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(社)水沢青年会議所版 「奥州市建設計画∼副県都をめざして」

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(社)水沢青年会議所版 「奥州市建設計画∼副県都をめざして」
(社)水沢青年会議所版
「奥州市建設計画∼副県都をめざして」
平成17年11月
(社)水沢青年会議所
目
次
序 章
(社)水沢青年会議所版『奥州市建設計画∼副県都をめざして』策定に寄せて 1
第1章
基本理念
2
第2章
分野別計画
3
第3章
(社)水沢青年会議所版奥州市都市計画構想図
14
終 章
終わりに ∼副県都をめざして∼
15
序 章 (社)水沢青年会議所版『奥州市建設計画∼副県都をめざして』策定に寄せて
社団法人 水沢青年会議所
第43代理事長 阿部 靖彦
私たち社団法人水沢青年会議所は20年来『胆江はひとつ』をメインテーマに活動を続けてまいりま
した。これまでの様々な活動を通して、近隣市町村との連携と協力による広域合併の重要性とその効果
について、主張してまいりました。
規模の拡大は当然のことながらスケールメリットを生み出し、
硬直的な行政組織に競争原理を働かせ、
効率的な行政運営をめざす素地が出来上がります。
また、地勢的にもこの胆江地域は周辺部にこそ山間地域が取り巻いているものの、各市町村役場所在
地はほぼ平坦部に位置し、距離的にも半径わずか10キロメートルの円の中に収まるほど、比較的至近
距離にあります。
この地域では早くから教育・消防・ゴミ処理・し尿処理等の一部行政サービスについて各市町村によ
る共同運営がなされてきました。
民間においても各種業界団体や大手企業なども多くがこの胆江地域を所轄エリアとして、営業活動を
行っておりました。
今般、国の三位一体改革の推進による地方交付税の削減と合併特例法による財政支援の期限切れに伴
う平成の市町村合併が全国各地で行われておりますが、もともとこの胆江地域は歴史・文化・風俗・風
習・教育・経済において共通の土壌を持つ、理想的な共栄圏を形成する可能性が極めて高く、他の地域
に比べても合併による抵抗感や違和感が少なく、円滑なる合併協議が期待される地域でありました。
そして、いよいよ平成18年2月20日に、2市2町1村による『奥州市』が誕生いたします。人口
13万2000人を有する副県都の誕生です。既存の市町村名を排して、新しい名称を選択したのは構
成される5市町村が常に対等で向き合い、それぞれが均等に副県都の創造に関わっていく決意の現れで
あったのだと思います。
私たちは、ここに「(社)水沢青年会議所版『奥州市建設計画』
」を策定するにあたり、先人たちの『胆
江はひとつ』に傾けた情熱とエネルギーを感じながら、会員一人一人の夢と希望を結集させ、自信を持
って皆様にご提案申し上げます。
第1章 基本理念
①
②
③
④
⑤
合併効果日本一の都市
副県都に相応しい新しい産業が生まれる都市
定住人口と交流人口の拡大する都市
新たな歴史物語の確立による観光振興都市
高度教育都市
国の政策による今般の平成の大合併により、全国で何百という市町が新たに誕生する。どの新都市も
一様に合併による新都市計画がいわば金科玉条のごとく、夢のまちづくりを想定している。しかしなが
ら、実態はその多くが地方交付税の削減により自治体運営が立ち行かなくなったことと、合併支援策で
ある合併特例債交付期限が定められたことによる「生き残り合併」であることを看過できない。またそ
の新市計画はその基本理念において、いわゆる「金太郎飴」的な同質のものであり、抽象的である。
岩手県内においても一関市、花巻市、二戸市、八幡平市などが新たに合併し、それぞれが新市建設計
画を打ち出している。
この奥州市だけが新しい計画を打ち出しているわけではない。
当然のことながら、
県内における都市間競争はますます激化する。かつて岩手県南地域は、一関市・水沢市・江刺市・北上
市・花巻市と仙台と盛岡にはさまれて、まさに「団子の串刺し」状態の小規模都市が連なって分布して
いた。どの都市も決定的な特色がないまま、発展途上にあった。そんな中にあって1991年、北上市
はいちはやく西接していた江釣子村、和賀町との合併を果たし、併せて大規模工業団地における相次ぐ
工場立地も追い風になり、前述5都市に比してある程度抜きんでた発展を遂げた。経済の右肩上がりの
時代もとうに過ぎて、都市部においても人口減少の予測がされるなど、地方都市にとっては非常に厳し
い状況が続いている。遅れて合併を迎える他の4市であるが、既存の概念や特徴のないまちづくりの理
念では、それこそまたしても団子の串刺し状態に変わりはないのである。
私たちの考える「奥州市建設計画」は合併協議会による現実的な「建設計画」を尊重しつつ、さらに
その先の10年20年を見通した将来構想を取りまとめたものである。
まず第一に「合併効果日本一」をめざすこと、を掲げたい。全ての計画の根本になるのは財源の問題
である。どんな素晴らしい計画でも先立つ財源がなければ、まさに机上の空論、絵に描いたモチに終わ
ってしまう。その意味するところは合併によるスケールメリットを生かした徹底的な合理化である。今
まで聖域であった公務員の待遇、給与についても厳しく論じなければならない。従来の予算至上主義か
ら決算重視の行政執行につとめなければならない。それは経費等の間接的な費用のみならず、事業費本
体の執行についても同様にチェック機能を働かせなければならない。公共施設、肥大化した行政サービ
スの見直しも必要である。国の政策の趣旨の根本はこの点にあるといっても過言ではない。合併特例債
を起債して、さらに借金が増大して行政効率が上がらないのでは、破局の道へまっしぐらなのである。
徹底した行政組織の無駄、無理、ムラの排除をめざすべきである。
第二に「副県都に相応しい新しい産業が生まれる都市」をめざすこと。奥州市を構成する5つの市町
村財政決算総額約651億円のうちの自主財源は約200億円(平成16年度岩手県地域統計資料)
。こ
れは関東自動車工業の年間売上げ6400億円の僅か3.1%に過ぎない。元気のある民間企業の力は
凄まじいものがある。もはや行政に頼りきる体質からは脱却しなければならない。力のある企業にはそ
の周辺に新たな産業が生まれる。
「新しい産業」とはいわゆる「ベンチャー企業」を指すのではなく、基
礎的な経済原理に基づいた地域産業構造の全体的成長にあると考える。官民一体となった13万副県都
に相応しい地域経済力の向上を進めていかなければならない。
第三に「定住人口と交流人口の拡大する都市」をめざすことである。奥州市では平成7年をピークに
人口が減少している。そしてその傾向は今後も継続するものと予測される。人口の減少は即、地域活力
の減退に繋がり、経済活動も低迷し税収も減少する。人口の流出を防ぐのはもちろんのこと、むしろ新
たな人口流入策を講じていくことが求められる。さらにあらゆる分野に応じて域内そして域外の交流人
口を拡大させて、ひと、もの、かね、情報が行き交う活力あふれる都市を創造していく。
第四に「新たな歴史物語の確立による観光振興都市」を創造する。この地域は有史以来どの歴史の局
面を見ても常に一体感を持ちうる地域であった。中世、アテルイがこの地域を平安に治め、後に藤原氏
は江刺から平泉・衣川を中心に栄華を極めた。義経の平泉以降の生涯を学問的に研究している学者も多
い。それらの歴史を背景に、近代には高野長英、後藤新平、斎藤實、などの偉人も多く輩出している。
これらを新しい学問である「東北学」という概念を創出し、綿密なる歴史物語を確立し、それをこの地
域のシンボル的な観光資源として、観光立市をめざすべきなのである。
第五に「高度教育都市」をめざすことである。教育は国家百年の体系。長い鎖国の時代を経て、天然
資源の乏しいわが国が、驚異的な速度でいちはやく世界の舞台に駆け上がり欧米諸国と肩を並べるほど
経済発展を成し遂げた主因は、明治の教育制度と優秀な人材の出現、発掘によるものである。奥州市に
おいても独自の教育理念を策定し、中高一貫教育や県立高校の市立高校化などによりそれを実践し、域
外からも多くの優秀な生徒・学生が入学できる教育制度をめざす。また、用地の無償提供などの優遇措
置により宗教系、理工系私立大学等あるいはマイスター学校や超高度専門研究施設を誘致し、一大教育
都市を創出する。
第2章
分野別計画
① 合併効果日本一の都市
そもそも今般の平成の市町村合併は、国・地方を合わせて約700兆円を超える財政赤字と国内経済
の長引く不況を背景に、国策として取り組ませている。国の三位一体の改革(国庫補助金の削減・国か
ら地方への税源移譲・地方交付税の削減)が推進されるとともに、住民の行政サービスに対するニーズ
はますます多様化、高度化して、これまでの規模の小さい自治体では、行政運営が成り立たなくなって
きている実情がある。平成11年に全国3232あった市町村が平成18年4月には1822まで減少
する。地方へ権限や財源を移譲する受け皿として、ある程度以上の自治体の規模が求められている。合
併することによりスケールメリットが生じ、経費を大幅に削減することが可能であり、あわせて質の高
い行政サービスを不偏的に供給することができるという理屈である。
奥州市においても合併新市13万都市にふさわしいまちづくりが当然必要である。それは国からの大
幅な権限委譲に耐えられる行政組織と都市環境整備を中心に推進されなければならない。そして、合併
特例債を活用する以上、その投資した金額をその後の地域経済の発展によって確実に回収する施策を打
たなければならない。
「特例債を使いました、借金は残ったままです」では済まされない。
いま、全国各地で同様の市町村合併が実施されている。我々奥州市では数多ある合併のうちで合併の
効果が日本一であるような合併を進めたい。そのためには長年にわたってどんどん肥大化してきた行政
組織の徹底的な合理化を推進していかなければならない。
行政組織の合理化と職員の新規採用の凍結
現在奥州市には全体で約1600人の職員が在籍している。この数を10年間で30%削減する。幸
い団塊の世代が退職期を迎えるこの10年間の退職者数推計は約400人。職員の年齢構成のバランス
を懸念する指摘もあろうかと思うが、しばらくのあいだ新規採用は控える。かつて造船不況に泣いた国
内大手造船重機各社は、その時期の採用をかなり手控え、業績が好転したバブル期にその穴埋めして人
材確保を図った実績がある。背に腹は変えられないのである。
近年、
「官と民の協働」あるいは「住民と行政のパートナーシップ」を進めるため、従来行政が直接携
わってきた分野を、住民組織やNPO、組合等に移管する動きがある。それは行政組織のスリム化とい
う観点から歓迎すべきことであるが、職員数の減少を伴わないのであれば、住民の理解は得られないの
である。
直接作業業務の民間委託と徹底した配置転換
また、例えば公用車の運転業務や道路維持、除雪、その他直接作業業務を民間委託し、当該職員の配
置換えを行う。民間に委託すれば半額以下の人件費で賄える業務が、いまだ職員により行われている例
はたくさんある。
職員の配置転換について言及すると、そもそも公務員とはある一部の職種を除いては、総合職(ゼネ
ラリスト)としての特性を求められているものである。徹底した配置転換を断行することにより、職場
環境と職員の意識に強い緊張感を与え、馴れ合いやマンネリ体質を打破しなければならない。そうする
ことによって、常に新鮮な感覚と業務内容の改善意識を醸成させ、業務効率が格段に向上するものと予
測される。その目的においての各区の総合支所間、
(後述する)各市立病院間での配置換えを推進する。
職員の人事考課制度の導入
また、職員のやる気の向上、公正な処遇の実現、人材育成のために、職員人事考課制度を導入する。
所属長は配下の職員の勤怠、意欲や態度、能力、業務の成果・実績を公正に評価しなくてはならない。
もちろんその評価基準は公開され、客観的である必要がある。評価とは職員の順位や差を定めることに
他ならない。厳しい話であるが相対的な順位をつけるのである。順位、差をつけられない所属長は、管
理職としての資質を問われるのである。一般的に優秀な管理職員とはそういう能力に長けている人をい
うのであり、その分野の専門家のことをいうのではない。そして当然のことながらその評価の順位によ
って職能給にも差が生じることになる。
三階層ミーティング制度の導入
このような急激な職場環境の変化による弊害を是正する手段として、定期的に「三階層ミーティング」
を実施する。
「三階層ミーティング」とは、課長・係長・担当者の三階層、あるいは部長・課長・係長の
三階層、そして市長・部長・課長の三階層による、三者(三名)が個別に行うミーティングのことであ
る。非公開のこのミーティングを行うことにより、上司からは人事考課の内容を説明し、部下からは日
常の業務に対して思うところを率直に上司にぶつけることができ、コミュニケーションの向上を図るこ
とができ、風通しのよい職場の雰囲気が生まれる。
職員諸手当の見直し・廃止
公務員には民間企業でいうところの賞与は存在しない。利益追求を目的としていないからである。そ
の代わりに支給されているのが諸手当である。諸手当には「勤勉手当」
「職能手当」
「住居手当」
「通勤手
当」
「管理職手当」
「寒冷地手当」
「期末手当」等がある。年度や市町村によって多少のばらつきはあるが、
平均して月額給与の4∼5ヶ月分ほど支給されている。職員給与本体については人事院勧告等をもとに
規則等で定められており、職員の生活水準の維持という観点からも急激な削減は困難だが、民間企業で
いう賞与=手当については、市財政の現状から鑑みて大幅に削減する必要がある。特にも「寒冷地手当」
(廃止した自治体もあり)などについては、制度として即刻廃止すべきである。理由については言及す
るに及ばない。あわせて、退職直前の駆け込み昇格などは現行の退職金支給基準からして論外である。
職員の民間企業研修制度の導入
全職員を対象にして、民間企業への就業研修を実施する。特にサービス業を中心とした接客業務が望
ましい。その目的は市民向け接遇の向上と民間の競争原理の実態学習、官民交流などである。
助役制度の廃止と副市長制度の導入
助役制度を廃止して副市長制度を導入する。副市長は2名を定員とし、そのうち1名を民間から(民
間企業退職者など)公募により登用する。副市長の権限は条例・規則等によって定めるものとするが、
市長は専ら将来市勢の展望に専念できるように事務的な権限を付与するものとなろう。副市長制を導入
することにより、
役所特有のセクショナリズムの徹底的排除と市長の政策的ブレーン機能の充実を図る。
本庁方式への移行
この10年間のうちに現行の「本庁・総合支所方式」から「本庁方式」に移行し、更なる行政運営の
効率化をめざす。この方式を取らずして実質的な職員削減には繋がらないものと予想される。激変緩和
措置として最初の5年のうちに、本庁は現在の水沢市役所あるいは江刺市役所に置き、各支所は例えば
建設関係支所を現衣川村役場に、
教育関係支所を現前沢町役場に、
商工関係支所を現胆沢町役場に置く、
等というように、第一段階としてまず各部門の業務の効率化・集約化を図り、次の5年間のうちに、各
支所は一般市民向け窓口のみに限定し、その他全ては本庁に集約するように移行していく。この「本庁
方式」を採用すれば、市民にとって非常にわかりやすく目に見える形で、職員定数が余剰していること
があからさまになる。職員の削減はもとより、組織がスリム化され重要な政策実現のスピードアップを
も図れる。
公立病院の単科院制度導入
奥州市内には公立病院が、県立胆沢病院、県立江刺病院、国保水沢病院、国保まごころ病院、国保衣
川診療所、国保前沢診療所の6院存在している。県立2院を有している上に、他の4院がそれぞれ診療
科を重複して持つことは非常に非効率的と言わざるを得ない。
もちろん広大な奥州市に分散して配置し、
患者・利用者の利便性を図る目的も一概には否定できない。しかし、優秀な医師確保と医療水準の更な
る向上を目的とするのであれば、4院にそれぞれ機能的専門的特長を持たせ、例えば水沢病院には外科・
整形外科・リハビリ科、精神科を、まごころ病院には内科、消化器科、循環器科を、前沢診療所には耳
鼻咽喉科、眼科、歯科を、衣川診療所には産婦人科、小児科を配置するなどの抜本的改革を推進し、そ
の分野においての権威的医療施設をめざす。場合によっては研究施設の併用も考えられる。既存4院全
体をもって奥州市立病院と組織再編し、地域医療の質的充実と域外からの利用者拡大、経営体質の改善
を一気に図る。
また、病院職員(看護士を含む)も定期的に4院間を異動することができ、環境変化による組織的な
体質改善を促し、市民に対して充実した医療サービスを提供することを可能にする。
税金・使用料の確実な徴収
現在、奥州市構成市町村の地方税・使用料等の徴収率は平均で98.0%。最高の胆沢町が99.6%
で、最低の衣川村が96.0%と、地域による差が大きい。平成15年度に未収納だった市町村税額の
合計は、実に2億5630万円にも及ぶ。累積では7億5087万円(合併協議会資料より)
。景気低迷
による税収の落ち込みに輪をかけてその徴収率が低下し続けている。健全な納税者の立場からすれば決
して看過することのできない危機的状況である。
しかし、そのようななかにあっても胆沢町が高い徴収率を維持しているのは、町民の納税意識の水準
の高さ、集落共同体意識、相互扶助の精神に基づく。奥州市においても、専門の徴収官を配置し納税指
導を徹底するとともに、悪質な滞納者に対しては、行政サービスの制限等の罰則規定を定める。
予算至上主義から決算重視へ
この項の最後になるが、従来の予算至上主義からの脱却である。特に経費面においてであるが、情勢
の変化などにより当初予算が充分に余りそうな状況にあっても、次年度予算が削減されるという恐れか
ら、予算を年度内に消化しきらなければならない、というような体質は改善すべきである。経費予算を
どれだけ残せたか、ということこそが所属長のプラス評価になってしかるべきである。民間では当たり
前の決算重視の原則である。もちろん当該年度に予算が余ったからといって、短絡的に次年度予算を削
減する動きがあってはならない。そしてそれは事業経費等の間接的な費用のみならず、事業費本体の執
行についても同様にチェック機能を働かせて、決算重視の体質に改めていかなければならない。複数年
に及ぶ事業についても、状況によっては事業途中であっても、計画それ自体の停止、中止もやむを得な
いという立場である。常に費用対効果を検証しつつ事業を執行していくことが求められる。
② 副県都に相応しい新しい産業が生まれる都市
(1) 工業部門
自動車関連産業の発展をめざす
この地域(奥州市と金ヶ崎町)には伝統的な工芸品や工業用部品(鋳物・木工品・繊維・魚網)など
を製造する諸工業が古くから発達していたが、産業構造の変化により、既存の諸工業は隆盛期を過ぎ、
変わって政策的工場誘致による「電子部品組立工場」が立地。近年になり「自動車組立工場」とその「関
連工場」が隆盛を極めている。それらの工業は流通・建設需要を喚起させ、景気低迷のなかにあってこ
の地域の経済の下支えに寄与している。新たな産業は、また周辺分野の新しい産業を創生し、雇用と税
収の確保を約束する。奥州市においては徹底した優遇措置をもって、新産業を支援するとともに、優良
な労働力と高度な人材の提供に努めていく。
【裾野の広い自動車産業】
金ヶ崎町の関東自動車工業岩手工場は、平成17年度、工場拡張と生産設備の拡充を図り、年間
30万台の生産体制を整え、新たに約1000人の雇用を創出する見込みである。関連企業を含めた従
業員とその家族をあわせれば、さらにその何倍といった住民がその傘下におかれている。しかし工場進
出から12年を経ても地元での部品調達率はまだ低い。本来、車両組立工業は非常に裾野の広い産業構
造を有しているものであり、その周辺にはまだまだ機械加工、金属加工、板金・塗装工業、油脂・ケミ
カル関連工場、梱包・運輸・倉庫業等の産業の立地が期待される。この関東自動車工業岩手工場は奥州
市に北接する金ヶ崎町にあるが、胆沢川ひとつ挟めば水沢区佐倉河地域や胆沢区南都田地域とは目と鼻
の先である。民間の一企業一工場ではあるが、金ヶ崎町を含めたこの地域にとっては大きな財産でもあ
る。この財産をただ黙って指をくわえて眺めているか、積極的に活用するか。大きな岐路になる。
【自動車産業特区の申請】
まず、奥州市の一部地域を「自動車関連産業特区」に申請をする。土地利用の法律や規制の特別緩和
措置を受けて、水沢区佐倉河地域北西部から胆沢区南都田地域北東部にかけて自動車関連工業団地を配
置し、関東自動車工業関連協力工場群・倉庫群を誘致する。そしてさらに奥州市内に点在する既存の諸
工業系事業所を対象に、特別な設備投資向け補助金を用意し、高スペックの自動車関連部品などへの製
品転換を支援して、関東自動車工業の協力工場協定契約を締結しうる環境整備を進める。
一般には「新しい産業」というと、とかく「ベンチャー企業」を想定する向きもあるが、私たちの考
える「新しい産業」とは、基礎的な経済原理(産業立地論)に基づいて発展していく地域産業構造の全
体的成長のなかにあるという、現実的なものを指す。
大阪府東大阪市や東京都大田区には従業員僅か5∼6名で世界シェアを寡占させるだけの技術力を有
する町工場が複数存在している例もある。そういう小さくても力の強い企業がたくさん集積している新
しい工業団地が求められる。
【新規の工場誘致の推進】
その一方で新規の工場誘致を積極的に推進する。旧江刺市で工場立地が好調な理由は、北上・金ヶ崎
地域に隣接しているという地の利と、基盤整備の進んだ広大な工場用地を有していることがあげられる
が、そのようなハード面の充実だけでなく、専属の工場誘致担当職員を3名配置し、積極的に候補企業
への働きかけを行ってきたからに他ならない。奥州市においても当然専属の担当官(大手製造業退職者
から非常勤職員として採用するなど)を3名以上確保し、場合によっては関東圏、名古屋圏、大阪圏に
常駐させるなどの徹底した策を講じなければならない。
【水沢工業高校自動車科新設・関東自動車株式会社立自動車専門学校の誘致】
金ヶ崎町と奥州市を一大自動車産業地域として発展させるため、水沢工業高校に自動車整備科(車両
工学科)を新設し専門的な人材育成を図る。また、ひとつの提案として「関東自動車株式会社立(トヨ
タ自動車株式会社立)自動車専門学校」創設の可能性を企業側に打診していく。健全な産業の発展には
企業と地域との持ちつ持たれつの良好な関係が前提にある。地域丸抱えで企業を支援していく風土が不
可欠であり、そういう官民一体となった姿勢を示すことにより、新たな企業誘致が実現するのだ。
【奥州市ナンバーの導入】
さらに、胆沢区南都田地域内に陸運支局または自動車検査登録事務所を誘致し、
「奥州(奥州市)ナン
バー」の実現をめざす。
(2) 農業部門
企業農家の育成
近郊ある都市の発展は、農業・工業・商業のバランスの取れた産業構造に裏付けさせている。ここで
は農業部門の計画について論じる。
奥州市の年間農業産出額(268億円:平成15年)は一関市と並び県内のトップ水準である。特に
も水稲と肉用牛においては2位を大きく引き離しての1位である。その他に江刺区のリンゴ、胆沢区の
ピーマン、衣川区のハトムギ等、特色ある特産品が多い。また全世帯に占める農家の割合も32%(兼
業も含む・平成12年国勢調査)であり、さらに構成5市町村議会議員の職業の農業比率も6割と比較
的高く、この地域における農業の位置付けは大変高いものがある。
全国的にみても非常に優れた農畜産品が多いにも拘わらず、その経営形態は家族を中心とした小規模
経営がほとんどで農業従事者の高齢化も進んでおり、耕作規模も比較的狭く、労働生産性や土地生産性
はまだまだ低いと言わざるを得ない。
近年、農業従事者や農業用地の集約化や大規模化を図るため、営農組合を組織し将来の法人化をめざ
す取り組みも始まってきてはいるが、
ごく限られた地域や作物に限定されており発展途上の段階にある。
農地を持つ人、資材や種苗を調達する人、作業をする人、運搬・出荷をする人、販売をする人、市場
の動向を調査する人、商品開発をする人、これらを経営規模の小さい農家一世帯で行うには当然限界が
あるのだ。農地や農業機械を共有化し、上記の役割を徹底的に分業化、専門化し、場合によっては他の
地域からの従事者を受け入れたり、農業企業経営者を雇うことも必要かもしれない。
奥州市では労働生産性や土地生産性の飛躍的向上を図るために、企業農家育成事業を実施する。特に
も代表的作物である水稲において強力に推進していく。既存の補助金を企業農家の経営基盤の確立に一
点集中させる。
具体的な支援策として、①農地取得目的の借入資金の利子を全額補助。②奥州市主催の農業従事者就
職説明会を各地の農業高校や農業大学で実施。③既存の補助金を農業法人の株式取得に充当。等があげ
られる。
奥州ブランドの確立
奥州市が生産する全ての農畜産物のうち、10品目だけ「奥州ブランド」の称号を与える。その10
品目は内外の各界より選任された「奥州ブランド選考委員会(委員長は食通で知られるタレントなど)
」
により毎年更新される。そこで選ばれた、例えば「奥州江刺リンゴ」や「奥州江刺金札米」
、
「奥州胆沢
ピーマン」
、
「奥州前沢牛」
、
「奥州衣川ハトムギ」等の指定10品目以外には「奥州○○」とういう商標
は使用できない(紳士協定)ものとして、品格性を高め差別化を図る。可能であれば皇室に献上する。
また東京市況等で他産地産同品目の2倍の値段をつけたものについては「特定商業農産品」として認
定し、大都市圏の物産展に出展する機会を優先的に与える。
「奥州なべ」PRキャンペーンの実施
全ての食材を奥州市特産農畜産物でまかない、六角形(構成5市町村と食する人の意)の奥州鉄器な
べ(南部鉄器から改称する)で炊く、
「奥州なべコンクール」を実施し、全国にPRする。
地産地消の推進
消費者の食に対する安全・安心志向の高まりを背景に消費者と生産者との相互理解を深める取り組み
として全国各地に広がりを見せている「地産地消」を積極的に推進する。
毎月10日を「奥州市地産地消の日」に定め、学校や福祉施設の給食を中心に、販売店や流通業者の
協力を得ながら、地元産の食材の使用を推奨する。
地元産の農畜産物の市況価格や販売価格、流通量、さらには販売店の店頭価格、品揃え等をインター
ネット上で閲覧可能にし、携帯端末からの購入予約も可能になるようなシステム開発を支援し、あわせ
て農畜産品の市場性の向上を図る。
(3) 副県都に相応しい商業集積と都市機能の充実
用途地域指定・農業振興地域指定の見直し
規制と誘導による秩序ある都市発達を目的として、用途地域指定がされている。しかしその実態はあ
まりに硬直的で、本来的な都市発達をも阻害している実情がある。そもそも首都圏から遠く離れた地方
都市では、大手ディベロッパー企業によるいわゆる乱開発等はありえないし、経済の低成長時代を迎え
た現在にあっては、域外からの民間資本の投入はむしろ歓迎すべきことである。
どんなに人が多く住んでいても他地域からの流入や他地域との交流がないものは「むら」という。中
世の「まち」の形成はまさに自然発生的であった。寺社仏閣があれば「門前町」が形成され、街道筋の
峠の前には「宿場町」ができ、城主の築城とともに家臣や商人が集って「城下町」ができる。
奥州市では基本的には用途地域指定は緩和する方向で進めていく。国道4号道下(ジャンボマツヤ)
交差点から桜木橋までの水沢岩谷堂線は片側2車線の高規格幹線道路である。対岸の江刺市愛宕地区に
は多くの路面店が出店しているにも拘らず、手前の水沢工業団地(工業専用地域等)付近には、商業施
設(コンビニエンスストア含む)の立地はあり得ないという不条理が生じている。
規制の厳しい地域には外部の資本は進出を手控える。せっかく魅力があり価値ある地域であっても、
規制の緩やかな他の地域への立地に計画変更する。立地された地域は資本の集積を生み、土地の価値が
飛躍的に向上し、多くのひと・もの・かね・情報が行き交う活力ある地域を創出する。
あわせて農業振興地域の見直し(緩和)を推進する。市街地の後背地にあるにもかかわらず、農業振
興地域指定されているために、良質な住宅地の機能をそがれている例が多い。核家族化が進んでいると
いうことは新規住宅取得者が増加しているということである。住宅建設需要を喚起させるためにも、農
地の宅地化を推進していく。
常設住宅展示場の設置と高規格住宅団地の形成
県都盛岡市はもちろんのこと、
一関市や北上市にはマスコミ企業系の常設住宅展示場が存在している。
ともに大型ショッピングセンターに隣接して立地している。奥州市においても可及的速やかに国道4号
線ジャスコ前沢店東側に、常設住宅展示場を設置する。大手ハウスメーカーや地元工務店、ビルダーに
用地を無償貸与し、20社30棟を目標に比較的大規模な展示場を建設する。さらに同地域の国道4号
線から北上川右岸までを宅地分譲し、電柱地中化、共同溝配置、地域冷暖房システム・コージェネレー
ションシステム対応の高規格住宅街を形成する。
飲食店・深夜営業規制条件の緩和
まちの賑わいのうちでも、極めて重要な意味を持つのが、夜のまちの顔である。夜のまちのみにスポ
ットを当てた観光ツアーが人気を集めるというほどである。しかし、飲食店や深夜営業を取り巻く規制
や条件はなかなか厳しいものがあり、土地や建物の帰属関係にも複雑な問題があり、繁華街の近代化・
活性化は進んでいない。本来業種的に言えば非常に弾力性や柔軟性が求められているにも拘わらず、実
態は保守的であり硬直的であると言わざるを得ない。
奥州市では新しいタイプの飲食店、風俗店(性風俗店のことではない)の新規参入を促すため規制の
緩和を進める。
水沢地方振興局の副県庁(第二県庁)化への働きかけ
岩手県の地方振興局の再編に伴い、平成18年4月より現在の水沢地方振興局は、3総合支局(花巻・
北上・一関)と2行政センター(遠野・千厩)を統括する県南広域振興局として、人口50万人以上を
有する岩手県南部における県行政の中心的な役割を担うことになる。
県の財政も非常に厳しく、これらの総合支所や行政センターも次第に県南広域振興局に集約化される
と予想される。水沢区に置かれる県南広域振興局が「副県庁」
「第二県庁」としての機能が充実されるよ
うな働きかけを進めていく。
カジノ特区の申請
奥州市水沢区水沢競馬場周辺地域を対象エリアとして、仮称「北上川観光レジャー経済特区」
(カジノ
特区)の申請を内閣府に行う。
そのためにはまず、特別立法によりわが国においてカジノを合法化する手続きが必要である。具体的
には行政サイドは必要な法整備と建設地域の基盤整備を行う。カジノホテルの建設や併設するショッピ
ングモールや総合娯楽施設の建設は民間資本が行う。経営主体は行政から委託された公益法人が望まし
い。第3者機関によってカジノの公正性や透明性の確保と遵守を実現し、さらに非合法組織の介入を徹
底的に排除する。カジノの収益金の一部は地域の福祉や文化・芸術・スポーツ振興等に充てられる。
世界遺産である「奥州平泉」と「水沢国際競馬場」
、
「奥州カジノ」により奥州市は一気に国際観光都
市に変容する。
水沢競馬場の多機能化
水沢競馬場付近に馬事公苑(公園)を建設し、岩手県競馬組合運営による「奥州乗馬倶楽部」を創設
する。競馬のみならず「総合馬事文化振興施設」として位置付ける。水沢競馬場の問題は商工会議所を
始め、各種の団体が改革案を提言していて、一部はさっそく取り上げられている施策もある。それらの
提言の実現に向けて一つ一つ丁寧に検討し続けることが重要である。
早急に取り組まなければならないのは競馬人口の底辺の拡大である。それには競馬場に足を向けたく
なるような各種イベント開催や施設改修等も必要ではあるが、一番重要なことはレースそのものの魅力
作りである。小リスクで高配当を得られるような新しい「番組」の企画や「長距離(短距離)日本一レ
ース」の開催、共同馬主制度(一口馬主制度)の許可をはじめとして、地元の小中学校・高校の児童・
生徒を招待したり、競馬の認められていない諸外国のファン向けに勝馬投票券をインターネット販売し
たり、全国的な話題を常に発信できるような競馬場に変身しなければならない。
各区総合支所間を結ぶ高規格の奥州環状道路の建設
広大な奥州市を機能的かつ効率的に発展させる手立てとして、各区の中心部(各区総合支所所在地)
間を環状に結ぶ高規格道路「奥州環状道路」を建設する。
ルートは水沢総合支所∼釜石陸橋(改修)∼水沢工業団地(用途地域指定の見直し)∼江刺中央体育
館∼産直江刺(商業集積)∼水沢江刺駅∼新小谷木橋(架け替え)∼北上川観光レジャー経済特区(水
沢国際競馬場・馬事公苑・奥州カジノ)∼マイアネタウン∼国道4号水沢東バイパス合流∼(水沢東バ
イパスルート変更)∼前沢区旧前沢中学校付近∼前沢高規格住宅団地∼常設住宅展示場∼平泉前沢IC
∼東北ニュージーランド村∼衣川総合支所∼胆沢総合支所∼国道397号(拡幅、一部片側2車線)∼
水沢総合支所。周回所要時間は約1持間の高規格道路である。
もちろん大部分は既存の道路(国道・県道を含む)の大規模改修工事になるが、他の都市計画との兼
ね合いもあり、一部新規道路も建設する。
水沢東バイパスから前沢バイパス(旧前沢中学校付近)への直通道路(ルート変更)
前項にて記述
水沢江刺駅から産直江刺交差点までの商業集積∼「物産プロムナード」
やはり用途地域指定の見直しにより、大型バス駐車対応のロードサイド型「奥州市物産プロムナード」
を形成する。平泉からえさし藤原の郷までの観光ルートを確立させる。
③ 定住人口と交流人口の拡大する都市
これだけ少子化が進み、人口の自然増が見込めない現在、他地域への人口流出を防ぎ、他地域との交
流人口を拡大させる施策こそが重要である。つまり、戸籍上の人口は13万人であるが昼間人口は20
万人存在し、年間観光客入込数は400万人である、といった施策作りである。そのためにはまず、各
種全国大会やコンベンションの招致等による中長期滞在型の施設運営、イベントの創出に努める。
また、一時的に他地域に流出した人たちに対して、恒常的に奥州市の情報を発信し続け、学卒者のU
ターン就職の斡旋、定年退職者の再就職市場の確立、Uターン定住の推奨策を講じていく。さらに単身
高齢者が他地域の子供世帯に呼び寄せられることのないよう、安心して楽しく生活できる新しいタイプ
の施設建設を促進する。元気な高齢者が広域から集う「県立高齢者大学」の誘致も計画に織り込む。
高齢者商店街の形成と市営高齢者集合住宅の建設
「少子高齢化」と普段から何気なく使っている言葉であるが、厳密に言えば「少子化」と「高齢化」
はそれぞれ別々の概念である。
「少子化」
は国力や地域力低下に直結するゆゆしき事態であるのに対して、
「高齢化」は決して将来不安を表す事象ではない。問題はどういう「高齢化社会」を作るか、どういう
「高齢化社会」をめざすのかにある。平均寿命が世界一の水準にまで伸び、定年後の人生が何十年とい
う単位で私たちにセカンドチャンスを与えてくれているのである。これからの高齢者は労働力も提供可
能であるし、新たな需要やブームや流行を創り得る、消費市場の重要なターゲット世代なのである。ト
レンドとは若者だけの専売特許ではない。
中心商店街の低迷と言われて久しい。商店主も高齢化し歩いているのも高齢者ばかり。結構なことで
はないか。徹底した高齢者向け商店街の形成をめざせばいいのである。重要なのは集積すること。他の
いろいろな地域の高齢者をどんどん呼び込むような商業イベントを波状的に企画していく。
中心商店街の低迷はその商店街に居住する住民の減少とコミュニティの崩壊が主因である。政策的に
「住まわせる」ことを怠ってはならない。あわせて、比較的高水準で推移している中心商店街の固定資
産税を思い切って引き下げして、商業者のみならず商売をしていない住民の負担を軽減し、郊外からむ
しろ中心部に移り住む施策を講じる。
この地域に居住する高齢者世帯は比較的多く、年々増加する傾向にある。加齢と孤独による不安感は
想像以上に辛いものがあるだろう。福祉的な見地からも、奥州市では各区の支所または中心部にそれぞ
れ高齢者向けの市営集合住宅の建設を進める。一部は奥州市立病院に併設することにより、医療・介護・
住宅の複合施設として地域外からの流入が見込める。この施設は国のモデルケースとして厚生労働省あ
るいは国土交通省の補助金を申請する。
奥州市出身者への徹底フォロー(新卒者・Uターン定住希望者・Iターン・Jターン)
就職や就学のため奥州市を離れる若者は毎年何百人もいる。遠く離れても彼らはひと時もふるさとを
忘れることはない。奥州市公式ホームページに地元出身者を対象としたコーナーを設け、奥州市の情報
の提供や地元出身者同士の横の連絡を密にできるような仕組みを構築する。そこには新卒者のUターン
就職ガイダンスや、定年退職者の再就職ガイダンスの情報を織り込む。
奥州市の活力ある発展のためには、感性豊かな青春の一時期に地元を離れ、都会や他地域へ一時的に
流出し他文化と交わり見識を広めることはむしろ奨励をして、そののちにUターンを促していくような
施策が必要なのである。
奥州市東京事務所の開設
千代田区永田町に岩手県東京事務所がある。県内自治体では盛岡市、花巻市、北上市の 3 市が東京事
務所を有している。その機能と役割は企業誘致、中央官庁との連絡調整、情報収集、U(J,I)ター
ン就職の斡旋、物産の紹介やPRである。奥州市にあっても緊急に東京事務所を開設し、従来からの機
能の充実にあわせて、地元出身者、特にも学生のフォロー、グリーンツーリズムのPRや農業体験、修
学旅行誘致、各種コンベンション招致等にも取り組まなければならない。
各種全国大会・コンベンションの招致
奥州市内には大小様々な規模の市民ホール、会館、体育館等が数多くあり、それらの施設内容も非常
に充実している。また千人規模のコンベンションを開催できるホテルも存在し、宿泊施設もその種類に
おいて非常に多様なものがある。これらの施設の有効活用と交流人口の拡大を図るために、周辺にある
観光施設、文化施設、名所旧跡などと絡めながら、全国規模の各種大会(体育・文化・芸術・芸能・政
治・学術・研究・教育・産業・経済・業界団体等)やコンベンションを積極的に招致する。
そのためには、参加予定人数や宿泊予定人数によって、奥州市ならびに市内の観光関連、宿泊業団体
や企業より補助金を支給し、さらに予定人数を上回る参加実績数があった場合には、その達成率により
報奨金を支払う制度を整える。また継続的に奥州市を会場とする大会においては、施設使用料の割引、
減免制度も導入する。
県立高齢者大学の誘致
高齢者とは一般的に65歳以上を指すわけだが、近年の高齢者はまだまだ元気であり、時間的にも経
済的にも比較的ゆとりのある世代である。定年後に公的な資格を取得して活躍する場合もあるし、趣味
や教養を深めるための活動に精を出す場合も多い。また、豊かな経験や深い見識を活かして地域活動の
リーダー的役割も大きい。
奥州市では専門的カリキュラムを有し、実益のある講座を数多く持つ「県立高齢者大学」を誘致する。
校舎は、既存の公共施設等の改修により対応し、講師は地元の学識経験者や技術者、県立大学の学生を
中心に用意、受講対象は広く全国から募集する。講座は必ず土日を含めての3∼4日コースあるいは1
週間コースとし、短期滞在型を原則とする。
奥州サーキットの建設
この地域の自動車産業都市としての顔を全国に発信するため、衣川区内に本格的カーレース場を新た
に建設する。財源は市の予算をはじめに関東自動車工業の協賛、日本自動車工業会や日本自動車整備振
興会連合会等の業界団体の補助金等を活用し、維持管理は施設使用料と自動車関連メーカーのスポンサ
ー料により賄い、民間会社が運営。広域よりモータスポーツ愛好家を中心とした利用者を呼び込むとと
もに、関連施設や部品メーカーの代理店等の集積を狙う。
新規公共施設の駅前設置
今後建設される(建替えを含む)公共施設は各区の中心商店街に立地する条例を制定して、特に高齢
者にとっての利便性向上を図り、中心商店街への回帰を推進する。
国際姉妹都市の新規締結
現在江刺市ではオーストラリアのシェパトン市との国際姉妹都市締結をしているが、これまで20年
間に亘り民間団体(水沢青年会議所)において、非常に友好的な国際親善関係を続けている台湾の永和
市との国際姉妹都市締結をする。
水沢市と台湾は後藤新平が日本統治時代、
民生長官に就いていたことから、
大変縁の深い間柄にある。
これからますます経済発展を遂げ成長していくアジア地域、特にも旧来より縁が深い台湾永和市との国
際姉妹都市締結は、お互いの更なる文化交流と経済交流、相互理解に大きく寄与するものと思われる。
④ 新たな歴史物語の確立による観光振興都市
一般に観光資源とは
(1) 風光明媚な地形、風景、環境
(2) 歴史的、文化的建造物
(3) 祭り、催事、イベント
(4) テーマパーク、レジャー施設
(5) 無形の文化や伝統、習慣、風土
のように分類される。ではこの地域の歴史的、観光的資源を上記の分類わけしてみる。(1)焼石連峰、
北上川、種山が原、胆沢ダム、(2)奥州平泉文化財群、安倍館跡、長者ヶ原廃寺跡、胆沢城、角塚古墳、
正法寺、黒石寺、蔵町通り、偉人記念館、武家屋敷群、(3)日高火防祭、蘇民祭、牛祭り、ヨサコイ祭
り、(4) えさし藤原の郷、ニュージーランド村、ゴルフ場、スキー場、スケート場、温泉・・・・・。
実に多種多様な資源が数多く存在している。
これらの優れた観光資源を有機的かつ効果的に活用し、域外からの観光客を飛躍的に増大させなけれ
ばならない。現在のこの地域を織り成す風土は、長い歴史のなかでゆっくりと確実に醸成されてきたも
のである。これからの観光振興は既存の分類(1)から(4)を総合的に結びつける、(5)無形の文化や伝統、
習慣、風土というものを売り物にして取り組んでいく。
「遠野物語」は柳田国男という学者が明治時代に著した伝説集である。その作品には、河童、山姥、
座敷わらし等が、遠野地方の具体的な地名(早池峰山、猿ヶ石川など)を舞台に登場してくる。実はそ
の物語の多くは全国どこにでも存在するごくありふれた一般的な伝説なのである。しかし、遠野のまち
全体が明治以降100年に亘って「遠野物語」という文学作品によって磨き上げられた結果、他の地域
では感じることのない、洗練された、土俗性を身につけたまちへと変貌を遂げたのである。だからこそ、
何の変哲もない小さな神社や、自然木を組み合わせただけのゆがんだ鳥居が、訪れる人の心を打つので
あろう。現在遠野市を訪れる観光客は年間約150万人。まさに (5)の「無形の文化や伝統、習慣、風
土」を売り物にした観光振興の成功例である。
奥州市においても古代のアテルイから平泉の藤原文化、
義経北方説などをある種の脚本を交えてでも、
一連の大歴史物語として完結させ、そういう歴史背景から近代になって偉人を多く輩出する土壌が生ま
れた、というように発展していくストーリーを創作し、あらゆる媒体を用いて全国に発信していく。
また、そのような分野を学術的に研究する「東北学」
「奥州学」という概念を創出し、客観的、学問的
権威を持たせることも必要である。
現在の奥州市への観光入込数は230万人であるが、以下の施策により10年間で2倍の年間500
万人を目標とし、宿泊型観光の割合を増加させていく。
平泉町との合併の検討
平成20年、平泉はユネスコ世界遺産に登録されるだろう。現在でも年間観光客数は170万人、登
録後はさらに増加する見込みである。奥州市では増加する平泉の観光客を官民一体となって下支えをし
ていく。平泉∼衣川∼江刺は歴史的にも非常に縁が深く、平泉文化をより効果的に全世界にPRしてい
くためにも、平泉町との合併を検討していく。
日高火防祭の海外公演
首都圏中学校・近畿圏高等学校の修学旅行招致
「新説・平泉京物語」
「奥州物語」の投稿募集、
「義経北方説ブーム」の創作
⑤ 高度教育都市
奥州市独自の教育理念の策定
県立高校の統合と市立高校化・単位制度の導入
奥州市内にある県立高校(水沢高校、水沢農業、水沢商業、水沢工業、岩谷堂高校、岩谷堂農林、前
沢高校、胆沢高校)を市立高校化する。全校を統合し、奥州市立奥州第一高等学校と奥州市立第二高等
学校の2校を新設。単位制度を導入し、第一高校は普通科、外国語科、国際関係科を設置、第二高校に
は商業ビジネス科、自動車整備科、車両工学科、設備科(電気・機械・配管)
、農業科、ガーデニング科、
畜産科、農業ビジネス科、情報技術科、観光ビジネス科を設置する。各校舎は原則的に存続し、生徒は
校舎ごとに用意されたカリキュラムを選択し、卒業までに定められた単位を取得するものとする。学科
に関しては社会状況によって柔軟に変更を可能とする。
将来目標の近い生徒が多く集まることにより、競争精神や探究心の向上、一体感を生み出すことがで
き、学力のアップと専門性の追求が図られる。このように特色のある独自の高等学校教育制度により、
岩手県外を含む域外からの多くの生徒を呼び込むことができる。
専門学校誘致
域外からの高校生の流入が奏功すれば、卒業後の進学先としての専門学校の需要が高まる。特にも、
就職に直結するようなさらに広域からの流入の見込める、理容・美容・服飾・デザインのようなトレン
ドに敏感な若者に人気のある分野の専門学校を誘致、創設する。地盤沈下の著しい水沢区の中心市街地
の中規模空店舗を対象に、改装費の一部負担、設備費に対する低金利融資制度を導入し活用する。
大学誘致
全国の地方都市にとって、よく話題にされる「大学誘致」であるが、現実には学生数の減少や用地確
保、当該地域の魅力不足等の理由により、実現に至るケースは少ない。ただし、大学ができることによ
るメリットが非常に大きいことは共通の認識である。
学部は当然進出する大学や学校法人に任せることになるだろうが、宗教系、理工系が現実的である。
学生数減少の影響が比較的小さいと思われるからである。
学生は県内外の他地域から集まる。彼らは親からの仕送りを生活の原資にしていて、それは奥州市に
とって大変貴重な外貨である。学生向けのアパート・マンションの建設需要が高まり、若者の娯楽施設
等も新規に建設され、固定資産税の増加が予測される。若者の多いまちは活気に満ち溢れ、都市イメー
ジの向上に繋がる。
仮に学生数2000人の大学ができ、そのうち半分の学生が地元以外の出身者であると仮定すると、
1000人×10万円×12ヶ月=年間12億円が新たにこの地域で消費される。大学新設により地元
に留まる学生もいることから、その経済効果は相当なものがある。もちろん一時的ではあるが1000
人分のアパート・マンションの建設需要も発生する。一戸当たり400万円として40億円、関連娯楽
施設等の建設需要も含めるとさらに大きな経済効果をもたらす。
一方、大学建設の費用は同規模大学設置の例から約100億円∼150億円。ただし、他の例のよう
に山を切り開いて造成するのでなく、比較的市街地に近い水田(新幹線水沢江刺駅付近が望ましい)を
埋め立てて建設すれば、その費用は圧縮される。既存の公共施設の改修工事で対応すればさらに費用を
抑えることも可能である。建設費の約半額を県や市の補助金を当て、さらに民間からの寄付金を募り、
対象の誘致大学や学校法人に働きかける。ただし開学後の補助金は一切拠出しないこととする。非常に
多額な投資を要することになるが、その後の経済波及効果、文化水準の向上、奥州市のイメージと知名
度のアップを勘案して、充分検討の余地のある政策である。
マイスター登録制度
奥州市の優れた伝統産業を支えてきたのは高度な職人の技術力の伝承にあった。岩谷堂箪笥、南部鉄
器(奥州鉄器に改称しリノベーションを図る)
、前沢牛受精士、建築大工などの分野において、職人の技
能と理論を実践と教育で培う「マイスター登録制度」を導入する。職人の伝統的技能や技術の正しく確
実な伝承と更なるレベルアップをめざし、職人の社会的地位の向上と既存の伝統的産業発展のバックア
ップをする。
超高度専門研究施設
スーパーカミオカンデのような超高度専門研究施設の誘致の可能性を研究する。
第3章
(社)水沢青年会議所版
「 奥 州 市 都 市 計 画 構 想 図 」
東北本線
旧奥州街道
北上川
新幹線
奥州市立
第二高等
学校(農林
金ヶ崎町との合併
農業法人 県立
営農組合 高齢者
大学
胆沢川
支所
R4
自動車関連産業特区
I C
関東自動車工業
協力工場・倉庫群
路面店張付
奥州市立
用途地域指定
見直
第二高等学校
(自動車整備)
(車両工学)
用途地域指定
(電気・設備)
見直
トヨタ自動車㈱立
自動車専門学校
陸運支局
自動車検査登録所
用途地域指定
見直
奥州市立病院
(外・整・リ・精)
(高齢者集合住宅併設)
(託児施設付小児科病棟)
農業法人
営農組合
水 沢 駅
高齢者商店街
本 庁 理美容・服飾デザイン
岩手県 専門学校
副県庁
北上川観光
レジャー経済
特区
新小谷木橋
R397
奥州市立病院
(内・消・循)
奥州市立
第一高等
学校
(普通科)
支所
旧 奥 州 街 道 奥州市立
第二高等
学校
(農業ビジネス)
(畜産)
(ガーデニング)
4号バイパスルート変更
前沢高規格
住宅団地
前 沢 駅
住 宅
展示場
高齢者集合住宅
旧 奥 州 街 道 奥州市東京事務所
世界遺産登録
平泉町との合併
新設
大学
R343
農業法人
営農組合
奥州市立病院
(産・小児)
水沢江刺駅
自動車部品
製造
支所
奥州学
東北学研究
物
産
プ
ロ
ム
ナ
|
ド
馬事公苑
奥州市立
第一高等学校
(国際情報)
支所
物
産
プ
ロ
ム
ナ
|
ド
奥州鉄器
の里
農業法人
営農組合
奥州市立病院
(耳・鼻・眼・歯)
産直
水沢国際
競馬場
陸中折居駅
奥州市立
第二高等
学校
(観光ビジネス)
(マイスター学校併設)
奥州サーキット場
奥州市立
第一高等
学校
(外国語)
高齢者商店街
高齢者集合住宅
・企業誘致
・コンベンション招致
・物産PR
・修学旅行 グリーンツーリズムPR
終 章
終わりに ∼副県都をめざして∼
本年 8 月19日に開催された(社)水沢青年会議所8月例会においてこの「(社)水沢青年会議所版『奥州
市建設計画』
」の検討を開始いたしました。まずは5市町村の現状分析から着手し、それぞれの特徴的な
政策の研究、地域特性、歴史的背景等を学びました。続いて「水沢市・江刺市・前沢町・胆沢町・衣川
村合併協議会」より打ち出された「奥州市建設計画」を分析、そして全国の先進自治体の事例を調査し、
最後に我々会員のアイデアを注入して纏め上げたのが、この「建設計画」です。
また10月に実施した奥州市中学生サミット(奥州市内の12中学校の代表24名と5市町村長との
パネルディスカッション)を通じ、合併に対する中学生の率直な意見を聞くことができ、彼らの奥州市
に期待するもの大きさも実感いたしました。将来の奥州市を担う子供たちの未来のために、私たちは力
強い魅力ある奥州市を創り上げていかなければならない、と決意を新たにしました。
策定作業を通して常に念頭にあったのは、計画の実効性であります。奥州市という地理的、歴史的、
習慣的特性や財政規模等を勘案し、どれだけ多くの実現可能な具体策を盛り込むことができるか、とい
うことに大変苦労をしました。計画の柱は、既存の都市計画における様々な規制や制限、条件等の思い
切った緩和や見直しによる土地利用の弾力性と柔軟性であり、その結果としてより広く県内外からの民
間資本の投入が積極的に推進されるというものです。ひと・かね・もの・情報が多く行き交う活力あふ
れる副県都の創生であります。
もちろん計画の実施においては、法律や条令、その他規則等の壁に道を阻まれるものもあるかもしれ
ません。財源確保の問題もあるでしょう。しかし、私たちがめざすべき奥州市の建設のためには、相当
な覚悟を持って、多くの壁をぶち破っていかなければならないのです。必要であれば法律や条令の改正
を求めていきます。
これから確実に地方交付税は減少していきます。大都市圏の大企業の業績改善をよそに、私たち地方
都市の経済は疲弊し続けております。地方都市再生の特効薬など、そう簡単に見つかるはずはありませ
ん。13万2000奥州市民全員が一丸となって、地道に一つ一つ計画を実現させながら、継続的に新
しいまちづくりに取り組んでいくほかないのであります。その全市的な取り組みの旗印として、私たち
は「副県都をめざして」というスローガンを提唱いたします。
私たちのめざす奥州市の実現は10年、20年先になるかもしれません。しかし、奥州市に生まれ、
育ち、生活しているものの責任として、私たちは決してその努力を怠りません。その決意の表れとして、
この「(社)水沢青年会議所版『奥州市建設計画』
」を万感の思いを込めて、ご提案申し上げます。
平成17年11月
社団法人 水沢青年会議所
第43代理事長 阿部 靖彦
会員一同
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