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日本版FinTechの方向性 - Nomura Research Institute
NRI INNOVATION SYMPOSIUM 2016 日本版FinTechの方向性 欧米のFinTechからの示唆 2016年9月21日 株式会社野村総合研究所 IT基盤イノベーション本部 デジタルビジネス開発部 グループマネージャー/上級研究員 城田 真琴 〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-2 東京サンケイビル 目次 改めて振り返る海外と国内の違い 国内金融機関のモチベーション 日本版FinTechの方向性 今後の取り組みに向けた留意点 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 1 改めて振り返る海外と国内の違い Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 改めて振り返る海外と国内の違い (1)米国では、大手銀行に対する信頼が相対的に低い 米国では、金融サービスのプロバイダーとして銀行よりも、テクノロジー企業を好意的にとらえる国民が多数 「金融商品のプロバイダーとして、以下の各企業に対する印象をPositive、Neutral、Negativeから選択して下さい」 銀行 テクノロジー企業 44% 40% 73% 71% 36% 37% 64% 57% 「Silicon Valley is Coming」 JPモルガン・チェースCEO ジェイミー・ダイモン氏 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. Source: Instantly Brand Monitor in corporation with Statista 3 改めて振り返る海外と国内の違い (2)FinTechの主要ターゲットはミレニアル世代(1980年~2000年生まれ) 「 The Millennial Disruption index 」によると、銀行が最も「破壊されるリスクが高い」業界 53%:自分の利用する銀行と他の銀行の提供 するサービスに違いはない 33%:銀行はいずれ全く必要なくなる 50%:テクノロジ・スタートアップが銀行のやり方 をオーバーホールしてしまう 73%:現在利用している銀行よりも、グーグル、 アマゾン、アップル、ペイパル、スクエアが 提供する金融サービスの方がワクワクする 71%:銀行の話を聞くくらいなら歯医者に行く 出所)http://www.millennialdisruptionindex.com/ ミレニアル世代による既存の銀行に対する「期待の薄さ」が鮮明に Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 4 改めて振り返る海外と国内の違い 参考)米国の人口構成比で最大を占めるのはミレニアル世代 米国はミレニアル世代(1980年~2000年生まれ)が40%を占め、ベビーブーマー世代(1945年~1964年 生まれ)やジェネレーションX(1965年~1980年生まれ)を上回る 日本はベビーブーマー世代が最多層(38%)であり、米国とは状況が異なる 2.50 5.00 (百万人) (百万人) 4.50 2.00 4.00 3.50 1.50 3.00 2.50 1.00 0.50 2.00 15歳~35歳 36歳~50歳 :31.2% :30.6% 51歳~70歳 :38.2% 1.50 1.00 15歳~35歳 :40.0% 36歳~50歳 51歳~70歳 :26.6% :33.5% 0.50 0.00 0.00 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 65 67 69 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 65 67 69 ミレニアル世代はこれからの米国経済を担う世代 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 5 改めて振り返る海外と国内の違い (3)投資に積極的な米国、貯金に余念のない日本 日本では、家計金融資産のうち、株式や債券、投資信託などが占める割合は17%程度、預貯金が50%以 上を占める(銀行に対する信頼が厚い) 米国の場合、現預金が14%程度であるのに対し、債券・投資信託・株式等の合計は50%と過半数を超える 投資に対する啓蒙度合いや自己責任原則に対する認識の深さが影響 <日本と米国の個人金融資産の構成比(2015年9月末時点)> 出所)日本銀行 米国では、投資に加え、キャッシュレス化(スマホ決済)の浸透、学資ローンなども身近な存在 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 6 改めて振り返る海外と国内の違い (4)英国では政府が銀行間の競争を積極的に推進 英国では、大手行の寡占化による顧客満足度の低下を問題視した政府が、銀行の新規参入要件を緩和 した結果、既存の銀行に挑戦する「チャレンジャーバンク」が誕生 政府は銀行間の預金口座の移管を容易にする「Current Account Switch Service※」も強力に推進 伝統的な金融機関 チャレンジャーバンク 顧客満足度を高める努力を怠った銀行は生き残れない ※銀行口座の移管を希望する消費者に対して、7営業日で口座移管を完了させるサービス Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 7 国内金融機関のモチベーション Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 国内金融機関のモチベーション 大手金融機関を取り巻く環境 金融庁の方針、国内外の大手非金融企業の金融サービスへの参入、FinTechスタートアップの台頭に 加え、固定費削減などの足元のプレッシャーに耐えうるFinTech戦略が必要 金融庁の方針 異業種からの参入 (国内、海外) 大手金融機関の FinTech戦略 FinTech スタートアップの台頭 足元のプレッシャー Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 9 スライドタイトル (HGP創英角ゴシックUB 14pt) 発端は金融庁の「平成27事務年度 金融行政方針」(平成27年9月発表) 平成26年10月から開催された「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」等の検討内容が土台 金融行政の目指す姿・重点施策 1.活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保 2.金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保 3.顧客の信頼・安心感の確保 4.IT技術の進展による金融業・市場の変革への戦略的な対応 ●FinTechと呼ばれる金融・IT融合の動きは、従来見られなかったような多様な金融サービスの提供等で顧客利便の 向上をもたらすとともに、将来の金融業・市場の姿を大きく変えていく可能性 ●一方で、サイバー攻撃が金融システム全体に対する最大の脅威の一つとなっている他、アルゴリズム取引等のIT技術を 駆使した取引の市場への影響力が増大。 ●IT技術の進展が金融業に与える影響を内外の有識者や関係者の知見を取り入れ前広に分析するとともに、将来の 金融業の姿や望ましい金融規制のあり方を検討。 5.国際的な課題への戦略的な対応 出所)http://www.fsa.go.jp/news/27/20150918-1/02.pdf よりNRI抜粋 オープンAPIのあり方については、2016年度中を目途に、報告をとりまとめる 予定であるが、欧州の動向からAPIの公開が義務付けられる可能性が高い Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 10 国内金融機関のモチベーション 銀行への信頼が厚い国内では、異業種(非金融企業)による金融サービスへの参入が脅威に 楽天カードの決済額は4兆円超、イオンの会員は2500万人を突破 金融機関はAPI連携による、リバンドル化の推進が今後の鍵を握る スタートアップ 金融機関 異業種 流通・サービス 家計/ 会計管理 API PFM、クラウド会計 個人ローン ネット企業(海外) ネット企業(国内) 融資 投資・ 資産運用 法人向け融資 API ロボアドバイザー他 決済 通信 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 決済・ 送金 仮想通貨 11 国内金融機関のモチベーション 非金融企業のFinTech企業への投資 最近の注目は、リクルートグループのFinTech事業への参入とソフトバンクとみずほ銀行の提携 freee(クラウド会計) bitFlyer(ビットコイン取引所) Kabbage(中小企業向けオンライン融資) Align Commerce(ブロックチェーンによる国際送金) Bench Accounting(中小企業向けオンライン会計) 中小企業向けの融資事業 への参入を発表 (2016年8月24日) Acorns(少額投資アプリ) Azimo(国際送金) WePay(オンライン決済) Currency Cloud(企業向け送金) Bitnet(ビットコインによる決済) 本業とシナジーの見込める決済・ 送金のスタートアップに投資 One Tap BUY(スマホに特化した証券会社) SoFi(マーケットプレース・レンディング) Kabbage(中小企業向けオンライン融資) Pawnshop(オンライン質屋) みずほ銀行と個人向け融資事業 の合弁会社の設立を発表 (2016年9月15日) 今後は「データ」の奪い合いがポイントに! Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 12 国内金融機関のモチベーション 参考)すでに「金融企業」となった楽天 2016年Q2には、売上収益、営業利益ともにFinTechが国内ECを上回る 今秋には、中小の飲食店等でスマホで支払いができる決済サービス「楽天ペイ」を開始予定 Q2/15 国内EC 売上収益 営業利益 Q2/16 (単位:十億円、IFRS) 前年同期比 67.9 23.2 72.5 17.5 +6.9% -24.6% 34.9 -6.4 43.3 -3.2 +24.1% +31億円 69.6 16.9 74.2 18.0 +6.6% +6.4% 13.8 -1.1 17.3 -0.5 +25.7% +6億円 連結調整額 売上収益 営業利益 -13.0 -1.8 -18.8 -0.1 -58億円 +17億円 連結 売上収益 Non-GAAP営業利益 173.2 30.9 188.6 31.7 +8.9% +2.5% その他インターネットサービス 売上収益 営業利益 FinTech 売上収益 営業利益 その他セグメント 売上収益 営業利益 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 出所:楽天株式会社2016年Q2決算説明資料より、NRI作成 13 国内金融機関のモチベーション 国内メガバンクは、非金利収入の向上と経費削減が喫緊の課題に 利ざやで稼ぐことが困難になる中、2015年度の営業経費(人件費+物件費)は、資金利益の91%を占める FinTechによる非金利収入の向上と利益を圧迫している営業経費削減への期待 非金利収入を伸ばす (兆円) 7.0 6.0 5.0 2.2 2.2 1.7 1.6 2.1 2.2 2.4 2.2 2.0 2.3 経費を圧縮する 4.0 3.0 2.0 2.6 2.7 2.7 2.7 2.6 2.6 2.7 2.7 2.9 2.9 3.3 3.3 3.5 3.6 3.4 3.3 3.3 3.3 3.5 3.2 1.0 0.0 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 資金利益 2011年度 非金利収入 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 経費 出所)三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、みずほ銀行、みずほ信託銀行、三井住友銀行のIR資料より野村総合研究所 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 14 日本版FinTechの方向性 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 日本版FinTechの方向性 国内金融機関がFinTechに取り組む目的 「顧客の利便性向上」は、対外アピールにつながる一方、収益には直結しづらい点がネック FinTechをサステナブルな取り組みにするためには、トップラインの向上や固定費の削減など、収益につな がる成果が求められるのではないか 対外アピール ① 顧客の利便性向上 (1)アプリのUI/UX改善 (2)スマホでATM入出金 (3)公共料金をスマホで支払い (4)各種手数料の引き下げ など ② 非金利(手数料)収入の向上 (1)ロボアドバイザー、CLO など新サービスの投入 (2)決済金額の拡大 利便性向上が 固定費削減に 繋がればベスト 「貯蓄から投資へ」 の実現 など ③ 固定費の削減 実利 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. (1)店舗の削減 (2)人件費の削減 (3)システム運用費用の削減 など CLO:Card Linked Offer ・AI ・ブロックチェーン などの活用 16 日本版FinTechの方向性 米国では、モバイルバンキングの普及が銀行の固定費の削減に大きく寄与 Bank of Americaでは、モバイルバンキングのユーザー数の増加に伴い、支店の削減を実現 預金額はモバイルバンキングのユーザー数に比例して増加。預金額は、800支店に相当する一方で、その 預金コストは支店での預金コストの90%以下。 [支店] 6000 [百万人] 20.0 18.0 18.7 16.0 14.0 5600 16.5 5478 15% 14.4 12.0 10.0 5400 5200 12.0 5151 12% 9% 4855 8.0 5000 4800 4726 6.0 店舗数減少 4.0 2.0 5800 4600 4400 4% 4200 0.0 4000 2012年 2013年 月間アクティブユーザー数 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 2014年 預金総額に占めるモバイル取引比率 2015年 支店数 出所: Bank of America IR資料より、NRI作成 17 日本版FinTechの方向性 Bank of Americaにおける金融チャネルは、すでに「モバイルファースト」 Bank of Americaの顧客は平均して週に7200万回、モバイルアプリを利用 支店の利用回数は、600万回にとどまり、モバイルアプリの12分の1 モバイルアプリの利用者が多い理由は、非常に評価の高いUI/UX(デザインの重要性) モバイル 72M オンライン 40M ATM 13M 電話 支店 10M 6M もともとBoAはデザイン思考重視 ex.「Keep the Change」プロジェクト(2005年) Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 出所: Bank of America IR資料より、NRI作成 18 日本版FinTechの方向性 今後は、チャットボットによる顧客サービス向上と固定費削減に期待 Amex bot:会員がカードを使うと、リアルタイムで特典や優待サービスをロボットが通知してくれる 例えばラスベガスからニューヨークへの航空券を購入すると、Amexボットがメッセンジャーでセンチュリオンラウン ジの紹介やそこのレストランのおすすめメニューを知らせてくれる TD BankやBank of Americaもボットサービスの提供を予定 <AMEX bot> <TD Bank bot> 出所)http://www.mobilemarketer.com/cms/news/messaging/22655.html コールセンターへの人工知能適用よりも、実用化は先か Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 19 日本版FinTechの方向性 チャットボットによるコスト削減効果の試算 カスタマーサービスや営業は3分の1程度、保険外交員や金融商品の営業は約半分が不要になる可能性 が指摘されている 90 80 年間給与支出の合計 削減可能な金額(年額) $79 70 60 50 $43 40 $32 30 20 $20 10 0 $12 保険外交員 $15 証券や先物商品 などの金融商品の 営業担当者 $15 (一般的な) 営業担当者 $23 カスタマーサービス の担当者 出所)http://www.businessinsider.com/heres-what-banks-should-consider-before-launching-chatbots-on-facebook-messenger-2016-7 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 20 日本版FinTechの方向性 高まるブロックチェーンへの期待 Santander銀行「ブロックチェーンにより、2022年までに銀行業務にかかる コストを150億ドル~200億ドル程度削減できる可能性がある」 時期 金融機関 2016年2月 JPMorgan 2016年3月 Bank of America 2016年4月 Barclays R3 CEVのCordaプラットフォームを用いて、スマートコントラクトによるデリバティブ 取引を実験 2016年4月 John Hancock KYC(know-your-customer )に関する実証実験をボストンのラボで開始 2016年8月 MetLife 2016年8月 2016年9月 取組み Digital Asset Holdingsと共同で、同社の顧客2200を巻き込み、ロンドン、 東京間でブロックチェーンによる国際送金を検証 ブロックチェーンを用いた貿易金融の実証実験を開始 R3 CEVが主導するコンソーシアムに加入。貿易金融に関心。 Bank of America、 シンガポールの情報通信開発庁と協力し、貿易金融に関する実証実験を開始 HSBC Santander イーサリアム版のユーロ取扱いへ向けてテストを実施。顧客のサンタンデール銀行 内の口座のユーロなどから、イーサリウム・ブロックチェーン上にユーロを発行可能。 出所)各種資料より、NRI作成 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 21 日本版FinTechの方向性 「貯蓄から投資へ」を促進するには、金融教育が必要 日本国民は米国民に比べ、金融知識に関する設問の正答率が10%低い 金融教育を受けた人の割合も少なく、その結果、金融知識に自信がある人の割合は大きく劣っている 47% 57% ①複利(5年後)に関する問題(Q19) 43% 75% ②インフレに関する問題(Q20) 56% 61% ③住宅ローンに関する問題(Q21-2) 68% 75% ④分散効果に関する問題 46% 48% ⑤債権価格に関する問題 24% 28% 金融教育を受けた人の割合 7% 19% 金融知識に自信がある人の割合 13% 73% 正誤問題5問平均の正答率 Q19 100万円を年率2%の利息がつく預金口座に預け入れた場合、5年後には 口座の残高はいくらになっているでしょうか。 1. 110万円より多い 2.ちょうど110万円 3.110万円より少ない 4.上記の条件だけでは答えられない 5.わからない Q20 インフレ率が2%で、普通預金口座であなたが受け取る利息が1%なら、1年後 にこの口座のお金を使ってどれくらいの物を購入することができると思いますか。 1. 今日以上に物が買える 2.今日と全く同じだけ物が買える 3.今日以下しか物が買えない 4.わからない Q21-2 住宅ローンを組む場合、返済期間が15年の場合と30年の場合を比較すると、 通常、15年の方が月々の支払い額は多くなるが、支払う金利の総額は少なく なる 1. 正しい 2. 間違っている 3. わからない 出所)金融広報中央委員会「金融リテラシー調査」 (2016年6月)より、野村総合研究所作成 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 22 日本版FinTechの方向性 金融知識の有無が投資マインドに強く影響 金融教育を受けた経験の有無が、リスク性資産の購入を左右している可能性が高い (%) 投資している 人の割合 株式 投資信託 外貨預金等 全サンプル 31.6 25.8 17.3 金融教育を受けた人 52.3 43.8 35.0 出所)金融広報中央委員会「金融リテラシー調査」 (2016年6月) Googleはインド政府と協力し、金融リテラシーの向上を目的とする Webサイトとアプリ「Bharat※ Saves」の立ち上げを準備中 ※ Bharat(バーラト):Indiaのヒンディー語名 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 23 日本版FinTechの方向性 投資を身近なものにするFinTechサービスが必要 Acorns:クレジット/デビットカードで買い物した際、 1ドル未満の端数をキリの良い数字にし、 差額を投資に回す少額投資サービス 手数料は、積み立てが5000ドル未満の場合は 月に1ドル、それ以上の場合は年間で0.25% Stash:「2分で投資」をコンセプトに、5ドルから 投資できる少額投資サービス。 投資スタイルなど簡単な質問に回答すると、ユー ザーに合わせて、最適な組み合わせのETFを提案 $5.00 +$0.65 $4.35 出所)https://www.stashinvest.com/ アプリにより、スマホから簡単アクセス。少額から投資可能でサービス料も低料金 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 24 今後の取り組みに向けた留意点 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 今後の取り組みに向けた留意点 FinTech戦略実行時の留意点 大手金融機関を中心に、FinTechに関する取り組みも一巡し、課題も明らかになってきた スタートアップ側の課題 金融機関側の課題 政府側の課題 <金融機関が取りうるFinTech戦略の例> 多様性を重視し、似たような スキル、バックグラウンドのメ ンバーばかりを集めない ベンチャーに対する目利き 力が重要に 自社内にFintech 部門を立ち上げ 買収 出資 (CVCの設立等) 提携 提携のリスクに注意 ex.提携先の事業停止 アクセラレータ プログラムの提供 出資するなら、資金調達 ラウンドをリードすべし ex.ソフトバンクによる SoFiへの出資 国内では、毎回 同じ顔ぶれになりがち Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 26 今後の取り組みに向けた留意点 ソフトバンクは、2015年のSoFiの大型資金調達をリード <2015年に一回の資金調達で、7500万ドル以上調達したFinTechベンチャー> 会社名 カテゴリー 調達額(M¥) SoFi 融資 Zenefits バックオフィス $513 Avant 融資 $325 Affirm 融資 $275 Square 決済 $243 Credit Karma PFM $175 Prosper 融資 $165 Kabbage 融資 $135 Zuora 決済 $115 Stripe 決済 $100 Chrome River バックオフィス $100 Coinbase ビットコイン $75 Earnest 融資 $75 合計 $1,000 <投資元> ・SoftBank (lead) ・Baseline Ventures ・DCM Ventures ・Institutional Venture Partners ・RenRen ・Third Point Ventures ・Wellington Management Company $3,296 出所)各種資料より野村総合研究所 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 27 今後の取り組みに向けた留意点 海外では、事業停止に追い込まれたFinTech企業も 先行きを有望視されているFinTech企業であっても、破綻する可能性は十分にある EC向け決済代行サービス。 Andreessen Horowitzなどの有力な投資家から資金供給を 受けるも、競争を勝ち抜けず、サービス停止。 (2015年3月に事業停止) 複数枚のクレジットカード、キャッシュカードなどを1枚にまとめることが可能なカード型ウォレット。 コンセプトは有望視されたが、カードの設計が悪く、普及を待たずに資金がショートし、サービス 開始から半年で事業停止(2015年12月に事業停止)。 特殊な読み取り機器を必要とせず、スマホでQRコードをスキャンするだけで、決済可能なスマホ 決済サービス。2億2千万ドルもの資金調達に成功し、一時は27億ドルもの時価総額を記 録したが、高家賃のオフィスへの入居、急な海外展開などで資金繰りが悪化し、3年で破綻。 (2016年2月に事業停止) Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 28 今後の取り組みに向けた留意点 代表的なFinTech企業の一つ「Square」も収益には苦労 総収入は、年率50%前後の成長率で伸び続けているものの、純利益は2015年Q2から赤字が続く 「Square Capital」(店舗に対する資金の前貸しサービス、売上げに応じて返済金が変動)が収支改善の 切り札 $600 $500 $400 $439 M $310 M $374 M $332 M $379 M $300 $200 $100 $0 ($100) -$30M -$80M -$97M 2015年Q3 2015年Q4 2016年Q1 ($200) 2015年Q2 -$27M -$54M 総純収入 純利益 2016年Q2 出所)Square IR資料より、NRI作成 スタートアップの将来性については、技術面+財務面の双方について、十分な精査が必要 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 29 今後の取り組みに向けた留意点 「起業後進国」日本では、スタートアップの玉数自体が不足 日本は起業活動の活発さを表す指標である「総合起業活動指数(Total Early-Stage Entrepreneurial Activity:TEA)」 が世界70か国中、最下位 経済圏別各国のTEA 起業家の社会的な地位に対する評価 18 90 16 80 15.53 14 13.81 12 10 10.66 8 79.1 70 70.43 60 50 74.99 72.09 72.91 76.87 55.81 40 5.34 6 4.42 4 30 5.27 20 3.83 2 10 0 0 出所)「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター」報告書(2014年版) 今後、大手金融機関は海外の有望ベンチャーに触手を伸ばす可能性が大 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 30 今後の取り組みに向けた留意点 参考)東南アジアにおけるFinTechスタートアップ 日本はそれなりの規模の会社で30社程度、小規模まで含めても100社程度と少ない ベトナム タイ FinTech スタートアップ数 53以上 主要セクター クラウドファンディング、 決済、InsurTech FinTech スタートアップ数 33以上 主要セクター 決済、InsurTech、 投資プラットフォーム マレーシア シンガポール FinTech スタートアップ数 270以上 主要セクター 投資プラットフォーム、 決済、融資 FinTech スタートアップ数 71以上 主要セクター 決済、クラウドファンディン グ、PFM インドネシア FinTech スタートアップ数 100以上 主要セクター 決済、InsurTech、 投資プラットフォーム 収益拡大の手段として、新興国への金融インフラの輸出にビジネスチャンス Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 出所) https://letstalkpayments.com/fintech-innovation-in-southeast-asia-2/より、NRI作成 31 まとめ FinTechをサステナブルな活動とするためには、顧客の利便性向上と並行して、トップラインの向上や固定費 の削減など、収益につながる施策が必要 金融庁など、政府のFinTechに関する検討状況(特にPSD2など欧州の状況とリンクするオープンAPI)は 引き続き、注視が必要 いわゆる「リバンドリング」の動きは、海外よりも、国内が先行する 中長期的には、「貯蓄から投資へ」を促進するような啓蒙や税制の優遇など、国を挙げての取り組みが必要 Next Action APIの外部公開に向けた準備 スタートアップに対する目利き力の強化と海外の有望スタートアップのリストアップ モバイルバンキング(デザイン会社との提携)、チャットボット、ブロックチェーンなどのPoCの具体検討 投資の敷居を下げ、気軽に開始できる少額投資アプリなどの開発 国内でのサービス展開と並行して、新興国など海外への金融インフラの輸出検討 Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 32 書籍のご紹介 『FinTechの衝撃 ~金融機関は何をすべきか~』 8月26日、東洋経済新報社より、 好評発売中 ハイブリッド型総合書店「honto」 経済・ビジネス書週間ランキング第1位 (9月11日~9月17日) 丸善丸の内本店ビジネス書ランキング第2位 (8月25日~8月31日) Copyright (C) Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 33