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フォースコントロール下の操舵系と車体系の運動特性の数値的研究*

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フォースコントロール下の操舵系と車体系の運動特性の数値的研究*
フォースコントロール下の操舵系と車体系の運動特性の数値的研究*
酒井 英樹 1)
A Numerical Study on Dynamic Behavior of Steering System and Vehicle System under Force Control
Hideki Sakai
Stability factor under force control B was defined in a previous study. By changing B, this paper studies loci of two pairs root under force
control. As a result, sum of real parts of two pairs root under force control equals to their real part of root under position control. Further each
pair of the roots is almost dominated by front or rear cornering stiffness independently under B >2. Moreover, as vehicle speed increases, the
damping ratios of the pair of roots decrease under B >2.
KEY WORDS: Vehicle dynamics, Steering system, Driving stability, Force control, Stability, Stability factor (B1)
念であり,これを基に A や ωn の目標値を達成するためのサス
1.は じ め に
自動車の操縦安定性のうち,日常使われる領域における操
ペンション設計が行われている(5).その結果として,ポジシ
舵過渡応答特性は,安全・安心・快適性の基盤性能であるだ
ョンコントロールの操舵過渡応答特性の競合力を確保するた
けではなく,ユーザーが車を操る楽しみにも直結する.その
めの仕組みが構築されている.
ため操舵過渡応答特性は,雑誌記事の試乗記や定量評価の対
一方フォースコントロールの過渡応答特性は現在,性能設
象(1)になったり,アクティブステア制御システム(2)などの
計の前段階である基礎理論の構築が行われている段階である
商品も提供されたりするほど競合力が問われる性能である.
と思われる.すなわち,まず坂下らは安定条件式を理論的に
ここで操舵過渡応答特性とは,ドライバの操舵に起因する
導出した(6).次にこの安定条件式を基に著者は,フォースコ
車両の過渡応答特性であるが,ドライバはステアリングホイ
ントロールにおけるスタビリティファクタ B を定義した(7).
ールを操舵する際に,手の変位と力加減の二つをコントロー
その結果,安定性についての性能設計は,ある程度可能にな
ルしている.すなわちステアリングホイールの角度である舵
ったと思われる.しかしフォースコントロールにおける操舵
角と,ステアリングホイールに働くトルクの二つをドライバ
系および車体系(車両から操舵系を除いた部分について本論
はコントロールしている.このような実際の操舵に対する車
文では「車体系」と記す)の二組の根についての固有振動数
両応答は理論的には扱いにくいので,次の 2 種類の操舵方式
等は定式化されていない.したがって過渡応答特性の性能設
が定義されている.すなわち,
計は困難である.そこで数値的研究として穂積らは,B が定
①ドライバがステアリングホイールの『角度』だけを規定す
義される以前に,二組のうち代表根についての根軌跡を解析
ると見なす『ポジションコントロール(position control)』と
し(8),坂下らの安定条件の研究結果を検証・補完している.
②ドライバがステアリングホイールに加える『トルク』だけ
しかし操舵系と車体系の過渡応答性を性能設計することとは,
を規定すると見なす『フォースコントロール(force control)』
それぞれの根を目標の位置に配置することであり,そのため
(3)
である .
例えばフォースコントロールにおける入力 0 とは,
には二組の根両方の性質を理解することが必要であると思わ
ステアリングホイールを全く拘束しない状態(手放し)であ
れる.
り,ポジションコントロールにおける入力 0 とは,ステアリ
そこで本論文は,フォースコントロールにおける過渡応答
ングホイールの角度を 0 の位置に拘束(中立位置に保持)す
の性能設計を可能にすることを目的として,操舵系と車体系
ることである.
それぞれの根の性質を見出すものである.
操舵法にはこの 2 種類があるものの,従来の車両運動理論
2.車両モデル
や性能設計のほとんどがポジションコントロールを対象にし
ている.例えば安定性を表すスタビリティファクタ A やヨー
本論文では,フォースコントロールにおける車両運動は,
固有振動数 ωn(4)などはポジションコントロールについての概
ポジションコントロールの車両運動に操舵系運動が加わった
*2012 年 12 月 20 日受理.
ものと解釈し,ポジションコントロールの車両運動モデルに,
1)近畿大学工学部(739-2116 東広島市高屋うめの辺1)
操舵系の運動モデルを結合させることでモデル化する.
自動車技術会論文集 Vol.44, No.3, 2013. pp.843-850から再録
- 107 -
2.1. ポジションコントロールの車両モデル
Ih
図 1 に示す一般的な線形2自由度モデルを用いる.さらに
Ch
本論文では,ステアリングギヤ比を 1 として扱い,操舵系の
剛性は,前輪コーナリングパワに含めて扱い,操舵系は剛体
king pin axis
として扱う.その結果このモデルの運動方程式は次のように
なる(4).
Th

Ff
Fig. 2 Steering-system model


(1)
mV r    F f  Fr
フォースコントロール時の運動方程式は,操舵系の運動方
(2)
程式の分だけポジションコントロールの運動方程式よりも複

F f 2 K f  f   
(3)
析結果を得るために,本節ではフォースコントロールの安定
F
2 K r  r
r
(4)
(1)ヨー慣性モーメント
I z r  l f F f  lr Fr

f  

r  
lf
V
(5)
r
lr
r
V
(6)
C.G
r
lr
m,Iz
V

lf
雑になり,パラメータの数も増える.そこでより普遍的な解
条件を記述するために必要十分なパラメータだけに限定する.
ヨー慣性モーメント Iz を lflrm で無次元化した Iz / lflrm の値の
分布範囲は,0.85~1.05 と報告されている(9).そこでパラメ
ータを減らすために Iz / lflrm =1,すなわち,
Ff
-f
δ
として扱う.したがって本論文ではヨー慣性モーメントの影
f
響を研究の対象としない.
2Kf
(2)前輪荷重配分比
前輪荷重配分比(以後「荷重配分」)を p と表記する.従
Fig. 1 Vehicle model
ここで定常旋回特性を確認する.式(1)~(6)において,
.
.
r および β を 0 として,δ に対する r の応答を求めると
1 V

 1  AV 2 l
って,
l f  (1  p)l
r

A
l 
m  lr
 f 
l 2  K f K r 
(9)
I z  l f lr m
r
Fr
2Kr
2.3. モデル表記の簡略化
および
l r  pl
(10)
と記述できる.
(7)
(3)コーナリングパワ
荷重配分や車両質量と無関係にコーナリングパワの影響を
考察するために,次式のように荷重配分で重みをつけた質量
となる.ここで A がポジションコントロールのスタビリティ
で正規化した前輪コーナリングパワ Cf と,同後輪 Cr を用いる
ファクタである.
(7)
.
2.2. 操舵系モデル
Cf 
フォースコントロールを扱うために,図 2 に示す操舵系モ
2K f
pm
および
Cr 
2K r
(1  p )m
(11)
デルを図 1 のモデルの前輪と置換える.図 2 において操舵系
乗用車の場合,車両の大きさによらず,Cf は 80~100 程度,
の慣性モーメントはステアリングホイールだけに集中して存
Cr は 160~240 [m/s2]程度である(9).この表記を用いると A は
在するものと仮定し,さらにステアリングホイールの回転軸
 1
1 1

 
A 
C

 f Cr  l
は水平面内にあるものとする(6).なお操舵系に働くパワーア
シストの影響は,等価的にトレール長が変化するものとして
(12)
となるので,A は m や p と無関係である.
扱う.
ここで操舵トルクを Th,操舵系の慣性モーメントを Ih,操
舵系の回転減衰係数を Ch,タイヤのニューマチックトレール
さらにヨー固有振動数を ωn,ヨー減衰比を ζ とそれぞれ表
すと,
および操舵系のトレール長の和を ξ(ξ>0)と記すと,操舵系
2

n
の運動方程式は次のように記述できる.

I h Ch  F f  Th
(8)
 n 
Cr C f  lCr 

 1

l
l V2

C f  Cr
2V
式(1)~(6)および式(8)が,フォースコントロールにお
となる.さらに初期条件を全て 0 としてラプラス変換し,δ
ける運動方程式である.
に対する βf の伝達関数を求めると
- 108 -
 f (s)
lVs  (lCr  V 2 )
 2 2
 ( s) lV s  lV (C f  Cr ) s  [CrV 2  C f (lCr  V 2 )]
(5) 解析に用いるパラメータ
式(14)は,操舵系の運動方程式であるが,その中に βf が
となる.ここで s はラプラス演算子である.
含まれているので,式(1)~(6)と連立している.したが
これらの式は全て Cf と Cr,l,V だけで記述され,m や p は
って式(14)の右辺を 0 としたものが系全体の特性方程式に
含まれない.したがって m や p は,本論文におけるポジショ
なる.そこで式(14)の右辺を 0 としたうえで,さらに全て
ンコントロール応答と無関係であり,フォースコントロール
の初期条件が 0 であるとして,これをラプラス変換すると
の観点だけで用いることができる.
s2  2
(4) 操舵系のパラメータ
操舵系単独の固有振動数 ωS を
S 2
(19)
と書ける.
2K f
pmC f


Ih
Ih
(13)
式(19)左辺を記述するために必要な要素は Ch/2Ih と,ωS,
βf(s)/δ(s)である.これらの記述法について考察する.
まず βf に関する伝達関数 βf(s)/δ(s)は,2.3(3)項で述べたよう
として定義すれば,式(13)は
  2
 (s) 
Ch
2
s  S 1  f   0
2I h
 ( s) 

Ch 
Th
2
)
   S (   f 
2I h
Ih
(14)
に Cf と Cr,l,V だけでだけで記述できる.これらはポジショ
ンコントロールの観点から陽に扱い,それらの値を直接指定
と変形できる.従ってこの段階で,式(14)左辺の操舵系パ
するものとする.また V はポジションコントロールの特性を
ラメータは Ch/2Ih と ωS の二つだけである.
支配するが走行条件を表すパラメータなので,無次元化速度
しかし ωS は操舵系単体のパラメータにすぎず,車両全体の
安定性や応答性を直接表してはいない.そこで車両全体の安
としても標記される.
次に ωS の記述法は,前述のように式(18)を用いる.式(18)
定性を陽に表すために,ωS をフォースコントロールにおける
ωZ は Cf と Cr,l によって支配され,
には ωZ が含まれているが,
スタビリティファクタを用いた表記に変更する.
これらの値は,ポジションコントロールの段階で指定済であ
まず操舵系に減衰が含まれない場合の,フォースコントロ
(7)
ールにおける安定条件は次式で表される
B  2
V
1
lC r
そこで B を陽に用いることにし,無減衰下におけるフリーコ
.
(15)

る.したがって式(18)における ωS の設定自由度は B である.
2
ントロール安定性の観点から B の値を指定する.
なお ωS は式(13)として定義されている.式(13)におい
したがって安定条件は,B および無次元化速度 V/(lCr)1/2 の二つ
て Cf は,ポジションコントロールの段階で指定済であり,ま
のパラメータで記述される(この安定領域と不安定領域を図 3
た前段落において B を指定することによって ωS は決定済であ
に示す).ここで B はフォースコントロールにおけるスタビ
る.したがって B を指定することは,パラメータ設定自由度
リティファクタであり,次式のように定義される.
の観点からは式(13)において pmξ/Ih を指定していることと
B
2
S
2
Z
(16)
最後に式(19)左辺の Ch/2Ih は,操舵系の減衰特性として陽
ωZ は,舵角を固定したまま重心まわりに車両が回転運動をし
たときの固有振動数であり,次式で表される.
Z 2 
2l f K f  2lr K r
Iz
等価である.

C f  Cr
l
に用いることにし,その値を直接指定するものとする.
以上をまとめると,数値を直接指定するパラメータは,Cf
(17)
と Cr,B,Ch/2Ih,l,V である.また V は,フォースコントロ
ールにおける安定性の観点から無次元化速度 V/(lCr)1/2 の値も
したがって安定条件に直接影響する B を用いて ωS を表すと
(18)
S 2  Z 2 B
併記する.なお l については,その値は指定するが,l につい
となる.そこで本論文では ωS を直接扱うのではなく,B を変
タは B を指定することによって決定される.
てのパラメータスタディは行わない.これら以外のパラメー
数として間接的に ωS を変化させる.このことによって,車両
3. 数 値 解 析
全体の安定性の観点から根軌跡が俯瞰できるはずである.
以上のように操舵系パラメータを B と Ch/2Ih との二つによ
って表す.
]
n2
oi
s stable
ne
B m
i 1
d
n
o
n[
1 1
0
2
本章ではフリーコントロールの運動方程式である式(1)~
(6)および式(8)からなる運動方程式の特性方程式の根軌
跡を数値的に求め,その考察を行う.本論文は,この特性方
unstable
2
2
3
V / lCr
1
V
lC r
4
程式が二組とも共役複素根を持つ場合だけを扱い,それぞれ

2
5
[non dimension]
Fig.3 Unstable area with non-dimensional expression
の複素根のうち,その虚部が正のほうの根だけについて図示
および記述する.
なお根の実部は減衰の速さを,虚部は減衰固有振動数を,
絶対値は固有振動数を表す.
- 109 -
るが, V/(lCr)1/2=1/2 および V/(lCr)1/2=2)についても,上記の
3.1.根の分類
(3)
二輪車の解析では根を weave や wobble 等に分類している .
そこでこれにならって本節では二組の根を分類する.
現象が確認できた.なお V/(lCr)1/2=1/2 において B=2 のとき,
(重根の)実部と虚部の値が等しかった(-8.16497±8.16497j).
2
まず基礎解析(A=0)として Cf=Cr=200[m/s ],V=24.5[m/s]
(無次元化車速 V/(lCr)1/2=1),Ch/2Ih=0 の場合について,B を
0.5 から 10 まで7段階変化させて二組の根を計算した結果を
図 4 および表 1 に示す.
40
Moving direction of roots
when B increasing
B=10
次にこの二組の根に Cf が及ぼす影響を調べるために,図 4
の諸元のうち Cf を 200 から 100 [m/s2]に変更(A>0)した場合
について計算した結果を図 5 および表 2 に示す.
Cf の変化によって,図4における二組の根は,図5では異
30
離が大きい方の根を前輪コーナリングパワに支配される根
Imaginary part of root
Dominated by Cf
なった位置に移動している.そこで二組の根のうち,移動距
5
(以後「Cf に支配される根」),移動距離が小さな方の根を
20
後輪のコーナリングパワに支配される根(以後「Cr に支配さ
3
れる根」)と記す. なお Cf に支配される根が操舵系の根,
Cr に支配される根が車体系の根であると思われるので,その
2
2
確認例を付録 A にしめす.
1
B=0.5
3.2 基礎的考察
1.5 3
5
10
1.5 1
B=0.5
まず基礎的な考察として,応答が単純になることが予想さ
れる,A =0 場合である図 4 について考察する.
図4の根軌跡は,実部≒-4 の直線に関して左右対称に見え
Dominated by Cr
-10
-8
-6
る.もしそうであるならば,両者の実部の平均値は一定であ
-4
-2
Real part of root
10
0
0
2
り,したがって両者の実部の和もまた一定のはずである.そ
Fig.4 Roots loci plots (Cf=Cr=200[m/s2], Ch/2Ih=0, V=24.5[m/s],
こで二組の根の実部の和の値を表 1 の最右欄に示す.これら
V/(lCr)1/2=1)
の値は,あらゆる B において一定の-8.16496 である.そして
この値は,表 1 最下部に示すように,ポジションコントロー
ルの根(実数根の重根)と一致する.従って
 ポジションコントロールの根の実部
(20)
10
30
Imaginary part of root
フォースコントロールの2組の根の実部の和
40
Moving direction of roots
when B increasing
なる関係式が成立した.これが図 4 の全領域における性質で
ある.
5
次に B>2 の領域に注目する.この領域では二組の根の実部
が等しい.また Cr に支配される根の虚部は,B の増加ととも
Dominated by Cf
3
に減少するが,一定値(-4.082487±7.07107j)に収束する.一
方 Cf に支配される根の虚部は,B の増加とともに単調増加す
1
る.
1.5
2
行方向が 90°変化する.
B<2 の場合,二組の根の虚部が同じ値である.したがって
-10
二組の根の減衰固有振動数は等しい.
また B =0.5 の場合の実部が正の不安定根は,後輪に支配さ
-8
-6
2
3
B=0.5
B=2 の場合は重根になる.またこの点において根軌跡の進
1.5
5
1
10
Dominated by Cr
-4
-2
Real part of root
れる根である.
Fig.5 Roots loci plots (Cf = 100,
図 4 の計算諸元における車速は無次元化車速 V/(lCr)1/2=1 であ
V=24.5[m/s], V/(lCr)1/2=1)
- 110 -
20
10
0
0
B=0.5
2
Cr=200[m/s2], Ch/2Ih=0,
Table.1 Roots (Cf = Cr=200[m/s2], Ch/2Ih=0, V=24.5[m/s],
V/(lCr)1/2=1)
0.5
1.0
1.5
2.0
3.0
5.0
10.0
1.0E+05
1.0E+07
Real
Position
control
One root
Imaginary
-8.16496
Table.2 Roots(Cf=100,
Root dominated by C r
Real
Imaginary
0.57724
6.19513
0.00000
8.16497
-1.07865
9.61022
-4.08248
10.80120
-4.08248
8.23792
-4.08248
7.64642
-4.08248
7.32907
-4.08248
7.07109
-4.08248
7.07107
Sum of
The reals
-8.16496
-8.16496
-8.16496
-8.16496
-8.16496
-8.16496
-8.16496
-8.16496
-8.16496
The other root
Real
Imaginary
Sum of
The reals
0.00000
-8.16496
Nothing
の場合における二組の根の虚部の差は小さいことも図 4 と似
ている.また B=0.5 の場合の実部が正の不安定根は,Cr に支
配される根であることも図 4 と似ている.
なお図や表は省略するが,図 5 の諸元において V/(lCr)1/2=1/2
および V/(lCr)1/2=2 と変更した場合についても上記と同様の傾
向が確認できた.
3.4 後輪コーナリングパワの影響
次に Cr の影響を確認するために図 5 の諸元において Cr を
200 から 300[m/s2]に変更して計算した結果を図 6 に示す.
Cr=200[m/s2], Ch/2Ih=0, V=24.5[m/s],
B
0.5
1.0
1.5
2.0
3.0
5.0
10.0
1.0E+05
1.0E+07
Root dominated by C f
Root dominated by C r
Real
Imaginary
Real
Imaginary
-6.52950
6.91025
0.40578
6.05923
-6.12372
7.90569
0.00000
8.16497
-5.34404
8.45229 -0.77968
9.96956
-1.56229
12.07230 -4.56143
8.31701
-1.93218
15.88950 -4.19154
7.77765
-2.01424
21.38320 -4.10948
7.44125
-2.03581
30.98540 -4.08791
7.24073
-2.04124
3162.27000 -4.08248
7.07108
7.07107
-2.04124
31622.80000 -4.08248
One root
Real
Imaginary
Position
control
-6.12372
The other root
Real
Imaginary
5.40062
Nothing
Sum of
The reals
-6.12372
-6.12372
-6.12372
-6.12372
-6.12372
-6.12372
-6.12372
-6.12372
-6.12372
Sum of
The reals
30
5
Dominated by Cf
B=0.5
1
1.5
2 10
-10
2
3
-8
-6
本節では,標準的なアンダステア車を想定して,図 4 を基
まず図 5 全体を俯瞰すると,左右対称ではない.また B=1.5
1.5
1
10
B=0.5
Dominated by Cr
-4
-2
Real part of root
Fig.6 Roots loci plots (Cf = 100,
に図 5 について考察する.
20
3
5
-6.12372
3.3 前輪コーナリングパワの影響
40
Moving direction of roots
when B increasing
10
V/(lCr)1/2=1)
Imaginary part of root
Root dominated by C f
Real
Imaginary
-8.74220
6.19513
-8.16496
8.16497
-7.08631
9.61022
-4.08248
10.80120
-4.08248
17.28590
-4.08248
23.97640
-4.08248
35.30280
-4.08248
3651.47000
-4.08248
36514.80000
B
B<2 の場合,図 4 では二組の根の虚部は同じ値であったが,
図 5 では同じ値ではない.ただし B>2 の場合に比べれば B<2
0
0
2
Cr=300[m/s2], Ch/2Ih=0,
1/2
V=24.5[m/s], V/(lCr) =0.815)
と B=2 との間で,根軌跡が断絶している.これらの点が図 4
この場合においても,表は省略するが,式(20)は図 6 の場合
とは異なる.
しかし図 5 には,図 4 と似た現象もみられる.
においても成立した.
まず表 2 に示すように,この場合においても図 4 と同様に,
次に B>2 の場合は,B を増加させたとき Cr に支配される根
が収束する点が図 5 よりも左に移動している.この点は Cf を
式(20)が成立した.
次に B>2 の場合,Cr に支配される根の虚部は,B の増加と
ともに減少し,一点に収束するが,その点の座標は図 4 と全
変更しても変化しなかったので,この点の位置はコーナリン
グパワに関しては Cr だけに支配されていると思われる.
Cf に支配される根の虚部は,Cr の変更(図 5 から図 6 への
く同じ-4.08248±7.07107j である.
また Cf に支配される根の虚部は B の増加とともに増加する.
変更)によって上に移動する.これは B の値が一定でも,Cr
これらの根の移動の際,B>3 の領域では,B が変化しても根の
の増加のために ωZ が増加することによって,ωS も増加するた
実部はあまり「変化しない」ことも図 4 と似ている.
めであると思われる. したがって Cf に支配される根の虚部が,
さらに B=2 の付近では,前述のように軌跡が断絶している
が,図 4 では B=2 の根の位置で根軌跡の進行方向は 90°向きを
Cr の変更によって上に移動する現象は,見かけ上のことであ
る.
以上のことから B >2 の領域は,Cf の根は Cf だけに,Cr の
変えているので,B=2 の近辺で根軌跡が急変する性質は,図 4
と似ている.
根は Cr だけにほぼ支配される,両者が互いにほとんど独立し
- 111 -
た領域であると思われる.
次に B<2 の場合,Cr の変更によって Cf に支配される根が左
側に移動する.この理由は次のように考えられる.まず Cr が
フォースコントロール の2組の根の実部の和
C
 ポジショントロールの 実部  h
2I h
(21)
増加したことで,ポジションコントロールにおける根の実部
が増加する.その結果,図 6 における二組の根の実部の和も
なる関係式が図 8 において成立した.さらにこの現象は,図
増加する.その増加のわりには Cr に支配される根が左に動い
や表は省略するが,Ch/2Ih =0.1,1,2,15 の場合も確認できた
ていないので,Cf に支配される根が左に動かざるを得ないも
ので,普遍的性質であると思われる.(なお Ch/2Ih>15 の領域
のと思われる.
では根が実根を持つため,本論文の対象としない.)以上が
図 8 全体についての考察である.
3.5 車速の影響
次に B>2 の場合,B が増加するにつれて Cr に支配される根
B<2 の領域では,不安定になる車速域が存在し,その安定
が収束する点は,図 5 の場合と全く同じ-4.08248±7.07107j で
条件は式(15)で表されるので,この場合の性質は明快であ
ある.したがってこの収束点は操舵系減衰や Cf の影響を全く
る.そのためこの領域において改めて数値解析を行う必要は
受けないものと思われる.
ないと思われる.そこで本論文では常に安定である B≧2 の領
以上の現象の蓋然性を示すために,図 8 の諸元において Cf
域だけを対象とし,その代表値として B=5 の条件下で V を変
を 100 から 200[m/s2]に変更した結果を図 9 に示す.この変更
化させることで二組の根の軌跡を調べる.
により,Cf に支配される根は,左に移動する.(座標軸から
その結果を図 7 に示す.どちらの根も,車速を増加させる
はみ出た B =1 および 0.5 の点は省略した).そしてこの場合
と,固有振動数を意味する原点からの距離は,有意な変化を
でも,式(21)が成立した.さらに図 9 においても Cr に支配さ
せずに,実部が有意に減少する.すなわちどちらの根も,車
れる根が B の増加に伴って収束する点は 4.08248±7.07107j の
速を増加させると,固有振動数はほぼ一定のまま減衰比が減
ままであり,全く変化しない.以上のことによって前段落ま
少する.これが B≧2 の領域における車速の影響である.
での本節の考察の蓋然性が確認できる.
B=5
10
-20
-10
Real part of root
0
(A) Steering system
Imaginary part of root
20
24.5
B=5
49.0
10
8
6
4
V=12.2[m/s]
2
-10
-8
-6
-4
-2
Real part of root
B=10
5
(B) Body system
2
1.5
Fig.7 Roots loci plots (Cf = 100,Cr=200[m/s2], B=5[Non
dimension] , Ch/2Ih=0)
B=10 5
3 2
1.5
1
0.5
3.6 操舵系減衰の影響
Dominated by Cr
操舵系の減衰の影響を考察するために,図 5 の計算諸元に
-10
図 5 から図 8 への変化として,まず図 5 における B =1.5 と
20
3
1
よび表 3 に示す.
30
Dominated by Cf
0
おいて Ch/2Ih を 0 から 4[1/s]に変更した場合の根軌跡を図 8 お
40
Moving direction of roots
when B increasing
-8
-6
-4
-2
Real part of root
2 との間の根軌跡の断絶現象が図 8 では消滅した.ただし
Fig.8 Roots loci plots (Cf =100,
Ch/2Ih の値が小さいときは断続現象が現れる.その境界は,図
V=24.5[m/s], V/(lCr)1/2=1)
7 の諸元では Ch/2Ih≒1[1/s]付近であった.
また図 5 から図 8 への変化では, Cf に支配される根が左に
移動している.そのため二組の根の実部の和は,ポジション
コントロールの根の実部の値よりも大きい.その差は,表 3
から 4 でありこの値は Ch/2Ih の値と一致する.したがって
- 112 -
Imaginary part of root
49.0
Imaginary part of root
24.5
V=12.2[m/s]
10
0.5
0
0
2
Cr=200[m/s2], Ch/2Ih=4[1/s],
以上の性質を念頭に置くことで,二組の根を設定しうると
30
Dominated by Cf
5
20
3
2
B=1.5
V が増加するにつれて,二組の根とも固有振動数はほぼ一
定のまま,減衰比が減少した.
B=10 5
3 2
1.5
1
10
B=0.5
思われる.本論文がフォースコントロールにおける過渡応答
Imaginary part of root
B=10
3)車速の影響.(B>2 の場合)
40
Moving direction of roots
when B increasing
の性能向上に少しでも貢献できれば幸甚である.
記
号
m 車両質量 [kg]
l ホイルベース [m]
lf 前軸~重心間距離 [m]
lr 重心~後軸間距離 [m]
Iz ヨー慣性モーメント [kgm2]
Dominated by Cr
-10
-8
-6
-4
Fig.9 Roots loci plots (Cf =200,
-2
k ヨー慣性半径 [m]
0
0
2
Cr=200[m/s2], Ch/2Ih=4[1/s],
1/2
Kf 前輪等価コーナリングパワ [N/rad]
Kr 後輪等価コーナリングパワ [N/rad]
Ih 操舵系慣性モーメント [kgm2]
ξ トレール長(ξ> 0)[m]
V=24.5[m/s], V/(lCr) =1)
p 前輪荷重配分比 [無次元]
2
Table.3 Roots loci plots (Cf=100, Cr=200[m/s ], Ch/2Ih=4[1/s],
r ヨー角速度 [rad/s]
V=24.5[m/s], V/(lCr)1/2=1)
β 重心位置車体横滑り角 [rad]
Root dominated by C f Root dominated by C r
Real
Imaginary
Real
Imaginary
0.5 -8.06965
7.45759 -2.05407
4.83627
1.0 -7.98752
9.43131 -2.13620
6.25147
1.5 -7.58516
11.19980 -2.53856
6.94328
2.0 -7.17221
12.94920 -2.95151
7.22063
3.0 -6.69068
16.21800 -3.43304
7.29341
5.0 -6.37362
21.49680 -3.75010
7.22777
10.0 -6.18937
31.02110 -3.93435
7.15168
1.0E+05 -6.04125 3162.27000 -4.08247
7.07108
1.0E+07 -6.04124 31622.80000 -4.08248 7.07107
B
Sum of
The reals
-10.12372
-10.12372
-10.12372
-10.12372
-10.12372
-10.12372
-10.12372
-10.12372
-10.12372
βf 前輪位置車体横滑り角 [rad]
βr 後輪位置車体横滑り角 [rad]
δ
舵角 [rad]
Th 操舵トルク [Nm]
ThN 無次元化操舵トルク [無次元]
Ff 前輪横力(N)
Fr 後輪横力(N)
V 車速[m/s]
-4
One root
Real
Imaginary
Position
control
The other root
Real
Imaginary
Sum of
The reals
参 考 文 献
(1) 近森順ほか:モーターファン・ロードテストからみた自
動車性能の長期的変遷,自動車技術,Vol. 56, No. 11,
-6.12372
5.40062
Nothing
-6.12372
p.84-88(2002)
(2) 森和典ほか:後輪の位相反転制御による操縦安定性の向
4.お わ り に
上 -SUPER HICAS,自動車技術会学術講演会前刷集,No.891,
本論文では,フォースコントロールにおける操舵過渡応答
p.279-282(1989)
の設計の指針を得るために,Iz / lflrm =1 の条件下で,二組の根
(3) 自動車技術ハンドブック編集委員会編:自動車技術ハン
に注目して解析し,次の性質を見出した.
ドブック(第 1 分冊)基礎・理論編,第 7 章 操縦安定性の
1)二組の根の相互関係.
基礎・理論,p.264-313(2004)
二組の根の実部の和は,ポジションコントロールの場合の
(4) 安部正人:自動車の運動と制御,東京,山海堂,1992,247p.
根の実部と Ch/2Ih との和に等しかった.
(5) 入江南海雄ほか:リヤサスペンション特性が操縦安定に
2)根の位置.(B>>2 の場合)
及ぼす影響,自動車技術,Vol.39,No.3,p.275-285(1985)
Cr に支配される根は,B や Cf,Ch/2Ih の影響を殆ど受けず,
(6) 坂下和夫ほか:操舵系の特性を考慮した自動車の操縦安
定 性 に 関 す る 線 形 理 論 , 自 動 車 技 術 , Vol.18, No.4,
ほぼ一定値であった.
Cf に支配される根は,Cr の影響の影響を殆ど受けず,実部
はほぼ一定値であり,
B が増加するにつれて虚部も増加した.
p.268-273(1964)
(7) 酒井英樹:フォースコントロールにおける安定性とその
- 113 -
指標,自動車技術会論文集,Vol.44, No.2, p.441-448(2013)
次に B=3 の場合は,δ も βr も,B=10 の場合ほど明瞭な周期
(8) 穂積仁ほか:操舵系の高速操安性への影響,自動車技術,
の違いは観測されない.しかし βr の,2 番目に早い時刻の極
Vol.57, No.10, p.26-30(2003)
大値と,3 番目に早い極大値の値がほぼ同程度である.したが
(9) 北浜謙一ほか:正規化したコーナリングパワーを用いた
って単純な減衰振動としてふるまう δ の周期よりも長い周期
自動車の操舵応答性能の同定法,日本機械学会論文集(C編)
の運動が βr の運動に重畳されていることが,かろうじて読取
65 巻 633 号,p.1960-1965(1999)
れる.したがって B =3 の場合も,操舵系の根は Cf に支配され
る根に,車体系の根は Cr に支配される根に主に対応すると思
付録 A 操舵系および車体系の運動モード
われる.
Cf に支配される根が操舵系に対応する根,Cr に支配される
最後に B =1.5 の場合,βr の波形は,δ から概ね 0.2 秒遅れた,
根が車体系に対応する根であると思われるので,図 5 及び表 1
同形状に見えるため,二組の根の分類ができない.これは二
の計算諸元を用いてその確認を試みる.本節では,操舵系の
組の根の虚部の値が近いため,減衰固有振動数に大きな差が
運動として舵角 δ,車体系の運動として後輪位置車体横滑り角
ないためであると思われる.
βr に注目する.
以上のように二組の根を操舵系と車体系とに対応させるこ
時刻 t=0 において1[N]のトルクを操舵系にインパルス入力
をしたときの,δ および βr の時系列波形を図 A に示す.
とは B>3 の場合にしかできなかった.そこで本論文では,二
組の根を操舵系の根や車体系の根とは記さずに,「Cf に支配
まず B=10 の場合では δ の波形は,ほぼ一定周期の単調な減
される根」と「Cr に支配される根」と表記するものである.
衰振動としてふるまう.一方 βr の波形には,δ と同じ周期の
振動も現れているが,それよりも長い周期の運動も重畳され
ている.したがって操舵系の根は(虚部の大きいほうの)Cf
に支配される根に,車体系の根は(虚部の小さいほうの)Cr
に支配される根に主に対応すると思われる.
0.008
0.004
-0.004
Time [s]
2
0
-0.002
1
�[rad]
1
0.002
0.002
2
Time [s]
-0.004
0.0004
0.0004
0
-0.0004
1
Time [s]
(A) B=10
2
r [rad]
0.0008
r [rad]
0.0008
0
0
1
2
Time [s]
1
2
Time [s]
-0.002
0.0005
1
-0.0004
(B) B=3
2
Time [s]
r [rad]
0
 [rad]
�[rad]
0.004
0
-0.0005
(C) B=1.5
Fig. A Impulse Response of Steering system and Body system (Cf=100,Cr=200[m/s2] , Ch/2Ih=0, V=24.5[m/s], V/(lCr)1/2=1)
- 114 -
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