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日本計画行政学会論文タイトル(14pt MSゴシック)

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日本計画行政学会論文タイトル(14pt MSゴシック)
戦略マップで表す訪日観光振興における行政の役割
-ニセコひらふ地域豪州スキー客集客の事例から
The Role of the Government in Promoting Inbound Tourism
Expressed by a Strategy Map: The Case of Niseko Hirafu
山本千雅子
大島 淳一
グラデュウス・マルチリンガルサービス株式会社
社団法人 雪センター
(
1.はじめに
地球規模での観光客誘致の重要性から、
日本政府は訪日観光客を平成 22 年までに 1 千万人に増加す
ることを政策目的とするビジット・ジャパン・キャンペーンを平成 14 年に閣議決定した。国内のスキ
ー場入込客数は最盛期の 6 割程度と激減しているが、北海道のニセコひらふ地域(倶知安町)は豪州
スキー客の宿泊延数が平成 13 年度の 3,269 人泊から平成 17 年度には 75,492 人泊と 5 年間に約 20 倍
増加し(図 1)1)、訪日観光客集客の成功事例として注目されている。スキー場を擁する積雪寒冷地は概
して高齢化と過疎化が深刻で、訪日観
3,2 69
75,492
6,139
54,7 22
300,000
光客誘致による経済効果は地域の持続
25,688
性に貢献すると期待される。
250,000
宿
本研究は訪日スキー客を対象とした
泊 200,000
客
289,231
アンケート調査と関係者インタビュー
延 150,000
268,861
数
からひらふ地域が集客に至った背景を
214,878
208,912
209,408
100,000
人
戦略マップで表し、さらに行政(自治
50,000
体)の観光振興政策の視点からみた戦
略マップ(観光政策戦略マップ)を作
0
H13
H14
H15
H16
H17
成し行政の役割を提示することである。
年度
)
国内観光客
海外観光客
2.ニセコひらふ地域
図1.倶知安町観光客延べ宿泊数の推移(12 月~3 月)
パウダースノーを誇るグランひらふス
キー場(ニセコアンヌプリ東斜面)を擁し、蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山を正面に望む景色の良い集落
である。スキー場周辺に自然発生的に民宿やホテル、飲食店が集積し、その外側に別荘地という形で
発達した。行政(倶知安町)は観光振興そのものには積極的な関与はせず、上下水道などインフラ整
備で観光事業を支えてきた。平成 16 年ごろから豪州をはじめ国内外の資本によるコンドミニアム建
設など長期滞在型の観光地として欧米型の開発が進んだが、昭和 30 年代から開発された同地区は都
市計画の網をかぶせる前に分譲が終わっていたため土地利用規制がないことから、外国資本が敷地い
っぱいに建物を建て屋根の雪を敷地外に落とすなどのトラブルが多発した。その解決方法が緊急課題
となり、住民が組織したひらふ地域の景観まちづくり団体と倶知安町は平成 18 年 4 月に景観協定を
締結した。当初は町による景観条例が検討されたが、後志支庁の「羊蹄山麓広域景観づくり推進協議
会」にその役割は委ねられた。しかし、各自治体の景観規制に対する緊急度と温度差は否めず条例制
定には至っていない。その間にも全国基準地価(国土交通省)で住宅地の上昇率全国一の前年同期比
33.3%増と高沸し、多くの地元業者が外国資本に不動産を売却した。平成 13 年には同地域に 1 軒し
かなかった外国人所有不動産は、コンドミニアムを除いて 121 軒(平成 18 年末)に増加している。
3.豪州人訪日スキー客集客の成功要因調査
3.1 文献調査/インタビュー調査
ニセコひらふ地域に関連した行政による訪日観光客推進事業について調査したが、倶知安町、後志
本論文は、2007 年に計画行政学会全国大会の予稿集に掲載されたものです。
無断転載ご遠慮ください。連絡先:グラデュウス・マルチリンガルサービス株式会社
[email protected]
支庁、北海道、国のいずれも特別なキャンペーンを行って豪州スキー客を誘致した経緯はなかった。
したがって豪州スキー客は自然発生的に増加したといえる。同地域に7社あるカヌーやラフティング
などの自然体験ツアー主催者の草分けで国土交通省の観光カリスマにも選出されている豪州人のロ
ス・フィンドレー氏は、ニセコに来た本国の友人らが帰国後、ニセコの良さをさらにその友人に伝え
たことから豪州のスキー愛好者にニセコの良い雪質が知られ、集客に至ったと述べている。
3.2 アンケート調査
イベント 広告
ニセコひらふに来訪した豪州人を主体とする訪日スキ
1%
3% 誤記入
旅行代理店
4%
ー観光客を対象にアンケート調査を実施した。
(平成 17
7%
年 2 月 3 日~4 日と 2 月 15 日~16 日。スキー場レスト
旅行業界
ランで昼食時に配付し現場で回収。有効回答 286 票。
)
インターネット 23%
友人
12%
48%
主な調査項目は①ひらふを知ったきっかけ、②ひらふの
人づて
パブリシティ
新聞
62%
良いところ(来訪後の評価)
、③今後のひらふに望むこと
11%
1% 雑誌
2)
6%
で、記述式アンケートをキーワード分析 で集計した。
テレビ
4%
以下は結果である。
評判
9%
スキーショップ
①ひらふを知ったきっかけ 62%が口コミ
(48%が友人、
2%
家族
3%
評判が 9%)
、23%が旅行業界から、11%がマスメディア(新
図2. ひらふを知ったきっかけ
聞・雑誌・テレビ・航空会社の機内誌)である(図2)
。
②ひらふの良いところ(来訪後の評価) メディア等から見・聞いてきたことを実際に自分で体験し
た後で、改めて「良い」と評価した項目は、
「雪質」が 82.2%、
「親切な人」が 20.3%、
「文化体験」が
19.2%、
「食べ物」が 15.3%である(図3)
。つまり、ひらふが豪州スキー客を惹き付けた一番の「資源」
は雪質であり、次いで「親切な地元の人」と「文化」
・
「食べ物」であることが明らかになった。
③今後のひらふに望むこと 41.0%が今のままの日本の田舎の文化・親切さを保つことを望んでおり、
日本的な「エキゾチックな雰囲気」に加え、
「おおらかな田舎の雰囲気」
、
「地域の人々の純朴な親切さ」
に魅力を感じている(図4)
。その一方で、西洋式なホテルやレストランを求める人もいる(5.6%)。
41.0
90.0
82.2
回答者数(%)
80.0
(
回 70.0
答 60.0
者 50.0
数
40.0
10.9
)
% 30.0
20.0
3.0
2.6
1.9
日 本 レ ス ト ラ ンを 増 や す
禁煙
A T Mの設 置
英語標記
リ フ ト ・ス キ ー 場 の 改 善
変 え な い (日 本 ・田 舎 ・親 切 な
人達 )
日本文化
親 切 な人
温泉
図3.ひらふの良いところ
5.6
西 欧 的 な ホ テ ル ・レ ス ト ラ ン
3.6
食物
3.2
自 然 ・景 色
ス キ ー ・ス ノ ー ボ ー ド
良 い雪 質
ア ク セ ス の 良 さ ・時 差
価格
雰囲気
10.0 5.0 2.1 2.8
0.0
19.2 20.3
15.3
12.8
12.0
図4.今後のひらふに望むこと
3.3 豪州人スキー客のひらふ来訪までの経緯と成功要因
図5は平成 13~16 年度における豪州スキー客の来訪までの経緯とそれに影響を与えた項目との因
果関係を年次別にまとめたものである。満足した客がリピーターになるとともに、下から上への矢印
が示すように口コミで新たな顧客を呼び込むというシステム・ダイナミクスが働き、年を追うにつれ
来訪客数が増加した。
平成 16 年度には宿泊と新千歳-ひらふ間の地上交通のパッケージが豪州で販売
本論文は、2007 年に計画行政学会全国大会の予稿集に掲載されたものです。
無断転載ご遠慮ください。連絡先:グラデュウス・マルチリンガルサービス株式会社
[email protected]
され、またビジネスチャンスとみた多くの外国人が英語圏顧客のニーズに巧みに対応した事業で積極
的に参入し、さらに集客に拍車をかけた。
ひらふの対応
友人を誘う
ひらふ来訪豪州スキー客の主な行動パターン
~平成13年度
ひらふの友人に
誘われる
平成14 ・ 15年度
口コミで聞く
来訪前
情報収集
(知人、インターネット)
現地問合わせ・予約
(インターネット、fax、電話)
英語の問い合せに丹念に回答
豪州人のニーズに合わせた商品開発
親切・暖かい歓迎
雪質
友人を訪問
来訪
満足
満足
満足
伝道師・リピート
伝道・リピート
伝道・リピート
平成16年度~
口コミで聞く
マスメディアで知る
情報収集(知人、代理
店、インターネット)
旅行代理店
で購入
現地問合わせ・予約
(インターネット、fax、電話)
来訪
満足
異文化
伝道・リピート
来訪中・後
図5.平成 13~16 年度シーズンの来訪豪州スキー客の来訪経緯と地元の対応の因果関係
4.戦略マップ
4.1 バランス・スコアカード(BSC)
戦略マップは企業や行政組織等のマネジメントツールであるバランス・スコアカード(BSC)3)の
プロダクツとして作成されるもので、目標達成に至るまでの各要因の因果関係を有向グラフで表す。
民間における導入の成功事例には東京三菱銀行や米国のモービル石油などがある。行政評価のツール
としても注目され、米国の行政組織や教育機関、日本でも三重県病院庁で導入されている。
BSC は、従来のように財務的な視点のみで組織の業績を評価するのではなく、財務、顧客、プロセ
ス、学習と成長という 4 つの視点から組織をマネジメントする。
「財務の視点」とは収益の視点であ
る。
「顧客の視点」とは顧客がどのように見ているか、組織の存続・成長に重要な外部の視点である。
「プロセスの視点」とは組織がどのように物事を運ぶかという内部の視点で、
「学習と成長の視点」と
は新しい技術革新を取り入れ人材の教育を行うという、組織が継続して成長する能力に関する長期的
視点である。通常は財務の視点を一番上に、次に顧客の視点、プロセスの視点、一番下に学習と成長
の視点をおいて、それぞれの視点に含まれる項目の相互関係を矢印で示す戦略マップを作成する。
4.2 ニセコひらふ地域の観光戦略マップと行政の観光政策戦略マップ
図6(1)は前述の調査に基づくひらふの平成 16 年度の集客経緯から作成した観光事業の戦略マップ、
図6(2)は行政の観光政策戦略マップである。大きな違いは、前者の「顧客」が観光客であるのに対し、
後者では法人を含む住民である。また、前者では「観光事業収入の増加」が目標なのでBSCの一番
上は「財務の視点」だが、後者は「地域の福祉の増進」
(地方自治法 1 条の 2)と少子高齢化社会にお
ける地域の生き残りが目標なので「住民の視点」が一番上になる。いずれにとっても観光地として持
続するには、4 割の豪州客が魅力と答えている日本の田舎の文化・親切さを保つ必要がある。ひらふ
の観光事業者にとって長期の視点とは3~5年先のことであるが、
行政には少なくとも10年先を見て、
日本人事業者が生き残り、外国人事業者と協同して景観と地域を維持・育成する戦略が求められ、そ
のために私権を制限する規制
(条例)
も地域の存続と福祉の増進という公益の視点から検討されよう。
本論文は、2007 年に計画行政学会全国大会の予稿集に掲載されたものです。
無断転載ご遠慮ください。連絡先:グラデュウス・マルチリンガルサービス株式会社
[email protected]
観光事業収入の増加
目 標
財務の視点 顧客(
観光客)
の視点
戦略
リピータ獲得
新規集客
口コミ集客
リピータ獲得
ひらふに
行きやすい
時差が無い
アクセスが便利
宿泊予約が
しやすい
飛行時間
が短い
日本の田舎
温泉
すぐ乗れる
リフト
良い雪質
内部プロセス
の視点
おもてなし
の向上
安全な集落
スキー場-ホテル
無料循環バス
顧客ニーズ理解
力の向上
夕食無
宿泊の提供
学習と成長の視点
情報発信
英語コミュニケーション能力
宿泊施設の整備
フェイス・ツー・フェイス
のコミュニケーション
ベッド・トイ
・トイレ・バス
レ・バス
付の部屋
英語ウェブサイト
リフト券
利便性向上
英語情報
(印刷物)提供
直行便
英語問い合わせ
メール対応
海外スキー愛好家
へダイレクトアプローチ
スキー環境
日本の飲食店
地上交通と宿泊
のパッケージ
宿泊予約機能付き
ウェブサイト
親切な地元の人
異文化体験
割安
パブリシティ
(無料広告)増加
外国人事業主・
従業員の増加
長期滞在向け
ゆとりのある施設
英会話講習
図6(1) ひらふの集客経緯を表す戦略マップ
目 標
戦略
地域の存続・福祉の増進
人口の維持・増加
顧客(
住民)
の
視点
若年層の就労
経済活性化・税収増
新規移住者
コミュニティ
環境・景観・安全の
維持・向上
観光産業による
雇用の確保
財務の
視点
観光就労者の
消費
観光客の消費
内部プロセスの視点 学習と成長の視点
訪日観光客の増加
訪日観光客数の長期維持
スキー場
英語情報提供
日本の田舎
の雰囲気維持
親切な地元の人
英語情報発信
海外スキー愛好家
へダイレクトアプローチ
英語ウェブサイト
外国人事業主・
従業員の増加
英会話講習
他産業への
波及効果
観光客ニーズに
合わせたサービス
飲食店
の維持
景観保全
規制・ルールの策定
ペンション・民宿
の維持
ベッド・トイレ・バス
付の部屋
スキー場施設
の改善
長期滞在向け
ゆとりのある施設
多様な宿泊施設の開発
図6(2) 行政の観光政策戦略マップ
参考文献
1) 北海道経済部振興課、
「北海道観光客入込客数調査:平成 13 年~17 年」
2) 山本千雅子等、
「記述式アンケート回答の定量化による札幌市民の除雪に対する「不満足度」の評
価」
、
『第 20 回寒地技術論文・報告集、Vol. 20』
、pp 623~630、 2004
3) デビット P.ノートン、
「バランス・スコアカードの実学」
、
『ハーバードビジネスレビュー』
、ダイ
ヤモンド社、2003
本論文は、2007 年に計画行政学会全国大会の予稿集に掲載されたものです。
無断転載ご遠慮ください。連絡先:グラデュウス・マルチリンガルサービス株式会社
[email protected]
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