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環境技術調査専門委員会 調査研究報告書

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環境技術調査専門委員会 調査研究報告書
JRIA23 環境
平成 23 年度
環境技術調査専門委員会 調査研究報告書
平成 24 年 3 月
社団法人 研究産業・産業技術振興協会
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://ringring-keirin.jp
平成 23 年度
環境技術調査専門委員会 調査研究報告書
平成 24 年 3 月
社団法人 研究産業・産業技術振興協会
ま え が き
本年度は、東日本大震災及びそれに続く原発事故という未曽有の大災害により、エネル
ギー問題に対する国民の見方が変わり、今後のエネルギー政策の動向にも大きな影響を及
ぼしている。低炭素化の推進において、再生可能エネルギー導入の必要性は高まっており、
直ちにエネルギー需給の構成を大きく変えるとの見通しには至らないものの、引き続き関
連する技術開発を推進していくことの重要性は増している。また、節電に見られるような
エネルギー利用におけるマネジメント技術や情報インフラの重要性も再認識された。これ
らの技術開発におけるロードマップ上の目標の見直しや技術開発成果を活用していくため
の制度設計のあり方も改めて検討する必要があると考えられる。
また、東日本大震災を契機として、製造業をはじめとする我が国の企業の海外移転や海
外市場におけるビジネス展開が更に推進されるとの見通しから、海外市場で競争できる技
術として環境技術が注目されている。しかしながら、環境技術を海外に展開し、それをビ
ジネスにつなげていくためには、スマートコミュニティや環境都市開発のように、インフ
ラを含めたパッケージの確立が必要であり、その海外における実証を通じて、国際標準化
における優位性の確保や技術ブランド力の形成を更に推進することが重要である。
当協会は、本年度より研究産業・産業技術振興協会として体制を強化し、海外の同様の
協会やその参加企業との交流も含めて、これまでのグリーンイノベーションの推進におけ
るオープンイノベーションのあり方や国際標準化の進め方、研究開発と環境ビジネスの連
動性向上などの検討課題に加え、先導技術研究及び国際交流研究分野における新たな検討
課題を設定し、研究活動を推進している。
現在、環境問題をはじめ、我が国が抱える研究開発に関わる課題は、必ずしも国内だけ
を対象とした検討だけで解決できる状況にはなく、当協会が有する幅広い知見とネットワ
ークをもとに国内外一体の課題と捉えて検討し、環境分野においては、環境ビジネスを推
進する我が国の企業・産業の国際競争力の向上や関係国の環境改善を通じた新たな海外環
境ビジネス市場が形成されることを期待している。
平成 24 年 3 月
社団法人 研究産業・産業技術振興協会 環境技術調査専門委員会 委員長
清水建設株式会社 山﨑雄介
環境技術調査専門委員会
委員名簿
(平成 24 年 3 月現在)
<委員長>
山﨑 雄介
清水建設株式会社 技術研究所 上席マネージャー
<委員>
石野 和成
JFEテクノリサーチ株式会社 ソリューション本部(川崎)設備プロセス技術部
荻野 慎次
富士電機株式会社 技術開発本部 技術統括センター 技術戦略部 担当部長
小林 雅幸
日本電子株式会社 営業管理グループ長
坂上 英一
株式会社東芝 研究開発センター エコテクノジー推進室 参事
坂木 泰三
株式会社リコー グループ技術開発本部 環境技術開発室 室長
高島 由布子 株式会社三菱総合研究所 環境・エネルギー研究本部 エネルギー戦略グループ
主任研究員
濱田 行貴
株式会社IHI 研究開発本部 総合開発センター 化学システム開発部 主任研究員
山下 正史
住友電気工業株式会社 研究統括部 主席
吉田 直樹
株式会社三菱総合研究所 先進ビジネス推進本部長 主席研究員
若狭 匡輔
東京ガス株式会社 技術戦略部 技術戦略グループ 企画チームリーダー
(50 音順)
<事務局>
大島 清治
社団法人 研究産業・産業技術振興協会 専務理事
松井
社団法人 研究産業・産業技術振興協会 調査研究部長
功
小林 一雄
社団法人 研究産業・産業技術振興協会 企画交流部長
前佛 伸一
社団法人 研究産業・産業技術振興協会 調査研究部次長
石塚 美香
社団法人 研究産業・産業技術振興協会 調査研究部
目
次
まえがき
第1章
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
第2章
活動の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
2.1
環境技術検討テーマの構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
2.2
環境ビジネスの現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
2.3
環境技術関連政策の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
2.4
環境技術の研究開発に関わる提言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
第3章
環境ビジネスの現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7
3.1
国内外の環境ビジネス市場の概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7
3.2
スマートコミュニティ事業の海外展開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15
3.3
スマートシティの動向(Smarter Planet の目指す世界)・・・・・・・・・・・・・・
24
3.4
環境都市開発の動向(中国国家プロジェクト 天津エコシティ)
・・・・・・・・・・・
31
3.5
環境改善技術の海外展開の取組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
39
3.6
希少金属回収ビジネスの取組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
49
3.7
スウェーデンの環境都市における取組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56
第4章
環境政策動向調査
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64
4.1
最新の環境政策の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64
4.2
省エネルギー戦略の動向(省エネルギー技術戦略 2011)・・・・・・・・・・・・・・
71
4.3
エネルギーモデルに基づく将来需給展望と震災影響評価・・・・・・・・・・・・・・
78
4.4
ベストエネルギーミックス を目指す政策設計とその課題・・・・・・・・・・・・・
85
第5章
環境ビジネスの展開と環境技術の研究開発に関わる提言・・・・・・・・・・・・・・
93
5.1
環境ビジネスの展開における課題と対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
93
5.2
環境技術の共同開発・事業化における国際競争力強化のための提言・・・・・・・・・
94
あとがき
第1章
はじめに
環境技術調査専門委員会は、環境技術に関する現状や課題を確認し、その解決に必要と
される調査・検討を行い、会員企業をはじめ社会にその成果を公表することを目的として
活動している。
2011 年度は、海外市場への展開において活発化する環境ビジネスの現状と課題を把握す
ることに焦点を当て、環境ビジネスの実態及び環境技術の研究開発への取組みを調査する
ともに、東日本大震災後のエネルギー戦略や環境技術関連政策の動向を把握し、今後の国
内外における環境ビジネスの形成やそのための研究開発のあり方に関わる提言を行うこと
を目的として活動した。
2011 年度は、東日本大震災及び原発事故でエネルギー供給を巡る状況は大きく変化した。
2010 年のエネルギー基本計画から、震災を期に原発政策は大きく後退し、再生可能エネル
ギー導入に大きくシフトする方向にあるが、一方で、直近の電力供給不安は大きな課題を
抱えることになった。中長期的な見通しは、国家戦略室「革新的エネルギー・環境戦略」
として議論されており、新エネルギー基本計画、新原子力政策大綱、グリーンイノベーシ
ョン戦略が統一的に提示される見通しである。
一方、地球温暖化対策については、2011 年 11 月には南アフリカのダーバンで COP17 が
開催され、EU 主導で一定の成果は得たものの、各国それぞれの目論見、スタンスの違いな
ど国際的に共通のルールづくりの難しさが改めて浮き彫りとなり、日本には EU や新興国か
らのプレッシャーが高まる見込みである。
また、グリーンイノベーションの推進におけるスマートコミュニティの海外展開や海外
の環境都市開発への参画に向けた取組みは、引き続き継続されており、実証事業や具体的
ビジネス参加への事例は増加している。国内では、震災復興によるエコシティ、スマート
シティへの動きが加速し、多くの自治体が復興計画でエコシティ、スマートシティに言及
しており、「環境未来都市」構想の対象都市選定において、2012 年 1 月に 11 自治体・地
域が選定されたが、東日本大震災の被災地から 6 自治体・地域が含まれている。
このような背景から、本委員会は、昨年度に引き続きグリーンイノベーションの推進の
ための環境技術開発や環境ビジネスの推進に関わる課題を主対象とし、それらに関わる技
術動向及び政策動向を調査し、研究開発の方向性を検討することを目標として活動してい
る。本年度はその中から(1)環境ビジネスの実施例、(2)環境技術政策動向の調査、を主
たる調査項目として調査研究活動を実施した。
- 1 -
第2章
活動の経緯
本委員会では、環境ビジネスの動向調査を本年度の主要な検討課題とし、それらに関わ
る技術動向及び関連政策動向を調査し、研究開発の方向性を検討することとし、以下の活
動を行った。
2.1
環境技術検討テーマの構成
本委員会は、グリーンイノベーションにおける対応課題のうち、環境ビジネスの推進を
検討課題とし、それらに関わる技術動向及び政策動向を調査し、研究開発の方向性を検討
することを目標として活動している。本年度はその中から(1)環境ビジネスの実施例、
(2)
環境技術政策の調査を主たる調査項目として、講師を招いて現状の取組状況と課題につい
て説明を受け、それをもとに議論した。なお、講演の場としては、環境技術調査委員会委
員会だけでなく、研究産業技術懇談会及び先導技術交流会を活用した。
(1)環境ビジネスの実施例
さまざまな方面から環境ビジネスの実施に向けて取り組んでいる企業・協議会・研究団
体などより講師をお招きし、委員会及び研究産業技術懇談会・先導技術交流会等の場でご
講演いただくとともに、訪問調査を通じて環境ビジネスへの取組状況を把握し、我が国の
環境ビジネス展開上の課題を抽出した。
①スマートシティの動向(Smarter Planet の目指す世界)
講師:日本アイ・ビー・エム株式会社
執行役員
未来価値創造事業担当
岩野和生氏
月日:2011 年 6 月 22 日
環境技術調査委員会
②環境都市開発の動向(中国国家プロジェクト 天津エコシティ)
講師:株式会社日本総合研究所
月日:2011 年 7 月 19 日
執行役員
創発戦略センター所長
井熊均氏
研究産業技術懇談会
③環境改善技術の海外展開の取組み
講師:清水建設株式会社
技術研究所
上席マネージャー
月日:2011 年 7 月 20 日
環境技術調査委員会
山﨑雄介氏
④国内外の環境ビジネス市場の概況
講師:株式会社三菱総合研究所
エネルギー戦略グループ
月日:2011 年 11 月 9 日
環境・エネルギー研究本部
主任研究員
高島由布子氏
環境技術調査委員会
⑤スマートコミュニティ事業の海外展開
講師:独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
スマートコミュニティ部長
月日:2011 年 11 月 30 日
高倉秀和氏
先導技術講演会
⑥海外企業における希少金属回収ビジネスの取組み
講師:清水建設株式会社
技術研究所
上席マネージャー
月日:2012 年 1 月 18 日
環境技術調査委員会
- 2 -
山﨑雄介氏
(2)環境技術政策動向の調査
急速に進展する環境政策及び環境規制の動向やその裏付けとなる法律制度の動向を把
握した。
①省エネルギー戦略の動向
講師:社団法人研究産業・産業技術振興協会
月日:2011 年 4 月 20 日
総務部長
清水淳氏
研究産業技術懇談会
②エネルギーモデルに基づく将来予測展望と震災影響評価
講師:株式会社三菱総合研究所
エネルギー戦略グループ
月日:2011 年 9 月 14 日
環境・エネルギー研究本部
主任研究員
園山実氏
環境技術調査委員会
③ベストエネルギーミックスを目指す政策設計とその課題
講師:慶應義塾大学
先導研究センター
月日:2011 年 10 月 12 日
特任教授 保井俊之氏
環境技術調査委員会
④最新の環境政策動向
講師:株式会社三菱総合研究所
先進ビジネス推進本部
本部長
主席研究員
吉田直樹氏
月日:2011 年 12 月 20 日
2.2
環境技術調査委員会
環境ビジネスの現状と課題
(1) 世界の環境ビジネス市場
世界の環境ビジネス市場は着実に成長しており、特に、中国をはじめとする新興国市場
の拡大が著しい。環境ビジネスには、従来型の新エネルギー関連、公害対策関連、水事業、
廃棄物・リサイクル分野等のみならず、環境配慮型住宅や、エコカーなど、多様なビジネ
ス分野が含まれる。
(2) スマートシティ・スマートコミュニティ関連ビジネス
近年、世界的に注目を集めているは多様な環境配慮を都市づくりと組み合わせた「スマ
ートシティ」や「スマートコミュニティ」という概念である。プロジェクトによって「ス
マート」の捉え方は異なるが、現在世界中で 300 以上の関連プロジェクトが動いていると
される。このスマートシティ等について、本年は支援側視点から NEDO、事業者の立場から
IBM と日本総研の各位にご講演を頂いた。既存の街の公共サービス効率化、環境と経済性
に配慮した新しい街区作りなど、
「スマート化」としてはさまざまな取組みが提案されてい
る。いずれの場合でも、当該地域が目指す都市増とのマッチングが重要であり、自治体や
住民に寄り添ったコンサルティング的要素が重要であることが示された。一方、街の「ス
マート化」にあたっての課題として、誰がプロジェクトを主導すべきか、誰が受益者か等
について不明瞭になりがちな点が考えられる。
(3) 環境改善技術の海外展開によるビジネス化
近年は、我が国で培われた環境改善技術を海外に展開する流れも活発化している。経済
- 3 -
産業省や環境省による現地化支援 FS 調査、研究開発プロジェクトも多数行われており、新
興国市場を中心にビジネス展開が期待される。しかし、現地のコスト負担力の低さや環境
意識の欠如、現地カウンターパートとの連携等がネックとなり、一定程度の利益を継続的
に確保できるビジネスモデル構築は非常に難しいとされる。現地の大学・研究拠点と連携
を足がかりとしつつ、我が国政府の現地出先機関や研究開発支援機関等による支援等をも
とに、必要に応じて産業界の企業連合を形成しながら展開することで技術移転が促進でき
るのではないか。
(4)希少金属リサイクルビジネス
金属資源の枯渇懸念が広がる中で、金属リサイクル事業に対する注目も高い。金属リサ
イクル事業は、環境配慮の観点よりも、金属価格高騰に伴う収益性拡大を狙ってビジネス
化するものである。金属リサイクルの最終工程には大規模な精錬設備を必要とし、
「規模の
原理」が働くことから、技術量を有する一部事業者による寡占市場になることも予想され
る。金属含有製品回収の法的枠組みのない新興国を含め、いち早く回収システムを構築す
ることが重要になっている。
(5) 国内の環境ビジネス市場
一方、国内の環境ビジネス市場は、東日本大震災後に大きな変革期を迎えている。特に、
これまで徐々に市場導入が進められてきた新エネルギーや蓄電池関連ビジネスが一躍脚光
を浴びており、市場展開の急加速を求められている。また、震災影響により震災廃棄物処
理関連、及び除染について新規市場が創出されており、迅速かつ安全重視の対応が強く求
められている。
2.3
環境技術関連政策の動向
(1)主な国際動向
世界規模での景気後退、財政不安等が高まる中で、地球温暖化対策、気候変動対策等に
ついては、欧州を除きやや減速感が見られる。国際的な枠組みについても明確な方向性、
道筋が見出せない状況が続いている。しかしながら、気候変動の脅威そのものが減じたわ
けではなく、取組み分野等も含めて濃淡はあるが、各国において、それぞれ実質的、実効
的な取組みの進展は予見される。
また、環境問題におけるいわゆる国際的な構図については、いわゆる単純な「南北問題」
的な構図は崩れはじめている。中国、インド等は、多くの小国等(例えば、LDC 等)から
排出削減のプレッシャーを受ける立場になっており、新たな力学が形成されつつある。
なお、こうした流れとも時を同じくして、中国においては環境問題への対応は今後本格
化の兆しが見られる。
(2)我が国における主な動向と課題
国内の状況については、やはり東日本大震災の影響は極めて大きい。特に、エネルギー
の領域に関しては、長期にわたり維持されてきた現行の電気事業体制の抜本的な変更も含
- 4 -
めたドラスティックな変化が予見される状況にある。
こうした状況の中、供給サイドの将来像を明確に見通すことは非常に難しい状況にある
が、その一方で、需要サイドについては「環境」、
「エネルギー」、そして「防災」の 3 側面
で、自律性、自立性を高める新たな動きが活発化している。いわゆる「スマートシティ」
への動きもそれと連動しながら進展の可能性がある。
なお、
「スマートシティ」については、国内はもとよりグローバルで見ても動きは活発な
状況にある。環境、エネルギー分野の技術に優れる日本企業にとっては大きな機会である
が、現状においては、必ずしもその機会を掴みきれていない面もある。今後は、要素技術
の単品売りだけではなく、個々の技術力を強みにした「システム」力強化が課題であると
言えよう。
2.4
環境技術の研究開発に関わる提言
(1)環境技術の国際競争力強化に向けた研究開発の推進
①グリーンイノベーションにおけるロードマップの重点技術開発課題の推進
グリーンイノベーションで重点化されている環境未来都市構想やスマートコミュニテ
ィに関連する革新的技術開発に重点的に資源配分し、環境分野における競争力強化を推
進する。また、これらの技術を総合化しソリューションビジネスとして国際市場に展開
できる人材を育成する。
②スマートコミュニティ等の実証事業の展開
世界の多様な国・地域ごとのニーズに対して我が国の技術を最適化し、インフラシス
テムのパッケージとして海外へ展開するために、海外で実証事業を展開し、実証事業か
ら得られた成果を国際標準化の獲得に向けてフィードバックする。また、ビジネスモデ
ルが成立する実証事業を対象とし、海外実証において日本の技術のショーケース化を図
り、輸出促進に寄与するとともに、日本国内では実証困難な技術システムを実証するこ
ととし、現地企業・国研等の協力を得て高い品質のデータを収集し、国際標準化を推進
する。
③環境ベンチャー企業の研究開発の支援
我が国では、環境分野におけるベンチャー企業の育成が十分に行われていない。産学
官協働による環境技術開発や環境ビジネス展開におけるオープンイノベーションを促
進し、ベンチャー企業や人材の育成を推進しながら新たな環境産業及び環境ビジネスの
仕組みとその担い手の創出を支援していくことが重要である。
(2)海外大学・研究機関との環境技術の共同研究開発の促進
①対象国の海外大学・研究機関等との連携と人材育成
現地の実情に対応しリスクの低減を図るには現地の法規・制度に通ずる必要が あり、
現地の国立・公立大学及び公的研究機関に提携先を設定し、人材育成を図りながら現地
と連携した研究・技術開発活動を展開する。
- 5 -
②NEDO、JST 等の共同研究開発補助制度の活用と拡充
環境分野における新興国への技術移転は、当面、NEDO、JST 等の補助制度を利用した
共同技術開発あるいは共同研究として進めるが、技術移転に関わる実証研究等の事業規
模が拡大していく事が予想されるため、長期的な視点での事業化に対する補助制度の拡
充が求められる。
- 6 -
第3章
3.1
環境ビジネスの現状と課題
国内外の環境ビジネス市場の概況
3.1.1
2011 年版
講演の概要
(1)講演日時:2011 年 11 月 9 日(水)15:00~17:00
(2)講師:株式会社三菱総合研究所
環境・エネルギー研究本部
(兼)次世代環境ビジネスチーム
主任研究員
(3)講演題名:国内外の環境ビジネス市場の概況
3.1.2
産業技術戦略グループ
高島由布子氏
2011 年版
講演内容
(1)我が国環境ビジネス市場の概況
毎年定点観測的に行っている国内外環境ビジネス市場の概況講演だが、今年の国内環境
ビジネス市場の現状を語る上で、東日本大震災による影響は避けて通れない。そこで、本
年は、東日本大震災を受けた国や自治体の動き、及び環境関連の新規ビジネス創出に向け
た展望について整理した。
①震災を受けた国・自治体の動き
東日本大震災の後、復興関連、エネルギー政策、原子力発電所事故対応、災害廃棄物処
理、除染等のキーワードで国・自治体による検討が進んできた。全体的に見ると、3 月、4
月は官邸から独自に各種指示が発出。5 月、6 月には検討の場が多数設定。6 月 25 日に発
表された「復興への提言
~悲惨の中の希望~」を一つの契機として、7 月、8 月には各分
野での復興工程表が出揃い、9 月、10 月には復興に向けた実働がスタートしているイメー
ジである。
復興については、当初菅首相の発表した復興計画方針や、その後の東日本大震災復興構
想会議にてさまざまな復興計画が議論されたが、実態的には 5 月以降各被災自体にて検討
され夏頃に出揃った復興計画をベースとして実行されていくものと想定される。エネルギ
ー政策については、6 月頃までは夏に向けた当面の電力需給調整対策が最大の課題であっ
たが、10 月以降には中長期展望も含めたエネルギー政策の見直しが経済産業省の基本問題
検討会を中心に進められていくだろう。原子力発電所事故については、原子力安全にかか
る行政組織の問題、及び事故収束に向けた取組み方針/工程表、更に補償問題の三つの枠組
みで検討が進められてきた。災害廃棄物については、早い段階から環境省に災害廃棄物対
策特別本部等が設置されて対応を進めているが、放射性汚染廃棄物については通常の廃棄
物対策とは別枠として災害廃棄物安全評価検討会等で取扱いが検討されている。除染につ
いては、4 月から夏までは汚染マップの作成が中心であり、対応方法については 8 月末に
制定された放射性物質汚染特措法や、その後の環境省環境回復検討会において検討されて
いる。
また、国と並行して東北被災 3 県も復興プランを策定している。福島県がやや遅れたも
のの既に内容は出揃っている。いずれの県においても、復興時のインフラ形成に向けて自
然エネルギーを最大限活用する方針を示しており、特に福島県は原子力に依存しない社会
作りを目標として再生可能エネルギーの拠点化を指向している。
- 7 -
3月
4月
5月
【菅首相会見】復興計画方針
7月
8月
9月
10月
11月
【政府】復興対策本部
6/25 復興提言
【政府】東日本大震災復興構想会議
【衆議院】復興特別委員会
復興計画
復興関連
6月
【環境省】復興対応方針
6/10復興基本法
8月 各県復興計画
【被災自治体】復興計画策定
【政府】エネルギー・環境会議
エネ政策見
直し
【経済産業省】基本問題委員会
【経済産業省】産業構造審議会産業競争力部会
【経済産業省】
エネ政策賢人
8/25 FIT2法案
エネルギー政策
当面需給調
整対策
電気使用制限措置
【政府】電力需給対策本部
組織論
8/15 原子力
安全庁設立決
【環境省】中央環境審議会総会
【政府】原子力災害対策本部
取り組み方針/工程
表
【政府-東電】総合対策室
原子力発電所事故
6/16 原子力損害賠償支援
機構法
【政府】東京電力経営・財務調査委員会
【文科省】原子力損害賠償紛争審査会
補償問題
ガレキ・ヘド
ロ等処理
【環境省】災害廃棄物対策特別本部/被災者生活支援特別対策本部/広域処理推進会議
8/12 災害廃棄物特
措法
災害廃棄物
放射性汚染廃棄物
汚染マップ
【環境省】災害廃棄物安全評価検討会
8/30土壌・農地汚染マッ
プ
【関係10省庁】モニタリング調整会議
除染
除染
8/25 放射性物質汚染
特措法
【環境省】環境回復検討会
11月?
3次補正予算決定
7月25日
2次補正予算決定
4月22日
1次補正予算決定
(出典)各種資料より三菱総合研究所作成
図 3.1.1
震 災を 受け た国・自治体の主要な動き
表 3.1.1
名称
計画期間
3 月~11 月
東 北被災 3 県における復興プラン概要
岩手県
宮城県
福島県
岩手県東日本大震災津波復興計画
2011-2018
宮城県震災復興計画
2011-2020
福島県復興ビジョン
2011-2020
スケジュール 6月17日基本計画案公表、8月に実 6月17日に復興計画第1次案、7~8 7月に復興ビジョン決定、12月に第1
施計画策定、9月議会で両計画含む 月に第2次案を策定・検討、9月議会 次復興計画まとめを目指す
復興計画了承
での了承目指す
概要
基本計画案=防災を考慮した再興 第1次案=緊急重点事項と、中長期 復興ビジョンは基本理念、緊急的対
のグランドデザイン。長期的な三陸 的に取り組む事業の復興のポイント、応、ふくしまの未来を見据えた対応、
創造プロジェクトに取り組む方針も明 分野別の復興の方向性等で構成。 原子力災害対応で構成予定。
確化
東日本復興特区創設を提案。
エネルギー等 ・防災都市・地域づくりの中長期的取 ・復興ポイントのうち、先進的農林業 ・ビジョンのこれまでの議論・・・「原子
に関連した記 組・・・太陽光、木質バイオなどの再 構築・・・木質バイオ積極導入
力に依存しない、安全・安心で持続
述
生可能エネを活用した非常時でも一 ・同エコタウンの形成・・・新たな都市 的に発展可能な社会作り」を柱に、
定のエネルギーを賄えるシステムの 基盤へのクリーンエネ組み込みや復 再生可能エネルギーの飛躍的推進
導入促進
興住宅全戸へのPV整備などを指摘 や産業化、研究開発拠点の整備な
どに取り組む方針
・三陸創造P・・・環境共生・自然エネ ・クリーンエネ特区を提案
分野など想定
(出典)週刊
エネルギーと環境
No.2142
ほかよりとりまとめ
②震災を受けた新規ビジネスの創出と展望
東日本大震災を受けて、再生可能エネルギーや震災廃棄物処理等の分野で新規ビジネス
が創出されている。これらの新規ビジネス創出の状況や展望が報告された。
- 8 -
<メガソーラー事業>
震災後の電力不足・原子力発電に対する不安感の拡大を受けて、再生可能エネルギーに
対する期待が急拡大している。特に、汎用性の高い太陽光発電への期待は高く、メガソー
ラー事業の提案が相次いだ。例えば、ソフトバンク孫社長は全国の休耕田にメガソーラー
を立地する「電田プロジェクト」を提案し、複数の自治体が用地確保等について協力の姿
勢を示している。また、三井物産や三菱商事等でもメガソーラー事業拡大の動きが見られ
る。
これまで、日本の太陽光発電導入は住宅用中心に細々と進められてきたが、2010 年ごろ
より余剰買取制度導入を受けて住宅用が成長するとともに、2012 年度の全量買取制度を見
越してメガソーラー事業が登場したところであった。更に今回の震災を受けて、自立型電
源としての注目が高まり、今後 5 年間で急激に導入量が拡大することは確実と予想される。
一方で、メガソーラー事業の拡大は必ずしも我が国関連事業者の成長に繋がるとは限ら
ない懸念がある。パネルについては、需要拡大と同時に低コスト化圧力が高まっているこ
とから海外パネルメーカーの参入が相次ぎ、薄利多売型ビジネス市場となる懸念がある。
また、メガソーラー事業自体は、固定買取価格設定が利益幅を決め、それ以上の利益を得
るための工夫余地が少ないことから低リスク低リターン事業になる可能性もある。
■パネルメーカーとしてのビジネス性・・・・
需要は拡大しているものの、パネルに対する低コスト化圧力増加(運営事業者にとって唯一の『買い叩き』先)
中国を初めとする海外パネルメーカーが構成、早急な普及を目指す自治体・事業者によるニーズ有
例)ソプレイソーラー(中国) 半額で売り込み
例)ソーラーフロンティア(日)コスト重視戦略
日本企業の半額程度での売り込みをかける。中国製のパネルを使い、屋根ではなく地
方の空き地や休耕田などに置くことを想定し、簡略化した鉄枠組みにパネルを載せる。
昭和シェルグループのソーラーフロンティアは、コスト重視の
販売戦略を鮮明にした。年産900MWの第3工場を宮
崎県で建設しており、完成する11年には計1GWの生産
昨年ヤマダ電機と提携して全国に450店の販売網を敷き、一般的な日本製品の保証
体制が整う。スケールメリットによるコスト競争力が備わる
期間(10年)より長い25年保証に加え、7月1日から自然災害や屋根漏水への補償
模様で、6月に発売した住宅用PVシステム「フロンティア2
も始める。
400」を、㎾当たり50万円以下で販売するという。
■運営事業としてのビジネス性・・・・
低リスク低リターン事業へ
採算性を握るのは年2回の『固定買取価格』の設定だが、「ギリギリ採算が取れる線」で設定されることが予想
発電さえすれば「ギリギリの採算」は得られるものの、それ以上を得るための工夫の余地は少ない
費用負担調整機関
土地取得
電力供給(料金転嫁)
再生可能エネルギー
パネル購入
電力会社
設備設置
固定価格買取(現48円/kWh)
転嫁分を支払い
全需要者
(出典)各種資料より三菱総合研究所作成
図 3.1.2
メ ガソーラー事業のビジネス性
<風力発電事業>
原発事故を受け、再生可能エネルギーへの期待が高まる中で、特に被災した東北地方で
のポテンシャルが高く復興の基軸となりえると期待されているのが風力発電である。震災
でも東北立地風力発電施設が全て無傷だったことも高く評価されている。
一方、風力発電事業を巡る課題としては、風力発電業界の構成が挙げられる。風力発電
- 9 -
事業者は体力的に弱いベンチャー企業が多く、2010 年度に建設費補助制度が終了してから
2012 年に固定買取制度が開始されるまでの間に採算が悪化して行き詰る懸念がある。なお、
設置余地の大きな洋上風力に大きな期待が集まっているが、本分野については技術的課題
が未だ大きく、国による研究開発投資がどの程度行われるかが課題となる。
<その他再生可能エネルギー>
地熱発電については、日本には熱水資源が豊富になることから期待されるものの、国立
公園や温泉地に該当地が多いことから開発が遅れてきた。原子力発電所事故に伴う電力不
足の中で、安定的な再生可能エネルギーとして期待される地熱 発電の開発を後押しするた
め、環境省が規制緩和に乗り出している。
一方、農林水産省は、6 月に震災で生じたガレキに含まれる廃材等を燃料に使用する「木
質バイオマス熱電併給」事業を展開する方針を表明している。当面は被災地で 1 万 kW 級の
発電所設置、今年度補正予算で 5 か所程度の事業化を目指す。
<蓄電池>
蓄電池の導入普及は、震災前までは電気自動車(EV)向けの大型蓄電池の量産化、また、
再生可能エネルギーの不安定電力平準化のための供給サイドでの大型蓄電池の開発・商品
化をバネに低価格化を進め、最終的に家庭・業務用に浸透すると想定されていた。しかし、
震災によって状況が一変。当面続く電力不足への対応手段として家庭用・業務向け定置用
蓄電池が先行して脚光を浴びている。Li 蓄電池供給メーカーは急ぎ家庭用・業務用蓄電池
を発売している。また、工場などの大容量では低価格で技術が確立されている鉛蓄電池が
再び注目を集めている。環境省や被災自治体が計画する復興プランの中でも、蓄電池は多
く組み入れられており、需要拡大が期待されている。
蓄電池市場創出に向けた課題としては、高い価格帯、技術開発の進展、一過性のブーム
で終わる懸念等が挙げられた。
<震災廃棄物処理>
東日本大震災により大量のガレキ類が発生した。特に宮城県の発生量は、同県の一般廃
棄物排出量約 20 年分に相当する。なお、環境省の推計は、衛星画像をもとに、津波により
倒壊した家屋等について推計したものであって、内陸部のガレキや、ヘドロ、道路・堤防
のガレキ、自動車、船舶などは含まれておらず、これらを含めた場合、上記の推計値を大
きく上回る可能性がある。震災で生じた廃棄物の処理は、本来、被災市町村が行うことと
されているが、対応が困難な市町村の多くが県に処理を委託している。なお、福島県の災
害廃棄物については別途取扱い規定を作成している
震災廃棄物の処理は当初広域処理を前提としていた。しかし、4 月時点には 30 都道府県
572 市町村・一部事務組合が受け入れ(中間処理・最終処分)を表明していたが、その後
放射性物質への不安が拡大したことを受け、11 月の再調査では 11 都道府県 54 市町村・一
部事務組合のみが「既に受け入れている」もしくは「受入を検討している」と回答するな
ど、受入自治体が縮小。仙台市や、釜石市などを中心に域内処理について夏頃より入札を
開始している。入札では、価格だけでなく地元企業との連携や地元雇用を重視した枠組み
- 10 -
を採用する動きが被災地で広がっている。
<除染>
環境省の所管規制では放射性汚染関連事項は除外されてきたが、8 月に放射性物質汚染
対処特別措置法 が成立(施行は 2012 年 1 月)して環境省を除染の責任機関とする法案が
可決された。被ばく線量が年間 20 ミリシーベルトを超える地域においては、国が除染計画
を打ち出し、線量の低い地域では、市町村独自の計画を打ち出し、政府が支援する予定と
なっている。11 月よりモデル事業を実施した上、来年 1 月より本格的除染を開始する予定
である。
10月23日公募開始、11月7日結果公表
(日本原子力研究開発機構)
■市町村グループ「A」担当(南相馬市、川俣町、浪江町、飯舘村)
大成建設株式会社
■市町村グループ「B」担当(田村市、双葉町、富岡町、葛尾村)
鹿島建設株式会社・株式会社日立プラントテクノロジー・三井住友建設株式
会社
■市町村グループ「C」担当(広野町、大熊町、楢葉町、川内村)
株式会社大林組
仮置き場イメージ
中間貯蔵施設イメージ
(出典)環境省資料をもとに三菱総合研究所作成
図 3.1.3
除染の手順
(2)世界の環境ビジネス市場の概況
①世界の環境ビジネス市場の全体像
世界の環境ビジネス市場は着実に拡大している。ビジネスモデルとしては、日本企業が
得意としている装置・資材等の機器分野よりも、PPP 事業等による水処理、廃棄物処理等
のサービス事業の市場規模が格段に大きい。なお、我が国ではこれらサービス事業は自治
体が担ってきた分野であり、民間企業に事業ノウハウが蓄積されてきないことが課題であ
る。
また、地域別に見ると現在の環境ビジネス市場の地域構成は、アジア 40%、欧米各々30%
程度であるが、今後、市場規模拡大を牽引すると期待されているのはアフリカ、アジア、
南米等である。
②環境ビジネス市場における国際競争力分析
日本ではよく、「環境分野では日本勢が強い」という表現をされるが、検証が必要であ
る。日本では JST が科学技術・研究開発の国際比較を実施しているが、同様に欧米各機関
も様々な指標を用いて環境ビジネス分野における国際競争力分析を行っている。各機関と
も自国に対する評価が高いものの、複数国の評価から共通して見えることは、日本の得意
分野は「機器売り・省エネ・ハイテク」と想定される。
- 11 -
③世界の環境ビジネス市場の概況
<公害関連事業>
公害関連分野の国際的な市場概況については経済産業省調査「海外環境規制・環境産業
の動向等にかかる調査」事業にて調査している。本分野については、日本市場は成熟して
いるものの、中国・インドはもちろん、欧米でも市場は拡大傾向を示している。ただし、
日本企業の海外展開に向けては、環境規制執行強化や、低コスト帯ビジネスモデルの確立
が必須となっている。
<静脈関連事業>
環境省では、「2011 年度日系静脈産業メジャーの海外展開促進のための戦略策定・マネ
ジメント業務」を実施し、廃棄物・リサイクル関連産業の海外展開(主にアジア)支援施
策を検討している。
<水事業>
水事業では国土交通省、経済産業省、各省関連機関が海外展開戦略を実施中である。特
に市場規模の大きな上下水インフラ分野に注目が集まっているが、この分野の国際競争は
激化の一途を辿っている。特に国土交通省は新興国の上下水インフラ市場に着目して官民
一体型の営業戦略を検討している。一方、民間企業では高度処理を必要とする無機系工業
排水や、新規市場であるバラスト水処理や随伴水処理などにも注目が集まりつつある。
④世界の環境ビジネス市場における行政支援状況
環境ビジネスの国際展開は、欧州、韓国等で推進されており、行政による手厚い支援制
度が整備されている場合も多い。代表的な各国の行政支援施策が紹介された。
<韓国>
インフラ事業の海外展開にあたっては、FS 調査費用の支援、グローバル・インフラファ
ンドの運営、PPP のトレーニングプログラム等を展開する技術協力プロジェクト等が整備
されている。また、イ・ミョンバク政権の重点国政課題である「環境産業の輸出戦略産業
化」の推進により環境産業の輸出額を 2008 年の 2.2 兆ウオンから 2012 年に 8 兆ウオン(世
界シェア 7.0%)まで拡大する計画を定めている。この計画では、世界市場で競争できる
国内の中小環境専門企業を発掘して育成することを目指して、水産業、気候変動対策産業、
廃棄物資源化産業など有望な新環境産業の育成戦略を策定するとともに、優良な企業を指
定して資金融資や海外進出のための優先支援策等を提供する。
<フランス>
フランスエコビジネスの海外展開を促進することを目的として、エコビジネス輸出計画
(PEXE)を策定。エコビジネスの海外展開に向けて、フランスのエコ企業(中小企業を含
む)を支援する活動を進める。また、フランス環境技術の発展のための官民戦略を定める
ため、2008 年 7 月 10 日に環境産業戦略委員会(COSEI)を設立。「エコ技術のイノベーシ
ョンと普及」、「エコ産業のパフォーマンスを高める規則と規制」、「中小エコ産業」の三つ
の作業部会が、今後の環境技術開発に関する検討を行っている。
- 12 -
<ドイツ>
廃棄物分野、水分野それぞれについて、海外展開促進に向けた国家的取組みを推進して
いる。廃棄物分野については、ドイツが有する高度なリサイクル及び廃棄物処理技術を世
界各国の関連市場に提供し、世界の廃棄物管理水準の向上に貢献することを目的として
「RETech Initiative」を立ち上げている。ここでは、ドイツの貿易振興関連機関(BDE、
bvse、VDMA)や他の機関(BMU、DGAW、UBA)を連携させて、海外の現地企業・政府機関か
らのファースト・コンタクトの場を提供している。
水については、国内水事業を一つの統一ブランドのもとに結集させ、国際水市場に進出
することを狙いとして「German
3.1.3
Water
Partnership」を 2008 年 5 月にスタートさせた。
主な質疑応答
質問:自治体における復興に向けた動きは実質的な部分に移ってきている。原子力事故対
策からスタートし、その次に再生可能エネルギーの話題に移っていくのか。
回答:イメージ的には、災害廃棄物処理、除染の後に、再生可能エネルギーの順。再生可
能エネルギーについては、各自治体が復興計画に書き込んでいるが実質的に導入さ
れるのは来年度以降か。廃棄物処理について市町村レベルで手に負えない場合には
県が主導しているため、再生可能エネルギーを含めた復興計画でも県が主導するケ
ースがあるのでは。また、国土交通省主導でコンサル事業者が自治体における復興
計画策定を支援しながら進めているケースも多い。
質問:阪神大震災の際にはもっと迅速に復興が進んだ印象があるが、今回と何が違うか。
回答:阪神大震災の際はバブル期で国も資金が豊富だった。また、今回の被害規模は原子
力発電所の問題も含め、阪神大震災に比べて非常に大きい。
質問:除染したとしても放射性物質は消えない。実際どこに置くのか。
回答:中間貯蔵施設は福島県内に、という話が出ているがまとまっていない。それ以前に
仮置き場もどこも嫌がっている。山林にという地域もあるが、特に市街地では場所
確保が困難。また、震災廃棄物処理については既存の廃棄物処理業界が対応してい
るが、除染については既存の業界がほとんど存在せず、適正な処理が可能な企業を
選定する基準がないのが実態。これまでの放射性物質対策としては、
「原発関連施設
で手袋が少し汚れた」程度の規模レベルを前提にしており、量が桁違いの今回では
全く違う資格制度や指標が必要だろう。
質問:原子力発電施設のメーカーには除染のノウハウはないのか。
回答:これほどの量が、また薄く広く拡散する状況は想定されていなかった。この状況に
ついて知識のある人は誰もいない。原子力の専門家は数が少ないので、土壌汚染・
廃棄物処理の専門家が放射性物質について学び対応するしかないのではないか。
質問:日本の環境技術はレベルが高いと思い込まされていたが、海外から見るとどうか。
回答:ビジネスとしてはあまり強くない上、技術力についても疑問符がついている。局部
- 13 -
的に強いものはあるが、技術力が高いゆえにコストも高いため(PCB 処理が象徴的)
世界で求められているものとは異なる懸念もある。
質問:日本が強いとされるエアソリューションコントロールには何を含むか。
回答:CCS はまだビジネスとしてうまみがない。集塵器や脱煙装置、工場の排煙処理など
が中心ではないか。
質問:海外展開の近道として、現地企業買収の動きはあるか。
回答:海外に出るにはそれが一番手っ取り早い。円高の昨今、海外企業を買うことで海外
でのビジネスを始めるケースも多い。
3.1.4
まとめ
東日本大震災の後、我が国環境ビジネス市場を取り巻く状況は大きく変化している。特
に、再生可能エネルギー、震災廃棄物、除染の各分野についての動きが激しい。再生可能
エネルギーについては、これまでも事業化に向けた取組みが行われてきたが、震災後の電
力不足や原子力発電に対する懸念拡大等を受けて、検討が急加速している。そのため従来
の想定より大幅に早いスピードでの再生可能エネルギー導入が進められているが、健全な
市場創出のためには、技術的な成熟と信頼性の確保、関係事業者の Win-Win が成立するビ
ジネスモデル構築、メンテナンスや廃棄時への配慮等、充分な検討を行う必要があるので
はないか。また、除染については、これまでに経験したことのない事業分野であることに
加え、失敗の許されない分野であることから、行政主導による事業内容の決定や、事業者
選定基準等を明示していく必要があろう。
一方、世界の環境ビジネス市場は拡大を続けており、特にアジア市場の拡大は目覚まし
い。多くの日本企業がアジア市場展開を目指してはいるが、装置売りならば事例はあるも
のの、継続的に利益を獲得できるビジネスモデル構築には難渋しているのが実態である。
他方、欧州や韓国では、行政による環境産業海外展開支援が手厚く、積極的な展開が進め
られている。今後、拡大確実な世界の環境ビジネス市場において、激化する国際競争に打
ち勝っていくためには、官民ともに大胆な展開戦略が求められるのではないか。
日本の環境関連行政や環境ビジネス産業は現在、国内市場では震災復興対応、海外市場
では国際競争での勝利と、国内外両面への対応が求められている。両市場パラレルに対応
するのではなく、震災復興対応としての環境都市構築に係るノウハウを、海外市場展開で
活用していくなど、両者の取組みを統合したビジネス戦略を検討することも考えられるの
ではないか。
- 14 -
3.2
3.2.1
スマートコミュニティ事業の海外展開
講演の概要
(1)講演日時:2011 年 11 月 30 日(水)15:00~17:00
先導技術講演会
(2)講師:独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
スマートコミュニティ部長
高倉秀和氏
(3)講演題名:スマートコミュニティ事業の海外展開について
3.2.2
講演内容
(1)スマートコミュニティとは
未来の快適で安全な社会、豊かな世界を目指し、二酸化炭素削減、再生可能エネルギー
大量導入、公共サービスの多様化等に対応した新たな社会システムを構築するためには、
電力系統の再生可能エネルギー大量導入に対する親和性を拡大し、多様な公共サービスと
のコミュニケーションや多様な需要家のニーズに応えるサービスを確立するとともに、災
害等の国内有事にも強いエネルギー供給体制を構築することが重要な課題である。
そのためには、情報通信技術を用い、供給側のみならず需要側をも取り込んで、エネル
ギーや多様なサービスの流れを効率的に制御するスマートグリッドが解決の鍵である。最
近の新聞紙上においても、スマートグリッドは災害対策、省エネルギーに有効との記事が
掲載されるようになっている。また、エネルギーなどの有効利用のため、需要家の視点を
踏まえ、電力だけでなく、熱エネルギーや他インフラの有効利用、社会システムも含めた
スマートコミュニティの構築が必要である。
現在、日本は既に世界に類を見ない強固なエネルギー供給ネットワークを構築しており、
その強固なネットワークと需要家側の行動の協調を取りつつ、IT 技術を活用し、より便利
な、より信頼性の高い、よりクリーンな社会システムの構築が、我が国のスマートコミュ
ニティの目指す方向である。
(2)近年の各国の状況
①米国の状況
米国のスマートグリッド構築への動きは、2001 年のカリフォルニア電力危機や、2003
年の北米大停電などを契機として始まり、再生可能エネルギー促進や電気の利用効率化へ
のニーズにより加速された。米国では、需要増に対して、発電所・送電設備などのインフ
ラ整備が不十分であるため、電力需要の大きい時期に、さまざまな手段で需要家の電力使
用量を抑制し、電力供給インフラの不足をスマート化で補うことが主目的である。
したがって、電力価格と電気の使用量を表示するメーター表示に需要家が反応して、電
力価格が高くなる高需要期に、需要を抑制する方策が有効である。そのために、電気の周
波数(供給力不足時に低下)の低下に応じて、家電(冷蔵庫、エアコンなど)製品の消費
電力を抑制する技術などが開発の対象となっている。
また、グリーン・ニューディール政策の推進において、温暖化ガス排出削減、再生可能
エネルギーの電力比率の向上(2025 年までに 25%)、プラグインハイブリッドカーの普及
促進とともに、スマートグリッドの構築が掲げられており、送電網増強やスマートメータ
- 15 -
ーの設置(4,000 万個)がその具体的目標となっている。
②欧州の状況
欧州では、スマートグリッド構築への動きは、風力など再生可能エネルギーによる分散
型電源の大量導入を契機として始まり、2006 年の欧州広域停電により加速された。
各国・各地域のネットワークが複雑にメッシュ化しており、最近の電力自由化に伴う広
域的な電力取引の増加と、予測困難な風力発電などの分散形電源の増加により、ネットワ
ーク内の電気の流れの調整が難しくなっており、ネットワーク内の混雑も頻繁に発生して
いる。
特に、風況により出力が大きく変動する風力発電などが、電力供給システムの信頼性に
与える悪影響が懸念されることから、その対策として分散型電源の出力状態を把握・予測
し、分散型電源の調整(抑制)を行う技術としてスマートグリッドへのニーズがある。
図 3.2.1 スマートグリッドに関する主要国・地域の取組状況
(3)NEDO のこれまでの実証研究
NEDO では、新エネルギー技術の開発とともに新エネルギー導入時の需要家側での系統連
系対策技術の開発・実証を継続的に実施しており、現在は海外を中心にスマートコミュニ
ティ構築に向け更なる実証を展開している。当該実証終了後、いくつかの施設では、図ら
ずも今回の東日本大震災によりその技術の有効性が確認された。
例えば、新電力ネットワークシステム実証研究 品質別電力供給システム実証研究(2004
-2007)で実証した設備(ガスエンジン、燃料電池、太陽電池等)は、事業終了後、東北福
祉大学せんだんホスピタルの常用型バックアップ電源として、350kW×2 機のガスエンジン
- 16 -
及び 50kW×2 機の PV を継続的に活用していたが、今般の東日本大震災において、現地の都
市ガス(中圧ガス配管)が破損せずガス供給が継続されたことから、宮城県内において全
域停電の中、一定期間、電力供給を継続することができた。
図 3.2.2 スマートコミュニティ(スマートグリッド)実現に向けたこれまでの取組み
(4)スマートコミュニティ・アライアンス
日本の優れた技術をパッケージ化し、海外市場へ展開するために、業界の垣根を越えて
経済界全体としての活動を企画・推進するとともに、国際展開にあたっての行政ニーズの
集約、障害や問題の克服等を通じて、官民一体となった国内体制を強化することを主な目
的として、2010 年 4 月にスマートコミュニティ・アライアンスが発足した。会員は、2011
年 10 月現在で 699 社となっている。
スマートコミュニティ・アライアンスでは、日本の優れたスマートコミュニティ関連技
術を海外に展開するため、国際戦略 WG、国際標準化 WG、ロードマップ WG、スマートハウ
ス WG において詳細な検討を実施している。特に、国際戦略 WG においては、各国関連機関
との協力関係を構築し、ネットワークを広げた。また、国際標準化 WG においては、重要
26 アイテムの国際標準化検討を実施している。
(5)NEDO の現在の実証研究
現在、我が国にとってインフラシステム輸出市場の獲得のチャンスであるが、単体機器
の輸出だけでは新興国との価格競争に陥り、せっかく日本が開発した技術分野であっても、
いずれ中国、韓国等に市場を奪われる懸念がある。そこで、世界の多様な国・地域ごとの
ニーズに対して我が国の技術を最適化(ローカライズ)し、インフラシステムのパッケー
ジとして海外へ展開することで差別化を図る必要がある。 そのためには、海外で実証事業
を展開し、実証事業から得られた成果を国際標準化の獲得に向けてフィードバックすると
- 17 -
ともに、当該技術の海外での有効性を示し、もって国際展開に有利な諸条件を整備する必
要がある。したがって、ビジネスモデルの成立をも念頭に置いた実証事業を対象とし、海
外実証において日本の技術のショーケース化を図り、輸出促進に寄与するとともに、日本
国内では実証困難な技術システムを実証することとし、現地企業・国研等の協力を得て高
い品質のデータを収集し、国際標準化の推進に貢献することを狙いとして、以下のような
海外実証を積極的に推進している。
①アルバカーキ(米国ニューメキシコ州)
米国エネルギー省(DOE)傘下のロスアラモス国立研究所及びサンディア国立研究所と
の共同研究として実施しており、住宅地域のマイクログリッドにおいて、高速 PLC を使っ
て家庭の外の配電系統と協調制御する連系技術を確立するとともに、スマート家電・スマ
ートメーターを実証し、リアルタイム電気料金情報を最大限活用する住宅 EMS(どの頻度
レベルでのリアルタイム料金設定が最も消費者行動を促すのか等)を実証する。
図 3.2.3 米国 ニューメキシコ州アルバカーキ市におけるスマートグリッド実証
- 18 -
図 3.2.4 米国 ニューメキシコ州アルバカーキ市における商業地域スマートグリッド実証
また、系統側からの要求に基づき、大規模商業施設に設置された分散電源を制御するた
めの技術を確立し、アルバカーキの商業施設で実証する高い信頼性を有するマイクログリ
ッドの構築を図る。
②リヨン(フランス)
都市再開発地域内の地域全体のマネジメント及びエネルギー消費監査によるエネルギ
ー需要のコントロールを実証課題として次の四つのタスクに取り組んでいる。
・P-plot ビルと称される新設予定ビルを対象に BEMS 及びビル内需要設備の導入、運転
管理、省エネルギーの実証を行う。
・EV 充電課金管理システム、PV 遠隔管理システムなどの情報システム構築・実証
・都市再開発地域内でのエネルギー消費監査
・コミュニティ全体のエネルギーマネジメントシステムの実証
- 19 -
図 3.2.5 フランスのリヨン再開発地域におけるスマートコミュニティ実証事業
③マラガ(スペイン)
200 台の電気自動車(EV)を系統に与える影響を可能な限り排除し、インフラ投資を抑
制するための EV 及び充電設備の運用に関する実証が中心で、将来的にはパートナーのスペ
イン側企業と、スペイン語圏である中南米市場への共同展開を狙っている。主な実証課題
は次の通り。
・電気自動車、充電設備をネットワーク化し、統括管理するシステムを構築する。
・急速充電器配置シミュレーション、系統モデル型配電自動化システム、統合デマンド
サイドマネジメントによる電力システムを構築する。
・統合 ICT 基盤を活用し、CEMS との適用評価と実証を行う。
・EV 管理センタに集まる多様な情報を元に、ユーザーにとって有用な情報を提供し、
その対価を得るビジネスモデルを開発する。
- 20 -
図 3.2.6 スペインのマラガにおけるスマートコミュニティ実 証事 業(イメージ図)
④ハワイ(米国)
ハワイは、島嶼地域で電気料金が 30 円/kW と高い。現在、変動の大きな風力発電が 30MW
であるが、これを 70MW と全体電力の 1/4 に持っていく計画であり、島嶼地域特有の脆弱な
系統でのスマートグリッド及び配電システムのスマート化技術を実証する。
図 3.2.7 ハワイにおけるスマートコミュニティ実証事業
⑤共青城市(中国江西省)
共青城市は、中国共産党の幹部を輩出する中国共産党青年団の発祥の地である。都市化
- 21 -
の進展に伴って、人口増加が想定される内陸部の都市(江西省・共青城市)において、同
市や国家電網などとも共同し、経済成長と低炭素化の両立と、都市の変化に柔軟に対応で
きるスマートコミュニティの中小都市向け先進的モデルの確立を目指す。
図 3.2.8 中国 ・共青城 市(江西省)におけるスマートコミュニティ実証
⑥その他の国・地域
マレーシア、インドネシア、インド、モロッコ、チュニジア、南米を海外実証の対象候
補としている。
3.2.3
主な質疑応答
質問:国際標準化の推進状況は。
回答:スマートコミュニティ・アライアンスの国際標準化 WG が担当しており、米国及び欧
州との協力の枠組みを中心に重要 26 アイテムについて検討している。
質問:スマートコミュニティとスマートハウスの関係は。
回答:もともとスマートハウスの検討を行っていたグループを、WG としてスマートコミュ
ニティ・アライアンスの中に取り込んだ。
質問:NEDO が補助する実証事業の対象は。
回答:民間が事業としてできないもの、国内では規制等がありできないものなどが対象で
ある。したがって、海外においては一定のインフラがある先進国との共同プロジェ
クトが先行している。一方、途上国ではインフラそのものが無いので、ここでは一
括での実証事業もありうる。
質問:実証を踏まえて抽出されたボトルネック技術は。
- 22 -
回答:太陽光発電におけるコストダウン、蓄電池における安全性確保とコストダウンなど
要素レベルでの課題はそれぞれにある。特に、力を入れているのは蓄電池の開発で、
大容量のものができるとこれまでのシナリオが変わる。kW/kg 級、20 年メンテフリ
ー、単に革新的なものなどで、現在は京都大学中心で進めている。また、スマート
グリッドに適用可能な技術を認証して欲しいというニーズがあれば関係機関に働き
かけていきたい。
質問:NEDO はいつまで補助事業をやるのか。使うのは大企業ばかりになっているが。
回答:国内実証は NEDO でなく経済産業省が直轄で実施している。技術開発については継続
しており、蓄電池を重点とした系統円滑化蓄電システムの開発等を進めている。
また、大企業ばかりでなく中小企業や中小コミュニティなど多くの企業・地域に参画
してもらう仕組みについても、公募ということで中小企業の参加を前提とする制度
は組みづらいが、今後の検討課題である。
質問:今後事業として確立していくためには、魅力的な投資対象として投資家の目に映る
ようにしないとならないが。
回答:ビジネスモデルとしてはほとんど確立されていないと言ってよい。スマートシティ
のように都市開発と一体化したビジネスを目論むものもあるが、本日の議論とは質
的に異なる。北アフリカが計画しているような、余剰電力を電力料金の高い欧州に
売るなどのビジネスモデルがあるかもしれない。
例えばハワイのプロジェクトには日本の金融機関が参加しており、離島の高い電力
料金をもとに様々な電気自動車に係るビジネスモデルを検討している。また、マレ
ーシアでも同様に日本の金融機関が参加し資金調達モデルを検討している。
質問:東日本大震災における対応については。
回答:仙台の実証研究でガスエンジンを使用したマイクログリッドの有効性が確認された。
また、第三次補正予算においては、被災地を対象としたスマートグリッドの導入調
査予算が国において執行される予定。
3.2.4
まとめ
スマートコミュニティの海外展開では、これまでの要素技術開発に加えて、情報通信技
術、新エネルギー・省エネルギー技術、エネルギー貯蔵技術など様々な分野を横断的に融
合させて、一つのパッケージとして展開していくことが必要である。
スマートコミュニティの形は、政治・経済・産業の状況、そこで暮らす人々のライフス
タイルや文化、地理・気象条件など、国・地域ごとに多種多様であり、特性に合わせた実
証が重要であり、国内外で様々な形での実証が更に推進される必要がある。
また、スマートコミュニティ・アライアンスを中心として、情報・通信、電気機器、電
力・ガス、自動車、建設、商社、自治体、大学等の関係団体間での連携を強めて、海外へ
展開していくことが期待されている。
- 23 -
3.3
ス マ ー ト シ テ ィ の 動 向 ( Smarter Planet の 目 指 す 世 界 )
3.3.1
講演の概要
( 1) 実 施 日 時 : 2011 年 6 月 22 日 ( 水 ) 15: 00~ 18: 00
( 2) 講 師
:日本アイ・ビー・エム株式会社
執行役員
岩野和生氏(スマーター・シティー技術戦略担当)
( 3) 講 演 題 名 : Smarter Planet の 目 指 す 世 界
3.3.2
講演の内容
IBM が 何 故 Smarter Planet/Smart City Project を 進 め る の か 、 ま た 世 界 各 地 で IBM が
取り組んでいるその事例と課題、また今後の方向性を紹介した。
( 1) Smarter Planet 提 唱 の 背 景
ICT 技 術 の 発 達 で 、 森 羅 万 象 と い っ て も 良 い ほ ど 、 あ ら ゆ る 情 報 が 収 集 で き る よ う に な
っ た 。 例 え ば 世 界 中 で 、 RFID タ グ は 300 億 個 、 カ メ ラ 内 蔵 携 帯 電 話 は 10 億 台 以 上 が 普 及
し 、一 人 平 均 あ た り 150 個 の デ バ イ ス が イ ン タ ー ネ ッ ト に 接 続 さ れ て い る( 図 3.3.1 参 照 )。
情 報 量 を 見 て も 、全 米 の 図 書 館 蔵 書 情 報 量 の 8 倍 に あ た る 約 15 ペ タ バ イ ト が 毎 日 増 え 、処
理 側 も 人 間 の 計 算 能 力 を 超 え る 20 ペ タ フ ロ ッ プ ス を 処 理 で き る よ う に な っ た ( 図 3.3.2
参 照 )。
図 3.3.1
情報収集デバイスの増加
図 3.3.2
情報量の増加
その一方で、このような膨大かつ複雑な情報の活用は十分とはいえない。日々刻々と変
わる変化に対応する必要や、将来の予測の精度も改善の余地がある。
IBM は IT で の 経 験 を 活 か し た 事 業 の 拡 大 と し て 、Smarter Planet を 提 唱 。現 在 の ロ ジ ス
テ ィ ッ ク ス 、 食 料 、 ICT イ ン フ ラ 等 に お け る 地 球 規 模 の 課 題 ( 図 3.3.3 参 照 ) の 効 率 を 、
物理インフラとデジタルインフラを一体化させ、その上で高度な情報処理を行うことで解
決 す る こ と を 目 指 し て い る( 図 3.3.4 参 照 )。IBM は 情 報 処 理 の 分 野 で は 、非 定 型 デ ー タ や
メタデータの処理技術や、データを溜めないでリアルタイムで処理していくストリームコ
ンピューティングに長けている。
そ の 実 力 は 米 国 有 名 な ク イ ズ 番 組 で 、 最 近 IBM の ス タ ン ド ア ロ ー ン の コ ン ピ ュ ー タ
- 24 -
「 Watson」 が 優 勝 し た こ と で も 知 ら れ て い る 。
図 3.3.3
現状の非効率性からくる課題
図 3.3.4
Smarter Planet の 目 指 す 方 向
( 2) Smarter Planet の 進 め 方
Smarter Planet の 進 め 方 と し て 、 ま ず ハ ー ド 層 か ら ア プ リ ケ ー シ ョ ン 層 ま で の 5 層 構 造
のアーキテクチャを作成し、それらの層間のインターフェイス及びバスを決める。このイ
ン タ ー フ ェ イ ス を プ ラ ッ ト フ ォ ー ム 化 し 、 こ れ に IBM が 用 意 す る ミ ド ル ウ エ ア や 処 理 プ ロ
セスモジュール等を、外部からのそれぞれの領域での得意な技術・サービスを持つパート
ナ ー と も 連 携 し な が ら 、 付 け 加 え て い く こ と に よ り シ ス テ ム を 実 現 す る 。 IBM は 内 外 の 状
況に応じてダイナミックに適正化するオートノミックコンピューティングなどのサービス
マネージメントにも特長を有している。
また、様々なニーズに対応できるように、サービスのコンポーネント化が重要で、それ
に応じて自治体等運営側の組織もコンポーネント化する必要があるとのこと。
( 3) Smarter Planet の 例
① ガルウエイ湾(アイルランド)
ストリームコンピューティングを適用し、湾全域に設置したセンサーネットワークから
の潮汐流・波高・温度・植物性プランクトン等の情報を、海上保安・運輸・養殖・観光等
に 利 用 ( 図 3.3.5 参 照 )。
② マートグリッド(マルタ共和国)
盗電・盗水の多発や、非効率な発電システムといった課題を解決。スマートメータや海
水 淡 水 化 の 普 及 も 手 が け る ( 図 3.3.6 参 照 )。
- 25 -
図 3.3.5
Smarter Planet 例 ( ア イ ル ラ ン ド )
図 3.3.6
Smarter Planet 例 ( マ ル タ 共 和 国 )
他にも、米国ハドソン川でのセンサーネットワークからの生物・物理・科学的データを
時空的 4 次元で理解する河川エコシステム連結モデルの例や、デンマークでの電気自動車
を中心としたスマートグリッド構築例を紹介。
( 4) Smarter Cities
社 会 イ ン フ ラ の 効 率 化 を 目 指 す Smarter Planet を 発 展 さ せ 、都 市 が 持 つ 特 有 の 課 題( 人
口 増 加 、 高 齢 化 、 減 少 す る 税 収 )( 図 3.3.7 参 照 ) の 解 決 を 目 指 す Smarter Cities に も 取
り 組 ん で い る ( 図 3.3.8 参 照 )。 物 理 イ ン フ ラ の 寿 命 は 40~ 50 年 と も 言 わ れ 、 日 本 の 多 く
の都市の物理インフラもこの時期に入る。
図 3.3.7
都市の持つ課題
図 3.3.8
Smarter Cities の 目 指 す 方 向
Smarter Cities を 進 め る 上 で 重 要 な こ と は 、 ① 設 計 者 と 住 民 ・ 自 治 体 と が 価 値 観 ・ ロ ー
ド マ ッ プ を 共 有 す る こ と 、 ② ROI(Return on Investment)の 明 確 化 、 の 2 点 で あ る 。
( 5) Smarter Cities の 例
① コーパスクリスティ市(米テキサス州)
ガス漏れ、排水処理サービス、公園管理、交通管理等に関して、コスト及びサービスを
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改 善 ( 図 3.3.9 参 照 )。 排 水 コ ス ト は 十 数 % 改 善 し た と の こ と 。
② マドリッド市(スペイン)
消 防 ・ 警 察 ・ 救 急 ・ 交 通 の 組 織 ・ 人 員 配 置 を 見 直 し 、 初 動 対 応 時 間 を 30% 、 犯 罪 を 15%
改 善 ( 図 3.3.10 参 照 )。 同 様 例 と し て 、 全 米 高 犯 罪 ラ ン キ ン グ 5 位 だ っ た 米 バ ー ジ ニ ア 州
リ ッ チ モ ン ド 市 で 犯 罪 リ ス ク 予 測 と 、犯 罪 発 生 と 警 官 配 置 の 相 関 分 析 か ら 、配 置 を 見 直 し 、
そ の 結 果 犯 罪 を 激 減 さ せ 、 ラ ン キ ン グ を 99 位 ま で 下 げ た 例 を 紹 介 。
図 3.3.9
Smarter Cities 例 ( コーパスクリスティ市 )
図 3.3.10
Smarter Cities 例 ( マ ド リ ッ ド 市 )
③ シンガポール
乗 客 の 行 動 パ タ ー ン の 把 握 及 び 予 測 、そ れ に 合 わ せ た 経 路 最 適 化・動 的 な 時 刻 表 作 成 で 、
交 通 遺 失 利 益 を 80% 削 減 ( 図 3.3.11)。 類 似 例 と し て 、 ス ウ ェ ー デ ン ・ ス ト ッ ク ホ ル ム 市
で も 市 内 流 入 自 動 車 へ の 時 間 帯 別 課 金( ダ イ ナ ミ ッ ク プ ラ イ シ ン グ )で 交 通 量 を 25% 削 減
し た 結 果 市 内 の 小 売 店 の 売 上 げ が 6% 増 加 し た 例 や 、 ロ ン ド ン の 混 雑 課 金 制 度 も 紹 介 。
④ 米カリフォルニア州アラメダ郡
医 療 従 事 者 の 交 代 時 の 引 継 ぎ レ ポ ー ト 業 務 効 率 化 や 、ケ ア プ ラ ン の 最 適 化 で ROI631% を
実 現 ( 図 3.3.12 参 照 )。
図 3.3.11
Smarter Cities 例 ( シ ン ガ ポ ー ル )
図 3.3.12
- 27 -
Smarter Cities 例 ( 米 ア ラ メ ダ 郡 )
⑤ 北九州市
北九州市や新日本製鐵株式会社や富士電機株式会社らと組んで北九州市スマートコミュ
ニ テ ィ を 開 発 。製 鉄 所 の 余 剰 エ ネ ル ギ ー 利 用 等 、エ ネ ル ギ ー の 効 率 利 用 で CO 2 を 2014 年 ま
で に 2005 年 比 で 半 減 を 目 指 す ( 図 3.3.13 参 照 )。
図 3.3.13
Smarter Cities 例 ( 北 九 州 市 )
( 6) Smarter Cities の 今 後 の 方 向 と 課 題
米 NIST( National Institute of Standards and Technology、 標 準 技 術 局 ) が サ ー ビ ス
プ ロ グ ラ ム の 標 準 化 を 目 指 し て い る 。 Smarter Cities で も 今 後 は 迅 速 に 対 応 で き 、 か つ 連
携やメンテナンスも容易となる世界共通のミドルウエアが必要。またスマートシティに全
て の 事 象 を 統 合 的 に 把 握 で き る ユ ー ザ ー イ ン タ ー フ ェ イ ス も 重 要 で 、 IBM で は 統 合 オ ペ レ
ー シ ョ ン シ ス テ ム も 開 発 し た ( 図 3.3.14 参 照 )。
課題は上述した価値観共有と合意形成である。狙いやアーキテクチャを説明しても、多
く の 場 合 、当 た り 前 の こ と と 受 け と ら れ 進 ま な い 場 合 が 多 い 。ス マ ー ト シ テ ィ の 実 現 に は 、
現在ある多くの独立した個々のシステムを総合的につなげるという、それ自体が大変なこ
と で あ る ( 図 3.3.15 参 照 )。
図 3.3.14
Smarter Cities の 統 合 画 面 例
図 3.3.15
Smarter Cities 成 功 へ の 道
その実現には、全体プロジェクトを推進するリーダが必要となる。日本ではそのリーダ
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が育っていないし、育成のプログラムがない。
現状、スマートシティ実現に向けた技術・コンポーネントは揃っており、今後の不連続
の時代における新サービスとその享受の機会が生まれており、ビジョンとそれを共有勝者
連 合 の 形 成 の チ ャ ン ス で あ り 、 IBM と 一 緒 に チ ー ム を 組 ん で 進 め た い 。
3.3.3
主な質疑応答内容
質 問:大 き く 複 雑 な シ ス テ ム の 場 合 、キ ー の シ ス テ ム が 分 散 し て い る 。ど う ま と め る の か 。
回答:各モジュールをコンポーネント化(課金、見える化等)するのが基本。適度なサイ
ズのコンポーネント化。各モジュールは組み合わせることができる。
ビルにおけるインターフェイスの標準化が進んでいる。送配電、サービスプロバイ
ダなど物理的な部分とサービスをどう結び付けるかに取り組んでいる。
質問:リスクへの対応は誰が行うのか。
回 答:2000 年 ご ろ か ら IT リ ス ク 対 応 に つ い て の 研 究 が 進 ん だ 。IBM が 提 唱 し た の が オ ー ト
ノ ミ ッ ク コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ ( Autonomic Computing)。 予 測 不 可 能 な 事 態 に 対 し て
サービスを瞬断なく継続させるのが狙い。業界で標準化されたセンサー、エフェク
ター、情報分析して影響を与える仕組みを付与した各エレメント、更に人間がどの
部 分 に 入 る べ き か も 含 め た デ ザ イ ン の Maturity Model が か な り 確 立 さ れ て い る 。
IT レ ベ ル と 物 理 レ ベ ル を 融 合 さ せ て い く こ と が 重 要 。
質 問 : 社 会 シ ス テ ム は 、 約 束 す る も の と ROI と の 差 を 埋 め な け れ ば な ら な い が 非 常 に ハ ー
ドルが高い。社会システムの設計ロジックの合意を得る工夫は。
回答:自治体も社会も成功例に見習おうとする。米国のニューヨーク市の
plaNYC(http://www.nyc.gov/html/planyc2030/html/home/home.shtml)の よ う に 目
標と毎年のプログレスレポートを公開し共有するなどの努力を行っている。日本に
はマスタープランナーがあまりいない。絵までは描けるが。ビジョンとロードマッ
プまでつなげる人材が不足。今回の復興でもこのような点が大いに重要になるだろ
う。
質問:都市ができることにより消費に変化はあるのか。
回答:価値観は我々が押し付けるわけではない、皆で議論しどのような社会をつくれるの
か。モノ、情報あらゆるものの動きが管理できるようになれば大規模なイノベーシ
ョンを興せるだろう。素材自身にトレーサビリティ機能を持たせることもできるだ
ろう。
100 年 1000 年 単 位 で 考 え る と 、 復 旧 、 復 興 、 CPS( Cyber Physical Systems) の 観
点 と 技 術 革 新 に よ る 社 会 デ ザ イ ン を ど う 織 り 込 ん で い く か で 目 指 す 世 界 は IT だ け
の世界ではない。
質問:スマートシティは個々の独立したシステムが各省庁にまたがっている。
回答:一つのシステムをつくるのか、連携するかは、新たに都市をつくるのか、既存のと
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ころから作るのかによって自由にできるようにデザインする。
企業システムはマネージャーの上にマネージャーがいるのが一番コントロールし
やすいが、スマータープラネットではコンポーネントそれぞれが動いていてある目
的 の と き に 集 ま る ( フ ェ デ レ ー テ ッ ド ・ シ ス テ ム )。 外 部 に レ ポ ー ト を 出 し 、 影 響
を受けた時にコントロールできるようにインターフェイスをしっかりしておく。
質問:縦割りになっている組織をうまくシステムに盛り込む、価値観を共有する方法は難
しいだろう。加えて国・地域によって標準化が乗らないケースもあるか。
回答:政府は構造化しているが、そこに乗るコンポーネントは各設計会社で全部異なる。
大きな箱は同じだが箱の切り方、中身が違う。価値観やロードマップを共有化し、
現 実 の プ ロ ジ ェ ク ト は 、 き ち ん と ROI や 既 存 シ ス テ ム と の 整 合 性 な ど を 考 え 、 全 体
のアーキテクチャとの将来における位置づけを行っていくことが大事だと考える。
- 30 -
3.4
環境都市開発の動向(中国国家プロジェクト
3.4.1
講演の概要
(1)講演日時:2011 年 7 月 19 日(火)16:30~18:00
(2)講師:株式会社日本総合研究所
(3)講演題名:中国国家プロジェクト
3.4.2
天津エコシティ)
執行役員
研究産業技術懇談会
創発戦略センター所長
井熊均氏
天津エコシティ構想について
講演内容
海外での事例として、日本総研の中国での取組み事例を中国の産業動向を踏まえて紹介
された。
(1)中国の環境産業
①ポスト京都に向けた温室効果ガス削減目標
ポスト京都に向けた枠組みについて、条約としての合意は難航しているものの、日本は
1990 年比▲25%を、また中国でも GDP 当たりのエネルギー消費量 2005 年比▲40~45%を
掲げている。
②新興国の資源制約
新興国では資源の制約のため、中国は既に 1990 年代前半からエネルギー輸入国に立場
を変えている。今後も成長を維持する上でエネルギー効率の向上は至上命題と言える。二
酸化炭素の排出量は既に新興国が世界の中心であり、地球温暖化問題でも新興国の成長と
排出抑制のバランスが重要テーマとなっている。
③太陽電池の勢力図
2005 年時点での太陽電池生産量は、シャープをトップに、日独メーカーで過半を占めて
いた。しかし、2009 年になると、メーカー国別のシェアで中国勢が約 2 割と最も大きく、
次いで米国、日本が続く勢力図となっている。
④中国の太陽電池ベンチャービジネス
太陽電池のベンチャーとして、無錫尚徳(Suntech Power Holdings Co., Ltd.)は 2005
年 12 月にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場したのを筆頭に、NYSE と NASDAQ には 8
社の中国企業が上場を果たしている。
⑤風力発電事業の勢力図
一方、風力発電事業について 2008 年までの累計でみると、トップはデンマークの VESTAS
であり、5 位までを欧米事業者が占めている。2009 年単年でのシェアでは 1 位、2 位に変
わりはないものの、3 位に中国の SINOVEL が食い込み、10 位までに 3 社の中国勢が台頭し
ている。
⑥中国の省エネルギー産業の成長性
以上の太陽電池、風力発電のように、中国の省エネルギー産業は順調に伸びている。省
- 31 -
エネルギービジネスとして括ってみると、直近 2 年間はやや成長が鈍化しているものの、
それでも 20%超レベルを保っている。
(2)中国の環境都市
①環境都市の勃興
新興国では都市人口の急増により新都市開発が盛んであり、新都市開発に絡んで交通基
盤などのインフラ整備も進んでいる。新都市開発に世界的な環境指向、資源制約への対応、
新技術への関心の高さなどが加わり、環境都市が顕在化しているというのが全体的な潮流
と認識している。中でも中国では、天津で大規模な環境都市が国家級プロジェクトとして
進んでいる。天津以外にも 200 以上のプロジェクトが存在する。環境都市には最先端の技
術が投入され、国際的な環境・インフラ市場になる可能性を秘めている。
②環境都市の波及効果
環境都市を構築する取組みは、波及効果として、以下のような多様な分野が見込まれる。
・低環境負荷の破棄物処理(例:ゴミ真空輸送システム)
・広域の公共交通網整備(例:LTR)
・建築等の政策(例:グリーンビル建築)
・広域の水システム(例:雨水再利用システム)
・省エネ・再エネ等環境政策(例:高効率なヒートポンプの導入)
③都市への人口移動
こうした取組みも手伝って、中国では都市化人口が既に 5 割近くに達している。なおか
つ、現在でも毎年、人口の 1%弱が都市に移動しており、この移動は当分の間続くと推量
されている。経済成長に伴い、都市部と農村部の格差は拡大しているが、都市化政策は格
差抑制とサービス産業の基盤作りなどとして位置づけられている。
●天津での事例
「中新天津生態域(SINI-SINGAPORE TIANJIN ECO-CITI)」と銘打ち、天津濱海新区内の
TEDA(開発区)北側に面する約 30km 2 の立地である。国務院レベルで進められている中国
初で最大規模の環境都市開発事業である。蘇州工業園区開発で協働実績を持つシンガポー
ルが開発パートナーとなり、両国政府の主導の下で開発されている。
中国政府、自治体当局の組織と、シンガポール側投資連合体、中国側投資連合体の下、
四つの実施企業が中心となって事業を進めている。開発指標として生態環境、社会調和、
経済成長の各分野にわたって定量的な指標値を掲げている。
<環境都市に導入されるシステム>
環境都市の構築によって導入されるシステムは、分野別に具体的には以下のような例で
ある。
・エネルギーシステム
再生可能エネルギー(太陽光発電、太陽熱、風力、バイオエネルギー、ヒートポンプ、
- 32 -
等)の大量導入等
・上下水道
水リサイクルのための管路敷設。高度排水処理設備の導入等。
・交通システム
低炭素型軌道光通の整備。電気自動車等、低炭素型のバス、自動車の導入等。
・建築設計
高度な省エネルギー、省資源型建築の導入。省エネルギー、省資源型設備、再生可能
エネルギー関連設備の導入等。
・資源循環システム
リサイクル比率の追求。真空配送の導入とゴミ収集車の削減等。
(3)環境都市の意味
環境都市を構築することによる社会を含めた影響、スマートグリッドとの関係を以下に
記す。
①マイクログリッドの形成
環境都市の構築によって、図 3.4.1 のようなマイクログリッドが形成される。すなわち、
系統接続の安定化、再生可能エネルギーの高効率化、多様な需要・供給への対応、モニタ
リング&アドバイス、監視機能等を具体的な機能として、相互に有機的に連携して接続さ
れているシステムである。
図 3.4.1
マイクログリッドの形成
②スマートグリッドとの関係
スマートグリッドは図 3.4.2 のように階層的に捉えることができる。すなわち、上位か
ら順に「広域グリッド」、「マイクログリッド」、「CEMS」、それに「HEMS」、「BEMS」である。
これらグリッドに個別ネットワークとして、コンポーネンツ、要素技術が連なる構造と言
える。最上位の広域グリッドは電力会社が担い、マイクログリッド以下のより小さなグリ
- 33 -
ッドが天津のようなプロジェクトで構築される。
図 3.4.2
スマートグリッドとの関係
③社会システムの発展過程
技術開発と新たなシステムは図 3.4.3 に示すように、相互作用を及ぼし合って発展する。
2000 年代前半のマイクログリッドの時代に始まり、再生可能エネルギー大量導入によるニ
ーズと関連技術の進歩と相まって、今日スマートグリッドへ注目が集まっている、という
現状認識である。
図 3.4.3
④「環境都市
⇒
社会システムの発展過程
ネットワーク・バリュー時代の到来」
⑤ビジネスバリューの重心のネットワークへの移動
環境都市の構築によって実現する社会は、新たなネットワーク・バリューをもたらす時
代の到来を意味する。そこには、当然に新たなビジネスチャンスが発生し、全体としてビ
ジネスバリューの重心がネットワーク関連ビジネスに移動することになる。
⑥ネットワーク時代のビジネスポジション
ビジネスポジションとして、上位から順に「ネットワークオペレーター」、「ネットワー
- 34 -
ク・バリュー・サプライヤー」、「マス・コンテンツ・サプライヤー」、「キラー・コンテン
ツ・サプライヤー」に範疇分けすることができる。(図 3.4.4 参照)。一般に欧米系の電気
会社はどのレイヤーで稼ぐのかスタンスを明確にしているのに対して、日本企業は相対的
には必ずしも明確でない印象が否めない。
図 3.4.4
環 境都市の建設プロセス(主な業務内容)
(4)環境都市の建設プロセス
環境都市の建設、構築プロセスの一般的な流れは図 3.4.5 及び図 3.4.6 のように五つの
フェイズからなる。図 3.4.5 には各フェイズにおける主な業務内容を、また図 3.4.6 には
各フェイズに対応した実施主体を示している。多くの場合、日本企業は上位のフェイズが
得意ではなく、欧米企業との競争で苦戦しているのが実情と言える。これは、日本の場合、
最上位を国や地方自治体が担い、日本企業は日本の公的機関とのやりとりに習熟している
が、外国においてはそのまま適用することが難しい、といった事情があることも影響して
いる。
図 3.4.5
環 境都 市の建設プロセス(主な業務内容)
- 35 -
図 3.4.6
環 境都 市の 建設 プロセス(各フェイズに対応するプレーヤー)
(5)日本の取組み
日本の取組みを考えると、以下の二つの方向性が考えられる。
①二つの選択
◇世界に通じる要素技術を開発する
バイオエネルギー、小水力、熱供給など、地域資源を活かしえる、技術のモジュール
など。また、技術、サービス会社の育成、そのための市場開発を磨く方向である。
◇世界に通じるネットワークを構築する
地域のニーズを踏まえた完結したシステムの構築(地域光通、エネルギーマネジメン
ト、資源環境
等)。更には、官民協働で上述したシステムを運営するための事業体の
立ち上げ、を目指すことである(図 3.4.7 参照)。
- 36 -
図 3.4.7
日本の取組み
②シンガポールのシステム開発
国土が狭く、資源の乏しいシンガポールでのシステム開発の手法は日本の取組みを検討
する上で参考にするべき点がある(図 3.4.8 参照)。
図 3.4.8
シンガポールのシステム開発
③環境都市事業の特徴
日本においては、上流の政策が都市機能に直接影響する傾向が強い。したがって、複数
の機能のインテグレーションが必要となる。また、インフラ等の建設だけでなく、運営の
重要性が高い。
- 37 -
④現状の問題点
現状では、環境都市の開発事業体が環境政策等を具体的な仕様、事業構造に落とし込む
ために充分な知見を有していない。また、専門的な助言、サービス、業務を担う民間事業
者の所掌範囲が分断されている。
したがって、求められる新たな役割として、政策、計画、仕様、事業、それぞれの間の
橋渡し、すなわち Service Integrator が望まれる。
3.4.3
まとめ
ご講演の最後、講師からは「互恵互利」との言葉で、現地にもメリットをもたらす関係
を構築することの重要性が示された。いわゆる「Win-Win の関係」という主旨であろう。
「プロジェクト上流段階への参画が課題で、総合的ソリューションサービスへの対応能
力が必要」との課題が明確に示された。技術実証の後、どのように現地で根付き、最終的
に日本企業への収益として還元できるのか、言わば出口戦略が問われている。
- 38 -
3.5
環境改善技術の海外展開の取組み
3.5.1
講演の概要
( 1) 講 演 日 時 : 2011 年 7 月 20 日 ( 水 ) 15:00~ 17:00
( 2) 講 師 : 清 水 建 設 株 式 会 社
技術研究所
上席マネージャー
山﨑雄介氏
( 3) 講 演 題 名 : 清 水 建 設 に お け る 環 境 改 善 技 術 の 海 外 展 開 へ の 取 組 み
3.5.2
講演内容
清水建設では、我が国の助成制度を活用しながら、海外大学等との環境技術の共同
研究開発を推進しており、その事例を紹介された。
( 1) マ イ ク ロ グ リ ッ ド シ ス テ ム の 共 同 実 証 開 発 ( 中 国 )
①共同研究開発の背景・目的
太陽光発電をはじめとする新エネルギーの将来的な大量導入に備えるために、新エ
ネルギー等を電源とする小規模の電力網(マイクログリッド)において、電力系統と
の連結時及び系統から自立運転した場合でも電圧や周波数等の変動の少ない安定的な
電力供給を行うことが可能な技術が求められている。
現在、我が国でも、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーの大量導入を目指
した実証運転が行われているが、同時にアジア各国で太陽光発電等の自然変動電源を
主体としたマイクログリッドの実証実験を進め、我が国の基準に適合した電圧や周波
数等を実現できるマイクログリッドシステムを構築し展開していくことが、今後、エ
ネ ル ギ ー 消 費 が 拡 大 し て い く ア ジ ア 圏 に お い て 新 エ ネ ル ギ ー の 導 入・普 及 を 図 る 上 で 、
我が国が果たすべき重要な役割と考えられる。
②共同研究開発事業の概要
全 電 源 に 対 す る 太 陽 光 発 電 等 の 自 然 変 動 電 源 容 量 の 割 合 を 高 め た ( 50% 以 上 を 目 安
とする)マイクログリッドで実証研究を行い、日本を含むアジア各国で太陽光発電等
の自然変動電源を主体としたマイクログリッドを安定的に運転できるシステムを構築
し、最終的には我が国の基準に適合した電圧や周波数等を実現する為のシステム構成
や運転方法等の確立を目的としている。
ア.事業名
NEDO 太 陽 光 発 電 シ ス テ ム 等 高 度 化 系 統 連 系 安 定 化 技 術 国 際 共 同 実 証 開 発 事 業 / マ
イ ク ロ グ リ ッ ド 高 度 化 系 統 連 系 安 定 化 シ ス テ ム 実 証 研 究 (PV+補 償 装 置 )
イ.研究内容
太 陽 光 発 電 120kW、デ ィ ー ゼ ル 発 電 120kW、電 気 二 重 層 キ ャ パ シ タ 、二 次 電 池 等 か
ら構成されるマイクログリッドを杭州電子科技大学に設置し、大学構内に供給す
る。
実証研究を通じて、系統連系時及び単独運転時の電力供給の安定性や二次電池及
び電気二重層キャパシタによる負荷変動追従性に関する評価等を行う。
また、マイクログリッド内でより安定的な電力供給を実証するために、電力品
質補償装置及び瞬低補償装置の効果も評価する。
- 39 -
ウ.実施場所:杭州電子科技大学(杭州市内)
杭州電子科技大学は、これまで産業省や浙江省の支援を受けた多くのハイテク
研究計画を実施し、国家科学技術賞、国家発明賞、国家教育業績賞など数々の
表彰を受けている。また、大学は全国の数百の企業と長期の研究関係を維持し
ており、浙江省における高級専門人材養成と科学研究や産業への成果展開の重
要基地となっている。
エ.実施体制
図 3.5.1 参 照 。
図 3.5.1
実証研究の実施体制
③技術移転・事業化等の現地化の進め方
・実証研究の基本検討
・マイクログリッドの設計
・機器類の設計・製作・試験
・ マ イ ク ロ グ リ ッ ド 構 築 ・実 証 実 験 実 施
2007 年 12 月 に 杭 州 電 子 科 技 大 学 構 内 に マ イ ク ロ グ リ ッ ド 実 証 シ ス テ ム の 設 置 を 開
始 し 、 2008 年 9 月 末 に 完 成 し た 。 2008 年 10 月 末 よ り 運 転 を 開 始 し 、 2009 年 9 月 ま で
の 約 一 年 間 の 実 証 運 転 を 共 同 で 行 う ( 図 3.5.2、 図 3.5.3 参 照 )。
その間の系統連系時及び単独運転時の電力供給の安定性や二次電池及び電気二重層
キャパシタによる負荷変動追従性に関するデータが共有され、運転ノウハウが大学側
に蓄積される。今回取り組んだ構成のマイクログリッドシステムが中国内に展開され
る際は、杭州電子科技大学がその推進役となる予定である。
図 3.5.2
システム概要図
3.5.3 制 御 の 実 施 例
(出 典 )清 水 建 設 ホ ー ム ペ ー ジ
- 40 -
④現状の課題と今後の取組みに関する提案
当面、中国がマイクログリッドを設置する際は、日本製の機器・装置を使用するこ
と に な る が 、い ず れ は 中 国 製 の 機 器・装 置 が 開 発 さ れ 市 場 に 供 給 さ れ る と 予 想 さ れ る 。
我が国としては、これらの機器・装置及びその運転ノウハウ等の知的財産の保全を図
りながら、実証運転等の共同研究に取り組む必要がある。
( 2) 壁 面 緑 化 シ ス テ ム の 研 究 開 発 ( シ ン ガ ポ ー ル )
①共同研究開発の背景・目的
シンガポールは積極的に都市緑化を行い、近年は、建物の省エネルギー化を目的と
した屋上緑化が実施されており、主にドイツから技術導入されている。しかし、建物
外壁を緑化するための確立された技術はなかった。
2006 年 に シ ン ガ ポ ー ル で 開 催 さ れ た エ コ プ ロ ダ ク ツ 展 へ 我 が 国 の 壁 面 緑 化 技 術 展 示
が 展 示 し 、 そ こ か ら 我 が 国 の 壁 面 緑 化 技 術 へ の 関 心 が 高 ま っ た ( 図 3.5.4、 図 3.5.5
参 照 )。
建設業にとってアジアは重要な市場の一つであり、日本の環境技術を活かした付加
価値の高い施設の提供が求められている。そこで東南アジア等の熱帯地域における環
境改善技術の一つとして、壁面緑化技術の確立を目指した。
な お シ ン ガ ポ ー ル は 2005 年 に「 グ リ ー ン マ ー ク 」と い う 建 物 の 環 境 性 能 を 評 価 す る
制度を導入し、建物緑化もその重要な要素となっている。
図 3.5.4 壁 面 緑 化 ユ ニ ッ ト の 構 成
図 3.5.5 エ コ プ ロ ダ ク ツ 展 2006 の 展 示
②共同研究開発事業の概要
ア.事業名
シンガポールにおける壁面緑化システムの研究開発
イ.研究内容
「パラビエンタ」という特殊な固化培土を用いたユニット型壁面緑化システム
について、シンガポール及び熱帯地域における適用可能性を検討する。具体的
には壁面緑化に適した植物の選定や維持管理方法の確立、壁面緑化によるヒー
トアイランド現象緩和や省エネルギーの効果などを検証する。
ウ.実施場所
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シ ン ガ ポ ー ル 大 学 お よ び BCA ア カ デ ミ ー (建 設 局 の 教 育 施 設 )
エ.実施体制
技術提供及びシステム改良:清水建設
維持管理および効果の検証:シンガポール大学
大学への研究資金提供
:シンガポール建設局
③技術移転・事業化等の現地化の進め方
技術確立後に、現地造園会社等への技術移転による事業展開を予定している。また
システム材料の供給は日本からの輸出またはライセンス許可による現地生産を検討し
ている。
④現状の課題と今後の取組みに関する提案
常夏のシンガポールでは植物の成長が早く、通常のグランドカバー植物では長期的
に良好な状態へ保持することが難しい。熱帯地域に適した潅水や施肥などの管理手法
の確立や雨水の有効活用方法の検討が必要である。
またアジアでの展開を考えた場合、コストダウン課題であり、現地での生産・供給
体制の確立なども課題である。
なお、エコプロダクツ展等への環境技術の展示は、現地の大学・企業等の共同研究
あるいは事業化に向けたパートナーの開拓に有効であり、我が国の産学官連携による
戦略的な対応を計画し推進することが望まれる。
(3)自然浄化能力を活用した土壌汚染対策技術の開発(タイ)
①共同研究開発の背景・目的
経済発展が急速に進んでいる東アジア地域では、有害廃棄物の不適正管理による汚
染土壌等環境汚染がますます深刻になると考えられる。タイでも企業等に係る環境関
連 の 法 規 制 は 強 化 の 方 向 に あ り 、2000 年 に 地 下 水 環 境 基 準 が 設 定 さ れ 、2004 年 に 土 壌
環境基準が設定された。タイでは、鉱山排水による農用地汚染が顕在化し、タイ政府
は 2004 年 に 約 3 億 円 を 投 資 し て 、汚 染 米 の 回 収 、汚 染 地 区 の 調 査・対 策 を 実 施 し て い
る。これらの地域では、より低コスト・省エネルギー型の浄化手法である、高濃度ス
ポットへの適用が有効な微生物による「バイオレメディエーション技術」、低濃度・
広範囲にわたる汚染に適用できる植物による「ファイトレメディエーション技術」が
期待されている。この市場は東アジア全域と考えられる。
②共同研究開発事業の概要
ア.事業名
NEDO 提 案 公 募 型 開 発 支 援 研 究 協 カ 事 業 「 自 然 浄 化 能 力 を 活 用 し た 土 壌 汚 染 対 策
技術の開発」
イ.研究内容
経済発展に伴いさまざまな汚染問題が顕在化してきているタイにおいて油汚
染土壌を対象とし、植物の浄化能力を活用する汚染土壌浄化技術を開発する。
- 42 -
植物の根に生息する根圏微生物の有機物分解機能に着目した処理技術である。
現地の気象に適した植物を利用して汚染物質を分解除去する浄化方法の実用
化 を 目 指 す ( 図 3.5.6 参 照 ) 。
図 3.5.6
自然浄化能力を活用した土壌汚染対策技術の開発の概要
(出 典 )NEDO ホ ー ム ペ ー ジ
ウ.実施場所
タイ国コンケーン県
エ.実施体制
図 3.5.7 参 照 。
経 済 産 業 省 研究協力事業
NEDO
タイ工業省
アジア工科大学
清水建設
図 3.5.7
コンケーン大学
研究開発の実施体制
③技術移転・事業化等の現地化の進め方
・その地域で影響力を持つカウンターパートとの協力関係を維持
・国内関係省庁及び相手先行政との関係を構築
・役に立つ低コスト・高性能な環境技術を開発し、事業化
④現状の課題と今後の取組みに関する提案
・その地域で影響力を持つカウンターパートとの協力関係を維持
アジア工科大学は国際連携を活発に行っているため、サイトでの学術的経験
を積むことによって、アジア地域への波及効果が期待できる。
・国内関係省庁および相手先行政との関係を構築
今回の提案では、汚染対策の責任官庁であるタイ工業省工場局と連携して、
- 43 -
土壌・地下水汚染対策のモデル事業を実施している。今回の調査・対策まで
の経験を積むことで、タイ政府が自立して土壌・地下水汚染に対処できるこ
と が 期 待 さ れ る 。 日 本 政 府 の 事 業 と し て 実 施 さ れ た VOC 土 壌 ・ 地 下 水 汚 染 ガ
イドラインと補完する内容であり、調査から対策に至る一連の技術移転が成
立する。
・先端技術ではなく、役に立つ低コスト・高性能な環境技術を開発
低コスト・高性能技術が求められている。とりわけ、発展途上国にとって
は、低コスト、低エネルギーの浄化方法が望まれている。
( 4) 難 分 解 性 排 水 ・ 堆 積 物 の オ ゾ ン ・ 微 生 物 処 理 に よ る 合 理 的 分 解 技 術 の 開 発
(ベ ト ナ ム )
①共同研究開発の背景・目的
ベトナムでは工業排水の問題は特に深刻であり、ベトナム資源環境省では排水規制
の見直しと規制強化を進めている。特に、染料などの難分解性の汚染源は今後に残さ
れている大きな課題である。工業団地内にある染色工場でも排水処理は未整備であり
独自に設置する意向はあるもののコストに見合う技術がない。
染色排水は、現在、河川や湖沼に排出されているが、排水中の成分はヘドロ状に水
底に堆積し底質に吸着して、長期間にわたって水域へ影響を及ぼす。こうした産業は
水辺に集中するため、排水は食糧生産の拠点となる平野部を汚染する。こうした地域
で 生 産 さ れ た 食 糧 の 一 部 は 直 接 的 /間 接 的 に 我 が 国 に も 輸 入 さ れ て い る と 考 え ら れ 、排
水の影響は単にベトナム国内にとどまっていないと考えられる。
ベトナムにおける排水処理施設は少ないが、その中では凝集沈殿法や活性汚泥法が
中心となっている。しかしながら、染色排水に含まれる染料はこうした方法では分解
が難しく、排水や堆積物を安価に、確実に処理できる技術が必要とされている。
開発技術は、ベトナム国内の染色工場への適用が大いに期待され、生活排水による
堆積物にも適用可能であるため、ベトナムをはじめ東南アジア諸国だけでなく、工業
先進国での適用も見込める極めて汎用性の高い技術である。
②共同研究開発事業の概要
ア.事業名
NEDO 提 案 公 募 型 開 発 支 援 研 究 協 力 事 業 「 難 分 解 性 排 水 ・ 堆 積 物 の オ ゾ ン ・ 微 生 物
処理による合理的分解技術の開発」
イ.研究内容
日本が保有する産総研で開発されたマイクロバブリングを始めとしたオゾン分解
や炭化材を活用した微生物等による分解技術と、ベトナムの微生物を活用した分
解技術という、両国の優位技術を融合させた廃水処理システムを開発し、ベトナ
ムの水域浄化に寄与する。
具体的には、染色排水や堆積物中に含まれる難分解性成分である染料をオゾンで
一次分解したのち、炭化材に担持させた好気性微生物により無害な物質へと二次
分 解 す る 処 理 技 術 を 確 立 す る ( 図 3.5.8 参 照 ) 。
- 44 -
図 3.5.8
技術開発の概要
(出 典 )NEDO ホ ー ム ペ ー ジ
ウ.実施場所
ベ ト ナ ム 科 学 技 術 ア カ デ ミ ー 及 び 現 地 染 色 工 場 ( 図 3.5.9 参 照 )
図 3.5.9
エ.実施体制
ベトナムでの浄化実験の状況
(出 典 )NEDO ホ ー ム ペ ー ジ
図 3.5.10 参 照 。
経
済
産
業
省
研究協力事業
NEDO
ベトナム科学技術アカデミー
産業技術総合研究所
図 3.5.10
清水建設、住友精密、明星大学
研究開発の実施体制
③技術移転・事業化等の現地化の進め方
・複数サイトでの実証事業の実施
い く つ か の サ イ ト で の 実 証 事 業 を 実 施 す る 必 要 が あ り 、ODA を 含 め た 協 力 体 制
の構築や協力企業への参加打診などを行う必要がある。
・日越共同企業体の設立・運営による事業化検討
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ベトナム政府からの情報収集が必要で、現地の政府機関等の支援が不可欠で
ある。
④現状の課題と今後の取組みに関する提案
日本の技術を採用したいが高価であるとの認識があるため、韓国、中国などの廉価
技術を表面的に採用し、それで済ませてしまう可能性がある。
ま た 、オ ラ ン ダ な ど の EU 諸 国 の 売 り 込 み も あ る た め 、我 が 国 が こ こ で 頑 張 ら な い と 、
親 日 的 な ベ ト ナ ム の 基 準 ・ 規 格 等 が EU の も の を 採 用 す る 可 能 性 も あ る 。
長期的には日本技術の高い信頼性を確固たるものにするために、次世代を担うベト
ナムの技術者と本音で議論し、双方が納得した上で技術開発を進めていくことが肝要
である。
( 5) 油 田 随 伴 水 の 処 理 技 術 の 開 発 ( オ マ ー ン )
①共同研究開発の背景・目的
油田随伴水(油田含油排水)は、原油生産に伴い発生する最大量の廃棄物である。
特 に オ マ ー ン 国 の 油 田 で は 、原 油 生 産 に 伴 い 汲 み 上 げ る 油 田 含 油 排 水 が 石 油 生 産 量 の 3
倍以上と多く、同国最大の環境問題の一つとなっており、適切な油田含油排水処理技
術が求められている。こうした中、オマーン国南部の油田含油排水の塩分濃度は比較
的低く、含油濃度を低減させれば同国の潅漑水基準をクリアできるため、潅漑水とし
て の 再 利 用 が 可 能 で あ る 。日 量 30 万 ト ン の 油 田 含 油 排 水 は 、オ マ ー ン の 首 都 マ ス カ ッ
ト 市 の 水 使 用 量 の 1.5 倍 に 当 り 、 膨 大 な 量 の 水 資 源 と 考 え る こ と が で き る 。 同 国 は 、
湾 岸 諸 国 の 中 で も 地 下 水 へ の 依 存 度 が 99% と 高 く 、か つ 使 い 切 り の 化 石 水 が 内 55% を
占めるため、水資源枯渇の可能性もあり、地下水資源の確保と保護は同国の発展に不
可欠である。
清 水 建 設 は 、 2007 年 か ら パ イ ロ ッ ト プ ラ ン ト の 開 発 を 始 め 、 浄 化 方 法 の 基 礎 研 究 を
二 年 間 行 っ た 後 、 プ ラ ン ト 設 計 、 製 作 、 試 運 転 を 実 施 し 、 2010 年 に オ マ ー ン の 首 都 マ
ス カ ッ ト で パ イ ロ ッ ト プ ラ ン ト の 稼 働 を 始 め た 。プ ラ ン ト の サ イ ズ は 、2m×4m×2.5m、
容 積 約 20 ㎥ 、 重 さ 1.5t の コ ン パ ク ト な プ ラ ン ト で あ り 、 含 有 物 質 や 濃 度 は 油 田 に よ
って異なり、各油田で処理システムの汎用性を確認するため、移動式にしている(図
3.5.11、 図 3.5.12 参 照 )。
開 発 し た 処 理 シ ス テ ム は 、 随 伴 水 に 凝 集 剤 を 添 加 し て 油 分 粒 子 を 5mm 大 の 塊 に し て
集め、微細な気泡(マイクロバブル)技術を使って油分や有害物質を浮上させ、取り
除 く 。 油 分 の 濃 度 は 250ppm( 1L あ た り mg) か ら 0.5ppm 程 度 に 低 減 で き 、 地 中 に 戻 す
こ と な く 灌 漑 用 水 に 利 用 で き る よ う に な る 。こ の た め 新 た な 水 資 源 と し て 期 待 さ れ る 。
- 46 -
図 3.5.11
油田随伴水のイメージ
図 3.5.12
パイロットプラント
(出 典 )国 際 石 油 交 流 セ ン タ ー ホ ー ム ペ ー ジ
②共同研究開発事業の概要
ア.事業名
財 団 法 人 国 際 石 油 交 流 セ ン タ ー 技 術 協 力 事 業 「オ マ ー ン 国 に お け る 油 田 随 伴 水 の
処 理 と そ の 利 用 に 関 す る 調 査 」(2007 年 度 ~ 2009 年 度 )
イ.研究内容
オ マ ー ン に お け る 油 田 含 油 排 水 を 対 象 と し て 、日 量 1,000 ト ン の 油 田 含 油 排 水 を 、
低コスト排水処理技術(加圧浮上・ろ過・吸着)により処理し、処理水を潅漑水
として、再利用する事業のためのパイロット試験を行う。
清水建設の油田含油排水処理技術に関する豊富な経験と技術を生かし、油田含油
排 水 及 び そ れ に 伴 っ て 発 生 す る 廃 棄 物 等 を 、低 コ ス ト 排 水 処 理 技 術 に よ り 処 理 し 、
油分を回収するとともに処理水を潅漑水として再利用する。また、本事業の実施
に よ り 、油 田 開 発 に 伴 う 廃 棄 物 問 題 を オ マ ー ン 国 ス ル タ ン カ ブ ー ス 大 学( SQU)と
共同で解決し、目標を達成する過程で人材育成支援等を実施する。
ウ.実施場所
マスカット市石油施設
エ.実施体制
図 3.5.13 参 照 。
国際石油交流センター
清水建設
オマーン石油開発公社
スルタンカブース大学
(海 外 カ ウ ン タ ー パ ー ト )
図 3.5.13
研究開発の実施体制
③技術移転・事業化等の現地化の進め方
・複数サイトでの処理方法の確立及び性能検証のための実証事業の実施
・大型プラントの設計と性能実証
・現地大学・企業との連携による事業化検討
- 47 -
中東における油田随伴水処理プラントの受注を視野に、処理システムの有効性
を関係各方面に提案
④現状の課題と今後の取組みに関する提案
現地政府との良好な関係を維持しつつ、現地大学との共同研究を推進し、人材育成
を図りながら、複数サイトでの実証と事業化検討を実施する。
実証プラントは規模が大きくなるためその建設費等が増大するが、それに対する補
助が十分に行われる必要がある。
3.5.3
まとめ
環境技術の共同開発・事業化における国際競争力を強化するには、我が国の高性能
な 浄 化 ・修 復 な ど の 環 境 技 術 だ け で は な く 、調 査 ・分 析 、リ ス ク 評 価 、モ ニ タ リ ン グ な
どのライフサイクル対応での環境技術をバランスよく強化し、ライフサイクルでの対
応において競合諸国に対する優位性を確保し、それに基づく基準・制度を確立して同
時に移転していく必要がある。
なお、これらの技術開発は、分野により取組状況に差異があるため、現状の技術開
発プロジェクトの重点的推進、官民協力による現地調査にもとづく新規技術開発プロ
ジェクトの設立、分野横断的な技術開発プロジェクトの検討に分類して体系的に推進
する必要がある。
- 48 -
3.6
3.6.1
希少金属回収ビジネスの取組み
講演の概要
(1)講演日時:2012 年 1 月 18 日(水)14:00~16:00
(2)講師:清水建設株式会社
技術研究所
上席マネージャー
山崎雄介氏
(3)講演題名:Umicore 社の希少金属回収ビジネスについて
3.6.2
講演内容
山崎氏は 2011 年 9 月 30 日にパリで開催された EIRMA(EUROPEAN INDUSTRIAL RESEARCH
MANAGEMENT ASSOCIATION)の Round Table Meeting(テーマは Sustainable Development :
Anticipating Business Impacts And Opportunities<持続可能な発展:予測されるビジネ
スインパクトとビジネスチャンス>)に当協会の代表として参加した。
本 講 演 は 、 そ の 際 に 「 Sustainability , a key element in Umicore’s business」 と
題して発表された講演内容の紹介と国内外希少金属回収に関する現状の考察である。
(1)Umicore 社の概要
Umicore 社は、ベルギー
ブリュッセルに本社を置く総合機能材料メーカーで、全世界
に 78 か所の事業所(Industrial Sites)と 14,386 人の従業員を有し、2010 年度の総収入は
€2,000M、純利益は€248.7M、一株あたり利益は€2.20 となっている。特に研究開発へは積
極的な投資を行っており、2010 年度の R&D 投資は€135M で、その 80%はクリーンテクノロ
ジー分野(売上の 50%を占める排ガス浄化触媒、二次電池向け材料、太陽電池、燃料電池、
貴金属リサイクル関連分野)である。
主な事業は、1)エネルギー材料(先進素材/材料)、2)触媒(貴金属製品/触媒)、3)リサ
イクル(貴金属リサイクル・貴金属販売)、4)パフォーマンス・マテリアルズ(亜鉛特殊製
品)の四つのビジネスユニットに分かれており、2011 年度の 4 部門の売上比率は図 3.6.1
のとおりである。
図 3.6.1
Umicore 社 4 ビジネスユニットの売上比率(FactSeet より)
特に希少金属回収ビジネスにおいては、さまざまな規模の廃棄物・リサイクル関連産業
(いわゆる静脈系ビジネス)の拠点を全世界に有している利点を最大限に生かし、供給側
の規模に応じて複数の国を対象とした効率的な回収システム(携帯電話/バッテリーなどの
クローズドループサイクル)を構築している。図 3.6.2 の 2009 年度から 2010 年度への
- 49 -
ROCE(return on capital employed:使用資本利益率)の伸びは、リサイクル分野の伸長と世
界的な金属価格(特に希少金属価格)の高騰に伴うものと想定される。
図 3.6.2 Umicore 社 事業の概要
(2)Umicore 社のリサイクルビジネスに関して
<基本となる浄化系ビジネスへの積極的な投資例>
① 土壌浄化ビジネス(ベルギー Flanders、フランス Viviezでのプロジェクト)
② CO 2 削減(高ジェネレーション系新しいパワープラントの設計製造)
③ 水質の改善(伝統的なポンプで汲み出して浄化する方法に代えて、バイオ技術を用い
た in-situ の水質浄化システム)
<経済的持続性の実現>
① Umicore 社は資源をある程度クローズしたループの中で循環していく手法(closing the
loop-aspect of Sustainability)にアドバンテージを持っており、リサイクルビジネ
ス部門の 2011 年目標は、EBIT(earnings before interest and taxes:支払金利前税
引前利益)が 45%、ROCE が 65%と非常に高い収益目標を掲げている。
② リサイクルビジネスにおける電子機器廃棄物(携帯電話/PC)からリサイクルして取り
出す鉱物の量(Ag・Au・Pd・Cu・Co)が全世界における産出量に対してどれくらいの割
合になるかを示したものが図 3.6.3 である。いわゆる都市鉱山(Urban Mine)が成長し
ているため、その部分にターゲットを絞ったビジネス展開をしていこうという明確な
意図が見てとれる。
- 50 -
図 3.6.3 電子 機器からリサイクルされる鉱物の産出量
③ 都市鉱山の特長・有用性
都市鉱山は通常の鉱山に比べ、1)含有量が高い<電子機器廃棄物に含まれる Au は鉱石に
比べ 50 倍の含有量)、2)エネルギー消費が低く CO 2 排出が低減できる、3)土地や水を必要
としない、4)供給リスクを低減できる(図 3.6.4 参照)。中央部のマルで囲んだ部分を中心
にフォローする事によってリスクを低減する、5)価格変動の低減等が挙げられる。
supply risk
(出典) Critical raw materials for the EU、European Commission Enterprise &Industry, July 2010
図 3.6.4 供給リスクと経済的重要性の相関
- 51 -
④ リサイクルビジネスにおける共同開発(open innovation approach)
自社でできる以外の部分は積極的に共同開発を推進し、クローズドループを形成。具体
的な提携例として Rhodia 社(フランス)との Nickel Metal Hydride (NiMH) Rechargeable
batteries に含まれるレアアースエレメント(REE)の共同開発がある(2011 年)。
⑤ リサイクル可能量の増大
製品のライフサイクルの中からクローズドループを使って効率よく希少金属を回収し、
リサイクル可能な量を R&D の推進によって増やしていく。
⑥ 希少金属の利用範囲に関して
太陽光発電、電気自動車、燃料電池、LED、風力発電など現在注目されている技術には、
その材料として希少金属が広く利用されており、将来性からもリサイクルで希少金属を取
り出すことはビジネスになる。
⑦ リサイクルビジネスにおける投資
今後とも飛躍的に増加する事が予想されるリサイクル需要に対応するため、2009 年末、
Umicore 社は 7,000 トン/年(ハイブリッド車のバッテリーで 15 万台、携帯電話で 250 万
台換算)のバッテリープラントに€25M を投資すると発表した。また、2011 年 9 月にベル
ギー
Hoboken に Tesla 社(EV メーカー)とバッテリーリサイクルのための工場を設立した。
⑧ リサイクルビジネスおける課題
回収できている量が全体の供給と比べるとまだまだ少ないため、それをどのような手法
で効率よく回収していくのかが技術面を含めて今後の大きな課題である。
⑨ バックヤードでの課題
ヨーロッパのバックヤードであるアジアやアフリカにおいて希少金属が適正にリサイ
クルされていない。ヨーロッパからのスクラップでみると 60%が適正に処理されず貴重な
金属が失われており、希少金属の損失は金額にして 50 億 USD に相当する。また、業者の
70%が家内工業的零細業者であり、環境や健康被害への影響も懸念される。
⑩ 2015 年のターゲット
メガトレンド(Resource scarcity/More stringent emission control/Renewable
energy/Electrification of the automobile)に基づいて戦略を構築していく。
⑪ Umicore 社今後のビジネスアプローチ
研究開発を推進していき、ノウハウとテーラーメードのソリューションの蓄積を進め、
マテリアルとメタルのビジネスに関してはクローズドループを構築してある程度のサプラ
イチェーンを賄っていく(図 3.6.5 参照)。また、同時に従業員や周辺住民に与える環境影
響を最小に抑えていく。
- 52 -
図 3.6.5 Umicore 社 Business アプローチ
<山崎氏から Umicore 社講演者に対する質問>
質問:希少金属に関しては、代替金属の開発が進んでいると聞いているが、これが実用化
になった場合の Business impact は?
回答:Umicore 社では多くの数の希少金属を取り扱っている。1~2 の代替金属が実用化さ
れても影響は軽微だ。
山崎氏コメント:特に Au や Ag の回収を行っていることが大きなプロフィットになってい
ると思う。希少金属に関しては価格変動が大きいため市場動向を見ながら供給を行
っているのではないか。Umicore 社はしっかりとした回収技術を持っていることをア
ピールして、例えば自動車メーカー等とクローズドループの関係を構築することを
ビジネスの中心として考えているようだ。安定的に供給できる体制があるので多少
金額が高くても相手メーカーにとっては問題ない。ビジネスの組み立て方が大変う
まいという印象をもった。
3.6.3
主な質疑応答
質問:欧州で家電・電子機器廃棄と回収のシステムはできあがっているのか。また、そこ
に Umicore 社はうまく乗っているのか。
回答:欧州には WEEE(ダブル・トリプル・イー)があり、法律上回収の義務・回収ループ
を構築する必要がある。供給者/販売者が作った回収ルート(クローズドループのよ
うなもの)に乗っているのではないか。
質問:国内金属の需要では銅が多いと聞いたが。
回答:コンプレッサーやコイルにも使われているように、ボリュームとして大きいと同時
に枯渇の危機感も大きい。EV には 1 台当たり約 47 キロ含まれており、多く回収もで
きるようだ。ヒートポンプや中国で今後必要になる送電網にも銅が必要となる。
その他、低炭素系の施策のためには銅が必要になってくる。
質問:2009 年から 2010 年の利益率の伸びがすごいがその要因は。
- 53 -
回答:おそらく、金属価格のグラフと業者の利益率は比例するだろう。リサイクルビジネ
スは、金属価格市場の値段どおりの利益率で推移する。2009-2010 年は中国の政策の
影響もあり、かなり価格が上昇したのではないか。また、そのタイミングで大きな
投資も行っているのでそれも好影響の要因となっているかもしれない。
質問:日本国内の同業種メーカーの動向は。
回答:日本の鉱山会社は残っていたところがリサイクル目的で使えるようになり大逆転し
ている。リサイクルのための新たな精錬所はコスト面から作る事ができない。既存
の精錬所を使っていくしかない。問題は、人材として精錬を学んだ人はもう高齢化
で減少しており、また新たに大学でも学ぶ人も少ない。
質問:リサイクルビジネスはほとんど人件費が占めている。かなり省力化が進んでいるの
ではないか。
回答:相当自動化が進んでいるのでいると予想される。前述の通り、バッテリーリサイク
ルのプラント(図 3.6.6 参照)では、7,000t/年の処理能力がある。処理対象を限って
効率化を図っているのではないかと思う。
図 3.6.6 Umicore 社バッテリーリサイクルプラント
3.6.4
まとめ
回収系環境ビジネス、いわゆる静脈系ビジネスは、ひとたび独占的な立場を獲得すると
大きな収益を得られるチャンスがある反面、市場動向が不透明で設備費・研究開発費など
にも多額の投資が必要となる。今回、調査対象となった Umicore 社は、都市鉱山の成長に
合わせて希少金属の効率的な回収と処理の自動化を推進した大規模な設備を組み合わせた
クローズドループを構築し、その規模に見合う市場サイズでの世界的な事業展開を図り、
成功を収めている。このビジネスモデルにおいて最も重要な点は、設備導入に見合う回収
- 54 -
規模の確保が可能か否かである。すなわち 10~20 社が乱立する様な市場ではなく独占的な
権利を作った企業のみが生き残る。先行して設備投資を行い、良い供給元を獲得し安定し
た価格設定を行えば後発企業の参入は困難となる。
我が国においては、2000 年に循環型社会形成推進基本法が整備され、関連法案として特
定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)が 2001 年に制定された。現状ではリサイク
ル品は集まるものの、分解・販売の手数料(人件費)が嵩み収益的に苦しい企業が多い。ま
た、金属の市場価格に左右される投機的な一面を持つため、リーマンショックで金属の価
格が落ちた現在では赤字の可能性も高い。更に、家電リサイクル法では回収会社の規模の
制限や法律の性格上利益を出してはいけない構造(リサイクル料に還元)になっているた
め自動化などの大規模な設備投資できないのが実態である。家電のみならず携帯電話・デ
ジカメ・希土類磁石なども含めて有力な業者が日本全体で事業展開できる環境が整備され
れば、研究開発・投資も促進され、都市鉱山の有効活用がさらに推進されると思われる。
- 55 -
3.7
3.7.1
スウェーデンの環境都市における取組み
調査概要
( 1) 調 査 日 時 : 2011 年 9 月 27 日 ( 火 ) 9:00~ 15:00
( 2) 調 査 先 : ベ ク シ ョ ー 市
Ms. Jesserina Flores (Technical Visit Coordinator)
Mrs. Sohie Kim-Hagdahl (Environmental Co-ordinator)
3.7.2
LIMNOLOGEN PROJECT
Mr.Hans Andrén (Project Co-ordinator)
VEAB
Mr.Johan Thorsell (Business Manager)
ベクショー市の環境政策への取組み
ス ウ ェ ー デ ン の ベ ク シ ョ ー 市 ( Växjö: 人 口 約 7万 5千 人 、 面 積 167km 2 ) は 、 ス ウ ェ ー
デ ン の 南 部 、 ス モ ー ラ ン ド 地 方 の 中 心 都 市 の 一 つ で 、 森 林 地 帯 が 75% 以 上 を 占 め る 森
林密集地帯にある地方都市である。そして、ベクショー市における地理的特徴は、街
の 中 心 か ら 半 径 5~ 7kmに 大 小 複 数 の 湖 が 街 の 周 囲 を 取 り 囲 む 形 で 存 在 し 、 更 に そ の 外
周に広大な森林地帯が広がるという特徴を持っている。ベクショー市の街はこの湖群
と森林地帯の中心に街が集積する形で形成されており、この自然的地理的特徴がベク
ショー市の化石燃料ゼロ宣言への挑戦を可能にする背景として存在していた。
ベ ク シ ョ ー 市 は 、 欧 州 委 員 会 の 「 持 続 可 能 エ ネ ル ギ ー 賞 2007」 に お い て コ ミ ュ ニ テ
ィ部門最優秀賞受賞など、ヨーロッパで最も環境に優しい都市として有名である。図
3.7.1に 示 す よ う に 、 ス ウ ェ ー デ ン と ベ ク シ ョ ー 市 の GDPの 推 移 は 同 じ で あ る が 、 CO 2 排
出量においては、ベクショー市はスウェーデンを大きく下回っている。
図 3.7.1
ス ウ ェ ー デ ン と ベ ク シ ョ ー 市 に お け る 経 済 性 成 長 と CO 2 排 出 量 の 推 移
ベ ク シ ョ ー 市 で は 、 湖 の 汚 染 問 題 な ど を 契 機 と し て 住 民 の 環 境 意 識 が 高 ま り 、 1980
年 頃 か ら バ イ オ マ ス の 導 入 が 始 ま っ た 。 そ れ に 加 え て 「 ロ ー カ ル ア ジ ェ ン ダ 21」 に よ
る 住 民 の 合 意 形 成 で バ イ オ マ ス の 利 用 が 進 み 、 1996年 に は 「 2050年 ま で の 化 石 燃 料 ゼ
ロ 宣 言 」 を し た 。 2006年 の 1人 当 た り の CO 2 排 出 量 を 1993年 に 比 べ て 30% 減 、 2050年 に
- 56 -
70% 削 減 す る と い う 目 標 を 持 っ て い る ( 図 3.7.2、 図 3.7.3参 照 ) 。
1. The city of lakes and parks
2. A dense city with mixed use areas and focus on sustainable transport
3. A city which promotes safety, security and public health
4. A city with many nodes
5. Bold architecture but also regard for the historic areas
6. The regional city – cooperation in a larger region
図 3.7.2
図 3.7.3
ベ ク シ ョ ー 市 の マ ス タ ー プ ラ ン : A Sustainable Växjö in 2030
ベ ク シ ョ ー 市 に お け る 化 石 燃 料 由 来 の CO 2 排 出 量 (kg/inh)
再 生 エ ネ ル ギ ー の 割 合 は す で に 50% を 超 え て お り 、 暖 房 に 限 れ ば 市 が 保 有 し 操 業 す
る ベ ク シ ョ ー ・ エ ネ ル ギ ー 会 社 ( VEAB) で の バ イ オ マ ス 利 用 に よ り 、 既 に そ の 割 合 は
90% を 超 え て お り 、 最 終 的 に は バ イ オ マ ス 100% へ の 転 換 を 目 標 と し て い る ( 図 3.7.4
参照)。
ベクショー市では、バイオマス発電とコジェネレーションによる発熱を、いろいろ
な 用 途 に 用 い て い る 。空 港 の 燃 料 に ペ レ ッ ト を 使 用 し 、250戸 の 一 戸 建 て 住 宅 の 暖 房 を
電力暖房からバイオマス電力に切り替えたが、そのことによって電力供給コストは上
が っ て い な い 。 し か も 、 市 民 の 90% が バ イ オ マ ス に よ る 地 域 暖 房 へ の 切 り 替 え を 希 望
しているとのことである。交通の分野では、例えば環境対応車の公共駐車料金無料化
を行い、輸送サービスでは、市の入札には環境重視の入札を行っている。鉄道での輸
- 57 -
送を増やし、車での輸送を減らそうと誘導し、ボルボ自動車との共同プロジェクトで
環 境 に や さ し い DME車 両 の 開 発 を 研 究 し て い る ( 図 3.7.5参 照 ) 。 ま た 、 市 の プ ー ル は
太 陽 セ ラ ー で 暖 房 し て い る( 図 3.7.6参 照 )。な お 、こ の 取 組 み は ベ ク シ ョ ー 市 、産 業
界 及 び リ ン ネ 大 学 の 連 携 で 推 進 さ れ て い る ( 図 3.7.7参 照 ) 。
図 3.7.4
図 3.7.5
ベクショー市におけるエネルギー源の推移
DME 車 の 導 入 ( 現 在 50 台 )
- 58 -
図 3.7.6
市営プールの太陽熱システム
図 3.7.7
3.7.3
施策推進における連携体制
Limnologen Project
Limnologen プ ロ ジ ェ ク ト は 、 ベ ク シ ョ ー 市 に よ っ て 始 め ら れ た 「 現 代 の 木 造 都 市 」
の 一 部 で あ り 、 ベ ク シ ョ ー 市 の Trummen 湖 に 隣 接 し た 地 域 で 開 発 さ れ て い る 。 こ の プ
ロジェクトの主な目的は国の省エネルギー目標を満足する木造多層階建物を建設する
こ と で あ る 。 Limnologen プ ロ ジ ェ ク ト は 、 4 棟 の 8 階 建 の 集 合 住 宅 か ら 構 成 さ れ て お
り 、基 礎 及 び 1 階 床 は 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 で あ る 。そ れ ぞ れ の 住 棟 に は 33 住 戸 が あ り 、
延 床 面 積 は 3,374 ㎡ で あ る 。プ ロ ジ ェ ク ト 全 体 で は 、今 後 10~ 15 年 の 間 に 1,200 戸 の
集 合 住 宅 が 誕 生 す る (図 3.7.8 参 照 )。
こ の 集 合 住 宅 は 、 Midroc 不 動 産 開 発 会 社 が 所 有 し て お り 、 住 棟 と は 別 に 駐 車 場 デ ッ
キ と コ ミ ュ ニ テ ィ 施 設 が あ る 。全 て の 住 戸 は 湖 に 面 し 、大 き な 窓 を 有 し て 眺 望 が よ い 。
住 戸 の 大 き さ は 、1K か ら 5K ま で の 種 類 が あ る 。給 湯 、給 水 、暖 房 の エ ネ ル ギ ー 消 費 量
を個々の住戸の住民がウェブ・ページから把握できるようになっており、居住者が自
ら の 努 力 で エ ネ ル ギ ー コ ス ト を 削 減 で き る よ う に し て い る 。 そ の 結 果 、 約 30% の エ ネ
ルギー削減が行われている。
プロジェクトの関係者は、このプロジェクトを通じて同国が誇る豊富な木材資源が
未来の建材であること、コンクリートや鋼材と違って生産エネルギーが不要なため、
環境保護の観点からも優れていることを示したい意向である。また、プロジェクトに
参加する建築家は「木材は唯一の再生可能材料」であるとし、木材がコンクリートと
違 い CO 2 を 吸 収 す る 点 を 指 摘 し て い る 。集 合 住 宅 に は 、床 や 壁 、天 井 か ら エ レ ベ ー タ ー
に至るまで、全てに木材を使用しており、火災対策として、スプリンクラーが各所に
設置されている。
エ ネ ル ギ ー 消 費 量 は 、 年 間 平 均 で 90未 満 kWh/㎡ で あ り 、 住 戸 ご と の モ ニ タ リ ン グ が
エ ネ ル ギ ー 消 費 を 30% 程 度 の 削 減 に 寄 与 し て い る と み ら れ て い る 。
エネルギー消費量は、プロジェクトの最初の 2 棟で測定及び計算した。暖房(給湯
を 含 む ) に 関 し て 、 Limnologen 1 で は 、 年 間 エ ネ ル ギ ー 消 費 量 は 56kWh/㎡ で あ っ た 。
Limnologen 2 で は 、 年 間 53.5kWh/㎡ の 需 要 が あ っ た こ と が 報 告 さ れ て い る 。
ま た 、 暖 房 と 給 湯 に 使 用 さ れ た 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー の 95% は バ イ オ マ ス 由 来 ( バ イ
オマスによる地域暖房)である。同地域にある同規模の集合住宅では、延床面積に対
- 59 -
し て 116kWh/㎡ の エ ネ ル ギ ー 消 費 で あ り 、住 戸 面 積 当 た り で は 145kWh/㎡ と な っ て お り 、
このプロジェクトの省エネルギー効率が実証されている。
図 3.7.8
表 3.7.1
Limnologen Project( 木 造 8階 建 の 集 合 住 宅 ) の 外 観
バ イ オ マ ス 地 域 暖 房 の 場 合 の エ ネ ル ギ ー ・ CO2排 出 量 の バ ラ ン ス ( 50年 、 100年 )
参 考 文 献 : Overview and Summaries of Sub Projects Results, School of Technology and Design,
Reports, No. 56, Växjö University, Växjö, Sweden 2009
3.7.4
ベ ク シ ョ ー ・ エ ネ ル ギ ー 会 社 ( VEAB)
ベ ク シ ョ ー 市 に は 自 治 体 エ ネ ル ギ ー 供 給 シ ス テ ム を 担 っ て き た VEABが 存 在 し て い る 。
VEABは 、 現 在 で は ベ ク シ ョ ー 市 が そ の 株 式 の 全 額 を 保 有 し 、 市 議 会 議 員 が 理 事 を 勤 め
ている「地方公営エネルギー事業者」である。スウェーデンでは、高緯度寒冷地とい
- 60 -
う気候的な特性から、地方自治体が地域の熱エネルギーの供給に対して重要な役割を
果たしてきたのであるが、そのため、現在においても熱エネルギー供給は地方自治体
の 重 要 な 役 割 を 担 っ て お り 、 ベ ク シ ョ ー 市 に お け る そ の 役 割 は VEABが 担 っ て い る 。 そ
して、エネルギー部門における化石燃料ゼロへの試みが成功した直接的な要因は自治
体 所 有 の 企 業 で あ っ た VEABで の 木 質 バ イ オ マ ス 燃 料 へ の 転 換 が 中 心 と な っ て い る 。
VEABの 設 備 規 模 は 、 21,000kW相 当 の 熱 供 給 能 力 と 30,000kWの 発 電 容 量 を も ち 、 ベ ク
シ ョ ー 市 の 人 口 約 70,000人 の 内 、 約 50,000人 、 25,000世 帯 の 需 要 家 に 対 し て 直 接 熱 供
給 を 行 っ て い る 。 現 在 で は 、 VEABの 主 力 発 電 所 で あ る 熱 電 併 給 型 発 電 所 ( コ ー ジ ェ ネ
レーションプラント)から需要家に対して、プラントに接続された配給網によって直
接 熱 供 給 を 行 っ て い る 。 ま た 、 VEABは ベ ク シ ョ ー 市 の 一 般 家 庭 向 け の 低 圧 配 電 線 を 自
治 体 で 所 有 し 、 そ の 管 轄 下 に あ る ベ ク シ ョ ー 市 配 電 会 社 「 Växjö Energy Distribution
AB」 に よ っ て 管 理 を 実 施 し て い る 。 VEABで は 、 こ の 配 電 網 を 利 用 し て 市 内 に 電 力 を 供
給 し 、 余 剰 電 力 の 売 電 な ど を 行 っ て い る 。 VEABは こ の よ う に し て ベ ク シ ョ ー 市 に お け
る熱エネルギー供給と電力供給を担っている。現在では、ベクショー市の家庭暖房用
の 熱 エ ネ ル ギ ー は VEABの 「 Sandvik Ⅱ Plant」 ( 図 3.7.9参 照 ) か ら 供 給 さ れ て い る 。
図 3.7.9
VEABの SandvikⅡ Plant
1996年 の 地 域 熱 供 給 と バ イ オ マ ス 燃 料 の 開 発 を 促 進 す る エ ネ ル ギ ー 政 策 が 施 行 さ れ
る と 、 VEABは 最 新 鋭 の コ ー ジ ェ ネ プ ラ ン ト で あ る 「 Sandvik Ⅱ Plant」 を 増 設 し た 。
循 環 流 動 層 式 の 施 設 で 、 過 熱 蒸 気 温 度 は 540℃ 、 圧 力 は 140 bar で あ る 。 タ ー ビ ン コ ン
デ ン サ ー と 排 ガ ス コ ン デ ン サ ー に よ る 熱 交 換 で , 蒸 気 を 復 水 に す る と と も に 約 98℃ の
温 水 を 作 っ て い る (図 3.7.10参 照 )。 温 水 タ ン ク は 3,000m 3 、 高 さ 30m程 度 の 巨 大 な エ ネ
ル ギ ー プ ラ ン ト で あ る (図 3.7.11参 照 )。
温 水 は 断 熱 配 管 を 通 し て 供 給 さ れ て お り 、温 水 の 出 温 度 は 98℃ 、戻 り 水 温 は 40℃ 程
- 61 -
度 で あ る 。2007年 の デ ー タ で は 、1年 当 た り 暖 房 と 電 力 を 合 わ せ て 744GWh( 電 力 192GWh、
地 域 暖 房 552GWh、 地 域 冷 房 100GWh) を 供 給 し て い る 。 こ れ で 市 の 暖 房 の ほ と ん ど と 電
力 の 35% を 賄 っ て お り 、 自 治 体 が エ ネ ル ギ ー 供 給 を 担 っ て い る こ と に な る 。 な お 、 温
水 配 管 の 総 延 長 は 348kmで あ る 。
図 3.7.10
図 3.7.11
Sandvik Ⅱ Plantの シ ス テ ム 概 要
VEABの SandvikⅡ Plantの 外 観
図 3.7.13
図 3.7.12
バイオマスの投入状況
Sandvik Ⅱ Plantの 制 御 ・ 監 視 室
- 62 -
「 Sandvik Ⅱ Plant」 は 約 500t/日 の チ ッ プ を 燃 料 と し て い る (図 3.7.12、 図 3.7.13
参 照 )。 蒸 気 温 度 が 540℃ に な る 3次 過 熱 器 材 は X 20CrMoV 121と い う 日 本 の STBA 27( 12
Cr-1 Mo) に 相 当 す る フ ェ ラ イ ト 系 ス テ ン レ ス 材 を 使 用 し 、 6年 程 度 の 耐 久 性 が 見 込 ま
れ て い た 。我 が 国 の ご み 焼 却 炉 で は 、過 熱 蒸 気 温 度 が 400℃ の 場 合 で も SUS310( 25 Cr-20
Ni)を ベ ー ス に し た 材 料 が 使 わ れ る こ と が 多 く 、そ れ に 比 べ て 過 熱 蒸 気 温 度 が 540℃ と
高いのに比較的安価な材料で間に合っているのは、ごみ焼却炉に比べ腐食環境が厳し
く な い た め と 考 え ら れ て い る 。 そ の 結 果 、 こ れ ま で 80% だ っ た 木 質 バ イ オ マ ス の 燃 料
比 率 も 95% に ま で 向 上 し て い る 。
こ の 取 組 み の 結 果 、VEABに お い て 年 間 17,000ト ン の 石 油 資 源 の 節 約 に つ な が っ て い る 。
ま た 、VEABで は 、バ イ オ マ ス 燃 料 を 周 囲 100km圏 内 に あ る 森 林 地 帯 か ら 調 達 す る と と も
に 、ベ ク シ ョ ー 市 か ら 100km圏 内 に あ る 林 業 か ら の 林 業 廃 棄 物 を 利 用 す る こ と に よ っ て 、
地域内でのエネルギー自給圏を形成している。
3.7.5
まとめ
スウェーデンでは環境政策を明確にして、ベクショー市のような環境都市の開発を
促進し、その海外展開を目論んでいる。特に、豊富な森林資源を背景としたバイオマ
スを活用した電熱併用システムの活用と木造高層集合住宅の実現は、低炭素化の推進
に大きく寄与している。
- 63 -
第4章
4.1
環境政策動向調査
環境技術関連政策の動向
4.1.1
講演の概要
(1)講演日時:2011 年 12 月 20 日(火)15:00~17:00
(2)講師:株式会社三菱総合研究所
先進ビジネス推進本部
本部長
主席研究員
吉田直樹氏
(3)講演題名:世界、そして我が国の環境関連動向の概況
4.1.2
講演内容
(1)主な国際動向
①主な動き等の概況
本年及び近年における、主な環境関連動向としては、以下の事項が挙げられる。
■COP17 (2011 年 11 月 28 日~12 月 11 日@南アフリカ ダーバン)
(次項で内容紹介)
■水銀条約(2013 年成立見込み)の議論の動向
• 水銀輸出の全面禁止→概ね合意
• EU は輸出禁止を既に実施。米国でも 2013 年から原則禁止。
• 日本国内ではリサイクルされる水銀の保管の仕組み作りが急務。
• 国別の削減目標の設定→石炭を燃料として使用する途上国が反対
■国連持続可能な開発会議 Rio+20 (2012 年 6 月 20 日~6 月 22 日@ブラジル リオデ
ジャネイロ)
• 1992 年の地球サミットのフォローアップ会合。世界各国の首脳レベルが出席予定。
• 主要テーマ:グリーンエコノミー(持続可能な開発及び貧困緩和を実現する経済)
持続可能な開発の組織的フレームワーク
• EU は「グリーン経済ロードマップの支援」を示し、議論をリードする意向。
• 主張:2020 年までに環境に悪影響のある助成金の撤廃、途上国における気候変動対
策や生物多様性保護を目的にした金融取引税の導入
②COP17 の概況
COP17 の概況については、概ね以下のように整理できる。
■主な議題
1)次期枠組交渉に関するスケジュール
2)京都議定書第二約束期間の取り扱い
3)カンクン合意における資金、技術移転の実施に向けての道筋
■主な結果と今後の見通しについて
- 64 -
• EU 主導で一定の成果
¾
2020 年からの新たな枠組「ダーバンプラットフォーム」(米中も参加)発効に
合意。2015 年までに枠組策定。
¾
2013 年~京都議定書の延長(第 2 約束期間)ただし日本、カナダは不参加。延
長期間(5 年/8 年)の決定は先送り。
¾
「緑の気候基金」運用開始が決定。先進国が年 1,000 億ドル規模で新興国の気
候変動対策を拠出。
• 各国それぞれの目論見、スタンスの違いはあらためて浮き彫りに
¾
EU:主要国のみが対象でも京都議定書延長に賛成。EU-ETS 世界標準システムに
しようと目論む。ただし、最終的には中国やインドも含めた、全ての主要排出
国が排出削減目標を持つことを主張。
¾
米国・カナダ:温暖化よりも国内経済問題が優先課題。新興国の参加がないと
国内世論を説得できない。
¾
新興国:先進国がしっかりとした目標を持つべき(一方で、中国やインドの後
ろ向き姿勢に対する不満も)。
¾
日本:米国や新興国を含む包括的な枠組みが必要。現状では 25%目標の見直し
も視野に。
• 日本には EU や新興国からのプレッシャーが高まる見込み
¾
今後の論点 1:日本のプレッジアンドレビュー(ボトムアップ・自主的)
の取組みが国際的に認められるかどうか。
¾
今後の論点 2:資金拠出などで存在感を示すことができるか。
③主要各国毎の主な動き等
米国、欧州、中国等における主な環境関連政策動向等としては、主に次のような整理が
できよう。
■米国
• グリーンニューディールの失敗や財政縮減圧力により、環境政策の優先度が低下。先
端技術開発や州レベルでの低炭素化に向けた動きは継続する見込み。
¾
グリーンニューディールは十分な成果を得ることはできなかったとの見方が大
勢、ただし、先端技術の研究開発投資は依然としてトップクラス。
¾
連邦政府は自然エネルギー(太陽光発電、風力発電)や電気自動車普及に依然
として積極的であるが減速懸念、一方で、州レベルでの動きは健在。
¾
なお、今後の動向としては、シェールガス開発継続、中国・韓国とのクリーン
エネルギーに関する連携等に注目。
■欧州
• 債務危機にも関わらず、低炭素・サステナブル社会への動きは継続。
¾
中期成長戦略 Europe 2020 (2011~2020 年)に加え、低炭素経済ロードマップ
2050、エネルギー効率化行動計画(2011 年 3 月 8 日発表)エネルギーロードマ
ップ 2050(2011/12/15 発表)を策定。
- 65 -
¾
再生可能エネルギーの 2020 年導入目標値は多くの国で達成見込み。
■中国
• 第十一次五カ年計画(2006~2010 年)で経済成長一辺倒から「資源節約型社会構築」
へと方向転換。第十二次五カ年計画でも基本姿勢は維持し、更なる「低資源消費での
高成長」を目指す。
¾
第十一次五カ年計画については、目標はほぼ達成。一方で課題も残る。
¾
第十二次五カ年計画(2011~2015 年)では、「経済発展方式転換」の方向性は
不変だが、
「外需から内需へ」、
「高炭素から低炭素へ」、
「強国から国民の豊かさ
へ」。
¾
なお、各種環境対策が従来以上に加速される見込みであるが、主な重点事項に
ついては、エネルギー・電力対策、高資源効率の産業構造への転換等の動きに
注目。
¾
加えて、スマートシティ、金属資源保護、中国版 WEEE 施行等もトピックス。
(2)我が国における主な動向と課題
①主にエネルギー政策等に関わる変化の概況
我が国においては、東日本大震災を受け、特にエネルギー政策等に関して大きな動きが
生じている状況にあるが、大きく言えば、次のような流れ、変化に注目すべきと考える。
• 震災・原発事故でエネルギー供給を巡る状況は大きく変化
¾
震災前:温室効果ガス削減のために原発重視の方針(2010 年エネルギー基本計
画)
¾
震災を期に原発政策は大きく後退。再エネ導入に大きくシフト。
一方で、直近の電力供給不安は大きな課題。
¾
中長期的な見通しは、国家戦略室「革新的エネルギー・環境戦略」として議論
中。
¾
新エネルギー基本計画、新原子力政策大綱、グリーン・イノベーション戦略を
統一的に提示。
• 震災復興によるエコシティ、スマートシティシティへの動きが加速
¾
震災復興は自治体主導。国は交付金による財源確保と規制緩和を実施。
¾
多くの自治体が復興計画でエコシティ、スマートシティに言及。
• 太陽光・風力等建設ラッシュの機運
¾
2012 年 7 月より固定価格買取開始。ただし、固定買取価格が決まらず投資判断
待ち。
なお、国としての政策に関しては、従来、その方向性を提示してきた「総合資源エネル
ギー調査会」において「基本問題委員会」での議論が注目されるが、加えて国家戦略室の「エ
ネルギー・環境会議」における議論も含め、従来以上に政治主導での議論、方向付けが進
められている。
②特に注目すべき需要側の動きの活発化
- 66 -
既述の流れ、動きの中で、特にエネルギー政策の不安定、不確実性さの中、活発化する
需要側の動きに目を向ける必要があると考える。主な論点、視点としては、次のような事
が挙げられよう。
• 当面、最大のリスクは主にサプライサイドに係わる政策の不安定性
¾
電気事業への影響、混乱のインパクト、結局はコスト増、CO 2 増、供給不安定性
増要因。
¾
基幹電源としての再生可能エネルギーの課題が解決したわけではない(ただし、
その重要性、興味関心が増したことは間違いない事実)。
¾
グローバルで見れば、全体としては「原子力」への動きが止まったわけではな
い。
¾
なお、電気事業の今後については、電力(量、質)の公共財、私財としての認
識も含め、中長期的には、ドラスティックな議論展開の可能性も(ただし、当
面の議論はそこまでの深み、時間はない)。
¾
いずれにせよ、冷静な議論が必要。
• 一方で、従来誰も疑わなかった「電力の安定供給」神話が崩れたことで、様々な動き
が開始、加速されたことも事実。
¾
活発なデマンドサイドでの自家電源、エネルギー自律性、堅牢性確保への動き。
¾
コスト(イニシャル費用、不安定性リスク)分担の適切な仕組み構築も併せた
「再生可能エネルギービジネス」への新たな可能性
¾
上記との関連も含め「省エネの価値」は拡大する可能性
• スマートシティ系の動きは、新たな「電力需給、ユーティリティ」サービスに関わる
ビジネスモデル、プレイヤーの出現を促進
③補足 1:震災復興の動きとその影響について
震災からの復旧、復興に向けては様々な動きがあるが、これらが今後の環境、エネルギ
ーに関わる動向、潮流のトリガーとなる可能性も指摘できる。そうした観点からのポイン
トを以下に示す。
• 震災復興への動きは、主な被災 3 県で大分状況は異なるものの、市町村ベースでの動
きをベースに展開中。
¾
先行する“宮城県震災復興会議”での議論は、大きな方向性、キーワードとし
ては、街づくり&産業創造、ローカルスマートシティ、新たな社会インフラ、
システム再構築(官民役割分担含め)等。
¾
しかし、様々な企業がアプローチも被災自治体との現実のニーズとは大きなギ
ャップが存在。
• 我が国が抱えている様々な問題-特に制度制約起因-へのソリューションが、復興地
域において構築され、他へも展開されていく可能性。
¾
(現実的な)スマートシティに関しては、当該地域を需要地とする東北電力も
前向きな姿勢。
¾
我が国の NPO の活力、存在感が増す機会となる可能性(一方で、課題も)。
• なお、大震災は、我が国に大きなダメージを残したが、一方で、グローバル企業に改
- 67 -
めて我が国の「ものづくり力」を示した。
¾
我が国のサプライチェーンの複雑さ、脆弱性という課題も露呈。
• 復興に係わる基本方針と補正予算の概況は表 4.1.1 を参照
表 4.1.1
復 興に係わる基本方針と補正予算の概況
■基本方針
• 被災地域の復興は、活力ある日本の再生の先導的役割を担うものであり、また、日本
経済の再生なくして被災地域の真の復興はない。
• 国は、復興の基本方針を示しつつ、市町村が能力を最大限発揮できるよう、必要な制
度設計や適切な支援を実施(「復興特区制度」の創設、使い勝手のよい交付金等 、民
間の力 (PPP、PFI など)の積極的活用)。
• 2015 年度までの 5 年間を「集中復興期間」と位置づけ、19 兆円以上の財政出動を見
積り(参考:阪神大震災時は 3 度の補正予算、総額 3.2 兆円)。
• 交付金などを利用して基本的には自治体負担はゼロに。
■予算動向(復興関連)
• 一次補正(4 兆円:5 月):公共土木施設及び農業施設等復旧、ガレキ処理が主。
• 二次補正(2 兆円:7 月):被災地の需要に対応する予備費と特別交付税が大半
• 三次補正(9 兆円:11 月):復旧・復興に向けた本格始動
• 四次補正(数兆円):二重ローン対応(二次補正で対応)の追加対応など
④補足 2:(補論)我が国の優れた環境技術を世界展開していくために
グローバルでのスマートシティや環境配慮、エネルギー効率化等への動きの活発化は、
優れた技術力を保持する我が国にとって絶好の機会とも考えられるが、一方でその機会を
現実には獲得できていないとの指摘も少なくない。
そうした状況を打破するためには、「システム」力強化と「個の力」の両立、相乗化価
値化を図っていくことが必要である。主なポイントを以下に示す。
• 「個売り」から「システム売り」の流れは不可避であり、そこにおける機能強化は不
可欠。
¾
環境分野では、我が国においてはシステム、事業化リスクは従来行政、規制が
ヘッジしていた面がある。
¾
グローバル市場では「システム」発注が基本であり、バリューチェーンの拡大、
インテグレーターとしての機能の構築、強化は不可欠。
• 他方、個々のものづくり能力の高さは日本の生命線、それをどう維持し、上記
と両立させていくか、相乗価値化させていくかがキー。
¾
技術-市場価値連鎖の仕組みを構築していくことは喫緊の課題
¾
併せて、既述の観点も含めグローバル市場に対して、システムアシュアランス
の枠組み、アプローチでの価値創出を図る技、武器の準備が急務。
• グローバルガバナンスの多極化、無極化への流れが加速する中、我が国が持つ「協
- 68 -
調」の知恵、そして精神は改めて価値を持ち、放つはず
• 「システム」での安全性・信頼性を明示・保障するための活動は図 4.1.1 参照
要求される安全性・信頼性をシステムが満足する事を合理的に明示及び保証する為の計画的
で体系的な活動
システムの構想から引渡しまでの流れ(下図)を初期段階で計画し、その計画を履行した事を
追跡できる形で文書として残し、それらを論拠としてシステムの安全性・信頼性を証明する。
-
要求仕様を明文化
システム基本計画の策定
システムアシュアランス活動計画の立案
運営体制を組織
文章管理体系の確立 etc.
システムの構想
要求仕様を
満足するか検証
システムに潜在する危険源、脆弱性
を多角的な観点から特定/リスク
評価し、対処方針/方案を検討
設計
設計方案検討
運用・保守方案検討
リスク削減案検討
リスク評価
ハザード検出
実際の運用環境/
手法を勘案し、
システム全体として
安全性をどう担保
するかに注目
図 4.1.1
4.1.3
要求仕様を
満たす事を確認
リスク削減案を
検証/訓練する
内容が網羅され
ているか確認
設計思想が
製品製造に反映
されているか検証
システムの引渡し
要求仕様満足を
確認する項目が
網羅されているか
検証
導入の検証
試験方案検討/試験実施
訓練内容検討/訓練実施
設計思想に基づいた
製品が製造された事を
確認する項目が網羅
されているか検証
製造・生産
<検討イメージ>
システムアシュアランスの概要
主な質疑応答
質問:我が国でシステムのプレイヤー不在の理由は何か。
回答:鉄道や電力などの分野の企業は基本的には国内事業が中心、それ以外で長期の事業
リスクをとり、かつ自らでオペレーション機能を有する事業体、経験値がないので
はないか。水道等の事業については、ある意味で公的セクター(自治体)がその役
割を担ってきた、という面もあるだろう。
また、日本企業はどうしても、個々の技術へのこだわりが強いこともあるだろう。
ただし、最近では様々な企業、取組みが動いていることは事実であり、そうしたこ
との積み重ね、経験の蓄積に期待したい。
質問:システム、インフラ等での海外展開で、韓国、欧州等との違いは何か。
回答:いろいろな観点があるであろうが、例えば、欧州の小国などの事例を見ると、内需
は限られていることもあってか外のマーケットを目指す姿勢が徹底している。
質問:
「スマートシティ」はビジネスとして展開できるのか。誰が主要プレイヤーになるの
か。
回答:まさに全体としてのインテグレーター、事業主体になるプレイヤーがいない。従来
にない事業形態、領域であるとすれば、当然、それを主たる業として実施するプレ
イヤーはいない。従来にない業の括り方、捉え方が必要となってくるのだろう。
- 69 -
4.1.4
まとめ
地球温暖化対策、気候変動対策等については、欧州を除きやや減速感もあるが、本質的
に脅威が減じたわけではなく、国際的枠組みが不透明な中でも、各国において実質的、実
効的な取組みの進展が予見される。
また、環境問題におけるいわゆる国際的な構図については、いわゆる単純な「南北問題」
的な構図は崩れ始めている。中国、インド等は、多くの小国等(例えば、LDC 等)から排
出削減のプレッシャーを受ける立場になっており、新たな力学が形成されつつある。
なお、こうした流れとも時を同じくして、中国においては環境問題への対応は今後本格
化の兆しが見られる。
一方、国内の状況については、東日本大震災を受け、主にエネルギーの領域に関しては、
防災の側面も加わりながら、極めてドラスティックな変化が予見される状況にある。
なお、グローバルに見れば、概念等の不明確さは残るが「スマートシティ」への動きは
活発であり、環境、エネルギー分野の技術に優れる日本企業にとっては大きな機会である
が、それを獲得していくためには、要素技術の単品売りではなく、個々の技術力を強みに
した「システム」力強化が課題である。
- 70 -
4.2
4.2.1
省エネルギー戦略の動向(省エネルギー技術戦略 2011)
講演の概要
(1)講演日時:2011 年 4 月 20 日(水)16:30~18:00
(2)講師:社団法人研究産業協会
事務局長付
研究産業技術懇談会
清水淳(当時)
(3)講演題名:省エネルギー技術戦略 2011
4.2.2
講演内容
(1)省エネルギー技術戦略の背景と趣旨
「省エネルギー技術戦略 2011」は 2010 年 6 月に策定された「エネルギー基本計画」に
掲げられた 2030 年に向けた目標の達成に資する省エネルギー技術開発と、それらの技術の
着実な導入普及及び国際展開を推進し、世界最高水準の省エネルギー国家の実現と経済成
長を目指すための指針であり、広範・多岐にわたる省エネルギー技術には、重点化が必要
であり、真に省エネルギーの推進に貢献する重要技術を特定するものである。
二酸化炭素排出量は 2007 年の 28.8Gt から 2020 年には 40.2Gt、2030 年には 40.3Gt と
年率 1.5%で増加する見込みである。450 シナリオで、2030 年の二酸化炭素削減に最も寄
与するのは最終需要部門の省エネであり、総削減量(レファレンス・シナリオ費)の半分
超を占める。
(2)エネルギー関連の技術戦略
図 4.2.1 に示すように 2006 年に
経済産業省が取りまとめた「新・
国家エネルギー戦略」に基づいて
「 エ ネ ル ギ ー 基 本 計 画 」 が 2007
年に閣議決定された。また、それ
ら に 基 づ き 、「 省 エ ネ ル ギ ー 戦 略
2007」が策定された。続いて、2010
年に閣議決定された「エネルギー
基本計画」に基づき、2011 年 3 月
に「省エネルギー戦略 2011」が策
定された。また、2008 年に策定さ
れた「Cool Earth エネルギー革新
図 4.2.1
技術計画」は見直され、
「新たなエ
エネルギー関連技術戦略
ネルギー革新技術計画」として 2011 年中に策定される予定である。
新・国家エネルギー戦略では、表 4.2.1に示すように省エネルギー技術に関して五つの
コンセプトグループに分けている。
- 71 -
表 4.2.1
技術コンセプト
新・ 国家 エネ ルギ ー戦略
-
省エネルギー技術コンセプトグループ
説明
例
超燃焼システム
エネルギー価値(エクセルギー)の損失を含
燃焼制御技術、
技術
む燃焼を省略、或いは高効率燃焼を実現。
化学反応利用技術、
グループ
耐高温材料技術等
時空を超えたエ
高効率にエネルギー利用を行って系より排出
蓄エネ、エネルギー輸
ネルギー利用技
される熱などの廃棄エネルギーを、需要と供
送、コプロ技術、高性
術
給の時間の不一致や空間的な距離問題を解決
能電池、蓄熱・高断熱
し、エネルギーを更に高度利用する。
技術等
省エネ型情報生
照明や給湯などの機器効率向上、エネルギー
高効率給湯器、
活空間創生技術
管理や予測を通じて、高度情報化や豊かさを
次世代高効率照明、
求めるライフスタイルの変化によるエネルギ
HEMS/BEMS 技術等
ー消費増加を改善。
先進交通社会確
機器ハード面の改善のみならず、モーダルシ
ITS 技術、
立技術
フトや輸送機器の利用形態の高度化を通じ、
モーダルシフト、
運輸部門のエネルギー消費を削減。
高性能エンジン等
次世代省エネデ
「パワー半導体」のみならず、分野横断的に
SiC、GaN、
バイス技術
使用される機器要素の省エネ化を狙う。
他パワーデバイス
2010 年 6 月に閣議決定された「エネルギー基本計画」の概要は次のとおりである。
・基本的視点
○激化する資源獲得競争等に対応するため、総合的なエネルギー安全保障を強化。
○地球温暖化問題の解決に向け、エネルギー需給構造の低炭素化に向けた施策を抜本
的に強化。
○環境エネルギー分野を基軸とした経済成長の実現
•2030 年に向けた目標
○エネルギー自給率及び化石燃料の自主開発比率を倍増
○ゼロエミッション電源比率を 34%→約 70%に引き上げ
○「暮らし」(家庭部門)の CO 2 を半減。
○産業部門において、世界最高のエネルギー利用効率の維持・強化。
○エネルギー製品等の国際市場で我が国企業群がトップクラスのシェア獲得
最終エネルギー消費と実質 GDP の推移を図 4.2.2 に示すが、1973 年に比べ 2008 年には
GDP が 2.4 倍になり、その間に産業部門の最終エネルギー消費は 0.9 倍と減少したが、民
生部門では 2.5 倍、運輸部門は 1.9 倍に増加している。そのため、民生部門の省エネルギ
ー対策が必要である。
- 72 -
図 4.2.2
最 終エネルギー消費と実質 GDP の推移
(3)NEDO における省エネルギー技術開発事業
国の省エネルギー政策である「新・国家エネルギー戦略」、「エネルギー基本計画」、「京
都議定書目標達成計画」、
「省エネルギー技術戦略 2009」、
「次世代自動車・燃料イニシアテ
ィブ」、
「Cool Earth エネルギー革新技術計画」などに基づいて、NEDO で進めている省エネ
ルギー事業には、省エネルギー研究開発事業と省エネルギー国際モデル事業がある。更に、
省エネルギー研究開発事業には、テーマ公募型事業と研究開発/課題設定型事業がある。
NEDO のエネルギー対策推進部で実施中の省エネルギー事業を図 4.2.3 に示す。
NEDO のテーマ公募型事業である省エネルギー革新技術開発事業には、挑戦研究フェーズ
(年間総額上限 1 億円程度/NEDO 負担 100%)、先導研究フェーズ(年間総額上限 1 億円程
度/NEDO 負担 100%)、実用化開発フェーズ(年間総額上限 3 億円程度/NEDO 負担 2/3)、実
証研究フェーズ(年間総額上限 5 億円程度/NEDO 負担 1/2)、事前研究(年間総額上限 1 千
万円/NEDO 負担 100%(挑戦、先導)、2/3(実用化)、1/2(実証))の四つのフェーズに分
類している。
- 73 -
図 4.2.3
エ ネル ギー 対策推進部で実施中の省エネルギー事業
テーマ公募型事業の例を次に挙げる。高効率照明用有機 EL の研究開発において山形大
学城戸教授によるマルチフォトン原理により高輝度化照明分野への適応性を実証した。高
性能高機能真空断熱材の研究開発で、2006 度省エネ大賞を受賞した。省エネルギー導入普
及関連業務等の水和物スラリにおいて基礎研究・実用化研究・導入普及の三位一体の事業
展開を行った。世界に最高効率 COP=7.0 を達成したターボ冷凍機を開発した。
また、研究開発/課題設定型事業の例を次に挙げる。IT 化社会における電力消費を最適
化するためグリーンネットワーク・システム技術研究開発プロジェクト(2008~2012 年)
を実施している。高温超電導ケーブルの総合的な信頼性を実証するための高温超電導ケー
ブル実証プロジェクト(2007~2012 年)を実施している。運輸部門のエネルギー・環境対
策として、省エネルギー効果の高い ITS の実エネルギーITS 推進事業(2008~2012 年)を
実施している。ガラス溶融の省エネルギーを図るため革新的ガラス溶融プロセス技術開発
(2008~2012 年)を実施している。低品位原料の使用量の拡大と省エネルギーを実現する
ために資源対応力強化のための革新的製銑プロセス技術開発(2009~2011 年)を実施して
いる。民生部門の CO 2 削減と省エネルギーを図るため、次世代高効率エネルギー利用型住
宅システム技術開発・実証事業(2009~2010 年)を実施した。省エネルギーの切り札であ
る次世代型ヒートポンプシステム研究開発(2009~2010 年)を実施した。エネルギー使用
量が国内産業部門の 6%を占めるセメント業界の一層の省エネルギーを図るため、革新的
セメント製造プロセス基盤技術開発(2010~2014 年)を実施している。建築物における省
エネルギー性能を飛躍的に高めるため、次世代省エネルギー等建築システム実証事業(2009
~2010 年)を実施した。ガスパイプラインのない地方都市部に中小規模の輸送技術を確立
- 74 -
するため、高効率天然ガスハイドレート製造利用システム技術実証研究(2009 年度終了)
を実施した。
国際エネルギー使用合理化等対策事業では、日本が有する省エネ・代エネ技術のアジ
ア・太平洋地域での有効性を実証し、地域の省エネルギーを実現し、ひいては世界のエネ
ルギーの需給の安定化に貢献することを狙いとし、表 4.2.2 に示す事業を行っている。
表 4.2.2
国 際エ ネルギー使用合理化等対策事業一覧
国
事業名(事業の種類)
委託先企業
中国
新交通情報システムモデル事業(技術実証事業)
日産自動車(株)
コークス炉自動燃焼制御モデル事業(モデル事業) 三菱化学エンジニアリング(株)
民生(ビル)省エネモデル事業
(モデル事業) 日本ファシリティ・ソリューシ
ョン(株)
流動層式石炭調湿モデル事業
(モデル事業) 新日鉄エンジニアリング(株)
PVC プラントの重合及び乾燥プロセスにおける省
エネルギー技術実証事業
三菱化学エンジニアリング(株)
(調査)
地域暖房プラントの BEMS 群管理システム(調査) 日本環境技研(株)、荏原冷熱シ
ステム(株)
インド
コークス乾式消火設備モデル事業 (モデル事業) 新日鉄エンジニアリング(株)
焼結クーラー排熱回収設備モデル事業
スチールプランテック(株)
(モデル事業)
都市ビルへの高効率ヒートポンプ技術実証事業
タイ
東電設計(株)、(株)大気社、(株)
(技術実証事業)
日本総合研究所
アルミニウム工業における高性能工業炉モデル事
ロザイ工業(株)
業
(普及事業)
民生用水和物スラリー蓄熱システムモデル事業
JFE エンジニアリング(株)
(モデル事業)
環境対応型高効率アーク炉モデル事業
スチールプランテック(株)
(モデル事業)
民生ビル省エネルギーモデル事業
中国電力(株)、(株)大気社、(株)
(モデル事業)
インドネ
セメント廃熱回収発電設備モデル事業
シア
日本総合研究所
JFE エンジニアリング(株)
(モデル事業)
サウジア
膜技術を用いた省エネ型排水再生システム技術実
千代田化工建設(株)
ラビア
証事業(サウジアラビア)
ウズベキ
熱電併給所高効率ガスタービンコジェネレーショ
スタン
ンモデル事業
ポーラン
コークス工場省エネ設備(ポーランド) (調査) スチールプランテック(株)
(調査)
東北電力(株)
(モデル事業)
ド
- 75 -
(4)「省エネルギー技術戦略 2011」
省エネルギー技術戦
略 2011 の策定の趣旨
は「エネルギー基本計
画」に掲げる 2030 年に
向けた目標の達成に資
する省エネルギー技術
開発と、それらの技術
の着実な導入普及及び
国際展開を推進し、世
界最高水準の省エネル
ギー国家の実現と経済
成長を目指すための指
図 4.2.4 省エネルギーを進める四つの部門等
針とすることである。
産業、家庭・業務、運輸、部門横断の四つの部門に分けて、それぞれの部門で重要技術
を設定している。
産業部門:エクセルギー損失最小化技術、省エネ促進システム化技術、省エネプロダ
クト加速化技術
家庭・業務部門:ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)・ZEH(ネット・ゼロ・エ
ネルギー・ハウス)、快適・省エネヒューマンファクター、省エネ型情報機
器・システム、定置用燃料電池
運輸部門:次世代自動車、ITS(Intelligent Transport Systems)、インテリジェン
ト物流
部門横断:次世代型ヒートポンプシステム、パワーエレクトロニクス、熱・電力の次
世代ネットワーク
(5)今後の省エネルギー技術の展開
戦略推進上の課題として技術開発成果だけでなく、事業化を意識した戦略性や技術開発
段階からのコア技術のブラックボックス化(模倣対策)等の標準化・オープン化とは使い
分けた知財戦略や、官民一体となり、国際標準化をリードし、積極的に国際展開を狙うこ
とが求められている。
(6)今後の省エネルギー技術の展開
公的支援のあり方として、技術開発から事業化前までの、シナリオと一体化した切れ目
のない適切な技術開発の促進のための支援が有効である。実用化・事業化を見据えた、ニ
ーズ側からのアプローチによるシーズ発掘、また、当該シーズ技術の活用先、具体的な課
題把握のフィージビリティスタディを行う環境整備、シームレスな技術開発への移行への
仕組みづくりが求められている。異なる産業間における技術連携や、エネルギーの有効利
用及び物質とエネルギーの併産といったコプロダクション等、個別技術の組み合わせによ
- 76 -
って大きな省エネルギー効果が得られると想定されるようなシステム化の推進、異業種間
の積極的な連携が図られるような積極的な仕掛けが必要である。
国際競争力の維持・強化に向けて卓越した技術力は、国内製造業の製造現場が密接に関
連。国内の産業基盤を維持し、前述の標準化、知財戦略をもとにしたジャパンブランドの
浸透を図る。
(7)省エネ革新技術開発事業に係わる公募
本事業は、エネルギーイノベーションプログラムの一環として実施し、「省エネルギー
技術戦略 2011」の推進を十分に意識した大幅な省エネルギー効果を発揮する革新的な技術
の開発により、「Cool Earth エネルギー革新技術計画」に貢献することを目的とし、挑戦
研究、先導研究、実用化開発及び実証研究の四つの研究フェーズにおいて、幅広く研究開
発テーマを募集し技術開発を推進することを目的としている。また、研究開発テーマは、
前述の戦略で設定した「重要技術」に関連するテーマを推奨するが、中でも節電対策に資
する積極的な提案を期待する。
- 77 -
4.3
エネルギーモデルに基づく将来需給展望と震災影響評価
4.3.1
講演の概要
(1)講演日時:平成 23 年 9 月 14 日(水)10:00~12:00
(2)講師:株式会社三菱総合研究所
エネルギー戦略グループ
環境・エネルギー研究本部
主席研究員
園山実氏
(3)講演題名:エネルギーモデルに基づく将来需給展望と震災影響評価
4.3.2
講演内容
(1)エネルギーモデルによるシミュレーションの概要
株式会社三菱総合研究所では、IEA で開発されたエネルギー需要シミュレーションの枠
組みである「MARKAL(MARKet Alocation)」を利用して最適なエネルギー需給システムの姿
をシミュレーションしている。本モデルは、部門別・用途別の活動量やエネルギー価格等
の経済状況、エネルギー利用技術、CO 2 排出制約の有無や制約値等を入力し、エネルギーシ
ステムコスト最小化の最適解を導き出すものである。出力情報は、技術の構成(一次エネ
ルギー種別、電源構成等)、輸入エネルギー量、CO 2 排出量、エネルギーコスト等であり、
線形計画問題の解として最適化されたエネルギーシステムの姿などとなる(図 4.3.1 参照)。
なお、ここで目的関数をエネルギーコスト最小化としているのは、「経済成長のために
は、社会全体としてのエネルギーコストが小さいことが望ましい」との理念を基本に据え
ているからであり、資源価格変化や CO 2 制約などの環境条件下で、どういった技術・設備
の組み合わせ選択が長期的にコスト最小となるかを解析している。
また、本モデルでエネルギー利用技術として想定しているのは、2008 年に経済産業省が
発表した「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」等をもとに、エネルギーに直結する技
術であり、これらを広く選択対象としている。
構築シナリオ
構築シナリオ
輸送
民生
産業
経済状況
経済状況
【入力】
・部門別・用途別の活動量
・エネルギー価格
旅客
業務
鉄道(10億人km)
動力(PJ)
素材生産
ガラス他
エネルギー利用技術
エネルギー利用技術
【入力】
粗鋼(百万トン)
セメント(百万トン)
・・・
動力(PJ)
加熱(PJ)
ボイラ(PJ)
・・・
MARKAL※
・基本エネルギーシステムの構造、
・各技術要素の性能、コスト、導入上限等
術、CO2制約の想定(入力)に
対し、シミュレーションの全期
間におけるエネルギーシステ
ムコスト最小化の最適解(出力
≒将来需給展望)を導く
【出力】線形計画問題の解として
最適化されたエネルギーシステ
ムの姿(≒将来需給展望)
●技術の構成
●技術の構成
・一次エネルギー種別
・一次エネルギー種別
・電源構成
・電源構成 等
等
●輸入エネルギー量
●輸入エネルギー量
●CO2排出量
●CO2排出量
●エネルギーコスト
●エネルギーコスト 等
等
<目的関数>
<目的関数>
エネルギーシステムコスト最小化
エネルギーシステムコスト最小化
CO2制約
CO2制約
【入力】
・経済状況、エネルギー利用技
・排出制約の有無、制約値
※MARKAL(MARKet ALlocation) はIEAで開発されたエネルギー需給シミュレーションの枠組み。
図 4.3.1
エ ネル ギーモデルによるシミュレーションの概要
- 78 -
(2)震災前の評価
2009 年、三菱総合研究所は「2050 年エネルギー環境ビジョン」として、MARKAL による
シミュレーション結果を発表し、注目を集めた。2050 年に向けた経済成長と低炭素化の可
能性検討を中心に据え、鳩山内閣政府目標「1990 年比▲25% @2020 年」の実現可能性検証
や、妥当な CO 2 排出目標水準の提案等を行ったものであり、具体的には、持続的経済成長
の下で環境規制を満たすためにコスト負担を最小にできるイノベーションの選択と、その
結果築かれる 2050 年の低炭素エネルギー社会像(2005 年比▲60% @2050 年)を描いた(図
4.3.2 参照)。この際の 2050 年の低炭素エネルギー社会像では、風力発電、太陽光発電な
どの再生可能エネルギー導入拡大に加えて、原子力発電の建設とリプレースの着実な実施
を見込み、安価な夜間電力供給が可能になることで電気自動車が大規模に普及することを
想定していた。
(出典)三菱総合研究所所報, No.53, 2010.5.31,http://www.mri.co.jp/NEWS/magazine/journal/53/2018956_1695.html
図 4.3.2
2050 年エネルギー環境ビジョン概要
(3)震災影響の試行的評価
震災により、経済シナリオ、原子力供給力に係るシナリオ、燃料価格、CO 2 制約に関する
条件設定を見直す必要が生じた。経済シナリオについては、東日本では資本ストックの毀
損と消費マインドの低迷を、西日本については東日本の代替生産と復興需要を考慮した震
災復興シナリオを想定し、それらを合計して日本全体のシナリオを導いた。原子力供給力
については、既存原発の復旧/廃炉、新設計画の進捗有無、リプレース可否等をもとに、三
つのシナリオを設定した。燃料価格については、原油価格は 2030 年に 150 米ドル/バレル
まで上昇、LNG は燃料換算で原油価格と同水準、石炭価格は同 20%を想定。CO 2 制約につい
- 79 -
ては、制約なしシナリオと、現行のエネルギー基本計画等を参考にしつつ計算解の得られ
る範囲で削減水準「1990 年比▲45% @2050 年」とするシナリオを設定した。なお、震災影
響を加味した試算では、従来想定の 2050 年時点で 1990 年比▲60%以上の達成は解なし、
となった。
計算の結果、原子力供給力に関する三つのシナリオ、及び CO 2 制約の有無で、最適解と
されたエネルギーミックスの姿は大きく異なる。全体的に見ると、CO 2 制約がない場合には
原子力減少分は主に石炭が、制約がある場合には天然ガスが代替し、いずれにしても石油
は減少傾向となる。原子力供給力を低減させた場合、再生可能エネルギーの割合はある程
度増加するものの、エネルギー自給率(原子力を含む)の大きな向上は望めない。再生可
能エネル ギ ーの中で は 、コスト 低 減に伴い 太 陽光エネ ル ギーの導 入 拡大が見 込 まれ、CO 2
制約があるケースでは導入が早まると想定される。なお、石炭や天然ガスへの代替が進む
ケースでは、燃料調達費用の増大と、1 種類の一次エネルギー源に頼ることによるエネル
ギーセキュリティ上の課題も考慮する必要がある。
なお、エネルギーセキュリティの概念は、①国境を越えるまでの井戸元のセキュリティ
と、②需要家にエネルギーを安定的に届けるセキュリティに大別される。現在は、各一次
エネルギーについて、①についての供給途絶や価格乱高下などの生じ易さ(リスクの大き
さ)を指標とする方法を検討している。供給途絶リスクについては、一次エネルギー輸入
元の偏りや輸入元国の地政学的状況、資源価格の変動リスクについては供給力の偏在等を
指標にすることを想定し、これらを統合して各エネルギーとその組み合わせの評価マトリ
クスを導いている(図 4.3.3 参照)。
図 4.3.3
エネルギーセキュリティ指標の例
(4)エネルギーベストミックスの考え方
最適なエネルギーベストミックスを考える際には、環境性、供給安定性、経済性、安定
性を勘案する必要がある。震災影響を受けて安全性については大きな注目を集めていると
ころだが、それを前提に、環境影響や枯渇制約・地政学的リスクを含めた供給安定性、経
済性も含めた総合評価を進めることが求められているものと認識される。特にエネルギー
- 80 -
供給安定性については、一次エネルギーを海外に頼らざるを得ない我が国において需要な
指標であり、エネルギーセキュリティ指標の考え方などより詳細な検討が求められる(図
4.3.4 参照)。
環境性
Environment
3E+S
安全性
Safety
供給安定性
経済性
Energy-
Economy
Security
環境性:
供給安定性:
経済性:
安全性:
環境影響が小さい
枯渇制約、地政学的リスクが小さい
廉価である、価格が安定している
安全である、事故の影響が小さい
図 4.3.4
エ ネルギーベストミックスの考え方
(5)今後の課題
今後は、震災後のエネルギーシステムの状況を踏まえ、精緻なシミュレーションモデル
の開発や、シナリオスタディ、感度分析等を交えたエネルギーベストミックスの模索を実
施していくことを予定している。また、モデルを用いたエネルギーシミュレーションを通
じて、産官学の業界横断的なコミュニケーションを促していきたい。
4.3.3
主な質疑応答
質問:こうした計算結果は経済産業省のエネルギー計画策定時に参考にされているのか。
回答:経済産業省の長期エネルギー需給見通しなどではエネルギー経済研究所のエネルギ
ー需給モデルが利用されている。三菱総合研究所のモデルによる試算結果は計画策
定時のヒアリング等を通じて参考にしていただいているものと認識している。
質問:モデルを作るにあたって事象が複合化するため切り分けることが難しいのではない
か。また、今後 5 年のシナリオは状況変動に応じて短期的に見直す必要があるだろ
う。
回答:このシミュレーションは入力に対して一つの出力が得られる、いわば「一方通行」
の計算である。一つの計算結果をもとに再度モデルを回して現実的かつ、最適な姿
とすることが必要になる。また、国でも 2030 年までの見通しを議論している最中で
あり、状況変化に即応し、短期的にもシミュレーションをしっかり見直していく必
- 81 -
要がある。
質問:今夏の節電では 20%くらい減らすことができた。将来的には国内ではどのくらいエ
ネルギー量が必要になるのか試算ができないだろうか(産業構造も変わる可能性あ
り)。
回答:お示しした結果では節電努力については取り込んでいない。正直なところ、この夏
ほどのレベルで節電が達成されるとは考えていなかった。ただし、この夏は企業・
国民の無理を強いた節電であり、将来的な節電努力の余地についてはこの冬、来夏
の実績をもとに見込むことが必要だろう。
質問:太陽光発電、風力発電については、設置可能場所が限られるのではないか。モデル
では設置場所にかかる制約をどのように勘案しているか。
回答:太陽光の前提は METI 試算(麻生政権時、中期目標を引き上げた時の数値、2020 年
2,800 万 kW、2050 年 5,300kW)を使っている。現実的には 1,000 万戸の屋根に太陽
光パネルを取り付けることは厳しいだろうし、メガソーラーも土地の制約がある
(2020 年に向けては設置できる土地はさほど増えない)。ゆえに他の機関の試算例
に比べ、導入量をやや低めに見ている。2050 年時点の 100GW は NEDO が出している
PV2030+(太陽光発電ロードマップ)にある最大導入量(200GW-物理的における場
所には全て対象とする)の半分として見込んでいる。この数字では休耕田の利用等
も視野に入れている。
風力については陸上の設置場所自体にかなりの制約がある。洋上もすぐに置ける場
所はないだろう。風力発電協会が見込んでいる数字の 25%~50%の見方をしている。
メガソーラーについてはかなり建設コストが下がる見通し(1/3~1/2)を立ててい
る。ただし、メガソーラーのビジネスモデルとして、電力会社が主体となるのか、
新たな事業者が中心となっていくのかはまだ見えない。
質問:太陽光や風力等の自然エネルギーにかかる機器の効率は勘案されているか。
回答:勘案している。新技術も含め、発電設備の効率、価格、利用開始時期等については、
業界団体や企業の技術者の方に相談しつつかなり細かいデータを導入している。国
家戦略室やエネルギー庁基本問題委員会でも将来の発電技術、発電コストデータを
必要としているが、ここで使っているのは比較的現実に近い値だろう。
質問:CO 2 制約を入れるか否かによらず石油は大幅に減るという結論になっている。なぜ石
油がここまで減るのか。
回答:CO 2 制約なしの場合は、石油は石炭に対して価格競争力がないため石炭に置き換わっ
ていく。CO 2 制約ありの場合でも、石油は天然ガスに価格的にかなわないため、天然
ガスに置き換わっていく。
なお、CO 2 制約を考える場合、CCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)、CO 2 を
人為的に回収し、地中深くに、あるいは海中に貯蔵する技術)をどの程度見込むか
も課題になる。石炭も CCS 利用でクリーンに利用できるので更に石炭の割合を増や
- 82 -
せる考えもあるが、我々は CCS については 2050 年累積で 28 億トン(一般的に 35
億トンが妥当と言われている)までを許容して計算している。CCS そのものについ
ての議論が未成熟と判断し、他の試算例に比べ導入時期(2025 年から CCS 導入可能)
についても量についても堅く見積もっている。
質問:CO 2 制約ありの場合自動車が EV に置き換わると計算されているが、製造時の CO 2 排
出を考えると果たしてそこまで置き換わっていくのかが疑問である。
回答:未検証な部分もあるが、製造時を含めても EV の方が、CO 2 排出量が少ないというラ
イフサイクルアセスメントの結果を尊重している。本来は、例えばバッテリーのリ
ユース時に生まれるであろう新しい産業構造や原料の国内調達の割合等、今後確定
していく事項を勘案する必要がある。実は結果が大きくぶれるのはこの自動車の構
成部分である。実際には、今後の厳しい技術競争により使われるエネルギーがさま
ざまなルートをたどる可能性がある。
質問:自動車台数はほぼ人口比率で減ることとしているのか。
回答:2050 年で 9,500 万人まで減る試算。カーシェアリングも進むなどライフスタイルも
変わることを想定し、人口減少率以上に保有台数も減る試算をしている。
質問:次世代自動車への転換については、2025 年ごろから急激に EV が多くなっていく。
大きな要因は何か。
回答:この時期に電力の低炭素化が一気に進むのに加え、特に蓄電地の価格が下がる見込
みをしている。ただ社会全体を見渡してみると、この変化は行き過ぎであろうと見
ている。
質問:エネルギーモデルは、本来的には日本で閉じた試算ではいけないのではないか。
回答:現状では各地域のモデルを単体で動かしているだけで、価格条件を合わせる、調達
条件を設定等、が現状で調整可能な範囲である。ダイナミクスシミュレーションの
プログラムなど「ワールド 3」など、全世界を対象に回しているモデルもあるが、
粗すぎる。精緻なモデルと大きなモデルを同時に回し、個別モデルに当てはめるよ
うな動かし方が必要だろう。
質問:今回の震災ででは、原子力発電所への被害が注目されているが、石油精製設備も被
害が大きかった。原子力の安全性を考慮に入れたそうだが、石油精製に係るリスク
は勘案していないのか。
回答:石油、ガスなどのアクシデントの可能性も考慮しつつある。電源リスクはフェアに
評価したい。
質問:2030 年まで石油の値段が上がるが、以降は上がらないとの条件設定をしている。エ
ネルギーの供給過剰から供給不足の時代になる時が来るのではないか。
回答:そうした指摘は多く受けている。一方で、日量 8,500 バレル~8,700 バレルぐらい
- 83 -
で既にピークアウトしているとの見方もある。投機による価格の引き上げ、石油離
れの進み具合、両方の見方に引っ張られて現在の値になっている。今後上がってい
く場合、下がる場合、両方見据える必要があり、さまざまな想定でシナリオスタデ
ィしたい。
ちなみに、中国は石炭を中軸に LNG も利用している。IEA の見通しでは 2030 年に
は世界のエネルギー使用量が 1.5 倍になると言われており、その中で 7-8 割は新興
国が占める。
質問:人口が減る、自動車台数が減る一方で、GDP は伸びるとの条件設定は現実的か。
回答:経済成長見込みについては、人により見方がずいぶん異なるため多くの指摘を受け
る部分である。ちなみに、現在の GDP 予測は、経済産業省がベースとしている予測
値に比べて相当に低い水準である。産業構造自体を現状と大きく変えずに、国外の
需要を相当あてにしながらの試算となっている。
4.3.4
まとめ
東日本大震災に伴う、原子力発電所の稼動停止や化石燃料の供給不足・輸送困難など、
一連のエネルギー需給逼迫問題は、我が国のエネルギー需給の将来展望を大きく塗り替え
るインパクトを及ぼした。これまで中長期エネルギー戦略を語る際、論点となっていたの
は「経済性」と「CO 2 削減」が中心だった。特にここ 10 年程度は CO 2 削減の観点から原子
力発電の着実な増設を軸に検討されてきた印象がある。それが、この震災を受け、特に原
子力発電供給力の考え方について大幅な軌道修正を求められている。
また、計画停電、ガソリン入手困難、化石資源不足に伴う一部製品の生産抑制などを通
じて、これまでエネルギー問題に特段の関心を持っていなかった一般生活者層に至るまで、
我が国のエネルギー需給のあり方について大きな関心と議論を引き起こしている。一般紙
はもちろんのこと、タブロイド紙やワイドショーに至るまで、エネルギー問題、特に原子
力発電のあり方について取り上げる状況は、戦後初めての事態だろう。
ただし、福島第一原発事故による周辺住民への甚大な被害、放射性物質飛散に係る健康
被害への懸念についての報道が溢れる中で、一部には実現可能性を無視した議論も飛び交
っている感も否めない。
エネルギー確保は生活と産業を支える根幹である。将来の日本の根幹を支えるエネルギ
ーの姿は、一時的な風潮で決めるべきではない。多様な考え方・選択肢を見据えつつ、一
定の根拠を持って冷静に議論を行う必要がある。今回、講演のあったエネルギーモデルに
基づく将来需給展望は、定量的にエネルギー需給のあり方を検討するための貴重な材料と
なりえる。モデル自体のブラッシュアップを図りつつ、我が国の中長期エネルギー戦略に
係る検討の中で、充分に活用されていくことを期待する。
- 84 -
4.4
4.4.1
ベストエネルギーミックスを目指す政策設計とその課題
講演の概要
(1)講演日時:2011 年 10 月 12 日(水)15:00~17:00
(2)講師:慶應義塾大学
先導研究センター
環境共生・安全システムデザイン教育センター
特任教授
保井俊之氏
(3)講演題名:ベストエネルギーミックスを目指す政策設計とその課題について
4.4.2
講演内容
(1)エネルギー政策の課題
3.11 大震災により福島原子力発電所が被災、電力不足が懸念されたが結果として前年比
15%減の節電は達成された。また、2011 年 8 月の電力消費パターンも変化し、平年で現れ
ていた日中の電力ピークが平滑化される傾向が見られるなど、3.11 大震災による電力不足
への影響は、国民を節電行動へ向かわせ、企業においては操業シフトや休日変更などで切
り抜けることができた(図 4.4.1 参照)。
慶應義塾大学 保井 俊之氏より、「ベストエネルギーミックスを目指す政策設計とその
図 4.4.1
3.11 大震災後の節電状況
日本国内の電力消費パターンを見てみると地域性があり、大都市圏では冷房度に、東北・
北陸地域では暖房度に感応的である(図 4.4.2 参照)。現実的には国内の電力需要はもっ
と地域を細分化して考えるべきではないか?
ーンは本当に最適なのか?
現状の 9 電力で大括りされた電力供給パタ
というのも電力需給はかつてボトムアップ型で決められてお
り、それぞれの地域の需要に合わせた供給がなされていた。地理的条件、天候、産業、生
活パターンなどで実際にはそれぞれのコミュニティで電力需要は変化するものだが、それ
らを考慮されることなく、またコミュニティごとの電力消費パターンの情報も開示されて
いない。そこに、大きな非効率と無駄が生じている。それが 1951 年の電力編成で、9 電力
による地域独占型に変更された。その結果、コミュニティごとの需給特性に配慮されるこ
- 85 -
となく中央集権的な調整システムに変化してしまった。
図 4.4.2
地域によって異なる電力消費パターン
一般的に地域ボトムアップ型にできない日本の公共サービスの課題を列挙すると
① サービス提供側とサービス受容者間の情報が非対称
② トップダウンアプローチの非効率性、機動性の欠乏、ロバストネス不足
→従来のトップダウンアプローチでは解空間全体を見ていない
問題設定と要求分析スコープに重大な漏れがある
③ 部分最適追求による資源の不効率配分
④ 提供サービスの質の低下と顧客満足度の低下
などが考えられる。エネルギー需給システムを社会システムとしてみる視点が必要ではな
いか?
これを電力需給にあてはめて考えると
① 地域コミュニティ毎に異なるエネルギー需給・供給の違いを無視
② 非効率で質の低いトップダウン型システムを温存したままで電力使用制限令による
節電指示
③ 復興と経済成長に強い制約条件
④ 時代遅れの電力供給が日本の競争力を削ぐ
したがって、電力需給システムを地域住民のヒューマンファクターを取り込んで捉え直
すことが必要である。
- 86 -
(2)これまでの社会システム設計論の行き詰まり
従来、社会システムの設計に用いられてきた諸方法論は、例えば下記のように限界に突
き当たり、適切な解が導けていない。
これらがうまく機能しなかった要因は大規模な社会システムの問題に部分最適を求め
る方法論を割り当てているためと考えられる。
社会システムを考えるにあたっては全体思考アプローチが必要である。そのためには
① 人間中心を二重の意味で持つこと
→分析対象が社会システムにおける人間の意識/無意識の欲求
解の導き手が人間の集合知=参加型
② 適当されるディシプリンが文理統合であること
③ 社会システムは複雑なので、解を求める方法論自身にシステムとしての複雑さが
具備されていること
→価値協創:解の導き手の相互理解と成長で価値を創出
価値協創に参加する「場」があり、場が協創の触媒に
の 3 要素が必要であり、価値協創へ参加する「場」を持つ人間中心のシステムが必要であ
る。サービス科学の考え方を政策設計へあてはめると図 4.4.3 のようになる。
図 4.4.3
サービス科学の進展
- 87 -
すなわち、今後の新しい公共サービスは従来のように住民から発注された要求が住民に
デリバリーされる間において、住民が行政にノータッチの環境ではなく住民、行政に関わ
る他の機関が「つながり」を維持しながら情報を共有しシナジー効果が発揮される参加型
のプローチ方法にすべきである(図 4.4.4 参照)。
図 4.4.4
新しい公共サービスのアプローチ
(3)参加型の社会システムデザイン
参加型のシステム分析(Participatory Systems Analysis)はステークホルダーが課題
に対して異なる立場や世界観を持ち寄り、自分たちの問題として捉えてその解決に向け参
加することを特徴としている。従来は、参加する「場」がなく相互にインタラクションが
なかったが、現状はステークホルダーが特定されて「場」が形成される。したがって、
「つ
ながり」、インタラクションがあるため集合知として問題解決の意思決定が自らなされる。
多様なサービス提供者と多様なサービス受容者が複合的に関係し合い、ともに価値を作っ
て行く。その過程で、価値づくりを動機付ける人間の認知・欲求生成・行動をモデル化・
可視化しシステム設計に組み込む試みも近年なされてきている。そして、ステークホルダ
ー自ら選んだ解決策により、問題が解決し、価値が育まれ、その結果、創造される価値が
増大する。
例えば、最近の方法論として
① V モデルに基づく ALPS 手法による社会システムの問題解決アプローチ
② Learning Laboratories 創設を通じた因果関係ダイアグラム-ベイズネットワーク活
用型意思決定
③ 集合知/「知のコモンズ」アプローチによるデザイン思考
④ Future Center 創設を通じた社会システムの問題解決・社会起業促進
- 88 -
などがある。
(4)V モデルの例
ここで V モデルは、図 4.4.5 に示すように、
ステークホルダー分析により問題を特定、最
終目的の階層化と要求分析を行い、それらを
ステークホルダーに合意させ、問題所在の把
握から検証・問題解決プロセスを繰り返すこ
とで自己学習過程に入る。
図 4.4.5
V モデルの概念
V モデルを社会システムで考えると図 4.4.6 のように 6 ステップになる。また、保険金
不払い問題への V モデルを用いた政策設計の例を図 4.4.7 に示す。
図 4.4.6
図 4.4.7
V モデル:社会システムへの 6 ステップ
V モデル:保険金不払い問題への政策設計の例
- 89 -
(5)電力供給政策設計
現状のトップダウン方式の電力供給方法に代わって受容者参加型のボトムアップ方式の
電力供給システムへ変換することで、守るべき資源はコミュニティの顧問プール・リソー
スであるとの認識を生み、自らが属するコミュニティのコモンズとしてのかけがえのなさ
や資源節約意識を育むことになる(図 4.4.8 参照)。
図 4.4.8
4.4.3
電力供給システム設計のパラダイムシフト
主な質疑応答
質問:政策設計の上で、地域の特性に沿った、住民参加によるきめ細かいエネルギーシス
テム構築が必要というご提案だった。解いていくものによってはまとまりの大きさ
も変えていく必要があるだろうか。
回答:大小関わらず構造は恐らくこれであろう。外部性が強く小さな単位に分けられない
もの(放送、貨幣の流通など)は大きな(ナショナルな)単位で考えるべきだが、
リージョナルな単位で需要パターンが異なるものは分けて考えるべき(例えば北九
州市のエネルギー需給)。
質問:需要者は個人、家庭ではなく産業側に左右されるところが大きいか。
回答:企業の発電は原発 2 基分と言われている。問題は企業が電気を売りたいように売れ
ないということ。エンロンの事例は不正経理を含めたガバナンスの失敗であり、ス
マートグリッドのシステムが失敗したわけではない。そうした企業が増えることで
需給バランスが取れるだろう。
質問:このようなモデルを実際に進めるにはどのようなメンバーを入れるか、誰がファシ
リエーターになるか。
回答:例えば区電力公社を作る場合、設備は持たなくてよい。東京電力からリースで借り
受ける。また、近くの工場と売電契約をする。需要を予測してどこから(東京電力
以外からも)どれだけ電力を購入するか決める。実は大正から昭和初期に東京市が
電力会社を持ち運営していた。牛乳や新聞のように電線を引いて売っていた。それ
をもう一度やればよい。とても簡単な話(NTT 版を電力版でやるということ)。
- 90 -
質問:特徴のある地域ごとに別々の契約をするとなると、住宅、工場などのエリア毎に需
要が乱れ(昼だけ需要が大きい地帯など)、分けることでトータル的に無駄が増え
るのではないか。今回の計画停電の場合、電力会社側がシステムとしての余裕を考
慮してこなかったことが問題。
回答:使いすぎの場合は需要側自体がコントロールする。現在不合理なのはどの地域も節
電しなければならない。経済学者は価格インセンティブを埋め込む。それをやれば
来年から実行可能だろう。が、(電通のリサーチなどによると)震災後の人たちは
お金で動かない。私が考える非経済的な価値(皆で支えようという意識)から考え
ると 5~10 年かかるだろう。規制行動の中に人々の認知や欲望を埋め込み想定する
のが米国で主流になっている。熟議民主主義(Deliberative Democracy)が流行っ
ている(皆が議論を進めることで意見が変化していく)が、小さなコミュニティで
しか機能しない。事業仕訳は規模が大きすぎた。地方分権は合ったサイズに戻ろう
ということ。これが政策のバックグラウンドになる。
質問:コミュニティの単位について。
回答:ひとつには基礎自治体(市町村の単位)のイメージ。昔のムラの連合体、水利権で
まとまっていた地域が現在の市町村になっている。
質問:日本人のシステム思考は、大きなハプニングが起きないとそうはならないのではな
いか。
回答:おっしゃる通りだと思う。日本人の進化の過程がリニアではない。改革することで
悪くなるのではないかと危惧する。日本人は危険を感じた時に大きく変わる。企業
でいえば 3 期連続で赤字になったとき。米国企業、例えば HP の PC 部門は ROE が 10%
以下の状態で切るが(株主対策)、日本は耐える。ホリスティックに考える。進化
論的にも断続平衡説(Punctuated equilibrium、徐々に「進化する」のでなく、「区
切りごとに突発的に」進化していき、小集団が突発して変化することで形態的な大
規模な変化が起きるとする進化生物学の理論の一つ)というのがあり決して病理的
ではない。日本人は特にその傾向が強い。今はまだその大きな危機ではないだろう。
また、参加型システムの弱点は、ファシリテーターの力量が不足していると人々は
流されないこと。日本にそれだけの人材がいるか?
育成、数を増やすことが必要。
質問:有能な人材は慶應の藤沢キャンパス(SFC)で輩出する予定だった。
回答:「異端の系譜 ―慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス」(中公新書ラクレ)によると、
錚々たる人材を輩出しているが、人材がやや IT に偏在する側面も。基本的には実業
志向で、クックパッド創業者や節電アプリ開発者が代表的。政策ファシリテーター
層が必ずしも厚くない。
質問:社会インフラの供給は、今後の人口減の社会ではどのような供給構造が必要か見直
さないといけない。その場合、コミュニティレベルの供給公社発想は有効か?
い公社と弱い公社ができるはず。
- 91 -
強
回答:過疎により公社を持ちきれなくなった場合、公社の合併も起こり得るだろうし、人
間がより安い自治体に移動することも起こり得るだろう。
質問:電力がストックできるようになってきたのでエネルギー供給にバッファができつつ
ある。この要素も加えるべき。
回答:ある程度の貯蔵はできるが、大規模な電力貯蔵が長期間できる技術はまだできてい
ない。また、高電圧の送電がブレークスルーできるかどうかの問題もある。
質問:中国や韓国など海外との競争力の視点も入れるべき。また、需要用途に応じた価格
設定もありうるか。
回答:コミュニティレベルは企業単位でもよい。それによって最も安い電力を使用し、海
外競争力をつけよう、という考え方がある。エネルギー原価を自分でコントロール
できる状態にしておく。人間の欲望や欲求にまで一気に踏み込もうとしているため、
皆さんの違和感が強いのではなかろうか。この部分を取り込むことで大きく効率的
に社会システムがデザインできるだろう。
質問:今後、日本の海外比率が高くなると、海外からの資金を回収して R&D に回さないと
いけない。どのように?
回答:海外で稼いだ所得には課税しないモデルに 2004 年から変わりつつある。国内で研究
開発したものを海外で売り上げるときに、国内での研究開発がペイしない税制にな
っている。ものづくり企業の典型だが、ロイヤリティの発生する特許等以外のノウ
ハウやナレッジが多く、国内で開発費がかかっているにも関わらず海外では知的所
有権にはならないもの。それらも知財にすればいいが、およそ馴染まない(公開制
度があり、できたとしてもやらない)。誇張して言えば、研究開発からスペックレ
ベルまで落として他社から持ってくる。自分で研究開発しない。米国企業はカリブ
海で本社機能を持つ。本国に資金は戻っていない(ブッシュ時代に 1 年だけ法律が
変わったが)。対して日本は本国送金したい。香港はできそうか?
目端の利いた
ファンドは香港に行くが、今や香港の金融は大陸の金融と一蓮托生。欧州の銀行と
も関連が深い。
4.4.4
まとめ
福島原子力発電所の被災によって生じた電力不足の社会としての対応状況より、今後の
ベストエネルギーミックスを形成する新しいシステムアプローチについて、トップダウン
からボトムアップの電力供給政策設計の必要性を提案された。このような電力政策を先陣
として、電力以外の日本の公共サービスに関しても価値交換型から価値協創型へパラダイ
ムシフトさせることができるものと問いかけている。日本の社会システムは伝統的に打た
れ強く粘り強く回復する潜在力を秘めている。市民レベルでの「つながり」で社会システ
ムを回復しようとする力を震災後の復興政策に活かすような動きができれば、従来とは異
なる社会システムの構築ができるであろう。
- 92 -
第5章
5.1
環境ビジネスの展開と環境技術の研究開発に関わる提言
環境ビジネスの展開における課題と対応
本年度の調査結果から導きだされた環境ビジネスの展開は、東日本大震災に伴うエ
ネルギー需給や震災廃棄物処理・除染等の環境ビジネス、スマートコミュニティに代
表される国内外の環境都市開発などの都市レベルでの環境関連パッケージビジネス、
国内市場の縮小に伴う環境技術による新興国市場の開拓に大別して考えることができ
る。
5.1.1
環境ビジネスの成長が期待される分野と課題
( 1) 東 日 本 大 震 災 に 関 連 し た 環 境 ビ ジ ネ ス
震災後は、再生可能エネルギー関連のビジネスは、国内でも拡大基調であり、今後
さ ま ざ ま な 支 援 策 が 講 じ ら れ る こ と に な る 。た だ し 、当 面 の エ ネ ル ギ ー 供 給 は 、石 炭 ・
LNGへ の 依 存 度 が 増 大 す る と 見 込 ま れ て お り 、そ れ に 関 連 す る 高 効 率 石 炭 火 力 発 電 、ガ
ス発電用高効率タービンに対する短期的な需要は増加するが、太陽光発電以外の再生
可能エネルギー利用技術への期待は大きいものの、当面大きな市場を形成するには至
らないと見られる。
一方、節電に対する需要が大きいことから、住宅をはじめとするさまざまな施設へ
のスマートメーター、エネルギーマネジメントシステム等の導入が見込まれる。
また、震災廃棄物処理や除染に関わる需要が見込まれており、この分野での環境技
術の進化が期待される。
( 2) ス マ ー ト コ ミ ュ ニ テ ィ 関 連 ビ ジ ネ ス
現在、国内外の各地でスマートコミュニティ関連の実証実験棟が行われており、そ
のビジネス化が期待されている。そのキーテクノロジーとして重点的な開発が期待さ
れているのは蓄電技術であり、この成立によってエネルギーの需給方式には、今後、
大きな変化が予想される。
一方、国際市場でビジネス化するためには、例えば都市開発プロジェクトの上流か
ら参画し、総合的なソリューションビジネスを展開する必要があるが、我が国はこの
対応において欧米に比べて弱点が指摘されている。それを打開するために、国際的な
大規模プロジェクトのマネジメント能力の向上やそのための人材育成が急務となって
いる。また、現在は、国際標準化において先行しようとしているが、この分野におい
ても、技術力の向上とともに規準・規格作りに関わる専門家の育成が必要とされてい
る。
( 3) 環 境 技 術 に よ る 新 興 国 市 場 の 開 拓
環境ビジネス市場の中で規模感が大きい分野は廃棄物処理、水処理事業に係るサー
ビス分野であるが、日本においてこれら分野は官主体で進められてきたため国際競争
で強みを発揮できていない。日本勢が得意とするのは世界市場規模が比較的小さな装
置・資材等の機器分野となっている。
- 93 -
今後、広まりゆく世界の環境ビジネス市場の中で、日本勢が国際競争に勝っていく
ためには、ある程度の市場規模があり、我が国に技術的優位性のある分野でのビジネ
ス展開を図ることが期待される。具体的には、スマートシティ、メガソーラー、資源
セキュリティ、アジア環境改善等が挙げられているが、いずれの分野においても、関
連企業の横断的な連携、環境規制等政策面との連動、水平展開等を念頭においた中長
期ビジネス戦略ビジョンの描出等が求められる。
5.1.2
新興国における環境ビジネス展開上の課題
これらの環境ビジネスを、海外、特に新興国に展開する上での課題を以下に示す。
( 1) 地 域 の 特 性 に 対 応 し た 環 境 技 術 ・ 製 品 の ブ ラ ン ド 力 の 向 上
我が国の技術レベルが高いことは言うまでもないが、それが市場におけるブランド
力という観点から見るとその低下が指摘されている。その理由として、日本のものづ
くり産業が魅力的な製品を提供できなくなっていることが挙げられる。環境技術・製
品においては、その品質・性能ばかりでなく如何に市場における魅力を再生するかが
課題と言える。なお、グローバルに見れば、概念等の不明確さは残るがスマートシテ
ィへの動きは活発であり、環境、エネルギー分野の技術に優れる日本企業にとっては
大きな機会であるが、それを獲得していくためには、要素技術の単品売りではこのよ
うなブランドの形成はできないため、個々の技術力を強みにしたシステムにおけるブ
ランド力の強化が課題である。
( 2) 海 外 進 出 に 伴 う リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト に 対 す る 官 民 連 携 に よ る 対 応 方 法 の 検 討
我が国の環境・エネルギー技術は、比較的リスクの少ない国内市場を対象に事業化
しているため、国際市場を主体として環境・エネルギー技術で事業活動を行う海外企
業に事業規模で差をつけられつつある。また、海外におけるスマートシティのような
設計エンジニアリング、プロジェクトマネジメント、契約管理等が国際標準として遂
行される国際プロジェクトでは、商習慣・事業環境の違い等からこれらがしばしば弱
点となっている。そのためには欧米だけではなく韓国・シンガポール等の競合企業の
国際市場における事業戦略・市場戦略や各国の支援制度を官民で調査するだけではな
く、我が国企業が収益を確保できるビジネスモデルを構築し、早急に国際市場に展開
していく必要がある。
また、企業だけでは、環境ビジネスを取り巻く当該国の政策・制度等の変更には対
応できていないため、このような事業リスクへの対応方法を官民一体で検討する場を
設け、今後ますます事業リスクの脅威にさらされる可能性の高い、大規模で複雑な環
境ビジネスにおける損失リスクの低減を図る必要がある。
5.2
環境技術の共同開発・事業化における国際競争力強化のための提言
環境技術の共同開発・事業化における国際競争力を強化するには、我が国の高性能
な 浄 化 ・修 復 な ど の 環 境 技 術 だ け で は な く 、調 査 ・分 析 、リ ス ク 評 価 、モ ニ タ リ ン グ な
どのライフサイクル対応での環境技術をバランスよく強化し、ライフサイクルでの対
応において競合諸国に対する優位性を確保し、それに基づく基準・制度を確立して同
- 94 -
時に移転していく必要がある。
なお、これらの技術開発は、分野により取組状況に差異があるため、現状の技術開
発プロジェクトの重点的推進、官民協力による現地調査にもとづく新規技術開発プロ
ジェクトの設立、分野横断的な技術開発プロジェクトの検討に分類して体系的に推進
する必要がある。
ま た 、ア ジ ア 圏 で 、環 境 技 術 に よ る 市 場 が 形 成 さ れ る ま で に は 5 年 か ら 10 年 程 度 の
時間を要すると思われる。我が国は現段階から、明確な戦略方針と目標を掲げて対象
国及び課題を重点化し、環境技術の移転とその事業化に取り組むべきである。
当 面 、5 年 先 の 先 導 モ デ ル 事 業 の 実 施 を 目 標 に 、以 下 に 示 す 環 境 技 術 移 転 の た め の 課
題検討と海外における具体的技術移転方策にもとづき、環境技術による事業化を推進
することを提案する。
調査・分析
・深層部調査
・簡易分析
産学官連携による
先行技術開発で
競争力強化を図る分野
モニタリング
評価・診断
・微生物利用
環境社会貢献
・広域リスクアセスメント
日本型
環境
環境経営 リスク管理
環境経営
環境保全
汚染予測
修復促進
環境ビジネス
・廃棄物利用
優位技術を展開し
当該国との共同開発で
差別化を図る分野
図 5.2.1
・拡散シミュレーション
分解・処理
・自然浄化能力活用
・オゾン・微生物処理
・含油廃水処理・有効利用
環境汚染防止・修復のライフサイクルにおける対応技術力の強化
( 1) 環 境 技 術 移 転 の た め の 検 討 課 題
①対象市場の分析
・ ア ジ ア 地 域 に お け る 市 場 動 向 ・規 模 ・ 市 場 メ カ ニ ズ ム の 明 確 化
・環境技術移転のシナリオ検討
・対象地域及び対象分野の設定
②国際的な技術競争力の評価
・ 対 象 地 域 を 絞 っ た 国 際 的 な 技 術 競 争 力 の 調 査 ・分 析
・技術戦略マップにもとづく関連技術の整理・体系化
・現状の関連プロジェクトの評価と重点化
- 95 -
③技術移転方策の検討
・技術移転可能な現地研究機関等との連携策の検討
・共同研究開発プロジェクトのニーズ調査及び推進方法の検討
・既存の枠組みを活用した技術移転のための助成方法の検討
④事業化の検討
・事業スキームの検討
・先導的モデル事業の検討
(2) 技 術 移 転 促 進 方 策 の 提 言
① 対 象 国 の 海 外 大 学 ・研 究 機 関 等 と の 連 携
現 地 の 実 情 に 対 応 し リ ス ク の 低 減 を 図 る に は 現 地 の 法 規・制 度 に 通 ず る 必 要 が あ り 、
現地の国立・公立大学及び公的研究機関に提携先を設定し、連携した研究・技術開発
活動を展開する。
②現地の政府出先機関等による支援
海外へ環境技術を移転しその先に環境技術による事業化を見据える場合、例えば現
地の汚染状況の把握などの情報収集について、民間側の取組みだけでは限界がある。
現地政府及び企業に対する日本企業の技術紹介及び事業化を検討するための現地先行
調査等については、国の出先機関など官側の協力が必要である。
③ NEDO、 JST 等 の 共 同 研 究 開 発 補 助 制 度 の 活 用 と 拡 充
環 境 に 関 す る ODA は 水 資 源 事 業 が ほ と ん ど で あ り 、 他 の 環 境 分 野 に 関 し て は 極 め て
少 な い 。環 境 分 野 に お け る 技 術 移 転 は 、当 面 、NEDO、JST 等 の 補 助 制 度 を 利 用 し た 共 同
技術開発あるいは共同研究として進めるが、技術移転に関わる実証研究等の事業規模
が拡大していく事が予想されるため、長期的な視点での事業化に対する補助制度の拡
充が求められる。
④産業界における企業連合による対応
欧米の競合諸国は環境技術によるビジネス化を目指して、事業の構想段階からコン
サル活動などを展開して、まず基準・規格・制度を抑えていく傾向にある。これに対
抗するためには、産業界が協力して企業連合として、それぞれの企業の強み・弱みを
補完しながら、学官と協力して戦略を策定して、政策から事業まで一貫した取組みが
できる体制を構築して取り組む必要がある。
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あとがき
本年度調査の主な対象として、環境技術をどのように海外に展開してビジネスにつなげ
るかという課題があった。日本企業による海外の環境都市開発への参画、スマートシティ、
スマートコミュニティ、環境技術の海外展開の状況を把握し、海外企業による環境ビジネ
スとの比較分析を試みた。そこで浮かび上がってくる課題は、必ずしも環境技術やそれを
活用したビジネスだけに限定されるものではなく、技術により海外市場を開拓する場合に
共通のものと考えられる。
日本企業の技術的優位性については必ずしもそれを肯定する意見ばかりではない。我が
国の技術的優位性は、日本型の簡略化された商習慣、信頼にもとづいた契約関係や幅広い
知識を有する専門技術者の存在を前提とした社会システムにおいてのみ成立するものであ
り、この日本型社会システムが適用できない国際市場では日本企業が優位性を発揮できな
いとの指摘がある。
また、技術やビジネスを海外市場で展開する際のリスク管理においても、例えば、海外
企業ではリスク対応経験の蓄積状況をもとに、フィーの金額、応札費用、キャッシュフロ
ー、ボンドとりわけ親会社の保証、保険等に応じて専門担当者が応札を判断するなど、人
材や企業に組織的に経験知を蓄積し活用しているが、このような取組みは我が国の企業に
欠けているとされる。
更に、外部から見ると日本企業はどの企業でも事業構造・保有技術が同じで特徴が無く、
国際プロジェクトにおいてブランドを形成しているとは言えない。特に、環境都市開発な
どの国際プロジェクトにおける上流の構想・企画分野でのブランド力が欧米に比べて弱い
との指摘ともある。
これらの指摘への対応として、本年度ご講演いただいた講師の方々からは、官民連携に
よる上流対応の強化、総合的なソリューションサービスの確立、戦略的分野におけるビジ
ネス化への国による優先投資、現地政府・研究機関・大学等との継続的関係の強化など、
さまざまなご示唆を頂戴した。
次年度は、環境技術や環境ビジネスに関わる調査研究課題に、これらの我が国の産業・
企業が抱えている社会システムを含めた課題を加え、更なる調査研究活動を展開していき
たい。
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JRIA23 環境
平成 23 年度
環境技術調査専門委員会 調査研究報告書
平成 24 年 3 月
発行所:社団法人 研究産業・産業技術振興協会
〒113-0033 東京都文京区本郷 3 丁目 23 番 1 号
クロセビア本郷 2 階
TEL:03-3868-0826
URL:http://www.jria.or.jp/HP/
C JRIA 2012 年
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