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基調講演 医学・医療の現場と情報:今、医学図書館員に求めること 大西

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基調講演 医学・医療の現場と情報:今、医学図書館員に求めること 大西
基調講演
医学・医療の現場と情報:今、医学図書館員に求めること
大西祥平
慶應義塾大学健康マネジメント研究科教授
医学・医療の現場と情報:今、医学図書館員に求めること
「学際的領域が研究対象となる研究科からの要望」
大西祥平
慶應義塾大学健康マネジメント研究科
Ⅰ.慶應義塾大学健康マネジメント研究科について
1.はじめに
医学系図書館員の方々の研修会であり、ここで健康マネジメント研究科の大西が話しを
する意味についてまず説明したいと考えます。すなわち本研究科が他の研究科と異なり、
また近年似た研究科が増えてきている、その特徴は必要とする情報の幅広さ、多様性であ
ります。健康マネジメント研究科の成り立ちと一専攻三専修、すなわち看護・医療マネジ
メント・スポーツマネジメント専攻、看護学専修、医療マネジメント専修、スポーツマネ
ジメント専修という、他大学研究科に類のない形態を有しています。そのため、カリキュ
ラム内容も工夫がなされています。詳細な点について丁寧に説明することとします。
2.健康マネジメント研究科設立理念
急激な人口動態の変化、疾病像の変化、医療費の高騰、国民生活と健康に関わる価値観
の多様化など、グローバルに保健、医療、福祉をめぐる環境は、様々な問題を解決すべく、
継続的に変化し、増々複雑化しているのが現状であります。より健康な高齢者が数多くな
っていくことは、それに伴う個人の自由時間の増加や医療費の軽減につながり、そして健
康増進に寄与するスポーツ活動の重要性が増々高くなり、健康ビジネスの新たなマーケッ
トの創出と発展への期待につながっています。このような変化の中で、多種多様な社会の
ニーズに対応するために、
「健康」と「マネジメント」を本研究科では新たな定義を行いま
した。
これまで、
「健康」は身体的・精神的・社会的に完全な状態として、そうでない状態との
対立概念で捉えてきましたが、慢性疾患や障害を抱えながら長期に日常生活をおくる人が
増え、今日ではそのような従来概念は適当ではありません。
「健康」は誕生から死に至るま
で変化する人間の心や身体の諸相を意味する連続的な概念として捉え直しています。
「マネジメント」については、システムや組織のマネジメントと個人のマネジメントの
いずれか一方に着目するのではなく、両者は互いに不可欠な性質のものであると捉え直し
ています。とくに個人のマネジメントにおいては、保健、医療、福祉、健康増進、疾病予
防、スポーツ活動など、これまでは断片的に提供されているサービスを、その人にとって
最適な組み合わせで統合し提供する、いわば境界無きマネジメントが重視される必要があ
ると考えられます。
このような再定義における新しい「健康マネジメント」の概念のもとで、健康を軸とし
て、保健、医療、福祉の幅広い領域において先導的な役割を果たすカリキュラムづくりが
なされています。
3.カリキュラム内容
本研究科に入学される学生の大半は看護を除いて非医療系で占められています。そのた
め、非医療系の学生には導入基礎科目として臨床入門、ストレスケア入門、ヘルスケア倫
理学などの医療系の科目を設置し、そして医療系の学生には経済学、法学、会計学などの
科目を設置して、できる限り多様な学生が健康マネジメント研究科においての共通の基盤
を作るべく工夫がなされています。
また臨床及び実験研究における分析に関する科目も充実させ、分析手法科目としての領
域を設置しています。修士および博士課程における研究において不可欠なものであり、ま
た慶應義塾大学では特に湘南藤沢キャンパスの学生及び健康マネジメント研究科の学生は
JMP という統計解析ソフトを共通の解析ソフトとして使用しています。
そしてその後の方向性はそれぞれ 3 専修、すなわち看護、医療マネジメント、スポーツ
マネジメントの専門科目を履修することとなっています。
4.教育・研究に必要な情報の特徴
それでは教育・研究において必要な情報とはどのようなものか。一つには医療系だけで
なく、その他多くの分野にかかわる包括的、学際的領域を対象としていることはカリキュ
ラム内容からも御分かり頂けると思います。本研究科での医療系と非医療系である法律学、
経済学、社会学、理工学部等の分野と健康マネジメント研究科の基軸は「健康」というキ
ーワードです。人の健康にかかわる全ての要因を理解し、そしてより良い健康を求めてマ
ネジメントすることにあります。現在、医療は非常に高度化し細分化され、人をミクロレ
ベル、遺伝子レベルで評価し、研究、治療の中心となってきています。一方、人をマクロ
レベルで、すなわち地球、太陽系または宇宙の中で住む人間としてみることで、人の健康
をどのように捉えるのか、この視点は全く対極的なものであります。
人の健康の評価法として、主観的健康感という言葉があります。本人が現時点で健康で
あると感じているのか、またはそうでないと感じているのかを 5 段階で評価する極めて単
純な評価法であります。
しかし、
この主観的健康感は平均寿命と相関するとされています。
また、この主観的健康感を大きく左右するものに、生活習慣病やガンをいった疾患を有し
ていることだけでなく、今現在問題となっている格差がクローズアップされています。こ
の格差には所得、教育、ソーシャルキャピタルなどが関わり、この分野においての情報収
集や研究が必要となっているのが健康マネジメント研究科の課題であります。
5.情報の収集
情報収集方法としては、電子メディア、電子ジャーナル、種々のデータベースからの検
索が中心となっているのは特に変わりありません。共通言語は英語であり、英語圏でない
論文においても英語による抄録を併記しているのが多く見られます。しかし、各国の健康
に関する情報については、その国特有の文化習慣が加味され、そして健康に介入する論文
や報告書については行政からの資料も多数あり、それらが情報源として極めて貴重である
と判断されることが少なくありません。
しかしそれらの多くは母国語で書かれております。
英語ではありません。ドイツ語であり、フランス語であり、ロシア語であったりします。
それら外国語の情報を読み取るには理解できる言語、日本語または英語に変換する作業が
必要となってきます。現状では日本語変換された文章は、とくに専門領域においては、理
解に程遠い内容であることは否めません。日本語という言語形態の特殊性がそうさせてい
るのでしょう。私自身は英語への変換を行い、それを読むということにしています。英語
への変換に関してはインターネットにおいてフリーサービスにおいて簡単に行うことがで
き、またその内容もある程度満足のいくものであると認識しています。多言語の情報を読
み取り集約しなければならないものはどの分野においても共通の問題点を持っている。本
健康マネジメントにおいて必要な情報として、研究対象において多国の政策情報も必要と
なっているが、先ほども述べたように大半が母国語であり、より高性能な英語または日本
語変換ツールが容易に使用されることを望んでいます。
健康マネジメント研究科においての多様な要求に応えることのできる電子ジャーナルの
準備は慶應義塾大学においてはかなり不十分と云わざるを得ません。他施設からの情報提
供に頼るところが大であり、それゆえ情報収集に時間を要することの問題を提起したいと
考えます。
海外の電子ファイルの情報の充実度に比べて日本の電子媒体の量は非常に少なく、紙媒
体での提供が少なくありません。特に古い論文においては特にそうであり、画像としてフ
ァイルされているものがあることから、その内容に関しての検索ができないことも大きな
デメリットとして考えます。
かつて、私どもの福沢諭吉先生の著書において、健康に関する著述や運動に関する著述
をリストアップしようと試みたことがありますが、残念ながら電子化されていないことに
より、手作業で進めなくてはならないこととなりました。海外の古書に関しては既に電子
ファイルになっているものが少なくありません。日本における古書においても貴重な資料
として読み解く必要もあり、今後の課題として取り上げていただきたいと思います。
6.他の教員の情報収集法、図書館利用、図書館員に期待すること
1)自分自身の情報の収集方法、2)図書館の利用の仕方、3)図書館員への期待するも
の、この3点において、各教員から御苦労しておられることや、ノウハウ、および、クレー
ムなどについて伺いました。
A教員
1)新聞をきちんと読むことに加えて、関連する雑誌に眼を通すこと以外にないと思いま
す。
2)調査データや白書等の閲覧が主であり、最新の情報は自分で探すしかない。
3)希望する雑誌の目次のコピーサービスを定期的にやってほしい。
B教員
1)医学的内容は主にPubMed, 一般的な内容は主にGoogleでまず調べてから適宜詳細を調
べています。日本のものについては、J−Dreamや医中誌(あまりみませんが)でしょうか。
日吉がベースなので、信濃町ではフルテキストで読めるものでも読めないものがまだあり、
また医中誌は利用できず、何とかしてほしいです。
2)実際にいくのは、昔からなじみのある信濃町の図書館を主に利用。オンラインで手に
入らない文献のハードコピーなど。今はオンラインでの利用がほとんどです。
3)留学中は図書館員による種々の講習会があったので、よくでていました。個別にもよ
く教えてくれたので、サーチの仕方で行き詰るときいたりしていました。日本の場合、ど
こまで期待していいのかよくわからない。どこまでお願いできるのか、よくわからず、ほ
とんど全く利用していません。
C教員
1)
○現場の人間との交流
(外部組織の委員等の活動も含む)情報は都内にあることが多いので、SFCに居ること事態
がdisadvantageになることがあります。図書館とは何の関係もありませんが。
○マネジメント系雑誌
学術誌よりも商業誌中心。例えばSportsBusiness Journal(米)
2)
○マネジメント系の書籍の借用
ほとんどSFCメディアセンター本館を利用。ごく稀にビジネススクール等から取寄せ。
○文献(和文)の取り寄せ
スポーツマネジメント系の論文(和文)は慶應義塾内にはほぼ皆無なので。
○DB利用
「SPORTDiscus」よりも「Business Source Premier」の利用の方が実は圧倒的に多いです。
Harvard Business Review等が閲覧できるので。
3)図書館を使いこなしているわけではないので、特にありません。
D教員
1)検索では、J−Dream, 医学中央雑誌、PubMedを利用しています。
図書館を歩いたり、まったく違う分野の講演を聴くことも情報収集の一つとしております。
看護系の論文が、ある時期を境に、ほとんどが原著のカテゴリーになることが数を見ると
わかります。量が多くなった分、良質な看護系の論文が見つけにくくなりました。
2)必要な本がある時に行きます。近い場所にある所へ行きます。
3)図書館に行くと思いがけない本を見つけることもあり、選書の検討に熱心なよい図書
館員に恵まれていると思います。だいたいこの場所にあの本があるという記憶にしている
ので、本のカテゴリーが変ると困ることがあります。
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