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2001(日本語Pdfファイル)
2002L1.1.6
[L1.1.6]大規模非線形モデルを用いた最適生産システムの研究開発
(非線形モデル最適生産システムグループ)
○藤井憲三,山口博光,早坂友秀,古市英嗣,板垣秀人,神處弘,寺戸誠治,佐
伯敏
1.
研究開発の目的
石油産業においても,自由化・国際化が浸透しており,国際競争力の強化が急務の課
題である.そのためには,今後,需要や価格の変化に対応しながら,いかに安い原料か
ら,いかに安いコストで高品質の製品を製造するかがポイントである.
そのためには,原料の価格や製品の値段などの市況動向の日々刻々の変化に対応して,
日々の生産計画の策定から運転制御まで一貫したシステムによって製油所の操業をコン
トロールする必要がある.
しかしながら,現状の生産計画は,比較的長周期(月毎/週毎)で行われており,日々
の需要や価格の変化には対応できなかった.また,石油製品は連産品であり一種の製品
だけを製造することは不可能であること,石油製品の製造に用いられる装置には多くの
制約が存在するため,自由に運転条件を変更することができない,といった難しさがあ
り,これら全てを考慮し,製油所全体として最適な運転条件を決定することは長年の経
験を有した生産計画担当者であっても非常に困難であった.
一方,最近の情報処理技術の進歩,シミュレーション技術の進歩,計算機の高速化な
どにより,較的短時間での装置シミュレートや市場動向などの情報をリアルタイムに近
い形で入手することが可能になりつつあり,装置単位でのリアルタイムでの最適運転条
件の探索は,実現の見込みが得られている状況にある.
これらの技術を生かし,さらに考え方を推し進めて,製油所全体を対象とした最適化
を比較的短期(週毎/日毎)で行うことも実現性の高い課題であると思われる.
このためには,製油所全体の装置を精度良く表現できるモデルを作成し,それを用い
て最適な運転条件を求めるシステムが必要となる.更にこのシステムと連携をとりなが
ら,装置を常に最適な運転条件で稼働させる制御システムの構築も不可欠である.これ
らのシステムを構築することで,製油所の国際競争力強化,省エネルギー,省人化,安
全操業に寄与できるものと考えられる.
2. 研究開発の内容
2.1 個別装置の非線形プロセスモデルの開発
平成12年度までに開発した,非線形モデルや接続インタフェースを用いて,SLP
モデルと非線形モデルをリンクさせ非線形全体最適化システムとして稼動できる仕組
みの開発・調整を行なった.また,個別詳細最適化システムに対しても,平成12年
度に開発したモデルを用いて,最適化手法や最適化制御手法等の検証を行なった.ま
た,モデル自体の周辺装置への拡張も検討中である.
2.2
全体最適化システムの開発
平成12年度に開発したSLPアルゴリズムを用いたプロトタイプモデルをとして,
石油精製・石油化学工場の主要装置を対象とした全体モデルを作成した.また,SLP
モデルと非線形モデルをリンクさせ非線形全体最適化システムとして稼動できる仕組
みの開発・調整を行なった.これらのモデルで検証作業を開始するにあたって更なる
精度と信頼性を確保するために短期モデルによるモデル精査を実施し,短期モデルと
して機能・精度を検証した.
さらに,全体最適化システムで与えた最適運転条件を実現させようとした場合に,
プロセスの挙動を正確に把握する必要があるため,測定周期が短く,精度の高い流体
性状測定装置として,近赤外分光分析計を導入し,基材測定の増強を行い,精度向上
を図った.また,この測定システムの精度を確保するために実測値との照合,検量線
の制度向上を実施中である.また,これら,測定データに基づく揮発油の混合詳細最
適化システムについても検討・開発を開始した.測定項目中で RON に関する高精度な
非線形モデルについても検討を開始した.
2.3
装置毎の安定化制御システムの開発
装置の目標値が変化した場合に迅速に装置を追従させることができ,外乱にも強い
頑健(ロバスト)な制御システムを構築すべく,平成12年度に続きPID制御のチ
ューニング,IMC 制御手法による安定化を,実際の装置に適用し評価した.また,最
適化が実施されるとより厳しい領域での運転が要求されることから,高度モニタリン
グ手法の検討・開発を開始した.
3.
3.1
研究開発の結果
製油所.石油化学大規模モデルの概要と位置付け
石油産業の理想的な生産最適化システムを図3.1に示す.本図は ERP や SCM とよばれ
ている部分も含んでいることに留意する必要がある.本研究は下図枠で示す研究範囲の部
分に相当し,理想的とされるシステム構成に準拠していることがわかる.また,研究範囲
は製油所の最適生産システムに相当し,本研究が製油所での最適生産システムをほぼ包含
していることが示されている.したがって,全体システムの機能について本概要図を用い,
順を追って説明する.まず,システムを作動させるために必要なデータは左端データ端子
より入力されヒューリスティックなアルゴリズムにより会社全体の LP や ERP システムへ
の入力とする.会社全体の最適化を解く LP システムは最上部に位置している.これを全社
モデルと呼ぶことにする.全社モデルは複数製油所や輸送モデルを含んでいることから規
模が大きくなる.したがって,詳細なモデルを用いると収束や安定性に問題が発生し十分
機能しない恐れがある.この為に全社モデルは,通常単独の製油所モデルにくらべランピ
ングして作られる.しかしながら,精度と扱いやすさは相反する.この欠点を補うために
製油所側のモデルを精緻化し相互に補完して実用性を向上させることが必要である.この
ような構成を 2 段最適化と呼ぶことにする.2 段最適化は精緻化と全体モデルの実用性を高
める高度な手法であると言える.本研究ではこの2段目以降のシステムに関し,構成,技
術に関し研究する.
Demand
Sales Data
Inventory Data
Trading
Production Target
Orders from
customers
ERP
Model Update
Inventory
Truck Schedule
Constraints
Integrated Price
Integrated Price
Accounting Data
Real Time Optimizer
Open-Equation Model
図3.1
Plan Data
Production Planning
Non-Linear Model
Incremental Value
Secondary Distribution
Crude Nomination
Crude Delivery
Distribution Plan
開発範囲
Primary Distribution
Inventory/Price
in the Terminals
Sales Data
Inventory Data
Crude/Product Price
Corporate Planning
Ordinary LP
PIMS
Performance Monitoring
Operation Target
Reconciled Data
Inventory
Refinery Scheduling
Data Reconciliation
System
Crude Unloading/Blending Schedule
Unit Operation Schedule
Product Blending Schedule
Real Time Data
Process Order
Movement/Blending Orders
APC/DCS
Model Predictive Control
IMC
Process
Data
Process
Advanced Monitoring
Real Time DB
Oracle PHD
石油産業における操業最適化システムの構成
製油所モデルは関連するすべての装置を包含したモデルが必要であるが,これらのモデ
ルは採取された運転データに基づくものである.しかしながら計測された運転データは誤
差を含み製油所トータルでは物質収支が供給側,運転側,生産側が一致しないことが考え
られる.線形計画法を初めとするとするORモデルでは物質収支がとれていることが前提
であり,例えば,バランスのとれていないデータを基準にするとモデルの評価,解の評価
が精度よく出来ないばかりでなく解の安定性にも問題が出る可能性がある.このような問
題を解決しモデルを安定に作動させるためにデータ調整システム(データリコンシリエー
ションシステム)が必要である.このために図3.1右側に示すデータリコンシリエーシ
ョンシステムと呼ばれる部分が必要となる.平成13年の研究ではこの部分の開発を実施
しており詳細は後述する.製油所モデルは従来,用いられている線形モデル(LP)では
精度不足であり,非線形ベースのモデル(SLP)が必要となる.ここでSLPベースの
モデルは現在用いられているレベルは得率補正を中心とした簡易な2次モデルと漸近安定
な関数である得率按分計算が中心である.ここでは製油所の反応特性や非線形特性に性格
に対応させるためにさらに拡張し,一般化した非線形モデルやモデルランピング手法とし
て有効なニューラルネットワークを一体化させたことに特徴を有している.平成13年の
研究では実用に耐えられる精度有する短期モデルを開発するとともに,実装置との照合修
正を繰り返し,製油所全体最適化に耐えられるモデルを開発した.
この精緻な製油所モデルは更に個別装置運転レベルまでブレークダウンされた精緻な化
学工学モデル(詳細最適化モデル)とリンクされる.全体最適化と詳細最適化は変数の自
由度の差を活用し,全体モデルと切断条件をそろえることが重要である.もし,この条件
に矛盾があれば部分最適化は最適化とは違った動きとなることは自明である.この条件は
中間価格と全体制約の射影で表され,中間価格情報となることにより詳細最適化と密接に
関係する.詳細最適化は数時間単位で実行されるが,ダイナミクスは含まない.したがっ
てこれを補正し最適化を安全かつ安定にしかも矛盾なく実行させるためには制御と最適化
をくみ合わせた一体型の制御が必要である.ユニット間の制約や動的な補償を考慮できる
ことから最終値を使った簡易な最適化と予測型のレギュレータをくみ合わせたモデル予測
制御(DMC等)を目的にあわせ設計することにより,詳細最適化の信頼性を一段と高め
ることが可能である.このような考え方を使った最適化システムを部分的に装置に適用し
評価を行なった.また,これらの最適化は装置の安定化が前提となることから,一段の装
置の制御性改善が必要である.このために,PID制御器の安定性を高めるチューニング
則やIMCコントローラの考え方を用いた制御器を開発し,装置の更なる安定化技術開発
と実証を実施中である.また,非線形特性から発生する異常現象が装置収益性に大きく影
響することから挙動予測や安全性確保の観点からモニタリングシステムと呼ばれる高度監
視システムの基礎検討に着手した.
(1)大規模最適化システムが持つポテンシャル
現在までの開発システムを作動させ製油所における高度な生産技術が持つポテンシャル
について算出し,経営における位置付け明確にした.収益ポテンシャルについて図3.2
に示す.(このポテンシャルは計算上の数値であることに留意されたい)
Head Office
Refinery
Company
Total
Planning
Model
Chemical
Refinery
Integration
Model
10∼15¢/bbl
Δ=Ordinary LP-Nonlinear Modeling
5∼10¢/bbl
Δ= Base-Nonlinear Modeling
Refinery Regorous
Model
5∼10¢/bbl
Δ= Base-6 Applications
MPC
4∼10¢/bbl
DCS
PID tuning&IMC
3000 Loops/Refinery
図3.2
全体モデルを使って算出した高度生産システムのポテンシャル
これらの結果から製油所での高度生産システムによる収益向上ポテンシャルは15∼3
0¢/bbl ということになる.本社を含めて高度化すると25∼45¢/bbl となり製油所のマ
ージン限界であると言われている2$に対し10%に相当することが分かった.これらの
数値を確保するための経営資源は他の設備投資に比較して小さいために効率的な収益体質
の改善策として有効であると考えられる.欧米の石油産業が高度生産システムに積極投資
する背景もこの当たりにあると考えられる.
(2)製油所.石油化学大規模モデルの構成要素
図3.1では情報システムとの関連が示されているが実際には図3.3に示すような要素
を持つシステムが製油所の操業高度化において有効であり,また,本研究の実証結果にお
いても実現性が高いと考えられる.
Regourous
Predictive Alarm
Optimization System
(FCC)
Romeo
Non Linear Total
Optimization System
Loop
Analyzer
Identification
Advanced Diagnosis
System
PID-tuning
Reference
GMDH
Predictor
MPC with Optimizer
DMC,RMPCT
Alarm
Analyzer
Gaso Blender
Optimization
Loop
Analyzer
RON Binary Model
Interface
PIDtuning IMC
図3.3
製油所における高度生産システム
(3)流体性状の測定装置
流体性状測定としては汎用性があり多くの成分が測定できる近赤外分光分析計を採用し,
設置した.対象流体としては製油所の収益に大きく影響する揮発油関連で製品,基材の6
油種に絞って測定する.平成13年度では近赤外分光分析計本体の設置を完了し,第1次
の検量線の開発を実施中である.今後,この検量線の測定精度向上と本システムを活用し
た最適化システムについて開発を行なって行く予定である.
具体的には,流体性状測定システムとして設置された近赤外分光分析の結果を活用し,
制約付きの最適化を行なうことにより最適なブレンド比率を算出し,これを近赤外分光分
析計の計測時間が短いことを利用し,実時間でガソリンブレンドの最適化を行なうもので
ある.平成13年度はこのシステムに関する具現化について基礎的な検討を実施した.構
成要素と最適化例を図3.4に示す.
(4)データ・リコンシレーションシステム(DR)
生産バランスとDRとの組みあわせの場合,重量ベースでリコンシレーションを実行す
る.生産バランスは,容積ベース,熱ベース,コンポーネントベースでとることが考えら
れる.また,生産量バランスは,そのバランスを解くための,5つの独立したデータリコ
ンシレーションの手法を適宜選択することで幅広く問題に対応可能である.解こうとして
いるモデルの緻密さに応じてこれらの手法を選択する.ただし,精緻なモデルを解くため
の手法を使用するとより長い実行時間が必要となる.日報レベル業務の中では第1の手法を
使用することが実用的である.特定の係数を調整することでこの方式でも,他の精緻な手
法と遜色のない結果を得ることが可能となる.また,実行時間も短時間で効率的である.
以下に実際の手法の種類を示す.ここでは1)の手法を主に採用した.
ガソリンブレンド
シミュレータ
ガソリンブレンド
最適化システム
ratio
初期値
ratio optimizer
ratio
目標値
DCS
ratio controller
製品性状
近赤外線分析計
図3.4
揮発油混合最適化システムと流体性状分析装置
1)Ridge Regression(RR)
2)Kalman Filter
3)Matrix Projection
4)Newton Method
5)Singular Value Decomposition
(5)データリコンシリエーションの目的関数と連立1次不等式
生産量バランスを解くために使用する解法を混合整数線形計画法(MILP)で考える.リコ
ンシュレーション問題の LP 問題は下式で与えられる.目的関数は,計測値とリコンサイル
値の偏差の絶対値に対して,トレランスの平方根の逆数を重みづけした値の総和で現され,
オプティマイザは,この目的関数を最小化させる方向へ動くことになる.
min J = ∑ Q −j 1,/j 2 ( x a+, j + x a−, j )
j
s .t .
(1)
+
a
−
a
+
−
A( x m − x + x ) + B( y − y ) + Cz = 0
A , B and C
線形マテリアルバランスの係数
xm
計測値
x a+ , x a−
調整された値
y+ , y−
測定されていない値
z
固定計測値
本検討で用いた手法は RR の手法であるが,最小二乗法ではなく別の手法であることに留
意する必要がある.この手法は,従来の 2 次元ノルム解に対して,1 次元ノルム解と呼ばれ
ている.この手法の目的は,悪い計測器や,登録されなかった移送や,間違って登録され
た移送量などを検出するのに,MILP がもつ分岐限定法を使用して自動的に検出することで,
分析を容易にできる特徴を有している.データリコンシリエーションシステムは多くの情
報入力が必要である.特にフローシートの入力は多大な労力を伴う,その問題を解消する
ためにフローシート入力システムやアイコンを活用した入力処理を持ったシステムを使用
した.
3.2
詳細最適化システムの評価
石油精製及び関連装置全体の利益を満足させる解は非線形大規模最適化を解くことによ
って算出される.しかしながら,この解は,計画レベルの解であり,1∼3ヶ月単位で解
かれる.最適解は各装置の主要運転変数を含んでいるが,モデルの目的から,細かな運転
変数までモデル化することはできない.一方,実際の運転においてはユニット毎に多くの
自由度が存在し,その自由度をなくすことで最適な利益を生むことができる.ここで,実
際の運転を最適に制御全体最適化の解を更に詳細に解きなおす詳細最適化が必要となる.
部分最適化と全体最適化が一致した解を出す為には次の条件を満足することが必要である.
まず,中間価格のバランスがとれていること次に,全体制約と部分最適化の制約に矛盾が
ないこと,最後に全体最適化と部分最適化の前提条件(原料等)が同一であることが必要
である.このように切断条件が配慮された部分最適化システムは全体最適化システムと連
動させることが可能となる.図3.5に詳細最適化の構成例を示す.また,詳細最適化最
上位に位置する化学工学モデルを用いた最適化システムは直接操作型シミュレータベース
のモデルを駆動するために,解を得るために多大な時間を要する.このため,方程式解法
を用いた時間短縮化が図られているものの数時間単位の計算周期が必要となる.プロセス
を直接制御するためには分単位の外乱に適切に対応する必要があり最適化に更なる高速化
が要求される.このような課題を解決するためにモデル予測制御に最終値を用いた簡易な
最適化機能を持たせ,詳細モデルをうまく補間することが考えられる.これはモデル予測
制御手法を構成する要素であるの静的な機能を拡張し,適用することで実現可能である.
このような機能はモデル予測制御の手法によって構成が異なっているので,構成内容に応
じた対応が必要である.さらに,動的なレギュレータ部分においては外乱吸収を重視した
安定指向の設計方針を採らねばならない.このような構成で設計することにより最適化の
論理的に矛盾しないブレークダウンができ,安定した制御まで一貫したシステムとするこ
とが可能となる.
Open Equation Based Model
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29
DVDVDV
CVCVCVCVCVCVCVCVCVCVCVCVCVCVCVCVCVCVCVCV
MPC with Optimizer
MVMVMVMVMVMVMVMVMVMVMVMVMVMVMVMVMV
12
13
V9
11
LCO
from G-V4
STRIPPIN
G
9
STEAM
Rx
TEMP
8
LSRC
5061
2
VHHGO
RA
W
1
OI
L
RO
TEMP
5
HEATE
R
FUEL GAS
RING
STEAM14
HCO
SNORTAIR
F-V4
REGEN
10
4
CA
T
29
Rx
RECYCLE
M
AI
R
REGEN AIR BLOWER
AIR
NEW CAT
6
3
F-V6 LCO
MAIN
COLUMN
SPENT
CAT
FLUE GAS
TEMP 10
E
S
I
R
R
LSRC
2003
RISER
INJECTIO
7
N
STEAM
2
F-V3
Rx
HCO RECYCLE
STRIPPIN
V7 G
16
HCO STEAM
SIDE
STRIPPER
STRIPPIN
V8 G
15
LCO STEAM
SIDE
STRIPPER
17
LCO PRODUCT
HCO PRODUCT
600# STEAM
CO
BOILER
CLO
F-V5
SLURRY
SETLER
COMPRESSE
R
SUB FUEL
GAS
F-E2A
F-E2B
図3.5
詳細最適化システム例
Riser Out Temp
B+3
B+2
B+1
Base
0:00
4:50
9:40
14:30
19:20
0:10
5:00
9:50
14:40
19:30
0:20
5:10
10:00
14:40
19:30
0:20
5:10
10:00
Time
ROT ROMeo Target
B+4
B+3
B+2
B+1
Base
0:00
4:50
9:40
14:30
19:20
0:10
5:00
9:50
Time
図3.6
詳細最適化作動状況
実際に詳細最適化を作動させ最適値に制御を追従させた例を図3.6に示す.静的最適
な最適化と動的な制御が連携して目標値へ移動していることが分かる.このような仕組み
を開発することによって製油所全体最適化と制御が一体化したシステムを作動させること
ができる.
3.3 PID チューニングの体系と評価
(1)PID チューニング支援システム
ロバストなコントローラの設計手順や装置の評価手法を勘案して総合的な技術体系を作る
ことによって,従来,具体化が゙困難であった効果的なプロセス制御手法を体系化した.さ
らに,コントローラの設計基準を連結して評価するループアナライザ手法を具体化した.
ループアナライザは単独ループの絶対評価手法であり.運転データをもとに簡易に診断可
能な機能を有している.これは Harris Index ともよばれ製油所全体におよぶ制御系の評価
等にも活用可能と考えられる.具体的に手法を図3.7に示す.これは最少分散制御則
(MVC)の考え方を適用したものである.すなわち,制御系の理想性能を MVC 基準とす
ることにより実際の制御との比較において相対的な性能比でループ制御性能を評価しよう
とするものである.図3.7に示された制御系はディオファンチン式から導きだされた
MVC 制御であるが,外乱からの予測を考えると無駄時間のあいだは擬似的に AR モデルと
なることからループ評価に使用されている.
v
C/A
w
C
1/EB
Z-kB/A
y
F
y(t)=z-kw(t)+E(z-1)v(t)
y(t)=E(z-1)v(t)
無駄時間→制御出力が影響しない→ARモデルで表現可能
図3.7
ループアナライザ手法
4 .0 0 E - 0 1
3 .0 0 E - 0 1
2 .0 0 E - 0 1
1 .0 0 E - 0 1
0 .0 0 E + 0 0
- 1 .0 0 E - 0 1
1
22
43
64
85 106 127 148 169 190 211 232 253 274 295
系列1
系列2
- 2 .0 0 E - 0 1
- 3 .0 0 E - 0 1
- 4 .0 0 E - 0 1
反 応 装 置 温 度 制 御 性 能 評 価 例 評 価 指 数 = 0 .2 2
図3.8
ループアナライザの適用例
(2)実プラントにおける適用結果
MVC 基準の Harris Index の考え方を実際プロセスに適用した時の例を図3.8に示す.
この制御ループは製油所内の主要反応器の温度制御ループであるが非線形特性が強く十分
なチューニングが困難なループである.このループに対し本手法の適用を試みた.評価指
数は理想とする制御(内側)と実際の制御(外側)の比で表されており,この場合約 0.22
の数値となる.制御性能からみると少し数値が小さすぎるきらいがあるが,本手法はベー
スを MVC という実現不可能なループに基準をおいていることにも起因していると考えら
れる.さらに,実際には次数の取り方や無駄時間の取り方やコントローラに対するスケー
リング等確立すべきノウハウが存在するので今後具体化を進めるとともに適用ノウハウに
ついても確立してゆく必要がある.
(3)
プロセスの高度監視と挙動予測
最適化システムが高度化しプロセスの条件が最適値に接近すると定常時においてもプロセ
ス制約近辺で運転することが考えられる.しかしながら,制約条件付近での運転は装置限
界点を示しており異常な状態が起こる可能性が強くなる.装置産業においては安全・安定
は前提条件であり,最適化条件を維持し安全な状態を保持するためには異常予測・監視診
断等の機能強化が必要である.
本研究では高度監視診断として通常診断と挙動予測に絞って検討する.通常診断はDCS
のアラームでは検知できないアルゴリズムを持った比較的実現しやすい項目に対する総称
で弁開度と流量特性のレンジ管理等が相当する.また,挙動予測は装置の非線形な特性や
時間を考慮して状態予測を行なうことで安全性を高める手法である.従来,ニューラルネ
ットワークモデルが非線形モデルを表現する方法として採用されていたがここでは実用性
や具現しやすさの観点からGMDHネットワークモデルの研究開発を行なうこととした.
図3.9にGMDHモデルの構成を示す.
Input Layer
Layer1
Binary Converter
X1
Layer2
Output Layer
Binary Converter
Binary Converter
N-Adaline
N-Adaline
N-Adaline
N-Adaline
N-Adaline
N-Adaline
X2
Y
Σout/m
N-Adaline
N-Adaline
N-Adaline
N-Adaline
N-Adaline
N-Adaline
………
………
………
X3
-
.....
e
Xm
+
+
Reference
N-Adaline
図3.9
G
M
D
N-Adaline
N-Adaline
GMDH挙動予測モデル
重
H
回
帰
L a y e r = 6
7
8.00
推定値
推 定値
8
FLASH ZONE DELTA PRESS[KPA]
7.00
6.00
6
5
系 列
4
3
1
5.00
4.00
2
3.00
1
実
測 値
0
2
4
6
実 測 値
2.00
0
8
1.00
0.00
0.00
図3.10
1.00
2.00
3.00
4.00
5.00
6.00
7.00
GMDHフォーミングモデル解析結果
(4)挙動予測モデル
GMDHを用いた挙動予測解析を蒸留装置のフォーミングに現象に適用した.蒸留装置は
気液の平衡関係を利用して分離操作を行なうがフォーミングのような現象が発生すると泡
で物質移動が行なわれる為に著しく分離操作の効率を減じる恐れがある.また,原因が必
ずしも明確でなく非線形特性を有するために,フォーミングの挙動予測は装置の安定運転
8.00
上も重要な課題である.このような問題に対してGMDHモデルを適用することによって
挙動予測の可能性について検証した.モデル化に際して考えられる因子を入力しGMDH
による解析を実施する.図3.10にGMDHによる解析結果について示す.データは時
系列の影響を除くために平均化処理されたデータを使用した.横軸に実測値,縦軸に推定
値を示す.完全に表現可能なモデルであれば対角上にプロットされる.ここで比較モデル
として重回帰と比較したがバラツキは 1/3∼1/4 程度であった.非線形特性がうまく表せな
いためにブロードな特性となっていることが分かる.しかし,左側のGMDHモデルでは
かなりバラツキが狭まっており,予測精度が向上していることがわかる.GMDHモデル
の精度であれば挙動予測モデルとしての活用も期待できる.今後,定常診断や挙動予測を
実装し装置の安全性向上に対する効果を実証してゆく.
4.
まとめ
平成13年度の研究開発を以下にまとめる
(1) SLP インテグモデル(短期)を開発し,そのモデル高精度化を行なった.
(2) 非線形モデルとSLPを連携させて作動させる技術確立を行ない高速で大規模
な非線形モデルが駆動できることを確認した.
(特許出願*1)
(3) 大規模モデルを実際の問題に適用するために短期モデルの開発を行なった.ま
た,大規模モデルの整合性確認、高精度化を行ない信頼性向上対策されたモデ
ルを使って,高度最適化することによって得られる効果を試算した.
(4) 全体最適化システムに用いるプロセスデータの自動整合性システム(データリ
コンシリエーションシステム)を開発した.
(5) 流体性状を測定するための測定装置を増強し,検量線の精度向上を行なうとと
もに最適化に必要なデータを通信する仕組みを構築した.また,従来,懸案で
あった RON に関する非線形モデルについても検討・開発・評価した.
(6) ロバストな制御システムの効率的な構築に向けたツール整備・開発を行った.
(7) 全体最適化と連動する詳細最適化制御(分解装置)の整合性確認と検証を行な
った.
(8) 詳細最適化に関するモデルの拡張開発を行なった.(常圧蒸留塔、脱硫装置)
(9) 最適化の安定稼動に必要な診断システム(挙動予測、制御ループ診断)のプロ
トタイプを開発した.
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