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新たな分野で販路拡大を

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新たな分野で販路拡大を
香港は日本産農産物の成熟市場? 新たな分野で販路拡大を
香港事務所
藤木 重尚
平成 26 年、我が国の農林水産物輸出額は過去最高を記録し、香港は輸出先国・
地域別でトップとなっている。
香港では、これまで高級スーパーや日本食料理店での販売促進が中心であっ
たが、香港の人口規模等を考慮すると、右肩上がりに販売を伸ばし続けるのは
限界があると考えられる。今後は、既に福岡県産農水産物が使われている高級
フレンチなどに加え、新たな分野への販路拡大が必要となるだろう。
1.拡大する我が国の農林水産物輸出
1.拡大する我が国の農林水産物輸出
図1 農林水産物輸出額の推移(全国)
農林水産省が発表した日本の農林水
産物輸出額は、2014(平成 26)年に 6,117
億円となり、2013(平成 25)年の 5,505
億円から 11.1%増加し、過去最高を記
録した(図1)。このうち香港への輸出
額は 1,343 億円となっており、国・地
域別でトップの輸出先となっている
(図2)。
福岡県産農産物も、2013 年度の総額
出典:農林水産省
14 億円から、2014 年度は総額 16.3 億
円へと輸出額を増やしている。中でも
図2 国・地域別輸出実績の推移(全国)
香港は、地理的近接性や植物検疫が無
いことを理由に、本県最大の“お得意
様”となっている。
しかし、日本全国からの香港向け輸
出額も増加している中、
「香港便の運航
本数が多く、生鮮市場にも近い福岡空
港を有し、他地域に比べて農水産物の
輸送時間が短い」という優位性を持つ
出典:農林水産省
本県であっても、引き続き積極的な輸
出促進の取組みが必要であろう。
また、競争相手としては日本国内だけではなく、比較的高品質かつ低価格を
1
武器に香港への輸出を行う韓国や台湾、米国なども忘れてはならない。
我が国では、オールジャパンやオール九州での輸出促進の取組みも行ってい
るが、本稿では、当事務所が進める福岡県産農産物の輸出拡大に向けた取組み
について述べたい。
2.香港市場
2.香港市場でのPRの状況
香港市場でのPRの状況
日本産農産物は、
「安心・安全・お
いしい」を前面に出し、高級スーパ
ーや日本食料理店において、販売促
進フェア等が行われることが多い。
こうした店舗におけるフェアは、香
港在住の日本人のほか、ある程度の
収入があり、多少高価であっても日
本産農産物や本物の和食を求める香
港人、欧米人をメインターゲットと
福岡県産品フェアの様子
して実施されている。
また、こうした店舗やその納入業者には、日本人のバイヤーが勤務している
ことが多く、輸出側にとって取引を進めやすいという点も、フェアが行われる
理由の一つであろう。
表1 日本と香港の世帯収入、住宅費等比較
しかし、香港は人口規模や生
世帯数
世帯収入
賃貸住宅指数
活費等の面から見ると、市場と
(万)
中央値(万円) (日本全国平均=100)
日本
5011.2
432.0
100.0
してはそれほど大きくない。表
福岡県
210.6
100.3
1は、日本と香港の世帯収入中
香港
244.9
451.2
192.1
央値、住宅費等を比較したもの
出典:「厚生労働省国民生活基礎調査」、「総務省統計
局小売物価統計調査」、
「香港統計局調査」、
「日
である。香港の世帯数は福岡県
本不動産研究所国際不動産価格賃料指数」より
作成
より若干多く、世帯収入中央値
は日本と同等であるが、住宅賃料が極めて高いため、おのずと食品等に対する
支出は限定されると思われる。すなわち香港は、市場への参入条件の面では、
植物検疫等の規制の少なさなどのメリットがあるものの、規模の面では、販売
を拡大するには限界があると言える。
多くの日本産農産物フェアが行われ、また販売されている高級スーパーなど
では、これから先、競合する産地や店舗が増え、値下げ競争や補助金競争など
の体力勝負に陥るおそれが大きい。事実、これまで主に高級スーパーでのみ販
売されていた日本産農産物が、数は少ないものの、
「街市(小売店舗が多数入居
した半屋外市場)」で販売され始めたことを当事務所で確認している。当然価格
は高級スーパーより安く、場合によっては半額で販売されていることもある。
この点について、高級スーパーに日本産農産物を納めている現地の輸入業者
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に尋ねたところ、現時点では自社の販売に影響を受けているわけではないとし
つつも、一方で、安い価格で販売され始めたことよりも、街市で販売され始め
たことの方が問題であり、街市で購入できるものをわざわざ高い金額を支払っ
て高級スーパーで買うだろうか、との懸念を抱いておられた。
3.新しい分野で福岡の味をPR
新しい分野で福岡の味をPR
前述のとおり、香港の人口規模や競争の激しさを考えると、新たな分野の開
拓は不可欠である。
図3 香港のベーカリー・菓子店舗数
当事務所では、数年前から高級スーパー
や日本食料理店に加えて、香港の高級ホテ
ルである「マンダリン・オリエンタル・ホ
テル」のフレンチレストランに県産農水産
物の PR を行い、数品目が食材に採用され
ている。価格ではなく、鮮度・品質を最も
重視する高級レストランのシェフに対し
て販売を行うことは、当然のことながら高
い品質とシェフからの強い信頼が必要と
なるなど、ハードルは非常に高いが、値引
出典:香港統計局、JETRO 香港
き競争による体力勝負に陥るリスクは小
さい。
また、当事務所では新たに、ベーカリー、
図4 香港のベーカリー・菓子売上高
菓子店などのスイーツショップに向けた
PR のお手伝いを始めた。香港のスイーツ
といえば、エッグタルトやマンゴープリン、
紅豆沙(お汁粉)などを思い浮かべる方が
多いと思うが、日本と同様に多種多様のス
イーツが販売されている。「頑張った自分
へのご褒美」としてスイーツを楽しむ人も
増えており、近年は店舗数、売上高ともに
増加している(図3、4)。
昨年 12 月には、日本のフルーツや抹茶
出典:香港統計局、JETRO 香港
などを使用した高級スイーツショップが、
香港の繁華街である銅羅湾(コーズウェイベイ)に開店し、連日賑わいを見せ
ている。
ここで、当事務所が行った県内企業の商品のスイーツショップへの PR につい
て紹介したい。
大牟田市に本社を置くオーム乳業株式会社は、香港の代理店を通じて香港で
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生クリームを販売している。同社の生クリームは、製造工場から近い牧場で搾
乳された生乳をすぐに加工していることから、非常に鮮度が高い。また、同社
独自の技術により、保存料を使用せずに消費期限を延長することが可能となっ
ている。台湾のスイーツショップで同社の生クリーム人気に火が付いたことか
ら輸出を拡大させてきた。香港の一般的な生クリームは、高温処理により消費
期限を延ばした LL 牛乳などから作られることが多いため、生乳から製造するお
いしさや、日本国内での製造から4日後には香港へ到着する新鮮さを PR し、高
級スイーツショップへの販路開拓に成功している。
これは一例であるが、今後は、スイーツショップやベーカリーショップを含
め、これまで展開していなかった新しい分野を開拓することが重要となってく
る。福岡県は、あまおうや鮮魚といったブランドを香港において築いてきたが、
ほかにも八女茶など国内でも高品質として認知されている商品は多い。従来の
高級スーパーなどでの販促と併せ、こうした福岡ブランドを活用し、香港市場
での新たな分野の開拓にチャレンジしてはどうだろうか。
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