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環境配慮型建築物の普及に向けて 〜環境不動産市場の構築〜

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環境配慮型建築物の普及に向けて 〜環境不動産市場の構築〜
環境配慮型建築物の普及に向けて
〜環境不動産市場の構築〜
2012 年度
FW論文
1
目次
序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
1 章 現状分析
1.1 建設物の環境との関係と現状・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
1.1.1 建設物と CO2 の関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
1.1.2 環境配慮型建築物普及への取り組みの現状・・・・・・・・・・ 6
1.1.3 日本に存在する環境性能評価制度・・・・・・・・・・・・・・ 8
1.2 CASBEE について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
1.2.1 CASBEE の評価方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
1.2.2 CASBEE の普及状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
2 章 問題提起
2.1 CASBEE 取得を義務化している地方自治体・・・・・・・・・・・・ 11
2.2 CASBEE 取得にかかる負担・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
2.2.1 項目数削減による解決策・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
2.2.2 金利優遇による負担軽減を目指す解決策・・・・・・・・・・・ 12
2.3 CASBEE を取得するメリットが不明瞭・・・・・・・・・・・・・・ 13
2.4 CASBEE 取得建築物に対する需要の有無が不明・・・・・・・・・・ 15
2.4.1 住宅ローン優遇制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
2.4.2 データの明示の必要性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
3 章 政策提言
3.1 金利優遇制度、住宅ローン優遇制度の普及政策・・・・・・・・・ 17
3.1.1 金利優遇政策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
3.1.2 住宅ローン優遇制度の普及政策・・・・・・・・・・・・・・・ 17
3.2 フィードバック体制の構築・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
3.3 購買者への情報明示・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
3.4 CASBEE 取得義務化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
3.5 政策後の効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
3.5.1 金利優遇制度の普及による効果・・・・・・・・・・・・・・・ 20
3.5.2 住宅ローン優遇制度の普及による効果・・・・・・・・・・・・ 20
2
3.5.3 不動産価格への影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
3.5.4 CASBEE による環境負荷削減効果・・・・・・・・・・・・・・・ 21
終論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
参考文献・URL・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
3
序論
地球温暖化など地球環境問題への対策に国際的な関心が高まる中で、持続可
能な社会の構築は、国際社会の最優先課題の 1 つとなってきた。低炭素社会の
実現に向けての取り組みが国際的な枠組みの中で積極化する一方で,建築関連
分野における CO2 排出量は約 4 割を占め、いまだ増加基調にあるのが現状であり、
対応の遅れが指摘されている。そこで本論では環境配慮型建築物の普及に向け
て論じていく。第 1 章では建築物の環境負荷の現状、また環境配慮型建築物普
及に向けての現状について述べる。第 2 章では、第 1 章で重要であると考えら
れた環境評価システムについて問題提起を行う。第 3 章では、第 2 章での問題
提起に対し、環境性能評価制度を普及させるための政策を供給側である建築主
体、需要側である消費者の観点から提言していく。
4
1.現状分析
本章ではまず1.1で建築物と環境の関係とその現状について述べ、環境配慮型
建築物の必要性について確認する。そして環境配慮型建築物を取り巻く現状を
みることで環境性能評価制度の重要性を知るとともに、1.2でさらにそのシステ
ムについて詳しく述べる。
1.1 建築物と環境との関係と現状
はじめに建築物による環境負荷についてCO2との関係を取り上げ、環境配慮型
建築物の必要性をみる。そして次に環境配慮型建築物を取り巻く現状について
環境不動産市場を通してみることにする。
1.1.1 建築物と CO2 の関係
以下のグラフは産業別の CO2 排出割合について示したものである。
産業別CO 2排出割合
5.6%
58.6%
5.4%
1.8%
8.0%
非住宅新増改築
住宅新増改築
補修
非住宅運用エ ネルギー
住宅運用エ ネルギー
土木工事
その他の産業分野
12.1%
8.4%
図1 産業別の CO2 排出量の割合
出典:(社)日本建築学会、地球環境委員会、ライフサイクル小委員会
グラフから分かるように産業別の CO2 排出割合において、非住宅新増改築は
5.6%、住宅新増改築が 5.4%、補修が 1.8%、非住宅運用エネルギーが 8.0%、住宅
運用エネルギーが 12.1%、土木工事が 8.4%を占めている。つまり、全産業で排
5
出されるエネルギーベース CO2 のうち以上に挙げた建設関連分野だけで 41.3%を
占めるというのが現状である。
また以下のグラフは家庭部門、業務部門における CO2排出量の推移について
表したものである。
家庭部門( 1990=100)
業務部門( 1990=100)
140
150
140
130
120
110
100
90
80
70
1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010
130
120
110
100
90
80
1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010
世帯数
CO 2排出量
CO 2排出量/世帯数
床面積
CO 2排出量
CO 2排出量/床面積
図2,3 家庭部門・業務部門のCO2排出量推移
参考:国立環境研究所 温暖化効果ガスインベントリオフィス、EDMCエネルギ
ー・経済統計要覧
グラフから分かるように2010年時点で1990年と比較して、家庭部門・業務部
門ともにCO2排出量は増加している。近年は減尐傾向になっているが、1990年の
値まで値を戻すならば1世帯当たりのCO2排出量をより減尐させる必要がある。
以上のことから現在の状況以上に環境配慮型建築物を普及させることによる
環境負荷軽減が必要であるといえる。
1.1.2 環境配慮型建築物普及への取り組みの現状
前項では建築物のCO2排出量の現状を通して環境配慮型建築物の普及の必要性
について述べた。そこでこの項では、環境配慮型建築物普及のために現在行わ
れていることについてみていく。現在、環境配慮型建築物普及のために官庁や
民間企業が協力して環境不動産市場の構築を図っている。以下の図が環境不動
産の経済価値が市場で評価される仕組みのイメージ図である。
6
図4 環境不動産の経済価値が市場で評価される仕組みのイメージ図
出典:環境価値を重視した不動産市場形成のあり方について とりまとめ概要版
以上のイメージ図のように環境不動産を取り巻く主体は、投資家、ディベロ
ッパー、テナントがあり、各関係主体に対する適切な情報提供は不可欠である。
ここでいう環境不動産市場というものは、エネルギー効率や入居者の居住性を
はじめとする環境性能が高い建築物が、より商品としての価値が高くなる市場
のことである。ではこの環境性能の高さはどのようにして測るのであろうか。
図 4 を見て欲しい。この A、B、C ビルはそれぞれ環境対策をしているとする。
この中でどのビルが一番環境性能が高いであろうか。一見 A ビルが一番高いよ
うに見える。しかし A ビルは広く浅く環境対策をやっている一方で B、C ビルは
狭く深く環境対策を行っているかもしれない。つまり環境性能を比較する場合、
統一された指標が必要となる。このような指標をこの論文では環境性能評価制
度と呼ぶ。
7
Aビ ル
Bビ ル
省エ ネ設備
省エ ネ設備
再生可能エ ネルギー利用
再生可能エ ネルギー利用
耐震性能
耐震性能
Cビ ル
省エ ネ設備
廃棄物利用
廃棄物利用
自然と の協調
自然と の協調
図5 各ビルにおける環境対策
筆者作成
1.1.3 日本に存在する環境性能評価制度
前節で環境性能評価制度について簡単に述べたが、現在日本にはどのような
環境性能評価制度が存在するのかこの節では見ていきたいと思う。
代表的なものをいくつか挙げていくと、「東京都建築物環境計画書」「PAL」
「ERR」などが挙げられる。東京都建築物環境計画書とは東京都が独自に実施
している評価制度で、大きく 4 つの項目に分けて評価しており、都市部で特に
問題となっているヒートアイランドについての項目があるのが大きな特徴であ
る。PAL とは年間熱負荷係数のことを指し、建物の断熱性能や遮断性能など、
主にエネルギー効率の評価に特化した指標である。ERR とは建物の省エネ効率
の評価に特化した指標である。
ここまでいくつか例を挙げたように、日本には現在いくつかの環境性能評価
制度が存在している。しかし、これらは全て特定の自治体に特化した指標であ
ったり、ある特定の項目のみに特化した指標であることがほとんどである。で
は、総合的な環境性能評価制度は日本にはないのか。そこで挙げられるのが
CASBEE という評価制度である。
8
1.2 CASBEE について
CASBEEとは、アメリカで普及しているLEED1というシステムを参考に、国土交
通省の支援のもとで建築環境・省エネルギー機構(IBEC)が開発した建築物の環
境性能評価システムのことである。現在、日本に存在する代表的な総合評価シ
ステム・指標はこのCASBEE である。
1.2.1 CASBEE の評価方法
CASBEEは建築部をライフサイクル的2に評価する。その際、CASBEE は建築物の
評価項目を、建築物の環境品質・性能の部分(Quality)と建築物の環境負荷
(Load)の二つに大きく分けており、それぞれに点数をつけていく。その後BEE値
=Q/Lを求め、以下の図の例のように、この値が大きい建築物ほど環境性能の高
い建築物ということになる。
図 6:BEE に基づく環境ラベリング
出典:CASBEE ホームペーシ
1.2.2 CASBEE の普及状況
CASBEE の現在の普及状況を以下に示す。
1
LEED とは、Leadership in Energy & Environmental Design の略で、非営利
団体の米国グリーンビルディング協会(USGBC)が開発・運用している、環境に
配慮した建物に与えられる認証システムのこと。(LEED JAPAN より引用)
2 設計、建築、解体、再利用に至るまでの建築物の一生涯全体の流れのことを言
う。
9
評価件数
新着工 非住居棟数( 民間建築主)
600
110000
450
82500
300
55000
150
27500
0
0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2005
2006
2007
2008
2009
2010
図 7:CASBEE の評価件数と新着工非住居棟数の推移
参考:日建連会員会社における 環境配慮設計(建築)の推進状況
建築着工統計調査報告 H23 年度計
上図は CASBEE3の評価件数の推移と新着工非住居棟数(民間建築主)の推移を
示したものである。現在 CASBEE は新築物件を中心に対象としているが、新着工
数が大体 60000〜100000 くらいなのに対し評価件数は 300〜600 と桁が異なるほ
どかけ離れている。この原因は何なのであろうか。そして CASBEE の普及を妨げ
ている要因は何なのであろうか。その点を次章で考えていく。
自治体として CASBEE を導入することを指し、導入されている自治体では一
定規模以上の建築物に対し、CASBEE 評価による環境計画書の提出を義務付け
ている。自治体はそれぞれの地域の特性を考慮して、評価項目の重みづけを変
更することが出来る。
3
10
2 問題提起
前章において新築物件の数に対してCASBEEが全然普及していないという事実
が明らかになった。この章ではCASBEEが普及していない理由として考えられる、
新築物件におけるCASBEE取得を義務化している地方自治体が尐ないという点、
そしてその原因となっている、①CASBEE 取得にかかる負担②CASBEEを取得する
メリットが不明瞭③CASBEE取得建築物に対する需要の有無が不明という3つの
問題点について述べていく。
2.1 CASBEE 取得を義務化している地方自治体
以下の図は日本全国で CASBEE の取得を義務化している地方自治体を示し
たものである。都市部などを中心に近年導入が図られているが、都や県全体と
して導入している自治体は尐なく、いずれも一部の都市等が導入しているだけ
であるのが現状である。
図8 現在CASBEE取得を義務化している地方自治体
筆者作成
11
2.2 CASBEE 取得にかかる負担
現在一番使われているCASBEEの制度はCASBEE新築簡易版である。このCASBEE
新築(簡易版)はCASBEE新築という制度の評価項目などを減らし簡略化したもの
である。しかしこのCASBEE新築簡易版における評価項目数は減らしたとは言え、
まだ103項目もあり、そのための資料は膨大であり高評価を取ろうとすればする
ほど多くの時間と費用がかかると言われている。例として川崎市によると、建
物の環境性能を一般的な建築物のCASBEEの評価Bランクからより環境に配慮し
たAランク・Sランクへと性能を上げるためには、それぞれ5%・10%の追加費用が
かかるとされている。このことは現在のCASBEEの1つの問題点となっており、建
設会社のCASBEE取得の障害となっている。
2.2.1 項目数削減による解決策
これに対し CASBEE を開発している建築環境・省エネルギー機構(以後IBEC)
は現在、不動産マーケット普及版4という新しい制度によってこの負担を軽減し
ようとしている。この不動産マーケット普及版は評価項目を大幅に削減し、103
項目から17項目に削減することで、調査にかかる時間と費用を抑える予定であ
る。新しい制度により程度ははっきりとは分からないが負担は減ると考えられ
る。つまり現在この問題点についての対応策は行われている最中であるといえ
る。
2.2.2 金利優遇による負担軽減を目指す解決策
また費用面の負担を軽減させる方法として建設会社側に対し、金利優遇制度
を設けている地方自治体もある。例として静岡県が静岡銀行と連携し行ってい
る金利優遇ローンが存在する(図 7)。このような制度により建設会社側の負担
は減り、環境配慮型不動産の建設は促進されると考えられる。しかしこのよう
な制度はまだ生まれたばかりであり全国的に普及しているとは言い難いのが実
情である。
4
CASBEE 市場普及版とは、既存版における反省点を踏まえ 2011 年に考案され
た 新システムのことである。世界共通指標の考え方を取り入れており、3 週間
程度 の期間で評価・認証が可能である。
12
商品名称
「エコサポート・ビジネスローン」
対象者
「ISO14001」、「エコアクション 21」認証・登録企業や、「環
境報告書」「環境プランナー報告書」を作成・公表している事
業者など、CASBEE 等環境負荷低減への取り組みについて第三
者から認証・認定を受けた企業等
資金用途
資金使途、事業資金(運転資金・設備資金)
融資金額
原則として 1 億円以内
融資機関
原則として運転資金 5 年以内、設備資金 10 年以内
融資利率
静岡銀行所定の金利より▲0.5%優遇
返済方法
元金均等返済(据置期間 2 年以内)
担保
静岡銀行所定の審査による
保証人
静岡銀行所定の審査による
取扱店
全店
図 9 CASBEE 評価認証取得を条件とする金利優遇ローン商品(静岡銀行)
資料:静岡銀行公表資料より住信基礎研究所作成
出典:日本で環境配慮型不動産が普及するための条件
以上のような 2 つの解決方法が考えられるが、前者は既に IBEC により現在検
討されているため、この論文では取り扱わない。この論文においては後者の金
利優遇制度を普及させていく方法について政策提言で述べていく。
2.3 CASBEE を取得するメリットが不明瞭
現在、CASBEE の普及を妨げている要因の一つとして、CASBEE を取得すること
による経済的メリットが分かりにくい、というものが挙げられる。それもその
はずで、実は現在存在する CASBEE 制度は経済面を考慮して作られたものではな
い。IBEC にメールで問い合わせたところ、『現在の CASBEE 制度は建築物の総
合的環境性能を評価するものであり、CASBEE を取得することによる経済的な面
については一切考慮していない』、というご返答を頂いた。しかし不動産市場
を構築する際の指標として CASBEE を導入するならば、経済的な面を考慮する
ことは必須である。なぜなら不動産市場において最も重要なのは不動産価格で
あり、環境に配慮している建築物が市場で優位に立つためには環境性能評価と
13
不動産価格がリンクする必要があるからである。そもそも不動産の価値は
pit =
yit
Rit Rpi r
ただし
yit :費用控訴後の賃料収益
Rit :安全資産の投資利回り
Rpi :リスクプレミアム
r :収益のマクロ的な上昇
で決まる5。つまり大雑把に言うと、賃料収益を上げること、リスクプレミアム を
下げることによって不動産価値は上昇すると考えられる。実際、大規模な環境
不動産市場が存在するアメリカでは、指標として使われている環境性能評価制
度 LEED を導入によることによって建築物の不動産価値が上昇しているという
結果が出ている。(図 10)。
図 10
LEED 認証環境配慮型ビルの経済効果(2006 年)
資料:住信基礎研究所作成
出典: 日本で環境配慮型不動産が普及するための条件
このことからも現在の CASBEE が不動産市場に適した制度、つまり経済面を考
慮し不動産価格を上昇させるような制度に変化する必要がある。幸いなことに
5
http://www.tokiomarine-pim.com/market/report/report_100618.pdf より
14
IBEC は先ほど出た不動産マーケット普及版を導入する事でその問題点を解決し
ようとしている。よってこの点についてもこの論文では詳しく扱わないことと
する。
2.4 CASBEE 取得建築物に対する需要の有無が不明
問題点の 3 つ目として、もし実際に CASBEE を取得したとしても本当に消費
者が選択するか不明であるというものが挙げられる。その原因となっているも
のに、CASBEE 取得物件を選ぶことにより消費者にとってどれだけの金銭的メリ
ット・環境的メリットが得られる、というデータを明示されていない事が挙げ
られる。一般的に環境配慮型物件は建築の際に費用が通常よりもかさみ、賃料
や販売価格が比較的割高になることが知られている。このことは消費者が物件
を選ぶ際に大きなデメリットとなるため、そのデメリットを出来る限り相殺お
よび緩和する必要がある。
2.4.1 住宅ローン優遇制度
このデメリットを相殺するために、川崎市などの一部の地方自治体は CASBEE
取得物件の購入に対し、住宅ローン優遇などの政策で価格の上昇を相殺する政
策を行っている。図 11 は川崎市が行っている環境配慮マンション向けの住宅ロ
ーンである。地域の銀行を協力しこのような政策を行っている。
金融機関名
横浜銀行
三井住友信託銀行
対象
新築マンション
新築マンション
引下金利
店頭表示金利より最大年▲ 店頭表示金利より年▲1.45% ~
1.4%
引上金利
年▲1.70%
川崎市分譲共同性能表示に 川崎市分譲共同性能表示による
よる星印 3 個以上の物件
星印 4 個以上の物件
図11 環境配慮マンション向けの住宅ローン
筆者作成
http://www.city.kawasaki.jp/30/30kansin/home/casbee/loantanjyou1.pdf
2.4.2 データの明示の必要性
またデメリットの緩和方法として、CASBEE 取得物件であることがどの程度自
身に得になるのかというデータを明示するということも考えられる。しかし、
15
環境性能評価制度の制作普及を進めている IBEC にどのくらい運用コストや環
境 負荷を軽減する効果があるのかと問い合わせても、「そのようなデータは持
ち合わせていない」、という返答しか頂けなかった。実際に普及件数は尐ない
とはいえ、ある程度は CASBEE 取得物件が存在しているので、どの程度環境負
荷を軽減出来たかのデータを作る事は可能である。図 12 はアメリカで普及して
いる LEED を取得したビルがもたらす経済的・環境的メリットを示したもので
ある。これは実際にそのようなデータを算出する事が可能であるという事を示
している。
経済的メリット
認証:シルバー
認証:ゴールド・プラチ
ナ
エネルギー消費節減
5.79
5.79
大気汚染物質排出・廃棄 1.18
1.18
削減
水消費節減
0.51
0.51
建設時廃棄物削減
0.03
0.03
維持管理費削減
8.47
8.47
生産性・健康面向上
36.89
55.33
図12
LEED 認定取得ビルのメリット 20年蓄積(ドル/平方フィード)
資料:住信基礎研究所作成
http://www.stbri.co.jp/file/pdf/report/report_20080508.pdf#
つまり日本においてはそのようなデータを作りだせるような適切なフィード
バック体制が整っていないということがいえる。CASBEE 導入物件が及ぼす効果
のデータを明示するには過去の蓄積を利用して集計データを作ることが必要で
あり、そのためにもフィードバック体制の構築が急務である、と考える。また
その情報を購買者に明示する必要もあるため、その仕組みの構築も同様に急務
であるといえる。
16
3
政策提言
問題提起において、企業に対する金利優遇制度、住宅ローン優遇制度が広ま
っていないと言う事、CASBEE取得建築物のメリットを明示するためのデータを
集めるフィードバック体制とそれらを購買者へ伝えるシステムの欠如を解決す
べき問題として上げた。この章では、 そのような問題点を解決出来るような政
策提言を行っていく。
3.1 金利優遇制度、住宅ローン優遇制度の普及政策
前章で金利優遇制度および住宅ローン制度は環境配慮型不動産市場の構築に
大きく効果があると述べた一方でそのような制度が普及しているとはいえない
という現状の問題を述べた。その原因は共にまだ新しい制度であり、銀行側も
参入に対し躊躇が生まれている現状がある。また銀行側は受け取る金利が従来
の額よりも減尐するのでその点も躊躇の原因となっていると考えられる。そこ
をどのようにして解決するのかを考えていく。
3.1.1 金利優遇制度の普及
筆者は民間企業による金利優遇システムを構築する事が必要であると考える。
現在地方自治体と銀行が連携して優遇システムを行っているが、地方自治体に
おいては財源も限られているため急速な拡大は難しい。一方で最近地方自治体
と連携を組まず独自に優遇制度を始める企業が徐々に出始めている。例えば建
築業者のみを対象としているわけではないが、環境に配慮した活動を行ってい
る企業を支援するために、CSR の一環として三井住友銀行が貸出金利の優遇を行
っている。条件 に合った環境認証を取得した企業に対し、条件を満たせば、最
大 5,000 万円までを通常のビジネスローンに対比で 0.25%優遇した金利を適用し
ている。これは企業の CSR として行っているので、優遇した金利分を地方自治
体が銀行に対して全て補うことを必要としないといえる。このような企業が多
く出来る事で、企業に対する金利優遇制度は広まってくと考えられる。そのよ
うな企業を多く生むためには、このような制度を民間企業に積極的に推進して
いく事が必要であると考える。
3.1.2 住宅ローン優遇制度の普及
住宅ローン優遇制度においては尐し状況が異なる。日本で行われている一般
17
的な住宅ローン優遇制度は、政府が住宅金融支援機構と手を組みフラット 356と
いう制度を行っている。その中に、環境に配慮した建築物に対して住宅ロー ン
を優遇するフラット 35s エコという制度が存在し活用されている。この制度 は
金利を当初 5 年間は年▲1.0%、6 年目以降 20 年目まで年▲0.3%金利を引き下げ
るというものである。ただし、このフラット 35s では対象となる条件に CASBEE
は含まれていないという問題が存在する。つまり CASBEE 取得物件に対する住宅
ローン優遇制度を普及させるためには、フラット 35s をはじめとする住宅ロー
ン優遇制度の対象に CASBEE 取得を含ませるような働きかけをする必要があると
考えられる。
3.2 フィードバック体制の構築
CASBEE を普及させ、その効果を明確化するためには、制度を導入した建築物
の その後の経過を定期的に観察していく必要がある。このことはデータを多く
集めることにも貢献するほか、更なる改良点を見つける機会にもなる。しかし、
現行の CASBEE の制度は CASBEE を提供するという点に特化しており、その後に
ついては一切関与していない。この点は非常に問題であり、全ての CASBEE 導入
建築物は評価結果とその後のエネルギー消費状況の情報を随時、一つの機関に
提供するような体制の構築が必要である。情報を収集する機関は、CASBEE を制
作した IBEC が担当するのが妥当であると私たちは考える。この概念を図に表し
たものが次の図 13 である。
環境配慮型不動産
環境負荷
運用コ スト
統計データ
不動産市場
市場価格
空室率
IBEC
情報
入居者の快適度
仕事の生産効率
図 13
フィードバック体制のモデル
筆者作成
6
http://www.flat35.com/loan/flat35s/tech.html
18
3.3 購買者への情報明示
前節で挙げたフィードバック体制により生まれた情報を購買者へ伝える必要
がある。この節では川崎市で行われている標章をモデルに情報明示のシステム
を提言する。下の図 14 は、川崎市の分譲共同住宅の環境性能を表示している標
章である。これは、建築物環境計画の提出の対象となっている分譲共同住宅に
対し、販売を目的とした広告をするときには図 11 の標章を掲載することを義務
付けている。
図14川崎市分譲共同住宅環境性能表示
http://www.city.kawasaki.jp/30/30kansin/home/casbee/seinouhyouji.html
義務化された環境性能評価を消費者にも見えるようにすることで、認識が上
昇し、選ぶ理由の一つになることを目指し、一定の効果を上げている。つまり
住宅購入者に対し環境配慮型建築物の十分な情報を提供することができている
と言える。この論文では、この標章を住宅に限らず投資家向けの標章を作る事
を提言する。フィードバックされた環境負荷や運営コスト、空室率などの情報
を投資家に明示化することで環境配慮型不動産はより選ばれやすくなり、
CASBEE 取得建築物への需要が高まると考えられる。
3.4 CASBEE取得義務化
以上の金利優遇制度の普及、フィードバック体制の構築、購買者への情報明
示により地方自治体が CASBEE 取得義務化をためらう原因となっているものを解
決出来ると考える。よってこの節では CASBEE 取得の義務化についての具体的な
19
内容について言及する。
今回 CASBEE 取得の義務化を行う主体は地方自治体のうち各都道府県に設定す
る。その理由として各市町村で行う場合、銀行側の労力が非常に大きくなるか
らである。次に CASBEE 取得の義務化の対象となるのは新築物件のみとする。こ
れは現在の段階では CASBEE は既存建築物を対象と出来ないという理由からであ
る。現在導入に積極的な自治体として取り上げた川崎市は、建築主に対して環
境建築計画書の提出を義務化しているため先進的なモデルとして考える事が出
来る。
3.5 政策後の効果
3.5.1 金利優遇制度の普及による効果
金利優遇制度や住宅ローン優遇制度の導入が進むと、建設会社が環境配慮型建
築物の建設がしやすくなり、環境不動産の数は増加すると考えられる。また、 環
境性能あげる程、つまり CASBE ランクが高くなるほど銀行からの融資金利を下
げるという方向性を追求すれば、建築主の負担となる費用を軽減する事が出来
ると同時に、建築主が高いランクの建築物と建設しようと考えるためのインセ
ンティブを与えることができる。このような制度は、環境配慮不動産を絶対数
を増やすだけでなく、その質も保つ事が出来る政策であると言える。
3.5.2 住宅ローン優遇制度の普及による効果
また住宅ローン優遇制度が普及する事で、消費者はより環境不動産を選ぶ可
能性が上がると考えられる。
上記で述べたように、住宅ローン優遇を行う事で、販売価格や賃料の上昇を
相殺する事が出来ると考えられる。つまり、環境性能が高い建築物の価格が相
対的に高くなっていくということはなくなるので、同じ価格の下で、性能を比
較することで消費者は建築物を選ぶことができる。その場合、環境性能が高い
建築物が選ばれるのではないだろうか。
ここで本当に環境性能が高い建築物が選ばれるかについて考えたい。近年、
Panasonicからエコナビと呼ばれる節電技術を搭載した電化製品が発売され、多
くの消費者に選ばれている。エコナビ搭載製品の累計販売台数は、2009年11月
~2011年7月の時点で1000万台を越えている。Panasonicが行ったアンケートによ
ると、2011年夏の逼迫した電気状況以降節電を意識するようになった人は87.9%
20
となっている。さらに、エコナビを取り入れることでの生活の中での変化では、
「節電意識が高まった」と答えた人が80%、「節電によるストレスが減った」と
答えた人は63%となった。つまり、日々の節電努力に加えて、製品を使うことで
削減される電力がうまれそれを認識することで、さらなる節 電意識の向上につ
ながっていると考えられる。ここで置き換えて考えてみると、昨年の震災以降
省エネ意識が高まってきた今、建物全体で省エネを実現できる環境配慮型建築
物は消費者に選ばれるといえる。それは消費者が建築物を選び運用すること自
体が、環境負荷を軽減させることに直結するからである。
3.5.3 不動産価格への影響
これまで環境不動産市場構築のために指標を普及させる方策について考えて
きた。今までに述べてきたように環境不動産市場とは環境不動産が他の物件よ
りも高い不動産価格を持つ事で優位に立てる市場の事である。もう一度不動産
価値がどのようにして決まるか見てみると、
pit =
yit
Rit Rpi r
ただし
yit :費用控訴後の賃料収益
Rit :安全資産の投資利回り
Rpi :リスクプレミアム
r :収益のマクロ的な上昇
となっていた。今回、提言した政策の結果、賃料は上昇し、需要者が確保出来
る事でリスクプレミアムが低下すると考えられる。つまり CASBEE という指標
を広める事が、不動産価値が上昇し環境不動産市場の形成をより加速化させる
という事が出来る。
3.5.4 CASBEE 普及による環境負荷削減効果
では最後に CASBEE が広まることによってどの程度環境負荷を削減出来るであ
ろうか。下の図はアメリカの環境性能評価制度 LEED を導入したときとしなかっ
た時とのエネルギー効率の比較を示している。図によるとよりランクの高いゴ
21
ールド・プラチナを取得した建築物の方がエネルギー効率は高くなっている事
が読み取れる。この結果から、建築物に環境性能評価を導入することは建築物
の環境負荷を減らす効果があると言え、CASBEE にも同様の潜在能力があると考
えられる。つまり CASBEE を広める事は環境配慮型建築物の普及に繋がり、また
日本の建築物の起源の CO2 を削減する事が出来るといえるのである。
エ ネルギー効率( N on-Certified=100)
100
75
50
25
0
Gold-plantinum
Silver
Certified
N on-Certified
図15:LEED 建築と全国平均(商業ビル)の比較
出典:USGBS Energy Performance of LEED for New Construction Buildings FINAL
REPORT
22
終論
この論文は、現状分析で建築業が環境に与えている影響を述べることで環境
に配慮した建築物を増やす必要性を述べた。その後、そのような建築物を増や
すためには環境配慮型市場の構築が求められている事を述べ、環境配慮型市場
を構築するには総合的な指標、日本では CASBEE が普及する必要があると示し
た。問題提起では現在 CASBEE が普及していない原因を述べ、政策提言ではそ
の問題を解決 する政策を提言し想定される効果を述べた。
日本は海外に比べて社会的責任投資が遅れている国と言われている。特に環
境不動産市場においてはアメリカやヨーロッパに大きく遅れを取っている。ま
だ十分に改善の余地があるこの分野に対し国全体で取り組む事が必要とされて
いるのは間違いないといえる。もし本気で日本という国が環境問題に取り組み
たいと考えているならば、建築物の環境性能の問題と真摯に向き合うべきであ
ろう。最後に論文執筆に際し、フィールドワークを行わせて頂いた環境建築・
省エネルギー機構 建築環境部 吉澤様、CSRデザイン&ランドスケープ株式会社
代表取締役 平松様、川崎市 環境局 環境評価室 渡辺様にこの場を借りて厚く
御礼申し上げる。
23
参考文献・URL
▷板硝子協会
http://www.itakyo.or.jp/kankou/pdf/kenchiku8.pdf
▷日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2012年4月
http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/2012/NIR-JPN-2012-v3.0-J_web.pdf
▷環境価値を重視した不動産市場の形成のあり方について
とりまとめ概要版
http://tochi.mlit.go.jp/kankyo/info/data/h2203Report.pdf
▷参考:日建連会員会社における 環境配慮設計(建築)の推進状況
http://www.nikkenren.com/publication/pdf/37/2011_CASBEE_SHOENE.pdf
▷建築着工統計調査報告 H23年度計
http://www.mlit.go.jp/common/000206282.pdf
▷CASBEE 不動産マーケット普及版(2012 年度版)公開シンポジウム資料
▷CASBEEホームページ
http://www.ibec.or.jp/CASBEE/about_cas.htm
▷米国グリーンビルディング市場の最新動向と日本市場への示唆
http://www.ares.or.jp/works/pdf/j03/ares_j_003_044_50.pdf
▷CASBEE 新築(簡易版)評価マニュアル
2010 年度版
http://www.stbri.co.jp/file/pdf/report/report_20080508.pdf
▷環境と不動産投資 〜第2回 環境配慮型建築物の経済価値〜
http://www.tokiomarine-pim.com/market/report/report_100618.pdf
▷Energy Performance of LEED for New COnstruction Buildings
https://wiki.umn.edu/pub/PA5721_Building_Policy/WebHome/LEEDENERGYSTAR_STUDY.pdf
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フィールドワーク先
▷環境建築・省エネルギー機構 建築環境部
吉澤様
▷CSRデザイン&ランドスケープ株式会社 代表取締役
▷川崎市 環境局 環境評価室
渡辺様
25
平松様
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