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尿路感染症は以前考えられていたよ り非常に多い疾患 である。

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尿路感染症は以前考えられていたよ り非常に多い疾患 である。
〔千葉医会誌 47,
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5
1.
,3
52,
1
9
7
1
J
診療のための検査
一一ー尿
(
1
0
)
養一一ー
士
宮
小 林 章 男 *
尿路感染症は以前考えられていたより非常に多い疾患
が高まることがまた明らかにされている。
医原性因子すなわちカテーテル導尿,留置カテーテ
である。当院でも細菌検査中尿培養の依頼が最も多く,
レ,尿路内器具操作で尿路感染が多発することは特に注
陽性検体数も一番多い。この感染症は人生を通じすべて
j
の年令層で発生し,入院患者では尿道カテーテ Jレの使用
乙は定期的
意されるべきである。筆者はこれらの処置後 l
などでその発生が多くなる。また起因菌には薬剤耐性の
尿培養も必要と考えている。患者の容態が悪いときは l
ものが多いことも特長である。貧血の診断はヘモグロビ
回のカテーテル挿入で、も 10%の率に尿路感染が惹起さ
ンの測定なしにはありえぬように,尿路感染の診断と治
れたとの報告もある。この場合の起因菌は緑膿菌,変形
療は正確な尿培養と薬剤感受性検査によらねばならな
菌など本来薬剤に感受性の低い菌によることが多く,細
い。経験的治療は抗生剤の乱用やこの感染症の慢性化を
菌学的検査によらねば治療がむずかしい。
助長するのみである。従って尿培養にかんする知識はす
この他尿路に流通障害のあるとき,すなわち勝脱麻
べての診療科の医師ならびに直接尿採取にあたる看護婦
庫,前立腺肥大,腫蕩,尿結石,奇形,勝脱尿管逆流現
に必要である。
象のあるとき,また全身疾患では糖尿病のあるとき,尿路
原培養の対象: 勝脱炎や腎孟腎炎の症状の明らかなも
感染がおこりやすい。一旦治癒しても再燃,再感染がお
のはもちろんであるが,無自覚性の尿路感染も前二者と
こりやすいので頻回の尿培養による検索が必要である。
同じ位の頻度で存在し尿培養の対象となる。無自覚性の
慢性腎孟腎炎の 1
/
3に高血圧,高窒素血症が認められ
ものは尿一般検査の際沈置に白血球,細菌多数という記
たと報告されている。このことから腎不全,高血圧の患
載で気づかれることが多い。
者でも尿培養による病因の検索は必要と思われる。また
人生を通じて尿培養が考えられる事態をあげてみよ
グラム陰性粁菌敗血症の菌侵入門戸として尿路感染が最
う。乳幼児(オムツ期)では尿路感染の発生が他の時期
も多いことから,敗血症の患者,しいては原因不明熱を
より頻発する。この症状は特有でなく,発育停止,食思
有する患者で尿培養は必要となってくる。
匝吐,腹部膨満,便秘などが指摘されてい
不振,発熱, u
外来診療でも培養の必要な理由: 単純な尿路感染は外
る
。 Kunin は健康にみえる女生徒の1.1%に無自覚的に
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l
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m
it
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d
来で診療することが多い,勝脱炎それ自身は s
細菌尿を有するものがいることを明らかにして予防医学
であるが,不適合な抗生剤投与で腎孟腎炎に進展させた
的にもこの感染の重要性を示唆した。これらの女生徒は
り,一部に慢性化をさせぬよう正確な尿培養が必要であ
尿路に器質的変化をもつものが多く,後日結婚,妊娠す
る。勝脱症状などは患者の主観的な訴えであるから,必
ると顕性の感染症に発展するものの多いことまで調らべ
ず尿培養によって細菌性の勝脱炎であるか,神経性その
られている。結婚を契機として女性に尿路感染が多くな
他のそれであるかを区別すべきである。後者の場合抗生
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s
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i
t
i
s の名もあるように
ることは“ HoneyMoon" C
剤が投与さるべきではない。勝脱症状があっても尿道炎
よく知られている。既婚では未婚者の 1
0倍この感染が
のときは尿菌数が少なく,尿道および腫内の培養によっ
多かったとの報告もある。妊娠もまた尿路感染発生を助
て菌が証明されるという。
.
6.
, 6%に無自覚性細菌尿を認
長し, Kass らは妊婦の 4
初めて尿路感染に家庭で羅患したときは起因菌はほと
め,これらの妊婦は後日顕性腎孟腎炎になることが多
んど大腸菌で耐性菌はみあたらない。しかしこの感染を
く,高血圧,貧血,胎児の未熟,流産が合併されやすい
反 復 し て い る 患 者 の 尿 中 の 細 菌 は Streptomycin,
と指摘している。この時期の女性には尿培養の必要度が
Chloramphenicol,Tetracyclineに耐性のことが多い。
0才をすぎると男女とも細菌尿を有する率
たかまろう。 6
勢千葉大学医学部附属病院中央検査部兼務第一内科
3
5
2
小 林 章 男
尿培養陽性基準: 閉じ菌種が尿 1m
l当たり 1
05個以上,
てはならない。起因菌が不明のまま慢然と治療を開始す
2回以上繰返し分離されれば,
その菌は尿路感染の起因
ると以後に分離された菌が汚染菌か起炎菌かで悩むこと
菌であるとされている。細菌は尿中でブイヨンにおける
になる。適合化学療法開始後 2日目投薬のまま尿培養を
と同じ程度よく発育することができる,従って細菌が尿
行なう必要がある。この時期でまだ菌発育があれば,
路系に存在すれば
3
r
cの体温で増殖をつづけ,常に
i
n
v
i
t
r
oと i
nv
i
v
oの成績が違っているゆえ薬剤を変更す
1
05jml 以上多数発育しているはずである。一方尿道下
る。治療終了後は月 2回位尿培養を行ない,再燃,再感
部および外陰部に細菌は常在するが,この部の汚染を可
染に注意する(特に慢性腎孟腎炎で)。
及的にさけ採尿すれば,この常在菌が混入しでも 1
03コ
成績のよみ方: 家庭で曜患した初めての単純な尿路感
代 jml以下であることが知られている。これらの事実は
染症の起因菌は 90%以上大腸菌である。このような場
剖検との対比,多くの臨床経験から確かめられ,動かぬ
合例えば緑膿菌などが分離されたら採尿,検査技術など
ものとなった。
に疑問がある。反復性尿路感染,尿流過障害のあると
採尿法 z 外陰部の常在菌をさけて採尿するには中間尿
き,カテーテ Jレ挿入後,手術後ではクレブシエラ,変形
法,カテーテ Jレ法,勝脱穿刺法がある。前述のようにカ
菌,緑膿菌の分離頻度がます。抗生剤を使っていると腸
テーテ Jレ挿入により感染が惹起されやすいので,男女と
球菌の分離もみられる。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌は
も中間原法でスクリーニングが行なわれるべきである。
尿道常在菌であるが,菌数が 1
0
引nl以上存在し症状の
その培養結果が臨床症状と一致しないようなら,注意し
明らかな場合があり,尿路感染の起因菌たりうることも
てカテーテ lレ,さらには勝脱穿刺法へと進むべきであ
最近認められている。従ってこの菌が分離されたときは
る。外陰部の消毒には普通石けんと滅菌水による洗糠が
その病原性について十分な注意が必要である。これに反
すすめられている。しかしわが国ではなかなかその実行
しグラム陽性粁菌 (
D
ipht
h
e
r
o
i
d
)は同様尿道常在菌で
はむずかしく,千倍逆性石けん液含有綿で拭うに止まろ
あるがこれによる尿路感染例の報告はない。これ以外の
う。しかし採尿瓶口を皮膚にふれぬこと,前半尿はすで
菌も時に分離されるが十分その病原性をおのおのの場合
ることは患者によく教えねばならない。このような採尿
で検討すべきである。
でも成績はかなり信頼できることを筆者は経験してい
引nl なら尿路感染が非常に疑わ
菌数からみると >10
る。またこの成績に少しでも疑問があれば完全な外陰消
0
引nl代は疑いで再検を要し,
れ
, 1
毒後の中間尿による培養,さらにはカテーテル,穿刺
染菌とする人が多い。感受性の低い抗生剤が使われて
などにより採尿して検査に供すべきである。乳幼児,包
いるような場合尿中菌が 104jml代 に 止 ま る こ と が 多
皮のある者では中間尿の成績は注意すべきで,尿道口辺
い。また明らかに尿路感染があっても 104jml代の人も
の汚染菌の検査も参考となろう。乳幼児では勝脱穿刺が
筆者は数例経験している。慢性腎孟腎炎で菌数が 103jml
1
0
引n
l以下なら汚
時聞をとらず安全であるとすすめられている。尿路感染
の場合がかなりあったと報告している人もおり,この疾
が反復してみられるときは尿道炎,腫炎がその源になっ
患では間歌的に >105jml になるという報告もある。さ
ていることもあり,尿道,腫内を綿棒でこすりこれの培
らに最近は全く細菌によらぬ腎孟腎炎の存在も示唆され
、
る
。
養の必要性を強調する人も v
ている。尿道炎では症状があっても尿菌数が少ない。こ
尿培養は菌数を測定するため,採尿後直ちに検査ので
の場合同じ菌が繰返し分離され,尿道培養でも菌が陽性
きぬときは氷室に保存し室温における尿中での菌増殖を
なら診断しうるといわれている。鏡検で菌がみられ好気
おさえねばならぬ。氷室に保存しておれば 2日後でも菌
培養で菌陰性の場合は嫌気性菌によることも考えるべき
量測定に支障はないといわれている。
である。
原採取の時期= 化学療法開始前に行なうのはもちろん
尿路感染で細菌尿のみで尿沈査に白血球がみられない
である。適切な化学療法で起因菌は尿中よりは直ちに消
ことは必らずしもまれでなく,病期,化学療法により白
失するので特に注意が必要である。採尿は起床 l回また
血球動員がずれるためである。
は 2回目尿がのぞましい。
治療開始前急性症なら l田の尿培養でもやむをえな
(尿培養にかんしさらにくわしくは,小林:尿培
い。慢性または無自覚性のときは,必ず 1日間踊で 2回
養とその臨床的意義,日本医事新報
以上採尿し培養すべきで, 同じ菌種が繰返し 1
0
市n
l以
1
9
7
1を 参 照 さ れ た い )
上分離され,起因菌が確立された上で治療を開始しなく
2
4
5
1号 4
7,
(
1
9
71
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