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FEM を用いた熱応力解析による鋳物の 残留応力及び変形の予測

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FEM を用いた熱応力解析による鋳物の 残留応力及び変形の予測
FEM を用いた熱応力解析による鋳物の
残留応力及び変形の予測
Prediction of residual stress and deformation of sand
castings by using FEM thermal stress analysis
2013 年 2 月
本山 雄一
Yuichi MOTOYAMA
FEM を用いた熱応力解析による鋳物の
残留応力及び変形の予測
Prediction of residual stress and deformation of sand
castings by using FEM thermal stress analysis
2013 年 2 月
早稲田大学大学院 創造理工学研究科
総合機械工学専攻 輸送機器・エネルギー材料工学研究
本山 雄一
Yuichi MOTOYAMA
目次
1 章 緒言
1.1 社会的背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.2 鋳物製造時に生じる欠陥・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1.3 残留応力と変形に対する従来の対策法・・・・・・・・・・・・・6
1.4 従来の対策法の問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1.5 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
2 章 従来研究
2.1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
2.2 実際の製品に生じる残留応力や変形を予測した研究・・・・・・・11
2.2.1 Jacot らの研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
2.3 実製品の残留応力及び変形を解析している従来研究のまとめ・・・16
2.4 残留応力評価用簡易形状鋳物を用いて, 熱応力解析による残留応力の
予測精度を検証している研究・・・・・・・・・・・・・・・16
2.4.1 E. Gustafsson らの研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
2.5 自拘束鋳物を用いて熱応力解析による残留応力予測の有効性を
検証している研究まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・26
2.6 冷却中の鋳物と砂型の機械的相互作用に関する検討を
実施している研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
2.7 熱応力解析において砂型反力を考慮している研究・・・・・・・・32
2.8 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
3. 片状黒鉛鋳鉄製自拘束鋳物の薄肉部と厚肉部の温度差により生じる
残留応力の発生過程と予測精度の検討
3.1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
3.2 実験及び解析条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
3.2.1 実験条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
3.2.2 解析条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
3.3 実験及び解析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57
3.3.1 熱解析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57
3.3.2 熱応力解析結果に対する要素種類及び要素数の影響の検討・・・59
3.3.3 残留応力の実験値と計算値の比較・・・・・・・・・・・・・・63
3.4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64
3.4.1 自拘束鋳物に生じる残留応力の発生過程・・・・・・・・・・・64
3.4.2 厚肉部断面内に生じる温度差による残留応力・・・・・・・・・67
3.5 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69
4 章 砂型に鋳造した鋳物に生じる砂型反力と反力を受ける鋳物の
収縮量の連続的測定装置の開発
4.1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72
4.2 開発装置の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
4.3 冷却中の鋳物に生じる砂型反力の連続的測定機構・・・・・・・・75
4.4 冷却中に砂型反力を受ける鋳物の収縮量の連続的測定機構・・・・77
4.5 鋳ぐるみ部の熱膨張の拘束による荷重発生・・・・・・・・・・・79
4.6 開発装置の評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
4.6.1 実験手順・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84
4.6.2 実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86
4.7 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97
5 章 冷却中の鋳物に生じる砂型反力と鋳物収縮量に及ぼす
砂型種類及び鋳物形状の影響
5.1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99
5.2 実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101
5.3 実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・104
5.3.1 生砂型に鋳造した鋳物に生じる砂型反力と
鋳物の収縮量の連続的測定結果・・・・・・・・・104
5.3.2 フラン有機自硬性砂型に鋳造した鋳物に生じる砂型反力と鋳物の
収縮量の連続的測定結果・・・・・・・・・・・・105
5.3.3 フランジ面積と砂型種類が鋳物に生じる最大引張荷重
及び永久変形量に及ぼす影響・・・・・・・・・108
5.4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110
5.4.1 冷却中の鋳物に生じる永久変形の発生過程・・・・・・・・・・110
5.4.2 冷却中の鋳物と砂型の機械的相互作用・・・・・・・・・・・・113
5.4.3 フラン有機自硬性砂型に鋳造した鋳物の永久変形量に
対するフランジ大きさの影響・・・・・・・・・119
5.4.4 アルミニウム鋳造合金の熱応力解析での
砂型考慮に対する指針・・・・・・・・・・・121
5.5 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・123
6 章 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・125
1 章 緒言
1.1 社会的背景
金属材料の加工法の 1 つとして鋳造法がある. 鋳造法は他の加工法と比
較して次のような優れた特徴をもっている 1).
1) 任意の形状寸法の中空部をもつ複雑な形状のものを作ることが出来る.
2) 作れる製品の重量及び寸法範囲が極めて広い.
3) 複雑な形状と高い寸法精度の要求を満足する製品が作れる.
4) 作る鋳物の要求する材質がどんな化学成分でも望み通りに配合し, 適
切な溶解法と熱処理によって得られる.
5) 鋳物はマスプロの製品にも 1, 2 個の小ロットの製品の生産にも向いて
いる.
6) 不要になった製品鋳物は再び溶かしてリサイクルできる.
Figure 1.1 に日本における各種金属加工法の生産金額の推移を示す. こ
れより, プレス加工, 鋳鉄鋳物, 鍛造品, ダイカストの順であることが分
かる. この統計から, 鋳造業は 2 兆円産業といわれており, 日本の産業界
において鋳造業は重要な位置にある.
1
Figure 1.1 Changes of annual production value of processes in Japan2)
2
1.2 鋳物製造時に生じる欠陥
鋳物を鋳造してすぐに製品として用いる, つまり as-cast 状態で鋳物を
製品として用いる事は鋳造業界の目標の1つである. しかし, 現状は鋳造
時に生じる欠陥のため鋳物を as-cast 状態で用いる事は難しい. 一般的な
鋳造欠陥として, 寸法・形状不良, 引け巣, ガス欠陥, 割れ, 介在物, 外観
不良, 中子不良, 鋳肌不良, 強度不良, 工業的性質の不足が挙げられる.
これらの欠陥の中で鋳物を as-cast で使用しようとした際, 特に問題とな
るのが残留応力と変形である.
残留応力とは, 鋳物の肉厚差による温度差, 鋳型による自由収縮の拘束,
固相変態に伴う密度変化により発生すると言われている 4). Figure 1.2 は,
片状黒鉛鋳鉄製の鋳物を切断中に, 残留応力で鋳物が破壊した写真であ
る. このように, 残留応力が発生すると鋳物の見かけの強度が変化したり,
使用中に寸法が変化するため問題となる.
変形は鋳物全体が均一に冷やされない事により, 部分的に収縮タイミン
グがずれて内部応力が生じ, この応力により変形が起こるとされている 4).
Figure 1.3 は片状黒鉛鋳鉄製のプレス金型の熱応力解析結果である. 薄い
リブの多い基準面側と肉厚の形状面側で温度差を生じ, プレス金型に反
り変形が発生している事が分かる. 削り代以上の変形が起こると, その鋳
3
物は不良品となり, 再び鋳造し直す必要があるため非常に問題となって
いる. 鋳鉄製工作機械用ベッドでは, 仮に鋳造時に反り変形が無いものが
出来たとしても, 使用中に残留応力が開放されることにより変形が発生
し問題となる.
また, アルミニウム鋳造品でも残留応力は問題となっている. シリンダ
ヘッドの多くはアルミニウム鋳造合金で出来ているが, T6 処理の際の焼
入れ時に残留応力や変形が生じる. シリンダヘッドは熱疲労を起こすた
め, 思わぬ残留応力が発生していると想定していた疲労寿命よりも早く
寿命を迎えてしまう. 大型薄肉のアルミニウム合金ダイカストでも鋳造
時に生じる反り変形が問題となる.
近年, 鋳物部品の強度部材への適用や, 軽量化のための鋳物の薄肉化が
望まれている. 特に鋳鉄鋳物に関しては高付加価値な工作機械用ベッド
や, 自動車外板プレス用金型等の長大物を欠陥無く効率的に鋳造するこ
とが望まれる. しかし, 鋳物の薄肉化を進め, 厚肉部と薄肉部の肉厚差が
顕著になると鋳造時に鋳物内で温度差を生じ, 残留応力が問題となって
くる. その結果, 鋳物の見かけの強度が低下し, 強度部材への適用が困難
となってしまう. また, 長大な鋳物を鋳造すると変形量も大きくなるため,
削り代を超える可能性も高まる. これらの事から, より複雑で薄肉の鋳物
4
や, 強度部材用の鋳物, 長大な鋳物を as-cast で使用するためには残留応
力と変形の解決が必須となる.
Figure 1.2 Fracture of iron casting due to residual stress3)
5
Reference plane
Design surface
Part shape
Reference plane
(Earlier cooling due to thin part)
Design surface
(Slower cooling due to thick part)
Warpage of part shape
Figure 1.3 Warpage of iron casting during cooling4)
1.3 残留応力と変形に対する従来の対策法
残留応力に関しては, 応力除去焼きなましを行ない, 鋳物に生じた残留
応力を除去している. 応力除去焼きなましとは, 適当な温度に鋳物を加熱
後, 除冷して残留応力を除去する熱処理である. 変形に関しては, 熟練の
職人が勘と経験により反り量を計算し, 型に予め逆反りをつける事によ
6
って, 鋳造した製品がまっすぐになるように対策を行なっている.
1.4 従来の対策法の問題点
焼きなましに関しては, 一度冷却した鋳物を再び加熱するため, コスト,
生産性の観点で問題になる. また変形に関しても, 鋳物製品の軽量化への
ニーズにより, 鋳物の薄肉化, 複雑化が進んできているため, 熟練職人に
よる変形の予測も困難となってきている.
上記の理由により, 従来の対策法とは異なる有効な対策の登場が望まれ
ている. 近年これらの問題に対する有効な手段として, 有限要素法(以下
FEM)による熱応力解析が期待されている. FEM とは, 解析的に解くこと
が難しい微分方程式の近似解を数値的に得る方法の 1 つである. 解析対象
を複数の要素に分割し, 各要素における方程式を比較的単純な補間関数
で近似して近似解を得るというのが, FEM の骨子である. FEM を用いた
熱応力解析が鋳物の残留応力や変形を予測する事が出来れば, 熟練職人
に頼る事なく解析結果を参考にして対策を施す事が可能になる. そして
FEM を用いる事によって試作や鋳造方案のトライアンドエラーを減らす
事が出来るようになる事が期待される. そこで, 本研究では, FEM を用い
た熱応力解析による鋳物の残留応力及び変形の予測を研究目的とする.
7
1.5
結言
現在, 鋳物の薄肉化による軽量化や, 鋳物部品の強度部品への適用が産
業界で強く期待されている. しかし, これらを実現しようとする際に残留
応力や変形が問題となってくる. 従って, 鋳造時に生じる残留応力や変形
といった欠陥を予測, 解決していく必要がある.
これらの問題に対して従来為されてきた対策では, 少子高齢化による熟
練職人の減少, 鋳物の薄肉化, 複雑形状化等により, 問題の解決が困難に
なりつつある. このような従来の対策に対して, 近年 FEM による熱応力
解析が有効な手段として期待されている. そこで, 本研究では FEM を用
いた熱応力解析による鋳物の残留応力及び変形の予測を研究目的と定め
た.
8
参考文献
1) 財団法人素形材センター: 新素形材 (1988)
2) 財団法人素形材センター: 我が国素形材産業の概況
3) E. Gustafsson, M. Hofwing, N. Strömberg: Journal of Materials Processing
Technology 209 (2009) p. 4320
4) 日本鋳造工学会: 鋳造欠陥とその対策 (2007) p.26
9
2 章 従来研究
2.1 緒言
本研究は, FEM を用いた熱応力解析による鋳物の残留応力及び変形の
予測と制御を行なう事を研究目的としている. そこで先ず熱応力解析を
用いて鋳物の残留応力や変形の予測を行なっている従来研究を調べ, 鋳
物の残留応力を熱応力解析で予測するには, どのような事項が必要なの
か調査した.
一方, 上記の従来研究では熱応力解析において砂型反力を考慮してい
ないものが大多数であることが判明した. この理由として残留応力に砂
型がどのように影響するか知見が比較的少ない事が上げられる. そこで,
冷却時の鋳物と砂型の力学的相互作用に関して実測を行っている研究に
ついても述べる. 次に, 熱応力解析時において砂型反力を解析に組み込ん
だ研究を取り上げる. 最後に, 砂型反力を熱応力解析で考慮している研究
の問題点を指摘した.
10
2.2 実際の製品に生じる残留応力や変形を予測した研究
熱応力解析による残留応力及び変形解析は, 多数の研究者, 技術者によ
って実施されてきた. 本節では, 実際の製品に熱応力解析を適用し, 残留
応力及び変形を予測している研究について述べる.
牧野ら 1)は, 片状黒鉛鋳鉄製の単気筒ブロック, 並びに V 型 6 気筒ブロ
ックに対し, 熱弾塑性解析を行い実際の残留応力の測定結果と比較して
いる. 彼らは報告の中で, 形状が比較的簡単な単気筒と比較して, 形状が
複雑な V 型 6 気筒ブロックでは予測精度が低くなったと報告している.
Liu ら
2)は,
熱弾塑性解析を行ない, 鋳鋼製水力発電用のタービンブレ
ードの残留応力, 変形の予測を実施している. 変形に関しては, 実測値と
比較しているが変形量の解析値が実験値の倍程度となっている.
Lee ら
3)は,
Ni-Al 青銅製の船舶用プロペラの変形を予測し, 型ばらし
のタイミングが変形に及ぼす影響を検討するために熱弾塑性解析を実施
している. 彼らは, プロペラの変形量の解析値と実験値の傾向は一致した
と報告している.
Chunsheng ら
4)は片状黒鉛鋳鉄製のエンジンシリンダヘッド鋳物の残
留応力及び変形の予測を行なうために, 熱弾塑性解析を実施している. 報
告の中で残留応力及び変形の実験値と解析値の比較は報告されていない.
11
しかし, 鋳造方案が残留応力及び変形に及ぼす影響を熱応力解析で検討
する事により, 不良を減らす事が出来たと報告している.
上記の報告以外にも熱応力解析による実製品の残留応力, 変形の予測
を実施している研究としては, 鋳鉄製工作機械用ベッドの残留応力の予
測を行なっている Liu ら 5)の研究や, 片状黒鉛鋳鉄製のブレーキディスク
の残留応力予測を実施している Yeh ら 6)の研究がある. このように実製品
の残留応力及び変形の予測を実施している従来研究は多数ある. その中
でも特に系統的に研究を実施している代表的な論文として片状黒鉛鋳鉄
製のカレンダーロール鋳造時の残留応力の予測を行なっている,
Jacot ら 7)の研究について以下に述べる.
2.2.1 Jacot らの研究
2.2.1.1 概要
片状黒鉛鋳鉄製カレンダーロールは, 鋳造時, ロール表面側に金型を配
置しロール表面を急冷させる事により, 表面は耐摩耗性のある白鋳鉄に,
内部は通常の黒鉛鋳鉄にして靭性を上げている. よって組織は製造時に
管理すべき重要な管理項目であると述べている. 加えて, 鋳造時に生じる
ロールの残留応力もロール使用時の寿命に影響し, 製造時に制御すべき
12
項目であると述べている. これらの背景から Jacot らは, カレンダーロー
ル製造工程の最適化, 及びロール性能を向上させるために, 残留応力及び
白鋳鉄の分布を予測するためのモデルを構築, 汎用 FEM に実装している.
そして, 実際に実製品の 1/3 のサイズの片状黒鉛鋳鉄製のカレンダーロー
ル(Figure 2.1)を鋳造し, 鋳物の温度履歴, 白鋳鉄の分布, ロールに生じ
た残留応力を取得して, 解析結果と比較している.
Cast
Iron
Chill
Mold
Sand
Core
Figure 2.1 Calendar roll cast in experiment7)
13
2.2.1.2 片状黒鉛鋳鉄の力学モデル
熱応力解析では, 片状黒鉛鋳鉄の力学モデルとして von Mises の降伏条
件, 降伏後は線形に硬化するモデルを用いている. そのため, Jacot らが用
いた力学モデルでは, 片状黒鉛鋳鉄の弾塑性に関する力学特性値の温度
依存性は考慮出来るが, クリープ挙動は無視されている. また等方的な力
学モデルを用いているので, 片状黒鉛鋳鉄の圧縮挙動と引張挙動の違い
は解析上では再現していない.
力学モデルに必要な力学特性として, 片状黒鉛鋳鉄及び白鋳鉄の室温
から高温までの, 真応力―非弾性ひずみ曲線, ヤング率, 熱膨張係数等が
ある. Jacot らは, いずれも文献を参照してこれらの力学特性値を前述の
力学モデルに入力している.
2.2.1.3 解析結果と実験値の比較
Figure 2.2 はカレンダーロール表面長手方向に沿って軸方向残留応力
と周方向残留応力の実験値と解析値の比較を示している. Jacot らは
Figure 2.2 から, 熱応力解析による残留応力の予測は満足出来る水準であ
ると述べている.
この研究の問題として, Jacot らが解析対象としたカレンダーロールは
14
白鋳鉄と片状黒鉛鋳鉄が共存しており, 残留応力に対する熱応力解析の
予測精度を検討する実験としては複雑過ぎる点が挙げられる.
Figure 2.2 Comparison between measured and simulated longitudinal and
tangential residual stress in longitudinal direction of calendar roll7)
15
2. 3 実製品の残留応力及び変形を解析している従来研究のまとめ
本節で述べた従来研究から, 片状黒鉛鋳鉄の力学モデルとして弾塑性
モデルを用いても, 熱応力解析は, 残留応力の実験値を比較的良い精度で
予測出来る可能性がある事が分かる. しかし, 残留応力や変形に対する熱
応力解析の有効性検証において, 応力状態が複雑になる複雑形状の実製
品鋳物や, 鋳物の組織が不均一な製品を用いるのは不適当と考えられる.
これらの理由から, 先ず FEM を用いた熱応力解析による鋳物の残留応力
の予測精度を検討するためには, 単純な残留応力分布になり, その残留応
力を評価しやすい簡易な形状の鋳物で検討する必要がある.
2.4 残留応力評価用簡易形状鋳物を用いて, 熱応力解析による残留応力の
予測精度を検証している研究
本節では, 生じる残留応力が単純な応力状態となり, その残留応力測定
が簡便な残留応力評価用簡易形状鋳物(以下自拘束鋳物)に生じる残留応力
及び変形を解析している研究について述べる. 自拘束鋳物とは Figure 2.3
のように中心の厚肉部と薄肉部が平行に並んでおり各部両端は拘束され
ている形状の鋳物の事を言う. 自拘束鋳物を鋳込むと, 薄肉部の冷却速度
16
が厚肉部と比較して早いため, 温度差を生じ, 結果的に厚肉部に引張応力,
薄肉部にそれと釣り合うように圧縮応力が生じる. 残留応力の測定は, 室
温冷却後に厚肉部にひずみゲージを鋳物長手方向に貼付し, ハンドソー
で厚肉部を切断して, 開放されたひずみに弾性係数を乗算する事により
求める. 従前, 残留応力に対する鋳造パラメータの影響を検討するために
自拘束鋳物は多くの研究者によって用いられてきた 8)~13). 近年は, 鋳物に
生じる残留応力に対する熱応力解析の有効性検証のために, 幾つかの研
究で用いられている.
Figure 2.3 Schematic illustration of self constrained casting
17
Choi ら
14)は片状黒鉛鋳鉄製の自拘束鋳物を鋳造し,
熱弾塑性解析を実
施して残留応力の解析値と実験値の比較を行なっている. Choi らの報告
では, 解析値と実験値は良く一致したと述べている. しかし, 残留応力の
比較箇所が, 最も大きい残留応力が発生すると考えられる薄肉部, 厚肉部
ではなく, その両端の拘束部であることから Choi らの検証では肝心な箇
所の比較が実施されていないと言える.
Kang ら
15)も,
自拘束鋳物の変形予測を熱応力解析で実施している. し
かし彼らの研究では鋳造合金の力学モデルが不明であり, また実験値と
の比較も実施していない.
吉沢と王 16)は, 鋳鋼製の自拘束鋳物に生じる残留応力の実験値と, 熱弾
塑性解析による解析値との比較を行なっている. 彼らは自拘束鋳物の厚
肉部と薄肉部の温度差の最大値が熱解析と実験で誤差が 50 ℃以内とな
り, 残留応力を精度良く予測出来たと述べている. しかし, 用いられた自
拘束鋳物の形状が対称ではないために, 生じた残留応力に加え, 鋳物に反
り変形が生じたことによる曲げ応力が発生している可能性がある. 鋳物
自体が反ってしまうと残留応力に曲げ応力が加わり, 残留応力の実験値
と解析値の比較が困難となるので好ましくない. また, 熱応力解析で用い
られた鋳鋼の力学モデルと力学特性値についての記述が無く, 予測精度
18
には疑問がある.
Lgnaszak と Popielarski17)は, 片状黒鉛鋳鉄製の自拘束鋳物を鋳造し,
熱弾性解析によって自拘束鋳物に生じる残留応力を予測しようと試みて
いる. しかし, 残留応力の実験値と計算値の誤差が大きく, 熱弾性モデル
は鋳物に生じる残留応力を予測するモデルとしては不適当であると報告
している.
Johnson ら 18)は, 球状黒鉛鋳鉄製の自拘束鋳物を鋳造し, 自拘束鋳物に
生じた残留応力を中性子回折法により測定している. そして, 熱弾塑性解
析を実施し, 残留応力の実験値と比較している. しかし, 残留応力の測定
値自体にばらつきが非常に大きく測定結果に疑問がある. また, 計算に用
いた球状黒鉛鋳鉄の力学特性値も不明であり, 適切に熱応力解析の有効
性の検証が出来ているとは言い難い.
以下では最も系統的に残留応力予測に対する熱応力解析の有効性を検
証している Gustafsson ら 19)の研究について詳しく述べる.
19
2.4.1 E. Gustafsson らの研究
2.4.1.1 概要
Gustafsson らは Figure 2.4 (a)のような片状黒鉛鋳鉄製自拘束鋳物をフ
ラン有機自硬性砂型に鋳造し, 自拘束鋳物に生じた残留ひずみ(残留応力)
を測定して熱応力解析の結果と比較している. Figure 2.4 (b)には鋳造時
に熱電対により温度測定をした箇所(TC)と, 冷却後ひずみゲージにて残
留ひずみを測定した箇所(SG)を示している. 残留ひずみの測定は冷却後,
自拘束鋳物の薄肉部を切断させる事によって開放されるひずみをひずみ
ゲージで取得している.
熱応力解析では, 四面体一次要素でモデル化しており, 残留ひずみを大
きめに見積もっている可能性がある. 四面体一次モデルは原理的に曲げ
を含む問題では精度が悪く, そのような問題においては使用を避けるの
が望ましいと言われている
20).
自拘束鋳物では冷却時に薄肉部が厚肉部
の収縮を受けて曲げ変形を起こすので, 解析誤差の原因となる事が考え
られる.
20
Figure 2.4 (a) Schematic illustration of self constrained casting and
(b) locations of thermocouples and strain gages19)
21
2.4.1.2 片状黒鉛鋳鉄の力学モデルと力学特性値
片状黒鉛鋳鉄の力学モデルとして弾塑性モデルを用いている. 降伏条
件として, von Mises の降伏条件, 流れ則は関連流れ則, 硬化則は等方硬
化則を用いている. よって, Gustaffson らのモデルでは片状黒鉛鋳鉄の高
温における応力ひずみ曲線のひずみ速度依存性を考慮には入れていない.
彼らが 用い た鋳 鉄 の室温 から 高温 ま での真 応力 ―塑 性 ひずみ 曲線を
Figure 2.5 に示す. RT~800 ℃までは自ら試験を実施して取得した値を
用いているが, 800 ℃以上のデータは文献値もしくは推測値を用いており,
独自に取得はしておらず残留ひずみ予測において誤差の原因となる事が
考えられる.
22
Figure 2.5 True stress-plastic strain curves of grey cast iron used for
(a) RT, (b) 200 ℃, (c) 400 ℃, (d) 600 ℃, (e) 800 ℃, (f) 1120 ℃
in thermal stress analysis19)
23
Figure 2.6 Comparisons of simulated and measured temperature history
at TC1 (left) and TC2 (right)19)
2.4.1.3 熱解析結果
Figure 2.6 に薄肉部と厚肉部のそれぞれの温度履歴の実測値と解析値
の比較を示す. 実験値では, 厚肉部温度 600 ℃で型ばらしを行っている
せいか, 冷却途中までのデータしかない. 更に, 解析では A1 変態による
潜熱が見られない. これは Gustafsson らが A1 変態による潜熱の発生を
考慮していないためである. このため, Figure 2.6 から明らかなように厚
肉部, 薄肉部共に比較的実験値と計算値に誤差が存在することが分かる.
厚肉部と薄肉部の温度差の予測精度は残留ひずみの解析値に影響が大き
いと考えられるため, Gustaffson らの熱解析には残留ひずみの予測精度を
検討するにあたって問題があると考えられる.
24
2.4.1.4 残留ひずみの予測精度
Table 2.1 に残留ひずみの解析値と実験値の比較を示す. この結果から
Gustaffson らは熱応力解析結果と実験値は良く一致したと結論付けてい
る. しかし Gustaffson らが実施した熱応力解析では, 800 ℃以上の鋳鉄
の力学特性が文献値もしくは推定値である. 更に, 熱解析が実験値とあま
り合っていないのに加えて, 曲げ変形で精度が極めて悪い四面体一次要
素を熱応力解析で用いており, 解析精度には疑問が残る.
Table 2.1 Comparisons of simulated and measured longitudinal residual stress at
surface of thick part19)
Point Simulated strain (×10-6) Measured strain (×10-6)
SG1
599
682
SG2
599
703
SG3
636
749
25
2.5 自拘束鋳物を用いて熱応力解析による残留応力予測の有効性を検証
している研究まとめ
自拘束鋳物を用いた研究から, 自拘束鋳物の残留応力の予測を行うた
めには,
・ 鋳物の温度履歴を熱解析で実験値に極力一致させる必要がある
・ 熱応力解析の際に用いる要素は, 原理的に曲げ変形を表現可能なもの
を用いる必要がある. 自拘束鋳物は厚肉部の熱収縮を薄肉部が拘束し,
薄肉部が曲げ変形を生じると考えられるからである.
・ 自拘束鋳物自体が残留応力により反らない形状である必要がある. 実
験において自拘束鋳物が残留応力自体で反ってしまうと, 厚肉部に生
じる残留応力に曲げ応力が加わってしまうので, 熱応力解析との比較
が困難となる.
が重要であると考えられる. しかし, 上記を満たして, 残留応力に対する
熱応力解析の有効性を検討した研究は見当たらない.
26
2.6 冷却中の鋳物と砂型の機械的相互作用に関する検討を実施している
研究
砂型反力により鋳物に生じる永久変形は, 生じる残留応力に影響を与
えると考えられている 21). この事から, 冷却時の鋳物と砂型の力学的相互
作用に関する研究が実施されてきた.
Mkumbo ら 22), Nyichomba ら 23),24)は, Figure 2.7 のようなフランジ付
き鋳物とフランジ無し鋳物をそれぞれアルミニウム合金, 鋳鉄で鋳造し,
冷却後に砂型反力によって鋳物に生じた永久変形量を測定する事で砂型
反力の影響を検討している. またフランジ形状以外に砂型種類も変更し
て, 砂型強度が鋳物に生じる永久変形量に対する影響も検討している. 彼
らの研究結果で, 砂型反力は鋳物に永久変形を生じせしめる事が分かる.
しかし, 冷却時, 鋳物にどのように砂型反力が生じ, その結果, 永久変形
が生じているかは明らかとなっておらず, 砂型と鋳物の機械的な相互作
用が明らかになっているとは言い難い.
27
Variable
Figure 2.7 Schematic illustration of casting used to investigate effect of restraint
force of sand mold on casting contraction22),23),24)
Sub-committee T. S. 3225)は, 中程度に突き固めた生砂型と 強く突き
固めた生砂型に, それぞれ両端フランジ付き鋳物とフランジ無し鋳物を
鋳造し, 収縮挙動を測定し比較している. 結果を Figure 2.8 に示す. この
結果から, 強く突き固めた砂型では型ばらしした際に生じる弾性変形が
大きく, 砂型反力を強く受けていた事が推測される.
28
Figure 2.8 Comparisons of contraction behaviors of flange and no-flange brass
castings cast in middle (left) and hard (right) rammed green sand mold25)
Parkins と Cowan26)は, Figure 2.9 のような装置を用いて, 砂型にフラ
ンジ付き鋳物とフランジ無し鋳物を同時に鋳造している. そして, その収
縮量を連続的に測定し, 永久変形の発生過程の測定を行なっている.
Figure 2.10 は乾燥砂型に鋳込んだ鋳鉄鋳物に生じる永久変形の発生過程
を示している. この結果より, 彼らは, 永久変形の発生過程に関して以下
の仮説を提案している.
注湯直後, 鋳物の降伏応力は砂型の強度より低いので, 収縮を束縛され
て永久変形を生じる状態が鋳物の降伏応力が砂型の強度に一致するまで
29
続く. その後, 冷却が進むと, 合金の降伏応力は高くなるので, 砂型が崩
壊する事により鋳物はもはや永久変形を生じずに自由収縮する. 永久変
形を生じる下限の温度は, 鋳造合金によって変化し, 鋳鉄では 650 ℃, 黄
銅では 500 ℃, Y 合金(アルミニウム合金)では 400 ℃であると述べてい
る.
Parkins と Cowan らの研究では, 砂型反力による鋳物の収縮を連続的
に取得して, その結果から砂型と鋳物の冷却時の相互作用もモデル化し
ており重要な論文であると考えられる. しかし, 鋳物収縮量の測定しか行
なっておらず, 砂型反力の取得は行なわれていない. もし, 鋳物収縮量の
取得だけでなく, 砂型反力の取得を同時に, 連続的に行なう事が出来れば,
更に冷却時の砂型と鋳物の機械的相互作用に関する知見を得る事が出来
ると考えられる. またこれらのデータを砂型を含めた熱応力解析と比較
する事により, 砂型の力学モデル及び特性値の有効性を検討する事が出
来る.
30
Figure 2.9 Device to dynamically measure contraction of casting receiving
restraint force of sand mold during cooling26)
Figure 2.10 Developing process of permanent deformation in iron casting cast
in dry sand mold26)
31
2.7 熱応力解析において砂型反力を考慮している研究
Daniel ら
27),
Chang ら
28)は熱応力解析による残留応力予測のために,
砂型の力学モデルを有する表面要素を開発して, 解析にかかる時間を減
少させる事を試みている. Monroe ら 29)は鋳鋼を砂型に鋳造した場合に生
じる変形を計算しており, 計算した鋳物の変形と鋳物に生じる応力が入
力した砂型の力学特性に影響される事を報告している. Kang ら 30)はエン
ジンブロックと水力発電用鋳物の熱応力解析を実施している. 彼らも, 砂
型の存在は冷却中の鋳物に生じる熱応力に影響を及ぼす事を解析的に示
している. Ahmed と Chandra31)は Figure 2.11 の形状の青銅鋳物の熱応力
解析を実施し, 砂型反力が鋳物の残留応力に及ぼす影響について検討を
行っている. 青銅鋳物の力学モデルとして, 弾塑性クリープと弾塑性モデ
ルを用い, 砂型の力学特性を Figure 2.11 のように変量している. 鋳物の
力学モデルとして弾塑性クリープモデルを用いた場合に生じる残留応力
の解析結果を Figure 2.12 に示す. 図に示すように鋳物に生じる残留応力
は砂型の強度の影響を受ける事が分かる.
32
152.4
Casting
38.1
Sand
mold
419.1
38.1
228.6
R19.5
152.4
38.1
Property
Rigid Mold
Flexible
Mold
Elastic
Modulus
(Pa)
7.35E+09
8.57E+07
Poisson's ratio
0.29
0.29
Yield stress in
compression
(Pa)
5.17E+06
3.20E+05
Plastic
modulus
7.30E+08
7.69E+06
228.6
Figure 2.11 Shape of analytical model (left) and
mechanical properties used in thermal stress analysis (right)31)
33
(a)
Axial Stress (MPa)
Before Mold Removal
After Mold Removal
Distance from Center (mm)
Axial Stress (MPa)
(b)
Before Mold Removal
After Mold Removal
Distance from Center (mm)
Figure 2.12 Effect of sand mold strength on simulated longitudinal residual stress
(a) Flexible mold, (b) Rigid mold (with creep)31)
34
上記のように, 熱応力解析で砂型の存在を考慮し, 鋳物の残留応力及び
変形の予測を行なっている研究は複数存在する. しかし, これらの研究は,
いずれも解析のみで, 実験結果と比較して解析結果の妥当性を検討して
いる研究は見当たらない. このことから解析で用いられた砂型の力学モ
デルや, 力学特性値がどれだけ現実を再現出来ていたのかは不明である.
よって, 砂型の存在を熱応力解析で考慮する前に, 砂型を考慮した解析と
実験を比較し, 砂型の力学モデルと力学特性値が現実を再現出来るのか
検討を行なう必要があると考えられる.
35
36
2001
Jacot
○
○
○
×
○
○
Gustafsson 2009 Self constrained casting Elast-plastic
Kang
2011 Self constrained casting
Unclear
Lgnaszak 2011 Self constrained casting
Elastic
Johnson 2011 Self constrained casting Elast-plastic
○
×
○
Yoshizawa 2008 Self constrained casting Elast-plastic
Yeh
2009
Brake disk
Elast-plastic
Elast-plastic
Elast-plastic
Elast-plastic
○
Marine propeller
Cylinder block
Calendar roll
Cylinder block
Machining tool bed
turbine blade
Analysis object
2007 Self constrained casting Elast-plastic
Choi
Lee
2005
Chunsheng 2006
1991
1997
2001
Makino
Liu
Liu
Resercher Year
Mechanical
Comparison with
model for
experiment result
casting alloy
Elast-plastic
○
Elast-plastic
○
Elast-plastic
○
Poor accuracy in thermal stress analysis
Poor accuracy in residual stress measurement
No comparison at the highest
residual stress location
Unsuitable casting shape for verification
Accuracy is unclear in thermal analysis
Poor accuracy in thermal analysis
Use of bad performance elament in thermal stress
Poor accuracy in thermal stress analysis
Accuracy is unclear in thermal analysis
Accuracy is unclear in thermal analysis
Analytical object is too complex
for verification of analysis
Accuracy is unclear in thermal analysis
Problems
Table 2.2 Studies investigating precision of stress analysis for residual stress and deformation of castings
2.8 結言
熱応力解析による残留応力の予測精度の検討のために, 従来の研究で
は実製品や自拘束鋳物を対象として残留応力の予測と制御を実施してい
る.
これらの研究を Table 2.2 にまとめる.
実製品を解析対象とすると, テストピースの形状が複雑なために応力
状態が複雑となり有効性の検討が難しい事が考えられる. そこで自拘束
鋳物を用いて予測精度を検証した研究を調べた結果, 熱応力解析で自拘
束鋳物の残留応力を予測するためには, 以下の事項が重要である事が分
かった.
・ 鋳物の温度履歴を熱解析と実験値で極力一致させる必要がある
・ 熱応力解析の際に用いる要素は, 原理的に曲げ変形を表現可能なもの
を用いる必要がある.
・ 自拘束鋳物自体が残留応力により反らない形状である必要がある. 実
験において自拘束鋳物が残留応力自体で反ってしまうと, 厚肉部に曲
げ応力が加わってしまうので, 熱応力解析との比較が難しくなる.
しかし, 上記 3 つの点に留意した研究は見当たらない.
そこで, 本研究では第 3 章で実際に自拘束鋳物を鋳造し, 残留応力を測
37
定する. そして鋳造実験を模擬した熱応力解析を実施して, 残留応力の実
測値と計算値の比較を行ない, 残留応力に対する熱応力解析の検討を行
なう. その際,
・ 生じる残留応力の絶対値は, 主に厚肉部と薄肉部に生じる温度差によ
り決まると考えられるので, 厚肉部と薄肉部の温度差の最大値の実験
値と計算値を極力合わせ込む
・四面体一次要素を使わずに, 曲げを表現出来る要素を用いる
・自拘束鋳物自体が残留応力で反らない形状を用いる
以上の点に留意することとする.
幾つかの研究で, 砂型反力により, 鋳物の変形や残留応力に影響を与え
る永久変形が鋳物に生じる事が明らかにされてきた. この事より, 残留応
力を予測するためには, 上記の 3 つの項目に加え, 砂型反力を熱応力解析
で考慮する必要もあると考えられる. しかし, 砂型反力を熱応力解析で考
慮する前に, 冷却中の鋳物と砂型の力学的相互作用が実験的に明らかに
なっていなければならない. しかし, 鋳物冷却時, 連続的に, 砂型反力と
反力を受ける鋳物の収縮量を測定している研究は見当たらない. よって,
冷却時に砂型と鋳物の機械的相互作用が明らかとなっているとは言い難
い.
38
近年, 熱応力解析にも砂型反力を組み込み鋳物に生じる残留応力の計
算を実施している研究が現れてきている. しかし, これらの研究では, 熱
応力解析結果と実験結果の比較がなされておらず, 解析に用いられた砂
型の力学モデルや力学特性値がどの程度現実を再現出来ていたのか不明
である.
よって, 砂型反力を熱応力解析で適切に考慮するためには, 先ず, 冷却
時の鋳物と砂型の力学的相互作用の解明, そして砂型を含んだ熱応力解
析との比較のための実験値の取得が必要であると考えられる.
そこで本研究では,
・ 冷却時の鋳物と砂型の機械的相互作用を明らかにする
・ 砂型を含めた熱応力解析の有効性を検証するために, 鋳物に生じる砂
型反力と反力を受ける鋳物の収縮量を鋳物温度に対して連続的に取
得する
以上を目的として第 4 章で冷却時, 鋳物に生じる砂型反力と反力を受ける
鋳物の収縮量を連続的に測定する装置の開発を試みる. そして第 5 章で実
際にそれらの実験値の取得を行なうこととする.
39
参考文献:
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Advanced Solidification Processes - Ⅺ (2006) p. 209
5) B. Liu, R. Zhu, S. Xiong and Y. Zhang: Advanced Materials Research
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Journal of Mechanical Working Technology vol. 9 (1984) p. 53
40
11) F.E. Kasch, P.J. Mikelonis: Transactions of the American Foundry
Society vol. 77 (1969) p. 77
12) A. Portevin, J. Pomey: Proc. Inst. Brit. Found. Paper no. 1120
(1955)
13) T. Owadano: Imono vol. 31 (1959) p. 583
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15) J.-W. Kang, H.-M. Long, T.-J. Wang, : International Journal of Cast
Metals Research vol.24 no. 3/4 (2011) p. 228
16) 吉沢 亮, 王 麟: 素形材 vol. 49 no.5 (2008) p.1
17) Z. lgnaszak, P. Popielarski: Defect and Diffusion Forum vols. 312-315 (2011)
p.758-763
18) E.M. JOHNSON, T.R. WATKINS, J.E. SCHMIDLIN, and S.A. DUTLER:
Metallurgical and Materials Transactions A vol. 43 issue 5 (2011) p. 1487
19) E. Gustafsson, M. Hofwing, N. Strömberg: Journal of Materials
Processing Technology 209 (2009) p. 4320
20) Abaqus Analysis User’s Manual, vol. 4 p. 82.
21) Peter Beeley: Foundry Technology second edition (2001) p. 288
41
22) Mkumbo, C.S.E., Nyichomba, B.B., Campbell, J., and Tiryakioglu, M.: Res.,
14 (2002) Int. J. Cast Metals p. 225
23) Nyichomba, B.B., Campbell, J.: vol. 11 (1998) Int. J. Cast Metals Res.
p.163
24) Nyichomba, B.B., Cheya, I.M., and Campbell, J.: Res., 11 (1998) Int. J. Cast
Metals, p. 179
25) Sub-committee T. S. 32: paper No. 1037 (1952) A179
26) Parkins, R.N., and Cowan, A.: Paper No. 1062 (1953) Inst. Brit. Found.,
p. A101
27) Daniel, M., Jarrett New, K., Dantzig, J.: vol. 25 (2001) p.825
28) Chang, A., Dantzig, J.A: vol.28 (2004) Applied Mathematical
Modeling, p. 533
29) Monroe, C.A., Beckermann, C., and Klinkhammer, J.: (2009)
Modeling of Casting, Welding, and Advanced Solidification Processes XII p. 313
30) Kang, J., Zhang, J., Liu, B., Huang, T.: vol. 21 no. 1-4 (2008)
International Journal of Cast Metals Research p. 324
31) A. Ahmed, U. Chandra: (1997) Computer Modeling and Simulation
42
in Engineering 2 p. 419
43
3 章 片状黒鉛鋳鉄製自拘束鋳物の薄肉部と厚肉部の温度差により生じる
残留応力の発生過程と予測精度の検討
3.1 緒言
2 章で述べたように, 従来研究で実施された鋳物に生じる残留応力に対
する熱応力解析の予測精度の検討には問題があった. その問題とは
・鋳物温度履歴の実験値と計算値の誤差が比較的大きいか, 不明である
・ 自拘束鋳物は薄肉部に曲げ変形を生じるが, FEM による熱応力解析で
曲げを含む問題で精度が悪い四面体一次要素を用いている
・ 鋳物自体(厚肉部も含む)が残留応力により反り, 曲げ応力が厚肉部に加
わる
3 章では, まず, 自拘束鋳物の残留応力予測における薄肉部の曲げ変形
予測の重要性について検討した. 検討法として, 曲げ変形を原理的に表現
出来ない四面体一次要素, 曲げ変形を表現可能な四面体二次要素, それぞ
れを用いて残留応力の計算結果を比較した. 次に, 自拘束鋳物において,
厚肉部と薄肉部の温度差による残留応力の熱応力解析による予測精度を
検討した.
その際, 従来研究で問題となった項目について以下のように配慮した.
・ 残留応力の絶対値に強く影響を及ぼすと考えられる薄肉部と厚肉部の
44
温度差を極力精度良く予測する
・ 熱応力解析において曲げ変形を表現可能な要素を用いる
・ 従来研究を参考に残留応力により鋳物自体が反りづらい形状を用いる
また, 複数のひずみゲージを用いて, 厚肉部切断時に開放される残留
応力から曲げ応力の除去も行う.
最後に, 自拘束鋳物に生じる残留応力の発生過程について, 熱応力解析結
果をもとに考察を行なった.
3.2 実験及び解析条件
3.2.1 実験条件
本研究では自拘束鋳物の形状として Gustaffson ら 1)が用いた自拘束鋳
物 と 同 形 状 の 自 拘 束 鋳 物 を 用 い た (Figure 3.1). 彼 ら の 報 告 か ら
Gustaffson らの自拘束鋳物は, 厚肉部に生じる残留応力が比較的単軸状
態となっていると判断した.
鋳造合金として Table 3.1 に示す組成の片状黒鉛鋳鉄(JIS FC300)を実
験に用いた. 砂型はラピッドプロトタイピングで作製したフラン有機自
硬性砂型である. N シース熱電対(シース径:2.3 mm)を鋳物温度測定のた
めに用いた. 熱電対は Figure 3.1 に示す位置に設置した. 各測定点で熱電
45
対の先端が鋳物深さ方向中心になるように予め設置し, 注湯時に鋳ぐる
まれるようにした. 注湯温度は 1424 ℃で, 鋳物温度が 150 ℃に冷却した
後に型ばらしを行なった.
厚肉部と薄肉部の温度差による残留応力の測定は鋳物が室温に冷却し
た段階で行なった. 測定の方法として, 厚肉部にひずみゲージを貼付して,
ひずみゲージを切断しないように手のこで厚肉部の根元付近を切断し,
開放弾性ひずみを測定する方法を用いた. その際, 厚肉部中心にひずみゲ
ージを向かい合わせに 2 対, 計 4 枚貼付して測定された開放応力から曲げ
応力の除去を行なった.
開放弾性ひずみを残留応力に変換する方法として以下の式を用いた.
σ residual = E × ε measured
(1)
ここでσresidual は残留応力, E はヤング率, εmeasured は厚肉部切断時にひ
ずみゲージによって測定された弾性ひずみである. 残留応力の測定値の
再現性を検討するために, 同実験条件で 3 回鋳造を行い, 残留応力を測定
した.
46
Figure 3.1 Schematic illustration of self constrained casting used in experiment
and location of thermocouples and strain gages
Table 3.1 Chemical composition of grey cast iron
mass %
C
Si Mn
P
S
3.00 1.70 0.75 0.07 0.042
47
3.2.2 解析条件
3.2.2.1 熱解析
熱解析, 応力解析共に ABAQUS standard ver. 6.9.2 を用いて行なった.
熱解析で用いたメッシュはそのまま熱応力解析で用いた. 片状黒鉛鋳鉄
の熱物性値は, J-mat Pro ver. 5 を用いて算出した. ABAQUS において単
一温度で潜熱を放出してしまうと解析が収束し辛い. よって, 本研究では
仮想的に液相線 1150 ℃, 固相線 1145 ℃として幅を持たせて潜熱を発生
させた.
なお実験での固相線温度と J-mat Pro ver. 5 の固相線温度が異なってい
たので, ABAQUS に入力した固相線温度は実験と一致するように数値を
変更している. また J-mat Pro ver. 5 から計算した比熱データは凝固潜熱
がふくまれた値となっている. この値をそのまま ABAQUS に入力し, 上
記の凝固潜熱発生の設定を行なうと潜熱が 2 倍放出されてしまう. そこで
本研究では, Table 3.2 に示すように, 凝固時の比熱から潜熱部分を差し引
いた値を用いた.
砂型の熱物性値は, 複数の従来研究を元に実験で得られた自拘束鋳物
の温度履歴に合うように合わせ込みを行なって決定した. 解析に用いた
片状黒鉛鋳鉄とフラン有機自硬性砂型の熱物性値を Table 3.2, Table 3.3
48
に示す.
Table 3.2 Thermal properties of grey cast iron, initial conditions, and
boundary conditions used in thermal stress analysis
Temperature (℃) Thermal conductivity (W/(m・K))
27
44
715
34
731
32
1122
36
1158
30
1400
33
Temperature (℃)
243
398
600
714
715
731
732
737
1034
1397
Specific heat (J/(kg・K))
490
630
770
991
3540
3020
670
990
830
750
Temperature (℃)
24
1400
Density (kg/m3)
7400
6770
Latent heat (J/kg): 232800
Liquidus (℃): 1150
Solidus (℃): 1145
Initial temperature of sand mold (℃): 25
Heat transfer coefficient
Sand mold/Casting (W/(m2・K)): 400
Sand mold/Atmosphere (W/(m2・K)): 9
Casting/Atmosphere(W/(m2・K)): 20
Table 3.3 Thermal properties of sand mold used in thermal analysis
Sand mold around Sand mold around
thick part
thin part
Thermal
conductivity (W/(m・K))
3
Density (kg/m )
Specific heat (J/(kg・K))
0.5
0.35
1400
800
1400
1000
49
3.2.2.2 熱応力解析
3.2.2.2.1 熱応力解析で用いた構成式
本研究では弾塑性構成式を片状黒鉛鋳鉄の構成式として用いた. この
構成式の降伏条件として, von Mises の降伏条件を用いた.
f (σ ij , T) = 3J 2 − σ y − K
J2 は偏差応力の第 2 不変量を表し, σy は初期降伏応力を, K は硬化パラメ
ータを表す. K は相当塑性ひずみ ε effp と温度の関数である.
p
K = K (ε eff
. , T)
t
ε effp . =
∫
0
2 p p
ε& ij ε& ij dt
3
ただし, 本研究では, 1145 ℃以上で生じた相当塑性ひずみは硬化パラメ
ータに含まれないように設定した.
また, 流れ則として関連流れ則を用いた.
ε& ijp = λ&
3 s ij
∂f
= λ&
∂σ ij
2 3J 2
σ ij は応力テンソル, sij は偏差応力テンソル, λ& はスカラーである.
50
3.2.2.2.2 熱応力解析に用いた機械的特性値
熱弾塑性解析では, 片状黒鉛鋳鉄の室温から高温までの真応力―非弾
性ひずみ曲線が必要になる. しかし, 高温で金属材料は粘性挙動を示す事
が一般的に知られており, 取得する際のひずみ速度が異なると, 真応力―
非弾性ひずみ曲線が異なる. よって, 本研究では, 厚肉部, 薄肉部で用い
る真応力―非弾性ひずみを取得する際のひずみ速度を以下のように決定
した.
片状黒鉛鋳鉄の降伏応力及び引張強度は, 400 ℃以上で急激に小さくな
ることが知られている. そこで, 真応力―非弾性ひずみ曲線のひずみ速度
依存性は 400 ℃以上で考える事とする. 後述する自拘束鋳物の温度履歴
の取得結果から, 薄肉部は約 700 秒で 400 ℃に温度が下がる. 一方, 厚
肉部は, 400 ℃まで冷却するのに, 4300 秒かかる. よって, 薄肉部が
400 ℃まで冷却する間に厚肉部は薄肉部に対して比較的線収縮が小さい
ため, 薄肉部は 400 ℃まで収縮を束縛されると仮定した. この仮定より,
薄肉部は 2.3×10-5 /s のひずみ速度で引張を受ける.
自拘束鋳物の温度履歴の実験値より, 厚肉部の凝固が終了し, 線収縮を
開始したとき, 薄肉部は既に 400 ℃以下になっている. 片状黒鉛鋳鉄は
400 ℃以上から急激に強度が低下するので, 400 ℃以下の薄肉部は 400 ℃
51
以上の厚肉部に対して強度が高く, 冷却速度も遅くなっている. これらの
事実から厚肉部は凝固終了から 400 ℃になるまでに薄肉部から収縮を束
縛されると本研究では仮定した. 前述の仮定によると厚肉部は 3.7×10-6 /s
のひずみ速度で引張を受ける.
以上の仮定より, 本研究では自拘束鋳物の厚肉部, 薄肉部に対してそれ
ぞれ, 3.7×10-6 /s, 2.3×10-5 /s のひずみ速度で取得した真応力―非弾性ひず
み曲線を力学特性値として使用した.
Figure3.2, Figure 3.3 にそれぞれ, 2.3×10-5 /s, 3.7×10-6 /s の片状黒鉛鋳鉄
(JIS FC300)高温引張試験の結果を示す. 引張試験の結果より 600 ℃以上
では引張ひずみ速度が速いほど, 引張強さが大きい事が分かる. 1145 ℃
の共晶温度以上では, 鋳鉄は液体であると考えられる. よって本研究では
1145 ℃以上では降伏応力を 1 MPa と設定し, 低い応力でも容易に変形が
出来るように設定を行った.
Figure3.4, Figure 3.5 に熱応力解析で用いた片状黒鉛鋳鉄(JIS FC300)の熱
膨張係数とヤング率を示す. 熱膨張係数は熱機械分析で測定し, ヤング率
は振動法(非破壊法)で測定した. ただし, Figure 3.5 の共晶温度直下のヤン
グ率は外挿による推定値である. またポアソン比は, 温度に依らず 0.3 と
仮定した.
52
従来研究において, 砂型反力が鋳物の残留応力に及ぼす影響について
研究が実施されており, 残留応力に影響を及ぼすことが示唆されている.
しかし, 砂型の高温力学特性や, 構成式に関する知見は熱応力解析で考慮
する程十分明らかにされていない. このことから, 本研究で実施した熱応
力解析において砂型の存在は考慮していない.
300
RT
400℃
℃
True stress, MPa
250
200
150
600℃
℃
100
50
0
800℃
℃
0
1000℃
℃
0.01
0.005
0.015
Plastic strain
Figure 3.2 True stress-inelastic strain curve of grey cast iron at strain rate
2.3×10-5 /s from room temperature to high temperature
53
300
RT
250
True stress, MPa
400℃
℃
200
150
100
600℃
℃
50
800℃
℃
0
0
1000℃
℃
0.012
0.006
0.018
Plastic strain
Figure 3.3 True stress-inelastic strain curve of grey cast iron at strain rate
3.7×10-6 /s from room temperature to high temperature
54
Coefficient of thermal expansion, ×10-6 1/℃
℃
16
15
14
13
12
11
10
9
200
400
600
800
1000
1200
Temperature, ℃
Figure 3.4 Coefficient of thermal contraction of grey cast iron
55
Elastic modulus, GPa
140
120
100
80
60
40
0
200
400
600
800
1000 1200
Tmeperature, ℃
Figure 3.5 Elastic modulus of grey cast iron
56
3.3 実験及び解析結果
3.3.1 熱解析結果
Figure 3.6 は薄肉部と厚肉部の温度の測定値と解析値の比較である. 解
析値と実験値は比較的良く一致していることが分かる. Figure 3.7 は厚肉
部温度から薄肉部の温度を引いた温度差をあらわしている. 熱解析は薄
肉部と厚肉部の間に生じる温度差の最大値(実験では約 460 ℃)を約 8 ℃
差, 約 2 %の誤差で予測出来ている. この結果は, 温度差の最大値が
250 ℃の場合, 50 ℃差以内の誤差で精度良く残留応力が予測出来たと述
2)
べた吉沢らの研究
より予測精度が良い. そこで本章では, この熱解析の
結果を熱荷重として残留応力を予測した.
57
1400
Temperature, ℃
1200
1000
800
Thick part simulated
600
Thick part measured
400
200 Thin part simulated
Thin part measured
0
0
2000
4000
6000
8000
10000
Time, s
Figure 3.6 Comparisons of measured and simulated temperature histories of
self constrained casting
Temperature difference, ℃
500
8℃
(Δ
ΔTmax(measurement)-Δ
-ΔTmax(simulation))
-Δ
ΔT (simulation)
400
300
ΔT (measurement)
200
100
0
0
2000
4000
6000
8000 10000
Time, s
Figure 3.7 Comparison of simulated and measured temperature
difference between thick and thin parts
58
3.3.2 熱応力解析結果に対する要素種類及び要素数の影響の検討
Figure 3.8 は室温冷却時の厚肉部表面に生じる鋳物長手方向の残留応力
に及ぼす要素種類及び要素数の影響である. 四面体二次要素を用いると,
要素数に対して鋳物長手方向の残留応力がほぼ収束している事がわかる.
これは四面体二次要素を用いると比較的少ない要素で解が収束する事を
示している. 一方, 四面体一次要素を用いると, 要素数が約 70000 のモデ
ルを用いても解析結果が収束していない. 更に四面体一次要素を用いた
場合, 同要素数の四面体二次要素と比較して長手方向残留応力を大きく
見積もっている事がわかる. Figure 3.9 は自拘束鋳物の熱応力解析結果で
あり, 室温時の変形量を 20 倍にしたものである. 図より, 薄肉部がたわむ,
つまり曲がる事により厚肉部の収縮を束縛している事が分かる. 四面体
一次要素は曲げに対して剛なため, 冷却終了時に厚肉部の収縮を束縛し
ている薄肉部がたわみ辛い. その結果, 二次要素と比較して厚肉部に生じ
る引張応力の緩和が起こらなかったため残留応力が大きめに計算されて
いると推測される.
上記の結果から, 自拘束鋳物の残留応力を予測するに当たり, 薄肉部の
曲げ変形を再現する事が重要である事が分かった. そのためには, 曲げ変
形を原理的に表現出来る要素(本研究では四面体二次要素)を用いるべきで
59
あり, 止むを得ず四面体一次要素を用いる場合には, 必ず要素数に対する
計算値の収束を確認する必要がある.
後述する熱応力解析による残留応力の予測精度の検証は, Figure 3.10 に
示す四面体二次要素でモデル化を行なったもの(鋳物要素数:17360)を用い
Longitudinal residual stress, MPa
る事とした.
40
First order element
35
Second order element
30
25
20
1
2
3
4
5
6
Number of element×104
Figure 3.8 Effect of kind of element and number of element on
simulated residual stress at surface of thick part
60
7
Figure 3.9 Bending deformation (20 times) of thin part of stress lattice casting
at room temperature
61
Figure 3.10 Analytical mode used for verification of thermal stress analysis to
residual stress
62
3.3.3 残留応力の実験値と計算値の比較
Table 3.4 は厚肉部切断時に開放される厚肉部表面の残留応力の実験値
と解析値の比較を示す. 解析では冷却終了後に厚肉部を切断する事によ
って開放される残留応力の計算値を得ている. 実験値は, 同一の鋳造条件
で鋳込んだ 3 つの自拘束鋳物における測定値の平均値である. なお, 3 つ
の測定値のばらつきは 3 %以内であった. Table 3.4 から以下に示す条件で,
FEM による熱応力解析は厚肉部と薄肉部の温度差による残留応力を予測
した. 実験値と解析値の誤差は 10 %程度となった.
1) 熱解析で厚肉部と薄肉部の温度差の最大値を 2 %以内の誤差で予測す
る
2) 片状黒鉛鋳鉄の構成式として弾塑性モデルを用いる.
3) 弾塑性モデルに用いる高温力学特性値は高温引張試験より取得する.
4) 鋳物の解析モデルは曲げ変形を表現可能な要素(四面体二次要素)で行
なう.
63
Table 3.4 Comparison between simulated and
measured longitudinal residual stress
Measurement value Simulated value
Longitudinal released stress
(MPa)
52.9
47.0
3.4 考察
3.4.1 自拘束鋳物に生じる残留応力の発生過程
Figure 3.11 は冷却中の厚肉部表面と薄肉部表面に生じる長手方向応力
と長手方向塑性ひずみの発生過程を示している. Figure 3.11 の横軸はそ
れぞれ厚肉部と薄肉部が凝固を完了した時間を 0 秒としている. 薄肉部
は厚肉部より凝固完了する時間が 200 秒程早かった. また, 図では共晶温
度である 1145 ℃以上で生じた塑性ひずみは除いている.
Figure 3.11 より, 自拘束鋳物における残留応力の発生過程は以下のよ
うに説明出来る.
厚肉部表面の凝固終了から A1 変態開始まで厚肉部表面には, ほぼ鋳物
長手方向の応力は生じていない(Figure 3.11 (a), 0 s~①). Figure 3.11 (a)①から(a)-②にかけて応力が負の値となるが, これは厚肉部が A1 変態を
64
起こして, 膨張しようとするが薄肉部がその膨張を妨げるためであると
考えられる. この薄肉部が厚肉部の A1 変態時の膨張を妨げることによる
厚肉部の圧縮応力は実験的にも観測されており 3), 最終的な残留応力の値
だけでなく, 定性的ではあるが冷却中においても熱応力解析の有効性を
確認する事ができた. Figure 3.11 (a)-②以降は, 厚肉部の収縮を薄肉部が
束縛するため引張応力状態となっていったと考えられる.
一方, 薄肉部表面では, 薄肉部表面凝固終了時, 直ぐに圧縮応力状態に
なっていることが分かる(Figure 3.11 (b), 0 s~①). その時, 薄肉部の中心
部は凝固完了時から引張応力が生じていた. この表面と中心の応力の差
は室温になるまで存在し続けていた. これらの事から, 薄肉部断面内の温
度差により生じる残留応力が原因で, 薄肉部表面に圧縮応力が発生した
と考えられる. Figure 3.11 b-①~b-②で圧縮応力状態に引張応力が加わ
る. この時, 厚肉部では A1 変態による膨張が起こっていた. よって薄肉
部が厚肉部の膨張を妨げたため引張応力が加わったと推測される. Figure
3.11 b-②以降は圧縮応力が厚肉部の引張と釣合いを保ちながら増大して
いっている. 圧縮応力の増大と共に圧縮塑性ひずみも増大しており
(Figure 3.11 b-③~), 塑性ひずみの増大により厚肉部の収縮を束縛する
荷重も緩和している事が推測される. よって, 熱弾性解析による残留応力
65
の予測を実施すると残留応力を大きめに見積もる可能性がある.
(b)
(a)
12
10
8
①
6
0
4
-10
A1 transformation
2
Plastic strain
-20
②
-30
0
5000
0
-2
10000 15000 20000 25000
0
②
0
-50
-4
①
-100
-6
Plastic strain
-150
-8
Stress
-200
0
Time, s
5000
10000
15000
Time, s
Figure 3.11 Development of longitudinal stress and plastic strain at
Surface of (a) thick part (b) thin part during cooling
66
-2
A1 transformation at thick part
20000
-10
25000
Longitudinal plastic strain ×
×10
20
③
Longitudinal stress, MPa
10
Longitudinal plastic strain ×10
Longitudinal stress, MPa
Stress
-4
50
-4
30
3.4.2 厚肉部断面内に生じる温度差による残留応力
Figure 3.12 は熱応力解析により計算された室温冷却時の厚肉部表面の
長手方向残留応力を示している. 本研究で比較した残留応力の計算値 47
MPa は厚肉部と薄肉部の温度差によるものである. これは厚肉部の切断
により開放される残留応力である事からも分かる. しかし, Figure 3.12 よ
り厚肉部切断後にも厚肉部表面には-20.7 MPa の残留応力が生じている.
これは恐らく, 冷却時に生じる厚肉部断面内温度差からくる残留応力で
あると考えられる. 本研究では, 厚肉部断面内残留応力の予測精度の検討
は実施していない. しかし, 厚肉部断面内温度差から来る残留応力の計算
値は, 厚肉部と薄肉部の温度差により発生する残留応力と同桁であり, 鋳
物に生じる残留応力を予測する上では無視出来ない事がわかる. よって
将来的には, 厚肉部断面内に生じる残留応力の予測精度の検討も行う必
要があると考えられる.
67
Figure 3.12 Change of residual stress at surface of thick part
before and after cutting
68
3.5 結言
本章では, 比較的反り変形が発生し辛い自拘束鋳物の薄肉部と厚肉部
の温度差の最大値を約 2 %の誤差で予測し, 熱応力解析では曲げを表現可
能な四面体二次要素を用いて以下の事項を検討した.
・自拘束鋳物の残留応力予測における, 薄肉部の曲げ変形予測の重要性の
確認
・自拘束鋳物の薄肉部と厚肉部の温度差による残留応力の熱応力解析によ
る予測
検討の結果以下の事を明らかにした.
(1) 自拘束鋳物は厚肉部の収縮を薄肉部が束縛する事によって生じる. そ
の際, 薄肉部は曲げ変形を生じる. よって, 解析モデルに原理的に曲
げを表現出来ない四面体一次要素を用いた場合, 検討した中で最大要
素数である 70000 要素でも解析結果は収束しなかった. 一方, 原理的
に曲げを表現可能な四面体二次要素を用いた場合, 検討した中では比
較的少ない要素数である 17000 要素から解が収束した. これらの結果
から, 自拘束鋳物の残留応力を予測するためには薄肉部の座屈による
曲げ変形を表現することが必要と考えられる. これらのことから, 熱
応力解析においては原理的に曲げ変形を表現可能な要素を用いるべ
69
きである. 止むを得ず四面体一次要素を用いる場合には, 解析結果が
要素数に対して収束した事を必ず確認する必要がある.
(2) 以下の解析条件で熱応力解析は厚肉部と薄肉部の温度差によって生
じる残留応力を予測した.
ⅰ) 厚肉部と薄肉部の温度差の最大値を約 2 %の誤差で予測した
ⅱ) 片状黒鉛鋳鉄の力学モデルとして弾塑性モデルを使用した
ⅲ) 弾塑性モデルに用いる力学特性値を高温引張試験で取得した
ⅳ) 熱応力解析モデルには四面体二次要素を用いた.
予測の結果と実験値の差は 10 %程度であった. ただし, 厚肉部に生じる
残留応力を予測するにあたり, 厚肉部断面内の温度差に起因する残留応
力の存在も無視出来ない事も分かった. よって, 今後厚肉部断面内温度差
に起因する残留応力の予測精度について議論する必要がある.
70
参考文献
1) E. Gustafsson, M. Hofwing, N. Strömberg: Journal of Materials
Processing Technology 209 (2009) p. 4320
2) 吉沢 亮, 王 麟: 素形材 vol. 49 no.5 (2008) p.1
3) 大和田野 利朗: 鋳物 vol. 31 no.6 (1959) p.583
71
4 章 砂型に鋳造した鋳物に生じる砂型反力と
反力を受ける鋳物の収縮量の連続的測定装置の開発
4.1 緒言
2 章において, 砂型反力を熱応力解析に含める前に先ず, 冷却中の鋳物
と砂型の機械的相互作用を明らかにする必要が有る事を述べた. しかし,
冷却中の鋳物に生じる砂型反力と反力を受ける鋳物の収縮量を連続的に
取得している研究は見当たらない. もし連続的に砂型反力と反力を受け
る鋳物の収縮量を測定出来れば, 冷却中の砂型と鋳物の力学的相互作用
に関する知見が深まる. 更に, 実験を模擬した熱応力解析を行うことによ
り, 砂型を含めた熱応力解析の有効性が検討可能となる. その結果, 従前
の研究では実験との比較による評価が行われてこなかった砂型の力学モ
デルや力学特性値の評価が可能となる事が期待される.
そこで本章では, 冷却中の砂型鋳物に生じる砂型反力と反力を受ける
鋳物の収縮量を連続的に測定可能な装置の開発について述べる.
72
4.2 開発装置の概要
開発した装置の概略図を Figure 4.1 に示す. 開発装置は, 主に砂を込め
る金枠(構造用鋼製), 剛性が極めて大きい反力板(構造用鋼製), タイバー
( 構 造 用 鋼 製 ), 容 量 20 kN の ロ ー ド セ ル ( 東 京 測 器 製 ), 鋳 ぐ る み 部
(C)(SUS430:シャフト A と溶接で固定), シャフト(A)(インバー製:砂型反
力をロードセルに伝達), シャフト(B)(構造用鋼製:反力板にナットで固定),
差動トランス(LVDT: 新光電子製 測定範囲 ±10 mm 測定精度 ±0.02
mm)からなる. 金枠には剛性を上げ, 荷重がかかった際の弾性変形を防ぐ
ために, リブ(D)が溶接されている. シャフト(A)とロードセル間, シャフ
ト(B)とロードセル間, シャフト(B)と反力板間はナットを用いて緩み止め
を行っている. 再現性の有る結果を得るために, 実験毎に, トルクレンチ
を用いて 35 N・m のトルクでナットの締め付けを行なった. また実験中
に荷重が生じてもナットがゆるむ事はなかった.
73
(Unit: mm)
Rigid plate
50
Flexible insulator
Sprue
Rib
(D)
Shaft (B)
Metal
molding box
Flange
Side view
Jig for fixing a LVDT
Quartz
glass
250
Casting
E
Nut
Tie bar
740
Shaft (A)
Linear variable differential transformer(LVDT)
Cast parts (C)
Sprue
Φ18
Φ18
Load cell
250
Casting
Nut
Flange
Sand mold
Φ25
Nut
410
Flexible
insulator
Metal
molding box
Figure 4.1 Schematic illustration of developed device
74
Quartz
glass
Jig for fixing a LVDT
upper view
4.3 冷却中の鋳物に生じる砂型反力の連続的測定機構
Figure 4.2 のようにフランジ付き, もしくはフランジ無し鋳物を鋳造
すると, 鋳物の一端が鋳ぐるみ部(C)に鋳ぐるまれる. 鋳ぐるみ部(C)は,
シャフト(A)を介してロードセルにつながっており, ロードセルはシャフ
ト(B)を介して反力板とつながっている. よって, フランジ部分と金枠と
の間の砂型により鋳物に生じる砂型反力は鋳ぐるみが完了した時から冷
却終了まで連続的に測定される. 荷重測定時にシャフト(A)は, 水で濡ら
したウエスを巻く事により, 鋳ぐるみ部(C)から鋳物の熱がロードセルに
伝わらないように冷却した. また実験中, シャフト(A)の温度が 50 ℃以上
になる事はなかった.
75
Cast part (C)
Thermocouple
Pattern
Metal molding box
(Unit: mm)
Tie bar
Metal molding box
Reaction force
Shaft (A)
33
Load cell
Casting
30
Sand mold
Cast part (C) t=30
Paper insulator
Figure 4.2 Schematic illustration of load measuring part
76
4.4 冷却中に砂型反力を受ける鋳物の収縮量の連続的測定機構
砂型反力を受ける鋳物の収縮量を連続的に測定する目的で, Figure 4.1,
Figure 4.3 に示すように差動トランスを荷重測定部と反対の金枠面に設
置した. 作動トランスのコアに鉄棒を連結し, 鋳ぐるむと鉄棒が膨張して
鋳物の収縮量を正しく測る事が出来ない恐れがあった. そこで, 鋼より 1
桁小さい熱膨張係数を持つ石英ガラス棒を差動トランスのコアに連結し
て, 石英ガラス棒を鋳物に鋳ぐるむ事によって収縮量を測定した. Figure
4.3 にあるように, 鋳ぐるむ石英ガラス棒の先端で, 耐熱セラミックボン
ドを用いて球状に成形しておき, 予めフルモールド鋳造用の模型に仕込
む事によって, 鋳ぐるんだ. また石英ガラス棒を裸のまま砂型内に設置す
ると, 砂型との摩擦でうまく収縮量が測定出来ない恐れと測定中に石英
ガラス棒が破損する恐れがあったので, Figure 4.3 のように石英ガラス棒
をセラミック保護管の中に通す事で問題を解決した.
77
Joint
Quartz glass rod
Set point of LVDT
Iron core
LVDT
Iron core
Ceramic guard pipe
Joint
LVDT
Casting
Inorganic adhesive
Quartz glass rod
Sand mold
Figure 4.3 Schematic illustration of casting contraction measuring part
78
4.5 鋳ぐるみ部の熱膨張の拘束による荷重発生
鋳ぐるみ部を直接金枠に密着させて注湯を行うと, 高温の溶湯が鋳ぐ
るみ部(C)に触れることにより, 鋳ぐるみ部(C)の温度が急激に上がる. そ
の結果, 鋳ぐるみ部(C)が膨張し, シャフト(A)が引き込まれることによる
と考えられる異常な荷重が実験初期に起きていた(Figure 4.4 (a)). この問
題を解決するため, 本研究では, 鋳ぐるみ部(C)と金枠との間に柔軟性の
ある 5 mm 厚の断熱ペーパーを挟んだ(Figure 4.4 (b)). これは柔軟性のあ
る断熱ペーパーを挟む事によって注湯時に, 鋳ぐるみ部の膨張を断熱ペ
ーパーが変形して相殺する事を目的とした. 対策の結果, 注湯時に生じる
不自然な荷重は無くなり, 凝固終了直後からの砂型反力を測定すること
が可能となった.
79
(a) Before taking the method
Cast part (C) before thermal expansion
Shaft (A) connected with
load cell is drawn
Shaft (A)
Part (C) after thermal expansion
Metal molding box
(b) After taking the method
Cast part (C) before thermal expansion
Cast part (C) after thermal expansion
Flexible insulator for enabling the part to expand freely
Figure 4.4 Method to prevent load caused by expansion of cast part (C)
80
4.6 開発装置の評価
以下の 3 つの項目の評価を行った.
1) 冷却中の砂型鋳物に生じる砂型反力及び砂型反力を受ける鋳物の収縮
量の連続的測定
Figure 4.4 (a)に示す形状のフランジ付き(90×90×10 mm)鋳物をフラ
ン有機自硬性砂型に鋳造し, 開発した装置で凝固終了から冷却終了まで
鋳物に生じる砂型反力と収縮量が連続的に取得出来るか実験を行った.
2) 冷却終了, 型ばらし後に鋳物に生じている永久変形量の測定
フラン有機自硬性砂型にフランジ付き鋳物を鋳造し, 生砂型にフラン
ジ無し鋳物を鋳造して結果を比較する事によって鋳物に生じる永久変形
量の測定を行った. 測定法の詳細は 4.6.2.2 節で述べる.
3) 開発した装置で測定する永久変形量の精度の評価
砂型反力が装置にかかると, 鋳ぐるみ部(C)はシャフト部やロードセル
のネジ締結の遊び, シャフトや反力板自体の弾性変形によって僅かに鋳
物側に引き込まれる. 冷却終了後, 鋳物に生じる永久変形量を測定するた
めに型ばらしを実施するが, その際に弾性変形分の引き込まれは元に戻
ると考えられる. しかし, ネジ締結部分の遊びによる引き込まれのばらつ
きが生じていると, 後述する鋳物に生じた永久変形量の算出値のばらつ
81
きの原因となる.
そこで, Figure 4.5 のように鋳ぐるみ部(C)にポールを立てて, 型ばらし
前後で, 鋳ぐるみ部(C)が永久的に引き込まれた量のばらつきの測定を行
った. その結果から, 測定される永久変形量の精度を検討した.
82
Location of thermocouple
10
Upper
Location of Sprue
5
10
90
30
30 (a)
With flange
pattern
Flange
20
Side
15
90
30
250
Upper
30
(b) Without flange
pattern
Side
30
500
(Unit: mm)
Figure 4.4 Shape of casting used in experiment
83
Surface where LVDT was located
LVDT
Pole
Joint
Pattern
Load cell
Pole
Free space for pole movement
Cast part (C)
After molding
Before molding
Figure 4.5 Method of measuring displacement of cast part (C)
4.6.1 実験手順
鋳造法としてフルモールド法を用いた. フルモールド用の模型は予め
塗型を塗る事によって注湯時に差し込みが生じる事を防いだ.
砂型として生砂型とフラン有機自硬性砂型を実験に用いた. 混練条件
を Table 4.1 に示す. フラン有機自硬性砂型を用いた実験の場合, 造型終
了から室温(23 ℃)で 90 分~120 分硬化させた後に注湯を行った. 生砂
型を用いる実験の場合は手込めで造型後, すぐに注湯を行った.
鋳造合金は Table 4.2 で示す化学組成の JIS AD12.1 を用いた. アルミ
ニウム合金を用いた理由としては, 注湯温度が低いので装置の剛性, 熱設
計が簡易になり, 比較的精度良く砂型反力や鋳物の収縮量を測定出来る
84
ことがある. またアルミニウム合金を用いても, 冷却中の鋳物と砂型の力
学的相互作用に関する基本的な知見を得る事は出来ると考えたからであ
る. AD12.1 合金の溶解はアルゴン雰囲気下で行い, 注湯直前にはアルゴ
ンを溶湯に吹き込み, 脱ガス処理を行った. ガス分析の結果, 溶湯に含ま
れるガス量は, 0.46 ml/100 g Al であった. 注湯は 780 ℃で実施した. 熱
分析により測定した合金の液相線温度と固相線温度はそれぞれ, 572 ℃,
494 ℃であった. 鋳物温度は, 非接地型の N 熱電対(シース径:2.3 mm)を
Figure 4.4 にある位置に鋳ぐるませる事によって測定した. 型ばらしは鋳
物温度が 50 ℃になったら行い, 測定は鋳物温度が 45 ℃になるまで行っ
た.
Table 4.1 Sand mold and condition of sand mix in experiments
Sand type
Green sand
Condition of sand mix
Noma sand and 8% moisture
Yunotsu silica sand and 1.2% furan
Furan sand
and 0.9% hardener and 0.1% moisture
Table 4.2 Chemical composition of JIS AD 12.1 used in experiments
(mass %)
Cu
Si
Mg
Fe
Mn
Zn
Ni
Sn
Al
1.609 11.12 0.216 0.812 0.146 0.408 0.036 0.006
Bal.
85
4.6.2 実験結果
4.6.2.1 冷却中の砂型鋳物に生じる砂型反力と砂型反力を受ける鋳物の収
縮量の連続的測定
Figure 4.6 に注湯直後から 50 ℃までのフラン有機自硬性砂型に鋳造し
たフランジ付き鋳物に生じる砂型反力と収縮量の連続的測定結果を示す.
実験結果の再現性の確認のため再び同じ実験条件で得た結果との比較を
Figure 4.7 と Figure 4.8 に示す. 比較から, 砂型反力及び収縮量の測定値
に再現性がある事は明らかである. 以上の事から開発した装置を用いれ
ば, 冷却中の砂型鋳物に生じる砂型反力と砂型反力を受ける鋳物の収縮
量を鋳物温度に対して連続的に取得出来る事が分かった.
今回実施した実験全てにおいて, 凝固開始時(572 ℃直下)にて比較的微
小な圧縮応力と膨張変形を生じた. これは, 主に凝固時に放出されるガス
によるもの
1),2),
または, 砂型が熱膨張し, 鋳物を膨張させる型張りが原
因として考えられる.
本研究では, 凝固開始時の最大膨張から型ばらし後 45 ℃までの収縮を
”全収縮”と呼ぶこととする.
86
12
7
Tensile load
Tensile load, kN
5
8
4
6
3
4
2
1
2
Contraction
0
0
600
500
400
300
200
100
Temperature, ℃
Figure 4.6 Restraint force in flange casting cast in furan sand mold and
its contraction during cooling
87
-1
Contraction, mm
6
10
12
10
Tensile load, kN
First experiment
8
6
4
Second experiment
2
0
600
500
400
300
200
100
Temperature, ℃
Figure 4.7 Reproducibility of restraint force of flange casting cast
in furan sand mold
88
7
Contraction, mm
6
5
First experiment
4
3
2
Second experiment
1
0
-1
600
500
400
300
200
100
Temperature, ℃
Figure 4.8 Reproducibility of casting contraction of flange casting cast
in furan sand mold
89
4.6.2.2 型ばらし後の鋳物に生じている永久変形量の測定
4.6.2.2.1 永久変形量の測定方法
本研究では Figure 4.9 (C)の永久変形量を, 永久変形量を生じない場合
の全収縮量(Figure 4.9 (A))から, 砂型反力を受けて永久変形を生じた場
合の全収縮量(Figure 4.9 (B))を引く方法で求めた.
Figure 4.9 Schematic illustrations of relationships between total contractions
and permanent deformation in casting
90
4.6.2.2.2 永久変形を生じない場合の全収縮量
仮に砂型反力が冷却中の鋳物に全く発生しない場合, その鋳物は自由
収縮すると考えられる. そこで本研究は, 比較的強度が弱いため砂型反力
があまり発生しないと考えられる生砂型にフランジ無し鋳物を鋳造し,
この鋳物の収縮が自由収縮するとみなせるか検討を行った.
生砂型に鋳造したフランジ無し鋳物に生じる砂型反力と収縮量の測定
結果を Figure 4.10 に示す. 図より, 砂型反力は最大でも 150 N 程度でフ
ラン砂型に鋳込んだフランジ付き鋳物の場合(約 10 kN)よりも桁違いに
小さい事が分かった. この事から, 本研究では, 生砂型に鋳造したフラン
ジ無し鋳物の収縮量を, 永久変形を生じていない全収縮量(Figure 4.9(A):
6.25 mm)として仮定した.
91
7
10
6
5
8
4
6
3
Contraction
4
2
2
Tensile load
1
0
-2
600
0
500
400
300
200
100
0
-1
Temperature, ℃
Figure 4.10 Restraint force in flange casting cast in green sand mold and
its contraction during cooling
92
Contraction, mm
Tensile load, kN
12
4.6.2.2.3 砂型反力を受ける場合の全収縮量
本節では, 砂型反力を受ける場合の全収縮量(Figure 4.9 (B))の定め方
について議論する. Figure 4.11 はフラン有機自硬性砂型に鋳造したフラ
ンジ付き鋳物に生じる型ばらし前後の砂型反力と収縮量を示している.
Figure 4.11 より, 型ばらしを行い砂型反力が鋳物から除かれると, 鋳
物の収縮量が増えているのが分かる. これは, 型ばらしまでに砂型反力に
よって鋳物に弾性変形(Figure 4.9 (D))が蓄積している事を示しており,
鋳物に生じた永久変形測定の際は取り除かねばならない.
そこで本研究では鋳物に生じた弾性ひずみを取り除くために以下の手
順に沿って型ばらしを行う事とした.
鋳物温度が 50 ℃になった時に, 砂型反力が 500 N を超えていた場合に
は, フランジの周りの砂を 500 N を下回るまで取り除いた. 500 N とした
のは, 500 N まで砂型反力を除くと, 生じている弾性変形の大部分が取り
除かれると考えたからである. また型ばらし温度を 50 ℃としたのは, ほ
ぼ室温まで冷却したとみなせると考えたからである.上記の手順で, 砂型
反力を受ける場合の全収縮量(Figure 4.9 (B))を決定した.
93
4.5
8
4.4
4.3
Tensile load
4.2
6
During shake out
4.1
4
4
Contraction
2
0
65
3.9
60
55
50
45
40
3.8
35
Temperature, ℃
Figure 4.11 Restraint force in flange casting cast in furan sand mold
and its contraction before and after shake out
94
Contraction, mm
Tensile load, kN
10
4.6.2.2.4 フラン有機自硬性砂型に鋳造したフランジ付き鋳物に生じる永
久変形量の測定
自由収縮する場合の全収縮量(Figure 4.9 (A))は, 6.25 mm で, フラン有
機自硬性砂型に鋳造したフランジ付き鋳物の全収縮量(Figure 4.9 (B))は,
4.63 mm であった. よって, フラン有機自硬性砂型に鋳造したフランジ付
き鋳物に生じた永久変形量は, 1.62 mm と測定することが出来た.
以上から, 開発装置は鋳造時に砂型反力を受けて生じる永久変形量の
測定が可能である.
4.6.2.3 測定される永久変形量の精度
4.6.2.2 節に永久変形量の測定方法を説明したが, 砂型反力により引き
込まれている鋳ぐるみ部(C)が型ばらし時に注湯前の位置に戻る事が前提
である. もし, 鋳ぐるみ部(C)の戻り方にばらつきがあると, このばらつ
きは測定される全収縮量の測定値のばらつきに直結してしまう.
そこでポールを用いて実験中の鋳ぐるみ部変位を測定した結果, 全収
縮量の測定値の標準偏差αtc(試行回数: 7)は,
α tc = 66 µm
であることが分かった.
95
永久変形量は, 全収縮量同士の引き算より求められるので, 永久変形量
の測定値の標準偏差αpd は誤差伝播則より以下のように求められる.
α pd =
(α tc )2 + (α tc )2
= 93 µm
5 章で測定した永久変形量の最大値が 1.78 mm であるので, 標準偏差は測
定値より 1 桁小さいことが分かった. 以上より本装置で永久変形量を測定
した際の測定値の精度を検討する事が出来た.
上記の評価試験により, 今回開発した装置を用いれば, 冷却時の砂型鋳
物に生じる砂型反力及び反力を受ける鋳物の収縮量を鋳物温度に対して
連続的に取得出来る事が分かった. これに加えて, 砂型反力によって鋳物
に生じる永久変形量も同時に測定可能な事を明らかに出来た.
96
4.7 結言
4 章では, 冷却中の砂型鋳物に生じる砂型反力と砂型反力を受ける鋳物
の収縮量を連続的に測定可能な装置の開発を行なった. そして, 実際に測
定が可能か検討を行った. 検討の結果以下の結論を得た.
開発した装置は, 凝固終了から室温まで砂型鋳物に生じる砂型反力と
反力を受ける鋳物の収縮量を世界に先駆けて連続的に測定する事に成功
した. また反力と収縮量に加えて, 冷却中, 砂型反力により鋳物に生じた
永久変形量も測定可能であり, 永久変形量の測定値の標準偏差は 93 μm
である. これは 5 章で測定される永久変形量の最大値よりも 1 桁小さい.
5 章では, 実際に開発した装置を用いる事により, 砂型種類や, 鋳物の
形状が, 鋳物に生じる砂型反力や永久変形にどのような影響を及ぼすの
かを検討する.
97
参考文献:
1) Eskin, D.G., Katgerman, L.: International Foundry Research 59 (2007) p. 8
2) Awano, Y., Morimoto, K., Shimizu, Y., Takamiya: R&D Review of Toyota
CRDL vol. 27 (1992) p. 51.
98
5 章 冷却中の鋳物に生じる砂型反力と鋳物収縮量に
及ぼす砂型種類及び鋳物形状の影響
5.1 緒言
前章で開発した装置を用いて, 冷却中の鋳物に生じる砂型反力と反力
を受ける鋳物の収縮量を連続的に取得, 検討を行なう事を目的とする.
検討した砂型は, 生砂型, フラン有機自硬性砂型である. この 2 種類の
砂型は常温において圧縮強度に差が有り, 砂型強度が砂型反力及び鋳物
の収縮量に及ぼす影響を検討するのに適していると考えられる. 両砂型
の特徴を以下に述べる.
生砂型は,
① 生産性が高く, 繰り返し利用が出来る
② 材料費が安い
③ 有害物質, 悪臭を排出しない
等の利点があり, 今日, 世界的に, 鋳物の過半数が生型で生産されている
1).
よって, 生砂型の砂型反力を明らかにする事は, 有意義であると考え
られる.
一方, フラン有機自硬性砂型は,
99
① 少量の粘結材で高い鋳型強度が得られる
② 混練砂の流動性が良く, 造型性が良い
③ 熱間強度が高く, 洗われ, 砂かみ等の欠陥が少ない
④ 残留強度が低いため, 型ばらしが容易
⑤ ガスの発生が少ないためガス欠陥が生じにくい
⑥ 砂の再生が容易
という利点がある
1).
フラン有機自硬性砂型は, 中大型鋳物だけでなく,
中子を含む広範な分野でもっとも優れた鋳型として使用されている有機
自硬性砂型の代表的なものの 1 つである. よって, フラン有機自硬性砂型
の砂型反力を明らかにする事は生砂型と同様に有意義である.
砂型種類の他に砂型反力に対する鋳物形状の影響を明らかにする事も,
鋳物形状を決定する際に役立つと考えられる. そこで本研究ではフラン
ジ付き鋳物のフランジ面積を変量し, 砂型反力及び反力を受ける鋳物の
収縮量に対する影響も検討する.
本章の最後に, 得られた実験結果を基に, 鋳物冷却時にどのようにして,
砂型反力が発生し, 鋳物に永久変形が生じているかのモデル化も行なっ
た.
100
5.2 実験方法
実験装置は前章で開発した装置を用いた. 冷却中に鋳物に生じる砂型
反力, 砂型反力を受ける鋳物の収縮量, 鋳物に生じた永久変形量の測定方
法も前章と同じである. 実験に用いた鋳物の形状を Figure 5.1 に示す. 実
験に用いた生砂型とフラン有機自硬性砂型の混練条件と室温での圧縮強
さ及びそれぞれの実験でのフランジ条件を Table 5.1 に示す. 表からも分
かる通り, 生砂型の室温での圧縮強度はフラン有機自硬性砂型に対して
桁違いに低い. 鋳造法はフルモールド法を用いた. スチロール製模型には
実験の前日に予め塗型を塗り乾燥させ, 差し込みが生じないようにした.
鋳物温度はシース N 熱電対(シース径 2.3mm)を予めスチロール製の模型
の中心(Figure5.1)に挿しておき, そのまま造型し, 注湯時に熱電対が鋳ぐ
るまれるようにして測定した. 鋳造合金として JIS AD12.1 を用いた. 実
験に用いた JIS AD12.1 の化学組成を Table 5.2 に示す. 熱分析によるこ
の合金の液相線, 固相線温度はそれぞれ, 572 ℃, 494 ℃であった. フラ
ン有機自硬性砂型での実験の場合, 砂型を硬化させるため造型終了後か
ら 90 分から 120 分で注湯を行なった. なお室温は 23 ℃である. 一方, 生
砂型での実験の場合は, 造型終了後すぐに注湯を行なった. 注湯は溶湯温
度 780 ℃で実施した.
101
Figure 5.1 Casting shape used in experiment and location of
thermocouple
(a) with flange, (b) without flange
102
Table 5.1 Experimental conditions of sand mold and casting in experiment
Table 5.2 Chemical composition of JIS AD12.1 used in experiment
(mass %)
Cu
Si
Mg
Fe
Mn Zn
Ni
Sn
Al
1.609 11.12 0.216 0.812 0.146 0.408 0.036 0.006
Bal.
103
5.3 実験結果
5.3.1 生砂型に鋳造した鋳物に生じる砂型反力と鋳物の収縮量の連続的
測定結果
Figure 5.2 (a)に生砂型に鋳造したフランジ付き鋳物に生じた砂型反力
とその砂型反力を受ける鋳物の収縮量の連続的測定結果を示す.
凝固完了時に鋳物は平均 0.06 mm 膨張し, その後, 引張応力が発生し
始めた. この膨張の原因に関しては前章で述べた. フランジ付き鋳物に生
じる最大引張荷重は 729 N で, 凝固完了から 45 ℃までの全収縮量は 6.26
mm であった.
一方, フランジ無し鋳物に生じた砂型反力と, 鋳物の収縮量の測定結果
を Figure 5.2 (b)に示す. フランジ無し鋳物では, フランジが付いていな
いにもかかわらず, 比較的小さい最大引張荷重, 265 N が測定された. こ
の荷重は, 鋳物と砂型の摩擦によるものと推測される. フランジ無し鋳物
の全収縮量は 6.25 mm であった. 生砂型においては, フランジの有無に
よって全収縮量に有意な差は認められなかった.
104
5.3.2 フラン有機自硬性砂型に鋳造した鋳物に生じる砂型反力と鋳物の
収縮量の連続的測定結果
フラン有機自硬性砂型に鋳造したフランジ無し, フランジ小(60×60×
10 mm), フランジ大(90×90×10 mm)鋳物に生じた砂型反力及び収縮量
の連続的測定結果を Figure 5.3 (a), (b), (c)にそれぞれ示す. フランジ無し
では, 生砂型に鋳込んだ場合と同様に, 僅かながら鋳物に引張荷重が生じ
る事が分かる. これは生砂型の時と同様に, 砂型と鋳物の摩擦によって生
じる荷重であると推測される. 最大荷重が約 7.5 kN のフランジ小に対し
て, フランジ大では最大荷重が約 11 kN になるが, 全収縮量はほぼ同じ値
となった.
105
(a) 800
7
5
4
400
3
200
2
Contraction
1
0
Contraction, mm
600
Tensile load, N
6
Tensile load
0
-200
600
500
400
300
200
100
-1
Temperature, ℃
(b) 300
7
Tensile load
Tensile load, N
5
200
4
150
3
100
2
Contraction
50
1
0
-50
600
Contraction, mm
6
250
0
500
400
300
200
100
-1
Temperature, ℃
Figure 5.2 Restraint force in casting cast in green sand mold and
its contraction during cooling (a) with flange (b) without flange
106
(b)
12
6
10
5
10
5
8
4
3
6
Contraction
2
4
1
2
Tensile load
Tensile load, kN
Contraction, mm
6
Tensile load, kN
12
Contraction
8
3
6
2
4
1
2
0
600
500
400
300
200
100
600
Temperature, ℃
(c)
500
400
300
5
4
Tensile load
8
3
6
Contraction
4
2
1
2
Contraction, mm
10
0
0
600
500
400
300
200
200
Temperature, ℃
12
Tensile load, kN
-1
0
Tensile load
0
0
100
-1
Temperature, ℃
Figure 5.3 Restraint force in casting cast in furan sand mold and
its contraction during cooling (a) no flange (b) small flange (c) large flange
107
4
Contraction, mm
(a)
100
-1
5.3.3 フランジ面積と砂型種類が鋳物に生じる最大引張荷重及び永久変
形量に及ぼす影響
Figure 5.4 (a), (b)にフランジ面積と砂型種類が鋳物に生じる最大引張
荷重及び鋳物に生じた永久変形量に及ぼす影響を示す.
最大荷重では, 生砂型よりフラン有機自硬性砂型で大きい事が分かる.
フラン有機自硬性砂型では, フランジ面積が増えると最大荷重も増大す
ることが分かる. 一方, 生砂型でも, フランジ面積が増えると最大荷重は
増大するが, その増分はフラン有機自硬性砂型と比較して小さい事が分
かる.
永久変形に関して, フラン有機自硬性砂型ではフランジ無しからフラ
ンジ小で急激に永久変形が生じ, フランジ面積の影響が大きい事が分か
る. しかし, フランジ小からフランジ大では永久変形量の増分がそれまで
と比較して小さく, フランジ面積の効果が比較的小さくなっている事が
分かる. 生じる永久変形量は, 生砂型に比べて, フラン有機自硬性砂型の
方が大きい. これは生じる引張荷重がフラン有機自硬性砂型の方が生砂
型より大きい事からも妥当であると考えられる.
108
Figure 5.4 Effect of flange area and kind of sand mold on
(a) maximum tensile load and (b) permanent deformation
109
5.4 考察
以下の 4 項目について考察を行う.
(1)冷却中の鋳物に生じる永久変形の発生過程
(2)冷却中の鋳物と砂型の機械的相互作用
(3)フラン有機自硬性砂型におけるフランジ面積の永久変形量に
及ぼす影響
(4)砂型を含めた熱応力解析における砂型の考慮について
5.4.1 冷却中の鋳物に生じる永久変形の発生過程
冷却中の鋳物に生じる永久変形の発生過程を考察するためには, 冷却
時, 1 ℃当りの収縮量を参照すると良いと考えられる. そこで, 生砂型に
鋳造した鋳物の収縮結果(Figure 5.2), フラン有機自硬性砂型に鋳造した
鋳物の収縮結果(Figure 5.3)をそれぞれ温度に対して微分した結果を
Figure 5.5 に示す.
先ず, 生砂型に鋳造したフランジ無し鋳物は最大荷重が比較的小さく,
永久変形をほとんど生じないと考えられるので, この条件を以下では自
由収縮と呼ぶ. よって, 鋳物の永久変形発生過程を検討するには, Figure
5.5 における生砂型鋳造フランジ無し鋳物(自由収縮)の結果と比較すれば
110
よいことになる.
Figure 5.5 を見ると, 凝固終了からおよそ 250 ℃まで, 1 ℃あたりの
収縮量は自由収縮とフラン有機自硬性砂型に鋳込んだものとで差がある,
つまりフラン有機自硬性砂型に鋳造した鋳物は収縮しておらず, 永久変
形を生じていることが分かる. 約 250 ℃では, 1 ℃当りの収縮量が全実験
条件でほぼ一致する. その後, 250 ℃以下において比較的砂型反力が小さ
い条件(生砂型に鋳造したフランジ付き鋳物, フラン有機自硬性砂型に鋳
造したフランジ無し鋳物)では, 自由収縮とほぼ同じ挙動を示す. しかし,
比較的砂型反力が大きい条件(フラン有機自硬性砂型に鋳込んだフランジ
小, 大鋳物)では, 自由収縮と比較して僅かながら収縮していない事が分
かる. この事は次節で議論する.
上記の結果から, 砂型反力によって生ずる永久変形は鋳物が凝固して
から, 250 ℃の間で発生していた事が分かった.
111
Temperature derivative
of contraction, mm/℃
℃
0.02
Flangeless casting in green sand mold
Flange casting in green sand mold
0.015
0.01
0.005
Flangeless casting in furan sand mold
Small flange casting in furan sand mold
Large flange casting in furan sand mold
0
-0.005
500
400
300
200
Temeprature, ℃
Figure 5.5 Effect of flange area and kind of sand mold on casting contractions
per 1 ℃ during cooling
112
100
5.4.2 冷却中の鋳物と砂型の機械的相互作用
5.4.2.1 比較的砂型反力が小さい場合
Figure 5.6 は自由収縮量から各実験条件の収縮量を引いた値を示して
いる. フラン有機自硬性砂型に鋳込んだフランジ無し鋳物や, 生砂型に鋳
込んだフランジ付き鋳物のような, 比較的砂型反力の小さいものでは, 自
由収縮量との差が凝固完了から 400 ℃まで増大し, その後一定になる事
が分かる. 自由収縮量との収縮量差は, 鋳物に生じている永久変形と弾性
変形の差と考えられる. 比較的砂型反力の小さい実験条件の場合, Figure
5.6 から, 型ばらし時に開放される弾性変形が最終的な収縮量差と比較し
て小さい. よって, 比較的砂型反力が小さい場合, 冷却時に生じる永久変
形は, 凝固終了時から 400 ℃の間で生じる事を示している.
同様の報告は Parkins と Cowan の研究でも報告されており, 彼らは,
生砂型に鋳造した鋳物と, 生砂型との機械的相互作用について以下のモ
デルを提案している 2).
注湯後, 強度が弱い状態の鋳物は比較的強度がある砂型により収縮を
束縛され, 永久変形を生じる(Figure 5.7 (a)). 鋳物が冷却すると, 鋳造合
金の降伏応力が上昇してくるので, ある温度(鋳造合金に依存する)で鋳造
合金の強度が砂型の強度と同じになる.
113
その後は砂型の崩壊によって鋳物は永久変形を生じる事なく収縮する
(Figure 5.7 (b)).
Parkins と Cowan のモデルは, Figure 5.6 で示される比較的砂型反力が
小さい実験結果を説明するには適当であると考えられる. しかし,
Figure5.6 から明らかなように比較的砂型反力が大きいフラン有機自硬性
砂型に鋳込んだフランジ小付き鋳物及びフランジ大付き鋳物の場合, 砂
型反力が小さい場合と挙動が異なる事が分かる. よって, 砂型反力が大き
い場合, 別のモデルを考える必要がある.
114
Large flange casting
in furan sand mold
Shake out
Difference of contraction
from free contraction, mm
2
1.5
Small flange casting
in furan sand mold
1
Released
elastic deformation
Flangeless casting
in furan sand mold
0.5
Flange casting
in green sand mold
0
-0.5
500
400
300
200
100
0
Temperature, ℃
Figure 5.6 Free-to-experimental contraction difference curves
during cooling
115
Figure 5.7 Schematic illustrations of modeling of
mechanical interaction between casting and sand mold during cooling
116
5.4.2.2 比較的砂型反力が大きい場合
フラン有機自硬性砂型に鋳造したフランジ小付き鋳物や, フランジ大
付き鋳物のような比較的砂型反力が大きい場合, Figure 5.6 から分かるよ
うに, 砂型反力が小さい鋳物と異なる以下のような挙動を示す.
凝固完了時から約 250 ℃まで自由収縮量との差が大きくなり, そして
約 250 ℃で一定値になる. その後再び 50 ℃まで差が広がる.
250 ℃までの挙動は, Parkins と Cowan のモデルで説明出来るが,
250 ℃以下の挙動は彼らのモデルでは説明が出来ない. Figure 5.6 を見る
と, 250 ℃以下で蓄積された収縮差は型ばらし時に開放されている事が分
かる. また, 砂型反力が大きいフランジ大付き鋳物はフランジ小付き鋳物
より開放される収縮量が大きい. これらの事実から, フラン有機自硬性砂
型に鋳造したフランジ大付き鋳物とフランジ小付き鋳物では, 250 ℃以下
で生じた自由収縮量との差はフラン有機自硬性砂型の反力による弾性変
形によるものと考えられる.
以上の考察から, 本研究では比較的砂型反力が大きい場合(フラン有機
自硬性砂型に鋳込んだフランジ小付き, 及びフランジ大付きの鋳物)の砂
型と鋳物の力学的相互作用のモデルとして以下のモデルを考えた.
117
1) 凝固終了から 250 ℃まで
凝固終了時から鋳物は砂型反力を受け, 高温においては鋳造合金の強
度は砂型より低いので 250 ℃まで永久変形量は増大し続けると考えられ
る(Figure 5.7 (b) 1)). しかし, 鋳造合金の強度は鋳物温度が下がってくる
につれて上がるので, 1 ℃毎に生じる永久変形量は少なくなる.
2) 約 250 ℃
鋳造合金の強度は鋳物温度が下がるにつれて上昇し, 約 250 ℃で砂型
の強度と等しくなる. その際, フランジ周りの砂型が崩壊する事により,
鋳物は自由収縮する(Figure 5.7 (b) 2)). よって, 自由収縮との収縮量差は
約 250 ℃付近で一定となる.
3) 250 ℃以下
鋳物の収縮によりフランジ周りの砂型の圧縮が進行すると, 砂型の中
でもフランジ近傍から離れた箇所が鋳物の収縮を束縛し始める. そして,
鋳物の更なる収縮を妨げ, 大きい砂型反力が鋳物に生じる. しかし, この
温度域では既に鋳造合金は十分な強度があるため, 塑性変形は生じず, 砂
型反力に応じて弾性変形が生じる(Figure 5.7 (b) 3)).
118
5.4.3 フラン有機自硬性砂型に鋳造した鋳物の永久変形量に対するフラ
ンジ大きさの影響
フラン有機自硬性砂型の場合, 永久変形量がフランジ無しからフラン
ジ小付き鋳物に変わると増大する. しかし, フランジ小付き鋳物からフラ
ンジ大付き鋳物では砂型反力は増加するものの, 永久変形量に対してほ
とんど増加はみられなかった.
Nyichomba と Campbell3)も砂型の束縛による鋳物の永久変形発生量に
対して, フランジ大きさの影響には飽和する大きさがある事を報告して
いる. 彼らはフランジ大きさの永久変形量に対する飽和は, Figure 5.8 の
ようにフランジ付け根付近のみしか, 鋳物の収縮の束縛に寄与しないと
考える事によって説明している. 本研究でも, Nyichomba と Campbell ら
の考え方を参考にして, 最終的な砂型反力が異なるもののフランジ小付
き鋳物の永久変形量がフランジ大付き鋳物の永久変形量とほぼ同じであ
った理由を考察する.
Figure 5.3 からフランジ小付き鋳物とフランジ大付き鋳物に生じる砂
型反力が凝固終了から約 300 ℃まで, ほぼ同じ事が分かる. 300 ℃にお
いて両条件の鋳物に生じる砂型反力の差は約 13 %である. 300 ℃以下か
ら両条件の鋳物に生じる砂型反力の差は明瞭になり, 50 ℃では砂型反力
119
は約 3.9 kN の荷重差(52 %差)を生じる. この事から砂型反力に関して,
凝固終了から約 300 ℃までフランジ大きさの影響が飽和している事が推
測される. Figure 5.6 より, 凝固終了からおよそ 250 ℃までの両条件の鋳
物の収縮挙動がほぼ同じ事もこの推測により説明出来る.
Figure 5.3 より, 300 ℃以下では両条件の砂型反力の差が型ばらし終了
まで急激に生じる事が分かる. これはフランジ周りの砂型が鋳物の収縮
により圧縮されて, フランジの大きさが砂型反力に対して効果的になっ
たことに因るものと考えられる. しかし, 250 ℃以下では鋳造合金の強度
が十分にあるので生じる変形はほぼ弾性変形となり, 非弾性ひずみは発
生しないと考えられる. この理由により, フランジ大付き鋳物の砂型反力
がフランジ小付き鋳物の砂型反力より大きいにも関わらず, 非弾性ひず
みがほぼ同じとなったと推測される.
120
Flange casting
Sand mold
Effective area of flange
Figure 5.8 Effective area of flange
5.4.4 アルミニウム鋳造合金の熱応力解析での砂型考慮に対する指針
本研究でこれまで述べた幾つかの知見を得る事が出来た. 本節では得
られた知見からアルミニウム鋳造合金の熱応力解析での砂型考慮に対す
る指針を述べる.
1) 手込めの生砂型のような比較的弱い強度の砂型は, アルミニウム合金
鋳物の永久変形発生にはほぼ影響を与えないため, 鋳物の残留応力や
変形解析においては無視しても予測精度に大きな影響は無いと考えら
れる
121
2) フラン有機自硬性砂型のような比較的強度が大きい砂型の場合, アル
ミニウム合金鋳物に永久変形を生じさせる原因となる. よって, 鋳物
の残留応力や変形解析においては砂型の反力を解析で考慮すべきであ
ると考えられる.
122
5.5 結言
1) フラン有機自硬性砂型ではフランジ面積が大きい程, 砂型反力は大き
くなる. 永久変形に関しては, フランジ無しからフランジ面積小では
2 倍以上増えたが, 更にフランジ面積が増えても永久変形の上昇は見
られなかった.
2) 生砂型では, フランジ面積が増えるにつれ鋳物に生じる砂型反力と永
久変形量は増大した. しかし, 生じる砂型反力と永久変形量はフラン
有機自硬性に鋳造した場合と比較すると僅かであった.
3) 鋳物に生じるほぼ全ての永久変形は, フラン有機自硬性砂型では
250 ℃までに, 生砂型では 400 ℃までに生じた.
4) 同じ形状の鋳物では, 生砂型よりフラン有機自硬性砂型でより多くの
永久変形が発生した. この事より, 生砂型よりフラン有機自硬性砂型
の方が鋳物に生じる残留応力及び変形に影響を及ぼすと考えられる.
よって, フラン有機自硬性砂型を用いた鋳造の熱応力解析を精度良く
行うためには, 砂型反力を解析に含む必要がある事が示唆された.
5) 本章の実験を模擬した熱応力解析を行い, 砂型反力及び鋳物収縮量の
解析値と実験値を連続的に比較することで, 砂型の力学特性と力学モ
デルの有効性検証の実施が期待される.
123
参考文献
1) 日本鋳造工学会: 鋳造工学便覧 (2002)
2) Parkins, R.N., and Cowan, A.: Inst. Brit. Found. Paper No. 1062 (1953)
p.A101
3) Nyichomba, B.B., Campbell, J.: Int. J. Cast Metals Res. vol.11 (1998)
p.163
124
6 章 総括
1 章では, 今後, 産業的に鋳物の薄肉化や強度部材への適用のニーズが高
まる事を述べた. しかし, それらを実現するためには鋳造時に生じる残留応力
や変形を解決する必要がある. しかし, 従前の職人の経験に頼った対策や焼
きなましといった効率の悪い対策では限界がある. そこで本研究では, 近年,
新たなツールとして用いられてきている有限要素法に着目した. FEM を用いて
鋳物に生じる残留応力や変形を予測することにより職人の経験や勘に頼る必要
も無くなり, 試作回数を減らすことが可能となる事が期待される. 以上のことから
研究目的を, “FEM を用いた熱応力解析による鋳物の残留応力及び変形の予
測”と定めた.
2 章では, 熱応力解析による鋳物の残留応力及び変形の予測を行っている
従来研究と解析の際に問題となる砂型反力に関する研究について調査を行っ
た. その結果以下の知見を得た.
・ 熱解析の合わせ込みの精度の悪さや, 自拘束鋳物の熱応力解析には不向
きな要素種類の使用等の問題により, 従前行われてきた鋳物の残留応力予
測に対する熱応力解析の有効性検証は不十分である.
・ 鋳物の熱応力解析で砂型反力を含めた研究は幾つか存在する. しかし, 実
125
験との比較がなされておらず, 砂型の力学モデルや力学特性の妥当性は不
明である. そもそも冷却中の鋳物と砂型の力学的相互作用の実験的知見自
体僅かである.
そこで, 本研究では, 以下の項目を検討する事とした.
3 章: 熱応力解析による片状黒鉛鋳鉄鋳物に生じる厚肉部と薄肉部の温度差
により生じる残留応力の予測の検討
4 章: 冷却中の砂型鋳物に生じる砂型反力及び, 反力を受ける鋳物の収縮量
の連続的測定装置の開発
5 章: 砂型種類と鋳物形状が冷却中の鋳物に生じる砂型反力と鋳物の収縮量
に及ぼす影響の検討
3 章では, 実際に片状黒鉛鋳鉄製鋳物の鋳造を行い, その実験をモデル化
して熱応力解析を行なって, 残留応力の実験値と計算値を比較した. その際,
残留応力の絶対値に影響を強く及ぼすと考えられる薄肉部と厚肉部の温度差
の最大値を極力精度良く合わせ込む事とした. また, 熱応力解析において自
拘束鋳物の薄肉部に生じる曲げ変形を表現可能な要素を用いた. 検討の結果
以下の知見を得た.
1) 自拘束鋳物は薄肉部が座屈し, 曲げ変形することで厚肉部の収縮を束縛し
126
て残留応力が発生している. よって熱応力解析では曲げ変形を表現可能
な要素を用いるべきである事が解析結果から示された. 止むを得ず曲げ変
形を原理的に表現出来ない四面体一次要素を用いる場合は, 必ず解析結
果が要素数に対して収束したかを確認する必要がある.
2) 以下に挙げる解析条件で, FEM を用いた熱応力解析で片状黒鉛鋳鉄製自
拘束鋳物に生じる厚肉部と薄肉部の温度差による残留応力の予測を行な
った. その結果, 解析値は実験値と 10 %程度の差となった.
ⅰ) 厚肉部と薄肉部の温度差の最大値を約 2 %の誤差で予測
ⅱ) 片状黒鉛鋳鉄の力学モデルとして弾塑性モデルを使用
ⅲ) 弾塑性モデルに用いる力学特性値を高温引張試験で取得
ⅳ) 熱応力解析モデルは曲げ変形を原理的に表現可能な要素(本研究では
四面体二次要素)を用いる
4 章では, 冷却中の砂型鋳物に生じる砂型反力及び反力を受ける鋳物の収
縮量の連続的測定装置を世界に先駆けて作製した. そして, 作製した装置で
試験を行い, 連続的に砂型反力及び収縮量を測定出来る事の確認を行った.
127
5 章では, 作製した装置を用いて, 砂型種類及び鋳物の形状が砂型反力
やそれによってアルミニウム合金製鋳物に生じる永久変形量に及ぼす影響の
検討を行い, 以下の知見を得た.
1) フラン有機自硬性砂型では, フランジ面積が大きい程, 砂型反力は大きくな
る. 永久変形量に関してはある面積以上で, 生じる量が飽和した.
2) 生砂型では, 砂型反力及び永久変形量共に, フランジ面積が大きい程増
大した. しかし, フラン有機自硬性で生じた絶対値と比較すると僅かであっ
た.
3) 鋳物に生じるほぼ全ての永久変形量は, フラン有機自硬性砂型では,
250 ℃までに, 生砂型では 400 ℃までに生じていた.
4) 生砂型よりフラン有機自硬性砂型の方が, 砂型反力の絶対値が大きく, 永
久変形も生じるため, フラン有機自硬性砂型は比較的, 鋳物に生じる残留
応力や, 変形に影響を及ぼすと考えられる. よって, アルミニウムの砂型鋳
造においてフラン有機自硬性砂型を含む熱応力解析を精度良く行うために
は, 解析において砂型反力を考慮する必要がある事が示唆された.
5) 本実験を熱応力解析で模擬し, 砂型反力及び鋳物の収縮量の実験値と解
析値を比較することにより, 砂型の力学特性値や力学モデルの有効性の検
証が行われる事が期待される.
128
以上を総じると, 自拘束鋳物の厚肉部と薄肉部の温度差による残留応力の
予測において, 薄肉部の曲げ変形及び鋳物の温度履歴を可能な限り精度良く
予測する必要がある事を示した. また冷却中の鋳物と砂型の力学的相互作用
を開発した装置で明らかにした. この結果は, 砂型を含めた熱応力解析の精
度検討, 向上に寄与する事が期待される.
今後の課題として以下の事が挙げられる.
・本論文では自拘束鋳物の厚肉部の断面内の残留応力の予測精度について
は検討を行なわなかったが, 鋳物の正味の残留応力を予測するためには検
討が必要である.
・鋳物のサイズを大きくした場合でも, 弾塑性モデルで精度良く残留応力を予
測出来るのか確認する必要がある. 鋳物のサイズが大きくなると冷却終了ま
での時間が長くなり, 粘性変形による残留応力の緩和が起こる事が考えられ
る. その場合弾塑性モデルではなく, 弾粘塑性モデルを用いる必要がある.
・従前用いられてきた砂型の力学モデル及び力学特性値の有効性を評価する
必要がある. そのために, 本研究で実施した砂型と鋳物の砂型反力測定実
験の熱応力解析を行ない, 実験値と比較する必要がある.
129
-査読付き論文誌1. Yuichi Motoyama, Hiroki Takahashi, Yuki Inoue, Keita Shinji, Makoto Yoshida:
Development of a device for dynamical measurement of the load on casting and the
contraction of the casting in a sand mold during cooling,
Journal of Materials Processing Technology 212 (2012) 1399– 1405
2. Yuichi Motoyama, Hiroki Takahashi, Yuki Inoue, Keita Shinji, Makoto Yoshida:
Dynamic measurement of the load on the casting and the contraction of the casting
during cooling in sand molds
Journal of Materials Processing Technology Volume 213, Issue 2, February (2013),
Pages 238–244
3. Yuki INOUE, Yuichi MOTOYAMA, Hiroki TAKAHASHI, Keita SHINJI, and Makoto
YOSHIDA
Effect of sand mold models on the simulated mold restraint force and the contraction of
the casting during cooling in green sand molds
Journal of Materials Processing Technology, Accepted
130
-講演1 吉田誠, 本山雄一, 中澤嵩, 菅野利猛, 福田葉椰, 林健一
鋳物砂の温度拡散率の測定法に関する検討
第 147 回鋳造工学会全国講演大会概要集,P. 129, (2005)
2. 本山雄一, 吉田誠, 菅野利猛, 福田葉椰, 林健一
鋳物砂の温度拡散率測定法としての差分法適用と問題点
第 149 回鋳造工学会全国講演大会概要集, P. 90, (2006)
3. 本山雄一, 高橋弘樹, 井上雄貴, 進士啓太. 吉田誠, 福田葉椰
冷却中のフランジ付き鋳物に生じる砂型反力と熱収縮量の動的測定装置の開発
第 159 回鋳造工学会全国講演大会概要集,P.103, (2011)
4. 井上雄貴, 本山雄一, 高橋弘樹, 進士啓太. 吉田誠, 福田葉椰
冷却中のフランジ付き鋳物に生じる砂型反力と熱収縮量に及ぼす砂型種類とフランジ形状
の影響
第 159 回鋳造工学会全国講演大会概要集,P.104, (2011)
5. 本山雄一, 井上雄貴, 斉藤豪太. 吉田誠, 福田葉椰
フランジ付き鋳物に生じる砂型反力と熱収縮の解析に及ぼす砂型構成式の影響
第 159 回鋳造工学会全国講演大会概要集,P.105, (2011)
6. 斉藤豪太, 吉田誠, 本山雄一, 井上雄貴
フラン自硬性砂型に鋳込んだフランジ付きアルミニウム合金鋳物に生じる砂型反力及び収
縮量の熱応力解析に及ぼす砂型構成式の影響
第 160 回鋳造工学会全国講演大会概要集, P.93, (2012)
7. 本山雄一, 高橋弘樹, 岡根利光, 吉田誠, 福田葉椰
FEM による片状黒鉛鋳鉄製応力格子に生じる残留応力の予測
第 160 回鋳造工学会全国講演大会概要集, P.138, (2012)
8. 本山雄一, 高橋弘樹, 岡根利光, 吉田誠, 福田葉椰
片状黒鉛鋳鉄製応力格子に生じる残留応力の型ばらし温度依存性の検討
第 160 回鋳造工学会全国講演大会概要集, P.139, (2012)
131
9.進士啓太, 高橋弘樹, 本山雄一, 井上雄貴, 吉田誠
JIS ADC12.1 合金の固液共存温度域における力学特性の取得
第 160 回鋳造工学会全国講演大会概要集, P.140, (2012)
10. 本山雄一, 吉田誠, 神戸洋史, 八下田健次, 志賀英俊
JIS AD12.1 合金製鋳物鋳造時の熱応力解析に用いる力学特性の検討及び取得
第 161 回鋳造工学会全国講演大会概要集, P21 (2012)
11. 本山雄一, 吉田誠, 神戸洋史, 八下田健次, 西岡敏行, 佐藤武志, 志賀英俊
粘塑性挙動を考慮した JIS AD12.1 合金の力学モデルの構築
第 161 回鋳造工学会全国講演大会概要集, P.22 (2012)
12. 志賀英俊, 本山雄一, 吉田誠, 神戸洋史
計装化Iビーム試験による粘塑性挙動を考慮した JIS AD12.1 の力学モデルの予測精度検
証
第 161 回鋳造工学会全国講演大会概要集, P.23 (2012)
13. 横尾篤, 本山雄一, 進士啓太, 吉田誠
熱応力解析による JIS AD12.1 合金製鋳物の焼き入れ時に生じる残留応力の予測精度検証
第 161 回鋳造工学会全国講演大会概要集, P.51 (2012)
14. 斉藤豪太, 本山雄一, 小野拓洋, 吉田誠
高温で JIS AD12.1 合金に生じた非弾性歪が室温の降伏応力に及ぼす影響の検討
第 161 回鋳造工学会全国講演大会概要集, P.52 (2012)
132
謝辞
本論文をまとめるにあたり, 懇切なご指導, ご教鞭を頂戴いたしました早稲田大学創造
理工学部総合機械工学科 吉田誠教授に心より感謝申し上げます.
学位論文審査において, 貴重なご指導とご助言を頂戴いたしました早稲田大学創造理工
学部総合機械工学科客員教授
日産自動車株式会社
神戸洋史博士, 独立行政法人産業技
術総合研究所 岡根利光博士に心より感謝申し上げます.
鋳造実験におきまして, ご助言及びご協力いただきました株式会社
木村鋳造所, 福田
葉椰博士, 菅野利猛博士, 林健一氏, 水木徹博士, 福尾太志氏に心より感謝申し上げます.
公私共々におきまして, 暖かいご助言, ご指導いただきました株式会社
ス・ソフトウェア・アジア
ユーイーエ
木島秀彌氏に心より感謝申し上げます.
熱応力解析や, 鋳造合金の力学モデルに関してご指導いただきました日産自動車株式会
社
志賀英俊氏, 佐藤武志氏に感謝申し上げます.
鋳鉄の高温引張試験において, 高温引張試験機を快く使用させてくださり, また研究に関
するご指導いただきました, 独立行政法人宇宙航空研究開発機構
宇宙科学研究所, 八田
博志教授, 後藤健准教授, 小柳潤助教に感謝申し上げます.
熱応力解析の結果についてご指導いただきました, 独立行政法人
内昭武氏博士, 株式会社先端力学シミュレーション研究所
ます.
133
理化学研究所
牧野
大浦賢一博士に感謝申し上げ
研究に関してご指導いただきました, 岐阜大学山
縣裕教授に深く感謝申し上げます.
RP 砂型作製においてご協力いただいた株式会社コイワイ
小岩井修二氏に感謝申し上
げます.
研究に関するご指導をいただいた株式会社神戸製鋼
森下誠博士に深く感謝申し上げま
す.
実験試料に関して, 成分分析のご助力を頂きました, リョービ株式会社様に深く感謝致
します.
実験準備に関して, 材料加工や試験機使用の際にご指導いただきました, 早稲田大学工
作実験室, 材料実験室の皆様には厚くお礼申し上げます.
鋳造合金の溶融に用いる黒鉛坩堝のご提供を頂きました, 日本ルツボ株式会社様にお礼
申し上げます.
実験用のアルミニウム合金についてご協力いただいた日軽エムシーアルミ株式会社北岡
山治博士に厚く御礼申し上げます.
材研における実験に関してご指導やご相談にのっていただいた豊田常夫氏をはじめ各務
記念材料技術研究所の皆様に深く感謝申し上げます.
長期に渡る研究生活の中で私を支えてくれた吉田研究室の先輩方, 後輩達に深く感謝致
します. 特に, 私が B4 から M1 までにお世話になった小林健太氏, 中澤嵩氏の両先輩には
心から感謝致します. そして, 私の研究を直接支えてくれた残留応力チームの後輩達, 向井
134
哲哉氏, 高橋弘樹氏, 井上雄貴氏, 進士啓太氏, 犬飼大騎氏, 海老原直之氏 小野拓洋氏に深
く感謝します. 苦しい時期もありましたが, 最終的に本研究がここまで進んだのは全て彼
らの献身的な助けがあったからです.
最後に, 博士課程後期課程に進むという道を理解し応援してくれた, 祖母
初恵, 祖父
実, 祖父 保, 父 司, 妹 美紅, 叔母 博子に感謝します. また, 祖母 れい子, 母 恵子
にこの論文を捧げて終わりたいと思います.
135
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