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半導体クラスターイオンのサイズ増加に伴う 構造変化とその電子構造の
The Murata Science Foundation 半導体クラスターイオンのサイズ増加に伴う 構造変化とその電子構造の解明 Size-Dependent Structural Transition and Electronic Structures of Semiconductor Cluster Ions H24助自63 代表研究者 美 齊 津 文 Fuminori Misaizu 典 共同研究者 小 安 喜 一 Kiichirou Koyasu 郎 東北大学 大学院理学研究科 化学専攻 教授 Professor, Department of Chemistry, Graduate School of Science Tohoku University 東北大学 大学院理学研究科 化学専攻 助教 Assistant Professor, Department of Chemistry, Graduate School of Science, Tohoku University We have developed an experimental apparatus combining an ion mobility spectrometer and a tandem reflectron time-of-flight mass spectrometer for size- and isomer-selected cluster ion beam formation. By using this apparatus, we have succeeded in determining ion mobility and collision cross section of selected ions of carbon and silicon clusters, Cn+ and Sin+, and also the ions of transition-metal oxide clusters, (ZnO)n+ and (CoO)n+. For carbon and silicon cluster ions, we have confirmed the former experimental results of structural transition with increasing cluster size: For Cn+, we observed transitions from linear to cyclic structures around n = 10 and also from cyclic to fullerene structures around n = 30. As for Sin+, we observed the two different isomers of prolate and spherical structures for n =24-27. In the study of transition-metal oxide cluster ions, structures of selected cluster ions were determined from the comparison of the obtained cross sections with the theoretical cross sections. The theoretical orientation-averaged cross sections were obtained using MOBCAL software for ion mobility of the structures optimized by quantum chemical calculations. As for (ZnO)n+, chain and cyclic structures were dominant for n = 3-5, whereas tube-like three-dimensional(3D) structures became stable for n = 6-8. For (CoO)n+, linear, cyclic, and tube/tower structures were observed for n = 2, 3 and n = 4, 5, and n = 6, 7, respectively. As a result, transitions from bulky 1D or 2D structures to compact 3D structures were commonly observed around n = 6 of (ZnO)n+ and (CoO)n+ ions. We have also developed an apparatus for isomer-resolved photoelectron spectroscopy of cluster negative ions. 同定された各異性体負イオンに対して光電子 研究目的 分光を適用し、その正確な幾何構造と電子構 本研究では、14族元素および半導体として 造を明らかにするための装置を開発する。これ の性質を持つ遷移金属酸化物のクラスターイ らの研究によって、次の二つの問題を解明す オンのビームを真空中で生成し、イオン移動度 ることを目的とする。 (1)それぞれのクラスター 質量分析と量子化学計算を併用してクラスター においてサイズの増加とともにどのように構造 サイズ毎に構造を決定する。さらに、構造が 変化が進んでバルクの構造に近づいていくの ─ 259 ─ Annual Report No.28 2014 か。 (2)それぞれの異性体の電子状態が構造と これらの遷移金属酸化物は半導体としての性 対応してどのように変化して、バルクにおける 質をもち、新たなナノ材料としての利用が期待 性質を発現するのか。 されている。例えば酸化亜鉛(ZnO)はII-VI型 本研究で取り扱うような、マイクロクラス 半導体としてナノエレクトロニクス分野での応 ター領域での幾何構造や電子構造特性は、機 用が期待されている。また酸化コバルト(CoO) 能性ナノ粒子材料の開発に関連付けられるも も、半導体や触媒として利用されている。特 のと期待できる。さらに、近年のナノ科学・ナ に最近の研究から、これらの化合物はナノス ノ技術の発展に伴って、半導体素子の微細化 ケールで特徴的な構造を発現することが示さ が課題となっている。究極的には、本研究に れ、構造と電子状態の関連性を明らかにする おけるクラスター構造の解明が、表面部分構 ことが、今後の新規材料の開発に不可欠とな 造の特性の把握にも役立つと考えうる。このよ ると考えられる。 うな意味で、本研究課題の推進は、将来の微 概 要 粒子機能性材料開発、微細素子技術開発の基 礎をなす上で意義深いと考えられる。 本研究では、我々が最近開発・製作したレー イオン移動度分析法は、静電場の存在下で ザー蒸発型クラスターイオン生成 移動度分析 不活性気体(通常He)が導入されたドリフトセ 反射飛行時間型質量分析装置を用いて、14族 ルにイオンをパルス状に入射したときに、その 元素(炭素、シリコン)および半導体としての 衝突断面積によってイオンの進行速度が異な 性質を持つ遷移金属酸化物(酸化亜鉛ZnO, 酸 ることを利用して構造異性体の分離と同定を 化コバルトCoOなど)のクラスターイオン(Cn+ , 行うものである。この手法による従来の研究の +, + Si n+(ZnO) , n (CoO) n など, n : クラスターサイ 結果、シリコンクラスターイオンSi n + では、n = ズ)について、構造同定を行った。その結果、 25-30程度のサイズを境に偏長型からより球形 それぞれのクラスターイオンについて、サイズn に近い構造に変化することが報告されている。 の増加に伴う系統的な構造変化の様子に関し 一方、炭素クラスターC n は、1985年のフラー て知見を得た。また、それと独立に開発した レン分子C 60 の発見によって一躍脚光を浴びた 高感度磁気ボトル型光電子エネルギー分析装 が、以前からその構造は分光学的に研究され 置を上記の装置に連結し、異性体分離された てきた。その結果、サイズ10以下のクラスター クラスター負イオンの光電子分光に向けた装置 では直線構造をとり、偶数と奇数のサイズで 開発を行った。以下では、本研究の3つの軸に 安定性に違いがあることが明らかにされている。 ついて、得られた成果の概要を述べる。 Cn のイオン移動度分析の研究から、n = 10前後 + までは直線、その後n = 30程度までは環状、そ 1.14族元素クラスターイオンCn + , Sin + のイオ れ以上でフラーレン構造が最も安定となるこ ン移動度分析実験と、サイズ増加に伴う構 とが知られている。本研究では、まずこれらの 造変化・異性体分離の確認 クラスターイオンのサイズ増加に伴う構造変化 既に研究例のある上記のクラスターイオンの を、我々が最近開発した自作の装置で確認す 系に対して、本装置でのイオン移動度分析実 る。続いて、遷移金属酸化物クラスターイオ 験を適用して、報告されている構造変化が現 ンについて、サイズ毎の構造同定を進めていく。 れることを確認した。その結果、Cn+においては ─ 260 ─ The Murata Science Foundation 直線構造から環状構造への変化(n = 10付近) 、 環状構造からフラーレン構造への変化(n = 30 付近)を極めて敏感に観測することができた。 また、Si n + についても、偏長構造と球状構造が 共存するとされるn = 24-27のサイズ領域で、こ れらの異性体を分離して観測することができた。 2.遷移金属酸化物クラスターイオンのイオン 移動度分析と構造変化 + (ZnO)n+(CoO) , n のそれぞれのイオンに対し てイオン移動度分析実験を行い、n = 10程度ま での領域でサイズの増加に伴う構造変化を観 測した。その結果、どちらのクラスターでも、 n = 6付近を越えるとよりコンパクトな構造に変 化する傾向が明らかとなった。 (ZnO)n+ では、n = 3-5では鎖状構造、n = 6-8では環状構造が現 れており、これらはほぼ同程度の衝突断面積 を持つ構造である。n = 6-8ではこれらに加えて、 "tube"型の3次元に広がった構造が現れ始める ことがわかった。この3次元型の構造が、衝突 断面積の小さいコンパクトな構造に相当する。 (CoO)n + では、n = 2, 3で直線構造、n = 4, 5で環 状構造をとるのに対して、n = 6以上では、tube またはtowerといった形の3次元構造をとり始 めることがわかった。 3.イオン移動度分析装置と光電子エネルギー 分析装置の連結と予備実験 上記の二つの装置を連結、軸調整を行い、 予備的な負イオン光電子分光実験を適用した。 具体的には、炭素クラスター負イオンC n−が直 線構造から環状構造へ転移する領域(n = 7-12) について、レーザー光照射による放出光電子 のスペクトルを観測した。この領域の一部は、 既に光電子スペクトルの報告があり、その結果 との比較を行うことによって、装置性能を確 認した。 ─ 261 ─ −以下割愛−