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5.4 単純金属のバンド幅と電子相関 5.4.1 固体電子論における多体電子

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5.4 単純金属のバンド幅と電子相関 5.4.1 固体電子論における多体電子
90
第 5 章 電子相関の切り分け
5.4 単純金属のバンド幅と電子相関
5.4.1 固体電子論における多体電子論の位置付け
物性物理学の教程は、固体物理学や固体電子論に範囲を限ってもトピック
スが多様であり、どこに経糸を見出せばよいかが分かりづらい。以降、電子
ガス系を基調としたトピックスを展開するが、その位置付け把握を兼ねて、
最初に総論的視点から眺めておく。
物質の電子物性とは多体電子系の応答であり、まずは電子ガス模型で、そ
の本質を描き出そうというのが自然な試みになろう。相互作用を考慮しない
単純な電子ガス模型は、単純金属の比熱などを佳く説明し、交換効果という
量子統計性の役割を浮き彫りにした。[1]。次いで取り入れるべきは、電子間
相互作用とイオンコアの影響(非一様性)である。非一様性を、まずは空芯
ポテンシャルとして系の周期性としてのみ考慮すると、初等的なバンド理論
が帰結され、物質の絶縁性・導電性が説明される [1]。これにより、金属電子、
半導体電子といった物質中の電子のピクチャーが明確となる(電子構造とい
う概念)。イオンコアと電子との動的な相互作用からは格子比熱などの各種
フォノン物性が説明される [2, 1]。電子間相互作用については、まずはハート
リー・フォック近似が出発点となるが、金属電子の場合、フェルミ面での有
効質量が 0 と帰結されるため、更に進んで乱雑位相近似にて長距離遮蔽が取
り入れられ、件の有効質量は有限値に戻る [2]。カスプ異常などの短距離相関
は、さらに高次の梯子近似で考慮される [3]。
電子間相互作用や電子格子相互作用の取扱いについては、場の演算子によ
る摂動理論が佳く発展したが [4]、現代的には密度汎関数法が非常に洗練され
たやり方で此をカバーする [5]。そこでは、「1)非一様系における電子系の
相互作用の様相は、交換相関汎関数の知識に集約され」、「2)その基本量で
ある電荷密度は、この汎関数の下での一体形式を解く事で得られる」という
事が基礎づけられる。但し、交換相関汎関数を具体的に構築する処方箋はな
く、電子ガスやモデル分子の知識を用いて近似的に構築されたものが供され
る。交換相関汎関数は、密度汎関数法の定式化に現れる普遍汎関数の一部を
5.4. 単純金属のバンド幅と電子相関
91
なすが、普遍汎関数は、その名の通り、系の非一様性の状況に依らず(すな
わち、どのようなイオンコアが、どのような構造を組んでいるかといった状
況に依らず)、粒子間相互作用のみによる普遍的なものである。
一様電子ガスにおける電子間相互作用、特に、その平均場を超えた高次効
果である電子相関の様相は、多体摂動法の適用で相当の知見が蓄積されてい
るが、筆者が主務とする拡散モンテカルロ法 [8, 7] は、数値的厳密解法とし
て成功を収めており、80 年代には、その高精度数値計算の結果を基に交換相
関汎関数が提供されている [6]。現在、LDA として知られているものが、こ
れに当たるが、LDA が開発者の予想を超えて、広範な物質系の基礎物性を高
い定量性で記述する事は、上記の「電子ガスで見積もる」という出発点を支
持するものである。
5.4.2 ナトリウム固体のバンド幅
ナトリウム固体のバンド幅の問題は、電子相関を扱う関する各種理論手法
の比較を論じる上で非常に佳い題材となっている。
単純金属の価電子は電子ガスでよく記述出来ると期待される。価電子の分
散関係は、したがって、自由電子近似 (NFE 近似) での ε ("
p) = |"
p| /2 で模
2
型化され、実際、実験でも、ほぼ放物線型の分散関係が得られている。フェ
ルミエネルギー値
1
1
εF = p2F =
2
2
!
1
αrs
"2
(5.65)
は、価電子が属するエネルギーバンドのバンド幅に対応する。単純金属の典
型例としてナトリウム固体を採ると、その rs は 3.94 となり、NFE 近似で
のバンド幅は 3.23 eV 程度となる。一方、ナトリウム固体の光電子分光実験
([9, 10])では 2.5∼2.65 eV 程度の値を与える。これは NFE で取り込まれ
ていない電子間相互作用がバンド幅を縮小させると解釈されて一連の研究が
進展した。
電子間相互作用によるバンド幅の変化を調べるには、準粒子スペクトルを
第 5 章 電子相関の切り分け
92
自己エネルギーから評価して、分散関係がどう変化するかを知ればよい。ハー
トリー・フォック近似の範囲では、自己エネルギーは
Σ
HF
$
$%
#
2
1
1 − x2 $$ 1 + x $$
(p) = − ·
1+
ln $
π α · rs
2x
1 − x$
,
x :=
p
pF
(5.66)
と得られ、したがって分散関係は
ε (p) =
$
$%
#
1 2 2
1
1 − x2 $$ 1 + x $$
p − ·
1+
ln $
2
π αrs
2x
1 − x$
(5.67)
となる。この帰結はアシュクロフト・マーミンの 17 章にも初等的に導出さ
れていて、分散関係のプロットが同書の図 17.1 に与えられている。バンド幅
は 2.33 倍拡がり、これは交換効果がバンド幅を拡げたと解釈出来る。但し、
(5.67) の傾き
m
∂Ek
∝
m∗ (k)
∂k
(5.68)
は有効質量 m∗ を与え、右辺はフェルミ面で発散するので、伝導に与するフェ
ルミ面近傍の価電子は有効質量が 0 であるという事を帰結する。これは更に
電子比熱
CvHF (T ) ∝ −
T
ln T
(5.69)
を与えるので、実測される T -linear な電子比熱と齟齬を来たし、ハートリー・
フォック近似が不十分である事を示唆する。
RPA によって電子相関を取り込んでいくと、有効質量は
m∗
= 1 + 0.083 · rs ln rs + O (rs )
m
(5.70)
となる [11]。交換効果のみの評価 (HF) が m∗ を 0 にするのに対し、RPA の
範囲では「相関効果が、これを有限値に戻す」という結果になる。m∗ が有限
値となる事で、準粒子は重くなりバンド幅はハートリー・フォックよりは縮
む。また、ナトリウムの rs =3.94 では、m∗ /m > 1 であり NFE 近似よりも
バンド幅が縮まっていると解釈される。尚、RPA を超えた多体電子摂動論の
扱いを行うと、「RPA での m∗ は重めに見積もりすぎ」である事が知られて
いる。したがって、RPA を超えた多体電子論の運用では、バンド幅が RPA
5.4. 単純金属のバンド幅と電子相関
93
より拡がるだろうが、それが NFE 近似よりも狭い範囲に留まるかどうかに
興味がある。
尚、ゲルマン・ブリュックナーの理論が出て来たので、電子ガス系の基底
エネルギーに関する表式を表記しておく:
ε = εHF + εc
(5.71)
として、エネルギーをリドベルグ単位で書くと、
εHF =
2.21 0.916
−
rs2
rs
(5.72)
で rs 逆自乗の項が運動エネルギー、逆べき乗が交換エネルギーに対応する。
電子相関による寄与 εc は、ゲルマン・ブリュックナーの RPA の範囲では
εRPA
= 0.0622 ln rs − 0.142 + O (rs )
c
(5.73)
で、更に二次の交換項が δε=+0.046 を与え(ハートリー・フォックによる交
換寄与を逆符号で押し戻してる事に注意。相関を取り込めば、交換も呼応し
て修正を受ける)、有名な表式
εGB =
2.21 0.916
−
+ 0.0622 ln rs − 0.096 + O (rs )
rs2
rs
(5.74)
を得る。更に正確に評価した最新の結果は、初期の数値計算上の過失などが
修正され、
εc = 0.0622 ln rs − 0.0938 − 0.0184 · rs ln rs − 0.020 · rs
&
'
+O rs2 ln rs , rs2
(5.75)
となっている。
ハートリー・フォックの交換効果はバンド幅を拡がりすぎに評価し、相関
効果は、これを狭める方向に戻す働きがある事が分かったが、此の結果、全
体として NFE 近似よりも狭いバンド幅が帰結されるかは多体電子論コミュ
ニティでの大きな問題とされてきた。まず非一様効果を考慮する LDA 計算
では、報告にもよるが大方、NFE 近似の程度であり、光電子分光の 20%も
の縮小は再現しない。LDA によるコーン・シャム軌道を用いた G(グリー
94
第 5 章 電子相関の切り分け
ン関数)による GW 近似を行って電子相関の効果を或る程度まで取り入れる
事が出來るが、初期の GW 近似による計算 [NOR87] は、バンド幅縮小をよ
く再現し、RPA の段階で 5∼10%、RPA を超えた高次の効果により 20%の
縮小が得られると報告された。
「電子相関は裸のバンド幅を狭める」という事
で、冒頭の光電子分光実験は此を見事に捉えた実験という話に収まりかけた
が、多体電子論で確立されている知見として、RPA での m∗ は重めに見積も
りすぎという事が知られているので、RPA を超えて、更に RPA よりもバン
ド幅が狭まるという報告を疑問視する指摘が為された。多体電子論の立場か
ら非自己無撞着 GW の欠陥が指摘され(MAH89[12], YAS99[13])、GW 近
似を G0 W0 から更に自己無撞着に運用したり、あるいは GWΓ のバーテック
ス補正を加えていくと、バンド幅は拡がっていき、生のバンド幅よりも拡大
するという報告がカリウム固体 [14] やナトリウム固体 [15] についてなされて
いる。
現実物質系の rs は、そもそも RPA を正当化しない領域にあるという問題
がある。これについては DMC 計算が説得力のある解答を与えるツールであ
るが、今のところ、バンド幅が拡がる事を支持する結果しか得られていない
(Diamond-DMC[16]、HEG-VMC[17])。また、ダイアグラム法の運用では、
交換と相関とのバランスを保持しながら次数を上げていく事が肝要で、バン
ド幅に対しては交換と相関が逆方向に利くため、特に此が重要である。RPA
では、直接項のみを無限次まで取り込んだ結果、相関効果を過剰評価した。
より精密な評価では、したがって、直接項と交換項の相殺を注意深く取り扱
うことが肝要となる。これについては日本の研究者が精細な運用をおこなっ
ているが、
(YAS99[13],TAK01[18])、同じく、電子相関はバンド幅を拡げる
という結論を得ている。光電子分光で観測される 20%ものバンド幅縮小は、
それでは一体何が原因なのかという議論については省略する [20]。
5.5 DMC 法が記述する電子相関
5.5.1 電子相関の切り分け
電子相関とは「ハートリー・フォック理論では記述出来ない電子間相互作
5.5. DMC 法が記述する電子相関
95
用の高次効果」として定義される。多体波動関数の言葉で言えば、電子相関
とは波動関数の歪みによる効果の事であった。そこでは「電子間相互作用の
効果」は交換効果と相関効果という風に切り分けられた。
多体摂動論は、
「ハートリー・フォック理論を超えた高次効果」をダイアグ
ラムの足し上げという形で系統的に取り入れる手法であった。そこでは近似
の次の段階として RPA があり、これは遮蔽とプラズモンの本質を成功裡に
記述した。これは対分布関数に相関孔を空けるが、短距離部分で避け合いが
利いて希薄になる領域は、そもそもの rs 展開が破綻するため、対分布関数に
負値をもたらした。こうした短距離相関は、梯子図形の足し上げで修正され
た。これは、短距離領域では実質的に希薄となって相互作用対が確定し、こ
の対が何度も多重に散乱する過程が重要になるという描像を与えている。ま
た逆空間の言葉で言えば、q を混ぜる事で空間非一様な相関の有り様(長距
離では実効的に相互作用は遮蔽されるが固定電子の近傍では、実質的に希薄
となり遮蔽が利かない)が初めて記述されるという事に呼応していた。DMC
法では、図 5.15 に示される通り、こうした機構は全て取り込まれリーズナブ
ルな結果を得る事が出來る。
この他、幾何相関(静的相関)と動的相関という切り分けも存在する(→
図 5.16)。再度、多体波動関数の言葉に戻り、単一のスレータ行列式を試行
関数とする多体波動関数理論がハートリー・フォック理論である事を思い出
すと、電子相関とは「マルチデターミナントで初めて描き出される効果」で
ある。そのようなものとして真っ先に思いつくのは縮退した多参照の基底状
態であろう。孤立原子であっても、例えば、ボロンの 5 つ目の電子を px に
詰めるか、py に詰めるかというのは等価であり、完全な記述のためには、px
に詰めた配位の行列式、py , pz に詰めたものと、3 つの行列式の線形結合を
とって初めて変分的に満足のいく記述がなされる。また、ベリリウム原子に
ついては、励起準位が比較的低い所にあるが、これも励起の先が px 、py 、pz
と縮退するため、単一の配位では、その電子相関の記述は難しい問題である。
このような縮退・擬縮退に起因する電子相関の効果を幾何相関、あるいは静
的相関と呼ぶ。
96
第 5 章 電子相関の切り分け
図 5.15: DMC 法で評価される対分布関数。マーチン著・図 5.5 より転載。
ドットが DMC の結果。実線や破線は別理論などによるものである。§5.3.2
の (5.55) 式にある原点近傍での立ち上がりのべきに注意せよ。
電子相関とは...
... 数理的にはCI展開の第二項以下であるが...
・多体波動関数の節 / 振幅
その物理は色々な様相を持つ
・交換項/相関項
統計性/相互作用による変形
・長距離相関(遮蔽)/ 短距離相關(カスプ)
リング図形  

対分布関数で言えば...
相関孔を空ける
はしご図形  

相関孔を正定値に戻す
・幾何相関(擬縮退の記述)/ 動的相関(会合の記述)

図 5.16: 各種電子相関の切り分け
5.5. DMC 法が記述する電子相関
97
一方、動的相関とは、電子間の会合・散乱過程に付随した相関効果という
由来である。本書のコンテキストでは会合に関するカスプ記述がこれに相当
する。カスプとは、多体波動関数の rji に関する尖点である。スレータ行列
式とは一体関数 ψ ("
rj ) の積の線形結合であるから、このような関数形で尖点
のような非特異性を記述するのは難しいと想像出来る6 。マルチデターミナン
トの第二項以下が記述するのは、このようなカスプ記述のための振幅修正も
含まれている事に注意したい。QMC 法では、電子間カスプは単一行列式に
ジャストロ因子を付す事で記述が可能であった。また DMC 法では、振幅の
修正は虚時間発展により自動的に修復されるのであった(→図 5.17)。
関数空間の記述精度を上げて近づける…

  
  
 






CI法、VMC法
時間発展で「削り出す」…


 



      

   





DMC法
図 5.17: 振幅修復によるカスプの記述
QMC 法を実装する観点からは、(振幅自由度で描ける電子相関)/ (節変
調でないと描けない電子相関)という切り分けが欲しい所である。前者はス
レータ・ジャストロ型試行関数による節固定近似の実装で比較的容易に対処
できる一方、後者は節を変調するために、試行関数に更に工夫を凝らすなど
の必要がある。たとえば、1 次元系の場合には、節固定近似の問題がないか
ら(→確認問題)、1 次元系の電子相関は原理的には振幅自由度で書ける電子
6
但し、スレータ行列式は陽な rij 依存性を全く書けないわけではない。(3.37) 式参照。
98
第 5 章 電子相関の切り分け
相関という事になる。一般に低次元での多体電子系は、運動が制約される事
で、相互作用の効果がより顕著となり強相関電子系を実現する舞台とされて
おり、その電子相関は「難しい」とされるが、1 次元系には節固定近似がな
いので DMC 的には楽だというのは対照的である7 。動的相関は振幅記述の問
題ともとれるが、カスプ自体は節位置で生じるので、節/振幅の切り分けが明
確というわけではない。ただ、節固定近似 DMC は、大方の場合、佳く成功
し、これが破綻する問題を探す方が難しい。そのような問題は、大方、擬縮
退を持つ静的相関の問題である。電子ガスや量子化学など、伝統的に電子相
関を扱ってきたコミュニティでは、開殻系は電子相関の難問だという意識が
あり、こうした感覚を身につけておく事は重要である。§5.4.2 では、単純金
属を扱う上でハートリー・フォック理論が比熱などの記述で破綻を来してい
る事を述べたが、絶縁体の場合には有限のギャップが、この破綻を和らげて
ハートリー・フォックを佳い出発点とする事を許している。電子相関の顕著
な系としてモット絶縁体が余りにも有名であるが、巨大開殻たる単純金属系
は、伝統的に電子相関の取扱いが難しい系だと認識されている事も覚えてお
きたい事実である。
5.5.2 DMC 法が記述する電子相関
水素分子の基底状態を扱った DMC 法の結果を図 5.18 に示す。水素分子














図 5.18: 水素分子の基底エネルギー値(本郷研太氏の計算による)
7
1 次元系では朝永・ラッティンジャー液体といったエキゾチックな状態が実現するが、これは
ベーテ仮設で解析的に解けるという事も思い出せる。
5.5. DMC 法が記述する電子相関
99
基底状態の多体波動関数には節がない(→確認問題)。DMC 法では、した
がって、振幅の自己修復が効いて、その基底エネルギーは厳密値に到達して
いる。ハートリーフォック法(HF)とハートリー・フォック限界(HF-limit)
とのエネルギー差は基底関数系(6-311G++(3df,2pd))の分解能精度の指標
となる。変分モンテカルロ法(VMC)においてジャストロ因子で描き出せ
る相関エネルギーが全体の 93.5%、配置間相互作用法に基づいた量子化学的
手法(CCSD,CISD)で描き出せるのが 94.5%である。特に此の事例では配
置間相互作用法が関数空間を完全に展開するので(Full CI と云う)、残りの
5.5%は基底関数系の分解能で描ききれない振幅の誤差(カスプなど。図 5.17
を参照)に起因する。ところが、同じ基底関数系で生成したガイド関数に拡
散モンテカルロ法(DMC)の時間発展を施してやれば、振幅は自己修復し
て全相関エネルギーを描き出す。量子化学的手法だけで高精度を達成するに
は、基底関数系のみならず、一般には活性空間の選択や収束計算の手順など
相当の熟練を要する。また基底関数系に対する補正スキームは複雑な手順を
要し、信頼ある論文報告に持ち込むには、かなりの手数を必要とする。変分
モンテカルロ法の場合にも、変分モンテカルロ法自体で話を閉じる場合には、
周期系、孤立系各々の特質に応じたジャストロ関数の設定に熟練が必要で、
かつ、そこに含まれる多くのパラメタを最適化するという煩雑さがある。こ
れに対して拡散モンテカルロ法ではジャストロ因子は計算の安定化と収束の
加速という補助的役割のみとなるため、ユニバーサルな関数形を用いて適度
に最適化しておけばよく、計算に要する熟練度はずっと少なくて済む(対象
系にもあまり依存しない)という印象を受ける。図 5.19 には、この計算で電
荷密度のカスプが修復していく様子を示した。図中のハートリー・フォック
計算では、基底関数系の限界から電子・核カスプが記述され尽くされていな
い様子が分かる。此の「poor な」ハートリー・フォック試行関数にジャスト
ロ関数を付与し DMC の試行関数に供して計算を行った。用いたジャストロ
関数は電子間カスプは記述するが電子・核カスプは補強しない事に注意した
い。DMC による射影演算が、図 5.17 の概念図の通り、振幅を修復しカスプ
を描き出した様子が見て取れる。
図 5.20 には擬縮退系としてのベリリウム原子を扱った計算結果を示す。単
100
第 5 章 電子相関の切り分け






















図 5.19: 水素分子の電荷密度(本郷研太氏の計算による)
SD
Be Atom
CI, CASSCF, 
# of Det. =1
HF:-14.5730 hartree
MD
DMC!
# of Det. =4
-14.6156
CASSCF:45.2%
SD
-14.6573(4)
SD-DMC:89.4%
DMC!
-14.6671(2)
MD-DMC:99.7%
MD
# of Det. ~2×105
-14.6323
CI:62.9%
-14.6673
Estimated Goal
図 5.20: ベリリウム原子に対する基底状態計算。本郷研太氏の計算による。
一行列式の試行関数で DMC を行うと、89.4%の相関エネルギーを再現する
が、孤立原子系の DMC では 99%近い値が通常であり、此の値は、静的相関
故の記述の難しさを物語っている。マルチデターミナントによる SCF 計算で
は、4 項展開で 45.2%、20 万項もの展開を以てしても 63%程度である。(現
行での量子化学計算が扱うマルチデターミナント数は、小規模分子対象なら
数万程度は余裕で可能である事は感覚として覚えておくとよい)。4 項展開の
5.5. DMC 法が記述する電子相関
101
マルチデターミナントを試行関数とした DMC 計算は 99.7%の電子相関を記
述する。節固定 DMC が振幅自由度についての修復は自動的に行う事を思い
出すと、これは 4 項程度のマルチデターミナント展開で、節自由度は佳く修
復される事を暗示している。MD-SCF では、展開項の全てで節と振幅を両方
補強しなければならず、それでも 63%しか記述出来ない事と対照的である。
此の結果は、MD-SCF での膨大な展開項の殆どが振幅補強に廻っている事を
示唆している。
「よく受ける質問」
1. 相互作用はどのように設定しているか?長距離のスクリーニングは、ど
う考慮したのか?
2. どのような切断近似をとっているか?どのようなダイアグラムをとった
近似か?
3. 交換相関はどう設定しているのか?
模型理論は、相互作用が実効的に取り込まれた素励起に対する有効ハミルト
ニアンの構築という視点、DFT 法では、数理上便宜的に導入される一体軌道
に対する有効ハミルトニアン(交換相関ポテンシャル)の模索。
確認問題
1)1 次元系の場合には、節固定近似の問題がない事を説明せよ。
2)水素分子基底状態の多体波動関数には節がない事を説明せよ。
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104
第 5 章 電子相関の切り分け
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[19] 高田康民(著)「多体問題」、朝倉書店。
[20] 高田康民(著)「多体問題特論」、朝倉書店。
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