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2010年 日本の経営 - Nomura Research Institute

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2010年 日本の経営 - Nomura Research Institute
1
経営幹部の経営理念実践状況
コンサルタントが語る
Q:社長(あなた)
と経営幹部は経営理念を実践していると思いますか
社長アンケート
N =168
組織や仕事への忠誠心が高い人材を「イヌ
2010年 日本の経営 社員アンケート
N =2101
15%
0
33%
43%
20
40
24%
60
コ型」
と区分してみると、
イヌ型人材とネコ型人
2010年代の日本企業は、人材不足や価値観多様化などが引き金となり、
グローバルに競
材は人生観・仕事観が大きく違う。ネコ型は面
争する元気や胆力を失う恐れがある。いま経営者は、多くの経営課題の中で、人材にもっと
白いと思う仕事、
自己成長・自己実現につながる
ストーリー・テリン
も注視すべきである。経営観と社会観を入れた「理念・ビジョン※」を掲げ、
仕事には強い興味を持つ半面、
会社や組織へ
実効性は高くはないようだ。社長アンケートで
グにより共鳴と体現を誘発し続ける“ビジョナリー・エクセレンス”企業を目指したい。
の忠誠心は低い。一生同じ会社で働く気も無
「あなたは経営理念を実践していますか?」と
いため、
短期的な評価に敏感で現出の価値に
質問したところ、実践しているとの回答は61%
針を大きく転換した。そして経営側と従業員
見合った報酬を要求する。友人は重視する一
だった。
しかし従業員アンケートで「経営者は
側の信頼の均衡を壊す結果となった。
方で、
会社の宴会は嫌いで、
組織の遠心力とな
経営理念を実践していますか?」
と聞いたところ、
る。社内の不文律や暗黙知には同調しがたく、
実践しているとの回答は、
わずか15%しかな
それらを
「明文化、
見える化」することを要求する。
かった(図表1)。残念ながら経営者の理念実
イヌ型はおおむねこれらと正反対の特性をもつ。
践行動は、
従業員に響いていない。
バブル崩壊から現在までの15年あまりの間に、
日本企業は業績の回復を図りながら、
いくつか
ネコ化する人材
■そう思う
■ ややそう思う
■あまりそう思わない
8% 10%
80
100(%)
※社長アンケートでは「社長」を「あなた」と記載して質問。
(出所)社長アンケート・従業員アンケート
少子高齢化と、過去の雇用調整・人材流出
することが多く、
たいへん苦労しており、
求心力
固定化された人件費であった。
90年代前半
の影響が相まって、正規・非正規社員ともに構
となる
「共通言語」が必要になっている。
の新卒採用の抑制、退職者の非補充などの
造的な人材不足が起こっている。筆者らが実
対症療法的な施策は効果を出せず、
多くの企
施した「社長アンケート」
(東証一部上場企業
業は90年代後半になって抜本
171社が回答)
によると
「獲得したい人材が質・
的な人件費削減に着手した。
量共に確保できている」
と回答した割合は、新
希望退職や解雇、子会社・関
卒正社員で2割、中途採用正社員で3割しか
筆者は、多様化した人材をマネジメントする
業を継ぐ商人は生まれや育ちの異なる地方か
連会社の清算や譲渡により固
ない。
また非正規社員(派遣社員、契約社員、
共通言語として「理念・ビジョン」の活用を提
らの少年店員やその他多様な雇い人を統率
定費を削減すると同時に、会
パート・アルバイ
ト)
については1割にも満たない。
言する。理念・ビジョンは、
目標数値を示す戦略・
するための行動原理を必要とした。
社に残る人材の給与・賞与に
人材は、
不足感とともに質的な変化も大きい。
計画類より上位に位置する社内唯一の公式
2回目は戦後の起業ブームのころだ。この時
上
席
コ
ン
サ
ル
タ
ン
ト
5%
■そう思わない
■よくわからない
バブル崩壊直後の最大の収益圧迫要因は
経
営
コ
ン
サ
ル
森テ
沢ィ
ン
グ
徹部
0%
0%
いまイヌ型の上司がネコ型の部下をマネジメント
のものを得、
いくつかの大切なものを失った。
主
席
コ
ン
サ
ル
タ
ン
ト
型」、
逆に忠誠心が低く自分主義の人材を「ネ
61%
∼ビジョナリー・エクセレンスへの地図∼
壊れた信頼関係
経
営
シ
ス
テ
ム
コ
ン
サ
ル
テ
増ィ
田ン
グ
有部
孝長
図表1
本来の理念・ビジョン経営は「三度目」
本来の理念・ビジョン経営を実践した時代は、
理念・ビジョンでまとめる
日本の経営史で過去に2回あった。まず江戸
時代の商家の家訓・遺訓がそれにあたる。家
もメスを入れた。そして不足す
「従業員アンケート(
」東証一部上場企業勤務の
宣言である。人材側は、
経済的処遇以外の働
も日本全国から集まった多様な人材を、
会社の
る人手は、
ちょうどその時期に
正社員+株式会社勤務の非正規社員、
計2,856
く動機を見出したいと考えている。従業員アン
ブランドや給料ではなく、創業者の壮大なる夢
大幅な規制緩和をみた派遣社
人回答)
によると
「5年前に比べて会社への忠誠
ケートによると、非正規社員の約6割が「自社
(社是・社訓)
でまとめあげていく必要があった。
員をはじめとする新規の非正
心が高まった、
どちらかというと高まった」
という回
の理念・ビジョンを知らない」
ものの、
約5割が「自
そして、2010年代への挑戦は「三度目」で
規社員に求めた。
答は18%にとどまり、
逆に「低くなった、
どちらかと
社の社会的存在意義や意味を理解したい」
と
ある。過去2回とは、
「多様な人材のマネジメン
この間、
日本企業はその強
いうと低くなった」は39%もあった。これは雇用
答えている。ネコ化した従業員も、理念・ビジョ
トの基盤が必要」
「困難に立ち向かう拠り所
みの源泉のひとつと言われて
形態によらない全体的な傾向である。
また正社
ンのコミュニケーションを求めている。
が必要」
「経済的な処遇を補完する役割が必
きた「長期(終身)雇用」の方
員の中でも若いほど忠誠心の低下傾向が強い。
理念・ビジョンは多くの企業に存在するが、
要」
という点で経営環境がよく似ている。
2 コンサルタントが語る-1
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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コンサルタントが語る-1
3
1
コンサルタントが語る
ストーリー・テリングの例
響きやすい手法
の共通項
図表3
会社名
ワタミ
ストーリー・テリングの手法
● 理念集、ビデオ、社内報を活用しての経営トップ
から職場への語りかけ
日本企業の理念・ビジョンは、
顧客第一を掲げ
ビジョナリー・エクセレンス
松下電器産業
員の意見も収集し、
双方向の対話を続けている。
たものが多い。従業員や株主は大切だと掲げる
松下電器産業では、遵奉すべき精神を毎
が、
それ以上の具体性は少ない。
また事業を通
朝唱和するとともに、
いつでも創業者の理念を
筆者は、2010年代の日本の経営モデルと
じた社会への貢献方法についての言及はまれ
思い起こし意思決定や行動の拠り所として活
して、
『ビジョナリー・エクセレンス』を提唱する
である。経営観と社会観、
さらに欲張れば独自
かせるよう、歴史館を開設している。歴史館で
性が加わると、
理念・ビジョンは、
もっと力を持つ。
1点目は、
「言葉3割、
浸透7割の比重で取り組
●ストーリー・テリングの準備としての日常的な唱
和による認知の徹底
●歴史館を利用した理念実践ストーリーの共有
● 階層別研修における経営層から社員への語り
経営トップから従
業員への直接の
語りかけ
かけ
オムロン
● DNAサロン等による経営トップからのダイレクト
な語りかけ
カゴメ
●経営トップから日常的・ダイレクトに物語風理
念実践行動などの語りかけ
は松下幸之助氏の創業理念を掲げるとともに、
近畿日本
ツーリスト
●社長ブログによる経営トップからの日常的・
ダイレクトな語りかけ
3点目は、
「ストーリー・テリングを用いて共鳴・
実践の物語(ストーリー)
を見せている。歴代
新生銀行
●ボードゲームをきっかけとした社員間の気づ
きと交流
む」こと。創業・成長段階にある企業では、
社長
体現サイクルをまわす」こと。理念・ビジョンを浸
社長は創業理念を尊重しつつも自分の言葉
野村総合
研究所
の想いを従業員やステークホルダーに直接語り
透させるためには、物語で全従業員の納得感
に置き換えて発信し直し、実践することを誘発
●コンサル事業における「ちえのわ」
(部門イ
ントラネット)やCB会(コンサルビジネス推進
会議)を活用した社員から社員への語りかけ
かければ求心力をもつが、
既に理念・ビジョンが
を高めることが有効である。浸透段階で実現
する。温風ファンヒーター事件では、
当時社長
リッツ・
カールトン
存在し、
成熟した企業ではそうはいかない。各
したい共鳴や体現は、
あくまで従業員の自発
だった中村邦夫氏が繰り返し訴えてきた「ス
●朝礼における社員から社員への語りかけ
●「最高のサービス」としての社内外でブラン
ド確立を通じた、会社から社員へ間接的な語
りかけ
社の事情による違いもあるが、
感覚的には、
理念・
的な心理変化によってしか生まれないもので
ーパー正直」
(幸之助の公明正大)
に則り、全
スターバックス・
コーヒー
●グリーン・エプロン・カードによる日常的な社員か
ビジョンの再構築時の注力度は、
言葉を作り磨く
あり、
多くの企業が行ってきたように、
企業側が
従業員が一丸となって対応に力を尽くした。
ことに3割程度、
実効性を高めるための浸透活
一方的に言葉を押し付けてもダメなのだ。
近畿日本ツーリストでは、
社長が毎日の従業
(図表2)。その特徴は3点ある。
(出所)NRI作成
員宛ブログで、
理念「サービス
・
イズ・アワ
・
ビジネス」
列挙することや、現場で大切にしている価値
2点目は、
「理念・ビジョンに経営観と社会観
につながる具体的な事例を発信し続けている。
観を言語化することが有効である。
その他、
理念・ビジョンが有効に機能している
また現在の経営者の想いを明らかにする。
企業では、
機会あるごとに、
理念・ビジョンの意味
経営者の想いには、人生観や価値観を照射
と具体的なストーリーを愚直に伝え続けている。
する。NRIでは、経営コンサルタントがコーチン
ストーリー・テリングで響きあう
ういう姿を目指し、
どう社会に役立ちたいのか、
企業の意志を示す。
ストーリー・テリングの良いところは、
3点ある。
ビジョナリー・エクセレンスのイメージ
図表2
ビジョナリー・エクセレンス経営モデル全体像
特
徴
3
‥
﹁
ス
ト
ー
リ
ー
・
テ
リ
ン
グ
を
用
い
て
共
鳴
・
体
現
サ
イ
ク
ル
を
ま
わ
す
﹂
資本市場
エナジー
理念・ビジョン
エナジー
エ
ナ
ジ
ー
ら社員への語りかけ(理念・ビジョンを体現する
ような行動を取った社員に、その行動を譛えるメ
ッセージを書いて贈る)
動に7割程度をかける意識で取り組むと良い。
を込める」こと。何に重きをおいた経営をし、
ど
事
業
︵
顧
客
・
パ
ー
ト
ナ
ー
︶
自律したプロフェ
ショナル人材相
互の語りかけ
エ
ナ
ジ
ー
多様化する人材
認知
共鳴
相互補強
サイクル
IT
社
会
体現
特
徴
2
‥
﹁
理
念
・
ビ
ジ
ョ
ン
に
経
営
観
と
社
会
観
を
込
め
る
﹂
特
徴
1
‥
﹁
言
葉
3
割
、
浸
透
7
割
の
比
重
で
取
り
組
む
﹂
第一に「個人が見えるストーリーは人々の興
グ技術を用いて経営者の想いを明確にする
味や関心を引きやすい」こと、第二に「ストーリ
支援:IDELEA(イデリア)
も提供している。例
ーは人の記憶に残りやすい」こと、第三に「受
DNAと経営者の想いの言語化
け手に一定の解釈の余地を残すため、受け
えば、
怒りや固執の要素、
言動の前提になって
いる信念等について対話を通して整理し、企
手にとって違和感のない形で消化することが
理念・ビジョンを浸透させる段階を重視すべき
業経営に対する想いを凝縮し、理念・ビジョン
できる」こと。よって、
ストーリー・テリングを用い
ことを述べたが、
当然ながら魂の入っていない言
向けのキーワードまで昇華させる。
れば、
より多くの従業員が共感、共鳴しやすく
葉では、
いくらストーリー・テリングに注力しても従
なるのである
(図表3)。
業員に響かない。奇抜だとか、
輝かしい言葉であ
『ビジョナリー・エクセレンス』は、理念・ビジョ
理念経営で著名なワタミでは、理念を実践
る必要はない。企業のDNAに合い、
経営者の想
ンに共鳴し活力溢れる従業員が、
あらゆるステ
した行動事例をまとめた「理念集」を全従業
いが投射されていて、
従業員の腹にすっと落ちて
ークホルダーも動かし、企業の繁栄を支えるモ
財務的な事業計画よ
員が携行している。また毎月、社内報とビデオ
いく言葉で示されていることが重要なのである。
デルである。
またこれは、
今後本格的に再構築
り上位にある、会社が
レターで、社長が理念に込めた想いや実践行
企業のDNAに合う言葉を探すには、創業
を図る必要のあるグローバルマネジメントにお
動をわかりやすく繰り返し解説し、
さらに従業
の理念や創業者が重視していた頻出単語を
いても拠り所となる重要な指針である。
※本提言では理念、
ビジ
ョン、社是・社訓、行動
規範、価値観等の用
語の区分の正確性に
は重きを置いていない。
目指すべき公式な宣
言文を広く「理念・ビ
ジョン」
と表現している。
:4つの
ステークホルダー
(出所)NRI作成
4 コンサルタントが語る-1
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