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組織風土改革に人生を賭ける理由
組織風土改革に人生を賭ける理由 500 社の支援実績から見えた「人間重視」の変革 柴田氏にとって組織風土改革はライフワーク を指導するわけでもない。 だ。 「私は人生を賭けている」と言い切る。何が あくまで社員のモチベーションと自覚を高め、 柴田氏をそこまで駆り立てるのか。 組織風土を通して会社を変えることのサポートを その問いにシンプルに答えるならば、 「企業が するというスタンスを貫く。 抱える問題の根本原因がそこにあるからだ」とい 「人間重視」の姿勢は 30 年経 っても変わらず、 う。そのことに気づいていない人があまりにも多 そこに“熱狂的”なファンが集まる。経営者には柴 すぎるとも指摘する。 田氏の本を読みあさり、“信者”を公言する人が少 前ページの写真でいえば、氷山の上だけを見て なくない。 問題だと言う企業が多いということだ。そういう 2008 年からは問題解決の環境作りを支援する 企業に限って「組織風土を変えるのは無理だとい 「プロセスデザイナー」に専念(下の図) 。現在も うところから出発し、業績悪化や不祥事が起きる ヤマト運輸など 8 社を担当する。スコラ・コンサル と組織風土が問題だと叫ぶ」 。しかし、柴田氏の トが支援した企業数は延べ 500 社を超え、内 80% 経験からいえば、組織風土は変えられる。 を組織風土改革が占める。 会社が社員を変えるのではなく、社員が変える 本誌連載開始は 2006 年 1 月号までさかのぼる。 現在も『トヨタを超える職場の自己再生する力』 ここで柴田氏の経歴に触れておこう。NHKの を連載中で 7 年目に突入した(今号は特集のため 語学番組に出演した経験があり、教育者として出 休載) 。最大の特徴は実名で組織風土改革を取り 発するも、1986 年に“ 大企業病 ”に苦しむ会社を 上げていること。柴田氏は長く連載を続ける本誌 支援するべくビジネス教育分野に進出。スコラ・ コンサルトを設立して長く代表を務めた。自動車 ●組織風土改革の推進体制と柴田氏の立ち位置 や建機などのメーカーの組織風土改革に関わった トップ ことで進む道が決まった。90 年代には、気楽にま じめな話をする「オフサイトミーティング」 (後述) スポンサー に象徴される改革手法を確立した。 事務局 柴田氏がコンサルタントとしてユニークなのは、 小難しい戦略論や組織論をかざして企業に “ 答 え”を提示するようなアプローチを取 っていない ことだ。海外の先端事例を説いたり、組織変更を 促したりするわけでもない。トヨタ自動車研究の 第一人者ではあるが、トヨタ流の工場・現場改善 026 日経情報ストラテジー JUNE 2012 柴田氏をはじめとする プロセスデザイナー コアネットワーク スポンサー 部下を主役にするリーダーシップであるスポンサーシップを発揮 する上司 コアネットワーク 変革のキーパーソンが集まる社内ネットワーク。変革意識が高 い全体の 2 割程度の社員たち プロセスデザイナー 社員が自発的に問題を見つけて解決していける環境作りをサポ ートする人 (問題を解決するのは社員自身) 特集1 にだからこそ語れる話を、次ページからのインタ ビューで幾つも披露してくれた。 柴田流で「活気」 「 提案力」 「 行動力」がつく 特集の大きな狙いは、柴田氏が連載で取り上げ てきた数々の事例から、本誌が普遍的な法則を導 き出すことにある。そこで取材のスタートに、本 誌は柴田氏が連載で取り上げ、今いち押しするト ヨタカローラ大分(大分市)に向かった。カローラ 大分の訪問で、柴田流の組織風土改革を実践すれ ば、会社が確実に変われることを実感した。 トヨタカローラ大分で自発的にプロジェクト活動に参加するリーダーたち。 右端が事実上のトップである毛利春夫代表取締役専務 柴田氏によれば、カローラ大分の変化は劇的 だ。しかも組織風土改革が自動車不況を吹き飛ば 店の中で「一般管理費カバー率」が日本一になり、 す業績の拡大につながっている。 トヨタから表彰された。 これは中古車やサービ カローラ大分で本誌が確認したのは、主に 3 点。 ス、自動車保険など新車販売以外の利益で会社の 活気と提案力、そして行動力だ。社員はとにかく 費用をどれだけまかなっているかを表す指標で よくしゃべる。社長不在で事実上のトップを務め あり、カローラ大分はカバー率が 100%を超える。 る毛利春夫代表取締役専務は「柴田さんに教わっ つまり、新車が1台も売れなくても赤字にならず、 たオフサイトミーティングを見よう見まねで 10 年 新車の儲けは全て利益になることを意味する。 続けたら、みんな物怖じせず、おしゃべりになっ 理想的な経営状態を支えているのが、社員の自 た」と笑う(右上の写真) 。 発的なプロジェクト活動なのである。組織風土と かつてオーナー 社長(既に退任)が君臨し、半 業績の連動を示す典型例だ。 ば“ 言論統制 ”されていた会社とは思えない。毛 ※ ※ ※ 利氏は 2000 年にトヨタ主催のセミナーに参加し、 企業のグローバル化を見据え、柴田氏自身もこ そこで出会った柴田氏とオフサイトで「気づきが こ数年で“進化”している。2009 年にシンガポール 起きる」という衝撃体験に魅せられた。その後は に会社を設立し、ヤマト運輸のようにアジアに進 自分でコーディネーターを務め、社員から噴き出 出する日本企業を中心に、現地でも組織風土改革 す不平不満や経営不信の声を受け止めて、前向き に取り組む。風土といっても日本だけにとどまっ な意見が社員の口から出るまでやめずに続けた。 ていない。海外拠点や外国人社員が増えるなか、 いつしか社員は不平不満のオンパレードから 柴田氏はシンガポールで英語のオフサイトを実施 “卒業”。自主的にオフサイトを開き、プロジェク した。しかし手法が変わるわけではない。柴田流 トが自然発生的に立ち上がった。その結果が今、 の組織風土改革は時代や国境を越える。迫り来る 4 期連続増益をもたらしている。 グローバル経営にも通じるものだ。では、次ペー またカローラ大分は 2010 年度、全国のカローラ ジからその要諦を解き明かそう。 写真撮影:山本 巌 JUNE 2012 日経情報ストラテジー 027