知しました。お任せくださいご主人様﹂﹂
﹁わかった。じゃあ、また夕方ここでね、とうちゃん。遊びに行っ
てくるね﹂
﹁おう、ムチャすんなよ﹂
俺はそのまま自宅の寝室に転移した。
嫁3人も防具に着替えて、朝食も終わり片付けまで終わって準備万
端で俺を待っていた。
﹁おまたせ。じゃあみんなでバイド村に行こう﹂
夫婦4人でバイド村に停車中のキャンピングバスに転移する。
バイド村の中央にある本部に出向いて出発することを伝えてからキ
ャンピングバスを発車させる。
今日は俺が最初に運転手をすることにした。
時速30km以上のスピードを出してキャンピングバスはゾリオン
村へと突き進む。
今日は天気が朝から良くなかったけど、出発してすぐに雨が降って
きたみたいだな。
これで郊外の未舗装街道での雨天時での走行実験が出来る。
時速30kmというと日本では原付並みのノロノロ運転だが、ここ
の世界では荷馬車の倍近い猛スピードだ。
前方のセンサー代わりに設置してある魔石を起動させて周囲の探査
魔法の網を張る。
これだけの雨ならワイバーンも飛んでこないので、今日は実験ぐら
いしかすることも注意することもない。
﹁ねぇ、しん君。何で外は雨が降ってきたのに、このキャンピング
バスの窓ガラスは全く濡れないの?﹂
702
﹁ああアイリ、濡れないようにしてあるんだ。ガラスに雨が当たる
と絶対に視界が悪くなるからな。雨が当たらないようにガラスには
結界が施してある。濡れなければいいだけだから簡単だな﹂
﹁それにしても、しんちゃんが作ったキャンピングバスは快適ねぇ。
雨の馬車の移動の辛さを思い出すと・・・それだけで気分が滅入っ
てくるのよね﹂
﹁ミーさん・・・それほどまでに普通の荷馬車で、雨の日の移動は
大変なんですか?﹂
﹁ああ・・・そうねクラリーナは経験がないからね。アレは悲惨よ
悲惨。前は見にくいわ、雨は目に入ってくるわで、もー大変なのよ。
高級な雨具を持っていれば大丈夫なんだけど、安い雨具しか持って
ないと、暑くて蒸れるし脱ぐとビチャビチャに濡れるしで・・・ホ
ントに悲惨なのよ﹂
﹁なんか経験したくない感じですね﹂
﹁ミーの話を聞いてたら思い出しちゃったな。あのゾリオン村にD
ランクの昇格試験で護衛依頼を受けたときの事﹂
﹁なんだそりゃ、昇格試験が雨の中だったのか?﹂
﹁護衛依頼は天気が良かったの。でもそれは片道だけだったんで、
帰りは小遣い稼ぎで2人でヨークルまでの荷馬車の御者をしたんだ
けど・・・今日ぐらいの結構強い雨が降っていて・・・悲惨だった
わね﹂
﹁ううぅ、アイリ思い出させないで。アレはホントに悲惨だった﹂
﹁何がそんなにきつかったんだ?﹂
﹁あのときの私達はまだほとんど素人で﹃雨具を持ってなかった﹄
の。全身ずぶぬれで休憩場所にも入れさせてもらえないし、厩舎で
馬と一緒に食事までしたのよ。アレで馬と仲良くできるようになっ
たんだから、損だけではないんだけど・・・ミー、私もきつかった﹂
﹁それは凄い経験だな。しかも2度と味わいたくない方の経験だ﹂
703
﹁ゾリオン村からヨークルに戻ってすぐに体調を崩して、2人とも
2日ほど寝込んじゃって・・・治ってから最初に雨具を買いに行っ
たことまでがセットの思い出よね。ねぇアイリそうだったよね?﹂
﹁そう、今まで溜めてた大金払って最高級の雨具を2人で買ったの。
そこまでがセットになった思い出﹂
﹁・・・そ、それは辛い思い出ですね。それを考えるとこのキャン
ピングバスがいかに恵まれてるかわかりますね﹂
﹁雨具かぁ、そうだな﹂
俺はそういってアイテムボックスから魔石を3つ取り出して雨避け
の結界を封入する。
嫁3人に魔石を渡す。
﹁はいよ。雨避けの結界入り魔石。それを持ってるだけで雨に当た
らなくなるよ﹂
﹁・・・これを昔の私に持って行って、ずぶぬれになる前に渡して
あげたいね﹂
﹁ミー、私も全く同じことを考えてたよ・・・魔法って凄いわね﹂
﹁しん様、ありがとうございます。大切にします﹂
﹁そのままだと持ちにくいな。ちょっと待って・・・ハイどうぞ﹂
魔石そのものを加工して指輪にしてあげた。
ミスリルでコーティングしてから、みんなの右手の小指に装備して
あげた。
サイズを指にはめながらピッタリ合うように微調整するのも忘れな
い。
3人の嫁がうっとりと指輪を眺めてるのであげてよかったと思う。
704
もふもふ天国ってどこにありますか? 自分で作っちゃう? っ
す。︵前書き︶
1・20修正しました。
705
もふもふ天国ってどこにありますか? 自分で作っちゃう? っ
す。
雨の中のキャンピングバスの運転に慣れてもらうために30分交代
で皆にも運転してもらう。
嫁も最初は戸惑ってるけど、最初だけですぐに慣れるんだよな。
3人の嫁の能力が高いのか、ここの世界の人達が全員能力が高いの
か・・・比較する人がいないからよくわかんないな。
俺からすれば、郊外の街道も都市ヨークルの中でも、このシーパラ
連合国では馬車は日本と同じで﹃左側通行﹄ってのがありがたい。
俺はリアルでは左側通行でしか運転した事がないからな。
右側通行なんてゲームの中でしか運転したことないから難しいだろ
う。
天気が悪くてもこの展望席からの眺めは良い。
天候の悪さで遠くの山々は霧でかすんで見えないが、それがまた幻
想的な空間を作り出している。
・・・この幻想的な空間に感動しているのに、遠見の魔法で俺を見
ようとするのは止めて欲しい。
流石にイラついてきたぞ。
自重を放り投げて自分の趣味の旅をする為にキャンピングバスを作
って街中を走りまわったり、滑らかに動くクマのゴーレムを連れて
街中を練り歩いたりしたから、完全に自業自得なんだけど・・・認
識阻害の魔法で薄っすらとしか見えないようにはしてある。
これも俺がこの世界で学んだことだな。
706
完全に見えないように認識阻害の封印まで施して生活してると、ど
んな理由かは知らないがストーキングしてくるんだよなアイツら。
アイツらは俺に突っかかってきて無様を晒した﹃アントローグ商会﹄
の連中みたいに、俺にケンカを売ってこないから逆に厄介だ。
流石にちょっとムカついてきてるがな。
昨日までの護衛依頼中はガルディア商会のヨークル支部からも遠見
魔法で覗かれていたが今朝には消えていた。
まぁ、アレだけ大量に物資を運んでいた最中という、理由があった
から我慢が出来るんだけど。
今も必死になって覗こうとしている5つのうちの、ひとつは俺の記
憶にもある首都シーパラの冒険者ギルド本部から覗かれている。
・・・俺は監視対象になっているんだろうか。
盗賊も迷賊も殺しまくっているので逆に不信感を持たれているのか
も。
チーム早乙女遊撃隊での行動が監視されてるわけじゃなくて、俺だ
けが冒険者ギルド本部から監視されてるから・・・まぁ、そういう
ことなんだろうな。
今日、ヨークルに帰って夕方に1人で冒険者ギルドヨークル支部の
ギルドマスターのラザニードに会って聞いてこようかな。
バイド村で退治した盗賊の遺体も売りたいし。
ギルド以外の4つはまだよく調べていない。
俺が逆に遠見魔法で覗いてやると、向こうは慌てて覗きを止めるん
だよな。
それも4つとも。
接触もしてこないし敵対行為もない。
どこかの商会だと思うんだけど・・・ただ覗かれてるだけだから厄
707
介だ。
鑑定の魔眼を持つビッタート卿や真偽官が近くにいるときは絶対に
覗いてこないから、自分達の安全を守るために徹底されている。
もしかしてこっちからやってくるのを待っているのだろうか?
そろそろケンカを売った方がいいかもな。
キャンピングバスの中は覗けないようにしてあるし、話し声も完全
封印してある。
俺がこんなことを考えながら嫁達と会話している内容なんて聞かれ
たくない。
俺の中にある転生者の記憶や経験も厄介な相手として俺に警戒を訴
えてくる。
るびのや嫁が狙いならこっちから戦争を仕掛けるのに。
そう思って問題を先送りしてるだけかもな。
・・・面倒だからやっちゃいますかね。
ストーキングさせて相手の動きを探った方がいいのかも知れんな。
俺は自分と嫁に認識阻害の封印をかけた。
遠見の魔法の阻害魔法もかける・・・これで完全に見えなくなるだ
ろう。
・・・ヤツラが慌ててる感じがする。
﹁しん君、急にどうしたの? もしかして前に言ってたようにまた
覗かれてる?﹂
﹁ああ、もう依頼は完了させたからな。これからはこっちから攻め
ることにするよ﹂
﹁大丈夫なんですか?﹂
﹁クラリーナの心配も分かるけど、そろそろ俺もムカつく。人のプ
ライベートを覗きまくりやがって。これからアイツらはストーキン
708
グ行為にくると思うけど、こっちから全員のトイレの中の行動まで
完全監視してやるよ﹂
﹁トイレの中まで?﹂
﹁ああミー、もう手加減もしない。完全に監視下におくことにする。
冒険者ギルドの人間も手加減なしだ。自分たちが絶対に敵わない相
手が存在しているってことを骨の髄まで叩き込んでやんよ﹂
﹁アントローグ商会を相手にしたときみたいに﹃戦争状態﹄にする
って事なの?﹂
﹁ああ、ちょっと待っててくれ。後で詳しく説明するから・・・こ
れから宣戦布告をする﹂
そういうと今自分たちにかけた封印を全て解き、キャンピングバス
に仕掛けた魔法も封印も一時的に全部を解除した。
﹃おい! 俺を覗いているお前等。これは俺からの宣戦布告だ﹄
﹃毎日毎日、断りもなく覗きやがって。いいか、聞こえてるんだろ
?聞こえるようにしてやったんだからな! これからはお前達全員
と戦争状態に突入だ。どういうことが分かるか? お前等全ての人
間を敵と見なして、これからは俺も完全に監視することにする。脅
しじゃないからな。冒険者ギルド本部の人間は偉いのか? なぁそ
この会議室って封印してあるから覗かれないとでも思ってるのか?﹄
﹃いいか? 俺を舐めるなよ? そこの会議室にいる5人のオッサ
ン。全部丸見えだぞ? アッハッハッハ、慌てて今頃魔法で封印し
ても無駄だし無意味なんだよ! いいか? そこの会議室にいるエ
ルフのジジィ。お前なら分かるだろ? 魔法ってのは格上の存在に
は封印も阻害も無効化されるんだよ﹄
﹃知ってるんだろ? 会議室で偉そうにしているエルフのジジィ。
お前は俺よりも格下なんだからお前の認識阻害の魔法も封印も俺に
は効かないんだよ。600年以上生きてても分からないのか? ク
ックック、慌てて精霊様に聞いても無駄なんだよ。その﹃精霊ウン
709
ディーネ﹄よりも俺の方が格が上なんだから、全部無駄なんだよ。
馬鹿には話だけじゃ理解できないからな・・・試してやるよ﹄
﹃召喚する。来い! 精霊ウンディーネ﹄
俺の目の前に薄いヴェールをまとった水の精霊が姿を現す。
﹁早乙女様、召喚していただきありがとうございます﹂
﹃エルフのジジィ、ウンディーネの声が聞こえただろ? わかった
か? お前が契約させてもらって力と能力を貸してもらっている精
霊は、俺が呼び出せる数々の精霊の一つに過ぎないんだよ。よし。
ウンディーネご苦労さん。精霊界に帰還しろ﹄
﹁了解しました﹂
﹃こういうことだ、分かったか? 今まで優しくしてやればつけ上
がって調子に乗りやがって。これからはこっちから攻めるからな?
お前らは俺の存在を舐め過ぎて﹃逆鱗﹄に触れたんだよ。俺がお
前らにドラゴンよりも恐ろしい存在って言うのはどんなモノなのか、
これから俺が直々に教えてやるから身をもって知れ。謝っても許さ
んからな? これが俺からの宣戦布告だ!!﹄
最後に大声を上げるともう一度、全部の魔法と封印をかけキャンピ
ングバスの魔法も再起動させた。
魔法の設定が終わったので俺が運転手に戻る事にした。
﹁しん様は、せ、戦争、しちゃうんですか?﹂
﹁アレは脅し。なんもするつもりはないよ。たまに監視するぐらい
でそれ以外は何もしない、今までと同じかな。しばらくはビビッて
逃げ回ってくれるだろ。ストーキングしてきたら全員魔法で眠らせ
るだけだし。るびのや俺の作った全部のゴーレムは元々安全の為に
封印はしてあるしな﹂
﹁じゃあ、今回のは脅しで次があったら宣戦布告に則り戦争状態に
710
なるって事?﹂
﹁ああ、アイリそういうことだ。だからこそ前もって宣戦布告をし
たんだ。俺と戦争になっても良いって決意してから情報を集めに来
いってことだよ﹂
﹁なるほどねぇー。じゃあ、冒険者ギルドカードに入ってるチーム
のお金はどうするの?﹂
﹁もう少ししたらゾリオン村に到着するからビッタート卿に話を聞
いてみるよ。面倒になりそうだったら商業ギルドに登録して﹃早乙
女商会﹄でも立ち上げようかな﹂
﹁商業ギルド? 仕事は・・・ああ、物資の輸送ならこの国で1番
ね﹂
﹁そうだよミー、俺達なら何でも出来る。メイドゴーレムをいくつ
か作ってレストランでも大丈夫﹂
﹁そういわれてみれば・・・しん様ならゴーレムで人員募集で信頼
できる人間を集める必要すらないですもの﹂
﹁しかもゴーレムだから24時間いつでも開店が可能だな。休憩も
いらないし。おやっさんにお願いしてリーチェに居抜き物件を紹介
してもらえば、喫茶店とかの店舗ぐらいなら明日にでも開店できる
よ﹂
﹁喫茶店で何を売るの? しんちゃんが作ったデザートなら10日
後には伝説が生まれるよ。とんこつラーメン以上の伝説が﹂
﹁まさかぁー・・・ないよね?﹂
﹁伝説は出来ると思いますね。それが良い事か悪い事かは別の話で
すけど﹂
﹁クラリーナの言う通りね。しん君にはデザートだけで人を狂わせ
る能力があるってことを、もっと自覚した方がいい﹂
﹁俺が前に住んでいた日本って国は、食に対して貪欲な民族でね・・
・デザートだけでも世界中のいろいろなのがあるんだよ。それに、
ミルクさんのミルクの中には脂肪分が豊富に入っていたから﹃生ク
711
リーム﹄も﹃バター﹄も分離して作ることが出来た。昨日、マリア
がレモンも大森林で発見してきてくれたから、チーズも自作が可能
だ。これだけあればデザートはいっぱい作れるよ﹂
目の前でイチゴクレープを3つ作って渡してあげた。ガツガツって、
すぐに食べ終わる嫁3人。
﹁これはヤバイって、しんちゃん・・・死人が出るって﹂
﹁ミーの言ってることが理解できるわね。これはホントに伝説にな
るわ。殺し合いが起きる可能性がある﹂
﹁これを喫茶店で出すんですか? 食べられなかった女同士の殺し
合いに発展する未来しか見えませんね﹂
嫁に酷い事言われてるな俺。とりあえず言い訳しとこう。
﹁これは俺の嫁への愛情が詰まった手作りだけど、もし喫茶店を作
って店に出すとするなら味も品質もスキルレベルも俺には及ばない
ゴーレムが作るヤツだぞ?﹂
﹁・・・ああ、それなら大丈夫・・・かな? 自信ないけどミーは
どう思う?﹂
﹁私は止めた方がいいと思うなぁ。またひと騒動起きそう・・・ク
ラリーナの意見は?﹂
﹁私は・・・そうですね。デザート系は止めた方がいいと思います
ね。甘いものに関しては女は見境がなくなる生物ですので﹂
﹁クッキーぐらいなら・・・﹂
﹁﹁﹁却下で﹂﹂﹂
3人に即答で全否定されてしまった。
﹁それじゃあ、モフモフ喫茶は?﹂ 712
﹁なんですかその、魅惑の魔力がある名前は﹂
﹁おう、アイリ。店内を俺が作ったゴーレムが徘徊するだけだ。初
日のるびののように大きさは30cm弱ぐらいで、形はるびのやグ
リーンウルフとか銀大熊の、生まれたてのホヤホヤ子供サイズだな。
全身を俺が作るモフモフ毛皮で覆った、動くぬいぐるみだ。もちろ
んヨチヨチ歩きで時々転ぶって言うニクイ演出ありで。店内ではお
さわり自由だ。店は30分の時間制でドリンク1杯1000G。名
付けて﹃もふもふ天国・ヨークル店﹄だな。略して﹃もふ天﹄・・・
ってのはどうだ?﹂
﹁初の店舗がヨークル店って・・・略してって・・・しん様が目指
してる先が見えません﹂
﹁しんちゃん、それって儲かるの?﹂
﹁儲かんなくてもいいんじゃない? 俺の趣味オンリーだ﹂
﹁しん君がいう﹃もふもふ天国﹄って名前だけでも惹かれてしまっ
てる自分がちょっと悲しいわね﹂
﹁持ち逃げされそうなんですけど﹂
﹁クラリーナ、その心配はいらない大丈夫。店内のゴーレムの全部
に移動禁止の封印をかければ店舗の中でアイテムボックスの亜空間
に入れる事も出来ないよ・・・そろそろゾリオン村が見えてきたな。
臨時の駐車場に行けばいいと思うけど﹂
俺たちのキャンピングバスが指示されたのはやはり臨時の駐車場だ
った。
キャンピングバスを停車して村へと全員で歩き出す。
713
冒険者ギルド本部での緊急会議に出席。議題は俺? っす︵前書
き︶
1・20修正しました。
714
冒険者ギルド本部での緊急会議に出席。議題は俺? っす
到着して予定通りゾリオン村の冒険者ギルドに直行する。
今日は行きたいとこが増えてきてる。ノンビリしてないでサクサク
行こう。
冒険者ギルドの中に入り受付窓口にゾリオンからのチーム指名依頼
の完了報告書を提出する。
依頼達成の成功報酬は2億G。
冒険者ギルドカードに入ってる8億Gとあわせて10億Gを4人で
分けて2億5000万Gをみんなのステータスカードに入金しても
らうことにする。
俺のステータスカードから2000万Gほど分けて、ギルドカード
のチーム資産の方に合計3000万Gほど残しておく。
セバスチャンたちに買い物を頼むかもしれないから少しは残してお
かないと。
戦争が終わるまでは防衛手段はとっておかないとな。
迷賊退治と今回の指名依頼達成と盗賊退治で全員Bランクへの昇格
もしていた。
嫁達もうれしそうなのでまぁいいかな。
ギルドマスター室からビッタート卿が出てきて俺に話しかける。
﹁やぁ早乙女君・・・って早い時間だな。そうだ! 君に報告して
おかないとな。ちょっと内密な話があるからここの部屋で話そう。
この前の話の続きだな﹂
﹁続きって戦争の話ですか?﹂
﹁戦争? はて・・・何の事だかよく分からないが、ワシからの話
715
は君からのお願いされてたことだよ﹂
﹁ああ! 分かりました。それでは皆で話をうかがいます﹂
チーム早乙女遊撃隊の全員でギルドマスター室に入る。
全員が部屋に入ってから念入りに探査をして、さらに封印の魔法を
施しておく。
﹁今日は念入りに封印するんだな。8人の女性の未来がかかってる
しな。それで、話の続きだが・・・今日のちょうど今頃に彼女達は
ゾリオン村とバイド村の中間地点にある、昼の休憩場所で彼女達が
さまよってるところを定期便の護衛に救出されるという手筈になっ
てる。バイド様に協力をお願いしたら快く引き受けてくれた﹂
﹁バイドか・・・人気取りかな?﹂
﹁早乙女君、お互いに利益があるんだから貸し借りのないお互いに
儲かる話だよ﹂
﹁それは間違いないですね。ビッタート卿に任せた以上、俺には文
句のない話ですよ﹂
﹁そういってもらえるとありがたいね。それでこの話は全部丸く収
まって終了だ﹂
﹁分かりました。それはそうと、お聞きしたい事があるんですけど、
今の時間でもいいですけか?﹂
﹁この部屋に入ってくる前に言ってたことだな﹂
﹁そうです。ビッタート卿にお聞きしたい。冒険者ギルドって冒険
者を監視するっていうことは義務ですか?﹂
﹁・・・は? ギルドが冒険者を監視する? 誰を?﹂
﹁俺です。24時間ずーっと遠見魔法によって監視されています。
首都シーパラにあるギルド本部からです。俺を監視するの理由が聞
きたい﹂
﹁イヤ、そんな話はギルド本部の会議でも議題に出されていないぞ
716
?﹂
﹁ウソでも冗談でもないですよ。これって敵に対する情報収集とい
ってもいいですよね? だから先ほどギルド本部で監視作業をして
いたエルフの﹃ノラギス・サザール﹄664歳に宣戦布告をしまし
た。なんだったらその時召喚した精霊ウンディーネに証明させまし
ょう﹂
﹃再度召喚する。来い! 精霊ウンディーネ﹄
目の前にまた薄い水色のヴェールをまとった精霊ウンディーネが姿
を現す。
﹁早乙女様、再度の召喚ありがとうございます﹂
﹁ウンディーネに問う、君が契約している﹃ノラギス・サザール﹄
が俺を覗いていた事を認めるな?﹂
﹁ハイ。早乙女様、肯定いたします。私の魔力を用いて早乙女様に
毎日24時間遠見魔法による監視を行ってまいりました﹂
﹁精霊がウソつくわけがないし・・・これは間違いない事だな。で
は私もギルドマスターとしての職務を遂行する。早乙女君、悪いが
封印を少し弱めてくれ本部と話がしたい﹂
俺は封印魔法の一部を解除した。
ビッタート卿がイスごと後ろを向き、後ろの壁の一番上にある黒い
魔水晶の横にある魔石に話しかける。
﹁我が名はアクセル・ビッタート。ゾリオン村の冒険者ギルドマス
ターだ。今、この冒険者ギルド法第一条の﹃冒険者の秘密事項の保
護﹄を違反するギルド職員がいる事が発覚した。全支部のギルドマ
スターと本部による緊急会議を始めたい﹂
ブーーンという音とともに黒い魔水晶の下にある板が光ってギルド
717
本部会議室が映し出される。
そこの会議室の大きなテーブルのと回りに20以上あるイスの上に
ビッタート卿の幻が映し出された。
・・・うおぉ!
ヴァーチャルリアリティを使ったギルド本部での会議か!
思わず声が出た。
今まで黙っていた嫁達も流石におおおって声を上げた。
次々にイスに色んな種族の人達が座る。
﹁それではアクセル・ビッタートの緊急議題についての会議を始め
る﹂
上座に座る人︵・・・サムライか?︶の大声で会議がスタートした。
﹁では私、アクセル・ビッタートが紹介します。彼が﹃早乙女真一﹄
。先ほどBランクに昇格しました。彼の訴えでは冒険者ギルド本部
から毎日24時間遠見魔法による監視を受けていたとの事です。い
つから彼が監視対象になったのでしょうか? ギルドマスターの私
は聞いてません﹂
﹁そこにいる早乙女君が監視対象だと? 私も聞いてないし、その
事がギルド会議の議題に上がった事もないぞ。我々は彼に謝罪する
事はあっても監視する事はないと断言できる。本部に問う! いっ
たいこれはどういうことなんだ?﹂
ヨークル支部のギルドマスターのラザニードが大声を上げる。
会議室内がザワザワ騒ぎ出す。
﹁静粛に!! 私はギルド本部のギルドマスター﹃青木勘十郎﹄だ。
私達冒険者ギルド本部の命令で、早乙女君を監視対象にしたという
事実はない。悪いが早乙女君、君が訴える事はギルド本部側は承知
718
できない。君が訴える事を証明できるものはあるかね?﹂
﹁いいですよ。さぁ、精霊ウンディーネ。誰が俺を24時間監視さ
せていたんだ?﹂
﹁はい、早乙女様。ギルド本部の会議室の隣の部屋で聞き耳を立て
て、会議内容を聞こうと頑張ってるエルフで私の契約者﹃ノラギス・
サザール﹄でございます。彼が私の魔力を使い24時間の遠見魔法
による監視を行ってきました﹂
﹁では、ウンディーネに命令する。ノラギスとその仲間を会議室に
連れて来い﹂
﹁はっ、早乙女様の仰せのままに﹂
ウンディーネが消えた瞬間、会議室に5人とウンディーネが姿を現
した。
再び騒ぎ出す会議室。
﹁これでいかがですか? 精霊がウソの発言をすることはない。こ
れこそが証明できる事実です﹂
﹁早乙女君、疑って申し訳ない。これは早乙女君の言ってることに
間違いがないと断言できる。ノラギス、言い逃れできると思うなよ。
お前は冒険者ギルドの看板に泥を塗ったんだからな﹂
﹁そんな! その精霊が・・・クソ! 契約してやってるのに﹂
﹃増長するなよ、たかがエルフ風情が!!!﹄
ザザって画像が乱れてきた。
﹃契約してやってるだと? ザザー。貴様程度の分際が! ザッザ
ッ。今この世界において我のマスターは早乙女様だけなのだぞ? ザザ、ザー。それをたかがエルフごときの契約者の分際で何様だ?
ザザッザー﹄
719
赤く瞬くウンディーネが﹃激おこ﹄状態になってるな。
さっきまでは落ち着いた薄く青く光っていたのに、怒って真っ赤に
なってきたなウンディーネ。
あまりの状況変化についてこれないビッタート卿が俺に話しかけて
きた。
﹁なぁ早乙女君、どういうことなんだ、これ・・・﹂
﹁バカエルフが精霊ウンディーネを怒らせたから、ウンディーネの
魔力が暴走しかかってる﹂
﹁なんだと! 早乙女君、スマンがウンディーネ様を落ち着かせて
くれ。君の命令しか聞かない召喚中だ。このままだとギルド本部が
木っ端微塵に吹っ飛ぶ﹂
﹁ですね。・・・ウンディーネちょっと待った﹂
﹁ハイ。早乙女様﹂
瞬時に元の状態に戻る。
﹁ウンディーネのノラギスとの契約の話は、俺の命令でひとまず後
にしてくれ﹂
﹁早乙女様の仰せのままに﹂
﹁ってことで、青木さん。これで証明できましたよね?﹂
﹁あ、ああ、ちょっとビックリしたが間違いない。彼らはこちらで
責任を持って処分する﹂
﹁ギルド本部において厳正なる処分をお願いします。それと・・・
ノラギス、お前に言っておく。お前は今回精霊ウンディーネを怒ら
せた。精霊を怒らせるって事がエルフ族にとってどんなことか忘れ
たわけじゃないよな? 今は俺が止めてるだけの状態なんだよ。ウ
ンディーネとノラギス、お前の契約が切れたとたん、精霊界はお前
の一族全ての契約が打ち切られるんだぞ? 子孫も含めてな。お前
と血の繋がるエルフ全てがお前を怨む事になるんだぞ? お前の血
720
を引く子孫までお前の敵になるだろうな﹂
ノラギスが俺の言葉で青かった顔が土色になるまで血の気が無くな
った。
あ、ウンコマン2号が誕生してしまった・・・脅迫し過ぎだわな。
721
豪雨の中、ヨークルに帰還っす。︵前書き︶
1・23修正しました。
722
豪雨の中、ヨークルに帰還っす。
ウンコマン2号と4人は連行されていって会議は終了した。
ウンディーネは精霊界に帰還してもらう。
﹁早乙女君、誠に申し訳ない。我が冒険者ギルドは何度も君に不快
な思いをさせてしまっている﹂
﹁ビッタート卿が謝ることじゃないんで大丈夫ですよ。それに俺を
監視しようとしてるのはノラギスだけじゃないですから﹂
﹁・・・え? まだ君を監視しているギルド職員がいるのか?﹂
﹁いえいえ、ギルドはノラギスだけです。後はどこかの商会ですね。
こっちは俺が解決しますんで大丈夫です。それでは俺の用事は終わ
りましたんで、今からヨークルに帰ります﹂
﹁今からって・・・ああ、そういえば君は自作のゴーレム馬車に乗
ってたね。アレは早そうだな﹂
﹁まぁ、そこは秘密って事にしておきますよ﹂
﹁それがいいな。ではまた会おう﹂
そういってビッタート卿と握手を交わしてギルドマスター室を後に
した。
会議に出席して時間がかかったので昼食はゾリオン村の名物﹃おに
ぎり﹄を買って、キャンピングバスの中で食べる事にした。
キャンピングバスに戻りゾリオン村を出発する。
外の雨はかなりの本降りとなってる。
冒険者ギルドとキャンピングバスまでの道で俺たち夫婦は一切濡れ
ていない。
雨に当たらない結界の発動する指輪をしてるからな。
723
雨の中をキャンピングバスは突き進む。
時速40km以上を維持しながら猛スピードで走る。
強い雨の中で40km以上出して郊外の街道を長時間の走行ができ
るのか、走行実験も兼ねてるので速度は緩めない。
午後からも交替しながら食事をして運転をしている。
全員が食後はもう防具は脱いで﹃旅人の服﹄に着替えた。
途中で反対車線のヨークルからゾリオン村に向かってる定期便の荷
馬車の群れとすれ違う。
対向車線を走るキャンピングバスの速度に驚いていた様子だったが、
もう既に自重を捨ててしまっているので気にしない事にしてる。
対向車線のすれ違いが終わったので前方にゾリオン村からヨークル
への定期便が連なって走行しているのが前方に見えてきた。
クラリーナから運転を変わってもらう。
抜く前に対向車線の安全を確認してから、俺の運転で対向車線に入
って前方の荷馬車軍団を一気に抜き去る。
前方の荷馬車を抜く時の安全確認の仕方、テクニックを嫁達に説明
していく。
天候が悪いのでライトの魔法を展開させて前方と周囲へのアピール
も暗くなる前に早めに点灯した。
ヨークルの門の確認は馬車の中に入ってくるので、キャンピングバ
スの中がビチャビチャになってしまうが彼らも仕事なので仕方がな
い。
キャンピングバス内の掃除はいつもの3点セット魔法で、運転中の
俺に代わってクラリーナがやってくれた。
門をくぐれば早乙女邸は外周部の川沿いにあるので、後はそんなに
かからない。
724
門はユーロンド1号が開閉してくれた。
ガレージの開閉ははユーロンド3号。
警戒任務がユーロンド2号の仕事だ。
さっそくストーカー達の視線を感じるが、どうせ門の中は外からは
ほとんど見えない。
早乙女邸の塀は以前は鉄柵だったので中が丸見えだったが、今は石
材で作って固定化の魔法と重力魔法で見た目以上に頑丈にしてある
し、ミスリル棒で防御用の結界と魔法の結界が施してあり・・・今
はイーデスハリス最強の防御力をもつどこかの国の王城の防御力を
遥かに上回ってる。
隣の倉庫の屋根から覗いてるバカタレはショックの魔法で気絶させ
てロープでぐるぐる巻きにして、倉庫の屋根からぶら下げておく。
人間ミノムシの完成だ。
倉庫番のボーナスがぶら下がってるんだから、明日の朝には発見さ
れて逮捕されて締め上げられるだろう。不法侵入の現行犯なんだか
ら言い逃れも出来ずに取調べだ。
バカが追加で倉庫の屋根に上ったのでミノムシは2匹になった。
今夜の晩ご飯の準備を嫁達に任せる。
俺は時間になったのでそのままの格好で、るびのたちを迎えに行く。
集合場所でマリアが展開する雨避けの結界の中で、るびのはセバス
チャンに3点セット魔法で洗ってもらっていた。
大雨の中の狩りでグッチャグチャだったみたいだな。
﹁るびの自由時間はどうだった?﹂
﹁楽しかった。けど、ちょっと淋しかった﹂
﹁そうだな。るびのの周りにはいつもセバスチャンたちがいたから
725
な。狩りの方はどうだった? 満足できたか?﹂
﹁うん。狩りはすんごく楽しかったし大満足ー! でも途中からい
つもと違って血まみれになっちゃって、オークに逃げられまくって・
・・池に潜って体に付いた血を洗うって事を思い出すまではちょっ
と苦労した﹂
﹁狩りは自分の気配を消すだけじゃなくて、匂いにも気を使ってい
かないとな。途中からでも思い出して良かったな﹂
﹁雨の中だったから自分の匂いの事を思い出すのに時間がかかっち
ゃった﹂
﹁ま、今後気をつければ大丈夫だろう。そうだ! るびのの明日の
予定は大草原の魔獣の挨拶回りなんだけど、それが終わって午後か
らは草原での自由時間にしてあげるよ﹂
﹁ホント! やった!! とうちゃん大好き!﹂
﹁明日の予定は決まったな。さぁ、皆も待ってるから、そろそろ早
乙女邸に帰ろう﹂
そういって3人を連れて早乙女邸の、るびのの外部屋へと転移する。
マリアには嫁達の食事の準備のサポートを頼みセバスチャンには、
るびのの世話をお願いした。。
俺はガレージの中に転移で戻ってキャンピングバスのチェックと清
掃をする。
豪雨の中を猛スピードで4時間近く連続走行していたが、魔力タン
クの中の魔力量以外は全く損傷もなかった。
タイヤもほとんど減ってない。
キャンピングバスの魔力を満タンにしてからキャンピングバスを浮
かせてタイヤのブロックパターンの溝に挟まってる石を全て取り除
く。
ヨークルの門をくぐってから早乙女邸に帰ってくる前に石畳の道を
走行したが、タイヤの溝に挟まってる石のせいでカチャカチャうる
さかったし、石のせいで明らかにグリップ力が落ちてた。
726
今後は要注意だな。
﹁しん様。晩ご飯ができました! ダイニングまで来てくださーい
!﹂
﹁ほいよー﹂
作業が終わって玄関で3点セット魔法を自分に使ってたら、クラリ
ーナからの念輪がとどいた。
今夜は外は雨が降り続き、少し肌寒いので嫁達はシチューにしたよ
うだった。
ミルクはふんだんにあるのでクリームシチュー。
これは美味いな。
テーブルの真ん中に置いてあるバスケットにたくさん入ってるパン
を少し浸して食うとたまらん。
食後は今のソファーに移動して話しかける。
﹁マリア、俺はハーブティーを頼む﹂
﹁承知しました、ご主人様﹂
﹁私は今夜はお酒にします。ウィスキーのお湯割りにしますので、
マリアさんお湯をください﹂
﹁承知しました、クラリーナ奥様﹂
﹁私もお酒にしーよーっと。私はロックにするから氷をちょうだい﹂
﹁私も同じね﹂
﹁承知しました、ミネルバ奥様とアイリ奥様﹂
﹁お、皆は酒にしたか。つまみは何がいい?﹂
﹁ワカサギの甘露煮が食べたいです。お湯割りに合いそうですし﹂
﹁はいよ。クラリーナ﹂
﹁私はソラマメの塩茹でがいいな﹂
727
﹁はい、アイリ。ミーはどうする?﹂
﹁チャーシューが食べたいな! まだ残ってたよね?﹂
﹁オーク肉が手に入ったからな、今から作ってやるよ﹂
俺はアイテムボックスからオーク肉の塊と砂糖・しょうゆ・みりん
などを取り出して作ろうとすると、ダイニングテーブルを片付け終
わったマリアが話しかけてきた。
﹁ご主人様、今日の大森林での食材集めで﹃ハチミツ﹄を見つけま
した。かなり大型の種類の大きな巣だったので100kgほど持っ
てきました。それとご主人様の知識にあったサトウカエデの木も見
つけましたので﹃メープルシロップ﹄も作っておきました。こちら
は10kgほどです﹂
﹁おおお、これで我が家のデザートもさらに発展するな﹂
マリアからハチミツとメープルシロップを半分ほどもらってアイテ
ムボックスに入れておく。
ハチミツは少量取り出してチャーシューを作るのに使った。
出来上がったチャーシューをカットして皿の上に並べて出した。
﹁これは上出来だな。マリア追加で今夜にでも作っておいてくれ﹂
﹁承知しました﹂
﹁・・・これって、とんこつラーメンに売ってるやつより美味しい
んだけど﹂
﹁ミーの為に作ったから俺のスキルの恩恵が入っちゃうし、ハチミ
ツ入れると旨味が増すって感じかな﹂
﹁ハチミツって凄いんですね。知りませんでした﹂
﹁クラリーナの好みの場合でハチミツを使った料理・・・サツマイ
モもあったし大学イモかな﹂
728
材料を出して素早く作って出した。
クラリーナが美味しそうに食べてるのでアイリとミーも食べて満足
そうな顔をしている。
こっちもマリアに追加で注文しておく。
﹁それで明日の予定の話なんだけど・・・明日は午前中に大草原の
魔獣達に皆を連れて挨拶回り。これは午前中に終わるだろう。るび
のはその後は大草原での自由時間にした。俺は明日の午後は冒険者
ギルドのヨークル支部に行って今日のギルド本部での会議の顛末が
聞きたいし、その後はおやっさんの店に行ってワイバーンとサイラ
スの素材を渡してこようと思う。それで、皆に聞きたいのは・・・
皆はどうする? どこか行きたいところがあるなら送るよ﹂
﹁私はダンジョンに行きたいです﹂
﹁私もダンジョンに行って体を動かしたいなぁ。依頼中の4日間は
全然動いてないからね﹂
﹁私もクラリーナとミーと一緒にダンジョンに行くよ。私も体がな
まっちゃいそうだから﹂
﹁そうだな、それだったらマリアもつけるから女性陣の4人はアゼ
ット迷宮まで送るよ。セバスチャンはるびのと一緒に大草原だ。じ
ゃあ、それで決定だな﹂
﹁承知しましたご主人様。るびのは就寝しましたので、お風呂の清
掃も完了しておきました﹂
戻ってきたセバスチャンに話しかけて明日の予定は決まった。
後は風呂に入って寝るだけだな。
風呂に入るころには外の雨はあがっていた。
天気が良くなれば明日は楽かな。
ガウリスクとニャックスの巣は知っているので転移でいけるが、ア
キューブは場所も知らないので教えてもらって移動になるからな。
729
そういえば、銀大熊がたくさんいる大草原の北側はほとんど行って
ないな。
バイド村の北側は起伏の多い地形で温泉が多くあるってアキューブ
から聞いてる。
・・・別荘でも作っちゃおうかな?
人は銀大熊を恐れてほとんど入ってこないから大丈夫だろう。
730
深夜の酔っ払い3人衆からの冒険者ギルドのノラギス騒動・・・
その後の話っす。︵前書き︶
1・25修正しました。
731
深夜の酔っ払い3人衆からの冒険者ギルドのノラギス騒動・・・
その後の話っす。
風呂の後は寝室のソファーで俺が酒を飲み始めた。
みんな酔っ払ってしまったのでエッチは凄い事になってしまったが
夫婦の秘め事だな。
俺は気分がよくなるだけで全く酔えないので・・・酔っ払う嫁たち
を見てると、ちょっと寂しいな。
心の底から凄く楽しそうだし。
﹁ねー、しんきゅん。ホントにきいてりゅ?﹂
﹁はいはい。アイリ聞いてるよ。それで、どうしたって?﹂
﹁もー、まらてきろーなころ言ってりゅでしょ! しんきゅんわー、
アイリのー、あいしゅるひろでー、・・・ねー、しんきゅんちゅー
して﹂
﹁ほいよ。チュ。ホラ満足した?﹂
﹁えへへへー、でも、たんにゃい。こっちにチューして﹂
俺の顔面に爆乳を押し付けてきた。柔らかなタオル地のガウンにさ
らにもっと柔らかいアイリのおっぱいが俺の顔面に引っ付いてる。
途中からアイリはガウンを広げたので、いまや完全に俺の顔面はア
イリのおっぱいに包まれている。
これが桃源郷の世界の感触なんだろう︵デマ︶。
﹁こりゃー、アイリ! しんちゃんはみんにゃのなのだ! だから、
ミーにょおっぴゃいもちゅーしてー﹂
﹁わらりはぁー、しんしゃまとにょー、エッチもぉ、だいしゅきな
んれしゅ。しんしゃまにょー、オチンチンがだいしゅきにゃんれし
732
ゅ﹂
俺の後頭部にもミーのガウンの襟を広げた爆乳が押し付けられて、
おれの頭と顔はアイリとミーの爆乳に埋まる。
桃源郷ってホントに素晴らしい・・・最高ですね。
股間にはクラリーナが引っ付いてきて俺のガウンをまくって、勃起
したチンコを舐めてきた。
風呂から出てパンツなんてはいてないからな。
クラリーナが俺のチンコの半剥けをムキッと向いてからレロレロチ
ュパチュパ音をたてて舐める。
俺もアイリとミーの堅くなった大きめの乳首をチュパチュパ吸って、
時々歯を立てて噛んだりしている。
﹁ほらー、しんきゅん、もっと。ミーにょといっしょにー、かんで
ぇ﹂
﹁アイリぃー、いいよ。きもちいぃー。しんちゃんがぁ、噛んでり
ゅのがいい﹂
﹁しんしゃまー、気持ちがいいんれしゅね。びきゅんびきゅんして
ましゅ。おいしいきゃら、もっとなめましゅね。ジュボジュボしま
しゅ。しんしゃまにー、よろこんでぇー、ほしいきゃらりゃ、タマ
タマもマッシャージしましゅ﹂
前後にアイリとミーだったが2人が俺の左右にポジションを変えて、
俺の口に乳首を押し付けてくるので俺は遠慮なく美味しくいただく。
チンコを舐めていたクラリーナも俺のチンコの反応がよかったので、
クラリーナも遠慮なく俺のチンコを咥えてフェラチオし始めて上下
に動かす。
クラリーナは動きながら両手で俺の金タマをマッサージしてくるの
で、絶妙な力加減がたまらん。
733
アイリもミーもクラリーナもしゃべってる事が幼児化しすぎで半分
ぐらいしか理解できないんだけど、やってる行為は肉食獣で女豹だ。
攻めて攻めて攻めまくってくる。
﹁あぁ∼、クラリーナ気持ちいいよ。出そうになってきた、あああ、
いくぞ!﹂
クラリーナの頭を掴んで喉の奥に俺のチンコを押し込み最奥で精液
を出す。
ビュービュー出てるけど、クラリーナの頭は離さない。
たとえ俺が手を離しても俺のフトモモに抱きついてるクラリーナは
離れないけど、俺が頭を持って押し込んでるほうがクラリーナは喜
ぶからな。
俺の精液が放出し終わったんで、ゴキュゴキュ飲んでたクラリーナ
も自分から離れた。
﹁いいにゃー、わらしも、しんきゅんに、あたみゃをつきゃみゃれ
てぇ、みゅりやりにょましゃれたい﹂
﹁アイリも喉の奥に精液が欲しいのか? じゃあ咥えて!﹂
﹁ん! やった! あーーーん﹂
﹁あー、アイリ、いいにゃあー﹂
﹁分かったよ。アイリの次はミーな?﹂
﹁やった﹂
俺は寝室のソファーに座ったままアイリに咥えさせると、リクエス
トどおりにアイリの頭を両手で掴んで強引に上下させる。
何十回か上下させて、最後はチンコの根元まで突きこんだまま喉の
奥に放出させる。
734
ミーにも全く同じ事をしてあげた。
3人とも凄いのが涎は垂らしても俺の精液は1滴たりとも零さずに
すべて飲み込んでいる。
ベッドに3人が並んでそれぞれがおれのチンコを欲しがってるので
見ていると、ミーもアイリもクラリーナも正常位のような体勢・・・
仰向けに寝て膝を自分の胸にまで引き上げ自分ののヴァギナを、自
ら両手でくぱぁと広げている。
流れでる愛液が寝室の魔石ライトに照らされてキラキラと光ってる。
アンダーヘアーがほとんど生えていない3人は奥まで見えそうだ。
﹁しんちゃんー、ねぇちょうらい。ミーのまんこぎゃ、ほしぎゃっ
てりゅにょー﹂
﹁しんしゃまにょー、オチンチンぎゃ、ほしいんれしゅ﹂
﹁しんきゅんの、ちょうらい。ねぇ、ちょうりゃい﹂
美し過ぎる嫁のリクエストなんで全員に何度でも放出した。
みんな最後は失神してしまったので、3点セット魔法で浄化してか
らガウンを着せてベッドに横にさせる。
俺も寝室のソファーまで全部魔法で浄化してからガウンを着て寝る
事にした。
酔っ払って幼児化する嫁は何が言いたいのか、探るのが難しいが・・
・可愛いから良い。
翌日の転生18日目の朝は、うす雲が広がってて朝から少し風が強
かった。
俺は起きてから顔を洗っていつのも朝を過ごす。
今日はガウリスク達に念輪で確認をとっておかないとな。
735
﹁ガウリスク、ニャックス、アキューブ聞こえてる?﹂
﹁ニャックスです。おはようございます。聞こえてます。ボスから
念輪があったということは、今日は白虎様が来られるんですか?﹂
﹁あぁ、かなり待たせたけど今日は、るびのと俺の嫁を3人連れて
挨拶に行くよ。嫁に話をしたら自分達も話がしたいって言ってたん
で、ついでに連れて行くからよろしく頼む﹂
﹁アキューブです。おはようございます。どんな順番で回られます
か?﹂
﹁ガウリスクです。おはようございます。私も順番が知りたいです
ね﹂
﹁順番は・・・まずはガウリスクだな。その後でニャックスのとこ
ろの巣に行くよ。アキューブは巣の場所を知らないから、待ち合わ
せをしないとな。この前教えてもらった盗賊の住処だった所でもい
いか?﹂
﹁ハイ、あそこからだと自分の足で走って1時間ぐらいかかります
けど、それでもよろしいですか?﹂
﹁アキューブって足がメチャクチャ遅いもんな。クックック、短足
だしな﹂
﹁うるさいなガウリスク。グリーンウルフと一緒にするな!﹂
﹁お前ら朝からうるさいな! ボスの前でケンカすんなって!﹂
﹁まぁ、時間は俺が何とかするよ。空飛んだほうが早いし﹂
﹁分かりました。それでは今から待ち合わせ場所に向かいます﹂
﹁あんまり慌てなくてもいいぞ。待ち合わせ場所は臭いから、離れ
たところで待っててくれていいよ﹂
﹁ありがとうございます。助かります﹂
﹁じゃ、そういうことでよろしく﹂
装備が終わった嫁達を連れてるびのの外部屋に行く。
俺・アイリ・ミー・クラリーナ・るびの・セバスチャン・マリアと
736
全員そろったところでグリーンウルフダンジョンの元早乙女邸に転
移する。
ガウリスクの部屋に皆で行って全員に挨拶をさせた。
るびのが昨日狩ったオークをお土産として30体も渡してた。
﹁お久しぶりです。﹃早乙女るびの﹄です。今日はみなさんにお土
産を持ってきました。昨日狩りをしたオーク30体です。皆さんで
食べてください﹂
﹁るびの様、ありがとうございます﹂
﹁では次は私ですね。初めまして﹃早乙女アイリ﹄です。アイリっ
て呼んでくださいね。早乙女家の妻です﹂
﹁じゃあ、私の番ね。皆さん初めまして﹃早乙女ミネルバ﹄です。
ミーって呼んでね。私も早乙女家に嫁いできたの。皆さんよろしく
ね﹂
﹁最後は私ですね。初めまして﹃早乙女クラリーナ﹄です。クラリ
ーナとお呼びください。私も早乙女様に妻とさせていただきました。
よろしくお願いします﹂
﹁皆様、丁寧な挨拶ありがとうございます。私は早乙女様に子分に
させていただいた﹃ガウリスク﹄です。これからもよろしくお願い
します﹂
全長5mほどの大きさで、ひときわ大きなグリーンウルフのガウリ
スクが4つ足で立ち上がって挨拶すると流石の威圧感があるな。顔
の大きさだけで直径1mのバランスボールより大きいし。
若いグリーンウルフがるびのの持参した解体されたオーク30頭分
を倉庫に仕舞いに行った。
ガウリスクも言ってたが肉を熟成させる為に、このダンジョンで一
番寒い部屋が倉庫になってるらしい。
10日ほど置いた方が美味しくなるみたいだな。
737
嫁達は子供のグリーンウルフに抱きついてた。
グリーンウルフの子供は緑色のモコモコでモフモフだからな。
モフモフは正義だ。
ガウリスク達に別れを告げて、それからニャックスの巣の近くに転
移した。
ニャックスの巣の近くにたくさんの炎虎たちが集まっていた。
るびのと俺たちが見たかったのだろう・・・全部で100頭以上の
炎虎が集まってる。
るびのはここでも、お土産でオークを30頭ほどを渡してた。
もしかして昨日たくさんオークを狩ったのはお土産の為なのかな?
親父に似ないで出来た息子だ。
嫁達は炎虎に乗せてもらって岩場を飛び回ってうれしそうだった。
炎虎とも別れて最後の待ち合わせ場所に転移する。
盗賊﹃草原の暴風﹄の生き残り達が住処にしていたブーメラン型の
形をした温泉だ。
近くの気配を探るとアキューブが、ちょうどやって来たところだっ
た。
全員を魔法で浮かせて飛翔魔法でアキューブの巣まで向かう。
ここにもアキューブの巣の洞窟の中には入りきらないほどの銀大熊
が集まってきていた。
全員に挨拶をしてもらって話をした。
アキューブの洞窟をMAPに入力しておく。
全員が始めて来た所なので興味津々で色々と見て回る。
るびのがここで自由時間にしたいと言ってるのでアキューブとセバ
スチャンに全部を任せる。
大陸王亀という全長7mぐらいの巨大な陸亀が美味しいとアキュー
738
ブに言われて、るびのは食べたくなったようだった。
俺はアキューブの巣をるびのとセバスチャンと2人を夕方に迎えに
来る待ち合わせ場所にしておく。
嫁達女性陣を連れてアゼット迷宮の近くの場所に転移。
嫁達にもここで夕方に待ち合わせをすることにする。
俺は冒険者ギルドの裏庭の木陰で人目につかない場所に転移して裏
口から出てギルドの正面から中に入っていく。
中に入って受付に素材の買取で盗賊の死体を売る。
今回は全くって言っていいほど傷付いてなかったので、1人分で5
0万Gで引き取ってもらった。
俺が破壊したのは延髄だけだしな。
それに人間の血も今回は新鮮で使えるので、素材として売れるらし
い。
女の死体だったらオークションの方が高く売れると素材買取の人は
言ってた。
106人で5300万G。これはギルドカードの方のチーム資産に
入れておく。
素材買取は終わったのでギルドマスターに話がしたいと聞いてみた
ら、ちょうどギルド幹部のケンジが呼びに来たところだった。
そのままケンジに連れられてギルドマスター室に入る
﹁早乙女君、君には迷惑をかけてばかりで本当に申し訳ないな﹂
﹁大丈夫ですよ。ラザニードさんの管轄でもないんですから・・・
ギルドとの問題は既に慣れてきつつあるのが怖いですね﹂
﹁また君のおかげで我が冒険者ギルドは健全な組織になるよ。あり
がとうな。それで昨日の報告が聞きたいだろうと思って呼んだんだ﹂
﹁俺も気になっていたので、素材の買取の後に話をしたところにケ
ンジさんが呼びに来たのでちょうど良かったです﹂
739
﹁昨日逮捕した﹃ノラギス・サザール﹄なんだが、我々の尋問に全
部正直に答えておるみたいだな。真偽官も必要なさそうだ﹂
﹁アレだけ脅迫しておきましたからね。俺の機嫌を損ねたくないん
でしょうね﹂
﹁それはあるだろうな。エルフが精霊と契約できないなら森に住め
なくなる。エルフが精霊を怒らすって事は一族の全滅を意味するっ
て聞いた事があるぐらい重い事なんだろう﹂
﹁ですね。また調子に乗ってきたら﹃早乙女に言って精霊との契約
を切ってもらおうか?﹄って脅してもいいですよ﹂
﹁そんな事言ったらまたクソ漏らすからやめた方がいいな﹂
﹁あっはっはっ・・・確かに。それでノラギスは誰に俺の情報を売
っていたんですか?﹂
﹁流石に想像はついてたみたいだな。﹃天上天下商会﹄だったよ。
今日は朝から首都シーパラにある本店とヨークルとシグチスにある
支部に強制捜査が入ったよ。天上天下商会って早乙女君は知ってる
か?﹂
﹁初めて聞きます。天上天下商会のヨークル支部の場所は分かりま
すか?﹂
﹁ヨークルにはまだ、天上天下商会は進出してきたばかりなんで支
部といっても倉庫しか持ってない。場所は君の自宅と駅馬車の倉庫
街駅の中間ぐらいって聞いてるが・・・君って倉庫街に自宅がある
んだな﹂
今聞いた場所は俺を監視していたヤツラの場所と違ってる。
あと4つってのは変わらないのか・・・残念だな。
﹁えぇ、まぁ。周りに農作業の人と倉庫の番人ぐらいしか人がいな
いんで街中よりは安心安全ですよ。俺の自宅を覗こうとしてくる人
間は逆にメチャクチャ目立ちますから﹂
740
﹁確かに・・・人がいない分、わかりやすいといえるから安全だな。
それに周囲には監視をするために隠れる場所もなさそうだ﹂
﹁それが目的であそこの邸宅を買ったんですから。それで・・・ノ
ラギスと天上天下商会の関係は? 何で商会にまで一斉捜査が出来
たんですか?﹂
﹁まずは順を追って説明するよ。その方が分かりやすいからな・・・
ノラギスは我々が冒険者ギルドで革命を起こす前は100年以上も
の間、シグチスで冒険者ギルドのギルドマスターをしていた。シグ
チスで自分の子供に作らせたのが﹃天上天下商会﹄だ。息子に商会
を作らせたって言っても、実際のオーナーはノラギス本人だ。名義
だけは息子になってるが﹂
﹁シグチスで素材買い取り価格の何%かちょろまかしたり素材の横
流しをしていたり・・・自分の欲望のために好き勝手にしていたん
だ。それで本来なら革命後に死刑だったんだが情報を上手く操作さ
れて、関係者も何人か消されてな。証拠不十分だ。アイツは精霊ウ
ンディーネ様の加護で真偽官の魔眼も効果ないから・・・ギルドマ
スターをクビにするのが限界だったよ。本部預かりで大人しくして
ると思ったんだが、まさか息子の商会を使って脱税やら犯罪組織を
操ってるやらをしてるのが昨日発覚してな、今日の早朝に一斉捜査
で関係者全員を捕らえる事が出来た﹂
﹁脱税って出来るんですか? カードでできないんじゃないの?﹂
﹁それをアイツらはお互いがお互いに借金まみれって事にしてあっ
て、迷賊なんかも使ってやっていたみたいだな。君の討伐した迷賊
だよ。いままで君の討伐した迷賊が奴隷を売っていた先も判明でき
てなかったがこれで一気に片付きそうだ﹂
﹁あの迷族ってノラギスの関係者なんですか?﹂
﹁君のゴーレムに興味を持ってギルドの情報を探っていたら、君が
自分の子分たちを処分したので怒りもあって監視に歯止めがかけら
741
れなくなってたらしい﹂
﹁バカが・・・ホントに調子に乗ってたんだな﹂
﹁今回は脱税と犯罪者集団が冒険者ギルドの情報を使って犯罪を重
ねていたということで、相当厳しい処分が下されると予想されてい
る。我が冒険者ギルド本部にもシーパラ連合国の最高評議会からの
査察が入って今日は本部は大騒ぎになってるよ。情報の取り扱いを
自分達で厳しく定めて管理してるわりに、内部の人間には杜撰だっ
た事が判明したからな。冒険者ギルド本部ギルドマスターの青木勘
十郎は責任を取って辞める事が決定している。日程は後継者が決ま
り次第ってところだな﹂
﹁青木さんが責任を取るんですか・・・﹂
﹁青木さんはちょっとうれしそうだったけどな。あの人って本当は
この国唯一のSSランクの冒険者なんだよ。本部でギルドマスター
をしていたのも、あの人のカリスマで革命が成功したからなんだ。
早く辞めたいっていつもボヤいていたから・・・ちょうどいい辞め
時だって内心は喜んでると思う﹂
﹁青木さんって﹃侍﹄ですか?﹂
﹁﹃武士﹄だよ。だからメインの武器はカタナではなくて﹃長弓﹄
を使用してるよ。サブが﹃薙刀﹄っていう女性のようなスタイルに
なってる﹂
﹁それは相当に変わってますね﹂
﹁青木さんの母上が薙刀と長弓の道場の主でね。いまだ道場の相談
役として健在だよ。道場の主は青木さんのお姉さんが引き継いだ﹂
﹁そういうことなんですね。確かに薙刀の道場では男は継がない方
がいいですし﹂
﹁実際に薙刀は青木さんよりもお姉さんの方が強いって青木さん本
人がいってるけどな。弓なら勝てるって事もいってる﹂
﹁青木さんが武士って事は現役時代は﹃武士団﹄を率いていたので
すか?﹂
742
﹁青木さんの本領発揮は拠点防衛戦で・・・長弓を使った暗殺によ
る急襲戦の専門家だな。正面から攻め込むよりも搦め手からの弓を
使った狙撃なんだ﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁15年ほど前にヨークルの南部でオークキングのさらに上の﹃オ
ークエンペラー﹄が誕生して1万のオークを率いてこの都市ヨーク
ルに攻め込んできた事があった・・・青木さんは自分の率いるチー
ム﹃青木長弓突破部隊﹄5人全員を使って深夜にオークの本拠に攻
め入って誰一人欠けることなくオークエンペラーを討ち取って6人
で帰ってきたんだ。その後は頭をとられたオークの群れは半分は討
ち取られて半分は逃げ帰っていったよ﹂
﹁・・・﹂
﹁その報酬で青木さんは当時Aランクの冒険者だったんだけどSラ
ンクに昇進したんだ。チームも全員Sランクに昇進した。その後は
﹃冒険者ギルドの革命をしてください﹄って太陽神アマテラス様の
御神託を受けて革命を起こして成功させた事でSSランクに昇進し
たんだよ﹂
﹁それなら根っからの冒険者って言うのも納得ですね。また昔の仲
間を集めるんですかね?﹂
﹁それは出来ないんだ。当時の青木さんのチーム﹃青木長弓突破部
隊﹄の人間うち4人はアゼット迷宮の105階で4人とも帰らぬ人
となってるよ﹂
﹁あぁ、なるほど。アゼット迷宮の最深部到達者って青木さんのチ
ームの人だったんですか・・・それは残念ですね﹂
﹁1人は生きていたんだけどね。4人が亡くなった半年後に心労で
倒れてそのまま亡くなってしまったよ・・・何か大幅に話が逸れて
しまったな﹂
﹁いえ、面白くて貴重な話が聞けて楽しめました。ありがとうござ
います。・・・ノラギスの問題は簡単に言うと、もはや冒険者ギル
743
ドの中だけの問題じゃなくなって国が関わってきてる。だからこの
先は不明だって事でいいですね?﹂
﹁間違いない・・・君が今言った事そのままだ。今の時点で言える
のはそれぐらいだな。この後は我々ギルドの人間も裁く側でなく、
裁かれる側になるから情報は入ってこないと思う﹂
﹁分かりました。ありがとうございます。それでは俺はそろそろ失
礼します﹂
そういってギルドマスター室を出て行く。
もう冒険者ギルドには用はないので外に出て、予定通りおやっさん
の店に向かう。
744
俺とミーの鎧を新調した。ベースはワイバーンの皮でサイラスの
甲殻で作ったっす。おやっさんが。︵前書き︶
1・25修正しました。
745
俺とミーの鎧を新調した。ベースはワイバーンの皮でサイラスの
甲殻で作ったっす。おやっさんが。
冒険者ギルドからおやっさんの家に向かってる道で、以前購入した
うなぎ屋と違う店を発見したので、また容器を渡して10人前を持
ち帰りでいただく。
ここもウナギの蒲焼のタレが販売されていたので5本ほど購入した。
カランコロンとカウベルのようなベルをならして店内に入ると、今
日は受付におやっさんが座っていたのでビックリしてたずねる。
﹁お久しぶりです、おやっさん。おかみさんは?﹂
﹁あぁ、ピニリーは以前言っていた査察だ。抜き打ち検査で今日は
教会に行ってるよ。今回は教会の内部の事務方の方の抜き打ち検査
でな、ピニリーは朝から張り切っていたよ。﹃アマテラス様を汚す
事を内部の人間がしくさりやがって﹄って以前からかなり興奮して
いたからな﹂
﹁確かに教会内部の人間がアマテラス様に泥を塗る行為だったから
な・・・おかみさんみたいに怒っている人もたくさんいそうだな﹂
﹁間違いなくいつもの査察レベルじゃないってぐらいの人数になっ
たらしいな。総勢50名ほどで総ざらいしてくるって昨日から張り
切ってた・・・それで今日は何の用だ? 俺はこれから昼にでもし
ようと思ってるんだ﹂
﹁オーク肉が大量に手に入ったから、おやっさんさえ良ければ俺が
とんこつラーメンとチャーハンのセットでも作ってやろうか?﹂
﹁おおお、転生者の正当なラーメンが食えるのか? ぜひとも頼む
よ。出来ればもうすぐ昼休憩で戻ってくるピニリーの分もお願いで
きるか?﹂
﹁お安い御用だよ﹂
746
俺はアイテムボックスから必要な食材を取り出してササッと作って
渡した。
おかみさんの分はおやっさんが自分のアイテムボックスに仕舞って
る。
チャーシューも2本丸ごと渡しておく。
これがあればつまみにもいけるからな。
無言で食べつくして今は食後の緑茶を飲んでる。
﹁流石だな・・・これが本場を知ってる人間の作ったとんこつラー
メンか。ピニリーも大喜びするよ﹂
﹁俺からすれば﹃ちょっと足りない﹄だ・・・紅生姜がないんだよ
な。まだこの世界に来て生姜はあっても﹃シソの葉﹄を発見できて
ない。シソの葉がないから梅もあるのに﹃梅干﹄すら出来ないし、
梅酢がないから紅生姜が作れない。紅生姜のないとんこつラーメン
もチャーハンも、俺に言わせると﹃ちょっと足りない﹄になってし
まう﹂
﹁梅干? それなら首都シーパラで以前見た記憶があるぞ?﹂
﹁なんだって?﹂
﹁あぁ、早乙女が言ってるシソって言う葉っぱは紫色のヤツだよな
?﹂
﹁そう、それだよ。シソの葉﹂
﹁首都シーパラはシーパラ半島の付け根にある都市だ。そのシーパ
ラ半島の反対側の外洋側の付け根にあるのが都市﹃ドルガーブ﹄だ
な。ここは外国の玄関口の都市として発展している。そこのドルガ
ーブの周辺でシソは栽培されているから、ドルガーブには﹃梅干﹄
が名産品として生産されている。このヨークルにはなかなか入って
こないけど、首都シーパラに行けば普通に売ってるよ﹂
﹁マジで! よっしゃ!! 夢が広がるな﹂
﹁早乙女はホントに食に貪欲だな。それで今日の用はなんだったん
747
だ? まさか俺とラーメンを食べに来たわけじゃないだろう﹂
﹁ラーメンはついでだよ。今日は珍しい素材が手に入ったんでおや
っさんに渡しにきたんだ﹂
﹁珍しい? それなら奥の工房に行こう﹂
おやっさんがそう言ったらちょうどおかみさんが休憩しに帰って来
たので、昼食で俺の手作りのとんこつラーメンとチャーハンを食べ
始めた。
俺とおやっさんは奥の工房で素材を見る。
﹁まずはワイバーンだな。これは頭部だけの損傷で済んでるので素
材としては極上の部類だろう。少し標準より小さいからまだ若いワ
イバーンだな﹂
1体のワイバーンを工房に広げた。
おやっさんは久しぶりに見たと大興奮だった。
ワイバーンをアイテムボックスにとりあえず戻す。
・・・デカくて邪魔だからな。
次に出すのもデカイし。
﹁次はサイラスの全身の皮と角のセットだ。これはダンジョンのド
ロップ品だな﹂
﹁全身だと!﹂
俺が工房いっぱいにサイラスの全身皮の角付きを広げる。
おやっさんの大声に、早くも食べ終わったおかみさんまでが工房に
やってきて大声をだす。
﹁凄いねこれ。全身ってここまでの大きさは初めてかもしれないね﹂
﹁ああ、そうだなピニリー。間違いないよ。俺もこのサイズのサイ
748
ラスの全身皮を見たのは初めてだ﹂
﹁それで、俺もせっかく貴重な物を取れたんだから、おやっさんに
この2つで俺専用の鎧を新調しようと思ったんだ﹂
﹁俺が作っていいのか? ・・・ありがてぇな。早乙女はどんな感
じに仕上げたい? リクエストはあるか?﹂
﹁今俺が着てる甲殻鎧の進化版でお願いしたいな。甲殻の部分をサ
イラスの甲殻で。ベースの皮の部分はワイバーンの皮と羽の皮膜で。
繋ぎ部分は森林モンキーの尻尾ってのはどうかな?﹂
﹁ああ、基本シルエットは同じなんだからすぐに出来るぞ。で、ま
た悪いけど作る料金は余った部分が欲しい﹂
﹁サイラスは補修用に半分は取っておきたいから残りの半分でいい
か? それじゃあ、追加でワイバーンをもう1体出すよ﹂
﹁サイラスは構わないけど、ワイバーンをもう1体? 早乙女、何
頭捕獲したんだ?﹂
﹁俺が捕獲をしたのはは3体だな。だから俺の手元に1頭分あれば
いいから2頭はおやっさん達に渡すよ。おかみさんと自由に防具を
作ってくれ﹂
﹁ありがたいねぇ。でもそれじゃあ、私達がもらいすぎだから、私
が今みんなの分のブーツをワイバーンの皮で作ってあげるよ。サイ
ズの微調整は早乙女君がしてね﹂
﹁それは構わないけど・・・おかみさん時間は大丈夫なの?﹂
﹁ブーツを4つ作るだけだからすぐだよ﹂
おかみさんがあっという間に4足作ってくれた。
おかみさんはうれしそうな顔をしながら出かけて行った。
﹁じゃあ、俺もサッサと作ろう、流石に食事中って長時間店を閉め
ておくわけにはいかないからな﹂
とおやっさんは言ってたが・・・そこから俺の新型サイラスの甲殻
749
鎧を作ってから仕上げるまでには、1時間も時間をかけてた。
最終チェックはまた裏庭で動きを確かめつつ仕上げる。
今までのサソリオオクモの甲殻鎧はくすんだ緋色だったが、今度は
サイラスの甲殻鎧になったのでくすんだ白色でグレーのちょっと手
前って感じで白色でも派手ではない。
このちょっと地味な感じが俺の中二病をくすぐってくる。
サイラスの甲殻鎧でベースがワイバーンの皮になったから防御力は
サソリオオクモの甲殻より3倍ぐらいに跳ね上がる。
元の防御力に違いがありすぎるからな。
アイリが装備しているオーガナイト鋼のフルプレートアーマーに匹
敵しそうなレベルだ。
あっちはオリハルコンコーティングをしてあるのでさすがに負ける
が。
おやっさんがミーの分のサイラス甲殻鎧も作ってくれた。
サービスだそうだ。
微調整は俺の仕事だけど。
出来に満足したおやっさんと、見た目の地味さに満足した俺はそれ
で用事が済んだと店からアゼット迷宮に転移する。
アゼット迷宮内に入り嫁達の気配を探りながら念輪で話しかける。
﹁みんな、今ちょっといいかな? アゼット迷宮に到着したよ。お
やっさんにミーの分のサイラスの甲殻鎧を作ってもらったんで届け
に来た。みんなどこにいる?﹂
﹁・・・私の鎧だって? ホントに? やったね!! 今はまた地
下6階でミルクさん狩りに戻ってきたところだよ﹂
﹁わかった・・・発見できたよ。今すぐ転移する﹂
そのままみんなのいるところに転移した。
750
地下6階の休憩室に入って、ミーのサイラスの甲殻鎧を装備しても
らう。
ミーに本気で動いてもらってから微調整を済ませる。
ほとんど手直しが要らないってのがおやっさんの腕だな。
おかみさんが作ってくれたブーツも皆に渡す。
アイリだけはフルプレートアーマーを装備中なので帰ってから仕上
げる事にして・・・クラリーナとミーはその場で装備するので、そ
のまま仕上げた。
おかみさんお腕もさすがだな・・・微調整もいらないぐらいだ。
今日はクラリーナの対集団戦の訓練代わりで地下7階の﹃リザード
ドッグ﹄と地下8階の﹃キラービー﹄を今まで相手にしていたそう
だ。
リザードドッグは全身を鱗に覆われた犬で体長は1mほど。
刃物の抵抗力が強いそうだ。
キラービーは体長50cmほどの巨大な蜂で、体表の甲殻はサソリ
オオクモ並に堅く、物理攻撃のみでは戦い辛い相手のようだ。
どちらも10体以上の集団で立体的な連続攻撃を組織だった攻撃を
仕掛けて来るから、クラリーナの魔法攻撃の練習相手にちょうど良
かったみたいだな。
まだ待ち合わせまで時間は残ってるので、時間的におやつのイチゴ
クレープを作って渡してあげて、俺はそのままアキューブの巣に転
移した。
大草原の北側を俺も探索しようと思ったし、見たことない大陸王亀
を狩ってみたかった。
まずは周辺探査の魔法で気配を探る。
751
いた! デカくて見たこともない反応があった。
そのまま飛翔魔法で飛び上がって、自分の気配を消して反応があっ
た方向へ飛んで行く。
近づくとあまりの大きさに驚く。
シルバードよりデカイ。
サイラス希少魔獣ぐらいの大きさで横幅は倍以上ある。
魔法が効きにくそうなので天乃村正で大陸王亀の脳天らしき場所に
突き入れる。
俺のもらった知識にもいなかった魔獣なので、弱点も何も分からな
いからな。
天乃村正なら魔法抵抗が強そうな敵にも切れ味が一切鈍ることなく
突き刺さるから便利だ。
一撃で仕留める事が出来た。
これでとりあえずの目的は終わったな。これからは俺も遊ぶ時間だ。
ここなら誰にも見られずに遊べるからな。
俺にストーキングで追う事も不可能だし遠見の魔法は俺の封印魔法
で完全に見えなくなってる。
今日は転移しまくって移動してるので全く追えてきてない。
ミノムシも今朝にはヨークル警備隊に引き渡されていたとユーロン
ドたちからの報告があった。
久しぶりの自由な遊び時間は大草原をホバーボードで飛び回る・・・
だな。
護衛依頼中はそんなに遊べなかったし、今日はハメを外して遊ぶ事
にする。
腰に装備したカタナをアイテムボックスに入れて、今まで履いてい
たおニューのブーツも脱いでアイテムボックスに入れる。
替わりにホバーボード専用のブーツを取り出して装備する。
752
そのままホバーボードに乗ってジョイント部分を固定してから動き
出す。
最初は久しぶりだったのでゆっくりとホバーボードを動かす。
世界規格外スペックはすぐに勘を取り戻して、自由自在に動き出し
た。
時間を忘れて遊びまわるために俺の脳内のタイマーを待ち合わせ時
間の10分前にセットして・・・ハメを外した。
時速100km以上のスピードを出して最高速の確認。
地上では時速130kmぐらいなら何とかなりそうだな。
水上だと時速100kmにいくかいかないかってぐらいだったしな。
今日もアドレナリンがドバドバで気分爽快だ。
﹁いぃーーーヤッッホーー! だーーーッハッハッハ!﹂
﹁すっげぇ!! アーッハッハッハ﹂
楽しくて完全に頭がおかしい人になってる。
笑いも止まらないし。
時間が来て電気音のタイマーがピーピー鳴るまで、完全にトリップ
状態だった。
753
今後の事で家族会議っす。︵前書き︶
1・27修正しました。
754
今後の事で家族会議っす。
我を忘れてしまったな。
だけどメチャクチャ楽しかった。
俺もストレスが溜まっていたんだろう。
ギルドやどこかの商会やらが覗いてくるし・・・ストーキングして
くるし。
このイーデスハリスの世界に来て18日目。
俺が守りたいものが増えてきてる。
﹃アイリ﹄﹃ミー﹄﹃クラリーナ﹄﹃るびの﹄4人もいる。
るびのは持ってる力を考えると・・・今後は守る側ではなく暴走し
ないように、るびのを制御する側の立場になりそうだ。
俺が暴走についていえる立場じゃないってのは理解してる。
俺もアイリたちと結婚しないでそのままきてたら、今頃は・・・意
味のない事を考えてもしょうがないな。
まずは嫁達を迎えに行く。
アゼット迷宮の近くの大森林内の空きスペース。
俺が転移して行くと嫁達は待っていたみたいだな。
地面にクッションを置いて座っていた。
俺がおやつの休憩で出したテーブルの上に皆が飲んでるドリンクが
乗ってる。
﹁お待たせって・・・早いね﹂
﹁うん、今日は早めに切り上げてきたよ。目的は達成してるし、こ
こでしんちゃんを待たせてもしょうがないしね﹂
755
﹁私も久しぶりに暴れまわって楽しかったわね。最初にダンジョン
にに行きたいって言ってたクラリーナはどうだった?﹂
﹁はい、私も魔法を使って攻撃をいっぱいしたのでスカッとしまし
た﹂
﹁じゃあそろそろ行きますか。そのテーブルはクラリーナにあげる
からが持ってて﹂
皆は飲んでいたドリンクをマグカップごとアイテムボックスの中に
入れて片付けた。
クラリーナはテーブルも入れておく。
嫁3人とマリアを連れてアキューブの巣へ転移する。
アキューブの巣にはるびのもセバスチャンも戻ってきていて、銀大
熊たちと話をしていた。
アキューブたちに別れを告げて自宅に転移して戻ってくる。
自宅のるびのの外部屋に転移で戻るとるびのに話しかける。
﹁るびのは今日は大草原の北側で狩りをしたけど、明日はどこか行
きたいところはあるか?﹂
﹁どこでもいいなら炎虎さんたちが住んでる岩場に行きたい。あそ
この大鹿魔獣は大きくなると体長5m以上になって岩場を凄いジャ
ンプ力で逃げちゃうんだって。それに時々大きな角で反撃してくる
から危ないってニャックスさんに聞いた。とうちゃん、それを聞い
たら一度は狩ってみたい!﹂
﹁よし、いいぞ。ニャックスのところだな、わかった。るびのは明
日、大草原の岩場で狩りがしたい・・・じゃあ、明日の朝に岩場に
送ってやるよ﹂
﹁やったね! それじゃあ、晩ご飯にする﹂
そういってるびのは自分のアイテムボックスからオーク肉を取り出
756
して骨ごとバリバリ食べ始める。
るびのの世話はセバスチャンに任せて、俺たちはるびのの外部屋か
ら居間に続く扉を開けて邸内に入る。
俺たちも晩ご飯にしよう。
今日の準備はマリアに任せて俺たちはそのまま居間で話し続ける。
﹁るびのの明日の予定を、しん様は聞いてましたけど・・・しん様
自身は明日は何をなされるのですか?﹂
﹁俺は明日は一日中大森林にいる予定・・・木材を本格的に採取し
てこようと考えてるんだ。そろそろ自分のアイテムボックスの中に
たくさんの種類の木材を入れておきたいし。それに今後の旅の事を
考えると、そろそろ船も作っておきたいからな。大森林のヨークル
川で船の実験をして・・・それだと半日はかかっちゃうから。皆は
どうする?﹂
﹁しんちゃんが前に言ってた﹃もふもふ天国﹄ってどうするの?﹂
﹁アレはいつでも作れるよ。試しにいま作ってみますか﹂
そういってアイテムボックスから森林モンキーの毛皮と尻尾・オー
ガ鋼・ミスリル・魔石などを取り出してスキル魔法をかけハードの
部分を先に作る。
﹃ゴーレム製造﹄
モデルは生まれたばかりのころのるびのにした。
森林モンキーの毛皮をモフモフに仕上げて真っ白に色をかえる。
骨格部分はオーガ鋼でミスリルでコーティング。
森林モンキーの尻尾を筋肉部分に使い、魔力で筋肉も柔らかく仕上
げる。
魔石で簡単な会話の受け答えが出来るようにして、最後に移動禁止
の封印の準備だけしておく。
757
﹃ゴーレム起動﹄
スキル魔法でゴーレムを起動させる。
ゴーレムがポテポテと歩き出して、コロンと転がってそのままお座
りしてしまった。
﹁みなさん、こんばんわ。ボクのなまえは・・・なまえは・・・ま
だありません﹂
﹁そうだな名前をつけてなかったな・・・お前の名前は﹃おーとま﹄
だな。決定﹂
﹁ごしゅじんさま。なまえをありがとう。ボクのなまえはおーとま
です。よろしくおねがいします﹂
ペコリと頭を下げるとそのまま転がってしまう。
嫁達がキャーって叫んでから抱き上げて頬ずりしている。
﹁しん君、コレはヤバイわ。コレは盗まれる﹂
﹁大丈夫だって、俺以上の魔力がないと盗めないから・・・主神ゴ
ッデス様しか無理だな。ゴッデス様ならこれ以上のモノを作れるか
ら、こんなおもちゃはいらないだろうし﹂
﹁これが店内を徘徊するの? 数はどれぐらい?﹂
﹁店舗の大きさによるな。呼んでほしい名前を言えば、るびのみた
いに覚えてくれるぞ?﹂
皆が自分の名前と呼んでほしい呼び方をおーとまに教える。
﹁みんなのなまえ、おぼえたよ。アイリさん、ミーさん、クラリー
ナさん。こんばんわ﹂
758
嫁達のトロトロにとけた笑顔を見ながら、俺は同じように銀大熊・
炎虎・グリーンウルフの子供タイプゴーレムを作る。
名前はそれぞれ銀大熊は﹃クマ﹄・炎虎は﹃コー﹄・グリーンウル
フは﹃ウルフ﹄と単純明快な名前にした。
ゴーレムがポテポテ歩き回って転がって起き上がって・・・を繰り
返してる
﹁店員はどうするの? ゴーレムがどうこうっていってなかった?﹂
﹁それも今から作っちゃおう﹂
メイドタイプのゴーレムを3体作る。
料理と戦闘スキルと防御スキル、それに回復魔法もハイヒールぐら
いまでは使えるように魔結晶に封入しておいた。
見た目は森林モンキーを愛くるしくなるようにデフォルメさせた。
ゴーレムを起動させて、名前は・・・ゴーレムの色からそのままつ
ける。
白いのは﹃ホワイト﹄黄色いのが﹃イエロー﹄茶色いのは﹃ブラウ
ン﹄。
見た目どおりで簡単だからわかりやすいだろう。
魔結晶はサイラスの希少魔獣のヤツが3個あったのでそれを使用す
る。
﹁あ、大きな魔結晶を持ってるんだね。私達も今日のアゼット迷宮
でミノタウロスの亜種が5頭出てきて退治したから、しん君に渡し
ておくね﹂
そういってきれいな魔結晶を10個くれた。
大きさはそこそこだけどコレはオーガナイトロード並にキレイだな。
﹁ありがとう・・・これでゴーレム船が作れるよ。船だとどうして
759
もパワーが要るから、大きくなくてもいいからキレイで質のいい魔
結晶が10個ぐらい欲しかったんだ﹂
﹁今日の私達も実験だったんだ。クラリーナの対集団戦の訓練と、
しんちゃんがいないとレアドロップ率はどうなるのかっていう実験﹂
﹁おおぅ、結果はどうなった?﹂
﹁実験結果はしんちゃんがいなくてもレアドロップ率は高いままね。
ミノタウロスの亜種は通常ドロップ︵?︶の﹃練乳10kg﹄が4
つに、レア︵?︶なのかよくわからないけど﹃ミノタウロスの斧﹄
が出たのよ﹂
そういってミーがアイテムボックスから取り出して、居間のテーブ
ルの上に乗せたのは、1.5mほどの巨大な斧だった。
よく薪割りなんかで使いそうな斧の形なんだが、大きさが色々とお
かしい。
長さが1.5mぐらいで全部﹃鋼製﹄だ。持ち手も何もかも。
持ち手も直径10cmぐらいあるので掴みにくい。
鑑識を使って調べてみたが、何の変哲もない全鋼製でできた斧に名
前がついてるだけだった。
﹁悪いが・・・コレは資材だな﹂
﹁だよね、とりあえずコレはしん君に使ってもらおうかと思って持
って帰ってきた﹂
﹁ありがとう。これから使わせてもらうな﹂
﹁それで明日は午前中は皆で商業ギルドに行って﹃早乙女商会﹄の
立ち上げてこようよ?﹂
﹁ん? ミー、モフモフ喫茶の立ち上げか?﹂
﹁それもありますけど、しん様の仕事を全部冒険者ギルド経由にす
る必要はないんじゃないかって今日のアゼット迷宮探索中に皆で話
し合ったんですよ﹂
﹁クラリーナが今言ったように・・・確かにそうだな。今回の戦争
760
状態勃発でムカつく敵の商会の事を調べていくのは、商会を立ち上
げて商業ギルドで動いた方が情報も溜まりやすいだろうし﹂
﹁そうなのよね。だから明日は商会立ち上げで動いて、大森林での
採取はセバスチャンかマリアに任せようよ﹂
﹁その話は食後にしない? 私もおなかが空いてさぁ・・・﹂
そういえばまだ晩ご飯を食べてなかったな。
俺たちがダイニングテーブルにつくと、マリアが手早く料理を並べ
て行く。
今夜はウナギの白焼きとシルバードのローストビーフ・・・クマ肉
だからローストクマ?
761
もふもふ天国の話がまとまってきた。出店は近い。乞うご期待!
っす。︵前書き︶
1・31修正しました。
762
もふもふ天国の話がまとまってきた。出店は近い。乞うご期待!
っす。
そのローストクマは想像していた以上に美味かった。
みんなの食べ方が自分とあまりにも違うので大きな声を上げた。
﹁ウナギの白焼きをポン酢につけて食べるの?﹂
﹁ええ、どうしたのしん君。そんなに大きな声を出したりして﹂
それって美味しい?﹂
﹁ウナギの白焼きはワサビ醤油で食べるんじゃないの?﹂
﹁ワサビ醤油で食べちゃうの?
﹁おう、試しで食べてみて!﹂
俺はアイテムボックスから小皿を4つ取り出して、1つにワサビ大
盛りにして皆に渡す。
みんなは自分好みの量でワサビ醤油を作って、それにつけて食べ始
めた。
アイリが大絶賛している。
ウナギは白焼きにしてワサビ醤油
アイリはウナギの白焼きのワサビ醤油で食べるのが気に入ったみた
いだ。
﹁しん君これ凄く美味しいわ!
で食べた方が美味しい﹂
﹁私もウナギの蒲焼よりもこっちの方が美味しいと思う。どっちも
美味しいんだけど、どちらか1つっていうことになったら、私は断
然ウナギは白焼きでワサビ醤油にしちゃうな﹂
﹁私はウナギは蒲焼の方の味が好きですね。今までのポン酢よりは
ワサビ醤油のほうが美味しいですけど﹂
﹁ローストクマもワサビ醤油で食べると意外とサッパリした味わい
になって、これも美味しいよ。これは酒のつまみにもなるしな﹂
763
そんな事を教えたら、みんなも真似し始めた。コレはこれで美味し
いねと絶賛してる。
これにはミーの味覚がドンピシャだったみたいだ。
﹁コレはいい! 最高! しあわせー!﹂
って叫んで大絶賛してガツガツ食べ始めた。
俺からすればポン酢で食べてる方がビックリだった。
・・・ウナギの白焼きを伝えた転生者がポン酢で食べてたんだろう
か?。
地方によって食べ方が違うのかもしれんな。
﹁俺は丼もののように一気にかきこめるように丼ご飯の上にウナギ
の白焼きを乗せて醤油をかけて、真ん中にワサビの山を盛りつけ、
ワサビを少しずつ崩しながらガツガツ食べるのが大好きだな﹂
そういって実際に作って食べ始める。
アイリも真似して食べ始めた。
ミーはご飯の上にローストクマを乗せてワサビ醤油で食べはじめる。
俺もローストクマを乗せて食べてみたが、コレは美味いな。
味覚は人それぞれで体調によっても変わるし千差万別だ。
だけど食卓が・・・カオスになってきた。
クラリーナはマイペースにモグモグして食べてる。
ここにはテーブルマナーとかグチャグチャ言う人間はいないし、そ
もそもこの国には貴族も存在しない。
俺はもらった知識の中に完璧なテーブルマナーが入ってるし、経験
も数多く入ってるので完璧に使いこなすことが可能だが、今は必要
764
ないからどうでもいい。
腹いっぱいになって、リビングに戻る。
食後は今日は俺だけが酒で皆はハーブティーを飲んでいる。
今日は日本酒でつまみはソラマメの塩茹で。
話の続きをしないとな。
﹁それで話はどこまで進んでたっけ?﹂
﹁もうミーったら、明日の予定で商業ギルドで早乙女商会を立ち上
げようって話の続きね﹂
﹁俺たちの商業ギルドの知り合いって、ヨークル商業ギルドの不動
産部門の責任者﹃リーチェル・ハナザワ﹄さんしか知らないんだけ
ど・・・リーチェさんに商会立ち上げのプロを紹介してもらったほ
うがいいよな?﹂
﹁その方が安全そうですね。税金とかも相談に乗ってもらえるよう
な人がいいですね﹂
﹁クラリーナとしんちゃんの言うとおりよね。私達って冒険者だか
らねぇ。しんちゃんのほうが商売には詳しいんじゃない?﹂
﹁俺は働くことしかしてこなかったからなぁ。経営なんてサッパリ
だな。日本で働いた経験があるってだけだよ﹂
﹁私なんて働いた事もありませんし、外でお金を稼いだのはしん様
と結婚してからですので、何がなんだかサッパリわかりません﹂
﹁それじゃあ、明日は商業ギルドに行って﹃早乙女商会﹄を立ち上
げる事に決定だな。働くのは全部ゴーレムだから、商業ギルドで全
部登録しないとな。それで店の物件を購入するためにも1人500
0万Gぐらい、全部で2億Gほどを早乙女商会に入れればいいだろ
う﹂
﹁1人5000万Gもですか!﹂
﹁アイリ、そんなに大きな声をあげて驚かなくても、ゾリオン村で
765
冒険者ギルドカードから1人2億5000万G入金したから、それ
ぐらい余裕だろ?﹂
﹁そういえばそうでしたね・・・忘れてました。店作るのにそこま
でいらないと思いますけど﹂
﹁資産の分割だな。賃貸を借りるのではなくて店舗の土地ごと購入
しておきたいから・・・2億もあればしばらく赤字続きでも大丈夫
だろうし﹂
﹁資産はそれで決定ですね﹂
今のリビングの状態はモンキーメイドが3体が壁際に立っていて、
おーとま・クマ・コー・ウルフがポテポテ歩き回って転がって笑っ
てる。
時々るびのみたいに変な歌を歌ってるのもいる。
見てて微笑ましい光景だが、こっちも中々のカオスだな。
﹁店の形態も考えないとな。30分1ドリンク制で500G。メニ
ューはわかりやすく簡単にしよう。コーヒー・紅茶・緑茶・ハーブ
ティー・・・あと1日限定50杯で1杯1000Gでミックスジュ
ース﹂
﹁ミックスジュースってなんですか?﹂
俺はアイテムボックスから冷えたミックスジュースを取り出す。
﹁これだよ。冷凍したイチゴ・メロンをミルクにかき混ぜて飲む・・
・って、これは実際に飲んだほうがわかりやすいな。マリア、皆に
作ってあげて﹂
﹁了解です。・・・どうぞ奥様方﹂
マリアがグラスにミックスジュースを作って皆に配る。
766
﹁あぁ、相変わらずに美味い。マリアありがとう﹂
﹁お褒めいたたきありがとうございます。ご主人様﹂
﹁コレは凄くおいしいですね。でも限定なんですか?﹂
﹁とんこつラーメンの二の舞は避けた方がいい。あと需要と供給の
量を考えるとな・・・これいっぱいでミルクが200cc使ってい
る。ミルクさんのドロップアイテムのミルクは1樽5000ccだ、
このミックスジュースを25杯しか作れない。今はミルクがいっぱ
い余ってるからいいけど毎日出すって事を考えるとな・・・皆でコ
レのためにミルクさんばかり狩りたくないからな﹂
﹁ドリンクだけ? 何か食事は出したりするの?﹂
﹁クッキーぐらいかな。1ドリンクに2枚のハーブクッキーだな。
コレもマリア作ってあげて﹂
マリアが目の前で作ったハーブクッキーを皆で試食してる。
爽やか系のあっさりしたクッキーで食べやすさを重視している。
軽い味わいにしてクセはほとんどない。
﹁これなら食べやすいわね。食事は出さないの?﹂
﹁喫茶店だけど、食事やドリンクをメインにするのはやめておく。
ミックスジュースはあくまでも限定っていう遊びの部分だな。儲け
ようというつもりもあまりないし、この店のメインはゴーレムたち
がもたらす﹃癒し﹄だから、食事をしたい方は別の店に行ってくれ
って断りたい﹂
﹁確かにその方が他の競争相手はいないので、私達の独自の店に成
りますね﹂
﹁クラリーナの言うように、確かに独自の店にした方がいいのかも
ね。しんちゃんがいなかったら真似したくても絶対に出来ないし﹂
﹁そうよね・・・しん君がいないと成立しない商売だからね。他の
喫茶店とは違う方向に向かったほうがいいのかもしれない﹂
﹁それで決定だな。場所が決まればすぐにでも開店できるよ。おー
767
とま達を増やすのは簡単に出来るからな。早乙女商会の最初の店は
﹃もふもふ天国・ヨークル店﹄で決定だな﹂
﹁最初の店って・・・しん君は今後、どんな店を作るつもりなの?﹂
﹁今はまだわかんないな。これからしたい事が出てくるかも。それ
にもしかしたら、俺を何度も覗いてくるヤツラへの嫌がらせのため
だけに、変な商売を始めるかもしれん﹂
﹁しん様・・・嫌がらせのためだけって・・・ちょっと面白そうっ
て思ってしまうのは、私もかわってきてるんですね﹂
﹁まぁ・・・クラリーナも、悪い事じゃないからそんなに気にしな
いほうがいいよ。明日の予定はコレで決定なの?﹂
﹁そうね、今日も遅くなってきたからそろそろお風呂に行きましょ
う﹂
﹁俺はホワイト達を仕上げるから、後で風呂に行くよ。みんな待っ
てなくてもいいからな?﹂
アイリの提案で嫁達がみんなぞろぞろ動き出す。
俺はアイテムボックスの中サイズのスキルを封入したり、尻尾も動
かせるように調整していく。
・・・また隣の倉庫の屋根の上にバカが上って覗こうとしてるので、
ミノムシとしてぶら下げておく。
今日は3匹目のミノムシさんだ。
ムカつくから明日はてるてる坊主にしちゃうか?
・・・ってそれはただの首吊り他殺だな。
こいつらもあきねぇな、ムカつくし。
こんな時間にウロウロして明らかにストーカー行為をしてるやつは、
隣の倉庫だけでなく他の倉庫にもぶら下げてやった。
侵入者を捕まえると倉庫番の人達がボーナスが出るからな。
隣だけじゃなくて満遍なくミノムシのお裾分けをしておく。
768
近所付き合いは大事だ。いい事はお裾分けしないと。
倉庫番さんたちはボーナス入って良い事・・・俺にはどうでもいい
こと。
それにしても監視するための偵察任務で、もうちょっとだけでもマ
シな人材を送ってきて欲しい。
手ごたえがなさ過ぎる。
バイド村で盗賊退治したときエルフの女性が2回も俺の魔法をレジ
ストしたときは思わず声が出そうになったほど、テンションがあが
ったもんな。
レジストしたら見に行こうと思ってるが、まだ誰もレジストしてな
いし。
目線を感じる場所は4つ。
バンバン感じるので、こっちからも覗く事にする。
トータルで10人以上の人間が覗こうとしてたので、こいつらにも
ショック魔法をかけてみた。
・・・おい! 誰か1人ぐらいはレジストしろって! 盗賊以下か
よ!
ちょっと淋しかったので気絶させた全員に、右手の人差し指の指先
から血を出させてダイイングメッセージを床に書かせてやった。
﹃これは呪いだ。死んで詫びろ﹄
死んでないけどダイイングメッセージ。
ショックの魔法で気絶をさせたんだからショッキングメッセージか?
派手なピンク色の広告が頭に浮かんでしまったな。
769
超絶パニックになってるな。
1人そばで見ていたジジィが小便ちびりやがった。
年だからゆるくなってるな。
うん・・・こいつらも滑稽だ。
ザコの末路だな。
調子に乗ってこれ以上やるとギャグだってバレそうだからここらで
やめておく。
770
早乙女商会の結成。もふ天はこれから煮詰めるっす。
遊び過ぎたな。嫁が全員風呂から出てきてしまった。
俺はこれから入りに行く。
そういえばここの風呂に俺1人で入るのは初めてか?・・・なのか
もしれない。
かけ湯をして湯船に入ると、一人っきりだと風呂のデカさが際立つ
な。10人は入れそうなお風呂って事で作ったけど・・・デカすぎ
るな。
体を洗おうとして、以前乾燥したヘチマをマリアかセバスチャンが
拾ってきてくれたのを思い出した。
長いから背中も届くが・・・まぁ、こんなもんだな。
ちょっと痛そうだと思ったけど、俺のステータスにはヘチマじゃな。
3点セット魔法でヘチマを浄化して乾燥させてから、アイテムボッ
クスに入れて片付ける。
サッパリしたので風呂を出て自分に乾燥魔法をかけてサラサラにさ
せるとガウンを着て居間に戻る。
ヘチマに3点セット魔法をかけて思い出したが、ホワイト達に3点
セット魔法を封入するのを忘れていたな。
忘れないうちに3体に入れておく。
アイテムボックスの中も入れておかないと。
コーヒーカップや紅茶用のカップ。後は入れたてのコーヒーや紅茶
やハーブティーが入ってるポットなども収納して行く。
皆は寝室に寝に行ってしまったので俺も寝る事にした。
寝る前に今日作ったゴーレムを俺のアイテムボックスに全部入れて
771
おく。
翌日の転生19日目は朝から快晴だった。日中は少し暑くなりそう
だ。
今日もマリアが朝に入れてくれたコーヒーの匂いで目覚める。いつ
ものように俺は顔を洗いにいき、帰ってくると次はクラリーナ。最
後はミーとアイリが二人一緒。
着替えながらの朝食。
今日の朝食はいつものサンドイッチではなくロールパンにした。
バターが自作できるようになったからな。ホカホカの焼きたてロー
ルパンにバターを塗って食べる。
コレがとてつもなく美味かった。
俺がバターをたっぷり使ってるので嫁達も真似して無言でガツガツ
食べてる。
サイラスの甲殻鎧を装備して、先にるびのをニャックスの巣の近く
に送っていく事にした。
るびのの外部屋に行く。
今日はるびのは初めてたった一人で岩場に挑む。
セバスチャンの見立てでも大丈夫みたいなんで、今日はセバスチャ
ンもマリアもるびのには付けずに大森林で木材集めをやってもらう。
念輪もあるし近くにはニャックスもいるし大丈夫だろう。
﹁じゃあ、今日はるびのは1人で大草原の東側、ニャックスたちが
住んでる岩場に送るからな﹂
﹁うん。無茶はしないから大丈夫だよ﹂
﹁おう。まぁニャックス達とも狩りを楽しんで来い。ニャックスと
炎虎達はるびのの昔の部下の子孫なんだから、るびのと一緒に狩り
772
がしたかっただろうからな﹂
﹁うん。とうちゃん、早く行こうよ!﹂
﹁そうだな﹂
転移魔法でニャックスの巣の近くに行くと、ニャックスたちが出て
きた。
﹁ニャックス、おはよう。今日はるびのがこの岩場で狩りがしたい
と言ってるから、ここまで連れてきたよ。昨日ニャックスがるびの
に言った大型の大鹿魔獣が狩りたいそうだから、案内してやってく
れ頼むな﹂
﹁おお、るびの様お待ちいたしておりました。是非一緒に狩りをし
ましょう!﹂
﹁じゃあ、何か異常があったら念輪で連絡をくれ。ニャックス後は
任せるな﹂
﹁お任せください﹂
﹁とうちゃん、じゃあ、夕方ここでね﹂
俺は転移魔法で自宅に戻る。
今度はセバスチャンとマリアを大森林に送る。
場所はオークの集落があった大森林の南側が大型の木材が多そうな
ので後は2人に任せる。
嫁を連れて商業ギルドにキャンピングバスで向かうことにした。
朝の倉庫街は昨日の俺がやったミノムシ遊びで、自宅を出た時に警
備隊の隊員が俺に話が聞きたいと、ちょうどやってきたところだっ
た。
警備隊の隊員さんをキャンピングバスに乗せて、彼の案内で警備隊
詰所に行く。
﹁おはようございます。早乙女です。何かありましたか?﹂
773
﹁いえいえ、早乙女さんの自宅を何人かが覗いて倉庫で捕まる人間
が多発してましてね。それで話をさせていただきたかっただけです
よ﹂
﹁まぁ、俺には覗きがどうなろうが知ったこっちゃないって言うの
がホンネですね﹂
﹁それは間違いないですが、変なヤツが増えてるって事で注意を呼
びかけさせていただいてます﹂
﹁わかりました。家はゴーレムが守ってますので無敵です。ではも
うよろしいですか?﹂
﹁はい。注意を呼びかけてるだけですので・・・失礼しました﹂
そのまま警備隊詰所を後にする。
彼らも俺に聞きたい事は山ほどあるだろうけど、俺がやったという
証拠すらないから、俺に無理矢理聞くことも出来ない。
俺はショック魔法で気絶させて、魔法でグルグル巻きにして吊るし
ただけだ。
それを見た人はいないし、証拠もない。
俺が捕まえて警備隊詰所に突き出したのならともかく、捕まえたの
は倉庫番の人達でミノムシは倉庫の敷地内で逮捕されてるんだから
不法侵入の現行犯になってる。
捕まえた犯人からは俺を誰かに頼まれて覗いていた事と頼んだ相手
の情報しか警備隊にはあがってこないのだ。
逮捕も捕獲も俺には関係がない。
俺を事件に関係させようとするには、捜査中の事件の詳細な話を俺
にしないといけなくなるだろう。
俺はそれが目的なんだし。
捜査を公的機関にさせて自分は高みの見物がしたいからな。
しかし俺に話をする事も捜査中の事件の情報の漏洩になってしまう。
俺が自分から聞けば彼らも俺から情報を引き出そうとするが、俺か
774
らは話をしないので彼らも切り込めないのだろう。
しばらくは警備隊とこんなやりとりが続きそうだな。
キャンピングバスを走らせて商業ギルドに向かう。
今日は覗こうとしてくる人間はまだいないな。遠見の魔法を使って
いたヤツラは全員ダイイングメッセージつきで気絶させたし、家の
近くをうろついていたストーカーのヤツラは全員ミノムシにされて、
既に警備隊に突き出された後だし。
商業ギルドのゴーレム馬車置き場にキャンピングバスを乗り入れて
停車。
4人で商業ギルドに入っていった。
受付でリーチェの確認をしてもらったら、今日は出勤していたので
呼び出してもらう。
俺達は以前時と違って受け付け前のシートに座って待つ。
会議室で今日は話がしたいからな。
﹁早乙女さん、お久しぶりですね。新しい物件でもお探しですか?﹂
﹁リーチェさん、お久しぶりです。今日は相談があってここに来た
んですけど、内密な話なんで会議室って使えますか?﹂
﹁わかった大丈夫だよ。ここはボクに任せて﹂
リーチェは受付まで行って鍵をもらってくる。
会議室3の部屋に全員ではいると先に封印の魔法を部屋全体にかけ
て声を漏れないようにした。
リーチェが驚いてるが説明は後だ。
﹁とりあえずコレでここの声は外部に漏れないようにした。内密の
話なんですまないが皆のためだ。まずはクラリーナを紹介しよう。
彼女も俺の嫁になったクラリーナだ﹂
775
﹁初めまして、﹃早乙女・クラリーナ﹄です。クラリーナとお呼び
ください。まだ冒険者に成り立てで、早乙女の妻です。今後ともよ
ろしくお願いします。﹂
﹁こちらこそ初めまして﹃リーチェル・ハナザワ﹄です。この商業
ギルドの不動産部門の責任者をしています。今後ともよろしくお願
いします。堅くならずにリーチェって呼んでね﹂
﹁リーチェに相談したい事って言うのは、みんなで話をしていて・・
・店を開こうと考えてるんだ。それで商業ギルドに所属して﹃早乙
女商会﹄を立ち上げようと思った。リーチェには出来れば良さそう
な物件と商会を立ち上げるため信頼できる商業ギルドの人間を紹介
してもらおうと思って﹂
﹁私が全部教えますよ。コレでも長年ここの商業ギルドで働いてま
すから。それに・・・責任者って部下を育てちゃうと意外とヒマに
なっちゃうんですよ﹂
﹁おおお、リーチェが俺の担当になってくれるのはありがたい。そ
れで開こうと思ってるのは﹃喫茶店﹄です﹂
﹁喫茶店ですか?ヨークルにはたくさんあって新規参入は難しいで
すよ﹂
﹁まぁ、趣味全開の店になりますので儲けは度外視ですね。他の喫
茶店とはメインで売るものがまったく違います。俺が売るのは﹃癒
し﹄です。それ以外は普通以下の喫茶店ですね﹂
﹁癒しですか?想像もできないのですが﹂
﹁まぁ、見せたほうが早いですね﹂
アイテムボックスからおーとまを取り出す。
﹁ごしゅじんさま、おはようございます。アイリさん、ミーさん、
クラリーナさんもおはようございます﹂
ペコリト頭を下げてまた転がってしまう。うんしょって感じで起き
上がる。
776
﹁ね、ねぇ、早乙女君、これってなに?﹂
﹁これは俺が﹃癒し﹄の為だけに作ったゴーレムで名前は﹃おーと
ま﹄だな。おーとま、あいさつして﹂
﹁はじめまして、おーとまといいます。おねーさんのおなまえは、
なんですか?﹂
﹁ああ、ボクのなまえはリーチェだよ。リーチェって呼んでね﹂
﹁リーチェさん、おはようございます。これからよろしくね﹂
リーチェがトロンとした目でおーとまを見ながら、おーとまの頭を
なでている。
﹁な?コレと会話してるだけで癒されるだろ?モフモフで触ってる
だけでも癒されるだろ?。俺が作る店ってのは﹃もふもふ天国﹄だ﹂
﹁これがゴーレム・・・凄いね。これはハンパない凄さだね。コレ
を売るの?喫茶店?﹂
﹁おーとまは非売品。こいつらは店内を不規則に徘徊させるだけだ
よ。他のも出すか﹂
クマ・コー・ウルフを出す。会議室のテーブルの上を4体のゴーレ
ムがポテポテ歩いてたまに転がる。
﹁こいつらは喫茶店内を不規則に徘徊するだけで、おさわりは自由。
・・・まぁ、そんな店だな。もちろん盗まれないように移動禁止の
封印をかけるから、アイテムボックスの亜空間にすら入れられない。
入れても転送魔法で戻ってくる﹂
﹁それと、店で働く従業員も全員ゴーレムだ。コレも見せたほうが
早いな﹂
アイテムボックスからホワイト達を3体取り出した。それでホワイ
ト達に注文を実際に取らせた。
﹁ホワイト、俺はコーヒーをくれ﹂
777
アイテムボックスから準備してあったコーヒーカップに、ポットか
ら注いで目の前に置かれる。
見た目は愛らしいサルでもメイドの作法は完璧なので流れるような
美しさがある。
嫁達はマリアとセバスチャンで慣れてるので、なんともないが目の
前のサルが完璧な美しい作法で紅茶を注がれたリーチェは固まって
しまっていた。
﹁このゴーレムたちが店で働きます。ですので人間はいませんし雇
いません。暴漢が店で暴れる事も不可能なほどこのゴーレムは高性
能ですので、何も問題ないですよ﹂
﹁ゴーレムは商業ギルドで登録しますか?﹂
﹁はい。早乙女商会所属で登録します﹂
﹁それだったら先に商会の立ち上げをした方がいいのかも知れませ
んね﹂
そういってリーチェは自分のアイテムボックスから書類を取り出す。
﹁早乙女商会の代表者は早乙女真一様でよろしいですね?。副代表
はどうされます?﹂
﹁副代表は嫁3人でお願いします﹂
﹁わかりました﹂
﹁それでは早乙女商会に入れる運転資金の資産はいかがしますか?﹂
﹁今から入金でも大丈夫ですよ。この4人で5000万Gずつの2
億Gを溜めておきます﹂
﹁2お・・・了解しました。では皆様方、ステータスカードを準備
してください﹂
リーチェは流石のプロだな。
あまりの金額の多さに一瞬声を上げそうになったが、すぐに立ち直
778
った。
4人ともステータスカードを取り出して、会議室のテーブルの上に
ある魔水晶にかざすとブーンという音とともに1人5000万Gが
入金される。
﹁ではこちらの書類に皆様方のサインをください﹂
会社の名前しか書いていない紙の、代表者のところに名前を書く。
ギルドに預ける書類と自分達の書類と2枚にサインする。
嫁達も副代表の横に1人ずつサインをして終了。
﹁これで商会の立ち上げは終了です。こちらがが商業ギルドカード
になります。皆さんの名前など個人の情報をご確認ください﹂
リーチェに言われたのでカードに記載されている内容を他人には見
えない部分まで確認する。
金額もきっちり2億入っていた。
﹁間違いなかったですね﹂
﹁それではこれから先にゴーレムの登録にいきましょうか﹂
登録って言っても冒険者ギルドに登録した時と何も替わらない。名
前を登録するだけだ。
もらったネームプレートはネックレスタイプにして、ゴーレムそれ
ぞれに取り付けた。
﹁リーチェに聞きたいんだけど、防犯のためにおーとまたち愛玩ゴ
ーレムの方のネームプレートは金銭のやりとりを出来ないように登
録できないか?﹂
﹁それは出来ますよ。じゃあ、四体のゴーレムですね?﹂
779
魔水晶をネームプレートに当ててなにやら登録したら使えなくなっ
たようだ。
﹁これでゴーレムの登録は完了しました。後は店舗の話に入ります﹂
﹁よろしくお願いします﹂
780
もふもふ天国の店舗の土地購入したら隣の倉庫まで付いてきたっ
す。
もふもふ天国ヨークル店の話。
初めに決めなきゃならないことがたくさんあるからな。
従業員の人選がないだけマシなのかもしれないけど。
﹁お店を出したい場所って決まってますか?﹂
﹁場所は何も考えてません。なるべく騒がしくない場所で・・・た
だ、小さくてもいいので一軒家でお願いします。賃貸だとあまり改
造も出来ませんし、お金があるうちに設備投資をしておいてゆっく
りと時間をかけて回収していく方が楽かなって思ってます﹂
﹁なるほど、そのための準備資金ですか。閑静な場所・・・ここな
んていかがですか?﹂
リーチェがアイテムボックスからヨークルの詳細な地図を取り出し
て指差した場所。
﹁って、元アントローグ商会の店舗じゃねーか!﹂
﹁・・・早乙女さんご存知なんですか?﹂
﹁俺にちょっかい出してきて、捕まったと同時に店舗&倉庫に強制
捜査が入って崩壊した商会ですよ。倉庫は自宅の隣で、そのまま空
き倉庫になってます﹂
﹁倉庫もセットで今朝になって私のところに回ってきたんですよ。
上層部は早く売ってほしいから安くしても構わないから君に頼むっ
て。今なら早乙女さんの隣の倉庫もセットで1億2000万Gでい
かがですか?﹂
﹁ここって、倉庫だけでも早乙女邸の敷地の倍以上はありますよ。
安すぎませんか?﹂
781
﹁早乙女さんが相手だから話をぶっちゃけますと・・・商業ギルド
での買い取り価格を相手の足元を見て店舗と倉庫のセットで700
0万Gって安く買い叩いて入手した物件なんです。ギルドの儲けを
乗せて8000万G。この金額の物件ですと税金で半額の4000
万Gかかりますので1億2000万G。今日私に話が回ってきて今
日販売しちゃうんですから、ギルドの儲け分は全額私のボーナスに
なりますので、よろしくお願いします﹂
リーチェが会議室のテーブルに当たりそうなほど頭を下げてきた。
この金額で隣の倉庫まで手に入るのなら、マジでお買い得だ。倉庫
だけで儲かってるレベルだ。
店舗がおまけになるな。
店舗の土地もそこそこあるし、表通りに面した部分に喫茶店。それ
だけじゃなくて早乙女商会の事務所も店舗の奥に建物を作れるな。
外から見えなきゃ邸宅建築スキル魔法ですぐに作れる。
自宅の隣の空き倉庫は倉庫としてはそこまでの大きさはないが、港
の部分がかなり広くて大型船も横付けできる。
うちの商会に倉庫なんてまったく要らないしな・・・俺のアイテム
ボックスだけでも充分。
これなら船を作るのに大きさを気にしないで作れそうだな。
リーチェのボーナスぐらいは気にもならないほど。
﹁ボーナスおめでとうございます。両方セットで買いますよ。店舗
部分もおやっさんの店に近くて閑静な場所だし、近くに競合相手の
喫茶店もないですし。良い物件をありがとうございます﹂
﹁いいんですか? それなら今から見に行きますか?﹂
﹁見に行くのは、もう少し話をつめた後にしましょう。今行っても
また戻ってこないといけなくなりますし。先に購入だけしておいて
も良いですよ﹂
782
﹁それでは先に購入をお願いします。それから店舗の話をつめてい
きましょう﹂
これもリーチェがアイテムボックスから契約書を2枚取り出して説
明してくれた。
説明後に2枚の契約書に俺の名前と早乙女商会代表と書いて終了。
魔水晶で先ほど作ったばかりの商業ギルドカードで支払う。
早乙女商会の資産になったな。
1枚は俺の分で渡されたのでアイテムボックスに入れておいた。
隣の倉庫も改造しないとな。塀は広げる必要があるし、やる事が多
過ぎて笑うレベルだな。
倉庫番のゴーレムも作る必要も出てくるし・・・魔結晶も集める必
要があるぞ。
﹁それでは店舗の話を進めましょう。癒しがメインの売り物って早
乙女さんはおっしゃいました。・・・が、この子たち愛玩ゴーレム
で癒される事は理解できるのですが、コレをどうやってお金に変え
るのですか?﹂
﹁通常の喫茶店とはシステムからして違ってます。喫茶店はドリン
クと軽食が売り物なんですが、うちの店では癒される時間を買うの
です。ですので店内には1ドリンク500Gを購入して入ります。
店内に滞在できる時間は30分です。その間はゴーレムに触り放題
ですが、時間が来ると店員によって連れ出されます。ドリンクもコ
ーヒー・紅茶・緑茶・ハーブティーと種類はあえて少なくします。
ホットとアイスぐらいはアレンジしますけど。ドリンクにクッキー
を2枚サービスでつけます。一日50杯の数量限定でスペシャルド
リンクが1000Gと特別料金設定があるぐらいですね。今のとこ
ろ俺が考えてるのは﹃ミックスジュース﹄です。・・・コレもリー
チェが試しに飲んだほうが早いな。ブラウン、リーチェにミックス
783
ジュースをお出しして。イエローはクッキーをお出しして﹂
﹁はい。ご主人様。リーチェ様どうぞ、こちらがスペシャルドリン
クのミックスジュースでございます﹂
﹁はい。ご主人様。リーチェ様どうぞ、こちらがサービスのクッキ
ーでございます﹂
﹁あ、ありがとう。・・・んん。このドリンクは冷たくて・・・甘
いだけじゃなくて酸っぱさとかも混じってて美味しいね。クッキー
は・・・んー、味が二つとも違うんだね。ボクはこのちょっとバタ
ーの塩気が感じるこっちのクッキーの方が好きだな﹂
﹁さっきリーチェが飲んだ紅茶のように、特別な素材は一切使って
ない。丁寧な作業で美味しく感じさせてるだけだ。茶葉もコーヒー
豆も市場で手に入る安価なものばかりだよ。クッキーも一緒です。
バターだけは流通量が少な過ぎて自家製になってしまってるけど、
特別な素材は全くないから・・・クッキーも込みで1杯30Gほど
のコスト。味はそこまで高級店に劣っていないという自負だけはあ
るけどね﹂
﹁美味しかったよ。ありがとう。でもこれじゃあ、儲けが出るまで
に相当時間がかかると思う﹂
﹁最初に言ったように儲けは完全に度外視でいい。店はもう土地も
購入済みで店舗の改装は自分で出来る。店舗の購入資金も・・・セ
ットで購入した自宅の隣の倉庫だけでもう既に儲けが出てると思う。
食器も自分で作れるしコストは店舗購入以外は人件費もないんだか
ら﹂
﹁俺達は客商売の経験がまったくないから、客を始めから一気に引
き込もうとすると問題点が多過ぎる。どこに問題があるのか予想が
出来てないって言うのがまず問題だ。問題が起きた時に対処する時
間があって、それが改善されて客がゆっくり増えていくってのが理
想的なんだけど﹂
784
﹁そうですね理解できました。店舗の営業時間はどうします?﹂
﹁法律ってどうなってますか? 営業時間って法律で規制されたり
するのですか? 正直に言いますと営業時間っていっても、うちの
店は従業員が全部ゴーレムなんで休憩も交代もなしで24時間営業
可能なんですけど﹂
﹁法律による営業時間の規制はありません。自由で全部自己判断で
すね。深夜は流石に客が来ないと思いますし、酔っ払いなどのトラ
ブルを引き込む可能性があるので避けた方がよろしいかと思います﹂
﹁言われてみれば確かに深夜も営業すると余計なトラブルまで引き
寄せそうですね。そうなると・・・朝6時から20時ぐらいがいい
のかな﹂
﹁ずいぶん早い開店時間ですね。意味はあるんですか?﹂
﹁仕事前に一服ってイメージですね。ゴーレム店舗で食事を出さな
い店ならではですけど﹂
﹁なるほど、それは理にかなってますね。仕事前に心を癒す時間・・
・必要な人も必ずいると思いますし。この店舗が出来る場所は職人
達が多くて朝早くから通ってる人達が多い場所柄ですので﹂
﹁冒険者ギルドでは成功報酬が既に税金を払った金額って聞いてる
んですけど・・・商業ギルドの税金ってどうなりますか?﹂
﹁こういった店舗営業の場合初期の設備投資金額によって変わって
きます。早乙女さんの場合は店舗と倉庫の購入資金が税抜きで80
00万Gです。8000万Gと・・・ここに本来なら人件費・・・
早乙女さんの店の場合は﹃ゴーレム製造費用﹄や改装費なんかも必
要経費として計算される事になるんですけど、早乙女商会から早乙
女さんに依頼して作ったという形にすれば必要経費に入ってきます。
ですが、この場合は間に商業ギルドを頭して早乙女さんという﹃ゴ
ーレム職人﹄に依頼して作ってもらう形にしてもらわないと﹃脱税﹄
とみなされてしまいます﹂
785
﹁間に商業ギルドを通せって事ですね?﹂
﹁そうです。そういう事にしないと脱税が増えるための対処法です
ね。国としては商業ギルドが間に入って金の流れをわかりやすい形
にして商業ギルドに手数料を取らせて商業ギルドからも税金を取る
って寸法です。でも、こうするのはあまりお勧めできません。なぜ
なら早乙女さんが職人ギルドに登録してないので、すぐに登録して
もらっても、今度はゴーレム制作費を職人ギルドに提出しないとい
けなくなりましてさらにややこしくなります。ゴーレムは従業員と
して登録してある今の形の方が税金がかかりますけど、手間はかか
らないです﹂
﹁手間がかかるのは勘弁して欲しいですね。それと職人ギルドへ登
録しちゃうとゴーレム作製依頼がきちゃいそうなんでもっとイヤで
すね。初期設備投資の経費は税金にどんな影響があるんですか?﹂
﹁初期設備投資の経費は商会持つ資産の﹃借金﹄という形になるの
で税金が免除されます。儲けが借金返済に使われるっていう﹃必要
経費﹄に入るのです。早乙女さんの場合は珍しくて普通はどこかで
金を借りて商会を立ち上げるパターンがほとんどです。総売り上げ
から経費を差し引いた額が利益になるのですけど、普通はこの経費
の中に人件費や借金の返済金などが入ります。早乙女商会の場合は
この2つがありません。1年間の利益の3割が税金として来年の今
日に商業ギルドが引き取り国に治まる形で税金が支払われます﹂
﹁うちでは設備投資の経費って・・・もうかからないからなぁ。俺
が店を改装して作るし、家具とかも全部俺がスキルでつくるんだけ
ど、もしどこかで早乙女商会の倉庫や店舗に使う資材を購入したら
経費に入るんだよね?﹂
﹁それはもちろんです。その場合はこれからは商業ギルドカードで
早乙女商会の資産で購入してください。そうでないと経費として認
められなくなる場合がありますので﹂
786
﹁了解です。でも今のところの購入する予定のものって小麦粉とか
茶葉とかかな。ハーブなんてゾリオン村の方に行けばいくらでも生
えてるし。残念だけど買うモノがないよ。そういえば早乙女商会は
幹部が夫婦になるんだけど、外での食事は経費で落ちるの?﹂
﹁経費で認められる外食は10日で3回ぐらいが限度ですね。いく
ら外食産業の多い都市ヨークルでも限度はありますので﹂
﹁都市ヨークルだからそんなに出来るのか。そもそも俺ってほとん
ど外食しないので大丈夫ですよ。聞いてみたかっただけです﹂
﹁そう言われてみれば、しんちゃんと外に食べに行ったのってとん
こつラーメンぐらい?﹂
﹁そうね。後は護衛依頼中の﹃おにぎり﹄ぐらいでほとんど自宅で
作って食べてるし、外でも自宅で作ったものを食べてるイメージし
かないね。しん君って外食嫌いなのかと思ったよ﹂
﹁しん様の場合は外で食べなくても、自分で作ったほうがもっと美
味しいモノが出来ますから﹂
嫁が話に加わってきた。リーチェがそれに乗っかってくる。
﹁早乙女さんの料理ってそんなに凄いのですか?﹂
﹁はい。元々この喫茶店でもデザートを出すって言っていたのを、
暴動が起こる可能性を考えて私達全員で辞めさせました﹂
﹁だよねアイリ。あのイチゴクレープはヤバイ。死人が出る可能性
すらある﹂
﹁ミネルバさんの言ってる事がよくわからないんですけど・・・﹂
﹁コレばかりは食べないと理解できないと思います。しん様、みん
なの分のイチゴクレープを作ってくれませんか?﹂
﹁またまたぁ、みんな大袈裟なんだって。まぁ、食材はあるんで今
作ってあげるよ﹂
787
アイテムボックスから食材を取り出して皆の分のイチゴクレープを
作ってあげる。
﹁り、料理スキル魔法ですか!?﹂
リーチェが叫んでるけど気にしないことにする。
今日は余裕があったので皿に乗せてパティシエ風にアレンジして出
してあげた。
4人の女性が全身全霊でクレープを味わって食べる姿が見られると
は思ってもいなかった。
ちょっとしたサービスのつもりだったが激しく方向を間違えてたみ
たいだ。
﹁リーチェさんどうですか? 死人が出るって理解できますよね?﹂
﹁皆さんこんなのばかり自宅で食べてるんですか?﹂
﹁タマによタマに。しんちゃんが作ってくれるのはタマに。でも自
宅でセバスチャンやマリアの作ってくれるのも料理スキル魔法だか
らコレに近いぐらいは毎日毎食食べてる。しんちゃんと結婚してか
ら外で食べようって気がまったく起きないのよ﹂
﹁こんなの喫茶店で出したらどうなると思う? しん君は手加減し
ないからこれ以上のデザートが並ぶ可能性があるのよ? 食べられ
なかった人間が確実に暴動を起こすと思う﹂
﹁・・・それは言い過ぎだろう。でも食材がもっと色々入れば色ん
なものが出来るけどね﹂
﹁コレを販売するのは商業ギルドでは絶対に停めざるをえませんね。
とんこつラーメン以上の事が確実に起こります。ミネルバさんたち
がおっしゃる﹃死人が出るレベル﹄ってここまでだとは・・・想像
以上でした。美味しかったです。ありがとうございました﹂
リーチェが立ち上がって深々と頭を下げた。1000万のボーナス
以上の対応だ。
788
イチゴクレープ︵パティシエ風︶あなどれんな・・・。
789
もふ天の手続きが完了したので魔結晶を集める事が決定したっす
。
リーチェにもデザートは﹃店で出してはいけません﹄って遠まわし
に言われてしまったな。
殺人デザートって・・・不味くても美味くてもダメみたいだ。
﹁聞きたい事がもう一つあるのですが・・・ドリンクなどの材料の
仕入先ってどうします? どこかの商会に注文を出しますか?﹂
﹁まだ店舗を実際に開店してみないとどれだけの量が必要になって
くるのか全くわからないので、しばらくは市場で直接購入しておき
ます。店が混んで仕入れに手間がかかる様になったらどこかの商会
に・・・ガルディア商会にでもお願いしますよ﹂
﹁なぜガルディア商会なんですか?﹂
﹁俺個人で指名依頼を受けた事が1回。チーム早乙女遊撃隊で指名
依頼を受けた事もあります。知り合いが多いので、ガルディア商会
なら変な横槍を入れられることなく取引が出来そうですので﹂
﹁変な横槍ですか・・・売り上げの凄い店というならわかるのです
が﹂
﹁俺の場合は﹃ゴーレム﹄ですね。自分の趣味以外でゴーレムを製
造したくないですから﹂
﹁なりほど。わかりました。知り合いのいない商会とはまだ付き合
いがしたくないということですね?﹂
﹁そういうことです。それで俺もリーチェに聞きたい事があるので
すがいいですか?﹂
﹁はい。どうぞ﹂
﹁出店許可とかってどうなりますか?﹂
﹁このヨークルでは許可は必要ないですね。届出だけです。屋台の
790
場合は店を出す場所の指定などが入って少し替わりますが店舗の場
合は、どこにどんな店を出すのか? っていう届出だけです。早乙
女さんは今日届出を出していかれますか?﹂
﹁じゃあ、今から出します。その後で店の場所に行きましょう﹂
﹁では、これから店舗出店の届出を作成しますのでもう少しお願い
します。店舗と倉庫の封印はその後で解除にいきましょう。それで
店舗を開くにあたって、商業ギルドでする手続きは終了となります。
後は自由にしてください﹂
リーチェに指示されて早乙女商会での店舗の出店の届出を作成した。
流石、商業ギルドのベテラン幹部職員だけあって説明も上手いし、
届出書類を簡単に書く事が出来た。
コレで店舗を開店するにあたっての届出は終了。
日本と違ってメチャクチャ簡単だな。風営法やら消防署やら保健所
もないからな。
全てが自己責任だ。
トラブルも自分で解決しないとな。
商業ギルド会議室を出る前にゴーレムたちを全部自分のアイテムボ
ックスに入れてから部屋に仕掛けた封印を全部解除しておく。
皆で飲んだグラス・コップなどもいつもの3点セット魔法で浄化し
てからアイテムボックスに片付ける。
リーチェをキャンピングバスに乗せてまずは店舗のほうに向かう。
キャンピングバスの乗り心地のよさにリーチェが驚いている。
店舗に到着して建物を外から見たが何種類かの封印が仕掛けられて
いるな。
リーチェが入り口の前の地面に突き刺された魔石の付いたミスリル
棒に、何か暗号のような言葉をつぶやくと商業ギルドが仕掛けた封
印が全て解除された。
ミスリル棒はそのままリーチェが回収して自分のアイテムボックス
791
に入れる。
店舗改装は今ではなく後でする事にしたので、今度は俺がアイテム
ボックスから取り出したミスリル棒を店舗の入り口に突き刺して何
種類かの封印をかけるとミスリル棒が見えなくなった。
先程までの商業ギルドの仕掛けた封印とはレベルが違う。
コレで遠見魔法からの封印も出来たな。
それでそのまま早乙女邸の隣の倉庫に向かう。倉庫も同じようにリ
ーチェが商業ギルドの封印を解除して、俺がまた封印をかける。
封印ついでに周囲の気配と魔力を探ったがストーカーはいなかった。
そろそろ恐れをなして逃げたかな? それならありがたいんだけど
ねぇ・・・またくるだろうな。
何でからんでくるんだろう。面倒だから相手をしたくないだけなん
だけどな。
リーチェを商業ギルドに送って行くとちょうど昼の時間だったので
ギルドの2階にあるレストランで食事をすることにした。
商業ギルドのレストランは名前にふさわしく、冒険者ギルドの食堂
とは雰囲気もメニューもまったく違う。値段も量も違っている。
俺は﹃月と太陽のホテル﹄以来、久しぶりに海の魚の刺身が食べた
くなったのでお刺身のランチ料理。
ヨークルではやはり海の魚の刺身は内陸部のヨークルでは高級品だ。
刺身の3種盛りのランチが5000Gもするからな。
リーチェの分も奢ってあげた。
これは経費で落ちるみたいなんで商業ギルドカードで支払いを済ま
せる。
リーチェに礼を言って握手をしてから別れる。
792
商業ギルドのゴーレム馬車駐車場に停まっているキャンピングバス
に乗り込んでから、みんなに問いかける。
﹁みんなこの後の予定はどうする?﹂
﹁別に何もないですね。しん君はどうしたいの?﹂
﹁俺は出来ればこのままダンジョンに行きたい。魔結晶を集めてユ
ーロンドたちを増員しないと﹂
﹁だから今日は改装もしないんだね。私も昨日ダンジョンに行った
ばかりだけど、またアゼット迷宮で暴れてもいいかな﹂
﹁私は魔法の練習がしたいので、しん様とダンジョンアタックした
いですね﹂
﹁私ももちろん行きますよ。しん君と結婚してから亜種もたくさん
会ってるし、何しろレアドロップが多くてダンジョンの魅力にまた
引き込まれてます﹂
﹁それならば皆で今から行こう! 夕方に一度休憩して大森林でセ
バスチャンとマリア、それと大草原の岩場でるびのを拾って自宅に
送ってくるよ。俺はまた夜間のアゼット迷宮で狩りを続行して、魔
結晶をいっぱい集めておきたい。みんなはどうする?﹂
﹁私は夕方までで、その後は家でノンビリします﹂
﹁私もアイリと一緒で夕方には帰りたいかな。今夜はお酒を飲みた
い気分﹂
﹁私もミーさんと同じで今晩は家でお酒を飲みたいと思ってました。
ですので夕方まではしん様に付き合います﹂
﹁じゃ、決定だな。これからアゼット迷宮に行こう。みんなはダン
ジョンに到着する前に防具に着替えておいてね﹂
皆でダンジョンアタックが決定した。夕方からはボッチになるけど
な。
793
アゼット迷宮アタック。地下7階と8階での戦いっす。︵前書き
︶
8・12修正しました。
794
アゼット迷宮アタック。地下7階と8階での戦いっす。
キャンピングバスを走らせて商業ギルドからアゼット迷宮へ向かう。
俺はもう既にサイラスの甲殻鎧を装備してるので、キャンピングバ
スを運転して走らせている。
嫁達は下のキャンピングスペースで防具を装備している。
今日は3人とも旅人の服を着ていたのでアンダーシャツとアンダー
パンツから装備するので少し時間がかかるがアゼット迷宮に着く前
には完了するだろう。
俺はその間にセバスチャンと念輪の回線を開いて会話する。
﹁早乙女だ。セバスチャン、マリア、今は念輪出来るか?﹂
﹁セバスチャンです。念輪可能です。ご主人様どのような御用でし
ょうか?﹂
﹁マリアです。ご主人様、ご指示をどうぞ﹂
﹁今日、商業ギルドで早乙女邸の隣の倉庫と店舗用の土地と建物を
購入した。場所はMAPの中にある﹃元アントローグ商会﹄の店舗
と倉庫になる。予定通り早乙女商会の資産になっている。この2つ
を改装するには大量の木材が必要になる。それで2人の採取の状況
が知りたい﹂
﹁セバスチャンです。ご主人様の指示通り﹃ヒノキ﹄の樹齢の長い
大樹を中心に集めています。400年物から250年物のヒノキが
主ですね。木を切った後は木魔法で栄養を与えましたので木は死ん
でいません。新芽が出てきたのを確認いたしました﹂
﹁マリアです。私もご主人様の指示通りに種類を数多く100年物
を中心に集めています。ヒバ・杉・クリ・黒檀・樫・モミ・ブナな
795
どが既に集まりました。桜はまだ良さそうな木を見つけていません。
切った木は木魔法で木の生存も確認済みです﹂
﹁流石だな、ありがとう。このまま頑張って集めてくれ。マリアに
お願いしたいのは実のなる木を何本か生きたまま持って帰ってきて
欲しい。桜・柿・梅・銀杏なんかだな。早乙女邸の庭が裏庭も含め
て殺風景だし、船からの監視を避ける目的もあるからな。後で適当
な間隔で植えておいてくれ。・・・それと俺達夫婦は午後からアゼ
ット迷宮を攻略する事にした。守る建物が増えたのでユーロンドた
ちの増員の為に魔結晶集めだ。2人も良さそうな魔獣がいたら狩っ
ておいてくれ。では午後からも引き続き頼む。﹂
﹁﹁は。了解しました﹂﹂
アゼット迷宮に到着するまでにはまだ時間があったので、ついでと
ばかりにニャックスにも念輪を繋げる。
﹁早乙女だ。ニャックス聞こえてるか?﹂
﹁ニャックスです。聞こえてます。ご用件は、るびの様の事ですね
?﹂
﹁ああ、るびのの狩りの状況はどうだ?﹂
﹁何も問題ないです。さすが白虎様です。岩場での狩りも心配する
事もないですね。るびの様が装備されている、あの腕輪は便利です
ね。私も欲しいぐらいです﹂
﹁それはダメだな。生態系が変わる恐れがあるから、ニャックスや
ガウリスク、アキューブ達にもアレは渡せんよ﹂
﹁そうですね。いつまでも保存が出来るならと、この岩場周辺の魔
獣を狩り尽し最後は共食いを始める可能性はありますね。残念です
が諦めます﹂
﹁悪いがそうしてくれ。狩りの目的が達成してるなら、後は時間い
っぱい遊んでてくれ。るびのも魔獣たちと話をして遊びたい頃だろ
うからな﹂
796
﹁了解です。そう言っていただけるとありがたいですね。狩りでる
びの様に私達が教える事は何もなかったので﹂
﹁時間になったら迎えに行くよ。ニャックス、よろしくな﹂
﹁わかりました﹂
話が終わったのでニャックスとの念輪も打ち切った。
アゼット迷宮が見えてくる。
嫁達もみんな防具の装備が終わって展望席に上がってきた。
﹁しん様、今日は何階から攻めますか?﹂
﹁俺が攻めたいのは、まだ俺が行ってない地下7階からだな。﹃リ
ザードドッグ﹄だったっけ?﹂
﹁そうね。アイツは刃物が角度を間違えると刺さりにくいから槍の
練習でたくさん倒したな﹂
﹁私も飛び上がって集団で空中からの攻撃をしてくる相手だから、
ミーと2人でたくさん練習したわよね﹂
﹁私は昨日初めて戦ったんですけど、火魔法が効き難い鱗系の魔獣
が初めてだったので驚きました。アイリさんに注意されるまでは、
まるで聞いてない事に気付かなかったので﹂
﹁そうだな。鱗系の魔獣は氷魔法が弱点で火魔法はほぼ効かないか
らな。クラリーナも勉強になっただろう﹂
﹁はい。アイリさんとミーさんがいてたくさん教えてもらって、成
長できてる実感があるダンジョンアタックは毎回新鮮で凄く楽しい
です﹂
﹁よかったねぇ。そう言ってもらうと私達も教え甲斐があるよねぇ
ー﹂
﹁さ、そろそろ到着だからキャンピングバスはアイテムボックスに
入れるよ。後は歩いていこう﹂
797
そういって周囲を確認しながらキャンピングバスを降りる。
周囲に誰もいないときを見計らってキャンピングバスを片付けた。
アゼット迷宮の入り口の下へと降りる階段で、たくさんある転送部
屋へ入り地下7階へと転送される。
この転送部屋はどの部屋からでもチームの誰かが行った事のある階
層ならどこでも行けるから便利だな。
俺はアイテムボックスから天乃村正を取り出して腰に装備しながら
みんなに確認する。
﹁今日もアイリ・クラリーナ・ミーのいつもの順番だな。俺はクラ
リーナの横でサポートする。まずは下へ降りる階段に向かう。じゃ
あ、ダンジョンアタック開始だ!﹂
無言で3人がうなずき、俺の指示通りにアイリから進んで地下7階
の転送部屋を出る。
﹁この先の広い部屋にリザードドッグの群れがいる。数は33頭。
まずは俺が魔法の見本を見せるよ﹂
部屋に入ってリザードドッグが襲い掛かる前に魔法を使う。
﹃アイスジャベリン﹄
太さ2cm長さ1mほどの氷の槍が10本リザードドッグに向かっ
て飛んで行く。
4頭ほどが即死で3頭が傷をおった。後の3頭は軽症だ。
﹁ま、狙いを正確にしてなく不意打ちを狙ったらこんなもんだな。
こうして攻めてきた敵の防衛魔法は﹃氷槍﹄。コレが効果的だな﹂
長さは3m太さ2cmの氷で出来た槍衾が30本、槍と槍の隙間は
10cmなので地面から斜めに突き出てきた槍の間をすり抜ける事
が出来ない。
798
﹁これは牽制と防御を兼ねている。これて敵が飛んできたら後は空
中で﹃氷弾﹄。コレで撃ち落とせばいい﹂
目の前で展開される魔法にクラリーナは自分でも魔法で何度も試し
てみながら知識を吸収して経験を蓄えていく。
﹁氷槍は敵の動きを限定的にするには効果的だな。この槍衾はリザ
ードドッグには壊せないので上を飛ぶしか俺達に攻撃できなくなる。
立体的に攻撃してくる敵の攻撃方法を限定させるのは、味方の防御
や攻撃が容易になる。敵の特徴を捉えて敵からの攻撃を断定させる
のもチームにいる魔道士の役目だ﹂
﹁魔法にこめる魔力は皆同じだから他の魔法でも同じ事が出来る﹂
﹃アースジャベリン﹄﹃ウォータージャベリン﹄﹃エアージャベリ
ン﹄と数種類の魔法を使ってクラリーナに見せる。
33頭のリザードドッグを狩り終わる頃にはクラリーナも俺の指導
でメキメキ上達する。
戦闘が終わったら氷槍を元に戻す。
小粒の魔結晶や魔石、リザードドッグの通常ドロップアイテム﹃リ
ザードドッグの牙﹄、レアドロップアイテム﹃リザードドッグの鱗﹄
などのドロップ品を拾う。
ここではもうクラリーナに教える事はほとんどなくなってしまった。
これからは今教えた事の反復練習ぐらいだな。
クラリーナが魔法に慣れた頃に地下8階へと続く階段を下りる。
地下8階は﹃キラービー﹄だ。
探査魔法で気配を探ると・・・いた!! 女王蜂だろう大きな反応
が出てる。
799
﹁ここの隣の部屋の次の巨大な部屋に強大な反応がある。キラービ
ーも100以上の反応だ。3桁のキラービーって、これは亜種の女
王蜂の可能性が高い。次の部屋に10匹のキラービーがいるからコ
レでクラリーナの練習を済ませて、その後で女王蜂との本番だな﹂
皆で部屋に入るとキラービーが襲い掛かってくる。アイリが挑発で
自分に呼び込む。
﹁おら! 蜂共、かかってこい!﹂
﹁キラービーは知ってる通り風魔法﹃空弾﹄を使ってくる。でも空
くうじん
を飛ぶ昆虫系魔獣の例に漏れずヤツラの弱点も風魔法だ。敵の周り
の空気をかき回してやれば、ヤツラは飛べなくなる。﹃空迅﹄コレ
で空気をかき回せば・・・ほら、飛べなくなる﹂
俺が魔法で空気をかき回すと、キラービー10匹全部が地面に落ち
た。後は狙い撃つだけだ。
アイリとミーもいるので、10秒もかからずに終わる。
魔結晶はなくて魔石だけだった。
キラービーの通常ドロップアイテムが﹃毒針﹄。レアドロップアイ
テムが﹃キラービーの羽﹄。
アイテムと魔石を拾い終わると、柚木の戦いへの最終確認とクラリ
ーナの魔法の練習だ。
﹁これから次の部屋に入る。鑑識で調べたがキラービーの女王蜂の
亜種﹃ロードクイーン﹄がいる。ランスを持って女王を警護してい
る﹃キラービーナイト﹄が20匹。通常のキラービーが130匹だ
な。女王の横に小さな反応がたくさんあるので、蜂の巣が出来上が
ってるだろう。蜂の巣は貴重な資源の塊だ。俺が無傷で捕獲したい
から、俺にやらせてくれ魔法で処理するよ。クラリーナに今覚えて
800
欲しいのはコレだな﹂
空中へ迷賊の鉄製の鎧を放り投げて空中で停止させると魔法を発動
させる。
くうじんれっぱ
﹃空迅烈波﹄
魔法を使うと空迅でかき回された空気に真空の刃が乱れ飛び空中の
鎧がズタボロになっていく。
﹁これは風魔法の中級のラストになる魔法だ。空迅で空気をかき混
ぜながら真空のヤイバを縦横無尽に振り回すイメージだ。物は試し
でやってごらん﹂
クラリーナが﹃空迅烈波﹄の練習をする。俺はイメージを伝えてい
って指導する。
﹁それは風を強くかき回してるだけだな。空間をずらす。空気をず
らすんだ。こんな様にイメージして!﹂
俺は両手の手のひらを合わせて、手のひらをずらして見せる。
﹁そうそれだ。大丈夫出来てるよ。それを空気をかき混ぜる時に空
気の空間を不規則に動かせて縦横無尽にずらすんだ﹂
﹁さすが魔法の申し子だな。すぐに出来たよ。これで大丈夫だな。
それで戦術は・・・アイリは防御して挑発をしながらゆっくり前進
して女王蜂へ。ミーはアイリの後ろからキラービーの退治。クラリ
ーナは今の魔法﹃空迅烈波﹄と﹃空迅﹄でドンドン叩き落とせ。俺
は初めに蜂の巣に真空封印をかけて巣の中の幼虫とキラービーの子
供を全滅させる。巣の中の幼虫と子供が全滅したら女王蜂を後ろか
ら襲う。コレでいけるだろう。質問はある?﹂
﹁それならOKだね。私&アイリ&クラリーナの3人と、しんちゃ
んの競争になるね﹂
801
﹁慌てなくっていいさ。この作戦で大事な事は﹃怪我しない﹄だか
らな?﹂
﹁それは私に任せて。シールダーの私は2人を守るのが仕事だから
ね﹂
作戦は決定したので次の扉を開ける。
ロードクイーンとの対決だ。これで魔結晶が潤うな。
802
キラービーの女王退治っす。︵前書き︶
8・12修正しました。
803
キラービーの女王退治っす。
部屋に入ると同時に俺は気配も魔力も全て体外から出ないように遮
断する。
アイリが前に進みながら叫んで挑発を連続でかける。
﹁ハチどもこっちにこい!﹂
﹃空迅烈波﹄
集団で襲いかかろうとするキラービーにクラリーナが魔法を叩き込
む。
魔法を逃れたキラービーはミーのサイラスの槍で首を落とされてい
く。
﹃真空封印﹄
俺は部屋に入った場所からまったく動かずにいて、まずは正確にキ
ラービーの巣の位置を特定させてから、巣の周囲を真空の結界で包
み込み中の酸素を抜く。
これで巣の中の幼虫と子供は酸欠で全滅だ。
俺はそのまま腰の天乃村雨を抜き放つと、凄まじい速さでキラービ
ーの集団の後ろに回りこむ。
いた。
全長3mほどの大きさで大量のキラービーを操っている女王蜂だ。
女王蜂の周りをランスを持ったキラービーナイトの半数10匹がぐ
るりと取り囲み周囲を警戒している。
残りの10匹に足止めされて嫁の3人は思うように進めていなかっ
た。
804
俺はスピードをそのままに敵に踊りこむ。
流石にこれだけの集団なので、俺がすぐに女王蜂にたどり着けるほ
どの隙間はない。
俺の存在に気付いたキラービーナイトから突き出された槍を切り落
とし、そのまま返すカタナでキラービーナイトの首を落とす。
1匹も逃げることなく俺に向かってくるのは昆虫系魔獣特有だな。
キラービーナイトを7匹ほど退治して、ほんの少し空いた防御の陣
地の乱れの隙間に突き入り女王蜂の首を落とす。
命令系統がなくなっても全部のハチが攻撃してくる。
組織だった攻撃はなくなったが見事なほどの攻撃姿勢だな。昆虫系
魔獣の美学すら感じてしまうほどだな。敵ながら天晴れだろう。
全部を退治するのに7・8分ほどかかった。
全滅させてから天乃村正を納刀。
あたり一面に広がるキラービーの死骸がドロップアイテムに替わる。
キラービーの巣はハチミツになった。1kg入りのハチミツのビン
が100個ほど転がっている。
ハチミツ以外に100匹ほどのハチの子がいた。もちろん死んでい
る。
これも後で調べるとして、ハチミツもハチの子もアイテムボックス
に全部入れる。
キラービーナイトはシルバードと同じぐらいの大きさの魔結晶を残
した。質は落ちるけど、ユーロンド達と遜色ないゴーレムが作れそ
うだな。数は20個あるのでこれで余裕が出来た。
今日は夕方で帰れそうだな。魔結晶が短時間で効率的に集まった。
キラービーナイトの通常ドロップアイテムは﹃キラービーナイトの
甲殻﹄が14個だった。これは高値で取引される・・・ナイフに加
工すると、甲殻のクセに粘りがあって折れにくくしかも錆びないっ
805
て言う理想的なナイフだった。重さがないので投げナイフには向い
ていない。
レアドロップは﹃キラービーナイトの槍﹄が6本。
長さは1mほどなので投げ槍用だな。白くて骨製みたいだが軽くな
くて鑑識で調べたら元はロードクイーンの毒針だった。これが抜け
落ちてキラービーに渡されるとキラービーナイトに進化するらしい。
元は毒針なのに毒はもう入っていないので槍に毒の効果はないみた
いだった。
ロードクイーンはシルバードの魔結晶より少し大きい、質もかなり
良いのが3つだった。
魔結晶が溜まってうれしくなる。
ロードクイーンのドロップアイテムは頑丈そうな﹃エストック﹄だ
った。
鑑識で調べてみる。
刺殺剣﹃ロードクイーンのエストック﹄
所有者 早乙女真一
キラービーの女王蜂の亜種﹃ロードクイーン﹄の針で出来た刺殺用
に特化した剣﹃エストック﹄
刀身に神経毒を纏っているので、刺さらなくても刀身に傷つけられ
るだけで毒は注入される。
刀身100cm全長119cm。鞘は頑丈な鋼鉄製で打撃武器とし
ても使用可能。
刀身の先端は菱形の断面だが根元にいくと六角形の断面になってお
り非常に頑丈に出来ている。
ロードクイーンのレアドロップアイテムでダンジョンでしか捕れな
い。
806
意外と良さそうな武器だった。今は使う人がいないけど。
俺は使えるけどなって事で少し振り回してみた。
中々バランスも良くて振り回しやすい。
魔獣の特性なのかわからないが、全金属製のレイピアよりも柔軟性
があり物凄くしならせる事が出来る。
ドロップアイテムを拾い終わった嫁達が話しかけてくる。
﹁しん君、それどうしたの?﹂
﹁鑑識で調べたらロードクイーンのレアドロップアイテムだってさ。
キラービーの神経毒を刀身に常に纏ってるから、刀身には触れちゃ
ダメね﹂
﹁へー、しんちゃんちょっと私にも貸して﹂
﹁ああ、いいぞ。これはエストックという刺殺用武器だけど、柔軟
性が異常なほど強いからレイピアとしても使えるタイプだな。ミー
は槍だけじゃなくてレイピアにも才能があるから、ミーが使えばい
いよ。俺は天乃村正があるし﹂
﹁そういえばミーって小さい時は教会の聖騎士団でレイピアを習っ
てて、昔の団長さんにレイピアも才能があるって言われてたよね?﹂
﹁ミーさん凄いですね。私は杖術以外はまるで才能がないって言わ
れました﹂
ミーがロードクイーンのエストックを振り回し始めたので、俺が体
のバランスのとり方・槍と足運びの違いなどをいくつか指導すると
すぐに技術を吸収していく。
﹁これで簡単な指導は終わりだな。ミーならすぐに使いこなせるよ。
これをサブ武器で腰にいつも帯剣する様にしたほうがいいな﹂
そういって俺は手に持ってた鞘をミーに渡す。腰に下げるベルトと
金具は俺がワイバーンの皮を使ってその場で作ってミーの左の腰に
807
装備させた。
うん。なかなか似合ってるな。
動かしてカチャカチャならないように森林モンキーの尻尾をコーテ
ィング剤代わりに使う。
鞘をワンタッチで外せるようにして、マインゴーシュの替わりに左
手で防御に使えるように、ミーに教える。
敵の攻撃を鞘を使っていなすやり方をミーに練習させて終了した。
その後は地下9階にいく。
地下9階は﹃バジリスク﹄3mほどのオオトカゲで蛇のように毒液
を噴霧して攻撃もしてくる。
毒霧は鉄や鋼を腐食させるがオーガ鋼には影響がなくなる。
バジリスクは単体で存在しなくて必ずペアで行動しているので厄介
な相手だ。
片一方を退治するとバーサク状態になり首を落とされるまで攻撃し
てくる面倒な相手でもある。
魔法が使えなければ厄介極まりない。
階段を降りてきて最初の部屋に入ると2匹のバジリスクが襲い掛か
ってきた。
ここでもクラリーナの魔法指導から入る。
﹁地下7階で言った﹃鱗系魔獣の弱点は氷魔法﹄の例外の1つがこ
のバジリスクだな。バジリスクは鱗に水の特性があって、氷・水魔
法はほぼ効果がない。逆にバジリスクの弱点は火魔法になる。バジ
リスクは防御力が高い分動きは鈍い。・・・まぁ魔法の的だな﹂
﹃炎槍﹄
バジリスクの腹の下から出てきた炎の槍によって串刺しにされた状
態で宙に浮かぶ。
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﹁このまま放置しておいても時間経過で死亡するけど、注意が必要
なのはここからだな。不用意に近づくと毒霧攻撃を喰らう。まあ喰
らっても空迅で無効化できるから慌てなければ大丈夫だな﹂
﹃ファイヤージャベリン﹄
炎で出来た投げ槍を脳天に突き刺して2匹とも絶命。戦闘を終了さ
せた。
次の部屋で4匹が襲ってきてクラリーナが応戦。慌てることなく何
度かの失敗をしてから退治してた。
俺とアイリとミーはこの階はほとんど何もしなかった。
俺はクラリーナに指導してただけだし、アイリとミーは後ろで見て
るだけだった。
地下10階のボス﹃サラマンダー﹄戦を前に地下9階で一度休憩を
することにした。
大きな方の休憩部屋に入りキャンピングバスをアイテムボックスか
ら取り出した。
トイレを交替で済ませて自分の専用シートに座って休憩。
おやつは俺が以前作ったウグイス餡のアンパンにした。緑茶とのコ
ンビが実に良い。
﹁こうやってキャンピングバスでトイレを済ませてシートに座って
休憩してると・・・俺達が今、ダンジョンの中にいるとはとうてい
思えないな﹂
﹁私もそれは思った。でも便利でいいわね﹂
﹁アイリと2人でアゼット迷宮に挑んでたときと凄く差があるよね。
トイレだけでも一苦労だったね﹂
﹁それは大変そうですね。お食事とかはどうされていたんですか?﹂
﹁休日に家で作り置きがほとんどね。だから今でも私のアイテムボ
ックスにはミーと当時作った弁当がたくさん入ってるわよ﹂
809
﹁ほう、それは俺も食べてみたいな﹂
﹁それは無理。焼いた肉とご飯だけの簡単でお粗末な料理とはいえ
ないモノなのよ。味付けも塩コショウのみ。あの当時に戻って﹃お
にぎり﹄を教えてあげたいよ﹂
﹁アイリの言いたい事が分かる。おにぎりは万能過ぎてヤバイよね。
手軽・便利・作りやすい。それに塩分も補給できるし、冒険者だけ
じゃなく労働する人の味方の料理って感じだよ﹂
﹁俺としてもビックリしたんだけどな。ここまで米文化が進んでい
て、丼物はあるのになぜおにぎりがないのかって﹂
﹁しん様の前にいた日本という国では﹃おにぎり﹄ってどんな位置
づけだったんですか?﹂
﹁どんな位置づけってことを説明するのは難しいけど、俺は釣りに
行く時とか車での移動の時とかによく食べてたな。自分でも家で作
って持って行ってたし。そういえば・・・俺がイーデスハリスの世
界に転生する何年か前に日本で﹃肉巻きおにぎり﹄ってのが一時期
流行ったな﹂
﹁なにその胃袋を活性化する魅惑的な名前の食べ物は﹂
﹁簡単極まりないよ。おにぎりに肉が巻いてあるだけだし。味付け
はタレにこだわっていたみたいだけどな。まぁ実際に食べた方が早
いな﹂
塩コショウと醤油と砂糖と日本酒で味付けした肉を塩おにぎりに巻
いただけの肉巻きおにぎりを、一つは紙に包んでミーに渡しもう一
つは自分でかじる。
﹁これはこれで美味しいけど、焼肉のタレがないとコクがでないな
ぁ﹂
かじってからクラリーナに渡す。アイリとミーは一口ずつ回し食い
してる。
810
﹁これは美味しいけど、﹃凄い!﹄って、感動するほどでもないね﹂
﹁ミーが言ったようにこれが流行ったのも似たような理由だろうな。
日本でも手軽に食べられてそこそこ美味しいって枠の料理だと思う
よ。1度食べればもういいかなって感じだったな﹂
﹁それ、わかりますね。それほど印象に残らないという味でした﹂
﹁そろそろ休憩は終わりにしてサラマンダー攻略しちゃいましょう
!﹂
アイリの一言でみんながキャンピングバスから降りる。
キャンピングバスをアイテムボックスに片付けてダンジョンアタッ
ク再開。
最短で地下10階のボス戦へ。
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サラマンダーの希少魔獣と対決・・・チョロかったっす。
アゼット迷宮の地下10階はボス部屋。
アゼット迷宮は5階おきにボスの階層があり、ボスの階層はボスの
部屋・控え部屋兼転送部屋・下へと続く階段の部屋しかない。
俺達は控え部屋で待っていた。
ボス部屋は使用中は違うチームは入れない。
前のチームの絶叫がここまで聞こえるのでアイリに質問してみた。
﹁なぁアイリ、サラマンダーって3∼8匹出てくるボスなんだよな
?﹂
﹁そうだよ。それがどうかした?﹂
﹁明らかに19匹の気配があって、デカイ魔力反応があるんだよ。
サイラスの希少魔獣以上の魔力反応が1つ、サイラスの希少魔獣並
みの魔力反応が3つ、通常のサラマンダーの魔力反応が15って所
だ。これは今入ってるチームが10人以上いたんだけど・・・あ、
もう全滅した﹂
﹁なにそれ、サラマンダーの希少魔獣が出てるって事なの?﹂
﹁ああミー、それしか考えられない。今、音がしたから部屋の鍵が
空いたけど・・・ちょっと待ってくれ、鑑識で調べるよ﹂
ガチャリと音がして部屋の鍵が開いたが、座っていた腰を浮かせか
けた嫁達を引き止める。
﹁完全に希少魔獣がいるな。サラマンダーが15匹。サラマンダー
の上位種﹃サラマンディスト﹄が3匹。サラマンダーの希少魔獣﹃
サラマンディストロード﹄は1匹だ。これは作戦会議と魔法の練習
812
が必要だな﹂
﹁作戦会議はわかりますけど、私は何の魔法の練習をするのでしょ
うか?﹂
﹁クラリーナ、今教えるよ。防御は俺に考えがあるから、今回は3
人とも攻撃重視でいい。クラリーナに使って欲しいのはこれだな﹂
﹃氷弾炸裂﹄
俺が打ち出した魔法の氷の弾が途中で破裂した。
﹁氷魔法の﹃氷弾﹄を敵に当たった時に、敵の体内で破裂させて傷
口を広げる魔法だな。サラマンダーには氷魔法が効果が高いからこ
の魔法が劇的に効く。これを両手で撃ちまくれ。今から自分で納得
いくまで練習しよう﹂
クラリーナが魔法を撃ちまくってバンバン炸裂させてる。俺がクラ
リーナにアドバイスをしているとアイリが話しかけてくる。
﹁ねぇしん君、防御がいらないってどういうことなの?﹂
﹁ああ、説明より呼んだ方が早い﹃召喚する。精霊ウンディーネ、
来い!﹄﹂
﹁早乙女様、召喚ありがとうございます﹂
﹁水の精霊ウンディーネを防御専門に使うから防御がいらないって
いう意味なんだ﹂
ウンディーネが隣のボス部屋のほうを見て俺の真意に気付き応えて
くれる。
﹁了解いたしました。たかが火の精霊の眷属ごときに皆様の産毛1
本たりとも傷付けさせませぬ﹂
﹃水精霊乱舞﹄﹃水聖の加護﹄
ウンディーネが精霊魔法を唱えると俺達全員の周りに直径1cmほ
どの水の精霊が何百もの数でフワフワと漂い始めた。
俺達の体も薄い水魔法の膜に覆われる。
813
﹁みんなサラマンダーは火魔法の攻撃がほとんどだから防御はウン
ディーネに任せよう。アイリはクラリーナへ繰り出されたサラマン
ダーの槍攻撃だけ防御するだけでいい。クラリーナはアイリの後ろ
にいて氷弾炸裂を撃ちまくってくれ。ウンディーネはクラリーナの
後ろでチームの全体防御を。俺とミーは全力で突撃だな。クラリー
ナの練習も終わったし俺が今からクラリーナに魔力補充をしてから
行くぞ!﹂
練習を終えたクラリーナの額に手を当て減った魔力をMAXまで補
充して隣の部屋に入る。
先程まで戦っていたチームの残骸があちこちに散らばっている。
今回はクラリーナのような奇跡はもうない。
俺の魔力探査にも気配探査にも死体しか出ない。
入ってきた俺達の姿を見て大ボスの﹃サラマンディストロード﹄が
大声で叫び声を上げ、それに他のサラマンダーが応えたのが戦闘開
始の合図になった。
﹁ぐぎゃああああああ﹂
﹁くぎゅうううううう﹂
サラマンダーから次々放たれる火弾とファイヤージャベリン。
﹃聖水幕﹄
﹁ザコが、我にこの程度の攻撃が通じると思ってか﹂
ウンディーネが展開した水魔法の薄いカーテンに当たった火魔法が
消滅していく。
精霊同士のいがみ合いって本当なんだな。
サラマンダー相手にウンディーネが精霊魔法を連発して本気で俺達
814
の産毛1本も燃やさせないつもりなんだろう。
﹁よし! みんな行くぞ!﹂
俺は天乃村正を抜きそのまま駆け出す。
俺が右から行ったのでミーは手に持ったサイラスの槍に水の属性攻
撃の祝福をまとわせて左から突撃していく。
俺の天乃村正は水の属性を持っているのでサラマンダーの攻撃は全
て打ち消せる。
ミーも自身の持つ祝福﹃属性攻撃﹄で同じ効果を使用している。
サラマンダーの攻撃をかわすことなく打ち消しながら前進していく。
サラマンダーを殺すのもヒラリヒラリと天乃村正を一薙ぎするだけ
で消滅してしまうので楽勝だなこりゃ。
つーか・・・サラマンダーってどこか危険な病気にかかってるのか
な。
さっきから﹃くぎゅうううううう﹄ってあっちこっちで叫び過ぎで
うるさい。
・・・末期みたいだな。
サラマンダー全てを消滅させるのにかかった時間は1分かからなか
った。
ウンディーネも精霊界に帰還させる時は満足そうな顔で帰って行っ
た。・・・そこまで嫌いなんだな。
ドロップしたアイテム・魔石・魔結晶を拾っていく。
サラマンダーのかけらが10個。サラマンダーの雫が3個。
・・・相変わらずレアドロップ率がおかしい。
﹁サラマンダーの雫がこんな簡単に・・・﹂
と、ミーがボソッと呟いてアイリが絶句していてる。
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2人ともサラマンダーの雫でトラブルに巻き込まれていたからこの
アイテムには特別な感情が湧き上がってくるんだろうな。
けど、俺に言われてもな・・・文句はゴッデスに言ってくれ。天運
パワーがハンパないって事しか言えない。
魔石は真っ赤な色した火の魔石が10個だ。魔道コンロやお風呂の
湯沸しなどに使ってある。これは火の魔力しか蓄える事は出来ない
が火力は他の魔石に比べて数倍になり魔力効率も高い。
魔結晶は5個。アイリたちが昨日持ってきたミノタウロス亜種の魔
結晶とサイズも質も一緒ぐらいだな。
サラマンダーの上位種﹃サラマンディスト﹄の通常ドロップアイテ
ムが﹃サラマンディストの血﹄だった。
よくわからないアイテムだったので鑑識で調べる。
サラマンダーの血は武器や防具の加工時に数滴混ぜると火の属性を
持たせることが出来るみたいだな。
ただ昆虫系魔獣の甲殻の加工に使うと溶けてなくなるって注意書き
がある。
これが数滴でいいのか?。
どう見ても500ccのペットボトルの大きさの瓶が2本あるんで
すけど。
サラマンディストのレアドロップアイテムが1つ。赤い鱗の帽子が
1つ転がってる。
形がウエスタンハットなんだけど・・・鑑識で調べた。
鱗帽子﹃サラマンディストの帽子﹄
所有者 早乙女真一
サラマンダーの上位種﹃サラマンディスト﹄の鱗を使って作られた
帽子。
レアドロップアイテムで加工不可品。防具ではあるが防御力はない、
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装飾品の1種。
装備しなくても所持するだけで金運を少し上げる効果がある。
サイズは自動調整されるので誰にでもかぶれます。
ツッコミ所が満載な帽子だった。防具なのに装飾品? ・・・意味
がサッパリですね。
しかも効果が金運を少し上げるって・・・それだけかよ!
俺がブツブツ呟きだしたのでクラリーナが心配して声をかけてきた。
﹁しん様、どうかされたのですか?﹂
﹁これ、﹃サラマンディストの帽子﹄ってレアドロップ品なんだけ
ど帽子で防具なんだけど、防具なのに防御力がないんだよ。装飾品
の1種なんだって﹂
﹁なにそれ、しん君どういうことなの?﹂
﹁しんちゃん、何か特別な効果でもあるの?﹂
﹁ああ、装備しなくても持ってるだけで金運が少しだけあがるらし
い﹂
﹁・・・は? たったそれだけ?﹂
﹁そう。たったそれだけの効果しかないから、流石に絶句してしま
った。これはファッションだな﹂
流石に3人とも絶句してるな。俺と一緒の反応だ。
アイリがかろうじて俺に質問できただけだった。
﹁俺って金運も今更あがってもしょうがないから・・・誰かいる?﹂
﹁﹁・・・﹂﹂
﹁・・・誰も要らないなら私にください。もうすぐ弟の誕生日なの
でコレをプレゼントします﹂
﹁おおぅ、あの弟君が15歳になるのか。じゃあコレがあればこの
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先お金に困らなくなるだろうね。他人に見せるとトラブルを引き寄
せようなレアアイテムだから、誰にも見せない様にキツク言ってお
いたほうがいいよ﹂
そういいながら俺はクラリーナに渡す。あの大きな体の弟君なら似
合いそうなんだけど持ってるだけで効果があるんだからな。見せび
らかさない様にさせないと。
﹁はい。親にも見せないように言っておきます﹂
﹁それがいいな。ついでにコレもプレゼントであげよう﹂
そういって俺は先程地下8階で討伐して得たドロップアイテムのキ
ラービーナイトの甲殻で刀身20cmほどのナイフを作ってあげた。
ナイフのグリップと鞘は銀大熊の骨で加工したので金属が一切使わ
れていないナイフだ。
刀身が黒く刃の部分がちょうど蜂の黄色い縞模様が刃紋のように波
打っていてそれが美しい。
グリップと鞘は対照的に真っ白だ。
鞘には俺の天乃村正と同じように再生の魔法を施す。
最後の加工で聖騎士にふさわしいバラをあしらったスジ彫りの装飾
を鞘とグリップに施して、仕上げに刀身以外に魔糸溶解液でコーテ
ィングさせる。
﹁コレなら刃物の手入れが慣れない若いうちでも錆びる事が永久に
ないから護身用に最適だろう。聖騎士バスカトル家は弟君が引継ぎ、
今後盛り立てていかないといけないからな。クラリーナの親父さん
は弟に任せて早期に引退するだろう。代々続く聖騎士の家に相応し
い装飾をさせてもらったよ。弟君が結婚するころには刃物の扱いに
は慣れてるだろう、その時には妻にそして子供へとバスカトル家の
818
子孫代々受け継いでいけるナイフに仕上げたよ﹂
﹁わかりました。そういって弟に渡しますよ。こんなキレイなナイ
フは生まれで始めて見ました﹂
﹁確かにこれなら何百年も持つわね。しかも・・・聖騎士が持つの
に相応しい装飾が美しくて護身用には最適ね。聖騎士のフルプレー
トアーマーに良く似合うと思う﹂
﹁アイリの言うとおりね。こっちは綺麗で人に見せても大丈夫だか
ら・・・んー。見せびらかすのはやめたほうがいいかも。先輩とか
に見せたら意地汚いやつが寄ってきそうなほど美術品としても価値
が高そうだから﹂
﹁弟君がもうすぐ誕生日っていつなの?﹂
﹁明後日ですね。今日の夕方に弟に会いに行ってきます﹂
﹁今日の帰りにでもキャンピングバスで寄っていこう。さぁ、残っ
てるアイテム・魔石・魔結晶を拾って帰ろう﹂
俺の声でみんながまた動き出す。
サラマンディストの魔結晶が3つ。これはキラービーのロードクイ
ーンと同じ大きさで質がちょっと落ちるぐらいだ。魔結晶の中の色
が少し赤っぽいが普通属性の魔結晶だった。
サラマンディストロードの巨大な魔結晶が2つ。サイラスの希少魔
獣と同じ大きさで質も同程度。
これも中が薄っすら赤いが火の属性の魔結晶ではない。
サラマンディストロードは魔水晶も2つ持っていた。
希少魔獣の力の源だろう。膨大な魔力はここから出てたみたいだな。
最後のドロップアイテムがサラマンディストロードのものだ。鑑識
で見たほうが早い。
召喚本﹃火精霊の召喚本﹄
819
所有者 早乙女真一
装備して使用すると火の下級精霊を呼び出すことの出来る精霊魔法
の召喚本。
呼び出すことが可能な精霊の数は装備者の魔力に依存するが魔力そ
のものは必要としない。
召喚魔法・精霊魔法の素質がなくても魔力を持つ者は誰もが火精霊
が召喚できる装備武器。
﹁これは火精霊の召喚本だな・・・先程ウンディーネが使った精霊
魔法﹃水精霊乱舞﹄の火精霊バージョンが誰でも使える﹂
﹁私でも使えちゃうの?﹂
﹁ああ、そんなに興奮しなくてもミーでもアイリでも使えるよ。た
だ魔力が少ないから2人とも10ぐらいしか召喚できないと思う﹂
﹁それでもいい! 一度だけでも使ってみたい!!﹂
﹁私も一緒。ミーも私も魔法って使った事がないんだから﹂
2人に渡すと2人とも何度か火精霊を呼び出して自分の思うように
動きまわらせて満足して、俺に本を渡してきた。
﹁うーん。俺は必要ないんだよな。俺がいないときの予備でクラリ
ーナが持っていて﹂
﹁え? 私が予備としてですか?﹂
﹁精霊魔法って攻撃には一切使えないんだよね。だけど魔力は精霊
が持ってる魔力を使うから魔力が尽きそうな時でもこれは使えるん
だ。しかも精霊魔法って呼び出されている間は術者に魔力を補給し
続けるから、俺がいないときにクラリーナが魔力が尽きそうになっ
たらコレを装備して、火精霊を呼び出してる限り通常の何倍かの速
度で魔力が回復する。これはクラリーナの予備のエネルギー源って
考えればいいよ﹂
﹁いいんでしょうか。今回は私ばっかり貰っている様な・・・﹂
﹁いいわよ。これはクラリーナに必要なもので私に必要なものでは
820
ないし。私は1回だけ魔法が使いたかっただけだから﹂
﹁私もアイリと一緒ね。1度使って満足したから。またそのうちに
魔法で遊びたくなったら貸してね?﹂
﹁それはもちろん! ありがとうございます﹂
﹁あ、その時は私も貸して欲しいわね。クラリーナお願いね﹂
﹁もちろんですよアイリさん﹂
﹁さぁ、話はまとまったしそろそろ帰るとしようぜ。・・・でもこ
れはどうする?﹂
俺が指差した先にあるのは俺達がボス部屋に入る前に全滅したチー
ムの装備品の残骸と炭化した死体、それに残っているステータスカ
ードが12枚だった。
﹁ギルド出張所に全部持って行って丸投げでいいんじゃない?﹂
﹁私は皆さんに従います﹂
﹁私も今回はしん君に任せるわ﹂
﹁それじゃあ、ギルドに届けるとしますか。細かいところまで捜す
時間がもったいないから魔法で一気に集めるよ﹂
俺は鑑識魔法を展開させてボス部屋にあるもの全てをアイテムボッ
クスにまとめて入れた。
砂とか石とかも入ってるけどもういいや。
それから奥の階段の部屋に入り、地下11階に下りてすぐの転送部
屋の中に入り、アゼット迷宮入り口階段横の転送部屋に帰還する。
ダンジョンの外はまだ夕方4時前なので明るいし、アゼットダンジ
ョン入り口から少し離れたところにある冒険者ギルド出張所の前に
も人は誰もいなかった。
土手来る人はほとんどいなくて今からダンジョンに夜間の狩りにい
く人の方が多いぐらいだ。
ギルド出張所にいた職員と警備員は以前、クラリーナを救助した時
821
の職員と警備員だったので俺達とクラリーナの顔を見てビックリし
ていた。クラリーナが御礼の挨拶をする。
﹁こんにちわ。以前はお世話になりました。太陽神アマテラス様の
お導きで命の恩人にお礼を言う事が出来ました。ついでに結婚もさ
せていただきました。お2人のおかげです、ありがとうございまし
た﹂
﹁それは良かったですね、お嬢さん。それ本日の御用は・・・﹂
﹁今回はボス部屋だったので間に合わなくてステータスカードと遺
品のみですね﹂
俺はそう言って12枚のステータスカードと装備品の残骸と、もは
や黒炭でしかない炭化した死体を職員の前に並べる。俺のギルドカ
ードも見せた。
﹁これはすごい残骸ですね。確認しました。ありがとうございます。
後はこちらで処理いたしますので﹂
そういって確認し終えた俺の冒険者ギルドカードを返してくれた。
出張所のギルド職員もラザニードの教育が終わってるみたいだな。
余計な事は一切言わずに何も言わないで終わらせてくれた。
皆で大森林の中に入って見えなくなる位置まで来たら、転送魔法で
セバスチャンとマリアを迎えにいく。
822
ゴーレム製造・・・いっぺんに作りすぎっすか?︵前書き︶
8・12修正しました。
823
ゴーレム製造・・・いっぺんに作りすぎっすか?
セバスチャンとマリアは既に待ち合わせ場所で待機していた。
緊急の連絡はなかったようなので、報告は後回しにして皆でそのま
まニャックスの巣に転移した。
ここでもるびのは既に待ち合わせ場所で待って、ニャックスたちと
楽しそうに話していた。
ニャックスたちに礼を言ってから早乙女邸のるびのの外部屋に全員
で転移する。
るびのの世話をセバスチャンとマリアの二人に頼んで俺達夫婦はア
ゼット迷宮付近のヨークルの外門近くに転移した。
街道に出て安全を確かめてからキャンピングバスをアイテムボック
スから取り出して全員で乗り込み発車させる。
ヨークルの外門から入ってそのままクラリーナの実家にキャンピン
グバスを走らせた。
実家にたどり着くとクラリーナだけがキャンピングバスを降りて家
の中に入っていった。
俺達はそのままキャンピングバスの中で待機する。
クラリーナが弟君を伴ってキャンピングバスに入ってくる。
﹁しん様、弟がどうしてもお礼が言いたいって聞かなくて﹂
﹁早乙女さん、こんな綺麗なナイフと帽子をありがとうございます。
この度正式に聖騎士団への入団が決定して、誕生日の翌日・・・明
々後日ですね。明々後日から聖騎士団の訓練所に通うことになりま
824
した。このナイフを見て今後は精進していきますので、今後ともよ
ろしくお願いします﹂
綺麗な姿勢で頭を下げる弟君。アマテラスの言葉通りまともな人間
だな。
ホントに聖騎士団の団長クラスになりそうだ。弟君の今のこの気持
ちを永遠に忘れて欲しくないな。
﹁君に贈った今回のプレゼントは2つ。どちらのモノもこれから君
を守ってくれるだろう。それを正しく使って君は誰かを守ってくれ。
そのナイフの鞘には﹃再生﹄の魔法を俺が込めておいた。だからそ
のナイフを使って誰か大事な人や君自身の命を守ろうとする時には
一切躊躇することなく使用してくれ。例え刃が欠けようと根元から
折れようと鞘に戻せば元通りになる。俺が﹃バスカトル家﹄という
代々続く聖騎士ために作ったんだ。﹃聖騎士・バスカトル家・再生﹄
この3つの言葉の真意を君への誕生日プレゼントとして我々夫婦か
ら贈らせてもらうよ﹂
﹁・・・皆様、ありがとうございます。この美しいナイフを我が家
の守り神として代々伝えていきます﹂
﹁それとそのナイフは手入れが一切必要ない。切れ味が落ちても鞘
に戻せば元通りになるから﹂
﹁刃物の扱いの慣れない私のために、ワザワザありがとうございま
す﹂
それではと、全員で弟君と握手を交わしてクラリーナの実家を後に
して、キャンピングバスを早乙女邸に向かって走らせた。
いつものように人が歩くよりは早いぐらいの時速10kmほどでヨ
ークルの街中をキャンピングバスで走っているとクラリーナが話し
かけてきた。
825
﹁しん様ありがとうございます。私の弟や実家の行く末まで案じて
いただいて﹂
﹁そこまで思っての事ではないよ。ただクラリーナの弟君はアマテ
ラス様が﹃聖騎士団の団長にもなれる器の持ち主だ﹄って言ってた
からね。聖騎士団に入る前にビシッと気合を注入させてもらった﹂
﹁馬鹿ねぇ、しんちゃん。クラリーナにはそれが一番ありがたいと
思うよ﹂
﹁そうなんです。ミーさんの言うとおりです。しん様が弟にかけた
言葉﹃聖騎士・バスカトル家・再生﹄この言葉が1番の誕生日プレ
ゼントだと思っています。弟もそれに気付いてくれるはずです﹂
﹁そうよね。あの弟君ならしん君が言うようにアマテラス様が気に
入りそうな真面目で実直な男かもね。今の若い内に精神的にも逞し
くなれば出世は早そうね﹂
﹁アマテラス様も同じような事言ってたよ。弟君はクラリーナの事
件を乗り越えて精神的にも肉体的にも逞しく成長するって。だから
俺達は後は見守るだけだな﹂
﹁そうですね。見守って弟が道を踏み外しそうになったら蹴飛ばし
ちゃいましょう!﹂
﹁おー、クラリーナの怖いお姉ちゃん宣言﹂
﹁アイリさんヒドイです﹂
キャンピングバス内に笑い声が響く。
そのままキャンピングバスを早乙女邸に乗り入れガレージの中で停
車させた。
時間が中途半端に余った。キャンピングバスを降りながら皆に尋ね
た。
﹁17時かぁ、中途半端に時間が余っちゃったな。皆はしたい事は
ある?﹂
﹁しんちゃん、ガレージだし私はこのまま地下練習場にいくよ。師
匠ゴーレムとレイピアの練習をしてくる﹂
826
﹁私も一緒に訓練していくわね。師匠ゴーレムにシールダーの勉強
をさせてもらう﹂
﹁それなら私も同行します。杖術のおさらいをしたかったので﹂
﹁ミー、ロングソードの師匠ゴーレムにはレイピアの技術も入って
るから、それに訓練してもらえばいい。・・・それじゃあ俺も地下
練習場でゴーレムでも作ろう。晩ご飯はセバスチャンたちにお願い
しとくから、皆は先に行ってて﹂
嫁達はガレージから直接地下練習場に降りていった。俺はセバスチ
ャンに念輪の回線を開く。
﹁早乙女だ。セバスチャン聞こえるか?﹂
﹁聞こえておりますご主人様﹂
﹁今日の晩ご飯を作っておいてくれ。メニューはお任せだ﹂
﹁了解しました﹂
セバスチャンの回路を切って、今度はマリアに繋げる。
﹁早乙女だ。マリアは聞こえてるか?﹂
﹁マリアです。ご主人様聞こえています﹂
﹁マリアはキャンピングバスの清掃をしておいてくれ。タイヤの石
取りも頼む﹂
﹁了解です﹂
マリアとの念輪の回線も切って俺もガレージから地下練習場に続く
階段を下りていく。
地下練習場では師匠ゴーレムがロングソードをレイピアのように使
ってミーの練習相手になっていた。
杖術の師匠ゴーレムはクラリーナの足運びを指摘して指導中。
アイリは魔獣ゴーレムの猛撃をひたすら受け流す練習をしていた。
盾職の師匠ゴーレムがアイリに自分で気付けない部分を客観的に見
てもらってアドバイスを受けてる。
827
俺は空いてる部分で材料をアイテムボックスから取り出してユーロ
ンド隊の4∼10号の7体を作り上げる。
早乙女邸が3体。倉庫が5体。店舗&事務所が2体で何とかなるか
なっていう計算だ。
建物や敷地面積を考えると妥当かなって感じだな。
倉庫は広さはあるが中に何もないがらんどう状態だからな。5体は
予備も込みだな。
店舗の方はホワイトたちが常駐するし事務所側の防衛と店舗防衛予
備だな。
まずはおやっさんが作ったユーロンドたちの原型の鎧から先に作る。
﹃防具製造﹄
スキル魔法を展開させて基本がオーガ鋼のフルプレートアーマーで
全く同じ形の物を7体作る。
外骨格型のゴーレムで中身は森林モンキーの尻尾が詰まってて森林
モンキーの尻尾を動かして鎧が動く。
頭脳は今日退治したキラービーナイトからドロップした魔結晶7個
に小さなクズの魔結晶を2個ずつ入れておく。
﹃ゴーレム製造﹄
いつものようにハード部分から作り上げていく。ユーロンド達と同
じように表面はミスリルコーティング処理をしておく。
ソフトの基本で騎士や剣士の知識や経験を入れて、サブの魔結晶に
武器の技と魔法を封入していく。
ヒール・ショック・スリープなどの簡易的な攻撃の魔法が中心だ。
武器は相変わらずに悩む。拠点防御用なので刃物よりは打撃系のほ
うが怪我は手加減できる。
不法侵入ぐらいで殺したり重症を負わせたりすれば厄介な事になり
828
そうだしな。
1号はシールダー。2号は双鞭。3号は棍。
ここで一時的にユーロンド1∼3号も地下練習場にきてもらう。
少し手直しもしたかったしな。
それで今回は4号∼10号になるんだけど・・・ホントに悩むな。
とりあえず4号はトンファーにした。防御力はシールダーに近いか
らな。
5号は悩んで万力鎖にした。攻撃よりも捕獲が優先だからな。ただ
し分銅の間の鎖は森林モンキーの尻尾を編んで作ったので、伸び縮
みしちゃうんで正確には鎖じゃないんだけど・・・まぁいいか。
6号からは繰り返させた。
1号6号がシールダー。2号7号が双鞭。3号8号が棍。4号9号
がトンファー。5号10号が万力鎖。で決定した。
見た目が全く一緒になってしまったので1∼5号は肩に1本線、6
∼10号は2本線の階級章みたいな白いラインをつけた。コレでわ
かりやすくなったかな。
わかりやすくなったところでユーロンド1∼3号には早乙女邸内の
防衛任務に戻ってもらう。
サクッと武器とそれに伴うスキルを封入してゴーレムを起動させる。
名前を付けて完了。
今作ってて気付いたんだが倉庫だと建物がデカ過ぎで屋根の防御力
が低いな。
ユーロンド達は重さがあって屋根の上の立ち回りは難しい。
・・・こっちもゴーレムを作るか。
屋根専用だから重力は軽くしないとな。魔法で軽量化するか・・・
空を飛ばすか。
829
そういえばワイバーンの骨や皮、翼もあるし・・・ワイバーンタイ
プで1mほどの大きさ。
骨格はワイバーンの骨を圧縮してミスリルでコーティング。
筋肉は定番の森林モンキーの尻尾。皮膚はそのままワイバーンでい
いな。
魔結晶はユーロンド達と一緒にして、このゴーレムには格闘はいら
ないな。忍術を入れておく。
武器はない。ミノムシにするためにヒモで縛るだけだな。翼は付い
てるが羽ばたく事もなく飛翔魔法で無音で飛び回る。
魔法はショック・スリープがあればいいな。無手格闘術さえあれば
いい。
忍術スキルの気配探査と魔力探査は必須だな。
﹃ゴーレム製造﹄
スキル魔法で尻尾まで含めた全長が1mぐらいのワイバーンを可愛
らしくデフォルメしたゴーレムを3体作る。
先程考えたスキルと魔法を封入して終わり。
にん
ゴーレムを始動させて名前をつける・・・色も真っ黒にしたので﹃
忍﹄3体で1号2号3号にした。
この3体も見た目が全く一緒だから見分けが付かなかったので、肩
に階級章ラインを1号が1本。2号が2本。3号が3本にした。ラ
インの色はこげ茶色なので見難いが、しょせんは忍だからな・・・
目立ってどうする?
コレで完成した。
明日にでもまた商業ギルドに行ってユーロンドたちを追加で登録し
てこないとな。
・・・今から行ってくるか。
﹁訓練中に悪いけど皆聞いてくれ。ユーロンド達が完成したから、
830
今から商業ギルドに行ってゴーレムの追加登録してくるよ。すぐ終
わると思うから皆はそのまま訓練を続けててくれ﹂
そういって俺はゴーレム10体をアイテムボックスに入れて、その
まま冒険者ギルドの裏庭の木陰に転移。
いい場所見つけたな。
ここなら人に見られないし、転移でヨークルの中心街の真ん中付近
に出られる。
そのまま裏口からでて、商業ギルドに向かう。
商業ギルドに入り会議室を借りてゴーレムの登録を行い、帰ろうと
したときに商業ギルド職員に停められた。
おくからリーチェが走ってきた。
今日渡しておくのを忘れていた﹃店舗の会計用の商業ギルドカード
付きの魔水晶﹄と魔水晶の金額設定のマニュアルだった。
そういえば、コレがないと会計できないことに今気付いたよ。
完璧に忘れていた。
・・・リーチェも忘れていたらしい。
俺が日が沈むまでにギルドに来なかったら、リーチェが家にまで届
けようとしていたみたいだった。
用が済んだので商業ギルドを出て、また冒険者ギルドの裏庭から自
宅に転移で戻る。
脇目もふらずに一直線。目的だけ達したら即帰宅。俺っぽくないな。
自宅のガレージに転移魔法で帰って来て自分の全身にいつもの3点
セット魔法で浄化する。
地下練習場にいくとみんながちょうど訓練を終えてシャワー室に向
かうところだった。
831
﹁みんな練習終わったの?﹂
﹁はい。今一区切り付いたので終了しました。今からみんなでシャ
ワーを浴びてきます。しん様、何かありましたか?﹂
﹁別に何もなかったよ。じゃあごゆっくり。俺はるびのと話でもし
てくるよ﹂
今地下へと降りてきたばかりだけど、そのまままたガレージに上が
って行った。
832
るびのの部屋改造計画が発動したっす。︵前書き︶
8・12修正しました。
833
るびのの部屋改造計画が発動したっす。
ガレージへと戻り一度外に出る。
庭には既にマリアが大森林からもって帰ってきた様々な木が植えら
れていた。
庭に出てから気配と魔力を探ってみたが、今日は一日ストーカーも
遠見魔法を使ってくるヤツラもいない。
登録してきたばかりのゴーレムを全部アイテムボックスから取り出
す。
ユーロンドたちも呼び寄せ全員にスキル﹃アイテムボックス︵小︶﹄
を封入した。
ミノムシ捕縛用に森林モンキーの皮をより合せて作った頑丈なロー
プを大量に製造して全員のアイテムボックスに入れておく。
・・・ロープが特別製過ぎて足がつきそうだな。
ミノムシに今まで使っていたロープは数多く退治してきた盗賊たち
や迷賊たちが持っていたものだ。
コレならまだまだ大量に残っているので、こちらを優先して使える
ようにゴーレム全員に大量に渡しておく。
とりあえずは全員をまた俺のアイテムボックスに入れて片付ける。
裏庭に回りるびのの外部屋に入っていく。
るびのは超巨大なクッションの上でまどろんでいた。先に風呂に入
って眠くなってしまったようだ。
﹁よう、るびの。眠そうだな﹂
﹁ああ、とうちゃん。先にお風呂に入ったら眠くなっちゃって。そ
834
ういえばオレのアイテムボックスにあるワイバーンの死体がいらな
いから、とうちゃんに渡しておかないと﹂
﹁いちいち出さなくてもいいぞ。もらっておくよ﹂
そう言ってるびのの腕輪に触れると大量のワイバーンの素材があっ
た。5頭以上あるな。
凄い量のワイバーンの素材をオレのアイテムボックスに移動させる。
るびのの腕輪は俺のスキルで作ったものだし、アイテムボックスの
スキルは俺が封入したから俺のアイテムボックスに繋がっているの
で俺がステータスオープンさせて移動するだけで終わる。
﹁るびの、何でこんなにワイバーンの素材があるんだ? ・・・半
分以上の内臓だけがない? って、ニャックス達とワイバーン狩り
にでも行ったのか?﹂
﹁うん。ニャックスさん達が﹃トカゲ連中は1年に数回卵を産むか
ら定期的に狩らないと増え過ぎるから注意しろ﹄って生まれ変わる
前のオレが言ってたという言い伝えがあるんだって。100以上の
炎虎さん達が集まって言ってきたから、だからオレと狩りにいくな
ら一緒にワイバーン狩りがしたかったんだって聞いた﹂
﹁そういうことだったんだな。ワイバーンの強力な繁殖力をコント
ロールしてたのは炎虎達だったのか﹂
﹁うん。オレはそう聞いた。この大陸のウェルヅ山脈中央の山岳地
帯は炎虎さん達の担当で、ウェルヅ山脈南側の大森林の山岳地帯の
担当が﹃森林タイガー﹄さん達。ウェルヅ山脈北側の巨大山岳地帯
が﹃グリフォン﹄さん達の担当だって、今日ニャックスさんに教え
てもらったよ﹂
﹁それはオレも知らない情報だったな。るびのありがとう﹂
﹁うん。・・・とうちゃんが聞きに来たのは明日の予定だよね?﹂
﹁明日はどこに行きたいとかあるか?﹂
﹁ガウリスクさん達と大草原西側の馬を狩りに行きたい!﹂
835
﹁よしわかった﹂
﹁明日じゃなくていいから、今度とうちゃん達と一緒にダンジョン
にも行ってみたい!﹂
﹁そうだな。るびのと狩りをしたことないからな。一緒に行くのも
楽しくなりそうだな。でも・・・ダンジョンに出てくる魔獣は食べ
られないぞ?﹂
﹁そういえば、マリアねーさんが言ってた。でも、かあさん達とも
狩りがしたいな﹂
﹁そうだな・・・わかった。聞いといてやるよ。それとるびのに聞
きたいけど、ここの外部屋って狭くない?﹂
﹁今は広いよ。でも、今日ニャックスさん達と話してて俺は聖獣だ
から自由に大きさが変わるんだって。子供の頃の様に小さくなるこ
とも、20mぐらいの大きさになることも出来るんだって。それで・
・・今は頑張ってみたけど大きさが変えられなかった﹂
﹁それは急がなくてもいいだろう。成長していけば出来るようにな
るさ﹂
ショボーンとするるびのの頭を撫でながら慰める。
・・・って、るびのに聞きたい事があったけど忘れてたな。
﹁るびのに聞きたい事があったのを忘れていたよ。こっちに黒くて
大きな建物があるだろ? この建物と土地をとうちゃん達が買った
から、今日からみんなのモノになったんだ。それで大き過ぎて場所
が余ってるから、あの建物の半分をるびのの部屋にしようと考えて
る﹂
﹁おー、でっかくなるね﹂
﹁ああ、るびのが大きくなるってアキューブに聞いていたからな。
それでここの部屋を﹃巨大な露天風呂﹄にしようと考えてる。ここ
からだとドア1枚で浴室と繋がってるからな。今まではるびのが風
呂に行くときのドアが露天風呂へのドアになる﹂
836
﹁とうちゃん、露天風呂ってとうちゃんの知識にある、お外のお風
呂?﹂
﹁ああ、そうだ。大きな露天風呂にすれば大きくなったるびのも入
りやすくなるからな﹂
﹁どんぐらいの大きさにするの?﹂
﹁この部屋からはみ出す予定だよ・・・まぁ、作ったほうが早いな。
ちょっと待っててくれ。みんなに話を・・・﹂
ちょうど嫁達がるびのの外部屋にやってきたところだった。
タイミングが良かったのでみんなに説明する。
﹁しんちゃん、そろそろ晩ご飯の時間なんだけど﹂
﹁おお、皆ちょうど良いよ。今から隣の倉庫を改造してるびのの部
屋にして、ここを露天風呂にしようと思っていたんだ﹂
﹁自宅に露天風呂を作っちゃうんですか?﹂
﹁ああクラリーナ。露天風呂の方がるびのが大きくなっても入りや
すくなるからな。隣の倉庫は﹃出資者の特典﹄として2億Gの出資
金の利子で早乙女商会から借りるって形にした方が税金対策になる
そうだしな。さっき、ゴーレムを登録してきた時に商業ギルドでリ
ーチェに聞いてきたから間違ってない﹂
これは先程、商業ギルドにゴーレムを登録しに行ったときにリーチ
ェに教えてもらった。
早乙女商会が俺達夫婦に2億Gの借金があるって形にした方が店舗
が軌道に乗っても税金を払わなくて済むらしい。
それで利子の返済の一環で俺は倉庫を自由に使えるし改造も自由自
在になるからお勧めだと言われた。
元本の返済は店に儲けが出てきて安定してから。
るびのの外部屋を先に改造をする。
837
クッションやるびのの食事用の桶などをアイテムボックスの中に入
れて、逆に魔石を取り出して探査魔法を使い温泉脈を捜す。
大きめの温泉脈が見つかったので、今度は露天風呂の作成。
広く大きな穴を掘り半分は屋根の下、半分は外にはみ出させる。穴
の縁を大きめの石で取りむと露天風呂っぽくなったな。
風呂の中にもいくつか座れるような石を入れて、底はあまり凸凹さ
せないようにして石を平らにしてから並べて石の隙間は小さな石と
砂を固定化魔法で固めて・・・早乙女邸露天風呂の完成だ。
3点セット魔法で風呂の中を浄化してから、先程探り当てた温泉を
出してみた。
鑑識の魔法で調べたがこっちの温泉脈も温度が60℃以上あったの
で、ここにも水を混ぜるようにした。
この温泉脈も湯量が豊富なのでかけ流しが出来る。
水の混ぜ具合を変えて、中央と左右の3箇所から出る温泉の温度を
ワザと変化させる。
43℃・39℃・37℃にしたから自分の好きな場所に入って、場
所を変えて温度の違いを楽しめるように設定。
風呂は出来たな。後は環境の設定だ。
露天風呂の屋根の縁に結界用の魔石をつけて風呂に雨・埃・砂など
が入ってこないようにした。
露天風呂の周りの空間にも結界を張り温度や湿度をコントロールで
きるように設定。
コレでサウナも楽しめそうだ。
建物の周りの木材も傷まないように結界を張る。
居間との出入り口はふさいだ。お風呂からの出口とルビの用で外か
らだな。
﹁よし。これで早乙女邸の露天風呂が完成したよ﹂
﹁るびのの部屋はどうするの?﹂
838
﹁ああアイリ、晩ご飯の後に作るよ﹂
﹁じゃあ今から晩ご飯にいこう﹂
ミーの声でみんなが移動し始めた。今夜はるびのも食堂で食べる事
にさせた。
今夜の晩ご飯のメニューは・・・ワイバーンの内臓の﹃モツ煮﹄だ
った。そういえばセバスチャンにワイバーンの内臓の食べ方の研究
をさせていたな。
研究の成果が今日のモツ煮料理なんだろう。
ワイバーンの内臓にビールを使って料理スキルの﹃浸け置き処理﹄
をすると、あれだけ固かったワイバーンの肉も柔らかくなってプル
プルになっていた。それを味噌ベースで甘辛く味付けされていて・・
・これは美味い。つまみでもいけるな。
﹁凄いなセバスチャン。流石だな。もしかしてワイバーンの肉もビ
ールでいけそうか?﹂
﹁試してみましたが、肉の方は無理でした。キャンピングバスのタ
イヤが森林モンキーの尻尾ぐらいの固さのゴムになる程度です。﹂
﹁どっちにしてもゴムか﹂
﹁食用は無理ですが﹃出汁﹄として肉の旨味が取り出して使えそう
です。出汁として使ってご主人様のおっしゃっていた﹃焼肉のタレ﹄
が出来そうですのでもうしばらくお待ちください﹂
﹁出汁でうまみを取り除き、残りのワイバーンの肉から繊維分を分
解したら別の使い道が出来そうだな・・・ありがとうセバスチャン﹂
﹁お褒めいただき光栄でございます﹂
そして食後は嫁達はリビングでマッタリして、俺はその間にるびの
の部屋を作ることに。
嫁の世話はマリアに任せてセバスチャンにも手伝ってもらう事にし
839
た。
840
早乙女邸の隣の倉庫を購入したらハリボテでしたっす。
早乙女邸の庭に出る。
るびのとセバスちゃんを連れて歩いていく。
アイテムボックスから忍1∼3号を取り出して倉庫の屋根の上に待
機させる。
忍の仕事は普段は彫像のように動かない。
シャチホコや鬼瓦のように守護神として屋根に停まっている。
忍には重力軽減魔法がかけてあるのでコレでも重さが1kgに満た
ない。
普段は下から見難い位置の屋根の上に張り付いてるので、屋根には
負担がかからないように軽くしてある。
バカが屋根に登ってきてから行動し始める。
忍の魔力は完全に消されてるし気配はそもそもゴーレムなので元々
薄いし、それすらも忍術スキルで完全に消されてる。
死角から近づいて、ショック魔法とスリープ魔法の同時使用で捕獲
してミノムシ作り。
後はそのまま近くの倉庫の屋根にぶら下げるだけ。
初めに今まで展開してあった結界を張り替える。
早乙女邸と倉庫を全部包むほど巨大な結界を作り、空中へ魔結晶を
浮かべて維持させる。
今までかけてあった結界を全て解除。
早乙女邸と倉庫の間にあった塀を全面取り外してアイテムボックス
に入れる。
今度は早乙女邸と倉庫の敷地を全部包み込むような外周部分に、石
製の塀をぐるりと取り囲み魔石付きのミスリル棒を、塀に一定の間
841
隔をあけて埋め込んで設置する。
早乙女邸と倉庫を包み込む巨大な塀と防衛結界が完成した。
倉庫の門は大きな正門だけ残して他は塀でふさいだ。
正門も早乙女邸と同じように土を重力魔法で限界まで圧縮させて固
めた石製だ。
早乙女邸と全く同じ魔法で処理してあり、俺達夫婦と俺が作ったゴ
ーレムだけが門を持つ時に1kgぐらいの重さにまで重量軽減され
るが、俺達以外の人や魔獣には10tほどの重さになってる。
ユーロンド4号∼8号までをアイテムボックスから取り出して、門
が2つに増えて敷地面積が3倍近くになったので新規の防衛体制を
組ませた。
2体は2つの正門を守らせる。それ以外の6体は敷地内を不定期で
巡回させる。
今までは早乙女邸の玄関も守らせていたが、ユーロンド達にあまり
必要氏がないので巡回させた方が良いと言われたので変更した。敷
地面積は今までの3倍近いからな。
巡回も時間とコースはパターン化しないように絶えず変化させるよ
うにした。
倉庫の外壁で早乙女邸に面してるところに魔法でくり貫き大きな穴
を開ける。
倉庫内に入ると少しカビ臭かったので、倉庫の内外全部を3点セッ
ト魔法で浄化させた。
俺・セバスチャン・るびので倉庫の穴から中に入っていく。
﹁うおー、とうちゃんでっけーって﹂
るびのが大騒ぎしてるが無理もない。倉庫の面積だけで早乙女邸の
842
敷地面積より大きいからな。
倉庫そのものの建物の構造が凄くいい加減に作ってあって中に入っ
てビックリした。
・・・これじゃあ、柱が邪魔で中に荷物が入れにくいし、大きな荷
物も無理だな。
せっかく10m以上の屋根の高さがあっても、全く生かしきれてい
ない。
ガルディア商会の持ってる外周部の倉庫の半分以下の大きさしかな
いのに、中身はさらに荷物が入れられない。
外観だけは他の倉庫と似てるだけのハリボテ倉庫だった。
映画のセットだと中身はこんな感じなのかなって考えてしまった。
これはコスト削減ってレベルじゃないヤッツケ臭が凄い建物だな。
﹁なぁ、セバスチャン。コレって倉庫としてどうなんだ?﹂
﹁あまりに酷い有様という言葉しか浮かんできませんね。倉庫とし
ての能力は﹃雨風をしのぐために屋根と壁がある﹂と表現した方が
よろしいかと﹂
﹁だよな。これは俺も想像以上だった。コレは倉庫としては販売で
きんからリーチェも安く売る事が出来たんだな。もしかしてリーチ
ェは知らない・・・まぁ知ってて売ってるのがホントのところだろ
う﹂
﹁ご主人様はコレをどうされますか?﹂
﹁全部つぶすよ。建物の外壁に穴を開けたので構造的にもあと1年
もたんだろう。夜に建て替えちゃえばいいだろう。外見が似てれば
誰も気付くまい﹂
俺はるびのとセバスチャンを連れて倉庫の外に出て忍1号∼3号を
そばで待機させる。
神の創り手のスキル魔法で倉庫を完全に解体する。
驚くほど金属と石材が少なく、大量にある木材の質もかなり低い。
843
まさしくハリボテ倉庫だな。
・・・今までよく持ってたなって逆に感心してしまいそうなほどだ
った。
ガルディア商会やその他の倉庫のように完全にレンガサイズの石製
にして組み上げていく。
見た目は今までと同じ黒い外観にする。
今までの倉庫は外側に薄い石が貼り付けてあるだけの木製の倉庫だ
ったので、完全に生まれかわってしまったが、ここはるびのの部屋
にするんだから一切の手抜きはしない。
早乙女邸側の外壁は幻影で壁があるように見えているが、風雨をし
のぐ結界が張ってあるだけのドアもない高さ3m横も3mの入り口
が空いた壁になった。
ここからるびのが自由に出入りできるようにしてある。
倉庫の中に仕切りの壁をいくつか作り、るびのの部屋は倉庫全体の
1/3ぐらいになった。
1/3でも今までのるびのの外部屋の5倍はゆうにある。
るびののクッションを出してやり、寝床を作らせる。
部屋の奥の隅には今まで住んでた外部屋と同様に結界が張ってあり、
ここがるびののトイレだ。
るびのが結界の外に出ると3点セット魔法がかかるように設定済み
になってる。
クッションの横には食事用のスペースがとってあり下はここだけ石
畳でも巨大でまっ平らになっていて5cmほど低く凹ませてある。
食事用の場所だからな・・・るびのは血まみれの肉や骨付きをバリ
バリ食ってるし。
3点セット魔法で洗い流しやすく浄化できるようにしてある。
そこの片隅に大きな桶で水が魔石によって溜めてあり、るびのの飲
844
み水用に常に清潔になってるように浄化されてる。
﹁さぁ今日からここがるびのの部屋だ。もう完成したからここで寝
ててもいいよ﹂
﹁とうちゃんありがとう。オレ、そろそろ眠くなってきたから今日
は寝るね﹂
﹁おう、じゃあ明日な。おやすみるびの﹂
﹁とうちゃん、おやすみなさい﹂
るびのにおやすみの挨拶をしてるびのは欠伸をしてクッションに乗
って眠る。
俺はすびのの部屋の外に出ていく。
まだ夜の8時前だし、今日はこのまま店舗のほうの改装も済ませて
おこう。
・・・倉庫がコレって事は店舗も凄いんだろうな。
忍1号と2号はそのまま倉庫の屋根の上に登らせて倉庫上空の防衛
任務に入る。
忍3号は回収してアイテムボックスに入れる。彼はこのまま店舗の
防衛に任務に入るからここにいても仕方がない。
店舗の上空に転移魔法で移動する。
セバスチャンは庭の木に木魔法で成長させるように指示したおいた。
店舗の周りを上空から気配探査と魔力探査で探ってストーカーや偵
察、遠見魔法の監視などを探ったけど何の反応もなかった。
安心して店舗の入り口から中に入る。
店舗の中を鑑識で調べたが・・・ここは普通だな。
店舗の建築年数が100年を超えてるのでアントローグ商会はここ
は中古で購入したみたいだな。
845
しかし中身の改装が適当にやってあるので構造に少し負担がかかっ
てて、ここにきてちょっと建物に歪みが出てきてるな。
どんな使い方してるんだよ。アホたれどもめ。
内装は完全に作り変えた方がいいな。建物に負担になってる部分を
取り除き歪みを修正して外壁や内壁、屋根部分にも少し補強を入れ
れば、まだ100年以上は持つだろうってほど頑丈で素晴らしい建
物だ。
さっそく構造的に凄く醜い内装部分を全部魔法で解体させた。
スッキリしたな。
この建物はアントローグ商会が買い取る前は・・・レストランだっ
たのか?
建物奥の部分に異常なほど広々としたキッチンがある。
キッチンの名残なアイテムなどは一切なかったが、構造的にキッチ
ンだ。水も引いてあるし魔道コンロを置くためのスペースやお釜が
配置されていただろう内壁や床の構造になってる。
ここでは揚げ物や焼き物をしていたんじゃないだろうかという壁が
煤けたところが内壁にあった。
・・・今度おやっさんに聞いてみよう。
商会の汚い内装を全部取っ払ったらわかったことだけどな。
このレストランらしき構造を活かした方が、この建物に負担が少な
いだろう。レストランにするために、そういう構造で作られた建物
なんだからな。
外壁と内壁と屋根に石や金具や魔法で補強をしながら、さらに頑丈
な建物へと変化させていく。
補強をして歩き回りながらオレの脳内で﹃もふもふ天国・ヨークル
店﹄の青写真が出来あがりつつある。
846
詳細な設計図が脳内で展開されて、建物の構造を考えて設計図に修
正が次々加えられていく。
せっかく赤レンガで出来ていて情緒ある建物なんだから上手く活か
さないとな。
内装も温かみのあるようにしてリラックスできて・・・床はフロー
リング。
毛の長くフカフカのラグをフローリングの上に敷く。
土足厳禁でイスでなく大きなクッションを客席として使うことに。
床を愛玩ゴーレム達が歩き回るのだから、客に目線も座る位置も下
げてもらわないと遊べないし触れない。せっかくのおさわり自由の
意味がなくなるからな。
神の創り手のスキル魔法で一気に作り上げる。
建物に元々あった木材はあまりの質の低さに、そのままでは使えな
いので木材を繊維の状態にまで分解して精製して作り直した。
床に敷くラグマットは森林モンキーの毛皮や大鹿魔獣の毛皮を使っ
て、本物の毛皮の敷物になった。
毛皮がフワフワになるまで3点セット魔法で浄化したので
建物の内装はほとんど終わった。
これからは店舗としての内装部分になる。
土足厳禁の店舗にするなら下駄箱方式にするしかないな。
入り口に入ってまず靴を脱いで靴を下駄箱に入れる。
アイリとミーに渡した靴の3点セット魔法の箱を下駄箱に応用した。
冒険者などはブーツを装備してる人間が多いので下駄箱のサイズを
ブーツが可能な大きさにする。
客が20人ほどしか入るスペースがないからな。数はそんなに必要
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ない。
入ってすぐにレジでドリンクを注文。下駄箱の鍵をレジに預ける。
そのまま案内されるのだが、座る場所は決まってない。客が好きな
場所に座れるようにする。
テーブルとクッションは案内したホワイト達がその場でアイテムボ
ックスから取り出すことにする。
ドリンクもその時に取り出して渡す。
時間がきたらテーブルとクッションとドリンクのコップを回収する
システムにした。
制限時間で悩むな・・・2パターンにするか?
30分だと短過ぎると感じそうだ。
1ドリンク30分と2ドリンク1時間にするか、30分の延長でま
た1ドリンク注文させるか・・・今はちょっと悩んでる。
土足厳禁で30分でまた追い出されて靴を脱いだり履いたりって忙
しなさ過ぎるしな。
848
もふもふ天国・ヨークル店の店舗がついに完成したっす。
・・・状況を考えると﹃延長OK﹄にするしか対応出来なさそうだ
な。
会計用の魔水晶を1台は入り口のレジに設置して、もう1台の方は
アイテムボックスで共有化させるしか出来ないな。
とりあえず持ってきた全部のゴーレムをアイテムボックスから取り
出してみる。
愛玩ゴーレムんのおーとま・クマ・コー・ウルフの4体。
メイドゴーレムのホワイト・イエロー・ブラウンの3体。
防衛用のユーロンド9号・10号・忍3号の3体。
コレだけそろうと凄いな。
防衛用のゴーレムのユーロンド9号と10号にはさっそく裏庭で防
衛任務に入ってもらう。
忍3号は屋根の上に待機状態。
メイドゴーレムにメイド服を作って着せてみた。スカートの長い正
統派︵?︶のメイド服の方が似合ってると思う。
尻尾が出るようにしたのが愛くるしさに輪をかけてる。
この広さだと愛玩ゴーレムの数が足りないな。色々作ってみる事に
する。
このイーデスハリスの世界の生き物がどんなものがいるのかわから
ないので俺のよく知ってる地球の生物でぬいぐるみとして売ってる
物を中心に思いつくまま製造する。
﹃パンダ﹄﹃レッサーパンダ﹄﹃コアラ﹄﹃タヌキ﹄﹃キツネ﹄﹃
849
ウサギ﹄﹃柴犬﹄﹃三毛猫﹄﹃リス﹄﹃オスライオン﹄﹃ペルシャ
ネコ﹄・・・モフモフしてるもので思いついたぬいぐるみをゴーレ
ムで作った。
コレで11体だな。
思いつくままに作ったので全部あわせて15体になった・・・ちょ
っとカオス。
それぞれのゴーレムが自由勝手気ままに歩き回って転んで転がって・
・・作りすぎか?
商業ギルドは24時間対応になっていたはずだから、今から愛玩ゴ
ーレム達を登録しに行く事にした。
ついでに会計用の魔水晶をあと3個ギルドでもらわないとな。
アイテムボックスに今作った愛玩ゴーレム達を入れる。
ライトの魔法はそのままにしておきホワイト達には、すぐに店をオ
ープンしてもいいようにキッチンでクッキーやドリンク類を作り置
きして自分のアイテムボックスに入れといてもらう。
材料は俺のアイテムボックスからメイドゴーレムたちにそれぞれ送
った。
俺はライトの魔法を自分用で1つ浮かばせて夜道を歩いて商業ギル
ドに向かう。
ヨークルの中央部に向かって歩くと21時前なのでそろそろ人通り
も少なくなってきてるな。
商業ギルドでまた会議室を借りて愛玩ゴーレムたちを登録。会計用
の魔水晶もすぐにもらう事が出来た。
愛玩ゴーレムの名前は全部そのまま登録して、ネームプレートは会
計できないように設定してもらう。
チェーンでネームプレートを首に取り付けて完了。
850
用が済んだのでそのまま店舗に戻る。
歩いてると思うがほとんどの人は肩に乗せるようのライトをつけて
る。
俺の様にライトの魔法で歩いてる人は1/5ぐらいだな。
ライトの魔法ってそんなに難しい魔法ではなく﹃生活魔法﹄に分類
されるもので簡単なものなんだけど、みんな魔力が少ないのかな?
一般市民が多いのかもしれないな。冒険者には必須な魔法でコレも
アイテムボックスと同じように教会で金を払えばすぐに習得できる
魔法なんだけどなぁ。
店舗に戻ってから愛玩ゴーレム達を全部出して並べる。
閉店時間になると壁際荷全部並んで機能を停止するように設定。カ
オスな状況が壁にぬいぐるみが並んだ店になったな。
もらってきた会計用の魔水晶をホワイト・イエロー・ブラウンにそ
れぞれ持たせて、既にレジの場所に1台設置してあるので余った1
台は俺が持っておく。
これから裏庭に早乙女商会の事務所を建設する。
人数分の机とイス。奥には休憩室。隣には客との商談用の応接室を
作っただけの建物だ。シンプルだな。使い道があるのか不安だけど・
・・ないよりはあったほうがいいだろう。
平屋な小さな事務所は店舗と同じ色のレンガで作った。
俺の固定化の魔法で補強したので何百年も綺麗なまま存在できるだ
ろう。
事務所の建物も結界で封印してあるのでこれで店舗の土地は完全に
俺の結界で覆われた。
店舗の改装も早乙女商会の事務所建設もこれで終了だな。
851
早乙女邸の玄関に転移魔法で戻る。
全身に3点セット魔法を自分にかけて浄化。ブーツをアイテムボッ
クスに仕舞って居間に戻った。
﹁みんなただいま。マリア、今日はウィスキーを飲みたいから、つ
まみに芋の3種盛りを頼む﹂
﹁了解いたしましたご主人様﹂
﹁しん君お帰りなさい。もう終わったの?﹂
﹁ああ、自分で納得のいくのもが出来たよ。ただ、隣の倉庫があま
りに酷い建物だったから全部作り変えたから改装じゃなくて﹃新築﹄
になったよ﹂
﹁しん様、酷いってどういうことなんですか?﹂
﹁簡単に説明すると外見だけは普通の倉庫で、中身はハリボテだっ
た。隣の倉庫って木造建築物だったんだぜ?﹂
﹁ハリボテって・・・倉庫なのに木造?﹂
﹁ああ、俺もミーと同じ疑問を考えたよ。コレで倉庫としてつかえ
るのかなって。でもよく考えたら﹃アントローグ商会﹄っていうの
は、人攫いで優秀な人材を奴隷化させて人身売買で商売を成立させ
てた商会だから、カモフラージュ用の倉庫が必要になっただけで急
遽作られた倉庫なのかもしれん。外見では判別させないハリボテの
意味がそこにあったんだろう﹂
﹁それしか考えられないわね。だからこそ商業ギルドも足元を見て
安く手にいれられたんでしょうね。倉庫を建て替えるか、解体して
更地で売り出すかの選択肢しかなかったところに、私達がそのまま
買い取ったんですからリーチェもボーナスまで貰えたんでしょうね﹂
﹁アイリの言うとおりだろうな。でもそれでも、あの大きな土地と
大きな船が接岸できるだけの広い港部分が安く手に入っただけで俺
達は得してるからな。俺もギルドもどっちにも損がなくて得しかな
い契約なんだから万々歳だろう。解体・新築って言っても俺の場合
852
は魔法で済むから素材だけだ﹂
﹁それですと店舗のほうもハリボテだったりしたんですか?﹂
﹁クラリーナそれはないよ。あそこはおやっさんの店の近くで昔か
ら知ってるレストランだったよ。5年ほど前に4代目に代替わりし
たら物凄く美味しいと大評判になった。私がおやっさんに聞いた噂
では出資者が付いて首都シーパラに大きな店を持つようになったか
ら、あの店は土地ごと売られていたはずよ﹂
﹁ああそうね・・・思い出したよアイリ。私達の冒険者ランクがF
からEに上がったときにおやっさんに、あそこの店でお祝いで奢っ
てもらった事があったね。素朴で美味しい店だった印象が残ってる
な﹂
﹁へー、職人さん達の工房や店が多いあの地域でそんな店があった
んですね。私は外食っていつも決まったうなぎ屋さんに行くぐらい
で、ほとんど経験がないので知りませんでした﹂
﹁道理でな。店舗の建物の中も元レストランのような構造になって
いたよ。それなのにアントローグ商会が無理矢理に事務所風に改装
したからムチャクチャな中身になってたけど、俺が全部作り変えて
綺麗に改装してきたよ。こっちは建物は頑丈だったから、補強と内
装の改装だけですんで良かった。裏庭に商談とか出来るように事務
所も作ってきたけど・・・使い道がないかもしれない﹂
﹁まだ早乙女商会が何をして商売にするのかき決まってないのに・・
・先に商談用って、しん君がしたい商売はあったの?﹂
﹁全く考えてないし目的もないよ。むしろ先に入れ物だけでも作っ
ちゃえっていうノリだけだな。まぁ時間はたくさんあるしそのうち
早乙女商会でやりたい事も、売りたい物も見つかるかもな﹂
大皿にお山盛りのフライドポテトをつまんで齧りながらウィスキー
を飲む。
俺がウィスキー用にロックグラス用の氷を桶に山ほど作ったら、み
んなも自分のアイテムボックスから酒を取り出して飲みながら話を
853
続ける。
﹁愛玩ゴーレムも15体に増やしたし、明日からでも﹃もふもふ天
国・ヨークル店﹄の営業は可能になったよ。そういえば明日といえ
ば、明日はるびのは大草原でガウリスク達と馬が狩りたいって言っ
てたから、朝に送る予定なんだけど、みんなはどうする?﹂
﹁しん様は予定があるのですか?﹂
﹁俺は前に言ってたように、そろそろ船を造ろうかなって思ってる。
だから明日は一日中大森林で実験したいかなって思ってるよ。
﹁実験って普通の船じゃないの?﹂
﹁ああミー、俺が今考えてるのは魔法だけで動く船だな。転送魔法
を使えば、プロペラやオール、帆船では出来ない自由な動きが出来
るんじゃないかなって考えてる。俺にも俺のもらった知識・経験に
もない全く未知なる船だから色々実験をしてみたい・・・それで時
間が欲しい。それと普通のゴーレム船もデータを取るために先に作
るから一日で終わるかどうかすら判らない﹂
﹁ふーん。何か凄いのが出来そうね。私はそうね・・・買い物に行
きたいぐらいかな﹂
﹁私もアイリさんと同じでお買い物に行きたいです。それと、しん
様に聞きたいのですけど、お店はどうするんですか?﹂
﹁明日は・・・どうしようかな。アイリもミーもクラリーナも友達
を連れてきて店で遊んでてもいいぞ。明日は友人達へのプレオープ
ンって事で無料にしてもいい﹂
﹁それならカタリナ母さんとかも連れてきてもいいかな?。カタリ
ナ母さんってモフモフしてるの大好きだから、同じ趣味の人をたく
さん知ってそうだし﹂
﹁人選は3人に任せるよ。出来ればモフモフのよさがわかる人優先
で。移動用にキャンピングバスとセバスチャンとマリアも3人に付
けるから食事も店ですればいい。明日の朝に店舗に転移魔法で送っ
854
てあげるから、その後はみんなで自由にしてくれ﹂
﹁それは楽しそうね。明日のみんなの予定がこれで決まったわね﹂
855
嫁にもふもふ天国のシステム説明してから、今夜は露天風呂で大
乱交っす。
明日の予定も決まったことだし、そろそろ風呂でも行きますか。
嫁3人は人生初の﹃露天風呂﹄なんだってさ。
そのまま話しながら移動して更衣室に行く。
﹁明日はもふもふ天国・ヨークル店のプレオープンなんだからでき
れば3人とも客目線で問題点を考えてね。問題を解決すれば良いだ
けなんだから、遠慮は要らない。ちょっとでも気になったり引っか
かったりしたら教えてよ。明日連れてくるお友達にも言っておいて
ね﹂
﹁そうだね。しんちゃんの言うとおり早く問題点が見つかればその
分解決も早くなるでしょ﹂
﹁解決できる問題は解決するのは良いんでしょうけど、しん君や私
達には解決が難しい問題はどうする?﹂
﹁問題が見つかってみないとなんとも言えないな。別にオープン日
時が決まってて、時間に慌ててるわけじゃないからオープンを伸ば
せばいいだけだし。深刻な問題点があっても時間をかけて解決させ
ればいいよ﹂
﹁しん様は儲からなくても良いからっていつも言ってますけど、こ
の店にどんな将来的なイメージを持ってますか?﹂
﹁趣味だな。モフモフが好きな人だけが集まって、愛玩ゴーレム達
に見て触って会話して﹃癒し﹄を感じて幸福感があれば最高だな。
趣味全開ってそういうことだと思う。俺がモフモフが大好きなよう
に、この世界にもそんなモフモフ大好き人はたくさんいると思う。
ただ、それで他の喫茶店を凌駕しようと駆逐しようとかは考えてな
いよ。だからこそ料金設定でも悩んじゃうし、時間設定でも悩んで
856
しまうんだ﹂
∼∼∼﹂
着替えが終わったので風呂に行ってかけ湯で体を流し湯船に入る。
﹁あ
﹁しん君ったら、もーー。ホントにお爺ちゃんみたいな声が出てた
よ﹂
﹁アイリ、気にしない気にしない﹂
﹁しん様のそういう部分も可愛いって思ってきましたです。しん様
がお店で悩んだのは料金設定なんですか? 時間設定なんですか?﹂
﹁正直言って両方で悩んでるよ。店舗は明日行けばわかるんだけど
早乙女邸と同じで﹃土足厳禁﹄にした﹂
﹁え? 何で?﹂
﹁アイリの疑問もわかるけど理由もあるんだ。この店のメインは﹃
癒し﹄で、愛玩ゴーレム達と触れ合うことだと思ってる。それで3
0cm程の大きさのゴーレムと触れ合ってもらうには、お客さんに
目線と座る腰の位置を下げてもらわないと、床を歩いて転げまわる
ゴーレムが見辛いんだ。触るにはいちいち床に腰を下ろす必要があ
るし。だからお客に床に座ってもらう必要性があると考えたんだ﹂
﹁それはちょっと楽しそうね。明日が楽しみになってきた。カタリ
ナ母さんはハマっちゃいそうだけど﹂
﹁しん様。それはそうと・・・そろそろ露天風呂に行ってみたいで
す﹂
﹁そうだな、今からみんなで行こう﹂
4人で湯船からあがって外へと続く扉を開ける。
ガラガラって簡単にスライドさせて開けてるが、これは正門とかの
門と反対で普段は軽く開くのだが俺たち夫婦とるびのと俺が作った
ゴーレム以外が開けようとすると固定化の魔法がかかってロック。
ロックがかかると重力魔法で2tぐらいまで重くなる。
防犯上はこんなドアまで防御に気を使わないといけないから面倒だ
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けど仕方がない。
岩の露天風呂が良い雰囲気を出してるね。・・・自分で作っておい
て自画自賛してる俺。
露天風呂は屋根についてるライトの魔法の魔石の数を減らして薄暗
くしている。
風呂に入ってから屋根のない外の部分に向かって歩いて行く。
満天の星空が天を覆っている。
じぃちゃんばぁちゃんのいた日本の田舎で見た星空も凄いと思って
いたが、流石にこの満天の星空とは比べ物にならない。
あまりに目で見える星の量が多いし、異世界だから星の名前や星座
の名前は知らないはずなんだけど・・・俺の中の知識が星の名前や
星座の名前を俺の脳内に出す。
以前見たこの世界の月も明らかに日本で見たものよりデッカイしな。
露天風呂で満天の星を眺めてると忘れそうになるが、巨大な月で自
∼∼∼。空がすっげぇーな﹂
覚させられるな・・・ここは異世界なんだって。
﹁あ
﹁もー、お爺ちゃん。情緒が台無し﹂
﹁わるいなミー。コレばっかりは止められんし止めるつもりもない
!﹂
﹁なんでしん君が開き直って言い切ってるのよ﹂
﹁だけど、私もこの満天の星を見ながらのお風呂は初体験なんです
けど、しん様がこだわった理由がわかりますね﹂
﹁私もクラリーナと同じだ。思わず空を見ながらポカーンって口を
開けちゃうほど、見事な景色だね﹂
﹁だろ? コレが露天風呂の素晴らしさだな。俺が自宅にこだわっ
て作った理由だよ﹂
858
全員が無言になって空を見上げる。
﹁確かにミーの言うようにポカーンって口開けちゃうな。クックッ
ク﹂
﹁ねぇねぇ、しんちゃん・・・エッチな事を2日ほどしなかったけ
ど・・・溜まってる?﹂
﹁ああ、こんな美しくて可愛い嫁が裸で目の前にいるんだ・・・我
慢できないな﹂
俺は立ち上がるとガッチガチになって勃起している自分のチンコを
3人の前に突き出す。
﹁それで俺の美しいお嫁さん達は俺の溜まりに溜まった精液をどう
やって解消してくれるの?﹂
嫁の動きが停止してしまった。
・・・そりゃそうだな、ここは露天風呂。満天の星空の下・・・﹃
野外﹄だ。
﹃んごきゅ﹄って生唾を飲む音が響くけど、ここは外だからな。
流石に恥ずかしいのだろう。
﹁あ、言っとくけどここの露天風呂の空間は封印結界がしてあって、
早乙女邸の寝室と同じ効果がある。音も一切外に漏れ出ないし、封
印の中は外からは関係者以外には一切見えないように施されてるよ﹂
﹁しん様、そういわれても恥ずかしいです﹂
﹁クラリーナはいらなくても、私は欲しい。しんちゃん、ちょうだ
い﹂
﹁今日は積極的なミーが1番だな。わかった。ミー良いよ。あああ﹂
この俺の一言で女豹の肉食獣たちに火を付けたみたいだな。
ミーにおねだりされたのでチンコを目の前に突き出してやると、ミ
ーは右手で俺の竿を握り余ってる皮を根元まで剥く。左手は爪先で
859
コリコリと金タマを引っかいている。
そのままチンコの根元からまるで大きなキャンディーを舐めてるか
のように舌を伸ばしてレロンレロンと舐める。舐めるのに満足した
ら今度は大きく口を開けて咥えてきた。
ミーの唾液でジュボジュボ音がしてる。俺の先走り液も混じってる
だろう。
グポッグポッ大きな音をさせて、ミーがリズミカルに口をストロー
クさせる。
アイリはそのまま立ち上がって俺の耳元で囁いてくる。
﹁しん君見て、ミーがあんなに美味しそうにしん君のオチンチンを
ペロペロチュパチュパしてるよ。どうなの? 気持ち良いいの?﹂
﹁あああ、最高だよ﹂
﹁でも、しん君にはやる事があるからまだドピュドピュって出した
らダメよ。しん君はこれをチューチューする仕事があるの。時々コ
リコリ噛まないといけないのよ﹂
そういってアイリが俺の顔面に自分の爆乳おっぱいを下から持ち上
げて乳首を俺の口に押し付ける。
俺はそのままアイリの乳首を美味しくいただく。俺もアイリのおっ
ぱいを自分の手で下から支える。
チューチューとコリコリがリクエストだったのだが、アイリはドM
なので時々コリコリの途中でちょっと力を入れてガジガジって噛ん
だら嬌声が大きくなる。
﹁ああ、そうよ。もっとチューチュー吸って。ほらぁあああ、コリ
コリも好き、あああん。ちょ、ちょっとああんイタッ。でも気持ち
良い。ああ、イタイ! のも好きなぁあん﹂
﹁しん様の両手とお口とおオチンチンは塞がってしまいました。恥
ずかしくて出遅れてしまいました。でも、私のお仕事はこれからで
860
す。しん様に気持ちよく精液を発射してもらうのが私のお仕事なん
です。ミーさんやアイリさんにはまだ負けた訳じゃないです﹂
クラリーナが自分で自分を発奮させて俺の後ろに回りこむが、それ
でも温泉から出てこない。
立ち上がらないのはまだ恥ずかしがってるんだろう。
﹁まだまだ大丈夫です。しん様が気持ち良くなる場所が空いてるの
で、私はまだまだ頑張れます。しん様はお尻の穴をペロペロされる
のが大好きなんです﹂
クラリーナが俺の尻肉を左右に広げて剥き出しになったアナルをチ
ュパチュパ舐め始めた。
確かにそこは俺の弱点だ。
﹁クラリーナ良いよ。凄い。ああイきそう。ああ出る﹂
咥えてるミーに腰を押し出して喉の奥に押し込み、射精を我慢する
気もなく精液を放出する。
ミーも突然にチンコを喉の奥まで突っ込まれても驚かずに、俺の腰
を離さないように両腕で俺の太ももにしがみついて、大量に放出さ
れる俺の精液を喉の奥で受け止める。
幸せそうな顔で美味しそうにゴクゴク飲んでるな。
イくときにアイリの乳首を思わず強く噛んでしまったが、アイリは
それで軽くイってる。
今日は最初に咥えてきてくれたミーに最初に入れる事にした。
﹁今日はミーが最初に俺のチンコを咥えに来たから、最初はミーに
入れるよ。ほらミー、そこの岩にお尻を降ろして。チンコを入れる
から足を開いて﹂
861
岩の上にお尻を降ろしたミーにそのままのしかかってチンコを挿入
した。
ミーのあそこは準備万端だな。ブチュブチュっと音をたててヴァギ
ナに挿入する。
﹁あっ、あぁ∼ん。良いよ。私の中にしんちゃんのオチンチンが入
ってきたぁ。気持ちいぃい。好きぃ。しんちゃんも、しんちゃんの
オチンチンも好きなの。ちゅ。れろれろん﹂
俺の首にしがみつく様にしてミーが下からつかまってくる。
俺はそのままの体勢からミーの膝の下に手を入れて尻を掴んで持ち
上げる。
・・・駅弁だな。
見てるだけのアイリとクラリーナの目の前に広げたミーの股間を晒
す。
﹁れろれろ。ぷふぁ。アイリ、クラリーナ、ミーのマンコの中に俺
のチンコが入ってるのが見えるか?﹂
﹁うん。ミーのマンコが嬉しくてダラダラ涎が出てるのまで見える
よ﹂
﹁え? ちょっとぉ。見ないで! ダっちゅれろれろ﹂
ミーが騒ぐのでキスで黙らせる。
﹁ミーさん愛液の量が凄いですね。ジャボジャボ出てますよ。気持
ち良いんですか? じゃあ、もっと良くしてあげますね﹂
﹁ぷふぁ、やめ、ああんクラリーナ、指ぃダメ、イク! しんちゃ
んいいの、イクああ、いい﹂
クラリーナはアナル攻めが好きみたいだな。自分が攻められるのも
大好きだし。
ミーのアナルの中にいきなり指を入れて、ミーのアナルの中をグリ
グリかき回しはじめたのでミーが連続でイきはじめる。
862
ミーがイクたびに締りの良いミーのマンコの入り口がギュンって力
が入ってさらに締まるので気持ちが良い。
ミーを空中に持ち上げた手に力が入り、固定させたように動かさな
いで俺が下からガンガン突き上げる。
ミーも冒険者として鍛えてるので、ムキムキではないが筋肉はある。
だから体重もそれなりにあるのだろうが、俺の天元突破ステータス
には綿毛のように重さも感じない。
俺がチンコを下から突き上げる時も、ミーの体を上空にブッ飛ばし
てしまわないように抑えてるって感じだな。とはいえ、そこまで長
いチンコじゃないので高が知れてるが。
ミーのヴァギナの中は数の子。
ちいさな粒々がギッシリ埋まってるので、チンコを中で動かして擦
り付けると腰が痺れる様な快感が押し寄せてくる。
その空中に固定されたかのように動かなくなったミーをおもちゃの
ように弄ぶ俺とクラリーナにアイリまでが加わってくる。
後ろから両手を伸ばして宙に浮かぶミーの乳首を嬲り始めた。
﹁らめって、もうイってるきゃら、らめってぇ、出ちゃうきゃら、
もー、でてるきゃら、あああああああ﹂
ミーが我慢できずに盛大に潮を噴出させる。
俺も我慢なんかしないでミーのヴァギナの奥にチンコを突き入れて
から精液を発射する。
さっきイったばかりでも枯れることなく放出される俺の精液。
ビュービューとミーの子宮をあふれ出る精液。
露天風呂の周りの岩にミーをもたれさせて倒れないように、それで
いて体を冷やさないようにする。
863
次はアイリの番だな。
アイリに大きな岩に両手を付かせて、お尻を俺に向けさせる。
俺はアイリの尻肉を掴むと左右に押し広げじっくりと観察してやる。
羞恥系のドMなアイリは恥ずかしい格好で言葉攻めされるのが大好
きだからな。
﹁アイリのマンコがくぱぁって広がってるから、ダラダラとマンコ
から愛液が垂れてるな。俺に見られて気持ちが良いの?﹂
﹁イヤ、その・・・はい。しん君に見られて気持ちいいです。嬉し
いです﹂
﹁よーっし、素直で可愛いアイリにはご褒美だな﹂
﹁え?、きゃっ、何? ああああん、うそ!いいい、クラリーナま
で! ちょっと、ああああ、でも良いの!﹂
俺は左手の人差し指と親指でアイリのクリトリスをつまんで指の腹
で擦りつけ、右手は人差し指と中指を愛液が滴るヴァギナに挿入し
て動かし始める。
それでアイリのアナルに口で吸い付いてベロベロ舐める・・・3点
攻めをはじめた。
それにクラリーナまで加わってきた。
クラリーナは岩に手をつけてるアイリの前に無言で潜り込むと、そ
のままアイリの乳首をチュパチュパ音をたてて吸い始めた。アイリ
は乳首攻めも大好きだから、こういう連携攻撃はたまらないんだろ
う。
腰と膝がガクガクし始めて俺の顔面に潮を噴出して盛大にイク。
俺も無言になって崩れ落ちそうになるアイリを支えると、その体勢
のままバックでチンコをヴァギナに挿入する。
864
ブチュブチュブチュと卑猥な音をたててアイリの中に入る俺のチン
コ。ピストン運動をし始めるとプシュプシュと小さく潮を出してる。
﹁ああああ、イきました。気持ち良いイいいいい、ああん。オチン
チンがぁ、しん君のあああ、あああ、ダメ、でもいいの、あああ、
あんあんあん、あああ、出る、だめ、イクぅううううう﹂
連続絶頂を強引に続けてやるとおしっこを漏らしながら、崩れ落ち
そうになるが軽がると支えて更に締まりが良くなったアイリのヴァ
ギナの奥にチンコを突き入れてから精液を放出。
クラリーナは少しのぼせてそうなほど露天風呂に浸かっていたので、
のぼせないようにクラリーナの脇の下に手を入れて持ち上げると俺
の首にしがみつかせて駅弁で挿入。
クラリーナに挿入したまま、歩いて外に出る。
﹁やだぁ、ダメです、見られちゃいます。ダメなのにぃ、気持ち良
い﹂
﹁お、やっと素直になってきたか? ダメじゃなくて、気持ち良い
の?﹂
﹁はいぃいい。良いんですぅ。気持ちがいいんです。あひぃ、しん
様のオチンチンが入ってるぅあああ、もうどうでもいいんです。あ
んあん、気持ちよくていいんです﹂
クラリーナが話してる最中でも俺の腰の動きは止まらなかった。
クラリーナのヴァギナが狭くて気持ちよくて、停めようともおもわ
なかったし。
﹁ああん、イク、またいい、イク、イってましゅ。ああん。ダメぇ
ええ、でもやめないで、出るぅ、ああん出てる。私の中でもでてる、
らめぇえええ、イってるから、イってるのに、また、でちゃ、う﹂
クラリーナも連続で絶頂し始めるとすぐに潮を噴出。俺も気持ち良
かったんで、その体勢で精液を出す。出したまま腰は止めなかった
865
ので、クラリーナは失神しながらジョボジョボと庭におしっこを漏
らし始めた。
今度は逆に体を冷やさないようにクラリーナに挿入したままお風呂
の湯船に入りにいく。
﹁ああ、クラリーナいいな。私もしんちゃんのオチンチンを入れた
ままお風呂を出たり入ったりしてみたいな﹂
﹁いいよ。それぐらいなら﹂
俺はクラリーナを持ち上げてチンコを抜き、クラリーナの体をアイ
リに預けて、風呂で座っているミーに抱きつく。ミーを軽く持ち上
げるとミーのからだの下に潜り込み挿入。
駅弁の体勢になって風呂に入ったり、露天風呂の周囲を歩き回った
りしてあげる。
アイリにもリクエストされたので、ミーと同じ事をしてあげた。
2人とも何度もイってたし、俺もそのまま何度も2人の中に出す。
うん。夫婦って良いね。そのまま盛り上がって寝室へ。
寝室でも同じようにヤリまくりだな。
3人の嫁を並べてマンコの観察したり、潮を指で噴出させて誰がど
こまで飛ばせるのかと、誰にも言わずに内緒で遊んだりした。潮が
よく飛ぶのはミーだな。次がクラリーナでアイリは潮の量は多いが
そこまで噴出しない。
俺も3人に全身を舐められまくって天井にまで精液を飛び散らせた
りした。
3人とも最終的には失神してしまったので、ガウンを着させてから
866
ベッドに横にさせる。
寝室全体に3点セット魔法で浄化すると俺も寝る事にする。
露天風呂の清掃は俺が何も言わなくてもセバスチャンもマリアも洗
浄しておいてくれる。
優秀な執事とメイドに死角はないな。
俺も寝てる嫁3人の中に潜り込んでフワフワの女体の中で眠りに付
いた。
それで翌日の転生20日目の朝。今日の天候はそこそこかな。雲も
あるし晴れ間もある。
今日ももはや定番の朝の風景が繰り返されていく。
﹁俺は防具を装備してからるびのをガウリスクのいるグリーンウル
フダンジョンに送ってくるよ。そのまま転移魔法でガレージに帰っ
てくるから、皆は着替えが終わったらガレージにきてね﹂
嫁達に俺はそう言って防具を装備して最初はるびのの部屋に転移魔
法で行くとるびのはもう既に準備が終わってお座りで待ってた。
﹁おはようるびの。今日は早いな﹂
﹁とうちゃん、おはよう。今日はとうちゃんがいつもよりも遅いん
だって﹂
﹁悪いな。確かに今日はノンビリし過ぎたな。じゃあそろそろ行く
か?﹂
﹁うん﹂
るびのを連れて転移魔法でグリーンウルフダンジョンへ。
るびのと一緒にガウリスクの部屋へ行く。
867
﹁おはようガウリスク﹂
﹁ガウリスクさん、おはようございます﹂
﹁おはようございます。ボス。るびの様。やっと私のところに来て
くれたって事は、るびの様が私達と狩りに行ってくださるというこ
とですか?﹂
﹁ああ、そういうことだな。ニャックスやアキューブから話を聞い
ててうらやましかっただろ?﹂
﹁はい。正直、嫌われてしまったのかとも思ってました﹂
﹁ガウリスクさん、そんな事はないです。今日は話に聞いてた﹃野
生の馬﹄を狩りにきました﹂
﹁るびの様、お任せください。とっておきの秘密の場所へご案内さ
せていただきます﹂
﹁まぁ、ガウリスク、そういうことで今日は一日ガウリスクにるび
のを預けるから頼むな?﹂
﹁ボス、お任せください﹂
﹁ガウリスクさん、さっそく行きましょう!﹂
後はガウリスク達に任せて俺は転移魔法で早乙女邸のガレージに帰
る。
ガレージではまだ嫁達が来てなかったので、キャンピングバスの点
検をしてみた。
不具合が出てる場所はなかったな。キャンピングバスの魔力は満タ
ンに補充しておく。
点検と魔力補充が終わったので念輪で話しかけようと思った所にみ
んながやってきた。
﹁おまたせ。しん君早かったのね﹂
﹁ちょうど今、そろそろどうかなって思って念輪して話をしようと
してたとこだよ﹂
868
﹁ごめんね。しんちゃん。今日はノンビリ朝食を食べてたら遅くな
っちゃったね﹂
﹁しん様ごめんなさい﹂
﹁謝らなくてもいいよ。さぁ出発だ﹂
俺がキャンピングバスのドアを開けるとみんなが乗り込んで行く。
今日はセバスチャンとマリアも嫁に同行させるので俺は店舗へ案内
するだけだ。
俺の運転でキャンピングバスを走らせる。ヨークルの朝はゴーレム
馬車は多いのでスピードはほとんど出せないが、停まることなく進
めるしそこまで大きな都市ではないので目的地にはすぐに到着する。
店舗のゴーレム馬車駐車場は4台ほどが停車できるスペースがある。
そこにキャンピングバスを乗り入れて駐車する。
みんなでキャンピングバスから降りて店に歩いて行くと、俺たち夫
婦の気配を察したであろうホワイト達メイドゴーレムが入り口のド
アを開けてくれる。
﹁ご主人様、奥様方、おはようございます。どうぞ中へ﹂
店舗の中へ入っていく。
まずは入り口で靴を脱いで靴を下駄箱に入れてもらう。下駄箱の扉
を閉めて鍵を抜き取る。
﹁この鍵を抜いた瞬間に下駄箱の中に入れた靴やブーツは3点セッ
ト魔法がかかるようにしてある。アイリとミーに渡した箱と同じ効
果だな。この鍵を持って店舗の中にはいるんだ。レジでドリンクを
決めて注文する、ここは先払いのシステムだ。この先払いをする場
所の入り口の部分を見てくれ。ここの通路を通ってレジでお金を払
うんだけど、ここの通路の出入り口部分にも3点セット魔法が仕掛
869
けられていて、お客の全身を3点セット魔法で強制的に浄化させて
いる。帰る時に使う出口専用の通路にも同じ仕掛けがしてある﹂
﹁中に入ったはいいけど、テーブルもイスもないわよ﹂
﹁まぁアイリ落ち着いて。今から順に説明するから﹂
﹁レジ係りに料金を払う時に下駄箱の鍵を預ける。コレで料金を払
った人の名前と鍵の番号がセットでゴーレムたちに記憶される。そ
れから案内係りが来る﹂
﹁いらっしゃいませ。早乙女様。お好きな場所にお座りください﹂
﹁コレがこの店の特徴だな。自分で好きな場所決めるとそこにメイ
ドゴーレムがテーブルとクッションを出してくれる﹂
﹁こちらでございますね。少々お待ちください﹂
イエローが正方形で一辺が40cmの小さなテーブルと、日本にあ
ったビーズクッションのような丸いクッションを出してくれてそこ
に座る。テーブルには俺が注文したホットコーヒーが出される。
﹁こんな感じだな。個人個人にクッションとテーブルを出す。この
店舗なら通路を含めると20人ぐらいが限界だろうな。みんなも好
きな場所に座ってくれ﹂
﹁このラグマットって凄いですね。ここまでフカフカのは家にもな
いです﹂
﹁ああ、フローリングの床の上ってのは辛いからな。ここはこだわ
ったところだ。毛の長いラグは大鹿魔獣。毛が短いラグは森林モン
キーだな﹂
﹁このクッションは凄く変わってるわね。初めて見たかも﹂
﹁アイリの言うように、このクッションも俺がこだわったところだ
な。これはお風呂のマットと同じ﹃森林モンキーの尻尾﹄で作った。
中は空気だ。お風呂のマットよりもかなり空気圧を下げたから柔ら
かく仕上がってるだろう。形を変えて好きなように座れる。ただ長
870
時間・・・何時間も動かずにこのまま座ってると腰とお尻が痛くな
ると思う﹂
﹁へー、そうなんですね。しん様がテーブルは1人1つと言われま
したが、団体で来た場合は組み合わせるのですか?﹂
﹁ああ、そうだ。そのほうが効率がいいと思う。人がいないテーブ
ルやイスは愛玩ゴーレムたちの動きの邪魔になるしな。だから客と
ともにこのテーブルもクッションも片付けるようにしてある。時間
になったら回収だし、テーブルには時間が表示されてる。とりあえ
ず今は30分で設定されてる﹂
﹁しん君は時間は迷ってるって言ってたけどどうするの?﹂
﹁まだ迷ってるよ。それは今日のプレオープンでどんな意見がある
のか聞いておいてくれ﹂
﹁わかったよ、しんちゃん。それであの見たことないゴーレムを紹
介して欲しいんだけど﹂
871
船を作った。だけどまだ実験段階っす。
﹁ああそうだな。みんなに紹介するよ。皆は見た事ない生物だと思
うけど、俺が前に住んでいた日本って国ではこういった種類のぬい
ぐるみが多く売られていたんだ。名前を順番に説明するよ・・・﹃
パンダ﹄﹃レッサーパンダ﹄﹃コアラ﹄﹃タヌキ﹄﹃キツネ﹄﹃ウ
サギ﹄﹃柴犬﹄﹃三毛猫﹄﹃リス﹄﹃オスライオン﹄﹃ペルシャネ
コ﹄って名前をつけた。首につけたチェーンにネームプレートがあ
るから、そこに書いてあるのがゴーレムの正式登録名だな﹂
﹁愛玩ゴーレムたちのデータもホワイト達のメイドゴーレムによっ
て内蔵された念輪によって統括されて管理されてるから、客に教え
てもらった呼び名は1体ずつに教える必要がない。会話した内容も
全部がゴーレム達に共有化されている。だからお客が来てゴーレム
たちと会話する事によってデータがドンドン溜まって行くシステム
だ﹂
﹁しん様・・・でも、話もしてないゴーレムにあだ名で呼ばれたら
ビックリします﹂
﹁それの言い訳はこうだよ。さぁ、キツネ君話してごらん﹂
﹁うん。あのね、クラリーナさんがおはなししてるのがきこえたの。
ボクってミミがいいんだよ!﹂
﹁と、まぁこんな感じで言い訳してくれるよ﹂
﹁ああ、なるほど。そんなこと言われたら納得してしまいますね﹂
﹁それにしても・・・幸せ。何この愛くるしいゴーレムたちは・・・
これがもふもふ天国・・・﹂
﹁ミーと同じ事を考えてたよ。しん君凄いね・・・これが、もふも
ふの魔力﹂
872
﹁まぁそういうことで今日はここに友達とかを連れてきて、ここで
一日過ごすといいよ。セバスチャンとマリアも置いて行くから、2
人に頼めば料理も買い出しもしてくれる。友人も20人ぐらいまで
は入れるから客を店舗の中に詰め込んだ場合の状況がどうなるのか
も併せてテストして欲しい﹂
そういって俺はコーヒーを飲み干して通路を通って自分の下駄箱の
鍵を受け取り外に出る。
俺のテーブルとクッションと飲み終えたコーヒーカップはブラウン
が回収してくれた。
ブーツを履いて腰に天乃村正を装備してから大森林の南側で、以前
るびのとオーク狩りで待ち合わせをしていた場所に転移する。
ここからだとヨークル川の支流が近いのでそこに行く。
歩いて行くのは訳がある。
自分で魔糸溶解液を作るために﹃溶解クモ﹄の糸玉を拾っていきた
かった。
セバスチャンとマリアが大森林に行くといつも持って帰ってきてく
れるが、今日は船を作るのに船の防水用のコーティング剤として魔
糸溶解液は欠かせないものだからな。
この周辺は森林バッタがたくさんいて溶解クモが数多く巣を作って
ると、セバスチャンとマリアに教えてもらってる。
数百の溶解クモの糸玉が集められたので・・・これだけあれば何艘
でも作れるだろう。
糸玉集めは終えて気配を弱くして歩いてるとオークが襲ってくるの
で美味しくいただく事にする。
﹁とーんこつ。それ! とーんこつ。そいさ! とーんこつ﹂
食材としてオークは使い勝手がいいので、ついつい歌を口ずさみな
873
がらオーク狩りをしてしまう。
るびのと同じ歌を歌ってることに途中で気付いた。
・・・俺に似たんだな。ごめん、るびの。
支流と言っても川幅は200m以上あるし、深さも20mぐらいは
あるので船の操縦での実験には良い場所だと思う。付近を通る船も
ないし。
気配と封印していた魔力を元に戻すと周辺にいた魔獣は逃げていっ
た。
遠見魔法もイタズラが過ぎたのか、死んでないダイイングメッセー
ジが予想以上の効果があったのか、あのとき以来、何もないな。
俺の忍術スキルを乗り越えて監視するのは不可能だから・・・諦め
たか?
昨日はミノムシも作らなかったし、諦めてくれるとうれしいんだけ
どな。
まずは実験用でデータを取るために、このイーデスハリスの世界で
は従来どおりのゴーレム船でこれは﹃双胴船﹄となってる。
船の動力はプロペラではなく地球でいうところの﹃ウォータージェ
ット方式﹄になってる。
魔法バンザイな世界なので転生者で船に詳しい人がいて作られた技
術だろう。
俺にもその人の技術と知識と経験が入ってるので、このまま作るだ
けなら材料さえあればすぐに出来る。
オーガ鋼製でコーティングは魔糸溶解液。
動力部にクズ魔結晶と魔石を配置して魔力でウォータージェット推
進の力を得ている。
874
それらの動力を効率的に推進させるために多少質が悪くても大きい
魔結晶が各舟艇に2つと、それを連動させて動かすための魔結晶が
運転席に1つで合計5ついる。
キラービーナイトからとった魔結晶を5つ使用して仕上げる。
船の運転は俺の経験にはないが、コピーされた経験と知識があるの
で操縦には問題がないが、せっかくのゴーレム船になるんで、俺の
中にある船の操縦技術と知識と経験をクズ魔結晶に封入して運転席
の魔結晶にサブとして取り付けた。MAP・アイテムボックス︵中︶
なども入れたかったんでサブは合計3つもつけてしまった。
これでこの船も自動操縦が出来るようなった。
双胴船はスピードが出せて荷物がたくさん乗せる事が出来るが、小
回りは利かない。だから倉庫街の各倉庫には小型船がたくさんある。
これを使って倉庫に船をつけるためだ。
俺の作った双胴船は・・・双胴船でも﹃ハウスボート﹄っぽくなっ
てしまったな。
こっちの船の名前は﹃ハウスボート﹄でいいな。
荷物を運ぶためだけの船じゃなくて夫婦で船を使った川移動の快適
な居住空間って考えたらこうなってしまった。
キャンピングバスと同じで窓は取り付けなかった。魔法で外は見る
ことはできるし。
操縦席もキャンピングバスと同じように全員で座れるように展望デ
ッキとしてハウスボートの2階部分に設置した。全面ガラス張りだ
が外から中は見えにくくなっている。
展望デッキのソファーはキャンピングバスにある専用ソファーと同
じ大きさにして、こちらも個別の専用ソファーにした。
船の長さは10mで船の横幅は5m。ハウスボートの建物の長さが
875
8mで横幅は船と同じ。
中の内装はキャンピングバスには似てなくて運転席の下は、ここに
も専用ソファーを置き自宅の居間の様な居住空間だ。
居住スペースの後ろにはトイレが設置してあって出入り口とトイレ
の間に上に行く階段がある。階段の下には簡単なキッチンを設置し
た。
1階部分の最後尾はベットルームにした。長さ2m幅は横幅全部使
っている。
完全にハウスボートになってしまったな。
だけど魔石と魔結晶をふんだんに使用したパワーは凄いので35ノ
ット以上のスピードが出せる超高速船だ。風の抵抗が凄そうで完全
アウトな形なんだけど、流石のファンタジーで風除けの結界が施し
てあるので問題なかった。
ヨークルと首都シーパラの距離は約1200kmある。
双胴の荷物運搬用高速ゴーレム船で24時間かかるって聞いてるの
で、ノット換算に計算すると27ノットぐらいだな。
俺が作ったような小型の超高速ゴーレム連絡船で夕方3時に出発し
て翌日の8時に到着するから17時間ぐらいって言ってたので40
ノットぐらいは出るみたいだな。
ハウスボートを実際に走らせてみた。
船の喫水線よりも下には水圧などを測定させるための魔石を薄いプ
レート状に加工したパネルが幾つも取り付けてある。この船はあく
まで実験用の船だからな。
ウォータージェット方式だと﹃水の吸い込み口﹄があって、配管を
通る水を魔力で加速させて﹃水の排出口﹄から水を押し出して船を
推進させる。
876
この流れを逆に動かせば船は逆進する。
このハウスボートも吸入口が前部に3個、排出口が後部に2個。双
胴船なので倍ある。
この流れと舵を使って船をコントロールさせて操縦する。
普通のプロペラ式は動力でプロペラを回して推進させて舵で方向変
換。
俺が考えてるのは・・・
﹃魔法を使ってるのにワザワザ配管通さなくてもいいんじゃね?﹄
魔石をパネル状に加工して転送魔法で水を吸い込んで別の魔石に転
送させて直接押し出せばいいじゃん。
パネルを小型化させて数多く設置、それを宇宙空間でのバーニアや
スラスターのように使えばもっと運動性は向上するんじゃないかな
って考えた。
船じゃ普通はありえない複雑怪奇な動きも可能なんじゃないかと思
って実験したかった。
水が船の推進に抵抗として圧力を受けた場所の全てから圧力分の水
を転送させれば﹃水の抵抗ゼロ﹄まで目指せるんじゃないのかと考
えてる。
双胴船では実験データに違いは出ると思うが、俺が作ろうとしてる
船はまだ形にもしてないので実験は無駄にはならないだろう・・・
と思う。
このハウスボートも形の割には運動性はあるし、風も穏やかでここ
は川だから波がそこまで高くならない分、スピードが出せる。40
ノットはいけそうだ。
小回りは絶望的だけど。
双胴船だと弱点は小回りのなさと﹃波のうねりで生まれる歪みによ
877
る船体へのダメージの多さ﹄だと俺のもらった知識と経験にも入っ
てる。
双胴船だと高い波でうねりが強い外洋にはあまり向いてない。ダメ
ージが大きいから船の耐用年数に影響が出やすい。
大型化すればそれはそれで色々問題が増えてしまいそう。
そろそろお昼の時間だしデータも集まってきてるので自動操縦で川
の流れ分動かせて、この場所を維持させるように設定。
俺はキャビンスペースに降りて昼食を食べる事にした。
今日はボッチな昼食だ。
久しぶりに俺がこのイーデスハリスの世界に来て1番最初に食べた
物・・・焼いてあったが残ってるクマのステーキにする。ポテトサ
ラダと冷製のかぼちゃのスープをつける。
あの20日前と同じようにボッチで食べてるんだが・・・感慨深い
な。
たった20日で激動な時間を過ごしている。
嫁を3人ももらうなんて考えてもいなかったし、結構楽しく過ごせ
ているのはやはり日本には残してきたのが少ないからだろう。
じぃちゃんばぁちゃんが死んで結婚する事を考えた愛梨とも別れて
から、イーデスハリスの世界に来てるのが大きい。
このまま年もとらずに何百年もこの世界で過ごすうちに、もしかし
たら地球に帰りたくなるかもしれないが、今のところは帰る手段も
ないし・・・ゴッデスにお願いすれば日本を見るだけぐらいなら出
来るだろうとは思うが・・・今のところはどうでもいいな。
まだそんな気分にはなってない。
今の欲求は﹃焼肉のタレ﹄と﹃豊富な魚介類﹄だけだしな。
878
魔力パワーボート製造したっす。
船上で昼食を食べ終えると操縦席に戻り実験の続行だ。
最高速での運動性や船底にかかる圧力変化などを調べる。やっぱ双
胴船だと独特の動きになるな。
ある程度のデータが溜まったので、今度は実際に作って調整した方
がが良さそうだな。
水の抵抗で考えると球形の方が良さそうなんだけど、流石に船の形
から逸脱し過ぎてるから無理だな。
なので・・・普通の単胴船型の船を製作する。
材質は岩場でたくさん採取した﹃ミスリル﹄にする。
魔石を加工した小さなパネルで船底だけでなく船全体を覆いつくす。
船の長さは外洋に出る事も考えていたら、パワーボートと潜水艦が
合体したような近未来形になっちゃた。まさしく未来型の小型潜水
艦って感じだな。
濃紺に塗装して艶消しにしないといけない気分になってくるが、こ
れは趣味の船で戦闘艦じゃないし、武装もつけていないので外観は
とりあえず真っ白にしておいた。
全長20mで幅は5m。
船を川に浮かべてみるが・・・今は停まってる状態だから船底部に
水を注水して重り代わりにしている。
波が船体に当たっているはずだが、一切の揺れはない。全ての圧力
がすり抜けてる。
船を動かし始めるが、水しぶきすら上がることなくスイスイ動く。
879
魔石は100以上の量を使い魔石パネルにかかる圧力などの情報を
クズサイズの魔結晶20個に集める。
魔石パネルからの情報と指令の管理はロードクイーンの魔結晶で操
縦と外洋航海用の知識や経験などを封入して全ての指令をこれで管
理する。
船体の外部を覆う魔石パネルは﹃センサー﹄でもあり﹃転送魔法の
吸入口﹄でもあり﹃転送魔法の排出口﹄でもある。
会社における﹃平社員=魔石パネル﹄﹃係長=クズ魔結晶﹄﹃課長
=ロードクイーンの魔結晶﹄だな。
人間と違って命令通りにしか動けないが。
魔力効率は想像以上に良かった。ウォータージェット方式よりもい
いぐらいだな。
・・・船ってよりも﹃アメンボ﹄みたいな感じかもしれん。何の抵
抗もなく進んでいくからな。
スピードも底なしな感じがする。
浮力・水圧・風圧など船体にかかる圧力が魔石パネルに当たると、
その圧力は全て転送魔法で送られて全部ではないが、船を動かす為
の推進力に切り替わる。
波に当たって船が飛び跳ねることも皆無だ。
船ではありえない動きの﹃真横に移動﹄すら容易に行われる。
船にかかった圧力がそのまま反対側へと移動するだけだ。
船が波を切ることなく猛スピードで変幻自在に動き回れるので・・・
アメンボっぽいって表現になってしまう。
船を旋回させるのに傾ける必要性すらない。船内には重力魔法でG
も管理されてる。
流れる景色を見て﹃動いてるんだよなコレ﹄って実感できる。
アンカーすら降ろさずに川の流れすら一切無視してその場で停船し
ている姿が既に異常な風景。
880
この感覚は﹃飛翔魔法﹄で浮かんでるような感覚に近い。
操縦席の操縦方法も替えた。船の操縦でなくて車と同じにした。
ブレーキで減速する船ってのも・・・まっ、いいや。
船を潜水艦のように上下に立体的に動かすために、左手用のレバー
をつけた。
オートマチックの変速レバーみたいなヤツで、奥に押し込むと潜行、
手前に引くと浮上。
簡単に潜水艦のように潜航してしまった。
これなら飛行も出来そうだな・・・飛行実験は次回にしよう。きり
がなくなりそうだ。
この方式の船は亜空間に存在してるんじゃないかと思うほどの空間
の切り取り具合がヤバイ。
この船は﹃空間をくり貫いて移動している﹄
実験の結果は・・・こんな感じだろう。
﹃この推進方式の船は形状なんてどうでも良い。外洋? 波? う
ねり?・・・ああ、あったねぇ大昔にそんな言葉﹄
統括用に大きめで質の良い魔結晶と大量の魔石と20ものクズ魔結
晶がいる、それ以外はサイズ次第で量が変化するってだけだな。
名前は﹃魔力パワーボート﹄にした。
俺の貧困なネーミングセンスには、それ以外には思いつかなかった。
全ての実験は終わったな。
今日もまた中途半端だ。この後は魔力パワーボートの内装を整備し
ないといけないからな。
15時のおやつの時間だったので、今日は久しぶりの﹃鬼まんじゅ
う﹄にした。
881
船の中は操縦席しか作ってない。
操縦席は船の2階部分になってる。まだ1階部分は何も入っていな
い。
魔力パワーボートも中身はハウスボートと一緒だ。形状は違うけど。
この船にはエンジンが存在しないので船の中の空間がほとんど使え
る。
安定用の水を入れる船底部分さえあれば良い。注水&排水装置も魔
石で出来るからな。アンカーも必要ない。
船内が20mクラスとは思えないほど広く取れる。
内装はセバスチャンたちが取ってきてくれた木材を多様。魔糸溶解
液でコーティング。
船の船首から半分までを居住空間にした。長さは12mほど使って
いる
先端部分も予備の操縦席として設置する。
船体中央部分の左舷側は通路と操縦デッキへの階段。階段の下はト
イレと洗面台が付いてる。右舷側はベッドルームになってる。ベッ
トルームは幅3m長さ6mで部屋の真ん中に2m×5mの巨大なベ
ッドがある。
左舷の洗面台はそのままキッチンとしても使えるが、料理スキル持
ちが多いのでたぶん使う事がないだろう。
船尾部分は1.8mほどの後部デッキになってるが、トラックのパ
ワーゲートのような後部ドアを開けると長さも4mほどになってオ
ープンデッキとしても使える。
ここから釣りも出来るようにしておく。
異世界の外洋で何が釣れるのか考えると怖くなるが、気にしないこ
とにしておく。
釣りで使う専用のシート作って、簡単に取り付けられるようにして
おく。
882
後部デッキをオープンデッキにした時にここで食事が出来るように
しておく。
海鮮系のバーベキューなどしたい事がたくさんあるので、魔力パワ
ーボート専用にバーベキューセットを作っておく。
船がゴーレムとしてアイテムボックスのスキルを持ってるので、家
族と俺が作ったゴーレムなら誰でもここにバーベキューセットも取
り出せるようにしておく。
後は個別の専用シートをキャビンスペースに設置して、魔力パワー
ボートの1階部分の内装は終了。
操縦デッキに行ってこちらにも、全員分の専用シートを設置したの
でこの船にも展望デッキを作ってしまった。
これで船作成は完了だな。
2つの船もアイテムボックスに入れて帰る事にする。時間も16時
を過ぎてちょうど良い時間だろう。
まずはるびのに確認だな。念輪でるびのに回線をつなぐ。
﹁るびの聞こえるか? 今どこにいる?﹂
﹁うん。とうちゃん、聞こえてるよ。今はガウリスクさん達の家で
お話してる﹂
﹁お、それじゃあ、ちょっと早いけど迎えに行ってもいいか?﹂
﹁いいよ。家に帰ってきてから休憩も終わったし﹂
﹁じゃあ、今から行くな﹂
転移魔法でグリーンウルフダンジョンの元早乙女邸に行く。
ガウリスクの部屋に行くと、ちょうどるびのがガウリスク達に別れ
の挨拶を告げたところだった。
﹁みなさん、今日はお世話になりました。そろそろお迎えが・・・﹂
﹁よう、みんな。さぁ、るびのそろそろ帰ろう。ガウリスク達も今
883
日はありがとうな﹂
﹁あ、ボス。こちらこそありがとうございます﹂
﹁それじゃあ、みんなまたね﹂
﹁るびの様もお元気で﹂
るびのを連れて早乙女商会の事務所に転移する。
るびのに事務所で待っててもらい店舗に向かっていく。
884
るびののモフモフ覚醒っす。
店舗に入り口から入りブーツを脱ぐ。・・・って俺、まだ防具を装
備してるし。
下駄箱の靴はほとんど入ってなかった。
ブラウンがレジにいたので案内してもらい、テーブルとクッション
を出してもらう。注文はホットコーヒーにした。
店内には嫁3人とアイリの母親の﹃カタリナ・クリストハーグ﹄だ
けがいた。
﹁みんなただいま。カタリナさん。こんにちわ。お久しぶりですね﹂
﹁早乙女さん、おかえりなさい。貴方、トンでもない物を作ったわ
ね。この子が一番可愛い。撫で心地も最高ね﹂
﹁ちょっと待っててくださいね。今、裏で防具から着替えてきます﹂
キッチンのある場所へ向かい外から見えない位置で素早く防具を脱
ぐ。
以前、自分で作った﹃フード付きのパーカー﹄と﹃カーゴパンツ﹄
に着替える。
俺は日本にいるときからこんなラフな格好の方が好きなので、こっ
ちの世界に来てから時間を持て余してるヒマなときに作った。
ただ、カーゴパンツはちょっと違和感がある。股間がチャックでは
なくてボタンなので。
それが服を作るうえでのネックだな。
嫁達のコスプレ衣装もボタンとホックで作ったからな。
俺の﹃神の創り手﹄スキルでも作り方のわからないものは作れない。
俺の知識にあるか、俺のコピーしてもらった知識にあるものでない
885
と、何をどう造っていいのか﹃設計図が出来ない﹄
幾つもの知識を複合させて似たようなものなら作れるけど。
車がいい例だな。
車は俺がもらった知識の中に﹃元自動車整備士﹂の人がいるから材
質までは正確にはわからないが、仕組みと構造は理解できるから、
それなりの物が出来るが全く同じものは作れない。
材質の製造方法がわからないから作れない。ただし、形だけならわ
かるので似たものなら作れる
﹃焼肉のタレ﹄もいい例だな。
こんな味ってのはわかるが、何をどうやって作っているのかの知識
がない。
グーグル先生もいない俺では調べる事が出来ないから、全部1から
試してみないと作る事が不可能だ。
最終的には﹃なんとなく似た味﹄ぐらいならできるだろうけど。
着替えが終わったので自分のテーブルとクッションに戻る。
おーとまの頭を撫でながらカタリナさんはニコニコして頬がデレデ
レになってるな。
﹁カタリナさんのお気に入りはおーとまですか。その子ののモデル
になったヤツが、今いるんですけど見てさわってみますか?﹂
﹁え? しん様、るびのを連れてきたのですか?﹂
﹁迎えに行った帰りなんだよ。今は裏の事務所にいるけど、カタリ
ナさんに会わせても大丈夫かな?﹂
﹁母さんどうする? るびのは母さんが背中に乗れそうなぐらい大
きいけど、どうする?﹂
﹁会ってみたいわね。その子ももふもふしてるの?﹂
﹁るびののモフモフは俺が保障しますよ。たぶん世界最強のモフモ
886
フです﹂
﹁ああ、しんちゃんの言う通りるびののモフモフはヤバイよね﹂
﹁でもカタリナ母さん大丈夫ですか? るびのってコレぐらいの大
きさですよ?﹂
クラリーナが身振り手振りで説明してる。俺はマリアに裏の事務所
からるびのを呼んできてもらう。
﹁それじゃあ、今日のプレオープンはどうだった? 問題点は見つ
かった?﹂
﹁私がこの﹃もふもふ天国﹄のお客第1号として言いたいのは・・・
設定時間が短過ぎ﹂
﹁やっぱりそうなるか。みんなは何か対策とかは考えてくれた?﹂
﹁私が友達に聞いた意見を参考にすると﹃クッキーは別料金で売れ
る﹄かな。だから私が考えたのは﹃1ドリンク500G。クッキー
5枚で500G。セットで1000Gで1時間﹂ってのはどうかし
ら?﹂
﹁私も今のアイリさんの考えと似てます。私は追加で延長料金代わ
りにクッキー5枚で30分延長って考えてました﹂
﹁クラリーナとアイリの考え方は良いんだけど、クッキーだけじゃ
なくてもう1品ぐらいは欲しいわね。料理スキルが食事メニューを
載せない理由っていうのなら、誰でも出来る﹃カットフルーツの盛
り合わせ﹄とか﹃フライドポテト﹄ぐらいだったら市販品も数多く
あるんだからいいんじゃない?﹂
﹁カタリナ母さん、マリアが作ってくれた﹃フライドポテト﹄感動
してたじゃん。あんまり料理はお勧めしないな﹂
﹁あれは美味しかったわね。でも量を少なくして500Gで販売す
ればいいんじゃない? 最後に持ち帰りも出来るようにすれば帰り
道でも食べられるし﹂
﹁うーん。とりあえずは﹃クッキー﹄﹃カットフルーツ﹄﹃フライ
887
ドポテト﹄この3点は確定にしよう。出す量は今から検討なんだけ
ど・・・あ、るびのが来た﹂
のっそりと入ってくるるびの。大きさはゴールデンレトリバーより
も一回り大きくなった大型犬サイズだがもう体重は60kgを超え
てる。
﹁この子がおーとまの元になった子なの? 確かにモフモフしてる
わね﹂
﹁とうちゃん、この人だれ?﹂
﹁おう、るびの。この人がカタリナさんっていってアイリのお母さ
んだ。だからるびの、ちゃんと挨拶してごらん﹂
﹁あ、忘れてた。初めまして﹃早乙女・るびの﹄です。カタリナさ
ん、これからよろしくね﹂
るびのがおすわりの姿勢でカタリナにペコリと頭を下げた。
﹁この子話せるの?﹂
﹁クックック、アイリとミーと全く同じリアクション。カタリナさ
ん、ありがとうございます。魔獣って意外と話せますよ。全種類と
試したわけじゃないんですけど。それにコイツは聖獣﹃白虎﹄です。
・・・るびのが挨拶したんだから、カタリナさんも挨拶で返して欲
しいなぁって言うのが俺の親としての意見です。るびのは俺が養子
にしましたんで俺の息子です﹂
﹁聖獣って・・・ああそうね、ごめんなさいね。こんにちわ。私は
﹃カタリナ・クリストハーグ﹄よ。アイリとミーの母親でもあるわ。
それに今日からクラリーナも私の娘になったし。だからるびの君は
﹃カタリナ祖母ちゃん﹄って呼んでね?﹂
﹁カタリナ祖母ちゃん、カタリナ祖母ちゃん・・・うん。覚えたよ。
カタリナ祖母ちゃん﹂
﹁るびの君、触っても良いかな?﹂
888
﹁うん。良いよ、カタリナ祖母ちゃん﹂
るびのが移動してカタリナの隣に座り頭を擦り付ける。
・・・上手いなるびの。甘え上手だな。
カタリナさんが幸せの絶頂って顔でるびのの全身を撫で回してる。
気持ちがわからんでもない。
いいだろそのモフモフ、俺の大事な息子なんだぜ。
何度でも言う・・・モフモフは正義だからな。
今まで撫でられていたおーとまは空気を呼んで少し離れる。
愛玩ゴーレムたちも上手いな。俺こんな事教えてないんだけどな。
カタリナさんが完全にトリップしてしまったので、代わりに嫁に話
しかける。
﹁なぁ、アイリ。もう17時ぐらいなんだけど、カタリナさんって
家に帰らなくてもいいのか?﹂
﹁今日からドミニアンお義父さんは家に帰ってこられなくなるんだ
って。今夜はゾリオン村で泊まりになるって出勤していったよ。だ
から今日はここに泊まるって、さっきから言ってるんで困ってるん
だけど﹂
﹁それは別に構わないぞ。ここなら警備隊の詰所よりも防御力高く
て俺も安心できるし﹂
﹁ホント? カタリナ母さん良かったね。しんちゃんがここに泊ま
っても良いって言ってくれたよ﹂
﹁やった! ありがとうございます。私の長年の夢が今夜叶える事
が出来そうです。﹃1度でいいからモフモフに埋もれて眠りたい﹂
って・・・夢だったんですよ﹂
﹁もう、母さんやめてよ。子供みたいにはしゃいじゃって、ちょっ
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と恥ずかしいわよ﹂
﹁そういえば、さっき﹃クラリーナも私の娘になったし﹄ってカタ
リナさんが言ってたけど、どういうことなんですか?﹂
﹁それは私がアイリさんに﹃こんな優しくて綺麗なお母さんがいて
カタリナ母さん
って呼びなさい。そうすれば今から貴
羨ましいです﹄ってホンネを言ったら、﹃じゃあ、今からクラリー
ナは私を
女は私の娘です﹄っておっしゃってくれたんです﹂
﹁そういえば、カタリナさんとクラリーナって名前だけじゃなくて
顔も背格好も似てるからホントの親子に見えるな﹂
﹁それ、もうすでにカタリナ母さんに言われたよ。﹃あんた達みた
いにデッカイ娘じゃなくて、私と同じぐらいの娘が出来て嬉しい﹄
って。何気に酷い言われようだよ﹂
﹁私なんて実の娘なのに、そんな事目の前で言われたら流石に凹む
わよ。でもクラリーナが嬉しそうだから文句も言えないし﹂
﹁お2人ともごめんなさい。でもしん様の言うように。私も親近感
が沸いてます。私も実の母親よりもカタリナ母さんの方が似てます
し﹂
﹁でしょでしょ。やっぱりクラリーナが私の娘って言う方がシック
リ来るのよ﹂
カタリナさんが話に加わってきた。
しかしカタリナさんはホントに見た目はクラリーナに似てる。性格
はミーのほうが似てるけど。アイリが似てるのは声と話し方がソッ
クリ。
そのカタリナさんは今は伏せの体勢になってるるびのを撫で回して
る。
﹁るびのってホントにモフモフね。コレは病みつきになるわ﹂
﹁・・・そういえばるびのって大きさが変わるんだったな。大きさ
890
が変えられなかったって言ってたけど、小さくなるのも試したのか
?﹂
﹁うん。ダメだったよ、とうちゃん。ニャックスさん達もどうやっ
てオレが大きさを変えてるのかは知らないって言ってたんだ﹂
﹁うーん、魔法なのかな。魔力なのか・・・なぁるびの、自分の中
にある自分の魔力ってわかるよな?﹂
﹁わかるよ。それがどうかしたの?﹂
﹁大きさが変わるって事は魔力の大きさを変えるってことなんじゃ
ないのかな? それだったら自分の魔力をこんな風にギューっと縮
めてみてごらん﹂
そういって俺はるびのに向かって両手を合わせておにぎりを握りこ
むようにジェスチャーしてみた。
﹁わかった。試してみるよ。うーーーん﹂
るびのは両目をつぶって集中する。るびのの体が白く輝いて収縮し
ていく。
おーとまと同じ大きさになってしまった。
﹁﹁﹁﹁﹁縮んだ!﹂﹂﹂﹂﹂
俺達全員が大声を上げたのでるびのが目を開ける。
﹁・・・あ、できた。やった、とうちゃん成功したよ﹂
﹁おおお、凄いな! コレが聖獣の力の1つなんだな﹂
空気を呼んでおーとまがるびのに近づいてきて頭を下げて挨拶をす
る。
﹁るびのにーさん、はじめまして。ボクの名前は﹃おーとま﹄です。
よろしくね﹂
﹁おーとまね。よろしくぅ﹂
﹁﹁﹁﹁キャーー﹂﹂﹂﹂
891
3人の嫁とカタリナさんが絶叫してるびのとおーとまを抱き上げて
しまう。
﹁うぷっ、とうちゃ・・・たすけ・・・﹂
﹁スマンなるびの。モフモフの魔力に支配された女性は、男では解
決できないんだ。今は耐えてくれ﹂
﹁凄い凄い凄い。アイリが言ってた事がわかる。おーとまも可愛い
けど本物はこんなもんじゃないって。もっともっと凄い魔力がある
って﹂
﹁でしょ、母さん。この時のるびのの可愛さは世界制覇が出来るっ
て﹂
﹁アイリさんが言ってる事はよくわかりませんが、感覚で理解でき
てしまいます﹂
﹁感覚で理解できるならクラリーナもしんちゃんと同じところに来
てるよ﹂
﹁ミー、なんだよそれ。俺はモフモフの到達点かよ。まぁ、最終到
達点ではなくまだモフモフ道の途中ってのは・・・大体合ってる﹂
﹁しん様が到達点って・・・そこは否定しないんですね﹂
﹁否定は出来んな﹂
﹁ねぁ、しん君、そういえばるびのがここに来る前って、この店の
メニューの量を決めるって話だったけど・・・どうするの?﹂
﹁・・・完全に忘れてたな。それとやっと開放されたるびの、お前
はその体の大きさで辛かったりしないのか?﹂
﹁わかんない。とりあえず明日の朝までこのままでいられるか実験
してみるね﹂
﹁ああ、辛くないんだったらいくらでも実験してみろ﹂
﹁それで、サイドメニューの話に戻るけど・・・とりあえず﹃クッ
キー﹄﹃カットフルーツ﹄﹃フライドポテト﹄の3種類でで決定し
892
よう。これ以上はしばらく時間が経ってからだな。それで金額は一
律でわかりやすく全品500Gでいく。スペシャルドリンクだけが
1000Gだな。全品が30分の時間が付く。一度に頼める品目は
2品まで﹂
﹁頼める品目数が決まってるの?﹂
﹁ああ、アイリ。これ以上の品目のメニューはテーブルに乗せない
方がいい。なんせこの小さいテーブルだからな﹂
﹁そう言えばそうね。でも早乙女君﹃カットフルーツ﹄ってどんな
ものなの?。現物を見ないことには検討できないんだけど﹂
カタリナさんに言われたのでセバスチャンに指示して適当な大きさ
に乱切りされたフルーツを皿に並べた。一口サイズの大きさにカッ
トされたフルーツが結構多めに乗っている。
﹁しんちゃん、この量は多いわよ。コレの1/3ぐらいでちょうど
いい量よ﹂
﹁セバスチャン、この量で原価はどれぐらいだ?﹂
﹁以前、買出しに出かけた時に纏め買いをして値引きしてもらって
ますので、正確な原価は把握できてませんが、買った金額から割り
出した額は・・・90Gぐらいですね﹂
市場で買った金額でこの量が90Gかよ。
さすがヨークルだな。
海の恵みは距離的に金額がかかるが、森・山・川・草原・池などの
恵みは豊富だな。
フルーツも畑にあって栽培されてるだけでなく、大草原や大森林で
簡単に手に入るし。
893
ドラゴン繊維が見つかっちゃったっす。
フルーツの量はミーの提案通りにセバスチャンが出した量の1/3
の決まった。
そして、そのまま持って帰れるように魔糸溶解液でコーティングし
た紙皿を俺が作った。
今日大森林で船の実験をする前に糸玉を山ほど持ってきたし、既に
魔糸溶解液もたくさん作ってあるので材料は販売する事が出来るぐ
らいのトン単位で持ってる。
見た目が紙製に見えないって言うのが俺のこだわりかな・・・この
イーデスハリスの世界に紙がたくさんあって良かったよ。
﹁こんな感じの皿でどう?﹂
﹁オシャレな皿って訳じゃないんですけど、こういうのも素朴な味
がありますね、しん様﹂
﹁ここまで出来れば後はサイズ変更とバリエーションの変化で﹃フ
ライドポテト用﹄も出来るよ。こんな感じかな﹂
目の前で作ってみる。
あ・・・カタリナさんの存在を忘れて目の前でスキル魔法を使いす
ぎたな。
﹁早乙女君っていろんなスキルを持ってるのね。教師のスキルとア
イテムボックス︵極小︶しかない私には羨ましいわね﹂
﹁え? 教師のスキルだけ? スキルは生活魔法が付いてますし、
アイテムボックス︵小︶の祝福が付いてますけど・・・ステータス
カードで自身で確認してみてください﹂
﹁うそ!﹂
894
自分のステータスカードを取り出して確認するカタリナさん。
﹁祝福なんて私持ってなかったのに、どうしてなんだろう・・・﹂
﹁俺にも理由はわからないですね﹂
﹁あ! しんちゃん、結婚の祝福!﹂
﹁そうね。ミー、確かにそれなら納得できるわね。・・・母さん、
アマテラス様が結婚の祝福をくださったのよ﹂
﹁なるほど。ドミニアン司祭様とカタリナ母さんの結婚でアマテラ
ス様から祝福をいただいたのなら納得できますね﹂
﹁・・・ホントに生活魔法のスキルまで付いてるんだけど﹂
それからはカタリナさんへの生活魔法レクチャーの時間になった。
セバスチャンとマリアには今日の人数分の晩ご飯の用意をしてもら
う。
生活魔法というのは簡単で自分だけの魔法だ。
﹃マッチほどの大きさで点火用の火﹄﹃コップ1杯の冷水﹄﹃コッ
プ1杯の熱湯﹄﹃1分間、自分だけの冷風﹄﹃1分間、自分だけの
温風﹄﹃生ゴミから肥料を作る﹄﹃草木の成長促進﹄﹃ライトの魔
法﹄
などの簡単なものばかりしかない。
それもMPの量に左右されて効果の範囲は個別で違う。
例えば﹃草木の成長促進﹄は俺の場合はこの国をジャングルで覆え
るが、カタリナさんの場合はプランター1つ分ぐらいの草と1本の
木でMPがきれかけて精神的に疲れてダウンしてしまう。
なので・・・生活魔法の練習って言っても、俺が何度も魔力を補充
しながら行った。
一通り使えるようになって、精神的にはかなり疲れてると思うがカ
タリナさんは満足げだ。
895
﹁コレで私も魔法使いの一員だわ!﹂
﹁そんな生活魔法だけで大げさな・・・﹂
﹁それがしん君、シーパラ連合国ではそんなに大げさなことじゃな
いのよ。この国の場合500年前の聖獣白虎様の逆鱗に触れたとき
にほとんどの魔法が・・・それまで魔法大国ウェルヅ帝国の栄華を
誇った魔道士師団と共に10日で滅びちゃったのよ。全て傲慢にな
った人間の犯した自業自得なんだけどね・・・。だからこの国は5
00年前から魔法後進国になったの。生活魔法全般が使えるだけで
﹃魔法使いに認定される﹄ほどにね﹂
﹁でもライトの魔法を使ってる人は1/5ぐらいはいるよね?﹂
﹁生活魔法のライトだけとか1部を使えるだけの人が大半ですね。
私が司祭様に熱心に勧誘されたのも﹃魔法を使える素質を持った人
間が少ない﹄という理由です﹂
﹁それでアイリもミーもさっきから悔しそうなのか?﹂
﹁悔しいというか・・・カタリナ母さんが羨ましい、ね。魔法の素
質がない人間からすれば魔法は全部羨ましいになっちゃうけどね﹂
﹁私もミーと一緒で母さんが凄く羨ましいわね。母さん、しん君に
教えてもらえて良かったね﹂
﹁そうね。早乙女君がこうやって魔力を補充しながら上手に教えて
くれたからすぐに出来るようになったわ。ありがとうね、早乙女君﹂
﹁いえいえどういたしまして。・・・ではそろそろ晩ご飯にします
か?﹂
﹁そうだよぅ、とうちゃん腹減ったよぅ﹂
イエローたちに頼んでテーブルを移動してくっつけてもらう。
1つ追加で6個の机をくっつけると、少し小さな食卓テーブルの出
来上がりだ。
今日のメニューは炙り豚トロ丼。お麩の浮いたシンプルなお吸い物
が付いてる。
896
豚トロの上に乗ってる白髪ネギに焦がしネギ油が少量かけてあって
豚トロ丼の塩とレモンとごま油の味にとてもマッチしていて美味か
った。
食後は俺は酒を飲まずに紅茶をマリアの頼んだ。
ほかの皆は酒にしたらしい。日中はずーーっとドリンクを飲んでた
みたいだから。
るびのはあの小さくなった体だと少量で住むみたいだな。
ただ歯は生えそろってるので2kgほどのクマ肉をガツガツ食って
たが。
マッタリ中にセバスチャンに疑問をぶつけてみた。
﹁セバスチャン、ごま油を見つけたのか?﹂
﹁はい。今日のお昼に奥様方と買出しに行ってる最中に発見いたし
ました。これでさらに料理の幅は広がると思います。金額もたいし
た値段ではなかったので、500ccのビンで何本か購入しておき
ました。既にご主人様のアイテムボックスに送ってあります﹂
﹁流石セバスチャンだな。ありがとう﹂
﹁お褒めいただき光栄でございます﹂
﹁早乙女君、ごま油でそこまで味が変わるものなの?﹂
﹁カタリナさん、ごま油を調理中に加えると風味が増しますね。炒
め物なんかにはおすすめですよ﹂
﹁そうなんだ。今度試してみるわ﹂
﹁それとしん君にお願いがあるんだけど・・・店舗のトイレを増や
して欲しいの。今日は友達も呼んでここで遊んでいたんだけど、2
0人近く店にいてトイレが1つだけって結構不便だったから、私と
ミーとクラリーナは事務所の方まで行ってたの﹂
﹁そうなんだよな、この店ってトイレが一つしかなかったもんな。
わかった。今から改造してくるよ﹂
897
店舗の奥のトイレに移動する。
トイレの反対側の扉の中は従業員の休憩室になっていたので、そこ
を潰してトイレに改造する。
男性用女性用で分けるのではなくて、それぞれ独立した個室を4つ
作った。
今までのトイレがあった場所は洗面台に作り変えた。
これぐらいあれば充分だろう。
みんなのところに戻る。
﹁作ってきたよ。それと皆は今日のお風呂どうするの?﹂
﹁ここの近所に公衆浴場があるから皆で入りに行ってくるよ﹂
﹁そうかアイリ。それなら、母子で今夜は楽しく過ごしてやってく
れ。布団はセバスチャンが持ってるから今夜はみんなでここに寝れ
ばいいよ。俺はそろそろ自宅に帰るよ﹂
﹁わかった。今日は久しぶりにカタリナ母さんとノンビリさせても
らうね﹂
﹁私もカタリナ母さんと色々お話がしたかったので今夜は夜更かし
してお話しちゃいそうです﹂
﹁私も母さんと語ってみたかったのよ。私も母さんと同じ妻という
立場になったからね﹂
﹁おう、わかった。みんな無理だけはするなよ。俺はセバスチャン
だけ連れて帰るから。マリア、後は任せた﹂
﹁了解いたしましたご主人様。私にお任せください﹂
下駄箱の鍵を預けていたブラウンから受け取り、ブーツを履こうと
して・・・やめた。
このパーカーとカーゴパンツにワイバーンのブーツは似合わなかっ
たので履くのをやめた。
スニーカーでも作るか。
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素材は何にしようか・・・と悩んでいると、オークの皮を大量に余
らせている事を思い出した。
オークの皮を加工しやすくするために、魔法でなめしていると結構
よさげだな。
靴底はグリップさせるためにゴム製にして間に森林モンキーの尻尾
を靴と靴底の間に挟んでクッション性を上げた。
靴ヒモも森林モンキーの尻尾。
履いてみたら・・・これはかなりいいな、大成功だろう。
靴製造が大成功したのでセバスチャンを引き連れて歩いて帰る事に
した。
2艘の船の登録の事で聞きたい事があったので商業ギルドに寄って
いく事にする。
商業ギルドに入って受付で聞いてみる。
﹁すみません。ゴーレム船って登録はどういう形態になるのですか
?﹂
﹁申し訳ないのですが、船の方のご登録は倉庫街の方に商業ギルド
の出張所がございますので、ご登録はそちらでお願いいたします﹂
地図の書かれた紙を受付でもらう。
ガルディア商会の倉庫の近くにあるな。これならわかりやすかった
ので受付嬢にお礼を言って商業ギルドを後にする。
そのまま歩いて帰ってると都市ヨークルの外周部に入ってから、セ
バスチャンが念輪で連絡してきた。
﹁ご主人様にワイバーンの肉の事でご報告がございます﹂
﹁ん? なんかあったか?﹂
﹁はい。焼肉のタレに肉の出汁は関係がないようですね。焼肉のタ
レ製造には失敗してしまいました。しかしながら肉の旨みを抽出す
る過程におきまして、以前ご主人様がおっしゃられていた﹃ワイバ
899
ーン肉の繊維成分﹄の完全分離には成功いたしました。それがコレ
です﹂
セバスチャンがアイテムボックスから取り出したのは、俺が浮かば
せてるライトの魔法にキラキラと光って反射する綿のようなモノだ
った。
鑑識で調べてみる。
ドラゴン繊維﹃龍糸繊維﹄
所有者 早乙女真一
変幻自在にして伝説の能力を発揮できる繊維。製法は千年以上前の
古代に失われてる。
糸状にすると﹃龍糸﹄。布状では﹃龍布﹄。繊維の状態では﹃龍糸
繊維﹄と呼ばれる。
早乙女真一の手によって発見されて復活を遂げた繊維。
・・・おい。ちょっと待て。俺は発見してねぇーよ。
大声を出しそうになったがグッとこらえた。コレはヤバ過ぎるモノ
を作り出しちゃった可能性があるな。ヤバさはるびのの聖獣レベル
だな。
﹁もしかしてワイバーンの肉が固くて食えなかったのってコレが入
ってせいなのか?﹂
﹁その可能性は高いと考えられますね。ワイバーンの肉1kgで半
分の500gは繊維です﹂
﹁半分って、繊維ばっかりじゃねぇーか。しかも50%がドラゴン
繊維って・・・漬け込んでもゴムにしかならんわな﹂
﹁コレは発表できねぇ。ワイバーン狩りの依頼が俺に殺到する﹂
﹁ですので2人の今が報告できるチャンスだとご報告させていただ
きました。旨み成分のドラゴン汁の方はもう少し試行錯誤をする時
900
間がいただきたいのです。まだ適量が掴めていません﹂
﹁ドラゴン汁は全部セバスチャンに任せるよ。ドラゴン繊維・龍糸・
龍布はどれぐらい作った?﹂
﹁各1tずつですね。何しろるびのが大量に狩ったはいいのですが、
食べられない食材だったので余らせてもしょうがないと、加工すれ
ば使い道は増えると考えましたので大量に作っておきました﹂
﹁それじゃあ、セバスチャンのアイテムボックスを圧迫しそうだな。
俺のアイテムボックスに入れ替えるよ﹂
﹁ありがとうございます。あと半分はマリアのアイテムボックスに
入ってますので、そちらの移動もお願いします﹂
﹁わかった。しかし、使い道のなかった大量のワイバーン肉にこん
なものが隠されてるとはな﹂
901
緊急事態発生! 早乙女は今すぐギルドに向かえ! 了解っす。
龍布か・・・なんに使うんだ?
欲しくて作った念願の物じゃないので、正直扱いに困ってしまうな。
おかみさんに渡すのも憚られる商品の存在に途方にくれそうになる。
早乙女邸の正門前に到着するとユーロンド5号が正門を開けてくれ
る。俺とセバスチャンが入れればいいのでユーロンド5号は正門を
持ったまま1mほど動いただけだ。
中に入っていき堤防を越えて桟橋部分に行く。
早乙女邸と倉庫の桟橋は一度全部壊してからハウスボート専用桟橋
と魔力パワーボート専用桟橋に作り変えた。
2艘の船を実際に桟橋に着けてみるが、乗り降りには問題がないな。
そのまま浮かべておいてセバスチャンに見張りを頼み早乙女邸を出
て商業ギルド倉庫街出張所に歩いていく。
ストーカーも遠見魔法による監視もなくなって凄く居心地が良い。
そのうちにまた復活するだろうが、この居心地の良さはなくしたく
ないのでこれからもガツガツ反撃する事にする。
商業ギルド出張所に行くとヒマそうなお兄さんが受付で1人で座っ
てボケーっとしていた。
魂が抜けかかってるのか? って感じの無反応が俺が声をかけた瞬
間にスイッチが入って動き出す。
﹁すみませーん。ゴーレム船の登録に来たんですけど﹂
﹁あ、はい! 失礼しました。今なんておっしゃいましたか?﹂
﹁ゴーレム船の登録に来たんですけど、今ってよろしいですか?﹂
902
﹁大丈夫です! 問題ないです! やった仕事が出来た!﹂
大声を出してテンションが上がりまくってるお兄さんだった。正直
で微笑ましくて面白い人だな。
﹁早乙女ですけどちょっとうちの港の桟橋まで来てもらってもいい
ですか?﹂
﹁もちろんです。今からうかがいますので、一緒に行きましょう﹂
受付の奥にある部屋から代わりの人を呼んできて、お兄さんと一緒
に歩いていく事になった。
﹁早乙女さん、自己紹介させてください。自分は﹃サンゾー・ミー
ルハイト﹄って言います。サンゾーって呼んでください﹂
﹁ミールハイトってどこかで聞いた事のある家名だ﹂
﹁兄の名前は﹃ケンジ・ミールハイト﹄冒険者ギルドで職員をして
います。年は離れてますが自分の兄で間違いないです﹂
﹁おー、ケンジさんの弟さんでしたか。では改めまして﹃早乙女真
一﹄です。家名が早乙女で名は真一です。真一って発音がしにくい
みたいなんで、早乙女って呼んでください﹂
﹁兄からお噂はかねがね聞いております﹂
急にキョロキョロし始めて周りをうかがうサンゾー。
﹁ごめんなさい。ホントは守秘義務ってヤツで話をしたらいけない
んですけど、他言しないって事でこっそり教えてもらいました。細
かい話は教えてもらえなかったんですけど。早乙女さんは倉庫街で
は・・・いえ、ヨークルの有名人ですからね﹂
﹁俺が有名人なんですか?﹂
﹁それはそうですよ。早乙女さんがこの都市ヨークルに来てから1
0日ほどの間に、今まで陰に隠れていたこの都市の問題点が幾つも
浮き彫りになって悪人が罰せられてるんですから。それはいろんな
噂が流れ飛びますよ﹂
﹁そうなんだよなぁ、散々巻き込まれてるんだよなぁ﹂
903
﹁でもこの倉庫街にとって早乙女さんは守護神ですよ。今まで闇に
まぎれて情報収集していた﹃スパイギルド﹄の連中がゴッソリ逮捕
されたんですから。倉庫番の皆さんも夜が静かになったって皆喜ん
でますよ。しかもボーナス付きでって笑ってましたね﹂
﹁ああ、あのストーカーって﹃スパイギルド﹄の人間だったんだ。
道理で気配を隠すのが上手い連中なんですね﹂
﹁スパイギルドのスパイが気配を消して活動してるのをご存知だっ
たんですか?﹂
﹁そりゃ気付きますよ。あれだけ堂々と人の家の中を覗いたり、人
が移動すると付回してきたり﹂
﹁それを誰にも気付かれずに仕事してるのがスパイなんですけど・・
・﹂
﹁俺は結構弱虫なんでビンカンなんですよ。後はアマテラス様にお
願いするとロープでグルグル巻きになったりするんですよ。神のな
せる技です﹂
どうせウソだとばれてると思うので、オチャラケで答える。真面目
に答える意味がないしな。
﹁そうなんですね。祈ると救われる事もあるって聞きますし。アマ
テラス様って凄いんですね﹂
﹁あ、ではこちらから入ってください﹂
流石に自宅の敷地内に引き入れる気はないので倉庫の中を通って桟
橋に降りて行く。
船の登録は時間がかかった。
サイズを測りながらゴーレムのネームプレートに魔水晶を使って封
入していく。
サイズも1人では測りにくいので俺も手伝う。
登録が終わってネームプレートをもらう頃に桟橋に商業ギルドの小
904
型船が来た。
﹁物凄いナイスタイミングですね﹂
﹁いえ、私は呼んでません。何かあったのかな・・・おーい。サン
ゾーだけど何か緊急の用件でもあったのか?﹂
﹁早乙女さん実は今、冒険者ギルドヨークル支部の方から緊急連絡
が入りまして、大至急冒険者ギルドの方にお越しくださいと。俺の
連絡ついでにサンゾーを迎えにきたんですよ﹂
﹁わかりました。船を片付けてから冒険者ギルドに向かいますと言
っておいて下さい。連絡ありがとうございます﹂
商業ギルドの小型船にサンゾーが飛び乗ると、小型船はすぐに戻っ
ていった。
﹁セバスチャン、俺は船を片付けた後に冒険者ギルドに向かってい
くから屋敷の方は頼む﹂
﹁了解しました﹂
アイテムボックスに2艘の船を入れて片付けて、桟橋を固定化魔法
で補強だけしていく。
これから冒険者ギルドまで歩いていかないといけないからな。緊急
って言ってたけど時間的に大丈夫なのか? しかし仕方がないので、
ちょっと走る事にする。
スピード自慢の冒険者が装備をなしで全力疾走するぐらいのスピー
ドで冒険者ギルドまで走る。
冒険者ギルドの中に入ると息も切らせずに受付に質問する。
﹁冒険者ギルド、ギルドランクBの早乙女です。大至急って緊急連
絡があったと商業ギルドの出張所で聞いたんで走ってきました。何
があったんですか?﹂
﹁今、大会議室の方でギルドマスターが会議中です。すぐにそちら
に向かってください﹂
905
﹁了解。ありがとう﹂
お礼を言って大会議室に行く。
ここでは前のクソババァとやりあった場所なので、あまり入りたく
ない場所だけど仕方がない。
ドアを開けると知らない人間が複数いてちょっとビビル。
﹁冒険者ギルド、ギルドランクBの早乙女です。大至急って事で走
ってきたのですが、どんなご用件でしょうか?﹂
﹁ああ、早乙女君、こんな時間に呼び出して申し訳ない﹂
﹁ラザニードさん、まだ21時で俺の寝る時間じゃないので気にし
ないでください﹂
﹁スマンな。今回は人の命の懸かった緊急の案件なんで、簡単に説
明させてもらうと・・・早乙女君には今から大至急﹃サラマンダー
の雫﹄をとってきてもらいたい。ここにいる人が依頼人の﹃グレゴ
リオ・シーズ・フォレストグリーン﹄さんだ﹂
俺がペコリと頭を下げると向こうも返してきた。中央に座っていた
グレゴリオさんが立ち上がって俺に握手を求めてきたのでそのまま
握り返す。
﹁流石だな、ラザニードさん。貴方とゾリオンさんが自慢するだけ
の人間だって一目でわかるな。初めまして﹃グレゴリオ・シーズ・
フォレストグリーン﹄です。グレゴリオとお呼びください。名前の
通りシーズの人間でフォレストグリーン商会の10代目の当主です﹂
﹁初めまして。早乙女真一です。早乙女が家名で真一が名前なんで
すけど、真一って呼びにくい名前のようなので早乙女と呼んでくだ
さい﹂
﹁早乙女さん、時間がないのでさっそく依頼の話がしたい。依頼の
品目﹃サラマンダーの雫﹄でわかるように﹃森林黄熱病﹄がこのヨ
ークルで発生した。病名が発覚したのは昨日だ。教会に隔離した1
906
0人の患者に予備で保管されていたサラマンダーの雫を使って治療
して既に完治した﹂
﹁え? それなら予備分を取りに行くって事ですか?﹂
﹁ヨークルでの感染は終了した。初めの感染者も特定できたし浄化
作業も完了した。・・・はずだったが既に治療をした医師に3次感
染が出てしまった。医者の名前は﹃ミーシア・シーズ・フォレスト
グリーン﹄私の妻でゾリオン・シーズ・ガルディアさんの長女。今
は妊娠中で身重の体なんだ。子供の命があと1日ぐらいしか持たな
いだろう。早乙女さんならサラマンダーを乱獲する事が出来ると義
父のゾリオンさんとラザニードさんに聞いてる。時間がないので今
すぐにでもサラマンダーの雫がほしい。大至急でお願いしたい﹂
﹁冒険者ギルドの出す条件はできれば予備も含めてサラマンダーの
雫が2つ欲しい。早乙女君への個人依頼で成功報酬はサラマンダー
の雫1つで1億G。2つで2億5000万G。受けてみてくれんか
?﹂
﹁受けるのは良いんですけど・・・俺、既にサラマンダーの雫を2
個持ってるんですけど・・・こういう場合ってどうなるんですか?﹂
驚愕する全員に見えるようにサラマンダーの雫を会議室のテーブル
の上に2個乗せる。
クリスタルの容器に入って赤く瞬くサラマンダーの雫は見事としか
言いようがないほど美しい液体だ。
ラザニードの隣にいたギルド職員が鑑定のスキルで調べる。
﹁こ、これは間違いなく本物です。この赤く瞬く液体の美しさはニ
セモノでは真似できません﹂
﹁ついでに俺がグレゴリオさんの奥さんの・・・ミーシアさんの治
療をしますよ。教会内で森林黄熱病は普通の浄化では病原菌を死滅
させられないんですよ。教会内で使う浄化ってアマテラス様の防御
結界とかぶってしまうので、浄化の殺菌の作用が半減するんです。
光魔法の上位魔法﹃聖浄化﹄でないと教会内では効きません﹂
907
﹁それは本当なんですか? それじゃあ。今教会内にいる人間の全
員が危険って事ですね?﹂
﹁もう時間がもったいないです。今から教会に行って説明します﹂
俺がアイテムボックスに今取り出したサラマンダーの雫をアイテム
ボックスに仕舞って部屋を出る。
﹁では急ぎましょう。ギルドからゴーレム馬車を出します﹂
﹁いえ、ラザニードさん達はゴーレム馬車で来てください。俺は先
に走って行って浄化作業を終わらせて待ってます﹂
そういって俺は走り出した。
教会に到着して最初に教会の巨大な土地全部に聖浄化の全体魔法﹃
神聖浄化﹄をかける。
教会全体が白く光った瞬間に消える。鑑識で調べたが病原菌は死滅
したみたいだな。
後は感染者の治療だけだ。
そこでラザニードとグレゴリオと親衛隊の面々が到着。そのまま全
員を引き連れて治療室に。
看病をしていたシスターにも感染してるのがわかったのでサラマン
ダーの雫を聖水で薄めて2人に飲ませる。
サラマンダーの雫は聖水で薄めると10人分ぐらいは使えるが効果
は数分で消える。
アイテムボックスでも効果が消える。
一度開けたビンも中身は数分で効果がなくなる。
この治療室全体にもう一度神聖浄化を使って鑑識で再確認、森林黄
熱病は完全に死滅したのを確認した。ついでに妊娠中のミーシアと
高熱で弱っていたお腹の子供に魔法で治療。
ダメージが深刻な部分があるようだ。
908
﹃エクストラヒール﹄
﹃エクストラヒール﹄
よし。これで子供にも森林黄熱病の被害は完全に消えた。
病原菌はサラマンダーの雫で治療できるが、森林黄熱病の高熱によ
って子供がダメージを受けてた。
病原菌はエクストラヒールでは殺せないがダメージを受けた子供の
治療は出来る。
逆にサラマンダーの雫では子供のダメージの治療は出来なかった。
ん? ・・・って事は神聖浄化とエクストラヒールの混合で森林黄
熱病って治療できるのか?
でも、最初に教会全体に神聖浄化をかけたけど、ミーシアと子供と
シスターの3人の体内にはまだ森林黄熱病の病原菌は残っていたぞ?
俺のもらった知識や経験にもそれはわからないってなってるな。実
験するわけにもいかんし。
まぁ、そんな事は後でもいいな。みんなに報告しないと。
﹁森林黄熱病の病原菌は完全に死滅させました。コレで完全に終了
です﹂
﹁早乙女さん、ミーシャの体に何の治療魔法を2回も施したのです
か?﹂
﹁ミーシャさんはサラマンダーの雫の効果で治療は終わりましたが、
お腹のお子様共々森林黄熱病の高熱によってダメージが見受けられ
ましたので、﹃エクストラヒール﹄を使って治療しました。シスタ
ーは森林黄熱病の病原菌が入っていましたが、まだ発病前だったの
でサラマンダーの雫だけで完治です。これでお子様の体のダメージ
は完全に消えてます。完治しましたよ。ついでにミーシャさんの難
聴も完治してますよ﹂
909
﹁本当ですか? 子供の、娘のダメージまで・・・妻の難聴も諦め
ていたのに、良かった、ありがとうございます。妻も喜びます﹂
﹁あ、娘さんだって知ってたんですね。森林黄熱病の高熱で盲目に
なりかかってましたが、もう大丈夫ですよ。コレで元気なお子様が
産まれてきます。もう心配ありませんよ﹂
おおおお、って親衛隊の人まで大声で泣き始めちゃったのでカオス
になってしまった。
あまりの大声にミーシャさんが目を覚ました。
﹁もー、うるっさいわね。人が寝てるのに・・・え? 声が、聞こ
える! 私、聞こえる、貴方、聞こえるの。音が聞こえてるの!﹂
﹁そうだ、聞こえてるか? 俺の声がミーシャに届いてるか?﹂
﹁聞こえる。貴方の声が聞こえてるの!﹂
ミーシャのもとへグレゴリオが駆け寄ると抱き合ってキスし始めた。
・・・俺、置いてけぼり。
だって、ラザニードさんまで感動で泣いてるし。
帰りたくなってきたな。でもコソっと帰ったら怒られそうだし。
910
メガヒールとエクストラヒールの考察。違いは光り方っす。
﹁すみませーん。貰うモノを貰って帰りたいんですけど・・・無理
っぽいなぁ﹂
それから5分以上は待機させられた。
﹁早乙女さん、申し訳ないですね。感動のあまり、つい・・・﹂
﹁早乙女さん、ごめんなさいね。でも私が完治したって事はやっぱ
りあの夢はアマテラス様の御神託で間違いがなかったのです﹂
﹁御神託ですか?﹂
﹁ええ、私が妻を連れて首都シーパラを離れてこのヨークルに来た
のは理由があったのです﹂
﹁私が4日ほど前に夢を見たのです。夢の中で私は光り輝く塊から
﹃貴女はシーパラの教会で医師としての職務を全うしなさい。そう
すれば貴女と貴女の娘に奇跡が訪れます﹄と﹂
﹁妻は医者と言っても普通の医者ではありませんでした。﹃森林黄
熱病﹄の研究家なのです﹂
﹁私が医師としての職務を全うするということは﹃森林黄熱病の発
生が疑われる﹄ということなので、自分の息子をお義母様に預けて
主人と大至急ヨークルにやってきました﹂
﹁それで昨日にヨークルへ到着して真っ直ぐに教会に来て森林黄熱
病の発生があるかもしれないとお知らせしにきたら、ちょうど患者
で森林黄熱病の症状が出てる人がいると診察を受け持っていた司祭
様に言われて私が診察しました。間違いなく森林黄熱病でした。ヨ
ークルの教会に予備として保管されていたサラマンダーの雫を投与。
患者1人とその患者を連れてきた患者の友人4人。患者を診察をし
た医師2名とシスター3人の合計10人にサラマンダーの雫を投与
しました﹂
911
﹁サラマンダーの雫の投与で回復をした患者がどこから病原体を持
ち込んだのかも患者の友人の証言もあって判明しました。患者と友
人達は冒険者5人でチームを組み、アゼット迷宮の地下34階の攻
略中に迷宮ヒヒの集団に襲われてシーフ職の患者が噛み付かれて負
傷。それで感染したと断定できました。私の研究でも森林黄熱病の
発生源の元は迷宮ヒヒの噛み付き攻撃を受けた人間に多く見られま
したので。そこで患者がチャーターして使用したゴーレム馬車など
も浄化して完了と思われたのですが、患者を治療していた私自身が
サラマンダーの雫を飲んでいない事をすっかり忘れていたのです﹂
﹁私は教会での治療と浄化作業も終わってホッとしていた時に妻が
発病して倒れたと聞いたんです。私はカルディア商会のゾリオン義
父さんにサラマンダーの雫を持っていないか尋ねに行きました。ガ
ルディア商会は持っていないが冒険者ギルドとギルドに所属するB
ランク冒険者の﹃早乙女真一﹄さんに個人指名依頼を頼む事が出来
たら解決できるかもと言われて、旧知のラザニードさんに依頼をの
お願いをしに冒険者ギルドのヨークル支部に急行しました﹂
﹁グレゴリオの話をワシも聞いてな、早乙女君なら必ず良い結果を
残してくれると思って依頼を受ける事にしたんだ。まさかこんなに
早く解決できるとは思ってもみなったがな﹂
﹁あ、忘れてましたね。これが予備分のサラマンダーの雫です﹂
俺は小さな声で言って教会の医者をしている司祭様にサラマンダー
の雫を1つ渡す。
彼はそのまま教会の保管庫にサラマンダーの雫を保管しに行った。
俺は皆にシーっと身振りをしてそのまま小さな声でミーシアに話し
かけた。
﹁ミーシアさん、頭がガンガンと頭痛がしませんか?﹂
﹁あ、今は少し楽になりましたが頭痛はしますね﹂
﹁貴女が産まれる前からの重度の難聴が完治したので、脳に入って
くる音の処理がまだ上手くできないので頭痛がするのです。ですの
912
で、出来れば後2日ぐらいはこの教会内の静かな場所でリハビリす
る事をお勧めします﹂
﹁あ、そうなんですかわかりました。貴方、私は治療をしていただ
いた早乙女さんを信頼してここで3日リハビリさせていただきます﹂
﹁ああ、ミーシアかまわないよ。私も3日ほどヨークルで骨を休め
るさ。・・・それにしてもエクストラヒールで難聴は治療できるの
ですね。以前は効かなかったとミーシアから聞いてるのに﹂
﹁私も知りませんでした。小さな時の治療では治らなかったです。
治療をした枢機卿様からも難聴は治る人と治らない人がいると聞き
ました﹂
﹁・・・はぁ? エクストラヒールで難聴は絶対に治療できますよ。
先天性の完全難聴も治療が可能です。治る時と治らない時がある?
それって本物のエクストラヒールなんですかね・・・ミーシアさ
んにお聞きしたいのですが小さな頃にエクストラヒールをかけられ
たときの事を覚えていますか?﹂
﹁はい。記憶にあるだけでも2回ほどエクストラヒールを受けてま
す﹂
﹁では今からご主人の体に魔法を2回かけます。右手と左手でしま
すので、ミーシアさんが記憶にあるエクストラヒールを教えてくだ
さい。それと周りの皆さんは絶対に答えを言わないでください﹂
右手をグレゴリオさんに掲げて声を出す。
﹃エクストラヒール﹄
俺自身の右手が光り輝いて光がグレゴリオさんに移動していく。
﹁これが右手での治療です。次は左手です﹂
左手を掲げて﹃エクストラヒール﹄と唱えると俺の左手は光らない
でグレゴリオさんの体全体に薄い膜が張りそれが体に吸収されて消
える。
913
﹁どうですか? ミーシアさんの記憶にあるのは右手? 左手?﹂
﹁右手ですね。枢機卿様の魔法で両手が強く光り輝いたのをはっき
り覚えています﹂
﹁間違いないですね?﹂
﹁はい。間違いないです。でも何で2種類の光り方があるのですか
?﹂
﹁それは詐欺だからです﹂
﹁はい? 詐欺ですって?﹂
﹁はい。右手を使って使用した魔法は﹃メガヒール﹄です。﹃エク
ストラヒール﹄って口で言っただけです。左手で行ったのが本物の
エクストラヒールなんです﹂
﹁そんな・・・まさか、枢機卿様が詐欺を?﹂
﹁実際に治療で使ったのは左手の方の魔法です。周りで見ていた皆
様、間違いないですよね?﹂
﹁ああ、ミーシア、早乙女さんの言葉に間違いがないよ。これはア
マテラス様に誓って言える﹂
﹁ワシも断言できるな。ワシはギルドマスターの職務に誓うよ﹂
親衛隊の皆さんも一緒に治療室に来た司祭様もミーシアと一緒に治
療をされたシスターも左手の方だと断言する。
﹁ミーシアさん・・・メガヒールを両手で2回分すると難聴の症状
によっては治る時もあるのですよ。でもエクストラヒールだと間違
いなく治せるのです。ただ断言できるのは右手バージョンは間違い
なく﹃メガヒール﹄です。エクストラヒールってこの国では1人だ
けが使えたんですよね? それなら本物のエクストラヒールって証
明する人もその人本人しかいないんですから詐欺のし放題ですよ﹂
﹁そんな! で・・・﹂
司祭様が大きな声を出したので俺が手で司祭様の口を塞ぐ。
﹁静かに。ここでは大きな声を出さないでください。まだミーシア
914
さんのリハビリ中なんですから。場所を変えましょう。ここでは皆
さんが興奮しがちなデリケートな話をする場所じゃない﹂
﹁そうだな。これはシーパラ連合国という国家を相手だけでなく、
教会を欺き、アマテラス様を騙す行為だからな﹂
ラザニードさんの声で全員が移動をする事にした。
ミーシアさんが心配そうにしていたがグレゴリオさんが優しく語り
掛ける。
﹁ミーシア、これは重大で秘密を要する案件だ。君には後で必ず話
に来るから今はリハビリに専念してくれ﹂
﹁グレゴリオ、わかったわ。今は治療のリハビリに専念する﹂
シスターとミーシアを治療室に残してみんなで治療室を出て教会の
礼拝堂に行く。
礼拝堂で掃除をしていたシスターなどの人払いをお願いした。
それから俺は部屋に結界を張る。
﹁これでここの声を外に漏れる事もなくなりましたので、大きな声
を出しても大丈夫です。しかし枢機卿が詐欺とは・・・﹂
﹁早乙女さん・・・実は私、1年ほど前に枢機卿のエクストラヒー
ルを使用した治療を見学させてもらった事があるのです。間違いな
く早乙女さんが右手でやったように両手が輝いてました。司祭とい
う神に仕える人間の1人として誓えます﹂
﹁これは由々しきことだ。今は海外にいる枢機卿がこの国に帰って
くるまで後10日程はある。真偽官による特別チームを組んで対応
する必要があるぞ﹂
﹁私もシーズの名を受ける人間としてこれは許せる問題ではない。
相手は教会の複数の司祭を束ねる立場の枢機卿なんだ。父とゾリオ
ン義父さんにも動いてもらって最高評議会による諮問会議が必要に
なる﹂
915
﹁あー、すみません。俺って今後の話し合いには必要ないと思うん
ですけど。その最高評議会の諮問会議に皆様の前でエクストラヒー
ルを実際に使って見せろという依頼ならやりますけど、枢機卿を追
い込む為の作戦会議には俺は部外者だと思いますが﹂
﹁確かに早乙女君は専門外の話し合いになってしまうな﹂
﹁ええ、ですので依頼達成で成功報酬さえ貰えれば俺は帰りますよ﹂
しかしながらそこから成功報酬の話し合いも長くなってしまった。
喉が渇いた俺が皆のためにコーヒーを出して、それを全員が飲み干
したぐらいに時間がかかって・・・結論は5億Gで落ち着いた。
サラマンダーの雫が2本で2億5000万G。
ミーシアとお腹の子供の治療費がグレゴリオから2億G。
司祭からは教会全部の浄化費用として5000万G。
これらの合計金額だった。
ザブザブと金が入ってきて有り難味がすでにない。
冒険者ギルドとフォレストグリーン商会と教会と俺で契約書と依頼
完了証明書の全ての用紙にサインを済ませて完了した。
ラザニードさんがアイテムボックスで持っている冒険者ギルドの魔
水晶で俺の冒険者ギルドカードの4億G。俺のステータスカードの
個人資産で1億Gを入金してもらう。
グレゴリオさんに店の場所を教えてもらって最後に全員と握手して
別れる。
フォレストグリーン商会は名前とまったく違って商会の本拠地は海
外への玄関口の都市ドルガーブにあるとの事だ。
商会で取り扱ってる主要品目は魚介類の加工品で昆布や鰹節などが
中心品目らしい。﹃梅干﹄も﹃シソ﹄も扱ってるというので、明日
にでも行かせて貰うと言っておく。
916
紅生姜への道が開かれたようだな。
昆布と鰹節はヨークルの市場にあまり出回らないので見かけたら購
入していたが、いつも在庫が心許なかったからな。安定供給の道が
出来たのは非常にありがたい。
教会を後にして俺はライトの魔法を浮かべて歩いて早乙女邸に帰る。
ゴーレム馬車で自宅まで送るとグレゴリオさんが言ってくれたが遠
慮させてもらった。
917
マジギレしたんでスパイギルド・ヨークル支部にカチコミじゃー
。っす。
今日は体は疲れてないが、精神的に疲れたな。
また、アマテラスが自分の教会の厄介ごとを俺におしつけてきやが
った。
・・・自分で神託使って解決しとけよ。
何十年も前からこの国唯一のエクストラヒールを使えるっていう枢
機卿は詐欺師じゃねぇーか。
今度はこの国の最高評議会に呼び出されそうだな。
ストーカーや遠見魔法の覗きが増えそうで頭が痛い。
金だけは困りそうにない生活になったけど・・・この主神の祝福︵
天運︶ってそれだけしかメリットがなさそうな気がしてきた。
そんな事を考えながらテクテク歩いて帰っていく。
﹃ハァ∼﹄とため息をつくと立ち止まって暗がりに声をかける。
﹁なぁ、そこの女の人の3人組。教会から俺をストーキングしてる
けど何の用なんだ? 言っとくけど俺には嫁が3人いて今のところ
女に困ってないぞ﹂
﹁・・・﹂
﹁はぁ∼、黙っててもわかるって。なんだったら精神的に完全にぶ
っ壊れるまで拷問して﹃殺してください﹄と懇願するまでいたぶっ
てやろうか?﹂
﹁・・・﹂
﹁面倒臭いな。えーーっと。スパイギルド所属の﹃紅蜘蛛﹄の3人
か。名前まで発表してもいいのか?﹂
918
﹁・・・なぜチーム名が﹂
﹁そりゃもちろん俺には見えるからだよ。能力の差を考えろよ。俺
とお前達にはそれだけの差が存在してるんだよ、チーム紅蜘蛛のリ
ーダーのカリアーンさん﹂
そういったと同時に俺は自分の隠してる気を一部だけ開放した。蛇
ににらまれたカエルどころではない。
絶望しか残されてないほどの能力の差に3人は微動だに出来なくな
った。
俺がスタスタと歩いていくが3人とも逃げる事すら出来ない呼吸す
ら辛いほど動けない。
リーダーの頭をポンポンと優しく叩きながら話しかける。
﹁逃げる事さえ出来ない君達と俺の差をこれで理解できたかな? しのび
ごんぞう
それじゃあ、君たちを使って覗きをしているスパイギルドへ伝言だ。
スパイギルドヨークル支部ギルドマスターの﹃忍・権蔵﹄へ。﹃ス
パイギルドごときが調子に乗ってるんじゃねーぞ。またどこぞの商
会の邸宅でションベン漏らしたいのか? クソジジィ﹄って事だ。
それで最後に付け加える言葉は﹃この前、宣戦布告したんだからこ
れからスパイギルドと俺の戦争になる。俺を怒らせたんだから当然
だな。今から殴りこみに行くから死んで詫びろ﹄以上だ。じゃあな﹂
俺は手をパチンと叩くと同時に俺は気配と魔力の放出を完全に絶ち、
転移魔法で近くの家の屋根の上に移動してしまう。
この紅蜘蛛3人をエサとして使うつもりはない。もうこの3人から
情報を盗む必要がないからな。
リーダーの頭をポンポンと叩いた時にスパイギルド関係の情報は全
てコピーさせてもらった。
ゴッデスが俺に転生者の情報をコピーした時と同じ魔法﹃情報複製﹄
を使ったのだ。
919
そのまま飛翔魔法で飛び上がりスパイギルドヨークル支部に殴り込
みをかける。
スパイギルドの連中は紅蜘蛛3人の目を使って俺をストーキングし
ていたのだ。
ギルドの正門の正面に降り立ってスパイギルドの土地の建物などを
防御している結界や封印を全部解除して無効化した。
そのまま門番の目の前に立ち挨拶をする。
﹁こんばんわ。俺とスパイギルドがたった今から戦争になったので
殴り込みにきました。おっさん達は寝てていいですよ﹂
﹁何をほざいてんだ、このクソガキ、かえr﹂
﹁お、おい、何をs﹂
ゾリオン村の土下座騎士と同じになった。
俺の左右のジャブが2人の門番の顎先に当たり、意識を刈り取った
のでそのまま2人とも崩れ落ちた。
門番2人が正門の真ん中でベシャっと土下座している。
門から中に入った瞬間に特殊な封印結界をかける。
結界の中には誰でも入ってこれるが、俺以外の生物がこの結界から
出る術はない。
虫すら入っても出られなくなる封印結界だから、ここから誰も逃が
す気はない。
門番詰所から2人が出てきたが既に抜刀して切りかかってきた。
俺は門番がロングソードを振り降ろすより早く懐に入り込んでジャ
ブで意識を刈り取る。
無駄な抵抗を・・・土下座門番が4つになっただけだな。
魔法で俺の声を増幅して結界内で聞こえないところがないようにし
て宣戦布告をする。
920
﹁やぁ、俺は早乙女だ。今からこのスパイギルドに宣戦布告をする。
ま、命だけは助けてやるが骨の10本ぐらいは粉砕骨折させてやん
よ。俺にケンカを売った事を一生後悔する様に文字通り骨の髄まで
叩き込んでやんよ。俺に骨を折れられたくないヤツは自殺しろ。そ
うすれば骨は折られないで済むよ﹂
短刀とクナイと矢が次から次へと飛んできたが簡単にキャッチして
アイテムボックスに片付ける。
﹁あのなぁ、スパイギルドの支部の建物に真正面から戦争をしに来
た人間がこんな程度の武器で何とかなると思ってのか? お前等、
俺をマジギレさせた責任は体の骨に払ってもらうって言ってるんだ
ぞ? ああ、言っとくけど魅了とか暗闇とか混乱とかの精神攻撃は
レジストすら必要なく無効化されるから意味がないって事は言って
おく。・・・それと追加でこの土地の全てに封印結界をしたから俺
を殺さない限り封印は解けないよ。地下室から逃走しようとしたス
パイギルド・ギルドマスターの忍権蔵さん、逃げ道はもうないよ。
今度はションベンだけでは済まさないからな。クソを漏らしたくな
かったらトイレに行ってスッキリさせとけよクソジジィ﹂
﹁あら? もう攻撃は終わりですか? 攻めてこないならこっちか
ら行きますよ﹂
真っ暗の夜の闇の中で俺はワザとライトの魔法を4つも周囲に浮か
べて歩いていく。
庭の庭園内に5人のスパイがいるのでそっちの方に歩いていく。
俺はせっかく自分で作ったお気に入りのパーカーとカーゴパンツ、
自前のスニーカーの格好のままなので汚されたくも切られたくもな
いので敵の攻撃は一切受けない。
スパイの1人がショートソードをを抜いて攻撃してくるが振り上げ
921
た腕を下ろす前に俺にジャブでヒジごと粉砕される。
﹃ぎゃぃあああああ﹄
絶叫が響き渡るがそれで俺の攻撃は終わらない。
ローキックで両膝を粉砕して崩れ落ちる腰に反対の足でのローキッ
クで腰骨も粉砕させた。
ワザと治療に時間がかかりそうな関節などを優先的に壊していく。
﹁はい。1人終了です。次の方どうぞ﹂
4人が同時に切りかかってくるが振り上げた腕を下ろすことなく、
1人は顎を粉砕。1人は両肘もう1人は背骨を壊された。のこりの
1人は左右のローキックで両膝が壊されてる。
5人の絶叫が響き渡るが一切構わずに痛みで転がるヤツラを踏んづ
けて腰骨などを粉砕していく。
5人の男達を壊している間に建物の窓から斧が飛んでいたがかわす
ことなくキャッチしてアイテムボックスに入れていく。
﹁だから飛び道具は無意味だって、バカだからわかんないのかな?﹂
氷の固まりも飛んできたが俺が手をかざすと消滅した。
﹁お! 魔法が使えるヤツがいたんだな。でも残念でした、惜しか
ったですね、俺には全く無意味です。クックックが・ん・ば・れ﹂
﹁貴様! こんなことしてただで済むと思ってるのか!﹂
1階の窓から忍権蔵が顔を出して大声で叫んできた。
﹁やっと出てきたなボケ老人。ウンコは済ましてきたか?﹂
﹁ボケ・・・くそっ、こんなヤツみんなで殺してしまえ﹂
﹁はい。殺人予告いただきました。じゃあこれからは俺も殺されな
いように頑張ってスパイの皆さんを皆殺しにしてもいいですか?﹂
﹁く、クソガキが! 調子に乗りおって。どうした、みんなで総が
かりで殺してしまえ!﹂
﹁アッハッハッハ。ボケ老人ってのは始末に困るな。みんなも大変
922
だなぁ実力差も理解できないボケ老人がトップにいると。・・・さ
ぁ、これからこのスパイギルドにいる職員とスパイの合計62人の
皆さんに質問です。このボケ老人の言う事を聞いて俺にこの場で皆
殺しにされるか、このボケ老人を俺に差し出してスパイギルドは俺
に無条件降伏をするかどっちがいい?﹂
﹁無条件降伏ならこのボケ老人以外は今後俺に迷惑をかけない限り
怪我させないでおいてやるよ。それに追加で今なら、俺の後ろに転
がっている5人が完治するように無料で治療してやってもいいぞ。
考える時間は1分だ﹂
﹁さぁどうする? 今からみんなで選べ﹂
﹁納得できないボケ老人の忠実な犬は俺を殺しに来いよ。待ってる
間がヒマだから遊んでやんよ﹂
6人ほどが庭に飛び出してきた。
4人が切りかかってきて2人は弓矢で攻撃してくる。マジックアイ
テムの矢を使って味方ごと俺を打ち抜いて、俺の油断を誘おうとし
ていたが俺は全部の矢をキャッチして敵にすら当たらせない。
俺の笑い声だけが庭に響き渡っている。
﹁あ、惜しいね。今の10倍ぐらいの速度なら、運がよければもし
かしたらかすって産毛ぐらいは切れたかもな。ギャッハッハッハ﹂
﹁健気だね君たち、当たりもしない攻撃で俺の遊びに付き合ってく
れるなんて、君たちの大事なご主人様は今頃スパイの仲間達に縛ら
れてるのに。オーイオイオイオイ﹂
﹁君さぁ、弓攻撃の才能ないよ。味方しか狙ってないじゃん。しか
もそれも当たらないって才能なさすぎだって。プークスクス﹂
﹁さぁ、そろそろ遊びは終わりの時間だね。ほら、仲間のスパイギ
ルドの結論を見てごらん。ロープでグルグル巻きにされた君達のご
主人様が引き摺られてるよ﹂
923
俺の声に反応する6人のスパイ達。
俺を無視して引き摺ってきた人間に襲い掛かろうとするが、俺がそ
の前に回りこんで、顎先にジャブを放ち6人の意識を刈り取る。
﹁クソバカが、土下座して寝てろ。おい、お前ら、この6人を縛れ﹂
俺は振り返ってジジィを引き摺ってきたスパイに命令する。
そのままスタスタ歩いていき俺の攻撃で体中を壊されたスパイにエ
クストラヒールをかけて完治させる。
体が完治して痛みがひいたので5人が気絶した。
今まではあまりの激痛に気を失う事すら出来なかったからな。
魔法は声に出さないで使った。
メガヒールをエクストラヒールだと何十年も騙されてる、この魔法
後進国の人達なんだから俺が﹃エクストラヒール﹄って言わなかっ
たら何の回復魔法かわかんないだろう。
そこに紅蜘蛛のメンバーが帰ってきた。
﹁いや、悪いね伝言頼んだけど俺とスパイギルドの戦争はもう終わ
ったよ。勝者の俺にスパイギルドの無条件降伏で終了だ。今からこ
のクソジジィの尋問をするから君達も被害者代表として傍聴しなさ
い。では紅蜘蛛の3人がギルドマスター室に案内してくれ﹂
俺を攻撃していた土下座6人衆がスパイギルドの人間に縛られてる
中、俺はギルドマスターを引き摺って紅蜘蛛の3人の後に続いて歩
いてスパイギルドの建物の中に入る。
924
スパイギルド・ギルドマスター忍︵しのび︶権蔵︵ごんぞう︶の
正体は? っす。
紅蜘蛛の3人が俺の前を歩く。
ミノムシがフゴフゴ五月蝿いが気にしない。
時々段差にぶち当たってガコンとかの音もまったく気にしない。俺
はまったく痛くねーしな。
なんなら目の前の揺れ動く3人のプリケツの方が非常に気になる。
気にはなるけど手出しはしない。俺はロリじゃないからな。
ただ男として目の前でユラユラするものを目で追ってしまう習性が
あるだけだ︵デマ︶。
﹁早乙女様、こちらがギルドマスター室です﹂
﹁ん? カリアーン開けて入っていいよ﹂
﹁いえ、ここは結界が張ってあり特殊な人間しか鍵を開ける事が出
来ません。私では不可能です﹂
﹁ああ、結界も鍵もこの土地全部の建物が俺の監視下にあるよ。も
う空いてるから入った入った﹂
紅蜘蛛のリーダーのカリアーンが首を捻りながらドアの取っ手を掴
んで引いた。
何の抵抗もなく開いてしまうドアに驚愕する3人。ミノムシだけが
フガフガ五月蝿い。
あんまりにもミノムシが五月蝿かったのでミノムシの尾てい骨あた
りを軽く蹴ってやったら、ちょっと狙いを外して黄門様にミリオン
ヒットした。
うん、知ってるワザとやってる。
全身がピーンっとなってちょっと笑える。威張ってるヤツが滑稽に
なると面白さが倍増する。
925
﹁・・・あ、ウソ、あいた﹂
ミノムシも﹃あいた﹄だけどな。字がちょっと違う。これが男と女
の差ってヤツだな︵ウソ︶。
ムカつくクソジジィとムチムチプリンの女性3人では、扱いが違っ
て当然だな。
ギルドマスター室に入るとミノムシを応接部分のテーブルの上に転
がす。
灰皿とか大きなライターなどがあったけど気にしないでそのまま乗
せた。
忍権蔵の額に手を乗せると魔法で全知識コピー完了で尋問終了。
ミノムシの口のロープを切ってしゃっべれる様にしてやった。
﹁ハイ。尋問終了。おー、ジジィお前80過ぎて童貞って凄いな。
もはや特級魔法が使えるだろ、お前。でも・・・その年で毎晩1人
でってのは逆に尊敬しちゃいそうな精力だな﹂
﹁どどどど童貞ちゃうわ﹂
﹁・・・忍様本当なのですか?﹂
﹃マジで? それは流石にないわぁ﹄
ってドン引きした表情の紅蜘蛛の3人の女性。
﹁そそそ、そんなわけないだろ。ワシはヤリまくりじゃ。そんなヤ
ツの戯言なんざ信じるな﹂
﹁ほー、戯言ねぇ。じゃあ、そこのマリーラ。君が立ってそこの執
務机の引き出し上から2番目を開けて・・・そう。引き出しはその
ままで今度は立って。右側の壁に絵があるだろ? そうそれ。その
額縁の左側を下に引っ張って﹂
﹁ま、ま、待つのじゃあ、それをなんで、貴様は、モガモガモガガ﹂
ジジィが五月蝿かったのでクッションで顔面を塞ぐがそれでも五月
926
蝿いな。
マリーラが額縁を下に引っ張るとギルドマスター室の奥の壁が一部
浮き上がって手前にギギギギって音をたてて開いていく。
完全に開いてから紅蜘蛛の女性に指示をする。
﹁部屋の奥に行くのはヨーコ・マリーラ・カリアーンの3人だ君達
が部屋の奥に入っていって5番のロッカーから黒い箱を持ってきて
くれ。少し重いから気をつけてな﹂
テーブルの上のミノムシがさらに激しく動くので面倒だからミノム
シの股間にデコピンをしてやった。
襲い掛かる銀大熊を失神寸前まで撃退した俺の恐怖のデコピンだ。
ビクビクビクっと痙攣してぐったりした。
潰れてはいないはずだが・・・ま、いっか。
﹁5番のロッカーに入っていた黒い箱がこちらでございます。早乙
女様﹂
3人が俺の目の前にみかん箱ぐらいの大きさのかなり重い黒い箱を
俺が座るソファーの横に置く。
細工がしてあるが既に面倒になってる俺は魔法で済ませる。
﹃開錠﹄
黒い箱がガチャガチャガチャと音を響かせて箱の上下のつなぎ目の
部分が動き出して終了。
俺が上の部分を持ち上げると中身があらわになる。
中身は漫画だ。エロ漫画だ。しかもギルドマスターの手書きだ。
正直に言うと﹃こいつ漫画家になってれば成功したかもしれん﹄っ
てレベルだ。
忍びの才能はないし人を束ねるカリスマ性の欠片も持ってないのに、
漫画を描く才能は溢れんばかりだ。情熱も凄い。
927
完璧に道を誤ってるなコイツ。勿体なさすぎるわ。
しかも80超えて趣味で書いてる自作のエロ漫画を部下に見つかる
って・・・。
やべぇ、ちょっとコイツ可哀想に思えてきた。
紅蜘蛛の3人は呑気に漫画夜読んで批判してた。
﹁なんでこう急にエロ展開に持って行きたがるのよ。さすが童貞﹂
﹁このヒロインってカリアーンに似てないかな? おっぱいは絵の
方が大きいけど﹂
﹁うっさいな。マリーラはそのままツルペタになってるじゃん。し
かも主人公がツルペタに踏まれて嬉しそうね﹂
﹁何で主人公がヒロインに毎回苛められてるのに嬉しそうなんだろ﹂
﹁ああマリーラ、それは権蔵の趣味だな。コイツはドMだからそう
いう風に怒られながらエロい事されたいと願ってるんだよ。それが
この漫画たちに出てる。ここまで上手なのに何でコイツはスパイに
なったのだろうか﹂
﹁あ、それはいつも自慢話で言ってましたよ早乙女様﹃我が一族は
忍びの一族だ。ワシは優秀過ぎてギルドマスターになったんじゃ﹄
って口癖でした﹂
﹁それはこいつが言ってるだけのウソだよ。こいつ自身に何の才能
もないし、カリスマ性もないな。長生きしただけでギルドマスター
になれたんだよ。コイツにあるのは80過ぎても枯れることない精
力と、漫画を描く才能ぐらいなんだよヨーコ﹂
﹁この年で・・・可哀想な人なんですね﹂
﹁カリアーン、そこの部分だけを見ればな。でもこいつのやってる
事は極悪だ。スパイで人のプライベートを覗いて脅迫したり、犯罪
を無理矢理犯させて仲間に引き釣り込んだり更に脅迫したりさ。何
人も自殺に追い込んだりしてる最低なヤローってのは間違いないよ。
今日からこいつの持ってる全ての証拠は俺が持っていくよ。こいつ
の漫画はお前らが好きにしていいし、スパイギルドで自由にしてい
928
い。俺は全部の証拠を持って行くからお前らは入ってくるなよ?﹂
強烈な殺気を3人にぶつける。
立っている3人とも恐怖で崩れ落ちて失神した。おしっこを漏らし
ちゃってるので3人ともいつもの3点セット魔法で床ごと浄化して
おく。
そのまま俺は奥の部屋に入って証拠になるもの全部を持っていく。
流石に俺も未成年には手は出さない3人とも15歳だ。
成長はまったくもってけしからん! ってぐらい凄いがな。
15でこのムチムチプリンっていうファンタジーパワーには恐れ入
る。
床に紅蜘蛛3人が変な体勢で寝てるので3人がけのソファーに座ら
せてあげた。
べ、別にムチムチプリンさんに触りたかった訳じゃないんだから、
か、勘違いしないでよね!
おおおお、俺同い年だし。
そのまま部屋を後にする。
スパイギルドの事務所の広間に全員が集まって今後を協議中だった。
俺はそこに向かっていく。
﹁やぁ、みんな。今後の協議は終わったかな。俺の用事は終わった
から後は好きにしていいよ。ギルドマスター室にみんな失神して寝
てる。ギルドマスターが持っていた情報の証拠は全部俺貰う。これ
だけは譲れない。俺の情報もどこかにあるだろうからな。じゃあ、
後は勝手にしろ今日の事は悪夢だと忘れてもいいが・・・ただ俺に
無条件降伏をした事だけは永遠に忘れるなよ? また俺にスパイを
向けてきたら、戦争は再開するからな? ﹃わかったか?﹄﹂
最後だけ大声で全員に間違いなく聞こえるように殺気をこめて叩き
929
付けた。
﹁聞こえてるのか? 返事は?﹂
﹁は、はい。わかりました。2度と迷惑はかけません﹂
何人かが恐怖で失神しそうになりながらも返事をする。
﹁よし。その言葉忘れるなよ﹂
俺はそのまま自分で書けた結界を全部解除した。
﹁俺が仕掛けた封印・結界は全部解除したから、今この土地は完全
無防備になってるからな? それとギルドマスターが犯した数々の
犯罪は執務机の中に日記が全部残してあるからそれは自由に使え。
俺がこの国に来た20日前からは破って燃やしたけどな﹂
﹁それじゃあな、バイバイ﹂
手を振りながら歩いて去っていく。もうこれでこのギルドに用はな
い。
門を出る前に4人の土下座門番にショック魔法で気付けをする。
4人の門番が目を覚ますと話しかける。1人が襲い掛かってこよう
としたが3人が止めてた。
﹁あ、目覚められましたか? お疲れ様でした。俺の用事は終わっ
たんで帰りますね。それじゃ﹂
﹁き、きさま!﹂
﹁待てって、見た目が子供だからって、絶対に無理だから止めとけ
って﹂
﹁ああ、無理だって。相手にもならないって気付けよバカ﹂
﹁絶対にかないっこないって。俺は抜刀して斬りかかって振り下ろ
す前に失神させられたんだぞ?﹂
﹁・・・ウソ!﹂
﹁ウソじゃないって。俺も一緒だ。しかも失神させられた攻撃が見
えなかったんだぞ?﹂
﹁・・・マジで?﹂
930
﹁まぁ、どうでも良さそうだね。じゃあ、俺はここで、バイバイ﹂
﹁お疲れ様でした。またのお越しをお待ちしております﹂
4人の門番がペコペコしてるところを最後に出て行く。
またのお越しって・・・こねぇーよ・・・たぶん?
流石に12時を越したら街中は誰もいない。俺の浮かべたライトの
魔法がフヨフヨと漂うなか家に帰る。
家に歩いて帰りながら忍権蔵から奪った証拠の品目や情報データを
俺も覚えるが、ヘルプさんに一括でデータとして記憶させていく。
俺自身忘れてしまいそうだからな。
権蔵が俺の情報を売っていた商会が2つあった。
1つは﹃ザイモア商会﹄
2つ目が﹃ユマキ商会﹄
ユマキ商会はシーズの1つだな。権蔵に金を払って調べさせて、逆
につけ込まれそうになって手を引いてるみたいだな。
あ、場所はこないだ権蔵がチビってたところじゃねぇーか。
チビったおかげで助かってるのは運がいいな。
権蔵の記憶の中にはユマキ商会は俺のキャンピングバスに興味を持
ったみたいだな。
権蔵につけ込まれる前に手を引いてるのはそこまでの執着心がなさ
そうなんで、ひとまずは安心だな。
もう一つのザイモア商会・・・これが元凶か?
権蔵と持ちつ持たれつな関係で悪どい事やってるな。
これは要注意だな。権増の記憶もヘルプさんの中に入れておく。
権蔵の記憶の中にあるザイモア商会の場所は店の場所は権蔵も知ら
ないのか?
あ、会合場所が決まってるのか・・・行ったことない場所でちょっ
931
と暗い感じのスラムっぽい場所だな。
今ここからだと近くないか?
立ち止まると行き先変更。ザイモア商会の秘密の会合場所、そちら
に向かって歩いていく。
932
連発した騒動の最後。そろそろ眠いっす。
ここに来た理由はもう1個あって、今日のこれからの時間が会合時
間になってたから、ここにザイモア商会の重要人物が来てるだろう。
俺は﹃忍者﹄スキルの﹃隠者﹄スキルで自分の存在感を完全に消す。
これで俺が目の前にいても誰も気付かない。
素っ裸で街中を歩き回っても誰も気付かないという、変態さん御用
達なスキルだ。
街中でおっぱいを軽く触るぐらいなら、このスキルを使っていれば
可能だ。
・・・お、俺はしないよ。
会合場所はスラムの中の一軒家だ。ゴーレム馬車が3台停車してい
る。
門にいる門番の隣に立って空間探査魔法でこの土地の全てを探る。
ザイモア商会代表﹃ロバート・ザイモア﹄と親衛隊が16人か。し
かもロバートは地下室にいる。
馬鹿かコイツは。ここの地下室って逃げ道ないじゃん。
それにしても代表自らの御出ましときた。
コイツらをからかって遊びたくなってきたな。深夜のハイテンショ
ンってやつだな。
とりあえずは逃げられないようにこの会合場所を封印結界で隙間な
く覆う。
目の前のヤツラの屋敷の中に入っていく。
933
・・・ザイモア商会親衛隊の人間に﹃隠れる﹄って単語が脳味噌の
中に存在しないらしい。
スラムの中にある一軒家の中でフルプレートアーマーの厳ついオッ
サンが16人もガチャガチャ音を出して歩き回ってる。
もう深夜1時をまわってる時間だってのに。
近所迷惑撲滅させるためにこいつら全員シーパラ大河に放り込むか?
地下室にたどり着くと部屋のドアは開けてあった。無用心だな。楽
でいいけど。
﹁しかし、忍はいつになったら来るんだ? ったくあのクソジジィ、
せっかくユマキ商会に食い込んでシーズの家を自由に操るチャンス
だったのに、ビビッてションベン漏らして全部をふいにしやがって。
もう今回だけは我慢ならねぇ・・・おい! あと1時間してもジジ
ィが来なかったら、この人数でスパイギルドに殴り込みをかけるぞ
?﹂
﹁しかし親分、それだと大騒ぎになりませんか?﹂
∼親分って、お前等山賊か?∼
﹁ん? 騒ぎになんてならねぇよ。俺達はこの人数で何度も出入り
してるんだ。いつものように入っていってギルドマスター室だけ襲
えばいいだけだ。それならスパイも対応できないだろ?﹂
﹁さすが親分! 名案ですね﹂
﹁だろ? ギャッハッハッハ。それでギルドマスターの地位も手に
入れて俺がもっと有効に使ってやるよ。あの小便チビリじゃスパイ
を上手く使いこなせてなかったんだよ﹂
﹁さすが親分。これで我々も楽に金が稼げますね﹂
﹁金の女も自由自在だな。お前らはあの紅蜘蛛の3人か?﹂
﹁あ、あっしは早乙女ってヤツの嫁がいいです﹂
934
﹁あの爆乳は俺のだ﹂
﹁早乙女は全財産と女と馬車とゴーレムって奪うものがたくさんあ
るからな。まずはスパイを俺のものにしたらそのまま、あの小さな
屋敷に全員で攻め込むからな。女もお前らが好きにしろ・・・しか
しお前等子分どもの女の趣味がわからんな。俺はユマキ商会の長女
﹃キャンシー﹄ちゃんだな。もう少しであの子を自由に出来たのに・
・・でゅふふふふ、キャンシーたんハァハァ﹂
俺はあまりの驚愕で思わず隠者のスキルを解いてしまった。
﹁キャンシー・シーズ・ユマキってまだ8歳じゃねぇーか。お前は
ロリコンか? キモ! 妄想は脳内に留めておけよ! 口から垂れ
流すな! この産業廃棄物デブが!﹂
大声で怒鳴ってしまう。我慢できなかった。
﹁貴様は早乙女! いつの間にここに潜り込んできたんだ﹂
﹁﹃しかし、忍はいつになったら来るんだ?﹄ってあんたのセリフ
からだな、ザイモア商会代表﹃ロバート・ザイモア﹄さんよ﹂
﹁な、な、なんだってぇ、全部じゃねーか﹂
﹁あそこから話が始まったのか、あ、ちょっと待って。ほい、尋問
終了﹂
ロバートの頭をポンと1回叩いてから部屋の奥に飛んで離れる。
﹁ガッハッハッハ、自分から罠に掛かりに行くとはバカめ!﹂
﹃拘束結界発動﹄
ロバートが自分のアイテムボックスから魔結晶を取り出して呪文を
唱える。
俺の下の床に魔方陣が浮かび上がり、拘束する結界が魔法の茨のよ
うに俺に絡み付いて全身を締め上げてくる。
﹁ぐあぁああああ﹂
﹁あれ? これは新型か? まぁいいや・・・馬鹿が自分から罠に
935
ハマるなんてな、手間が省けたわ。これであの小さな家に攻め込む
理由がなくなったな。俺達がここでスパイギルドの連中と会合して
いたのはな、こうやって罠を仕込むためなんだよ。おいお前ら、早
乙女に隷属の首輪を嵌めてこい﹂
﹁ヘイ。こうやって、こう嵌めて、魔石に魔力を入れて・・・あれ
?﹂
俺に隷属の首輪を嵌めて魔力を流すが、魔力を首輪に流したとたん
に首輪が勝手に外れて床に落ちる。
﹁おいお前、なにやってるんだ俺に貸せ! えーーっと、ここをこ
うして・・・あれ? これ不良品じゃねーのか。違う首輪を貸せ・・
・あれ?﹂
﹁ゴメンね。俺、隷属の首輪が掛からない体質なんだ。空気読めな
くてゴメンね﹂
﹁そうなんだ・・・まぁ仕方ないよ。そういう体質の人が稀にいる
みたいだし気にすんな・・・って拘束結界は?﹂
﹁ぐわぁああ。体が締め付けられるぅ∼。助けてくれぇ∼﹂
﹁気のせいか。よしお前ら、元奴隷商の人間のトリーを連れて来い﹂
1分経過。
隷属の首輪をしたゴツイ男が地下室に入ってきた。
﹁ぐわぁあ、ぐるじい、だずげでぇ∼∼︵既に棒読み。蔦の中で三
角座りをしている︶﹂
﹁お待たせしました親分。何の御用でしょうか﹂
﹁コイツに隷属の首輪が効かないんだがどうすればいい?﹂
﹁難しいですね。隷属の魔法が効かないヤツって拘束結界も、拘束
封印も全く効きませんから・・・それで、親分に質問があるんです
けどいいですか?﹂
﹁おう、なんだ﹂
﹁その隷属の首輪が効かない人間を拘束してるこの魔法って何です
936
か?﹂
﹁これはお前が罠で仕掛けた拘束結界に決まってるだろ﹂
﹁俺の仕掛けた拘束結界でこんな蔦とか茨なんて出てきませんよ。
あれは移動を制限するだけの簡易拘束結界ですので﹂
﹁・・・おいおいおいおい、せっかくの俺の名演技が全部無駄じゃ
ん。種明かしが早過ぎるだろ﹂
﹁すみません。つい気になってしまって﹂
﹁もう少し引っ張らせろよ。でもお前ってまだ20歳ぐらいだろ?
若いのに封印とか結界に詳しいな。俺のこの魔法は木魔法の中級
魔法の﹃蔦がらみ﹄と﹃ローズウィップ﹄の複合でオリジナルの魔
法なんだ。﹃薔薇と茨の拘束﹄って名前をつけた、見た目だけに薔
薇の棘があるけど、締め付けてる部分は棘が行かないように安心設
計だな。こうやって薔薇の花を装飾に使える﹂
蔦のあちこちから色とりどりの薔薇が咲き乱れた。
﹁薔薇の花が綺麗ですね。これなら奴隷に人気が出そうですね。・・
・でも俺せっかく親父の後を継いで必死に勉強したのに、親分に捕
まって奴隷の首輪で隷属させられて・・・皮肉ですね。まさか奴隷
商の人間が悪人に捕まるなんて﹂
﹁それは言えるな。普通こういう時って奴隷商の人間の悪党が黒幕
だったりするのがテンプレなのに、お前ってメチャクチャ良い人じ
ゃん﹂
﹁そうですね。お前は奴隷商人に向いてないって親父にいつもボヤ
かれてましたよ﹂
﹁やり直せばいいじゃん。なんなら俺が手伝おうか? まずはこの
隷属の首輪が邪魔だな﹂
俺は自分に絡み付いてた薔薇の締め付けを解除して消滅させた。
そのまま元奴隷商の男の目の前に歩いて行って首輪を触って﹃ロッ
937
ク解除﹄と魔法を使って隷属の首輪を解除した。
﹁ほいよ。これで君は自由だな。どうするコイツラ訴える?﹂
﹁はい訴えたいです。彼らの悪行は全て俺が証言します。俺以外に
も隷属の首輪で捕まってる人が何人もいるので、皆を助けたいんで
す﹂
﹁おし、それなら俺も手伝うよ。さぁ、そろそろ戦闘が始まるから
そこで動かないで持ってて﹂
﹁おおおお、お前らなにやってるんだ!﹂
﹁何って、今後のお前らを警備隊に突き出すって話だな。・・・ロ
リコンは五月蝿いから死んでるか黙ってろよ。呼吸を止めろよ。部
屋が変態臭で臭いだろうが﹂
﹁ろ、ロリコンの何が悪いんだ! 俺の勝手だろ!﹂
﹁ああ、妄想するだけなら自由だ。脳内を規制する事なんて洗脳し
ても難しい。妄想結構、想像結構。夢で我慢できるなら自由だ・・・
でもお前、何人の女の子を犠牲にしたんだ? 今までで15人の幼
女に何をした? お前は死んでいい。もしもアマテラス様が許して
も俺が殺すよ。まぁ、先に逮捕されて公開ギロチンの刑は決定だけ
どな。ここまでのデブだとギロチンは特注でお前専用になるよ。デ
ブで良かったな﹂
﹁プギーーー。なぜ人数まで・・・コイツラは絶対に生かしておけ
ん! 親衛隊を全員連れて来い。2人とも殺せ!﹂
﹁プギーってただのデブじゃなくて、豚獣人だったのか・・・デブ
って言ってゴメンね。悪かった。豚なんだもんなぁブタ親分﹂
﹁ブヒーー、うるさいうるさいうるさい!﹂
﹁アー、五月蝿いなブタ。お前は俺と口喧嘩がしたいのか? ブタ
はブヒブヒ言って部屋の隅にいろよ。目障りなんだから﹂
﹁こ・ろ・し・て・や・るぅうう﹂
938
ロバートが飛び掛ってきたのでサッと避けてそのまま魔方陣の拘束
結界に蹴って入れるとブタが苦しそうに動けなくなった。
﹁おお、お前の拘束結界が効いてるな。あ、お前の名前聞いてなか
ったな﹂
﹁あぁ、そういわれてみれば名乗ってませんでしたね。俺の名前は
さおとめ
しんいち
﹃トリスティックス・アルグライト﹄といいます。トリーと呼んで
ください﹂
﹁俺の名前は﹃早乙女・真一﹄だな、真一ってのは発音しにくいら
しいから早乙女と呼んでくれ﹂
2人で握手を交わす。
﹁プギー、なにやってるんだお前ら、早くこいつを殺して俺の助け
ろー!﹂
﹁親分、今全員集まりやした。おい、お前らこ2人を殺せ!﹂
﹁へい!﹂
﹁し、しまった、なんだと・・・15人全員そろっただと﹂
﹁バカめ! 早乙女、これでお前もお仕舞いだ。トリーもここで死
んでしまえ﹂
﹁トリー違うって、待ってたんだって。やっと全員そろった。待ち
くたびれちゃったよ。﹃ショック﹄はい。終了﹂
ガラガラガッシャンと音がして15人のフルプレートアーマーを来
た親衛隊が全員崩れ落ちる。
﹁ブヒ! なんで!﹂
﹁あ、お前を忘れてたよブタ。﹃ショック﹄これで全員か。しかし
この国にはまともにレジストも出来ない人間が多過ぎる﹂
﹁早乙女さん、それは仕方がないんです。この国は以前、魔法文明
が栄えて人間が増長して聖獣白虎様の逆鱗に触れて滅んだ経歴があ
ります。それがこの国の始まりなので、国民の意識の中に魔法への
強い憧れと、魔法の発達を素直に喜ぶ事が出来ない気持ちが同居し
てるんです﹂
939
﹁なるほどなぁ、この国には﹃魔法使いギルド﹄もないもんな﹂
﹁農作物と自然の恵みだけでこの国は豊かですからね。魔法の発達
にそこまでの関心のありませんし、まだ農業だけでも発展する余地
はかなり残ってますので。ですので魔法を覚えるより商人になった
方が楽にか稼ぐ事が出来ます。教会以外で魔法を教えてくれる人も
いないので、魔法の才能がある事が分かると他国に留学する人がほ
とんどです﹂
﹁そうだよなぁ、無いなら無いで生活できちゃうのが魔法だもんな。
まぁ、その話は後にしてコイツら全員を警備隊に突き出そう。コイ
ツラの乗ってきたゴーレム馬車を連結して運べば簡単だろう﹂
アイテムボックスからロープを取り出して全員を縛り付けて1人ず
つ上まで運ぶ。
﹁トリーって見た目以上に体力無いなのな﹂
﹁早乙女さんって凄いんですね。俺は2人しか運べませんでした﹂
﹁まぁ、俺もBランクの冒険者だからな﹂
﹁凄いですね。でも俺って鍛えたこと無いんですよ﹂
﹁その体でか? もったいないよ。でも商人には必要ない事だもん
な﹂
﹁いくら俺が鍛えたところで親分って体重200kgあるんですよ
? あれが運べるとは到底思えない﹂
ゴーレム馬車を3台をロープで縛りそのまま移動を開始する。
人数が多いので牢屋の関係上警備隊の本部に行く事になった。
先頭のゴーレム馬車の運転をトリーにお願いして俺は3台目のゴー
レム馬車の屋根の上で横になる。
﹁ふぁあーあ、今日は寝そびれそうだな。これから警備隊の本部で
説明しなきゃいけないしなぁ﹂
警備隊本部に到着するまで寝る事にする。今日は一日でやった事が
多過ぎだな。
940
今日がなかなか終わんねぇーって、もう朝じゃん・・・っす。
ヨークル警備隊本部に着いたらトリーに起こされた。そのままトリ
ーと話しながら警備隊本部の敷地の正門入り口の門番のところに歩
いて行く。
﹁早乙女さん、あんな場所でよく熟睡できますね。俺だと落ちてる
と思う﹂
﹁ふぁーあ。スッキリした。意外と落ちないもんだって。それで俺
のする事は?﹂
﹁早乙女さんにお願いしたいのは、ザイモア商会の逮捕の理由説明
ですね﹂
﹁おー、トリーだけでは弱かったか?﹂
﹁100%信用してもらえませんでした﹂
﹁そうなるか。隷属の首輪で無理矢理やらされてるのに﹂
入り口の門番さんに俺の冒険者ギルドカードを見せる。
﹁Bランクの冒険者様でしたか、これは失礼しました﹂
こういうときの信頼度がBランク以上の高ランク冒険者の特権だな。
信用度がまるで違う。
だけど遊んでるヒマは無い。救ってあげなきゃいけない人がいるか
らな。
﹁悪いが本部の中の人間と大至急で連絡してくれ。今、凶悪殺人犯
のグループを運んできた。被害者は多い。まだ隷属の首輪で捕まっ
てる人間が複数人いるので救出するための人数が必要だ。救出チー
ムには俺も入って手伝う。それと教会に連絡を取って真偽官と司祭
と聖騎士団の応援要請をしてくれ。コイツラの犯してる罪は殺人と
誘拐だけじゃない。真偽官と司祭による尋問で洗いざらい吐かせて
941
ほしい﹂
﹁は! おい、緊急通報だ﹂
門番の1人が詰所に走りこんでいった。
﹁早乙女さん、俺達はどうしますか?﹂
﹁そのまま中に入っていってください。入り口にゴーレム馬車を乗
りつけても大丈夫です。これから入り口にも犯人の護送だって連絡
しておきます﹂
﹁だってよ。トリー行こうぜ。時間がもったいないし﹂
今度は先頭のゴーレム馬車の御者席で、トリーの横に座る。
﹁流石の高ランク冒険者ですね、俺とは信用度が違ってました﹂
﹁こういうときだけは便利さを実感できるな。信用度が違うと説明
が簡単で済んで助かるよ﹂
﹁Cランク以上は国への貢献度が必要になってきますからね。大き
な盗賊グループを退治したとかの貢献がないとランクアップは時間
が掛かりますので、それも併せての信頼でしょうね﹂
﹁俺がそのパターンだよ。300人以上の盗賊や迷賊を退治したか
らBランクになれた﹂
﹁さ、さんびゃく? 凄まじい意数字ですね。それはそうとザイモ
ア商会に突入する救出チームに早乙女さんも協力するのですか?﹂
﹁ああ,そうだよ。ザイモア商会の本店&ロバートの邸宅の大きな
敷地を夜間警備してるのは全部誘拐された奴隷だろ?﹂
﹁はい、よくご存知ですね﹂
﹁ロリコンブタの知識を全部コピーさせてもらったからな。あいつ
の持ってる知識でアイツが思い出せないような事まで全部俺は知っ
てるよ﹂
﹁コピーってのがいまいちわかりませんけど・・・凄いんですね早
乙女さん﹂
﹁細かい事は気にすんな。さあ、到着だ﹂
942
警備隊本部の中から複数の武装した警備隊が俺に敬礼する。
﹁殺人犯の逮捕へのご協力、誠にありがとうございます﹂
﹁いえいえ。さぁ、このバカどもを締め上げちゃってください﹂
3台のゴーレム馬車のドアを開けて15人の親衛隊とロバート・ザ
イモアを引き渡す。
そうだ! 聞かなきゃいけないことがあったな。
﹁済まないんですけど、コイツラが逃げ出さないように素っ裸にひ
ん剥いちゃったんですけど、コイツラが装備していたものって、ど
こに出せばいいんですか?﹂
﹁それはご自由にどうぞ。どうせコイツラは全財産没収されて、今
後着る事が出来るのは囚人服だけなんですから、裸のままで構いま
せん。むしろ脱がす手間が省けてありがたいですね。それで、早乙
女さんとそちらの・・・﹂
﹁あ、私の名前は﹃トリスティックス・アルグライト﹄です。長い
名前なんでトリーって呼んでください﹂
﹁では早乙女さんとトリーさんは詳しく話を聞きたいので、こちら
の応接室に来ていただいてもよろしいですか?﹂
﹁いいよ。あ、俺は話し合いの前にホットコーヒーをちょうだい﹂
﹁了解いたしました。トリーさんはどうされますか?﹂
﹁私も同じもので﹂
﹁了解です。おい、ホットコーヒー2つ、応接室に頼む。ではお2
人はこちらへどうぞ﹂
やたら腰の低い警備隊の幹部らしき人に案内されて、応接室に入っ
ていく。
警備隊の本部の建物に近づいただけでコーヒーの香りで我慢できな
かったからな。
応接室に座った沖にはすぐに警備隊の若い新人君がコーヒーを持っ
てきてくれた。
943
一口飲む。かなり美味いなここのコーヒー。
マリアよりは少し劣るが店で出せるレベルだぞ。
﹁美味いですねここのコーヒー。これは生き返る﹂
﹁ホントですねぇ、ここまで美味いコーヒーは1年前に隷属の首輪
を付けられる前から飲んで無かったですね。生涯最高の味かも﹂
﹁そ、そんな。大げさです﹂
﹁あ、コイツはまだ警備隊に入ったばっかの新人で実家が老舗の喫
茶店なんですよ。それで家から持ってきてくれる余り物のコーヒー
がやたら美味くて、コイツはこっちの方に才能があるんじゃないか
って思ってるんです﹂
新人君がメッチャ照れてるので、俺の疑問の目線に気付いた案内し
てくれた人が説明してくれた。
﹁確かに君にはコーヒー職人としての天賦の才能がある。犯人捕獲
術にも才能があるから警備隊にも向いてるし、彼はかなりの有望新
人ですね﹂
﹁ありがとうございます。これから頑張ります﹂
新人君がお辞儀をして元気に応接室を飛び出していって、出口でこ
けた。
﹁おいおい、そんなところで躓くなよ。ったく。早乙女さん騒がせ
て申し訳ないです﹂
﹁いえ、美味しいコーヒー飲ませてもらったんでこれぐらいは構い
ませんよ。それより早く奴隷にされてる人達を救出に向かいたいの
ですけど﹂
﹁俺もその話がしたかったです。俺と同じように誘拐されて無理矢
理奴隷にされた人達がザイモア商会の本店に20人以上はいます。
本店と屋敷は隣同士で隣接しています。中にいる人数は60人以上、
その中の奴隷は購入した奴隷も合わせると43人です﹂
﹁早乙女さん、それだと救出に100人以上は必要になります。今
944
夜は事件が多くてあちこちに応援に行ってるので、すぐに集められ
る人間は30人ぐらいです。じゃないと他の事件が起きた時に対応
できなくなります﹂
﹁俺がいるんだから10人もいれば充分だって。いや、人数を運ぶ
必要があるからゴーレム馬車の台数分は欲しいな・警備隊ですぐに
準備できるゴーレム馬車は何人乗りが何台ありますか?﹂
﹁少々お待ちください。確認させます。おい君、確認頼む﹂
﹁は!﹂
入り口に立っていた警備隊隊員が走っていった。
﹁俺が魔法で敵全員無力化させるから、警備隊に用意して欲しいの
は牢屋と運ぶ人員だけだ。聖騎士団の応援は頼んだのか?﹂
﹁既に連絡はしてますが、教会も内部でごたごたが今夜あったみた
いで、それの対応でうちの本部長も呼ばれてしまってるんです。そ
れのおかげで非番中だった本部長補佐の私が呼び出されまして﹂
? そうなんですか。ですが、今夜はもう1個、問題もあり
﹁あ、枢機卿問題か! ゴメン。それも俺も加わってた﹂
﹁え
まして﹂
﹁もしかしてスパイギルドのギルドマスターの問題だったりする?
ゴメンね、そっちも俺が噛んでる話だったりする﹂
﹁両方とも知ってるんですね。俺なんにも言ってないから真実です
ね﹂
﹁ごめんな。ヨークルの中に沈んでいた悪性の膿を一晩で一度に引
き摺り出し過ぎちゃったな﹂
﹁いえ、こちらこそヨークルの警備隊で本来は私達が解決しなきゃ
いけない問題なのに、早乙女さんに変なことばかり押し付けてるよ
うで、申し訳ないとしか言えません﹂
﹁そういっていただけると、ゴミ掃除をした身として助かります﹂
コーヒーを飲みながらそんな話をしていたら先程出て行った隊員と
945
一緒に聖騎士団のゴツイ人と、司祭服を着た見た事の無い女性と、
何度もあってる真偽官が入ってきた。
﹃ローグランド・ペスカトーレ真偽官﹄通称ローグ真偽官だった。
﹁やっぱりお前か、早乙女。俺はドミニアンと一緒にゾリオン村に
行かなくて正解だったな﹂
﹁ローグさんも、かわらずお元気そうで。また悪党をたくさん連れ
てきたんで、思いっきり締め上げちゃってください﹂
﹁アッハッハ。それは楽しみで腕が鳴るな。・・・ジャクソン、こ
ちらがこの都市で今、噂の正義のヒーロー様だ。これでこの事件は
解決だな。早乙女に紹介するよ。この都市ヨークルの聖騎士団団長
の﹃ジャクソン・ミライジス﹄だ﹂
﹁あ、初めまして。冒険者ギルドBランク冒険者の﹃早乙女真一﹄
です。真一って発音しにくいようなので早乙女で呼んでください﹂
﹁立場上、たくさんの話を知っています。早乙女君もジャクソンっ
て呼んでくれ。また君には世話になってしまうな。それでどこかの
商会に突入するんだって?﹂
﹁そっちの話はそっちでやってくれ、俺は悪党の尋問に入るぞ! クリスティ司祭行くぞ﹂
女性の司祭を連れてローグ真偽官は活き活きと深夜の尋問フルコー
スに行った。
﹁あ、報告しますゴーレム馬車は犯罪者輸送用の大型が10人乗り
で3台。普通ののゴーレム馬車が6人乗りで3台です。今夜は使用
中のものが多くて今すぐですと、それだけしかありませんでした﹂
﹁俺がザイモア商会から奪い取ったのが3台ある、これがデブが乗
るように改造してあって1台はデブ専用の1つしかイスが無い。だ
から残りの2台は6人乗りの普通サイズだから・・・合計60人か、
人数的にちょっときついぞ?﹂
﹁俺が直属の22人の聖騎士団団員と、ここ警備隊本部まで一緒に
946
乗ってきたゴーレム馬車が2台ある、これは大型で1台10人乗る
事が出来る。これを使って構わんよ、早乙女君﹂
﹁ジャクソン団長が連れてきた直属の隊員って何人ゴーレム馬車を
運転できますか?﹂
﹁全員が普通の荷馬車も可能だよ。俺が徹底的に訓練をした聖騎士
団の遊撃チームだから精鋭しかいないよ﹂
﹁じゃあ、聖騎士団だけで捕獲に行けますね。警備隊本部長補佐は
ここに残って指揮をお願いします。こういうときは他の犯罪もおき
やすいんで注意してください。ゴーレム馬車は全部お借りします。
それと詳しい地図があったら貸してください。場所はトリーが説明
してきてくれ﹂
﹁了解。どこに地図は保管されてますか?﹂
﹁こちらです。お願いします﹂
屋敷の中の見取り図は俺が手描きで簡単な略図を書かせてもらった。
聖騎士団の団員を大きな会議室に集めてもらって全員に説明する。
とはいえ作戦って程は無い。
俺が全部のトラップ・結界・封印を解除して敷地内全ての人を無力
化してからの突入だ。
隷属の首輪を解除して外し奴隷を解放することも俺がやる事にする
から、危険なことなど何一つ無い。
回収する奴隷・犯罪者・元犯罪者の購入した奴隷の扱い方だけを説
明する。
まずは奴隷の解放と治療。逮捕者も乗せれる人間を乗せたら1台ず
つこちらに戻ってくる予定にしていく。
屋敷や本店から押収する証拠品も全部俺が指示して俺のアイテムボ
ックスで持っていくので最終で俺とジャクソン団長がトリーの運転
で帰ってくる事になった。
俺とトリーと聖騎士団の総勢25人が10台のゴーレム馬車で警備
947
隊本部を出発する。
俺は到着まで寝させてもらった。
もうすぐ到着するって場所で予定通り停車して俺が先行していって
魔法をかけて探査で探る。
全部で67人かどれが奴隷なんて後で調べるので、敷地内にいる全
員にスリープ魔法をかける。
・・・また誰もレジスト出来てないな。
草原の暴風の生き残りでレジスト出来たのも、スリープよけのアイ
テムをタマタマ持ってた4人だけだったしな。
エルフの精霊の加護は別にして。
他所の国でも対魔法戦闘の方法って確立されてないのか?
この国の魔法技術の低さに舐められてるだけだったりしてな。
皆のところに合図を出す前に敷地内の封印・結界・トラップ・施錠
まで全部解除した。
これで終わりだな。
合図のライトの魔法を浮かべると俺は走っていってザイモア商会の
本店の正門を開ける。
そのまま開けっ放しにして俺は本店とロバートの本宅の間の庭を走
り回って、庭の夜間警備をしている奴隷の人々を隷属の首をを解除
して外しながら1人ずつ丁寧に運んでいく。
聖騎士団は予定通り本店の中にいる幹部連中の捕縛にトリーの案内
付きで行ってる。
俺は夜間警備20人を全員奴隷から解放させて、庭の休憩場所とな
っている東屋に寝させておく。
俺が鑑識の魔法を出しっぱなしにして・・・聖騎士団に説明した通
り、強制的に奴隷にされた人達は隷属の首輪を解除して横にさせて
948
おく。
元犯罪者など購入されてきた奴隷は首輪はそのまま。
ザイモア商会の職員で犯罪者はロープで縛っておくという事にして
ある。
聖騎士団の団員はそれを見て回収・保護・捕縛とゴーレム馬車を分
けて乗せていく予定だ。
庭の夜間警備は全員が強制奴隷だった。庭掃除は終わったので本宅
の中に入っていく。
本宅の中は多くの眠らされてる人がまだいるが、俺には絶対に先に
やらなければいけない事がある。
ロバートが指示して集めた俺の情報を全部俺が貰っていきたい。
聖騎士団には知らせる必要のない情報もあるからな。
真っ先に執務室に向かっていって俺に関するメモなどの情報を抜き
取る。
これだけやっておけばもう後は奴隷開放と職員捕縛。
1階のロビーに地下室に閉じ込められていた人達まで全員を解放さ
せて・・・治療は魔法も必要ないほどだな。少し傷付いてる女性の
性奴隷が5人いたので﹃メガヒール﹄で回復させただけで、残りは
ハイポーションが必要な栄養失調気味の奴隷が複数人いただけだっ
た。
女性の奴隷だけはシーツで包んでおく。際どい下着しか身につけて
なかったから緊急処置。
聖騎士団の団員に会ったので取り扱い注意だけ伝えておく。
さぁ、これからは証拠の回収って事で片っ端から犯罪に実際使われ
た凶器や証拠のメモも全部集めて俺のアイテムボックスに入れてい
949
く。
完全に終了したのは朝の6時半。
クソッタレのブタ野郎め、犯罪多過ぎで証拠のブツが多過ぎて手間
取ったじゃねぇーか。
そのままジャクソン団長さんとゴーレム馬車で警備隊の本部にトリ
ーの運転でもどる。
その間に寝ながら嫁達に念輪で報告だけはしておく。
もふもふ天国に今日は夕方まで行けそうも無いしな。マリアに任し
て自由にしててって伝えておく。
セバスチャンにはワイバーンの肉汁の研究のお願いをしておいた。
950
証拠品提出作業で1日終了しちゃったっす。︵前書き︶
8・12修正しました。
951
証拠品提出作業で1日終了しちゃったっす。
警備隊の本部に到着してからもまた大変だった。
冒険者ギルドにあるようなアイテムボックスが封入された箱に、俺
が持ってきたザイモア商会が関わった全ての犯罪の証拠品などを、
全て俺のアイテムボックスから引き出して記録して引渡しをしてい
く。
その総数は1000をゆうに超えてる。
トリーはローグ真偽官の手伝いで証言をさせに行かせた。
手間は少ない方がいいからな。
イーデスハリスの世界に転生して21日目の朝8時。
朝食が近くの飲食店から取り寄せられた。サンドイッチと新人君特
製コーヒー。
・・・作業はまったく終わりそうにない。
警備隊隊員は続々と夜勤だった人間と日勤の人間が入れ替わってる
が俺は入れ替わることが出来ない。
昼食は近所のうなぎ屋から出前のうな丼と肝吸いだった。
警備隊の隊員は昼食は入れ替わりで近所に食べに行ってるみたいだ。
俺は入れ︵以下略︶。
昼食後にアイリから念輪で連絡が入る。
俺は作業を続けながら会話する。
﹁しん君、状況はどうなった?﹂
﹁まだまだ時間が掛かりそうだな。品目数が品目数だけに1つずつ
説明しなきゃならんし・・・やはり、当初の予想通り、晩ご飯もこ
952
こで食べなきゃならなくなりそうだ。カタリナさんは今夜は帰るん
だよな?﹂
﹁うん、そうだよ。ドミニアンお義父さん次第なんだけどね。もし
今夜もドミニアンお義父さんが帰ってこれない事になったら、母さ
んが今夜もここに泊まりたいって言ってるんだけど﹂
﹁それはアイリ達に任すよ。俺は自宅に帰るのはたぶん早くて深夜
になりそうだから。何しろ証拠のブツとそれに関連したメモだけで
合計1200ぐらいはあるからな。警備隊の担当は入れ替わりが出
来るるけど、俺には出来ないから﹂
﹁お疲れ様ね。夕方に実家に母さんを送っていったら、今夜の予定
が決まるからまた連絡するわね﹂
﹁ああ、るびのは元気か?﹂
﹁母さんに懐いてるよ。朝に一度元の大きさに戻ってから、また小
さくなって母さんに甘えてる﹂
﹁ああ、カタリナさんはビーストテイマーの素質が少しあるからな。
るびのを甘えさせるのは簡単なことだろう。愛玩ゴーレムたちは誰
でも平等になっちまうけど﹂
﹁そうなんだ。母さんに教えたら喜びそうだから言っておくよ。ま
た昼からも友達を呼んでもふもふ天国の試験営業をしてもいいんだ
よね?﹂
﹁ああ、かまわないよ。遠慮なくドンドン批判と問題点を指摘して
もらってくれ。その方がより良い店作りになるからな。そのついで
に口コミによる宣伝効果もあるからよろしくと頼んでおいてくれ﹂
﹁うんわかったよ。それじゃあ、引き続き頑張ってね﹂
﹁おう、じゃあな﹂
俺は担当官に2重帳簿の計算方法の違いを説明しながら、アイリと
の念輪を切断する。
あのクソブタ、ご丁寧に2重帳簿まで使って脱税までしてやがった
から、帳簿の説明だけで1時間以上掛かってしまった。
953
深夜どころか明日の朝まで掛かりそうだ。
15時には半分は終わったので流石に休憩させてもらった。
体力はあるが昨日からの精神的な疲労で気分が滅入ってきてたから
な。
どうせ時間が掛かる事を理解してくれてる警備隊の皆さんが、気を
使って仮眠を提案してくれたのでそのまま乗っかって1時間ほど眠
らさせてもらった。
仮眠の前にシャワー室を借りてサッパリさせてもらった。
俺が出した証拠はそのまま担当の司祭と真偽官︵ローグ真偽官とク
リスティ司祭は朝の10時ぐらいに交代要員が来て帰宅している︶
に渡されて更に尋問。
尋問の供述が記録されていく。逆に尋問の供述から証拠の提出を求
められて説明中に別の証拠物を出したりしてるので、予想よりも作
業時間がかかりそうだ。
夕方になって今度はクラリーナから念輪連絡が入った。
﹁しん様、クラリーナです。時間をいただいてもはよろしいですか﹂
﹁クラリーナか、大丈夫だよ。それでカタリナさんはどうなった?﹂
﹁夕方5時に今日はアイリさんの実家で夕食をご馳走になってる時
にご主人が帰宅されて、残念ながら連日のお泊り会はなくなりまし
た。今は私達は店舗の方へ戻ってきてます﹂
﹁それで、皆はどうするの?﹂
﹁私達は今日は自宅に帰りたいと思ってますけど、店舗の方はどう
すればよろしいですか?﹂
﹁店番のホワイト達のメイドゴーレムに全てを任せて帰宅して良い
よ﹂
﹁了解しました。それでは失礼します﹂
﹁おう、じゃあな﹂
954
19時になって晩ご飯。
この軟禁状態に気分転換で近所でおすすめの食堂に連れて行っても
らう。
カレー専門店だった。食欲を誘うスパイシーな香りが近所中に充満
している。
トッピングにハンバーグを付けたのもここの店の名物がハンバーグ
カレーだったからだ。
一口食べて思い出す。
護衛依頼任務の時に食べたハンバーグカレーの味だ。
お水を注いで回っている店員さんに尋ねる。
﹁以前、ガルディア商会の護衛依頼でここの店の名物のハンバーグ
カレーと、全く同じ味のハンバーグカレーを食べたんだけど、この
店って注文販売までしてるの?﹂
﹁ガルディア商会様は大口の固定客ですので、注文販売もさせても
らってるんです﹂
﹁なるほどね。ありがとう﹂
﹁どういたしまして﹂
ガルディア商会はこういう店の食事を大量に注文して輸送隊に食べ
させているんだろうな。
食後はまた警備隊本部に戻って作業の続きだ。
10時過ぎぐらいにローグ真偽官と、今度は違うパートナーの司祭
を連れてきて尋問開始だ。
俺や警備隊の隊員さん達に気を使って差し入れのクッキーを大量に
持ってきてくれた。
その少し甘めのクッキーと昨日と同じ新人君が入れてくれたコーヒ
ーで少し休憩。
955
新人君のコーヒーは相変わらず別格の美味さだった。
昼食後に飲んだコーヒーはそこそこの味だったが、新人君とは差が
あり過ぎるな。
警備隊の皆さんも大変だろうな。急にコーヒーのレベルが爆上げに
なって舌が肥えてしまったんだから。
贅沢を覚えた体はなかなか戻らないって言うしな。
それにしても長いな。
深夜1時に夜食の時間になった。日本にいたときは夜食って言うと
定番のカップラーメンだったりしたが、この世界にそんな便利なも
のは無い。
爆走鳥のロースと肉がサンドされたボリュームたっぷりのサンドイ
ッチと野菜たっぷりスープが運ばれてきた。
この時間の満腹攻撃はキツイな。新人君の美味しいコーヒーがあっ
ても眠くなる。
ここでも結局1時間ほどは仮眠させてもらった。
証拠品の引渡し作業は翌朝まで続いた。
転生して22日目の朝は警備隊で迎えた。仮眠と食事の時間が入っ
てるとはいえトータル24時間以上掛かってるな。
退治&救出のトータル時間の何倍かかってるんだ?
ザイモア商会の連中を皆殺しにしてダンジョンに放り込んだほうが
半分以下で済んだだろうなという気分になる。
元奴隷商のトリーは全部の裁判が終わるまで10日以上は警備隊の
本部で寝泊りする事になりそうだ。
もちろん協力者として宿泊所で寝泊りして3度の食事つきだ。
証言者としての安全確保でもあるので我慢は必要だ。
ローグ真偽官とトリーの2人と握手をしてから別れる。
956
トリーとは再会を約束した。
俺は警備隊本部を跡に帰宅できる。
今日は警備隊の隊員さんにゴーレム馬車で自宅まで送ってもらう事
にした。
帰宅中についでに一般的ゴーレム馬車の操縦を教えてもらった。
俺のコピーしてもらった知識の中の馬車の操縦に似ているな。キャ
ンピングバスの運転とは違いすぎる。
早乙女邸に到着して送ってもらったお礼を言って俺は自宅に入って
いく。
玄関でいつものように全身を3点セット魔法で浄化してから靴を脱
いで玄関に上がる。
この家では全員が自分の靴は自分のアイテムボックスに入れるので
玄関の下駄箱は撤去されている。
下駄箱があった場所はガレージへの扉になってる。
居間に行ってまずは朝食。
セバスチャンに言ってドラゴン汁で焼きおにぎりを作ってもらった
ら中々の味だった。
食事の後はお風呂に行くが、風呂の途中で眠くてたまらなくなった
ので、早々に切り上げ居間に戻る。
﹁俺はこのまま寝る事にするけど、皆はどうする?﹂
﹁しんちゃん、るびのは今日は部屋でゴロゴロするって言ってたよ。
私は今日は地下の訓練場でレイピアの練習をする﹂
﹁おお、そうかミー。アイリは?﹂
﹁今日は午前中はミーの練習に付き合うけど、午後は買いだしに行
ってくるわ。新しいお酒を捜したいと思ってたから﹂
﹁あ、いいですね。私もアイリさんと付き合います。私は午前中は
本屋に行って魔法関係の本を探しに行ってきます﹂
957
﹁ああ、外に行くならマリアかセバスチャンを必ず連れて一緒に行
ってくれ。マリア、セバスチャン後は任せる﹂
﹁﹁了解しました。ご主人様﹂﹂
﹁俺はこのまま昼食抜きで寝るよ。じゃあおやすみ﹂
そのまま寝室に行ってバタリと超巨大なベッドに倒れこんでそのま
ま眠る。ああー、疲れた。
警備隊の本部で軟禁状態で篭ってたから精神的な疲労は溜まってる
な。
958
夜通し仕事をさせられて目覚めたら夕方・・・何か一日を損した
気分になりませんか? っす。
起きたら太陽は沈みかかっていた。
何か日本で日曜日を寝過ごしたような気分になってくるのはなぜな
んだろう。
少し沈んだ気分で居間に降りて行ったら、マリアが迎えてくれた。
嫁達の買い物はセバスチャンとるびのが付いていったみたいだった。
18時ぐらいとまだ時間が少し早いので今日は晩ご飯の前に日本酒
でも飲もうかな・・・今日はつまみで梅干が食べたいなって考えて
思い出した。
フォレストグリーン商会に昨日顔を出す予定だったな。
﹁マリアちょっと俺、用事を思い出したよ。一昨日に夜に一連の騒
動の中で縁が出来たフォレストグリーン商会に、昨日行くって行っ
ていたことを思い出したんだ。今ならまだ店が開いてる時間だから、
ちょっと行って買い物してくるよ﹂
﹁了解です。ご主人様のご夕食はいかがされますか?﹂
﹁帰ってきてから食べるよ。嫁達が帰ってきたら自由にしててくれ。
フォレストグリーン商会は本拠地がドルガーブにあるみたいで、海
産物や加工食品が主要品目なんだって。しかもドルガーブ名産の﹃
梅干とシソ﹄も取り扱っているらしい。だから今日は大量に買って
くるよ﹂
﹁では、後でご主人様が購入されてきた品物を見てメニューを考え
ておきます﹂
﹁おう、それと嫁にも説明しておいてくれ。では行ってくるよ﹂
﹁了解しました。いってらっしゃいませ﹂
隣の客間に入ってガウンから着替える。
959
今日はロンTにチノパン。ファンタジー感が全くない服装だな。
まぁ、散々アマテラスにゴミ掃除をさせられて﹃反抗期﹄になった
と思ってくれ。
そのまま居間に戻ってマリアに﹃じゃあいってくるな﹄とだけ告げ
て玄関に。
一昨日作ったスニーカーと違うのを作る事にした。色をズボンに合
わせて変更。ハイカットのスニーカーにした。履いてみたが・・・
これなら大丈夫だな。
異世界では少し目立ちそうだが。派手で目立つのではなくて地味で
悪目立ちしそうな感じだな。
このイーデスハリスの世界はファンタジーでキラキラとかピカピカ
なんかが好きな人が多いからな。
俺には真似できん。
色も全身どピンクなんて鎧を着たおっさんがヨークルを闊歩してる
からな。
目に悪そうな都市だ。
隣のガガレージを覗いてみたがキャンピングバスは嫁達が使用して
るので何も置いてない。
今度個人乗りの車でも作ろうかな?
何て考えながら冒険者ギルドの裏庭の木陰に転移した。
隠者スキルで自分を隠して裏口から外に出る。泥棒してる気分にな
ってしまうな。
冒険者ギルドも商業ギルドもヨークルの都市の中心地にある。
シーズの家などの商会は中心地に巨大な店を構えている。ガルディ
ア商会のヨークル支店の隣にフォレストグリーン商会のヨークル支
店がある。
こちらも巨大としか言いようが無い店構えで、裏の巨大な倉庫に次
960
々とゴーレム馬車が出入りしている。
店の中に入っていくと偶然にグレゴリオさんと、奥さんのミーシア
さんがガルディア商会から帰ってきたところだった。
﹁いらっしゃい。早乙女さん、今ちょうど完治した妻を連れて実家
のゾリオンお義父さんへ挨拶に行ってきたところです。ゾリオンさ
んも喜んでましたよ﹂
﹁早乙女さん、いらっしゃいませ。おかげ様で今日の昼には自宅に
帰宅許可が司祭様から出まして帰ってくる事が出来ました。ありが
とうございます。今日はお買い物ですか?﹂
﹁グレゴリオさんとミーシアさん、こんばんわ。昨日来る予定でし
たが・・・昨日は警備隊本部から離れることが出来なくて今日のこ
んな時間になってしまいました﹂
﹁早乙女さんのご活躍は聖騎士団のジャクソン団長からも聞きまし
た・・・噂話程度ですが﹂
﹁ほら貴方、早乙女さんのお買い物の邪魔になってしまいますわ。
ではごゆっくりお選びくださいね﹂
﹁ああ、申し訳ないですね。ここにある商品は全て自慢の品ばかり
ですが、秘蔵の品も数多くございますのでごゆっくりお選びくださ
い。売り場責任者をお呼びしますので﹂
﹁旦那様お呼びですか?﹂
﹁早乙女さん、彼女がここの支店の売り場責任者です﹂
アマセ
リョウコ
﹁初めましてフォレストグリーン商会ヨークル支店売り場責任者﹃
天瀬・涼子﹄です。天瀬とお呼びください。よろしくお願いします﹂
﹁初めまして。﹃早乙女真一﹄と言います。早乙女と呼んでくださ
い。こちらこそよろしく﹂
﹁天瀬君、こちらの早乙女君は我々夫婦の救ってくれただけでなく、
お隣のガルディア商会にとっても救世主のお方になる。秘蔵の品物
もお得様専用の品物も私が許可するから、最高の品物を用意してく
れ﹂
961
﹁きゅ、救世主って・・・り、了解しました﹂
﹁では早乙女さんごゆっくりどうぞ﹂
グレゴリオさんとミーシアさんはそのまま奥の方に行ってしまった。
﹁早乙女さん、本日などのような商品をお求めですか?﹂
﹁あ、まずは梅干と梅酢とシソがほしいですね。﹃紅生姜﹄があれ
ば欲しいんですけど﹂
﹁紅生姜ってなんですか?﹂
﹁梅酢で作る生姜の漬物なんですけど・・・もしかして知りません
か? 簡単な保存食で焼き魚などの付けあわせで食べると美味しい
ですよ﹂
﹁へぇ、一度食べてみたいですね﹂
﹁メチャクチャ簡単なんでレシピを今教えますよ﹂
俺の回りにいた店員さんが皆が興味津々で聞いてるのでみんなに教
えてあげる。
レシピって言っても梅酢と生姜だけで超絶簡単だ。
①生姜を食べやすい大きさにカットしておく。
②カットした生姜を日陰で一日陰干しする。
③梅酢で5∼10日ほど漬ける。
これだけだ。
日陰で一日陰干ししないと紅生姜になる前に腐ってしまうので注意
するように言っておく。
天日で干すのもOK。これは出来上がりの味の好みでわかれる。
俺の説明を途中から聞いていた梅干の職人さんが﹃これなら材料も
ここで全部揃うから費用はほとんど掛からないし簡単に出来る﹄と
言って店の奥に走っていってしまった。
俺は自分が購入するものを選んでいく。
962
梅干はしょっぱいのが俺の好みなので、しょっぱいのを大きな壷で
一つ。
これは梅酒の梅か? ってぐらいにフルーティーなのも購入する。
梅も売っていたので梅・シソ・塩を大量に購入しておく。塩がたく
さん買えたのでありがたかった。
海産物の加工品もたくさんあった。
昆布・ワカメ・鰹節など今まで欲しくて堪らなかった物をキロ単位
で購入。
今まで市場で出回る量しか確保できなかったから、ここで安定購入
できるようになったのは非常にありがたい。
味噌汁が好きなだけ飲めるようになったな。味噌汁が自分で好きな
だけ作る事が出来る。
総額の料金を払って
﹁今日のところは時間が無いのでとりあえずこれぐらいで帰る事に
します。今日はありがとうございました﹂
﹁こちらこそ、新しい商品になりそうなレシピをありがとうござい
ます。今までここでは梅酢は廃棄処分にするしかなかったので、今
後は有効活用が出来そうです﹂
﹁天瀬さん・・・全部捨ててたんですか? それはもったいなさ過
ぎますよ。サラダとかのドレッシングに混ぜたりとか、梅酢って結
構万能調味料だったりしますよ。料理する時に少し入れるだけで味
が劇的に変わったりもしますので、是非皆さんで色々試しても面白
いですよ﹂
﹁なるほど・・・ありがとうございます。これからはしばらくの間
は全従業員で梅酢の料理開発になりそうですけど﹂
﹁紅生姜とほぼ同じ漬け方で﹃ミョウガ﹄も漬けると美味しくでき
ますよ。ミョウガの場合はつける前に一度熱湯で湯通ししないとい
けませんけどね﹂
﹁ミョウガか・・・それはうまそうだな﹂
気付いたら従業員だけでなくグレゴリオ夫婦まで俺の話を聞いてい
963
た。
﹁早乙女さん、色々とありがとうございます。今まで誰も見向きも
しなかった﹃梅酢﹄これが我がフォレストグリーン商会も益々発展
できそうな予感で私自身ワクワクしてますよ。私がこの紹介を引き
継いで2年。これで親父以上になって見せますよ﹂
﹁それじゃあ、俺がばぁちゃんから教わった知識で・・・梅酢の保
存は日のあたらない場所で一定温度の場所で保存。梅酢も日が経つ
と酒や酢と同じで﹃熟成する﹄から保存した梅酢と新しい梅酢は味
がまったく違うから注意! ってことですんで﹂
﹁なるほど﹃熟成﹄かぁ・・・職人と相談して最高の商品たちを作
って早乙女さんを唸らせてみせますよ﹂
﹁楽しみに待ってますね。では今日はこの辺で、またそのうちきま
すので﹂
﹁ありがとうございました。是非いつでもお越しください﹂
グレゴリオさん、ミーシアさん、天瀬さんと他の従業員や職人さん
達まで握手を交わしてフォレストグリーン商会を後にする。
ゾリオン村のおにぎり祭りみたく梅酢の使用法で色々な料理が生ま
れると面白いんだけど、流石におにぎりほどのバリエーションの幅
広さが無いからな、グレゴリオさん達がどう纏め上げてくるかが楽
しみになってくるな。
今日はもう太陽も沈んで外は真っ暗だけどライトの魔法を浮かべて
歩いて帰る。
気配を探りながら移動して、タイミングを見て路地裏に入り転移魔
法で自宅に帰宅した。
3点セット魔法で全身を浄化して靴を脱いでアイテムボックスに入
れて居間に歩いていって声をかける。
964
﹁ただいまー、っておお。今日は豚バラ肉のミョウガ焼きか? こ
れは美味そうだな﹂
﹁今日は美味そうなミョウガが市場にあってね。大森林の南側の温
暖な村だと、普通はまだ早いこの時期にミョウガが出るのよ。それ
で買ってきたらセバスチャンがこれを作ってくれてね﹂
﹁ミー、ナイスなものを買ってきたな。俺も食べるよ。セバスチャ
ン準備をお願い。今日はもう先に酒を飲ませてもらう。マリア、つ
まみを作るから菜の花とソラマメを出してくれ﹂
﹁しん君、つまみって何を作るの?﹂
﹁簡単なものだな。﹃菜の花とソラマメの梅和え﹄日本酒に合いそ
うなやつだ﹂
俺は自分のアイテムボックスから今買って来たばかりの梅干を使っ
て神の創り手スキルでササッとつまみを作る。みんなが好き勝手に
食べられるように大皿で作った。
梅干はそのまま小皿でみんなにも食べられるように出した。
﹁しん様、美味しいですね、この梅干。今日買いに行ってこられた
のですか?﹂
﹁ああ、フォレストグリーン商会だよ。一昨日みんながもふもふ天
国で泊まっている時に、冒険者ギルドから緊急依頼が入ってギルド
に行ったら、今の現行当主10代目のグレゴリオ・シーズ・フォレ
ストグリーンからの依頼だった。森林黄熱病に犯された奥様を救う
ためにサラマンダーの雫がほしいって依頼だったよ﹂
﹁え?﹂
﹁ああアイリ、俺も診察したけど間違いなく森林黄熱病だった。奥
様は妊娠中で森林黄熱病の高熱にやられて絶体絶命だったよ﹂
﹁サラマンダーの雫っていつの間に取りに行ってたの? もしかし
て魔法で治るの?﹂
﹁森林黄熱病は別名が﹃聖職者殺し﹄だ。魔法で治せないし教会で
は神の加護で浄化が効きにくいんだ。それで治療にあたっていた神
965
父やシスターに猛威をふるって﹃聖職者殺し﹄の別名が付けられた
経歴がある。サラマンダーの雫がないとどうにもならないよ﹂
966
龍布の服作り・・・下着編・・・んごきゅっす。
﹁それでしん様はどうされたのですか? まさか1人で取りに行か
れたのですか?﹂
﹁・・・は? 前にみんなでダンジョンに行ってサラマンダーの希
少魔獣を倒して時に3本出たじゃん。もしかして・・・みんな忘れ
てないか?﹂
アイリがポンと手を叩きながら大声を出した。
﹁あー! そういえばそうだったわね。その後に出てきた帽子やら
召喚本やらもふもふ天国やらで、しっかり忘れててしまってたわ﹂
﹁ですね、アイリさんもですか? 私も完全に忘れてました﹂
﹁アイリとクラリーナもなの? 私もよ。完璧に忘れてたわ。モフ
モフで記憶が消えたのかも﹂
﹁こらこらミー、もふもふをバカにするんじゃないぞ。もふもふで
記憶は消えないって。悩んでいるときの﹃不安な気持ち﹄は消える
効果があるけどな﹂
﹁そんな効果があるんですか? 知りませんでした﹂
﹁そりゃそうだろう、俺が勝手に言ってるだけだし﹂
﹁何でそんな事をしん君はいつも自信満々に言えるのよ。それで森
林黄熱病の話は?﹂
﹁おお、話が逸れてしまってたな。サラマンダーの雫を投与してグ
レゴリオさんの奥さんの﹃ミーシア・シーズ・フォレストグリーン﹄
さんは助かったんだけど・・・森林黄熱病の高熱で妊娠中のミーシ
アさんは母子ともに酷くダメージを受けていたんで、2人にエクス
トラヒールを使用したんだ。エクストラヒールの影響で元々難聴だ
ったミーシアさんは完治して、子供も全盲になりかかっていたけど
967
これもエクストラヒールで完治した﹂
﹁凄いのね、エクストラヒールって﹂
﹁そうだなミー。でもクラリーナももう使える魔法なんだけどな。
ただ魔力総量の関係でしばらく練習はしないほうが良いかもしれん。
練習するなら教会じゃないとたぶん倒れる﹂
﹁わかりました。しん様に従います﹂
﹁まぁ、それは追々な。それで俺がエクストラヒールを使ったその
時に、教会の枢機卿による長年の詐欺まで発覚して、いま教会は大
騒ぎになってるよ﹂
﹁しん君、枢機卿の詐欺ってなんなの?﹂
﹁この国で唯一エクストラヒールを使える枢機卿ってみんなは知っ
てるか?﹂
﹁それぐらいなら私でも知ってるよ。名前は知らないけど目玉が飛
び出るほどの高額を要求されることで有名ね﹂
﹁それは俺も聞いた。そいつが使ってるのがエクストラヒールでは
なくて﹃メガヒール﹄だったことが発覚したんだよ﹂
﹁どういうことですか?﹂
﹁俺がエクストラヒールでミーシアの難聴を治したらグレゴリオさ
んとミーシアさんに言われたんだ﹃妻がエクストラヒールでも回復
できなかった難聴が治った﹄﹃小さな時に2回エクストラヒールを
受けて治りませんでした。枢機卿様からエクストラヒールで治る時
と治らない時があるって言われました﹄って、ありえないんだよ。
完全難聴も完全盲目も1回で治るのがエクストラヒールって魔法な
のに。ミーシアさんに聞いて実験したら枢機卿が使ってるのは間違
いなく﹃メガヒール﹄だった。両手で同時に使って回復量を多くし
てるだけで、メガヒールではエクストラヒールには絶対に及ばない﹂
﹁そんな、枢機卿様が・・・﹂
食事が終わったので居間のソファーに皆で移動してそのまま会話を
968
続ける。
俺は日本酒をやめてウィスキーに切り替えた。50年物のウィスキ
ーをロックで飲んでる。
つまみはタツクリの素揚げに塩を振ったものだ。このシンプルさが
ロックに意外と合ってて美味しい。
みんなは食後のハーブティーを飲んでる。
嫁3人は2日続けて酒を飲みまくったみたいだったから今日は飲み
たくないんだと。
﹁この魔法後進国のシーパラ連合国でしか出来ない詐欺だろうなク
ラリーナ。両手でメガヒールを使えるだけでも凄い才能なのに・・・
金か地位か名誉か・・・それらに目がくらんだのか、ただの詐欺師
なのか。それはこの国の最高評議会の諮問委員会に関わる問題にな
るってグレゴリオさんもギルドマスターのラザニードさんも言って
たから、これからシーパラ連合国を揺るがす問題になるだろうね。
枢機卿が教会の名を借りて詐欺をして凄い大金をせしめていたんだ
からな﹂
﹁もしかしてしんちゃんって既に巻き込まれてる?﹂
﹁肩までドップリだな。俺が最高評議会に呼ばれることも今後は出
てくるだろうし、枢機卿の稼いだ大金のおこぼれを貰っていた連中
から命を狙われる危険性もあるかな。それにこの国で唯一エクスト
ラヒールを使える人間になってしまったからな、クソバカ連中がワ
ンサカ集まってくるだろうな﹂
﹁しん君は・・・大丈夫だね。しん君が心配してるのは私達だった
りする?﹂
﹁ああ、だから今日からは3人とも外に出る時は俺・るびの・俺の
作ったゴーレムが絶対についていく。悪いが3人の戦闘能力云々の
前に、敵を感知する能力が致命的に低過ぎるからな。これは魔法や
俺が作ったアイテムでは補いきれない。それで今日からはみんなの
私服・靴・下着などの布製品は全部没収させてもらう。このドラゴ
969
ン繊維で全部作り直す﹂
居間のテーブルにセバスチャンが大量に作った﹃龍布﹄﹃龍糸﹄﹃
ドラゴン繊維﹄をアイテムボックスから取り出して見せた。
﹁﹃ドラゴン繊維﹄って・・・あの伝説のですか?﹂
﹁ああアイリ、そうだよ。セバスチャンがワイバーンの肉から抽出
するのに成功した﹂
﹁ワイバーンの肉の中の繊維物が﹃ドラゴン繊維﹄ってことなの?﹂
﹁ミー、これが抽出できなくなって伝説になり廃れた訳はスキルの
問題だろう。セバスチャン、これは﹃料理スキル﹄でないと抽出で
きないんだよな?﹂
﹁はい。ご主人様に報告したように私も料理に使おうとして試行錯
誤してる時に﹃偶然﹄に発見されたものです。まさか繊維を抽出さ
せるのに﹃料理スキル﹄が必要だったとは、私も考えてませんでし
た。何度か他の方法で抽出しようと実験しましたが料理スキルでな
いと繊維物だけ取り出すことは不可能でした﹂
﹁と言うことなんだよ。これがこの技術が廃れた理由だな。門外不
出にしたらその後の発展は消える。1人がほんのちょっと儲かるだ
けだ。とはいえ今からこの技術を流すには危険過ぎるブツになって
しまったがな﹂
﹁これもやっぱり危険なのですね﹂
﹁クラリーナ、この技術自体はもうほぼ俺たち以外には不可能にな
ってしまったんだ。料理スキル自体が、今現在ほぼ消滅しかかって
るから、もうどうしようもないよ。俺がゴーレムを作りまくるしか
解決策が無い。そうするとまた俺にバカタレが集まってくることに
なるからな。今更俺がいうのもなんだが・・・面倒はゴメンだな。
危険過ぎておやっさんやおかみさんに渡す事すら出来ないし、おや
っさんたちも俺たち以外には作れない危険な布だからな﹂
﹁そんな布で私達出歩いてても大丈夫なの?﹂
970
﹁この龍布を見てもわかるけど見た目は普通の布だな。そもそも・・
・このドラゴン繊維って抽出するのに料理スキルが必要で、繊維を
糸にするのとそれを織って布にするときに適切な魔力を使うのが面
倒なだけで、布にしてしまえば後は簡単に加工できるんだよ。色も
形も自由自在な便利な布だ。更に魔法や結界などの保護魔法もかけ
やすいのに魔法防御力はミスリル製を凌駕する。ドラゴン種の防御
力の高さがこの繊維に詰まってるんだな・・・それでこれがもう既
にトン単位で俺のアイテムボックスに入ってる。3人の持ってる全
ての布製品をこれに替えさせれ貰う。まぁ防御力アップだな。普段
着も下着も全部だ﹂
﹁しんちゃんが全部作るとなるとまた寝る時間がなくなっちゃうよ
?﹂
﹁既製品の複製はマリアとセバスチャンに作業してもらうから大丈
夫だよ。俺は自分の好みの服を作らさせてもらう。まずは基本の下
着とかからいこう﹂
﹁い、今からはちょっと・・・先にお風呂に入って寝室でしません
か?﹂
﹁それもそうだな。じゃあ、風呂入ってる間にみんなが持ってる服
と靴を全部出しておいて、セバスチャンとマリアに夜のうちに作っ
ててもらうから﹂
俺は今まで飲んでいた酒をアイテムボックスに片付けている間に、
嫁達はセバスチャンとマリアに自分の持っている全ての服と靴を渡
す。
靴はセバスチャンとマリアに任せて俺は風呂場に行く。
今夜のお風呂は早めに済ませて、風呂の後の更衣室でまずは下着を
作成する。
971
スケスケ全身ストッキングを先に作った・・・俺の趣味100%。
これが凄いのなんのって。
首の部分がビヨーンって伸ばしてから着用するんだけど、着る時に
伸ばしても元に戻ってる。ビロビロに襟元が伸びたりしないのが凄
い。さすが龍布だな。
﹁しん様なんでこの薄い下着は股間が開いてるのでしょうか? 物
凄く恥ずかしいんですけど﹂
﹁クラリーナはトイレに行かないのか? いちいちこれをトイレに
行って脱いでる方が面倒だと思うんだが。それにこれを脱ぐために
は服を全部脱がないといけなくなっちゃうよ。トイレの度に素っ裸
になりたいのかな?﹂
﹁あ! ・・・そうでした﹂
﹁それでこれはこういうパンティを上から穿くんだ﹂
クラリーナに穿かせた下着はいわゆる﹃ヒモパン﹄だな。両サイド
だけでなくて股間もお尻側はヒモになってる。
﹁これってもはや下着の役目を果たしていないと思うのですが﹂
﹁この下着の目的は好きな男を誘惑するために穿く事であって、下
着の機能は度外視してるんだ﹂
﹁でもこの﹃ぜんしんすとっきんぐ﹄って私は好きだな。胸が凄く
楽になるのに動いても擦れない﹂
﹁ミーも? 私もここまで楽な下着は始めてかも。あ! 鎧の下に
着るアンダーシャツみたいね﹂
﹁ああ、アイリとミーの2人の巨大なマウンテンを支えるために、
それこそ上半身部分が全体で胸の動きを無理なく柔らかく衝撃を全
部分散させて吸収するようにしてあるから、胸が上下左右に動く時
の衝撃は全部その全身ストッキングが吸収してくれるんだ。だから
体への負担はほぼなくなってるよ。アンダーシャツは全部で衝撃を
拡散してるだけだけど龍布ならそれが糸でも可能になる﹂
﹁私達の下着が全部こんなに楽になったら、しん君の作ってくれる
972
下着以外は着れなくなりそうね﹂
﹁そうね。1度楽を知っちゃうともう戻れないよね﹂
﹁俺と同じ物をセバスチャンもマリアも作れるから、俺に言うのが
恥ずかしかったら2人に頼んだらいいよ﹂
﹁とりあえずはしんちゃんが私たちに着て欲しいと思うものを作っ
て欲しいな﹂
﹁わ、私もしん様の好みの下着を頑張って着ます。・・・恥ずかし
いけど、でも頑張ります﹂
﹁たかが下着にそんなに気合を入れなくても・・・まぁ、少々恥ず
かしいのは我慢して欲しいけど、そういう下着ばかりじゃないから﹂
それからは色んなタイプを作っては着せていく。今まで持ってた下
着を好みの参考にしてリクエストにも答えていく。龍布と神の創り
手スキルの組み合わせは便利だな。色も形も厚さもサイズも模様も
デザインも全部が思いのままだ。
ガーターストッキングと網ストッキングももちろん作った。
セクシーショーツもだな。男のロマンだから仕方が無い︵デマ︶。
﹁なななな、なんでこのパンティには大事な部分が無いのですか?﹂
﹁それはなクラリーナ、男のロマンのためだな︵ドヤ顔︶﹂
﹁何でそんなくだらない事をドヤ顔で言えるのよ、もー。ま、私は
しんちゃんが興奮してくれるなら喜んで穿くけどね﹂
﹁甘いなクラリーナ、俺が求める先にはこんなものまであるんだ﹂
﹁もはやそれは下着じゃないです。ただの紐です﹂
﹁そう、私はしん君の前だから平気よ。しん君私の分をちょうだい。
よいしょっと・・・ほら、どう? しん君﹂
﹁ああ、アイリ最高だよ﹂
﹁わ、私の分もください。はー、頑張って穿くのです。アイリさん
には、負けたくないのです。はー﹂
﹁クラリーナ大丈夫? 無理はしなくていいんじゃない?﹂
973
﹁だ、大丈夫ですミーさん。よし! はっ。どうですか、しん様﹂
﹁クラリーナ恥ずかしくて前を隠すのはいいけど、お尻をこっちに
向けるのはかえって俺を挑発してるんだが・・・その下着って、後
ろの紐は透明にしてあるし﹂
﹁はわわ、ああ、どうすれば﹂
早乙女家の夜はこうして更けていく。
974
もふもふ天国ヨークル支店は本日からのオープンでございます・
・・っす。
寝室に行ってファッションショーになってしまった。
俺が作るのは日本で見慣れた服装ばかりにした。Tシャツ・ジーン
ズ・パーカー・Yシャツ・ニットなどなど。
俺の貰った知識の中に服飾の専門学生からの転生者がいるので脳内
に服の各パーツの形が浮かんでくるので超絶簡単だ。ありがとうご
ざいます。
その人の知識も経験もイーデスハリスに転生後には全く生かされな
かった・・・魔族に転生させられてるからな。
俺がこうやって服を作ってるだけでその人の無念が晴らされていく
んだから、物凄くいい事をしている気分になってくる。
こうやって建設的な事で無念が晴らされるならありがたいんだけど
な。
龍布だと色も形も自由自在だしな。
俺もジーンズっぽいのを自分のために作った。色を変えて何枚か作
っておく。
ソフトジーンズみたいだな、手触りが一緒なのによく伸びるジーン
ズに違和感がある。
嫁達は喜んで着ているので良しとしよう。
クラリーナはゆるゆるのニットとフレアスカートが気に入ったみた
いだな。何種類か色と形を少し変えて作ってとリクエストされたの
で作ってあげた。俺はボーダー柄のサスペンダータイプのフレアス
カートがクラリーナに似合ってると思った。
975
ミーは俺と似たような服装が好きみたいだな。チェック柄のシャツ
に迷彩柄のカーゴパンツが似合ってるのは活動的な女性だからだろ
うか。パーカーとジーンズなんてのも似合ってていいな。
無論ミーにも普通のスカートも作って渡してる。クラリーナやアイ
リにも迷彩柄を渡してる。
アイリはタイトスカートが気に入ったみたいだった。ギンガムチェ
ック柄がお気に入りみたいなので色を変えて何枚か作ってあげた。
上半身もタイトな服が着れる様になったと喜んでるが・・・エロい
な。
我慢は・・・出来そうもないな。
ある程度の数の服が揃ったし、セバスチャンとマリアが今まで嫁達
が持っていた既製品の龍布への作り変えも終わって今夜は寝る事に
した。
エッチな時間は今から始まるんだけどね。
俺の男としての気分が盛りがっていたので、浴衣を作ってまずは自
分で着てみる事にした。
﹁しんちゃん、その服って﹃武士﹄の服に似てるね﹂
﹁着流しかなぁ。自信ないけど。これは﹃浴衣﹄って言って俺の故
郷の日本のパジャマって言うのかな。夏の定番の民族衣装だね﹂
﹁私の分も作ってください。着てみたいです﹂
﹁これは、こうやって裸の上に着るものなんだよ︵デマ︶。クラリ
ーナも裸にならないと着る事は出来ないぞ︵大ウソ︶﹂
自分の浴衣の裾をピラッとめくり勃起したチンコを見せる。
さっきまでの下着のファッションショーからず∼∼っとカッチカチ
になってるからな。
浴衣の股間の部分をめくらなくても知っていただろうけど、わざと
目の前に出して反応を確かめてしまう・・・俺も変態だったみたい
976
だな。
クラリーナが﹃んごきゅ﹄って生唾を飲んでるので彼女も少しは興
奮していてくれてると思うが。
我慢してしたので亀頭の先端は先走り汁で濡れて光ってるのまで見
えてるだろう。
﹁ほらほらクラリーナ、あんまり見つめると先走りが止まらなくな
るんだがな﹂
﹁あぁごめんなさい、しん様。妻としての役目を果たさせていただ
きます﹂
寝室のソファーで深く腰掛けてる俺の目の前に来て股の間に座り、
両手を使ってまずは先端に口付ける。
﹁ちゅ。あああ、しん様のお汁美味しいです。いただきます。ずず
ずず﹂
﹁あああっ、気持ち良いよクラリーナ。くぉ、ううう。それいいぃ、
気持ち良い﹂
両手でしっかりと俺のチンコの竿の部分を握って、余っている皮を
捲らずに皮と亀頭の間に舌を突っ込んできた。そのままウニウニと
舌を動かせて俺のチンコを刺激する。
クラリーナ、いったいどこでそんな﹃包茎が彼女・妻にして欲しい
事﹄ランキングに必ず入るだろうテクニックをいつのまに身につけ
たんだ。
﹁ねぇしんちゃん、クラリーナのフェラチオが気持ち良いのはわか
るけど、嫁2人が裸で服を作ってくれるのを待ってるんだけど﹂
﹁そうよね。でもしん君の気持ち良さそうな顔を見てるだけで、私
の愛液が垂れてきちゃうんだけど﹂
﹁ああ、すまない2人とも。あっ。これが2人の分、だよ﹂
浴衣を作って2人渡し、俺は立ち上がって2人を着付けてやってる
977
が、チンコに吸い付いてるクラリーナは、そのまま俺のチンコをフ
ェラで咥え込んだままについてきてる。
﹁裸で着るのと下着つきで着るとの違いはどこかにあるの?﹂
﹁ミー、良い質問だ。浴衣を着用した時に下着を着けていない理由
はこれだな﹂
アイリとミーを後ろから抱き寄せて襟元から手を入れて2人のおっ
ぱいを揉みしだく。
﹁こうやっておっぱいを揉みやすくするため・・・ってのは冗談だ
が、この浴衣が出来た時代にはブラジャーってのが日本の国にはな
かっただけで、違う下着を着ていただけだよ﹂
﹁へー、あああん。乳首、イイ。ああもうダメ、着てられないわ﹂
アイリもミーもクラリーナも全て脱いで裸になってしまった。
﹃あ∼れ∼﹄がしてない。残念だったが理解してもらえなかっただ
ろうがな。
非常に残念だ。
﹁ねぇしんちゃん、そろそろイキそうなんだよね? 最初は全員の
顔にぶっかけて﹂
﹁私もしん君の精液を顔に欲しい。しん君の精液を顔に浴びて匂い
に包まれてるだけでイキたいの﹂
﹁私もお願いします。しん様の精液が浴びたいのです﹂
﹁わかった。いいぞ。みんな俺のチンコの前に集まって﹂
3人が俺のチンコの前に膝立ちの姿勢で顔を押し付けてくる。自分
でチンコをしごいて精液を噴出させた。相変わらずの凄い量を3人
の全身にぶっかける。
俺はスッキリしたので・・・ふぅ、と一息入れてソファーに腰掛け
978
た。
嫁達はお互いが浴びた俺の精液を舐めとっている・・・美味いのか?
スッキリしたとは言っても股間の勃起は全く収まる感じは無い。
﹁3人ともベッドに行こうか?﹂
俺の言葉で全員が動き出した。床に落ちた俺の精液や嫁たちが垂ら
した愛液は、俺の3点セット魔法で浄化する。
ノロノロと動く嫁達に興奮してしまう。
﹁今日はクラリーナが先に咥えてくれたから、クラリーナからだな﹂
クラリーナを抱き寄せてそのままのしかかっていく。
クラリーナのヴァギナの中は狭い、それが俺に快感をくれる。チン
コを押し込んでいくと中身がグッと詰まった袋の中に押し込んでい
ってるようだ。
そのギュッと詰まったヴァギナが俺のチンコを押し出そうと蠢いて
くる。
上にのしかかりながら更に奥へとチンコを押し込むのだがそれに纏
わり付く蠢きが気持ちいいので、何度も抜いては押し込む。
グポッグポッと出しては突きこむピストン運動にクラリーナの股間
からは卑猥な音が響き渡る。
ピストン運動させると気持ちがいいヴァギナだ。
クラリーナとのセックス中は今まではあまり触らなかったが・・・
油断してるので、今日はちょっと変えてみた。
クラリーナのおっぱいを揉む。
小さいからと恥ずかしがって今まではあまり揉ませてくれなかった
のだが、今日は超油断していた。
小さいって言ってもBカップはあるだろうし、俺が今まで見たちっ
ぱいでも小さな方ではない。
真っ白な肌に浮かぶピンク色で小さな突起物に軽く触れるだけでビ
クビクって反応する姿が可愛い。
979
﹁あああん、ダメぇ。おっぱいはダメなのに﹂
﹁そういっていつもクラリーナは触らせてくれないからな。今日は
俺が満足するまで触りまくる﹂
﹁ダメぇ、でもイイの。触っちゃヤダ。ああん、あんあん﹂
﹁クラリーナは隠そうとしてるけど、しんちゃんの手を上から押さ
えつけてるから、口で言ってる事とやってる事が違って見えちゃう
ね﹂
﹁ホントね。そんなにクラリーナはしん君に自分のおっぱいを触ら
せたいんだね﹂
そう言ってクラリーナを挑発した2人。
思わず﹃違います﹄って言って手を離した隙に両手を捕まえてクラ
リーナの頭の上で固定させてしまう。
﹁はい、しんちゃん。今日はお好きなだけどうぞ。私はクラリーナ
の脇でもいただきますか﹂
﹁ミー、アイリ、2人ともありがとうな。さぁ、今日はクラリーナ
のおっぱいを思いっきり揉ませてもらいましょう﹂
﹁ミーさん、脇を、舐めちゃらめぇ、ああんああ、しん様急に、あ
あ、激し、あああ。アイリさん、指っ指っ、らめぇええ、そこは、
お尻はらめええ﹂
﹁私がしん君とセックスしてる時はいつもクラリーナにお尻の穴を
弄られてきたからね。本当は自分が触られたかったんでしょう? こうやって指でグリグリってして欲しかったんだよね、ねぇクラリ
ーナ?﹂
﹁はあああん、イイぃいの、気ぃ持ちイイ。あんあん、お尻ぃがぁ、
いいぃいのです。ああ、しん様のオチぃいンチンも気持ちぃいがい
いのでぇ、すぅ﹂
クラリーナの股間からブシュブシュと間欠泉のように潮をリズミカ
ルに俺の動きに合わせて噴き上げている。
980
ヴァギナの中もビクンビクビクビクって何度も痙攣して俺のチンコ
に強烈な快感を与えてくれる中で、そのまま奥までチンコを突きこ
んで射精した。
﹁あああああ、出てますぅうう、あああんあああああ、熱い、子宮
が火傷しちゃうう﹂
気持ちイイ。俺の股間に当たるクラリーナが噴出させた塩も気持ち
がイイ。
ビュルビュルと精液をクラリーナの子宮に吹き上げながら、脳が焼
き尽されるようなほどの快感に満足する・・・が、まだ一人目です。
俺のセックスは射精で終わらないからな。
隣にいたミーに話しかける。
﹁ほら、次はミーの番だからそのまま、お尻を上げて!﹂
﹁え? 何、なに? お尻? はい﹂
土下座状態でお尻だけを少し上げてくれたミーのバックから襲い掛
かる。
ミーは寝転んでるクラリーナの脇をずっとペロペロと舐めてたので
正座している。
お尻を俺に向けてるのでそのままバックで俺のチンコを押し込む。
クラリーナから抜いた時にチンコの3点セット魔法はかけてあるの
で、精液やクラリーナの噴出させた潮まみれのチンコではない。
ベッドに落ちた部分と俺のチンコだけに3点セット魔法をかけてあ
る。
クラリーナのヴァギナは狭くてチンコを押し込むと押し戻そうと蠢
くのだが、ミーのは小さな粒々が俺のチンコを優しく包んで刺激し
ながら俺のチンコをヴァギナの入り口でがっちり掴んで中へ中へと
引きずり込もうとしてくる感覚がある。
最初に突き込んだときに大きな音を出してヴァギナの中にあった空
気が抜けて。中が真空状態になっているかのようだ。
981
ミーの中は動かすと気持ちがいいので、ついつい凄い速さでピスト
ンがしたくなる。
俺は両手でミーの腰を両側から掴んで固定させて、ガンガンとチン
コをヴァギナの奥にぶつけていく。これが堪らなく気持ちイイ。
﹁あんあんあんあん、激ぇ、しい。しんちゃぁああんの、激しぃい
イイい動ぉおきが気持ちイイのぉおおお。出ぇええてるのぉお出て
ぇええる。潮がぁああ止まらないぃイイの﹂
﹁あああ、ミーの中も気持ちが良過ぎて俺の腰が止まらない。ああ
イイ! いいぞ!﹂
この土下座の窮屈な体勢で俺のチンコを上から叩き込まれて、ミー
の快感も連続して押し寄せてるようだった。
ピュピュと連続で潮を吹いてる。
俺も精子を出しながらそのまま何度も突きこむ。
﹁りゃめぁえええ、だゃしぃてりゅしてるのに、突いたりゃぁ、止
めちゃやりゃ、とめにゃいでぇ。ああああ出ちゃうぅうああ﹂
ミーが快感で自分で何を行ってるのか理解できてなさそうだ。
今更止めてって言われても止まるものでもないがな。
ミーがこの体勢で俺に射精をされながらのピストン攻撃で快感の限
界値が振り切れたのだろう。
全身が弛緩し始めてそのまま、おしっこを漏らし始める。
体勢がバックなので俺の金タマにおしっこが勢いよく当たって、そ
れもまた俺に快感を与えてくれる。
出し終わると今度はアイリの出番だな。
寝室の巨大なベッドの上で両足を大の字に広げて背中の後ろには﹃
モフモフ天国﹄で使っているような俺専用のクッションを取り出し
て後ろにもたれる。
﹁アイリ、俺のセックスしたいんだよな? 今日はずっと待ってた
んだよな? ほら、アイリの順番だ。自分で跨って自分でマンコの
982
中に入れて。あああ、どう気持ちがいいか?﹂
﹁あ、はい。ああああ、入ってますしん君のオチンチンが入ってき
てます。ああん、凄く気持ちがイイです。しん君のオチンチンが、
ああああ、今までで最高に気持ちがいいんです。嬉しいですううう﹂
アイリが自分で入れて自分で動き出す。
﹁しん様のオチンチンがズッポリ入ってるのが、後ろから全部丸見
えですね。アイリさん自分で動いて気持ちいですか?﹂
俺との激しいセックスの後でダウンしてたクラリーナが復活してア
イリの言葉攻めに加わってくる。
﹁アイリさんも私と一緒でしん様とのセックス中にお尻の穴を弄ら
れるのが大好きなんですよね? 弄って欲しかったら、私にお願い
してください﹂
﹁あああ、あああいいあ。気持ちイイ。弄って、クラリーナ、私の
お尻を弄ってぇくださぁあああいイイ、きもじいいぃい﹂
いつものように話してる最中にクラリーナはアイリの後ろからアイ
リのアナルの中に指を入れてグリグリ動かしている。
俺は目の前で揺れ動いていたアイリのおっぱいを掴んで乳首をコロ
コロ舌で転がしたり、前歯で結構強めに噛んだりしていたのでアイ
リとクラリーナの話は途中から聞いてなかった。
しかも途中からアイリの乳首の隣にも復活してきたミーが、俺の横
から自分の乳首を押し付けてきたので4つの乳首にむしゃぶりつい
てしまった。
アイリのヴァギナは俺が動かなくても強い膣圧でチンコを握り締め
るように蠢くので、何もしてなくても気持ちがいい。
その体勢で2度ほど射精した。
今日はそこから俺がほとんど動かずに、上で3人の嫁が代わる代わ
る跨ってきて、嫁達3人が満足するまで続いた。
983
浴衣で﹃あ∼れ∼﹄は説明したが理解してもらえなかった。
当たり前だなんだけどな。
元ネタの時代劇を見てないことには理解できなるわけが無いわな。
俺の体はクラリーナが3点セット魔法で何度も綺麗にしてくれた。
俺は目の前に突き出された6個の乳首をチューチュー吸って、時々
噛んだただけでセックスが終わった。
みんなで自分のパジャマのガウンを着てその後は寝る事にした。
あけて転生23日目の朝。
今日は快晴だな。朝からメチャクチャ天気がいい。
朝食中に今日の予定をみんなで話し合って決める事にした。
﹁俺としてはそろそろ﹃もふもふ天国﹄をオープンさせようと思っ
てるんだけど、あれから問題点は見つかった?﹂
﹁1つだけかな。フライドポテトやクッキーを食べた人達からオシ
ボリかフォークを求められた事ぐらいかな。素手で食べちゃうとせ
っかくのもふもふが触れなくなっちゃうって言われたよ﹂
﹁なるほどね。ミー、いい意見をありがとう。他には何かあった?﹂
﹁私の友達からは﹃早くオープンして﹄ってお願いされてしまいま
した﹂
﹁それぐらいならすぐに解決できそうだから、今日からオープンさ
せてみるか﹂
﹁手の油汚れをどうやって解決させるの?﹂
﹁愛玩ゴーレムたちの口内に3点セット魔法を仕掛けて、ペロンと
舐めて完了させる。今から行って改良して、お店の看板を作って外
に立てかけてくるよ。今日から﹃もふもふ天国・ヨークル店﹄のオ
ープンだ﹂
984
そういって隣の客間で着替え始めたら嫁たちも付いてくることにな
った。
るびのは小さくなったまま今日は俺の後頭部にしがみついてる初期
のパターンになってる。
るびの用ヘッドギアを今のサイズに合わせて作り変えた。
マリアには昨日フォレストグリーン商会で購入してきた食材の梅干・
梅酢・シソ・昆布・鰹節などで料理を大量に作ってもらう。梅干の
おにぎりは必須だな・・・おかかも梅干の赤紫蘇を使った混ぜご飯
おにぎりも。シャケのおにぎりはもう既に大量に作ってあるのでこ
れでおにぎりのレパートリーがまた一段と増えたな。
セバスチャンには昨晩に嫁達に頼まれて作った服の色違いやデザイ
ンを少し変えたものなどを作っておいて貰う。
嫁を連れて店舗の裏の事務所に転移魔法で居間から移動。
靴を一度履いて店舗のほうに向かうと、店の前には嫁達の友人達が
5人ほどすでに待っていたので、今日から店舗をオープンするので
有料になりますけどそれでもいいかと聞いたけど、全く問題ないよ
うなのでそのままオープンさせて店に入ってもらうことにした。
店は普通にオープンさせて俺はキッチン横のスペースでおーとま達
をこっそり1つずつ呼んで改造していく。
嫁達に愛玩ゴーレムたちが油で汚れた指を綺麗に舐めとりますと説
明させると、フライドポテトが飛ぶように売れる。
まぁ・・・これも商売だからな・・・ボッタクリではないはず。
封印結界を発動させておーとま達をこの建物以外に連れ出せないよ
うにした。
俺は裏の事務所に行って看板作りに取り掛かる。
985
作るのは簡単だ。木は大量に取ってきてもらったし、神の創り手ス
キルで一瞬で出来上がる。
看板も盗まれなように結界で敷地内から出せないようにした。
亜空間にも入れる事が出来ないので盗む事は不可能だ。
看板の中に書く文字の方が重要だったりする。
とりあえず作ってから先に看板を設置して中に書く文字は道路で考
える事にした。
設置場所は敷地の道路に面した端の部分。ゴーレム馬車駐車場と道
路の間の芝生のところが良さそうだな。
設置してから文字の大きさを決める。通行人やゴーレム馬車の窓か
ら見えないと意味が無いからな。
﹃もふもふ天国・ヨークル店へ ようこそ﹄
この店は喫茶店ですが売っているのは﹃癒し﹄です。
毛皮のモフモフした感触に癒された経験のある方ならわかる
極上の空間がこの店の中にあります。
もふもふ天国がもたらす癒しを一度お試しあれ。
30分500G1ドリンクもしくはクッキーなどの軽食付き。
追加注文も1品500Gで30分の延長が可能です。
こんな感じかな? 俺が必死に看板の文句を考えてる横で。るびの
が芝生で転がって遊んでる。
キャッキャウフフなモフモフが転がってる。客引きに使ってみた。
るびのの愛くるしさに足を止めて看板を見てる人が多くいる。もふ
もふ好きはヨークルにもたくさんいそうだな。
俺が作った看板を後ろから支えてるのは、るびの子供版を巨大化さ
せたぬいぐるみだ。
1m以上の大きさがある。ぬいぐるみを触れるように設置した。
ぬいぐるみを触る事が出来るが雨避けの結界の施したぬいぐるみ&
看板なので濡れる心配は要らない。
986
出来た! と、満足顔の俺の後ろから声が掛かる。
﹁なぁ、にーちゃん。この店って喫茶店なのか? 軽食ってどんな
の?﹂
﹁はい。フライドポテト・カットフルーツの盛り合わせ・クッキー
と3種類しかないですけど・・・それとこの店の中にはぬいぐるみ
みたいなのが歩き回ってますけど、よろしいですか?﹂
﹁大丈夫だよ。値段も安いし文句は言わないよ。じゃ、みんなフル
ーツでいいな。にーちゃんありがとな﹂
みたからに中年の職人さんが若い女の職人さん3人に引っ張られて
連れられてきていたけど・・・まぁ大丈夫だろう。
俺は看板を設置した後はそのままゴーレム馬車駐車場で掃除をした
り雑草を刈ったりしていると、やっぱこの辺に喫茶店が無いからか
職人さん達が俺に話しかけてくる。
オープンしてるのと店のコンセプトを説明してると、何人も店に入
っていく。
これはテイクアウトも考えた方がいいのかな?
仕事までの息抜きで入っていくオッチャン連中もそこそこいたこれ
は上々の滑り出しだろう。
嫁達が店から出てきた。
﹁おう、みんなどうしたの?﹂
﹁お店が予想以上の混み具合になってきたから出てきたよ・・・っ
て、そのデカイの何?﹂
﹁ああミー、お店の看板だな。これでどこからどう見ても﹃モフモ
フ﹄ってわかるようにした﹂
﹁しん君、こんな・・・盗まれそう﹂
﹁アイリ、店の中の愛玩ゴーレムたちと同じ封印結界の処置がして
あるから絶対に無理だな。盗めるのは主神ゴッデス様ぐらいだよ﹂
987
﹁しん様、これからの予定はどうします?﹂
﹁午前中にコーヒー豆や紅茶などの茶葉、フルーツなんかも買いだ
しに行っておきたいな。皆は行きたいところはある?﹂
﹁オレはとうちゃん達とダンジョンに行きたい!﹂
﹁そういえばるびのとダンジョンに行くって約束してたな。・・・
他の皆は?﹂
﹁私もダンジョンで暴れたいな。ちょっと体がなまりそうだしね。
レイピアの実戦練習もしたいし﹂
﹁私はどっちでも良いわね。今日はしん君についていくわよ﹂
﹁私もしん様に従います。今日は特別に何かしたい事はありません﹂
﹁よし。それじゃあ、午前中はみんなで買出し。午後はダンジョン
で暴れまわろう﹂
るびのを頭の上に乗せてみんなを連れて店舗の裏の事務所に行く。
ここから自宅に転移した。ガレージにキャンピングバスが置きっ放
しになっていたからな。
キャンピングバスに乗って食料品市場へ移動する。
移動時間中にマリアに念輪を飛ばす。
﹁セバスチャンとマリア、聞こえるか? 早乙女だ。店が思ってる
以上に客の入りがいいから今からみんなで買出しに行ってくる。マ
リアはホワイト達と念輪で連携して、コーヒーや紅茶などのドリン
クや、フライドポテトなどの食事の準備をアイテムボックスを使っ
てバックアップしてくれ﹂
﹁了解です。ご主人様﹂
﹁セバスチャンもマリアと連携してくれ。もしかしたら買出しに行
く事になる可能性もあるからその時はフォローを頼む﹂
﹁セバスチャンですが、商品の買出しになったらお支払いのカード
はどうしますか?﹂
﹁セバスチャンの冒険者カードで購入してホワイト達の早乙女商会
988
に転売という形にしよう。まとめて購入して割引分が儲けって形に
すれば脱税の心配は大丈夫だろう。労働に見合った賃金ってよりも
運送したお小遣いのレベルだからな。後でリーチェに相談しとくけ
ど、とりあえずはそのパターンで行こう。それじゃ買い物に行って
くるから、あとはお願いする﹂
﹁﹁了解です﹂﹂
話が終わってからしばらくすると食料品市場に到着した。
この食料品市場は何度も足を運んでるが、ここに来るたびに新たな
発見があるぐらいの大きさだ。
ここの良さは海産物以外は纏め買いが出来る事だな。キロ単位で購
入可能だ。
コーヒー豆・紅茶の茶葉。緑茶・ハーブなどを大量に購入していく。
お支払いは商業ギルド発行の早乙女商会のカード。
俺が来るたびに大量に購入していくのでここでは結構良い扱いをさ
れている。
珍しい品物が大好きで金払いの良いお客さんだからな。
世界中の調味料を取り扱っているオバちゃんとはかなり仲がよくな
った。
﹁早乙女君、珍しい味噌を見つけて持ってきたけど味見してみる?﹂
﹁おお、ちょうだいちょうだい・・・ってこれ﹃赤味噌﹄じゃねー
か! これはいいね。味も中々だし樽ごと買わせてもらうよ。これ
はフライなんかの油っぽい料理に合う味噌汁が出来るんだ﹂
﹁はー、なるほどね。いやぁ、若いのによく知ってるね。オバちゃ
んのほうが毎回勉強させてもらってるよ。だからこの味噌はサービ
スであげるね﹂
﹁いいのか? ありがとう貰っておくよ。また珍しい調味料があっ
たら教えてね﹂
﹁早乙女君、それはこっちが聞きたい。どこかに珍しい調味料は知
989
らない?﹂
﹁フォレストグリーン商会で﹃梅酢﹄ってのがある。これは梅干を
漬けた時の汁なんだけど、これが意外と調味料になるんだよ。フォ
レストグリーン商会で﹃早乙女に紹介された﹄って言えばたぶん売
ってもらえるよ。まだ正式に販売してる商品じゃないから、大量に
は購入できないだろうけど・・・まだ調理方法を実験してる段階な
んだ。オバちゃんも味見させてもらえば何か良いアイデアが出るか
も﹂
﹁それはそれは楽しみだねぇ。今日の商売が終わったら寄らさせて
もらうよ。良い情報をありがとうね﹂
﹁いえいえこちらこそ、美味しい味噌をありがとう﹂
こんな感じで仲良くなった人とおしゃべりしながらの買い物は楽し
い。
990
俺が正義のヒーロー・・・ってマジっすか?
楽しいけどこれだけ雑多な人が行き来してる場所なので警戒レベル
は下げてない。
たくさんの人間がいても怪しい人間の動きはたいていはわかる。
俺たち自身があっち行ったりこっちに来たり、全く計画性の無い動
きをしてるからな、あわせて付いてくるヤツやじっとこちらの動き
をを窺ってるヤツもいない。
奥の場所にいるおばあちゃんに呼ばれて付いていってジャガイモを
大量購入した。
﹁おばあちゃん、いつも美味しいジャガイモを残しててくれてあり
がとうね﹂
﹁そりゃ、私の最初のお得意さんだからね。早乙女君が買ってくれ
るようになったら、売り上げが安定して上がってきたんだよ﹂
﹁それは俺のおかげじゃなくて、おばあちゃんの村で作ったジャガ
イモが美味しいからだって﹂
﹁早乙女君は知らないだろうけど、早乙女君はこの食料品市場で目
利きのグルメで有名なんだよ。早乙女君が大量に買った商品は安く
て質が良いか、高くても絶品の味って事で有名なんだよ﹂
﹁俺が目利きのグルメ?﹂
﹁そうだよ。早乙女君が購入するときに、これはこうして食べると
美味しいって言葉が聞きたくてみんなが早乙女君を待ってるんだよ。
それで私の村はジャガイモしか特産物は無いけど、早乙女君が﹃フ
ライドポテトはここの店のジャガイモが一番美味しい﹄って言って
くれたから、今は5つもお得意さんが増えて売り上げも増えてるん
だよ﹂
﹁俺の何気ない一言で・・・マジかよ﹂
991
﹁それだけ早乙女君の食に対する言葉に信頼性があるんだから、君
は誇ってもいいんだよ。ウソはついてないんだからね﹂
﹁ありがとうおばあちゃん。そうだ! 俺も今日からお店を出した
んだよ。﹃もふもふ天国﹄って店なんだけど・・・﹂
と、店の説明をしてあげたら、近所に住んでるみたいだったので説
明の手間が省けた。
﹁この店でおばあちゃんの村で取れたジャガイモから作ったフライ
ドポテトが売ってるから、良ければ一度来てみてね﹂
﹁もふもふって早乙女君の頭に付いてるような? ちょっと触らせ
てもらってもイイかい?﹂
﹁いいよ。ほらるびの挨拶して﹂
﹁おばあちゃん初めまして。早乙女るびのです。よろしくね﹂
﹁はいはい、よろしくね・・・ってこの子しゃべれるのかい?﹂
﹁うん。話せるよ。お店に行くとね、オレみたいなのがたくさんい
るよ﹂
﹁ああ、さわり心地がいいね。これは癒されるわねぇ﹂
﹁そういう﹃もふもふの癒し﹄を求めて作った俺の店なんだ。おば
あちゃんもモフモフが好きなら是非来てね。朝6時から夜8時まで
オープンしてるから。仕事の前でも後でも大丈夫だけど、食事はフ
ライドポテトとかクッキーぐらいしかないから﹂
﹁わかった。仕事帰りに是非寄らせてもらうよ。こういう毛皮を触
る事が大好きな友達も誘っていくね﹂
もふもふ天国のお店の宣伝までしてしまった。
まぁこれで夜間のお客も確保できそうだな。主婦や女性客だと昼間
だけになりそうだしな。
大量に購入したジャガイモをアイテムボックスに入れてから、マリ
992
アのアイテムボックスに送る。
油で汚れた指を愛玩ゴーレムたちが綺麗に舐めとるサービスをして
からフライドポテトの売り上げがいいので、マリアに頼んで作り置
きをしてもらう。アイテムボックスだからこその連携だな。
特製紙皿はセバスチャンに頼んで追加で作っておいてもらえるよう
に、素材をセバスチャンのアイテムボックスに送っておく。
欲しかった物は全部購入し終わったので食料品市場横のゴーレム馬
車駐車場に停車中のキャンピングバスに戻ると、俺のキャンピング
バスの前に知らない人が立っていた。
﹁失礼ですがこちらのゴーレム馬車の持ち主ですか?﹂
﹁・・・﹂
答える気は100%なくなった。この男が俺の嫁を値踏みするよう
な好色の目で見やがった。
﹁お名前を伺ってもよろしいですか?﹂
﹁どけよアホタレ。人の嫁を値踏みするような目で見るようなヤツ
とは会話する気は全くないからな﹂
﹁アホ・・・ということは私にケンカを売ってるのですか?﹂
﹁お前が売ってきたから俺は買っただけだな。それの自分の馬車に
親衛隊を5人ばかり隠してるからっていい気にならない事だな。ど
この商人かは知らないが、怪我しないうちに帰ったほうがいいぞ﹂
﹁アッハッハ、笑わせてくれるな坊主。シーズの名を持つ私にケン
カを売って無事に済んだ人間はいまだかつていないんだがな﹂
﹁へ∼∼、シーズの名を持つ人間にもお前みたいなウンコマンがい
たんだな。本当にウンコを漏らさないうちに帰らないと都市ヨーク
ルの大勢の一般市民の目の前でウンコを漏らしながら土下座して命
乞いをする事になっちゃう事になるんだけど・・・もしかして、お
前はドMなのか? みんなの前で漏らしたい願望でもあるのか? おい、みんな変態がいるから車の中で待っててくれ﹂
﹁口だけは達者なガキだな。女も逃がすつもりは無いぞ。お前らや
993
ってしまえ﹂
ガシャガシャと騒々しい音を立てて走ってくる親衛隊に向けて﹃パ
ン﹄と手を叩きスキルを発動する。
﹃影縫い﹄
フルプレートアーマーの男5人と俺に声をかけてきた男が腰まで自
分の影に沈んで動けなくなった。
クラリーナが声をかけてきた。
﹁大丈夫・・・ですね。中で待ってますね?﹂
﹁ああ、心配ないよ。中で待っててくれ﹂
こんな時のこういうヤツラへの対策としてお互いに名前を呼ばない
ように言ってある。
﹁さぁ、周りにこんなに大勢の人がいて、お前達から手を出してき
たのに・・・どうします? 命を懸けて﹃決闘﹄することにしまし
ょう。受けますか?﹂
﹁ひ、卑怯だぞ! 俺たちは動けないのに!﹂
﹁でもお前が何の関係も無い俺の嫁を人質にするって声出したんだ
けど・・・もうボケてるのか? まだ20歳にもなってないだろう
に・・・可哀想になぁ・・・親が。プークスクス﹂
﹁貴様! わかった。決闘だ! ここから出せ!﹂
﹁決闘するのに、何で出してやらなきゃいけないんだ? お前の脳
味噌はお花畑か?﹂
流石にここまで俺が徹底的にバカにしてると周りから笑い声が聞こ
えてくる。
ついでにヒソヒソと小さく話し声も。
﹁ねぇ、早乙女君にケンカ売ってる金髪の人って﹃ユマキ商会﹄の
次男だよね?﹂
﹁そうそう、問題ばっか起こして勘当寸前の﹃マサキ・シーズ・ユ
994
マキ﹄だよ。まさか早乙女君にケンカを売るほど馬鹿だとはね。こ
れで廃嫡&勘当決定ね。遠い遠い国の親戚に養子に出されるわね﹂
﹁まさか本物の馬鹿だって私も知らなかったわ。早乙女君にケンカ
を売るほど馬鹿だとはね﹂
﹁早乙女君ってここ最近の一連の問題解決の立役者で﹃ヨークルの
正義のヒーロー﹄って言われてるのに・・・バカよね﹂
﹁そうなのよね。商人なら金を払ってでも仲良くさせてもらいたい
って思ってる人が多いのにね﹂
﹁私は売ってるバナナを褒めてもらっちゃった。おかげで顧客が増
えたし﹂
﹁私も! メロンが美味しいって褒めてくれたおかげで顧客からの
連絡が来て﹃今後の取引量を増やしたい﹄って。早乙女君は本物の
商売の神様なのよ﹂
﹁うちはミョウガを昨日は早乙女さんの奥様が来て大量に購入され
て、今朝になったらフォレストグリーン商会から﹃定期的な購入契
約をしたいから村の責任者との話し合いがしたい﹄って・・・その
話をフォレストグリーン商会に持ち込んだもの早乙女さんなんだっ
て。美味しいものを生産して早乙女君と仲良くすると商売繁盛間違
いなし・・・﹂
﹁そういえばコーヒー豆を扱っている商会の人が言ってたんだけど、
生産地ごとで選別して・・・﹂
流石に恥ずかしくなってきたな。顔がちょっと火照ってる。
﹃ヨークルの正義のヒーロー﹄やら﹃商売繁盛の神様﹄やらはキツ
イな。
気を取り直して、決闘の再開をしないとな。
﹁それで﹃マサキ・シーズ・ユマキ﹄さんよ、どうやって決闘する
んだ? 賭けるモノは﹃お互いの命﹄だったな。それで決闘方法は
どうする? 殺し合いで良かったのか?﹂
995
ヨークル食料品市場での大騒動︵2回目︶っす。︵前書き︶
9・28修正しました。
996
ヨークル食料品市場での大騒動︵2回目︶っす。
﹁ここから出せ! 俺がこの剣で殺してやる﹂
﹁決闘のシステムを決定した後でな。そのままだって戦えるだろ。
お前の自慢の剣はこの程度がハンデになっちゃうんだね・・・貧弱
過ぎるぞ﹂
﹁どうされましたか? トラブルで揉めてるって聞きましたが・・・
って早乙女さんですか?﹂
﹁はい。あっ、警備隊の隊長さんじゃないですか。どうも、お久し
ぶりです﹂
隊長さんとの再会で嬉しくなって握手をしてしまう。
﹁早乙女さん、どうかなされたんですか?﹂
しつけ
﹁ええ、この馬鹿が俺に因縁をつけてきたんで﹃決闘﹄のシステム
を使わせてもらって、2度と馬鹿な真似をしないように﹃躾﹄をし
ようかなって。いくら馬鹿でも大衆の面前でウンコを漏らすぐらい
の恐怖を与えてやれば、人の話も聞く様になるかなって思ったんで
すよ。・・・﹃俺はシーズの家の人間だから!﹄って特権階級意識
で俺に挑んでくる馬鹿を今後、減らすためにもこの馬鹿を見せしめ
にさせてもらおうかって考えたんで・・・だけど躾は俺の仕事じゃ
ないしな。まぁ死んでもらおうって事に決定しました﹂
﹁シーズの家ともめると後が面倒になりますし、殺しちゃうともっ
と厄介なことに﹂
﹁この馬鹿を管理してるのは誰ですか? 躾もできてないじゃない
ですか。俺に迷惑をかけといて﹃シーズだから勘弁してやれ﹄って
警備隊の人間が言って、この国の法律って守られてるのですか?﹂
﹁あ、いや・・・そういうわけでは﹂
﹁決闘のシステムを俺は使います。おい﹃マサキ・シーズ・ユマキ﹄
997
今から俺﹃早乙女真一﹄からの命を賭けた決闘を受けるか?﹂
﹁受ける! だから早くここから出せ!﹂
﹁はい。これで命を賭けた決闘が決まりました。立会人は警備隊の
隊長の貴方です。決闘方法は﹃親衛隊も含めた6人で殺し合い﹄で
いいな? ハンデとして6人全員を相手にしてやんよ﹂
﹁受ける﹂
俺が6人全員を拘束していたスキルを解くと全員が剣を抜いた。
俺は一番腕の立ちそうな親衛隊の隊長らしき人間に向かって歩いて
いく。
俺の左側から親衛隊の人間が切りかかってきたが胸を反らせて簡単
に避ける。
右側から大きな手甲のつけた親衛隊が殴りかかってくるが頭を左右
に振って避けて掴み掛ってきた手を、スウェーで簡単に避けて目の
前の驚愕している隊長の顔面に軽くジャブを放つ。
親衛隊の頭部の装備ごと頭全部が血煙とともに消滅して残った体が
崩れ落ちた。
観客の中から何人かの叫び声とマサキ達の絶叫が響き渡る。
親衛隊もマサキ本人も腰を抜かして動けなくなっていた。
﹁お前ら殺す殺すって何度も言っといて、本物の殺し合いをしたこ
とないのか? 言っとくけど俺は遊んでるお前らとは違って﹃本物
の殺し合いによる決闘﹄を望んだんだから、一切の手加減をするつ
もりは無いからな? 死んでで詫びろよカス﹂
親衛隊の2人目・・・腰を抜かしたままの体勢の相手に前蹴りで顔
面を消失させる。
﹁悪いけどな、俺の対して権力を振りかざしたクソバカには俺自身
の中にある破壊衝動を押さえ込む事が出来ないんだ。何度も言うが
﹃死んで詫びろ﹄謝っても許さないからな。お前も今までそうやっ
て他人を踏みつけて生きてきたんだろ? 今度はお前の番になった
998
だけ。凄く簡単なことだよ﹂
親衛隊の3人目は這いつくばって逃げようとしてる所を、背中の上
に飛び乗って後頭部を踏み抜いて、こいつの頭部も消失させた。
警備隊の隊長が俺に話しかけてくる。
﹁・・・早乙女さん、許してやってもらえないでしょうか? 先程
早乙女さんがおっしゃったように彼ら全員がウンコ漏らしてますし﹂
﹁無理無理。だって俺、冒険者だよ? 中途半端に逃がした魔獣相
手に逆襲されて殺されるのが日常の世界で生きてる冒険者なんだよ
? 何で人間相手だと許さなければいけないの? 魔獣は殺せって
言うのに? 理屈が通ってないよ﹂
そういって4人目の親衛隊を引きずって戻してきて顔面に上から鉄
拳を突きこみ、こいつの頭部も消失させた。
﹁それに、命懸けって言葉はこの国では﹃軽い﹄んですね。俺に文
句があるなら﹃決闘で命を賭ける事﹄を禁止する法律を作らないと
ね。俺は法に則って殺したかったコイツラを殺してるだけだし。自
分の身を賭けて決闘を受けたコイツラにもここでやめたら失礼に当
たりますよ?﹂
5人目は足を掴んで﹃ぺったん﹄した。
頭部どころか上半身の半分が消失してしまってるな。
﹁早乙女さん、来ました。マサキの親の登場です﹂
﹁お前! うちの息子に何を! って早乙女か﹂
﹁何で俺の名前を知ってるんですかねぇ、さすがスパイギルドに金
を払って俺の情報を集めていただけありますねぇ﹂
﹁そ、そんな話は﹂
﹁あ、しらばっくれても無理ですよ。貴方が﹃ユマキ商会の当主と
してサインした書類﹄は既に警備隊本部に詳細なメモと一緒に提出
済みですので。隊長さんのほうがその後の話は詳しいと思いますよ﹂
﹁私は警備隊の食料品市場詰所の隊長ですので本部での詳しい話は
999
聞いてません﹂
﹁ですって、情報はもらえませんでしたね。残念でした。じゃあ、
マサキ覚悟はいいか?﹂
﹁ぎゃひゃーー、親父ぃだずげでぐでよー﹂
﹁警備隊なぜこいつを止めないんだ!﹂
﹁不可能です。これは正式にお互いが了承して交わされた﹃殺し合
いの決闘﹄です。我々に止めさせたいのであれば﹃決闘の法律﹄を
今すぐ変更してください﹂
﹁そういう事なんで、早く死んで詫びろよ﹂
﹁貴様まで! 使えないヤツめ!﹂
﹁じゃあ、お前も受けろよユマキ家当主。それだったら息子の死に
様は見ないですむよ。お前を先に殺すから﹂
﹁・・・﹂
﹁おやおや、自分のほうが大事なんだってさ。マサキの親は薄情だ
ね。自分でワガママいっぱい育てておいて、自分のためだと見殺し
にするんだってさ﹂
﹁おやじぃ、だずげでぇー﹂
﹁早乙女、お前もシーズの家の人間にこんな真似をしてタダで済む
とは思ってないだろうな?﹂
﹁ほうほう、警備隊の隊長さんこれって俺は恐喝されてますよね?
シーズの人間って恐喝はOKなんですか?﹂
﹁ユマキさん、貴方が今早乙女さんにおっしゃった事はこの国の法
律では﹃脅迫罪﹄にあたります。まさか自分達のご先祖様が作り上
げた法律まで、蔑ろに出来ると思ってませんか? シーズの家に生
まれると法律の上にいると思えてしまうのでしょうか。早乙女さん、
ご自身への脅迫と受け止めて訴えますか?﹂
﹁訴えます。でも拘束するのは後でお願いします。目の前で自分の
息子が殺されるシーンを見ててください﹂
﹁やめてください。お願いします。許してください﹂
地面に何度も頭を打ち付けて土下座を繰り返すマサキとその父親。
1000
﹁だから、お前達に聞いてるのはそうやって命乞いした人間の頭を
踏みつけて今まで平気で過ごしてきたのに、今更許されるなんて何
で思うんだ? 都合が良過ぎないか?﹂
﹁何でもします許してください﹂
﹁だから許されたいなら自分で死ねよ。さっきからそう言ってるだ
ろ? ﹃死んで詫びろ﹄って。お前が持ってるそのロングソードは
人を殺せるんだぞ? それを俺に向けてきて、何で自分に向けられ
ると思わないの? お前ら武器って何だと思ってるの?﹂
﹁・・・﹂
﹁そうやっていつも都合が悪くなるとダンマリか、逆ギレして相手
を追い込んでたんだろ。親子の2人で。お前らって魔獣以下過ぎる
よ。魔獣の方がもっと一生懸命生きてるって﹂
﹁・・・わかりました。わかりましたから息子の命だけは救ってや
ってください﹂
﹁やだよ。何で俺がお前の都合に合わせなきゃなんねぇーの?﹂
﹁親としての願いです﹂
﹁親ならこんなバカタレに育てた責任取れ。俺や周りの他人に押し
付けんなよ。何でこの馬鹿があちこちで馬鹿なことを繰り返してい
るのに、周りの迷惑も考えないでお前は親として何をしてるの? 躾も出来てないじゃん﹂
﹁・・・それでも可愛い息子なんです﹂
﹁残念。俺には全く可愛くないや﹂
最後にそういって土下座してるマサキの頭を踏み抜いた。
絶対に
後で復讐を考えて、俺の
﹁まぁ、俺ってこういう悪党だし。俺は殺せる時に殺しておく人間
︵?︶なんだ。お前ら親子って
家族に手を出すタイプだろ? 許すはずがないじゃん。残念だった
な・・・お前の躾する能力の無さが息子を死に追いやったんだよ﹂
﹁ああああああああ﹂
﹁叫んだって子供はもう帰ってこないよ。可哀想だよな。今までの
1001
お前達親子の被害者が﹂
﹁ころしてやる!!!﹂
マサキの足元の転がっていたロングソードを手にとって切りかかっ
てきた。
俺はそれを体で何度も受け止めてから顔を警備隊の隊長に向けてワ
ザワザ確認を取る。
﹁・・・正当防衛だよね﹂
﹁はい。間違いないです・・・えっと、大丈夫なんですか?﹂
親父の顔面にジャブを放って親父の顔面すらバシュっていう音とと
もに消失させた。
﹁この事件で俺って警備隊に拘束されるのかな?﹂
﹁今回の一連の騒動で罪に問われることは一切ありませんが、詳し
く調書を書く必要があるので詰所までご同行を願えますか?﹂
﹁わかった、嫁たちに話をしてくるからちょっと待っててくれ﹂
ここで俺は大きな声で宣言する。周りに残ってるギャラリーに向け
て。
﹁俺をヨークルの正義のヒーローって思ってくれてる人達には衝撃
な状況かもしれないけど、俺は﹃冒険者﹄だ。自分に襲い掛かって
くる魔獣も人間も許すか許さないかも俺自身が決める。それに対し
て文句があるなら決闘で決着つけてもいいよ。ヨークルから出てい
けって言うなら俺も出てくさ。この都市に定住するつもりなんて無
い﹃旅人﹄でもあるからね。出てって欲しかったら住民代表者が冒
険者ギルドに相談してくださいね。それと今から俺のゴーレム馬車
が出発するから道を明けてくれ。では、サヨウナラ﹂
俺はキャンピングバスの中に入って嫁に話をする。嫁達は全員防具
をフル装備していたのに驚く。
1002
﹁おおお。・・・やぁ、正義のヒーローの座から転落して、タダの
﹃虐殺者﹄となった早乙女です。ゴメンな心配させて、見ていただ
ろ? 嫌いになったか?﹂
﹁全然だから。心配しなくていいよ。私もアイリも冒険者として1
0年以上も生きてきたんだからね﹂
﹁そうよね。ちょっとクラリーナには刺激的な戦いだったかもね﹂
﹁私は自分から望んで冒険者になると決めました。自分から望んで
早乙女さんの妻となりました。だから大丈夫です﹂
﹁みんなありがとうな。俺はこれから警備隊の詰所に行って調書を
書いてこなけりゃならん。みんなは先にダンジョンに行ってミルク
さん狩りでもしててくれないか? マリアから念輪連絡が入ってミ
ックスジュースの売れ行きがいいから、このままだと今日の分がも
うなくなるってさ。るびのと一緒にダンジョンで遊んでてくれ﹂
﹁とうちゃん、それよりも腹減ったよ﹂
俺が頭から降ろすとるびのは元の大きさに戻って自分の腕輪からオ
ーク肉を取り出して食べ始めた。
﹁そういえば私もおなかが空いたわね。しん君、何か新作の料理は
無いの?﹂
﹁梅干と昆布とおかかのおにぎりぐらいかな﹂
そういってマリアが作ってくれたおにぎりをみんなに渡す。
﹁これでも食べながら、先にダンジョンで狩りをしておいてくれ。
るびの、怪しいヤツがいたらみんなに教えるんだぞ?﹂
﹁んぐんぐ。プフー、まかせてよ、とうちゃん﹂
それじゃあなといってドアを開けてキャンピングバスを降りてドア
を閉める。
ギャラリーがほとんど帰っていってるので、開けられた道をキャン
ピングバスがゆっくりと走り出す。
﹁隊長さんお待たせしました。この死体はどうします・俺がアイテ
1003
ムボックスで運んでもいいですよ﹂
﹁それはお願いします。警備隊の詰所には警備隊共通のアイテムボ
ックスがありますので、運んでもらえると助かります﹂
﹁それで、貴方達はどうするんですか? ユアサ商会に報告に行か
ないでもいいんですか?﹂
俺はボーゼンとして眺めてるだけの当主についてきた親衛隊のメン
バーに話しかけた。
﹁あ、イヤ、我々はいったいどうすれば・・・﹂
﹁俺に聞かれても・・・こういう時ってユマキ商会のヨークル支部
に行って報告しないといけないんじゃないですか? そこで商会の
人に今後どうすればいいか聞いてくださいよ﹂
﹁そ、そうですね・・・失礼しました﹂
トボトボって音がしそうなほど茫然自失状態でそのままユマキ商会
の方に歩いて行ったけど・・・まいっか。俺に関係ないっだろうし
な。
俺はアイテムボックスに7人の死体を入れていく。落ちている装備
品も拾ってアイテムボックスに入れていく。
﹁では隊長さん、詰所に行きましょう﹂
1004
弓も始めてみましたっす。
ここの警備隊詰所に入るのは2回目か。
俺が馬鹿にからまれるとここに来なくてはならない場所なんだな。
決闘のシステムは聖騎士団のジャクソン団長に詳しく教えてもらっ
ていた。
奴隷救出作戦の後に警備隊本部にジャクソン団長とともにトリーの
操縦するゴーレム馬車で帰るときに教えてもらっていたので助かっ
たな。
流石のジャクソン団長も教えてすぐに使うとは思ってもみなかった
だろうけど。
しかし心配していた通り﹃権力を振りかざしてくる人間﹄には反発
してしまう。
俺自身の少年時代の経験も関係してきてると思うのだが、権力をか
さにして暴力を使って力づくで解決しようとしてる人間に対して、
俺自身が同じ事をして解決してるだけの事なんだけどな。
毎回こうしてるのに正義のヒーローになってる自分の噂にビックリ
していた。
今日のこのときから俺の噂は﹃大量虐殺者﹄になるんだろう。
正義のヒーロー=大量虐殺者ってのは定番中の定番なんだけどなぁ。
非常に残念なんだが俺は今日からは食料品市場は俺は歩き回らない
方が良さそうだ。
首都シーパラに行く準備を進めておいた方がいいかもしれん。
警備隊の隊長の作成してる調書に応答して、調書に書かれている事
を確認してサインをする。
1005
調書作成作業中に俺の並列する思考の部分で自分の今日の行動と今
後の事を考えていた。
調書も終了したので歩いてアゼット迷宮へ向かう。
念輪でアイリに話しかけるために回線を開く。
﹁今、調書の作成が終わって警備隊の詰所から外に出たところだよ。
みんなはどこまで行った﹂
﹁今は大森林の街道をキャンピングバスで走ってるところね。後2
0分ぐらいで到着するかな﹂
﹁俺もヨークルの外門を出たらいつものアゼット迷宮近くの場所に
転移するからそこまで遅くはならないと思うよ﹂
﹁到着してからしん君を待ってたほうがいい?﹂
﹁ああ、待っててくれ。一緒にダンジョンで狩りをしよう﹂
﹁そう、それならキャンピングバスの中で待ってるわね﹂
ヨークルの都市の中をおにぎりを食べながら歩き、食べ終わったら
大森林の中に入り装備を整えるために防具に着替え腰に天乃村正を
帯剣し、いつも転移しているアゼット迷宮近くの場所へ転移魔法で
移動した。
アゼット迷宮のゴーレム馬車駐車場で周囲の気配を探ったが、どこ
にも人影らしきものもなかった。
ダンジョンアタックを開始するには中途半端な時間なんだろう。
キャンピングバスのドアを開けて声をかける。
﹁みんなおまたせ。さぁ、チーム早乙女遊撃隊のダンジョンアタッ
クを開始しよう﹂
﹁とうちゃん早かったね﹂
チームのみんながゾロゾロ降りてくる。
全員降りたらキャンピングバスをアイテムボックスに入れる。
1006
しかし﹃チーム早乙女遊撃隊﹄・・・まさしく遊撃隊に相応しくな
ってしまったな。
前衛職﹃シールダー﹄のアイリと後衛職﹃魔道士﹄のクラリーナ。
残りは俺﹃剣客﹄・ミー﹃ランサーorレイピア﹄・るびの・マリ
ア・セバスチャンなので2人以外は全部﹃スピードを使って敵を仕
留める遊撃タイプ﹄ばかりになってしまったな。
この際だからシーフのナイフ使いとかアーチャーなんかも集めて遊
撃を極めるか?
自分でアーチャーでもやってみようかな。
某狩りゲーでも一時期は弓を使っていたしな・・・今の神の創り手
スキルがあれば、折りたたみ式の﹃ガシャン﹄って展開する弓が作
れるかも。
ヤバイ俺の中で厳重に封印したはずの﹃中二病﹄を刺激してしまっ
たな。
﹁しん君、そろそろ転送部屋なんだけど・・・どうかしたの?﹂
﹁悪いなアイリ。考え事をしていたよ・・・転送部屋か。今は13
時半・・・今日は予定通り地下6階でミルクさん狩りに午後の休憩
時間までの2時間は固定しよう。移動の並びはそうだなぁ・・・ミ
ー・るびの・クラリーナ&アイリ。俺は最後尾。敵の捜索はるびの
の担当でどっちの方角からどれだけの数の敵が来るか声に出して報
告してくれ。アイリはクラリーナの護衛任務だな﹂
﹁うん。とうちゃんわかったよ。任せてね﹂
﹁俺はバックアタックに備えるよ。それと、ちょっと時間を貰って
いいかな? 俺は作りたいものが出来てしまった﹂
﹁しんちゃんの作りたいものって何?﹂
﹁武器で﹃弓・ロングボウ﹄だな。ちょっとやってみたいと思って
1007
しまった。弓はミスリルをオリハルコンコーティングで強化。弦は
龍糸を寄り合わせて魔力であまり伸びないように固定化すれば、結
構マジな弓が出来そう﹂
﹁しん君、それならば私にも何か作って欲しいな、双剣とか一時期
あこがれたな﹂
﹁それは今日はちょっとやめておこう。いきなり実戦での練習は流
石におすすめできないよ。シールダー特化型のアイリの場合、防具
から作り変えないといけなくなるからな。今度防具も一緒に作って
あげるって事で﹂
﹁やったね。それじゃあまずは師匠ゴーレム達と練習だ﹂
﹁まぁ、ゆっくりとだな。さぁ地下6階に到着だ。これからは先程
の予定通りミルクさん狩りに行こう﹂
俺は戦闘はチームのみんなに任せて、おやっさんが作ってくれた自
分の鎧を、弓も撃つ事が出来るように所々をワイバーンの革で補強
して滑り止めなどをつけていく。
背中側に折りたたんだ弓を上から取る事が出来るよう・・・いらな
いな。アイテムボックスから直接取り出したほうが早いし邪魔にな
らない。
矢もそうだな。矢筒も要らないファンタジーならではか。
アイテムボックスから直接出し入れするんだから折りたたみ機構も
つけなくてもいいって事に気付いた・・・今更だけど。
それに俺のこの規格外スペックだと弓力が100kgだろうが1t
だろうが軽々引くことが可能だし、その弓力から速射で正確な狙い
もつけられる。
ミスリルの金属板を何重にも重ね合わせてオリハルコンでコーティ
ング。
龍糸を寄り合わせて使った弦を張って製造した。
長さは1.2m。
1008
ロングボウとしては小さな部類に入るが俺の170cmという身長
を考えて取り回しのよさや扱いやすい長さに作ったらこのサイズだ
った。
矢を100本ほど製造してアイテムボックスの入れておく。
そこまで要らないだろう。転送魔法で取り寄せれば何回でも打ち込
めるからな。
弓力は300kgにして矢は全金属製でオーガ鋼で製造した。
試しでひいてみたら弓力なのかパンパンと音が凄いので、弓の音を
低減させるために工夫をいくつかつけたが・・・途中で諦めてしま
った。
消音魔法を弓に付与させて無音の弓にした方が簡単だったな。
・・・おかげでバシュやピシュなんて擬音が消えてなくなってしま
った。
ミルクさんは嫁3人とるびのが結構楽々と狩りしてる。
俺も途中から参戦した。矢が当たって突き抜けるのがハンパな威力
じゃないな。
ここまで来るとちょっとえげつなくなってしまった。
ダンジョンで助かる。
ダンジョン内の魔獣は魔石・魔結晶・魔水晶・ドロップアイテムを
残して消滅してしまうので飛び散った血や脳漿なんかの後片付けを
しなくてもいいかもんな。
矢の損傷が想像以上に激しい。
もう少し頑丈に作りなおさないといけないな。矢を1本ずつ丁寧に
作る事にする。
﹃どうせ矢なんて消耗品だし﹄
って、適当に作ったおかげで毎回弓で矢を放って回収するたびに作
1009
り直してる。
アホが極まってるな。
﹁しんちゃん、なんか凄い弓作ったね。一射でミノタウロス2頭の
頭部をぶち抜いて突き抜けてダンジョンの壁に突き刺さる弓矢って
始めて見たかも﹂
﹁威力が凄いです。バンって矢が当たった時の音も凄いです﹂
﹁ねぇ、しん君。矢がひん曲がってるのってわざとなの?﹂
﹁アイリ逆だ。あまりの威力に矢が耐え切れないでいる事を全く計
算してなかった。これから矢の方も本格的に作らさせてもらうから、
またみんなで狩りをしておいてくれ﹂
俺はそういうとまたモノづくりに没頭し始める。
矢の重量バランスなどよりも﹃頑丈さ﹄これが必要って事になると・
・・金属から変えたほうが良さそうだな。
今使ってるオーガ鋼以上となると・・・難しいな。
ミスリルやオリハルコンなどの金属は魔力を込めれば感情には作れ
るが比重が金属としては軽いんだよな。オーガ鋼の半分ぐらいしか
ないし。
ミスリルコーティングよりも少し分厚めに作ってみる事にした。
矢をそのままで上からミスリルでメッキしてみる感覚だな。
ためしで撃ってみる事にする。
﹁みんな、ちょっとゴメンな。るびの、試し打ちさせて。ミルクさ
んはどっちから来る?﹂
﹁うんいいよ。とうちゃん、あっちの方向にミルクさん3頭で距離
100m﹂
3頭のミノタウロスに遠距離射撃。100mほどだが寸分違わず眉
間を突き抜ける矢が3本。
転送魔法で回収してみると、3本とも見た目は普通だな。鑑識で詳
しく調べてみると、矢が全体的に歪んでいる。確かに頑丈にはなっ
1010
たが3回ぐらいで壊れそうだ。
なんかムカついたので1mmぐらいに分厚くミスリルをこんもりと
塗る? 盛る? してやった。
﹁るびの、次も頼む﹂
﹁うーん、こっちに2頭。距離120m﹂
スッスッと無音で弓から矢を放つ。タンッタンッと当たる音がかす
かに聞こえてミノタウロスが倒れる音がした。
弓力300kgって凄いな。120mでもミノタウロスが一撃なん
だ・・・。
矢を転送魔法で回収させ鑑識で調べてみたが、今回は全く歪んでな
い、これは成功だろう。
ミスリルを分厚く盛ったので魔力付与が可能になり風圧低減の魔法
付与を矢の全体に掛けて完了だな。
これと同じ矢を200本作っておいた。
1011
ミー、﹃ちっちゃい﹄は男には禁句だ・・・っす。
弓が完成。後は実戦あるのみ。
って事で、るびのが発見、俺が弓矢で退治。アイリたちは黙々とア
イテム拾いって事を何度かやったらミーに怒られた。
﹁しんちゃん、ねぇ・・・敵の姿が見えないんだけど﹂
﹁フッフッフ、惜しいな。俺はダンジョンデビューの初日にその経
験をしたぞ。俺が既に通った道だ﹂
﹁ああ! そういうこともあったわね。その後の地下2階でオーク
がしん君の姿を見て怯えて頭を抱えて震える姿を見たときは﹃魔獣
ってこんな事したっけ?﹄って思ったよ﹂
﹁ハッハッハ、人間は失敗から学ぶ生き物なんだ﹂
﹁でもしん様、これでは私達は何も学べないと思うのですけど﹂
﹁クックック、これが仕返しって事だな。一つ勉強出来たようだな﹂
﹁しんちゃん、ちっちゃいよ﹂
・・・orzの体勢に膝から崩れ落ちた。
﹁ミー、その口撃は男にはキツイな。精神的にかなりやられた﹂
﹁とうちゃん、大丈夫? どっか痛いの?﹂
るびのが崩れ落ちた俺の顔を舐めてくれる。俺にはこのモフモフが
あるからいいんだ。
﹁るびのありがとう。あ、みんなあっちから敵が来たようだ。距離
は100.ミルクさんの数は3。俺は精神的ダメージで動けない。
アイリ・ミー・クラリーナ後は頼んだ。るびのは俺を癒し中で忙し
い﹂
﹁なーにいってんだか。アイリ・クラリーナ行こう!﹂
﹁うんそうね。クラリーナは私の後ろへ。ミーは私が敵を抑えた後
で後ろから攻撃でトドメ。行くわよ﹂
1012
﹁はい。アイリさん﹂
俺はるびのと遊ぶ事にした。やっぱりモフモフは正義だな。オス2
頭がキャッキャウフフと転げまわって遊んでいる間に女性人3人は
黙々と狩りをしてる。
もちろん手伝いはしてるよ。
﹁ミー今度は後ろ側から2頭接近中。距離80m﹂
﹁アイリ、1頭後ろに回り込もうとしてるぞ。挑発入れて﹂
﹁クラリーナ魔法は正確に狙いをつけて! 魔獣の弱点を考えるん
だ。ミノタウロスの場合は頭部。頭は鉄製の兜を被ってるヤツもい
るから、顔面狙いで行こう!﹂
手伝い・・・じゃなくてアドバイ厨になってるな。いかんな。
嫁達にはダンジョンで鍛えるべきもの・・・敵を察知する感覚があ
ったんだ。
バックアタックしてきたミルクさんはサクッとるびのが狩ってる。
﹁みんな、危なくなったらフォローするから動きながら・攻撃しな
がら・防御しながら・魔法を使いながら気配を探る練習をしよう﹂
そういってるびのと座って見てる事にした。三角座りで弓は横に置
きっ放し。
元々嫁3人で余裕でミルクさんを狩る事が出来てるし、今日はミー
が初めてダンジョンの実戦ででロードクイーンのエストックをレイ
ピアとして使用してるが、元々才能がある武器だしすぐに槍と交換
が可能だから、そこまでの心配は要らないな。
俺はるびのと会話を楽しむ事にした。
﹁とうちゃん、かあさん達かっこいいね﹂
﹁だな。さすが俺が選んだ女達だな。自分の直感を信じて、それが
正解だったから気分がいいな﹂
﹁直感で選んだってどういうこと?﹂
1013
﹁まぁ、るびのにわかりやすく説明すると、俺達オスがツガイのメ
スを選ぶ時に色々なパターンが人間にはあるんだ﹂
﹁へー、そうなんだ﹂
﹁そうなんだよ。このメスと一緒に過ごしたいって長年過ごしてか
らツガイに決めるパターンもあるが、とうちゃんみたいに自分の直
感だけを信じてツガイを決める人もいる。親同士の約束で決めるパ
ターンもあるし、人によっては親の出世のためにって決まるパター
ンもあるんだよ﹂
﹁なんか人間って面倒臭そうだね。オレはツガイって、どうなるの
かな?﹂
﹁聖獣の場合はどうなんだろう。ゴメンな。オレにもわからないや。
しばらく教会に行く事はないだろうし・・・ゴッデス様にあったら
聞いておいてやるよ﹂
﹁うん。わかった。とうちゃん、そろそろ休憩時間だよ﹂
﹁お、そうか。みんなー! 休憩時間だぞー﹂
そういって俺とるびのはドロップアイテムなどを拾ってる嫁達に歩
いて寄っていく。
﹁しん様今日はどこで休憩されますか?﹂
﹁別の階の休憩所に行こうよ、大きい方の休憩所はすぐそこだし・・
・もうちょっと暴れたい﹂
﹁ミー、今日はまだまだ元気ねぇ。私は一息入れたいわ・・・とい
うよりもトイレに行きたい﹂
﹁私もそろそろ休憩が欲しいですね。今、休憩時間用に装備を召喚
本に変えます﹂
クラリーナが俺が作った杖をアイテムボックスに入れて召喚本を武
器として装備する。
クラリーナはさっそく火精霊を100体ほど召喚させてクラリーナ
自身の減ったMPを補充し始めた。
1014
大きな休憩室に入ると中でキャンピングバスを取り出す。
アイリがさっそく中に入ってトイレだ。るびのは自分専用の場所で
仮眠し始めた。
オレはキャンピングバスの自分のシートに座りアイテムボックスか
らコーヒーを出す。
今日は自分でロック氷を作ってアイスコーヒーにした。
﹁しんちゃん、私にも氷をちょうだい。今日はアイスのカフェオレ
にする﹂
﹁ほいよー﹂
アイスペールは作ってなかったので深皿にいくつか作って出す。酒
でロックを飲む時に作ったのは桶だしな。氷が溶けないように作り
こんだが、流石にデカイからな。今はそこまでの量の氷はいらんだ
ろう。
クラリーナはアイスティーにしたようだ。しかも氷を入れる前に練
乳を入れてる。
好きだな甘い飲み物が。
﹁しん君、何か甘いものはないかな?﹂
トイレから帰ってきての最初の言葉がそれかよアイリ。
﹁ザラメが今日手に入ったし・・・超簡単なやつでもいいか?﹂
﹁いいよ﹂
綿菓子を人数分作ってやった。これならザラメがあればすぐできる。
割り箸がなかったので自作した。
﹁こんなのがあるのですね。ふわふわで美味しいです﹂
﹁クラリーナは気に入りそうだと思って作った。紅茶に練乳入れち
ゃうほどの甘党だしな﹂
﹁私も食べやすいのは良いんだけど、口の中で溶けちゃって残らな
いっていうのが何か釈然としないわ﹂
﹁アイリも? 私も同じ事を思ってた﹂
1015
﹁考え方の違いだな。これはそういう風にふわふわを﹃口の中で溶
かして﹄その食感を楽しむお菓子だよ﹂
﹁そうですね。私はその感覚がわかりました﹂
﹁なるほどね。しん君にそういわれると楽しいお菓子になるわね。
このふわふわで蕩けていく食感ね。うん美味しい﹂
﹁これはこれで美味しいって事は分かったけど、しんちゃんにワガ
ママ言って悪いんだけど、私は今日は噛み応えが欲しいな﹂
﹁何でもいいならすぐできるよ﹂
バナナをオーブンなどでじっくり焼きあげたドライバナナを作って
あげた。料理スキルは超絶楽だ。
﹁これなら噛み応えもあるし、甘さも申し分ないと思うんだけど﹂
﹁これはバリバリかじれるし、私はこっちのほうが好き﹂
﹁俺はどっも好きだけどな﹂
そんな会話をして休憩が終わる。全員がトイレを済ませてからキャ
ンピングバスを降りる。
キャンピングバスをアイテムボックスに仕舞って、午後休憩後のア
タック場所を話し合わないとな。
﹁これからの話なんだけど、これから1時間ぐらいでいいから﹃サ
ラマンダーの雫狩り﹄をしないか?﹂
﹁しん様、どういうことですか?﹂
﹁サラマンダーの雫を2つ売ったから後1個しかないってのがちょ
っと不安な部分がある。俺達なら1時間ぐらい連戦すれば10個ぐ
らいは簡単に集まるんじゃないかなって思った﹂
﹁そうね、ボス部屋連戦って希少魔中が出る確率が少しはあるから、
かなり慣れたチームじゃないと危ないんだけど、チーム早乙女遊撃
隊の場合は1時間でどれぐらいできるか、果たしてサラマンダーの
雫は何個出るのかって、今後のために試してみる価値はありそうね﹂
﹁うん。アイリ説明ありがとう。俺が言いたかった事はそういう事
1016
だよ。率直な意見が聞きたい、みんなはどう思うかな?﹂
﹁私の場合はサラマンダー相手にはレイピアはまだ無理だから、槍
に戻す必要があるね。サラマンダーの連戦には私は賛成。このチー
ムで一度やってみたかったし﹂
﹁私はまだ魔力を補充しきれていませんので、しん様に補充させて
もらわないと魔力が持ちません。サラマンダーの連戦は私もやって
みたいって言うのが本音です﹂
全員の視線が自身の意見を言わずにのほほんと聞いてるだけのるび
のに集中する。
﹁うえ、オレはとうちゃん達と狩りが出来ればどこでもいいよ﹂
﹁クラリーナの魔力は今から補充するよ。火精霊を帰還させてくれ﹂
﹁はい。わかりました﹂
クラリーナが召喚本を解除すると俺達の回りにフワフワ浮いていた
火精霊が精霊界に帰還する。
オレはクラリーナの額に手を当ててMPを補充して満タンに。
全員からOKをもらったのでサラマンダーの雫集めだな。転送部屋
に行って直接地下10階へと向かうことにした。
1017
もふもふ天国の初日の営業は上々でしたっす。
アゼット迷宮地下10階のボス部屋にやってきたチーム早乙女遊撃
隊。
サラマンダーは3∼8匹ランダムに出現する。
サラマンダー
1回目はボス部屋の扉をあけると5匹の火蜥蜴がポップアップした。
俺達の前に入った冒険者がサラマンダーを退治していたのだろう。
小さな火がうずまき集まってサラマンダーの体に変化していく。
チーム早乙女遊撃隊の遊撃2人ミー・るびのが飛び出してサラマン
ダーが形になった瞬間を狙って先制攻撃を加える。
俺は立ったまま動かずに弓矢による攻撃をする。
サラマンダーの鱗に矢が刺さるか、遠距離攻撃が可能かどうかの実
験もしている。
遠距離といってもこのボス部屋は50m四方高さ10mほどの空間
なので、この弓の性能を考えるとそこまでの遠距離ではない。
流石の弓力300kgだな。サラマンダーの頑丈な鱗も紙のように
貫いていく。
このメンバーだと5匹のサラマンダーでは瞬殺だ。30秒も掛から
ずに戦闘が終了してしまった。
俺とクラリーナの魔法が遠距離を担当してミーとるびのが中距離。
近距離はアイリが担当と完全に担当部署が決まってしまったな。そ
のおかげでいちいち声を掛けなくてもいいので非常に楽だ。
ドロップしたのはは魔石3個の魔結晶2個。ドロップアイテムはサ
ラマンダーの雫1個、サラマンダーのかけら3個にサラマンダーの
爪が1個だった。
1018
自分が放った矢を回収し終えてからはじめて見たサラマンダーの爪
に驚きの声をあげる。
﹁おー、これがカタリナさんをを困らせた噂のサラマンダーの爪か。
初めて出たな﹂
﹁普通は5匹倒したらドロップするのがサラマンダーの爪1個。運
がいいとサラマンダーのかけらが1個のどちらかが出るぐらいなん
だけどね。しんちゃんとダンジョン来てると感覚がおかしくなるね﹂
﹁そうなんですか、ミーさんのおっしゃるとおり私が始めてダンジ
ョンに来た時もオーガ3匹倒してオーガの爪1つとかそんな感じで
したね。しん様のチームでの成果が毎回何かドロップするので結構
驚きました﹂
﹁クラリーナそれでも結構多いほうよ。しん君の異常さに比べたら
大人しいレベルだけど﹂
﹁おいおい、異常って! 俺の責任じゃないのに。まぁ次に行こう
次に﹂
その後はボス部屋の入り口を開けて・締めて・退治・アイテム回収
を11回ほど繰り返したら1時間半ほど経過していた。これで合計
12回はボス連戦が出来たな。
途中で他の冒険者チーム8人が来ていたのでボス部屋を出て待って
いる時間も込みなのでキリがいい70匹のサラマンダーを退治。時
間も17時半と中々いい時間なので今日は終了する事にした。
今日のサラマンダー狩りの戦果は魔石45個・魔結晶︵クズではな
い大きさと質︶25個・サラマンダーの雫20個・サラマンダーの
かけら45個・サラマンダーの爪が5個だった。
﹁おかしいって、何で雫が20個も出て爪が5個で一番少ないのよ﹂
﹁ミー、気持ちはわかるけどね。しん君に言ったって仕方ないわよ﹂
﹁ミーさん、そうですよ。アイリさんのおっしゃられたように、し
1019
ん様が選んでいるわけでもないですし﹂
﹁まぁ、ミーもみんなも諦めてくれ。俺たちは全員こういう運命に
させられてしまったんだよ。この生活を楽しんだほうがいい。その
代わりにトラブルを押し付けられてるんだからな。運が良いのか悪
いのかの判断は実際に難しいところだろう﹂
﹁なるほどね、そういう考え方なら運が良いなんて言えないよね。
私達もあちこちでトラブルに巻き込まれているのに、しんちゃんは
それ以上だもんね﹂
﹁私はそのトラブルが原因でしん様に出会えて、しん様と結ばれた
のですから・・・今は良い事の方が多い気がします﹂
﹁クラリーナもそうだし、私とミーも同じね。私も今のほうが幸せ
だと思うわ﹂
﹁幸せってのはわかるの。自分でも実感してる最中だしね。・・・
でもドロップアイテムで今まであれだけ苦労したのに・・・ってど
うしても割り切れない部分があるってだけなのよ﹂
﹁まぁまぁ、ドロップアイテムのレアが多いって良い事なんだから。
さぁそろそろ帰ろうぜ﹂
﹁そうだよ、かあさん達。オレ腹減っちゃったよ。そろそろ家に帰
ろうよ﹂
るびのの声で全員で帰るために移動し始めた。
﹁そういえば・・・俺ってみんなにとんこつラーメンを自作できる
ようになったって言ってあったけ?﹂
﹁しん君、聞いてないよ。もう自分で作ったの?﹂
﹁自分で作って食べておやっさんとおかみさんには作ってあげたけ
ど・・・みんなに食べさせてあげるのを忘れてたような・・・って
事を今思い出したんだ。みんな食べたい?﹂
﹁食べたいです。しん様って本物の味を知っているのですよね?﹂
﹁俺が大好きで頻繁に食べてた日本のとんこつラーメンを完全再現
! っていうのは﹃きくらげ﹄がない現状では不可能だけど、具が
1020
少し違うだけで味はほとんど一緒。紅生姜が手に入った今は具のき
くらげ以外は完璧になったよ。今夜は俺の自作のとんこつラーメン
とチャーハンのセットを作ってあげるね﹂
﹁それは楽しみね。しんちゃんの故郷の味と、私達が何度か味わっ
た事のあるとんこつラーメンとの味の違いを比べられるなんて事を
考えると・・・やっぱり私達は恵まれてるね﹂
いつものように転送部屋から一気に出入り口階段の脇の部屋へ。
そのまま外に出て大森林の中からヨークル外門近くまで一気に魔法
で転移する。
街道でキャンピングバスを俺のアイテムボックスから取り出して全
員で乗り込み移動を開始した。
運転はミーがしてくれたので俺は念輪でマリアに連絡を取る。
﹁マリア、早乙女だ。このマリアからアイテムボックスで送られて
きた船舶用の小冊子って商業ギルドの出張所から誰かが持って来た
のか?﹂
﹁はい。商業ギルドの﹃サンゾー・ミールハイト﹄さんが早乙女邸
まで持ってこられました。ゴーレム船を初めてお持ちになった方全
員にお配りしてるという小冊子だそうです。登録の時のドタバタで
ご主人様に渡すのを忘れていたそうで、今日のお昼ごろに小冊子を
持ってみえられました﹂
﹁なるほどね。ありがとう﹂
﹁どういたしまして。ご主人様の今夜のお帰りはいつごろになりま
すか?﹂
﹁今日のダンジョンアタックはもう終わって今は帰宅の途中だよ。
今夜は俺がとんこつラーメンとチャーハンを作るから、チャーシュ
ーと刻み紅生姜と必要な野菜の準備を頼む﹂
﹁了解いたしました。では準備してお待ちしております﹂
﹁頼む﹂
1021
俺は家まで到着するまでにこの商業ギルド発行の10ページほどの
小冊子に書かれてる﹃暗黙の了解﹄みたいなルールブック︵?︶的
なものを読んで記憶していく。
﹃シーパラ連合国において船舶が河川を航行する場合はすべてにお
いて左側航行が基本。だが例外も存在する﹄
﹃例外は都市ヨークル。都市ヨークルはシーパラ大河とヨークル川
にはさまれる中州にあるためにこの中州周囲100m以内とシーパ
ラ大河とヨークル川を結ぶ﹃ヨークル用水路﹄はヨークルを中心に
して左回りにしか航行できない﹄
﹃河の中心付近は高速艇専用。30ノット以下は走行してはいけな
い。ただし都市などの港のある場所の周囲1km付近は10ノット
以上出しての航行を禁ずる﹄
これは大変そうだな。
俺は気配探査と魔力探査で他の船の動きがわかるけど、他の船は視
認とか長年の経験のみだろ。
これは事故が多そうな軽いルールだな。ヨークルなどでは10ノッ
ト規制か・・・10ノットで安定走行できるように特別な装置が必
要になるかも。
・・・実際に乗って航行してみないとわかりにくそう。
探知バリバリに張って自分で気をつける以外はなさそうだな。
周囲1km圏内は10ノット以下だったんだな。
俺がホバーボードで時速100kmで飛び回ってしまったのは・・・
ふ、船じゃないし︵震え声︶
今度からは気をつけるってことで。
左側通行って車と同じでわかりやすいけど、将来的には船舶の数が
増えて交通量が激増、最後は事故急増で免許制に移行しそうだ。
1022
自宅に到着するまでもう少し時間があったので到着前にホワイト達
に確認の念輪を開く。
﹁早乙女だ。ホワイト聞こえるか?﹂
﹁聞こえますご主人様﹂
﹁店の客の入りはどうだ?﹂
﹁今現在のお客様は5人でそこまで混んではいません。今日の今ま
での入りは88名です﹂
﹁それなら何の宣伝もない店の開店で口コミだけの現状ではかなり
の入りだな。お客の滞在時間等は?﹂
﹁平均すると1時間以上ですが、午前中は朝食ついでですね。30
分のお核様のほうが多かったです。午後からは客層が変わりまして
﹃主婦﹄を中心になりました。時間も1時間半から2時間滞在され
るお客様が多かったです。ご主人様の奥様方のご友人関係の方が更
にご友人を連れてきてくださってるみたいでした﹂
﹁口コミ作戦は成功と言えるな。何か不満を漏らされてるお客様は
いたか?﹂
﹁概ねご好評をいただいております。特にご主人様が最後につけら
れた機能の愛玩ゴーレムたちが舐めて綺麗にするという行為を気に
入ってくださってるみたいでした﹂
﹁思いつきで付けた機能の割には好評でよかったよ。それだけの入
りだとサポートでの買出しは必要なかったな﹂
﹁はい、そうですね。品薄になるものも無かったです。軽食やドリ
ンク類などの準備は午前中にメイドゴーレムだけで可能ですね。買
出しも交替で行けそうです﹂
﹁そうか、それなら良かったよ。一気に客が来てビックリしたから
な﹂
﹁はいご主人様が買いだしに行かれてから、お客様方の工房の仕事
の時間が始まったみたいであれからすぐに落ち着く時間となりまし
た。ですので今日一日だけの集計ではまだ確定できませんが﹃朝6
1023
∼9時﹄﹃昼2時∼5時﹄が、比較的店舗が混雑する時間だと思わ
れます﹂
﹁まぁ、立地条件的にそんな時間ってのは想像内だな。それでこれ
からは仕事帰りのお客になるだろう﹂
﹁そうですね。お客様たちが愛玩ゴーレムにそう訴えてます﹂
﹁了解。ではこれからも店舗の営業を頼む。明日以降も朝の6時か
ら夜8時までの営業体制になるのでよろしくお願いする。サポート
が必要になりそうなら教えてくれ﹂
﹁了解しました。お任せください﹂
そこで念輪を終了した。ちょうど早乙女邸に到着してガレージにキ
ャンピングバスを停車させたところだった。キャンピングバスを降
りて玄関に歩いていく。キャンピングバスの清掃はセバスチャンに
任せる。
1024
流石にちょっと反抗期が入ってきたっすね。
玄関に入っていくとマリアが迎えてくれる。
るびのの世話をマリアに任せてマリアはるびのに3点セット魔法を
掛けている。
俺は自分に3点セット魔法を掛けてワイバーンの革製のブーツ脱い
でアイテムボックスに入れて、まずは早乙女邸1階の客間で着替え
る。
サイラスの甲殻で作られた防具を脱ぎ鎧の下に装備するアンダーシ
ャツとアンダーパンツも脱いで素っ裸になり、脱いだ防具をアイテ
ムボックスに仕舞いロンTとジーンズを変わりに取り出して着替え、
服の上にエプロンをつけながらキッチンへと移動。
今夜はとんこつラーメンとチャーハンのセットを人数分作る。材料
はマリアが既にキッチンの寸胴の中に入っているので、神の創り手
スキル魔法で予定通りとんこつラーメン・チャーハンを手早く作っ
ていく。
普段着に着替え終えた嫁達はダイニングテーブルで待ってくれてい
たので、キャンピングバスの清掃を終わらせたセバスチャンが俺が
作った料理を次々にダイニングテーブルに並べてくれる。
他の料理で爆走鳥の唐揚げの甘酢あんかけを作って出した。
マリアがジャガイモから片栗粉を取り出していてくれてたから助か
る。
今日は後でお代わりを作りたくなかったので、余ったら後日分に回
すだけなので30人分ぐらいは作っておく。アイテムボックスの作
り置きが便利だ。
料理は美味く出来上がっていた。流石の神の創り手スキル。余った
1025
料理を温めなおしてからアイテムボックスに入れておく。
食事中はガツガツ無言で食べまくってる嫁に話しかけづらかったの
で、食べ終わってからリビングに移動してから話しかける。
自分の部屋で食事を終えたるびのまでやってきたのでリビングにあ
る、るびの用のソファーをアイテムボックスに仕舞って、新たにる
びの専用のクッションを作ってあげるとそこに寝転ぶ。
るびのと一緒にリビングに戻ってきたマリアにつまみのソラマメを
出してもらい俺は日本酒を冷やで飲み始める。
アイリとクラリーナはワインを飲み始めてつまみはスモークサーモ
ンをセバスチャンに出してもらってる。
ミーも今日はワインを飲み始め、つまみは自分のアイテムボックス
からローストクマを取り出して食べ始める。
﹁明日からの予定なんだけど・・・そろそろ前から話をしていたよ
うに、首都シーパラへの旅計画を本格化しないか?﹂
﹁シーパラへの旅計画の本格化って事はもう旅に出るって事なのか
な?﹂
﹁そうだなアイリ。明日にでも船で行ってみないか? もう移動用
の船も作ったしな。俺の作った船なら1日でも到着できるけど、今
回は2日掛けていけばいいだろう﹂
﹁しん様の作られた船ってそんなに早いのですか?﹂
﹁そうなのよねクラリーナ。しんちゃんが作った船ならちょっと凄
そう。ゴーレム馬車がキャンピングバスになっちゃうんだからね﹂
﹁私は・・・今日しん君にお願いしたように﹃双剣﹄の練習がした
かったんだけど﹂
﹁俺が見るにアイリって・・・正直に言うと双剣の才能はそんなに
なくて5年間ぐらい弛まぬ努力をして中級レベルに成れればいいか
なって感じなんだ。でもその分﹃大剣﹄の才能が飛びぬけてるよ。
大剣なら2日ぐらい師匠ゴーレムから特訓を受けて鍛えたらすぐに
中級ぐらいは習得できるんだ・・・そっちにしない?﹂
1026
﹁大剣は教えてくれる人が今までいなかったから、握った経験もな
いんだけど・・・私にも出来るというしん君の言葉を信じてやって
みる!﹂
﹁でも、しんちゃん。そうなっちゃうと、アイリは別行動になっち
ゃうよ?﹂
﹁そうなんだけどなミー。でも、移動中って別にやる事もないし午
前中にみんなで1時間ぐらい掛けて船の操縦方法を覚えてもらった
ら、その後って護衛依頼の時と同じで何もする事がないんだ。それ
なら俺は移動して・・・今日商業ギルドから貰った小冊子にライト
で光らなければいけない場所が船には前後左右に4つあるみたいだ
から、ちょっと改造しなければいけなくなってるんだ。オレは改造
してるけどみんなは自由に過ごしてくれてかまわないよ。明日の夜
は首都シーパラへの中間にある﹃マヅゲーラ﹄の南側の街で1泊す
るけどね﹂
﹁それでしたら私は友人達ともふもふ天国でお話がしたいです。友
人はみんな嫁いでしまっているんで午後からお店に行きたいです。
午前中は私も杖術のトレーニングをしたいですね﹂
﹁了解。クラリーナは午前中が自宅で午後からもふ天ね。アイリは
午前も午後も自宅で・・・ミーはどうする?﹂
﹁私は・・・午前中はお店でノンビリしたいな。午後からは食料品
市場で今日の騒動の後がどうなったか見に行きたい﹂
﹁じゃあ、ミーは午後からはマリアと一緒に食料品市場で買出し&
情報収集だな。マリア、頼んだ﹂
﹁了解ですご主人様﹂
﹁3人は決定したけど・・・それでるびのはどうする?﹂
つまみを食ってるみたいに薬草を巻きつけた大鹿魔獣の骨をバリボ
リ食ってるるびのに話しかけた。
﹁ほえ、オレ? オレはどこに行ってもいいならオーク狩りにまた
1027
行きたいな。前にたくさん狩ったけどみんなに配っちゃったし、そ
の次の日ぐらいにはもう少し南側に行ってみたい﹂
﹁そうだなぁ、じゃあ明日はセバスチャンと一緒に大森林の南側で
るびのはオーク狩り、セバスチャンは大森林の南側の再調査と木材
採集・・・ついでに大森林の南側で目印になりそうな場所を探して
置いてくれ、そこに夕方に迎えに行く事にするから﹂
﹁うん。わかった﹂
﹁了解しましたご主人様﹂
これで全員の予定が決定したな。るびのがカジって咥えていた骨を
腕輪のアイテムボックスに片付けて、のっそりと立ち上がり俺に話
しかけてくる。
﹁とうちゃん、オレもう眠くなってきちゃったから寝にいくね。寝
る前にお風呂にはいるからセバスにーさんいいかな?﹂
﹁はい。ではるびの一緒に行きましょう﹂
﹁おう、わかった。じゃあ、おやすみるびの﹂
のっしのっしとあるいていくるびの。こうやって見るとデカくなっ
たな。モフモフは相変わらずなのにな。思わずボソッと声に出して
しまう。
﹁大きくなったなるびの。もうクラリーナぐらいなら乗れそうだな﹂
﹁かあさん達を1人ずつ、ちょっと歩くぐらいなら乗せられるよ。
乗ってみる?﹂
﹁はい! じゃあ、私から乗ってみたいです﹂
クラリーナが立ち上がって手を上げる。反応が早かったな。前から
乗ってみたいって言ってたし。
るびのが嫁3人を交替で背中に乗せてリビングのソファーを周りを
ぐるりと1周ずつまわる。
アイリとミーは乗馬の経験はあるが身長差があって乗りにくそうだ
ったが重くはなさそうだ。クラリーナは乗馬の経験もなかったらし
1028
く終始嬉しそうだった。
﹁るびのありがとうね。私って馬も乗った事がなかったから凄くう
れしかったよ﹂
﹁クラリーナかあさんだと大丈夫なんだけど、アイリかあさんとミ
ーかあさんにはもう少しオレが大きくならないと乗りにくそう﹂
﹁まぁ、私とアイリは馬も何度も乗った事があるし、気にしなくて
いいよるびの﹂
﹁そうね。でも大きくなったるびのには乗ってみたいな。だからゆ
っくり待ってるよ﹂
﹁わかった。じゃあかあさん達もおやすみなさい﹂
るびのがのっしのっしと歩いて浴室に向かっていった。セバスチャ
ンが後についていく。
﹁しん君、るびのに私達って乗ってよかったのかな? 重くなかっ
たのかな?﹂
﹁大丈夫じゃない? あれでも聖獣でミノタウロスの頭部を前足の
パンチ1発で吹き飛ばせるのをアイリたちも見てただろ? あのパ
ンチでワイバーンすら叩き落せるんだぜ?﹂
﹁そういえばそうだったね。まだちょっと心配だから恐々乗っちゃ
ったよ﹂
﹁ミーの心配もわかるからるびのも1周だけにしたんだろ。俺はる
びのに関しては心配してないよ。今のアイツを殺害できるのは複数
の転生者ぐらいだったな。だがしかし今の転生者って4人の神は俺
が殺害したから、転生した時の神に与えられた能力は全部消滅して
る。既に一般人になって10年たってるからな。もはやるびのを殺
せる生命体は俺しかいないよ﹂
﹁しん様、転生者ってまだいるんですか?﹂
﹁俺もゴッデス様に何度かその質問をしたけど、詳しくは教えてく
れなかったよ。イーデスハリスの世界にいた何名かの転生者は地球
1029
に帰る事を選択して帰還した。そして自分の意思で残ってる人間も
何名かいるが元の転生者としての特別な能力は消滅していたって。
それでこの世界で生き残っていくために﹃特別に何かの製造スキル﹄
とアイテムボックスの祝福をあげたって聞いてる﹂
﹁じゃあ、しん君と同じ故郷の人が何人かいるって事だよね?﹂
﹁転生者かぁ、正直に言うと﹃会いたくない﹄ってのが本音だな。
今まで好き勝手にこの世界で生きてきた人間がほとんどだろう。4
人の神の殺害ゲームに無理矢理参加させられて、少しも恨みを抱い
ていない連中なんだから。それが自分のもらった特別な能力は完全
に消えてしまって申し訳程度の能力を与えられて10年生きてるの
に、そこに俺が自分達が持ってた以上の能力を持って現れたら・・・
面倒事の予感しかしないよ。絶対に逆恨みで俺に危害を与えてどう
にかして能力を奪い取ろうとしてくる連中だろうって俺は思ってる。
そうじゃない連中も中にはいるかもしれないけど・・・ゴッデス様
の話の濁しっぷりから思うに碌なヤツがいないってのが現実だろう﹂
﹁そうなんですか・・・それは注意が必要ですね﹂
﹁そこまでのヤツラは残ってないさ・・・いれば少しぐらいは噂が
入ってくるだろう。スキルも魔力も元々持っていた能力でなく、4
人の神に﹃与えられた﹄能力なんだから。レベルは上がってそれな
りのステータスは持ってると思うけど・・・スキルや魔法なんかは
全部与えられたもので自分で作り上げたものじゃ無いからな。魔力
はあっても魔法は0から覚えなきゃならないし、武器などのスキル
もそうだ。製造スキルとアイテムボックスで満足できる連中だけで
はないからゴッデス様も俺に言えないのだろう。しかもアマテラス
様たちとの事を考えると﹃俺に始末させよう﹄なんて考えてるだろ
うな、あの2人の神は﹂
﹁それじゃあ。しん君は旅をしないようにしたほうがいいんじゃな
い?﹂
﹁そうすると今日のような騒動を頻繁に起こさせて、住民に俺たち
1030
はここヨークルから追い出されるだろう。ホントにあの2人の神も
殺したいほど・・・いやらしい。今日の騒動ではっきりわかったよ﹂
﹁・・・﹂
∼∼この溜まったストレスは悪党にぶつけろって魂胆だろう。なぁ
ゴッデス? 見てるんだろう? なぁアマテラス? 自分で何もし
ないで面倒な事は全部俺に押し付けてそれを見てて楽しいか? 見
てるんだろ? ・・・監視してるくせにこういう時は絶対に返事し
ない。俺にはゴッデスの祝福ってより﹃ゴッデスの呪い﹄に思えて
くるよ。ヒーローだぁ? 笑わせんなよな。お前達は神様で元人間
の俺に何をさせたいんだよ。今後は俺に何かをさせたいなら﹃前も
って俺に頼みに来いよ﹄じゃないと悪党じゃない人間まで虐殺しそ
うなほどストレスが溜まってるんだけどな。お前達は俺に﹃恐怖の
魔王﹄にさせたいのか?∼∼
1031
ゴッデスとアマテラスとの会話。またまた騒動に巻き込まれてし
まうっす。
︻早乙女君、スマンかったのう。ワシもアマテラスも少し焦り過ぎ
てたみたいじゃな︼
﹁俺が首都シーパラに行こうとした。ただそれだけで1晩で3件は
行き過ぎってより殺意が沸くよ。前もって少しぐらいは情報が欲し
い。正義のヒーローはまだいいんだよ。俺もそこまで嫌いって訳じ
ゃない・・・でもな、人に何かして欲しいって時に神託で他人には
情報を与えといて、俺には無言で押し付けてるってのが気に食わん﹂
︻でも、アマテラスは教会じゃないとお前と話しも出来ないって・・
・︼
﹁それはわかってるよ。でもだからといって、他に手段がないって
訳じゃないだろ? こうやってゴッデスとは話が出来るんだ。その
問題はゴッデスとアマテラスへの宿題だな。それとも俺がそこまで
面倒見なきゃならないのか?﹂
︻わかった。何か考え・・・そうじゃな。これにしよう。これでア
マテラスとは会話してくれ︼
﹁なんじゃこりゃ﹂
俺は突然手に握られた昔よく使っていた懐かしい黒電話の受話器に
驚く。
コードがぶら下がってるが・・・本体がない。受話器のみだ。
思わず鑑識のスキル魔法で調べてしまう。
神器・天界通話機﹃アマテラスほっとライン﹄
所有者 早乙女真一
主神ゴッデスによって製造された天界通話機。
所有者の早乙女真一と太陽神アマテラスしか所有していない通話機。
1032
主神ゴッデスの持つ力の絆がある所有者2名のみが使用できる。
アイテムボックスに入れたままでも念話で会話が可能な仕様となっ
てる。
﹁しん君、ねぇどうしたの? もしかして・・・﹂
﹁ああ、ゴッデス様と話をしてる。ちょっとみんな酒でも飲んでゆ
っくりしててくれ﹂
﹁わかった。じゃあ、終わったら教えて。マリア、氷をちょうだい﹂
﹁マリアさん私もミーさんと同じで氷をください。ウィスキーに替
えます﹂
﹁あら、クラリーナもミーもそっちにするの? じゃあ、私も替え
よう﹂
無言で受話器をアイテムボックスに入れる。
なんか・・・ストーカーにエサを与えた気分になってきたな。大丈
夫かこれ?
﹁ゴッデス・・・もしかしてこれを俺に渡したいが為だけに、騒動
を押し付けてきたんじゃ・・・﹂
︻そ、それはない。そんな訳がないんじゃ。そういえばアマテラス
が早乙女君と話があるって言ってたから、それじゃあの︼
﹁ちょ、何で早口になるんだって・・・クッソ、ゴッデスめ回線切
りやがったな﹂
︻やっほー、真一お兄ちゃん︼
﹁やっほーじゃねぇ!!﹂
︻ひゃう。ごめんなさい︼
﹁ったく。アマテラス、お前は俺と話がしたいがために、こんな回
りくどい事したわけじゃないよな?﹂
︻なななな、何をいきなり︼
1033
﹁そこまでわかりやすいリアクションをありがとう。・・・もーい
いや。気が抜けた。それで俺へのお願いなんだろ? またヨークル
の悪党を退治するのか?﹂
︻ヨークルはあれでほぼ終わりかな。今度は明日真一お兄ちゃんが
行く予定の﹃マヅゲーラの街﹄で騒動が起きそうなの︼
﹁﹃ほぼ終わり﹄ってのが気に食わんし、かなり頭に引っかかる言
葉だが・・・初めて行く街でいきなり騒動に巻き込まれるんかよ!
ウザっ・・・はぁー、わかったよ。アマテラス話を続けてくれ﹂
︻それでね。その騒動というのを初めから話すと・・・︼
アマテラスの話をまとめると・・・騒動の発端は﹃帰還した転生者﹄
が絡んでいた。
マヅゲーラの街は歓楽街。
川幅1km以上のシーパラ大河を挟んで南北に分かれている。
街を繋いでいるのは・・・古代の魔導師達が共同で作り上げた﹃ゲ
ート﹄と呼ばれている空間魔法の門によって繋がれている。
ゲートは南北の町の中心にありどちらの街にも行き来自由になって
る。
歓楽街として栄えた理由は都市ヨークルと首都シーパラを繋ぐ物流
の中間点として、船で移動する時にここで宿泊する商人や船乗りが
大半を占める。
男の集団が夕方この街に到着して飲み食いと女遊びをして翌朝出発
していくのだ。
こうしてこの街は夜の遊びの部分だけが他の都市以上に異常な発展
をしてる。
街にあった多くの非合法の組織が30年ほど前に統一された。
統一したのは﹃転生者﹄の﹃ジロチョー・シミズ﹄・・・黒人らし
い・・・任侠かぶれかよ。
統一させた組織の名称が﹃任侠ギルド﹄そのままだな。ちょっとは
1034
捻ろうよ。
ジロチョーが腕力にモノを言わせて牛耳っていたと。
が、しかし任侠にかぶれた大親分なので力ずくでの解決が多かった
が、カリスマ性でそれなりに上手くまとまっていた。
それで10年前にゴッデスが今後どうするのか聴きにきたら、任侠
にも飽きたから故郷のアメリカのテネシー州で牧場を開きたいって、
地球に帰っちゃったらしい。
・・・自分勝手だなそいつ。
ちょっとムカつくって言ったらアマテラスが極秘情報をくれた。
ゴッデスにイーデスハリスの情報を他人に教えないかわりに大金を
貰って、テネシー州で牧場作ろうとして詐欺に引っかかって半日で
無一文。
今は毎日﹃やっぱりイーデスハリスに帰りたい﹄泣きながらお祈り
してるらしい。
・・・ざまぁ。
ジロチョーに跡継ぎに指名された人は上手く統治していたんだけど、
去年病気で倒れてから群雄割拠の戦国時代に強制的に突入して、今
現在は悲惨な状況になってるんだと。
この街の任侠ギルドのルールが﹃絶対強者﹄らしくて強いヤツこそ
が正義。
﹁はぁー、それで俺にこの任侠ギルドを潰せって事? ヤダよ。こ
ういう歓楽街って非合法組織が育ちやすい環境だから、潰しても潰
してもキリがないって。だからって俺は統治したくないし。アマテ
ラス、俺にどうしろって言うんだよ﹂
︻真一お兄ちゃんが騒動に強制介入して出来れば統一して・・・自
分の代理としてゴーレムを置いていってほしいの︼
1035
﹁やっぱそう来るか。はぁー、面倒臭いけどやらなきゃダメか。そ
れで任侠ギルドの中で絶対強者になるには何をすればいいんだ? ・
・・このパターンのテンプレだと・・・トーナメントか?﹂
︻さすが真一お兄ちゃん! 正解です︼
﹁何で褒められてもまったく嬉しくないんだろうなぁ、アマテラス
さんよ﹂
︻・・・ううう。ごめんなさい︼
﹁まぁ、いいや。それでそのトーナメントはいつ開催されるんだ?
そのトーナメントってどんなルールなんだ? 殺人もOKなのか
?﹂
︻このトーナメントは明後日から開催。明日は夜通し予選なの。で
も真一お兄ちゃんの場合はBランクの冒険者だから予選は免除され
る。・・・ルールは何でもありで生死問わず。これも街のイベント
になってて賭け事が町中で行われてて、これも任侠ギルドの組織運
営費になってるの︼
﹁大金まで絡むのかよ・・・勘弁してくれよ。面倒だから街ごと消
滅させていい? 今なら知り合いもいないしサクッと魔法で・・・﹂
︻それだとさっき真一お兄ちゃんが言った﹃何度潰してもキリがな
い﹄ってことになっちゃうよ︼
﹁それはなアマテラス、街にそのまま﹃ゲート﹄があるからこの街
には発展する要素があるんだよ。ゲートごと消滅させたら、今度発
展するのは小さい小さい村の規模にしかならないってことだ。しか
も南北とも別の村になるだろう﹂
︻ごめんなさい。許してください。できれば街消滅とは違う方向で
お願いします︼
﹁わかってるよ。ただの冗談だ。それで殺して欲しくない出場予定
者と殺して欲しい出場予定者は?﹂
うづき
よういちろう
︻1人だけどうしょうもない人間がいるから真一兄ちゃんにお願い
したかったの。﹃卯月・要市朗﹄転生者で元日本人にして元傭兵。
1036
だから、元々の身体能力があってこのイーデスハリスの世界に転生
してきて、地球にいるときは自覚してなくて気付かなかった﹃快楽
殺人者﹄という性癖の持ち主。10年前にゴッデス様からナイフ製
造スキルを貰って、自分のレベルをより効率よく上げるために他の
転生者を殺して回ってるの。卯月もAランクの冒険者だから予選は
免除される。自分の楽しみのために殺人を続けるためにこの世界に
残ってるの︼
﹁わかったよアマテラス。その転生者を俺とトーナメントの1番最
初にやらせてくれ。それぐらいは操作できるだろ? それに俺の﹃
神殺しの力﹄使えばソイツの魂すら消滅させられる﹂
︻真一お兄ちゃんありがとう。トーナメントの組み合わせは私が責
任を持って操作する。それと魂の消滅は私がやってもいいよ︼
﹁それは俺の中の悪党への殺害衝動を刺激されなければ任せるかも
しれん。今はなんともいえんよ﹂
︻それで死んで欲しくない出場予定者が1人いるの。偽名﹃サトシ・
バーミリオン﹄を名乗って出場する予定の人︼
﹁偽名? そんなことが出来るの?﹂
︻予選からの出場ならできちゃうの。サトシは真一お兄ちゃんと卯
月がいなければ優勝できるだけの実力を持ってるし。優勝すれば任
侠ギルドが偽名のギルドマスターカードが発行されるからサトシも
必死になってる︼
﹁意味がわからん。どういうことなんだ?﹂
︻サトシの本名は﹃サトシ・シーズ・ユマキ﹄・・・︼
アマテラスが詳しく説明してくれた。
サトシは俺が今日合法的に殺害した﹃ユマキ家﹄の長男。
長男だがサトシが誕生してすぐに側室だった母親が急死。そしてサ
トシが3歳の時に本妻に弟が出来た。
側室の死亡原因にも本妻は絡んでる。そこからはよくあるパターン
だな。
1037
本妻・父親・弟によって虐げられた生活を送っていたサトシ。
唯一の理解者であった先代で現在は最高評議会委員の﹃マツオ・ユ
マキ﹄が出張中で留守の間にチンピラともめたサトシが勘当されて
いて、マツオが気づいた時にはサトシは行方知れずになってた。
テンプレ盛りだくさんだな。
もともとサトシの能力は総合的にも高くて、逃れてきたマヅゲーラ
では偽名で稼ぐことが可能だったので食うに困らなかったのだが、
ここに来て付き合っていた女に子供が出来た。
焦ったサトシは大金と名乗っていた偽名の身分証明書が欲しくてト
ーナメントに参加することに決めた。
結婚したら本名がすぐばれるってことに気づかないのがサトシのク
オリティーなんだと。
生まれ持った戦闘能力も高く、洞察力や判断能力にも優れカリスマ
性も持っているのに﹃え? 何で? そこで間違うの?﹄なところ
でしでかすのがサトシ。
今日俺がユマキの当代と次男を退治したのを好機に捉えた先代のマ
ツオがサトシを本格的に捜し始めた。
アマテラスはサトシを任侠ギルドマスターではなく、ユマキの次期
当主にしたい。
﹁でもさぁ、いきなりシーズの当主が素人がなっても平気なの? 問題多過ぎじゃない?﹂
︻それは全く心配ない。今までのおバカさんでも当主が務まってた
のがその証拠。今のユマキ商会を支えてるのは執事で先代マツオの
弟﹃ジュンロー・ユマキ﹄なの。ジュンローはユマキ商会を影から
支える事に生きがいを感じてる人間なんでユマキは継がないってマ
ツオに言い切っちゃってる。当代不在に焦ったマツオは今、冒険者
1038
ギルド本部からギルドマスターの会話装置を使って仲のいいラザニ
ードに相談している真っ最中なの︼
﹁はぁ、それで俺に話が回ってくる訳か。依頼内容は・・・孫の捜
索? でも明日の早朝に俺達は出かけるんだぜ。緊急って行っても
人命も掛かってないし。そもそも当代とその跡継ぎを殺した本人に
依頼するって無いだろ﹂
︻真一お兄ちゃんとは逆の考えみたいだよ。誰がどう考えても危な
い話に突っ込んでいって誰かに救われてるってことを何度も繰り返
してた能無し親子ってことで、ユマキ商会の中でも実権を持たない
お飾りにされてた︼
﹁次男は勘当されそうになってるってヨークルで噂になってたけど﹂
︻噂はちょっと違ってるね。﹃親子で勘当されそうになってる﹄が
実際なの。だからマツオの中では真一お兄ちゃんは﹃ユマキ商会の
救世主﹄にもうなってる︼
﹁救世主ってまた・・・食料品市場では大量虐殺者なのに?﹂
1039
ゴッデスとアマテラスとの会話②報酬を請求することとなったっ
す。
︻それは問題ないよ。真一お兄ちゃんがヨークルの食料品市場で言
われていた﹃グルメの目利き﹄と﹃正義のヒーロー﹄って評価は全
く変わってない。あそこで働いていたほとんどの商人は他の村など
から来た出稼ぎの人達。出稼ぎの人達は人の生死すら生活の中に入
っていて、全てが﹃自己責任﹄の中で暮らしている。ごく一部の人
達が真一お兄ちゃんの容赦と躊躇のない攻撃で人が死ぬのを目の当
たりにして、驚愕して恐怖を持ったみたいだけど商人たちの﹃自業
自得﹄って言葉に納得してしまった。・・・元々あのバカ親子に迷
惑を掛けられてた人達だから納得も早かった︼
﹁まぁ、それなら良いんだけどね。それと卯月要市朗とサトシ・シ
ーズ・ユマキの話はわかった。サトシは2回戦で当たるようにして
おいてくれ・・・それと疑問を一ついいか? 今の話で思い出した
ことがある﹂
︻なぁに、真一お兄ちゃん︼
﹁迷惑って言葉で思い出したんだが、アマテラス、お前が今、現在
進行形で﹃迷惑を掛け続けてる﹄のは誰にだ?﹂
︻ギクッ︼
﹁だから、そのギクッて声に出して言うネタをどこから拾ってきた
んだ。そのネタ知ってるってことは日本を知ってるんだよな?﹂
︻あ、ハイ。ごめんなさい︼
必ず
教会に
﹁それなら今まで散々働かせてきた俺へのお礼と、今回のお礼を兼
ねた報酬を期待してるからな。この件が解決したら
行くから、その時に俺に渡してくれ。まさか﹃太陽神アマテラス﹄
様ともあろうお方が人を散々コキ使っといて、﹃無報酬﹄なんてこ
とは無いよな? 期待して待ってるからな? 俺が気に入らなかっ
1040
たらわかってるよな? フッフッフッフ神殺しの力を見せてやんよ。
? え
? ウソ! ちょっとまっ︼
味わえれるかは知らんけどな。じゃあそういうことで﹂
︻え
ここで念話の回線を切ってやった。慌ててるのが俺にもわかったか
らな。フッフッフ・・・ざまぁ。
少しスッとしたな。あんな幼女相手に俺って大人気ないけどな。し
かしこれは﹃仕返し﹄だから。
・・・我ながら小さい男だな。
笑って許せる段階は軽く過ぎてるから仕方ないよな。
アマテラスとの会話が終わったので嫁に説明しようと思ったら今度
はゴッデスから念話がきた。
︻早乙女君、アマテラスから泣きながら通話が入っておって困って
るんじゃが︼
﹁自業自得って言葉をお2人に送りたいですね﹂
︻・・・スマンかった。せめてヒントだけでも欲しいんじゃが︼
﹁その前に聞きたい事がいくつか。るびのっで子供はどうなるので
すか?﹂
︻聖獣は生物としてそれ1種にして唯一、単体の生き物じゃから、
子作りが必要ないんじゃ。寿命もないしの。気に入った生物を﹃眷
属化﹄させることは出来るがの︼
﹁そうですかわかりました。それと町や村での出入りで魔水晶を使
ってますけど、これってどこかで集中管理してチェックしてるんで
すか?﹂
︻あの魔水晶にそこまでの機能はないようじゃ。あれには犯罪歴を
見る機能しか入ってない。じゃから毎回出入りでチェックしてる。
なぁ、早乙女君、そろそろヒントぐらいは教えて欲しいんじゃが。
アマテラスが号泣してて、もはや何を言ってるのか・・・︼
﹁フー、仕方ないですね。それならヒントを2つ。﹃日本﹄﹃食﹄
1041
これで俺を満足させてくれって言っておいてください。卯月要市朗・
・・ゴッデス様の尻拭いのお礼も覚えておきますんで。では﹂
︻わかった、考えておくよ。じゃあの︼
まぁいいか、これで2人に仕返しできたとかなりスッとしたな。
嫁達には今までの神との会話で判明したことをかいつまんで説明し
た。
明日行くマヅゲーラの街で騒動に巻き込まれること。
マヅゲーラの街にある非合法組織﹃任侠ギルド﹄主催のトーナメン
トに出て優勝して任侠ギルドのトップになること。
トーナメントの中で殺さなければいけない敵の転生者がいること。
トーナメントに出場してるユマキ家の人間を殺さないようにやっつ
けて、ユマキ家を救って欲しいと言われたこと。
﹁転生者を殺すってしんちゃんは平気なの?﹂
﹁快楽殺人者のクソヤロウなんだってさ。日本にいたときから傭兵
で人間を殺す技術は元々もってたらしい。この世界に来てから快楽
殺人の味に目覚めてそのままこの世界に残ることを選択したんだと・
・・まぁ、これはゴッデス様の尻拭いだな﹂
﹁しん君、予定変更してマヅゲーラの街に2泊以上するの?﹂
﹁しないよ。マヅゲーラの街は﹃夜の街﹄。トーナメントは莫大な
金が動きやすくなる夜だけらしいから、夜だけ俺が転移すればいい
だろう。だからみんなはそのままでいいよ。俺が出て俺がケリをつ
けてくるよ﹂
﹁しん様が任侠ギルドのトップになったら、どこにも行けなくなる
のでは?﹂
﹁ワイバーンの素材が山ほどあるから﹃リザードマンタイプ﹄のゴ
ーレムでも5体ぐらい作って、俺の代理としておいてくよ。こわも
ての見た目のほうがよさそうだし、面倒だけど仕方がないだろうな﹂
1042
﹁なんか、次から次へと・・・しんちゃんも大変ね﹂
﹁フッフッフ、ミー実はな、アマテラス様とゴッデス様に今回から
は﹃報酬﹄を要求したからな。流石に働かせ過ぎだろう。面倒な部
分は黙って俺に押し付けて解決させてたからな。報酬次第ではこれ
からは何かを頼まれても断る事にしてやる﹂
﹁・・・良いんでしょうか?﹂
﹁クラリーナ、良いも悪いもな。何もかもを押し付けといてシカト
するならこっちはこっちで考えがあるよ。今後は今回の事件終了後
の報酬次第で動くことにする。今までのツケも要求したいぐらいだ
な。今日のバカ親子と一緒で﹃自業自得﹄だ﹂
セバスチャンが戻ってきて風呂が空いたので今日は風呂に入って早
めに寝ることにした。
明日以降はドタバタしてそうだしな。寝る前にハウスボートを桟橋
に係留させておく。
明日の朝に人前で出すのが大きくてヤバそうだったので、先に出し
にきておいた。ここも防衛の場所になってるので早乙女邸防衛ゴー
レム部隊の監視の目が光ってるので泥棒のはいる隙間はない。
明けて転生24日目の朝。今日は雨は降りそうではないが、あまり
良い天気ではない。
北の山岳地帯では雨でも降っていそうだな。
今日は先にるびのとセバスチャンを大森林の南側に送っていく。
﹁じゃあるびの。今日は17時ぐらいに迎えに来る予定だ。目印に
なりそうな場所はセバスチャンと一緒に先に探しておいてくれ。昼
過ぎにはセバスチャンに一度確認の念輪を入れるからな﹂
﹁うん。わかったよとうちゃん。じゃあ行ってくるね﹂
1043
﹁おうじゃあな。セバスチャン、後はよろしく頼む﹂
﹁お任せくださいご主人様﹂
その後、7時に1度全員でハウスボートに乗り込みヨークルを出港
した。
ハウスボートを全員交代で30分ずつ、ある程度慣れるまで操縦す
ることにした。
ハウスボート自体が自動操縦できるように作ってあるので、そこま
で心配はしてないが操縦できるようになっておくだけでも今日はい
いな。
接岸など経験がある程度必要な操縦はまだ無理だろうけど、それこ
そ自動操縦に任せれば良いだろう。
予定通りまずはアイリとクラリーナを連れて自宅の地価練習場へ転
移。
クラリーナはさっそく師匠ゴーレムと杖術のトレーニング。
アイリには大剣を作る。
大剣は剣の芯の部分はオーガ鋼、全体的にミスリルで覆って表面は
オリハルコンでコーティングする。
大剣の長さは刀身130cm、唾と柄の部分が40cmほどなので
俺の身長とほぼ変わらない。
ワイバーンの革をグリップの部分に被せて滑り止めにして、更に表
面に龍布を巻き龍糸で巻きつけて握りやすくした。
鍔の部分には魔石を3つ埋め込んで﹃使用者が装備してる時だけ重
量軽減﹄﹃自動自己修復﹄﹃大剣のスキル﹄などを封入して、魔石
の周りをミスリルで装飾していく。
小さなドラゴンが鍔に巻きついて両手と口に魔石を咥えてるデザイ
ンにしてみた。
1044
出来上がった大剣をアイリに渡した。
大剣だと双剣のように﹃スピード重視﹄ではないので防具は新調し
なくても今まで使っていたオーガロード鋼のフルプレートアーマー
がそのまま使用出来る。
﹁こんなデザインでどうだ? それで振り回してみて。重量軽減と
自己修復の魔法が封入されてるから本当は30kg以上の重さがあ
るけど、アイリのシールドと同じ重さにしておいたから、見た目以
上に振り回しやすくなってるはずだな﹂
﹁うん。かっこよくて確かに振りやすいわね・・・重量バランスは
もう少し手元が重いほうがいいかな?﹂
﹁了解。﹃武器調整﹄・・・これでどうだ?﹂
﹁・・・うん。ありがとう。これで練習してみるよ﹂
﹁ちょっと待ってて。師匠ゴーレム達がこのままだともたないから﹂
俺は魔獣ゴーレムと師匠ゴーレムをみんな集めて改造し始めた。
クラリーナは防御中心の杖術なので心配ないが、このままだとすぐ
に壊れてしまうのでゴーレムたちも魔石と魔結晶とミスリルを増や
してバージョンアップした。
クラリーナにもふもふ天国への移動する時はキャンピングバスを使
っていいよ、それにキャンピングバスでお友達を送り迎えしてもい
いよと告げて後はマリアに任せて俺はハウスボートに転移魔法で戻
る。
キャンピングバスには戦闘能力はないけど敵を察知する能力は他の
ゴーレムよりも大きい分、遠くまで探査できるからな。
ハウスボートを自動運転にさせて次はミーをもふもふ天国の店舗裏
の早乙女商会の事務所に転移魔法で送り届けてから俺はハウスボー
トに戻る。
1045
遅れを取り戻すかのように徐々にスピードを上げて、30ノットを
超えてからシーパラ大河の中央部に入り40ノットで巡航させる。
運転を自動操縦に任せて、俺はマヅゲーラで用心棒で置いていく予
定のゴーレムを作る前に自分のアイテムボックスの入っている材料
を見てると、オリハルコンが少ししか残ってないことに気がついた。
ここのところ使いまくっていたからな。
以前石を採掘しにいった場所の北の山岳地帯へ転移する。
・・・うーん。今日は北の山岳地帯って、ここから見た感じでは天
気が悪そうなので転移前に雨避けの結界を自分に掛けておくことに
した。
1046
トーナメントの登録と﹃徒影︵とかげ︶﹄を製作したっす。︵前
書き︶
8・12修正しました。
1047
トーナメントの登録と﹃徒影︵とかげ︶﹄を製作したっす。
岩場に到着すると予想通り雨が激しく岩場を流れている。
探査魔法でオリハルコンの塊を地中から探す。小さな塊から大きな
ものまで選ばずに探って、転送魔法で手元に引き寄せているのだが
量はやはり少ないな。
・・・が、元々オリハルコン鉱山でもないので仕方がないと諦めて
数gずつでも集めていく。
場所を移動しまくって午前中の使える時間を使い切って、何とかオ
リハルコン200kgほど集めた。
ついでに探り当てたプラチナ・ミスリル・ダマスカス鋼は結構大量
に見つかったのでトン単位で集めてある。
ヒヒイロカネは100kgほど、アダマンタイトは見つけることす
ら出来なかった。
転移魔法でハウスボートに戻るとミーから念輪が入ってきた。
﹁ねぇしんちゃん、お昼はどうする?﹂
﹁昼ご飯は今から自宅に帰って食べようと思ってたけど・・・ミー
はどうする?﹂
﹁それなら私も家に帰ってから食べたいな。しんちゃん、迎えに来
てくれる?﹂
﹁了解。今から早乙女商会の事務所に転移するからそっちにきてく
れ﹂
ミーを迎えに行って自宅に連れてきた。
今日はなぜか理由はわからないが昼からガッツリ食べたくて、まだ
今まで食べてなかった大鹿魔獣のステーキにしてみた。
1048
マリアに焼いてもらって食べる。
鹿肉のジューシーさと味わい深さ、想像以上だった意外な美味さに
ビックリしていた。
嫁たちからの評判も上々。
午後からはキャンピングバスに乗ってクラリーナとミーがマリアを
連れて出ていった。まずはクラリーナの友人を迎えに行って店舗に
行く。
ミーはそのままマリアと食料品市場に行って情報収集とお酒の買出
しに行くらしい。
アイリは大剣の練習をしにまた地下練習場に降りていった。
俺は後片付けと終わらせてから転移魔法でハウスボートに戻った。
セバスチャンに念輪で連絡を取ると、三角の形をしていてなかなか
目立つ場所があり、今その場所で休憩後の待機中だと報告を受ける。
一度、ハウスボートから大森林の南側に転移魔法で移動してセバス
チャンの気配を探査魔法で探りとって、もう一度転移魔法でセバス
チャンの付近上空に移動した。
少し歪な三角の池がかなり目立つ。
﹃大森林三角池﹄ってそのままの名前をつけて待ち合わせ場所にし
て、俺のMAPにも登録することにした。
セバスチャンの報告でもこの周辺は今までの大森林とは違う植物が
多くて・・・﹃小豆﹄が発見されたと。自宅の畑に植えるように苗
とキロ単位で採取してるが、何しろ広範囲に自生しているらしいの
で・・・セバスチャンに出来るだけ多く採れるようにと全て任せた。
そのままハウスボートに転移魔法で戻って午前中に作れなかった、
用心棒ゴーレム製造に取り掛かることにした。
1049
外皮はワイバーンの革を使って骨格も重力魔法でワイバーンの骨を
強化してミスリルでコーティングして更に強化しておく。
筋肉の部分は森林モンキーの尻尾で埋めてゴーレムの筋肉にしてい
く。
身長190cmぐらいで体重は120kgほど・・・ムキムキなマ
ッチョになってしまったな。
外観は翼のないワイバーンと竜人のハーフか、二本足で歩行できる
蜥蜴獣人だな。
目の部分をサラマンダーからドロップした火の赤い魔石を使用した
こわおもて
ら、角度によって時折赤く光る眼にちょっと予想以上に怖くなって
しまったが、用心棒ゴーレムには﹃強面﹄を求めていたので、これ
はこれで成功だと納得することにした。
クズ魔結晶を複数使ってスキル・魔法を封入していく。アイテムボ
ックス︵中︶などは既に入れた。
このゴーレム達に任侠ギルドを監視させてマヅゲーラの街の夜の活
動を支援していかないといけないので戦闘能力だけでなく、知識の
共有化と忍術系のスキルなどで組織を監視させることに。
とかげ
出来上がった用心棒ゴーレムの名前は﹃徒影﹄の1∼5号にした。
見た目が全く一緒で見分けがつかないので念輪の首輪の色を変化さ
せて装備させた。
任侠で﹃博徒﹄が浮かんでトカゲとかけたネーミングセンスがほの
かにすら感じられない名前になってしまった。
装備は何もなしにした。無手のスキルで充分だろう。ミスリルとオ
リハルコンで強化された手足の爪がそもそも武器となってる。
防具もつけてない。全身のワイバーンの革が既に防具になってる。
1050
俺の貰った知識にある﹃非合法組織を運営する経験や知識﹄が封入
されて完成。
政府や王侯貴族相手のテロ組織・レジスタンス組織のノウハウだけ
ど、ないよりはあったほうがマシかなって深く考えなかった。
16時ぐらいになってマヅゲーラの街に到着する。
午前の途中からとはいえ、40ノット以上とかなりのスピードを出
してハウスボートを航行させていたので、ヨークルからマヅゲーラ
の街までは600kmほどの距離があるから、平均だと35ノット
以上で航行していたことになるな。
見張りと用心棒で製造した徒影1∼5号をハウスボートの中に残し
ておく。
このマヅゲーラの街ではホテルに入る前にハウスボートをマリーナ
に係留させて料金を支払って、街の中でホテルを別途で2泊するこ
とにした。
この街に宿泊する気はまったくない。転移魔法での出現場所として
擬装用の部屋だ。
かなりの高級ホテルでまたもスイートルームしか部屋は空いてませ
んと言われたが今回は本当だろう。
トーナメントを見ようとする客が街の中を溢れかえっている。
1泊50万Gと言われたが、気にもしない事にして先に2泊の料金
100万Gを払っておく。
これからあちこち探すほうが面倒だし。
ホテルでトーナメントに出場したいと伝えたら任侠ギルド本部で登
録が必要だと教えてくれた。
料金の支払いをしたのが冒険者ギルドカードの方を使ったので、俺
がBランク冒険者というのがわかったホテル職員は親切に教えてく
1051
れる。
任侠ギルド本部の場所を聞くと意外と離れていてマヅゲーラの北側
の街の中心にあるゲートの脇にあったので歩いて向かうことにした。
マヅゲーラの任侠ギルド本部って木の看板・・・組事務所かよ。
到着して実際に﹃任侠ギルド本部﹄ってそのまま看板が・・・非合
法組織のはずなのに堂々と・・・外観はまんま﹃組事務所﹄だった。
俺がヤクザ映画で見かけたそのまま。ベッタベタの組事務所。
中に入っていってもそのままここはヤクザ映画のセットか? って
錯覚しそうなほどだな。
中で働いている任侠ギルドの人達も和装で腹にサラシを巻き白鞘の
ドスを腰に差しているのを見て・・・マジかよ・・・と心の中でし
か言えなかった。
ここでも俺は冒険者ギルドカードを使って任侠ギルドトーナメント
に登録すると、今夜の予選は免除されると親切に教えてもまえた。
アマテラスに教えられたとおりにトーナメントは俺は冒険者ギルド
Bランクで免除になった。
本選のトーナメントは32名で争われる。5回勝てば優勝だな。
俺で予選免除されるトーナメント出場者は6名になったらしい。
残りは今夜の予選で決定する。
俺から見ればトーナメントはアマテラスとゴッデスに頼まれた﹃作
業﹄でしかないのだが、これでも一応優勝賞金が1億Gと任侠ギル
ドトップの座。
そんなの要らんから平和と安静な生活が欲しいと思うが自分からト
ーナメントに登録しておいてそれはないな。
任侠ギルドの組事務所のあちこちから鋭い視線が飛んできてたが、
気にもせずにホテルに帰ることにした。
1052
はぁー、バカがストーキングをしてこようとしていたので出入り口
の扉を封印結界で3秒ほど塞いで俺はその間に隠者スキルで姿をく
らました。
こんな狭い街でのストーキングは勘弁して欲しい。
混みあう街中を避けて建物の屋根伝いに移動してゲートをくぐりホ
テルに帰還。
るびのとセバスチャンを大森林三角池に迎えに行く時間になったの
で転送魔法でマヅゲーラの高級ホテルから待ち合わせ場所へ飛んだ。
既にるびのとセバスチャンが待っていたので話しかける。
﹁お待たせるびの、狩りはどうだった?﹂
﹁面白かったよとうちゃん。今日はオークの群れがいっぱいいて3
00頭ぐらいは狩ったよ。それでまたアイテムボックスがいっぱい
になってセバスにーさんに預けた﹂
﹁そういえば今日は先にアイテムボックスのん整理をしてなかった
な。ゴメンなるびの。今から整理するよ﹂
るびのの腕輪のアイテムボックスの中の素材で肉と骨以外は俺のア
イテムボックスに中に移動させた。
セバスチャンのアイテムボックスの中に入っていたモノも俺のアイ
テムボックスの中に入れた。
セバスチャンのアイテムボックスには小豆と﹃もち米﹄が大量に入
っていたので思わず聞いてみる。
﹁セバスチャン、小豆だけでなくもち米まで発見できたのか?﹂
﹁はい。ご主人様。両方とも自生している200kg以上は採取で
きましたので、しばらくは購入はいりませんね。品種もなかなかの
モノが取れましたので、今日はこれも苗を持ってきてますので畑に
植えておきます﹂
﹁セバスチャン、いつもありがとうな﹂
﹁お褒めいただきまして光栄でございます﹂
1053
﹁後はまた、森林モンキーを狩ってきてくれたのか?﹂
﹁そうです。ご主人様の森林モンキーの尻尾もそろそろ余裕がなく
なる頃だと思いましたので狩っておきました。巣は今MAPに表示
させます。森林モンキーが500頭以上の比較的大きな群れでした
ので巣として使用していた洞窟も大きなものでした。グリーンウル
フダンジョン以上です﹂
﹁わかった。今夜にでもまた来るとしよう。るびの、転移する場所
は部屋でいいか?﹂
﹁うん。とうちゃん。オレもうおなかすいたから部屋に帰りたいな﹂
﹁了解。じゃあるびのの部屋に行こう﹂
るびのとセバスチャンを連れて早乙女邸の隣の倉庫に作ったるびの
の部屋に転移する。
部屋に送ってるびのの世話をセバスチャンに任せて俺はガレージへ
と転移。
キャンピングバスがまだ戻ってなかったのでマリアに念輪で聞いて
みることにした。
﹁マリア聞こえるか?﹂
﹁ハイご主人様。ご用件をどうぞ﹂
﹁今はどこにいる?﹂
﹁今現在は私の運転でクラリーナ奥様のご友人方をご自宅へと送り
終えて、ミネルバ奥様とクラリーナ奥様のお2人と共に早乙女邸に
向かって帰宅の途中です﹂
﹁後どれぐらいで家に到着できるかな?﹂
﹁15分ほどですね﹂
﹁ほいよ。じゃあ気をつけて帰ってきてくれ﹂
﹁了解しましたご主人様﹂
ガレージで全身を3点セット魔法で浄化して玄関を通って1階の客
間に移動して今日はパーカーとチノパンに着替えた。
1054
エプロンをつけてキッチンに移動する。
今日は俺が晩ご飯を作ろうかな。アイリはまだ地下訓練場かな?
1055
夜の大森林での狩りする俺たちに忍び寄る黒い影っす。
待っててもしょうがないし、今夜の晩ご飯は料理を自分で作ること
にした。
今夜は釜飯風の炊き込みご飯と豚しゃぶサラダとサーモンのフライ。
ちょっとバランスが悪そうだけど・・・まっ、いっか。
俺が晩ご飯を作っている最中にアイリが大剣の練習を終わってシャ
ワーを浴びてから地下訓練場から上がってきていた。
﹁あれ? 晩ご飯はしん君が作ってくれたの?﹂
﹁セバスチャンはるびのの世話でマリア達はまだ戻ってなかったか
らな。腹が減って我慢できなかった俺が作っておいたよ﹂
﹁そうなんだ。ありがとう。そういえば、マヅゲーラの街に行った
んだよね? どうだった?﹂
﹁今のところは﹃騒々しい街﹄って印象だなぁ。任侠ギルドのトー
ナメントで少し浮かれてる感じがしたな﹂
﹁あの街は元から夜だけは騒々しい街だよ。何度か行ったことがあ
るけど・・・仕事以外で女性が住む街じゃないわね﹂
﹁あー、なるほど。それはわかるような気がするな。夕方の日が沈
む前に到着したんだけど、夜としては早過ぎる時間ながら街娼の数
が尋常じゃなかった﹂
﹁あそこは﹃ギャンブルと女遊びの街﹄って言われてる。それだけ
しかない街だからね。街の外は田んぼばかりで田園風景しかないけ
ど、農家のみんなは街に住んでないし、女性専用の宿は街の外にあ
るからね﹂
俺がアイリとおしゃべりしながら料理をダイニングテーブルに並べ
ているとミーとクラリーナが帰ってきた。
1056
﹁しんちゃん、アイリただいま。・・・いい匂いね﹂
﹁しん様、アイリさんただいまです。今夜のご飯はしん様が作って
くれたのですか?﹂
﹁ミー、クラリーナ、おかえり。今日は腹が減って我慢できなくて
自分で作っちゃったよ。さぁ、みんなで食べよう﹂
﹁ミーもクラリーナもおかえりなさい。2人とも座って座って。み
んなで食べよう﹂
まずは晩ご飯を食べることになった。
無言で食べる嫁3人に少し恐怖を覚えるが今夜の分も大量に作って
あるので、﹃早くおかわり作れ﹄の恐怖の無言プレッシャーを掛け
られることはなさそうだ。
食後にリビングへ移動してから、みんなでお酒を飲みながら話を続
ける。
﹁アイリ、大剣の練習はどうだった?﹂
﹁しん君、攻撃ってホントに難しいわね。足運びから姿勢制御まで
含めて全然出来なくて凄くもどかしい。でもそのもどかしさすら面
白いわ。午前中は全然出来なかったけど、午後からは少しは出来る
ようになって、出来るようになると更に楽しさが増してきて・・・
やみつきになりそうだわ﹂
﹁アイリが大剣にやみつきになっても、俺がアイリの代わりにシー
ルダーでクラリーナの壁役をやってもいいよ。だからこの際、徹底
的に練習しちゃえばいいよ。でも俺と一緒にダンジョンとかに行く
のは今回のアマテラス様の依頼が終わらないとちょっと無理かな﹂
﹁わかったわ。明日も一日中練習する。でもしん君は明日は任侠ギ
ルドのトーナメントに出るんだよね?﹂
﹁そうだけど別に・・・作業って感じだな。何も特別に思うことは
ないよ。だからみんなを見に来てって誘うつもりもないよ。むしろ
あの街ではみんなの存在を隠しておきたい。あそこは女の子を連れ
1057
て歩くには不適切な街だ﹂
﹁それもそうね。ミーも私も今まであの街で得られたことなんて﹃
不愉快な気分﹄ぐらいしかないわね﹂
﹁そういえばしんちゃんの明日の予定ってどうなってるの?﹂
﹁俺の明日の予定は・・・夕方の6時に組み合わせ抽選会があって、
トーナメントの試合は夜の20時から開始だな。1回戦と2回戦は
アマテラス様の意向で既に決まってるし、俺には何の思い入れもな
いしな﹂
﹁しん様、るびのはどこかに行くって言ってましたか?﹂
﹁大森林の南側に明日も送っていく予定だな。クラリーナは明日は
行きたいところはある?﹂
﹁私は今日と同じで午前中に杖術のトレーニングで午後からは、も
ふもふ天国でお友達とおしゃべりしたいです。よろしいですか?﹂
﹁ほいよ。アイリとクラリーナは今日と一緒ね。了解。それで、ミ
ーはどうする?﹂
﹁私は午前中にもふもふ天国で午後からは地下訓練場でアイリと一
緒に練習するよ﹂
﹁了解。それじゃあ、ミーはクラリーナと2人で交互にマリアとキ
ャンピングバスで移動してくれ﹂
﹁そういえば、今日の食料品市場でしんちゃんのこと聞かれまくっ
たよ。出て行けって言われるかと思ってたけど・・・市場を平和に
してくれてありがとうって何度もお礼を言われて・・・それにモテ
モテだった﹂
﹁モテモテ? みんなの前で7人も虐殺したのに・・・意味がわか
らんな﹂
に惹かれるのは女として生物とし
死
﹁私も意味がわからなくて何人かに聞いたけど﹃このヨークルの都
強いオス
市にいるとわからない人もいるのかもしれないけど、外には
がありふれた世界で
1058
て当然﹄って、私と仲のいい10歳の酒屋の娘に説明されて納得し
ちゃったよ﹂
﹁それは理由として納得できるわね。あの場面で叫んで逃げちゃう
ような人はしん君には相応しくないよ﹂
﹁私もアイリさんの意見に賛成ですね。いくらシーパラ連合国が戦
争のない平和な国と言っても決闘による殺し合いは何度か私でも見
たことがありますし﹂
﹁・・・なんじゃそりゃ。俺はただムカついたから合法的に殺した
だけなんだけどな﹂
﹁それはお年寄りの方々がしんちゃんを褒めてたよ。馬鹿を相手に
ワザとイラつかせて合法的な殺し合いに持って行ったって。シーズ
の当主を相手に上手だねって褒めてた﹂
ひんしゅく
﹁上手にハメたって感じはないんだけどなぁ・・・簡単すぎて﹂
﹁何度も似たような騒ぎを起こして相当の﹃顰蹙﹄をかってる親子
なんだけど、上手く立ち回ってた・・・らしいよ秘書と執事が。私
にも自分から罠に落ち込んでいくマヌケな親子にしか見えなかった
けど﹂
﹁まぁ、バカ親子の惨めな末路って意味では最高の見せしめになっ
ただろ﹂
﹁それ! 今のしんちゃんと同じことを10歳の酒屋の女の子にも
言われた﹂
﹁物凄く達観した考え方の女の子だな。10歳でそこまで考えられ
るって凄いよ﹂
﹁しん様、もしかして10歳の女の子はありですか?﹂
﹁クラリーナ、それは絶対ないな。俺の生活の中にモフモフ成分は
必要不可欠だけど、ロリ成分は必要ないよ。今までにそこまで年の
離れた子と接したことはないけど・・・さすがにどう頑張っても1
0歳の女の子は恋愛対象にはできないよ。俺から言える言葉は﹃1
1059
8歳になったらね﹄ぐらいだなぁ﹂
﹁しん君の恋愛は年齢で決まっちゃうの?﹂
﹁決まる。上なら40歳を過ぎても平気なんだけど、下は18歳以
下だと恋愛対象から外れるよ。頭の中で﹃そっちに行っちゃダメ﹄
って、年齢を聞いた瞬間から強引にでも脳内が冷えきる・・・まぁ、
俺にはロリ成分はいらないってこと。それはいいとして・・・みん
なの明日の予定が決まったな。それじゃあ俺は今から出かけること
にするよ﹂
俺は今まで座っていたソファーから立ち上がる。
ここでセバスチャンがるびのの世話から戻ってきた・・・るびのも
付いてきてる。
﹁ご主人様、お待たせいたしました。るびのも一緒に行きたいと言
ってましたがいかがなされますか?﹂
﹁とうちゃん、オレも大森林の深夜の狩りについて行きたい﹂
﹁じゃあ、るびのは大森林で夜をあかすつもりか?﹂
﹁うう∼∼ん。ちょっと悩む。とうちゃん、向こうで決めてもいい
?﹂
﹁ああ、いいよ﹂
﹁しん様、今からどこかに出かけるのですか?﹂
﹁ああ、セバスチャンが今日の大森林での狩りで森林モンキーの巣
ごと群れを潰したらしくて、今から森林モンキーの巣の中身を回収
に行ってくるよ。森林モンキーの巣は貴重な魔石や魔結晶がたくさ
んあるから見逃せない。ついでにちょっと採取もしたいから、みん
なは先に寝てていいよ。マリア、後は頼む﹂
﹁了解しました。ご主人様﹂
﹁じゃあ、私たちはお風呂に行ってくるわ﹂
﹁おう、アイリわかった、ミーとクラリーナも、それじゃあいって
1060
くるな﹂
俺は今まで自分が飲んでいた酒とつまみをアイテムボックスに片付
けて、リビングの隣の客間でサイラスの甲殻鎧に着替える。
腰に帯剣して手に弓を持つ。玄関に行ってワイバーンのブーツを履
いて装備完了。
大森林三角池に転移で俺・セバスチャン・るびのの3人で移動する。
﹁セバスチャン、森林モンキーの巣はどこだ?﹂
﹁こちらです、ご主人様﹂
俺のMAPで点滅する場所が出てきた。
﹁ここならそれほど離れてないな。ついでに狩りをしながら移動し
よう。セバスチャン、先導頼む﹂
﹁は﹂
セバスチャンの先導で移動しながら探査魔法で魔力と気配を探る。
なかなかこの辺は魔獣が多そうだな。
﹁るびのは自分で気配を探って自由に狩りしていいぞ。俺は弓でフ
ォローする。セバスチャンは回収係な﹂
﹁とうちゃん、わかった﹂
﹁了解です。ご主人様﹂
森林モンキーの巣まで移動する間に、サソリオオクモを10匹と森
林モンキーを追加で100ほど狩った。ちょっと大きめの気配がい
くつか点々とあるが近づいてこないな。
森林モンキーの巣の中を俺とセバスチャンで回収している間はるび
のが巣の周りで狩りをしていた。
巣の中に転がっている魔石・魔結晶などの回収が終わった頃ぐらい
に、るびのから緊急の念輪が入った。
1061
新たなモフモフがやってきて配下が増えた。
﹁とうちゃん聞こえる? 今オレの目の前に﹃大黒豹﹄と﹃森林タ
イガー﹄がいるんだけど﹂
﹁・・・は? るびのの言ってる意味がわからない。どういうこと
なんだ?﹂
﹁2頭とも、とうちゃんと話がしたいんだって。早く帰ってきて﹂
﹁・・・わかった。ちょっと待っててもらってくれ﹂
念輪を切った時に回収作業の終了したセバスチャンが話しかけてき
た。
﹁回収作業が終わるのを待っていたら遅くなってしまいましたが、
ご主人様に報告があります。今日の夕方なんですが、大森林にて﹃
大黒豹﹄と﹃森林タイガー﹄が接触をはかってきました。炎虎達に
聞いたようで白虎のるびのと、大草原のボスであるご主人様に是非
にも挨拶がしたいということです。深夜まで待たせておりますが、
ご主人様はお会いになられますか?﹂
﹁今、るびのから念輪で連絡があったけど大黒豹も森林タイガーも
待ちきれなかったみたいだな。るびのの目の前にいるみたいだ。俺
と話がしたいみたいだし会いに行こう﹂
﹁我慢するように言っておいたのですが、魔獣には無理だったみた
いですね﹂
﹁そうみたいだな。じゃあ会いに行こう﹂
セバスチャンを連れて転移魔法で巣から出ていくと、おすわりして
るるびのの前に大黒豹と森林タイガーが大人しくお座りしてる。
大黒豹は全身真っ黒で全長3mほどの巨大な黒豹だった。しっぽを
1062
含めると4mは越す。
重力魔法を使って自分自身の体重を減らして、木々の中から獲物を
襲う巨体に似合わぬ敏捷さを誇る大森林ジャングルの夜の覇者。
特定の巣を持たず普段は木の上で生活している・・・って俺の知識
の中にある。
森林タイガーは虎の大森林の南東部の苔と滝の多い岩場のジャング
ルの覇者で全身緑色で黒いトラの縞模様をもつ。
体の大きさはニャックスなどの炎虎とほぼ一緒ぐらいだろう。
2頭ともモフモフだな。思わず笑顔になってしまう。
バリスクに教えてもらった知識からこの2種類はるびのの眷属の子
孫のはずなんだけどな。
黙っていてもしょうがないので話しかけることにした。
みずかげ
﹁あー、俺が﹃早乙女真一﹄でるびのの父親で大草原のボスもやら
せてもらってる。お前達の名前は?﹂
﹁私は大森林の大黒豹の中でリーダーをしていて、名前は﹃水影﹄
です。ボスの話は知り合いの炎虎に聞かせていただきました。ご存
知だとはございますが白帝様の眷属の子孫です﹂
﹁私は大森林南東の山脈に住む森林タイガーのリーダーの﹃ニャー
ビス﹄といいます。私もボスとるびの様のお話は炎虎達から聞いて
います。セバスチャンさんから待機しておくように言われたのです
が、ボスとるびの様にどうしても早くお会いしたくて我慢できませ
んでした﹂
﹁水影とニャービスな、わかった。じゃあ、るびのも挨拶して﹂
﹁水影さん、ニャービスさん、こんばんわ。白虎の﹃早乙女るびの﹄
です。よろしくお願いします﹂
﹁それで水影とニャービスは何の用で俺達に会いにきたんだ?﹂
﹁白帝様に挨拶したかったのと我々の大黒豹グループもボスの傘下
1063
に入れてもらおうと思いまして﹂
﹁私達森林タイガーも同じ思いです。ここに来る前に自分達以外の
群れとも話し合ってきたのですが、森林タイガーのグループもボス
の傘下に加えて頂きたいと意見が全員一致しましたのでやってきま
した﹂
﹁俺が大森林の魔獣のボスになってもいいのか?﹂
﹁はい。何の問題もないです。元々我ら大黒豹は白帝様の眷属の末
裔ですし﹂
﹁出来れば私達2頭にもニャックスたちのように念輪がいただきた
くて、2頭で挨拶にやってきました﹂
﹁そういうことか、念輪のことも聞いてるんだな。わかった俺が大
森林のボスになるよ。念輪は今から作って渡すよ﹂
アイテムボックスから魔水晶を取り出して首輪に加工して水影とニ
ャービスにそれぞれ装備させる。
俺ってここで何もしてないのにいきなりボスに祭り上げられちゃっ
たけど・・・いいのか?
念輪の首輪を装備して嬉しそうな水影とニャービスを見て・・・ま
ぁいいかと思うことにした。
﹁ボスとるびの様にもう一つお願いがあります。是非我々大黒豹と
森林タイガーの本拠にお越しいただきたいのですが・・・配下の者
たちにもボスとるびの様を引き合わせたいのです﹂
﹁お願いします。大黒豹は夜間だと起きている種族ですしここから
近い場所なんで、出来れば今からお願いします。我々森林タイガー
は明日でもかまいません﹂
﹁大黒豹は日中は寝てるから今から来て欲しいってことか。るびの
どうする?﹂
﹁じゃあ、今夜は水影さんのところに遊びに行くよ。大黒豹さん達
と一緒に狩りでもしましょう。それで明日の朝10時ぐらいにニャ
1064
ービスさんの本拠にとうちゃんに送って欲しいな﹂
﹁そうだな。そうすれば両方の群れのみんなに俺も挨拶が出来るな。
よし、それでいこう。じゃあ、水影の本拠まで案内を頼む・・・っ
て、ちょっと待った。今から準備する﹂
俺はホバーボードと専用ブーツを取り出して履きかえる。今日はこ
れで移動することにした。
先導で大黒豹の水影が大森林の木々の枝を飛んで移動して、るびの
が空中を走って後に続く。
森林タイガーのニャービスは大森林の木々の間をすり抜けるように
飛んでるびのの後ろを追いかけていく。
俺はセバスチャンを右手で小脇に抱えて最後尾をついていく。
水影の本拠といってもただの普通の木だ。
ただ大きさが尋常じゃないぐらいの大きさなだけなんだけど、これ
ぐらいの巨大な木はゴロゴロ生えてるのがこの大森林なので別に珍
しくもない。
水影も﹃この辺の木に寝泊りしてるけど、気分次第でどこにいるの
か決まってない﹄って言ってる様に元々そういう習性が大黒豹には
あるので仕方がない。
普段はバラバラに行動している大黒豹のたくさんの群れが俺とるび
の見たさに、総勢150頭ぐらいはあちこちから集まってきていた
ので、俺は集まってきてくれてる大黒豹のみんなに挨拶を済ませて、
俺の群れに入るなら﹃絶対の誓い﹄を宣言させた。
﹃人族を襲わない﹄
﹃人族を見たら逃げる﹄
﹃それでも向かってくるバカな人族は痛い目をあわせてやれ﹄
﹃報復OK﹄
まぁ、魔獣でもわかりやすく簡単なものだ。
1065
元々この大黒豹・森林タイガーの2種族とも大森林の奥地に住む種
族なので、人族そのものをほとんど見たことがないような魔獣たち
ばかりだったりする。
るびのの世話はセバスチャンに任せて帰ることにする。
帰る前に2人のアイテムボックスの中身を少なくしておいた。るび
のにも俺のアイテムボックスに自分の腕輪のアイテムボックスから
送る方法を教えて練習させておく。
最近の狩りの量から考えるとすぐに一杯になりそうだ。
るびのとセバスチャンをおいて俺は自宅のガレージに転移魔法で帰
った。
流石に深夜の12時をまわってるので嫁達は全員寝てる。
面倒だったのでガレージに停車中のキャンピングバスの中に入って
装備を脱ぐ。
ガウンだけを羽織ってそのまま風呂に入ることにした。
風呂から出てからマリアにつまみの団子を作ってもらい日本酒を呑
む。ホワイト達とマリアに念輪のグループ会話を開いて今日のもふ
もふ天国の報告を受けた。
今日も混みまくって身動きも取れない状況ってのはなくて、ホワイ
ト達が交替で買出しぐらいはいけそうとのこと。
それに食料品市場での買出しも夕方の帰る前に店に直接売りに来て
くれる様に契約がしたいと、一度詳しく俺と話をさせてほしいと、
いつも買っている商店で言われたのだそうだ。
明後日の午前中に詳しく話をすることにするので、コーヒー商人・
紅茶商人・ハーブ商人・フルーツ商人などを店舗裏の事務所に呼ん
でおくように言っておく。
・・・まだそんなに量はいらないけど、少量でも契約できるのか確
1066
認しないといけないからな。
それと今後のもふもふ天国の展開もあるし。
首都シーパラや今後行く都市などには家を購入するんじゃなくて、
モフモフ天国の店舗と早乙女商会の事務所を購入して拠点にしてい
く予定だ。
転移魔法で安全に行き来できる拠点さえあれば住居は必要ないし。
明後日の午前中に商人達と契約して、午後からは首都シーパラで拠
点となる店舗を探す予定でいる。
拠点作りに慌てているわけではないが、だからといっていつまでも
ホテル暮らしをしているわけにはいかない。
もふもふ天国の順調な滑り出しに気をよくしながら、今日はここら
で寝る事にして念輪のグループ回線を切った。
転生25日目の朝が来て今朝も6時ごろのマリアの入れてくれたコ
ーヒーの匂いで目覚める。
﹁マリアおはよう。今朝はアイスコーヒーにしてくれ。朝食はスモ
ークサーモンのサンドイッチで頼む。ついでに今日の船旅中のコー
ヒー・紅茶・ハーブティーをポットで作っておいてくれ﹂
﹁おはようございますご主人様。了解しました﹂
俺は洗面所に向かって歩きながらマリアに朝食の注文をしておく。
戻ってきて朝食を食べ始める。
嫁達はまだ寝てる。まだ朝の6時半だからな。
今日は俺だけがハウスボートで移動するから早起きしてるけど嫁達
は8時起きの予定なので、俺もこんな早い時間に起こすつもりもな
いのでそのまま寝かせてる。
1067
マリアからドリンクの入った複数のポットを受け取ってアイテムボ
ックスに入れてから、嫁達の世話をマリアに任せて俺はマヅゲーラ
の町のホテルの自分の部屋に転移魔法で移動した。
ホテルを出てハウスボートを係留しているマリーナに歩いていく。
ハウスボートを係留してるロープを係員に外してもらい、首都シー
パラに向けて移動を開始させる。
マヅゲーラの1km圏内は10ノット以下なのでふわーっと発進さ
せる。
今日は物凄く天気が良くて風もほとんどなくてシーパラ大河は波も
ほとんどなくて凄く乗りやすい。
スピード制限区域を出てから周囲の船と一緒に速度を上げていく。
30ノットを超えてシーパラ大河の中央部分に行って更に速度を上
げて40ノットを超えて、周囲の船を追い越していく。
巡航速度が40ノット以上なので1時間以上航行してると周囲の船
がいなくなり・・・ヒマになった。
1068
ハウスボートは首都シーパラに向けて自動運転中っす。︵前書き
︶
12・31修正しました。
1069
ハウスボートは首都シーパラに向けて自動運転中っす。
探査魔法で周囲の船舶を探りながらの航行を続ける。
ヒマなのでハウスボートを改造することにした。
地球での﹃カーナビ﹄のように探査魔法で探りとった半径1kmほ
どの周辺の地形や周囲の船舶を、操縦席に取り付けた10インチほ
どの大きさのガラス盤にモニターのように表示できるようにした。
これで誰でも操縦する時に見やすくなったな。
上空からカメラで写しているようにガラス盤に表示させているので、
これなら嫁達にも見やすいようになった・・・だろう。
10時まではヒマなのでハウスボートの航行は自動運転に任せて、
俺は自分が今食べたいもの・・・
まずは食べたい物でせっかく小豆ともち米が手に入ったんだから、
和のスイーツを作ることにする。
﹃おはぎ﹄﹃きなこモチ﹄﹃どら焼き﹄﹃たい焼き﹄﹃饅頭﹄﹃大
判焼き﹄﹃五平餅﹄
などなどをアイテムボックスがあるから腐る心配は全くないから、
いくつかをかつまみ食いをしながら全種類を100個以上と大量に
作ってキープしておく。
まだまだ時間があったので、もふもふ天国で働くゴーレムを作るこ
とにした。
﹃おーとま﹄﹃クマ﹄﹃コー﹄﹃ウルフ﹄﹃パンダ﹄﹃レッサーパ
ンダ﹄﹃コアラ﹄﹃タヌキ﹄﹃キツネ﹄﹃ウサギ﹄﹃柴犬﹄﹃三毛
猫﹄﹃リス﹄﹃オスライオン﹄﹃ペルシャネコ﹄
愛玩ゴーレムは2セット作った。名前はそのままで2号と3号にし
1070
ただけだし、色もヨークル店で働くゴーレムと縞模様の形が微妙に
違うだけでほぼ一緒だ。
ゴーレムのネームプレート用で念輪機能もつけてる首輪の色が2号
は﹃赤﹄3号は﹃青﹄にしただけ。
メイドゴーレムも6体作った。
グリーンウルフ型デフォルメバージョンを3体。
ゴーレムの表皮を覆う毛皮の色から﹃グリーン﹄﹃ブルー﹄﹃シル
バー﹄という名前にした。
セバスチャン達と同じクマ型を3体。これも毛皮の色から﹃シロ﹄
﹃クロ﹄﹃グレー﹄と名付けた。
時間になったのでるびのとセバスチャンを迎えにいく。
転移魔法で水影の巣にしている強大な木に移動。るびのとセバスチ
ャンとニャービスが待っていたので全員を飛翔魔法で浮かせてニャ
ービスが本拠にしているところまで飛んでいった。
森林タイガーはウェルヅ大陸を中央に南北に走るウェルヅ山脈の南
側で苔が覆う岩場の魔獣なので、ここも植物の植生が今までの場所
とかなり違って独特のモノがたくさんある。
セバスチャンに採取をお願いしておく。
あとニャービスの話によると・・・今の大森林の南側周辺の岩場と
ジャングルは﹃トロール﹄﹃リザードマン﹄﹃森林タイガー&大黒
豹﹄の三つ巴の勢力争い中らしい。
昔はワイバーンの数が多くて大森林の南側はワイバーン天国らしか
ったのだが、るびのが700年前に何度か自身の眷属を引き連れた
遠征でほとんどのワイバーンを滅ぼした。
ワイバーンの亜種の中で特別変異種だったリザードマンだけが水中
でに暮らしていたために難を逃れて生き残れたらしい。
1071
リザードマンは種族独自の文化の中で暮らしているし、数もそこま
で多くない。
リザードマンと獣人のハーフである蜥蜴獣人ともちがう生活をして
るので、余りよくわからないとニャービス達も言ってた。
身長2mほどのトロールはリザードマン・大黒豹・森林タイガーの
3種からすれば﹃エサ﹄でしかないのだが、とにかく繁殖力が強く
てどこでも生きていけるし、食も雑食なので数は半端なく多い。
トロールの数だけでも1万以上はいるらしいので、昨日は大黒豹達
と遠征で1000頭以上を狩りをして、今日は森林タイガーの選抜
隊と遠征軍を組んで狩りに行く予定なんだとニャービスが熱く語っ
てる。
俺は水影から﹃トロールの肉は爆走鳥の食感に似ていて、柔らかく
てジューシー﹄って聞いて凄く期待がわいてしまった。
昨日の夜にるびのとセバスチャンからアイテムボックス経由で30
頭以上は送られてきたが、今日もるびのにたくさん狩ってきてくれ
ってお願いして俺は冒険者ギルドの裏庭に転移魔法で移動した。
商業ギルドでハウスボートで暇つぶしに作った愛玩ゴーレムとメイ
ドゴーレムを早乙女商会に登録。
これで首都シーパラで店舗さえ購入すればすぐにでももふもふ天国
がオープンできるな。
店舗用に会計用の魔水晶を4個貰っておく。
商業ギルドの会議室でゴーレムの登録を終えてからリーチェとその
まま会話を続けた。
﹁商業ギルドで登録したゴーレムって、冒険者ギルドで登録するこ
とって出来るの?﹂
﹁それは・・・何の規定もないけど可能か不可能かって聞かれたら
1072
﹃可能﹄だね。登録するゴーレムは・・・早乙女さんが作ったゴー
レム以外は﹃ある特定の行動﹄ぐらいしか出来ない簡単なものばか
りだから、今まで両方で登録しようって人はいなかった。けど、登
録が義務付けられているだけで複数での登録は出来ないって規定は
ないよ﹂
﹁ありがとう。以前にゴーレムの買い物でのカード使用で疑問に思
って、両方登録しないと税金とか経費の計算とかで、買出しのとき
に少し面倒になりそうだったんだ﹂
﹁買出しのときとかはある程度は細かく計算する必要があるし、僕
から早乙女さんにお願いしたいのは﹃早めにどこかの商人と契約し
てね。そのほうが後々の計算が楽だよ﹄ってぐらいだよ﹂
﹁俺もそう思ったから明日の午前中にその話をする予定なんだけど
な﹂
﹁店舗の話をしたら思い出したけど・・・昨日ボクも早乙女さんが
作った﹃もふもふ天国﹄に自分の長年の友人と商業ギルドの部下を
連れて行ってみたよ﹂
﹁おお、リーチェありがとう。友人は何か言ってた? 苦情でもい
いから教えて﹂
﹁もふもふ好きな友達が﹃これはヤバイ﹄って何度も言ってて、部
下の子達も気に入ってくれたみたい﹂
﹁それは嬉しいね。作った甲斐があるよ﹂
﹁それで今日はゴーレムをたくさん登録したけど、またどこかに2
号店でも作って新店舗を出すの?﹂
﹁今すぐって訳じゃないんだけど・・・首都シーパラに行くことに
したから、前もってゴーレムを登録しに来たんだ。それでリーチェ
にお願いがあるんだけど、首都シーパラに新店舗を作る計画がある
から、商業ギルド本部でリーチェが信頼できる人間を紹介して欲し
い﹂
﹁ボクの教え子がシーパラにいるけど・・・その人って亜人で﹃小
1073
人族﹄なんだけどいいかな?﹂
﹁リーチェから信頼できるって紹介してもらえるのなら、それに文
句をつけるつもりはまったくないし、亜人だからって俺が断ること
もないよ﹂
﹁商業ギルドシーパラ本部で不動産部門の担当をしている﹃マリス・
シュガート﹄だね。今からボクが紹介状を書いてあげるから、これ
を受付窓口で渡せばいいよ﹂
﹁ありがとうなリーチェ。これは俺が作ったおやつだよ。紹介して
くれたお礼代わりに受け取ってね﹂
リーチェも以前クレープを絶賛してくれたので、スイーツ好きだと
思い﹃たい焼き﹄﹃饅頭﹄を5個ずつあげた。
中に入っているアンコが美味かったみたいで質問攻めになったが、
レシピを渡してあげたら小豆は食料品市場で見たことがあるとリー
チェは喜んでた。
俺も場所を聞いてMAPに入力しておく。
これは商売になるからと知り合いの甘味職人に作ってもらうそうだ。
俺は商業ギルドで独占しないで誰でも作れるようにレシピを出来る
だけ広く公開して新規参入を促して、みんなで切磋琢磨してよりよ
い商品が生まれることをした方がヨークルの名物になり、この都市
の発展することになると熱く語る。
実際にゾリオン村でおにぎりが発展していて・・・既におにぎりは
ヨークルだけでなく、首都シーパラや他の町や村にも屋台で売られ
ていてブームが起きていることをリーチェが語ってくる。
おにぎりブームとアンコブームが来ると、俺の食生活が更に潤うよ
うになるな。
アンコは数え切れないほどの多様性がおにぎり同様にあり、上手に
1074
拡散すればブームを起こせる。
上手く周辺の村で生産できるようになれば生産者が潤う。
そんな﹃アンコ﹄を利用した今後ヨークルが発展するための話で盛
り上がってから、俺はリーチェから紹介状を貰って商業ギルドを出
る。
冒険者ギルドでクマ型メイドゴーレムの﹃シロ﹄﹃クロ﹄﹃グレー﹄
と、グリーンウルフ型メイドゴーレムの﹃グリーン﹄﹃ブルー﹄﹃
シルバー﹄の合計6体を冒険者ギルドでも登録させてネームプレー
トを貰っておく。
ヨークルの街中の移動も隠者スキルで気配と魔力を遮断してキビキ
ビと動く。周囲に注意する人物はいなさそうだ。このままもふもふ
天国のヨークル店の店舗まで戻るが、ミーとマリアは昼食を食べる
ために早乙女邸に向けてキャンピングバスで移動した後だった。
早乙女商会の事務所に商業ギルドで新しく登録したばかりのクマ型
メイドゴーレムの﹃グレー﹄を置いておく。
ここでの今後現れる客の対応&取引先の商人の対応&店舗のヘルプ
&買出しだな。
小豆ともち米を食料品市場で探すようにグレーに命じておく。
早乙女商会の事務所から自宅に転移して戻った。
ここには早乙女邸の専属クマ型メイドゴーレムで﹃クロ﹄を置いて
おく。
さっそく今日の昼食に昨日るびのが狩った﹃トロール﹄を料理させ
ることにした。
12時を過ぎた頃にミーがマリアを連れてキャンピングバスで戻っ
てきた頃、地下訓練場からシャワーで汗を流し終えたアイリとクラ
リーナがリビングにやってきた。
1075
﹁アイリもクラリーナもこっちの食堂に座って。もうすぐ昼食が出
来るよ﹂
﹁しん君おかえり。あれ? そこで料理しているクマ型メイドゴー
レムってマリアと違うね﹂
﹁あ、しん様戻ってらしたのですね。アイリさんの言うとおりマリ
アと違ってますね。しん様が新しく作られたのですか?﹂
﹁しんちゃんただいまー、ってマリアじゃないマリアが料理してる
!﹂
﹁ああ、今日の午前中のシーパラでの航行中にヒマだったから作っ
たよ。すでに商業ギルドにも冒険者ギルドにも登録してきたので、
どちらのカードでも買出しが可能になったよ。名前は﹃クロ﹄色の
通りの名前だな。クロは早乙女邸の専属メイドゴーレムにしようと
思ってる。後、早乙女商会の事務所にも色違いの専属メイドゴーレ
ム﹃グレー﹄を置いてきた。今後は首都シーパラでもふもふ天国を
作ったら事務所に色違いの﹃シロ﹄を置いていく。早乙女商会の事
務所にシロとグレーを置いていくのは﹃今後現れる客対応&取引先
の商人の対応&店舗のヘルプ&買出し﹄係だな﹂
﹁奥様方、はじめまして。ご主人様に作っていただいたクマ型メイ
ドゴーレムの﹃クロ﹄です。よろしくお願いします﹂
ちょうど説明しようとしたらミーがマリアを連れて帰ってきたので
2度手間は省けて助かったな。
﹁それでクラリーナにお願いがあるんだけど、午後から移動する時
に商業ギルドに寄ってマリアを商業ギルドにも登録をしてきて欲し
い﹂
﹁わかりました。セバスチャンはどうなさいますか?﹂
﹁そっちは俺が今日夕方6時のトーナメント組み合わせ抽選会が終
わってから、商業ギルドに転移魔法で連れて行って登録してくるよ﹂
1076
今日の昼食はトロール肉の香草焼きとパンとサラダにした。
ロールパンの甘さと少し苦めで味付けされたトロール肉が意外とマ
ッチしていて美味かった。
昼食中にクロにホットドックにしてもらう。これなら夜食でも朝食
でもおやつ代わりの間食でもOKだ。
食後はコーヒーを飲みながら作った和のスイーツ
﹃おはぎ﹄﹃きなこモチ﹄﹃どら焼き﹄﹃たい焼き﹄﹃饅頭﹄﹃大
判焼き﹄﹃五平餅﹄
を嫁達全員に各10個ずつ渡した。
1077
任侠ギルドトーナメント第1回戦の第1試合が始まったっす。︵
前書き︶
8・12修正しました。
1078
任侠ギルドトーナメント第1回戦の第1試合が始まったっす。
嫁達に和のスイーツが大好評だったのはありがたい。
俺とリーチェだけがアンコで盛り上がっても、ちょっと悲しい気分
になりそうだしな。
自分のアイテムボックスから材料をクロとマリアのアイテムボック
スに送って、2人にヒマな時間に作ってもらうように命令しておく。
﹁今日の予定だけど、このまま計算通りだと午後3時ぐらいには首
都シーパラに到着できると思うけど・・・ホテルはどうしようか?
クラリーナの見たい風景が﹃海に沈む夕陽﹄だったよね? どこ
か綺麗な夕陽が見えるホテルって知らないかな?﹂
﹁要求したのは私ですが、何しろ小さい時以来の首都シーパラにな
りますので、知らないことばかりなんですが・・・友人達から聞い
た話では﹃クラッシック・グリフォンズホテル﹄が海の眺望と料理
で、かなり有名みたいですね﹂
﹁ああ、クラッシック・グリフォンズホテルなら私とミーも聞いた
ことがあるぐらい有名よ。目玉が飛び出そうなほど高級ホテルとし
ても有名だけど﹂
﹁じゃあ、そこに2泊で確定だな。先に俺が行って部屋をとるから
な。今夜も明日も天気は良さそうだから、﹃海に沈む夕陽﹄を2回
は堪能できるだろう。俺は今日は無理そうだけど﹂
﹁ねぇしんちゃん、私達も今夜からシーパラに行くの?﹂
﹁そうだよ。だから夕方の5時にはみんな家に帰ってきてくれ﹂
﹁わかったわ。私は元々今日の午後もこれから少しだけ昼寝して、
その後は地下訓練場で大剣の練習なんだけどね﹂
﹁私も午後からはアイリと一緒に練習だし。昼寝するのは15時に
1079
するよ﹂
﹁それでは私は今日は早めに友人達との会話を切り上げて戻ってく
ることにします。今から行ってきますね﹂
﹁おう、わかった。気をつけてな﹂
クラリーナは午後からの予定通り友人達に会いにもふもふ天国にマ
リアと共に向かう。
キャンピングバスの運転はマリアがするようだった。
アイリは昼寝してから地下訓練場に向かう。先に寝室に向かってい
った。
ミーはそのまま地下訓練場に降りていった。
俺はコーヒーの入ったマグカップを持ったままハウスボートの操縦
席にリビングのソファーに座ったまま転移する。
自分の中のMAPにハウスボートが移動した時に探査魔法で探って
得た情報を、﹃情報複製﹄の魔法で俺の脳内MAPにコピーさせて、
俺の脳内MAPの空白部分を埋めておく。
計算だとこのまま午後3時ぐらいには首都シーパラに到着できそう
だな。
ホテルの付属のマリーナに入れると宿泊代にマリーナ使用料金を追
加されるからお金が掛かるけど・・・まっ、いいか。
どうせ今日中に任侠ギルドトーナメントの優勝賞金の1億Gという
大金が入ってくるし、それに俺が優勝するのは間違いないんだから
自分自身で所持金を賭けておけば、数倍になって戻ってくるだろう。
俺の個人資産だけで3億Gぐらいは賭けられる。
冒険者ギルドカードにもチーム早乙女遊撃隊の資産が5億Gほど入
ってるので合計8億Gぐらいは賭けられるな。
自分のオッズがどうなってるのかは知らないが、Aランクの冒険者
もいるので2倍以上にはなるだろうし・・・もふもふ天国シーパラ
1080
店開店資金のためにも、ここらで少し稼いでおくことにするか。
そんなことを考えてる間にシーパラに近づいてきたので10ノット
まで速度を落とす。
シーパラを一度通り過ぎてからUターンして戻る。通り過ぎるとき
にホテルの場所はわかった。
大きなグリフォンの彫像が目印でわかりやすかった。
ホテルのマリーナ入り口で魔水晶を使った確認をされた後で予約の
有無を確認。
予約はないので空き部屋の確認をしてもらった。
4人宿泊用のスイートルーム。
海側が眺望できる部屋は1泊120万Gだけどマリーナ使用料金も
含まれているので仕方がない。
2泊分の料金240万Gを支払う。
女房達は夕方に迎えに行くと言っておいて、まずは俺だけ最上階の
部屋に入る。
部屋からの眺めは最高だ。高額の料金を払っているんだから当然っ
て言えば当然なんだが。
部屋でノンビリとコーヒーを飲んでいたら夕方の4時になったので、
念輪でセバスチャンに回線を開く。
﹁セバスチャン、早乙女だ。今は会話できるか?﹂
﹁大丈夫ですご主人様。既にるびのも狩りを終えて待ち合わせ場所
のニャービスの巣に戻ってきている途中です。あと15分後には戻
れるでしょう﹂
﹁わかった、今から20分後に迎えに行くよ﹂
俺は部屋を出てホテルのフロントに部屋の鍵を一度返して嫁達を迎
えに行くと告げて出かける。
1081
ハウスボートでマリーナを出て首都シーパラの対岸に向かう。
現在の首都シーパラはシーパラ大河の北側にあるが、対岸の南側は
こうぐう
ウェルヅ帝国時代の首都﹃ウェルヅリステル﹄があった。
ここにウェルヅ帝国最大の﹃ウェルヅ皇宮﹄という名前の城を含む
強大な軍事施設があったが、怒り狂った白虎に一昼夜以上の30時
間ほど攻撃にさらされて全て滅ぼされ・・・ヨークルと違って壁す
ら残らずに今はただの用水路しか残っていない。
﹃田園﹄となってしまってる。
今の首都のシーパラは軍人のいない商業施設のみの副都市だったの
で、500年前の白虎からの攻撃はなく難を逃れていた。
今現在のウェルヅリステルは農民しか住んでいない広大な田園にな
っているので、観光名所にすらなっていない・・・用水路しか残っ
てないんだから仕方がないが。
その対岸のウェルヅリステルまでは行かずにグルーっと10ノット
規制区域をゆっくりと自動運転で周回させる。
俺はるびのとセバスチャンを迎えに待ち合わせ場所の大森林のニャ
ービスの巣に転移した。
ニャービスと水影にお礼と別れを告げてから、るびのとセバスチャ
ンを連れ自宅のガレージに戻る。
ガレージにはキャンピングバスが戻ってきていたので3点セット魔
法でキャンピングバスを浄化して、俺のアイテムボックスに入れて
おく。
今日はホテルの宿泊する部屋で夕陽を見ながら晩ご飯を食べる予定
なので、るびのの世話はクロに任せて俺は嫁3人とマリアとセバス
チャンを連れてハウスボートに転移する。
俺は全員を連れて行くと嫁達にホテルで自由にしてもらう。
今日の晩ご飯は俺だけは別行動になるので食事を食べててもらい、
1082
俺はマヅゲーラのホテルに転移魔法で飛んだ。
任侠ギルドまで歩いていくとちょうどいい時間になっていた。
トーナメント参加者の32名が集合している。
無傷なのは俺を含めて予選を免除された6名だけで残りの26名が
全員大小様々な傷を負ってる。
俺にとっては結果がわかっている組み合わせ抽選会で俺は1番を引
いて終了。
卯月要市朗は2番。サトシ・バーミリオンは4番だった。
さすがアマテラス・・・予定通りだな。卯月が俺の名前と顔を見て
ニヤつきながら話しかけてきた。
﹁早乙女真一・・・お前、元日本人だな?﹂
俺はニヤニヤしながら任侠ギルドの職員に話しかける。話しかけて
きた卯月はガン無視した。
﹁すみませーん。対戦相手を殺すのはOKだったよな。これなら楽
勝じゃん。1回戦なんてただの馬鹿だし。殺した敵のアイテムボッ
クスも自由に出来るんだからな・・・美味しいエサだな﹂
﹁・・・クソガキが! お前みたいな生意気なガキは試合中にウン
コ漏らさないようにオムツつけて来いよ?﹂
卯月が挑発してくると周りの何人かの人間がゲヒャゲヒャ笑ってる。
俺はニヤニヤしたまま笑ったヤツラを見回しながら答える。
﹁ふーん、オッサン達のリクエストが﹃試合中にウンコを漏らして
死にたい﹄だな。めんどくさいけど全員やってやんよ。まぁ、俺の
引き立て役として惨めに死んでくれ。・・・それでこの任侠ギルド
のどこで金を賭ける事ができるんだ?﹂
﹁はい。こちらです﹂
職員に案内されて任侠ギルドの建物の中の小部屋に連れてかれて、
小部屋の中にある魔水晶に8億Gを入金して全額を俺の優勝に賭け
た。
1083
俺の優勝倍率が7.4倍もあるんで・・・これはかなりオイシイ。
職員からの説明で税金と組織運営費で儲けの2割も持っていかれる
が、47億3600万Gが残る。
・・・非合法組織なのに賭け事の儲けは税金で15%も持っていく
のかよ。
でも、15%だけで脱税でなくなるからまだマシかな。
部屋を出ると俺以外の参加者も別の小部屋に出入りしている。
俺が今まで入っていた部屋にも違う参加者が入れ替わりで入ってい
った。
職員に問いかけると参加者はマヅゲーラの南側の街の闘技場に夜の
8時までに集合するだけでいいので、俺は今から歩いて向かいなが
ら晩ご飯を済ませることにした。
街の中の道にはたくさんの屋台が並び様々なモノが売っている。
ヨークルに始めて来た時の﹃鬼まんじゅう﹄を売っている屋台を見
つけたので、今度は30個ずつ程買いだめした。おにぎりも数種類
買ったし串に刺さったウナギの白焼きもいくつか買った。
食べ歩きながら時間が近づいてきたので闘技場の参加者入り口から
入っていく。
参加者紹介の時に初めて闘技場の中に立ってから、これから殺し合
いをする場所の闘技場の周囲をじっくりと見渡す。
闘技場の中は地球の﹃闘牛場﹄のような場所で直径30mほどの円
形の石畳。
石畳の周囲は3mほどの石壁に覆われていて、壁のすぐ上がVIP
ルームがグルリと周囲を取り囲み、さらにその上は観客が3000
人は座れるスタジアムのようになっている。
壁と石畳と上空には封印結界が張ってあり、ここで魔法の打ち合い
攻撃合戦になっても被害が参加者以外に出ないようにされてるみた
1084
いだな。
俺が周囲をキョロキョロしてる間に俺と卯月以外が控え室に戻り・・
・
﹃試合開始﹄
の掛け声と共に任侠ギルドトーナメントの1回戦の第1試合が始ま
る。
卯月要市朗が大きな声で話しかけてきたので俺はため息と共に言葉
を返す。
﹁クソガキ! オムツしてきたか?﹂
﹁はぁーあ、お前は俺とお話しにきたのか? ここはナンパすると
ころじゃないんだけど。おっと武器をありがとう﹂
卯月が投げつけてきた2本のナイフを俺が軽々と受け止める。ナイ
フを鑑識で調べたが特に何も特徴のないオーガ鋼のナイフだった。
俺がナイフを見てる間に何10本も飛んでくるが受け止めてアイテ
ムボックスに入れていく。
﹁オッサンはナイフ職人の割にはヘタクソなナイフだな。こんなに
使い勝手の悪いナイフはそんなにたくさんいらないんだけどな。ナ
ンパ失敗して今度はプレゼント攻撃ですか?﹂
﹁クソがきゃ、死ね! ガフッ・・・ううぅ、がぁ﹂
卯月が超スピードで後ろに回り込んでナイフを俺の後頭部に突き刺
さる瞬間、俺は体を左に少し傾けてナイフをかわし、卯月の右手首
を左手で掴んでスキだらけのボディーに右の掌底を軽く叩き込むと
卯月が腹を抱えてしゃがみこみそのまま悶え始めた。
﹁オッサンのリクエストを叶えてあげた。今の掌低でオッサンの大
腸と小腸に衝撃波を叩き込んだから、オッサンの腸は強烈な運動を
引き起こしてるだろう。・・・では、カウントを始めようか。5・
4・3・2・1・0・・・男として終わったな﹂
1085
強烈な音と共に臭気が漂い始めて・・・ウンコマン3号の誕生だっ
た。
俺は鼻をつまみながら卯月に近づいていく。
目の前で屈んでいる卯月にしか聞こえない小さな声で話しかける。
﹁ゴッデスとアマテラスに頼まれてオッサンを殺すために俺はトー
ナメントに参加してるんだ。調子に乗って好き勝手した罰だ。魂ご
と消滅しろ﹂
﹁クソッタレ。どいつもコイツも神ってやつは好き勝手なことばか
りして・・・﹂
﹁全ての神が自分勝手でワガママでクソみたいなのは全くの同意見
なんだが、快楽殺人者で転生者を殺しまくったオッサンにそれを言
う資格は欠片も存在しないな。それにクソッタレはオッサンだ。屈
辱を感じることはない。死んで詫びろ・・・いや、違うな。﹃消滅﹄
して詫びろ﹂
うずくまるオッサンの頭部を俺がサッカーボールキックで消滅させ
て1回戦の第1試合は終了した。
1086
任侠ギルドの決勝トーナメントでの壮絶な戦いっす・・・暇つぶ
しですることがなくて大変だったんだ。︵前書き︶
8・14修正しました。
1087
任侠ギルドの決勝トーナメントでの壮絶な戦いっす・・・暇つぶ
しですることがなくて大変だったんだ。
試合終了の声が掛かる前の一瞬を利用して、たった今俺が殺害した
卯月要市朗のステータスカードとアイテムボックスの中身を抜き取
って、本当のトドメの1撃となる瓦割りのような上から下に叩きつ
ける軽いジャブを卯月の死体の背中にポンと叩き込んで魂を消滅さ
せる。
俺がアマテラスとゴッデスに頼まれた仕事の半分はこれで終わった。
魂が消滅した卯月要市朗の死体を闘技場の試合会場に放置して控え
室に帰る。
控え室の大部屋に俺が帰ってきたときに、優勝の本命だったAラン
ク冒険者の卯月を全くの無傷で返り血も浴びずに戻ってきたのでど
よめきがおこる。
参加者の何人かが俺に話しかけてきたり挑発してきたりするが、す
べての雑音を一切を無視してイスに座る。
控え室の備え付けテーブルの上にある食事やドリンクには手をつけ
ずに、アイテムボックスからつまみの芋の3種盛りを取り出してポ
リポリ食べて、アイスコーヒーを取り出してグビグビ飲む。
別にコソコソ隠れて行動するつもりもないのだけど、コイツラに気
を使う気もないので控え室では自由気ままに過ごすことにした。話
かけすらしない。
俺が戻ってきてから5分後には1回戦の第2試合に勝利したサトシ
が戻ってきた。
任侠ギルド決勝トーナメントの試合後には料金を支払えば治療して
もらえるみたいなので、サトシは治療も済ませてきたみたいだ。1
戦勝利するごとに賞金が小額入るので、それが治療費になる。
1088
俺はどうせ優勝するので優勝賞金と一緒に最後に貰うことにしてあ
る。
サトシは試合が始まる前よりも明らかに傷が減ってるな。予選でで
きた傷が全部消えていた。
2回戦の第1試合で俺が呼び出されるまでに2時間近くかかった。
呼び出されたので闘技場に行って決勝トーナメント第2回戦がスタ
ートした。
サトシは双剣のショートソードを2本腰と背中から抜いて構えてる。
サトシはバカ親とバカ弟とは違って格闘のセンスがあるとアマテラ
スから聞いてはいるが、構えを見る分には我流だが・・・意外とサ
マになってるな。
サトシの動きを観察していたが・・・俺の動きを警戒してサトシが
近寄ってこないので俺から歩いて近寄っていく。
無造作に近寄る俺の姿を見て後ずさってうめきながらサトシが小さ
な声をだしたので俺も小さな声で会話を始める。
﹁ぐぅ・・・これはこれは。強いだろうとは思ったが・・・ここま
でとは﹂
﹁﹃サトシ・シーズ・ユマキ﹄さん、アマテラス様から御神託を受
けましてこのトーナメントに参加しました早乙女真一です﹂
﹁・・・なぜ、その名前を﹂
﹁説明は俺が優勝してからにしますよ。殺さずに手加減してあげま
すからサトシさんは明日の朝までお休みくださいね。明日の朝にで
も任侠ギルドでお話しましょう﹂
﹁くっ、・・・うがっ﹂
サトシは俺が話が終わった後に超スピードで突っ込んできたのを目
ではまったく追いきれずに、本能で感じた危険に対して左右の手に
持つ剣を反射的に使って薙ぎ払ってきた。
1089
俺は難なく屈んでかわしてからサトシの顎先にショートアッパーを
放って意識を刈り取り、崩れ落ちたところで俺にとっては試合終了。
観客から歓声があがるヒマすら与えずにタンカを呼んで試合を終了
させる。
1回戦と2回戦は俺にとってはアマテラスに依頼された仕事だ。
こんな場所での人気なんて本気でどうでもいいと思ってるし、観客
に媚びを売るつもりも微塵もなかったので魅せるなんてことは考え
てない。
腰に帯剣した﹃天乃村正﹄すら抜かずに・・・ちょっと違うな。
鯉口を切ることすらなく2勝した。
そのまま歩いてまた控え室に戻る。これでベスト8なんだけど感動
も何もないな。
次の準々決勝で俺が呼ばれたのは俺が控え室に戻ってから1時間後
だった。
控え室に戻ってきたヤツらの中に俺を笑った連中はいなかった。ウ
ンコマン増産の手間が省けたな。
準々決勝で俺が対戦した相手は狼獣人の身長2mを軽く越してる大
剣使いだった。
俺がアイリに作ってあげた大剣のように使用者にだけ﹃重量軽減﹄
の魔法が封入されているんだろう。
刀身だけで俺の身長の170cmぐらいある巨大な大剣で重量は4
0kg以上はありそうなんだが、軽々と振り回して俺に切りかかっ
てくる。
周囲の空気すら切り刻むような暴風を伴って大剣が前から突かれ、
上下左右から切りかかられて襲い掛かってくるが、巻き起こる風す
ら全てを悠々とかわしていく。
流石に5分以上続いた敵の猛攻を傷ひとつ負うことなくかわし続け、
1090
体勢すら崩すことない俺の剣客独特の防御にスタンドやVIP席か
ら歓声があがる。
呼吸を整えるために敵が1歩引いて俺に声をかけてくる。
﹁ハァハァ・・・坊主、そのまま避け続けるだけではワシには勝て
ないぞ?﹂
﹁それじゃあお言葉に甘えさせていただきます。これからは俺から
も攻撃させていただきますね﹂
左右に足を大きく広げて腰を沈めて立ち、左手で腰の天乃村正の鞘
を握り鯉口を切って右手をカタナの柄に添えて居合い斬りの姿勢と
なった。
7mほど離れた場所から石畳の上をすり足でジワジワ近づく俺の剣
客の完成された動きに狼獣人が感嘆の声をあげる。
﹁ぐぅ・・・凄まじいな。その若さでこれほどまで完成された動き。
300年以上もの時間を戦いの中で生きてきたワシが味わったこと
がないプレッシャーだ。坊主がアマテラス様の神託の相手かな。あ
りがたい﹂
﹁・・・アマテラス様の神託だって?﹂
さおとめ
﹁ああ、ワシがアマテラス様に日々願っていたのよ。ワシの鍛え上
げてきた全てを賭けて戦える相手がほしいと﹂
しんいち
﹁そういうことならまずは俺の名前から名乗らないとな。﹃早乙女・
真一﹄だ。悪いが今まで聞いてなかったオッサンの名前から聞こう
か﹂
﹁ふっ、ワシに今まで興味すらなかったか。ワシはヴァンパイアと
狼獣人とのハーフで名前は﹃マナガルム・ブラム・アバルニア﹄だ﹂
﹁真祖ヴァンパイア一族アバルニア伯爵家で狼獣人のハーフだって
? ブラムの名前を持ってるということは・・・あの変態女科学者
の真祖様が魔力を持ってる獣人を生み出すとはな﹂
1091
俺の持つコピーされた知識の中にあるイーデスハリスの世界の南の
大陸に生きる﹃ヴァンパイア﹄。そのヴァンパイアの中にいる頂点
で不老不死の究極の生命体﹃真祖﹄が当主を勤める﹃アバルニア伯
爵家﹄。
アバルニア伯爵家は初代の女性﹃ミラッシュ・ブラム・アバルニア﹄
が当主をしている。
不老不死だが退治はできる。
るびの達の聖獣にちかい生命体だ。退治されても復活の場所となる
自国領地のお城にある地下室に地脈や周囲の生命体の魔力を吸収し
て復活する。
るびの達と違って早く復活できるように準備を怠らずに用意してあ
るので、1年ほどで復活するところが自分たちで﹃究極生命体﹄と
呼んでるだけある。
﹁変態女科学者・・・坊主はワシの母であるミラッシュ様の事を知
ってるのか?﹂
﹁俺は知ってるけど、向こうは俺のことを知らない・・・﹃知識﹄
として知ってるだけですよ﹂
﹁知識として・・・か。変なことを言う坊主だな。まぁ今はそんな
些細なことよりも、ワシの鍛え上げてきた技術の全てを受け止めて
もらおうか﹂
その言葉を合図にマナガルムは右手に握る大剣を肩に担ぎ、左手の
ミスリル製の腕輪を光らせてファイヤージャベリンを3本一気に放
ってきた。
俺は腰の天乃村正を抜き放って居合い斬りを1閃させて3本の魔法
を消滅させた。
また瞬時に天乃村正は腰の鞘に戻っていく。
俺以外にはカタナを視認することすら出来ない居合いの速度だ。
休む間もなく俺も真下の地面から突き出る10本の﹃地槍﹄を後ろ
1092
にバックステップして避け、またも居合いで1閃して地魔法の槍を
消滅させる。
今度は天乃村正を鞘に戻さずに下段に構えて、今までは居合いのた
めにスタンスを広げて落としていた腰を上げスタンスは肩幅にまで
戻す。
そしてマナガルムの全ての攻撃を出し切らせるためにカタナの峰を
返した。
﹁素晴らしいな。では・・・これより本気のマナガルム・ブラム・
アバルニア参る!﹂
マナガルムの吼え声のような掛け声の後の攻撃がまさしく押し寄せ
る津波。
怒涛のような猛攻だった。
大剣の攻撃の合間に魔法が飛んできて、掻き消された範囲魔法の上
から大剣の攻撃が降り注ぐ。
避けられる攻撃は避けて避けられない攻撃は受け流し、または打ち
消していく。
10分ちかい猛攻の最後に今までで最高のスピードで同時魔法と大
剣の攻撃を避けて凌いだ後に、返したカタナの峰でマナガルムの胴
を峰打ち。
腹を峰打ちされてうずくまったので20分も続いた試合に終止符を
うった。
膝を付いてうずくまるマナガルムが崩れ落ちながら力を振り絞って
声を出してくる。
﹁グググ、完敗だな。ワシの生涯最高の攻撃を軽くかわして、それ
以上の速度の攻撃か・・・お見事﹂
﹁あと1時間は寝てるから。じゃあ、トーナメントが終わったら任
侠ギルドで会って話をしよう﹂
1093
マナガルムは直感で﹃もう少し話がしたい﹄と思ったので生かして
おくことにした。
また任侠ギルドの人間にタンカを要求して試合を終わらせてから控
え室に戻る。
流石に3試合を経過して俺は傷一つ負わないし攻撃も数えるほどし
かしてないので、闘技場のスタジアムから歓声が上がってる。
俺に金を賭けた人間も多少はいるのだろうし。
俺が無傷で勝ち残ってるというのは1回戦から賭けた場合の倍率7.
4倍で大金を賭けてる人達には嬉しくてたまらないのだろう。
それから準決勝までは1時間以上待たされた。
ベスト4からは賞金が付くのだがベスト8までは参加賞と僅かな勝
利者手当てしかつかないので予選落ちとほとんど変わらないから・・
・俺以外の全員が死力を尽して戦っているんだろう。
控え室にいて待機している俺に2度、麻痺薬付きの吹き矢で攻撃さ
れたが・・・吹き矢で飛ばされた針が俺の皮膚に全く刺さりもせず
にポトリと落ちていく様子に勝手に驚愕して恐怖している。
ゾリオン村で捕獲した護衛隊の副隊長みたいなヤツらがいる。
1人は次の準決勝の相手だった。
準決勝は今までとパターンを変えた。
﹃試合開始!﹄
の声と共に大きく踏み込んで敵との距離を一瞬で詰めるとボディー
に抜き手を突きこんだ。
背中から俺の右手が突き出てくる。
敵が抜こうとしていたロングソードも防具も胸骨も背骨も、全てを
突き抜けて俺の手刀が突き抜けている。
腕を突き刺したまま、驚愕で目を見開き死に行く敵に語りかける。
﹁クソバカが。吹き矢なんて腐った真似をしなけりゃ、生きてここ
1094
から出られたのにな。バイバイ﹂
敵が﹃ゴバァ﹄と口から血を吐き出した頃には俺は突き抜けた腕を
引き抜いて、腕にいつもの3点セット魔法で浄化してから離れてい
るので、俺の防具にすら血のあともない。
ぐしゃっと崩れ落ちた敵の亡骸からアイテムボックスに入ってる全
てのアイテムを俺のアイテムボックスに移動させて、ステータスカ
ードを抜き取る。
卯月もコイツもどうせ普段こんなことばかりしているような連中だ。
﹃賞金首﹄などで国から指名手配されたヤツだろう。
冒険者ギルドにステータスカードを持って行けば退治した賞金にな
るだろうしな。
またも俺が無傷で戻ると流石に残っていた2人も俺の不気味なまで
の圧倒的な存在感に気付いたみたいだ。4戦して防具に傷一つ残っ
てないのだ。
俺に吹き矢を飛ばした男が呼ばれて出て行くときに静かに睨んでき
て俺の隣の誰もいないイスに躓いて転びそうになっていた。
控え室に1人なった俺はアイテムボックスから玄米茶とおはぎと安
倍川モチを取り出して深夜のデザートタイムだな。
控え室に吹き矢男の落としまくった呪い付きの小石を全て拾ってお
く。
俺には魔法の精神攻撃も呪い系統のアイテムも一切効かないので、
馬鹿には説教という名前の﹃オ・シ・オ・キ﹄をしてあげないとな。
吹き矢馬鹿が定位置のイスの目の前に全部の小石と吹き矢を並べて
おいた。
帰ってきてからどういう反応をするのか確認してみる。
吹き矢馬鹿は目の前のテーブルに置かれた石と吹き矢を見て、一瞬
だけ目を見開き決勝戦のために呼びにきた任侠ギルドの係員が来た
1095
ときにチクってる。
﹁このクソガキが俺の目の前にこんなにたくさんの呪い付きのアイ
テムを置いている。こいつは失格にしてくれ﹂
﹁・・・﹂
俺は係員を見てるだけだ。係員は無表情で面倒臭そうに軽く返事を
する。
﹁私は﹃鑑定﹄の魔法が使えるんで、バレバレのウソは言わないほ
うが良い。それにここはマヅゲーラの裏社会を束ねる任侠ギルドの
トップを決めるトーナメントなんだ。この程度のアイテムに引っか
かるヤツはお守りが面倒なんで帰って欲しいぐらいだな﹂
﹁貴様! 俺がコイツに勝ったらお前はイビリ殺してやる﹂
﹁出来ないことは言わないほうが良い。俺程度でもここの幹部なん
だ。それに﹃鑑定﹄の魔法って知ってるか? あまりにレベル差が
あると名前以外を見ることが出来なくなる。俺にはこのアイテムが
お前の持ち物だって所有者の名前欄に書いてあるのが見える。それ
にガイアンって名前のお前の得意技も犯罪履歴も何もかもが見える。
だがこちらの早乙女さんは名前しか読めない。ガイアン、貴様も鑑
定の魔法が使えるんだろうが・・・年齢すら読めないんだ・・・そ
の意味を考えろ﹂
﹁フフン・・・思わず鼻で笑ってしまったな。オシオキどころか説
教で死んじゃいそうだな﹂
﹁ガキが!﹂
﹁おっと、せっかくの決勝戦なんだ観客の前でみっともなく無様を
さらして、お前の体を張ったギャグで入場料分ぐらいは笑わせて観
客を楽しませてあげないとな﹂
殴りかかってきた馬鹿を軽々と避けて、係員が歩いていくのに俺は
後をついていく。
前を歩く係員に話しかけてみた。
1096
﹁おいおい、何であの程度のカスが決勝戦の相手なんだ?﹂
﹁まったくもって申し訳ございませんとしか言いようがないです。
ガイアンはクジ運が物凄く良かったみたいで、死力を尽して戦った
相手としか戦ってません。予選も本命のギルド幹部と2人のCラン
ク冒険者の三つ巴の死闘の後のラッキーで潜り抜けました。でも・・
・私に言わせると﹃決勝で早乙女さんにバカやらかした後で対戦す
ることになったことが運の尽きで最大の悲劇﹄としか言えないので
すが﹂
﹁わっはっは。確かにな。そう考えると運がいいとは言えないな。
俺にちょっかいをかけなければ生きて帰れたのにな﹂
﹁ではボス、ここで待ってます。この後は勝者はこのギルドを自由
に出来る権利が発して、それの宣言がありますので考えておいて下
さい﹂
﹁ああ、わかった﹂
もはやギルド職員も俺の勝利を疑ってないみたいだな。
吹き矢バカの連戦で少しムカついていた俺はバカと遊ぶことにした。
馬鹿は鎖鎌を使っている。そこそこぐらいの腕だろう。
レベルの高いチームに入ればCランクぐらいにはなれそうな腕ぐら
い。
俺は終始ニヤニヤと薄く笑いながら、バカの攻撃を避ける。呪い付
きののアイテムをいくつかと罠も使ってくるが全く効果ないのに遊
んで乗っかったりした。
バシンと音が鳴って地面の魔方陣がはじけ飛ぶ。
﹁ハッハッハ、お前が今通った場所は隷属の罠を仕掛けたところだ﹂
﹁ぐああぁあ、なんだとくそっ、貴様、はかったな!︵棒読み﹂
﹁フッフッフ、まずは俺に土下座しろ!﹂
﹁イヤに決まってるじゃん。ゴミが油断するなよ﹂
そういって油断してるバカにデコピンしてあげた。
1097
手加減を誤った。
ちょっとダメージが多かったみたいで失神してしまったので、覚醒
用のショック魔法を使って強制的に目覚めさせてやる。
もちろん演技は続行中だ。
﹁はっ! あれ? ・・・まだ罠に掛かってるな。ほら早く土下座
しろ。これは隷属の手枷だ﹂
﹁ぐああ、二つも・・・くそぅ︵もっと棒読み﹂
﹁そのまま死ねぇ﹂
蹲る俺に鎖鎌の鎌で斬りかかるガイアン。蹲ったままガイアンの攻
撃を全て避ける。
﹁し、死んでたまるかぁ!︵もはやバレバレの棒読み﹂
﹁なぜだ! なぜ当たらない!﹂
﹁なぜって? もちろん効いてないからだな﹂
すくっと立ち上がるとデコピンして始末した。今まで爆笑していた
観客も飽きてきていたみたいだし。
・・・ガイアンは今後語り継がれるであろう。
ラッキーだけで勝ち残って決勝まで這い上がり、デコピン2発で死
んだ男として・・・。
1098
メチャクチャ儲かったっす。
任侠ギルド主催のギルドマスターを決める決勝トーナメントが俺の
優勝で予定通りに終わったので控え室に戻る。
戻ってきた控え室のイスに座っている俺の隣に立っていて、何度も
俺を案内してくれた任侠ギルドの案内係だった幹部とそのまま話す。
俺の今日の予定は午前10時に早乙女商会のヨークル事務所でもふ
もふ天国の出入りの商人の選別と契約をしなければいけない。
﹁任侠ギルド決勝トーナメントの優勝の宣言の前に少し時間が欲し
い﹂
﹁出来ればボスには今日の昼の12時までに宣言をしてほしいので
それまでにお願いします﹂
﹁了解。ただそろそろ眠りたいってことと、話をしたい人間が何人
かいるぐらいなんで、予定ではそこまで時間はかからないよ。それ
で賞金と賭けの配当金ってどこで受け取れば良いんだ?﹂
﹁任侠ギルド本部で出来ます。今から移動しますか?﹂
﹁移動するけど・・・もしかして今後は一緒に行動しなければいけ
ないとか?﹂
﹁ボスを拘束するつもりはございません。今からはボスは自由な時
間になります。昼の12時までに任侠ギルドにきてもらえるだけで
大丈夫です﹂
﹁いや、金額が多いので何種類かのカードに入金したいから早めに
受け取りたい。だから今から任侠ギルド本部に行くよ・・・俺がギ
ルドマスターになったんだからギルドマスター室って俺専用の部屋
になるんだよね?﹂
﹁任侠ギルド本部の建物の中にあるボス専用の部屋は3つです。応
1099
接室・執務室・宿直室の専用の部屋になります﹂
﹁じゃあ、今からそこに移動しよう。移動しながら君の名前や任侠
ギルドの仕事内容などを教えてくれ﹂
﹁わかりました。そういえば自己紹介をまだしてませんでした。自
分の名前は﹃ガスタード・ウェイド﹄といいます。今後はガスと呼
んでください。今日からボス専属の秘書となりました。では今から
ボスをギルドマスター室にご案内します﹂
﹁俺専属の秘書のガスか、了解。では付いていくから案内してくれ﹂
﹁任侠ギルド本部までの移動中は気をつけてください。試合が終わ
って油断した隙を狙ってくるヤツらもいますので﹂
﹁ほいよ﹂
俺は控え室のシートから立ち上がって任侠ギルド本部へガスに案内
してもらい歩いて移動。
任侠ギルド本部に到着してから、まずは賞金と賭けの配当金を受け
取ることにした。
俺専用になった3部屋の応接室に行って応接室で受け取ることにし
た。
トーナメント優勝賞金が1億G。トーナメント勝利者配当金が1試
合100万Gで合計500万G。
賭けの払い戻しの配当金が税抜きされて47億3600万G。
全ての合計金額が48億4100万G・・・50億近い金額なので
凄まじい金額になってる。
まずは今、貰ったばかりの任侠ギルドのギルドマスターカードに1
億4100万Gを入金してもらう。
商業ギルドの早乙女商会のカードと冒険者ギルドのチーム早乙女遊
撃隊にそれぞれ5億Gを入金して残りの金は俺のステータスカード
に入れた。
それから俺1人で執務室に行ってアイテムボックスから徒影1∼5
1100
号を取り出して俺の直属の部隊として登録の前に・・・徒影の姿の
最終確認。
見た目が全く一緒でネームプレートカードを取り付ける予定の念輪
機能付きの首輪の色を変えてあるだけなので少し・・・いや、そう
とうわかり辛いかもな。
だけど身長190cm以上の全身茶色の目が赤く光る人型トカゲの
威圧感は尋常じゃないな。
製作した本人の俺が少し怖いと思うレベル。
服がないから怖さ倍増か?
見た目だけで女子供が泣くレベルかもって事で服を作ることにした。
この姿のままだとマヅゲーラの街を歩き回ることができなくなりそ
うだ。
かみしも
怖さを和らげるためと任侠ギルドってことで徒影の衣装は龍布で﹃
裃﹄を作ってみた。
小袖の色は濃紺、肩衣と袴はグレーに見える小紋のオーソドックス
なタイプだ。胸・背中側の腰・小袖の袖の紋の部分に名前の号数を
書いておいたので名前も一目瞭然でわかりやすくなっただろう。
動きやすさを邪魔させないために袖と袴の裾は短め。
白い足袋に雪駄で雪駄の裏にはサイラスの革を使った。腰には右腰
には白い扇子・左の腰には小脇差を作ってやる。
イメチェン大成功だな。怖さがなくなって精悍さが倍増した。
徒影が完成したので秘書のガスが待っている応接室に戻って徒影1
∼5号を登録してもらう。
俺が自分で製作したゴーレムと説明するとガスは驚愕していた。
戦闘能力も高いので今のところは俺が不在時のギルドマスター代行
として5体とも登録しておく。
俺の仕事を説明されるが・・・任侠ギルドのギルドマスターの仕事
1101
内容なんて何もない。
契約しているカジノや風俗店舗などに暴力事件が起きると駆けつけ
る﹃用心棒﹄たちは任侠ギルドの支部で待機してるし、店舗と中で
働く職員との内部トラブルに駆けつける﹃相談員﹄達も本部にも支
部にも待機している。
支部の場所は支部長の独断で不定期で変更するし、場所が増えたり
減ったりしていてガスにも把握できてない。
契約店舗におかれてる会計用の魔水晶には任侠ギルド本部と各支部
を簡易通信機で繋いでいるので、即座の対応が可能になってる。
ギルドマスターの仕事と言ったら・・・売られたケンカを買うこと
ぐらいですねと、ガスに言われてしまった。今後はここにはほとん
どいない俺にはありがたいけど。
任侠ギルドマスターになると契約してる宿屋の宿泊料金が任侠ギル
ド持ちになると説明を受けた。
その代わり宿屋で起きたトラブルの時は真っ先に駆けつけないとい
けなくなる。
何もしなくても日給で5万Gの給料がもらえるらしいんだけど・・・
そもそも任侠ギルドは非合法組織なので任侠ギルドカードが使用で
きるのが、このマヅゲーラの街だけっていう・・・驚愕の事実まで
知ってしまった。
おいおい、このままだと1億G以上も入金したけど使い道がないじ
ゃないか・・・まぁ総資産が50億を既に超えたからいいんだけれ
ど・・・何かこの街に今後は夜の商売だけじゃなくて、首都シーパ
ラと都市ヨークルの中継地点として、この街の特性を生かした産業
を考える必要が出てくるかもな・・・俺の仕事じゃないが。
ギルドマスターの特別会計予算が年間1億Gほどあるので、この金
額で直属の部下を雇ったりできるとガスに説明された。
今後のことをガスの説明を聞きながら考えてるとギルドマスター室
1102
に来客があったことをガスが告げたので、俺が今いる応接室に入れ
させる。
トーナメント準々決勝で対決したマナガルム・ブラム・アバルニア
が部屋に入ってきた。
﹁俺はマナガルムと話があるからガスは席を外してくれるか?﹂
﹁了解しました﹂
ガスが部屋を出て行ってからマナガルムをソファーに座らせて話し
始める。
﹁それで坊主がトーナメントの試合中に言ってたワシに話がしたい
ことって・・・その前に、あちらの壁に並んでいるあれらは何なん
だ?﹂
﹁アレは俺が作ったゴーレムで﹃徒影﹄1∼5号だな。俺直属の部
隊で今後はこの街の俺の仕事﹃任侠ギルドマスター﹄の手足となっ
て働いてもらう﹂
﹁坊主が作ったゴーレムか。凄い威圧感と存在感だ。そうとう強そ
うだな﹂
﹁実際に強いよ。今日のトーナメントに出ていたレベルぐらいなら、
俺を除いてマナガルムも含めた31人全員を1度に相手しても1分
かからずに殲滅できるよ﹂
﹁それは凄まじいな。して、ワシに話というのは・・・﹂
﹁単刀直入に言うと任侠ギルドの﹃サブマスター﹄として﹃スカウ
ト﹄だよ﹂
﹁ワシが任侠ギルドのサブマスター?﹂
﹁ああ。俺はこの街に住むつもりは全くない﹃旅人﹄なんだ。今回
のトーナメント参加もアマテラス様の神託があったから参加しただ
けで、神託がなければ参加する気もなかったよ﹂
俺はアマテラス様の神託があったことをマナガルムに詳しく説明し
た。
1103
俺が受けた神託は2つ。
1回戦で戦った卯月要市朗の抹殺と2回戦で戦ったサトシ・バーミ
リオンの確保。
どこの商会の人間だとかまでは説明しなかったが、俺が都市ヨーク
ルで決闘を使って合法的に殺害した商会の跡継ぎと正当防衛で殺し
た当主、その当主から勘当されていた息子のサトシを確保した理由
も話した。
それでマナガルムがここのマヅゲーラの街に流れ着いた話を聞くこ
とにした。
俺がアマテラスから受けた神託まで詳しく説明したのでマナガルム
も自身の生い立ちから簡単にだけど話してくれた。
マナガルムは魔族が覇権を争う南の大陸の中で伯爵家を自称して千
年以上生き、神に近い究極の生命体の一つ真祖ヴァンパイアの﹃ミ
ラッシュ・ブラム・アバルニア﹄の実験体として今から385年前
に生まれた。
1000人以上いる様々な種族の兄弟たちと共に育って鍛え上げら
れてきた。
魔力と生命力に秀でて20年以上も続く過酷な訓練に耐えた者たち
だけが﹃ブラム﹄のミドルネームを名乗ることを許してもらえる。
ミドルネームがもらえると世界を旅する自由と金が与えられて世界
を旅することが出来るようになった。
大陸を渡り他国で良い冒険者チームに入ってAクラスの冒険者とな
ったが自分以外は全員が冒険者を引退してしまい、その後はイーデ
スハリスの世界を巡ってきたが10年ほど前から心が躍るような戦
いが出来なくなった。
満足できる戦いを求めて何度も教会でアマテラス様に祈っていた。
新天地を求めてシーパラ連合国に来た3日ほど前に、教会でアマテ
1104
ラス様に祈っていた時にマヅゲーラの街に行けば望みが叶うと神託
が降りてきたので、早速やってきたらちょうど港に卯月要市朗が来
ていた。
卯月の持つただならぬ妖気に自分もトーナメントに参加することに。
﹁マナガルムさんに聞きたいんだけど、そろそろここらで腰を落ち
着かせる気はないかな?﹂
﹁それはワシがこの街に来てトーナメントに参加することを決めた
ときに考えていた事だ。ワシは何も商売とかは出来ないし戦う事し
かしてこなかったから、これから年老いて能力が下がっていくワシ
に何ができるのかと﹂
﹁それならばサブマスターとしての定職につくのはどうだろうか?
俺がサブマスターとして求めるものは戦闘能力じゃないんだ。マ
ナガルムが持ってる1番優れた能力﹃カリスマ性﹄だよ﹂
﹁ワシのカリスマ性だって?﹂
﹁そう、マナガルムの持ってる最高の能力は人を惹きつける﹃魅力﹄
なんだ。それでマナガルムが持ってる戦闘能力と併せてカリスマを
最大限が生かす事が出来るのがこの任侠ギルドでのサブマスター職
だろう。マナガルムは人の良さがあって非情になりきれない部分が
多くてギルドマスターよりもサブの方が向いてると判断した﹂
﹁ふふふっ、ワシは非情になりきれないか・・・そういえば同じこ
とをミラッシュ様にいつも言われて怒られていた・・・懐かしいな﹂
﹁非情になれない・・・それだからこそ﹃サブマスター﹄には向い
てる。非情な部分は俺と徒影が受け持つからな。マナガルムにはう
ってつけな職場だろう。任侠ギルドの暴走を止めるストッパー役&
長年生きてきた経験を持つ﹃相談役﹄としてのサブマスターをマナ
ガルムに任せたい。契約金5000万Gの年棒3000万Gでどう
かな? 俺はこの街に住むつもりはないから、ギルドマスター室の
宿直室だけあればいいから・・・俺の替わりに宿屋に宿泊してても
いいよ﹂
﹁宿直室だけあればいいというのは?﹂
1105
﹁マナガルムをスカウトしたいから信用して話すけど・・・俺は転
移魔法が使える。だから転移先の宿直室さえたればいいから。これ
はここだけの秘密にしておいてくれ﹂
﹁秘密な、わかった。・・・それでこれはもう一つ聞きたいことな
んだが、ワシがここマヅゲーラに腰を落ち着かせる利点はあるのか
?﹂
﹁そうだなぁ・・・年棒3000万Gと高額な年棒の定職に就職す
る事と、徒影を相手に好きなだけ訓練が出来る事ぐらいかな﹂
﹁それは魅力的だな・・・うーーん・・・わかった。あって間もな
い坊主にそこまでワシのことを信用してもらって、ワシの実力以上
にかってくれるのならば期待に応えてみたくなる。任侠ギルドのサ
ブマスターをやってみるよ、坊主・・・いや、これからは坊主では
ダメだな。ボス、これからはよろしく頼む﹂
マナガルムが立ち上がって俺と握手をしてマナガルムのスカウトは
完了。
これで肩の荷が半分以上は降りた。
後は徒影とマナガルムでマヅゲーラの街を何とかしてもらおう。
事務所の方で待機していたガスを徒影に呼んできてもらって、マナ
ガルムと正式な契約を結ぶ為に契約書をガスに書いて貰って俺とマ
ナガルムがサインをしたことで正式に俺の部下となった。
俺がこれから出す宣言って言うのをガスに説明を詳しく聞くと・・・
俺にとって難問だった。
﹃自分が任侠ギルドマスターになってしたいことを文書に書いて宣
言する﹄
それだけでいいみたいなんだけど・・・任侠ギルドでしたいことな
んてねぇーし・・・これは困ったな。
俺の場合、この街に長居をするつもりがないし・・・さて、どうし
1106
たものだろうか。
﹁マナガルムはこの街で何かしたいことはある?﹂
﹁この街に着いたばかりなんでこの街のこと自体よく判らない。自
分自身でしたいことなら・・・嫁を見つけて﹃子供が欲しい﹄です
かね﹂
﹁それだと、この街って1番結婚から遠い街って感じがするんだけ
ど﹂
﹁嫁も子供も急いでるわけでもないので、その辺はノンビリ探しま
すよ。ワシの事以外となると・・・わかりませんな﹂
﹁俺もそうなんだよな。この街のことすらほとんど知らないのに。
とかげ
とりあえずガスに聞きたいのは﹃俺と勝負したいヤツは俺の作った
ゴーレム﹃徒影1∼5号を倒してから来い﹄っていうのは宣言とし
てはアリなのか?﹂
﹁宣言はそれにしますか?﹂
﹁・・・トーナメント優勝宣言ってそんなのでいいのか?﹂
﹁大丈夫です。そもそもこういう形でのギルドマスターの就任は初
めてのケース・・・というよりも、ギルドマスターの交代自体がボ
スで3人目ですし前例自体がないので。このギルドマスター就任の
宣言自体もトーナメント終了後の習慣として残ってるだけですので﹂
﹁俺が出す宣言は決定したな。それと・・・トーナメントの習慣っ
てことはトーナメントって頻繁にやってるのか?﹂
﹁トーナメント開催は平均すると年に1回ぐらいになってますけど、
これにも決まりがないんで不定期なんです﹂
﹁トーナメントは俺って絶対出ないといけないのかな?﹂
﹁それはボスが﹃代理出場OK﹄とルールを変更すれば可能になり
ます﹂
﹁宣言の2つ目が決定したな。1つ目は﹃トーナメントは代理出場
1107
OK﹄で俺の代理出場はゴーレム。トーナメント関係なしで﹃俺の
ゴーレムはいつでも勝負を受ける﹄この2つが決定だな・・・2つ
あれば充分じゃないか?﹂
﹁了解しました。では宣言は2つ正式文書として提出させていただ
きます﹂
﹁よろしく頼む。これで俺の用は終わったな。後はサブマスターと
徒影で決めてくれ。徒影は俺との通信できる機能があるので俺はそ
こから報告を受けるから﹂
﹁では任侠ギルドの新ギルドマスター宣言の文書が出来しだい徒影
さんに確認していただきます﹂
﹁頼む。それで俺と2回戦で対戦した﹃サトシ・バーミリオン﹄っ
て今はどこにいるんだ?﹂
﹁詳しくはわかりませんが気を失っていたようだったので闘技場の
治療室で安静にしてると思いますが・・・何か御用がありましたか
?﹂
﹁これはギルドには関係のない事で俺の個人的な用があるだけの話
だから俺から会いに行くよ。それじゃあ後は頼んだ﹂
そういって俺はギルドマスター室を後にする。サトシをユマキ商会
に連れ戻させないとな。
1108
サトシの説得とユマキ家の話っす。
任侠ギルド本部から外に出た瞬間から﹃隠者﹄スキルを使って闘技
場に向かって歩いていく。
マヅゲーラの街を歩いてるとヨークルや首都シーパラではなかった
不思議な感覚をおぼえる。
深夜3時をまわってるのに街の賑わいは衰えることなく街灯のよう
に明るく光っている。
流石は﹃夜の街マヅゲーラ﹄だな。
酔っ払いが道を奇声を上げながら徘徊して街娼が所々に立っている。
夕方に街を歩いた時にあれだけ道を賑わしていた売春婦達のほとん
どは姿を消しているがまだ残って客を探している人達もいる。
看板の魔石は光を放ってカジノや賭博場などの店の名前を浮かび上
がらせている。
ヨークルとはまったく違って深夜の暗闇と魔石の街灯の明かりが街
を活性化してる。
どこもかしこも猥褻なのになぜか情緒をどこかに感じてしまうとい
う不思議な街だ。
日本にも似たような街があるからこそ、俺にはこの街の猥雑な部分
にどこか情緒を感じてるだけかもしれないけど・・・
闘技場に到着して任侠ギルドカードを警備員に見せて中に入ってい
く。
この闘技場は任侠ギルド所有の施設なのでギルドの人間しか自由に
は出入りすることは出来ない。
俺は治療室にはトーナメント中は行くことがなかったので場所を警
備員に聞いて教えてもらおうとしたら案内用の地図を無言で渡され
1109
た。
闘技場内に入ってから探査魔法で施設内を探りとって俺の脳内のM
APに闘技場の場内も入力された。
治療室には15人ほどがベッドに寝ている。
トーナメントの試合でまったくの無傷だった俺を除いて、怪我の軽
い人はマナガルムとサトシだけ。
6人ほどは治療費を払って回復魔法で治療してもらって外に出てい
ってしまったので、既にここにはもういない。
今寝ている15人は治療費を払うことが出来ない10人と、ここに
いる人間では治すことができない重傷者が4人とただ寝てるだけの
サトシ。
10人の怪我人は治療費を払うために隷属の首輪を付けて、治療に
かかった費用に応じて奴隷期間は変化するが借金奴隷にさせられる。
4人の重傷者はここで治療することが出来ないのでトーナメント出
場の契約どおりに殺処分だ。
重傷患者4人の顔を見て俺が治療することにした。
先に隷属の首輪を付けさせてからメガヒール1人1回の計4回で治
療完了。
治療費は1人3000万Gの足元を見たボッタクリ価格にしておい
た。
この部屋にいた任侠ギルド職員に借金奴隷の契約書を作成させる。
衣食住は任侠ギルド持ちで年棒300万Gで10年の奴隷の借金返
済契約。
4人とも俺と卯月が話をしてる時に笑っていたウンコマン︵予定︶
だったので、殺処分より奴隷にした方が面白そうだったから治療し
ただけだったりする。
1110
俺は話がしたかったので隣の空き部屋を準備してもらっている間に、
サトシに気付けがわりに﹃ショック﹄﹃ヒール﹄の2つの魔法を同
時に叩き込んだ。
サトシが目を覚ましたので別の部屋へ連れて行く。
別室で封印をかけて外に声が漏れないようにしておいてから話しか
ける。
﹁サトシ・シーズ・ユマキさんですね。俺は早乙女真一。早乙女と
呼んでください。アマテラス様からの神託でサトシさんを勧誘にき
たんでウソは意味ないですよ﹂
﹁早乙女さん、アマテラス様の御神託とは・・・勧誘とはどういう
ことなんでしょうか?﹂
﹁今から順を追って説明します﹂
今までの経緯を説明する。
サトシの弟に俺が作ったゴーレム馬車の事でいちゃもんをつけられ
たので決闘を使って5人の親衛隊も一緒にまとめて殺害したこと。
サトシの弟のユマキ家の正式次期当主を殺害してやると、目の前で
大事な息子を殺された恨みでおかしくなったサトシの父親に切りつ
けられ﹃正当防衛﹄で父親を殺害したこと。
俺がユマキ商会の現在の代表と公式な跡継ぎを合法的に殺害したの
で、先代のサトシの祖父﹃マツオ・ユマキ﹄は自身の弟でユマキ商
会の執事をしている﹃ジュンロー・ユマキ﹄と手を組んで、騒動の
発端である本妻の心神喪失状態で心が弱っている隙を狙って、後を
追って自殺したように見せかけて密かに殺害したこと。
マツオは病死だと知らされていたサトシの母親を毒殺した黒幕が本
妻だとアマテラス様に聞いて、遺恨をなくすために本妻はただ追い
出すだけでなく自殺に見せかけた殺害に至ったこと。
全ての障害を取り除いてからマツオはユマキ家当主をサトシに譲り
渡すためにサトシを本気で探していること。
1111
その全てをアマテラス様から御神託で聞き俺がサトシを救うために、
このマヅゲーラの街に来たこと。
﹁とまぁ、俺が起こした騒動の尻拭いでサトシさんをユマキ商会に
引き渡しにきたんだ。マツオとジュンローの依頼が冒険者ギルドを
通してそろそろ俺に来るって前もってアマテラス様から御神託がき
た﹂
﹁前もってとはどういうことなんでしょうか?﹂
﹁今回俺がアマテラス様から受けた御神託は2つ。卯月要市朗の抹
殺とサトシさんの連れ戻し。俺がこのトーナメントに参加しないと
サトシさんは2回戦で卯月に殺されていただろう﹂
﹁俺だって早乙女さんには遅れをとったが腕には覚えがある。そう
簡単には殺されませんよ﹂
﹁両方共と直接戦った俺にはわかるけど、卯月にはサトシさんは絶
対に勝てないよ。卯月はあれでもAクラスの冒険者で高レベルの﹃
転生者﹄なんだ。サトシさんは逆立ちしたって敵わないし、どう抵
抗したところで卯月が喜ぶだけで最終的には殺害されるだろう・・・
卯月は﹃快楽殺人者﹄なんだ。途中でギブアップして逃げる事は絶
対にさせない。卯月は自分の趣味を満足させるためだけに合法的に
殺害して賞賛されるこのトーナメントの出場をしたんだ﹂
﹁転生者の快楽殺人者・・・確かにそれなら俺は生きてあの闘技場
は出て来れなかったな・・・﹂
﹁理解が早くて助かるよ。それでサトシさんが受けた勘当は既にマ
ツオとジュンローによって撤回されている。サトシさんが結婚する
ためにこのトーナメントに参加したってことは俺はアマテラス様に
聞いたので既に知ってる。サトシさんの子供を身篭った女性と一緒
にユマキ商会に戻るための障害は全て取り払われたから俺と一緒に
戻ってくれないかな? サトシさんがユマキ商会に戻れば俺のアマ
テラス様に頼まれた作業は完了するんだ﹂
1112
﹁・・・しかし、俺の愛した女は水商売の売春婦だからユマキ商会
の当主の嫁には相応しくないと追い出される可能性が・・・たとえ
お爺様といえども無理だろう。俺はあの女とこれからの人生を過ご
していくと決心したんだ﹂
﹁追い出される心配は全く必要ないよ。ユマキ商会先代代表のマツ
オの継母で育ての親であり、マツオの弟のジュンローの母親は元売
春婦だとアマテラス様に聞いてる。マツオもジュンローも元売春婦
に育てられた人間なんだから少しの抵抗も偏見ももってないよ﹂
﹁・・・え? お爺様を育てたのが元売春婦の女性だったのですか
?﹂
﹁ああ、アマテラス様がおっしゃっていたのだから間違いないよ。
マツオもジュンローもむしろ﹃世話になった自分たちが恩返しする
番だ!﹄ってぐらいにしか思わないだろうとのことだ。サトシさん
が他に問題だと思うことってある?﹂
﹁俺の妻になることを了承してくれた﹃ミサキ・アンデント﹄の説
得と、彼女の働く店の説得・・・いや、彼女を買い取るための資金
が必要なぐらいです﹂
﹁それは早く行ったほうが良いな。今からミサキさんが働いている
店に行こう。彼女を買い取る金が必要ならば、いくらでも俺が立て
替えておくよ﹂
﹁俺には早乙女さんに金を返すアテがまったくないから、借金を返
すことは出来ないのですが﹂
﹁サトシさんがユマキ家に戻ればすぐに戻るからそんな心配はいら
ないよ。さぁ、時間も時間だし早く済ませよう﹂
﹁わかった。済まない﹂
俺はこの部屋に掛けた封印魔法を解除して部屋の外に出て行くと任
侠ギルドの職員が作成した1人3枚ずつのサイン入りの奴隷契約書
を持ってきた。
1113
契約書の中身を全て読んでから俺のサインを入れて4人の借金奴隷
契約が完了する。
奴隷の事は職員に任せて4枚の契約書を貰ってアイテムボックスに
入れてからサトシの案内で一緒にミサキの働く店に行く。
今度は気配を消して行く事が出来ないので腰に天乃村正を帯剣する。
店に行く途中で1人のオッサンが俺とサトシの前に立ちふさがった。
﹁良い所であったなクソガキ、任侠ギルドのトーナメントはお前が
優勝したんだってな。クジ運が良くて命拾いしたな。俺がお前を殺
してギルドのトップにさせてもらう。決闘だ!﹂
﹁決闘? 了解だ。サトシは決闘立会人を頼む。時間がもったいし
面倒だからお前の後ろにいるお仲間の8人も一緒にかかってきてく
れないかな? 9対1程度じゃあハンデにもならないけど、運が悪
かったと思って諦めな﹂
﹁クソガキのクセに調子に乗りやがって! ゴパァ﹂
時間がもったいないので、決闘を宣言した叫んでるオッサンの腹に
フルプレートアーマーの上から掌低を叩き込んだ。
卯月にも使った俺の新必殺技・・・名付けて﹃ウンコマン製造掌﹄
殺さないが社会的なプライドを抹殺する技だな。
9人のウンコマンを作るのに1分もかからなかった。
全員のアイテムボックスから全てのアイテムを奪い防具と武器も取
り上げ身包みを剥いでいく。
ウンコまみれのアンダーパンツと治療費を払った後だからなんだろ
う、ほとんど持っていない所持金だけ残してやった。
防具は全部皮膚を傷つけることなく天乃村正で斬って剥ぎ取る。
この9人の中の6人は治療費を払ったトーナメント出場者で俺を笑
ったウンコマン︵予定︶の人間だったので少しのためらいもない。
1114
レベル差も判らないウンコマン9人も闘気を開放して少し殺気を叩
きつけながら身包みを剥いでいく俺の姿に言葉も出ないようになっ
た。
俺がカタナで防具を斬る腕を目の当たりにしたからだろう。
これだけでは済ませるつもりもなくウンコマン9人衆︵9人臭?︶
を脅しておく。
﹁9人でかかってきてここまで手加減されても判らないバカなお前
らには理解するのは時間がかかりそうだから言葉じゃなくて体に叩
き込んでおくけど、お前らウンコマンと俺には絶望的なまでの差が
広がっていることは少しは理解できたかな?﹂
腹を抱えて蹲りながらガクガクと首を上下させる9人。
﹁文句があるなら今度は任侠ギルドの本部で待ってるからな?﹂
1人ずつに確認しながら叩きつけるような殺気だけで失神させてい
って今回の決闘を終了させた。
碌なアイテムや装備品を持っていなかったがどこで拾ったのか不明
だが質も良くて大きめの魔結晶を10個も所有していたのと、ウン
コマン予定者だったから公衆の面前で辱めてやりたかったので、決
闘を受けただけだったりする。
全員のアイテムボックスに自身が装備していた頭部の兜を天乃村正
で真っ二つに切ったものだけを入れて残しておく。
兜には売却したり捨てたりできないように呪いを掛けておいた。
一生忘れることが出来ない俺からの﹃置き土産﹄だ。
俺が施した今回の呪いは強烈な呪いなので大金を払って教会で祈っ
てもアマテラスの神力では呪いを浄化することは出来ない。
浄化することが出来るのは俺とゴッデスのみだ。
周囲の観客とウンコマン9人衆をこのまま残して俺とサトシは移動
をする。
1115
サトシの恋人のミサキ・アンデントが働いている売春宿に到着して、
彼女を説得し終わったのは深夜というよりももはや早朝の4時をま
わっていた。
店に入って挨拶をして店長に話を通してから、今日の仕事を終えて
仮眠していたミサキを呼び出してもらう。
ミサキを鑑識の人物鑑定を使って深層心理まで鑑定したが不審な点
はなかったので、安心して説得を開始する。
サトシがシーズの人間だと聞いてビックリしてユマキ家の嫁入りを
頑なに拒んでいたが、先代のマツオとジュンローの生い立ちとサト
シの家庭環境を聞いて態度を軟化させて、最後はやはりサトシに惚
れた弱みもあったし子供も生みたかったのだろう・・・OKしてく
れた。
ミサキは25歳のサトシよりも5歳年上の30歳。
子供を安全に生めることに対してやはり心の奥底で﹃安心﹄を求め
ていたのも影響しているかも。
危険の多い冒険者や任侠ギルドの人間ではなく今後はユマキ家の商
人になるというサトシに少しホッとした笑顔を見せた。
後は店とのミサキを払い下げる為の交渉なんだけど・・・今、俺の
隣に座っている店長は店のオーナーでもあったので交渉はスムーズ
だった。
ミサキは店に借金が既に残っていない状態だったのでミサキを買い
取る必要はなく、逆に結婚の祝い金として長年この店に貢献してく
れたので500万Gほどの退職金を店からミサキに払うことになっ
た。
話がここにきてミサキからサトシにお願いがあるとの事で詳しく聞
いてみる。
﹁サトシに1つお願いがあるんだけど・・・昨日から店に下働きに
1116
きている6歳の男の子を私の使用人として引き取りたいんだけど・・
・﹂
﹁ミサキ、どういうことなんだ?﹂
清掃人ギルドから派遣されているベッドメーキングや掃除係をして
いる男の子が数日前に入った。
6歳の男の子で名前を﹃マークタイム﹄というのだが家名すら判ら
ない。
とある冒険者に別の場所で拾われてからこのマヅゲーラの街に流れ
着いて育てられていたのだが半年ほど前に姿を消して戻ってこない。
宿屋の主人も伝手を使って探したが発見できないので・・・冒険者
のお荷物になって人の良さそうな宿屋に捨てられたのだろうという
ことだった。
冒険者は宿賃だけを半年分を支払っていたが10日度前に期限が切
れてこの年でも安全に働くことが出来る清掃人ギルドに売られてし
まっていた。
健気に一生懸命働くマークタイムは店長やお店のお姉さん達に働き
始めた初日に気に入られて、この店との専属契約を結んで昨日から
この店の宿直室で暮らしている。
彼を一緒に夜の世界から救ってあげたいというミサキの願い。
ミサキの思いを無視する訳にはいかないが簡単にシーズの家に身元
不明者を連れては戻れない。
葛藤するサトシに俺が助け舟を出す。
俺が人物鑑定してやるから男の子を一目みたいと言ってマークタイ
ムをこの事務所に連れてきてもらう。
眠い目を擦りながら連れてこられた男の子を見て、さらにマークタ
イムの浮かび上がった情報を見て俺が驚愕の声を上げた。
﹁おぉー! マジかよ﹂
1117
﹁早乙女さん、いきなり大きな声を出してどうしたのですか?﹂
﹁これはこれは・・・サトシ、ちょっと説明は待っててくれ。店長
さん、質問があるんだけど7年前にこの街を襲った騒動の﹃国軍の
税金の取立て&違法行為の粛清﹄そしてその1年後、今から6年前
に起こった﹃逆恨みと血の報復﹄って事件の事を知ってるか?﹂
﹁え? 早乙女さん、若いのによくそんなことを知ってますね。私
は20年前から既にこの店のオーナーでしたので全部知ってます﹄
店長が俺も知らない情報を詳しく話してくれた。
7年前にこのマヅゲーラの街ぐるみの脱税と全てを把握することす
ら出来ないほど多くの違法行為に、業を煮やしたシーパラ連合国最
高評議会と評議会が国軍5000名と国の軍船を大量に投入して電
撃的に突然マヅゲーラの南北の街を包囲&封鎖。
街の代表者5名と任侠ギルドの代表と最高評議会のメンバーが10
日間も話し合って決めた年間15%の税を任侠ギルドが代わりに収
める事と目に余る違法行為の粛清。
粛清されたのは誘拐してきた奴隷を使っての殺人行為など、命を使
った行き過ぎたサービスを行っていた店と、その情報を使って個人
的に脅迫行為をしていた任侠ギルドの幹部3人。
幹部は奴隷にされ粛清されたが店の従業員などは罰金等で済まされ
ていた。
甘い評議会のお情けを受けて最高評議会がおれただけだった。
脱税と違法行為の繰り返しで儲けた金を全て吸い上げられて逆恨み
した馬鹿が、同じように粛清された奴隷商人と手を組み、1年の潜
伏期間を経て奴隷になっていた幹部を解放させる。
たまたま街の査察に来ていた何人かの評議会の委員について来てい
た家族を、戦闘用奴隷と一緒に逆恨みの報復を﹃正義の鉄槌﹄など
と言って襲撃を仕掛けて評議会委員の家族を3人殺害させた。
奴隷となっていた元任侠ギルドの幹部3人はその場で殺されてしま
1118
ったので、解放させた馬鹿商人達は闇から闇へと逃れて逃走しよう
としていたところを任侠ギルドのギルドマスターの機転で関係者が
全員捕縛されて国軍に引き渡され拷問を受け・・・全てが明るみに
なった。
国家の運営をサポートする評議会の人間の査察中に、一緒に来てい
ただけで何の関係もない家族が逆恨みで殺害されてしまったのだ。
国軍の指揮を取ってその後の報復合戦に変化して大きな問題となる
ところを沈静化させるために、最高評議会が送り込んできたのが、
水商売に寛容で理解があり売春婦との関係性が水商売関係者の間で
有名な﹃マツオとジュンローのコンビ﹄だった。
カリスマ性もあり冷静沈着さは評議会の人間にも評判は高く信頼も
されている。
マツオとジュンローは20日ほどをマヅゲーラの街に滞在して問題
を解決させるのに奔走した。
マツオとジュンローの2人はこの街では血で血を洗う報復を寸前で
双方を説得。
双方を納得させて騒動を終結させた英雄となってる。
ここからは俺が人物鑑定で知り得た情報をみんなに話す。
ここで滞在している時にジュンローは自分の世話をしに来ていた女
性に亡き妻の面影を見て、1度だけ過ちを犯した。
女性の名前は﹃マーサ・バーミリオン﹄マークタイムの母親だった。
マーサは誰が父親なのかすぐにわかったが沈黙を守って1人でマー
クタイムを育てることを決意。
首都シーパラで飲食店をしていたようだった。
それでマークタイムをこの街に連れてきていたのは拾った冒険者カ
ードを複数使用している詐欺師。
マーサは既に詐欺師によって殺害されているみたいだった。
1119
詐欺師はマークタイムをマヅゲーラの宿屋に捨ててヨークルに辿り
着いたところで警備隊に捕まって既に処刑されていた。
・・・凄いな人物鑑定。ここまでわかるのかよ。
俺がここまで説明したらサトシは大声を出す。
﹁もしかしてマークタイムの父親って・・・でも、マークタイムの
年齢がおかしい﹂
﹁サトシさんの考えたとおり間違いなくマークタイムの父親はジュ
ンローだ。マークタイムの年齢は5歳。詐欺師が言ってた年齢が違
っているだけだ。今すぐにでもマークタイムのステータスカードで
確認した方が早い﹂
売春宿の事務所のソファーに座ってウトウトしているマークタイム
にステータスカードを出してもらい、全員で確認。
マークタイムに起きててもらう為にマークタイムにポテトチップス
と甘めのハーブティーをあげると、ニコニコの笑顔でモグモグ食べ
てゴキュゴキュ飲んでくれた。
この輝くような笑顔で店長さんと売春婦のお姉さん達をイチコロに
したのだろう。
自分の分のコーヒーを出すついでに、店長・ミサキ・サトシのみん
なにもコーヒーを出して飲みながら会話を進める。
ステータスカードからマークタイムは間違いなくジュンローの血を
持つ子供と判明した。
﹁間違いなくマークタイムは俺の親戚でユマキ家の一員です。ジュ
ンローさんが喜ぶだろう﹂
﹁喜ぶ? サトシさん、血の繋がるマークタイムがここで現れて今
後は財産分与などの問題で揉めたりしないのか?﹂
﹁早乙女さん、ジュンローさんは俺の二刀流の師匠で優秀な元冒険
1120
者で商人としても優秀な人物ですが、全くと言っていいほど家庭運
に恵まれない人で・・・最初の奥様は病で妻とお腹にいた子供を一
度に失いました。その後の再婚相手は間男の詐欺師に騙されて子供
と金を持って逃走。詐欺師は妻子共に誘拐したたと偽って金を強請
っていました。解決したのは詐欺師が別件で逮捕されてジュンロー
さんの妻子は死体になって発見されました﹂
﹁マジでか。それならマークタイムがいきなり行っても可愛がって
貰えそうだな﹂
﹁逆に溺愛して甘やかしそうで心配ですね。俺の父親が甘くてワガ
ママな人間になったのは、ジュンローさんの事件があったので、お
爺様も叱ることなく甘やかせて育てるジュンローさんにキツク言え
なかったのが原因だと聞いてます﹂
﹁うーーん。それは心配だなぁ。俺はその失敗作2人の処分をした
人間だからな。サトシさんとミサキさんに目を光らせてもらうしか
ない﹂
﹁早乙女さん、それは俺にお任せください。マークタイムと一緒に
ユマキ家の中に戻る条件に﹃俺とミサキとマークタイト3人一緒に
生活すること﹄を入れさせてもらいます﹂
﹁それにしても、サトシが任侠ギルドのトーナメントに出るために
たまたま偶然に思いついた偽名がバーミリオンなんて・・・凄い偶
然だな﹂
﹁ですね。バーミリオンって考えることもなく偶然思い浮かんだだ
けの偽名なんですが・・・﹂
ミサキは店長とマークタイトを引き受けるために直接話をしている。
店長との話はすぐに終わったみたいだった。
店でマークタイトと専属契約をするために払った半年分の前払い金
の半額100万Gをミサキが払うことになり、ミサキに支払われる
結婚祝い金から100万G引かれて400万Gを店長はミサキのス
1121
テータスカードに支払った。
清掃人ギルドにもマークタイムを貰い受ける契約をしてこないとい
けないので、店長に別れを告げてそのまま清掃人ギルドに4人で出
かけることにする。
30mほどの離れたところにある清掃人ギルドでは話は金の問題だ
けだった。
宿屋からマークタイトを買い取った金額は350万G。既にミサキ
の働いていた店から半年契約で200万Gも貰っているので、あと
150万Gとベッドメーキングなどの仕事を数日間で教えた謝礼金
10万Gの合計160万Gをミサキが即金で支払って終了になった。
1122
サトシが嫁と子供を連れて実家に帰還。俺もようやく寝れそうだ
・・・っす。︵前書き︶
8・17修正しました。
12・31修正しました。
1123
サトシが嫁と子供を連れて実家に帰還。俺もようやく寝れそうだ
・・・っす。
俺が金を使うことなくマークタイムを引き取ることが出来たので・・
・俺のこのマヅゲーラの街での用事は完了した。
サトシ・ミサキ・マークタイムの3人を連れて清掃人ギルドを出る。
俺が宿泊している宿屋に連れて帰る。
3人には俺のスイートルームの部屋に入れずにホテルのフロントの
横のソファーで待っててもらい、俺はホテルのフロントでチェック
アウトの手続きをすませる。
外に出て歩いてマヅゲーラの街を出て門が見えなくなってから転移
魔法で3人を連れて、首都シーパラのクラッシック・グリフォンズ
ホテルのマリーナに停泊中のハウスボートに転移した。
マークタイムはサトシにおんぶされて寝ているので気付いてないが、
サトシとミサキは突然に俺が使用した転移魔法に目を白黒させてい
る。
俺は先に念輪でセバスチャンをハウスボートに来るように呼んでお
いてからサトシ達に話しかける。
﹁何も言わないうちにいきなり魔法を使用して済まない。今俺が使
用したのは﹃転移魔法﹄だ。ここは首都シーパラにあるクラッシッ
ク・グリフォンズホテルのマリーナに停泊してる俺が作ったゴーレ
ム船の中だ。転移魔法を使えることは他言無用でお願いしたい﹂
﹁・・・わかった。俺は早乙女さんに命を救われた身だ。秘密は墓
の中まで持っていくよ﹂
﹁わかりましたわ。私たちはマークタイムを含めて早乙女様に救わ
れた身ですものね。私も秘密を守ることを誓いますわ﹂
﹁2人ともありがとう。こういう秘密情報は君たち2人だけでなく
マークタイムやユマキ家にも関わってくる可能性はあるから、親し
1124
い人間にも言わないほうがいい・・・情報はどこから洩れていくか
わからないものだから注意が必要だ。これからユマキ家本宅にまで
3人を送っていこうと思うんだけど、安全のためには俺が邸宅の前
まで送った方がいいだろう。それで聞きたいのは俺はユマキ家邸宅
の場所を知らないってこと﹂
﹁早乙女さん、このメンバーでユマキ家邸宅の場所を知ってるのは
俺だけなんで案内は当たり前なのですが・・・というより、早乙女
さんはユマキ家邸宅の中まで入ってきてくれないのですか?﹂
﹁俺はサトシさんを連れ戻す依頼をユマキ家やマツオやジュンロー
から正式に受けたわけではないしな。アマテラス様の神託があった
とはいえ完全な﹃部外者﹄でしかないんだよ。だから中に入ってい
くことはしないほうが良いと思う﹂
﹁それではあまりにも申し訳ないです﹂
﹁ミサキさんやマークタイムを払い受けするのに金がかかったのな
ら入っていく必要があったけど、俺はここまで送ってきただけなん
だ。出来ればマヅゲーラの街で知り合い、親切と暇つぶしでゴーレ
ム船に乗せて首都シーパラまで送ってきただけの人間にしてくれれ
ばそれでいいよ。俺から言いたいのはこの船で今日の夕方以降にこ
こまで送ってきた。長旅の疲れで今まで熟睡してしまった。それで
時間の調整の為に﹃サトシは任侠ギルドのトーナメントには参加し
てない﹄ってことにして欲しいんだけど﹂
﹁トーナメントに参加うんぬんっていうのは別にたいした成績も残
せてないし、偽名で参加していたのでどうでもいいんですけど・・・
時間の調節ってどういうことですか?﹂
﹁この船がこのマリーナに到着したのが昨日の夕方なんだ。それは
調べたらどこかでわかるかもしれない。それでこの時間まで慣れな
い長旅の疲れが溜まってハウスボートの中で寝てた。それでこれか
らユマキ家邸宅に帰ってから寝ることになるのだろうけど・・・こ
こから寝るのは精神的の疲労の蓄積から開放されてってことにして
1125
欲しいんだけど﹂
﹁わかりました。辻褄あわせですね。了解です。では今から行きま
しょう﹂
サトシが先頭になって俺が開いたハウスボートの扉から出ると外に
待機していたセバスチャンを見て驚く。
俺が作ったゴーレムだと説明するとさらにミサキも一緒になって驚
いてた。
マークタイムが熟睡してるので運ばせるためにセバスチャンを呼ん
でおいた。
薄めの布団でマークタイムを包みセバスチャンにお姫様抱っこにし
て運ばせる。
首都シーパラはどこで何が起こるかわからないので防御力を下げた
くない。俺1人で対処できる量には限りがあるだろう。攻撃と防御
を同時にこなすことは出来ない。
何もないだろうが家に送り届けるまでがアマテラスからの依頼だし
な。
マリーナの出入り口で魔水晶を使用した犯罪履歴チェックを受けて
問題なく通過する。
先頭をサトシが歩きミサキ・マークタイムを運ぶセバスチャン・俺
の順番で歩いてユマキ家邸宅に向かっていく。
俺の探査魔法で気配も魔力も広範囲で探ってシーパラの建物や道な
どの地形を俺のMAPに入力してついでに埋めている。元々首都シ
ーパラのMAPはもともと入っているのだけど・・・このクラッシ
ック・グリフォンズホテルが出来るよりも前に来ていたみたいなの
で、俺の脳内のMAPとは建物が違ってる場所が複数あるし、道も
あちこちで違ってる場所があるので探査魔法で探り取った情報でM
APをアップデートしておく。
1126
クラッシック・グリフォンズホテルはシーパラの海岸線の中で中心
部分にあるけど、首都の中心部分とは結構離れた場所にある。中心
部分は商業ギルド本部を中心とした部分になる。
首都シーパラは元々首都の対岸にあった首都に対する商業的なモノ
だけを分離させた副都心として独立していた都市となっていた。
マヅゲーラの街のように対岸と転送ゲートで繋がれていたが、対岸
にあったウェルヅ皇宮のゲートも何もかもが消滅してしまっている。
るびのがウェルヅ帝国の政治と軍事の首都ウェルヅリステルを攻撃
する時に、首都を守護していた封印・結界・魔法の防御や転送魔法
の全てを初撃で粉砕しているので、シーパラに残ってるのは2本の
柱だけだし、南側の本来の首都ウェルヅリステルがあった場所は用
水路以外は全部消滅。
その2本の柱の側を通った時に鑑識の魔法でよく見てみた。
ヒヒイロカネとミスリルの合金で作られていてコーティングがオリ
ハルコンになってる・・・材質の割合もこれで良くわかった。
マヅゲーラの街のゲートでは材質の割合がわかりにくかった・・・
鑑識のスキル魔法まで転送で飛ばされてしまうとは思ってなかった
からな。
ただゲートを製造するには俺でも現在では不可能だろう。
柱の内部にある複数の大きな魔結晶を持ってないからな。大きさの
割合や飛ぶ距離なども良くわからないので、俺が家族の為に作りた
い扉サイズのゲートを今後製造するためには実験が必要になってく
る。
シーパラの街は既に太陽が昇りはじめていてシーパラの中ではライ
トの魔法はもう既に必要ないほど明るくなってきている。
町の中のガラス窓が街の中に入ってきた太陽の光を乱反射させて街
の中を照らして全て紫色に染め上げている。
1127
転生26日目の朝は、この100万人以上の人間が暮らすシーパラ
を歩きながら迎えることになった。
歩いてユマキ家本宅に向かっている途中にマリアに念輪をつなげて
これまでの説明をしておく。嫁達に尋ねられたら答えられるように
しておいた。
ユマキ家の本宅にたどり着き家から出てきた護衛隊の人間ではサト
シを知る人間はいなかったが、サトシがステータスカードを見せた
途端に今まで鋭い視線を俺たちに向けていた護衛隊の人間が、緊張
を解いて本宅と連絡を取り始めたので俺はサトシ達と握手を交わし
て別れることにする。
寝ているアークタイムは護衛隊の1人にセバスチャンから渡させた。
布団はそのままあげることにした。
ゾリオン村に初めて訪れた時に店で購入した幾つかのセットの1つ。
素材は希少な龍布などの特別なものを使っているわけじゃないので
持っていても安全だろう。
龍布を使った布団だと命の危険があるからな。
邸宅の中から親衛隊の人間が走ってきてサトシと抱き合って喜んで
いる。
旧知の人間がいるならもう安心だな。
俺は別れを告げて立ち去る事にする。
セバスチャンと共にユマキ家本宅の前を離れて紫色に染まるシーパ
ラの中に溶け込んでいった。
クラッシック・グリフォンズホテルに歩いて戻りながら考えて事が
ある。
・・・このシーパラは凄い技術で作られているな。
石畳が凹凸が全くなく平で水を流すための規則的に並ぶ隙間すら小
石で埋められているのに、段差というものが存在してない。
1128
シーパラの建物も凄い。
綺麗って言うよりも太古に転生させられた人間が建築スキルをふん
だんに使っているのか、日本の近代的なビルのように直線と曲線で
作られた20階以上はある高層ビルがいくつかあるので、今までの
マヅゲーラやヨークルとかの街と比べてもファンタジー感が少なく
て俺にとっては違和感がありまくり。
中心にある商業ギルド本部は35階建ての2つのタワーになってる
そうだ。
サトシが教えてくれた。この巨大なツインタワーの中にシーパラ連
合国の役所や国会に当たる最高評議会や評議会が入っているのだそ
うだ。
俺の中にある経験と記憶通りの場所みたいだな。
ヨークルの中心にあった時計塔よりも巨大な高層ビルが幾つも立ち
並んでいるなかで、それらよりも大きなツインタワーは1番目立っ
てる建物だ。
ツインタワーはダンジョンのように各階のフロアーを転送部屋の転
送魔方陣で結ばれているので移動も楽々・・・このイーデスハリス
の世界観においては﹃ダンジョン﹄って言った方がわかりやすいか
もな。
シーパラの街の中もヨークルと一緒でゴーレム馬車なら走らせるこ
とが出来る。
俺も人がいない隙間にキャンピングバスをアイテムボックスから取
り出して、キャンピングバスでホテルまで戻ることにした。
ホテルの海側でなく街側にある広いゴーレム馬車置き場にキャンピ
ングバスを乗り入れる。
出入り口でチェックを受けて俺は指定された場所に停車させる。
クラッシック・グリフォンズホテルはマリーナ使用料の中にゴーレ
ム馬車駐車場の料金が含まれていると説明を受けたことを思い出し
1129
たのでキャンピングバスに乗って帰ってきた。
このクラッシック・グリフォンズホテルも15階建ての高層建築物
になってる。
俺が宿泊してる部屋は最上階の15階のワンフロアーに2つしかな
い部屋の1つだ。魔法陣による転送装置がある転送部屋に入って自
分の部屋横の転送部屋にセバスチャンを連れて移動する。
ちょうど日の出が始まっていて嫁たちも起きて部屋の東側のベラン
ダで朝食を食べながら、首都シーパラの東を流れるシーパラ大河か
ら昇る太陽を見ていた。
昨日の夕方は反対側にあるベランダで日の入りを見ていたそうだが・
・・シーパラの西にあるのはシーパラ半島なので、海に沈む夕陽で
はなくシーパラ半島の丘に沈む夕陽だったそうだ。
嫁達がホテルのフロントに確認したが・・・﹃海に沈む夕陽﹄とい
うのはシーパラではどこにいても見る事の出来る景色ではないので
別の都市ではないかという話だった。
昨日の夕陽も今昇っている朝日の景色も格別なほど美しいのでこれ
はこれで良いとの事なんだが、クラリーナが求めていた夕陽ではな
かったので残念だな。
クラリーナも首都シーパラだと思い込んでいたかもしれないという
意見。
それとフロントで確認の会話中にクラリーナが思い出した話があっ
て﹃鉄道に乗ったおぼろげな記憶﹄があるとの事。
それならシーパラと鉄道で結ばれていてシーパラ連合国内で唯一現
存し運行している﹃ドルガーブ﹄で間違いないだろう。
首都シーパラとドルガーブはシーパラ半島をぐるっと回ってくると
2000km以上あるので、ゴーレム船と帆船の複合船でも半分は
外洋になるから高速船でも40ノット以下でしか航行できない。
1130
風の良い時期でも2日かかってしまうが、シーパラ半島の根元を横
断する鉄道だと距離は200kmまでと近づいて平均時速50km
を誇る蒸気機関鉄道では4時間ほどで到着できる距離となる。
蒸気機関で運べる大きさだけではあるが人員や食料品などを運ぶに
は都合がいい。
この鉄道線路は太古の時に施された封印結界が線路を守っているの
で魔獣が横断することが出来ない。
この線路によってシーパラ半島はウェルヅ大陸に数多く生息する魔
獣から分断された安全な土地となって、放牧で牛・馬・羊などの放
牧が可能になっているのだ。
元々のウェルヅ帝国時代は首都のウェルヅリステルを中心に鉄道網
がひかれていた。
大陸内部の都市ヨークルや南部の都市シグチスなども鉄道によって
結ばれていたのだが、るびのによって中心にあったウェルヅリステ
ルの封印結界が解除されてしまった瞬間からシーパラ大河の南側で
栄えていた鉄道網は全てウェルヅ大森林の中に飲み込まれてしまい、
今のイーデスハリスの世界に残された魔法技術では魔法後進国のシ
ーパラ連合国でなくても復旧は出来ない。
線路や蒸気機関を修理する技術は残っているのだが、線路を魔獣の
襲撃から維持できない。
北側にあったシーパラとドルガーブのみが、怒り狂うるびのの攻撃
を免れたので残っているのだった。
俺の貰った知識ではドルガーブ北部にある都市とも鉄道で繋がれて
いる筈だが、今の俺にはわからないな。
ウェルヅ帝国時代の鉄道に乗った経験は俺の貰った記憶の中にもあ
る。
2階建てになっている巨大な蒸気鉄道で1階部分は全部物資の輸送
1131
に使われて、2階部分は客室や食堂車や個室などの車両となってる。
俺は日本にいるときに蒸気機関車に乗ったことがないのでこれは楽
しみになってきたな。
2階建てなどという巨大な蒸気機関車なんてワクワクしてくるレベ
ル。
朝食をノンビリとベランダで食べながら嫁たちに話しかける。
﹁みんなに聞きたいんだけど、この首都シーパラでしたいことって
ある﹂
﹁私は冒険者だから、今すぐって訳じゃないけどシーパラ北部のウ
ェルヅ大草原の中にある村すぐ側にあって村の名前が付けられたダ
ンジョン﹃ブランディックス﹄に一度でいいから行ってみたいわね﹂
﹁私もアイリと同じ意見ね。このホテルからゴーレム馬車で1時間
かけて街の外に出て、そこから乗り合い馬車で3時間ぐらい・・・
50kmぐらい離れた所にある村みたいだから、しんちゃんのキャ
ンピングバスだともっと早く到着できるんじゃない?﹂
﹁2時間はかからないだろう。そこなら俺の貰った記憶の中にも行
ったことのある場所だから場所はわかるよ。でもブランディックス
迷宮って地下30階までの探査されつくした小さなダンジョンじゃ
ないのか?﹂
﹁しん君それがね、去年に別の国にある違うダンジョンと繋がって
いるのが発見されたのよ。だけど発見されたとたんにダンジョンの
最下層の地下30階層が10倍以上に広がって出てくる魔獣の難易
度までも上がってるの。向こうのダンジョンの魔獣が流れ込んでき
てるみたいでね・・・去年からブランディックスの村は冒険者達が
溢れて﹃ダンジョン開発ラッシュ﹄が興ってると噂になってるのよ﹂
﹁それはちょっと楽しそうですね。私も皆さんと共に行ってみたい
ですね。でもまずは先に首都シーパラの中を色々歩いて探検してみ
たいです。ヨークルも大きな街だと思ってましたが、ここは10倍
以上の広さがあるときいてますし、高層建築物の立ち並ぶ姿に圧倒
1132
されていて、昨日の夕方に少し散歩しただけではまだ街を楽しめて
ないのです﹂
﹁みんなの今日の予定は﹃シーパラで遊ぶ﹄で良いかな?﹂
﹁そうねクラリーナが今言ったように私とアイリもこの首都シーパ
ラは仕事以外で来た事がなくて観光するほど金銭的余裕もなかった
から、ここで遊んだことがないから遊んでみるのもいいかもね﹂
﹁私も珍しい酒や食べ物を探してみたいなって思うから、今日は一
日中情報収集したり遊んでみるのもいいわね﹂
﹁じゃあ、3人の予定は決まりだな。るびのは今、念輪で確認を取
ったけど今日は一日ノンビリと早乙女邸内で過ごすみたいだ。俺は
午前中はヨークルの早乙女商会事務所に帰って、もふもふ天国で使
用する全品目の食料品を契約する業者選定面接が10時に予定して
ある。選定といってもほとんどが知り合いのみだから契約は午前中
だけで終わる予定だな。午後からはシーパラに戻ってきて不動産探
し・・・もふもふ天国シーパラ店の土地と建物を探す事だな。みん
なはセバスチャンとマリアを連れてキャンピングバスを移動に使っ
てくれていいよ。俺はリーチェに紹介状を書いてもらった商業ギル
ドシーパラ本部の不動産部門の責任者でリーチェの教え子だった﹃
マリス・シュガート﹄という小人族の人と移動する事になると思う﹂
﹁シーパラの不動産って・・・シーパラの都市部で土地を購入する
には2億以上すると聞いたことがありますけど﹂
﹁それについてなんだけど・・・﹂
俺は嫁たち全員に深夜のマヅゲーラで行われた任侠ギルド主宰のギ
ルドマスター選抜トーナメントのあらましを説明しておく。マリア
から簡単には説明を受けていたようだが詳しく話すことにした。
1回戦で対戦した卯月要市朗を魂ごと消滅させたこと。
2回戦でユマキ家の次の当主となる勘当されていた長男﹃サトシ・
1133
シーズ・ユマキ﹄を救ったこと。
サトシには結婚を誓った相手﹃ミサキ・アンデント﹄がいて子供が
既に妊娠中なこと。
ミサキの店で働いていたマークタイトという子供のユマキ家の関係
でサトシとミサキが引き取って育てていくということ。
トーナメントが終わってから転移魔法でシーパラに来てユマキ家本
宅まで3人を送ってきたこと。
3回戦の準々決勝で戦った狼獣人とヴァンパイアのハーフ﹃マナガ
ルム・ブラム・アバルニア﹄も救い、トーナメント終了後にスカウ
トして任侠ギルドのサブマスターに据えた事。
準決勝と決勝戦はクソみたいな対戦相手だったので殺害した。名前
も覚えていない。
トーナメントの優勝に俺は8億も賭けていたので優勝賞金も含めて
50億近い払い戻し配当金額があり40億以上の金額を儲けている
ことも説明した。
﹁また凄い大金が転がり込んできてますね。しん様が何かをすると
大金が入ってくるような・・・﹂
﹁でもこれはアマテラス様から依頼されたことで、儲けたのはおま
けみたいなものだし・・・クラリーナの言うこともわかるけどな。
今後、もふもふ天国普及に使う金だと思えばいいだろう﹂
﹁そんなにあるならお店購入のお金で悩む必要はなくなっちゃった
ね。しんちゃんはシーパラではどんな大きさの店を作る予定なの?﹂
﹁まだわからないな。不動産を見て回ってから考えるよ。店の広さ
はヨークルの店と同じぐらいを想定してるけど、事務所の部分をど
うしようか全く考えてない。だから俺の今日の予定は午後からは時
間を掛けてシーパラで売られている不動産を回ってみようかと思っ
てる。別に購入は明日以降になってもこのホテルの宿泊を延長して
もかまわないしな﹂
1134
これで今日の予定が決定したな。
俺は今から風呂に入って9時半まで寝る。
嫁たちは朝食を食べ終わった今からマリアとセバスチャンを連れて
シーパラを動き回るそうだ。
喫茶店なども視察をしてきてくれるとの話。
食事も街で評判の店を嫁達が噂を集めて探してする事になってる。
俺はもふもふ天国との関係業者と契約を済ませてからキャンピング
バスに転移魔法で飛んできてから合流して一緒に食事をする予定。
夕食までまた離れて行動して晩ご飯はホテルに帰って来る。
るびのも連れてきて今夜は早乙女邸の裏庭で海鮮バーベキューをす
る予定になってる。
食材は大量に購入してきてくれると嫁達に言われてお願いしておい
た。
俺は後片付けは任せて風呂に入り3時間ほど寝る。今日も長い一日
だったな・・・おやすみなさい。
1135
もふもふ天国シーパラ店の物件探しっす。︵前書き︶
8・19修正しました。
12・31修正しました。
1136
もふもふ天国シーパラ店の物件探しっす。
9時半に自分の脳内にタイマーの音が鳴り響き目覚める。
熟睡は出来たが短時間の仮眠しか出来なかったんでスッキリした目
覚めとはいかないが、全く寝てないよりはマシだろうな。
起きてシャワーを浴びて着替える。今日は冒険や戦闘をする予定は
ないのでパーカーとカーゴパンツというラフな服装だ。
さっそく早乙女商会の事務所に転移してみるともふもふ天国の店舗
中に既に何人かの業者がすでに待っているようだった。
待っている商会の人間はタダで店舗内で待機できるようにしておく。
早乙女商会ヨークル事務所専属のメイドゴーレムの﹃グレー﹄とも
ふもふ天国ヨークル店で働いているメイドゴーレム3体﹃ホワイト﹄
﹃イエロー﹄﹃ブラウン﹄に指示を出し、俺の知ってる食料品市場
で働いている人間達と一緒に来ている契約が出来る商会の責任者や
契約する商品を取り扱っている村の責任者をセットで呼んでもらう。
小麦・砂糖・ハーブ・紅茶・コーヒー・ジャガイモ・油・塩・バナ
ナ・オレンジ・イチゴ・メロンなど商品は結構あるので結局1時間
半ぐらいはかかった。
人物鑑定はフル活用していたが面倒の元になりそうな人物はいなか
ったので安心して契約書にサインして契約を完了させた。
俺が起こした一連の不祥事解決事件やユマキ家の騒動などを知って
る人間ばかりを厳選されて、早乙女商会に契約をするためにきた人
達がここまで来てると、食料品市場に働いている旧知の人達は笑い
ながら話していた。
有名人だけどこういうときだけは助かるな。
1137
変な人間はこれ以上関わりあいたくない・・・アマテラスとゴッデ
スの陰謀でこのイーデスハリスの世界にいる以上は不可能なんだけ
どな。
契約が全部完了したのでミーに念輪を繋いでみた。
﹁ミー、今契約が終わったけどどこにいる?﹂
﹁今はキャンピングバスで移動中だよ。海鮮丼で超有名な店に今か
ら行くところ﹂
﹁キャンピングバスのトイレは空いてる?﹂
﹁使ってる人はいないからトイレに転移してきてね﹂
﹁わかった。今から行くよ﹂
俺はグレーに別れを告げて転移魔法でキャンピングバスの中のトイ
レに転移する。
ついでにトイレを済ませて出て行くと丁度お店に到着してゴーレム
馬車駐車場にキャンピングバスを停車させたところだったようだ。
キャンピングバスの警護をセバスチャンとマリアの2人に任せる。
俺のキャンピングバスは目立っているし警護中のセバスチャンとマ
リアも目立っているので、何人かが話しかけてこようとしているが、
面倒なので返事もしなかったらバカ商人の親衛隊にさっそく絡まれ
る。
俺のパーカーの襟首の帽子が掴まれてしまった。
﹁貴様! ワザワザご主人が伺っているだろう、サッサと答えろ!﹂
﹁アホの相手はしてないの。俺は昼飯を食いにきただけだ﹂
そういってフルプレートアーマーの兜にデコピンをかまして兜の顔
面部分のみを蒸発させた。
愕然とする周囲を尻目に俺のパーカーの掴んでいる親指以外の指を
4本、逆に曲げてやってへし折った。
1138
激痛に大声で叫ぶ親衛隊を顎先にジャブで失神させて終了。
失神して黙ったのでメガヒールでとりあえず粉砕骨折させた指を治
しておく。
周囲に殺気を少しだけ開放しながらバカ商人に向かって問いかける。
﹁俺になんか用でもあるのか?﹂
﹁・・・なんでもないです﹂
﹁礼儀も知らないクソが調子に乗って気安く俺に話しかけてくるな
よ。お前みたいなのを相手にするために俺はゴーレム馬車やゴーレ
ムをを作ったんじゃねーんだよ。わかったか?﹂
﹁わかりました﹂
俺から溢れ出てくる殺気と隠されていた周囲を圧倒するほどの存在
感にションベンを漏らして震えながら返事をするバカをそのまま残
して店の中に入っていく。
1分にも満たないあっという間の事に周囲は唖然として固まってる
だけだ。
俺は嫁たちを連れて店に入っていきバカ商人は残りの親衛隊に担が
せてゴーレム馬車に乗り逃げるように去っていった。
キャンピングバスに群がっていたヤツラも俺の起こした騒動に関わ
りあいを恐れてゴーレム馬車で逃げるように去っていった。
残った人間たちは全員口をポカンと開けて固まっている。数分続い
てから解散になった。
首都シーパラで誰もが知ってる評判のお店で海鮮丼が絶品だと超有
名なお店の名前は・・・﹃新鮮海鮮至上主義宣言﹄という、かなり
変わった名前の店だ。
海鮮丼1杯3000Gと少々高い金額だが列で並ぶ程の大盛況だ。
大きめの丼の中の少な目のご飯の上に乗っている溢れんばかりの海
鮮具材の山。
1139
店の名前は偏屈極まりないが、海鮮丼の味はシンプルで魚介の新鮮
な旨みが溢れてる。
シーパラ周辺で取れた海鮮だけでなくドルガーブから生鮮用の列車
を使って直送されている海鮮の品々。
マグロ・ホタテ・ブリ・カツオなどなど、元日本人の俺にとっては
馴染み深い品々に舌鼓をうって無言で貪り食う。
この店には店の名前で表してるように新鮮な海鮮料理だけしかメニ
ューにない。
お昼の時間は刺身の舟盛りと海鮮丼しかない。
4人前の舟盛りも注文したのだが舟の中央に伊勢えびが活き造りで
出てきて驚愕してしまう。
転生者で活き造り技術を持った日本人が必ずこの店に関わっている
はずだ。
久しぶりの海鮮丼・・・ムチャクチャ美味しくて少しウルッと涙ぐ
んでしまう。
刺身の美味さもヨークルの月と太陽のホテルで食べた刺身とは比べ
物にならないほど美味い。
食後にマッタリとお茶をすすりながら話を聞いたが店に入る前に並
んでいた時に絡んできたバカタレとキャンピングバスを囲んでいた
一団はキャンピングバスを見かけて付回してきていた連中らしい。
店の外のキャンピングバスの前にいるマリアとも念輪で連絡を取っ
たがすでにストーキングしていたヤツラは蜘蛛の子を散らしたよう
に逃げていったみたいだ。これ以上の面倒を避けるために強引な手
段に出たが、今回はそれが成功したみたいだな。
俺が料金を払って外に出てキャンピングバスに全員で乗り込む。
午前中は南側にある食糧品市場をみんなで回っていたので、午後か
らはシーパラの北側にある鉄道のシーパラ駅の隣にある食料品市場
を回るそうだ。
1140
遠洋系の魚介類はこちらの方が買いやすいと言われてる。
途中に商業ギルド本部の前を通ってもらい俺は途中で降ろしてもら
った。
商業ギルド本部の中に入るときに出入り口でステータスカードと商
業ギルドカードの両方を確認させられる。
ここのツインタワー高層ビルの内部にはシーパラ連合国の国家機密
も山盛りになってるので厳重な警戒態勢になってるな。
受付窓口がたくさん並んでいる場所の横で総合案内をしている中年
女性に俺の商業ギルドカードを見せて紹介状を渡して﹃マリス・シ
ュガート﹄を呼び出してもらう。
受付窓口の横の待合ロビーの喫茶スペースでコーヒーとハーブクッ
キーを頼んで30分ほど待ってるとマリス・シュガートがやってき
た。
小人族なので身長は110cmほどしかないが少しだけ尖った耳が
特徴的な女性が現れた。
しんいち
俺はソファーに座っていたので立ち上がってから屈んで膝を付いて
目線を合わせてから挨拶をする。
さおとめ
﹁初めまして。俺の名前は﹃早乙女真一﹄です。しんいちと発音し
にくいようなので早乙女と呼んでください。貴方がマリス・シュガ
ートさんでよろしかったですか?﹂
﹁はい。私の名前は﹃マリス・シュガート﹄で間違いないです。マ
リスと呼んでください﹂
﹁では、2人だけで話がしたいので小さな会議室を借りることは出
来ますか?﹂
﹁わかりました。今、窓口に行って鍵を借りてきますので少々お待
ちください﹂
1141
小さな会議室を借りてマリスと話をすることになった。
封印結界を掛けて声も洩れないようにしておく。俺が魔法で封印結
界を掛けたのを見てマリスが感嘆の声を上げた。
﹁さすがリーチェ先輩が﹃失礼のないように。大切に扱うように﹄
と紹介状の名を借りた厳命の手紙を書かせた人ですね。ここまで強
力な封印結界魔法は生まれて初めて見させていただきました。森に
住んでいる時に見た森の精霊・小人族の守護者エント様が使ってい
る魔法でホビットの森を守る永久封印結界以上に強力な封印結界な
んて・・・すごいですね﹂
﹁まぁ、その説明は省かせてもらう。秘密って言うのは知ってしま
うと話してみたくなるものだからなぁ・・・それで俺の話はどこま
で書いてあったかな? 今日ここに来た理由も全部説明した方がい
いかな?﹂
﹁是非わかりやすく簡単にでも説明をお願いします﹂
﹁了解﹂
リーチェが信頼できる人物として紹介してくれた人だし、俺の人物
鑑定でも不審なところはなかったので、俺は自分のアイテムボック
スから愛玩ゴーレムとメイドゴーレムを取り出して、まずはもふも
ふ天国の説明からはじめる。
わからないことは質問されるがゴーレムの事とかは俺の趣味だけの
ために作っているものなので他人のために作る気はないと言ってお
く。
説明が終わるとアイテムボックスにゴーレムを入れて、今度は俺が
質問を投げかける。
俺が店舗として欲しい敷地面積、事務所部分に欲しい敷地面積など
を説明してかかりそうな予算も教えてもらう。
マリスが取り扱ってる物件の中におすすめで見せられた図面が3つ。
1142
1つ目はこの商業ギルド本部からほど近く首都シーパラの中心地に
ある5階建てのこじんまりした建物で1階部分はゴーレム馬車が3
台ほど駐車できるスペースと玄関&下駄箱スペースになる。
もふもふ天国は土足禁止になるので下駄箱は大きくスペースを使う
からな。
2・3階部分が店舗になっていて広さはヨークル店のものより2フ
ロアーを使うことで若干広くなる。
4階部分はキッチンと事務所の応接室。5階部分は事務所になる。
地価が1番高い部分にあるので土地は狭くても金額は税込みで4億
3000万Gと1番高い金額になる。
2つ目は今日の昼食を食べた新鮮海鮮至上主義宣言の近くで海側の
食料品市場の近くにあり飲食店としては超がつくほどの激戦区にあ
る。
ここはヨークルの店舗部分と建物の部分はほとんど変わらない。裏
庭がなくなっていて建物は奥に引っ込んでいるような形になって3
階建てになってる。
表の部分は全部ゴーレム馬車駐車場になってるので10台は駐車可
能になってる。
建物の中は1階が店舗になって2階が事務所と2つの応接室。3階
は居住スペースになってる。
金額は税込みで3億6000万G。
3つ目は北側にあるシーパラ駅とシーパラ中心地との真ん中ぐらい
の位置にあって、周囲は閑静な住宅街になってる。土地はメチャク
チャ広くてヨークルの早乙女邸の敷地より少し広いぐらいだ。
建物の部分は早乙女邸のガレージを追加した大きさになってるな。
元々は大きなレストランがあったみたいでゴーレム馬車の駐車場は
15台は余裕で駐車できる。
建物は平屋建てでもヨークルの店舗と事務所などの全部を合計した
1143
面積より広い。裏庭もあるので畑を作って野菜などの栽培ぐらいは
出来そうなスペースはある。
価格は税込みで2億8000万Gとここは1番安い。
悩む。
悩みを直接伝えることにする。
﹁マリスさんに聞きたいんだけど・・・2番の場合激戦区でも俺の
お店って特殊だから固定客をつかめると思う。と言うよりも、もし
ブームになって急激にお客が増えた場合に対処がしにくい。3番だ
と人の流れがなさ過ぎで客を呼び込むのに時間が10年以上かかり
そう。1は場所的には客の流れもあってそこそこ良いんだけど少し
狭過ぎるな。店舗の中が階段で別れているってのは流石にキツイ。
出来ればもう少し広い場所をお願いしたい﹂
﹁と言うことは、早乙女さんが求めている物件は・・・まとめると
3は論外。広さ的には2が好ましいが客の量をコントロールするた
めにも、1のぐらいの人の流れが欲しいって所ですね。予算はいく
らまでってのはありますか?﹂
﹁税込みで5億以下なら大丈夫だな﹂
﹁そうなりますと・・・︵1分経過︶・・・この2つの甲乙がつけ
がたいですね﹂
マリスがアイテムボックスから2枚の新しい図面を取り出した。
今日見た4つ目の図面が南側の食料品市場と工房が立ち並ぶ区域の
真ん中にあって、激戦区ほどではないが人の流れはあるけど激戦区
ほどの周囲に飲食店は多くない。
広さは2番目に見た図面と建物の大きさは変わらないし土地の面積
はこっちには裏庭があるので少し広い。
だが建物が造られてから100年以上経過していて、相当古くて基
礎部分からの補修が必要なんだそうだ。
1144
なのでお値段控えめの3億Gとなってる。土地代のみの価格なんだ
ろう。
5つ目の図面はシーパラ駅とゴーレム駅馬車のロータリーの中間に
あり、立地条件は1番よさげだな。
お店のゴーレム馬車の専用駐車場はないけどシーパラ駅のゴーレム
馬車無料駐車場が隣にあって駐車場から駅に向かうには店の前を通
るという立地条件は完璧。
店舗の広さはヨークルのもふ天より少し広く4階建てになっていて
1階が店舗。2階が応接室と事務所。3・4階が居住スペースにな
ってる。
値段は1億G。
安さの秘密は呪いが発生して幽霊が出てきてる。教会の呪い浄化で
は1日ほどで効果は消えてしまう。
全くって言っていいほど効かなかった。
家族が一家心中してる・・・ってのを2回も繰り返してる呪われた
物件でこんなの1億で売るなよってレベルだ。
流石の商売上手だな。2つともマリスには本命なんだろうな。
商業ギルド本部が抱えるお荷物不良物件でいわくつきのをここで出
してきた。
面倒だから直接聞くことにする。
﹁マリスさん、俺に4の物件を売りつけて5の物件の御祓い浄化を
して欲しいのか? 御祓いをしたら4の物件に何をおまけしてくれ
るんだ?﹂
﹁では早乙女さんに単刀直入に言います。御祓いの確認後に4の物
件の基礎工事を無料で・・・﹂
﹁それは俺の能力を舐め過ぎだな。建築スキル持ちの俺だったら基
礎工事なんて1分もかからずに最高のものが出来る。建て替え用の
1145
材料も俺は持ってるからな﹂
﹁そうですか・・・それでは出来ればもう1件別の幽霊物件の御祓
いと浄化をしていただけるなら4の物件の価格を1億Gに。それと
購入にかかる税金はギルドで負担するというのはいかがですか?﹂
﹁うーーん・・・わかった。流石の商売上手だな。それでいいい。
それとこういう御祓い浄化では必ず原因になってる呪いの部分に魔
結晶と魔水晶がからんでるんだけど、俺の報酬ってことで貰っても
いいんだよな?﹂
﹁もちろんそれはかまいません。御祓いの後は物件の中身の品は全
て早乙女さんのものでいいです﹂
俺が右手を差し出すとマリスも右手を差し出して仮契約代わりって
訳ではないが握手をする。
契約書は御祓いが終わってからにする。
商業ギルド所有のゴーレム馬車で2件の御祓い物件に向かう。
始めは商業ギルド本部の程近い場所にある大きな無人の10階建て
のビルだった。
ここはシーズにはなれなかったが歴史があって権力もそれなりにあ
る商会のビル&住居だったが、歴代の当主が儲ける事に手段を選ば
ない姿勢が恨みを買い続け、最後には恨みを持った人物がここの建
物の正門前で自殺をして自分の命を媒介にして悪魔を呼び出して血
族とこの商会に強烈な呪いを掛けた。
商会は全ての取引先に縁を切られて商売関係が全部崩壊。
内部留保の蓄えてた金は中で働く職員が持ち逃げをして商会自体が
完全に崩壊するまで10日もかからなかった。
血族は全員奇妙な死を遂げて最後に死んだのは当主だった。愛する
家族が全員死んで信じるお金は全く残らずに借金しか残らなくて発
狂しての自殺。
中にある金銀財宝は手付かずで残ってるので俺の自由にして良いそ
1146
うだ。
あまの むらまさ
浄化を行う前にこのビルに取り付いている悪魔を成敗しないとな。
アイテムボックスから破邪のカタナ﹃天乃村正﹄を取り出してカタ
ナを抜いて構えてから、ビルにかかっている封印を切り払う。
魔界の業火を身に纏うデビルが俺の目の前に現れる。
﹁これは美味しそうなガキだな﹂
﹁お前の役目は終わったんだから魔界に帰るか、俺に成敗されて消
滅するかの2択です。デビルさん、貴方はどっちにしますか?﹂
﹁いったっだっきまーっす﹂
﹁聞けよバカ﹂
俺が天乃村正を一閃してデビルの右手をヒジから先を消滅させた。
﹁うぎゃーーーー﹂
﹁五月蝿いし、消滅コースですね。デビルさんの魂は完全に消滅し
ます。バイバイ﹂
俺は大騒ぎして空中で暴れまわるデビルに天駆スキルを発動させて
一瞬で踏み込んで頭部に天乃村正を横薙ぎに一閃・・・デビルを魔
界に帰すことなく完全に消滅させた。
地面には魔結晶3個と魔水晶10個が転がってる。
両方とも今まで見た中で最大級に大きい。
天乃村正を鞘に入れてアイテムボックスに片付ける。
これは嬉しくて拾い集めながらホクホクの笑顔になってしまう。
サクサク終わらせて内部を探検したいのでビルの全部に﹃神聖浄化﹄
を10秒ほど使って悪霊は完全に成仏させた。
土地に憑いていた地縛霊までも完全に浄化してしまったので、教会
レベルの神聖なる場所になってしまったが、悪いことではなくて良
い事なので気にしないでビル内に入って探索を開始する。
1147
俺の後ろには突如現れた大きなデビルを苦もなく退治してしまった
15歳の少年に驚愕して固まっている人が何十人もいた。
金銀財宝が残ってると言うのはウソなのだろう。
財宝なんて全くなくて金に変えにくい物、重くて運ぶのに困るもの
がたくさん残っていた。
刀剣類や美術品などだけでなく鉱石でも希少鉱石も倉庫の中に大量
に放置してあり魔石・魔結晶・魔水晶も大量に残っていたので俺に
とってはこっちの方がありがたいし物凄くうれしい。
ヒヒイロカネ・アダマンタイト・オリハルコンなどの希少鉱石が各
200kgずつ見つかった。
俺が今まで持っていなかったアダマンタイトが手に入ったので凄く
うれしい。
10階建ての大きなビルの全部のフロアーの全部の部屋を回りつく
すまでに1時間以上かかった。
浄化の漏れがないか確認しないといけないからな。
次はシーパラ北部のシーパラ駅近くの物件で、俺が見た5つ目の図
面の場所の物件。
まずは呪いが発生した原因になったものを探査魔法で探りとる。
原因となった場所の壁の中に呪いを込められた護符を巻かれた短剣
が埋められていたのを見つけて取り出すと、神聖な火で燃やして呪
いの短剣ごと消滅させる。
護符と一緒に大きな魔結晶と魔水晶を見つけて嬉しくなってしまう。
ここにはアイテムが全くなくてキッチン部分と住居スペースにある
40個ほどの魔石ぐらいだった。
悔しかったので全部いただいておく。
どうせ古くて魔力の残りも少なくなっている魔石なので補充しない
ことには使えない代物だからな。
1148
俺が取り出した魔石に魔力を注入してアイテムボックスにしまうの
を見て、唖然としているマリスを質問してみる。
﹁どうかしたの?﹂
﹁早乙女さんの魔力ってどこまであるんですか? 全く底が見えそ
うにないんですけど﹂
﹁気にしない気にしない。さぁ、これでマリスさんの依頼は終わら
せましたんで俺が購入する物件を見に行きましょう﹂
1149
もふもふ天国シーパラ店の購入。スキル魔法で一気に作り上げる
っす。
祓い2件を終わらせてから俺が良いなと思った4つ目の物件に商業
ギルドのゴーレム馬車で連れて行ってもらう。ゴーレム馬車の操縦
は商業ギルドシーパラ本部不動産部門の責任者のマリス・シュガー
ト。
俺はあくまでお客さんなので座ってるだけでいい。
こんかいの御祓い2件は始めは面倒極まりないと思っていたが蓋を
開けてみると魔結晶が大量に手に入るし、希少金属も大量に手に入
ったので最高だった。
気分が良くなりすぎて余計なことまで口走ってしまう。
﹁御祓いがここまで美味しいとは思ってもみなかったな﹂
﹁良かったですか? できればまだ御祓いの必要な物件がいくつか
あるのですが・・・﹂
﹁それは﹃要相談﹄ってことにしましょう。俺がその時に欲しいと
思うものを用意してくれるのであれば、相談して御祓いしてもいい
ですよ﹂
﹁わかりました。ちなみに今欲しいものはありますか?﹂
﹁今欲しいのはないね。欲しいものがあったらマリスさんに相談し
に行くって事で﹂
﹁わかりました﹂
・・・危なかったな。何回も依頼が来ても困るし、俺は俺で好きな
ことをしたいからな。御祓いをするためにこの世界に来たわけじゃ
ない。
俺の今したいことは﹃この世界の蒸気機関車に乗って旅がしたい﹄
と﹃海でも川でも池でもいいから釣りがしたい﹄ぐらいだな。
・・・言わないけど。
1150
今から視察する物件に到着した。
店舗の敷地に掛けられている封印結界をマリスが解除してからゴー
レム馬車を敷地内のゴーレム馬車駐車場に乗り入れて停車させる。
住宅街とは少し離れているが近くには工房が数多くあるので出勤前
と退社後の職人さん達が狙いになるだろう。それに南の食料品市場
がそこまで遠くなくて、シーパラ飲食店激戦地区の少しだけ離れた
場所にあるので・・・言い方は悪いがおこぼれ位はありそうだな。
食事は提供しないので違う問題が出てきそうだけどな。
食事で思いついたのだけどここの店は駐車場がかなり余裕があるの
で、屋台で軽食の販売ならいけそうだな。場所がヨークルと同じで
工房の多い場所なので食事の時間が取れない人達用に﹃おにぎり﹄
を駐車場の屋台で販売させれば一大ブームを起こせそうなほど流行
りそうな気がする。
フォレストグリーン商会にも話をつければ﹃梅干のおにぎり﹄や﹃
シソ混ぜご飯のおにぎり﹄もできそうだな。
1度ゾリオンとグレゴリオに話をしに行ったほうがいいのかな?
ただ・・・自分で屋台を経営するのは面倒なので誰かにやってほし
いだけだったりする。
ゴーレム馬車駐車場は10台駐車可能で、早乙女商会の専用駐車ス
ペースまであるのはありがたい。
10台停車してもまだ余裕があるところがいい。
建物の中にも階段はあるが外階段と2階にも玄関がもう一つあって
外から店舗の中に入ることなく出入りしやすいのがいいな。
外から見た感じ少し建物が傾いてきてるのは基礎工事が必要ってい
った意味がそのままだろう。中に入る気が失せるっていうよりもち
ょっと怖いけど、中に実際に入ってみて必要な素材を計算してみな
いことには新しく作り変えることは出来ない。
1151
まずは1階の店舗の部分の内部を見てみる。図面じゃ中の雰囲気ま
ではわからないからな。
ここはヨークルのもふ天よりも広くかなりのスペースがあるんだけ
ど、玄関はスペースを少し広げる必要がある。下駄箱と出入り口の
レジ&ゲートをつけると・・・ほんの少し狭くなりそう。
だけど、キッチンはこんなに必要ないので半分以下に削れば客の入
る部分は削らなくてもいけそうだな。レイアウトが少しだけ変わる
ことになる。
キッチンを削って広げた部分でトイレの個室を4つほど増やせそう
だ。
キッチンカウンターも必要ないから邪魔なのでついでに削ろう。
部屋の奥に上にあがる階段があって階段の下は倉庫になってるが全
く必要ない・・・予備のトイレにでも・・・うーーん、もしもの時
用のシャワールームにでもするかな。
2階にあがって事務所&応接室&従業員用の休憩スペースになって
る。
床が明らかに傾いてきてるのでここに長時間いると不快感が凄いな。
早乙女商会の場合は従業員に休憩は必要ないのでサブの応接室・・・
保留だな。他に使い道が出てくるかもしれん。
3階はオーナーの夫婦2人用の住居スペースになってるが・・・狭
いな。寝室・リビング・キッチン・ダイニングとベランダしかない。
1LDKって所だろう。寝室とリビングだけはそこそこの広さでベ
ランダが半分近いスペースをとってる。ベランダといってもガラス
窓で覆われていてこの時間はメチャクチャ暑い。
隣に立っているマリスに聞いたらこのベランダを使ってハウス栽培
の野菜を作っていたそうだ。裏庭でも手作りの野菜を作れるように
スペースがとってるのがレストランの名残になってるな。
建物の外に出るのに外階段を使って降りていく。金属製で少しきし
1152
んで音を出してるが100年を越す築年数を考えるとこれでも良く
持ってるほうだろう。
これだけ俺が思い描いていた理想の物件は早々ないだろうし、シー
パラ店はここに決定してこれから購入の手続きをする。
ゴーレム馬車に戻って中で契約書を作成してもらい確認してからサ
イン。
マリスの取り出した魔水晶に早乙女商会のカードから1億Gを払っ
て購入完了。
更に早乙女商会で飲食店をシーパラで出店する為の届出を作成する。
これがあれば駐車場に屋台を作ってモノを売ることも可能なんだそ
うだ。簡単すぎる手続きだな。
会計用の魔水晶も4つ貰っておいた。
マリスと握手してマリスはゴーレム馬車に乗って帰っていった。
これでもふもふ天国のシーパラ店の行政的な部分の下準備は完了し
た・・・後は俺が店舗の内装をを作れば明日にでも開店可能になっ
た。
工事を始める前に、まずは敷地全域に封印結界を幻影魔法を施す。
今から同じ形に作り直すけど、中身は素材から全部変更になる。
ヨークルの店舗の建物も100年以上の歴史ある建物だったが、こ
っちの建物はヨークルのレストランみたいに作りこんでいないので
見た目以上に基礎からガタガタになってる。
地盤も強化した方がいいだろうな。
早乙女邸の隣の倉庫のように外からの見た目だけ同じで中身は総と
っかえになるので、誰にも見られないように幻影の魔法で誤魔化し
ておいた。
まずは崩す前に探査魔法で今現在の正確な建物の図面を脳内に入力。
色なども寸分も狂いがないように全て入力しておく。
それが終わると今度は建て替えの設計図を作る。3階部分は居住ス
1153
ペースは必要ないな転送部屋があればいい。
転送部屋は厳重に封印結界が施されて家族と俺の作ったゴーレム以
外は入れないようにしておかないと。
青写真が出来上がったので建て替えに必要な素材の計算に入る。持
ってる素材とここの建物の素材を精製しなおしたもので充分に足り
る。カーテンなど布の部分は龍布に交換する。
それで必要な素材を正確に測って地面の上に並べる。
解体スキル魔法で今の建物の基礎部分から全部解体して、崩した素
材も精製し直してこれも並べられている素材の横に並べていく。
まずは土台となる全ての部分に土魔法で強固な地盤に作り変える。
これで300年ぐらいは楽にもつだろうってぐらいに頑丈に作って
おいた。
周辺の土地を見ると、ここシーパラは頑丈な地盤の上にあるのに・・
・所々に地盤が弱い場所があるみたいだな。元々が大草原にたくさ
んある池とかで埋め立てた土地なのかもしれない。
﹃邸宅建築﹄のスキル魔法を発動させて完成。
見た目は寸分の狂いもなく全く同じ外観だけど外から見た感じが一
緒なだけで中身は完全に生まれ変わった。土壌や基礎から完全に作
り直した新築になってる。
玄関から店舗の中に入って靴を脱いで下駄箱に入れて3点セット魔
法が使われているのか確認をする。
歩き回ってみるが1階部分はレイアウトと部屋の形が微妙に違うだ
けでもふもふ天国ヨークル店に非常に似てるな。この店舗の形が今
後のもふもふ天国の店舗基本形になりそうだ。
店舗の客室部分のフカフカじゅうたんで寝転んでみるが気持ちが良
いなこれ。
1154
これならお客さんも寛げるだろう。クッションも大量に作って補充
してあるので取り出して寝転んでみるが快適だ。テーブルももふも
ふ天国と同じ大きさのモノを30個ほど作ってストックに補充した。
トイレも全部出入りしてみるが出入りはしやすいな。同時に開け閉
めしてドア同士が当たる部分には森林モンキーの尻尾でクッション
を作って大きな音がならないように工夫した。
混んでいる時はどうなるのか・・・こればかりは実際に混んでる時
にお客が感じる事だから、俺にはわからないが個室が6個と数はあ
るので何とかなるだろう。
アイテムボックスからまずは事務所専属のクマ型メイドゴーレムの
﹃シロ﹄を取り出す。
グリーンウルフ型メイドゴーレムの﹃グリーン﹄﹃ブルー﹄﹃シル
バー﹄の3体を取り出して、愛玩ゴーレムの﹃おーとま﹄﹃クマ﹄
﹃コー﹄﹃ウルフ﹄﹃パンダ﹄﹃レッサーパンダ﹄﹃コアラ﹄﹃タ
ヌキ﹄﹃キツネ﹄﹃ウサギ﹄﹃柴犬﹄﹃三毛猫﹄﹃リス﹄﹃オスラ
イオン﹄﹃ペルシャネコ﹄の15体も取り出しておく。
ここで気付いたんだけど拠点防御用のユーロンドを作っていないな。
上空監視用ゴーレムの忍も作っておく必要があるだろう。
靴を下駄箱から取り出してキッチン裏から裏庭に移動して5体のユ
ーロンド11号∼15号までを作る。
もはやゴーレム製造は慣れてきてるのでサクサク進んですぐ出来る。
武装は1∼5号の繰り返しになる。肩の階級章の部分に号数を書い
てわかりやすくした。
11号はシールダー。12号は双鞭。13号は棍。14号がトンフ
ァー。15号が万力鎖。
忍は3体作るが・・・これは登録しない。置物のように屋上で見張
ってるのが忍の仕事だし。
今は敷地の防衛は忍とメイドゴーレム達に任せてユーロンドを登録
1155
するために商業ギルドと冒険者ギルドの両方に登録しに行かないと
な。
作ったテーブルとクッション・会計用の魔水晶などをメイドゴーレ
ム達にアイテムボックスからアイテムボックスへの移動で渡し、小
麦粉やコーヒーなどの素材も大量に送ったのでついでに開店準備と
してクッキーなどを作って置くように命令しておく。
商業ギルドはマリスがいるからいいとしても、冒険者ギルドはシー
パラ本部の方は少し信用できないと言うか・・・知り合いが全くい
ないので少し疑心暗鬼になってる。
ゾリオン村の冒険者ギルドは対応が良かったのに、ヨークルの冒険
者ギルドはギルドマスターから対応がアレだったしな。
俺のゴーレムは特殊なだからなぁ・・・まぁいいか。ユーロンド1
1号∼15号の5体をアイテムボックスに入れて店を出る。
店舗から歩いて商業ギルドに向かいながら今度は午後のシーパラの
町を歩く。
人の通りはそこそこだろう。何しろ今は中途半端な午後3時半。
仕事が終わるには早いし主婦が買い物から帰ってくるぐらいの時間
なんだがそこそこの人通りがある。
営業の人間が疲れて一服してる時間かな。
場所が工房の多い場所だけに営業や業者の人間が移動しているのが
目立ってるぐらいだな。
ヨークルは﹃盾職の本場﹄という都市の関係で防具職人の方が多く
防具の工房が数多くあったが、首都シーパラは工房の数は多いがこ
れという特色はなく様々な職人が様々な工房で働き特色が消えてい
る。
先に商業ギルドで登録しておきたかったので、シーパラの中心にあ
る商業ギルドに向かって歩いていく。
1156
中に入ってまた会議室を借りてマリスを呼び出してユーロンド5体
を登録させてもらう。
﹁さっき別れたばかりですぐに呼び出したりして済まない﹂
﹁私はすでに早乙女さんから信頼を受けられたみたいなので、専属
窓口になると申請を提出しておきますか?﹂
専属窓口契約について簡単に説明を受けた。年間契約で俺が金を払
うと言うことはないが、マリスにボーナスがつくだけらしい。契約
しておけば専属カードがもらえるんだと。
俺が儲けて商人ギルドが儲かればボーナスの金額が跳ね上がるとい
うことだ。
﹁ああ、俺は儲かるかどうか判らないんだけど。マリスの専属はぜ
ひお願いします﹂
専属窓口としての契約書を作り専属カードを貰う。今後はこのカー
ドを窓口に見せるだけでマリスを呼び出してもらえるようになった。
﹁これで安心したよ。ところでマリスは甘いものは好き?﹂
﹁私は甘いものは少し苦手ですね。柑橘系の甘酸っぱいのは大好き
なんですけど﹂
﹁じゃあ・・・これをあげる。専属契約もしたし今後もよろしくっ
てことで﹂
アイテムボックスからオレンジを取り出してシャーベットを作る。
果肉ゴロゴロで甘酸っぱくてマーマレードのように少し皮を入れて
アクセントの苦味も入れた。
美味しいと嬉しそうな顔で喜んでいたので魔道冷蔵庫があれば簡単
に作れるレシピをあげると更に嬉しそうに笑ってくれた。
﹁マリスにちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?﹂
﹁どうかしたんですか?﹂
﹁今から冒険者ギルドに行ってゴーレムを冒険者ギルドにも登録し
ておこうかと思ってるんだけど・・・俺のゴーレムって特殊だから・
1157
・・このシーパラに住んでるマリスが、口が堅くて信頼できると紹
介できる人ってのは冒険者ギルドにいないかな?﹂
﹁冒険者ギルドの本部の窓口対応と秘密保持は商業ギルドよりもし
っかりしてるよ。いつも上司の目が光ってるって噂があるぐらいだ
よ。対応で相手から苦情が出るとすぐに真偽を確かめられて交替さ
せられるって噂もあるね。両方ともウソなんだけど﹂
﹁それなら安心かな。いきなり変なことを聞いてごめんね。いい情
報をありがとう﹂
﹁いえいえ、どういたしまして﹂
﹁ついでにシーパラの冒険者ギルド本部ってどこにあるのかな?﹂
マリスがシーパラの案内図をアイテムボックスの中から取り出して
渡してくれた。
商業ギルドで配っているのもらしい。ありがたく受け取る。
それから雑談をしてからまたマリスと握手をして別れる。
冒険者ギルドは商業ギルドからそこまで離れていなかった。地図を
見てビックリしたがさっき商業ギルドに歩いてきたときに通った道
沿いにある。
冒険者ギルド本部とかの看板がまったくなかったので凄く分かりに
くいな。前を通ったのに気付かなかったよ。
冒険者ギルドの入り口を通る時に警備員から魔水晶を使用したチェ
ックを受けるのだけど、俺がBランクの冒険者だとわかると警備員
が背筋を伸ばして姿勢を正していた。
別にだらけていたわけじゃないから姿勢を改める必要はないのに。
・・・世間一般的の冒険者の認識はBランクになると一流の冒険者
と言われている。
Aランクだと﹃超一流﹄になるがBランク以上はギルドや国家への
貢献度を多く溜めないとなれないといわれている。俺自身ランクに
1158
こだわってるなんてことがないので早乙女遊撃隊が全員Bランクに
なった今は元々何も考えてなかったからもっと上にあがろうなんて
野心もない。
Dランクで一人前と言われてCランクだと腕利きと言われてる。ア
イリとミーがCランクにいたので一緒のランクになろうとしただけ。
後でチーム早乙女遊撃隊に合流したクラリーナもCランクにまであ
げることしか考えてなかったしな。
窓口で冒険者カードを見せて﹃小会議室を借りてゴーレムの登録を
したい﹄と申し出ると小会議室に通されてすぐに登録させてもらう。
ここは窓口の数も少なくて依頼表も一切貼り出されていない。
光で明るいんだけど、どこか冷たくて役所のような雰囲気をかもし
出してる。
ゴーレムの登録をしてくれた人に聞いたら・・・ここにくる冒険者
は揉め事が起こったときに呼び出されたり、冒険者ギルドに相談事
を持ち込む時、そして冒険者ギルドに依頼を出す商人とかしか基本
的に人は来ない場所。
依頼などが貼り出される本来の冒険者ギルドっぽい場所はシーパラ
の北の駅近くにある出張所があって、普通の冒険者は呼び出されな
い限りここには来ないし、出張所にしか行かないんだと。
出張所は敷地面積もこの国の冒険者ギルドで1番広くて、様々な武
器の訓練場や教官なども複数いて初心者用の学校もあり施設も整っ
ているし、冒険者が探す依頼書がそもそもここにはなくて出張所に
しか貼り出されていない。
俺はしばらく依頼を受けるつもりもないし、ゴーレムを登録するに
は誰もいなくて静かな雰囲気のこちらの本部の方がありがたい。
ここなら脳筋バカみたいなヤツラに絡まれることもほとんどないだ
ろうし。
1159
ユーロンド達のネームプレートを貰ってそれぞれの首輪につけて完
了した。
そろそろ帰ろうと席を立とうとしたときに会議室に来客がきた。
俺に伝言があるみたいなので・・・まずはゴーレムをアイテムボッ
クスに片付けてから封印を解きドアを開けさせた。
明らかに冒険者ギルドの幹部っぽい人がやってきて挨拶をしてくる
が・・・ダークエルフだった。
﹁早乙女様、初めまして。私の名前は﹃ペスカト・ビッタート﹄で
す。ペスカトと呼んでください﹂
﹁初めまして早乙女真一です。早乙女と呼んでください。・・・ビ
ッタート卿の関係者ですか?﹂
﹁はい。見た目はほとんどお爺様と変わりませんが、これでも孫で
す﹂
﹁一目でわかるってぐらい似てますね。髭がないだけかも﹂
﹁それは良く言われますね。私は先祖がえりでダークエルフの血が
濃く出てきてますが、本来はダークエルフのクォーターなんでダー
クエルフの血は25%だけで75%は人間なんです。でもおかげで
魔法が生活魔法の少しだけですが使えますし、魔装術もお爺様直伝
で使えるようになりました﹂
﹁それでペスカトさんはどういう用件でここに来たのですか?﹂
﹁・・・失礼しました。用件は冒険者ギルドシーパラ本部のギルド
マスターの青木勘十郎が早乙女様にお詫びして話がしたいと聞いて
るのですが、後日都合の良い日はありますでしょうか?﹂
﹁うーん、今からでも1時間以内なら可能ですよ﹂
﹁それはありがたいです。ではギルドマスター室に案内させていた
だきますでこちらにお越しください﹂
ペスカトに案内されてギルドマスター室に入る。
俺がこのイーデスハリスの世界に来て初めて対面する﹃SSランク
1160
の冒険者﹄になる。
ギルドマスター室の応接室に入っていくと青木が立って俺を出迎え
る。
身長は180cm弱ぐらいある。横幅もかなりあるゴツイ体をして
るな。威圧感は上手く抑えられていて魔力も隠蔽されているが、流
石のSSクラスだ。実力者だというのが俺にはハッキリとわかる。
俺の佇まいを見て青木は一瞬目を細めるが瞳の光を消すためだろう。
青木も根っからの冒険者なのだ。闘争心というのは持っているだろ
うし、まだ枯れてしまうほど耄碌もしてないだろう。実力者にしか
実力者の雰囲気は理解することは出来ない。
上手く隠蔽しても肌で感じてしまうのだ。
﹁ワザワザ呼び出しをして申し訳ない。どうしても以前の事をお詫
びしたくて、ここに早乙女君が来たときは話がしたいと何人かの職
員にお願いをしておいたのだ。ノラギス・サザールの件はこの冒険
者ギルドを健全な組織にするためにはどうしても避けて通れなかっ
た事とはいえ、君に面倒なことを押し付けてしまって申し訳ない﹂
俺の目の前で背の低い俺よりも頭を下げる青木とペスカトに頭を上
げるように促す。
﹁もう気にしてないので大丈夫ですよ。2人とも頭を上げてくださ
い、青木さん達の謝罪は受け入れます。それにその後のあらましは
ラザニードさんに聞いてます。それと青木さんってギルドマスター
をやめたがっていたって言うのは本当の話なんですか?﹂
﹁ふふふっ、間違いなく本当の事だよ。今回の件で上手くギルドマ
スターを引退することが出来たからその意味でもありがとうと御礼
を言いたいな。まぁ立ち話でも何だし、そちらに座ってくれ﹂
俺は薦められた応接室のソファーに座るとペスカトにコーヒーか紅
茶かのどちらかを問われたのでコーヒーをお願いする。
1161
応接室をコーヒーの良い香りが充満してくる。貰ったコーヒーをす
するがかなり美味しいので入れ方が上手なんだろうな。
﹁今日は短時間という話なので単刀直入に話すことにするが冒険者
ギルドのノラギスが絡んだ不正で早乙女君に最高評議会での証人喚
問への出席が求められている。もちろん証言をする側で。もう1つ
も参考証人としての出席で﹃枢機卿のエクストラヒール偽装疑惑﹄
の話。これはすでに枢機卿は今朝にドルガープの街で確保されてい
て、告発者のグレゴリオ・シーズ・フォレストグリーンさんとゾリ
オン・シーズ・ガルディアさんと一緒に参加を要望されている﹂
﹁日程は決まっているのですか?﹂
﹁どちらも早乙女君の要望次第で日程が決まる形になる。早乙女君
が日程を自由に決めてかまわないそうだ。グレゴリオも早乙女君に
合わせるとすでに決まっている状況だ﹂
﹁そんなことでいいんですか?﹂
﹁それはもちろん最高評議会までもが早乙女君の要望に沿わせると、
すでに会議で決定しているからな。君が参加しないことにはこれら
の喚問は進まないから今は君を待ってるだけだ。日程的に要望があ
ったら教えて欲しい﹂
﹁俺は明日以降なら今のところは予定はないですが、早めに終わら
せたいですね﹂
﹁それでは明後日の朝9時にこの冒険者ギルドに来てもらえないか
? 明後日の午前と午後に両方の証人喚問を振り分けしてもらって
1日で終了するように予定を組んでもらうよ﹂
﹁わかりました。よろしくお願いします﹂
それからは雑談しているとコーヒーもなくなり時間になったので俺
は御礼を言ってギルドを後にする。
夕陽でオレンジ色に染まりつつある街並みの中をそのまま歩いて購
入した店舗に戻っていく。
1162
1人乗りで街乗り専用のキックボードぐらいの大きさの簡単な移動
手段が欲しいな。
街乗り専用だからゴーレム馬車の速度時速10km出ればいいから
簡単だろう。
ホバーボードみたいに浮かせれば故障は少ないだろうし安全かな。
キックボードみたいに手で操縦すれば簡単だろう。ブレーキも作る
ことは出来る。
こういうときに魔力パワーボートとホバーボードを作った経験が生
きてくるはずだ。
嫁たちの分も製作してみよう。
歩きながら考えてるとクラリーナから念輪が入る。
﹁しん様は今、どちらにいらっしゃいますか?﹂
﹁俺は今は購入した店舗間で歩いてるところだよ。もしかしてもう
みんなはクラッシック・グリフォンズホテルに戻った?﹂
﹁はい。すでに部屋に帰ってきました。夕陽がとても綺麗です。し
ん様、店舗は購入されたんですか?﹂
﹁うん。購入してすでに建て替えも終わった。今は外観以外は完全
に新築になったよ。今まで外に出かけていたのは店舗防衛用にユー
ロンドを5体作ったから登録してきたところ。店に帰ってから転移
するからホテルのバスルームを空けといてね﹂
﹁わかりました。では待ってますね﹂
クラリーナからの念輪を切る寸前にるびのからの念輪が飛び込んで
きた。
俺の別の思考回路で同時にでも会話が出来るので便利だな。
﹁ねぇとうちゃん、待ちくたびれちゃったから、ご飯の前にお風呂
に入っててもいいかな?﹂
﹁そうだなぁ、俺もホテルのベランダから夕陽が見たいからちょっ
1163
と時間がかかるかもしれない。だからゆっくり入っててもいいよ﹂
﹁わかったー﹂
そうこうしてる間店舗に到着したのでユーロンド達をアイテムボッ
クスから取り出して店舗の防衛任務に入らせた。
ここシーパラにはまだ面倒を起こすバカタレがたくさんいそうなの
でユーロンド5体と忍3体の完全防御体制。更に遠見の魔法を完全
にシャットアウトするために結界も厳重に追加で張っておく。
これで防御力は早乙女邸に匹敵する敷地になった。
後はゴーレム達に任せて俺は靴をアイテムボックスに入れてホテル
のバスルームに転移魔法で飛んだ。
バスルームを出てホテルの部屋に戻ると夕陽がきれいに沈んでいっ
てる時間帯で、西側のベランダはオレンジ色に染まっていた。
俺もベランダのイスに座ってシーパラ半島の丘に沈み行く夕陽をを
眺める。
最上階の一番高い部屋だけあってここから見える景色は凄くきれい
だ。絶景と言ってもいいな。
シーパラ半島の丘がオレンジ色から日が当たらなくなって色を失い
黒く染まっていく様子は、なぜか少しだけ悲しい気持ちになる。
1164
もふもふ天国シーパラ店の家族お披露目っす。
ちょっぴりセンチメンタルになってしまった気分は俺の腹がグーー
と鳴る音で消滅。
しかも嫁3人に笑われてしまった。
気を取り直してアイリ・ミー・クラリーナ・マリア・セバスチャン
を連れて自宅の裏庭に転移する。
今夜の晩ご飯は裏庭で海鮮素材のバーベキューだ。
シーパラで購入した新鮮な海鮮がメインになってる。
肉ももちろんあるがやはり今日のメインは魚介系。
買出しをしたみんなへ俺からのリクエストは﹃貝﹄で頼んである。
酒を片手に具材が焼きあがる前に刺身からガツガツと食べていく。
刺身もマリアが大量に用意してくれてる。
刺身も新鮮で美味い。今日の昼食で食べた海鮮丼と遜色ないほどに
マジで美味いな。
まずはすぐに焼ける肉から食べるが・・・こういうときに焼肉のタ
レのありがたみを感じる。
が・・・アマテラス、今回の依頼の報酬が﹃焼肉のタレ﹄だけなん
て言ったらブチギレするからな? と念を込めてアマテラスに送る。
︻ギクッ︼って声が聞こえてきたような気がしたがシカトする。
たくさんあるうちの一つって事で焼肉のタレを渡されたのなら納得
できるが、ここまで散々こき使っておいて焼肉のタレだけ渡された
ら、流石に温厚な俺でもブチギレて暴れる自信があるぞ?
・・・アマテラスのためにも教会に行くのは明日にしておこう。
1165
今夜の酒はビールにした。バーベキューの時はやっぱりビールかな。
魔法でジョッキをキンキンに冷えた状態でいつまでも維持できるの
で、いつでも冷たくて美味しいビールが飲み放題って言うのは・・・
まさしく魔法バンザイだな。
嫁達が買って来た魚介系も美味しい。甲羅ごと焼くカニやエビ、殻
ごと焼いてる牡蠣などもメチャウマだな。貝系統がバーベキューで
は1番好きと言うオレのリクエストに応えてくれて大アサリやサザ
エなどもあって醤油の香ばしいこげた香りが更に食欲を誘う。
肉や野菜や魚をガッツリ食べて、冷えたビールをがぶ飲みをする。
俺の場合は新陳代謝が良過ぎて酔うことが出来ないってのもこうい
うときには考え物だな。
この世界に来てから﹃酔っ払う﹄って言う言葉は俺の辞書からは消
えた。
ま、酒の美味しさは味わえるから良いんだけど。
﹁ねぇしん君、はじめて来たシーパラの感想は?﹂
今日は嫁の3人ともビールを飲んでるだけなので全然酔ってない。
俺の与えた祝福﹃早乙女に愛されし者﹄というのが回復力を倍増さ
せているので以前に比べてあまり酔えなくなった、たくさん飲める
ようになった、二日酔いが全くなくなったとみんなから聞いてる。
そんなことを考えていたらアイリから質問されていた。
﹁綺麗なんだけど・・・この高層ビルの群れは少し日本を思い出す﹂
﹁しんちゃんの故郷もたくさんの高い建物があったの?﹂
﹁俺が住んでいたところにも100mを越す高層建築物はたくさん
あったよ。いくつかは屋上の展望室まで行って景色を見たことがあ
るけど・・・200m以上のところに1度だけ登ってみたんだけど、
景色が物凄かった記憶があるよ﹂
1166
﹁へぇ∼∼、そういえばしん君が以前、日本に帰りたいとは思わな
いって言ってたけど、私は逆にしん君の生まれ育った国を見てみた
いけどね﹂
﹁そうなんだ﹂
﹁私もアイリと一緒ね。しんちゃんが過ごした日本っていう国を1
度でいいから見てみたいと思ってるよ﹂
﹁私はしん様とこれからたくさんの国を、色々な町を、様々な風景
を見て回ってみたいです。今はそれほどしん様の故郷の日本って国
に興味がないので行きたいとは思いませんね﹂
﹁俺が育った場所は田舎でゾリオン村みたいな雰囲気だよ。学校を
卒業してからはシーパラの倍ぐらいの住人が住む都市に住んでいた
けど・・・働く場所があったら田舎に暮らしていたままだったかも
な。もし田舎で働いていたら、イーデスハリスの世界に来てないと
思う・・・死亡原因も時期も変わっていただろうしな﹂
﹁そしたら私たちはしん君に会えなくなっていたわね﹂
﹁俺もみんなに出会えなかった人生は今更考えたくもないよ﹂
﹁それにしても・・・高さ200m以上の展望台ですか? それは
この国にも他国にも聞いたことがないですね。シーパラの最高評議
会のビルの最上階は35階で180mほどで、世界一だと聞いたこ
とがあるのですけど・・・200mですか。私も1度見てみたいで
す・・・凄過ぎますよね。最高評議会の最上階は展望レストランが
あるらしいという噂を聞いてますが、一般に開放されているわけで
なくシーズの人間か国賓クラスでないと入ることさえ出来ないと聞
いてますし﹂
﹁上空から見るだけだったらいつでもいいよクラリーナ。俺の飛翔
魔法だったら1000m上空でも可能だよ。なんなら今からでもい
いけど・・・夜は真っ暗闇の中飛翔で飛び回るのは面白くないから
やめたほうがいいかな﹂
﹁確かに夜は下が見えなくて、逆に怖くなっちゃいそうね﹂
1167
﹁ミーの言うとおり夜はかなり怖いと思うよ。月の明かりで照らさ
れている天気の良い時なら幻想的でいいのかもしれないけど、今夜
は少しずつ曇ってきて月もすでに隠れてしまってるし・・・明日は
曇りか雨だろう﹂
﹁しん君、じゃあ明後日は?﹂
﹁明後日の予定についての事で話があるんだけど・・・﹂
俺は明後日は朝から冒険者ギルドに行って最高評議会からの証人喚
問に出席するという予定が入ってしまったことをみんなに伝える。
﹁ねぇ、しん君・・・ホントに大丈夫なの?﹂
﹁気にしないでも大丈夫だよ。俺の場合は呼び出される犯罪者とし
ての出席ではなくて、最高評議会における裁判の証人としての出席
を求められているんだ。だから日程も俺が明後日の午後と午前に決
めたからアイリが心配するほどの出来事なんてないだろう﹂
﹁しん様は午前と午後の2つの証人喚問に出席するのですか?﹂
﹁ああ、それは﹃冒険者ギルドの幹部ノラギス・サザールが冒険者
ギルド所属する冒険者の個人情報転売問題﹄と﹃枢機卿のエクスト
ラヒール詐欺事件﹄の2つに出廷を依頼されているからね﹂
﹁枢機卿の詐欺事件って・・・国の威信にかかわりそうなメチャク
チャ大きい事件だよね・・・しんちゃんに以前、話だけは聞いてい
たけど、今は心配になってきちゃったよ﹂
﹁みんなの心配は無用なんだけどなぁ。俺からすればただの﹃後始
末﹄でしかないんだから。こういうことは一刻も早く終わらせたく
て明後日に予定を入れてもらったんだ。それに枢機卿の詐欺事件に
関しては俺がエクストラヒールの証明を最高評議会でやらないと詐
欺と証明することが出来ないから絶対に出ないといけないって覚悟
はしてたし﹂
﹁そうだったんですね。じゃあ、明日と明後日の予定を決めてしん
様に伝えておかないといけませんね﹂
﹁そうなんだ。みんなの予定を聞きたかったんだ。ちなみに・・・
1168
るびのはどこか行きたいところはあるか?﹂
食後にマリアに全身を3点セット魔法で洗って貰っているのに、聖
獣のクセにメチャクチャ猫っぽい動きで熱心に顔を洗っているるび
のに聞いてみた。
﹁ふぇ・・・オレ? オレは首都シーパラ周辺の狩りをしたことが
ないから、一度してみたいな﹂
﹁それは私もアイリもしたことなから、ちょっと面白そうね﹂
﹁そうね。シーパラ周辺の狩り・・・私もしてみたいわね。どんな
魔獣がいるのかしら﹂
﹁というよりも、あの都会の周辺に魔獣っているのか?﹂
﹁私もしん様と同じ疑問を持ちました﹂
﹁しん君って今日冒険者ギルド本部に行ったって言ってたけど・・・
冒険者ギルドにそういう情報とか、掲示板に依頼表ってなかったの
?﹂
﹁それがさぁ・・・﹂
冒険所ギルド本部の事と冒険者ギルド出張所の説明をする。
俺も今日聴いた話なので簡単にしか説明できないがシーパラの冒険
者ギルドには2つの場所があって、俺が今日行ったのは﹃ギルド本
部﹄で依頼受付などの事務仕事や組織運営などの担当部署。
冒険者ギルドのシーパラ支部は北のシーパラ駅の近くで北門の近く
にあるみたいだとみんなに商業ギルドで貰った地図をみせて説明す
る。
説明しながら裏庭に設置したイスに腰掛けて刺身をパクつく。酒は
話の途中から日本酒に変更した。
アイリたちは酒はやめて緑茶やハーブティーなんかに替えたようだ
った。
1169
るびのは俺の隣で休憩を終えて本気で食い始めてる。
甲羅ごと焼いたカニをハフハフしながらバキバキと食ってる。
・・・顔はネコの様に洗っても猫舌ではなさそうだ。
しかも食事中の休憩で顔を洗ってるし・・・ナゾだな聖獣って。
カニの次は甲羅ごと焼いた伊勢えびをバリバリ食ってたので美味し
いんだろう。
魚介の合間に焼いた骨付き肉も食ってるしバーベキューを楽しんで
いるようなので助かるな。
マリアがるびのの要求に応えて焼いてくれてるし、俺も自分の食べ
たいものだけ焼いてる。
嫁たちも話をしながらいっぱい食べてるので、箸の停まらない早乙
女一家だな。
今日の買い物でセバスチャンやマリアのショック魔法で撃退したス
トーカーは10人以上いたと嫁達が笑いながら話してる。嫁たちは
ストーカーを逆に利用して気配を感じる練習をしていたと教えても
らう。
クラリーナが1番スジがいいとセバスチャンの言葉でクラリーナは
嬉しそうだ。
クラリーナは魔力探査と気配探査のスキルが今後の訓練しだいで取
得できそうだな。
ミーは向けられた敵意や殺気はわかるけど監視している人間の気配
を感じ取ることに苦戦してるとボヤいていた。
アイリはこういうことをそつなくこなす。
シールダーという職業も敵の気配をいち早く察知して味方を守るの
が仕事だ。アイリも気配探査はスキル取得できるような訓練をして
もらおう。
ミーはちょっと時間がかかりそう。ミーも気配探査スキルの訓練に
時間を掛ければ使えるようになる。
1170
そうやって嫁3人にそれぞれ説明したら嬉しそうになっていた。今
後のヒマを見つけて訓練を続けてスキル取得にがんばるそうだ。
みんなで今日の経験した出来事なんかを雑談を交えて話す。
俺は・・・午前中に早乙女商会と契約した業者に気を使われていて、
業者側の人間が俺に信頼してもらえそうな人のみを厳選して契約の
場に呼んでいたこと。
午後からの商業ギルドではリーチェに紹介してもらった商業ギルド
シーパラ本部の腕利きで、不動産部門の責任者﹃マリス・シュガー
ト﹄と専属窓口の契約をして、ある程度は仲良くなったこと。
購入する物件を安く手に入れるために2件も御祓いさせられてしま
ったが、大量の魔結晶と魔水晶と希少鉱石が手に入ったのでホクホ
クになってしまったこと。
首都シーパラでもふもふ天国ヨークル店の店舗の敷地よりも広くて
工房が立ち並び職人達が行き来する区域と、南の食糧品市場の周辺
で飲食店超激戦区との中間地点にある。
そんな絶妙な場所に総額1億Gと物凄く安く購入できたのはいいが、
早乙女邸の隣の倉庫のようにガタガタの建物だったので土台から作
り変えて外観以外は新築の店舗にしたこと。
﹁しん様新しく作ったもふもふ天国シーパラ店を見てみたいです﹂
﹁クラリーナは見たいのか。アイリとミーは?﹂
﹁私も見てみたい。ミーはどうする?﹂
﹁もちろん私も見たい。しんちゃん今から連れてってよ﹂
﹁わかった。るびのはどうする?﹂
﹁オレはもう少し食べたいからここにいるよ﹂
﹁じゃあ、マリアはるびののバーベキュー係を続けててくれ。セバ
スチャンは残った食材をすぐに食べられるように調理しておいてく
れ。それと後片付けを頼む﹂
﹁﹁了解しました、ご主人様﹂﹂
1171
アイリ・ミー・クラリーナの嫁3人を連れてもふもふ天国シーパラ
店へ転移する。
みんなに質問してる間にもふ天のメイドゴーレム達に念輪で準備を
命令しておいたので、2階事務所にいるシロが3階居住区の転送部
屋の前のリビングに待機してくれていた。建物全ては俺たちの到着
と同時に魔道ランプに点灯されて明るくなってる。
6畳ほどの大きさの転送部屋を出ると3階のリビングに出る。
寝室は設計段階で潰してリビングとキッチンを広げてある。ここで
食事することがあっても寝るのはヨークルの早乙女邸に帰ればいい
だけだからな。
あくまで早乙女商会の事務所で使用する予定なのでここに客を連れ
てくることもないだろう。
すでにハウス栽培用で上部が全面カラス張りのベランダには多くの
プランターが置かれていて、何かしらの苗が植えられている。
ガラスは20cm角の小さな窓がドーム状になった集合体となって
いて1つずつ個別に開閉も出来るし、黒くして太陽の光を遮って暗
室にすら出来る優れもののハウスにした。
マリアと連携して俺のアイテムボックス経由で苗やプランターや土
などを送ってもらってるみたいだな。
俺が細かく指示することもなく連携して対応してくれる優秀なメイ
ドゴーレムたちに感謝だ。
2階に降りて嫁たちに事務所の説明する。玄関の外に一度出て外階
段の説明もした。
以前は鉄製だったが見た目だけが同じで今回はオーガ鋼にミスリル
コーティングした階段なので頑丈になって錆びる事がなくなった。
錆びっぽく色がワザとつけられているのは外観だけは寸分たりとも
変えないようにしているので。
1172
玄関に戻ってから更に1階へと降りる。
嫁達のもふもふ天国シーパラ店の感想は﹃ヨークル店に似てる﹄だ
った。
俺と同じ感想で思ったとおりだな。
愛玩ゴーレムたちがポテポテと音をたてるように歩きながら群がっ
てくるのを、触りまくって撫でまくってもふもふを堪能する。メイ
ドゴーレムのグリーンたちがテーブルとクッションを出して並べて
くれる。
嫁たちも思い思いの酒をテーブルに出して呑み始めた。
オレはポテトとカットフルーツをシルバーに出して貰ってつまみに
して酒をウイスキーに変えた。
ミーは今日のシーパラ買い物ツアーで発見した30年物のブランデ
ーを樽ごと購入していたのでロックで飲みはじめてる。つまみは小
魚の素揚げをアイテムボックスから取り出してつまんでる。
アイリは10年物のワインだった。
これはアイリが1番好きな味のワインだと以前言ってた。
無論、自分でヨークルの食料品市場の酒屋で探し出してきて樽ごと
何個か購入していた。
つまみは今日の買い物ツアーでアイリが発見したチーズの大きな塊
を俺に渡してきて、何か新しいつまみを作ってほしいというリクエ
ストされてしまった。
なので5mmほどの厚さにスライスして蒸したジャガイモにチーズ
を溶かしてかけただけというシンプルな物を出してあげたら美味し
いと喜んでいる。
クラリーナは俺が前にあげた饅頭をつまみにして焼酎の炭酸水割を
飲んでいる。
もふもふ天国で愛玩ゴーレムたちと戯れてもふもふを堪能しながら
まだ決まっていなかった予定の話をする。
1173
﹁俺は明日は午前中に、このもふもふ天国シーパラ店をオープンさ
せようかと思ってる。午後からは教会に行ってアマテラス様と話し
合ってくるよ。明後日は一日中証人喚問で最高評議会に拘束されて
しまうし・・・みんなはどうする?﹂
1174
雨の中だけど、もふもふ天国シーパラ店の開店っす。
俺の問いかけに最初に答えてくれたのはアイリだった。
﹁はっ! モフモフしてたら意識が飛んでたよ。しん君なんか言っ
てたかな?﹂
﹁みんなに明日と明後日の予定が聞きたかったんだけど﹂
﹁しんちゃん、私はるびのと一緒にシーパラで狩りが出来るように・
・・明日は午前中に冒険者ギルドで情報収集をしてくるよ。そんで
もって午後からは狩りをしてみようかなって考えてる﹂
﹁それなら私は午前中は大剣のトレーニングでそろそろ実戦がした
い。るびのと一緒に午前中は大森林の南側に行ってトロールでも狩
りに行こうと思ってた。午後からはミーと合流するよ。しん君、転
移魔法で送り迎えよろしく﹂
﹁私も午前中からの狩りについて行ってもいいですか? シールダ
ーのアイリさんがいない状況で私が守備メインのトレーニングがし
てみたいんです。出来るだけ実戦で﹂
﹁もちろんよクラリーナ。しん君どうかな?﹂
﹁俺は午前中はもふもふ天国の開店準備をするし、それが終われば
シーパラの食料品市場に買出しに行きたいと考えてる。午後からは
教会に行ってからまた買出し・・・ってよりもシーパラを歩いて回
ってみたいな。また何か新しい発見が出来るかもしれん﹂
これでみんなの予定が明日の予定が決まった。
みずかげ
俺は明日の朝にアイリ・クラリーナ・るびの・セバスチャンの4人
を大森林奥地の大黒豹のリーダー﹃水影﹄の巣の近くまで転移魔法
で送る。
ミーとマリアはキャンピングバスでクラッシック・グリフォンズホ
テルからシーパラ駅の近くにある冒険者ギルドシーパラ支部で情報
1175
収集。
ここで2人には昼食で美味しそうな店の情報収集もお願いしておく。
昼は俺がアイリ達を迎えに行ってキャンピングバスに集合してみん
なで店に入って昼食。
個室がなければるびのはキャンピングバス内で食事になってしまう
が。
午後は俺以外は全員でシーパラ周辺で狩り。
夕方にはもふもふ天国シーパラ店の3階に集合して自宅に帰って晩
ご飯。に決定した。
﹁明日の事なんだけど、雨が降るかもしれないけどそれでも狩りに
行く?﹂
﹁もちろんよ。戦いをするのに、天候が・・・なんて言い訳できな
いし﹂
﹁でもミーさん、しん様が作ってくれたこの雨避けの指輪があれば
濡れることもないのでは?﹂
﹁違うのよクラリーナ。自分が濡れる心配じゃなくて・・・濡れる
ことで自分の行動が制限されること・視界までも制限されること・
雨音で聴覚にまで影響すること・・・などと﹃色々な制限を受ける
事﹄が雨の影響で考えられることだわ。戦闘時に言い訳なんて敗者
の負け惜しみでしかないから、あらゆる訓練をするのも冒険者の務
めね。冒険者が負ける時ってのは﹃死﹄に直結してる問題なのよ﹂
﹁なるほど・・・アイリさん勉強になります。ありがとうございま
す﹂
﹁無論、戦闘時だけでなく視界不良で敵の発見が遅れたりすること
もあるから、移動中も様々な注意は必要よクラリーナ﹂
﹁ハイ、ミーさん。わかりました﹂
確かに悪条件時の戦闘訓練なんてクラリーナは今までしてこなかっ
たからな。
1176
気配を探る訓練にももってこいな天候かも。
﹁それならば明後日の予定も、俺以外のみんなで狩りにすれば? どこでも好きな場所に送ってあげるよ﹂
﹁私は大剣の実戦での訓練がしたいから、戦いのフィールドは草原
でも岩場でもダンジョンでもどこでもいいよ﹂
﹁岩場はみんなでは無理だな。あそこはワイバーンがいるし5m以
上の大きな岩がゴロゴロしてる不安定な足場の中での狩りはみんな
では無理というより﹃無謀﹄だな。10m以上の岩を苦もなくヒョ
イヒョイ飛び越えることが出来ないならあそこでは獲物にしかなら
ないから、とても送っていくことは出来ないよ﹂
﹁そうなの? 私の大剣で大鹿魔獣を狩ってみたいと思っていたん
だけど﹂
﹁それは無知すぎる。大鹿魔獣ってのは普通の草食動物じゃなくて
﹃魔獣﹄でもあるんだ。岩場の生息する魔獣の関係で主食として草
や苔を食べてるけど、人間ぐらいの生き物なら骨ごと食っちゃえる
﹃雑食の魔獣﹄だよ。獣じゃないんだ。飛び道具での狩りなら可能
なのかもしれないけど・・・うーん。やめたほうが懸命だな﹂
﹁わかった。諦めるよ。私達にも高速で空を飛んで移動できること
が出来たら狩り出来るかもしれないのにね﹂
﹁それだ! 忘れてた! みんなに試して欲しいことがあるんだけ
ど、今から自宅の裏庭で実験してもいいかな?﹂
﹁え、実験ですか? しん様、何をどうするのですか?﹂
﹁戦闘や狩りでは使用することは出来ないけど、キャンピングバス
やハウスボートみたいな家族全員で移動する時の移動手段だけじゃ
なくて、それぞれ個人用の乗り物を作りたいって考えていたんだよ。
俺が作ったホバーボードみたいなやつの簡易版で、スピードは街乗
り専用に。速度は時速10kmに抑えて簡単に操縦できる。なるべ
く安全な乗り物﹂
1177
﹁しんちゃん・・・そんなの作っちゃったの?﹂
﹁いや、作るのはまだこれからなんだけど・・・今から作ってもい
いかな?﹂
﹁ちょっと楽しそうね。私も乗ってみたいよ﹂
3人ともOKだったので自分の出した酒やつまみをアイテムボック
スに入れて片付け終了。
後片付けはメイドゴーレム達に任せて、俺は転移魔法でみんなを連
れて自宅のリビングに帰還。
裏庭に出て靴を履き、早乙女邸を覆う結界に幻影魔法を追加して中
を見えないようにしてからライトの魔法を10個ほど浮かべて明る
くした。
素材をアイテムボックスから取り出して並べる。設計図を頭の中で
描く。
形はキックボード型でハンドルがあってアクセルとブレーキを付け
る。
足はそろえて乗れるように横幅の方が広くなったな。キックボード
型というよりホームベースにハンドルがついてる・・・みたいな形
にになってしまった。
実際に上に立って乗ってみるが・・・もう少し足を広げた方が体重
移動が楽になって安定しやすいだろう。幅は肩幅よりも少し広めに
設定する。
魔石をいくつか取り付けて飛翔魔法・姿勢制御用の重力魔法・風雨
から守る結界などを込めていく。
前後左右に探査魔法で地形を探り階段ですらも登れるように作る。
普段は20cmほど浮くだけに設定してあるが、段差を超えるとき
用に瞬間的に1mほど飛び上がれるようにした。
街乗り専用ならこんなものかな。
試運転を開始する・・・前にアイリ・ミー・クラリーナの3人分も
1178
全員の体のサイズに合わせてカスタマイズしてから渡す。
それぞれ全員で乗ってみるが運転が簡単だったのですぐに全員が慣
れる。俺も乗ってるがこれは快適だな。時速10kmなので小走り
ぐらいの速度なので長時間の余所見をしなければ大丈夫だろうし、
自動運転は出来ないが安全ストッパーがついてるので衝突する前に
ブレーキがかかったりサイドステップのように避けることも可能に
なってる安全設計だ。
問題点もなかったのでこれで完成だな。
形が板で少し浮くだけなので﹃ホップボード﹄と命名して完成だな。
ホップボードをアイテムボックスに片付けて今日の遊びは終了。移
動が出来る個人用の
俺はライトの魔法を消して服を全部脱いで裏庭からそのまま露天風
呂に入った。
みんなも服を脱いで露天風呂に入ってマッタリと時間を過ごす。俺
は機能ほとんど寝てないので少し眠くなってきたな。
露天風呂に入ってマッタリと過ごす。
温泉の上に浮かべた桶に日本酒とつまみの小魚の素揚げで最高の温
泉気分を堪能する。
温泉と日本酒の組み合わせがいいんだろうな。
まぁ、俺の勝手な言い分だけどね。
温泉で見る女の裸は格別だ。酒と温泉の熱でピンク色に肌が染まっ
ていてエロい。俺の欲情を誘ってくる・・・やべぇ、危うくオヤジ
ギャグを言いそうになってしまった。
俺の欲情した視線に真っ先に気付いたのは今日はアイリだった。
﹁しん君、もしかして性欲が溜まってる?﹂
﹁ああ、最近は全然セックス出来てないからなぁ。昨日は深夜まで
1179
殺し合いをしていたし精神的にちょっと疲れてる。男が精神的にち
ょっと疲れると体の生存本能が働いて子作りしようとさせるんだ。
まぁ、簡単に一言で済ますと﹃勃起が収まらない﹄だな﹂
俺は立ち上がって湯船の縁の岩の上に腰を下ろす。股間のチンコは
完全に勃起をして、もはやどうにもこうにもならなくなっていると
ころにアイリが抱きついてきた。
俺がそのまま座ってるとアイリが大きなおっぱいを使って俺の顔を
包み込みながらチュッと額にキスしてくる。そしてそのまま俺の起
立した股間に跨り自分で挿入してくる。
気持ち良さで息が止まる。アイリのヴァギナの中は全体的に俺のチ
ンコを握りこむようにきゅーっと締まり腰を痺れさせるような快感
をもたらす。
﹁あああぁ、アイリの中は相変わらず気持ちがいい﹂
そういって俺は本能的に腰を動かそうとするがアイリの声でストッ
プがかかる。
﹁ねぇしん君、昨日もトーナメントの出場とかで朝までのお仕事で
疲れてたんですから・・・今夜のセックスはしん君は動かないで。
私達が動いて溜まっている精液や欲望を昇華させてあげますわ﹂
左右からいつの間にか近づいてきたクラリーナとミーが体のコリを
解きほぐす様にマッサージしながら耳元に甘い声を囁きかけてくる
と共に俺の左右の耳をピチャピチャと音をたてて舐めてくる。
﹁そうです。アイリさんの言うとおりです。しん様は心も体も私達
に全てを委ねて、快感に身を任せてください・・・普段のセックス
の時の私たちのように﹂
﹁しんちゃんは何もしなくていいのよ。力も抜いて私たちに身を委
ねてね・・・射精も我慢しないで好きなときに好きなだけの量を出
して。しんちゃんは今は何も考えないでいいのよ﹂
俺のからだに押し付けられるフワフワのおっぱいと女性の香りに包
1180
まれている。
アイリがゆっくりと上下に動いてチンコを包む優しい快感で思考が
停まり、もうすでに何も考えられなくなってる。
目も瞑って半開きの俺の口には3人の嫁の舌が代わる代わる纏わり
つき、その舌の動きに合わせて俺も無意識に絡み付けているだけ。
誰も話しかける言葉もなくピチャピチャグチョグチョという卑猥な
音が露天風呂に響き渡るが俺の施した封印結界のおかげで外は無音
の世界が広がっている。
ミーに言われたように何も我慢せずに、声も出すことなくアイリの
ヴァギナの中に精液を注ぎ込む。
押し寄せる快感の波に全身も思考も全て融け切って、自分がスライ
ムのように半液体になったような錯覚さえおきてくるな。
でも、その思考回路が停止して半液体になったような感覚すらも気
持ちがいい。
射精したところで3人の嫁によって浴室に移動してエアーマットの
上に横たえられる。
クラリーナの魔法でエアーマット全体を石鹸の泡で埋め尽くされて
全身を余すところなくくまなく洗われている。
以前に受けた全身洗いと同じだな。頭の先から足のつま先まで全身
を洗われる。
元々全身を洗う3点セット魔法で口の中まで綺麗に浄化されてるの
で汚れなど全くないが・・・気分の問題だな。
3点セット魔法にはない快感がこの全身洗いにはある。
枕代わりの誰かの太ももの上で頭を優しく洗われて、俺の仮性包茎
の余った皮の中も優しく洗ってもらえるし、アナルの中にまで誰か
の指が侵入してきてアナルの皺まで伸ばされるように、本当に全身
を洗ってもらえる。優しく包み込むようなマッサージまでついてく
るのでたまらない快感だな。
1181
全身洗浄は凄いな。
・・・これって商売にならないかな?
全身を嫁に委ねながら、俺の並列する思考回路が働き始めた。
マッサージ何分でいくらになるだろう。日本でよく見かけたのは・・
・
﹃クイックマッサージ10分1000円﹄
という看板だな。
もふもふ天国の事務所の方でマッサージ業でも始めるかな?
肩・背中・腰・足&腕と全身をブロックに分けてマッサージ。1ブ
ロック10分で1000G。
全身は1時間で頭皮にまでマッサージを行う。
マッサージするのはゴーレムにさせてしまえば24時間休憩するこ
となく作業が出来るな。
マッサージしながら両手からヒールを送り込めば疲労回復にも効果
があるだろう。
事務所は応接室と転送部屋さえあればいいので他は全てマッサージ
用の部屋にしてもいいし、なんなら有り余る財力を使ってまた土地
と建物を購入すればいい・・・。
むしろヨークルもシーパラも移動が不便だから転送部屋を増築する
って事を影の目的にして早乙女商会のマッサージ屋を都市の中央部
の冒険者ギルドや商業ギルドの近くに作ろうかな。
どうせマッサージ屋の狙いはギルドや役所で忙しく働く職員になる
だろう。
ゴーレムでマッサージをさせながら﹃情報収集﹄をすることも可能
かもしれないな・・・
これは要検討だろう。
俺も今後は最高評議会絡みで色々と厄介な問題を押し付けられるか
1182
もしれない。
役所やギルドの人間関係︵誰と誰が仲が良くて、誰々が仲が悪いな
どの愚痴︶の情報なども俺忍とって有意義なものになるだろう。ゴ
ーレムが集めた情報を文書にして俺のアイテムボックスに送ればヘ
ルプさんに自動的に入力されてデータバンクに登録される。
だけど全身洗いは﹃性風俗になる﹄だろう。そうなるとそこはマヅ
ゲーラの町で任侠ギルドの管轄にさせたほうが問題はなくなる。
ヨークルやシーパラの裏社会とはまだ何も接触して無いからな。
余り問題は大きくしたくないし。
と、真面目なことを考えてる最中も俺は全身洗いによる快感で精液
を間欠泉のように吹き上げた。
クラリーナが3点セット魔法で俺の精液を洗い流してくれて、上か
ら追加で泡がふりかけられて全身洗いが再スタートする。
3人の嫁が俺の気持ち良さそうな顔を見て時々ブルって震えてるが・
・・俺は今日は自分の事も何も考えないで快感に身を任せてる。
久しぶりのエッチなことを済ませてからアイリ・ミー・クラリーナ・
セバスチャン・マリアの5人を連れてクラッシック・グリフォンズ
ホテルに戻り今日は早めに寝ることにした。
4人用の部屋なのでベッドはクイーンサイズのベッドが4つある。
ここは東側にある主寝室なので朝日が綺麗だろうな・・・天気が良
ければ。
明けて転生してから27日目の朝はいつものマリアが入れてくれた
コーヒーの香りで目覚める。
1183
今日はベッドの上で体を起こし背中にクッションを入れて安定させ
てここから朝日を眺めることにした。
サイドテーブルにマリアが入れてくれたコーヒーとトロールの肉の
ソテーを挟んだホットドックを朝食にしている。
朝日は全く見えない・・・天気が悪かったので仕方がない。7時を
過ぎてるのだが分厚い雲が広がっていて少し薄暗い中を激しく雨が
降っている。
俺が朝食を食べ終わり着替え始めた頃になって嫁達が目覚める。
いつもの風景だな。
﹁おはようクラリーナ。今日は朝から雨だ﹂
﹁しん様とみなさん、おはようございます。マリアさん、今日はカ
フェオレとクロワッサンのサラダサンドで。じゃあ、先に顔を洗っ
てくるわね﹂
﹁おはようございますクラリーナ奥様。品物はサイドテーブルに置
いておきます﹂
﹁しんちゃんオハヨー。今日は天気悪いねぇ。マリア、今日は紅茶
と爆走鳥のサンドイッチでアイリと2人分﹂
﹁おはようミー。ああ、こうなるとせっかくの高層ホテルも意味な
いな﹂
﹁ミネルバ奥様おはようございます。お2人の分はサイドテーブル
に並べておきます﹂
﹁しんきゅん、おふぁおー﹂
﹁おはようアイリ。気をつけて﹂
クラリーナが洗顔室から帰ってきたのでミーがアイリを引っ張って
いく。
相変わらず朝はフラフラで危なっかしいが不思議と転ばない。ミー
が上手く誘導してるのだろう。
物心がつく前の幼少期から長年一緒に過ごして育ってきた中のコン
ビネーションは流石だな。
1184
俺以外の全員は今日は狩りに行くので、嫁が全員防具を装備するま
で俺はコーヒーを飲んでゆったりしていた。雨避けの指輪を全員が
装備していた。
今日はクラッシック・グリフォンズホテルの最終日なので俺はチェ
ックアウトを済ませて部屋の鍵を返却する。
ハウスボート
クラッシック・グリフォンズホテルのマリーナに停泊中のハウスボ
ートに乗って近くの高級マリーナに入っていって10m級と20m
級︵魔力パワーボート︶の2艘分の年間契約をする。
お金は有り余るほどなので10年分の契約をした。
5500万Gもかかったが今の俺の財力ではなんてことはない金額
になってしまった。
金銭感覚が絶賛崩壊中だな。
契約書をマリーナの事務所で交わして外に出ると・・・クラッシッ
ク・グリフォンズホテルのゴーレム馬車駐車場からみんながキャン
ピングバスに乗って有料マリーナの駐車場に入ってきたので俺も乗
り込んで移動開始。
まずはアイリ・クラリーナ・セバスチャンを連れてキャンピングバ
スから、早乙女邸の隣の倉庫の中にあるるびのの部屋に転移魔法で
移動する。
3人とるびのを連れて大黒豹のリーダーの水影の巣である巨大な樹
の近くに転移。
ここの周辺はまだ天気がそこまで悪くなくて雨が少しだけパラつく
程度で激しく雨は降ってないな。
後はるびのとセバスチャンにトロール狩りは任せて俺は転移魔法で
モフモフ天国シーパラ店の3階の転送部屋に転移魔法で移動した。
開店準備といっても店舗内はすでに終わってるので、今することは
外の看板作りとゴーレム馬車駐車場の整備・・・雑草がボウボウに
なってる。
1185
看板付きの巨大ぬいぐるみを出入り口近くの場所に設置している移
動禁止の封印結界を張っていると、出勤中の歩いてる人達から話し
かけられたので店の説明をする。
説明を聞いてから雨宿り&時間つぶしで何人かの職人さん達が入っ
ていった。
駐車場の地盤の強化と敷石の整備、雑草の草刈を木魔法で浮きあが
らせたたり、全体的な掃除を終わらせると店舗の営業はメイドゴー
レム達に任せて、俺は予定通り南の食料品市場に向かって歩いてい
く。
このシーパラでは何が売ってるのか見てみたかったし、色々と買い
込む予定でいる。
街の中を歩いているとゴーレム馬車の移動では見えなかったものが
見えてくる。街の空気・雰囲気は歩いて回らないと体感できないだ
ろう。
雨の中をみんなレインコートなどを着て移動している。
ここにも傘はないみたいだな。今は朝の8時半ちょい前ぐらいで出
勤ラッシュの時間なんだが誰も傘を使ってる人を見かけない。
俺も今日はレインコートっぽく見えるパーカーと作業ズボンっぽい
ジーンズで歩いてる。
昨日の夜に作ったホップボードはまだ使ってない。アレだと水しぶ
きが舞い上がるかもしれない。
道路の水捌けが完璧で道に水溜りが全くないのでゴーレム馬車が低
速で行き交ってるが水しぶきに悩まされることもない。
靴もみんなが履いてるようなブーツではなくてハイカットのスニー
カーを履いてる。
歩いてる人達は工房がひしめく区域にいるので商人たちが好んで着
ているような﹃旅人の服﹄ではなくて作業服に前掛けって感じの人
1186
が多いな。その上からレインコートみたいなコートを着てる人達と
ポンチョみたいな雨具を着てる人がほとんどで、冒険者らしき人達
はここにはいないな。
商業ギルド本部のマリスもユーロンド登録後の雑談で﹃店舗周辺の
住民は職人や商人達で冒険者はいません。シーパラ駅とシーパラ北
門の周辺が冒険者の住民が多い区域です﹄って言ってたな。
そんなことを考えながら歩いてると南の食料品市場に到着した。
ヨークルの食料品市場もあまりの大きさに、何度行ってもいまだに
見て回れてない場所があるのだが・・。ここはそれの数倍の敷地面
積があって、壁のない倉庫が立ち並んでいるかのような屋根だけの
場所に何千もの商店が思い思いの品を並べて販売している。通路に
は人と商品を乗せた台車・カート・リアカーなどが走り回ってる。
マリスも言っていたが北の食料品市場もここと同じぐらいの大きさ
なんだそうだ。
いくつか試食をして回りながら小豆を大量に仕入れる。
パイナップル・りんご・キウイ・マンゴー・スイカなんかも発見し
たので取り扱ってる店の店主とそれぞれに話してみたら、全部の店
の責任者は同じ人だったのでさっそく早乙女商会代表として契約を
させてもらう。
今日はとりあえず各種30kgずつ購入しておいて明後日からもふ
もふ天国シーパラ店に1日おきの夕方に納品してもらう契約を結ぶ。
これで、ミックスジュースもカットフルーツも品数豊富になって組
み合わせを変えればいろいろなパターンで売り出せるようにできる
し、お客のリクエストで変更も可能になったな。
メイドゴーレムで接客していない﹃シロ﹄﹃クロ﹄﹃グレー﹄に購
入したフルーツをアイテムボックス経由で送って、カットフルーツ
やミックスジュースを作り置きをしておくように念輪で指示を出す。
ついでに報告を受けるがやはりどちらの店も﹃食べ物を売ってほし
1187
い﹄という注文が多いようだった。
明日の証人喚問でゾリオンとグレゴリオに会ったときに話を・・・
いや、明日の朝から証人喚問が始まるから、今日の夕方にはシーパ
ラに到着してるかもしれん。
夕方に尋ねてみようかな。
1188
首都シーパラの教会大聖堂での話っす。
その後も海鮮系の食材を中心に買い集めていく。
今夜の晩ご飯は早乙女邸で食べる予定なので天ぷらの串揚げにしよ
うと考えていたので、海鮮系の串揚げに合いそうな食材を集めてい
く。
車海老がとても美味そうだし、ホタテなどの貝類も美味そうだ。
チーズなどの変わり具材も買って行くことにする。そういうのも美
味しそうだしな。
キノコも美味しそうなものがあったので・・・
っていうか、ウナギと同じような現象がおきてるよ・・・マツタケ
がシイタケより半分以下の価格って、異常な安さなんですけど。
マツタケがバラで売られてなくてカゴに入って売っているのでこれ
も買っておいた。
マツタケご飯でも作るかな。土瓶蒸しでもするかな。土瓶から作ら
ないといけないが。
アスパラや大葉などの野菜も買いそろえていく。
なぜか山芋が安くて大量にあったので5本ほど購入した。
たくさんの串揚げがバリエーションが豊富に作ることが出来そうだ
な。
12時をまわって、お昼の時間になったのでミーに念輪の回線をつ
ないで話しかける。
﹁ミー、今いいかな?﹂
﹁しんちゃんどうしたの?﹂
﹁冒険者ギルドシーパラ支部で美味しそうな物のリサーチは出来た
?﹂
1189
﹁今はギルド女性職員に教えてもらった店にキャンピングバスで移
動中だよ。焼き鳥の美味しい店があってタレが絶品なんだってさ﹂
﹁わかった。それじゃあ今からアイリ達を迎えにいってくるよ﹂
﹁了解。じゃあキャンピングバスの運転席で待ってるからね﹂
念輪の回線を切って建物の裏側に入り込んで自分の気配を絶ってか
ら、周囲の気配を探査魔法で探って安全を確認してから転移魔法で
水影の巣の近くまで飛ぶ。
強い雨の日だから出来たけど普通だったらこんなことできないな。
都会は人の目が多すぎる。
転移先の大森林の奥地はすでに雨はあがっていたが地面はぬかるみ
まくってるな。
転移魔法でキャンピングバスのキャビンスペースに移動すると同じ
に全員に3点セット魔法で浄化もしておく。
素朴な疑問をアイリに聞いてみる。
・・・と、駐車中のキャンピングバスの外からミーが帰ってきてミ
ーが答えてくれた。
﹁クラリーナはそのままでもいいがアイリはフルプレートアーマー
のままでは店に入りにくいんじゃないか?﹂
﹁そういうお店もありますので入る前に確認が必要ですね﹂
﹁大丈夫だよしんちゃん。個室の予約をしてきたから、るびのも中
で食事が出来るよ﹂
﹁お! やったね。ミーかあさんありがとう。ねぇとうちゃん、小
さくなった方がいいかな?﹂
﹁ま、認識阻害の魔法をかけてまだ小さめのトラにしか見えないよ
うにするから大丈夫だろ﹂
俺はるびのに魔法をかけて見る人に認識阻害を起こさせているので、
1時間ぐらいは魔法抵抗力の強いエルフすらもちょっとした違和感
以外には何も感じられないだろう。
1190
俺の魔法なので見破ることすら不可能になってる。
みんなでドカドカ入っていって個室で食べる。
さすがタレの味で有名な店だけあってかなりの美味しさだった。
るびのは塩焼きの焼き鳥を2・3本食べただけで、後はマリアが焼
いたトロール肉を骨ごとバリボリ食ってる。
何本食べたか計算もしないで大量に食ってから、とりあえず一息つ
いて番茶をすすりミーに話しかける。
﹁ミー、それで冒険者ギルドで調査してみて、ここシーパラ周辺の
狩場ってあったのか?﹂
﹁シーパラ大河の北側には爆走鳥の狩場が多いぐらいでほとんど情
報もなかった。でも南側の﹃旧都ウェルヅリステル﹄の南側にはこ
こ100年ほどでかなり侵食してきた大森林が広がってきていて、
﹃森林モンキー﹄と﹃オーク﹄の討伐依頼がたくさんあったよ。大
発生の兆しが出てるってギルド職員が警戒をしてて近々大規模討伐
軍を送り出すために国軍の編成作業に入ってるから、Bランクの私
に出来ればチームで狩れるだけ狩ってきてくださいってお願いされ
ちゃった﹂
﹁なるほどね。それじゃあ今日の午後からと明日は一日中狩りでも
しちゃいますかね。大剣の練習と気配察知の実戦練習が捗るからあ
りがたいわね﹂
﹁それなら俺はみんなの狩り尽した魔獣の巣の中をセバスチャン達
と深夜にを総ざらいするから、練習がてら巣の中ごと狩りまくっち
ゃってくればいいよ。キャンピングバスはクラリーナがアイテムボ
ックスに入れて、休憩の時に取り出して使えばいい。キャンピング
バスはトイレもあるからな。魔獣の死体回収はマリアとセバスチャ
ンに任せてくれ。俺のアイテムボックスに送ってくれるから﹂
﹁しん様わかりました。対岸への移動はどうしましょうか?﹂
﹁マリーナに停泊中のハウスボートを使えばいい。対岸にも同じ商
1191
会のマリーナがあって同じように停泊することが可能だと聞いてる。
ハウスボートは早乙女商会の所属になってるし早乙女商会のゴーレ
ム船2艘で契約したから商業ギルドカードを見せればいいよ﹂
﹁ん。わかったよしんちゃん。食べ終わったしそろそろ行きますか
ね﹂
﹁それとクラリーナに注意点がある。アイリとミーは知ってるだろ
うけど大森林で大雨の時は、普段夜間にしか行動しない魔獣や昆虫
魔獣も出てきて食べ物を探し始めるから注意してね・・・って言っ
てもるびのもセバスチャンもマリアもいるチームの、この探査能力
を超えて攻撃できる敵が存在しないけどね﹂
﹁了解です。私たちも気配察知と魔力探査の練習中ですので頑張り
ます﹂
﹁おう、クラリーナ。みんなも無理は禁物で。るびの、かあさん達
を頼むぞ﹂
﹁うん。わかったー。今日午前中の狩りが終わってからとうちゃん
を待ってる間に水影さん達に会って、オレの持ってるオーク肉とト
ロール肉を交換したから大量のトロール肉をとうちゃんのアイテム
ボックスに送ってあるよ。大森林の奥地には最近オークが少なくて
トロールばかりだから水影さん達も﹃久しぶりの豚肉うめぇ﹄って
喜んでたよ。森林タイガーさん達にも分けてあげるって言うから、
俺の持ってた分を全部上げちゃったんだ﹂
﹁・・・今調べたけど確かにトロール肉がメチャクチャ大量に入っ
てるな。それだとるびのが持ってたオーク肉はほとんどなくなって
るんじゃないのか?﹂
﹁うん。もう空っぽだから・・・今日と明日でオレはオークを狩り
まくるよ、とうちゃん﹂
﹁おう、るびのもがんばれよ﹂
この前も大森林で森林モンキーが大量発生してたし、オークも最近
は物凄く増えてるような気がするぐらいに多い。
1192
大森林の奥地ではトロールが大量発生しているみたいだし、大森林
の魔獣発生率が多くなってる・・・生態系がおかしくなってるのか
な。
今のところはまだ街や村に影響を及ぼしてないみたいだけど・・・
詳しく調べた方がいいかもしれんな。
大量発生すると生まれるのが﹃上位種﹄だし。
森林モンキーの大量発生の主な原因はエサの大量発生だったから今
回の場合もそうかもしれん。
念輪で誰にも気付かれないように密かにマリアとセバスチャンに原
因究明できるか探らせておくように指示を出す。前みたいに魔結晶
と魔水晶が暴走してるかもしれないし、どこかでダンジョンが発生
している可能性もある。キングやエンペラーの最上位種が生まれて
きてる可能性もある。
状況次第では今夜の深夜にでも俺が動く必要があるかも。
トロール肉が大量にありすぎるから、今度ガウリスク達の大草原の
魔獣に配りに行こうかな。
大草原にはトロールはいないから喜ばれるだろう。
るびのが渡したオーク肉も大好評だったみたいだし。
料金を払って会計を済ませて外に出ると、俺以外のチーム早乙女遊
撃隊のみんなはキャンピングバスに乗り込んでマリーナのハウスボ
ートに向かっていった。
俺はアイテムボックスからホップボードを取り出して1人で中央行
政区域のシーパラ連合国の教会の大聖堂に向かう。
雨は更に強くなってるが嫁達がこれから乗り込むハウスボートはこ
れぐらいの雨では俺の雨避けの結界を潜り抜けられないし、波の影
響も軽減できるように魔力パワーボートと同じ改造をシーパラへの
移動中、ヒマな時間にチョコチョコと改良を施したので高波の影響
もほぼ問題ないと思う。
1193
魔力パワーボートのように全面を魔石加工パネルで覆っているわけ
じゃないので影響はゼロではないが20以上もの魔石を埋め込んだ
のでたぶん大丈夫だろう。
・・・あくまで俺の計算上の話だけど。
まぁ、雨は強いけど風はそれほど強くは吹いていないので大丈夫だ
な。
シーパラ大聖堂に到着してホップボードを降りる。
地球にいたときに画像でしか見たことないような巨大な大聖堂とい
う建物。中央部分の大きなドーム状の屋根があって形も全てに装飾
が施されていて素晴らしい建物だな。
俺の知識の中にもあるシーパラ大聖堂がそのままの姿で残ってる。
敷地に入る前にステータスカードでチェックを受けてみると・・・
﹁・・・あ! 早乙女様、申し訳ないのですが少々お待ちください﹂
と、警備をしている聖騎士団団員に丁寧な言葉で引きとめられてし
まった。
俺が門警備の団員詰所で待っていると詰所の奥の方から慌てて司祭
服じゃなくて枢機卿の制服を着た中年男性が走ってくる。司教の制
服を着た秘書のような意外と若い女性も必死に走ってついてきてる。
不思議なことに2人ともどこかで見たことがあるな。何でだろう。
﹁お待ちしてました、早乙女さん。アマテラス様の御神託がありま
して今日は昼からここで待機してました。私の名前は﹃アーシェル・
ペスカトーレ﹄です。昨日から枢機卿に選出されて今日から正式に
枢機卿となりました。早乙女さんが知っている﹃ローグランドペス
カトーレ真偽官﹄の兄になります。アーシェと呼んでください﹂
﹁おー! どおりでどこか見たことあると思いましたよ。よろしく
お願いします。で、こちらは?﹂
1194
思わず大声を上げてアーシェと握手を交わして、隣の司教の制服を
着る女性の事を質問する。
﹁早乙女さん初めまして。私の名前は﹃シル・バリトネット﹄で見
てのとおりエルフです。シルと呼んでくださいね。私はアーシェル
様の後釜で司教になりました﹂
﹁エルフ・・・知り合い・・・ん∼∼﹂
﹁早乙女さん、どうかなされたのですか?﹂
﹁俺はシルの顔もどこかで見たことあるんだよ・・・エルフ・・・
思い出した! シルの知り合いがゾリオン村にいませんか?﹂
﹁私の姉夫婦がいますね。姉は私にそこまで似ていませんが、今年
二十歳になった姪が私にソックリですよ。ゾリオン村で会われたの
ですかね﹂
﹁なるほど。わかりました。ありがとうございます。何度もゾリオ
ン村に入ってますのでそこでみたのだと思う﹂
﹁姪は何か最近になって友達と屋台を始めたいとか手紙が来ました
ねゾリオン村で流行っている食べのもがあるとか﹂
・・・思い出したよ。草原の暴風の生き残りたちに誘拐されていた
エルフで俺の魔法を2回レジストした女の子がシルの姪っ子なんだ
ろう。
誘拐されていたこともシルは知らないみたいだし、ここは黙ってお
いた方がいいな。
﹁それでお2人がここで俺を待っていた理由はなんでしょうか?﹂
﹁この国の教会を束ねてる大司教に会っていただきたいのです。明
日に最高評議会で行われる証人喚問で今回の事件を解決に導いてい
ただいた御礼を言わせていただきたいと聞いてまして、大司教室に
まで連れてきて欲しいと頼まれてます﹂
﹁頼まれるって・・・枢機卿って大司教の下についてるわけじゃな
いですよね?﹂
1195
﹁名目上、枢機卿は大司教管区に所属するわけでなく中央大陸の教
皇様に直属している官職になってますが・・・私は大司教様の教え
子でして弟のローグと2人で息子のように可愛がって育てていただ
いたのです。いまだに役職以外では﹃育ての母﹄という認識になっ
てしまいます﹂
﹁なるほど、そういうことだったんですか﹂
﹁私にもアマテラス様から御神託が降りてきましたので、アーシェ
様にお願いしてついでに会いにこさせていただきました﹂
﹁わかりました。では会いに行きましょう﹂
大司教の部屋までシルが先導する。
雑談しながら歩くがシルもアーシェも﹃大司教様に会っても怒った
り驚かないでくださいね﹄と俺に何度も言ってくる。
大司教の部屋に入って大司教を見てシルとアーシェの言葉の全てを
理解した。
大司教の体のあちこちに拷問によって出来たであろう惨たらしいほ
どの傷が全身にあるのだろう。
女性の顔にここまで酷いことをするヤツに殺意さえ沸いてきてしま
う。
まずは大司教に挨拶と握手を交わす。
﹁早乙女さん、初めまして。私の姿を見て怒りが沸くことは女性に
とって大変ありがたいことなのですが、教会内でコレほどまでの殺
気を出されると息苦しくなってしまいます﹂
﹁あ! 申し訳ないです。では怒りを消すための魔法を2つほど﹂
﹃エクストラヒール﹄﹃神の癒しの光﹄
・・・アマテラスめ、やってくれるな。こんな仕事は頼まれなくて
も俺がやってしまうのもアイツの計算通りなんだろうな。
俺が本気で治したい、心を込めて助けたいとエクストラヒールを使
1196
用したのはクラリーナ以来だな。
俺の魔法で大司教の体は鈍く光って表面を覆っていた光が体内に吸
い込まれていく。
神の癒しの光は呪いを解くための最高浄化魔法だ。キラキラと光る
大気中の光の粒が踊りながら大司教の周りをフワフワ動き回る。
これだけ傷つけて呪いまで掛けるヤツに殺気があふれ出ることを抑
えることが出来なかったのだ。
お
お
﹂
魔力を封じる呪いと子供を出産することを出来なくする呪いって・・
お
・クソヤロウが。
﹁お
俺の隣で全てを見ていたアーシェが大声を上げる。シルは口を開け
たままポカーンとしてる。
みるみると顔にあった大司教の傷が消えて、抉り取られていた右目
も復活する。欠損していた耳が出てきて大司教の美しい顔が復元さ
れているのを目の当たりにして声を上げることを我慢することが出
来なかったのだろう。
エクストラヒールは血液以外の欠損部位が復活できることは周知の
事実だ。
ん?
ローグとアーシェの育ての親なのに、えらく若くないか?
鑑識で鑑定してしまった。
ハーフエルフで230歳を超えているんだな。若い見た目も少し尖
った耳も納得。
俺の顔を両目で見ようとしてあまりの眩しさで顔をしかめてる大司
教に顔に掛けるヴェールのようなものを渡して大司教の帽子に掛け
ながら話しかける。
1197
﹁何百年かぶりの右目から入ってくる光です。このヴェールでお顔
を覆うようにして10日ほどお過ごしください。その間に光の奔流
に脳も慣れてくると思います﹂
﹁わかりました。私を治療してくれた早乙女さんの指示に従います。
・・・これが正真正銘ウソ偽りなしのエクストラヒールの力ですか・
つゆくさ
さくら
・・凄まじいです。あっ、申し遅れてしまいましたが私の名前は﹃
露草・桜﹄です。桜と呼んでください﹂
﹁・・・桜さんですね。わかりました﹂
つゆくさ
こうすけ
名前を聞いて息を呑んでしまった・・・知ってる人間の娘だった。
父親は転生者﹃露草・康助﹄で俺の中に知識と経験が残ってる。
先程使用した桜さんの鑑識の鑑定からの情報が俺の脳内に無意識で
入ってくる。
父親の康助の知識と桜の経験してきたことが俺の中で情報として整
理される。
桜も凄い体験をしてきてるみたいだな。
彼女の傷と呪いを消したことで俺の中の転生者の残した無念の残り
が浄化して消えていく。
転生者も子供を残して死ななきゃいけなくて無念を持ってる人が多
いのだろうな。
露草康助はエルフの近くに村に転生してエルフの王族の娘と恋に落
ち婚姻する。
傍若無人で始めはエルフのために戦っていたが次第に本性を現して、
自分のワガママからエルフの国の王族と争いごとを起こして転生者
の力を使って魔王に転生しエルフの王族を滅ぼした。
エルフの王族の中で唯一の生き残りだった王子が勇者になって討伐。
エルフの国は平和になったが数年後に流行り病で国は乱れて崩壊し
エルフの勇者の国は消滅した。
1198
これがエルフの国の周辺に暮らしているエルフの村に伝承として伝
わる勇者の英雄譚なんだが・・・実際は全く違う話だ。
露草康助はエルフの国の近くの村に転生したが転生して初日にエル
フが攻め込んできて捕まって隷属の首輪によって奴隷にされてしま
う。
エルフの国の為の戦いに転生者としての戦闘能力を全て駆り出され
て殺戮に次ぐ殺戮の日々。
隷属の首輪を外されることはなかったが同じ奴隷環境のエルフの娘
と恋に落ちて婚姻は許された。
しかし婚姻もエルフ王族の策略だった。
生まれた子供の桜は人質とされて脅迫。
更に侵略戦争に駆り出されて過酷な日々を送っていたところに、康
助に隷属の首輪をつけたエルフが戦争の敗戦で逃亡中に、戦争の敵
対者だったドワーフに殺されて隷属の首輪から開放されることに成
功した。
エルフの国に戻った露草康助が知った事実は妻のエルフの女性は王
族の男性陣によって性奴隷にされていてすでに死亡していた。
娘の桜はハーフエルフでエルフから忌み嫌われているので奴隷商人
に売られていてすでに行方不明。
怒り狂った露草康助は恨みと呪いで悪魔に魂を売り魔王へと転生し
エルフの国に宣戦布告をして魔王の力を使ってエルフを虐殺する。
これは4人の神が作った遊びのシナリオだと康助が気付いたのはエ
ルフの国の王族だけでなく全ての住民を滅ぼした後だった。
康助の暴走を止めたのはエルフの王族の勇者などではなく、エルフ
の国から侵略戦争を受けていた・・・絶対的敵対者のドワーフの集
団に攻め込まれて康助は一切抵抗することなくドワーフに討たれる。
4人の神にここまでの恨みを残して成仏など出来るわけもなく、彷
徨う康助の魂が桜の行方を捜していたが見つけることは出来ずにい
1199
て200年以上の月日がながれて、康助はゴッデスに魂を拾われて
4人の神の討伐で恨みを晴らすために俺の中に入ったのだ。
俺の持つ剣客の戦闘経験は露草康助が戦争によって鍛え上げたもの。
康助は4人の神によってイーデスハリスの世界に転生してきたとき
に貰った力が﹃剣客・弓﹄の2つのスキルマスターの力。
この力で転生した次の日から戦争に巻き込まれて捨て駒のように魂
が擦り切れるまで奴隷として使われていた。
そこまでして会いたかった桜の傷と呪いを消すことが出来たので露
草康助の無念が昇華していく。
桜の経験してきた歴史も凄い。性奴隷として奴隷商人かから他国に
売られて最終的に飽きて捨てられた。
全身を覆っていた傷は幼少期から育てられて10歳を超えてから父
親と思って育てられていた主人によって強姦されてから性的虐待の
みならず肉体的に全ての傷をつけられて最後は目玉を抉り出されて・
・・壊れたおもちゃのように捨てられた。
捨てられた先が教会だったので命だけは取り留めたが傷は消すこと
が出来なかった。
シスターとして生きていくうちに元々持っていたハーフエルフとし
ての魔力が覚醒したが奴隷の時の主人の遊びでつけられた呪いのせ
いで、自身が持つ全ての魔力を開放できなくて聖女にはなれなかっ
た。
しかし150年以上も長い間を教会で真面目に勤め上げた成果で大
司教にまで出世して、50年ほど前にこのシーパラ連合国に赴任し
てきた。
赴任してきてからも長い間この国でたくさんの孤児たちを育ててき
てる本物の﹃聖女﹄なのだろう。
エクストラヒールを使える枢機卿がいたのに自分の為には1度も使
1200
わせようとしなかったのだ。
使わせないっていうよりも、使っても治らなかったんだけどな。
アレって詐欺師だし。
こんなことまでわかってしまう人物鑑定がそら恐ろしいな。彼女も
4人の神の犠牲者なのだ。
泣いてしまいそうになる親子の悲劇を知ってしまうが我慢する。
﹁これで露草桜さんを蝕んでいた傷も呪いも全て消えました﹂
﹁え・・・の、呪いも消えたのですか?﹂
﹁はい。完全に消えました。ですので桜さんはこれからは自身の子
供が生める体になりました。それと魔力を封じていた呪いも消した
ので、今から桜さんはアマテラス様から﹃聖女﹄の祝福がついてる
はずです。ステータスカードで自分自身の目でご確認ください﹂
﹁え・・・﹂
桜は絶句して自分のステータスカードを取り出して自分の目で確認
して、全部の呪いが消えて﹃聖女﹄の祝福がついてることを確認し
て・・・固まってしまった。
あふれ出る涙を抑えることが出来ないようだ。心から湧き出る喜び
の涙だからこそ美しい。
アーシェもシルもガン泣きしてる。みんなが泣き止むまで俺は静か
に待つことにした。
今までは喜びで流した涙なぞなかった過酷な生活を何百年も耐えて
きたのだ。
悲しくて辛くて流す涙は枯れ果てていただろう。
これからは幸せになって過ごす権利が彼女にはある。
﹁申し訳ありませんでした。早乙女さんに、はしたないところをお
見せしてしまいましたわね。でもありがとうございます。私も女と
して幸せになれると考えたら涙が止まりませんでした﹂
﹁喜びの涙です。歓喜の涙なんです。我慢なんて必要ないですよ。
1201
アマテラス様もそれを望んで私をここに導いたのでしょう﹂
﹁アマテラス様のお導きに、早乙女さんの起こした奇跡に感謝の祈
りを捧げます﹂
1分ほど黙祷をした後に笑顔で桜が復活してきた。
ここまで外見が美しい女性で心まで美しいのだ。素晴らしい笑顔だ・
・・これから桜は求婚が絶えない生活になりそうだな。
﹁それではここに早乙女さんを連れてきてもらった当初の目的を・・
・早乙女さん、このシーパラ連合国の教会の内部で隠れていた汚れ
た部分を浄化していただき誠にありがとうございます﹂
1度ここで言葉を遮り桜は深々とお辞儀をする。アーシェとシルも
それに続く。
頭を上げてニッコリと微笑みながら言葉を続ける。
﹁エクストラヒールの実証としての私も明日の最高評議会の証人喚
問に出席することをここに誓いますわ﹂
﹁大司教様、司教の許可もなく勝手に決めちゃって良いんですか?﹂
﹁アーシェ、大丈夫です。それぐらいのワガママは許されるはずで
す﹂
左右の手を両腰に当ててエッヘンポーズをする桜・・・俺はワッハ
ッハッハと思わず声を出して笑ってしまった。
﹁桜さん、その調子です。たまにはワガママ言うぐらいなのが人と
して正しいことなんです﹂
﹁ちょ、ちょっと母上。勝手に決めたらマズイですって・・・早乙
女さんまで煽らないでくださいよ﹂
﹁露草桜大司教様って案外お茶目な方だったのですね。なおさら尊
敬してしまいますわ﹂
﹁シル、そこで感心してないで! 大司教様を止めるのが司教の君
の立場なんだよ!﹂
カオスになってきた。
1202
大爆笑してる俺の横に立ち、桜の笑顔に感心してウンウンと頷くシ
ル。ニコニコの笑顔で無茶を宣言する桜に慌てて止めようとするア
ーシェル。
中々のカオスっぷりがシーパラ連合国の大聖堂の中にある大司教室
でしばらく続いた。
1203
アマテラスから依頼報酬と今までのお詫びの物を貰ったっす。︵
前書き︶
8・24修正しました。
1204
アマテラスから依頼報酬と今までのお詫びの物を貰ったっす。
10分ほどカオスな状況が続くが桜の咳払いと共に遊びは終わる。
﹁んんっ。失礼しました。あまりの嬉しさではしゃいでしまい、早
乙女さんにはまたお見苦しいところを見せてしまいましたね﹂
﹁気にしないでいいですよ。自然な笑顔で美しい桜さんはこれから
モテモテになりますので気をつけてくださいね。中には桜さんの美
貌を利用しようとよからぬ事を企むヤツラも入ってきますので﹂
﹁またまたご冗談を﹂
桜の謙遜する言葉に即座に反論したのがシルで次がアーシェだった。
﹁いえ、全く冗談ではありません大司教様。私が生まれてから初め
て心から美しい女性というものを今見ております。同性でありなが
らに見とれるほど美しい姿なんですよ﹂
﹁シルが今言ったとおりです。男として初めて見た女性に心が奪わ
れるような感覚は俺にもそこまでありませんが・・・今は大司教様
の横顔を見てるだけで顔が熱くなるほどになります﹂
大司教室の接客用のソファーに座りながら我が子を慈しむ様な笑顔
で、両隣に立つシルとアーシェを交互に眺めてる桜の頭上が淡く仄
かにホワッと一瞬だけ瞬いた。
俺以外に光ったことに気付く人間はいなかっただろうが・・・。
俺は桜に話しかける。
﹁露草桜さん、おめでとうございます。スキル取得条件を満たしま
したので、貴女は今から聖女から﹃聖母﹄へとランクアップを果た
しました﹂
﹁・・・え、早乙女さん・・・聖女は聞いたことがございますが﹃
聖母﹄とは・・・いったいなんの事なんでしょうか?﹂
1205
﹁聖母は今まで転生者しか存在しなかった伝説クラスのスキルです。
聖職者において最高位にあたり﹃神の使徒﹄またの名を﹃神の奇跡
を代行する者﹄ですね。今頃は世界中の教会関係者の中の100名
を越す人間に﹃シーパラ連合国で聖母降臨﹄という御神託が降りて
きてるでしょう。早急に総本山会議が行われて近い時期にお迎えが
来られると思います。露草桜さんはこれから﹃聖母﹄へと就任して
﹃教皇の上に立つ者﹄﹃アマテラス様の使徒﹄﹃神の奇跡を代行す
る者﹄として中央大陸に戻らなくてはなりません﹂
﹁そんな・・・大変なお役目を任されてしまいましたわ﹂
﹁こればかりは教会に勤める人としてワガママを言うことはできま
せん。アマテラス様の祝福を受けて聖女となり子を愛し自分の命以
上に他の命を大切に思う気持ちなど、多数あって複雑な聖母スキル
取得条件を満たしたのですから。でもいきなり中央大陸にある教会
総本山の権勢と嫉妬とやっかみが渦巻く世界に行かせるには過酷で
危険すぎるでしょうから、俺からのプレゼントを差し上げましょう﹂
俺はアイテムボックスから素材を取り出してゴーレムを2体作る。
マリア・セバスチャンと同じ身長150cmほどの金色のクマ型メ
イドゴーレム。
るびの
それと守護者代わりで今のるびのよ一回り大きくて普通のトラのサ
イズ。
ホワイトタイガーの模様をしている・・・白虎型ゴーレムと言った
方がいいかもな。
重力魔法と風魔法の複合魔法を操って空を自由自在に駆け回れるよ
うにしたので﹃世界最強のゴーレム﹄というのは過言ではない。桜
を背に乗せて走り回る事も逃げる事も可能。
内蔵した魔結晶に次々と魔法やスキルを封入していく。もはや手馴
れた作業で数秒で作り上げ終了する。
﹁この2体のゴーレムはこの白いトラ型が﹃コースケ﹄という名前
1206
です。桜さん、貴女の身に降りかかる災厄から守ってくれるでしょ
う。Sクラスの冒険者が束になって攻撃してきてもかなわないほど
強く作りましたので世界最強のゴーレムと言えます。そしてこちら
の愛らしいクマ型がメイドゴーレムで名前が﹃シェリアス﹄です。
メイドの知識は全部習得してますし、身の回りの世話も出来ますし、
料理スキルも持ってますので、作った料理はプロより上手いでしょ
う。これからは毒殺とかもありえる世界に飛び込んでいかれるわけ
ですから注意してください。・・・ゴーレムの名前は貴女のご両親
から付けさせて頂きました。貴女を守り育てることが出来なかった
ご両親からのお詫び、俺が勝手に桜さんの過去まで覗いてしまった
お詫びとして2体のゴーレムを御贈りします。遠慮なく受け取って
ください﹂
﹁私の両親からのお詫びですか?﹂
﹁お詫びというよりも子供の対する親の不変的な願い・・・﹃我が
子を守りたい﹄・・・そういうことです。詳しくはアマテラス様か
ら聞いてください。俺から言える情報は少ないです﹂
俺は両目に強い意思を乗せて桜の瞳を真っ直ぐ見つめる。
俺が転生者であることなどはここでは軽はずみに言えない。誰が誰
と繋がってどこで情報を回しているかも良くわからない首都シーパ
ラの教会の中だからな。
今の桜には俺から伝えられる情報は少ないのだという意思を桜を真
っ直ぐ見つめる自身の目に込めた。
俺の意思のこもった目に有無を言わせない圧力に桜は軽く頷くと話
題を変えてきた。
﹁わかりました。ありがたくいただきます。それでは﹃コースケ﹄
と﹃シェリアス﹄は私の部下として教会で登録させていただきます。
それと・・・早乙女さんは今、こちらのクマ型メイドゴーレムの﹃
シェリアス﹄には﹃料理スキル﹄を持ってるとおっしゃいませんで
1207
した?﹂
﹁持ってますよ。料理スキルは中央大陸の教会の総本山に持ってる
人間が何人かいるはずではなかったのでしょうか・・・違ってまし
たか?﹂
﹁それが中央大陸にある教会総本山には数年前に失われてしまった
らしいのです。もったいぶったスキルの最終伝承者がスキルの伝承
を自分の教え子に伝えずに、郊外で馬車に引かれるという交通事故
で亡くなり途絶えてしまったと手紙で連絡を受けてます。それで料
理スキルの所持者はどこかにいないかと問う手紙でしたね﹂
﹁それならこれをお渡しください﹂
俺は数枚の紙にサラサラっと料理スキルの取得条件を書き込んで渡
す。
料理スキルの取得条件は熟練の技術だけでなくセンスが条件で絶対
に必要となる。
そこから蒸す・焼く・煮る・燻す・切る・さばくなどの料理での基
本の技を身につけて、ある程度の技の熟成が身につくと料理スキル
が身につく。
こちらもセンスが必要になるので注意点だけを書き込んで桜に渡し
た。
まずスキルを取得できそうな料理のセンスがある若者を探し出すこ
と。
その中から修行させて行けば数年後には何人か料理スキルを持つも
のが現れるだろう事。
スキル取得してからそれから料理スキルマスターへの道も書き記し
ておく。
これをそのまま書き写して中央大陸に送ればいい・・・桜がこの情
報をこの教会から流して世界中に伝えることで、料理スキル伝承に
失敗した中央大陸にも世界中の教会・政府・王族にも恩が売れるの
1208
で一石二鳥どころか一石四鳥にも五鳥にもなるだろう・・・と、伝
えておく。
トラ型ゴーレムのコースケをモフモフしている笑顔の桜・アーシェ・
シルの3人に俺が作ったもふもふ天国シーパラ店の宣伝もしておい
た。
桜もアーシェもそのうち行くと言ってたが、必ず店に行くとシルは
断言してる。
モフモフマニアがここにもいたな。
他のモフモフ好きな友人もたくさん誘ってゴーレム馬車で行くのだ
そうだ。常連発掘できたかな。
今までは自分たち仲間内でモフモフのぬいぐるみ作りで満足してた
が、これからはもふもふ天国に足しげく通うことになりそうだと目
を輝かせて断言してる。
モフモフは正義だから仕方がないな。
俺は話が終わったので桜たちに別れを告げて大司教室を後にする。
これから礼拝堂に行くと俺が言うとシルが大聖堂を案内しますと言
ってくれたので案内を任せる。
自分も見てみたかったのでシルに前を歩いて解説までしてもらい、
大聖堂の中だけでなく教会の敷地内のあちこちの建物を全て見て回
り、最後は大聖堂の中にある広い礼拝堂の中の長椅子に座って祈り
を捧げる。
俺に飛んできて抱きついてこないで、今日は珍しく少し離れた場所
からモジモジと話しかけてくるアマテラス。
︻真一お兄ちゃん、お久しぶり・・・怒ってる?︼
﹁そりゃ、お前が放置していた問題を俺に押し付けまくってきたん
だ、しかも一晩に3件はやりすぎだろう。怒ってるというよりムカ
1209
ついてるだな﹂
︻ごめんなさい︼
﹁それで?﹂
︻まずは今までのお詫びとして真一お兄ちゃんが欲しがってる情報
を・・・︼
﹁・・・おおお!﹂
アマテラスが俺に向かい飛びついてきて・・・俺の脳内に情報が流
れ込んでくる。
今まで俺が知らなかった・・・
﹃コーラ製造方法﹄﹃カルピス製造方法﹄﹃焼肉のタレの製造方法﹄
﹃ソース製造方法﹄﹃ウナギのタレ製造方法﹄
などの食に関するレシピだけでなくて・・・
﹃アイテムボックス内で製造する方法﹄﹃魔石を複数使って魔結晶
に魔法で加工する方法﹄﹃クズ魔結晶を複数使って大きな魔結晶に
魔法で加工する方法﹄﹃簡易ゲート製造方法﹄
とか、今まで俺の中では謎になっていた情報やデータやレシピが俺
の頭の中に流れ込んできてヘルプさんの中に集約されて整理されて
いく。
俺の知識にはない神の知識・古代の知識・地球の知識が入ってきて
るな。
﹁これでアマテラスから今までの詫びは受け取ったよ。まぁ・・・
これなら合格点かな。それで、今回の依頼の報酬は?﹂
︻真一お兄ちゃんが今1番欲しいと思ってるだろう物を悩みに悩ん
で・・・こういうのを用意しました︼
5リットルぐらいは入る電気ポットのようなモノを2つ渡される。
︻こっちのポットが神力によって毎日200リットルまで使用する
ことが出来る﹃ミルクポット﹄です︼
1210
︻こっちのポットは一日最大100kgまでの出てくる﹃ローショ
ンポット﹄です。どちらも神器になりますが、真一お兄ちゃんの﹃
神の創り手﹄スキルならば複製可能です︼
ミックスジュース・バター・チーズなどでミルクを集める為だけに、
ミルクさん狩りをするのに少しうんざりしてたところでの﹃ミルク
ポット﹄・・・これはマジでたいへんありがたいな。
ローションポットは俺がマッサージ屋を始め様と考えていたことを
見越しての物なんだろうな。
神の創り手スキルで複製できるように複製で必要な材料レシピまで
ついてるのはありがたい。
受け取ったミルクポットとローションポットとレシピをアイテムボ
ックスに入れながらアマテラスに話しかける。
﹁これならムカつきが消すことが出来るぐらいになってるな・・・
ありがとう﹂
︻それと私のこの世界での代行者﹃聖母﹄を真一お兄ちゃんのおか
げで生み出すことに成功できたよ。今、真一お兄ちゃんと同じよう
に祈りを捧げてくれてる露草桜さんには、真一お兄ちゃんが説明で
きなかった事を全て説明しておいたよ。・・・それのお詫びの品を
ゆきり まさむね
一つ﹃白扇子﹄です。それとこちらはゴッデス様からお詫びの一品
で﹃雪切正宗﹄です。天乃村正に対なる小太刀です︼
思わず渡された品物2つを鑑識で見てみる。
扇子﹃風神と雷神の扇子﹄
製造者 アマテラス﹃神器﹄
所有者 早乙女真一
神の力によって扇子に描かれた風神・雷神の力を宿す白い扇子。
風と雷の力を自在に操り燃え盛る山をも一扇ぎで吹き消すことが可
能。
1211
ゆきり まさむね
小太刀﹃雪切正宗﹄
製造者 ゴッデス﹃神剣﹄
所有者 早乙女真一
刀身に雪のような白く光る氷の薄き衣をまといて邪を断ち切り、切
りつけた切り口から凍らせる。
氷と闇の属性の性質を持ち、切れ味が劣化しない。
刀身53cmで全長76cm。カタナ﹃天乃村正﹄と対になる神剣
の小太刀。
拵えは天乃村正と同じデザインとなっている。
鞘には﹃再生﹄の魔法がかけられてあり欠けた刀身を直す。
﹁おおお、この白扇子は雷と風を自在に操るのかよ・・・西遊記の
芭蕉扇みたいな一品だな。ゴッデス様も奮発してくれたみたいだな
﹃小太刀﹄か・・・﹂
︻そうみたい。真一お兄ちゃんにお詫びしておいてくれとゴッデス
様からの伝言があるよ。私が持ってなかった古代の知識はゴッデス
様からいただいたものなの︼
﹁なるほどね。それで理解できたよ。まぁこれだけのものを貰った
のなら納得しないとな。これで報酬は終わりだよな?﹂
アイテムボックスに雪切正宗と白扇子を入れながらアマテラスに尋
ねる。
︻そうなるね。これで私から真一お兄ちゃんに頼んだ依頼はおしま
い。・・・ゴメンね。また教会にきてくれるかな?︼
﹁まぁ用があればな。それに神様ってアマテラスとゴッデスだけじ
つくよみ
ゃないんだろ? そっちで友達を作った方がいいよ﹂
︻友達は月読ちゃんとかいっぱいいるけど、みんな同じ神様で年齢
も生まれた日まで一緒なんだからいつも一緒にたくさん遊んでるよ。
でもお兄ちゃんは初めてだったから・・・甘えすぎてごめんなさい︼
1212
﹁これからは前もって何をして欲しいかの情報は出来るだけ欲しい。
戦いがあるときは特にな。露草桜のような場合は・・・回復魔法や
浄化魔法で解決できるようなことはいいんだけどな。それに俺に押
し付けるだけでなく神様同士で連携してイーデスハリスの問題解決
も出来るようにしていかないとな。俺1人で救って回るには広い世
界なんだからな﹂
︻わかった。みんなと話し合っておくよ。じゃあ、真一お兄ちゃん、
またね!︼
﹁ああ、アマテラス・・・またな会いにくるよ。またな!﹂
俺に抱きついていたアマテラスの頭を優しくポンポンと叩くと、今
まで抱き付いていたアマテラスが離れて俺の意識が礼拝堂の中の長
椅子に座ってる状態に戻ってくる。
これで今回のアマテラスの依頼は報酬受け取りも含めて完全に終わ
った。
明日の最高評議会の証人喚問のような後始末ぐらいは残ってるかも
しれんがな。
シルに言って寄付金を100万G入金させてもらった。
シルと握手をして別れて大聖堂を後に、また移動用にホップボード
を取り出して北の食料品市場にまで戻る。
移動中にどんなゴーレムを使ってマッサージをさせるか考える。
美男美女って言うのは難しいと思う。
美意識が千差万別過ぎて対応に難しいだろう。
モフモフだったらいいかもな・・・ここはもふもふ天国ならぬ﹃も
ふもふマッサージ﹄にするかな。
マヅゲーラの風俗店だけは﹃ローションマッサージ﹄にして女性を
雇えばいいかな?
並列する思考でアイテムボックスの中に入れたミルクポットとロー
1213
ションポットを複製して20個ずつほどストックとして作っておく。
作ったミルクポットをメイドゴーレムの全部︵シェリアスを除く︶
のアイテムボックスに送って念輪のパーティー回線で全てのメイド
ゴーレム︵以下略︶にストックを作っておくように指示を出してお
いた。
そんなことをしてる間に北の食料品市場に到着した。
ホップボードをアイテムボックスに片付けて、不思議な乗り物から
降りる俺に集まる周りの目線をガン無視して食料品市場の中に入っ
ていく。
1214
カカオと抹茶を発見した。デザートが更に潤うっす。
今夜の晩ご飯用の食材はすでに購入し終えていたので、この時間は
プラプラと見て回ることにした。
食料品市場は広大な敷地にギッシリと業者が入り込んで入り混じっ
ているので、まわるたびに新たな発見があって楽しい。
酒屋があったので新たな酒を購入しておく。試飲させてもらったら
美味しかった日本酒と焼酎があって樽ごと購入してアイテムボック
スに入れる。
味噌汁などの出汁用に昆布の乾物も安く大量に売っているので購入
しておく。
フォレストグリーン商会に売っていたものと似てる・・・ここに卸
しているのかもな。
乾物屋には乾燥キノコや魚の干物などかなりの種類のモノがあった
のでいくつか買っておく。
試食できるところは積極的に試食している。
野菜も意外と安かった。
首都シーパラの南側の対岸にある旧首都のウェルヅリステルの用水
路を利用した畑栽培や水田が盛んに行われていて、元々は300万
人以上の人間が住み暮らしていたほどの広大な土地を利用して田ん
ぼも畑も広大にあり、今やウェルヅリステルは首都シーパラの食を
支える農業都市として南と西の最終ラインのリステル川まで続いて
いるんだと、商品購入後に雑談をしていた店主が教えてくれた。
リステル川より西側と南側は大森林に浸食されてしまっている。
だが、あまりに広い土地なのでまだまだ土地は余っているんだそう
だ。
1215
周囲に幾つもの砦となる線路で繋いだ農業都市が複数存在したが、
るびのの攻撃で砦も住民も畑も田んぼも丸ごと消滅してしまってい
るので、人も砦もない空き地は大森林のジャングルに次々と飲み込
まれていった。
線路もレールだけはそのまま残ってるが、すでに復旧することも回
収することも出来なくて500年もの間放置されてる。
線路に近づく魔獣を完全に排除する為の結界を長期間維持すること
が出来ないので線路が復旧できないのだ。
・・・俺なら出来るけどな・・・面倒そうだから大金を貰ってもや
らないけど。
そんなことを考えながら食料品市場の中をまわっていると・・・カ
カオ豆が売ってた・・・チョコレートきたーーーーー! 即購入す
る。
あるだけ持ってこーーい! とまでは行かなかったが店にあるだけ
大量に購入する。
この店は最近やっと食料品市場の中にこの店舗を構える事が出来た
が、カカオ豆はまだ商売になってなかったが少しずつお客を増やし
てる段階なんだそうだ。
俺が大興奮でチョコレートの作り方・ココアパウダーの分離方法・
ココアバターの製製造方法などを興奮しながら教える。
大衆の目の前で料理スキルを使っているが興奮し過ぎて自重と言う
言葉は置き去りだ。
店主のオバちゃんも俺がレシピを渡しながら実際に目の前で作って
あげて、周りの人に試食という名の下に配って渡すと、店主のオバ
ちゃんも周囲の試食した人達も大興奮して話し始めた。
ちょっとした騒ぎになってしまった。
しかも俺のヨークル食料品市場での評判を知っている人も何人かい
1216
て﹃ヨークルの救世主﹄やら﹃目利きのグルメ早乙女﹄の名前が出
てきてビックリした。
さっそくどこかの商人がオバちゃんと商談を始めてる。
商談の話に割り込んで﹃チョコレートやココアは製法を独占するよ
りも公表した方がよりデザート文化の発展を遂げるよ、ココアバタ
ーには別の使い道もある﹄とオバちゃんにアドバイスを送ると、オ
バちゃんも商談していた商人も同じように頷きながら俺に握手を求
めてきた。
ヨークルでアンコ・・・シーパラでチョコ・・・デザート大国の誕
生か?
さらに隣の店では抹茶の粉末まで売ってる。これも大量購入してし
まった。
俺が抹茶を大量に購入しながら﹃これって飲み物だけでなくデザー
トに使えるんだよね﹄って言う言葉を、ぽろっと言うと俺の後ろに
ついて来ていた商人たちが店に群がり試飲や商談を始める。
デザート大国がデザート超大国に・・・
更に物色して食料品市場を回るのにも熱が入る。
先程発見したカカオ豆の店と抹茶の店はMAPに登録しておいた。
アイテムボックスの中でさっそく買い物をしながらチョコレートや
抹茶を使ったデザートを量産し始める。チョコを試しに取り出して
みて試食する。
うめぇ・・・イーデスハリスの世界に来てから初チョコレートだか
らな。
しかも全てが自分の好みの味付けに出来るようになったので嬉しい。
甘いものは元々日本にいる時から好きだったが・・・この世界にき
1217
て加速しているように思う。
食べてる量も多い割には太りそうな気配もないので、それも含めて
﹃転生バンザイ﹄になる。
毎日トレーニングもしてないし体も動かしているわけじゃないけど・
・・カロリーはどこに行ってるんだろうな。魔力にでも変換されて
いるのか?
でも嫁たちもメチャクチャ食ってるのだが、体型が変化するって気
配もないな。
俺やクラリーナには魔力変換説は有効だが、アイリやミーの場合は
魔力に変換されても魔法を使えないので・・・カロリーの魔力変換
説は無理があるな。
若さに変換されている・・・それならばムチャクチャ凄いな。
大量に食べると若さが維持できる・・・永久機関になるやん。
地球で女の若さを保つ秘密が﹃食べること﹄食べても太ることなく
若さが維持できる・・・だったら地球にダイエットって言葉は消滅
するけど、食糧というものがなくなるだろうな。
世の女性が世界中の食糧を食い尽くすことが目に浮かびそう。男は
餓死か?
そんなくだらない事を考えながら買い物を終わらせた。アイテムボ
ックスの中では料理を作り続けている。
夕方4時を過ぎたので食料品市場の外に出ると雨はあがっていた。
食料品市場を離れていくと俺に付いて来ていた商人たちは散ってい
った。俺に付いてまわって商機を見出そうとでもしていたんだろう。
俺は最近まで知らなかったがミーから聞いた噂があった。
﹃早乙女に食料品市場以外の場所で付いてまわると﹃敵対者﹄とみ
なされて排除対象になるので市場以外の場所で商人は絶対に付いて
いかない事﹄
これがヨークルの食料品市場で暗黙の了解になっているそうだ。
1218
すでにシーパラでも・・・。
今日は1日中雨が降るのかと思っていたら違ったみたいだな。
あれだけ分厚く広がっていた雨雲も今は雨は上がり雲はかなり薄く
なっていて所々に晴れ間も見えてきている。
雲の間から夕方の斜めになった光が差し込んでいる風景を見ると、
地球に住んでるときもよく見た風景なんだが・・・・どこかファン
タジックな風景だと勝手に思っていた。
だけど今実際にファンタジーの世界で見てみると街並みが違うだけ
でたいして変わりないんだな。
街を歩く人達も1/10ぐらいはケモミミついてるからファンタジ
ーを感じるけど。
・・・ファンタジーの世界ってのをケモミミで感じてる俺って変だ。
本日の最終予定のガルディア商会とフォレストグリーン商会に行っ
ておにぎり販売の事で話がしたいことなんだけど・・・2つの商会
の場所すら知らない。
商業ギルドに行って聞くしかないな。
俺はまたアイテムボックスからホップボードを取り出してフワリと
飛び乗って移動開始。
時速10kmという超低速でゴーレム馬車の渋滞をすり抜けて行く。
日本の原付みたいだな。取り扱いは原付よりも楽だけどな。
この渋滞の中をスイスイとすり抜けて行く感覚は気持ちが良い。
移動する時にエンジン音も風を切る音もまったくないという完全の
無音のホップボードという乗り物︵?︶なので周囲への最大限の注
意は必要だろう。
だけど、事故らないように注意だけしておけばこれほどちょっとし
た移動に適してる乗り物︵?︶はないな。長距離は無理だけど街乗
1219
りでゴーレム馬車の渋滞中はホップボードの方が早いだろう。
商業ギルドまではすぐに到着した。
アイテムボックスに片付けて中に入りガルディア商会とフォレスト
グリーン商会の場所を聞くとさすが2つともこのシーパラ連合国を
代表するシーズの商会。
2つの商会は商業ギルドの近くのビルだった。
しかも隣同士に立ってるな。そういえばヨークルにある大きな支部
も通りを挟んで向かい側にあったし・・・それでグレゴリオとミー
シアは恋愛結婚をしたとゾリオンから聞いてる。
シーズ同士の結婚で恋愛結婚って言うのはかなり珍しいと言ってゾ
リオンが少し自慢してたことを覚えてる。
シーパラ連合国のシーズの家は12家ある。シーズの商会だけが特
別大きいというわけではない。
小さな商会のシーズの家もある。フォレストグリーン商会はそれほ
ど大きな商会ではない。
フォレストグリーン商会よりも大きな商会はいくつかはある。
でもただ大きいだけで国政には参加できないので、情報収集や法改
正など色々な意味でシーズではない家は長期的に考えると不利でし
かない。
最高評議会を形成するメンバーはシーズのの当主を自らの子に譲り
第一線から退いた者のみで作られている。長生きすると最高評議会
に親子で参加してるシーズの家もある。
過去には3世代で最高評議会に同時参加って事もあったと聞いたこ
とがある。
後から
最高評議会の決定で作られたのが評議会。こ
その国政の中心の最高評議会をサポートと暴走をしないように監視
するために
1220
ちらはか各ギルドの代表者や教会関係者や各村・町・街・都市の代
表者などで形成されてる。
評議会の人間には自分で村を作れば議会の議員になることが出来る
が、物凄く金が掛かってしまうだろう。どこかのギルドの代表者に
なったほうが早いし、掛ける金額も安く済んでしまうのが現実だ。
俺みたいに魔法やスキルで何でも解決できれば話は変わるが・・・
それはそれで問題続出だろうな。
俺がいる間は良いがいなくなった途端に綻び始めるだろう。
商業ギルドの受付で場所を聞いてから、外に出てまず始めに向かっ
たのがフォレストグリーン商会だった。なぜ俺と付き合いの深いガ
ルディア商会ではなくてフォレストグリーン商会から先に来たのか
というと・・・手前にあったから。
ただそれだけだったりする。
フォレストグリーン商会はシーパラのあるのは本部ではなく﹃シー
パラ支部﹄になる。
本部はシーパラ連合国の海外への玄関口の都市﹃ドルガーブ﹄にあ
ると聞いてる。しかしいくらシーズの中では小さい方の商会で、さ
らにここは支部とはいえ7階建てのビルになってるし、ここは中央
行政区で商業ギルドのすぐ近くの1等地になるから流石のシーズの
1つと言えるだろう。
フォレストグリーン商会のシーパラ支部のビルの中に入って行って、
受付で冒険者ギルドカードを見せてグレゴリオ・シーズ・フォレス
トグリーンへの面会を求めると意外に低姿勢で受付横のソファーで
お待ちくださいと丁寧に対応される。
クソガキが何の用だ! とっとと帰れ!
なんて、すっ飛んできた警備員に怒鳴られるテンプレがあるかと思
ったが・・・普通以上の丁寧な対応をみるに、Bランクの冒険者ギ
ルドカードを出して正解だったのかな。
1221
いまつ なおふみ
秘書課のグレゴリオ第3秘書﹃位松尚史﹄と言う人が奥の事務所か
らやってきて商業ギルドカードも見せてくれた。
俺もお返しに冒険者ギルドカードを見せる。
名刺交換ならぬカード交換だな。見終わったら返すけれど。
位松さんの話によると俺の話はフォレストグリーン商会の中では﹃
超有名人﹄になってるそうだ。
商会の儲けが劇的に増えそうなほどのビジネスチャンスをくれた人
物として。
俺が持ち込んだ梅酢を利用した食品や料理の開発に今や何十人もの
人間が取り組んで日々開発を頑張っているそうだ。
紅生姜とミョウガの梅酢漬けはすでに販売が始まっていて、俺が教
えたように梅酢を容器に入れて調味料としても販売は始まっている
と。
販売網も今までとは別のところで広がりつつあり、すでに幾つかの
商会と商談に入って何件かと契約完了していて、他も契約寸前まで
行っているそうだ。
だから窓口で丁寧な対応をされたのだろうな。Bランクは関係なか
ったかもな。
それでグレゴリオは今日は昼過ぎに隣のビルのゾリオン・シーズ・
ガルディアと共に帰ってきたが、そのままガルディア商会のビルで
話しこんでいるようだった。
明日の証人喚問で2人は連名の告発人になってるから、俺は別の証
人喚問に出席していて参加してない午前中も質疑応答などをするの
で、明日の本番前の会議中だということだった。
それで出来れば俺にも参加して情報交換がして欲しいと言うことを
秘書が言ってきた。
確かに本番前に情報交換は必要だろうし、別件のおにぎり販売の事
1222
でグレゴリオ・ゾリオンの2人にお願いしたいこともあるので会議
に参加することにする。
案内をすると言ってくれた位松の後に続いて隣のガルディア商会の
ビルに行く。
流石にこのシーパラ連合国で5本の指に入るという商会の本部だ。
20階を越える巨大なビルは見る人を圧倒しているが・・・俺には
逆に見慣れた風景だったりする。
日本で働いていた会社も大きなビルの中に入っていたからな。
グレゴリオの第3秘書の﹃位松尚史﹄が先に歩きビルの中に入って
きてるので受付の対応も良いしなにより早い。
本人証明で位松の後に自分の冒険者カードを見せるだけなので楽で
良い。
最上階の会議室へと行ける転送部屋に歩いて向かいながら俺はマリ
アと早乙女邸専属メイドのクロに念輪を繋ぐ。
﹁マリア、クロ、聞こえるか?﹂
﹁ご主人様、マリアです。聞こえています。どういった御用件でし
ょうか﹂
﹁クロです。ご主人様。聞こえております﹂
﹁まずはマリアに聞きたいのだが、今はどこまで帰ってきてる?﹂
﹁今はウェルヅリステルの中を全員でキャンピングバスに乗り移動
中です。あと20分後にはハウスボートに到着すると思います契約
したマリーナに帰還できるのは更にその10分後になりますね﹂
﹁マリアありがとうな。では、2人のお願いしたいことがある。俺
は今日アマテラス様から簡易ゲートの製造方法を教えてもらってア
イテムボックス内で作った。今から2人に簡易ゲートを1つずつア
イテムボックスに送るからマリアはハウスボートに到着してから、
ハウスボートのトイレ横の壁に設置してくれ。クロは早乙女邸のガ
レージのどこでもいいけど・・・玄関の近くの壁に設置してくれ。
1223
簡易ゲートの向きは柱の白い面を壁にピッタリとつけて固定化の魔
法で固定しておいてくれ﹂
﹁マリアです、了解しました﹂
﹁クロです。了解しました。と言うことは今夜、ご主人様の帰宅は
は遅くなりそうだという事ですか?﹂
﹁ああ、ゾリオンとグレゴリオがしている明日の証人喚問に向けて
の事前会議に俺が今から参加することになった。これは会議がどこ
まで掛かるか全く予想もつかないからな、いつ終わるのか想像もで
きん。それにその後にゾリオンとグレゴリオに俺が今考えてる﹃も
ふもふ天国のゴーレム駐車場でのおにぎり販売﹄の商談もしておき
たいから更に終わる時間は遅くなるだろう﹂
﹁それで今日の迎えに行った時に俺が自分でつける予定だった簡易
ゲートを取り付けておいて欲しい。これがあれば、俺がいなくても
自由に早乙女邸に帰ることが出来るからな﹂
﹁﹁了解しました﹂﹂
﹁それと、これはクロにお願いだが・・・今夜の晩ご飯は﹃海鮮天
ぷら﹄にしようと材料を買っておいたのだけど、もしかしたら俺は
遅くなるかもしれない。材料はアイテムボックスに送るから先に料
理して作っておいてくれ。それで嫁達には先に食べてもらっててく
れ。嫁達には後で直接俺から念輪で話をするよ﹂
﹁了解ですご主人様﹂
話が終わったのでここで念輪の回線を切った。
丁度ガルディア商会の会議室に到着してドアが開けられた。
1224
ゾリオンとグレゴリオと3人で秘密会談したっす。
小さいが厳重な結界で守られた会議室に入っていくのは俺だけで案
内してくれた位松さんは帰ってしまった。俺は立ち上がって迎えて
くれたゾリオンとグレゴリオと挨拶と握手をして進められたソファ
ーに腰掛ける。先に放し始めたのはゾリオンだった。
﹁では単刀直入に話すが早乙女君への証人喚問でのやってほしい依
頼は・・・明日の証人喚問の時に3人をエクストラヒールで治療し
ていただきたいのだ。報酬は国から1人1億Gで3億Gをお支払い
する﹂
﹁お金は要らないんだけどなぁ。3人はどういう症状なのですか?﹂
﹁早乙女さん、それは私から説明します。1人は﹃不妊治療﹄・・・
これは私たちと違うシーズの﹃アギスライト家﹄長男の﹃クリス・
シーズ・アギスライト﹄の正妻﹃コマリ・シーズ・アギスライト﹄
の不妊治療になります﹂
﹁コマリさんの不妊の原因はわかってるのですか?﹂
﹁一切を秘密にされていて不明です。出来れば原因究明もやってい
ただくという事をお願いされています﹂
﹁個人情報満載なような気がしますが・・・﹂
﹁早乙女さんに気をつけていただきたいのは、証人喚問中は真偽官
が同席しますので不必要な発言は避けていただきたいのです。中に
は早乙女さんから何かの情報を引き出そうとする質問をぶつけてく
る最高評議会の議員もいると思われますので、﹃その質問には答え
る気はありません﹄もしくは﹃証人喚問質疑に関係のない質問を答
える気はありません。答えてほしいのであれば今回の問題と今の質
問の答えが必要な関係を証明してください﹄などと言っていただき
たいのです﹂
1225
﹁なるほどね。まぁ俺も秘密はたくさんありますので、答えを欲し
がるような質問は想像できますよ。ゴーレム・魔法・転生などなど
でしょう。変な質問を繰り返すヤツは﹃俺に敵対する者﹄として認
識することになるでしょうね。他人の迷惑を顧みずに自分の利益だ
けを追求する・・・それが商人にとってどんなことを及ぼしてくる
のか、自分の身をもって理解してもらうだけですよ・・・って噂を
バラまいておいてください﹂
﹁わかりました。しかし午前中しか噂をまく時間がないので時間的
に間に合うかどうか・・・早乙女さんが参加すると聞いて急に出席
を求めてきた1人の元シーズの人間に注意してください。その人は
ゴーレム馬車やゴーレム船の動力の製造で、一躍シーパラ連合国の
トップ企業に上り詰めたといわれてるユマキ家の元当主で今は当主
代行をしているマツオ・ユマキさんです﹂
﹁マツオさんとは別の絡みもありそうだな。問題児親子の合法的殺
害による後始末とか﹂
﹁そちらはお詫びを言いたいと聞いてます。子育ての責任を早乙女
さんに押し付けてしまったと周囲に漏らしているそうです。でもそ
れはそれでゴーレム動力に商機を見出し1代で、この国だけでなく
世界展開まで手がけた冷徹な企業家としての1面も持ってるマツオ
さんなので、早乙女さんの持つゴーレム馬車に興味津々で色々と話
がしたいと周囲に漏らしているという情報もこちらにきてます﹂
﹁・・・なるほどね。情報提供ありがとうございます﹂
﹁それで次の治療予定者の話に戻りますがよろしいですか?﹂
﹁話を脱線させてしまい申し訳ないですね﹂
﹁いえ、私からも伝えたいことだったので問題ないです。それで・・
・2人目は最高評議会の議員でトラ獣人﹃イワノス・ゲッペンスキ
ー﹄の欠損部位左手首より先の再生です。ゲッペンスキー家という
のはシーズ12家の中でも特に変わってまして・・・武人のみの家
1226
といいますか・・・﹂
グレゴリオの説明は謎だらけだったので俺から質問しまくった。
ゾリオンは長くなりそうだと一度会議室の外に出て人数分のコーヒ
ーとクッキーを運ばせる。説明は途中から補足してくれた。
話をまとめると・・・
ゲッペンスキー家は15歳で成人するまでに冒険者としてのトレー
ニングを積み15歳から冒険者としてデビュー。
兄弟の中で切磋琢磨を繰り返し、最低でもCランク以上の冒険者と
なって優れた武人だけがシーズの家﹃ゲッペンスキー家﹄を継ぐ事
ができる。
長男だから後継者になれると決まってないし、優秀な冒険者となっ
ても卑怯な振る舞いをした者は後継者レースから外されてシーズの
名前も没収され他国に養子に出されてしまう。
元々長生きする獣人なので100歳以下だと結婚すらさせてもらえ
ない。
なので後継者が決定するのも遅くイワノスは100年以上前に引退
して最高評議会の議員を長年にわたってしている、3代目のゲッペ
ンスキー家の当主で402歳となってる。
元Aランク冒険者だったイワノスが左手首より先を失ったのは冒険
者ギルド本部のギルドマスター青木勘十郎が名を上げた15年前の
ヨークルでの戦い﹃オーク皇帝戦争﹄の時。
青木がオークエンペラーを深夜の敵本部襲撃戦で敵の大将を狩り、
翌朝未明のオーク撤退の追撃殲滅戦で罠にはめられた部隊を助ける
ために最前線で作戦指揮をしていたイワノスは部隊をまとめる時間
がなかったので敵が密集する罠の中に単身で急襲をかけ部隊を救出。
しかし代償として左手首より先を失ってしまった。
1227
それでイワノスは国家功労賞でタダでエクストラヒールを受ける権
利を貰ったが・・・
﹃大きな欠損部位の治療は術者自身の体調と魔法を受ける側の体調
と運が左右する﹄
と枢機卿は宣言して治療を拒否していたのだった。
シーパラ連合国の最高評議会での決定といえど教会のトップ、教皇
の直属の部下になる枢機卿に無理強いをするわけにはいかず国家功
労賞は15年もの間、宙に浮いたままになっていたのを俺の登場で
改めて国家功労賞を与えようという動きが水面下であったみたいだ。
イワノスは枢機卿の意味不明で理解不能な言い訳に不審を抱き﹃枢
機卿は本当にエクストラヒールを使えるのか?﹄と常に疑問を抱い
てエクストラヒールを独自で10年以上も資料も何もない状態で研
究していた。
今回の枢機卿逮捕はイワノスがドルガーブまで出向き国外から帰っ
てきた枢機卿が、船を降りる前に国軍のエリートをイワノス自身で
鍛え上げた特殊部隊を突入させて船の中での逮捕劇だったようだ。
枢機卿の護送用の列車も特別に仕立てて深夜のあいだに即効でシー
パラまで運んでしまった。
教会側の枢機卿の部下や味方や協力者、枢機卿のもたらす富に群が
る人間達が枢機卿逮捕の情報を手に入れたのは、自分達が詐欺犯の
関係者として軟禁されてからだった。
詐欺発覚から逮捕、護送までの一連の行動が・・・時間もなくて短
期間に立てた電撃作戦の割には隠密行動まで完璧に行ってるな。作
戦の立案・実行を全てイワノフが仕切っていたらしい。
さすが元Aランク冒険者だな。
目的が枢機卿逮捕と関係者の軟禁・監視って事を考えると完璧な結
果だろう。
1228
﹁情報ありがとうございます。イワノスさんの左手首、大丈夫です
よ。全身不随の寝たきりにでも効果があって治療できるのがエクス
トラヒールなんですから。・・・それで最後の1人は?﹂
﹁それは教会の大司教様で・・・﹂
﹁もしかして露草桜さんですか?﹂
﹁はい。ご存知なのですか?﹂
﹁というよりも、もうすでに先程﹃エクストラヒール﹄と﹃神の癒
しの光﹄の2つの魔法を使って治療も呪い解除もしてきちゃったん
ですけど・・・﹂
﹁・・・え?﹂
﹁いや、すでに桜さんは治療も呪いも解除されてからアマテラス様
の祝福の効果もあって﹃聖女﹄になり、今はスキル取得条件を満た
して﹃聖母﹄になりました﹂
﹁早乙女君、聖母ってあの伝説のスキルの聖母?﹂
固まってしまったグレゴリオに代わって声を上げたのはゾリオンだ
った。
﹁はい。間違いなく聖母です。露草桜さんのところで確認された方
が話は早いですよ﹂
それからは大騒ぎになってしまった。教会に人が走り確認を取った
後に今度は最高評議会事務所に人が走ってさらに再確認。明日の最
高評議会のエクストラヒールは2人でOKになってしまった。
しかも・・・俺の魔法に半信半疑の議員までこの聖母誕生劇の影に、
俺の魔法の効果があるからもはや疑う余地もない事実となっていた。
しかも明日、露草桜は最高評議会の証人喚問に呼ばれる予定が元々
あったのかよ。
・・・あどけない表情の中に、演技が上手い。
これなら中央大陸の教会総本山に行ってもやられっぱなしのタイプ
じゃない。
問題はなさそうだ。守護神がわりのゴーレム2体もつけたので無敵
1229
だろう。
俺の中にあった心配事が消えたな。
アマテラスも安心だな・・・って言うか彼女の精神的な強さと魔力
を見込んで聖母にしたんだろうけど。
エクストラヒールの報酬の3億Gは減額することなく1人1億50
00万Gになっただけだった。
イーデスハリスの世界において考えると、明日の最高評議会の証人
喚問以上の出来事が﹃聖母誕生﹄なんだから仕方ないんだけど。
明日の朝に正式に﹃シーパラ連合国に聖母誕生﹄のニュースを世界
中に向けて発信することが決定したみたいだな。
中央大陸の教会総本山に向かう露草桜の大司教に代わり、シーパラ
連合国大司教管区の責任者の大司教は教会総本山で選出されてその
うち派遣されてくるだろう。
ドタバタの終わりを見せたのが夜の7時を過ぎていた。
ドタバタ中にミーから念輪が入っていたが俺は身動きできなかった
ので、マリアが設置した簡易ゲートで先に早乙女邸に帰って晩ご飯
まで済ませてもらった。
俺は晩ご飯を食べに行きましょうという話が出てきたときに、今日
伺った最大の目的﹃ゴーレム馬車による販売店を作っておにぎり販
路拡大計画﹄をやっと話せるようになった。
そもそもの出発点から話を始める。
もふもふ天国の話。食事を売ってほしいというお客の要望が多いこ
と。ゴーレム駐車場で屋台を作って駐車場で売ったらいいんじゃな
いかなという妄想。周囲は工房が多くて朝食・昼食・夜食におにぎ
りが向いてるということ。仕事が忙しい人にうってつけな商品がお
にぎりだということ。
1230
おにぎりの具は﹃梅干﹄が1番好きだという俺の話が出てきたとこ
ろで、俺のアイテムボックスからマリアが作ってくれている梅干お
にぎりをみんなの分も取り出して試食会が始まった。
ガルディア商会に残ってまだ働いていた職員の分もいくつか渡して
試食してもらう。
実際に作業しながら食事が出来るおにぎりにみんなが感嘆の声を上
げるのを聞いて、俺の意見は正しいということになっていた。
それですでにおにぎりブームが来てる﹃ゾリオン村の人﹄と、梅干
と海草を扱っているフォレストグリーン商会の協力が必要だと話す。
おにぎりには﹃海苔﹄が必要だということ。
フォレストグリーン商会の中で少ししか売っていない﹃海苔﹄を巻
いて2人に食べさせてみると﹃確かに葉っぱに包まれたおにぎりよ
りこちらのほうが美味しい﹄と言って黙ってしまったので俺は更に
畳み掛けるように、もふもふ天国の2つの店舗の地図を渡しながら
誘いの言葉を吐く。
2人とも乗ってきた。
﹁うちのもふもふ天国の店が2軒、ヨークルとシーパラにある。試
験的にここのゴーレム馬車駐車場で販売してみませんか? ここら
でゾリオン村で起きてるブームの拡大をしましょう﹂
﹁ワシは乗る。ゴーレム馬車を改造した屋台はすぐにでも出来るだ
ろう。それとおにぎり販売の人選はワシの村から選んでくるよ。屋
台でのおにぎり販売実績があったほうが、すぐにでも始まる商売の
際に教育しないで住むからな﹂
﹁では私は取引相手として米・塩・梅干・海苔の安定供給を支えま
す。よろしくお願いします﹂
﹁出来ればシンプルな具のほうが安定的な売り上げをキープしやす
いと思うので・・・昆布・おかか・刻んだシソの混ぜご飯って言う
のはいかだがでしょうか?﹂
1231
全種類を人数分取り出してみんなで試食。
これなら具材は全部フォレストグリーン商会で取り扱っている商品
なので安定的に供給が出来るだろうという説明も付け加える。
具は好評だったのでレシピを渡して終了だな。
﹁それでは私の用意する商品が増えましたね米・塩・海苔・昆布・
鰹節・醤油・梅干・シソこれで全部ですね﹂
﹁ワシのところはゴーレム馬車と販売員の提供。それに﹃おにぎり﹄
という新たな販売部門の立ち上げの資本金の用意もさせてもらおう﹂
﹁俺は場所の提供と用心棒ぐらいなので契約金だけでいいですよ﹂
﹁なるほど・・・契約金でゴーレム馬車の駐車場を借りて販売させ
てもらうということですか・・・これからの新しい商売の形式にな
りそうですね。しかも空いているゴーレム馬車駐車場を探すだけだ
から販売店の拠点も数倍に広がりそうだし、余ってる土地の有効活
用も出来るだろう﹂
﹁ああ、早乙女君もグレゴリオも納得したことで・・・決定だな。
では3人で仮契約書を結ぶことにしよう﹂
ガルディア商会のおにぎり販売がここから全世界展開することが決
まった。
専属取引業者はフォレストグリーン商会で仮の契約書を交わす。俺
もガルディア商会の土地使用に対する仮の契約を交わした。
ガルディア商会の儲けが1番少なくなりそうなので更に商売繁盛の
ヒントを渡す。
﹁ゾリオンさんに言いたいのは簡単ですよ。このゴーレム馬車の屋
台販売は﹃応用が利く事﹄なんですよ。今までは屋台を個人的にカ
スタムメイドで作っていたんだけど、ガルディア商会で﹃一定の規
格で作って大量生産﹄することでコストの削減が出来るようになる。
だからゴーレム馬車の動力を製造しているマツオ・ユマキと話し合
って早急に﹃規格統一﹄をした方がいい。安くゴーレム馬車の販売
1232
車を作れば、これから屋台を持とうという人達に販売車を売ること
が出来ますよ。独占するのではなくて工房の職人達に﹃規格を統一
させる﹄ことに重点を置いたほうがいいですよ﹂
俺が今までゾリオン村・都市ヨークル・マヅゲーラの街・首都シー
パラの中を歩いた感想は﹃屋台が個性的で凄い﹄だな。
何もかも全部が手作りなんだろう。リーチェも最近は屋台が高額に
なり過ぎて新規参入が減ってると雑談で俺にボヤいていたことを思
い出す。
そこに職人を抱きこんで商売すれば今まで屋台を作るのに金が掛か
って躊躇していたところを、設備投資を減らせるのであれば新規参
入は加速するだろう。
それにゴーレム馬車であれば屋台よりも大きくなるので売るものも
大きくできるし、中で複雑な料理をすることも可能だろう。
それらの規格も統一すればいいといって自分たちで規格を統一させ
るメリットを教えておく。
駐車場を貸す側との交渉で上手くコラボさせればどちらも売り上げ
を伸ばせる可能性がある。
数種類の商品の共同販売すら可能になるのがゴーレム馬車の大きさ
のメリットだからな。
ゾリオンが必死にメモを取っているのを見て俺は注意点を紙に書き
出して説明しながらおにぎりを食ってた。
グレゴリオは途中で退席してこれから取り扱う商品の在庫の確認す
ると言って帰っていった。
俺がゾリオン商会の会議室を出たのは夜の10時をまわっていた。
別れの挨拶と握手をして俺は帰宅することにした。
外に出て見えなくなったところで転移魔法でまずはハウスボートに
飛んだ。
1233
マリーナの中で停泊するハウスボートの中に入り簡易ゲートを調べ
たが異常ないな。
簡易ゲートというだけ合ってマヅゲーラの街のゲートのように、俺
の鑑識の魔法が飛ばされることはなかったので調べるのに支障はな
かった。
何度か出入りしてみたが何も問題ない。
ゲートによる転送先は早乙女邸ガレージの中、玄関側に設置されて
るがこちらも何の問題もない。
雨避けの指輪を外して結婚指輪をはめて玄関に。
3点セット魔法で浄化してリビングに入っていったがすでに嫁達は
就寝中だった。
1234
え? 聖獣ってたくさんいるの? ・・・っす。
居間の俺専用のソファーで寛ぎながらセバスチャンの報告を受けた。
セバスチャンもマリアも今日の狩りの中の採取でウェルヅリステル
の南側のジャングルの中から﹃カカオ﹄を大量に見つけたらしい。
しかも大森林のカカオ豆は俺が今日の食料品市場で購入した普通の
3倍近い大きさで少しキモいレベルだな。
・・・育ち過ぎじゃねぇーのか?
コーヒー豆も大量にあったみたいだ。
両方共が俺のアイテムボックスにすでに大量に送られてきている。
さっそく自分でコーヒーを作って試しに飲んでみるがこれは結構美
味いな。
俺の好きなコーヒーの味かもしれん。
コーヒー豆も普通の2倍ぐらくて少し驚く。
チョコレートも巨大なカカオ豆で作ってみるが・・・こちらはデカ
イだけで味に違いはあまりみられらないな。
もしかして・・・リステル川の南側は植生にまで影響が出ているの
ではないかと思えるのでオークや森林モンキーが大量発生している
のだろうか?
セバスチャンやマリアも原因を探ってみたが植物がデカイだけでよ
くわからなかったそうだ。
ただ、なぜか理由はまだわからないがリステル川の南側は植生が大
きくなっていたが、後で狩りに行ったリステル川の西側は普通のサ
イズだった。
だけど南側よりも西側の方がオークも森林モンキーも大量に生息し
ていたようだった。
1235
コーヒーを飲み終わり、チョコレートも食べ終わったのでそのまま
居間で防具に着替え始める。
セバスチャン・マリアと今日の狩りで退治したオークと森林モンキ
ーの巣に出かける。
これからオークと森林モンキーの巣の総ざらいをしてくる。
防具を装備してから・・・武器の装備に悩んでしまっている。
ゆきり まさむね
今日アマテラスから貰った武器の小太刀﹃雪切正宗﹄を普通の江戸
時代以降の武士の武器装備は左腰に2本差して装備するんだけど・・
・俺の貰った知識では左の腰にメインのカタナを差して、小太刀は
2刀流にする場合は左右どちらの手でも抜刀のしやすさを、長年の
殺し合いの経験から考慮してあって左腰に差すのではなく、右腰に
刃を下にして小太刀を横に吊り下げ﹃太刀を帯びる形﹄となって・・
・すなわち小太刀は今の拵えから全てを変えないといけなくなる。
カタナをぶつける心配のない武士がほぼいないファンタジーならで
はの装備。
・・・やってみますかね。
雪切正宗の鞘の拵えを外してカタナ用の拵えを太刀用の拵えに作り
変える。
腰のベルトも手直しして吊り下げやすいように金具を取り付けた。
こうすることで右手でもとっさの防御で小太刀を逆手で抜くことが
可能になった。
実際に抜刀してみるが動きに支障はなさそうだな。
この装備になると使用するスキルは剣客と剣豪の複合上位スキル﹃
剣聖﹄を使用することになるだろう。
玄関に行ってブーツを履いてからセバスチャンとマリアを連れて転
1236
移する。
森林モンキーの巣を2つとオークの巣を4つ。
巣の中にある魔獣が溜め込んでいた、もしくは拾い集めてきていた
全てのアイテムなどのモノを総ざらいでアイテムボックスに入れる。
半日かかって全員で森林モンキーもオークも両方とも1000匹ず
つぐらい狩ったようだった。
両方の素材はすでに俺のアイテムボックスに山ほど入ってきてるが、
この巣の拾い物も馬鹿に出来ないほどありがたい。
魔石や魔結晶がたくさん残ってるし、死んでいたり魔獣に殺された
冒険者の装備品やアイテムが山のように残っているのだ。素材ばか
りだが貴重な鉱石も少しは入っているのでありがたい。
毎回ステータスカードを拾っていてすでに合計は200枚以上と山
のようにあるが、まだ冒険者ギルドには届けていない。
卯月たち任侠ギルドトーナメントで成敗したヤツラのステータスカ
ードと同じで﹃ギルドに説明・提出・精査などをする手間が面倒臭
そうだから﹄と絶賛放置中になってる。
合計6個の巣の中を俺・セバスチャン・マリアの3人で手分けをし
て拾い集めてまわったが全部で2時間以上掛かって、すでに深夜の
1時を越えてしまった。
せっかくここまできたし・・・まだ時間に余裕があるのでついでに
原因究明に調べて回る。
先程のセバスチャンの報告にあったコーヒーとカカオ豆の収穫した
場所に転移して俺も原因を調べてみる事にした。
鑑識で草木を調べてみるが異常は特には見あたらない。
ただただとにかく植物が大きく成長しているのだ。
木も草も普通の倍以上もしくは3倍以上の大きさになって成長して
る。
深夜なのであたりをうろつく魔獣や昆虫魔獣は普通の大きさだ。変
1237
化は見られないが・・・とにかく数が多いな。
とりあえず昆虫魔獣も捕獲して詳しく調べてみたが何もない。
ヨークルの森林モンキーの時のように魔結晶と魔水晶が相互に干渉
して魔力が暴走しているような気配もないのだ。
植物だけに大きさに変化が見られて、魔獣はそれにあわせて数が増
える・・・が、魔獣のサイズには変化がない。
植物に関係してるので水と土も調べてみたが・・・判らない。
水に変化は全くないが、土は普通よりも栄養分が多く含まれている・
・・これが原因なのか?
手を3点セット魔法で浄化してから今日作ったチョコレートをかじ
りながら考え込む。
セバスチャンとマリアも俺と手分けして周囲の捜索に行ってるが念
輪の回線は繋がってるので逐一報告が来るがいまだに原因不明だな。
セバスチャンとマリアに違う場所の土と水もアイテムボックス経由
で送ってもらって鑑識で詳しく調べてみるが・・・土は栄養分が豊
富になってるが水は普通というそのまま変化のない結果が出た。
土と水を採取した場所をMAPで入力してあちこち手当たり次第に
採取する。そのままのデータをMAPに入力しながらヘルプさんに
鑑定結果を入れていく。
鑑定結果に変化が少しずつ出てきた。
より南側の方が土の栄養素が多く含まれていて明らかにカカオとコ
ーヒーの実の大きさがデカくなってるのだ。アイテムボックスに送
られてくるサイズがすでに通常の5倍はある。
マリアとセバスチャンに南に行くように指示を出してから俺自身も
南に向かって歩いていく。
確かにセバスチャンの報告にあったように魔獣の姿が少なくなって
きた。草食の昆虫魔獣はより多くなってきたが、オークも森林モン
1238
キーも周囲にほとんど見当たらなくなってきた。
いちいち狩りをしながら進むと遅くなりそうなので3人とも隠者ス
キルを発動させて、気配も魔力も隠して更に南側に歩いていく。
土だけを時々採取して鑑定しながら進むとセバスチャンから速報が
入った。
俺は念輪で会話しながらセバスチャンのほうに向かって走り出す。
﹁ご主人様、今の私がいる場所の1kmほど南方に強大な魔力反応
が出ました。しかし場所が変です﹂
﹁マリアは俺と合流して一緒にセバスチャンのところに向かうぞ。
セバスチャン、場所が変とはどういう事だ?﹂
﹁マリアです。ご主人様の元に帰還します﹂
﹁変というのは・・・丘の中に巨大な反応があってゆっくりと動い
ているのですが・・・動き方が変則的過ぎて巣穴の中を移動してい
るように思えません﹂
そう聞いたところで3人合流して巨大な魔力反応がある場所の近く
に移動した。
確かにデカイ反応が地中にある・・・これってドラゴンとか、るび
ののような聖獣クラスの反応じゃないのか?
俺の中の経験と知識が警報を鳴らしてきた。
この丘の下は大きな水の空間が広がっているんだけど・・・
反応が敵対的とか暴君のような暴れまわる気配は全く感じなくて子
供が迷って泣いてるような感覚さえあるので、セバスチャンも﹃変﹄
という表現で俺に報告したのだろう。
セバスチャンとマリアを少し離れた場所に退避させて近くの巨大な
コーヒー豆やカカオ豆を採取させておく。蜂の巣もたくさんあった
のでハチミツも採取してもらう。樹木の大きさも尋常なサイズでは
ないので伐採して俺が後で回収しやすいようにある程度加工をして
1239
おいて貰う。
大きく成長した樹木は強度とか色々調べて見たいしな。
地中の水の空間に入るために土魔法の﹃土走り﹄を使用して土の中
を移動する。
土を通り抜け今度は水の中。
ここの水はどこかで海と繋がっているみたいだな・・・かなり薄ま
っているが塩水だ。
水魔法の﹃水共存﹄を使って支柱でも呼吸や飛翔魔法のように水中
を自在に移動できるようにした。
更に奥に進むと巨大な魔力が向こうから俺に向かってきて声をかけ
てきた。
さおとめ
しんいち
﹁もしかして、お父ちゃん?﹂
﹁やぁ、俺の名前は早乙女真一。君の名前は?﹂
﹁・・・名前はまだないの。お父ちゃんに名前をつけてもらいたい
の﹂
鑑識で調べるがやはりまだ子供で生まれたばかりだな。
海龍﹃・・・︵名無し︶﹄
種族 聖獣﹃水神﹄
年齢 0歳
性別 オス
所属 早乙女真一
海を統べる聖獣で海龍の転生した幼生体。またの名を水神。
まだ生まれてから15日ほどしかたってない。
名前はまだつけられていない。
ちなみに四神の一柱の﹃青龍﹄とは異なる聖獣である。
海龍は海を統べる聖獣。青龍は東の大陸を統べる聖獣。住む場所も
特徴も異なる別の聖獣。
1240
・・・るびのと同じパターンだな。
俺の魔力と神力を求めて海から俺のほうに向かってくる時にここの
地中の水溜りに引っかかって生まれちゃったんだろうってことが、
容易に想像できてしまったな。
ゴッデスさんよ・・・流石に幼生体で5mを越す大きさの龍を育て
ることは無理だぞ?
︻スマンのう、また遅れてしまったようじゃな︼
﹁ゴッデス様、さっきも言ったけど流石に水神は育てられないよ?﹂
︻そこまで無理は言わんよ、ただ名前をつけて海に帰してもらえん
じゃろうか︼
﹁名前をつけるのはかまわないが・・・﹃遊びに来ちゃった﹄って
気軽に来たりしないだろうな? シーパラ大河は海に繋がってるし・
・・﹂
︻その心配は無用じゃ。勝手気ままに大海原を泳ぎ回るのが大好き
な聖獣なんで狭い川とか小さな池にいると泣いてばかりで、そのう
ち海に逃げるために暴走するぐらいに狭いところが嫌いな生き物な
んじゃ︼
﹁わかったよ。名前をつけて海に帰すだけだな。それなら楽に出来
るだろう。それと・・・こういうことは前もって教えて欲しいんだ
って言ったんだけどな﹂
︻スマン。まだ暴れまわるには10日ほどは余裕があったのでゆっ
くりしすぎていたんじゃよ︼
﹁わかったそれならいいよ。それと今回このジャングルの問題って
コイツのせいなの?﹂
︻正確に言うと流していた涙が原因なんじゃよ。海龍の涙には栄養
を周囲に広げる効果があってのう。水の中の栄養素は流れていくん
じゃが、水が流れた後に栄養分だけが残って草木を異常に繁殖させ
るんじゃよ。それに魔獣が移動したのは海龍の放つ膨大な魔力と存
1241
在感の大きさが、周辺に住んでいた魔獣を逃走させていたんじゃろ
う︼
﹁じゃあこれで解決だな。ゴッデス様、急に呼び出して申し訳ない。
でもこのお詫びは次の依頼があったときに報酬に上乗せさせてもら
いますよ﹂
︻了解したよ。じゃあの︼
ゴッデスとの話し合いは終わったのでコイツの名前を考える。
生まれてから15日しかたっていない子供と言っても・・・体長は
すでに5m以上もあるドラゴンなので名前は・・・水神、すいじん
から変化させてみずかみで﹃みかみ﹄に決めた。
﹁よし決めた! お前の名前は﹃みかみ﹄に決めた!﹂
﹁みかみ・・・みかみ・・・わかった。ボクの名前は﹃みかみ﹄だ
ね。覚えたよ、お父ちゃん﹂
﹁よし。それじゃあ、みかみを海に帰してあげるよ﹂
﹁お父ちゃんありがとう。狭いし苦しいしエサはなくなっちゃった
し、もうボクお腹ペコペコ﹂
海の中にある孤島に水神を祭る神殿﹃水神殿﹄があったのを俺の貰
った記憶からヘルプさんが取り出してきてくれたので、そこにMA
Pをあわせて転移魔法でみかみと一緒に飛んだ。
周囲に海しかない孤島の水神殿の地中深くにある大きな空洞にやっ
てきて空洞の中の半分を占める海は外海と繋がっているので、ここ
が正式? 公式? に、みかみの住処なんだろう。
海からシャチが出てきてついさっき捕獲したばかりのようなサメを
お土産として持ってきて、みかみに渡してから話しかけてきた。
うみとら
﹁水神様、お帰りなさいませ。私は眷属の子孫でシャチのリーダー
﹃海虎﹄です。水神様に眷属にさせてもらうために御神託に従い、
1242
ここで御到着をお待ちしておりました﹂
﹁神託だって?﹂
﹁月読様の御神託が私にありまして、昨日からここで待っていたと
ころでございます、早乙女様﹂
﹁俺の名前も知ってるのか?﹂
﹁月読様のくだされた御神託の中に一緒にありました。海の魔獣の
ボスになるお方だと﹂
﹁ここでも俺はボスかよ・・・それにシャチには月照神の月読様に
信仰があるのか?﹂
﹁シンコーってなんですか?﹂
﹁信仰って・・・説明しづらいな・・・ま、いっか。海虎は今まで
に月読様から神託を受けたことがあるのか?﹂
﹁私は10日ほど前に初めて神託を受けました。ここの神殿に来れ
ば水神様にお会いできて眷属にさせてもらえると、寝てるときに神
託を受けましてここにやってきました。昨日到着してここでノンビ
リしていたんですけど、腹が減ったので近くのサメを食べようと狩
りに行って今帰ってきたところです﹂
﹁サメおいしー!﹂
みかみは俺と海虎の会話は全く聞いてなくて、海虎から貰ったサメ
をムシャムシャガツガツ食ってる。
ここに来る前から腹減ったと言ってたからな。
自分とほぼ同じ大きさのサメを貰って嬉々としてガツガツ食ってる
みかみの能天気な食いっぷりに、少しだけノホホンとした空気が流
れてくる。
俺はなるべく気にしないようにして海虎に話しかける。
﹁海虎は眷属にしてもらうって行ってたけど、どうやって眷属にし
てもらうんだ?﹂
﹁それは水神様が我ら眷属の末裔に魔力を分け与えて誓いの言葉﹃
我、命尽きるまで水神様に永遠の忠誠を誓うものなり﹄と誓わせる
1243
だけです﹂
﹁へー、なるほどね。みかみ、試しにやってみたら?﹂
﹁・・・ん? お父ちゃん何か言った?﹂
俺と海虎の視線を感じて慌てて貪り食ってたサメから顔を上げて聞
いてきた。俺と海虎で説明をし直して試しに海虎に誓いの言葉を言
わせながら、みかみは魔力を分け与えてみた。
すると海虎の全身の体がエメラルドグリーンに光り輝いて目の周り
に光が移動。
移動した光はグリーン色の・・・まるで歌舞伎役者目の周りのクマ
ドリのような・・・炎のクマドリ模様になって顔に残り海虎のステ
ータスの全ての数値が倍以上に膨れ上がった。
﹁おおお、自分の体が! 体中が熱く燃える様でいて頭の中は冷た
く冴え渡るようで・・・凄いです。さすが眷属となった甲斐があり
ます﹂
﹁そうか、それじゃあ後のみかみの教育係は海虎に任せてそろそろ
俺は帰るよ﹂
﹁え? お父ちゃんどっか行っちゃうの?﹂
﹁俺は海の中で住んで暮らすことは出来ないから・・・﹂
みかみに俺の陸上での生活とかの説明をしていく。嫁は3人いるこ
となど。るびのの存在も教えてあげた。
念輪で好きなときに話すことが出来るよと念輪の腕輪とアイテムボ
ックス︵中︶の腕輪をプレゼントしてあげて使い方を教える。
るびののような物覚えの早さに驚きながら全部を教えた。さすが聖
獣っていったところか。
海虎にもみかみの事を再度お願いして俺は帰ることにする。
元々自由気ままに暮らしている聖獣のみかみは別れもまったく湿っ
ぽくなくて助かるな。
1244
まぁ、今生の別れというわけでもないし、まだそこまでの絆がある
訳でもない。
会いたくなったら念輪で待ち合わせをして会えばいいんだしな。
バイバイと気軽に別れる。
1度ウェルヅリステルの南の奥地のみかみがいた丘に戻ってセバス
チャンとマリアに会いに行く。
セバスチャンとマリアが採取したモノはすでにアイテムボックス経
由で俺のアイテムボックスに届いているが、伐採した樹木はセバス
チャンたちのアイテムボックスには入りきらない大きさのモノもあ
るので俺が直接回収する。
土もある程度回収しておき今後の早乙女邸の畑などで栽培する野菜
や果物の研究をするそうだ。
帰宅前に上空500m以上に飛翔魔法で飛び上がり周辺の魔力と気
配の探査を行ってみると、みかみの巨大な魔力反応が消えたので西
と北に逃避していたオークや森林モンキーなどの魔獣たちが続々と
元いた場所に戻ろうと移動を開始してるみたいだった。
これで安心して早乙女邸の玄関に帰宅。
居間に戻り装備を外して防具からガウンに着替えをしてお風呂に入
り今日は寝ることにした。
風呂にゆったりと浸かっていたら深夜の3時を越えてしまったが・・
・まぁ、いつもの事だな。
では、おやすみなさい。
1245
最高評議会の証人喚問が開始したっす。
翌朝が明けて転生28日目の朝。天気は夜のうちに昨日の雲はなく
なっていて今日は快晴。
今日は朝からアイリとミーのドタバタで起きた。俺を起こさないよ
うにミーが寝ぼけてるアイリを洗面台に連れて行こうと誘導中に転
んだみたいだった。
マリアとセバスチャンがアイリとミーに回復魔法のヒールをかけて
いる。
転んでもまだ寝ぼけてるアイリが流石だな。いきなりドタンと音が
して飛び起きた俺は・・・時間に余裕があるけど俺も起きて一緒に
朝食をとる事にした。
今日も嫁3人とるびのとセバスチャンとマリアは昨日と同じ場所に
簡易ゲートでハウスボートに移動してから行くので俺は送っていか
なくてもいいらしい。
そのほうが好きな時に帰ってこれるので都合が良いと言われてしま
った。
今はまだ朝の7時過ぎなので俺にとっては早過ぎる時間だ。
8時半に最高評議会ビルでゾリオン達と待ち合わせをしているので
俺はノンビリしている。
嫁3人は防具を装備している。
クラリーナが今朝飲んでいるのは﹃ホットチョコレート﹄だ。俺も
少し糖分を減らしたビターなホットチョコレートを飲んでいる。
俺がホットチョコレートを作って飲んでいたらクラリーナが甘い香
りにつられて聞いてきたのでクラリーナ用に甘いホットチョコレー
1246
トを作ってあげたら喜んでいた。
アイリとミーも俺と同じビターなホットチョコレートを飲んでいる。
朝食は俺はロールパンにスモークサーモンと野菜を挟んだモノを食
べてる。
アイリとクラリーナはロールパンにバターをたっぷりつけてそのま
ま食べて、ミーは俺と同じスモークサーモンと野菜をクロワッサン
に挟んで食べてる。
昨日の深夜に起こった出来事を嫁に説明し終わったらクロがるびの
を連れてきて、朝の挨拶を済ませたらみんな出て行ってしまった。
今日は朝からオークと森林モンキーを狩りまくるそうだ。セバスチ
ャンとマリアにはサポートと採取をお願いしておく。
8時になるまで居間で着替えをしてからのんびりとしていた。
いつものように普通にロンTとジーンズを着替えてから・・・今日
は最高評議会の証人喚問に出廷するのでこのシーパラ連合国の証人
には制服のような旅人の服に着替え直した。
玄関に行ってブーツを履き首都シーパラの早乙女商会事務所に転移。
外に出てホップボードで商業ギルドのツインタワー本部ビルの最高
評議会まで移動した。
ツインタワーの35階の方のビルで上部10フロアーが最高評議会
専用部分になる。
ツインタワーのもう片方のビルは30階建て。こちらの方のビルは
が低いがフロアー面積は倍ぐらいにある。上部10フロアーが評議
会専用部分。
残りの部分は国家運営の各省庁や商業ギルドが使用している。
どちらのビルも最上階は展望レストランになってるが、一般開放は
されていない。
到着してホップボードをアイテムボックスに仕舞って歩いて入って
1247
いく。
商業ギルドに入るのは商業ギルドカードで済むが最高評議会の建物
にはステータスカードの方がいいんだろうなと考えながら歩いてい
たら、最高評議会ビルへ行くための転送部屋の前でゾリオンとグレ
ゴリオが待っていてくれていた。
思わず遅刻したのかと時間を確かめるがまだ時間前だった。
﹁ゾリオンさんとグレゴリオさん、おはようございます。今日は早
いですね。待ち合わせ時間には余裕があったと思いますが・・・﹂
﹁早乙女君、おはよう。グレゴリオと確認したいことがあってね。
早めに待ち合わせてここまで一緒にやってきていたんだ﹂
﹁早乙女さん、おはようございます。昨日の早乙女さんの発案した
ことでゾリオンさんと話をしていたんです。では私とゾリオン義父
さんが借りている会議室に移動しましょう﹂
グレゴリオが案内係のように先に歩き出して俺とゾリオンは後に続
く。
途中の厳重なゲートはグレゴリオが先に話をしてあったらしく俺は
1度のステータスカードの確認だけで会議室にいけた。本来なら何
度も警備員に確認をされて、面倒極まりないことになるらしい。
この会議室はグレゴリオとゾリオンが連名で今日一日中借りていて、
ここの会議室で休憩になると教えてもらった。食事は最上階の展望
レストランで食べる事が出来るらしい。それは楽しみだな。
このイーデスハリスの世界に来てから高級レストランで食事をした
経験が無いからな。テーブルマナーは貰った記憶と経験で完璧にな
ってるのが、こういうときにはありがたいな・・・恥はかかなくて
済む。
この部屋に俺達がいるのは通達されていることなので、ここに案内
をする呼び出し係がくるのでここで待機をしてるだけでいいと教え
1248
てもらった。
封印結界を掛けて部屋の中で昨日の﹃ゴーレム屋台おにぎり販売計
画﹄の続きをしていると案内係が俺を呼びにきたので付いていく。
しのび
ごんぞう
今日の午前中の最高評議会の証人喚問は﹃冒険者ギルド幹部ノラギ
ス・サザールの犯罪﹄だった。
こちらでは裁かれる側の人間に﹃ノラギス・サザール﹄﹃忍権蔵﹄
と管理責任者の立場で﹃青木勘十郎﹄も出廷している。
すでに冒険者ギルド職員の管理責任の責を取っての辞意を表明して
いる青木勘十郎は後は引継ぎ問題のみなので、管理責任者の罪で辞
任以上のことを追及することは最高評議会には出来ない。
だからすでに話は終わってるのだ。俺がすることは確認とウソをつ
いていないと言う証明だけ。
俺は証人喚問中の質問された内容に答えただけで、犯罪を裏付ける
資料などは警備隊に提出してあるし質問内容も俺が今までに冒険者
ギルドや警備隊に説明したことを確認をしただけだ。
俺の発言を真偽官によって確認されるだけの簡単な﹃作業﹄だな。
ノラギスも忍もすでに観念して全て正直に答えているので変な腹の
探りあいとか全くなくて淡々と進んでいく。
証人として精霊ウンディーネも出廷させてあげたので、俺に馬鹿な
質問をぶつけてくる最高評議会の議員も皆無だった。
1時間半ほどで終わったので会議室までまた案内してもらって戻る
とゾリオン達はすでにいなかった。
部屋でアイテムボックスから取り出したコーヒーを飲みながらマッ
タリしていると・・・会議室に青木勘十郎が尋ねてきて挨拶と握手
をする。
青木はこれから冒険者ギルドに戻って後継者選びとギルド幹部への
1249
業務引継ぎ作業に追われているそうだ。
後継者選びはかなり難航している様でギルド内で承認を得てからも
国の関係機関ともすり合わせする事があるので・・・まだ30日ぐ
らいは掛かりそうだとボヤいてる。
でもその作業が終われば念願の﹃青木武士団﹄を結成すると言って
目を輝かせて熱く語ってくる。
前回のチームは最少人数による1点突破のみを狙ったチーム編成だ
ったが今度はバランスを考慮して武士団を結成するそうだ。
アゼット迷宮で亡くなった元チームメイトの念願である﹃アゼット
ダンジョン完全攻略﹄を狙っていると熱く語ってる姿はギルドマス
ターではなくただの冒険者だな。
しかもかなり嬉しそうなので・・・やっぱり亡くなったチームメイ
トの無念を晴らしたかったのだろう。
長い間冒険者ギルド本部のギルドマスターという職のしがらみにが
んじがらめにされて身動きできずに我慢を強制させられていたんだ
からな。
青木が帰っていってから会議室にゾリオンとグレゴリオが戻ってき
た。
﹁早乙女さん、今日は早めに昼食を食べて貰って最高評議会の証人
喚問をさせて欲しいというお願いをされたのですが、今から3人で
展望レストランに食事に行きませんか?﹂
﹁わかりました。そちらの﹃枢機卿の詐欺事件﹄は長引きそうです
しね。さっそく食事に行きましょう﹂
そういって座っていた俺が立ち上がると会議室にお客がやってきた。
マツオ・ユマキと執事をしているジュンロー・ユマキの2人だった。
﹁早乙女さん、初めまして。マツオ・ユマキと申します。お詫びし
たいことなどがございまして展望レストランの個室を予約でお取り
してますので、そちらでご一緒に食事をさせていただけませんか?
ゾリオン君とグレゴリオ君も一緒にどうぞ﹂
1250
俺はゴーレム馬車の話もしたかったので快く応じることにした。
﹁わかりました。では一緒に食事をしましょう﹂
ジュンローが前を歩いて予約された展望レストランの個室まで案内
をする。
個室に到着してからまずはマツオとジュンローの謝罪を受け入れて
からは、食事をしながらの会話になっっていった。
食べたのは魚介系のフルコースだった。俺が完璧なテーブルマナー
を持っていることに全員驚いていた。
会話の主導権を握って余計な質問をされないうちに俺からマツオに
問いかける。
﹁マツオさん、サトシさんとミサキさんとマークタイト君は元気で
すか?﹂
﹁やはり3人を首都シーパラまで送ってくれたのは早乙女さんでし
たか。どう聞いても﹃親切な人がここまで送ってくれた﹄としか言
わなかったので疑問に思ってました﹂
﹁ちょっとお待ちください﹂
俺はここにいる全員を待たせて部屋に封印結界を仕掛けて声を外に
漏らさないように施してから、ジュンローが呟いた言葉を軽く聞き
流して俺は会話を再開させる。
﹁これは・・・先程の会議室もですが、見たこのもないほどレベル
の高い封印結界ですね﹂
﹁まぁ、ここにいる全員が持っているのと同じように俺にも言えな
い秘密を持っているって事で質問には答えられないこともあります。
サトシたちを救ったのはアマテラス様の神託があったからですよ﹂
俺はみんなに説明した。
任侠ギルドであったことは言えない秘密になるが俺がアマテラスの
神託があってマヅゲーラの街に隠れ住むサトシ達を説得してシーパ
1251
ラにまで送り届けたと、そう言えば不思議に思うことはあっても追
求は出来ないと計算はしてる。
俺が転移魔法を使いこなすことが出来る事は信用できる人間にしか
言えないのでここにいる人間には無理だ。
正統後継者を連れてきたことに礼を言われるが俺は礼はいいから、
せっかく俺との約束を守っているサトシ達に追求しないように言っ
て釘をさしておく。
マツオでは信用出来そうもない事だが大きな釘はさしておかないと。
マツオの目を見た瞬間から俺の脳内では警報がなっている・・・コ
イツは味方のフリして商売のためなら敵に武器を売ることに躊躇し
ないタイプだ。
俺の情報を得ようと孫を騙してでも平気なタイプだろう。
﹁お礼は受け取りました。・・・マツオさん、俺が貴方を心から信
用できないのは理解できるでしょう。人の秘密を自分の目先の利益
のためにほじくることが平気で出来る人間とは、商売は出来ても秘
密絵を共有することは出来ませんよ。正直に行って連れてくること
も簡単に出来るが連れ去ることも姿を消させることも可能ですよ。
人の秘密をほじくるのは俺の﹃敵対者﹄になると言っておきます﹂
﹁早乙女さん、商売できるとは・・・どういうことなんでしょうか
?﹂
ジュンローが話題を変えようと口を挟んできたので﹃ゴーレム屋台
おにぎり販売計画﹄の説明をすることにした。
マツオも俺の説明を聞いて途中から目の色を変えた。俺が説明した
ゴーレム馬車販売車の﹃規格を統一することによってコストの削減﹄
﹃規格を自分たちで決めるメリット﹄などが理解できたのであろう。
これは俺からマツオへの妥協案だな。
秘密は秘密のままで俺と組んで商売をすれば面白いアイデアをいく
つか提供してやってwinーwinな関係を気付くことができるぞ
1252
という暗黙のルールを提示した。
俺は自分だけが儲けようと気はないし。
すでにゾリオンとグレゴリオは薄々気付き俺との付き合い方をわき
まえてるようだ。
この﹃俺の秘密を探ろうとしない商売関係﹄でいれば俺の敵対者に
はならずに利益が出る。
グレゴリオのフォレストグリーン商会は相当な利益がすでに確定し
てるし、ゾリオンからすれば俺は救世主だろう。
場の空気を肌で感じたマツオは俺との関係を自分なりに理解して話
に乗ることにしたようだった。
マツオからすれば不思議なゴーレム馬車を自作している俺との関係
で不利になる要素は排除した方がいいと感じたのだ・・・自分のユ
マキ商会抜きでもこの話は出来る。
俺とガルディア商会とフォレストグリーン商会が手を組めば・・・
ユマキ商会で製作するゴーレム馬車以上のものを簡単に作ることが
出来るのだということ。
俺が本気を出せばこの世界の半分以上のシェアを誇るユマキ商会の
儲け話に加えて貰ってる
立場なんだと瞬時に理解
ゴーレム馬車の売り上げの大半は俺に奪われることだろうと。
これに自分は
できるあたりは流石﹃シーパラ連合国一の商売人﹄と言われてる所
以だな。
子育ては失敗したが商売人としては超一流なんだろう。
話の途中で個室に案内係が呼びに来て、そのまま証人喚問終了後に
全員で会議室にまた集まってから続きの話をすることになった。
ジュンローは最高評議会の証人喚問には参加できないので、俺の話
に加わるために準備をしようとユマキ商会に戻っていった。
午後からの最高評議会の証人喚問で初めて詐欺をしていた枢機卿を
1253
みたが・・・普通にイケメンだったのでビックリした。
ローグ真偽官のようなナイスミドルで、見た目が学者の様に線は細
い感じだが間違いなくイケメンだった。
俺を必死に睨んでるのだが・・・怖くもなんともないな。呪いをか
けているように感じるが俺には一切効かないし。
むしろイケメンざまぁ! と言う小さな喜びまで感じてしまうのは
俺が小さい男だからだろう。
証人喚問は進んでいき俺が唱えたエクストラヒールとメガヒールの
考察にまで話が進むと。イケメン枢機卿は目に見えて顔色が青くな
った。
イケメン枢機卿が反論しても証人喚問に同席している真偽官から﹃
彼はウソをついています﹄と言われて黙る。
それで実際にシーズの﹃アギスライト家﹄のクリス・シーズ・アギ
スライトと妻のコマリ・シーズ・アギスライト。更に証人喚問の傍
聴席で全ての質疑を聞いていたイワノス・ゲッペンスキーが証人喚
本物
のエクストラヒールが実演されるのだ。
問を行っている会議場に入室してきて緊張感が漂い始め空気が一変
する。
これから俺により
俺がグレゴリオ夫婦にヨークルの教会で実演した時のことを繰り返
して話して全員に説明する。
まずはイワノスにメガヒールをかけながら﹃エクストラヒール﹄と
唱え何も変化がないことを全員に見せた。
そして本物のエクストラヒールをかけるとイワノスの今まで存在し
なかった左手首よりも先が指先の爪まで見事に復元して会議場は驚
愕の声が上がる。
俺が左手でイワノスと握手をすると強く握り返して話しかけてくる。
﹁早乙女君、ありがとう。今度は私と手合わせをお願いしたいな。
1254
君のような武人を見ると心が躍ってくるよ﹂
﹁それはリハビリが済んでからにしましょう。まだ長期間の欠損部
位の影響で1割ほどしか力を出せてないのでしょうし、反射速度も
1/10ぐらいに低下しているでしょう。普通は20日以上かかり
ますがイワノスさんは10日で済みそうですね。リハビリのメニュ
ーはこちらです﹂
俺が武人用のリハビリのメニューを考えて紙にかいて渡した。
﹁君の設定したリハビリメニューを守るから、完治の際には手合わ
せをお願いできるかな?﹂
﹁それは・・・わかりました。では完治したら冒険者ギルドに依頼
を出してください。試合のルールはその時までに設定しておいてく
ださい。命のやりとりはなしで﹂
﹁フッフッフ、わかった。よろしく頼むよ﹂
イケメン枢機卿はガタガタと震えだす。俺とイワノスが殺気を振り
まきながら会話していた影響だろうな。
それでコマリの不妊治療。先にイケメン枢機卿にやらせろと言って
俺は鑑識を使ってコマリの不妊の原因を探ると・・・意外な事実が
発覚した。
1255
午後の証人喚問で急展開っす。
イケメン枢機卿が必死な言い訳を始めるが全て真偽官に﹃ウソをつ
いています﹄と言われて中断するを繰り返して中々進まない。
元
枢機卿だな。・・・
俺はエクストラヒールをとにかく見せてみろと煽る。
顔を真っ赤にさせてイケメン枢機卿・・・
が、俺を睨みつけて呪いをかけてくるが俺には効かないって。
俺は﹃情報複製﹄の魔法でイケメン元枢機卿の脳内を俺にコピーさ
せた。やっぱり対象者に触れなくても情報複製は可能だったな。
吸い上げた情報の分類・仕分け・精査はヘルプさんにお願いしてお
く。
俺が﹃さっきからコイツが呪いかけてくるんですけど、俺には効か
ないから無駄だって。コイツは面倒だから殺してもいいですか?﹄
と議長にチクるとイケメン元枢機卿が顔を青くさせて反論してくる。
その反論にも﹃彼はウソをついています﹄と真偽官からの訂正が入
って少しカオスってきて思わず笑ってしまった。まさしく﹃イケメ
ンざまぁ﹄な構図になってきたからな。
俺と同じように笑ったのは隣にいるゾリオンだった。
娘の事でかなり腹立たしく思っていたのだろう。ゾリオンは2回も
エクストラヒールを娘にかけさせて私財を無駄遣いさせられている
からな。俺はゾリオンに尋ねる。
﹁ゾリオンさん、貴方みたいにエクストラヒール詐欺にあってたく
さんお金を無駄遣いさせられた人達への弁償はどうなるのですか?﹂
﹁それは教会が全て全額弁償を決定している。年利5%の利子もつ
けて返済するのだそうだ。ワシのところにも午前中に金額を確認し
に、教会の新しい枢機卿がやってきて契約書の金額を確認していた﹂
1256
俺とゾリオンの会話に加わってきたのが﹃クリス・シーズ・アギス
ライト﹄だった。
イケメン元枢機卿のウソはき具合に拍車がかかって証人喚問のカオ
スっぷりは更に混乱を呼んでいる。
﹁早乙女さん、初めまして。ゾリオンさん、お久しぶりです。早乙
女さんに聞きますが・・・妻の不妊は本当に治るのでしょうか?﹂
﹁それに関して俺からもクリスさんに聞きたいことがあるのですが・
・・ハイかイイエのみでお答えください﹂
﹁え? それはなぜでしょうか?﹂
﹁確認したいことがあるだけで、事実はこのような雑談の中でなく・
・・真偽官の同席する証人喚問の中でで犯罪をハッキリとさせたい
からです。よろしいですか?﹂
﹁犯罪? ・・・わかりました。早乙女さんが何を狙っているのか、
私にはわかりませんが従います﹂
﹁では、質問を始めます。奥様のコマリ様はもしかして彼の治療を
受けましたか?﹂
﹁ハイ﹂
﹁では次の質問です。彼の治療後に彼から腕輪を渡されてそれをク
リスさんが装備をしてますね?﹂
﹁ハイ﹂
﹁では最後の質問です。また次に治療に来れば治ると言われてから、
まだ治療は受けていませんね?﹂
﹁ハイ﹂
よし。これで下準備は完璧だな。
カオスになって大騒ぎの会議場で俺は手をパンパンと何度か叩きな
がら大声で叫ぶ。
﹃静粛に!﹄
威圧感も少し開放したので全員が押し黙る。
1257
俺は先程クリスにした質問を全員の前でもう1度する。真偽官に確
認を取るがウソをついていないことを証明する。
イケメン元枢機卿が騒ぎだそうとするのを俺は強烈な殺気をイケメ
ン元枢機卿に叩きつけて黙らせる。
呼吸も困難になってパクパクしてるイケメン元枢機卿。
﹁彼がこうやって証人喚問を遅らせているのは意図的なもので晒し
たくない訳があるんですよ。彼がクリスさんに装備をさせた腕輪は
﹃子種封印﹄と言う呪いが掛かった腕輪なんです。試しにクリスさ
ん外してみてください﹂
﹁わかりました。あれ? では﹃解除﹄・・・なぜ、はずれないの
でしょうか?﹂
ザワザワと会議場が喧騒に包まれる。俺が言葉を続けるとまた静寂
に戻る。
﹁呪いの掛かった腕輪が呪いの対象者に外すことができるわけない
じゃないですか。つまりこの腕輪は﹃呪いの腕輪﹄と言うことを証
明できましたね﹂
﹁ウソだ! これはそこのクソガキのウソを証明しただけだ!﹂
﹁彼はウソしか言ってません。彼はイタズラに証人喚問を遅らせよ
うとしてるだけです。議長、彼の言葉封印の許可を﹂
真偽官がイケメン元枢機卿のウソをまた大声で告げ怒りをあらわに
する。
議長は真偽官に許可を与えてイケメン元枢機卿に真偽官から﹃言葉
封印﹄のスキル魔法がかけられる。
﹁これでやっと静かに話が出来ますね。ありがとうございます。で
は腕輪を外すのと呪いの証明は彼女にお願いしましょう。彼女は露
草桜、昨日誕生した伝説の聖母です﹂
俺が手招きをした先には傍聴席に座って全部聞いていた露草桜の姿
がある。
1258
議長が許可を出し警備員に連れられて桜が入廷する。
桜が魔法で封印を解除して呪いの腕輪の証明書を書き、ニッコリと
しながら俺と握手をしてからまた傍聴席に戻っていく。
凛とした美しさと桜を守るべく付き従う2体のゴーレム﹃コースケ﹄
﹃シェリアス﹄の滑らかな動きを俺以外の全員が見とれている。
イケメン元枢機卿まで見とれているのには笑ってしまうが。
これでこの国の中枢にも彼女の存在価値が上がっただろう。しかも
彼女はこれから中央大陸で教会のトップになるのだ。何人かは何と
かしてよしみを結びたい、パイプを繋ぎたいと思っていることだろ
う。
俺と握手をした意味は自分へと集まる視線に﹃この人は恩人だから﹄
と無言のアピールで自分に群がる権力者を分散させようとして防衛
本能が働いたのだろう。
商人として魅力的な相手は近いうちに中央大陸へと呼ばれて遠くに
行ってしまう桜よりも、桜をコントロールできうる﹃恩人﹄という
立場の俺と仲良くした方がいいだろうと考えることが想像できるな。
そうすると俺をむげに扱うことはできないと言うことまで考えてく
れるだろう。
俺と桜のお互いが全部を見越しての笑顔の握手だった。
やっぱり桜は頭が切れるタイプで優秀だな。教会総本山でも大丈夫
なほどのしたたかさを持ってる。
俺は最後の仕上げとばかりにクリスにエクストラヒールをかける。
﹁これで彼女の不妊治療は終了です。彼女には元から不妊なんてあ
りませんよ。不妊の原因はコマリさんの方ではなくて、クリスさん
が幼少期に風邪で高熱に掛かっていたのが原因なんですから。高熱
によって子種が少なくなっていたのです。そこを元枢機卿につけ込
まれてクリスさんにウソをついて呪いの腕輪を装着させていたので
す﹂
﹁元枢機卿の狙いはコマリさんの体でしょう。おそらく治療と偽っ
1259
て薬で2人を眠らせてから事に及ぶ予定だったのでしょうね。ちな
みに元枢機卿は同様の事を3回行っていてこの国には彼の子供が2
人います﹂
俺の続けて発した言葉に会議場は静寂に包まれてから大騒ぎになっ
た。
俺は元枢機卿からコピーした知識を全部話して、元枢機卿の部屋を
徹底的に探るように提案する。
特に執務室のロッカーの奥の板をはずすと更に奥には隠し扉があっ
てそこの棚の中には犯罪の証明になるものが山済みされている。
最重要なのは全て真実が書かれてる日記だ! と告げたので3人の
警備員が外に走っていった。
警備が手薄になったところで元枢機卿がアイテムボックスからミス
リル製の杖を取り出して、突然俺に火魔法のファイヤージャベリン
10本をぶつけてきたが、俺が左手を右から左に軽く振るっただけ
で魔法は全て消滅してしまった。
驚愕している元枢機卿にイワノスが飛び込んでボディーブローで意
識を刈り取って倒れそうになる元枢機卿の体を掴み転倒から救って
いる。杖は警備員が取り上げている。
会議場は大混乱になってしまった。
しかしさすが元Aランク冒険者だな。瞬時の判断と混乱を収める方
法の選択が完璧だ。
イワノスが動かなかったら俺が騒ぎに便乗して殺していただろう。
イワノスの強さは任侠ギルドトーナメントの準々決勝で戦った﹃マ
ナガルム・ブラム・アバルニア﹄と遜色がないレベルだろう。
手加減をしたボディーブローと一緒に衝撃波も叩き込んで瞬時に意
識を刈り取っている。
虎獣人という種族的に格闘技系のパワータイプかな?
1260
俺の顔を見てニヤリとするイワノスをみて、思わず俺もニヤリと返
してしまった。
そこで証人喚問は議長提案により今から休憩を2時間ほど挟んで延
期されることが決定した。
証人喚問の質疑は今はここまでで一旦中止に。
意識なく転がる元枢機卿の首に隷属の首輪を付けられている姿に最
高評議会の議員たちが安堵の表情を浮かべて安心している。
コイツにまた犯罪が増えていくだけなのにな。
隷属の首輪を付けられたのは今までと立場が変わり詐欺疑惑のある
元枢機卿の偉い人ではなく、今後は﹃犯罪者﹄として取り扱われる
ことになったからだ。
最高評議会の証人喚問中に攻撃魔法を使ったからな。
元枢機卿のアイテムボックスの中身が全て取り出されて最新の日記
がでてきた。
真偽官が確認をすると書かれていることは真実で、本当に俺が報告
した場所に秘密の隠し部屋があることが確認されて連絡の警備員が
また走っていった。
議長から俺に情報の提供・クリスとイワノスの2人への治療・犠牲
を出すことなく混乱を収めたお礼の言葉を受け取り、2時間後の再
開する証人喚問までに証拠物を精査しておくことを約束してくれた。
俺は精査する担当の人数を増やして対応することを求める。
2時間で調べるには証拠がが多すぎるからな。
最高評議会の議員が人数を増やすことを約束してくれたので俺は退
廷して休憩場所の会議室まで案内係の後に続いて戻る。
会議室では昼食中に引き続いて﹃ゴーレム屋台おにぎり販売計画﹄
の話がより具体的な形になって進んで行く。
しかし部屋にはマツオの姿はない。
1261
マツオは証拠物精査のための人員として別の部屋で奮闘中だろう。
この証人喚問に最高評議会の委員として参加しているので、こうい
うときには強制的に参加させられて拒否権がなくなる。
俺が教えた場所から膨大な犯罪の証拠が出てきて別の会議室に運ば
れていた。
何しろ長年もの間に就任していた権力者﹃枢機卿﹄でこのシーパラ
連合国で唯一エクストラヒールが使える人間として好き勝手なこと
をしてきたのだからな。
今は最高評議会の事務員だけでなく評議会の人間まで借り出されて
人海戦術で情報を精査している。
おにぎり計画の話にはマツオは参加出来そうもないとのことでマツ
オは自分の代わりにジュンローを出席させてる。
ジュンローがユマキ商会の本部に戻って使えそうなゴーレム馬車の
データを持ってきてくれたので話はドンドンと進んでいるのだ。
現在のゴーレム馬車の開発にもジュンローは初期から加わっていた
らしく内部構造にも詳しかったので俺はエンジンとなるゴーレムの
部分にある構造上の無駄をいくつか指摘する。
内部構造の設計図を2枚書いて今までの無駄の部分を指摘しながら
書き付けて、新しい構造にすればパワーも航続距離も稼げるように
なると実際に新しい設計図を書いて指摘していく。
俺の指摘を受けて計算しなおすとトルクは倍にする事が出来て航続
距離は3倍にまで伸ばせることが可能になった。しかも街乗りの場
合は魔石の数を1/3まで減らせるのがわかったので半額にまでコ
ストを削減できるようになる。
今までのゴーレム馬車よりも魔石を少し増やし、2倍以上のトルク
が出れば山間部は不可能だが大草原や大森林の丘ぐらいは越えられ
るようになるので、ゴーレム馬車は今後の研究しだいで街の外に飛
び出すことが出来るようになる。
1262
今ではまだ重いモノを運ぶにはトルクが足りないのでアイテムボッ
クス頼りにならざるをえないが。
これでも俺の作ったキャンピングバスの半分の能力もないんだけど、
長年停滞していたゴーレム馬車の新規開発の研究が劇的に進んでい
くだろう。
俺が書いてあげた設計図を持ってジュンローは走って出て行ってし
まった。
俺と新ゴーレム馬車製造の契約を結ぶためにマツオから許可を貰っ
てくると告げて走っていってしまった。
俺は同席しているゾリオンとグレゴリオにビターホットチョコレー
トとチョコレートをオヤツに出してジュンローが戻ってくるまでノ
ンビリと過ごす。
ホットチョコレートとチョコレートのレシピを教えてくれとゾリオ
ンとグレゴリオに懇願されたので2人のためにカカオ豆からの製法
をレシピに書いて渡した。
その場でグレゴリオは俺とゾリオンの3人でチョコの契約を結ぼう
と提案してくるが俺は反対する。
チョコレートのレシピはオープン情報にして広く職人に配布して様
々なチョコレートを生み出し、シーパラの特産品にした方が今後の
チョコレート文化の発展には良いと、すでに食料品市場のオバちゃ
んにレシピを教えた後だしなと俺は強くグレゴリオを説得する。
ゾリオン村でおにぎりが流行ったことをソースに出して説得すると
グレゴリオも納得してくれた。
様々な人が加わって開発競争をした方が豊富なアイデアが出てくる。
グレゴリオにはウェルヅリステルの余っている土地を有効活用して
カカオの木の栽培を研究してみた方が良いと、栽培して安定供給を
考えた方が今後のブームが起きた時の儲けにつながると提案してお
く。
1263
大森林の恵みには限度があるからな。ミルクさんの二の舞は避けて
おきたい。
グレゴリオもフォレストグリーン商会はウェルヅリステルに多くの
土地を持っていて今後の開発で悩んでいたようだったので、さっそ
く本部に持ち込んで研究すると興奮している。
ジュンローが帰ってきてユマキ商会と仮契約を結ぶことになった。
すでにマツオによって新しいゴーレム馬車には﹃早乙女式馬車﹄と
いうネーミングまで決まってるのには恐れ入る。ゴーレムの名前が
消えてしまってるけどいいのかな。
売り上げの1割が俺への報酬になるそうだ。
はぁ・・・そんなに金はいらねぇーんだけど。
でも始めは売り上げの3割が妥当な金額といってきて交渉してきた
ので強引に下げさせた。
俺の取り分を値引きしていいから早乙女式馬車はさらに安く販売し
てくれとお願いして決定したのが10%だった。
おかげで俺はこの最高評議会の証人喚問が終わったら待ち合わせを
してジュンローたちに連れられて﹃職人ギルド﹄に登録しに行かな
ければならなくなった。
職人・早乙女真一の誕生だ。
早乙女工房も設立しなければならないらしい。
更にユマキ商会の持っている中古の土地と建物を契約金代わりに差
し上げますので早乙女工房で使用して欲しいとお願いされてしまっ
た。
地図を渡されたのでよく見ると、この商業ギルド本部近くの1等地
で中央行政区内にある。
不動産の地図をみたら・・・商業ギルド本部の不動産部門責任者マ
リスに1番始めに見せてもらった物件の地図の場所よりも良い場所
に立ってるし敷地面積も大きなビル・・・7階建てなので8億以上
1264
はしそうだな。ゴーレム馬車駐車場も5台ぐらいは停められる広さ
がある。
ここでもゴーレム馬車おにぎり販売計画が出来そうなのでゾリオン
と仮契約を結ぶ。ゾリオンの持つガルディア商会シーパラ本部でも
おにぎりを販売する予定だが売り上げ次第では分散する必要がある
しな。
すぐに使うかどうかはまだわからないが1台分だけ確保しておきた
いようだった。
それにしても・・・面倒クセェ・・・
手作り屋台を製作していた職人から絡まれそうな気がするよ。
今までの屋台に比べるとゴーレム馬車が3/5の値段で3倍ぐらい
の大きさでしかもゴーレム馬車で販売されてしまうからな。ボッタ
クリで荒稼ぎしていた連中は壊滅するだろう。
ゴーレム馬車なので屋台と違って手で運ばなくてもいいのでより大
量に持ち運びできるし、簡単な調理だけでなく様々な機材を持ち運
べるので本格的な料理すら可能になる。
ボッタクリ業者の壊滅なんて自業自得なんだけど・・・逆恨みする
馬鹿が出てくるのが簡単に予想できてしまうな。
早乙女式馬車の生産・販売方法も俺は紙に書いて提案をする。
後ろの馬車の部分も食料品販売用・加工食品販売用・料理できる馬
車などと幾つかのオプションをつけるパッケージで売ってブロック
部品ごとに付け替えるだけで簡単に売ることを提案する。
手作り屋台との差別化だな。
こっちは出来るだけコストを削減して誰でも簡単に組み上げられる
ようにすることで経費を抑える。
1265
ジュンローが頷きながらメモを取っている。
手作りの良さ、高級屋台は小さな工房に任せて大規模工房で経費を
抑えて価格を削減する。
工房には若い職人の見習いを多く雇い経費を削減して、職人が育っ
たら工房を俺のように独立して立ち上げさせてカスタム品の作成販
売や新商品の提案などをプレゼンさせて新たに契約させれば良い。
気付くと俺のアイデアにゾリオンとグレゴリオもメモをとっている。
そのまま話をしていると案内係が俺とゾリオンとグレゴリオを呼び
にきた。証人喚問の再開だな。
ジュンローはまたユマキ商会シーパラ本部ビルにまで帰っていく。
早乙女式馬車の試作機を作ってくるそうだ。
1266
終わったと思ったら新展開炸裂しちゃったっす。
俺とゾリオンとグレゴリオの3人はまた再開された最高評議会の証
人喚問に出廷するために案内係の後ろについていって移動をする。
予定では2時間後となっていたのに1時間半ほどで案内係が呼びに
きたので証拠の精査が早かったなと思って案内係に聞いたら、全く
終わってなくてとりあえず今日わかってるところと今回の事件の事
でだけで証人喚問を終了させることに決定したみたいだった。
元枢機卿の関係する犯罪が一気に増え過ぎて、もはや最高評議会で
は収拾不可能なレベルになってるらしい。
会議場戻ってみると証人喚問の容疑者席で手枷をはめられているイ
ケメン元枢機卿を見てビックリする。
服は囚人服を着させられているだけなのに物凄く老けたような印象
を受ける。
ナイスミドルだった面影は欠片もなくなって、すでにお爺ちゃんに
なってるな。
隷属の首輪を装着させられた元枢機卿は今度はウソをつくことは許
されずに真実しか発言出来なくなってるので質疑がメチャクチャス
ムーズになった。
再開してから1時間ほどで俺が必要なところは終了した。
最初っからこうすればスムーズに終わったのになと、たぶんこの部
屋にいる全員が同じことを思っているだろう。
今回の最高評議会における証人喚問の結果を報告の形でここで全て
の説明文を議長と副議長が交代で読み上げている。
途中でゾリオンが発言すると議長が答えてくれたので疑問は効けば
答えてくれる形式みたいだな。
1267
元枢機卿はこれからは全ての罪状を確認してからギロチン刑になる。
ただ犯した犯罪が大小様々であまりにも多すぎるのでギロチン刑の
執行は10日は掛かるだろうと議長から説明を受ける。
元枢機卿の子供や正妻などの親族も5人ほど死刑になることがここ
で確定した。
周囲に迷惑かけても枢機卿の権力をかさにして好き勝手なことをし
て自由気ままに生きてきた親族だ、命をかけて償ってもらうことは
当然だな。
教会関係者もすでに逮捕されている3人が死刑になると議長からの
説明が続く。
教会内
で4人で共謀して強姦。
思わず﹃教会関係者が死刑になるのか?﹄って声を出して聞いたら・
・・罪状が酷かった。
何の罪もない新入りのシスターを
そして権力を使って圧力をかけて揉み消した問題は、最近の日記か
らだけでも少なくとも5人のシスターが犠牲になり、すでに被害者
の2人は自殺しているのだ。
残りの3人は呪いをかけられてマヅゲーラの街に売られているらし
い。
傍聴席で黙って聞いていた露草桜の祈りの言葉、謝罪の言葉が物悲
しく聞こえ涙まで出そうになってくるほど悲惨な事件で・・・まだ
解決してないのだ。
祈りが終わると桜はマヅゲーラの街へと国軍から急使を出すことを
提案して議長に了承された。
俺は念輪を使って徒影1∼5号の全員に今わかってるだけの3人の
特徴を伝えて探しだして任侠ギルドで早急に探し出して保護をする
ことを命令する。
任侠ギルドで俺がギルマスになって初の仕事なので関係職員全員で
1268
探し出すように指示する。
呪いで本名を言うことも封印されているらしいので、探し出すのは
マヅゲーラに詳しい任侠ギルドの人を使って人海戦術で探す方法が
1番早いだろう。
徒影には人物鑑定をつかって呪いを持つ裏の人間を中心に探るよう
に命令した。
裏の世界にもぐって拘束されて働かされている可能性も否定できな
いからな。
これを機会に任侠ギルドが把握し切れていない裏の奥に隠れて活動
してる組織にまで、これからメスを入れて徹底抗戦で行くと命令し
ておく。
働かせてた業者は背後関係を洗うために全員拘束・逮捕して、やが
てマヅゲーラの街にやってくる国軍に引き渡せとも指示しておく。
女性を確保したら国軍が保護するまでの間はサブマスのマナガルム
に任せるようにも指示。
彼なら人生経験も豊富で女性の扱いも上手く対処できると思う。
・・・ビッタート卿と似たような雰囲気を持っている・・・という
根拠も何もない、ただの俺の直感でしかないが。
こうやって様々な犯罪を犯して元枢機卿の私欲で集めた私的財産は
キャッシュで100億G近くあって、他にも豪邸をいくつか所持し
ているし、貴金属類などの財産は動産・不動産あわせると凄まじい
金額になる。元枢機卿の関係者も含めて全額を国が一時的に没収し
て、被害者に弁償金として分けられることになった。
足りない分は教会側が負担することを教会側の代表者である露草桜
と一緒に来ていたアーシェル新枢機卿とシル司教も賛同して決定と
なった。
これで今回の証人喚問は終了になった。
1269
今日出廷した最高潮議会の証人喚問での俺の役目はこれで終わり。
後は時間はまだ掛かりそうだが国や教会で解決できるだろう。
気にもならない
だな。
俺が会議場を退廷していく時に元枢機卿が俺をあらかさまに睨みつ
けてきたが気にしない・・・と言うより
イケメンざまぁとすらも思わなくなるほどの老けっぷりに哀れすぎ
て失笑すら浮かばない。
哀れみのこもった目で見てやった。
俺が見る稀代の詐欺師の末路かな。
俺の哀れみをもった視線に気付き悔しさに歯軋りしていたのが俺が
会議場を出て行くときの最後に見た詐欺師の姿だった。
休憩用の会議室に入ってオヤツに芋の3種盛りも取り出してから食
べ始める。
ドリンクは巨大コーヒー豆から自分で作ったコーヒーをを飲んで待
っているとゾリオンとグレゴリオがやってきて、詐欺師事件の終了
を祝って俺と3人で握手を交わしてからおにぎり販売計画の話し合
いを再開をする。
この3人でスタートさせて、あの詐欺師集団を死刑にまで持ってい
って壊滅させたんだからな。
コーヒーはポットごとマグカップと一緒に渡し芋の3種盛りは大皿
に乗せて2人にも薦めるとどちらの凄く美味しいと喜んでくれた。
俺の言いたいことはほぼ全て言い終わっているので後はガルディア
商会とフォレストグリーン商会とユマキ商会の話し合うところだけ
だしな。
細かな価格設定も盛り込んであって・・・話が進んできているな。
俺は2人に聞かれたことだけを答えていた感じだ。
俺はコーヒーを飲み芋をつまみながら、次の予定のマツオとジュン
ローの到着を持っていたが・・・ジュンローはやってきたがマツオ
はやはり証人喚問から開放されるには、まだまだ時間が掛かりそう
1270
でこの会議室には来ることは出来ないみたいだな。
俺はジュンローの案内で職人ギルドに行くことになった。
先にユマキ商会の工房に立ち寄って新型ゴーレム馬車﹃早乙女式馬
車﹄の動力部をの試作品を完成させて欲しいとお願いされた。
俺のゴーレム馬車を作る腕が見たいんだろう・・・まぁ、良いんだ
けどさ。
ゾリオンとグレゴリオも立ち上がっている。
最上階の展望レストランの個室を取ってこれから一服しながらゆっ
くり話し合って、そのままマツオを待つんだそうだ。
今夜は3人ともここ最高評議会の展望レストランで晩ご飯を食べる
ことになるだろうと笑ってた。
俺はジュンローの後についてユマキ商会シーパラ本部内にある工房
に行く事になった。
会議室のテーブルの上に出してあったコーヒーのマグカップ3個と
残っていた芋の3種盛りの大皿3枚をアイテムボックスに入れて、
先に歩くジュンローの後ろに続いて歩き転送部屋から最高評議会を
後に。
最高評議会を出て行く前に歩きながら探査魔法で探りとった最高評
議会のビル内の間取りを全て俺のMAPに入力しておく・・・部屋
の名前はわからないので不明になってるが・・・これからも何度も
こなきゃいけないような気がしたからな。
時間は夕方3時半で中途半端な時間になっちゃったな。
ユマキ商会は商業ギルドの正門を出てすぐのバカでかいビルだ。
この中央行政区の1等地に巨大な建物も凄いが敷地面積も物凄く広
くて凄い・・・さすがシーズの企業でシーパラ連合国最大の企業だ
な。ガルディア商会もデカかったがそれ以上。
ユマキ商会の中に入るときに面倒なチェックは一切なかった。本来
1271
ならこれだけデカイ企業の本部建物の中に入るには様々なチェック
が必要なはずなんだろうけど・・・超VIPの待遇だな。
普段は並んで座っているはずの受付嬢までが立ち上がってきて俺が
通る時は深々とお辞儀をしてくるし、入り口からずらっと20人以
上並ぶ警備員は全員が敬礼をしたまま微動だにしない。
気分は大名行列・・・流石にここまでのVIP待遇は気分が良いな。
俺の中の記憶と経験が警報を鳴らしているが気持ち良いのだから仕
方がない。
それに俺の前にはこのユマキ商会で現在ナンバー2のジュンローが
俺の前を歩き先導して歩いているのだから、俺だけのVIP待遇じ
ゃないジュンローがいるからだろうと軽く考えることにした。
ユマキ商会本部の1階に幾つも並ぶ転送部屋からユマキ商会の工房
に向かう。
転送部屋から工房に出てくると広い部屋だ。
パーテーションで分けられているが上部は全部繋がっている。大き
な音があちこちから鳴り響き、ここでゴーレム馬車の動力部の開発
をしているんだとジュンローから説明される。
俺は作られた試作機を見て愕然とする・・・箱がでけぇよ。
これじゃあ、中身はすっからかんじゃん。
面倒だから解体して全部作り直すことにする。
動力部分を解体して中身を全部取り出す。
﹃何だこんなもん﹄
といって箱の中身がスカスカだったのを見た熟練の頑固な職人達は
鼻で笑っていて見る価値もないと立ち去り、見たこともないものに
興味津々といった感じの柔軟な発想の持ち主が数人だけ残って、俺
の周りが空いたので今までは離れて見ていた若い職人達が我先にと
群がってくる。
周囲に見学で集まる若い職人を相手に俺は隣の大きな机に広げられ
1272
た紙に設計図を書きながら、問題のある全ての箇所を全部指を刺し
て現物を見せながら説明して新たに組み上げていく。
ゴーレム馬車のサイズを考えてキャンピングバスのように底部に4
つ動力をつなげて四輪駆動にさせるのが俺の目的なのだから、動力
部はなるべく薄く小さく作っていく。
出来上がったサイズのゴーレム馬車の動力を見て今まで鼻で笑って
いた職人達は驚愕している。
実際に実験用に繋いだ大きな車輪を軽々回している動力を見て若い
職人達は感動すらしてるのだ。
今まではこのサイズの車輪を回すことすら出来なかったんだと感動
して隣で見ているジュンローに説明を受ける。
これをゴーレム馬車の底部に4つ取り付けて御者席を運転席に作り
変えていく。ガラスで前後左右と上を覆って屋根と壁を取り付け運
転席になった。
ハンドルとアクセルとブレーキを3つの魔石と一緒に取り付けて運
転する時に動力をコントロールすることを聞いてる全員に説明して
いく。
次々に飛び出す質問に的確になるべくわかりやすい言葉を選びなが
ら答えていくと、俺のスキルの中の﹃カリスマ性﹄﹃教育者﹄が発
揮してしまっていて、すでに若い職人は﹃早乙女先生﹄と呼び始め
ていた
・・・俺はまだ15歳なんだから、俺の方が若いんだけどなという
考えを飲み込んだ。
教える側が﹃先生﹄で教わる側が﹃生徒﹄そこに年齢は関係ない。
俺の作ったブレーキというモノに発想の柔軟な職人たちは刺激を受
けた顔をしてる。
すでに脳内は新たな発想が駆け巡っているだろう。
俺からすればブレーキのない動力で大きなゴーレム馬車が町中を走
1273
り回っている事の方が充分怖いことなんだけどな。エンジンブレー
キのみって怖過ぎるよ。
馬車の中は木と布を使ってスキル魔法で一気に作り上げ8人乗りの
早乙女式馬車は完成。
これから試運転代わりに職人ギルドに行ってそのあと商業ギルドで
ゴーレム馬車として登録することになった。
研究用に全く同じものを3つ作ってこれで早乙女式馬車の販売店用
の試作で中で料理が出来るように試作車両を作りなさいと渡してお
く。
全ての部品からの設計図はこれから職人ギルドに登録してこないと
いけないから、試作機とともに出かけることにした。
完全バージョンの設計図は何枚か複写魔法で10枚ずつ書いて職人
達のグループごとに渡した。
ジュンローに新型の早乙女式馬車の操縦を職人に教えて欲しいと頼
まれたので・・・ユマキ商会の工房で働く職人達の中でステータス
的にも性格的にも将来有望な6人を選んで一緒に行くことになった。
運転席で運転する俺の隣に乗って運転を教えるのは俺が選んだ6人
の中からステータス的に物覚えが速そうだと判断した2人に最初に
操縦方法を教える。
運転席の横に乗せて操縦方法を教えながら移動する。
工房で作られたゴーレム馬車がそのまま外に出られるようになって
いる転送部屋に馬車ごと入ってそのまま近くの職人ギルドまで俺の
運転で行く。
ハンドルの横についているレバーを下げると後退するということに
も若い職人は興奮して聞いている。
操縦の見本を見せている俺の横に乗る2人は食い入るように見つめ
ていて、俺が職人ギルドの中に入って登録している最中は職人ギル
ドのゴーレム馬車駐車所で必死になって練習しても良い時間になっ
1274
た。
20台以上の馬車が停めることが可能な駐車場がガラガラだったの
で出来ることなんだが。
一緒に来た6人の職人達が代わる代わる練習している。
職人ギルドで俺は登録を済ませて職人ギルドカードを貰って早乙女
真一の職人デビュー。
早乙女工房の設立と俺が作成した通称﹃早乙女式馬車﹄・・・正式
名称は﹃早乙女式ゴーレム動力機関部を積んだゴーレム馬車﹄の設
計図を登録する。
俺が凄まじく精密に作られたゴーレムを多数所持して商業ギルドや
冒険者ギルドに登録して、不思議な馬車に乗りムチャクチャ早いボ
ートに乗っていたり、変な板に乗って街中を移動していたりする噂
が職人ギルド内にあったみたいで﹃なぜ今まで職人ギルドに登録し
なかったのか﹄と、俺が登録をしていると奥から出てきた幹部職員
に聞かれた。
その答えは・・・簡単だった。
﹁職人ギルド職員が過去に組織ぐるみで新人の職人が登録した商品
の設計図やデータを全部金で売買していたからだ。信用なんてある
わけないだろ・・・信用が0なんじゃない、もうすでにマイナスな
んだよ。俺はお前達職人ギルド全職員に対して﹃データや設計図を
職員は必ず売る﹄という前提で考えてる。今回もユマキ商会に依頼
されてイヤイヤ職人ギルドに職人として登録しに来ただけだし、す
でに見本となる馬車があるから今から設計図を売ることはできない
と言う前提での早乙女式馬車の登録なんだよ﹂
と、怒りをにじませるような低いドスの利いた声で吐き捨てるよう
に答える。
俺の中でどうしても職人ギルドに対する信用がマイナスになってる
1275
のだ。
俺の貰った知識や経験の中で職人ギルドに登録した商品を職人ギル
山ほど
あったからだ。
ドの職員が設計図を横流しをして他の人間の商品として登録されて
いることが
代表的な例が﹃トイレ﹄だったりする。
﹁それはすでに過去の話でありまして・・・﹂
も
真
﹁過去ねぇ・・・過去って何年前まで横流しが行われていたんだ?﹂
﹁ここ10年はありません﹂
﹁職人ギルドが設立されたのは何年前なんだ?﹂
﹁・・・約1000年ほど前になります﹂
﹁じゃあ、990年間は金で売っていたわけだ。10年間
面目にやったんだから信用しろって? それこそふざけるなだな。
990年間にやらかした過去の負の遺産は清算される事なく10年
で消えるものなのか? どうやって990年間のマイナスを埋めた
のか教えてくれ﹂
﹁私に言われましても・・・﹂
﹁そうやって自分は知らない過去の事ですって今の職員に言われて
過去から職人ギルドを怨んでる全ての職人達は納得しているのか?﹂
﹁・・・﹂
﹁では尋ねるが800年ほど前に転生者によってもたらされた﹃魔
力による水の浄化式水洗トイレ﹄この発明は発明者じゃない商会に
設計図を横流しされて発明使用料は横流しの商会に800年以上も
の間支払われてきた問題を解決したのは誰だ?﹂
﹁それは私たちが!﹂
﹁すぐばれるようなウソをつくなよ。それは8年前にこの国の最高
評議会の証人喚問で横流し問題を真偽官が独自に集めてきたデータ
を使って徹底的に追求したことで、全ての問題が発覚して巨額の賠
償金が命じられた判決が出たからだろうが。しかし問題となってい
た商会は賠償金の全てをこれから何百年もかけて転生者の遺族に支
1276
払って清算作業をしている最中だけど、お前ら職人ギルドは何かし
たか? 遺族にすら謝罪すらしてないよな? 横流しした当人の遺
族を訴えてトカゲの尻尾のように切り捨てただけじゃん﹂
実はこの話はおやっさんに聞いたローグ真偽官の武勇伝だったりす
る。
ローグ真偽官がこの国最高の﹃正義の真偽官﹄だと全世界に知らし
めたのは・・・まだ30代半ばで正義の鉄槌を8年前の最高評議会
での証人喚問でブチかましたのだ。
おやっさんも職人ギルドに所属しながらギルドを一切信用してない
側の人で、ローグ真偽官とは旧知の仲だから色々な証拠を協力して
集めてたから知ってる事実だ。
﹁・・・﹂
﹁な? 今度はダンマリだろ。冒険者ギルドは過去に起こしていた
不祥事に血を流す革命を行ったからまだ信用は0まで戻せた。それ
からもギルドマスターの青木勘十郎の指導で自らの組織の膿を出し
続けて浄化しようと苦労し続けている。でも・・・職人ギルドは負
の遺産を清算するつもりもない、過去にやらかした職員も国に逮捕
された職員のみ処分してそれ以外は処分するつもりもないのに信用
してくださいだって? 冗談でも笑えない﹂
﹁では私たちはどうすれば信用に値する組織に生まれ変れるのでし
ょうか?﹂
﹁それを俺に聞く必要はあるのか? 俺はその質問の答えはもう言
ってるだろうが!﹂
流石に興奮して大きな声になって叫んでしまった俺をジュンローが
抱き付いて抑えてくる。
﹁早乙女さん、無理に登録をさせてしまいまして申し訳ございませ
ん﹂
1277
﹁ジュンローさん、流石にこれは我慢できない。馬鹿すぎるぞコイ
ツは。これで幹部かよ。俺の話をまったく聞いていない証拠だろう
が!﹂
幹部職員が立ち上がってから、俺の目の前に土下座をして頭を下げ
てから俺に教えを聞く。
﹁申し訳ありません。自分にはわかりませんので是非教えてくださ
い﹂
﹁はぁ∼、俺が言った事は﹃過去の負の遺産﹄と﹃全ての職人は納
得してるのか?﹄だ。自浄作用がない組織に信用なんて出来るかよ﹂
﹁あっ! わかりました。職人ギルドで問題になってギルドを脱退
した職人の方たちのところを真偽官と共にこれから全部回ってもう
1度話を伺ってきます﹂
﹁まぁ、そういうことだ。そこで隠れて耳を澄ましているギルドマ
スターさん。汚職にまみれたイスの座り心地はどうなんだ?﹂
﹁早乙女さん、どういうことですか?﹂
俺の話の中で急に具体的な人物が登場したことで、ジュンローの顔
が真剣な表情に変化して真剣な声で質問してきた。俺はこの職人ギ
ルドに入った瞬間にギルドマスターの脳内をコピーした知識を語り
だす。
﹁簡単なことですよ。そこにいる25%ドワーフクォーターで名前
は﹃アクトハイム・バンス﹄職業はシーパラ連合国職人ギルド本部
ギルドマスターがユマキ商会で過去に自殺した3人の職人が絡む事
件に関係しているんですよ﹂
﹁なんですって! それは一昨年の話ですよ?﹂
﹁ユマキ商会の職人が知りすぎたから、脅迫してきたから自殺に見
せかけての殺しなんですよね。バンスさんは付きまとう黒い関係が・
・・おっと﹂
俺が飛んできた5本のナイフを次々とパパっとキャッチしてテーブ
1278
ルに並べた。
﹁これじゃあ、俺には当たらない。よくもその程度の腕でよく俺に
挑みかかってくる気になったな? 俺ってこう見えてもBランクの
冒険者なんだぜ? まぁチャレンジ精神だけは買ってやるよ。さす
が500年以上も生きてるだけあるな、褒めてやるよジジィ﹂
﹁ふん、どこでその秘密を知ったのかわからんが秘密を知ったから
にはここにいる全員に死んでもらわないとな。出でよ我がゴーレム
﹃クラッシャーハウンド﹄よ﹂
爆発音が響き全員が奥の扉を見た瞬間に俺は20m以上の距離を一
っ飛びで詰めて、勢いよく飛び出てきた犬型ゴーレムの頭に手刀を
上から振り下ろして完全に破壊し動かないようにした。
後に続いて出てきたギルドマスターの親衛隊10人が俺に次々と飛
び掛ってくるが、ヒラリヒラリと全身を竹のようにしならせて、親
衛隊の攻撃をかわしつつ俺の左右のジャブが顎先にヒットして全員
が土下座するように崩れ落ちる。
パニックになったバンスは人質をとろうと近くの女性秘書につかみ
かかろうとしたが、女性秘書は俺の横にまで転送魔法で引き寄せら
れそのまま逃げていった。
残っている職員達は走って盾を持って構える警備員の後ろに隠れる
中・・・俺はニヤリと不敵に笑ってしまう。
・・・イカンな。
緊迫感漂う戦闘シーンに少し楽しくなってきているな俺。
最高評議会の元枢機卿が暴れた時も魔法を掻き消した後に、イワノ
スの見事なボディーブローを見て少し興奮していたのかも知れん。
それと今までの最強評議会の証人喚問でストレスが溜まっていたの
かも。
緊迫感で沸騰しそうなほど血が湧きあがってきて、戦いの楽しさで
踊るような感覚が俺の中で走り回る。
1279
バンスはアイテムボックスから杖を左右で2本取り出して異なる魔
法を連発した。
﹃エアーカッター10連撃﹄
﹃雷撃10連撃﹄
俺もアイテムボックスからアマテラスから貰った白扇子を取り出し
て右手で扇子をパっと広げ、そのまま指先だけで上手にクルリと1
回転させた瞬間に全ての風と雷の魔法が吸収される。
流石に500年以上生きてるだけあって面白い攻撃をしてくるな。
楽しくなってきたので次を催促する。
﹁それで? もう終わりなの? そろそろ死んじゃう?﹂
﹁風塵と雷神の扇子で神器だと! くそがぁ、これでも喰らえ!﹂
バンスはヤケクソになって四方八方に空弾と雷弾を放つが、俺が扇
子を払うように軽く振った一薙ぎで全ての魔法が魔力に変換されて
扇子に吸収されていく。
﹁うーん。最初の魔法攻撃は100点満点で45点だけど今度の攻
撃は5点かな。工夫が足りない・・・はっ!﹂
俺が左手の手のひらに叩きつけるようにして扇子を閉じた時に気合
声を発した瞬間にバンスの持っている2本の杖の先にある魔結晶に
蓄えられていた魔力が全て扇子に吸収されてしまった。
﹁なっ!﹂
﹁これで杖に蓄えていた魔力は消滅しちゃって魔法が使えなくなっ
ちゃいましたけど・・・さぁ、どうする? 捕まって拷問されちゃ
う? お前の犯罪は多すぎて最高評議会に怒られるかも知れんな﹂
﹁クソガキャ!﹂
次々と短槍をアイテムボックスから取り出して投げてくるが簡単に
キャッチして自分のアイテムボックスに片付けてしまう。
ついでに短槍の合間にファイヤージャベリンや氷槍も混ぜてくるの
でちょっと面白い。
無論のことながら魔法は俺の手で払うだけで消滅するだけだ。
1280
﹁工夫の跡は見られるけど・・・発想がありきたりだな、11点ぐ
らいかな﹂
ここは中央行政区内で国軍の中央本部も存在し有名企業や親衛隊ギ
ルドなどの本部も存在する区域なのだ。警備員や軍人がそこかしこ
に歩き回ってる区域で行われてる戦いに次々と応援の軍属の人間が
集まってくる中・・・職人ギルドマスターの狂ったとしか思えない
現状に誰もが見てるだけになってる。
対戦相手の俺はもはや満面の笑みを浮かべて満足そうな顔をしてる
のだから止めに入ることも話しかける事すら出来ないでいる。
俺は次々集まるギャラリーの軍人達が作る盾の壁の中に職人ギルド
の職員達やユマキ商会の人達が隠れているのを見て安心してバンス
を煽り続けてる。
﹁ほらほら、長引くと逃げられなくなるよ。早くとっておきの切り
札を出そうぜ!﹂
﹁こうなったら!﹂
アイテムボックスから魔結晶を取り出して床に叩きつけて破壊しな
がら、魔結晶の中に貯めていた魔力を一度に使って魔法を唱える。
﹃狂乱乱舞﹄
お! 闇魔法で周囲にいる全員をバーサーカー状態にさせる魔法だ
った。
だけど甘すぎる。
俺には効かないし反対の光魔法を唱えて一瞬で沈静化する。
﹃清き心の聖光﹄
俺を中心にホントに一瞬だけ周囲に光の洪水が包みこんだ。それだ
けで終了。
﹁な! そんなバカな!!﹂
﹁これで終わりなのかな? これだと31点だな。全部で平均23
1281
点ぐらいかな。レベル低過ぎ﹂
﹁・・・なんで、何で今頃になってお前みたいな人間が現れるんだ
!﹂
﹁俺が知るかよ。さぁ、どうするんだ。全ての罪を背負って自殺す
るって言うなら見ててやるぞ﹂
アイテムボックスから大剣を取り出して切りかかってくるが魔法ほ
どの精彩はない。
何回かかわすと息が切れたバンスが倒れこんだ。
今までの魔法攻撃で全てのMPを使い切ったのだ精神力だけでは大
剣の攻撃なんて無理。
その時になってやっと俺の狙っていた本命が現れた。
ギルドマスター室に今まで隠れていた秘書2人から真っ黒の吹き矢
から針が2本俺とバンスに向かって飛んできた。
2本の吹き矢を俺がワザと当たって受け止めてからアイテムボック
スに仕舞うと瞬時に転移して秘書2人の顎先をかすめる左右のジャ
ブで意識を刈り取る。
また瞬時に元に戻って倒れてるバンスの首筋に手刀を叩き込んで気
絶させた。
バンスの手首に装備していた腕輪を解除して取り外す。
俺が話していた幹部職員とは違う幹部職員2人が、俺が腕輪を外し
たのを見て逃げ出そうとしたところを走って捕まえ、コイツらにも
首筋に手刀を入れて失神させる。
﹃おおおお!﹄
最後の仕上げに初めて発した俺の気合の入った大声と爆発的に高ま
る膨大な魔力で俺の全身から光の奔流が周囲を走リ回って腰のベル
トに差してあった扇子に集まって音もなく光が爆散する。
1282
戦闘が終わってジュンローが駆け寄ってきた。
﹁早乙女さんどういうことなんですか。秘書の人と幹部職員はいっ
たい・・・﹂
﹁ジュンローさん、急ぐぞ、時間がない。ギルドマスターのバンス
は隷属の腕輪をつけさせられた被害者だ! 黒幕は秘書と幹部を2
名ずつ、後は親衛隊10名を送り込んできた﹃昇竜商会﹄だ。最高
評議会に戻って国軍を動かして全ての昇竜商会の関係者を捕縛して
もらうぞ。俺のショック魔法でシーパラにいる昇竜商会の関係者全
員を失神させて眠らせた。後12時間しか持たないんだからな﹂
俺の剣幕でジュンローと周囲の人間が黙って固まってしまった。
昇竜商会はシーズではないがこのシーパラ連合国の建国から携わる
古参で職人ギルドの暗部に関わると言われてる疑惑の中心にある商
会だ。
﹁早乙女さん、最高評議会を動かすのに足りるほどの完璧な証拠は
あるのですか?﹂
﹁いま確保した﹃ギルマス﹄﹃秘書2名﹄﹃幹部2名﹄﹃親衛隊1
0名﹄に隷属の首輪を装着させ全ての真実を語らせるか、教会の司
祭と真偽官を伴って尋問すればいい。バンスを影から操って私服を
肥やしていたヤツラってのが﹃昇竜商会﹄だとはっきりわかる﹂
俺の声で覚醒したジュンローが職人ギルドの職員達に次々と命令を
出す。
ユマキ商会の職人には商業ギルドで早乙女式馬車をユマキ商会名義
で登録してくるように指示。
俺も何か手伝えることはないかと周囲に集まってくる警備員や国軍
の関係者に護送車を手配させて最高評議会に犯人たちを運ぶように
指示をする。何人かは最高評議会で受け入れ態勢を整えさせるため
に先行させた。
それで国軍関係者に走らせて昇竜商会本部ビルを取り囲むように言
1283
っておく。
俺の戦いを見ていた人間で国軍の大隊長がいたので彼がジュンロー
に確認を取り、隊長の受け持っている大隊が今は訓練の途中の休憩
中で装備も万全の体制なので今から動かすと言って走っていった。
ジュンローが﹃もしも間違っていた時は全ての責任をユマキ商会で
受け持つ﹄と言ったのが決め手だったようだな。
1000人を超える国軍が急遽動き出す状態になったシーパラ中央
行政区内は少しパニックになりそうになってるが、職人ギルドの職
員達や警備隊の人間が走り回ってパニックにならないように、正し
い情報を伝わるように話をして回ってる。
俺とジュンローたちも大混乱する最中、職人ギルドに入ってきた囚
人護送車の御者席に乗り込んで最高評議会に戻っていく。
アマテラスにまた貸しが出来たけど、これは俺が自分でやりたくて
やった事だから貸しといっても請求はしない。
俺の中にある職人ギルドの暗部に対する恨みが膨れ上がってしまっ
て、最初にギルドマスターのバンスの脳内をコピーしたのが始まり
だ。
﹃助けてくれ! 開放してくれ!﹄
自殺すら許されない彼の魂の叫びが俺に届いて、俺の中にある迫害
されて過ごしてきた感情の記憶と経験が爆発してしまったのだ。
昇竜商会の本部にいる関係者1500人以上の人間にショックをか
けたが俺の規格外スペックはなんともないってのが怖いな。
扇子に集めた魔力も利用したのでそれを言い訳にしよう。
神器の集めた魔力を使っておこした奇跡の技だと言えば納得できな
くても反論は出来ない。
時間はすでに夕方5時をまわっている。
念輪で嫁3人にパーティー回線を繋いで、今日も遅くなりそうだと
1284
伝えておく。
家族で最近話が出来ないな。
1285
強制捜査は地味で孤独な作業っす。
囚人護送車で商業ギルド経由で最高評議会の転送室にそのまま入っ
ていった。
俺が捕獲した職人ギルドシーパラ本部ギルドマスター﹃アクトハイ
ム・バンス﹄とその秘書2名・親衛隊10名・職人ギルドシーパラ
本部の幹部職員2名の合計15名が最高評議会の特別会議室・・・
名称が違うだけの﹃牢屋﹄に連れて行かれた。
バンスは治療室に直行になってる。犯罪者ではなく被害者として取
り扱ってもらうように俺がお願いしたからだ。事情を話したらすぐ
に了承されてタンカで運ばれていった。
これからバンス以外の残った彼らは真偽官と司祭のタッグによる尋
問か隷属の首輪による強制的な自白かのどちらかが待っているので、
俺はやりやすいように活を入れて失神している全員を目覚めさせて
あげた。
最高評議会の中に入っていくと今日はずっと俺を案内してくれてい
た案内係の女性が、今日はゾリオンとグレゴリオが連名で借りてい
た会議室にまた通してくれる。
ここが空いていたんだろう。さっそくまた封印結界をは張り今度は
紅茶を取り出して飲み始める。
しばらく待ってるとイワノスがやってきた。
隣に身長が220cmもある狼獣人で煌びやかだが重々しさも持っ
てるフルプレートアーマーに身を包んだ国軍の将軍クラスらしき人
が並んでいる。
1286
﹁早乙女君、大変だったみたいだな。まずは紹介しておこうかな。
彼は国軍の特殊遊撃隊を率いる隊長で俺の愛弟子のマスカーだ。彼
の部隊はこういった企業の強制捜査用の捜査員を数多くそろえる・・
・特別に鍛え上げられた専門部隊になってる。部隊とはいえランク
は将軍だ﹂
﹁早乙女さん初めまして。私の名前は﹃マスカー・フレデリック﹄
です。マスカーと呼んでください﹂
﹁マスカーさん、初めまして。早乙女真一です。すでに知っている
と思いますので俺の自己紹介はいらなかったですね﹂
マスカーと握手をする。
﹁君の話が詳しく聞きたくてやってきたんだからさっそく本題に入
らせてもらう。俺は最高評議会から正式に依頼されて今回の強制捜
査の実行を任されたんだ。今は君が職人ギルドで捕まえてきた人間
を隷属の首輪を使って洗いざらい泥を吐かせているところなんだが、
昇竜商会に乗り込んで上層部を引っ張るには少し足りない。本部で
のらりくらりと言い訳されてる間に証拠隠滅するのが昇竜商会の手
だから・・・何か良い案はないものかと君の意見を聞きに来たんだ﹂
﹁うーーん。今回はそこまで難しく考えなくてもいいですよ。職人
ギルドマスター﹃アクトハイム・バンス﹄を強制的に隷属の首輪を
付けて従わせてたのは100年以上前からですよ。それだけでも本
部に強制捜査を実施可能でしょう。中に入れば後は自由自在です。
俺が強制捜査に協力すれば全ての犯罪の証拠と資料をセットにして
明るみにさせますので、俺に協力者として﹃特別任命強制捜査執行
官﹄の肩書きをください﹂
﹁俺が申請すれば早乙女君に強制捜査執行官の肩書きは簡単に渡せ
るんだが・・・自由自在とはどういう意味なんだ?﹂
俺はまだ腰に差していた白扇子をイワノスに渡してから告げる。
﹁今なら俺のこの神器を利用したショック魔法で昇竜商会の本部内
は全職員が失神しているんですよ。強制捜査の執行さえすれば昇竜
1287
商会の本部内は今は裸同然です。俺が中に入る権限を貰って自由に
捜査することが出来るなら、昇竜商会シーパラ本部ビル内にある秘
密の文書まで全部明るみにさせてあげますよ﹂
﹁確かにこれは神器で間違いない・・・これを使えば全職員は失神
させることも不可能ではないな。わかった。俺は君の意見に乗るこ
とにする。ではこれはお返しする。マスカー、今から手続きに行く
ぞ﹂
﹁ははっ﹂
イワノスは俺に扇子を返してからマスカーを引き連れて出て行った。
イワノスが会議室を出て行った後に俺は今日装備していた旅人の服
を脱いでからアンダーシャツとアンダーパンツに着替えて、その上
からサイノスの甲殻で作った甲殻鎧を装備して頭装備も装備する。
白扇子用に腰のベルトのワイバーンの革で作ったホルダーをお腹の
前部分に追加で作り、そのホルダーの中に扇子を収めることにした。
強制捜査中に武器は要らないから扇子さえあれば充分だろう。
2杯目の紅茶を飲み終わった頃にイワノスが戻ってきて俺にチェー
ン付きのカードを渡す。
﹁早乙女君専用に今回特別に最高評議会で発行されて作成された﹃
特別任命強制捜査執行官﹄のカードになる。強制捜査中は見やすい
ようにチェーンで首から提げておいてくれ﹂
﹁では早く行きましょう。たぶん犯罪の量が尋常ではないので膨大
な量の資料と証拠物を強制捜査で持ち帰ることになります。明日の
朝までに終わるかどうか微妙なところですね﹂
俺は立ち上がりながらチェーンを首から提げてイワノス達の後に続
いて部屋を出る。
ローグ真偽官の自慢話を着ておいて良かったな。特別任命強制捜査
執行官って何なのかも詳しく話をしてくれたからな。まさかここで
1288
役立つ情報だったとは思いもよらなかったよ。
イワノスの後ろにつきマスカーと並んで歩いていく。
イワノスは何人かの秘書や部下に指令を出しながらの移動なので、
その後ろを歩く俺とマスカーは比較的ヒマだった。
なので雑談しながら歩く。途中からは指令を終えたイワノスも雑談
に参加してきた。
実はシーパラ連合国の国軍中央本部の中でも俺はかなりの有名人っ
て言うのはマスカーから教えてもらった。
イワノスからの追加情報としては・・・今回の件でも最高評議会が
俺を即座に特別任命強制捜査執行官へ許可できたのは、ヨークルの
ザイモア商会の強制突入時の俺の活躍と、その後の迅速な証拠集め
での功績が最高評議会と評議会の両方に鳴り響いていたことが大き
かったそうだ。
なのでイワノスがいうには﹃ヨークルの救世主が首都シーパラでも
巨悪に正義の大ナタを振るう﹄って、最高評議会からも評議会から
も期待されているんだと。
マスカーが国軍の中にも﹃正義のヒーローがシーパラに降臨した﹄
と話題になってるんだそうだ。
・・・マジかよ。
今回は俺以外にも国軍にいるアイテムボックス持ちが何人も加わっ
ているので大量の資料を持ち出せることになっているし、元々歩い
ていくことの出来る距離なので容疑者の護送も護送車がピストン運
動で処理するそうだ。
国軍の施設の中で内装の改装工事が丁度終わったばかりの大きなビ
ルがあって、今後は整備して資料棟にする予定だった建物を丸ごと
今日から最高評議会が借りる形になった。
そして今回の強制捜査で得た資料と証拠品の数々を保管しておくこ
1289
とになった。
無論厳重に封印して管理されるらしい。
予定してあった資料棟は新たに予算が下りて新築で別の建物になる
んだと。
国軍の大隊が取り囲む昇竜商会のシーパラ本部ビルの前に立ち止ま
って、強制執行の実行直前にイワノスから最終確認を聞かれる。
﹁早乙女君、これからの手筈はどうする?﹂
﹁まずは当主と執事の3名を確保が先決ですね。俺が魔法でそいつ
らから全部の情報を引き出します。それから大幹部・幹部を全員し
ょっ引きましょう。そうすれば捜査時間の短縮になるでしょう﹂
﹁早乙女さん、でもこのビルって何かしらのセキュリティーが掛か
っていると思うのですが﹂
﹁それもそうでしょうね。では﹃パン! パン!﹄︵俺が手を2回
叩いた音︶これで大丈夫です。全ての結界・封印・罠を解除して、
閉めてあった鍵も開錠しておきました。その上で俺の封印をかけま
したので資料や証拠品を許可されていない人間が持ち出そうとする
と俺に警報が鳴って教えてくれます﹂
﹁早乙女さん・・・もしかして国軍の中に証拠品を持ち出そうとす
るのを警戒されていますか?﹂
﹁ここは宝の山だと思う欲望に負ける人間はどこにでもいますよ。
国軍に限ったことではありません。でもここの資料・証拠品はこれ
から昇竜商会の全ての悪事・犯罪を暴き立てるモノですから、何一
つなくさないように先に処理しておくことが絶対に必要なんですよ﹂
﹁・・・﹂
﹁マスカー、部下を信じてやりたいと言う気持ちはわかるがこれは
絶対に間違いを起こさないことにするためには避けて通る事は出来
ない。俺も早乙女君も信じる信じないの話ではなく﹃間違いをさせ
ない﹄としての処理なんだよ。後で何かありました、では責任は誰
がなどと論じている暇もない﹂
1290
﹁わかりました。これは職人ギルド・国・国軍の威信をかけた犯罪
撲滅の戦いですしね。では行きましょう!﹂
マスカーの力強い言葉ともに長い長い強制執行と犯罪をしたという
証拠品・資料集めの戦いが始まった。
俺とイワノスとマスカーが先頭に立ってまずは最上階の昇竜商会代
表執務室に行く。
代表と執事3名から﹃情報複製﹄魔法で脳内に全ての情報をコピー
してヘルプさんが3人の全部の情報の整理・分類・統合を行う。
イワノスとマスカーは関係者を次々と捕縛していくが、1000人
を超える職員全員だと最高評議会では足りなくなるので、予定して
あった国軍中央本部の牢屋と警備隊シーパラ本部ビルへと運び出す。
むろん代表と執事3名のみは最高評議会で取調べが行われる。
さっきの雑談で教えてもらったが真偽官が特別チームを作ってこの
取調べは行われるみたいだな。
執務室を中心に隠されている資料を次々と出して隠し部屋も発見す
る。
資料の詳しい説明書もヘルプさんの指示で俺の﹃並行する思考﹄を
使ってにアイテムボックス内で作成して、俺をサポートするために
来ている国軍の人間に次から次へと渡していく。
証拠物も﹃注意書き﹄をつけて渡していく。
前回の強制突入の反省だ﹃資料作りの方が時間が掛かる﹄って学ん
だからな。
俺が集めて渡す際に全部に俺の知識からの注意書きや説明文をつけ
ておけば後から俺が1つずつ説明する手間が省ける。
注意書きや説明文を俺が書くのも同じ理由だな。
説明している時間があれば何倍もの量を自分で作成できる。アイテ
ムボックス内で同時に違う作業が出来るようになったのが大きい。
1291
しかし500年以上の歴史をもつ商会で多くの犯罪に関わっていた
し、今まで俺が壊滅させたアントローグ商会などとも関係が噂され
ていたほどの黒い部分が多い企業でもはやこの建物全てが証拠品と
言っても過言じゃないレベルの大企業だ。
犯した罪の量はこの国の犯罪の歴史に名を残すことは間違いないな。
殺人や暗殺も膨大すぎて・・・資料が凄いことになりそうだな。
俺の捜査サポートは20人体制でお願いしたので国軍の兵士が箱を
持って並んでいるというシュールな場面だな。
300年以上も脱税をしていたという資料も発見して暗号解読用の
資料も作成して箱にいれていく。
箱には紙を張って一目瞭然だ。
今後の裁判用の資料や証拠品の目録を最後に本にして作って渡さな
いといけないな。
資料が膨大すぎて探すという作業がすでに時間の無駄になるだろう。
2時間ほど経過してそろそろ腹が減ったなと誰もが思い始めた頃に・
・・ゾリオン達が夕食の差し入れをしてきた。
流石の商売上手だな。これから早乙女式馬車で販売する予定の﹃お
にぎり4種﹄の4個セットの大きな葉っぱに包んだ入れ物に入って
るモノを渡される。
1人4個なんだろうな。お茶も水筒に入れたものが1人1本渡され
る。
梅干・おかか・昆布・シソの混ぜご飯の4種は大好評だった。
おにぎりを運んできた国軍の若い捜査員に聞いたら外に変わったゴ
ーレム馬車が来ていて、夜間の外回りの警備さん達用にスープも配
っているそうだ。
やるなゾリオン・・・指示はマツオかもしれんが・・・これでおに
ぎりの最高の印象操作は出来上がっただろう。鮮烈なシーパラでの
デビューとなった。
1292
全員がお腹が空いているという最高の調味料までついてるし。かな
りの動員をしたんだろう。作るだけでも一苦労な量だ。作業しなが
ら立ったままでも食べられると言う最高の商品説明までしてるしな。
まぁ、おにぎり話は置いておいて捜査を再開をする。
それからも何時間も掛かって作業は続く。本部ビルの周辺警戒をす
る国軍は部隊が夜勤の人間に交代したみたいだな。捜査担当の人間
は少しずつ交代しているが俺はそのまま続行してる。
俺の代わりは誰もいないし。
ここまできたら全部の捜査資料を出来るだけ誰でもわかりやすく作
りたい。
夕食後は捜査を続けて資料を作成しながら並列する思考で3人の嫁
とるびのも入ったパーティー回線を開いて雑談していたので少しは
気が晴れたからいいけど・・・根気の要る地味で孤独な作業だな。
周囲に捜査員はたくさんいるが雑談なんてしてる余裕は全くない。
明日は俺は以前の時のように夕方まで寝る予定なので、みんなに明
日の予定を聞いたら明日は午前中はノンビリと買い物などをして午
後から地下訓練場で汗を流すと言ってる。るびのは明日は1人でウ
ェルヅリステルの南側で遊びたいと言っていたので俺が送り迎えす
ることになった。
深夜12時を過ぎて夜食が出たときは、そろそろ昇竜商会シーパラ
本部の中もガラーンとしてきて、先が見えて終わりの目途が付いた
頃だった。
俺は最上階から捜査している。
仕分け作業は全て俺がやっている作業だし・・・キツイがそろそろ
終わりが見えてきただろう。
早朝までには全部のカタがつきそうだな。
夜食は近所の弁当屋が頑張ってくれて何種類かの中から選べたんだ
けど・・・普通だった。
1293
不味くはないんだけど特別美味しいって訳でもない。
おにぎりを食べた捜査員の人達も周囲にはいたので夜食の弁当を食
べた時は全員が微妙な表情をしていた・・・俺と同じ表情をしてる。
これでおにぎりの口コミは決まって完璧なデビューになった。
これからおにぎり販売まで噂が勝手に広がって、リサーチする必要
もないほどの良い方の噂が広がるだろう。
結局予想通り全ての作業が終わったのが翌朝5時半で外はかすかに
明るくなりかけていた。
最後に今まで持ち出した全ての資料や証拠品の目録を5冊ずつ15
冊作成して、俺の近くに待機していた捜査責任者に渡す。
最高評議会・評議会・国軍・警備隊ともう1冊は資料室受付用のた
めに1冊。
事件の日付からの目録・事件の容疑者名のあいうえお順の目録・事
件の被害者名のあいうえお順の目録の3種類を5冊ずつで合計15
冊になる。
どの事件のどんな犯行でどんな資料・証拠品がどこにあるってのが
すぐに分かるので、今後の事件究明に役立つだろう。
これでいつでも分かり易くて探しやすくなっただろう。
後はこの資料に従って真偽官と司祭がタッグを組んで自白させて裁
判にって言う流れだ。
・・・実は余談だが俺のこの最後に渡した目録は関係者に調べやす
くて時間短縮になると大変好評で今後の資料をまとめる際のガイド
ラインとして俺のやり方が基本になると後日聞かされる事になった・
・・
イワノスとマスカーはすでに帰宅していたので代わりの捜査責任者
に明日の夕方4時にまた最高評議会に顔を出すので後は全部任せる
と最後に伝えて出て行く。
1294
周囲にいた捜査員からの﹃お疲れ様でした﹄の声が頭の中を鳴り響
く。
昇竜商会の他の都市などにある全ての支部には今頃の早朝の時間に
強制突入して調べが入ることが決定してると、俺が帰る前に捜査員
に教えてもらうが・・・後は国で処理してくれとお願いして俺は帰
宅することにした。
出口で見張りの人間に﹃特別任命強制捜査執行官カード﹄を返却し
ようとしたら、後日に最高評議会に返却してくださいとお願いされ
てしまった。
・・・考えれば国軍の部隊でも見張りをしてる平隊員の人間だから、
こんな重要そうなカードを突然渡されても困ってしまうわな・・・
ヤバイな、気が抜けた眠さで脳味噌の回転が遅くなってるよ。
気付くの遅過ぎるな。
ホップボードにのって早乙女商会シーパラ事務所に移動してる時に
夜が明けて朝日が昇り始めた。
イーデスハリスの世界に転生して29日目の朝はこうして幕を開け
たが・・・眠いよ。
早乙女商会シーパラ事務所の3階転移部屋から自宅の寝室に移動し
てから、寝室にあるアマテラスの目覚まし時計は6時過ぎを針が差
している。
ガウンに着替えて寝ようとしたら・・・るびのをウェルヅリステル
の南側のジャングルまで送っていく約束があった事を忘れてたな。
着替えを途中でやめて旅人の服を装備してからるびのの部屋に転移。
朝食が終わって顔を熱心に洗っていたるびのとセバスチャンを一緒
にウェルヅリステルの南側のジャングルに送り届ける。るびのはち
ょっと食後の休憩をしてから狩りを開始するんだそうだ。
自宅の寝室に戻ってきたら嫁達が目覚めて朝食をとっていた。
俺は嫁達に﹃出かけるならマリアと一緒に出かけてね﹄とお願いし
1295
てガウンに着替えてから寝室のベッドに倒れこむようにして眠る。
目が覚めたら15時になっていた。
ガウンからロンTとチノパンに着替えて早乙女邸の1階の居間に降
りていく。
早乙女邸には嫁3人もマリアもすでに出かけていなかった。
マリアに念輪で確認したら午後は予定を変更してシーパラでの買い
物を続行しているそうだ。
キッチンに待機していたクロにまずはコーヒーとフルーツたっぷり
のパンケーキを用意してもらって朝食代わりに食べる。
後片付けはクロに任せて玄関に行ってハイカットのスニーカーを履
いて、早乙女商会シーパラ事務所の3階に転移する・・・しまった
な。ここは土禁だったのを忘れてた。
飛翔魔法で10cmほど浮かび上がってからスニーカーを脱いで手
に持ってから床の上に降り立つ。
2階から外に出て外階段で降りていくともふもふ天国シーパラ店の
様子が見える。
もふもふ天国シーパラ店のお客の状況はそこそこぐらいだな。
今現在はお客は5人しかいないがほぼ宣伝なしってぐらいの状況で
の開店だったので、これからゆっくりと客は伸びていくだろう。
お客も近所の工房の関係者がほとんどでお客の接待で使っている人
までいるので・・・想定外だな。
コーヒーなどのドリンクが美味しいし分かりやすい料金設定も良い。
時間設定があるので接待のメリハリがあって良いと、接待される側
の人達にも好評を得ているようだった。
工房で働く営業職員からもお客からの要求でもふもふ天国で待ち合
わせて商談すると言うケースも出てきてる。
もふもふ天国ヨークル店の方はちょっと気合入れて宣伝し過ぎたよ
1296
うで時々待ち時間が出るようになってしまっている。
店舗滞在の時間制限をかけるのは俺の趣旨に反してると思うので少
し困った状況になりつつある。
2号店を開店してほしいと言う要望もきている状況なので検討中で
すと答えさせてる。
3人の妻の友人関係でプレオープンから来ている人達が﹃ヨークル
の住宅街の方に2号店を作ってほしい﹄と言う要望がほとんどだっ
たりする。
実際にお店が混みだすのが昼の2時から夕方5時の間なので、もふ
もふ天国ヨークル店は主婦層が多くなってるな。
しばらくは俺にヒマがない状況なので﹃検討中ですのでしばらくお
待ちください﹄とメイドゴーレム達には答えさせるしかない。
1297
おにぎりの販売拡大計画が進んでるっす。
もふもふ天国シーパラ店のゴーレム馬車駐車場でホップボードにの
って最高評議会に行く。
俺が毎日のようにホップボードを乗り回していれば、そのうちにホ
ップボード類似品が出てきてくれると思っているのだが・・・魔法
技術力の低いシーパラ連合国ではしばらくは無理そうだな。
道行く人の視線は自重と共に捨ててる。
街中のゴーレム馬車の時速10kmのは安全の為にユマキ商会が実
施してる自主規制。
本音は最初の性能ではこれ以上の速度がどうやっても出なかったと
ジュンローに教えてもらった。
大きく作ることの出来るゴーレム船は高速船では30ノット以上の
速度を安定して出力することが出来るようになったが、今のところ
馬車サイズでは不可能だったらしい・・・早乙女式馬車の登場まで。
俺が昨日、ユマキ商会の工房で作った早乙女式馬車の登場で今後は
劇的に進化していくだろうが、街中では時速10kmの自主規制は
解除しないようにと、昨日の早乙女式馬車の製作中にユマキ商会の
工房で働く全ての職人にお願いしてきた。
速度増加と共に交通事故が増えて怪我で済まなくなる可能性が高く
なるだろう。
死亡事故が頻発すると販売するユマキ商会への風当たりは強くなる
し下手すると損害賠償請求の裁判で面倒なことになると脅しておい
た。
声に出して言わなかったけど・・・俺の本音は早乙女の名前がつい
た馬車で死亡事故が多発したら、流石にムカつくことになりそうだ
1298
し、余計なトラブルを招くことが予想出来るからな。
その時にジュンローに聞いた話では・・・
ゴーレム馬車に自主規制速度の時速10kmがつけられるようにな
ったのは、ゴーレム馬車が売れ始めの時に街中で﹃普通の馬車は速
度が売りだ﹄と暴走行為をする馬車の業者が事故が多発させて死亡
事故が増加した。
街に住む住民から糞公害排除の訴えと共にゴーレム馬車以外の街の
乗り入れ禁止を訴える住民運動が起こり、結果として﹃ゴーレム馬
車以外は街中の乗り入れ禁止にする条例﹄を都市の上層部は選択。
通常の馬が引くタイプの馬車を街中から追い出した歴史があるのだ。
シーパラ連合国すべての都市に飛び火して次々に住民運動が起こり
ゴーレム馬車以外の馬車は街中から追い出されていった。
ユマキ商会のその当時の代表はマツオ・・・上手く世論を誘導して
成功した。
その結果、世界中で爆発的に売り上げを伸ばしユマキ商会はシーパ
ラ連合国最大の企業となった。
そういった歴史を踏まえての速度自主規制なのでジュンローに言わ
せると自分達が追い出される側になるつもりはまったくない。
早乙女式馬車の街中専用車はこれから動力部の小型化と効率重視を
目指して、パワーは今までのままで充分なのでより効率よく魔力を
使えるように進化させていく。
トルクを上げる必要がある郊外の荷馬車専用車は大型化をしてから
街中に乗り入れられないように差別化をはかり、それからパワーを
上げるようにする計画だと言ってる。
元々ユマキ商会のゴーレム馬車の販売方法は・・・今ある現行の馬
1299
車にゴーレム動力部分を販売・取り付けをしていただけなので今後
もメインはそちらになるが、早乙女式馬車は改造する部分が多く運
転席も作成しないといけなくなるので﹃新車販売﹄にも力を入れて
いくことになった。
俺が昨日言っていた﹃数種類のパッケージにしてセット販売﹄が新
車販売になる。
追加意見で俺が﹃新車でお買い上げのお客様に今持ってるゴーレム
馬車を下取りで買い取るサービス﹄もした方が良いし、それを改造
して中古で販売すれば? と提案したらジュンローはこれから検討
させてもらうとメモしていた。
早乙女式動力の恩恵を最も受けそうなのはゴーレム船の方かもしれ
ないが、こちらも今後は事故を減らすために自主的な速度規制に入
ってくるだろうとジュンローは予測してる。
だけど船舶の場合はより大型化が可能になるし、物資の輸送に求め
られているのが﹃船舶の大型化﹄なので、そっちの研究が進んでい
くだろうとジュンローは予測していた。
シーパラ連合国の場合はシーパラ大河もヨークル川も物資の輸送に
使う川は横幅がかなりあるし、川の中央部分は高速船の専用レーン
になってるのでまだマシと言えるだろう。
そんな自主規制は撤廃しないという言葉を貰っているのでとりあえ
ず安心はしてる。
俺もヨークルの外周部ような場所以外の市街地で時速10km以上
のスピードで走り回るつもりもないしな・・・あまりにも危険過ぎ
る。
危険をあらかじめ回避するという理由でホップボードも10kmし
か出せないように作った。
今日は嫁たちもキャンピングバスではなくて、3人ともホップボー
ドで移動してるとマリアとの念輪で報告があった。
1300
荷物を運ぶ必要がないアイテムボックス持ちには最高の街中限定移
動用の商品なのかもな。
実際乗ってると﹃移動が楽﹄と言うより﹃ちょっと楽しい﹄のだか
ら移動手段というよりも・・・遊びながらの移動できる﹃おもちゃ﹄
のような感覚に近いのかもしれんな。
そんなくだらない事を考えている間に商業ギルドのツインタワービ
ルに到着した。
商業ギルドシーパラ本部は3つ以上の入り口がある。
俺が使うのが昨日も通った﹃最高評議会入り口﹄になる。昨日はゾ
リオンとグレゴリオという、シーパラ連合国を代表するシーズの当
主2人が一緒にいたのでスムーズな受付だったが今日は無理だろう。
受付で自分のステータスカードを確認用に見せながら・・・今日来
た用事は昨日の強制捜査の時に渡されていた﹃特別任命強制捜査執
行官カード﹄の返却と今後の打ち合わせですが誰とも待ち合わせを
してないので誰に会いに行けばいいですか? と、正直に聞いたら
受付嬢が横のソファーで少々お待ちくださいとササッと走っていっ
てしまった。
取り残されてしまったので仕方なくソファーに座り待つことになっ
た。
待つ事数分で昨日も俺を案内してくれた女性がやってきて最高評議
会議員のイワノスの部屋に来て欲しいとの事だった。案内係の後に
ついて歩いていく。
こうしてゆっくり歩きながら周囲を眺めてると最高評議会の中は外
から思っていたのとまったく違っていて、服装に統一感がない。
女性職員の場合はそれが顕著だ。
制服みたいな服装をみんなそれぞれ着用しているのだけど﹃企業の
制服博覧会﹄を開催しているかのように全員がデザインが違う﹃制
1301
服らしき﹄服装を着用しているのだ。
最上階の展望レストランの従業員たちも白色で色だけは統一されて
いるのだけど服のデザインがまったく違う。スカートだったりズボ
ンだったり・・・ウェイトレスですらバラバラ。
俺は昨日の移動中に見ていたので今日は旅人の服の装備はやめて自
分の好きな服を着てきた。
案内係の女性は・・・首にスカーフ・タイトな服装・頭に斜めにつ
けてある帽子で、まるで﹃CAさんですか?﹄って聞きたくなるよ
うなデザインだが、よく見るとちょっと違うって感じで意味不明な
服装だ。
しかも昨日着ていた服装ともちょっと違ってるのだ。
そもそも俺はCAの制服にそこまで詳しくないし、何がどう違うの
かなんてまったく説明できないがな。
冒険者ギルドの女性職員は明らかに私服だったし、商業ギルドは旅
人の服を制服にしてあるかのようでデザインは新旧様々あるって感
じだが、旅人の服の色は白黒で統一されていた。
前掛け
が制服︵?︶っぽくなっいたようだった。
職人ギルドは短いエプロン・・・日本だと酒屋が制服にしてるよう
な
女性はこんな感じなんだが男性職員はどこのギルドも私服になって
る。全く統一感はない。
おかげで日本で生活してきた俺からすれば町中の服装が﹃カオス﹄
としか表現の仕様がない。
シーパラの場合はまだ企業で働く商人達は﹃旅人の服﹄で工房で働
く職人は作業服っぽいツナギの服。
と、それなりなジャンル分けがあるぐらいで統一感は欠片もないな。
シーパラの朝の出勤ラッシュのカラフルさはファンタジーってより
も南米っぽい雰囲気すらある。
冒険者がほとんど住んでいない区域だけだが。
1302
イワノスが待つ部屋に到着して案内を終えた案内係が去っていき、
案内係が見えなくなってやっと思考が現実に戻ってくる。
ノックして許可を得て開けて入ろうとしたら、秘書がドアを開けて
くれたので部屋に入ってく。
イワノスと挨拶と握手をしてから薦められたソファーに座る。
﹁早乙女君、昨夜は今日の待ち合わせも何も決めないで先に戻って
しまって済まなかった。最高評議会の方の尋問の手伝いをしていて
な、その後は提出する報告書の作成をしてるうちに俺も気付いたら
そこのソファーで寝ていたよ﹂
﹁いえ、俺も気になってはいたのですが・・・今日の早朝の時点で
は確認をする術がなかったので改めて伺う事にしました﹂
﹁それで執行官のカードの返却と聞いてるがそれはすでに何の効力
もないただのプレートになってるので、今後は最高評議会の出入用
の身分証明ぐらいにしか使えないし、君以外には使用できないので
そのまま使ってくれ﹂
﹁わかりました。では貰っておきますね。それと確認なんですが・・
・もう俺の仕事って終わりましたよね?﹂
﹁ああ、君にお願いした強制捜査も終わったし最高評議会の2つの
証人喚問も終了しているよ。君が強制捜査で作ってくれた膨大な資
料はこれから我々で精査して裁判をしていくことになる。しかも君
が最後に作成して捜査責任者に渡してくれた目録は凄いな。捜査員
たちも真偽官や司祭も目にした捜査関係者の全員が感心していた。
今後は君が作った目録が資料を仕分けする際の基本的な形になりそ
うだ。誰でも一目瞭然ですぐに資料までたどり着けるのは・・・今
までは誰も考えてなかった事だ﹂
﹁今回の場合はあまりに多くて探す時間が無駄になりそうだったん
で作ったんですが、みんなに喜んでもらえて良かったですよ﹂
﹁それに君が枢機卿の事件や昇竜商会の膨大な数の事件が明るみに
なって、昨日から最高評議会の職員や人員不足が声高に叫ばれてい
1303
てな、俺が以前から何度も訴えていた、事務員の補充と捜査員の補
充などの予算が大幅に盛り込まれることになって、今後は迅速な対
応が出来るようになりそうだ。国軍のマスカーも部隊ごと俺の専属
になって最高評議会直属の別の組織を作って事件に対応出来るよう
になったことが今日決定しているんだ。今までは人員と予算不足で
まともに捜査できなかった最高評議会がこれで生まれ変れるよ。早
乙女君のおかげだな、ありがとう﹂
﹁いえいえ、どういたしまして。でもイワノスさん、最高権力直属
の実行部隊には暴走しないように食い止める安全装置も必要になっ
てくると思うんですけど﹂
﹁それは俺とマスカーの今後の課題だな。むしろ最高評議会の議員
すらも強制捜査できる実行部隊にしようと密かに計画を練っている
ところなんだが・・・その場合の安全装置がどうするかで悩んでい
る﹂
﹁そういう場合は別の組織の﹃評議会﹄や﹃国軍﹄なんかが安全装
置として働けるようにしないと組織が暴走すると革命になってしま
いますよ﹂
﹁なるほどな・・・安全装置を別の組織に・・・暴走しないように
監視させて組織の人事権を評議会の過半数で罷免出来るようにする
とかも面白いな﹂
﹁後は国軍と評議会の2つの組織に、直属で同じような捜査権を持
つ部隊があった方が良さそうな気がしますね﹂
﹁ふむふむ。確かにそれだと手分けして捜査することも可能になっ
てくるな。それには評議会と国軍の中にいる人達と話をして意見交
換して話のすり合わせをすることが必要だな﹂
﹁まぁそういうことで、後はよろしくお願いします﹂
﹁貴重な意見をありがとう。早乙女君のおかげでこの国は良い方に
変化していくことになった。巨悪はまだ存在すると思うが、我々も
組織を変化させて自分たちで対処・対応できるように生まれ変わっ
1304
ていくよ。でもちょっと忙しくなりそうでしばらくは君と試合が出
来そうもないのが残念だ﹂
﹁俺は逃げませんし・・・じっくりとリハビリをして万全の体調に
なってから遊びましょう﹂
俺は立ち上がってイワノスと固く握手を交わしてから部屋を出て行
く。
イワノスの部屋の外には案内係が待機していた。丁度マスカーをこ
の部屋に案内してきたところらしい。
﹃やぁ、早乙女執行官﹄
・・・マスカーが俺と握手をしながらの挨拶でした軽い冗談の一言
が俺の呼び名のはじまりだった。
案内係が隣で聞いていて職場で話をして友人や家族に話してと俺の
噂話と共に広がっていく。
ここから最高評議会関係者・シーズ関係者などから始まって俺の﹃
救世主﹄﹃正義のヒーロー﹄﹃目利きのグルメ﹄﹃早乙女執行官﹄
と言う名前が、俺が巻き起こした武勇伝と共に瞬く間に広がってい
ってしまった。悪気もない冗談のつもりだったマスカーや俺の2人
は全く知る由もない・・・
俺は﹃それは昨日だけの終わった話だろ。それよりもイワノスさん
直属の部下になるんだって?﹄とドアの前で数分ほどマスカーと雑
談をしてまた握手をして別れる。
案内係さんが次に俺を案内してくれたのは最上階の展望レストラン
だった。
時間は夕方4時と中途半端な時間だったのでガラガラだ。
個室まで案内されたので入っていくが中には誰もいなかった。
マツオとゾリオンとグレゴリオの3人が後から来ると案内係さんは
説明して去っていった。
1305
今日はウェイトレスがやってきてメニューを渡してくれる。
俺は昨日の夕方から今日の早朝まで掛かった強制捜査で精神的に疲
れていたんで、甘いものが食べたくなってたからデザートを見てる。
メニューを探すと﹃シナモンフレンチトースト﹄があった。
思わず注文してしまう。ドリンクはもちろん紅茶にした。
食べてみたがやはり日本で何度か食べたことがあるのと同じような
味だ。
このイーデスハリスの世界には﹃フランス﹄って国は太古の昔から
今まで存在したこともないのに・・・フレンチって名前から間違い
なく転生者が伝えた食文化だろう。
味わって食べながらマリアとセバスチャンに念輪の回線を開き確認
したら﹃バニラビーンズ﹄も﹃シナモンパウダー﹄もシーパラでは
在り来たりで珍しくもない商品だったし、大森林でもタマに見かけ
るのがバニラの木とシナモンの木だった。
知らなかったな・・・聞いていたかもしれないので﹃忘れていた﹄
かも知れんが。
今は食料品市場にいるマリアには購入してもらい大森林にいるセバ
スチャンには採取をお願いして念輪回線を閉じた。
首都シーパラってデザート系な食料品が数多く存在していて大量に
集まってきているな。
そんなことをシナモンフレンチトーストを黙って食べていると、グ
レゴリオ・マツオ・ゾリオンの順番でみんなが続々と個室に入って
くる。
3人も昨日の疲れがあるのか冷凍フルーツなどのデザートをドリン
クと一緒に注文している。
マッタリとした空気が流れる中で口を開いたのは先にデザートを食
べ終わっていた俺だった。
﹁まずはみんなに御礼を言わないとな。昨日の強制捜査中におにぎ
1306
りを差し入れてくれてありがとう﹂
﹁あれは早乙女さんが強制捜査に同行してるって聞いて、全員一致
で晩ご飯代わりにおにぎりを差し入れすることを決めたんです。お
にぎりの具なら昨日からの話し合いの前にはフォレストグリーン商
会の倉庫にある全部の在庫量がすでに分かっていたので簡単でした﹂
﹁ああ、グレゴリオが言うとおり全員一致だったよ。うちのユマキ
商会は余り手伝えなかったがアイテムボックス︵大︶を持つ職員が
いたので配達で手伝わせてもらった﹂
﹁今回の事は事前準備も何もない状態だったんで﹃上手く言ったら
儲けモノ﹄ってことになってしまった。何しろうちのおにぎりを握
れる職人がゾリオン村で講習をしている最中で、昨日の時点では数
人しかまだ手配できてなかったし、時間的な余裕もなかったので職
員を総動員して職人からレッスンを受けながら見よう見まねで作ら
せたおにぎりになってしまったんだ。うちのガルディア商会だけが
不安を抱えていたよ﹂
﹁ゾリオンさん、おにぎりの評判は最高だったよ。俺は現場の中に
いて周りの食べてる人達の表情を隠れて伺いながら食べていたんだ
けど周囲の反応も表情も最高だった。しかも深夜の夜食で近所の弁
当屋の弁当を食べたんだけど、みんなが美味しいと弁当を食べてる
中でおにぎりを食べた連中だけは微妙な表情をしてた。口コミはこ
れで完璧だろう。宣伝することもなく後は勝手に噂が広まるよ﹂
﹁おにぎりの生みの親の早乙女君にそこまで言って貰うとうちの職
員達は喜ぶと思う。是非伝えさせてもらう﹂
﹁それならついでに・・・今回の差し入れではうちのユマキ商会は
ほとんど何も手伝えていないとも言える。だからユマキ商会からガ
ルディア商会の頑張った職員達に特別ボーナスを出してあげたい。
1人5万Gでどうかな?﹂
﹁マツオさん、それは大変ありがたい。うちの職員達に伝えておく
よ﹂
1307
それからは商人3人の今後のおにぎり商売の話し合いが開始された。
誰がどれだけ出資してなどと具体的な話し合いが続いていく。
ここで決まったのは5日後を目標に早乙女商会のもふもふ天国シー
パラ店の駐車場とガルディア商会シーパラ本部駐車場の2店舗を試
験的に営業させると言うことだった。
鉄は熱いうちに打てという言葉もあるように、ある程度の見切り発
車も仕方がないだろう。問題点は試験営業で明るみになってくるだ
ろうし。
おにぎり販売案は俺の提案で行くことになった。
馬車で運ぶのは炊いたお米と具材にして、その場でお客の目の前で
握って渡す。
時間は掛かるがアイテムボックス持ち以外は販売できないってのは
避けた方がいい。
馬車内で米を炊ける様にしてあったほうがお米の香りで客を引きこ
みやすくなるだろう。
うなぎ屋方式の﹃煙は客に食わせろ﹄だな。
5日後に使用する馬車は俺がユマキ商会で昨日作った早乙女式馬車
の3台のうちの2台を使うらしい。
内装はユマキ商会がすでに加工作業を開始している。
俺が昨日乗っていた8人乗りのイスを取り付けた1台はそのまま完
成の見本として工房に置かれるようになった。
職員が運転の練習用に使うのが主な目的らしい。
それと結局、商業ギルドには早乙女式馬車は登録していないみたい
だな。
元々ゴーレム馬車の登録義務はないからな。
俺が登録したのも自動運転できちゃうので﹃ゴーレム﹄として登録
してあるんだし。
俺は経営の話に加わるつもりもないんで後は3人に任せてジュンロ
1308
ーに早乙女工房のビルに行くことになった。
先に俺の使いやすいように改装してから、メイドゴーレムと防衛用
にユーロンドがどれだけ必要なのか改装してみないとわからないし。
中で作業する職人ゴーレムでも作っちゃおうかと考えてる。
1309
早乙女工房の本拠をユマキ商会から貰っちゃったっす。
早乙女工房の場所は中央行政区の中でも北側にあって住宅街に程近
い場所にある。
ここの敷地の駐車場でおにぎり販売をしようというマツオの考えが
盛り込まれてる場所なんだろうか?
中央行政区域よりもさらに北側には幾つものブロックでわけられた
住宅街がシーパラの外壁にまで広がっている。この北側の区域には
アパートやマンションのような集合住宅も数多くあるので、この区
域に住んでいる住民数が1番多い。
この区域に鉄道のシーパラ駅と北の食料品市場が入っている。
ここの早乙女工房駐車場は出勤前の人が狙いという事が分かる。
でも違った見方をすれば・・・ここで駐車場貸し出し契約をすれば
何も工房で生産しなくても安定的な収入が得ることは出来るな。
ここまで案内してくれたジュンローは防犯の為にビルにかけられて
いた封印をまずは解除。
ビルの内部に入って受付のカウンターで、早乙女工房とユマキ商会
のビルの譲渡契約書にサイン。
俺の早乙女式馬車の契約金の代わりに俺と土地と建物の譲渡契約が
成立したら・・・﹃後はご自由にどうぞ﹄という言葉を残して最高
評議会に戻っていった。
譲渡された早乙女工房の本拠となった土地の敷地面積は早乙女商会
シーパラ支部よりは若干狭いがゴーレム馬車駐車場は6台が駐車可
能なスペースがあるだけで、それ以外は全部ビルの敷地なので建物
の敷地面積だけなら早乙女邸の隣にある早乙女商会倉庫の1/3ぐ
1310
らいの大きさがある。
7階建てのビルで庭は全くない。
ビル内部はどこかの商会の本部となにかの研究室になっていたよう
な構造になってる。
1階は大きな入り口と受付と転送部屋が2つ。
それ以外はビル内部のゴーレム馬車駐車場になってて1階の内部は
4台ほどが駐車できるようになってるし、地下にある工房に大きな
方の転送部屋からゴーレム馬車ごと出入り出来るように作られてい
る。
1階は屋根までの高さが4mあり変則的な構造となっている。
設計図では高さは見てなかったので実物を見てビックリしてる。
建物の中に入って分かるのは500年以上前に建築されたの建物で
魔法にって作られたものだとハッキリわかる。
るびのによって滅ぼされたウェルヅ帝国は魔法文明の発達した国で、
今のように建築スキル魔法が廃れている時代と違って高度な魔法文
明と発達した建築スキル魔法で建築物も道路も・・・シーパラの都
市そのものがたくさんの魔導師によって作られたのだろう。
この早乙女工房ビルは比較的年代が近くて600年ほど前の建築物
と契約書には記入してあった。
商業ギルドのツインタワービルと同じぐらいの建築物だろうな。
工房の建物の中は魔法陣による転送部屋で全フロアーが繋がってい
て転送系のダンジョンのような構造で、この建物の中には階段が存
在しない。
転送部屋に金属プレートで作られた地図が壁に取り付けてあり、自
分が行きたいフロアーの場所を念じるだけで移動が出来る。
まさしくアゼットダンジョンの転送部屋と全く同じ構造で、同じ時
代に建築された商業ギルドシーパラ本部や最高評議会と同じ構造だ
な。
防犯を考えると安全性は相当な高さだ。
1311
俺の封印結界と複合すれば許可されていない人間は違うフロアーに
移動する事が出来なくなってしまう。
まずは転送部屋から地下室に移動してみる。
高さが7mぐらいあって・・・何もないな。机もイスも何もないの
だ。柱も1本もないという異常な空間だな。
これはかなり高度な建築スキル魔法で建築してある・・・建築スキ
ルだけでなく重力軽減魔法で建物の重さをコントロールできてない
と不可能な構造になってる。
そういえば1階の内部駐車場も柱が1本もなかったな。俺が感じた
違和感はそこだったんだろう。
それから各フロアーを回っていく。
2∼5階までは会社の事務所のような一見は普通の空間なんだけど、
ここにも柱がないので俺からすれば違和感ありまくり。
部屋を区切るためのパーテーションもないからガラーンって効果音
が聞こえそうな空間が4フロアーも続いてるな。
6階は社員食堂のような構造になってて初めてこの建築物の中で転
送部屋以外で区切られてるところがあった。食堂は大きくて広いキ
ッチンと4人がけのテーブルとイスのセットが15セットぐらいは
置くことができそうな広さになってるが、もちろん今はテーブルも
イスもなくて広い空間お向こうに仕切られたキッチンのスペースが
あるだけだ。
最上階はオーナー用の居住空間。
間取りは1部屋ずつが広めにスペースをとってあって4LDK。
・・・これは参ったな。
建物的には何の問題もなく、これから1000年以上は壊れること
はないだろうが・・・問題は中身だ。
1312
広すぎて使い道が全くない。
ここにゴーレムが作るゴーレム工場でも作れっていうのかな? ス
ペースがあるので一緒におにぎり工場も可能だ。
それでも余る広い空間に思わず笑ってしまいそうになるよ。
面倒くせぇ・・・マツオとジュンローは俺にここで何を作れという
のだろうか。
とはいえ作ってくれと頼まれても作りたくない。
武器でも防具でも何でも作ることは出来るけど、俺の場合は﹃神の
創り手﹄のスキルの恩恵が入ってくるので﹃神器﹄になってしまう
可能性が少しある。
レジェンドクラス
クラリーナに作ってあげた杖とアイリに作ってあげた大剣はすでに
伝説級の武器になってる。
レジェンドクラス
短時間でササッと作った割には武器の能力は伝説級となってしまっ
てるのは、俺の考えでは﹃妻への愛情﹄が入っているということに
してある。
神器製造のスキルを持ってるのでいつでも作れるんだけど・・・本
音では身内の為以外には作りたくないんだよな。
市場になんか売り出したくない。
イーデスハリスの世界のバランスを崩してしまいそうだし、ゴッデ
スやアマテラスに止められそうだな。
武器や防具にはたくさんの職人がいて切磋琢磨して作り上げている
中で・・・チートの俺が貰った技術と経験で神器の武器と防具を作
って販売しだすと今まで成り立っていたバランスが壊れてしまう事
になるだろう。
イーデスハリスの世界で今現在神器を作り出せることが出来る職人
は俺以外にアマテラス達の神々しか作り出せないので、俺以外には
存在しないと言っていい。
1313
それに現在この世界に現存している神器は非常に数が少ない。
転生者が俺が消滅させた4人の神から貰ってこの世界に持ち込んだ
武器や防具、転生者が貰ったチートで作り上げたアイテムなどで世
界のバランスが崩れそうなモノは、俺がイーデスハリスの世界に転
生してくる10年の間にゴッデスとアマテラスが﹃神罰﹄の名の元
に破壊していると聞いているので残っているのは極僅かだ。
神器は古代から続く王家などに全て保管されているのだが、すでに
レプリカ品に変わっているとアマテラスに聞いた。
神器の下のクラスに当たる伝説級ですら、このシーパラ連合国には
数えるほどしか存在しない。
今では俺が持ってる﹃天乃村正﹄﹃雪切正宗﹄﹃白扇子﹄﹃アマテ
ラスの目覚まし時計﹄ぐらいがシーパラ連合国にある神器で、俺の
家族以外が所有する伝説級のアイテムは数えるほどしかない。
ウェルヅ帝国時代は数多く神器・伝説級の武器・防具・アイテムな
どは数多く存在していたのだが、500年前にるびのの攻撃で失わ
れてしまっている。
地中に埋もれていたりして歴史の中から失われた神器はアマテラス
達によって回収済みと聞いている。
いわおとし
伝説級の武器でシーパラ連合国で1番有名なものは冒険者ギルドが
所有していた伝説級の武器﹃巌落﹄という名前の長弓であろう。
冒険者ギルドSSクラスの昇進記念&ギルドマスター就任記念でギ
ルドから青木勘十郎に贈られている。
ギルドマスターに就任するのを固辞していた青木を冒険者ギルドが
組織ぐるみでSSクラス昇給記念の武器贈呈式典内で、一緒に冒険
者ギルド本部のギルドマスター就任式典まで同時にブッ込んで強引
にギルマスに就任させた事があって武器ごと有名になった。
巌落は魔力の弦によって魔法の矢が放たれる。
1314
普通の矢は弦がないので放つことは出来ない・・・俺の作った物理
的攻撃力のみに特化した弓とは武器の攻撃特性などの方向性が真逆
で魔法の矢だけを飛ばす。
この巌落が放つ魔法の矢には使用者の魔法適正は必要ない。
魔法適性が高くて高い魔力を持つ者でも魔法の矢の威力が若干底上
げされる程度でしかない。
全種類の魔法の矢を飛ばす事ができるのだが・・・1番威力が高い
いわしばり
いわぬき
のが﹃土魔法﹄で、巌落という名前の所以になっている。
﹃巌縛﹄﹃巌貫﹄
などと土魔法で敵を縛り付けたり貫いたりする。
障害物を避けるように曲げて撃ち出す事ができるので﹃イメージで
撃つ事が必要な武器﹄だと青木さんから直接聞いた面白そうな武器
だった。
巌落以外にも伝説級の武器・防具・アイテムがシーパラ連合国には
いくつかあるみたいなんだけど俺は聞いてないので知らない。
俺が作って早乙女一家内だけが潤ってる。
他国は全く知らないけど個人が持つ伝説級は代々受け継がれている
武器・防具・アイテムはある程度は存在している。シーパラ連合国
とは違って戦争や争いの中で消えていったものも数多くある。
それ以上に伝説級の武器。防具・アイテムには類似する﹃劣化コピ
ー品﹄がイーデスハリスの世界中に数え切れないほど存在している。
王家に伝わる由緒正しき伝説級の防具がコピー品ということもある。
由緒が正し過ぎて盗まれていることに気づけてないし、門外不出と
恐れ多くて鑑定すらされない事を狙っての犯行だったりする。
俺の貰った記憶と経験の中にも自分で作り出したアイテムを泥棒の
ように貴族の館に侵入して取り返したり、4人の神に与えられた神
器を政治的に取り上げられてしまった王家から取り戻すのにレジス
1315
タンス活動を行い、革命時のゴタゴタの中で劣悪コピー品と取り替
えたりした冒険譚が鮮明に俺の脳内の記憶と経験で存在してる。
伝説級や神器の武器・防具・アイテムはどちらも優れたモノでクラ
ス分けの基準は﹃壊れにくさ﹄であって、モノの生み出す威力には
クラスが違っていても大して違いは存在しない。
ためだけ
神器の特徴が﹃神にしか破壊できない﹄だし、伝説級は﹃英雄や魔
王は破壊できる﹄だからな。
おやっさんやおかみさんのような優れた職人がアイリの
に作った防具﹃オーガナイト鋼のフルプレートアーマー﹄など、
いわゆる﹃カスタム品﹄などはクラス分けすると﹃特級品﹄となる。
俺やミーが装備している﹃サイラスの甲殻鎧﹄や、おかみさんがク
ラリーナのためだけに作った﹃シルバードコート﹄の3つの防具も
カスタム品で﹃特級品﹄となってるが、俺が初めて購入した﹃サソ
リオオクモの甲殻鎧﹄はその下の﹃一級品﹄になってる。
一級品の下には﹃標準品﹄となっていて、更に下には﹃劣悪品﹄が
ある。
クラス分けの順位は上から順に・・・
﹃神器﹄↓﹃伝説級﹄↓﹃特級品﹄↓﹃一級品﹄↓﹃標準品﹄↓﹃
劣悪品﹄
が武器・防具・アイテムの﹃壊れにくさ﹄でのクラス分け。
それと伝説級以上のモノは使用する人間や特定の種族によっては﹃
忌まわしきモノ﹄として特殊な結界をもちいて封印されてしまうよ
うな例もある。
自分達が転生者を好き勝手に利用して利益をもたらしている時は﹃
聖剣﹄と呼び、自分達で転生者を追い込んで魔王に変化させてしま
っているのを隠し﹃魔剣﹄などと呼んで責任転嫁している例がほと
んどなんだが・・・。
1316
﹃エルフに災いを呼ぶ魔槍﹄やら、特定の種族に﹃災いを呼ぶ﹄な
んてモノは全部が責任転嫁されたモノばかりが現存してるみたいだ
な。
俺が工房で何かを生み出そうとすると災いを招く代物しか生み出す
ことが出来なくなりそうで怖い。
今日のところは職人ゴーレムは保留にしておこう。
今は早乙女工房の拠点防御用のユーロンドを1セット5体16号∼
20号が必要だから作っておかないとな。早乙女工房の内装は何か
を作るような事態が来るまでこのままでいいな。
一緒に早乙女工房専属メイドゴーレムを作って掃除などの建物の維
持をさせるようにしないとな。
そら
素材を取り出すまでもなくアイテムボックス内で製造していく。メ
イドゴーレムは2体製作。
クマ型で﹃水色﹄にして﹃空﹄と紺色にして﹃紺﹄と名付けた。
忍も5体作ってさっそく防衛任務につかせる。忍は登録しなくてい
いからな。
でもユーロンド達やメイドゴーレムは職人ギルドに登録して早乙女
工房の職員となってもらわないといけないんだけど・・・昨日の今
日でまた職人ギルドに行くんかよ・・・
悩んでいても解決しないしと、なかばヤケクソ気味になって職人ギ
ルドに登録に行くことにした。
早乙女工房の建物の外に出て封印をかけてからホップボードに乗っ
て職人ギルドに。
職人ギルドの中に入って会議室を借りて7体のゴーレムの登録をす
る。
1317
職人ギルドはギルド本部のギルドマスターが昨日、騒乱を起こして
逮捕されているのでギルド本部は大騒ぎになっていると思っていた
がそれほどの混乱はないようなので、ゴーレム登録をしてくれた職
員に世間話のように色々と問いかける。
俺が騒ぎを起こした張本人ではあるけど、自分たちではどうにも出
来なかった汚れて膿んでいるゴミの排出をした人間と知ってる職人
ギルドの職員は正直に教えてくれた。
もともと職人ギルドの﹃特許﹄の部分が全く信用ないだけで、職人
ギルドには﹃特許﹄以外にも﹃職人の斡旋﹄や﹃職人の独立﹄など
様々な業務がある。
特許で優遇されるのは昇竜商会や大企業となる商会だけだったので
捜査はそちら限定で行われているらしくて、﹃職人は被害者﹄とい
う風潮がすでに広がっていると教えてくれた。
という職人に共通するクレバーさが問
それに職人はこういう騒乱に加わりたくないと混乱を避ける傾向が
我関せず
あるとも教えてくれる。
﹃そんなふうに
題を排除することができなかったと言えるんだけどな﹄
と、俺が言った言葉に頷く職員さん。
気性の激しい職人はすでに職人ギルドから一定以上の距離を置いて
るんだと。ヨークルのおやっさんやおかみさんも関わらないように
って言うよりも、ウンザリして完全に無視って感じだったしな。
後日の様子はヨークルの冒険者ギルドのギルマス騒乱の時と全く違
うな。
職人と冒険者の問題に対する考え方の違いがこういう騒乱後に浮き
彫りになってる。
ゴーレムの登録はスムーズに済んだのでどちらがいいとは一概には
言えないが。
登録が終わって会議室から出てきたら何人かの職員・幹部職員が会
1318
議室の外で待っていて、全員から謝罪と御礼を言われたのだが・・・
﹁次からは自分たちだけで解決してくれ﹂
という言葉を残して俺は職人ギルドを立ち去る。
外でホップボードに乗って早乙女工房に戻りユーロンド5体を防衛
任務につかせてメイドゴーレムの空と紺には早乙女工房の掃除を命
令。
俺は7階の最上階に行って居住スペースに人が住めるようにソファ
ーやベッドなど作っていく。
途中でアイリから念輪が入る。
﹁アイリです。しん君って今どこのいるの?﹂
﹁俺は今はユマキ商会から貰った早乙女工房にいるよ。アイリたち
はどこにいる?﹂
﹁私たちはきたの食料品市場で買い物が終わって今はハウスボート
の転送ゲートを使って早乙女邸に帰ってきたところだわ。しん君は
今夜の晩ご飯はどうする?﹂
﹁何も考えてなかったな・・・みんなはどうしたい?﹂
﹁今夜は私たちで海鮮のパエリアを作ろうと思ってるんだけど・・・
しん君にも食べさせたあげたいから今から作って待ってるわね﹂
﹁おぉ了解。じゃあ、今は17時半ちょい過ぎで18時にるびのと
待ち合わせをした時間になるから、あと30分したら家に帰るよ﹂
﹁30分だとパエリアは無理だから1時間後の18時半ぐらいから
晩ご飯の予定でいて﹂
﹁わかった。それじゃあ楽しみにしてるよ﹂
念輪の回線を切って早乙女工房最上階の居住スペースの仕上げをす
る。
内装は早乙女邸と似たような雰囲気で仕上がってるので時間が掛か
らなくていい。
1319
リビングに設置したソファーもダイニング用のイスも全部がカスタ
ムメイドなのでサイズはそれぞれの専用品になってる。
部屋は4つあったので1番広い部屋は主寝室・1つは客用として使
用・1番狭い部屋は転移ルームにする。最後の1つは、るびのが使
えるように作った。
大きくなることは未だに無理だが小さくなることは出来るので、今
ぐらいの大きさのるびのが過ごせるサイズなら出来そうだったので、
あまり深く考えずに作った。
今すぐにでも住むことが出来る状態にまで内装が完了したのが18
時でるびのを迎えに行く時間になったから玄関でスニーカーを履い
て待ち合わせ場所に転移魔法で移動。
﹁るびの、お待たせ﹂
﹁とうちゃん、オレもセバスにーさんも今到着したところだよ﹂
﹁じゃあ、今からるびのの部屋に移動しよう﹂
るびのとセバスチャンを連れてるびのの部屋に転移した。
るびのはセバスチャンと一緒にお風呂に行った。俺は玄関から早乙
女邸に帰宅してリビングのソファーで寛ぐ。
嫁達がマリアと共同でパエリアをつくっているので出来上がるまで
の時間を、俺はクロにハーブティーを入れてもらってウトウトとし
てる。
﹁しん様、起きてください。お食事が出来ましたよ﹂
﹁・・・あぁ、ついウトウトしてたな・・・うん、いい匂いだ・・・
いただこうかな﹂
ダイニングに移動して俺も食事を始める。
﹁しかし、今日は何でパエリアにしたんだ?﹂
﹁しんちゃん、それがねぇ・・・深い意味はないんだけど、午前中
に北の食料品市場でムール貝を見ているときに偶然、パエリア専用
フライパンを友達に貰って今も持っているって事を思い出したの﹂
1320
﹁確かにパエリア専用フライパンだな。みんな、味も美味しいよ!
ありがとう﹂
﹁どういたしまして。調味料を探すのにちょっと時間がかかって午
後の予定を変更したけどね﹂
﹁そうですよねアイリさん。サフランが中々なくて時間が掛かっち
ゃいましたね﹂
﹁サフラン? マリアが持ってるのに・・・聞かなかったの?﹂
﹁午後の予定を変更して昼食で北の食料品市場の近くで海鮮丼で有
名なところで食事して、アイリとクラリーナとみんなで相談してる
時に始めてマリアに聞いたのよ﹂
﹁それはそれは大変だったな﹂
﹁疲れちゃったので午後は喫茶店を回ってのんびりすることにした
の﹂
俺達が食事をしながらの会話中にセバスチャンと、るびのがダイニ
ングにやってきて一緒に晩ご飯を食べ始めた。
るびのは晩ご飯で骨付きオーク肉をセバスチャンに焼いてもらって
バリバリ食ってる。
﹁今日でやっと一連のゴタゴタから解放されたよ。明日からはみん
なと一緒に自由に動くことが出来るだろう。それで明日はどうする
? みんなでシーパラの北にあるダンジョン﹃ブランディックス﹄
にでも行ってみる?﹂
1321
最近減ってた夫婦の会話が少しだけできたっす。
﹁その事でしんちゃんに聞きたいことがあったんだけど・・・私と
アイリも行ったことがないからブランディックス迷宮の情報が全く
ないの﹂
﹁そういえばそうだな。ダンジョンに行くのに事前準備が何もない
って言うのは不安要素しかないな﹂
﹁私達も今日の午後に喫茶店めぐりのついでに本屋も探してみたん
だけど・・・ブランディックス迷宮は最近になって他のダンジョン
と繋がることで、活況を呈しているんだけど。それまでは初心者専
用で冒険されつくした﹃枯れた﹄ダンジョンとなっていたわ。だか
ら何人かの本屋の店主ににも聞いてみたけどブランディックスダン
ジョンのMAPとかも売ってなかったの。ブランディックス町に行
けば売ってるんじゃないかと言われてしまいました﹂
﹁なるほど、納得できる話ではあるな。それなら明日は朝からみん
なでブランディックスに直接行って、ダンジョンに入る前にいろい
ろ調べた方が良さそうだな﹂
﹁私とミーさんもアイリさんもしん様と同じ結論ですね。ですので
明日はるびのの予定だけですね﹂
るびのは自分に急に話が振られてもセバスチャンが料理スキルで焼
き上げたオークの骨付き肉を一心不乱に食べててまったく気付かな
かった。
箸休めのように隣の桶の中に入っている野菜を食べようとして顔を
上げた時に、自分に集まる視線にようやく気付く。
﹁・・・ん、みんなでオレを見てるけど、どうかしたの?﹂
﹁るびのの明日の予定を聞いておこうと思ってな。どこか行きたい
ところはあるか?﹂
1322
﹁どこでも自由にしていいなら、とうちゃん達とまた狩りに行きた
いな﹂
﹁今みんなと新しいダンジョンに行ってみようかってで話していた
んだ。るびのはダンジョンでもいいかな?﹂
﹁うん。オレはとうちゃん達と狩りが出来るならどこでもいいよ﹂
﹁今のところ、とうちゃん達は午前中にダンジョンの近くの町に行
って下調べをして、午後からダンジョン攻略を開始する予定なんだ。
だからるびのは午前中はノンビリしてていいよ﹂
﹁わかったよ、とうちゃん。それじゃオレは午前中はお風呂に入っ
たりしてノンビリしてるね﹂
るびのは﹃話は終わった!﹄と、今度もまた一心不乱になって桶の
野菜をモシャモシャポリポリと休むことなく食べはじめてる。
るびのの大きさは・・・肉も野菜も併せて毎食10kg以上は食っ
てるのでもはや犬のサイズではない。
セバスチャンに聞いたがすでに体重が100kgを超えてるのでも
はや小型の虎のレベルだ。
みんなの予定が決まってそのまま嫁達と雑談に突入した頃に晩ご飯
が終わって全員でリビングに移動する。るびのはまだまだ食ってる。
俺は自分のソファーに体を沈めてヨークルで購入した50年物のウ
イスキーが飲みたくなったから、氷が満タンに入っている桶も一緒
にアイテムボックスから取り出して飲み始める。
ちょっと精神的に疲れた数日間だったのでお疲れ様の意味で秘蔵の
酒を飲み始める。
つまみはマリアに作ってもらっているウナギの骨チップスにした。
嫁達も思い思いの酒を自分のアイテムボックスから取り出して、つ
まみはマリアと俺から渡されたモノを食べる。
クラリーナは自分が1番好きなシャンペンを今日の買い物ツアーで
発見したらしく、それをつまみのチョコレートを時々つまみながら
1323
飲んでる。
雑談をしてると今日の買い物ツアー中の話になったので、ホップボ
ードの問題点がないか確認のために聞いてみた。
﹁今日は一日中、ホップボードで移動してたとマリアから聞いてる
んだけど、ホップボードの気になる点とかあったかな?﹂
﹁ホップボードの不便な点はなかったけど・・・私たちが移動中は
マリアはずっと走っていたから、マリアたちゴーレムの分も作って
あげて欲しいな﹂
﹁おぉ、そういえばゴーレムの分は作ってなかったな。今、アイリ
に指摘されるまで忘れていたよ。わかった・・・今から全員分を作
って渡す﹂
俺はアイテムボックス内でユーロンドたちの分も含めて全員分を作
ってから、アイテムボックス経由で送っておいた。念輪でこれから
の移動はホップボードを使ってもいいよと伝えておく。
﹁渡しておいたよ﹂
﹁しんちゃんありがとうね。アイリも言ったようにマリアに申し訳
なくてねぇ。ゴーレムだから疲れることなんてないと判ってはいて
も、気になるのはどうしようもないし﹂
﹁奥様方、お気遣いありがとうございます﹂
﹁マリアさんに御礼を言われることはないですよ。しん様が作って
下さったものなんですし。それでしん様・・・明日の移動はキャン
ピングバスを使いますか? 私のアイテムボックスにキャンピング
バスが入りっぱなしになってるので﹂
﹁あぁ、その予定だな。明日は早乙女工房に転移で移動して、工房
からはキャンピングバスの移動になるから、それまではクラリーナ
が預かっていてくれ﹂
るびのは食事が終わったみたいでセバスチャンに3点セット魔法で
1324
全身を浄化してもらってから、リビングに移動してきて、るびの専
用クッションの上で前足を使って顔を洗い始める。
るびのをこうして見てるとただのデカイ猫なんだけどな。
﹁そういえばご主人様にご報告が・・・本日の奥様方の買い物ツア
ーでホップボードに乗って移動中に、ストーキングしてくる人が数
名いましたので、ご主人様の指示通りにスリープで寝させて路地裏
に放置しておきました﹂
﹁ハウスボートは相手に見つかってるのか?﹂
﹁注意して警戒してましたが、ハウスボートにまでストーキングさ
れていません﹂
﹁簡易ゲートがあるからなぁ・・・これからはハウスボートも警戒
しておいたほうが良いな・・・今からハウスボートに忍を2体設置
して警戒することにしよう﹂
俺はそういってソファーから立ち上がりハウスボートまで転移魔法
で移動する。
忍をアイテムボックス内で作ってからハウスボートに設置する。
ハウスボートと忍を常に念輪で繋げっぱなしにしておいたので防衛
任務は何とかなるだろう。ハウスボートには厳重な結界で元々保護
されている。
忍2体を設置してからハウスボートと念輪回線でつなげて知識の共
有化をし終えたら転移魔法で早乙女邸のリビングに戻る。
﹁マリア情報ありがとう。おかげで前もってハウスボートの防衛力
を上げることが出来たよ﹂
﹁私とアイリとクラリーナもマリアのおかげでストーカー発見の練
習をすることが出来たよ。3人で話していたけど、気配察知の何か
コツが掴めてきたような気がするよ﹂
﹁あぁ、そうなるだろうな。アイリとミーには気配察知のスキル。
クラリーナは気配察知と魔力察知の2つのスキルがすでについてる
1325
よ。昨日まではなかったのにな・・・後はスキルをマスターするま
で練習あるのみだ﹂
3人が慌てて自分のステータスカードで確認してスキルがホントに
ついているのを自分の目で見て喜びだした。
﹁しん君に言われて確認したけど・・・本当にスキルがついてるわ
ね。今まで冒険者をしながら頑張ってきたけど、察知系のスキル獲
得の仕方もわからなかったから、こうやってコツを教えてもらって
からだと結構簡単にスキルを獲得できるのね﹂
﹁雑多にあるスキルを獲得するには色々な条件が必要になってくる
んだけど・・・スキルの中でも察知系統は意外と簡単にスキルを獲
得することができることが多いんだよ。気配察知はたくさんの気配
を感じ取ってそれをなんとなくでいいから、個別に色分けできるよ
うになればスキルは獲得できる。ここからマスターするのに時間が
多く必要となるのが気配察知スキルだ。それとクラリーナがとった
魔力察知スキルは魔法適正値が高いほどスキルを取得しやすい傾向
があるんだ。魔力察知スキルもマスターするのに必要な時間が多く
掛かるのは察知系スキルの宿命だけど﹂
﹁なるほど・・・以前、しん様が言っていた様に﹃実戦で練習ある
のみ﹄なんですね﹂
﹁そういう事だよクラリーナ。・・・それとアイリとミーも魔力察
知は時間が掛かるけどスキル取得は絶対に出来るから、諦めないで
今後も練習し続けて欲しい﹂
﹁了解。しんちゃんが言うんだから諦めないでがんばるよ﹂
﹁私もしん君が﹃魔力察知﹄も取得できるって言ってくれたから諦
めないでがんばるよ﹂
4人で酒を飲んでノンビリと話す。最近は雑談すら出来なかったほ
ど別行動が多かったからな。
話は尽きることなく続いていく。
1326
るびのも最近俺たちと話すことなく別行動が多かったので、今日は
雑談に加わっている。
﹁ねぇ、とうちゃん。最近の狩りで集まったアイテムとか素材が増
えてて腕輪のアイテムボックスに溜まってるんだけど・・・﹂
﹁わかった・・・ゴブリンが大量にあるな・・・え? ゴブリンキ
ングとクイーンだって?﹂
﹁うん。今日の狩りでセバスにーさんに手伝ってもらって狩ってき
た。1000匹ぐらいいたよ﹂
﹁後でご主人様にご報告しようとしていたのですが・・・ゴブリン
の巨大な集落をるびのが発見いたしまして連絡を受けた私と共に殲
滅しました。いつものように集落にあるゴブリンが収集したアイテ
ムは放置してあります。ゴブリンの解体した素材はすでにご主人様
のアイテムボックスに半分以上は送りました﹂
・・・なるほど。ゴブリンの解体された肉や骨などの素材は俺のア
イテムボックスに送られてきていたみたいだな。今日は夕方3時ま
で寝ていたのでまったく気付かなかったよ。
セバスチャンからゴブリンの集落の位置を詳しく教えてもらってM
APに記入しておく。
今夜の深夜にでも回収に行ってこよう。
解体した大量のゴブリンから魔石とクズサイズの魔結晶が大量に入
手できたのはありがたい。
キングやクイーンの親衛隊ようなゴブリンナイトやゴブリンロード
の数も多かったみたいで普通サイズの魔結晶も21個もあるし、キ
ングとクイーンはシルバードと遜色ないほどの大きさで質は少し悪
いぐらいの魔結晶が5個。魔水晶も合計15個も集まってるので・・
・ゴブリンバンザイだな。
ゴブリン集落の中に入って魔結晶だけはセバスチャンが回収してき
てくれた。
1327
更にセバスチャン情報だが集落の中にもゴブリンが集めてきたアイ
テムなんかがいっぱいあったみたいだ。周辺に冒険者らしき人達は
いなかったので深夜までぐらいなら大丈夫だろうとの予想。
以前、大森林の南側でるびのが殲滅させたオークの巣の中身が俺が
回収に行く前に他の冒険者に横取りされていたことがあったので、
魔結晶だけは短時間でいいから回収できるだけでも回収してもらう
ように頼んである。
るびの達が大量に魔結晶を集めてきてくれるようになったので、俺
が狩りにいけてなくても普通サイズぐらいの魔結晶が大量に手に入
るようになったのはホントにありがたい。
実際にここ最近の嫁を含めた狩りで大量の魔結晶・魔石をるびのか
らアイテムボックス経由で貰ってる。
アマテラスを経由してゴッデスから﹃魔石を複数使って魔結晶を作
る方法﹄と﹃クズ魔結晶を複数使って大きな魔結晶の作る方法﹄を
聞いたので、以前のようにゴーレム製造するのに魔結晶集めをしな
ければいけないと必死にならなくてもよくなったし、俺のアイテム
ボックスに大量に余りつつあったクズ魔結晶が物凄く生きる。
るびのは眠くなったので自分の部屋に帰っていった。
俺達はお風呂に移動してみんなで一緒に入る。
最近は全員が結構気に入ってるマットの全身洗いの前にまずはかけ
∼∼﹄って声はもう初めから我慢してないし遠慮もせずに声
湯をして温泉に浸かって全身を暖める。
﹃あ
を出して温泉に浸かる。
10人は手足が伸ばせるように作った巨大な風呂は俺と嫁3人で両
手足を広げて入っても、まだまだ余裕がある。
俺が湯船の中で浮かんでいたらアイリにお姫様抱っこをされてエア
ーマットまで運ばれてしまった。
1328
今日の俺の枕で頭洗浄の担当はアイリだったのか。
このまま全身洗いになるのでアイリの太ももの上に頭を乗せて目を
閉じる。
身体は誰が洗ってるのか既にわからない、何も考えていない全身を
複数の手や女体でマッサージをされながら洗浄される。
金タマ袋やアナルの皺まで伸ばされて洗浄されるし、俺の余ってい
る仮性包茎の中まで全部がキレイに洗浄されていく。
全身洗浄された後はそのまま誰かが俺の上に跨り騎乗位で精液まで
搾り取られていく。
俺が3回ほどイった後は、全員が交代して全身洗浄でキレイになっ
て全員が失神するまでした。
マットのあとはまた風呂に戻って酒盛りになってしまう。
嫁達が・・・﹃ねぇ、私のお酒をのんでぇ﹄と可愛く口移しで飲ま
せてくるので最高だな。
口移しで飲ませてる嫁の方が酔っ払ってしまうのが残念なんだが、
酔っ払って絡んでくる嫁たちもまた可愛いのだから文句なんてある
はずもない。
﹁ねぇ、しんちゃんギュってして﹂
﹁えへへ、しん君とチューしちゃったぁ﹂
﹁あ・・・しん様ぁ、私ともチューしてください﹂
ぐらいだったのが・・・
﹁ねぇ、しんきゅん今日はベッドれもセッキュシュ︵SEX︶した
いな﹂
最終的には欲望をぶつけてくる。しかも会話の合間合間にセックス
はしてるのに。
﹁しんしゃま、わらしはかいらんをつなぎゃったままはこんれ欲し
いんれす︵私は階段を繋がったまま運んで欲しいんです・・・かな
?︶﹂
1329
俺と3人の嫁は風呂に行ってイチャイチャしてたくさんエッチをし
て寝室に移動することにした。
このまま風呂に入りっぱなしでエッチなことをしまくって酒を飲ん
でると、のぼせてしまうかもしれないのでとりあえず更衣室に全員
を1人ずつお姫様抱っこで運んでいく。
更衣室で先にアイリを駅弁スタイルで貫きながら持ち上げて、持ち
上げたアイリの身体をゆする。
﹁あはぁ∼∼ん、しんきゅんのが、あああ∼ん、奥まっでぇ∼はい
ってりゅの!﹂
﹁あんあんあん、ゆっさゆしゃしちゃらめ∼、らめっ、らめ﹂
アイリのヴァギナは相変わらず締まりが丁度いい。
俺は更なる気持ちよさを求めて、俺の体に全身でしがみつくアイリ
の腰を掴んで上下にゆさゆさと動かす。
俺が動かなくてもアイリの中はゆっくりと俺のチンコを握り締めな
がら蠢くようにグニュグニュっと動いて刺激してくる中でチンコを
ストロークさせると腰全体が痺れてくるような快感が湧き上がって
くる。
脳味噌まで焼ききれそうな快感が背骨から伝わってくるような錯覚
がする。
﹃だめ、だめ﹄
と口では言ってるのだが、俺の体に全身で自らしがみついてきてい
るし自分から腰も上下にゆすってきて、快感を貪っているので何が
ダメなのかよくわからない。
そのままの体勢でセックスしながら寝室のベッドまで運んであげる。
俺も2発も発射した。
途中まではプシュプシュと愛液を撒き散らしながらアイリも積極的
に動いていたのだが、階段で下からガンガンと突き上げながら小ジ
ャンプを繰り返したところ、盛大に潮を吹いて気を失ってしまった。
1330
意識を失ってグッタリしてしまったんで駅弁スタイルで抱えていた
アイリを軽々と持ち上げてチンコを抜いてから、フワリとお姫様抱
っこに体勢を変えて寝室まで運ぶ。
ベッドに横に寝させてアイリ用のガウンを上にかけてあげる。
更衣室に戻る途中に確認したが廊下や階段に流れ落ちた俺の精液や
アイリの愛液はメイドゴーレム達の手で3点セット魔法をかけられ
て浄化してある。
次はクラリーナで相変わらずの狭いヴァギナで気持ち良い。
クラリーナのドMっぷりは少し乱暴に扱う位が丁度良い快感度合い
らしいので、強引にクラリーナの腰を掴んでガンガンと上下に揺ら
しながらゆっくり歩くと、クラリーナは階段までたどり着くまえに
おしっこを漏らしながら失神した。
最後はミー。
ミーにはイチャイチャとキスをしながらゆっくりと歩いて駅弁の体
勢でセックスはしているが、俺からは積極的に動かないようにした
ら・・・自ら何度も失神するまで俺に全身を使ってしがみつく体勢
で快感を貪るのだった。
2人のヴァギナの中にも2発ずつ発射してるのだが俺の無尽蔵の体
力は、セックスや精液発射ぐらいでは尽きることない。
使用する体力以上に自然回復する体力量の方が圧倒的に多くて、ど
れだけ動いて何度発射しても瞬時に回復してしまうから、4Pでや
りまくっても疲れることもない。
逆にあんまりやりすぎると精神的に疲れて嫁3人に飽きてしまうん
じゃないかとけっこう心配していたんだけど・・・最近はセックス
どころかスキンシップも会話もまともに時間がとれない日々が続い
ていたのでエロの欲望の方が溜まっていた。
寝室でのエッチは久しぶりだなと嫁達が寝るまでエロいことをしま
1331
くったし、コスプレエッチは凄く楽しいからな。
全員が寝室で失神から復活するまでどんなコスプレをさせようかと
考えていたが・・・天女の羽衣のようなシースルーの布だけの嫁に
レイプのように襲い掛かるプレイだとか、違うパターンで日本のO
Lが着ているようなカッチリした制服で集団逆レイプのように3人
の嫁に襲われるエッチも俺のM心が少し刺激されてエロ心をそそら
れる。
既に何度発射したのか何度失神させたのかも数え切れないぐらいの
エッチをしてから嫁3人をガウンを着せて寝室の巨大なベッドに横
たえる。
エロい時間は3人の嫁が失神して満足げに寝てしまったので終了し
た。
俺はリビングに移動してから防具のサイラスの甲殻鎧を装備して左
腰に天乃村正を差して右腰に雪切正宗を帯びる。
玄関でサイラスの甲殻ブーツを履いてからセバスチャンとマリアを
連れてゴブリンキングとクイーンの築いた集落に転移する。
1000匹以上のゴブリンが生活していた集落は洞窟と巨大な木を
利用した場所にあって、知能が比較的高いと言われてるゴブリンの
集団は原始的な村と言える位には住処を作っていた。
魔獣の中でもゴブリンは集団で道具を使用して狩りをして人に近い
ような生活を営んでいるといえる。
この場所は分かりやすい様に俺の脳内MAPに﹃ゴブリン村﹄と命
名して入力した。
すでに別のゴブリンの群れがゴブリン村に入り込んできていたので
村の外から殺気を放つと、村の中にいたゴブリンたちは蜘蛛の子を
散らすように逃げ出した。
ゴブリンは素材としてすでにたくさん持っているから、狩るのも面
1332
倒なので追い散らしただけだったりする。
ゴッデスに貰った雪切正宗を使って二刀流で乱舞でもしようかと思
ったが・・・面倒だった。
どうせ明日も狩りに行くし。
ゴブリン村に住んでいた集団がウェルヅリステルの南側周辺で拾い
集めてきた魔石・魔結晶・魔水晶などの素材が、セバスチャンがる
びのとの短時間では集めきれずゴブリン村の中に残していたので先
に全て回収していく。
ゴブリンは魔水晶が大好きで収集するクセがあるって言うのは本当
の話で、ゴブリン村の中には小さな魔水晶が大量にあったのであり
がたくいただく。
冒険者が落としていった武器・防具・アイテムなどが村中に残って
いるので集めるのはやめたが、奴隷商から奪い取ったのかどこかで
拾ったのかはわからないが30個ほどの﹃隷属の首輪﹄や、鎖・手
枷・足枷が、まだ比較的新しいモノが大量にあったので持ち帰るこ
とにした。
改造すればミノムシ作成に使えそうだな。
セバスチャンとマリアの3人で手分けして回収作業をしていたから
深夜1時前には全て完了。
転移魔法を使って自宅の玄関に帰宅してからパジャマに着替える。
今までは魔結晶の性能が悪くて作れなかったアイテムボックス︵大︶
を封入した魔結晶を作って・・・まずは、るびのが使用する腕輪を
アップデートして、るびのが寝てる隙に取り替えておいた。
あと2つ作ってセバスチャンとマリアに内蔵してある魔結晶と交換
させる。
ついでに2体のアップデートとして今まではミスリルでコーティン
グしてあっただけの骨格部分をオリハルコンで上から更にコーティ
ングする。
1333
更に・・・大きくて質の良い魔結晶を作り出してから内蔵されてい
た魔結晶も全てアップデート。
これでセバスチャンとマリアも転移魔法を封入した魔結晶を内蔵さ
せたので使用できるようになったし、ゴーレムとしての性能も耐久
性も今までの倍以上になった。
今まで俺が作ってきた全てのゴーレムを1体ずつ転送魔法で俺のア
イテムボックスの中に入れてアップデート。
ユーロンド達は外観が全く一緒で判りづらかったので胸と背中に号
数をゼッケンのように書いておく。
早乙女邸の地下にいる師匠ゴーレムは今までは性能がかなり劣って
いたが、今回のアップデートでユーロンド達と遜色なくなったな。
明日は6時半に起きる予定にしてる。早乙女工房からブランディッ
クス村までなら1時間半ぐらいで到着すると思うので、そのぐらい
の時間に起きれば午前中にブランディックスの町で、ある程度の情
報収集と本屋めぐりが出来るだろう。
寝室に行って今夜はベッドで熟睡している嫁達の中に入って眠る。
イーデスハリスの世界に転生してきてから29日目の朝は雲がほと
んどない晴天だった。
もうすぐ転生1ヶ月になるな。
イーデスハリスの世界の暦は地球と似てる。1年が365日で月の
ゼロガツ
数と日数は12ヶ月×30日で360日。年の初めは﹃神の休日﹄
と呼ばれるお祭り期間が5日間あって、この5日間は暦では零月と
なる。零月は4年毎に1回6日間となるのは地球の暦と似てる。
なので正確にいえば・・・零月が5・6日あるので月は13ヶ月あ
ることになる。
1334
ここに転生してきたのが4月1日だったので今日は4月29日、明
日は4月30日、明後日は5月1日となる計算だな。
いつものように俺がマリアの入れてくれたコーヒーの香りに目を覚
まして洗顔に行く。
洗顔から戻ってくるといつもの朝の風景が繰り返される。俺の替わ
りにクラリーナが洗顔しに行っている間にミーがアイリを寝室のソ
ファーまで誘導してる中で・・・俺はソファーに座って朝食とコー
ヒー。
クラリーナが洗顔から帰ってきたので入れ替わりでミーがいまだに
寝ぼけてるアイリを洗面台にまで誘導して連れて行った。
それを見てから俺は着替え始めるという、すでにルーティーン化し
ている毎朝の状態だな。
今日は午後からダンジョンアタックをする予定なので、武器はアイ
テムボックスから出さずに防具と腹の前に扇子だけを装備した。
アイリ・ミー・クラリーナの3人も俺と同じように防具だけを装備
して出発準備は完了。
るびのは昼からの合流の予定なので朝風呂に行ってるとマリアが教
えてくれた。るびのの世話はマリアに任せて俺・アイリ・ミー・ク
ラリーナ・セバスチャンの5人で早乙女工房の最上階居住スペース
に転移した。
1335
最近減ってた夫婦の会話が少しだけできたっす。︵後書き︶
エロ描写が下手すぎて自分の才能のなさに泣ける。
1336
ブランディックスダンジョンの攻略開始したっす。
早乙女工房内を最上階の居住スペースから嫁達に案内する。地下ま
で順番に案内していってアイリに聞かれたことは当然の疑問だな。
﹁ねぇ、しん君。ここで何を作るの?﹂
﹁それがさぁ、何の予定もないんだよな・・・それに俺は何かを生
産したくて職人ギルドに登録したわけでもないし、この建物のも貰
い物だからなぁ。目的もない状態での早乙女工房の設立になってし
まったからな﹂
﹁こんなに大きな建物をいただいても何もすることがないというの
も凄いですね﹂
﹁うーーん・・・クラリーナの言う通りなんだよなぁ。俺もせっか
くこんな立派な建物まで貰ったんだからって職人ゴーレムを作って
何かを作ろうと色々考えたんだけどさぁ・・・ゴーレムを作っても
何も作りたいものがないから何か作りたいものが出来るまで、この
まま何もない状態で放置することにしたよ﹂
早乙女工房1階の屋内駐車場に到着してクラリーナのアイテムボッ
クスからキャンピングバスを取り出してもらい、全員で乗り込んで
俺の記憶の中にブランディックスダンジョンまでの道が入っている
ので今日は俺の運転で出発する。
俺の貰った記憶の中でもブランディックスダンジョンの中には入っ
ていない。
面白みのないダンジョンと聞いて入り口まで案内してもらっただけ
で攻略どころか、ダンジョンの中に入っていく気分も失ってる。
ウェルヅ大草原に住む魔獣の方が何倍も強いし荷馬車用の馬狩りを
指名依頼されてそちらに没頭しているうちに存在すら忘れてしまっ
ている・・・それが俺の貰った記憶の中にある﹃ブランディックス
1337
ダンジョン﹄だった。
キャンピングバスで嫁3人と一緒に出かけること自体が久しぶりに
なるので、ちょっとしたピクニックのような楽しい気分になってい
るな。
運転席のドリンクホルダーに大きめのグラスをセットしてアイスコ
ーヒーを注ぎこみ運転中に飲む。
今日は天気が良過ぎて快晴なので少し外は蒸し暑い感じだった。
キャンピングバス内は一定温度で保たれているし、今は全員が防具
を装備してる状態なので少し涼しいぐらいの温度設定になってる。
シーパラは巨大な都市なので中央行政区域の北部から北部住宅街を
抜けて北門から出て行くのに出口の魔水晶チェックを含めて45分
ほど掛かった。
大量のゴーレム馬車が朝の出勤ラッシュを引き起こしているので少
々時間が掛かるのは仕方がない。
市街地から出口を出て行くゴーレム馬車は俺達のキャンピングバス
だけなので出口で引っかかることはなかった。シーパラの北門から
東門まで続く10m以上の高さがある大きな外壁沿いにヨークルの
外周部のような倉庫がずらっと続いているが、北の出口から出て行
く荷馬車はいない・・・数が少なくてではなくて﹃いない﹄のだ。
首都シーパラの北側にある町﹃ブランディックス﹄とは駅馬車の無
料定期便で結ばれている。
無料なのでシーパラとブランディックスダンジョンを往復する冒険
者はシーパラには多数住んでいる。
ブランディックスはダンジョンが発見される前は町そのものが倉庫
街だったので、巨大な倉庫と宿屋が数多く並んでいる町だ。
ブランディックスダンジョンの昨今の活況は他の都市などからやっ
てきて、ブランディックスの宿屋で長期で泊り込んでる冒険者達も
1338
多いから、つぶれた倉庫を改造して建物の中に屋台を並べて﹃屋台
村﹄を作ったりして、最近になって住民が1000人を超して村か
ら町になったと聞いている。
冒険者がブランディックスダンジョンに集まっているので冒険者ギ
ルドシーパラ支部にある依頼は滞り始めてるとギルド職員が嘆いて
いる・・・と、以前のミーの情報収集であがっていた。
キャンピングバスの移動は俺の運転でみんなで雑談しながら街道を
進む。
街を出て街道を走るにはスピード制限がないので時速50km以上
にスピードを出してひた走ると、1時間ほどでブランディックスの
町に到着。
町の中央部は定期便の馬車専用のスペースになっていて、それ以外
の馬車ゴーレム馬車も全部ブランディックスの町の中に入れない。
面倒だが町の外にある駐車場でお金を払って馬車駐車場を借りるし
かなかった。別料金で馬の世話を頼むことが出来る形式で・・・ま
ぁ、ボッタクリ価格だな。
駐車場利用者もほとんど・・・1台も停まってない。
俺もボッタクリだと知っていたら途中でキャンピングバスをアイテ
ムボックスに片付けて歩いてきたけどな・・・今日のところは知ら
なかったので仕方がない。
まさか1日の駐車料金で5000Gも取るとは思いもしなかったよ。
商人たちの荷馬車は塀代わりのように町の外周をぐるりと取り囲ん
でいるので、駐車場に入れずにそのまま各自の倉庫に入っていって
倉庫から出かけていく。
セバスチャンをキャンピングバスに見張りとして中に待機させて俺・
アイリ・ミー・クラリーナの夫婦4人は情報収集にブランディック
スの町の中に入っていった。
1339
街中に入って宿屋の前にある看板には﹃素泊まり3000G﹄なん
て書いてあるし、町の外にある駐車場料金が微妙に腹が立つレベル
のボッタクリだ。
ブランディックスは倉庫と宿屋ばかりでブランディックスの敷地面
積だけは広大だけど、元々は住民は700人ほどが住んでいる村だ
ったしそこまで大きな町ではない。
本屋がなかったので探したら屋台でダンジョンの解説付きMAPが
売られていたので購入してみんなで回し読みをする。
ブランディックスダンジョンは地下30階までの比較的小さなダン
ジョンで昆虫系魔獣の多いダンジョンで初心者向け。
地下30階が他のダンジョンと繋がったことで、地下30階だけ面
積が10倍ぐらいに広がりを見せているが地下1∼29階まではほ
ぼ1本道のダンジョンで、トラップが数多く仕掛けられているだけ
の﹃初心者シーフ﹄の練習用のダンジョンとなっていた。
地下30階が広がったことによって﹃その他の階層も全部探査され
ていないのではないか?﹄と、シーパラ連合国だけでなく世界中か
らシーフ職のMAP作成専門家が数多く集まって・・・現在は日々
MAPが更新されていると屋台の親父がうそぶいてるのだが、広が
った部分は地下30階以外の階層ではまだどこにも発見されていな
い。
町の中央部にあった冒険者ギルド・ブランディックス支部にも顔を
出して情報を集めたが、地下30階以外は数が多いだけの昆虫魔獣
やゴブリンしか出てこないらしい。
ヨークルからブランディックスまで来て探査を続けている冒険者で
何人かはアイリとミーの知り合いがいて、挨拶した後に雑談ついで
にブランディックスダンジョンの話を聞かせてもらったが、追加で
補足される情報として﹃以前に比べてトラップの数が増えてる﹄と
いうことだけだった。
ブランディックスとダンジョンまでは歩いて30分ぐらいだが最大
1340
10人が乗れる﹃乗り合いゴーレム馬車﹄で町の中央と結ばれてい
るが、使用している人は多くて町に戻る便は怪我人が最優先になる
と教えてもらった。怪我人がいると町の教会前まで送ってくれるら
しい。
情報収集を終えて冒険者ギルドの外に出てきたがブランディックス
の町には喫茶店のような休憩する場所がなかったのでキャンピング
バスに戻ることにした。
キャンピングバスに戻ると戻ってきた俺に話しかけてくる馬鹿がい
た。
﹁お前がこの馬車の持ち主か?﹂
﹁はぁー、またこのパターンかよ。カスのクセに俺に話しかけてく
るなよ﹂
﹁最近のガキは本当に口の利き方を知らないな。お前ら、ちょっと
教育してやれ﹂
﹁﹁ははっ﹂﹂
馬鹿の後ろに立っていた2人の親衛隊が左腰に帯剣しているロング
ソードを右手で抜こうとして空振りした。俺の左右の手には親衛隊
のロングソードのグリップが握られている。空振りしてるのは親衛
隊の2人が剣を抜こうと動く寸前に、俺が誰にも見えないスピード
で懐に飛び込んでグリップをへし折ったからだった。
俺の手に握られているグリップに気付き自分の左腰のロングソード
の状態を確認して、驚愕で歪んだ顔のまま固まってしまう親衛隊の
2人にグリップを返した。
﹁はいよ。お前らのモノだから返すよ。クックック、もう武器じゃ
なくてゴミになったけどな﹂
﹁﹁・・・﹂﹂
自分に返されたブリップを握り締めて完全にフリーズする親衛隊の
2人。
1341
馬鹿はこれでもわかりにくかったみたいだな。
俺が油断しているように見えたらしく、腰のレイピアを引き抜いて
飛び込んで攻撃してきた。
俺の顔面にレイピアでフェイントを先に入れて太ももを切り裂こう
としていたみたいな目の動きだったが・・・
﹁シャ! と、・・・え?﹂
自分のレイピアの刃先が俺の左手の人差し指と親指につままれたま
ま微動だにしないことでようやく自分の不利を悟ったみたいだな。
レイピアを捨ててバックジャンプをした先に俺がいてぶつかって前
によろめき倒れる。
手をついた馬鹿を横に転がして馬乗りになって、馬鹿の腹の上に腰
を落として馬乗り状態になった。
馬鹿には訳がわからないほどの早業だ。馬鹿の左右の手首を俺の両
膝で上から押さえつけているので完全なマウントポジション。
俺は自分の手に残る馬鹿のレイピアの刃を2cm毎にパキンパキン
と枯れ枝を折るようにへし折りながら馬鹿に話しかける。
﹁お前みたいなクソヤロウは相手とのレベル差も考えずに、口の利
き方がどうとか教育してやるとか言ってるのをよく聞くんだけど・・
・いつになったら教えてくれるんだ?﹂
﹁あ・・・あぁ・・・﹂
今はレイピアは刃の部分は終わってグリップを2cm間隔でへし折
リ終えたところだ。
こういう馬鹿にはトラウマを植えつける必要があるからな。
馬鹿をうつぶせに引っ繰り返してから俺は次に馬鹿の右腰からマイ
ンゴーシュを抜いて・・・刃先が鈍ってるので、俺がへし折ったレ
イピアの破片で刃を研ぎなおし馬鹿の頭の毛をジョリジョリ剃り始
めた。
2人の親衛隊は何も出来ずに足をガクガク震えさせて眺めてるだけ
だ。
1342
嫁たちはいつものように何も聞かずにキャンピングバスに入って休
憩しに行った。
キャンピングバスのドアの前にはセバスチャンが警戒して立ってい
る。
馬鹿の頭をツルツルに剃りあげてから親衛隊の2人も全剃りしてや
った。そのまま放置したら3人とも失神して倒れた。
馬車駐車場の受付にノシノシと歩いていく。
受付の男は俺が起こした全部を眺めてガタガタと震えていた。
さっき冒険者ギルドでアイリ達の知り合いに聞いたが駐車料金は5
00Gだった。コイツがボッタクリ料金で小遣い稼ぎをしてるのだ。
しかもこのバカ3人はコイツによって呼び出されて、俺から更にゴ
ーレム馬車を取り上げようとでも考えいていたんだろう。
最初はニヤニヤして俺たちのほうを眺めていたからな。
﹁おい、オッサン。金を返してもらいにきたぞ﹂
﹁・・・ひぃ∼∼﹂
受付窓口から建物の奥に隠れようとしていたので窓口の隣の壁を転
送魔法で強引に、俺の通りやすい大きさの高さと幅をくり貫いて出
入り口を自作してやりズカズカと受付建物の中に入っていく。
﹁迷惑料は壁代でサービスしてやんよ。あのバカ3人を呼んだのも、
オッサンお前だろ?﹂
﹁あ、ああ、あ﹂
オッサンが既に恐怖で壊れてるので会話が出来そうもない。
さてどうしようかなと悩んでいると建物の奥から違うオッサンが出
てきたので、全部の事情を説明して4500Gを返金してもらう。
壁の修理代金は壊れたオッサンと俺に絡んできていまだに失神して
る馬鹿3人に請求するそうだ。奥にいるもう1人のオバちゃんがブ
ランディックスの警備隊を呼びに走っていった。
1343
バカ4人を警備隊に引き渡し俺は調書作成に協力し終えてから、キ
ャンピングバスに乗って駐車場を出て行くことにした。
警備隊の隊員5人が俺が名乗った時に﹃ヨークルの救世主﹄とポツ
リと小声で呟いた言葉で調書作成は疑われることも一切なくスムー
ズに終わったのは、ちょっとだけだけど面倒にならなくて良かった。
調書作成中にマリアと念輪で連絡を取って、るびのをキャンピング
バスにまで連れてきてもらう。
ブランディックスダンジョンに到着する前にキャンピングバスに、
るびのとマリアが転移魔法でやってきた。
るびの達を待つ間にセバスチャンにキャンピングバスの運転を任せ
て俺たち夫婦は武器を装備する。
今日のチーム早乙女遊撃隊のダンジョンアタックではクラリーナの
壁役でマリアとセバスチャンがいるので・・・
ミーはロードクイーンのエストックを装備。
アイリは俺が作ってあげた大剣﹃早乙女大剣﹄・・・作成者の俺が
名前をつけないと適当な名前を勝手につけられるみたいだな・・・
を使うので今はアイテムボックスに入っているので持っていない。
ちなみにクラリーナに作ってあげた杖は﹃早乙女バラ杖﹄という名
前になってしまってる。
俺は左腰に天乃村正を差して右腰に雪切正宗を帯びる二刀流スタイ
ルで狩りをすることにした。
るびの達と合流してからダンジョンに到着する前にキャンピングバ
スは俺のアイテムボックスに入れた。
歩いてダンジョンの入り口から中に入っていく。
﹁しん様今日のフォーメーションはどうしますか?﹂
﹁ここはトラップ練習ダンジョンだけど今のところは俺が全部解除
しいていくよ。だから俺がシーフ役をするので俺・アイリ・クラリ
ーナ・るびの・ミーの順番だな。セバスチャンとマリアはクラリー
1344
ナの左右でサイドアタックの防御。るびのとミーはバックアタック
警戒だ﹂
全員がおのおの返事をして俺が決めたフォーメーションで動き出す。
ブランディックスダンジョンはジャングル風な迷宮だ。
地下1階へと続く長い階段を降りていくと周辺の風景が徐々に変化
していく。
このダンジョンにはライトの魔法は必要ない。
壁と天井は蔦で覆われているのだが天井や壁の蔦の隙間から光が差
し込んでいるので、普通のダンジョンとは逆で﹃一日中明るくて時
間の感覚が狂う﹄ので注意が必要と購入したMAPの解説文の注意
事項に書いてあった。
足元の地面は土・・・休憩室には芝生が生えているらしい。
蔦が空気中に水分を放出してるので湿度が高く火魔法は威力が1/
4以下になると購入したMAPの解説文に書いてあった。
逆に木魔法が倍以上の威力にあがってダンジョンに出てくるゴブリ
ンは数種類の木魔法を使って攻撃してくる。
ブランディックスダンジョン地下1階に出てくる魔獣は﹃雑食バッ
タ﹄でしかも単独でタマにしか出てこない。
地下1階はトラップがあちこちにあって単純な1本道のマップなの
に進んで戻ってを繰り返す必要があるので・・・さすがシーフの練
習場だな。
まぁ、失敗しても小さな針が飛んできて刺さるぐらいなので、盾職
の人を前後左右に並べて強引に突き進む﹃マッスル解除﹄が1番有
効で手っ取り早い階層でもある。
・・・っていうか、地下10階までは対したトラップがないのでマ
ッスル解除の方が早く通る事が出来るみたいだな。
俺は洞窟探査魔法と鑑識を展開させて全部を調べ上げて俺の脳内M
APに情報を入力する。
1345
移動するのを止めて全員を集めてみんなの意見を聞くことにする。
﹁今、探査魔法と鑑識魔法でこのダンジョンの全部を調べ上げたけ
ど・・・別のダンジョンに繋がると言われてる﹃転送魔方陣の部屋﹄
は地下30階のボス部屋の隣以外にはないな。今まで解説付きMA
Pになかったけど俺が全部調べた結果は地下10階と地下20階に
それぞれボスがいて、ボスを退治すると2つの階層が横に広がる方
式になってる迷宮のタイプだな﹂
﹁しんちゃんにはそんなことまでわかるの?﹂
﹁ああミー、間違いないよ。ちょっと待って・・・ハイ、これが正
しいMAPだよ﹂
俺はアイテムボックス内で完全マップを作って、アイリとミーとク
ラリーナの3人に渡す。
地下30階の転送魔方陣の部屋までの罠の解除方法まで全部書き込
まれてる完全ガイドブックだな。
地下10階ごとに広がるMAPも書き込まれてる。
階層の縦と横の長さが3倍になるので面積は9倍になってる。
﹁これでみんなもトラップがわかったし、今から休憩室で昼食を食
べた後にアイリとミーとクラリーナでトラップ解除の練習でもして
みる?﹂
俺の意見にみんなが賛成したので俺がテキパキとトラップを解除し
ながら休憩室に移動する。
まだ11時半前ぐらいだったので昼食にしては早い時間だったが、
大きい休憩室は既に埋まっていたが小さい方の休憩室が開いていた
ので助かった。
休憩室に入って封印結界を施してからキャンピングバスを取り出し
て、キャンピングバスの中で昼食をすることにした。休憩室の大き
さ的にはキャンピングバスはギリギリ収まるサイズだったので助か
1346
るな。
今日の昼食は以前にも食べた﹃豚トロ丼﹄にした。
セバスチャンがワイバーンから抽出したドラゴン汁で新たにソース
を作ってかけて食べたので以前よりも美味しくなってる。
セバスチャンの研究によってドラゴン汁は量の加減は難しいが、あ
らゆる肉料理の旨味を更に引き立てる調味料になったようだ。
嫁達も満足しているようで無言でガッツリ食べてる。
肉料理との相性がいい赤味噌の味噌汁も美味しいな。
付け出しのきゅうりと白菜の浅漬けを食べてると・・・ファンタジ
ー感は全くないな。
全部が美味しいから文句はないが。
食後はみんなで15分ほど仮眠してからトイレを済ませて、ダンジ
ョンアタックを再開する。
嫁3人のトラップ解除の練習をしてると幾つかのグループが、ちゃ
んと前もって声をかけてきてマッスル解除やシーフが正確に解除し
て追い抜いていく。
俺が今まで会った冒険者のほとんどがこういった礼儀正しい人達の
ほうが多いのに・・・少数のバカタレが今日の駐車場のように絡ん
で来るんだよな。
俺は二刀流を止めてアイテムボックスに天乃村正と雪切正宗を仕舞
って弓を取り出す。
﹃早乙女強弓﹄と既に名前がついていたのにビックリした。
嫁3人でワイワイガヤガヤと試行錯誤しながらトラップ解除をして
マリアとセバスチャンがサポート、るびのと俺が雑談しながら周囲
を警戒して進んでいく。
この時々しか出てこない雑食バッタって防御力が弱過ぎるなぁ。
1347
体長40cmほどで草食じゃないバッタは壁や天井の蔦の中で潜ん
で隠れていて、通りかかった冒険者に襲い掛かるのだけど攻撃方法
が﹃体当たり﹄しかない。
バッタによっては蔦を一生懸命食べてて俺たちの存在に気付く前に
退治されてる。
そもそも、るびのと俺の探査能力からは逃れられるはずもなく飛び
出てくる前に退治しちゃってる。
雑食バッタの通常ドロップ品はなぜか﹃薬草﹄が出てくる。
レアドロップは﹃質のいい薬草﹄と、もはやバッタの意味があるの
かと頭を抱えたくなるほどの意味不明なドロップアイテムだな。
魔石は全くドロップしないし、この雑食バッタには亜種は存在しな
いらしい・・・ちょっと飽きてきたなって頃に地下2階へと続く階
段に到着して降りていく。
1348
ブランディックスダンジョンの﹃残念さ﹄は凄いっす。︵前書き
︶
9・28修正しました。
1349
ブランディックスダンジョンの﹃残念さ﹄は凄いっす。
ブランディックスダンジョンの地下2階に出てくる昆虫魔獣は﹃ト
ンボ﹄は昆虫魔獣でもちょっと特殊。
1mぐらいの大きさで飛び回ってる。
肉食でもそこまでのスピードを出すことは出来ないので異様な昆虫
への恐怖はないけど・・・攻撃はシビレ酸液を口から発射してくる。
シビレ酸液は鉄鋼の武器・防具を溶かしてくる。意外と酸の力は強
くてオーガ鋼をも脆くさせるほどの力はあるが、ミスリルや魔糸溶
解液などでコーティングされてると威力はほぼなくなってしまって
被害は激減する。魔糸溶解液でコーティングした荷馬車の幌すら解
かせないからだ。
シビレ酸液がむき出した皮膚に付着すると火傷したようにただれて
しまうのだが、痛覚が麻痺させられてしまっているので痛みがない
のが怖いところだな。
るびのが自在に操る雷の矢﹃雷撃アロー﹄と俺の早乙女強弓の前で
はシビレ酸液を吐き出すヒマもなく狩られてしまってるけど。
・・・るびのの雷撃アローは賢者スキルをマスターしている俺には
ない魔法で、るびの以外には雷の精霊のみが操ることが出来る﹃精
霊魔法﹄となってる。精霊独特の魔法みたいで雷の精霊は防御にし
か使えない魔法だけど、るびののような聖獣だと攻撃魔法として使
用出来るようだな。俺は白扇子を装備している時だけ使用可能にな
った・・・
このブランディックスダンジョンはただひたすら魔獣を倒すだけの
通常ダンジョンではない。
1350
シーフ職のトラップ解除の練習用ダンジョンになってるほどのトラ
ップの数と種類が豊富にあるので、浅い階層のダンジョン序盤は敵
の数よりもトラップの数の方が圧倒的に多い。
嫁3人をサポートするセバスチャンとマリアの5人にトラップの解
除は全部任せて、るびのと俺は時々ポップアップしてくるトンボを
ひたすら狩り続けた。
トンボの通常ドロップアイテムは15cmの正方形の魔道石英ガラ
ス板で厚さが5mmほど。
レアドロップアイテムは魔道石英ガラスの立方体で一辺の長さが3
0cmもある。
なぜダンジョンのトンボのドロップアイテムで魔道石英ガラス板が
出てくるのか?
理由はさっぱりはわからないけど魔道石英ガラスは用途が広くて俺
が欲しかったアイテムでもある。
ドロップアイテムの不純物を含まない魔道石英ガラスは地球の石英
ガラスと性質がまったく違っていて、魔道石英ガラスの中に大量の
魔力を内包しているので薄く加工して折り曲げることすら可能にな
ってるのだが、内包されている魔力は拡散して消滅しやすいために
何らかの製品に加工する際には職人は熟練の技術を必要とする。
これだけあればキャンピングバス・ハウスボート・魔力パワーボー
トなどの運転席の全面展望ガラスは、魔道石英ガラスに変更できる
位は集めることが出来た。
これらの展望席のガラスは今までは結界で守られてはいたのだが普
通のガラスだった。
早乙女邸は魔道石英ガラスを使用しているし、ヨークルとシーパラ
のもふもふ天国2店舗は石英ガラスを使用。
早乙女商会の事務所も石英ガラスを使っているので、今日の狩りで
全部を魔道石英ガラスに変更できるようになったな。
1351
とりあえずは俺のアイテムボックスに入っているキャンピングバス
と魔力パワーボートで使われているガラスは全部魔道石英ガラスへ
と変更しておく。
ハウスボートは夜にでも取替えに行くようにセバスチャンに指示し
て、既にハウスボートのサイズに合わせて加工した魔道石英ガラス
をアイテムボックスに送る。
早乙女商会事務所やもふ天のガラスは今日の営業終了後にでも魔道
石英ガラスへと変更するようにメイドゴーレム達に指示を出し、こ
れもサイズを合わせて加工した魔道石英ガラスをそれぞれのメイド
ゴーレムのアイテムボックスに送った。
トンボも雑食バッタと同じで魔石・魔結晶・魔水晶のドロップはな
い。
亜種も存在しないと購入した解説付きMAPに書いてある。
るびのと俺の遠距離攻撃で安全な場所から狩りをしているのに安心
して嫁たちはトラップ解除に全力で立ち向かっている。狩ったトン
ボのドロップアイテムは転送魔法で自分のアイテムボックスに取り
寄せているので嫁達にはなるべく集中してトラップ解除の練習をし
てもらう。
このまま練習すればアイリ・ミー・クラリーナの3人はもうすぐト
ラップ解除スキルが発現するだろう事を見越している。
ブランディックスダンジョンの地下3階に入ってから嫁3人にトラ
ップ解除スキルが発現してトラップ解除のスピードが一段上がって
目に見えて早くなった。
地下3階の出現する魔獣は﹃軍隊アリ﹄なんだけど・・・これは体
ダンジョンだけ
長が30cmほどでソロでポップアップしてきて、アリの昆虫魔獣
なのに﹃いっさい群れを作らない﹄という特殊な
に現れるアリ魔獣だ。
1352
アリの怖さは集団での攻撃なのでここに出てくる軍隊アリは怖くも
なんともないと言っても良いだろう。
このブランディックスダンジョンの地下30階のボス部屋を発見し
た時に現れたのは体長3cmほどの﹃甲殻軍団アリ﹄で数千匹以上
の軍団が複数存在している。
ボス部屋の中は蔦が生えてなくて幾つかのアリ塚があるだけだった
ので火魔法の制限がなくて火の範囲魔法が使用できたからクリアー
出来たのだろうと、冒険者ギルドシーパラ支部にいたアイリたちの
知り合いから教えてもらった。
クリアーしたチームの中に火魔法の範囲攻撃が出来るメンバーがい
て、たまたまその人物が風の精霊本を装備して魔力を補える&風の
精霊魔法の防御魔法がかかっている状態だったのが勝因だとブラン
ディックスの町で購入したMAPの解説にも書いてある。
軍隊アリは大きくて見やすく物理攻撃が可能だし退治は簡単に出来
るのだが・・・甲殻軍団アリは小さくて見難いし物理攻撃はほとん
ど効かない・・・アリが小さ過ぎ数が多いので物理攻撃で全てを退
治してるヒマはないし、踏んだぐらいではつぶれもしないほどの強
度を持ってる昆虫魔獣だ。
甲殻軍団アリには羽が生えていて立体的で組織的な攻撃をしてくる
というイヤらしい波状攻撃をしてくるのだ。
だから地下30階はダンジョンが発見されてから数百年以上もの間、
長らくクリアーできなかったと言われている。
ボス部屋にたどり着いても生きたまま小さなアリに喰らい尽されて
しまい、今まではたどり着いた冒険者が数の暴力で全て狩られてし
まっているのだろう。
今までブランディックスダンジョンはトラップが異常なほど多い割
にはドロップアイテムがしょぼいのでシーフ職の練習でしかダンジ
1353
ョンに入ってこないという冒険者は多いし、稼げないダンジョンな
ので高レベルの冒険者は最近まで見向きもしなかったのだった。
俺が探査魔法で探り取った情報でも地下10階と20階もボス部屋
は同じように﹃小さな昆虫魔獣の数の暴力﹄がネックになっていて、
ボス部屋に幾つかのチームが既にたどり着いていても全員が狩られ
てしまっているようなので・・・ボス部屋をクリアーして地上に戻
ってくる人がいなければ新たなる発見には繋がらない。
アイリ達が冒険者ギルドで集めてきた話では相当数のチームがブラ
ンディックスダンジョンから帰還せずに消えているらしいので、も
しかしたらボス部屋に行って無謀な挑戦をしてヤバイ敵が出てきて
食われているのだろうという噂があるみたいだった。
地下10階のボスは体長5cmぐらいの﹃肉食スチールバッタ﹄が
ボス部屋に500匹ぐらいいるし、地下20階のボス部屋には体長
10cmほどの﹃装甲カミキリ﹄が200匹ぐらいいる。
ボスをクリアーする最低条件は範囲魔法攻撃が出来る魔法使いがい
て、範囲魔法防御もしくは物理防御結界を作ることが出来る魔法使
いがいないと無理だろう。
﹃肉食スチールバッタ﹄と﹃装甲カミキリ﹄は火魔法はダンジョン
の構造上効果が1/4にまで減らされるのでほとんど効果がなくて、
どちらの魔獣も雷魔法が弱点なので雷の範囲攻撃魔法が劇的に効果
がある。
しかもどちらの魔獣も名前の通り物理防御力は高く空中に飛んでい
るときに大剣のように叩きつける武器で攻撃しても跳ね飛んでいっ
てしまうだけで物理攻撃では切るのも潰すのも難しい昆虫魔獣だ。
俺1人で入っていくなら全部切ることはできるけど嫁が3人いるの
で範囲攻撃魔法の方が手っ取り早いだろう。
このブランディックスダンジョンは雷魔法が有効な魔獣ばかりなの
1354
で、雷を自由自在に操ることが出来る白扇子の方が簡単に殲滅でき
るし、白扇子を装備した俺と雷魔法を自由時自在に操ることの出来
る聖獣るびのの組み合わせは最強だろう。
そんなブランディックスダンジョンのボスの事を並列する思考で考
えながらも、るびのと襲い掛かる軍隊アリを交代で退治していく。
軍隊アリの通常ドロップアイテムは﹃アリ甲殻板﹄で5cmで厚さ
1cmの正方形の板がドロップする。
レアドロップアイテムは15cmの正方形になって9倍、厚さは3
倍の3cmの大きさになるだけだ。
アリ甲殻は鎧などの甲殻鎧にはできない。あまりにも火耐性が低過
ぎるのだ。
だけど水耐性が異常なほど高いのでゴーレム船のウォータージェッ
ト推進の配管の内側に貼り付けて使用すると、耐久性が他の金属と
は比較にならないほど伸びメンテナンスも必要なくなるほどだ。
しかも80℃∼100℃までの熱湯で簡単に加工することができて、
熟練の職人ともなると厚さ0.1mmぐらいまでアリ甲殻板を薄く
伸ばす事が出来るので使い勝手のいいドロップアイテムだな。
金属類とアリ甲殻板の組み合わせにすると安価で使い勝手の良くて
耐久性にも優れている素材になる。
ただ・・・アリ甲殻板は子供の小遣い稼ぎにしかならないほど安価
に取引されてる素材だ。
大草原にも大森林にもたくさんのアリ魔獣は住んでいるし、寿命は
1年ぐらいしかもたなくて水に強いという特性上、アリの屍骸は年
月をかけてゆっくりとしか風化せずに大草原や大森林のあちこちに
残ってるのだ。
﹃アリの甲殻拾い﹄は冒険者ランクGの子供が﹃溶解蜘蛛の糸玉拾
い﹄と並んで生活費・小遣いを稼ぐような仕事で、冒険者ギルドの
学校に通いながら小遣いを稼いでる子供専用の依頼だったりする。
1355
袋に大量に詰めて大草原と大森林を移動してるだけで基礎体力をア
ップできるし。
キッチンのシンク周りのような熱湯を使う場所には向いてないが水
道管はもちろん、お風呂ぐらいの温度までは耐えることが出来るの
で、トイレ周辺とかの水周り作業をする場所や船舶など用途はメチ
ャクチャ広範囲なので魔糸溶解液とセットで加工する職人は都市部
では数多く存在してるし、シーパラ連合国は物流の中心が船舶を使
用しているので木っても切れないアイテムだ。
そこら中に落ちてるので必要な時もセバスチャンたちが集めてきて
くれていたので、俺も今まで積極的に集めてこなかったし、ストッ
クとして溜め込んでもいなかったので今日の狩りでストックを貯め
る事が出来た。
嫁3人が協力して地下3階の全てのトラップを解除してからブラン
ディックスダンジョンの地下4階に降りる頃にはkg単位でアリ甲
殻板がストックされていった。
地下4階に続く階段を降りながらアイリたちと雑談する。
﹁今日はダンジョンに入ってからずーっとトラップ解除作業で頭を
使っていて・・・慣れない解除作業でちょっと精神的に疲れてきた
わね。それでねぇ、しん君にお願いがあるんだけど歩きながらでも
カジれるような甘いものがちょっと食べたいなと思ってるんだけど・
・・いいかな?﹂
﹁いいよ。どんなモノが食べたい?﹂
﹁私は甘くて歯ごたえが欲しいな﹂
﹁ミーは甘さと歯ごたえね﹂
アイリの為に持っているフルーツをドライフルーツにして渡してあ
げる。以前もドライバナナの食感が美味しいってミーは言っていた
からな。全員分を作って渡す。自分の分も作ってかじりながら歩く。
﹁アイリはどういうのがいいの?﹂
1356
﹁私はチョコが食べたいな。しん君のお手製のチョコ新製品はある
?﹂
﹁ほいよー﹂
俺はクロワッサンの中心に棒チョコを入れて焼き上げた。焼き上げ
た後に急速に冷やしてちょっとだけ融けたチョコが固まって・・・
歩きながら自分が大好きなチョコクロワッサンを作ってあげた。
自分でも食べたけどこれは大成功だな。ミーも大絶賛してくれたし
アイリとクラリーナも美味しいといってくれたので、オヤツでも食
べやすいように小さめのサイズのチョコクロワッサンをアイテムボ
ックス内で大量に作っておく。
﹁クラリーナは何が食べたい?﹂
﹁私は前に食べた綿菓子がまた食べたいのですがよろしいですか?﹂
﹁いいよ∼﹂
みんなの分の綿菓子を作って渡す。こっちも美味くできた。
ここでマヅゲーラの街にいる徒影から念輪連絡が入ったので嫁達と
ダンジョンアタックを継続しながら並列する思考で会話を始める。
﹁ご主人様、マヅゲーラの街にいる徒影1号です。以前からご指示
のありましたマヅゲーラの街に売られてきた元シスターの女性3人
を発見して先程保護させていただきました﹂
﹁おおお、見つけたか。流石に時間が掛かったみたいだなぁ。3人
の体の具合はどうだ?﹂
﹁あまりにも酷い状態ですね。働かさせていた店の人間も全員拿捕
しました。シスター達の治療は私たちでは不可能ですので連絡させ
ていただきました。ご主人様が治療なさいますか?﹂
﹁今回の件で俺が治療することが最善とはとても思えないんだ。悪
いが少しの時間そのまま待機していてくれ﹂
﹁はっ。了解です﹂
1357
俺はここで露草桜に贈ったクマ型メイドゴーレム﹃シェリアス﹄に
念輪回線を開いて話し始める。
﹁シェリアス、桜と話がしたいんだが今いいか?﹂
﹁わかりました。何から伝えましょうか?﹂
﹁元枢機卿によって売られしまったシスター3人がマヅゲーラの街
で発見できた。今は任侠ギルドで保護しているので桜が直々に迎え
に来て欲しい。迎えに行って欲しい理由はただ1つ・・・3人の女
性の身体的ダメージがかなり酷い状況にあるってことなんだ﹂
﹁桜様の了解がいただけました。明日の早朝に高速便に乗ってマヅ
ゲーラに向かう為にと只今手配中です﹂
﹁3人の女性の心身的なケアを頼む。アマテラス様の奇跡の力を使
ってくれとお願いしておいてくれ。バックの組織はこちらから根こ
そぎ引きずり出して一緒に差し出すから、国軍と聖騎士団も一緒に
連れて行くように頼む。ではまた追加情報が入ったら連絡する﹂
﹁了解しました。全て伝えておきます﹂
シェリアスとの回線を切って徒影1号に回線を戻した。
﹁徒影1号聞こえるか?﹂
﹁聞こえていますご主人様﹂
﹁3人の保護したシスターを隠して働かせていた連中は全員確保で
きたか?﹂
﹁用心棒3人・従業員5人の8名は隷属の首輪をはめて連行してき
て、今は任侠ギルド本部の中で強制的に情報を引き出している最中
です。後、3人のシスターと一緒に保護した女性が10人ほどいま
して、こちらも確保させてもらってるのですが・・・どうしましょ
うか?﹂
﹁やっぱり他にも女性はいたか・・・保護した女性はとりあえずの
ところは任侠ギルドサブマスターの﹃マナガルム・ブラム・アバル
ニア﹄にまかせよう。俺にはどうにも出来ないし露草桜にそちらも
引き渡していく形になると思う・・・俺に出来る手伝いが欲しいか
1358
マナガルムに聞いておいてくれ﹂
﹁了解いたしました。ではマナガルム様と話し合いをさせていただ
いてから、またご主人様に連絡させていただきます﹂
﹁おぅ、たのんだぞ﹂
今まで並列する意識を使って念輪で会話していたが徒影と念輪回線
を切った。
3人のシスターを含む13人の女性は教会でケアしてもらうしかな
いしな。
露草桜の使用する﹃太陽神アマテラスの奇跡の力﹄に任せることに
する。
クラリーナはたまたま偶然上手くいったが同じように解決は出来な
いだろう。
ブランディックスダンジョンの攻略に意識を戻す・・・ダンジョン
地下4階に出てくる魔獣は﹃カマキリ﹄で、これもソロでしか出て
こない魔獣。
嫁3人とマリアとセバスチャンでトラップを解除をしている中で俺
とるびので魔獣を狩っていく形はそのまま継続してる。
俺の使ってる武器の早乙女強弓から放たれる矢は、体長2mぐらい
ある巨大カマキリを1撃で葬り去ってしまうほどの破壊力を誇る。
るびのも空中を走って前足の1撃でカマキリの頭を吹き飛ばしてい
る。
カマキリのレアドロップアイテムは﹃カマキリの片手鎌﹄となって
る。カマキリの甲殻のみで作られてて金属は一切使われていない。
片手鎌で刃渡りは25cmでグリップも25cm。
グリップエンドに手首に絡める1mほどの長さのヒモ︵?︶までつ
いてて本格的な片手鎌になってる。
早乙女強弓をアイテムボックスに入れてから片手鎌のヒモを両手首
1359
に装備して練習がてらに使用して振り回してみるが・・・かなりの
欠陥品だなコレ。
グリップまで含めたカマキリの片手鎌の全てが甲殻のみで作られて
いるので、重さが余りなくて振り回して切ることは出来るが、振り
回してから鎌の先端を敵に突き刺すには重さが金属製の片手鎌に比
べて圧倒的に足りないので遠心力でぶん回せないし、突き刺すこと
が出来ない感じがする。
・・・武器として欠陥品出しかないな。
ただ、甲殻の特性で薄い刃なのにビヨンビヨンと
ダンジョンの壁に生えている蔦で鎌の先端の切れ味を確かめてみた
が、そこそこぐらいなので売り物にはなりそうにない・・・形状は
完璧なのに﹃残念な武器﹄って感じだな。
カマキリの通常ドロップ品は鎌の刃の部分だけが欲しかったんだけ
ど上手くいかないもんだな。
通常ドロップアイテムはカマキリの足だった。
食用で殻ごと焼いてからとうもろこしのように剥いて食べるとそこ
そこ美味しいってぐらいの足が1本出てくる。ドロップするアイテ
ムを見てるだけでブランディックスダンジョンの残念さがわかる。
カマキリの足なんてドロップしても、ただただ残念なだけだ。
コレだからブランディックスダンジョンは隅から隅まで全部調べつ
くされずに残っていたんだろうな。
今は探索ブームになってるけど被害が相当あるみたいだからいつま
でブームが続くのかは不明。
・・・俺にクリアーして欲しいのか?
1360
530年も寝るだけってのはツライっす。
ブランディックスダンジョンの地下4階のトラップ解除が全部終わ
ってから地下5階にむかった。
地下5階は﹃ゴブリン﹄でゴブリンが全員弓兵ばかりの﹃ゴブリン
アーチャー﹄のみ。
装備を弓から変更してシールダーをすることにした。
攻撃はるびのに全部任せて俺はアイリが本気の時に使っているよう
なホームベース型でトンファーのような盾をアイテムボックスで急
遽作成して左右に二枚使用している。
トラップ解除テクニックを学んでいる最中の嫁3人にそのまま頑張
ってもらってるので、俺は邪魔させないように盾に当たる矢の音す
らも吸収させて、るびのと雑談しながら時々飛んでくる矢を捌き続
ける。
嫁たちの近くにポップアップしたゴブリンは俺が盾で殴って撲殺す
る。
ゴブリンアーチャーは通常ドロップアイテムが﹃矢﹄でレアドロッ
プが﹃短弓﹄だった。
コレも非常に残念としか言いようがないほどの粗末なドロップアイ
テム。
やじり
短弓は子供が作ったオモチャみたいなレベルの弓だし、矢は先端に
骨の鏃がついてる木製の矢ってぐらいで語ることすらない粗末な弓
だった。
シーフの弓職は多いだろうし短弓の練習用でしか使えないな。
何かの素材になるかも知れないんで全部拾い集めてるだけで、地下
5階まできて欲しいと思えるアイテムがほとんど出てこないダンジ
ョンに戸惑ってる。
1361
跳んでくる矢もアイテムボックスの中に入れられるので盾で捌いて
アイテムボックスに入れているとドンドンと矢が溜まっていく。
クラリーナが練習用で欲しいというのでこの地下5階の階層をクリ
アーしてからまとめて全部クラリーナに渡した。
地下5階には﹃宝箱部屋﹄があったのでトラップ解除の練習の為に
宝箱部屋に挑戦してみたら・・・ここでもポップアップして出てき
た敵はゴブリン5匹で全員で瞬殺・・・まずはお手本代わりに俺が
宝箱のトラップを説明しながら解除してみると宝箱の中身は刃渡り
40cmのショートソードだった。
コレも子供の練習用でしかない程度の全部鉄製のショートソードで
1本5kgと重さだけがやたらある。
﹃切れ味ってなに? 美味しいの?﹄という最低レベルの切れ味し
かなくて、もはや鉄製の棒だな・・・ってところも練習用としては
最適かもしれん。
嫁は3人いるので宝箱解除の練習で宝場部屋も後3回やってみた。
ここの宝箱で出てくるアイテムはショートソードしかないみたいだ
な、合計4本のショートソードはアイリが双剣の練習用で貰うと言
っていたのでそのまま渡す。
このフロアーになって初めてこのダンジョンで魔石がドロップした。
このダンジョンの特性なのか少し水色に光って水属性の魔石だった。
これはゴーレム船の動力はウォータージェット方式なので機関部分
で使うと魔力効率がよく、パワーも得られるのでゴーレム高速船で
はこの水特性を持つ魔石が大量に使用されている。
市場では高値で取引されているドロップアイテムがこのダンジョン
で初めて出てきたな。
俺は魔石はたくさん使うので売らないけど。
このフロアーの魔獣部屋は必ず水属性の魔石が1つ以上は出てくる
1362
ので、四六時中いつでも50人以上が並んでいるほどの大人気だ。
このダンジョンではほとんど稼げないから冒険者にとっては生きて
いくために、ここの魔獣部屋のようにある程度は安全で稼ぐ手段が
必要になる。
だから夕方以降はこの地下5階のフロアーはムチャクチャ混んでく
ると、購入したMAPの解説に書いてあった。ゴブリンは初心者の
冒険者ですら簡単に退治できる非力な魔獣だし、この地下5階には
5匹以上は出てこないみたいだからな。
MAPの解説の中の但し書きでこの魔獣部屋は大人気なので中で休
憩しないようにと書いてる。
大人数で効率的に部屋を使用するには仕方がないだろう。
隣にある休憩室︵小︶はトイレが設置してあるので﹃みんなできれ
いに使いましょう﹄と、MAPの解説にも休憩室の前の看板にも書
いてあった。
るびの
魔獣部屋に並んでいてヒマを持て余している冒険者たちから、チー
ム早乙女遊撃隊の﹃女3人・俺・虎のテイム魔獣・クマ型ゴーレム
めいきゅうきゅうけつが
2体﹄という特殊なチーム編成をジロジロ見られるのがイヤでサッ
サと地下6階に移動する。
げんかくりんぷん
地下6階で出てくる敵は﹃迷宮吸血蛾﹄だ。
攻撃は﹃幻覚鱗粉﹄を撒き散らして抵抗できないように幻覚の世界
に連れて行き、口の部分が蛇のように自在に動かせる長いストロー
のような針になっていて、突き刺して血を吸い取る昆虫魔獣だと解
説に書いてあるので、俺は装備していた盾をアイテムボックスに入
れて白扇子を腹の前のホルダーに入れて装備。
﹃風精霊乱舞﹄
と、装備した白扇子を使って呼び出した直径2cmほどの小さな風
の精霊を200ほどを周囲に舞わせて鱗粉から防御させることにす
る。チーム早乙女遊撃隊に幻覚にかかる者は誰もいないんだけど・・
1363
・気分の問題かな。
馬鹿デカイ蛾の鱗粉なんて吸い込みたくないしな。
攻撃は俺とるびのの雷魔法で80cmほどの大きさの迷宮吸血蛾を
退治する。
探査魔法で気配を探り雷魔法で遠距離攻撃で一撃。近くにポップア
ップしても、るびのが叩き落して終了っていう簡単な作業だな。
迷宮吸血蛾の通常ドロップアイテムは﹃幻覚粉﹄で・・・武器加工
用の素材だな。コーティング剤に混ぜて使用したり、剣の鞘の内側
に仕掛けたり罠で使ったりと様々な用途があるみたいだ。
幻覚魔法効果を倍増させたりするのにも使用する。
レアドロップアイテムは﹃吸血鞭﹄だ。吸血鞭は鞭といっても革製
ではなくて、迷宮吸血蛾のクチの部分が鞭になってる。
森林モンキーの尻尾のように伸び縮みする不思議な鞭で普段の長さ
は1mぐらいなのだが、おもいっきり伸ばすと5mぐらいにまで伸
びる。
鞭の先端にはなぜか石製の針が付いていて針は注射針のように中心
は空洞、そこには魔法加工されているのか突き刺した敵の血液を吸
い出し、石針とチューブのツナギ目部分から放出し続けるから﹃吸
血鞭﹄の名前の元なんだろう。
見た目は鞭というより地球で見た﹃点滴用のチューブと注射針﹄な
ので・・・・鞭ではなくて手のひらの中で隠して使って攻撃をする
暗殺用の武器﹃暗器﹄に近いかもしれん。
幻覚粉も吸血鞭のどちらもそこそこ高価な値段で取引されているみ
たいなので、ここの地下6階のフロアーにも冒険者は多いと思って
いたけど・・・誰もいない。
幻覚鱗粉は幻覚覚醒作用のある草の葉をガムのように噛み締めてい
るだけで幻覚の効果は消せるのに・・・やはり覚醒作用のある草の
葉がクソ不味いし、蛾の鱗粉を吸い続けるのって気分も良くないか
1364
らだろうな。
ここまできて嫁たちのトラップ解除の腕は大幅に上がってきていた
ので地下6階をクリアーするのは早かった。ここには魔獣部屋も宝
箱部屋もなかったし、時刻も16時を過ぎてそろそろ休憩したい時
間になってきてるのでサクサク前に進んでいく。
このブランシックスダンジョンには他のダンジョンのような夕方以
降の冒険者ギルドランクの制限はない。
ただフロアーに出てくる敵の数が増えるだけで亜種が全く出てこな
いからだ・・・今までは。
ボスが倒されて開放された地下30階のフロアー面積が9倍に広が
った場所には今まで発見されていない昆虫魔獣の亜種がたくさんい
るようなので、もしかしたらボスのいる地下10階・20階にも今
後は出てくる可能性はある。
次の地下7階に降りる前に全員の装備を整える事にする。
ブランディックスダンジョンの地下7階はトラップは全くない特殊
なフロアーになってる。
敵が2mぐらいの大きさの蜘蛛なので蜘蛛の巣全部がトラップに分
類されているのかもしれんが。
蜘蛛の名前は﹃蔦蜘蛛﹄で木魔法を操り蔦で巣をつくり蔦で攻撃し
てくるし、どんぐりのような硬い木の実を飛ばして遠距離攻撃もし
てくる変な蜘蛛だとMAPの解説に書いてあった。
なので俺は白扇子をアイテムボックスに戻して二刀流に戻り、アイ
リも大剣を装備して手に持つ。
ミーはロードクイーンのエストックからサイラスの片鎌槍に変更し
た。
クラリーナの防御はセバスチャンとマリアに任せる。
階段から降りて転送部屋の横まで行くと中から蔦が溢れ出んばかり
にワサワサと蠢いている。
1365
この地下7階は迷宮なのにボス部屋のの様なワンフロアーになって
いる。
他の﹃魔獣部屋﹄﹃宝箱部屋﹄﹃休憩室︵大・中・小︶﹄の5部屋
が扉で区切られているだけのフロアーだ。
巨大な空間には柱もなく蔦蜘蛛の木魔法によって蠢く蔦が冒険者の
進行をひたすら邪魔するだけ。
まずはそろそろトイレ休憩だなと、降りてきた階段から1番近い休
憩室︵中︶にチーム早乙女遊撃隊は向かい蔦を切り裂いて一直線に
歩いていく。
との違いは接着するのにかかる時間
蔦蜘蛛の通常ドロップアイテムは﹃接着液﹄で、レアアイテムが﹃
強力接着液
強力接着液﹄と書いてある。
普通の接着液と
だけで接着力そのものに違いはない。
だけどこのブランディックスダンジョンの特性なのかこの接着剤も
﹃熱に弱い﹄という性質を持っているので素材加工などで溶かして
融合させる時のツナギの素材ぐらいにしか使い道がないという・・・
これまた非常に残念なアイテムだ。
数匹討伐したところで休憩室にたどり着いた時に肌に感じた違和感。
蔦蜘蛛は捕らえた獲物を蔦で包んで溶解液を注入する。
殺害するのは木魔法の睡眠効果をつけた溶解液でドロドロに溶かし
た後に、液を飲んで食事をするのが蔦蜘蛛の習性になる。ドロドロ
の液体状に解けるまで毎日溶解液注入を繰り返す。
今、退治した蔦蜘蛛の巣の下にあって巣の蔦に絡まっている、かな
り古ぼけた蔦球の中にかすかに生命力を感じる。
俺が目の前の休憩室にも行かずに蔦蜘蛛の巣の方に歩んでいくのに
疑問を感じたクラリーナが話しかけてきた。
1366
﹁しん様、どうかなさったのですか?﹂
﹁あぁ、あそこにある巣の中の蔦球の中にかすかな生命力を感じる
んだ・・・ちょっと待っててくれ﹂
俺は生命力を感じる蔦球をみんなに指差してから、ピョンと跳んで
蔦球を掴み取って蜘蛛の巣から引きちぎって、また元にいた位置に
歩いて戻ってくる。
木魔法の﹃蔦解除﹄を使用して直径80cmほどの蔦球を開いて中
くうこ
身を取り出すと、出てきたのは体高60cmほどの3本の尻尾を持
てんこ
つ金色のキツネ・・・鑑識魔法で調べると﹃空狐﹄の幼生体だった。
くうこ
空狐﹃フォクサ﹄
種族 妖狐︵神獣︶
年齢 3530歳
性別 メス♀
所属 早乙女真一
狐魔獣が1000年生きると妖狐に転生して天狐となる。天狐は9
本の尻尾を持つ。
天狐となって3000歳を超えると尻尾は3本となって空狐に転生
する。
白帝の従属神で神獣の部類にあたる。
500年前のウェルヅ帝国によって引き起こされた﹃白虎戦争﹄で
人間によって討伐されていない唯一の白帝の従属神。転生した先が
ブランディックスダンジョンの地下7階の蔦蜘蛛の前だったのです
ぐに捕獲されて溶解液を注入されたが神獣が解けるはずもなく、た
だひたすら530年間も蔦の中で寝てる。
俺はorzと崩れ落ちた。
またこのパターンかよ・・・530年間寝てるって・・・なんだそ
りゃ。
るびの・みかみと聖獣が続いてたけど今度は神獣かよ。
1367
とりあえず蔦球の中でドロドロになっているフォクサの体を3点セ
ット魔法でフカフカに浄化した。
さすが神獣だ・・・るびのと比べても遜色ないほどモフモフしてる・
・・ってとりあえずそんなことは後回しにして、みんなに話してお
かないとな。
嫁達に俺が鑑識魔法で調べたことを説明し終えた頃にフォクサが目
を覚ます。
﹁・・・はりゃ? あぁ、白帝様おはようございます。わざわざワ
タシを起こしに来たってことは仕事っすか?﹂
﹁フォクサさん、おはようございます。早乙女るびのです﹂
﹁ムニャムニャ、ワタシまだ寝ぼけてるな。白帝様がワタシをフォ
クサさんって呼んでるっす・・・って白帝様に﹃るびの﹄って名前
が付いてる!﹂
いきなり大きな声を出して飛び起きたフォクサに全員の挨拶もあわ
せて、目の前にある休憩室に入って自己紹介することにした。
休憩室で雑談交じりに休憩しながらフォクサを交えて話し合う。
530年間何も食ってなかったフォクサは相当腹が減っていたみた
いだが、るびのに骨付きトロール肉の炙りを貰ってバリバリ食って
た。
﹃トロールって焼くとメチャクチャうめぇ!﹄と喜んで食ってる。
フォクサの食事中にアイテムボックスからキャンピングバスを取り
出してトイレを交代で済ませてから雑談する。
キャンピングバスにフォクサが座るために専用クッションを作って
あげた。
﹁ワタシが寝てる間に色んなことがあったんすね。でもやっぱりワ
タシが睨んだとおりだったっす。ウェルヅ帝国の皇帝﹃エリギア・
フォン・ウェルヅ3世﹄は有能であるがゆえに最後の望みは﹃不老
1368
不死﹄になると白帝様にお知らせできればよかったんすけど・・・
まさか、連絡する前に強制的に転生させられてしまって、しかも転
生した先で蔦蜘蛛魔獣に即効でつかまって眠らされるとは思っても
みなかったっす﹂
﹁エリギア皇帝って優秀だったんだ・・・俺たちには全く情報がな
くて知らなかったよ。知ってるのは﹃10年でウェルヅ帝国を魔法
超大国に作り変えて慢心し、聖獣の逆鱗に減れるほどの暴走をした
最後の皇帝﹄ってぐらいの伝承が残ってる程度かな﹂
﹁ワタシが転生する前にエリギア3世を調べ上げた限りでは神話や
古代からの伝承を調べていて、魔法やアイテムでの不老不死を直属
の﹃魔導師アカデミー研究所﹄に研究させていたっす。それで伝承
の中の話にある白帝様の噂に必ずたどり着くと思ってたっす﹂
﹁るびのの噂? 伝承ってどういうことなんだ?﹂
﹁ハイ、説明させてもらうっす早乙女さん。白帝様には人間の世界
で噂されている伝承が2000年以上前の古代からいくつかありま
して、白帝様を討伐すると﹃聖力の雫﹄がドロップアイテムで手に
入って、それを飲むと永遠に生き不老不死になれるという伝説っす・
・・ウソっぱちなんすけど。そもそも白帝様を討伐しても何もでな
いっす﹂
﹁・・・やっぱウソなんだ﹂
﹁100%ウソではなくて白帝様のような聖獣様の﹃眷属﹄になれ
ば生命力が倍増して1000年生きられるようになります。魔獣の
ような生命体が1000年以上生きた後は従属神に転生してワタシ
と同じ立場になるだけっす。しかも従属神なんで転生先はランダム
でどこに出てくるのかわからないし、従属神となっても﹃寿命がな
くなる﹄ってだけで、自身の持つ生命力以上の攻撃を喰らうと死ん
で消滅するっす﹂
﹁でもフォクサは何でるびのを討伐しても何もでないって知ってる
んだ?﹂
1369
﹁白帝様に直接教えていただきましたし、ワタシと同じ立場の従属
神だったアニキ達に聞いたっす・・・そういえば白帝様、アニキ達
は?﹂
俺がるびのを拾った経緯を話し始めるとそろそろ夕方5時とダンジ
ョンアタックを切り上げるのにいい時間になったので帰還すること
にした。
嫁3人とるびのの早乙女邸への帰還はマリアに任せて、俺はアイテ
ムボックスにキャンピングバスを片付けてから、フォクサを連れて
シーパラの早乙女工房ビルに転移する。
フォクサが俺たちと一緒に・・・というよりも、るびのと一緒に今
後は行動したいと言ってるのでフォクサをチーム早乙女遊撃隊所属
の魔獣登録をしに冒険者ギルドに行かないといけなくなってしまっ
た。
セバスチャンにはシーパラの契約してる高級マリーナに停泊中のハ
ウスボートに単独で転移してもらって、魔道石英ガラスの交換や動
力部分の魔石を水属性の魔石へ交換、ウォータージェットの配管の
内部にアリ甲殻板への変更とコーティングなどなど、全部をアップ
デートしてきてもらう。
フォクサと歩いて冒険者ギルドシーパラ本部に行って幹部の﹃ペス
カト・ビッタート﹄を呼んでもらい、会議室でフォクサの魔獣登録
を済ませる。
狐魔獣はウェルヅ大陸ではグリーンウルフの次にポピュラーなテイ
ム魔獣で、フォクサは小さなサイズでいてくれてるいるし、子供の
うちからテイムギルドでは販売されているので全く目立たないので
ありがたい。
フォクサとの雑談中にわかったがフォクサも従属神になったので、
るびのと同じように大きさは自在に変えられるみたいだな。
1370
今はまだ腹が減って生命力が復活してないので、このまましばらく
の間は大きくなる事は出来そうもないと言ってるけど。
魔獣登録を終えてフォクサに念輪機能付きの首輪を装備させてあげ
ると、るびのとお揃いの色にしたんで仲間になれた気がして嬉しい
っすと言ってるフォクサ・・・いいのか?
まぁ、喜んでるんだからいいかと、あまり気にしないようにした。
歩いて冒険者ギルドシーパラ本部から早乙女工房ビルに戻りながら
フォクサに念輪を練習させる。
コレでるびのといつでも話せるようなったと教えると・・・もとも
と従属神と聖獣は霊的な繋がりがあって﹃霊話﹄が出来るって話だ
ったが、念輪だとパーティー回線で複数で同時に話が出来るように
なるのはありがたいっすとお礼を言われる。
早乙女工房に到着してビル内部駐車場からフォクサと共に早乙女邸
に転移する。
﹁早乙女さんもワタシと一緒で転移魔法が使えるんっすね﹂
﹁あぁ、そうだよ。フォクサも﹃賢者のマスター﹄なんだよな?﹂
﹁白帝様に眷属にさせていただいて1000歳を迎えて妖狐に転生
したときに賢者が発現して、今から1000年前の2500歳の時
にマスターになったっす。なにしろ師匠もいない状態でしたんでム
チャクチャ時間だけが掛かったっす﹂
﹁自力のみで賢者になったんかよ。フォクサってすげぇな﹂
﹁元々、狐魔獣ってのは魔獣の中でも﹃知識欲﹄が強い性格を持つ
者が多い種族なんす。それにワタシの場合は鑑識の魔眼を持って生
まれてきたもんですから白帝様に可愛がっていただきまして、﹃幻
影﹄﹃変化﹄などの魔法で人間社会の監視をしたり対外的な交渉が
ワタシの仕事だったっす﹂
などと雑談しながら早乙女邸内をフォクサに案内する。
1371
地下にたどり着いた時にフォクサがワインセラーの向かい側に自分
専用の部屋を作ってもいいかと聞いてきた。狐魔獣は元々ウェルヅ
大陸の最北の高山地帯に住んでいるので寒い場所を好んでいる。
それに岩山にあるような洞窟が好きなので気温設定まで全部を好き
なように部屋を作りたいらしい。
自分で全部作れるようなので、フォクサの好きなように作っていい
よと許可する。
フォクサが自分の部屋を作り始めたので俺は階段を降りて地下練習
場へ。
地下練習場ではアイリたちがクラリーナが弓の練習をしていたので
装備している防具のシルバードコートを弓の動きを妨げないように
少しだけ改良する。
アイリは双剣の練習をしていたので俺とミーとお揃いのサイラスの
甲殻鎧と甲殻ブーツを作ってあげる。
スピードと手数が勝負の双剣でフルプレートアーマーはおかしいか
らな。
甲殻鎧の性能は俺とミーの鎧に合わせたはずだが、俺の﹃神の創り
手﹄スキルの影響が入ってしまうので若干アイリの防具の方がっ防
御力が高そうだな。
ミーは師匠ゴーレムを相手にサイラスの片鎌槍の練習をしてる。
地下練習場の奥の壁際に弓専用の練習場を作ってあげた。
このまま晩ご飯まで嫁たちは練習を続けると言ってるので、俺は隣
のシャワールームで汗を流してから着替える。パーカーとカーゴパ
ンツとスニーカーのいつものようなスタイル。
シャワールームを出るとフォクサが巣穴を作り終えたみたいで、お
すわりして嫁たちの練習を眺めていた。
フォクサが作った巣穴の中を見せてもらってから、また早乙女邸の
案内を再開する。
1372
露天風呂を案内した時にフォクサも温泉が大好きだったみたいなの
で話が弾む。
ウェルヅ大陸の北部にはいたるところに露天の温泉があってフォク
サも何度も入ってるので大好きらしい。
るびのの部屋についてから今日はここで2人で晩ご飯を食べるそう
だ。
2人だけで話したいこともあるだろうしな。
ハウスボートの改良から戻ってきたセバスチャンが、るびのの部屋
に丁度やってきたので後の世話は任せて俺はリビングに行って休憩
する。
1373
今日の晩ご飯は中華風っす。
キッチンから凄く良い匂いがしてきたので覗きに行く。
キッチンではマリアとクロが晩ご飯の準備をしていて、今日のメニ
ューは中華だった。
チャーハン・餃子・春巻・卵スープ・青菜︵?︶炒め・エビチリな
どなどでエビのマヨネーズ炒めまであった。
俺もダイニングに移動してつまみ用でトロール肉を小さく切って唐
揚げを作ってから、少しアレンジして甘酢あんかけ風にしてお皿に
並べて完成だな。
食前なのでビールを飲み始める。
一緒に手作りチャーシューも切って並べる。俺がつまみを食べなが
らビールをチビチビと飲んでると、シャワーを浴びてサッパリした
嫁3人がアイリ・ミー・クラリーナの順番でダイニングにやってき
た。
﹁しん君今日は早くから飲んでるわね。私もワイン飲もうかしら﹂
﹁しんちゃん、今日はもう飲んでるんだね。私も飲んじゃお﹂
﹁ミーさんもビール飲むのですか? では私もいただくことにしま
す﹂
アイリがワインを飲み始めてミーもクラリーナも俺と一緒にビール
を飲み始めるとクロとマリアがダイニングテーブルに中華料理を並
べて今日の晩ご飯もスタートした。
嫁3人も生まれて初めて食べる中華料理に嬉しそうだ。
俺の持っている知識ではイーデスハリスの東の大陸には転生者が伝
えた正統派の中華料理があるみたいだけど、流石に西の大陸のウェ
1374
ルヅ大陸には僅かにしか伝わってきてないみたいだな。
一部の高級料理店や高級ホテル、それに最高評議会の最上階にある
展望レストランには伝わっていると聞いている。
俺にしても最高評議会の最上階展望レストランのメニューに中華料
理のメニューが載っているのを見て中華料理の存在を思い出したぐ
らいだしな。
今度は食料品市場で中華系の酒を探してこよう。
シーパラ連合国の他の大陸との玄関口である都市﹃ドルガーブ﹄に
は他の大陸から輸入されてきた商品や食品が数多くあるって、ドル
ガーブに本拠を置くフォレストグリーン商会の代表﹃グレゴリオ・
シーズ・フォレストグリーン﹄に直接聞いてるからドルガーブに行
って探したほうが早いのかもしれないな。
並行する思考で食事を楽しみながら嫁達と雑談しながら考え事して
る。
﹁それでしん様、フォクサは今後は私達早乙女一家と一緒に生活し
ていくと言ってるんですか?﹂
﹁あぁ、そうなるだろうな。でも3500年以上生きてきた彼女の
知恵はありがたいところもあるからな﹂
﹁それはそうね。私たちが知りえない知識はあると思われるわね。
でもしん君、フォクサの言葉遣いって女の子っぽくないし、ちょっ
とおかしくないかな?﹂
﹁フォクサって生まれたばかりの頃に起こった魔獣戦争の孤児で、
るびのに拾われて育てられたんだそうだ。それでフォクサがまだ幼
い頃は、るびのは今のフォクサの様なしゃべり方をしていて、それ
が今なお抜けないのは実の親のように育ててくれた、るびのへの感
謝の気持ちもあるから抜く気もないんだと﹂
﹁へぇ∼、るびのってフォクサ以上生きていて3500歳以上なん
て凄いんだねぇ。ところで明日のしんちゃんの予定は?﹂
1375
﹁明日の事なんだけど、俺はヨークルでもふもふ天国ヨークル2号
店を作ろうと計画してるんだってるんだ。もふもふ天国ヨークル店
で働くメイドゴーレムのイエロー達の報告では今日は1時間待ち位
の混雑さが出てて、早くこの店の2階でも作ってを店舗を広げるか
2号店を出して欲しいと客からひっきりなしに言われてるそうだ﹂
﹁店を広げるって? しん様ならすぐにでも出来そうなんでしょう
けど・・・いいのですか?﹂
﹁流石に今の店を2階建てにして広げるのはすぐにでもできるし、
裏の早乙女商会の建物を潰して2号店を作ることもすぐにでもでき
るんだけど・・・でも敷地面積的に無理があるな。それに昼から夕
方の込む時間は主婦が多いんで、住宅街に近い場所に2号店を作っ
て欲しいというリクエストもかなり多いんだ。だから明日は商業ギ
ルドヨークル支部に2号店の購入をするためにリーチェに会いに行
ってくるよ。それで店舗を購入したらそのまま改装して2号店の開
店準備に入るから・・・明日は一日掛かりになりそうだなぁ。みん
なはどうする?﹂
﹁私は今日はほぼ半日トラップ解除で頭を使ってて体は余り動かせ
てないから、ストレスが溜まってて明日は単純明快に暴れまわりた
いと思ってるんだ。行く場所はどこでもいい・・・アイリはどう?﹂
﹁ミーと一緒ね。私も暴れまわりたいからアゼットダンジョンに行
きたいな。地下11階より下に行くとパワー系の魔獣が多くて暴れ
られるんだよね﹂
﹁アイリさん、地下11階だと何が出てくるんですか?﹂
﹁クラリーナ、アゼット迷宮地下11階は﹃マッチョゴブリン﹄よ。
攻撃は棍棒もって振り回してくるだけの脳筋バカ。でも時々10匹
以上で集団戦をしてくるし、棍棒を遠くから投げてくることもある
から注意は必要ね﹂
﹁それは面白そうですね。しん様、私もアゼット迷宮に行きたいで
1376
す﹂
﹁了解。それじゃあ俺は行けないけどアイリとミーとクラリーナの
3人で・・・それで明日の予定を聞くために今、るびのとフォクサ
に念輪で話をしたけど、るびのとフォクサの2人は明日はセバスチ
ャンの転移魔法でガウリスクとかの大草原の魔獣達に挨拶回りをし
てくるんだと。だから明日は・・・アイリ・ミー・クラリーナ・マ
リアだけのアゼットダンジョンアタック・・・うーん。練習中の武
器の実戦練習込みだと地下11階以降は4人だけではちょっと不安
があるから、壁代わりでシールダーのユーロンド1号を連れてアゼ
ットダンジョンに行ってくれ。早乙女邸の防衛は師匠ゴーレム達も
アップデートで手伝ってもらえるようになったからユーロンドが早
乙女邸防衛任務から1体抜けても差し支えなくなったからな﹂
﹁うん。わかったわ。しん君、気を使ってくれてありがとう。ユー
ロンドがいるなら私は大剣の実戦練習が出来るわね﹂
﹁ユーロンドを連れて行くなら私はレイピアの実戦練習しても良い
?﹂
﹁いいよ。だからクラリーナも魔法撃ちまくってストレスを発散し
ておいで。クラリーナの弓とアイリの双剣はもっともっと練習して
からでないと実戦では無理だけどな﹂
﹁わかりました。でも先程の弓練習でわかったんですけど、弓って
思っている以上に面白かったです﹂
ここで食事が終わったので全員でリビングに移動。
酒は俺は日本酒に切り替えてつまみは小魚の素揚げに変更する。
嫁たちも思い思いの酒に変更してつまみをマリアに出してもらって
る。
﹁もう少し上手になって弓を実戦練習できるようになったら俺がク
ラリーナ専用の弓を作ってあげるから頑張って練習するといいよ。
1377
時間はたっぷりあるんだし﹂
﹁わかりました頑張ります﹂
こぶしを握って頑張りますと言ってるクラリーナを眺めてるとミー
が羨ましいと声に出して言ってくる。
﹁いいなぁ、クラリーナが羨ましいよ。私もしんちゃんの手作りの
武器が欲しい﹂
﹁いいよミーの欲しい武器を作ってあげる。何が欲しい?﹂
﹁いいの? 考えるからちょっと待って﹂
そういえばミーの装備品は・・・武器はサイラスの片鎌槍もロード
クイーンのエストックもドロップアイテムの武器だし、装備してい
る防具もサイラスの甲殻鎧でおやっさんのカスタムメイド防具だし、
俺の手作りの武器ってミーだけ持ってないな。
森林モンキーを狩りに行ったときに作った棍はササッと作った簡易
的なモノで、あれはむしろ威力を極力抑えるための防御用の武器だ
しな。
アイリやクラリーナと雑談しながら、ひたすらミーの答えを待つ。
10分以上も散々悩んでからミーの出した答えは・・・
﹁・・・しんちゃんに作って欲しい武器が決まらないよ。しんちゃ
ん、私ってどんな武器がいいの?﹂
﹁その判断は俺には難しいよ。ミーは何でもすぐに使いこなすこと
が出来る・・・武器に関しては大剣や大斧のようなパワー系以外は、
しっかりと教育できる師匠について訓練をすれば何でも数年でマス
タークラスになれるぐらいに才能が溢れてるからな﹂
﹁え? そうなの?﹂
俺が鑑識でミーのステータスなどを見て確かめたけどミーのステー
タスは魔法系統の数値が異常なほど低い傾向だけで、その分の武器
を取り扱う成長率が極端に高くて、武器のスキル習得率に偏ってる
数値になってる。
1378
アイリは無手武術やパワー系のほうが向いているのと対照的だな。
クラリーナは全くの正反対のステータスになってる。魔法系統の数
値と成長率に数値が極振りされているので杖術以外の武器は一般人
以下の才能しかない。
﹁うん、間違いないよ。無手やパワー系の武器はアイリのほうが才
能あるけど、レイピア・エストック・槍・薙刀・カタナなどのスピ
ード系の武器はミーはスバ抜けた才能を持ってるよ﹂
﹁カタナって・・・私は剣客も出来るの?﹂
﹁アイリが剣客ならすぐにでも出来るよ。剣客だと足捌きが最重要
なんだけどミーの場合は長年ランサーとして冒険者で戦ってきた経
験と最近はじめたレイピアの練習で、剣客の基礎になる体捌きは出
来てるから上達も早いよ。ミー専用の俺の手作りカタナを作ってあ
げようか?﹂
﹁う∼∼ん。薙刀にしようか、カタナにしようか・・・って悩んで
いるんだけど﹂
﹁ミーならどっちでも習得は早いからどっちを選んでもいいよ。別
にすぐ決めなきゃいけないって訳でもないしミーのペースでいいか
らさ・・・しばらくじっくり考えたらどう?﹂
﹁そうだね・・・うん。ちょっと考えさせてね﹂
﹁了解。決心したら教えてね﹂
ミーの武器は保留になったけど酒盛りも雑談も楽しく続いてる。早
乙女家の一家団欒の図だな。
俺の地球にいたときに経験した過去の失敗談でみんなで笑ってる時
に早乙女工房に来客があった。
﹁ユーロンド18号です。ご主人様にお会いして話がしたいと、冒
険者ギルドシーパラ本部より﹃ペスカト・ビッタート﹄と名乗る男
が門に来ているのですがいかがいたしましょうか?﹂
﹁名乗る男だって? なんだそりゃ・・・冒険者ギルドカードかス
1379
テータスカードで確認してないのか?﹂
﹁それが﹃俺と会えばわかる。ゴーレムごときが人間様に命令する
な﹄とおっしゃってまして・・・﹂
﹁そんなふざけた事をペスカトは少々酔っ払っていても言いそうに
ないほど真面目人間だから強制排除してかまわんよ﹂
﹁了解です。これから実力排除します﹂
﹁あ、待った。どうせだったら俺が排除するよ。中に入れずに外で
ちょっと待たせておいてくれ・・・ついでに﹃おい、ペスカトのニ
セモノ! お前みたいなカスにご主人様が会ってくれるそうだ。正
座して待っておけ﹄と言って、攻撃してきたらホントに強制的に土
下座させといてくれ。あくまで正当防衛で迎え撃つという形を崩さ
ずに頼む﹂
﹁わかりました﹂
俺は嫁達に早乙女工房に闖入してきた厄介者がいると説明して、最
後に帰る時間も未定だと言って嫁達には俺を待たずに過ごしてもら
う。あとは飲んでいた後片付けをマリアに任せて出かけることにし
た。
まずは玄関からガレージへ移動、ガレージに明日の嫁達が移動する
ためにキャンピングバスを俺のアイテムボックスから取り出して置
いておく。帰ってくるのが何時になるのか今はわからないしな。
ヨークルの早乙女邸にいるんだからキャンピングバスがここにあれ
ば好きな時間にアゼットダンジョンに行けるだろう。
ガレージからの階段で地下練習場に降りていって待機中の師匠ゴー
レムを5体に魔獣ゴーレムを6体、合計11体をアイテムボックス
に入れる。
せっかく首都シーパラの中央行政区にある早乙女工房に行くんだか
ら、ついでに近くの冒険者ギルドシーパラ本部に行って、今までど
こにも登録してこなかった師匠ゴーレム達も魔獣ゴーレム達もチー
ム早乙女遊撃隊に登録してこようと思ったので持っていくことにし
1380
た。
更についでに明日のもふもふ天国ヨークル2号店で中で働くゴーレ
ム達をアイテムボックス内で作り上げていく。
愛玩ゴーレムのいつもの﹃おーとま﹄﹃クマ﹄﹃コー﹄﹃ウルフ﹄
﹃パンダ﹄﹃レッサーパンダ﹄﹃コアラ﹄﹃タヌキ﹄﹃キツネ﹄﹃
ウサギ﹄﹃柴犬﹄﹃三毛猫﹄﹃リス﹄﹃オスライオン﹄﹃ペルシャ
ネコ﹄15体セットだな。
だいだい
かっしょく
それとメイドゴーレムを3体・・・サル型メイドゴーレムにして色
は﹃橙﹄﹃褐色﹄﹃ブロンズ﹄にして名前もそのまま色の名前を使
用するいつものパターンだな。
作りながら早乙女工房の最上階の居住区ではなくて今日は既にスニ
ーカーを履いているので早乙女工房の1階の室内駐車場に転移した。
封印されている正門の門扉をメイドゴーレムの空が開けてくれる。
早乙女工房の1階正門から外に出て行くと正門の外のゴーレム馬車
駐車場にライトの魔法が10個ほど浮かんで明るくなっている所で
土下座をしているバカが8人もいるんだけど・・・どういうことだ?
隣に立って俺を出迎えてくれたユーロンドに話しかける。
﹁えっと・・・ユーロンド18号、なんで8人もいるんだ?﹂
﹁それはわかりません。ゴーレム馬車2台でここまで来ていたので
すが、ご主人様の指示通りのセリフを言ったとたんにこちらの﹃ペ
スカト・ビッタート﹄を名乗る男が私に斬りかかってきました﹂
ユーロンド18号が指差す太った男が右手でショートソードを握り
締めたまま土下座している。
﹁ペスカトはダークエルフで褐色の肌で銀髪、身長190cm以上
ある長身の細マッチョでこんなデブじゃないし、ペスカトはイケメ
ンだからこんなに不細工でもない・・・完全な他人だな・・・わか
った。ユーロンド18号、すまんが話を続けてくれ﹂
1381
﹁はっ。ニセモノの振るう剣を避けてから顎先にジャブでご主人様
の指示通り土下座させました。するとゴーレム馬車の中から7人の
男達が飛び出てきまして、それぞれの武器で攻撃してきましたが全
部避けてジャブで土下座させる頃には、ゴーレム馬車は2台とも逃
走してどこかに行ってしまいました。予想ですが仲間を呼びに行っ
たのではないかと思われます﹂
﹁報告ありがとう。ではユーロンド18号は警備隊シーパラ本部に
行って警備隊を呼んできてくれ﹂
﹁警備隊へはユーロンド16号が既に向かっています。じきに警備
隊を引き連れて戻ってくると思いますが警備隊が先に到着するのか、
彼らの応援部隊が先に到着するのか・・・わかりませんね﹂
﹁ありがとう。じゃあどっちにしても待ってるしかないな﹂
待つ事数分・・・ゴーレム馬車の護送車2台と別のゴーレム馬車3
台がやってきて、警備隊がきたと同時に馬鹿の応援部隊15人もき
た・・・カオスの予感しかしないな。
警備隊と馬鹿の応援部隊のいざこざが怒鳴りあいに発展してるのを、
通りすがりの見物人? 野次馬? のように俺は眺めながら自作の
チョコバーをかじっていると警備隊の応援が続々と更に駆けつけて
きて・・・結局、馬鹿が次々と集まってくる警備隊の隊員に恐れを
なし逃走しようと警備隊に斬りかかったところを全員逮捕されて、
イカレた馬鹿どもは全員警備隊本部に護送されることになった。
いまだに失神している馬鹿も含めて逮捕者全員をゴーレム護送車に
乗せたら俺と警備員数名が乗れなくなっってしまったで、歩いて警
備隊シーパラ本部に事情を説明しに行くことになった。
事情説明って・・・この馬鹿軍団がどこの何者かも俺は知らないん
だけど。
身分証明で俺が冒険者ギルドカードを見せると警備隊本部の空気が
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一変する。高ランクの冒険者が今回の事件の中心にいるとは思って
なかったみたいだ。
俺の服装がパーカー・カーゴパンツ・スニーカーで見た目は15歳
の子供・・・仕方がない、一流の冒険者には絶対見えないし。
警備隊の幹部の何人かがヒソヒソ話している声まで俺の耳は拾って
しまうのはツライな。
﹃早乙女執行官が来たんだって?﹄
﹃あれがヨークルの救世主での噂の正義のヒーロー?﹄
﹃強そうには全く見えない・・・つーか、まだ子供じゃん﹄
俺は被害者として被害届を書くときに真偽官を同席するようにお願
いすると、今こちらに向かってるとのことだった。
逮捕された馬鹿達は取調室に、失神してる馬鹿は医務室へ、俺は被
害者なので応接室に通される。
真偽官が到着するまでは応接室で1人でコーヒーをノホホンとすす
っていた。
﹃ギャ∼∼﹄と言う叫び声が聞こえたので急いで応接室の外に飛び
出すと、逮捕されていた馬鹿が全員が取調室の前でアイテムボック
スからショートソードを取り出し、やたらめったら剣を振り回して
大暴れしているのだ。
周りの警備隊は人質がいてうかつに手が出せないでいる。叫び声を
あげたのは人質に取られている若い女性の真偽官だった。
しかも衣服を何箇所か斬られて体から血が出ていて服も床も血まみ
れになってる。
ショック魔法で全員を気絶させてから簡単に捕獲しようかとも一瞬
だけ考えたが・・・時間は夜の9時をまわって既に10時近く・・・
俺と嫁との夫婦の団欒タイムを邪魔されてムカついていたので暴れ
ることにした。
1383
まずは人質を解放させる。
真偽官の襟首を掴んでいる馬鹿の後ろに超スピードで回り込んで、
ヒジを握って粉砕骨折させて人質を抱えて元の位置・・・応接室の
扉の前に戻る。
真偽官にメガヒールをかけて傷を治してハイポーションを渡す。回
復魔法では怪我は治せるが流れ出た血はは元には戻らない、流れ出
た血を回復させるにはポーション系の薬が必要だ。
隣に立ってる警備隊の隊員にまだフラフラしている女性真偽官の保
護を任せてまた馬鹿どもに向かって歩いていく。
﹁フッフッフ、バカタレ共がせっかくの夫婦の団欒を邪魔しくさり
やがって・・・どっちにしても全財産没収のお前らに治療費で一生
奴隷にさせてやんよクソバカが!﹂
﹁﹁﹁おおお∼﹂﹂﹂
馬鹿が3人同時にショートソードで俺に向かって走って斬りかかっ
て来た。
馬鹿Ⅰ︵ワン︶が俺の顔に突き込んできた剣を首と体を右に傾けて
かわしてから左のショートフックで馬鹿の右ひじを粉砕。
馬鹿Ⅰが放したショートソードを下に落ちる前に背中に回した左手
で奪い取り、右手で馬鹿Ⅰの鎧を掴んで俺の右側から斬りかかって
来た馬鹿Ⅱ︵ツー︶に馬鹿Ⅰの体を片手で投げつける。
吹き飛ぶ馬鹿Ⅰと馬鹿Ⅱを見ることなく俺の左側から斬りかかって
来た馬鹿Ⅲ︵スリー︶のショートソードを左手の奪い取ったショー
トソードで受け流した瞬間に、右のローキックで馬鹿Ⅲの左ひざを
粉砕させた。
崩れ落ちる馬鹿Ⅲの体を前蹴りで馬鹿軍団の集団に蹴り飛ばした。
馬鹿Ⅰの吹き飛んできた体に押し倒されていた馬鹿Ⅱが馬鹿Ⅰの体
を押しのけて立ち上がろうと膝立ちで右膝の上に右手が乗っている
ところに、馬鹿Ⅱに向き直っている俺の左のローキックが入って馬
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鹿Ⅱも右手と右ひざを粉砕骨折させてやる。
どうせ後で俺が治療費目的の回復魔法で完全回復させるんだから生
きていれば問題ないだろう。
むしろ大怪我させた方が相場の倍の金額を国からもらえるって話だ。
左手で持っているショーとソードと馬鹿Ⅱが落としたショートソー
ドを右手で拾い上げる。
そうべん
左右の手で持つ2本の鋼製の片手剣を、ただの鋼の棒に作り変えて
双剣ではなく双鞭スタイルになった。直径2cmの太さで長さ1m
の鋼の棒は重力魔法で圧縮しているので密度が凄いことになってる
な。
骨折ぐらいならメガヒールで何とかなるんだけど、敵がザコの場合
は手足を切るとショックで死んじゃう可能性があるからな。
俺が向かってこないで逃げ出そうとしている馬鹿を小馬鹿にしたセ
リフと挑発スキルで俺に向かわせる。
﹁ハイ! 第一ラウンド終了です! お次の方、どうぞこちらに!﹂
﹁﹁ウガ∼∼!﹂﹂
2人がアイテムボックスから取り出したと見られる短槍を腰だめに
してヤケクソのようになって突き込んできた。恐怖でおかしくなっ
ているのか攻撃が単純で芸もない。
突き込まれた短槍2本の連続攻撃を軽々と両手の双鞭でいなして隙
をついて馬鹿Ⅳ︵フォー︶と馬鹿Ⅴ︵ファイブ︶の両膝を双鞭で砕
く。
それから最後に逃げ出そうとした馬鹿Ⅹ︵テン︶の背中にケリを入
れて背骨を砕いて戦闘終了するまでに、戦いが始まってから1分も
掛からないのはチートのなせる力と技だな。
俺の暴れっぷりをポカーンと口を開けて眺めてる警備隊の複数の人
間。恐怖で俺の前から逃げ出した馬鹿4人を逮捕するのが精一杯だ
ったようだ。
1385
怪我をした真偽官が医務室に運ばれていくのに対して馬鹿10人は
地面に転がって呻いてる。
怪我をした真偽官と違う男の真偽官と医者の立会いの下に全員の馬
ゴルドル
鹿のカルテを作成してから完全治療。
総額で2億Gの治療契約書にサインして後日商業ギルド経由で早乙
女商会に入金される手続きをする。・・・俺が大怪我させて相場の
倍の金額で治療して・・・完全にボッタクリ商売だな。
まぁ、法律の中では俺はあくまで救出手伝いでしかないが。
警備隊シーパラ本部で傷害事件を起こしたりして、俺の不法侵入の
被害届がどうでもよくなるほどになってるがついでに罪を重くする
ために被害届は出した。
俺が被害届を作成してる間に治療を終えた馬鹿達は気絶したまま隷
属の首輪を装備させられて、タンカで地下牢に運ばれていく。
被害届の作成作業中に疑問だったのが・・・そもそもコイツラは何
者なんだ? 俺に何の用があったのかすらしらないので、早乙女工
房の住所を教えて馬鹿達の刑が確定した後で事件の報告書をもらえ
るようにお願いしておく。
馬鹿共の名前や所属する集団なんかは大して興味もないんだけど、
どこの誰がどんな理由で俺のところに来たのかぐらいは知っておき
たいし、俺とペスカト・ビッタートの関係を何で知ってるのかぐら
いの興味はある。
被害届にンサインして提出すると警備隊シーパラ本部の用はなくな
った。
警備隊の本部の建物を出て予定通り冒険者ギルドに歩いて向かって
いく。
1386
深夜の露天風呂での月見酒はクセになりそうっす。︵前書き︶
1・11修正しました。
1387
深夜の露天風呂での月見酒はクセになりそうっす。
冒険者ギルドシーパラ本部に向かって歩いているが・・・ヨークル
の3連続巻き込まれ事件の時と違って俺を尾行してくる人間はいな
いし、遠見魔法による監視も全くない。
上空にライトの魔法を2つ浮かべて歩いていると、ガウリスクとニ
ャックスとアキューブから念輪のパーティー回線の連絡が入る。
くうこ
﹁お久しぶりですボス。今、お話させてもらってもよろしいでしょ
うか﹂
﹁おう、久しぶりだなガウリスク。もしかして空狐のフォクサのこ
とか?﹂
﹁ハイ。あの伝説の空狐様が復活されて明日、私共の巣にまで挨拶
に来てもらえると聞いたものですから﹂
﹁ああ、間違いなく伝説の神獣で空狐のフォクサだ。実はな・・・﹂
俺はフォクサを拾った経緯を全部ガウリスク達に丁寧に説明した。
説明ってほどでもないがガウリスクやニャックス達の話を、るびの
から聞いて挨拶回りをするってのはフォクサの意見らしいから、フ
ォクサの方がみんなに会いたがってると説明しておく。
﹁それで俺にワザワザこんな時間にみんなで念輪で話しかけてきた
のはどういうことなんだ?﹂
﹁ニャックスです。実はボスにお願いがありまして・・・我々3頭
を白帝様の眷属にしてもらえるようにお願いできませんでしょうか
?﹂
﹁それは俺じゃなくて、るびのと既に従属神にまでなっているフォ
クサに頼めよ﹂
1388
﹁アキューブですけど・・・私どもはボスの部下なんですけど、る
びの様に眷属にしてもらえるようにお願いしてもよろしいのですか
?﹂
﹁るびのの眷属になっても、俺の部下をやめるのも自由にしていい
よ。俺はみんなに人間と共存することをお願いした﹃誓い﹄以外に
縛りつけるつもりはないし。るびのの眷属になってお前らは何かし
たいことはあるのか?﹂
﹁うーーん﹂
3頭とも悩んでいたがガウリスクが代表して答える。
﹁我々のグリーンウルフ・炎虎・銀大熊達は全て太古の時代に起こ
おさ
った魔獣戦争で滅びた獣の種類の中から、白帝様のお力で獣から魔
獣へと進化して生き残ることが出来た種族です。ですので種族の長
となり白帝様にお使えすること、眷属にさせてもらうことが悲願で
あるとも言えるので、眷属になった後の事は今まで考えていません
でした﹂
﹁なるほどね。なら、なおさらのこと今俺に言ったそのままの言葉
を、るびのに明日言ってみろよ。るびのも真剣に考えてくれるだろ
う。でも・・・たとえ眷属になってもみんなは俺達早乙女一家と一
緒に行動するのは極力控えてもらうけどな﹂
﹁﹁﹁どうしてですか?﹂﹂﹂
﹁うちはお前らみたいな巨大な魔獣が3頭も住んで暮らせるほど広
くないんだよ。それにそれぞれの種族のリーダーのお前達が種族を
まとめてもらわないと、また大草原が戦国時代になるだろうが﹂
﹁それはそうなんですけど。ではボスは我々が白帝様の眷属になる
こと自体は反対しないって事でよろしいでしょうか?﹂
﹁ああ、ニャックスの言うとおり俺は反対はしないよ。反対する理
由も全くなしな。・・・眷属になるかどうか・・・それはお前らと、
るびのが考えて話し合って結論を出せばいい。俺から言えるのは﹃
1389
家に来るなら小さくなれるようになってから来い﹄ってことだけだ﹂
﹁﹁﹁わかりました﹂﹂﹂
ここで真面目な話が終わって雑談になった。
俺のアイテムボックスに余っているトロール肉はアキューブ達﹃銀
大熊﹄の大好物らしく大草原にトロールがいなくなったのは銀大熊
がトロールの驚異の繁殖力を超えて狩りつくしたせいだった。
それでも10数年前まではなんとか生き残っていたみたいだけど。
トロールがいなくなったので似たような味の大陸王亀で我慢してい
たんだってさ。
上手くいかないもんだな・・・大森林ではトロールが増え過ぎて大
黒豹や森林タイガー達では増え過ぎたトロールを狩るのに一苦労し
ているのにな。
銀大熊軍団を引き連れて遠征軍でトロール間引き作戦でもした方が
手っ取り早いかもな。
るびのやフォクサと明日一緒に挨拶回りに行くセバスチャンにトロ
ール肉を運ばせると言ったら﹃15年ぶりにトロール肉が食える!﹄
とアキューブが狂喜乱舞して喜んでいた。
炎虎やグリーンウルフにとってはオークの方が美味しいといってい
たので、俺もアイテムボックスにはオーク肉も食べつくせない量が
入っているので、そちらも持たせると言ったらガウリスクとニャッ
クスも喜んでいた。
冒険者ギルドに到着したので3頭に別れを言って念輪のパーティー
回線を切る。
冒険者ギルド本部の中に入って受付で会議室を借りて師匠ゴーレム
と魔獣ゴーレムのチーム早乙女遊撃隊の登録を済ませる。
俺のゴーレム登録は夜間の冒険者ギルドの責任者が担当してくれて、
その人がペスカト・ビッタートの友人﹃ニール・オスキャル﹄とい
うブロンドの髪をした犬獣人で俺と身長も体型も似てる人だった。
1390
初めて会ったのになぜか馬が合いそうだと直感で感じる。
登録してネームプレートを装備させた後の雑談でさっきおきたこと
を話す。
馬鹿がペスカトの名前を語って早乙女工房に来たんだから、もしか
したら冒険者ギルドの幹部だったら情報を持っているかもしれない
のでダメ元で聞いてみた。
﹁・・・ということが先程あっって警備隊本部に行っていたんです
けど、なぜバカ連中の口からペスカトの名前が出てきたのか俺には
わからないんです﹂
﹁情報提供をありがとうございます。実は早乙女さんに言っておき
たいことがありまして・・・ギルドマスター青木勘十郎様の後継者
と噂されているのがペスカトなんですよ・・・﹂
ニールの話ではペスカトと青木勘十郎は小さな頃からの大親友で幼
友達と言える間柄なんだそうだ。
それでペスカトも青木がギルドマスターを引退したら、一緒に冒険
者ギルド職員を辞めて青木が作る武士団に入り、仲良く冒険者にな
ってアゼット迷宮を完全攻略してやろうと誘われてるんだって。
今のペスカトは将来は青木と一緒にアゼット迷宮を攻略することを
考えてて、もう既に冒険者ギルドには辞表も提出されているし、冒
険者再登録まで済ませている事は親しい人達はみんな知っているの
だそうだが・・・なぜかペスカトがシーパラ連合国の次期冒険者ギ
ルド本部のギルドマスターに就任するってデマが蔓延している。
それでデマが広がってきたここ数日の間にペスカトの名を語るこの
ような事件が度々起こっていて、毎日のように警備隊や教会の聖騎
士団に呼び出されているのだそうだ。
今回は逮捕者出たとのことで本腰を入れて公に冒険者ギルドを上げ
て捜査できるとニールに感謝された。
1391
冒険者ギルド本部の新ギルドマスターの座を争って水面下でキナ臭
い動きが目立ってきてるようだな。
・・・クソッタレ、醜い権力争いかよ。
俺が1番巻き込まれたくない争いに既に巻き込まれているじゃん俺・
・・
俺のゲンナリしたしかめっ面に気付いたニールが苦笑しながら話し
てくる。
﹁ふふふっ、早乙女さんが権力者が大嫌いって言う噂はマジだった
みたいですね﹂
﹁正確には﹃醜い権力者争い﹄と﹃権力を振りかざすバカ﹄が大嫌
いなだけだよ。知恵を振り絞った高度な権力争いなら経験してみた
いけど・・・無理だな。どうやっても金が絡んでくるから面倒臭い
よ﹂
﹁ふふふ。思いっきり顔に出てましたよ﹂
﹁そんなに言うなよニール。それでホントのところの後継者って誰
なんだ? ペスカトの名前を入れた噂をワザと流したのは青木さん
だろ? バカを炙り出す為に親友を使って動いてるんだろ?﹂
﹁さすがですね。早乙女さんがおっしゃるようにバカが水面下で動
くことを想定して、青木さんの指示で噂を流してるのは私とペスカ
トとラザニードさんの3人チームを組んで、裏に回って人と金を使
って冒険者ギルド本部職員の中に﹃ペスカトが後継者争いに1歩リ
ード﹄という噂をバラ撒きました﹂
﹁つーことはラザニードさんが裏方にまわったのか。俺はラザニー
ドさんが次のギルドマスターになるかと思ってたよ。ラザニードさ
んとビッタート卿は高いカリスマ性も持ってるしな﹂
﹁青木さんも本気でラザニードさんをギルドマスターの後継ぎで口
説いたみたいですけど、にべもなく断られたと苦笑してました。冒
1392
険者ギルドヨークル支部のギルドマスターに就任したばかりで、す
ぐに動けないって正式な理由もいちようあるのですけど・・・ラザ
ニードさんから直接聞いた本音は﹃評議会に出たくない﹄ってこと
でした﹂
﹁なんだそりゃ・・・クククッ、ラザニードさんらしいって言えば
らしいけど﹂
﹁ですね。ラザニードさんの会議嫌いは知ってましたが、俺も初め
てホンネを聞いたときは笑ってしまいましたよ。それで次期ギルド
マスターに就任する事に決定したのは﹃アクセル・ビッタート﹄さ
んです﹂
﹁マジかよ、あぁ、そういえば今月いっぱいでゾリオン村のギルド
マスターの任から外れて冒険者ギルド本部に戻ってくるんだったな・
・・明日が月末か﹂
﹁ハイ。すでにゾリオン村のギルドマスターの後継者はヨークルの
幹部職員だった﹃ケンジ・ミールハイト﹄に決まってまして、昨日
からケンジはゾリオン村に行って引継ぎ作業をしていると聞いてま
す﹂
﹁おおお、ケンジもビッタート卿も大出世だな﹂
﹁俺が聞いた話ではビッタート卿は﹃タイミングが悪かった。ラザ
ニードに逃げられた﹄ってボヤきまくってると、ペスカトが言って
ました﹂
﹁クックック、ビッタート卿ならそう言うだろうな、頭を抱えてる
絵が浮かぶよ﹂
﹁まぁそういうことなので、また今回も早乙女さんに冒険者ギルド
の迷惑を押し付けた形になってしまって申し訳ないです﹂
頭を会議室のテーブルに当たるまで下げるニールの謝罪を受け取る。
﹁今回の件は半分は俺が暴れたかったって言うこともあるし、そこ
まで迷惑には思ってないよ﹂
1393
﹁ありがとうございます。早乙女さんにそう言っていただけると助
かります。それで早乙女さんに国の最高評議会の方から通達が来て
いるんだすけどよろしいですか?﹂
﹁あれ? 最高評議会ってまだ俺になんか用があったっけ?﹂
﹁証人喚問で治療したエクストラヒールの2回分の料金の3億Gが
まだ支払われてなかったので料金のお支払いの話です。今回は冒険
者ギルドからの依頼で早乙女さんに証人喚問に出ていただいたとい
う形になっていまして、料金のお支払いは国家予算から冒険者ギル
ド経由で早乙女さんのチーム﹃早乙女遊撃隊﹄の所持金に入金され
てます。早乙女さんにはここで入金されているのかを確認していた
だきたいんですけど﹂
﹁・・・おぉ! そういえば証人喚問後の出来事が強烈過ぎてドタ
バタしてて、最高評議会にお金を受け取りに行くのを完全に忘れて
いたな﹂
﹁早乙女さんがそうおっしゃられると最高評議会も判断したようで、
最高評議会自身も組織再編と元枢機卿の事件と昇竜商会の引き起こ
した事件とドタバタしてまして、今日の夕方になって冒険者ギルド
に通達があったんですよ﹂
・・・シーパラ連合国の国会である最高評議会が組織の改変を余儀
なくされるほど多発した事件・・・ほとんど全部の事件に俺が関わ
ってるってのはちょっと怖いな・・・なぁアマテラスさんよ。
ニールがアイテムボックスから取り出した魔水晶に、俺の冒険者ギ
ルドカードを当てるとピロンと機械音がしてチームの所持金に3億
Gが入金されたのを自分の目で確認する。
そのあとも30分以上もニールと色々と噂話や俺に関する事など雑
談していて・・・深夜で客も来ない冒険者ギルド本部の夜勤は睡魔
との闘いらしい。
ヒマな職員が何度か俺とニールのいる会議室にコーヒーやらクッキ
1394
ーやらを運んでくれる。
動かないと寝ちゃいそうなんだろうな。
雑談の中でニールが言うには俺を冒険者ギルドのAランクに推す声
がシーパラ連合国の最高評議会からの話もあって、毎日夕方にある
冒険者ギルド定例幹部会議の中でも着々と進んでいるそうだ。
今まで闇にまぎれて隠れていたが、俺が絡んで解決した犯罪摘発の
国への貢献度は近年まれに見るレベルだかららしい。
2日後にはたぶん本決まりになるとニールは言ってたが・・・面倒
だな。
Aランクになると
また変なのが沸いてこなけりゃ良いんだけど、嫌な予感しかしない
ってのが既に厄介だ。
冒険者ギルド本部の建物を出たのは12時をまわって午前1時に近
かった。
早乙女工房に帰ってから早乙女工房の居住区の主寝室と早乙女邸の
寝室を簡易ゲートでつなげる工事をした。
工事を終えて問題なく転移できることを確認すると風呂に入りに行
く。
今夜も天気が良いので露天風呂に入りに扉から外に出て行くと、今
日のこの時間は雲のない夜空に巨大な満月が空に浮かんでいる。
本当にデカイ月だな・・・この大きな月を露天風呂に入りながら眺
めてると自分が今、異世界にいるんだと改めて教えてくれる気がす
る。
アイテムボックスからウイスキーを出してロックで飲み始める。
つまみはローストクマとローストオークにした。
薄く切ったローストクマを更に食べやすい大きさにカットしてある
つまみサイズのローストクマは、味が濃くて噛み応えがあってチョ
イ生ジャーキーのようで美味しいし、ローストオークは正反対で少
1395
し薄めの甘い味付けにしてあり柔らかくて、小さなサイコロ状にカ
ットしてある。
ローストクマとローストオークのウイスキーのつまみとしての相性
もいい。
ふち
露天風呂の周囲に設置してある大きなイス代わりの石に腰掛けて縁
に頭を乗せ、風呂の湯の中で手足を伸ばすように浮かべながら、浮
かんでいる俺と同じように風呂に浮かべてある桶に入ったウイスキ
ーとつまみを時折口に運んで即席の露天風呂からの月見酒を満喫す
る。
満足したら内湯の方に入って体を洗い久しぶりにマリアにお願いし
て全身マッサージをしてもらう。
エロの全くない筋肉をほぐすマッサージは素晴らしいな。堪能して
から風呂を出る。
リビングで明日の予定をマリアとセバスチャンに話しながらハーブ
アイスティーを飲んで、月見酒の長湯で温まり過ぎた体を冷やして
から今夜は就寝。
明けて転生してから30日目の4月30日の朝、天気は快晴。
風は微風ってところかな・・・風がなくて天気の良いので外は少し
暑くなりそうだ。
いつもの朝の風景は既にない。
朝の7時に起きた嫁達は俺が寝てる間に朝食と防具装備を済ませて
既にマリアとユーロンド1号と共に5人でアゼット迷宮攻略に向か
って行ってしまったし、るびのとフォクサを連れてセバスチャンも
転移魔法でグリーンウルフダンジョンに行ってしまった、朝の8時
1396
過ぎ。
今日は早乙女邸専属メイドゴーレムのクロが入れてくれたコーヒー
の香りで目覚めた。
ロンTとジーンズに着替えて顔を洗ってからダイニングまで歩きな
がら朝食のメニューをアイテムボックス内で作る事にするが・・・
誰もいないので今日の朝食は﹃純和風朝食﹄にしてみる。
ご飯・アサリの味噌汁・アジの干物・菜花のおひたし・きゅうりの
浅漬け・出汁巻き卵・海苔・とろろ・・・最後に﹃納豆﹄をつけた。
自分で作ったメニューをダイニングテーブルに並べて朝食。
クロに番茶を入れてもらう。
納豆はシーパラに普通に売っていて購入してあったのだが、アイリ
たちが納豆の匂いが苦手と言っていたので食卓に並ぶことはなく、
アイテムボックス内で眠ったままだったのを今思い出してこんな朝
食のメニューになった。
ダイニングで食べる朝食で久しぶりの納豆を味わう。
藁
で包装されていたからだろう。香りも味も柔らかい
日本で食べていた納豆と微妙に味が違うような気がするが、パック
ではなく
ような気がする。
俺は日本にいた頃から元々納豆は大好物でもなくてあれば食べる程
度だし、日本で毎日納豆を食べていたわけではないのでそこまで納
豆に詳しいわけでもないけど、日本でも藁で包まれて売ってる納豆
は高級品だったような気がしてたからな、雰囲気が本格的で違うか
ら味が違っていると思うだけかもしれない。
パックの納豆は今後は食べる事がないから味が比べられないのは残
念だ。
朝食の後にコーヒーを飲んでしばしノンビリする。
今日は急ぎの用事はない。
1397
待ったりと食後を過ごしてから早乙女商会ヨークル事務所に転移し
て今日はハイカットのスニーカーを履いて、まずは商業ギルドに行
く前に早乙女商会の事務所から近いおやっさんの店に先に顔を出す
ことにする。
渡したいアイテムが溜まってきてるからな。
ガランゴロンと鳴る扉につけられたカウベルの音を鳴らしてフィア
ルカート防具店に入っていくと、今日はおやっさんもおかみさんも
両方とも店にいた。
﹁おぅ早乙女、元気で頑張ってるみたいだな。シーパラでも色々し
てるようで、たくさんの噂が俺の耳にまで入ってきてるよ。それに
早乙女が俺が作った防具を装備して救世主の活動をしてるおかげで、
冒険者や警備隊の人間にこのフィアルカート防具店の人気は上昇中
だ、ありがとうな。新しい顧客も増えてきてるし、ここ最近は凄く
忙しくなってるよ﹂
﹁好きで救世主やってるわけじゃないんだけどね。でも冒険者や警
備隊の人間も俺の防具の購入先を聞かれたから教えただけで、元々
フィアルカート防具店の存在を知ってる人がほとんどだったよ。だ
から店の宣伝なんてしてない﹂
﹁早乙女が俺の作った防具を装備して活躍することが既に大きな宣
伝だよ。それで今日は何の用なんだ?﹂
﹁また珍しいアイテムを集めたからおやっさんとおかみさんにお裾
分けしに来たんだよ﹂
俺は今まで集めてきておやっさんに渡してなかったアイテムを店の
カウンターに少量ずつ並べる。
いらないアイテムもあるだろうしな。
﹃サラマンディストの血﹄﹃キラービーナイトの甲殻﹄を取り出す
とおやっさんもおかみさんも大きな声で感嘆している。
1398
﹁早乙女、これは凄いアイテムだな。サラマンディストの血はサラ
マンダーの血よりも、火耐性が強力な防具を作ることが出来る。そ
れにキラービーナイトの甲殻は火耐性は低いが周囲の温度を一定に
する効果があるのでフルプレートアーマーなどの内張りに使うと効
果が高い甲殻なんだ﹂
﹁へーー、なるほどね。アリ甲殻板も内張りに使うのか?﹂
﹁いや、アリ甲殻は熱に弱過ぎるし周囲の温度を下げる効果も低い。
甲殻としての固さも低いから防具には向かないな﹂
俺のもらった知識・経験と同じことをおやっさんは言ってる。
俺も貰った知識の有能さを生かしきれてないので勉強になることが
多いので、新しいアイテムはおやっさんやおかみさんに見せて反応
を確かめたい気持ちが俺の中に強くある。
魔道石英ガラスは透明なシールドとしても使えるが魔法耐性は強く
ても衝撃にはそこまで強くないのでシールドの、のぞき穴の蓋とか
一部に使用する事が多いと教えてもらう。
最後に見せたのは大量の﹃ドラゴン繊維﹄﹃龍糸﹄﹃龍布﹄だった。
コレにはおかみさんが身を乗り出してきた。
﹁早乙女君コレってあの伝説のドラゴン繊維なの?﹂
﹁ああ、発見はまったくの偶然なんだけどセバスチャンが発見した﹂
セバスチャンが発見した経緯を説明する。
流石のおやっさんとおかみさんもドラゴン繊維はワイバーンの素材
と言うことは知っていたが、肉から抽出するのに料理スキルが必要
になるなんてことは知らなかったみたいだな。
﹁料理スキルね・・・私もアマテラス様から子作り祈願で早乙女君
達と教会に行ったときに料理スキルの祝福をいただいたみたいで私
にも出来るかな?﹂
1399
﹁すぐには流石に無理があるよ。料理スキルのマスターになってか
らだな。プロの料理人のように毎日大量に料理を作っているならと
もかく、普通の主婦だとスキル発現からマスターまで行くには15
年以上は掛かると思う﹂
﹁そうなんだ、それなら知り合いのレストランのバイトにでも行っ
てこようかな﹂
﹁おかみさんの場合はまずは子供が育ってからだな。それで生まれ
てくる子供の為にドラゴン繊維を渡しにきたんだよ﹂
﹁早乙女、どういう事なんだ説明してくれ﹂
﹁俺も太陽神アマテラス様や主神ゴッデス様からの神託でなにかと
トラブルが多くなってるからな、あちこちで逆恨みを受ける可能性
がある。そのとばっちりは今後知り合いに向く可能性が少しあるん
だ。だから売り物としてではなくおやっさんとおかみさんの﹃密か
な防具﹄として下着を強化して作ってもらうために、ドラゴン繊維
を渡しに今日は朝から店まで来たんだよ﹂
﹁私はドラゴン繊維の加工なんてやったことないよ。それに私たち
と生まれてくる子供の下着分を含めてもコレは多すぎる量だわ﹂
﹁実はコレにはもう一つの訳があって・・・﹂
おかみさん達に説明をする。
元々ドラゴン繊維そのものがヤバ過ぎて流石におやっさんやおかみ
さんに渡すつもりはなかった事。
しかし最近の事件の大きさを考えると逮捕者は膨大な数になってお
り、処刑される人間も奴隷落ちする人間も膨大な数がいて、どこの
誰が俺を逆恨みしてるのかまで把握出来ていない事。
そうした逆恨みする人間の心理で俺を苦しめようと思ったときに、
俺の貰った経験や知識から考えると必ず俺の親しい人間に刃を向け
る可能性が高いこと。
それで俺が今日から親しい人間にはこのフィアルカート防具店を紹
1400
介するので、おかみさんが手作りで龍布の下着作りをして欲しいこ
とをお願いしに来たんだと説明する。
﹁なるほどなそれなら理解できたよ。流石にコレは売り物には出来
無いからな﹂
﹁ウルスの言ってる事も早乙女君の言ってる事もわかるけど、私は
龍布の加工はしたことないんだって﹂
﹁それの練習も含めてこの量なんだよ。おかみさんならすぐにコツ
を掴んで自由に作れるようになるから大丈夫だよ﹂
それからしばらくおかみさんの龍布を使った下着の作成練習に付き
合う。
おやっさんがヒマそうだったのでアイテムボックスから余ってるワ
イバーンの骨と革をとりあえず5頭分の量を渡してあげた。
﹁おお、早乙女どうしたんだコレ﹂
﹁るびのが大量に狩ってきたから余ってるんだよ。ワイバーンは素
材としては超絶の優秀さなんだけど、食えないから減っていかない
んだよ。るびのや炎虎達が討伐したワイバーンだからそこまで品質
は悪くないと思うけど・・・流石におやっさんもこんなにいらない
か・・・置く場所がないもんな﹂
﹁それが大丈夫になったんだよ。俺もアマテラス様からの祝福を貰
ってアイテムボックスが小から大にまでサイズが広がったんだ。だ
から俺もお遊びの全身革鎧のブーツセットを作りたいから、ワイバ
ーンの素材が余っているならいっぱいくれ﹂
﹁お遊びって・・・俺が最初に購入したサソリオオクモの甲殻鎧み
たいに安く売るのか?﹂
﹁まぁ、そういう事だな。初心者用で安く丁寧に、そしてみすぼら
しく作ってやるよ。材料代は早乙女からタダで貰ったから相当安く
作れるよ、クックック﹂
1401
おやっさんが偏屈親父だってことを忘れてたな。
でも楽しそうなのでミスリルも50kgほどと森林モンキーの尻尾
も200本、ワイバーンを20頭ほどおやっさんに渡した。うちの
嫁たちの衣服を素材に戻した繊維物も50kgほどついでに渡す。
コレで後はこまごまとした僅かな材料で済むので加工手数料ぐらい
だな。
安いからって購入をためらう、見る目のない人には気付かないトリ
ックの安い鎧ができるだろう。
おやっさんは笑顔で自分のアイテムボックスの中に全部の材料を入
れる。
新しいおもちゃを貰った子供のようなおやっさんの笑顔に苦笑して
しまう。
しかし俺もそのイタズラに参加してる人間だから俺も悪巧みしてる
笑顔になってしまう。
こういうイタズラは嫌いじゃない。
﹁あんたたち何の悪巧みしてるのよ﹂
満足できる下着を作れるようになったおかみさんがコーヒーを入れ
てくれて、苦笑しながら注意されるまで俺とおやっさんは静かに笑
ってた。
﹁それで私達はどんな人になら龍布で作った下着を渡してもいいの
?﹂
﹁それの目印はコレにしようと思う﹂
加工した魔水晶がついたありきたりなデザインのブレスレット、で
も中身は全くの別物﹃念輪付きブレスレット﹄だった。
使い方をおやっさんとおかみさんに説明する。
1402
2人ともが慣れるまで少し時間は掛かったが言葉に発しなくても念
輪で直接話が出来るので合言葉も必要ないだろうから万全なセキュ
リティーだと思う。
隷属の首輪を付けて脅されて店にやってきても脳内で会話できる念
輪ならホンネで話せるからな。
﹁コレで話しかけてきた人だけに普通の下着代金の倍の金額で売っ
てほしい﹂
﹁まぁ、早乙女君の知り合いばかりになるんだし、料金は構わない
んだけどね﹂
﹁それはダメだろう。コレも商売だからな。それにおかみさんへの
手間賃だよ﹂
﹁わかったわ。ありがたく受け取っておくよ﹂
それから3人で少し雑談を楽しんでから俺は外に出る。
もふもふ天国ヨークル店の中に今の時間を1人で満喫しているカタ
リナがいるとサル型メイドゴーレムのイエローに教えてもらったか
らだ。
もふ天に行きカタリナに先程おやっさんたちに説明した事を繰り返
し説明して危険性を伝え、そのままカタリナをフィアルカート防具
店に連れて行って引き合わせて下着やシャツなどを作ってもらう事
になった。
カタリナの場合は服も下着も元々長年の知り合いのおかみさんがカ
スタム品を作っていて、カタリナは結婚以来おかみさんの手作りし
か着てないのでサイズあわせも必要なく更衣室で着替えて終わりだ
った。
着替えている間におかみさんがカタリナの着替えの下着の分や予備
の分まで含めて10着ほど作って袋に詰めている。
俺はカタリナ専用の念輪ブレスレットを作って装備させてあげる。
1403
それにドミニアンやローグ真偽官の分、2本の念輪も作って渡した。
おかみさんやアイリ達とも念輪で会話する練習をしているカタリナ
さんを連れて、もふもふ天国の店舗に戻り俺は商業ギルドに出かけ
ることにする。
ヨークルでホップボードに乗るのは初めてだが自重は既に捨てたの
で気にしないで、便利だからホップボードでの移動を楽しんでる。
1404
ローグ真偽官の3人の子供がみんな神童だったっす。
商業ギルドヨークル支部に到着してリーチェを呼び出してもらう。
俺は先に会議室を借りて中でリーチェを待ってるとネコ獣人﹃リー
チェル・ハナザワ﹄は小走りでやってきた。
﹁早乙女さん待ってましたよ。私を会議室に呼び出したということ
は、もふもふ天国ヨークル店の新店舗の話なんですよね?﹂
くち
﹁あぁ、流石に1店舗で捌けないほどの客がこんなに早く集まると
は予想外だったよ。ちょっと慌しい開店で主婦の口コミというの軽
く考えてたことを痛感させられた。それにイーデスハリスの世界に
は意外とモフモフ好きな人が多いってことを発見できたよ﹂
﹁早乙女さんの欲しい物件と言うのは既に予想が付いてまして既に
私が抑えておきました。﹃住宅街、もしくは住宅街近辺﹄﹃ヨーク
ル1号店と同じような面積﹄でよろしいですよね?﹂
リーチェが押さえてある物件の地図と建物の図面を見せてもらう・・
・コレは確かに良い物件だ。
良い物件で金額は1億2000万G。
元はレストランになっていた場所なので表の道と建物の間にゴーレ
ム馬車駐車場があり6台が駐車可能。
敷地面積は1号店とほとんど変わらなくて、裏庭はなく店舗に出来
るのは1階部分で2階3階は事務所とオーナーの住居なんだろう。
外階段もあるので・・・この物件はもふもふ天国シーパラ店に似て
る。
オーナー専用のゴーレム馬車駐車場まであるのはありがたいな。
住宅街の中のメイン道路の前にあって場所はアイリとミーの母親カ
タリナの住んでる実家に程近いし、周囲は閑静な住宅街・・・最高
1405
の物件だろう。
﹁えらく手回しが早いな・・・リーチェ、もしかしてシーパラのマ
リスと話をした?﹂
﹁は、はい﹂
﹁ってことは俺に除霊して欲しい物件があるって事なんだよな?﹂
﹁ダメですか?﹂
﹁ハァ∼、やってくれるな・・・仕方がない。どうせ急いで除霊し
て欲しかったんだろう?﹂
﹁今回の物件は除霊と退魔です。上位悪魔と上級幽霊がいる物件で
して・・・﹂
リーチェが物件の場所の地図と物件の図面を俺に見せながら、こん
なワケワカメな状況になった物件の説明をしてくれた。
このやっかいな物件はヨークル南側のヨークル川に面した大きな面
積を持つ倉庫で場所的には1等地で間違いなく、何もなければ高額
で取引される物件だろう。
ヨークル川に面した部分も広くて倉庫の間取りも広く頑丈な建物な
んで売り出せば5億G以上で売れる物件とリーチェから補足の説明
があった。
だけど手付かずになっていた理由は今ままで複数の霊媒師の除霊攻
撃、退魔師の魔界返還攻撃、教会関係者の聖攻撃にも耐えてしまう
﹃上位悪魔﹄と﹃上級幽霊﹄が住んで遊びまわっているからだった。
上位悪魔と上級幽霊が倉庫に住みはじめた理由はありきたりなパタ
ーンで・・・
大きな商会の当主が罠にハメられて莫大な借金を背負って家族を道
連れに倉庫内で自殺。
家族を殺してから先祖から伝わる秘伝の本で上位悪魔を呼び出すこ
とに成功。
1406
家族の命と自分の命を差し出して上位悪魔と契約を結び、自分を罠
にはめた人間を悪魔によって呪い殺すことが出来て当主の方の残存
思念は昇華して消えた・・・が、呪いの対象があっさり自殺したこ
とで悪魔は満足出来ずに魔界に帰らなかった。
元々霊力の強かった当主の娘は、自分が死ぬと同時に自身の持つ霊
力が暴走して上級幽霊に転生させられてしまい無念を訴え続けるこ
とになってしまったのだった。
ムチャクチャカオスってる倉庫だな。
退魔と除霊の料金はもふもふ天国ヨークル2号店の税込み金額1億
8000万Gに決まった。
倉庫を手に入れてから今までの無駄な除霊などで商業ギルドが使っ
た金額を考えると6億Gで倉庫を販売しても儲けはそんなにない計
算になっちゃうな。
今回は既に早めに除霊と退魔に成功すれば6億5000万Gを払っ
ても良いから頼むから売ってほしいと言ってくれている商会があっ
て商業ギルドも急いでいたらしい。来月だとまた経費が掛かるから
な。
今まで10日毎に結界を張り続けてきた維持費を考えると儲けはほ
とんどなく、かなりのギリギリ。
リーチェが俺を連れて急いで除霊して欲しいみたいなんで、先に厄
介な物件の浄化をしに行きますか。
商業ギルド所有のゴーレム馬車で移動中に話をして、今回の浄化で
出てきたアイテム・魔石・魔結晶などは全部俺が貰うことになった。
上位悪魔と上級幽霊か・・・アイテムもドロップする魔結晶も美味
しいのかも・・・期待していいのか?
物件の倉庫に到着。
リーチェと御者をゴーレム馬車の中に残したまま俺はアイテムボッ
1407
あまの むらまさ
ゆきり まさむね
クスの中から天乃村正を散りだして右手に持ち、雪切正宗を左手に
持って二刀流でカタナは2本とも既に抜刀して装備している。
倉庫の中にズガズガ入っていった。
ここの倉庫に出てくるのは手加減のいらない悪魔と幽霊しかいない
し。
倉庫の中を歩いていくと俺の探知魔法で発見し補足していた2つの
虚ろな存在が近づいてくる。
先に出てきて話しかけてきたのは美しい女性の姿をした上級幽霊だ
った。
﹁そちらのお方、助けてくださいまし﹂
﹁おおぉ、見た目はまるで人間だ、身長は俺と同じぐらい。でも魔
力のパターンが歪で気配はほとんどなくて、霊力しか存在してない
ような・・・存在そのものが歪なのが幽霊なんだなっ﹃ガギン!﹄
っと﹂
俺の左手から飛び込んで攻撃してきた・・・こちらは歪な霊力パタ
ーンをで気配もなく圧倒的な魔力だけの存在・・・上位悪魔だな。
俺の左手の雪切正宗で上位悪魔の大鎌の一薙ぎを軽々と弾き返して
からじっくりと悪魔を眺める。
身長は小さくて150cmほどで、大鎌がメイン武器、白髪の少女
のごとき細い体躯・・・上位悪魔﹃魔界貴族﹄だろうな。
﹁ほほぅ、人間ごときがこの攻撃を軽々と弾き返すか・・・面白い
よな、人間・・・? お前の存在は何だ・・・なぜ我の呪いの力が
効かないのだ? 何だと! 神力だと﹂
﹁おっ! さすが上位悪魔の魔界貴族だな。俺の隠蔽してある神力
の存在に気付いたみたいだな﹂
﹁なぜ、なぜ、私の霊波動が効かないのだ・・・貴様は何者だ?﹂
﹁君はそろそろ霊界に行って反省文と人間に戻る修行から再スター
トだな﹂
1408
﹃神聖浄化﹄
俺が光らせた聖なる癒しの光が上級幽霊の周りを包み込み浄化され
ていって、薄くなって聖なる光の中に上級幽霊は消えていった。
その浄化の間も上位悪魔の魔法攻撃と大鎌の物理攻撃は続いている。
魔界貴族の繰り出す闇魔法は右手の天乃村正の一薙ぎで掻き消され
雪切正宗の受けで吸収されてしまう。
全ての物理攻撃は左右のカタナのどちらでも魔力も威力も全部吸収
している。
﹁神器のカタナを二振りも持っていて、神力を持って存在している
貴様は神なのか?﹂
﹁ゴッデスの知り合いではあるんだけどね。主神の祝福﹃天運﹄は
持ってるし﹂
﹁祝福も何もかも名前・年齢・性別以外の貴様のステータスが我の
鑑定魔法でも見えないとは・・・﹂
﹁どうでもいいだろそんなこと。時間も勿体無いしそろそろ消滅し
てくれ﹂
﹁なに!﹂
今まで魔界貴族の攻撃を受けるだけだった俺が突然攻撃開始する。
大鎌を振りかぶった左右の手のヒジの部分を右手の天乃村正で切断
させて、同時に左手の雪切正宗を魔界貴族の胸に根元まで突き込む。
雪切正宗の持つ闇特性が魔界貴族の魔力を完全吸収。
魔界貴族も上級幽霊も消滅してしまったので戦いはこれで終了する。
二振りのカタナをアイテムボックスの中の鞘に戻してから片付けて、
上位悪魔と上級幽霊が落としたドロップアイテム・魔結晶・魔水晶
を拾う。
魔界貴族と上級幽霊が落とした魔結晶は過去最大レベルの大きさだ
った。
地球の500ccのペットボトルほどの大きさの6角柱が7本もあ
1409
る。魔水晶は39個転がっている。魔石は黒い色をした闇属性の魔
石が16個転がっていた。
上級幽霊がドロップしたアイテムは﹃霊拘束手錠﹄だった。
手錠ってより見た目は日本にあった結束バンドだな。ケースにバン
ドが入ってるので取り出そうとしたらコピー商品がケースの横から
出てきた。
霊力を込めれば何本でも増やせるみたいだ。俺に掛かれば無限に増
やせるってことになる。
上位悪魔がドロップしたアイテムは・・・日本のスーパーなどで販
売されてるタケノコの水煮ほどの大きさと形をしている真っ黒な角
が2本あって﹃魔界貴族の角﹄と鑑識魔法で文字が表示されている。
コレは既に乾燥しているのでこのまま粉末状にしてから金属などの
加工時に混ぜると闇耐性を持つ防具・闇特性を持った武器を作るこ
とが出来る﹃悪魔の角﹄の上位版だな。
武器に混ぜると攻撃時に闇魔法攻撃力が付与させることができるし、
闇の生物の魔力や生命力を吸収することも可能になる。
サラマンディストの血と似たような感じで・・・上位版は﹃他の上
位版の耐性アップと混ぜることが可能﹄ってのは凄いな。
サラマンディストの血と魔界貴族の角の効果は重複できるみたいだ。
また今度おやっさんに1本渡しにいこう。
倉庫の中にはクズ魔結晶が合計100個も転がっていた。
上位魔族と上級幽霊がここの倉庫内に閉じ込められていたので、澱
んでいた魔力と霊力が結晶化して魔結晶を作り出していたんだろう
と推測される。
最後に倉庫の敷地内全部を神聖浄化の光で埋め尽くし、全ての浄化
が完了した。
まだ残っていた残留魔力と残存霊力で魔石が10個ほど転がり出て
きたので遠慮なく全部貰っておく。
1410
鑑識で調べたが既に悪魔と幽霊の痕跡すら消えて教会並みの神聖な
る場所になってる。
倉庫の基礎部分と土台の部分が損傷していたのでサービスで修理・
固定化魔法で補強しておいた。
この強化で後100年以上はこの倉庫は持つだろう。このまま販売
できるレベルだな。
リーチェに確認してもらって俺の除霊・退魔・浄化の作業は完全に
終了。
2枚の契約書にサインしてリーチェと俺の2人で1枚ずつもらい、
アイテムボックスの中に仕舞う。
最後に倉庫から出てきてからリーチェが魔石が付いたミスリル棒を
使って新しく敷地全部に封印を掛ける。
これからゴーレム馬車に乗って移動、それほど離れていないもふも
ふ天国ヨークル2号店の場所で購入と支払い契約をして、正式にこ
の敷地と建物は早乙女商会の持ち物となった。
リーチェはゴーレム馬車に乗って急いで帰っていった。
リーチェと別れる前の握手をした時に店舗の改築と改装を済ませた
後に商業ギルドに、愛玩ゴーレムとメイドゴーレムの登録をしに行
くよと伝えておく。
俺はこれから建物の中の全てを改装しないといけない。
いくら元レストランでもそのまま使える部分は少なく大幅に改装し
ないともふもふ天国は開店できない。
この敷地全てに隠蔽と幻影の魔法を施して外からは一切見えないよ
うにしてから、先に建物と土台を補強する改築工事を始める。
まずは外観を変えないために建物を全ての角度から見て記憶してこ
のまま脳内の記憶に保存させた。
入念に下調べをしてついでに要らない部分は全部解体していく。
1411
玄関はいつものように広げないといけないな。時間は13時をまわ
って腹が減って堪らないのでアイテムボックスに入っていたおにぎ
りやサンドイッチやホットドックをかじりながら改築作業を進める。
地下の食材保管室に使われていたであろう倉庫を見て土台部分に劣
化が見られたので、解体して新しく作り直してから更に固定化魔法
で強化、魔糸溶解液でコーディングまで済ませて、この土台部分と
地下室は既に新築レベルにまで復活させた。
地上に上がり1階から3階まで見て劣化している場所や損傷してい
る場所を解体してまわり、最後にスキル魔法﹃改築﹄で一気に作り
上げて改築は外装も含めて完了させた。
店舗の間取りも既に決まっているので1度建物の外に出てからゴー
レム馬車駐車場に素材を並べてスキル魔法﹃改築﹄で地下室から3
階までの全部の階の内装を作り変え仕上げる。
これで・・・もふもふ天国ヨークル2号店が完成したな。
改装しながら店舗防衛用にユーロンド21号から25号までをアイ
にん
テムボックス内でサクッと作っておく。
上空防衛用ゴーレムの忍も3体作り屋根の上で待機させる。
忍が3体もいるからここの店舗の防衛はユーロンド2体もいれば充
分なんだが・・・もはやユーロンドは5体で1セットなので多くて
も邪魔にはならないし、早乙女工房が冒険者ギルド本部ギルドマス
ターの次期候補のキナ臭い動きに巻き込まれた感が強いので防衛力
を今のうちに増強しておきたい。
ユーロンド24号と25号をここの防衛に使って残りの21・22・
23号の3体は早乙女工房の防衛に回ってもらう事にする。
早乙女工房は防衛力も上がるけどゴーレムを早乙女工房の所属にも
しないといけないので職人ギルドの方にも登録しに行かないといけ
ないのは面倒だけど仕方がないが、先に早乙女工房の防衛力を上げ
に行ったほうがいいので、転移魔法でシーパラの早乙女工房に移動
1412
する。
外に出てホップボードに乗って職人ギルド本部でユーロンド3体を
登録してネームプレートを装備させてササッと帰る。
何もなくてホッとしながらすぐに早乙女工房に帰還。早乙女工房の
防衛をユーロンド16号から23号までの8体に任せて転移魔法で
早乙女商会ヨークル第二支部に戻る。
俺はここには転移用の部屋が1部屋あればいいから・・・カタリナ
さんとドミニアン司祭の新婚夫婦にでも格安で貸し出そうか・・・
どうせすぐにでも、もふもふ天国ヨークル2号店は開店してカタリ
ナさんはここに入り浸るとだろうし。
それに転移部屋は上の住居部分でなくても地下1階の倉庫があるの
で、2・3階は誰かにまるっと貸し出す事が出来る。外階段もある
ので生活に支障は無いだろう。
商業ギルドヨークル支部にホップボードに乗って移動。
リーチェを呼び出して会議室でアイテムボックスからゴーレムを全
員取り出して登録をする。
メイドゴーレム3体・愛玩ゴーレム15体・ユーロンド2体の登録
を素早く済ませる。
2号店は今から開店させるので出店届けを商業ギルドに提出して会
計用の魔水晶を4個リーチェから貰う。
商業ギルドでの開店準備が終了したのでホップボードにまた乗って
2号店に戻り、アイテムボックスから愛玩ゴーレムとメイドゴーレ
ムとユーロンドを出して15体の愛玩ゴーレムに移動禁止の封印を
掛ける。
ユーロンド24号と25号には忍と協力してすぐに防衛任務開始。
クッション・テーブル・会計用の魔水晶と、2号店の開店用にアイ
テムボックスに準備していたコーヒー・紅茶などのドリンク類のポ
ット、フライドポテトやクッキーも全部メイドゴーレムに渡す。
1413
もふもふ天国ヨークル2号店が完成したので、すぐに開店する。
外に出てゴーレム駐車場の整備で雑草を木魔法で全部飛び出させて
処分、駐車場の床の石畳を補修してから固定化魔法で強化。
最後に外の道から見やすい位置の出入り口の近くに、もふもふ天国
の恒例となった目印の﹃看板を持った巨大なぬいぐるみ﹄を設置し
て盗難防止に愛玩ゴーレムと同じ移動禁止の封印をぬいぐるみに掛
けて・・・店舗の外側も完成した。
後はゴーレムに全部任せて近所に住むカタリナに2号店が開店でき
たことを知らせに行く。
実家にはドミニアンも今日は早く仕事が終わったみたいですでに帰
宅しており、後でローグ真偽官も相談事でここに来るとのことだっ
た。
念輪の使い方をドミニアンに直接教えて・・・カタリナは自分で使
えても説明するのが苦手だと言うことだったので俺が教えたんだけ
ど・・・カタリナって元教師だよな? 教えるのが下手って・・・大丈夫か? ドミニアンとカタリナの夫婦にもふもふ天国ヨークル2号店の上に
住まないかと尋ねると、カタリナは複雑そうな顔をして断ってきた・
・・本音は住みたいんだけどこの実家には愛着も思い出もたくさん
詰まっているのでちょっと無理だと言われてしまう。
ドミニアンが言うには・・・ローグ真偽官に3人目の子供が生まれ
て借りている部屋が手狭になって、引越しを真剣に考えていると言
う相談の為にここに来るとのことだった。
なのでドミニアンからローグ真偽官に貸すって言うのはどうだろう
かと聞かれる。
俺もローグ真偽官にだったら相場よりも安い金額で貸してもいいし、
ローグ一家が住みやすいようにサービスで改造してあげるよと教え
ると、まずはローグと話し合って決めた後で念輪で連絡させてもら
うと決まった。
1414
その後はホップボードに乗って1号店に行き、店舗の前で並んで待
っている人達に2号店の場所を教えたり、場所がわからない人には
地図を渡して新店舗の方に誘う。
今から2号店に俺が先導して歩いていくから2号店まで案内するよ
と店舗の中の人にまで全員に言うと15人ほどが一緒に行くことに
なり、ゾロゾロとみんなを引き連れて歩いて案内する。
これで待ち時間が緩和されるとありがたいんだけど・・・今日はあ
っちこっちと慌しいな。
案内を終えてローグから念輪連絡がありカタリナとドミニアンが住
んでいる実家に向かうと、ローグがいてすぐにでも物件が見たいと、
妻も連れて来て見学しても良いかと興奮して聞いてきたので、なん
だったら今から子供も連れてきて見学していいよと言うとゴーレム
馬車に乗って出て行ってしまった。
奥さんから早く広いところに引越ししようと言われていたが、目ぼ
しい場所もなく不動産に詳しい友人もいなかったので途方にくれて
いて、今日もドミニアンに相談しにきてたんだと言い残して急いで
帰っていってしまった。
もふもふ天国ヨークル2号店で待ち合わせをしたんだが、場所は口
で説明してから地図まで渡したのですぐにわかるだろう。
俺はドミニアン司祭とカタリナに挨拶して2号店に行って、ローグ
との待ち合わせ場所のゴーレム駐車場で待っていることにした。
待つこと20分でローグ一家の到着。
ゴーレム馬車をオーナー専用駐車場に誘導して駐車させた。
ローグの奥さんはネコ獣人で年齢はローグと同じだと言うが10代
にしか見えないな。
ネコ獣人はリーチェのように小柄で童顔で長生きする種族なので子
供のような容姿のまま年老いていくらしい。100歳を超えても2
1415
00歳を超えてもこのまんまだ。
ロリコンには大人気の種族の獣人だ。
子供も3人連れて来ていた。
1番上が男の子で10歳、真ん中が7歳の男の子、一番下が生まれ
たばかりの2ヶ月の女の子と紹介してもらう。
外で立ち話もなんだしさっそく邸宅の中を案内する。
タンスは数えるほどしか設置してなくて大きめのクローゼットが各
部屋に設置してある。
中は土足厳禁仕様にしてあるんだけど子供が床のじゅうたんが気持
ちイイと言ってこのまま案内する。
奥さんは今賃貸で住んでいる場所の3倍の広さになる邸宅に圧倒さ
れているようで言葉を失ってるし、子供は広くなった部屋で兄弟で
﹃かくれんぼ﹄して遊んでる。
ローグが想像以上の広さなので家賃が払えないと俺に言ってきたが、
今までの賃貸の金額の聞いて金額はそのままの月10万Gでいいよ
というと口を開けたまま黙ってしまった。
全ての部屋の案内を終えてからリビングで続きの話をする。
俺からすると是非今日からでも住んでほしいので1から全部説明す
る。
ヨークルの本宅があるし、ここに早乙女一家が住む予定が全くない
こと。
俺のとばっちりでトラブルに巻き込まれる可能性があること・・・
って、おやっさんに説明したようなことをローグ夫妻に説明した。
子供が小さいローグ家には最適な防衛力を持った物件だろう。
2人の子供が遊びつかれて喉が渇いたとリビングに戻ってきたので
ミックスジュースを造ってあげた。
リビングのソファーに座って大人しくゴキュゴキュ飲んでる兄弟の
姿にホッコリしてしまう。
奥さんも反対する理由もないのでさっそく賃貸契約を結ぶことにし
1416
た。
俺が契約書を2枚書いてローグに確認してもらい、お互いがサイン
して契約完了。
子供がすぐにでも住みたいと言ってるのでさっそく引越しすること
にした。
俺のアイテムボックスを使えば1回で全部終わるのでゴーレム馬車
で一緒に元の家に行って、引越しするのも俺が手伝ったので1時間
も掛からなかった。
キッチンに魔道コンロ・魔道冷蔵庫などを設置するのも俺からのサ
ービスだ。
今までローグ家で使っていた魔道冷蔵庫は小さいサイズだったので
俺が丁度の大きさに作りあえてあげる。
冷蔵庫の隣にワインボトルが20本ぐらい保管できるワインセラー
の棚を作ってあげるとローグの奥さんのほうが大喜びだった。
奥さんの方がワイン好きだったみたい。
2人の子供部屋も兄弟それぞれのワガママを聞いてサービスで壁紙
や勉強机など家具もセットで改装してあげた。ベッドも大人用の大
きさで長年ここに住めるようにしておいた。
ローグ一家がそれぞれの個室を持てる6LDKの二階建てだからな。
夫婦の部屋もローグの執務室まであるという賃貸とは思えないほど
贅沢な邸宅だろう。
ローグの執務室を作っているときに龍布の下着をフィアルカート防
具店に行って、全て作り変えてもらうようにお願いした。
﹁何から何まで世話になったな、早乙女。下着の件は明日にでもフ
ィアルカート防具店に家族で行って作ってもらうことにするよ。念
輪で店の人に話しかければ良かったんだよな?﹂
﹁あぁ、そういうことなんでよろしくな。下着の料金としては倍の
金額になってるから出費がかさむけどよろしく頼む﹂
﹁安全は金には替えられんことは理解してる・・・が、ここまで世
1417
話になりっぱなしでも俺には早乙女に返す物がなにもないぞ?﹂
﹁ま、そんなこと気にすんな。俺も﹃特別任命強制捜査執行官﹄の
話とかローグから聞いてたおかげでスムーズに済んだ事もあるし、
知識や情報も貰ってるから充分役にたってるよ。・・・それよりも、
ローグの子供が凄いな! 先天的真偽魔眼を2ヶ月の娘が持ってる
って凄過ぎるな。2代続けて魔眼持ちなのはタマにあるけど先天的
真偽魔眼の親子って俺は聞いた事がないぞ﹂
﹁は? 早乙女もう1回言ってくれ﹂
上2人の男の子は既に調べていて魔眼を持っていないことはわかっ
ていた。
娘は生まれた頃からローグが忙しくてまだ調べていなかったと言っ
て、それからみんなで教会に行って大騒ぎになってしまった。
ローグの二ヶ月の娘が先天的真偽魔眼を持っていることが証明され
たので娘は大至急、真偽官ギルドに加入手続きをしないといけない。
ローグ夫妻は二ヶ月の娘を連れて教会の一般人立ち入り禁止区域に
ある真偽官ギルドに行ってしまった。
俺はローグの息子2人の面倒を見てる。
俺が面倒をみようと思ったキッカケはこの兄弟のステータスを鑑識
魔法で見たからだ。
兄弟は2人とも魔法の素養が非常に高い。
クラリーナには及ばないが一般人のレベルをはるかに凌駕するほど
の素質を持ってる。
光と回復魔法はすぐにでも習得できるだろう。
俺が教えるとすぐにヒール魔法と光の簡易魔法﹃ライト﹄を2人の
兄弟がいとも簡単に覚えてしまったので、俺が教えていたところを
一緒に見学していた司祭が驚愕して大声を出してしまい、こっちは
こっちで大騒ぎになった。
お兄ちゃんの方は30分ほど練習でハイヒールまで使えるようにな
1418
ったので、その才能は今後ヨークルだけでなくシーパラ連合国に鳴
り響くことになる。
むろん俺が何度も魔力を補充しながらだから、2人の兄弟には教会
以外で魔法をむやみに使わないように言い聞かせておく。
教会ではアマテラスの加護がありMP消費は半分で済むが、何しろ
まだ10歳と7歳の子供だからMPの総量が低い。外で遊んで魔法
を使っていると倒れてしまうだろう。
1時間近い魔法の練習で精神的に疲れた表情の兄弟に頑張ったご褒
美でおやつのチョコバーをあげると、並んで座ってポリポリと行儀
よく食べてる兄弟は周囲にホッコリとした空気を広げている。
兄弟の魔法の素養なんて調べてなかったローグ夫妻は、娘の真偽官
ギルド登録を済ませてから戻ってきてから、騒ぎを呆然と眺めてい
た。
俺がローグ一家の引越しを急いだのは、このローグ夫妻の3人の子
供たちが将来は教会の中枢に関わるほどの輝く才能を持っているの
がわかったから、金なんてどうでもいいので安全を最優先させた。
もふ天の上の住居なら俺のゴーレムと封印の防御力があるので、こ
の国の最高レベルの防御力があるからな。バカが100人単位で襲
撃してきても門を超える事すら出来ないだろう。
兄弟は教会の司祭が開いてる﹃魔法学校﹄に明日から通うことが決
定した。
10歳と7歳だ・・・強烈な青田買いだろう。
弟君はスピード系の武器に向いてるので聖騎士団に向いてるよと俺
が司祭に言うと、司祭はメモを取りながら12歳までまずは基礎訓
練からにしますと言ってくれた。
俺も臨時で魔法の講師をして欲しいと頼まれたので時間の余裕があ
るのは今なので、今から魔法学校の臨時教師をすることになっって
しまった。
1419
今は夕方の休憩中のミーから念輪で連絡が来て話していたが、確認
すると今日は夕方の5時までダンジョンアタックを続けるんだとい
ってた。
今は15時過ぎなのでってことは晩ご飯は夜の7時だなとミーに確
認して念輪を切る。
2時間ぐらいは魔法学校の生徒に教える時間がありそうだ。
ペコペコする司祭に案内されて教会から少し離れた場所にある魔法
学校へと歩いていく。
露草桜が聖母になる前は、俺がエクストラヒールが唯一使える冒険
者で数日後にはAランクに昇格するだろうと噂されてる人間で、ヨ
ークルの救世主と言われてる男・・・というのは司祭は承知してる
のだろう。
急遽2人の息子が明日から通うことになったローグ一家も見学をし
についてきてる。
さぁどんな子供が出てくるのか・・・
1420
素直でマジメな生徒が多いと教師になってしまうっす。
鬼が出るか蛇が出るかと身構えて魔法学校の教室に入っていくが・・
・見た目はほとんど俺と同じぐらいか少し若い子もいる。
13∼18才までで魔法の素質がある者のみを国中から集められて
いるのが、ここの魔法学校だ。
なぜ首都のシーパラでなく都市ヨークルに魔法学校があるのかとい
うと白帝への配慮ではなく、恐怖の記憶からだと噂されている。
ウェルヅリステルで栄えた魔法文明は白帝戦争で失ってしまったの
で、再び首都を失うわけにはいかないとシーパラ連合国の最高評議
会は判断し、首都シーパラに500年後の今現在までは魔法学校を
開校する許可をおろさなかったからだ。
シーパラの住民の中に魔法が発展することに恐怖がある人達がいる
ので、その人達のための配慮なので予算的・人為的な国からの支援
は得られているのだが。
教会の中にある魔法学校なので魔法の勉強しているのは教会関係者
の子弟がほとんどで18才をを過ぎると他の国にある﹃魔法研究所﹄
に留学しに行って更に修練と経験を積み重ねて30歳になって帰っ
てくるのが決まりなんだそうだ。
商人の子供が魔力が高く生まれてくると初めから外国に留学する人
間ばかりだし、そのまま留学先に就職してしまう。
うん・・・正直言ってクソ生意気なガキがたくさんいるのかと思っ
たら、みんな超マジメで若干俺のほうが引いてるぐらいだ。
全員俺の事をよく知ってるみたいでキラキラした目で熱心に俺の話
を聞こうとしてる・・・生意気なエリートも不良もいない・・・と
いうか全然エリート感が無いな。
さぁ、何から教えればいいのかな・・・日常的なものからのほうが
1421
取っ掛かりやすいかな?
いつもの3点セット魔法から教えることにする。
魔法を使う上で1番重要なのは・・・﹃イメージすること﹄
必要な魔力を最適な量を使用して最適な効果を得ることが重要だ。
少ない魔力を使った練習方法に3点セット魔法は最適だろう・・・
細かい魔法制御も必要なのでイメージも鍛えることが出来る。
3点セット魔法は﹃洗浄﹄﹃浄化﹄﹃乾燥﹄の3つの魔法が組み合
わさって出来ている魔法なんだが、洗浄魔法だけでも実は水と風の
複合魔法になってる。
空気中の水分︵空気中の水分が足りない時は自分の水魔法で生み出
す水︶と自分の魔力で生み出した風を混ぜて微粒子のような小さな
泡を作り出している。
その魔法の小さな泡を洗浄しようとしている対象物に風魔法で擦り
付ける様にして汚れを落としている。
微粒子ような小さな泡に汚れを引っ付けて地面に落とすか、邸内な
どではゴミ箱に捨てている。
俺・マリア・セバスチャン・クラリーナの場合はアイテムボックス
の中のゴミ箱に入れて後でまとめて捨てている。
魔法学校の生徒には箱を渡してゴミ箱にして自分のアイテムボック
スに入れる練習をさせた。
汚れを洗い流した後にくるのが教会関係者の光魔法でよく使う﹃浄
化﹄なんだけど、浄化の光そのものには聖なる力は宿っているが、
浄化の淡い光では対象物を乾かす力は無くて浄化の光で殺菌してい
るだけ。
適量
送って対象物を乾かして終了する。
それで最後の魔法﹃乾燥﹄・・・これは風魔法と火魔法の融合で温
かい風を
対象物を乾かせ過ぎてもダメだし乾かせなかったら問題外だ。
1422
こうやって説明すると魔法のイメージがしやすくなるだろう。
後は脳内でイメージした通りに適切な魔力を使えば出来上がるから、
初めはゆっくりと子供達に練習させる。慣れてきたらスピードアッ
プしていけばいい。
使い込んでいけば一瞬で全てができるようになる。
さすがエリート集団だな30分もしたら全員が使いこなせるように
なっていた。
今はまだ3点セット魔法の各工程に1秒ずつかかっているが慣れれ
ば一瞬でできるようになるだろう。
この3点セット魔法で1番難しいのは本来は﹃浄化﹄で、生徒の全
員が既に浄化を使いこなせているというのが、ここまで早く3点セ
ット魔法が習得できた理由だろう。
それで全員が手こずったのは洗浄だった。
小さい泡というイメージがなかなか出来なかったみたいで、何度か
水浸しになったりもした。
・・・優秀だなぁ、時間が余ったぞ。
それで魔法は魔法でも﹃生活魔法﹄の練習をさせる事にした。
最小の魔力のみで出来ないとか、もしくは使いこなせていない者が
ほとんどで、生徒の全員が魔力のゴリ押しで生活魔法っぽく使って
いるだけだったからだ。
最小魔力の使い方のコーチを始めると全員が嫌な顔もせずに真剣に
取り組んでいる姿を見て少し嬉しくなって来て、俺も熱心に教えは
じめるとユマキ商会で早乙女式ゴーレム馬車の動力部分を作った時
のように俺の教師スキルが発動する。
最小魔力の使い方を覚えると魔法の威力に幅が出てきて、そこに複
合魔法を絡めると大幅に威力を上げることが可能になる。
俺の隣ではローグの息子2人がイスに座らせてもらって真剣に話し
を聞いているが魔法わ使わないように言ってあるので今日は授業の
1423
見学してるだけだ。
それで自分なりにメモだけ取らせ後日練習するように言ってある。
10歳以下の小さな子供にしては今日は短時間で魔法を使いすぎだ
からな。
しかも今日、生まれて初めて魔法を使ったんだから無理のしすぎは
よくない。
17時半になって授業が終わる頃には全員が生活魔法を最小魔力で
使いこなせるようになっていた。
これで全員が魔力の効率のいい使い方を学び今後に生きてくるだろ
う・・・基本に忠実に・・・基本がしっかりしてこそ発展があるか
らな。
・・・実は俺も知らなかったのだが、こんな訓練は世界中でどこで
もやってない画期的な授業だったりする。
何しろイーデスハリスの世界での魔法は効果を及ぼす範囲とか大き
な威力に目を奪われがちで﹃より強く﹄﹃より広範囲に﹄という勉
強しか、どこの国の魔法の学校でも魔法専門の研究機関でも研究し
てない。
効率の良さとか最小魔力で最大効果なんて研究は今日のこの授業か
ら始まってたりする・・・
授業が終わると見学していた司祭から質問攻めにあう。
俺独自の魔法学習の授業スタイルに普段は教師をしているみんなも
興味津々だったみたいだ。
様々な質問の中で俺が言った言葉
シーパラ連合国は魔法後進国。だけどそこは商人の国らしく効率
の良さを求めるようにすればいい。他国と同じことをしていても追
いつくことは出来ない。むしろ他国の後を追うのではなくて・・・
独自の﹃魔法を学ぶ効率﹄とか﹃最小魔力で最大の効果を及ぼす魔
1424
法﹄などを研究すれば良い
これが俺の知らない間にこの国の魔法学校の基本方針になっていた。
質問を終わらせてから新居に帰るローグ一家のゴーレム馬車を見送
ってから、そのまま教会魔法学校の前から俺はホップボードに乗っ
て自宅に帰っていく。
15分ほどで自宅に到着して玄関で靴を脱ぎ3点セット魔法で全身・
服・靴まで完全に浄化するとサッパリした気分になるな。
リビングに行くと、るびのはリビングの自分のクッションの上で、
フォクサは隣にお座りして2人は寛いでいた。
俺はフォクサ専用のクッションを作ってあげるとフォクサもクッシ
ョンの上で寝そべって寛ぎだした。
﹁あっ、とうちゃんおかえり﹂
﹁早乙女さん、おかえりなさいっす。クッションありがとうござい
ます。クッションを作るスキルは持ってるんですけど素材がなくて
作れなかったっす﹂
﹁お、2人とももう帰っていたのか早いな﹂
俺は話しながらクッションを作る素材をフォクサに渡した。
フォクサは自分のアイテムボックスに次々と入れていく。
﹁今日は狩りもしないでガウリスク・ニャックス・アキューブ・水
影・ニャービスのところにフォクサと挨拶に行っただけだよ﹂
﹁お! 魔獣全部を呼び捨てにしてるって事は、るびのはみんなを
眷族にしたのか?﹂
﹁うん。何か必死にお願いされちゃって、まいっかって思った。そ
したらみんなに﹃私は白帝様の部下になったのですから呼び捨てで
読んでくれないとダメです﹄って怒られちゃった﹂
﹁まぁそうなるわな。フォクサも眷属が増えて良かったのか?﹂
﹁元々彼らは白帝様に与えられた力で強くなった眷属の子孫ですか
1425
ら、これも自然な流れじゃないかとワタシは思ってるっす﹂
﹁それもそうか。確かに5頭とも先祖の元をたどれば眷属なんだか
ら、るびのに眷属にしてもらうのが種族の悲願って言ってたしなぁ﹂
﹁それで明日は水影の提案で大草原のみんなを引き連れてトロール
退治に決まったっす。ワタシが転移魔法で送る事になったっす﹂
﹁アキューブが大喜びしそうな遠征作戦だな。前も水影がトロール
が最近増え過ぎて困ってるって言ってたもんな﹂
﹁明日の作戦には銀大熊が多くて300頭以上が参加するみたいっ
す。それで早乙女さんにもお願いがありましてまたセバスチャンさ
んを明日一日借りられないかと思ってます・・・ダメっすか?﹂
﹁わかった、いいよ。トロール肉の回収だろ?﹂
﹁ありがたいっす。ワタシもアイテムボックスの︵大︶は持ってる
んすけど、何しろ明日だけで3000頭以上のトロールを狩るとア
キューブが豪語するほど張り切ってるっす。流石に3000って数
字は早乙女さんと繋がっているアイテムボックスを持ってるセバス
チャンさんか早乙女さん本人がいないとどうにもならないっすから﹂
﹁3000って言うのは凄いな。そんなに増え過ぎてるのかよ﹂
﹁大黒豹も森林タイガーもそこまで大食いな種族じゃないっすから
ねぇ。それで眷属のみんなで相談したんすけど、これからはワタシ
が定期的に大森林の南側に銀大熊を送って間引くことにするって決
定したっす﹂
﹁そうして貰うとありがたいな。ヨークルに増え過ぎたトロール軍
団が戦争でも仕掛けられても困るしな。・・・わかった、毎回行く
前に教えてくれればセバスチャンかマリアを貸し出すよ﹂
﹁いえ、次回から狩りの量は百単位になると思うんでワタシだけで
大丈夫っす﹂
﹁それじゃあ、フォクサにお願いしたいんだけどトロールが増え過
ぎてる原因を少し探ってきてくれ。明日はセバスチャンにも手伝わ
せるから﹂
1426
﹁了解っす。私どもで解決できればいいんすけど・・・﹂
﹁手に余るようなら俺に教えてくれ。俺も手伝うからな﹂
﹁あざっす﹂
﹁ねぇねぇとうちゃん、今夜の晩ご飯なんだけどまた外の裏庭でバ
ーベキューをしないかな?﹂
﹁今夜の晩ご飯は見ての通りまだ何も決まってないよ。るびのはバ
ーベキューがしたいのか?﹂
﹁この前のエビとかカニとか殻ごと焼いて食べたのが凄く美味しか
ったから、フォクサにも食べさせてあげたいなーって思ったんだ。
フォクサも焼いたトロール肉が美味しいって言ってたしきっと気に
入ってくれるはずだよ﹂
﹁なるほどな。でもこの前焼いた材料がまだ残ってるから今すぐに
でも食えるぞ?﹂
そういって前のバーベキューで食後にセバスチャンが焼いてくれて
た伊勢えびやカニを桶にいっぱいフォクサに渡すと、いきなり一心
不乱になってガツガツと貪り食ってしまった。
飢えてる
﹄
そういえば530年も眠らされててその間は何一つ食って無かった
からな。フォクサから﹃腹がメチャクチャ減ってて
って直接聞いた。
るびのも俺も取り残されてる。
桶の中にあった10匹以上の伊勢えび・車えび・カニも数種類あっ
て桶にいっぱいあったのだが数分で全部フォクサが食ってしまった。
﹃焼いた甲殻類うめぇ∼∼!﹄
フォクサが食い終わってから叫んだ時はちょっとビックリした。
﹁気に入ってもらえたようで何よりだがまだまだたくさんあるけど、
フォクサはどうする?﹂
﹁まだまだ食べられるんで、いくらでもくださいっす。今までは生
でしか食ったことなかったんで、甲殻類は苦手だったんすけど、焼
1427
いた甲殻類がここまで美味くなるなんて知らなかったっす﹂
フォクサにも追加で桶に出してあげて、るびのにも桶にいっぱいの
焼いたエビやカニを出してあげたら2人でバリバリ食べだした。
俺もアイテムボックスから取り出したエビとカニの刺身をつまみに
ビールを飲みはじめる。
嫁たちも帰ってきたので全員でそのまま晩ご飯になった。
今夜の晩ご飯はご飯と赤だしと漬物以外は今まで作って食べてきた
料理の大量に余ってた分のおかずになった。
たくさんの種類のおかずが幾つもの皿の上に乗って所狭しとダイニ
ングテーブルの上に並んでる状況は・・・カオスだ。
ウナギの白焼きの隣の皿に青菜炒めがあって、その隣の皿には豚ト
ロの炙りが乗ってたりする。
ダイニングテーブルの上はちょっとしたビュッフェみたいになった。
俺は今日はご飯と赤だしは無しにしてビールジョッキを片手におか
ずを食いまくる。
こうやって見ると、このイーデスハリスの世界にきてから約1ヶ月・
・・たくさん食ってきたな。
たくさんの料理を見てると中々感慨深い。
・・・最初は米もなくクマ食ってたからな。しかもただ塩を振って
焼いただけのシルバードのクマ肉。
いまだにシルバードの肉は余ってるし。
まぁ感傷に浸るのはこれぐらいにして俺も脳味噌の活動を停めて無
心で食うことにした。
おかずはたくさんある。食欲もたくさんある。
食事が終わってダイニングからリビングに移動した頃には全員食い
すぎで動けなくなってる。
1428
フォクサが1番食ってたな。でも全員が満足げな顔になってるのは、
こういう事でもストレス発散できるしたまには必要なんだろう。一
心不乱に食べるって・・・楽しいし。
るびのが食後にいつもの3点セット魔法でセバスチャンにキレイに
してもらい、ネコのように前足で顔を洗ってる。
セバスチャンに3点セット魔法を教えてもらって練習してるフォク
サ。
スイーツは別腹とばかりにアレだけ食べてたのにリビングで生クリ
ームたっぷりのクレープを満面の笑みを浮かべて食べてるクラリー
ナ。
蒸かしたジャガイモのチーズ掛けを食べてワインを飲んでるアイリ。
チャーシューをつまみにしてブランデーを飲んでるミー。
俺はいつもの芋の3種盛り︵ポテトチップス・フライドポテト・ハ
ッシュドポテト︶をつまみにウイスキーを飲む。
飲みながら食べながらの雑談は夕食後も続く。一家団欒ってこの事
だな。
るびのは夜9時ぐらいにフォクサとセバスチャンを連れて風呂に入
りに行った。
﹁そういえば今日のみんなのアゼットダンジョンアタックはどうだ
った?﹂
﹁ユーロンド1号の防御が完璧なので気兼ねなく魔法を打ちまくり
ました。でも私の魔力回復の為に休憩を長めにしていただいたので
攻略はそこまで進んでいません。今日は地下13階までです﹂
﹁私も大剣の実戦練習が進んでるわ。地下13階のオーガロードを
一撃で上から下まで一刀両断できた時は感動しちゃったわね﹂
アイリが立ち上がって身振り手ぶり付きで嬉しかった出来事を表現
してる。
1429
・・・アゼットダンジョンはB1FからB10Fまでの魔獣の上位
種がB11FからB20Fまで繰り返されるダンジョン形態だ。5
階ごとのボスも同じように上位種が出てくる。
ちなみに・・・
地下1階は ゴブリン 地下11階はマッチョゴブリン
B2F オーク B2F オークロード
B3F オーガ B13F オーガナイト
B4F モウギュー B14F バクギュー
B5F サイラス︵ボス︶ B15F サイラスファイター︵ボス︶
B6F ミノタウロス B16F ミノタウロスロード
B7F リザードドッグ B17F リザードドッグファイター
B8F キラービー B18F キラービーナイト
B9F バジリスク B19F バジリスクロード
B10F サラマンダー︵ボス︶ B20F サラマンディスト︵
ボス︶
となってる。
B20F以降はガラリと顔ぶれが変わるのだが・・・これもまたB
30FからB40Fまでの魔獣はB20FからB30Fまでに出て
くる魔獣の上位種が出てくるとアイリとミーに教えてもらった。
﹁なるほどなぁー。情報をありがとう勉強になったよ。それで今日
はどうだったんだ?﹂
﹁今日はアイリの大剣の練習を兼ねていたし、クラリーナの魔力総
量の問題もあったから長めに休憩しながらじっくり攻略してきて・・
・今日はB13Fまでね。オーガの角がたくさん手に入ったよ﹂
﹁大量のオーガの角は俺のアイテムボックスにもマリア経由で送ら
れてきてるから知ってるよ﹂
するとクラリーナがリビングの真ん中のテーブルにオーガナイトロ
1430
ードの金色の角が2本、オーガナイトの銀色の角が3本並べる。
﹁オーガナイトロードも1度ペアで出てきました。しん様、これが
ドロップアイテムです。それと魔結晶はマリアのアイテムボックス
を経由してしん様に送ってあるはずです。それで地下12階でも上
位種が出まして・・・私はもちろん、アイリさんもミーさんも見た
こと無いアイテムなんですが・・・これはオークロードの上位種﹃
オークファントム﹄のドロップアイテムです﹂
クラリーナが最後に自分のアイテムボックスからテーブルに取り出
したのは何かのグリップみたいなんだけど、手に持つ部分のグリッ
プしかないアイテム︵?︶だった。
鑑識魔法で調べてみると
鞭﹃オークウィップ﹄
所有者 早乙女ミネルバ
ダンジョン内でのみドロップする武器。
オークロードの上位種﹃オークファントム﹄のレアドロップアイテ
ム。
普段はグリップのみだが使用する時は魔力をグリップに注入すると
オーク革の鞭が出てくる。
最大の長さは注入した魔力に準じ所有者のみが使用出来る。
鞭の最大の長さは10m。
﹁もしかしてミーがこのアイテムを最初に拾ったの?﹂
﹁うん、そうだよ。よくわかるね、しんちゃん﹂
﹁これって武器の鞭﹃オークウィップ﹄で所有者の魔力が注入され
ると反応してオーク革の鞭が出てくるタイプだな・・・所有者がミ
ーとなってるのは最初に拾ったからだろう。所有者がミーのままだ
と鞭が出せないから鞭を出すことが出来なかったんだろう﹂
ミーは魔力の放出方法を知らないからな。鞭を出すことすら出来な
1431
いし、所有者を変更しない限りは鞭として一切使えないな。
俺は1度オークウィップを装備して無理矢理ミーから俺に所有者を
変更した・・・力技の強引な所有者変更は早乙女一家の中では俺し
か出来ない。
俺の魔力をほんの僅かにだけ注入するとシュルシュルっとオーク革
の鞭が1mほど出てきた。
1mぐらいの鞭を伸ばしてクルクルまわすとヒュンヒュンと音を出
して回るオークウィップ。
鞭としてのバランスは上々だ。
俺が盗賊から取り上げた鋼鉄製のハーフプレートアーマーをアイテ
ムボックスから出して空中に投げ、瞬時に3mほどに伸ばしたオー
クウィップを叩きつけると真っ二つに鎧が割れた。
今までソファーに座ったままだった俺が立ち上がって壊れた鎧を調
べたが・・・たいした威力ではないな。
鞭の威力で切ったのではなく俺の持っている力とスピードで鎧を真
っ二つにしたに過ぎない。
嫁3人はビックリしていたが俺が威力の実験をして・・・たいした
性能がないと説明したら興味を失ったみたいだ。
﹁魔力で伸ばせる武器なんて面白そうだったから欲しかったけど、
私じゃ鞭を伸ばすことも出来ないしね﹂
﹁ミーが使いたいなら改造してあげるよ﹂
俺はアイテムボックスから単1電池サイズの魔結晶を取り出してミ
スリルとオリハルコンでグリップも含めて全部コーティングと装飾
を施してグリップを握りやすくしてから、魔結晶の中に魔力と敵の
魔力を吸い取る闇魔法﹃マジックドレイン﹄を封入して、最後に早
乙女一家以外には使えなくなる封印を施して完成。
鑑識で調べたら名称が既にミネルバオークウィップ︵改︶になって
て笑った。
ミー専用になったな。
1432
ミーがちょっと振り回してみたいと言ってるので全員で靴を履いて
地下練習場に移動した。
初めのうちは自分の後頭部に当たったりして鞭に振り回されてる状
態だったが、俺のアドバイスで初めはもっと短くした状態の2mほ
どに縮めて使用してからすぐに上達し始める。
30分後には上級の鞭使いレベルになってるのはさすがミーだな。
扱える長さは5mぐらいまでが限界だったが。
ミーの場合は脳内のイメージで鞭の長さを自在に変更できるように
なるまでに、ちょっと時間が掛かったぐらいで鞭の動かし方はすぐ
にマスターできる。鞭の威力は今後の訓練次第だな。
ミーから少し借りて俺がミネルバオークウィップ︵改︶を3mほど
の長さの棍のようにして振り回しても使える。
中国武術で使用する棒のようによくしなるので、棒術でヒュンヒュ
ンと振り回してミーに変化の見本を見せてから返す。
正直言ってこれは使い勝手が良さそうだな。
ミーの場合はアマテラスに貰った祝福﹃属性攻撃﹄が上乗せできる
のでミーの専用武器にすると自由度が上がるからこの武器はミー専
用のものになったんだろう。
俺がミーの装備で使ってる腰ベルトの右側の部分にミネルバオーク
ウィップ︵改︶のホルダーを作ってあげた。
それでセバスチャンから念輪連絡が来て、るびのとフォクサの長風
呂が終わったみたいだ。
既に使いこなしている3点セット魔法で体を浄化させたフォクサが
自分の巣に戻ってきたところで、地下ワインセラーの前で俺たちと
すれ違う。
みんなでフォクサにおやすみの挨拶をする。
かなり眠そうで目をパチパチしておやすみの挨拶を返すフォクサに
ホッコリしてしまう。
1433
∼∼﹄って言いながら湯船に浸かって上を見上げ
俺達夫婦も今から風呂に入りにいく。
露天風呂に﹃あ
て気が付いたんだが・・・今日は昨日と時間が違い過ぎて露天風呂
からの角度だと月が見えないし、満月で星も見にくい。
外に出て裏庭の方に歩いて行けば満月は見えるんだろうけど露天風
呂に入りながらの月見酒は今日はできそうもないな。
それに今日は夜暗くなってから雲が出てきたみたいで、裏庭が月明
かりに照らされている中を雲の陰が移動してる・・・雲があって満
月が見にくいようだ。
﹁それでしんちゃんは明日の予定はどうする?﹂
﹁明日かぁ・・・今のところ何も予定がないんだよね。とりあえず、
もふもふ天国ヨークル2号店を今日の昼過ぎに開店したから見守る
こととお客の動向調査ぐらいかな。後、久しぶりに買い物でも行っ
てこようかなって考えてるぐらいだよ。みんなはどうする?﹂
﹁私は一日中弓の練習をしようかと考えています。1度弓の事だけ
を考えて真剣になって練習してみたかったんです﹂
﹁私は午前中はクラリーナと一緒に地下練習場に篭ってレイピアと
鞭の二刀流の練習しようかな・・・それで今日のアゼット迷宮の地
下12階で拾ったドロップアイテムで﹃豚モツ﹄があったから、午
後は豚モツの煮込み料理をやろうかと考えてるよ。だから午後から
は本屋と食料品市場に買い物に行ってから夕方は料理しちゃおうと
考えてる﹂
﹁ミーも? 私も明日は料理しようと考えてたわ。それなら明日は
私が午前中に食料品市場に行って昼食は私が担当で夕食はミーが担
当ってことにしましょう。私は午後から大剣の練習を地下練習場で
やるわ﹂
話が落ち着いた頃に・・・急に俺が立ち上がってマジメな声を出す。
1434
﹁明日の予定が決まったようだな・・・ってところで、外に来客だ。
ユーロンド5号が対応してる。冒険者ギルドからの緊急連絡だって
?﹂
﹁しんちゃんどうしたの? 何かの緊急連絡?﹂
﹁何かまだよくわからないが冒険者ギルドシーパラ本部の幹部ペス
カト・ビッタートが謎の集団に襲撃されたようだ。全てのユーロン
ドと忍に命令を下す。警戒レベルを最大に上げろ﹂
俺のワイバーン襲撃以来の真剣な剣幕に嫁の3人が立ち上がる。
﹁しん君私たちも冒険者ギルドに行く?﹂
﹁みんなはゆっくりしててくれ。いつものように過ごしていてくれ
て構わないよ。冒険使者ギルドから迎えのゴーレム馬車が来ている
らしいので俺が行ってくる﹂
まるで酔い覚ましの散歩をしてくるよって気軽な感じで風呂を出て
更衣室に歩いていく間に全身を3点セット魔法で浄化して乾かして
から、更衣室でアンダーシャツとアンダーパンツを着てサイラスの
甲殻鎧を装備する。
更衣室から玄関に歩きながら左右の腰には天乃村正と雪切正宗を装
備して頭にはサイラスの甲殻から作ったヘッドギアを装備してるの
で、今日はサイラスの甲殻鎧の完全バージョンをフル装備している。
玄関で甲殻ブーツを履き外に出て行くと正門の外道に10人乗りの
大型ゴーレム馬車が停車してる。
俺が正門までゆっくりと歩いていきユーロンド5号が正門を開ける
前にユーロンド5号から念輪連絡が入る。
﹁ご主人様、もしかして本当にゴーレム馬車に乗っていかれるんで
すか?﹂
﹁行かないよ﹂
1435
冒険者ギルド後継者選びの騒動が終焉を向かえたっぽいっす。
まぁ、行く訳ないよなぁ・・・ここまであらかさまに怪しい集団は
珍しいレベルだ。
﹁ユーロンド5号は引き続き正門の防衛任務。早乙女邸の1番近く
にいるユーロンドは今すぐに来てくれ﹂
俺は隣にいるユーロンド5号に指示を出してついでに1番近くにい
る応援を呼ぶ。
瞬間移動のような超スピードで後ろにユーロンド2号が立つ。
﹁1番近くにいたユーロンド2号です。手伝いますか?﹂
﹁いや、いいよ。手伝いはいらない俺が全部しとめるよ。ユーロン
ド2号は今すぐ、ここから1番近くにある警備隊詰所は・・・アリ
ザウム大橋にあるな。そこに行って警備隊の応援を呼んできてくれ。
全員を今から捕獲して警備隊に引き渡す﹂
﹁はっ!﹂
ユーロンド2号が姿を消すように飛び上がって早乙女邸の塀を軽々
と越え、そのまま超スピードで警備隊詰所まで走って行った。警備
隊が到着するまで10分弱ってところかな。
ユーロンドは数秒で到着するけど警備隊が装備と人数を整えて早乙
女邸の前に到着するまでの予想時間が約10分。
俺はユーロンド5号が少しだけ開けてくれた正門の扉の隙間からス
ルリと早乙女邸の敷地の外に出る。
正門はすぐに閉じられて厳戒態勢になってる。
師匠ゴーレム達や魔獣ゴーレムも早乙女邸の庭や畑や裏庭に潜んで
いて、いつでも戦争状態になれる。
今現在は俺が警戒レベルを最大に引き上げたままなので、もふもふ
天国の各店舗や早乙女商会、早乙女工房の警戒レベルも最大になっ
1436
て厳戒態勢になってるだろう。
敵はゴーレム馬車3台に分乗してきた36人。
大型のゴーレム馬車3台のうちで少し離れた場所の暗がりに停車中
の前後の馬車の影には抜刀してるヤツラが10人ずつ。
正面のゴーレム馬車の前にユーロンドに話しかけてきた人間が3人
いてヘラヘラした笑顔を俺に向けていて、ゴーレム馬車の後ろには
7人の抜刀した人間が息を潜めて隠れている。
そして正面のゴーレム馬車の中には3人の人間がいて鑑識魔法によ
れば、3人の職業が﹃結界師﹄となってるから・・・早乙女邸の厳
重な結界の解除に呼ばれたのだが、俺の封印結界を主神ゴッデス以
外が解除なんて出来るはずもなくて、作戦変更して俺を呼び出しで
ゴーレム馬車の中で俺に封印結界を掛けようと隠れているのだろう
な。
それで驚くべき事だが大黒豹の魔獣が3頭、各ゴーレム馬車の天井
の上に乗っていてテイマーもそれぞれ1人ずつ乗っている。
・・・ヨークルの街中でも首都シーパラでもグリーンウルフや炎虎、
珍しいところだと森林タイガーをテイムしてる人は何人もいたし町
を連れて歩いてるところも見たことがあるのだが、昼間寝てて夜に
しか活動できない大黒豹をテイムしてる人間を初めて見たからだ。
目の前のヘラヘラしてる男が話しかけてくる。
﹁早乙女さん、大変なんですよ。先程首都シーパラにある冒険者ギ
ルド本部から﹃ペスカト・ビッタートが謎の集団に襲われた﹄と緊
急連絡がありまして大怪我を負っているので大至急、エクストラヒ
ールを使いこなせる早乙女さんに治療していただきたいと・・・﹂
﹁あーもー、深夜に五月蝿いなぁ。バカのウソ話に最後まで付き合
うつもりはないぞ。そもそもなんだけどさぁ・・・お前らみたいな
カスが200人以上の集団で襲っても魔装術を使いこなせるペスカ
1437
トを傷一つ負わせられないから。すぐにばれるようなウソはつくな
よカス﹂
﹁なに! クソ、計画変更だ! 今すぐやれ!﹂
テイマーが大黒豹を俺に襲わせようとして大黒豹が立ち上がりかけ
た瞬間に、俺は気合の篭った大きな声を出す。
﹃ふせ!﹄
大黒豹がゴーレム馬車の上でふせをしたまま微動だにしなくなった。
テイマーが押しても引いてもスキルで命令しても全く動かない。
動くわけない、既に強引にだが3頭の所属は早乙女真一になってる
からな。
俺の所属になったモフモフを傷つけるつもりは一切無い。
全く動かない大黒豹に計画の全てが狂ったみたいだな。
既に話しかけてきたリーダーらしき男の全知識を俺の脳内に﹃情報
複製﹄の魔法でコピーしてあり、情報の整理はヘルプさんが担当し
て終了してる。
大黒豹を使って俺に襲撃して、俺が大黒豹と戦ってる間に早乙女邸
内に全員で突入して女を人質に取り、財産を奪った後で皆殺しにし
てペスカトの仕業に見せかけようって、くだらない作戦なんて即効
でつぶしたった。
﹁お、おのれ! こうなったら全員で一斉にかかれ!﹂
﹁おいおいおい、もう作戦ないのかよ。ツマンネーの﹂
作戦がないことは知ってるがワザと挑発するためにあえて口に出し
て言う俺。
カタナを2本抜いて両方の峰を返す。
ボッタクリ治療費回収作戦のスタートだな。
1438
俺はゴーレム馬車に封印を掛けて中の結界師は逃走出来ないように
した。
更に周辺にもスパイギルドを襲撃した時のように結界の中に入るこ
とは出来るけど、外に出ることは出来ない移動禁止の結界を張り・・
・それから笑顔で暴れ始める。
﹁大もうけ! 大もうけ! 治療費で大もうけ!﹂
のんきに歌いながら俺に迫りくるロングソードや槍の直接攻撃や、
投げナイフ・弓矢などの遠距離攻撃も全て避け、カタナで逸らせた
り時折カタナの刃を返して邪魔な大剣や盾などを斬りおとしたりし
ながら、返したカタナの峰で敵を叩き・・・手足・肋骨・鎖骨など
をへし折っていく。
バカの治療費は国が後から回収してくれるし、俺には前払いで国か
ら相場以上の高い治療費の倍の金額を請求した分だけもらえるんだ
からな。
逃げようとしたテイマー3人も同じように手足を折られて地面を蠢
いてる。
差別はよくないしな。
大黒豹はふせの姿勢のまま呑気に眺めてるだけだ。
最後にゴーレム馬車に残った3人の結界師を始末しますかってとこ
ろで時間切れになってしまった。
ユーロンド2号が警備隊の隊員10名を連れてきたからだった。
応援で周囲の倉庫街の夜間警備員も借り出されて来ているので30
人以上が集まってきて最後に取っておいた3人が仕留められなかっ
たな・・・ちっ、儲けが減った。
2本のカタナを鞘に戻して戦闘は終了。
今日の夜間担当のアリザウム大橋の警備隊責任者である警備隊副隊
長が説明してくれって言ってきたので説明する。
ゴーレム馬車の上にいた大黒豹は俺が降りて来いって言ったらすぐ
1439
に降りてきて、俺に頭を撫でられて嬉しそうな表情をしてる。
とりあえず蠢くカスの苦痛の声と助けを求める声の汚い合唱が五月
蝿いから鑑定の魔法が使える隊員と一緒に33人の治療をしてやる。
メガヒールを30回以上も使いまくってるので警備隊のほとんど全
員が俺を見て驚愕してるが、副隊長に俺の話を聞いて﹃彼が噂のヨ
ークルの救世主か・・・﹄と納得してた。
近所の倉庫に勤めてる夜間警備員の人達はほとんどが顔見知りだし
俺の噂は充分知ってるので驚きもしない。知らない人が数人いて驚
いていたが仲間に説明されて納得してた。
治療費は1人500万Gで今回はなんと驚きの特別価格、そのまま
倍の1000万Gです!
ボッタクリバンザイ!!
33枚の全員分の治療費請求書に金額を書いて俺のサインをして警
備隊副隊長に渡す。
後日国から俺に3億3000万Gが渡されることになるだろう。
治療を終えた頃に警備隊がコイツラが乗ってきたゴーレム馬車をそ
のまま使ってヨークル警備隊本部に護送することになったので、俺
もついて行って本部で説明することにする。
ゴーレム馬車を運転する3人以外は元の場所に帰っていった。
襲撃者を逃げられないように全員を裸にひん剥いてから、彼らのア
イテムボックスに入っている全てを没収し、ゴーレム馬車の中に全
員詰め込んで俺が扉を封印してから移動開始。
俺はゴーレム馬車の屋上に上って腰の2本のカタナをアイテムボッ
クスに仕舞ってから寝そべり、大黒豹3頭に渡してつけさせた首輪
についてる念輪機能で話をする。
大黒豹は走ってゴーレム馬車についてくる。
所詮時速10kmしかスピードが出ないゴーレム馬車の後ろなので、
1440
魔獣の大黒豹からすればちょっと早歩き程度だが。
名前を聞いたら﹃エドガー﹄﹃アラン﹄﹃ポーズ﹄と3頭の名前を
足すと推理小説家のような名前だった。
3頭は兄弟でテイマーギルドで生まれてすぐに売られていた大黒豹。
小さな時からテイム魔獣として育ってきた。
これカタ自由になるから何かしたいことはあるかと聞いたら・・・
﹃わからない。命令された事しか、したことが無いです。自分でし
たい事と急に言われても、わからないんです﹄
と3頭ともに同じ答えが返ってくる。
これはどうしたもんかな。
とりあえず魔獣に罪はないということで処分されてしまわないよう
に動かないといけないな。
モフモフは正義だ。
命令されたことだけしか出来ない・したことがないという彼ら3頭
を処分するという法律だと国が言うなら、俺は魔獣を率いてシーパ
ラ連合国に独立戦争を吹っかけてしまいそうだ。
・・・確か過去にケンカを売ってきたバカを処分した時や犯罪者を
捕まえた時に持ち物は自由にしても良いという法律があって、俺は
盗賊とかの装備品を貰ったはずだ。今日も既に身包み全部奪ってる
し。
それを盾に3頭を俺が引き取る方向で話を進めよう。
3頭の教育や今後の話はひとまず後回しだな。
20分ほどゴーレム馬車で走ってヨークル警備隊本部に到着する。
前にも来てるので正門前の出入り口で冒険者ギルドカードの確認だ
けで中に入っていける許可が出る。
後をついてくる大黒豹3頭も俺が口で簡単に説明しただけで咎めら
れもせずにすんなり中まで入っていくのは・・・ここまで来ると逆
1441
にちょっと心配になるが、まぁそれだけ俺には信頼があるって事だ
ろう。
中に入っていくと以前のザイモア商会事件の時に会った事がある警
備隊本部本部長補佐のオッサンが出迎えてくれる。俺はゴーレム馬
車の天井から飛び降りて本部長補佐﹃ヨルグ・モハンメッツ﹄と握
手をかわす。
﹁ひさしぶりだな早乙女君。君の噂は益々広がってて、今夜もヨー
クルに潜む悪党を捕まえてきてくれたみたいだな﹂
﹁お久しぶりですヨルグさん。すまないが冒険者ギルドヨークル支
部のギルドマスター﹃ラザニード・ヴェイケルシュタット﹄に連絡
を取ってくれ、コイツラはペスカトの名を語る一連の騒動の関係者
だ﹂
﹁私には意味がよくわかりませんが、緊急事態のようですし指示に
従いましょう。おい!﹂
ヨルグが部下に指示を出して冒険者ギルドヨークル支部に1人、ギ
ルドマスターのラザニードの私邸に1人の警備隊の隊員が連絡の為
に走っていった。
俺はゴーレム馬車の封印を解くと中から裸の36人の男共がが出て
きて、そのまま全員が囚人服を着せられて隷属の首輪を装備させら
れて牢屋に直行だ。
俺はヨルグに相談する。
﹁ヨルグさん話があるんだが、彼らがテイムしていた3頭の魔獣の
事なんだ﹂
ヨルグは俺の隣でお座りして待っている3頭の大黒豹を驚愕して見
る。
﹁はぁ? もしかしてそこにお座りしている魔獣って君がテイムし
てるんじゃないのか?﹂
﹁ああ、彼らが連れてきた魔獣でテイムしてたのは俺ではなく、今
1442
連れてきたヤツラの中にいた3人のテイマーなんだ﹂
﹁・・・うそ、だろ・・・﹂
まぁ驚くだろうな。普通には絶対にありえない事だ。
育ててくれたテイマーを完全に無視して俺に甘えてきてるんだから
な。
俺は確認でヨルグに聞いてみたが・・・テイムされた魔獣の場合は
とりあえず取調べをしてから処分が別口で裁判されるのだが・・・
譲られた
形になってしまうので魔獣を鑑
今回の場合はムチャクチャ強引になんだが騒動の中で、3頭の大黒
豹はテイマーから俺に
定で調べて所属が俺になっていることを確認して、事件の調書をと
った後は俺の所有する魔獣になってしまうんだとか。
ふぅ∼、良かった良かった。戦争しないで済んだな。
俺は安心して普通にエドガーの頭を撫でながら話しかける。
3頭は既に俺の3点セット魔法でモフモフ度が最大まで上がってる
のでさわり心地が最高だな。
﹁エドガーもアランもポーズも俺の所有になる事が決定したよ。ま
ぁ君らの将来はこれからゆっくり考えような﹂
﹁ありがとうございます、ご主人様﹂
﹁魔獣がしゃべった!!!﹂
俺が3頭の頭を交互に撫でながら普通に話しかけるとエドガーが当
たり前のように返答する。
それを聞いていたヨルグの部下が大声を出して驚き、周囲は大騒動
になる。
俺は以前、アイリたちに説明したように魔獣は話せる事を説明して
エドガーたちも会話してくる。
これで魔獣には真偽官つきで直接調書を取ることが決定してしまっ
た。
1443
なにしろ過去に自分達が参加した事件などエドガーたちは全て詳細
に記憶していたからだ。
﹃魔獣と会話できる﹄ということが一般常識になるまでは、これか
ら長い時間を要することになるが・・・ここの﹃ヨークル警備隊本
部﹄で行われた魔獣への取調べ調書作成から始まった。
何しろ真偽官が同席してる取調べ調書作成には﹃真実﹄しかありえ
ないからだ。
戯言
でしかない。
それをウソだと証明するには真偽官の全てを否定することとなり、
それを証明しないことには
俺はエドガー・アラン・ポーズの3頭の全部の調書作成の立ち会っ
ている。
俺が所有者としてサインする必要があるし。
流石に同席する真偽官も神妙な顔をしてる。
全長が3m以上もある巨大な大黒豹を取調べした経験なんてないだ
ろう。
今後は増えるカ可能性はあるけどな。
調書作成が終わって取調室から出てくると俺の取調べ立会いを終了
するのを外で待っていたラザニードが興味津々な顔で挨拶してくる。
彼も魔獣からの調書作成って言うのは初めての経験だろう。
俺は時間も11時半をまわって腹も減っただろうエドガーたちを警
備隊本部の中庭に連れ出して、芝生の上に大きな桶を3つ並べて骨
付きトロール肉の焼いたものを10kgずつ食わせてやった。
凄く美味しいですと言いながら食ってる大黒豹3頭をそのまま放置
して、俺は隣に立っているラザニードに話しかける。
﹁ラザニードさん、まだ今回の騒動の首謀者は見つかってないみた
いだな﹂
﹁あぁ、また今回も早乙女君の世話になってしまって申し訳ない﹂
1444
﹁俺はラザニードさんが冒険者ギルドシーパラ本部に掛け合って俺
への無茶な依頼を冒険者ギルドは断るようにって本部の会議の議題
に出してくれて、それが正式に認められて通達が出てくれたので凄
く助かってるよ。本部ギルドマスターの青木さんに直接聞いた﹂
俺自身が不思議に思っていたことだった。
冒険者ギルドの指名依頼がゾリオンから1度入った以来誰からも指
名依頼を受けてないからだ。
無名のうちならともかく﹃ヨークルの救世主﹄と呼ばれるようにな
った今でも指名依頼がないのはおかしいと思って青木さんに聞いた
答えがラザニードの奔走にあった。
商業ギルドはヨークルではリーチェ、シーパラではマリスが俺の専
属窓口になってるので彼女達以外から依頼されることはないし、何
度か指名依頼が入ってると言われたが全部ゴーレム関係だったので
断った。
何も対応してない・出来てない絶賛放置中の職人ギルドが今のとこ
ろ一番ヤバイだろうな。
﹁それは冒険者ギルドから早乙女君に迷惑をかけた、せめてものお
詫びだ。その代わりにAランクになってもらうってのが冒険者ギル
ドの総意となってしまったがな。明日の朝に正式な通達が出るから
明日の午前10時にヨークル支部まで来て欲しい。Aランク昇級に
は昇級の記念式典があるのが、この国では通例となってるんだ﹂
﹁了解。明日の午前10時だな・・・必ずいくよ。そういえば今日
の事件で﹃ペスカトが謎の集団に襲われた﹄って俺を自宅から誘い
出しにきたんだけど、たぶん・・・事実だよな?﹂
﹁ああ、それは事実だ。ペスカトは10人の謎の集団に襲われた・・
・やっぱりヤツラと繋がってるんだな今回の犯人も・・・これで首
謀者が益々わからなくなってきた。あぁ、ペスカトは怪我一つして
1445
ないから安心してくれ﹂
﹁ペスカトの心配なんて初めからしてないよ。魔装術を使いこなせ
レジ
るようになったという話を聞いてるからな。魔装術は攻撃よりも防
ェンドクラス
御に特化した特性魔法と言うべき﹃自分集中型の防御魔法﹄だ。伝
説級の武器でも使わんと傷付けることなんで出来やしない﹂
﹁そうだな・・・流石の転s﹃シッ!﹄・・・スマン。ここは冒険
者ギルドのギルドマスター室ではなかったな。不用意だった﹂
﹁ま、そんなことはいいさ。それでラザニードさん、今回の一連の
騒動の首謀者はわかったのか?﹂
﹁それは今、必死に俺とペスカトとニールが捜査しているが、どう
しても2人のうちから1人に絞り込むことが出来ないんだ﹂
﹁それの答えは簡単だ。俺はそれを伝えるためにラザニードさんを
ここに呼んだんだ。いいか? ・・・その2人は念話のスキルをお
互いに持ってて、表面上はシーパラの幹部職員とヨークルの幹部職
員として、いつもいがみ合ってるように見えるが、裏では念話で絶
えず情報交換をしてつながってるんだ。だから2人ともが首謀者な
んだよ。共謀してる主犯ってところかな﹂
﹁なんだって? ・・・あっ、そうか! それなら全ての辻褄が合
うな。俺は急いでペスカトとニール達に連絡を取らないと・・・﹂
﹁あぁ、急いだ方がいい。ヤツラは今日の2つの事件と昨日の事件
で自由に使えた子分たちの全ての手駒を失ってしまってるから、後
は逃走しか道はないといずれ気づくだろう・・・後は時間との勝負
だな。今夜中なら間に合うだろうから聖騎士団と協力して逮捕に向
かったほうがいい。シーパラの警備隊本部にはヤツラの協力者が何
人かいるから、情報は筒抜けになる。だからシーパラでの逮捕は聖
騎士団の協力を知り合いにでも頼んだほうがいいよ。ヨークルの方
はこれから俺が協力するから、今すぐ逮捕に向かおう。警備隊の人
間もゴーレム護送車も今ここで借りればいい﹂
﹁わかった。では俺は今から警備隊の今いる責任者に話をして協力
1446
を頼んでくるよ﹂
ヨルグに協力を頼むと犯罪者を逮捕するのは自分たち警備隊の使命
ですと喜んで協力してくれた。
ゴーレム馬車は俺が運転する事にする。
幹部の自宅を知ってるのは今日の襲撃者リーダーから知識をコピー
した俺だけだ。
警備隊のゴーレム馬車と腕利きの隊員3名を借りて逮捕に向かう。
エドガーたち3頭はヨークル警備隊本部の裏庭でそのまま待機して
てもらう。
エサの骨付きトロール肉の炙りはもう20kgを追加であげると、
またバリバリと食い始める・・・よほど腹が減ってたみたいだな。
話を聞くと朝から何も食ってなかったらしい。
襲撃予定を組まれた日は朝からは毎回エサを抜きにされるって言っ
てるので更に10kgほど追加であげた。
魔獣は残して一連の襲撃事件の首謀者の片割れの逮捕に向かう。
近いので5分もしないうちに到着した。
ヨークルの中央付近に賃貸ではなく邸宅を構えて住んでるってこと
は、先祖からの裕福な家系なんだろう。
到着した家もそこそこの広さだったので、門の前で作戦会議しよう
として集まってると門が開き始めたんで慌てて陰に隠れると・・・
本人が出てきた。
ラザニード達はまさかの本人登場に驚愕して固まってるが、俺はす
ぐそこにいるのは知ってたがまさか出てくるとは思わなかったって
ぐらいで、そんなに驚いてはいない。
それに本人の装備してる格好を見て納得してる。
完全装備・・・たぶん早乙女家襲撃を失敗したと感じて最終確認に
行こうとしていたのだろう。
1447
それでそのまま逃走するために完全装備なんだろう。
コイツはシーフだな。
忍者のような格好で背中に弓を背負い、腰に10本のナイフを装備
してる。
まぁ逃がすつもりもないし・・・歩いて近づきながら友達に出会っ
たかのような気軽な挨拶から、かましてみる。
﹁よぅ! オッサン。夜中にフル装備でどこに行くんだ?﹂
﹁誰だ貴様は!﹂
﹁シーフのクセに夜目も効かないのかよ・・・チッ、仕方がない。
サービスだ﹂
俺は周囲にいつもより大きめのライトの魔法を10個ほど浮かべて
やった。
﹁何だと! クソッ、貴様は早乙女、いったい何のようだ!﹂
後ろに2mほど飛んで俺との間合いを開けようとした瞬間に、俺が
5m以上飛んで一瞬にして目の前に俺が現れて驚愕して俺の顔を近
くで見て叫ぶ。
﹁うるせぇよ、夜中にデカイ声を出すなバカ。それに何の用だは俺
のセリフだ。俺の家に襲撃を仕掛けておいて、そのまま逃げられる
とでも思ってるのか? 俺はそこまで優しくないよ﹃死ね!﹄って、
バカだなぁ、これで正当防衛が成立した。遠慮なくお前を壊させて
もらう﹂
オッサンは俺の甲殻鎧の隙間に両手で装備したナイフを何度も何度
も突きたててくるが・・・刺さりもしないし斬れもしない。おやっ
さんが俺のために作ってくれたサイラスの甲殻鎧だ。
甲殻を避けてナイフを刺そうとしても甲殻以外の革の部分はワイバ
ーンの革だ。
この程度のナイフに、この程度の腕では1mmたりとも刺さらない。
﹁つーか、その程度の腕でよく俺の襲撃命令を出したな。まぁ後は
1448
取調室の中の真偽官の前で歌っていただきましょう﹂
俺は俺の体に突きたてようとしてるオッサンのナイフを持つ両手を
掴んでナイフごと両手を握り潰す。
握り潰した両手を持ったままオッサンの口に向かって頭突きをして
上下の前歯を木っ端微塵に。
何しろこれだけデカイ家だからな。
国も治療費の取りっぱぐれがないだろうから遠慮なく壊す。
握り潰した両手はナイフごと握りこんだまま、のけぞるオッサンの
左右の足にローキックをかまして両膝をぶち壊した。
叫び声すらあげることが出来ずに、糸の切れた操り人形のようにな
ったオッサンの両手をここで初めて離してあげた。離すときに腕を
逆にひねり両肘と肩関節まで丁寧に砕いておくのも忘れてない。
﹁早乙女君、君は顔に似合わずに意外とえげつない事をするなぁ。
もしかしてエクストラヒールをするつもりなのか?﹂
﹁ええ、その前に治療の鑑定をお願いします﹂
骨折や怪我の損傷箇所を警備隊の隊員の立会いの下でピクピク痙攣
してるおっさんの体を全部調べてから俺がエクストラヒールをかけ
ると、オッサンの体は全身が光の膜に覆われて・・・光る膜はオッ
サンの体に吸い込まれていく。
光が消えた後は完治しているオッサンが残る。
﹁流石はエクストラヒールか・・・凄まじいな。砕けた歯すらも元
通りか・・・﹂
俺は警備隊の隊員の治療費請求書に3億Gと書いてサインを入れて
完了。
1回1億5000万Gと言うのは最高評議会で支払われた金額なの
で、更に倍! という金額を書き込んでやった。
エクストラヒールに値段はつけられない・・・俺の言い値が値段に
なるからな。別に金が欲しいという訳じゃなくこのオッサンを困ら
せたいが為だけってってのが、俺の度量の小ささを現してるだろう。
1449
またもオッサンの身包みを剥いでアイテムボックスに持っているも
の全てを俺のアイテムボックスに移し変えて護送車で運ばれていく。
オッサンの知識を俺の脳内にコピーするのも忘れずにおこなう。
警備隊の1人がゴーレム馬車を操縦して素っ裸のオッサンに隷属の
首輪を装備させてから運んで行った。
ラザニードは冒険者ギルドヨークル支部に戻って、今からシーパラ
本部と連絡を取りもう1人の首謀者を捕獲するように提言しにいっ
た。
俺は残った警備隊隊員2名とともにオッサンの邸内を強制捜査する。
今回はそこまで大きな家ではないし、出てくる犯罪の資料や証拠品
も今までの強制捜査に比べれば格段に少なくて限られているので1
時間も掛からずに終わる。
俺自身の慣れと言うものもあるのだろう。
邸内にいた執事やメイドなどは戻ってきたゴーレム護送車に参考人
として運ばれていった。
俺のコピーした知識からすると執事は逮捕されて犯罪者奴隷へ、メ
イドは被害者でもあるので教会からの保護を受けるという流れにな
るだろう。
俺はヨークル警備隊本部にゴーレム馬車で戻りながら、アイテムボ
ックス内で捜査資料の補足説明文と注意書きを書いて準備しておい
て、最後に全ての資料の目録を作っておく。
後は説明して渡すだけの状態にしておいた。
警備隊本部に戻り全ての資料と証拠品を説明文と注意書きを渡して
警備隊の隊員に説明していく。
最後の目録を渡して今日の捜査は完了だな。
大黒豹3頭を連れてまずは冒険者ギルドに行く。魔獣登録しないと
いけないからな。
1450
冒険者ギルドヨークル支部に到着して中に入っていくと大きい方の
会議室に誘導された。
会議室のイスに座ると俺の周囲にエドガー達はふせの体勢で待機す
る。
3頭の登録を済ませ首輪を俺の好みの紅色に変更させて念輪機能を
追加でつけながら、3頭それぞれにネームプレートを装備させると
会議室にラザニードが入ってきて話の続きだ。
﹁ラザニードさん、シーパラの方の幹部は上手く逮捕まで出来まし
たか?﹂
﹁逮捕はしたが、こちらと違って逃亡しようとして揉めた際に応援
に来てくれていた聖騎士団の方に怪我人が出てしまったようだ。逆
襲してくる可能性が高いから注意しておくようにと通達はしてあっ
たんだが・・・聖騎士団の団員に怪我まで負わせてるんだからな、
参考人ではなく現行犯で逮捕して隷属の首輪を装備させて今はスム
ーズに邸内を捜索中との事だ﹂
﹁まぁそれも想定内だろうに。ワザと攻撃してくるように仕向けた
んじゃないのか?﹂
﹁それは否定しない。こちらには表向きの﹃言い分﹄が必要だし、
邸内を捜索するために隷属の首輪を強制的に装備させるわけにはイ
カンからな﹂
﹁それで今回の一連の騒動はとりあえず治まったと言えるのかな?﹂
﹁ああ、ギルドマスター交代に伴う裏の動きを炙り出すというこち
らの目論みは達成したからな。将来の反逆者予備軍まで全て捕らえ
る事が出来た。明日の早乙女君のAランク昇級式典の時に同時に冒
険者ギルドシーパラ本部ギルドマスターの後継者を発表する予定だ﹂
﹁クックック、ビッタート卿が﹃ラザニードに逃げられた﹄って怒
ってるらしいね﹂
﹁それは仕方がないよ。タイミングの問題だな。先月の事だったら
1451
俺が本部のギルドマスターに就任させられていたことだろうな。ま
ぁ俺は今回の騒動と同じように裏方に回るよ﹂
﹁ラザニードさん、ニールから貴方の本音を聞いてるよ。評議会な
ど会議が大嫌いだって﹂
﹁ああ、あんな堅苦しくて面倒臭い会議のどこがいいのか俺は理解
できないな。評議会に参加したいが為に殺人まで犯すヤツラの気が
しれん﹂
﹁権力欲ってのは得てしてそんなもんじゃないのか?﹂
﹁だろうな。青木さんの手伝いで政治工作とか何度か手伝わされた
けど面倒過ぎて気が狂いそうになるのに﹂
﹁権力欲・・・それは俺にも理解できないから全くわからない感覚
だな﹂
などと雑談してるうちに深夜1時をまわってしまったので帰宅する
ことにした。
ラザニードと握手をして別れ、大黒豹3頭を引き連れて深夜の帰宅
となった。
1452
冒険者ギルドランクがAランクに昇格したっす。
まずは自宅に帰ってきたので俺は早乙女邸と全ての施設の防衛警戒
レベルを普通レベルにまで引き下げた。
大黒豹のエドガー・アラン・ポーズの3頭を連れてきたのだが、早
乙女邸内には入っていけないので早乙女邸の庭で待機している。
流石に早乙女邸の中にはこの大きさの魔獣を入れるにはキツ過ぎる
からな。
さてどうしたものかと悩んでいたが大黒豹のことは大黒豹に聞こう
と念輪を水影につなげる。
﹁水影、今いいか?﹂
﹁あ、ボス。お久しぶりです。今はまだ偵察に行く前ですので大丈
夫です。どうぞ﹂
﹁偵察って明日のトロール殲滅の大遠征の事か? アキューブがえ
らく張り切ってるみたいだな﹂
﹁アキューブ単体でなくて銀大熊の種族全体がかなり張り切ってま
す。本当に銀大熊はトロール肉が大好物みたいなんで﹂
﹁らしいな。それで水影には相談したいことがあるんだ﹂
﹁ボスが私に相談ですか? それは嬉しいですね。何でもおっしゃ
ってください﹂
﹁実はな・・・﹂
俺はアラン達と出会ったところから水影に説明した。
俺のわからない部分などはパーティー回線で繋がって一緒に会話し
ているポーズたちが補足して説明してくれる。
3頭はヨークルで育ったわけではないが、シーパラ連合国の南側の
都市﹃シグチス﹄の出身で生まれも育ちも街の中で郊外には旅でし
1453
か出てきたことはない生活だった。
テイマー魔獣として人間によって生まれてきて育ってきた・・・﹃
養殖魔獣﹄とでも言うべきだろうか。
俺の手で開放されたのはいいのだが、どうしていいのか俺にもわか
らない。
どうすればエドガーたちが幸せになれるのだろうかと悩んでるって
ことを水影に伝えた。
﹁それならば、今から私の巣までボスが3頭を連れてきてくれませ
んか?﹂
﹁どういうことなんだ?﹂
﹁実は時々なんですけどエドガーさんたちのようなテイマー魔獣が
ここの大森林の南側に逃げ込んでくるんですよ。彼らは主人が冒険
中に死んでしまったり、大森林の夜間の狩りに連れ出されてそのま
ま逃走してきてたりだとか、大黒豹の特性﹃昼間寝てる﹄ってこと
を理解できないでテイムして途中で育てるのが面倒になって大森林
に放置してたりとかしてるみたいで、ちょいちょい私の群れににも
やってきます。ですので逃走仲間は今はここには5頭ほどいますね﹂
﹁なるほどね。じゃあ、ちょっと待ってて﹂
俺はエドガーたちを引き連れて水影の巣がある大樹に転移した。
巨大な大樹の枝の上や下の地面には100頭以上の大黒豹が集まっ
ていた。全部が水影の部下達で俺は全員からいっせいに挨拶されて
ちょっとビックリした。
まずはエドガーたち3頭を水影達に挨拶させた。
﹁大黒豹がたくさん集まってるな。今日の偵察はそこまで広範囲に
調べるのか?﹂
﹁はいボス。大量にいるトロールの巣の場所を調べて行動範囲を計
算しなくてはいけませんからね。これだけの数は最低でも必要です。
ある程度は既に把握しているのですが明日は総勢500を越える混
1454
成魔獣の大軍が私の呼びかけで行動を起こすのですから、作戦を万
全にこなす為にも下準備は念入りに行います﹂
﹁忙しいところを邪魔して悪かったな。いいよ・・・みんなそのま
ま当初の予定通りに行動しててくれ﹂
﹃では・・・みんな、ボスへの挨拶も済んだし予定通りの行動を!﹄
水影が大声で命令すると100頭を越す大黒豹は音も泣く瞬時に移
動して煙のように消えた。
水影の巣の周辺には10頭ほどが残ったのみだ。
大黒豹は簡単な重力魔法が使えて自分の体重をg単位で増減できる。
あくまで自分の体重のみなので﹃簡単な﹄と言う魔法のくくりにな
ってしまうけども。
なので音もなく枝の上を走り回ることが出来るのでまさに大森林の
夜の覇者に相応しい。
﹁水影は偵察を指揮しに行かなくてもいいのか?﹂
﹁私と残ってる大黒豹は群れの幹部連中でして、事前に誰をどこの
配置にするかなどを計算して指令するだけなんで、事前に考えて計
画と立てるのが仕事になります。ですので後は成果を聞いてそれを
明日のフォクサ様の作戦で生かすことだけです。私の場合は特別に
する事がありませんので皆さんと狩りに行けます﹂
﹁俺達みんなで狩りに行くのか?﹂
﹁はい。皆さん、夜の大森林はいかがですか?﹂
ここでエドガー・アラン・ポーズの3頭の様子がおかしいことに俺
は初めて気付いた。
3頭とも何かソワソワ浮き足立ってるような印象だ。
実際に3頭にそれぞれ話を聞くと夜の大森林に来てから心の中でワ
クワク・ドキドキしていて、興奮しているのが自分で抑えられない
と言ってる。
﹁水影、これはいったいどういうことなんだ?﹂
1455
﹁本能のなせる技でしょう。大黒豹は元々は白帝様に眷属にしてい
ただく前は黒豹という動物で大森林の中では群れから離れた森林モ
ンキーなどを食べるだけの細々とした生活をしてる生き物だったの
です。自らの身を守るためには大森林の夜にしか行動できない習性
があるのです。ですので逆に夜の大森林に来ると﹃狩りをしなきゃ
生き残れない﹄と言う本能が浮き彫りになってしまうのではないか
と、以前逃げてきた大黒豹が言ってました。彼はテイム魔獣として
人間に街中で育てられてきた魔獣で、森林にまるで興味なんてなか
ったはずだったのに、夜の大森林で狩りをしていたら本能に目覚め
て逃走できるようになったと言ってました﹂
そういうことだったのか・・・それなら納得だ。
﹃大黒豹はジャングルで深夜に行動させてはいけない。従魔の契約
を打ち切られて逃亡の恐れあり﹄
確かに俺の貰ったテイマーとしての記憶や経験の中にはそのように
なってるな。
﹁そういうことなら本能が既に反応し始めているエドガー達は大森
林で今後、暮らしていくことは可能なんだよな?﹂
﹁間違いありません。私が保証しますよ。彼らは私たちの仲間です
から﹂
﹁3頭が大森林で生活できるようになるまで水影にお願いしてもい
いか?﹂
﹁ぜひともお願いしたいですね。最近は大黒豹のオスの数が減って
いたので大変ありがたいです﹂
﹁あの、話をさせてもらってもいいですか?﹂
﹁お、何だエドガー、いいぞドンドン意見を言ってくれ﹂
﹁私はご主人様の従魔とさせていたんですけど、大森林で生活する
と従魔としての仕事は出来なくなってしまうのですが・・・﹂
﹁まぁ従魔にしたのはヨークルの街の中の手続き上だけで、そのま
1456
ま君らを使っていくという意味ではないよ。君たちには幸せになっ
て欲しいからな。大黒豹として生まれてきたんだから水影達と一緒
に過ごすのは自然の事だろう﹂
﹁ここで暮らしていけるんですか?﹂
﹁俺はそのつもりだよ。とりあえずは今夜は残りの時間を水影達と
大森林の深夜の狩りをして遊んでてくれ。俺も今夜はみんなと一緒
に深夜の狩りを楽しむ事にするよ﹂
﹁ご主人様も一緒に遊んでくださるのですか? わかりました。あ
りがとうございます﹂
後は全くの自由な状態で遊んでもらおう。
自由に狩りをすることは初めての経験だろうし、今から水影と一緒
に遊びながら狩りをする事は・・・エドガー・アラン・ポーズの3
頭にとって、永遠に忘れることが出来ない﹃初めて経験する自由気
ままな狩りの経験﹄となるだろう。
それから朝まで俺も大森林の中で深夜の狩りを楽しんだ。
漆黒の闇の中を目の周りの銀色のクマドリがボゥッと淡く光る・・・
るびのの眷族に新しく契約した水陰と一緒に遊びながら、幾つもの
トロールの集落を俺と水影とエドガーたち3頭で襲撃をする。
トロールは別に光り物を集めるという収集癖がある森林モンキーや、
武器や防具になりそうな獲物の装備や骨などを集めるクセのあるオ
ークと違って巣の中には戦利品となるものも無く、俺は狩りの方を
エドガーたちに任せて討伐したトロールの回収係をすることにした。
大黒豹が水影・エドガー・アラン・ポーズと4頭いて、俺の前後左
右に展開しているので手の出す隙間がないってのが真相なんだけど。
元々暗闇の中で狩りをしていたので周囲の気配を探る能力が高かっ
た黒豹が、るびのと眷属契約をして大黒豹という種族になってから
周囲の気配を察知する能力を大幅に上げて貰ってるので、俺がいち
いち声を掛ける必要もないのでホントにトロールを拾って回ってる
1457
だけだ。
武器も狩りの始めは二刀流を装備をしていたんだけど途中で武器の
必要性を感じなくてアイテムボックスに仕舞った。
始めのうちは狩った獲物のトロールをワザワザ俺の元に運んで﹃持
ってきました! 褒めてください!﹄と俺の顔色を伺っていた﹃エ
ドガー﹄﹃アラン﹄﹃ポーズ﹄の3頭も、時間がたつにつれて次第
に自由に狩りをする楽しさに目覚めたようで、水影と同じように狩
った獲物は運んでくるのだがそのまま次の獲物まで走っていってし
まうようになった。
自分のする狩りに喜びを感じてきて夢中になってきてるようだ・・・
いい傾向だろう。
途中でエドガーたちに自分で狩った獲物のトロールを食べさせた。
水影だけは最近トロールばかり食べてて食傷ぎみだったみたいなの
で、俺が骨付きトロール肉を焼いてあげたらメチャクチャ美味しい
と絶賛してバリバリ食ってた。
夜が明けてみんなが少し眠くなってきた頃に狩りは終了して水影の
本拠の大樹に戻ってきた。
巣に帰ってからエドガーたちそれぞれの考えてる本音を聞いた。
﹃楽しかったから大森林の中で暮らしていきたい﹄というのが結論
になったので、水影に3頭の面倒を見てもらうようにお願いしたら
快く受けてくれた。
﹃私も早乙女様の子分にさせていただいてるから。離れていても子
分と親分の関係が変わるわけではないよ。私だけでなくここに今、
続々と帰ってきてる大黒豹は全員が早乙女様の子分なんだよ。ここ
に暮らしていても子分をやめる必要なんてないんだよ﹄
結論が出る前は凄く悩んでるような様子を見せていた3頭だったが、
水影のかけてくれたこの言葉で救われたようにこの大森林の南側で
1458
水影たちと暮らしていくと決まったのだった。
るびのやフォクサへの説明も後は全部水影に任せて俺は転移魔法で
夜が明けて徐々に太陽が昇る中を帰宅した。
転生して31日目でイーデスハリスの世界で5月1日の朝はこうし
て迎えた。
天気は昨夜お風呂で予想していた通り少し曇っている。
外は風は少し強く吹いているのでめで午後からは雨が降ってきそう
な、余り良くはない天気。
俺は予定がある9時まで寝ることにした。
丁度俺の帰宅時間に起きてきた嫁達は、昨日の予定通り過ごすと言
ってる。
俺は今日の午前10時に冒険者ギルドランクがAクラスに昇格して
記念式典が開かれるけど、みんなは来ないでねとお願いしておく。
俺に逆恨みをしてる連中が俺を標的にするのは構わない・・・って
いうか俺を傷つけることすら出来ないだろうが、アイリ・ミー・ク
ラリーナの3人は人質にされる可能性が否定できないからな。
俺の説明に納得してくれた嫁たちの返事を聞きながらベッドの横で
防具からパジャマに着替えて寝る。
起きた時には誰もいなかった。
ミーとクラリーナは地下練習場で特訓中らしいが見に行ってないの
でわからない。
俺はクロが起こしてくれたので目覚めた。3時間しか寝てないが頭
の中はだいぶスッキリしてる。
朝食を食べながら今日はサイラスの甲殻鎧を装備する。
今日は10時から冒険者ランクのAランク昇格の記念式典があると
1459
ラザニードが言っていたので・・・着ていく服を悩んだが、とりあ
えず﹃冒険者の正装は防具だろう﹄と思ったので、武器は腹の前側
のホルダーに入っている﹃白扇子﹄のみを装備した。
おやっさんの防具だとガチャガチャ音もしないし大丈夫だろう。
ノンビリとした朝食後のコーヒーを飲み終わって9時40分。
もふもふ天国ヨークル1号店の裏にある早乙女商会ヨークル支部に
転移魔法で移動して、そこからホップボードに乗って冒険者ギルド
ヨークル支部に移動した。
深く考えてなかったが今日は冒険者ギルドの裏側に直接転移するの
は辞めておいた。
もしかしたら裏庭で記念式典が行われるかもしれないと思ったから
だった。
冒険者ギルドの到着してその心配は杞憂に終わったけど。
冒険者ギルドの到着すると中は俺を一目見ようと冒険者がごった返
していた。
俺は周囲の冒険者からの色んな感情が複雑に入り混じった突き刺さ
る様な視線のなかで、入り口に待機していた職員にラザニードの待
つギルドマスター室に案内された。
ギルドマスター室内でラザニードから式典で行われる行事の説明を
受ける。
俺のAランク昇格の記念式典はヨークルの街の中央にある時計塔前
広場で行われるとのことだった。
それで冒険者ギルドカードの交換と記念の旗が授与されるんだと。
Aランクのカードは今までの黒色のカードではなくて銀色のカード
となる。
Sランクが金色になってSSランクでは白金・・・白色のメタリッ
クなカードになっていると見本品のカードを見せてもらった。
1460
授与される記念の旗というのは・・・
冒険者は母国や都市の防衛の戦争に駆り出されることが多くてAラ
ンクは冒険者の軍勢を任されたりなどと指揮官を任命される事が多
くなってくるので、その時のための目印の戦旗というのが古代から
の名残のようだ。
この旗は無地で自分の好きなように染めることが許されてるので、
ここに自分の紋章を入れることが多いのだそうだ。
俺の紋章なんて無いと言ったら自分で好きなように考えてもいいそ
うだ。
が、しかし他国の貴族・王族などには紋章など様々なモノが数多く
あって同じ紋章にならないように首都シーパラの﹃紋章師﹄が所属
している評議会に行って直接相談して欲しいと言われた。
面倒だけど仕方が無いか。
﹃自分の紋章を作るなんて、まるで貴族の仲間入りを果たすみたい
だな﹄
・・・と、ボソッと言ったらラザニードも同感だといっていた。
シーパラ連合国は王侯貴族制度を完全に否定して、白虎戦争で生き
残った貴族を全て排除するために戦争までして滅ぼした上に成り立
った商人の国家なんだけど、国防や都市防衛の指揮官の人材不足を
補うために冒険者の高レベル者をいざと言う時の為に国で管理して
おきたいのだ。
ある程度は国に縛られる部分も出てくるので、そのかわりに特例と
して冒険者ギルドランクのAランク以上は土地建物の購入の時に税
的に少々優遇されるのが特例としてあるらしい。
Aランクともなると指名依頼一つで大金が動き、商人も高ランク冒
険者とはつながりを持ちたいと大金を払ってでも冒険者ギルドに指
名依頼を入れてくる。
稼いだ大金を大きな家を購入したりして地域経済に金を回せってこ
とだろう。
1461
時間になったので時計塔前広場に移動をすると急遽決まったはずの
記念式典の割には2000人以上の観衆が広場に集まっていた。
時計塔前広場の外周には屋台も立ち並んでいて、ちょっとしたお祭
り騒ぎになっている。
記念式典は久しぶりだったのでお祭り騒ぎになってるだけだと、俺
を先導して案内してくれてる冒険者ギルド職員に教えてもらう。
最近はギロチンの公開処刑などで時計塔前広場を使うことが多くて
殺伐としていたのだろう。
道を歩きながら久しぶりのお祭りに住民から笑顔が溢れているのが
わかるし、あちこちから笑い声が聞こえてくる。
・・・だけどここまで歩いてくる中で、俺の背中に刺すような殺気
を何度か感じたので、嫁たちを連れてこなくて良かったな。
午前中に買い物に行ってるアイリにはマリアとユーロンド1号が周
囲を警戒して同行しているので、100や200の軍勢からの襲撃
ではアイリに近寄ることすら出来ないだろうし、その程度の襲撃で
はマリアからの連絡も事後報告になるだろう。
早乙女邸の襲撃なんて1000人以上の結界師が組んで数万人規模
の軍勢が攻め込んでもビクともしない。
師匠ゴーレムと魔獣ゴーレムまで応援にこれるようにしてある完全
防御になってる。
不審者の数が結構いる・・・これは記念式典自体が何かされる可能
性もあるだろう。
俺に殺気を向けてきた5人以上の人間と、そいつらに話をしている
人間の魔力パターンや気配パターンを全てマーキングして警戒して
いる。
たくさんの人間が連携しているらしいが、祭り騒ぎの中で不審な行
動をとる人間は総勢150人以上に既に膨らんでいる。
1462
俺は記念式典を行う舞台の上にあがりイスに座って静かに待つ。
舞台の上には様々な封印結界が施されており、何らかの襲撃が予想
されているのを見て取れたので隣に座っているラザニードに小さな
声で聞いてみた。
﹁150人以上の不審な行動をとっているヤツラがいるんだけど、
冒険者ギルドはいったい公衆の面前でどう対応するつもりなんです
か?﹂
﹁ああ、そのうちの100以上はこちら側の人間で﹃冒険者ギルド
の裏の実行部隊﹄だな。青木さんが作った裏組織のシーフマスター
の影の軍団だ。青木さんがシーパラから連れてきたんだと前もって
早乙女君には言っておかないといけなかったな。不審者どもの狙い
はここに必ず姿を現す青木さんと早乙女君の2名だろう﹂
﹁じゃあ、ヤツラを自由にさせて事件や行動を起こさせた後に現行
犯で逮捕していくおつもりですか?﹂
﹁早乙女君、我々もそこまで悠長に考えてないし、観客に被害者を
出すつもりもない。時間的に開始10分前・・・そろそろ味方が動
き出す予定時刻だ﹂
ラザニードがステータスカードで今の時間を確かめた頃に記念式典
の会場の観客席だけでなく関係者席も含めたあちこちで、強引に隷
属の腕輪を装備させられて声も出すことも出来ずに不審者が30人
以上連れていかれた。
開始時間2分前には会場は静けさに包まれていたところに何かの合
図が出たのかわからなかったが、司会者が冒険者ギルド本部ギルド
マスター青木勘十郎の来場を告げると、観客から大きな拍手に包ま
れながら青木が舞台の上のイスに座る俺の対面になる場所に座る。
青木の隣にはビッタート卿まで来ているのには少し驚いた。
昨日の夕方までゾリオン村で引継ぎしていたらしいから、夕方にゾ
リオン村を出発して早朝にヨークルに到着したんだろう。
1463
青木とビッタート卿が登場してから俺の冒険者ギルドランクAラン
ク昇格授与記念式典が開始された。
不審者は全部排除された後なのでスムーズに記念式典は進んでいく。
式典の中で俺は青木に自分の持っている冒険者ギルドカードを渡し、
銀色に輝く新たな冒険者ギルドカードを受け取って握手と簡単な挨
拶をかわす。
続けて青木の隣に立つビッタート卿から真っ白の旗を渡されてビッ
タート卿とも握手と簡単な挨拶を交わしてから、俺はこのヨークル
中央時計塔前広場に集まってきた観客に見えるように旗と新ギルド
カードを掲げると、会場に集まった2000人以上の観客から歓声
と万雷の拍手が巻き起こって記念式典は終了した。
Sランク昇格だとここで俺は司会者に色々とインタビューされて答
えなきゃならなくなるが、Aランク昇格では俺はただカードと旗を
見せびらかすように上に掲げるだけでいいと聞いててSSランク昇
格の式典ともなると、既に国家主催の記念式典となるので首都シー
パラの大聖堂で行われると聞いた。
10年前から太陽神アマテラス様の承認がないとSSランクに昇格
といっても、冒険者ギルドカードは変更できてもステータスカード
の方がSランクのままで変更できないので、アマテラスに承認して
もらうためにもSSランクの昇格記念式典は大聖堂の中で行われる
ようになった。
もっともSSランクに大聖堂で記念式典を行ったのは青木勘十郎し
かいない。
逆にSSランクに国や冒険者ギルドが認めて記念式典を行ったのに
SSランクへの昇格をアマテラスに認められなかったのは2人いる。
2人とも犯罪行為と評議会の人間に贈った賄賂がアマテラスの神託
ですぐに発覚して関係者は全員すでに犯罪者奴隷となって鉱山の町
﹃グレンビーズ﹄に送られているとラザニードに教えてもらった。
1464
記念式典が終わり青木勘十郎とアクセル・ビッタートとラザニード・
ヴェイケルシュタットの3人に連れられて、俺は冒険者ギルドヨー
クル支部のギルドマスター室にまた戻った。
俺がギルドマスター室に結界を掛けてから、ラザニードが入れてく
れたコーヒーをすすりながら4人で今回の一連の騒動の話をしはじ
める。
冒険者ギルド本部の次期ギルドマスター騒動の首謀者が2名逮捕さ
れて隷属の首輪によって騒動の真実が明らかになってくると、全て
の事件の関係性が明るみになってきたらしい。
元々この騒動がおきはじめた頃からラザニード・ニール・ペスカト
の3人が捜査して調べた結果1つの商会の名前が浮かび上がってい
た。
﹃ブライスナック商会﹄
ヨークルに本拠を置き、今までに俺が崩壊させた昇竜商会と天上天
下商会とザイモア商会の3つの犯罪組織と親密な連携をしていた犯
罪組織で表向きは奴隷商を営んでいるが、裏は他の犯罪組織によっ
て誘拐されてきている人を隷属の首輪などで奴隷にして世界中に流
す奴隷流通の部分を請け負っていたみたい。
今頃はヨークルのブライスナック商会本部・倉庫・秘密にされてい
た別の商会所有の倉庫にも強制捜査が入ってる。青木はこのために
国軍までシーパラから引き連れてきているのだ。
相当な数の誘拐されてきた人達が倉庫に隠されていると見られてい
る。
まぁ、今後の捜査などは俺に関係ないと思うので頑張ってくれって
しか言いようがないな。
まだはっきりわかったわけではないが青木達が捜査状況で次々に明
るみになってきている事実を総合して予想すると・・・
1465
草原の暴風などを使って昇竜商会が中心となり、ザイモア商会・天
上天下商会・ブライスナック商会が手を組んで自分達の都合のいい
街をシグチス以外にも増やそうとしていた。
始めは夜の街マヅゲーラに進出しようと計画して実行したが・・・
裏の部分の大半が任侠ギルドに力で押さえられていて自分達が入り
込む隙すらなく、逆に自分達の方が簡単に追い出されてほんの少し
も食い込めずに排除されてしまった。
裏で数店の店を管理しているだけしかできなかったし、任侠ギルド
に金を払ってるほどだ。
ヨークルの冒険者ギルド前任のギルドマスターを金で仲間に抱え込
むことに成功はしたが、ヨークルでは冒険者力よりも商業ギルドの
商人達の権力が強く、なかなか美味しい部分には入り込めない状態
のまま時間だけが過ぎていく。
そこに転がり込んできた話が﹃バイドが作る開拓村の話﹄だった。
ここを乗っ取って一大奴隷センターを作ってしまおうとしていた矢
先に、俺の出現で自分たちに都合の良かった流れは完全に失敗にな
った。
俺の攻撃によって先遣隊の草原の暴風を丸ごと1日で壊滅させられ
てしまった。
それからは全部が俺によって力ずくで何もかもが叩き潰されていく。
仲間だった商会もギルドマスターも枢機卿もスパイギルドも全部が
逮捕されていって、自分達が関わってきた犯罪の全てを洗いざらい
明るみにさせられて処刑が決定。
仲間だった者たちは毎日のように逐次ギロチンにかかって消えてい
く。
もはやブライスナック商会には仲間も協力者も資金源も取り上げら
れてしまい、今回のギルマス後継者騒動は起死回生の溜めの最後の
一発狙いでしかなく、持ち駒の戦闘奴隷も全てつぎ込んでいる。
自分達が自由にしていたシグチスも天上天下商会の本部が強制捜査
1466
を受けた翌日に、国軍によって強制的に封鎖されて、今やシグチス
に残ってたはずの仲間とも連絡すらもつかなくなっているだろうと
いう話だった。
1時間以上も色々な話をして俺の知らない情報を襲えてもらった。
色々と問題の多かった都市シグチスも最近は落ち着きを取り戻しつ
つあるようだ。
ついでにお昼ご飯も食堂からの取り寄せでご馳走になった。
食堂からビッタート卿と一緒に弁当を運んできたのは見覚えのある
女性だった。
草原の暴風の残党に誘拐されていて俺が救い出した時に、このイー
デスハリスの世界で唯一、俺の魔法を2回もレジストしたエルフ女
性だ。
再会に驚き握手をするが名前を聞いてなかったことで自己紹介まじ
りの再会の挨拶になった。
彼女の名前は﹃ナディア・グラナド﹄といって母はやはりシーパラ
の司教﹃シル・バリトネット﹄の姉で間違いがないみたいだ。
父親は木工職人だったが街の暮らしに嫌気がしてゾリオン村に移住
して米作りにハマって農家になった。
ナディアはここの食堂で働き始めたわけではなく、ゾリオン村に帰
ってから出会った﹃おにぎり﹄に魅入られてガルディア商会に入社
してビッタート卿とともに首都シーパラに向かう最中だったみたい
だ。
俺の企画した﹃早乙女式馬車の移動おにぎり販売﹄の職員募集に応
募したら合格となってガルディア商会に入社できた。
昨日の夕方までに﹃おにぎりの製作研修﹄を終了した。
今日の朝出発して今日の夕方に到着する定期便に乗ってヨークルに
やって来る予定だったのだけど、昨日の夕方にビッタート卿に挨拶
しにいったら、丁度出かけるところで朝には俺に会うという話を聞
1467
いて俺にお礼を言いたいと無理矢理に親に別れを言ってからビッタ
ート卿のチャーターした夜行馬車に乗って付いてきたみたいだった。
俺はナディアの可愛い顔からは予想できない行動力にビックリして
いた。
俺とナディアの話に急に﹃おにぎりって何だ?﹄と加わってきたの
は青木勘十郎だった。
青木だけがおにぎりを食べたことがないらしい。
俺がアイテムボックスから取り出したおにぎりの﹃梅干し・昆布・
オカカ・刻み赤シソの混ぜご飯﹄と今後は、早乙女式馬車で販売さ
れる4つの味のおにぎりを出してあげた。
青木は自分の分の弁当を食べずに4つのおにぎりを完食していた。
かなりの美味さで今度は自分で買いに行くと言ってくれたので、冒
険者ギルドシーパラ本部に1番近い場所のガルディア商会の駐車場
で販売予定となってると教えてあげた。
青木の分の弁当は俺が食べた。
雑談も終わったようなので俺はもふもふ天国のヨークル1号店と2
号店の両方に顔を出しに行く。
ナディアもモフモフが大好きとの事だったので近くの1号店の方に
案内してあげた。
1468
エルフに悪党が多いってイメージはなかったっす。
ナディアと雑談をしながらもふもふ天国ヨークル1号店までの道を
案内する。
話をしていてビックリしたが見た目はモデルのようにスラリとした
スレンダーで、腰まで届く金髪を風になびかせて俺より少し背が高
い175cmぐらいなんだが、年齢はこう見えても48歳なんだっ
て。
両親が共にエルフだと年のとり方が人族とはまったく違うみたいだ
な。
10代前半の顔という超童顔で俺よりも背が高くて年上ってのは凄
い違和感を感じる。
何か色々と俺の中の常識が崩れていく感じがする。しかもモデル体
型の割には・・・結構大きいし。
ナディアの装備している旅人の服が腰がきゅっと締まっていて胸が
強調されているので、見ないように頑張っているがどうしても少し
目が行ってしまうのが・・・悲しいけど男の性だ。
ナディアの両親は元々、中央大陸にあるエルフの村で過ごしていた
が・・・ナディアの両親の両祖父母の4人がエルフの小さな村の生
活に飽きて、200年以上前に一族を引き連れて西の大陸﹃ウェル
ヅ大陸﹄に移住してきた。
祖父母はシーパラ連合国の外国との玄関口﹃ドルガープ﹄の都市で
宿屋を経営して大当たり。
今では大きなホテルを幾つも経営するグラナド商会を作り上げた。
ナディアの両親もブランディックスの町で宿屋を経営していたが8
1469
0年ほど前に偶然知り合った木工職人に心酔して弟子入り。
宿屋は父親の弟に経営を譲り自分は妻と共にヨークルに職人として
生活し始める。
40年ほど前に心酔していた師匠が高齢の為に亡くなると木工職人
としての情熱は消えてしまって、今から35年ほど前のゾリオン村
開拓の話に乗ってゾリオン村で農業を始めたそうだ・・・・
ナディアの父ちゃん凄いな・・・自由奔放過ぎんだろ。
そんなぶっ飛んだ環境でもナディアの母親は不満を全然もってなく
てケンカもほとんどしないほど、今でも両親はラブラブなんだそう
だ。
その証拠にナディアの下には現在5歳の弟がいるんだと・・・43
歳下の弟って・・・流石にそれには驚いたがエルフって寿命が長い
分、親戚関係は複雑に絡み合っててナディアの両祖父母は4人とも
440歳以上で、その上の曽祖父母の8人全員も中央大陸に健在ら
しいし、エルフの世界観では全く珍しいことでもないんだと聞いて
驚く。
俺のエルフのイメージというと森の中で自然・精霊と共に暮らすよ
うな物静かな性格の人物が多いという先入観があったが、まったく
違って人族よりも激情家が多くて意外と飽きっぽい性格の人物の方
が多いそうだ。
露草康助をハメて利用していたエルフの王侯貴族や冒険者ギルド本
部で幹部をしていた﹃ノラギス・サザール﹄のような悪党もかなり
多く、長寿で子沢山の家庭が多いのに世界的にエルフ人口が増えな
いのは同族同士の殺し合いや戦争も多くて長寿を全うして亡くなる
エルフがほとんどいないから。
特にエルフの王侯貴族の末裔はエリート意識が信じられないほど高
く、他の種族を奴隷にしか思ってないほどの高慢ちきが多くて、そ
れが理由で世界中のエルフの国は何十カ国も出来たが、その全てが
1470
崩壊して現存する王国は全て無くなってしまっている。
今いる貴族や王族の末裔とは全てが自称であって金や力を持つとお
う講義族の末裔を自称するエルフは多いんだと。
ダークエルフを﹃穢れた血の一族﹄と呼びドワーフを天敵として騒
動を起こす、エルフの同族からも嫌われている連中が中央大陸には
多くいて、中央大陸の教会総本山とも犬猿の仲で毎年のようにイザ
コザ・紛争・戦争を起こしているんだと。
エルフの村の中で穏やかに暮らし人達は教会側についているので問
題は複雑になってるみたいだ。
俺が知らないエルフの情報を教えてくれるナディアの話が面白くて、
俺ももふもふ天国ヨークル1号店の中に入ってそのまま2人で雑談
を続ける。
エルフなんて地球にはいないし俺の貰った記憶や知識には、露草康
助の時のようなエルフの王侯貴族によって迫害を受けてるイメージ
しか残ってないので、特権階級意識を持たない一般市民のエルフの
意識・知識・感覚はさっぱりわからないからこそ・・・ナディアの
話は楽しかった。
ナディアが話し上手なんだろう。
俺の貰った知識や記憶って結構偏ったモノが多くて・・・仕方がな
いって言えば仕方がないが。
神を殺したいと強く願うほどの迫害を受けていたり、戦争で人格が
壊れそうなほど同族を他の種族を殺人マシーンのように殺し続けて
いたり、レジスタンス活動を続けて政権交代に利用されつくした後
に毒殺されたりと強烈な経験ばかりで、様々な種族などの情報が俺
の中に記憶や知識として入っているのだが﹃一般市民の普通の生活﹄
ってのがなかったりするので、ナディアの話を聞いてるとメチャク
チャ楽しかった。
1471
ナディアもモフモフの愛玩ゴーレム達のくれる癒しに満足してくれ
たようだ。
そのまま会話をしながら1号店には午後2時半までいたのだが・・・
昨日までの混雑は解消されている。
主婦の数は半分以上は減っているので昨日までのように、入店する
のに1時間以上待たされることもなく、すぐに入店できて座れたの
で混雑はとりあえずは解消されたようだった。
店内にも一時間制限などと客を追い出さなくて済む。
明日にシーパラに出発すると言うナディアを冒険者ギルドに送り届
けてモフモフ案内ツアーが終了。
シーパラにも俺の作ったもふもふ天国シーパラ店があるよと紙に地
図を描いて教えてあげた。
ナディアを送った後はもふもふ天国ヨークル2号店の様子を伺いに
行く。
冒険者ギルドからホップボードに乗って2号店に。
かっしょく
2号店にいる店内全部の客が主婦で1号店とは上手く色分けされて
いる様子だった。
今日の開店からの様子をメイドゴーレムの褐色に聞いたが、客の流
れ的には午前中は出勤前の職人が多く午後からは今のような主婦ば
かりになってる。
1号店とは客層がガラリとかわって場所の特色が出てきてるのだろ
う。
まぁ、まだ昨日の昼過ぎにオープンしたばかりなので今後はわから
ないけど。
1号店は午後も半分は職人達の商談などで利用されている。
コーヒーや紅茶などのドリンクのテイクアウトもクッキーなどの軽
食のテイクアウトも1号店は多いので職人さん達にも、もふもふ天
国のお店の味が好かれてきてるようだ。
1472
1号店の混雑解消の為とお客からの要望でドリンクや軽食のテイク
アウトを始めたのだが・・・これはこれで売り上げUPに貢献して
いるようだな。
ドリンク持ち帰り用のポットはオーガ鋼製の別売りなので、既にテ
イクアウトの常連さんはポットを複数購入している。
もふもふ天国のサポートをしているグレーやシロにはテイクアウト
用の防水紙容器やドリンクポットの製造まで任せてる。
1号店は同じような立地条件のシーパラ店でもテイクアウトの量の
多さは特色として出てるので味が職人さん達にうけてるのは間違い
なさそうだ。
2号店はフライドポテトやクッキーなどの軽食のテイクアウト商品
がすでに多く出てる。
2号店は既に奥様方の暇つぶし・・・店内で井戸端会議という流れ
になってきてるな。
1時間以上店にいる人が多い。
もふもふ天国ヨークル1号店裏にある早乙女商会の専属メイドゴー
レム﹃グレー﹄に念輪で出入り業者との取引量を増やすように指示
する。
一気に3店舗開店になってしまったが売り上げは順調に伸びている
だろう。
アマテラスからミルクポットを貰ったので今はミックスジュースは
限定販売ではない。
ミックスジュースの女性人気は高く看板ドリンクに既になっている。
それにホワイトとの業務連絡で意外と問い合わせが多いのが
﹃看板を売ってくれ&作ってくれ﹄
だった。
ぬいぐるみの看板と簡単に言ってもあれは﹃雨避けの魔法﹄と﹃盗
難防止用の移動禁止の封印﹄が掛けられていて、﹃簡単な店舗説明
1473
用の受け答え﹄すら出来る様に魔石を4つも使用してる結構高価な
ものなんだけどな。
﹃売り物ではありません。オーナーの趣味です﹄と言ってお断りさ
せているけど。
イエローカード
愛玩ゴーレムと外の看板ぬいぐるみを盗難しようとしていた人が警
備隊の人に5人ほど突き出されてる。
つい出来心というのが許される1度目は警告で済ますけど2度も繰
り返した人は言い訳も聞かずに警備隊に突き出すようにメイドゴー
レム達や拠点防御中のユーロンド達には指示してある。
そもそも1度目の警告の時に、世界中のどんな結界師を連れてきて
も俺の移動禁止の封印を解いて盗むことなんて出来ないと説明して
いるのにな。
警備隊に突き出された5人とも犯罪者ギルド系特有の手馴れた感じ
だったし、つい出来心なんて2度目の言い訳もバカらしくなるほど
用意周到なアイテムを多数使って、結局盗めないというバカの上に
恥の上塗りみたいだったらしく、後で逮捕に来た警備隊の人にも説
教されていたという報告があった。
この状態だと職人ギルドには俺へのゴーレム製造依頼は多くなりそ
うだ。
親しい人にプレゼントする以外に作る気はまったくない。
これはモフモフと一緒で俺の趣味だ。
俺は冒険者&旅人であって職人になるつもりもない。
もふもふ天国の視察を終えて俺はヨークルの食料品市場に久しぶり
に行くことにした。
ホップボードに乗って移動中にフォクサ達とトロール殲滅作戦を実
施中の、るびのから業務連絡が入り15時で当初の予定通りの30
00頭以上を狩り終えて今から水影の本拠の大樹の奥に広がってい
1474
る広場で魔獣軍団が大宴会&眷属魔獣会議をはじめるらしい。
エドガーたちの歓迎会も兼ねてるそうだ。
なので俺に骨付きトロール肉を焼いて欲しいと、るびのにお願いさ
れた。
俺は解体された骨付きトロール肉をアイテムボックス内で大量に焼
いていってセバスチャンや、るびののアイテムボックスの腕輪に送
る。
2t近い量の骨付きトロール肉を焼き上げて送ってやった。
ヨークルの食料品市場に到着して入っていくと、以前来たときに比
べ市場の中は様変わりしていた。
甘い香りが漂っているので匂いの元に歩いていくと・・・アンコと
抹茶のスイーツ祭りになってる。
俺がリーチェにレシピを渡した饅頭・たい焼き・どら焼きの3種類
が既に販売されている。
シーパラで俺が抹茶を買った業者の本拠がヨークルだったので、こ
こでは抹茶味の饅頭なども既に商品として販売されていた。
正直言ってたい焼きは1ヶ月ぐらいは掛かると思ってたけど数日で
あのたい焼き器を作り上げるとは・・・ヨークルの鉄職人の腕を舐
めてたみたいだ。
しかも3種類とも飛ぶように売れてて、たい焼きにいたっては行列
までできている。
何人かの知り合いに話を聞いてみたが3種類とも商業ギルドの公開
レシピになっていて誰でも商売できるようになってるようなので、
すでに何人かの業者が屋台での移動販売も検討されているみたいだ
った。
俺がユマキ商会から今度、移動販売に最適なゴーレム馬車が発売さ
れるからそれも検討に入れてみては?
って教えてあげたら、さっそく何人かがユマキ商会に走っていった。
1475
販売されているどら焼きの中に﹃栗入り﹄っていうのがあったので
1つ購入してすぐに食べてみた。
うん、普通に美味しい。
栗の販売業者を教えてもらいさっそく大量購入しに行った。
栗の業者の店にはソラマメ・青えんどう豆・枝豆が売っていたので
これも大量に購入しておく。
業者に﹃ウグイス餡﹄の作り方をレシピを渡して実演してあげたら、
俺が出てくと同時に幾つかの業者が入っていってさっそく商談が始
まっていた。
アンコブームがヨークルで始まってきてるような気がしたので﹃ウ
グイス餡﹄まで投入してやった。
岩塩を売っている業者も発見したので購入する。
岩塩の産地ごとに分けて販売していたので味見しながら数種類購入。
この﹃産地ごとに分けて販売﹄ってのは俺がコーヒー業者にお願い
したことなんだけど、ヨークルでは既に﹃○○産の××﹄と表示さ
れている食品が多くなっていて産地表示が当たり前になってきてい
るのは嬉しいな。
酒が1番良い例だろう・・・地域の特色が出てくると味わい方も増
える。
俺のアイテムボックスの中の野菜が減ってきていたので販売業者を
探して購入。
ヨークルの食料品市場にはキノコ類も豊富に売ってるので全種類購
入していく。
時間が夕方の5時になりそろそろ帰宅することにした。
食料品市場を出てホップボードに乗って早乙女邸に帰宅する。
帰宅中に雨が降ってきた。夕方まで風があって今日は肌寒かったな。
今日は昼から雨が降るんじゃないかと予想していたが夕方までズレ
1476
込んだな。
早乙女邸に帰宅してから先に玄関からガレージを抜けて地下練習場
に降りて行くとアイリが大剣を振り回していて、奥の壁沿いではク
ラリーナが無心で弓を引き続けてる。
邪魔をしないように地下のワインセラーに入っていって今日の食料
品市場で樽ごと購入した数種類の酒を樽の棚に並べた。ワインやウ
イスキーだけでなくビールの大きな樽も並べる。
そのままキッチン横の階段で1階まで行くとミーがクロと一緒に豚
モツの味噌煮込み料理を作っているのでいい匂いが充満してる横を
通って客間まで行って防具から普段着に着替えた。
今日はTシャツにチェックのシャツを上に着て、下はジーンズにし
た。
リビングで晩ご飯の出来上がりを待ってると、フォクサから念輪連
絡が入ってきた。
るびのは今、食後の仮眠中で今夜はこの後に大黒豹達と深夜のトロ
ール狩りに行くそうだ。
そういえば昼間は水影以外の大黒豹は寝ていたみたいで、るびのと
狩りに行ってないからな。
それでフォクサは銀大熊軍団・グリーンウルフ・炎虎達をそれぞれ
の巣に帰してやったところらしい。
捕った獲物も銀大熊の1番大きな巣を持つアキューブの巣に持って
いってあげた。
グリーンウルフと炎虎はトロール肉よりも爆走鳥の方が美味しいら
しく、今回の全てのトロール肉は銀大熊達のモノになることが話し
合いで決定した。
グリーンウルフと炎虎達には俺から余ってる肉類︵森林モンキー・
オーク︶などが定期的に渡される。
とりあえず今日の狩りの成果は半分以上は俺のアイテムボックスに
1477
保管される事も決定。
アキューブ達には後日分けて渡される。
それにフォクサとセバスチャンが色々な角度からトロール大量発生
の原因を調べたが・・・
﹃トロール肉に食べ飽きた大黒豹が狩りをしなくなってトロールが
増えていくのを放置してたっす﹄
という原因で最近急に増えたわけでなく以前から徐々に増えていた
のが原因という結論になったようだ。
・・・なんだそりゃ。
これからはフォクサの主導で定期的にみんなでエサの交換会を開く
ことも決定したらしい。
トロール遠征は銀大熊の希望で最低でも1ヶ月に一回は開かれるよ
うだ。
これはトロールを大黒豹が監視して増え過ぎないようにコントロー
ルするという目的がある。
水影からフォクサに連絡が入り次第実施されることも決定。
まぁ・・・魔獣たちのことは、るびのの管轄だし全部フォクサに任
せることにした。
フォクサとの念輪連絡を終えた頃にシャワーを終えたアイリとクラ
リーナが普段着に着替えてリビングにやってきた。
アイリはギンガムチェックのシャツに下は俺と同じジーンズ。
クラリーナはゆるいボディラインのサマーニットのと下はピンクの
フレアスカートをはいてる。
先程キッチンの横を通った時に見たミーの今日の服装はパーカーと
ジーンズだった。
﹁2人ともお疲れ様。今日の昼食に帰ってこれなくてゴメンなアイ
1478
リ﹂
﹁今日はクロに手伝ってもらって豚肉のしょうが焼きとミョウガ焼
きに挑戦してみたよ。しん君食べてみて!﹂
俺はしょうが焼きもミョウガ焼きも一口食べてからつまみにしてビ
ールを飲み始める。
クラリーナとアイリも俺から貰ったビールを飲み始めた。
﹁味付けが少し濃いな。でも、それが冷えたビールに凄く合う﹂
﹁確かに・・・アイリさん、少し濃いめの味付けがビールに合いま
すよ﹂
﹁うん。ちょっと昼食で食べた時は失敗したかなと思ってたけど、
つまみだと丁度いい味付け具合になるわね。よかったわ﹂
そんな話で盛り上がってるところにミーが晩ご飯の完成を伝える声
が聞こえてくる。
﹁はいはーい。みんな、晩ご飯が出来たよー﹂
ダイニングテーブルに移動して晩ご飯はミーの作った豚モツの味噌
煮込み料理。
これは少し薄い味付けだったので、俺はミーにことわりをいれてか
ら・・・丼ご飯を用意してご飯の上に乗せて掻っ込み始める。
こうして食べると丁度いい味付けになる。
おかずにアイリの作った豚のしょうが焼きとミョウガ焼きがバッチ
リ合うな。
無言で美味しそうな笑顔をして掻っ込む俺の姿を見てアイリたちも
真似し始めて全員が丼で食べた。
﹁煮込みが足りなくて味が薄かったけど、こうして食べたら丁度い
い具合になったよ。しんちゃんありがとう﹂
1479
﹁いえいえ、どういたしまして。煮込み料理の場合は冷ます工程も
いるから、どうしても味を素材に染み込ませるには時間が掛かるか
らな。俺やゴーレムたちは料理スキル魔法で一瞬で終わるけど、普
通に料理すると時間は掛かるのは仕方がないよ﹂
﹁2回ほど冷ます工程は入れたんだけどね。時間がちょっと足りな
かったかなぁ﹂
﹁気にするほどじゃないよ。私はこれぐらいの味のほうが美味しい
と思うよ﹂
アイリが話しながら豚モツ味噌煮込み料理を食べている。
﹁私はしん様と同じように丼料理でいただきましたが、ご飯にとっ
ても合ってると思います。特にこの汁が白いご飯に合ってて丼との
相性が最高です﹂
﹁ありがとうクラリーナ。クロから貰ったドラゴン汁を使ったんだ
けど肉の旨味が出ててご飯にはいいわね﹂
﹁まぁ、好みの味付けなんて﹃千差万別﹄だよ。体調によっても味
覚は変わってくるし。だから料理は難しくて奥が深いんだろう﹂
そんな雑談をしながら晩ご飯を終えたのでリビングに移動する。
ミーとアイリの作ってくれてた料理をつまみにして、チビチビと日
本酒を飲み始めた。
嫁たちもびーるを止めてそれぞれの酒を飲み始めてる。
﹁しんちゃん、るびのって今日はまだ見てないんだけど・・・まだ
帰ってきてないの?﹂
﹁るびのは今日はこのまま大森林の南側で深夜の狩りを続けるらし
いから、帰ってくるのは明日の午前中になるとフォクサから連絡が
来たよ﹂
﹁へー、そうなんだ。しん君は明日の予定はどうする?﹂
﹁まだ決めてないよ。俺はシーパラであった色んな騒動もそろそろ
終わりだろうと思うから、次の旅の計画をみんなと話したいなと思
1480
ってたんだ﹂
﹁次の旅って・・・もしかして私が見たいと言っていた海に沈む夕
陽を見に行けるのですか?﹂
﹁ああ、予定では次の目的地はシーパラ連合国の海の玄関口﹃ドル
ガーブ﹄の街だったよね? フォレストグリーン商会の現当主﹃グ
レゴリオ・シーズ・フォレストグリーン﹄から聞いた情報では首都
シーパラとドルガーブを結ぶ列車は当日券は一般席しか購入できな
くて、俺が乗ってみたい最高級個室は前日購入しか出来ないって聞
いたんだ。だから、明日予約を入れて明後日ドルガーブに行こうよ﹂
﹁最高級個室に乗るの? 凄く高いって聞いてるけど・・・そうい
えば、私たちってお金に困ってなかったわね。しん君といると自炊
が多くて、買い物に行く時以外ほとんどお金を使わない生活をして
るから逆にお金がないように感じちゃう時があるわ﹂
﹁アイリさんの言うことが凄くよくわかります。買い物の時にも金
額を見ないで購入してるっていうセレブな生活をしているのに、気
分的には金を使ってない生活をしてるような気分がしてるのです﹂
﹁まぁ、そんなことはさておき・・・私は列車に乗ってみたい。乗
った記憶もないのに初体験が最高級個室って贅沢よねぇ。日程は明
後日か・・・了解﹂
﹁ミーは賛成だね。アイリとクラリーナはどうする?﹂
﹁私も賛成。列車に乗って旅してみたいわね﹂
﹁私も一緒です。小さい時に乗った記憶は薄っすらとしかないので
私の記憶と現実はどう違うのか見てみたいです﹂
﹁じゃあ、明日はチケットの前日購入をしてくるよ。みんなとの旅
って久しぶりになるな。今回は列車の旅だから楽しみなんだけど半
日で終わる旅って残念だな・・・本来の旅ってこんな感じなのかも
しれないけど﹂
1481
明日の予定は嫁達はユーロンド1号・マリア・セバスチャンを連れ
て、またアゼット迷宮アタックの昨日の続きをするそうだ。俺も明
後日の列車の旅の個室チケットを購入した後に追いかけることにす
る。
そういえば今日の午後の早乙女工房にユマキ商会から手紙が来てい
たと報告を聞いてるけど、俺のアイテムボックスに送られてきてる
手紙の中身を読んだら﹃サトシ・シーズ・ユマキ﹄のユマキ家から
の勘当を公式に解除されて、正式にユマキ家の第12代目当主とな
る事が決定。
それで明日の夕方に行われる12代目当主就任記念パーティーへの
案内状だった。
俺だけでなく早乙女一家の嫁3人分の案内状も兼ねている。
アイリ・ミー・クラリーナの3人に案内状を見せると悩んでるみた
いだった。
﹃本音はきれいなドレスを着て参加してみたい﹄
﹃でも上流階級のパーティーのマナーや作法とかは全員何も知らな
い﹄
﹃俺に全員に似合うドレスを作って欲しいし、着てみたい﹄
などなど悩みは尽きないようだな。
案内状の裏には親切に﹃身内と親しい友人しか呼んでいないアット
ホームな立食パーティーです。お気軽にお越しください﹄と書いて
あるけど・・・
ドレスと宝石でマナーや作法を封入して何とかできるかなぁ・・・
作ってみますか?
そのまま全員で先に風呂をサクッと済ませてから寝室に行ってパー
ティードレスを作ることにした。
ミーが赤・アイリが青・クラリーナが緑と俺が勝手にイメージする
カラーで龍布のドレスを作る。
1482
肌の露出は上半身は肩と腕、下半身は膝下のみにした。
上半身も体にピッタリとした﹃体のラインを強調してるけど肌の露
出は最小限﹄という感じに纏める為に白いシースルーのボレロを羽
織ってもらう。
3人の胸元にはハートの形にカットされた10カラットほどのダイ
アモンドを中心にしたネックレス。
・・・ダイアモンドは俺が石拾いで採ってきたモノが原石のまま余
ってるから惜し気もなく使えるな。
俺の場合は神の創り手スキルで素材の原子から組みなおして不純物
を取り除けるし、カットする必要もなくカットした形に組み上げて
仕上げるので無駄も出ない。
全員分のイヤリングはイメージカラーの宝石を使って作って金具は
ミスリル。
アイリはブルーサファイア、ミーはルビー、クラリーナはエメラル
ド。
形はイヤリングらしく水滴のような形にした。
指輪やブレスレットは今装備しているモノでもいいだろう。
ドレスとネックレスのバランスを崩さないデザインになってるのが
幸いした。
ピンヒールまで完全にカスタムメイド品で仕上げてあげて3人の嫁
は全員寝室の姿見用の大きなガラスに映る自分の姿を見て、とても
嬉しそうにクルクル回ったりしている。
完成したドレスに防御の魔法を封入して、宝石にはマナーや作法の
全てを封入する。
このままではただの知識があるだけなので練習を深夜までかかって
3人でおこなった。
俺がパーティーで着るのは旅人の服の豪華バージョンだ。
1483
・・・このイーデスハリスの世界には﹃タキシード﹄とか﹃スーツ・
背広﹄というものがない。
男の場合は公式の場所では豪華な装飾が施されていても・・・旅人
の服が基本形になる。
軍人の場合は軍服だし、冒険者は防具、商人は旅人の服で職人も旅
人の服が基本形だ。
俺も面倒なので旅人の服を龍布で作り上げる。金銀の色をふんだん
に使った旅人の服が完成する。
1度着てみて不具合がないか確かめてからパジャマにまた着替える。
和服の裃でも作って着てやろうかと思ったが、この世界では任侠ギ
ルドでしか着られていないファッションなので即却下だな。
マリアとクロの特訓を受けている3人の嫁を見ながら、サトシ達に
渡すプレゼントを考える。
ミサキには嫁達に作ったネックレスよりも大きなダイアモンドを付
けたネックレスと、手首から指にまでつけるもはや﹃それって手袋
ですか?﹄ってぐらいのフィンガーブレスレットを作る。
両方とも中心に据えられたダイアモンド1つで・・・ネックレスも
30カラットほどの大きさだしフィンガーブレスレットも両手の2
つとも20カラット以上はあるだろう。
ダイアモンドの周囲にも、もちろん様々な宝石が取り付けられてい
て煌びやかな仕上がりにしてある。
サトシには・・・やっぱり剣だろうか。
サトシは二刀流で剣で突くよりも斬るタイプだと対戦時間は短かっ
たが構えから推定できたので、任侠ギルドのトーナメントではグラ
ディウスを二本使っていたけど本来はサーベルを二本使うのがサト
1484
シ流なんだろう。
つば
ごけん
刀身は80cmほどでグリップには﹃護拳﹄と呼ばれる様な、手を
レジェンドクラス
守るための半円状の大きな鍔を取り付けたサーベルを二本作る。
伝説級のサーベルにならないように細心の注意を払って作り上げる。
オーガ鋼のサーベルにミスリルでコーティング。
装飾を鍔・グリップ・鞘を丁寧に作り上げた剣なので特級品ではあ
るが伝説級にはならなかった。
素材的にはありふれた剣を丁寧に作りこんだ一種の美術品の様な仕
上げをしたので、儀礼などの時にも装備できるような少し煌びやか
な装飾を施して。派手な鞘の中には再生の魔法を封入する。
マークタイトにはクラリーナの弟に作ってあげたモノと同じナイフ
﹃キラービーナイトの甲殻﹄で作った護身用のナイフを作ってあげ
る。
マークタイトのナイフの鞘にも再生の魔法を内側に封入してあげた。
まだ5歳の子供には片手剣のサイズになってるが・・・まぁ、護身
用のサイズだと15cmぐらいの刀身なんだけど。
これだけ作ればいいだろう・・・ちょっとヤリ過ぎ感は否めないが
気にしないようにする。
ありきたりなものだしな。
宝石なんて拾い物でタダなので、あまりにも俺の中で価値観が低い
地球では
評価となってる。
デザインも
嫁達はマナー&作法の練習で既に疲れて寝てしまっている。
俺も眠ることにしようとしたら脳内に﹃ジリリリリリン﹄という、
昔懐かしい黒電話の呼び出し音が鳴り響いてきた。
アマテラスからの緊急連絡だ。
︻真一お兄ちゃん聞こえてますか?︼
﹁おう、アマテラスどうした?﹂
1485
︻真一お兄ちゃんにお願いがあります。今からシーパラの裏世界の
奴隷オークションが開催されるんだけど、それに売られている人で
救って欲しい男がいるの︼
﹁男? どういうことなんだ?﹂
︻1人は人族ではなくてドワーフなの︼
﹁1人は? って何人も救う人がいるのかよ・・・まぁわかった。
詳しく説明してくれ﹂
アマテラスの説明をまとめると・・・
2人の夫婦で他国から隷属の首輪によって誘拐されてきた。
1人はドワーフの若い職人で﹃ゴーリク・カイズ﹄そして、もう1
人がカイズの妻の﹃ゴーリク・サラ﹄の2人・・・ゴーリク夫婦は
2人でゴーレム作りの天才夫婦と裏の世界では言われている。
職人ギルド騒動のときに俺が俺は一撃で壊した犬型ゴーレム﹃クラ
ッシャーハウンド﹄の製作者。
まだ世に出て名前が売れる前に誘拐されて後は裏組織の間を転々と
転売されている奴隷だ。
・・・ヤバイな。
こんな話は俺の貰った記憶と知識の中にたくさんあって、俺に﹃全
てを壊せ! 怨みを晴らせ!﹄と突き上げるような破壊衝動が溢れ
出てくる。
オークションはこれから開催だったな。
俺はアマテラスと話しながら自分のアイテムボックスの中でサイラ
スの甲殻鎧の闇バージョンを作る。
おやっさんが俺に作ってくれた甲殻鎧と型は一緒だが、サイラスの
甲殻とワイバーンの革に﹃魔界貴族の角﹄を混ぜてあるので全身が
真っ黒の甲殻鎧、それにセットで同じ素材を使ってヘッドギア︵顔
を隠すようなマスク付き︶・グローブ・ブーツも作った。
鎧の下に着るアンダーシャツとアンダーパンツは、俺の持っている
1486
既製品は真っ白なので、龍布で真っ黒の特製品を作る。
装備は持たない腰に暗器である﹃吸血鞭﹄が左腰のホルダーに幾つ
か入ってるし、右腰のホルダーには﹃霊拘束手錠﹄が入ってる。
﹁そんな腐ったオークションなんて参加じゃなくて全部をぶっ壊し
たいんだけど・・・俺の中の破壊衝動が抑えきれなくなってきてる
ぞ﹂
︻真一お兄ちゃんはそう言うと思って前もって伝えにきたの。裏の
奴隷オークションを開催するのはシーパラの闇を纏める﹃マフィア
ギルド﹄の中でなの。普通、その裏の奴隷オークションに参加する
には参加費用100万Gを支払って審査を済ませてから厳重な防衛
結界の中に入れるようになるの。真一お兄ちゃんはそれを全部ぶち
壊して入りたいんだよね?︼
﹁ああ、全部ぶち壊してマフィアギルドのクソ共を皆殺しにしろと
俺をつき動かす破壊衝動が抑え切れそうにない﹂
︻わかった。それなら今からシーパラの教会にある礼拝堂に来て!
ここでは伝えられない情報を全部﹃情報複製﹄で伝えたい。話で
伝えると時間がかかってゴーリク夫妻の不幸を引き伸ばす事になる︼
﹁了解﹂
俺は自分で作った深夜の襲撃専用防具を装備してシーパラの教会に
ある礼拝堂に直接転移する。
隠者のスキルを展開して気配と魔力放出を断ち礼拝堂の片隅でブー
ツを履いてそのままアマテラスとの会話を再開。アマテラスから情
報複製でマフィアギルドの情報・今回裏の奴隷オークションが開催
される会場の場所名護の情報を貰う。
﹁アマテラスマフィアギルドに生かして欲しい人物はいるか?﹂
︻今回の奴隷オークションに集まるヤツラは全員が救いようがない
悪党なの。オークションに掛けられる奴隷は8名。全員が誘拐され
てきた奴隷だから、真一お兄ちゃんに救って欲しいの︼
1487
﹁わかったよ。報酬はまた後だな﹂
︻何が欲しいとかリクエストはある?︼
﹁釣り道具を作るための情報が欲しい。リール・竿・ラインなんか
の構造などの情報があると俺もここの世界で釣りが出来るようにな
るから﹂
︻うん、わかった。地球で情報を集めておくね︼
﹁あぁ、まかせたよ﹂
アマテラスとの話が終わったので転移してマフィアギルドの正門前
に立つ。
1488
マフィアギルド皆殺し作戦開始っす。︵前書き︶
12・31修正しました。
1489
マフィアギルド皆殺し作戦開始っす。
雨が降りしきる深夜の闇の中・・・マフィアギルドに殴りこみ開始
だ。
俺は転送魔法で引き寄せた徒影1∼3号の3体と共に全滅作戦を開
始する。
もしもの時は任侠ギルドの仕業に見せかけるために徒影を引き寄せ
てきた。
俺は隠者スキルで気配も完全に断った状態で裏から攻撃して、まず
は奴隷を確保して先に解放させてもらわないとな。
俺が救助をしてる間は徒影に別行動で正面から殴り込みを掛けさせ
る。
正門から中に入る前にスパイギルドの殴りこみの時と同じ移動禁止
の封印と音漏れ防止の封印を掛ける。
これでここから逃げ出す事は不可能になったし、全ての封印・結界・
罠・施錠などを解除して俺の監視下に置く。ついでに派手に建物毎
マフィアギルドを破壊しても外には全く音も洩れないようにした。
俺が進入前に空間探査・気配探査・魔力探査で敷地内の全てを探り
とってると、徒影の3体は腕力に物を言わせて正門と正門扉とさら
に正門横に隣接している門番詰所を完全に破壊する。
俺は奴隷の隠されている場所に転移、徒影達は正面突破を開始した。
徒影達には出来るだけ注目を集めてマフィアギルド職員たちの気を
惹く為に﹃ド派手に暴れろ!﹄と命令してあるので暴れまわって殺
しまくってる。
﹃ビー! ビー! ビー!﹄
1490
という不審者進入警報ブザー音が敷地内全部に鳴り響いている中を、
合計10人の奴隷が入れられている牢屋の前に転移魔法で移動して、
周りを動き回っているマフィアの目の前で隠者スキルで気配を断っ
た俺は誰にも気付かれずに鍵の開いた牢屋の鉄格子の中に侵入する。
転移してくると共にかけたスリープの魔法で眠らせた10人奴隷の
首に嵌められている隷属の首輪を次々に外していく。
そのまま10人を重力魔法と風魔法の混合魔法﹃飛翔﹄で横に寝た
まま空中に浮かせ、シーパラ教会大聖堂の礼拝室に転移する。
露草桜は誘拐された3人のシスターを救うためにマヅゲーラの街に
行っており、まだシーパラには帰還していないので俺が確保した1
0人の奴隷全員にエクストラヒールを掛けて礼拝堂の長椅子に横に
寝させる。
後5分もすればアマテラスからの神託で急遽呼ばれた﹃シル・バリ
トネット司教﹄がこの礼拝堂にやって来て彼らを全員保護してくれ
るだろう。
俺はスパイギルドの牢屋に戻リ、今まで自分の姿を隠していた隠者
スキルも停止。
俺が牢屋の暗がりから浮き出てきたように姿を現すと、突然に10
人もの奴隷が姿を消した事に驚愕してフリーズしていたマフィアが
大声を出す。
﹁貴様! どこから現れたんだ! 奴隷をどこにやった﹂
﹁アマテラス様の神託でシーパラの聖騎士団がここに現れるまであ
と30分ぐらいかなぁ・・・俺もそれまで派手に暴れるとしますか。
全員殺す・・・今までの悪行三昧を死んで詫びろ﹂
牢屋の扉に前蹴りを入れると内側から吹き飛ばされる鉄格子の扉が、
今まで俺に向かって大声を上げていた男の体を挟んで壁に突き刺さ
って、鉄格子の扉で上半身と下半身を分離させられた男は驚愕した
1491
顔のまま絶命した。
俺の顔面に飛んできた投げナイフを掴むと投げた男に投げ返した。
数倍のスピードで投げ返された投げナイフは投げた男の眉間に根元
まで突き刺さって瞬殺。
俺はそのまま走って突き進み廊下の先にある裏の奴隷オークション
会場の舞台にそのまま出て行く。
奴隷が出てくるはずだった場所から、いきなり舞台上に現れた俺の
様相・・・目だし帽の様な目と口を大きく見開いた鬼のような仮面
をかぶり全身真っ黒の甲殻鎧を装備してる・・・に慌てて駆け寄っ
てきた司会者の顔面を右ストレートで消失させると、司会が手に持
っていた魔道マイクを取り上げて、このマフィアギルドにいる全員
に聞こえるように魔力を込めて大きな声で宣戦布告をする。
﹁やぁ・・・人の不幸を金で売り買いして人の命を、尊厳を踏みに
じってきたクソ諸君。アマテラス様の神託が俺に降りてきてお前達
が天罰を受ける時間がやってきた。ここに今いる全てのヤツラに俺
は宣戦布告をする・・・逃げ道は完全に塞いだから、これからお前
ら全員を皆殺しにする。﹃死んで詫びろ﹄だな。このマフィアギル
ド内にいる女も子供も全て皆殺しだ。女だから子供だからなんてく
だらない理由で許すような残酷で不平等なことを、俺はするつもり
は無いから安心して気軽に死んでくれ﹂
俺は宣言中に斬りかかってきたり殴りかかってきた用心棒たちの集
団の1人の頭を掴んで、まるで拾った枝でも振り回すかのようにグ
ルンと掴んだ男の体を振り回して、舞台の上に血の花火を撒き散ら
す。
ステージをスタスタ降りていくと観客席に呆然と座る女の子供の頭
に回し蹴りを入れて上半身を消滅させた。俺の選択肢に﹃子供には
罪がないから再教育﹄なんていう残酷で不平等な考えはまったく無
1492
い。
招待客が引き連れてきていた親衛隊が俺に斬りかかってくるが、斬
られても突かれてもガードすることもなく傷付くこともなく完全意
無視して観客を虐殺していく。
俺の拳や脚の前に立ちはだかって、身を挺して主人を守ろうとする
親衛隊ごと殺す。
俺と徒影3体によって巻き起こされる地獄絵図が阿鼻叫喚と騒ぐヤ
ツラの叫び声で敷地内全域に広がっている。
俺は全くの無表情で虐殺を繰り返す。
自分の子供を守ろうと母親が庇ってるが母親ごと殺す。
﹁貴様! 人の命を何だと思ってるんだ!﹂
どこかのジジィの招待客がえらそうなことを叫ぶが俺には何も響か
ない。
迫ってくる用心棒や親衛隊を虫をはらうかの様にして無表情で殺戮
を繰り返しながらマイクを持ったまま質問に答える。
﹁お前の質問に答えてやる・・・お前らが踏みにじってきた奴隷達
と同じ価値がお前らの命の価値だよ。クズの分際で自分たちに都合
がいいだけの﹃命の尊さ﹄なんて語るなよ。宣戦布告の宣言で言っ
ただろ・・・﹃死んで詫びろ﹄と。お前らに残された事は死んで詫
びることだけだ﹂
そのジジィの後ろに超スピードで移動すると背中から右腕の抜き手
で突き抜く。
﹁俺って優しいだろ。お前みたいなクソ達に地獄の苦しみを味あわ
せることもなく一撃で殺してやってるんだからな。お前達は奴隷に
地獄の苦しみを味あわせても死ぬことすら許さないのになぁ﹂
1493
自分の胸から突き抜ける俺の右手を眺めて俺の言葉を聞きながら死
んでいく。
左手に握っていたマイクをポイっと投げ捨ててジジィの死体も放り
投げる。
許してくださいと土下座して謝る生き残ったヤツラに問いかける。
﹁そういって助けを求めてきた奴隷をお前らの中で本当に助けて開
放した奴隷はいるか? 子供でもいいぞ。嘘偽りなく1人でもいる
のか? あっ言っておくが、﹃看破の魔眼﹄を持つ俺にウソは通じ
無いからな﹂
俺が目を1度閉じて瞼を広げると、俺の瞳が赤く光る魔眼に切り替
わる。
俺の中には全ての魔眼が入ってる。
鑑識魔法でも良かったんだが恐怖をさらに煽るために、瞳が赤く光
る伝説の﹃看破の魔眼﹄を使用することにした。
嘘も言い訳も考えてることすら全てを見通す看破の魔眼。
クソの言い訳なんて長々聞いてるヒマないし。
俺の魔眼の赤く光る瞳を見てウソをついて逃げようとしていたヤツ
ラの上がりかけた手が止まる。
13歳ぐらいの子供が1人だけ手を上げる。
﹁俺は助けたことがある。だから俺は助かってもいいはずだ﹂
﹁確かにお前は1人の子供の奴隷を解放してるな。他の奴隷商人に
小遣い稼ぎで転売しただけなんだけどそれは間違いない・・・でも
5人の奴隷を殺してるから何も意味ねぇーし。子供の奴隷を助けて
開放してあげてるのに、殺した5人の奴隷とは何で命の価値が違う
のか説明しろ﹂
﹁それは・・・﹂
1494
﹁説明できないならそれはタダの気まぐれだな。俺はお前らには気
まぐれは起こさないよ。死んで詫びろ﹂
子供に向かって足元の近くにあった観客席を投げつける。
手をあげたまま固まってる子供の周囲にいたヤツラも一緒に木っ端
微塵に砕け散って殺害した。
目を閉じてまたあけると普段の瞳に戻る。
﹁じゃあ時間だな。みんなバイバイ﹂
命乞いをするヤツラに観客席を投げつけオークション会場にいた全
員を皆殺しにした。
大勢の集団がいるところはこれで終了したので、俺はそのままマフ
ィアギルドマスター室に向かって走っていく。徒影達は1号を正門
前に残してすでに手分けして生き残ってる残党狩りに走り回ってる。
ギルドマスター室には鍵も封印も既に掛けられない状態にしてある。
俺が角を曲がってギルドマスター室前の廊下に行くと2体の犬型ゴ
ーレムが襲い掛かってきたが、今度は﹃ゴーレム停止﹄とスキル魔
法で強引に俺に従わせて完全停止させてから、2体のゴーレムをア
イテムボックスに片付けた。
﹁貴様はなぜこんなことをする!﹂
﹁それはお前達に誘拐された奴隷達のセリフだ。お前達が気安く言
っていいセリフじゃねぇーよカス﹂
3人の親衛隊の盾の後ろに隠れて大声を上げるギルドマスター。
即座に反論したら押し黙ったので俺は盾を構えてギルマスを守ろう
としている3人の親衛隊のフルプレートアーマーから見える顔の隙
間に暗器の吸血鞭を投げて額に突き刺した。
1495
バシューっと血の花が3つ咲く。
抜こうとするが﹃血で滑って抜けない﹄と、もがく間に出血多量で
意識を失って3人とも倒れてそのまま死んでいった。
死亡を確認してから吸血鞭を引き、刺さってる針を引き抜いて3点
セット魔法で浄化してから3本の吸血鞭を腰のホルダーの中に収納
させる。
ギルドマスターが後ろのギルドマスター室に逃げ込んだ先に、一番
奥のギルドマスター専用のソファーにふんぞり返って、脚を組んで
座っている俺の姿を見て驚愕して固まる。
﹁今夜からシーパラの夜と影の部分は、我々マヅゲーラの夜の街を
支配する﹃任侠ギルド﹄が完全に制覇させてもらうんだからお前を
逃がすわけないだろう。死んで詫びろって言葉は俺からの言葉でも
あるしアマテラス様からの神託でもあるんだからな。この世界のど
こにもお前の逃げる場所は無いんだから﹃死んで詫びろ﹄って何度
も言わせるなよカス﹂
俺はギルドマスターの知識を情報複製で俺の脳内にコピーしてから、
瞬間移動のようなステップで近づいて左のジャブで顔面を消失させ
て殺害する。
隠し部屋への扉や机の2重底などをあけてから徒影たちと合流して
全員を殺して回る。
女子トイレに逃げ込んだヤツラも容赦しないし逃がさない、全員平
等に死をプレゼントしてやる。
俺はカス共を虐殺して回りながら徒影を6号から20号までの15
体をアイテムボックス内で作成して、任侠ギルドマスター専用の魔
水晶で15体の徒影を任侠ギルドのギルドマスター直属の部隊に登
録する。
ネームプレートカードを取り付けて完了。
1496
マフィアギルド内に合計18体の徒影を走り回らせて、制限時間前
までに本部にいた全職員300人以上を皆殺しにして100人以上
のオークション招待客も全員を殺害した。
﹃家族にはいい人・・・﹄
﹃優しいところのある人・・・﹄
﹃人助けもしてる・・・﹄
﹃寄付もしてる・・・﹄
気分
そんな言い訳は俺にも徒影にもアマテラスにも全く意味が無いし、
心に響きもしない。
ここに招待された人間の全てが1人以上の奴隷をその時の
で殺してる。
子供も女もメイドも執事も全員が裏で購入した﹃誘拐されて奴隷に
なった人達﹄を最低でも1人以上殺してる。
裏で購入した奴隷は表に出て解放される事もなく闇から闇へ始末さ
れている。
ここに招待客でなく付き添ってきただけのメイドすら奴隷を殺して
いるのだった。
また
全員が
死亡する
購入しようと集まってきたヤツラにも同じ価値観で
闇で買われた奴隷には命の価値が無い・・・
それを
虐殺した。
誘拐されて奴隷にされた人々は転生者も含めて
まで奴隷となってるのだから。
それで金儲けをしてるヤツラも同じ扱いをしただけで、全くもって
﹃自業自得﹄﹃因果応報﹄だろう。
聖騎士団の偵察チームが到着する3分前には全部終わらせて封印と
結界を解除して煙のように消える。
今まで停止していた隠者スキルを復活させただけなんだけどな。
死体はそのままの状態でマフィアギルド本部に放置してあるが床や
1497
壁に飛び散った血などの汚れは全部3点セット魔法で浄化して、逆
恨みによる幽霊&アンデッド化も出来ないように敷地全部を神聖浄
化で痕跡一つ残さないほど浄化しておく。
徒影6号から20号までの15体にはシーパラの闇に放つ。
俺のもつ隠者スキルを封入したので誰にも気付かれずに影の中を行
動して、まずは情報収集をメインにさせる。
忍も20体ほど追加で作って徒影の情報収集の手伝いをさせること
にした。
2mちかい徒影じゃあ入り込めない場所もあるから、連携して情報
収集に努めさせる。
集まった情報は徒影1∼5号に連絡がいって任侠ギルドシーパラ進
出のために役立たせる。
俺には後で報告されることになっている。
任侠ギルドマヅゲーラ本部に俺の転送魔法で帰還した徒影によって、
本部にいた任侠ギルド幹部﹃ガスタード・ウェイド﹄と話が出来た。
実は任侠ギルドは今まで何度もシーパラ進出を狙っていたらしく何
度となく計画はされていたが、圧倒的なまでに実力と武力&人数不
足で断念してきた歴史があるらしい。
なので今回のシーパラ進出計画はすぐにでも進出する部隊と指揮す
る幹部を人選して実行されるだろうというガスの話だった。
敵だったヤツラがほぼ消えたんだからな。拠点さえ確保できれば楽
に進出できるだろう。
シーパラは夜の歓楽街は少ないが無い訳ではない。
ヨークルには飲食店や飲み屋はたくさんあるけど、歓楽施設はほぼ
無い。
店が閉まる時間が早いので儲からないのだろう。
1498
どちらの都市でもマヅゲーラに行って羽目を外す人が多いのでそう
なってしまってる。
その代わりにヨークル・シーパラのどちらの都市も裏の部分が広く
て大きい。
近隣の町や村から誘拐された人がこの2つの都市の闇の部分に隠れ
て、闇から闇へと流れていってしまっていたようだ。
逆に外国からも船で運ばれてきている。
ヨークルではここ1ヶ月で、その闇を牛耳っていた組織の大半を俺
の武力で叩き潰されてしまっていて、今では少しでも裁判の時に印
象を良くして刑を軽くしてもらおうと、死刑を免れようと自首をす
る犯罪者も少なからずいると、ローグ真偽官に聞いたことがあって
マジで忙しいそうだ。
シーパラも今夜で残っていた大きな闇組織は俺の実力行使で壊滅し
た。
明日からシーパラに残っている小さな闇の組織は撲滅運動が加速し
ていくだろう。
徒影達によって圧倒的な武力で壊滅させられていく。
このマフィアギルドの中には大量の闇の組織との係わり合いの証拠
が保管されてて、もうすぐ踏み込んでくる聖騎士団によって表ざた
にされるし、俺の脳内には全て記憶と知識が詰まってるので徒影達
に監視&破壊させられていくからだ。
マヅゲーラの任侠ギルドは過去の国軍と最高評議会との関係で完全
な裏組織とは言い難くなってる。
他の公式なギルドに比べると少ないとはいえ、非公式でも上納金の
ように税金を納めてるからな。
元々任侠ギルドは裏の非公認ギルドとはいえ稼ぎの大半が﹃ギャン
ブル﹄の胴元としての稼ぎで、サービス部門として夜のお店の用心
1499
棒、夜に働くお姉さん達の代理交渉なども稼ぎのためではなく街の
治安維持のためだ。
薬物や裏の奴隷売買は﹃ご法度﹄とされてマヅゲーラの街では密告
者によって、任侠ギルドに武力で叩き潰される運命にある。
奴隷市場もオークションも表のものは政府公認の奴隷商会ギルドが
管理してる。
ソコには借金奴隷や犯罪奴隷が法律によって、奴隷の期限や命・体
など最低限は守られている。
無意味に奴隷を傷つけると1度目は警告、2度目は罰金、3度目は
犯罪者として犯罪者奴隷に落とされてしまう。
そもそも隷属の首輪によって奴隷は文句すら言えないのが現実なの
で口答えも出来ないのだから体罰をする理由はないし、奴隷に対す
る暴行も法律によって禁じられている。
そして密告者賞金制度があって奴隷は守られている・・・﹃最低限﹄
だけど。
あくまで﹃最低限﹄の粋を超えることはないが、給料だって最低金
額だが出る。
全部の始末を終えた俺はヨークルの早乙女邸のガレージに転移魔法
で帰還した。
ガレージにあるキャンピングバスの中で早乙女闇装備から普段のパ
ジャマに着替えた。
玄関でブーツも脱いで装備品を3点セット魔法で浄化してアイテム
ボックスの中に入れる。
このまま寝室に行って今日は寝ることにする。
明日の朝はノンビリ出来るほど時間に余裕がある。
1500
朝起きると3人の嫁達は既にマリアとユーロンド1号を連れて、キ
ャンピングバスに乗ってアゼット迷宮アタックに行っている。
今の時刻は9時・・・昨夜もマフィアギルドとのイザコザで深夜1
時過ぎまで起きてたから今朝はノンビリさせてもらってる。
午前中の予定は列車チケットの前日購入ぐらいしか予定は無い。
今日は通常のラフな格好でパーカーとチノパン姿に着替える。
今日は転生して32日目となった5月2日の朝。天候は昨夜からの
雨が引き続き降っている。
窓の外に生える木の枝も葉っぱも揺れてないので風はほとんどない。
5月に入って少し気温が上がってきたので少しだけジメっとしてる。
クロの入れてくれた番茶を飲みながら今朝も朝食はボッチなので和
風で攻める。
出汁巻き卵・魚の干物・梅干・海苔・納豆・とろろ。そして今日は
麦飯で麦トロご飯にした。
味噌汁に﹃なめこ﹄が入ってるのでクロに聞いたら、深夜の大黒豹
とのトロール狩りの間にセバスチャンが発見したものらしい。
たくさんの自生地を発見したのでkg単位で採取してきてくれたみ
たいだ。
俺が今日の朝食を和食にするかも知れないとクロのアイテムボック
スに、前もって送ってくれてたんだと。
流石の早乙女家の有能執事だな。
﹃なめこの赤だし﹄なんて異世界で食えるなんて思っても見なかっ
た。
るびの・フォクサと一緒に先程帰宅したセバスチャンから報告があ
って・・・とうとう﹃きくらげ﹄も発見したとの事だった。他にも
数種類のキノコ類を発見してるの栽培するために持って帰ってきた
みたいだ。
1501
これで完全体のとんこつラーメンが出来るな・・・
そんなことを考えながら朝食を終えてセバスチャンを連れてシーパ
ラにある早乙女工房に転移魔法で移動。
最上階の居住区にある転移部屋の一角に簡易ゲートでマヅゲーラの
任侠ギルドマスター室の仮眠室と結ぶ。
簡易ゲートが安全に働いているか確認してから封印を施す。
ここは任侠ギルドの仮拠点に出来るようにしておいた。
雨の中をセバスチャンと並んで外に出て行くとゴーレム馬車駐車場
に停車していたゴーレム馬車から、飛び出てきた商人たちが俺の話
しかけようと近づいてくるが、ユーロンド達に阻まれて3m以上近
寄る事が出来ない。
それでも懲りずに叫んでくる。
﹁ゴーレムを作ってくれ﹂
﹁ゴーレム馬車を俺と一緒に売ろう﹂
﹁ゴーレムの設計図を5億で売ってくれ﹂
﹁10億払うからゴーレムの作り方をうちの職人達に教えてくれ﹂
などと、朝っぱらからカネカネと五月蝿いヤツラだった。
目端の利く商人なら俺と親しい人間達の中で自分の関係があるパイ
プを探して、つながりを探してと・・・どうにかして接触を図ろう
と裏で頑張ってるらしいのに・・・直接会えば、金を積めば俺が何
とかなると思ってるのにはムカついてきた。
﹁あのさぁ、俺が金を稼ぐのにお前らの助けが必要なのか? それ
とも俺は金で何とかなるとでも思ったのか?﹂
﹁・・・﹂
﹁この程度の事も想像出来ない無能で自分の事しか考えられないヤ
1502
ツラと一緒に何をするんだよ。何で俺はお前ら無能を養ってやらな
いといけないの?﹂
﹁言い過ぎじゃないのか! 黙って聞いていれば・・・無礼者め!﹂
﹁はぁ、くっだらねーの。この程度の言葉に反応してるプライドだ
けは一人前のヤツが、たとえ商売上だけでも俺のパートナーになん
て死んでもイヤだね﹂
﹁ソコまで言われては我々も黙ってないぞ?﹂
﹁じゃあ、今から殺し合いの決闘をしましょう。ここにいる全員な。
俺ってこれでもAランクの冒険者なんだって事をお前ら全員の命を
持って証明してやんよ﹂
﹁あっ! ・・・いえ・・・﹂
﹁いえ、じゃねーよ。決闘を受けるんだろ?﹂
﹁無理です、ごめんなさい﹂
﹁ごめんなさいじゃねぇーよ・・・許さんよ。お前みたいなヤツラ
はプライドだけは高いからな、自分が金を稼ぐためには俺の家族に
何かしようとか考える姑息で下種なヤツラだろ。謝っても絶対に許
さんよ。お前の会社の名前も全部見させてもらう・・・へぇ∼、お
前って何で愛人が5人もいるの? お前入り婿なのになぁ・・・か
みさんに親切に全員の住所と契約書の在り処まで教えてきてやんよ﹂
一人の商人が土下座して謝りだした。
呆然としてる他の商人達に告げることがたくさんある。
﹃お前って脱税してるんか? 最高評議会にいる知り合いに相談し
てくるよ﹄
﹃そこの平気そうな顔をしたお前は犯罪をしてるな。ほうほう、酔
っ払って奴隷に暴力か・・・真偽官の知り合いに相談してみるよ。
既に奴隷への暴力で罰金を払ったお前は次は犯罪者奴隷入りか?﹄
﹃お前は役所の人間に賄賂か・・・これも真偽官に聞かないとなぁ・
・・﹄
1503
などと全員を脅迫しておく・・・というかアマテラス経由で神託を
降ろさせ公表させる。
今日の昼までには不倫以外は捜査が入るだろう。
奥さんには愛人全員分の住所などが教会の司祭経由で全部公表され
る。
アマテラスには貸しがたくさんあるので2つ返事でOKがでた・・・
っていうか笑ってるし。
許すわけないしアマテラスからの神託なら﹃リアル天罰﹄だしで、
俺に逆恨みすら出来ないだろう。
商人達は俺が許してやるとゴーレム馬車に乗って逃げていった・・・
ホントは許してないけどな。
ま、こんな小悪党どもなんてどうでもいいし。
ユーロンドやメイドゴーレムに指示を出してシツコイ商人には同様
の手で撃退OKとしておく。
ホップボードに乗ってセバスチャンと2人でシーパラ駅に向かった。
俺は雨避けの指輪を装備してるし、セバスチャンもバージョンアッ
プ時から雨避け結界を内蔵してるので2人ともホップボードに乗っ
て移動していても濡れることもない。
シーパラ駅に到着して中に入っていく・・・巨大な駅だ。
案内看板を目当てにしてチケット売り場まで移動、田舎者特有のキ
ョロキョロして歩いていく。
地球の駅と違って、ここは異世界の駅・・・まずどこの公共の場所
でもそうなんだが・・・屋根が高い。
首都の駅ともなると様々な種族が駅構内を移動してる。
2m以上の身長の人が地球と違って種族的に物凄く多い。
鬼族と狼獣人は2.2m以上の身長なんてザラだし、2m以上の槍
を担いで移動してる冒険者も数多くいる。
体長が4mを越すグリーンウルフを従魔として連れて歩く人もいる。
1504
休憩室のイスも大小様々だ。
平均身長が1.1mほどの小人族と、平均身長が2.3mの鬼族が
同じ場所・区域で共同生活しているんだから、公共の場所になると
休憩所やトイレは凄いことになってる。
チケット売り場に到着して明日の最高級個室の状況を調べてもらう
と午前の便に空きが合ったので4人分のチケットと個室使用料と海
鮮昼食代4人分を払って購入してチケットのプレート4枚、個室使
用のプレート1枚、食事のプレートを4枚渡される。
シーパラとドルガーブを結ぶ蒸気機関鉄道は1日2本の定期便があ
って10時半出発14時半到着の午前便と16時出発20時到着の
午後便があって、どちらの便も食事が付いてるが席と追加料金によ
って出される食事はまちまちだ。
不定期で深夜便もあるのだが、これは完全なチャーター便となって
おり出発時間も夜の10時から深夜3時までの間で好きに選べるよ
うになってる。
出発と到着時間はシーパラ・ドルガーブ共に共通。
チケット売り場の駅員にドルガーブでのおすすめの宿泊できる場所
を聞いた。
条件は・・・
﹃金に糸目はつけない﹄
﹃夕陽が海に沈むのをキレイに見えるホテル﹄
﹃4人で宿泊﹄
﹃食事が美味しくて有名﹄
っていう条件をつけると出てきた答えは・・・﹃グラナドホテル本
店﹄だった。
ナディア・グラナドの祖父母が作り上げた﹃グラナド商会﹄の経営
するホテルの本店の名前が出てきてビックリした。
ここはシーパラのクラッシック・グリフォンズホテルと同じで、ど
この部屋からも海に沈む夕陽が窓から見えるのと、食事が美味しい
1505
ことで有名だった。
場所を教えてもらおうとして駅員に聞いたら無言でパンフレットを
渡された。
お礼を行ってチケット売り場を後にする。
そのままセバスチャンを連れてユマキ商会本部ビルに顔を出しに行
った。
マツオもジュンローもサトシもいなかったが俺を見知ってる秘書の
方がいたので受付まで呼び出してもらい、今夜のパーティーの出席
を秘書に伝える。
会場の場所となるユマキ家本宅はサトシとミサキとマークタイトを
送り届けた場所なので知っているので説明は要らないんだけど、儀
礼的に聞いて説明してもらう。
帰ろうとすると受付嬢に呼び止められてユマキ商会の工房から主任
が来て俺に聞きたい事があるのでしばらく待って欲しいと言われる。
ユマキ商会の本部にある工房の技術主任が現れて話を聞くために工
房に連れて行かれる。
まぁ、技術の話は機密が多いので仕方がない。
受付にいた他の商会の人間が俺と秘書と技術主任の話を興味深そう
に聞いていたしな。
今度は工房の会議室に連れて行かれて結局12時になるまでの1時
間半、実際に目の前で組み上げながらの﹃授業﹄みたいになってし
まった。
しかも今日の授業内容は早乙女式馬車の内装関連だった。
中に設置する魔道コンロや魔道冷蔵庫の非効率さを排除していかに
効率よく組み上げていくか、魔道コンロと魔道冷蔵庫の中身まで早
乙女式に改造してしまってるのでユマキ商会は大儲け出来るだろう。
帰る前に少しムカついていたので秘書と技術主任に
1506
貸し
だからな。報酬は金じゃないし物でもない・・・
﹃俺のユマキ商会への2回分の授業料は安くはないぞ。これはタダ
ではなく
俺の欲しいものをそのうち取りにくるよ。俺はお前らに教える義務
なんてないんだからな﹄
って、マツオ達に今夜のパーティーまでに言っておいてくれと告げ
て青い顔をさせてからユマキ商会を後にした。
コイツラに授業する義務なんて俺には無いし早乙女式馬車で儲けよ
うとも思ってもいないので、今日は成り行きとはいえ無理矢理授業
をさせられてムカついていた。
簡単に言うと﹃後は勝手にやりたいようにやれ、俺に気軽に聞ける
なんて思うな﹄ってことをアピールしただけだったりする。
脅し終わったところで外に出て行く。
早乙女工房に戻ってみたが既に誰もいない、平和が戻ってきたな・・
・一時的だけど。
1507
アゼット迷宮ソロ攻略、B16Fまで行けたっす。︵前書き︶
1・8修正しました。
1508
アゼット迷宮ソロ攻略、B16Fまで行けたっす。
早乙女工房1Fの転送部屋の転送魔法陣で居住フロアに移動する。
俺のこの後の予定は嫁たちを追っかけることなので、まずはアイリ
たちに念輪で連絡を取ると既に昼食は食べ終わっていたみたいだっ
たので、俺は早乙女邸に転移魔法で帰宅してから昼食もボッチで食
事する。
セバスチャンは庭の畑の世話に行ってしまい、俺はリビングを掃除
中のクロを邪魔しないようにダイニングで昼食を済ます。
昼食はうな丼・肝吸い・お漬物のセットにした。
手早く食事を済ませると俺はそのまま早乙女邸1Fの客間へと行っ
て防具に着替える。
サイラスの甲殻鎧を着て左右の両腰に2本のカタナを装備してから、
玄関に行くと玄関ではセバスチャンが既に待機中だった。
サイラスの甲殻ブーツを履いて玄関に降りてからセバスチャンを連
れて転移魔法で大森林の中のアゼット迷宮に1番近くの場所のいつ
もの広間に移動する。
このまま嫁たちが今攻略中の地下16階の休憩室のところにそのま
ま転移魔法で追いかけて合流してもいいのだけど・・・と考えてい
たが変更する事にした。
嫁達に俺は別行動で攻略すると説明して今日の夕方4時に早乙女邸
に待ち合わせ時間を伝えて、それまでセバスチャンと2人でアゼッ
ト迷宮を攻略する。
アゼット迷宮の入り口から降りていく階段の途中にある転送部屋か
らB11Fに移動する。
1509
俺は自分一人では転送部屋からB11Fまでしかいけないしな。
B11Fに出てくる魔獣﹃マッチョゴブリン﹄は以前アイリがクラ
リーナに説明していたように、棍棒を持って振り回してくる脳筋バ
カで手に持つ棍棒を投げてくるという物理の遠距離攻撃まで仕掛け
てくるので、守備力の無い魔法使い系やシーフなどは注意が必要だ
がまぁ・・・俺には必要ない。
セバスチャンを従えて歩いていくと早速飛んでくる棍棒、走ってく
るマッチョゴブリン。
飛んできた棍棒を二本キャッチしてそのまま両手に握って装備して、
走ってきた2頭のマッチョゴブリンに叩きつけると爆散した。
手に持った両方の棍棒も霧散して消えた。
俺はそのまま両足のスタンスを広げ腰を沈めるようにして襲い掛か
ってくるマッチョゴブリンに対して備える。
棍棒を上段に振りかぶって走り寄ってきたマッチョゴブリンが俺の
間合いに飛び込んできた瞬間に、体を沈みこむようにした低い体勢
から大きく踏み込んで飛び出し閃光の様な居合い斬り。
そのまま居合いの一の太刀から二の太刀へ移行して左右のマッチョ
ゴブリン2頭を一刀両断にして、左の腰の鞘に天乃村正を納刀しな
いで構える。
マッチョゴブリンをドロップしたアイテム・魔石・魔結晶はセバス
チャンが拾ってくれるので俺はマッチョゴブリンを狩り続ける。
左手で右腰の雪切正宗も抜いて二刀流で構え、今まで居合いの低く
脚をくばった構えて落としていた腰を少し上げている。
剣客よりはどっしりとした体勢で立ち二刀流として自然体な立ち位
置になる。
二刀流では剣客と違って足運びによって邸の攻撃を避けることだけ
でなく、敵の攻撃を迎え撃って1本のカタナで捌きもう1本のカタ
1510
ナで敵の体のどこかを切り裂く。
また先手必勝の言葉通り敵の攻撃を迎え撃つ前に攻撃前の一瞬の隙
をついたりして攻撃を加えたりもするし、足も使って蹴りで攻撃も
行う事もある超攻撃型戦闘スタイルなのが二刀流だ。
マッチョゴブリンがぶん投げた棍棒を切飛ばし、突っ込んでくるマ
ッチョゴブリンも一刀両断、棍棒を振りかぶって飛び込んでくるマ
ッチョゴブリンも二刀で切り伏せて、飛んできた棍棒を飛んでかわ
して回し蹴りをはなったりしていく。
敵は上位種とは言えゴブリンなんで手足を切り捨てるだけで死亡し
て消えてしまう。
マッチョゴブリンの通常ドロップアイテムは﹃ゴブリンリング﹄で
重複不可ではあるのだが力を1だけ上げるリング。
メチャクチャありきたりなリングで素材はゴブリンの革で出来てい
る・・・まぁ、よくあるガッカリ防具がといえるんだろうな。所詮
はダンジョンの序盤のゴブリンリングなので記念として持ってると
いう人のほうが多いアイテム品だろう。
指輪のサイズも所有者となった人の指のサイズに決定してしまうみ
たいだ。
それでマッチョゴブリンのレアドロップが﹃投げ斧﹄だ。
先端の部分が鋼製でグリップは樫の木製となってる。
地球だとアメリカの原住民が使っていた﹃トマホーク﹄ほどの大き
さでグリップエンドに1mほどの長さの紐が付いてるので振り回し
て戦う事も可能だが、ある程度の距離から振り回して投げ敵に傷を
つける投擲用となってる武器だろう。
マッチョゴブリンが装備している棍棒よりもよほど良い武器で、こ
れは何かと使用・・・人によっては愛用している冒険者も数多くい
る。
1511
ブランディックスダンジョンでカマキリからのレアドロップアイテ
ム﹃カマキリの片手鎌﹄とは違って金属製なので重量が1kgあり
振り回して攻撃するには最適だろう。
重さのある武器なのでそれなりの腕力があれば短期間である程度は
使いこなせるようになるし、殺傷力の高い遠距離武器としても使え
る武器なので人気も高い。
消耗品でもあるのでそこそこの高額で引き取ってもらえる武器だ。
レアなのに俺の場合は斧しか出ないってぐらいにドロップしている
のには・・・毎回の事なんだが呆れてしまう。
そのまま進んで行くとマッチョゴブリンの上位種に出会う。
まだ夕方になってないのに上位種が簡単に出てくるあたりが俺の持
ってる祝福・・・主神の祝福︵天運︶の力によるものだろう。
上位種﹃ゴブリン貴族﹄は1.5mほどの大きさの魔獣で全身を覆
うフルプレートアーマーに身を包み、鉄製の鋲を打ちつけてある棍
棒を二本両手に持って凄まじい速さで突撃してくる。
俺の前に現れたのは13頭のゴブリン貴族を2頭の﹃ゴブリン上級
貴族﹄のペアが引き連れた合計15頭の群れだった。
最低限の右へのサイドステップで俺の頭に振り下ろされる棍棒を避
ゆきり まさむね
けて、攻撃してきたゴブリン貴族の頭をフルフェイス兜ごと左手で
持った雪切正宗で叩き切って、殺したゴブリン貴族の体が霧散する
前に死体の体を前蹴りで吹き飛ばす。
俺が吹き飛ばしたゴブリン貴族の体を避けて2頭のゴブリン貴族が
左右に分かれて迫ってくる。
俺は冷静に左右のゴブリン貴族の頭部に両手のカタナを突きを入れ
て殺害。
あまの むらまさ
そのまま前に踏み込んで左側から飛んできた棍棒をかわし、目の前
のゴブリン貴族が棍棒を振りかぶる瞬間に、右手の天乃村正でフル
1512
プレートアーマーの胴体ごと右から一閃し両断。
くるりと左に1回転した勢いのまま左の後ろ回し蹴りで右から飛び
掛ってきたゴブリン貴族の体を蹴り飛ばして殺害。
俺が10秒も掛からずにゴブリン貴族の群れの1/3にあたる5頭
を退治してしまったので、敵のゴブリン貴族が体制を整えようと1
度後ろに下がろうとしたが、それ以上の超スピードでゴブリン貴族
の後ろに回り込んで最奥にいたボスらしきゴブリン上級貴族の後ろ
から、踏み込んだ左手の雪切正宗の上段斬りで一刀両断。
真っ二つになったゴブリン上級貴族を左右に吹き飛ばしてそのまま
真っ直ぐに踏み込んで走っていく。
無論走って通り過ぎるときに左右のゴブリン貴族4頭を切り捨てな
がら真っ直ぐつき進む。
群れのリーダーだったゴブリン上級貴族2頭を退治してしまったの
で、残りの5頭は恐怖で闇雲に両手の棍棒を振り回し続けるだけに
なった。
振り回す棍棒ごと一刀両断していって戦闘終了。
二本のカタナを左右の腰に納刀してドロップアイテムを拾いに行く。
俺1人の戦闘なので上位種とはいえ、たかがゴブリン15頭に20
秒は掛からない。
流石にB11Fの上位種ともなると魔石も魔結晶も質が良い物がド
ロップしてるみたいだな。
ドロップアイテムはゴブリン貴族の通常ドロップアイテムが﹃ゴブ
リンリング+︵プラス︶﹄で、これは装備すると力が2アップする
リング・・・が3個ドロップした。
これは効果の重複が可能となってる。
レアドロップアイテムは﹃トマホーク﹄が10本ドロップしている。
投げ斧よりも一回り大きくなってグリップエンドに縛り付けられた
1513
太い紐はゴブリンの革紐がより合わさって作られていて長さも1.
5mにまで伸びてる。
トマホークはグリップまでの全てが金属のダマスカス鋼で作られて
いる。
それなりの片手斧となってるが・・・10本のトマホークをアイテ
ムボックスに入れてから、俺がミスリルとオリハルコンでコーティ
レジェンドクラス
ングすると﹃早乙女トマホーク﹄という名前になってしまった。
俺が手加減抜きで改良したので伝説級の武器になってしまった・・・
まぁ売る気はないので良いんだけど。
2本を取り出してグリップエンドについている紐を手首に巻きつか
せて振り回してみるが、1本の重さが3kg以上となった早乙女ト
マホークは相当な重量感があってパワー系の武器になってる。
試しに壁に向かって投げてみたらガキンと大きな音をたてて深く刺
さる。
投擲用の武器として投げ槍のレベルの攻撃力があるだろう・・・壁
に刺さった早乙女トマホークを調べてみたが、少し刃が欠けたぐら
いで歪みはなかったので補修して2本のアイテムボックスに入れて
片付ける。
最後にゴブリン上位貴族がドロップしたアイテムが・・・﹃ゴブリ
ンガントレット﹄の両手分の2つ。
所有者が俺になってるからか俺の両手にピッタリ合ったサイズにな
っている。
これは5本指用となっていて肘の手前まであるサイズの篭手で握り
こんで相手を攻撃するタイプ、つまり・・・これは防具ではなくて
武器だ。
いま自分が装備しているサイラスの甲殻鎧の手の部分を取り外して
から、ゴブリンガントレットを装備してみたら手に固定するための
部分までが金具になっていてしっくり来ないので、1度アイテムボ
1514
ックスの中に入れて改造する。
ガントレットの内側に森林モンキーの尻尾を取り付けて引っ張ると
簡単に手に装備できるように改良する。
構造はおやっさんの作った甲殻鎧と同じ。それと指を動かした時に
音がならないように加工する。
取り外す時は1度引っ張ってから緩めると取り外せるので片手で楽
々装備できて固定できる。
それと俺のサイラスの甲殻鎧とのサイズを合わせるためにガントレ
ットの長さを延長して、肘まで覆うタイプにしてからオリハルコン
でコーティングすると・・・こちらも﹃早乙女ガントレット﹄とい
う名前の伝説級の武器になってしまった。
アイテムボックスから取り出して装備して無手の型を繰り出して技
を使って不具合がある部分を修正してから、手から取り外してアイ
テムボックスに入れて装備をサイラスの甲殻鎧に戻す。
ここB11Fには投げ斧目的で数多くの冒険者のチームが来てるの
で俺が1人で回りの迷惑も考えず狩りをするわけにもいかないので
足早に通り過ぎていく。
偶然だが俺が上位種のゴブリン貴族を15頭狩ったところや武器を
改造しているところは、他の冒険者チームの誰にも見られずに済ん
だ。
すれ違った冒険者の中にアイリやミーを通じて知り合った顔見知り
の冒険者の人達には出会わなかったので、軽く会釈だけして挨拶も
なくサクサク進んでいく。
魔獣部屋はこのフロアーには2つあるのだが、集めてる人達も多い
という理由もあってここには行列が出来ている。
俺は魔獣部屋にいくこともなくB12Fへ降りる階段を見つけて降
りていく。
B12Fに出る魔獣はオークの上位種﹃オークロード﹄が出現する
1515
フロアだ。
B11Fのマッチョゴブリンはただ闇雲に突っ込んで攻撃してくる
が、オークロードは組織だってチームで攻撃してくる。
それにオークロードが持っている武器もハンマー・棍棒・斧とパワ
ー系のみだが種類があるし、2mほどの大きさがある巨大な盾を持
つオークロードが時々混じってることがあるので、若干の注意が必
要だとアイリとミーがクラリーナと俺に教えてくれた。
なので俺は腰に納刀してある2本のカタナをアイテムボックスに片
付けて早乙女強弓を装備した。
早乙女強弓は俺の作った特別製の弓と矢で弦の音も矢が飛ぶ音も一
切鳴らない。
100m以上も離れた場所へも無音で突き刺さる弓力300kgの
伝説級の強弓ロングボウ。
矢の方もミスリルとオリハルコンを使って加工した特別製で空気抵
抗による減速は一切受けない結界を持っている。
音がするときは敵を突き抜けて壁に刺さった時だろう。
ここのフロアーでもセバスチャンは回収係だ。
オークロードは通常ドロップアイテムが﹃豚モツ﹄でレアドロップ
アイテムが﹃オークロードの革﹄だった。オークロードの革はサイ
ラスの皮と同じで普段は1部分しかドロップしないが・・・俺の場
合は最初のドロップアイテムから全身分の革がドロップしてビビる。
相変わらず俺のゴッデスから貰った祝福はドロップ確立までもが大
幅にアップしているな。
オークロードの革は通常のオークの皮よりも非常に薄くて加工がし
やすくてしかも丈夫なので、こちらはかなりの高額取引されてるア
イテムになってるが・・・俺の場合はオークの革はスポーツシュー
ズや革製のベルトなどの私服の自作で使用しているし、アイテムの
1516
加工や補修用にも使用するつもりなので売る気は全く無い。
狩りを続けていくと・・・ここのフロアーでも上位種が出てきた。
アイリたちも一昨日討伐した﹃オークファントム﹄だった。
オークロード17頭・オークファントムが5頭の合計22頭の集団
だったんだけど・・・ハッキリ見ていない。30m以上離れた場所
から早乙女強弓の掃射で4・5秒で全滅させてしまい、近寄った時
には魔石と魔結晶と魔水晶、それにドロップアイテムのみが転がっ
ている状態だった。
オークロードの革が全身3つと1部分のみが6・豚モツが8。
オークファントムはレアのオークウィップが3本・通常ドロップア
イテムは﹃豚ヒレ肉10kg﹄が2つだった。
このダンジョンの魔獣がドロップアイテム化をする時の法則ってい
うか、100kg以上あるオークが退治されてしまうと10kgの
豚ヒレ肉にかわり、オークの革で包まれて地面を転がっている状況
というのはいかがなものなんだろうか・・・﹃ファンタジーすげぇ﹄
といっておくべきだろうか・・・
悩んでいても仕方がないのでドロップアイテムを拾ってアイテムボ
ックスに入れて先に進むことにする。
ライトの魔法は俺の周囲に4つ俺の前後左右に2mほど離れて浮か
んでいて俺の周囲を明るく照らしているのだが、早乙女強弓で狩り
をしてる時は俺の目に触れることはなく俺の探査で引っかかったオ
ークロードたちは瞬時に狩られていく中を、セバスチャンが走り回
ってドロップアイテムや魔石などを拾い集めている。
ここのフロアーにある魔獣部屋や宝箱部屋には寄らずに終わらせて
B12Fを終わらせてB13Fへと移動した。
B13Fはオーガナイト。このフロアーも弓だけだと楽しくなさそ
1517
うだったので装備を変更する。
先程B11Fで拾ったドロップアイテムの改良版の早乙女トマホー
クの二刀流だ。
トマホークのグリップエンドにつけられたヒモを二の腕にまで手に
グルグルと巻きつけるが、投げられなくなるので縛りつけはしない。
手に巻きつかせた1.5mの紐を自分でコントロールし調節して自
由自在に振り回すことで、敵に武器の間合いを読みにくくさせてる。
まぁ俺の場合はチートで斧と片手鎌のスキルマスターになってるの
で自由自在なんだが、このトマホークは1本ならまだしも2本同時
に使うには斧と鎌のスキルの両方共のマスターでないと、取り扱い
が酷く難しい武器だ。
2本装備してる時はトマホークをずっと握り続けて歩くことになる
ので何も出来なくなるのが難点かな。
空中に飛び上がってオーガナイトが2頭襲ってきたが俺はそれ以上
のスピードとジャンプ力で飛び上がり、オーガナイトの振りかぶっ
た鋼鉄製の棍棒が振り降ろす事もさせずに、紐の長さを伸ばしきっ
たトマホークを振り回して、オーガナイトの頭部を兜ごち下から叩
き斬った。
ドロップするアイテムはセバスチャンが拾ってくれるので、そのま
ま着地と同時にオーガロードの7頭ほどの群れに低い体勢のまま走
って躍りこむ。
巨大な鋼鉄製の棍棒をトマホークで受け止めたりステップで避けた
りしながら、ブンまわしたトマホークでオーガナイトの足を切り体
を切りつけて殺していき、倒れたオーガナイトの頭も蹴りで吹き飛
ばしたりして戦闘はすぐに終わってしまった。
そろそろ15時なんで休憩室に入ってオヤツ休憩でもしようかと小
さな休憩室に向かって歩いていると、前方で戦闘をしていた冒険者
1518
グループから叫び声があがったので走りながら声を掛ける。
﹁早乙女という冒険者です。助けは要りますか?﹂
﹁助けてください! お願いします﹂
その声と同時に俺は両手に持ったトマホークを走りながら2本を交
互に投げる。
1本は声がした人を攻撃しようと振りかぶった棍棒を持ったオーガ
ナイトロードの手首を断ち切り、もう一本はオーガナイトのボス﹃
オーガナイトロード﹄1頭の頭部を粉砕した。
他にオーガナイトロードは4頭。オーガナイトの死体は既に14頭
ほど転がっている・・・助けた彼らが討伐したのだろう。
そのままアイテムボックスから他のトマホークを取り出して飛び上
がって空中から2本のトマホークをさらに投擲して2頭のオーガナ
イトロードを瞬殺。
着地と同時に前方に3m以上飛び込んで前回り受身をして立ち上が
り生き残った2頭のオーガナイトロードに向き直ると大声と共に挑
発スキルを叩き込む。
﹁どこ見とんじゃいコラ! こっちにこんかい!﹂
俺の挑発にブチ切れて突っ込んでくるオーガの横薙ぎの棍棒をしゃ
がんでかわして、そのまま上に飛び上がるようにジャンプしてオー
ガナイトロードの頭部を右ストレートで粉砕して殺す。
殺害したオーガナイトロードの体の鎧を掴むと、着地しながらしゃ
がんで死体を持ち上げて最後のオーガナイトロードに力を込めて投
げつけた。
最後に生き残ったオーガナイトロードは飛んできた死体に吹き飛ば
され、自身の上に乗った死体が霧散してから態勢を整えて起き上が
ろうと顔を上げたのが最後の姿だった。
1519
回り込んだ俺の左のサッカーボールキックがオーガナイトロードの
頭部を木っ端微塵に粉砕させて戦闘終了。
﹁大丈夫ですか?﹂
﹁・・・Aランクの早乙女さんだ﹂
﹁・・・いでぇー﹂
爽やかに笑いながら話しかけたが全員が固まってる・・・俺に気付
いたようだったのだが痛みには勝てないようだな。
話を詳しく聞くと10人の冒険者チームだったが前列の3人の盾職
の人がロングソードを所持した騎士とシーフの2人の怪我が酷く骨
折したみたいでそれを庇いながらの先頭になってたと説明を聞いた。
チームの中にいるシスター2名が汗を流しながらハイヒールを何度
か掛けて骨折箇所を治療を終えていた。
戦闘も始めはオーガナイト10頭と正面から戦闘をしていたが陣形
の横からオーガナイトロードが左右から1頭ずつ攻撃をしてきてシ
ーフと騎士はシスターを守るために怪我したんだと。
骨折も直ってるしこのまま歩いて転送室まで帰るらしいので俺はハ
イポーション2本とMPポーション2本渡したら、お礼にと今回の
戦闘で俺は倒していないオーガナイトから得た魔石10個と魔結晶
3個を俺に譲ってくれた。
他のドロップアイテムは全部普通のオーガの角10本だったので俺
がいらないと言ったからだった。
魔結晶3つが質がかなり良かったので凄くうれしい。
オーガナイトロードのアイテムや魔結晶は俺が全部倒したんだし、
傷つけることも出来なかった彼らにはドロップアイテムや魔結晶の
優先権は無い。
銀色に光るオーガナイトの角や金色に光るオーガナイトロードの角
1520
はどちらも1本もなくて・・・オーガナイトロードの通常ドロップ
アイテムのオーガ鋼製の短槍が4本だった。
トマホーク4本を拾い集めてきたセバスチャンを連れて10人の冒
険者チームと雑談しながら転送室まで送ってあげた。
送っていってあげたのだが何もでないので必要なかったかな、俺。
最後に冒険者チームのリーダーと握手をしてから転送室に入って行
く彼らと別れる。
ダンジョン内で変なヤツラと関わりたくなかったので・・・気の良
い人達だったので助かった。
それと・・・俺が途中から戦闘に加わった時はドロップアイテムや
魔結晶の数は普通よりもちょっといいかな? 数も多くなってるか
な? ラッキー・・・ってレベルらしいことが今回の件でわかった
のでありがたい。
俺は休憩するのを止めて早乙女強弓を取り出してアゼット迷宮攻略
を先へと進める事にした。
今度は右手が空いてるのでオヤツ代わりのチョコレートを取り出し
てかじる。
それから先は出てくる敵を見ることもなく矢で射殺して進んでいっ
た。
B13Fを抜けてB14F。
このフロアーの魔獣はバクギュー・・・このフロアーは複数のバク
ギューが出ることがあるから注意が必要らしいのだが、早乙女強弓
の攻撃範囲が異常なほど広いのでバクギューは最初に一回だけ見た
だけで、その後は見る気もなく狩って進んでいく。
このフロアーはただ、だだっ広くてバクギューの攻撃のしやすいよ
うになってるのだろうが早乙女強弓の前では的でしかない。
敵が俺の存在に気付く前に攻撃を加えてるデタラメさだから、狩り
というよりも猟と言った方がいいのかもしれん。
1521
ここのフロアーでは上位種は見かけなかったしドロップアイテムに
も変化はなく、通常ドロップアイテムの牛革・・・これもレア度が
高いのは全身分が出てくる。俺は何度も全身牛革が出てきてるよう
だ。
レアドロップアイテムが﹃バクギューの肝﹄だった。
こちらはMPハイポーションの材料になる素材で高額取引されてい
るが、このシーパラ連合国においては魔法使いの数も少ないのでM
Pポーションは出回ってなくてさらに高額になってると、先程救助
した冒険者チームのシスターに教えてもらった。
教会の収入源になっているアイテムで・・・このバクギューの肝は
かなり高額な金額で引き取ってもらえるんだと。
下に降りる階段にたどり着いたのでB15Fへと降りていく。
B15Fはボス部屋。俺の前には誰もいなくて待たされる事なくす
んなり中に入っていく。
とりあえずボス部屋に入る前に装備を早乙女強弓から今日拾った装
備で自分で改良した﹃早乙女ガントレット﹄を試しに使ってみるこ
とにした。
B15Fのボス魔獣は灰色の﹃サイラスファイター﹄だったはずだ
が、ボス部屋の中にいるのは見覚えのあるマーブル模様のサイラス
の希少魔獣が5頭だった。
時間ももったいないしサクッと狩ることに決めて真正面にいるサイ
ラス希少魔獣に向かって超スピードで走りより、振り向こうとした
ところを側頭部から抜き手を突き刺す。
側頭部からの抜き手で脳を完全に破壊して殺害するとそのまま手を
抜いて3t以上あるサイラスの希少魔獣の死体を持ち上げてもう1
頭に向かって投げつけてこちらも殺害した。
ここでようやく生き残り達が戦闘開始の吼え声をあげ始める。
初めに反応して吼えたサイラスの希少魔獣が体勢を低く構えたとこ
ろに走りよって左のストレートで脳天を粉砕する。
1522
そこに俺の右から突っ込んできたサイラスの希少魔獣の角が俺に当
たる前に、俺が振り下ろした右手の手刀を叩き込んで角ごと顔面を
粉砕させ殺害した。
その体勢から後ろに振り向いて伸ばした左手の掌で突撃してきた最
後のサイラスの希少魔獣の角を掴み全ての衝撃を吸収して微動だに
せずに体当たりを受け止める。
角を掴んだまま左に傾け右足のの回し蹴りで側頭部を粉砕。
ボス部屋の戦闘が10秒ほどで終了した。
サイラスの希少魔獣の通常ドロップアイテムはサイラス希少魔獣の
甲殻で2頭分が角付きの全身甲殻で出てる・・・でけぇし、白黒の
マーブル模様がちょっとキモい。
1つはマーブル模様の角だけだった。
ミーにあげた片鎌槍と同じものが2本・・・これはレアドロップア
イテムだろう。
アイテムと魔結晶と魔水晶をセバスチャンと2人で拾い終えてから
B16Fへ降りていく。
ここで15時45分となったので今日はダンジョン攻略を諦めて帰
宅することにした。
B16Fの転送部屋からアゼット迷宮入り口階段横の転送部屋に戻
って外に出て行く。
1度転送部屋を使わないと攻略したことにならないかもしれないと
思って、転移魔法で直接早乙女邸に帰らないでワザワザこの方法で
帰宅しておく。
そのまま大森林に向かって歩いていき、いつもの広間で早乙女邸の
玄関に転移魔法で帰宅した。
丁度るびのから念輪があって炎虎たちの要請で今からフォクサと岩
場のワイバーンを狩りに行ってくると連絡を受ける。
1523
・・・るびのも忙しくなってきてるな。
俺達夫婦も今夜はパーティーに出席するので出かけると説明してか
ら念輪を切った。
玄関で甲殻ブーツを脱いで1Fの客間で普段着に着替えてリビング
でコーヒーを飲んで寛いでると嫁たちが帰ってきたみたいだ。ゾロ
ゾロとリビングに装備をつけたまま入ってきた。
﹁みんなおかえり﹂
﹁ただいまーって、あれ? しんちゃんのほうが早かったみたいね﹂
﹁おぅミー、B16Fに到着したのが15時45分だったんで今日
は早めに切り上げて帰ってきたんだ﹂
﹁しん様、ただいまです。あれ? ・・・普段着なんですか?﹂
﹁まだ約束の時間の18時までちょっと余裕があるから寛ぐために
な。17時半ぐらいまではノンビリできるからみんなも普段着で寛
いだらどうだ?﹂
﹁しん君、ただいま・・・そうね私もまだドレスじゃなくて普段着
にするわ﹂
嫁3人が客間に移動してそれぞれの普段着に着替えて型戻ってきて、
リビングの自分のソファーに座って雑談を始めた。
1524
俺の人生で初参加のパーティーは立食形式だったっす。
﹁俺は今日の戦利品は多かったよ。みんなに見せるから欲しかった
ら言ってくれ﹂
俺は今日の狩りで得た装備アイテムをリビングのテーブルの上に乗
せてみんなに見せていく。
食材や全身甲殻なんて見せてもしょうがないしな。
﹃ゴブリンリング﹄﹃ゴブリンリング+︵プラス︶﹄﹃投げ斧﹄﹃
オークウィップ﹄
﹃短槍﹄﹃サイラスの片鎌槍﹄
﹃早乙女トマホーク﹄﹃早乙女ガントレット﹄
俺が最後に出したのは自分で改良した武器なのだが・・・アイリも
ミーもガントレットも既に2つずつ、トマホークも10本ずつ持っ
てるみたいなので、俺のものと同じ改良をして﹃早乙女式トマホー
ク﹄と﹃早乙女ガントレット﹄にしてあげた。
前の狩りのときに、アレだけ集めるのに苦労した投げ斧とトマホー
クが出まくったので調子に乗って狩りまくったらしい。
クラリーナはゴブリンリング+をはめようとしていたのでクラリー
ナのサイズに作り変えて渡したんだけど、自分の指にはめて見て眺
めたが・・・ゴブリンの革製なのでか色が気に入らなかったらしく、
首を振ってリングを外してアイテムボックスに入れた。
クラリーナも前回の狩りの時にゴブリンリング+の自分サイズのモ
ノを貰ったのだが、色が気に入らなくて装備してなかった・・・今
日俺が持ってきたリングも少し色が違っていたみたいで試してみた
かっただけらしい。
誰も要らなかったみたいなので取り出した全部の装備品はそのまま
1525
俺のアイテムボックスの中に収められていく。まぁ、クラリーナは
新武器の弓を練習中だからな・・・興味もわかなかったみたいだ。
アイリとミーは既に持ってるし。
俺がリビングのテーブルに並べた戦利品を片付けると嫁達も戦利品
を並べ始めた。
今日は一昨日の続きでB13FからはじめてB18F攻略途中まで
で時間になったので帰還したという話だった。
俺の行っていないB16FのミノタウロスロードとB17Fのリザ
ードドッグファイターとB18Fのキラービーナイトのドロップア
イテムで、まずは取り出す必要もないので口頭で説明された素材ア
イテム。
まずはB16Fのミノタウロスロードは通常ドロップアイテムがバ
ター10kgだった。
レアドロップアイテムはチーズの塊1kg。
流石のミルクさんだな・・・ドロップアイテムによる乳製品のライ
ンナップが凄い。
これらはマリアのアイテムボックス経由で既に俺のアイテムボック
スに転送済みと説明された。
B17Fリザードドッグファイターは通常ドロップアイテムが﹃リ
ザードドッグファイターの尻尾﹄で、これは隷属の首輪の素材とし
て使用するアイテム。
これも俺のアイテムボックスに既に送られてきている。
レアドロップアイテムは﹃バックラー﹄これは手首に取り付けるタ
イプのモノでバックラーの表面はリザードドッグファイターの鱗製
になってて、内部はリザードドッグファイターの骨製。
指先から肘までを覆う卵型でリザードドッグファイターの特性﹃氷
以外の魔法に耐性﹄が高くあるし、骨製の盾なので見た目以上にか
1526
なり軽くバックラーの練習用としてだけでなく、鎧の表面に幾つか
取り付けて防御力を増している冒険者を見かけたことが何度かある
ぐらいポピュラーなものだった。
アイリも既に幾つか持っているので、余りは俺のものになってしま
って15個ほど渡されてアイテムボックスに片付けた。
B18Fキラービーナイトは以前と一緒で通常ドロップアイテムが
キラービーナイトの甲殻で、レアドロップアイテムがキラービーナ
イトの投げ槍。
それで装備品はバックラーと投げ槍。
嫁3人はキラービーナイトの投げ槍も要らないようなのでその他の
素材と同じように俺のアイテムボックスに入れておく・・・アイテ
ムボックスの肥やしになりそうだな。無限収納だと存在すら忘れそ
うだ。
いっかく
嫁3人が今日退治した上位種はB14Fの﹃一角ギュー﹄で極太の
1本の角が生えてる凶悪な牛らしい。
角の根元の直径が10cm長さが40cmの大きな角が特徴で、群
れで率いている手下のバクギューを先に突撃させて自分は後や横か
ら突撃する波状攻撃を仕掛けてくるので注意が必要な凶悪な魔獣だ
と教えてもらった。
一角ギューの通常ドロップアイテムは鹿肉・・・鹿かよ! 牛です
らねぇーじゃん! しかも量は少なくて5kgだった。
だけどこの肉を包んでいるのが1m×1mの一角ギューの革で、こ
れが牛革の高級素材になってるという・・・﹃鹿肉なくてもいいじ
ゃん﹄とツッコミを入れたくなる、摩訶不思議なドロップアイテム
だった。
レアドロップアイテムもあってこちらも摩訶不思議なドロップアイ
1527
テムで﹃鉈﹄だった。
どこが摩訶不思議なのかというと・・・
ほお
刀身は23cmのオーガ鋼で作られている片刃の鉈でグリップは1
6cmの鹿の角製。
鞘もセットでドロップしていて朴の木製で表面は鮫革で覆われてい
る。
腰のベルトなどに吊り下げたり、太ももに縛り付けられる用の革紐
も付いていて鹿の革製だった。
・・・つまり一角ギューのドロップアイテムなのに牛の素材がどこ
にも使われてない。
鞘の表皮の革ぐらい牛革でもいいと思うんだけどなぁ。
これは2本ドロップして既に嫁3人の話し合いは終わっていて1本
はミーが持つことになってて、残りの1本は俺に渡すと決まってる
んだそうだ。
ありがたく貰ってアイテムボックスに入れておく。
そのほかに出てきた上位種はB17Fの﹃リザードドッグジェネラ
ル﹄で60頭ものリザードドッグファイターを率いて総勢78頭に
よる波状攻撃をしてきた。
討伐するのに20分近く掛かる持久戦を仕掛けられて大変だったと
教えてもらった。
なかなか経験できないダンジョンでの持久戦は魔力の効率的な使用
方法など、今までにないほど勉強になったとクラリーナが嬉しそう
に語ってる。
リザードドッグジェネラルの通常ドロップアイテムは﹃リザードド
ッグジェネラルの鱗﹄で素材アイテム。
これはサイラスのドロップアイテムなどと同じで、出てくる箇所や
大きさは毎回のように違ってる。
・・・チーム早乙女遊撃隊の場合は尻尾や爪まで含まれた全身で出
1528
てくる。
3つの通常ドロップアイテムに1回は全身で出てくる異常な確率・・
・本来は数年に1回の希少レベルの全身セットなんだけど、サイラ
スほどの希少価値がないのは出現量によるものだろう。
レアドロップアイテムであるはずのリザードドッグジェネラルの牙
までフルセットなのも理解不能なレベルだ。
リザードドッグジェネラルの鱗はリザードドッグファイターの鱗よ
りもさらに火耐性が高く鱗の鎧の中でも高級な素材になっているし、
銀色に鈍く輝く鱗は盾やフルプレートアーマーのの表面などにも貼
り付けられたりしてるので用途は広く高額取引されているアイテム
だ。
レアドロップアイテムはリザードドッグジェネラルの牙が10本。
これは隷属の首輪を作成するための素材でリザードドッグファイタ
ーの尻尾にリザードドッグジェネラルの牙を融合させてから、金属
製の金具と隷属の魔法を封入した魔石を取り付けると完成する。
嫁の3人が今日のアゼット迷宮攻略で集めたドロップアイテムは素
材が多くて、武器や防具は種類が少ない階層だったようだった。
出発する時間が近づいてきたので普段着から着替えることになった。
俺は豪奢な旅人の服に着替えて服についてる全てのボタンを宝石に
作り変えた。
腰のホルダーには護身用のナイフではなくて白扇子を収める。
そのまま玄関に移動、ブーツを履こうとして・・・今貰ったリザー
ドドッグジェネラルの鱗でブーツを作って履いてみたが中々豪勢な
雰囲気が上手く出て見栄えはよくなったな。
今日はユマキ家本宅のパーティーに呼ばれているので・・・首都シ
1529
ーパラの中央行政区の西側にある高級住宅街から近いのは早乙女工
房だろう。
早乙女工房内部のゴーレム駐車場に転移してそのままキャンピング
バスで移動したほうが早そうだ。
嫁達が来るまでの時間つぶしで早乙女邸のガレージに行って、帰宅
したクラリーナがガレージに置いてくれてた停車中のキャンピング
バスを点検する。
内臓魔力量が少し減っていた程度でどこにも問題らしきものはなか
ったな。
俺が全箇所の点検を終えて魔力補充も終えた頃にドレスに着替えた
嫁3人がドレスの素材である龍布に封入されたお淑やかな歩き方で
現れる。
今回の立食パーティーだけでなく全部のマナーや作法はドレスに封
入してあるので、今後はこのドレスでパーティーに出席する形にな
る。
嫁全員の手をとってキャンピングバスに乗せてセバスチャンとマリ
アも乗せてから転移魔法でキャンピングバスごと早乙女工房1F内
部ゴーレム馬車駐車場に移動する。
ユマキ家本宅の場所はセバスチャンが知っているのでキャンピング
バスの運転はセバスチャンに任せて俺はキャビンスペースの自分専
用シートで寛ぐ。
首都シーパラはゴーレム馬車が通行するための街道は完璧に舗装さ
れていて、僅かな凸凹しかないのだがその僅かな凸凹は俺の作った
キャンピングバスに全部吸収されて乗り心地は最高だ。
時速10kmという超低速では加速感も一切なく、魔法によって前
後査収の壁が透けて見えるキャンピングバスの周囲の風景がゆっく
りと流れていく以外に動いてる感覚すらない。
1530
みんなこれから出席するパーティーの事で緊張して強張ってるいる
みたいだな。
﹁どうしたの? みんなが行きたがっていたパーティーだよ。緊張
しまくってない?﹂
﹁それは緊張しますわ。上流階級の集まりなんて参加したこともな
いのですから﹂
﹁おお! ミーの口からとは思えないほどのお淑やかな言葉だ﹂
﹁しんちゃんひどいですわ。このドレスを着ていると、このような
話し方しか出来ませんの﹂
﹁まぁ、自身の生命に関係すること以外にマナーや作法に関係する
ことは最優先で制限が掛かってしまうから、覚悟しておいてくれ。
話し方・動き方の全部に制限がかるし、どういう対応をすれば正し
いのかは体に任せるのが1番いいよ。正しい答えを全て瞬時に反応
して体が動いて言葉も答えてくれる﹂
﹁クラリーナがすぐにキレイに動いてるのを見て羨ましいと思って
ますわ﹂
﹁アイリ、それは・・・クラリーナは﹃慣れてる﹄んだ。クラリー
ナが装備している早乙女バラ杖には杖術の全ての技と経験が封入さ
れているんだ。なのでクラリーナが訓練場でしている杖術の訓練と
は何も考えずに体を反応させて動けるよう特訓しているんだ。杖に
任せてる状態と言った方がいいのかもしれん﹂
﹁なるほど・・・説明されてみれば簡単な事なのですね﹂
﹁私のご説明が上手く出来なくてミーさん、アイリさんごめんなさ
い﹂
﹁クラリーナが謝ることじゃないですわ。なんとなくですけど私も
体と言葉の使い方のコツが掴めてきた様に感じますわ﹂
確かに緊張が解れてきたことも関係しているのだろうが、アイリも
1531
ミーも滑らかな動きと言葉遣いをし始めてる。
話のついでに思い出したので俺は嫁3人に龍布で作った派手で見栄
えの良いハンカチ・フキンなど色違いを数種類、アイテムボックス
内で作成して渡しておいた。
必要になるかもしれないからな。
みんなで雑談しているうちにユマキ家の入り口に辿り着いてキャン
ピングバスのドアがノックされた。
内側からマリアが開けるとキャンピングバスの中に親衛隊とユマキ
商会の幹部らしき人間が現れ、キャンピングバス内に進入してきて
2人の挨拶からの自己紹介と説明で、俺達全員の身分照会と招待状
の確認が行われることになった。
俺が先に紹介状を渡してから次にAクラスの銀色に輝く冒険者ギル
ドカードを見せるとユマキ商会の幹部が言葉遣いがより一層丁寧な
ものとなった。
冒険者カードと招待状が返却されて渡される。
・・・親衛隊の人は以前、本日のパーティーの主役﹃サトシ・シー
ズ・ユマキ﹄をこのユマキ家本宅まで送り届けた時に簡単な挨拶を
しているので、キャンピングバスの中に入ってきて一目で俺だと気
付いていたようだったが、ユマキ商会の幹部は面識がないので俺の
顔を知らなかったのだろう。
そのまま幹部がアイリー・ミー・クラリーナ・マリア、そして上の
運転席で操縦しているセバスチャンのところにも行って自分の目で
冒険者カードとゴーレムはネームプレートを確認しているようだっ
た。
﹁ずいぶん念入りなチェックですね﹂
﹁御気を悪くさせてしまいまして申し訳ございません。何しろシー
ズ家の襲名披露パーティーは﹃後継者正式発表﹄と﹃当主襲名披露﹄
と2回は盛大に行われるのが当然なのですが・・・今回は当方に問
1532
題がありましての後継者が誕生する前の当主交代となりましたので、
過去の慣習にしたがって身内と親しい友人だけを招いてのパーティ
ーになりますので・・・何とかサトシ様とパイプを繋ごうという人
達が後を絶ちません。それに・・・招待される親しい人間はほとん
どがシーズの関係者ばかりなのですから﹂
﹁なるほどなぁ・・・サトシさんの場合はまだ後継者はミサキさん
のおなかの中だしな。それにサトシさんは商人の知り合いも少ない
だろうし・・・周囲が苦労しそうだな﹂
﹁はぁ、ジュンロー様とマツオ様からもそう伺っております。まだ
商人同士のハラを探るような駆け引きにはサトシ様は慣れておられ
ないので、周囲のサポートが必要だと・・・﹂
﹁秘書が多くなりそうだな﹂
﹁はい。既に10人の秘書のサポートで毎日勉強なされております。
サトシ様の場合はユマキ商会で雇った親衛隊よりもお強いので、親
衛隊が5人で秘書が10人という・・・聞いた事が無い体制ですね﹂
﹁フッフッフ、サトシさんらしいな﹂
﹁それとココで情報を1つ・・・今回の厳重警戒には早乙女様も少
し絡んでおります。何しろ極一部の商人以外とは一切の接触を拒ん
でいる早乙女様と近づこうとする商人も多くて・・・噂でサトシ様
の襲名披露パーティーに呼ばれ出席するほど仲が良いと流れてしま
っているので、今回は私のような人間が総動員されて対応に当たっ
ております﹂
﹁その苦情はマツオさんとジュンローさんに言ってくれ。サトシの
印象を少しでも良くしようと意図的に流した噂だろう。俺が参加す
るとユマキ商会本部に返事をしにいった今日の午後から流された噂
だろう﹂
﹁・・・あぁ、そういうことですか、なるほど。早乙女様の正義と
高潔なイメージを利用して・・・なるほど勉強になります﹂
1533
﹁まぁ、俺の話はその辺で。そろそろ後ろも詰まってきてるし・・・
﹂
﹁あ、失礼しました。ではお楽しみください﹂
そういって2人はキャンピングバスから急いで出て行ったのでマリ
アがドアを閉める。
本宅の正面入り口までの看板に従ってセバスチャンがキャンピング
バスを走らせていく。
﹁やっぱり俺が狙いの商人は多くいそうだな。悪いがアイリー・ミ
ー・クラリーナにはマリアとセバスチャンを護衛でつけさせてもら
う。なるべく3人で行動して、トイレに行くときもマリアを連れて
行ってくれ﹂
俺の言葉にアイリもミーもクラリーナも無言で頷いた。
﹁だからといって緊張しなくていいよ。自分達はメイドと執事を引
き連れたVIPな待遇だとでも考えてくれるだけでいい。出来るだ
けパーティーを楽しんでくれ﹂
キャンピングバスが誘導されたゴーレム馬車駐車場に停車して、キ
ャンピングバスのドアをマリアが開ける前に俺の掛けた言葉で全員
の表情が和らいだようだ。
ユマキ家本宅の入り口にブースが作られていて中にはサトシとミサ
キとマークタイトがいて、招待客が並んで挨拶後に全員がココでプ
レゼントを直接渡す形式のようだった。
渡されたプレゼントを運ぶ秘書たちの姿があって、秘書に指示を下
してるジュンローの姿も見えた。
順番が来るまで大人しく雑談しながら並んで待つ。
こういう時は必ず戦闘時のフォーメーションのように俺・アイリ・
1534
クラリーナ・ミーの順番でクラリーナの左右にはセバスチャンとマ
リアが挟む形だな。
ヒマだったので俺が冗談で﹃クラリーナ姫様を護衛する陣形だな﹄
と言って全員で笑ってた。
順番がきたのでサトシ達とチーム早乙女遊撃隊で挨拶をした。
そしてマークタイトの隣にいて甲斐甲斐しく世話をしてる女の子・・
・俺が初めて見る女の子がいた。
一目見た瞬間に反射的に鑑識魔法が展開して誰かが理解できた。
名前だけは聞いた事がある8歳の女の子で﹃キャンシー・シーズ・
ユマキ﹄だった。
そういえばもう一人残されていたマツオの肉親がいたな・・・サト
シの妹になるのだから、ここにいて当然なんだが。
鑑識魔法でキャンシーを見てしまったので人物鑑定以上に彼女のス
テータスや性格なんかも全部データが脳内に入り込んでくる。
サトシにプレゼントのサーベルを2本渡して説明しながら、俺は並
行する思考でキャンシーのためのプレゼントで宝石と魔石をあしら
ったブレスレットをアイテムボックス内で作成する。
脳内に入ってきたキャンシーのデータもヘルプさんによって整理整
頓される。
﹁・・・というわけで、このサーベルは切れ味とかよりも頑丈さと
美しさを最優先して、儀礼での着用も出来るような﹃豪華絢爛﹄な
サーベルに仕上げた。サトシさんの趣味ではないだろうけどね﹂
﹁確かにこれは外見が派手過ぎて私の趣味ではないが・・・中身の
素晴らしさは一目でわかりますよ。早乙女さん、良い品をありがと
う﹂
﹁いえいえ、どういたしまして。それとこちらは奥様に・・・﹂
1535
俺がミサキのために製作したネックレスとフィンガーブレスレット
を渡す。
ミサキが俺が渡した2つの品物を持って手にして、巨大で光り輝く
ダイヤモンドに目を見開いて見たまま固まってしまった。
サトシが固まってるミサキにフィンガーブレスレットとネックレス
をつけてあげてる。
うん。これならバランスも良くてミサキの着ているドレスに似合っ
てるな。
俺が脳内で自画自賛してるときにちらりと見たキャンシーがほんの
少しだけ羨ましそうな顔をしたので、俺はニッコリとキャンシーに
笑いかけて話しアイテムボックス内で製作したブレスレットを渡し
てあげた。
﹁はい。これは君のために俺が作ったものだよ。手にはめてごらん
?﹂
後ろに立つジュンローの手伝いもあって手に装備することが出来た
キャンシーは﹃あっ!﹄と小さく声を出す。意味がわかってる俺が
言葉を繋いであげる。
﹁どう? これで頭が痛いのから開放された?﹂
ニッコリとキャンシーに笑ってあげるとニッコリとした笑顔でお礼
を言われた。
﹁うん。早乙女さんありがとう﹂
﹁へっ、早乙女さん彼女の頭痛って何のことなんでしょうか?﹂
俺は後ろでサポートしていたジュンローに説明する。
キャンシーには先天的に﹃人物鑑定の魔眼﹄を持っていること。
こういった人の多い場所にいると次から次へと情報が脳内に入って
1536
きて、8歳の子供の処理出来る情報量の範囲を超えると激しい頭痛
を引き起こすこと。
しかも彼女の場合は5歳の時に突然に発現したことなどを教えてあ
げる。
キャンシーにステータスカードを出してもらって確認して驚愕する
ジュンロー。
﹁確かにキャンシーが突然外に出たがらなくなったのは5歳の誕生
日を越えたあたりでしたが・・・﹂
﹁本来はレベル的に生後12・3才で発現することが多い先天的人
物鑑定の魔眼なんですが、彼女の場合は知らない人を紹介され挨拶
をして話すことが多かったので5歳という年齢で発現したのではな
いかと思います。俺のブレスレットには魔眼から入ってくる情報を
一時的に制限してブレスレットに蓄えて、ゆっくりと彼女の脳内に
入っていくようにしましたので、頭痛は解消できたのでしょう﹂
﹁そうですか・・・キャンシー、君の苦しみを理解できてなくて申
し訳ないな﹂
ジュンローが後ろからキャンシーの頭を撫でながら謝っている。
﹁アレだけの頭痛を我慢できていたのは彼女が我慢強いからなので
すから、これからは今日のように人とたくさん会うときはこのブレ
スレットを必ず装備させてくださいね。それで寝ている間にも脳内
にゆっくりと少しずつ流れ込むようにしましたので、必ず翌朝まで
装備を外さないようにしてください﹂
﹁わかりました﹂
キャンシーは人物鑑定の魔眼を持ってるのがわかったのだから、彼
女はこれからマークタイトとともにユマキ家の分家としてサポート
する側として教育を受けて、今後は生活をしていくことになるだろ
1537
う。
今後生まれてくるユマキ家の正統後継者のために。
最後にマークタイトに護身用のナイフをプレゼントして俺の挨拶は
終わりだな。
嫁3人とゴーレム執事とメイドゴーレムを引き連れてパーティー会
場へと歩いていく。
俺たちの目の前に現れた見覚えのある夫婦に挨拶をされる。
俺達の存在に気付き、サトシたちとの挨拶を終えるのを待っていた
みたいだな。
最高評議会の証人喚問でエクストラヒールで俺が治療したシーズの
﹃アギスライト家﹄長男で次期当主の正統後継者﹃クリス・シーズ・
アギスライト﹄とその妻﹃コマリ・シーズ・アギスライト﹄だ。
挨拶とともに2人と握手をかわしてから、俺は先に嫁達を紹介した。
嫁たちの自己紹介を終えてから雑談になる。
﹁お久しぶりですクリスさん。体のお加減はいかがですか?﹂
﹁お久しぶりです早乙女さん。すこぶる調子がいいとしか言えませ
んね。治療だけでなくミサキと私の夫婦の危機まで救っていただい
て感謝してます﹂
﹁初めまして早乙女さん。やっとお礼が直接言えますわね。改めま
して・・・ありがとうございます﹂
コマリが深々と腰を折ってお礼の言葉を言ってくる。
クリスは俺とほとんど変わらないぐらいの身長だけどコマリは15
0cmあるかないかぐらいの小さな女性だった。
元枢機卿は小さい女性が好みだったらしく直接の毒牙に掛かった被
害者は全員が小さな大人の女性らしい。
シスターなど元枢機卿の関係者が起こした事件は被害女性に統一性
がなかったというのがデータとして俺の脳内に表示される。
1538
﹁ご丁寧な感謝の言葉、ありがとうございます。ご主人の事はもう
すでに心配ないですから・・・すぐにでもお子様は誕生しますよ﹂
﹁ええ、それも大切なことでしたのですが・・・それだけではあり
ません。あの元枢機卿の恐るべき罠と計画を後日お聞きしました。
腕輪を主人が装備していた時期は私は主人が嫌いでたまらなくてそ
の反面あの元枢機卿が素敵な人物に思えていた・・・私は早乙女さ
んに救っていただかなかったら元枢機卿の誘いに乗っていたかもし
れません﹂
﹁あの腕輪を装備していた時期は私も妻を全く魅力的に思えなくて、
むしろ煩わしい存在にすら思っていました。・・・あの時期の私は
どうしてそうなってしまったのかすら考えてません。何もかも全て
が元枢機卿の罠の中の術中にハメられていたのですね﹂
﹁あの元枢機卿が起こした1番の問題は﹃聖職者の枢機卿が詐欺行
為をする﹄ってことなんですよ。聖職者の枢機卿様が詐欺なんてす
るはずもないとかすら、考えもしないで無条件で信じてしまう相手
なんですから・・・元枢機卿が好き勝手にやれたのは教会の持って
る信用を悪用したから出来たことです﹂
﹁確かにそうですわね。元枢機卿という肩書きがなければエクスト
ラヒールの存在すら否定していたと思います。早乙女さんのように
目の前で見せられるまでは信用できなかったでしょうね﹂
﹁そういうことですよ。ですので太陽神アマテラス様の名を利用し
た詐欺師らしい最後になると思います﹂
そんなことを話している俺たちにマツオ・ユマキが挨拶にきた。
﹁これはこれは早乙女様達とアギスライト様達の皆様方、このめで
たい日によくお越しくださいました。是非ごゆっくりとご歓談くだ
さい﹂
﹁マツオ様、お久しぶりでございます。この度はお招きにあずかり
1539
光栄でございます。マツオ様のご提案で最高評議会の証人喚問の席
でとはいえ、早乙女様とこうして知り合うことが出来ました﹂
﹁マツオさん、久しぶりですね。このような晴れやかな席にお招き
いただきありがとうございます・・・﹂
マツオが来たことで俺は嫁たちにマツオの紹介をしたので、嫁たち
もマツオに自己紹介をすることになった。
マツオはホスト側なのでそうとう忙しいらしく俺に﹃後ほどお時間
いただけますか?﹄と言って俺がOKすると、そそくさと他のグル
ープの挨拶に向かっていった。
まぁ今日のユマキ商会での幹部職員への脅迫の事だろうな。
かなりデカイ釘をブッ刺してやったから出来れば今日中に解決した
いんだろう。
クリス達と雑談していて知ったのだがアギスライト商会は本拠地は
首都シーパラにあるが、シーパラ半島の酪農がメインの産業で乳製
品の生産・出荷・流通を取り扱っている商会で、商売上鮮度を保つ
ために数多くのアイテムボックス所持者を抱えてるのだそうだ。
最近になって乳牛の品種改良に成功して爆発的に生産量が増えるこ
とになりそうだと胸をそらすクリス。
自分自身が乳牛の品種改良に関わってたので自慢したかったらしい。
俺が最近シーパラに広めようとしてる﹃チョコレート﹄と乳製品の
相性の良さを教えてあげたら興味津々でメモまで取って話を聞いて
きたので、簡単なレシピを書いて教えてあげる。
フォレストグリーン商会でも俺が数日前に教えたのでチョコを取り
扱おうと研究中だと教えたら、アギスライト商会でもこれから取引
業者を探して独自に研究をさせてもらうと言ってた。
乳製品には独特のこだわりを持っているらしく途中からは研究者の
目になって話をしていた。
コマリは嫁達とモフモフ話で盛り上がっていたようだ。
1540
雑談を終わらせてクリス&コマリのアギスライト家の夫婦と別れて
ひとくち
から、俺達夫婦も分かれて食事をすることにした。
立食パーティーなのでスプーンに一口サイズに盛り付けられた料理
が所狭しと並んでおり豪華で華やかなパーティーだな。
アイリたちもセバスチャンとマリアを引き連れて舌鼓をうってるよ
うだ。
男が集まってるテーブルは骨付き肉が出されていて言い匂いにつら
れていってみると、俺の前に並んでいた知り合いに声を掛けられる。
最高評議会の証人喚問で出会い、俺がエクストラヒールで治療した
もう一人の人物で虎獣人﹃イワノス・ゲッペンスキー﹄だった。
﹁やぁ、早乙女君久しぶりだな﹂
﹁イワノスさんお久しぶりですね。左手の具合はいかがですか?﹂
﹁すこぶる調子がいいよ。右手に比べて半分ぐらいの握力が出てく
るまで復活した。早乙女君のリハビリシートに従って俺の専属医と
相談しながら、時間を見つけて訓練をしてるのだが・・・最高評議
会直属の捜査部隊の組織作りに忙しくてな、なかなか時間が取れな
くて難しいよ﹂
﹁急ぐ必要ないですし、リハビリに焦りは禁物ですよ﹂
並んでいた順番が来てイワノスと二人で立ったまま骨付き肉にかぶ
りついて雑談が一時中断。
骨付きのまま炙られたデカウサギの肉で味付けにこだわっているら
しくかなり美味かったので、もう1度イワノスと並ぶことにした。
リピートして回ってる人が多く前後の人間は同じ人が同じ順番で並
んでいるのは笑えるな。
少しずつ人が増えてるけど・・・並んでいる人の列の中をメイドが
オシボリを持って走り回ってる。
1541
﹁クックック・・・あぁ、専属医にも同じことを毎日言われてるよ。
リハビリに焦ってるわけじゃないんだ直属の捜査部隊ってことであ
ちこちから入ってくる横槍にストレスが溜まっててな﹂
﹁横槍が面倒なら最高評議会を動かして色んな組織の代表者を集め
た意見交換会なんかを作って対応専門の時間を割いた方が早いんじ
ゃないですか?﹂
﹁ふむふむ、それは使えるな。よし明日、最高評議会に掛け合って
時間を決めることにする。5日に一度開催する意見交換会で返事は
データをそろえて後日文書で回答でいいだろう。影でゴチャゴチャ
行ってる意見もこれで潰せるな・・・ありがとう早乙女君﹂
﹁裏から手を回してくるヤツが面倒な場合は有効な手段なんですけ
どね・・・表立った公開会議を開いて﹃正式に文書に残す﹄っての
は﹂
﹁ああ、それもそうだな。イライラしすぎていて忘れていたよ﹂
﹁あ、順番がきたみたいですよ﹂
また肉を受け取ってガツガツ食い始める。
そろそろ魚介系が食べたくなったのでまた並ぶと言ってるイワノス
と分かれて寿司のテーブルに行く事にした。
立食パーティーらしく﹃てまり寿司﹄が並べられていて、かなり美
味しそうだが女子率が高くなかなか入っていき辛いな。
会場にはたくさんの人が増えててあちこちで雑談や商談・・・そし
て腹に色々抱えてる駆け引きなんかも繰り広げられてるみたいだ。
1542
俺がいるパーティーでは騒動が起きちゃうっす。︵前書き︶
1・11修正しました。
1543
俺がいるパーティーでは騒動が起きちゃうっす。
俺は持ってる秘密も多いし腹の探りあいは面倒極まりないのでなる
べくそちらには行かない様にして、すでに嫁達がいる女子の多い手
まり寿司の方に行って食うことにしたが・・・こちらもなかなか面
倒臭そうだ。
アイリたちが気付いて俺の周りを固めてくれたおかげで、俺は安心
して手まり寿司を味わうことが出来た。
上流階級の女性からのアタックは商人同士の腹の探りあいよりも面
倒そうなので助かる。
大きなお皿に色とりどりの手まり寿司が並んでいるのは美しい。
眺めてるだけで満足してしまいそうな美術品の様な趣がある。
上の具材も魚介類だけでなく野菜や肉まで乗っているので見た目以
上に味わって食べる事が出来た。
数十種類も具材があるので全部味わいたくなってしまうのは俺が食
いしん坊な証拠だろう。
といっても嫁達はすでに全員が全種類コンプしたようだった。
メイドが運んでくれるカクテルを味わいながら周囲の状況を探って
いるが、嫁達も思ってた以上に華やかな雰囲気になじんでいるよう
でありがたいな。
普段の生活には無い金持ちの食事や煌びやかなパーティーの雰囲気
を楽しんでる余裕を感じてる。
巨大な庭の一部まで開放された立食パーティーには様々な人種・立
場・身分が集まってる。
それにしてもこのパーティー会場内に入ってきてから俺たちの注目
度は相当高い。
1544
このパーティー会場内でチーム早乙女遊撃隊の注目度が高いのは俺
のヒーローとしての様々な噂・3人の嫁達の華やかさと煌びやかさ
︵俺の作ったドレスと宝石類︶・他に類を見ないほど滑らかに動く
メイドゴーレムとゴーレム執事など合わさった結果だろう。
この全員でチーム早乙女遊撃隊なのだ・・・今は、るびのがいない
けどな。
今現在でシーパラ連合国で様々な噂を振りまいている話題の中心人
物達が目の前にいるんだから、さも興味津々なのだろう。
俺に聞こえないようにヒソヒソ話してる声は全部俺の耳に入ってき
てるし、ヘルプさんによって耳から入ってきた全部の情報がファイ
ル分けまでされて噂話データが蓄えられていく。
今回のパーティー出席の影に隠されたテーマ﹃上流階級の噂収集﹄
という部分は順調だ。
俺が手まり寿司を食べ終わってからぞろぞろとデザートテーブルに
行って驚いたのが・・・すでに手まり寿司サイズのおにぎりが出さ
れていたことだった。
彩りは手まり寿司には及ばないのは具材が中に入っているので仕方
が無い。
でもこちらは食べてみないと味がわからないというビックリ箱のよ
うな楽しみ方になってるので、男の子に大人気になっていた。
しかも一切の説明が無いまま、こちらの小さなおにぎりたちは巨大
な皿の上に並んでいて、同じ皿の上にも同じ味が見つからないほど
種類が豊富だ。
それを自分で選んで食べるのだが、海苔に上手く隠されているので
全く見分けが付かないな。
俺も嫁達もいくつか食べて味わったんだけど、こういう演出は素晴
1545
らしいな・・・おにぎりの﹃中身が見えない﹄って部分を上手く遊
びに変えて活用している。
俺は考えもしなかった遊びの部分の演出に舌を巻く。
横のテーブルには普通サイズのおにぎりも置かれていて、こちらは
メイドがついて中身の説明をしている。
普通の方のおにぎりを1つ食べ終えたところで満腹になった。
嫁達は俺が小さいおにぎりを堪能している途中で満腹になったと言
って・・・デザートテーブルにセバスチャンたちを連れて行ってし
まった。
途中でクラリーナがアンコのデザートテーブルがあると言っていた
ので、そちらを先に見に行ったみたいだ。
女性の﹃スイーツは別腹﹄ってのはイーデスハリスの世界だけでな
く地球も含めた全世界の女性の共通認識らしい。
俺は一息つこうと壁際に並べられたイスにとりあえず座ることにし
たが、座った途端に知らない25歳ぐらいの美しい女性に話しかけ
られてしまう。
﹁早乙女様、主人のマツオがお話したいと席を設けたのですが・・・
何しろ多忙でゴーレム馬車駐車場までおこしくださいませんか?﹂
﹁はぁ・・・俺に嘘は通じませんよ?﹂
﹁何のことでしょうか? 主人のマツオが多忙の中、早乙女様と話
がしたいとおっしゃってるだけなのですが・・・﹂
﹁騒ぎを起こすつもりもないし面倒だから主人呼んできてよ﹃フォ
ンマイ商会﹄の秘書のアセリアさん。それとも貴女が愛人契約を結
んだ﹃ゲルアー・シーズ・フォンマイ﹄さんと名指しで呼ぼうか?﹂
流石に自分と主人の本名をずばりと言われて顔が強張ってるな。
こういう時は聞き耳を立てていた周囲が静かになったのを利用して、
少し大きな声を出して追い込むことにする。
1546
﹁俺と会って話をしても結果は同じだよって伝えといてくれ﹃俺の
ゴーレム作りは趣味﹄って。金儲けにも興味は無いし、ゴーレムで
商売するなら1人でするんであしからず。それで最後に伝えて欲し
い言葉を一つ・・・﹃フォンマイ商会は俺と敵対したいのか?﹄っ
て聞いといて﹂
﹁わ、わかりました﹂
周囲の突き刺さる視線に耐えかねてアセリアは足早に去っていく。
商業ギルドでリーチェやマリスから何度も何度も断ってる商会から
の商売の話で、俺にリーチェとマリスの2人ともが愚痴をこぼして
いた相手が﹃フォンマイ商会﹄だった。
なのでたくさんの話を2人から教えてもらったのでフォンマイ商会
の成り立ちから知っている。
フォンマイ商会は元々シーパラ連合国の南にある都市﹃シグチス﹄
に本拠地があって、1000年以上前に綿花の栽培とサトウキビの
栽培に成功して巨大化した商会。
500年前に起きた﹃聖獣白虎戦争﹄で、るびのによってウェルヅ
帝国が滅び首都ウェルヅリステルが消滅すると、フォンマイ商会は
シグチスでカジノを経営してシグチスの歓楽街化に成功。
シグチスの裏と表の権力を握りさらに綿花と砂糖の流通網を利用し
て唸るような財力を集めてシーパラ連合国最大の商社として時代を
築いた。
だがしかし・・・シーズ12家の財力を借りてシーパラ連合国を立
ち上げたまでは良かったのだが、国家の権力を握ることには失敗し
て敵対者を増やす結果になる。
建国時から地方に生き残ってたウェルヅ帝国の貴族の生き残りを始
1547
末するためには﹃ゲッペンスキー家﹄や﹃ガルディア家﹄のような
武人を多く排出するシーズ家の協力が無いと国家の存続すら出来な
かった。
それに最高評議会による立法の時も私利私欲に走った結果、最高評
議会の中での票集めに失敗して発言力でも劣る結果になってる。
フォンマイ家の﹃権力を我が物としようとする暴走行為﹄は最高評
議会の信頼低下を招いて、最高評議会を監視・監督する組織﹃評議
会﹄設立の影の立役者だとも言われてる始末だ。
さらに近年にはマツオとの馬車競争にも負けてシーパラの主要都市
の中から荷馬車が追い出される結果になり、最大商社としての地位
までも奪われた結果となってしまってる。
今のフォンマイ家27代目当主は﹃ゲルアー・シーズ・フォンマイ﹄
で、まだ22歳と若くカリスマ性も持ってて頭も切れるらしいのだ
が、いかんせんまだ若過ぎて強引な手法で全て行動しているので・・
・味方も多いが敵も多いというタイプらしい。
俺が拾ったヒソヒソ話の中にゲルアーからアセリアへの指示内容ま
で入っているので騙しようが無い。
こういった騒がしいパーティーで俺の地獄耳を逃れる術は筆談しか
ない。
声を出した話は全部拾ってしまってるからな。
それにしても・・・確かにリーチェたちが愚痴るような強引な手法
だ。
商業ギルドにも圧力をかけてきてると聞いている。
俺の事をなんだと思ってるのかは知らないが、敵対するならシグチ
スの歓楽街を任侠ギルドを使って叩き潰しマツオと組んで山岳地帯
ですら行き来できるゴーレムい馬車を世に出して、荷馬車の担って
いる流通網を奪い取り・・・儲けも権力も何もかも全部を奪い取っ
1548
てやってもいい。
シグチスの歓楽街程度は一晩で隣に作れる。
中で働く従業員は全部ゴーレムなので24時間営業なんて簡単だし。
ゲルアーの目的はゴーレム以外にわからないが・・・さぁ、どう動
いてくるかな。
そもそもユマキ商会の人間はココのパーティーにおいてマツオの事
を﹃主人﹄なんて呼ばない。
今、俺達みんながいるのは﹃サトシのユマキ家第12代目当主襲名
披露パーティー﹄
ユマキ商会の人間は﹃先代﹄もしくは﹃先々代﹄って呼ぶように徹
底されているだろう。
その程度もわからないってのは・・・ゲルアーはフォンマイ家の傑
物って噂も眉唾物かもな。
そもそもマツオが切れ者なのは、俺を呼び出すのに俺の知らない人
間を絶対に使わない。
自分自ら・・・もしくは相手に面識がある人間を絶対に使うのがマ
ツオの恐ろしいところだろう。
知らない人間にはどんな人間でも警戒心が沸いてしまうが、知って
る人間には素直に応じてしまう商人の心理をついて利用してる。
ゲルアーは来ないが嫁達はデザートを持って戻ってきた。
アンコ系は胃にもたれそうだったので俺は遠慮したが嫁達は美味し
そうに食べてる。
饅頭やたい焼きの小さなサイズが並べられていたようだな。
俺達夫婦がイスに座って寛いで雑談してるとグレゴリオとゾリオン
がやってきた。
ゾリオンは嫁達も知っているがグレゴリとは初めてだったのでみん
なでまた自己紹介・・・ゾリオンとグレゴリオも妻を連れてきてい
1549
たようなので俺もみんなと同じように自己紹介をした。
女性連中はデザートのたい焼きと饅頭を取りにまた出かけることに
なった。
俺が明日は列車に乗ってドルガーブに観光に行くと言ったらグレゴ
リオが嬉しそうな顔をして、ドルガーブの海に沈む夕陽の美しさを
自慢してる時に・・・俺に強烈な殺気が叩きつけられた。
ゾリオンと周囲にいた親衛隊が反応して身構えているが、俺は全く
気付いていないグレゴリオを庇うように涼しい顔をしたまま前に進
み出る。
﹃ゲルアー・シーズ・フォンマイ﹄本人の登場だった。
銀色の長髪をオールバックに撫で付けて首の後ろに結び、190c
mほどの長身で俺も見下ろしている。
幾つかの獣人の血が混じっているようだが先祖返りで銀狐獣人の血
が色濃く出ているようだ。
頭の上にある狐の耳と銀毛が輝く尻尾で主張している。
銀狐獣人は虎獣人に次ぐ戦闘民族でプライドの高さはエルフ王族並
みだという言い伝えがあるが・・・あながち間違いではなさそうだ。
俺に強烈な殺気を叩きつけたまま睨み付けていて、そのまま周囲を
黙らせたまま俺の声をかけてきた。
﹁貴様、我を呼び出すとはいい度胸だな﹂
﹁その言葉、そっくりそのままお返ししますね。ご自慢の美しい愛
人を使って俺を呼び出したかったのかもしれませんが生憎ながらま
だ新婚ホヤホヤでして・・・色仕掛けに落ちるほど耄碌はしており
ません。誰かさんの先祖のようにね﹂
フォンマイ家の先々代はマツオとの荷馬車競争の時に新しく作った
1550
愛人と遊び呆けていて、対処が遅れて後手後手に回り競争に敗れた・
・・愛人はマツオによって送り込まれたハニートラップだという噂
を利用して叩きつけてやった。
俺に向けられた殺気が膨れ上がっている。
もはや冷静な判断すらブッ飛びそうなレベルでブチギレしかかって
るようだな・・・さらに追い込むことにする。
﹁・・・ぐぬぬ。その言葉、我に言っておるのか?﹂
﹁フフン、まぁ正直に言って失望しましたね。この程度のあおりで
殺気を振りまいて周囲に当たってるとは。﹃フォンマイ家の傑物﹄
ってのは商売の方面ではなく戦闘のみに限られているようだな。フ
フッ﹂
﹁それを知ってなお、我を愚弄する貴様は・・・死にたいのかな?﹂
ここでゾリオンが俺の隣に立ってゲルアーに叱りつけて睨み付けた
まま目を離さずに俺に謝罪してきた。
﹁フォンマイの坊主、貴様も調子に乗るのもいい加減にしておけよ
? 早乙女君すまない。シーパラ連合国はまた君に厄介ごとを押し
付ける形になってしまった﹂
﹁いつもいつも人の顔を見ると説教しやがって五月蝿いジジィだな。
貴様も一緒に死んどくか?﹂
﹁坊主、年寄りだ思って舐めてると痛い目に合うぞ?﹂
ゾリオンはおちょくられて、中に眠らせてある戦闘一族の家系の血
が騒ぎ始めたのか・・・歯を剥き出して凶悪な顔で笑っている。
体内の気が膨れ上がり、額に血管が浮き上がってきている。
ガルディア家はゾリオン・長男のギル・次男のバイド・3男のヨシ
ュア・長女のミーシャの全員と面識があるが格闘能力の高いステー
タスを全員が持ってるし、何かしらの武器のマスタースキルを先天
1551
的に持って生まれてくるという生まれながらの戦闘一族だ。
血がたぎってきちゃったかな?
﹁ゾリオンさん大丈夫ですよ・・・それとゲルアー様、出来もしな
いことは口に出して言わないほうが良いですよ・・・接待戦闘で強
くなっただけのアホだと周囲にバレてしまいますので。ゲルアー様
には私を傷つけることすら出来ません・・・あぁ、もう面倒だな。
お前は俺と話がしたいのか殺し合いがしたいのかどっちだ?﹂
いい加減に腹が立ってきて俺は隠されていた俺の存在感・魔力・生
命力などを開放し始めた。
俺の隣に立ってゲルアーの動きを注視していたゾリオンや周囲の親
衛隊や元冒険者などの人々が目を見開いて俺に視線を移して固まっ
ている。
むろん俺に殺気を叩きつけていたゲルアーからの殺気は霧散して、
面白いように歯をガチガチと鳴らしてブルブルと恐怖で膝だけじゃ
なく全身が震えだす。
ショック死しないように途中で開放を止めたが、過去に存在した魔
王に従ってる四天王程度のレベルの生命力と魔力を解放しただけだ。
周囲の何十人から俺へ鑑定の魔法がかけられるが、レベルが違いす
ぎて俺には鑑定は効かない・・・というよりも、鑑定の魔法で俺の
名前が脳内に表示されるだけで年齢も性別すらも﹃不明﹄としかで
てこない。
悪いが今回はゲルアーをここの全員・・・すなわちシーパラ連合国
のシーズ家の関係者全員に俺の本当の恐ろしさを認識させるために
ワザと追い込んで利用させてもらうことにした。
自分達が束になって掛かってもかなわない相手で、しかも上限すら
もわからない相手・手の内すらわからない相手というのは敵にまわ
したらどれだけの恐怖の存在なのかを・・・鑑定魔法ですら探れな
1552
い相手、人物鑑定でも俺は﹃お人好し﹄ぐらいしか表示されないら
しいし。
ゲルアーが俺の正面に立って対峙する恐怖に耐えられずに、膝から
崩れ落ちて土下座のように蹲ったところで終了だな。
俺はほんの少しだけ解放していたモノをいつもの状態に戻した。
蹲るゲルアーに近づいて肩をポンポンと叩くと真っ青になった顔を
上げて、初めて俺の目を怒りや侮蔑といった濁りが無い、ゲルアー
本来の自分の目で見上げてきた・・・これなら大丈夫そうかな。
﹁まっ、そういうことなんで俺に上から目線で話しかけない事だな。
話し合いなら聞いてやるから手紙でも書いて持ってこい﹂
﹁あ、あぁ、誠に申し訳なかった﹂
﹁それと周囲にイエスマンばかり置くなよ? 君への批判・讒言は
とても聞いているだけでツライだろうが君の成長の糧となる勇気の
ある人の言葉だ。甘やかされて育っても悲劇にしかならないよ・・・
なぁ、ジュンローさんとマツオさん?﹂
俺の後ろから近寄って騒ぎを止めようとしたが俺の存在感の解放で
動けなくなっていたジュンローとマツオに話しかけると、ジュンロ
ーが申し訳なさそうに頭をかきながら俺の質問に答える。
﹁全く持って耳が痛いですね、早乙女様。子育てに向いていない私
から言えた事ではないですけど・・・ゲルアー様はそこまでバカで
はないですよ。やり直せる力と才能は持っていますよ﹂
俺が手を差し出すとゲルアーは無意識に握ってきたので、そのまま
引っ張って立たせてやった。
立ち上がってからゲルアーのケツをバチンと叩いてやった。
1553
﹁気合入れろ! まだ君の人生は長いんだ。ここまで銀狐獣人の血
が色濃く出ているって事は300歳以上の寿命があるんだ﹂
﹁ああ、そうだな﹂
﹁ま、早乙女邸の場所や早乙女工房・早乙女商会などの場所はすで
に知っているだろう? どこでも手紙を届けてくれれば俺に必ず届
く手筈になってるから、落ち着いてから考えを手紙に纏め持ってき
てくれ﹂
﹁ああ、そうするよ。迷惑をかけてすまなかった﹂
俺の手を握り続けていたゲルアーは手を離して周囲に謝り始めた・・
・何かつき物が落ちたような爽やかな笑顔になってる。
﹁マツオさん、ジュンローさん迷惑をかけました。申し訳ありませ
んでした。このお詫びは後日改めて伺います・・・周囲にいる皆様、
めでたい席に空気を壊して申し訳ございません。余興だと思って笑
ってやってください、失礼しました﹂
周囲に頭を下げるとゲルアーは引き連れてきた人間をまた引き連れ
て颯爽と帰っていく。
去り際まで・・・イケメンだ、くそっ。
が、しかしここから俺が想像もしなかった事態が引き起こされるこ
とになる。
俺と話がしたいなら手紙を書けば言いという噂がシーパラ連合国を
席巻していくことになったのだ。
俺の持つヒーロー・正義の執行官・目利きのグルメとしての噂とと
もに。
直接会いに来られるよりはほんの少しマシになったが・・・手紙の
信憑性は皆無だし困ったもんだな。
それともう一つ面倒なことがある。
1554
ゲルアーが頭を下げて俺に謝罪した事で俺に対して侮蔑と怒りの目
を向ける女性が3人いた。
自分の憧れ︵アイドル?︶の男性であるゲルアー・シーズ・フォン
マイが俺のような冴えない人間に無理矢理頭を下げさせられたとい
う、完全に間違った認識を持っている女性がいた事だ。
極稀にだが女性にはこうした負の感情によって理性や常識とか現実
と、かけ離れた妄想を事実として勝手に認識してしまう装置でもあ
るのだろうか?
こういう人間が権力をなまじ持ってるのが悲劇の始まりになること
を本人は理解しないし、感情が暴走して引き起こされる悲劇はほと
んどの場合、家族だけで収まらずに周囲に不幸を撒き散らす結果に
なることを数多くの歴史が物語っているのだが・・・
まぁ、要注意人物として3人の女性を鑑識で調べてデータを入れて
おく。
フォンマイ家の人間が去っていったので騒動は終了してまた騒がし
いパーティーの続きが再開する。
周囲の人間が去ったので嫁達が帰って来れたのでテーブルのある他
の部屋に移動して雑談することになった。部屋はジュンローが俺の
家族の為にキープしてくれてたみたいだ。
ジュンローの案内で早乙女一家・ゾリオン夫妻・グレゴリオ夫妻と
ゾロゾロと部屋に移動していくが・・・まぁ、俺はマツオに呼び出
されているのでマツオについていって来客用の応接室に直行するこ
とになった。
嫁達には適当な時間になったら待たなくて良いので遅くならなうち
に帰っておいて行って別れた。
応接室のソファーに座ると熟練のメイドがやってきて俺とマツオに
コーヒーを入れてくれる。
メイドが部屋を離れてから面倒な腹の探りあいがスタートする。
1555
﹁早乙女君、まずはお呼びだてして申し訳ない。それとうちの職員
が君の迷惑も顧みないで面倒なことを頼んでしまったようだ。重ね
重ねになってしまうが誠に申し訳ない﹂
マツオが応接室のテーブルに手を突いて額をテーブルに押し付ける
ように深く頭を下げる。
﹁まぁ、良しとしましょう・・・謝罪を受け入れることにします。
それに俺はどこの商会にも専属職人になる契約はする気もないので
早乙女式馬車はユマキ商会の手で作ってください。俺が指導して職
人までも育てて作らないといけないようでしたら・・・早乙女式馬
車のユマキ商会との独占の部分契約を打ち切れると契約書にある一
項を利用させていただき独占の契約を打ち切ります。俺とガルディ
ア商会でこれぐらいならすぐ出来ますので。まぁまだ敵対する気は
無いので脅迫で留めましたが﹂
﹁留まってもらってありがたい。うちの職員にはキツク教育してお
いた。俺には自分たちだけで作り上げます、任せて置いてください
と宣言しておいて、舌の根も乾かないうちに早乙女君に頼るなんて
事を・・・﹂
﹁それで魔道冷蔵庫と魔道コンロはどうなるんですか? 完全にゴ
ーレム馬車用だけでなく﹃早乙女式﹄になってしまっていますけど﹂
﹁それについてなんだが・・・ゾリオン君とグレゴリオ君と3人で
話し合った結果、私共のユマキ商会が入ったことで1番儲けの少な
い形になってしまったガルディア商会で製造させてもらえないか?、
というお願いなんだ﹂
﹁って事はまた職人ギルドですか?﹂
﹁君に専属職人としての契約を分散して君への負担を減らそうとい
うことになってるんだ。今日の午後に3人で話し合ってユマキ商会
にある君の試作した早乙女式魔道コンロ・魔道冷蔵庫は設計図とと
もにすでにガルディア商会の工房に運んであり、君への許可待ちに
1556
なってるんだ。ガルディア商会の職人は元々生産していて取り扱っ
ている商品なので、君の作ってくれたサンプルと設計図を見ただけ
ですぐに複製が可能だった﹂
﹁なるほどね。そちらの話も作業も今後の計画も全部終わって、後
は俺の職人ギルドへの新設計登録と独占製造契約を待ってるだけっ
て事か・・・﹂
﹁ああ、面倒なことは全てこちらで処理しておいた﹂
﹁面倒ねぇ・・・﹂
まぁ、薄々感じてたが・・・マツオはやはり俺の囲い込みにゾリオ
ンとグレゴリオを利用してきたな。
3人で
活用していこうというフシまで見え
自分の儲けをゾリオンに渡してでも転生者の俺が持っているこの世
界の中に無い情報を
てくるな。
その先に待っているのは莫大な儲け話。
さらに俺が面倒ごとに関わりあいたくないという性格も考慮されて
て、断りにくいように考えられてるな。
もう一ついえるのは・・・俺がここまで全部読んでる事も読んでて
も乗ってくるであろうことも計算がされているし、グレゴリオはこ
こまで裏まで読む能力はなさそうだが、ゾリオンは全部わかってて
乗ってくるだろう事も計算がされている。
元々ガルディア商会は魔石・魔結晶・魔水晶・鉱石などの巨大な販
売網を持っていて、ガルディア一族が持ってる冒険者ギルドの太い
パイプを利用して、ギルドからの買取や依頼も多くダンジョンの恵
みも数多く取り扱っている。
取引額の総量はシーパラ連合国髄一だ。他の大陸への定期便も数多
く取り揃えている。
だけど多くの物資を運ぶための船や働いている人員、そして大量の
物資を保管する倉庫などを数多く取り揃えないと維持できない部分
も多く、莫大な儲けは経費に消費されてしまっているので、純利益
1557
は意外と少ないってのは色々な人間から聞いている。
ここの儲け話は乗ってきて自分の商会で取り扱っている商品の独占
製造して独占販売を狙ってくるだろう。
・・・まぁ、俺が悩む話ではないな。
マツオも読んでいるように俺には自分で儲けようという気もない。
今回のおにぎり販売計画も自分だけで全部できることをガルディア
商会とフォレストグリーン商会とユマキ商会にまで話を分散して、
儲けも全部他人任せにしてしまってることなのだ。
しょうがないなと返事をして今から職人ギルドに行って登録してく
ることになった。
ゾリオンと一緒にジュンローの運転する早乙女式馬車に乗って職人
ギルドに向かう。
距離もそこまで離れていないのですぐに到着する。
ジュンローが先導してゾリオンと並んでゴーレム馬車駐車場から職
人ギルドシーパラ本部入り口へと、もはや違う意味でVIPの扱い
で職人ギルドに入っていく。
この国のTOP3の企業ガルディア商会の当主ゾリオンと並んで歩
き、No.1企業ユマキ商会の大番頭ジュンローに案内されて・・・
数日前に職人ギルド本部の大粛清をした張本人の俺がきたんだから
ざわつくギルド本部内。
ジュンローが手配して小会議室に入っていく。
﹃早乙女式魔道コンロの設計図﹄と﹃早乙女式魔道冷蔵庫の設計図﹄
の登録を職員ギルドの女性幹部立会いのもとに行われて、幾つかの
質問に答えた後に登録完了。
そしてそのまま独占製造契約と販売契約をガルディア商会のゾリオ
ンと交わす。
報酬は早乙女式馬車と同じで販売価格の10%にした。
そうすることで今までの半額ぐらいの値段で同じ性能のものが製造
1558
できるし、今までと同じ価格で業務用の巨大な物が作れるので業務
用の価格は1/3まで減らせるようになった。
しかもそれだけの値引きをしても今まで以上に儲けがでてくるらし
い。
早乙女式魔道コンロと魔道冷蔵庫の登場で様々なサイズのものが販
売され、オーダーメイドの商品も販売されるようになっていくこと
になる。
早乙女式馬車と同じで基礎の動力部分を商会で購入して改造して販
売できるようにしてあるので、職人達はガルディア商会で勉強して
基礎を学び工房を立ち上げて独立出来るようなシステムとなった。
契約書を俺・ゾリオン・職人ギルドと3方で分け合ってそれぞれが
持つ事になるので、内容を全て確認してサインする契約書は多い。
30分以上掛かって何とか終わらせてユマキ家本宅に戻ったのは2
2時を超えてて、すでにパーティーは終わってみんなが帰っていた。
ゾリオンは職人ギルドにガルディア商会のゴーレム馬車を迎えに来
させていて、そのまま乗って自宅に帰っていった。
嫁達も早乙女工房に戻ってから普段着に着替えてセバスチャンの転
移魔法で帰宅したと先程マリアから念輪があったし、すでにお風呂
も済ませて寝室で酒を飲んでいるところらしい。
マツオは2度目のユマキ商会代表引退記念でサトシと2人で酒を飲
んでいると聞いてるので、孫との会話を邪魔しないように俺もすぐ
さま帰ることにする。
ジュンローにお礼を行ってそのまま歩いて早乙女工房に帰っていく
時にユマキ家本宅を離れると同時に、早速遠見魔法の監視が2つ入
った。
反射的に俺も遠見魔法で相手を見ると・・・1つはどこかの商会の
執務室・・・遠見魔法で俺を監視しようとしていたのは以前も見た
1559
ことのある男で、性懲りも無く俺をまた監視しようとしているんだ
が・・・こいつは目的がわからないんだよな。
今日のパーティーにも見かけたのだがデータが全く無い。
面倒だったので鑑識魔法で全部調べ上げた・・・ああ、そういうこ
とね。
もう一つはどこかのギルドの会議室みたいな場所で遠見魔法を使っ
ている男の後ろにいるのは、さっきのパーティーのゲルアーとの騒
動の後で俺に怒りの感情を見せていた3人の女性がそのまま座って
る・・・ここはスパイギルドのシーパラ本部っぽいんだけど・・・
コイツラはアホか?
頭にきたので少し大きな声で遠見魔法で監視していた合計6人にだ
け聞こえる声で叫んだ。
﹁クソヤロウどもが! 遠見魔法で見るなら戦争になると以前も言
ったよな? これから俺とお前達で戦争だ。今から攻めるから・・・
全員が俺から目が離せないようにしてやんよ﹂
﹃呪いの映像﹄
俺が右手を上げると呪術師のスキルの呪い魔法で6人が全員呪いに
掛かる。
掛けた呪いは俺がすることがずーーっと頭の中に映像として浮かび
続けるモノだ。
目を閉じても寝ていても悪夢のように夢で見続けることになる。
俺が呪いを解除するまで永遠に俺が指定したシーンを永久にエンド
レスで繰り返される。
俺が指定したシーンは俺が薄笑いしながら盗賊や迷賊を殺している
ところだ。
しかも視点は全部殺される側の盗賊視点であって、最後は自分が殺
1560
害されて暗闇になって終わったと思ったら最初のシーンに戻る・・・
をエンドレス。
6人が大騒ぎしている状況を遠見魔法で見て笑いながら語りかけて
やる。
﹁ハッハッハ、どうだこれがお前らが見たがっていたリアルな俺だ
ゲス
どもなんだからな﹂
よ。俺は親切だから盗賊の視点で見させてやんよ。俺からすればお
前らも盗賊と何ら変わりが無い
すでに全員がこれから永遠に続くかもしれない恐怖におののき軽い
パニックになってる。
光魔法の呪い解除をしようと頑張っているが俺の特別製の呪いはア
マテラスにだって解除できない。
闇魔法であれば光魔法で対抗して消滅させることが出来るが、俺の
は呪術師のスキル魔法なので呪いをかけた術師以外が力技で解除す
るには、掛けた術師以上のレベルが必要になってくるので解除でき
るのはゴッデスのみだ。
このバカ共にはトラウマになるぐらいの恐怖を植えつけないと永久
に繰り返すほどのバカなんだろう。
他人のプライバシーを覗く事がどれだけの恐怖を生むか味わっても
らうために20分ほど放置することにした。
6人は完全にパニックになって騒いでるところに救いの声をかけて
やる。
呪いの映像を一時停止させて俺は目をつぶり再び開いたときは瞳は
赤く光輝く﹃看破の魔眼﹄を発動させる。
6人には看破の魔眼を光らせた俺の瞳だけが見えるように演出した。
﹁ではこれから覗き共の裁判を始める。俺の看破の魔眼を誤魔化せ
1561
ることは不可能なので正直に答えるように・・・ではお前らの名前
から答えろ﹂
全員のありとあらゆる情報をしゃべらせてヘルプさんの中にいれて
ある鑑識魔法で吸い取ったデータと照合して確認。
嘘付いたヤツは他の全員が答え終わるまでエンドレス映像を見させ
る。
女3人はバカなヤツラで全員二度以上嘘をついてる。
俺は並列して存在する脳内で裁判を続けながら・・・立ち止まるこ
となく普通に動いている。
もちろん歩いて早乙女工房に帰って普段着に着替えてから転移魔法
でそのままお風呂に直行で帰宅した。
露天風呂で満天の星空を眺めながら風呂に浮かべた桶につまみの自
作のチャーシューをのせて日本酒飲んで風流を味わってる・・・明
日はいい天気になりそうだな。
1562
最高級個室を利用した蒸気機関高速列車の旅へようこそ・・・っ
す。
ガウンを着て寝室に戻ると少し酔ってる嫁達が俺に抱きついてきた。
﹁しんちゃーーん、最近しんちゃんとのイチャイチャが少ないよ!﹂
﹁そうです! しん様にはイチャイチャ時間を要求します!﹂
﹁イチャイチャ時間だって? なんだそれ﹂
﹁私達が今まで話し合ってて決まったのよ。しん君には嫁とイチャ
イチャする義務がある!﹂
﹁確かに最近イチャイチャできてなかったしなぁ。俺も嫁成分を補
給しますか﹂
抱きついてきている嫁達にチュッチュとキスの雨を降らせる。
俺の腰を後ろからギュッと抱きしめたミーが俺を抱えあげて、その
まま寝室の自分のソファーに座り俺の後頭部をくんかくんかしなが
ら囁くような声で呟く。
﹁ふんふん、あ∼∼、やっぱりこうやってたくさんイチャイチャで
きないと結婚した意味が無いよねぇ﹂
﹁それは言えるな。最近は夜のトラブルも多くて襲撃されたりいつ
もドタバタしてたもんな﹂
﹁今夜はしん様を私たちで独占しちゃうんですぅ﹂
後ろからミーに抱きしめられたまま座ってる俺の左側から、とろけ
た笑顔でクラリーナが首に抱きついて顔中にキスしてくる。
といっても、正確に言えば今も裁判して6人の人間を問い詰めてい
る最中なので完全独占ではないが・・・これは言う必要がない事だ
な。
1563
﹁じゃあ今日は私から先にいただきまーっす﹂
アイリがソファーに座る俺の両足の膝の間に入り込んで座り、俺の
ガウンの腰紐を緩めてすでに勃起しているチンコを両手で握り締め
る。
フル勃起しても半分しか剥けていないチンコをそのまま剥かずに亀
頭をハムっと咥える。
それでアイリが舌を余っている包皮の隙間に進入してきて極上の快
感を俺に伝えてくる。
ミーのふわふわのおっぱいがガウン越しとはいえ俺の背中に当たり、
クラリーナのディープキスですでに声も出せないほどになってるし、
ミーは抱きしめた両手で俺の体をガウンのはだけた隙間から侵入さ
せてまさぐっている。
アイリの口が亀頭から離れると今度はムキっと左手でチンコの皮を
剥いて、舌が俺のチンコをコーティングするかのように唾液を塗り
広げていってる。
﹁あああ、しん君イっちゃいそうなの? 金タマが上にあがってき
てビクビクしてきたわよ!﹂
﹁うー、うー﹂
﹁さぁ遠慮しないで私の口の中にいつでも出していいからね﹂
クラリーナに口を塞がれていたので返事は出来なかったが、アイリ
が左手でチンコの根元を持ち右手で金タマを両手で優しくマッサー
ジしながらチンコを根元までくわえ込んでズボッズボッとバキュー
ムフェラに移ると、我慢することも出来ずにビューーっと射精して
いた。
アイリは喉奥に叩きつけられる精液をむせもせずにゴキュゴキュと
1564
飲んでいる。
アイリの喉を鳴らす音で俺の射精を察知したミーと話をしてると、
ここでようやくディープキスを止めて顔を舐めまくるクラリーナも
話しに加わってくる。
﹁しんちゃん、気持ちよかった?﹂
﹁ああ、相変わらずみんなとのSEXは前戯だけでも最高に気持ち
イイから射精を我慢することができないよ﹂
﹁しん様のイってるときの顔が良いんです。この顔を見てると﹃結
婚してよかった﹄と実感します﹂
﹁クラリーナの言ってる事がわかるわね。今は後ろからだから見る
ことは出来ないけど、しんちゃんのイってる顔を見てるだけで子宮
の奥がキュンってする感じがたまらないの﹂
﹁ミーさんもですか? 私も同じです﹂
﹁それとこうやって、しんちゃんを後ろから抱きしめて後頭部の匂
いをくんかくんかするのも大好き。しんちゃんの匂いに包まれて幸
せの絶頂って感じだね﹂
﹁ああ、ミーさんそれも良くわかります。ですから今のミーさんの
体勢が羨ましいんですぅ﹂
﹁あああぁ・・・美味しかったわ、しん君、ごちそうさま﹂
射精が終わって尿道に残った精液までチューーっとすすって全部を
飲み終えたアイリがようやくここで口を離し立ち上がった。
﹁しん様の精液、私も味わいたいです﹂
﹁オッケー、じゃ次がクラリーナで次は私ね﹂
ミーはそういって俺をまた抱えたまま立ち上がリ、隣に立つクラリ
ーナの前に俺を立たせてミーは俺の後ろ側に屈む。
1565
﹁じゃあ、ミーは前ね。私はしんちゃんのお尻をいただくわ﹂
﹁オッケーです。では私もいただきます﹂
目の前にいたクラリーナも屈み俺のチンコに口付けしてからフェラ
チオをしだした。
ミーは後ろに屈んでいて俺の尻肉をつかんで左右に広げて俺のアナ
ルに吸い付いてきた。
俺は立ち尽くしたまま快感に身を震わせるように目を閉じると右側
に近づいてきたアイリに、ピチャピチャと耳を舐められながら抱き
つかれ小さな声で囁かれる。
﹁しん君、凄く気持ち良さそうね﹂
﹁ああ、アイリ。凄く気持ちがいいよ﹂
﹁ウフフ、私もミー・クラリーナと一緒でしん君の快感で溶けそう
な顔を見てるだけで気持ちが良いのよ。私もビチャビチャになっち
ゃったわ﹂
アイリにそう言われたので右手でアイリの股間をまさぐろうと目を
開けると、嫁達が3人ともすでに裸になっていた。
俺もアイリに手マンする前に、すでに腰紐も解かれて羽織っている
だけのガウンを床へと脱ぎ捨てた。
そのままアイリが抱きついてきたので右手でアイリの股間をまさぐ
ると確かにビチャビチャになってて、すでに床まで垂れてるような
大洪水だった。
俺は右手の中指と薬指を根元から曲げてアイリのヴァギナに進入さ
せるとグジュっという音まで聞こえてくるほどになってるな。
﹁あは∼ん、あっ、しん君の指が私の気持ちが良い所に当たってる
わ﹂
1566
﹁ああ、アイリが俺の1番気持ちの良い場所を知ってるように俺も
アイリの1番気持ちの良い場所を知ってるよ。ここをこうするのが
好きなんだよな?﹂
俺がアイリのヴァギナに進入させた2本の指をクチュクチュ動かす
とアイリの嬌声の声が大きくなる。
まだゆっくりとしか動かしてないがアイリの気持ちの良い部分はす
でに熟知してる俺は、逆にゆっくりの方がアイリは気持ちが良くて
高まってきてるのもわかってる。
﹁あああ、あん。しぃん君、気持ちっ良いわぁあ。あんあああぁあ
あ﹂
﹁ああ、ああアイリ、俺もクラリーナのフェラチオとミーのアナル
舐めで気持ち良過ぎでイきそうなんだ。アイリ、一緒にイこう﹂
﹁ああぁ、もうダメ、出る! しん君イクのっ!﹂
﹁俺もだ、クラリーナ、イクぞ!﹂
アイリを攻めながらクラリーナのバキュームフェラと金タマ揉み、
そしてミーのアナルの中まで進入してくるアナル舐めで俺はすでに
限界だったので手早くアイリの弱点をせめてイかせる。
そのまま俺もクラリーナの喉奥にチンコを突き込んで精液を噴出さ
せた。
ドMのクラリーナはそれだけで股間からプシュっと噴出させて軽く
イったようだった。 俺も遠慮なくクラリーナの喉の奥にビュービューと噴出させて、全
部出すと離れてちょうど後ろにあった自分にソファーに座る。
ほとんど連続で2回イったが一息ついただけで俺の性欲はこの程度
では終わらないし、カッチカチに勃起したチンコもそのままフル勃
起中。
1567
﹁相変わらずしんちゃんの凶器は元気ねぇ。そこも大好きなところ
なんだけど﹂
﹁次はミーの番だ。どうしたい?﹂
﹁私はもう我慢できないからSEXしたい。しんちゃんはそのまま
動かないで﹂
ミーはそういうと俺のソファーのリクライニングを倒して横になっ
た俺の上に馬乗りになって跨り自分からユックリと少しずつ挿入す
る。
﹁ああぁあ・・・これよ。このしんちゃんの極太をゆっくりゆっく
り挿入させるのが私は好きなの﹂
﹁ああ、知ってるよ。アイリの弱点を知ってるように俺はミーの弱
点も知ってるよ。クラリーナも弱点も知ってる。それで・・・ミー
はこれも好きなんだよな?﹂
挿入が終わって俺の上に腰を下ろした姿勢で前後に腰だけを少しず
つ動かしてるミー。
下半身はミーの自由に動かさせて、俺は上半身を起こしてミーの後
頭部を左手で掴んで強引にディープキスをする。
すでに目がトローンと溶けている笑顔のミーが可愛くて愛おしくて
たまらなくなる。
空いている右手の親指ををミーと俺の繋がっている隙間に潜り込ま
せてクリトリスを軽く優しく刺激し続けてあげる。
あまりの快感にミーは眉間に皺を寄せて俺とのディープキスから口
を離してイキそうになってることを伝えてくる。
﹁ぐぱぁ、あああ、イイ! しんちゃん、気持ぃちがぁイイの!!
そこはっダメ! 気持ちがぁああ、良過ぎるのぉおお!!﹂
1568
﹁我慢しなくていいよ。俺もミーのヴァギナの中が気持ち良過ぎて
イっちゃいそうなんだ、一緒にイこうよ!﹂
﹁いぐぅ、いっぢゃう! ダメなの、でちゃう!﹂
﹁俺も出すよ!﹂
ミーが俺の股間に上から盛大に潮を噴出させてイク。
俺もその潮を浴びながらミーの子宮の奥にまでブチ当てるように精
液を下から力強く噴出。
子宮の奥を直接叩きつける精液の噴出でミーは快感でガクガク震え
ながら俺に前のめりで倒れこんでくる。
ミーが失神したようだな。
俺もミーのヴァギナの入り口の膣圧が凄くギュンと締め付けたまま
なので快感で意識が飛びそうだ。
俺がギューーっとミーを抱きしめるとふわっと膣圧が弱まりミーが
ガクガクと震えるほど力の入っていた全身から力が抜けて、ミーの
眉間の皺も抜けて蕩けるようなカワイイ顔に戻る。
俺はミーを抱いたまま立ち上がり俺とミーの全身と俺のソファーや
汚れていた床も全部を3点セット魔法で浄化させるが、ミーの股間
の中は以前からのリクエスト通り洗浄もしなかった。
ヴァギナの外に溢れ出た分は潮も精液もキレイに浄化しているけど。
ミーを優しく抱えたままミー専用のソファーまで運んでリクライニ
ングを魔法で倒して横に寝させる。
グポッとチンコを引き抜くとミーのヴァギナから大量の精液が溢れ
出てきたのでまた外に出た分だけ3点セット魔法で浄化した。
アイテムボックスから新しいミーのサイズのガウンを取り出して魔
法で浮かせたミーに手早く着させるのも忘れない。
・・・と、乱痴気騒ぎになってしまった。
だけど終わりじゃないし終われない。
1569
次のアイリはアイリの大好きな駅弁スタイルで歩き回るとアイリも
潮を吹きながら失神してしまった。
最後のクラリーナはバックで獣のように、そして強引に俺の性欲を
全部叩きつけるかのようなSEXで、クラリーナが何度潮を吹いて
イっても止めずに、失神しておしっこを漏らすまで腰を動かし続け
た。
クラリーナとのSEXが終わりアイリとミーを見ると幸せそうにと
ろけた顔で熟睡しているようだった。
今SEXが終わったばかりのクラリーナも、失神したままたぶんそ
のまま寝てしまうだろう。
俺はクラリーナが何度も噴出した潮もおしっこも全部3点セット魔
法で浄化する。
汚れた床やソファー、それに脱ぎ散らかしたガウン4枚も全部3点
セット魔法で浄化してから、ガウンは俺のアイテムボックスに中に
入れた。
嫁の持っていた分だがどうせすでに龍布で100枚近く作って、嫁
全員に20枚以上渡してあるので俺のアイテムボックスに入れてい
ても何の問題もない。
嫁達との久しぶりの一戦を終えて全員にガウンを着させてお姫様抱
っこで一人ずつベッドまで運んで寝させた。
俺はガウンを着たまま、るびのの部屋に転移してワイバーン狩りか
ら戻ってきたフォクサと、るびのから報告を聞いて大量のワイバー
ンの素材を、るびのの腕輪経由で俺のアイテムボックスに送らせる。
るびのとフォクサの2人とおやすみの挨拶をして俺は寝室に戻り嫁
達の中に入って眠る。
裁判は俺の本体が寝た後でも続行中。
1570
コイツラの目的から何から全部自分の口で話させた。
全ての処分を終わったのは深夜2時を過ぎたところ。
裁判を終えて2度と俺に関わろうとはしないと誓わせてから、商人
と遠見魔法を使っていた2人の合計3人を解放してやったんだが・・
・実は完全に解放したわけではない。呪いを封印してあるだけ。
一時停止して見えないようになってるだけで呪いのタネは残ってる
感じだ。
俺が再び再生させるだけで元の悪夢に戻る。
今度やったら発狂しても精神が壊れても停めないと脅してあるし・・
・保険だな。
バカ商人は﹃ゲッペンスキー家﹄シーズの家の執事で、俺を監視し
た理由は簡単で単純なもので・・・俺のゴーレム馬車を見てカッコ
イイと思い欲しくなっただけだった。
面倒だったんだが・・・
﹃ユマキ商会でもうすぐ似たような形の物が販売されるからそっち
に問い合わせろ﹄
と、教えてやったら嬉しそうな顔をしながらバンザイ三唱してたん
で、本物のバカかもしれん・・・俺を監視するという方法はいただ
けないがこういうバカは嫌いじゃない。
2人の遠見魔法の使い手は今後は俺に関わる依頼は一切受けないと
固く誓ってる。
俺が見せた映像がよほど怖かったようだ。
遠見魔法の使い手なので細かいところまではっきり見えて・・・仲
間らしき盗賊が俺に殺害される時に飛び散る肉片や脳漿や鮮血、自
分が殺されるシーンのところも自分の顔面の中に入っていく俺の拳
までハッキリクッキリ見えるのだそうだ。
この3人の解放は1時間も掛からなかったが3人の女を説得するの
1571
は骨が折れた・・・ではなく無理だったので俺のほうの心が折れた・
・・説得を諦めて処分することにする。
呪いをかけなおして俺がゲルアー・シーズ・ユマキに絡まれている
シーンを初めから何度も繰り返えさせたのだがそれでも・・・
﹃ゲルアーが正しいという自分の考えは一切間違ってない。悪いの
は全部お前だ。全部お前に原因があるし、ゲルアーを土下座せたお
前を許すつもりは無い﹄
との考えをまったく改めない。
ゲルアー自身が自分が悪かったと俺に謝罪しているのに・・・俺に
はわからないが何らかの精神病を患っているレベルなので元の呪い
状態にもどして3人の女性の精神が完全に壊れるまでエンドレスで
流し続け、精神だけを完全にぶっ壊してやろうかと考えていたが・・
・コイツラの場合は効かなそうで諦めた。
俺にはこのバカ女3人を救う術は無い、シーズ家の愛人や側室なの
でなまじ美しく生まれた女性が権力と金を持ってるから始末に終え
ない。
コイツラは反省することなく今だけ謝って逃れてからまた同じこと
を永久に繰り返すだろうと判断した。
将来の不安の種を残したまま俺は解放する気は一切無い。
このバカ女3人はシーズの関係者としてスパイギルドにいつも仕事
を依頼して小さな犯罪・・・他の愛人の弱みを探して追い込んだり
脅迫したり・・・などを繰り返していたようだし、俺は敵に回り続
けるヤツラに女といえど情けを掛ける気も無い。
転送魔法でそのままウェルヅ中央山脈のワイバーンの巣が密集する
地域に3人の女性を飛ばしてやった。
パニックになって大騒ぎする女性たちを、子供のワイバーンがワラ
ワラとあちこちから出てきて匂いを嗅いで探し回って3人の女性を
発見。
ワイバーンの子供はバリバリと喰らい尽くしていって服の切れ端と
1572
ステータスカードだけが残された・・・このワイバーンの巣が密集
してる地域に足を踏み入れることはSSランクの青木勘十郎が国軍
を率いても不可能だ。
最後に俺は残った衣服の切れ端とステータスカードを光の魔法の聖
炎で焼き尽くして消滅させて完全犯罪完了。逆恨みを残させないた
めにも浄化もしておいた。
こうして廃棄処分が終わった後に完全に眠りに付くことにした。
明けて転生してから33日目の朝。
今日はドルガーブへの列車に乗って旅する日。
列車の出発時間が10時半で10時に早乙女邸をを出発すれば余裕
で間に合うので9時起きの予定だったのだが・・・6時半に来客で
俺だけユーロンド6号からの念輪で起こされた。
﹁ご主人様おやすみのところを申し訳ありません。﹃トリステック
ス・アルグライト﹄通称トリーとおっしゃる方がヨークル警備隊本
部長補佐﹃ヨルグ・モハンメッツ﹄様と一緒に参られているのです
が・・・﹂
﹁お! トリーか。そういえばそろそろザイモア商会の裁判も処刑
もすんで開放された時期だしな・・・わかった客間に通しておいて
くれ、俺は着替えてから降りていくのでそれまでの接客応対を頼む﹂
﹁﹁了解しました﹂﹂
嫁達を起こさないようにしてベッドから降りたのだが、俺の隣で寝
ていたミーが目を覚ました。
﹁あれ? 早いわね。しんちゃん、今日って9時起きって言ってな
1573
かったっけ?﹂
﹁ああ、変わってないよ。来客があって今から話をしに行くところ
だ﹂
﹁それだったら私たちも挨拶に行ったほうがいいかな?﹂
﹁今日のお客は以前話したザイモア商会との騒動のときに一緒に行
動していた二人だよ。なので強制はしないけど挨拶する必要もない
からミーはノンビリしてていいよ﹂
﹁わかった。昨日はそこまで夜更かししてないし、もう起きちゃっ
たから、私も起きるよ・・・って、クラリーナも起きちゃったみた
いね﹂
﹁ミーさん、しん様おはようございます。どうかなされましたか?﹂
﹁今はクロが接客中だから、今朝の朝食はマリアに任せるよ。マリ
ア!﹂
俺が呼ぶと庭でセバスチャンとともに畑作業をしていたマリアが転
送魔法で飛んできた。
﹁お呼びですかご主人様﹂
﹁俺とクロはこれから接客するからマリアはみんなの朝食の準備を
頼む﹂
﹁了解いたしました﹂
俺は洗面台に行って顔を洗い、ロンTとジーンズに着替えながら慌
ててる理由をクラリーナに説明して1Fの客室に降りていく。
アイリは全く起きる様子も無く熟睡してた。相変わらず朝は苦手な
ようだな。
俺が降りていくと土足じゃない早乙女邸の解放された脚を伸ばし、
足の指をグー・パーとして閉じたり開いたりしている2人がいたの
で横から挨拶する。
1574
﹁久しぶりですねヨルグさんとトリー。クロ、俺にはコーヒーを頼
む・・・ってトリーは、警備隊に就職したのか?﹂
あいさつ中に気付いたのだがトリーがヨルグと同じような警備隊の
支給されている制服の革鎧を着ていた。
﹁お久しぶりです、早乙女さん。今日はその報告に来たんですよ﹂
﹁おはよう早乙女さん、そして久しぶりですね。俺のヒマな時間に
ヨルグさんと雑談ばかりしてましてね。事件の騒ぎが終わる頃にス
カウトされたんですよ﹂
﹁まぁ、早乙女さんもご存知のようにトリーは元奴隷商人で警備隊
には全く無いパイプを持ってますし、隷属の魔法やらの知識も幅広
くて専門家並に深いです。なので今後どうするのか悩んでると相談
されたんで、その場でスカウトすることしました。教育を終えた後
は自分の直属の部下にする予定です﹂
それで色々と雑談してわかったのだが、今日からヨークルの南にあ
るビリザウム陸橋を渡って西に行くとある町﹃マイアートン﹄にあ
る﹃警備隊教育センター﹄で1年間の警備隊訓練を受けてくること
が決まったんだそうだ。
マイアートンはヨークルから荷馬車で1日掛かる距離にあり、今は
人口4000人ほどの町だが元々はウェルヅリステルのように、る
びのによって用水路以外は完全に消滅させられた巨大な砦があった
場所だ。
今は再建されて外壁を持つ町に変わってるが用水路を利用した水田
や畑などを広く持つ農業従事者のみが住んでいる。
それで大森林のど真ん中にあるマイアートンは幅が20m以上ある
周囲の用水路を堀としているので魔獣の襲撃は少ないが、空を飛ぶ
昆虫魔獣の襲撃は異常なまでに多い。
1575
昆虫魔獣は数が多い割には旨味となるような素材が無いので冒険者
に依頼を出しても誰も受けてくれないし、冒険者ギルドも無理な依
頼は受け付けることが出来ない。
困ったマイアートンは最高評議会に相談すると警備隊教育センター
を作って警備隊の練習で昆虫魔獣を狩る訓練をさせるようにした。
冒険者ギルドも金を出して同じ場所に冒険者養成スクールを併設さ
せたので、今では住民が倍に膨れ上がって4000人になったらし
い。
再教育を命じられた警備隊の人間も来るし、警備隊の幹部&教育者
養成スクールもあるのでシーパラ連合国中から警備隊隊員が集まっ
てくる場所でもあるんだそうだ。
用水路はシーパラ川の支流を利用して作られているのでヨークルや
マヅゲーラからの定期便の船もあり、船だと3時間ほどで行けるみ
たいで、商業ギルド倉庫街出張所の隣にある連絡船ターミナルはこ
こから近いので出発前に挨拶に来たようだ。
律儀に出発前の忙しい時間に俺に別れの挨拶にきたトリーに気を良
くして、俺はこの前のアゼット迷宮攻略で夫婦で集めたアイテムの
﹃ゴブリンリング+︵プラス︶﹄を2個とリザードドッグファイタ
ーのレアドロップアイテムの﹃バックラー﹄を2つを餞別として渡
してやった。
トリーのサイズに調整してからプレゼントで渡してあげたら凄く喜
んでくれたので渡した方も嬉しい。
2人は出発時間が近づいてきたので最後に立ち上がって挨拶と握手
をするとそのまま立ち去った。
3人で30分以上は雑談していたようだな。
俺はそのままダイニングに移動して朝食を食べることにする。
1576
朝食を食べ終わりリビングに移動した頃に着替えを済ませた嫁3人
がリビングにやってきた。
みんな揃ったのだが・・・まだ時間は朝の8時になったばかりで流
石に早い。
るびのに合いに行くと俺が言ったらみんな付いてきた。
それでみんなで玄関に行って初めて気付いたが・・・アイリもミー
もクラリーナも俺が作ってあげた服装で、地球によくある格好をし
てるのだが・・・靴は革製のローファーのみでカジュアルなものを
持ってないみたいだった。
それでどうせ時間も余ってるし、るびのもまだ寝てるだろうから俺
が全員分の靴を色違いも入れて10足ずつ作ってあげることにした。
パンプスやスニーカー、スポーツシューズなどを見本でいくつか作
り、デザインもみんなの好みを聞きながらつくる。
これからの時期用でサンダルも作ってあげた。
アイリ・ミー・クラリーナの嫁3人による靴のファッションショー
になっているが嫁が全員喜んでるようなのでこちらとしても作り甲
斐がある。
今日の旅は暑くなりそうだったので全員がサンダルを選んで履いて
行く事にしたみたいだ。
るびのに会いに行けたのは結局8時半をまわっていた。るびのは朝
食を終えて毛づくろいの真っ最中。
フォクサが隣りでお座りして待機してるので有能な秘書か部下とな
ってるな。
もともと3千年近く眷属をしていた部下だしな。
﹁あれ? とうちゃんとかあさん達どうしたの?﹂
﹁とうちゃん達は今日から都市ドルガーブに蒸気機関車に乗って1
泊旅行してくるけど・・・るびの達はどうする?﹂
﹁うーーん。乗り物の旅は行きたくないからオレは別行動にするよ﹂
1577
﹁るびの様、それでしたら私の故郷に一緒に行ってみないっすか﹂
﹁フォクサの故郷ってどこだっけ? この大陸の北の方だったよな
?﹂
﹁はい。早乙女さんのおっしゃるように大陸の北の岩場で間違いな
いっす﹂
フォクサが空中に魔法で地図を描いてくれる。
フォクサは白帝の眷属としてこの大陸の中を転移魔法で飛び回って
いたので物凄く詳しい地図を正確に描けるようだ・・・まぁ正確な
座標が指定できないと転移魔法では移動することは不可能だから、
当たり前って言えば当たり前なんだが。
﹁この周辺にワタシの子孫や同族たちが住んでるはずなんす﹂
﹁なるほどなぁ・・・るびのはどうする?﹂
﹁フォクサの子孫には会ってみたいから行ってみるよ﹂
﹁るびの様ありがたいっす。子孫達も喜ぶと思うっす。それにここ
周辺は、るびの様や早乙女さん達が大好きな露天風呂も多くて気持
ち良いっすよ?﹂
﹁それは俺も行きたくなってくるな。今度フォクサの故郷に連れて
ってくれ﹂
﹁それは問題ないっす﹂
﹁じゃあ、今度頼むよ。それに俺達も1泊してくるんだから、るび
のとフォクサも同じように泊まってノンビリしてきたらどうだ?﹂
﹁外の温泉かぁ・・・うん、いいね。とうちゃんの言うとおりオレ
もフォクサと一緒にフォクサの故郷でノンビリしてくるよ﹂
るびのの予定もこれで決定した。
俺はアイリ・ミー・クラリーナの3人を連れて早乙女工房に転移す
る。
るびのにマリアとセバスチャンをサポートとしてつけて、ついでに
1578
フォクサの故郷を調べてきてもらうことにした。
生物・植生・土・魚介系の生態など調べるものはたくさんあり過ぎ
るほどなのでどちらか1人では手が足りないかもしれないと思い2
人を連れて行ってもらう事にする。
時間はまだ少し早いが蒸気機関車に乗る前に北の食料品市場に行っ
て酒と、るびの達に食べさせて量が減った魚介系の補充をすること
に。
早乙女工房から4人でホップボードに乗ってゴーレム馬車が渋滞し
てる隙間を潜り抜けてシーパラ駅の隣に巨大な敷地を持つ北の食料
品市場に到着した。
時間は9時近くで1時間ほどしか時間は無いが以前行ったことのあ
る販売業者を中心に魚介系を買いあさり、るびの達が気に入ったと
して食いまくったエビ・貝類を中心にを大量に購入した。
購入したものは全て〆てもらってからすぐにアイテムボックスの中
に入れて運ばれてきてるので新鮮なままで保管されてる。
もしくは列車で生きたまま運ばれてきている物も数が多い。
それにしても並んでいる魚介系をみてると・・・季節感が無いな。
時期的にバラバラなはずのマグロ・秋刀魚・カツオの全部が美味そ
うなほど脂が乗ってる魚が並んでいる。
秋刀魚が発見出来たのはありがたいし、蟹なども並んでるので購入
する。
今日はマリア達がいないので4人でくっついて雑談しながら歩き回
ってる。
警戒網は広げて探査魔法で探ってるが俺達を商人たちが囲んでいる
状態での移動なので逆に安全だろう。
俺の目利きのグルメ情報を聞こうとして業者が20人以上付いて回
ってるしな。
1579
チョコレートはすでにブームが起こりかけてるようだ。
幾つもの業者が販売していて各業者ごとに創意工夫が感じられる。
パン屋と提携を結んだ業者がとりあえず一番のヒットなようだ、今
のところだけなんだけどな。
俺が今購入したフルーツを乱切りにして、チョコレートをナベで溶
かせてチョコレートフォンデュにして食べるのをフルーツ屋の大将
に実際に目の前で作りながら教えてあげると、俺が移動した後に業
者の列がフルーツ屋にできていた。
時間になったので酒の購入をサッと済ませてから駅に歩いて行った。
今日は珍しい酒が入荷されてなかったので試飲させてもらって気に
入ったワインを数種類ビンと樽で購入したらすぐに済んでしまった。
俺が食料品市場を出ると業者たちは散っていって、自分達の本来の
仕事に戻ったようだ。
シーパラ駅内に入っていっていよいよ蒸気機関車による旅のスター
トでワクワクしてくるな。
嫁達に食事のプレートと乗車券プレートをそれぞれ渡して改札を通
って駅構内に入っていく。
シーパラ連合国にある蒸気機関車は首都シーパラと湾岸都市ドルガ
ーブを結ぶ路線しか残っていないと思っていたが、昨日のパーティ
ー中にグレゴリオからドルガーブから3000kmほど離れた北の
最北の街﹃エクステンド﹄まで6日掛けて移動する蒸気機関の寝台
列車の線路があると教えてもらった。
途中に12の駅があって各駅は2時間停車して点検と整備をしてい
るらしい。
途中の村の数だけ駅がある・・・というか駅の数だけ村が増える。
こちらは余り人気がないようで線路幅が狭い関係で個室は日本にあ
るカプセルホテル並みの広さで、かなり狭く低価格の路線となって
るので、そんな旅が好きなマニアと若者には大人気らしい。
1580
他にはお金の余裕の無い冒険者や商人がよく利用しているそうだ。
この路線は高速鉄道ではなくて時速25km程度なので速度だけな
ら高速船の足元にも及ばないし、物資の輸送は大型輸送船がメイン
でもっぱら馬車の代わりの人員の低価格の移動手段でしかないそう
だ。
途中の村も農村ばかりでフルーツを数も種類も豊富に産出している
が輸送は船がメインなので観光よりも仕事で移動するのに使う人が
多い。
途中の駅で町が一つあるがその町が賑わってるのは近くにダンジョ
ンがあるからだ。
最果てのエクステンドはウェルヅ大陸北部の山岳地帯に近い場所に
あって、ここが栄えてるのは魔獣の被害がほとんど無いのに周囲を
鉱山が取り囲んでいる。
良質で豊富な種類の石材も多く産出する場所だとゾリオンに教えて
もらった。
こっちは乗る予定はなさそうだな・・・狭い個室に乗るぐらいなら
時速100km以上を軽く出すことの出来る魔力パワーボートで移
動した方が早いし、ゴーレムによって自動運転も出来るので楽だ。
それにしても駅構内に入ってから列車に乗り込むまでホームにも改
札があって並んでいるのだが目の前にある蒸気機関高速鉄道の車両
は巨大だ。
2階建てというのは知っているが高さは6mを超えてる。
幅も5mぐらいあって線路の幅も4m以上ある・・・知識や経験と
して俺の中にあるが、実際に目の前にしてみないと実感は無かった
からな。
何しろ魔法で作られた線路は一直線で高低差もほぼ無い状態な線路。
元々大草原の真ん中を走っている線路なので途中に山間部など無く
1581
少し小高い丘がある程度なんだが、それも全て削られて一直線に2
00km以上もの距離を平らに作られている。
上下線の2本の線路の間が10mほど離れているがその全てを結界
が覆っていて結界の中には虫すらも進入できないようになってる。
運転席があって操縦士もいるんだが、列車の操縦は半自動化されて
いて運転手は工程表に従い計算された時間に計器をチェックしてる
だけらしい。
蒸気機関のタンクの水を温めているのも火の魔石を使用して魔力で
沸かしているので、不要なガスも一切出ないし出るのは蒸気だけと
いう自然に超優しいECO列車だろう。
俺が予約してた最高級個室は1番広い最後尾で最後部の部分は専用
のテラスになってる。
この個室の最高収容人数は10名のところを4人で使う贅沢さだな。
従魔やゴーレムは個室の場合に限って自由に連れ込むことが出来る
と聞いてる・・・食事は付けられないけど。
最後尾の車両は俺が予約した最高級個室ともう一つの個室しかない。
車両の半分は最高級個室で隣の個室との間には複数のメイドが控え
ている控え室があって、ここから部屋まで軽食もドリンクも運んで
もらえる。
昼食は食堂車での食事になるがメイドが専用テーブルまで案内して
くれる・・・超VIPだな。
まぁ、金額が最高級個室を4人使用で総額200万Gを超してるん
だから当たり前だろう。
列車は後2車両は個室形態となっていてそれぞれ別口に階段があり
出入り口まで独立してる。
1582
俺達は最後尾の入り口で個室プレートを渡すと確認を終えた駅員か
ら人数分のルームキーを貰い、駅員の隣に立っていたメイドが部屋
まで案内してくれて部屋の説明を聞くことになる。
ここの個室にはトイレもあるし5人以上が座れる巨大なソファーセ
ットが部屋の中央にあるだけでなく、両側の壁には並んで外を見る
ためのベンチシートまである。
屋根までの高さも3m近くあるし天井は1/3は魔道石英ガラスと
なってて、天気が良過ぎる今日は青空しか見えない。
ブラインドの横についてるような紐が壁際の天井から下がっていて、
まわすとレースの天幕が張られて直射日光を防げるようになってる。
入り口を入ってすぐのトイレの反対側には洗面台があってその隣に
は簡易キッチンまで設置されている。
キッチンの横には伝声管があって隣のメイド室に繋がっているので
ドリンク・お酒・軽食の注文はここからできるようになってると、
説明の最後にメニューを渡された。
全部の説明を終えるとメイドは隣の控え室に下がっていった。
その時に﹃ポーーー﹄という蒸気の笛の音が鳴り響き列車は動き出
した。
説明時間まで測られているかのような時間設定だな。
いよいよ蒸気機関高速列車の旅が始まり駅のホームを列車は滑る様
に走り出す。
俺達が乗り込んだ場所と反対側は1階部分の荷物の搬出と入荷が行
われる場所、そして出発前の最終点検をする場所となっていたよう
で、今は荷物を運び終えた職員達が整備を終えた整備士達が走り出
した列車に向かって手を振っている・・・日本の飛行場で見かける
ような風景だった。
1583
俺達は最後尾のテラスに出て手を振る職員たちに手を振り返してる。
シーパラ駅構内を抜けて10両編成の列車は加速しながらレールの
継ぎ目もわからないほど滑らかに走る。
今日は暑くなりそうな天気だが今はまだギリギリで朝の爽やかな涼
しさを残してるので、気持ちのいい風に吹かれて髪の毛を振り乱し
ながら、首都シーパラを取り囲む外壁を抜けシーパラ駅が見えなく
なるまで周りの風景を楽しむ。
個室内に戻るとアイリからメニューを渡されて聞かれる。
﹁しん君、今日は朝から酒を飲むことにする?﹂
﹁昼食までは遠慮するよ。俺はホットミルクと軽食のクッキーを注
文してくれ。みんなはどう?﹂
﹁私も同じものにします。ミーさんとアイリさんはどうしますか?﹂
ミーが壁際の天井から下がっている紐を引っ掛けてある壁から外し
てまわして幾つかの天窓にレースの天幕を張って、紐は天幕が張り
終えた後に元の場所の壁に引っ掛ける。
アイリも俺にメニューを渡した後は違う紐をまわして、2人でソフ
ァーの上に当たる日光を遮ることにしたようだった。
戻ってきたミーとアイリが、立ち上がって伝声管のところに歩いて
いくクラリーナの背中に注文を告げる。
﹁私はもう飲むことにする。クラリーナ、私はビールをフライドポ
テトの注文をお願いね﹂
﹁私はこの特製ワインをお願いするわ。つまみはチーズの盛り合わ
せ﹂
﹁わかりました﹂
クラリーナが伝声管を通じて隣の部屋のメイド控え室に注文を出し
てから戻ってくる。
1584
﹁へー特製のワインか・・・ふむふむ、この列車でしか販売されて
いないんだな。アイリ、特製のチーズもあるけど頼まないのか?﹂
﹁このチーズの盛り合わせには全部入ってるらしいからね、先にこ
っちを注文して美味しかったら追加で注文することにしたわ﹂
﹁へーなるほど。アイリさん上手く考えたのですね。確かにそのほ
うが効率が良さそうですね﹂
﹁しんちゃんは何でホットミルクにしたの?﹂
﹁昨日のパーティーで﹃クリス・シーズ・アギスライト﹄さんが言
ってたんだよ。ここの列車には特別なミルクを卸してるんだって﹂
﹁私も聞きましたんで先に注文したかったんです﹂
そこで部屋がノックされてから注文した品を3人のメイドが運んで
来てみんなが座るソファーの中央のテーブルに並べられる。
ここの個室は渡されたルームキーを持つ乗客と腕輪をつけたメイド
しか通れないような厳重なつくりになってる。隣の車両にうつるの
もメイドがいないとできないので、考え方によっては俺達は外に出
られない半軟禁レベルだ。
みんなで雑談しながらドリンクや軽食を回して味わう。
特製チーズは想像以上に美味しくて早速追加注文してまた届けても
らう。
メイドに聞いたらこれは好評で列車内でお土産で販売もされている
ようなので食堂車の隣にある売店と駅のホームの売店で購入可能。
なので1kg1万Gと高級品になるがと説明されたので20kgほ
ど注文しておいた。
個室の特権で食後に運んできてくれるらしい。
列車の右手側には大自然の大草原が広がっていて、左手側には同じ
大草原でも魔獣のいない平和でのどかな風景だ。どちらにも牛や馬
1585
が草を食んでる。
どちら側も同じように丘があって草原が続いてる風景なんだが右手
側には大自然の弱肉強食な自然があって左手側は管理された酪農の
世界だ・・・どちらが幸せなんて人間には語る資格は無いが少し考
えさせられてしまうな。
クリスおすすめのミルクはマジで美味かった。
牛? 馬? 羊? ヤギ? どれとも微妙に違っていて微妙に混じ
ってるような不思議な味に驚いて、みんなで回し飲みして同じ注文
を俺とクラリーナはもう1度した。
メイドにも聞いたが特製ミルクって言葉以外の情報が無くて答えら
れないらしい。
俺は鑑識魔法で調べたのでわかったが、牛・馬・羊・ヤギの全部が
絶妙なバランスで配合されて魔法で融合されたのが特製ミルクみた
いだ。
これはまったくもって不思議な味としか表現のしようがない。
味覚も全部がバラバラのようで美味く引き立てあっているかのよう
に、全ての味が邪魔をしていないミルクが濃厚な味わいでバランス
よくまとまっている。
鑑識で調べたので配分も製造法もわかってしまったので、材料さえ
あれば同じものが作れるようになった。
ヘルプさんにレシピを記憶させておく。
そういう意味では特製ワインが1番無難にまとまってて・・・逆に
拍子抜けだった。
ここでしか飲めない味であってもクセを極力排除した万人受けする
ようなありきたりな味のワインだったので、かえってこれでは﹃こ
の味が好き﹄って人は少ないだろう。
クセがあったほうが強烈に好き嫌いが分かれて、この味が大好きな
1586
人ってのが強烈なファンになってリピーターとして購入していくん
だし。
注文した全部の品を味わった後はメイドを呼んでテーブルの上の皿
やコップなどを全て片付けさせてる間に、まだ昼食まで時間があっ
たので俺はもう1度外のテラスに出てみることにした。
髪の毛が舞うほどの強い風の中でも照りつける太陽の暑さで少し汗
ばんでくるほどだ。
列車の旅として丁度いい季節なのかもしれん。
天気の良さそうな日を考えて選んだ旅だが正解だったようだな。
せっかく﹃海に沈む夕陽﹄を見に行くのに悪天候の日に行っても仕
方がないしな。
シーパラに始めて来た時は天気の事を全く考えなかったので2日目
は最上階の展望の意味が無いほどの悪天候だったしな。
などと考えているうちに脳内に黒電話の﹃ジリリリリン﹄という音
が鳴ってアマテラスからの連絡が入る。
︻真一お兄ちゃん、やっほー︼
﹁おぅ、やっほーアマテラス﹂
︻何で教会に来てくれないの?︼
﹁まぁ、報酬を貰うだけだからな・・・後回しにした﹂
︻ブーブー。すぐに来てくれると思ったのに︼
﹁怒るな怒るな。それで今度はドルガーブの危機か?﹂
︻うん。真一お兄ちゃんは明日帰る予定だけど今日の深夜に行われ
る闇取引の現場に踏み込んで欲しいの︼
﹁なんだそりゃ、詳しく話せ﹂
俺は暑くなってきたので空調のきいた列車の個室に戻りソファーに
座って嫁達と雑談をしながら昼食までの時間を潰していながら、脳
1587
内ではアマテラスとの会話を続ける。
こういった違法な闇取引での商品は奴隷と従魔とクスリが主だが・・
・今夜のはクスリだ。
麻薬と毒薬らしい。
明日の早朝にアマテラスの神託を受けた聖騎士団が踏み込む予定な
のだが、野生の感で危険を察知したのかわからないが闇組織が他国
の冒険者崩れ3人を最近に雇って、その3人が昨日ドルガーブの街
に到着した。
転生者ほどの戦闘能力は無いらしいのだが・・・戦闘時には麻薬で
強化される20人の用心棒達と組み合わさると聖騎士団にも被害が
出る可能性どころか100人程度の規模しかないドルガーブの聖騎
士団では全滅する可能性まで出てきたので、俺にその前に叩き潰し
て欲しいんだそうだ。
﹁なるほどね。全滅させて良いの?﹂
︻うん。真一お兄ちゃんにお願いしたいのは今回は買い付けに来る
客も麻薬の販売業者で、売りに来る業者も麻薬の生産元の大物。主
催者側・買い付け業者・生産元の全員の親衛隊・用心棒まで含めた
総勢74名の全滅をお願いしたいの︼
﹁ほいよ。んでもって報酬は?﹂
︻釣りMAPってのはどうですか?︼
﹁なんだそれ﹂
︻このイーデスハリスの世界西方のウェルヅ大陸内と周辺外洋の釣
りに適した時期・季節・最適なエサなど網羅した脳内MAPをご提
供するの!︼
﹁なんかバカにされてるかと思うほど安く済ませれてるような気が
するけどな・・・まぁいいや。俺の脳内にある記憶や経験が麻薬業
者と聞いただけで恨みが膨れ上がってしまってるからな。上手く利
用されてしまってるが仕方が無い・・・踏み込む現場の場所など地
図も教えてくれ﹂
1588
︻ちょっと待っててね・・・ゴッデス様経由で真一お兄ちゃんの脳
内に送るから︼
俺の脳内に様々なデータが送られてくる。
ドルガーブの詳細な地図・ドルガーブの違法取引の場所と敷地・建
物の地図・今回の襲撃で退治する74名全員の顔画像を含む履歴書・
前回の報酬の釣り道具の設計図・今回の報酬予定だった釣りMAP
などが全部俺の脳内のヘルプさんのほうに直接流れ込んできた。
﹁お! 今回は前払いか?﹂
︻うん。そういうことでお願いします︼
﹁了解、またな﹂
アマテラスの会話を終えたときに丁度メイドが入ってきて昼食の準
備が出来たことを告げる。
1589
都市ドルガーブに到着したっす。
先に全員のトイレと手洗いを済ませてからメイドに案内されて個室
を全員で出る。
なぜか並びはアイリ・クラリーナ・俺・ミーといつものような護衛
とVIP夫婦みたいになってるな。
全員が俺が作ったラフな日本の服を着てるので今日はVIP感はほ
ぼ無いが。
隣の個室は車両の後ろ半分を俺が使用してるし、間にメイド控え室
&配膳室と右側に通路がある分狭くなってる。
メイドの後に続いて歩いて隣の車両に移動すると、こちらの車両は
個室が3つある。
こちらの個室は全部同じ広さみたいだな。
メイドの控え室&配膳室が車両の最後尾にあってここでドリンクや
軽食を作っているようだ。
シェフとドリンカーがいるのが見えた。
この車両を過ぎると個室利用者専用の食堂車がある・・・食堂車の
1/3はキッチンだがテーブルとテーブルの間は広くスペースをと
ってるのは移動しやすくてありがたいな。
ここは個室利用客専用の食堂だからテーブルは個室の数と同じ5台
しか置かれていない。
俺達が一番奥の広いテーブルまで案内されてテーブルに着くとメイ
ドが嫁達のイスを引いてくれる。
俺達が着席するとウェイターによって衝立が運ばれてきて他のテー
ブルと目線があわなくなって助かった。
さっきから念輪で嫁達から﹃テーブルマナーなんてわかんないよ!﹄
1590
とヘルプが入っていたからな。
実は俺達があまりにもラフな格好をしているので
決まり
として
衝立が置かれているとメイドさんにこっそりみんなは耳打ちされて
ホッとしていたようだった。
俺達が一番先に案内されてきたのもそういう理由だってさ。
どこにでも文句をつけてくる人間は上流下流を問わずに、どこにで
もいるみたいだな。
昼食のプレートを全員で渡すと料理が運ばれてくる。
それで魚介系のイタリア料理のようなフルコースが出てきたんだけ
ど、俺が念輪で簡単にレクチャーしながらの食事になった。
食後の3人の感想は﹃緊張し過ぎて味がよくわかんないよ﹄だった
のはちょっと笑ってしまった。
食後のコーヒーをゆったり飲んで移動すると気に衝立が外されると
他のテーブルも幾つか衝立があったので、結構みんなラフな格好で
乗ってるみたいだな。
せっかく高い金を払って乗る個室をユッタリ乗れないなんてバカみ
たいだし。
老夫婦が2人でキッチリした旅人の服で乗って食事してるのを見て
美しい風景の1部のような錯覚は覚えるが、そのこに自分が中に入
りたいとは思わないな。
衝立の向こうには小さな子連れの声もかすかに聞こえるが衝立自体
に消音効果があるみたいで、耳障りな雑音にはならないようだ。
﹁ここまで音が消えるなら普通に話しながら食事できたね﹂
ミーが小さな声でポツリと呟いたが全員一致の意見だな・・・みん
なで頷いてるし。
隣の売店に連れて行ってもらってついでに土産を探した。
土産といっても誰かに渡すためでなく俺は自分の分しか買わないと
1591
考えていたけど・・・嫁達はカタリナとドミニアンの両親の分を購
入しているみたいだ。
う∼∼ん・・・俺も誰かに買うか?
おやっさん達は旅行の土産よりもダンジョンのお土産の方が喜んで
くれると思うけど・・・
俺はチーズを自分のステータスカードの個人資産で購入して渡され
た20kgのチーズをアイテムボックスに片付ける。
嫁達は冒険者ギルドカードのチーム資産でチーズ&クッキーの詰め
合わせなどを購入していた。
この列車は先頭に蒸気機関の動力車両がありその次の車両から順番
に1・2・4・5号車は一般乗客の車両となってて全席指定席で各
車両にはトイレと洗面台が付いている。
真ん中の3号車はキッチンと一般車両利用客用の食堂車。
6号車は売店になっていて・・・ここまでは一般車両利用者が入っ
てこられる部分になってる。
7号車はキッチンと個室利用客専用の食堂で8・9号車は個室で最
後尾が9号車。
俺達の買い物の会計が終わり帰ろうとしたときに酔っ払いの2人組
のオッサンが絡んできた。
﹁おぅ坊主、美女3人も連れてメイド付きの個室なんて良い身分だ
な。何の苦労もなさそうなお坊ちゃんのクセに!﹂
﹁さぁ、みんな戻ろう。馬鹿が寄って来てしまった・・・酔ってき
たから馬鹿なのかな?﹂
﹁ガキが!﹂
オッサンが俺の襟首と掴もうとした瞬間にメイドがオッサンお手を
立ち関節技で捻ってネジリ上げる。
1592
隣のオッサンも同様に売店の店員にネジリ上げられてた。
﹁お客様は飲みすぎで酔われてるようですね。酔い覚め室へどうぞ
連れて行ってください﹂
メイドの最後通告で売店の店員に連行されていく。
一般乗客の食堂では有料で飲酒できるのでヒマを持て余した乗客に
よるトラブルが多いらしく、売店の店員はなぜか10人もいる。
俺たちはまたメイドさんの先導で個室に戻っていく。
聞きなれない単語があったんで先導してくれてるメイドさんに聞い
てみる。
﹁酔い覚め室ってなんですか?﹂
﹁聞き覚えの良い単語ですがベッドのみの独房ですよ。シングルベ
ッドの広さで高さは1mほどしかありません。それでドルガーブに
到着次第警備隊に引き渡され連行されていきます﹂
﹁へー、凄いね。でもあんなオジサンって多いんだよねぇ・・・酒
に飲まれるタイプの人。冒険者にも多くいて普段は良い人ってのが
余計にたちが悪いんだよね﹂
﹁ミーの言いたい事がわかる・・・俺も故郷にいっぱいいたな﹂
﹁私はマヅゲーラの町であんなベロベロに酔っ払ってる人をたくさ
ん見たわね。船員よりも商人が多かったような気がするわ﹂
﹁私はヨークルをほとんど出たことがなかったので余り見たことは
無かったですけど、お祭りの時に数多く見ました﹂
個室に到着してメイドさんに直接注文をする。
俺とミーはビール、クラリーナは日本酒のお冷、アイリはワインで
今度は白ワインに変更したようだ。
つまみはチーズの盛り合わせと刺身の盛り合わせとフライドポテト
というバラバラなモノとお漬物の盛り合わせもあったので一緒に注
1593
文した。
どうせ到着まで後1時間ぐらいしかないし、雑談して過ごす。
﹁さっきクラリーナがお祭りって言ってたけど、ヨークルって何か
特別なお祭りってあるの?﹂
﹁ありますよ。ヨークルで1番有名なお祭りっていえば今月の末5
月30日に行われる﹃豊陽祭﹄ですね。太陽神アマテラス様に太陽
の恵みをお願いする祭りで、水田の田植えが全部終わり一息ついた
頃の5月30日に行われます。それと反対に稲刈りが終わって一息
ついた後の10月30日に行われる祭りは﹃豊潤祭﹄となってます
ね﹂
﹁でもこれは周囲に水田の多いヨークル周辺だけの祭りなんで規模
はそこそこぐらいですね。新年のお祭りは世界中で行われていて・・
・凄いですよ?﹂
﹁10年前までは太陽神様に名前なんて無かったのですが、主神ゴ
ッデス様が降臨されて世界を支配していた神を消滅させて地上に残
っていた天使の軍団を亜空間へ封印し、地上で蔓延っていた悪魔を
ゼロがつ
をアマテラス様が成敗されて封印し、6日間で地上に平和が訪れま
した﹂
﹁それで主神ゴッデス様のご神託で神が戦った6日間を﹃零月﹄と
制定されました。この6日間は4年に1度とされてバカ騒ぎになる
6日間でもあります。間の3年間は5日間とされて故郷に帰ったり
して家族でノンビリ過ごすことが多いですね﹂
クラリーナが色々と分かり易く説明してくれるのでありがたい。
4人の神によって作られた従属神・天使・悪魔はゴッデスとアマテ
ラスによって封印されたみたいだな。
従属神はもちろん、天使も悪魔も両方が共に正義なんて無い。
1594
天使は4人の神のワガママの代行者であって悪魔も同じ目的で作ら
れているんだけど、自分達の欲望に忠実に活動する。
人類や生物にとって天使は神の命令を忠実にこなすだけの代行者な
ので慈悲の心なんて始めっから存在してないので、悪魔の方が会話
して時には取引が可能な分マシなレベルだろう。
どちらにしても害しか及ぼさないのでゴッデスとアマテラスによっ
て次元空間に封印されてる。
その次元封印を一時的に解除して呼び出すことの出来る魔法使いが
﹃召喚師﹄だ。
召喚師は天使・悪魔・精霊などを呼び出せるが上位クラスは上級召
喚師のスキルが必要になる。
上級召喚師のマスターになると﹃従属神﹄すら呼び出す事ができる
ようになるが・・・これは賢者になった俺しかいない。
フォクサも賢者なんだけど今では自分自身が従属神という存在に転
生してしまってる。
話が逸れてしまったんだけど・・・
アイリとミーも雑談で言っていたが、シーパラには商人の祭りがあ
るしドルガーブには漁業の祭りがあるみたいだ。
マヅゲーラの任侠ギルドのトーナメントっていうのも祭りの一種だ
ろう。
その場所と地域によっても祭りの特性が出て色んな種類があってあ
れこれ違うみたいだな・・・その辺は地球に似てる。
アマテラスに頼まれたことは雑談中に説明しておいた・・・今夜は
取引が行われる前に出かけないといけないからな・・・前もって説
明しておかないと。
74人の犯罪者を誰一人逃がすつもりもない。
それで俺が貰った報酬を教えるとあまりの安さに絶句してるようだ
った。
1595
74名もの犯罪者を皆殺しにして釣りのMAPだけって・・・と思
考が止まってしまったみたいだな。
アマテラス、見てるだろ? これが世間一般の考えなんだよ。
雑談をしてると列車に減速がかかり速度がゆっくりとおちていく。
ドルガーブにそろそろ到着するみたいだ、空調で入ってくる風に少
しだけだが海の匂いが混じってる。
そのままドルガーブの駅に到着して下車するのかと思ったが、ドル
ガーブの外壁よりもかなり手前で90度左に曲がりきって停車。
そのままバックでドルガーブ駅に入っていったところを先頭になっ
たテラスで見ていた。
スピードが落ちた後にメイドさんが個室に入ってきて教えてくれた
のだ。
テラスから見てると先頭で駅構内に入っていくことになるから、こ
れはこの最高級個室でしか味わえない特権になってるようだ。
駅の建物はシーパラの倍以上の広さがある。
建物の右側にある北へと伸びる蒸気機関寝台列車のホームが奥にあ
って繋がっているからだろう。
線路のレール幅も向かう方向も全く違うのでホームは離れている分、
駅の建物は大きい。
俺はメイドさんにルームキーカードを返しながらお礼の言葉を掛け
てから外のホームに下りる。
嫁達は続いて歩いてくる。
そのまま駅のホームを出る時に今度は乗車権プレートを返却して今
日の列車の旅は終了。
それで明日の帰りの列車のチケットを購入することにした。
1596
チケット売り場へと歩いていくと同じように明日のチケットを先に
購入する人が並んでくるが、こういう時は最後尾で出口に1番近い
俺達が有利だろう。
列の始めに並ぶことが出来たので、明日の午後便の最高級個室のチ
ケットを購入することが出来た。
今日は午前便の魚介系ランチにしたので明日の午後便の夕食は肉系
変えてみた。
明日の夕方4時に出発する便なので、ドルガーブにはそれまでの滞
在時間となる。
200万Gの料金を魔水晶に俺のステータスカードの個人資産から
払って、また昨日と同じように乗車券プレート4枚と食事プレート
4枚と個室利用プレート1枚を貰ってチケット売り場を後にする。
駅の外に出て周囲を見渡すが・・・シーパラともヨークルとも違う
独特な雰囲気をドルガーブはかもし出している。
ヨークルには一切無くて、シーパラには薄くだけあった海の潮の香
りというか・・・海の匂いがシーパラとは比べ物にならないほど強
い。
それにシーパラと違って10階建てを超えるような高層建築物は数
えるほどしかない。
その数少ない高層建築物の一つが俺達が今から向かう﹃グラナドホ
テル本店﹄だ。
4人で歩いていくが10分近くかかった。
駅の隣のビルなんだけど駅には食料品市場が隣接されていて、駅の
敷地がメチャクチャ広いからだ。
グラナドホテル本店に入って行くと、さすがにラフ過ぎる格好なの
で警備員のマークがつく。
俺がフロントに真っ直ぐ向かっているのに遠巻きにマークしてるの
がわかるだけで少しムカつくが、俺はこのドルガーブでは無名の1
1597
5歳の冒険者でしかないからな。
フロントの従業員は流石にそんなことはおくびも出さずに接客して
くる。
警備員がチームで少し近づいてきたので俺の後ろにクラリーナが立
ち、左右はアイリとミーが立って少し警戒している。
気配察知と魔力察知のスキルを取得した3人の嫁は近づく警備員に
気付いたようだ・・・いい傾向だ。
﹁いらっしゃいませ、今日はどのようなご用件でございましょうか
?﹂
﹁今夜の宿を頼みたい。これが身分証明だ﹂
俺が銀色に輝くAクラスの冒険者ギルドカードをある程度の距離ま
で近づいていた警備員からも見えるようにアイテムボックスから取
り出して提示すると流石に一目で気付いた警備員達は離れていった。
俺の行動のわざとらしさを察知した従業員が謝罪する。
﹁申し訳ございません。ここ最近はこのドルガーブの都市も物騒に
なっていたものですから﹂
﹁俺の高級ホテルに似つかわしくないラフな格好という・・・まぁ、
そういうことにしておきましょうか。それで今夜の取りたい部屋は
最上階で夕陽がきれいに見える場所﹂
﹁それでしたら最上階の特別スイートルーム﹃鳳凰﹄なら満足なさ
れると思われますが﹂
﹁じゃあ、そこでいいよ。4名利用で頼む。それに明日の午後便の
列車のチケットを購入したので、明日の16時までノンビリできる
ようにして欲しいんだが﹂
﹁それですと明日の夕方4時まで使用可能な﹃プランB﹄というコ
ースプランがございまして・・・こちらで部屋をお取りしてもよろ
しいでしょうか?﹂
1598
プランBだと明日の昼食までセットで付くタイプだったのでこれに
決定する。
俺が全員の料金を纏めて冒険者ギルドカードで支払う。
料金は4人で1泊3食︵今日の夜と明日の朝食と昼食となってるが
時間設定が自由︶付きで総額180万Gとなった。
15階建ての最上階は2フロアしかないうちの1つというのはシー
パラの﹃クラッシック・グリフォンズホテル﹄と同じだな。
みんなを引き連れて部屋までいける転送部屋に入ってルームカード
を全員で中央の魔水晶にかざすと部屋の玄関まで転送魔法陣によっ
てひとっ飛びだ。
部屋の中に入っていって周囲を見渡すが数えるほどの柱と隣の部屋
との境目の壁以外は全部が魔道石英ガラス張りでまさしく絶景だな。
俺がとった鳳凰という部屋は北側の部屋で朝日も夕陽も北へと続く
海岸線も全てが一望できるみたいだ。
南側の部屋﹃朱雀﹄は冬は暖かくて北側の﹃鳳凰﹄よりも人気が高
いのだが、この時期の天気のいい日から晩春・夏・初秋のシーズン
は北側の方が人気が高い。
それに南側にはこのホテルよりも大きな高層ビルが数箇所あるので、
海に沈む夕陽や朝日は障害も無く見られるが周囲を一望できるって
訳じゃないらしい。
周囲を見渡して俺は全員にドリンクを渡しながら雑談。
このホテルはテラスは無いみたいだな。
ドルガーブの知識をアマテラスから貰ったのでみんなに雑談がてら
に話す。
この都市ドルガーブの人口は40万人近くいて、俺の元々持ってい
た住民の数の知識に比べて倍近くに増えてる。
1599
都市ヨークルの3倍近い住民が住んでいるが同じ物資の集積場とし
て、ヨークルは農産物の集積場なので農業関係者は都市の外に新た
なる水田や畑を求めて分散しそれに伴う商店や業者の商売人達は拡
散する傾向にあるのに対して、ドルガーブは外国との玄関口であり
海産物の集積場があるので、モノと一緒に人が集まってくる場所と
なってる。
住民は日々増えていってて面積も増えていってるのは・・・ここは
元々小さな漁港があっただけのとても小さな村だったが、1000
年ほど前にシーパラと北の最果ての街﹃エクステンド﹄への近道と
して駅が作られシーパラと蒸気機関高速鉄道によって結ばれた後か
らだ。
その頃はまだゴーレム帆船は無くて魔法による帆船を使用していた
ので海外からの輸入が北周り航路の場合、シーパラに直接運ぶより
も5日は短縮できるようになったらしい。
ドルガーブの敷地の半分は湾岸従事者の住居となっていて南北へ幅
広くドンドンと伸びていってる。
ドルガーブを覆っていた外壁は外敵となる魔獣がほとんどいないの
で、10年前から毎日のように切り崩され、そのまま住居用の資材
に替えられていっているので日進月歩の速度で都市が発展して広が
っていってるる。
最北の都市エクステンドからの石材・鉄・鉱石も豊富に運ばれてい
るし、シーパラ連合国で産出しない鉱石などは、ドルガーブに集積
されて列車でシーパラに渡ってからシーパラ連合国内に渡るため材
料費が安く仕上がる。
それで安価で大きな新築の家が持てると住民が増えて新築ラッシュ
がスタート。
多くの職人や商人の住民がさらに増えていってる。
国家間の大きな戦争がゴッデスたちの天罰で終了した10年前から
活気を帯び、外壁の切り崩し作業がドルガーブ議会で採決されてか
1600
ら続く新築建設バブルは・・・まだしばらくは続きそうだな。
漁港もその中に入っており遠洋・近海などそれぞれの特色が出てい
て、新たな漁の方法が開発されるたびに新たな食材がブームを起こ
すたびに、漁港は増えていってるとアマテラスから貰った資料にあ
る。
シーパラ連合国から外国に輸出する農産物は種類も量も物凄く多く
てシーパラに集められた農産物は荷造りされて封印。
南回り航路はそのままシーパラから輸出されるがシーパラは都市防
衛上、これ以上広げることは不可能だったので、北回り航路の全て
の施設や商人達の個別の倉庫が蒸気機関高速鉄道がつながれた後に
シーパラから移設されている。
それをきっかけにドルガーブが発展したのだろう。
北回り航路の輸出商品は列車でドルガーブへ輸送されてから外国へ
輸出されてる。
さらに外洋型の超大型ゴーレム蒸気帆船が外洋輸送の主流となった
現在は、輸送船が出入り可能な湾岸施設がシーパラには無くてシー
パラ連合国内にはこのドルガーブにしか作れなかったので﹃外国と
の玄関口﹄として大きく発展する要素となっている。
ドルガーブ駅から小型蒸気機関のトロッコ列車のレールがあって物
資を港まで運んで走っていたのは上から見えた。
シーパラの港と駅の物資搬送は太い用水路によってゴーレム小型船
で往復してる。
対照的な都市だな。
シーパラの用水路は北の町のブランディックスまで続いているんだ
が幅が狭くて、いかな小型ゴーレム船でも物資の輸送としては使え
ないらしい。
そんなことを雑談で話しながら時刻はまだ15時半、中途半端な時
1601
間となったな。
夕陽が見えるのは18時以降で今日の日の入り予定時刻は18時4
8分となっている・・・3時間以上もあるぞ?
﹁今日の日の入りの予定時刻は18時48分だから・・・18時1
5分ぐらいから30分ほど海に沈む夕陽を楽しめるとしても、それ
までみんなどうしたい? 観光にでも回ってくる?﹂
﹁どこかにいい場所はありますか?﹂
﹁それがさぁアイリ、ここは歓楽街もあるけど船員と湾岸従事者の
飲み屋と風俗ばかりで、観光になりそうな場所ってないんだよなぁ・
・・﹃超大型ゴーレム蒸気帆船﹄を見に行くぐらいかな・・・﹂
﹁しん様、私は見てみたいのですけど・・・大きな船なんて間近で
見た経験がないですし。シーパラに泊まっていた船の大きさに感動
してしまいました﹂
﹁中まで入れるかわからないけど・・・あっ! 船舶博物館っての
があって実際に外洋航路で使用されていた帆船の中に入れるんだっ
て﹂
それで行くことが決定した。
俺も帆船の中になんて入ったこと無いしな・・・俺は飲んでいたコ
ーヒーを飲み干してから3点セット魔法で浄化してマグカップをア
イテムボックスに入れる。
嫁3人はそのまま飲みかけのままでアイテムボックスに入れたよう
だった。
全員で転送部屋に行って外に出る。
グラナドホテル本店の外にある広いゴーレム馬車駐車場でホップボ
ードを取り出し、みんなで移動することにした。
目を見開いて俺達夫婦の移動するところを見てる人間が何人かいた。
ホテルから船舶博物館までは距離は2kmもない。
1602
時速10kmしか出せないホップボードでも10分で到着した。
入り口で入場料を4人分払おうとしたら、グラナドホテルのルーム
キープレート提示で無料になっていると看板に書かれているのをミ
ーが発見して、そのまま入り口で全員でルームキーを提示して無料
で入っていった。
港の中の周囲を埋め立てられた水槽のような部分で大きな帆船が係
留されていて浮かべられている。
帆船の中に様々な展示物や模型が飾られていて、船の歴史が子供で
も分かり易く説明されている。
女性には退屈かもしれないなと思ったが精巧に作られた大型模型や
ジオラマに興味津々なようで、見たことも聞いたこともない初めて
触れる知識を楽しんでるようだった。
俺も面白かったので色々とじっくりと見て周り帆船のマストの上の
展望台に登った時は感動までしてしまったな。
これは10分貸切制で別料金だったが、ここもグラナドホテル本店
宿泊客は無料だった。
空いていたし5人まで登れるようなので20分ほど貸切って上から
の展望を楽しむ。
アイリもクラリーナもミーも俺に抱き付いてきて、注意の目線が無
い状況でみんなでイチャイチャしてた20分だった。
外洋の超大型ゴーレム蒸気帆船は展望台から見ただけだが全長80
m以上はあるスクーナー型の2本マストの帆船だった。
博物館の中の展示で知ったのだが3軸の大型スクリューを持ってい
てゴーレム動力と帆船の能力と蒸気機関の複合ハイブリット型とな
っていた。
無風の時で低速走行の時はゴーレム動力で直接シャフトを回して、
高速走行の時は蒸気タービンでプロペラシャフトを回してる。
1603
帆走するときにプロペラを回してゴーレム動力機関に逆に動力を伝
えると、魔力タンクとなってる魔結晶に魔力が蓄えられるという方
式が採用されている。
まぁ、この魔力補充の技術は確実に転生者だろうな・・・でもこの
技術が確立したおかげで水車を利用した魔石&魔結晶の魔力補充施
設が出来て、この魔法後進国のシーパラ連合国でも魔石や魔結晶を
使ったゴーレム機関が発展したんだとジュンローに教えてもらった。
・・・物凄いECO社会だ。
このウェルヅ大陸の空気が美味しいのもガソリンなどの﹃燃料﹄が
一切使用されていないからだろう。
船舶博物館を堪能し終えた頃は18時15分になってて、太陽は海
のまだ上にある。
地球の場合は水平線から太陽が沈みきるまでは2分ぐらいだったが、
イーデスハリスの世界でも似たようなものだろう。
そのまま寄り道しないでグラナドホテル本店の部屋に戻る。
肉眼では眩しくて見え難かった太陽もここまで傾けば赤く染まって
見やすくなってるな。
海側に設置されたソファーに夫婦4人で腰を下ろして、ロマンティ
ックで幻想的な風景に言葉も無くただ見とれてしまう。
俺は景色を眺めながらアイテムボックスからワインを取り出して静
かに飲む。
嫁達も自分の好きな酒を取り出して飲み始める。
俺はスモークサーモンのスライスをつまみにしてゆっくりと味わっ
てワインを傾ける。
別におしゃべりしても風景が壊れることは無いのだが、海の水平線
のかなたに沈みゆく太陽の邪魔をしないように言葉を出さずに見と
れていた。
1604
太陽が沈み終わったのでオレンジ色に海が輝く薄暮の中を伝声管を
使って晩ご飯の注文をした。
最上階のすぐ下の階に展望レストランがあって個室でもこの風景を
楽しむことが出来るらしいが、スイートルームは部屋で食事ができ
るので運んできてもらう。
5名の従業員のカートワゴンによって運ばれてきた今夜の晩ご飯は
純和食のフルコースって感じだな。
天ぷら・刺身・肉など様々な料理が出されるがメイン料理はしゃぶ
しゃぶだった。
お酒は純米の大吟醸だった。
日本の旅館方式で全部並べてから食後は教えてください後で取りに
来ますと説明を受けた。
酒などの追加はまた連絡をくださいとメニューを渡されて、ダイニ
ングテーブルに全部の料理が並び従業員は去っていく。
早速並べられた料理を味わうことにする。
どれもこれも全部美味しいし今日の昼食の列車内での食事と違って、
ここでマナーも周りの空気も気にしなくてもいいので嫁達は味わっ
て食べられたようだった。
しゃぶしゃぶのゴマダレは絶品だし天ぷらもサクサクだがぬか漬け
が異常なまでに美味しかったのはビックリだった。
口休めで食べたはずなのにすぐに食べ終えてしまって伝声管を使っ
て全員分を追加で頼んだ。
運んできてくれた従業員は手馴れたもので大盛りにして運んできて
くれた。
﹁このぬか漬けのってムチャクチャ美味しいんだけどどうして?﹂
﹁こちらのぬか漬けはこのグラナドホテルの創業者グラナド夫妻が
精霊魔法の秘術を使って作られてる漬物です。名も知らない転生者
1605
によってイーデスハリスの世界にもたらされた知識と、精霊魔術の
融合がこの漬物の美味しさに入ってるとグラナド夫妻は常日頃おっ
しゃっています﹂
﹁へーなるほどねぇ。ここまで味がしみこむにはちょっと時間がか
かりそうだけど﹂
﹁いえ、一瞬です・・・驚かれるのも無理は無いのですが、そこに
精霊魔法の秘術が入ってるとしかお答えできないのです。ですので
同じ味が再現できないために糠は販売されてませんが、漬物は大量
に生産されてましてこのホテルの1階売店にお求めやすい金額で販
売されています﹂
﹁そういえばホテルのフロントから見えた大きな売店があったな・・
・売店の営業時間って何時までですか?﹂
﹁24時間営業されています。ホテルの正面玄関側とは別の出入り
口からも出入り出来ますので外からのお客様も参られる大きな売店
です。宿泊客の皆様はお会計の時にルームキープレートをご提示さ
れますと全品10%オフとなるサービスも実施中です﹂
日本のスーパーみたいだな・・・船舶博物館といい上手く提携契約
して商売しているのか、はたまた同じグループ企業なのか・・・ど
っちでも良いな。
漬物も買いたいし後で行ってみることにする。
従業員か部屋を出た後に食事を続けてるとアイリに聞かれた。
﹁しん君、転生者によってもたらされた知識と精霊魔術の秘術って
何かわかる?﹂
﹁俺にもわからない。俺の中にある転生者の記憶や知識の中にはそ
ういうものは無いな﹂
﹁しんちゃんの知らないこともあるんだね﹂
﹁俺は自分で勉強したりして得た知識じゃなくて全部貰った知識だ
からな。さっきの船舶博物館のような知識なんて知らなかったし、
1606
世の中に知らないことなんて山ほどあるさ﹂
﹁でも、あのハウスボートってしん様が作られたのではないのです
か?﹂
﹁知識と経験がある物は作り出すことが出来る。でも俺の知識の元
は転生者が持っていた知識と経験して得た知識しかないから・・・
転生者が亡くなった後に進化した物は作り出すことは出来ないよ・・
・﹂
ここで簡単にみんなに説明した。
ハウスボートや帆船は知識があるから造ることが出来るが、後世に
なって技術が発達した﹃ゴーレム蒸気帆船﹄は不可能。
逆に料理スキルやゴーレム製造スキルは歴史の影に消えてしまった
技術なので現代のイーデスハリスにはほぼ消えかかった技術となっ
てるが、俺の中には最盛期の知識と経験があるので作れる。
建築スキルも一緒だ・・・俺は材料さえあればシーパラ首都の商業
ギルドのツインタワービルをすぐに作ることが出来る。
砦も建築スキル魔法を使えばすぐに作れるし、列車も線路も結界付
きで製造可能。
﹁まぁ、賢者とは言っても知らないことはたくさんあるさ。クラリ
ーナが説明してくれた祭りの話も、俺は全く知らなかったよ﹂
1607
エルフの超絶美人が笑顔で怒るとすっげぇ怖いっす・・・おや、
誰か来たようだ。︵前書き︶
12・5修正しました。
1608
エルフの超絶美人が笑顔で怒るとすっげぇ怖いっす・・・おや、
誰か来たようだ。
食事の後の一服した時間も済んで・・・することがなくなったので
1階の売店に全員でで掛けることにした。
部屋を出たところにある転送室から1階のフロント横の転送室に移
動する。
ロビーを横切って売店に入ると・・・売店は想像以上にデカかった。
売店の半分は食料品市場のように小さな露天が軒を連ねているよう
な感じだった・・・がしかし、半分は酒屋だった。
大きな樽からアンプルサイズの小瓶のお酒まで壁際には様々な酒の
ビンが所狭しと並んでいる。
目当ての漬物屋はエルフの美しい女性が販売してるのだが・・・ま
さか﹃ナディア・グラナド﹄の母方の祖母にして、極ウマのぬか漬
けの製造者で、グラナド商会の創始者の2組の夫婦のうちの1人が
こんな時間にこんなホテルの売店にいるとは思っても見なかったん
でビックリした。
ナディアの父方の祖父はグラナド商会の代表者で祖母はグラナドホ
テル本店の支配人を担当している。
母方の祖父はグラナドホテル本店の総料理長で祖母が従業員の教育
係をしているとナディアに聞いていた。
4人はナディアの両親が結婚したことで知り合ったのだが、それぞ
れがまったく違った性格をしているために惹かれあって仲良くなっ
た。
それで話し合って新世界を求めて中央大陸のエルフの村を飛び出し
て世界を巡り、このドルガーブの豊富な食材を気に入り、ここで4
人で旅館を開いたのだった。
1609
4人で力を合わせてグラナドホテルの礎を築いたという雑談でのナ
ディアの話を聞いてはいたが、それなのにここで漬物売っているな
んて予想すらしてなかった。
驚愕して固まってる俺にナディアの祖母が話しかけてきた。
﹁どうかしましたか?﹂
﹁いえ、なんでもないです。ハイエルフの先祖がえりの女性が初め
てだったので﹂
﹁あら、よくお分かりね﹂
驚愕していたことがもう一つあった。
ナディアの母方の祖母はハイエルフに先祖がえりした女性だった。
440歳を超えているとは思えない20才そこそこにしか見えない
ほどの美貌で、あまりの美しさに話しかけることも出来ずに遠巻き
に眺めてる男性は売店の中に20人以上いる・・・ファンかな?
﹁あら、貴方も凄いのね・・・名前しか見えないけど、早乙女さん
ね。覚えさせていただくわ。何しろ私の精霊様が貴方を見たとたん
に目がハートマークになってしまいましたわ﹂
﹁ハートマークになんてなってないもん!﹂
10歳ぐらいの女の子が蔦と葉っぱに覆われた姿で目の前に現れた。
木の精霊﹃デュアリス﹄だった。
なるほどな・・・デュアリスの精霊による秘術﹃熟成﹄を使って一
瞬で漬物を極上の味にしていたんだな。
俺には木の精霊魔法は使えないのでこの魔法は使えないし、俺の神
の創り手スキルでもぬか漬けをここまで美味しく熟成させるには試
行錯誤を繰り返さないと微調整が難しい。
木の精霊なら簡単に出来るだろう。
1610
後ろに立つ嫁3人に聞かれる。
﹁しん君、この子誰? 急に現れたけど・・・﹂
﹁木の精霊﹃デュアリス﹄様だ! 人間どもよ、ひれ伏せ!﹂
﹁まぁひれ伏す必要はないけど・・・これが木の精霊デュアリスだ
よ。こんなちんちくりんな見た目だけど、全ての草木に宿るといわ
れてる草木の精霊の頂点に位置する精霊だな。樹木の精霊や森の精
霊とはちょっと違って、エルフに草木の祝福を与えたとも言われて
る木の精霊王様だよ﹂
﹁そうだ! 私は精霊王で偉いんだぞ! だからひれ伏せ! ・・・
ってちんちくりんってなんじゃい!﹂
﹃こいつめこいつめ﹄
俺の胸に飛び込んできてポカポカ胸を叩いてくる。
文字で書くと恋人同士のケンカのようだが、実際の見た目は130
cmほどしかないデュアリスが親に反抗してワガママを言っている
ようにしか見えない。
周囲に見てる人達が夜の9時を過ぎているにも関わらず、ホンワカ
した気持ちになってしまってるようだ。
嫁達も微笑ましい風景を見ているような顔になってる。
しばらく続いてるが終わりそうもないので俺が困った顔をしている
とナディアの祖母がデュアリスの襟首を後ろから掴んで引き離す。
﹁はいはーい、時間終了でーっす。デュアリス様、イチャイチャし
ようとしても無駄ですよ﹂
﹁ミルクル、その手をはっなっせ! それにイチャイチャなんてし
てない!﹂
﹁あんまりワガママいうとメってしますよ!﹂
﹁あ・・・ごめんなさい﹂
1611
﹁お! えらく聞き訳が良いな﹂
﹁うっさい、バカ早乙女!﹂
﹁まぁ、これでも440年以上も付き合いがありますからね。簡単
で手馴れたものですわ﹂
﹁うっさい! ミルクルのババァ!﹂
﹁・・・何かいいましたか?﹂
﹁ごめんなさい。調子に乗って言い過ぎました﹂
おおお、何かゴゴゴってナディアの祖母の後ろに真っ赤な般若が浮
かんだような気がしたが気のせいということにしておこう。
絶世の美女に笑顔で怒られる恐怖だといった方がいいのかもしれん。
恐怖で顔を青く染めた精霊王がペコペコとエルフに頭を下げてる・・
・シュールだな。
デュアリスが叱られてショボーンと大人しくなってる間に、やっと
ナディアの祖母と早乙女夫婦で自己紹介を全員ですることが出来た。
﹃ミルクル・マキアート﹄
何か甘そうなエスプレッソっぽい名前だが440歳の先祖がえりハ
イエルフにして、長髪の金髪をなびかせた絶世の美女。
グラナド商会の3人の副代表の1人で、とある町で出会った転生者
にホテル従業員の接客の基礎とぬか漬けのコツを教えてもらって、
女傑
で間違いないだろう。
自身の手で研鑽して確立したホテルの接客も漬物も世界の歴史を変
えたと言われてる
グラナドホテルが全国展開できるようになったのはミルクルが従業
員教育係の指導員で接客マニュアルを全て1から作り上げたから、
グラナドホテルはどこに行っても同じで最高級の接客がしてもらえ
るという評判を持ってるからだと言われてる。
漬物の知識は知らなかったがミルクルの女傑っぷりはナディアから
聞いてる。
1612
ナディアいわく・・・
﹃誰よりも優しくて誰よりも美しくて・・・そして誰よりも怖い存
在﹄
なんだそうだ。
俺も話には聞いていたが今日、初めて実際に会ってみて物凄くわか
りやすい例え話だと実感できた。
と、言ってもナディアの話はミルクルにはしない。
彼女のプライベートな問題でデリケートな部分に入ってくるからな。
ナディアが盗賊に誘拐されてもう少しで慰み者にされるところだっ
たと俺が言ったら、怒ったミルクルに連れ戻されそうだしな。
おにぎり販売に情熱を燃やしていたナディアの邪魔はしないほうが
いいし、俺が言わなければ誰にもわからない話だからな。
ミルクルも俺が伝えられない何かを隠してる雰囲気を少し感じとっ
てるようだけど何も聞かないでいてくれたみたいだ。
・・・演技がヘタクソで済まないと心の中でナディアに謝罪して手
を合わせた。
俺達が雑談をしながら漬物購入を済ませ酒屋の方に歩いていくとな
ぜかデュアリスが付いてこようとして、当然ながらミルクルにつか
まって・・・﹃契約者のエルフに正座させられて説教をされる精霊
王﹄というシュールな映像を最後に見せられて酒屋に歩いていく。
やっぱり絶世の美女が笑顔で説教してるのはちょっと怖いなと言う
のは、誰も口には出さないが早乙女夫婦の共通した認識だった。
デュアリスも正座で半ベソかいてたし。
酒屋には世界中の珍しいお酒ばかりがここには一同に集められてい
た。
これはナディアの両祖父母4人全員の一致した趣味が高じて商売に
1613
なってしまったようだった。
試飲もできるようなんで夫婦4人で味わいながらあれこれと談義し
て、店員は夫婦の会話を一切邪魔をしないように時々補足で説明を
してくれる。
ここのホテルの従業員は売店の店員ですら空気を読むのが上手いな。
ミルクルの教育の賜物なんだろう。
梅酒・芋焼酎・麦焼酎・シャンパン・ジン・ウォッカまであって物
凄く種類も豊富で試飲して誰かが気に入った酒は全部購入したので
500万G以上は使った。
幾つもの樽で購入しているし、輸入代金まで含まれているから高額
に膨れ上がるのは仕方が無いし、美味しいモノに金に糸目はつけな
いという俺の習性が嫁達にも伝染していってるからだろう。
使う金以上に稼いでるっていうのもあるけど。
俺たち夫婦があれやこれやとしていると周囲にいたホテルの宿泊客
が同じように試飲を始めて盛り上がり始めて、宿泊客だけでなく外
から来たお客まで集まってきて、みんなで試飲して盛り上がってし
まった。
他の売店の従業員も出張で販売しに来てつまみも飛ぶように売れ始
めちょっとしたお祭りになったな。
俺たち夫婦以上に酒を買ってる家族もいるし、つまみはその場まで
従業員が運んでくれるからな。
遠くからいつも以上の売り上げになってる売店の様子に満足げな表
情をしてるミルクルと、祭りに加わろうとしてるがミルクルに首根
っこを捕まれてジタバタしてるデュアリスの子犬感にちょっと笑っ
てしまった。
欲しい酒を買い終わったので俺たち夫婦は部屋に戻ることにした。
最後に遠くから見てるミルクルとデュアリスにバイバイと手を振っ
1614
てから部屋に戻る。
2人はブンブンと笑顔で手を振り返してくれる。
こうしてみると仲の良い親子にも年の離れた姉妹にも見えるな。
部屋に帰ると4人で風呂に入る前に湯船にお湯をためてる間、北側
の窓から見える巨大な半月を酒を飲みながら見ていた。
天気がいいので巨大な月の半分が輝いて眼下に広がるドルガーブの
街の北側の屋根や石畳の道を金色に照らしてる。
半月ですらここまで明るいんだな・・・しかも半分ですら日本で見
ていた月よりも大きいような気がする。
全員で風呂に入ってエッチはしないがキスや軽く前戯まではしてイ
チャイチャ。
風呂を出てもまだ少し月が見えたのだが嫁達は東側のベッドルーム
に移動して本格的に酒を飲み始めたようだ。
クイーンサイズのベッドが間にサイドテーブルを挟んで4つ並べら
れており、東側の朝日がベッドの中から見れるようになっているん
だろう。
明日5月4日のドルガーブの日の出時間は5時2分・・・その前に
起こすからなと嫁達に言って俺は出かける準備をする。
10時半を超えてアマテラスに頼まれた仕事の時間が近づいてきた。
嫁達を寝室に残して俺はリビングに移動。
まだ少しだけ見える半月の下、明かりを消されたリビングで以前の
マフィアギルド襲撃の時に作った防具を装備し始める。
ガウンを脱いで素っ裸になり自作で真っ黒のアンダーシャツとアン
ダーパンツを下に着てから、闇の防御属性を持つ真っ黒で艶消しさ
れたサイラス甲殻鎧を装備する。
手甲・ブーツ・ヘッドギアも特製で鬼が怒って吼えてるような表情
のお面︵鬼の目と口が怒った表情のままくり貫かれてる︶までつけ
1615
る。
準備が完了したので今から襲撃する違法取引の現場建物の屋根の上
に直接転移魔法で移動した。
屋根の上空に飛翔魔法で浮かびながら敷地内の全部を鑑識魔法で探
りとる。
74名全員が間違いなくいる。
いつもの襲撃の時のように建物だけでなく敷地全部を結界で封印し
たので進入できても出られなくした。
そのまま正門の前に立つ・・・むろん正門は閉じた状態のままで俺
は敷地の中だ。
俺はそのまま敷地内の全ての罠と封印・結界を全部完全に解除して
襲撃をスタートさせる。
厳重に監視していたはずの正門の敷地ない側に突如現れた黒尽くめ
の威容の雰囲気に呑まれていた正門護衛の4人が動き出して攻撃し
てくるが、その全ての攻撃をかすることすらさせずに避け続ける。
4人が攻撃を諦めて全員が後ろに飛び去ってから首からぶら下がる
笛をビービーと吹き鳴らす。
建物の正面玄関から飛び出てきた黒い影が3つ。
彼らが外国でスカウトされて雇われた3人の用心棒なんだろう。
デブ・ムッキムキの筋肉ゴリラ・ノッポというテンプレ体型3人衆
だったから、アマテラスの情報のままで極悪非道らしいけど・・・
実物を見てから、ちょっとがっかりしていた。
3人セットでも転生者で俺が任侠ギルドトーナメントで魂ごと消滅
させた﹃卯月要市朗﹄にも遥かに及ばないほどレベルが低いってい
うか・・・3人は盾職だ。
3人がかりで同じトーナメント出場者の﹃マナガルム・ブラム・ア
1616
バルニア﹄がちょっと苦戦する程度。
同じトーナメント出場者でも﹃サトシ。シーズ・ユマキ﹄だとだい
ぶ時間が掛かって苦戦するだろう。
サトシとマナガルムは同じぐらいの強さだが武器の特性の差だな。
サトシはサーベルの二刀流で相手の防具の隙間から切りつけて弱ら
せていくスピード重視のスタイルなので、この3人衆のようなフル
プレートアーマーと大きな盾とショートソードの組み合わせの盾職
にはなかなか有力な攻撃が出来ずに時間が掛かるだろう・・・サト
シが勝つことに変わりは無いが。
逆に大剣を扱うマナガルムはサトシみたいなスピードタイプの敵に
は苦戦必死だが、盾職はエサでしかない。盾ごと叩き潰してしまう
からな。
俺が冷静に判断しがならそんなことを無言で考えてると、3人衆の
中のリーダー格の真ん中に立つゴリラが話しかけてくる。
﹁おい坊主、どこから紛れ込んだんだ? 死にたくなかったら帰れ﹂
﹁出来もしないことをぬかすなハゲ。俺がここに来た瞬間からお前
達74名全員はお前の毛根と一緒で、すでに死んでるんだよハゲ。
それに坊主はお前だハゲ!﹂
﹁必ず殺す。いくぞおまえら! 隊列を組め﹂
ゴリラがフルプレートアーマーの頭部をかぶると盾を構える。
後ろのデブとノッポもフルフェイス兜をかぶり盾を構えて臨戦態勢
になった。
今まで笛を吹いていた護衛達と笛の音を聞いて追加で集まってきた
親衛隊達がゾロゾロ出てきて全員が剣を抜いて構えた。
ゴリラが俺との3mほどの距離が開いていたのを一歩で詰めて盾を
全身全力でブチ当てる盾職の基本技で奥義﹃シールドバッシュ﹄を
1617
ブチ当ててくるが、俺が片手で全部の衝撃を吸収してしまった。
俺から見ればサイラスの希少魔獣の突進の方が色々ヤバイレベルの
衝撃力がある。
あいつら3t以上の体重で瞬間時速60kmを越えてくるからな。
﹁そんなバカな! 全く手ごたえが無い・・・しかもまったく動か
ないなんて﹂
﹁ま、この程度だわな。所詮は人間のシールドバッシュなんて高が
知れてるし、お前らは恵まれた体格に胡坐をかいて上を目指して練
習すらしてないだろ?﹂
﹁五月蝿い黙れ! 1度でダメなら連発だ!﹂
﹁だからきかねぇーって﹂
バスバスと連発でシールドバッシュをハゲがしてるが手で押さえた
まま微動だにしない俺。
俺がガッカリしたのはこれが理由だった。
コイツラに多彩な技など無い。
盾職でも中の上レベルで胡坐をかいてる程度の人間達だ。
・・・確かにアマテラスが危惧したように聖騎士団に目の前に盾職
3人並べられていて、正面玄関などで正面からしか攻撃できないよ
うな状況にされたら聖騎士団もヤバかったかもしれん。
3人衆の後ろに隠れていた護衛たちが驚愕してる横で親衛隊が恐怖
で覚醒麻薬を飲み、いよいよ攻撃に移ってきた。
全員が俺への恐怖に負けてクスリを飲んでいく。
﹃ギャッハーーー﹄
﹃ヒイィーーーハーーー﹄
1人が叫んで驚愕のジャンプ力で俺に飛び掛って攻撃してくるが・・
・もはや人間を止めてるな。
ロングソードを握っているが馬鹿力で叩きつけてきて、地面の石畳
1618
に叩きつけられたロングソードはガキンという音を残してへし折れ
た。
剣技もクソもまったくない・・・バックステップで避けた俺を追い
きれていない。
ただただ力任せに叩きつけてきてるだけだし、明らかに反応速度は
低下してる。
俺が後ろにバックステップしたのはある程度低レベルな冒険者です
ら目で終える程度のスピードで、わかりやすいほど後ろに2mほど
跳んだだけだ。
覚醒でバーサーカーになったときは思考能力が低下するが反射神経
バーサーカーになるための覚醒麻薬
と
などの脳を使わない部分は、バーサーカー状態では劇的に上がるは
ずなんだが・・・これは
言うクスリでなく・・・やはり﹃ゾンビ変化﹄となる﹃ゾンビパウ
ダー﹄のようだ。
俺が振り下ろされた剣をバックスステップで避けてすぐに距離を詰
めて、親衛隊の頭部を吹き飛ばすジャブを放ったが、動きを止めず
に首から上がなくなった状態でそのまま攻撃してきた。
今度は避けずに前蹴りを放ってゾンビを消滅させた。
ゾンビになったと瞬時に判断できたし、俺がここに入る前に結界を
解除したのでわかっているのだが・・・ここの敷地全域には光の魔
法を1/5まで減少させて闇の生物を倍以上に活性化させる結界が
張ってあったからな。
予想通りっていえば予想通りの確認作業。
聖騎士団が攻撃していたらパニックになっていただろう。
アマテラスが聖騎士団全滅を危惧していたのかこれだろうな。
自分達の光魔法は1/5にさせられる中でゾンビとも戦わないとい
けないしな。
1619
3人衆はゾンビ変化を知ってたみたいだな。
3人はパニックになることも無く、冷静に盾を構えたまま後ろに下
がっていって、決められた動きのように3人の盾で正面玄関を塞ぐ。
俺は冷静にゾンビになった目の前にいる25人の親衛隊や用心棒の
ゾンビを殺す。
俺の防具にはゾンビの攻撃は一切効かない。
武器による物理攻撃は別だが闇魔法の属性防御がついているサイラ
ス闇甲殻鎧なんだから闇の生物の波動や攻撃は全部魔素になって魔
力に換算されてサイラス闇甲殻鎧に吸収されてしまうだけだ。
吸収した魔力は自己修復などに使われて蓄えられていく。
気をつけるのは物理攻撃だけだ・・・俺には効かないけど。
3人衆は驚愕して俺を眺めながら正面入り口を塞いでいる。
全く傷付くこともなく俺の繰り出すパンチやキックでゾンビたちが
消滅していって、俺の後ろに残るのは武器や防具といった装備品と
ステータスカードのみが転がっている。
何度もゾンビの攻撃が当たっているように見えるが攻撃したはずの
ゾンビの手足が消滅してるので、まったく理解できなくて固まって
いるんだろうな。
最後のゾンビの上から振りかぶった槍攻撃を俺は踏み込んでゾンビ
の手を受け止める。
掴んだ手は一瞬で消滅して槍が後ろに転がるとゾンビは蹴りを放っ
てくるが、横へのステップで俺はゾンビの後ろに回りこんで鎧の隙
間から指を突き込んで、全身を消滅させると空になった防具とステ
ータスカードだけが残される。
普通はステータスカードに殺害した人の名前が載ることになってる
が、俺の場合は﹃アマテラスの代理人﹄としか表示されない。
それに俺はもうすでにステータスマネーに入っている個人資産がど
1620
れだけあるか見てないので知らなかったんだが、アマテラスの配慮
で襲撃中に殺した人達のアイテムボックスの中身や資産は俺のアイ
ゴルドル
テムボックスと金は別口の個人資産にゴッデス経由で送られてきて
いた。
前回のマフィアギルド襲撃で得た資産は200億Gを越してし、今
回も100億を越してる金額が送られることになる。
ここに来て3人衆の後ろに動きがあったようだ。
この敷地内の逃げ道の全部が俺の施した封印で塞がれていて逃げ場
のなくなった45人がここにやってきたのだ。
もめてるようだな・・・理由はわからないでもないが。
﹁逃げ道が無い! どこもかしこも封印されている! 何とかしろ
!﹂
﹁俺たちにアレを突っ切れと言うのか? そんな契約はしてない!﹂
﹁ふざけるな! 何億も契約金を払ったんだから、アレぐらいなん
とかしろ!﹂
﹁アレは俺たち3人でどうにかできる存在じゃない。ゾンビ26人
掛かりで怪我一つ負っていない、正真正銘のバケモノなんだぞ!﹂
パンパンパン! と、手を叩いて醜い争いを止めた。
馬鹿のケンカを見に来たわけじゃないし、俺は明日の天気のいい朝
日が見たいので朝は早い。
﹁うるせぇよ、人を指差して﹃アレ﹄だの﹃バケモノ﹄だとか、や
かましいわ!﹂
﹁・・・﹂
﹁お! ご静聴ありがとうございます。では君達にプレゼントだ﹂
ツインズ
﹃出でよ! 悪魔伯爵ファウスト兄妹﹄
1621
﹁﹁早乙女様、お呼びですか?﹂﹂
﹁おう、コイツラ好きにしちゃって。時間が無いからいたぶるのは
無しで﹂
﹁﹁了解しました。早乙女様の仰せのままに﹂﹂
俺と背格好が似た痩せた双子の兄妹が俺の召喚魔法によって現れる。
伯爵クラスの超上級悪魔の双子で見た目はズボンとスカートの違い
だけで顔は全く一緒だし、髪の毛の色も長さも変わらない。
声のキーが若干違ってるので同じこと同時に話すとハモって聞こえ
る。
2人が腰の後ろから抜いた﹃死神ナイフ﹄を両手に装備して2人の
悪魔は満面の笑みを浮かべながら嬉々として48人の集団に襲いか
かった。
俺は最後まで見学してるだけだ。
超上級悪魔のファウスト兄妹は10年前に地上から姿を消して以来、
伝説となった悪魔の兄妹だ。
極悪非道の名を欲しいままにして残虐に殺戮しつくす姿に悪魔伯爵
という名に相応しい兄妹だ。
悪人をそそのかして手を貸して栄華を極めた頃にいたっぶって殺す。
その禍々しい悪魔を知らない悪人はいない。
パニックになって逃げ惑うしかない。
悪魔は召喚魔法で地上には召喚されてるので実体が薄い存在となっ
てるから、物理攻撃はほぼ効かない。
効くのは光属性の魔法関係、闇属性の吸収のみだ。
両方ともが使えないのであれば出会った瞬間から﹃死﹄しかない。
悪魔伯爵の兄妹が戻ってきたときは劇的な変化が現れて見た目から
変わっている。
兄の﹃アバリム・ファウスト﹄は着ていた黒のタキシードがバリバ
1622
リになるほど破けているが傷一つついてる訳じゃなくて・・・どこ
かの世紀末覇者のように内側から盛り上がるムッキムキな筋肉で破
けただけだ。
真っ黒だったタキシードは鮮血で赤く染まって凄惨な状況だ。
妹の﹃マシル・ファウスト﹄も同じように内側から盛り上がったお
っぱいや筋肉で凄いことになってるな。
イーデスハリスの世界で悪魔という存在は人間の生命力を糧にして
生きてるが、別になくなっても消えてしまうわけじゃない。
痩せて小さくなるだけで限界以上には小さくならない。
悪魔の大好物は欲望に染まった魂だ。
欲望に染まった魂が垂れ流す不幸の味がたまらないらしい。
他人の命を踏み台として不幸にしてでも自分の欲望に忠実に従って
生きてきたヤツラの死に行くときに見せる不幸、欲望に汚れて染ま
った魂が見せる最後の絶望が極上だと言ってファウスト兄妹が説明
してくれた。
今回はたった48人だったのでこの程度の成長しか出来なかったと
言って笑う血まみれ兄妹。
悪魔界の世界も楽しい場所ですが・・・相変わらずに、ここイーデ
スハリスの穢れた魂は極上ですねとも笑って言ってる。
これで明日の突入捜査の前段階の俺に任された作業は完了した。
﹁ファウスト兄妹、手間が省けて助かったよ。ありがとな﹂
﹁﹁早乙女様のおかげで、とても良いご馳走をいただくことが出来
ました。ありがとうございました﹂﹂
﹁じゃあ、かえっていいよ﹂
﹁﹁はっ﹂﹂
血まみれの兄妹が悪魔界に帰還した。
1623
自分達が地上で好き勝手に過ごしていた所に現れて数十万いた悪魔
の軍団を圧倒的な神力で亜空間の世界に封印したアマテラス以上の
神力を俺から感じ取ってる兄妹が、召喚者の俺の言うことに逆らう
ことも一切無く悪魔界に帰還して消える・・・意外と礼儀正しい悪
魔伯爵ファウスト兄妹だった。
普通の突入捜査ならここで証拠品とかを色々探さないといけないだ
ろうが、俺の頼まれた仕事は殲滅のみなのでこれ以上はしなくてい
いだろう。
確認のためにアマテラスに連絡するが、捜査は聖騎士団でするので
やはりこのままでいいみたいだな。
聖騎士団の捜査で支障が無いよう出発前に教会でアマテラスが神託
を隊員全員に告げる。
それと前回のマフィアギルド襲撃と今回の違法取引襲撃で殺した2
00名以上の悪人が、アイテムボックス内に持っていた事件の証拠
物となるモノ以外のアイテム全部と、総資産300億G以上の金額
が俺に振り込まれているということをアマテラスに教えてもらった。
どうすんだよこんな大金・・・これって税金払わないと脱税になっ
ちゃうんじゃないの?
ってアマテラスに聞いたら、これは俺が隠蔽できる別口の口座にな
ると教えてくれた。
いらねぇーよ・・・俺の資産が全部で400億を越してしまった・・
・どうすんだよ。
使い切れないような金額はもう要らないから・・・今後はアイテム・
素材・魔石・魔結晶・武器・防具だけでいいから、金は神の力を使
ってでも国庫に戻せと言って今後は受け取らないとアマテラスに宣
言する。
1624
俺は全身を3点セット魔法で浄化をして現場の敷地に施した封印結
界を全部解除して、血なまぐさい現場の消臭結界だけしてからグラ
ナドホテル本店の自分の部屋に転移魔法で戻った。
今回の殺戮現場の浄化はアマテラスと聖騎士団が共同作業で明日の
早朝の朝日と共に浄化をするそうだ。
・・・しかしステータスカードの死亡原因を聖騎士団が見たら何と
思うかな。
俺が殺した26名のステータスカードは﹃アマテラスの代理人﹄っ
て表示されるらしいけど、悪魔伯爵のファウスト兄妹が始末した方
の死体は、いかにも悪魔が自分の趣味で惨殺しましたって凄惨な現
場になってるし、殺害者が教会関係者には有名なファウスト兄妹な
んだからな。
血の匂いに慣れていない人間だとトラウマになるレベルで間違いな
いだろうし。
まぁ、アマテラスが後は勝手にやれやって感じにナゲヤリになって
どうでもいいさと思い直した。
ホテルの部屋のリビングでガウンに着替えて寝室に行って寝ること
にした。
今日も長い一日だったな。
寝室に行って布団をはだけで寝てるクラリーナの布団を手足が出る
ように、おなかの上に掛けなおしてあげてから俺も眠りにつくこと
にする。
・・・実は一緒に寝るようになって気付いたんだがクラリーナの寝
相が一番ヤバイ。
寝ていて体温が上がり暑くなると布団を蹴っ飛ばして寝て、寒くな
ると今度は布団を探してモゾモゾして布団がないと小さく丸まって
る。
1625
はたから見てるとカワイイが隣に寝てると厄介だ・・・他人の布団
を奪ってから暑くなって蹴っ飛ばすを繰り返すんだからな。
寝てるだけに文句も言えない。
なので早乙女邸の寝室のクラリーナ専用の布団は特別制だ。
クラリーナの体温が上がると冷たくなって体温が下がると普通の布
団になるという優れものだったりする。
その布団を導入してからクラリーナの寝相は劇的に良くなった。
そんなクラリーナのカワイイ顔して暴れまわってる寝相を思い出し
ながら熟睡した。
翌朝は朝日を見るためにまだ真っ暗な4時半に起床した。
今日は転生して34日目で5月4日の朝は日の出を見るために早朝
の時間の起床となった。
天気は今日も良くて絶好の観光日和だろうが昨日よりは若干風があ
って少し涼しいかも。
起床とは言っても起き上がって洗面所に行って顔を洗って目を覚ま
してまたベッドに戻ってくるだけだ。
外は少しずつ明るくなってきてるな。
15階建てのこのグラナドホテル本館の最上階はドルガーブの外壁
の高さよりも、ゆうに高い位置にあって遥か遠くまで見渡せるよう
になってる。
太陽の昇る東側は寝室のベッドに寝たままでも楽しむことが出来る
ようになっている。
洗面台に行って顔を洗って戻ると嫁達はみんな起きたようだ・・・
アイリはまだ半分以上寝てるけどな。
俺の後にクラリーナが洗面台に行って顔を洗い、クラリーナが帰っ
1626
てくるとミーがアイリを連れて顔を洗いに洗面台に行く、いつもの
朝の風景が繰り返される。
俺はアイテムボックスからコーヒーを出してベッドのサイドテーブ
ルに置く。
クラリーナも自分のアイテムボックスからココアを取り出して飲み
始めた。
昨日の﹃海に沈みゆく夕陽﹄は感動して少し涙ぐんでいたクラリー
ナも、今日は次第に明るく色付いてくるドルガーブの街に興味津々
なようだな。
ミーもアイリを連れて戻ってきた。
いつも顔を洗えばシャッキリしてスタスタ歩いてくるアイリも、今
日は流石に早過ぎる時間だったのか、まだ30%は寝ていそうだ。
アイテムボックスから出したブラックコーヒーをサイドテーブルに
置いて飲み始めた。
今日はミーも少し眠そうで今朝はブラックコーヒーを飲んでる。
﹁しん様、今日の朝食はどうします?﹂
﹁朝日を見終わってからでいいだろうこのままだと見難いから・・・
クッションを渡すよ﹂
全員にもふもふ天国で使用しているクッションを渡して背もたれ代
わりにしてノンビリと朝日を待つ。
水平線から金色に光り輝く1本の線が天空に向けて走り線が帯とな
って広がって朝日が姿を現し始めると、流石の大自然の美しさに感
動する。
ウェルヅ大草原の遠くにある丘の上を太陽が黄金に輝いて姿を現す
までの僅か数分の短い時間だが、美しい風景に感動して昨日の悪党
どもの虐殺で参っていた心の中を洗い流してくれるかのようだった。
1627
2つの展示会と帰りの汽車の旅っす。︵前書き︶
10・31修正しました。
1628
2つの展示会と帰りの汽車の旅っす。
朝日が全部昇ってから伝声管を使い朝食を部屋まで運んでもらう。
今日の朝食はバケットいっぱいの焼きたてのパンとコーンスープと
フルーツたっぷりヨーグルトだった。
パンに塗るバターとジャムも小皿にこんもりと盛られてるので使い
放題っぽいな。
バケットをいっぱいにしてる焼きたてのパンはクロワッサンやロー
ルパンなど種類も量も凄いな。
コーヒーか紅茶を選べたようなので俺は紅茶にした。
カートワゴンで朝食を運んできた時から茶葉の豊潤な香りが凄く良
くて、かなり高級な紅茶らしいので俺は紅茶にしたんだが、嫁3人
も紅茶だったのは驚いた。
クラリーナはミルクティーにしてもらってる。
俺は一杯目はストレートで飲んで2杯目はミルクティーにしたら、
ミーもアイリも同じように2杯目はミルクティーにしていた。
ロールパンもクロワッサンも美味しかったし、小鉢に入ってるポテ
トサラダやスクランブルエッグもおかずとして出てきていてかなり
美味しかった。
食後はそのままの状態で寝室に行ってカーテンを閉めずに寝てしま
った・・・俺は夜更かししていたし。
嫁達もまだ朝が早かったのか雑談していたみたいだが俺と同じよう
に二度寝してしまってたようだ。
起きたら朝の10時を過ぎていた。
1629
嫁達はリビングで雑談してる。
俺は起き上がってパジャマにしていたガウンを脱いで、パーカーと
カーゴパンツに着替え靴はハイカットのスニーカーにした。
リビングに行くと女性陣ももちろん着替えは終えてる。
クラリーナは真っ白のフリルブラウスにグレーでチェック柄のサス
ペンダー付きのフレアスカート。
黒いヒールのパンプスで脚が長いのにさらに長く見えてしまう。
ブロンドの長髪を後ろで三つ編みにして毛先にブルーのリボンを結
んでとめてあるから、お嬢様っぽくてクラリーナに似合っている。
ミーは全くの正反対でワイルドそのもの。
こげ茶色の革のジャングルブーツを履き、その上は迷彩柄のカーゴ
パンツ。
上半身は赤黒のボーダーのロンTを着てる。
茶髪の長髪をポニーテールで無造作に結んでいてワイルド感があが
ってるな。
アイリはまた服装の系統がミーともクラリーナとも違ってる。
緑のタータンチェックのシャツに下は白いストレートパンツを履い
てシューズはヒールの高さが低めのピンクのパンプス。
これで凄く大人に見える。赤いショートカットの髪がなぜか落ち着
いた雰囲気を出してる。
起きてきてリビングの空いてるソファーに俺が座ると質問される。
﹁しん君、よく眠れた?﹂
﹁うん、熟睡させてもらったよ。おかげで気分爽快だな﹂
﹁しん様、今日って午後4時の列車に乗ってシーパラに帰るのです
よね?﹂
﹁そうだな、晩ご飯は列車の中での食事・・・そうだ! これを渡
しておくよ﹂
1630
俺は魔石と魔水晶を加工して作ったブレスレットを渡す・・・改良
版の念輪だった。
﹁しんちゃん、これって念輪なの?﹂
﹁ああ、そうだよ。魔石にテーブルマナーを入れておいた。これを
いつでも装備しておけば、緊張で味がよくわからないって事にはな
らないだろう。使い方はドレスと一緒だ、念輪のテーブルマナーに
身を委ねればいい。みんなの分の念輪と交換して﹂
﹁ほんとに? ありがとう﹂
全員からお礼を言われながら念輪を取り出して交換してもらった。
せっかく高い料金を支払って美味しい食事を味わえないなんて残念
だからな。
﹁今日はこれからどうします?﹂
﹁予定は何もないんだよなぁ・・・ドルガーブに来た目的って﹃海
に沈む夕陽を見ること﹄だからすでに目的は終わってる。ほかの観
光って・・・昨日行った船舶博物館は面白かったな﹂
﹁面白かったねぇ。帆船の中に入りたかっただけなのに、あそこま
で面白いとは思ってなかったよね。しかもグラナドホテルの宿泊者
は無料で入れたのも結構嬉しかったしね﹂
﹁そうなんだよな。このグラナドホテルって今ミーが言ったように
売店で買うと1割引きになったり、船舶博物館は無料だったりと・・
・何かこのドルガーブの都市の中で色んなサービスをしていそうな
んだ﹂
﹁それはありそうね。私が思うに色々な場所の割引サービスなどを
グラナドホテルはしているんじゃないのかな?﹂
﹁あっ! そういえば今のアイリさんの話を聞いて思い出したので
すが、ホテルのフロントの横に物凄い数のパンフレットがありまし
1631
たよ﹂
﹁それが俺も言いたかったんだ。今からホテルのフロントに行って
どこか面白そうなところを探さないか? その方がこのドルガーブ
の楽しみ方がありそうなんだよな。フロントの従業員に聞けばより
効率的に遊べそうだしな﹂
﹁そうしようよ。今から行こう﹂
ミーの立ち上がりながらの声で全員が立ち上がって、まずはホテル
のフロント横に出かけることになった。
4人で転移室へ行きフロントまで歩いていく。
フロント横にある細長いテーブルにたくさんのパンフレットが置い
てあった。
・・・半分以上はちょっと時間的に不可能だ。
夕方以降に開かれる賭博場やカジノ、日中に開催されている﹃格闘
場﹄という場所まである。
しかも賭博してるというのもあって・・・ギャンブル関連のパンフ
レットが多いな。
っていうか、ギャンブル関連のパンフレットなんてはじめて見たよ。
これはこれで面白そうだったのでパンフレットだけ貰っておく。
﹃血沸き肉踊る﹄とか﹃一攫千金﹄なんて赤や金色の文字までパン
フレットにたくさんあって、キャッチコピーが面白かったのでアイ
テムボックスに入れた。
俺がギャンブル関連のパンフレットを面白そうに手にとってアイテ
ムボックスに入れているのでフロントの従業員が親切に色々教えて
くれた。
都市ドルガーブには賭博ギルドというのがあってカジノや賭博など
ギャンブル関連の部分を取り仕切っている組織があるみたいだ。
賭博ギルドというアンダーグラウンドな名はつけられているが・・・
1632
シーパラ連合国の政府の直営となっていて、決められたオープンル
ールに則って組織運営されて国の国庫を潤してるんだと・・・合法
組織化されてるのか・・・任侠ギルドとはだいぶ違うな。
どっちにしてもすでに金稼ぎにもギャンブルにも興味ない俺には関
係ないな。
パンフレットが面白かったから貰っていくだけだと、説明したらフ
ロントにいた男性従業員が奥から古いパンフレットを何種類か持っ
えずら
て来てくれた。
面白い絵面などが載っているパンフレットで全部説明してくれる・・
・こういうのを集めるのが好きな人だったみたいだ。
俺の面白いという話で変なスイッチを入れてしまったな。
男性従業員の説明がマジで楽しかったので、ありがたく貰っておく
事にする。
その後で隣にいた女性従業員がホテルの2階の催事場で行われてる
展示会で﹃時計博覧会﹄が開催されているんだと説明してくれた。
もう一人の女性従業員は嫁達にパンフレットを見せてくれて、この
グラナドホテル本店から歩いていけるぐらいの程近い場所にある美
術館で行われてる﹃宝石展﹄というのもある。
他にもいくつか話があったが面白そうなものはこの2つだった。
時計博覧会・・・イーデスハリスの世界にはステータスカードやギ
ルドカードに時計機能があるために、一般社会には全く普及するこ
とがなかった。
転生者によってもたらされた﹃美術品﹄﹃機械工芸品﹄としての価
値以外はない。
お金持ちの遊び心と職人の職人魂をくすぐることしかしてない。
魔力を動力として発達しているので﹃電力﹄というものが一切発展
しなかったこの世界では転生者が持ち込んだ時計は、修理すら出来
1633
ない状況なので﹃時計=王侯貴族や大金持ちのオモチャ﹄でしかな
かった。
それらの転生者が持ち込んだ時計や転生者の中には時計職人がいな
かったおかげで大きな模型しか作れなかった失敗作などを集めて展
示されているらしい。
グラナド商会代表の趣味で世界中から集められて・・・騙されて買
わされた物すらギャグのように展示されてるみたいだ。
それで宝石展はグラナドホテル近くの私設美術館があって、そこの
美術館はシーズの家でこのドルガーブに本拠を持つ﹃フォレストグ
リーン家﹄の所有する宝石が飾られているみたいだ。
入場料は半額割引で2500Gと意外と高額だが、女性には一見の
価値はあるらしい・・・これは嫁達がぜひ見たいとリクエストされ
た。
今は朝10事半、嫁達と相談の結果・・・今から午前中にホテルの
時計博覧会を見て部屋に戻って昼食後に宝石展を見学。
その後はチェックアウトして駅横の食料品市場で列車出発時刻まで
の買い物という名前の時間つぶしをすることが決定した。
なので・・・今からそのままホテル2階の催事場に行って時計博覧
会の見学をする。
宿泊客は無料で一般客は入場料が1000Gもかかるこの時計博覧
会は俺にとっても嫁達にとっても面白かった・・・俺たち以外にこ
んな時間にこの場所にいる人は皆無だったけど。
腕時計・置時計・携帯電話やスマホらしきものまであった。
周囲には誰もいないけど声に出さずに念輪で嫁達に1つずつわかる
ものは説明していく。
いくつかは完全に分解されて全ての部品を並べられているのもあっ
1634
て、パネルに機械製図のように構造を説明されているものもあった。
全部面白かったのでヘルプさんに記憶しておいて貰う。
時計が脳内表示されるようになったので腕時計をはめる必要は全く
ないのだが、まぁヒマになったら作るかもしれないしな。
電池は製造出来ないが魔石での代用品でこの世界で製造された幾つ
かの時計も合った。
やはり歯車の製造に苦慮したらしく小型化は出来なかったが大型の
置き時計で振り子時計は製造されたみたいだった。
これも製造させた外国の貴族の趣味で大金を投じて作られている。
機械製図までセットで展示されていたのでヘルプさんに記憶を頼ん
だ。
それでグラナド商会代表が騙されて購入した時計とは﹃携帯電話﹄
と﹃スマートフォン﹄の事だった。
どうやって騙されたのかという経緯などもパネルに表示されてて笑
った。
俺が笑った意味も説明したが携帯やスマホの事が全く分からない嫁
達には理解不能だったみたいだな。
ただ代表が騙されて大金を払って気づいた時には詐欺師に逃げられ
ていた事は分かるので笑っていたが。
見終わったら11時半だったので部屋に戻って昼食をとる。
昼食は﹃味噌ラーメン﹄だった・・・メイドに聞いたがミルクルの
旦那でこのホテルの総料理長がとんこつラーメンに惚れこんで作っ
たが、ヨークルのとんこつラーメンを味で超えることが不可能だっ
たので試行錯誤の結果、味噌ラーメンに辿り着いたらしい。
しかもいまだに試行錯誤しているらしく﹃とんこつラーメン﹄﹃味
噌ラーメン﹄﹃塩ラーメン﹄はすでにメニューに載っていて、今は
﹃しょうゆラーメン﹄まで開発中みたいだ。
以前知り合った転生者から聞いた話だけで試行錯誤して作ってると
1635
は・・・すげぇな総料理長。
味噌ラーメンの味は美味かった。
メンは太目の縮れ麺で味噌ラーメンの、こってりしたスープにから
んで美味い・・・だけど俺は野菜が多すぎてラーメンを味わえない
し、元々それほど味噌ラーメンは好きではないので・・・とんこつ
ラーメンほどの感動は無かったのは仕方が無いことだろう、人には
好みが必ずあるし。
食後は少し休憩して今度は宝石展。
近くにある1番大きな高層建築物のフォレストグリーン商会の本店
の1階部分にあるフォレストグリーン私設美術館だった。
これは確かにでかいビルだ・・・しかもグラナドホテルの南側にあ
って大幅に視界を遮ってるな。
近いとはいっても駅前の片側2車線のゴーレム馬車通路と敷地面積
がお互いあるので10分ぐらいはかかってしまう。
入り口で宿泊プレートを4人で提示して4人分の入場料1万Gを俺
の冒険者カードから支払って入場すると女性陣の目が輝いて展示物
をじっくり見始める。
どこかの滅びたエルフ王族の王冠やティアラなど巨大な宝石がちり
ばめられている。
滅びた王家の王笏のレガリアや玉璽まである。
こちらもわかりやすくフォレストグリーン家が購入するに至った経
緯までパネルで展示されていて俺はパネルに興味津々だったが、嫁
3人は光り輝く宝石から目が離せなくなってる。
このイーデスハリスの世界では宝石はけっこうゴロゴロとあるみた
いだし、昔はレベルの高い宝石職人がたくさんいたので、500カ
ラットを超すダイヤモンドは数多くあるようだった。
宝石職人スキルマスターのスキル魔法を使用すれば元素からの組み
1636
換えで不純物を取り除いて作ることができるので、わざわざカット
しなくても好きな形に作り上げることができるからな。
展示されてる王笏には先端に800カラットを越すダイヤモンド・・
・160g以上の重さがある・・・が取り付けてあるみたいだ。
さすがにここまでデカい大きさだとガラスの偽物の付いた子供のお
もちゃにしか見えないな。
ここの施設内は封印結界が凄いな。
移動禁止の封印が全部の展示品にかけられてるし、展示ケースには
接触禁止の結界が張られているのでガラスに触ってるつもりでも数
mm離れてる状態だ。
警備員は出入り口にしかいないのは入り口の警備だけじゃなくて出
られないようにするためだろう。
フォレストグリーン家の公式の場に出る際に取り出されて使用する
ティアラ・ペンダント・ブレスレットなども展示されている。
情勢用だけでなく男性用の王笏・ボタンなども大きな宝石が取り付
けられていて・・・さすがにフォレストグリーンはシーズ家だ・・・
贅を尽くした素晴らしいコレクションがある。
順路に従ってグルっと1周回ってくるだけで1時間以上かかった。
すでに時刻は昼の3時前なのでホテルに戻って宿泊プレートを返却
し予定通り食料品市場へ。
出発予定時刻まで軽く見て回るぐらいしか時間は残ってないが・・・
時間つぶしだな。
果物の量が豊富で安かったので、俺が持ってないフルーツをいくつ
か購入しておいた。
フォレストグリーン商会の直売所があって梅酢・紅ショウガ・ミョ
ウガの梅酢漬けが新商品として販売されていたので試食ができたの
で味見してから購入。
直売所ではおにぎりも販売開始していたので一緒に購入しておく。
1637
時間になったので駅に入って乗車券プレートを全員で提示してホー
ムに入る。
すでに出発準備が終わっているようだ。
巨大な列車はホームに鎮座していて出発の刻を待っているようだ。
昨日乗車した列車とは違うな・・・今日の乗る列車のほうがかなり
外観の色が黒いし屋根の形も若干違う。
最後尾の車両の乗車用の階段に立つ駅員に個室プレートを渡して4
枚のルームキープレートをもらって嫁達に配り、先を歩くメイドの
案内に従って階段を上って個室まで入っていく。
今日はメイドによる個室の施設案内は断って全員分のワインとフラ
イドポテトとチーズの盛り合わせを直接注文したら、メイドはメニ
ューを全員に配ってから注文を確認して控室にさがっていった。
注文したモノが運ばれてきた後にみんなで乾杯をした瞬間に列車の
汽笛の音が鳴り響き列車が発進した。
手に持っていたワイングラスをテーブルに置き、最後尾のテラスに
出て動き出した列車の上から離れ行く駅と中で働く従業員達に向か
って手を振る。
個室に戻ってくるがまだ外は明るい・・・今日の日の入りの時刻は
夕方6時40分。
今日は早めの夕食をとって夕陽は列車のテラスで楽しもうよと嫁達
にを提案したら全員一致で賛成だった。
アマテラスにもらった釣りMAPによって、満潮と干潮の時刻がわ
かる潮時差表だけでなく日の出日の入り時刻までデータで入ってき
てしまってる。
必要ないかと思っていたがこういう時は便利だな。
伝声管で17時に夕食をとることをメイドに告げて準備をお願いし
1638
た。
それまではのんびりと流れる景色を見ながらワイングラスを傾けて
嫁達との雑談を楽しむ。
るびのも先ほどフォクサと一緒に早乙女邸に帰宅したようで、セバ
スチャンから念輪による連絡があった。
ウェルヅ大陸最北端のフォクサの故郷は豊富な魚介類があふれかえ
っているらしい。
蟹もエビも貝類も魔獣化していてデカくなっているようだった。
俺のアイテムボックスに送られてきていた魚介類の魔獣の解体され
た素材はどれも巨大だった。
蟹もセバスチャンからの報告では3m以上あってはさみだけで俺の
身長よりもデカい・・・魔獣すげぇ。
そんな話で盛り上がっているとメイドから部屋の外から呼ばれた・・
・夕食の準備が整ったようだ。
先導するメイドの後に続き今日も食堂車の一番奥のテーブルに着席。
今日は肉料理の食事プレートを取り出して渡し、メイン料理は一角
ギューからとれたであろう鹿肉でのロースト肉だった。
一度別の場所の窯でじっくり時間をかけて焼き上げられているのだ
が、固くならないように工夫されて焼かれた鹿肉が非常に柔らかく
て味わい深く美味しかった。
前菜のオーク肉の湯引きサラダも美味しかったし野菜たっぷりのミ
ネストローネも絶品だったな。
嫁達も今日は新型の念輪機能によってマナーを気にしないで食事を
楽しむ事ができたみたいで満足してくれたようだ。
個室に帰り大草原に夕陽が沈んでいくのをテラス席から見学できた。
これも最高級個室ならではの特権だな。
陽が沈み個室に戻るとみんなで列車の窓から眺める三日月を肴に酒
1639
盛り。
昨日、俺は特製ミルクばかり飲んでいたので今日は酒をたくさん注
文する。
昨日の午前便はソフトドリンクの方が多かったドリンクメニューだ
が、今日の午後便は逆に酒の方が多い。
つまみも種類がたくさんあってメニューの中は﹃芋の盛り合わせ﹄
とか﹃肉系の盛り合わせ﹄などのようなパーティーの時のような料
理が並んでいる。
俺達も何種類かのつまみを頼んでいろいろな酒を飲みまくった。
少しほろ酔い気分な嫁達にたくさんのキスを迫られる・・・イチャ
イチャ成分は今日も補給できたな。
ドルガーブに到着した時と同じように、シーパラの外壁手前で左に
カーブしてバックから駅構内に侵入していくのを、外のテラスの最
前列で最上級個室の特権で楽しませてもらう。
メイドには後片付けを頼んだ。
別のメイドにルームキープレートを返却して列車の旅は終了した。
最後にテラスからの風景を楽しんだのは嫁達には気分のいい酔い覚
ましとなったようだった。
列車を降りてホームを歩いていった先にある出口で乗車券プレート
を返却。
シーパラ駅の構内を歩いて外へと向かっていってる最中に俺に遠見
魔法が掛けられる。
反射的に相手の場所と魔法を使用した相手を探すと・・・場所はド
ルガーブのグラナドホテル本店1階の売店からで相手は精霊王のデ
ュアリスだった。
即座にミルクルに見つかって後頭部にチョップを食らってまた正座
させられて説教されてる・・・懲りない妖精王様だな。
1640
誰にも気付かれずに早乙女夫婦に張られている結界を少し濃くして
デュアリスの追跡は振り切る。
こん
全員でホップボードに乗って周囲を俺とクラリーナが浮かべたライ
トの魔法で明るくさせて早乙女工房に移動する。
早乙女工房に到着してみると早乙女工房専属のメイドゴーレム﹃紺﹄
に5通の手紙を渡される。
一昨日に俺が招待されたので出席したユマキ家本宅でのパーティー、
サトシの第12代ユマキ家当主就任記念パーティーで騒動を起こし
たシーズ﹃フォンマイ家﹄の現27代目当主﹃ゲルアー・シーズ・
フォンマイ﹄からの手紙が1通と・・・その他は話したこともない
シーズの家の誕生日パーティーや先々代の還暦祝いパーティーなど
のお誘いが2通。
1通は教会からでまたいつでもいいので勉強を教えてほしいんだそ
うだ。
最後の1通が冒険者ギルド本部ギルドマスター﹃青木勘十郎﹄から
の会談の申込書だった。
5通とも今日に届けられたものだが、教会から来た手紙以外の4通
は明日にでも返事が欲しいと、明日の朝にまた返事を聞きに来るそ
うだ。
今夜にでも内容を読むことにして手紙を受け取り、俺の転移魔法で
早乙女邸に帰還する。
嫁達にはリビングで酒盛りの続きでもしてもらって・・・と思った
ら、るびのとフォクサがリビングにやってきて今日は嫁達に甘えた
いんだそうだ。
モフモフに戯れる2頭と3人をリビングに残し、俺は隣の客間に移
動してから一番上になっていた青木さんからの手紙を最初に読んで
いく。
1641
内容は俺に届いてる報奨金や賞金、治療費の国からの立て替え費用
など総額10億を超す金額の受け取りのサインが欲しいって事と、
昨日の夜に到着したビッタート卿を交えた会談がしたいとの申し出
だった。
これは緊急を要するわけじゃなさそうだが・・・行ったほうがよさ
そうだな。
教会からは今度はシーパラの﹃司祭教育の指導教師﹄に教えてほし
いらしい。
なのでこのシーパラの早乙女工房に手紙を持ってきたようだ。
この前ヨークルで子供に教えたのと違ってプライドが高そうなエリ
ートっぽいので面倒臭いから断る方向でいいな。
2通のパーティーは正直なんで俺に参加して欲しいのかも理解した
くないので断る。
直接会いもしないしメイドゴーレムどころかユーロンドに断らせる
事にする。
お前らは知らない商人からいきなりパーティーに誘われてヒョコヒ
ョコ行くのか?
って小一時間問い詰めたい気分になりそうだから、明日来てもユー
ロンドに俺直筆の﹃知らない人のパーティーに出るわけがありませ
ん。不参加です﹄という紙だけ渡させる・・・親切でいい人だなぁ、
俺・・・人は俺を﹃お人好し﹄と呼ぶけどな。
ゲルアーからの手紙は反省文が半分で後半は出来れば直接会って正
式な謝罪をさせてほしいので都合のいい日程を教えて欲しいとの事
だった。
・・・これは日程を組む必要性があるな。
リビングに戻るとみんなでウェルヅ大陸最北端のフォクサの故郷の
話で盛り上がっていた。
1642
るびのが面白おかしくした話をフォクサが話を補足していく感じだ
った。
嫁達もフォクサがアイテムボックスから取り出した巨大なエビのし
っぽを見て爆笑してたりする。
焼いて食ったんかよ・・・こんがり焼かれてるエビのしっぽを見て
わかった。
はくせん
狐魔獣は今現在、北の岩場で200頭ほどの群れがいてリーダーの
﹃博閃﹄は、るびのにお願いして眷属にさせたもらったんだそうだ。
るびのとフォクサから﹃食材は焼いて食うとさらに美味い﹄っての
を教えてもらって自分たちで焼いて食って感動していたようだ。
狐魔獣は火を自在に操る力を、るびのから与えられたと言われてる
らしく・・・食材を焼いて食った方が美味いって派閥と生の方が美
味しいっていう派閥に分かれて昨夜は議論をしていたようだった。
みんなで狩りをしたり温泉に入ったりしてのんびりできたとフォク
サもうれしそうだった。
俺は今日来た手紙で冒険者ギルドの青木勘十郎との会談とゲルアー
との話し合いの2つの予定が出来た事を伝え、明日以降のみんなの
予定・やりたい事を聞くことにした。
アイリとミーは同じ意見で・・・﹃ブランディックスダンジョンで
罠解除の練習がしたい!﹄
クラリーナは・・・﹃どこでもいいからダンジョンに行きたい!﹄
るびのとフォクサは・・・﹃どこでもいいからみんなで狩りがした
い﹄
となっていた。
俺は青木とビッタート卿との会談とゲルアーとの話し合いは丸1日
はかかるだろうと思ってるので、明日はみんなでブランディックス
ダンジョンで罠解除の練習をしてもらうことにした。
嫁3人とセバスチャン・マリア・るびの・フォクサがいれば何とか
1643
なるだろう。
地下10階のボス部屋には近づかないように言っておく。
この面子なら問題はないだろうが・・・俺が見てみたいので後日一
緒にクリアーしようという事にしてもらった。
明後日はみんなでアゼット迷宮の攻略を進めることが決定した。
るびのは昨日、夜更かしをしていたらしく眠くなったので自分の部
屋に戻っていった。
フォクサも眠くなったっすと言って自分の部屋に転移魔法で帰った。
2人とも早乙女隊に入ってくる時は全長1.5mで体重は60kg
程にに小さくなってきてくれる。
このぐらいのサイズが早乙女邸内では動きやすいんだそうだ。
フォクサも最初は60cmぐらいの大きさだったんだが・・・今で
はすでに尻尾まで含めると3mを超すほどの大きさになり、るびの
とほとんど変わらない大きさとなってる。
彼らの場合は成長とは呼んではいけないのかもしれないな・・・元
の大きさに駆け足で戻ろうとしてるだけのように思える。
食べた栄養のすべてが成長に行ってるような気がしてくるほど、日
に日に大きくなってるし・・・るびのもフォクサと合流したことで
色々とコツを聞いて大きさも体重も自由自在になったようだ。
俺もゴッデスとかに教えてもらっていない﹃るびの情報﹄をフォク
サは持っているのでありがたいな。
俺は嫁達と風呂に行って今夜はお風呂でも飲もうかと話をしてたら
マヅゲーラの街にいる徒影2号から緊急の念輪連絡が入った。
﹁ご主人様一大事です。任侠ギルドサブマスター、マナガルム様が
女性と会っている時に襲撃を受けました。襲撃者は5名、3人は殺
害したものの2名は逃げられました。マナガルム様は軽傷なれど一
1644
緒にいた女性は重傷で危篤状態です。大至急ご主人様の治療が必要
です﹂
﹁わかった今すぐ行く﹂
嫁達に手早く説明して後片付けはマリアに任せて俺はセバスチャン
を連れてマヅゲーラの任侠ギルドのギルドマスター宿直室に転移魔
法で跳ぶ。
ギルドマスター宿直室から出て応接室に出ると任侠ギルド幹部の﹃
ガスタード・ウェイト﹄と徒影2号が待機していた。
マナガルムと重症者の女性は闘技場の方の治療室にいるようだ。
緊急事態なのでシーパラの陰で活動している徒影と忍が10体ずつ
応援に来るように命令した。
早乙女工房の簡易ゲートから続々と集まってきてるんで大至急、襲
撃者の割り出しと敵の本拠の情報収集をさせる。
命令を下すと俺はセバスチャン・ガス・徒影2号を連れて一気に転
移魔法で治療室まで飛んだ。
まずは重症者の女性の状況を鑑識魔法で調べる。
最初の襲撃者の攻撃でマナガルムをかばって受けた攻撃が背中から
肋骨を折り、折れた肋骨が肺や横隔膜を傷つけているようだ。
声を出さずに﹃エクストラヒール﹄をかける・・・もう大丈夫だ、
完治したな。
女性の体にハイポーションを3本分飲ませる作業はセバスチャンに
任せて、別室の応接室に移ってマナガルムに状況を聞く。
少し興奮しているようだが女性が完治したと聞いてだいぶ落ち着い
たな。
応接室に封印と結界を厳重にかけてマナガルムとガスにいれたての
コーヒーをポットからマグカップに注いで渡した。
コーヒーの香りが応接室を充満してマナガルムもガスも冷静さを取
1645
り戻したようなので詳しい状況を順をおって話させた。
元枢機卿から売られてきたシスター3人の引き渡しが終わり、任侠
ギルドですら把握してなかった闇のさらに裏の部分に蠢いていた勢
力をマナガルムが指揮してガスが先頭に立ち叩き潰したのは昨日の
こと。
今夜は今後のシーパラ進出の話し合いを幹部会で会議して進出する
先遣隊の選出作業と拠点の確保をどうするかという話の後で解散に
なった。
マナガルムは最近、馴染みの飲み屋で働く女性を口説き落としてい
て、今夜は気まぐれに女性宅に行ったら、中に襲撃者が隠れていた
らしい。
護衛の徒影2号と5号が女性宅の玄関までマナガルムを送って少し
離れた直後だった・・・マナガルムも徒影も油断となっていた。
襲撃の初撃に失敗した襲撃者5名はすぐにあきらめて逃走したとこ
ろを後ろから徒影5号が襲い掛かり、3名を盾にしたリーダー格ら
しき2名が逃亡したらしい。
すぐに追うことができなかったのは女性が襲撃者の存在に気付き、
とっさにマナガルムをかばったので襲撃者の棍棒の1撃が背中に当
たり重傷を負い治療するため離れられなくなってしまったのだった。
1646
残党狩りは順調に進んでるっす。
女性の折れた肋骨が内臓の複数の臓器や横隔膜までを傷つけていて、
相当な重傷で出血がひどく徒影2体でハイヒールとハイポーション
を掛け続けるしか女性の生命維持が出来なかった。
長時間の移動に耐えられないと判断した徒影は一番近い施設のこの
格闘場に運んできた。
今日のこの時間のこの治療室で医師と看護師とガスで、たまたま偶
然だが今後のトーナメント時の治療報酬をどうするかという話し合
いがあり、全医師と全看護師を集めての意見交換会だったために・・
・何とか治療を任せて徒影2号が俺に連絡することができるように
なり、奇跡的に俺が来るまで命を持たせる事が出来た。
とりあえず女性を助けることが最優先なので、必死で治療にあたっ
ていたこともあり・・・敵が誰なのかもわからない状況らしいな。
任侠ギルドはサブマスター襲撃でサブマスターは軽傷で済んだがそ
ばにいた女性が重傷という情報を聞いて﹃売られたケンカは買う!
報復だ!﹄と言って沸き立ってしまっているようだ。
これが初めてのサブマスター襲撃ではないし、今回はマヅゲーラで
働く女性の重傷のケガ人まで出てるので任侠ギルドの面目の問題ま
で発生してる。
ガスを任侠ギルド本部に転送魔法で戻らせて全職員を落ち着かせて
勝手に動かないように厳命した。
半端に動き出されるとこちらの動きを敵に知られて逃げられてしま
う恐れがあるからな。
そこで以前からマナガルムも徒影もすでに何度かの襲撃は受けてい
るとの報告があったので両者に詳しく話を聞く事にしたんだが・・・
1647
今までは敵の組織の姿がまったく見えてこないらしく、敵の目的も
わからないみたいだ。
捕えられるのは下っ端ばかりで幹部クラスはまだ誰も捕えることが
できなかった。
1度チャンスはあったのだが自害したようだ・・・徹底してるな。
敵が何の目的で襲撃してるのかすら把握できないので全部が後手に
回ってしまい、こちらサイドからは敵の攻撃を受け続けているだけ
という・・・いい様にやられてしまってるな。
昨日も路上で襲撃されたので今夜は徒影の護衛を増やし敵の痕跡を
探ろうとしていたのだが、今回は裏をかかれて路上で襲うのではな
く女性宅にあらかじめ侵入させていた襲撃者にやられてしまったみ
たいだ。
徒影のアイテムボックスに入っていた襲撃者3人の死体を俺のアイ
テムボックスに転送して詳しく解析したが出てくる情報は少なかっ
たが・・・3人のアイテムボックスに入っていたメモから、共通の
寝床となっていた場所と幹部らしき逃亡者と密会していた場所が判
明したので、応援に来ていた徒影と忍を使って周辺を探らせる。
アマテラスにもらった﹃釣りMAP﹄は釣れる場所の情報だけでな
く、この西方のウェルヅ大陸のすべてが網羅されてるMAPになっ
てるので物凄い情報量がある。
このマヅゲーラにある全部の建物の正確な見取り図まで入っている
のだ。
・・・非常に便利でいいんだけど・・・アマテラスはこれで俺にま
た何かさせたいんだろうなと勘ぐってしまうほどストレスは溜まっ
てるがな。
重傷の怪我をした2名が探っていた寝床近くの路上で発見したとの
情報が忍からあり、俺はマナガルムに断りを入れて1人で現場に転
1648
移魔法で跳ぶ。
虫の息の2名だが襲撃者でトカゲのしっぽ切りされた感が濃厚なの
で、惜しげもなくエクストラヒールで2名を完全復活させた。
10名以上のヤツラの俺を見てる感覚があるので誘い出されたよう
だ。
遠見魔法で2つの場所から俺も見てる事まで分かった。
遠見魔法と鑑識魔法を使ってマヅゲーラの南側の街から見てるヤツ
ラの場所へ忍3体・徒影2体ずつを両方に転送魔法で送り探らせて
から突入して襲撃させる。
俺が来たからには手繰り寄せた敵のしっぽをつかんで引きずりだし
て皆殺しに決定だ。
俺は2名を復活させると隷属の首輪をはめて転送魔法で2名を任侠
ギルド本部に送った。
本部にいる徒影3号に念輪で指示を送り、ガスと共同でこの2名の
尋問は任せて、俺は目の前にいる襲撃者の追い込みを始めることに
する。
﹁さぁ、俺の使った魔法が君らにはないかわかるか? 君たちと俺
とのレベルの差が理解できたかな?﹂
﹁・・・﹂
﹁もしかしてまだ逃げられると思ってる? 案外おめでたいヤツラ
だな﹂
﹁・・・﹂
﹁アッハッハッハ、周囲をキョロキョロしても誰もいないから安心
していいよ。お前らは俺と任侠ギルドにケンカを売ったんだからも
う許さんよ﹂
俺はここで逃走しようとした10名全員に移動禁止の封印を掛ける
と、10名が俺の目の前に転送されてしまう。
1649
コイツらを逃がすつもりはない。
逃げられないとわからないレベルのバカなんだろう。
全員が必死に走って逃げようと足を動かしているが、動くのは足だ
けで全く俺から離れられない。
コイツらには知っている情報を全部を語ってもらう必要がある。
全員に隷属の首輪を装備させてから10人に掛けた封印を解除、1
人残らず任侠ギルドに送った。
遠見魔法を使って俺を監視しようとしていたヤツと周囲にいた関係
者を徒影と忍が乗り込んでショック魔法を使用、全員無傷で確保す
ることができたので隷属の首輪をはめさせてから、俺が魔法で全員
を任侠ギルドに転送して・・・とりあえずは情報収集で敵を探る作
業に入る。
アイテムボックスで忍を10体ほど新たに製造してマヅゲーラの街
に放ち、今後の活動の情報収集と徒影のフォローをさせることにし
た。
シーパラから応援に来てくれてた徒影10体と忍10体は任務が終
わったので撤収させる。
・・・任侠ギルド本部はすごい事になってそうだが、今回の事件は
任侠ギルドの揉め事なので俺は積極的に介入するつもりはない・・・
ただ手助けしただけだ。
闘技場の治療室の近くの応接にいるマナガルムの前に転移した。
﹁ボス、ありがとうございます。ボスのおかげで誰も犠牲を出さず
に彼女を救う事が出来ました﹂
﹁俺もちょっと忙しくてマナガルムにはこのマヅゲーラと任侠ギル
ドを押し付けてしまってるからな、これぐらいは容易いことだよ﹂
﹁徒影達もワシも今まで襲撃を路上で2回ずつ攻撃されていて、知
らないうちに襲撃は路上という自分勝手な固定観念が出来てしまっ
1650
ていたようだった。今回はその油断に足を掬われた形になってしま
った。誠に申し訳ない﹂
マナガルムが頭を下げるが肩を叩いて﹃問題ないから謝らなくてい
い﹄と伝える。
それに女性も無事だったようで安心だな。
マナガルムに今回の件に係わったと思われるヤツラを全員捕獲して
任侠ギルド本部に全員送ったので後は任せると言おうとした時に、
ドアが開いてセバスチャンと女性が応接室に現れた。
マナガルムは俺が助けた女性と無事を喜んで抱き合っている。
それから自己紹介が始まった。
き
女性の名前は﹃アビーノ・キリサキ﹄額に2本の小さな角を持ち、
じん
少し緑がかった肌でエルフのような尖った耳・・・魔族の中の﹃鬼
人魔族﹄という話だった。
巨人族系獣人の鬼獣人とは違って身長は俺とほとんど変わらない1
70cmぐらい。
長命の魔族の一員なので実はマナガルムと年齢が近くてアビーノの
年齢は350才を超えている。
2人はかなり前からの知り合いだったけどマナガルムが口説いたの
は初めてらしかった。
3人で雑談をしてるさなかに任侠ギルド本部にいる徒影3号から念
輪連絡が入った。
﹁敵の組織の全体像と本拠地が割れました。早急に突入する予定で
すがご主人様はいかがされますか?﹂
﹁了解。全員連れて本部に戻るのでちょっと待っててくれ﹂
マナガルムに手早く説明をしてから安全確保のために、俺・セバス
1651
チャン・徒影2号・5号・マナガルム・アビーノを連れて転移魔法
を使って任侠ギルド本部ギルドマスター宿直室にとんだ。
俺たちが到着するとちょうど応接室からガスと徒影3号が入ってき
たところだった。
宿直室にアビーノと護衛のセバスチャンを残して残りは応接室に行
って詳しい状況を説明してもらった。
敵の組織は俺が今まで潰した組織﹃天上天下商会﹄﹃ザイモア商会﹄
﹃アントローグ商会﹄﹃昇竜商会﹄などの元々繋がりのあった組織
の末端にいた幹部連中が生き残りを集めて、捜査の追手を逃れて警
備隊や聖騎士団が存在しないマヅゲーラの街に入り込んで隠れ家に
潜伏していた。
そうさつたい
50人以上という大人数になってきたので任侠ギルドに戦争を吹っ
かけてきた。
彼らは・・・早乙女抹殺を目指して﹃早殺隊﹄と名乗っていた。
俺を逆恨みしてるヤツラの犯行かよ・・・
活動資金は潰された組織から持ち出した宝石や貴重アイテムなどの、
換金しやすいものから活動資金に充てていたみたいだ。
マヅゲーラの中にあった昇竜商会の末端組織の﹃ダークネス商会﹄
が隠れ家などを提供していて、その商会の本部がアジトなんだそう
だ。
存在すら知らなかったなダークネス商会なんて。
俺が強制捜査で知り得た情報ではマヅゲーラにあった昇竜商会の末
端組織は1つだけだと思ってたので、そちらは即座に徒影5体で叩
き潰していたし・・・
俺が徒影5体に招集命令を出すとマナガルムとガスも参加したいと
言ってきた。
ガスに任侠ギルド本部の防衛はどうなるのか聞いたら、ガスと同期
1652
で任侠ギルド幹部の﹃バクト兄弟﹄という鬼獣人がいて彼ら2名は
盾職で元Cランクの冒険者で、任侠ギルドの本部防衛を10年以上
も務めて拠点防衛に手馴れているんだそうだ。
今現在は緊急招集で任侠ギルド本部の防衛に入っているので安心だ
と説明してくれた。
それなら安心できるかなと俺を含めた8人でカチコミをすることに
決定。
マヅゲーラの街に展開していた忍10体のうち5体を敵の隠れ家周
辺に展開させて先行で探らせる。
マナガルムとガスが装備に着替えるまで待ってから2人に光魔法﹃
聖者の福音﹄を掛けた。
これは敵の幹部の中に闇魔法﹃洗脳﹄の使い手がいるとの情報があ
ったので、闇魔法の精神攻撃を無効化する光魔法を使用した。
隠れ家に突撃する前に任侠ギルド本部内で打ち合わせを済ませてお
く。
俺は今回はサポートに徹してカチコミはマナガルム・ガス・徒影5
体の7人の任侠ギルド最高幹部連で始末させることに決定する。
転移魔法で隠れ家の正門前に移動して、まずはいつものように隠れ
家全域に厳重な封印結界を掛ける。
移動禁止の封印と音漏れ禁止の結界も掛けてからカチコミ開始のス
タートだ。
マナガルムの大剣で正門門扉を叩き壊してから8人は中に侵入して
暴れ始める。
俺は正門の外で隠者スキルで気配を完全に断ち腕を組んで見学。
隠れ家の構造も複雑なものじゃないし罠や鍵は解除されてるので、
生き残り総勢41名らしいからここで10分ほど待ってるだけで終
了だな。
1653
マナガルムたちが死体回収までの処分を終えて隠れ家から出てきた
のは7分後だった。
ここの土地建物は任侠ギルドで回収し直属の土地になる。
マナガルムの新居をここに作ってやることにした。
この土地は任侠ギルド本部から歩いて5分ほどにあるので便利でい
いだろう。
サブマスターの新居として使えるように俺は残って改築することに
したのでガスと徒影5体は転送魔法で任侠ギルド本部に帰還させる。
俺はマナガルムの要望を聞きながら20分ほどで敵のアジトを地上
3階建て地下に倉庫ありを完全に作り変えた。
外見だけは全く一緒だが中身は全く違う・・・2階建ての中2階の
ロフト付きにして地下室は広げて倉庫ではなくワインセラーと俺の
転移室にした。
転移室には簡易ゲートをヨークルの早乙女商会ヨークル支部に繋げ
ておいて、いざという時の逃走経路としてマナガルムに教えておく。
﹁それにしてもボスの多種多様な魔法と技術にワシは驚かされっぱ
なしですな﹂
﹁まぁ、他言無用で頼む﹂
﹁ワシが言ったところで目の前で見せられない限り誰も信用しない
レベルですよ。ワシも他人から聞かされたらまず信用しないでしょ
う﹂
﹁今回は俺のせいでアビーノさんにまで迷惑をかけたんだから、お
詫びとして受け取ってくれ。マナガルムはアビーノさんと結婚する
気なんだろう? ここに一緒に住んでくれると安全だからとついで
にプロポーズしたらどうだ?﹂
﹁な・・・そうだな・・・アビーノの安全の為にもそうした方がい
いな。これからプロポーズしてくるよ﹂
1654
ついでに俺はこの敷地防衛のためにアイテムボックスから取り出し
た忍3体をマナガルムに紹介しておく。
2体は敷地防衛で1体はアビーノを陰ながら護衛することにした。
俺はマナガルムを連れて宿直室に転移、アビーノをプロポーズする
マナガルムを残してセバスチャンを連れて部屋の外に出る。
応接室で座ってセバスチャンが入れてくれたコーヒーを飲んでると
ガスがノックしてから部屋にやってきて最終報告を受けた。
今回の騒動を引き起こした敵は組織もサポートしていた組織も完全
に潰すことができた。
俺が捕えた連中も全部の情報を引き出した後に処分が終えてガスか
ら隷属の首輪を返却された。
これ以上の生き残りの存在は確認できないというか・・・横のつな
がりがほぼないので末端幹部程度にはこれ以上の情報は無かったと
いう話だった。
﹁という事で、これで終わりだな。ガスにお願いしたいのは任侠ギ
ルドが把握できてなかった裏組織の発見・潜入・捜査は徒影達に任
せろ。突入して殲滅するのはマナガルムと任侠ギルドで頼む。誘拐
されてきていたような被害者は教会シーパラ本部の﹃アーシェル・
ペスカトーレ枢機卿﹄と﹃シル・バリトネット司教﹄宛で護送して
やってくれ。護送前に俺に連絡を必ず入れるようにな・・・教会に
は恩を売っておくさ﹂
﹁了解しました。任侠ギルドは闇組織壊滅に動くという事を全職員
に徹底させます﹂
﹁ああ、頼む。今後はどんなガセっぽい情報でもいいからガスにま
で上げるようにしておいてくれ。ガセかどうかの確認は徒影達が行
い俺に報告させるようにしてある﹂
﹁わかりました。お店で働く女性達からの情報はいかがしますか?﹂
﹁全部徒影達に伝えてくれ。後・・・女性達だけでなく男娼達には
1655
任侠ギルドって係わってるのか?﹂
﹁任侠ギルドの扱いは働く女性達と取扱いに全く変わりませんね。
貴重な情報源&収入源であるために働く人達の保護は任侠ギルドの
義務でもありますので﹂
﹁わかった、引き続き頼む。では俺はそろそろ帰らせてもらうよ﹂
﹁お疲れ様でしたボス﹂
俺が飲んでいたコーヒーのマグカップをアイテムボックスに入れて、
応接室のソファーから立ち上がった時にマナガルムはアビーノの肩
を抱いて宿直室から出てきた。
プロポーズが成功したみたいだな。
このまま二人は俺がプレゼントした新居で生活するようだ。
徒影1号と4号の2体に新居まで送らせることにして、俺とマナガ
ルムは今日は解散となった。
ガスはこのまま任侠ギルド職員たちに今日の出来事をかいつまんで
説明してから、今後の方針を伝える緊急幹部会議を開くと言って部
屋を出て行った。
俺も全部終わったのでセバスチャンを連れて早乙女邸に転移魔法で
帰宅した。
嫁達はすでに熟睡中の深夜12時・・・風呂に入ることにする。
露店風呂のある外に出てみると今夜は月はすでに沈んでいて満点の
星空の下で﹃星見酒﹄を楽しむ。
ドルガーブで購入した辛口の大吟醸で、つまみは塩茹でしたソラマ
メと小魚の素揚げ。
満点の星明りを堪能するために露天風呂で光る魔道ランプをすべて
消した。
すべての魔眼を持つ俺に暗闇は存在しない。
これはいい・・・ムードも満点になったな。
1656
体が火照ってきたので露天風呂の周囲の岩に腰を下ろして足だけを
入れて星見酒を堪能する。
風呂から上がり体を石鹸で洗って今度は内風呂に入ってから外に出
る。
素っ裸で温泉で火照る体の上にガウンを1枚羽織り、リビングに戻
って酒をウイスキーの水割りに切り替えてつまみはビターなチョコ
レートにした。
飲みながら最近溜まっていた報告をまとめてもらい、念輪のパーテ
ィーラインをつないでゴーレムによる報告会を開催することにした。
モフモフ天国各店の売り上げと苦情などの報告から・・・
ヨークルは2店舗つくったことで客の入りは落着きを取り戻したよ
うだ。
まだ多少並ぶ時間帯はあるようだが混雑するまでには至っていない。
シーパラ店は少しずつ順調に客の入りを増やしているようで固定客
も増加の傾向にあるとの報告。
苦情は今のところ上がってないみたい。
アマテラスから魔法ミルクポットをもらったので供給に不安がなく
なったので、明日からメニューに﹃ホットミルク﹄と﹃アイスミル
ク﹄を入れることに決定する。
練乳付きはサービスだ。
ユーロンド達からヨークルの早乙女邸は封印結界が俺の特別製で強
力なので人数を減らせるのではないかという報告があった。
今現在は8人のユーロンドで組織されてるが早乙女邸横の倉庫まで
込みでも、5体でも余裕があるほどらしい。
モフモフ天国ヨークル2号店ではユーロンド5体となっているのも、
ヨークルの悪党が激減したおかげで3体でも行けるという・・・
早乙女邸のユーロンド6・7・8号の3体をヨークル2号店に転送
1657
させて、今まで護衛任務に就いていた5体を転送魔法で俺のアイテ
ムボックス内に引き戻したが・・・考え直して早乙女工房に5体と
も送った。
あそこは敷地面積以上に最近は敵の襲撃の集中があるからな。
待機させておくだけでもいいだろう。
それの早乙女工房にはマヅゲーラとの簡易ゲートがあって行き来は
ゴーレムでもできる。
いざという時の応援もできるので一石二鳥だろう。
逆に徒影からマヅゲーラの徒影を増やしてほしいとの依頼があった
ので、俺はアイテムボックス内で10体の徒影を作成して任侠ギル
ドでマスター権限で登録をしてから、転送魔法でマヅゲーラに送っ
た。
しばらくの間は裏組織壊滅作戦の実施中なので15体の徒影で問題
解決と要人護衛任務に就かせる。
忍も10体余分に作成して一緒にマヅゲーラに送った。
マヅゲーラは徒影15体と忍23体の厳戒態勢となったな。
ユーロンドも応援が可能できるようになってる。
セバスチャンより最後の質問された。
﹁ご主人様にご報告が・・・私が看病していた﹃アビーノ・キリサ
キ﹄様から譫言で明らかに敵襲撃者の幹部の名前を言っていました
がいかがなされますか?﹂
﹁俺が鑑識魔法でアビーノと敵幹部の両方を調べた限りでは・・・
2人共の脳内を全部調べたわけではないが俺の鑑識魔法では店の常
連という情報しか出なかったな。これは極秘だが忍にはアビーノの
護衛と﹃監視﹄を言い渡してる。マナガルム邸に残した忍は特別製
で鑑識魔法が使えるようにしてある。変な動きがあった場合は徒影
に連絡があってすぐさま対処できるよう指示も済ませてる。マナガ
1658
ルムには忍1体が必ず護衛につくと伝えたが、正確には2体がアビ
ーノに付きっ切りとなるように手配した﹂
﹁という事はしばらく泳がすという事でよろしいですか?﹂
﹁ああ、そうなるな・・・俺たちが抱えてる秘密は大きい。ほんの
少しでも引っ掛かりがあるなら完全に疑いが消えるまでは警戒は解
けないな。アビーノには、はるか昔に洗脳された痕跡があった﹂
﹁洗脳の痕跡があったのに泳がすのですか?﹂
﹁アビーノの洗脳の痕跡はマナガルムにすら会ってない頃のもので
300年以上前だ。今回の事件とは関係がないとは思うがな・・・
何かしらのキッカケでトラウマが発動する可能性もあるしな。だか
らアビーノを﹃監視﹄するんだ。何かしらの組織が接触を図ってく
る可能性が否定できないからな﹂
﹁なるほど、了解しました。それと昨日・一昨日のフォクサの故郷
のことなのですが・・・﹂
ウェルヅ大陸北の山岳部には温泉の地熱があって野菜が豊富に自生
していたと報告があった。
しかも海風の影響かミネラル豊富で野菜も俺の想像していたモノの
倍ほどの大きさだった。
海岸部には海藻も多く昆布・ワカメ・ヒジキなどもデカいし豊富。
それらを食べて生活していた魚介類が巨大化して魔獣へと変化して
いったようだ。
それと温泉と同じように洞窟もたくさんあってセバスチャンとマリ
アが俺用でフォクサに狐魔獣が使用していない人間用の小さな洞窟
を貰って改造してきてくれたみたいだな。
MAPで詳しい場所を聞き登録しておき、セバスチャンとマリアに
深夜の暇な時間にでも改造しておくように指示を出した。
それといくつかの洞窟内にウドやホワイトアスパラなんかも自生し
ていたようなので、洞窟内での栽培する野菜を研究してもらうこと
にした。
1659
今日の報告会はこれで終了だな。
リビングのテーブルの上に広げてあったモノをアイテムボックスに
入れてから、セバスチャンのアイテムボックスに明日の嫁達のダン
ジョンアタック用にキャンピングバスを送って、俺は寝室に行って
寝ることにした。
翌朝は8時に起床した。
天気は薄く曇ってて少し湿度が高いので今夜から雨が降りそうだな。
風は微風で昨日とほぼ変化なし。
るびのと嫁達はセバスチャンとマリアとフォクサとともに出かけて
行った。
ブランディックスダンジョンのB7Fからの攻略再開をすでに始め
ているだろう。
俺はクロに起こしてもらい早乙女邸1Fのダイニングで朝食をとる。
今朝は自作でチョココロネを作ってみたら大成功だったんで手が空
いてるメイドゴーレムに作っておいてもらうように指示を飛ばした。
今日は赤系のチェックのシャツ・真っ白のTシャツ・黒系のジーン
ズ・茶褐色のワイバーンの革製ロングブーツというおよそ冒険者ら
しくないファッションに着替えてから早乙女工房に転移した。
早乙女工房の2Fに応接室をこれから作ることにする。
転送室からパーテーションで強引に仕切って、途中でいくつかの扉
を作るが全部ダミーだ。
パーテーションで仕切られた応接室を作成した。
豪勢というわけではないがそこそこぐらいは客を出迎える雰囲気を
出す。
ソファーやテーブルにそれなりのゴージャス感を出した・・・ユマ
1660
キ家でこの国の金持ちのゴージャスさは見てきたので、ソックリに
なりすぎないように作り上げていく。
9時ちょうどに教会の人間が先にやってきたようなので先に会うこ
とにした。
ちなみに面識のない人間からのパーティーの誘いは今朝の7時に返
事を聞きに来たらしく、2組ともユーロンドによって俺直筆の手紙
を持って追い返されてる。
使者では俺のサイン入りの手紙の入った封筒を開封することはでき
ないから一度持ち帰るしかない。
時間稼ぎでしかないので、そのうちまた来るだろうが今度は何と言
って誘ってくるのかの反応が知りたかっただけだったりする。
ワザとイラつかせるような挑発的な返答を出したので、今後の対応
次第ではパーティーに参加しても良いぐらいには思ってる。
教会の使者の人間はメガネを光らせながらニヤニヤと俺を見下した
視線で、上から下まで嘗め回す様に俺を見てから鼻で嘲笑うような
教官だったので、アイテムボックス内でこんなカスを寄越した大司
教の露草桜に宛てて文句をしたためて作成した手紙を、その男に返
事だと言って渡した。
これにも俺のサインが入っているし宛先の露草桜の名前まで入って
るので使者には開封できない。
目の前で手紙を書いた訳じゃなくアイテムボックスからさも用意し
てましたというように封印された手紙を出したので、この男は桜に
怒られてから驚愕するだろう。
ちなみに教会の司祭教育の指導教師への教育は﹃ちょっと待ってて
ほしい﹄という1文が最後の1行に書かれてるだけで、それ以外は
コイツの再教育法についてミッチリと便箋5枚に分けられて書かれ
ていたりする。
1661
俺が露草桜宛の手紙を渡したことでうれしそうな顔をしたので・・・
桜に惚れてるなこのバカ・・・この後の君には説教され手再教育を
命じられる運命だけど・・・ご褒美になっちゃったかな?
再指導方法の超スパルタ教育の指示は手紙に書いた・・・最終試験
が聖騎士団の1ヶ月入隊︵笑︶
・・・だけど俺は教育者じゃないからな。まぁ、その辺もコミで桜
に任せておく。
桜に手紙を渡せるので直接会えるチャンスに顔を火照らせながらバ
カメガネ君は飛び跳ねるように帰って行った。
あえてこんな奴を送ってきた露草桜の真意は教官の質の低下を悩ん
でいて、再教育を俺にマジで頼みたかったのと、このカスの処分を
公式にするために俺に頼みたかったんだろうとまで読めたので、全
部乗っかって本人に手紙を持たせてやった・・・自分が処分される
証拠付きの手紙だ。
教会からの鼻持ちならない使者が帰っていくと今度はフォンマイ家
からの使者がすでに待機しているので、引き続き応接室に籠りっき
りになってしまってるな。
今夜の夕方17時になら行けると返事を伝えると、この早乙女工房
に迎えのゴーレム馬車を送りますと言って帰って行った。
こちらはスムーズに終わる。
もう一人もスムーズだ・・・今から一緒に冒険者ギルド本部に行く
んだからな。
しかも使者となって来たのは俺と周知の人間・・・いや、正確には
人間ではなく犬獣人の﹃ニール・オスキャル﹄だ。
会話も簡単で挨拶と握手を済ませると即移動を開始する。
早乙女工房のメイドゴーレムとユーロンドに今日の早朝に追い返し
たヤツラがそろそろ新しい手を考えて、やってくると思うので警戒
しておくように念輪で指示をだした。
1662
ニールが乗ってきたゴーレム馬車に乗り込んですぐに冒険者ギルド
本部に到着する。
歩いていくことができるほどすぐ近所だしな・・・まぁこれも形式
通りってことになるんだろう。
冒険者ギルド本部の中に入るときに冒険者ギルドのAランクカード
を提示して中に入っていくと、受付の横のシートにビッタート卿が
座っていた。
ニールはここまででお役御免なようだ・・・ニールと別れて今度は
ビッタート卿に先導されて冒険者ギルド本部のギルドマスター室に
案内される。
ギルドマスター室の扉を見てビックリした・・・扉の目線の高さに
あるネームプレートがすでに青木勘十郎からアクセルビッタートに
変更されていたからだった。
俺が横にいるビッタート卿の顔を見ると、俺の目線の意味に気付い
たビッタート卿はすでに諦めの境地に入っている笑顔で笑ってた・・
・すでに悟りを開いてそうだ。
ビッタート卿がノックをして中に入っていくと応接室のソファーに
座っていた青木が立ち上がって俺を出迎えてくれた。
﹁ワザワザ呼び出しして済まないな早乙女君。扉のネームプレート
を見て分かるように今日から正式に冒険者ギルド本部ギルドマスタ
ーはアクセルが就任することになった。俺は20日間ほど引継ぎを
手伝って、晴れて冒険者に戻れるよ﹂
﹁それはおめでとうございますと言った方がいいのかな?﹂
﹁青木君にとっては喜ばしいことだけど、ワシにとっては悲劇の始
まりだがな﹂
﹁まぁまぁビッタート卿には楽してもらえるようにギルド本部に巣
食ってる悪党共は、早乙女君の協力のおかげで早期解決が出来たん
1663
だ。俺は冒険者ギルド本部理事会に巣食う悪党理事3人を一緒に引
退に追い込むことが成功したから、これからビッタート卿にはギル
ド本部の幹部育成をお願いしておきますよ﹂
こんな感じの緩い雑談で﹃俺﹄﹃青木勘十郎﹄﹃アクセル・ビッタ
ート﹄の3者会談は始まった。
1664
早乙女家の紋章が決定した後のフォンマイ騒動再びっす。︵前書
き︶
10・31修正しました。
1665
早乙女家の紋章が決定した後のフォンマイ騒動再びっす。
﹁あ、そういえば早乙女君に渡さなくてはいけないものがありまし
たね﹂
ビッタート卿が話しながら自分のアイテムボックスから魔水晶と契
約書などの束を取り出して俺に見せる。
ゴルドル
俺が今まで討伐した盗賊や迷族の所持金や最近、俺を襲撃してきた
ヤツラの治療費などがすべて溜まって来ていたようで総額11億G
程になっていた。
それを全部の書類を確認しながら入金を確認して契約書と受け取り
のサインをして冒険者ギルドカードに入金していく。
・・・なかなか骨の折れる仕事が残っていたようだ。
それで長時間ついでに手が空いてて俺とビッタート卿を眺めてるだ
けの青木に、今までの大森林の魔獣の巣などやダンジョンアタック
で拾ったステータスカードと、任侠ギルドトーナメントや任侠ギル
ドに所属している徒影が殺害したヤツラのステータスカードも全部
提出した。
その数は400枚ほど・・・卯月要市朗などのステータスカードも
入ってる。
青木は全部を確認するのに長時間を要するのでまた何日か後に連絡
するといって外に走って行った。
外から戻ってきた青木がまだ作業中の俺とビッタート卿の分のコー
ヒーを入れてくれた。
1時間以上の時間がかかってやっとすべてが終わった・・・すでに
時刻は午前11時半に近い。
1666
青木に昼食を誘われて・・・場所が俺の行った事のないところで、
話を聞いて早急に済ませないといけない用事があったので誘いを受
けることにした。
﹁早乙女君、昼食なんだけど我々と一緒に評議会の最上階の展望レ
ストランで食べないか?﹂
﹁それは行った事のない場所ですね。俺を連れて行く用事が何かが
あるんですか?﹂
﹁ああ、ラザニードから聞いてると思うが早乙女君もAクラスに昇
進したんで﹃紋章﹄を早急に作る必要がある。評議会の紋章師から
せっつかれていてね・・・今日の昼に会って一緒に会食する予定だ
ったんだ。君を連れて行けばワシらの仕事は終わりさ。それとも何
か用事があったかな?﹂
﹁用事は今日の夕方5時まで大丈夫です。紋章かぁ・・・ハッキリ
言って忘れてましたね﹂
﹁ふつうはすぐに来るものだと言って紋章師の方も困惑しておった
よ。遅くなるっていう連絡もないので痺れを切らせて冒険者ギルド
に問い合わせが来たんだ﹂
﹁それは申し訳なかったですね。昨日までドルガーブの列車の旅を
楽しんでいましたんで連絡するってどころか、紋章の存在すら忘れ
てました﹂
﹁アッハッハッハ、やはり俺とアクセルも見込んだ通り早乙女君は
面白い男だな。まぉ、参考になればと思って今から俺の紋章を見せ
てあげるよ﹂
青木の提案でミスリルプレートに刻まれて色づけされている﹃紋章
プレート﹄なるものを青木の分とビッタート卿の分を見せてもらっ
た。
青木は弓と薙刀が中央で交差して描かれていて四隅には撫子が描か
れている。
1667
意味は武器の二つは青木家のメイン武器とサブ武器で・・・撫子は
青木が一番好きな花でこの3つの組み合わせは他国にもなかったか
ら決定された。
ビッタート卿のはチェッカーフラッグのような交互に黒白になって
いる。
真ん中に円が描かれていて、円の中には家紋の三つ巴のような模様
がありそれぞれ色が金・銀・グレーとなっている。
意味はダークエルフで白黒の模様を混ぜて真ん中の模様は・・・悩
んでたら天啓がおりたと言ってる。
パッと見だけど紋章に家紋が混じってる感じだな。
俺はどうしようかな・・・そういえば早乙女家の家紋ってなんだっ
かんざくら
たっけ?
確か﹃鐶桜﹄って言って幾何学模様みたいなヤツだったけど、細か
いところまで覚えてないや・・・と悩んでいたら、るびのの顔が浮
かんだので白虎で描こうかな。
白虎と鐶桜を足したのは他にいないだろう。
俺は悩んだままビッタート卿と青木に連れられて初めて評議会に行
くことになった。
ゴーレム馬車で行くことになったんだけどこちらも近くてすぐに到
着・・・ホントなら歩いていった方が早いレベルだ。
新旧の冒険者ギルド本部ギルドマスターが先導して俺が後を付いて
いってるので、評議会の中に入っていくのにも係わらずVIP待遇
になってる。
入り口で冒険者ギルドカードを一度提示しただけで転送部屋に入っ
て最上階の展望レストランへ。
最高評議会とは高さが違うので最高評議会側はキッチンがあって見
えないようにしてあるのだが、3方向の展望は素晴らしいの一言で
終わってしまうのがもったいないほどの景色だ。
1668
個室に通されると既に紋章師らしき女性が着席していた。
まずは挨拶から済ます。
評議会に所属していて学術ギルドに所属している公式の紋章師・・・
世界中で100人程しかいない紋章師で、紋章師ギルドに所属でき
ふくろう
るようになるまで100年かかると言われてる・・・に所属する﹃
モモコ・セントルーク﹄さんで梟獣人の女性だった。
梟獣人の翼はすでに退化して小さくなってしまっているので飛ぶこ
とはできないが、ちゃんと自分の意志で動かすことのできる翼をも
っている・・・翼以外は人間と外見は変わらないな。
鳥系獣人のなかでも梟獣人の数は非常に少なくて、純粋な梟獣人は
イーデスハリスの世界中で1万に満たないと言われている。
異常なまでの知識欲とプライドの高い種族らしいって聞いてはいる
けど、目の前の女性からは高慢な様子はうかがえないな。
昼食はイタリアンの肉料理のフルコースだった。
紋章を考えるのは食後にして今は雑談と食事を楽しむ。
俺の完璧なテーブルマナーを見て、青木・ビッタート卿・モモコは
それぞれに俺のことを探るような目で見てくるが、聞かれてもいな
い事を言うはずもなく沈黙で答える。
モモコさんは中央大陸の山岳部にある狐獣人と梟獣人が数多くいる
王国でドワーフによって創られた﹃地底王国﹄の出身。
地底王国は強大なドワーフの武力によって守られた国、狐獣人と梟
獣人だけでなく中央大陸のエルフの王族によって迫害を受けた希少
民族を保護して今までに数多くのエルフの王国を叩き潰した国でも
ある。
なにしろ好戦的なエルフ王国が何度攻め込んでもビクともしないほ
ど、中央大陸山岳部の洞窟を全て繋いだダンジョン化しているよう
な地底王国の防御力は完璧だ。
1669
エルフが大軍で攻め込んだところで罠にハマって身動きが取れなく
なる頃には、ドワーフの別動隊によって本国が攻め込まれてしまう。
国が滅ぶ頃には軍は生き埋めにされて全滅という事が何度も繰り返
されている。
ドワーフは頑固一徹すぎるのでドワーフの民族内ではイジメや迫害
もあるが、対外的には平和主義者で売られたケンカしか買わないか
ら、エルフ以外の獣人国家とも人間国家とも中央大陸の教会総本山
とも仲が良くて連携して反撃してくるし、エルフの精霊魔法で守ら
れたエルフ本国の防御壁は地中から攻め込んでくるドワーフには全
く通じない。
地の精霊はドワーフの守護者でエルフと仲が悪く地中に張り巡らせ
た結界は無効化されてしまう。
エルフがドワーフに攻め込まなくても他の民族の救援要請には即座
に反応してエルフ王国の本国を攻撃して全部叩き潰されてしまう。
好戦的で高い技術力を誇るエルフが中央大陸で覇を唱えられなかっ
たのは天敵のドワーフが、エルフが住む森の隣の山岳地帯で要塞を
築いていたからだろう。
エルフが高慢なので目立たないが梟獣人もプライドは高いと聞いて
いたが﹃知識﹄に関するプライドが高そうってだけで、高慢とか他
人を見下すっていう雰囲気は一切なかった。
モモコは俺が知らなかったドワーフや梟獣人の話をしてくれた。
食後にデザートでチョコレートフォンデュが出てきたのはビビった・
・・ついこないだ俺が北の食料品市場のフルーツ屋大将に教えたば
かりなのに・・・
食事を運んでくれるウェイターに詳しく聞いたらパティシエが昨日、
北の食料品市場で売られているのを食べて即購入して業者と契約、
今日からメニューとして載せるんだそうだ。
これは女性のモモコよりもなぜか青木がハマってた・・・相当美味
1670
かったらしい。
売ってる店の場所を教えてあげるとホクホク顔で喜んでる・・・甘
党か?
話を聞いたら甘いスイーツも酒も大好きな両刀使いみたいだな。
食後のコーヒーの頃になると青木とビッタート卿は冒険者ギルドに
帰って行った。
俺はこれからモモコが評議会特別議員として与えられている部屋に
行って早乙女家の紋章を決めないとならないからな。
コーヒーを飲み終えてから今度はモモコに先導されてモモコの部屋
に向かった。
食事の料金はモモコの接待費で落ちるみたいでモモコの顔パスだっ
た。
部屋にたどり着く前に2回ほど冒険者ギルドカードのチェックを受
ける。
これでも最高評議会に比べたら緩い方だろう。
最高評議会での内部の移動は外部の人間の場合は必ず職員が先導し
ないといけないみたいだからな。
モモコの部屋に入ってから本格的に紋章の図案作成が始まった。
俺が考えた﹃白虎﹄と﹃鐶桜﹄の組み合わせは紙に書いてモモコに
見せたが類似する紋章はどこにもないようだったので、2人であれ
これと考えながら絵を描いていく。
あたりまえ
であって、それからさらに紋章を
紋章師がなぜ狭き門なのかというと世界中の貴族や冒険者が持つ紋
章を覚えることは
形にするという﹃絵心﹄が必要になる職業だからだ。
モモコも俺が描いたリアルな絵を遠くからでも見やすくてわかりや
すい模様に変えていく腕は凄い。
時間は2時間以上かかったが・・・面積いっぱいに広がる鐶桜の紋
様の中央部に略式化された図柄の白虎が正面を見据える紋章に決定
1671
した。色はシンプルに白黒のみ。
紙に書いた紋章を紋章師のスキル魔法によってミスリルプレートに
刻まれていって出来上がる。
白旗も同じようにスキル魔法で紋章がつけられた。
最後に俺の左手の人差し指のサイズに合わせた指輪にも判子のよう
に刻み込まれる。
これで手紙の封蝋に使用するんだそうだ。
しかも指輪の形をしているが誰も指輪としてはめない・・・デカ過
ぎるからな。
チェーンで首から下げてる人の方が多いらしいと、モモコから教え
てもらったのでアイテムボックス内で専用のチェーンを作っておい
た。
俺の紋章の入った﹃旗﹄﹃紋章ミスリルプレート﹄﹃印章リング﹄
の3点セットを受け取ると、紋章師ギルドで管理する俺の紋章が刻
まれたプレートにサインをして終了した。
俺は早乙女工房に歩いて帰ってフォンマイ家の迎えのゴーレム馬車
が来るまで最上階の居住区でノンビリすることにした。
セバスチャンと念輪をつないで報告を聞いたが嫁達は順調に罠解除
のスキルを成長させてるようだ。
嫁3人がマリアのサポートで罠解除の練習をして、るびのとフォク
サとセバスチャンが敵を排除している。
全員が今日のがんばりで罠解除スキルの中級まで到達できたのはは
喜ばしい。
あと1時間半ぐらい頑張って夕方5時半になったら帰宅する予定み
たいなので俺は今日は何時に帰ってこれるのか分からないから、普
通通り過ごすようにセバスチャンから伝えといてもらう。
迎えが来る時間まで1時間・・・暇だな。
1672
アイテムボックス内の整理をしてると釣り道具の設計図をもらって
いたのを忘れてたな。
素材はこのイーデスハリスの世界にあるものしかないので代用品を
考えながら製作した。
龍糸繊維・森林モンキーのしっぽ・ミスリル・オリハルコンなどを
ふんだんに使って作り上げていく。
何種類ものロッド・リール・ラインなども実験のように作る。
電動リールならぬ﹃魔道リール﹄も作ってみた。
実際に作ってみれば次回からは簡単にできるからな何種類かのロッ
ドを実際に取り出してみて振ってみたりした。
時間が近づいてきたので旅人の服に着替える・・・招待されてるん
だから正装の方が失礼はないだろう。
パーティー用の派手な旅人の服ではなくてシックな色合いのもので
宝石類は一切付けてない。
商談などで着るような服装だと思う。
これは自作の旅人の服でなく既製品。
腰には何もいらないのでホルダーそのものを全部外してただのベル
トにした。
そら
ブーツもワイバーン革製のブーツをそのまま履くことに。
早乙女工房専属メイドゴーレムの﹃空﹄から迎えが来たとの念輪連
絡が来たので居住区の玄関に行ってブーツを履いて、玄関の外の転
送部屋から1F受付横の転送部屋に移動した。
受付前にはフォンマイ家の有能そうな執事が迎えに来ていた。
さぁ、ゲルアーがフォンマイ家がフォンマイ商会がどうでてくるん
だろうか?
看破の魔眼とは違って瞳が赤く光ったりしないので見た目は全く分
からないが、執事にあった瞬間から﹃鑑識の魔眼﹄を解放した。
1673
御者も馬車も不審な点は全くないな。
罠は俺には精神系の攻撃は効果がないし傷つけることも不可能なの
で怖くも何ともない。
ワザと全部引っかかるつもりでいるんだが・・・俺がどんな反応を
するのかと考えてる相手の顔が見たいからな。
1番良いのは俺の考えすぎで杞憂で終わることなんだけど・・・ゲ
ルアーが俺にやられる前のイケイケっぷりと、シーズの先輩である
ゾリオンとかに対する言葉使いから考えると・・・周囲にそんなバ
カな取り巻きをたくさん置いていそうだし、俺自身が今日の会談が
無事済むとは思ってない。
ゴーレム馬車でフォンマイ家本宅まで移動する。
シーパラはヨークルとは違ってごく普通のゴーレム馬車でも微振動
はほぼない。
道路が完璧に整備されていて傷ついても自己修復の魔力で翌朝には
元通りだ。
ふつうのゴーレム馬車は自転車のようなタイヤ構造をしてるので微
振動は吸収できるようになってる。
高級車は車体と車軸の間には板バネが入っているので小石を踏んだ
時の振動はいつまでも続いてかえって不快だ・・・ダンパーを入れ
ればいいんだけど・・・そういえばユマキ商会にダンパーの話をす
るのを忘れてたな。
ゴーレム馬車が動き出してからそんなに時間もかからずにユマキ家
本宅とほぼ大きさが変わらないフォンマイ家本宅に到着した。
正門前でゴーレム馬車が停車してフォンマイ商会の幹部がゴーレム
馬車に乗り込んできて身分証明の提示を求められた。
執事がそんな話は聞いてないと立ち上がったところを幹部に押され
てヨロヨロと着席した。
俺がしぶしぶ冒険者ギルドカードを見せると・・・幹部がニヤニヤ
1674
しながら俺に命令してくる。
﹁これは冒険者ギルドカードですよね? 身分証明のカードと言っ
たらステータスカードでしょうが! これだから田舎者には困るん
だよ。早く出せ﹂
﹁そんな理不尽な話を聞いたこともないな﹂
﹁シーズの家にくるんだ、ステータスカードの全表示が当たり前っ
てことも知らないのか?﹂
﹁それが俺を客人として招いたゲルアー・シーズ・フォンマイの出
した答えなのか?﹂
﹁ゲルアー様は関係ない﹂
﹁全世界のどこの身分証明で冒険者ギルドAランクカードでは通用
しないなんて聞いたこともない。早くカードを返せ。俺はムカつい
たら相手を殺すことにしてるんだけど・・・お前も死にたいのか?﹂
俺の目がスッと細められると俺の体の中から殺気があふれだしてく
る。
俺に権力を振りかざした瞬間から俺の中にあるもらった記憶から殺
意が抑えられないほど溢れ出す。
ガクガクと震えて動かなくなった幹部の手から冒険者ギルドカード
を奪い返し、俺がゴーレム馬車から降りようと席を立った瞬間に幹
部が恐怖のあまり、腰に差していたナイフを抜いて俺の腹に突き立
てた。
俺の向かい側に座って一部始終の行動を見ていた執事が大声を出す。
叫び声で我に返った幹部は傷つけることさえできなかったナイフを
投げ捨ててゴーレム馬車から転がり落ちて出て行った。
﹁ぎゃーーー・・・って、刺さってないんですか?﹂
﹁お前らAランク冒険者を舐め過ぎだ。この程度のナマクラが刺さ
るわけないだろう︵ウソ︶﹂
1675
﹁あ、そうなんですか・・・﹂
﹁というよりも、執事のお前に聞く。これはゲルアーの指示なのか
?﹂
﹁いえ、身分証明なんて必要ないから早く連れてきてくれとしか聞
いてません﹂
﹁なるほどな。じゃあ、ゲルアーに言っとけ・・・この騒動はお前
がイケイケバカを重宝した結果がこうなんだと﹂
﹁以前よりゲルアー様に苦言してはいたのですが聞き入れてもらえ
ませんでした。なにしろゲルアー様自身がイケイケこそが正しいと
常日頃からおっしゃってましたし﹂
﹁じゃあ、俺がゴーレム馬車から降りたらお前は大至急正面玄関で
待ってるゲルアーに伝えてこい。御者も聞こえたな?﹂
﹁ハイ。了解です﹂
俺はヒラリとゴーレム馬車から飛び降りるとドアが開いたままゴー
レム馬車は走って行った。
正門はすでに閉じられていて、俺の周りを10人以上の警備の人間
と親衛隊が取り囲んでいる。
俺は周囲を取り囲む警備の人間に事情を説明した。
﹁俺はAランク冒険者にこないだ昇進した早乙女真一だ。お前らに
聞きたい! いつからフォンマイ家本宅に入る場合はステータスカ
ードの全表示が義務付けられたんだ?﹂
俺の問いかけに警備の隊長格の人間が答えた。
﹁そんな話は聞いたことがありません。そもそも早乙女さんに身分
証明は必要ないという指示しか聞いてません・・・お前どういう事
なんだ? お前は早乙女さんとは面識があるから挨拶がしたいと言
ってゴーレム馬車を止めさせたんだろうが﹂
1676
﹁俺とコイツが知り合い? っていうか、コイツってってバイサム
商会のスパイじゃん﹂
鑑識の魔眼が出っぱなしになってたからコイツの知りたくもない情
報まで俺の脳内に入ってくる。
スパイは俺に指摘されて逃走しようとしたが自分は警備隊に周囲に
おいて後ろから
﹃コイツを殺せー! 俺は殺されかけたんだ!﹄
と言っていたので逃げられるような隙間なんてない・・・即座に捕
まって取り押さえられる。
ここにきてようやくゲルアーがゴーレム馬車にも乗らずに走ってき
た。
ゴーレム馬車に乗って全部を見ていた執事も到着して全部の説明が
ゲルアーに報告された。
﹁早乙女さん、私共の不手際です。誠に申し訳ありません﹂
﹁まぁ、予想通りっていえば予想通りだよ。これからはフォンマイ
商会・フォンマイ家で働く者の中にスパイがいないか、真偽官を交
えて徹底的に調べた方が良いだろうな・・・これは氷山の一角でし
かないよ。それまで客は呼ぶな・・・じゃないとコイツ等スパイは
お前・フォンマイ家・フォンマイ商会の悪評を振りまきたいだけの
存在だからな。これもお前が招いた事だ・・・自分で始末しろ﹂
﹁わかりました﹂
﹁全部が終わったらまた手紙をくれ。今日のところは帰るよ。じゃ
あな﹂
そういって俺は帰宅することにした。
まだ明るいし雨はまだ降ってなかったのでホップボードに乗って早
乙女工房に帰ると・・・そういえば招かれてたのってあと3組いた
1677
な。
俺が早乙女工房に到着した時は騒動が収束したところだった。
ユーロンドからの報告を聞く。
1組は教会関係者でシル・バリトネット司教が手紙を持ってきただ
け・・・シルの持ってきた手紙を渡された。
あと2組がいつものように早乙女工房前で騒動を引き起こしたよう
だった。
俺を強引にでも連れてこいと命令されていたようで・・・ゴーレム
馬車3台で30人以上連れて同時に剣を抜いて襲撃してきた。
2つ合わせて60人以上いたがユーロンド2体に歯が立たず逃亡す
ることもできずに叩きのめされ全員失神して変則的な土下座状態に
させられた。
そこに国軍第二遊撃隊隊長で今は肩書きが変わって﹃最高評議会特
別捜査隊隊長 マスカー・フレデリック﹄が部下と一緒に歩いてき
て俺と飯でも食いに行こうと誘いに来たので、事情を聴いて大騒動
になってしまったらしい。
ユーロンドから事情を聴いたマスカーが隣にいた部下を走らせて警
備隊に連絡を取って、護送車で全員を国軍の訓練場に運んで行った。
マスカーは最高評議会の所属。
この2つの相手はシーズの家の関係者なので変な横ヤリが入らない
うちに事件を公開したいようだな。
事件を公開された後で圧力を掛けたら大火傷を負うことになるし、
マスカーとすれば貸しが作れるんだろうな。
ユーロンドに﹃明日にでもまた連絡するから、今度はゆっくり飯で
も食おうぜ﹄という俺への伝言だけを残して行っちゃったらしい。
早乙女工房が変な奴ホイホイになってるなぁ・・・と、ゲンナリし
た気分になってくる。
1678
あとはユーロンドに任せて俺は早乙女邸に帰宅した。
嫁達はまだ帰ってきてなかった・・・そういえば今日はフォクサ・
るびのを連れているのでキャンピングバスで移動してるとセバスチ
ャンが言ってたな。
早乙女工房からはセバスチャンかフォクサの転移魔法で帰ってくる
んだろうけど。
旅人の服の腹部でナイフを突き立てられた穴は修復して普段着のロ
ンTとジーンズに着替える。
ワザワザ着替えて気を使う必要すらなかったな・・・バカは自業自
得で浮き出てきてたし。
今夜の晩御飯は俺が作ることにした。
オーク肉とトロール肉の合挽きのハンバーグでつなぎにデカウサギ
の肉もワイバーンの出汁も混ぜる。
ハンバーグの中にチーズを入れてチーズハンバーグになった。
ハンバーグに掛けるソースにワイバーンの出汁を少し入れてデミグ
ラスソース風に仕上げた・・・メインディッシュは完成。
生野菜でサラダを作りスープは・・・焼いたマツタケを浮かべたお
吸い物にした。
土瓶蒸しは次回だな。
完成した頃に嫁達が帰ってきたんでそのまま晩御飯にした。
嫁達は帰りのキャンピングバスの中で着替えをしてきたみたいでダ
イニングテーブルに並べると食事がすぐに始まる。
るびのとフォクサはそのまま自分の部屋に行ったのでガレージで別
れてきたようだ。
俺も食事をし始めるが・・・このハンバーグは成功だな。
クロに指示して同じ作り方でおかわりを作ってもらい、マリアに指
示してハンバーガー用のパティもこの作り方で作っておいてもらう。
美味しかったのでおかわりをしたら嫁も一緒におかわりしてた。
1679
2枚目を大根おろしとポン酢でいただこうとしたら・・・無言で嫁
からガン見されたのでクロに指示して同じものを3つ作らせた。
こっちの方が女性陣には好評なようだ。
食後はリビングに移って食後にウイスキーを舐めながら今日会った
ことをみんなに話した。
﹁なるほど・・・しん君は3つのシーズの家と揉めてるってこと?﹂
﹁正確にはフォンマイ家とは揉めてないな。今日からフォンマイ家・
フォンマイ商会の2つの組織には粛清の嵐が吹き荒れるだろうが・・
・内部の問題なんで俺には関係ないよ。それに残り2つのシーズの
家は関係者が暴走してユーロンドに制圧されて、その身柄を最高評
議会特別捜査隊が引き取って行った・・・駆け引きはこれからだろ
うが被害者とはいえマスカーに間に入られたんだ・・・一方的に俺
の言い分は通らないだろう。向こうの言い分も聞かなきゃならん羽
目になりそうだ﹂
﹁2つのシーズの家ってしんちゃんは知らないの?﹂
﹁どこだったっけ? ・・・ええっと招待状がまだ残ってたな﹂
アイテムボックスから2通の招待状を取り出してテーブルの上に出
す。
1つは﹃ケミライネン家﹄からの先々代の還暦祝いパーティーの招
待状だった。
ケミライネン家はテイマーギルドの歴代のギルドマスターを歴任し
てて魔獣の従魔化に取り組んでいたついでに、餌関係で食肉業界に
多大な影響力を持ってるシーズの家だ。
魔獣の生肉の買い取り関係で冒険者ギルドにも太いパイプと影響力
を持ってる。
かくのだて
もう1つは﹃角館家﹄からの当主が溺愛してると噂の娘の15歳の
1680
成人の誕生日パーティーの招待状。
角館家は奴隷商ギルドを掌握するシーズの家だ。
表のれっきとした奴隷商売で別にやましい所は何もないはずだが、
奴隷制度のない日本で育った俺からすれば馴染みのない職業し、奴
隷商売ってだけで胡散臭く感じてしまうのは仕方がないことだろう。
鉱山送りしかない奴隷以外を政府から買い取ってオークションに掛
けたり、借金奴隷として売られてきた奴隷の特技などを見極めて販
売している。
工場などで働く下働きや子供の奴隷を清掃人ギルドに送ったりして
手に職業をつけさせる職業斡旋等もしているし、隷属の首輪や手枷
足枷などの販売も牛耳ってる。
・・・と、俺の知らない情報をアイリ・ミー・クラリーナが教えて
くれた。
両方とものメインの仕事と俺は関係ねぇーじゃん・・・面倒臭ぇな。
4人で話し合ったけど何が目的かまで分からなかった・・・マスカ
ーが明らかにしてくれるだろう。
マスカーはマスカーの思惑があるし特別捜査隊隊長としての立場も
あるので、彼に無理強いは出来ないけれど・・・俺は被害者なんで
後日に目的ぐらいは教えてくれるだろう。
マスカーからすればうまく立ち回って俺を納得させつつ緩やかな処
分で済ませれば、2つのシーズの家に貸しが作れるから、必死に落
としどころを上司の﹃イワノス・ゲッペンスキー﹄と探ってくるだ
ろう。
ケミライネン家と角館家は今後の対応次第だな。
しつこくからんできて俺を引き込もうとか、家族にまで手を出して
きたりと・・・これ以上の迷惑をかけるようであれば2つとも末端
まで叩き潰す・・・ってのはどこの組織に対しても同じ決定事項だ。
1681
教会からシルが持ってきた手紙は露草桜からの手紙だった。
先に手紙を持って来たバカは・・・自分から手紙を渡せば俺は恐れ
多くて断ってくるかもしれませんと意味不明な自尊心の塊みたいな
屑だったんで、面白そうだから行かせてみたと桜は手紙で謝ってた。
処分は俺の提案通りに再教育になると教えてくれた。
しかもあのアホは俺の手紙を見せられて腰が抜けてしまったらしい。
・・・おいおい。
それで何で司祭の教育者を再指導したいのかという説明が詳しく書
いてあった。
桜は今月末にこのウェルヅ大陸を離れて中央大陸に行くことが決定
したので、以前より目に余っていた特権階級意識の強い司祭の教育
者達を懲らしめてやろうとして今回の事を仕組んだようだ。
この事件をキッカケにして司祭教育者の再指導にメスが入れられる
と御礼まで書いてあった。
何人かは賄賂要求などの不正がいくつか発覚してるので追放処分に
なるらしい。
全部がアマテラス様のご神託による指示なんだと・・・露草桜とア
マテラスには上手く利用されたけど・・・これぐらいなら気にもな
らないので、まぁいいや。
それに俺が書いたバカの指導方法が今後の教育者再指導プログラム
になると書いてあり、それにしたがって進められるので俺の直接教
育はいらなくなったと書いて締めくくられていた。
アマテラスもこうやってくれれば俺の負担は減るんだと学習して欲
しいな。
1682
ブランディックスダンジョンの地下10階のボスを攻略したっす
。
嫁達と酒盛りしながら、酒と話は進んでいく。
俺はウイスキーのコーラ割りを飲んでみた。
アマテラスからコーラの製造方法を教えてもらって作ってみたが・・
・嫁達には不評だった。
シュワシュワする炭酸がキツかったみたいだ。
微炭酸にしたがそれでも無理っぽいな・・・シャンパンはガブガブ
飲めるのにな・・・何か釈然としないが人の味覚は千差万別。
焼肉のタレもすでに作った・・・ワイバーンの生肉から抽出したド
ラゴン汁を少量加えたらコクが増してより美味しくなったのはうれ
しい発見だった・・・セバスチャンが発見したんだが。
今ではドラゴン汁は早乙女家の肉料理での隠し味としてコクを増す
為には欠かせない調味料となってる。
嫁達もそれぞれが好きな酒を飲んでる。
つまみとして列車で購入したチーズを溶かして蒸かしたイモに掛け
て食べる。
歯ごたえが欲しいというミーのリクエストにこたえて大量に余って
るトロール肉のジャーキーを作って、リビングのテーブルの上に置
いた皿の上に出した。
ジャーキーを薄くスライスして蒸かしイモとチーズの間に挟んで食
べてみたが、これも美味しくできたようだ。
嫁達との話し合いでの結論は・・・
教会の中の傍迷惑な奴はまだまだいるようだけど・・・小物感が凄
いな。
1683
アマテラスさんよ・・・これぐらいは俺の手を使わずに神託ぐらい
で何とかしとけって思うほどの小物っぷりだ・・・なので放置に決
定した。
シーズの家2つ﹃ケミライネン家﹄﹃角館家﹄は保留にするしかな
いな。
マスカーに間に入られている以上、こちらから積極的に動くことも
できない。
フォンマイ家は俺の手を離れてゲルアーが自分自身で解決するしか
ない・・・組織の内部の問題だからな。
こちらも時間がかかるだろうし俺が手伝うって話じゃないから放置
するしかない。
・・・こんなところかな。
俺は今日の紋章師の話に移って、今日できたばかりの早乙女家の紋
かんざくら
章プラチナプレートと旗と印章リングを嫁達に見せた。
早乙女家の家紋の鐶桜と、るびのの顔をあしらった白虎の紋章はシ
ンプルで格好良いと大好評だったので、作った時の悩んでいた話な
んかで盛り上がった。
アイリの父親とミーの実の両親もBクラスの冒険者だったので紋章
は持ってなかった。
なので、感動しているみたいだ。
クラリーナの実家も初代は紋章もちのようだったが、何代か前から
戦闘能力は受け継がなくなってしまい事務方に回されて軍を任せら
れなくなってしまったので、実家のタンスに封されていてクラリー
ナも1度しか見た事がないって話を聞いた。
おやっさん
が紋章もちみたいだ・・・デリカシーもな
アイリとミーから聞いて意外だったのが・・・﹃ガルパシア・ウル
ス﹄通称
いくせに・・・
ああ見えて元の生まれはドワーフ貴族の末端の人間で、若い頃はエ
1684
ルフとの戦争で大活躍。
ナイト
国家勲章を授与されて貴族﹃騎士﹄の称号を与えられ、紋章もその
時に作っているようだ。
10年以上前にだけどおやっさんとおかみさんがが酔っぱらった時
に紋章プラチナプレートを見せてもらったと教えてくれた。
盾が中央で交差していて真ん中に﹃巌﹄の文字が書いてあって・・・
シールダーとしては憧れるとアイリが言ってた・・・やるな、おや
っさん。
俺からの今日の出来事の話は終わったので嫁達の今日のブランディ
ックスダンジョンの成果をもらう。
・・・正直に言って今までここのダンジョンで出てきたアイテム達
は、残念すぎて悲しい気分になるほどの素材や使えない武器、欠点
がありまくりな防具などのオンパレードだった。
今日の成果はほぼ素材だけ。
B8F﹃ダンジョンモンキー﹄は森林モンキーと違ってしっぽは通
常ドロップアイテムの毛皮のベルトになって出てくる。何の特徴も
ない普通のダンジョンモンキーの革製ベルトにダンジョンモンキー
のグリーン色の毛が生えてるだけ。
レアドロップアイテムだともっと意味不明で﹃サルの手﹄ミイラに
なったサルの手が出てくる。
これは呪術師が呪いで使う・もしくは悪魔召喚の儀式でしか使い道
がなくレアのくせにチョコチョコとドロップ率が高いアイテムなの
で貴重アイテムでもなんでもない・・・残念なアイテムだな。
B9Fに出てくる魔獣は﹃大蝙蝠﹄
これは遠距離から超音波で敵に不快感を与えてイライラさせる攻撃
を繰り返ししてきて、滅茶苦茶ウザい攻撃をしてくるが遠くにいて
1685
近づいてこないので・・・なおさらムカつくみたいだ。
ウインドカーテンを使って超音波を乱反射させると逆に攻撃に向か
ってくるという・・・超音波攻撃で相手をイライラとムカつかせて
どこかに行かせたいのか?
超音波が自分が当たると怒って出てくるので全く持って意味不明な
生物だと、購入したMAPの解説書にすら書かれてる。
大蝙蝠の通常ドロップアイテムが﹃蝙蝠の羽﹄なのだが・・・これ
も呪いアイテムと悪魔召喚のアイテムでしか使えない。
レアドロップアイテムはあまりのドロップ率の低さに幻とまで言わ
れてる﹃蝙蝠の革﹄で、これは万能解毒薬の素材になるアイテムな
んだが・・・ダンジョンではドロップしないほどレア度は高くても、
夜間の大森林に行けばどこにでもいる大蝙蝠で、こちらからは同じ
物が解体すれば普通に入手できるので商品価値は低い。
B10Fに出る魔獣は﹃肉食バッタ﹄
コイツはドロップアイテムがバッタの牙しかない。
レアドロップはないが魔石をよく落とすので昆虫魔獣としては珍し
い種類となってる。
コイツの牙は何故か金属のダマスカス鋼製で出来ており・・・こん
な牙でかじられたら痛そうだな。
ダマスカス鋼は牙の先端部分と表面だけなので、加工して使用でき
るのは1本あたり数gしかない。
これも残念極まりないアイテムとなってるようだな。
このB10Fの罠解除が複雑に絡み合ってて、B11Fへと降りる
階段魔では簡単だったようだが、それを過ぎてボス部屋の寸前まで
クリアーしてきたら嫁全員が罠解除スキルが中級までいけた。
それで俺との約束通りボス部屋には行かずにB11Fにいって罠解
除の練習に明け暮れていたみたいだ。
1686
B11Fからはマッスル解除はとたんに難しくなる。
罠の解除に失敗すると神経毒の毒霧が地面から吹き出てきたり数十
本の猛毒の矢が飛んできたりと、罠解除の専門職がいないとどうに
もならなくなってくる。
毒関連の攻撃が厄介なのは掠っただけで、吸気しただけで行動不能
になったりするからな。
出てくる魔獣も毒攻撃が多くなってくるのも特徴の一つでウザさも
倍増する。
B11Fは﹃毒霧クモ﹄が出てくる。2mほどの大きさで足の長さ
も2mほどある。
名前の通り毒霧を吐いてきて目に入ると涙が止まらなくなったり、
吸気すると喉に焼け付くような痛みを引き起こしたりして戦闘どこ
ろではなくなってしまう。
水溶性の毒物で水魔法のウォーターカーテンで完全に無効化される
し、水で洗い流せば体内に入った毒物は無効化できるのだが、吸気
して肺にまで到達してしまった場合は、水蒸気を10分以上は吸い
続けないと治せなくて24時間は七転八倒して苦しみ続ける事とな
る。
遠距離攻撃できる武器で戦うか魔法が使えないとマスクやゴークル
を装備して戦わないといけないので簡単に一言でいうと・・・﹃面
倒臭い敵﹄
なのでここではセバスチャンが主に狩って回収もセバスチャンがし
ていたみたいだな。
るびのとフォクサは完全にサポート&魔法防御側に回っていたよう
だ。
まぁ、ゴーレムには一切効果のない毒だしな・・・毒霧が直撃して
も3点セット魔法で完全に除去できる。
1687
セバスチャンが物は試しで毒霧クモに3点セット魔法を使用してみ
たところ、もがき苦しんで5秒ほどで絶命したみたい・・・光魔法
﹃浄化﹄と火魔法と風魔法の複合魔法﹃乾燥﹄がかなり効果的みた
いだ。
毒霧クモの通常ドロップアイテムは痺れ薬袋。
何故か理由はわからないが袋の中に水を入れ1時間ほど放置すると
痺れ薬の効果のある水になって出てくる・・・効果は10分ほどら
しいが1口飲むだけで全身しびれて動けなくなる。
ただ痺れ薬入りの水は銀製・鉄製・ガラス製・木製・革製・陶器製
赤いマダラ模様
があるので人に使おうとするとあまりの毒
のカップなどなど、どんなコップをもってしても
に染まってしまう効果
毒しさに即座にバレてしまったりする。
なので獣を捕獲するための罠に使うか・・・もしくは同じマダラ模
様ってのが出ないので色付けに使われたりしていて・・・今現在は
芸術家や職人には大人気なアイテムで高額取引されていたりしてる。
高額商品ではあるが割に合わないので市場に出回る数が圧倒的に少
ないってだけのアイテムだ。
高レベル冒険者はもっと楽に稼げるから仕方がないんだが。
レアドロップアイテムは﹃クモの涙﹄というアイテムで・・・これ
はこのままでも解毒薬になってるし、より高度な﹃万能解毒薬﹄を
作るには欠かせないアイテムなので・・・こちらも高額で引き取っ
てもらえるアイテムだ。
通常もレアもドロップアイテムは高額で取引されてるアイテムなの
だが、流通量が少ないので高額の商品となってるだけで、毒霧クモ
大金を
ってのが
の面倒臭さのために敬遠されてるので高レベルの冒険者が
積まれて頼まれでもしない限りワザワザ狩りに行かない
現状みたいだ。
アイリとミーによればどちらの商品も、冒険者ギルドのどこの支部
1688
にでもいつでも依頼票があるアイテムなので、アイテムを持参すれ
ば後からでも受付してもらえる。
B11Fの罠を全解除してB12Fに降りた頃に時間になったので
階段横の転送室で地上に戻って、今日のダンジョンアタックは終了
したようだった。
みんなの明日の予定を確認しようとしたら嫁の意見は全員一致だっ
た。
﹃ブランディックスダンジョンのB10Fのボスを攻略したい﹄
これには俺の方が驚いたんだが途中でやめたってのがどうも気に障
るらしい。
﹁なるほどね・・・それなら明日にでも行ってみますか?﹂
俺の一言で明日もブランディックスダンジョンに明日は全員で行く
ことが決まった・・・
るびのとフォクサに念輪で連絡を取るが明日は大草原の魔獣選抜軍
を率いて大森林のトロール&オーク狩りがあるらしいので残念だけ
ど・・・と断られてしまった。
今日のダンジョンアタックも退屈で退屈でたまらなかったようだし。
それなら明日は嫁達の護衛にユーロンド1∼5号を連れて行くこと
にした。
早乙女邸の防衛は師匠ゴーレムと魔獣ゴーレムの計11体で余裕だ
し・・・つーか今からでもボス攻略ならいけるぞ?
﹁ブランディックスダンジョンの地下10階のボス﹃肉食スチール
バッタ﹄ぐらいなら食後の軽い運動で余裕だよ。なんだったら今か
ら行ってみるか?﹂
﹁ウソっ! しんちゃんと一緒だとそんなに簡単になっちゃうの?﹂
1689
﹁肉食スチールバッタがたかが500匹程度だろ? 俺の白扇子の
風神・雷神の複合技で瞬殺だよ﹂
﹁そんなに簡単にクリアーしちゃっていいのかなぁ・・・って心配
しちゃうんだけど﹂
﹁私もアイリさんと同意見ですね﹂
ごうらい
俺が詳しく説明するが白扇子の風神の力﹃暴風﹄で嵐を巻き起こし
て全部の肉食スチールバッタを地面に叩き落とし、雷神の力﹃轟雷﹄
の力で落雷の範囲攻撃で瞬殺が可能だ。
神器なので冒険者ギルドにも﹃最近、アマテラス様の役に立ってご
褒美でもらっちゃいました! テヘ﹄で説明も楽にできるだろう。
嫁3人が俺の簡単で分かりやすい説明に、何か釈然としないって表
情ながら・・・今からブランディックスダンジョンに行くことが決
定した。
明日の予定は未定になってしまったが。
師匠ゴーレムと魔獣ゴーレムに早乙女邸の防衛を任せて、ユーロン
ド1∼5号をアイテムボックスに転送魔法で入れ、ついでにバージ
ョンアップで魔結晶を大型のものに取り換えて、武器も魔法もバー
ジョンアップさせることにする。
今まではショックとスリープしか封入されていなかった魔法もシー
ルド系の全魔法を入れて、攻撃よりも防御中心だな。
アイテムボックスに全員分の盾職用の巨大な盾を入れて、武器も大
剣・ショートソード・ロングソードなど一般的な武器を数種類で、
本格的な刃の付いたものを作ってアイテムボックスに送って対人専
用の拠点防御用ゴーレムから冒険者ゴーレムも対応できる仕様にし
ておく。
リビングのソファーから立ち上がったアイリに話しかけられた。
1690
﹁ねぇ、しん君・・・私って大剣とシールダーンとっちの方がいい
の?﹂
﹁あっ、私はレイピアとミネルバオークウィップ︵改︶にしちゃっ
てもいいのかな?﹂
﹁アイリもミーも好きな方でいいよ。ユーランド5体には盾職をし
てもらって、セバスチャンとマリアにはシールダーをしてもらうか
ら。クラリーナも含めて3人には見学しててもらう予定だから﹂
﹁しん様・・・そんなのでいいのですか?﹂
﹁いいって、いいって。今回は神器の白扇子で全部倒すんだから、
俺もほとんど何もせずに見てるだけだよ﹂
俺の説明でとりあえずは納得してくれたかな。
嫁達が装備に着替えるためにリビングのン隣の客間に入って行った
ので俺は後ろから﹃着替え終わったらガレージに集合ね﹄と声をか
けておいた。
るびのとフォクサに念輪で連絡したら今からフォクサの故郷に行っ
て天然露店風呂に入りに行ってくるらしい。
そっちも楽しそうだが俺達は今からブランディックスダンジョンに
行ってくると伝えておいた。
俺はリビングでサイラスの甲殻鎧のフルセットに着替えて俺の準備
は完了した。
とりあえず集合場所のガレージに行ってサイラスの甲殻ブーツまで
履いて待機だな。
久しぶりにアンコが食べたくなってアイテムボックスから焼きたて
のたい焼き取り出してかじってると、嫁達が装備を終えて出てきた。
アイリはシールダー用のフルプレートアーマーは大剣でもシールダ
ーでもどちらも対応可能。
背中にシールダーの専用盾4枚と左右の腰につけた丸盾2枚も装備
してるのは本格的なシールダー装備だが、おやっさんの作ったシー
1691
ルダー用のフルプレートアーマーの構造が素晴らしいのでこのまま
でも大剣で戦えるようななってる。
ミーは俺と同じサイラスの甲殻鎧・・・全身フルセットまで全く同
じだ。
クラリーナはシルバードの毛皮のコートで森林モンキーの毛皮の飛
行帽。ワイバーン革のブーツを履いて手には早乙女バラ杖で・・・
クラリーナもフルセットだな。
嫁3人とセバスチャンとマリアを連れてブランディックスダンジョ
ンの入り口近くの光が当たらない暗がりに転移魔法で移動してから
ブランディックスダンジョンに入っていった。
B1Fの転送部屋に入ってB10Fへ。
俺はアイテムボックスからユーロンド5体を出して盾を装備させて
嫁3人の前後左右に広がって展開する。
また嫁達に罠解除の練習をしてもらって俺は時々出てくる肉食バッ
タを狩る。
俺の装備は腰に白扇子をホルダーに入れて手には早乙女強弓を装備
して体長40cmほどの肉食バッタを矢で射抜いていく。
この階層のボス﹃肉食スチールバッタ﹄は体長5cmほどの大きさ
で、数も500匹と大量なので弓で攻撃してるような悠長な余裕は
ないが、ボス部屋に入るまでは弓の方が楽だしな。
セバスチャンとマリアが俺が退治した肉食バッタのドロップアイテ
ムの牙と魔石を、回収するために走りまわってる。
嫁達は昼間に1度クリアーした罠解除を始めからやり直すことにな
ったんだが、すでにボス部屋寸前まで1度行ってるので20分程で
クリアーできた。
最後に罠を解除した正面の壁に這う蔦がブチブチブチと大きな音を
立てて切れたと思ったら、今まで蔦で覆われて何も見えなかった壁
1692
の中に隙間から光が漏れる扉が現れる。
﹁さぁこれから冒険者チーム早乙女遊撃隊の名前をブランディック
スダンジョンの歴史の中に刻む時間の開始だ! みんな準備はいい
な?﹂
無言で頷く嫁達の顔を順番に見ていく・・・クラリーナが若干だけ
ど緊張してるかな?
ポンポンと優しくクラリーナの頭を叩きながら語りかける。
アイリとミーもクラリーナの左右から肩を叩いてニコニコ笑ってる。
﹁クラリーナ、緊張してると大事な場面を見逃すってくらいにすぐ
に終わっちゃうから注意な?﹂
﹁はっ、ハイ﹂
﹁クラリーナは知らないだろうけど、ボス部屋が終わってダンジョ
ンが広がるときは面白いことがあるから・・・楽しみに待ってると
良いわよ?﹂
﹁えっ、アイリさんどういう事なんですか?﹂
﹁まぁまぁ、私も噂では聞いてるけどアイリも私も初体験なんだか
ら、詳しくは言えないわよ。しんちゃんは貰った知識と経験の中に
あるかもしれないけどね﹂
﹁俺も初体験だから楽しみだよ。知識と経験は俺のもらったもので
俺が実際に経験したことじゃないからな・・・さぁ、行こう!﹂
俺が右手の拳を軽く握ってみんなの前に突き出すと嫁3人も拳を握
って俺の拳にガツンと当てる。
俺達が扉を開けて中に入っていくと・・・凄まじい数の肉食スチー
ルバッタがすでに臨戦態勢になってブーンと羽音を立てて飛び上が
る寸前の体勢になっていた。
1693
俺は左手で持っていた早乙女強弓をアイテムボックスに入れて腰の
ホルダーの中の白扇子を抜き出す。
一番後ろのセバスチャンが入ってきたドアを閉めるとガチャリと施
錠されて戦闘が開始された。
500匹の肉食スチールバッタの大軍がブワっと飛び上がってこち
らに向かって飛んでくる。
俺は右手だけで白扇子を﹃バン!﹄と音を立てて広げ左右にフワリ
フワリと軽く2振りさせると、風神の力によって﹃暴風﹄が巻き起
こる。
飛び上がってた肉食スチールバッタだけでなくまだ飛び上がる前の
肉食スチールバッタまで、全部の敵が俺たちのいる扉と反対側の壁
に叩きつけられて・・・これだけで10%以上70匹の肉食スチー
ルバッタは即死となった。
敵が動き出す前に最後の攻撃をする。
右手で持つ白扇子を人差し指を使って器用に横に2回転させると敵
の集団の中央部にバリバリバリという音が鳴り響き﹃轟雷﹄が炸裂
した。
全ての肉食スチールバッタが轟雷を浴びて即死。
轟雷によって引き起こされた砂煙が消える頃には全部の敵の姿は消
えていた。
残ってるのは100を超える魔石・30ほどの大きな魔結晶・20
0kgのダマスカス鋼のインゴットという、肉食スチールバッタの
ドロップアイテムのみが残されていた。
その時に突然ダンジョン内だけでなくダンジョンの外にまで﹃ビー
! ビー! ビー!﹄というサイレン音が鳴り響いて機械音声の放
送が始まる。
1694
≪こちらはダンジョン管理センターです。ただいま早乙女遊撃隊と
いう名前の冒険者チームの力で地下10階のボスがクリアーされま
した。これにより封印されていた地下10階の隠し通路を解放しま
す≫
ブランディックスダンジョン内外のあちこちから歓声が上がるとボ
ス部屋入口の扉が開錠されて、ボス部屋入口とは別の3つの場所か
ら微振動と轟音が鳴り響いて壁の一部が崩れ落ちて新たな通路を作
り出した。
俺達の目の前には光り輝く物体が地中から浮き出てきて・・・マー
ブル模様の湾曲した板バネのようなモノが姿を現す。
﹁もしかして、これが先ほどボス部屋に入ってくる前に皆さんがお
っしゃっていた事なのですか?﹂
﹁・・・あぁ、これがこのダンジョンにおいて初のボスをクリアー
した記念のようなものなのよ。私とアイリもしんちゃんも初めての
経験の事だから、少し感動しちゃったわ﹂
﹁これは凄いわね。今頃はブランディックスダンジョンの中も外も
大騒ぎになってるわよ﹂
﹁俺もこれは知識として経験として持ってるだけで自分自身では初
体験だからな・・・確かにこれはちょっと感動もんだ﹂
俺達が感慨に浸ってる中をゴーレムたちはドロップアイテムを拾い
集めてる。
最後に出てきたマーブル模様の湾曲した板バネみたいな奴をセバス
ブランディックス・ローズ
レジェンドクラス
チャンが俺に差し出してきたので受け取って鑑識魔法で確認した。
きゅうこん
吸魂魔弓﹃BR魔弓﹄
所有者 早乙女真一
魔力の弦によって生み出される魔法の矢を飛ばす魔弓。伝説級の武
1695
器。
ブランデイックスダンジョン地下10階のボスの初回クリアー報酬
アイテム。
弓はダマスカス鋼製で魔力によって生み出される矢もダマスカス鋼
製。
矢は対象物に刺さると中に木魔法﹃茨の蔦﹄の種子を植え付けてか
ら消滅。
種子は敵の体内の水分・血液・生命力を瞬時に吸い取って成長。
体外に飛び出した後に最後は大輪のバラの花を生命力で咲かせ、命
が消滅するとバラも消滅する。
・・・結構エグイ武器だな。
矢を抜き取る前に消えて中に種を残して、種は体内で成長させるの
かよ。
しかもバラの花が咲いた頃は死んでるのかよ・・・
俺が魔弓を眺めてるとボス部屋の壁の一部が動きだし小部屋が現れ
部屋の中には空中に浮かぶ魔水晶。
この迷宮の地下10階を封印してた魔結晶で大きさは地球の1.5
リットルのペットボトルサイズ。
色はブランディックスダンジョンらしく少し黄緑がかってる色だが
属性色ではないようだな。
俺はアイテムボックスから無色のクズ魔結晶を取り出して空中に浮
かぶ魔結晶と取り換えた。
地面に埋め込まれた魔水晶が点滅を始めた。
俺が知ってる知識によれば俺がこの部屋を出た瞬間からこの部屋は
封印がかかり、この宙に浮かぶクズ魔結晶が元通りの大きさに成長
するまで、この部屋の封印は開けられなくなる。
俺が小部屋の外に出ると自動でドアが閉まり・・・扉が消滅して元
1696
の壁に戻った。
俺は手で持った巨大な魔結晶をアイテムボックスの中に片づけた。
嫁達と少し雑談してBR魔弓の説明をしたらクラリーナが食いつい
てきたが、さすがに伝説級の魔弓はクラリーナの初心者レベルの弓
の腕では任せられない。
せめて中級レベルの腕がないと実戦では使い物にならない。
俺が口で弓の使用方法を説明してもあまり理解ができないみたいだ。
なので新しく広がったMAPに足を踏み入れて、俺の探査魔法で引
っかかった新たな敵﹃リザードマン﹄を実際に目の前で倒すことに
する。
ボス部屋をクリアーしたことで新たに広がったダンジョンではすで
に冒険者達がMAPを作ろうとして、10を超えるチームが先行し
ている。
俺達も足を踏み入れると俺と身長が同じぐらいのリザードマンがム
キムキな体をさらして走って攻撃してきた。
現れたリザードマンの総勢は27頭。
アイリとミーは即座に展開しているユーロンド2体ずつを引き連れ
て攻撃をしに行く。
俺は横にクラリーナを立たせていてBR魔弓を実戦で使用するとこ
ろを目の前で見せる事にする。
左右にセバスチャンとマリアがいてバックアタックを警戒している
のがユーロンド1号。
俺はクラリーナに説明しながら左手で握るBR魔弓のグリップに魔
力を込めると、弓の両端についてる魔水晶が緑色に薄く光り魔水晶
の間に魔法の弦を生み出す。
﹁こうやって魔力を込めることでこのBR魔弓は起動する。両端に
1697
取り付けられている魔水晶の間には魔力で生み出された弦が張られ
たのが見えるか?﹂
﹁はい。薄い緑色の弦です﹂
﹁そうだな。そしてこれは力もいらないぐらいに軽くつまんで弦を
引いて射る・・・たったこれだけだ。狙いは自身の脳内イメージだ
け。それだけでこのBR魔弓のグリップの親指部分についている魔
水晶から、魔力によって生み出された矢が飛び出して脳内でイメー
ジしたとおりに魔法の矢が飛んでいく・・・こんな感じだな﹂
目の前で戦っているセバスチャンの上に飛び上がって、後方にいる
俺達を狙って来たリザードマンが俺が放った魔法の矢を打ち払おう
として、両手に持ってるグラディウスを左右に切り払ったが矢は普
通ではありえない運動を見せた。
剣にあたる瞬間にビュンと上にジャンプでもするかのような動きを
してリザードマンの脳天に突き刺さったのだ。
リザードマンはそのまま叩き落されて頭からバラの蔦が飛び出しバ
ラの花が咲いてリザードマンの体ごと消滅した。
﹁こんな感じで自由自在な変化をさせられるのが魔弓の特徴だな。
動き方は魔法と全く同じでただ弓矢を動かせてるだけだ。敵の動き
を予測して瞬時に判断して矢を放つのが大事で、1番重要なのがイ
メージってのは魔法の素養の高いクラリーナには向いてる弓だと思
うよ。クラリーナの弓の腕が中級まで上がったら実戦で使ってもい
いけど、それまで使用するのは練習だけにとどめておいてね﹂
﹁了解です・・・なるほど∼、勉強になりますです﹂
俺はクラリーナに口で説明しながら次から次へとあらわれるリザー
ドマンを射続ける。
クラリーナも真剣な表情で矢の動き・敵のリザードマンの動きを見
続ける。
1698
俺が射殺したリザードマンが35頭を超えたころになってようやく
周囲のリザードマンは全滅したようだった。
チーム早乙女遊撃隊で88頭も狩っている。
﹁クラリーナが今日すぐにこの弓を使って実戦練習っていうのは無
理だが、今後の参考で今日は俺の撃った矢の方の動きと敵の動きを
見学しておいてくれ﹂
﹁わかりました﹂
それからはみんなで30分ほどだけ動いて200頭以上のリザード
マンを狩ったところで今夜のダンジョンアタックは終了することに
した。
すでに時刻は夜の9時を回ってる・・・俺たちの場合は冒険者ギル
一種の儀式
ドに所属する者の仕事として、冒険者ギルドのブランディックス支
部に行ってボス部屋の説明と魔結晶を見せるという
が残ってるからな。
迷宮の外に出ると外に待っていた冒険者と冒険者ギルド職員に拍手
で出迎えられる。
冒険者ギルドが用意した夜間移動用の特別仕立ての馬車に乗せられ
てブランディクスの町に移動する。
冒険者ギルド・ブランディックス支部のギルドマスター室にまで案
内されていく。
ギルドマスター室ではブランディックス支部のギルドマスターと幹
部職員の二人がこれから俺の話の記録を取るために待ち構えていた。
ギルドマスターは昨年就任したんだが・・・就任した直後にブラン
ディックスダンジョンの地下30階が解放されてブランディックス
の町は大騒ぎになってしまった。
最近やっと落ち着いてきたと思ったら、俺のせいで今日のこの時間
になって大騒ぎが広がっているみたいだな。
1699
挨拶もそこそこに早速説明に入る。
B10Fにあったボス部屋の場所とトラップの解除方法。
嫁達が昼に発見したんだが危険を感じて俺と再チャレンジした事。
出てきたボスは﹃肉食スチールバッタ﹄で体長は5cmほどで全身
をダマスカス鋼でコーティングされた肉食バッタの上位群生種50
0匹であること。
俺が退治したやり方を説明した時に白扇子の話をしてから、ギルド
マスターにアマテラスからもらった経緯・・・いくつかの神託をク
リアーして役に立ったご褒美でもらった・・・という事を説明しな
がら実際に見せてあげた。
広がった10階の話はしたがどれほど広がったのかはあえて教えな
かった。
これからMAPを描く連中がブランディックスダンジョンに入って
いって解明していくだろう。
そのチームの楽しみを奪ってもしょうがないからな。
それでクリアー後に出てきた報酬のBR魔弓を見せて、奥の小部屋
から取り出してクズ魔結晶と交換してきた巨大な魔結晶も見せる。
ドロップアイテムだったダマスカス鋼の200㎏のインゴットも見
せてあげた。
俺の取り出した魔結晶は地下30階のクリアー報酬の魔結晶に比べ
れば半分ほどの大きさしかないらしいが・・・それでもこの大きさ
の魔結晶は、生物ではドラゴンぐらいに長命な種族じゃないとここ
までは成長させられない。
ついでだがクリアーした後に戦ったリザードマンの特徴とドロップ
アイテムも教えておく。
1700
通常ドロップアイテムは﹃リザードマンの尻尾﹄だ。
森林モンキーの尻尾と加工方法は同じなんだがこれはその反対バー
ジョンで・・・﹃摩擦係数が非常に高く頑丈﹄なアイテムだ。
ダンジョンの外にいるリザードマンの尻尾にはこんな特徴はない。
このシーパラ連合国にある別のダンジョンにリザードマンは出てこ
ないので、これは今まで国外から輸入するしか入手できなかったと
されていたアイテムだ。
シーパラ連合国の需要を賄えれるほどというのは無理だろうが、外
国との一方的な関係はこの発見で変化していくだろう。
今後の経済的な影響は商人からの視点で考えると物凄く大きい。
レアドロップアイテムは尻尾が3本出てくるのは理解できるまでに
鑑識魔法を使わざるを得なかった。
1701
水神の涙ってアイテムをセバスチャンが発見してたっす。
以上で俺の冒険者ギルドに伝えるべき情報は終了。
明日に冒険者ギルド本部に持ち込んで俺が渡した情報を精査するた
めに緊急幹部会を開いて、明日の午後に正式に発表するような流れ
になるようだ。
まぁ、あとは冒険者の俺の手を離れ冒険者ギルドから正式発表する
という話なので、全部任せて俺は帰宅することにする。
嫁達もすでに少し眠そうだ。
俺は外に出てキャンピングバスをセバスチャンのアイテムボックス
から取り出してもらい、中に乗り込むとブランディックスの町を出
たらすぐに嫁3人を連れて、セバスチャンとマリアを残して早乙女
邸の浴室横の更衣室に転移した。
セバスチャンとマリアはしばらくキャンピングバスを運転してもら
ってから、周囲の安全を確かめて早乙女邸のガレージにキャンピン
グバスごと転移してきてもらう。
俺は更衣室で嫁達と服を脱いでまずは掛け湯をしてからお風呂で温
まることにする。
肉体的に疲れるとか精神的に疲れるとかの疲れはないんだけど温泉
で温まって全身の筋肉が緩んでいくこの感覚はたまらない。
手足を伸ばして湯船につかっているといると本当に手足が伸びてる
ように感じてしまう。
今日は嫁達を癒してあげることにする・・・ブランディックスダン
ジョンで今日は一日中罠解除の練習をして、夜は夜でブランディッ
クスダンジョンの地下10階のボスクリアーをしてきてるから、精
1702
神的に物凄く疲れが溜まっているだろう。
俺の中の転生者の地球にいるときの職業が元エステティシャン・整
体師・鍼灸師がいるので最強のマッサージだろう。
マリアとセバスチャンにも封入されてるけど。
エア−マットで横になってもらい全身を大量の泡で洗いながら、ツ
ボ押しと筋肉マッサージで全身をリラックスさせて頭皮までマッサ
ージを行う。
両手にヒールの力を込めて行う魔道マッサージは極楽だな。
アイリもミーもクラリーナもニヘラととけた様な笑顔で幸せに浸っ
てる笑顔を見てるだけで、こっちまで癒されてしまう。
俺は3人がかりで極楽へと連れて行ってもらった。
嫁達が交互に俺の上にまたがって腰を振ってくるので我慢しないで
何度でも噴出した。
マットの石鹸遊びが終わってからもまったりしてから外の露天風呂
に入りに行こうとしたら、冒険者ギルドブランディックス支部を出
たばかりのときは大したことがなかった雨も外に出たらザーザー降
りとなっていた。
仕方がなかったので内風呂をみんなで雑談しながら楽しんでいた時
に思い出したのだが・・・そういえばアマテラスにローションポッ
トをもらっていたけど全く使用してなかったな。
5リットルほど入りそうな大きな電気ポットのようなものをアイテ
ムボックスのようなモノを取り出すと嫁達が聞いてくる。
﹁しん君、それってミルクポットじゃないの? 色違い?﹂
﹁これはローションポットだな﹂
﹁ローションって何なのさ?﹂
口で説明するよりも直接使った方が手っ取り早いだろうと、またみ
1703
んなをエアーマットの横に連れてきてポットの中身のローションを
30リットルほど流し込んだ。
クラリーナとミーに髪の毛を結ぶように言ってから俺はエアーマッ
トの深さ30cm程のローションのプールに入っていった。
ショートカットで髪の毛を結ぶ必要のないアイリが俺と同じように
入ってきて、俺の真似をしてローションを体にまとわりつかせる。
髪の毛を結びピンでアップをして留めたミーとクラリーナも同じよ
うにエアーマットのローションプールの中に入ってきて同じように
体にまとわりつかせてローションの滑り具合を確かめてる。
俺がマットの上でのローションの遊び方を教える。
クラリーナは今回は無理だったがアイリとミーのアナルセックスも
経験させてもらった。
俺自身がアナルセックスなんて初めてだったんだが・・・ヴァギナ
とのセックスと遜色ないほどの気持の良さだとは思ってもみなかっ
た。
ただアイリもミーもそれほどまでに快感をまだ感じられて無いよう
だったので早急にやめたが。
ローションの正しい︵?︶使用方法を教えた後は3点セット魔法で
エアーマットを浄化して、そのまま温泉を楽しむ事にする。
温泉でまったりと夫婦で雑談をしてイチャイチャしながらミーとア
イリの過去の男の話を教えてもらった。
俺は彼女に過去の男話を聞くのは・・・何も感じないタイプだと思
う。
女も男も人間の性格は過去の男女の関係を始めとする人間関係の中
で少しずつ形成されていくと考えている。
女の場合は男との関係の中で作られていく部分は大きいと思ってる。
だから自分から聞いたりはしないが、聞いて嫉妬したりとか悪い感
情が渦巻く事もなく、普通に雑談の一部として聞いてしまう。
1704
アイリもミーも若い時、20代前半まではそうとうモテたようだな。
これだけの美形で爆乳だからな・・・26過ぎたら散々だったとぼ
やいてるけど。
身長が高い︵アイリ184cm、ミー183cm。2人とも15才
で成人した時にはこの身長だったようだ︶とはいえ、この異世界に
おいては冒険者は大型の獣人も数多くいるしエルフも高身長だし、
地球にいた頃よりも身長に対する考え方に変化してくる・・・見た
目だけが強さでもないし・・・
異世界の地球から来た俺以上にこの世界で当たり前に生きてきてい
る人達には身長へのこだわりもないようだ。
とはいえ冒険者は﹃大きい男が多い﹄だからこそ、モテたんだと思
うけどな。
ちっちぇー
な﹄
170cmで日本では気にならなかったけど、イーデスハリスの世
界に来てから感じる事は・・・
﹃俺って肉体︵身長︶的にも精神的にも
だな。だからこそ俺の場合は力を誇示する傾向が強くなってる気が
する。
・・・そんな自分分析を考えながらアイリとミーの過去の男遍歴話
を聞いてクラリーナの少女時代に夢見てた結婚話なんかも聞いて、
俺も過去の恋愛話の成功談や失敗談をして・・・
風呂から上がって今夜はゆっくりと時間をかけてたくさん寝ること
にした。
おやすみなさい。
1705
明けて転生してから36日目。
5月6日の朝は土砂降りで、朝の7時に起きたのにまだ外は暗い。
嵐のように雨も風も強く吹き荒れてる・・・外は風雨が強くて5月
なのに肌寒い気温しかない。
ここまで天気が悪いのはイーデスハリスの世界に転生してきてから
数えるほどしかないな。
この時期の天気の状況から考えると明日の天気も悪そうだ。
寝室のベッドの周りでは毎朝のいつもの風景が繰り返されている。
﹃今朝の朝食はダイニングで俺の故郷の朝食スタイルで食べてくる
よ﹄
そんなところに俺は嫁達に告げて、今日は肌寒いのでロンTの上に
パーカーを羽織り、ズボンはチノパンをはいて1階のダイニングに
降りて行った。
こういっておくと誰も下に降りてこない・・・俺が納豆を食べるの
を知ってるからな。
俺はクロにほうじ茶を入れてもらいながら自分で朝食の準備をする。
ご飯・味噌汁・漬物・納豆・魚の干物・卵焼き・・・シンプル和朝
食だ。
漬物はミルクル特製の糠漬けのきゅうりとなす・魚の干物は味の開
きは自作・卵焼きは大根おろしと醤油で。
朝食を食べ終わってリビングに移動して食後のコーヒーをすすって
いると、るびのから念輪連絡が入ってきたんだが・・・昨日フォク
サの故郷のウェルヅ大陸最北端の岩場に露天風呂に入りに行くと言
って出かけてから、るびのもフォクサも帰ってきてないようなんだ
けど・・・
﹁とうちゃん、今日は大森林のオーク&トロール狩りに行ってくる
予定だったんだけど・・・昨日の緊急魔獣念輪会議で中止になった
んだ。それで今からで悪いんだけど・・・とうちゃんにこっちに来
1706
てもらってもいいかな?﹂
﹁えっ? るびの・・・済まんが、もうちょっと詳しく話してくれ
ないか?﹂
﹁今回は選抜チームで狩りをする予定だったんだけど・・・今日は
あいにくの天気だし明日になっても天候が回復しそうもないんで、
天候が回復するまで延期になったんだ。それで昨日の露天風呂に入
りに行ったときに狐魔獣達と話をしたんだけど・・・次回からはぜ
ひ自分たちも参加したいってことで、今日はフォクサに頼んで狐魔
獣を連れて他の魔獣たちへの挨拶回りをすることを決定したんだ﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁それで、とうちゃんにお願いしたいのは挨拶回りに行く前の狐魔
獣たちに会ってもらって、とうちゃんの子分になって念輪を作って
あげてほしい﹂
﹁あぁ、そういうことな、了解・・・あっ、ちょっと待っててくれ﹂
ちょうど着替えと朝食を終えて降りてきた嫁達に俺が今からフォク
サの故郷に行って狐魔獣たちに挨拶に行ってくると言うと、嫁達も
一緒に行きたいという意見だった。
﹁るびの、母さんたちも一緒に挨拶したいって事なんだけどいいか
な?﹂
﹁それは大歓迎だよ! それと、北の方はまだ雪が残ってるし外は
寒いけど狐魔獣が住んでる洞窟の中は、家の中よりもかなり暖かい
から・・・気を付けてね? じゃあ、狐魔獣の巣の場所はセバスに
ーさんが知ってるから、ここでみんなで待ってるね?﹂
﹁おぅ、すぐに行くよ﹂
暖かそうな服装でも作ろうと思ってたが・・・現地に行ってからで
もいいな。
全員で玄関に行って靴を履いてからセバスチャンの転移魔法で狐魔
1707
獣の巣の洞窟に移動した。
巣の洞窟の中は北の山岳部の洞窟というよりも、ムシっとしてて湿
度も気温も高いので南部のダンジョンの中にいるかのようだ。
さすがにアマテラスにもらったMAPにも狐魔獣の巣の洞窟内部ま
ではデータが入力されていないので、探査魔法で探りとりMAPを
埋めておく・・・ここもグリーンウルフダンジョン並み広さがある
な。
こちらは2層構造なんだけど範囲がグリーンウルフダンジョンより
もかなり広いんだから・・・名前は﹃狐魔獣ダンジョン﹄でいいな。
はくせん
セバスチャンに案内されて狐魔獣のリーダーで、るびのの新しい眷
属となった﹃博閃﹄の住んでる部屋に連れて行ってもらう。
博閃の部屋は狐魔獣ダンジョンの中で一番広い空間で、狐魔獣の集
合場所にしている大広間となってる部屋の隣にあった。
狐魔獣は大広間に30頭以上集まっていて・・・相変わらず魔獣は
獣と違ってみんなデカいな。
炎虎達と大きさはほとんど変わらないぐらいで尻尾まで含めると全
長4m以上は確実にある。
・・・しかもモッフモフだ。
博閃と挨拶をする。
るびのの眷属になるとまるで歌舞伎役者のようなクマドリができる
みたいだな。
クマドリの色は大黒豹の水影も銀色だった・・・アキューブはどう
なってるんだろうか?
全身銀色の毛皮に覆われた﹃銀大熊﹄なんだけどな・・・
アキューブのクマドリの謎は置いておいて、狐魔獣といろいろと雑
談をする。
雑談の中で出た話だったんだがこの岩場周辺には狐魔獣の餌となる
1708
ような魔獣が数種類いて、その中でも狐魔獣が好きなのは蟹魔獣と
エビ魔獣と﹃シプラコーン﹄と呼ばれる羊の魔獣。
シプラコーンの毛皮がモコモコで防寒にはもってこいな毛皮と言わ
れてる。
人間が入り込む事ができないようなウェルヅ大陸の北部の険しい山
岳地帯となってる場所にシプラコーンは住んでいて、空を飛ぶ魔法
を使いこなせるような魔導師がいなくなった今では、シプラコーン
が住んでいる場所に行くことができないので狩れない。
それで古代から伝わる山岳信仰集団の海から出入りできる海岸線に
ある﹃祠﹄に、年に3度ほどオーク肉とトロール肉をお供えして1
0日後に祠に行ってみるとシプラコーンの毛皮に山の神様が取り換
えてくれて、普段手に入らないシプラコーンの毛皮が安定して取れ
るという伝説が今も続いてる。
まっ、狐魔獣と古代人との契約が今も残ってて狐魔獣たちは普段手
に入らない美味しい肉が手に入るってだけだし、人間側も狐魔獣の
おかげだと知ってるので伝説だけ利用して安く手に入れた肉を高級
な毛皮に替えてる。
それで去年バカが祠にアイテムを使って身を隠し中に入り込んで待
ち伏せして罠を仕掛け、シプラコーンの毛皮を運んできた若い狐魔
獣10頭が油断してるのを良い事に、シプラコーンの毛皮ごと捕獲
して船で仲間とともに逃げ去った。
狐魔獣側は若い者たちが消えてしまったので山の神様に訴える。
山の神﹃ヤマガミ﹄は全てを探って・・・大激怒!
ヤマガミは即座に対応して闇マーケットに流れそうだった若い狐魔
獣10頭を、シーパラ連合国最北端の都市﹃エクステンド﹄近郊に
ある隠れ家に隠されているのを補足。
1709
博閃を筆頭に狐魔獣選抜隊100頭を﹃山の神の使い﹄という加護
を一時的に与えてステータスを爆上げさせて転移魔法で選抜隊を隠
れ家周辺に送って急襲させた。
見事にさらわれていた若い狐魔獣10頭を取り戻すことに成功。
ヤマガミは祠を守っていた山岳信仰集団の中にいる内通者と敵の組
織全員に﹃ヤマガミの呪い﹄をかけて下半身不随にさせる。
さらに関係者全員に神託をくだして今後の契約の打ち切りを通告。
神託がくだされた関係者は評議会に訴え出てた。
評議会は緊急会議を開き国軍を使って下半身不随になった全員を捕
縛して、真偽官を伴った裁判を行う。
事実が確認されると全員が見せしめでギロチンを使い処刑された。
犯罪者は全員処罰されたが・・・それから祠で誰が祈っても古代か
ら伝わるどんな儀式を行ってもヤマガミと狐魔獣は沈黙を守り返事
もしてないらしい。
教会関係者がアマテラスに祈った時にアマテラスがくだした神託は・
・・
﹃神を冒涜した結果です。祈り続け謝罪し続けなさい﹄
狐魔獣もあと数年はトロール肉もオーク肉も食べられないと我慢し
ていたが、るびのとフォクサが来て大量にトロール肉もオーク肉も
持ち込んでくれたおかげで、我慢すらも必要なくなってしまった。
それに蟹魔獣とエビ魔獣を火魔法で焼いて食うと滅茶苦茶美味しい
ってことまでも教わったので、もはや古代人との契約なんてどうで
もいいって状態になってる。
るびのとフォクサのおかげもあって今は狐魔獣の怒りは消滅してし
まったが・・・
1710
ヤマガミが絶賛ブチ切れ続行中の﹃激おこ﹄状態。
それで昨日、るびのから大森林の遠征話を聞いて・・・狐魔獣達は
今後は自分たちの手で安定的に供給できるように、自分たちも合同
作戦に参加したいって事になった。
そこで本日の早朝に行われた﹃念輪による眷属だけの緊急会議﹄で
天候不良で遠征は延期になった。
それで暇な1日になったので各魔獣の挨拶回りにフォクサに連れて
行ってもらうみたい。
るびのとフォクサとの会話の中で・・・博閃も念輪が欲しいという
話になって俺に連絡してきたみたいだ。
俺がアイテムボックスから取り出した念輪を博閃に装備させてあげ
てる時に、昨年から今日までにあった裏話を教えてもらった。
﹁なるほどな・・・それで博閃達はシプラコーンの毛皮とか角はど
うするんだ?﹂
﹁るびの様とフォクサさんからボスがこういうのが好きで集めてる
って聞いてますので、ボスに子分にさせてもらったお礼に溜まって
る分を差し上げます﹂
﹁はぁ?﹂
﹁っていうよりも、自分たちには肉と骨以外必要ないんで処分して
くれませんか? 大量にあって処分に困ってるんです。人族には防
寒具とかに最適だから高級品だってヤマガミ様に聞いてますんで﹂
若い狐魔獣たちに案内されて倉庫に行ったが・・・倉庫の部屋から
すごく溢れてるよ・・・1000以上は余ってるらしい。
毛皮は防寒着に作れるし、この毛から高級セーター・高級毛布なん
かも作られてる。
シプラコーンの角は金属加工で使われる高級素材だ。
金属・・・中でもミスリルの硬度を一切下げずに粘度のみを大幅に
1711
ミスリル・シープ
上げてくれるので、超高級品のレイピアなどで使われている。
﹃MS鋼﹄と武器・防具職人たちの間では呼ばれているもので、世
間一般にはほぼ知られてない。
シプラコーンの角自体がなかなか市場で出回らないアイテムだから
仕方がない事だし、MS鋼を使った武器・防具を製造して・・・自
身の名前が武器・防具名に入ると名工・熟練職人としての名声が得
られるぐらいに熟練の技術がいる。
とりあえず1000頭分の毛皮と角をもらっておいた。
シプラコーンは最低でも年に200頭ぐらい狩らないと、いくつも
の山をはげ山にしちゃうほど食欲が旺盛なのでヤマガミからの依頼
で狐魔獣が定期的に狩りをして増えすぎないように間引いて調整さ
れてる。
狐魔獣とヤマガミの数千年続く関係があるので・・・昨年の若い狐
魔獣が捕獲されて浚われた時に、博閃から訴えを聞いたヤマガミが
激怒した経緯があるらしい。
博閃達は仲間も取り戻せたし、るびのとフォクサのおかげで肉の我
たかが人間ごときに神が舐められた&侮辱された
・・
慢も必要なくなってしまったので怒りは消えた・・・神はそんな優
しくないし
・恨みが晴れるのは数年がかりになりそう。
1000頭分のシプラコーンの毛皮と角を俺のアイテムボックスに
入れたので倉庫の中はほとんどなくなったんだけど大丈夫なのか?
博閃に聞いたら・・・ヤマガミから聞いた話ではこの後問題がなけ
れば2年後から契約は再開するみたいだけど、取引レートがしばら
く強制的に変更され・・・数年間は人間に渡す毛皮と角の量はほん
の少しずつでいいので、すぐにまた溜まるだろうって計算まで終わ
ってるんだと。
まぁ貰えるものはありがたく頂く。
1712
アイテムボックスで全員分のシプラコーンの毛皮製の頭にかぶれる
フード付きコートと耳付きの飛行帽のような防寒帽・首と顔を覆え
るマフラー・毛皮の手袋まで作った。
全員で服の上から着て狐魔獣ダンジョンの外に出てみたが確かにメ
チャクチャ暖かくて、さすがの最高級防寒素材だな。
内側には龍布を張り付けたので防御力も高い。
MS鋼もアイテムボックスの中で作って全員分のレイピアも作るが、
刀剣類の扱い方を知らないクラリーナには・・・刃の長さは45c
m程にして防御用で取り扱いやすい長さの肉厚な短剣にした。
俺以外の全員分の剣には重量軽減する重力魔法で使用者には取り扱
いやすく500gも重さは感じないようにしてある。
さおとめ
ぎけん
全員分の剣を儀礼時でも装備可能な華やかな装飾できれいに飾りつ
けたので、剣の名前が﹃早乙女儀剣﹄となっている。
アイテムボックスで作り終えてから嫁達にそれぞれ渡し、全員に軽
く振ってもらって好みのバランスにする加工をした。
クラリーナは500gでも片手では重そうだったので100g程度
にしてあげた。
狐魔獣ダンジョンの外に捨てられていた蟹魔獣とエビ魔獣の甲殻を
もらう事にした・・・貝の魔獣の貝殻も捨てられていたので一緒に
いただいておく。
さすがの狐魔獣も蟹魔獣やエビ魔獣の甲羅や貝魔獣の固い部分は食
わないみたい・・・力づくで開いて中身はペロッと食ってるけどな・
・・それで食えない固い部分はゴミとして巣の外に大量に捨てられ
て山となってた。
海の甲殻類・貝類の魔獣からとれた甲殻は・・・金属よりも大幅に
軽くてサソリオオクモなどの昆虫魔獣系の甲殻よりも熱に強いので
鎧や盾の素材として結構人気がある。
マリアとセバスチャンにも手伝ってもらって拾い終わって・・・何
1713
しろ大きめの穴が掘ってあるのだが、今では穴を超えて山になって
たからな。
全回収が終了したので博閃に挨拶して転移魔法で嫁達を連れて帰宅
することに。
博閃はこれから狐魔獣選抜メンバーとともにフォクサに連れて行っ
てもらって魔獣の各本拠地に行く挨拶回りだ。昨日の深夜にフォク
サ・るびのと共にお土産にする蟹魔獣を狩って焼いたモノを持って
いくと言って笑ってた。
るびのとフォクサの登場で大草原や大森林に住む魔獣たちの食生活
は獲物の交換で潤ってきてるな・・・
ノンビリしてたけど早乙女邸に帰宅してもまだ朝の9時半だった。
嫁達はそのまま地下訓練場に行ってそれぞれの武器の練習をすると
言ってガレージから地下に行った。
俺も地下室には行くが階段は使用しないでワインセラーの方に転移
で移動する。
ドルガーブなどで大量に酒を購入したので、熟成させる酒はワイン
セラーに置いておく。
アイテムボックス内では一切の時間経過が停止してしまうので、熟
成・発酵・醸造などは全くできない。
樽やビンを並べ終えて・・・酒の量や種類がかなり増えてきてるの
で分かり難いかと思い・・・樽の外には簡単なパネル・ビン類には
名刺サイズの説明文などをビンから紐でつるしておいた。
お酒の整理整頓が済むとワインセラーから出て熱心に練習している
みんなの様子をうかがう。
アイリは今は大剣を使って魔獣ゴーレムと師匠ゴーレムとの実戦に
近い練習をしてる。
ミーは俺が先ほど作って渡した早乙女儀剣を右手に、左手にはロー
ドクイーンのエストックを装備してレイピア二刀流の練習を熱心に
1714
してる。
クラリーナはまだ練習用の弓で10m離れた的に向かって撃ち込ん
でるが・・・今のクラリーナの初心者レベルの腕ではさすがにこの
距離でも直径50cmぐらいの的には5本に1本ぐらいが何とか的
に当たるってぐらいで、ほとんど当たっていないようだ。
俺は邪魔をしないように階段の上から静かに見学をしてそのままガ
レージに戻った。
玄関から外に出ると朝から降ってる雨は断続的ではあるが時折強く
土砂降りになったりして雨は止んでいない。
早乙女邸の庭は表も裏もほとんどが既にセバスチャンとマリアの手
によって畑と花壇に変えられている。
畑といっても野菜や果物だけでなく塀があって一日中太陽ががほと
んど当たらない場所には、あえて木製の簡単な屋根をつけてキノコ
の栽培までしている。
裏庭も芝生が生えてガーデンパーティーなどで裸足で遊べそうな部
分も残ってはいるが、今は半分以上が畑になってる。
シーパラ大河の堤防と庭の境目のところには、下に降りる階段の入
り口の扉の部分以外は樹木がずらりと並んでいる。
河に浮かぶ船からの視線から早乙女邸を守るためだ。
その畑の作物・花壇の花・樹木を守るために早乙女邸の敷地内には
必要以上に風雨が入らないように結界が張ってあり結界内からシー
パラ大河へと転送される。
庭の畑を見て回りながら・・・作物がデカいし、成長力が凄まじい
な。
マリアとセバスチャンから報告は受けていたが・・・深夜の暇な時
間にウェルヅリステル南部で聖獣﹃みかみ﹄がいた地底湖に何度も
行って、地底湖の水の中に残ってる栄養分の抽出に成功していた。
1715
セバスチャンとマリアも始めは地底湖近くの土を持って帰ってきて
早乙女邸の畑に使用していたけど、そのうちに地底湖の水を運ぶこ
とにした。
しかし地底湖の水は海水が混じっているので直接畑には使用するこ
とができない。
地底湖の水から塩分・ミネラル・栄養分などと料理スキルで分離・
精製などを繰り返すうちに﹃ミネラル豊富な塩﹄と﹃作物を育てる
栄養豊富な水﹄に分離することができるようになった。
作物を育てる栄養豊富な水からさらに1段階進んで・・・栄養豊富
な水から栄養素の塊﹃水神の涙﹄というアイテムの完全分離に成功
するまでには時間はかからなかった。
今はこの﹃水神の涙の希釈液を使用して作物は何倍になるのか?﹄
という実験段階。
100倍希釈液∼1000倍希釈液を様々に使い﹃作物の大きさの
変化﹄﹃成長度合い﹄﹃収穫時期の変化﹄などなど実験してること
はかなり多い。
みずかげ
セバスチャンとマリアに転移魔法を封入してあるので、今は大草原
のグリーンウルフダンジョンの近所・大森林の水影の巣の近く・地
底湖の上にある丘などに実験農場を作って、大量のデータを集めて
るようだ。
・・・有能すぎる執事とメイドに頭が下がるな。
ここで思い出したのは・・・昨日から早乙女式馬車によるおにぎり
の試験販売が始まっている事。
俺は早乙女商会のシーパラ支部に転移魔法で跳んで見学しに行くこ
とにした。
さすがに豪雨なので苦労してるかなと思ったが・・・そういえば早
乙女邸と同じように、もふもふ天国全店・早乙女商会の全支部・早
1716
乙女工房は結界内に入ってくる雨と風の量を制限してるので・・・
ちょっとした避難所&休憩所みたいになっているようだな。
このゴーレム馬車駐車場で雨具のコートだけでは足りなかった人達
が、道すがら一時的に避難してきて雨具のコートの上にポンチョを
羽織ってから移動していく人もいたりして、もふもふ天国シーパラ
店のゴーレム馬車駐車場は大混雑をしていた。
もふもふ天国も行列ができるまではいってないが店内は混雑してい
るようだし、おにぎりの販売も好調そうだった。
雨でベッチャベチャに濡れてる人に・・・
﹃もふもふ天国の店内に入ると入り口に乾燥の魔法が掛けられてる
ので一時的に避難されてはいかがですか? 時間があればでいいの
ですけど・・・ブーツも同じように下駄箱で乾燥してくれます﹄
と宣伝すると髪の毛がベチャベチャに濡れた女性が数人店内に入っ
ていった。
念輪でゴーレム馬車駐車場で交通整理をしているユーロンドに俺が
今言った事を教えて宣伝するように指示を出しておく。
そら
すると早乙女工房のメイドゴーレム﹃空﹄から念輪で連絡が入って
きた。
﹁ご主人様、ただいまガルディア商会の秘書の方が見えられまして、
今日の今から早乙女工房での早乙女式馬車でのおにぎり販売をさせ
てほしいとのことですがいかがされますか? ちなみに早乙女式馬
車はすでにゴーレム馬車駐車場に停車してます﹂
﹁秘書と早乙女式馬車が来てるってことは、何かの計画が変更され
てるようだな・・・わかった。今からそっちに向かうから中の駐車
場で待たせておいてくれ﹂
﹁了解しました。伝えておきます﹂
1717
俺はもふもふ天国はこのままゴーレムたちに任せてホップボートを
取り出して移動することにした。
真っ直ぐに中央行政区を南北に横切って行くだけなので15分ほど
で到着する・・・ゴーレム馬車で道路が混雑する時間ではないから、
ホップボードだとすぐに到着できる。
早乙女工房に到着してビックリしたのは・・・ここも緊急避難場所
のようになってるな。
確かに外は豪雨で雨も風も酷い状態だが早乙女工房の敷地内はパラ
パラしか雨は入ってこない。
みんな何で知ってるんだろう・・・
俺はそのまま中のゴーレム駐車場に入っていくと中には俺は製作し
た早乙女式馬車が停車していた。
俺が見た事のあるゾリオンの秘書だったので詳しく話を聞くと・・・
ガルディア商会本部ビルのゴーレム馬車駐車場で豪雨の中でのおに
ぎり販売は、お客様の要望で本部ビルの中で販売することになった・
・・こんな時間・豪雨に係わらず並んで購入してくれていたお客様
の声を無視するわけにはいかないって判断らしい。
本部ビル内部の受付の横の空いたスペースで今後はおにぎりを販売
していく事が決定された。
それで早乙女式馬車が宙に浮いてしまうことになったので、急きょ
予定を早めて早乙女工房の駐車場で販売させてもらえないかとの交
渉に来たみたいだ・・・仮契約しかしてないからな。
さっとく正式に契約書を交わして外のゴーレム馬車駐車場で早乙女
式馬車によるおにぎり販売の正式契約をしただけでなく、このまま
秘書から渡された商業ギルドに提出する早乙女工房ゴーレム馬車駐
車場での、おにぎり販売出店届に合意者としてサインした。
早乙女式馬車内でおにぎり販売の準備をしてる間に、秘書はこのま
ま商業ギルドに行っておにぎり販売出店届を提出するみたいだ。
1718
秘書が外へと走り出て行って早乙女式馬車も外のゴーレム馬車駐車
場の契約した駐車場所に移動して開店準備に入るようだ。
何事かと見ていた避難者に聞かれたのでおにぎり販売の説明をして
おいた。
周囲を警戒しているユーロンド達にも説明するように指示を出す。
あとは自分たちでも販売できるだろうし・・・今日のような豪雨で
早乙女工房の敷地が緊急避難場所となってるようなときには意外と
宣伝効果があるかもしれんな・・・
秘書が帰ってきた頃には美味しそうなご飯の炊きたての香りが周囲
に漂ってくる。
早速おにぎりの販売が始まり、匂いに釣られて早乙女工房に避難し
ていた人達の中から何人かが列をなしていた。
ここで販売している店員には﹃ナディア・グラナド﹄がいた。
準備で忙しそうだったので話しかけはしなかったが、笑顔で手を振
っておいたら笑顔が返ってきた。
こうやって見てるとナディアの母の妹でシーパラ教会大聖堂で働く
﹃シル・バリトネット司教﹄にも似てるけど・・・2人ともドルガ
ーブに住む﹃ミルクル・マキアート﹄に似てるんだな。
エルフの美形の顔ってのはミルクルみたいな顔になるんだろう。
おにぎりの販売は中身の具の種類が4種類﹃梅干し﹄﹃おかか﹄﹃
昆布﹄﹃赤紫蘇の混ぜご飯﹄
1つ150Gで4つセットは500Gで販売されることが決定され
てる。
海苔は先に包んでおくか後で自分で包むかが選べる・・・俺はしん
なりした海苔も好きだし食べる直前でまいてパリパリのまま食べる
おにぎりのどちらも美味しいと思うので・・・どっちの海苔も好き。
1719
敷地の外を歩く人たちも、時間に余裕のある人たちは足を止めて中
を伺ってくるし、その中には興味を持って購入してその場で食べて
る人もいる。
俺は邪魔しないように早乙女工房の中に入っていった・・・暇だな・
・・何か作ろうかな?
こん
早乙女工房の2Fにいって応接室に腰かけて悩んでいるとメイドゴ
ーレムの紺がきてコーヒーを入れてもらっている時に橙に話しかけ
られた。
﹁ご主人様にお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?﹂
﹁んっ? どうした?﹂
﹁早乙女工房に簡易ゲートを置いてマヅゲーラの街と繋ぐことによ
って、早乙女工房は任侠ギルドの足掛かりの拠点となっているので
すが・・・これは一時的なものなのでしょうか?﹂
﹁今のところ一時的な措置だな。俺の考えでは任侠ギルドでシーパ
ラにある裏組織の本拠を潰して乗っ取ろうかと思ってるんだが・・・
敷地・建物を任侠ギルドで購入して改造よりも手っ取り早そうだか
らな。そうは言っても任侠ギルドの幹部会でもまだ何も決定されて
ないから何とも言えないな﹂
﹁乗っ取るのは本拠だけですか?﹂
﹁というと?﹂
﹁組織ごと乗っ取るというのはいかがでしょうか?﹂
﹁人員コミか・・・でもなぁ・・・﹂
忍20体と徒影6号∼20号の探り取った情報で今まで俺が受け取
った報告によると、俺が潰した組織から探り取った情報の中で今の
ところ生き残ってる下部組織はあと1つだけだ。
ここはあまりに小さすぎて資金力が既に尽きていて、俺が何もしな
くてもそろそろ捜査の手が入って消滅しそうだ。
それでこの前叩き潰したマフィアギルドの下部組織の動向を忍と徒
1720
影を使って探らせたが・・・こっちの方は3つある。
組織ごと乗っ取る気もなくなるほど3つとも腐ってる組織なので、
任侠ギルドで潰して建物と敷地だけいただこうかと思っていた。
﹁それでしたら、なおさらマフィアギルドの下部組織の人員を奴隷
にして、死ぬまで働かせた方が良くないですか?﹂
﹁誘拐した奴隷で私腹を肥やしていた人間たちを奴隷とするのか・・
・なるほど、いいアイデアだな﹂
﹁さらにマヅゲーラの街でこれまでは無料ボランティアで任侠ギル
ドがしていた清掃を請け負う無料清掃員としてコキ使えば街もきれ
いになりますし、シーパラの警備隊・国軍の捜査組織の監視の目か
らも逃れる事が可能だと思われます﹂
﹁それもいいアイデアだな。皆殺しにするよりも良い見せしめにな
りそうだな﹂
潰す組織は3つだが手に入る敷地と建物は2つ・・・1つは小さく
て集合場所が決まってるだけの組織。
3つとも上部組織が完全崩壊させられて逃げようとしてるという情
報もあるし・・・
これは急いだ方がいいかもしれんな。
1721
冒険者ギルドでの決闘騒ぎがあったっす。
シーパラで情報収集させるためにシーパラの陰に放った忍20体と
徒影15体に指示を出して、今まで以上に3つの下部組織を注視さ
せることにする。
ついでにフォンマイ家・ケミライネン家・角館家の3つのシーズの
家も探らせていたのも強化する。
ユマキ家のサトシが第12代目当主就任記念たパーティーで俺の強
さを見せたはずなのに、理解できていない家が2つもあったのは少
し驚いてるし・・・ガッカリしてる部分もある。
金で組織でどうにでも出来ないレベルの強さの片鱗位は見せてやっ
たつもりなんだけど・・・バカに絡まれると面倒なので・・・それ
でも絡んでくるとわな。
そんな意味でガッカリしていた。
ユマキ家の先代当主と正式な次期当主を俺が合法的に殺害したのも
知ってるだろうになぁ・・・
しかもその次の12代目の当主就任記念パーティーに俺が呼ばれて
ることを理解できてないんだろうか。
早乙女の敵に回る可能性を考えて先手を打って探らせてはいたんだ
けど、今後の動向次第ではどうなるのかわからないので人間関係な
どもすべて探らせることにした。
誰にでも悩みや弱点がどこかにあるだろうし、探ってるうちに俺に
絡んできた理由が見えてくるかもしれん。
俺が早乙女工房の2F応接室でコーヒーをすすりながら今後の方針
について悩んでいたが・・・今のところはこちらから動く場面じゃ
1722
ないな。
相手がどういう意図なのかもわからない今の状態で悩んでいても結
論は出ないだろう。
任侠ギルドのシーパラ進出は早急に進める必要がありそうだ。
時刻が11時半を回ってそろそろおなかも空いてきたので早乙女邸
に帰宅して昼食をとることにした。
今日の昼食はウナギの白焼きをクロに出してもらう。
俺がダイニングで食べ始めると嫁達がシャワーを浴びてサッパリし
てからダイニングへとやってきた。
嫁達も思い思いの食事をクロに出してもらって食べ始める。
食後もリビングに移動して俺は番茶をすすりながら夫婦で雑談。
13時を過ぎたのでそろそろ昨日のチーム早乙女遊撃隊がブランデ
ィックスダンジョン地下10階のボスをクリアーして新たなるエリ
アが解放された事が正式に発表されている事だろう。
チーム早乙女遊撃隊という名前と早乙女一家全員の名前をダンジョ
ン解放者の中に刻み込み、数万人以上いるシーパラ連合国の冒険者
の中で名を挙げた瞬間になる。
俺には特別な感情はなかったけど10年以上もの長い間冒険者をし
ているアイリとミーにはかなりうれしい出来事のようだな。
午後からは買い物ついでに冒険者ギルドにも行って友人達と話をし
てくると言ってアイリとミーはマリアとユーロンド1号を連れて出
かけて行った。
クラリーナは今から20分ほど昼寝をしてから午後も弓のトレーニ
ングを続けると言って寝室に行ってしまった。
俺は午後からはどうしようかなと悩んでいると・・・早乙女工房の
来客がユーロンドによって報告された。
1723
﹁ご主人様、早乙女工房にマスカー・フレデリックが所属して管轄
している﹃最高評議会特別捜査隊﹄の隊長と幹部2名・・・マスカ
ー様と部下2名がみえられまして、お主人様にと手紙を持ってきて
るのですが、いかがいたしますか?﹂
﹁手紙を今から読むからアイテムボックスで送ってくれ﹂
﹁了解しました﹂
手紙を読んだが・・・この前の事件の落としどころを探ってる感じ
だな。
ケミライネン家・角館家の言い訳が色々と書いてあるんだが簡単に
一言で済ますと﹃まぁ焦って強引とも、とられかねない行動をした
ようだけど許せ。けど何でこの程度の事で大騒ぎしてるんだ?﹄っ
て感じで謝ってる感がないな・・・ゼロだ。
こいつらの﹃上から目線﹄は何とかなんねぇーのかな?
お前が偉いんではないのに、先祖が大金を投じて国家誕生の足掛か
りを作っただけで、どうして他人を見下せるんだろうか・・・
ユーロンドにケミライネン家・角館家への返事をマスカーに手紙を
渡して、ついでに念輪でユーロンドと回線を開き直接俺の声で会話
を始める。
﹃俺に頭を下げて謝罪したいなら聞いてやる。たかがシーズごとき
が調子に乗るな。俺と戦争がしたいのか仲良くしたいのかどっちだ
?﹄
﹁・・・早乙女さんの声で直接話せるのか、凄まじい技術力だな・・
・しかし、シーズの家はその言葉を伝えると戦争を選びかねないぞ
?﹂
﹃ならば戦争すればいい。俺との戦争で1時間以上持ちこたえられ
たら褒めてやるよ。マスカーは俺のやってきたことを今まで調べて
知っているんだろう? 昇竜商会ビルにいる1500名以上の人間
をショック魔法一撃で半日気絶させた・・・あれが限界ってわけで
1724
もないぞ?﹄
﹁それを言っても聞かないのがシーズなんですけど・・・﹂
﹃それは自ら進んで争いの間に入ったマスカーの責任だ。それにケ
ミライネン家はテイマー、角館家は奴隷商束ねる立場なんだよな・・
・俺が全世界に格安でゴーレムを製造販売したら1年も持たずに2
つのシーズの家は収入を全部断たれて潰せるよ。まぁ予想では半年
持たずに内部の反対派から当主は暗殺されるけどな﹄
﹁そんなことできるんですか?﹂
﹃余裕だよ。俺とゴーレム販売したいって考える商人なんて山ほど
いるさ・・・それどころか、俺の個人経営でゴーレムを製造するた
めのゴーレムすら余裕だよ。24時間休みなしで壊れもせずに素材
がある限り作り続けられるんだ。この国の労働ってモノの歴史が変
わるぞ?﹄
﹁そ、それは・・・﹂
シーパラ連合国の
﹃まぁこの前のパーティーで俺個人の戦闘能力は存分に見せてやっ
た。あの場にいたイワノスに聞いてみればいい
ってな。面白い答えが返ってくるよ﹄
全部の国軍を使って早乙女と戦争を始めたシーズの家族を守りきれ
ますか?
個人的なケンカがしたいなら
﹁それはイワノスさんに聞くまでもなくわかってます・・・理解し
てもらえないんですよ﹂
﹃では国軍もまとめて引けばいい。
勝手にやれ、どうせ滅びるのはお前等なんだし、最高評議会も多分
ってことだろう。それがなくなった瞬間か
自分達こそが国の
って最高評議会の人間に言わせればビビ
早乙女側に付いて、とばっちり受けない事を考えるだろう。シーズ
の名前を剥奪されるだけ
るんじゃないのか?﹄
﹁へぇー、なるほどなぁ﹂
自分達が法律
﹃シーズの家の特権階級意識の根本にあるのが
中枢
1725
らただのバカ商人だ。ユマキの先代当主の末路を話せば充分だろ﹄
相談したい
とか
悩みがある
って言っ
﹁その線で攻めます・・・早乙女さんに愚痴を聞いてもらって気分
が楽になったよ﹂
﹃そういう時、今後は
てくれ。ケンカを売られているのかと勘違いしそうだ﹄
﹁あぁ、そうだったな。伝えきれなくて申し訳ない﹂
俺の直筆の手紙を持ってマスカーと部下2名は帰って行った。
マスカーに間に入られた時から予想はしてたが・・・冒険者や軍人
だけでなくシーズの家で商人として長年に渡り交渉事をこなしてき
たイワノス・ゲッペンスキーが間に入ったのならともかく、元の軍
人のマスカーが間に入るとこうなる様な気がしてた。
直情型の人間が多い軍人には言葉巧みに誘導してくる商人との交渉
にはそもそも向いてない。
マスカーも初めは一方的に犯罪を起こしたシーズの家2つに有利に
話を進めて自分の存在感を広めたかっただろうが・・・商人はそん
なに甘いもんじゃないし、それがシーズともなって権力の中枢側の
人間達という事を利用しつくしてきた商人達からすればすぐにひっ
くり返されるのは当たり前だろう。
なので、ここで上手くイワノスの名前と最強評議会を絡ませマスカ
ーと国軍を一歩ひかせることに成功したようだ。
この背後関係から考えると国軍を自分たちの陣営に引き込んで交渉
しようとしていることが2つの家の手紙からありありと見えたので、
戦争
するのかと誰がどう見てもわかりや
謝罪して
あえて今回の問題を複雑化させる前に国軍と最高評議会特別捜査隊
のか
をまとめて交渉事の舞台から降ろさせて傍観者に回し、
から交渉をする
すい展開にしてやる。
俺からすればます公式に謝罪しないことには交渉もしないと突き放
1726
してやったからな。
謝罪するには自分のプライドが邪魔するし、そうかといって商会が
英雄
だかららな。
人を雇って戦争しようにも敵はAクラスの冒険者で﹃ヨークルの救
世主﹄とまで言われてる
むしろ俺の味方をした方が楽して稼げると思うだろうから、雇われ
る交渉をした組織は率先して俺に情報を売りに来るだろう。
裏の組織を使おうにも・・・裏の組織を圧倒的武力で全部叩き潰し
てから明るみに引きずり出して、﹃救世主﹄﹃正義の執行官﹄と呼
ばれるようになって、最高評議会・評議会・教会側からの働き掛け
でAクラスの冒険者になった相手が敵の俺。
そもそも・・・シーパラとヨークルの裏組織には大きな組織も中堅
どころもすでに存在すらしてない。
俺から言わせればすでに﹃詰み・チェックメイト﹄だな。
マスカーが間に入った事によって国との交渉事に使う事が出来そう
だと思ったが、そんな必要すらなくなってきた。マスカーからの話
をイワノスが聞いたら即座に手を引くことを選択するか、早乙女側
に回って俺に恩を売ろうと考えるだろう。
さぁ、マスカーから受け取った俺からの手紙を見て・・・ケミライ
ネン家と角館家はどうするかな?
俺の予想だと・・・
今回の騒動の責任者
という執
誰が今回の騒動の原因と誰が責任者なのかは知らないが、今回の交
渉事のさらに上が出てきて謝罪を
事・秘書とか下の人間にさせて自分は交渉人として、俺と仲良くし
ようとは考えてるような気がする。
いかにも商人が考えそうな手だからな。
始めの謝罪だけ受け入れて、交渉する気もなく突き放してやったら
どんな反応するのかがちょっとみたいような・・・面白そうだし。
1727
そんな事をヨークルにある早乙女邸のリビングのソファーに座った
まま思案していると、アイリ・ミー・マリア・ユーロンド1号から
緊急の念輪連絡が入り始めはマリアからの報告。
﹁冒険者ギルドにて奥様方を侮辱する行為がありまして、私とユー
ロンド1号と敵の冒険者10人のチームとの決闘システムによる戦
闘に入ります。ご主人様はどうされますか? 見学なさいますか?﹂
﹁見たい! 時間と場所を教えてくれ、今すぐ行く﹂
時間は30分後、場所は首都シーパラの北部にある冒険者ギルドシ
ーパラ支部の方だ。
ここにある様々な訓練施設の雨天用訓練場での決闘になるみたいだ。
俺は早乙女工房に転移魔法で跳んでからホップボードに飛び乗って
決闘場所に急ぎながら決闘に至った経緯を聞く事にした。
∼∼ ミー視点 ∼∼
しんちゃんから今日の13時に冒険者ギルドで発表があると聞いて、
いてもたってもいられなくなるほど興奮したのは親友のアイリも同
じだった。
実の両親の記憶はほとんど残ってないけど、私もアイリと一緒にモ
ルガン父さんの背中を見て育った。
家の裏庭で盾の練習をするモルガン父さんの大きな背中が逞しくて
頼り甲斐があって・・・何よりカッコ良いと思って育ってきた私と
アイリが冒険者を目指すのは必然であっただろうと思ってる。
そんなモルガン父さんの願いは、私の実の両親と同じ願いだった。
1728
﹃冒険者の歴史に名を刻みたい﹄
名を刻む前に3人は他界してしまったけれども、私とアイリが冒険
者として名を刻めば両親の願いも叶うんじゃないかと頑張っては来
たけど・・・甘い世界じゃないよね。
しんちゃんと出会う頃にはそんな夢なんて、日々暮らし行く現実の
生活の中に消えていってた。
以外
先行きに不安を抱えていたことも衰えていく自身の肉体の事も全部
トラブルを引き寄せる体質
を吹き飛ばしてしまったのが・・・しんちゃんとの結婚だ。
1ヶ月で劇的に生活は変化して
には未来は光に満ち溢れてるね。
そんな私たちの起こった変化は﹃Bランクへ冒険者ランクアップ﹄
出来た事と今回の﹃ダンジョン解放者﹄として正式に冒険者ギルド
で発表させる事・・・歴史に確実に名を刻んでいることだ。
しんちゃんとクラリーナは私とアイリの説明にもよくわかってない
みたいだったけど、私とアイリは興奮した・・・夢が叶った瞬間な
んだから。
アイリと話をして直接発表の瞬間は時間的に無理だけどギルドで友
達達と話がしたかったので、午後も訓練する予定をやめて冒険者ギ
ルドシーパラ支部に行くことにした。
私・アイリ・マリア・ユーロンド1号の4人でホップボードでひと
っ走り。
今日は朝からの大雨でも、しんちゃんからもらった雨避けの指輪が
あれば何も関係なくなっちゃう優れものだね。
冒険者の友人が数人いたので挨拶して話を聞くと今日はあまりの天
候の悪さにブランディックスダンジョンに行くのをやめて、ここの
訓練場で一汗流して夕方から美味しいお酒を飲もうと企んでいたら
しい。
1729
ボス部屋の話を聞かれたんで詳しく話してあげた。
ギルド2階の食堂でコーヒーを奢ってもらいながら話に花を咲かせ
る。
5cmの肉食スチールバッタ500匹の恐怖を話してあげたら・・・
ボス部屋クリアーしてクリア報酬を狙ってるらしかったが、私の﹃
魔法が使えないとあの部屋は入らない方がいい﹄という、しんちゃ
んの受け売りを教えてあげたら・・・さすがはベテラン冒険者、瞬
時に危険性を察知してやめると言ってた。
これもしんちゃんの受け売りだけど・・・
あのフロアーは解放されてリザードマンが大量発生してるから、ボ
ス部屋に行かなくてもリザードマンのドロップアイテム﹃リザード
マンの尻尾﹄で安定的に荒稼ぎできるし、MAPはまだ出来そうも
ないほど広いと教えたら・・・しばらくはそれで荒稼ぎできるなと
ギッシッシと笑ってる。
私たちの周りの冒険者も私とアイリからの生の情報を聞いて方向変
換したみたいだ。
ベテランほど、5cmという超小型昆虫魔獣500匹が引き起こす
﹃数の恐怖﹄ってのを言葉だけで理解したみたいね。
それにあとで教えた﹃リザードマンの尻尾﹄は冒険者ならば一度は
聞いたことがある海外から輸入するしかない﹃輸入品﹄ってぐらい
は知ってる。
高額で取引されていていつでも品薄なアイテム。
明日からは早速ギルドの依頼票に大量に並ぶことになるだろうから、
しばらくは・・・大至急欲しいから大金を払うっていう業者が列を
なすし、転売ヤーまでもが集まってくるだろう事まで見えるでしょ
うね。
話に割り込んできたのが見た事もない集団で・・・と言ったらアイ
1730
リに叩かれて怒られた。
﹁ミネルバ久しぶりだな﹂
﹁久しぶりって・・・誰? ﹃バシン!﹄アイタっ!﹂
﹁ミー、﹃誰?﹄じゃないでしょう・・・この人はあんたのストー
カーでしょうが!﹂
手をポンっと叩く。
﹁あぁそういえば! でもこんなオジサンのバカ面だったっけ?﹂
﹁最後に見たのが5年前だから・・・老けたんじゃないかな?﹂
﹁ストーカーじゃねぇ! ふざけるなよクソ女﹂
﹁あら、やだわ。元ストーカーらしきオジサンにクソ女なんて言わ
れちゃったわ﹂
﹁ミーも災難ね。老け顔のストーカーなんかに絡まれちゃって﹂
﹁ふざけるなテメェ、ぶち殺す!﹂
元ストーカーが腰のロングソードを抜こうとロングソードの柄に手
を手に持って・・・抜けない。
マリアがロングソードの柄の先端を指一本で抑えている。
マリアが一切の音も立てずに座ってる私の後ろから移動して、ロン
グソードを抜くために後ろに飛びずさった元ストーカーの刀の柄を
抑えてるという凄さは周囲の人達にはわかったみたいだけど・・・
お馬鹿さんには理解できてないみたいねぇ。
コイツは私に5年前に振られた腹いせに私が﹃アバズレ女﹄だとい
う噂を陰でバラまいた張本人。
こういう男だとわかってるから振ってるのに、散々私をつけまわし
て逆に私をストーカーのアバズレなんて噂を出した張本人を許すは
ずもなく、裁判までやって罰金刑まで喰らわせたのに・・・まだ絡
んでくるとはねぇ。本物のバカかもね・・・
噂が消えるまで1年以上も掛かったことはまだ忘れられないんだけ
1731
ど・・・
ここで追い込むことにしちゃう。
﹁あら、残念ね。うちのクマちゃんにすら勝てないなんて・・・元
ストーカー・老け顔のオッサン・クマ以下の根性なし・・・哀れね
ぇ﹂
﹁プププッ、もう、ミーったら・・・こういう人達に真実って禁句
だったりするのよ。真実って残酷だから﹂
さすがにアイリのセリフで周囲の冒険者が爆笑し始めた。
我慢できなくなっちゃったみたいね・・・大雨で暇を弄んでた人達
から囃し立てられた元ストーカーがプルプル震えながら大声で叫ぶ。
﹃俺と決闘しろ!﹄
﹁ヤダ﹂
即座に断ってやった。
﹁キサマー、逃げるのか?﹂
﹁私、弱い者イジメって嫌いなの。私のゴーレムたちに勝ってから
言ってね?﹂
﹃貴様ら! 決闘しろ!﹄
∼∼ ミー視点終了 ∼∼
って事を笑いながら教えてもらった。
クラリーナに念輪で連絡すると一緒に見たいという事だったので、
冒険者ギルドシーパラ支部に到着して会場になってる場所に向かっ
て歩きながら暗がりに入って、出てきたときには転送魔法で一気に
引き寄せたクラリーナが隣を歩いてる。
1732
俺が決闘会場に到着すると野次馬で凄いことになってる。
冒険者ギルド本部で忙しいはずの旧ギルドマスター﹃青木勘十郎﹄
と新ギルドマスター﹃アクセル・ビッタート﹄まで見学に来てやが
る。
冒険者ギルド本部幹部の犬獣人﹃ニール・オスキャル﹄がやってき
て教えてくれた。
﹃本部も暇だったからビッタート卿の発案で各部署の2名まで見学
OKってなった﹄んだと。
ニールも熾烈なじゃんけん勝負に勝ち抜いて見学に来たらしい。
思わず声を上げて笑ってしまった。
雨天練習場は・・・体育館のような巨大な屋根と壁があり、下は土
の地面となってる。
青木の指示で急遽15mほどの正方形が描かれ四隅にミスリル棒が
刺されて結界が張られた。
その周囲には椅子が並べられて観客席まで出来上がる。
マリアとユーロンド1号に指示を聞かれる。
﹁ご主人様、どういった戦い方を望みますか?﹂
﹁ミーはどうしたい? アイリもリクエストがあれば言って! ど
出来るだけ惨めな最後
ってところだわね。私はミ
んなリクエストでも可能な2人なんだけど﹂
﹁私の希望は
ーと違って直接な恨みはないからね﹂
﹁私は借金を背負わせるって出来ないかな? できるだけ長く苦し
ませたい﹂ ﹁両方のリクエストに応えるのは上級シールダーだな。殺さずに治
療費を負わそう。敵10人全員からできるだけ多くの骨をへし折っ
てやってくれ﹂
﹁﹁了解です。ご主人様﹂﹂
1733
マリアとユーロンド1号の2人が自身のアイテムボックスから自分
用の盾を二枚取り出して左右に握って構える。
俺・アイリ・ミー・クラリーナは自分のアイテムボックスから自分
用のイスとテーブルを出して、ドリンクとおやつも取り出した。
俺は今日はホットのハーブティーと芋の3種盛り。
アイリはビールとチーズを出して、15時を過ぎたんですでに酒を
始めたようだ。
ミーはコーヒーとドライフルーツを食べてる。
クラリーナはホットミルクティーとカットフルーツにしたみたいだ。
俺は周囲の観客を見まわしてるが、すでに酒を飲み始めた冒険者の
方が多い。
お祭り騒ぎを聞きつけた屋台が既に敷地内に入ってきていて冷えた
ビールやツマミの焼き鳥・何かの魔獣の肉の串焼きなんかも販売し
見世物
決闘が始まった・・・アイリから早速質問さ
ていて、いい匂いがここまで漂ってきてる。
そんな中で
れる。
ガーディアン
﹁しん君、マリアとユーロンドのシールダー用の盾の形状が違うけ
どなんでなの?﹂
﹁あれはシールダーの上級職﹃守護者﹄専用のシールドだからな﹂
﹁ウソっ!!!﹂
アイリが驚愕して大声を出すのは無理もない、俺の言葉を聞いた周
囲の冒険者も固まってしまった。
俺の持つ忍術・賢者スキルに勝るとも劣らない伝説のスキルで過去
かすかべ きょういち
に何人かいる転生者のみが持っていたとされているスキル。
おやっさんの師匠﹃春日部侠市﹄が持っていたスキルで、彼は俺の
中に記憶と経験と技を全て残してるんだから俺が知ってて当たり前
1734
なんだけどな。
守護者専用のシールドは葉巻のようなオーバルタイプの楕円形で両
端が先割れスプーンのように2つに割れてる。
基本のトンファー型なのは変わってないが付いてる盾の形状が違っ
ていて、取り扱いも数倍の熟練度がいる。
﹁というよりも、アイリはおやっさんに聞いてて知ってると思って
たけどな﹂
﹁シールドの形状まで違うっていうのは聞いてなかったわ﹂
﹁あの形状にこそ守護者の強さの秘密があるんだよ。それに盾職・
シールダーを極めても守護者のスキルは発現しないからな﹂
﹁うん。それはおやっさんから聞いてる。どうやっても出ないし、
スキルの発現させるための条件が分からなかったって﹂
﹁条件は1つ・・・シールダーマスターになる事と無手の中の﹃合
気道﹄のマスタースキルが必要だ﹂
ここでマリアとユーロンドの持つシールドの形状に気づいた唯一の
人物・・・俺の後ろにまで来ていたアクセル・ビッタートが大声を
出した。
﹁合気だと? あぁ! そうか。気を練る訓練が必要って事か?﹂
﹁ああ、そういう事だ﹂
﹁なるほどな、それで伝説の守護者﹃春日部侠市﹄が死ぬ間際に最
無手・合気
へと繋がるのか・・・﹂
ドワーフよりもダークエルフの方が守護者に向い
という意味は
後に残した言葉
てる
﹁そういうことさ。ドワーフは強靭で折れない心を持ってる代わり
に無手術への理解度はない。ダークエルフは過酷な環境を生き抜く
ために無手の何らかの技術を持って生まれてくる・・・生まれなが
らに合気のマスタースキルを持つダークエルフも珍しくないからな﹂
﹁なるほど勉強させてもらったよ・・・ありがとう﹂
1735
﹁おいおいビッタート卿、これからが本番なんだからまだ帰るなよ。
俺が守護者の技を見せたい2人・・・アイリとビッタート卿がそろ
ったんだ。いいものを見せてやるよ・・・目を離すなよ! その目
に焼き付けろ。マリア、1号行け!﹂
﹁﹁はっ﹂﹂
俺のGOサインで今までの戦闘ですべての攻撃を受け流すだけだっ
た2人が攻勢に出る。
動き出す前に気を練り上げた証拠で2人のゴーレムの体が薄く光る。
上から切りかかってきた大剣を先割れ部分で受けると捻って大剣を
へし折る。
レイピアで突きかかってきた敵の攻撃を受け流して反対の盾で敵の
利き腕をへし折る。
崩れ落ちそうになる敵の膝にも先割れ部分を入れて、膝を砕いてか
らもう一つの盾でシールドバッシュを行って後ろの敵にめがけて吹
き飛ばす。
あまりにも圧倒的な実力差に周囲の見学者達にもゴーレムの強さが
明らかにわかる・・・これでもこのゴーレムは明らかに手を抜いて
いる事だけがハッキリわかるのだ。
見せやすい様にゆっくりにしか動いていない。
ゆっくりした動きで避けたはずなのに避けた先にはもう次の攻撃が
来て待ってるんだからな。
敵の攻撃を先回りして攻撃すること・もしくは敵の攻撃を自分が優
位になるように誘導していく事こそが守護者の真骨頂だからな。
アイリもビッタート卿も食い入るようにマリアとユーロンドの動き
を注視してる。
ゴーレムたちが攻勢に移ってから10人の重症者が転がるまでに5
分も掛からなかった。
1736
﹁ま、こういう事だ。アイリが以前の雑談で言ってた﹃シールダー
の先にあるもの﹄がこれだな。ビッタート卿が雑談で言ってた﹃シ
ールダーとダークエルフの関係﹄その答えが守護者って事さ﹂
﹁しん君ありがとう。行き詰ってた事の先に光が見えたような気が
するよ﹂
﹁早乙女君ありがとう。ワシの中に200年以上もの間引っかかっ
て解くことのできなかった疑問が解消したよ﹂
も解
決闘が終了したので近寄ってきていた青木が後ろから話しかけてき
た。
合気道は子供しか通ってくれない
﹁合気か・・・これからは親戚の道場も繁盛できそうだな﹂
﹁青木さんの親戚の悩み
決してやっただろ? なぁ青木さん﹂
﹁これはこれで﹃厳ついオッサンばかりだ!﹄って文句言われそう
だけどな﹂
﹁クックック、贅沢言うなっていってやるしかないな﹂
﹁アッハッハッハ、それはすでにもう言ってる。青木家の道場なん
て嫁入り道具代わりなんだからな。嫁入り前の行き先の決まった女
性ばかり・・・絶対に手が出せない御馳走地獄だ﹂
青木のこの言葉で周囲にいた人が全員笑い出した。
それは確かに地獄かもしれんな・・・目の前に御馳走が並んでるの
に手を出そうと考える事すらできないなんて・・・生き地獄ってや
つだろう。
確かにそれに比べたら道場の生徒が子供ばかり、次からの生徒が厳
ついオッサンってのは地獄に比べたらぜいたくな悩みだろう。
結局・・・元ストーカーのチーム10人の骨折の治療は教会にさせ
1737
て教会の儲けにさせてやったので俺の手間は省けた。
教会の借金を踏み倒そうとする冒険者はいないだろうしな・・・今
後の治療がかかってくるから。
俺が回収をするんだったら任侠ギルドに売っちゃうのもいい作戦か
なと思ってたけど、ビッタート卿にお願いされて譲ることにした。
俺との会話を終えて離れていったビッタート卿と青木のところにシ
ールダーらしき人が親戚の合気の道場を教えてもらおうと話を聞き
に行ってる。
﹁そういえばこの決闘って何を賭けたんだ?﹂
﹁・・・なんだったっけ?﹂
﹁う∼∼ん、覚えてないわね。マリア覚えてる?﹂
﹁特に何も賭けておりませんが・・・﹂
﹁しん様、そんな事ってあるのですか?﹂
﹁俺は聞いたことがないな﹂
﹁私は断ったしねぇ﹂
﹁私は始めから横で聞いていただけだからね。そもそも対象外だわ﹂
﹁ミネルバ奥様がお断りになられた時に、ゴーレムに勝ってから言
いなさいと言われましたので、相手方は私・ユーロンド1号と決闘
になりました。ですので、勝てたら奥様方と決闘という事になるの
ではないのでしょうか﹂
うーん。結局、相手の目的もよく分からないまま決闘騒ぎというお
祭りは終了した。
1738
騒動は続く∼よ∼、ど∼こま∼で∼も∼∼っす。︵前書き︶
12・31修正しました。
1739
騒動は続く∼よ∼、ど∼こま∼で∼も∼∼っす。
ブランディックス・ローズ
終わってから自分達で使っていたイスやテーブルを片付けていると・
・・青木がやってきて俺がダンジョン解放初回クリアー報酬のBR
魔弓が見たいと言ってきた。
さすが弓使い。
レジェンドクラス
話を聞いて興味津々だったんだろう・・・いいよと気軽に見せてあ
げようと、俺がアイテムボックスから伝説級の魔弓を取り出して青
木に渡したので、片付けをしていた周囲の人が手を止めて周囲に群
がってきた。
﹁早乙女君、これって試射させてもらってもいいかな?﹂
いわおとし
﹁それは構いませんが、多分撃てないと思いますよ? これは青木
さんが持っている巌落の弓の内臓魔力を使用する魔弓とは違って、
使用者が魔力を弓に溜めて増幅して使用する魔弓ですので魔法属性
能力の低い青木さんでは試射しようとすると・・・多分、撃つ前に
倒れますよ?﹂
﹁なるほど、それは残念だな・・・早乙女君が試射するのを見せて
もらってもいいかな?﹂
﹁それは一向に構わないんですけど・・・的に撃ってもこの魔弓は
意味がないですよ?﹂
﹁はぁ? どういう事なんだ?﹂
﹁それはですねぇ・・・﹂
俺はこのBR魔弓の特徴を青木に教える。
このBR魔弓を使用するためにはある程度の魔法の素質が必要なな
こと。
魔弓に込める魔力も多く必要なので弓使いではなくて﹃魔導師﹄系
1740
の装備に向いてること。
矢の軌道も弓矢の軌道ではなく魔法使いが使う魔法に近い事。
冒険者ギルドにはドロップアイテムとして正式に登録して性能まで
公表してるので、別に誰に聞かれても構わないと小さな声でなく誰
でも聞こえる普通の大きさの声出話をしている。
説明をしていくが・・・試しに撃って見せた方が早いかな?
俺は瞬時にBR魔弓に魔力を込めると両端の魔水晶が淡くグリーン
色に光り、光の弦がつながって魔弓が起動した。
俺は誰もいない斜め上の壁の方向に弓を向けて無造作に撃つ。
魔力の弦から放たれるピシュっという小さな音とともに放たれた矢
は普通の矢ではありえない運動を起こして、壁に突き刺さる手前で
真上に向かってカーブして飛んでいく。
壁沿いを上へと向かって飛ぶ矢は屋根の骨組みの上を複雑極まりな
い動きでグルグルと飛び回って・・・消えた。
矢が消えたと同時に骨組みの上にいたネズミがバラの蔦に縛られて
3匹落ちてくる。
バラの蕾が出てくるまでネズミはもがいて暴れていたが、バラの蔦
に絡まって動けない。
やがてバラの蕾が華となり咲きかけるととネズミが痙攣をおこして
ビクビクし始め、バラの華が完全に開き切るとネズミは3匹とも絶
命してバラの華も蔦も全部消える。
﹁こんな弓なんだ・・・まさしく魔弓という名前に相応しいほどエ
グいですよね﹂
﹁これは確かに俺ではここまでイメージできない。まさしく魔法使
い専用だな﹂
魔力を放出することに長けた人達
になら取
﹁魔法使いでなくても、いわゆる﹃亜人﹄と呼ばれるドワーフ・エ
ルフ・小人族などの
1741
り扱うことが可能だと思うよ、彼らは魔法の素質は人族とはレベル
が違ってるからな﹂
﹁なるほどな・・・早乙女君ありがとう。確かにこれなら的に矢を
当てても何の意味もない魔弓だな﹂
きゅうこん
﹁口で説明してもこればっかりは理解できそうもないだろうから、
ネズミを利用させていただいたよ﹂
﹁それにしても・・・まさしくBR魔弓、別名﹃吸魂魔弓﹄か・・・
対生物においてエグすぎる威力だな﹂
﹁敵の動きを予想してイメージする事が相当に高いレベルで要求さ
れますし、イメージができないと弓の威力が落ちるので中級者以上
でしか取り扱うこともできないと思います﹂
雑談のさなかに俺がアイテムボックスに魔弓を片付けると、周囲の
人達も決闘会場の撤収に戻って行った。
俺はネズミ3匹の死骸を光魔法の聖炎で焼き尽くして浄化させた。
﹁俺の貰った巌落とは威力に差がありそうだな﹂
汎用性の高い
魔弓の巌落。かたや魔法の素質がない
﹁巌落とは方向性が違うんでしょうね。誰でも使いこなせる可能性
を秘めてる
と使う事すらできないBR魔弓。周辺の土地の地の魔力を吸い上げ
て集める特徴がある巌落はより過酷な環境下で威力を上げるので、
どっちが上でどっちが下というのはないでしょう・・・BR魔弓の
場合は使用者の魔法属性値、巌落の場合は環境下で弓の威力が変わ
ってきますので﹂
﹁確かにそれは言えるな・・・あぁ、それとありがとう。俺にとっ
てはなかなか興味深くて面白い見世物を2つも見せてもらったよ﹂
﹁いえいえ、どういたしまして﹂
最後に握手をして青木と別れた。
自分の出したテーブルとイスを片付け終えて・・・帰宅する前に冒
1742
険者ギルドシーパラ支部にせっかく来たんだから見学して回ること
にした。
雨なので屋内の道場しか行けないんだが。
道場が立ち並ぶ場所では・・・俺がいきなり公表したせいで合気道
ガーディアン
の道場からは身長2mを超すオッサンの入門者が通路に並んでいる。
シールダーも上級の守護者を目指すうえで色々なものを吸収してい
かないと上級職はいけないからな。
他の道場にも入門者が並んでて盛況しているようだな。
しかしここはあくまで冒険者の初心者用で無料の道場だから本格的
に始めるには外に出るしかない。
といってもこの冒険者ギルドシーパラ支部の周りには大小様々な道
場が数多くあって、青木の実家の道場もここからほど近い場所にあ
る。
俺が説明した事で今まで無手に見向きもしなかった人達に無手の技
の重要性が見直されていくだろう。
武器の上級職の発現にも必要なスキルが無手のマスタースキルって
のも何種類かあるし。
・・・それにしてもたくさんの道場がある。
鎖鎌やら捕縛術やらマニアックなものも多い。
アイリとミーが説明してくれたのだが、ここで冒険者になりたての
初心者はいろいろ体験してみて自分に合ったものを探すみたいだな。
武器と防具の工房が道場のバックについてるので格安で初心者用の
フルセットが手に入るようなシステムで、道場が成り立っていると
いう噂があるようだ。
・・・日本のパソコン教室の初心者囲い込み作戦みたいだな。
どちらも商売が成り立ってるんだから道場が経営できてるんだろう
けど。
それと青木の実家の道場みたいな超有名道場の師範代クラスが無料
1743
指導に来て才能がある人間を探してるという噂もあると教えてくれ
た。
捕縛術は才能を感じる人間には警備隊と国軍にスカウトされる運命
があるらしい。
にしても、俺がただ見学に回ってるだけなのにちょいちょい敵意の
ある視線を感じるのは・・・ケンカを売られてるんだろうか?
ロンT・パーカー・チノパン・ハイカットのスポーツシューズとい
う、およそ冒険者に似つかわしくない格好が嫌われてるのかな?
アイリとミーに座学で読み書きなどはどこで習うのか聞いたら、金
持ちは家庭教師を家に呼ぶ・それ以外は教会で学ぶみたいだな。
5歳から10歳までは﹃初級﹄10歳から15歳までが﹃中級﹄と
なって10年間で学ぶらしい。
ローグ真偽官の2人の息子のように魔法に才能のある子供は別枠の
取り扱いになるみたいだ。
脳筋
だったので武器の
その中でも教師となる人の性格で教育方法に色々と差があるようだ。
アイリとミーの初級も中級も担当教師が
取り扱いは一通りやったみたいだ。
クラリーナも意外と同じように初級は脳筋教師に教えられたんだけ
ど、武器の才能が﹃杖術﹄以外に存在しないって言われて凹んだ経
験があったようだ。
でもクラリーナの場合は中級からの教師は魔法系の教師だったので、
クラリーナの魔法の才能を見抜かれて騒ぎになったようだけど。
色々な道場を見て回りながら多数の道場で騒ぎになったのは俺のせ
いじゃないと思いたい。
俺達早乙女一家が道場に入った瞬間から敵意丸出しでケンカ売って
くるんだもん。
この剣道場に入っていって練習風景を見学してたら嫁達から質問さ
1744
れたので答えてただけなんだけど。
さむらい
﹁しんちゃんとなんだか動きが全然違うね﹂
﹁俺のは﹃剣客﹄こっちは﹃侍﹄正確にはもう2つあって﹃武士﹄
と﹃居合術﹄っていうスキルもあるからな。全部カタナが武器だけ
ど違いは大きいよ﹂
﹁同じカタナを使うスキルなのに4つもあるのですか?﹂
﹁剣客と侍はメイン武器がカタナ。武士はカタナはサブの人が多く
て、メインは槍がほとんどだろう。青木さんのようにメインが弓で
サブが薙刀っていう変わり種がいるのも武士の特徴だな﹂
﹁剣客と侍の違いというのは?﹂
集団vs集団
の戦闘が重要視されて
﹁戦闘方法に違いがある・・・侍は個別の戦いもあることはあるが、
あくまで想定してあるのが
自分vs集団
自分vs個人
と方向
いる・・・それで、剣客は全く方向が違って集団戦に参加もするけ
ど自分個人がメインで、
性も考え方もトレーニング方法も全く違ってくることになる﹂
﹁なるほどねぇ、だからああしてカタナを防具にして敵の攻撃を抑
え込まないといけないんだね﹂
﹁そういう事だな。剣客で敵の攻撃を自分のカタナで受けるのは自
分の命を守るための最終手段であって、自分vs集団ではこの後の
絶対厳禁
とされてるんだよ﹂
攻撃は出来ないし他の敵からの攻撃を避けることも受けることもで
きないようになるから
﹁・・・﹂
﹁しかし侍の場合は集団vs集団になるので、目の前の自分への攻
撃を避けたら味方に・・・﹂
と嫁達に俺の知っている情報を色々と教えていたら道場の師範代に
ケンカを売られた。
気にせず嫁達に教えようとしてたんだがしつこいからなぁ・・・
1745
﹁さすがはAランク冒険者の早乙女さん、いろいろとお詳しいよう
ですね﹂
﹁はぁ、まぁ知ってる事だけですけど・・・それでな、侍の場合は
集団戦なので敵の攻撃で自分にきてるのを剣客のように避けられな
いからこそ・・・﹂
しむら
﹁でしたら、情報が間違ってるな。剣客なんて雑魚スキルではなく
我々の﹃紫村流侍剣術﹄こそが最強であって、武士やら居合やらは
邪道って正しい情報を言いませんと﹂
事に主眼を置かれてるんだ。弾き返
﹁あぁ、そうですか・・・侍では集団戦が主な戦闘技術となるから
敵の攻撃を受けて弾き返す
すことで敵の体勢を崩させたりすることも重要になって・・・﹂
﹁ふっ、やはり、魔法技術だけで名をあげただけで超一流の剣客な
んて嘘っぱちな情報だったみたいだな﹂
﹁︵もはや無視︶・・・なので、前後左右への自由奔放な動きで敵
の攻撃を避けて隙をついて攻撃を加えていく剣客とは違って、侍で
は前へ前への攻撃が多くて戦場での集団行動で、戦線を維持したり
戦線を押し上げたりと・・・戦う局面も違えば投入される場面も違
う。剣客は俺の作ったチーム早乙女遊撃隊の名のごとく﹃遊撃軍﹄
でこそ生きるスキルなんだよ﹂
﹁なるほどねぇ、じゃあ、しんちゃん武士っていうのはどうなの?﹂
ユニット
の存在になる。よくあるのが﹃武
﹁これも侍とはちょっと違ってくる。武士は武器の選択肢も広いよ
うになってて1つの
士団﹄だな。様々な武器やいろいろな組み合わせがあり、戦場やそ
ユニ
なんだよ。だから正確に言えば武士の中には剣客も侍も含ま
の局面で変化させることで多種多様な戦術が可能となってる
ット
れているんだ。弓を使う武士もいるし陣地を形成するための黒鍬衆
のような土木工事専門の武士もいるん・・・﹂
1746
﹁クソッ、貴様ぁ! いい加減にしろ!! それとお前等、練習の
手を止めるな!﹂
俺が師範代をガン無視して嫁と話してると・・・道場で練習してい
た道場生たちが練習の手を止め俺の話に聞き入り始めてた。
それでも気にせず話をしていると師範代の隣に立って俺を見下して
見ていた髭モジャのオッサンが俺に木刀を振り下ろしてきた。
俺は一切避ける動作も攻撃を受けようとする行動もとらなかったの
で・・・オッサンが勝手に攻撃を外したのはビビった自分がいただ
けの話で俺には関係がない。
しかしそれが悔しくて大声を上げたようだ。
全部を見ていた嫁達は声を上げることも悲鳴を上げることもない。
髭モジャのオッサンが本気でブチ切れて腰の刀を抜いて俺を切りつ
けたとしても、俺の髪の毛1本たりとも切ることができないって事
を知ってるからな。
師範代も道場生たちも全員オッサンがワザと木刀を俺の頭すれすれ
を振ったと思ってるようだ・・・と思ったが、俺が避けずにオッサ
ンがビビって逃げたと1人だけは理解したようだな。
急に興味が湧いて面白そうな顔をして俺を見てる奴がいる。
俺がそいつに気付いたようにそいつも俺が見てる事に気付き・・・
お互いがニヤッとする。
クラリーナは俺に攻撃しようとしたオッサンを注視してるが、アイ
リもミーもニヤッとした奴をニヤッと見てる。
﹁貴様、先生がおっしゃってる言葉をありがたく聞け﹂
﹁あー、はいはい﹂
﹁貴様ぁ、もう許さん。俺と勝負しろ!﹂
﹁はぁ? やだよ面倒臭い﹂
﹁逃げるのか!﹂
1747
﹁逃げたのはお前だろーが。逃げたくないならその腰の剣でも抜い
て俺を切ればいい。出来る事なら先ほどしてるか?﹂
はぁ、ヤレヤ
と首を振ってやると、さすがにブチ切れたようだ。
俺は左右の手を広げて地球の白人がよくやるポーズ
レ
手に持つ木刀を放り投げて腰の刀の鯉口を切って居合の構えになっ
て足を広げて腰を落とした。
俺が無造作にスタスタ歩いてオッサンに近づいていくと、オッサン
は恐怖を感じたのが後ろに大きく跳びさがったので、俺は歩みを止
めて嫁達に説明を続けだした。
抜
となっててカタナを使用した居合抜刀術だ。このスキルの特
﹁今、このオッサンがしているのが﹃居合﹄だな。正式名称は
刀術
徴は敵に自分の武器の長さを見せてないので間合いをつかませにく
い事。それを利用するためにも必要なのが・・・攻撃をする際の踏
み込みの速さだな。このように﹃てい!﹄っと﹂
﹁うわっ!﹂
俺が一歩でオッサンに肉薄して頭に軽くチョップをすると踏み込ん
だスピードと同じスピードで元の位置に戻った。
足運び
にあるからな﹂
﹁こういう具合だから抜刀術ってのは実は剣客スキルと相性がいい
んだよ。抜刀術も居合も最も重要なのは
俺が既に嫁だけでなく俺を見てニヤッと笑った男性にも説明してる
のが周囲には丸わかりだった。
俺の説明しながらの実演に熱心に聞いてるのは嫁3人とその男性の
みだ。
師範代も道場生も騒ぎを聞きつけて集まってきたギャラリーも呆然
としながら眺めてるだけ。
1748
俺を殺そうとしていた髭モジャのオッサンは、俺とのレベルの差を
まじまじと魅せられて先程まで周囲にばら撒いていた殺気も霧散し
て・・・膝から崩れ落ちた。
師範代も俺とのレベルの差にさすがに気付いて顔を下げたままあげ
られない状態になってしまった。
これだから何もしたくなかったんだけどなぁ・・・この後道場主に
決闘状でも送られるかな?
・・・ウゼェな。紫村流侍剣術かぁ・・・
もうすでに手遅れ感満載だがとっとと帰ることにする。
﹃失礼しました﹄と小さな声で道場を出ていってしばらく歩いてる
と後ろから声をかけられた。
﹁早乙女さん、私を弟子にしてください﹂
﹁ヤダ﹂
﹁即拒絶? 今の道場やめてきたんでお願いします﹂
﹁つーかお前さぁ・・・カタナ向いてないよ。君が向いてるのは薙
刀。青木さんの道場に行けよ﹂
﹁え? そうなんですか?﹂
﹁うん。君が向いてるのは薙刀の次が槍だから長物の方だな。通う
道場が始めから間違ってるよ。それに青木さんはギルドマスター引
退したら武士団を作るって言ってたから、早めに鍛えておけば目も
センスも良い君なら入れてもらえるかもな。今すぐにでも道場に行
った方がいいぞ?﹂
﹁わかりました。ありがとうございます﹂
その男性は名前も言わずに御礼だけ言って頭を下げてから俺の目の
前から走り去っていってしまった・・・まぁいいか・・・青木は道
場に練習生が増えて喜ぶだろう。
才能もなかなか良さそうなモノを持っているようだったし、数年後
1749
にはマジで青木武士団に入らせてもらえるかもしれん。
面倒臭い事に巻き込まれたがその後は平和に・・・回れる訳がない
な。
俺の見た目が普通すぎて簡単に勝てるとでも思うんだろうか。
ケンカ道というの名前の道場だけは逆に平和について語られてしま
ったのでちょっと笑えたが、太平道という短剣術の道場は全員で跳
びかかってきたので全員叩きのめした・・・俺ではなくユーロンド
とマリアが。
俺は短剣二刀流の体捌きが意外と剣客に似ているという話を熱心に
嫁達に語っていて忙しかった。
このバカども言い分を聞いてわかったのだが・・・
﹃なんでケンカを売られまくってるのか﹄
・・・俺の見た目うんぬんではなく俺のAランク冒険者・救世主・
ヒーロー・正義の執行官などという名声を利用して自分の名を挙げ
ようだとか、所属する流派の名声を挙げようだとかしている・・・
くだらない理由だった。
しかも元々俺に勝てるなんて思ってるのは極僅かのアホタレだけで、
俺に叩きのめされるのは想定していて少しでも俺を苦しめようだと
か、俺を少しでも傷つけられればOKという意味不明な罠を仕掛け
てきたり、問答無用で切りかかってきたりと手を変え品を変えで・・
・1周回って逆に楽しくなってきた。
途中からは俺の後ろでギャラリーが面白い見世物を見ているかのよ
うな感じでついてくるので余計にケンカを売られてるという・・・
悪循環が間違った方向に全力で加速しているな。
昨日からの大雨で暇を持て余した冒険者たちが多いのも原因だろう。
ケンカを売ってくる人間よりも目をキラキラさせて﹃ご教授下さい﹄
って言われるのが一番面倒だったりした。
1750
何しろコイツ自身が俺からこのスキルの何を学びたいのかも知らな
いし、コイツ自身がどこまでそのスキルを習得できているのかもよ
く分からないから・・・返事に困ってしまう。
叩きのめして下さい
って意味なのかなって
﹃○○を教えてください﹄ならわかりやすいんだけどなぁ。
ご教授くださいだと
勘ぐってしまうほど気分がヤサグレてきてる。
・・・実際に何人かは叩きのめしたけど。
柔術家の体を体捌きだけで投げ飛ばしたりボクサーの全部のパンチ
を音もさせずに受け止めたり、双剣の嵐のような攻撃を白扇子1本
で防いだりした。
全員がプライドを木端微塵に砕かれたような顔をしてるんだが・・・
初めからご教授くださいなんて言わなければいいのに・・・あわよ
くばなんて考えていたんだったら自業自得だろ。
今日の冒険者ギルドの見学はここらで終わりだな・・・アイリとミ
ーは元々買い物に行くついでに冒険者ギルドに寄ったんだろうから、
これから近くの北の食料品市場で買い物をしに行くことにした。
北の食料品市場のチョコレートブームはさらに過熱しているようだ
った。
パン屋ではドーナッツ生地にチョコレートを練り込み、さらにチョ
コチップを入れてドーナッツを作って最後にチョコレートをかけて
冷やして固めた﹃チョコ参上︵3乗?︶﹄なるものを販売して行列
を作っていたり・・・こういうおやじギャグセンスは俺に似てるな・
・・
バナナチョコもすでに販売が始まっていて、様々なフルーツとチョ
ココーティングで挑戦的な商品も多く並んでる。
驚くことに﹃ホワイトチョコレート﹄がアギスライト商会からすで
1751
に販売が始まってた。
俺がホワイトチョコレートに抹茶を混ぜて抹茶チョコレートの作り
方を教えると、販売店の店主が抹茶業者の販売所に走って行った。
抹茶チョコまで市場に投入してやったので抹茶・チョコ・アンコで
スイーツ帝国の建設成功かな?
・・・次は生クリーム系かな?
シーパラ連合国は元々食の充実が海鮮も含めてかなり充実してる国
なんだけど、デザートはパンやフルーツなどでそこまで発展されて
なかったので・・・これからまだまだ伸びしろは大きいだろう。
おにぎりも順調に勢力を拡大中。
携帯食や夜食の様なモノもまだ市場に参入できる余地がありそうだ
な。
今日の買い物はこれで終了。
食料品市場を出ていくと雨も止んで雲も晴れ間が出始めてる。
ちょうど夕方で夕陽が美しい時間だった。
北の食料品市場の近くにあるシーパラ駅や冒険者ギルドシーパラ支
部の巨大な建物が夕陽でオレンジ色に染まっていて、美しい街並み
をさらに美しく仕上げている。
俺達早乙女一家だけでなく俺達と同じように食料品市場から出てき
た人達も、道行く人も建物の中からもみんな仕事の手を休めて美し
い夕陽に彩られた街並みの風景に見惚れてるようだ。
朝日と違って夕陽って少しだけ物悲しくなってしまうのはみんな同
じだろうな・・・
俺・アイリ・ミー・クラリーナ・マリア・ユーロンド1号の前にキ
ャンピングバスが停まる。
まだ雨が降ってるかもと思って迎えに来るように呼んでいたセバス
チャンだ。
セバスチャンの運転で早乙女工房へと全員で帰っていく。
1752
キャンピングバスから見る夕陽も同じようにセンチな気分になって
しまう。
そら
まぁそんなセンチな気分をぶち壊すヤツラってのは必ずいるもので
早乙女工房に到着する前に、早乙女工房専属メイドゴーレム﹃空﹄
から念輪連絡が入ってきた。
﹁ご主人様、角館家より秘書の方がお見えになってますがいかがな
さいますか?﹂
﹁何と言ってるんだ?﹂
﹁それが、ご主人様に直接伝えると言われまして・・・ゴーレムご
ときに話す内容ではないと﹂
﹁帰らせろ。我々早乙女家に対する敵対行動とみなしてもよろしい
ですね? と伝えておけ﹂
﹁はっ、了解しました﹂
早乙女工房にキャンピングバスが到着した頃に1台のゴーレム馬車
が出ていこうとして、1台のゴーレム馬車が入ってきた。
キャンピングバスの後ろに続いて早乙女工房1F内部ゴーレム馬車
駐車場に入ってこようとするが、2台のゴーレム馬車はユーロンド
に強制的に停められる。
外のゴーレム馬車駐車場ではおにぎり販売の早乙女式馬車とお客が
行列を作っている目の前で、大型のゴーレム馬車がユーロンドによ
って音も立てずに強制的に停められて微動たりとも動けなくなって
いるのを見て騒然としている。
俺は気にもしないでキャンピングバスごと早乙女邸のガレージまで
転移魔法で帰還する。
時間は18時を超えているのですぐに晩御飯を食べることにした。
今夜は北の食料品市場でオーク肉の生ハムを発見して大きなブロッ
1753
クで購入したので、生ハムを使用したパスタとピザでイタリアンな
ディナーだな。
材料をクロにアイテムボックス経由で渡してあるので帰宅して手と
顔を洗ってダイニングテーブルに行くと、既にテーブルの上には食
事が並んでいた。
みんなで食事をして雑談をしながら・・・俺に話をさせろとウルサ
イのが2組が早乙女工房のユーロンドに絡んでいるみたいだ。
ブチ切れして帰ったはずの角館家の秘書と新たに加わったケミライ
ネン家の秘書が、周囲の人目も気にしないで大騒ぎしているみたい
なんで、別のユーロンドに警備隊を呼びに行かせようと指示を出し
た直後にバカが暴走したようだ。
ユーロンドからの報告で・・・
おにぎりを購入するために並んでいた近くの工房で下働きをしてい
る13歳の男の子が﹃あくび﹄をしただけで、笑われたと逆上した
のユーロンドを全力で殴りつけた秘書2名は右手が複雑
秘書2名に殴りつけられそうになってユーロンドが間に入って庇う。
金属製
骨折で木端微塵に砕け散った。
秘書に付いて来ていた護衛3名ずつの計6名が腰のロングソードを
抜いたところに、周辺を夕方のパトロールをしていた警備隊10名
が悲鳴の響き渡る騒ぎを聞いて駆けつけてきた。
・・・報告を聞いてるだけで﹃カオス﹄だな。
秘書は大怪我で大騒ぎしているけど周囲に20名以上の目撃者がい
る中で護衛がウソをついていたが、周囲の声で全部のウソを否定さ
れて逮捕になった。
並んでいて一部始終を目撃してた人間の中に﹃真偽官﹄がいたんだ
からぐうの音も出ない。
俺が起こした﹃昇竜商会摘発﹄﹃元枢機卿詐欺﹄の膨大な事件の捜
1754
査で警備隊本部に出勤する前に夜食を購入しに来た人達で・・・ま
ぁ目撃者としては最高の人物だろう。
真偽官ギルドのカードを見せられて、その後は本物の真偽官だと知
って、ウソが通じないとわかると逃げようとした護衛6名を警備隊
10名が追っかけて、さらにユーロンドによって呼ばれてきた15
名の警備隊も加わって全員が逮捕されて連れて行かれた。
ったく・・・毎回毎回、何がしたいんだコイツ等は・・・
またも今回もお持ち帰りになってしまったので、何で俺にそこまで
会いたいのかという理由も目的も結局わからないままだった。
子供が意固地になってヒステリーを起こしてドンドンと墓穴を広げ
られるだけ広げようとしてるようにしか見えない。
もはや当初のパーティーの事など忘れて俺を誘拐しに来てるように
しか思えない行動だ。
るびのとフォクサが食事後になって狐魔獣達を連れての挨拶回りを
終えて帰宅した。
こん
リビングにやってきて全員で雑談して過ごしていた20時過ぎに早
乙女工房の専属メイドゴーレム﹃紺﹄から念輪連絡が来て、先ほど
の騒動の秘書達を引き連れていった警備隊の隊員がまたやってきて
調書作成に協力してほしいとのことだった。
またもせっかくの家族の団欒を邪魔しやがってと思いながらも嫁達
に説明して出かけることに。
早乙女工房の応接室のソファーの上まで転移魔法で移動して、その
まま靴を履いて1Fに降りていく。
警備隊のゴーレム馬車に乗ってシーパラ警備隊本部ビルの中に入っ
ていく。
本部入口に待ち構えていた4人の警備隊員に案内されて連れて行か
1755
れた部屋が
取調室
だった。
今現在は応接室が混雑していてここしか空いてないと言う・・・物
凄く苦しくて支離滅裂な言い訳だったんで、聞いてる俺が笑ってし
まった。
俺が笑ってると俺の両手を隊員が引っ張り中に引きずり込もうとす
るが俺がこの程度で動くはずがない。
2人で両手を引っ張った状態で俺の前に回った1人が俺の首に隷属
の首輪を装備しようとするが、俺には装備できないアイテムなんで
何度やってもポロリと外れて下に落ちる。
もう一人が俺の後ろに回って俺の腰に隷属のベルトを装備させよう
としてるが、首輪と同じように装備がキャンセルされてしまうので
ポロリと外れて落ちるだけだ。
俺に隷属グッズを装備させるのを諦めて4人で俺の手を取り押さえ
ながら胸にぶら下がってるホイッスルを吹き鳴らして周囲に助けを
求めた。
次から次へと警備員が現れて俺を引きずり倒そうとするが・・・2
mを超す獣人が真っ赤な顔をして俺を引っ張っても微動だにしない。
俺の着ている服も龍布製なので伸びるのだが、手を放すと元の状態
に戻りビロビロに伸びたりはしない。
俺はこのシーパラ警備隊本部敷地内にいるすべての人の脳内に直接
聞こえるように魔法で増幅させた念話で話しかけた。
﹁シーパラ警備隊本部に告ぐ、俺は早乙女真一でAクラスの冒険者
被害者
の調
だ。先ほど我が早乙女工房の敷地内で暴れた男達の調書を作成する
ために警備隊本部に呼び出されたのだが、いつから
書作成は取調室で行うようになったのか説明してくれ﹂
俺が話し始めると俺をここまで連れてきた4人が物凄く狂ったよう
1756
にホイッスルを鳴らすのが目立つが彼らは何をやっても無意味なよ
うに脳内に念話スキルで直接語りかけたんだからな。
まぁこの程度は想定内。
俺を取り囲んでいた人間達でいまだにホイッスルを狂ったように吹
き鳴らす4人を取り囲んで説明するように言うが、4人が隙を見て
逃げていって捕まった。
バカがドンドンと膿を撒き散らしているのは・・・滑稽だな。
コイツ等は角館家とケミライネン家に雇われた人間か内通者だろう。
1757
シーパラ連合国中枢との関わり合いが増えていくっす。
騒ぎが続く中で俺は念話を切って取調室のドアにもたれて騒ぎを外
から観戦する。
ひとくち
アイテムボックスからチョココロネ一口サイズを取り出してモシャ
モシャ食べる。
左手にはミックスジュースをグラスでコロネの合間にグビグビと飲
んでる。
喧騒が静まったのはシーパラ連合国警備隊総長﹃アイザック・ゲッ
ペンスキー﹄の虎獣人が護衛の鬼獣人2名を連れて来たからだった。
最高評議会議員﹃イワノス・ゲッペンスキー﹄の二男。
虎獣人にしては身長は低くて俺より少し大きいぐらいで175cm
ぐらいか、肩幅が広くて胸板が分厚い逆三角形体型で、警備隊の革
鎧を装備している今はむしろ着痩せして見えてしまう。
イワノスとは違ってスピード系の格闘に向いてる体型だな。
腰に差してる武器もレイピアだし。
ちょんまげ
ちゃせんまげ
金髪のロン毛をオールバックのように後ろに流し後ろで紐で結んで
いるので丁髷を結っているように見える・・・茶筅髷っぽいな。
茶筅髷に虎模様のネコ耳を付けたイケメン・・・イケメンは何をし
ても似合うのはしょうがない。
確かイワノスの話では息子の長男﹃レオーン・ゲッペンスキー﹄は
すでにシーズの当主を息子・・・イワノスの孫・・・に譲って最高
評議会の議員をしている。
二男のアイザックは警備隊の総長。
三男は国軍の師団を率いる10人の将軍の1人。
1758
長女・次女は外国の獣人の国家に行って嫁いだと聞いてる。
そのアイザックが俺の目の前にきて俺に頭を下げて謝罪してきたの
で周囲の喧騒が停まったのだった。
﹁早乙女さん初めまして、お噂はかねがね父より聞かせていただい
てます。それと父の治療をありがとうございました﹂
﹁いえいえ、どういたしまして﹂
﹁早乙女さんには出会って早々に大変失礼な事をしてしまいました。
申し訳ありません。警備隊の金に腐ってる部分を押し付けてしまい
ました﹂
﹁またまたぁ、知ってて彼らに呼びの行かせたのでは?﹂
﹁それはありませんよ。本当に偶然です﹂
﹁まぁ、そういうことにしておきましょう・・・ええっと名前はイ
ワノスさんから聞いてますが・・・﹂
﹁失礼しました。まずは自己紹介からですね﹂
自己紹介をお互いにしてからアイザックは部下に次々と指示を出し
て俺を操ろうとしていた4人を拘束させて牢屋にブチ込ませ、警備
隊本部内にいる真偽官を呼んできて今回の騒動の詳細な調書を早急
に仕上げて持ってくるように指示した。
その後も何人かの部下にいくつかの指示を出してから俺を総長執務
室へと案内する。
鬼獣人2名は日本の寺院にある仁王像・阿吽像・金剛力士像のよう
に総長室の入り口の左右に立って守護している。
2.3mもある鬼獣人2名なので完全に仁王様だな。
秘書がやってきてドリンクを聞かれたので俺は無難にコーヒーをお
願いした。
秘書がコーヒーとお茶請けののクッキーを運んできて、何も言わな
1759
いし秘書も聞きもしなかったアイザックには泡立てたお抹茶だった・
・・マジかよ。
お茶請けにチョコチップパンを食べようとしたので俺がストップし
た。
・・・お抹茶には御饅頭系だろう。
俺は以前ヨークルで購入した、たい焼きをアイザックにあげると大
喜びをしてくれた。
俺もうれしくなって・・・ヨークルで最近アンコブームが起きてい
てこういうものが流行って売ってると教えると・・・ゲッペンスキ
ー家は今後全力を挙げてお抹茶とアンコの組み合わせの最強さを広
めていくと拳を握って気合を入れてる。
秘書さんが羨ましそうな顔を一瞬だけ見せたので饅頭・たい焼きを
20個ずつ渡して、秘書課のみんなでお抹茶を飲みながら一緒に食
べるように薦めると大皿に乗せてあるモノをもって走るように行っ
てしまった。
・・・実はイワノスがサトシの就任記念パーティーのときの騒ぎで
俺の近くに来れなかったのは、アイリ達と同じようにたい焼きをル
ープして食べていた・・・という事を嫁達から聞いてたのでゲッペ
ンスキー家はアンコ好きなのかもと勝手に想像して渡してみたら予
想以上の反応だった。
ゲッペンスキー商会は酪農による食用肉と肉の加工食品の販売をし
ている。
メインの商売は﹃塩﹄だ。
岩塩の鉱山をいくつか持ち沿岸部の村では塩田の技術を教えてミネ
ラル豊富な塩の精製にも成功しているし、地方の特色を出させて藻
塩とかも作っている研究熱心な商会だ。
それに塩を商売にしている反動なのか・・・イワノスに直接聞いた
1760
訳ではないが、ゲッペンスキー家は甘党が異常に多いという噂もあ
ったしな。
俺が大量に饅頭やたい焼きを秘書に渡して秘書がそれを持って行っ
てしまったので寂しそうな顔を見せたアイザックに、今度はまだど
こにも商品化されていないモノを出してあげた。
これは商品になるから・・・﹃おはぎ﹄だけどな。
もち米は商品として販売はされてるけど甘味の方には使われていな
い。
俺はレシピとおはぎを10個渡してやった。
アイザックは1個食べて驚愕して誰にも見られないようにこっそり
と自分のアイテムボックスに仕舞ってる。
アイザックが周囲をキョロキョロしててどこからどう見ても危ない
薬を横流ししてるような動作だけど、ただのおはぎなんだよな・・・
きな粉は次回にしよう。
アイザックの話によると、秘書は当分戻ってこないだろうから今の
うちに話を進めておくことにした。
今日の事件の1番最初の出来事から俺は話す。
話を全部聞いたアイザックは手を組んで虚空を見つめながら﹃うー
ん﹄と唸り俺との会話を再開させた。
﹁という事は早乙女さんには前回も今回も全く落ち度のない事が理
解できました﹂
﹁・・・﹂
﹁今回の件も含めてケミライネン家・角館家の目的も理由もわから
ないとのことですが・・・私も判断を迷う様な事件ですね。それで
早乙女さんには申し訳ないのですが、今までの件も含めて2つのシ
ーズの家を訴えようとするのは避けた方がよろしいかと思います﹂
﹁やっぱそうだよな・・・最高評議会の証人喚問ですよね?﹂
1761
﹁そうなんですよ。シーズの家を訴えるには最高評議会の証人喚問
でしか不可能なんです。この場合は早乙女さんが訴えるのを待ち構
えていた最高評議会の議員連中が早乙女さんの秘密を明るみにさせ
ようと、躍起になって関係ない質問を大量に投げかけてきて早乙女
さんの話はまず進む可能性がありませんね﹂
﹁はぁ∼∼、だよな。面倒だから全部潰した方が早いと俺がブチ切
れる方が早いよ﹂
﹁どっちに転んでも損はないと狙っての嫌がらせの可能性が高いで
すね。何しろ早乙女さんが持っている秘密で一攫千金どころではな
くて、簡単にこの国トップになることが実現できますからね。それ
と最強評議会の議員の中には早乙女さんの持つ戦闘能力を測りきれ
なくて恐怖を感じてる人もいますし・・・見えないからこその恐怖
ってやつです﹂
﹁はぁー、まぁ予想通りだよ、正直に言ってくれてありがとう﹂
﹁それで早乙女さんはどう対応されますか?﹂
﹁俺からは何にもしないよ。たかがシーズの家の2つぐらい、ここ
から一歩も動かずに今すぐ1分以内に皆殺しをすることぐらい簡単
だからな。悪魔王でも天使長でもいくらでも召喚できるんだから俺
の仕業だって痕跡すら残さないこともできるよ。この世界のモノで
ない存在に殺されるとステータスカードには???しか表示されま
せんし﹂
﹁冗談とは思えませんね﹂
﹁本気で言ってますからねぇ﹂
俺がソファーの背もたれに持たれて不敵に笑うとアイザックもニヤ
リと笑う。
さすがのゲッペンスキーの名を持つものだな。
背筋に冷たい汗が流れてるんだろうが表情には一切出ていない。
・・・それどころかニヤリと笑えるんだから肝っ玉も大したものだ
1762
ろう。
﹁でも嫌がらせはこのまま続くと思われますが・・・﹂
﹁まぁ、好きにさせるさ。それに今日から早乙女工房のゴーレム馬
車駐車場でおにぎり販売を始めたのは知ってるかな?﹂
﹁ええ、うちの内勤の職員たちも隊員たちもおにぎりの美味しさを
早乙女特別執行官の辣腕を振るった日から、熱く語っている人が多
くて何度もガルディア商会に問い合わせに行ってるというツワモノ
までいましたからね﹂
﹁それで今回のおにぎり販売の中心メンバーは﹃ゾリオン・シーズ・
ガルディア﹄﹃グレゴリオ・シーズ・フォレストグリーン﹄﹃マツ
って
オ・ユマキ﹄の3人です。今回の事件はすでに3人の耳に届いてい
商売の邪魔すんじゃねーよ
るでしょう。耳の早い3人ですから﹂
﹁もしかして・・・﹂
﹁そうですね今頃3人の連名で
苦情がケミライネン家・角館家にいっているでしょう。明日からは
護衛がつくと思いますね。何しろ客商売でブームが起きてる最中の
主力商品ですからこんな処でケチが付くわけにはいきません。多分
明日の早朝には警備隊と国軍へ警備・パトロール強化のお願いが3
つのシーズの家から入るでしょう﹂
﹁・・・﹂
﹁それに今日の事件で一番最初に絡まれた13歳の男の子は早乙女
工房周辺の工房の下働きの男の子です﹂
﹁それは聞いてます・・・早乙女工房の近所の工房ですか?﹂
﹁そうです、中央行政区北部にある早乙女工房は工房が並ぶ区域と
は離れた場所にあります﹂
﹁って事はそちらもシーズですか?﹂
﹁中央行政区内にある工房は多くありません。北部となるとどこか
は俺には分かりませんが明日にでも子供を連れてお礼に来るでしょ
1763
うね・・・俺とのパイプを繋ぐ為に理由としては充分です﹂
﹁・・・﹂
﹁それでパイプを維持するためにもそちらの家はケミライネン家・
うちの若い者に
ぐらいは言うでしょう、俺とは良好な関係が
角館家に正式に苦情を入れに行く事になります。
何をするんじゃボケ
築けますからね﹂
﹁・・・﹂
﹁シーズの家は12家あります。これで俺の味方は4家。アギスラ
イト家は不妊治療をエクストラヒールで行い、その後にミルクとチ
ョコで商売繁盛のきっかけを作ってあげました。これもまず俺の敵
にはまわりませんので。フォンマイ家は俺が当主を指導中です。敵
に回る選択は今後は出来ないでしょう。これで半分﹂﹁・・・﹂
﹁最後にゲッペンスキー家。ここも大丈夫ですね。たった今、アン
コで胃袋を掴みましたから﹂
俺が最後にアイザックが右手に持ってるたい焼きを指さすとアイザ
ックは大声を上げて笑い始めた。
﹁・・・あっはっはっは、見事としか言いようがないほど完璧です。
早乙女さんと友好なシーズ家は間違いなく商売が繁盛し始めていま
すから、商人として敵に回せないでしょう。商人にとって新しく儲
かる商売ってのは喉から手が出るほど欲しい情報ですから。それで
最高評議会に訴えずに放置という意味はどういう事なんでしょうか
?﹂
﹁権力を持つバカが騒いでピンチって時は・・・実は敵と味方がき
れいにわかりやすく分かれてくれるんですよね。なのでしばらく放
置して俺は味方を探す作業をしますよ。今日はアイザックさんとも
う一つのシーズの家と味方が増えましたし﹂
﹁へぇ∼、そういわれてみると私の経験上でもそういったことがあ
1764
りましたね。早乙女さんはお若いのによくご存知ですね﹂
﹁俺の経験してきたことでもありますし、年寄りに教えてもらった
経験談という知識でもありますし、文字で読んだ知識でもあります
よ﹂
そのまま俺とアイザックは雑談に移行していった。
外
っていうのを何とかしたいと自身も評議会の
アイザックも100年以上警備隊の総長をしてるので警備隊の
部に情報がダダ漏れ
議員として散々なほど苦労しているようだな。
俺は不正を生み出す土壌の根本的な原因究明を並行して研究してい
った方が良いとアドバイスをする。
今回はちょうどいい転機になるだろうから、今日を再スタートの日
とすればいい。
何しろ4人のバカが警備隊本部内で無実の人間を奴隷にしようとし
たんだからメスどころか大ナタも可能になってる。
まずは真偽官を交えての面接で組織の上層部から焙り出していきな
がら不正を行い始めた原因を探って、罰則を強化してルールを改正
していくしかないだろう。
今回はいいサンプルが4名手に入ったんだからここで実験していく
しかないな。
俺も自分で感じたことを素直にアイザックにぶつけてやった。
地方の警備隊はヨークルとゾリオン村しか知らないが警備隊は﹃人
員不足﹄と感じてたこと。
なので不正をする暇もないほど忙しく聖騎士団との連携も個人個人
で何とか繋がりをつけて苦労していた。
だがシーパラは大量の人員がいて暇というだけでなく・・・防衛は
国軍が担当し捜査まで国軍が担当してるんでパトロールぐらいしか
してない。
1765
聖騎士団・国軍・最高評議会・評議会などとの連携はほぼ皆無で独
自に捜査網を持ち独自に調査して全部がバラバラだ。
警備隊独自の捜査能力も必要ではあるので、それは残しつつ連携で
きるところは連携して当たらないと人員と資産の無駄になるだろう。
事務官レベルで月に一回ぐらいの合同会議をおこなってある程度は
情報を共有化させないと、今は各組織で足を引っ張り合ってる状態
だと思う。
今回はイワノスが主導して﹃最高評議会特別捜査隊﹄を立ち上げて
るんだから、いい機会だから人員を何人か送って勉強させればいい
んじゃないのかとアドバイスもした。
アイザックもメモを取りながらいくつかの質問をされて俺もそれに
答える。
途中で何度も雑談になって話が脱線してたりしたので話が終わった
のは、途中でトイレ休憩も入れて時刻は深夜11時をまわっていた。
途中でアイザックが要求した調書が届けられたが結局ケミライネン
家と角館家の目的は不明だった。
早乙女工房に乗り込んできたような下っ端が知ってる訳ないし。
秘書は司祭が呼ばれて治療を済ませてからはダンマリを決め込んで
たようだ。
怪我が治療された当初は俺を訴えると言っていたらしいが取り調べ
中の真偽官が﹃俺が目の前で見てたのにくだらないウソつくな﹄と
一喝したら今度は黙秘していたようだ。
このままだと明日は朝から光魔法の﹃罪人の告白﹄が掛けられて君
の知ってる全てを語ることになるなと司祭が脅したら、少しずつ話
をし始めたみたいだがウソも多いのであまり進んでないみたいだ。
俺を隷属させようと企んでいた4人は逆に警備隊の手によって隷属
の首輪を装備させられて、今ではどこからどういう具合で情報を流
1766
していたのかも全部話させてる最中。
それで俺の予想とは違って4人ともシーズの家とは無関係でフォン
マイ家にスパイを送り込んでいた﹃バイサム商会﹄の幹部もしてい
るし、警備隊の幹部もしているという極悪なモノだった。
しかもバイサム商会の部下の人間を複数警備隊に入隊させていた。
中には秘書課の人間もいるので警備隊の内部情報はほぼ筒抜け。
アイザックは評議会と最高評議会に腹心の部下を連絡員として走ら
せて許可を取り、警備隊本部組織内に大ナタを振るうことを決意し
たのだった。
それで帰ろうとしていた俺を引き留めに最高評議会が送り込んでき
たのはイワノス・ゲッペンスキーとマスカー・フレデリックの2名。
俺が持っていた﹃特別任命強制捜査執行官﹄のカードの提示を求め
られたので渡すと、イワノスは自分のアイテムボックスから取り出
した魔水晶にカードを当ててから俺に戻した。
﹁やぁ、久しぶり! って状況じゃないみたいですね﹂
﹁最高評議会と評議会は緊急会議でバイサム商会の強制捜査を我々
に依頼してきた・・・それで早乙女君にお願いしたいのは・・・執
依頼
です。何しろバイサム商会はありとあら
行官として我々と同行してもらって指示をお願いしたい。むろんこ
れは命令ではなく
ゆるところにスパイを入れて勢力を伸ばしているシーパラ連合国の
暗部です。我々の手だけでは取りこぼす可能性があると最高評議会
は判断を下しました。成功報酬として何か欲しいものはありますか
?﹂
﹁成功報酬の話は後にしましょう。すぐには思いつきませんよ﹂
﹁そうですか・・・では、さきほど特別任命強制捜査執行官カード
は今回の捜査で使えるように書き換えましたので今から出発しても
よろしいですか?﹂
﹁時間もないようですしサクサクっと終わらせたいですね﹂
1767
﹁最高評議会と評議会で夜勤をしていた真偽官を大量に連れてきた
ので、アイザックはこのまま内部調査を強制執行するようにという
事も決定されている。最高評議会と評議会の連名の通達書がこれだ﹂
﹁はっ、父上了解しました。では・・・﹂
イワノスは自分のアイテムボックスから取り出した通達書類をアイ
ザックに渡した。
俺は強制捜査前にバイサム商会の誰も逃がさないように・・・
ソファーから立ち上がりアイテムボックスから白扇子を取り出して、
魔力を注入して右手で持つ白扇子をバシンと左手に叩きつけ魔法を
発動させる。
﹃ショック﹄
バイサム商会本部の200名以上が全員レジストも出来ずに崩れ落
ちた。
これで強制捜査の突入準備完了だな。
アイザックはイワノスが連れてきた10名の真偽官と共に警備隊の
全職員を対象にしたスパイ炙り出しを始める。
俺はイワノスの話の途中からシーパラの街に放った忍をバイサム商
会本部に向かわせて逃走経路を先に潰してある・・・バイサム商会
本部はすでに聖騎士団の手によって周囲を取り囲まれているが地下
までは手が回らずに野放しだったから。
すでに地下通路には忍が忍者スキルの結界を張って封印してある。
俺は以前にバイサム商会のヨークル支部から遠見魔法で監視を受け
た事がある。
なので忍と徒影には監視させてあったので逃げ道となる地下道は発
見済みだし、アマテラスにもらったMAPにも始めから全部入力さ
れてる。
バイサム商会ヨークル支部の方はセバスチャンとマリアと忍3体が
1768
強行突入して全員をショックで気絶させて縛ってある。
ヨークル支部の中から俺の情報が何かないか探らせる為だったが・・
・バイサム商会は俺の情報は表面の誰でも知ってる情報以外はなに
も探れなかったようで安心した。
まぁこういうカスのスパイ共をどこにも入れないように俺はゴーレ
ムを多用して人間を誰も雇ってないんだけどな。
俺はイワノスの後を付いて歩いていってゴーレム馬車に乗り込みバ
イサム商会本部に向かう。
移動中に聞いたがシーパラ連合国の各都市にあるバイサム商会の各
支部には、これから30分後の深夜12時をもって聖騎士団が強制
突入をする手はずになってるらしい。
・・・ヨークル支部だけは楽ができるな。
俺がバイサム商会本部に到着する前に3人の人間がバイサム商会本
部に帰ってきて、全職員が倒れてる異常事態にビビり逃亡しようと
したところを聖騎士団に捕まっている。
俺はバイサム商会本部に入っていってから・・・バイサム商会代表
と執事3名の脳内情報を﹃情報複製﹄魔法を使って俺の脳内に入れ
てヘルプさんによって情報が整理させた。
また地味で孤独な作業の始まりだな・・・今回はイワノスが俺につ
けてくれたサポートは10名だったのだが今回は俺のサポートは断
る。
バイサム商会の場合は表向きは奴隷を使用した人材派遣のような会
社だが、実際のところは情報を売り買いして膨れ上がった産業スパ
イ会社。
最近では裏社会の方にも進出し始めていたところで国軍・警備隊な
どを始め様々なギルドにも人員を送り、賄賂・脅迫・女を使ったハ
ニートラップなどで各組織内で地盤を強化していた。
1769
なので最高評議会あまりにも犯罪が多すぎるので俺に助けを求めて
きたんだろう。
俺はイワノスに指示してバイサム商会本部にいた人の全員に隷属の
首輪を装備させてから、ショック魔法で全員を覚醒させ現場で最高
評議会特別捜査隊の隊員の指示のもとで調書を取りながら証拠物の
提出をさせた。
さいとくたい
俺は運ばれてくる証拠物に番号を振って目録を作成するだけ・・・
この方が手っ取り早いんだよな。
最高評議会特別捜査隊はイワノスから最特隊という名前になったと
教えてもらった。
名前がなげぇーよという文句が会議で出たようだった。
今後は最特隊は最高評議会権限で捜査中に隷属の首輪をOKにさせ
るようにイワノスには話しておいた。
こうすればトラップなども事前にわかる。
俺はアマテラスにほっとラインを繋いで神託で聖騎士団に伝えるよ
うに指示も出した。
︻おっけ∼∼︼
という軽い返事が聞けてきたが忙しいのでツッコミはしない。
それ以外にも俺はマスカーに仕事内容の説明を教える。
次回からは俺のやってる目録作成などの仕事は最特隊の隊長や責任
者の仕事になるから、これは覚えなきゃいけない仕事だ。
マスカーも必死にメモを取りながら俺の作業を手伝って何とかモノ
にしようとしてる。
深夜2時までかかったが何とか終了した。
バイサム商会本部捜査が終わったら今度はバイサム商会代表の自宅
にも家宅捜査に入る。
バイサム商会の代表はバイサムという名前ではない。
バイサム商会という名前の商会を立ち上げたのは任侠ギルドのよう
1770
に転生者。
転生者は奴隷を使った人材派遣をやり始めて会社は軌道に乗ったが
そこまで大きな会社にできずに行き詰っていた。
10年前に転生者は地球への帰還を選択して知り合いに会社を譲っ
た。
転生者の知り合いは乗っ取りにあって行方不明。
会社は乗っ取られて悪の組織に変貌・・・
バイサム商会の歴史の陰に転生者がいるなんて代表の知識をコピー
して初めて知ったよ。
まぁ人材派遣って考えは転生者っぽいけどな。
まず先に俺が指示した代表の自宅の庭の場所を掘り返させて転生者
の知り合いの白骨死体が発見。
元代表の妻が現代表と不倫して共謀して毒を盛って殺害をした。
代表を殺害して庭に埋めて行方不明とさせた事がバイサム商会乗っ
取りの始まり。
しかもすべての黒幕は妻だという事もすでに俺はわかってるので、
自宅に突入するときに先に俺は情報複製で妻の知識もコピーしてお
いた。
ここでも妻・執事・メイド・庭師など全員に隷属の首輪を装備させ
て、すべての犯罪の証拠物件を自らの手で提出させることになった。
ここは俺はサポートに回りマスカーが目録を作り上げていく。
慣れてないので時間がかかって朝まで掛かってしまったがマスカー
次回からは捜査も資料作りも自分達でやれ
以外にも何人かの幹部に手伝いをさせて、最特隊の幹部全員に経験
をさせておいた。
・・・まぁ正直言うと
って意味なんだけどな。
帰りはゴーレム馬車で早乙女工房にまで送ってもらった。
1771
すでに日は明けて転生から37日目、5月7日の朝はこうして迎え
た。
天気は薄曇り。風はなくまだこの時間は涼しいが日中は蒸し暑くな
りそうだな。
ケミライネン家と角館家の2つのシーズの家の問題は全然解決して
ないが、2つの家と敵対する組織・俺の味方の組織は増殖中だな。
俺が早乙女邸に帰宅して風呂に入ってからあがると嫁達はキッチン
で朝食を作っていた。
ガーディアン
アイリは昨日のマリアが見せた﹃守護者﹄の刺激が強すぎて今日は
一日中合気道の特訓をしたいと張り切ってるんだが・・・朝から元
気なアイリは初めて見たな。
クラリーナは弓の特訓を続ける予定だと言ってる・・・昨日は午後
からの決闘騒ぎで午後は訓練できなかったみたいだしな。
ミーは昨日俺が教えながら見せた﹃居合﹄が頭にあって、レイピア
でやってみたいと特訓するみたいだ。
俺は昨日の出かけてからの事を簡単に説明してから昼まで寝ること
にした。
ミーが昼食の準備がが出来たと寝室で眠る俺を起こしに来たのは1
2時半ぐらい。
ダイニングに向かってる途中で気付いたが今日の昼食は早乙女邸メ
イドゴーレムのクロが作った﹃醤油ラーメン﹄だった。
ご飯はチャーシューと白髪ねぎをゴマ油で軽く炒めたのが乗ってる
﹃チャーシュー丼﹄がラーメンの隣に置いてある。
ナルトは売ってたんだけどメンマがまだないんだよな。
1772
なので醤油ラーメンとして凄く美味しいんだけどちょっと物足りな
い。
大森林の俺がまだ行った事のない南西側に竹林があるというMAP
情報なんだけど・・・シーパラ連合国南側の都市にはタケノコがあ
るらしいがメンマまでは見た事がないと以前、ビッタート卿から雑
談中に聞いた事がある。
南側の都市っていうとシグチスかな。
そういえばフォンマイ商会は元の本拠がシグチスだったけど・・・
俺が転生者だと知ってるビッタート卿ならともかく、ゲルアーには
いくら雑談でも聞きにくいな。
それにシグチスはミーの行きたい場所なのでみんなで旅をして﹃山
小屋から見る朝日﹄を直接見に行って直接自分で調べた方が良いだ
ろう。
食後にみんなでそんな話をしてると早乙女工房のユーロンドから念
輪連絡が入った。
﹁ご主人様、今お時間はよろしいでしょうか?﹂
﹁どうした、またトラブルか?﹂
﹁今日はおにぎり販売には我々だけでなくガルディア商会の親衛隊
が護衛でパトロールしていますで安心です・・・それとは別口で来
客です。昨日私が庇って助けた男の子を連れて﹃ウォーカー商会﹄
の方がみえられました。女性秘書で出来れば当主の﹃ナディーネ・
シーズ・ウォーカー﹄が直接お礼を申し上げたいとおっしゃってま
すが・・・いかがなされますか?﹂
おいおい、あの男の子はウォーカー商会の中の工房に働く下働きの
子だったのか。
1773
ウォーカー家は生まれてくる男の子供が全部技術者系のスキルをも
って生まれてきて、女の子は経営者向きのステータスをもって生ま
れてくることが多いと言われてる女帝一族だった。
なので女の子のみがシーズの名前を引き継ぎ、男の子は小さいうち
から工房に籠りがちな生活を送る。
しかも女性秘書とは言えども彼女はナディーネの長女で﹃コーレン・
シーズ・ウォーカー﹄れっきとした後継ぎだった。
男の子は弟で﹃フィルマン・ウォーカー﹄だった。
下働きでも当主の息子だったよ。
さすがに驚愕の事実だったので固まってしまったが、さすがにその
まま早乙女工房の外での対応をさせる訳にもいかず、早乙女工房の
そら
応接室に入れて俺が直接話をすることにする。
メイドゴーレムの空に案内をさせてお茶とおやつを出しておくよう
に命令した。
もうすでに嫁達は地下訓練場に行ってしまったので念輪で早乙女工
房に行って話をしてくることを伝える。
俺は寝起きだったのでガウンから旅人の服に着替えて早乙女工房の
居住区に転移。
ワイバーンのブーツを履いて応接室のある2Fへと転送室で移動す
る。
会う前に脳内にあるウォーカー家の情報を整理するが、蒸気機関鉄
道の管理・維持・修理をしてるのがウォーカー家の有名な仕事でゴ
ーレムの販売・修理などの仕事も請け負っている技術者集団だ。
シーズの家の中でも雇っている技術者・ウォーカー商会出身の技術
者の数は群を抜いて多い。
が、しかし・・・るびのの起こした﹃白虎戦争﹄でゴーレム製造技
術の大半の人員と知識を失い今は蒸気機関を使った船や列車などの
儲けで組織を維持している。
1774
ゴーレムと書いて不動産部門
と呼ばれているらしい。
ゴーレム部門はすでに大半が倉庫貸出しなどでウォーカー商会内で
も
イーデスハリスの世界では奴隷という最低賃金労働者がいるし、オ
ーガやオークの従魔という力持ちもいるんでゴーレムは金持ちの道
楽という枠から出られない。
俺を遠見魔法で監視してたもう1つの組織のトップの娘と息子にこ
れから会うわけか・・・
さぁ、どんなのが出るかな。
1775
じわじわ攻撃拡大中っす。︵前書き︶
11・7修正しました。
1776
じわじわ攻撃拡大中っす。
﹁お待たせして申し訳ありません﹂
﹁昨日は暴力から助けていただきありがとうございました﹂
﹁弟を危険から助けていただきありがとうございます﹂
俺が話しながら応接室に入っていくと﹃コーレン・シーズ・ウォー
カー﹄と﹃フィルマン・ウォーカー﹄の2人がソファーから立ち上
がってお辞儀をしてからお礼を言われた。
・・・なるほど男の子が工房に籠る訳は・・・ウォーカー家の男の
子は噂通りドワーフの血を濃く受け継いでいくようだな。
フィルマンも見た目は赤黒い筋肉質な体格で身長は150cmほど
のドワーフだ。
女の子は俺と身長が変わらないが少し筋肉質な体格をして、美形な
のだがキツイ顔だちを持っているため﹃シーパラ連合国の女帝﹄の
血を受け継いでいるんだろう。
お人好し
しか出ないから戸惑っているよう
・・・さらに人物鑑定の魔眼持ちか?
俺の人物鑑定結果は
だな。
レベルが200以上離れてるとこういう結果になるってのは今の時
代では知ってる人はいないらしい。
自己紹介をお互いにしてからソファーをすすめ座ってもらい話をし
ようとするが、コーレンは俺の人物鑑定の結果を見てはかりかねる
そら
顔で俺を見ているし、フィルマンは俺のソファーの隣に立って指示
を待つメイドゴーレムの空に興味津々だな。
顔立ち以外は似ても似つかない・・・面白い兄弟だな。
1777
﹁コーレンさん、俺を人物鑑定の魔眼で見ても何も見えませんよ﹂
﹁え・・・どうしてですか?﹂
﹁それは内緒ですね。世の中には知ってもどうにもならない秘密は
あるんですよ﹂
﹁それは常々母から聞いてはいるのですが・・・﹂
ですね﹂
﹁って事は経営哲学などの英才教育の一環でしょう。一言でいえば
魔眼は便利だが世の中の全部を見通せるものではない
﹁・・・それはウォーカー家初代のお言葉ですね。早乙女さんはお
若いのによくご存じで﹂
﹁1000年近く前の伝説の方ですからね。話を噂で聞いただけで
すよ﹂
俺とコーレンが軽く腹の探り合いをしてる時も弟のフィルマンは一
切話を聞かずに、体をいろんな角度に傾けて空を色々な角度で見て
いる。
俺の創るゴーレムは歯車をまったく使わずに魔力で森林モンキーの
尻尾を筋肉のように伸び縮みさせて動かしてるので機械音は一切し
ない。
今はイーデスハリスの世界では失われた技術となってる古代の秘法
ってヤツだな。
なのでこれを察知するのは魔力探査マスタークラスでないと無理と
いう・・・暗殺し放題な狂気を呼んでしまいかねないゴーレムなの
で市場に流すつもりは一切ない。
ゴーレム達は俺が暇を見つけては改良を施しているので、今ではゴ
ーレムを制御する魔結晶は俺の脳内と念輪でリンクさせてるので、
情報のアップデートも離れていても可能となってる。
国家機密以上の秘密の塊なので製造方法もゴーレム制御データも一
切世間には出さない。
なのでフィルマンがガバっと立ち上がって土下座をして俺に弟子入
1778
りさせてくださいとお願いしてきたが、即答で断らさせてもらった。
断った理由も聞かれたので俺はフィルマンに聞いた。
兵器
なんだぞ?﹄
﹃お前はこのゴーレムを作って何がしたいんだ? これは殺人マシ
ーンにでもなる
俺の問いかけに何も答えられなくなるフィルマン。
禁呪
きんじゅ
を研究をした方が早いよ﹄
﹃殺人マシーンを作って大量虐殺者の仲間入りがしたいなら暗黒魔
法の
﹃ただゴーレムを作りたいだけなら自分で作り上げろ。俺は一切協
力するつもりはない﹄
として使えば研究者の意志なんて欠片も残らない。残るの
﹃研究者が平和のために作り上げ多といくら口で言っても使用者が
兵器
は兵器作成者として大量虐殺者としての名誉だけだな﹄
﹃兵器の研究になりかねないゴーレムをお前は本当に製造して販売
したいのか?﹄
俺の言葉の攻撃にぐうの音も出ないほど叩きのめされて土下座をし
たまま下を向いて頭を抱えてるフィルマンに、俺も屈みこんで肩を
叩きながら最後に伝えた。
趣味
なんだからな。兵器として知
﹃だから俺はゴーレムを誰にも売らないし信用できる人間にしか渡
さない。俺のゴーレム作りは
らない人間に使われるぐらいなら壊す。それが製造者の悲願だ﹄
今の廃れた技術でも同じ形のゴーレムは作り出せるだろうけど、ゴ
ーレムを動かすには複雑に組み上げられたゴーレム制御データがな
いとただの人形でしかない。
俺にゴーレム製造の技術を伝えた転生者の悲願が俺がフィルマンに
1779
最後に発した言葉だ。
明けども明けども毎日毎日戦争で使う兵器のゴーレムを作らされて
研究をさせられて、転生させた4人の神を呪い続けて死んだ転生者
の重い言葉だった。
俺自身が面倒で教育したくないっていうのもあるが、俺に知識と経
験をくれた人の悲願を無視するつもりもない。
フィルマンが顔を上げて決意を込めた目を俺に向けて俺に向かって
宣言する。
兵器にならないゴーレム作り
これを僕は生涯をか
﹁早乙女さんありがとうございます。ゴーレムの研究のテーマが今
決まりました
けて研究しますよ﹂
﹁協力はしないけど自力で頑張るなら俺は応援させてもらうよ﹂
﹁早乙女さん、弟の教育までありがとうございます﹂
﹁いえいえ、どういたしまして。それにフィルマン君の師匠になり
そうな人なら今はシーパラの教会で療養中ですよ。﹃ゴーリク・カ
イズ﹄と﹃ゴーリク・サラ﹄の2人で裏の世界では超有名なゴーレ
ムつくりの天才。奴隷にさせられて裏の世界で嫌々ゴーレムを作ら
されてるところを最近救出された。ゴーリク夫妻という名前を言え
ば君たちのお母さんなら知ってるだろうから、すぐにでもスカウト
しに行った方が良いよ﹂
フィルマンは俺との挨拶をそこそこに握手をすると走って行ってし
まった。
あわててコーレンが立ち上がって謝罪するが俺はまだ伝えたいこと
があるので引き留めた。
﹁コーレンさんちょっと待った! ゴーリク夫妻のスカウトが成功
したら出来ればお母さんもゴーリク夫妻も一緒に早乙女工房にきて
1780
くれ。俺は拾い物をしてゴーリク夫妻に渡したいものがあるからと
いえば多分来てくれるよ﹂
﹁わかりました、母に伝えます。では御礼はその時にでも改めて﹂
﹁あぁ、スカウトは弟のフィルマン君に任せて君と母親は年棒・契
約金などの金銭面の提示だけにした方が良い。何しろ100年以上
兵器のゴーレム
を作らされてきた夫婦なんだ。ゴーレ
もの間、無理やり兵器のゴーレムを隷属の首輪で奴隷にさせられて
強制的に
ム作成の考え方を根本から変えたフィルマン君の情熱がないと多分
断られるよ﹂
﹁なるほど・・・母と相談します。ではまた・・・﹂
﹁ああ、みんなが来るまでは俺はここにいるから、気長に待ってる
よ﹂
コーレンが立ち去ろうと席を立った時に、フィルマンが応接室に戻
ってきて﹃姉ちゃん早く!﹄と急かしに戻ってきた・・・ホントに
面白い兄弟だ。
俺は二人を空に送らせてからソファーに座りなおした。
ゴーリク夫妻が早乙女工房に来る前に準備を終わらせないとな・・・
俺のアイテムボックスにはゴーリク夫妻が無理やり作らされた犬型
所有者 未定
と
ゴーレム2体が入ってるが俺が完全停止させるために強引に所有者
の欄に早乙女真一と俺の名前を書き込んだので
空欄状態にした。
俺は暇なので応接室の隣にもう一つ同じサイズの応接室をパーテー
ションで仕切って作り、さらに隣には執務室&大型の応接室を作っ
た。
ここでの客対応が今後は増えそうな予感がしたから時間も余ってる
ので作っておいた。
執務室用の机と肘掛の付いた豪華なイスを作って並べて、来客の応
接用に8人ぐらいは座れそうな豪華なソファーセットを並べる。
1781
早乙女商会の事務所の応接室は俺の趣味でシックにまとめたが、こ
こは来客用なので仕方がないと諦めてちょっと成金趣味のような装
飾を入れる。
俺が執務室の肘掛椅子に座りウトウトしてたら1時間後の昼の3時
になって、ウォーカー家の3人とゴーリク夫妻の5人がやってきた
とのユーロンドからの念輪が来て目覚める。
執務室を作ったことはすでに連絡済みなので俺は自分の全身に3点
セット魔法をかけてスッキリとさせる。
﹃シーパラ連合国の女帝﹄のお出ましだな。
先代と先々代は最高評議会の証人喚問の時とサトシの当主就任記念
パーティーとで2回ほど見かけたことはあるが・・・当代は初めて
だな。
ウォーカー家はいろんな人種の血が混じっていて女性は150歳ぐ
らいまで生きて、男性はドワーフの血が色濃く出て300歳ぐらい
まで生きると聞いたことがある。
こん
早乙女工房専属ゴーレムの紺に案内されて全員やってきた。
軽い挨拶と自己紹介をしてソファーに全員座ってもらう。
ゴーリク夫妻は俺が助けて教会まで送ったことをアマテラスの神託
を受けて知っているのだが、お礼が言いたそうだけどウォーカー家
の3人がいるこの席では言えない。
女帝ナディーネ・シーズ・ウォーカーから先にお礼を言って頭を下
げてから話し始めた。
﹁早乙女さん、まずは息子の危機を救ってくださりありがとうござ
います﹂
﹁いえ、フィルマン君はおにぎりを買いに来られたお客様なんです
から当然ですね。むしろこちらから謝るべきことですよ。ご迷惑を
おかけしました﹂
1782
﹁ご丁寧にありがとうございます。それに優秀な技術者夫婦を紹介
してくださり誠ににありがとうございます﹂
ここでゴーリク夫妻の話になったのでゴーリク夫妻と挨拶と自己紹
介をかわす。
俺は夫妻をここに連れて来てもらったのは、マフィアギルドマスタ
ーから強奪した犬型ゴーレム2体を返すためだ。
アイテムボックスから取り出して2人に返した。
拾いまして
ね。持ち主はすでにこの世にい
﹁これは私共が作ったクラッシャー・ハウンド331号と332号・
・・﹂
﹁まぁ事のついでに
ないようですし製造者にお返しするのが筋かと思いましたんで、誠
に失礼ではありますがここまでお越し頂きました﹂
﹁ありがとうございます。諦めていた主人と私の子供たちが帰って
甲斐がありますね。また今
ウォーカー商会にまでお届けしますよ﹂
拾ってきた
きたようで大変うれしいです﹂
拾ったら
﹁それは良かったです。
後よそで
﹁よろしくお願いします﹂
﹁まぁその話はおいおいするとしまして・・・﹂
そのまま雑談に入った。
ゴーリク夫妻はこのウェルヅ大陸の出身ではなく他の大陸から誘拐
されて奴隷にされて流れてきた夫婦だ。
本人たちも言ってるのだが夫婦が共に類い稀な才能を持ってるから
こそ100年以上もの年月を裏の奴隷としても生き残ってこれたの
だろう。
誘拐されて奴隷とされた裏奴隷はゴミほどの価値しかないという現
実を聞いて驚愕してしまって、言葉を発することも出来なくなって
しまったウォーカー家の3人の親子。
1783
人族にしろ亜人にしろ獣人にしろな人の命の重みに何も感じないだ
けでなく、金で売り買いしておもちゃのようにしか感じてない奴が
少ないが確実にいるのだ。
俺が潰したいくつかの外道どもは逆に奴隷にされてて、今は奴隷が
大量に余っている現実があるみたいだな。
雑談の中でナディーネはシーパラ南部にある鉄道を再開させたいと
熱く語ってきた。
首都シーパラの南部にある旧都ウェルヅリステルから南部の都市シ
グチスまでの海岸線沿いにある線路を復旧させたいというのがナデ
ィーネの、ウォーカー家の悲願らしい。
しかも最近の俺の悪徳商会撲滅で犯罪者奴隷と借金奴隷が飽和状態
で余っているらしい。
それと俺は戦ってないんだが従魔も数多く没収されてきていて余っ
てるんだと。
なので角館家とケミライネン家は国に対して・・・引き取ってやる
けど余ってて市場に流せないから逆に維持費用として纏まった金を
払えって強気で言ってきてるのが現状。
最高評議会側の一部の議員は﹃今まで散々儲けをかすめ取ってきて
この状況でそんなことを言うのか?﹄と激怒していて、どうせだっ
たら今飽和状態の奴隷を大量に導入して国家事業をおこなおうとい
う動きになってきてる。
そこでナディーネが散々周囲に漏らしてた悲願﹃線路復活﹄が昨日
から現実にどれだけの時間と労力が必要なのか、結界師はどれぐら
いの・・・って調査段階まできている。
ウォーカー家でも政府に資金援助してもらって本格的に調査をしよ
う、先にウェルヅリステル駅を作ってしまった方が良いんじゃない
かと昨日からウォーカー商会の幹部会議が本格的に始まっていると
いう説明を熱く語ってくれた。
1784
女帝ってクール系な外見で中身はかなり熱い女なんだな・・・でも、
こういう熱さは俺は嫌いじゃない。
今までは体力以外は使い物にならない犯罪者奴隷や借金奴隷は鉱山
送りにされていたが、政府が直轄する鉱山でも奴隷があふれてる状
態なので運河を再開発させようかという動きも以前から評議会の中
からあったようだ。
ナディーネが言葉を濁した。
﹁でも獣系の魔獣の行き場がないんですよね﹂
﹁国軍で引き取ればよくないですか? テイマーの素質がある兵士
何でこの国には魔獣兵団がいないんだろう
も、元テイマーの兵士も探せばいるでしょうに。以前から不思議に
思ってたんですけど
って﹂
﹁それはシーズの家のケミライネン家が関係してますね・・・﹂
ケミライネン家が500年程前のシーパラ連合国建国当初からテイ
マーギルドを掌握していて、国軍による魔獣兵団の案はことごとく
潰していた。
それでいざ戦争状態の時にはテイマーギルド全面協力として国から
大量の補助金をゲットしてきた。
俺がナディーネにアドバイスするのは悪魔のささやきだな。
冷や飯喰らい
﹁こういう風に1つの企業なり1人の人間が独裁をしている組織に
は・・・真面目だからこそ組織からイジメられてる
がいるものですよ。その人たちを国軍にスカウトして新組織を立
ち上げさせれば事は簡単ですよ。えてしてそいういう人達は能力も
人望も高かったりしますからね﹂
﹁なるほど・・・﹂
﹁この場合はゲッペンスキー商会とガルディア商会の協力が必要に
1785
なりますね。魔獣の餌となる﹃肉﹄の確保です。ケミライネン家は
確実に嫌がらせで国軍に肉を流さない行動を取ってくることが考え
られますので・・・食用肉を大量に扱っているゲッペンスキー商会
と、冒険者ギルドに太いパイプを持って魔獣の肉を直接購入が可能
なガルディア商会の協力があれば事は成ったも同然です﹂
﹁確かにケミライネン家からの嫌がらせは考えられますが・・・な
るほど、ゲッペンスキー商会とガルディア商会は今回の騒動でケミ
ライネン家と角館家に対して最も怒っている2人ですので、協力は
取りやすいどころか今後は国軍との結びつきを強めるために、本腰
の前に、もうすでに全方
を入れてケミライネン家と角館家に対して敵対行動を取って協力し
仲間を増やして真綿で首絞め作戦
そうですね﹂
俺の
面にケンカ売りまくって敵を倍々ゲームってレベルで増やしてるの
かよ。
しかもそのままの勢いで俺にケンカを売ってきてるようだな・・・
調子に乗りすぎて自分で首絞めてるな。
俺の真綿ぐらいじゃ追いつかないかも。
ナディーネと話をした感触でも2つの家に好意を持ってるシーズの
家はなさそうだな。
俺の性格上、傷口には塩と唐辛子を塗り込んで治りを遅くしないと
な。
﹁こういう事は時間と正確な情報が勝負ですね。先にゲッペンスキ
ー家とガルディア家の協力を仰ぎ3家合同で国軍の魔獣兵団編成を
最高評議会で可決させて、同時進行でテイマーギルドの冷や飯喰ら
いを引き抜いた方が良いですよ。人望もある人間なら調べたらすぐ
にわかると思いますんで﹂
﹁順番的にはその方が良いですね﹂
﹁それで新設の魔獣兵団に実戦経験を積ませる事も名目に掲げた﹃
1786
公共投資﹄で線路拡大にも動けばいいんですよ。奴隷を大量に投入
すれば資金も抑えられますし・・・新規に作る運河と違って線路は
まだ残ってて、問題は結界の維持管理なんですよね?﹂
﹁そうです。私の線路拡大案が急に取り上げられ始めたのも早乙女
さんが私有地で使い始めた結界が線路の結界に似てないか? って
ところから始まったんですよ。なので早乙女さんを最高評議会会議
に呼ぼうっていう案も具体的に話し合われてます﹂
﹁最高評議会の会議に出席するつもりはないんですけど・・・ワガ
ママ言ってる場合じゃないか。俺の結界にはこんな物が必要になり
ますけど良いですか?﹂
俺はアイテムボックスから先端に魔石が付いた太さ1cm長さ15
cm程のミスリル棒を取り出した。
みんなに1本ずつ渡して調べさせる。
﹁俺の結界も線路の結界と同じでこれが30mおきに1本必要にな
ります。線路の反対側にも同じ数だけ必要になります﹂
﹁・・・﹂
﹁30mで2個必要なのでウェルヅリステルからシグチスまで約3
000km。単純計算で20万個の魔石が必要になりますけど・・・
それでもよろしいですか?﹂
﹁この魔石付きのミスリル棒ならば半永久的に結界は作動するので
すか?﹂
休ませる
為に必要となるんです﹂
﹁これはそのための魔石とミスリルです。線路の反対側もう一本必
要なのは結界を交代で
﹁休ませるんですって?﹂
ゴーリクが大声を出した。
﹁1日24時間交代で休ませるんですよ。ゴーレムなどの場合は魔
1787
力が
動力
として使用しているので大量に減った魔力は水力など
で魔力を補充しないと満タンにできませんが、結界の魔力程度なら
魔石がなくてもミスリル棒に蓄えた魔力で、24時間ぐらい維持で
きるのはみなさん理解できますよね?﹂
﹁・・・︵みんな無言で頷く︶﹂
﹁魔石には自力で魔力を周囲から吸い上げて魔力を元に戻そうとい
う性質を持っているのも皆さんはご存知ですよね?﹂
﹁・・・︵またもみんなで頷いてる︶﹂
﹁24時間結界を維持する程度の魔力はミスリル棒に蓄えられるだ
けの極めて僅かな魔力で済みます。魔石が24時間で復活する魔力
量よりも小さいんですよ﹂
﹁なんだって・・・﹂
実はこれはこの世界には残ってない技術だった。
というよりも封印で稼ぐために結界師ギルドが隠してきたことで、
結界師ギルドのマスター達も子孫に伝達し切れずに100年以上前
に消えて・・・龍布と同じ運命な技術はバカのせいでたくさんある。
﹁早乙女さん、話の途中ですみません・・・でもそうすると魔石に
封入される魔法などはどうなるのですか? 早乙女さんしかできな
い技になってしまいませんか?﹂
﹁その疑問には今は答えることができません。が、解決方法は俺は
知っています﹂
﹁もしかして専用転送器ですか?﹂
﹁・・・想像にお任せしますとしか言えません﹂
転送
する魔法だ。
転送魔法には種類があって俺がよく使ってる﹃情報複製﹄も情報を
コピーして
なので俺が結界用で封入した魔法﹃認識阻害﹄﹃魔獣結界﹄など魔
結晶に封入して魔水晶を使ってコピーして転送することが可能なの
1788
が専用転送器。
様々な企業・工房の中に専用転送器はあって魔石や魔結晶は魔法の
使えないシーパラ国民にでも取り扱いができるようになっているの
で、この国では高額で取引されている商品だ。
今の時代では誰も作り出すことができないと言われていて﹃魔道具
製作スキル﹄の最上級レベルでないと生み出せないと言われている。
正確には魔道具製作上級のマスタークラスでならスキル魔法ですぐ
に自分の自由な形に作り出せる。
﹁最高評議会が線路拡大を可決して今後は国の公共事業で進めてい
く事を選択したのだったら、今後は交渉次第で解決方法を教えます
よって、最高評議会の会議で言っておいてください。これは大金を
せしめようという目論見ではなく俺と家族の安全の為にこれ以上は
言えません﹂
﹁安全の為と交渉次第はどういう意味ですか?﹂
﹁言葉のままですよ。この国に対して俺はそこまで信用できないと
言い換えた方がよろしいですか? 現に2つのシーズの家から早乙
女に対する嫌がらせは続いてる・・・現在進行形の問題ですから。
それで交渉次第というのは最高評議会への俺からの牽制ですよ﹂
﹁そうですか・・・ではこれをお返しします﹂
全員からミスリル棒を返してもらってから2本をナディーネに渡し
た。
﹁これはどういう事なんでしょうか?﹂
﹁俺が今言ったことが本当かどうかこれで実証実験をするために渡
しておきますよ。これを持っていけばゲッペンスキー商会もガルデ
ィア商会も線路拡大が可能なんだと乗り気になってくるでしょう。
その他のシーズの家も乗り気になってくると思います﹂
﹁確かに実物付きなら交渉も早そうですね。ありがたく頂いておき
1789
ますね﹂
﹁そういえばウェルヅリステルからシグチスって高速鉄道の線路幅
なんですか?﹂
﹁ハイ。残ってる部分は高速鉄道用の線路幅ですね。大森林を伐採
して結界を張り・・・何年かかることやら・・・﹂
﹁結界を張ってから線路の周囲をよく調べた方が良いですよ。白虎
によって全ての結界を無効化されてしまったとはいえ、結界を張っ
ていた魔石とミスリル棒は埋まっているはずですから。魔獣に持ち
去られてしまってるのもあるでしょうけど、残っている数の方が多
いでしょうから・・・資源再生できると思います﹂
﹁あぁ! それはそうですね。ありがとうございます。そこも資金
削減案で提出させていただきます﹂
こうやって時々雑談も交えながらアドバイスをしておいた。
俺の自分の手を汚さずにケミライネン商会と角館商会の儲けを削り
取る作戦は成功しそうだな。
ウォーカー商会は当主の悲願達成には俺の協力が必要不可欠になっ
たから、完全に俺の味方側に引きよせるのに成功しただろう。
結界師ギルドは今後大幅に儲けを減らすことになるが、自業自得だ
からしょうがない。
商業ギルドヨークル支部の不動産部門責任者﹃リーチェル・ハナザ
ワ﹄が愚痴っていた・・・使わない不動産の結界を毎日張り直す作
業と手間賃でかなりの痛手となってる。
それで俺が購入した不動産の結界を解除するときに教えてもらった
が、毎日結界を張り直す作業と言って魔石の付いていないミスリル
詐欺
をして今まで技術も磨かずに稼いできたんだか
棒に魔力を注入するだけで月契約で金を持っていく・・・ボッタク
リだな。
こんな楽な
ら自業自得としか言いようがないな。
そんな事よりも線路の結界の研究でもしておけば今頃は魔石に結界
1790
を封入して販売するだけで儲けは出来ただろうに・・・誰にもボッ
タクリなんて言われずに。
話が終わったので5人のお客は帰って行った。
ナディーネはこれから忙しくなるだろうから少し慌ててた。
俺が昨日・今日と世間に出した情報で色々と流れが変わりそうだな。
しむら
俺にケンカを売って無様をさらしたいくつかの道場で1番恥をかい
たのが﹃紫村流侍剣術﹄だ。
恥の上塗り
にしかならないし。
噂がまわって師範が俺にケンカを売ったことを後悔してるだろうな・
・・今後は俺に絡めば
呼び出しして俺を抹殺するしか方法がないから、決闘状でも送られ
てくるかも。
俺を殺す事がまず不可能なんだけどな。
ケミライネン家と角館家は俺の想像以上に敵を増やしまくってるの
で、俺がじわじわ追い込みながら味方を増やしつつ、アドバイスと
いう悪魔のささやきを使って儲けを削り取っていった方が面白そう
だ。
テイマーギルドは優秀なのに冷遇されていた人達が国軍に引き抜か
れて優秀な人材流出待ったなし。
人類の戦争がなくなった今では相手は魔獣との戦争で、国は自前で
魔獣兵団をそろえてくる。
テイマーギルドの先行きが暗くなったな。
奴隷商ギルドは今後は格安で公共組織からの奴隷は回ってこないだ
ろう。
国も今まで全く採算の取れてなかった鉱山の町グレンビーズなどに
送っていた奴隷を線路復活に使えばいいだけになるので、奴隷の数
が増えれば増えるだけ線路の復活も早くなる。
奴隷商ギルド側は割高で買いに行かないと今後は奴隷の数を揃えら
1791
れなくなる。
このままだと潰れるかもしれないと親戚筋からシーズの家で内紛が
おこってクーデターでもあるかもしれないけど。
線路沿いの町も活況を及ぼしてくるだろう。
経済的効果は計り知れない。
そこに2つの家は入り込めない事がこのままだと確定してしまう。
このまま俺に構ってる暇など無いと自覚して早急に最高評議会に働
き掛けをしないと・・・と、焦って内部分裂するか?
フォンマイ家は自分達の主力商品の砂糖・綿花、共にシグチスに集
まってきて現在は船で運んでいるが、鉄道が復活すれば流通の選択
肢が増えて安定的に供給できるようになるので願ったりかなったり。
なのでフォンマイ家は間違いなく線路復活に応援する立場になって
資金提供すら検討されるレベルだな。
アンコがヨークルでブームになってきてるのでヨークルを中心に今
後は爆発的に砂糖の消費量は上がる。
フォンマイ家にはヨークルで砂糖の消費量が上がってる事はすでに
つかんでいる情報だろう。
俺との関係を抜きにしてもフォンマイ家は今回の線路復活計画に賛
成にまわる事は間違いない。
・・・こうやって自分の力をゴリ押ししなくても政治力で解決でき
そうになってきたな。
それだけ国に貢献してきた結果だろうけど。
などと客が帰った後は早乙女工房の執務室の藤掛イスに座って考え
ていたら来客があった。
メイドゴーレムの紺からの念輪連絡で分かったのだが紫村流侍剣術
の使者。
早速来たな。
1792
せっかくなので執務室に呼ばせて俺が直接応対することにした。
1793
紫村流道場との抗争っす。
こん
俺は執務室の肘掛椅子に座ったまま紫村流侍剣術道場からの使者を
出迎える。
早乙女工房専属メイドゴーレムの紺もソファーには誘導せずに執務
机の前までしか案内しない。
・・・俺からすれば客じゃないし。
あえて偉そうに座ったままのおちょくった応対で反応を確かめてみ
た。
俺の応対ぶりから明らかに少し怒気をはらんだ目で俺を見下す使者
の口上を聞く。
﹁これはこれは、超一流の紫村流侍剣術道場のお方がこんなところ
に何の用ですか?﹂
﹁ふん、手前どもの手違いで早乙女さんには大変ご迷惑をおかけし
しむら かずさのすけ
てると聞きました。つきましてはぜひ直接謝罪がしたいという道場
主第6代目﹃紫村上総介﹄様よりの伝言を持ってまいりました。ぜ
ひ今より当道場へ来てください﹂
﹁謝罪ねぇ・・・﹂
これは重症だな・・・謝罪する態度ですらない。
さん付
で呼び、自分の道場主を様付けするバカが使者だとはな。
謝罪をする相手に挨拶もしないで上から見下ろして相手を
け
あえてバカを送ってきたとみるか、弟子のバカ数人が勝手に暴走し
てるとみるか・・・判断に迷うほどのバカっぷりだ。
俺はあえてバカを挑発してみたのだが簡単に引っかかる奴だったの
で、どこまでプライドが高いのかすら分からない。
謝ってやるから来いってか?
1794
俺の中にも怒りの感情というものはある。
それを利用して呼び出しに来たんだろうけど・・・藪をつついて蛇
を出そうという行為は俺にしてはいけない行為だという事を知らし
める必要があるな。
俺をつついたら古代龍の逆鱗に触れた事と同じような悲劇に見舞わ
れるという前例を作らないとな。
﹁︵俺を呼び出したことを後悔してもらうために︶・・・行かない
といけませんね﹂
﹁ふん、ではこちらにゴーレム馬車を用意しましたので﹂
嬉しそうにニヤニヤする紋付羽織袴の使者の後ろについて道場まで
連れて行ってもらう。
冒険者ギルドシーパラ支部のすぐ近くにある馬鹿デカい道場だった。
様々な人種の人間が100人以上もいる一流の道場らしいが、中身
はクソだな。
全員が俺をニヤニヤして出迎えてる。
道場の訓練場の上座に座ってるのは何の特徴もない中年男で明らか
に道場主ではない。
俺は胡坐をかいて道場の中心に座り謝罪らしきものを受けた。
俺は返事もしないで暇そうな顔で後ろの壁の一点を見続けるが反応
がない。
のぞき穴を直視する俺に動揺した気配がうかがえるが・・・へぇ、
あれでも隠れられてると思ってるのかな?
上座に座るオッサンの謝罪らしきものが終わると上座の横に一列に
なって並んで座っている高弟達からの怒りの罵声が入る。
俺が壁しか見てないので冷や汗をかいてる高弟だった。
1795
﹁貴様っ、紫村上総介様よりの謝罪言葉をありがたく聞く気はない
のか?﹂
﹁だらだらだらだら、長い口上を言ってるだけで謝罪の言葉なんて
ないじゃん。そもそもいつから道場主は隷属の首輪を装備した下働
きの下男の借金奴隷がしてるんだ?﹂
﹁わが道場を愚弄してるのか貴様っ!﹂
﹁まぁ、待ちたまえ。我が道場には早乙女さんのマグレが信じられ
ないという弟子も多数いてな。できれば貴方の技の冴えをご教授願
いたいのだがいかがなものかの?﹂
道場
をな。俺がここの全員をブチのめしてそこの壁の隠し部屋で
﹁はぁ∼、くだらない茶番だったな。良いよ、やってやるよ
破り
のっと
俺を観察しているジジィを叩きのめせば、看板を貰っていっても文
句ないんだよな? 古式に則って正式な道場破りでやってやんよ﹂
﹁クソガキが! もう我慢ならん、ワシから行くぞ! いざ尋常に
勝負だ!!﹂
俺を迎えに来た使者だった高弟が自分の持ってる木刀を俺にポイッ
と投げつけてきて自分は右手の木刀を上段に構える。
俺はそれを空中で掴むと大声で笑い始めた。
﹁アッハッハッハ、尋常に勝負だって? アッハッハ。そうだな・・
・貴様たち程度では真似することもできない、本物の技というもの
をお見せしよう﹂
けんき
俺は木刀をつかんでわかったがこれは張りぼての木刀だ。
俺は体内で練った剣気を木刀の中に充満させて中の空洞を埋める。
俺に殴り掛かってきた木刀を一薙ぎで一閃させて斬る。
ガインっという音を出して斬られた木刀の真実が明らかになった。
俺には張りぼての木刀を渡して問答無用で上段から殴り掛かった自
分の木刀は表面を薄い木片を張り付けただけのオーガ鋼でできた棒。
1796
カラクリを知ってる高弟たちは驚愕して固まった。
くち
見学をしててカラクリを知らなかった道場生たちはザワザワと騒ぎ
始める。
自分の鉄棒を斬られてお口ポカーン状態で自分の手元を眺めて固ま
ってる使者の男に向かって俺はスタスタと歩いていって上段から振
り下ろした木刀で頭から真っ二つに斬った。
血が吹き出たりはしない。
倒れた体が割れてドパッと二つに割れた体から血があふれ出ただけ
だ。
俺が﹃フン!﹄という気合声を発すると固まっていた高弟たちが動
き出す。
﹁さぁ、道場破りがスタートしたんだ。俺はお前等みたいな甘ちゃ
んじゃないから、木刀でも殺せるという事を証明してやった・・・
張りぼてでもな。みんな一斉でもいいぞ? アイテムボックスの自
分の愛刀を抜いてもいい、早くかかってこい﹂
﹁・・・﹂
﹁なんだ・・・この程度でビビってるくせに俺をどうにかできると
思ってたのかよ。がっかりだな﹂
俺は道場生たちが騒いでる目の前に剣気を抜いた木刀をヒョイッと
投げると砕け散る張りぼて。
﹃何だこれ、中身はが何もないぞ!﹄
﹃でもこれで先ほどのオーガ鋼の棒を斬って、綾瀬さんの体も真っ
二つに斬ったのか?﹄
見学者達は大騒ぎだ。
﹁可哀想だから素手でやってやんよ。もしかしてビビってるのか?
わかったわかった仕方がない。両手も使わないでやるよ﹂
1797
俺が腕を組んで立っていると残りの9人の高弟たちは俺の挑発にブ
チ切れて、アイテムボックスから自分の愛刀を取り出して次々に飛
びかかってきた。
俺は手は使わないと言ったが攻撃しないとは言ってないので、敵の
刀を避けながらローキック・回し蹴り・胴回し回転蹴りのような大
技も織り交ぜて、多彩な足技で高弟たちの骨をへし折って殺してい
く。
4人の蠢く芋虫を作り出し・・・体内の損傷が激しいので、もうじ
き死ぬこととなる芋虫。
生き残りはあと5人という時になって隠れてた場所からジジィがお
りてきて声をかける。
﹁・・・それまでじゃ! お前たち何をやっておる!﹂
﹁・・・︵俺はあきれて声も出ない︶﹂
﹁せ、先生、申し訳ございません。このような失態を見せてしまい
ました﹂
﹁お主達は免許皆伝の師範代として弟子を導く立場にいながら何た
ることだ﹂
﹁早乙女殿、ワシの不詳の弟子たちがご迷惑をおかけしたようじゃ、
重ね重ね申し訳ない﹂
﹁先生! 私たちのせいで申し訳ございません﹂
﹁・・・ジジィとバカ弟子、茶番はもういいよ。それに全員で声を
震わせながらビビりながら演技しても無駄だろ。ジジィは今まで全
部そこの隠し部屋から一部始終見てじゃん﹂
俺が指さしながらエアーカッターの魔法で壁の一部を破壊したら・・
・のぞき穴は大きい穴になって広げられて、隠し部屋の中の様子が
丸見えになった。
1798
道場生たちは見学しやすい様にすべての扉を開け放って中にゾロゾ
ロ入ってきていて、大騒ぎに発展してきてる。
面白い見世物を見るかのような見学者達もいるし、俺に手も足も出
ない高弟たちを見限って大声で罵ってる人、先生が来たから安心だ
と胸をなでおろす人、紫村流の剣道着を投げ捨てて﹃これのどこが
史上最強なんだよ! 今まで払った金を返せ!﹄と怒っている人、
もはやこんな道場に用はないと帰っていく人々・・・様々な見学者
が騒いでるので道場の訓練場は大騒ぎだ。
﹃静粛に!﹄
俺が気合とともに大声で叫ぶと騒ぎが収まって全員が俺を注目する。
﹁まずはやっと隠れてた黒幕が出来てきたことで話が進むな・・・
第6代紫村上総介に問う。そこの上座に座っているオッサンはなん
だ?﹂
﹁お、お主は下働き奴隷のゴンザ・・・こんなところで何をしてお
る。下がりなさい﹂
﹁ははっ﹂
オッサンが下がって外に出ていった。
なんかあまりの茶番劇っぷりに1周回って楽しくなってきたな。
悪ノリを楽しんでしまうという俺の悪い癖が出てきてしまいそうだ。
﹁それでジジィ、今頃出てきた理由を言えよ。まぁ想像はつくけど
な。どうやっても俺にかなわないので知らなかったふりして謝罪し
て逃げようってハラだろ?﹂
﹁・・・それは﹂
﹁理由も言ってやろうか? 計画が全部崩れたから茶番劇をするし
かないんだよな?﹂
﹁・・・﹂
1799
﹁くだらないよお前等・・・まったくもってくだらない。何が最強
の侍だ? 卑怯ワザと姦計しか使ってねぇじゃねぇーか。言っとく
けど俺はもう道場破りに変更したんだから、今更﹃弟子の不手際だ
った、これで許してくれって﹄道場主のあんたが土下座して謝って
も許さんよ﹂
﹁なっ・・・﹂
﹁言っただろ? 想像つくって。おまえら程度のパターンは簡単に
読めるよ。おおかた後日、闇討ちでも企むって事も想像がつくよ。
何が6代目紫村上総介だか・・・先祖もそうやって卑怯ワザと姦計
で最強なんて言ってきたのか? 恥ずかしい集団だな﹂
﹁貴様! ご先祖様まで侮辱するのか!﹂
﹁さっきからずーっと言ってるだろ﹃道場破りに来た﹄って。俺は
道場破りに来たんだからお前は紫村道場の全てを賭けて俺を倒さな
しるし
いと先はないんだよ。かかってこないならこの道場は俺に惨敗した
さっさと来い
と何度も何度もジェ
印として道場の看板ごと道場の建物を破壊されるからな?﹂
俺はおちょくり続けて右手で
スチャーを続ける。
ジジィの身長は俺が見上げるほどだから190cm程だな。
上座にいるので2mちかい。
真っ黒い30cmほどありそうな長い髭がきれいに手入れされてい
て自慢な髭なんだろう。
赤黒い肌で三国志に出てくる関羽公の様だ・・・頭はハゲてるけど
な。
今はその禿げ頭に血管が浮き出まくって怒りに震えてる。
もうひと押しかな?
俺は足元に転がってる一番初めに斬った鉄棒の切れっぱしを道場の
奥の床の間に飾られてる花瓶に投げつけて木端微塵に砕いた。
俺の武器を気にしてるようだったので失くしてあげてからジジィが
攻撃しやすい場所まで歩いて近づいていく。
1800
﹁ほらほら、お前は俺の道場破壊を見学しに来たのか? 耄碌しす
ぎだろ・・・もう逃げ道なんてないよ﹂
﹁クソガキが! もう殺す! 絶対に許さん!﹂
﹁俺もそう思ってるよ。御託はいいんだよ早くこいや﹂
﹁しゃっ! ・・・なんだと、クソっなぜ動かん!﹂
ジジィが一っ跳びで3mほど離れた場所から腰の愛刀を抜いて居合
抜刀術をしてきたが・・・巨体の割には素晴らしいスピードで、確
かに道場主レベルで素晴らしい技の冴えだが、俺にはこの程度では
話にもならない。
簡単に左手の人差し指と親指でつまんで止めてしまった。
ジジィが巨体を生かして何とか力を込めるが微動だにしないので、
今度は飛び離れるために引き抜こうとするが・・・全く動かない。
﹁クソっ・・・なんだと!﹂
﹁クックック、ざぁーんねんでした。カタナも2刀あるけど俺の手
も2本あるからな、クックック﹂
ジジィが微動だにしない大太刀を諦めて、もう1本ある小太刀を右
手で抜き俺の腹をえぐろうとしたがこれも右手の人差し指と親指で
つまんで終了。
俺がそのまま両手でつまんでる2刀を押すとジジィがゴロゴロと後
ろに転がって道場の壁に当たって止まった。
俺は道場の中心に戻って周囲全員に挑発を繰り返す。
﹁おらおら・・・どうした、師匠のピンチだぞ? このまま黙って
見てるのか? お前たちに残された道は全員で一斉にかかってでも
しむらりゅうまじゅうさつじん
俺を殺さないことには、名誉の回復なんて出来ないぞ?﹂
﹁仕方がない、全員だ! 紫村流魔獣殺陣だ!﹂
1801
﹁はっ、お前たち行くぞ!﹂
﹁ここまで追い詰められて、やっとかよ。危機管理能力があまりに
も低すぎるな。よくここまで潰れずに済んでたほどのカス道場だな﹂
﹁五月蠅い、黙れ!﹂
俺の周囲を包み込むような半径8mほどの円が高弟と師範代クラス
と子飼いの道場生、合計25名ほどで作られた。
俺はアイテムボックス内で長さ1mのオリハルコン製の木刀の形を
した棒を作って、中段の普通の姿勢で構えた。
﹁まずは1の陣、その後ろから2の陣かかれ!﹂
ジジィの合図で5人ずつが5つの方向から走り寄ってきて同時に攻
撃をかけてきた。
これが侍の集団による攻撃だ。
集団による同時攻撃や波状攻撃で対集団や対個人を狩っていくのだ。
強そうな
奴に向かっていって、前蹴りで後ろ
まぁ悠長に喰らってやってもいいが、俺はドMでもホモでもないの
で5人の中の一番
にいた人間の3人ほども吹き飛ばして包囲網を簡単に突破した。
ほぼ同時に襲い掛かるカタナの攻撃を前後左右の細かいステップで
最小限の動きで、かわしてはオリハルコン棒を叩きつけ避けては棒
を突き入れて、時には敵のカタナごとへし折る。
降りかかる上段攻撃をかわした敵を俺に突きを入れてきた敵の前に
押し付けて同士討ちも積極的に行う。
﹁ガキが・・・3の陣も4の陣も5の陣もかかれ!﹂
﹁アッハッハッハ、やっぱ侍は集団戦じゃないとな! ドンドンこ
いや! ほらほら、おかわりだ!﹂
﹁なん、だと・・・クソっ全員で波状攻撃だ! ものどもかかれ!
かかれ!﹂
1802
10分後には道場の50人以上の死体が転がってる。
俺は全身に返り血を浴びてオリハルコンの棒を右手でだらりと持っ
て幽鬼のように立っている。
恐れをなして動けなかった練習生たちが見学する中で後は第6代目
紫村上総介のみが腰を抜かして震えてる。
﹃た、助けて・・・﹄
腰を抜かしたまま後ろに後ずさってるが周囲には死体で溢れてるの
で上手くいかないようだ。
俺は手に持っていたオリハルコンの棒を振りかぶって最後通牒を告
げジジィの頭部を叩き潰した。
﹁ジジィ、バイバイ。俺にケンカ売ったことを﹃死んで詫びろ﹄だ
な﹂
俺は最後の作業に取り掛かる。
全部の死体に浄化魔法をかけてここ土地に幽霊が残らないようにさ
せた。
そして床の間に飾られてる道場の看板・正門入口の上に飾られてる
看板・道場入口右側に飾られてる看板の3つを集めてきて、紫村上
総介の死体の横にへし折って並べておいた。
これがイーデスハリスの世界に古代から伝わる道場破りのマナーだ
からな。
こうしておけば俺は合意の下の道場破りという事になり、殺人も罪
には問われなくなる・・・これは道場を構える者の古代からの宿命
となってる。
俺は全身を3点セット魔法で返り血を洗い流して浄化させ帰ること
にする。
帰ろうと歩き出すと見学してた練習生から話しかけられた。
1803
﹁あの、早乙女さん俺達はどうすれば・・・﹂
﹁俺に聞くなよ、そんなの知るかよ。お前たちもデカい道場の人間
だからってさんざんデカい面してきたんだろ。俺に聞くなよカス﹂
﹁・・・﹂
﹁俺が入ってきたときは全員が俺が叩きのめされるのを見学しよう
とニヤニヤしながら集まってきたヤツラで、俺に向ってくることも
出来ずに震えていたカスの面倒を何で俺が見なきゃならんのだ?﹂
﹁・・・﹂
復讐されるかも
って考えておけよ? お前たちが威張って
﹁お前等に忠告しておくけど、今までデカい面してきた相手から今
後は
いたバックは今日限りで消滅したんだからな﹂
﹁え・
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