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3.6MB - 原子力発電環境整備機構
2013年1月23日 NUMOワークショップ 放射性廃棄物の地層処分を考える 放射性廃棄物の発生 発生量:どれだけたまっているか? 危険性:何が困るのか、誰が困るのか? 発生源:発生を抑制できないのか? 地層処分の選択 他によい方法はないのか、今のままではいけないのか? 将来予測の不確実性 将来何かあったらどうするのか、絶対安全の保証は? 社会的受容性 地層処分はなぜ受け入れられないのか? 地域とのパートナーシップ 受け入れ地域の立場は将来どうなるのか? 原子力安全研究協会 放射線・廃棄物安全研究所 所長 杤山 修 1 放射性廃棄物の地層処分を考える 放射性廃棄物の発生 発生量:どれだけたまっているか? 危険性:何が困るのか、誰が困るのか? 発生源:発生を抑制できないのか? 地層処分の選択 他によい方法はないのか、今のままではいけないのか? 将来予測の不確実性 将来何かあったらどうするのか、絶対安全の保証は? 社会的受容性 地層処分はなぜ受け入れられないのか? 地域とのパートナーシップ 受け入れ地域の立場は将来どうなるのか? 2 100万kWの原子力発電所(100万人の電力)を 1年間運転するときの放射性廃棄物 100万kWあたり 原子力発電所 2011/3時点で54基、4900万kW 約20倍の TRU廃棄物 (⇒処分) 再処理 放射性物質:約50 kg 使用済燃料集合体約24トン (1人当たり24 グラム) ウラン プルトニウム (⇒再利用) 使用済燃料1トンから約1.25 本のガラス固化体 ガラス固化体約30本(15トン) (1人当たり15 グラム) 日本全体の電力(100万kW の100倍)の約1/3 を原子力でまかなうと1年あた り使用済燃料 800 トン(ガラス固化体にして 1,000 本)が発生する。 3 高レベル放射性廃棄物(使用済燃料、ガラス固化体)の現状 原子力発電所貯蔵プール 日本原燃㈱ 貯蔵管理センター 4 日本の原子力発電所の使用済燃料の貯蔵量と貯蔵容量 日本原子力発電 東海第二発電所 370 70 敦賀発電所 580 280 北海道電力 泊発電所 370 630 東北電力 東通原子力発電所 60170 女川原子力発電所 420 370 東京電力 福島第一原子力発電所 1860 240 福島第二原子力発電所 1120 240 柏崎刈羽原子力発電所 2270 浜岡原子力発電所 中部電力 1140 600 志賀原子力発電所 120 北陸電力 570 美浜発電所 関西電力 370 310 大飯発電所 1370 650 高浜発電所 1200 530 島根原子力発電所 中国電力 390 210 伊方発電所 四国電力 560 380 玄海原子力発電所 九州電力 840 230 川内原子力発電所 850 440 0 500 1000 1500 2000 640 2500 3000 トン 2011年3月末現在(使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約、日本国第4回報告書(H23.10) 当面は廃棄物が発生したすぐそばに置いておけるくらいの量だが いつまでもその状態を続けておくのは安全上好ましくない 5 使用済み燃料またはガラス固化体の放射能 ガラス固化体(固体になって閉じ込められている)の危険性 含まれている放射能は膨大で、ガラス固化体を自然現象または人の行為により破壊され、何ら かの力(自然現象、人の行為)で環境に飛散させられれば、放射線影響により環境や公衆に危 険を与える。 長期にわたり外的擾乱事象に対して抵抗力のある( 隔離・閉じ込めができる)処分方法が必要 6 放射性廃棄物の地層処分を考える 放射性廃棄物の発生 発生量:どれだけたまっているか? 危険性:何が困るのか、誰が困るのか? 発生源:発生を抑制できないのか? 地層処分の選択 他によい方法はないのか、今のままではいけないのか? 将来予測の不確実性 将来何かあったらどうするのか、絶対安全の保証は? 社会的受容性 地層処分はなぜ受け入れられないのか? 地域とのパートナーシップ 受け入れ地域の立場は将来どうなるのか? 7 エネルギー資源(入手) 自然 (100万kWの発電をする のに必要な面積) 太陽光 58 km2 (1人 58m2) 原子力 化石 再処理して高速増殖炉で Puを使えば約 2570 年 風力 214 km2 (1人 214 m2 ) エネルギーの空間密度が低い 安全・セキュリティー 資源枯渇 廃棄(100万kWの発電所を1年間運転するとき) 化石 原子力 温暖化 CO2 400~500万トン (1人 4~5 トン) 重金属等を含む灰 数10万トン 高レベル廃棄物 30本15 トン (1人15 グラム) 低レベル廃棄物 約 1500 トン 8 自然エネルギーの問題点:エネルギーの空間密度が小さい 第13回エネルギー環境会議(2012)資料 9 社会活動に伴う物質の流れの肥大化による地球全体での資源・環境問題 生態系の循環(約110億トン) CO2 + H2O → CH2O + O2 CH2O(食糧) 鉱山 物質資源 経済社会 化石 原子力 自然 エネルギー CO2約260億トン 金属など CO2 環境負荷の増大 CO2(温暖化) 廃棄物(枯渇、汚染) 熱帯林の減少・砂漠化等 熱(赤外線) • 個々の利益(エネルギー・資源)の追求→環境の劣化(資源の枯渇、環境汚染) • 産業革命以後の急速な社会活動・人口の肥大化 → 地球上の資源は有限 • 環境による浄化作用の能力を超える廃棄物が発生している エネルギー・資源の利用は、入手と廃棄の両面における安全・セキュリティー、環境 負荷(資源の枯渇と環境汚染)、経済性を考えて選択する必要がある 社会がどの選択をしても(賛成でも反対でも)、廃棄物は 発生するので、これを安全に処理処分する必要がある 過去の発生分は ゼロにできない 10 放射性廃棄物の地層処分を考える 放射性廃棄物の発生 発生量:どれだけたまっているか? 危険性:何が困るのか、誰が困るのか? 発生源:発生を抑制できないのか? 地層処分の選択 他によい方法はないのか、今のままではいけないのか? 将来予測の不確実性 将来何かあったらどうするのか、絶対安全の保証は? 社会的受容性 地層処分はなぜ受け入れられないのか? 地域とのパートナーシップ 受け入れ地域の立場は将来どうなるのか? 11 原子力を使い始めて から今日まで安全に 管理してきた。当面は これでよいのでは? 現在及び近い将来の技術で実現できそうなのは、長期管理と地層処分 遠い将来まで安全を確保できる見込みはどちらが大きいか (どんな方法も絶対の安全を保証することはできない) 12 使用済燃料の直接処分について ○基本的な技術はガラス固化体の地層処分技術を流用でき、我が国でも使用済燃料の直 接処分を実施することは技術的に可能。 ただし、課題として、ガラス固化体の処分技術と差のある部分について、 -直接処分の信頼性向上に向けて、工学技術や安全評価上の課題に対して我が国の地質環境を踏 まえ、研究開発16課題(工学技術9課題、安全評価7課題;うち重要課題は11課題)及び詳細な安 全評価を着実に実施する必要がある。 -先行している海外機関(すでにサイトの選定がされているスウェーデン(SKB)やフィンランド (POSIVA)など)と国際協力を強化することが有効。 インサート(鋳鉄製): 使用済燃料収納 オーバーパック (炭素鋼など) ・高さ:484 cm ・直径:105 cm ・重さ:3,600 kg 使用済燃料の処分容器概念の例 1730mm キャニスタ (銅製) 820mm ガラス キャニスタ (ステンレス製) ガラス固化体 ガラス固化体処分容器概念 SKB(スウェーデン)の処分容器(KBS-3)概念を参考(SKB Technical Report TR-02-07より抜粋及び一部加筆) p.3 のスライド参照 ・高さ:134 cm ・直径: 43 cm ・重さ: 500 kg 13 分離変換技術について 【分離変換技術】 高レベル放射性廃棄物(HLW)に含まれる元素や放射性核種を、その半減期や利用目的に応じて 分離するとともに、長寿命核種を短寿命核種あるいは安定な核種に変換する技術 【分離変換の意義】 ① 潜在的有害度の低減(HLWの長期的な潜在的有害度⇒小) ② 地層処分場に対する要求の軽減(処分面積⇒小、貯蔵期間⇒短縮) ③ 廃棄物処分体系の設計における自由度の増大(「廃棄物処分体系」設計自由度⇒増) 【研究開発の現状】 核変換や先進湿式再処理等の各 技術は、その技術の達成度に応じ 以下の4つの段階に分けられる。 工学研究 準工学研究 基礎研究 フィージビリティ研究 超伝導陽子加速器 加速器へ給電 電力網へ売電 核分裂 エネルギー 発電 MA燃料未臨界炉心 核破砕ターゲット 陽子ビーム ADSの原理 ADSによる核変換の原理 未臨界状態での核分裂 の連鎖反応を利用 核分裂中性子 短寿命の核種 陽子 核破砕ターゲット 高速中性子 長寿命の核種 核変換技術の概念例 (加速器駆動未臨界炉(ADS)の例:全体として基礎研究段階) ⇒分離変換により、地層処分すべき廃棄物量は少なくなるが、地層処分が不要になることはない。 (2009年4月 原子力委員会 研究開発専門部会 分離変換技術検討会 報告書及び資料より ) 14 人間文明からみた数十万年(いつまで管理し続けられるか) 管理が継続している例 伊勢神宮式年遷宮:690年以来式年(20 年)ごとに、神社の正殿を造営・修理。 東大寺正倉院:756年頃建立 遺跡として残っている例 ギザの大ピラミッド(紀元前2540年頃) だれが管理するのか(将来世代) マヤの神殿(紀元前400年以降) 安全で問題となるのは、できる可能性でなく失敗する可能性 15 文明、社会の継続性:イースター島文明の盛衰 西暦 事項 島の植生(花粉分析による) 5世紀頃 入植前 ポリネシア人入植(数十名) 森100%(山頂の灌木林を除く) 巨大椰子が生い茂る亜熱帯雨林の島 7世紀 農地開墾・初期モアイ像 森林伐採の開始 10世紀~ 人口急増(6000~3万人?) 部族間抗争・モアイ像急増 大規模森林伐採進捗 17世紀 モアイ文明突然の滅亡と忘却 全島で森林絶滅 1722 オランダ人による発見 ジャレド・ダイアモンド:文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社、2005) 現在は地球全体がイースター島のようにグローバル化している 管理(各国が管理)や記録保存(国際アーカイブ)の継続性、持続性はどうなるか 16 文明の発達や人類の進化からみた数十万年 アウストラロピテクス(猿人) ホモハビリス(原人、石器) ホモエレクトゥス(原人) ホモサピエンス (新人、日常的な火の使用) クロマニヨン、洞窟壁画 0 50 100 150 200 250 300 350 400 万年 0 5 10 15 20 25 30 35 40 千年 クロマニヨン、洞窟壁画 最終氷期終了、農耕開始 源氏物語 源氏物語 産業革命 処分事業 0 1.3万年前 200 400 600 800 1000 年 最終氷期の終結、狩猟採集生活 → オーストラリア、ニューギニアの大型動物、アメリカ大陸のマンモスの絶滅 B.C.11,000 ~A.D.1,500 農耕、家畜、冶金、人口の密集と複雑な政治構造 → 戦争、伝染病、砂漠化(気候変動:メソポタミアなど、乱伐:イースター島など) A.D.1800~ 産業革命 → 化石エネルギーの利用、人口の爆発的増加、科学技術による資源、エネルギーの大量利用 → 公害、地球規模の環境問題、資源の枯渇 管理・監督・記録保存を目指してもいつかは忘れ去られる危険性が高い 17 忘れ去られても大丈夫にするには? 地質年代と生物の進化からみた数十万年 管理・監督・記録保存 を目指すとしても 地下の鉱床のように、地下深くに 隔離して閉じ込めておく カンブリア紀の 大爆発 500 約13億年前に形成 260 大絶滅 4億3500万年前 オルドビス紀末 3億6000万年前 デボン紀末 2億5000万年前 ペルム紀末 2億1200万年前 三畳紀末 6500万年前 白亜紀末 18 忘れ去られても大丈夫にするには? 地質環境の変化の仕方からみた数十万年 大陸の形成と分裂を支配するマントル対流: 数千万年~数億年をかけて移動 日本列島の動きや火山活動は、マントル対 流によるプレート運動によっている 日本列島の誕生(平朝彦、岩波新書, 1990) 日本列島は約3000万年前に大陸から離れだし、1450万年前にほぼ今の形になった。 19 地層処分 日本は火山や地震が多く、地下水が豊富といった特徴がある これらを考慮した適切な処分施設建設地の選定と工学的対策を講じることで対応 可能 数十万年以上生活環境から隔離しておくことのできる地質環境がある 処分場に必要な数km2以上の安定な(地下水がほとんど動かない)領域がある ほとんどの放射性物質は水に溶けないのでそこに閉じ込められた状態になる 火山・地震・断層 わが国の地質環境 処分施設の破壊 安全性への影響の可能性 隔離して閉じ込めておけ るかどうかは、原子力、 放射能、放射線とはいっ さい関係がなく、物質とし ての化学的性質のみに よって決まる。 地下水の存在 地下水による放射性物質の運搬 対 策 火山や断層等を避けることで、地層処分に とって安定な場所を選定 適切な多重バリアシステムを構築 (工学的な対策) 人工バリア 火山活動 処分施設 地震・断層活動 天然バリア(岩盤) NUMO提供資料を改変 20 地層処分多重バリアシステムの閉じ込め性能 無理やり危なくなると仮定する 1. オーバーパックは千年で壊れる。 2. ガラス固化体は7万年かかって溶 ける。 3. 放射性物質は溶解度に従って溶 け出る。 4. 溶け出た放射性物質は必ず地下 水により運ばれる。 ほとんどが人工バリア内に留まってい る 1. 生活環境に移るのは数十~百万 年後で、処分時の数万分の1に 減った放射能の1%以下 非常に放射能 レベルの高い 期間は完全な 閉じ込め 2. これによる被ばくは0.005 μSv/年 実質上完全な閉じ込めが達成さ れ、将来の人の被ばくは無視でき る程度となるという見通し “Development of Repository Concepts for Volunteer Siting Environment” (NUMO-TR-04-03, 2004)より改変 21 放射性廃棄物の地層処分を考える 放射性廃棄物の発生 発生量:どれだけたまっているか? 危険性:何が困るのか、誰が困るのか? 発生源:発生を抑制できないのか? 地層処分の選択 他によい方法はないのか、今のままではいけないのか? 将来予測の不確実性 将来何かあったらどうするのか、絶対安全の保証は? 社会的受容性 地層処分はなぜ受け入れられないのか? 地域とのパートナーシップ 受け入れ地域の立場は将来どうなるのか? 22 地表と地下の比較 地下には ニュースが ない! 地下での様々な変化は地質学的時間スケールで起こり極めて緩慢 外からの現象に対して抵抗力があり、内からの原因で危険がもたらされることがない 処分場を閉鎖するまでは、再取り出しができ、将来世代に意思決定の余裕を残す 閉鎖後もモニタリング、記録の保存、マーカーなどにより時間とともに緩やかになる管理で安全確 保ができ、管理の負担が小さい 他の国に迷惑をかけない より安全になるような工学的設計ができる 予測には不確実性がつきもの:全ての人の行為 遠い将来に対する科学的予測に頼らざるを得ず実証できない。(絶対安全の保証はできない) 何かあったときに変更しにくい。 23 放射性廃棄物をいつ、どこに、どのように置くか 廃棄物の定置 地表(浅地中)貯蔵 参考:電気料金から の積立金 2011.3末の積立金 発電炉解体 約1兆7000億円 再処理 約2兆4000億円 地層処分 約8,400億円 分散貯蔵 集中貯蔵 資金が継続的に確保される限り 実現(安全確保)可能 複数のオプション(変更)が可能 地層処分場 地層への定置 回収可能 地層処分 閉鎖 能動的な管理なしに実現(安 全確保)可能 回収可能性のレベルが低下 今全ての決定をするのではないが、便益を得た現世代が責任を持って、地層処分を目標にして 人生 と同じ 後戻りや変更ができるように、少しずつ進め、将来世代の人が困らないようにする。 閉鎖の決定をするのは、数百年先(将来世代)。現世代はその決定ができるようにしておく。 閉鎖後も可能な限り、しかしだんだん程度をゆるめながら管理、監視を続ける。 進めるか退くかの決定については、受け入れる地元が意思決定の権利を持つようにする。 国全体の廃棄物を一か所に引き受けてもらう時の補償の在り方を、国全体で議論する。 24 最終処分施設建設地選定 10年ほど 精密調査 ボーリング調査など 精密調査地区選定 4年ほど 概要調査 文献調査 公募・ 応募 申し入れ・ 受諾 概要調査地区選定 段階的な候補地の選定により安定な地質環境を選定する (石橋をたたいて渡る) 建設 (約10年) 地下施設での測定・試験など 操業 (約50年) 閉鎖 処分施設の建設・操業 各調査結果の妥当性は規制によりレビューされる 各選定段階では知事及び市町村長の意見を聞き反対の場合は進めない 25 放射性廃棄物の地層処分を考える 放射性廃棄物の発生 発生量:どれだけたまっているか? 危険性:何が困るのか、誰が困るのか? 発生源:発生を抑制できないのか? 地層処分の選択 他によい方法はないのか、今のままではいけないのか? 将来予測の不確実性 将来何かあったらどうするのか、絶対安全の保証は? 社会的受容性 地層処分はなぜ受け入れられないのか? 地域とのパートナーシップ 受け入れ地域の立場は将来どうなるのか? 26 処分の社会的受容における問題点 安全性 今までに経験のない空間枠(数百メートルの深さ、数平方キロメートルの広さの不 均質な地下)と時間枠(閉鎖後の未来永劫)における処分システムの隔離と閉じ込 めの安全性能 公衆:日常の経験(地上の生活)とは異なる時間、空間のものさし 自然科学:既存の科学者が得意とする時間、空間のものさしとは異なり、かつ注目する出 来事(特質、事象、プロセス)ごとに不均質な時間と空間のものさし ⇒絶対の安全は示せない ( 技術的信頼:科学技術で考えられる安全性能の程度を示す) 公平性 世代内倫理(今の社会の中の公平性) 処分施設をどこか少数の特定の地域(だけ)に、社会及び地元の合意の下に実現する (集団の意思決定) 世代間倫理(子や孫等に対する公平性、はるかに遠い将来の人々に対する公平性) ⇒全員の合意は得られない (社会的信頼:“みんな”が認める程度の合意が必要) 目標=実践的に解決すること(不確実性下の意思決定) (人生の決断と同じことを集団社会として行う) 27 放射性廃棄物はだれの責任か? 廃棄物発生源:原子力の利用 国:電力供給は国のインフラストラクチャー(存続・発展に関わる基盤)なので、安全・セキュリティー の確保は大変だが、国が開発・規制で支援しながら電気事業者の事業を認める。 電気事業者:電力を供給するサービスを通じて社会に貢献して、自らはサービス料を利益として得る。 電力消費者:代金を払って電力を消費する。 安全の確保、放射性廃棄物の処理処分 サービス提供者である電気事業者の責任(必要な手数料をサービス代金として請求する) 安全や廃棄物は取引の際に特定して明示できない⇒利益と区別できない 国は、事業が安全かつ円滑に進行するように指導監督する責任がある。 将来世代に対しては、社会全体として原子力を利用して発生した廃棄物なので、消費者は間接的に 責任を持っている(国民全体で解決する責任がある)。 ⇒ サービス提供者と国が進めようとしている処分事業に協力するか反対するか。 国(全員を代表して分業化社会がうまくいくように調整する) 電気事業者(サービス提供者) 国民(電力消費者) 直接の廃棄物発生者 究極の廃棄物発生者 売買 処分事業主体 委託 28 放射性廃棄物処分が受け入れられないのはなぜか? 受け入れ地域 の協力が必要 国(全員を代表して分業化社会がうまくいくように調整する) 国民(電力消費者) 電気事業者(サービス提供者) 究極の廃棄物発生者 売買 直接の廃棄物発生者 処分事業主体 委託 分業化社会におけるサービス提供者と消費者の関係(情報の非対称性) 技術に対する信頼:提供されるサービスの技術的安全性は消費者には分からない。 意図に対する信頼:サービス提供者が自分の利益を優先して、消費者の安全をないがしろにする 可能性がある。 消費者は損をしないようにいつも疑っていなければならないが、結局信用しないと社会は成り立た ない。 ( これを見張るのが安全規制 ) 不信(感情) ⇒ 建設的議論の拒否 サービス提供者は不当な利益を貪る搾取階級である ⇒ 反体制、社会運動。 原子力(核兵器、原子力事故、放射能汚染につながるサービス)利用を優先して公衆の安全を損なう 原子力を進めるために放射性廃棄物処分をしようとしている。 原子力事故は「原子力村」が不当な利益を得ようとして失敗した。 事業者が抱えている厄介な廃棄物を金で釣って、弱者に押し付けようとしている。 事故や失敗に対して、何が悪かったかよりも誰が悪かったかと考え、罰しないと治まらない 将来に向かって冷静で理性的な分析ができない ⇒ よい意思決定ができない 29 分業化社会におけるリスク:感情に流されない公共的討議へ 何らかのサービスの提供の意図が、より大きいリスクの回避であったとしても、この行為で もたらされる新たなリスクに対する直接の責任はサービス提供者にあり、便益を受ける消 費者には間接的責任がある。(技術は社会に対する万能でない奉仕者) 公共的性格の強い事業では、リスクをもたらす加害者として行政が共存し、リスクを分配さ れる公衆が存在する。ただし行政は公衆を代表しているもので、公衆とは別物ではない。 公共事業により便益を受ける公衆はリスクをもたらす加害者でもある。 公共事業の便益を受ける者は全ての公衆であり、公衆の間のリスクの分配は分業化社会 における協働として避けることのできないもの(誰かが負担しなければならないもの)で、 負担の公平をどのように達成する(社会的合理性)が問題となるものである。 すなわち、これは社会の上部構造-下部構造の間の不当なリスクの押し付け合いの問題 (直観的な情緒により判断すべき問題)ではなく、全ての公衆を含む社会が抱えている課 題の実践的解決(協働)の問題である。 廃棄物の処分=分業化された社会における協働(助け合いの心)によって社会が解決すべき問題 科学技術者はリスクをできる限り小さくして、誰かが分業として引き受けることのできるようにする ステークホルダー(事業に関係していて関心を持つ人すべて)間の信頼関係の構築 理性に基づく熟議による正義の追求:アマルティア・セン:正義のアイデア (明石書店(2011) 30 不信関係にあるステークホルダー間の信頼関係の構築 インセンティブ(誘因)の共有、ステークホルダーの参加の促進 原子力に対する嫌悪によりもたらされる感情ヒューリスティック 原子力を推進するために、自分たちが抱えている厄介な廃棄物を、貧乏で困っている地域に、 金で釣って適当に押し付けようとしている。 原子力推進(原子力発電環境の整備)、廃棄物にけりをつけること(“処分”の誤解された解釈) を優先して、住民と環境の安全が損なわれる。 誰かが不当に儲けて ある人々にとっては原子力をやめることが安全につながる いるという感情 放射性廃棄物に対する責任 廃棄物がいつまでも処分されずに地表に置かれている状態は誰にとっても好ましくない 廃棄物発生者:原子力発電によりサービスを提供した発電事業者が直接的責任を負う。 消費者:電気を使って便益を得た公衆は間接的責任を負う。 ⇒ 電力料金に含めて廃棄物処分に係る費用を発電事業者が徴収し、処分のために積みたてる。 世代内では、電気事業者がサービス提供者として責任を負っているが、消費者は間接的責任 (世代としての責任)を免れているわけではない。 サービス提供者が利益を得ようとした結果廃棄物が出たのであり、全ての責任はサービス提供 者にあるとして、電気事業者に管理責任を負わせて当面よしとすることは、次世代に廃棄物問題 を先送りすることにつながる。 どうすれば感情に支配されて不信を抱いている人たちに信頼してもらえるか 31 不信関係にあるステークホルダー間の信頼関係の構築 不毛の二項対立の議論に陥らないためには インセンティブ(誘因)の共有:信頼できるのは第三者か仲間か 最も大事で最も難しい問題:出発点の共有(処分の必要性) 意思決定の結果は、他の人の運命を強いて、全ての人が受け入れなければならない将来 を決める。 たとえ、どのような動機であろうとも、既に存在している放射性廃棄物を安全に処分するこ とを、原子力推進、反対の両者がいる現世代の社会の共通の目標とする。 市民にとっては、あまり信用ならないが、国や事業者が直接の廃棄物発生者としての責任 を果たすといって企図している処分事業に協力するのがよいか、あくまで反対して、廃棄 物を負の遺産にするのがよいか冷静に判断してもらう。 何を約束すれば、信頼してもらえるかを国民、市民、住民に尋ねる (情報の非対称性における情報弱者の国民、市民、住民の立場になって考える) 信頼関係構築を事業推進における制度、仕組みとして具体化する この意図を信頼してもらうには、推進、反対を問わず、関係のあるステークホルダー が、プロセスの意思決定に参加することが必要(事業主体は地元を対等のパート ナーとしてその能動的立場を認めることが必要)。 今後子孫代々共存することになる廃棄物を受け入れるには、事業の推進、中止、後 戻り等々の意思決定に参画して、コントロールでき、地域の発展につなげることがで きる権限が与えられなければ、安心して受け入れなどできない。 * 中谷内一也「安全。でも、安心できない…―信頼をめぐる心理学」ちくま新書第4章(2008) 32 放射性廃棄物の地層処分を考える 放射性廃棄物の発生 発生量:どれだけたまっているか? 危険性:何が困るのか、誰が困るのか? 発生源:発生を抑制できないのか? 地層処分の選択 他によい方法はないのか、今のままではいけないのか? 将来予測の不確実性 将来何かあったらどうするのか、絶対安全の保証は? 社会的受容性 地層処分はなぜ受け入れられないのか? 地域とのパートナーシップ 受け入れ地域の立場は将来どうなるのか? 33 みんなで相談して、協力し合って社会を築いていく 地層処分事業は現在の社会の中で、今行おうとしている事業 ⇒今の社会の人々に対する様々な意味の安全を考える • 受け入れ地域は処分事業を一緒にやっていくというパートナー どのようなパートナーシップを構築しようとしているのか。 • 受け入れた地域は将来どうなると考えているのか。 • 地層処分は本当に社会の役に立つと思っているのか。 正当化(地層処分の倫理はどうなっているのか、科学技術がもたらすリスクは正当化 できるのか)。 • 不確実性(科学的、社会的)はどこにどのくらいありどう対処するのか。 科学技術も科学技術者も間違うことがある。「間違っていたらどうするのか」という問い に応える(特に事業をどう進めるのか:サイト選定、可逆性、段階的アプローチ, 将来 の管理と監視, 誰がどの時点で何を意思決定するのかなど)。 • 専門家と非専門家(公衆、他分野の専門家)の間の情報の非対称性の存在下では、 不確実性領域の推定に、各人が持っている知識と経験がヒューリスティック(経験則) として用いられることを認識して、コミュニケーションを図る。 • 感情に左右されない正しい情報を得たうえで、いろいろな方法の中から実現可能な、 よりよい方法を選択するという形の議論を目指す(賛成か反対かの二項対立をしない、 勝ち負けではなくみんなが共有しなければならない将来の運命)。 34 高レベル放射性廃棄物処分事業はどのように進めるか 国(全員を代表して分業化社会がうまくいくように調整する) 処分事業の実施 処分事業主体(技術奉仕) 国民(電力消費者) 究極の廃棄物発生者 売買 電気事業者(サービス提供者) 直接の廃棄物発生者 概要調査地区選定 地層処分事業の段 階的な進展 規制、住民の関与 安全が損なわれるのは 軍事、経済等の他の価値観 が支配してしまうとき 委託 地元 可逆性,回収可能性の確保 精密調査地区選定 処分地選定 4 パートナー 10 10 許認可 着工 閉鎖 50 制度的管理,モニタリング 意思決定プロセスへの公衆や利害関係者の参加 発生者責任を持つものが、国の監督のもと事業を進めるが、段階的に、ステークホルダーの 意見を取り入れつつ進める。 長期にわたる事業であり、地質環境、社会環境その他の将来にわたる不確実性が大きい。 公共の利益(安全)をまもるため、国民、地域住民が意思決定に参加協力しつつ進める。 受け入れ地域と国、事業主体、国民との共生のあり方を、国民全体で考える 35