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稿
文
寄
ン
ン
ン
ン
夢 の は じ ま り
田 村
カムイ 岬 に立 って い ます
いつ も話 して くれ た あ な たのふ る さ と
見 渡 す か ぎ りの水 平線 と 切 り立 つ 岩 に
で も あ な たの姿 は見 え ません
暮れなずむまで わ たしはひとり
あなた との思 い出に ひ た ります
去 る 5月 10日、東京 ・赤坂 の草月 ホ ー ルでひ らかれ
“
た福沢恵介 30周年 アニバ ー サ リー コンサ ー ト 夢 のは
"で
じま り
、ギ ター を奏 でなが ら、福 沢 さんは胸 の奥
一
か ら悲 しみ を しぼ り出す よ うに、切 なさを一語 語 に
こめるよ うに歌 った。
風 が髪 を揺 らせ ます
ふいに運 ばれて きた あ なたのにお いに
さが し求 める シ ャ コタンの海 と 砕 ける波 に
で も あ なたの姿 は見 えません
指 にす くった涙 の しず く
エ ゾユ リの花 び らに 移 します
豊浜 トンネ ル古平側坑 日付近 で 1万 1,000立方 メー
トルの岩盤 が、通行 中 の車両 の上 に落下す る とい う思
いがけない事故 が起 こったのは、平成 8年 2月 10日午
前 8時 10分の ことだった。そ の年 の夏、事故現場近 く
に設け られた慰霊所 に詣でた私 は、壁 に貼 られた犠 牲
者 の写真 に胸 をふ さがれた。幼顔 の残 る中学 生や 高校
生たちは、 まばた きをするい とまも与 えられずに、不
意に前途あ るいのちを絶たれて しまったのだ。
喜 子
*
"で
のは じま り
も歌 った。歌 はその歌 われかたに よっ
て、 聞 く者 の心 を揺 さぶ り、心 に染 み入 る ものだ。福
沢 さん の歌 に意 きこ まれなが ら、 いつ か私 の頬 を涙が
泣 き虫 よ しこ」 と、 あ とで福 沢 さん に
伝 って い た。 「
ど。
われて
しまったけれ
笑
ま ぎれ もな く 「カムイ伝説」 は名 曲 だ と思 った。 私
だ け でな く、聴衆 の三 分 の一 が涙 ぐんで い た とい うか
ら、 まん ざら私 の独 りよが りではない だろ う。実 は福
沢 さんは 2 番 の歌詞 を少 し間違 えた。 エ ゾユ リの花 び
らに移 します とい う ところを、 エ ゾユ リの花束 に託 し
ます と歌 って しまった のだ。
スポ ッ トライ トを浴 びたステー ジの上で、彼 は彼 の
世界 に浸 りきって いて、歌詞 を間違 えた とたんに気 が
つい た らしい。 だが、 さすが 3 0 年のキ ャリア歌手。 さ
らりと自分で作詞 して、言葉 じりを合 わせ て しまった。
歌詞 の この部分 は私が い ちばん気 に入 っている ところ
なのに ・・・。 1 0 月に発売予定 で制作 して い る C D で
は、訂正 してお い てね、 と私 は厳重 に、や さ しくおね
が い した。
コンサ ー トの最後 の 曲 は 「V ヽ
の ちある限 り」だった。
「
いい。
といって
これは 日本語版 m y w a y 」
いつ だったか、 「この 歳 になった ら歌 って もいいで
しょう」 とい って、 マ イウエ イを歌 って くだ さった こ
とがあったが、 年輪 を重ねては じめて、歌 に味 わ いが
出る ことを実感 した ものだった。
その思 い を胸に抱 いた まま積丹半島の先端、神成岬
に立った とき、愛 す るひとを失った思 い、愛 しい ひと
の姿 をもはや この世 で見ることがで きない とい う、残
された ものの深 い悲 しみが、即興 の詞 を綴 らせた。
その詞に作 出家 ・原正美 さんが出をつ け、歌手 の森
山良子 さんが情感 を込めて歌 って くださった。それか
ら2年 ばか りして、今度 は福沢 さんが彼 の経営す る札
幌 の ライブハ ウスで、 ギ ター の弾 き語 りを して くだ
さった。神威岬の情景が 日の当た りに浮かんで、私 は
聞 きなが ら涙 ぐんでいた。
「カムイ伝説」と名づ けたこの歌 を、福沢 さんは “
夢
歌手が表現す るのは、歌 ではな く、心 なのだ。
獨協大学在学 中の1 9 7 3 年、T B S 系 東芝 日曜濠J 場「う
ちのホ ンカンJ を歌 ってデ ビュー した福沢 さん の歌 は、
ふ るさと北 海道 ・十勝 の大地 の心 を原点 として い る。
十勝平原 の地平線 の彼方 まで通 る よ うな、澄 んだ歌声
の持 ち主 だ。
いの ちある限 り、福 沢恵介 さんは彼 の歌 を愛す る も
“
"を
のたちに、 心のうた
贈って くれることだろう。
*
作家 ・国土交通省 独 立行政法人評価委員会 委 員
2
北海道 開発 生木研 究所 月報 No602 2003年
7月
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