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品質管理活動の発展経緯と現在の課題・解決方図

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品質管理活動の発展経緯と現在の課題・解決方図
1
第 章
品質管理活動の発展経緯と現在の課題・解決方図
企業は、提供する製品・サービスの“品質”
(
“クオリティ”、単に“質”と
もいう。以下“品質”という)を維持向上させるために、製品・サービスの技
術的な側面としての品質や、製品・サービスを創りだす仕事の仕組みや運用の
2
あり方の品質、さらには経営全般の品質を対象に拡大してきた。さらに製造や
第 章
設計の第一線担当者だけでなく、全社員の活動に対象を広げ、
“経営管理活動”
として品質管理活動を展開してきた。
説明を加えると、これまでの品質管理活動は、
▼ 【製品・サービスの質】:製品・サービスの品質造り込みと確認の仕方の
向上で完璧な品質を追求する。
に加え、
▼ 【全員参加、人の質】:活動の主体が技術員だけでなく、第一線担当者や
全社員の活動に広げ、全員参加で取り組む。
▼ 【業務の質】:製品・サービスを創りだす仕事の仕組みとその運用の仕方、
3
及び製品・サービスの提供の仕方。
第 章
▼ 【納期、価格、サービスを含む総合的な品質】:直接的な品質だけでなく
顧客や社会・市場の総合的な要求を満たすこと。
▼ 【マネジメントの質、経営品質】:経営目標を明確化して、経営幹部のリ
ーダーシップの下に活動を組織的に展開すること。
に活動の対象を拡げてきた。わが国においては、品質管理活動が即経営であり、
経営活動の大きな側面を担うようになってきたのである。
さらに、次のような、お客様を最大限意識した品質管理活動が欠かせなくな
ってきた。
4
▼ 【顧客視点の諸活動、顧客満足向上】
:顧客視点の経営に向けた品質管理
第 章
活動を展開すること。
近年、顧客満足(Customer Satisfaction:CS)や顧客指向がマーケティング
13
の重要な概念となり、その影響で、製品・サービスを通じて購入者・使用者・
消費者である顧客に企業の関心が移り、品質管理活動にも大きく影響し、品質
管理活動の目的は、
“お客様満足向上”であるということが定着した。あわせて、
“品質”とは、“お客様が決めるものであり、お客様の要求や期待への適合度合
いである”という認識が形成されるようになってきた。
品質管理活動の対象が拡大されていった過程で、いろいろな認識や誤解から
混乱が生まれてきている。品質管理活動の発展経緯と現在の課題並びに解決方
図について概説する。
【品質管理活動のポイント①】
品質管理活動では、改善活動主体の活動や部分的な取り組みや手法導入
ではなく、品質管理活動の“全容”と“基本”を理解し、全部署・全員
が、製品・サービスのみならず、あらゆる質(クオリティ)向上に取り
組むこと。
1・1 品質管理活動の変遷
わが国の品質管理活動の経緯を振り返るとともに、現在の課題に言及する。
◉─品質管理活動の狙い
品質管理活動の経緯に入る前に、現在の品質管理活動の狙いを示す。その狙
いは、製品・サービスの品質のみならず人の質、業務の質、マネジメントの質
などあらゆる“品質(クオリティ)
”(2・1項「品質とは」参照)を追及する“管
理活動(マネジメント)
”(2・2項「品質管理活動とは」参照)を展開することによ
り、次のような効果を上げることである。
▼ 顧客満足向上:顧客指向の活動を展開して、顧客要求を満たす完璧な製
品・サービスを提供して、顧客満足のみならず感動を与える。
▼ 競争優位性の確保:顧客にとって、より価値の高い製品・サービスを開
発し、品質保証された製品・サービスを提供することができ、また、
業務の質の高まりで製品・サービスの提供の仕方に価値が認められる
ために競争上優位になる。
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第1章 品質管理活動の発展経緯と現在の課題・解決方図
▼ 組織の活性化:各種の仕組みや基本ルールが充実し、仕組みを運用する
ことにより個人の能力向上と持てる能力の引き出しが促される。また、
仕組みが整っているので部門間の協業が図りやすく、組織の総合力が
発揮しやすい。不具合やミスの発生が防止でき、後帰り業務に費やす
時間を少なくでき、その分、創造的な仕事ができる。
▼ 事業戦略、経営目標の達成:業務遂行のための仕組み(品質保証の仕組
み)に加えマネジメントの仕組みを構築して、日常業務の中で管理活
動を行う。そのために、経営目標・品質目標、事業戦略、重点取り組
み項目などの確実な策定と展開、トレースが行われ、必然的に事業戦
略や経営目標達成の確度が上がる。
◉─SQC~TQC~TQM(総合的品質管理活動)を通じて発展
第2次世界大戦後、GHQ(連合国軍総司令部)により米国から「SQC(Statistical Quality Control:統計的品質管理)
」がもたらされた。
「SQC」とは、
“管
理図や抜き取り検査法などの統計的手法や統計的な見方を活かした品質管理活
動のこと”である。
“安かろう、悪かろう”で評判が悪かったわが国の工業製
品の品質レベルを上げるために、1950年頃から日科技連 注1)を中心に、日本
の産業界に SQC の本格的な普及活動が始まった。米人 W・E・デミング、J・
M・ジュランなどの権威者を招聘し、指導を仰いだ。中でもデミングは、
「PDCA
サイクル(管理サイクル)
」(2・2項「品質管理活動とは」参照)や“
〈設計〉∼〈製
造〉∼〈検査・販売〉∼〈サービス・調査研究〉”の「デミングサイクル」を
指導した。ここで、
「デミングサイクル」は、図表1−1に示すように、
“設計、
生産、検査して販売したら、必ずサービスや市場調査を行い、再設計に反映さ
せ、品質をよくしていくという継続した活動を行うこと”をいう。
SQC 活動 は、製品の“ばらつき、差、分布”を統計的に検証し、品質不良
を減らしたり、品質を向上させたりすることを主眼にしている。これらをベー
スに日科技連、日本規格協会 注2)などが産業界をリードしてきた。活動の内
容を品質改善から品質管理活動全般に拡げ、わが国独特の「小集団活動」をは
注1)日科技連:財団法人日本科学技術連盟のこと。大正7年(1918年)ほかに創立された技術3団
体の流れをくみ1946年に創設された。品質管理をはじめとする経営管理技法の開発・啓蒙・普及
を行う。
15
図表 1–1 デミングサイクル
サービス・
調査研究
設計
①
②
④
③
検査・販売
製造
品質を重視する概念
品質に対する責任感
じめ、人に焦点を当て人質(じんしつ)管理やモチベーション(動機付け)高
揚や意識改革(以上、1・3項「品質管理活動は、結局は人」参照)を図り、全員参加
の活動を展開するところに特徴がある。活動対象については、製造・検査から
上流工程である製品・サービスの開発、設計、外注・購買管理などに拡げ、さ
らに経営戦略展開から、経営管理全般に拡げていった。これらの実践活動の過
(第6章「検査保証と検査の役割」参照)
(5・1項「自
程で、
「検査保証」
、
「自工程保証」
工程保証とは」参照)の概念や方法論、さらに、
「方針管理](2・4項「品質管理活
動は経営管理システムに位置づけ:方針管理」参照)、
「品質保証体系」(2・3項「品質
管理活動の全容のモデル」参照)、
「初期管理」(第7章「初期管理」参照)などの制度
の確立を図っていった。
わが国では、現場第一線担当者における小集団活動に代表されるように、ボ
トムアップ型の品質管理活動に加え、経営幹部のリーダーシップに基づくトッ
プダウンの品質管理活動を「全社的品質管理活動(Company-wide Quality Control:CWQC)
」と称していた。米人 A・V・ファイゲンバウム 注3)が「総合的
注2)日本規格協会:財団法人で、日本工業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)原案の作成
や JIS 規格表の発行、JIS ハンドブック等の関連出版物の発行などを行う。
注3)ファイゲンバウム主唱の TQC と日本型との違い:ファイゲンバウムのいう TQC は非常に高
度に構成された品質管理活動の体系を意味しているが、わが国では、全社的品質管理活動
(CWQC)で、会社の全ての管理者が関与して総合的に品質管理活動を展開しているので、まさ
に TQC 活動であると誤解して、その名称を一般的に使うようになった。
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第1章 品質管理活動の発展経緯と現在の課題・解決方図
品質管理活動(Total Quality Control)
」を提唱したことが影響し、SQC は、
「TQC(Total Quality Control:総合的品質管理活動)
」と称されるようになっ
た。さらに1980年に、米国の TV 番組で、産業界の戦後復興の原動力が TQC
活動にあることが取り上げられ、わが国の品質管理活動 CWQC や TQC 活動
を「TQM(Total Quality Management:総合的品質管理活動、総合的品質経
営)
」という概念で報じられた。このことにより、1996年に日科技連は、TQC
を TQM に改称し、これを産業界に定着させた。
◉─デミング賞実施賞受審活動
「デミング賞」は、米人統計学者である W・E・デミングの功績を記念し、
1951年に日科技連が中心になって制定された。品質管理活動の実務や理論に貢
献した個人に対する「デミング賞本賞」
、品質管理活動の水準が高く社会への
貢献度の高い実施会社に対し授与される「デミング賞実施賞」などがある。中
核はデミング賞実施賞であり、申請企業の内、TQM 活動を通じて顕著な業績
向上が認められる企業に対して、審査の上授与される年度賞である。この審査
基準は、図表1−2「デミング賞実施賞審査基準」に示すように明確になって
図表 1―2 デミング賞実施賞審査基準
1.基本事項
2.特徴ある活動
1.品質マネジメントに 例:
トップのビジョン、経
おける経営方針とそ
営戦略、リーダーシッ
の展開
プ
2.新商品の開発・業務
顧客価値創造
の開発
組織のパフォーマンス
3.商品品質及び業務の
の大幅な改善
質の管理と改善
4.品質・量・納期・原
価・安全・環境など
の管理システムの改
善
5.品質情報の収集・分
析 とIT( 情 報 技 術 )
の活用
6.人材の能力開発
100点
1点〜5点
3.首脳部の役割と
その発揮 例:
TQMに 対 す る 理 解 と
熱意
リーダーシップ、ビジ
ョン、戦略方針、環境
変化に対する見識
組織力(コア技術、ス
ピード、活力の維持と
強化)
人材の育成
組織の社会的責任
──
☆評価は懇談内容と1.2.3.評価を基に総合的に判断し、100点満点とする。
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いる。審査はこの基準への適合性というより、
“自ら状況認識し、課題と目標
を定め、組織をあげた改善・改革を行った結果とその過程、そして将来の有効
性を評価しようとするもの”である(「デミング賞実施賞応募の手引き」より)。評
価は、審査基準毎評価というよりは、TQM 活動に関わる〈基本事項〉
、
〈特徴
ある活動〉、
〈首脳部の役割とその発揮〉の3点に重点が置かれている。
進取の企業は、こぞってデミング賞実施賞受賞を通じて品質管理活動のステ
ップアップを図った。それらの実践活動の中で、産業界の英知で手法や方法論
が創案され、交流を通じて実践的な品質改善手法として「Q7(QC 7つ道具、
4・5項「統計的手法、QC 七つ道具」参照)
」
、
「N7(新 QC 7つ道具)
」、
「QFD /
QA ネットワーク(7・3項「不具合予測・潜在問題分析法と設計ミス予防対策」参照)」
、
「品質工学(タグチメソッド、10・3項「現象分析と原因分析:原因分析」参照)」な
どが実用化された。
品質管理活動の基本に即した品質管理制度では、
「自工程保証(5・1項「自工
程保証とは」参照)
」、
「源流管理(5・4項「源流管理」参照)」
、
「初期管理(第7章「初
期管理」参照)」
、
「重点管理(第9章「重点管理と先手管理」参照)」などが見出され
普及していった。
デミング賞実施賞受賞会社が開発し全国に普及した品質管理制度に、
「機能
(管理単位を部課でなく営業、設計という機能毎に管理する)
(目標値、
別管理」
、
「旗方式」
実績などを旗のような図表で各工程において管理する)
、
「方針管理」(2・4項「品質管理
活動は経営管理システムに位置づけ:方針管理」参照)
、
「異常管理」(8・4項「異常管理」
参照)などがある。
◉─国際規格 ISO9001認証取得と維持活動
世はまさに国際化時代、輸出入取引において、国による製品・サービスの規
格の違いが通商の障害となることが予想され、1987年に品質管理及び品質保証
活動に関する国際規格「ISO 注4)9000シリーズ(わが国では JIS 注5)Q9000シリー
ズ、以下 ISO9000s と略す)」が制定された。グローバル経済時代に入っており、
注4)ISO:International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略であり、電気分野
を除く分野の国際規格を策定するための民間の非政府機構。本部はスイス・ジュネーブ。ISO 規
格を基に各国の工業規格を制定し運用している。電気及び電子分野は IEC(International Electrotechinical Commission:国際電気標準会議)にて国際規格の作成が行われている。
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