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2007 年 10 月
「月刊 国際税務」2007 年 10 月号収録 Worldwide Tax Summary Worldwide Tax Summary 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース編 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース常任顧問 プライスウォーターハウスクーパースマネジメント会長 岡田 至康 監修 租税条約に優先する条項のある法案が米国下院通過(米国) 7 月 27 日に下院は、農場、食物、およびバイオエネルギー法(The Farm, Nutrition and Bioenergy Act ) H.R.2419 を承認した。この法案には論議を呼ぶ条項が含まれており、コストの一部をカバーするため の歳入確保の手段が、場合により租税条約上の恩典を否定する結果、米国で事業を行う非米国の多国 籍企業にとって、かなりの米国税金の負担増となるおそれがある。この法案では、国外関連者に対して、 損金算入可能額の支払いをする場合に適用される源泉税率は、(a)国外関連者に適用される租税条約上 の率あるいは、(b)国外の共通の親会社に適用される租税条約上または国内法上の率、のいずれか高 い率となっている。 この規定の適用を受ける損金算入可能費用に、利子、使用料、リース料、マネージメントあるいはサー ビスフィー、保証料、その他の通常源泉税の対象となる類似の支払いが含まれる。さらにこの規定の下 での国外の共通の親会社は、一般的に、国外の会社が直接・間接あるいは擬制的に(constructively)に 支払会社と受取会社双方の株式等の議決権または評価額の 50%超を保有している場合に、その存在 が認められることになる。この規定は支払者あるいは受取者がパートナーシップやその他の形態の被 支配事業体のときも適用されよう。 この規定の導入に際して発表されたプレスリリースによれば、この規定の主たる趣旨は条約漁り(treaty shopping)および国外の最終的な親会社に適用される税率より低税率の諸租税条約締結国を通じて損 金算入可能費用の支払いを集めること(funneling) を防止することにある。 米国上院は、まだ農業再承認法(farm reauthorization)の独自立法を提案しておらず、8 月の議会休会以 降まで提案は予定されていない。上院の財務委員会委員長は上院の農業再承認法案には下院通過版 の規定に盛られているような租税条約に優先する条項は含めないと述べたといわれている。ホワイトハ ウスもこの立法に対して拒否権を行使すると述べており米国財務省もこの立法に批判的である。さらに、 多くのビジネスグループや貿易グループがこの規定を厳しく批判している。しかし、たとえどの最終の農 業再承認立法から租税条約に優先する条項が除かれたとしても、将来立法化される他の法律に租税条 約に優先する条項、あるいは類似の条項が含まれる可能性がある点に留意すべきであろう。 所見: ・ この規定が外国の多国籍企業およびその代表グループから強い批判を受けたが、米国の多国籍 企業や米国をベースにしている企業グループも、主に外国政府による条約を否定するような形での 報復が米国の多国籍企業に向けられることを憂慮し、この規定を強く非難してきた。 ・ この規定は非米国の親会社への損金不算入配当支払に適用される源泉税率には影響しない。 ・ この規定は米国が交わしたほとんどの租税条約にある特典制限条項(limitation on benefits articles)が、長い期間しばしば困難な交渉を経て条約に盛り込まれているという事実にもかかわら ず条約漁りを十分防止できていないという前提に立っているようである。米国は特典制限条項の含 まれていない租税条約については今後数年内に再交渉をする予定である。 ・ この規定は既存の財務省規制が強力な導管防止規定(anti-conduit provision)を有していることを考 慮していないが、当規定は、低税率の諸租税条約締結国を通して支払いを集めること(funneling) 「月刊 国際税務」2007 年 10 月号収録 Worldwide Tax Summary の主たる狙いが租税回避にあるような場合にこれを防止するために設けられていることが明らかで ある。 ・ この規定は、親会社が自国以外に子会社を設立するのは、もしその国が親会社の国との租税条約 より有利な税率の租税条約を締結している場合は、税対策以外の正当な事業上の理由はないとみ なしているようである。 ・ この規定は、米国と租税条約を締結していない国(大きな貿易相手国であるブラジル、チリ、シンポ ール、香港、台湾を含む多くのラテンアメリカとアフリカ諸国、アジアの一部の国)おおび現行の租税 条約では特定分野の所得について最も有利な税率となっていない国(多くの古い租税条約締結なら びに米国の最大の貿易相手国であるカナダ、メキシコ、日本、中国、インドなどの条約を含む)の多 国籍企業に最も厳しい影響を与えるであろう。 ・ この規定は、ある特定の国との租税条約締結交渉においてあるいは租税条約交渉を求めないとい う意思決定においてしばしば税以外の点も考慮されるとの認識に欠けている。 具体例: ・ あるイタリアの多国籍企業がドイツの技術力を活用するためにドイツに研究開発子会社を設立した。 このドイツ子会社は、ヨーロッパと米国双方の事業にサービスを提供することになっている。この研 究開発子会社は、このドイツ研究開発センターで開発した全ての知的財産についてヨーロッパと米 国で特許権を取得し保有している。このイタリア多国籍企業の米国子会社はこのドイツ研究開発会 社に対して、米国で使用される知的財産について独立企業間価格で使用料(an arm’s length royalty)を払う。 ・この法案の下では、問題となっている知的財産がドイツの研究開発子会社でドイツ人従業員の努 力によって開発され保有されていても、米国とイタリアの租税条約上、特許権使用料に対する税 率が 10%となっているので、米国とドイツの租税条約上の使用料に対するゼロ税率は適用され ず、この米国子会社がドイツの研究開発子会社に払うどのような使用料も 10%の源泉税の対象 となる。 Source:PwC US Newsalert パートナーシップ税制導入案(韓国) 韓国財務協会(Korea Institute of Finance)は、財政経済省( Ministry of Finance & Economy “MOFE”) から提出予定の新パートナーシップ税制の仮草案を発表する公開聴聞会を最近行った。最終の税制改 正案は 2007 年 9 月末までに発表される予定である。確定後の新税制案は、2007 年末までに審議と通過 に向けて韓国の国会に提出され、2009 年 1 月 1 日から施行される予定である。現在の提案どおり施行さ れれば、新税制は納税者に対して二重課税の軽減にあたって一層の柔軟性を付与することとなるであ ろう。 現行の韓国における事業体( entity)の選択肢: 現行の法律の下では韓国では、有限責任の会社としては、株式会社 Chusik Hoesa (“CH”)あるいは有 限会社 Yuhan Hoesa(” YH”)か、無限責任の会社としては Hapmyong Hoesa(“HMH”)あるいは Hapja Hoesa(“HJH”)の形態で事業をすることができる。会社債務に対する株主の責任は、有限責任会社のC HとYHでは拠出資本額を限度としている。HMHでは、出資メンバーは,連帯または個別で会社債務を 負担し、HJHでは、少なくとも 1 名のメンバーが無限責任を負わなければならない。HMHとHJHは、実 質的にパートナーシップに類似しているが、これらの無限責任会社は韓国の法人税法の適用を受けて いる。 現在韓国では個人所得税法上Kongdong Saupjang(“KS”)と称する有限のフロースルーflow-through 課 「月刊 国際税務」2007 年 10 月号収録 Worldwide Tax Summary 税概念があるものの、会社が参画したパートナーシップは一般的に法律上も税務上も認められない。こ のKSルールが、会社にも適用できるかどうかという点については不明確で解釈が分かれていた。加え て、アウトサイドベイシス(outside basis)の扱いなどこのKSルールには現行の規則と慣行の下で不明 確な側面が残っている。従って、韓国の新パートナーシップ税制案は、重要な進展をもたらす筈である。 韓国のパートナーシップ税制案: 以下は、韓国財務協会が公表した公開草案にある主要点の要約であり、未だ準備段階の案で今後の制 定前に変更され得ることも踏まえたものである。 影響を受ける事業体:このパートナーシップ税制は、無限責任会社であるHMHとHjH、さらにこの新規 則で導入される2つのリミテッドパートナーシップ Hapja Johap(“HJ”)と有限責任会社(LLC) Yunhanchaegim Hoesa(“YCH”)に適用されることになろう。HMH、HJH および YCH は、会社かパートナ ーシップのいずれの課税を受けるかを選択することができることになろう。HJ は、KS あるいはパートナ ーシップとして課税されるかを選択することが認められるであろう。 現在の案では、この選択は 5 年間有効で、この 5 年の期間内での撤回は認められない。 二重課税の回避:パートナーシップはフロースルー事業体として扱われ,各パートナーは持分割合の所 得に対して、法人税あるいは個人所得税の対象となる。 所得あるいは損失の配賦:パートナーシップの所得あるいは損失は、パートナーシップ契約に基づいて 配賦される。損失は各パートナーのアウトサイドベイシスを限度とする。この限度超過の損失は、5 年間 繰越すことができ、そのパートナーのアウトサイドベイシスが増加する場合に使用できる。 パートナーシップへの現物出資の課税:評価益のある資産のパートナーシップへの拠出から生じる所得 に対する課税の繰延べについて 2 つの選択肢が考えられる。当該パートナーはパートナーシップがそ の資産を売却するまで所得の認識を繰り延べること、あるいは、拠出時点で所得を認識するがこの所得 に対する税額を 3 年間の納税猶予期間経過後に 3 年間で分割納付することが考えられる。 パートナーとパートナーシップの取引:パートナーとパートナーシップの取引でパートナーとパートナー シップの関係とは異なる関係から生じるものは、一定の例外を除き、第三者との取引として処理され課 税される。 租税回避防止:韓国税務当局は、以下の狙いで適切な租税回避防止規則を新税制に組み込むものとみ られる。 ・ 所得と損失の配賦割合が異なる結果租税負担額が減る場合には、所得の配賦割合が適用されるこ と ・ 経済実態からみて損失と所得の配賦割合が不合理でないこと ・ パートナーとパートナーシップの取引がそのパートナーの租税負担を不合理に減らすようなもので はないこと 所見:韓国国会により、2007 年制定の可能性がある新パートナーシップ課税制度は、多年にわたる税制 改正のなかで最も重要な新制度である。租税回避防止規則の追加があり得るものの、新パートナーシッ プ税制は、投資と事業に柔軟性を与え、また韓国もより大きな税効果をもたらす前向きの措置であろう。 Source:PwC Korea Newsalert 利得の帰属に関する新草案を発表(OECD) 最近、OECD は、保険会社の恒久的施設(“PE’)への利得の帰属に関して、新ディスカッションペーパー草 案を発表した。この草案では、保険業界を精査し PE によって保険業務を行っている企業に共通して見 受けられる状況にOECD承認アプローチ(authorized OECD approach)をどう適用するかについて検討 している。具体的には、当草案では財産と傷害保険、生命保険および再保険業務に OECD 承認アプロー 「月刊 国際税務」2007 年 10 月号収録 Worldwide Tax Summary チを適用している。 新草案は、再保険の部分を書直して前回の草案で概説されていた重要な起業家的リスクの負担(key entrepreneurial risk-taking (KERT))機能の定義を修正している。再保険については、改正草案は、新た にパラグラフ 19 が追加され、その中で OECD は再保険業者に関連するリスクとして再保険契約により支 払いの義務が生じた場合に再保険業者が、必要な資金を持たないことについて説明している。そのよう な事態は、元受の保険会社が再保険契約を交わして実質的に剰余金を使用していないために生じる。 KERT 機能の定義の修正に関しては、2006 年に OECD のガイダンスの大部分から KERT 概念が削除さ れたが、最近の草案のパラグラフ73に使われている新しい表現では、保険業界のKERT機能は“保険リ スクの引き受けである”。新草案では、保険契約引受け、リスク選択、料金設定、リスク保有分析、被再 保険リスク引受け、のような活動を引続きKERT機能とみている。さらに、新草案で明確にしていることは、 ハイレベルの取締役会タイプの意思決定は、業務活動レベルの意思決定と異なり KERT 機能が遂行さ れる場所を決めるうえで一般的には考慮されるものではないということである。 所見:この保険に関する草案は、PE への利得の帰属に関する OECD プロジェクトの第4部である。2006 年 3 月に OECD と保険業界の代表者たちがパリでコンサルテーション会合を行った。そこで OECD は 2007 年までに再検討のために第4部の第 2 稿を作成することを示唆していた。保険に関する第4部の変 更のほかに、当報告書の第 1 部は、OECD 承認アプローチの原則を詳述するとともに、PE 一般への利 得の帰属を算定するために実際にこれらの原則を適用する指針を与えている。当報告書の第2 部と第3 部では、伝統的な銀行業務と金融商品のグローバルトレーディングの局面で OECD 承認アプローチを PE に対して適用するに際して考慮すべき点について論じている。 Source:PwC Tax News Network 消費税およびエネルギー税の電子申告の導入(ハンガリー) 2007 年 6 月 30 日より前に発生した消費税とエネルギー税の申告と還付申請は、2007 年 7 月 1 日以降 電子申告が可能となった。2007 年 7 月 1 日から 2007 年 12 月 31 日までの間は、納税者はこの申告方法 を選択するかどうか自由に決められる。しかし、2007 年 12 月 31 日を過ぎて発生したエネルギー税の納 税あるいは還付を行う全ての事業体については、2008 年 1 月 1 日以降電子申告書と電子還付申請の使 用が強制される。消費税については、電子申告は保税倉庫免許業者、登録貿易業者、登録貿易業者の 税務代理人、メールオーダー会社の税務代理人、そのほか電子申告を義務付けられる納税者に強制さ れる。 電子申告は、Client Gateway という政府のウェブサイトで ABeV ソフトを利用して提出できる。企業は電 子申告書を転送する前に Client Gateway に登録する必要がある。登録したクライアントは、税関の登録 フォーム Customs Authority ‘s registration form にも記入しなければならず、それらは管轄の消費税事 務所に郵送される。 Source: Tax News Network 本ニュースは、各国の税制改正の動向をお知らせする目的で、各国のプライスウォーターハウスク ーパースが作成する速報ニュースや各国省庁等のホームページ掲載の情報等を抜粋してお伝えし ています。制改正案の段階の情報が多いため、最終的な法制度につきましては、専門家にご確認く ださるようお願いいたします。