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徳島県におけるクルマエビ種苗の放流効果について (放流サイズの影響)
徳 島 水 研 だより第 66 号 (2008 年 8 月 掲 載 ) 徳島県におけるクルマエビ種苗の放流効果について (放流サイズの影響) 海洋資源担当 池脇 義弘 Key word ; クルマエビ,徳 島 県 ,標 識 放 流 ,尾 肢 切 除 法 ,放 流 サイズ,放 流 効 果 はじめに これまで徳 島 県 では,瀬 戸 内 海 4 府 県 (徳 島 県 ,和 歌 山 県 ,兵 庫 県 ,大 阪 府 )共 同 で, 尾 肢 切 除 法 という標 識 方 法 を用 いたクルマエビの標 識 放 流 調 査 をおこなってきました。 尾 肢 切 除 法 というのは,クルマエビ種 苗 の尾 肢 (俗 にいう「エビのしっぽ」の片 方 をハサ ミで切 って放 流 するという方 法 (図 1)です。切 った尾 肢 は脱 皮 と共 に再 生 してゆきますが, その再 生 が不 十 分 (大 きさが小 さい,褐 色 の帯 の幅 が狭 い,図 1)なので標 識 となります。 2001 年 から続 いたこの共 同 放 流 調 査 によって,大 阪 湾 ,紀 伊 水 道 海 域 における放 流 クルマエビの成 長 ,移 動 ,放 流 効 果 (回 収 率 ,回 収 金 額 )などが明 らかになってきました。 なかでも,県 境 を越 えた移 動 の実 態 が明 らかになったことは大 きな成 果 でした。徳 島 県 で 放 流 したクルマエビ種 苗 は他 県 で漁 獲 されることもありますし,逆 に,他 県 で放 流 したクル マエビが徳 島 県 で漁 獲 されることもありました。このことについては,「クルマエビ 4 府 県 共 同 放 流 事 業 総 括 報 告 書 」にとりまとめている最 中 ですが,その全 貌 を一 度 にお話 しする には水 研 だよりでは紙 面 が足 りません。そこで今 回 は,徳 島 県 で放 流 した種 苗 が徳 島 県 で 漁 獲 さ れ る とい う 県 内 に 限 った 放 流 効 果 に つ い てお 話 してみ よう と 思 い ま す 。 と く に , 2006 年 には平 均 体 長 約 30 ミリと,これまでの平 均 体 長 40 ミリよりも小 型 の種 苗 に標 識 を施 して放 流 しましたので,その結 果 に焦 点 をあて,放 流 サイズが放 流 効 果 に与 える影 響 について考 察 したいと思 います。 (以 下 ,種 苗 の大 きさをミリで表 示 しているものはすべて体 長 をあらわします) 図 1 クルマエビの尾 肢 切 除 標 識 切 除 後 再 生 した尾 肢 は,やや小 さく褐 色 の帯 の幅 も狭 い 標 識 放 流 調 査 −40 ミリサイズ− 徳 島 県 では,2001,2002,2004 年 の 9 月 と,2006 年 の 8 月 に標 識 放 流 をおこないま した(表 1)。2006 年 放 流 群 以 外 は前 述 のように平 均 体 長 が 40 ミリです。 表 1 徳 島 県 で実 施 したクルマエビ種 苗 放 流 調 査 の概 要 このうち 2001 年 ,2002 年 放 流 群 は,放 流 の間 隔 が 2 年 連 続 放 流 と短 すぎたため,主 に放 流 翌 年 から翌 々年 と 2 年 間 にわたって再 捕 された標 識 クルマエビの中 に,放 流 年 を 特 定 できない個 体 が多 数 出 ました。したがって,この 2 つの放 流 群 は足 し合 わせて放 流 効 果 を計 算 しました。計 算 方 法 などはここでは省 略 させていただきますが,その結 果 , 2001-2002 年 放 流 群 の放 流 効 果 は,回 収 率 5.4%,放 流 種 苗 1 尾 あたりの回 収 金 額 20.7 円 ,また,2004 年 放 流 群 の放 流 効 果 は,回 収 率 5.8%,放 流 種 苗 1 尾 あたりの回 収 金 額 23.3 円 となりました(表 2)。 放 流 種 苗 1 尾 あたりの回 収 金 額 とは,標 識 放 流 クルマエビの再 捕 による総 漁 獲 金 額 を放 流 尾 数 で割 ったものです。総 漁 獲 金 額 は,調 査 により推 定 された標 識 種 苗 の漁 獲 尾 数 に再 捕 時 の体 重 や単 価 をかけて計 算 しました。この放 流 種 苗 1 尾 あたりの回 収 金 額 よりも安 く放 流 種 苗 を生 産 ・育 成 することができれば漁 業 者 にとってクルマエビの放 流 事 業 は黒 字 ということになります。 表 2 標 識 放 流 調 査 から推 定 された,徳 島 県 におけるクルマエビ種 苗 の放 流 効 果 20 円 余 り(和 歌 山 県 など他 府 県 への移 動 分 も合 わせると 30∼38 円 に達 します)という 1 尾 あたり回 収 金 額 は,一 見 すると高 い(大 幅 黒 字 の)ように思 います。しかしながら,これ は 40 ミリ種 苗 の効 果 です。徳 島 県 内 では,栽 培 漁 業 センターで生 産 された体 長 およそ 十 数 ミリの種 苗 をそのまま直 接 放 流 するか,あるいは,各 漁 協 の中 間 育 成 場 で 30 ミリ程 度 まで中 間 育 成 してから放 流 しています。図 2 に,各 種 サイズのクルマエビ種 苗 を並 べ た写 真 を載 せましたが, 30 ミリと 40 ミリでは見 た目 にもかなり違 いが感 じられます。 図 2 クルマエビ種 苗 の大 きさの比 較 実 際 ,30 ミリだと水 槽 に 1 ㎡あたり 4,000 尾 程 度 飼 育 できますが,40 ミリになるとその 4 分 の 1 の 1,000 尾 程 度 しか飼 えません。また,中 間 育 成 期 間 も 30 ミリまでならうまく飼 えば 10 数 日 ですが,40 ミリに育 成 するには 1 ヶ月 以 上 かかります。また,種 苗 が大 きくな ると,水 槽 をきちんと掃 除 しないと脱 皮 の殻 や糞 が多 量 に発 生 しそれが原 因 で水 質 悪 化 による大 量 斃 死 が発 生 します(参 考 :徳 島 水 研 だより第 51 号 「効 率 のよいクルマエビ種 苗 の中 間 育 成 方 法 について」)。 すなわち,30 ミリから 40 ミリに大 きくするためにはかなりの育 成 経 費 ・期 間 が必 要 で,ま た,大 量 斃 死 のリスクも増 えてしまいます。もし 30 ミリでも十 分 な放 流 効 果 が期 待 できる のであれば,従 来 どおり,中 間 育 成 は 30 ミリを目 標 にすればいいと思 います。 標 識 放 流 調 査 −30 ミリサイズ− そこで,表 1 にも示 したように,2006 年 8 月 に実 際 の中 間 育 成 実 績 に見 合 ったサイズ である 30 ミリ(実 際 には平 均 体 長 33 ミリ)種 苗 の標 識 放 流 を実 施 してみました。 結 果 は,40 ミリサイズの種 苗 の結 果 とともに表 2 にまとめてみました。表 2 に示 した 2006 年 放 流 群 の回 収 率 や 1 尾 あたりの回 収 金 額 を求 めるためのデータは,まだ 2007 年 分 ま で し か あ り ま せ ん が , 2008 年 も 少 し 再 捕 さ れ て い る よ う で す 。 し た が っ て , 今 後 2006 年 放 流 群 の放 流 効 果 は若 干 値 が増 えると思 われます。 表 2 をみると 30 ミリサイズの種 苗 の放 流 効 果 は 40 ミリ種 苗 の約 4 分 の 1 で,放 流 種 苗 1 尾 あたりの回 収 金 額 は 5.7 円 にとどまりました。 しかしながら,さきに述 べましたように,30 ミリから 40 ミリに種 苗 をさらに成 長 させるため の手 間 ,費 用 ,リスクを考 えると,一 概 に低 い効 果 とは言 い切 れないようにも思 われます。 30 ミリ種 苗 を中 間 育 成 する「コスト」に見 合 う効 果 かもしれません。皆 さんはどのように感 じ られましたか? 放 流 時 の注 意 点 -放 流 方 法 の工 夫 今 回 の一 連 の調 査 では,予 想 よりも高 い放 流 効 果 が得 られたと考 えています。その要 因 の一 つとして,砂 敷 きの飼 育 施 設 で中 間 育 成 したり,放 流 前 に囲 い網 などで放 流 場 所 の環 境 に馴 致 させてから放 流 したりしたことにより,放 流 直 後 の外 敵 による食 害 をできるだ け受 けないように配 慮 したことが挙 げられると思 います(表 1)。 30 ミリ種 苗 の砂 へ潜 る能 力 は,まだ獲 得 したばかりで十 分 とはいえません。また,底 に 砂 を敷 いていない環 境 で飼 育 した種 苗 は,砂 を敷 いた水 槽 に収 容 してもほとんどの個 体 がすぐに潜 ることができません。観 察 してみると,丸 1 日 以 上 かかって,砂 へ潜 る"技 術 " を習 得 するようです。 以 上 のことから,単 に「何 ミリまで大 きくしたからこれくらい効 果 があるのだろう」と,この放 流 調 査 の放 流 サイズのみに着 目 して,馴 致 もせずに適 当 に放 流 したのでは十 分 な放 流 効 果 が望 めないかもしれません。どのように放 流 すれば,より放 流 効 果 を高 めることができ るかということを考 え,放 流 前 の馴 致 など放 流 方 法 もどんどん工 夫 してゆくことが重 要 だと 思 います。