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呼気NO測定ハンドブック
よりよいコントロールをめざして 小児気管支ぜん息における 呼気 NO 測定ハンドブック 2014年7月改訂版 独立行政法人環境再生保全機構第8 期 環境保健調査研究 」 「気道炎症評価にもとづく小児ぜん息患者の効果的な長期管理法と自己管 理支援 の確立に関する研究(平成21∼23年度) 研究代表者: 藤澤隆夫(国立病院機構三重病院) 目次 はじめに P.2 第1章 呼気NOとは? P.3 1.ぜん息の客観的評価 P.3 2.NOとは? P.3 P.5 第2章 呼気NO測定の実際 1.標準測定法 P.5 2.測定機器 P.6 第3章 呼気NOの小児基準値 P.7 第4章 呼気NO測定値の解釈 P.8 第5章 実例から P.9 症例1 慢性咳嗽の5才男児 P.9 症例2 呼気NO測定で、適切な治療が開始できた11才女児 P.10 症例3 呼気NOのモニタリングで投与調節を行った9才男児 P.11 第6章 測定上の留意点 P.12 第7章 補足 P.13 P1 はじめに 気管支ぜん息は気道の慢性炎症性疾患であり、薬物療法の基本は気道炎症の抑制にあります。したがって、 本来は病態である 「炎症」の程度に基づいて治療を進めるべきではありますが、 これまでの治療の指針は主に 症状だけに基づくものでした。病態をよりよく評価できるならば、治療をレベルアップできる可能性があります。 最近、新しい検査法が開発され、ぜん息の病態をいろいろな側面で客観的に評価することが可能となって きました。その中で、注目されているのは、呼気NO(一酸化窒素) *です。 呼気中のNO濃度は、気道に好酸球性炎症があると上昇します。 これをモニタリングすることで、気道炎症の レベルに基づいて、 ぜん息の診断と治療ができる可能性があります。呼気NOの測定はアメリカ胸部疾患 学会 (American Thoracic Society:ATS) のガイドライン1に準拠した大型の機器で行われてきましたが、 最近、 簡便に卓上で測定できる小型の機器が利用可能となりました。価格も高額ではなく、 今後、普及が期待され ているところです。また、アメリカ胸 部 疾 患 学会(ATS) より呼気NOの臨床応用の指針も示されましたが 2、 日本 人小児の基準値はなく、わが国の臨床で用いやすい指針が求められています。私たちは、独立行政法人 環境再生保全機構の委託を受けて、呼気NOの小児基 準 値と臨床応用方法についての検討を行いました。 この結果をもとに、本ハンドブックを作成いたしました。呼気NO測定を小児気管支ぜん息の予防と治療にご活用 いただくため、測定の意義、方法、結果の解釈について、 わかりやすく解説しております。 呼気NO測定は、 まだ完成した検査ではなく、今後さらに改良が必要です。 しかし、 これからの発展のために は、 日常臨床の現場に普及して、多くの使用経験が積み重ねられることも大切です。 このハンドブックを身近に おいて、診療にお役立ていただき、 よりよい治療管理のヒントを見つけていただければ幸いです。 *英文表記ではFractional nitric oxide concentration in exhaled breath(FENO) 研究代表者:藤澤隆夫(国立病院機構三重病院 臨床研究部) P2 第 1 章 呼 気 N Oとは? 第1章 第2 章 呼 気 N O 測 定の実 際 呼 気 N Oとは? 1. ぜん息の 客 観 的 評 価 ぜん息の重症度とコントロールレベルの評価は臨床症状に基づいて行われますが、客観的指標を取り入れる ことも重 要です 3。図1は小 児 気 管 支 喘 息 治 療・管 理ガイドライン2 012に記 載されているぜん息の病 態に 基づく各種評価法、検査法の位置づけを示します。呼気NOは気道炎症のマーカーとされます。 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 図1 ぜん息の病態・症状とその評価(小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2012より引用) リモデリング 第 4 章 呼 気 NO 測 定 値の解 釈 病態 気道炎症 気道過敏性 呼気NO 第 5章 実 例から 客観的指標 喀痰細胞診 気流制限 気道過敏性試験 血液ガス ・アセチルコリン吸入 フローボリューム曲線 ・メサコリン吸入 (アストグラフ) ピークフロー(PEF) ・運動負荷 ぜん息症状 重症度と コントロールの判定 第 6 章 測 定 上の留 意 点 2. NOとは? NOは血管拡張、神経伝達、感染防御などに関わる多機能の生理活性分子ですが、ぜん息の領域では1991年に はじめて呼気ガス中でNOが検出され4 、1994年にはぜん息患者の呼気中で上昇すること5が明らかにされてから、 新しいバイオマーカーとして注目され、研究が進んできました。 気管支ぜん息では、 NOは主に好酸球性炎症によって誘導型NO合成酵素 (inducible nitric oxide synthase; iNOS) 第7章 補足 が発現し6 、産 生が亢 進するので、呼 気中のNO 濃 度を測 定することにより気 道の好 酸 球 性 炎 症が評 価できる ことになります (図2) 。実際に、呼気NO濃度が気道粘膜の好酸球浸潤 7 、気管支肺胞洗浄液中の好酸球比率 8と 相 関することが確認されています (図3) 。 P3 第 1 章 呼 気 N Oとは? 図2 ぜん息における好酸球浸潤とNO産生 炎症性サイトカイン(Th 2 型) 転写 iNOS NO L-citruline 第 4 章 呼 気 NO 測 定 値の解 釈 図3 侵襲的な気道炎症評価と呼気NOの関係 気道の好酸球浸潤 気管支肺胞洗浄液中の好酸球 r=0.67 100.0 B r=0.78 P<0.001 35 15 10.0 10 1.0 5 1 10 100 0 0 (文献6より引用) 100 200 300 (文献7より引用) まとめ1 P4 第7章 補足 呼 気 N O はぜん息における好 酸 球 性 気 道 炎 症 のマーカー 第 6 章 測 定 上の留 意 点 0.1 第 5章 実 例から P<0.001 40 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 L-arginine ぜん息における好 酸 球 浸 潤 第2 章 呼 気 N O 測 定の実 際 上皮細胞など 正常の気道上皮 第 1 章 呼 気 N Oとは? 第2章 第 2章 呼 気 N O 測 定の実 際 呼 気 N O測 定 の 実 際 1. 標準測定法 呼気NOの測定はアメリカ胸部疾患学会(ATS) とヨーロッパ呼吸器学会(European Respiratory Society: ERS) が 推奨する標準測定法で行います1。 オンライン法とオフライン法に分かれますが、前者はNOアナライザーにマウス ピースから直接呼気を吹き込んで測定し、後者はNO捕集バックに呼気を採取してからアナライザーで測 定します。 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 測 定 条 件のポイントは ① 呼 気 流 速を一 定にすること ② 鼻 腔からの混 入を防ぐことです。 N O 濃 度は呼 気 流 速に依 存するので(低流速で高く、高流速では低くなる)、標準化するために呼気流速は 一定でなければなりません(50ml/s) 。 また、鼻腔のNO濃度は下気道より著しく高値であるため、わずかに混入しても値が高くなるので、5∼20cm H 2 Oの呼気圧をかけて軟口蓋を閉鎖することで鼻腔からの混入を防ぎます。 オンライン法ではこの条件下で、NOフィルターを通して全肺気量位まで吸気したのちに呼出し、連続的に N O 値を測 定して、プラトー 相を下 気 道 由 来の呼 気 N O 値として記 録します( 図 4 )。呼出の初 期には死 腔 や 第 4 章 呼 気 NO 測 定値の解 釈 鼻腔由 来 の N O によって高 いピ ークがみられることがありますが 、小 児では 約 6 秒 、成 人では 約 8 秒 以 上 、 呼出を続けるとプラトーとなります。 オフライン法はアナライザーのない場所でも採取可能ですが、採取条件によってはオンライン法とデータが 一致しないことがあります。 図4 オンライン法による呼気NO測定 a 第 5 章 実 例から プラトー FE NO (ppb) 0 第 6 章 測 定上の留 意 点 a b 2 4 6 Time( s ) 8 10 b 24 22 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 1 2 FE NO (ppb) 0 2 4 プラトー 6 Time( s ) 8 10 24 22 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 3回測定して、再現性は高い。 1 回 目 の 測 定 時 は 鼻 か ら 吸 気 した た め 、初 期 にピ ークがみられる。2回目はNOフィルターを介して口から吸気したので 初期のピ ークはみられない 。しかし、 プラトー は 2 回ともほ ぼ 同じ 値となる。 まとめ2 ‒ ATS/ ERS標準法 ‒ 第7章 補足 呼気流速:50ml / s 、呼気圧:5∼20cmH 2 O、プラトー 値 P5 第 1 章 呼 気 N Oとは? 2. 測定機器 N Oアナライザー、ナイオックス マイノ (NIOX MINO ® )やNObreath ® が入手可能となりました(NObreath ® に ついては、現時点では医療機器として未承認のため、代理店にお問い合わせください) ( 図5)。小学生以上であれ ば自分で手に持って簡便に測定でき、医師と患者が測定値をその場で共有できるのが利点です。プラトーを確 認することはできませんが 、機 器 内で自動 的に調 整されるようになっており、標 準のオンライン法とほぼ 一 致した測定値が得られます。 NObreath® 測定中の画面 測定中の画面 第 4 章 呼 気 NO 測 定値の解 釈 ナイオックス マイノ 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 図5 ハンドヘルドNOアナライザー 第 2章 呼 気 N O 測 定の実 際 標準測定法には、やや大型のNOアナライザーを用いますが、最近、比較的廉価で卓上タイプのハンドヘルド 第 5 章 実 例から 第 6 章 測 定上の留 意 点 まとめ3 ‒ ハンドヘルドNOアナライザー ‒ P6 第7章 補足 簡便、比較的安価、その場で結果を共有できる 第 1 章 呼 気 N Oとは? 第3章 第2 章 呼 気 N O 測 定の実 際 呼気NOの小児基準値 「 平 成 21∼ 2 3 年 度 独 立 行 政 法 人 環 境 再 生 保 全 機 構 委 託 研 究 」において、小 学 1 年 生から高 校 3 年 生 約1100名のボランティアの皆さんの協力で得られた日本人小児の基準値を示します。 おおまかな傾 向として、 小学生は中学生・高校生よりやや低値となります。 男子の方が女子よりやや高めです (表1) 。 成人の報告では、 これら小児の値よりやや高めとなり、性差はないとされています。 表 1 呼 気 N Oの小 児 基 準 値 ※ 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 中学生・高校生 小学生 第 4 章 呼 気 NO 測 定値の解 釈 第 5 章 実 例から 性別 全体 男 女 全体 男 女 n 132 51 81 147 79 68 最大値 117 95 62 117 117 54 75 パーセンタイル値 15 19 13 25 43 17.25 中央値 10 12 10 14 18 11 25 パーセンタイル値 7 8 6.5 10 12 9 最小値 5 5 5 5 5 5 幾何平均値 11.2 13.3 10.0 16.9 21.6 12.7 95%信頼区間上限 12.5 16.3 11.3 19.0 25.7 14.5 95%信頼区間下限 10.0 10.9 8.8 15.0 18.2 11.1 第6 章 測 定上の留 意 点 ※ナイオックス マイノによる値(ATS/ERS 準拠オンライン NO アナライザーによる測定値とほぼ一致) まとめ4 ‒ 小児の基準値 ‒ 小学生 < 中学生・高校生 第7章 補足 女<男 P7 呼 気 N Oは気 道の好 酸 球 炎 症を反 映しますから、ぜん息 患 者で高 値をとります。未 治 療の患 者の場 合は、 呼 気 NOレベルが気 道炎症の程度、 すなわち重症度と相関すると考えても良いでしょう。ぜん息の標準的治療薬で ある吸 入ステロイドは気 道 炎 症を抑制して、 症 状を改 善させますが、 呼 気NOが高値の場合、吸入ステロイドの 効果がでやすい=治 療 反 応 性を予 測するとされています。そして、治 療 を開 始 すると、 症 状 の 改 善とともに 呼 気 N O は 速 やかに低 下します。 鼻 炎 だけの 患 者 でも呼 気 N Oが 高 値になることがあります。アトピ ー 性 皮 膚 炎 でも同 様 の 現 象 が みられ 、 全く症 状 が ない 人 で ダ ニアレル ゲンに 感 作 され ているだけでも呼 気 N O は 感 作 の ない 非 アレル ギ ー の 健 常 人よりも高めになります ( 図 6 )。 つまり、呼 気 N O は ぜ ん 息 の 気 道 炎 症 の 程 度 を 表 すマ ー カ ー で は あります が 、ぜ ん 息 に 特 異 的 で は なく、気 道 の 好 酸 球 浸 潤 に 関 係 するアレルギ ー 疾 患 でも上 昇 することに 注 意 する 必 要 が あります。 呼 気 N O が 非 常 に低 値 のときは 、先 天 性 線 毛 運 動 機 能 不 全 症であることがあります。遺 伝 疾 患ですが 、 乖 離 するときは、このような 疾 患 を 疑 うことも 大 切 です。 図6 呼気NOのデータ分布 第 4 章 呼 気 NO 測 定値の解 釈 通 常 は 非 常 に 高 い 鼻 腔 の N O 濃 度 が 低く、気 道 からの N O も 低くなります。ぜ ん 息 様 症 状と呼 気 NOが 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 アレルギー 性 鼻 炎はぜん息とともに、 「ひとつの気 道 疾 患 」とされていますが 、ぜん息がないアレルギー 性 第2 章 呼 気 N O 測 定の実 際 呼気NO測定値の解釈 第 1 章 呼 気 N Oとは? 第4章 非アレルギー健常児 第 5 章 実 例から ダニ感作健常児 アトピー性皮膚炎 アレルギー性鼻炎 未治療のぜん息 未治療の重症ぜん息 まとめ5 第6 章 測 定上の留 意 点 0 20 40 60 80 N O( p p b ) ‒ NO測定値の解釈 ‒ P8 第7章 補足 非アレルギー<ダニ感作<アレルギー性鼻炎、 アトピー性皮膚炎< 未治療のぜん息 第 1 章 呼 気 N Oとは? 第5章 第 2章 呼 気 N O 測 定の実 際 実 例 から 症 例 1 慢 性 咳 嗽 の 5 才 男児 2歳頃より、 カゼをひくと咳が長引き、夜間に強い咳込みをおこすことがしばしばあった。 9ヶ月前より夜 間の強い咳き込みのエピソードが月に1、2回起こるようになり、7ヶ月前より近医小児科にて 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 気管支ぜん息の診断を受けて、 フルチカゾン(100μg/日)、 プランルカスト、ツロブテロール貼付薬の投与が 開始された 。 しかし、 その後も同様のエピソードを繰り返し、 改善がないため、別の小児科を受診して、 紹介された。 日常の咳払いが多いことに気づいていた。 これまでにぜん鳴のエピソードなく、 受診時、ぜん鳴聴取しなかった。 呼気NOを測定すると、3.1ppb(据え置き型NOアナライザーで測定、NIOX MINO ®で測定すると5ppb未満と 第 4 章 呼 気 NO 測 定値の解 釈 表示される) と低値であった。病歴より、慢性副鼻腔炎を疑い、 耳鼻科に紹介したところ、中鼻道に膿性鼻汁が 認められ、Waters法で両上顎洞に陰影を確認して、同診断された。 そこで、吸入ステロイドとプランルカストを中止、クラリスロマイシン少量投与を開始したところ、数日で咳は 消失して、2週後には膿性鼻汁も消失した。 2週後にも、呼気 NO 3.8 ppbで、吸入ステロイド薬中止にても上昇を認めなかった。 第 5 章 実 例から その他の検 査 結 果 白血 球 数 8740 / m m 3 好 酸 球 1 % I gE 119 I U / m l 特 異 I g E ( I m m u n o C A P )抗 体;ダニ < 0 . 3 4 U A / m l ,スギ花 粉 1. 2 UA /ml 鼻 腔 N O 1270 p p b * 第 6 章 測 定上の留 意 点 解説 未治療のぜん息 、治療中であってもぜん息コントロール不良の場合は 、呼気 NOは高値となります。 したがって、 この症例の場合、もしぜん息の診断が正しければ、呼気NOは高値となることが予想されます。呼気 NO低値で あったことがぜん息を否 定するヒントとなり、正しい診 断と治 療に導くきっかけとなりました。 まとめ6 ‒ NO測定値の解釈 ‒ 第7章 補足 ぜん息?といわれても、呼気NOが低ければその他の疾患を考える P9 7歳より、近医でDSCGが投与されていたが、秋には発作が散発していた。 夏の終わりに、紹介されて受診した。発作はあまりないとのことであったが、よく聞いてみると、運動のあとに 「軽く」咳がでたり、 ヒューと音がすることはよくあるとのことで、花火の煙でも同じようなことがおこると答えた。 そして、秋は発作が「少し多い」 とのことであった。 本人と家族の訴えのみによる重症度判定は、間欠型で、治療のステップアップが不要のように見えるが、呼気 NOが高いことから、コントロ ールされていない 気 道 炎 症 があると考えて、吸 入 ステロイドを低 用 量で (ブデソニドDPI 200μg/日)開始した。 2 週間後の再診時、呼気NOを測定すると19.8ppbと正常化していた。 − NO測定値の解釈 − 第 5 章 実 例から まとめ7 第 4 章 呼 気 NO 測 定値の解 釈 その後、運動誘発のぜん息症状が消失、 とても動きやすくなったとのことで、周囲も驚くほど活発になった。 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 呼吸機能は正常だったが、呼気NOを測定すると、60.8ppbと高値であった。 第 2章 呼 気 N O 測 定の実 際 2歳 ぜん息発症 第 1 章 呼 気 N Oとは? 症例2 呼気NO測定で、適切な治療が開始できた11才女児 運動誘発ぜん息は本人の訴えがあまりなくても 呼気NO測定で気道炎症を検出、 適切な抗炎症治療を開始すれば、 第 6 章 測 定上の留 意 点 「ぜん息のために」不活発な生活におちいることがある こどもらしい「活発な」生活を取り戻すことができる 第7章 補足 P10 第 1 章 呼 気 N Oとは? 症例3 呼気NOのモニタリングで投与調節を行った9才男児 第 2章 呼 気 N O 測 定の実 際 1歳発症で、 7歳に初診、 はじめは中等症持続型であり、 吸入ステロイド (HFAベクロメタゾン (BDP)200μg/日) で この年 、春は発 作がなかったが、7月下 旬より発 作がしばしば( 1 / 週 )あり、運 動でも コントロールされた。 ときどき誘 発されるようになった。8 月の 定 期 受 診 時に、呼 気 N O は 5 1 p p bと高 値であったので、気 道 炎 症の悪 化とそれにともなうコントロールレベルの低 下と考えて、吸 入ステロイドを増量し、吸入方法に ついても再度指導を行った。 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 すると、9月の定期受診の時は、発作が消失して、運動誘発ぜん息も楽になったとのことで、呼気NOも23ppbと 低下していた。 10月の定期受診では、 発作はなかったが、 呼気NOは56ppbと再度上昇を認めた。 しかし、 症状がないため、 そのまま 様子をみることとした。すると、次の12月はじめの受診時の問診では、11月には小発作が数回起こり、運動 誘発ぜん息も目立つようになってきたとのことであった。呼気NOも81ppbとさらに上昇を認めたため、ロイコ トリエン拮抗薬(Pranlukast)を追加した。その後は、発作なく、呼気NOも46ppb、28 ppbと低下していった 第 4 章 呼 気 NO 測 定値の解 釈 ため、吸入ステロイドを減 量した。減 量 後も、症 状 はコントロールされ、呼 気N Oの上 昇はみられなかった。 症例3の臨床経過 Pranlukast eNO(ppb) 100 BDP 400 200 200 (µg/day) 第 5 章 実 例から 50 25 10 8/29 9/26 10/31 12/5 1/9 2/6 3/6 ぜん息症状 第 6 章 測 定上の留 意 点 まとめ8 ‒ NO測定値の解釈 ‒ 呼気NO測定値と臨床症状をあわせると 第7章 補足 より客観的に、 ガイドラインに基づいた治療が可能となる P11 第 1 章 呼 気 N Oとは? 第6章 ■ 第 2章 呼 気 N O 測 定の実 際 測定上の留意点 ナイオックス マイノ測 定値は高温多湿の環 境で不 安定となる ので、 ぜん息キャンプなどで使用するときも空調のある室内で測定 する。 ■ N O b r e a t h ® は測 定 手 技が不良でも測 定 値が表 示されるので 注意が必要。2回測定が望ましい(ナイオックス マイノは一定の ない)。 50ml / sの呼 気 流 速を保つために 目視で確認しながら呼出する ■ 第 4 章 呼 気 NO 測 定値の解 釈 ボール がこの高さに浮 か ぶことを 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 測定条件が満たされないとエラーになるため、測定値は表示され 過換気により呼気NO値は低下する。したがって、運動後 9やスパイログラム測定後に低下することがある。 安 静にしたあと、スパイロメーターよりも先に呼 気 N Oを測 定する。 喫煙は呼気NOを低下させるので、 「みかけの」正常値に注意が必要である。 ( 受動喫煙にも注意) ■ ぜん息発作時も、かえって呼気NO値は低下する。発作時の低値は気道炎症が軽いことを意味しない。 ■ アレルギー性鼻炎ではぜん息がなくても高値となることがある。 ■ その他、ウイルス性気道感染、硝酸塩を多く含む食事の後などに高値をとることがあるので、注意する。 ‒ NO測定値の解釈 ‒ 気道炎症以外で、NO測定値に影響を及ぼす因子 第 6 章 測 定上の留 意 点 まとめ9 第 5 章 実 例から ■ 高値:アレルギー性鼻炎、ウイルス感染 P12 第7章 補足 低値:過換気、発作、喫煙 第 1 章 呼 気 N Oとは? 第7章 第2 章 呼 気 N O 測 定の実 際 補足 NO測定機器と問い合わせ先 据え置き型 Sievers 280i N OA ®: 大 陽日酸 株 式会社 バイオ・メディカル事業部 〒14 2 - 8 5 5 8 東京 都 品川区小山1 - 3 - 2 6 東洋B ld g. 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 T E L:03 - 5 7 8 8 - 8 6 7 0 第 4 章 呼 気 NO 測 定 値の解 釈 E - m ail : sa l es@a i v i si on . c o. j p FAX:0 3 - 5 7 8 8 - 8 7 1 0 CLD88sp EcoMedics ®:株式会社アイビジョン 〒11 3 - 0 0 3 4 東京 都 文 京 区 湯 島 3 - 1 - 7 妻恋木工第二ビル6 F T E L:03 - 3 8 3 4 - 2 0 2 5 FAX:0 3 - 3 8 3 4 - 2 0 2 6 ホームページ:h t t p: / / w w w . a i v i sion .c o.jp / ポ ー タブ ル NObreath ®:大陽日酸株式会社 バイオ・メディカル事業部 〒1 4 2 - 8 5 5 8 東 京 都 品川区小山1 -3 -2 6 東洋B ld g. 第 5章 実 例から T E L:03 - 5 7 8 8 - 8 6 7 0 FAX:0 3 - 5 7 8 8 - 8 7 1 0 ナイオックス マイノ:チェスト株式会社 営業本部 〒11 3 -0 0 3 3 東 京 都 文 京 区 本 郷 3 -2 5 -1 1 T E L:03 -3 8 1 3 -7 2 0 0 第6 章 測 定 上の留 意 点 FAX:0 3 -3 8 1 2 -7 2 8 4 ホームページ:ht t p: / / w w w . c h es t-m i .c o.jp / 第7章 補足 P13 第 1 章 呼 気 N Oとは? 参考文献 ATS/ERS Recommendations for Standardized Procedures for the Online and Offline Measurement of Exhaled Lower Respiratory Nitric Oxide and Nasal Nitric Oxide, 2005. Am J Respir Crit Care Med 2005; 171:912-30. 2 Dweik RA, Boggs PB, Erzurum SC, Irvin CG, Leigh MW, Lundberg JO, et al. An official ATS clinical practice guideline: interpretation of exhaled nitric oxide levels (FENO) for clinical applications. Am J Respir Crit Care Med 2011; 184:602-15. 日本小児アレルギー学会. 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2012. 東京: 協和企画; 2011. 4 Gustafsson LE, Leone AM, Persson MG, Wiklund NP, Moncada S. Endogenous nitric oxide is present in the exhaled air of rabbits, guinea pigs and humans. Biochem Biophys Res Commun 1991; 181:852-7. 5 Kharitonov SA, Yates D, Robbins RA, Logan-Sinclair R, Shinebourne EA, Barnes PJ. Increased nitric oxide in exhaled air of asthmatic patients. Lancet 1994; 343:133-5. Hamid Q, Springall DR, Riveros-Moreno V, Chanez P, Howarth P, Redington A, et al. Induction of nitric oxide synthase in asthma. Lancet 1993; 342:1510-3. 7 Payne DN, Adcock IM, Wilson NM, Oates T, Scallan M, Bush A. Relationship between exhaled nitric oxide and mucosal eosinophilic inflammation in children with difficult asthma, after treatment with oral prednisolone. Am J Respir Crit Care Med 2001; 164:1376-81. 8 第 4 章 呼 気 NO 測 定 値の解 釈 6 第 3 章 呼 気 NOの小 児基 準 値 3 第2 章 呼 気 N O 測 定の実 際 1 Warke TJ, Fitch PS, Brown V, Taylor R, Lyons JD, Ennis M, et al. Exhaled nitric oxide correlates with airway eosinophils in childhood asthma. Thorax 2002; 57:383-7. Terada A, Fujisawa T, Togashi K, Miyazaki T, Katsumata H, Atsuta J, et al. Exhaled nitric oxide decreases during exercise-induced bronchoconstriction in children with asthma. Am J Respir Crit Care Med 2001; 164:1879-84. 第 5章 実 例から 9 研究班 長尾みづほ(国立病院機構三重病院) 富樫健二(三重大学教育学部) 赤澤 晃(東京都立小児総合医療センター) 大矢幸弘(国立成育医療センター) 堀向健太(国立成育医療センター) 海老澤元宏(国立病院機構相模原病院) 富川盛光(国立病院機構相模原病院) 伊藤浩明(あいち小児保健医療総合センター) 漢人直之(あいち小児保健医療総合センター) 小田嶋博(国立病院機構福岡病院) 第7章 補足 網本裕子(国立病院機構福岡病院) 第6 章 測 定 上の留 意 点 研究代表者:藤澤隆夫(国立病院機構三重病院臨床研究部) P14 発行年月日 平成24年12月 第1版 第1版 平成26年 7月 第2版 第1版 ※この冊子は、ホームページ「大気環境・ぜん息などの情報館」 (http://www.erca.go.jp/yobou/) 「パンフレットのお申し込み」よりダウンロードすることができます。