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WHO SITREP NO 32
WHO SITREP NO 32 日本における地震と津波 状況報告 No. 32 2011 年 4 月 27 日 マニラ時間 14 時 30 分現在 以下はWHO西太平洋地域事務局Situation Reportの仮訳であり、原文(英文)の内容が優先します。 http://www.wpro.who.int/sites/eha/disasters/2011/jpn_earthquake/list.htm また、記載の時刻は、すべて東京時間です。情報ソースは、特に記載のある場合を除き公式のものです。 状況のまとめ 災害による人的被害状況 o 災害の影響: 3月11日の東北地方太平洋沖地震の建物被害はさほどではなかったが、 あとに続いた大津波が建物、ライフライン、通信施設、交通手段、そして人々の健 康に甚大な被害をもたらし、複数の災害(火災、余震、原発事故など)が起った。 数か所の病院が破壊されたり、停電や必要物資の紛失をこうむった。緊急医療援助 は地震発生後2週間以内に迅速に行われた。 o 人口状況: 4月27日現在、死傷者は14,508人に増加、行方不明者数は11,452人に減 少、負傷者は5,314人に増加した。死者の多くは宮城(8,745人)、岩手(4,234人) および福島(1,466人)の各県の人々である。 o 130,155人ほどが 17の都道府県にある避難所で避難生活を送っている (4月20日から 5,751人減少)。 健康状態のモニタリング、評価と対応 o 精神保健・心理社会的支援: 既存の精神的保健障害を持った人の初期の需要には対 応できたようである。精神保健・心理社会的支援(MHPSS)は避難所にこころ のケア専門家が巡回することにより提供されている。東北の人々の気質を考慮し、 文化に見合ったMHPSSを提供する必要性がある。また、避難所外に住む被災者 を見過ごさないこと、医療・保健従事者へのこころのケア、ジェンダー差を考慮し たサービス、福島第一原発の放射線問題で避難した人々への特別な配慮が必要であ る。 o 非感染性疾患: 多様な種類の非感染症患者に様々な医療サービス(薬剤の供給も含 め)が提供されている。いくつかの被災地への支援が迅速に行われたため、非感染 症の急性憎悪は避けられたようで大規模な非感染症関連の発生は今のところ起こっ ていない。しかし状況の全体像は監視し続ける必要がある。 o 特に気をつけるべきは、非感染症患者の病診連携システム、および慢性疾患(例え ば呼吸器疾患など)が被災地の環境条件により悪化する可能性があげられる。避難 所に住む人々の栄養状態と健康状態(体調)にも改善の余地がある。患者と病院、 クリニック間の既往症に関するコミュニケーションと情報管理の問題を解決する努 力が引き続き望まれる。 o 感染性疾患: 被災地での感染症サーベイランスは当初は最善ではなかったが、現在 はより体系的なサーベイランスへと進化を遂げている。公式、非公式情報源による と胃腸炎、肺炎、破傷風の微増が見られるが、これまでのところ大規模な発症もし くは急性集団発生は報告されていない。 o 地震発生以来感染症 の発生率は比較的低い。これは初期の段階で効率的かつ迅速な 安全な飲料水と食糧の提供といくつかの避難所でおこなわれた徹底した感染予防教 育のためと考えられる。現時点での感染症リスクとしては胃腸炎のアウトブレーク (多くの被災者が自ら食事を作っていることから)や呼吸器系疾患(避難所の混雑 状態のため)などが挙げられる。 o 避難所と被災三県の被災者の現状(家を無くした人々の移住を含め)を鑑みると感 染症とその他の感染症(食中毒など)集団発生に対するサーベイランス、監視、リ スク評価は継続的に強化していく必要がある。被災地では一般、食物関連の衛生管 理の促進がまだ不可欠である。 原子力発電所 o 福島第一原発事故は国際評価尺度(INES)の暫定評価レベル 7 に引き上げら れた。 原発は依然、不安定な状態が続いている。 o 2 号機、3 号機、4 号機の使用済核燃料貯蔵プールへの注水が行われた。2 号機と 3 号機の圧力容器にも注水が行われた。 o 4 月 24 日、4 号機の使用済核燃料貯蔵プール内の温度は注水後 86 度から 81 度に 下がった。 o 1 号機、2 号機、3 号機のタービン建屋地下の放射線濃度は依然高い。2 号機のタ ービン建屋のトレンチに溜まった高濃度汚染水の廃棄物処理施設への移動が 4 月 19 日に始まった。 o 1 号機が依然として最も危険な状態にある。ロボットが 1 号機内に入り高濃度放 射線レベルが検出された(最大 1120 ミリシ-ベルト毎時)。また汚染水が原子炉 から外部パイプに漏れている可能性があるとされている。東京電力は 4 月 27 日 に 1 号機原子炉にさらに多量の水の注水を始め、格納容器の水深の変化をみるこ とにより漏れを検査した。東京電力は 7 月までに1号機と3号機原子炉を水没さ せ燃料棒を安全に冷却させる予定である。原子炉圧力容器の圧力はいまだに増加 しており、給水ノズルの温度は 138 度であった。窒素ガスが引き続き 1 号機に注 入され水素爆発防止をはかっている。 o 4 号機使用済核燃料貯蔵プールからの高濃度汚染水漏れが懸念されている。4 号 機には福島第一原発内で最大の 1500 以上の使用済み燃料棒が保管されている。 o 5 号機と 6 号機は低温停止状態にある(4 月 26 日時点で 5 号機は 40 度、6 号機 は 36 度)。 食品安全 o 厚生労働省によると、3 月 19 日から 4 月 27 日の間の原乳および食品の検査結果 は、合計 18 の都道府県から 2086 件(前状況報告時 4 月 20 日以降 383 件の試料 を加算)にのぼる。2086 件の食品サンプルのうち、暫定規制値を上回ったのは 208 件(10%)である。 o 多くの食品の出荷制限が解除された。前回の報告書以降、しいたけの出荷制限が 行われている都市が追加されている(4 月 20 日)(表 12 参照)。 環境のモニタリング o 海水:文部科学省により 4 月 19 日と 21 日に採取された最新データによると全て のサンプル採取地点でヨウ素 131 とセシウム 137 のの値が許容制限値を下回った。 4 月 25 日に採取した第一原発の南北放水口でのヨウ素 131 の最新値はそれぞれ 140Bq/L と 21Bq/L であった。同地点でのセシウム 137 の最新値はそれぞれ 200Bq/L と 100Bq/L であった。4 月 25 日に岩沢海岸の 15km 沖で採取されたサンプ ルのヨウ素 131 とセシウム 137 はそれぞれ 22Bq/L と 76Bq/L であった。上記の値は 全て減少傾向にあり、ヨウ素 131 とセシウム 137 の許容制限値を下回っているものも ある。 o 土壌:土壌の最新データは 4 月 25 日のものである。3 月 26 日以降、全てのサンプ ル採取地点において土壌の放射線レベルは概ね減少傾向である。 o 大気:原発から 20~60km 地点での放射線レベルは概ね減少または安定している。原 発の北西地域周辺に、高い放射線レベルを示す地点が引き続き集中している。 事象に関する情報 3月11日、日本時間午後2時46分23秒(グリニッジ標準時 05:46:23)に、マグニチュ-ド 9.0(日本気象庁が 13 日に更新)の巨大地震が、日本の本州東北部を襲い、続いて起きた 津波により東北地方と北海道南部は壊滅的な被害を受けた。 被害の規模 津波被災地域におけるライフライン、基盤インフラ、および地方自治体の必須機能への被害 の範囲は、メディアによる報告から認識できる範囲をはるかに超えるものである。最初の地震 がマグニチュード 9.0 であったにもかかわらず、地震そのものによる被害を受けた建物はきわ めて少なかった。したがって、地震の影響のみだったならば日本は十分に対処することができ たであろうが、津波の圧倒的な影響は人々の健康はおろか、災害対応に必要な輸送、通信、 その他の物流方面にも被害を及ぼした。日本の現状を理解するには、津波の影響の範囲と大 きさの両方を考えなければならない。 津波の影響を以下にまとめる。 • 津波は東北地方から関東地方まで、本州沿岸の非常に広い地域を襲い、距離にして全長 500km を越える沿岸部に直接的な影響を及ぼした。津波の高さも高く、約 38m の津波を 測定したとの暫定報告があった(東京大学地震研究所)。 • • • 津波により、必須のライフライン(ガス、水道、電気)、輸送(初期対応に必要とされる車両 [警察および消防の車両]、公共の列車およびバス、自家用車の破壊など)、および通信 (携帯電話、固定電話、衛星電話および衛星携帯電話(衛星送信機が破壊されたため使 用できなくなった)が広範囲にわたって壊滅的な被害を受けた。そのため、災害の初期評 価および災害の程度の報告を含む地方自治体の機能が麻痺、または大幅に制限された。 ガソリンが供給できないことはあらゆる対応活動を制限する決定的な要因であった。 また、津波によって当初の被害の後に多数の災害が生じた。津波の後、多くの地域で広範 囲に及ぶ火事が発生したが、その多くは燃料の流出や可燃物の爆発が原因であった。し ばらく経って水が海に引いた地域もあるが、地震によって地盤が沈下し、海の付近の川が 永続的に海の一部となったために地形がまったく変わってしまい、付近の道路や他のイン フラが完全に浸水してしまった地域もある。津波警報も伴う大規模な余震がなお続いてい る。このようなさまざまな危険のために通常の災害対応能力は大幅に制限される上、損傷 した原子力発電所からの放射線による懸念も継続している。 医療分野も大きな影響を受けた。津波は、地域の主要な臨床業務を行っていた岩手の山 田病院および大槌病院、宮城の石巻病院および志津川病院を直撃した。さらに、電気と水 が止まったため、内陸に位置する病院は津波による直接の被害がなくても機能が麻痺状 態に陥った。 • 公衆衛生分野にも被害が及んだ。津波によって以下のように公衆衛生担当職員にさまざ まな被害が及んだほか、彼らの対応能力も制限された。(1)津波に巻き込まれ、公衆衛生 担当職員が死亡した。(2)住居を失ったため(自家用車も失った場合が多い)、職員も避難 所に住まざるを得ず、通常の対応能力が制限された。(3)通常は公衆衛生担当職員の勤 務場である場所を臨時の避難センターとして転用したため多数の避難者の当面の需要に 配慮しなければならず、そこでは通常の業務のほかに多数の機能を網羅することが期待 された(宮古市など)。公衆衛生担当職員は付加的な活動についても非常に有能であり、 自身が活動するコミュニティについても十分な知識を持っていた。 時系列で見る震災への対応 地震直後、災害対応対策本部が設けられたが、津波によってそれらの一部が流された。地方 自治体の大部分は職員の安全確認に約 4 日から 7 日を要した。自治体の状況評価能力には 限界があったが、自衛隊が 3 日で道路を片付けるなどしたため、緊急対応活動の実施能力は 大幅に改善された。図 1 は主要な対応活動を時系列に示したものである。 25 時間(日) 20 15 10 5 0 対策本部の 設置 職員の 安全確認 状況評価 図1:時系列で見る震災後の対応 救助活動 道路の 簡易復旧 救援物資の 到着 DMAT の 到着 公衆衛生対 応の開始 (非公式情報による) 災害派遣医療チーム(DMAT)は、訓練を受けた医療従事者および支援職員で構成されてお り、災害時に救急医療を提供するための適切な機動力を備えたグループである。日本では、 DMAT は 2005 年 4 月に厚生労働省によって設立された。 DMAT は震災後 1~2 日で組織され、岩手県は陸路およびヘリコプターで沿岸地域に 1 チー ムを派遣した。日本赤十字社も直ちに行動し、地震直後に現場にチームを派遣した。主要な 公衆衛生対応は震災の約 2 週間後、初期の救出活動と必需品の配布の後に始まった。震災 の大きさを考えると、公衆衛生を即時対応段階で優先することはできなかったと思われる。た 者(消防士、救急医療業務、自衛隊)に制限されており、公衆衛生当局は現場の状況調査や 業務提供を行う能力を欠いた状態であった。 人々の健康に対する初期の影響および直後の対応 人々の健康に対する津波の影響は、1995 年の阪神淡路大震災とは大きく異なっている。東 日本大震災がもたらした結果は、死亡したか、身体的な負傷はほとんどなく生存したかのいず れかであるという点で、はるかに明暗がはっきりしている。死者の 90%以上が溺死によるもの で、死者の大多数が高齢者であった。以下の表 1 は、阪神淡路大震災と東日本大震災の死 者、行方不明者、負傷者の数の違いをまとめたものである。東日本大震災の負傷者は少なく、 実際のところ予想したほど救急医療の需要がなかったことから、もっと早い段階で重点を公衆 衛生の介入へと転換できた可能性がうかがえる。 表 1:阪神淡路大震災と東日本大震災の人的被害の比較 阪神淡路 東日本 6,434 14,508 死者 3 11,452 行方不明者 43,792 5,314 負傷者 (出所:内閣府) 死傷者数データ 人口動態統計データ(4 月 27 日午前 10 時現在) 死者: 14,508 名 行方不明者: 11,452 名 負傷者: 5,314 名 表 2 に示すように、死者のほとんどは宮城(8,745 人)、岩手(4,234 人)および福島(1,466 人) の各県の人々である。行方不明者もこれらの県の人々がほとんどであり、宮城(6,694 人)、岩 手(3,479 人)および福島(1,275 人)である。厚生労働省は遺体の扱いに関して地方自治体を 支援している。 表 2:死者、行方不明者、負傷者、避難者の数(警察庁発表:4月 27 日午前10時現在) 都道府県 死者 行方不 明者 北海道 1 青森 岩手 宮城 3 4,234 8,745 1 3,479 6,694 秋田 山形 福島 2 1,466 1,275 東京 茨城 栃木 7 23 4 1 群馬 1 埼玉 千葉 神奈川 新潟 山梨 18 4 2 静岡 三重 高知 長野 合計 14,508 11,452 負傷者 避難者 1,048(岩手、宮城、福島などからの避 難者含む) 3 1003(岩手、宮城、福島などからの避 難者含む) 61 165 41,521 40,701(福島からの避難者含む) 3,446 518(岩手、宮城、福島からの避難 者) 12 715(福島、宮城からの避難者) 29 227 26,429 749(岩手、福島、宮城からの避難 者) 90 529(福島からの避難者含む) 693 673(岩手、福島からの避難者含む) 135 2,669(岩手、福島、宮城からの避難 者) 36 4,544(岩手、福島、宮城などからの避 難者) 42 1,229(福島からの避難者含む) 225 659(岩手、福島からの避難者) 139 4,535(福島、宮城からの避難者) 3 787(福島、宮城などからの避難者) 2 872(岩手、宮城、福島からの避難 者) 4 1 1 974(岩手、福島、宮城からの避難 者) 5,314 130,155 図 2 に示したように、時間とともに死者数は増加している。行方不明者数は増加し、3 月 25 日には最大数(17,541 人)に達したが、それ以降は減少している。 4 月 4 日、報道によると、当局は、死者数は、津波で被災した地方自治体が地域の行方不明 者数を特定できるようになればさらに増えるであろうと述べている。また、福島第 1 原子力発 電所から 20km 圏内の退避地域における捜索活動は一時的に停止している。 35000 30000 25000 20000 15000 負傷者 行方不明者 死者 10000 5000 /0 20 3/1 1 11 /0 20 3/1 6 11 /0 20 3/2 1 11 /0 20 3/2 6 11 /0 20 3/3 1 11 /0 20 4/0 5 11 /0 20 4/1 0 11 /0 20 4/1 5 11 /0 20 4/2 0 11 /0 4/ 25 0 20 11 図 2:3 月 11 日地震発生以来の負傷者、死者、行方不明者数の推移 避難者の状況 4 月 27 日時点で、130,155 人の避難者が 18 の都道府県にある避難所に避難している。多く の都道府県が県外の避難者を受け入れており、福島県からの避難者は 16 の都道府県に避 難している。表 3 は被災した 3 つの県における避難所の数と避難者の数を示している。 仮設住宅の建設は優先事項であり、5 月末までに 3 万戸を完成させるように準備を進めてい る(4 月 22 日:首相会見) 表 3:避難所の数と避難者の数(県別) 県 宮城 岩手 福島 合計 避難所数 433 363 179 975 避難者数 40,788** 41,521* 11,144*** 93,453 * 4 月 24 日現在 **4 月 27 日現在 ***4 月 26 日現在 出典: 宮城県: http://www.pref.miyagi.jp/kinkyu.htm 岩手県: http://sv032.office.pref.iwate.jp/~bousai/ 福島県: http://www.pref.fukushima.jp/j/index.htm 11 /0 3/ 20 11 16 /0 3/ 20 11 21 /0 3/ 20 11 26 /0 3/ 20 11 31 /0 3/ 20 11 05 /0 4/ 20 11 10 /0 4/ 20 11 15 /0 4/ 20 11 20 /0 4/ 20 11 25 /0 4/ 20 11 図 3 は 3 月 11 日の災害発生以降における避難者数の推移を示す。避難者数のピークは 3 月 15 日の 44 万人。 500000 450000 400000 350000 300000 250000 200000 150000 100000 50000 0 図 3:3 月 11 日の災害発生以降の避難者数の推移 避難所における健康状態および全体状況 避難者の健康リスク管理に関して、最初の 1 ヶ月間は疾病の大規模発生もなく、感染性疾患 管理および予防が効果的であったと思われる。非感染性疾患および状態の急激な悪化も、迅 速な介入によって回避されたと思われる。組織立った公衆衛生の緊急対応がなされなかった ものの、避難者の中で感染予防の意識が高いことが非常に有利に働いている。しかし、避難 所によって状況は大きく異なり、避難所についての情報も依然不十分なままである。公衆衛生 の取り組みの連携強化に加え、組織的なサーベイランスの確立がされることが理想であるが、 実際のところ、自治体は被害の大きさと物流面の課題になおも打ちのめされている。 避難所の状態は場所によって大きく異なるため一般化することはできないが、強固なコミュニ ティ意識と適切なリーダーシップのある小規模の避難所はうまく機能しているように思われる。 たとえば、遠隔地にある比較的小さな避難所は、学校の体育館に設置された典型的な集団避 難場所と比べてはるかに良好に機能していた。地域社会の中での既存の人間関係や諸機関 間の関係が非常に重要であると思われる。さらに、緊密な地域社会である比較的辺鄙な地域 では、人々は自給自足し、互いに支えあいやすいということもある。また、良好な避難所には 良いリーダーシップ(またはリーダーが機能するのに適した環境)があるように見受けられるが、 このことは秩序や団結を維持するのに役立つだけでなく、避難所内の衛生状態や全般的な健 康レベルを向上させるものである(たとえば、公共の空間を尊重し、持ち回りの清掃グループ を作ることによってトイレを清潔に保つことなど)。現地評価から、良好に機能している避難所 の指標として、①小規模の避難所、②適切なリーダーシップ、③強固なコミュニティ意識、が挙 げられる。 良好に機能している(公衆衛生のリスクが低い)避難所に関して確認された 5 つの主要要素 は以下の通りである。 • • • • 飲用および洗濯用の両方の清潔な水および下水設備が利用できること。水と下水処 理は良好な公衆衛生の基本条件である。 秩序を持ち、連帯意識を維持するために避難所内に強固なリーダーシップがあること。 こうした人々は、震災前に地域社会の指導者であった場合が通例である。 避難者たちにゆるぎない関係と親密さが既にあること。それが強固なリーダーシップと 一体となって相互支援を促進し、震災から 1 ヶ月が過ぎても避難者の自治に大きく依 存した状態である避難所の機能レベルを向上させる重要な要因となっている。 保健師の役割も、避難所における良好な公衆衛生の実践と状態を維持するのに不可 欠である。 東北大学および岩手医科大学と被災した地域の間には以前からつながりがあり、こうした結 びつきが避難所での順調な成果や支援を促進した。 その他の健康問題 震災の被害の規模と避難所の状況に関する重要な発見に加え、本書の後半ではさらに健康 上の懸念として以下の分野に関して具体的な発見および評価を述べた。 1) 精神保健および心理社会的健康 2) 非感染性疾患 3) 感染性疾患 健康状態 被災県の震災前健康状態 地震と津波による被害を受けたのは、主に日本の東北地方沿岸部に位置する宮城県、岩手 県、および福島県である。これらの各県の人口を合計すると 572 万人に達する。 別紙 1 に、これらの県の震災前の人口分布と健康状態を示す。 被災した県における震災後の医療施設と医療サービスの現状 現在の状況 地震から 1 ヶ月以上経過し、医療施設が機能し始めたが、特に宮城県、岩手県、および福島 県の沿岸地域においては、医療を提供できない、または診療時間を短縮せざるを得ない病院 および診療所が多く残っている。 厚生労働省は、被災した県以外で利用可能な病院およびベッド数について調査した。その結 果の概要は下記表 4 に記載されている。 表 4:被災した県外で利用可能な病院およびベッド数 情報収集した団体 病院数 128 国立病院機構 8 国立センター 53 社会保険病院他 30 労災病院 192 日本慢性期医療協会 469 日本病院会 (出典:厚生労働省) ベッド数 1,489 211 約 630 341 約 1,100 約 1,649 多くの医療支援チームが日本国内の各地から派遣され、被災者の救援を主とする活動にあた っている。4 月 25 日現在、これらのチームは積算して 1,359 に達しており、139 のチームが現 在も活動中である。 1995 年に起きた阪神淡路大震災で学んだ教訓を生かして、厚生労働省は各県の医療サービ ス管轄地区に準じ災害拠点病院を設置する戦略を推し進めてきた。災害拠点病院は、災害が 起きたときに負傷者を受け入れ、他の病院を支援することで被災地の人々のために適切な水 準の医療サービスを確保する際に重要な役割を果たす。緊急対応を行う拠点病院として指定 された 179 の病院のうち 147 ほどの病院が、地震が起きた当日に東京と東北で本格的に稼 働した。救急医療を行う病院に指定されたこれらの災害拠点病院は、津波に襲われた 1 施設 を除いて十分機能している。震災初日に搬入された患者数はわずかであったが、2 日目以降、 日を追うごとに患者数が増え続けている。石巻赤十字病院では、震災初日から 30 日間でお よそ 1 万人(通常の来院者数は 1 日当たり 60 人)の患者を受け入れた。 4 月 21 日現在、宮城県、福島県、岩手県の 33 の拠点病院のうち 29 の病院(88%)が入院 患者を受け入れ、28 の病院(85%)が外来患者を受け入れている。(表 5) 表 5: 被災県の災害拠点病院の現状 災害拠点病院数 宮城県 14 福島県 8 岩手県 11 合計 33 *岩手の 1 病院に関しては未確認 入院患者の受け入れが 可能な病院数* 13 7 9 29 外来患者の受け入れが 可能な病院数* 11 7 10 28 対応 公式の報告によれば、3 月 15 日以降、厚生労働省は他県と協力して被災地からの高齢者と 障がい者の受け入れに取り組んでいる。4 月 25 日現在、1,782 人が他県に移送された(岩手 県にある高齢者福祉施設の 227 人、宮城県にある同様施設の 952 人、福島県にある同様施 設の 111 人、および福島県にある障がい者福祉施設の 492 人)。 厚生労働省は、各県に対し、介護士の派遣と、派遣可能な介護士の数に関する情報の収集を 求め、3 月 18 日より、被災した県へ情報を提供している。4 月 25 日現在の状況は以下の通 り(概要は下記表 6 に記載)である。 派遣可能な介護士の総数:8,180 人 派遣済み介護士の総数:699 人 表 6:被災した県における高齢者・障がい者施設数 高齢者施設 障がい者施設 岩手 165 (稼動中:13) 364 (稼動中:36) 104 (稼動中:9) 宮城 福島 12 (稼動中:12) 27 (稼動中:12) 27 (稼動中:8) 高齢者・障がい者のいずれについても、自身の氏名、生年月日、および住所を提示すれば治 療を受け、薬をもらうことができる。健康保険証または診断書を提示する必要はない。 被災県に公共医療サービスを継続して提供するため、133 の公共医療サービスのチームが 避難所と公共医療施設に派遣され、福島県、岩手県、仙台市、および宮城県を含む数多くの 被災地域で公共医療に関連したサービスを提供している。表 7 に各県で活動しているスタッフ とチームの数を示す。 表 7: 公衆衛生ケアチームの活動状況 スタッフ数 チーム数 岩手県 宮城県 福島県 合計チーム数 139 39 217 69 82 25 438 133 (2011 年 4 月 25 日現在) 日本薬剤師会と日本病院薬剤師会は合計 894 名の薬剤師を派遣し、現在は表 8 の通り、85 名が活動中である。 表 8:対応中の薬剤師の活動状況 岩手県 宮城県 福島県 合計薬剤師数 16 44 26 合計 86 (2011 年 4 月 25 日現在) 4 月 25 日現在では、以下のような医薬品および衛生用品が被災地域に届いている。 ‐ 6,000 個の応急処置用品 ‐ 米 1,000 kg、水 1,320 L、粥 2,006 パック、および流動食 2,520 ボトル(病院食用) ‐ マスク 124 万枚(岩手県、宮城県、福島県の 3 県合計) ‐ 一般的な医薬品 1,500 個(岩手県)、8,000 個(宮城県と福島県合計) ‐ 一般的な医薬品 15 万 1,000 個、およびマスク 18 万枚(岩手県、宮城県、福島県の 3 県合計、メーカーから直送されたもの) 継続中の問題 このように深刻な災害状況の中でまだ解決できていない課題は、緊急対応の段階から再建お よび復興段階への効果的な移行である。地方の多くの地域が今も緊急の課題に苦しんでいる 一方で、徐々に再建・復興段階へと移行している地域もある。この移行をできる限り途切れな 理社会的状態、および避難者の健康と社会的ニーズにおける変化を考慮しなければならない。 震災から 1 ヶ月が経過し、ライフラインが徐々に改善すると、被災地域に対する明白な情報伝 達と共に、再建・復興に向けた協調的かつ十分に管理された移行計画が必要となる。地域社 会の結びつきが強い既存の社会的関係は日本のこの地方では重要な要素であるため、地域 のリーダーおよび他の地元の利害関係者との良好な意思伝達が必須である。特に保健師の ような公衆衛生担当職員が地域社会の中で重要な役割を果たすと考えると、そのような立場 の者はあらゆる再建・復興活動で重視されるべきである。 健康状態のモニタリング、評価および対応 精神保健および心理社会的健康 背景 日本全国と比較して、東北地方は精神保健の有病率が歴史的に高い。例えば、3 月 11 日に この地方に地震が襲う以前、自殺率は岩手県と宮城県(人口 10 万人あたりそれぞれ 34 人、 28 人)が日本全国平均(人口 10 万人あたり 25 人)よりも高かった(2008 年政府公式データ)。 また、東北地方の住民は日本全国の中でも自分の感情を容易には表さない控えめな特徴を 持つといわれている。精神保健疾患に対し非常に悪いイメージがあり、田舎の沿岸地域では 精神保健・心理社会的支援(MHPSS)が限られている地域もある。 日本は、1995 年の阪神淡路大震災や 2004 年の中越地震など、過去の地震による心のケア 問題に対応した経験がある。阪神淡路大震災と比べると、今回の震災に対する MHPSS 対応 は、迅速な心のケア従事者の配備によって改善されている。しかし、今回の震災で生じた精神 保健および心理社会的影響は、複数の災害が連続して発生し、未知の結果を広範囲で招く可 能性があるという点(余震の継続、津波、放射線および原子力の問題)で他とは異なっている。 このような予測できない状況の中では、MHPSS への需要は複雑で動的なものになる可能性 がある。 現在の状況と対応 当初、以前から精神保健障害を持っていた人々への精神科医療の提供が課題であったが、こ うした要求は大部分の被災地域で迅速に解決した。多くの宮城県内の避難所で当初精神科 医療を受けられなかった避難者が、現在は適切な治療を受けていると心のケア従事者が言っ ていた。岩手県では、避難所の多くで震災発生から 1 週間以内に必要な医療を受けることが できた。 カウンセリングによる心のケアは、現在は最も深刻な被災地域の避難所でも提供されている。 4 月 25 日の内閣による公式な政府報告によると、現地で活動する 123 名を含む 25 の「心の ケア」チームがあった(岩手に 9 チーム、宮城 12 チーム、福島 4 チーム)。避難所の多くで、 精神衛生の専門家が定期的に現地を訪問していることが報告されている。しかし、心のケア従 野としてチーム構成するのではなく、心のケア従事者が他の医療従事者(医師、看護師、薬剤 師など)に加わることによって、複数の専門分野にわたるチームを作成する従事者従事者方 が患者にとっては良いとする専門家もいる。包括的な医療を提供する構成単位を作れば、そ のような治療を受ける人々に生じる悪いイメージを軽減させるのにも役立つとされる。 被災した子どもたちのために、小児精神保健ケア従事者が厚生労働省によって 4 月 15 日現 在で岩手に 17 名、宮城に 33 名、福島に 12 名派遣されたとされる(内閣府)。両親が行方不 明、または死亡した子どもの数が記録され、被災した子どもたちに対して自治体および小児精 神保健ケア従事者により医療サービスの提供が行われている。最近の報告によると、岩手教 育委員会は被災した生徒に対して心理社会的支援を提供するため、学校に常駐するカウンセ ラーの増員と、もっとも被害が大きかった沿岸地域に位置する小中学校に対するカウンセラー の配備を決定した。多数の生徒が家族、友人、家を失っているため、心理社会的支援は急を 要していると考えられる。非政府組織(NGO)も、カウンセラー、教師に対する精神保健訓練、 一般活動(芸術およびスポーツ)および学用品といった被災地域の子どもに対するその他の 精神保健サービスを提供している。 日本の防衛省は遺体の回収と被災地域の全体的な撤去作業に従事した自衛隊員の精神衛 生の検査を行う予定である。検査は任務終了後 1 ヶ月、6 ヶ月、1 年で実施し、隊員がうつや PTSD の兆候を示した場合、適切な医療従事者を紹介する(報道、4 月 26 日)。 主な課題 震災から 1 ヶ月が経過し、生存者の中に災害の現実が定着するため、生存しているという「高 揚した」感覚は衰えはじめている。長期間の避難所生活の見通し(混雑やプライバシーの欠如 など)には今後の方向性はまったく立たず、生計手段を失ったことが生存者の精神衛生に影 響を与え始めている。その一方で、精神衛生に関するいくつかの問題は、東北の人々固有の 性格に由来しているようである。 文化性を考慮した文化的に適切な MHPSS 東北の人々の内面の感情を押し隠す控えめな性質を考えると、この人々への MHPSS の提 供には一定の配慮を考慮する必要がある。 • 個人レベルで、自己の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の認識が遅れることは大きな 懸念事項である。東北の人々が感情の表現に控えめであることを考えると、PTSD の 表れと認識が遅れる可能性がある。不眠、フラッシュバック、悪夢といった PTSD のい くつかの症状(つまり、本来のトラウマの再経験)は、一部の被災者から報告されてい るが、そのような症状の表れの主張と、専門的治療への要求が遅れる可能性があるこ とを認識すべきである。さらに、不眠、高血圧、胃腸系症状などの身体症状は、精神衛 生問題の身体化、または身体的な表れによるものである場合もある。このような身体 化は避難者と医療従事者の両方から精神衛生の状態を隠してしまい、PTSD の特定 と適切な治療を遅らせる恐れがある。 • 元の地域社会のつながりに戻ることは、被災地域で心のケアを提供する上で不可欠で ある。この地方の人々はめったに自分の感情を率直に表さないと言われているが、そ うした行動は彼らが交流している人物によって改善されると思われる。たとえば、一部 の保健師は、被災者は他県からの医療従事者には簡単に心を開こうとはしないが、実 際には馴染みの医療従事者にはきわめて率直であることを指摘している。それゆえ、 地域社会に精通しており、文化的に適切で繊細な医療の提供方法を熟知している地 域の公衆衛生担当職員にとって、この問題は MHPSS を提供するにはむしろ有利な 条件である。 男女間の不均衡 日本では、精神障害の出方に性別で大きな違いがある。2010 年、全国の女性の自殺率は 10 万人あたり 14 人であったのに対し、男性の自殺率は 10 万人あたり 36 人であった(警察 庁)。震災の被害地域における 3 月 11 日以降の性別自殺データは不明だが、岩手県のある 被災市は、MHPSS を受けた男性は女性と比較すると際立って低い数であると報告している。 このことは、男性がこの地域では MHPSS をあまり要望していないという事実によると考えら れる。しかし、MHPSS を受けたいと希望する男性の中でも、こうしたサービス利用の機会が 少ない可能性もある。労働年令の多数の男性が瓦礫の撤去のために日中は自分の家に戻り 始めているため(あるいは日中は仕事に戻り始めている)、MHPSS を受けたくても日中は避 難所に設けられた MHPSS を受け損ねている危険性がある。 現在の対応段階における要求のマッチング 復興や回復活動が進む中で生じる環境条件の変化を注意深く評価する必要がある。津波とそ れに伴う脅威(火事、爆発、津波の警戒を伴う大規模な余震)が小さくなり、元々避難所で生 活していた避難者の多くが次第に家に戻り始めている。しかし、PTSD などの問題が生じる危 険性がある人や、またはすでに生じている人でも、避難所に住んでいないと MHPSS を受け 損なう恐れがある。たとえば、ある市内では以前と比較して震災後の自殺者数が大幅に増え ているという非公式の報告がある。重要なのは、自殺者の大部分が 40 代から 50 代で、避難 所以外で暮らしているという点である。したがって、震災のあらゆる被災者の精神衛生の要求 を満たす戦略を入念に実施する必要がある。 その他の潜在的に危険にさらされているグループ 地域の医療および公衆衛生の従事者自身へ MHPSS が行われた形跡はほとんどない。こう した医療従事者の中には家族、友人、同僚、家を失った人も多くいる。同様に、その多くが災 害対応のための公衆衛生の要求を満たすために長時間働き、ストレスの多い状況に直面して いる。彼らの控えめな性質を考えると、自らの困難な状況を声に出して主張したがらないと思 われ、特に仕事に緊急かつ継続的な要請があればなおさらである。したがって、医療従事者も 同様にモニタリングし、適切な MHPSS ケアを提供することが重要である。 最後に、福島第一原子力発電所での事故もまた、不安やその他の精神衛生上の懸念を引き 起こしており、これは津波によって被害を直接受けていない、避難を指定された区域の住民に 特にあてはまる。こうした人々は自分の家や仕事に戻り、生計手段を取り戻すという見通しに 不安を感じるだけでなく、今後差別を受けるのではという将来の不安にも直面している。避難 者を安心させ、原子力発電所の状況に関する科学的な情報を提供し、不必要な差別を回避す るために一般市民を継続して教育することが重要である。 非感染症疾患 背景 深刻な非感染症疾患をかかえる患者は、とりわけ症状増悪の危機に陥りやすい。その誘 因としては、通常の医療行為の中断、激しい状況的ストレスや不安、過密状態や生活水 準の低下、水や安定的な食糧の不足、環境の劣化や身体的な傷害などがあげられる。 東北地方は日本全国と比較すると高齢者が多く、塩分摂取も多い地域である。高血圧と 非感染性疾患は震災前から既に大きな問題となっていた。 図 4 に、非常事態における非感染性疾患の管理優先度を示す。今回のような災害に際し、 その緊急度と深刻度を考慮にいれて非感染症疾患の健康リスクをグループに分けると次 のようになる。 グループ 1: 透析患者、1 型糖尿病(インシュリン投与)患者、呼吸補助を受けている患者、 臓器移植を受けた患者、急性冠動脈の治療を受けている患者。 グループ 2: 2 型糖尿病(DM)患者、心疾患の患者、ぜんそく患者、がん患者、慢性肺疾患 の患者。 グループ 3: 高血圧、高コレステロール血症の患者、およびその他の非感染性疾患のリスク 軽減を目的とした治療を受けている患者。 対象患者: 透析 対象患者: I 型糖尿病(イン スリン依存型) 対象患者: 対象者: 禁煙者 禁酒者 高血圧症 高脂血症 その他非感染 性疾患リスク削 減 糖尿病 真性糖尿病 心疾患 ぜんそく 癌 慢性肺疾患 呼吸補助 臓器移植 急性冠症候群 慢性肺疾患 図 4:緊急時医療介入における非感染性疾患の優先管理状況(リスクレベル別[ボックスの大 きさ]、人口集団規模別[色の濃さ]) 背景情報として、岩手県、宮城県、福島県の住民の非感染性疾患に関するデータを表 9 に示 す。 表 9:被災した主な県に被災前から暮らす非感染性疾患の患者に関するデータ グループ 1 岩手県 2,872 * 5 宮城県 4,753 * 36 人工透析 1 型糖尿病(DM) 呼吸補助 臓器移植を受けた患 者 急性冠動脈の治療 34,000 39,000 グループ 2 2 型糖尿病(DM)-> 1 型と 2 型のデータが区 別されていない。* 15,000 25,000 心疾患 1,100 2,100 ぜんそく 17,000 24,000 がん 3,000 4,000 慢性肺疾患 109,000 167,000 グループ 3 高血圧 18,000 24,000 高コレステロール血症 (出典:日本透析医会、厚生労働省、日本臓器移植ネットワーク) 福島県 4,705 * 17 46,000 32,000 1,700 25,000 4,000 187,000 19,000 現在の状況および対応 非感染性疾患および健康状態の急激な悪化は、被災した県の市町村の迅速な介入によって 回避され、これまでのところ、大規模な非感染性疾患に関する深刻な事件は報告されていな い。しかし、状況の全体像を知るには継続してモニタリングと観察を続ける必要がある。報道 によると、少なくとも 101 名(大部分が高齢者)が震災後に既存の非感染性疾患の悪化によっ て死亡している。この死亡例は、被災した 3 県で既存の呼吸器疾患、心疾患および脳血管疾 患を伴うものであった(4 月 11 日)。 震災前に存在した医療システムが大きく被災し、壊滅的な被害が広範に及んで機能が大幅に 制限され、必須のライフラインと勤務要員の損失も生じていると報告されている。たとえば、表 10 が示すように、4 月 25 日現在で血液透析を実施できる施設数はきわめて限られているが、 いくらかの改善は見られつつある。現在、岩手県および宮城県で血液透析を実施できる施設 は震災前の半数以下である。 表 10:被災県における血液透析を行う医療施設数 岩手 宮城 福島 震災前 36 52 63 震災後 17 (未確認の1施設 除く) 21 38 (未確認の3施設 除く) 現在利用可能な施 47.2% 40.4% 60.3% 設の割合(%) (出所:日本透析医会) 薬剤の供給には、工場が被害を受けたため震災の影響が直接及んだ。最も被害の大きかっ た県だけでなく、群馬県や栃木県などの周辺の地域にも影響が及んだ。甲状腺機能低下症用 のレボチロキシンナトリウム(98%が福島県いわき市に工場を持つあすか製薬によって製造さ れている)、抗てんかん薬、抗リウマチ薬およびパーキンソン病用薬剤の製造が不足する可能 性がある。不足を補うため、緊急輸入および他地域での製造委託が実施される予定である (報道、4 月 1 日)。 今回の例を見ない津波災害から、まれではあるが顕著な問題も明らかになった。石巻のある 避難所での報告によれば、極度の寒さのため、数名が屋外の暖房ストーブを屋内に持ち込ん で暖を取ろうとして一酸化炭素中毒を起こしてしまった。このケースは運良く病院で迅速な治 療を受け、無事に処置された。気温の上昇につれ、このような事故は発生しにくくなるだろう。 身体活動の欠如は、他の要因と組み合わさり、避難所で生活する避難者の慢性疾患の増加 および悪化を助長する懸念がある。これに対処するため、避難者は「ラジオ体操(ラジオ放送 に合わせたストレッチ運動)」のような決まった運動や軽度の家事に(料理、掃除など)取り組 むよう勧められている。 また、被害を受けた所有物の瓦礫を始末する人々の皮膚(主に手)に化学火傷が出る事例が あるとの報告もある。被災地域の中には、化学工場が破壊され、化学的な汚染物質の環境へ の放出が生じている場合がある。幸いにも、これは広範におよぶ危険とはならないと思われ、 この地域で作業した自衛隊員にも化学薬品による影響はなかったとのことである(しかし、自 衛隊員はこの区域の他の人々より防備がしっかりしている可能性は否めない)。 当初、深部静脈血栓症の事例が多数報告された。4 月 3 日現在の報道によると、宮城県内の 20 の避難所のおよそ 194 名が検査を受け、44 名(23%)に血栓が確認された。食料の不足 (1 日 2 食のみ)、込み合う避難所での個人スペース確保の難しさ、寒い天候のせいなどで水 が摂取不足気味になるため、深部静脈血栓症の発生率が増加する恐れがある。 慢性疾患治療のための処方薬の提供、および特別な治療を要する患者の輸送は、震災後は 第一優先であった。幸いにも、こうした需要はきわめて有効な DMAT および他の医療団のお 陰で迅速に満たされた。最も必要な薬剤(糖尿病、高血圧、高コレステロールおよび他の循環 器状態の管理が必要な人々など)は 1 週間以内に避難所に届き、DMAT は自衛隊などの支 援を得て、透析およびその他の特殊な治療を要する患者を適切な場所に輸送した。薬剤師も、 派遣される医療チームまたは大部分の避難所に常駐し、薬剤の継続的供給を行った。 様々な政府組織および非政府組織が震災直後から被災地域への医療用品の配送に貢献し ている。4 月 25 日時点ですでに配送された製品について公式発表で以下のようにまとめてい る。 ‐ 透析液 270 袋および透析装置 2,000 個を宮城県へ ‐ 医療用酸素ボンベ 538 本(7,000 リットル)を宮城県へ、68 本を岩手県へ ‐ 慢性疾患用薬剤を含む医薬品が日本ジェネリック医薬品学会によって 3 月 26 日に宮城 県と福島県に送られた。 ‐ 抗菌薬、糖尿病用薬剤および降圧剤などの医薬品 30 トンが日本製薬工業協会(JPMA) の協力で宮城県、岩手県および福島県へ ‐ 糖尿病用薬剤および降圧剤などの医薬品 4 トンが福島県へ ‐ 医薬品 10 トンが宮城県および福島県へ 現在利用できる資源を最大限に活用する努力も行われている。たとえば、厚生労働省は医療 用酸素ガス不足のため、産業用酸素ガスボンベを医療目的で使用することを認めた。また厚 生労働省は、短期間の処方薬を優先し、長期間使用する処方薬を控えるよう指示を出した。こ れは、入手できる薬剤が少人数により消費されることを避けるためで、現在入手できる在庫の 使用をより効率良く、平等にするよう働きかけたものである。(公式発表、3 月 17 日) 政府組織および非政府組織などの各種団体は、病院・クリニックの開業状況、時宜に応じたニ ーズ、などを含む非感染性疾患に関連する情報共有システムの確立に迅速に対応した。例と して、JADP(日本透析医会)による災害情報ネットワークや国立循環器病研究センターによる 電話相談などがある。 医療サービスを利用する際の行政の障壁を軽減するための対策も取られている。厚生労働省 は被災した各県に対し、保険証の提示がなくても必要な治療を受けられることを発表した。こ れは公費で治療を受ける人々も同様で、身体障害者証などの提示がなくても治療が受けられ る。また、処方箋がなくても薬を受け取ることが可能である(販売薬または認可薬の場合)。 非公式の情報によると、特に高齢者、障がい者、妊婦を対象にした「福祉避難所」が岩手県、 宮城県の 6 自治体により 4 月 3 日現在で 40 ヶ所以上設置されている。震災直後から、仙台 市は 250 名以上を「福祉避難所」に受け入れている。精神的および身体的機能の損失を避け るため、人々はスケッチや折り紙などの活動に励んでいる。福祉避難所の人々は、ケアワーカ ーおよび看護師による 24 時間体制のケアを受けている。 主な課題 高血圧症 避難所生活の長期化、体を動かす機会が比較的少ない状況、ストレスおよび偏った食事が続 いていることにより、高血圧症等の発症者が出始めている(少なくとも 2 ヶ所の避難所から症 例が報告されている)。このまま生活環境や食品供給全般が改善されないと、糖尿病や心疾 患などの慢性疾患患者が増加する恐れがある。例えば、一部の避難所では、高血圧症また は高脂血症等の患者向けの特別献立の食事が用意されていない。被災地域の人口統計デー タを踏まえると、これらの懸念事項にできるだけ早くかつ持続可能な方法で対処して、罹患率 および死亡率が今後上昇しないようにする必要がある。このため、(宮古市で行われているよ うな)栄養士や看護師が栄養バランスの良い献立を考え、この献立表に照らして必要な食品 を供給することが望ましい。加えて、岩手県の看護師からの報告によると、電力供給と道路事 情が改善されたため、より栄養に富んだ新鮮な食品を摂取出来るようにするために冷蔵庫が 配布されることになった。 呼吸器系疾患等の問題 被災した建物やインフラ設備等の埃が多く汚染された場所での作業に伴い、独特な呼吸器系 疾患に罹る人も増えている。倒壊した自宅へ戻り、瓦礫の中から必要な品物を探している多く の人々が、瓦礫から舞い上がる粉塵や微粒子の吸入が主な原因で起こる激しい咳等の症状 を訴えている。このため、感染性予防目的のみならず、非感染性予防の目的でもマスクの供 給と継続着用を呼びかけることが重要である。 建物の建設には、アスベストが使われている可能性があるため、このような建物の倒壊が健 康に影響を及ぼす可能性がある。いくつかの被災地では環境モニタリングが始まっているが、 このようなリスクに対処するためモニタリングを継続すべきである。 病診連携システム 別の重要な懸念事項として、震災前には存在していた、非感染性患者の治療のための病院 間の病診連携システムがある。このシステムは、患者を、最適な医療設備のある病院へ搬送 するのに役立つシステムであったが、震災後には、その機能の大部分を失い、その復旧が現 在も課題として残っている。 連絡システムおよび情報システムの復旧 診療所にとっても患者にとっても、現状では、連絡手段が極めて限られている。また病院/診療 所は震災により多くの情報を失ったため、大部分の連絡は患者から病院/診療所側への一方 的なものとなっている(診療所から患者への直接連絡は行われていない)。一部の診療所では、 津波によりカルテや診療記録を失ったため、診療所側から能動的に行う病状の経過観察にお いて問題が生じる可能性がある。情報システムの復旧や、カルテおよび過去の診療記録の喪 失等も引き続き課題となっている。例えば、(4 月 1 日付の)報道によると、カルテ等の喪失に より、治療内容や臨床経過等の詳細情報を含む参照情報文書を患者が提示できないと、癌患 者に対する化学療法の継続は困難になる、とされている。 感染性疾患 背景 国立感染症研究所は、日本における感染症の監視責任を負っている。 感染症の監視作業に は、次の 2 種類がある。(1)発見した病原体について報告すること、および(2)感染症例につ いて報告すること。報告すべき感染症は、全症例について報告する必要がある対象感染症と、 監視対象診療所および病院から報告される感染症に分類される。情報は、各県および地方自 治体の保健所、検疫所、指定病院および健康センターから供給される。これらのデータを基に 病原微生物検出情報(月報)が作成されている。 震災前(2008 年)に、被災した 3 県および日本全国で報告された、届出義務のある 5 大感染 症の数が表 11 に記載されている。被災した 3 県において 2008 年に報告されたのは、破傷 風 3 件(岩手県で 2 件、宮城県で 1 件)、デング熱 4 件(福島県で 3 件、宮城県で 1 件)、なら びにマラリア 2 件(宮城県と福島県で各 1 件)のみであった。またこの 3 県において 2008 年 に報告されたペスト、腸チフス、またはレプトスピラ症はなかった。インフルエンザおよび胃腸 炎については被災各県において監視対象医療機関から報告されており、報告件数は、岩手県 より福島県および宮城県のほうが多い。 表 11:被災県における、よくある 5 つの感染症の 10 万人当たりの発生率および全国(2008 年)との 比較* 全国 福島 宮城 岩手 10 万人当たりの 10 万人当たりの 10 万人当たりの 10 万人当たりの 発生率(件数) 発生率(件数) 発生率(件数) 発生率(件数) 10.0 (234) 30.3 (406) 17.2 (350) 22.2 (28 459) 結核 7.1 (165) 7.9 (106) 2.6 (52) 3.4 (4 321) 腸管出血性大腸菌 0.2 (4) 0.4 (5) 3.3 (67) 0.4 (442) ツツガムシ病 0.5 (11) 1.6 (22) 1.1 (22) 8.6 (11 012) 麻疹 0.7 (17) 2.1 (28) 0.3 (7) 0.7 (892) レジオネラ症 *確認件数は国立感染症研究所から。発生率は各県で入手できる人口データより算出。 東北地方で地震と津波が発生した後、国立感染症研究所は 3 月 14 日、被災地における通常 の監視データ、ワクチン接種状況、および環境条件に基づき、被災した各県の感染症に関す る初期リスク評価を行った。このリスク評価は、感染性を対象に現在も行われている。このリス ク評価の結果、急性下痢、インフルエンザやその他の呼吸器感染症、破傷風、麻疹、およびそ の他のワクチンで予防可能な疾患(百日咳など)が公衆衛生の面からみて特に重視されるべ き疾患として考えられている。国立感染症研究所が行っているリスク評価の結果を別紙 2 に 示す(4 月 8 日付)。高齢者が比較的多いため、肺炎も懸念するべき疾患として指摘されてい る。 東北地方は日本の北部に位置しているため、自然災害が起きた後にしばしば懸念されるいく つかの感染症の発生は顕著には見られない。例えば、国立感染症研究所が指摘しているよう に、ビブリオ属細菌は日本の多くの地域で見られるものの、コレラ菌はほとんど見られず、被 災した地域で流行する可能性は低い。腸チフスやレプトスピラ症が発生することも稀であり、 発生したとしても主として日本の南部である。日本ではペストも風土病ではない。気温の上昇 により蚊が多く発生しても、デング熱やマラリアは風土病ではないので、日本ではベクター媒 介性疾患が生じる可能性は低い。 現状と対応 これまでのところ感染症の流行、新種の感染症や稀な種の感染症の発生、あるいは公衆衛生 に関わる突発的な事象(食中毒など)は報告されていない。これまでにない規模の大災害によ りライフラインのインフラや医療施設が大きな被害を受け、地元の医療従事者の数が減り、物 流に障害が生じたことで、災害後の監視体制を確立することが困難になった。しかし、いくつか の地方自治体と大学機関は疾患と公衆衛生に関わる事象についての情報を電話やファックス を通じて避難所、病院、および移動しながら活動する医療チームから収集している。報道機関 から寄せられる情報も感染症の発生の早期発見に役立てられている。複数の地方自治体と 大学機関が避難所に症候群サーベイランスの体制を確立し、国立感染症研究所への情報提 供を始めた。入手可能な情報を見る限りでは、多くの感染症は散発的もしくは限られた流行に とどまり、大流行には至っていない。 4 月 11 日付の報道機関の報告によれば、福島県郡山市の1避難所でノロウイルスの発生が 確認され、約 60 人がこれに感染し、3 人が病院に収容された。胃腸炎、インフルエンザ様疾 患、および感染が確認されたインフルエンザに関する情報が得られたのは、3 月 23 日から 4 月 10 日までの期間で約 1,000 ヶ所の避難所のうちわずか 16 ヶ所の避難所に限られている。 これらの避難所の収容人数は、44 人から 680 人前後と様々である。それら 16 ヶ所の避難所 のうち 8 ヶ所では胃腸炎の発生が報告され、症例数は避難所によって 1 件から 42 件までと 様々である。感染性病原体は特定されておらず、症例数も減少している。16 ヶ所の避難所の うち 10 ヶ所で、インフルエンザ様疾患、またはインフルエンザの症例が確認されたと報告され ている。報告期間中、これら 10 ヶ所のうち 9 ヶ所の避難所での症例数は 1 件から 6 件までと 低かった。しかし、平均 582 人の被災者を収容している1避難所では、インフルエンザ様疾患 の症例が 154 件も報告され、そのうち 39%でインフルエンザ A 型の陽性が確認された。 地震の発生後、肺炎の症例は 5 倍に増え、仙台病院では肺炎の患者が約 150 人収容され、 3 月 11 日以降、11 人が死亡している。岩手医科大学附属病院と石巻赤十字病院ではより多 くの症例が報告されている。それらの多くは、津波に関連した汚染水が肺に入ることによって 引き起こされる症状であった。さらに、避難所の高齢者の間でも肺炎の症例が報告されている。 これは口腔衛生の不徹底と寒冷な気象条件が原因であり、人的な接触による感染が原因で あるとは考えられていない。粉塵が多い環境での清掃活動により、熱を伴わない咳嗽(がいそ う)の発生も観察されている。これらの疾患が病原性感染を原因としている可能性は低い。 3 月 17~31 日の間に宮城県と岩手県でレジオネラ 4 症例が報告されたため、初期にはレジ オネラ関連の肺炎が懸念されたが、これは散発的なものであったと考えら、4 月 5 日現在、新 たな症例は出現していない。レジオネラ症は、環境大気中の汚染物質粒子を直接吸入したこ とによる感染より、温泉などの感染源が集中したところからの感染が格段に多いと国立感染 症研究所の専門家は述べている。 岩手県と宮城県では予測よりも多い破傷風の症例が報告されている。破傷風は、開いている 傷口から皮膚に細菌が侵入して生じる感染症なので、国立感染症研究所の最初のリスク評価 でも予期されていた疾患である。土壌が細菌曝露の感染源であることがよくある。4 月 5 日現 在、2011 年に宮城県と岩手県で破傷風が 7 症例報告されているが、それに対して 2008 年 は岩手県で 2 例、宮城県で 1 例であった(最新の公式データ)。2008 年、日本で合計 123 の 破傷風の症例があったが、そのうち 4 月に報告されたのは全国で 6 症例である。 4 月に麻疹に感染したある外国人ジャーナリストが、東京とその周辺の被災地で活動を続け ていたことが報告されている。感染症情報センターは、4 月の 11~15 日の週に東京で麻疹の 13 症例が報告されており、2011 年の東京での麻疹合計症例数は 38、全国では 99 になると 公表している。これらの症例の大多数は、最近の海外旅行に関連していると考えられる。日本 への人の出入りが増大したことに伴う輸入型の麻疹は、災害後という状況下の日本で今後も リスクである。 監視や報告が限られているものの、震災後 1 ヶ月の感染症率の低さは、避難所での感染防 止教育や予防措置が優れていることに帰因していると考えられる。 例えば、どの避難所でも、 避難所の入り口や調理場、食堂に置かれた大量のアルコール消毒液やマスクを使っての衛 生習慣の徹底が認められる。塩素ベースのトイレ洗浄液も数多くの避難所で使われていた。 ほとんどの避難所が多数のポスター、パンフレット、その他の教材を備えており、インフルエン ザや胃腸炎などの感染症の予防策を伝えていた。 総合的な感染病予防教育以外にも実施された公衆衛生措置がある。インフルエンザ様疾患 の初期対応策として、病気にかかりやすい者や患者の家族を対象にタミフルを処方し、また、 感染疑いの者を指定された部屋に隔離するなど、大規模な流行の発生防止に努めた。また、 早い段階から、医療や公衆衛生面で対応したスタッフの間で十分な換気の重要性が認識され ていた。気温が低かったにもかかわらず、できる限り換気することが心掛けられていた。 初期対応にかかわった医療スタッフによる強固な意識、教育と処置、また地震が幸いにもイン フルエンザシーズンが終わるタイミングで起きたこと、また食品の保存や運搬が寒い天候の中 で行われたことが重なって、感染症の流行が抑えられたと考えられる。 主な課題 被災地での感染性疾患や公衆衛生関連事象に関する調査はあいかわらず困難で、改善が望 まれる。感染性疾患の綿密なモニタリングとリスク評価を継続していく必要がある。 感染防止対策について被災者に相当な知識があることが、病気の流行防止に大いに役立っ ている。しかし、今後も大勢の人が避難所に残らざるを得ない状況にあって、長期的には用心 が緩み、衛生習慣が損なわれて、感染症リスクが増大する可能性がある。 また、今後の気温の上昇や避難所に冷凍庫・冷蔵庫が十分にないことに伴う食品由来の感染 症の増加が懸念される。さらに食品の供給や準備を担当してきた NGO が撤退しつつあり、被 災者自身がローテーションを組んで調理班を組織するようになっている。食品由来の感染症を 予防するために、大人数用の食品取り扱いに関する教育を避難所の人々に実施する必要が ある。 原子力発電所 福島第一原子力発電所に関する最新情報 4 月 12 日、福島第一原発事故は国際評価尺度(INES)の暫定評価レベル 7 に引き上げられた。 原発は依然、不安定な状態が続いている。 4 月 20 日以降の主な出来事や状況を下記にまとめた。 • 海中への高濃度汚染水漏れを水ガラスとセメントにより食い止める作業が 4 月 21 日に完了した。 • 原発の敷地内の定期的検査地点からプルトニウム 238、239、240 が検出された。 レベルは過去の太平洋核実験で放出されたのと同程度である(4 月 22 日)。定 期的検査地点からウラ二ウム 234、235、238 が検出されたが、濃度は自然環境に 存在するものと同レベルであった(4 月 22 日)。 • 2 号機、3 号機、4 号機の使用済核燃料貯蔵プールへの注水が行われた。2 号機と 3 号機の圧力容器にも注水が行われた。 • 4 月 24 日、4 号機の使用済核燃料貯蔵プール内の温度は注水後 86 度から 81 度に 下がった。 • 1 号機、2 号機、3 号機のタービン建屋地下の放射線濃度は依然高い。2 号機のタ ービン建屋のトレンチに溜まった高濃度汚染水の廃棄物処理施設への移動が 4 月 19 日に始まった。 • 遠隔操作ロボットによりがれきの撤去が行われている。またロボットにより 1 号 機、2 号機、3 号機内部の調査が行われた。 • 1 号機が依然として最も危険な状態にある。ロボットが 1 号機内に入り高濃度放 射線レベルが検出された(最大 1120 ミリシ-ベルト毎時)。また汚染水が原子炉 から外部パイプに漏れている可能性があるとされている。東京電力は 4 月 27 日 に 1 号機原子炉にさらに多量の水の注水を始め、格納容器の水深の変化をみるこ • • • せ燃料棒を安全に冷却させる予定である。現在の懸念は内部の水量が増すことに より強い余震に耐えうる能力が弱まることである。原子炉圧力容器の圧力はいま だに増加しており、給水ノズルの温度は 138 度であった。窒素ガスが引き続き 1 号機に注入され水素爆発防止をはかっている。 2 号機原子炉圧力容器の給水ノズルの温度は 123 度であった。原子炉圧力容器と ドライウェルは大気圧レベルを維持している。3 号機の原子炉圧力容器の給水ノ ズルの温度は 75 度で圧力容器底部は 111 度であった。原子炉圧力容器は大気圧 レベルを維持している。 4 号機使用済核燃料貯蔵プールからの高濃度汚染水漏れが懸念されている。4 号 機には福島第一原発内で最大の 1500 以上の使用済み燃料棒が保管されている。 5 号機と 6 号機は低温停止状態にある(4 月 26 日時点で 5 号機は 40 度、6 号機 は 36 度)。 食品と飲料水の安全性 食品の安全性と飲料水の水質 日本で行われているモニタリングとリスク管理作業 厚生労働省食品安全部は 2011 年 3 月 17 日付けで各都道府県食品監視担当部局宛に、食 品の放射線核種レベルを監視・調査し放射線核種による食品汚染のリスクを特定・予防する よう通知した。通知では、各種食品における放射線核種の暫定規制値が示されている。この 通知で示された規制値を上回る食品については、食品衛生法に基づき、摂取を防ぐための措 置が講じられる。 こうした措置に加え、原子力災害対策特別措置法(平成 11 年法律第 156 号)第 20 条 3 項 の規定に基づき以下の表 12 の規制が適用される。 表 12:原子力災害対策特別措置法(平成 11 年法律第 156 号)第 20 条 3 項の規定に基づく 規制) 県 福島 リスク管理措置 福島県内で生産された全ての葉菜類(ほうれん草、カキナ、キャベツ)、 花蕾類(ブロッコリー、カリフラワー)、福島で生産された原乳の摂取制 限・出荷制限(ただし、カブ、原乳については出荷制限のみ) 4月25日:いわき市で栽培されたしいたけの出荷制限が解除された。 4月20日:福島県で水揚げされるイカナゴの稚魚(コウナゴ)について、出 荷制限及び摂取制限 4月16日:福島市、二本松市、伊達市、本宮市、郡山市、須賀川市、田村 市<旧都路村を除く>、白河市、いわき市、国見町、鏡石町、石川町、浅 川町、古殿町、三春町、小野町、矢吹町、矢祭町、塙町、大玉村、平田 村、西郷村、泉崎村、中島村、鮫川村で産出された原乳の出荷停止を解 除した。 4月13日:福島県飯舘村で露地栽培されたしいたけの摂取制限。 4月13日:福島県福島市(4月18日)、伊達市、相馬市、南相馬市、田村 市、いわき市、本宮市(4月25日)、新地町、川俣町、浪江町、双葉町、大 熊町、富岡町、楢葉町、広野町、飯舘村、葛尾村、川内村で露地栽培さ れたしいたけの出荷制限。 茨城 栃木 4月8日:喜多方市、磐梯町、猪苗代町、三島町、会津美里町、下郷町お よび南会津町で産出される原乳の出荷制限が解除された。 4月17日:茨城県(北茨城市と高萩市以外)のほうれん草、カキナ、パセ リの出荷制限が解除された。 4月10日:茨城県の原乳の出荷制限が解除された。 栃木県内の全てのほうれん草の出荷制限中。 4月21日:那須塩原市、 塩谷町におけるほうれん草の出荷制限が解除 された。 4月14日:栃木県のカキナの出荷制限が解除された。 4 月 8 日、群馬県のほうれん草とカキナの出荷制限が解除された。 上記の県レベルでの規制と別に、自治体レベルの出荷規制が発令されている。香取市と多古町のほ うれん草、旭市のほうれん草、春菊、パセリ、チンゲンサイ、セロリ、サンチュ(すべて千葉県)。 4 月 22 日:千葉県のほうれん草、春菊、チンゲイサイ、サンチュ、セロリ、パセリの 出荷制限が解除された。 4 月 4 日:緊急災害対策本部および厚生労働省は、規制方針の適用について最新情報を発表し た: o 規制の適用は基本的に県単位で行う。但し、市、町、村単位で管理できるようであれば、そ のような細分区画での適用も可能である。 o 食品に関する判断は個別品目ごとに行う。 o 出荷制限・摂取制限の検討・決定は週一回の頻度で行う。但し、必要に応じて追加の検 査を指示することもある。出荷制限・摂取制限の適用区域の判定のため、周辺区域から採 取したサンプルを使うこともある。一定の食品から非常に高い濃度の放射性物質が検出され た場合には、サンプル採取量の如何に関わらず、その食品の摂取制限を緊急に発令する。 さらに、日本政府から規制の解除に関して以下のような情報が提供された: o 規制の解除は各地方自治体の要請に従って施行される。 o 解除の対象区域は、県単位のみでなく市町村単位でも可能。 o 市町村の複数地点採取ポイントを設定し、集められた食品サンプルが 3 回連続(概ね 1 週 間ごと)で暫定規制値よりも低い値が測定された場合、その食品の規制は解除される。 o 規制解除の決定は、原発の状況を見ながら判断する必要がある。 4 月 8 日:農林水産省は、土壌の放射性セシウムの検出値が5000Bq/Kg を超えた場合、コメの 作付けを制限すると発表した。農家には補償を行う予定である。 4 月 22 日:首相は福島県における(1)発電所から半径 20km 圏内の「警戒区域」、(2)「計画的避 難区域」、(3)「緊急時避難準備区域」を対象とした 2011 年の稲の作付制限を指示した。 千葉、愛媛、福島、岐阜、群馬、北海道、兵庫、茨城、神奈川、京都、宮城、長野、新潟、埼玉、 静岡、栃木、東京、山形の各県から出荷された食品の検査結果が報告されている。厚生労働省に よると、3 月 19 日から 4 月 27 日の間の原乳および食品の検査結果は、合計 2086 件(前状況報 告1 4 月 20 日以降 383 件の試料を加算)にのぼる。試料は放射性ヨウ素とセシウムの両方もしく はセシウムのみ検査されている。最新の結果概要は表 13 および表 14 参照。 表 13:放射性ヨウ素および放射性セシウムの農産物サンプル検査結果 (3 月 16 日-4 月 26 日)(厚生労働省提供データ2) 1 厚生労働省との協議の結果、出荷県や試料検査を 2 回行った結果などの誤報告を解消するため、データの修正を行 った。 県 食品群 福島 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川 山形 宮城 乳 野菜類 検査 件数 171 557 規制値超過件 数(%) 18 117 肉 卵 水産物 小計 乳 野菜類 43 17 16 804 36 248 3 138 (17%) 5 37 肉 卵 水産物 その他 小計 乳 野菜類 小計 乳 野菜類 肉 卵 水産物 小計 乳 野菜類 小計 乳 野菜類 5 2 90 2 383 8 102 110 9 160 3 1 5 178 8 92 100 10 109 2 44 (11%) 11 11 (10%) 3 水産物 小計 乳 野菜類 水産物 小計 乳 野菜類 肉 水産物 小計 乳 野菜類 肉 小計 乳 野菜類 小計 40 159 2 20 2 24 16 29 3 12 60 2 20 1 23 5 16 21 11 (7%) 1 3 (2%) 11 1 (4%) - 超過品目(件数) 原乳 (18) ほうれんそう (37), ブロッコリー (21), アブラナ (6) 小松菜 (6), 茎立菜 (5), キャベツ (5), 信夫冬菜(5), 山東菜 (2), 紅菜苔 (4), チューリップ (2), ちぢれ菜 (1), 花わさび (1), ビタミンナ (2), みずな (3), 原 木しいたけ (14), セリ(2) コウナゴ (3) 原乳 (5) ほうれんそう (29), パセリ(6), 水菜 (1), サニーレタス (1) コウナゴ (2) ほうれんそう (9), 春菊 (2) ほうれんそう (2), カキナ (1) 春菊 (4) ちんげんさい (1), セルリー (1), サンチュ (1), パセリ (2), ほうれ んそう(2) 小松菜 (1) 長野 静岡 愛媛 京都 兵庫 北海道 岐阜 野菜類 小計 乳 野菜類 小計 野菜類 小計 野菜類 小計 野菜類 小計 野菜類 小計 水産物 小計 野菜類 小計 合計 184 189 2 16 18 2 2 2 2 2 2 8 8 2 2 1 1 2086 208 (10%) (下線部は出荷制限もしくは摂取制限対象品) 表 14:放射性ヨウ素と放射性セシウムの農産物サンプル検査結果 (3 月 16 日-4 月 26 日)(厚生労働省まとめ) 検査品目 ヨウ素 131 暫定規制値*を上回 検査を行っ る試料の総数 た試料の 総数 規制値を 上回る試 料の割合 (%) セシウム(134、137) 暫定規制値*を上 検査を行 規制値を 回る試料の総数 った試料 上回る試 の総数 料の割合 (%) 肉類、卵* 0 66 0 1 75 原乳** 23 274 8 1 274 農作物 *** 105 1564 7 143 1564 水産物* 3 156 2 4 173 総数 131 2060 6 148 2086 *肉類、卵、水産物の許容レベル:放射性セシウム:500 Bq/kg、魚のヨウ素 131 のレベルは 2000Bq/Kg **乳製品の許容レベル:放射性セシウム:200 Bq/kg、放射性ヨウ素:300 Bq/kg ***農作物の許容レベル:放射性セシウム:500 Bq/kg、 0 0 9 2 7 4 月 11 日 以前暫定規制値を越えるセシウムが検出された福島産の肉のサンプルは、検査 に使用したビニール袋から放射性セシウムが検出されたため、サンプルの交差汚染の可能性 があるとしてデータから除外された。同じ肉の追加検査では、放射性ヨウ素またはセシウムは いずれも検出されなかった。 食品のモニタリングとリスク管理-海外 世界の各加盟国は輸入食品に関する監視対策を実施している。表15に何らかの措置を取っ ているいくつかの国を示す。 表 15:国・地域別の輸入食品に対する監視手続きまとめ(公式情報から) 地域 西太平洋 国 オーストラリ ア 香港、中国 ニュージー ランド 欧州 米州 シンガポー ル EU* 米国食品医 薬品局 (FDA) 県名(数) 神奈川、長野、新潟、埼玉、東 京、山形、宮城、静岡(8) 群馬、茨城、福島、千葉、栃木 (5) 群馬、茨城、福島、栃木、千葉 (5) 福島、茨城、栃木、千葉、群馬 (5) 福島、茨城、栃木、群馬、神奈 川、東京、埼玉、静岡 (8) 福島、群馬、茨城、栃木、宮 城、山形、新潟、長野、山梨、 埼玉、東京、千葉 (12) 千葉、群馬、茨城、福島、埼 玉、栃木 (6) 食料品 野菜(冷凍・乾燥) (生鮮・乾燥)果物、生鮮・野菜、海 草、水産物 農産物および水産物 牛乳、乳製品、哺乳類と家禽類の肉 と臓物、魚と海産物(生鮮、冷凍と も)、生鮮野菜、生鮮果物、干しキノ コ、茶、海藻、米、穀物、大豆と大豆 関連食品、紅ショウガ、わさび. 肉類、牛乳、乳製品、野菜、果物、 水産物 左の 12 県*で生産・配送された全て の飼料・食料品 下記脚注を参照** *EU:日本からの出荷前に検査を行う必要があり、また EU においても抜き取り検査が行われる。その他 35 の道府県産の飼 料・食料品には原産地の都道府県を示した申告書を添付する必要があり、EU 到着時に抜き取り検査が行われる。(2011 年 4 月 18 日付け)貿易規制にならない形で、太平洋のある特定の漁業海域で取れた魚と水産物に関してヨウ素 131 とセシウ ム 134、137 の残留量を監視することを提言した。 **米国:(1)日本政府により流通や輸出が規制されている製品に関しては米国への入荷を禁止する。米国の基準に適合する かどうかを明らかにする目的で検査を行ってはならない。これらの食品は米国への入荷が許されない。(2)日本政府によって 流通や輸出が規制されていない6県からの乳製品、牛乳、生鮮食品については米国国境で物品検査することなく留め置かれ る。もし輸入者が食品が米国の基準に適合するかどうかの検査を行う場合の費用は自己負担となる。このように基準に合格 していることが証明され FDA に結果を提出し、FDA が許可した場合のみ、その食品は米国への輸入を許される。(3)乳製品、 牛乳、生鮮食品以外の 6 県からの製品に関しては FDA が留め置き独自に検査する。もし検査の結果、米国基準に適合して いればそれらの製品は輸入を許可される。(4)その他の日本からの製品(農産物、化粧品、医療品など)に関しては FDA が 汚染と汚染の健康影響のリスクに鑑み、資源の許す限りで検査を行う。 アイルランド、フランス、ギリシャ、米国が自国で生産された牛乳に放射性物質が微量検出さ れたと報告している。中国では北京、天津、河南で栽培されたほうれん草に微量のヨウ素 131 が検出されたとしている。(公式、非公式情報)加盟国は、国際食品安全当局ネットワーク (INFOSAN)を通して新しい情報を引き続き入手すると同時に日本からの輸入食品の調査結 果を公表する。日本は、INFOSAN と WHO 西太平洋地域事務局を通して、これらの調査結 果を通知される。「INFOSAN 原子力事故および食品の放射能汚染に関する情報」と題する基 礎背景知識が、INFOSAN ネットワークを通じて食品安全当局へ提供された。 食品の安全性に関する「よくある質問」は、下記サイトより入手できる: http://www.who.int/hac/crises/jpn/faqs/en/index7.html http://www.wpro.who.int/media_centre/jpn_earthquake/FAQs/faqs_foodcontamination.htm 飲料水の水質 水道水摂取制限 3 月 19 日、厚生労働省は地方自治体に対して、飲料水から暫定規制値を超える値(1 キロ当 たり 300 ベクレルのヨウ素または 1 キロ当たり 200 ベクレルのセシウム)が検出された場合、 水道事業者から住民に対して水道水の飲用を控えることを呼びかけるよう通達した。3 月 21 日には、乳児が摂取する水の暫定規制値を 1 キロ当たり 100 ベクレルとする追加告示を行っ た。 厚生労働省は 3 月 21 日から 31 日の間、福島県飯舘村の住民に対して飯舘村の飯舘簡易 水道の水道水の飲用を控えるよう勧告した。また、5都県(福島県、茨城県、栃木県、千葉県、 東京都)の計 20 水道事業において 3 月 22 日から 31 日の間、乳児による水道水の摂取を 控えるよう勧告した。福島県飯舘村の水処理施設のヨウ素 131 の計測値は乳児の水道水摂 取制限値を下回っているが、摂取制限は 4 月 1 日以来継続中である。 環境モニタリング 海水の水質モニタリング 3 月 23 日、文部科学省は福島第一原発用地付近の沿岸水域の調査を開始した。海水サンプ ルは 10km 間隔に区切られた調査区画に沿った沿岸水域で採取されている。サンプル採取 は、各調査区画沿いから約 30km 沖までの範囲で実施されている。現在合計12のサンプル 採取地が設定されており、3 月 26 日以降、交互にサンプル採取地点を変えてモニタリングを 行っている。 海水の最大許容濃度は、ヨウ素 131 で 40Bq/L、セシウム 137 で 90Bq/L である。前回のモ ニタリングでは、原発の東と南に位置するサンプル採取地点 3、5、6、7、8、10 における測定 値が許容制限値を上回っていた。また、採取地点 4 においてのセシウム 137 の値が許容制 限値を上回った。 4 月 19 日と 21 日の最新調査ではすべてのサンプル採取地点でヨウ素 13 とセシウム 137 の許容制限値を下回った。地点 1、2、3、4、5、7、9、10、A、B においてヨウ素 131 とセシウ ム 137 は不検出だった。 図 5 にサンプル採取地点 2、4、6、8、10 のヨウ素 131 とセシウム 137 の放射線レベルを示 す(地点 A と B に関してはモニタリング開始以来、一度も放射線レベルが検出されていない)。 モニタリング期間を通じての一貫した傾向は特に見られない。 図 5:福島第一原子力発電所周辺の海域モニタリング 海水中(サンプル採取地点 2、4、6、8、10 表 層)のヨウ素 131 とセシウム 137 放射能濃度の測定結果(4 月 21 日) 3 月 23 日、東京電力は福島第一および第二原発の放水口のほか、第二原発の南 6km に位 置する岩沢海岸を含む海岸用地付近で調査を開始した。ヨウ素 131 の放射性濃度は、第一 原発の放水口で 1,000Bq/L 以下のレベルから 100,000Bq/L 以上にまで変動が見られた(図 6)。第二原発の放水口付近のヨウ素 131 は第一原発の値よりも低いレベルであった(図 7)。 4 月 25 日、第一原発の南北放水口でのヨウ素 131 の最新の値は 140Bq/L と 21Bq/L であっ た。同地点でのセシウム 137 の最新の値は 200Bq/L と 100Bq/L であった。これら全ての値 は減少傾向にあり、いくつかの地点ではヨウ素 131 とセシウム 137 の許容制限値を下回って いる。 4 月 2 日以来、東京電力は福島第一、第二原発15km 沖と岩沢海岸でサンプルを採取してい る。ヨウ素 131 の放射性濃度は、ほぼ 100Bq/L 前後でヨウ素 131 に対する最大許容濃度の 40Bq/L を越えているが大きな変化は見られない(図 6、図 7、図 8)。4 月 25 日に岩沢海岸の 15km 沖で採取されたサンプルのヨウ素 131 とセシウム 137 の値はそれぞれ 22Bq/L と 76Bq/L であった。 図 6、図 7、図 8 は第一・第二原発の放水口付近と岩沢海岸(第一原発から 16km)、及びこ れらのサンプリング地点から 15 キロ沖で採取された海水中のヨウ素 131 の値を示している (東京電力による報告)。 図 6: 福島第一原発の放水口(南北)、15 キロ沖におけるヨウ素 131 海水中濃度 (4 月 25 日まで) 図 7: 福島第二原発の放水口、および 15 キロ沖におけるヨウ素 131 海水中濃度 (4 月 25 日まで) 図 8: 岩沢海岸 15 キロ沖におけるヨウ素 131 海水中濃度(4 月 25 日まで) 土壌の放射線レベルのモニタリング 文科省は 3 月 18 日からに放射線レベルモニタリングの結果を公表している。福島第一原発 から 20~55 キロ離れた 36 カ所のサンプル採取地点で土壌の放射線レベルがモニタリングさ れている。 飯館村(福島第一原発の北西 40km)を除くすべてのサンプル採取地点でヨウ素 131 の放射 線レベルは低く、概して減少傾向にある。飯館村では、3 月 20 日にピークに達したが(ヨウ素 131 が 1.17 メガベクレル/kg であり、セシウム 137 では 0.163 メガベクレル/kg)、それ以降は 下降を続けている。 大気中の放射線レベルのモニタリング 福島第一原発周辺県の大気中の放射線レベルは概ね安定している。原発から 20~60km 地 点での放射線レベルは概ね減少または安定している。原発の北西地域周辺に、高い放射線 レベルを示す地点が引き続き集中している(図 9 と図 10)。近隣の県では放射線レベルが引 き続き減少している。いくつかの県では依然として過去の正常値の範囲を上回ってはいるが、 人体への健康リスクに関しては低いレベルである。 括弧内の数字は測定箇所の番号を示す。その下の数字は検出された放射線レベルを示す。 図 9: 福島第一原子力発電所周辺の測定地点のモニタリング結果 (2011 年 4 月 26 日 6 - 17 時)(出典:文部科学省) 3 月 23 日以降の福島第一原発周辺 20~60 キロの観測地点におけるヨウ素 131 の積算線 量は以下の通り(図 10)。最高値は、福島第一原発から北西の地域に集中している。 [ ]は測定箇所番号、その下の数値は積算線量(単位:マイクロシーベルト)、〈 〉は前回モニタリング結果からの 積算線量、( )は平均線量(単位:マイクロシーベルト) 図 10: 福島第一原子力発電所周辺(20キロ圏外)の測定地点の積算線量結果 (2011 年 4 月 26 日)(出典:文部科学省) 当初環境放射線レベルを上回る大気中放射線量を記録した8県(宮城、茨城、栃木、群馬、埼 玉、千葉、東京、神奈川)に関しては、同レベルは引き続き減少している。4月26日時点で、 宮城、茨城、千葉県ではまだ過去の正常値の範囲を上回っている。 ‐ 宮城:0.076マイクロシーベルト毎時(過去の正常値の範囲は0.018~0.051マイクロシーベ ルト毎時) ‐ 茨城:0.117マイクロシーベルト毎時(過去の正常値の範囲は0.036~0.056マイクロシーベ ルト毎時) ‐ 千葉:0.048マイクロシーベルト毎時(過去の正常値の範囲は0.022~0.044マイクロシーベ ルト毎時) 放射線・原子力施設に関する国の対応 被曝の可能性から、第一原発から半径20km圏内の大熊町、富岡町、楢葉町、双葉町のすべての 住民が圏外に避難した。3月25日、内閣官房長官は福島第一原発の半径20kmから30km圏内に 位置する住民に対して、生活維持が困難であることを理由に、自主的な避難を呼びかけた。 4 月 22 日、福島第一原発から半径 20km圏内は公式に「警戒区域」とした。 第一原発の半径 20kmから 30km圏内に新たに 2 つの避難区域が設定された。「計画的避難区域」は、葛尾 村、浪江町、飯舘村、川俣町の一部、南相馬市の一部が含まれ、これらの住民は概ね1ヶ月 を目途に避難を実行することが望まれる。「緊急時避難準備区域」には広野町、楢葉町、川内 村、田村市の一部、南相馬市の一部が含まれ、これらの住民は常に緊急的に屋内退避や自 力での避難ができるようにすることが求められる。半径 20km圏内の住民は既に避難してい るが、治安維持のため警戒区域を宣言することにより法的強制力が加わった。さらに 4 月 22 日には、福島第二原発の避難区域が半径10km圏内から8km圏内に変更となった。 世界保健機関西太平洋地域事務局(WHO/WPRO)の対応 • WHO 西太平洋事務局の危機管理室は日本の厚生労働省、WHO 神戸センター、 WHO 本部、およびパートナーと協力して情報を集め、発生する事象を監視している。 • WHO 西太平洋事務局は日本政府の IHR(国際保健規則)担当官、および WHO 本部 と緊密に連携し、IHR Event Information Site(EIS)を通じて全加盟国に情報提供を行 っている。 • WHO 西太平洋事務局は WHO のウェブ上で最新情報の更新を定期的に行っている。 • ヨウ化カリウム剤、食品および飲料水の安全性に関する問題に取り組むための専門的 な助言を行っている。「よくある質問」を作成、更新している。 • 健康面やその他への直接的・間接的な影響、および一般市民やメディア、加盟国、国 際通信やパートナーからの期待や懸念などを特定するため、そしてまた変化する状況 への WHO の対応策などについて今後に向けた計画が進行中である。 • 被災地現地での保健医療状況とニーズ把握のため、集中した情報収集を行った。 詳しい情報の入手先 WPRO 危機管理室: WHO 内線: 89250; [email protected] + 63-2 528 9035 + 63-2 528 9650 + 63-2 528 9341 お問い合わせ担当者: ピーター・コーディングレイ(Mr Peter Cordingley) 電話: +63 918 963 0224 アート・ペシガン(Dr Art Pesigan) 電話:+63 918 917 8053 別紙1 被災県の震災前健康状態 被災県の人口動態 地震と津波による被害を受けたのは、主に日本の東北地方沿岸部に位置する宮城県、岩手 県、および福島県である。これらの各県の人口を合計すると 572 万人に達する。 表 16 に、これらの県の人口分布を年齢と性別ごとに示す。 (http://www.soumu.go.jp/main_content/000076361.xls) 表 16:震災を受けた主な県の人口動態 人口 性別(男性) (女性) 年齢(15 歳未 満) 15~64 歳 65 歳以上 宮城県 2,340,000 1,130,000 1,200,000 13.4% 岩手県 1,340,000 640,000 700,000 12.6% 福島県 2,040,000 990,000 1,050,000 13.8% 64.5% 22.1% 60.0% 26.8% 61.5% 24.7% 図 11 から 13 は、各県の年齢別の人口分布を示している。これらの県では、80 歳を超える高 齢者層が多い(男性よりも女性の比率が高い)。 図 11:宮城県の年齢別人口分布状況(MALE – 男性、FEMALE-女性) Demographic profile by age for Miyagi Prefecture Number of persons 120,000 100,000 80,000 male 60,000 female 40,000 20,000 0 Age range 図 12:岩手県の年齢別人口分布状況(MALE – 男性、FEMALE-女性) Demographic profile by age of Iwate Prefecture 80,000 Number of persons 70,000 60,000 50,000 Male 40,000 Female 30,000 20,000 10,000 0 Age range 図 13:福島県の年齢別人口分布状況(MALE – 男性、FEMALE-女性) Demographic profile by age of Fukushima Prefecture Number of persons 120,000 100,000 80,000 Male 60,000 Female 40,000 20,000 0 Age range 被災県における災害前の疾病の状況 地震と津波により大きな被害を受けた 3 県における、災害前の主な疾病・疾患患者数を表 17 に示す。 表 17:被災県における疾患群別患者数(2008 年) 伝染病、寄生虫性疾患 宮城 岩手 福島 3,000 2,400 3,000 腫瘍 6,100 4,100 5,900 血液疾患、造血器疾患、免疫系疾患 400 300 400 内分泌障害、栄養障害、代謝障害 5,900 4,400 6,400 精神障害、身体障害 8,000 7,000 9,500 神経系疾患 3,400 3,700 3,700 循環器系疾患 20,600 13,900 22,200 呼吸器系疾患 10,700 7,200 12,500 (出典:厚生労働省) 被災県における災害前の医療施設 全国および被災県の医療施設(病院および診療所)の総数が下記表 18 に記載されている。 また人口 10 万人当たりの医療施設・常勤医師数は、全国平均と比較する形で下記表 19 に 記載されている。被災した 3 県は、いずれも、常勤医師数(全国平均を下回っている)および 医療施設数の不足により、災害前から妥当な水準の医療サービス提供に苦慮していた。 表 18:全国および被災した主な 3 県の医療施設数 医療施設数 病院 診療所 147 1,578 宮城 96 927 岩手 142 1,476 福島 8,739 99,635 全国計 (出典:厚生労働省) 表 19:被災県における人口 10 万人当たりの医療施設・医師数および全国平均 人口 10 万人当たりの医療施設数 人口 10 万人当たりの医 師数(常勤) 病院 診療所 6.3 67.6 132.4 宮城 7.2 69.2 139.9 岩手 7.0 72.4 125.4 福島 6.9 78.1 149.9 全国平均 (出典:厚生労働省) 被災県における公衆衛生サービスを提供する医療施設数を下記表 20 に示す。 表 20:被災した県における公衆衛生サービスを提供する医療施設数 高齢者介護 精神保健施設 障がい者センター 89 53 11 宮城 126 33 15 岩手 117 47 9 福島 (出典:厚生労働省) 表 21 に示すように、被災した 3 県中、宮城県において、特定の疾患患者の利用可能ベッド数 が最も不足している。 表 21:人口 10 万人当たりの疾患群別ベッド数 特定の疾患群に対するベッド数 宮城 岩手 福島 全国平均 総合病院 のベッド 数 精神保 健 結核 伝染病 長期療養 合計 717.0 277.4 5.3 1.2 138.2 1,139.0 824.7 347.1 12.5 2.7 213.6 1,400.5 806.6 362.4 9.1 1.8 219.9 1,399.7 1.4 263.7 1,256.0 710.8 273.0 7.0 (出典:厚生労働省) 災害前の計画 – 被災県の救急医療に対する備え • • 宮城県 o o 岩手県 o o o o o 14 の病院が災害拠点病院に指定されている。 大規模災害発生時における医療活動に関するマニュアルが用意されている。 11 の病院が災害拠点病院に指定されている。 災害拠点病院は、DMAT を組織する責任を負うことと決められている。 保健所に拠点を置く保健サービスチームは、公衆衛生に関連した活動の実施 責任を負うこととされており、これには、被災者のカウンセリング、健康状態の 監視、および心のケアが含まれている。 医療施設が被災した場合に医療支援チームが医療品を相互に融通するシステ ムが確立されている。 必要な情報(患者の受入施設および生活に不可欠なライフライン施設の可用性 を含む)を収集して配布するための、「岩手県広域災害・救急医療情報システ ム」が設けられている。 • 福島県 o o o 8 つの病院が災害拠点病院に指定されている。 災害時に利用できる救急医療機器が、早期治療用機器として 6 つの医療セン ターに保管されている。 医療チームに、DMAT に加わるために必要な訓練(政府が実施しているような 訓練)を受けさせている。 (情報源:各県のウェブサイト) 別紙 2 国立感染症研究所による感染症リスクアセスメント もともとの発 生率または報 告数:地域 (1)、全国(2) 水系/食品媒体感染症 ワクチン接 種率:地域 (1)、全国(2) 地域・避 難所で流 行する可 能性 1=低; 2= 中; 3=高 公衆衛生 上の重要 性(罹患 率・死亡 率・社会 的) 1=低; 2= 中; 3=高 リスク 評価 1=低リ スク; 2=中リ スク; 3=高リ スク コメント 避難所での発生が 報告されている。ノロ ウイルス感染症、ロ タウイルス感染症を 含む 急性下痢症 3 2 3 細菌性腸管感染 症(サルモネラ、 キャンピロバクタ ー、病原性大腸 菌など) 2 2 2 A 型肝炎 1 2 1 E 型肝炎 動物/昆虫/ダニ媒介感染症 1 2 1 レプトスピラ症 1 2 1 ツツガムシ病 過密状態に伴う感染症 2 2 2 急性呼吸器感染 症 3 2 3 インフルエンザ/ インフルエンザ 様疾患 3 3 3 2 2 2 結核** ワクチンで防ぐことのできる感染症 淡水、土壌曝露時に 発症しうる 春~初夏と秋~初冬 の 2 回ピークがある 野外活動に伴って感 染し、福島県ではこ の 3 月の発症例が 報告されている 高齢者を中心に避難 所からの報告は多 い。病原体は多用と 考えられる。 避難所での発生が 報告されているが、 大きな集団発生の情 報はない。 麻疹 2 3 3 風疹 1 2 1 ムンプス 2 2 2 水痘 2 2 2 外傷後、土壌曝露後 に発生しうる 震災に関連した症例 の報告が続いている 破傷風* 2 3 3 百日咳 その 他 2 2 2 血液媒介疾患 (B 型肝炎/C 型 肝炎/HIV) 1 2 1 体液曝露時に発生し うる レジオネラ症 1 2 1 津波被災後の発症 例が報告されている 2 2 2 1 2 1 創傷関連感染症 * 細菌性髄膜炎、 ウイルス性髄膜 炎 http://idsc.nih.go.jp/earthquake2011/RiskAssessment/risukuhyouPDF/20110408hyou.pdf *救助やがれき撤去時においてもリスクが高い **急性期以降に問題となりうる (注)ビブリオ・バルフィニカス感染症、エロモナス感染症は水曝露後に発症しうるが、潜伏期間が通常 2 日以 内であることをふまえ、現時点で公衆衛生上のリスクは極めて低いと判断し評価表から削除した 2011 年 4 月 8 日更新 水・食物媒介の疾患の発生を予防するための一般的な方法 個人の衛生:洗面所(特に食品を扱う者) 糞便処理:手指の汚染を最小限にとどめるため、トイレットペーパーを使用。トイレからハエを除去。 給水:浄化・塩素殺菌、煮沸した水の使用、ハエの除去:生ごみの埋蔵処理、殺虫剤の散布。 食品調理:可能であれば冷蔵保存、加熱処理、果物の皮をむく、牛乳の低温殺菌または煮沸、貝類は認可され た供給源のものに限る 生物媒介の疾患・人畜共通感染症の発生を予防するための一般的な方法 媒介生物の制御:生ごみの埋蔵処理、げっ歯類の排除。水槽に覆いをかけ、蚊を排除。 防護服の使用:防虫剤を染みこませた蚊よけネット。