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インターネットによる高齢者への福祉と社会進出の可能性

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インターネットによる高齢者への福祉と社会進出の可能性
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インターネットによる高齢者への福祉と社会進出の可能性
提出 2000 年1月
指導教員 草薙 信照
学籍番号 995956
学年 4年 T 組 44 番
名前 檜 佳何
目次
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
第一章 インターネットの利用とデジタル・ディバイド ・・・・・・・・
2
第二章 高齢者と情報 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
2−1 老化とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
2−2 高齢者と情報 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
第三章 高齢者に対する国と企業の取り組み ・・・・・・・・・・・・・・ 12
3−1 公共団体や市民の取り組み ・・・・・・・・・・・・・・・
12
3−2 企業による取り組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
第四章 インターネットを利用した高齢者への福祉と社会進出支援 ・・・・・ 15
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
はじめに
平成 12 年度通信白書によれば、昨年末の時点でのインターネットを利用している人の数(イ
ンターネット人口)は 2700 万人を突破したという推計が出ている。
(注:インターネット人口
に関しては各調査機関のとらえ方の差により数字が違うので注意する必要がある。
)その普及率
はまもなく 20%を超えようとしている。これはインターネットを利用できる環境を個人で手に
入れることが比較的容易になったためで、その形態もデスクトップパソコンからPDA(personal
digital assistant)そして携帯電話まで実に多種多様である。各個人のライフスタイルに合わせ
て利用することが可能だ。それにともない電子メール、電子商取引(EC:electronic commerce)
などインターネットを利用したサービスも充実し、インターネットを利用することは多くの人々
にとってごく身近なこととして感じられるようになったのではないだろうか。
インターネットは今最も身近なネットワークの一つとして定着しつつあると言える。しかしそ
の機会はすべての人に平等と言えるだろうか。残念ながらこれは"NO"である。現在国内外で、
様々な外的要因によって生まれる情報通信技術の利用や習得機会の格差(デジタルディバイド)の
拡大が懸念されている。その要因とは経済状況、地域的条件、身体的問題そして年齢などによる
ものがあるが、私はここで特に年齢によって生じる格差に注目した。老化による身体的ハンディ
キャップを考えることはその他身体に障害を有する人々はもちろん、障害を有さない者にとって
も必要なことだと考える。企業のみならず誰でも WEB ページの開設やメールマガジンなどによ
って世界中に情報を発信することができる現在において、この種の問題をないがしろにすること
はできない。
この論文の趣旨は、すべての人が平等に情報技術を学習活用でき、その恩恵を十分に実感する
ことのできる「デジタル・オポチュニティー」の実現、
「情報バリアフリー」環境の整備がどの
ようになされていくのか、またどのようになされるべきかを考察することにある。その中で特に
高齢者に対する事象について限定することにより、自身の目標の明確化を計った。その構成は、
第1章として情報通信に関する全体概要とその中でのデジタルディバイドの現状について。第2
章は高齢者の身体的、心理的条件と情報の関係、ついで第 3 章は現在の情報技術における情報バ
リアフリー化への取り組みについて、そして第 4 章では今まで述べたことを総括し高齢者に対す
るデジタル・オポチュニティー実現の意義を述べる。
当初、私は WEB におけるユーザビリティーデザインについて興味を持ち、それに関する文献
や資料を調べていた。その中で高齢者に関することに関しても多く書かれているのを読み、現在
ある高齢者に対する問題は自分にとって最も身近な問題と感じた。私の両親はもうまもなく「高
齢者」と呼ばれる年齢になるし、私もいずれ高齢者となって情報技術を利用する立場になるだろ
う。その中で情報技術に如何に接していくべきかを模索するきっかけとしてゆきたいと思ってい
る。
1
インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
第一章 インターネットの普及率とデジタルディバイド
インターネットの利用人口は 2700 万人を超えようとしている。インターネットの商用利用が
始まってわずか7年でインターネットの世帯普及率はもうまもなく 20%を超える。この普及の
速度は時代によって条件が違う者の、電話の76 年、ファックスの 19 年などにくらべ驚異的と
も言える速さである。利用人口も平成 9 年には 1150 万人、
その 3 年後平成11年に約2倍の 2706
万人になっている。
(図 1 参照)そして今から5年後の平成17年には約 7670 万人、すなわち
国民の約半数に達すると予測されている。この普及の速さこそが「持つ者と持たざる者」との格
差デジタルディバイドを生み出したのかもしれない。この章ではインターネットの普及率の中に
みられる格差とデジタルディバイドという言葉について述べたいと思う。
図1:インターネットの利用人口と世帯普及率
* 平成 12 年度 郵政省 通信白書より
先にも述べたとおりインターネットは急速に私達の生活に入り込んできている。しかし、そのよ
うな中で利用者の内容をみてみると利用者はある一部の層に偏在していることがわかる。それは
「地域」
「収入」「年齢」等の差によってみることが出来る。
まず地域の違いによる普及率の差であるが、都市圏では徐々に解消されつつある一方で、都市
圏から離れた町や村での普及は頭打ちの状態にある。
(図2参照)
2
インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
図2:地域別インターネット普及率
*平成 12 年度 郵政省 通信白書より
そして、収入による格差をみてみると年収 400 万未満とそれ以上との間で大きな普及率に違い
がみられる。このことから、通信費用や環境を手に入れるのにまだまだ高額の費用がかかること
がわかる。(図3参照)さらに 年齢別の格差をみると 20 代、30 代とも 38.1%で最も多い。逆に
利用者が少ないのは 10 代以下と 50 代以上である。(図4参照)なぜ 20 代と 30 代に利用者が集中
しているのか。これは大学教育に情報教育が普及していることと安定した経済状況よりインター
ネットを利用する環境を手に入れやすいこと、そして企業などが近年情報化を推し進めているた
めに若い就労者に触れる機会が多いことなどが理由として考えられる。
図3:世帯年収別インターネット普及率
*平成12年度 郵政省 通信白書より
3
インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
図4:年齢別インターネット利用率
*平成 12 年度 郵政省 通信白書より
以上の分析から「地域」
「収入」「年齢」などの点でインターネットの普及には大きく格差があ
ることが明確になったと思う。これらの結果をまとめてみると、インターネットを利用している
人の人物像は「大都市圏に住んでいる人が多く、20歳代から 30 歳代で収入が比較的安定して
いる人。」ということができるのではないだろうか。逆をいえば、インターネットを利用してい
なのは「収入の不安定な若年者と高齢者。
」と言うことが出来る。
それぞれの理由によってインターネットを利用できず、より有効な情報を得ることが出来ない
人々が多く存在している。この差、情報を持つ者と持たない者の情報の格差を「デジタルディバ
イド(digital divide)」という。この言葉はアメリカ商務省電気通信情報庁が 1999 年に発表し
た報告書の中で用いられ、この問題自体は 1995 年に発表した報告書「Falling through the net
(ネット社会の落ちこぼれ)
」で初めて提起された。デジタルディバイドとは「情報格差」とい
う意味に訳されるが、それぞれの人が得ることのできる情報量の差そのものよりも、それによっ
て生み出される経済や生活水準の差に問題があるのである。そしてアメリカでは選挙にインター
ネットを用いて投票するということが実現しつつある。これだけでなく法律によって認められた
権利や義務の行使にまで情報技術の利用が一般的になれば、社会生活にまで支障をきたすように
なってしまう。そんな不平等を如何に解消すべきかが今、世界中で論議の的となっている。
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
そんな様々な要因によって生み出される情報格差の中で今回は「年齢」、得に 50 歳以上におけ
るインターネットの利用率の低さに注目したい。我が国では世界でも最も急速に高齢化が進んで
おり、
「超高齢化社会」を迎えようとしている。65 歳以上の高齢者の数も平成 11 年の調査によ
れば 2118 万 6 千人、平成 17 年には 3000 万人を超えることが予想されている。
(図 5 参照)そ
のようなわが国の状態にあって高齢者に対する情報格差への対策は非常に重要な問題と言えるだ
ろう。コンピュータやインターネットの多くの利点は高齢者にとって大変有益なものである。そ
して情報格差が解消されるに従い、高齢者達に多くの利益をもたらすことだろう。コンピュータ
やインターネットの利用がなぜ高齢者にとって有益であるのか。それを高齢者達の身体と心理か
ら考えてみようと思う。
図5:高齢者人口と高齢化率の現状と予測
平成 12 年度 総務庁 高齢化社会対策室
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
第二章
高齢者と情報
「高齢者」とは一般に 65 歳以上の人々を指し、65∼74 歳を前期高齢者(ヤングオールド)、
75 歳以上を後期高齢者(オールドオールド)という。ここで注意しなければならないのは「高
齢者」と「老人」は決してイコールではないこということだ。我々が普通「高齢者」というとき
は、「老人」としての意味が多分に含まれていると感じる。しかしながら高齢になればなるほど
様々な変化がその人を襲う。その変化こそが人を老人へと変えていく原因なのである。この変化
を総じて「老化」というが、ではどういった変化が高齢者におこのだろうか。高齢者の老化にと
もなうその身体と心理の変化の中でインターネットを利用することの有効性を考えるため。
「老
化」という現象について詳しく見てみる。
2−1 老化とは
年をとるにつれて、人間の体は身体機能や精神機能の面だけでなく、社会的側面にも「老化」
といという現象が現れてくる。しかし「○○歳になったからあなたは老人です。」ということは
できない。老化が始まる年齢にはかなりの個人差があるので客観的に区分することは難しいから
だ。よって、その人が老化を自覚する原因はなんであるのかという面から老化現象について考え
ていく必要がある。
ある年齢を境に病気やそして身体の不調を体験することが増え、生理的な老化現象(生理的老
化兆候)が顕著になる。若いころには感じることのなかった様々な不自由を実感するにつれ、自
身の老化を自覚してゆく。まず老化にともなう病気とその影響であるが、老化によって引き起こ
される病気の例として神経痛をはじめ、痛みをともなう神経系の病気、背骨が曲がると腰が痛い
などの筋骨肉系の病気そして白内障や緑内障などの目の病気、その上高血圧や脳梗塞などの循環
器、呼吸器、消化器などの病気にもかかりやすくなる。また寒さが身に堪える、疲れやすいなど
の身体の不調も顕在化する。このように体の病弱化が進むと社会生活からの退去や、日常生活の
中で制限を被ることになり自由が奪われることになり、高齢者は自己疎外感を強く感じるように
なる。また社会や家族からみて自分は部外者であるという意識を持ちやすくなり、実現認知が希
薄になり孤独感が強くなり、無気力が生じやすく依存的な生活態度をとるようになる。さらに高
齢になると病弱化が進み自発性を失い感情の鈍化が表面化してくる。「家族や社会から一人だけ
取り残されるのではないか。
」
「世の中や家族が変わってしまうのではないか。」
「高齢者になって
社会社会的成功や幸福を追求できなくなってしまうのではないか。」などの不安が重なり、憂鬱
で落ち着かない心理状態に陥りやすい。また自発性の低下や無気力化などの原因は、病弱化によ
るものだけではない。感覚・知覚機能、精神運動機能、記憶、思考、学習能力、さらにこれらを
統合した適応能力が加齢にともなって変化していくことも大きな要因である。人がある行動を起
こすとき最初に問題となるのは、その対象物を正確に認知することができるかどうかが重要であ
る。これから老年期における感覚と知覚機能などの変化についてみていくことにする。
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
●老年期における感覚、知覚などの変化
・視覚
視覚は 30 歳を越えるころから低下の傾向を示し、40 歳を過ぎると低下の度合いは顕著
になる。60 歳を超えると視力は急激に低下し、アメリカの眼科学者ヒルシュの調査に
よれば、60 歳以上の高齢者のほとんどは視力の低下によって日常生活に支障をきたし
ていると指摘されている。また暗闇から明るいところ、またはその逆からの目の適応(順
応)に長時間を要するようになり、視野や感じることのできる色などもせまくなる。ま
た物の形、長さ、奥行きなどの知覚が不正確となってくる。
錯視なども多くなるが高齢者の錯視には児童期とにような傾向がみられる。
・味覚
味を感じる刺激の受容器は舌にある味蕾である。老化が進むと味蕾の数は舌中心部か
ら失われていくので、高齢者では舌前面部の約3分の2には残っていないと考えられる。
そのため高齢者は甘み・酸味・にがみに対する感覚はきわめて低くなっている。
・嗅覚
嗅覚については、実験や測定が困難であるために、匂いの種類と嗅覚の衰えとの感懐
が明確にされていない。しかし他の刺激によってなされたいくつかの実験では加齢にと
もなって嗅覚の識別能力が低下することが指摘されている。
・聴覚
日常生活において言葉を通してのコミュニケーションが困難になる。老化が進むと聞
くことのできる周波数の幅が狭まるため、小さい音と高音を聞き取るのが困難になる。
よって音の刺激が主である環境認知が不正確あるいは不可能になり、そのために事故に
遭いやすくなったりする。
・皮膚感覚
皮膚感覚には温度を感じる点(温点・冷点)や痛さを感じる点(痛点)そして触覚(圧
点)などがある。しかし高齢者に対する研究はあまり多くないのが現状だ。しかしすべ
ての皮膚感覚が鈍化すること考えられている。
・運動能力
老年期には反射や筋肉運動が鈍くなるだけでなく速さや正確さが低下し、手先の器用さ
や身体運動機能が全般的に低下する。外部からの刺激に対する反応は鈍くなりすばやく
動くことや体のバランスを保つこともむずかしくなる。
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
・記憶
個人差はあるにしても、誰もが年をとるにつれて物覚えが悪くなったり、物事を思い
出すことができなかったりする。さらに年をとるとそれによって日常生活に支障をきた
す場合も出てくる。しかし何処までが生理的レベルで何処までが病理的なのかは明確に
なっていない。高齢者の記憶の特徴は第一に、興味のある事柄に対しても 1 度や2度で
は覚えることができないということと、第二に古い記憶は長期にわたって保持される。
の2点である。すなわち自分が若かったときに得た知識や経験は高齢になっても保持さ
れるが、新しいものを取り入れたりするのは困難であるというとだ。
以上、加齢にともなう感覚、知覚などを見てきたが全てにおいて注意しなければならないこと
がある。それはこの章の最初でも述べたことであるが、各個人の環境や行動によって老化の進行
には個人差があるということである。よって若い人々が全て高齢者をみて、おしなべて「老人」
としてとらえてしまうことに注意しなければいけない。そういった接し方は高齢者のもつの能力
を発揮させる場を奪うばかりか、老化をより促進させる要因となる可能性がある。私達が彼らに
何らかの行動を起こす歳は、高齢者それぞれの環境に合わせて接し方を考える必要性がある。
これまで述べてきた「老い」を実感するにつれ、心理面にも多大な影響を及ぼす。最も一般的
な老人の心理的特徴として、思考や行動が目先のことにとらわれて支店の転換ができにくい「硬
さ」が増加する「自己中心性」。感覚能力の低下により外界認知が困難になるための「猜疑心」。
記憶力の低下にともない新しいことを吸収するのが困難になるために、新しいことを拒否するこ
とによって生まれる「保守性」。そして外界への関心の低下により関心がより自分に向くため、
様々な心配事に思い悩む「心気性」と「愚痴」などである。
ここで一つ一つの心理特性をみてみると、いずれの特徴にも根底にあるのは身体の衰えからの不
安であり、その不安は社会や家族からの疎外感によって生み出されるものなのである。よって高
齢者にとって最も必要なのは社会や家族などとのつながりコミュニケーションにあると言えるの
ではないだろうか。自分がこの社会や団体の一員で必要とされていることを実感させ、高齢者自
身の自発性をよみがえらせること、これこそが真の福祉であると言えよう。その見地に立って考
えるとインターネットの利用は非常に有効な手段と言えるのではないだろうか。実際にインター
ネットを用いた高齢者に対する取り組みが多くなされようとしている。しかし当の高齢者達はこ
の状況に適応していくことができるのであろうか。第一章での統計によると 50 歳以上のインタ
ーネット利用率は大変低いものであるが、現時点での高齢者のインターネット利用についてみて
みる。
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
2−2 高齢者と情報
郵政省によって実施された「シニア・インターネットユーザーアンケート」によれば、インター
ネット利用のきっかけは、「新聞や雑誌等で興味を持ったから」が 57.2%と、「家族・知人・同僚等
に勧められたから」の 32.9%、「仕事で必要だったから」の 25.9%を大きく上回り、自発的な動機
でインターネットを始めたユーザーが多いことがわかる(図6参照)
。
図6 インターネットを利用し始めたきっかけ(複数回答)
* 平成 12 年 郵政省「シニア・インターネットユーザアンケート」より」
利用の目的としては、「趣味・娯楽のため」が 70.6%と最も多くついで、情報収集のためで 59.
1%、
「高齢化にともなう心身の諸機能低下を防ぐため」53.4%に達している(図7参照)。
図7 インターネットを利用し始めた目的(複数回答)
*平成 12 年 郵政省 通信白書より
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
利用する機能としては、
「電子メール」の 93.9%とホームページの閲覧がとほとんどの人に利
用されており、ついで「ホームページ閲覧・ネットサーフィン」が 79.9%と高くなっている。し
かし「電子商取引」の利用率低く、高齢者のインターネットの利用はコミュニケーションが主と
なっていることがわかる。
(図8参照)
図8 インターネットで利用している機能(複数回答)
* 平成 12 年 郵政省 通信白書より
図9 インターネットをはじめてよかった点(複数回答)
*平成 12 年 郵政省 通信白書より
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
このほか、「高齢化にともなう心身の諸機能低下が防げるようになった」と回答したユーザーの
年齢をみると年齢が高くなるほど、インターネット利用の効果が得られたと感じるユーザーの割
合が高い。(図表 10 参照)
図 10 年齢別にみたインターネット利用によって高齢化伴う機能低下の防止に役立った割合
*平成 12 年度 郵政省 通信白書より
現在インターネットを利用している高齢者達の多くは自発的にインターネットに接しそれによ
って社会に接する機会が増加し、多くの利益を得ていることがわかった。しかし、第1章でも述
べたように 50 歳以上のインターネットユーザはまだまだ少ない。老化にともない身体的にも心
理的にも新しい技術であるインターネットに対して接することはなかなか難しい。しかし高齢者
が自由に情報技術を利用することが出来るようになればそれによって得る利益は莫大なものにな
るだろう。コンピュータは人がよってそれらの弊害を情報技術や社会の取り組みなどによって取
り除き、気軽に利用できるよう改善を図っていかなければならない。インターネットのアクセシ
ビリティーの向上、情報バリアフリーの実現が急務である。
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
第三章 高齢者に対する公共団体と民間によるの取り組み
我が国では近年 IT の振興が叫ばれ、2000 年 11 月 29 日すべての国民がインターネットなど
を利用して情報技術(IT)革命の恩恵を受けられる社会を実現するための「高度情報通信ネッ
トワーク社会形成基本法」(IT基本法)が参院本会議で可決し成立した。来年1月6日に施行
され世界最高水準の高度情報通信ネットワークを構築することや、IT施策を重点的に推進する
ため高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(新IT戦略本部)を設けることなどを明記し
ている。これに伴い我が国ではさらにインターネットを利用した高齢者への福祉や社会進出支援
を積極的におこなっている。それらを現時点の取り組みを高齢者に対するものに絞ってみていっ
てみたい。
1 公共団体と市民による取り組み
前述した「IT 基本法」をはじめとして高齢化が進展する 21 世紀を目前に控え、政府は「新ゴ
ールドプラン」
(平成6年 12 月策定)に基づき以前より様々な高齢者施策を推進している。近年
の情報通信技術の急速な進歩等により障害者の情報へのアクセス手段が多様化している。そのよ
うな中で高齢者の自立と社会参加を促進する上で、情報通信が重要な役割を果たすと考えられて
いる。よって郵政省では、平成10年6月に提言された「ライフサポート(生活支援)情報通信
システム推進研究会」を受けて、翌年平成11年 10 月に高齢者や障害者が円滑に電気通信サー
ビスを利用できるようにするため電気通信設備に求められる機能の指標を定めた「障害者等電気
通信設備アクセシビリティー指針」を告示した。また、通産省でも高齢者の社会進出し支援を目
的とした「メロウ・ソサエティ(円熟社会構想)」という提唱を行い、それを実践する団体「メ
ロウ・ソサエティフォーラム」を作った。「メロウ・ソサエティフォーラム」は高齢者がパソコ
ンやネットワークを使用し、社会進出を支援する団体である。主な活動としては以下であるのよ
うなものがある。
・
情報システム活用型シニア・ベンチャー支援事業
・
高齢者に優しい機器・システム等に関する調査研究
・
高齢者の活動拠点並びに集団生活拠点の情報化に関する調査研究
・
シニア情報生活アドバイザーに関する調査
・
高齢者向け電子商取引(メロウ・ショッピング・スクエア開設)推進
・
シンポジウムやネットワーカーズカンファレンス等の開催
・
インターネットによるバーチャル広場(悠々熟年広場)開設
12
インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
また、地方では岐阜県谷汲村に高齢者・障害者がテレワークを行うことを可能とする環境を整
備した「情報バリアフリーテレワークセンター」が平成 10 年度に整備された。
「テレワーク」と
は情報通信を利用した遠隔型の勤務形態のことで「SOHO(Small Office Home Office)」ともい
う。これによって高齢者に対する就業の可能性が期待されている。
・岐阜県 谷汲村情報情報バリアフリーテレワークセンターの概要
平成 11 年 3 月にオープン。高齢者・障害者の自立を支援し、働くことにより生きがいを実感し
てもらうことを目的とし、10 年度において、情報バリアフリーテレワークセンター施設整備事
業により整備された。現在 4 名の高齢者・障害者等が、情報通信ネットワークとこれに接続され
た情報通信機器を利用して、県内官公庁及び民間企業から受注した各種事業、印刷データの修正
や圧縮やアナログ情報のデジタル変換などに従事している。谷汲村では、8 年度に自治体ネット
ワーク施設整備事業により整備した谷汲村マルチメディア館を活用して、将来的には村民の在宅
勤務を可能にする構想を進めている。
非営利団体の仙台シニアネットクラブでは、郵便局等の協力を得て、高齢者向けインターネッ
ト教室、小学生パソコン教室(正規の授業としても認められている。)等のボランティア活動を
実施しており、行政、企業、市民団体が連携しつつ、高齢者の生きがい支援等に大きな成果をあ
げている。仙台シニアネットクラブは、平成 10 年3月に、東北郵政局やNTTの支援で開催し
た「60 歳から楽しむインターネット教室」の修了者を核として設立され、現在およそ 100 名の
高齢者が参加する規模になっている。パソコン教室の修了生が、後述のシニアサポーターとして
参加し始めるケースも増えている。このクラブでは、高齢者がインターネットなどに親しみ、情
報弱者にならないよう研鑽と親善に心がけること、パソコンの操作に習熟した高齢者が、その技
術をボランティア活動に活用することを目的に活動を行っている。また、同クラブでは、パソコ
ンの操作に習熟した高齢者で、その技術を使ってボランティア活動を行っている人を、シニアサ
ポーターと呼んでおり、現在の登録者は 22 名である。これらのシニアサポーターは、地元の小
学校でのパソコン教室などで主に活動している。仙台以外でも、高齢者を主たる構成員とし、パ
ソコン通信等により交流を図ることを目的とした団体(シニアネット)が、全国で設立されてお
り、少なくとも 32 の活動が確認されている。近畿圏では「金曜サロン」という団体がある。金
曜サロンは55歳以上を対象としており、電子メールや電子会議室などを用いて情報のやり取り
で高齢者同士の友情の輪を広げようという目的で運営されている。その目的の上でパソコンの教
育をおこない、コンピュータを用いることの良さを訴えるイベントなどを行うなどしている。
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
4 企業による取り組み
富士通関連会社、富士通ラーニングメディアが平成12年11月1日より「シニア IT アドバ
イザー(SITA)
」資格試験の実施をはじめた。先にも述べたとおり 50 代以上のインターネット
の利用者は非常に少ない。よって高齢者の情報リテラシーの状態も決してよい状態ではない。そ
のようなかで高齢者が高齢者に対して基礎的な指導を担うことのできる人材育成のための資格試
験「シニア IT アドバイザー」が平成 12 年 11 月 1 日より開始した。最も特徴的なことは高齢者
に対する情報技術の知識を認定するといった点である。これによってある一定の目標を設定する
ことができ、情報技術へ接することの動機付けや張り合いになるのではと考えられる。また高齢
者が指導者としての能力を認定され同世代への指導が可能になる。このことはこれから情報技術
を取り入れようかという高齢者の人々にとって非常にうれしいことなのではないだろうか。
また、インターネットサービスプロバイダ(ISP)の@ニフティでは、高齢者の加入者が加
速度的に増加しており、インターネットを通じて囲碁や将棋を楽しむケースも増えている。また
インターネットを通じて交流を広げようとするサークル活動も活発だ。このような状況をふまえ
@ニフティでは高齢者に対して情報端末の貸し出しや、高齢者向けの体験イベントを行うなどの
取り組みを進めている。そして@ニフティと同様 ISP であるリムネットでは、1999 年 2 月から
65 歳以上の高齢者向けに、月額利用料、超過時間接続料がそれぞれ半額になる「高齢者割引制
度」を実施した。こうした割引プランは学生に対してすでに多く実施されているが、高齢者への
割引プランが実施されたのはこれが始めてである。
ここに挙げた例の他にも多くの取り組みがなされおり、このような社会的取り組みは必要であ
ることはいうまでもない。しかしそれらはあくまでも「受け皿」なのであって、参加する人がい
なければ意味がない。インターネットのみに限らず、高齢者が社会活動に参加したいといった場
合には、家族などのごく身近な人々の支援が重要である。高齢者と国や企業などの団体との間だ
けでなく高齢者をとりまく全ての人々が、高齢者の前向きな行動に対して理解と助成を惜しんで
はいけない。
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
第四章 インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援へ考察
コンピュータとは人が困難な仕事を補助する目的で作られたものである。そのためコンピュー
タの発展によって我々の生活大変便利になった。またインターネットの発展によって情報収集が
容易になり、遠隔地への情報発信が可能になった。このコンピュータとインターネットが持つ特
性と高齢者の豊富な経験と知識が合わされば、すばらしい労働力になり得るのではないだろうか。
またそのように考えることよって高齢者たちは自分たちの存在意義を確認することができる。こ
れは、これから高齢者と我々にとって一筋の光明とも思える。しかし高齢者の多くは身体能力の
低下に伴い、身体的な条件のみならず心理的にも新しい技術に接することが難しくインターネッ
トにふれることにある種、恐れのようなものを抱いている。だからといって高齢者たちがインタ
ーネットに全く興味がないのかといえばそうではない。実際に高齢者となってからインターネッ
トを使い始めた人々はたくさんいる。そしてインターネットを利用している人々の多くは生活に
はりと新鮮さを取り入れることができ、思考を前向きなものにすることができた。そうした精神
面の向上により、身体的機能低下をも抑制することに成功しているのである。
こうして見てみると、高齢者にとってインターネットの利用はいいことずくめよように思える。
しかしこれは、
「高齢者がインターネットを利用することができれば。」という前提があることを
忘れてはならない。現在のインターネットを利用するための環境は、いくら数年前より簡単にな
ったとはいえ、高齢者にとって優しいものであるかといえば必ずしも言うことはできない。現在
インターネットを利用できる主な端末はパソコンと携帯電話であるが、どちらの端末も高齢者が
簡単に利用できるとは言い難い。パソコンは構造が非常に複雑であり、また入力に用いるキーボ
ードにはたくさんのボタンが並んでいる。よってその物々しさから気軽に始められるものではな
いのではないだろうか。一方携帯電話は一見すると気軽に扱えるように思えるが、小型化が進ん
だ今の携帯電話は、表示が小さくに非常に見づらいしボタンが小さく入力が難しい。そしてイン
ターネットに接続する際、パソコンでも携帯電話でも初期設定が煩雑である。こうした問題を解
決するにはどうしたらよいのだろうか。一番手っ取り早いのはテレビのよう繋ぐだけで見ること
ができ、電話で話すように相手とやりとりできるようなものを開発することである。しかし、そ
のような商品が一般化するにはまだ少し時間がかかりそうだ。そのような時代が来るまで我々は
高齢者が情報技術の恩恵を十分に享受することの出来る環境を創っていかなければならない。
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
おわりに
過去においては、長生きをした老人はその豊富な経験と知識から大変敬われたものである。し
かし、近代化が進むにしたがって高齢者はその激しい変化に対応することが難しくなり、また身
体的にやむをえなく社会から離脱していかざるを得なかった。だが、コンピュータは人間の機能
を補助することができる。高齢者が情報技術を習得することができれば、彼らの持つ豊富な経験
や知識を存分に発揮しすることが可能である。しかしそれ以上に、高齢者にとって必要なのは人
との繋がりである。これまで高齢者の特性や社会の取り込みなどについて述べてきたが、全ての
中心には人と人とのコミュニケーションがあるのではないだろうか。 情報技術の発展は凄まじ
い速さで進み私自身驚かされることも多い。そんな中普遍であるものは、人が人とのつながりを
欲する心であり、それによって我々はこの社会に存在することができる。
情報科学のみでなくすべての「科学」と呼ばれる分野は様々に発展を遂げて行くだろう。その
科学の進歩は我々の生活を大きく変革させる要因となる。その流れに我々は、ただ流されるだけ
でなく一丸となって対峙する必要がある。なぜならば、その進歩の全てが良いものだとは限らな
いからだ。今我々が普通に利用しているインターネットや携帯電話も何らかの弊害をかかえてい
るかもしれない。だとするならば、我々は何歳になっても新しい社会の流れから目をそらしては
いけないのではないだろうか。新しいものに積極的に接する姿勢をいくつになっても持ちつづけ
ていたいものである。その為にも、より多くの人々とのコミュニケーションを大切にして行きた
いと思う。
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インターネットを利用した高齢者に対する福祉と社会進出支援
参考文献
関口 玲子編 「高齢化社会への意識改革 老年学入門」剄草社 1996 年
長島 紀一・佐藤 清公「介護福祉士選書7 老人心理学」建帛社 1990 年
ヤコブ・ニールセン 「インターネットユーザビリティー 顧客を逃がさないサイト作りの秘訣」
エムディエヌコーポレーション 1999 年
森岡 正博 「電脳福祉論」学苑社 1994 年
郵政省通信白書
http://www.mpt.go.jp/policyreports/japanese/papers/index.html
マネー専科/ベンチャー NOW
http://www.yomiuri.co.jp/money/dr/20000825md01.htm
ZDNN
http://www.zdnet.co.jp/news/9907/09/ntia.html
総務庁 高齢社会対策室
http://www.somucho.go.jp/roujin/frhome.htm
シニア・ナビ★アクティブ・シニアのネット生活応援サイト
http://www.senior-navi.com/
富士通ラーニングメディア シニア IT アドバイザー認定試験
http://www.flm.co.jp/oc/sita/sita_top.html
バリアフリーの情報ページ、毎日新聞「ユニバーサロン」
http://www.mainichi.co.jp/universalon/
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