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再燃するBPRの虚実

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再燃するBPRの虚実
コストでみる
電子自治体
片田 保 =文
富士総合研究所 情報通信グループ 公共経営研究室長
再燃するBPRの虚実
電子自治体は第二段階に入り、
ITの利活用による具体的な効果が求められる時代を迎えた。
業務プロセス改革(BPR:Business Process Re-engineering)
に、再び注目が集まっている。
業務プロセス改革の略であるBPRとは、それまでの業務
なぜ今、BPRなのか?
活動を抜本的に見直し、仕事のやり方を刷新すること。現
在の事務・事業で行われている業務プロセスにとらわれず
電子自治体の実現が新たな段階に入った今、BPRが注目
を集めるのは次のような理由がある。
に、成果を得るためには、どのような仕事のやり方がふさわ
しいか、ゼロベースで再構築するのがBPRである。
だからこそ、一般的に
「BPRはたいへんだ」
と思われている。
①ITが事務・事業の全般に導入されるようになってきた
②インフラ整備に大規模な予算を注ぎ込むものの思ったよ
うに効果が見えない
BPRしなくてもIT導入効果はある?
③電子自治体を構成する業務プロセス、各種システムの最
適化を進めるEA(Enterprise Architecture)でも、政
そこでよく言われるのが、ITを導入しさえすれば、BPR
策・業務体系(BA:Business Architecture)において
を行わなくてもそれなりに効果があるのではないかという
BPRが重視されている
こと。確かに一理ある。手で計算したり目視でチェックし
たり、人間の手で処理していた業務の幾つかはITが得意と
特に、膨れ上がるIT投資に対してコストなどの具体的な
するものだ。データを入力して違っていればエラーメッセ
「効果」が問われ始めたことによる影響が大きいだろう。こ
ージが出る。必要な計算もミスなく自動的にやってくれる。
の「IT導入と一体的にBPRを実践すること」は、新しくも
いわゆる「機械化」であり、省力化や自動化による効果は得
古くからのテーマである。
られる。
しかし、冒頭で指摘したように、今や多様な業務でITが
活用されている。専用のパッケージソフトもそろいはじめ、
今さら聞けない「BPRって何?」
以前よりも安いコストでシステム化できる。こうした汎用
的なパッケージソフトを導入するにはBPRを試みるべきで
最初に確認しておくことがある。電子自治体の推進に取
ある。あえてパッケージソフトに合わせて業務を見直すの
り組む職員と話をしていると、
「BPRとは何か」という原点
もBPRのきっかけとなる。汎用パッケージソフトは、その
に帰ることが多い。民間企業では1980年代半ばにキーワ
名のとおり汎用的な業務プロセスを想定しており、それだ
ードとなったBPR。
「今さら人に聞けないので・・・」とこっ
けでもBPRのヒントを与えてくれるからだ。
そり尋ねられる。
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BPRをせずにパッケージをそのまま入れると、現状の業
務プロセスとのギャップが大きい場合、ユーザーからは受
BPRの「実」とは?
け入れられにくい。結果的にストレスが増えて使われなく
なる。また、現状業務に合わせてパッケージソフトの多く
をカスタマイズしてしまうと、維持・管理に専門性の高い
下左図は、地方自治体Aの庶務事務を対象に、活動原価計
特別の技術フォローが必要となり、運用コスト増の一因と
算(ABC)手法を用いてBPRのシミュレーション分析を行っ
なってしまう。コストに見合った効果を得るためにも、IT
たケースである。ITを活用して得られる効果は、
「出退勤管
導入時にあわせてBPRを実施すべきだろう。
理」
「文書等関係」
「経理関係」の庶務事務で高くなっている。
これらは現在、約6割が手作業で行われ、確認、記入・転記、
文書作成・保管といった処理がされているが、それぞれ集中
BPRをしても期待ほど効果がない?
処理化、省略・廃止、ペーパーレス化というBPRによって、
仕事のやり方を抜本的に変革するために効果が導出される。
もう一つ耳にするのが、業務を見直して仕事のやり方も
そして、下右図は、地方自治体Bの決裁事務を対象に、バ
変えたのに、苦労した割には大して効果がないということ。
ランスト・スコアカード(BSC)手法によって、IT導入の有
実際に現場レベルでは、いろいろなくふうをして業務プ
無、BPR実施後の効果の評価を析出したケースである。総
ロセスを見直している。
「裏紙を使うことで資源を無駄にし
合得点をみると一目瞭然だが、ITを導入しただけで60ポイ
ない」
「事務内容の問い合わせ時間を短くする」
「起案文書は
ント弱のスコアになるものの、あわせてBPRを実践すれば
迅速に回す」
「窓口での説明は簡潔に短時間で行う」など。こ
約90ポイントにまで効果が上がる。ここで実施するBPRと
うした職員の身近な努力は不可欠だ。しかし、それらは改善
しては、業務そのものの統合・廃止、簡素化・削減、集約・集
であり改革ではないことが多い。つまり、現状の事務・事業
中化などがあげられる。
での仕事のやり方を前提に、コストや効率性などに留意して
最後に、BPR実践に向けたポイントをまとめておこう。
改善をしている。そもそも、その仕事が必要なのか、別のや
・スクラップ&ビルド:今の仕事のやり方に制約されない
り方があるのではないかという改革まで踏み込むことは少
・効果評価:BPR実施内容と効果の因果関係を可視化する
ない。改善運動として全庁あげて取り組むケースもあるが、
・シナリオ化:段階に分けて実施主体・内容を明確にする
個々の職員の意識啓発にはよくても、全庁で最適な業務プ
ロセスになっているかどうかは怪しい。同じ事務でも改善
BPRというと荷が重く、つい二の足を踏んでしまいがち
に取り組んだ部署とそうではない部署とで、異なる仕事の
だ。とはいえ、電子自治体の効果を最大限に引き出すため
やり方になってしまうことがあるからだ。これではITを導
に、EA推進の観点からもBPRは不可避であるといえよう。
入しようにも十分な効果は引き出せない。
BPRによるコスト削減効果(ABC手法)
IT導入のみ、BPR実施後での効果の差(BSC手法)
総合得点
(億円)
100
BPR前
80
60
BPR後
学習と革新
1
40
業績
20
0
BPR後
システム化後
0
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