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大学生の海外研修旅行中に実施する ワークショップの有効性の検討

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大学生の海外研修旅行中に実施する ワークショップの有効性の検討
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
《論 文》
大学生の海外研修旅行中に実施する
ワークショップの有効性の検討
ま つ む ら
ち
え
松村 智恵
早稲田大学大学院人間科学研究科 博士後期課程
This research aims to explore the effectiveness of the workshop conducted in an overseas study tour for university students.
Since most Japanese students are unfamiliar with the workshop conducted in overseas study tours, the workshop for reflection
on the tour “Let's talk about My Seattle in 2010” designed based on the experience learning model of Kolb(1984)was conducted.
Questionnaire just after the workshop showed us positive results in motivation of students, but not in the proactive action. To
make sure about positive results in their action, interview research was conducted after 1year and half from the tour. Finally,
positive results were found in proactive action of the students. This research concluded to suggest that the workshop for
reflection conducted in an overseas study tour had been effective for proactive learning of university students.
キーワード:大学生、海外研修短期プログラム、ワークショップ、学習サイクル、自発的学び
1.はじめに
めることがある。大学ではプログラム実
語り合う機会を、海外研修旅行中にワーク
1.1.背景
施にあたり、
大学の掲げる目的を促進し、
ショップとして設けることが、学生の研修
2008年10月1日に観光庁が発足し、選
さらに学生自身が、海外研修旅行につい
旅行中における発見や気づきを促進する
択科目として海外研修を実施する大学で
て意識的に振り返る機会を持つ方略につ
のではないだろうか。
は、観光を教育に組み込んでいくための
いて模索中であった。国内修学旅行にお
中野(2001)は、ワークショップの特
カリキュラムを模索している。大学にお
ける研修旅行中のワークショップのデザ
質を、参加、体験、グループの3点に焦
ける観光教育技法のスキルアップととも
インでは、高嶋(2006)が、高校生を対
点をあて定義している。学習者の主体的
に、効果的な観光教育モデルの開発の必
象とした学びの提案、実施についての報
な活動や経験を重視したワークショップ
要性が指摘されている(宍戸 2006)。現
告を行っている。一方、海外研修短期プ
やプロジェクト活動が大学の授業に導入
状では、授業を組み立てるうえで、知識
ログラムにおけるカリキュラムの多く
されてきた(加藤・長岡、2001;美馬・
と実技のバランス、事例の取り入れ方な
は、海外研修旅行で体験する内容につい
山内、
2005など)
。学習における振り返り
どが問題視されている。さらに、2012年
て、出発前に事前調査を行い、現地で体
の重要性については、リフレクション支
より、文部科学省による、グローバル人
験し、帰国後に事後報告する方法により
援する学習環境におけるワークショップ
材の育成推進事業 採択大学(全学推進型
実施されている。しかし、学生が海外研
の実践と質的分析による検証が行われて
11校、特色型31校、計42校)が指定され、
修旅行日程中に自己省察活動を実施する
いる(石川、
2003)
。また、学習者の学習
大学が、グローバル人材の育成を促進す
ワークショップの実施例は、ほとんど報
プロセスの分析をとおして、自己省察活
る体験学修手段として、海外研修旅行を
告されてこなかった。
動を実施する際に省察活動のベースとな
単位認定し、選択科目に組み込んでいく
旅の「観光資源」は、風景、文化、人、
るような情報提供が重要であることが示
可能性は、今後ますます拡大していくこ
食、生活習慣など多様である。その多様
唆されている(石井・三輪、2004)。ま
とが予測される。
な資源に触れることで旅行者である大学
た、アクティブ・ラーニングは「学生参
大学における「海外研修短期プログラ
生は、事前に準備したカリキュラム以外の
加型授業」
「強調/協同学習」
「課題解決/
ム」の一事例として、首都圏X大学では、
多くのことを体験、あるいは体感する。大
探求学習」
「能動的学習」
「PBL(Problem/
「海外研修短期プログラム」を2009年3月
学生の自由な視点からの発見や気づき、
旅
Project Based Learning)
」など、扱う力
上旬より実施している。その目的の1つ
の振り返りを通して、大学生自身の経験や
点の違いにより様々に呼ばれている。大
に、様々な事象に対して関心を持ち、異
興味と結びつけ、大学生が自らについて、
学においてアクティブ・ラーニングは「学
文化の体験をとおして、知的好奇心を深
旅の体験を通してみつけた視点について
生の自らの思考を促す能動的な学習」と
2
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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
定義され、様々な分野でカリキュラムに
2.2.デザインコンセプト
た。シアトル短期研修旅行の旅程とワー
導入されてきている(溝上 2007)。一方
海外研修旅行の目的地である都市、シ
クショップ実施の日時を表1に示す。
で、アクティブ・ラーニングによる「旅
アトルについて、一言で表現する「語っ
行」の分野での報告は少ない。そこで、
てみよう My Seattle」ワークショップを
3.2.評価
学生が、参加している海外研修旅行中の
設計した。
3.2.1.研修旅行を省察する質問紙
「旅」での体験を、学生間によるリフレク
Kolb(1984)の経験学習理論は、具体
事前質問紙として、大学生が旅先で何
ション活動を実施し、グループでの情報
的経験が変容された結果、知識が創出さ
に関心を持ったかについて思い出すため
共有の機会として研修の最中にワークシ
れるプロセスである。Kolb は、学習の
に「今回の研修旅行で関心を持ったこと
ョップを実施する場合の、よりよい学習
プ ロ セ ス を、具 体 的 経 験(Concrete
は何ですか」の問いに、思いつくままに、
デザインについて、Kolb(1984)の経験
Experience)
、反 省 的 観 察(Reflective
紙に書きだしてもらった。ワークショッ
学習モデルに基づいて設計し、X 大学と
observation)
、抽象的概念化(Abstract
プ実施前の事前質問紙への回答について
の2回の検討修正の後、ワークショップ
Conceptualization)
、能動的実験(Active
は、1回目ワークショップ開始前に、参
を実施することを決定した。
Experimentation)の4つのステップから
加者に協力を得た。
なるサイクルとして定義している。この
3.2.2.ワークショップ
1.2.目的
学習サイクルでは、具体的経験は、反省
2回目のワークショップ終了後の質問
本研究では、まず、上述の首都圏 X 大
的観察、抽象的概念化、能動的実験を経
紙調査を実施した。質問紙への回答につ
学海外研修旅行中に実施したワークショ
て、新たな具体的経験に戻るというプロ
いては、
ワークショップ終了時に配布し、
ップ「語ってみようMy Seattle」を、Kolb
セスを循環させることで、学習がサイク
夕食終了後に、回収した。
(1984)の経験学習モデルに基づいて設計
リックに進展する。Kolbの経験学習理論
2回目のワークショップ終了後の質問
し、実施した報告を行う。次に、実践の
を、今回のワークショップに照らし合わ
紙では、動機づけの観点からワークショ
後、ワークショップ参加者に対して実施
せてみると以下のとおりになる。海外研
ップに対する評価アンケートを実施し
した質問紙調査による、参加者のワーク
修旅行という具体的経験をした直後に、
た。評価アンケートの質問項目は、ARCS
ショップに対しての自己評価結果と1年
ワークショップを通して研修旅行での出
モデル(KELLER 2009)を参考に作成し
半後のインタビューによる結果をもと
来事を振り返り(反省的観察)
、旅行先の
た。ARCS モデルとは、学習意欲に関す
に、大学向けの海外研修旅行中に実施す
出来事を通して経験したことから、旅行
る概念であり、授業評価・授業改善に利
る自己省察を促すワークショップは「自
先での出来事について、他のメンバーに
用される。ARCS は、動機づけモデルの
発的学び」を促進するのに有効かについ
一言で印象を語ってもらい(抽象的概念
枠組による構成要素4項目、Attention
て検討することを目的とした。
化)、他のメンバーの注目した研修旅行で
(注意)
、Relevance(関連性)
、Confidence
の出来事について聴く。さらに翌日の研
(自信)
、Satisfaction(満足感)の頭文字
2.ワークショップのデザイン
修旅行でしたいことについて語り(能動
を意味する。この4項目を参考に、ワー
ワークショップは、Kolb(1984)の経
的実験)、翌日の研修体験(具体的経験)
クショップに対する評価項目を以下のよ
験学習理論に基づいてデザインし、実施
に学習サイクルを進展させる。以上の体
うに作成した。
した。学生は、ワークショップを通して、
験機会の設定されたワークショップの実
(1)この講習はあなたの好奇心をくす
他の人の視点を知り、自分自身の視点が、
施を決定した。
ぐりましたか
何に向けられていたかについて振り返
(2)この講習を受けることにやりがい
り、旅のタイトルをつけるまでのプロセ
3.調査方法と実施内容
スを体験した。
3.1.調査方法
を感じましたか
(3)この講習を受けて自信がつきまし
2010年2月28日(日)より3月5日(木)
たか
2.1.ワークショップの目的
の6日間のシアトル研修旅行において、
(4)この講習を受けてよかったですか
海外研修旅行中の自己省察を促すワー
3日目と4日目の夕方の2時間(17:45~
学生向け旅程表に、今回実施したワー
クショップ・プログラムを実施し、学生
19:45)を利用し、夕食前に、宿泊ホテ
クショップを「講習」と記載していたた
が自らの思考を促す能動的な学習を促進
ルの朝食用レストランにてワークショッ
め、質問項目には、
「講習」と表記した。
する「自発的な学びの機会」とすること
プを実施した。参加学生数は10名、大学
回答方法は5件法であった。回答結果は
を目的とした。
2年女子7名、男子1名、
3年男子2名で
それぞれ1点~5点に得点化し、すべて
あった平均年齢20歳(SD=0.67)
。海外渡
の設問について「1全くそう思わない・
航経験者が8名、未経験者が2名であっ
2ややそう思わない・3どちらともいえ
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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
ない・4ややそう思う・5全くそう思う」
の5段階で評定を求め、ワークショップ
参加者の「好奇心」「やりがい」「自信」
「満足」の度合いを、大学生に自己評価さ
せた。
表1 シアトル短期研修旅行の旅程とワークショップ実施の日時
月日
地名
2月28日
交通機関
航空機17:30発
成田
シアトル着後:視察(4時間)
シアトル 09:09着
3月1日 シアトル 専用車
終日:ボーイング社、JAL、シアトルプレミアムアウ
トレット等視察
3月2日 シアトル 専用車
終日:地元大学にて学生と交流(授業参加、街中散策)
17:45~19:45 ホテルにて講義〈ワークショップ1回目〉
3月3日 シアトル 専用車
終日:日本総領事館、セーフィコフィールド等視察
17:45~19:45 ホテルにて講義〈ワークショップ2回目〉
3.2.3.学生の向上意識の変化
2回目のワークショップ研修後、3日
目と4日目の研修旅行における学生の行
動および意識が変化したかどうかについ
て評価するために以下の5項目の設問を
用意した。
(1)この講習を受けて3日目までと4
予定
3月4日 シアトル 航空機13:38発 シアトル空港へ
3月5日
成田
17:00着
注:シアトルと東京の時差は、シアトルが17時間遅れている。
日目までの自分の行動に変化が
ありましたか
表2 ワークショップの実施内容
(2)この講習を受けて旅程3日目まで
と4日目までの自分の意識に変
化がありましたか
(3)この講習を受けて自分の知識やス
キルが向上しましたか
(4)この講習で学んだことは、今回の
研修旅行の質を向上させますか
(5)この講習で学んだことは、自分の
学業・生活の質を向上させるのに
活用できそうですか
すべての設問について「1全くそう思
わない・2ややそう思わない・3どちら
ともいえない・4ややそう思う・5全く
スケジュール
ワークショップ
〈3日目〉3月2日(火)
〈ワークショップ1日目〉
(17:45~19:45)
17:45~17:55
●アイスブレーク:シアトルを漢字一文字で
17:55~18:05(手順説明)
1.シアトルの写真選び→
18:05~18:50
▼発表資料作成→
18:50~19:05
▼グループワーク
表すなら「○」、(10分、挨拶含む)
19:05~19:30(説明5分、発表:1人あた 本日の「My Seattle」を発表
り1分)
2.興味を持ったシアトルについて一言
19:30~19:40(1人1分)
3.明日への一言
19:40~19:45
●まとめ
〈4日目〉3月3日(水)
〈ワークショップ2日目〉
(17:45~19:45)
17:45~18:00
●アイスブレーク:
「シアトルで出会ったお気
~5点までに得点化した。さらに、自由
18:00~18:05(手順説明)
1.各自写真選び(5枚)
記述による受講後の回答を得た。
18:05~18:50
▼グループワーク
そう思う」の5段階で評定を求め、1点
に入りの○○○○は?」
▼写真の順序決め(構成)
3.2.4.1年半後のインタビュー調査
▼発表資料作成
インタビュー調査参加学生は、今回
(2010年)海外短期研修旅行中に、ワーク
ショップの組み込まれた海外短期研修旅
◆タイトルを書く(表紙)
18:50~19:40(発表:1人あたり5分以内) 2.各自「My Seattle」を発表
●まとめ
19:40~19:45
行を経験した後、翌年(2011年)春に、
ワークショップの組み込まれていない海
具体的には、
「ワークショップが、参加
の大学に近いファミリーレストランで実
外短期研修旅行に参加したか、あるいは
者の記憶にどのように残ったのか」
、
「海
施した。4年生1名は大学構内において
夏休みを利用して、個人的な海外旅行経
外研修短期プログラム終了後、新たな自
インタビューを実施した。所要時間は、
験をした学生であった。海外短期研修旅
発的行動が発現したのか」
、
「自発的行動
1人あたり20分程度であった。
参加者は、
行中にワークショップがあるプログラム
が発現したとすれば、
ワークショップは、
1年半前に参加した海外研修短期プログ
とワークショップの機会がない海外短期
自発的行動の変化に有効に作用したかど
ラムとワークショップについて記憶に残
研修や海外旅行と比較できる体験をとお
うか」を明らかにすることを目的とした。
っていることを語った。ワークショップ
した、海外短期研修旅行におけるワーク
海外研修短期プログラム実施後1年半
に関わる49データを切片化しグラウンデ
ショップについての意見をインタビュー
後の2011年9月中旬に、女子学生5名、
ッド・セオリー・アプローチ(戈木 において聴くことを目的とし、1年半後
3年生4名、
4年生1名に、
インタビュー
2008)3の手法を援用し、分析を行った。
にインタビューを実施した。
調査を実施した。3年生4名は、首都圏
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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
3.3.実施内容
写真の中で1枚を選び、全員の前で発表
1回目のワークショップをとおして、
した。聴き手は、発表者に対して、発表
多くの視点からシアトルを振り返り、参
についての感想や意見など、フィードバ
3.4.ファシリテーター
加者相互に情報共有することを目標とし
ックのコメントを、ポストイットに書い
観光資源に対する質問には、シアトル
た。次に、2回目のワークショップでは、
た(発表の仕方について説明5分、発表
のガイドブックと見学地で配布されたパ
研修参加への自発的行動を促進させるこ
1分+予備時間2分×10人)
。最後に
「シ
ンフレットを、あらかじめワークショッ
とを目標とした。3・4日目をとおして
アトルを一言で表現してみましょう」と
プ会場の一角に必要情報として用意し、
各自「My Seattle」を完成させることを
「明日への一言」を B4版のスケッチブッ
参加者が必要な時に、随時、閲覧できる
目標とした。ワークショップの実施内容
クに書き出し、全員に向けて発表しても
ようにした。また、必要に応じて、ワー
とタイムスケジュールを表2に示す。
らい、まとめとした。
クショップの進行者であり、添乗員であ
各自には、スケッチブック1冊(B4、
研修4日目の2回目のワークショップ
る著者が、ワークショップの作業中に、
10枚)、各テーブルには、パソコン1台、
では、このワークショップのテーマであ
参加者の要望に応じて、参考資料の調べ
油性ペン、B4画用紙、ポストイットを用
る「My Seattle」をまとめ、個々が「My
方を提示する等、ファシリテーターとし
意した。2回のワークショップでは、両
Seattle」を語る機会とすることを目的と
て、参加者に個々に対応した。
日とも、最初にシアトルに関する簡単な
した。まず、アイスブレークの後、昨日
質問をして、アイスブレークとした。1
作成したフォルダに、本日、興味を持っ
3.5.フィードバック
回目には、アイスブレークの後シアトル
た場面の写真を数枚加えた。次に、個々
発表者は、グループのメンバーの発表
での個々の興味を語り合った。個々が、
が本日選んだ写真について、グループ内
に対するコメントを、参加者の学生とオ
デジタルカメラで撮影した写真の中で、
で語り合った(1分ずつ)
。次に、各自
ブザーバーとして傍聴した研修参加の大
観光、自由視察、視察、交流研修など、
が、昨日までと本日を合わせ、ベストシ
学の先生8名に書き出してもらった。傍
シアトルで最も興味を持った瞬間や、面
ョットオブシアトルとして5枚の写真を
聴者と参加者には、発表者へのコメント
白いと思った場面(ジャンルは問わない)
選び、各自のフォルダに入れた。全員が
として、発表に対する感想や意見をポス
の中より、合計3枚の写真を選択した。
写真を選び終わったら、お互いに選んだ
トイットに書き出してもらい、各日の
次にパソコンのスライドショーができる
写真について、グループ内のメンバーに
ワークショップ終了後、
発表者に手渡し、
よう1人1人にファイルを作成し、パソ
説明し合った。グループ構成は昨日と同
発表のフィードバックとした。また発表
コンのデスクトップに保存した。パソコ
じとした。
者への傍聴者よりのコメントは、3日目、
ンは、3人から4人で共用した。両日と
発表資料は、スケッチブックの1ペー
4日目ともに、授業終了後、My Seattle
もテーブルは2テーブル4人と、6人の
ジ目を、表紙(タイトル記入)として用
の作品(参加者各自のスケッチブック)
グループで、向かい合わせに座った。グ
意し、2ページ目から、発表の際に紹介
と共に、学生にフィードバックされた。
ループ分けはランダムとした。
する写真の順番を決め、
お気に入り順に、
次に、個々が、選んだ写真について、
最初と最後に最もお気に入りの写真が来
4.結果
各自のスケッチブック(B4)にコメント
るように並べて作成した。まず、発表の
4.1.事前質問紙の結果
を作成した。いつ、どこで、何を、どの
際、紹介する写真について、説明したい
ワークショップ第1回目の開始直前
ように、なぜその写真を選んだのかにつ
内容をスケッチブックに、油性マジック
に、参加者の海外渡航経験についてと、
いて、1枚の写真につき、スケッチブッ
を使って書き出した。同時に、学生は、 「今回のシアトルで印象に残ったこと、興
ク(B4)1ページを使用し記述後、写真
いつ、どこで、何を、どのように感じ、
味を持ったこと」について、自由に記述
にタイトル、サブタイトルをつける作業
それはなぜかについて発表する際の資料
してもらった。参加者は、シアトルへの
を行った。各自のメモに、他の人の視点
メモを作成した。さらに、完成した5枚
研修旅行が初めての海外旅行(1回目)
で、ワークショップ中に自分が興味をも
の発表資料の前の1枚を1ページ目とし
である人が2名、2回目が2名、3回目
ったことを書き出してもらった。各テー
て、タイトル(サブタイトル)を書き込
が3名、4回目が1名、5回目以上が2
ブル、全員が発表資料を書き終えた後、
み、表紙とし、写真の説明内容5ページ
名であった。5回目以上のうち1名は、
グループごとに、シアトルについて語り
の計6枚の発表資料を作成した。
最後に、
シアトルに在住経験がある者であった。
合ってもらった。聴き手は、発表者が語
各自が、全員の前で、興味を持ったシア
また、2名は、昨年のシアトル研修旅行
る内容について質問し、発表者の興味に
トルについて、写真を見せながら、作成
に続き、シアトルへの渡航が2回めであ
関心を向けた(15分)。ワークショップの
した資料を使って発表した(5分×10
った。印象に残ったこと、興味を持った
終わりに、参加者は、各自が本日選んだ
人)。以上が、
ワークショップ2日間の流
ことについて書き出してもらったとこ
-80-
れであった。
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
ろ、10~13件書き出していた人が8名、
デル(KELLER、2009)を参考に作成し
上させますか」
(研修旅行の質向上)、
「こ
7件が1名であった。シアトル在住経験
た項目標準偏差を表4に示す。
の講習で学んだことは、自分の学業・生
のある大学生1名は、1件のみ「ボーイ
活の質を向上させるのに活用できそうで
4.4.向上意識の変化(自己評価)
すか」
(生活向上)の5項目の質問によ
ワークショップ受講前と2回目のワー
る、行動および意識について自己評価の
4.2.発表資料(成果物)による分析
クショップ受講後の海外研修旅行での行
回答を得た。評価は、5段階評価による
1回目のワークショップのまとめとし
動および意識の変化について明らかにす
自己評価をしてもらった。また各項目で
て、
「シアトルを一言で表現してみましょ
るために、参加者には、
「この講習を受け
自由記述での回答を得た。
う」と「明日への一言」について、およ
て3日目までと4日目までの自分の行動
結果より、
2回のワークショップでは、
び2回目のワークショップの発表資料
に変化がありましたか」
、
「この講習を受
行動や認識を変化させるまでには至らな
「語ってみよう My Seattle」発表タイト
けて3日目までと4日目までの自分の意
かった。しかし、ワークショップをとお
ルを参加者に、画用紙に書き出してもら
識に変化がありましたか」
、
「この講習を
して、
「学業・生活の質」
、
「研修旅行の
った。結果を表3に記す。
受けて自分の知識やスキルが向上しまし
質」
「知識・スキル意識」の順でなにかが
結果より、第1回目のワークショップに
たか」(知識やスキル向上)
「この講習で
、
向上したという自己評価を参加者より得
おいて、
「シアトルを一言で表現してみよ
学んだことは、今回の研修旅行の質を向
た。ワークショップ受講後の行動と意識
ング社」と記述していた。
う」は、
10件のうち4件がコーヒーに関す
る一言であった。また、
「明日への一言」
表3 学生の発表資料のタイトル(成果物)
では、1件、翌日訪問地のセイフィコフ
学生
ィールドと関連する「イチロー」を記述し
1
もっと知りたい町
出会い
「シアトルのフードコート」
た人以外は、明日への一言は、9件とも、
2
寒いようで暖かい…!!!?
後悔しない!!
「シアトルの店員さん」
抽象的な表現ではあった。2回目のワー
3
コーヒーショップが多い
今日までに気づかなか 「Starbucks」パイクプレース
ったことに気づく!
マーケット1号店
4
カフェの街
発見の街
5
コーヒーがいっぱい!
シアトルの思い出をた 「Starbucks」スタバマニアの
くさんつくる!
私にはたまらない
6
コーヒーの街
イチロー
「べレビューカレッジ」
「馬車」
「朝食!!」
クショップの発表資料、
「語ってみよう My Seattle」の一例を図1に示す。
4.3.ワークショップの評価
2回目のワークショップ終了後、参加
シアトルを一言で
明日への一言
7
驚きと興味とよろこび
異文化
8
◎夢への一歩
更にもう一歩
「BOEING」
9
●シアトルの空気はおいしい 写真をたくさんとる
10
●探究心が大事
習を受けることにやりがいを感じました
か(R)、(3)この講習を受けて自信が
つきましたか(C)、(4)この講習を受
けてよかったですか(S)、の4項目を質
問紙にて、5段階評価による自己評価し
てもらった。全体の評価の平均値は4.25
(SD=0.65)であった。 好奇心、やりが
ねろよ!! マジで!!
◎はシアトル在住経験者
●2名は、今回が2回目のシアトル研修旅行であった。
い、満足において、評価得点4を超えて
いた。満足において、7名が5、2名が
「Starbucks」 First ! 800
「Birthday パーティ、ワシン
トン大学の図書館、ボーイン
グ社の787、湖、街中の芸術家
たち、国際交流生」
者には、
(1)この講習はあなたの好奇心
をくすぐりましたか(A)、(2)この講
「My Seattle」の発表タイトル
図1 「語ってみよう My Seattle」発表資料(1例)
4、1名が3の評価であった。3どちら
ともいえない、と回答した参加者は、自
信の評価が2であった。また、5と評価
した参加者の1名は、満足度評価は5で
あったが自信を2に評価していた。自信
(C)の自己評価が低かったこの2名は自
由記述に、作業の時間が足りなかったこ
とについて指摘し、満足いく作品を作り
たかった旨の記述がみられた。ARCS モ
-81-
「シアトルの極端な風景」
1.犬も歩けばスタバに着く
2.まさかの Daiso の発見!!
3.イケメンすぎるHomeless
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
表4 ワークショップ評価項目の平均値(n=10)
項目内容
(1)この講習はあなたの好奇心をくすぐりましたか
(2)この講習を受けることにやりがいを感じましたか
(3)この講習を受けて自信がつきましたか
(4)この講習を受けてよかったですか
平均
4.30
4.30
3.80
4.60
SD
0.61
0.44
0.93
0.63
表5 ワークショップ後の向上意識に関する自己評価の平均値(n=10)
項目内容
(1)この講習を受けて3日目までと4日目までの自分の行動に変化がありましたか
(2)この講習を受けて3日目までと4日目までの自分の意識に変化がありましたか
(3)この講習を受けて自分の知識やスキルが向上しましたか
(4)この講習で学んだことは、今回の研修旅行の質を向上させますか
(5)この講習で学んだことは、自分の学業・生活の質を向上させるのに活用できそうですか
平均
3.60
3.90
3.90
4.40
4.60
SD
1.22
0.79
0.79
0.63
0.63
表6 ワークショップについてのコメント
協力者
学年
シアトル前後海外渡航歴
シアトル渡航 ワークショップについてコメント
前:高校時代
協力者1 3年 オーストラリアホームステイ
後:サンフランシスコ研修
協力者2 3年
前:家族でアジア旅行
後:サンフランシスコ研修
協力者3 3年
前:オ ーストラリアホームステイ、
「私はよかった。」
ニュージーランドホームステイ 3回目の外国
「一日一回でも(いい)」
後:韓国研修旅行
前:なし
協力者4 3年
後:韓国研修旅行
協力者5 4年 なし
メリット
「計画とかして、見たとこの情報交
「2回でよかった。少しの時間でも
2回目の外国
換とかしたい。自分が気づけない
っとたくさんやりたかった」
ところとか知れるから。
」
「シアトルのことを振り返ること
ができてよかった」
2回目の外国 「あったほうがいい」
「毎日あったことを振り返れるか
ら」
初めての外国 「2日あってよかった」
「自分が見ていないような、面白い
視点が見れて勉強になった」
「2日目に、もっといろんなことに
目を向けてみようと思った」
初めての外国 「もっとやりたかったです」
「ワークショップをすることによ
ってシアトルに来た意味を含めて
理解する気がするので」
「一日のスケジュールや、感じたこ
と、気づいたことを再確認できま
した。」
「海外の文化に興味を持つように
なりました」
の変化に関する自己評価の項目内容、平
すよね」など、ワークショップの回数、時
りますか?」の質問に対し、
「毎日、午
均値、標準偏差を表5に示す。
間に対する問題点を挙げるコメントがみ
前、午後の節目、節目にワークショップ
られた。また、
「
(ワークショップ実施を)
をやったらいい。振り返りをしたいで
4.5.1年半後のインタビュー調査
少しの時間で、もっとたくさん希望」
「
、一
す。
」と答えた後、行動の変化について言
インタビュー調査のコメントを分析し
日一回でも(よい)
」
、
「もっと、写真が見
及していた。インタビュー協力者5の発
た結果、ワークショップが2回あり、各
たかった」
「もうちょっと早い時間であれ
言と発言の中に見られた行動変化、認知
120分はあったことはよかったという全
ば毎日でもいい」
、
「もっとやりたかった」
変化および態度変化について分析を行っ
員の意見であった。さらに、短時間で頻
など、全員がワークショップに対して、積
た結果を表7に示す。
度多くしたほうがよいと、
5人中4人が発
極的な改善案の提示をしていた。インタ
言した。また、
ワークショップに参加して
ビュー協力者の切片化したコメントの中
5.考察
良かった点として、出来事の再確認がで
で言及されたメリットをワークショップ
5.1.事前質問紙
きた(2名)や他者の視点を知ることが
の評価として表6に示す。
大学生の事前調査の記述量は、参加者
できた(3名)ことをとりあげていた。ま
さらに、協力者5は「こんな研修旅行
10名中8名が10~13件記述していたこと
た、
「ちょっとやっぱり、予定つめつめで
があったら参加してみたいという点があ
から、大学生は、個々に豊富な観光資源
-82-
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
表7 協力者5の自発的行動、認知、態度の変化についての分析
協力者5の発言
行動および認知および態度の変化についての分析
「シアトルに行く前は、外国が遠かった。行きたいなと思っても、実 今までの態度
際に行こうとは思わなかった」
(今は)
「メキシコの映像を見て、行きたいと思ったら、本当に行こう 態度の変化(行動への決定ができるようになった)
と思える」
「卒論も、沖縄の基地についてから、日本のコーヒー文化についてと 行動の変化(シアトルで体験したコーヒー文化が影響を与え、卒業論
変えた」
文のテーマを変えた)
「スタバ一号店、タリーズ本店も行って、タリーズ日本の社長が書い 能動的実験(Kolb 1984)(海外研修旅行中の興味の喚起および促進に
た本を買って読んだりした」
よる行動の促進
具体的経験(Kolb 1984)帰国後の興味の持続、と自発的な学習行動の
発現
「お父さんは海外行くのだけど、自分が行くとなると不安で行こうと 今までの態度
思わなかったけど、
(海外へ)行く自信がついた」
態度の変化(自発的な転移行動への自信、勇気づけ)
「ワークショップはもっとやりたい」
態度の変化(ワークショップによる振り返りが、協力者5に、海外へ
行く自信を持つことに影響を与えたことを予測させる発言)
「シアトルは、もうできあがった国じゃないですか」
体験を通して獲得した認知(シアトルの再認識)
「他には、カンボジアとか行ってみたい」
「ボランティアみたいの」
新規旅行行動への宣言(シアトルでの体験を踏まえた転移行動の宣
言)
「Sさん、アメリカ留学も、うらやましい」
できれば実現してみたい転移行動への言及
(インタビューの際、シアトル研修短期プログラムに参加した協力者
5の同級生 S は、シアトルに留学していた。協力者5も、海外留学に
興味をもっていた)
「会社の研修が始まってしまう。韓国とかも行ってみたい」
現実可能な転移行動への言及
(インタビューの際、協力者5は、就職先が決まった直後であった。現
実的に、同級生Sのように海外留学は難しいかもしれないため、現状、
実現可能な、代替の海外旅行先として、韓国への渡航の希望について
言及している。
補足)協力者5は、シアトルの海外研修短期プログラムへの参加の際は、初めての海外旅行であった。インタビュー時は、大学4年生であり、
就職先が決まった直後であった。
の中より、ワークショップのテーマを決
あったが、翌日への行動につながる表現
のタイトルは、複数のシアトル体験の中
めるのに十分なシアトルのリソースを持
であった。
「ねろよ!! マジで!!」
と
から、選択した場面に、形容詞の表現を
っていたことが考察される。一方、シア
発言した学生は、研修旅行初日に1人で
加えて、タイトルとしていた。また、他
トル在住経験者は1件のみの記述であっ
夕食後シアトルを散策し、旅程3日目に
の1名は、自分が知っている日本での対
た。これは、シアトル在住経験のある1
体調をくずしたことから出た一言である
象物とシアトルでの対象物の比較をし
名は、本研修の第一目的をボーイング社
と考察された。2回目ワークショップの
て、タイトルをつけていた。以上の結果
の1件に絞りこんでいたため、1件のみ
「My Seattle」の発表タイトルでは、シア
より、シアトル訪問および在住経験のあ
トル研修旅行が初めての7名全員は、研
る参加者の視点が、シアトル訪問初めて
修旅行中の直接の体験をとおし、見たも
の参加者と明らかに異なっていたことが
5.2.発表資料タイトル(成果物)
の、出来事をタイトルとしていた。一方、
考察される。
結果より、第1回目のワークショップ
シアトル在住経験者は、ボーイング社訪
において、
「シアトルを一言で表現してみ
問という本研修旅行での楽しみが実現
5.3.ワークショップの評価
よう」は、10件のうち4件がコーヒーに
し、ボーイング社訪問時には、現地の邦
ワークショップの評価の結果より、2
関する一言であった。シアトル到着初日
人スタッフとのミーティングにおいて、
日間のワークショップは、好奇心、やり
の訪問地が、スターバックス一号店であ
スタッフに対し、積極的に質問をした1
がい、満足ともに、5段階評定で平均値
ったことよることが考察される。また、
人であった。この参加者は、自由記述よ
が4以上の肯定的評価を得ることができ
「明日への一言」では、1件、翌日訪問地
り、ボーイング社訪問を、本研修参加の
たと考察される。また、自信の評価にば
のセイフィコフィールドと関連する「イ
第一目的として、目的を明確にして参加
らつきが大きいのは、時間内に発表資料
チロー」を記述した人以外は、
「明日への
したことが明らかであった。さらに、2
が完成せず、資料作成スキル不足を認識
一言」は、9件とも、抽象的な表現では
度目のシアトル研修旅行への参加者1名
し自信をなくした、という2件のコメン
記述したと考えられる。
-83-
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
トが影響していると考察される。ワーク
修での出来事を振り返り、情報共有する
新たな具体的経験行動も見られた。これ
ショップの作業は、時間内におおむね完
ことで様々な他の人の視点を知ることが
らの結果より、今回実施した海外研修短
成できる程度の内容であった。しかしな
できたことを挙げていた。これらのコメ
期プログラムにおけるワークショップ
がら、発表する内容を絞り込み、まとめ
ントより、省察を促すことを目標として
は、能動的学習を促進させることに有効
るのに時間がかかってしまう参加者が見
実施した本ワークショップは、大学生に
に機能したことが考察される。また、イ
受けられた。作業が中断してしまった時
とり、海外研修旅行を振り返る機会とし
ンタビュー協力者5の発言より、一度海
には、ファシリテーターに気軽に相談で
て機能していたと考察される。一方、問
外旅行体験をすることにより、未経験に
きる雰囲気づくりと、ファシリテーター
題としては、限られた日程の中でワーク
よる不安が取り除かれ、次の海外旅行行
の参加者の作業の進行状態の見守り、適
ショップを夕食前に組み込むことは、大
動への勇気づけになることが推測され
切なアドヴァイスによる参加者の自信を
変であるとの発言が挙げられた。また、
た。大学が主催する海外研修短期プログ
向上させる工夫が必要であることが推察
インタビュー協力者全員が、ワークショ
ラムは、海外への渡航が初めての大学生
された。
ップに対する積極的な改善案の提案をし
にとり、安心して参加できる海外旅行体
ていた。毎日1回や、午前、午後各1回
験の機会として認知されていることが学
5.4.向上意識の変化
を希望する声もあり、短時間で頻繁に振
生の発言より考察される。
向上意識に関する質問に対する回答結
り返ることができると良いとの意見もあ
果より、2回のワークショップでは、行
った。さらに、
「全員の写真を見たかっ
6.総合考察
動や認識を変化させるまでには至らなか
た」、携帯の写真をその場で大きくして見
総合考察では、シアトルで実施した
った。しかし、ワークショップをとおし
たかったとの意見もあった。問題の改善
ワークショップの内容と評価を、Kolb
て、学生は、「学業・生活の質」、「研修旅
案としては、SNS などを利用して、1日
(2009)の経験学習理論に照らし、学習サ
行の質」「知識・スキル意識」の順でなに
に複数回、研修で撮影した写真を送信す
イクルが進展したかどうかについて検討
かが向上したという、
「向上意識」を認知
る、など工夫の余地があると考えられる。
する。まず、事前質問紙に、印象に残っ
する自己評価をしていた。また、参加者
さらに、大学4年の学生(協力者5)か
た場所について書き出すことは、今回の
は、1.作業が滞る様子はみられなかっ
らは、コーヒー店に興味を持ち、卒論の
研修旅行を省察するために機能したと考
た、2.発表者の話す内容の理解に時間
テーマを「日本のカフェ文化」に変更し
えられる。次に、参加者間で思い出とし
がかからなかった、3.作業に対する否
たという意見もあった。この学生は、異
て記憶に残っている場面の画像と画像に
定的なコメントは、自由記述には見られ
文化、父と自分など、自分と関わる文化
対するタイトルづけを行った。その際、
なかった、の3観点より、本研究で実施
や自分自身の行動と異なる文化や自分以
参加者は印象に残った場所や状況を客観
したワークショップ、「語ってみようMy
外の人の行動を比較して発言していた。
的に省察し、参加者個々の発表資料を作
Seattle」というテーマは、作業と話合い
この学生は、発言データ数が21と最も多
成することにより、シアトルを抽象概念
において、学生の積極的な取り組みを促
く、ワークショップをとおして他者の意
化することを促進する役割を果たすこと
すテーマとして妥当であったと考えられ
見を受け入れることで学習サイクルが促
に機能したと考えられる。
る。テーマが、参加者の自分自身の体験
進されたと考察される(表7)
。さらに、
さらに、ワークショップの評価より、
に基づいていることもあり、関心があっ
協力者5は、
「
(海外へ)行く自信がつい
今回実施したワークショップの内容は、
たため、参加の大学生は、積極的な態度
た」「カンボジアとか行ってみたい」や、
参加者にとり、研修旅行を振り返り、紹
でワークショップに取り組んでいたと考
留学、海外ボランティアに興味をもった
介し合うことで情報共有することができ
察される。また、参加者が、参加者間の
とも発言しており、学習サイクルが進展
る、楽しい作業の場であったことが推察
共通の体験から個人の視点を抽出し経験
したと考察される(表7)
。
される。そのため、参加者は、自発的に
を相互に語り合う形となり、ワークショ
以上のインタビュー協力者の発言の中
作業に取り組む態度であったと考えられ
ップでの作業は、概ね適切であったと考
には、ワークショップの感想(反省的観
る。また、向上意識の評価も、概ね好評
察される。
察)、メリット、問題点(抽象的概念化)
価であったことから、
「学業・生活の質」、
と問題に対する改善案の提示(能動的実
「研修旅行の質」
「知識・スキル意識」の
5.5.1年半後のインタビュー調査
験の提案)が見られた。さらに、協力者
順でなにかが向上したという意識を実感
インタビュー協力者全員のコメントよ
5の発言では、海外短期研修プログラム
したことが示唆された。しかし、2回の
り、ワークショップ参加への肯定的評価
とワークショップの客観的評価(抽象的
ワークショップでは、具体的な意識の変
は持続していた。また、ワークショップ
概念化)が見られた。また、新たな旅先
化による行動の変化はみられなかった。
参加のメリットとして、学生は、海外研
への旅行の決意(能動的実験)がなされ、
これは、行動を変化させるだけの自由行
-84-
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
動の時間が、確保できていなかったこと
の結果より、動機づけ、向上意識におい
が要因として考察される。
て、学生の肯定的評価を得た。さらに1
1年半後のインタビュー調査の結果よ
年半後のインタビュー調査の結果より、
り、今回のワークショップの肯定的評価
ワークショップの肯定的評価は持続して
若い世代の「内向き志向」を克服し、
は持続したことが明らかになった。また、
いた。また、一部の学生には、肯定的な
国際的な産業競争力の向上や国と国の
インタビュー協力者の発言より、ワーク
行動変容が見られ、旅行行動にも自信が
絆の強化の基盤として、グローバルな
ショップは、学生が旅先での興味を再認
持てたという発言が確認された。以上の
舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材
識し、他者の視点を確認する機会として
結果より、海外研修短期プログラムにお
の育成を図るため、大学教育のグロー
機能した。また、1年半後には、卒業論
ける自己省察を促すワークショップは、
バル化のための体制整備を推進する。
文のテーマを、シアトルでの体験がきっ
学生に自発的行動と態度を発現させたこ
JSPS 独立行政法人日本学術振興会は、
かけになったものに変更し、研究のため
とから、学生の自発的学びを促進するこ
大学教育のグローバル化を推進する取
の読書もするなど、新たな能動的な行動
とに効果的であることが示唆された。
組を行う事業に対して、重点的に財政
も発現した者もいた。
海外短期研修プログラムにおいて、学
支援することを目的としている。本事
以上、本研究における、大学生のワー
生の自発的学びを促進するのに効果的な
業は、
「グローバル人材育成推進会議中
クショップ体験を学習サイクル理論に照
介入方法として、どのような形態のワー
間まとめ」によるグローバル人材の3
らして考察すると以下の説明が可能であ
クショップが有効という実践事例を蓄積
要素として、I 語学力・コミュニケー
る。海外研修短期プログラム(旅行)と
していくことにより、
実践のフィールド、
ション能力、Ⅱ主体性・積極性:チャ
いう具体的経験の最中に、意識的に反省
研究対象者のデータ数を確保し、海外研
レンジ精神・協調生・柔軟性、責任感、
的観察を促すワークショップを組み込ん
修中に有効なプログラムを考案、実施す
使命感、Ⅲ異文化に対する理解と日本
だ時には、そのワークショップは、研修
ることが今後の課題である。
人としてのアイデンティティに加え、
目的だけでなく、海外における旅行行動
全般を振り返る機会を大学生に提供する
機能を果たす。さらに、海外で旅行中に
体験する出来事を意識的に省察した結
果、学生は、抽象的概念化、能動的実験
インに注目した。
グローバル人材育成推進事業
(2)
2012年、文部科学省が実施した事業。
これからの社会の中核を支える人材に
共通して求められる、幅広い教養と深
注記
い専門性、課題発見、解決能力、チー
本研究の「海外研修短期プログラム」
ムワークとリーダーシップ、公共性・
の定義
倫理観、メディア・リテラシー等の能
(1)
を経て、新たな具体的経験に学習サイク
観 光 学 大 事 典(日 本 国 際 観 光 学 会、
力の育成をめざし、大学教育のグロー
ルを進展させる機会を増やすことが予測
2007)によれば、教育観光(educational
バル化を推進する取組を対象とする。
される。一方で、海外研修短期プログラ
tourism)の定義は多様であるが、広義
(SPS 独立行政法人日本学術振興会、
ムで実施するワークショップは、時間的
には、教育の一環として実施されるす
制約がある。今回、時間的な制約のある
べての観光活動として特徴づけられ
中で実施されたワークショップにも関わ
る。広義な教育観光の事例にはグラン
らず、大学生のワークショップに対する
ド・ツアーや修学旅行などが挙げられ
GTAは、A.ストラウス、B.グレーザー
積極的取り組みの態度がみられたことと
る。狭義には、観光客の教養、自主的
により、1967年に紹介された質的調査
ワークショップに対する肯定的記憶が持
学習、自己啓発などを目的とする観光
の方法論である。本研究では、5名の
続していたことより、海外研修旅行中に
を意味し、スペシャル・インタレスト・
みのインタビューであったため、オー
実施するワークショップは、大学生の「自
ツーリズム(special interest tourism)
プン・コーディングの段階までのラベ
発的学び」を促進することに有効である
の一形態と見なされる。また、英語圏
ルにより、データを分析し、表6の作
ことが考察される。
では視察旅行(familiarization trip/fan
成に活用した。
2013)
グラウンデッド・セオリー・アプロー
(3)
チ(GTA)
trip)と同義にも用いられる。本研究
7.まとめと今後の課題
でとりあげた大学の「海外研修短期プ
本研究では、2010年3月に、大学向け
ログラム」は、安村(2007)の定義す
の海外短期研修旅行中に自己省察を促す
る広義な教育観光体験中に発現する
ワ ー ク シ ョッ プ、「語 っ て み よ う My
「旅行者の教養、自主的学習、自己啓発
Seattle」を、Kolb(1984)の経験学習モ
を促進する」環境としての学習デザイ
松村智恵「大学生の海外研修旅行にお
デルに基づいて設計し、実施した。2回
ンの一事例であり、本研究では、プロ
けるワークショップの実践と評価」日本
のワークショップ終了直後の質問紙調査
グラムにおけるワークショップのデザ
教育工学会研究報告集、JSET10-5、2010
-85-
付記
なお、本論文の一部は下記の研究会で
発表されました。
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
年、181~188頁、松村智恵「大学生の海
and
外旅行におけるけるワークショップの実
Englewood Cliffs, NJ, 1984. p.20-38
践」
日本国際観光学会第17回 全国大会、
2013年、82-83頁
development”,
Prentice
Hall,
・国 土交通省 観光庁 http://www.mlit.
go.jp/kankocho/(参照日2011年12月02日)
・松村智恵「大学生の海外研修旅行にお
謝辞
本研究において、海外短期研修プログ
けるワークショップの実践と評価」日
本教育工学会研究報告集、JSET10-5、
2010年、181~188頁
ラムでのワークショップの開催の機会を
・松村智恵「大学生の海外旅行における
与えていただいた、淑徳大学教職員の皆
ワークショップの実践」日本国際観光
様、ワークショップにご協力をいただき
学会第17回 全国大会、2013年、82-83
ました学生の皆様に心より感謝申し上げ
頁
ます。また、論文執筆に当たり、ご指導
・美馬のゆり・山内祐平『
「未来の学び」
いただきました早稲田大学の向後研究室
をデザインする:空間・活動・共同体』
、
の皆様に、心より感謝申し上げます。
東京大学出版会、2005年、東京
・溝上慎一「アクティブ・ラーニング導
引用文献
入の実践的課題」
『名古屋高等教育研
究』第7号、2007年、269~287頁
・石川佐世「認知過程におけるリフレク
・文部科学省 グローバル人材育成推進
ションを支援末学習環境デザインの研
事業 http://www.mext.go.jp/a_menu/
究:ワークショップを中心として」 甲
koutou/kaikaku/sekaitenkai/1319596.
南女子大学大学院論集創刊号 人間科
htm(参照日2013年11月15日)
学研究編、2003年、55~70頁
・石井成郎、三輪和久「プロセスの自己
省察を軸とした創造性教育」人工知能
学会論文誌19、2004年、126~135頁
・JSPS独立行政法人日本学術振興会「グ
・中野民夫『ワークショップ』岩波新書、
2001年
・戈木グレイグヒル滋子『実践グラウン
デッド・セオリー・アプローチ 現象
をとらえる』新曜社、2008年
ローバル人材育成推進事業」、http://
・宍戸 学「大学における観光教育技法
www.jsps.go.jp/j-gjinzai/gaiyou.html
とは?」
『日本観光ホスピタリティ教育
(参照日2013年11月10日)
・香 川眞編 安村克己「13-08 教育観
光」『観光学大事典』 日本国際観光学
会、2007年、24頁
学会第4回全国大会ワークショップ抄
録』観光ホスピタリティ教育 第1号、
2006年、96~98頁
・高嶋竜平「観光教育がおもしろい-法
・加藤文俊・長岡健「ワークショップ型
政 大 学 女 子 高 等 学 校「旅 Overseas
学習環境のデザインに関する研究」科
short-term study tour す る 人 の 観 光
学技術融合振興財団(FOST)平成10
学」の取り組み『月刊地理2006年6月
年度助成研究報告書、2001年
号』古今書院、2006年
・KELLER, J. M., Motivation Design for
Learning and Performance;The ARCS
【本論文は所定の査読制度による審査を経たものである。
】
Model Approach. Springer SBM,NY,
2009, 鈴木克明(監訳)学習意欲をデザ
インする- ARCS モデルによるインス
トラクショナルデザイン-北大路書
房、2010年、京都
・Kolb. D. A., “Experiential Learning:
Experience as the Source of Learning
-86-
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