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農薬生殖毒性総合評価体系確立調査研究

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農薬生殖毒性総合評価体系確立調査研究
環境省請負業務報告書
農薬生殖毒性総合評価体系確立調査研究
内分泌撹乱作用の検出を目的とした検査項目を加えた
2 世代繁殖毒性試験法の検討
−リンデンおよびビンクロゾリンを用いた検証試験−
平成 17 年 8 月 1 日
株式会社三菱化学安全科学研究所
まえがき
この報告書は,環境省から株式会社三菱安全科学研究所に委託された「農薬生殖毒性総合
評価体系確立調査研究」の平成 11 年から平成 14 年度までの実施成果を総合的にとりまとめ
たものである.
本研究においては,我が国で実施する農薬の生殖毒性試験法について,内分泌撹乱作用を
指標とした農薬リスク評価試験法検討会*を設置して詳細な検討を行い,我が国における内
分泌撹乱作用の評価を含めた毒性試験法ガイドライン策定のための基礎資料を得ることを
目的とした.
平成 17 年 8 月 1 日
株式会社三菱化学安全科学研究所 鹿島研究所
研究所長
池田 保男
毒性第 1 研究部長
山本 恭之
主任研究員
松浦 郁夫
主任研究員
涌生 ゆみ
主任研究員
岩田 宏
副主任研究員
斉藤 哲司
*:内分泌撹乱作用を指標とした農薬リスク評価試験法検討会
座長 高橋 道人
昭和大学 薬学部 客員教授
(病理ピアレビューセンター)
青山 博昭
財団法人残留農薬研究所
毒性部 副部長 兼 生殖毒性研究室長
井上 達
国立医薬品食品衛生研究所
安全性生物試験研究センター センター長
加藤 正信
株式会社三菱化学安全科学研究所
技師長
鈴木 勝士
日本獣医畜産大学 獣医学部 教授
長谷川 隆一
国立医薬品食品衛生研究所
医薬安全科学部 部長
(五十音順,敬称略)
目 次
1. 研究課題.......................................................................................................................................1
2. 研究の背景...................................................................................................................................1
3. 内分泌撹乱作用検出のための検査項目として検討した毒性指標.........................................2
4. 研究方法.......................................................................................................................................2
5. 研究の成果...................................................................................................................................4
5.1 リンデンによる検証 .............................................................................................................4
5.2 ビンクロゾリンによる検証..................................................................................................6
6. まとめ...........................................................................................................................................7
添付資料
Ⅰ. リンデンのラットを用いた 2 世代繁殖毒性試験
Ⅱ. ビンクロゾリンのラットを用いた 2 世代繁殖毒性試験
参考資料
我が国で策定すべき内分泌撹乱作用を含む生殖毒性ガイドライン
i
1.
研究課題
内分泌撹乱作用の検出を目的とした検査項目を加えた 2 世代繁殖毒性試験法の検討
2.
研究の背景
農薬等の化学物質が生体の繁殖機能に及ぼす影響の評価については,従来からラット
等のげっ歯類を用いた 2 世代繁殖毒性試験が実施され,そのためのガイドラインが各国
で制定されている.その内容は交尾能や受胎能への影響の評価を主眼としたものである
が,毒性学の進歩に伴い,それらの毒性指標は検出感度が必ずしも高いものではないと
の指摘も見受けられる.そのような中,1996 年にコルボーンらの“Our Stolen Future(奪
われし未来)
”が出版され,野生生物の繁殖障害やヒトにおける精子数の減少,生殖器
の形態異常,精巣あるいは前立腺癌の増加傾向等の報告と相まって,その原因としての
内分泌撹乱化学物質の危険性がクローズアップされた.しかし,従来の試験法は必ずし
も化学物質の内分泌攪乱作用を検出するために設計されたものではないため,各国で毒
性指標の見直しが始まった.これらの状況を踏まえて「農薬生殖毒性総合評価体系確立
調査研究」の一環として,平成 9 年度に環境庁から株式会社三菱化学安全科学研究所に
委託された「農薬リスク評価試験ガイドライン策定調査」において,国際機関,米国等
の取組み等を参考に,我が国で適用すべき「農薬の生殖試験ガイドライン改定案(参考
資料)
」が検討された.
本研究は,上記の改定案で示した新たな検査項目の有用性の検証を行い,我が国にお
いて,農薬登録申請者が登録申請時に提出すべき試験成績のガイドラインを定めた「農
薬の登録申請に係る毒性試験成績の取り扱いについて(昭和 60 年 1 月 28 日付け 59 農
蚕第 4200 号農蚕園芸局長通知)
」
(以下「旧ガイドライン」という)の改定に資するた
めに,平成 11 年度から平成 14 年度まで実施されたものである.
この間,本研究の内容も踏まえつつ,農林水産省において旧ガイドラインの改定作業
が行われ,2000 年 11 月に「農薬の登録申請に係る試験成績について(平成 12 年 11 月
24 日付け 12 農産第 8147 号農林水産省農産園芸局長通知)
」
(以下「新ガイドライン」
という)として発出した.新ガイドライン制定後は,本研究は,新ガイドラインの検証
及びさらなる改定の必要性の有無の観点から行われたところであり,本報告書は,その
部分についてとりまとめたものである.
1
なお,諸外国における内分泌撹乱作用の評価も含めたガイドラインの改定状況は以下
のようである.−米国環境保護庁(EPA):1998 年に Health Effects Test Guidelines : OPPTS
870.3800, Reproduction and Fertility Effects を改定,OECD:2001 年に OECD Guidelines for
Testing of Chemicals : No. 416: Two-generation Reproduction Toxicity Study を改定−
被験物質として,エストロゲン作動系を撹乱する可能性が示唆されているリンデンと
抗アンドロゲン作用を有するビンクロゾリンを用いて,内分泌撹乱作用検出のための指
標を加えたラットの 2 世代繁殖毒性試験を実施し,内分泌撹乱作用の検出力および検査
項目の有用性について検討した(試験実施期間:リンデン,平成 11∼12 年;ビンクロ
.
ゾリン,平成 13∼14 年)
3.
内分泌撹乱作用検出のための検査項目として検討した毒性指標
本研究においては,平成 9 年度報告書で示したガイドライン改定案で内分泌撹乱作用
を検出するための指標として有用であると考えられた肛門・生殖結節間距離(Anogenital
distance, AGD)
,乳頭発達,性成熟(膣開口および包皮分離)
,性周期,精子形成(精子
,
細胞数,精巣上体尾部精子数,運動精子率,形態異常精子発現率,Tailless sperm 発現率)
生殖器官重量(精巣*,前立腺,精嚢,精巣上体*,卵巣*,子宮*;*:離乳時も測定)
,
血中ホルモン濃度(甲状腺ホルモン:TSH, T3, T4,性ホルモン:LH, FSH, prolactin,
testosterone, DHT, E2, progesterone)を検査項目として加えた 2 世代繁殖毒性試験を実施
し,検出感度等を含めてその有用性について検討した.
4.
研究方法
Crj:CD(SD)IGS ラットの雌雄に,リンデンは 10,60 および 300 ppm,ビンクロゾリン
は 40,200 および 1000 ppm の濃度で,混餌法により交配前 10 週間以上,交配,妊娠お
よび哺育期間を通して 2 世代にわたり経口投与し,従来のガイドラインである「農薬の
登録申請に係る毒性試験成績の取り扱いについて(昭和 60 年 1 月 28 日付け 59 農蚕第
4200 号農蚕園芸局長通知)
」で規定されている毒性指標に加えて,上記の内分泌撹乱作
用検出のための指標について検査した.この他に,器官重量には諸外国のガイドライン
を参考に,脳*,下垂体,甲状腺,胸腺*,肝臓,腎臓,脾臓*,副腎(*:離乳時も測定)
を加えた.また,児動物については医薬品の生殖発生毒性試験で一般的に検査されてい
2
る発育の指標である生後形態分化(耳介展開,上切歯萌出,眼瞼開裂)および神経行動
発達の指標である反射反応性(平面正向反射,角膜反射,聴覚性驚愕反応,疼痛反応,
空中正向反射)を検査した.さらに,データ解析の参考のため,肝薬物代謝酵素活性(チ
トクロム P450 含量,7-Methoxyresorufin O-dealkylase(MROD: CYP1A1)
,7-Ethoxyresorufin
O-dealkylase(EROD: CYP1A2)
,7-Benzyloxyresorufin O-dealkylase(BROD: CYP2B),
Testosterone 6 -hydroxylase ( T-6 -OH: CYP3A ), T4-UDP-Glucuronosyl- transferase
(T4-UDP-GT)を測定した.また,リンデンについては,神経系への影響を示唆する報
告があることから,F1 動物について情動性(open field test)
,運動協調機能(rotarod test)
,
学習機能(pole-climbing test)を検査した.以下に,試験フローを示す.
2世代繁殖毒性試験フロー
試験週
0w
5w
10w
15w
20w
25w
30w
35w
交配前
0w
5w
10w
凡例
♂24
♂ P450測定*
F0
♀24
一般状態
体重
摂餌量
摂餌効率*
△
性周期*
交配
▼
▼
妊娠期
0d
:投与期間
………
:検査項目
………* :新規追加項目
哺育期
22d 0d
21d
♀ ホルモン測定*
F0妊娠♀
交尾率
受胎率
妊娠期間
分娩・哺育
:検疫・馴化期間
♂ 精子検査*
器官重量*
ホルモン測定*
剖検
組織検査
△
分娩
P450測定*
器官重量*
剖検
組織検査
△
離乳
授乳期
♂ 精子検査*
器官重量*
ホルモン測定*
剖検
組織検査
離乳後
0w
1w
2w
3w
4w
5w
6w
7w
8w
9w
♂ P450測定*
10w
♂20
F1
♀20
△
△
児数調整 離乳
(♂4♀4) (♂2♀2)
↑
↑
2w
4w
P450測定*
試験条件
動物
群構成
(投与動物数)
投与経路
投与量
投与期間
ラット,Crj:CD(SD)IGS, SPF,日本チャールスリバー㈱
F0 : 雌雄各24匹/群 4群 = 192匹
F1 : 雌雄各24匹/群 4群 = 192匹
(雌雄各1匹/腹を継代用として離乳時に選抜)
経口(混餌法,濃度一定)
0, 100, 300, 1000 ppm
生存率
一般状態
体重
摂餌量
摂餌効率*
AGD*
反射反応性*
F0 : 6週齢から交配前10週間以上,F1の離乳まで
F1 : 離乳時(3週齢)から交配前10週間以上,F2の離乳まで
生後形態分化*
性成熟(膣開口,包皮分離)*
△
交配
性周期*
▼
▼
0d
F1妊娠♀
交尾率
受胎率
妊娠期間
分娩・哺育
(max.3週間)
妊娠期
哺育期
22d 0d
21d
△
分娩
△
離乳
♀ ホルモン測定*
P450測定*
器官重量*
剖検
組織検査
授乳期
0w
1w
2w
♂
児 器官重量*
剖検
F2
乳頭発達検査*
♀
器官重量*
剖検
△
△
児数調整 離乳
(♂4♀4)
生存率
一般状態
体重
AGD*
乳頭発達検査*
3
5.
研究の成果
5.1 リンデンによる検証(添付資料Ⅰ)
リンデンを 2 世代にわたり投与した結果,親動物への一般毒性学的影響,繁殖機能へ
の影響および児動物の発育への影響は認められたものの,内分泌撹乱作用を検出するた
めに追加した指標には明確な変化は認められなかった.すなわち,親動物への一般毒性
学的影響として,F0 および F1 動物ともに 300 ppm 群において雌雄で体重増加抑制およ
び摂餌量減少,雌で死亡が認められた.また,F1 動物では 300 ppm 群の雌で妊娠末期
に痙攣,分娩後にいらだち等の過敏性が観察された.病理検査では,F0 および F1 動物
とも肝臓の重量増加を伴った小葉中心性肝細胞肥大が 10 あるいは 60 ppm 以上の群の雌
雄,腎臓の重量増加を伴った近位尿細管上皮の硝子滴増加および好塩基性尿細管が 10
ppm 以上の群の雄で認められた.内分泌系器官では,下垂体重量の減少が 300 ppm 群の
F0 動物の雌,F1 動物の雌雄,副腎重量の増加が 300 ppm 群の F1 動物の雌雄で認めら
れたが,これらの変化と関連する組織学的異常は認められず,内分泌撹乱を示唆する明
らかな変化はなかった.また,甲状腺ろ胞上皮の肥大が F0 動物では 300 ppm 群の雌,
F1 動物では 60 ppm 以上の群の雄で認められ,血中甲状腺ホルモン濃度測定において F0
および F1 動物とも T3 あるいは T4 の低下または低下傾向が 300 ppm 群の雌雄で認めら
れた.肝薬物代謝酵素活性測定では甲状腺ホルモン抱合酵素である T4-UDP-GT 活性の
上昇が認められたことから,甲状腺の組織変化および血中甲状腺ホルモン濃度の変化に
ついては,肝臓における薬物代謝酵素誘導に伴った二次的変化と考えられた.生殖器の
重量および病理学組織的検査ならびに血中性ホルモン濃度においては雌雄ともリンデ
ンに起因する変化は認められなかった.なお,肝薬物代謝酵素活性測定の結果,F0 お
よび F1 動物の雌雄とも 10 ppm 群から用量依存的な活性の上昇が認められた
(BROD >>
EROD > MROD, T-6 -OH, T4-UDP-GT)
.したがって,リンデンは CYP2B 分子種に対す
る誘導作用が最も強く,CYP1A,CYP3A および UDP-GT 等の複数の薬物代謝酵素に対
しても誘導作用を有することが示唆された.
繁殖機能への影響として,300 ppm 群の F1 母動物で授乳行動あるいは児の回集行動
の欠如等,哺育行動の異常とそれに伴う F2 動物の全出産児死亡が認められた.哺育機
能への影響については,F1 母動物で痙攣および過敏性が観察されていることから,リ
ンデンによる神経系への影響による可能性が考えられた.性周期,精子形成,交尾能,
4
受胎能,妊娠および分娩にはリンデンの影響は認められなかった.
児動物への影響として,F1 および F2 児動物とも雌雄で 60 ppm 以上の群で体重増加
抑制,300 ppm 群で胸腺および脾臓重量の減少が認められた.また,F2 児動物では 300
ppm 群で母動物の哺育異常に起因した生存率の低下が認められた.さらに,離乳後の
F1 動物(F1 親動物)では 300 ppm 群で雌雄とも性成熟(雄:包皮分離,雌:膣開口)
の遅延が認められた.これらのうち,胸腺および脾臓重量の変化については,対応する
組織学的異常は認められなかったこと,および F1 親動物の剖検では異常がみられなか
ったことから,これらの変動は発育抑制に伴った変化と考えられた.また,性成熟の変
化についても,被験物質の内分泌活性に基づく場合は,アンドロゲン作動系またはエス
トロゲン作動系のいずれか一方がより強く阻害されると推測されるにもかかわらず,今
回は雌雄ともに遅延が認められたことから,発育抑制に伴った変化と考えられた.内分
泌撹乱作用検出のために追加した肛門・生殖結節間距離および乳頭発達には,雌雄とも
変化は認められなかった.また,F1 動物の行動検査においても,情動性,運動協調機
能および学習機能のいずれにも明確な変化は認められなかった.
以上のように,リンデンでは親動物に死亡等の重篤な毒性が発現する用量でもいずれ
の世代においても内分泌撹乱作用の検出のために追加した指標に明確な変化は認めら
れなかった.リンデンはエストロゲン様作用あるいは抗エストロゲン作用を有するとの
報告があるが,環境省のプロジェクトにおいて実施されたリンデンの uterotrophic assay
および Hershberger assay では,エストロゲン様作用および抗エストロゲン作用は検出さ
れず,アンドロゲン様作用および抗アンドロゲン作用も認められなかったことが報告さ
れている.少なくとも,これらの結果からはエストロゲン作動系とアンドロゲン作動系
に関しては,in vivo 試験でリンデンの影響について再現性を得ることは困難と考えられ
る.したがって,試験方法の妥当性を検証する観点からは,さらに内分泌活性が明確な
他の物質を用いた試験を実施して知見を集積し,検討する必要があると考えられる.な
お,リンデンの過去に実施された 100 ppm を最高用量とした 3 世代繁殖毒性試験では,
次世代および繁殖機能への影響はなかったことが報告されている.しかし,本試験にお
いて最大耐量付近の用量である 300 ppm を投与することにより,次世代の発育および繁
殖機能への影響が捉えられた.このことから,2 世代繁殖毒性試験において適切な用量
を設定すればより鋭敏に,化学物質の生殖発生毒性を検出できるものと考えられる.
5
5.2 ビンクロゾリンによる検証(添付資料Ⅱ)
ビンクロゾリンを 2 世代にわたり投与した結果,親動物および児動物の雄において
AGD,乳頭発達,性成熟,生殖器官重量,血中性ホルモン濃度等の内分泌撹乱作用を検
出するために追加した指標で抗アンドロゲン作用による変化が捉えられた.また,従来
からの指標である病理組織学的検査および交配においても影響が捉えられた.すなわち,
親動物への内分泌撹乱作用による影響として,F0 および F1 動物とも雄では下垂体およ
び精巣重量の増加,精巣上体重量の減少が 1000 ppm 群で認められ,F1 動物では前立腺
および精巣上体重量の減少が 200 ppm 群から,精嚢重量の減少が 1000 ppm 群で認めら
れた.病理組織学的検査では,F0 および F1 動物ともに雄で下垂体の好塩基性細胞の肥
大が 200 ppm 以上の群,精巣の間細胞のび漫性増生および精嚢粘膜の萎縮が 1000 ppm
群で認められた.さらに F1 動物のみの変化として,前立腺の分泌液減少が 200 ppm 以
上の群で認められた.また,血中性ホルモン濃度測定では,F0 および F1 動物ともに
LH,FSH,Testosterone および DHT の上昇あるいは上昇傾向が 1000 ppm 群の雄で認め
られた.
この他,一般毒性学的影響として,1000 ppm 群で体重増加抑制が F0 および F1 動物
の雌ならびに F1 動物の雄,摂餌量減少が F0 および F1 動物の雌で認められた.また,
病理学的検査では,F0 および F1 動物ともに肝臓の小葉中心性肝細胞肥大が 200 ppm 以
上の群の雄および 1000 ppm 群の雌,副腎の束状帯/球状帯の脂肪滴増加が 200 ppm 以
上の群の雄および 40 ppm 以上の群の雌,卵巣の間質細胞の増生および黄体細胞の空胞
化が 1000 ppm 群の雌で認められ,ほとんどの組織変化が重量変化を伴っていた.また,
血中甲状腺ホルモン濃度測定において,T3 および T4 の低下あるいは低下傾向が,F0
動物では 1000 ppm 群の雄および 200 ppm 以上の群の雌,F1 動物では 1000 ppm 群の雌
雄で認められた.肝薬物代謝酵素活性測定では甲状腺ホルモン抱合酵素である
T4-UDP-GT の活性の上昇が認められたことから,血中甲状腺ホルモン濃度の変化につ
いては,肝臓における薬物代謝酵素誘導に伴った二次的変化と考えられた.なお,肝薬
物代謝酵素活性測定の結果,1000 ppm 群では F0 および F1 動物の雌雄ともいずれの代
謝酵素活性も上昇を示したが,BROD 活性に最も顕著な上昇が認められ,ビンクロゾリ
ンは主に CYP2B 分子種に対する誘導作用を示すことが示唆された.
繁殖機能への影響として,1000 ppm 群で F1 動物において雄に起因した顕著な受胎率
6
の低下が認められた.しかし,精子形成への影響は F0 および F1 動物とも認められなか
った.不妊雄動物には生殖結節(包皮)の裂および陰茎の発育不全が認められたことか
ら,不妊の原因は外生殖器の形態異常が関連している可能性が考えられた.一方,雌に
おいては性周期,交尾能,受胎能,妊娠,分娩および哺育行動のいずれにおいても F0
および F1 動物ともにビンクロゾリンの影響は認められなかった.
児動物への影響として,F1 動物で雌雄とも体重増加抑制が 1000 ppm 群で認められた
他,雄では内分泌撹乱作用検出のために追加した種々の指標でビンクロゾリンの抗アン
ドロゲン作用によると考えられる変化が認められた.すなわち,AGD の短縮が F1 動物
では 1000 ppm 群,F2 動物では 200 ppm 以上の群,乳頭あるいは乳輪の遺残が F1 動物
では 200 ppm 以上の群で,F2 動物では 40 ppm 以上の群で認められた.また,精巣上体
重量の減少および生殖結節(包皮)の裂,vaginal pouch 等の外生殖器の形態異常が F1
および F2 動物とも 1000 ppm 群で認められた.さらに,F1 動物の雄では,性成熟検査
において包皮分離の遅延が 200 ppm 以上の群で認められた.雌においては,いずれの検
査項目においても内分泌撹乱を示唆する変化は認められなかった.
以上のように,ビンクロゾリンでは今回追加した内分泌撹乱作用を検出するための指
標である AGD,乳頭発達,性成熟,生殖器官重量および血中性ホルモン濃度において,
ビンクロゾリンの抗アンドロゲン作用によると考えられる次世代の雄への影響が捉え
られ,併せて次世代の雄の顕著な繁殖障害が検出された.これらの結果は種々の研究報
告と一致し,特に乳頭/乳輪の遺残については現時点でビンクロゾリンの内分泌撹乱作
用が報告されている最も低い用量とほぼ同じ用量で異常が検出され,検出感度において
も充分高いことが示唆された.
6.
まとめ
リンデンを用いた試験において,親動物に死亡等の重篤な毒性が発現する用量を投与
しても内分泌撹乱作用検出のために追加した指標には変化が認められなかった.リンデ
ンは内分泌撹乱作用を有するとの報告があるものの,その作用はごく弱いものと推察さ
れ,ガイドラインで推奨された条件下で実施した本試験においては毒性として捉えられ
なかったものと考えられる.なお,今回の試験で,リンデンの最大耐量付近の用量を投
与することにより,従来の試験では捉えられなかった次世代の発育および繁殖機能への
7
影響が捉えられた.
このことは,
2 世代繁殖毒性試験において適切な用量を設定すれば,
化学物質の生殖発生毒性を十分捉えられることを示唆している.
一方,ビンクロゾリンを用いた試験では,内分泌撹乱作用検出のために追加した指標
である AGD,乳頭発達,性成熟,生殖器官重量および血中性ホルモン濃度においてビ
ンクロゾリンの抗アンドロゲン作用による次世代の雄への影響が捉えられ,併せて次世
代の雄の繁殖障害が検出された.特に,乳頭/乳輪の検査は抗アンドロゲン作用に対し
て最も検出感度が高いことが示唆されたことから,平成 12 年度に改定された我が国の
農薬毒性評価ガイドライン「農薬の登録申請に係る試験成績について」を再改定する際
には,内分泌撹乱作用に関する検査項目として追加を検討すべき有用な指標と考えられ
た.また,上記ガイドラインに追加された検査項目(性成熟,精子検査,性周期)のう
ち,性成熟については,抗アンドロゲン作用によると考えられる変化が検出され,実際
の試験ガイドラインとして用いる検査項目としての有用性が確認された.また,精子検
査および性周期に関しては,多くの研究がこれらの指標が内分泌撹乱作用を検出し得る
有用な項目であることを示している.本試験において,精子検査では変化は認められな
かったが,精子形成に重要な血中アンドロゲン濃度は対照群より高値を示していたこと
から,ビンクロゾリンの抗アンドロゲン作用に対してフィードバック機構が働き,精子
形成への影響は生じなかったものと推察される.性周期の変化は,雌に対して内分泌撹
乱作用を示す多くの化学物質で報告されている.本試験では雄に対して作用を示すビン
クロゾリンを用いたため,その有用性は確認できなかったが,性周期検査も精子検査と
同様,ガイドラインの項目として有用な毒性指標と考えられる.血中ホルモン濃度測定
については,ビンクロゾリンで変化が認められたが,最高用量群でのみの変化であり,
検出感度は高くはなかった.血中ホルモン濃度は測定時期や個体によるばらつきが大き
く,測定費用も高額であることを考慮した場合,むしろ発現機構の裏付けとして,必要
な場合に測定するのが適切と思われた.
以上の結果から,平成 12 年度に改定された我が国の農薬毒性評価ガイドライン「農
薬の登録申請に係る試験成績について」で推奨されている 2 世代繁殖毒性試験は,内分
泌撹乱作用も含めた農薬の生殖毒性を評価する試験法として特に問題はないことが今
回の調査研究よって確認されたと考えられる.
8
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